JP2005063694A - 電界電子放出素子用のエミッタおよびそれを有する電界電子放出素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】環境安定性に優れ電子放出効率のよいエミッタを備える電界電子放出素子用のカソード及びそうしたカソードを有する長期信頼性に優れた電界電子放出素子を提供する。
【解決手段】基板と、当該基板上に形成されたエミッタと、当該エミッタに対向して設けられるアノードと、当該エミッタとアノードとの間に介在する放射空間とを含む電界電子放出素子であって、前記エミッタを、電極層と永久磁石材料を含む表面修飾層とを有する構成、又は、電極層と磁気異方性を示す表面修飾層とを有する構造にして、上記課題を解決した。このとき、前記表面修飾層は、前記エミッタと前記アノードとの対向軸に直交する方向に磁気双極子モーメントを有する。
【選択図】 図2
【解決手段】基板と、当該基板上に形成されたエミッタと、当該エミッタに対向して設けられるアノードと、当該エミッタとアノードとの間に介在する放射空間とを含む電界電子放出素子であって、前記エミッタを、電極層と永久磁石材料を含む表面修飾層とを有する構成、又は、電極層と磁気異方性を示す表面修飾層とを有する構造にして、上記課題を解決した。このとき、前記表面修飾層は、前記エミッタと前記アノードとの対向軸に直交する方向に磁気双極子モーメントを有する。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、電界電子放出素子の電子放出性能に優れ安定駆動に有効な安定性のあるエミッタを備えた電界電子放出素子用のエミッタおよびそれを有する電界電子放出素子に関し、更に詳しくは、フィールドエミッションディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、液晶表示装置のバックライト等の電界電子放出素子を低電圧で安定して駆動させることができる電界電子放出素子の構造に特徴を有するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えばフィールドエミッションディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、液晶表示装置のバックライトなどの電界電子放出素子の構造としては、真空もしくはガスの封入された電子放出空間と、その電子放出空間に電気的接続をとるためのアノード(陽極)とエミッタ(陰極)を含んでいる。
こうした電界電子放出素子の構造において、エミッタから電子放出空間に電子を効率的に放出することができれば、電子放出効率を向上させることができ、満足のいくデバイス性能を得ることができる。放射空間に電子を効率的に放出するためには、仕事関数の小さいエミッタが必要であるが、不都合なことに、仕事関数の小さい金属(例えば、LiやLiF等のアルカリ金属又はCa等のアルカリ土類金属)は一般的に不安定であり、室温においては容易に、高温においてはより激しく、酸素や水蒸気と反応するという難点がある。
【0003】
そこで、例えばプラズマディスプレイパネルおよびフィールドエミッションディスプレイパネル等に代表される電界電子放出素子用のエミッタとしては先端の尖った円錐状のMoを形成(いわゆる「スピント」とよばれる電極)の表面修飾膜として電界電子放出素子用のエミッタにおける電子放出性能を向上させて消費電力の低減を図るため、Sc、Y、La、Ce、Gd、Lu、Th、U及びNpの群から選ばれる1又は2以上の元素の水素化物又は酸化物を有し、双極子分極により金属電極の仕事関数が低下させ、電子放出性能を向上させた電界電子放出電極を設けることが報告されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
しかし、形成された電界電子放出用のエミッタには、粒径の大きな水素化物が残留しているために、電子放出性能が充分に向上しないという問題があった。
【0005】
さらに、これらの金属酸化膜や金属水素化膜は直接の蒸着が困難である上に、膜としても不安定であるため、膜破壊が起きやすく、強力な電界を必要とする電界電子放出素子用のエミッタとしてとしては安定性や量産性に欠けていた。
【0006】
そのため、仕事関数の小さい金属の環境安定性を改善する試みがなされている。例えば、上記のアルカリ金属やアルカリ土類金属を、アルミニウムや銀のようなより安定な金属と合金化することが行われてきたが、得られたエミッタは、デバイスの製造工程中の酸素や水蒸気に対して依然として不安定のままであった。
【0007】
また、電極の表面層としてカーボンナノチューブを形成する方法も挙げられるが環境安定性が極めて不安定であり、さらに形成時に配向方向などを制御することが困難である。
【0008】
このようにエミッタの不安定性は、発光素子構造を含むデバイスの信頼性に大きく影響することから、安定で仕事関数の小さいエミッタの開発が望まれている。
【0009】
【特許文献1】
特開2000−251834号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、その第1の目的は、環境安定性に優れ電子放出効率のよいエミッタを備える電界電子放出素子を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、そうしたエミッタを有する長期信頼性に優れた電界電子放出素子を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明の電界電子放出素子用のエミッタとしては、基板と、当該基板上に形成されたエミッタと、当該エミッタに対向して設けられるアノードと、当該エミッタとアノードとの間に介在する電子放出空間とを含む電界電子放出素子において、前記エミッタが、電極層と、永久磁石材料を含む表面修飾層とを有することを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の電界電子放出素子用のエミッタとしては、基板と、当該基板上に形成されたエミッタと、当該エミッタに対向して設けられるアノードと、当該エミッタとアノードとの間に介在する電子放出空間とを含む電界電子放出素子であって、前記エミッタが、電極層と、磁気異方性を示す表面修飾層とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明の電界電子放出素子用のエミッタにおいて、前記表面修飾層が、前記エミッタと前記アノードとの対向軸に直交する方向に磁気双極子モーメントを有することを特徴とする。
【0014】
これらの発明によれば、表面修飾層が永久磁石材料で形成され又は表面修飾層が磁気異方性を示すので、その表面修飾層は表面においてスピン分極して磁気的な双極子モーメントを有する。特に本発明においては、表面修飾層がエミッタとアノードとの対向軸に直交する方向に磁気双極子モーメントを有するので、ローレンツ力により双極子モーメントの対向軸の方向(すなわちエミッタ及びアノードの電極面に直角な方向)に電子が引き出されやすくなり、その結果、電子放出空間への電子の放出が容易に起こることになる。従って、この発明によれば、環境安定性に優れ電子放出効率のよいエミッタを備える電界電子放出素子を提供することができる。
【0015】
本発明の電界電子放出素子用のエミッタにおいて、(1)前記表面修飾層が、希土類永久磁石、ナノコンポジット磁石又はPtCo合金等からなる永久磁石を含むことが好ましく、(2)前記表面修飾層が、金属酸化物、金属水酸化物、金属フッ化物、金属炭化物、金属窒化物、金属ホウ化物、金属リン化物、金属珪化物、イオン照射により形成された欠陥無機物、及びイオン照射により形成された欠陥有機物の群から選ばれた1又は2以上の材料を含むことが好ましく、(3)前記表面修飾層に含まれる材料の金属元素が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタニド金属、第4周期の遷移金属及び第5周期の遷移金属の群から選択される1又は2以上の金属元素であることが好ましく、(4)前記エミッタが、前記電極と表面修飾層との間に設けられるキャッピング層を有することが好ましく、(5)前記エミッタを構成する層の少なくとも1層が、エピタキシャル成長層であることが好ましい。
前記、電子放出空間を構成するものとしては真空もしくはHe、Xe、Ne、Kr、Ar、Rnなど希ガス、N2、やHgなどの群から選択される1又は2以上のガスを含む構成としてもよい。
【0016】
さらに、本発明の電界電子放出素子用のエミッタにおいて、(a)前記電極が、タングステン、アルミニウム、クロム、チタン、銀、金、銅、ニッケル、モリブデン、タンタル、鉛、イットリウム及びネオジムから選ばれる1又は2以上の金属で主に形成されていることが好ましく、(b)前記エミッタが、前記電極上に隣接して設けられるマイグレーション防止層を有することが好ましい。
【0017】
さらに、本発明の発光素子構造において、(イ)前記放射空間が、プラズマディスプレイパネルを構成するプラズマ発生空間であることが好ましく、(ロ)前記放射空間が、フィールドエミッションディスプレイパネルを構成する電子放出空間であることが好ましく、(ハ)前記放射空間が、液晶表示装置のバックライトを構成する電子放出空間であることが好ましい。
【0018】
上記課題を解決するための本発明の電界電子放出素子は、上述した電界電子放出素子用のカソードを有することを特徴とする。この発明において、(i)プラズマディスプレイパネルに使用されることが好ましく、(ii)フィールドエミッションディスプレイパネルに使用されることが好ましく、(iii)液晶表示装置のバックライトに使用されることが好ましい。
【0019】
これらの発明によれば、上述した作用効果を奏する電界電子放出素子用のカソードを有するので、長期信頼性に優れた電界電子放出素子を提供することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の電界電子放出素子用のカソード及び電界電子放出素子について図面を参照しつつ説明する。
(実施形態1)
図1は本発明の電界電子放出素子における具体例としてフィールドエミッションディスプレイの基本的な構成例を示す断面構成図である。本発明の放電素子は、基板123と、その基板上に形成されたエミッタ2と、そのエミッタ2に対向して設けられるアノード3と、前記のエミッタ2とアノード3との間に介在する蛍光体および放射空間(以下、「蛍光体および放射空間」は特に断らない限り「放射空間」で表す。)とを含む構造である。そして、その特徴は、前記のエミッタ2が、電極層11と、永久磁石材料を含む表面修飾層12又は磁気異方性を示す表面修飾層とを有することにある。なお、図1中、符号4は放射空間であり、符号5は蛍光体であり、符号6はキャッピング層であり、符号7はマイグレーション防止層である。
【0021】
(基板)
基板1としては、ガラス基板、石英基板又はシリコン基板が好ましく使用されるが、必ずしもこれらに限定されず、例えば、無機元素により構成される基板、金属製の基板の表面に絶縁膜を形成したものを用いてもよい。無機元素により構成される基板としては、(ガラス基板、石英基板、サファイヤガラス基板、BaF2基板、ZnSe基板、セラミック基板)を挙げることができ、金属製の基板としては、ステンレス基板、ニッケル基板、(鉄基板、銅基板)等を挙げることができる。また、耐熱性が許せばプラスチック基板を用いることも可能である。
【0022】
また、電極11や表面修飾層12等のエミッタ構成層をエピタキシャル成長させる場合には、特定の結晶面の出た各種の金属基板、ダイヤモンド基板又は金属化合物基板を使用することができる。特定の結晶面の出た基板としては、例えば、Si基板の(100)面、Si基板の(111)面、サファイア基板の(001)面、GaN基板の(0002)面、GaAs基板の(001)面、GaAs基板の(100)面、GaAs基板の(111)面、等が挙げられるがこれらの基板に限られない。こうした基板の使用は、例えば、Si基板の(111)面にはHfN基板の(111)面が成長し、Si基板の(001)面にはHfN基板の(001)面が成長するので、その上にCu電極等の電極をさらにエピタキシャル成長させることができる。結晶面が制御された電極上には、配向制御された仕事関数の小さい表面修飾層の形成が容易となる。
【0023】
基板は、後述するエミッタ(より詳しくはエミッタ電極)を問題なく成膜できるだけの耐熱性を備えることが望ましく、上記のような絶縁膜を設ける場合には、その絶縁膜も耐熱性を有していることが望ましい。望ましい耐熱性としては、(400℃以上)程度の耐熱特性を有することがよい。耐熱性を有する基板を用いることにより、エミッタの成膜条件に制限がかからないので、目的とする特性を備えたエミッタを形成することが可能となる。
【0024】
(発光素子構造)
次に、上記の基板上に形成される層構成について説明し、本発明の発光素子構造の代表的な例について説明する
本発明の電界電子放出素子用のカソード構造としては、例えば以下のa)〜d)の構成を例示できる。なお、「/」は各層が隣接して積層されていることを示す。
【0025】
a)表面修飾層/電極層/基板
b)表面修飾層/マイグレーション防止層/電極層/基板
c)キャッピング層/表面修飾層/電極層/基板
d)キャッピング層/表面修飾層/マイグレーション防止層/電極層/基板
本明細書において、エミッタとは、電極11と、電子放出層として作用する表面修飾層12とを少なくとも有するものとして表している。
【0026】
なお、電極というときは、エミッタ及び/又はアノードを指し、表面修飾層とは、電極の一部を構成するものであって、電荷放出効率を改善する機能を有し且つ電界電子放出素子の駆動電圧を下げる効果を有するものである。
【0027】
また、放射空間とは、放電する機能を有する空間であり、例えばプラズマディスプレイパネルにおいてはプラズマ発生空間、フィールドエミッションディスプレイパネルにおいては放電空間、液晶表示装置のバックライトパネルにおいては放電空間である。
【0028】
また、マイグレーション防止層とは、表面修飾層の成分が電極層側へ輸送されて混合するのを防止する機能および/もしくは電極層との接着性を改善する機能を有する層であり、キャッピング層とは、表面修飾層を外部から隔離することで酸化などを防止する機能を有する層である。
【0029】
なお、これら電極層、表面修飾層、マイグレーション防止層とキャッピング層は、それぞれ独立に2層以上用いられていてもよい。
【0030】
また、電極との密着性向上や電極からの電子放出性能の改善のために、電極層と表面修飾層との界面に膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよい。
【0031】
積層する層の順番や数、及び各層の厚さについては、電子放出効率、素子輝度や素子寿命を勘案して適宜選択して適用することができる。
【0032】
(エミッタ)
エミッタ2は、上述した基板上に設けられるものであり、電極11と、電子放出層として作用する表面修飾層12とを少なくとも有する、少なくとも2層以上の多層電極体である。このエミッタ2には、目的に応じて、マイグレーション防止層、キャッピング層、絶縁層を更に設けることができる。電極11と表面修飾層12とを少なくとも有するエミッタ2の厚さは、通常200〜10000nmである。
【0033】
(電極)
電極11は、基板上に直接、又は導電性基板の場合には絶縁層を介して形成される。電極としては、導電性のある金属又は材料で構成されるものであればよく、特にその種類や組成は限られないが、例えば、Li、Be等の2周期元素;Na、Mg、Al等の3周期元素;K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn 、Ga、Ge、Se等の4周期元素;Ag、Au、Pb 、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pt、Cd、In、Sn、Sb、Te等の5周期元素;Ba、Hf、Cs、Ir、W、Os、Hg、Tl、Bi等の6周期元素;La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb,Dy,Ho,Er,Yb,Lu等のランタノイド系元素;Ac,Th,Pa,U,Np,Pu,Am,Cm,Bk,Cf,Es等のアクチノイド系元素等の金属、その合金又はそれらの化合物等が挙げられる。特に好ましくは、Ti、Ni、Mo、Y、Au、Ag、Cr、Cu、Pt、Cr、W、Al、ITO、IZO等が挙げられる。
【0034】
電極には、イオン注入法、プラズマドーピング法(パルス変調高周波プラズマ)、気相ドーピング法、固相ドーピング法、レーザドーピング法、等でドーピングすることができ、エミッタの電子放出性能をより向上させることができる。ドーピングの際には、レジスト等により構成される層間絶縁膜でTFTを被膜しておくことが望ましく、電極のみを表面処理又はドープすることができる。その結果、TFTへのドープの影響を極力少なくすることができると共に、TFTのスイッチング性能を低下させることなく電極の表面処理又はドープを行うことができる。また、結晶面の揃った面があるシリコン基板等の上に特殊なエピタキシャル成長法による配線形成が可能な場合には、エピタキシャル成長中にドープすることも可能である。
【0035】
電極は、画素のスイッチング電極として機能するようにパターニングされた平面形状を有し、その厚さは通常300〜20000nmである。
【0036】
(表面修飾層)
表面修飾層12は、電極から供給される電子を放射層に効率的に放出するために、上記の電極上に、直接又はマイグレーション防止層やキャッピング層を介して形成される。通常、その厚さは1〜1000nmであり、好ましくは5〜100nmである。
【0037】
本発明の発光素子構造においては、永久磁石材料を含む表面修飾層、又は、磁気異方性を示す表面修飾層が適用される。
【0038】
永久磁石材料を含む表面修飾層において、永久磁石材料としては、希土類永久磁石、ナノコンポジット磁石、PtCo合金、SmCo合金、NdCo合金等を挙げることができる。
【0039】
▲1▼ナノコンポジット磁石としては、希土類においてはNd系とSm系が好ましく挙げられる。特に、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)及びホウ素(B)を含むNd系の材料や、サマリウム(Sm)、コバルト(Co)、銅(Cu)及び鉄(Fe)を含むSm系の材料が好ましく挙げられる。このうち、Sm系の材料は、錆び難いので好ましく用いることができる。
【0040】
ナノコンポジット磁石の具体例としては、Nd4Fe80B20、Nd4.5Fe73Co3GaB18.5、Nd5.5Fe66Cr5Co3GaB18.5、Nd10Fe74Co10SiB5、Sm7Fe93Nx(xは0より上の任意の整数)等が挙げられる。
【0041】
これらの組成は、ナノ単位の構造において各部分で均質である必要は無く、通常は、拘束点(ハード相)とスプリング(ソフト相)とが海島状又は層状に形成されていてもよい。こうした磁石は交換スプリング磁石と呼ばれ、各相(粒子)間で交換相互作用が生じる。
【0042】
ハード相は必ずしも希土類磁石である必要は無いが、好ましくはNi0.8Fe0.2、Nd2Fe14B、Sm2Fe14Nx(但し、0<x≦3)等を挙げることができる。また、ソフト相としては、SmCo、Fe3B、α−Fe、及びそれらの混合物であることが好ましい。
【0043】
▲2▼希土類鉄族の磁石としては、Sm−Co系、Ce−Co系、Sm−Fe系等が好ましく挙げられる。その希土類鉄族化合物の結晶構造としては、RCo5型とR2Co17型のいずれでもよい。なお、Rは希土類元素を表し、例えば、Sm、Nd、及びこれらに窒素、ホウ素及び/又は炭素等をドープした化合物も含まれる。
【0044】
RCo5型の結晶構造を持つものとしては、例えばSmCo5、CeCo5が代表的であり、さらに、YCo5、LaCo5、PrCo5、NdCo5、GdCo5、TbCo5、DyCo5、HoCo5、ErCo5、TmCo5等が挙げられる。
【0045】
R2Co17型の結晶構造を持つものとしては、例えばSm2Co17が代表的であり、さらに、Y2Co17、La2Co17、Pr2Co17、Nd2Co17、Gd2Co17、Tb2Co17、Dy2Co17、Ho2Co17、Er2Co17、Tm2Co17等が挙げられる。
【0046】
窒素(N)をドープした合金組成としては、例えば、R2Fe17Nx(但し、0<x≦3、かつ、Rは希土類元素である。)が挙げられ、より具体的には、Ce2Fe17N3、Pr2Fe17N3、Nd2Fe17N3、Pm2Fe17N3、Sm2Fe17N3、Eu2Fe17N3、Gd2Fe17N3、Tb2Fe17N3、Dy2Fe17N3、Ho2Fe17N3、Er2Fe17N3、Tm2Fe17N3、Yb2Fe17N3、Lu2Fe17N3等が挙げられる。
【0047】
炭素(C)をドープした合金組成としては、R2Fe17Cx(但し、0<x≦3、かつ、Rは希土類元素である。)又はR2Fe14Cx(但し、0<x≦1、かつ、Rは希土類元素である。)が挙げられる。R2Fe17Cxの具体的としては、La2Fe17C3、Y2Fe17C3、Ce2Fe17C3、Pr2Fe17C3、Nd2Fe17C3、Pm2Fe17C3、Sm2Fe17C3、Eu2Fe17C3、Gd2Fe17C3、Tb2Fe17C3、Dy2Fe17C3、Ho2Fe17C3、Er2Fe17C3、Tm2Fe17C3、Yb2Fe17C3、Lu2Fe17C3、Th2Fe17C3等が挙げられる。また、R2Fe14Cxの具体例としては、La2Fe14C、Y2Fe14C、Ce2Fe14C、Pr2Fe14C、Nd2Fe14C、Pm2Fe14C、Sm2Fe14C、Eu2Fe14C、Gd2Fe14C、Tb2Fe14C、Dy2Fe14C、Ho2Fe14C、Er2Fe14C、Tm2Fe14C、Yb2Fe14C、Lu2Fe14C、Th2Fe14C等が挙げられる。
【0048】
ホウ素(B)をドープした合金組成としては、R2Fe14Bx(但し、0<x≦1、かつ、Rは希土類元素である。)が挙げられ、より具体的には、La2Fe14B、Y2Fe14B、Ce2Fe14B、Pr2Fe14B、Nd2Fe14B、Pm2Fe14B、Sm2Fe14B、Eu2Fe14B、Gd2Fe14B、Tb2Fe14B、Dy2Fe14B、Ho2Fe14B、Er2Fe14B、Tm2Fe14B、Yb2Fe14B、Lu2Fe14B、Th2Fe14B等が挙げられる。このとき、耐腐食性を向上させるためにBの一部をCで置換しても良い。
【0049】
また、上述したRCo5(Rは希土類元素)の場合は、Coの一部をCuで置換えた、例えば、R(Co1−xCux)5{但し、0.01<x<0.99}も適用できる。特にこれに熱処理を施すことで安定なエミッタを得ることができる。より具体的には、例えば、Ce(Co0.86−XFe0.14Cux)5{但し、0<x<0.86}、Ce(Co0.72Fe0.14Cu0.14)5、Ce(Co0.72Fe0.14Cu0.14)5等が挙げられる。
【0050】
▲3▼Sm系永久磁石として、SmとCoとFeとCuを含む材料が好ましく使用でき、その合金組成としては、Sm(Co0.94−XFe0.06CuX)6.8{但し、0.1<x<0.93}が好ましく挙げられる。
【0051】
また、これにZrを加えた合金組成であってもよく、例えば、Sm(Co0.88−XFe0.11CuXZr0.01)7.4{但し、0<x<0.88}、Sm(Co0.765−XFe0.22CuXTi0.015)7.2{但し、0<x<0.765}、Sm(Co0.75−XFe0.22CuXTi0.03)7.2{但し、0<x<0.75}、Sm(Co0.745−αFe0.20Cu0.055Zrα)7.5{但し、0<α<0.745}、Sm(Co0.73−yFe0.20CuyZr0.02)z{但し、0<y<0.73、0.<z<8.5}、Sm(Co0.69−XFe0.2CuXZr0.01)7.2{但し、0<x<0.69}、例えばSm(Co0.69Fe0.2Cu0.1Zr0.01)7.45 、等が挙げられる。なお、以上のSm系磁石材料を安定化させるための任意の元素を、前記の組成物中に導入することもできる。
【0052】
また、Sm2Co17系の磁石における合金組成としては、Sm(Co1− x −y− aFexCuyZra)z{但し、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<a<1}等が挙げられる。具体例としては、Sm(Co0.925−XFeXCu0.055Zr0.02)z{但し、0<X<0.925、0<z<8.5}、Sm(Co0.72Fe0.20Cu0.055Zr0.025)7.5、Sm(Co0.65Fe0.21Cu0.05Zr0.02)7.65、Sm(Co0.69Fe0.20Cu0.10Zr0.01)7.4、Sm(Co0.625Fe0.3Cu0.05Zr0.025)7.6等が挙げられる。より具体的には、(Sm0.70Ce0.30)(Co0.72Fe0.16Cu0.12)7 、Ce(Co0.73Fe0.12Cu0.14Ti0.01)6.5 、Ce(Co0.72Fe0.14Cu0.14)5.2 、Sm0.6Gd0.4Co5 、Pr0.6Sm0.4Co5 、Sm2Fe17 、Sm8Zr3Fe85Co4、(Sm8Zr3Fe85Co4)N15、及びSm2Fe17Nx(但し、0<x<3)、等が挙げられる。
【0053】
また、RFe11Ti(但し、Rは希土類元素)等は鉄以外の元素を導入したことにより磁界が安定化する効果がある。また、これらに窒素、ホウ素及び/又は炭素等をドープした合金でもよい。例えば、NdFe11TiNx(但し、xは0より上の任意の整数)、(Sm8Zr3Fe84)85N15、が挙げられる。
【0054】
また、R(Fe1− xTx)12{但し、Rは希土類元素、TはTi、Mo等}系の磁石としては、RFe11Ti、RFe11Mo、RFe11.5Mo0.5、等を用いることができ、例えば、SmFe11Ti、YFe11Ti、NdFe11Ti、SmFe11Ti、GdFe11Ti、TbFe11Ti、DyFe11Ti、HoFe11Ti、ErFe11Ti、TmFe11Ti、LuFe11Ti等が挙げられる。
【0055】
また、RCo11Ti(但し、Rは希土類元素)系磁石の合金組成としては、例えば、SmCo11Ti、YCo11Ti、NdCo11Ti、SmCo11Ti、GdCo11Ti、TbCo11Ti、DyCo11Ti、HoCo11Ti、ErCo11Ti、TmCo11Ti、LuCo11Ti等が挙げられる。
【0056】
さらに、前記のRCo11Ti(但し、Rは希土類元素)とRFe11Ti(但し、Rは希土類元素)との固溶体でもよい。
【0057】
また、RFez(但し、7<z<11、かつ、Rは希土類元素である。)系の合金組成としては、(RZr)(FeCo)z{7<z<12、かつ、Rは希土類元素である。}等が挙げられる。また、これらを急冷薄体を窒化した合金組成としては、(R0.75Zr0.25)(Fe0.7Co0.3)zNx等が挙げられる。
【0058】
▲4▼Nd系永久磁石としては、Nd1.1Fe4B4、Nd7Fe3B10、Nd(Fe1−xCox)14B{但し、0<x<1}が挙げられ、また、Nd−Fe−B系スプリング磁石としては、Nd4.5Fe77B18.5、Nd4.5Fe74Co5B18.5、Nd4.5Fe73Co3SiB18.5、Nd4.5Fe73Co3GaB18.5、Nd3.5DyFe73Co3GaB18.5、Nd5.5Fe71Cr5B18.5、Nd5.5Fe66Cr5Co5B18.5、Nd4.5Fe73V3SiB18.5等が挙げられる。
【0059】
以上説明した永久磁石材料のうちで最も効果が高いのは、希土類磁石であるがZrやY等でもよく、希土類元素や希土類鉄磁石より弱い磁石、例えば白金鉄系の磁石、アルニコ系の磁石、フェライト系の磁石、白金コバルト系の磁石、クロム鋼系の磁石、鋼コバルト鋼系の磁石、マグネタイト系の磁石、NKS鋼系の磁石、MK鋼系の磁石、KS鋼系の磁石、OP系の磁石等のような組成であってもよい。
【0060】
これら合金組成に使用される主要な元素は、Fe,Ni、Coのような3d遷移金属、Nd、SmあるいはTb、Dyのような4f希土類金属が主体である。例えば、フェライト磁石としては、BaO・6Fe2O3、SrO・6Fe2O3、PbO・6Fe2O3等が挙げられる。また、Fe16N2、Fe16B2等も有名である。これらはN2雰囲気下でFeを蒸着することで磁石が得られる。
【0061】
また、Ca、B、C等はどれも非磁性元素であるが、これらCa、B、Cの固溶体は薄膜とすることで表面の磁化率が向上する。また、Ca、La、Bの固溶体も同様である。また、アルカリ土類金属及びアルカリ金属とホウ素、炭素によりQB2C2、RB2C(Qはアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属)等が挙げられる。また、La1− xCaxMnOz等の合金組成も挙げられる。
【0062】
こうした非磁性元素がナノ構造において磁性を発生する理由としては、クラスタサイズが小さいとバルクとは異なる性質を発現するためと考えられる。
【0063】
また、通常使用されるBaO、Li2O、MgO、Sm2O3、Yb2O3等も使用可能である。
【0064】
またその他で表面修飾できる合金組成として、二元系では、GdCo、TbFe、GdFe、DyFe、MnBi、MnZn、等が挙げられ、多成分系では、GdTbFe、TbFeCo、GdFeCo、GdTbFeCo等が挙げられる。
【0065】
また、磁歪材料であるRFe2系の、TbFe2、DyFe2、ErFe2、TmFe2、SmFe2、TbxDyzFey(0.27<x<0.3、0.7<y<0.73、1.9<z<2.0)、等も挙げられる。これらを表面に薄膜として形成してもよい。
【0066】
さらにエピタキシャル成長可能な膜であれば、場合によってはエピタキシャル成長膜と配線金属膜とを積層し、さらに上層に表面修飾層を形成してもよい。エピタキシャル成長可能な表面修飾層とは(ZrO2)1−x(Y2O3)x、{但し、0<x<1}等が挙げられる。
【0067】
▲5▼超伝導磁石の合金組成としては、Nb、Pb、NbTi、NbN、Nb3Sn、Nb3Al、V3Ga、(La1− xSrx)2CuO4{但し、0<x<1}、La2CuO4、Sr2CuO4、LaSrCuO4、RBa2Cu3Ox(但し、Rは希土類元素、例えばY、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等である。また、7<x<8である。)、(Bi1− xPbx)2Sr2Cu3O10{但し、0<x<1}、Bi2Sr2Cu3O10、Pb2Sr2Cu3O10、BiPbSr2Cu3O10、Tl2Ba2Ca2Cu3、HgBa2Ca2Cu3Ox(xは0以上の任意の整数)等が挙げられる。
【0068】
また、超伝導磁石にみられるようなピン止め効果を応用し、磁石中に異相を分散させる等の組織調整をしてもよい。方法としては磁石の組成物を形成前後で磁石でない組成物を形成する等の方法も可能である。
【0069】
▲6▼以上、本発明の表面修飾層は、これらの永久磁石材料からなる層で構成されるものであり、その表面修飾層は表面分極して電気的な双極子モーメントを有する。特に本発明においては、表面修飾層がエミッタとアノードとの対向軸に直交する方向に磁気双極子モーメントを有するので、その対向軸の方向(すなわちエミッタ及びアノードの電極面に直角な方向)に電子が引き出されやすくなり、その結果、放射層又は放射空間への電子の放出が容易に起こることになる。
【0070】
この現象を詳しく説明すると、表面修飾層に磁気異方性があるということは、その表面修飾層の面内方向、すなわち表面修飾層の表面に平行な方向に磁気双極子モーメントがあることを意味している。そうした面内方向の磁気双極子モーメントは、電極から、両電極の対向軸方向に電子を引き抜くように作用する。すなわち、電極を流れる電子の方向と、磁気異方性により生じている磁力の方向との両方の方向に直角な方向に電圧が発生するが、これにより電極を流れる電子に両電極の対向軸方向の力が加わり、電子が電極から引き出されることになる。引き出された電子は放電層に放出されるので、こうした磁気双極子モーメントを有する表面修飾層は、電子放出作用を持っている。
【0071】
電子に加わる力は、ローレンツ力で説明され、電子を引き出す力をF、電荷をq、電荷の移動速度をvとすると、F=q(v×B)であり、また、磁気双極子モーメントMが位置ベクトルrに作る磁場Hは、H=−1/4×(πμ0)grad(Mr/r3)であることからB=μHとなる。従って、磁気双極子モーメントMが大きいほど(すなわち、磁気異方性が大きいほど)電子を引き出す力が大きくなるので、電子放出効率が向上する。
【0072】
なお、クラスターサイズに対する磁気異方性は、M.Iseda, T.Nishio, H.Yoshida, A.Terasaki, and T.Kondow, RITU, vol.4, No.2, p.215(1996)に掲載されている「Electronic Structure of Vanadium Cluster Anions−Measured and DV−Xα Calculation of Photoelectron Spectra」にあるように、クラスターを質量選別した後で光電子分光法により電子状態を調査することができ、さらにDV−Xα法によりUPとDOWNのスピンにおけるそれぞれのエネルギ準位をシィミュレーションしてみることによりある程度予測可能である。
【0073】
▲7▼本発明においては、上述した表面修飾層にArイオンを照射して規則的な欠陥を形成してもよい。表面修飾層に欠陥を形成することにより、表面修飾層の表面を分極して仕事関数をさらに低下させることができる。こうした表面分極による仕事関数の低下は、電極から電子を引き出し易くするので、電子放出効率がより向上する。
【0074】
(着磁方法又は配向制御方法)
表面修飾層は、磁気異方性を付与又は大きくするために、着磁され又は配向制御されることが好ましい。表面修飾層の着磁方法又は配向制御方法としては、静磁場による方法、パルス磁場による方法、フィールド・クールによる方法、ゼロ・フィールド・クールによる方法等がある。
【0075】
静磁場による方法としては、着磁対象又は配向制御対象となる表面修飾層の周囲に強力な磁石を設置する方法を例示でき、その方法により、表面修飾層の表面の配向方向を制御できる。また、パルス磁場による着磁方法としては、コイル式の強力な電磁石をサンプル外部に設置し、パルスで同期させてコイルに電流を流す方法を例示でき、この方法で表面修飾層の配向方向を制御してもよい。パルス磁場による着磁方法は、短時間で着磁ができ且つパルス幅を変えることもできるので、量産性が高いという利点がある。このときコイルに直流を流すことも可能である。さらに超伝導永久磁石を用いて表面修飾層を着磁させることも可能である。
【0076】
また、表面修飾層の着磁又は配向制御は、膜形成時でも又は膜形成後でもよく、必要であれば着磁時にアニール処理をしてもよい。
【0077】
(化合物/化合物層)
本発明の発光素子構造においては、上述した表面修飾層中に以下の各化合物を含有させたり、上述した表面修飾層の一面又は両面に以下の化合物からなる層を形成することができる。化合物からなる層を表面修飾層の一面又は両面に形成する場合において、その厚さは、化合物層の種類に応じた抵抗値や磁気異方性の観点から設定されるが、通常10〜2000nmであることが好ましく、500〜1500nmであることがより好ましい。上記厚さ範囲内とすることにより、安定した電子放出性能を発現させるという効果がある。また、化合物を表面修飾層中に含有させる場合において、その含有量は、化合物の種類に応じた抵抗値、磁気異方性や結晶粒界の大きさの観点から設定されるが、通常、表面修飾層の総重量中に0.1〜50重量%の範囲で含有させることが好ましく、2〜20重量%の範囲で含有させることがより好ましい。上記範囲で含有させることにより、電子放出性能を高めるための不純物準位を形成できるとともに仕事関数を低下させるという効果がある。
【0078】
そのような化合物としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属フッ化物、金属炭化物、金属窒化物、金属ホウ化物、金属リン化物、金属珪化物、イオン照射により形成された欠陥無機物、及びイオン照射により形成された欠陥有機物の群から選ばれた1又は2以上の化合物材料が挙げられる。なお、この化合物材料に含まれる金属元素としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタニド金属、第4周期の遷移金属及び第5周期の遷移金属の群から選択される1又は2以上の金属元素が挙げられる。なお、イオン照射により形成された欠陥無機物としては、例えばダイヤモンド炭素の欠陥膜、ZnOの欠陥膜などを挙げることができる。
【0079】
(マイグレーション防止層及びキャッピング層)
表面修飾層12と電極11との間には、マイグレーション防止層やキャッピング層を設けることができる。
【0080】
マイグレーション防止層は、表面修飾膜を形成する化合物の成分が電極側に移動するのを防止するための層であり、中でも仕事関数が大きく且つ導電性が高いマイグレーション防止層の構成材料としては、チタン、アルミニウム、銀、銅、鉄、白金、金、及び/又はそれらの混合物等を含むものが好ましい。マイグレーション防止層の厚さは、通常は数百Å(数十nm)以上であり、しばしば数千Å(数百nm)程度である。
【0081】
キャッピング層は、仕事関数が大きい金属からなり、表面修飾層の下面に設けて表面修飾層に連続的な電気接続をもたらすように作用する。キャッピング層は、例えば白金、金、銀等の材料からなる層である。キャッピング層の厚さは、通常1〜100nmであることが好ましい。
【0082】
以上説明したように、本発明の電界電子放出カソードは、表面修飾膜として磁気異方性を有する膜が形成されているので、ローレンツ力により電子放出性能が向上するとともに、仕事関数が低下する。さらに磁性材料は表面修飾膜としても安定な膜が多い。この結果、高電子放出性能を有しながらも低電圧で安定な放出性能を有するカソードが得られる。
【0083】
さらに、マイグレーション防止層、キャッピング層、や絶縁層を組み合わせた構造により、経時変化が少なく、また、酸化も起き難いカソードを得ることができる。
【0084】
(成膜方法)
次に、本発明の発光素子構造において設けられる各層の成膜方法について説明する。
【0085】
エミッタを構成する電極11、化合物層、マイグレーション防止層及びキャッピング層は、各種の物理的方法(Physical Vapor Deposition法)や化学的方法で形成できる。物理的方法としては、蒸着法、スパッタリング法、分子線蒸着法(MBE法:Molecular Beam Epitaxy法、分子線エピタキシー法ともいう。)、回転塗布法、イオンビームデポジッション法用の装置(IBD装置等を使用して)等の各種の成膜方法が挙げられる。その他の成膜方法としては、レーザーアブレーション法、、電子ビーム蒸着法(EB法)、アークプラズマガンを使用した蒸着法、イオンアシスト蒸着法、液体分子線エピタキシー法、液相エピタキシー法、ホットワイヤーセル法(エピタキシャル成長)、熱反応堆積法(RDE法:Reactiove Deposition Epitaxy法)、コンポジッションスプレッド法、窒素雰囲気レーザアブレーション法、パルスレーザ堆積法、大気圧原子層堆積法(AP−ALD法)、液体分子線クラスタ蒸着法、メッキ法、熱SiO2膜等を用いた方法、スプレー法、ディップ法(ITO法)、ゾルゲル法等が挙げられる。
【0086】
本発明の発光素子構造を構成する各種の層の成膜は、上記の方法に含まれる様々な具体的な成膜手法を採用できると共に、それらの方法に限定されない。また可能であれば上記の各種の形成方法を組み合わせてもよい。
【0087】
一例としては、例えば金属酸化物層は、圧力が制御された酸素中で対応する金属を熱蒸着することにより形成できる。金属酸化物層の厚さは、蒸発/堆積の速度及び時間によって制御することができる。蒸発/堆積の典型的な速度は、1秒当たり約0.2から1Å(Å=0.1nm)である。場合によってはイオン化したクラスタイオンビームを電気的に中性化及び/又は逆の電荷を付与した後に蒸着してもよい。
【0088】
表面修飾層の好ましい形成方法としては、真空アーク蒸着法が挙げられ、特にアークプラズマガンを使用した真空アーク蒸着法が挙げられる。この真空アーク蒸着法は、蒸着材料が導電性物質(金属、導電性無機物、カーボン等)であるという制約がある。また、アークプラズマガン(ULVAC製)を使用する際の欠点としては、大きなクラスタ(粒径がμm程度、マクロパーティクルとも呼ぶ)が混入する場合があるが、その場合にはイオンを曲げてさらに中性化及び/又はイオンのまま基板に蒸着して薄膜を形成することができる。真空チャンバーの到達圧力は1×10− 6Paであることが好ましいが、それ以下の真空度であっても動作する成膜速度は1分当たり約3.0nm〜6.0nm程度となる。この蒸着速度は、蒸着対象である基板が蒸着源から80mmの距離にあるときであり、この際、面内分布がφ20mmで±5%であるという結果が得られている。このアークプラズマガンでは、1nm以下の膜厚制御が可能であり、また、カーボンターゲットで5万回以上の放電を維持するという結果を得ている。また、表面修飾層の好ましい他の形成方法としては、スパッタ法やMBE法が挙げられる。
【0089】
成膜時又はドーピング時に数十nmサイズの大きなクラスタ(グレイン)が生成し、そのクラスタが基板上に蒸着されてしまう場合がある。このようなクラスタ(グレイン)は点欠陥として不良になる。そこで、静電場や静磁場を通過する荷電粒子が質量と電荷に依存することを利用して質量選別した後で小さな金属クラスタサイズのみ蒸着することができる。
【0090】
例えば、静電場型質量分析器、静磁場型質量分析器、二重収束質量分析器、飛行時間型質量分析器と四重極偏向器との組合せ又は四重極質量選別器等により質量選別後に基板に金属の超薄膜を形成してもよい。また、四重極偏向器などを使用してイオンビームの方向を曲げてもよい。
【0091】
また、ポテンシャルスイッチ(Potential Swithch)を用いて特定のクラスターサイズのみを選別して表面に蒸着することもできる。
【0092】
クラスタイオンはできる限り小さなエネルギーで表面に蒸着されることが望ましい。また、蒸着チャンバー内で活性ガス(酸素、水素、窒素、フッ素)を先に基板の電極表面にフローさせて、さらにクラスター発生チャンバーと蒸着チャンバーとをつなぐイオン経路に減速電極プレート(パルスレーザど同期させて減速電圧を印加する。)を設置することでイオンの減速を行ってもよい。また、クラスターの減速に限界がある場合はまた基板の角度を斜めにすることで基板に衝突するクラスターの衝撃を和らげることも可能である。クラスタの強度が弱い場合はアインツェルレンズ(Einzel Lens)、などを使用してクラスタービームを収束させてもよい。
【0093】
(アニール方法)
エミッタにアニールを施してもよい。エミッタにアニールを施すことにより仕事関数を低下させることができることがある。アニールは複数回であってもよく、その場合には層を形成する途中段階で、同一又は異なる方式でアニールしてもよい。また、上述した着磁時にアニールしてもよい。
【0094】
アニール方法としては、ビームアニール法、トランジェントアニール法又は炉アニール法等が挙げられる。アニール温度を基板の耐熱温度以下とすることが好ましい。但し、レーザアブレーション等により電極のみの局所的な加熱が可能な場合にはこの限りではない。例えば、XeClのエキシマレーザ光源を用い、ラインビームを照射した時、250〜400mJ/cm2程度である。
【0095】
(エミッタの仕事関数)
エミッタ表面における仕事関数の測定方法としては、測定装置AC−1(理研計器社製)を使用する方法や、吸収スペクトル、紫外光電子分光(UPS)、光電子分光などにより測定する方法がある。本発明で使用されるエミッタ表面の表面修飾層の仕事関数は、その絶対値が4.0eV以下、0.1eV以上であり、その絶対値が3.5eV以下、0.1eV以上であることが好ましく、その絶対値が3.0eV以下、0.1eV以上であることが更に好ましい。上記範囲の仕事関数を持つ表面修飾層は、電子放出がよいという効果がある。
【0096】
(層構造の確認方法)
本発明の発光素子構造の解析は、例えば集束イオンビーム加工装置(FIB:日立製作所製、FB−2000)により薄層の断面薄膜を作製し、その断面薄膜を透過型電子顕微鏡(TEM−EDX:日立製作所製、H−8100)により観察し、さらにX線分析法により元素分析して金属元素を分析することにより行われる。また、TEMの代わりに、走査型電子顕微鏡(SEM:日立製作所製、S−5000H)で観察する等の方法で断面を確認することもできる。」
(放射層)
放射空間は、本明細書では蛍光体および放射空間を表すものであり、例えば、放射空間としてはプラズマディスプレイパネルに使用される(プラズマ発生空間および蛍光体のある空間)や、フィールドエミッションディスプレイパネルに使用される(放電空間および蛍光体のある空間)を例示できる。
【0097】
これらの放射空間は、例えばプラズマディスプレイパネルにおいてはXeやHeに代表される希ガスであり、プラズマを発生させるためのガスを封入した空間である。フィールドエミッションディスプレイにおいては真空の空間である。放射空間の構成材料は特に限定されないが、真空、希ガス又はそれらの混合物であることが好ましい。
【0098】
(アノード電極)
アノードは、エミッタを形成した基板の対向基板(背面基板)に透明電極などの導電層で形成されており、そのアノードの上層および/もしくは下層に蛍光体層を有していてもよい。すなわち、蛍光体は放射空間の上層および/もしくは下層に位置しており、具体的には、例えばプラズマディスプレイの場合はリブ(「隔壁」ともいう)柱によって隔てられた対向基板との間に形成された放射空間に対して対向基板上に形成されたアノードの上層および/もしくは下層に形成されている。
【0099】
アノードは、好ましくは約4.5eVよりも大きい仕事関数を有する材料を含み、代表的なアノード材料としては、ITO(インジウムスズ酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)等のような金属酸化物が挙げられる。さらにアノード層としては、金属薄膜(アルミニウム、銀、白金、金、パラジウム、タングステン、インジウム、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、鉛等)、黒鉛、ドープされた無機半導体(ケイ素、ゲルマニウム、ガリウムヒ素等)を含むものが挙げられる。
【0100】
金属アノードは、放射空間から放射される光に対して半透明となるように、その厚さは十分に薄い。
【0101】
アノードは、発光素子を構成する薄膜アノードの形成に適用される技術で作製され、代表的なものは前述した通りである。そうした作製技術では、例えば純粋な金属、合金又はその他の被膜前駆物質が使用される。典型的には、アノード層は約100nm〜2000nmの厚さである。
【0102】
(封着)
本発明においてエミッタ側の基板とアノード側の基板を貼り合わせる(「封着」と呼ぶ)には、ガラスセラミックス組成物が使用され、430〜500℃で5分〜1時間程度の加熱で、PDP用ガラス基板を封着した。
【0103】
(電極作製方法及び表面処理方法)
表面処理による表面修飾層の形成方法としては、例えば、▲1▼Si基板の(100)面にHfN(結晶方位(100)面)をレーザースパッタ蒸着法により成長させ、その上にCu膜を500nm及びCr膜を100nmで表層にエピタキシャル成長させて電極を形成する。その上に酸素雰囲気下でZrターゲットをレーザースパッタして質量選別によりZr単体の正イオンのみで蒸着薄膜を10nm形成する。その際に、基板に外部コイルからパルス磁界を発生させてZr酸化膜の配向を制御する。このようにして電極及び表面修飾層を形成することができる。以上の表面処理により電極の仕事関数が2.9eVまで低下する。
【0104】
また、他の方法としては、▲2▼ガラス基板上に、スパッタ法によりクロムを膜厚500nm形成して電極とし、さらにその上層に100nmのタングステン薄膜を形成する。その後、酸素雰囲気下でスパッタ法によりZr薄膜を形成する。その際に、基板表面にパルス磁界を発生させることによりZr酸化膜の配向を制御する。以上の表面処理により電極の仕事関数が2.7eVまで低下する。
【0105】
(表面分析方法)
以上のように作製した表面修飾層は、収束イオンビーム加工(FIB)マイクロサンプリング法により作製された試料を、TEM(透過型電子顕微鏡)及びEDX(X線元素分析装置)により元素分析することで確認できる。また、AGE(オージェ分析)により表面からZr及び酸素のピークが検出されることにより判別できる。さらにはTOF−SIMSやDynamic−SIMS等の分析により元素を分析できる。その他の分析方法としてはSEMやESCA、XPS、AES等も使用できる。
【0106】
(PDP、FEP)
以下に、本発明の放電発光素子構造の適用例について説明する。図6は、直流駆動のカラープラズマディスプレイパネルの発光素子に適用した例であり、図7は、フィールドエミッションディスプレイデバイスの発光素子に適用した例である。
【0107】
図6は、本発明の電界電子放出素子の一例である直流駆動のカラープラズマディスプレイパネルの一部を示した断面図である。
【0108】
PDP91は、それぞれ赤色、緑色、青色を表示する複数の画素から構成され、各画素は、透明な上基板92と下基板93との間に設けられた格子状又はストライプ状の障壁101により区分けされている。下基板93上には補助エミッタ電極94が各画素の中央に配置されている。冷電子放出性電極である補助エミッタ電極94は、W、Y、Ni、Cr、Al、Mo、Agの中から少なくとも1つ選択される導体からなる電極層95と、電極層95上に形成された表面修飾層96と、から構成されている。補助エミッタ電極94の周囲には、データ電極97が電極94と離間して配置されている。補助エミッタ電極94を中心としたデータ電極97の外側方向にはアモルファスシリコン等の電流制御膜98が配置されている。また、電流制御膜98のさらに外側には冷電子放出性電極であるエミッタ電極102が配置されている。エミッタ電極102は、W、Y、Ni、Cr、Al、Mo、Ag、V、の中から少なくとも1つ選択される導体からなる電極層103と、電極層103上に形成された表面修飾層104と、から構成されている。電流制御膜98は、エミッタ電極102のスパッタを抑制するため、電流を制限している。電流制御膜98の抵抗は、膜厚、長さ、アモルファスシリコン中に添加される不純物等により設定される。
【0109】
また、下基板93上には、補助エミッタ電極94の表面修飾層96とエミッタ電極102の表面修飾層104を除く全面に絶縁膜105が設けられている。補助エミッタ電極94の周囲の絶縁膜105上には、補助障壁106が形成されている。障壁101及び補助障壁106は、各画素毎に、赤色に発光する蛍光体107R、緑色に発光する蛍光体107G、青色に発光する蛍光体107Bがそれぞれ設けられている。蛍光体107Rとしては、(Y,Gd)BO3:Eu3+,Y203:Eu3+,があり、蛍光体107Gとしては、Zn2SiO4:Mn,BaAl12O19:Mnがあり、蛍光体107Bとしては、BaMgAl14O23:Eu2+,SrMg(SiO4)2:Eu2+がある。
【0110】
上基板92には、各画素に応じて、赤色に分光するカラーフィルタ111R、緑色に分光するカラーフィルタ111G、青色に分光するカラーフィルタ111Bが設けられている。カラーフィルタ111R、111G、111Bの表面には、ITOからなる透明電極112が設けられている。また、上基板92と下基板93と障壁101に囲まれた空間には、He、Xeを含む希ガス113が封入されている。
【0111】
上記PDP91の駆動方法については、第1に、透明電極112と補助エミッタ電極94との間に所定の電圧を印加することにより補助プラズマを発生させる。第2に、各画素には表示に応じたデータ電圧がデータ電極97に印加され、電流制御膜98から制御された電流がエミッタ電極102に流れる。エミッタ電極102と透明電極112との間には、補助プラズマの補助により、プラズマがすばやく発生する。このプラズマにより希ガスからの紫外線が発生し、紫外線が各画素の蛍光体に当たり、所定の波長域の光を発光し、上基板92を透過して表示される。
【0112】
図7は、本発明の電界電子放出素子の一例であるフィールドエミッションディスプレイデバイスの一部の断面図である。FED121は、それぞれ赤色、緑色、青色を表示する複数の画素から構成され、各画素は、互いに離間して配置された透明な上基板122と下基板123との間に格子状或いはストライプ状の障壁により区分けされている。下基板123上には、輝度データ電圧が印加されるデータ電極124が設けられ、そのデータ電極124の上には、アモルファスシリコンからなる電流制御膜125が形成されている。電流制御膜125の上には、1画素につき、約2000程度の数の円錐状のスピント電極であるエミッタ126が設けられている。
【0113】
エミッタ126は、円錐状のW、Y、Ni、Cr、Al、Mo、Agなどの中から少なくとも1つ選択される電極層127と、その表面に設けられた表面修飾層128とから構成される。各エミッタ126は、隣接するエミッタ126と絶縁膜129を介して配置されている。絶縁膜129上には、エミッタ126上が開放しているゲート電極130が設けられている。電流制御膜125は、エミッタ126のスパッタを抑制するため、電流を制限している。電流制御膜125の抵抗は、膜厚、長さ、アモルファスシリコン中に添加される不純物等により設定することができる。
【0114】
上基板122には、エミッタ126との対向面にITOからなるアノード電極の透明電極131が設けられており、透明電極131の表面には、赤色に発光する蛍光体132R、緑色に発光する蛍光体132G、青色に発光する蛍光体132Bがそれぞれ設けられている。
【0115】
上記FED121の駆動方法については、先ず、透明電極131とデータ電極124との間に各画素に応じたデータ電圧が印加される。データ電極124からは、電流制御膜125を介して制御された電流がエミッタ126の電極層127に流れる。色表示する画素のゲート電極130には選択電圧が印加され、ゲート電極130により選択されたエミッタ126は、データ電圧に応じてエミッタ126の先端の表面修飾層128から電子が放出される。
【0116】
放出された電子は、所定の電圧が印加された透明電極131の方に寄せられていく。このため電子は、この透明電極131の表面にある蛍光体132R、132G、132Bに当たり、蛍光体132R、132G、132Bが可視光を発光して、可視光が透明基板(上基板122)を透過してカラー表示される。上記FED121は、その表示面側に光シャッターとしての液晶パネルを設けてもよい。液晶パネルを設けることにより、細かい階調表示を行うことができる。
【0117】
以上、本発明の発光素子構造の適用例について説明したが、本発明の発光素子構造は、上記のほか、他の例においても適用可能である。
【0118】
【実施例】
以下、本発明の電界電子放出素子においてプラズマディスプレイ素子を例にとり実施例と比較例を挙げて本発明の電界電子放出素子用のカソードおよび電界電子放出素子についてさらに具体的に説明する。
【0119】
(実施例1)
本実施例のプラズマディスプレイ素子は、図1に示すように、基板側から、Moスピント電極とその表面に形成したPtCo表面修飾層とからなるエミッタ(電子放出電極)、放射空間により構成された素子である。
【0120】
表面修飾層は、スパッタ装置(ヘリコンスパッタ装置)で成膜した。クラスター成長室内のチャンバー内圧力は3×10−4Paであり、パルスレーザの発振器としてQ−スイッチNd:Yagレーザ(Q−switched Nd:Yag laser(Spectra Physics DCR−11))の二倍波(532nm)を使用し、回転及び並進させたターゲットにレーザを集光した。そのパルスレーザーを30nsパルス幅で照射し、ターゲットをアブレーションした。レーザの繰り返し周波数は10Hzとした。ターゲットにはPtCo合金を用いた。クラスター成長に関わる方法は、J.P.Bucher,Rev.Sci.Instrum.63,5667(1992)等に記載されている。使用する基板としては、TFTを各電極のスイッチング素子として配置し、電極にはクロムを使用し、シャドーマスクを介してクロムで構成した電極部分にのみ表面修飾を行った。このようにして形成したカーボン薄膜の膜厚は15nmであった。
【0121】
前記のガラス基板上に、MoスピントとPtCo表面修飾層とからなるエミッタ(電極)を形成した。その後、アノード(透明電極)、蛍光体およびリブ(隔壁)などが形成された基板(「背面基板」とも呼ぶ)をHe、Xeなどのガス中で重ねあわせて封止した。その結果、長寿命で、高輝度、高電子放出効率の本発明の電界電子放出素子を作製することができた。このときエミッタ表面の仕事関数が1.8eVであった。
【0122】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が8V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で40μAであった。
【0123】
(実施例2)
本実施例のプラズマディスプレイ素子構造および作成法は実施例1とほぼ同様であるが、本実施例では、表面修飾層に欠陥部分を有するPtCo合金からなるエミッタ(電子放出電極)を使用したプラズマディスプレイ素子である。
【0124】
欠陥部分を前記のガラス基板上に、実施例1と同様にMoスピント電極とCoPt表面修飾層とからなるエミッタ(電極)を形成した。そのエミッタに正電荷に帯電させたアルゴンクラスターの正イオンにより形成されたクラスタービームを照射することで欠陥作成を行った。このときのビームの衝突エネルギーは1keV、イオン電流16nA、ビーム径350μm、入射角度55°、試料温度300℃とした。このようにして作製したエミッタを有する基板にアノード(透明電極)、蛍光体およびリブ(隔壁)などが形成された基板(「背面基板」とも呼ぶ)をHe、Xeなどのガス中で重ねあわせて封止した。その結果、長寿命で、高輝度、高電子放出効率のプラズマディスプレイ素子を作製することができた。
このときエミッタ表面の仕事関数が1.6eVであった。
【0125】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が10V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で36μAであった。
【0126】
(実施例3)
本実施例のプラズマディスプレイ素子構造および作成法は実施例1とほぼ同様であるが、本実施例では、表面修飾層にSmCo合金からなるエミッタ(電子放出電極)を使用したプラズマディスプレイ素子である。
【0127】
その結果、長寿命で、高輝度、高電子放出効率の本発明の電界電子放出素子を作製することができた。このときエミッタ表面の仕事関数が1.4eVであった。
【0128】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が8V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で40μAであった。
【0129】
(実施例4)
本実施例のプラズマディスプレイ素子構造および作成法は実施例1とほぼ同様であるが、本実施例では、表面修飾層にPtCo合金からなるエミッタ(電子放出電極)を形成し、その下層(すなわち表面修飾層と電極層との間)にマイグレーション防止層としてTi層を10nmの厚さで形成したカソードを使用したプラズマディスプレイ素子である。
【0130】
その結果、長寿命で、高輝度、高電子放出効率の本発明の電界電子放出素子を作製することができた。このときエミッタ表面の仕事関数が1.9eVであった。
【0131】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が12V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で30μAであった。
【0132】
(実施例5)
本実施例のプラズマディスプレイ素子構造および作成法は実施例1とほぼ同様であるが、本実施例では、表面修飾層にPtCo合金からなるエミッタ(電子放出電極)を形成し、その上層(すなわち表面修飾層と放電空間との間)にキャッピング層としてMo層を10nmの厚さで形成したカソードを使用したプラズマディスプレイ素子である。
【0133】
その結果、長寿命で、高輝度、高電子放出効率の本発明の電界電子放出素子を作製することができた。このときエミッタ表面の仕事関数が2.0eVであった。
【0134】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が12V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で30μAであった。
【0135】
(実施例6)
本実施例のプラズマディスプレイ素子構造および作成法は実施例1とほぼ同様であるが、本実施例では、表面修飾層としてPtCo合金を厚さ1.3μmとなるようにエミッタ(電子放出電極)を形成し、表面修飾層の上層(すなわち表面修飾層と放電空間との間)にキャッピング層としてMo層を10nmの厚さで形成し、表面修飾層の下層(すなわち表面修飾層と電極層との間)にマイグレーション防止層としてTi層を10nmの厚さで形成したカソードを使用したプラズマディスプレイ素子である。
【0136】
その結果、長寿命で、高輝度、高電子放出効率の本発明の電界電子放出素子を作製することができた。このときエミッタ表面の仕事関数が2.1eVであった。
【0137】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が12V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で30μAであった。
【0138】
(実施例7)
本実施例のプラズマディスプレイ素子構造および作成法は実施例1とほぼ同様であるが、本実施例では、電極層をCuのエピタキシャル成長膜で、さらに電極層の表面に表面修飾層であるSmCo合金を層の厚さが1.3μmとなるようにエピタキシャル成長で形成したエミッタ(電子放出電極)を使用したプラズマディスプレイ素子である。
【0139】
その結果、長寿命で、高輝度、高電子放出効率の本発明の電界電子放出素子を作製することができた。このときエミッタ表面の仕事関数が0.9eVであった。
【0140】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。
)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が12V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で30μAであった。
【0141】
(比較例1)
本比較例のプラズマディスプレイ素子構造および作成法は実施例1とほぼ同様であるが、本比較例では、表面修飾層に酸化イットリウム膜を蒸着法もしくは電子ビーム法により層の厚さが1.3μmとなるように形成し、その後で表面を酸化処理して電界電子放出素子用のエミッタを形成した。
その結果、低寿命で、低輝度、低電子放出効率のプラズマディスプレイ素子しか作製できなかった。低仕事関数のエミッタの再現性も悪く、仕事関数はMoの仕事関数である4.1eVであることが多かった。
【0142】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が12V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で30μAであった。
【0143】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の発光素子構造によれば、表面修飾層により電極の仕事関数を低減することができ、効率的な電子放出を行うことができる。また、従来不可能とされた高温プロセスでのエミッタの形成が可能となり、種々の金属、金属化合物又は無機化合物を安定に保持できるために安定性の高いエミッタを形成できる。その結果、表面修飾層が有機層(放射空間等)へのマイグレーションすることを防止でき、信頼性の高い電界電子放出素子(プラズマディスプレイ素子、フィールドエミッションディスプレイ素子、液晶表示装置のバックライトなど)を作製できる。
【0144】
また、磁気異方性により表面分極した表面から電子を引き出しやすくし、仕事関数を低下させることができる。また、表面修飾層に格子欠陥部分を形成し、その部分に金属化合物をドープすることで表面形状の制御が容易となり、欠陥除去できると同時に表面から数十nm程度の極めて浅い表面に局所的な高濃度のドーピング層を形成することが可能になる。
【0145】
また、欠陥を意図的に制御して元素を配向させることにより、表面修飾層の表面から数十nm程度の極めて浅い表面に局所的で規則的な空格子を形成することができる。その結果、電子の放出性能を向上させることができる。例えばアルゴンイオンを照射することで規則的な欠陥を作ることができ、欠陥以外の原子について配向を制御することとなり、その結果表面の仕事関数を低下させることも可能となる。
ここで発明とは無関係であるが、以下で、4,4’−Bis(Carbazol−9‐yl)−biphenyl(以後「CBP」と呼ぶ)およびN,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(α−NPD、N,N’−Di(naphtalen−1−yl)−N,N’−diphenyl−benzidine)における違いについて説明するとともにCBPの中心部にあるビフェニルの効果およびα−NPDとCBPの最大の違いである末端基(末端基とはビフェニルのニ価基に接続している基を指す)(CBPがカルバゾール基、α―NPDがトリアミンを形成する窒素原子とその窒素原子に直接接続したベンゼンとナフタレンの一価基)の働きの違いついて以下に詳細に説明する。
[抵抗の測定方法]
以下でCBPやα−NPDなどに代表される有機薄膜の抵抗の測定方法を詳細に説明する。
抵抗測定用の試料は、先ず、ガラス基板上にパターンニングしたITO電極に、図4で使用する試験用素子基板上に真空中で蒸着によりアルミナ製のるつぼのなかに有機層の成分粉末(CBPなど)を入れて加熱し、その上層に配置したITO基板に蒸発した有機成分を蒸着することで有機薄膜を約50nmの膜厚で作製することにより抵抗測定用の有機層を形成する。
そして有機層の上に電極としてAlを厚さ200nm×4mm□(縦4mm×横4mm)となるように蒸着して、図5に示す断面形態からなる試験用素子基板とする。
【0146】
抵抗率は、作製した抵抗測定用の有機層の抵抗を測定し、上記の膜厚と電極面積を用いて抵抗率を算出する。抵抗測定は、図4に示すように、測定用の基板と、黒と赤のテストリードとを接触させて行う。このとき、テストリードの先端をワニ口クリップに接続し、そのクリップで接触させて測定可能である。
【0147】
低電圧側(1.3V付近)での抵抗値測定は、株式会社カスタム社製のDIGITAL MULTIMETERでMODEL:CDM−2000Dを用いても測定でき、前述の方法と同じ測定値が得られる。
また、抵抗値の電圧依存性は、ADVANTEST社製のR8340 ULTRA HIGH RESISTANCE METER及び/又はシールドとしてHEWLETT PACKARD社製の16055A TEST FIXTUREを使用して各電圧での電流値を測定することでも抵抗値を測定することができる。
【0148】
測定は、プローブ端子として2台のテストポジショナーであるMODEL:XYZ−500−TIM(QUARTER RESEARCH & DEVELOPMENT社製)を使用し、タングステン製のテストニードル(幅5μm)を顕微鏡で観察しながら、露出した画素部の電極と蒸着により作製した電極とにそれぞれ接触させる。そこから配線を引き、その末端をワニ口クリップでテスタのテストリード又はR8340 ULTRA HIGH RESISTANCE METER(ADVANTEST社製)のV SOURCEとグラウンドにそれぞれ接続する。配線抵抗は通常0.1Ω以下となり、測定する有機層の抵抗値と比較して十分小さく、測定誤差以下である。
【0149】
このようなニ端子法によって有機層の抵抗は十分に測定できる。また、これら有機層の測定を四端子法ですることは困難であるし、実験としてなんら意味がないといえる。
【0150】
[ドナー分子とアクセプター分子の見分け方]
ドナー分子とアクセプタ−分子を見分けるにはフルオレン系高分子の共重合体としてその分子がフルオレンの隣接したニ価基として組み込まれた導電性高分子についてその蛍光波長を見ればすぐにわかる。具体的なメカニズムを述べると、フルオレン系の高分子は主にフルオレン部分で光を吸収するため蛍光波長より短波長である。しかし蛍光波長はフルオレンと接続した2価基の電子吸引性により変化が大きい。すなわち電子吸引性が大きいほど蛍光波長は長波長側へシフトしやすい傾向がみられる。
【0151】
このことはフルオレン系高分子の吸収波長が共重合体によらずほぼ一定値(約380nm)であることからも明らかである。これは電子吸引性基が隣接するとLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)の電子軌道を伸ばすことでフルオレン部中心に電子軌道が分布したHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)との間で再結合が起きることを意味している。
【0152】
特に今回のα−NPDとN,N−Bis−(3−methylphenyl)−N,N−bis−(phenyl)−benzidine(以後「TPD」と呼ぶ)の置換基となっているビフェニル、ベンゼン、ナフタレンの置換基の電子吸引性はADS130(蛍光波長420nm)とADS134BE(フルオレンに隣接する2価基:アントラセンの2価基、蛍光波長437nm)とADS145UV(フルオレンに隣接する2価基:キシレンの2価基、蛍光波長405nm)とADS148BE(フルオレンに隣接する2価基:ベンゼンの2価基、蛍光波長420nm)、ADS135BE(フルオレンの隣接する2価基:TPDに近い構造の二価基、蛍光波長416nm)もしくはADS138BE(フルオレンの隣接する2価基:カルバゾールの二価基、蛍光波長416nm)もしくはADS250BE(フルオレンの隣接する二価基:窒素が直接接続した二価基、蛍光波長426nm)とを比較し、さらにADS080BE(中心部にビフェニルのニ価基を含む、蛍光波長433nm)、ADS081BE(中心部にナフタレンのニ価基を含む、蛍光波長451nm)、および、ADS086BE(中心部にフルオレンのニ価基を含む、蛍光波長474nmおよび573nm)とを比較することで判断できる。(ちなみに「ADS」とはアメリカンダイソース社の略称であり、商標である。)
すなわち電子吸引性の程度は蛍光波長からフルオレン、ナフタレン、カルバゾール、ベンゼン、(メチルベンゼンとビフェニル)の順に小さくなると推測される。
【0153】
メチルベンゼンはメチル基の超共役効果により電子供与的になっているものと推測される。また共役系が長くつながると電子の分子軌道がエネルギー的に安定化するので電子吸引性が強まると考えられる。
【0154】
また、強烈に電子吸引性の強いチアゾールを隣接基としてもつフルオレン例えばADS133YEは吸収波長が分裂する(313nmと443nm)。これはフルオレン分子内の電子軌道がチアゾール基にが引っ張られるため、フルオレンのLUMO(313nm)の他にもう1つフルオレンとチアゾールにより混成軌道として安定なLUMOが形成されたためにフルオレンのHOMOからチアゾールLUMOへの電子移動による吸収波長(443nm)が新たに発生したと考えられる。すなわち、チアゾールにフルオレンの電子が電子吸引された結果、吸収波長に2つのLUMO電子軌道の安定点が形成されたことを意味する。
【0155】
さらにこうした効果は逆にフルオレン部ではチアゾールの電子吸引効果により外場と同じ効果がフルオレン分子に発生し、その結果、シュタルク効果と類似した効果と考えれば縮退したLUMOの軌道が分裂した影響とも見ることもできる。
【0156】
他方、導電性高分子において蛍光波長が分裂するのは主に溶液ではなくフィルムに見られることから分子間のπ電子共役のエキシマー形成による影響による可能性が高いと考えられる。すなわちフルオレンへ電子が戻る再結合の機構ともう一つの再結合の機構である分子間でのホッピング伝導による再結合機構とが共存しているため、その結果、蛍光波長が2つになると考えられる。
以上の観点を踏まえて、以下にTPD、α―NPDとCBPの分子構造に起因した物性面および性能面での違いを詳細に説明する。すなわち物性面から分子構造およびその機能について考察した結果である。
【0157】
[実験事実1]
本発明の発明者は以下の事実を発見した。(1)まず第一にCBPはα−NPDに比べて導電性が一桁高い。(2)第二にCBPはα―NPDと比較して安定性に劣る(CBPは蒸着後、半日で白濁(結晶構造の崩壊、パッキングの開放)を生じるがα−NPDは1ヶ月〜2ヶ月で白濁のスポットを生じる。1ヶ月もすればCBPは全面が白濁する。)(3)α−NPDは50nm膜厚に15V以上の電圧を印加すると膜が破壊するが、CBPでは30V印加しても壊れない(α−NPDの方がCBPよりも耐電圧性が低い)。さらにTPDも3〜15Vの電圧で膜が破壊する。
【0158】
上記のことは以下のことを示していると容易に考察できる。
[平面分子の抵抗値が意外に高く、CBPやα−NPDなど平面でない分子の抵抗が意外に低い理由]
α−NPDやCBPは平面分子と比べて一見、分子間でのπ電子の重なり合い(パッキング)のしやすくない構造に思える。しかしカルバゾール部分単独のみでは十分な導電性が得られない可能性が高い。例えば、ペリレンやトリフェニレンなどの平面分子の抵抗値がCBPの3桁程度高く(1010Ω・cm程度)、高分子なみに抵抗値が高いことから蒸着では完全なパッキングが起きておらず、そのため導電率が低いと考えられる。これがペリレンのような平面分子がOLEDとしてメジャーでない理由と思われる。
【0159】
この原因としてまず第一に(1)平面分子(トリフェニレンなど)では電荷のかたよりがないため分子内ドナーと分子内アクセプターが存在しないことからファンデルワールス力による分子間凝集力が発生しないためにπ電子共役に必要な分子間距離(Adv.Mater2002,14,No10、May17,p726で記載されるようにトリフェニレンでは3.5〜3.7Åといわれる)より熱や電圧の影響で広がりやすくため分子間でのホッピング伝導が起きにくい分子構造であること。第二に(2)平面分子は分子の平面に沿う方向に対する熱や電界によって生じる分子振動が起きやすいので膜にとしての耐電圧性や経時安定性に劣るといった原因が挙げられる。
【0160】
[(1)分子間ファンデルワールス力の証明=Tg温度および揮発温度]
このことはTg温度がTPD(65℃)よりα−NPD(96℃)の方が高いこともナフタレンの一価基とメチルベンゼンの一価基との立体回転のしにくさを示唆しており、さらに揮発温度がTPD(430℃)よりα−NPD(500℃)の方が高いことから凝集力がTPDよりα−NPDの方が大きいことを示唆している。
【0161】
さらに、凝集力としてはTPDやCBPよりα−NPDの方が強い。これはTPDの分子内ドナーが2−メチルベンゼンの一価基であり、分子内アクセプターがベンゼンの一価基であるのに対して、α−NPDでは分子内ドナーがベンゼンの一価基であり、分子内アクセプターがナフタレンの一価基である。この場合は前述した吸光度のデータからナフタレン一価基と2−メチルベンゼンの組合せよりもナフタレンの一価基とベンゼンの一価基との組合せの方が大きなドナー分子とアクセプター分子との間でのファンデルワールス力を生じていると予想される。
【0162】
このことが膜にしたときの凝集力の差となる。このためα−NPDはTPDよりも凝集力が小さい原因となっている。このことはα−NPDの蒸着膜に水を滴下しても膜が破壊されないのに対してTPDの膜が水の滴下によって容易に破壊されることからも容易にわかる。
【0163】
[(2)CBPおよびα−NPDの白濁するまでの時間が異なる理由]
以上のことはCBPにおけるビフェニル部やα−NPDの窒素原子に隣接したナフタレンの一価基(アクセプター)およびベンゼンの一価基(ドナー)との関係および立体回転により分子間凝集力とともに立体回転により分子間の置換基の絡み合いが生じるため白濁しにくく、膜の安定性が向上すると思われることから容易に類推できる。この事実はビフェニル部に置換基としてアルキル基などを導入し、ビフェニル基部分の立体回転角をねじった構造のCBP誘導体を作製して蒸着により膜を形成すると白濁を生じにくくなることも以上の事実を証明している。すなわち、CBPにおいては白濁した膜は劈開することからグラファイトと同じ平面構造であると考えられる。すなわち平面構造になることにより劈開が生じると思われる。すなわち時間がたつにつれて中心部のビフェニルの立体回転が平面構造を取ることにより白濁(結晶化)が生じるものと考えられる。そのためビフェニル基にメチル基を導入して立体回転により平面構造を取り難くしたCBP誘導体では結晶化が生じなかったのも同様な理由と考えられる。但し、ビフェニル部の2つベンゼン部がねじられることでsp3窒素原子の電子対の軌道と共役がつながりにくくなり、その結果、ビフェニル部分の正孔発生が抑制され、導電性が低下する。
【0164】
また、白濁のもうひとつの理由について以下に説明する。例えば、α−NPDを分子模型で組み立てた時の写真を図8に示す。窒素原子の周囲で置換基同士の立体構造が複雑に絡み合い、立体障害を生じている。特に窒素原子に直接結合している一価のナフタレン基において8位の炭素に接続する水素基と同じ窒素原子に直接接続した一価のベンゼン基の水素が衝突するほど接近できる分子構造になっている。このことがsp3窒素原子における立体構造の反転を防止している。立体反転が起きない分だけ結晶構造が安定し、その結果、α―NPDの方がCBPより膜の白濁が起き難いものと考えられる。α−NPDがこのような平面構造をとることはα−NPDの厚膜も劈開することから容易にわかる。
【0165】
さらに例えばCBPは2分子のカルバゾール部がビフェニル部分で接続されているために分子間で若干の噛み合わせが生じ、その結果、平面分子と比較して結晶構造が乱れにくく、高い温度まで結晶構造が維持され、その結果、幅広い温度領域、電圧領域で電気的特性が安定することが、現在α−NPDやCBPが低分子OLEDにおいて最高性能を出している理由と考えられる。すなわち、ビフェニル部のパッキングにより膜全体のTgが向上し、低分子膜の熱や電圧や電流に対する耐久性が向上し、膜自体の信頼性が向上したと考えられる。
【0166】
さらにα−NPDが平面分子ではないにもかかわらず導電性が107Ω・cmと高い理由としては、ナフタレンの一価基が立体回転することで図9、図10に示す2つの分子構造をとることができるため、これら2つの状態が交互に重なることでドナーアクセプタ効果と同様な分子分極が生じた結果、結晶状態が安定化(凝集力が向上)するとともに分子間のパッキングが全方位に及ぶことにより導電性が向上すると思われる。この現象はトリフェニレンにおいても60°回転して交互にパッキングするときにLUMOとHOMOのバンドギャップが最小になり、導電性が最も高い状態になることからも容易に推測される(Adv.Mater2002,14,No10、May17,p726参照)。すなわち全方位に共役結合がつながる形でパッキングが起き、ドナーとアクセプターの効果で凝集力が向上する。
【0167】
[α−NPDの弊害1=耐電圧性の低下]
しかし、その弊害としてα−NPDは耐電圧性すなわち絶縁破壊性能をCBPより低下させることとなった。これはナフタレンの二価基のようにかさ高い基が立体回転することにより容易に分子間距離が広がり、その結果、膜の破壊が起きやすくなったと考えられる。すなわちCBPはα−NPDより平面構造で分子のかさが少ない分、sp3窒素原子が反転した際の影響が少なかったため耐電圧性能に優れていたと考えられる。
【0168】
このことはCBP、α−NPD、TPDおよびバソフェナントロリンの蛍光スペクトルを測定した結果からも証明できる。すなわち、CBP、α−NPDおよびTPDとも蛍光を発生するがバソフェナントロリンは蛍光を発しないことから、従って、sp3窒素原子が再結合中心である。そのため、図に示すように窒素と芳香族環とがポーラロンを生成する際にsp2となるが、再結合した後でsp2からsp3に戻る際に立体構造が反転する。すなわち、トリアミン系の電荷輸送材は電圧や熱により立体構造が反転する際に膜の結晶状態が崩壊し、膜が白濁したり、電圧により絶縁破壊したりすると推測される。
【0169】
逆にCBPの中心部にあるビフェニルが立体回転によりパッキングするため、平面方向の力に強くなるため、パッキングにより耐電圧性に優れた膜が形成可能であるものと考えられる。またα−NPDと比較しても末端基が大きい分だけ立体回転に対するエネルギー障壁が大きくなるため耐電圧性能も向上する。
【0170】
[α−NPDの弊害2=導電率の低下]
しかし、α−NPDの弊害として末端のベンゼンの一価基とナフタレンの一価基の立体回転により分子間でのπ共役電子における波動関数の重なり合いの大きさ(以後「パッキング性」と呼ぶ)が低下した結果、CBPのように末端がカルバゾールのような平面分子のようなパッキングしやすい分子構造を持つ分子と比べて分子間でのホッピング伝導性が低下し、その結果、電気伝導性能がCBPより低下したと思われる。
【0171】
ただ、α−NPDは窒素原子に結合する基として電子吸引性基と電子供与性基を両方含むので、各部分の芳香族部分のHOMOとLUMOの違い、すなわち電子吸引性基と電子供与性基との違いにより分子平面同士の重なり合いを生じやすく、さらにパッキングした際に分子内分極によりある程度高い導電性(導電性高分子より2桁ほど上の伝導度)が得られる。
[α−NPDの分子内ホッピング伝導]
さらに、α―NPDの分子模型から立体回転することで窒素原子の周囲にあるナフタレンの一価基とベンゼンの一価基もしくはビフェニル部のベンゼンの2価基と六角形に近い構造を形成できる。このためナフタレンの一価基とベンゼンの一価基もしくはビフェニル部のベンゼンの2価基とが再接近した際に電子の移動すなわち分子内でホッピング伝導が起きる(以後「分子内ホッピング伝導」と呼ぶ)ものと思われる。
【0172】
すなわち、中心部のビフェニル2価基のベンゼン部分の3位もしくは5位の水素基および窒素原子の直接接続したベンゼンの一価基の2位もしくは6位の炭素についた水素基と窒素原子に直接接続したナフタレンの一価基における8位の炭素についた水素基とが立体回転により再接近すると立体障害を受けることがわかる。すなわちこれら炭素が立体回転などで再接近した際にπ電子共役結合が瞬間的につながり、その結果、電子がナフタレン部からベンゼン部へ分子内ホッピング伝導しているものと考えられる。
【0173】
[分子内ホッピング伝導による吸収スペクトルの変化]
以上で述べた分子内ホッピング伝導は図6に示すCBP、TPD、α−NPDの吸収スペクトルからも証明できる。すなわち、CBPの吸収極大波長は320nm(カルバゾール部分の吸収)と293nm(ビフェニル部分の吸収)の2つが観測され、TPDも350nm(窒素原子に接続する一価基のベンゼンおよび2メチルベンゼンによる吸収)と307nm(ビフェニル部分の吸収)の2つが観測されるが、α−NPDのみ338nmにある吸収(おそらくナフタレン部分の吸収)が顕著であり、ビフェニル部分の吸収がCBP、TPDと比べて小さく顕著でないことがわかる。これは光を吸収する際に窒素原子に直接接続したナフタレンの一価基が立体回転することでナフタレンの一価基とビフェニル部とで電荷が循環(分子内ホッピング伝導)するためにビフェニル部の吸収が不明瞭になったと考えられる。
【0174】
[蛍光スペクトルからの考察]
図7にて同モル濃度(THF中)もしくは同膜厚でCBP、α−NPD、TPDの蛍光強度を比較した。実践が同濃度の溶液での蛍光であり、点線が膜の蛍光である。このとき溶液での蛍光強度はCBP、TPD、NPDの順番に小さくなることを本発明の発明者は発見した。この実験結果の原因としてα−NPDは窒素原子にナフタレンの一価基が接続しているので、ナフタレンの一価基の立体回転により窒素原子に接続したベンゼン基との間で分子内ホッピング伝導により分子内を電荷(正孔と電子)が循環できる分子構造であるため再結合に必要な正孔と電子が出会う確率が減少するため分子内で再結合しにくくなったものと考えられる。一方TPDやCBPはナフタレンの一価基ような分子内ホッピングに必要な一価基を窒素原子に有さない構造であるため、分子内ホッピング伝導が起きないため再結合確率が高く、蛍光強度が強くなるものと考えられる。特にTPDの窒素原子にベンゼンのような小さな置換基しか接続していないためα−NPDのように分子内ホッピングが生じない分、分極した際に電荷の存在確率が局在しているため再結合の確率が高まるためと考えられる。
【0175】
また、溶液と膜の蛍光を比較するとTPD(膜423nm、溶液426nm、シフト量3nm)、α−NPD(膜450nm、溶液450nm、シフト量0nm)では溶液中と膜での蛍光波長がほぼ一致するのに対してCBPは溶液中(蛍光波長383nm)よりも膜(蛍光波長393nm)の方が蛍光波長として10nmと大きく長波長側へシフトする。これはCBPのカルバゾール部分が平面構造であるため分子間でパッキングしやすいためにフルオレン系の導電性高分子見られる現象と同様にCBP分子間でのパッキングの効果により蛍光波長が長波長側へシフトしたことを示している。
【0176】
これに対してNPDやTPDは窒素原子にベンゼンの一価基やナフタレンの一価基があり、これらは分子のかさが小さく立体回転しやすい(立体回転に対するエネルギー障壁が小さい)ために分子構造としての平面性が低くなりパッキング性が低下するため分子間での再結合が生じにくいため分子間再結合でなく分子内再結合が優勢となり、その結果、膜にしたときの蛍光波長のシフト量が少なく、ほぼ溶液中(一分子)での蛍光波長と一致したものと思われる。
【0177】
さらにα−NPDはTPDより蛍光極大波長が長波長側にある上、同濃度での蛍光強度も極端に小さい。これはTPDでは分子内ホッピング伝導が起きないために電荷が狭い範囲に局在しやすく再結合確率が増加したためである。それに対してα−NPDはナフタレン部の共役結合が長いとともに、ナフタレンからベンゼンへの分子内ホッピングの影響で電荷が局在せず、分子内を分散し循環するために再結合確率が低下するとともに電荷が分散する際にLUMOの軌道が低エネルギー側にシフトするためにTPDよりも蛍光極大波長も長波長側へシフトする。α−NPDの蛍光波長は450nmと三種類の低分子の中でも最も長波長側である。すなわち分子内で電荷がホッピング伝導していることを示す証拠である。
それに対してTPDは蛍光波長423nmと低波長側にある。これは分子内ホッピングが起きないために電荷が分子の一ヶ所に局在してLUMOが高エネルギーなエネルギー準位となるためである。
【0178】
[吸収波長および蛍光波長と電荷輸送性、分子振動との関係]
一般に吸収エネルギーと蛍光により放出されるエネルギーとのエネルギーさは分子の回転運動や分子振動により熱エネルギーとして外部に放出されることとなる。従って、導電性の良い低分子は電子や正孔の運動エネルギーへの変換効率が高いはずである。すなわち蛍光波長λPLとして吸収波長λAbsとするとh(1/λAbs−1/λPL)が小さいことが望ましい。この計算よりCBPはNPDと同等(約1.1eV)であり、TPDがエネルギー的にはやや優位である(0.9eV)。ただ、TPDは膜の蒸着均一性が悪いとともに水に対する耐性、耐電圧性に劣るため実用には適さない。
【0179】
[膜厚によるパッキング性の証明]
また、白濁するとともに若干膜厚が増えることからカルバゾールのパッキングが解けて分子間距離が広がった結果、再結合が促進されているものと考えられる。
すなわち平面構造に近づくと分子間のパッキング性が低下して分子間距離が広がることを意味する。すなわち、ビフェニル部が立体回転し、さらにカルバゾール部がらせん構造をとった非平面構造である分子ほど凹凸部の噛み合わせが良くなり、その結果、分子間でのパッキング性が高まると考えられる。
【0180】
[CBPの分子構造と機能発現について]
また、末端のカルバゾール基は通常ポリマーであるポリカルバゾールビフェニルでは末端基のカルバゾール基がヘリックス構造のようならせん構造をとることが指摘されている。このことから末端のカルバゾール基の2分子がパッキングするとともに中心部のビフェニルが立体回転により白濁(結晶化)を防止しているものと考えられる。
さらに中心部の電子が強力に電子吸引性基であるカルバゾール部分により引き出されることにより中心にあるビフェニル二価基のベンゼン部分の電子がカルバゾール部分に引き出される効果がある。この結果、中心部のビフェニル部のベンゼンがホール輸送性に、そして末端部にあるカルバゾール部分が電子輸送性になる。この結果、CBPがバイポーラ性を有するようになる。窒素原子はその電子のやりとりを中間で取持つスイッチの役割をしており、適度にカルバゾール部と中心のビフェニル部の荷電を移動させ、適度に電子と正孔とを隔離する役割を担っている。
【0181】
[分子内分極による電荷局在および導電性向上]
上述したようにα−NPDは窒素原子にドナー分子(電子供与性分子)の役割をするベンゼンの一価基とアクセプター分子(電子吸引性分子)の役割をするナフタレンの一価基が接続している。これら分子は分子間の凝集力を向上させるだけでなく、分子内の電子伝導を促進するとともに電流の流れを作り、その結果、水の流れで流量の多い方に空気が引き出される効果と同じように窒素原子に直接結合するベンゼン部分からナフタレン部分への電荷移動を促進し、末端基部分での電子輸送性を増加させるものと思われる。
【0182】
CBPにおいても同様で末端基であるカルバゾール部分の電子吸引性がビフェニル部分よりも強い、その結果、電子はカルバゾール部分の分子間で生じるパッキングにより伝播し、正孔はビフェニル部の分子間で生じるパッキングにより伝播することがわかる。すなわちビフェニル部の電子は末端基であるカルバゾールへ引き出されることで正孔を生成し、カルバゾールには電子を生成する。
【0183】
実験事実として、CBPのような平面分子とIr(ppy)3のような球状に近い金属錯体のような分子はそれぞれ単独では均一に形成できない{Ir(ppy)3}と白濁しやすい(CBP)とを両方を共蒸着すれば安定で均一に形成することができることを本発明の発明者は発見した。このことから、平面分子と球状分子で層状化合物を形成して安定化している可能性および/もしくはカルバゾールの螺旋構造の中に金属錯体が入った構造でビフェニルの二化基と配位子ppyとがπ共役結合の重なり合い(パッキング)を生じてパッキングが360度均一に起きている可能性が高いと考えられる。
【0184】
[金属配位子の配位子とビフェニル部とのパッキング生成]
すなわち、Ir(ppy)3とCBPとの関係についてはビフェニル部分と金属錯体の配位子であるピリルピリジン(以後「ppy」と記載する)が分子間でπ共役電子の波動関数の重なり合い(パッキング)を生じることにより電子が金属を界して電子伝導する結果、導電性を向上させることが可能である。さらに金属錯体とppyが層状化合物を形成(インターカレーション)することにより安定な膜となっていると考えられる。
【0185】
具体的には、DNA(デオキシリボ核酸)と同じく2重らせん構造でありCBPの分子末端にある2つのカルバゾール部がらせん構造を形成するとともに2つのらせん間をビフェニル部(ビフェニルの二価基)がブリッジしたような構造になっており、各分子のビフェニル部の間にIr(ppy)3が入り込んでIr(ppy)3の配位子とビフェニルとがパッキングすることで層状化合物を形成すると考えられる。すなわちDNAとエチジウムブロマイドとの関係と類似している。インターカレーションした様子を図11に示す。
【0186】
[α−NPDのヒステリシスの原因]
sp3窒素原子に直接接続したナフタレンの一価基およびベンゼンの一価基が電圧によって立体回転した後で電圧を除去したあとでも戻りにくいためにNPDはCBPと比較してヒステリシスが大きい。このα−NPDにありCBPにないヒステリシスの結果は分子の回転運動(リブロン)によるヒステリシス効果を実験事実として明確に証明している。
【図面の簡単な説明】
【図1】プラズマディスプレイ素子を示す要部断面図である。
【図2】フィールドエミッション素子を示す要部断面図である。
【図3】抵抗測定方法の一例を示した概略図である。
【図4】抵抗測定用素子の断面図である。
【図5】抵抗測定方法の一例を示した概略図である。
【図6】CBP、TPD、α−NPDの吸収スペクトル(190〜800nm)
【図7】CBP、TPD、α−NPDの膜とTHF溶液における蛍光スペクトル(300〜800nm)
【図8】α−NPDの分子模型の写真
【図9】α−NPDにおける末端部の分子模型の一例
【図10】α−NPDにおける分子模型の写真の一例
【図11】CBPとIr(ppy)3の共蒸着膜がとる結晶構造の模式図
【符号の説明】
91 プラズマディスプレイ素子
94 補助エミッタ電極(電界電子放出性電極)
102 エミッタ電極(電界電子放出性電極)
121 フィールドエミッションディスプレイ素子
126 エミッタ(電界電子放出性電極)
212 液晶表示装置
286 冷陰極放電蛍光管(冷陰極放電管)
【発明の属する技術分野】
本発明は、電界電子放出素子の電子放出性能に優れ安定駆動に有効な安定性のあるエミッタを備えた電界電子放出素子用のエミッタおよびそれを有する電界電子放出素子に関し、更に詳しくは、フィールドエミッションディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、液晶表示装置のバックライト等の電界電子放出素子を低電圧で安定して駆動させることができる電界電子放出素子の構造に特徴を有するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えばフィールドエミッションディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、液晶表示装置のバックライトなどの電界電子放出素子の構造としては、真空もしくはガスの封入された電子放出空間と、その電子放出空間に電気的接続をとるためのアノード(陽極)とエミッタ(陰極)を含んでいる。
こうした電界電子放出素子の構造において、エミッタから電子放出空間に電子を効率的に放出することができれば、電子放出効率を向上させることができ、満足のいくデバイス性能を得ることができる。放射空間に電子を効率的に放出するためには、仕事関数の小さいエミッタが必要であるが、不都合なことに、仕事関数の小さい金属(例えば、LiやLiF等のアルカリ金属又はCa等のアルカリ土類金属)は一般的に不安定であり、室温においては容易に、高温においてはより激しく、酸素や水蒸気と反応するという難点がある。
【0003】
そこで、例えばプラズマディスプレイパネルおよびフィールドエミッションディスプレイパネル等に代表される電界電子放出素子用のエミッタとしては先端の尖った円錐状のMoを形成(いわゆる「スピント」とよばれる電極)の表面修飾膜として電界電子放出素子用のエミッタにおける電子放出性能を向上させて消費電力の低減を図るため、Sc、Y、La、Ce、Gd、Lu、Th、U及びNpの群から選ばれる1又は2以上の元素の水素化物又は酸化物を有し、双極子分極により金属電極の仕事関数が低下させ、電子放出性能を向上させた電界電子放出電極を設けることが報告されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
しかし、形成された電界電子放出用のエミッタには、粒径の大きな水素化物が残留しているために、電子放出性能が充分に向上しないという問題があった。
【0005】
さらに、これらの金属酸化膜や金属水素化膜は直接の蒸着が困難である上に、膜としても不安定であるため、膜破壊が起きやすく、強力な電界を必要とする電界電子放出素子用のエミッタとしてとしては安定性や量産性に欠けていた。
【0006】
そのため、仕事関数の小さい金属の環境安定性を改善する試みがなされている。例えば、上記のアルカリ金属やアルカリ土類金属を、アルミニウムや銀のようなより安定な金属と合金化することが行われてきたが、得られたエミッタは、デバイスの製造工程中の酸素や水蒸気に対して依然として不安定のままであった。
【0007】
また、電極の表面層としてカーボンナノチューブを形成する方法も挙げられるが環境安定性が極めて不安定であり、さらに形成時に配向方向などを制御することが困難である。
【0008】
このようにエミッタの不安定性は、発光素子構造を含むデバイスの信頼性に大きく影響することから、安定で仕事関数の小さいエミッタの開発が望まれている。
【0009】
【特許文献1】
特開2000−251834号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、その第1の目的は、環境安定性に優れ電子放出効率のよいエミッタを備える電界電子放出素子を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、そうしたエミッタを有する長期信頼性に優れた電界電子放出素子を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明の電界電子放出素子用のエミッタとしては、基板と、当該基板上に形成されたエミッタと、当該エミッタに対向して設けられるアノードと、当該エミッタとアノードとの間に介在する電子放出空間とを含む電界電子放出素子において、前記エミッタが、電極層と、永久磁石材料を含む表面修飾層とを有することを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の電界電子放出素子用のエミッタとしては、基板と、当該基板上に形成されたエミッタと、当該エミッタに対向して設けられるアノードと、当該エミッタとアノードとの間に介在する電子放出空間とを含む電界電子放出素子であって、前記エミッタが、電極層と、磁気異方性を示す表面修飾層とを有することを特徴とする。
【0013】
本発明の電界電子放出素子用のエミッタにおいて、前記表面修飾層が、前記エミッタと前記アノードとの対向軸に直交する方向に磁気双極子モーメントを有することを特徴とする。
【0014】
これらの発明によれば、表面修飾層が永久磁石材料で形成され又は表面修飾層が磁気異方性を示すので、その表面修飾層は表面においてスピン分極して磁気的な双極子モーメントを有する。特に本発明においては、表面修飾層がエミッタとアノードとの対向軸に直交する方向に磁気双極子モーメントを有するので、ローレンツ力により双極子モーメントの対向軸の方向(すなわちエミッタ及びアノードの電極面に直角な方向)に電子が引き出されやすくなり、その結果、電子放出空間への電子の放出が容易に起こることになる。従って、この発明によれば、環境安定性に優れ電子放出効率のよいエミッタを備える電界電子放出素子を提供することができる。
【0015】
本発明の電界電子放出素子用のエミッタにおいて、(1)前記表面修飾層が、希土類永久磁石、ナノコンポジット磁石又はPtCo合金等からなる永久磁石を含むことが好ましく、(2)前記表面修飾層が、金属酸化物、金属水酸化物、金属フッ化物、金属炭化物、金属窒化物、金属ホウ化物、金属リン化物、金属珪化物、イオン照射により形成された欠陥無機物、及びイオン照射により形成された欠陥有機物の群から選ばれた1又は2以上の材料を含むことが好ましく、(3)前記表面修飾層に含まれる材料の金属元素が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタニド金属、第4周期の遷移金属及び第5周期の遷移金属の群から選択される1又は2以上の金属元素であることが好ましく、(4)前記エミッタが、前記電極と表面修飾層との間に設けられるキャッピング層を有することが好ましく、(5)前記エミッタを構成する層の少なくとも1層が、エピタキシャル成長層であることが好ましい。
前記、電子放出空間を構成するものとしては真空もしくはHe、Xe、Ne、Kr、Ar、Rnなど希ガス、N2、やHgなどの群から選択される1又は2以上のガスを含む構成としてもよい。
【0016】
さらに、本発明の電界電子放出素子用のエミッタにおいて、(a)前記電極が、タングステン、アルミニウム、クロム、チタン、銀、金、銅、ニッケル、モリブデン、タンタル、鉛、イットリウム及びネオジムから選ばれる1又は2以上の金属で主に形成されていることが好ましく、(b)前記エミッタが、前記電極上に隣接して設けられるマイグレーション防止層を有することが好ましい。
【0017】
さらに、本発明の発光素子構造において、(イ)前記放射空間が、プラズマディスプレイパネルを構成するプラズマ発生空間であることが好ましく、(ロ)前記放射空間が、フィールドエミッションディスプレイパネルを構成する電子放出空間であることが好ましく、(ハ)前記放射空間が、液晶表示装置のバックライトを構成する電子放出空間であることが好ましい。
【0018】
上記課題を解決するための本発明の電界電子放出素子は、上述した電界電子放出素子用のカソードを有することを特徴とする。この発明において、(i)プラズマディスプレイパネルに使用されることが好ましく、(ii)フィールドエミッションディスプレイパネルに使用されることが好ましく、(iii)液晶表示装置のバックライトに使用されることが好ましい。
【0019】
これらの発明によれば、上述した作用効果を奏する電界電子放出素子用のカソードを有するので、長期信頼性に優れた電界電子放出素子を提供することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の電界電子放出素子用のカソード及び電界電子放出素子について図面を参照しつつ説明する。
(実施形態1)
図1は本発明の電界電子放出素子における具体例としてフィールドエミッションディスプレイの基本的な構成例を示す断面構成図である。本発明の放電素子は、基板123と、その基板上に形成されたエミッタ2と、そのエミッタ2に対向して設けられるアノード3と、前記のエミッタ2とアノード3との間に介在する蛍光体および放射空間(以下、「蛍光体および放射空間」は特に断らない限り「放射空間」で表す。)とを含む構造である。そして、その特徴は、前記のエミッタ2が、電極層11と、永久磁石材料を含む表面修飾層12又は磁気異方性を示す表面修飾層とを有することにある。なお、図1中、符号4は放射空間であり、符号5は蛍光体であり、符号6はキャッピング層であり、符号7はマイグレーション防止層である。
【0021】
(基板)
基板1としては、ガラス基板、石英基板又はシリコン基板が好ましく使用されるが、必ずしもこれらに限定されず、例えば、無機元素により構成される基板、金属製の基板の表面に絶縁膜を形成したものを用いてもよい。無機元素により構成される基板としては、(ガラス基板、石英基板、サファイヤガラス基板、BaF2基板、ZnSe基板、セラミック基板)を挙げることができ、金属製の基板としては、ステンレス基板、ニッケル基板、(鉄基板、銅基板)等を挙げることができる。また、耐熱性が許せばプラスチック基板を用いることも可能である。
【0022】
また、電極11や表面修飾層12等のエミッタ構成層をエピタキシャル成長させる場合には、特定の結晶面の出た各種の金属基板、ダイヤモンド基板又は金属化合物基板を使用することができる。特定の結晶面の出た基板としては、例えば、Si基板の(100)面、Si基板の(111)面、サファイア基板の(001)面、GaN基板の(0002)面、GaAs基板の(001)面、GaAs基板の(100)面、GaAs基板の(111)面、等が挙げられるがこれらの基板に限られない。こうした基板の使用は、例えば、Si基板の(111)面にはHfN基板の(111)面が成長し、Si基板の(001)面にはHfN基板の(001)面が成長するので、その上にCu電極等の電極をさらにエピタキシャル成長させることができる。結晶面が制御された電極上には、配向制御された仕事関数の小さい表面修飾層の形成が容易となる。
【0023】
基板は、後述するエミッタ(より詳しくはエミッタ電極)を問題なく成膜できるだけの耐熱性を備えることが望ましく、上記のような絶縁膜を設ける場合には、その絶縁膜も耐熱性を有していることが望ましい。望ましい耐熱性としては、(400℃以上)程度の耐熱特性を有することがよい。耐熱性を有する基板を用いることにより、エミッタの成膜条件に制限がかからないので、目的とする特性を備えたエミッタを形成することが可能となる。
【0024】
(発光素子構造)
次に、上記の基板上に形成される層構成について説明し、本発明の発光素子構造の代表的な例について説明する
本発明の電界電子放出素子用のカソード構造としては、例えば以下のa)〜d)の構成を例示できる。なお、「/」は各層が隣接して積層されていることを示す。
【0025】
a)表面修飾層/電極層/基板
b)表面修飾層/マイグレーション防止層/電極層/基板
c)キャッピング層/表面修飾層/電極層/基板
d)キャッピング層/表面修飾層/マイグレーション防止層/電極層/基板
本明細書において、エミッタとは、電極11と、電子放出層として作用する表面修飾層12とを少なくとも有するものとして表している。
【0026】
なお、電極というときは、エミッタ及び/又はアノードを指し、表面修飾層とは、電極の一部を構成するものであって、電荷放出効率を改善する機能を有し且つ電界電子放出素子の駆動電圧を下げる効果を有するものである。
【0027】
また、放射空間とは、放電する機能を有する空間であり、例えばプラズマディスプレイパネルにおいてはプラズマ発生空間、フィールドエミッションディスプレイパネルにおいては放電空間、液晶表示装置のバックライトパネルにおいては放電空間である。
【0028】
また、マイグレーション防止層とは、表面修飾層の成分が電極層側へ輸送されて混合するのを防止する機能および/もしくは電極層との接着性を改善する機能を有する層であり、キャッピング層とは、表面修飾層を外部から隔離することで酸化などを防止する機能を有する層である。
【0029】
なお、これら電極層、表面修飾層、マイグレーション防止層とキャッピング層は、それぞれ独立に2層以上用いられていてもよい。
【0030】
また、電極との密着性向上や電極からの電子放出性能の改善のために、電極層と表面修飾層との界面に膜厚2nm以下の絶縁層を設けてもよい。
【0031】
積層する層の順番や数、及び各層の厚さについては、電子放出効率、素子輝度や素子寿命を勘案して適宜選択して適用することができる。
【0032】
(エミッタ)
エミッタ2は、上述した基板上に設けられるものであり、電極11と、電子放出層として作用する表面修飾層12とを少なくとも有する、少なくとも2層以上の多層電極体である。このエミッタ2には、目的に応じて、マイグレーション防止層、キャッピング層、絶縁層を更に設けることができる。電極11と表面修飾層12とを少なくとも有するエミッタ2の厚さは、通常200〜10000nmである。
【0033】
(電極)
電極11は、基板上に直接、又は導電性基板の場合には絶縁層を介して形成される。電極としては、導電性のある金属又は材料で構成されるものであればよく、特にその種類や組成は限られないが、例えば、Li、Be等の2周期元素;Na、Mg、Al等の3周期元素;K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn 、Ga、Ge、Se等の4周期元素;Ag、Au、Pb 、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pt、Cd、In、Sn、Sb、Te等の5周期元素;Ba、Hf、Cs、Ir、W、Os、Hg、Tl、Bi等の6周期元素;La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb,Dy,Ho,Er,Yb,Lu等のランタノイド系元素;Ac,Th,Pa,U,Np,Pu,Am,Cm,Bk,Cf,Es等のアクチノイド系元素等の金属、その合金又はそれらの化合物等が挙げられる。特に好ましくは、Ti、Ni、Mo、Y、Au、Ag、Cr、Cu、Pt、Cr、W、Al、ITO、IZO等が挙げられる。
【0034】
電極には、イオン注入法、プラズマドーピング法(パルス変調高周波プラズマ)、気相ドーピング法、固相ドーピング法、レーザドーピング法、等でドーピングすることができ、エミッタの電子放出性能をより向上させることができる。ドーピングの際には、レジスト等により構成される層間絶縁膜でTFTを被膜しておくことが望ましく、電極のみを表面処理又はドープすることができる。その結果、TFTへのドープの影響を極力少なくすることができると共に、TFTのスイッチング性能を低下させることなく電極の表面処理又はドープを行うことができる。また、結晶面の揃った面があるシリコン基板等の上に特殊なエピタキシャル成長法による配線形成が可能な場合には、エピタキシャル成長中にドープすることも可能である。
【0035】
電極は、画素のスイッチング電極として機能するようにパターニングされた平面形状を有し、その厚さは通常300〜20000nmである。
【0036】
(表面修飾層)
表面修飾層12は、電極から供給される電子を放射層に効率的に放出するために、上記の電極上に、直接又はマイグレーション防止層やキャッピング層を介して形成される。通常、その厚さは1〜1000nmであり、好ましくは5〜100nmである。
【0037】
本発明の発光素子構造においては、永久磁石材料を含む表面修飾層、又は、磁気異方性を示す表面修飾層が適用される。
【0038】
永久磁石材料を含む表面修飾層において、永久磁石材料としては、希土類永久磁石、ナノコンポジット磁石、PtCo合金、SmCo合金、NdCo合金等を挙げることができる。
【0039】
▲1▼ナノコンポジット磁石としては、希土類においてはNd系とSm系が好ましく挙げられる。特に、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)及びホウ素(B)を含むNd系の材料や、サマリウム(Sm)、コバルト(Co)、銅(Cu)及び鉄(Fe)を含むSm系の材料が好ましく挙げられる。このうち、Sm系の材料は、錆び難いので好ましく用いることができる。
【0040】
ナノコンポジット磁石の具体例としては、Nd4Fe80B20、Nd4.5Fe73Co3GaB18.5、Nd5.5Fe66Cr5Co3GaB18.5、Nd10Fe74Co10SiB5、Sm7Fe93Nx(xは0より上の任意の整数)等が挙げられる。
【0041】
これらの組成は、ナノ単位の構造において各部分で均質である必要は無く、通常は、拘束点(ハード相)とスプリング(ソフト相)とが海島状又は層状に形成されていてもよい。こうした磁石は交換スプリング磁石と呼ばれ、各相(粒子)間で交換相互作用が生じる。
【0042】
ハード相は必ずしも希土類磁石である必要は無いが、好ましくはNi0.8Fe0.2、Nd2Fe14B、Sm2Fe14Nx(但し、0<x≦3)等を挙げることができる。また、ソフト相としては、SmCo、Fe3B、α−Fe、及びそれらの混合物であることが好ましい。
【0043】
▲2▼希土類鉄族の磁石としては、Sm−Co系、Ce−Co系、Sm−Fe系等が好ましく挙げられる。その希土類鉄族化合物の結晶構造としては、RCo5型とR2Co17型のいずれでもよい。なお、Rは希土類元素を表し、例えば、Sm、Nd、及びこれらに窒素、ホウ素及び/又は炭素等をドープした化合物も含まれる。
【0044】
RCo5型の結晶構造を持つものとしては、例えばSmCo5、CeCo5が代表的であり、さらに、YCo5、LaCo5、PrCo5、NdCo5、GdCo5、TbCo5、DyCo5、HoCo5、ErCo5、TmCo5等が挙げられる。
【0045】
R2Co17型の結晶構造を持つものとしては、例えばSm2Co17が代表的であり、さらに、Y2Co17、La2Co17、Pr2Co17、Nd2Co17、Gd2Co17、Tb2Co17、Dy2Co17、Ho2Co17、Er2Co17、Tm2Co17等が挙げられる。
【0046】
窒素(N)をドープした合金組成としては、例えば、R2Fe17Nx(但し、0<x≦3、かつ、Rは希土類元素である。)が挙げられ、より具体的には、Ce2Fe17N3、Pr2Fe17N3、Nd2Fe17N3、Pm2Fe17N3、Sm2Fe17N3、Eu2Fe17N3、Gd2Fe17N3、Tb2Fe17N3、Dy2Fe17N3、Ho2Fe17N3、Er2Fe17N3、Tm2Fe17N3、Yb2Fe17N3、Lu2Fe17N3等が挙げられる。
【0047】
炭素(C)をドープした合金組成としては、R2Fe17Cx(但し、0<x≦3、かつ、Rは希土類元素である。)又はR2Fe14Cx(但し、0<x≦1、かつ、Rは希土類元素である。)が挙げられる。R2Fe17Cxの具体的としては、La2Fe17C3、Y2Fe17C3、Ce2Fe17C3、Pr2Fe17C3、Nd2Fe17C3、Pm2Fe17C3、Sm2Fe17C3、Eu2Fe17C3、Gd2Fe17C3、Tb2Fe17C3、Dy2Fe17C3、Ho2Fe17C3、Er2Fe17C3、Tm2Fe17C3、Yb2Fe17C3、Lu2Fe17C3、Th2Fe17C3等が挙げられる。また、R2Fe14Cxの具体例としては、La2Fe14C、Y2Fe14C、Ce2Fe14C、Pr2Fe14C、Nd2Fe14C、Pm2Fe14C、Sm2Fe14C、Eu2Fe14C、Gd2Fe14C、Tb2Fe14C、Dy2Fe14C、Ho2Fe14C、Er2Fe14C、Tm2Fe14C、Yb2Fe14C、Lu2Fe14C、Th2Fe14C等が挙げられる。
【0048】
ホウ素(B)をドープした合金組成としては、R2Fe14Bx(但し、0<x≦1、かつ、Rは希土類元素である。)が挙げられ、より具体的には、La2Fe14B、Y2Fe14B、Ce2Fe14B、Pr2Fe14B、Nd2Fe14B、Pm2Fe14B、Sm2Fe14B、Eu2Fe14B、Gd2Fe14B、Tb2Fe14B、Dy2Fe14B、Ho2Fe14B、Er2Fe14B、Tm2Fe14B、Yb2Fe14B、Lu2Fe14B、Th2Fe14B等が挙げられる。このとき、耐腐食性を向上させるためにBの一部をCで置換しても良い。
【0049】
また、上述したRCo5(Rは希土類元素)の場合は、Coの一部をCuで置換えた、例えば、R(Co1−xCux)5{但し、0.01<x<0.99}も適用できる。特にこれに熱処理を施すことで安定なエミッタを得ることができる。より具体的には、例えば、Ce(Co0.86−XFe0.14Cux)5{但し、0<x<0.86}、Ce(Co0.72Fe0.14Cu0.14)5、Ce(Co0.72Fe0.14Cu0.14)5等が挙げられる。
【0050】
▲3▼Sm系永久磁石として、SmとCoとFeとCuを含む材料が好ましく使用でき、その合金組成としては、Sm(Co0.94−XFe0.06CuX)6.8{但し、0.1<x<0.93}が好ましく挙げられる。
【0051】
また、これにZrを加えた合金組成であってもよく、例えば、Sm(Co0.88−XFe0.11CuXZr0.01)7.4{但し、0<x<0.88}、Sm(Co0.765−XFe0.22CuXTi0.015)7.2{但し、0<x<0.765}、Sm(Co0.75−XFe0.22CuXTi0.03)7.2{但し、0<x<0.75}、Sm(Co0.745−αFe0.20Cu0.055Zrα)7.5{但し、0<α<0.745}、Sm(Co0.73−yFe0.20CuyZr0.02)z{但し、0<y<0.73、0.<z<8.5}、Sm(Co0.69−XFe0.2CuXZr0.01)7.2{但し、0<x<0.69}、例えばSm(Co0.69Fe0.2Cu0.1Zr0.01)7.45 、等が挙げられる。なお、以上のSm系磁石材料を安定化させるための任意の元素を、前記の組成物中に導入することもできる。
【0052】
また、Sm2Co17系の磁石における合金組成としては、Sm(Co1− x −y− aFexCuyZra)z{但し、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<a<1}等が挙げられる。具体例としては、Sm(Co0.925−XFeXCu0.055Zr0.02)z{但し、0<X<0.925、0<z<8.5}、Sm(Co0.72Fe0.20Cu0.055Zr0.025)7.5、Sm(Co0.65Fe0.21Cu0.05Zr0.02)7.65、Sm(Co0.69Fe0.20Cu0.10Zr0.01)7.4、Sm(Co0.625Fe0.3Cu0.05Zr0.025)7.6等が挙げられる。より具体的には、(Sm0.70Ce0.30)(Co0.72Fe0.16Cu0.12)7 、Ce(Co0.73Fe0.12Cu0.14Ti0.01)6.5 、Ce(Co0.72Fe0.14Cu0.14)5.2 、Sm0.6Gd0.4Co5 、Pr0.6Sm0.4Co5 、Sm2Fe17 、Sm8Zr3Fe85Co4、(Sm8Zr3Fe85Co4)N15、及びSm2Fe17Nx(但し、0<x<3)、等が挙げられる。
【0053】
また、RFe11Ti(但し、Rは希土類元素)等は鉄以外の元素を導入したことにより磁界が安定化する効果がある。また、これらに窒素、ホウ素及び/又は炭素等をドープした合金でもよい。例えば、NdFe11TiNx(但し、xは0より上の任意の整数)、(Sm8Zr3Fe84)85N15、が挙げられる。
【0054】
また、R(Fe1− xTx)12{但し、Rは希土類元素、TはTi、Mo等}系の磁石としては、RFe11Ti、RFe11Mo、RFe11.5Mo0.5、等を用いることができ、例えば、SmFe11Ti、YFe11Ti、NdFe11Ti、SmFe11Ti、GdFe11Ti、TbFe11Ti、DyFe11Ti、HoFe11Ti、ErFe11Ti、TmFe11Ti、LuFe11Ti等が挙げられる。
【0055】
また、RCo11Ti(但し、Rは希土類元素)系磁石の合金組成としては、例えば、SmCo11Ti、YCo11Ti、NdCo11Ti、SmCo11Ti、GdCo11Ti、TbCo11Ti、DyCo11Ti、HoCo11Ti、ErCo11Ti、TmCo11Ti、LuCo11Ti等が挙げられる。
【0056】
さらに、前記のRCo11Ti(但し、Rは希土類元素)とRFe11Ti(但し、Rは希土類元素)との固溶体でもよい。
【0057】
また、RFez(但し、7<z<11、かつ、Rは希土類元素である。)系の合金組成としては、(RZr)(FeCo)z{7<z<12、かつ、Rは希土類元素である。}等が挙げられる。また、これらを急冷薄体を窒化した合金組成としては、(R0.75Zr0.25)(Fe0.7Co0.3)zNx等が挙げられる。
【0058】
▲4▼Nd系永久磁石としては、Nd1.1Fe4B4、Nd7Fe3B10、Nd(Fe1−xCox)14B{但し、0<x<1}が挙げられ、また、Nd−Fe−B系スプリング磁石としては、Nd4.5Fe77B18.5、Nd4.5Fe74Co5B18.5、Nd4.5Fe73Co3SiB18.5、Nd4.5Fe73Co3GaB18.5、Nd3.5DyFe73Co3GaB18.5、Nd5.5Fe71Cr5B18.5、Nd5.5Fe66Cr5Co5B18.5、Nd4.5Fe73V3SiB18.5等が挙げられる。
【0059】
以上説明した永久磁石材料のうちで最も効果が高いのは、希土類磁石であるがZrやY等でもよく、希土類元素や希土類鉄磁石より弱い磁石、例えば白金鉄系の磁石、アルニコ系の磁石、フェライト系の磁石、白金コバルト系の磁石、クロム鋼系の磁石、鋼コバルト鋼系の磁石、マグネタイト系の磁石、NKS鋼系の磁石、MK鋼系の磁石、KS鋼系の磁石、OP系の磁石等のような組成であってもよい。
【0060】
これら合金組成に使用される主要な元素は、Fe,Ni、Coのような3d遷移金属、Nd、SmあるいはTb、Dyのような4f希土類金属が主体である。例えば、フェライト磁石としては、BaO・6Fe2O3、SrO・6Fe2O3、PbO・6Fe2O3等が挙げられる。また、Fe16N2、Fe16B2等も有名である。これらはN2雰囲気下でFeを蒸着することで磁石が得られる。
【0061】
また、Ca、B、C等はどれも非磁性元素であるが、これらCa、B、Cの固溶体は薄膜とすることで表面の磁化率が向上する。また、Ca、La、Bの固溶体も同様である。また、アルカリ土類金属及びアルカリ金属とホウ素、炭素によりQB2C2、RB2C(Qはアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属)等が挙げられる。また、La1− xCaxMnOz等の合金組成も挙げられる。
【0062】
こうした非磁性元素がナノ構造において磁性を発生する理由としては、クラスタサイズが小さいとバルクとは異なる性質を発現するためと考えられる。
【0063】
また、通常使用されるBaO、Li2O、MgO、Sm2O3、Yb2O3等も使用可能である。
【0064】
またその他で表面修飾できる合金組成として、二元系では、GdCo、TbFe、GdFe、DyFe、MnBi、MnZn、等が挙げられ、多成分系では、GdTbFe、TbFeCo、GdFeCo、GdTbFeCo等が挙げられる。
【0065】
また、磁歪材料であるRFe2系の、TbFe2、DyFe2、ErFe2、TmFe2、SmFe2、TbxDyzFey(0.27<x<0.3、0.7<y<0.73、1.9<z<2.0)、等も挙げられる。これらを表面に薄膜として形成してもよい。
【0066】
さらにエピタキシャル成長可能な膜であれば、場合によってはエピタキシャル成長膜と配線金属膜とを積層し、さらに上層に表面修飾層を形成してもよい。エピタキシャル成長可能な表面修飾層とは(ZrO2)1−x(Y2O3)x、{但し、0<x<1}等が挙げられる。
【0067】
▲5▼超伝導磁石の合金組成としては、Nb、Pb、NbTi、NbN、Nb3Sn、Nb3Al、V3Ga、(La1− xSrx)2CuO4{但し、0<x<1}、La2CuO4、Sr2CuO4、LaSrCuO4、RBa2Cu3Ox(但し、Rは希土類元素、例えばY、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等である。また、7<x<8である。)、(Bi1− xPbx)2Sr2Cu3O10{但し、0<x<1}、Bi2Sr2Cu3O10、Pb2Sr2Cu3O10、BiPbSr2Cu3O10、Tl2Ba2Ca2Cu3、HgBa2Ca2Cu3Ox(xは0以上の任意の整数)等が挙げられる。
【0068】
また、超伝導磁石にみられるようなピン止め効果を応用し、磁石中に異相を分散させる等の組織調整をしてもよい。方法としては磁石の組成物を形成前後で磁石でない組成物を形成する等の方法も可能である。
【0069】
▲6▼以上、本発明の表面修飾層は、これらの永久磁石材料からなる層で構成されるものであり、その表面修飾層は表面分極して電気的な双極子モーメントを有する。特に本発明においては、表面修飾層がエミッタとアノードとの対向軸に直交する方向に磁気双極子モーメントを有するので、その対向軸の方向(すなわちエミッタ及びアノードの電極面に直角な方向)に電子が引き出されやすくなり、その結果、放射層又は放射空間への電子の放出が容易に起こることになる。
【0070】
この現象を詳しく説明すると、表面修飾層に磁気異方性があるということは、その表面修飾層の面内方向、すなわち表面修飾層の表面に平行な方向に磁気双極子モーメントがあることを意味している。そうした面内方向の磁気双極子モーメントは、電極から、両電極の対向軸方向に電子を引き抜くように作用する。すなわち、電極を流れる電子の方向と、磁気異方性により生じている磁力の方向との両方の方向に直角な方向に電圧が発生するが、これにより電極を流れる電子に両電極の対向軸方向の力が加わり、電子が電極から引き出されることになる。引き出された電子は放電層に放出されるので、こうした磁気双極子モーメントを有する表面修飾層は、電子放出作用を持っている。
【0071】
電子に加わる力は、ローレンツ力で説明され、電子を引き出す力をF、電荷をq、電荷の移動速度をvとすると、F=q(v×B)であり、また、磁気双極子モーメントMが位置ベクトルrに作る磁場Hは、H=−1/4×(πμ0)grad(Mr/r3)であることからB=μHとなる。従って、磁気双極子モーメントMが大きいほど(すなわち、磁気異方性が大きいほど)電子を引き出す力が大きくなるので、電子放出効率が向上する。
【0072】
なお、クラスターサイズに対する磁気異方性は、M.Iseda, T.Nishio, H.Yoshida, A.Terasaki, and T.Kondow, RITU, vol.4, No.2, p.215(1996)に掲載されている「Electronic Structure of Vanadium Cluster Anions−Measured and DV−Xα Calculation of Photoelectron Spectra」にあるように、クラスターを質量選別した後で光電子分光法により電子状態を調査することができ、さらにDV−Xα法によりUPとDOWNのスピンにおけるそれぞれのエネルギ準位をシィミュレーションしてみることによりある程度予測可能である。
【0073】
▲7▼本発明においては、上述した表面修飾層にArイオンを照射して規則的な欠陥を形成してもよい。表面修飾層に欠陥を形成することにより、表面修飾層の表面を分極して仕事関数をさらに低下させることができる。こうした表面分極による仕事関数の低下は、電極から電子を引き出し易くするので、電子放出効率がより向上する。
【0074】
(着磁方法又は配向制御方法)
表面修飾層は、磁気異方性を付与又は大きくするために、着磁され又は配向制御されることが好ましい。表面修飾層の着磁方法又は配向制御方法としては、静磁場による方法、パルス磁場による方法、フィールド・クールによる方法、ゼロ・フィールド・クールによる方法等がある。
【0075】
静磁場による方法としては、着磁対象又は配向制御対象となる表面修飾層の周囲に強力な磁石を設置する方法を例示でき、その方法により、表面修飾層の表面の配向方向を制御できる。また、パルス磁場による着磁方法としては、コイル式の強力な電磁石をサンプル外部に設置し、パルスで同期させてコイルに電流を流す方法を例示でき、この方法で表面修飾層の配向方向を制御してもよい。パルス磁場による着磁方法は、短時間で着磁ができ且つパルス幅を変えることもできるので、量産性が高いという利点がある。このときコイルに直流を流すことも可能である。さらに超伝導永久磁石を用いて表面修飾層を着磁させることも可能である。
【0076】
また、表面修飾層の着磁又は配向制御は、膜形成時でも又は膜形成後でもよく、必要であれば着磁時にアニール処理をしてもよい。
【0077】
(化合物/化合物層)
本発明の発光素子構造においては、上述した表面修飾層中に以下の各化合物を含有させたり、上述した表面修飾層の一面又は両面に以下の化合物からなる層を形成することができる。化合物からなる層を表面修飾層の一面又は両面に形成する場合において、その厚さは、化合物層の種類に応じた抵抗値や磁気異方性の観点から設定されるが、通常10〜2000nmであることが好ましく、500〜1500nmであることがより好ましい。上記厚さ範囲内とすることにより、安定した電子放出性能を発現させるという効果がある。また、化合物を表面修飾層中に含有させる場合において、その含有量は、化合物の種類に応じた抵抗値、磁気異方性や結晶粒界の大きさの観点から設定されるが、通常、表面修飾層の総重量中に0.1〜50重量%の範囲で含有させることが好ましく、2〜20重量%の範囲で含有させることがより好ましい。上記範囲で含有させることにより、電子放出性能を高めるための不純物準位を形成できるとともに仕事関数を低下させるという効果がある。
【0078】
そのような化合物としては、金属酸化物、金属水酸化物、金属フッ化物、金属炭化物、金属窒化物、金属ホウ化物、金属リン化物、金属珪化物、イオン照射により形成された欠陥無機物、及びイオン照射により形成された欠陥有機物の群から選ばれた1又は2以上の化合物材料が挙げられる。なお、この化合物材料に含まれる金属元素としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタニド金属、第4周期の遷移金属及び第5周期の遷移金属の群から選択される1又は2以上の金属元素が挙げられる。なお、イオン照射により形成された欠陥無機物としては、例えばダイヤモンド炭素の欠陥膜、ZnOの欠陥膜などを挙げることができる。
【0079】
(マイグレーション防止層及びキャッピング層)
表面修飾層12と電極11との間には、マイグレーション防止層やキャッピング層を設けることができる。
【0080】
マイグレーション防止層は、表面修飾膜を形成する化合物の成分が電極側に移動するのを防止するための層であり、中でも仕事関数が大きく且つ導電性が高いマイグレーション防止層の構成材料としては、チタン、アルミニウム、銀、銅、鉄、白金、金、及び/又はそれらの混合物等を含むものが好ましい。マイグレーション防止層の厚さは、通常は数百Å(数十nm)以上であり、しばしば数千Å(数百nm)程度である。
【0081】
キャッピング層は、仕事関数が大きい金属からなり、表面修飾層の下面に設けて表面修飾層に連続的な電気接続をもたらすように作用する。キャッピング層は、例えば白金、金、銀等の材料からなる層である。キャッピング層の厚さは、通常1〜100nmであることが好ましい。
【0082】
以上説明したように、本発明の電界電子放出カソードは、表面修飾膜として磁気異方性を有する膜が形成されているので、ローレンツ力により電子放出性能が向上するとともに、仕事関数が低下する。さらに磁性材料は表面修飾膜としても安定な膜が多い。この結果、高電子放出性能を有しながらも低電圧で安定な放出性能を有するカソードが得られる。
【0083】
さらに、マイグレーション防止層、キャッピング層、や絶縁層を組み合わせた構造により、経時変化が少なく、また、酸化も起き難いカソードを得ることができる。
【0084】
(成膜方法)
次に、本発明の発光素子構造において設けられる各層の成膜方法について説明する。
【0085】
エミッタを構成する電極11、化合物層、マイグレーション防止層及びキャッピング層は、各種の物理的方法(Physical Vapor Deposition法)や化学的方法で形成できる。物理的方法としては、蒸着法、スパッタリング法、分子線蒸着法(MBE法:Molecular Beam Epitaxy法、分子線エピタキシー法ともいう。)、回転塗布法、イオンビームデポジッション法用の装置(IBD装置等を使用して)等の各種の成膜方法が挙げられる。その他の成膜方法としては、レーザーアブレーション法、、電子ビーム蒸着法(EB法)、アークプラズマガンを使用した蒸着法、イオンアシスト蒸着法、液体分子線エピタキシー法、液相エピタキシー法、ホットワイヤーセル法(エピタキシャル成長)、熱反応堆積法(RDE法:Reactiove Deposition Epitaxy法)、コンポジッションスプレッド法、窒素雰囲気レーザアブレーション法、パルスレーザ堆積法、大気圧原子層堆積法(AP−ALD法)、液体分子線クラスタ蒸着法、メッキ法、熱SiO2膜等を用いた方法、スプレー法、ディップ法(ITO法)、ゾルゲル法等が挙げられる。
【0086】
本発明の発光素子構造を構成する各種の層の成膜は、上記の方法に含まれる様々な具体的な成膜手法を採用できると共に、それらの方法に限定されない。また可能であれば上記の各種の形成方法を組み合わせてもよい。
【0087】
一例としては、例えば金属酸化物層は、圧力が制御された酸素中で対応する金属を熱蒸着することにより形成できる。金属酸化物層の厚さは、蒸発/堆積の速度及び時間によって制御することができる。蒸発/堆積の典型的な速度は、1秒当たり約0.2から1Å(Å=0.1nm)である。場合によってはイオン化したクラスタイオンビームを電気的に中性化及び/又は逆の電荷を付与した後に蒸着してもよい。
【0088】
表面修飾層の好ましい形成方法としては、真空アーク蒸着法が挙げられ、特にアークプラズマガンを使用した真空アーク蒸着法が挙げられる。この真空アーク蒸着法は、蒸着材料が導電性物質(金属、導電性無機物、カーボン等)であるという制約がある。また、アークプラズマガン(ULVAC製)を使用する際の欠点としては、大きなクラスタ(粒径がμm程度、マクロパーティクルとも呼ぶ)が混入する場合があるが、その場合にはイオンを曲げてさらに中性化及び/又はイオンのまま基板に蒸着して薄膜を形成することができる。真空チャンバーの到達圧力は1×10− 6Paであることが好ましいが、それ以下の真空度であっても動作する成膜速度は1分当たり約3.0nm〜6.0nm程度となる。この蒸着速度は、蒸着対象である基板が蒸着源から80mmの距離にあるときであり、この際、面内分布がφ20mmで±5%であるという結果が得られている。このアークプラズマガンでは、1nm以下の膜厚制御が可能であり、また、カーボンターゲットで5万回以上の放電を維持するという結果を得ている。また、表面修飾層の好ましい他の形成方法としては、スパッタ法やMBE法が挙げられる。
【0089】
成膜時又はドーピング時に数十nmサイズの大きなクラスタ(グレイン)が生成し、そのクラスタが基板上に蒸着されてしまう場合がある。このようなクラスタ(グレイン)は点欠陥として不良になる。そこで、静電場や静磁場を通過する荷電粒子が質量と電荷に依存することを利用して質量選別した後で小さな金属クラスタサイズのみ蒸着することができる。
【0090】
例えば、静電場型質量分析器、静磁場型質量分析器、二重収束質量分析器、飛行時間型質量分析器と四重極偏向器との組合せ又は四重極質量選別器等により質量選別後に基板に金属の超薄膜を形成してもよい。また、四重極偏向器などを使用してイオンビームの方向を曲げてもよい。
【0091】
また、ポテンシャルスイッチ(Potential Swithch)を用いて特定のクラスターサイズのみを選別して表面に蒸着することもできる。
【0092】
クラスタイオンはできる限り小さなエネルギーで表面に蒸着されることが望ましい。また、蒸着チャンバー内で活性ガス(酸素、水素、窒素、フッ素)を先に基板の電極表面にフローさせて、さらにクラスター発生チャンバーと蒸着チャンバーとをつなぐイオン経路に減速電極プレート(パルスレーザど同期させて減速電圧を印加する。)を設置することでイオンの減速を行ってもよい。また、クラスターの減速に限界がある場合はまた基板の角度を斜めにすることで基板に衝突するクラスターの衝撃を和らげることも可能である。クラスタの強度が弱い場合はアインツェルレンズ(Einzel Lens)、などを使用してクラスタービームを収束させてもよい。
【0093】
(アニール方法)
エミッタにアニールを施してもよい。エミッタにアニールを施すことにより仕事関数を低下させることができることがある。アニールは複数回であってもよく、その場合には層を形成する途中段階で、同一又は異なる方式でアニールしてもよい。また、上述した着磁時にアニールしてもよい。
【0094】
アニール方法としては、ビームアニール法、トランジェントアニール法又は炉アニール法等が挙げられる。アニール温度を基板の耐熱温度以下とすることが好ましい。但し、レーザアブレーション等により電極のみの局所的な加熱が可能な場合にはこの限りではない。例えば、XeClのエキシマレーザ光源を用い、ラインビームを照射した時、250〜400mJ/cm2程度である。
【0095】
(エミッタの仕事関数)
エミッタ表面における仕事関数の測定方法としては、測定装置AC−1(理研計器社製)を使用する方法や、吸収スペクトル、紫外光電子分光(UPS)、光電子分光などにより測定する方法がある。本発明で使用されるエミッタ表面の表面修飾層の仕事関数は、その絶対値が4.0eV以下、0.1eV以上であり、その絶対値が3.5eV以下、0.1eV以上であることが好ましく、その絶対値が3.0eV以下、0.1eV以上であることが更に好ましい。上記範囲の仕事関数を持つ表面修飾層は、電子放出がよいという効果がある。
【0096】
(層構造の確認方法)
本発明の発光素子構造の解析は、例えば集束イオンビーム加工装置(FIB:日立製作所製、FB−2000)により薄層の断面薄膜を作製し、その断面薄膜を透過型電子顕微鏡(TEM−EDX:日立製作所製、H−8100)により観察し、さらにX線分析法により元素分析して金属元素を分析することにより行われる。また、TEMの代わりに、走査型電子顕微鏡(SEM:日立製作所製、S−5000H)で観察する等の方法で断面を確認することもできる。」
(放射層)
放射空間は、本明細書では蛍光体および放射空間を表すものであり、例えば、放射空間としてはプラズマディスプレイパネルに使用される(プラズマ発生空間および蛍光体のある空間)や、フィールドエミッションディスプレイパネルに使用される(放電空間および蛍光体のある空間)を例示できる。
【0097】
これらの放射空間は、例えばプラズマディスプレイパネルにおいてはXeやHeに代表される希ガスであり、プラズマを発生させるためのガスを封入した空間である。フィールドエミッションディスプレイにおいては真空の空間である。放射空間の構成材料は特に限定されないが、真空、希ガス又はそれらの混合物であることが好ましい。
【0098】
(アノード電極)
アノードは、エミッタを形成した基板の対向基板(背面基板)に透明電極などの導電層で形成されており、そのアノードの上層および/もしくは下層に蛍光体層を有していてもよい。すなわち、蛍光体は放射空間の上層および/もしくは下層に位置しており、具体的には、例えばプラズマディスプレイの場合はリブ(「隔壁」ともいう)柱によって隔てられた対向基板との間に形成された放射空間に対して対向基板上に形成されたアノードの上層および/もしくは下層に形成されている。
【0099】
アノードは、好ましくは約4.5eVよりも大きい仕事関数を有する材料を含み、代表的なアノード材料としては、ITO(インジウムスズ酸化物)、IZO(インジウム亜鉛酸化物)等のような金属酸化物が挙げられる。さらにアノード層としては、金属薄膜(アルミニウム、銀、白金、金、パラジウム、タングステン、インジウム、銅、鉄、ニッケル、亜鉛、鉛等)、黒鉛、ドープされた無機半導体(ケイ素、ゲルマニウム、ガリウムヒ素等)を含むものが挙げられる。
【0100】
金属アノードは、放射空間から放射される光に対して半透明となるように、その厚さは十分に薄い。
【0101】
アノードは、発光素子を構成する薄膜アノードの形成に適用される技術で作製され、代表的なものは前述した通りである。そうした作製技術では、例えば純粋な金属、合金又はその他の被膜前駆物質が使用される。典型的には、アノード層は約100nm〜2000nmの厚さである。
【0102】
(封着)
本発明においてエミッタ側の基板とアノード側の基板を貼り合わせる(「封着」と呼ぶ)には、ガラスセラミックス組成物が使用され、430〜500℃で5分〜1時間程度の加熱で、PDP用ガラス基板を封着した。
【0103】
(電極作製方法及び表面処理方法)
表面処理による表面修飾層の形成方法としては、例えば、▲1▼Si基板の(100)面にHfN(結晶方位(100)面)をレーザースパッタ蒸着法により成長させ、その上にCu膜を500nm及びCr膜を100nmで表層にエピタキシャル成長させて電極を形成する。その上に酸素雰囲気下でZrターゲットをレーザースパッタして質量選別によりZr単体の正イオンのみで蒸着薄膜を10nm形成する。その際に、基板に外部コイルからパルス磁界を発生させてZr酸化膜の配向を制御する。このようにして電極及び表面修飾層を形成することができる。以上の表面処理により電極の仕事関数が2.9eVまで低下する。
【0104】
また、他の方法としては、▲2▼ガラス基板上に、スパッタ法によりクロムを膜厚500nm形成して電極とし、さらにその上層に100nmのタングステン薄膜を形成する。その後、酸素雰囲気下でスパッタ法によりZr薄膜を形成する。その際に、基板表面にパルス磁界を発生させることによりZr酸化膜の配向を制御する。以上の表面処理により電極の仕事関数が2.7eVまで低下する。
【0105】
(表面分析方法)
以上のように作製した表面修飾層は、収束イオンビーム加工(FIB)マイクロサンプリング法により作製された試料を、TEM(透過型電子顕微鏡)及びEDX(X線元素分析装置)により元素分析することで確認できる。また、AGE(オージェ分析)により表面からZr及び酸素のピークが検出されることにより判別できる。さらにはTOF−SIMSやDynamic−SIMS等の分析により元素を分析できる。その他の分析方法としてはSEMやESCA、XPS、AES等も使用できる。
【0106】
(PDP、FEP)
以下に、本発明の放電発光素子構造の適用例について説明する。図6は、直流駆動のカラープラズマディスプレイパネルの発光素子に適用した例であり、図7は、フィールドエミッションディスプレイデバイスの発光素子に適用した例である。
【0107】
図6は、本発明の電界電子放出素子の一例である直流駆動のカラープラズマディスプレイパネルの一部を示した断面図である。
【0108】
PDP91は、それぞれ赤色、緑色、青色を表示する複数の画素から構成され、各画素は、透明な上基板92と下基板93との間に設けられた格子状又はストライプ状の障壁101により区分けされている。下基板93上には補助エミッタ電極94が各画素の中央に配置されている。冷電子放出性電極である補助エミッタ電極94は、W、Y、Ni、Cr、Al、Mo、Agの中から少なくとも1つ選択される導体からなる電極層95と、電極層95上に形成された表面修飾層96と、から構成されている。補助エミッタ電極94の周囲には、データ電極97が電極94と離間して配置されている。補助エミッタ電極94を中心としたデータ電極97の外側方向にはアモルファスシリコン等の電流制御膜98が配置されている。また、電流制御膜98のさらに外側には冷電子放出性電極であるエミッタ電極102が配置されている。エミッタ電極102は、W、Y、Ni、Cr、Al、Mo、Ag、V、の中から少なくとも1つ選択される導体からなる電極層103と、電極層103上に形成された表面修飾層104と、から構成されている。電流制御膜98は、エミッタ電極102のスパッタを抑制するため、電流を制限している。電流制御膜98の抵抗は、膜厚、長さ、アモルファスシリコン中に添加される不純物等により設定される。
【0109】
また、下基板93上には、補助エミッタ電極94の表面修飾層96とエミッタ電極102の表面修飾層104を除く全面に絶縁膜105が設けられている。補助エミッタ電極94の周囲の絶縁膜105上には、補助障壁106が形成されている。障壁101及び補助障壁106は、各画素毎に、赤色に発光する蛍光体107R、緑色に発光する蛍光体107G、青色に発光する蛍光体107Bがそれぞれ設けられている。蛍光体107Rとしては、(Y,Gd)BO3:Eu3+,Y203:Eu3+,があり、蛍光体107Gとしては、Zn2SiO4:Mn,BaAl12O19:Mnがあり、蛍光体107Bとしては、BaMgAl14O23:Eu2+,SrMg(SiO4)2:Eu2+がある。
【0110】
上基板92には、各画素に応じて、赤色に分光するカラーフィルタ111R、緑色に分光するカラーフィルタ111G、青色に分光するカラーフィルタ111Bが設けられている。カラーフィルタ111R、111G、111Bの表面には、ITOからなる透明電極112が設けられている。また、上基板92と下基板93と障壁101に囲まれた空間には、He、Xeを含む希ガス113が封入されている。
【0111】
上記PDP91の駆動方法については、第1に、透明電極112と補助エミッタ電極94との間に所定の電圧を印加することにより補助プラズマを発生させる。第2に、各画素には表示に応じたデータ電圧がデータ電極97に印加され、電流制御膜98から制御された電流がエミッタ電極102に流れる。エミッタ電極102と透明電極112との間には、補助プラズマの補助により、プラズマがすばやく発生する。このプラズマにより希ガスからの紫外線が発生し、紫外線が各画素の蛍光体に当たり、所定の波長域の光を発光し、上基板92を透過して表示される。
【0112】
図7は、本発明の電界電子放出素子の一例であるフィールドエミッションディスプレイデバイスの一部の断面図である。FED121は、それぞれ赤色、緑色、青色を表示する複数の画素から構成され、各画素は、互いに離間して配置された透明な上基板122と下基板123との間に格子状或いはストライプ状の障壁により区分けされている。下基板123上には、輝度データ電圧が印加されるデータ電極124が設けられ、そのデータ電極124の上には、アモルファスシリコンからなる電流制御膜125が形成されている。電流制御膜125の上には、1画素につき、約2000程度の数の円錐状のスピント電極であるエミッタ126が設けられている。
【0113】
エミッタ126は、円錐状のW、Y、Ni、Cr、Al、Mo、Agなどの中から少なくとも1つ選択される電極層127と、その表面に設けられた表面修飾層128とから構成される。各エミッタ126は、隣接するエミッタ126と絶縁膜129を介して配置されている。絶縁膜129上には、エミッタ126上が開放しているゲート電極130が設けられている。電流制御膜125は、エミッタ126のスパッタを抑制するため、電流を制限している。電流制御膜125の抵抗は、膜厚、長さ、アモルファスシリコン中に添加される不純物等により設定することができる。
【0114】
上基板122には、エミッタ126との対向面にITOからなるアノード電極の透明電極131が設けられており、透明電極131の表面には、赤色に発光する蛍光体132R、緑色に発光する蛍光体132G、青色に発光する蛍光体132Bがそれぞれ設けられている。
【0115】
上記FED121の駆動方法については、先ず、透明電極131とデータ電極124との間に各画素に応じたデータ電圧が印加される。データ電極124からは、電流制御膜125を介して制御された電流がエミッタ126の電極層127に流れる。色表示する画素のゲート電極130には選択電圧が印加され、ゲート電極130により選択されたエミッタ126は、データ電圧に応じてエミッタ126の先端の表面修飾層128から電子が放出される。
【0116】
放出された電子は、所定の電圧が印加された透明電極131の方に寄せられていく。このため電子は、この透明電極131の表面にある蛍光体132R、132G、132Bに当たり、蛍光体132R、132G、132Bが可視光を発光して、可視光が透明基板(上基板122)を透過してカラー表示される。上記FED121は、その表示面側に光シャッターとしての液晶パネルを設けてもよい。液晶パネルを設けることにより、細かい階調表示を行うことができる。
【0117】
以上、本発明の発光素子構造の適用例について説明したが、本発明の発光素子構造は、上記のほか、他の例においても適用可能である。
【0118】
【実施例】
以下、本発明の電界電子放出素子においてプラズマディスプレイ素子を例にとり実施例と比較例を挙げて本発明の電界電子放出素子用のカソードおよび電界電子放出素子についてさらに具体的に説明する。
【0119】
(実施例1)
本実施例のプラズマディスプレイ素子は、図1に示すように、基板側から、Moスピント電極とその表面に形成したPtCo表面修飾層とからなるエミッタ(電子放出電極)、放射空間により構成された素子である。
【0120】
表面修飾層は、スパッタ装置(ヘリコンスパッタ装置)で成膜した。クラスター成長室内のチャンバー内圧力は3×10−4Paであり、パルスレーザの発振器としてQ−スイッチNd:Yagレーザ(Q−switched Nd:Yag laser(Spectra Physics DCR−11))の二倍波(532nm)を使用し、回転及び並進させたターゲットにレーザを集光した。そのパルスレーザーを30nsパルス幅で照射し、ターゲットをアブレーションした。レーザの繰り返し周波数は10Hzとした。ターゲットにはPtCo合金を用いた。クラスター成長に関わる方法は、J.P.Bucher,Rev.Sci.Instrum.63,5667(1992)等に記載されている。使用する基板としては、TFTを各電極のスイッチング素子として配置し、電極にはクロムを使用し、シャドーマスクを介してクロムで構成した電極部分にのみ表面修飾を行った。このようにして形成したカーボン薄膜の膜厚は15nmであった。
【0121】
前記のガラス基板上に、MoスピントとPtCo表面修飾層とからなるエミッタ(電極)を形成した。その後、アノード(透明電極)、蛍光体およびリブ(隔壁)などが形成された基板(「背面基板」とも呼ぶ)をHe、Xeなどのガス中で重ねあわせて封止した。その結果、長寿命で、高輝度、高電子放出効率の本発明の電界電子放出素子を作製することができた。このときエミッタ表面の仕事関数が1.8eVであった。
【0122】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が8V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で40μAであった。
【0123】
(実施例2)
本実施例のプラズマディスプレイ素子構造および作成法は実施例1とほぼ同様であるが、本実施例では、表面修飾層に欠陥部分を有するPtCo合金からなるエミッタ(電子放出電極)を使用したプラズマディスプレイ素子である。
【0124】
欠陥部分を前記のガラス基板上に、実施例1と同様にMoスピント電極とCoPt表面修飾層とからなるエミッタ(電極)を形成した。そのエミッタに正電荷に帯電させたアルゴンクラスターの正イオンにより形成されたクラスタービームを照射することで欠陥作成を行った。このときのビームの衝突エネルギーは1keV、イオン電流16nA、ビーム径350μm、入射角度55°、試料温度300℃とした。このようにして作製したエミッタを有する基板にアノード(透明電極)、蛍光体およびリブ(隔壁)などが形成された基板(「背面基板」とも呼ぶ)をHe、Xeなどのガス中で重ねあわせて封止した。その結果、長寿命で、高輝度、高電子放出効率のプラズマディスプレイ素子を作製することができた。
このときエミッタ表面の仕事関数が1.6eVであった。
【0125】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が10V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で36μAであった。
【0126】
(実施例3)
本実施例のプラズマディスプレイ素子構造および作成法は実施例1とほぼ同様であるが、本実施例では、表面修飾層にSmCo合金からなるエミッタ(電子放出電極)を使用したプラズマディスプレイ素子である。
【0127】
その結果、長寿命で、高輝度、高電子放出効率の本発明の電界電子放出素子を作製することができた。このときエミッタ表面の仕事関数が1.4eVであった。
【0128】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が8V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で40μAであった。
【0129】
(実施例4)
本実施例のプラズマディスプレイ素子構造および作成法は実施例1とほぼ同様であるが、本実施例では、表面修飾層にPtCo合金からなるエミッタ(電子放出電極)を形成し、その下層(すなわち表面修飾層と電極層との間)にマイグレーション防止層としてTi層を10nmの厚さで形成したカソードを使用したプラズマディスプレイ素子である。
【0130】
その結果、長寿命で、高輝度、高電子放出効率の本発明の電界電子放出素子を作製することができた。このときエミッタ表面の仕事関数が1.9eVであった。
【0131】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が12V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で30μAであった。
【0132】
(実施例5)
本実施例のプラズマディスプレイ素子構造および作成法は実施例1とほぼ同様であるが、本実施例では、表面修飾層にPtCo合金からなるエミッタ(電子放出電極)を形成し、その上層(すなわち表面修飾層と放電空間との間)にキャッピング層としてMo層を10nmの厚さで形成したカソードを使用したプラズマディスプレイ素子である。
【0133】
その結果、長寿命で、高輝度、高電子放出効率の本発明の電界電子放出素子を作製することができた。このときエミッタ表面の仕事関数が2.0eVであった。
【0134】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が12V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で30μAであった。
【0135】
(実施例6)
本実施例のプラズマディスプレイ素子構造および作成法は実施例1とほぼ同様であるが、本実施例では、表面修飾層としてPtCo合金を厚さ1.3μmとなるようにエミッタ(電子放出電極)を形成し、表面修飾層の上層(すなわち表面修飾層と放電空間との間)にキャッピング層としてMo層を10nmの厚さで形成し、表面修飾層の下層(すなわち表面修飾層と電極層との間)にマイグレーション防止層としてTi層を10nmの厚さで形成したカソードを使用したプラズマディスプレイ素子である。
【0136】
その結果、長寿命で、高輝度、高電子放出効率の本発明の電界電子放出素子を作製することができた。このときエミッタ表面の仕事関数が2.1eVであった。
【0137】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が12V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で30μAであった。
【0138】
(実施例7)
本実施例のプラズマディスプレイ素子構造および作成法は実施例1とほぼ同様であるが、本実施例では、電極層をCuのエピタキシャル成長膜で、さらに電極層の表面に表面修飾層であるSmCo合金を層の厚さが1.3μmとなるようにエピタキシャル成長で形成したエミッタ(電子放出電極)を使用したプラズマディスプレイ素子である。
【0139】
その結果、長寿命で、高輝度、高電子放出効率の本発明の電界電子放出素子を作製することができた。このときエミッタ表面の仕事関数が0.9eVであった。
【0140】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。
)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が12V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で30μAであった。
【0141】
(比較例1)
本比較例のプラズマディスプレイ素子構造および作成法は実施例1とほぼ同様であるが、本比較例では、表面修飾層に酸化イットリウム膜を蒸着法もしくは電子ビーム法により層の厚さが1.3μmとなるように形成し、その後で表面を酸化処理して電界電子放出素子用のエミッタを形成した。
その結果、低寿命で、低輝度、低電子放出効率のプラズマディスプレイ素子しか作製できなかった。低仕事関数のエミッタの再現性も悪く、仕事関数はMoの仕事関数である4.1eVであることが多かった。
【0142】
また、評価はギャップ間隔1mm、真空度10−7Paである真空装置内で行った(具体例としては特許第3372751号の図8に示される方法が挙げられる。)。このときのエミッタの電流値のしきい値電圧が12V/μm(しきい値電流値が0.1μAと定義した)。エミッション電流値が最大で30μAであった。
【0143】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の発光素子構造によれば、表面修飾層により電極の仕事関数を低減することができ、効率的な電子放出を行うことができる。また、従来不可能とされた高温プロセスでのエミッタの形成が可能となり、種々の金属、金属化合物又は無機化合物を安定に保持できるために安定性の高いエミッタを形成できる。その結果、表面修飾層が有機層(放射空間等)へのマイグレーションすることを防止でき、信頼性の高い電界電子放出素子(プラズマディスプレイ素子、フィールドエミッションディスプレイ素子、液晶表示装置のバックライトなど)を作製できる。
【0144】
また、磁気異方性により表面分極した表面から電子を引き出しやすくし、仕事関数を低下させることができる。また、表面修飾層に格子欠陥部分を形成し、その部分に金属化合物をドープすることで表面形状の制御が容易となり、欠陥除去できると同時に表面から数十nm程度の極めて浅い表面に局所的な高濃度のドーピング層を形成することが可能になる。
【0145】
また、欠陥を意図的に制御して元素を配向させることにより、表面修飾層の表面から数十nm程度の極めて浅い表面に局所的で規則的な空格子を形成することができる。その結果、電子の放出性能を向上させることができる。例えばアルゴンイオンを照射することで規則的な欠陥を作ることができ、欠陥以外の原子について配向を制御することとなり、その結果表面の仕事関数を低下させることも可能となる。
ここで発明とは無関係であるが、以下で、4,4’−Bis(Carbazol−9‐yl)−biphenyl(以後「CBP」と呼ぶ)およびN,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニル−ベンジジン(α−NPD、N,N’−Di(naphtalen−1−yl)−N,N’−diphenyl−benzidine)における違いについて説明するとともにCBPの中心部にあるビフェニルの効果およびα−NPDとCBPの最大の違いである末端基(末端基とはビフェニルのニ価基に接続している基を指す)(CBPがカルバゾール基、α―NPDがトリアミンを形成する窒素原子とその窒素原子に直接接続したベンゼンとナフタレンの一価基)の働きの違いついて以下に詳細に説明する。
[抵抗の測定方法]
以下でCBPやα−NPDなどに代表される有機薄膜の抵抗の測定方法を詳細に説明する。
抵抗測定用の試料は、先ず、ガラス基板上にパターンニングしたITO電極に、図4で使用する試験用素子基板上に真空中で蒸着によりアルミナ製のるつぼのなかに有機層の成分粉末(CBPなど)を入れて加熱し、その上層に配置したITO基板に蒸発した有機成分を蒸着することで有機薄膜を約50nmの膜厚で作製することにより抵抗測定用の有機層を形成する。
そして有機層の上に電極としてAlを厚さ200nm×4mm□(縦4mm×横4mm)となるように蒸着して、図5に示す断面形態からなる試験用素子基板とする。
【0146】
抵抗率は、作製した抵抗測定用の有機層の抵抗を測定し、上記の膜厚と電極面積を用いて抵抗率を算出する。抵抗測定は、図4に示すように、測定用の基板と、黒と赤のテストリードとを接触させて行う。このとき、テストリードの先端をワニ口クリップに接続し、そのクリップで接触させて測定可能である。
【0147】
低電圧側(1.3V付近)での抵抗値測定は、株式会社カスタム社製のDIGITAL MULTIMETERでMODEL:CDM−2000Dを用いても測定でき、前述の方法と同じ測定値が得られる。
また、抵抗値の電圧依存性は、ADVANTEST社製のR8340 ULTRA HIGH RESISTANCE METER及び/又はシールドとしてHEWLETT PACKARD社製の16055A TEST FIXTUREを使用して各電圧での電流値を測定することでも抵抗値を測定することができる。
【0148】
測定は、プローブ端子として2台のテストポジショナーであるMODEL:XYZ−500−TIM(QUARTER RESEARCH & DEVELOPMENT社製)を使用し、タングステン製のテストニードル(幅5μm)を顕微鏡で観察しながら、露出した画素部の電極と蒸着により作製した電極とにそれぞれ接触させる。そこから配線を引き、その末端をワニ口クリップでテスタのテストリード又はR8340 ULTRA HIGH RESISTANCE METER(ADVANTEST社製)のV SOURCEとグラウンドにそれぞれ接続する。配線抵抗は通常0.1Ω以下となり、測定する有機層の抵抗値と比較して十分小さく、測定誤差以下である。
【0149】
このようなニ端子法によって有機層の抵抗は十分に測定できる。また、これら有機層の測定を四端子法ですることは困難であるし、実験としてなんら意味がないといえる。
【0150】
[ドナー分子とアクセプター分子の見分け方]
ドナー分子とアクセプタ−分子を見分けるにはフルオレン系高分子の共重合体としてその分子がフルオレンの隣接したニ価基として組み込まれた導電性高分子についてその蛍光波長を見ればすぐにわかる。具体的なメカニズムを述べると、フルオレン系の高分子は主にフルオレン部分で光を吸収するため蛍光波長より短波長である。しかし蛍光波長はフルオレンと接続した2価基の電子吸引性により変化が大きい。すなわち電子吸引性が大きいほど蛍光波長は長波長側へシフトしやすい傾向がみられる。
【0151】
このことはフルオレン系高分子の吸収波長が共重合体によらずほぼ一定値(約380nm)であることからも明らかである。これは電子吸引性基が隣接するとLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)の電子軌道を伸ばすことでフルオレン部中心に電子軌道が分布したHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)との間で再結合が起きることを意味している。
【0152】
特に今回のα−NPDとN,N−Bis−(3−methylphenyl)−N,N−bis−(phenyl)−benzidine(以後「TPD」と呼ぶ)の置換基となっているビフェニル、ベンゼン、ナフタレンの置換基の電子吸引性はADS130(蛍光波長420nm)とADS134BE(フルオレンに隣接する2価基:アントラセンの2価基、蛍光波長437nm)とADS145UV(フルオレンに隣接する2価基:キシレンの2価基、蛍光波長405nm)とADS148BE(フルオレンに隣接する2価基:ベンゼンの2価基、蛍光波長420nm)、ADS135BE(フルオレンの隣接する2価基:TPDに近い構造の二価基、蛍光波長416nm)もしくはADS138BE(フルオレンの隣接する2価基:カルバゾールの二価基、蛍光波長416nm)もしくはADS250BE(フルオレンの隣接する二価基:窒素が直接接続した二価基、蛍光波長426nm)とを比較し、さらにADS080BE(中心部にビフェニルのニ価基を含む、蛍光波長433nm)、ADS081BE(中心部にナフタレンのニ価基を含む、蛍光波長451nm)、および、ADS086BE(中心部にフルオレンのニ価基を含む、蛍光波長474nmおよび573nm)とを比較することで判断できる。(ちなみに「ADS」とはアメリカンダイソース社の略称であり、商標である。)
すなわち電子吸引性の程度は蛍光波長からフルオレン、ナフタレン、カルバゾール、ベンゼン、(メチルベンゼンとビフェニル)の順に小さくなると推測される。
【0153】
メチルベンゼンはメチル基の超共役効果により電子供与的になっているものと推測される。また共役系が長くつながると電子の分子軌道がエネルギー的に安定化するので電子吸引性が強まると考えられる。
【0154】
また、強烈に電子吸引性の強いチアゾールを隣接基としてもつフルオレン例えばADS133YEは吸収波長が分裂する(313nmと443nm)。これはフルオレン分子内の電子軌道がチアゾール基にが引っ張られるため、フルオレンのLUMO(313nm)の他にもう1つフルオレンとチアゾールにより混成軌道として安定なLUMOが形成されたためにフルオレンのHOMOからチアゾールLUMOへの電子移動による吸収波長(443nm)が新たに発生したと考えられる。すなわち、チアゾールにフルオレンの電子が電子吸引された結果、吸収波長に2つのLUMO電子軌道の安定点が形成されたことを意味する。
【0155】
さらにこうした効果は逆にフルオレン部ではチアゾールの電子吸引効果により外場と同じ効果がフルオレン分子に発生し、その結果、シュタルク効果と類似した効果と考えれば縮退したLUMOの軌道が分裂した影響とも見ることもできる。
【0156】
他方、導電性高分子において蛍光波長が分裂するのは主に溶液ではなくフィルムに見られることから分子間のπ電子共役のエキシマー形成による影響による可能性が高いと考えられる。すなわちフルオレンへ電子が戻る再結合の機構ともう一つの再結合の機構である分子間でのホッピング伝導による再結合機構とが共存しているため、その結果、蛍光波長が2つになると考えられる。
以上の観点を踏まえて、以下にTPD、α―NPDとCBPの分子構造に起因した物性面および性能面での違いを詳細に説明する。すなわち物性面から分子構造およびその機能について考察した結果である。
【0157】
[実験事実1]
本発明の発明者は以下の事実を発見した。(1)まず第一にCBPはα−NPDに比べて導電性が一桁高い。(2)第二にCBPはα―NPDと比較して安定性に劣る(CBPは蒸着後、半日で白濁(結晶構造の崩壊、パッキングの開放)を生じるがα−NPDは1ヶ月〜2ヶ月で白濁のスポットを生じる。1ヶ月もすればCBPは全面が白濁する。)(3)α−NPDは50nm膜厚に15V以上の電圧を印加すると膜が破壊するが、CBPでは30V印加しても壊れない(α−NPDの方がCBPよりも耐電圧性が低い)。さらにTPDも3〜15Vの電圧で膜が破壊する。
【0158】
上記のことは以下のことを示していると容易に考察できる。
[平面分子の抵抗値が意外に高く、CBPやα−NPDなど平面でない分子の抵抗が意外に低い理由]
α−NPDやCBPは平面分子と比べて一見、分子間でのπ電子の重なり合い(パッキング)のしやすくない構造に思える。しかしカルバゾール部分単独のみでは十分な導電性が得られない可能性が高い。例えば、ペリレンやトリフェニレンなどの平面分子の抵抗値がCBPの3桁程度高く(1010Ω・cm程度)、高分子なみに抵抗値が高いことから蒸着では完全なパッキングが起きておらず、そのため導電率が低いと考えられる。これがペリレンのような平面分子がOLEDとしてメジャーでない理由と思われる。
【0159】
この原因としてまず第一に(1)平面分子(トリフェニレンなど)では電荷のかたよりがないため分子内ドナーと分子内アクセプターが存在しないことからファンデルワールス力による分子間凝集力が発生しないためにπ電子共役に必要な分子間距離(Adv.Mater2002,14,No10、May17,p726で記載されるようにトリフェニレンでは3.5〜3.7Åといわれる)より熱や電圧の影響で広がりやすくため分子間でのホッピング伝導が起きにくい分子構造であること。第二に(2)平面分子は分子の平面に沿う方向に対する熱や電界によって生じる分子振動が起きやすいので膜にとしての耐電圧性や経時安定性に劣るといった原因が挙げられる。
【0160】
[(1)分子間ファンデルワールス力の証明=Tg温度および揮発温度]
このことはTg温度がTPD(65℃)よりα−NPD(96℃)の方が高いこともナフタレンの一価基とメチルベンゼンの一価基との立体回転のしにくさを示唆しており、さらに揮発温度がTPD(430℃)よりα−NPD(500℃)の方が高いことから凝集力がTPDよりα−NPDの方が大きいことを示唆している。
【0161】
さらに、凝集力としてはTPDやCBPよりα−NPDの方が強い。これはTPDの分子内ドナーが2−メチルベンゼンの一価基であり、分子内アクセプターがベンゼンの一価基であるのに対して、α−NPDでは分子内ドナーがベンゼンの一価基であり、分子内アクセプターがナフタレンの一価基である。この場合は前述した吸光度のデータからナフタレン一価基と2−メチルベンゼンの組合せよりもナフタレンの一価基とベンゼンの一価基との組合せの方が大きなドナー分子とアクセプター分子との間でのファンデルワールス力を生じていると予想される。
【0162】
このことが膜にしたときの凝集力の差となる。このためα−NPDはTPDよりも凝集力が小さい原因となっている。このことはα−NPDの蒸着膜に水を滴下しても膜が破壊されないのに対してTPDの膜が水の滴下によって容易に破壊されることからも容易にわかる。
【0163】
[(2)CBPおよびα−NPDの白濁するまでの時間が異なる理由]
以上のことはCBPにおけるビフェニル部やα−NPDの窒素原子に隣接したナフタレンの一価基(アクセプター)およびベンゼンの一価基(ドナー)との関係および立体回転により分子間凝集力とともに立体回転により分子間の置換基の絡み合いが生じるため白濁しにくく、膜の安定性が向上すると思われることから容易に類推できる。この事実はビフェニル部に置換基としてアルキル基などを導入し、ビフェニル基部分の立体回転角をねじった構造のCBP誘導体を作製して蒸着により膜を形成すると白濁を生じにくくなることも以上の事実を証明している。すなわち、CBPにおいては白濁した膜は劈開することからグラファイトと同じ平面構造であると考えられる。すなわち平面構造になることにより劈開が生じると思われる。すなわち時間がたつにつれて中心部のビフェニルの立体回転が平面構造を取ることにより白濁(結晶化)が生じるものと考えられる。そのためビフェニル基にメチル基を導入して立体回転により平面構造を取り難くしたCBP誘導体では結晶化が生じなかったのも同様な理由と考えられる。但し、ビフェニル部の2つベンゼン部がねじられることでsp3窒素原子の電子対の軌道と共役がつながりにくくなり、その結果、ビフェニル部分の正孔発生が抑制され、導電性が低下する。
【0164】
また、白濁のもうひとつの理由について以下に説明する。例えば、α−NPDを分子模型で組み立てた時の写真を図8に示す。窒素原子の周囲で置換基同士の立体構造が複雑に絡み合い、立体障害を生じている。特に窒素原子に直接結合している一価のナフタレン基において8位の炭素に接続する水素基と同じ窒素原子に直接接続した一価のベンゼン基の水素が衝突するほど接近できる分子構造になっている。このことがsp3窒素原子における立体構造の反転を防止している。立体反転が起きない分だけ結晶構造が安定し、その結果、α―NPDの方がCBPより膜の白濁が起き難いものと考えられる。α−NPDがこのような平面構造をとることはα−NPDの厚膜も劈開することから容易にわかる。
【0165】
さらに例えばCBPは2分子のカルバゾール部がビフェニル部分で接続されているために分子間で若干の噛み合わせが生じ、その結果、平面分子と比較して結晶構造が乱れにくく、高い温度まで結晶構造が維持され、その結果、幅広い温度領域、電圧領域で電気的特性が安定することが、現在α−NPDやCBPが低分子OLEDにおいて最高性能を出している理由と考えられる。すなわち、ビフェニル部のパッキングにより膜全体のTgが向上し、低分子膜の熱や電圧や電流に対する耐久性が向上し、膜自体の信頼性が向上したと考えられる。
【0166】
さらにα−NPDが平面分子ではないにもかかわらず導電性が107Ω・cmと高い理由としては、ナフタレンの一価基が立体回転することで図9、図10に示す2つの分子構造をとることができるため、これら2つの状態が交互に重なることでドナーアクセプタ効果と同様な分子分極が生じた結果、結晶状態が安定化(凝集力が向上)するとともに分子間のパッキングが全方位に及ぶことにより導電性が向上すると思われる。この現象はトリフェニレンにおいても60°回転して交互にパッキングするときにLUMOとHOMOのバンドギャップが最小になり、導電性が最も高い状態になることからも容易に推測される(Adv.Mater2002,14,No10、May17,p726参照)。すなわち全方位に共役結合がつながる形でパッキングが起き、ドナーとアクセプターの効果で凝集力が向上する。
【0167】
[α−NPDの弊害1=耐電圧性の低下]
しかし、その弊害としてα−NPDは耐電圧性すなわち絶縁破壊性能をCBPより低下させることとなった。これはナフタレンの二価基のようにかさ高い基が立体回転することにより容易に分子間距離が広がり、その結果、膜の破壊が起きやすくなったと考えられる。すなわちCBPはα−NPDより平面構造で分子のかさが少ない分、sp3窒素原子が反転した際の影響が少なかったため耐電圧性能に優れていたと考えられる。
【0168】
このことはCBP、α−NPD、TPDおよびバソフェナントロリンの蛍光スペクトルを測定した結果からも証明できる。すなわち、CBP、α−NPDおよびTPDとも蛍光を発生するがバソフェナントロリンは蛍光を発しないことから、従って、sp3窒素原子が再結合中心である。そのため、図に示すように窒素と芳香族環とがポーラロンを生成する際にsp2となるが、再結合した後でsp2からsp3に戻る際に立体構造が反転する。すなわち、トリアミン系の電荷輸送材は電圧や熱により立体構造が反転する際に膜の結晶状態が崩壊し、膜が白濁したり、電圧により絶縁破壊したりすると推測される。
【0169】
逆にCBPの中心部にあるビフェニルが立体回転によりパッキングするため、平面方向の力に強くなるため、パッキングにより耐電圧性に優れた膜が形成可能であるものと考えられる。またα−NPDと比較しても末端基が大きい分だけ立体回転に対するエネルギー障壁が大きくなるため耐電圧性能も向上する。
【0170】
[α−NPDの弊害2=導電率の低下]
しかし、α−NPDの弊害として末端のベンゼンの一価基とナフタレンの一価基の立体回転により分子間でのπ共役電子における波動関数の重なり合いの大きさ(以後「パッキング性」と呼ぶ)が低下した結果、CBPのように末端がカルバゾールのような平面分子のようなパッキングしやすい分子構造を持つ分子と比べて分子間でのホッピング伝導性が低下し、その結果、電気伝導性能がCBPより低下したと思われる。
【0171】
ただ、α−NPDは窒素原子に結合する基として電子吸引性基と電子供与性基を両方含むので、各部分の芳香族部分のHOMOとLUMOの違い、すなわち電子吸引性基と電子供与性基との違いにより分子平面同士の重なり合いを生じやすく、さらにパッキングした際に分子内分極によりある程度高い導電性(導電性高分子より2桁ほど上の伝導度)が得られる。
[α−NPDの分子内ホッピング伝導]
さらに、α―NPDの分子模型から立体回転することで窒素原子の周囲にあるナフタレンの一価基とベンゼンの一価基もしくはビフェニル部のベンゼンの2価基と六角形に近い構造を形成できる。このためナフタレンの一価基とベンゼンの一価基もしくはビフェニル部のベンゼンの2価基とが再接近した際に電子の移動すなわち分子内でホッピング伝導が起きる(以後「分子内ホッピング伝導」と呼ぶ)ものと思われる。
【0172】
すなわち、中心部のビフェニル2価基のベンゼン部分の3位もしくは5位の水素基および窒素原子の直接接続したベンゼンの一価基の2位もしくは6位の炭素についた水素基と窒素原子に直接接続したナフタレンの一価基における8位の炭素についた水素基とが立体回転により再接近すると立体障害を受けることがわかる。すなわちこれら炭素が立体回転などで再接近した際にπ電子共役結合が瞬間的につながり、その結果、電子がナフタレン部からベンゼン部へ分子内ホッピング伝導しているものと考えられる。
【0173】
[分子内ホッピング伝導による吸収スペクトルの変化]
以上で述べた分子内ホッピング伝導は図6に示すCBP、TPD、α−NPDの吸収スペクトルからも証明できる。すなわち、CBPの吸収極大波長は320nm(カルバゾール部分の吸収)と293nm(ビフェニル部分の吸収)の2つが観測され、TPDも350nm(窒素原子に接続する一価基のベンゼンおよび2メチルベンゼンによる吸収)と307nm(ビフェニル部分の吸収)の2つが観測されるが、α−NPDのみ338nmにある吸収(おそらくナフタレン部分の吸収)が顕著であり、ビフェニル部分の吸収がCBP、TPDと比べて小さく顕著でないことがわかる。これは光を吸収する際に窒素原子に直接接続したナフタレンの一価基が立体回転することでナフタレンの一価基とビフェニル部とで電荷が循環(分子内ホッピング伝導)するためにビフェニル部の吸収が不明瞭になったと考えられる。
【0174】
[蛍光スペクトルからの考察]
図7にて同モル濃度(THF中)もしくは同膜厚でCBP、α−NPD、TPDの蛍光強度を比較した。実践が同濃度の溶液での蛍光であり、点線が膜の蛍光である。このとき溶液での蛍光強度はCBP、TPD、NPDの順番に小さくなることを本発明の発明者は発見した。この実験結果の原因としてα−NPDは窒素原子にナフタレンの一価基が接続しているので、ナフタレンの一価基の立体回転により窒素原子に接続したベンゼン基との間で分子内ホッピング伝導により分子内を電荷(正孔と電子)が循環できる分子構造であるため再結合に必要な正孔と電子が出会う確率が減少するため分子内で再結合しにくくなったものと考えられる。一方TPDやCBPはナフタレンの一価基ような分子内ホッピングに必要な一価基を窒素原子に有さない構造であるため、分子内ホッピング伝導が起きないため再結合確率が高く、蛍光強度が強くなるものと考えられる。特にTPDの窒素原子にベンゼンのような小さな置換基しか接続していないためα−NPDのように分子内ホッピングが生じない分、分極した際に電荷の存在確率が局在しているため再結合の確率が高まるためと考えられる。
【0175】
また、溶液と膜の蛍光を比較するとTPD(膜423nm、溶液426nm、シフト量3nm)、α−NPD(膜450nm、溶液450nm、シフト量0nm)では溶液中と膜での蛍光波長がほぼ一致するのに対してCBPは溶液中(蛍光波長383nm)よりも膜(蛍光波長393nm)の方が蛍光波長として10nmと大きく長波長側へシフトする。これはCBPのカルバゾール部分が平面構造であるため分子間でパッキングしやすいためにフルオレン系の導電性高分子見られる現象と同様にCBP分子間でのパッキングの効果により蛍光波長が長波長側へシフトしたことを示している。
【0176】
これに対してNPDやTPDは窒素原子にベンゼンの一価基やナフタレンの一価基があり、これらは分子のかさが小さく立体回転しやすい(立体回転に対するエネルギー障壁が小さい)ために分子構造としての平面性が低くなりパッキング性が低下するため分子間での再結合が生じにくいため分子間再結合でなく分子内再結合が優勢となり、その結果、膜にしたときの蛍光波長のシフト量が少なく、ほぼ溶液中(一分子)での蛍光波長と一致したものと思われる。
【0177】
さらにα−NPDはTPDより蛍光極大波長が長波長側にある上、同濃度での蛍光強度も極端に小さい。これはTPDでは分子内ホッピング伝導が起きないために電荷が狭い範囲に局在しやすく再結合確率が増加したためである。それに対してα−NPDはナフタレン部の共役結合が長いとともに、ナフタレンからベンゼンへの分子内ホッピングの影響で電荷が局在せず、分子内を分散し循環するために再結合確率が低下するとともに電荷が分散する際にLUMOの軌道が低エネルギー側にシフトするためにTPDよりも蛍光極大波長も長波長側へシフトする。α−NPDの蛍光波長は450nmと三種類の低分子の中でも最も長波長側である。すなわち分子内で電荷がホッピング伝導していることを示す証拠である。
それに対してTPDは蛍光波長423nmと低波長側にある。これは分子内ホッピングが起きないために電荷が分子の一ヶ所に局在してLUMOが高エネルギーなエネルギー準位となるためである。
【0178】
[吸収波長および蛍光波長と電荷輸送性、分子振動との関係]
一般に吸収エネルギーと蛍光により放出されるエネルギーとのエネルギーさは分子の回転運動や分子振動により熱エネルギーとして外部に放出されることとなる。従って、導電性の良い低分子は電子や正孔の運動エネルギーへの変換効率が高いはずである。すなわち蛍光波長λPLとして吸収波長λAbsとするとh(1/λAbs−1/λPL)が小さいことが望ましい。この計算よりCBPはNPDと同等(約1.1eV)であり、TPDがエネルギー的にはやや優位である(0.9eV)。ただ、TPDは膜の蒸着均一性が悪いとともに水に対する耐性、耐電圧性に劣るため実用には適さない。
【0179】
[膜厚によるパッキング性の証明]
また、白濁するとともに若干膜厚が増えることからカルバゾールのパッキングが解けて分子間距離が広がった結果、再結合が促進されているものと考えられる。
すなわち平面構造に近づくと分子間のパッキング性が低下して分子間距離が広がることを意味する。すなわち、ビフェニル部が立体回転し、さらにカルバゾール部がらせん構造をとった非平面構造である分子ほど凹凸部の噛み合わせが良くなり、その結果、分子間でのパッキング性が高まると考えられる。
【0180】
[CBPの分子構造と機能発現について]
また、末端のカルバゾール基は通常ポリマーであるポリカルバゾールビフェニルでは末端基のカルバゾール基がヘリックス構造のようならせん構造をとることが指摘されている。このことから末端のカルバゾール基の2分子がパッキングするとともに中心部のビフェニルが立体回転により白濁(結晶化)を防止しているものと考えられる。
さらに中心部の電子が強力に電子吸引性基であるカルバゾール部分により引き出されることにより中心にあるビフェニル二価基のベンゼン部分の電子がカルバゾール部分に引き出される効果がある。この結果、中心部のビフェニル部のベンゼンがホール輸送性に、そして末端部にあるカルバゾール部分が電子輸送性になる。この結果、CBPがバイポーラ性を有するようになる。窒素原子はその電子のやりとりを中間で取持つスイッチの役割をしており、適度にカルバゾール部と中心のビフェニル部の荷電を移動させ、適度に電子と正孔とを隔離する役割を担っている。
【0181】
[分子内分極による電荷局在および導電性向上]
上述したようにα−NPDは窒素原子にドナー分子(電子供与性分子)の役割をするベンゼンの一価基とアクセプター分子(電子吸引性分子)の役割をするナフタレンの一価基が接続している。これら分子は分子間の凝集力を向上させるだけでなく、分子内の電子伝導を促進するとともに電流の流れを作り、その結果、水の流れで流量の多い方に空気が引き出される効果と同じように窒素原子に直接結合するベンゼン部分からナフタレン部分への電荷移動を促進し、末端基部分での電子輸送性を増加させるものと思われる。
【0182】
CBPにおいても同様で末端基であるカルバゾール部分の電子吸引性がビフェニル部分よりも強い、その結果、電子はカルバゾール部分の分子間で生じるパッキングにより伝播し、正孔はビフェニル部の分子間で生じるパッキングにより伝播することがわかる。すなわちビフェニル部の電子は末端基であるカルバゾールへ引き出されることで正孔を生成し、カルバゾールには電子を生成する。
【0183】
実験事実として、CBPのような平面分子とIr(ppy)3のような球状に近い金属錯体のような分子はそれぞれ単独では均一に形成できない{Ir(ppy)3}と白濁しやすい(CBP)とを両方を共蒸着すれば安定で均一に形成することができることを本発明の発明者は発見した。このことから、平面分子と球状分子で層状化合物を形成して安定化している可能性および/もしくはカルバゾールの螺旋構造の中に金属錯体が入った構造でビフェニルの二化基と配位子ppyとがπ共役結合の重なり合い(パッキング)を生じてパッキングが360度均一に起きている可能性が高いと考えられる。
【0184】
[金属配位子の配位子とビフェニル部とのパッキング生成]
すなわち、Ir(ppy)3とCBPとの関係についてはビフェニル部分と金属錯体の配位子であるピリルピリジン(以後「ppy」と記載する)が分子間でπ共役電子の波動関数の重なり合い(パッキング)を生じることにより電子が金属を界して電子伝導する結果、導電性を向上させることが可能である。さらに金属錯体とppyが層状化合物を形成(インターカレーション)することにより安定な膜となっていると考えられる。
【0185】
具体的には、DNA(デオキシリボ核酸)と同じく2重らせん構造でありCBPの分子末端にある2つのカルバゾール部がらせん構造を形成するとともに2つのらせん間をビフェニル部(ビフェニルの二価基)がブリッジしたような構造になっており、各分子のビフェニル部の間にIr(ppy)3が入り込んでIr(ppy)3の配位子とビフェニルとがパッキングすることで層状化合物を形成すると考えられる。すなわちDNAとエチジウムブロマイドとの関係と類似している。インターカレーションした様子を図11に示す。
【0186】
[α−NPDのヒステリシスの原因]
sp3窒素原子に直接接続したナフタレンの一価基およびベンゼンの一価基が電圧によって立体回転した後で電圧を除去したあとでも戻りにくいためにNPDはCBPと比較してヒステリシスが大きい。このα−NPDにありCBPにないヒステリシスの結果は分子の回転運動(リブロン)によるヒステリシス効果を実験事実として明確に証明している。
【図面の簡単な説明】
【図1】プラズマディスプレイ素子を示す要部断面図である。
【図2】フィールドエミッション素子を示す要部断面図である。
【図3】抵抗測定方法の一例を示した概略図である。
【図4】抵抗測定用素子の断面図である。
【図5】抵抗測定方法の一例を示した概略図である。
【図6】CBP、TPD、α−NPDの吸収スペクトル(190〜800nm)
【図7】CBP、TPD、α−NPDの膜とTHF溶液における蛍光スペクトル(300〜800nm)
【図8】α−NPDの分子模型の写真
【図9】α−NPDにおける末端部の分子模型の一例
【図10】α−NPDにおける分子模型の写真の一例
【図11】CBPとIr(ppy)3の共蒸着膜がとる結晶構造の模式図
【符号の説明】
91 プラズマディスプレイ素子
94 補助エミッタ電極(電界電子放出性電極)
102 エミッタ電極(電界電子放出性電極)
121 フィールドエミッションディスプレイ素子
126 エミッタ(電界電子放出性電極)
212 液晶表示装置
286 冷陰極放電蛍光管(冷陰極放電管)
Claims (14)
- 基板と、当該基板上に形成されたエミッタと、当該エミッタに対向して設けられるアノードと、当該エミッタとアノードとの間に介在する電子放出空間とを含む電界電子放出素子において、
前記エミッタが、電極層と、永久磁石材料を含む表面修飾層とを有することを特徴とする電界電子放出素子用のエミッタ。 - 基板と、当該基板上に形成されたエミッタと、当該エミッタに対向して設けられるアノードと、当該エミッタとアノードとの間に介在する電子放出空間とを含む電界電子放出素子であって、
前記エミッタが、電極層と、磁気異方性を示す表面修飾層とを有することを特徴とする電界電子放出素子用のエミッタ。 - 前記表面修飾層が、前記エミッタと前記アノードとの対向軸に直交する方向に磁気双極子モーメントを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電界電子放出素子用のエミッタ。
- 前記表面修飾層が、希土類永久磁石、ナノコンポジット磁石又はPtCo合金等からなる永久磁石を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電界電子放出素子用のエミッタ。
- 前記表面修飾層に含まれる材料の金属元素が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタニド金属、第4周期の遷移金属及び第5周期の遷移金属の群から選択される1又は2以上の金属元素であることを特徴とする請求項1〜4に記載の電界電子放出素子用のエミッタ。
- 前記電極層が、タングステン、アルミニウム、クロム、チタン、バナジウム、ジルコニウム、銀、金、銅、ニッケル、モリブデン、タンタル、鉛、イットリウム及びネオジムから選ばれる1又は2以上の金属で主に形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電界電子放出素子用のエミッタ。
- 前記表面修飾層が、金属酸化物、金属水酸化物、金属フッ化物、金属炭化物、金属窒化物、金属ホウ化物、金属リン化物、金属珪化物、イオン照射により形成された欠陥無機物、及びイオン照射により形成された欠陥有機物の群から選ばれた1又は2以上の材料を含む層を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電界電子放出素子用のエミッタ。
- 前記エミッタが、前記表面修飾層と電極層との間に設けられるマイグレーション防止層を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電界電子放出素子用のエミッタ。
- 前記エミッタが、前記表面修飾層の上に設けられるキャッピング層を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の電界電子放出素子用のエミッタ。
- 前記エミッタを構成する層の少なくとも1層が、エピタキシャル成長層であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の電界電子放出素子用のエミッタ。
- 前記電子放出空間が、プラズマディスプレイパネルを構成するプラズマ発生空間であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の電界電子放出素子。
- 請求項1〜10のいずれか1項に記載の電界電子放出素子用のエミッタを有し、前記電子放出空間が、フィールドエミッションディスプレイパネルを構成する電子放出空間であることを特徴とする電界電子放出素子。
- 請求項1〜10のいずれか1項に記載の電界電子放出素子用のエミッタを有し、前記電子放出空間が、液晶表示装置のバックライトを構成する電子放出空間であることを特徴とする電界電子放出素子。
- 請求項1〜10のいずれか1項に記載の電界電子放出素子用のエミッタを有することを特徴とする電界電子放出素子。
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JP2003207627A Pending JP2005063694A (ja) | 2003-08-15 | 2003-08-15 | 電界電子放出素子用のエミッタおよびそれを有する電界電子放出素子 |
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JP (1) | JP2005063694A (ja) |
Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2021018846A (ja) * | 2019-07-17 | 2021-02-15 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 | 電界放出素子 |
-
2003
- 2003-08-15 JP JP2003207627A patent/JP2005063694A/ja active Pending
Cited By (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN109752750A (zh) * | 2019-01-29 | 2019-05-14 | 上海交通大学 | 一种用于稳定释放220Rn的放射源及包含该放射源的放射装置 |
CN109752750B (zh) * | 2019-01-29 | 2024-03-26 | 上海交通大学 | 一种用于稳定释放220Rn的放射源及包含该放射源的放射装置 |
JP2021018846A (ja) * | 2019-07-17 | 2021-02-15 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 | 電界放出素子 |
JP7279936B2 (ja) | 2019-07-17 | 2023-05-23 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 | 電界放出素子 |
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