JP2005113252A - 降伏強度に優れた無方向性電磁鋼板とその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 無方向性電磁鋼板の標準的なSi,Al含有量の範囲で高い降伏強度を実現し、今後の需要増が見込まれる電気自動車を始めとした高強度材の要求分野への製品提供が迅速かつ安価にできるようにする。
【解決手段】 質量%でSi:2.0%以上3.5%以下、Al:0.02%以上3.0%以下、N:0.005%以上0.020%を満たす成分を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなり、さらには製品板表面から深さ10μmまでの平均結晶粒径が10μm以下である無方向性電磁鋼板。その製造方法としては、熱延板焼鈍の温度を800℃以上1150℃以下、時間を2分以上720分以下、熱延板焼鈍の雰囲気を、窒素濃度が10vol%以上、残部が水素、不活性ガスの1種または2種以上とすることにより、熱延板焼鈍後のN量を熱延板焼鈍前のN量以上でかつ0.005%以上0.020%以下とする。
【選択図】 なし

Description

本発明は、電気機器の鉄心材料として使用される無方向性電磁鋼板およびその製造方法に関するものであり、特に降伏強度に優れた無方向性電磁鋼板に関するものである。
近年、世界的な電気機器の省エネルギー化の高まりにより、回転機の鉄心材料として用いられる無方向性電磁鋼板に対しても、より高性能な特性が要求されてきている。特に最近では電気自動車用モータ等において、高速回転に耐えるモータが要求されるようになってきた。
一般に鋼の強度は元素添加することで高くなり、無方向性電磁鋼板においては鉄損低減のために添加されるSiやAl等によって副次的にこの効果を享受している。また鋼板の結晶粒径を細かくすることや鋼中に析出物を分散させることでも高い強度が得られる。
これらの技術を利用し、例えば特許文献1ではSiにMnやNiの元素を加えて高強度を図る方法が提案されている。しかし、高価なMnやNi添加そのものがコスト増であるのに加え、材料が非常に脆くなるために生産性や歩留が悪くなり、製造コストも高くなってしまうという問題があった。
また、特許文献2や特許文献3では、Nb,Zr,Ti,Vの炭窒化物を鋼中に分散させて高強度を図る方法が提案されているが、これらの炭化物生成元素はコスト増を招く上に、その混入を極力回避している標準的な無方向性電磁鋼板とは製鋼工程の連続処理ができず、製造コストも高くなってしまうという問題があった。
特開昭62-256917号公報 特開平06-330255号公報 特開平10-18005号公報
本発明は、高速回転モータ用の鉄心材料として、降伏強度に優れた無向性電磁鋼板及びその製造方法を低コストで提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決するため、以下(1)〜(4)を要旨とするものである。
(1) 質量%で、Si:2.0%以上3.5%以下、Al:0.02%以上3.0%以下、N:0.005%以上0.020%を満たす成分を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
(2) (1)において、製品板表面から深さ10μmまでの平均結晶粒径が10μm以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
(3) 質量%で、Si:2.0%以上3.5%以下、Al:0.02%以上3.0%以下、N:0.010%未満を満たす成分を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる鋼片を熱間圧延し、熱延板焼鈍し、熱延板焼鈍後のN量を熱延板焼鈍前のN量以上でかつ0.005%以上0.020%以下とし、次いで冷間圧延に引き続いて仕上焼鈍を施すことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
(4) (3)において、熱延板焼鈍の温度を800℃以上1150℃以下、時間を2分以上720分以下とし、かつ熱延板焼鈍の雰囲気を、窒素濃度が10vol%以上、残部が水素、不活性ガスの1種または2種以上とすることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
無方向性電磁鋼板の標準的なSi,Al含有量の範囲で高い降伏強度を実現した本発明は、材料の脆化がもたらす生産性悪化やコスト増加がないのに加え、標準的な成分を有している無方向性電磁鋼板の熱延コイルからの製造も可能とするものである。これは、今後の需要増が見込まれる電気自動車を始めとした高強度材の要求分野への製品提供が迅速かつ安価にできるようになるため、その工業的価値は非常に大きい。
発明者らは、高価な合金添加によらないで降伏強度を改善する方法について鋭意研究を重ねた。その結果、Siが2.0%以上含まれる無方向性電磁鋼板にはAlも0.02%以上添加されている場合が多く、そして鋼中の窒素はAlNとして固定されていることに着目した。まず、鋼中に所定量の窒素を含有させてAlNの生成量を増加させ、その後に鋼中に分散させることによって鋼板が強化され、高い降伏強度が得られること、更に、AlNが粒成長を抑制することによって細粒化が可能となり、より高い降伏強度が得られることを知見した。また、中間工程における窒化処理によって、鋼板表面近傍の結晶粒径と析出物が制御でき、それによって高い降伏強度が得られることも知見し、本発明を完成させた。以下、本発明に至った実験結果について述べる。
(実験1)
実験室にて真空溶解を行ない、質量%で、Si:3.0%、Al:0.6%を含み、さらにNを0.001%〜0.015%含む鋼片を作製し、熱間圧延にて板厚2.0mmとし、熱延板焼鈍を1000℃で60秒行ない、酸洗を経て冷間圧延にて板厚を0.35mmとし、仕上焼鈍にて焼鈍温度により結晶粒径をほぼ30μmに調整した。こうして作製した試料について降伏強度を評価した。
その結果、表1に示す通り、Nが0.005%以上で高い降伏強度が得られることを知見した。調査のため、透過型電子顕微鏡で鋼中の析出物を観察したところ、いずれの試料においても直径0.1〜3.0μmのAlNが観察された。またN量の高い試料ほど、AlNが多く観察された。このことから、N:0.005%以上で得られる降伏強度の上昇は鋼中に多数存在するAlNが、降伏強度を高める作用に働いたものと考えている。
なお、N量が高くなると同一結晶粒径を得るための仕上焼鈍温度が高くなっているが、これはAlNが結晶粒成長を抑制する働きをしたためと考えられる。高い降伏強度を得るためには結晶粒径を小さくする必要があるが、符号1,2の試料では仕上焼鈍温度は730〜760℃と低く、冷延で生じた耳波等の形状矯正ができないため、仕上焼鈍後に形状不良部を除去する必要がある。従ってNを0.005%以上にすることは、仕上焼鈍の高温化による鋼板の形状改善をもたらし、歩留向上にも有効であることを知見した。
Figure 2005113252
(実験2)
実験1と同じ鋼片を用い、仕上焼鈍温度を900℃に固定した以外は同一のプロセスで試料を作製した場合の結晶粒径と降伏強度を表2に示す。N:0.005%以上では結晶粒径が微細化して更に降伏強度が上昇することを知見した。これはN量の高い試料ほど多く観察されるAlNが結晶粒成長を抑制する働きをしたためと考えられる。
以上、実験1,2の結果より、Nを0.005%以上に高めることはAlNの生成量増加をもたらし、析出物による強化と、結晶粒径の微細化による強化が重畳して、非常に高い降伏強度が得られることを知見した。
Figure 2005113252
(実験3)
実験室にて真空溶解を行ない、質量%で、Si:2.0%、Al:1.5%、N:0.002%を含む鋼片を作製し、これを熱間圧延にて板厚2.3mmとした熱延コイルについて、熱延板焼鈍を900℃、60分で、焼鈍雰囲気中の窒素濃度(%N2)と水素濃度(%H2)を0〜100vol%まで変化させて行なった。その後、酸洗を経て冷間圧延にて板厚を0.35mmとし、900℃で30秒の仕上焼鈍を施し、作製した試料について降伏強度を評価した。
その結果、表3に示す通り、雰囲気中の窒素濃度が0%,5%の試料1,2では、380MPa程度の降伏強度であるのに対し、雰囲気中の窒素濃度が10%以上の試料3〜7では、480MPa以上の高い降伏強度が得られることを知見した。この要因を調査するため、製品板断面の結晶粒径を観察したところ、窒素濃度10%以上の試料については、鋼板の表裏から板厚の中心に向かって10μm以上の範囲で結晶粒が10μm以下に微細化していることが判った。さらに熱延板焼鈍後の鋼板について成分分析を行なったところ、窒素濃度10%以上の試料については、熱延板焼鈍後の鋼中Nが0.005%以上になっていることが判った。以上の調査結果については表3に併記する。
これらの調査結果により、高い降伏強度が得られた理由については、以下のように考えている。熱延板焼鈍において窒素濃度を10%以上にした場合、鋼板表面から窒素が侵入する。鋼中に侵入した窒素は鋼板の表層付近で鋼中のAlと反応してAlNを生成し、仕上焼鈍時における表層付近の結晶粒成長を著しく抑制する。一般に降伏は鋼板表層から起こるため、細粒化とAlNの分散によって表層近傍が強化された鋼板において高い降伏強度が得られたものと考えている。
Figure 2005113252
続いて、本発明における製品の数値限定理由について説明する。
Siは電気抵抗を増加させるためと降伏強度を高めるために必要な元素で、その目的のためには2.0%以上添加する必要がある。ただし過度に添加すると冷延性を著しく悪くするため、3.5%を上限とした。
AlはAlNを生成するために必要な元素で、その目的のためには0.02%以上添加する必要がある。またSi同様に電気抵抗と降伏強度を高めるために有用な元素であるが、多量に添加すると鋳造性を悪化させるため、3.0%を上限とした。
NはAlNを生成するために必要な元素であり、降伏強度と結晶粒の微細化を図るためには0.005%以上含有する必要がある。ただし多量に含有しても効果が飽和し、また後述する熱延板焼鈍で多量に窒素増量させるのは難しいことから、上限を0.020%とした。
その他の元素については特に限定しないが、本発明の目的を損なわない範囲で、Mn,P,Cu,B,Sn,Sbなど、無方向性電磁鋼板において周知の元素を適正量添加しても差し支えない。
製品板の表面近傍の結晶粒径は、熱延板焼鈍時に鋼板窒素量を高める処理を行なう場合に重要となる。高い降伏強度を得るためには表層から最低10μm深さまでの平均結晶粒径を10μm以下の細粒にする必要がある。そうすることによって板厚中心部の結晶粒径に依存せずに高い降伏強度が得られる。
次に本発明における製造条件の限定理由について説明する。
本発明はAlNを用いるため、製品においては前述のとおりNを0.020%以下まで含有させることを規定しているが、製鋼工程でNを0.010%以上含有させると、ブリスターと呼ばれる疵が発生するため、鋼片の段階ではこれ未満とする必要がある。そこで本発明では、熱延板焼鈍の雰囲気を限定することにより、N量を増加させる。製鋼後の鋼片窒素量が0.010%未満、特に0.005%未満の場合に、本発明の熱延板焼鈍条件が必須となる。
鋼板窒素量を高めるためには、熱延板焼鈍の雰囲気を、窒素濃度が10vol%以上、残部が水素、不活性ガスの1種または2種以上とする必要がある。焼鈍雰囲気中の窒素濃度の上限は特に定めるものではなく、必要な降伏強度と鋼板窒素量に応じて10〜100%の範囲で調整すれば良い。その他のガス組成としては、鋼板との反応を生じない水素、不活性ガスの1種または2種以上とすることが必要である。
焼鈍温度は800℃未満では鋼板への窒素侵入が十分ではないので下限を800℃とし、1150℃を超えるとAlNが分解して窒素が鋼板から抜けてしまうので上限を1150℃とした。焼鈍時間は降伏強度と鋼板窒素量を調整するために適宜決定することができる。ただし2分未満では鋼板への窒素侵入が十分ではないのでこれを下限とし、上限は生産性を考慮して720分とした。
実験室にて真空溶解を行ない、質量%でSi:2.1%、Al:0.3%、N:0.002%〜0.018%を含む鋼片を作製し、熱間圧延後、1100℃で60秒の熱延板焼鈍を行ない、酸洗を経て板厚0.25mmまで冷間圧延し、900℃で30秒の仕上焼鈍をした。その結果を表4に示すが、高い降伏強度が得られるのは、Nを0.005%以上含有する試料3〜6であった。
Figure 2005113252
実験室にて真空溶解を行ない、質量%でSi:2.5%、Al:0.03%、N:0.001%〜0.012%を含む鋼片を作製し、熱間圧延後、酸洗を経て板厚0.50mmまで冷間圧延し、850℃で30秒の仕上焼鈍をした。その結果を表5に示すが、高い降伏強度が得られるのは、Nを0.005%以上含有する試料3〜6であった。
Figure 2005113252
実験室にて真空溶解を行ない、質量%でSi:3.0%、Al:1.5%、N:0.002%を含む鋼片を熱間圧延にて板厚1.8mmとした熱延コイルについて、熱延板焼鈍を1100℃、2分で焼鈍雰囲気中の窒素濃度(%N2)と水素濃度(%H2)を0〜100%まで変化させて行なった。その後、酸洗を経て冷間圧延にて板厚を0.35mmとし、900℃で30秒の仕上焼鈍を施し、作製した試料について降伏強度を評価した。その結果を表6に示すが、高い降伏強度が得られるのは、窒素濃度が10%以上の試料3〜6であった。
Figure 2005113252
実験室にて真空溶解を行ない、質量%でSi:3.0%、Al:0.3%、N:0.003%を含む鋼片を熱間圧延にて板厚1.5mmとした熱延コイルについて、熱延板焼鈍を900℃、60分で焼鈍雰囲気中の窒素濃度(%N2)と水素濃度(%H2)を0〜100%まで変化させて行なった。その後、酸洗を経て冷間圧延にて板厚を0.20mmとし、950℃で60秒の仕上焼鈍を施し、作製した試料について降伏強度を評価した。その結果を表7に示すが、高い降伏強度が得られるのは、窒素濃度が10%以上の試料3〜6であった。
Figure 2005113252
実験室にて真空溶解を行ない、質量%でSi:2.0%、Al:2.3%、N:0.002%を含む鋼片を熱間圧延にて板厚2.0mmとした熱延コイルについて、熱延板焼鈍を800℃、720分で焼鈍雰囲気中の窒素濃度(%N2)と水素濃度(%H2)を0〜100%まで変化させて行なった。その後、酸洗を経て冷間圧延にて板厚を0.30mmとし、1000℃で60秒の仕上焼鈍を施し、作製した試料について降伏強度を評価した。その結果を表8に示すが、高い降伏強度が得られるのは、窒素濃度が10%以上の試料3〜6であった。
Figure 2005113252

Claims (4)

  1. 質量%で、Si:2.0%以上3.5%以下、Al:0.02%以上3.0%以下、N:0.005%以上0.020%以下を満たす成分を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
  2. 請求項1において、製品板表面から深さ10μmまでの平均結晶粒径が10μm以下であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
  3. 質量%で、Si:2.0%以上3.5%以下、Al:0.02%以上3.0%以下、N:0.010%未満を満たす成分を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなる鋼片を熱間圧延し、熱延板焼鈍し、熱延板焼鈍後のN量を熱延板焼鈍前のN量以上でかつ0.005%以上0.020%以下とし、次いで冷間圧延に引き続いて仕上焼鈍を施すことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
  4. 請求項3において、熱延板焼鈍の温度を800℃以上1150℃以下、時間を2分以上720分以下とし、かつ熱延板焼鈍の雰囲気を、窒素濃度が10vol%以上、残部が水素、不活性ガスの1種または2種以上とすることを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
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