JP2005088029A - 亜鉛めっき鋼板のスポット溶接方法および装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】溶融亜鉛めっき鋼板を溶接する際の溶融亜鉛の影響による無効分流を少なくして、ナゲット径の安定化を図る。
【解決手段】溶融亜鉛めっき鋼板からなる板材W1,W2同士をスポット溶接するにあたり、前処理として、溶接部位の亜鉛めっき層Zを予め除去するとともに、同部位に相手側となる板材側に向けて凸形状となるエンボス部Eを予め膨出成形する。その後にエンボス部Eを溶接部位としてスポット溶接を施す。
【選択図】図1
【解決手段】溶融亜鉛めっき鋼板からなる板材W1,W2同士をスポット溶接するにあたり、前処理として、溶接部位の亜鉛めっき層Zを予め除去するとともに、同部位に相手側となる板材側に向けて凸形状となるエンボス部Eを予め膨出成形する。その後にエンボス部Eを溶接部位としてスポット溶接を施す。
【選択図】図1
Description
本発明は、亜鉛めっき鋼板のスポット溶接方法および装置に関し、一般的にめっきなし鋼板に比べて溶接性が悪いとされている亜鉛めっき鋼板の溶接性を改善した亜鉛めっき鋼板のスポット溶接方法および装置に関する。
溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板(軟鋼板)を溶融亜鉛めっき槽へ浸漬した後に熱処理を行わない溶融亜鉛めっき鋼板と、熱処理によりめっき層を母材である鋼板の主元素(鉄)と合金化させる合金化亜鉛めっき鋼板の二種類に大別される。
一般にこれらの亜鉛めっき鋼板のスポット溶接においては、通電中に鋼板そのものに先立って溶融することになる鋼板表面の亜鉛めっき層が板材同士の界面加圧領域の外側に流出し、通電面積が広がって電流密度が低下することから、加圧力、溶接電流値、通電時間等の溶接条件をめっき種や板厚に応じて適切に設定することで初めて所定のナゲット径を得ることができるとされている。
その一方、例えば溶融亜鉛めっき鋼板をもって形成される三次元形状御パネル状ワークを得るにあたり、例えばワークを形成することになる複数枚の板材同士に多数の打点(溶接点)をもって連続的にスポット溶接を施して接合しようとする場合に、既打点のナゲット周辺には先に述べたような流出亜鉛がリング状に存在していることから、既打点での溶接電流の無効分流が大きくなり、それに隣接することになる第2打点以降の溶接の際に所定のナゲット径を得ることが困難となるという傾向がある。そして、亜鉛めっき鋼板である板材の板厚が大きくなるほどに、また合金化溶融亜鉛めっき鋼板に比べてめっき層の厚い溶融亜鉛めっき鋼板ほどこの傾向が顕著となる。
そこでこの対策として、亜鉛めっき鋼板の溶接強度の向上のために例えば特許文献1に記載のような直流抵抗溶接機の溶接電流制御方法および装置が提案されている。この特許文献1に記載の技術では、ワークに通電される検査電流を二次側電流検出器を介して検出することにより、ワーク間およびワークと電極チップ間が溶接電流の通電可能な状態かを判定し、通電可能な状態であれば立ち上がりが急峻な第1溶接電流を通電して亜鉛めっき層を溶融させ、次いで第2溶接電流を通電してナゲットを生成させ、さらに第3溶接電流を通電して上記ナゲットを成長させることにより、適正な大きさのナゲットを得るようにしている。
特開平7−88659号公報 (図3)
しかしながら、特許文献1に記載の技術をもってしても、既溶接打点での溶接電流の無効分流の影響のために第2打点以降の溶接の際に所定の大きさのナゲットを得ることが困難であるという課題はなおも改善されていない。しかも、同特許文献1に記載の技術では、同一のナゲット径を得るためには亜鉛めっきを施してない鋼板に比べてより大きな溶接電流を必要とすることから、結果として電極(チップ)の消耗も激しく、同一の電極にてドレッシングなしに溶接できる溶接打点数が大幅に少なくなることとなって好ましくない。
本発明はこのような課題に着目してなされたものであり、とりわけ亜鉛めっき鋼板の連続スポット溶接性を確保するとともに、そのスポット溶接に必要な溶接電流が極力低くて済むようにし、併せて電極のドレッシング頻度を低くした亜鉛めっき鋼板のスポット溶接方法とスポット溶接装置を提供しようとするものである。
請求項1に記載の発明は、亜鉛めっき鋼板を含む少なくとも二枚の板材にスポット溶接を施すにあたり、前処理として、亜鉛めっき鋼板の溶接部位の亜鉛めっき層を予め除去するとともに、同部位に相手側となる板材側に向けて凸形状となるエンボス部を予め膨出成形しておき、その後にエンボス部を溶接部位としてスポット溶接を施すことを特徴とする。
この場合、請求項2に記載のように、前処理により亜鉛めっき層を除去する部分およびエンボス部の大きさは、後工程でのスポット溶接を司る電極の直径よりも大きく設定されていることが望ましい。
また、前処理は、請求項3に記載のように、例えばスポット溶接用電極とは別の前処理用電極を用いて溶接部位を加圧挟持しつつ通電することにより、亜鉛めっき層の除去とエンボス部の成形を同時に行うものとする。
さらに、請求項1に記載のスポット溶接方法を実施するためのスポット溶接装置としては、請求項6に記載のように、溶接母機として機能する溶接ロボットと、その溶接ロボットのアーム先端に着脱可能に装着されるスポット溶接用ガンおよび前処理用ガンと、それらのスポット溶接用ガンおよび前処理用ガンを保管可能なガンホルダーとを備えていて、溶接ロボットは、その自律動作によりアーム先端とガンホルダーとの間でスポット溶接用ガンおよび前処理用ガンのうちのいずれかを選択的に持ち替えながら、前処理とそれに続くスポット溶接を施すようになっているものとする。
もしくは、請求項7に記載のように、溶接母機として機能する溶接ロボットと、その溶接ロボットのアーム先端に装着されたスポット溶接用ガンおよび前処理用ガンとを備えていて、溶接ロボットは、その自律動作によりアーム先端のスポット溶接用ガンと前処理用ガンを選択的に切り替えながら、前処理とそれに続くスポット溶接を施すようになっているものとする。
したがって、少なくとも請求項1に記載の発明では、亜鉛めっき鋼板の溶接部位について予めめっき層が除去されていることにより、従来のようにナゲットの周囲に溶融亜鉛が流出することがなくなり、その流出亜鉛による溶接性への影響が回避される。すなわち、ナゲット周囲の流出亜鉛に起因する無効分流が抑制されることで、同一の亜鉛めっき鋼板における連続溶接性が確保される。また、亜鉛めっき層除去部分と同等部位に予めエンボス部が形成されていることにより、鋼板同士を加圧挟持したときに隙間を確保することができるため、万が一いずれかの鋼板から溶融亜鉛の流出があったとしてもその流出亜鉛の広がりを抑制して、無効分流経路の増加を抑制できることになる。
請求項1に記載の発明であるスポット溶接方法によれば、亜鉛めっき層による溶接性への影響が回避されるために、同一の亜鉛めっき鋼板における連続溶接性を確保できるほか、同一サイズのナゲットを得るための溶接電流を相対的に低下させることができるとともに、電極のドレッシング頻度も低くすることができ、エネルギー効率の向上と工数削減を図ることができる効果がある。
また、請求項6,7に記載の発明であるスポット溶接装置によれば、亜鉛めっき層の除去を目的とした前処理とそれに続くスポット溶接をきわめて効率よく行える効果がある。
次に、本発明の好ましい実施の形態を溶融亜鉛めっき鋼板に適用した場合について説明する。
最初に、本発明での実施の形態の理解を容易にするために、従来の亜鉛めっき鋼板のスポット溶接手順を図11に段階的に示す。
溶融亜鉛めっき鋼板からなる二枚の板材W1,W2同士をスポット溶接する場合、図11の(a)に示す加圧時には、互いに重ね合わせた二枚の板材W1,W2を一対の電極である溶接チップT1,T2にて加圧挟持すると、各板材W1,W2の溶接部位には加圧により塑性変形が生じ、溶接チップT1,T2により強く押圧された部分すなわち実加圧領域では板材W1,W2同士が密着するも、それ以外の部分では板材W1,W2間に微小な隙間hが発生することになる。
続いて、図11の(a)の状態から通電を開始した同図(b)の通電初期段階では、板材W1,W2の母材そのものの溶融に先立って板材W1,W2の表面の亜鉛めっき層が溶融して、板材W1,W2間の隙間hを通して実加圧領域以外の部分にまで流出,拡散する。これにより、板材W1,W2間の通電に関与する直径はds1となる。そして、同図(c)に示すナゲット形成初期段階では、通電径ds1をもって通電される過程で実加圧領域にナゲットNが形成され始める。そして、最終的には同図(d)にナゲット成長期として示すように、ナゲットNの成長をもってスポット溶接が完了する。
ここで、形成されるナゲットNの直径に対して通電径ds1が著しく大きい故に、通電径ds1のうちナゲット径以外の部分を流れる電流は溶接には直接寄与しない無効分流となる。
本発明は、この無効分流を極力小さくしようとするものであり、そのより具体的な実施の形態を図1に示す。
本実施の形態では、図1の(A)に示すように、溶接対象となる二枚の溶融亜鉛めっき鋼板からなる板材W1,W2のスポット溶接に先立ち、前処理として、ナゲットN(同図(B)参照)を中心とする溶接部位の周辺部について各板材W1,W2の表裏両面の亜鉛めっき層Zを予め除去しておくとともに、同等部位にそれぞれ相手側の板材W1またはW2に向かって凸形状となる略球面状もしくは浅皿状のエンボス部Eを予め膨出成形しておくものとする。
そして、同図(B)に示すように、双方の板材W1,W2のエンボス部E,E同士を突き合わせた上でスポット溶接用電極である溶接チップT1,T2にて加圧挟持して、常法によりスポット溶接を施す。同図から明らかなように、予め亜鉛めっき層Zを除去する領域およびエンボス部Eの大きさ(直径)は実際のスポット溶接を司る溶接チップT1,T2の直径よりも十分に大きく設定される。
その結果、同図から明らかなように、ナゲットNを中心とする溶接部位について予め亜鉛めっき層Zが除去されているために、双方の板材W1,W2同士を溶接チップT1,T2にて加圧挟持したとしても従来のような溶融亜鉛Zの流出がない。これは、図11に示した通電径ds1が小さくなることを意味し、無効分流が少なくなって溶接電流がナゲットN相当部に集中することから、亜鉛めっき層Zに阻害されることなく適正な大きさのナゲットNを形成することができる。
ここで、上記前処理の具体的方法としては、実際にスポット溶接を司る図1の(B)の溶接チップT1,T2とは別に図2に示すように前処理専用の電極として一対の前処理用チップt1,t2を用意し、スポット溶接に先立って各板材W1,W2の溶接部位を一対の前処理用チップt1,t2にて加圧挟持することで表裏両面の亜鉛めっき層Zの除去とエンボス部Eの膨出成形を行うものとする。すなわち、一方の前処理用チップt1の先端には球面状の凸部1aが、他方の前処理チップt2の先端には凸部1aに対応する同じく球面状の凹部1bがそれぞれ形成されており、これらの一対の前処理チップt1,t2をもって各板材W1,W2を一枚ごとに加圧挟持した上で特定の電流条件で通電することで、その表裏両面の亜鉛めっき層Zの除去とエンボス部Eの膨出成形を同時に行う。
なお、先に述べたように、予め亜鉛めっき層Zを除去する領域およびエンボス部Eの大きさ(直径)は実際のスポット溶接を司る図1の(B)の溶接チップT1,T2の直径よりも十分に大きく設定されていることが条件となることから、必然的に各前処理用チップt1,t2の凸部1aおよび凹部1bの直径は図1の(B)に示した溶接チップT1,T2の直径よりも大きく設定されている。また、通電はあくまで亜鉛めっき層Zの除去を目的として行われるものであるから、通電時の電流条件等は一般的なスポット溶接時の条件とは異なることは言うまでもない。
図3は本発明の第2の実施の形態を示す。
この第2の実施の形態では、溶接対象となる二枚の溶融亜鉛めっき鋼板からなる板材W1,W12のうち上側となる一方の板材W1について、その表裏両面の亜鉛めっき層Zの除去とエンボス部Eの膨出成形が施されているのに対して、下側となる他方の板材W12についてはその表裏両面の亜鉛めっき層Zの除去とエンボス部Eの膨出成形が施されていない点で図1に示した第1の実施の形態のものと異なっている。なお、この第2の実施の形態においても、亜鉛めっき層Zの除去とエンボス部Eの膨出成形は図2に示した一対の前処理用チップt1,t2を用いて行うものとする。
ここで、上記の前処理として行われる亜鉛めき層Zの除去およびエンボス部Eの成形についてもう少し詳しく検討してみる。
図4には図1の(B)と同等の溶接部位の拡大図として通電初期段階の溶融亜鉛Zの流出状態を示した。ただし、同図ではいずれか一方の板材W1またはW2からのみ板材W1,W2同士の隙間h1への溶融した亜鉛めっき層Zの流出があるものと仮定している。
一般的なスポット溶接においては、溶接対象となる板材同士の接触径dsと実際のスポット溶接を司る溶接チップ(電極)の先端径deとの間には次式の関係が成り立つことが知られている。
ds=de+0.8t‥‥(1)
ds:板材同士の接触径(=板材間の通電径)
de:溶接チップの先端径
t:板材の板厚
図4において、板材W1,W2同士の接触部では溶接チップT1,T2による加圧によって塑性変形が生じ、同図に示すように板材同士の間に0.1mm程度の隙間h1(図11の(a)のhに相当)が発生する。ここでは、双方の板材W1,W2がそれぞれ同量ずつ例えば0.05mm程度塑性変形するものとして、それらの総和として隙間h1=0.1mmとしてある。
ds:板材同士の接触径(=板材間の通電径)
de:溶接チップの先端径
t:板材の板厚
図4において、板材W1,W2同士の接触部では溶接チップT1,T2による加圧によって塑性変形が生じ、同図に示すように板材同士の間に0.1mm程度の隙間h1(図11の(a)のhに相当)が発生する。ここでは、双方の板材W1,W2がそれぞれ同量ずつ例えば0.05mm程度塑性変形するものとして、それらの総和として隙間h1=0.1mmとしてある。
一方、溶融亜鉛めっき鋼板の溶接では、通電初期時に母材である鋼板そのものの溶融に先立って表面の亜鉛めっき層Zが溶融し、板材W1,W2同士の接触部である塑性変形領域の周囲にその溶融亜鉛Zが流出することは先に述べた(図11参照)。
図4において、亜鉛めっき層Zの厚さをwとすると、通電初期時に亜鉛めっきZの流出がある場合の板材W1,W2同士の通電面積Ss1はめっきなし鋼板を溶接した場合の面積Ssに比べて増加する。ここでは、亜鉛めっきZの流出がある場合の板材W1,W2同士の通電面積Ss1の、めっきなし鋼板を溶接した場合の板材同士の通電面積Ssに対する割合を板材同士の通電面積の増加割合Xsと称する。
この増加割合Xsは、溶接前に板材W1,W2同士の通電面積Ssの表面にあった亜鉛Zの体積と通電初期時に板材W1,W2同士の通電面積Ssの周囲にある高さh1の空間(隙間)へ流出する亜鉛Zの体積と等しいことから、下記の式が成り立つ。
n×Ss×w=(Ss1−Ss)×h1‥‥(2)
(ただし、左辺のnは溶接する板材W1,W2のうち亜鉛めっき鋼板の枚数)
したがって、板材W1,W2同士の通電面積の増加割合Xsは次式で表される。
(ただし、左辺のnは溶接する板材W1,W2のうち亜鉛めっき鋼板の枚数)
したがって、板材W1,W2同士の通電面積の増加割合Xsは次式で表される。
Xs=Ss1/Ss=(n×w+h1)/h1‥‥(3)
また、図4では、(3)式から下記の(4),(5)式の関係が成り立つ。
また、図4では、(3)式から下記の(4),(5)式の関係が成り立つ。
Ss1=1.5×Ss‥‥(4)
ds1=√1.5×ds‥‥(5)
ただし、h1=0.10mm、w=0.05mmとする。
ds1=√1.5×ds‥‥(5)
ただし、h1=0.10mm、w=0.05mmとする。
周知のように、スポット溶接ではジュール発熱により鋼板を溶融しているため、ある溶接電流および通電時間のもとでは板材W1,W2間の通電面積Ss1に反比例してナゲットNの直径が決まる。
また、先に述べた本実施の形態では、溶接電流および通電時間は板厚に応じてその板厚の平方根に対するナゲットNの直径の割合が6以上となるように設定するものとする。この溶接電流および通電時間の設定の仕方には一般的な手法を用いている。
図5は、実験における板材W1,W2間の通電面積の増加割合Xsと、得られたナゲットNの直径の板厚の平方根に対する割合Xとの関係を示したものである。同図から明らかなように、板厚の平方根に対するナゲットNの直径の割合を6以上とするためには、板材W1,W2間の通電面積の増加割合Xsを1.33以下におさえる必要がある。
次に、溶接対象となる溶融亜鉛めっき鋼板であるところの二枚の板材W1,W2のうちいずれか一方にのみ前処理を施した上で他方の板材と溶接することを前提として、その通電初期に生じる亜鉛めっき層Zの流出についての詳細を図6に示した。すなわち、図6では図3と同様に上側の板材W1のみに予め前処理を施すことを想定している。
一枚の板材W1からのみ溶融した亜鉛Zの流出がある場合、その亜鉛Zの体積については先の(2)式が成り立つため、前処理を施していない板材W2の表面の亜鉛めっき層Zの流出により、板材W1,W2間の通電面積Ss1は亜鉛めっき層Zの流出がない場合に比べて広がるが、その割合は(w+h1)/h1である。
上記の実施の形態では、板材W1の前処理として表面の亜鉛めっき層Zを除去するとともに、同等部位に予めエンボス部Eを膨出成形し、もって板材W1,W2間の隙間h2を大きくすることで溶融した亜鉛Zの流出面積を小さくし、結果として板材W1,W2間の通電面積の増加割合Xsを1.33以下に抑えることを主眼としており、図2に示した前処理用電極たる前処理用チップt1,t2の形状は下記の条件を満たすように設定するものとする。
板材W1,W2間の通電面積の増加割合Xsを1.33以下にするために、図6のA部にて必要な板材W1,W2間の隙間(間隙)をh2とし、流出した溶融亜鉛Zの体積が、その亜鉛Zが流出した断面積Sznと亜鉛Zが流出した周長π×dsの積に等しいものとみなすと、次式(6)式が成り立ち、この(6)式より(7)式の関係が導かれる。
1/2×(h1+h2)×(√1.33ds−ds)/2×π×ds
=1/4π×ds2×w‥‥(6)
h2=w/(√1.33−1)−h1‥‥(7)
したがって、板材W1,W2間の隙間h2として(7)式を満たすためには、前処理用電極である前処理用チップt1,t2の図2に示す凸部1aおよび凹部1bの曲率半径Rは、次の(8)式に示す2次方程式の正の解以下の値として設定するものとする。
=1/4π×ds2×w‥‥(6)
h2=w/(√1.33−1)−h1‥‥(7)
したがって、板材W1,W2間の隙間h2として(7)式を満たすためには、前処理用電極である前処理用チップt1,t2の図2に示す凸部1aおよび凹部1bの曲率半径Rは、次の(8)式に示す2次方程式の正の解以下の値として設定するものとする。
R2={R−(h2−h1)}2+(√1.33×ds/2)2‥‥(8)
さらに、前処理用チップt1,t2の凸部1aおよび凹部1bの直径dは、図1,3に示すようなスポット溶接を行う際に、その実際のスポット溶接を司る溶接母機例えば溶接ロボットの繰り返し位置精度がばらついても板材W1,W2の前処理を施した部位にスポット溶接を施すことが可能となる面積だけ前処理を施しておく必要があるため、加重条件として次の(9)式を満たすよう設定するものとする。
さらに、前処理用チップt1,t2の凸部1aおよび凹部1bの直径dは、図1,3に示すようなスポット溶接を行う際に、その実際のスポット溶接を司る溶接母機例えば溶接ロボットの繰り返し位置精度がばらついても板材W1,W2の前処理を施した部位にスポット溶接を施すことが可能となる面積だけ前処理を施しておく必要があるため、加重条件として次の(9)式を満たすよう設定するものとする。
d≧√1.33×ds+L‥‥(9)
(ただし、Lは溶接ロボットの繰り返し位置精度誤差)
図7は、図1,3に示した実施の形態での効果を、溶接の結果得られたナゲットNの直径の安定性の度合いとして互いに隣接する多数打点位置(溶接位置)で評価したものを示している。すなわち、図3に示したように一方の板材W1のみに前処理を施したものと図1の(B)に示すように双方の板材W1,W2に前処理を施したものにあっては、図7から明らかなようにナゲットNの大きさが十分に成長し、各打点位置相互間での差も実用上問題ない程度の範囲内におさまっている。これに対して、前処理を施さなかった場合には各打点位置でのナゲットNの直径に大きな差があり、ばらつきが大きいことがわかる。
(ただし、Lは溶接ロボットの繰り返し位置精度誤差)
図7は、図1,3に示した実施の形態での効果を、溶接の結果得られたナゲットNの直径の安定性の度合いとして互いに隣接する多数打点位置(溶接位置)で評価したものを示している。すなわち、図3に示したように一方の板材W1のみに前処理を施したものと図1の(B)に示すように双方の板材W1,W2に前処理を施したものにあっては、図7から明らかなようにナゲットNの大きさが十分に成長し、各打点位置相互間での差も実用上問題ない程度の範囲内におさまっている。これに対して、前処理を施さなかった場合には各打点位置でのナゲットNの直径に大きな差があり、ばらつきが大きいことがわかる。
図8は本発明の本発明の第2の実施の形態を示し、先に説明した第1の実施の形態のスポット溶接方法を例えば自動車の車体パネルの溶接組立ラインに適用した場合の例を示している。
ここでは、図8に示すように、板材投入及び前処理工程S1と少なくとも三つのスポット溶接工程S2〜S4が直列に並んだライン編成となっており、板材投入及び前処理工程S1には前処理兼ハンドリング用ロボット2が付帯しているととともに、以降の三つのスポット溶接工程S2〜S4には単一もしくは複数のスポット溶接用ロボット3が付帯している。
前処理兼ハンドリング用ロボット2は、図2に示したような前処理用チップt1,t2を有する前処理用ガンのほか板材移載用のハンドを備えており、スポット溶接に供するべき一枚の板材が前工程から板材投入及び前処理工程S1に投入されたならば、予め定められた溶接部位に先に述べたように亜鉛めっき層Zの除去とエンボス部Eの成形とを兼ねた前処理を施した上で、その前処理後の板材を最初のスポット溶接工程S1に投入する。スポット溶接に供するべき他方の板材が板材投入及び前処理工程S1に投入された場合にも同様とする。
なお、前処理兼ハンドリング用ロボット2は前処理用ガンと移載用ハンドとを備えていて、それらを選択的に切り換えて前処理とスポット溶接工程S2への板材の移載とを行うか、前処理用ガンと移載用ハンドとをその都度持ち替えて前処理とそれに続くスポット溶接工程S2への板材の移載とを行うものとする。
一方、スポット溶接工程S2〜S4に移載された板材は、スポット溶接用ロボット3により例えば仮打ちおよび増打ちの順に順次スポット溶接が施されることになる。
図9は本発明の第3の実施の形態を示し、スポット溶接用ロボット4が前処理機能と本溶接としてのスポット溶接機能とを有している場合の例を示している。
図9に示すように、スポット溶接用ロボット4に近接して二つのガン5,6を並べて仮置きもしくは保管可能なガンホルダー7が用意されているとともに、スポット溶接用ロボット4のアーム8先端にはガンチェンジャー9を備えている。そして、ガンチェンジャー9には例えば図2に示した前処理用チップt1,t2を備えた前処理用ガン5が着脱可能に装着されている一方、ガンホルダー7には通常のスポット溶接用ガン6が支持されていて、スポット溶接用ロボット4はガンチェンジャー9の機能を使ってガンホルダー7との間で双方のガン5,6の持ち替えが可能となっている。
これにより、スポット溶接用ロボット4は、先に述べたようなスポット溶接に供される板材について、その都度前処理用ガン5とスポット溶接用ガン6とを持ち替えることで前処理とそれに続くスポット溶接とを行うことになる。
図10は本発明の第4の実施の形態を示し、スポット溶接用ロボット10が前処理機能とスポット溶接機能とを有しつつ、いわゆる双頭ガンタイプのものとして構成されている点で第3の実施の形態のものと異なっている。
図10に示すように、スポット溶接用ロボット10のアーム11の先端には例えば図2に示した前処理用チップt1,t2を備えた前処理用ガン12と通常のスポット溶接用ガン13とが逆向きに装着されていて、いわゆる双頭タイプのものとなっている。
したがって、スポット溶接用ロボット10は、先に述べたようなスポット溶接に供される板材について、その都度前処理用ガン12とスポット溶接用ガン13とを選択的に切り換えることで前処理とそれに続くスポット溶接とを行うことになる。
4…スポット溶接用ロボット(溶接ロボット)
5…前処理用ガン
6…スポット溶接用ガン
7…ガンホルダー
8…アーム
10…スポット溶接用ロボット(溶接ロボット)
11…アーム
E…エンボス部
N…ナゲット
T1,T2…溶接チップ(スポット溶接用電極)
t1,t2…前処理用チップ(前処理用電極)
W1,W2…板材(溶融亜鉛めっき鋼板)
Z…亜鉛めっき層
5…前処理用ガン
6…スポット溶接用ガン
7…ガンホルダー
8…アーム
10…スポット溶接用ロボット(溶接ロボット)
11…アーム
E…エンボス部
N…ナゲット
T1,T2…溶接チップ(スポット溶接用電極)
t1,t2…前処理用チップ(前処理用電極)
W1,W2…板材(溶融亜鉛めっき鋼板)
Z…亜鉛めっき層
Claims (7)
- 亜鉛めっき鋼板を含む少なくとも二枚の板材にスポット溶接を施すにあたり、
前処理として、亜鉛めっき鋼板の溶接部位の亜鉛めっき層を予め除去するとともに、同部位に相手側となる板材側に向けて凸形状となるエンボス部を予め膨出成形しておき、
その後にエンボス部を溶接部位としてスポット溶接を施すことを特徴とする亜鉛めっき鋼板のスポット溶接方法。 - 前処理により亜鉛めっき層を除去する部分およびエンボス部の大きさは、後工程でのスポット溶接を司る電極の直径よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛めっき鋼板のスポット溶接方法。
- 前処理は、スポット溶接用電極とは別の前処理用電極を用いて溶接部位を加圧挟持しつつ通電することにより、亜鉛めっき層の除去とエンボス部の成形を同時に行うことを特徴とする請求項1または2に記載の亜鉛めっき鋼板のスポット溶接方法。
- 二枚の亜鉛めっき鋼板にスポット溶接を施すにあたり、前処理としていずれか一方の亜鉛めっき鋼板について溶接部位の表裏両面の亜鉛めっき層の除去とともにエンボス部を膨出成形することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の亜鉛めっき鋼板のスポット溶接方法。
- 二枚の亜鉛めっき鋼板にスポット溶接を施すにあたり、前処理として双方の亜鉛めっき鋼板について溶接部位の表裏両面の亜鉛めっき層の除去とともにエンボス部を膨出成形することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の亜鉛めっき鋼板のスポット溶接方法。
- 請求項3に記載の亜鉛めっき鋼板のスポット溶接方法に用いる装置であって、
溶接母機として機能する溶接ロボットと、
その溶接ロボットのアーム先端に着脱可能に装着されるスポット溶接用ガンおよび前処理用ガンと、
それらのスポット溶接用ガンおよび前処理用ガンを保管可能なガンホルダーと、
を備えていて、
溶接ロボットは、その自律動作によりアーム先端とガンホルダーとの間でスポット溶接用ガンおよび前処理用ガンのうちのいずれかを選択的に持ち替えながら、前処理とそれに続くスポット溶接を施すようになっていることを特徴とするスポット溶接装置。 - 請求項3に記載の亜鉛めっき鋼板のスポット溶接方法に用いる装置であって、
溶接母機として機能する溶接ロボットと、
その溶接ロボットのアーム先端に装着されたスポット溶接用ガンおよび前処理用ガンと、
を備えていて、
溶接ロボットは、その自律動作によりアーム先端のスポット溶接用ガンと前処理用ガンを選択的に切り替えながら、前処理とそれに続くスポット溶接を施すようになっていることを特徴とするスポット溶接装置。
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