JP2005060238A - 末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法 - Google Patents

末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法 Download PDF

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Sensuke Ogose
専介 生越
Hideo Kurosawa
英夫 黒沢
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  • Organic Low-Molecular-Weight Compounds And Preparation Thereof (AREA)
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Abstract

【課題】選択的、高収率で、かつ温和な条件で得ることができる末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法を提供する。
【解決手段】末端アセチレンを触媒の存在下で二量化させる際に、上記触媒として、0価のニッケルに第3級ホスフィンが配位した錯体を用いる。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法に関するものである。より詳しくは、例えばトリメチルシリルアセチレンのような末端アセチレンの二量化反応を、嵩高いホスフィンを有するニッケル0価錯体を触媒として用いて行うことによって、トランス型二量体を、選択的に、温和な条件で、かつ高収率で得ることのできる末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
共役エンイン骨格は、有機合成上有用なビルディングブロックであり、様々な生理活性種の鍵となっている。共役エンインは、例えば、以下の一般式群(2)
【0003】
【化2】
Figure 2005060238
【0004】
に示すような3種類の構造を含んでいる。中でも、トランス型二量体(head−to−head(E)型二量体)の共役エンインは、その構造から様々な分野に有用であると考えられている。
【0005】
このトランス型二量体の共役エンインを合成する方法としては、末端アセチレンの二量化によらない方法が開示されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1では、末端アセチレンとハロゲン化ビニルとをパラジウム触媒の存在下で反応させることによりトランス型二量体を得ている。
【0006】
これに対して、トランス型二量体の共役エンインを合成する方法として、末端アセチレンの二量化による方法も報告されている。共役エンインを合成する上で、末端アセチレンの二量化反応は非常に実用的で効率がよく、アトムエコノミーという観点から考えても無駄のない反応である。しかしながら、末端アセチレンの二量化反応は、アレーン環を与える環化三量化を抑制することや、上記一般式群(2)に示すような3種類の生成可能な末端アセチレン二量体のうち、1種類を選択的に得ることが困難であったため、実際の合成反応に応用することができるような反応は数少なかった。
【0007】
これを解決するために、Ru触媒を用いた末端アセチレンの二量化反応が知られており、これによれば、Ru触媒を用いることにより、head−to−head型二量体を効率よく得ることができるとしている。しかしながら、Ru触媒を用いた末端アセチレンの二量化反応により得られる共役エンインの生成物は、head−to−head(E)型二量体とhead−to−head(Z)型二量体とを含む異性体混合物である。このため、head−to−head(E)型二量体を選択的に生成することが困難であり、実用的な反応とは言えなかった。
【0008】
近年、上記一般式群(2)に示すような3種類の末端アセチレン二量体のうち、1種類の異性体のみを得ることができる反応が報告されている(例えば、非特許文献2、3参照)。非特許文献2では、反応式(3)
【0009】
【化3】
Figure 2005060238
【0010】
(式中、Arはアリール基、TDMPPは、式(4)
【0011】
【化4】
Figure 2005060238
【0012】
で表される化合物である)
で示すように、アリール基を置換基に有する末端アセチレンを、アミン存在下、パラジウムを触媒として用いて二量化反応させることによりトランス型二量体を生成している。
【0013】
また、非特許文献3では、反応式(5)
【0014】
【化5】
Figure 2005060238
【0015】
(式中、TDMPPは、上記式(4)で表される化合物である)
で示すように、末端アセチレンと非末端アセチレンとをパラジウム触媒の存在下で反応させることによりトランス型二量体を生成している。
【0016】
上記反応式(3)および(5)に示す反応は、何れの反応も一方の末端アセチレンが他方の末端アセチレンにsyn付加することにより、トランス型二量体を生成する反応である。
【0017】
【非特許文献1】
Fiandanese,V.等、「A Straightforward Synthesis of Substituted Cyclopentenones」、Tetrahedron Letters、Vol.37、No.46、p.8455−8458、1996
【0018】
【非特許文献2】
Rubina,M.等、「Can Agostic Interaction Affect Regiochemistry of Carbopalladation? Reverse Regioselectivity in the Palladium−Catalyzed Dimerization of Acetylenes」、J.Am.Chem.Soc.、123巻、p11107−11108、2001
【0019】
【非特許文献3】
Trost,B.等、「Palladium−catalyzed additions of terminal alkynes to acceptor alkynes」、J.Am.Chem.Soc.、119巻、p698−708、1997
【0020】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記非特許文献1に記載されている共役エンインの合成方法は、末端アセチレンに加えて、臭化物、アミン(触媒として使用)等を多量に使用しており、反応時間も長いため、効率的な合成反応ではない。また、上記非特許文献2に記載されている共役エンインの合成方法においても、触媒としてのアミンを多量に使用する必要があり、反応時間も長いため、効率的な合成反応ではない。
【0021】
さらに、上記非特許文献2に記載の合成方法は、反応温度が高いため加熱用の装置が必要になり、また、種々の添加剤を加える必要があるため、反応終了後の後処理の手間が増えてしまい不経済である。また、生成された共役エンインは、head−to−head(E)型二量体以外の末端アセチレン二量体を多量に生成してしまうため選択性が低い、といった種々の問題点を有している。加えて、非特許文献2に記載の合成方法は、末端アセチレンの置換基がアリール基以外の場合には、共役エンインを生成することができず、置換基の基質に制限されてしまう反応である。
【0022】
上記非特許文献3に記載されている合成方法は、アクセプター(受容体)アセチレンとして、電位吸引基を持つものが必要となるために、二量体の合成には不向きであるといった問題点を有している。
【0023】
上記のように、従来の反応においては、種々の問題点を有するとともに、トランス型二量体を生成するために、例えば、特殊な錯体を触媒として必要とする等、反応条件に制限があり、実用的な合成方法は未だ確立されていない。
【0024】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、その目的は、末端アセチレンの二量化によって、トランス型二量体を、選択的、高収率で、かつ温和な条件で得ることができる末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法を提供することにある。
【0025】
【課題を解決するための手段】
上記反応式(3)および(5)の反応条件では、何れの反応の場合も、10族金属のパラジウムと、非常に嵩高くかつ塩基性の高いホスフィンとを配位子として用いている。このことから、上記2つの反応は、10族金属上の配位場が嵩高い配位子によって制限されているために、末端アセチレンのトランス型二量体を得ることができているものと考えられる。
【0026】
したがって、パラジウムと同じ10族金属であって、パラジウムよりもさらに原子半径の小さいニッケルを用いた場合には、配位子の嵩高さによる影響をさらに強く受け、末端アセチレンの二量化反応に新たな変化が起こることを期待することができる。
【0027】
そこで、本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、酸化状態が0価のニッケルに嵩高い第3級ホスフィンを配位させた錯体を触媒として用いることにより、末端アセチレンのトランス型二量体を、温和な反応条件下、選択的かつ高収率で生成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0028】
すなわち、本発明に係る末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法は、末端アセチレンを触媒の存在下で二量化させる末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法であって、上記触媒として、0価のニッケルに第3級ホスフィンが配位した錯体を用いることを特徴としている。
【0029】
また、上記末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法において、上記末端アセチレンは、一般式(1)
【0030】
【化6】
Figure 2005060238
【0031】
(式中、Rは有機炭化水素基(一部が他元素で置換されたものを含む)、有機ケイ素基、または有機スズ基である)
で示される化合物であることが好ましい。
【0032】
さらに、上記末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法において、上記錯体における円錐角が180°以上であることが好ましく、上記第3級ホスフィンのpKaは9以上であることが好ましい。
【0033】
上記のように、本発明に係る末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法は、触媒として酸化状態が0価のニッケルに第3級ホスフィンが配位した錯体を用いている。この錯体を用いることにより、第3級ホスフィンの嵩高さによる反応の制御がより効果的なものとなり、温和な反応条件であっても、トランス型二量体を選択的かつ高収率で得ることができる。
【0034】
また、上記第3級ホスフィンを嵩高い配位子とすれば、上記錯体における円錐角が180°以上とすることができる。これにより、立体的に非常に嵩高くなるため、末端アセチレンが三量体を形成してしまうことや、トランス型二量体以外の二量体を形成してしまうことを防止することができる。さらに、上記第3級ホスフィンのpKaが9以上であれば、塩基性が高いため、第3級ホスフィンをニッケルに強く配位させることができ、反応中に第3級ホスフィンがニッケルから解離してしまうことを防止することができる。
【0035】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の一形態について説明すれば以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
本発明に係る末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法は、末端アセチレンを触媒の存在下で二量化させる末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法であって、上記触媒として、0価のニッケルに第3級ホスフィンが配位した錯体を用いるものである。
【0037】
これにより、トランス型二量体を選択的に生成することが可能となる。なお、以下においては、説明の便宜上、上記0価のニッケルに第3級ホスフィンが配位した錯体を、「ニッケル0価錯体」と称する。また、0価のニッケルを単に「ニッケル(0)」とも称することとする。また、上記末端アセチレンとは、一般式(1)にて示すように、炭素間三重結合を有する有機炭化水素化合物であって、三重結合を介して結合している一方の炭素は置換基を有しており、他方の炭素は水素を有しているアセチレンを指す。
【0038】
上記トランス型二量体とは、head−to−head(E)型二量体のことである。(E)は、二重結合および二重結合性をおびた単結合に関して、その結合をつくる原子に結びつく二つの置換基のうち順位則で上位の基が、その平面内でトランスの関係にあることを示している。すなわち、本発明の末端アセチレンのトランス型二量体は、末端アセチレンの二量化により、付加した末端アセチレンと、付加された末端アセチレンにおける上記一般式(1)のRとが平面内でトランスの関係にある構造を有している。
【0039】
〔末端アセチレン〕
本発明に係る末端アセチレンは、一般式(1)
【0040】
【化7】
Figure 2005060238
【0041】
(式中、Rは有機炭化水素基(一部が他元素で置換されたものを含む)、有機ケイ素基、または有機スズ基である)
で示される化合物であることが好ましい。
【0042】
上記末端アセチレンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、置換基が芳香族系化合物である芳香族系アセチレン、置換基が脂肪族系炭化水素である脂肪族系炭化水素アセチレン、置換基がアルキルシリル基であるアルキルシリル系アセチレン、または置換基がアルキルスタニル基であるアルキルスタニル系アセチレンを挙げることができる。具体的には、トリメチルシリルアセチレン、フェニルアセチレン、4−メチルフェニルアセチレン、2−メチルフェニルアセチレン、4−メトキシカルボニルフェニルアセチレン等を挙げることができる。
【0043】
上記末端アセチレンのうち、置換基として電子供与性の置換基が付いている末端アセチレンを用いた場合にはより効率よくトランス型二量体を得ることができる。また、同等の置換基が付いていて、電子的に似たような環境にある末端アセチレン同士を比較した場合には、より立体的な混み合いの大きい末端アセチレンを用いた方がより効率よくトランス型二量体を得ることができる。したがって、上記末端アセチレンのうち、フェニルアセチレンを用いることが特に好ましい。
【0044】
〔ニッケル0価錯体〕
本発明に係るニッケル0価錯体は、酸化状態が0価のニッケルに第3級ホスフィンが配位した錯体である。このため、第3級ホスフィンの置換基を、例えば、ファンデルワールス半径の大きい置換基とすることにより、いわゆる嵩高いニッケル0価錯体とすることができる。具体的には、上記ニッケル0価錯体における円錐角が180°以上であることが好ましい。
【0045】
ここで、円錐角とは、cone angleとも言い、金属錯体における配位子の立体的な大きさを表す尺度である。例えば、中心金属(M)にホスフィン(P)等が配位している場合に、配位子中の各原子や置換基のファンデルワールス半径を考慮して、配位子をM−P結合間の周りに回転させたときに生ずる円錐角(θ)のことである。
【0046】
嵩高いニッケル0価錯体を用いることにより、末端アセチレンが二量化反応を起こす際、さらなる末端アセチレンが配位して三量体を形成してしまうことを防止することができる。さらに、嵩高いニッケル0価錯体を用いることにより、反応を立体的に制御することができ、head−to−tail型二量体の生成を防止することが可能となる。
【0047】
本発明に係るニッケルとしては、酸化状態が0価のニッケルであれば特に限定されるものではないが、例えば、ニッケル(シクロオクタジエン)(以下、Ni(cod)と記載する)、ニッケル(シクロドデカトリエン)等を挙げることができる。
【0048】
また、本発明に係る第3級ホスフィンとしては、ニッケル0価錯体における円錐角が180°以上となるような置換基を有する第3級ホスフィンであれば特に限定されるものではないが、例えば、置換基としてアルキル基が結合しているアルキルホスフィンや、芳香族系化合物が結合している芳香族系ホスフィンを挙げることができる。具体的には、P[tert−C(CH(以下、PBuと記載する)、P[tert−C(CHCHCH(以下、PPentと記載する)、P[2,6−(CHO)、P[2,4,6−(CHO)等を挙げることができる。
【0049】
本発明に係る第3級ホスフィンは、塩基性の高いホスフィンであることがより好ましい。具体的には、第3級ホスフィンのpKaが9以上であればより好ましい。塩基性の高い第3級ホスフィンを用いることにより、第3級ホスフィンをニッケルに強く配位させることができる。これにより、トランス型二量体を生成する反応の途中でニッケルが第3級ホスフィンから解離してしまうことを防止することができ、効率よくトランス型二量体を得ることが可能となる。
【0050】
すなわち、本発明に係るニッケル0価錯体としては、嵩高く、かつ、塩基性の高い第3級ホスフィンを配位させた錯体であることが特に好ましい。具体的には、ニッケル0価錯体における円錐角が180°以上であって、かつ、pKaが9以上の第3級ホスフィンを配位させた錯体である。したがって、上記第3級ホスフィンの中でも塩基性および嵩高さの点からPBuを用いることが特に好ましい。
【0051】
〔末端アセチレンの二量化方法〕
次に、本発明の末端アセチレンのトランス型二量体を製造(合成)する方法について説明する。本発明に係る末端アセチレンのトランス型二量体は、まず、触媒として用いるニッケル0価錯体のニッケル(0)と第3級ホスフィンとを有機溶媒に溶解させ、この溶液中に末端アセチレンを加えて反応させることによって生成することができる。
【0052】
上記有機溶媒としては、ニッケル(0)、第3級ホスフィンおよび末端アセチレンを溶解させることのできる溶媒であれば特に限定されるものではないが、配位性を有する有機溶媒であることがより好ましい。配位性の有機溶媒を用いた場合には、オリゴマーを生成することなくより効率的にトランス型二量体を生成することが可能となる。
【0053】
上記配位性を有する有機溶媒としては、例えば、C、トルエン、CHCN、C/CHCN(1:1)等を挙げることができる。上記有機溶媒の中でもCHCNを用いた場合には、トランス型二量体の収率を挙げることができるためより好ましい。CHCNを用いた場合には、CHCNがニッケル(0)に配位することによって末端アセチレンの2分子目の配位を防ぎ、環化三量体が形成することを抑制することができる。また、CHCN1分子と第3級ホスフィン1分子とが、各々ニッケル(0)に配位した錯体を形成することにより、触媒が失活してしまうことを未然に防止することができる。
【0054】
さらに、上記有機溶媒の中でもC/CHCN(1:1)を用いることが特に好ましい。CとCHCNとを1:1で混合させた混合溶媒を用いることにより、ニッケル0価錯体の溶解度を上げることが可能となるため、トランス型二量体の収率および選択性をさらに上げることができる。
【0055】
なお、本発明の末端アセチレンの二量化方法においては、例えば生成したトランス型二量体の収率を求める等、二量化反応をH−NMRにて観測することがある。この場合には、使用する有機溶媒としては、水素が重水素である有機溶媒を用いればよい。水素が重水素である有機溶媒を用いた場合であっても、上記有機溶媒を用いた場合と同様の結果を得ることができる。水素が重水素である有機溶媒とは、例えば、C、トルエン−d、CDCN、C/CDCN(1:1)等である。
【0056】
本発明の反応は室温にて行うことができる。室温で反応させた場合であっても、反応は十分に速く進行し、また、選択性にも優れている。すなわち、本発明の製造方法は、加熱する必要は無く室温にて行うことができるため、加熱用の装置等を必要とせず経済的かつ容易に行うことができる。
【0057】
本発明の反応に用いる各成分の濃度として、末端アセチレンの濃度は、無溶媒条件〜0.02mol/Lであることが好ましく、0.2mol/L程度であることがより好ましい。また、ニッケル(0)の濃度は、10mol%〜0.005mol%であることが好ましく、4mol%程度であることがより好ましい。さらに、第3級ホスフィンの濃度は、16mol%〜0.005mol%であることが好ましく、4mol%程度であることがより好ましい。
【0058】
末端アセチレンの濃度を上記範囲内とすることにより、反応後の生成物としてトランス型二量体の他に、環化三量体やそれ以外の副生成物を生成してしまうことを抑制することが可能となる。また、ニッケル(0)や第3級ホスフィンの濃度を上記範囲内とすることにより、効率的に反応を進行させることが可能となる。なお、ニッケル(0)や第3級ホスフィンの濃度が上記範囲外である場合には、触媒が失活してしまうことがあるため好ましくない。
【0059】
また、上記反応における反応時間は、末端アセチレンを二量化させる時間が確保されれば特に限定されるものではないが、例えば、5分〜2時間の範囲内であることが好ましく、5分〜1時間の範囲内であることがより好ましい。反応時間を上記範囲内とすることにより、過反応を抑制することができる。また、反応時間が上記範囲外である場合には、オリゴマーが生成することがあるため好ましくない。
【0060】
なお、上記においては、ニッケル(0)と第3級ホスフィンとを有機溶媒に溶解させた後に反応させているが、本発明は、有機溶媒を用いることなくニッケル(0)と第3級ホスフィンとを反応させることもできる。この場合、ニッケル(0)および第3級ホスフィンに直接末端アセチレンを溶解させ、反応させることによりトランス型二量体を得ることができる。有機溶媒を用いずに反応させた場合であっても、効率よくトランス型二量体を得ることができる。
【0061】
この場合、上記の有機溶媒を用いた方法と比較して、ニッケル(0)、第3級ホスフィンおよび末端アセチレンを有機溶媒に溶解させずに反応させる点が異なるのみであり、上記反応温度、各成分の濃度または反応時間等の反応条件については同様にして行うことができる。また、触媒量を0.5〜0.1mol%にしても反応は進行する。
【0062】
〔末端アセチレンの二量化の反応機構〕
次に、本発明に係る末端アセチレンがトランス型二量体を形成する際の二量化反応の反応機構について、上記一般式(1)に示す末端アセチレンを用いた以下に示す反応式(6)
【0063】
【化8】
Figure 2005060238
【0064】
で表される反応機構に基づいて説明する。なお、説明の便宜上、反応式(6)に示す各化合物の下に付した番号に基づいて、各化合物を、「化合物1」「化合物2」のように称する。
【0065】
反応式(6)に示すように、まず、触媒として用いるニッケル0価錯体に末端アセチレン1分子が配位し、経路Aを経て末端アセチレンがニッケルに酸化的付加する(化合物2)。そして、化合物2に示す酸化的付加体のNi−H結合間に、別の末端アセチレンが挿入されて化合物3が生成する。化合物3が還元的脱離を経ることによりトランス型(head−to−head(E)型)二量体(化合物4)が生成する。また、脱離したニッケル0価錯体は、再び触媒として再生される。
【0066】
なお、経路Aにて末端アセチレンがニッケル0価錯体に酸化的付加する速さよりも、2分子目の末端アセチレンがニッケル0価錯体に配位する速さの方が速い場合には、末端アセチレンが三量体を形成する経路Bへと反応が進行し、環化三量体を形成する。しかしながら、上述のように、触媒として用いるニッケル0価錯体の嵩高さによって、2分子目の末端アセチレンが配位することを抑制しているため、環化三量体の形成を防ぐことが可能となっている。
【0067】
また、化合物2に末端アセチレンを挿入する際には、末端アセチレンが化合物2のNi−C間に挿入されてしまうことが考えられる。この場合、化合物5を経てhead−to−tail型二量体が形成されてしまう。しかしながら、上述のように、触媒として用いるニッケル0価錯体が嵩高いことから、末端アセチレンは、化合物2のNi−C間に挿入した場合に生じる立体的な混み合いを避け、より混み合いの少ない化合物2のNi−H間に挿入される。このため、化合物3を経てトランス型(head−to−head(E)型)二量体(化合物4)を選択的に生成することが可能となる。
【0068】
〔末端アセチレンのトランス型二量体の利用〕
本発明に係る末端アセチレンのトランス型二量体の利用方法は、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、非線形光学材料の原料、エレクトロンデバイス、医薬品、農薬等を挙げることができる。
【0069】
本発明の製造方法により合成された、上記一般式(1)からなるトランス型二量体を用いれば、既知の方法により、以下に示す一般式(7)
【0070】
【化9】
Figure 2005060238
【0071】
で表される構造の化合物を合成することができる。
【0072】
ここで、本発明の製造方法は、反応が極めてクリーンであり微量の触媒を用いているため、生成物を精製する必要がない。したがって、一般式(7)にて表される化合物を生成する過程においても同様に精製する必要がなく、既知の方法を用いて生成しているものの、既知の方法よりも簡便に行うことができる。
【0073】
そして、一般式(7)にて表される構造の化合物を用いて以下に示す式(8)
【0074】
【化10】
Figure 2005060238
【0075】
で表される構造を有する化合物とすることにより、非線形光学材料(例えば、フィルムや結晶等)の原料として用いることができ、エレクトロンデバイスとして用いることも期待できる。さらに、式(8)にて表される化合物の置換基が、フェニル基のパラ位に置換基を有する置換基である場合には、フォトレジストとして用いることも期待できる。
【0076】
また、上記一般式(7)にて表される化合物を用いることにより、以下に示す式(9)
【0077】
【化11】
Figure 2005060238
【0078】
または式(10)
【0079】
【化12】
Figure 2005060238
【0080】
で表される8員環骨格の構造を有する化合物や、多環系化合物を生成することができる。
【0081】
上記式(9)および(10)にて表される化合物のように、8員環骨格の構造を有する化合物や、多環系化合物は、医薬品や農薬等の材料へ変換することが可能であるため有用性が高い。また、8員環骨格の構造を有する化合物は、天然物の骨格にも多く特に有用性が高い。
【0082】
また、本発明に係る末端アセチレンのトランス型二量体は、C4ユニットのビルディングブロックとしても有用である。例えば、トランス型二量体が、トランス−1,4−ビストリメチルシラニル−1−ブト−1−エン−3−イン((E)−1,4−Bis−trimethylsilanyl−but−1−en−3−yne)の場合には、これを変換する反応として、以下に示す反応式(11)
【0083】
【化13】
Figure 2005060238
【0084】
反応式(12)
【0085】
【化14】
Figure 2005060238
【0086】
反応式(13)
【0087】
【化15】
Figure 2005060238
【0088】
等を挙げることができる。
【0089】
【実施例】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。当業者は、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行い得る。
【0090】
〔第3級ホスフィンの合成〕
第3級ホスフィンとしては、PBuやPPent等を用いることができ、これらはいずれも公知のものである。したがって、市販されているものを用いてもよく、合成したものを用いてもよい。以下では、一例としてPPentを合成する方法について説明する。
【0091】
まず、ドライボックス内で、200mLの三口フラスコに三塩化リン(0.50mL、5mL)と、エーテル(30mL)とを入れた。この三口フラスコに、1,1−ジメチルプロピル塩化マグネシウム(1.0Mエーテル溶液、30mL)を入れた滴下ロートと、ヨウ化銅(133mg、0.7mmol)および臭化リチウム(118mg)のテトラヒドロフラン(THF)溶液(5mL)を入れた滴下ロートと、還流冷却管とを取り付け、ドライボックスから持ち出した。
【0092】
そして、0℃で1,1−ジメチルプロピルマグネシウム クロライド(1,1−Dimethylpropylmagnesium chloride)をゆっくり滴下した。溶液はすぐに白く濁った。その後、0℃で1時間攪拌した。次に、0℃でヨウ化銅および臭化リチウムのTHF溶液をゆっくり滴下した。溶液の色は灰色に変わり、しばらくすると溶液の色は再び白に戻った。その後、40℃で終夜還流した。
【0093】
還流後、エバポレーションで溶液を濃縮したところ、白い固体を得た。反応容器をドライボックスに持ち込み、白い固体をエーテルで抽出しセライトろ過した。そして、ビフロー蒸留を行い、反応生成物(PPent:トリ−t−ペンチルホスフィン)を得た。単離収量は645mg、単離収率は46.3%であった。また、反応生成物の沸点は75〜80℃/0.3mmHgであり、H−NMRおよび31P−NMRの分析結果は以下のとおりであった。
H−NMR(270MHz,C):δ0.99(t,J=7.3Hz,3H), 1.26(d,JHP=9.2Hz,6H), 1.7(q)
31P−NMR(109.4MHz,C6D6): δ48.1(s)
〔実施例1〜4〕
末端アセチレンとして、トリメチルシリルアセチレンを用いて二量化反応を行った。また、反応条件の最適化を試みるために、溶媒として、C、ヘキサン、トルエン−d、CDCNを用いた。
【0094】
グローブボックス中、NMRチューブにNi(cod)(4μmol、1.1mg)と、PBu(4μmol、0.8mg)とを加え、上記各溶媒(0.5mL)に溶解させた。溶液は薄い黄色の溶液になった。この溶液にトリメチルシリルアセチレン(0.1mmol、9.8mg、14μL)を加え反応させ、反応生成物(トランス−1,4−ビストリメチルシラニル−1−ブト−1−エン−3−イン)を得た。
【0095】
反応生成物についてH−NMRを測定した。また、過去のNMRデータと比較するため、溶媒をCDClに変えてH−NMRを測定し、さらにGC−Massを測定した。文献記載のH−NMRスペクトルの値を参考にして収率を求めた。反応は反応式(14)
【0096】
【化16】
Figure 2005060238
【0097】
で示すとおり進行し、各溶媒における収率は表1に示すとおりである。
【0098】
【表1】
Figure 2005060238
【0099】
表1に示すように、配位性の溶媒を用いることにより反応生成物の収率が上がることが分かる。また、溶媒としてヘキサンを用いた場合には、反応生成物が確認できず、収率という点においては比較例ともいえる。
【0100】
〔実施例5〕
末端アセチレンとして、トリメチルシリルアセチレンを用い、溶媒を用いずに二量化反応を行った。まず、グローブボックス中、クーゲルロール蒸留の器具にNi(cod)(25μL、6.9mg)と、PBu(25μL、5.1mg)とを加えた。このクーゲルロール蒸留の器具に、トリメチルシリルアセチレン(5mmol、491.1mg、0.71mL)を加え反応させた。そして、反応生成物(トランス−1,4−ビストリメチルシラニル−1−ブト−1−エン−3−イン)の収率を求めた。その結果を表1に示す(表1中のneatとは無溶媒を示す)。反応開始から1時間後に、反応容器をグローブボックスから取り出し、そのままクーゲルロール蒸留を行って反応生成物を単離した。クーゲルロール蒸留後の反応生成物の収率は61%であった。
【0101】
表1に示すように、溶媒を用いない場合であっても反応が進行し、効率よく反応生成物を得ることができることが分かった。したがって、非常に容易な実験操作で、反応生成物が得られるという点で優れているといえる。
【0102】
〔実施例6〜15〕
末端アセチレンとして、フェニルアセチレンを用いて二量化反応を行った。また、反応条件の最適化を試みるために、第3級ホスフィンとして、PBu、PPent、P[2,6−(CHO)、P[2,4,6−(CHO)、P[C(CHCH、P(cyclo−C11、P(C11、P(n−C、P(C、P(o−tol)、1,1’−ビスジフェニルホスフィノフェロセン(DPPF)を用いた。
【0103】
グローブボックス中、NMRチューブに4mol%のNi(cod)(4μmol、0.8mg)と、上記各第3級ホスフィン(4μmol、0.8mg)とを加え、C(0.5mL)に溶解させた。溶液は薄い黄色の溶液になった。この溶液にフェニルアセチレン(0.1mmol、10.2mg、11μL)を加え反応させると、溶液は濃いこげ茶色の溶液になった。
【0104】
反応生成物についてH−NMRを測定して収率を計算し、GC−Massを測定した。反応は反応式(15)
【0105】
【化17】
Figure 2005060238
【0106】
(式中、Phはフェニル基であり、PRは第3級ホスフィンである)
に示すとおり進行する。なお、反応式(15)において、反応生成物の下に付したA・B・Cは、各生成物を説明するための記号とする(以下、他の反応式においても同様とする)。
【0107】
また、各反応における結果を表2に示す。
【0108】
【表2】
Figure 2005060238
【0109】
表2に示すように、第3級ホスフィンとして、PBu、PPent、P[2,6−(CHO)、P[2,4,6−(CHO)を用いた場合には、トランス−1,4−ジフェニル−1−ブト−1−エン−3−イン((E)−1,4−diphenyl−but−1−en−3−yne)が得られた。その他の第3級ホスフィンを用いた場合には、目的とするトランス型二量体を得ることができなかった。したがって、ニッケル0価錯体における円錐角が180°以上であって、pKaが9以上である第3級ホスフィンが適していることが分かった。
【0110】
上記生成物を同定する目安として用いた化合物とそのH−NMRスペクトルデータを以下に示す。
○トランス−1,4−ジフェニル−1−ブト−1−エン−3−イン(式16)
【0111】
【化18】
Figure 2005060238
【0112】
H−NMR(270MHz,C):δ6.31(d,J=16.2Hz,1H)
○1,2,4−トリフェニルベンゼン
H−NMR(270MHz,C):δ7.69(m,1H)
○1,3,5−トリフェニルベンゼン
H−NMR(270MHz,C):δ7.78(s,3H)
〔実施例16〕
第3級ホスフィンとして用いるPBuの使用量を20μmol、4.0mgとした以外は、実施例6〜15と同様にして反応させた。また、反応生成物についても、実施例6〜15と同様にしてH−NMRを測定して収率を計算し、GC−Massを測定した。その結果を表2に示す。
【0113】
〔比較例1〕
第3級ホスフィンを用いずに、フェニルアセチレンの二量化反応を行った。反応は、第3級ホスフィンを用いないで行う以外は、実施例6と同様にして反応させた。反応生成物についても、実施例6と同様にしてH−NMRを測定して収率を計算し、GC−Massを測定した。その結果を表2に示す。
【0114】
表2に示すように、第3級ホスフィンを用いない場合、すなわち、本発明のニッケル0価錯体を用いずにフェニルアセチレンの二量化反応を行った場合には、環化三量体の生成がほとんどであって、トランス型二量体は生成しないことが分かった。
【0115】
〔実施例17〕
末端アセチレンとしてフェニルアセチレンを用い、反応条件の最適化を試みるために、室温にて二量化反応を行った。
【0116】
グローブボックス中、10mLナスフラスコにNi(cod)(4μmol、1.1mg)と、PBu(4μmol、0.8mg)とを入れ、トルエン(0.5mL)に溶解させた。この溶液にフェニルアセチレンを加えて室温にて反応させると、溶液の色は黒色になった。反応容器をグローブボックスから取り出し、溶液を濃縮後、反応生成物をCに溶解させてH−NMRを測定した。その結果、トランス型二量体が46%生成し、環化三量体が44%生成した。
【0117】
〔実施例18〕
末端アセチレンとしてフェニルアセチレンを用い、反応条件の最適化を試みるために、低温にて二量化反応を行った。
【0118】
まず、使用する器具および溶媒を十分に冷却し、グローブボックス中、10mLナスフラスコにNi(cod)(4μmol、1.1mg)と、PBu(4μmol、0.8mg)とを入れ、トルエン(0.5mL)に溶解させた。溶液を冷蔵庫に入れ十分に冷却した後、フェニルアセチレンを加えて一晩放置した。反応容器をグローブボックスから取り出し、溶液を濃縮後、反応生成物をCに溶解させてH−NMRを測定した。その結果、トランス型二量体が33%生成し、環化三量体が67%生成した。
【0119】
したがって、室温であっても低温であってもトランス型二量体は生成するものの、室温にて反応させた方が、トランス型二量体の選択性がよいことが分かった。また、反応は室温でも十分に速く、加熱は必要ないことが分かった。
【0120】
〔実施例19〕
末端アセチレンとしてフェニルアセチレンを用いて二量化反応を行った。本実施例では、フェニルアセチレンの濃度を2mol/Lとした。
【0121】
グローブボックス中、NMRチューブにNi(cod)(40μmol、11.0mg)と、PBu(40μmol、8.1mg)とを加え、C(0.5mL)に溶解させた。溶液は薄い黄色の溶液になった。この溶液にフェニルアセチレン(1.0mmol、102.1mg、0.11mL)を加え反応させた。反応生成物についてH−NMRを測定したところ、トランス型二量体は生成していたものの、トランス型二量体や環化三量体以外の化合物も生成していた。このため、上記実施例6〜15におけるフェニルアセチレンの濃度(0.2mol/L)の方が収率および選択性に適していることが分かり、この点において本実施例は実施例6〜15に対する比較例ともいえる。
【0122】
〔実施例20〕
末端アセチレンとしてフェニルアセチレンを用いて二量化反応を行った。本実施例では、フェニルアセチレンの濃度を0.02mol/Lとた。
【0123】
グローブボックス中、NMRチューブにNi(cod)(4μmol、1.1mg)と、PBu(4μmol、0.8mg)とを加え、C(5.0mL)に溶解させた。溶液は薄い黄色の溶液になった。この溶液にフェニルアセチレン(0.1mmol、10.2mg、11μL)を加え30分攪拌して反応させた。反応溶液を濃縮し、反応生成物をCDClに溶解してH−NMRを測定したところ、トランス型二量体は生成していたものの、トランス型二量体や環化三量体以外の化合物も生成していた。このため、上記実施例6〜15におけるフェニルアセチレンの濃度(0.2mol/L)の方が収率および選択性に適していることが分かり、この点において本実施例は実施例6〜15に対する比較例ともいえる。
【0124】
〔実施例21〜24〕
末端アセチレンとして、フェニルアセチレンを用いて二量化反応を行った。また、反応条件の最適化を試みるために、溶媒として、C、トルエン−d、CDCN、C/CDCN(1:1)を用いた。
【0125】
グローブボックス中、NMRチューブにNi(cod)(4μmol、1.1mg)と、PBu(4μmol、0.8mg)とを加え、溶媒に溶解させた。この溶液にフェニルアセチレン(0.1mmol、10.2mg、11μL)を加えて反応させた。反応生成物についてH−NMRを測定した。収率を表3に示す。
【0126】
【表3】
Figure 2005060238
【0127】
表3に示すように、溶媒としてCDCNを用いた場合には、反応生成物の収率を求めることができなかった。これは、CDCNに対するNi(cod)の溶解度が低く、Ni(cod)が溶媒に溶けきらないため、反応が終了しなかったためと考えられる。ただし、反応は終了していないものの、H−NMRの測定結果から、トランス型二量体の選択性は向上していることがわかった。このため、触媒の溶解度を上げる目的で、C/CDCN(1:1)の混合溶媒を用いたところ、加熱と長い反応時間とを必要とするものの収率および選択性がさらに向上した。
【0128】
〔実施例25〜29〕
末端アセチレンとして、種々のアリールアセチレンを用いて二量化反応を行った。アリールアセチレンとして、4−メチルフェニルアセチレン、2−メチルフェニルアセチレン、4−メトキシフェニルアセチレン、4−クロロフェニルアセチレンを用いた。
【0129】
グローブボックス中、NMRチューブにNi(cod)(4μmol、1.1mg)と、PBu(4μmol、0.8mg)とを加え、重溶媒に溶解させた。重溶媒は、CまたはC/CDCN(1:1)を用いた。溶液は薄い黄色の溶液になった。
【0130】
この溶液に上記アリールアセチレン(0.1mmol)を加えて反応させた。溶液は黒色溶液になった。反応生成物についてはH−NMRを測定し、文献記載のH−NMRデータと比較して同定した。反応は反応式(17)
【0131】
【化19】
Figure 2005060238
【0132】
(式中、Arはアリール基である)
で示すとおり進行する。また、各反応条件および収率等の結果を表4に示す。
【0133】
【表4】
Figure 2005060238
【0134】
表4に示すように、末端アセチレンとして、4−メチルフェニルアセチレンを用いた場合には、C/CDCN(1:1)の混合溶媒を用いると収率が向上した。
【0135】
上記の結果から、電子供与性の置換基が付いているアリールアセチレンの方が効率よくトランス型二量体を与えることが分かる。また、同様の置換基がついていて似たような電子的な環境にある場合には、より立体的な混み合いの大きいアリールアセチレンの方が効率よくトランス型二量体を与えることが分かる。
【0136】
なお、表4には示されていないが、アリールアセチレンとして、2−メトキシカルボニルフェニルアセチレンを用いた場合には、数種類の生成物が確認できた。H−NMRの測定結果から少なくとも8種類のCHO基のピークが見られた。ただし、H−NMRの測定結果およびGC−Massの測定結果から生成物の同定はできなかった。また、アリールアセチレンとして、4−アミノフェニルアセチレンを用いた場合には、沈澱が生じた。溶液部分のH−NMRの測定結果から数種類の生成物が確認できたものの、生成物の同定には至らなかった。
【0137】
上記生成物を同定する目安として用いた化合物とそのH−NMRスペクトルデータを以下に示す。
○トランス−1,4−ジパラメチルフェニル−1−ブト−1−エン−3−イン((E)−1,4−di−p−methylphenyl−but−1−en−3−yne)(式18)
【0138】
【化20】
Figure 2005060238
【0139】
H−NMR(270MHz,C):δ2.00(s,3H), 6.36(d,J=16.2Hz,1H), 2.05(s,3H)
H−NMR(270MHz,CDCl):δ2.37(s), 6.34(d,J=16.2Hz,1H)
○1,2,4−トリ−p−メチルフェニルベンゼン
H−NMR(270MHz,C):δ7.79(m,1H)
○1,3,5−トリ−p−メチルフェニルベンゼン
H−NMR(270MHz,C):δ7.87(s,3H)
○トランス−1,4−ジオルトメチルフェニル−1−ブト−1−エン−3−イン
((E)−1,4−di−o−methylphenyl−but−1−en−3−yne)(式19)
【0140】
【化21】
Figure 2005060238
【0141】
H−NMR(270MHz,C):δ2.00(s,3H), 2.46(s,3H), 6.32(d,J=16.2Hz,1H), 7.58−6.87(m,9H)
H−NMR(270MHz,CDCl):δ2.40(s,3H), 2.50(s,3H), 6.36(d,J=16.2Hz,1H), 7.54−7.15(m,9H)
○トランス−1,4−ジパラメトキシフェニル−1−ブト−1−エン−3−イン
((E)−1,4−di−p−methoxyphenyl−but−1−en−3−yne)(式20)
【0142】
【化22】
Figure 2005060238
【0143】
H−NMR(270MHz,C):δ3.19(s), 3.24(s), 6.32(d,J=16.2Hz,1H), 7.83−6.61(m)
H−NMR(270MHz,CDCl):δ3.83(s), 6.24(d,J=16.2Hz,1H), 7.72−6.78(m)
○トランス−1,4−ジパラクロロフェニル−1−ブト−1−エン−3−イン((E)−1,4−di−p−chlorophenyl−but−1−en−3−yne)(式21)
【0144】
【化23】
Figure 2005060238
【0145】
H−NMR(270MHz,C):δ6.07(d,16.2Hz)
○1,2,4−トリ−p−クロロフェニルベンゼン
H−NMR(270MHz,C):δ7.43(s)
○1,3,5−トリ−p−クロロフェニルベンゼン
H−NMR(270MHz,C):δ7.34(m)
〔実施例30〜32〕
末端アセチレンとして、アリールアセチレン以外の種々のアセチレンを用いて二量化反応を行った。用いた末端アセチレンは、1−オクチン、トリブチルスタニルアセチレン、3,3−ジメチル−1−ブチンである。
【0146】
まず、グローブボックス中、NMRチューブにNi(cod)(4μmol、1.1mg)と、PBu(4μmol、0.8mg)とを加え、重溶媒に溶解させた。重溶媒は、CまたはCDCNを用いた。溶液は薄い黄色の溶液になった。この溶液に上記各末端アセチレン(0.1mmol)を加えて反応させた。反応生成物についてはH−NMRを測定し、文献記載のH−NMRデータと比較して同定した。反応は反応式(22)
【0147】
【化24】
Figure 2005060238
【0148】
(式中、Rは、n−C13基、(n−CSn基またはC(CH基である)に示すとおり進行する。各反応条件および収率等の結果を表5に示す。
【0149】
【表5】
Figure 2005060238
【0150】
上記生成物を同定する目安として用いた化合物とそのH−NMRスペクトルデータを以下に示す。
○トランス−ヘキサデカ−7−エン−9−イン((E)−Hexadeca−7−en−9−yne)(式23)
【0151】
【化25】
Figure 2005060238
【0152】
H−NMR(270MHz,C):δ5.46(dt,J=15.7Hz,J=7.0Hz), 6.06(dt,J=15.7Hz,J=1.6Hz,1H)
○1,3,5−トリ−ヘキシルベンゼン
H−NMR(270MHz,CDCl):δ6.82(s)
○トランス−2,2,7,7−テトラメチル−1−オクト−3−エン−5−イン((E)−2,2,7,7−Tetramethyl−oct−3−en−5−yne)(式24)
【0153】
【化26】
Figure 2005060238
【0154】
H−NMR(270MHz,C):δ1.00(s,9H), 1.21(s,9H), 5.40(d,J=16.2Hz,1H), 6.03(d,J=16.2Hz,1H)
なお、末端アセチレンとしてトリブチルスタニルアセチレンを用いた場合には、過去にこの化合物の二量体が合成された報告がなかったので、トランス−1,4−ビストリメチルスタニル−1−ブト−1−エン−3−イン((E)−1,4−Bis−trimethylstannanyl−but−1−en−3−yne)のNMRデータと比較して化合物の同定を行った。
○トランス−1,4−ビストリメチルスタニル−1−ブト−1−エン−3−インのNMRデータ
H−NMR(300MHz,CDCl):δ5.97(d,J=19.9Hz,1H), 6.88(d,J=19.9Hz,1H)
119Sn−NMR(111.82MHz):δ−65.5(d,J=18.8), −31.4(d,J=18.8Hz)
○トリブチルスタニルアセチレンを用いた場合に得られた生成物のNMRデータ
H−NMR(270MHz,CDCl):δ1.62−0.88(m), 6.03(d,J=19.7Hz,1H), 6.87(d,J=19.7Hz,1H)
H−NMR(270MHz,C):δ1.72−0.82(m), 6.32(d,J=19.7Hz), 7.15(d,J=19.7Hz)
119Sn−NMR(147.62MHz):δ−65.5, −43.4
上記NMRデータがほぼ一致していることから、得られた生成物はトランス−1,4−ビストリブチルスタニル−1−ブト−1−エン−3−イン((E)−1,4−Bis−tributylstannanyl−but−1−en−3−yne)であることが分かった。
【0155】
〔トランス型二量体の単離〕
上記実施例31にて生成したトランス−1,4−ビストリブチルスタニル−1−ブト−1−エン−3−インを単離した。まず、グローブボックス中、ボムにNi(cod)(4μmol、1.1mg)と、PBu(4μmol、0.8mg)とを加え、Cに溶解させた。この溶液にトリブチルスタニルアセチレン(1.0mmol、315mg、0.29mL)を加え、65℃で1時間攪拌した。溶液は黒く濁った。NMRで反応の終了を確認し、反応容器をグローブボックスから取り出した。
【0156】
反応生成物をカラムクロマトグラフィー(Wakogel C200:30g、展開溶媒:ヘキサン)で単離した。その結果、黄色い溶液が得られた。この溶液を濃縮してH−NMRを測定したところ、式(25)
【0157】
【化27】
Figure 2005060238
【0158】
に示す生成物が得られた。これは生成物がシリカゲルを通る段階で加水分解したものと考えられる。また、高分解能Massによっても式(25)が確認できた。
【0159】
【発明の効果】
このように、本発明に係る末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法によれば、トランス型二量体を選択的、高収率、かつ温和な条件で得ることが可能であり、特に、市販されている試薬を触媒としていること、室温で速やかに反応が進行する点において優れている。また、本発明の製造方法によれば、生成物の単離が容易であり、ほぼ定量的に反応が進行してトランス型二量体を非常に効率よく得ることができることから、工業的に利用できる可能性は大きい。すなわち、本発明の製造方法は、アセチレンの生産・販売等に関する化学産業にて好適に用いることができる。また、本発明の製造方法によって製造されたトランス型二量体は、非線形光学材料(例えば、フィルムや結晶等)、エレクトロンデバイス、フォトレジスト、医薬品、農薬等として好適に用いることができる。

Claims (4)

  1. 末端アセチレンを触媒の存在下で二量化させる末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法であって、
    上記触媒として、0価のニッケルに第3級ホスフィンが配位した錯体を用いることを特徴とする末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法。
  2. 上記末端アセチレンは、一般式(1)
    Figure 2005060238
    (式中、Rは有機炭化水素基(一部が他元素で置換されたものを含む)、有機ケイ素基、または有機スズ基である)
    で示される化合物であることを特徴とする請求項1に記載の末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法。
  3. 上記錯体における円錐角が180°以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法。
  4. 上記第3級ホスフィンのpKaは9以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の末端アセチレンのトランス型二量体の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2009203194A (ja) * 2008-02-28 2009-09-10 National Institute Of Advanced Industrial & Technology アルキン誘導体の製造方法

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