JP2005097683A - 脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱溶接熱影響部靱性に優れた高張力厚鋼板の製造方法 - Google Patents

脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱溶接熱影響部靱性に優れた高張力厚鋼板の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 引張強さが 590 MPa以上の高強度と、優れた脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱HAZ靱性を兼ね備える高張力厚鋼板を提供する。
【解決手段】 質量%で、C:0.001 〜0.013 %、Si:0.01〜0.6 %、Mn:1.0 〜2.0 %、Al:0.005 〜0.10%、Nb:0.004 %以下、V:0.010 %以下、Mo:0.20〜1.0 %、B:0.0003〜0.0050%、Ti:0.005 〜0.050 %およびN:0.0010〜0.0060%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、 950〜1250℃に加熱後、オーステナイト未再結晶域での累積圧下率:50%以上、圧延終了温度:650 〜800 ℃の条件で熱間圧延を施し、その後7℃/s以上の冷却速度で 580℃以下まで冷却する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、船舶、海洋構造物、低温貯蔵タンク、ラインパイプおよび土木・建築の分野の溶接構造物等に用いて好適な、引張強さが 590 MPa以上の高強度を有し、かつ入熱量が500 kJ/cm 以上の超大入熱溶接に対する適用も可能な、脆性亀裂伝播停止特性に優れた高張力厚鋼板の製造方法に関するものである。
船舶、海洋構造物、低温貯蔵タンク、ラインパイプおよび土木・建築等の分野の溶接構造物に使用される鋼材は、高い靱性を備えることが必要とされ、TMCP法(Thermo-Mechanical Control Process )に代表される技術によって優れた靱性を有する鋼材が製造されている。また、実際の構造物においては、予想しない施工上の欠陥や腐食、地震および衝突による変形などにより、脆性破壊が発生する可能性を完全に払拭することは不可能であるため、脆性破壊が発生したときに亀裂の進展を停止する能力(脆性亀裂伝播停止特性)が要求される。さらに、実際の構造物における脆性亀裂は、ある程度の塑性変形の後に発生することが想定されることから、鋼材に予歪を与えた後にも優れた脆性亀裂伝播停止特性を保持することが望まれる。
従来から、特に船舶、海洋構造物およびラインパイプなどの分野では、脆性亀裂伝播停止特性が重要な材料特性として注目されてきた。
例えば、特許文献1には、(α+γ)2相域圧延を行うことによって、フェライト−パーライト組織の徹底した微細化を図ると共に、加工フェライトによるセパレーションの効果によって、脆性亀裂伝播抵抗を向上させる技術が提示されている。しかしながら、2相域圧延を用いる本技術では、低温での圧延が不可欠なため、生産能率が低下したり、フェライト域での加工に起因したシャルピー吸収エネルギーの極端な低下といった問題があった。また、この技術は、フェライト−パーライトを基本組織とする技術であるため、490MPa (50 kgf/mm2)程度までの引張強度レベルの鋼材にしか適用できなかった。
また、特許文献2には、鋼板の表層部のフェライト粒径を3μm 未満にまで微細化することによって、脆性亀裂伝播停止特性を向上させる技術が示されている。この技術は、板厚方向の温度分布が冷却中に不均一になることを利用して、鋼板表層部のみを改質するものである。従って、必然的に板厚方向の材質が不均一になることに加え、鋼材間のばらつきを抑えて安定した特性を維持するには、非常に高精度の温度制御が要求されるため、大量生産に際しては様々な困難が予想される。また、鋼材の成分や圧延方法にも、様々な制約があると考えられる。
さらに、特許文献3には、圧延中の鋼材温度の極端に精密な制御を必要とせずに、鋼材表面と内部の特性差あるいは鋼材間の材質のばらつきを少なくしながら、塑性変形後の脆性亀裂伝播停止特性に優れた鋼材を製造する方法として、鋼材全体を極低炭素ベイナイト組織とし、圧延条件によってその集合組織を制御して脆性亀裂伝播停止特性の向上を図る方法が提案されている。
しかしながら、この技術では、高強度化については何ら検討がなされていない。
一方、溶接構造物の大型化が近年ますます進み、大断面の鋼材を高能率で溶接するために、入熱量が 500 kJ/cm以上の超大入熱溶接法が確立されている。しかしながら、溶接入熱の増大は、熱影響部(HAZ)の組織を粗大化させ、靱性の著しい低下を招く。
上記の問題を解決するものとして、鋼中に分散した介在物・析出物を利用して、HAZ組織を制御する技術が知られている。例えば、特許文献4には、鋼中に分散した析出物(TiN,BN)を起点としてオーステナイト粒内からフェライトを析出させ、溶接熱影響部(HAZ)組織を微細フェライト化することによって靱性を改善する方法が示されている。
しかしながら、このような粒内フェライトを用いる技術を、引張強さが 590 MPa以上の高張力鋼に適用した場合には、HAZ強度の低下すなわちHAZ軟化が避けられず、溶接構造物としての強度が保てないという問題があった。
そこで、引張強さ 590 MPa以上の鋼に対しては、HAZ組織を強度の高いベイナイトあるいはマルテンサイトに制御しつつ、鋼中に高温でも安定な析出物・介在物を分散させ、ピンニング効果によってオーステナイト粒を細粒化する技術が広く用いられている(例えば、特許文献5)。
しかしながら、ピンニング効果を用いるこれらのHAZ組織制御技術を、前述した特許文献3の技術と組み合わせても、脆性亀裂伝播停止特性と同時に超大入熱HAZ靱性を向上させることはできない。
その理由は、ピンニング効果による旧オーステナイト粒の細粒化だけでは、特許文献3に示されたような極低炭素ベイナイト主体の組織を有する鋼材のHAZ靱性を改善できないからである。
極低炭素ベイナイト組織の靱性は、旧オーステナイト粒径ではなく、パケットあるいはブロックと呼ばれる下部組織のサイズに依存することが知られている。
そこで、特許文献6では、Nbを低減してNb化合物による析出脆化を抑制しつつ、Moを添加することにより、パケットサイズの粗大化を防止してHAZ靱性を改善する技術が示されている。
しかしながら、この技術を、特許文献3に開示された技術と組み合わせたとしても、優れたHAZ靱性は得られるものの、脆性亀裂伝播停止特性が安定せず、必ずしも満足する特性を有する鋼材を得ることができなかった。その理由は、極低炭素ベイナイト組織の脆性亀裂伝播停止特性を向上させるためには、特定の集合組織を発達させる必要があるが、超大入熱HAZ靱性を改善するためにC、Nbを低減してMoを添加すると、集合組織が変化して脆性亀裂伝播抵抗が減少してしまうためである。
特開昭55−148746号公報 特開平5−148542号公報 特開2002−241891号公報 特開昭58−213855号公報 特開平6−128635号公報 特開2000−345282号公報
上述したとおり、脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱HAZ靱性に優れ、かつ引張強さが 590 MPa以上の高張力鋼を得るために、それぞれの特性を向上させる技術を組み合わせて用いたとしても、必ずしも満足のいく鋼材を得ることはできなかった。
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、生産性の低下を招いたり、製造上の制約を受けることなしに、塑性変形後の脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱HAZ靱性に優れ、しかも引張強さが 590 MPa以上の高張力厚鋼板を有利に製造することができる方法を提案することを目的とする。
さて、発明者らは、上記の問題を解決すべく、超大入熱HAZ靱性を改善するための成分設計指針およびその成分系において優れた脆性亀裂伝播停止特性を得るための圧延条件について綿密な検討を行った。
その結果、以下に述べる知見を得た。
(1) 超大入熱HAZ靱性を改善するためには、特許文献6に記載されているように、Nbの低減と適量のMo添加が有効である。さらに、Cを 0.013mass%以下までより低減することによって、靱性を阻害する島状マルテンサイト相(MA相)の生成がほとんど認められなくなり、HAZ靱性と共に母材靱性も向上する。
(2) 脆性亀裂伝播停止特性を向上させるために必要な{211}集合組織を発達させるためには、準安定オーステナイト温度域における圧延によって変態前オーステナイトの加工集合組織を発達させ、その後のオーステナイト→ベイナイト変態における変態集合組織の発達を促進させることが有効である。ただし、Nbの低減は変態前オーステナイトの加工集合組織の発達を阻害し、またMoの添加は変態集合組織の発達を阻害し、いずれも脆性亀裂伝播停止特性を低下させる。
(3) Nbを低減し、かつMoを添加した鋼において、{211}集合組織を発達させるためには、オーステナイトが再結晶しない温度域で十分な圧下率の圧延を行って変態前オーステナイトの加工集合組織を発達させると共に、十分に速い冷却速度で加速冷却することにより、{211}集合組織の発達しにくい拡散変態によるフェライトの生成を抑制することが重要である。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で
C:0.001 〜0.013 %、
Si:0.01〜0.6 %、
Mn:1.0 〜2.0 %、
Al:0.005 〜0.10%、
Nb:0.004 %以下、
V:0.010 %以下、
Mo:0.20〜1.0 %、
B:0.0003〜0.0050%、
Ti:0.005 〜0.050 %および
N:0.0010〜0.0060%
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、 950〜1250℃に加熱後、オーステナイト未再結晶域での累積圧下率:50%以上、圧延終了温度:650 〜800 ℃の条件で熱間圧延を施し、その後7℃/s以上の冷却速度で 580℃以下まで冷却することを特徴とする、引張強さが 590 MPa以上で、脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱溶接熱影響部靱性に優れた高張力厚鋼板の製造方法。
2.上記1において、鋼素材が、質量%でさらに、
Cu:0.10〜0.60%、
Ni:0.10〜1.0 %、
Cr:0.10〜0.80%および
W:0.05〜0.50%
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、引張強さが 590 MPa以上で、脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱溶接熱影響部靱性に優れた高張力厚鋼板の製造方法。
3.上記1または2において、鋼素材が、質量%でさらに、
Ca:0.0010〜0.0050%および
REM:0.0010〜0.020 %
のうちから選んだ少なくとも1種を含有する組成になることを特徴とする、引張強さが 590 MPa以上で、脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱溶接熱影響部靱性に優れた高張力厚鋼板の製造方法。
4.上記1〜3のいずれかにおいて、7℃/s以上の冷却速度で 580℃以下まで冷却したのち、 500〜650 ℃の温度範囲で焼戻し処理を施すことを特徴とする、引張強さが 590 MPa以上で、脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱溶接熱影響部靱性に優れた高張力厚鋼板の製造方法。
本発明によれば、引張強さが 590 MPa以上の高強度と、優れた脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱HAZ靱性を兼ね備える高張力厚鋼板を、生産性の低下を招いたり、製造上の制約を受けることなしに、安定して製造することができる。
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、鋼素材の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.001 〜0.013 %
母材およびHAZ組織をMA相のほとんど認められないベイナイト組織とするためには、C含有量を 0.013%以下に抑制する必要がある。また、大量生産工程においては、Cを0.001 %未満まで低減することは生産性の著しい低下を招くので、Cは 0.001〜0.013 %の範囲に限定した。さらに靱性を向上させるためには、 0.001〜0.010 %の範囲が望ましい。
Si:0.01〜0.6 %
Siは、固溶強化によって鋼の強度を上昇させる元素であり、590 MPa 以上の引張強さを確保するために、0.01%以上を添加する。しかしながら、0.6 %を超えて含有させると、溶接性を損ない、また母材およびHAZ靱性が低下するなどの悪影響が生じるため、Siは0.01〜0.6 %の範囲に限定した。
Mn:1.0 〜2.0 %
Mnは、フェライトの生成を抑制し、母材およびHAZ組織をベイナイト化することによって強度を増加させる効果がある。母材組織をベイナイト化することは、590 MPa 以上の引張強さを実現し、{211}集合組織を発達させて脆性亀裂伝播停止特性を向上させるために重要である。そして、500 kJ/cm 以上の超大入熱HAZ組織におけるフェライトの生成を抑制するためには、1.0 %以上のMn添加が必要である。しかしながら、Mn含有量が 2.0%を超えると、溶接性を損ない、また母材およびHAZ靱性が低下するなどの悪影響が生じるので、Mnは 1.0〜2.0 %の範囲に限定した。
Al:0.005 〜0.10%
Alは、溶鋼の脱酸剤として作用する元素であり、十分な脱酸効果を得るためには 0.005%以上の添加を必要とする。しかしながら、0.10%を超えると鋼の清浄度が低下し、母材およびHAZ靱性が低下するため、Alは 0.005〜0.010 %の範囲に限定した。
Nb:0.004 %以下
Nbの低減は、本発明の特徴の一つである。Nbには、圧延中のオーステナイトの再結晶を抑制しては{211}集合組織を発達し易くする作用や、鋼材の組織をベイナイト化する作用があるが、超大入熱溶接時にはその冷却過程において炭窒化物として析出し、HAZ靱性を低下させる。そこで、本発明では、Nbの含有量は 0.004以下に限定した。
V:0.010 %以下
Vには、Nbと類似した作用があるため、できるだけ低減することが望ましいが、0.010%以下であれば許容できる。
Mo:0.20〜1.0 %
Moの添加も、本発明の特徴の一つである。Moは、組織のベイナイト化を促進する元素であり、Nbを低減させながら母材および脱組織をベイナイト化するに当たって必須の元素である。また、極低炭素ベイナイト組織のパケットサイズを微細化して超大入熱HAZ靱性を向上させる効果もある。このような効果を発現させるためには、少なくとも0.20%のMoを添加する必要があるが、1.0 %を超えるとベイナイト変態温度が上昇し、変態集合組織の発達が抑制されるため、脆性亀裂伝播停止特性が低下し易くなる。このため、Moは0.20〜1.0 %の範囲で含有させるものとした。
B:0.0003〜0.0050%
Bは、フェライト変態を抑制し、組織をベイナイト化する作用を有する。この効果は、B量が0.0003%以上で発現するが、0.0050%を超えると効果が飽和し、冷却中のBNの析出によって逆にフェライト変態を促進する場合があるので、Bは0.0003〜0.0030%の範囲に限定した。
Ti:0.005 〜0.050 %
Tiは、鋼中に微細なTiNとして分散し、超大入熱溶接時のHAZのオーステナイト粒成長をピンニング効果によって抑制し、靱性を向上させる作用を有する。また、鋼中のNをTiNとして固定することにより、前述したBの作用を助長する効果がある。このような効果を得るためには、0.005 %以上のB添加を必要とするが、0.050 %を超えるとTiNの粗大化により靱性が低下する。このため、Tiは 0.005〜0.050 %の範囲に限定した。
N:0.0010〜0.0060%
Nは、製鋼過程において鋼中に不可避的に混入する元素であるが、鋼中に固溶元素として多量に存在すると、靱性を著しく低下させる。一方、Tiと結合してTiNを形成すると、ピンニング効果によってHAZ組織を微細化することができる。十分な量のTiNを形成するためには、0.0010%以上のN添加が必要であるが、0.0060%を超えると上述したとおり、靱性の低下を招く。このため、Nは0.0010〜0.0060%の範囲に限定した。
以上、基本成分について説明したが、本発明ではその他にも、鋼の強度改善成分として、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Cu:0.10〜0.60%、Ni:0.10〜1.0 %、Cr:0.10〜0.80%およびW:0.05〜0.50%のうちから選んだ1種または2種以上
Cu,Ni,CrおよびWはいずれも、主に固溶強化によって鋼の強度を上昇させる有用元素であり、必要に応じて添加する。しかしながら、含有量がそれぞれ下限に満たないとその添加効果に乏しく、一方上限を超えると溶接性が低下し、また合金添加コストが増加しててしまうので、それぞれ上記の範囲で含有させることが好ましい。
Ca:0.0010〜0.0050%および REM:0.0010〜0.020 %のうちから選んだ少なくとも1種
CaおよびREM はいずれも、酸化物、硫化物を形成して鋼中に分散し、ピンニング効果によって大入熱溶接HAZのオーステナイト粒径を微細化する効果があり、必要に応じて添加する。しかしながら、含有量がそれぞれ下限に満たないとその添加効果に乏しく、一方上限を超えると粗大な酸化物、硫化物が増加し、かえって靱性を低下させてしまうので、それぞれ上記の範囲で含有させることが好ましい。
次に、本発明の製造条件の限定理由について説明する。
なお、鋼素材は、上記の好適成分組成に調整した溶鋼を、転炉等の通常公知の方法で溶製したのち、連続鋳造等の通常公知の方法で鋳造して製造すれば良い。
加熱温度:950 〜1250℃
圧廷前の組織を均一な整粒オーステナイト組織にするためには、950 ℃以上の温度に加熱する必要があるが、加熱温度が1250℃を超えると組織が著しく粗大化するため、加熱温度は 950〜1250℃の範囲に限定した。
オーステナイト未再結晶域での累積圧下率:50%以上
オーステナイト未再結晶域で十分な圧下率の圧延を施すことは、Nbを低減しながら、なおかつ集合組織を発達させるために必要な、本発明において不可欠な要件の一つであり、圧延中のオーステナイト再結晶を抑制するためには、オーステナイト未再結晶域で圧延することが肝要である。この温度域での圧下率の増加に伴って、変態後のベイナイトの{211}集合組織が発達し、脆性亀裂伝播停止特性が向上する。このような効果を発現させるためには、オーステナイト未再結晶域における圧下率は累積圧下率で少なくとも50%、望ましくは66%以上とする必要がある。
なお、本発明におけるオーステナイト未再結晶温度域は、概ね 650〜950 ℃の範囲である。
圧延終了温度:650 〜800 ℃
鋼材の強度・靱性の向上だけでなく、脆性亀裂伝播停止特性を向上させる変態集合組織を発達させるためには、圧延終了温度を低くする方が好ましい。この点に関する発明者らの研究によれば、本発明で所期した効果を得るためには、圧延終了温度を 800℃以下とする必要があることが究明された。しかしながら、圧延終了温度を 650℃未満にまで低下させると、オーステナイト→フェライトまたはオーステナイト→ベイナイト変態が開始し、生成したフェライトあるいはベイナイトが加工される結果、靱性の低下や異方性の増大といった問題が生じる。このため、圧延終了温度は 650〜800 ℃の範囲に限定した。
圧延後の冷却速度:7℃/s以上
圧延後の加速冷却処理は、変態集合組織の発達を助長して脆性亀裂伝播停止特性を向上させるための、本発明における重要な要件の一つである。すなわち、圧延後の冷却速度が低いと、圧延中に発達した変態前オーステナイトの加工集合組織が回復・再結晶によって弱まり、脆性亀裂伝播停止特性を向上させるために有効な{211}集合組織が発達し難くなる。特にNbを低減した鋼では、オーステナイトの回復・再結晶が容易に起きるため、加速冷却は必須であり、このような効果を得るためには7℃/s以上の冷却速度で冷却する必要がある。
加速冷却停止温度:580 ℃以下
上記した加速冷却効果を十分に発現させるためには、ベイナイト変態開始温度以下まであるいはオーステナイトの回復がほとんど無視できる温度域まで冷却する必要がある。この観点から、加速冷却停止温度は 580℃以下に限定した。
本発明では、上記した冷却処理の後、さらに焼戻し処理を施すことができる。この焼戻し処理は、冷却時に生成したマルテンサイトの強度・靱性の調整、あるいはベイナイトラス間に生成した島状マルテンサイト(MA相)を分解して靱性を向上させるために施すものであるが、処理温度が 500℃に満たないと上記の効果が認められず、一方 650℃を超えると強度が著しく低下してしまうので、焼戻し温度は 500〜650 ℃程度とすることが好ましい。
上記の工程により、引張強さが 590 MPa以上で、塑性変形後の脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱HAZ靱性に優れた高張力厚鋼板を得ることができる。
なお、本発明における厚鋼板とは、板厚が10〜100 mm程度のものを意味する。
表1に示す種々の成分組成になる溶鋼を、転炉で溶製し、連続鋳造法で鋼スラブとした。これらの鋼スラブ(板厚:300 mm)を素材として、表2に示す条件で、加熱処理、圧延処理および冷却処理を施して、板厚:50〜70mmの厚鋼板とした。
かくして得られた厚鋼板の引張特性、母材靱性および脆性亀裂伝播停止特性について調査した結果を表3に示す。
また、表3には、多層盛り継手溶接および大入熱1パス継手溶接を行った際の溶接熱影響部(HAZ)の靱性について調べた結果も併せて示す。
なお、各特性は次のようにして評価した。
(1) 引張特性
各厚鋼板の板厚中心部から、JIS 4 号引張試験片を採取して引張試験を実施し、降伏強さ(0.2 %耐力)および引張強さを測定した。
(2) 母材靱性
各厚鋼板の板厚中心部から、JIS 4 号衝撃試験片を採取し.シャルピー試験を実施して母材の脆性破面遷移温度(vTrs) を求めた。
(3) 脆性亀裂伝播停止特性
日本溶接協会の鋼種認定試験方法に規定される方法に準拠して試験を行った。すなわち、500 mm正方試験片に29mm深さのノッチを加工した試験(ESSO試験)により、脆性亀裂伝播停止特性(Kca値)が 6000 N/mm1.5 を示す温度(Tk)(℃)を求めることにより評価した。また、10%塑性変形後の脆性亀裂伝播停止特性についても調べた。
(4) 溶接熱影響部(HAZ)の靱性
溶接熱影響部(HAZ)の靱性は、小入熱(20 kJ/cm)の多層ガスメタルアーク溶接(GMAW)および超大入熱(500 kJ/cm)の単層エレクトロガス溶接(EGW)によって継手を作製した後、ボンドから1mmの箇所にノッチを入れたシャルピー試験片を用いてシャルピー試験を実施し、−20℃における吸収エネルギー(vE-20)により靱性を評価した。
Figure 2005097683
Figure 2005097683
Figure 2005097683
表3に示したとおり、発明例(No.1〜17)はいずれも、590 MPa 以上の引張強度を有し、またTk が圧延ままで−60℃以下、10%塑性変形後で−40℃以下と優れた脆性亀裂伝播停止特性を有し、さらにHAZ靱性は、GMAWおよびEGW継手のいずれにおいても、−20℃におけるシャルピー吸収エネルギー(vE-20)が 100J以上と極めて良好であった。

Claims (4)

  1. 質量%で
    C:0.001 〜0.013 %、
    Si:0.01〜0.6 %、
    Mn:1.0 〜2.0 %、
    Al:0.005 〜0.10%、
    Nb:0.004 %以下、
    V:0.010 %以下、
    Mo:0.20〜1.0 %、
    B:0.0003〜0.0050%、
    Ti:0.005 〜0.050 %および
    N:0.0010〜0.0060%
    を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、 950〜1250℃に加熱後、オーステナイト未再結晶域での累積圧下率:50%以上、圧延終了温度:650 〜800 ℃の条件で熱間圧延を施し、その後7℃/s以上の冷却速度で 580℃以下まで冷却することを特徴とする、引張強さが 590 MPa以上で、脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱溶接熱影響部靱性に優れた高張力厚鋼板の製造方法。
  2. 請求項1において、鋼素材が、質量%でさらに、
    Cu:0.10〜0.60%、
    Ni:0.10〜1.0 %、
    Cr:0.10〜0.80%および
    W:0.05〜0.50%
    のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、引張強さが 590 MPa以上で、脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱溶接熱影響部靱性に優れた高張力厚鋼板の製造方法。
  3. 請求項1または2において、鋼素材が、質量%でさらに、
    Ca:0.0010〜0.0050%および
    REM:0.0010〜0.020 %
    のうちから選んだ少なくとも1種を含有する組成になることを特徴とする、引張強さが 590 MPa以上で、脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱溶接熱影響部靱性に優れた高張力厚鋼板の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれかにおいて、7℃/s以上の冷却速度で 580℃以下まで冷却したのち、 500〜650 ℃の温度範囲で焼戻し処理を施すことを特徴とする、引張強さが 590 MPa以上で、脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱溶接熱影響部靱性に優れた高張力厚鋼板の製造方法。
JP2003333835A 2003-09-25 2003-09-25 脆性亀裂伝播停止特性および超大入熱溶接熱影響部靱性に優れた高張力厚鋼板の製造方法 Expired - Lifetime JP4449388B2 (ja)

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