以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
投影スクリーン
まず、図1により、本発明の一実施の形態に係る投影スクリーンについて説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る投影スクリーン10は、観察者側(図面の上方側)から投射された映像光を反射して映像を表示するものであり、特定の偏光成分の光(例えば右円偏光)を選択的に反射するコレステリック液晶構造(繰り返し構造)を有する偏光選択反射層11と、偏光選択反射層11を支持する支持基材12とを備えている。
このうち、偏光選択反射層11は、コレステリック規則性を示す液晶性組成物からなり、液晶分子の物理的な分子配列として、液晶分子のダイレクターが層の厚さ方向に連続的に回転してなる螺旋構造をとっている。
そして、偏光選択反射層11は、このような液晶分子の物理的な分子配列に基づいて、一方向の円偏光成分と、これと逆回りの円偏光成分とを分離する偏光分離特性を有している。すなわち、偏光選択反射層11において、螺旋軸に沿って入射した無偏光状態の光は、2つの偏光状態の光(右円偏光及び左円偏光)に分離され、一方は透過され、残りは反射される。この現象は、円偏光二色性として知られ、液晶分子の螺旋構造における螺旋巻き方向を適宜選択すると、この螺旋巻き方向と同一の旋光方向を有する円偏光成分が選択的に反射される。
この場合の最大旋光光散乱は、次式(1)の波長λ0で生じる。
λ0=nav・p … (1)
ここで、pは液晶分子の螺旋構造における螺旋ピッチ長(液晶分子の分子螺旋の1ピッチ当たりの長さ)、navは螺旋軸に直交する平面内での平均屈折率である。
また、このときの反射光の波長バンド幅△λは次式(2)で表される。ここで、△nは複屈折値である。
△λ=△n・p … (2)
すなわち、図1において、投影スクリーン10の観察者側から入射する無偏光状態の光(選択反射波長域内の右円偏光31R及び左円偏光31L、選択反射波長域外の右円偏光32R及び左円偏光32L)は、偏光選択反射層11において、上述したような偏光分離特性に従って、選択反射中心波長λ0を中心とした波長バンド幅△λの範囲(選択反射波長域)に属する一方の円偏光成分(例えば選択反射波長域内の右円偏光31R)が反射光33として反射され、その他の光(例えば選択反射波長域内の左円偏光31L、選択反射波長域外の右円偏光32R及び左円偏光32L)が透過される。
なお、このような偏光選択反射層11のコレステリック液晶構造は、図2(a)に示すように、螺旋軸Lの方向が異なる複数の螺旋構造領域30を含んでいる。そして、このようなコレステリック液晶構造の構造的な不均一性により、選択的に反射される光(反射光33)を拡散させるようになっている。ここで、コレステリック液晶構造が構造的な不均一性を有する状態とは、コレステリック液晶構造に含まれる螺旋構造領域30の螺旋軸Lの方向がばらついた状態の他、ネマチックレイヤー面(液晶分子のダイレクターがXY方向で同一である面)の少なくとも一部が偏光選択反射層11の面に対して平行でないような状態(染色処理したコレステリック液晶構造膜の断面TEM写真を撮ったときに濃淡パターンで現われる層の1つながりの曲線が基板面と平行でない状態)や、コレステリック液晶からなる微粒子を顔料として分散させた状態などをいう。また、このようなコレステリック液晶構造の構造的な不均一性に起因して生じる「拡散」とは、投影スクリーン10で反射された反射光(映像光)を観察者が映像として認識することができる程度に拡げたり散乱させたりすることをいう。
これに対し、一般的なコレステリック液晶構造は、プラーナー配向状態となっており、図2(b)に示すように、偏光選択反射層11′において、コレステリック液晶構造に含まれる各螺旋構造領域30の螺旋軸Lの方向は全て層の厚さ方向に一様に平行に延びており、選択的に反射される光(反射光36)は鏡面反射される。
なお、本実施の形態において、偏光選択反射層11のコレステリック液晶構造に含まれる螺旋構造領域30は、広範囲の波長域をカバーするように、連続的に変化した螺旋ピッチ長又は不連続的に異なる少なくとも2種類以上の螺旋ピッチ長を有しており、その螺旋ピッチ長は、コレステリック液晶構造を有する偏光選択反射層11に光が斜めに入射した場合に生じる位相差の影響を最小限に抑えるため、偏光選択反射層11のうち映像光が投射される側に比べてそれから遠い方の側で長くなっている。
ここで、偏光選択反射層11のコレステリック液晶構造に含まれる螺旋構造領域は、可視光域(例えば400〜700nmの波長域)の一部のみをカバーする特定の波長域の光を選択的に反射するように、特定の螺旋ピッチ長を有していることが好ましい。より具体的には、偏光選択反射層11のコレステリック液晶構造は、液晶プロジェクターなどの投影機により投射される映像光の波長域に対応する波長域の光のみを選択的に反射するように、不連続的に異なる少なくとも2種類以上の螺旋ピッチ長を有していることが好ましい。なお、投影機は一般に、光の三原色である赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)の波長域の光によりカラー表示を実現しているので、例えば、偏光選択反射層11に対して光が垂直に入射する場合を基準にして、選択反射中心波長が430〜460nm、540〜570nm及び580〜620nmの範囲に存在する光を選択的に反射するように、コレステリック液晶構造の螺旋ピッチ長を決定するようにするとよい。
なお、赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)の波長域として用いられる、430〜460nm、540〜570nm及び580〜620nmは、光の三原色によって白色を表現するディスプレイに用いられるカラーフィルターや光源などの波長域として一般的なものである。ここで、赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)の各色は特定の波長(例えば緑色(G)は代表的なものでは550nm)にピークを持つ輝線として表される。しかしながら、このような輝線にはある程度の幅があり、また、装置の設計や光源の種類などによって波長に差があることから、各色について、30〜40nmの波長バンド幅を持つことが好ましい。なお、赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)の各色の波長域を上述した範囲以外に設定した場合には、白色を表現することができず、白色が、黄味がかった白色や赤味がかった白色などになってしまう。
ここで、赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)の波長域が互いに独立した選択反射波長域として表される場合には、偏光選択反射層11のコレステリック液晶構造は、不連続的に異なる3種類の螺旋ピッチ長を有することが好ましい。なお、赤色(R)及び緑色(G)の波長域は一つの螺旋ピッチ長での選択反射波長域の波長バンド幅に含まれる場合があるが、この場合には、コレステリック液晶構造は、不連続的に異なる2種類の螺旋ピッチ長を有することが好ましい。
なお、上述したようなコレステリック液晶構造を有する偏光選択反射層11の厚さは、選択的に反射される特定の偏光状態の光を略100%反射する程度の大きさ(反射率が飽和する程度の大きさ)とすることが好ましい。これは、選択的に反射される特定の偏光成分の光(例えば右円偏光)に対して100%未満の反射率であれば、映像光を効率的に反射することができないからである。なお、偏光選択反射層11の反射率は直接的には螺旋ピッチ数に依存しているが、螺旋ピッチ長が固定であるとすれば間接的には偏光選択反射層11の厚さに依存している。
ところで、上述したような偏光選択反射層11は、そのコレステリック液晶構造が不連続的に異なる2種類以上の螺旋ピッチ長を有する場合には、螺旋ピッチ長が互いに異なる少なくとも2層以上の部分選択反射層を互いに積層することによっても構成することができる。具体的には、図3に示すように、赤色(R)の波長域の光を選択的に反射する部分選択反射層11aと、緑色(G)の波長域の光を選択的に反射する部分選択反射層11bと、青色(B)の波長域の光を選択的に反射する部分選択反射層11cとを、この順番で支持基材12側から順に積層するようにするとよい。ここで、各部分選択反射層11a,11b,11cの螺旋ピッチ長は、偏光選択反射層11のうち映像光が投射される側から順に長くなっている。またこの場合、各部分選択反射層11a,11b,11cの厚さは、偏光選択反射層11のうち映像光が投射される側から順に大きくなっている。これは、選択的に反射される特定の偏光状態の光を略100%反射する場合、各部分選択反射層11a,11b,11cの必要最小限の厚さは、螺旋ピッチ長が長くなる程大きくなるからである。
なお、図3において、各部分選択反射層11a,11b,11cは、図1及び図2(a)に示す偏光選択反射層11と同様に、特定の偏光成分の光(例えば右円偏光)を選択的に反射するコレステリック液晶構造であって、その構造的な不均一性により、選択的に反射される光を拡散させるコレステリック液晶構造を有している。
次に、支持基材12について説明する。
支持基材12は、偏光選択反射層11を支持するためのものであり、プラスチックフィルムや金属、紙材、布材、ガラスなどの材料を用いて形成することができる。
ここで、支持基材12は、可視光域の光を吸収する光吸収層を含むことが好ましい。具体的には例えば、黒い顔料を練りこんだアクリル板やプラスチックフィルム(例えばカーボンを練りこんだ黒色PETフィルム)などを用いて支持基材12を形成したり(この場合には、支持基材12の全体が光吸収層(光吸収基材)となる)、プラスチックフィルムなどの透明な支持フィルムのいずれかの側の表面上に、黒い顔料などからなる光吸収層を形成したりするとよい。これにより、投影スクリーン10の観察者側から入射する無偏光状態の光のうち反射光として本来反射されるべきでない光(選択反射波長域内の左円偏光、選択反射波長域外の右円偏光及び左円偏光)や、投影スクリーン10の背面側から入射する光を吸収して、外光や照明光などの環境光に起因した反射光や、映像光に起因した迷光などの発生を効果的に防止することができる。
また、支持基材12の材料として用いられるプラスチックフィルムとしては、ポリカーボネート系高分子、ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル系高分子、ポリイミド系高分子、ポリスルホン系高分子、ポリエーテルスルホン系高分子、ポリスチレン系高分子、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、酢酸セルロース系高分子、ポリ塩化ビニル系高分子、ポリアクリレート系高分子、ポリメチルメタクリレート系高分子などの熱可塑性ポリマーなどからなるフィルムを用いることができる。なお、支持基材12の材料はこれに限定されるものではなく、金属や紙材、布材、ガラスなどの材料を用いることもできる。
なお、支持基材12上に偏光選択反射層11(又は偏光選択反射層11を構成する各部分選択反射層11a,11b,11c)を積層する場合には、後述するように、コレステリック規則性を示す液晶性組成物を塗布した後、配向処理及び硬化処理を行うのが一般的である。
この場合、支持基材12上に偏光選択反射層11(又は偏光選択反射層11を構成する各部分選択反射層11a,11b,11c)のコレステリック液晶構造がプラーナー配向状態とならないように制御する必要があるので、支持基材12としては、液晶性組成物が塗布される側の表面に配向能を有していないものを用いることが好ましい。ただし、支持基材12のうち液晶性組成物が塗布される側の表面の材料が、延伸フィルムなどのように表面に配向能を有しているものであっても、支持基材12としての延伸フィルムの表面に表面処理を施したり、液晶性組成物の材料や、液晶性組成物を配向処理する際のプロセス条件などを制御することにより、偏光選択反射層11(又は偏光選択反射層11を構成する各部分選択反射層11a,11b,11c)のコレステリック液晶構造がプラーナー配向状態とならないように制御することが可能である。
次に、上述したような投影スクリーン10の製造方法について説明する。
まず、偏光選択反射層11が積層される支持基材12を準備する。なおこのとき、支持基材12のうち液晶性組成物が塗布される側の表面は配向能を有していないようにする。
次に、このようにして準備された支持基材12上に、コレステリック規則性を示す液晶性組成物を塗布した後、配向処理及び硬化処理を行うことにより、偏光選択反射層11を積層(固着)させる。
以下、偏光選択反射層11を積層(固着)させるための各工程(塗布工程、配向処理工程及び硬化処理工程)の詳細について説明する。
(塗布工程)
塗布工程においては、支持基材12上に、コレステリック規則性を示す液晶性組成物を塗布することにより、コレステリック液晶層を形成する。このとき、液晶性組成物を塗布する方法としては、既存の任意の方法を用いることができる。具体的には、ロールコート法やグラビアコート法、バーコート法、スライドコート法、ダイコート法、スリットコート法、浸漬法などを用いることができる。また、支持基材12としてプラスチックフィルムを用いる場合には、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll to Roll)システムによるフィルムコーティングなどを用いることができる。
なお、支持基材12上に塗布される液晶性組成物としては、コレステリック規則性を示すカイラルネマチック液晶やコレステリック液晶を用いることができる。このような材料としては、コレステリック液晶構造を形成し得る液晶材料であれば特に限定されるものではないが、特に、分子の両末端に重合性の官能基があるような重合性の液晶材料が、硬化後に光学的に安定した偏光選択反射層11を得る上で好ましい。
以下、液晶性組成物としてカイラルネマチック液晶を用いる場合を例に挙げて説明する。なお、カイラルネマチック液晶は、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料とカイラル剤とを混合したものである。ここで、カイラル剤は、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料の螺旋ピッチ長を制御し、液晶性組成物が全体としてコレステリック規則性を呈するようにするためのものである。なお、カイラル剤の種類を変えてカイラルパワーを変えるか、あるいは、カイラル剤の濃度を変化させることにより、重合性の液晶材料の分子構造に起因する選択反射中心波長を制御することができる。また、このような液晶性組成物には、重合開始剤や適当な添加剤が添加される。
ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料の一例としては、例えば、下記の一般式(1)で表わされる化合物や、下記の式(2−i)〜(2−xi)で表される化合物を挙げることができる。また、これらの化合物を単独で、もしくは混合して用いることができる。
上記一般式(1)において、R
1及びR
2はそれぞれ水素又はメチル基を示すが、液晶相を示す温度範囲の広さからR
1及びR
2はともに水素であることが好ましい。Xは水素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜4のアルキル基、メトキシ基、シアノ基、ニトロ基のいずれであっても差し支えないが、塩素又はメチル基であることが好ましい。また、上記一般式(1)において、分子鎖両端の(メタ)アクリロイロキシ基と芳香環とのスペーサーであるアルキレン基の鎖長を示すa及びbは、それぞれ個別に2〜12の範囲で任意の整数をとり得るが、4〜10の範囲であることが好ましく、6〜9の範囲であることがさらに好ましい。a=b=0である一般式(1)の化合物は、安定性に乏しく、加水分解を受けやすい上に、化合物自体の結晶性が高い。また、a及びbがそれぞれ13以上である一般式(1)の化合物は、アイソトロピック転移温度(TI)が低い。この理由から、これらの化合物はどちらも液晶相を示す温度範囲が狭く好ましくない。
なお、以上においては、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料として重合性液晶モノマーの例を挙げて説明したが、これに限らず、重合性液晶オリゴマーや重合性液晶高分子、液晶ポリマーなどを用いることも可能である。このような重合性液晶オリゴマーや重合性液晶高分子、液晶ポリマーとしては、従来から提案されているものの中から適宜選択して用いることができる。
一方、カイラル剤は、光学活性な部位を有する低分子化合物であり、主として分子量1500以下の化合物である。カイラル剤は主として、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料が発現する正の一軸ネマチック規則性に螺旋構造を誘起させる目的で用いられる。この目的が達成される限り、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料との間で溶液状態あるいは溶融状態において相溶し、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料の液晶性を損なうことなく、これに所望の螺旋構造を誘起できるものであれば、カイラル剤としての低分子化合物の種類は特に限定されない。
なお、このようにして液晶に螺旋構造を誘起させるために用いられるカイラル剤は、少なくとも分子中に何らかのキラリティーを有していることが必要である。従って、ここで用いられるカイラル剤としては、例えば1つあるいは2つ以上の不斉炭素を有する化合物、キラルなアミンやキラルなスルフォキシドなどのようにヘテロ原子上に不斉点がある化合物、あるいはクムレンやビナフトールなどの軸不斉を持つ光学活性な部位を有する化合物が挙げられる。さらに具体的には、市販のカイラルネマチック液晶(例えばキラルドーパント液晶S−811(Merck社製))が挙げられる。
しかしながら、選択されたカイラル剤の性質によっては、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料が形成するネマチック規則性の破壊、配向性の低下、あるいはカイラル剤が非重合性の場合には、液晶性組成物の硬化性の低下や、硬化後のフィルムの信頼性の低下を招くおそれがある。さらに、光学活性な部位を有するカイラル剤の多量な使用は、液晶性組成物のコストアップを招く。従って、短い螺旋ピッチ長のコレステリック規則性を有する偏光選択反射層を形成する場合には、液晶性組成物に含有させる光学活性な部位を有するカイラル剤としては、螺旋構造を誘起させる効果の大きなカイラル剤を選択することが好ましく、具体的には下記の一般式(3)、(4)又は(5)で表されるような、分子内に軸不斉を有する低分子化合物を用いることが好ましい。
上記一般式(3)又は(4)において、R
4は水素又はメチル基を示す。Yは上記に示す式(i)〜(xxiv)の任意の一つであるが、中でも、式(i)、(ii)、(iii)、(v)及び(vii)のいずれか一つであることが好ましい。また、アルキレン基の鎖長を示すc及びdは、それぞれ個別に2〜12の範囲で任意の整数をとり得るが、4〜10の範囲であることが好ましく、6〜9の範囲であることがさらに好ましい。c又はdの値が0又は1である上記一般式(3)又は(4)の化合物は、安定性に欠け、加水分解を受けやすく、結晶性も高い。一方、c又はdの値が13以上である化合物は融点(Tm)が低い。これらの化合物では、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料との間の相溶性が低下し、濃度によっては相分離などが起きるおそれがある。
なお、このようなカイラル剤は、特に重合性を有する必要はない。しかしながら、カイラル剤が重合性を有している場合には、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料と重合され、コレステリック規則性が安定的に固定化されるので、熱安定性などの面では非常に好ましい。特に、分子の両末端に重合性の官能基があることが、耐熱性の良好な偏光選択反射層11を得る上で好ましい。
なお、液晶性組成物に含有されるカイラル剤の量は、螺旋構造の誘起能力や最終的に得られる偏光選択反射層11のコレステリック液晶構造などを考慮して最適値が決められる。具体的には、用いられる液晶性組成物の材料により大きく異なるものではあるが、液晶性組成物の合計量100重量部当り、0.01〜60重量部、好ましくは0.1〜40重量部、さらに好ましくは0.5〜30重量部、最も好ましくは1〜20重量部の範囲で選ばれる。カイラル剤の含有量が上述した範囲よりも少ない場合は、液晶性組成物に充分なコレステリック規則性を付与することができない場合があり、上述した範囲を越える場合は、液晶分子の配向が阻害され、活性放射線などによって硬化させる際に悪影響を及ぼす危惧がある。
なお、液晶性組成物は支持基材12上にそのまま塗布することも可能であるが、粘性を塗布装置に合わせたり、良好な配向状態を得る目的で、有機溶媒などの適当な溶媒に溶解させてインキ化するようにしてもよい。
このような溶媒としては、上述したような重合性の液晶材料を溶解することが可能なものであれば特に限定されるものではないが、支持基材12を浸食しないものであることが好ましい。具体的には、アセトンや、酢酸−3−メトキシブチル、ジグライム、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、塩化メチレン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。重合性の液晶材料の希釈の程度は特に限定されるものではないが、液晶自体が溶解性の低い材料であり、また粘性が高いことなどを考慮して、5〜50%、さらに好ましくは10〜30%程度に希釈することが好ましい。
(配向処理工程)
上述した塗布工程において、支持基材12上に液晶性組成物を塗布し、コレステリック液晶層を形成した後、配向処理工程において、コレステリック液晶層をコレステリック液晶構造が発現する所定の温度に保持し、コレステリック液晶層中の液晶分子を配向させる。
なお、最終的に得られるべき偏光選択反射層11のコレステリック液晶構造は、プラーナー配向状態ではなく、図2(a)に示すように、複数の螺旋構造領域30の螺旋軸Lの方向が層内でばらついた配向状態となっているが、この場合でも、配向処理は必要となる。すなわち、コレステリック液晶構造の液晶分子のダイレクターを支持基材12上で一定方向に揃えるような配向処理は必要とされないが、コレステリック液晶構造中に複数の螺旋構造領域30を形成させるような配向処理は必要となるからである。
ここで、支持基材12上に形成されたコレステリック液晶層を、コレステリック液晶構造が発現する所定の温度に保持すると、コレステリック液晶層は液晶相を呈し、液晶分子自体の自己集積作用により、液晶分子のダイレクターが層の厚さ方向に連続的に回転してなる螺旋構造が形成される。そして、このような液晶相の状態で発現したコレステリック液晶構造は、後述するような手法でコレステリック液晶層を硬化させることにより、固定化することができる。
なお、このような配向処理工程は、支持基材12上に塗布された液晶性組成物に溶媒が含有されている場合には、通常、溶媒を除去するための乾燥処理とともに行われる。なお、溶媒を除去するためには、40〜120℃、好ましくは60〜100℃の乾燥温度が適しており、乾燥時間(加熱時間)はコレステリック液晶構造が発現し、実質上溶媒が除去されればよく、例えば、15〜600秒が好ましく、さらに好ましくは30〜180秒である。なお、乾燥後に配向状態が不十分であることが分かった場合には、適宜加熱時間を延長するようにするとよい。なお、このような乾燥処理において減圧乾燥の手法を用いる場合には、配向処理のために別途加熱処理を行うことが好ましい。
(硬化処理工程)
上述した配向処理工程において、コレステリック液晶層中の液晶分子を配向させた後、硬化処理工程において、コレステリック液晶層を硬化させ、液晶相の状態で発現したコレステリック液晶構造を固定化する。
ここで、この硬化処理工程においては、放射線の照射により液晶性組成物中の液晶分子を光重合させてコレステリック液晶層を硬化させる方法を用いることが好ましい。特に、本実施の形態においては、コレステリック液晶層内における螺旋ピッチ長を層の厚さ方向に関して変化させる必要があるので、コレステリック液晶層内における螺旋ピッチ長を適宜制御しながらコレステリック液晶層を硬化させることが好ましい。具体的には例えば、特開平14−286935号公報に記載されているような方法を用い、支持基材12に塗布された液晶性組成物中の溶媒を蒸発させて半硬化状態のコレステリック液晶層を形成した後、空気雰囲気中で当該コレステリック液晶層に放射線を照射して、コレステリック液晶層を時間をかけて硬化させることが好ましい。なお、液晶性組成物として、重合性の液晶材料中に非架橋性の液晶分子を混合したものを用いる場合には、米国特許第5691789号明細書に記載されている方法を用いることにより、コレステリック液晶層内における螺旋ピッチ長を層の厚さ方向に関して変化させることも可能である。
以上のような一連の工程(塗布工程、配向処理工程及び硬化処理工程)を行うことにより、映像光が投射される側に比べてそれから遠い方の側で螺旋ピッチが長い偏光選択反射層11を備えた投影スクリーン10を製造することができる。
なお、上述した製造方法に限らず、上述した一連の工程を複数のコレステリック液晶層について繰り返すことにより、すなわち、塗布されるコレステリック規則性を示す液晶性組成物の選択反射中心波長を制御しながら、支持基材12上に螺旋ピッチ長が互いに異なる複数のコレステリック液晶層を順次積層することにより、映像光が投射される側の部分選択反射層に比べてそれから遠い方の側の部分選択反射でその螺旋ピッチ長が長くなるように各部分選択反射層11a,11b,11cが順に積層された偏光選択反射層11を備えた投影スクリーン10を製造するようにしてもよい。具体的には例えば、図3に示すように、偏光選択反射層11として、赤色(R)の波長域の光を選択的に反射する部分選択反射層11aと、緑色(B)の波長域の光を選択的に反射する部分選択反射層11bと、青色(B)の波長域の光を選択的に反射する部分選択反射層11cとが、この順番で支持基材12側から順に積層された投影スクリーン10を製造するようにするとよい。
このとき、下層のコレステリック液晶層が形成されてそれが固定化されていれば、2層目以降のコレステリック液晶層の液晶性組成物を塗布するときも同様の手法により行うことができる。この場合、上層のコレステリック液晶層のコレステリック液晶構造(配向状態)は下層のコレステリック液晶層のコレステリック液晶構造(配向状態)を継続したものとなり、積層されるコレステリック液晶層の間に配向制御などのための層を設ける必要はない。ただし、必要に応じて、積層されるコレステリック液晶層の間に易接着層などの中間層を設けるようにしてもよい。
また、各層のコレステリック液晶層を硬化させる硬化処理工程においては、コレステリック液晶層内における螺旋ピッチ長を層の厚さ方向に関して変化させることなく、通常の方法で、コレステリック液晶層を硬化させ、液晶相の状態で発現したコレステリック液晶構造を固定化すればよい。なお、このような硬化処理工程で用いられる方法としては、(1)液晶性組成物中の溶媒を乾燥させる方法、(2)加熱により液晶性組成物中の液晶分子を重合させる方法、(3)放射線の照射により液晶性組成物中の液晶分子を重合させる方法、及び(4)それらの方法を組み合わせた方法を用いることができる。
このように本実施の形態によれば、図1に示すような偏光選択反射層11のコレステリック液晶構造において、その螺旋ピッチ長が、偏光選択反射層11のうち映像光が投射される側に比べてそれから遠い方の側で長くなるようにしており、また、図3に示すように偏光選択反射層11が複数の部分選択反射層11a,11b,11cから構成される場合には、偏光選択反射層11のうち映像光が投射される側から螺旋ピッチ長が順に長くなるように各部分選択反射層11a,11b,11cを積層している。すなわち、薄膜でもほぼ100%の反射率が得られる螺旋ピッチ長の短いコレステリック液晶構造の部分(層状部分)(緑色(G)又は青色(B)の波長域の光を選択的に反射する部分選択反射層11b,11c)を、螺旋ピッチ長の長いコレステリック液晶構造の部分(層状部分)(赤色(R)の波長域の光を選択的に反射する部分選択反射層11a)に比べて観察側に配置している。このため、コレステリック液晶構造の厚さに比例して生じる位相差の影響(観察側に近い方の部分が観察側から遠い方の部分に与える影響)を最小限に抑えて、全体として光の反射効率を向上させることができ、その結果、映像を鮮明に表示することができる。
また、本実施の形態によれば、偏光選択反射層11(又は偏光選択反射層11を構成する各部分選択反射層11a,11b,11c)が、コレステリック液晶構造の有する偏光分離特性により特定の偏光成分の光(例えば右円偏光)のみを選択的に反射するので、偏光特性のない外光や照明光などの環境光を偏光選択反射層11(又は偏光選択反射層11を構成する各部分選択反射層11a,11b,11c)で約50%しか反射しないようにすることができる。このため、白表示などの明表示の部分の明るさが同じ場合でも、黒表示などの暗表示の部分の明るさを略半分にして、映像のコントラストを略2倍にすることができる。なおこのとき、投射された映像光が、偏光選択反射層11(又は偏光選択反射層11を構成する各部分選択反射層11a,11b,11c)で選択的に反射される光の偏光成分と同一の偏光成分の光(例えば右円偏光)を主として含むようにすれば、投射された映像光を偏光選択反射層11(又は偏光選択反射層11を構成する各部分選択反射層11a,11b,11c)で略100%反射することができ、映像光を効率的に反射することができる。
さらに、本実施の形態によれば、偏光選択反射層11(又は偏光選択反射層11を構成する各部分選択反射層11a,11b,11c)のコレステリック液晶構造が構造的な不均一性を有し、コレステリック液晶構造に含まれる螺旋構造領域30の螺旋軸Lの方向がばらついたりしているので、映像光が鏡面反射でなく拡散反射され、映像が視認しやすくなる。なおこのとき、偏光選択反射層11(又は偏光選択反射層11を構成する各部分選択反射層11a,11b,11c)は、コレステリック液晶構造の構造的な不均一性により、選択的に反射される光を拡散させるので、特定の偏光成分の光(例えば選択反射波長域内の右円偏光31R)を拡散させながら反射する一方で、その他の光(例えば選択反射波長域内の左円偏光31L、選択反射波長域外の右円偏光32R及び左円偏光32L)については拡散させずに透過させることができる。このため、偏光選択反射層11(又は偏光選択反射層11を構成する各部分選択反射層11a,11b,11c)を透過する環境光や映像光について、その偏光状態が乱される、いわゆる消偏の問題は起こらず、偏光選択反射層11の本来の偏光分離機能を維持しつつ、映像の視認性を向上させることができる。
なお、上述した実施の形態のうち、図3に示す偏光選択反射層11においては、赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)の波長域が互いに独立した3つの選択反射波長域として表され、これらの3つの選択反射波長域のそれぞれが3層の部分選択反射層11a,11b,11cのうちの対応する部分選択反射層のそれぞれにより実現される場合を例に挙げて説明したが、赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)の波長域のうちの少なくとも2つの波長域が連続的につながっている場合には、偏光選択反射層11を2層の部分選択反射層により構成することも可能である。ここで、赤色(R)及び緑色(G)の波長域が一つの選択反射波長域に含まれる場合を例に挙げると、偏光選択反射層11は図4に示すような構成となり、赤色(R)及び緑色(G)の波長域の光を選択的に反射する部分選択反射層11dと、青色(B)の波長域の光を選択的に反射する部分選択反射層11cとが、この順番で支持基材12側から順に積層される。この場合でも、螺旋ピッチ長の短い部分選択反射層11cが、螺旋ピッチ長の長い部分選択反射層11dに比べて観察側に配置されているので、コレステリック液晶構造の厚さに比例して生じる位相差の影響(観察側に近い方の部分が観察側から遠い方の部分に与える影響)を最小限に抑えることができる。
なお、上述した実施の形態で述べたように、偏光選択反射層11(又は偏光選択反射層11を構成する各部分選択反射層11a,11b,11c)としては、構造的な不均一性を有するコレステリック液晶構造を有するものが最も好ましく用いられるが、これに限らず、次のような偏光選択反射層を用いることも可能である。
すなわち、上述した実施の形態においては、偏光選択反射層11(又は偏光選択反射層11を構成する各部分選択反射層11a,11b,11c)として、右円偏光又は左円偏光を選択的に反射するコレステリック液晶構造を有するものを用いているが、特定の偏光成分の光を選択的に反射する屈折率異方性を持つ層状部分が厚さ方向に所定の繰り返し光学ピッチ長で積み重ねられた繰り返し構造を有するものであれば、多層反射性偏光材などの直線偏光要素のように片方の直線偏光を選択的に反射する構造を有するものを用いてもよい。なお、繰り返し構造は、屈折率異方性を持つ層状部分とそれとは異なる屈折率異方性(例えば等方性)を持つ層状部分との積層体であってもよい。ここで、屈折率異方性を持つ層状部分とは、コレステリック液晶構造の場合のネマチック層部分に対応するものである。また、繰り返し光学ピッチ長とは、干渉及び波長に関して光学的な意味を持つ物理量であり、コレステリック液晶構造の場合の螺旋ピッチ長に対応するものである。具体的には、(繰り返し光学ピッチ長)=(螺旋ピッチ長)×(屈折率)と表すことができる。
さらに、上述した実施の形態においては、偏光選択反射層11(又は偏光選択反射層11を構成する各部分選択反射層11a,11b,11c)として、コレステリック液晶構造の有する構造的な不均一性により、選択的に反射される光を拡散させるものを用いているが、映像の視認性が確保される限り、コレステリック液晶構造がプラーナー配向状態をとり、選択的に反射される光を鏡面反射させるようなものを用いてもよい。
さらに、上述した実施の形態においては、偏光選択反射層11(又は偏光選択反射層11を構成する各部分選択反射層11a,11b,11c)自体が拡散性を有しているが、これに限らず、偏光選択反射層11により反射された光を拡散する拡散要素を偏光選択反射層11とは別体で設けるようにしてもよい。
さらに、上述した実施の形態において、支持基材12としては、液晶性組成物が塗布される側の表面に配向能を有していないものを用いることが好ましいが、支持基材12のうち液晶性組成物が塗布される側の表面が配向能を有している場合には、図5に示すように、偏光選択反射層11のうち支持基材12側の部分選択反射層11aと支持基材12との間に易接着層などの中間層13を設けることにより、偏光選択反射層11(又はそれを構成する各部分選択反射層11a,11b,11c)のコレステリック液晶構造の配向状態を制御し、偏光選択反射層11のコレステリック液晶構造のうち中間層13との界面近傍の液晶分子のダイレクターが複数の方向に向くようにすることも可能である。なお、易接着層などの中間層13を設ける場合には、偏光選択反射層11と支持基材12との間の密着性を高めることもできる。なお、このような中間層13としては、偏光選択反射層11の材質及び支持基材12の材質の両方に対して高い密着性が得られるものであればよく、一般に市販されているものを用いることができる。具体的には例えば、東洋紡社製の易接着層付PETフィルムA4100や、パナック社製の易接着材料AC−X、AC−L、AC−Wなどが挙げられる。なお、中間層13は、支持基材と同様に、黒い顔料などを練りこみ、可視光域の光を吸収する光吸収層として用いることもできる。また、偏光選択反射層11が互いに積層された複数の部分選択反射層11a,11b,11cを有する場合には、必要に応じて、図5に示すように、支持基材12上に積層される各部分選択反射層11a,11b,11cのうち隣接した部分選択反射層の間に易接着性などの中間層13を設けるようにしてもよい。
さらに、上述した実施の形態において、投影スクリーン10(偏光選択反射層11)の観察側の表面には、図6(a)に示すように、機能性保持層19を設けるようにしてもよい。機能性保持層19としては、各種のものを用いることができるが、例えば、ハードコート層(HC層)、防眩層(AG層)、反射防止層(AR層)、紫外線吸収層(UV吸収層)及び帯電防止層(AS層)などが挙げられる。
ここで、ハードコート層(HC層)は、投影スクリーン10の表面を保護して傷付きや汚れの付着などを防止するための層である。防眩層(AG層)は、投影スクリーン10のざらつきなどを防止するための層である。反射防止層(AR層)は、投影スクリーン10の表面での光の反射を抑えるための層である。紫外線吸収層(UV吸収層)は、投影スクリーン10に入射する光のうち液晶性組成物を黄色へ変化させる原因となる紫外線成分を吸収するための層である。帯電防止層(AS層)は、投影スクリーン10で生じる静電気を除去するための層である。なお、機能性保持層19が帯電防止層として用いられる場合には、機能性保持層19は必ずしも投影スクリーン10の観察側の表面に設けられている必要はなく、支持基材12の背面側の表面に設けてもよく、また、支持基材12に炭素粒子などを練りこむことにより、支持基材12自体に静電気を除去する機能を付与してもよい。
なお、防眩層として用いられる機能性保持層19は、観察者のいる空間が投影スクリーン10表面に映り込んでしまう現象を防止する役割を果たすものであり、映像を良好に視認する上で重要である。この場合、防眩層としては、表面に凹凸形状を有する透明層が好ましく用いられ、これによって、投影スクリーン10表面での界面反射によって鏡のように像が形成されてしまうことを効果的に防止することができる。なお、このような透明層を形成する方法としては、例えば、サンドブラスト法や、金型形成時の表面形状の転写、化学的な処理などの各種の方法により、透明な樹脂やガラスなどの表面に凹凸形状を賦型する方法を用いることができる。ここで、透明層の表面に形成される凹凸形状は不規則であっても規則性を持っていてもよい。この場合、偏光選択反射層11の偏光分離機能を損なわないようにするため、防眩層は屈折率が等方な層であることが好ましい。防眩層の材料としては、例えば、ガラスやアクリル系、ポリエステル系などの樹脂を用いることができる他、マット表面を有するTAC(トリアセチルセルロース)フィルムなどを用いることもできる。
なお、投影スクリーン10に防眩機能を付与する場合には、図6(a)に示すように、偏光選択反射層11とは別体の機能性保持層19により防眩層を実現する他、図6(b)に示すように、偏光選択反射層11の観察側の表面(最も観察側に位置する部分選択反射層11cの表面)に凹凸形状(符号11e参照)を形成し、この凹凸形状により偏光選択反射層11自体に防眩機能を付与するようにしてもよい。
さらに、上述した実施の形態においては、投影スクリーン10の支持基材12が、可視光域の光を吸収する光吸収層を含む吸収基材である場合を例に挙げて説明したが、これに限らず、支持基材12が、可視光域の少なくとも一部の光を透過する透明基材であってもよい。この場合には、映像のコントラストを高めるという利点は失われるものの、映像が表示されていないときの投影スクリーン10の透明度が高いので、背景がクリアに透けて見えることとなり、ショーウィンドウに設置したりといったデザイン性の高い利用が可能である。また、シチュエーションに応じて視野角を切り替えることにより効果的なアイキャッチ効果を生み出すこともできる。このため、明るい環境下では映えなかった、プロジェクターを用いた従来の情報ツールの欠点を解消して、広告板や情報掲示板、案内板等の用途で効果的に用いることができる。なお、上述した透明基材としては、ヘイズが少ないものが好ましいが、光を透過する材料であれば、アクリルやガラス、塩化ビニル等の任意の材料を用いることができる。また、上述した透明基材は、必ずしも無色である必要はなく、色のついたものでもよい。具体的には例えば、間仕切りや窓などに用いられる、茶や青、橙などの有色でかつ透明なプラスチック板やガラス板などを用いることができる。
さらに、上述した実施の形態においては、投影スクリーン10において、偏光選択反射層11と支持基材12との間、又は、偏光選択反射層11を構成する部分選択反射層11a,11b,11cのうち隣接した部分選択反射層の間に、上述したようにして易接着性を有する中間層(易接着層)13を設けることができるが、中間層13には、その機能として、易接着性に加えて(又は易接着性に代えて)バリア性を与えるようにしてもよい。なお、ここでいうバリア性とは、支持基材上に偏光選択反射層を直接積層する場合、又は、一つの部分選択反射層上に他の部分選択反射層を直接積層する場合に、下層の構成部分が上層に移動(浸透)したり、上層の構成部分が下層に移動(浸透)したりすることを防止する機能をいう。なお、上層と下層との間で物質の移動が生じると、上層又は下層を構成する偏光選択反射層(又は部分選択反射層)本来の光学的機能(波長選択性、偏光選択性及び拡散性など)が損なわれてしまうが、上述したようなバリア性を有する中間層(バリア層)を用いることにより、それを防止することができる。具体的には例えば、コレステリック規則性を有する液晶性組成物を塗布することにより一つの部分選択反射層上に他の部分選択反射層を積層する場合には、液晶性組成物の種類やプロセス条件などによっては上層の部分選択反射層を形成するための液晶性組成物に含まれるネマチック液晶成分が下層の部分選択反射層に浸透し、下層の部分選択反射層の螺旋ピッチ長を変化(増大)させてしまうことがあり得る。しかしながら、この場合でも、下層の部分選択反射層と上層の部分選択反射層との間にバリア層を設けるようにすれば、このようなネマチック液晶成分の移動(浸透)がなくなり、部分選択反射層の光学的機能(波長選択性、偏光選択性及び拡散性など)を良好に維持することができる。
なお、このようなバリア層としては、変性アクリレートや、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシ樹脂などを挙げることができる。また、これらは単官能又は多官能のものを用いることができ、モノマー、オリゴマーの種類がある。具体的には、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシ化グリセリルトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタアクリレートエステル、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート、イソシアヌール酸EO変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート、ウレタンアダクト体、脂肪族ポリアミン系エポキシ樹脂、ポリアミノアミド系エポキシ樹脂、芳香族ジアミン系エポキシ樹脂、脂環族ジアミン系エポキシ樹脂、フェノール樹脂系エポキシ樹脂、アミノ樹脂系エポキシ樹脂、メルカプタン系化合物系エポキシ樹脂、ジシアンジアミド系エポキシ樹脂、ルイス酸錯化合物系エポキシ樹脂等を挙げることができる。
投影スクリーン
なお、上述した投影スクリーン10は、図7に示すように、投影機21を備えた投影システム20に組み込んで用いることができる。
図7に示すように、投影システム20は、投影スクリーン10と、投影スクリーン10上に映像光を投射する投影機21とを備えている。
このうち、投影機21としては、CRTや液晶プロジェクター、DLP(digital light processing)プロジェクターなどを用いることができるが、特に限定はされない。ただし、投影機21により投影スクリーン10上に投射される映像光は、投影スクリーン10により選択的に反射される光の偏光成分と同一の偏光成分の光(例えば右円偏光)を主として含むことが好ましい。
ここで、投影機21として液晶プロジェクターを用いる場合には、その動作原理から、実質的に直線偏光が出射されている場合が多い。このような場合には、投影機21から出射された映像光を位相差板22などを介して出射させることにより、光量の損失なく直線偏光を円偏光へと変換することができる。
なお、位相差板22としては、1/4波長位相差を持つものが好ましく用いられ、具体的には視感度が最も高い550nmに合わせて137.5nmの位相差を持つものが理想的である。また、出射される赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)の全ての波長域の光に適用することができるという意味で、広帯域1/4波長位相差板がさらに好ましい。さらに、材料の複屈折を制御することで得られる単体の位相差板、又は、1/4波長位相差板と1/2波長位相差板とを組み合わせたものなどを用いることもできる。
このような位相差板22は、図7に示すように、外付けで投影機21の出射口に装着される他、投影機21の内部に組み込まれていてもよい。
なお、投影機21としてCRTやDLPプロジェクターが用いられる場合には、投影機21から出射される光が無偏光状態の光であるので、円偏光を出射する場合には、直線偏光板及び位相差板からなる円偏光板を配置する必要がある。この場合、投影機21自体の光量は半減するが、投影スクリーン10の偏光選択反射層11で選択的に反射される光の偏光成分と異なる偏光成分の光(例えば左円偏光)に起因した迷光などの発生を効果的に防止して映像のコントラストを高めることができる。
ここで、投影機21は一般に、光の三原色である赤色(R)、緑色(G)及び青色(B)の波長域の光によりカラー表示を実現しており、例えば、投影スクリーン10に対して光が垂直に入射する場合を基準にして、選択反射中心波長が430〜460nm、540〜570nm及び580〜620nmの範囲に存在する光を投射している。
次に、上述した実施の形態の具体的実施例について述べる。
(実施例)
紫外線硬化型のネマチック液晶からなる主剤(97重量%)にカイラル剤(3重量%)を添加したモノマー混合液晶をシクロヘキサノンに溶解し、600nmに選択反射中心波長を有する第1のコレステリック液晶溶液を調整した。
なお、ネマチック液晶としては、上記の化学式(2−xi)で表される化合物を含む液晶を用いた。
また、重合性カイラル剤としては、上記の化学式(5)で表される化合物を用いた。
さらに、第1のコレステリック液晶溶液には、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製のアセトフェノン系光重合開始剤を5重量%添加した。
そして、以上のようにして調整した第1のコレステリック液晶溶液を、200mm□の黒色アクリル板上にバーコート法により塗布した。
次に、80℃のオーブンで90秒加熱し、配向処理(乾燥処理)を行い、溶媒が除去されたコレステリック液晶層を得た。
その後、コレステリック液晶層に対して365nmの紫外線を10mW/cm2で1分間照射し、コレステリック液晶層を硬化させることにより、600nmに選択反射中心波長を有する1層目の部分選択反射層を得た。
同様にして、第2のコレステリック液晶溶液を、1層目の部分選択反射層上に直接塗布し、配向処理(乾燥処理)及び硬化処理を行った。これにより、550nmに選択反射中心波長を有する2層目の部分選択反射層を得た。なお、第2のコレステリック液晶溶液は、第1のコレステリック液晶溶液と同様の手法により調整されたものであり、ネマチック液晶とカイラル剤との混合比率を制御することにより、550nmに選択反射中心波長を有するようにした。
同様にして、第3のコレステリック液晶溶液を、2層目の部分選択反射層上に直接塗布し、配向処理(乾燥処理)及び硬化処理を行った。これにより、450nmに選択反射中心波長を有する、3層目の部分選択反射層を得た。なお、第3のコレステリック液晶溶液は、第1のコレステリック液晶溶液と同様の手法により調整されたものであり、ネマチック液晶とカイラル剤との混合比率を制御することにより、450nmに選択反射中心波長を有するようにした。
以上により、偏光選択反射層として、赤色(R)の波長域の光(600nmに選択反射中心波長を有する光)を選択的に反射する1層目の部分選択反射層と、緑色(G)の波長域の光(550nmに選択反射中心波長を有する光)を選択的に反射する2層目の部分選択反射層と、青色(B)の波長域の光(450nmに選択反射中心波長を有する光)を選択的に反射する3層目の部分選択反射層とが、この順番で支持基材側から順に積層された投影スクリーンを得た。なお、1層目の部分選択反射層の厚さは5μm、2層目の部分選択反射層の厚さは4μm、3層目の部分選択反射層の厚さは3μmとした。なお、このようにして得られた投影スクリーンの偏光選択反射層の各部分選択反射層のコレステリック液晶構造はプラーナー配向状態ではなかった。
(比較例)
第1コレステリック液晶溶液、第2コレステリック液晶溶液及び第3コレステリック液晶溶液を塗布する順番を変えた以外は、上述した実施例と同様の手法により偏光選択反射層を製造し、偏光選択反射層として、青色(B)の波長域の光(450nmに選択反射中心波長を有する光)を選択的に反射する1層目の部分選択反射層と、緑色(G)の波長域の光(550nmに選択反射中心波長を有する光)を選択的に反射する2層目の部分選択反射層と、赤色(R)の波長域の光(600nmに選択反射中心波長を有する光)を選択的に反射する3層目の部分選択反射層とが、この順番で支持基材側から順に積層された投影スクリーンを得た。
(評価結果)
実施例及び比較例に係る各投影スクリーン上に、投影機から出射された映像光を投射してコントラストを測定した。なお、投影機としては、液晶プロジェクター(ELP−52、エプソン社製)を用いた。
ここで、投影機の出射口には、出射された映像光が円偏光となるように円偏光板を配置した。また、投影機及び投影スクリーンが設置される室内の照明は、天井に設置された蛍光灯(無偏光状態の光を出射するもの)により行い、天井からおよそ50度の角度で投影スクリーン上に照明光が照射されるような関係で配置した。このとき、投影スクリーンの真下での明るさは、照度計(デジタル照度計510−02、横河M&C社製)により測定したところ、200ルクス(lx)であった。
なお、投影スクリーンは、床に対して垂直に設置した。また、投影機を投影スクリーンから垂直な方向(床に平行な方向)に約2.5m離れたところに配置した。
この状態で、投影機により投影スクリーン上に映像光(白と黒のエリアがある静止映像)を投射し、映像のコントラストを測定した。具体的には、輝度計(ルミナンスメーターBM−8、トプコン社製)により、投影スクリーンの中央部の白色及び黒色の映像のそれぞれの輝度を測定し、その比をコントラスト(コントラスト=白映像の輝度÷黒映像の輝度)として表した。
次表1に、実施例及び比較例に係る各投影スクリーンについてのコントラストを示した。次表1に示すように、実施例及び比較例に係る各投影スクリーンでは、十分なコントラストが得られた。
また、各投影スクリーンを目視により観察したが、この場合、実施例及び比較例の各投影スクリーンでは良好に映像を視認することができた。
なお、投影機により、実施例及び比較例に係る各投影スクリーン上に映像光(白と黒のチェッカー模様の映像)を投射した状態で、映像光の入射光が斜めとなる位置(スクリーン平面の法線方向を0°として15°以上の角度の位置)で映像を目視により観察したところ、実施例に係る投影スクリーンの方が、比較例に係る投影スクリーンよりも、明るい映像が表示された。