JP2005068503A - 指紋の跡の付きにくいステンレス鋼およびそれを外表面に利用した器物または建造物 - Google Patents

指紋の跡の付きにくいステンレス鋼およびそれを外表面に利用した器物または建造物 Download PDF

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Abstract

【課題】 掌紋や指紋などの油脂成分が付着しにくく、かつ付着しても拭き取
りで容易に除去できる表面を創製する。このために、水や油脂成分との濡れ性
が低い化合物を表面に強固に配置したステンレス鋼を創製する。
【解決手段】 表面にふっ素と炭素の結合を有する化合物を配置したステンレ
ス鋼において、該ステンレス鋼表面に深さ0.3μm以上15μm以下の粒界溝を形成
し、その溝内にシランカップリングあるいはそのほかの手段によってふっ素と
炭素の結合を有する化合物を埋め込んで配置したことを特徴とする指紋の跡の
付きにくいステンレス鋼。
さらにそれに加えて、粒界溝以外の表面部分にもふっ素と炭素の結合を有す
る化合物を1μm以下の厚さで表面に被覆配置せしめたことを特徴とする指紋の
跡の付きにくいステンレス鋼。
これらのステンレス鋼を外表面に装備したことを特徴とする汚れの目立たな
い器物またはその筐体あるいは建造物またはその部材。

Description

本発明は、ステンレス鋼とそれを使用した製品に関わるものである。
ステンレス鋼は、優れた耐食性に起因する表面の美麗さを活用した用途に使
用されることが多い。しかるに、美麗故に逆に汚れが見えやすいという欠点が
ある。本発明は、美麗さを活かしながら且つ手で触れた場合などの汚れの跡が
付きにくい特性を付与したステンレス鋼に関するものである。
ステンレス鋼をはじめとする金属表面に油脂成分などの有機物が付着すると
、たとえその有機物が非常に薄くわずかでかつ無色透明であったとしても、金
属と有機物で光の散乱係数が異なるために、付着した部分が顕在化しやすい。
具体的には、手で触れた後にその掌紋や指の指紋が目立つことは日常経験する
ところである。これらの汚れは、ほとんどの場合耐食性やその他の機能には大
きな問題は及ぼさないものの見た目の美麗さを損なうことが甚だしいことから
、外観の美麗さを売り物とするステンレス鋼においては何らかの対策の必要性
が強く要望されてきた。
この汚れ付着に対しては、大きく分けて3種類の対応がなされてきた。
1番目の対応は、洗浄である。一般的には、清掃を頻繁に行うことで問題は
概ね解消する。すなわち、使用者側で清掃するという対症療法で美麗さを回復
してきた。ただこの対応は、対応をしたというより我慢をしてきたというのが
実態といえる。
2番目の対応は、材料側で汚れを付きにくくしようとする方法である。すな
わち、表面に掌紋や指の指紋の主成分である油脂成分と光散乱係数の近い樹脂
類を被覆し付着部位の顕在化を防止しようとするものである。具体的には、器
物等への加工組み付け後塗装を施すことは日常的にみられることであり、材料
の素材でもステンレス鋼に塗装を施した、塗装ステンレス鋼が実用化されてい
る。特に顔料を用いないアクリル樹脂等による無色透明のクリア塗装ステンレ
ス鋼は、ステンレス鋼の美麗さを活かしながら指紋や掌紋の汚れが目立ちにく
いということで評価されている。
特開平8-193218号公報 特開平8-193219号公報
3番目の方法は、汚れが付着しても何らかの手段で人間の手を加えることな
くすぐ落ちたり、解消したりするような機能をステンレス鋼に持たせる方法で
ある。これにはたとえば酸化チタンなどの光触媒を表面に塗布したり焼き付け
たりすることで、油脂成分の汚れが付いても紫外線のエネルギーで水と二酸化
炭素に酸化させ、表面から分解消滅させようとするものである。例えば、上記
特許文献1や上記特許文献2には、下地のステンレス鋼中にTiを添加し表面に
酸化チタンを形成させるよう熱処理を工夫したステンレス鋼の製造方法が開示
されている。これらに開示されたステンレス鋼は、表面に形成した酸化チタン
の光触媒作用によって汚れや細菌類を分解消滅させることが謳われている。
1番目の方法は、極めて簡単で見かけ上のコストが不要なことから、多くの
場合この方法で対処してきた。しかし、指紋や手の掌紋は脂肪酸などの油脂成
分であることから単に乾拭きや水だけでの拭き取りでは元の美麗さを回復でき
ない。従って多くの場合、洗剤を使用しての清掃とならざるを得ず、その手間
もさることながら、環境に流れ出す洗剤等による地球環境の汚れは、目に直接
見えないだけに恐ろしいものがある。また、例えば表面に凹凸を有する表面の
ように、構造的に洗浄のしにくい形状の場合洗浄できない部分が残り、一層汚
れが目立つこともあるために、ステンレス鋼の表面をできるだけ平滑にしかつ
構造的にも汚れのたまりやすい凹部をなくすなどの対応が必要となって、結果
的に審美観を損ねるようなこともあった。
2番目の方法は、他の方法に比べるとかなり有効で、現状での実現可能な唯
一の方法である。しかしこの方法は、本来の機能面からは不要の塗装作業や塗
装工程が必要となるために、器物の製造や素材のコストを大きくするだけでな
く、せっかくのステンレス鋼の質感を損なったり、一般的に電気に対して絶縁
となるために金属としての特徴を損なうものであった。また、金属面に比べて
紫外線等の耐候性や摩耗が劣るため、器物の寿命まで縮める結果となっている
また3番目の方法は、上述したように種々提案はなされてはいるものの、未
だ現実には十分な消滅機能が発揮できず、汚れが付いてから除去までに極めて
長時間を要したり、使用環境では不要でかつ有害な紫外線を照射せざるを得な
いなど、実用化からはほど遠い状態にある。
本発明は、これらの従来方法とは全く異なる考え方で汚れに対応することと
した。すなわち、従来の対策は、付着することは仕方がないとの前提で、ぬぐ
い取ることや目立たなくすることあるいは何らかの作用で除去することで対処
してきたものであるのに対して、本発明は汚れを付きにくくすること、それで
も全く付着することは防止できないことから、付着した汚れの除去を容易なら
しめることで対処することとした。
本発明は、この技術的な指向の下に、掌紋や指紋などの油脂成分が付着しに
くく、かつ付着しても拭き取りで容易に除去できる表面を創製することを目的
とした。
掌紋や指紋などの油脂成分が付着しにくい物質には、ふっ素と炭素の結合を
有する化合物がある。例えば、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)やふっ化
エチレンプロピレン樹脂などがある。これらは、米国デュポン社で開発され、
その製品は該社の登録商標の「テフロン」と呼称されている。これらのふっ素
と炭素の結合を有する化合物は、多少の違いはあるが、いずれも化学薬品に対
して極めて安定で、低摩擦係数を有し撥水性、撥油性、さらには難燃性電気絶
縁性、低誘電率などの特徴を有し耐候性にも優れているために工業材料として
幅広く使用されている。
ところが、ふっ素と炭素の結合を有する化合物は優れた撥水性撥油性を有す
るため、金属にも濡れにくくその樹脂を膜状にして金属表面に被覆させること
は困難であった。それでも厚肉化すると被覆しやすくなるために、例えばフラ
イパンや鍋などに適用されてきた。しかし数μm以下の厚さの薄膜状に被覆する
ことは極めて困難であった。
本発明の目的は、ステンレス鋼本来の質感や金属的特徴を維持しつつ掌紋や
指紋などの油脂成分が付着しにくく、かつ付着しても拭き取りで容易に除去で
きるステンレス鋼を提供することである。厚肉で被覆をすると、機能として掌
紋や指紋などの油脂成分が付着しにくく、かつ付着しても拭き取りで容易に除
去できることとなるが、本来のステンレス鋼の質感や金属的特徴(例えば、電
気伝導性)が阻害されることから、従来のふっ素と炭素の結合を有する化合物
の被覆技術は適用できない。
そこで、ふっ素と炭素の結合を有する化合物全面を被覆するのではなく金属
表面に部分的に埋め込むことを指向した。部分的に埋め込まれたふっ素と炭素
の結合を有する化合物は、その部分では当然汚れに対して濡れにくくなる。し
かし、その部分以外の部分では処理をしていない材料と同様であるから、汚れ
に濡れやすいはずである。ところが、部分的でもその間隔が肉眼で判別できな
いようなレベルで汚れに対して濡れにくい部分を多数分散させれば、全体が濡
れにくくなったのと同様の効果が得られるものと想定したのである。
肉眼で判別できないような間隔の埋め込み部分として、ステンレス鋼の結晶
粒界を想起した。適正に製造されたステンレス鋼の結晶粒界の間隔はせいぜい
数10μmで、肉眼では認識できるレベルではない。しかも、大きなばらつきがな
い。形状は一定ではないがほぼ均一のサイズの網目状であることから、汚れの
濡れにくい部分の分散化には最適である。
請求項1記載の発明の手段によれば、表面にふっ素と炭素の結合を有する化
合物を配置したステンレス鋼において、該ステンレス鋼表面に深さ0.3μm以上1
5μm以下の粒界溝を形成し、その溝内にふっ素と炭素の結合を有する化合物を
埋め込んで配置したことを特徴とする指紋の跡の付きにくいステンレス鋼が提
供される。
請求項2記載の発明の手段によれば、表面にふっ素と炭素の結合を有する化
合物を配置したステンレス鋼において、該ステンレス鋼表面に深さ0.3μm以上1
5μm以下の粒界溝を形成し、その溝内にシランカップリング剤を用いてふっ素
と炭素の結合を有する化合物を埋め込んで配置したことを特徴とする指紋の跡
の付きにくいステンレス鋼が提供される。
請求項3記載の発明の手段によれば、請求項1または2の構成に加え、表面
にふっ素と炭素の結合を有する化合物を配置したステンレス鋼において、該ス
テンレス鋼表面の粒界溝以外の表面部分にふっ素と炭素の結合を有する化合物
を1μm以下の厚さで表面に被覆配置せしめたことを特徴とする指紋の跡の付き
にくいステンレス鋼が提供される。
請求項4記載の発明の手段によれば、請求項1から3の少なくともいずれか
に記載のステンレス鋼を外表面に装備したことを特徴とする指紋の跡の付きに
くい器物またはその筐体が提供される。
請求項5記載の発明の手段によれば、請求項1から3の少なくともいずれか
に記載のステンレス鋼を外表面に装備したことを特徴とする汚れの目立たない
建造物またはその部材が提供される。
請求項1記載の発明によれば、汚れを防止しかつ拭き取りやすくする機能を
有する物質であるふっ素と炭素の結合を有する化合物がステンレス鋼の表面に
あるので、ステンレス鋼表面に指紋の跡が付きにくく、このような物質が深く
埋め込まれていることから、摩耗によっても機能が消滅したり劣化することが
ない。
請求項2記載の発明によれば、シランカップリング剤により、ふっ素と炭素
の結合を有する化合物が、更に強固にステンレス鋼に確保されるから、摩耗に
よっても機能が消滅したり劣化することがない。
請求項3記載の発明によれば、ふっ素と炭素の結合を有する化合物が実質的
に薄膜状に被覆されているので、ステンレス鋼表面の全体において更に指紋の
跡が付きにくくなる。
請求項4記載の発明によれば、指紋の跡が表面に付きにくい器物またはその
筐体が提供される。
請求項5記載の発明によれば、指紋の跡が表面に付きにくい建造物またはそ
の部材が提供される。
以上のように、本発明によるステンレス鋼とそれを外面に用いた器物あるい
は建材は、手で触れることによって顕在化する汚れが目立ちにくいことが明ら
かである。このために、従来実害は少ないとはいえ目立つ汚れが室内外の景観
を害していたのに対して、その影響が著しく低下することとなった。また、従
来はこの景観を保持するために洗剤を用いた頻繁なる清掃が不可欠であったの
に対して、その頻度を著しく低減させることが可能となった。この結果、清掃
の手間が省けるだけでなく、洗剤の使用量の低減、それに伴う土壌の汚染の懸
念が大きく軽減する。
このように本発明は工業的経済的に効果が大きいだけでなく、環境への負荷
を軽減できるものである。
結晶粒界の溝を形成する方法は、粒界腐食を活用することができる。必要が
あれば鋭敏化熱処理を行い、ふっ化水素と硝酸との混酸等の酸などにより粒界
を優先的に溶解させることで溝を形成できる。このように酸による溶解で形成
した溝の壁には、酸洗表面と同様にランダムで微細な凹凸が全面に形成される
。このような微細凹凸面への機械的な付着強度は、平滑面に比べて格段に高く
、この点が粒界溝への埋込の利点でもある。ここで、「ふっ素と炭素の結合を
有する化合物」としては、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ふっ化エチ
レンプロピレン樹脂等が挙げられるが、本発明は、これに限定されない。
ふっ素と炭素の結合を有する化合物を溝に埋め込む方法は、その化合物を微
細に粉砕し微細粉として埋め込むことが考えられる。そこで、必要に応じて溝
に埋め込まれたふっ素と炭素の結合を有する化合物の微細粉を溶融し、改めて
溝形状に沿って凝固させることでを更に強固に溝に付着することができる。そ
れ以外にも、バインダー溶液にふっ素と炭素の結合を有する化合物の微細粉を
懸濁させた懸濁液を粒界の溝に流し込み、溶媒を蒸発させてバインダーによっ
て凝固させる方法も可能である。
本発明は、これらの想起した考え方に基づいてなされたものである。すなわ
ち、
「表面にふっ素と炭素の結合を有する化合物を配置したステンレス鋼において
、該ステンレス鋼表面に深さ0.3μm以上15μm以下の粒界溝を形成し、その溝内
にふっ素と炭素の結合を有する化合物を埋め込んで配置したことを特徴とする
指紋の跡の付きにくいステンレス鋼。」
を発明した。
ふっ素と炭素の結合を有する化合物とステンレス鋼は、互いに濡れにくいこ
とから付着しにくいものであるが、粒界溝に埋め込むことで付着力が強固とな
り、表面から剥離して効果が消滅したりすることはなくなった。
ふっ素と炭素の結合を有する化合物を埋め込む粒界溝の深さは、0.3μmより
浅いとふっ素と炭素の結合を有する化合物の食い込む効果がなくなり化合物の
付着強度が低くなる。その結果、皮膜が剥離しやすくなって効果がなくなるた
め下限とした。逆に15μmを越えて深くしても、ふっ素と炭素の結合を有する化
合物の微細粉が溝の底まで埋め込まれず粒界溝を深くした意味がないだけでな
く、均一伸びを減じたり曲げ加工面に亀裂を生じやすくなるなど機械的性質を
劣化させるため、上限とした。
このように汚れを防止しかつ拭き取りやすくする機能を有する物質が深く埋
め込まれていることから、摩耗によっても機能が消滅したり劣化することがな
くなった。もちろん埋め込んだ深さ以上に摩耗すれば機能が消滅することは容
易に予想されるが、ステンレス鋼の美麗さを必要とする用途には、そのような
大きな摩耗が生ずる可能性のあるものがないことから、実用上は摩耗によって
機能が消滅することはないと考えられる。
本発明は、粒界溝にふっ素と炭素の結合を有する化合物を埋め込むことで実
用上の付着強度が高めるものであるが、一層の強度を確保するために、ふっ素
と炭素の結合を有する化合物とシランカップリング剤を反応させ、そのシラン
官能基とステンレス鋼表面の不動態皮膜の水酸基等と結合せしめることを想起
した。そこで本発明の実施態様として、第2の発明をなした。すなわち、
「表面にふっ素と炭素の結合を有する化合物を配置したステンレス鋼において
、該ステンレス鋼表面に深さ0.3μm以上15μm以下の粒界溝を形成し、その溝内
にシランカップリング剤を用いてふっ素と炭素の結合を有する化合物を埋め込
んで配置したことを特徴とする指紋の跡の付きにくいステンレス鋼。」
を発明した。シランカップリング剤としては、ふっ化シラン等公知のものを用
いることが可能である。
第2の発明では、機械的な接合だけでなくシラン基による化学結合が加わる
ため、金属とふっ素と炭素の結合を有する化合物の付着強度は一層強固になる
本発明はふっ素と炭素の結合を有する化合物を部分的に埋め込むことを指向
したものではあるが、この技術を利用することによって、実質的に薄膜状の被
覆も可能となる。この考えに従って、第3の発明をなした。すなわち、
「表面にふっ素と炭素の結合を有する化合物を配置したステンレス鋼において
、該ステンレス鋼表面の粒界溝以外の表面部分にふっ素と炭素の結合を有する
化合物を1μm以下の厚さで表面に被覆配置せしめたことを特徴とする請求項1
または2に記載の指紋の跡の付きにくいステンレス鋼。」
を発明した。
平滑な金属表面にふっ素と炭素の結合を有する化合物の薄膜を十分な強度を
持って被覆することは困難であるが、第3の発明では下地の金属との付着は粒
界溝に食い込むように埋め込まれた部分があり、そこで大きな付着力を得るこ
とができることから、食い込みのない被覆に比べると圧倒的に強い付着を得る
ことができる。第3の発明による表面被膜は、粒界溝に食い込ませているので
厳密には薄膜とは言えないが、表面の面積では大半を占める溝以外の部分は薄
膜と同じであることから、実用上は薄膜とみなして良いと考えられる。
汚れを防止しかつ拭き取りやすくする機能の点からは、ふっ素と炭素の結合
を有する化合物の薄膜の厚さは厚くとも問題はない。しかし、1μmを超えて被
覆されると、例え薄膜が透明であったとしてもステンレス鋼特有の金属的質感
は失われ、いわゆる塗装材と同じになる。従って、本発明においては薄膜の厚
さの上限を1μmとした。また、ここにいう「厚さ」とは、ステンレス鋼表面か
らの厚さを意味する。
本発明のステンレス鋼は、掌紋や指紋で汚れる可能性のある用途に使用する
ことで効果が現れる。すなわち、日常的に手に触れる器物や建造物の外表面に
本発明のステンレス鋼を装備するものである。この考えに基づき、本発明のス
テンレス鋼を使用した第4および第5の発明をなした。
すなわち、
「請求項1から3の少なくともいずれかに記載のステンレス鋼を外表面に装備
したことを特徴とする指紋の跡の付きにくい器物またはその筐体。」
「請求項1から3の少なくともいずれかに記載のステンレス鋼を外表面に装備
したことを特徴とする汚れの目立たない建造物またはその部材。」
を発明した。
これらの器物には、家電製品、調理器具、オーディオ関連製品、パソコン関
連製品、通信電話関連製品、カメラ、文房具、あるいは家具什器類の少なくと
もいずれかに属するものが挙げられる。また、一般的には器物とは言われない
が、鉄道車両なども全く同じ効果が得られ、本発明の対象である。
また、建造物では洗浄が困難な場合が多い上に面積が広く汚れの程度に大き
なムラが生じて一層汚れが目立ちやすいことから、本発明は有効である。具体
的には、エレベーターホールの内壁、手摺り、フェンス、サッシ、パネル、厨
房機器、さらにはドアノブなどの建築部品が挙げられる。
特に、請求項3に記載したステンレス鋼を用いた請求項4ないし5の発明品
は、もともと優れた耐食性のステンレス鋼に加えて、表面にふっ素と炭素の結
合を有する化合物の被膜が被覆されていることから、一層耐食性が向上してお
り、効果が大きくなる。
また、ふっ素と炭素の結合を有する化合物は、汚れが付着しにくく拭き取り
で除去しやすいだけでなく撥水性撥油性が優れていることから、本発明のステ
ンレス鋼は粘着テープとの接着性が低下する。すなわち、ポスターやチラシ類
を貼付しても粘着材が残存することなく容易に剥離が可能となる。従って、請
求項5に記載した発明品を公共建造物の壁などに用いることで、公共空間や都
市の景観の保持に大きな効果が得られる。
実施例1〜6、比較例1〜4
市販の0.4mm厚のSUS304ステンレス鋼板を一旦650℃で10min加熱し、室温まで
冷却し、次いで40[g/l]HFと100[g/l]HNO3の混酸中に浸漬して粒界溝を形成
させた。この際、表1及び表2に示すごとく、浸漬時間を変化させて粒界溝の
深さを制御した。その後HNXガス(水素と窒素の混合ガス)中にて1050℃で5min
加熱急冷して、溶態化処理をした。その表面に、下記に示す如く種々の方法で
テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)の0.3μm以下の微粉を埋め込んだ。しか
る後、#400の湿式研磨を行い、JIS-G4305に記載された#400仕上げを行った。な
お、粒界溝を形成した際のオーステナイト結晶粒度番号は、GN7〜9であった。
また、比較に入手ままのステンレス鋼板を#400の湿式研磨で#400仕上げとした
ものを用いた(比較例4)。
この様に作成した各表面について、指で触れた際の指紋跡の顕在化レベル、
ガーゼでの拭き取り後の指紋跡の残留レベルおよび表面の被覆感を官能的に評
価した。指紋跡の顕在化レベルおよび残留レベルは、肉眼による官能評価で次
のように評点化した。
評点0:全く痕跡が認められない
評点1:視点の角度を変えるとわずかに認識できる
評点2:概ねどの視点からでもわずかに認識できるが角度によってはを見え
ない場合がある
評点3:視点の角度によらず痕跡が認識できるが酸洗スキンパス仕上げ(2B)
のステンレス表面より見えにくい。
評点4:視点の角度によらず痕跡が明瞭に認識でき、酸洗スキンパス仕上げ(
2B)のステンレス鋼表面と大差がない。
表面の被覆感は、肉眼により塗装などの処理をしていない無処理の金属表面
と感じられるものを○、塗装を行ったと感じられるものを×として評価した。
また粒界の深さは、試験片の端部を切り出して断面光学顕微鏡観察により実測
した。
これらの試験片の指紋跡の顕在化レベルと拭き取り後の残留レベルの評価結
果を表1に示した。
Figure 2005068503
実施例1〜4及び比較例1〜2の試験片は、テトラフルオロエチレン樹脂(P
TFE)の0.3μm以下の微粉をフルオロカーボン系洗浄剤(三井デュポンフロロケ
ミカル株式会社製の商品名「Vertrel」)に分散懸濁させ、表面に塗布すること
で、粒界溝にテトラフルオロエチレン樹脂を埋め込んだ。光学顕微鏡の表面観
察により埋込の状況を評価し、埋込が不十分な場合は塗布を繰り返した。最後
に、何も懸濁させていないフルオロカーボン系洗浄剤で表面を拭い、粒界溝以
外の表面部分に残存したテトラフルオロエチレン樹脂の微粉を除去した。実施
例3および4の試験片は、その後N2ガス中にて350℃−1minの熱処理を行った。
粒界溝が0.2μmと浅い比較例1の試験片は、テトラフルオロエチレン樹脂の
微粉が粒界溝に入らなかったかあるいは#400の湿式研磨時に剥落したものと推
定され、指紋跡の顕在化レベル、拭き取り後の残留レベルはいずれも評点4と
、処理をしない比較例4の比較材と同レベルであった。粒界溝が0.3μm以上の
実施例1、実施例2、実施例3および実施例4の試験片は、指紋跡の顕在化レ
ベルはどちらも評点2であり、拭き取り後の残留レベルはどちらも評点1〜2
であった。粒界溝が18μmの比較例2の試験片は、指紋跡の顕在化レベルが評点
2、拭き取り後の残留レベルが評点1〜2と良好であったが、180°の1/2t曲げ
試験により曲げ面に亀裂が発生した。
埋込後熱処理を行った実施例3及び4の試験片は、テトラフルオロエチレン
樹脂が溶融したため粒界溝部分のわずかに凹状になったが、機能には全く変化
がなかった。
実施例5、実施例6、比較例3の試験片は、ふっ化シランをフルオロカーボ
ン系洗浄剤に溶融させ、さらにテトラフルオロエチレン樹脂の微粉を分散懸濁
させ表面に塗布することで、粒界溝にふっ化シランと同時にテトラフルオロエ
チレン樹脂を埋め込んだ。光学顕微鏡の表面観察により埋込の状況を評価し、
埋込が不十分な場合は塗布を繰り返した。最後に、何も溶解および懸濁させて
いないフルオロカーボン系洗浄剤で表面を拭い、粒界溝以外の表面部分に残存
したふっ化シランやテトラフルオロエチレン樹脂の微粉を除去した。
粒界溝が0.1μmと浅い比較例3の試験片は、テトラフルオロエチレン樹脂の
微粉が粒界溝に入らなかったかあるいは#400の湿式研磨時に剥落したものと推
定され、指紋跡の顕在化レベル、拭き取り後の残留レベルはいずれも評点4と
、処理をしない比較例4の比較材と同レベルであった。
粒界溝が0.3μm以上の実施例5および6の試験片は、指紋跡の顕在化レベル
はどちらも評点2であり、拭き取り後の残留レベルはどちらも評点1〜2であ
った。実施例5および6の試験片はガーゼでの拭き取りを繰り返しても劣化は
認められなかった。
実施例7〜8、比較例5〜6
実施例7、実施例8、比較例5、比較例6の試験片は、粒界溝以外の表面部
分にもテトラフルオロエチレン樹脂の薄膜を形成させたものである。製造方法
は、比較例1または実施例2で製造したステンレス鋼板に、さらにテトラフル
オロエチレン樹脂の微粉を分散懸濁させたフルオロカーボン系洗浄剤を塗布し
、表面にテトラフルオロエチレン樹脂の微粉を残存させ、N2ガス中にて350℃−1
minの熱処理を行った。
これらの試験片の、走査型電子顕微鏡観察で測定した皮膜厚さおよび指紋跡
の顕在化レベルと拭き取り後の残留レベルおよび表面の被覆感の評価結果を表
2に示した。表2には、表面にカッターで切り欠きを入れて市販の消しゴムで
擦りテトラフルオロエチレン樹脂皮膜の剥離性も合わせて示した。
Figure 2005068503
粒界溝が0.2μmと浅い比較例1のステンレス鋼から作成した比較例5の試験
片は、テトラフルオロエチレン樹脂の微粉が粒界溝に入らなかったが、処理直
後の特性は指紋跡の顕在化レベルが評点2、拭き取り後の残留レベルが評点1
〜2と処理をしない比較例4に比べて改善されていた。しかし、表面にカッタ
ーで切り欠きを入れて市販の消しゴムで擦ると、皮膜が剥離した。
粒界溝が0.3μm以上の実施例2のステンレス鋼から作成した実施例7および
8の試験片は、いずれも指紋跡の顕在化レベルが評点2、拭き取り後の残留レ
ベルが評点1〜2と良好であった。皮膜厚さはそれぞれ0.3μmと0.8μmで、ど
ちらも肉眼上金属的質感はほとんど阻害されていなかった。しかも、表面にカ
ッターで切り欠きを入れて市販の消しゴムで擦っても皮膜の剥離はなく、切り
欠き部分を除いて指紋跡の顕在化レベルが評点2、拭き取り後の残留レベルが
評点1と機能も維持されていた。
粒界溝が0.3μm以上の実施例2のステンレス鋼から作成した比較例6の試験
片も、指紋跡の顕在化レベルが評点2、拭き取り後の残留レベルが評点1〜2
と良好であった。しかし、皮膜厚さは1.4μmで肉眼上金属的質感はほとんどな
くなっており、塗装鋼板と同様な表面被覆感であった。
実施例9
実施例2で製造したステンレス鋼板を用いて電子機器のパネルを試作した。
比較として、処理をしていない2B仕上げのSUS304鋼を用いたパネルも作成した

一定期間使用後、両者のスイッチ廻りの汚れを観察した結果、本発明による
パネルはわずかに手で触れた跡が観察されたが、比較のパネルに比べて目立た
ず、本発明によるパネルは手をふれることによる汚れに対して極めて強いこと
が判明した。実施例1で示した指紋跡の顕在化レベルの官能評価を行ったとこ
ろ、比較の処理を実施しない鋼板で製造したパネルでは評点4であるのに対し
て、本発明鋼板によるパネルでは評点2であった。さらにガーゼで拭き取った
後の残留レベルは、比較の処理を実施しない鋼板で製造したパネルでは評点4
であるのに対して、本発明鋼板によるパネルでは評点1であった。
実施例10
実施例4で製造したステンレス鋼板を用いて、#240の一方向湿式研磨を行い
市販のヘライン仕上げ(HL)を施した。このステンレス鋼板を用いて通路の壁を
作成設置した。比較として、処理をしていない市販のHL仕上げのSUS304鋼を用
いた壁も設置した。
一定期間使用後、両者の手の触れやすい部分と高くて手の触れにくい部分と
の汚れを観察した結果、比較のHL仕上げままの壁では手の触れる部分と手に触
れにくい部分で汚れの程度に明確な差異が明確に認められたが、本発明による
壁ではわずかに手の触れる部分と手に触れにくい部分で汚れの程度が極めて軽
度であった。本発明による壁は手をふれることによる汚れに対して極めて強い
ことが判明した。実施例1で示した指紋跡の顕在化レベルの官能評価を行った
ところ、比較の処理を実施しない鋼板で製造したパネルでは評点4であるのに
対して、本発明鋼板による壁では評点2であった。さらにガーゼで拭き取った
後の残留レベルは、比較の処理を実施しない鋼板で製造した壁では評点4であ
るのに対して、本発明鋼板による壁では評点1であった。

Claims (5)

  1. 表面にふっ素と炭素の結合を有する化合物を配置したステンレス鋼において
    、該ステンレス鋼表面に深さ0.3μm以上15μm以下の粒界溝を形成し、その溝内
    にふっ素と炭素の結合を有する化合物を埋め込んで配置したことを特徴とする
    指紋の跡の付きにくいステンレス鋼。
  2. 表面にふっ素と炭素の結合を有する化合物を配置したステンレス鋼において
    、該ステンレス鋼表面に深さ0.3μm以上15μm以下の粒界溝を形成し、その溝内
    にシランカップリング剤を用いてふっ素と炭素の結合を有する化合物を埋め込
    んで配置したことを特徴とする指紋の跡の付きにくいステンレス鋼。
  3. 表面にふっ素と炭素の結合を有する化合物を配置したステンレス鋼において
    、該ステンレス鋼表面の粒界溝以外の表面部分にふっ素と炭素の結合を有する
    化合物を1μm以下の厚さで表面に被覆配置せしめたことを特徴とする請求項1
    または2に記載の指紋の跡の付きにくいステンレス鋼。
  4. 請求項1から3の少なくともいずれかに記載のステンレス鋼を外表面に装備
    したことを特徴とする指紋の跡の付きにくい器物またはその筐体。
  5. 請求項1から3の少なくともいずれかに記載のステンレス鋼を外表面に装備
    したことを特徴とする汚れの目立たない建造物またはその部材。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US7462399B2 (en) * 2003-03-06 2008-12-09 Hansgrohe Ag Coating method for plumbing articles

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