JP2005055205A - ポリ塩化ビフェニル類の分析方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】絶縁油などの油中のポリ塩化ビフェニル類(PCB)を、質量分析器付きガスクロマトグラフィー、特に四重極型質量分析器付きガスクロマトグラフィー(GC−LRMS)を使用して迅速に分析する方法であって、低塩素化PCBの定量を精度よく行うことができるPCBの分析方法を提供する。
【解決手段】油中のPCBを、定量分析する方法であって、PCBを油中から水と極性溶媒の混合液中に抽出する工程、PCBを揮発性溶媒に転溶する工程、および該揮発性溶媒中のPCBの含有量を、質量分析器付きガスクロマトグラフィーを使用して定量する工程を含むことを特徴とするPCBの分析方法。
【選択図】 図1
【解決手段】油中のPCBを、定量分析する方法であって、PCBを油中から水と極性溶媒の混合液中に抽出する工程、PCBを揮発性溶媒に転溶する工程、および該揮発性溶媒中のPCBの含有量を、質量分析器付きガスクロマトグラフィーを使用して定量する工程を含むことを特徴とするPCBの分析方法。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、油中、特に絶縁油中のポリ塩化ビフェニル類(PCB)の分析法に関する。より具体的には、油中のPCBを、質量分析器付きガスクロマトグラフィーを使用して定量分析する方法であって、油中の妨害物質の影響を特定の前処理により除去することを特徴とし、低塩素化PCBの精度の高い定量、かつ迅速な分析を可能とするPCBの分析方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
PCBの処理法として、従来の高温焼却処理に加えて、近年、PCBを化学反応により脱塩素化する化学処理法が認められ、この方法による処理が実施され始めている。しかし化学処理法の場合は、PCBが完全に脱塩素化、無害化されたことを確認するため処理物中のPCB濃度の分析を行う必要がある。
【0003】
油中のPCBの分析法としては、パックドカラム−電子捕獲検出器(LRGC−ECD)を用いる方法、およびキャピラリーカラム−二重収束型高分解能質量分析検出器(HRGC−HRMS)を用いる方法が公定法として採用されている(非特許文献1)。
【0004】
しかし、LRGC−ECDにより油中のPCBを分析する場合、選択性は充分とは言えず、妨害物質の影響により精度の高い測定は困難である。また妨害物質の影響を除くためには高度な前処理が必要となる。
さらに、化学処理法により処理されたPCBは分解により低塩素側にシフトする傾向があるので、処理後のPCBは、1塩素化PCBや2塩素化PCBなどの低塩素化PCBを主成分とする。しかし、ECDは原理的に低塩素化PCBの感度が悪く、この点からも精度の高い測定は困難である。
【0005】
一方、HRGC−HRMSを用いる方法は、高度な分離技術と高価な機器を必要とし、従って費用も高く、また分析に一週間程度の時間がかかるという問題がある。
【0006】
HRGC−HRMSと比較して安価な四重極型質量分析器付きガスクロマトグラフィー(GC−LRMS)を使用する方法も提案されている(非特許文献1)。例えば、特開2000−88825号公報(特許文献1)には、絶縁油中に混入したPCBを質量分析器付きガスクロマトグラフィーで迅速に分析する方法が記載されており、該質量分析器付きガスクロマトグラフィーの代表例として、四重極型質量分析器を使用したもの、すなわちGC−LRMSが記載されている(特許文献1、段落0008)。
【0007】
特開2000−88825号公報記載の方法は、極性溶媒を用いて被験試料である絶縁油中からPCBを抽出し、PCBを抽出した極性溶媒を固相抽出器に通してPCB画分を分離し、該PCB画分からPCBを揮発性溶媒に転溶する前処理を行うことを特徴とする方法であり、前処理操作に要する時間およびGC−LRMSによる測定時間を合わせても2時間以内に結果を得ることができると記載されている。
【0008】
しかし、絶縁油中には1塩素化PCBや2塩素化PCBなどの低塩素化PCBの分析を妨害する妨害物質が含まれているが、該妨害物質の除去が困難であり、この方法によっても、低塩素化PCBの定量を精度よく行うことはできなかった。そこで、絶縁油中のPCBを、質量分析器付きガスクロマトグラフィーを用いて迅速に分析する方法であって、低塩素化PCBの定量も精度よく行うことができるPCBの分析方法が望まれていた。
【0009】
【特許文献1】
特開2000−88825号公報(請求項1、段落0008)
【0010】
【非特許文献1】
「廃棄物処理法新処理基準に基づくPCB処理技術ガイドブック」、1999年(編集 産業廃棄物処理事業振興財団、ぎょうせい、第197頁、表4.1−2 測定機器による油中PCB分析方法の特徴)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、絶縁油などの油中のPCBを、質量分析器付きガスクロマトグラフィー、特にGC−LRMSを使用して迅速に分析する方法であって、低塩素化PCBの定量を精度よく行うことができるPCBの分析方法を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は検討の結果、油中のPCBを、水を加えて極性を調整した混合液により抽出させれば、PCBのみが抽出され、油中の妨害物質を除去できること、従って、この抽出液に所定の処理を行った後、質量分析器付きガスクロマトグラフィーにより分析すれば、妨害物質の影響を受けず精度の高いPCBの定量分析が可能になることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0013】
本発明は、油中のPCBを、定量分析する方法であって、PCBを油中から水と極性溶媒の混合液中に抽出する工程、PCBを抽出した該混合液からPCBを揮発性溶媒に転溶する工程、およびPCBが転溶された該揮発性溶媒中のPCBの含有量を、質量分析器付きガスクロマトグラフィーを使用して定量する工程を含むことを特徴とするPCBの分析方法である(請求項1)。
【0014】
PCBを油中から水と極性溶媒の混合液中に抽出する工程は、例えば、PCBを油中から極性溶媒へ抽出し、PCBを抽出した該極性溶媒を、逆相系充填剤に接触させてPCBを該逆相系充填剤に吸着させた後、水と極性溶媒の混合液を、PCBを吸着した該逆相系充填剤に接触させ、PCBを該混合液中に抽出する方法により行うことができる。そこで本発明は、前記の分析方法であって、PCBを油中から水と極性溶媒の混合液中に抽出する工程が、PCBを油中から極性溶媒へ抽出し、PCBを抽出した該極性溶媒を、逆相系充填剤に接触させてPCBを該逆相系充填剤に吸着させた後、水と極性溶媒の混合液を、PCBを吸着した該逆相系充填剤に接触させる方法により行われることを特徴とするPCBの分析方法も提供する(請求項2)。
なお、PCBを抽出した極性溶媒を、逆相系充填剤に接触させてPCBを該逆相系充填剤に吸着させるとき、通常、該極性溶媒に水を添加する必要がある。水の量としては、該極性溶媒と同体積またはそれ以上が好ましい。本明細書において、PCBを抽出した極性溶媒との語は、PCBを抽出した極性溶媒に水を添加したものも含む意味でも用いられる。
【0015】
PCBの分析方法の公定法においては、極性溶媒として、ジメチルスルホキシドが用いられている。そこで前記の極性溶媒として、ジメチルスルホキシドが好ましく例示される。本発明は、前記の分析方法であって、極性溶媒がジメチルスルホキシドであることをさらに特徴とするPCBの分析方法も提供する(請求項3)。
【0016】
前記の水と極性溶媒の混合液としては、水とジメチルスルホキシドを、体積比0.01〜0.5:1の範囲で混合したものが好ましい。本発明は、前記の分析方法であって、水と極性溶媒の混合液が、水とジメチルスルホキシドを体積比0.01〜0.5:1の範囲で混合したものであることをさらに特徴とするPCBの分析方法も提供する(請求項4)。
【0017】
前記の質量分析器付きガスクロマトグラフィーとしては、キャピラリーカラムおよび四重極型質量分析器を使用するものが好適である。本発明は、前記の分析方法であって、質量分析器付きガスクロマトグラフィーが、キャピラリーカラムおよび四重極型質量分析器を使用するものであることをさらに特徴とするPCBの分析方法も提供する(請求項5)。
【0018】
本発明の方法は、特に、塩素化数1〜2のPCBの分析に好適に用いられる。本発明は、前記の分析方法であって、PCBが、塩素化数1〜2のPCBであることを特徴とするPCBの分析方法も提供する(請求項6)。
【0019】
【発明の実施の形態】
次に、本発明のPCBの分析方法の好ましい実施の形態について説明する。
この実施の形態では、先ず、被験試料である油中のPCBを極性溶媒へ抽出する。抽出操作は、該油中に極性溶媒を添加して混合、撹拌し、分液することにより行うことができる。
極性溶媒の添加前に、被験試料(油)中の不純物を除去するために該被験試料はシリカゲルなどにより処理されることが好ましい。シリカゲル処理により、分析精度に悪影響を与える可能性がある着色成分(極性化合物)を除去することができる。また、シリカゲルには、無水硫酸ナトリウムを添加することが好ましい。無水硫酸ナトリウムの添加により、シリカゲル処理に悪影響を及ぼす可能性がある水分を除去することができる。
【0020】
ここで使用される極性溶媒としては、アセトニトリル、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルフォルムアミドなどを挙げることができる。PCBの組成の違いにより抽出効率が異なるため、その組成により極性溶媒を使い分けることができる。前記のように、ジメチルスルホキシドが好ましく例示される。
【0021】
PCBを抽出した後、該極性溶媒は逆相系充填剤と接触され、該極性溶媒中のPCBは該逆相系充填剤に吸着される。
逆相系充填剤へPCBを吸着させるために、通常、該極性溶媒に同体積またはそれ以上の水を添加し混合撹拌した後、逆相系充填剤との接触が行われる。
【0022】
該極性溶媒と逆相系充填剤との接触は、例えば、該逆相系充填剤を充填したカラムの一端から、PCBを抽出した極性溶媒を注入する方法により行うことができる。
逆相系充填剤としては、具体的にはC8シリカ、C18シリカなどが例示される。また、極性溶媒と逆相系充填剤との接触には、予め逆相系充填剤が充填された市販の固相抽出器を利用してもよく、該固相抽出器の形状としては、前記のカラム型に限定されず、ディスク型なども挙げることができる。
【0023】
このようにしてPCBを逆相系充填剤に吸着した後、水と極性溶媒の混合液を、該逆相系充填剤に接触させて、吸着されたPCBを水と極性溶媒の混合液中に抽出する。本発明は、PCBの抽出に、水を添加して極性を調整した極性溶媒を用いることをその特徴とするが、この特徴により、油中の、低塩素化PCBの分析を妨害する物質を除去することができる。
【0024】
一方、水を添加して極性を調整した極性溶媒を用いることにより、高塩素化PCBの回収率が低下する場合があるが、この問題は、水を添加して極性を調整した極性溶媒により低塩素化PCBの抽出をするとともに、無水の極性溶媒により高塩素化PCBの抽出をし、低塩素化PCBと高塩素化PCBを別々に定量することにより回避することができる。従って、通常はこのようにして、低塩素化PCBと高塩素化PCBを別々に定量する方法が好ましい。
【0025】
ここで使用される極性溶媒としては、被験試料である油中のPCBの抽出に用いる極性溶媒と同じものが例示され、同様に、ジメチルスルホキシドが好ましい。すなわち、低塩素化PCBの抽出には、水を添加して極性を調整したジメチルスルホキシドが好ましく用いられる。
【0026】
ジメチルスルホキシドに添加される水の量は、前記のように、ジメチルスルホキシドに対して、0.01〜0.5体積倍が好ましい。0.01倍未満の場合は、妨害物質を充分に除去できない場合がある。0.5倍を越える場合は、PCBの回収率が低下する場合がある。
より好ましくは、0.1〜0.2倍の範囲である。
【0027】
水と極性溶媒の混合液を逆相系充填剤に接触させる方法は、通常、該逆相系充填剤が充填されたカラムやディスクなどに、該混合液を通液することにより行うことができる。
なお、前記のように、通常は低塩素化PCBと高塩素化PCBを別々に定量する方法が好ましく採用されるが、この接触させる方法は、高塩素化PCBの抽出に用いる無水の極性溶媒についても同様である。
【0028】
次に、低塩素化PCBを抽出した水と極性溶媒の混合液から、PCBは、揮発性溶媒に転溶される。なお、高塩素化PCBを抽出した極性溶媒からも、同様な条件で、PCBは、揮発性溶媒に転溶される。
【0029】
PCBを転溶するための揮発性溶媒としては、ガスクロマトグラフィーによる分析に支障の無いものであれば特に限定されないが、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素またはトルエンなどの芳香族炭化水素が好ましく用いられ、特にヘキサンが好ましい。
【0030】
PCBを転溶する工程としては、特に限定されないが、例えば、PCBを抽出した混合液(または極性溶媒)に、同体積以上の水を添加した後、逆相系充填剤を充填したカラム(逆相カラム)に通液してPCBを該カラムに吸着させた後、ヘキサンなどの揮発性溶媒を該カラムに通液して、PCBを該揮発性溶媒中に溶出する方法が挙げられる。PCBを溶出した後の揮発性溶媒は、好ましくは、不純物の除去などのため無水硫酸ナトリウムが添加されたシリカゲルで処理される。
【0031】
次に、PCBが転溶された該揮発性溶媒中のPCBの含有量を、質量分析器付きガスクロマトグラフィーを使用して定量する。
本発明で使用される質量分析器付きガスクロマトグラフィーの質量分析器としては、特に限定されないが、前記のように、四重極型質量分析器が、取扱が容易で本発明の方法の特徴である迅速かつ簡便である利点がより生かされるため好ましい。
【0032】
また、ガスクロマトグラフィーとしては、パックドカラムガスクロマトグラフィーを使用することもできるが、塩素化の異なった各PCBの分離をよくするためなどの理由により、キャピラリーカラムガスクロマトグラフィーを使用することが好ましい。
すなわち、本発明で使用する質量分析器付きガスクロマトグラフィーとして好ましいものは、前記のように、四重極型質量分析器付キャピラリーカラムガスクロマトグラフィー(HRGC−LRMS)である。
【0033】
本発明のPCB分析では、抽出操作、逆相型充填剤による吸着などの際にPCBの損失が起こり得る。そこで、被験試料に13Cが含まれたPCBを所定量添加し、内部標準試料による補正を行なうこともできる。
【0034】
次に、前記実施の形態のより具体的な例を説明する。図1は、この例のフローチャートである。
この例では、先ず、被験試料であるPCBを含んだ絶縁油に、無水硫酸ナトリウムを添加したシリカゲルカラム処理を施した後、該絶縁油にジメチルスルホキシド(DMSO)を添加、撹拌した後分液し、PCBをジメチルスルホキシドに抽出する。得られたPCBを抽出したジメチルスルホキシドに、同体積以上の水を添加、撹拌した後、逆相系充填剤が充填されたカラム(逆相カラム)に通液する。
【0035】
その後、該逆相カラムに、水を添加して極性を調整したジメチルスルホキシド(含水DMSO)を通液し、先ず、低塩素化PCB成分を抽出する。次いで、無水のジメチルスルホキシド(無水DMSO)を通液し、高塩素化PCB成分を抽出する。得られたそれぞれの抽出液に、さらに同体積以上の水を添加、撹拌した後、別の逆相カラムに通液する。その後、該逆相カラムにヘキサンを通液して吸着されているPCBを溶出し、無水硫酸ナトリウムを添加したシリカゲルカラムによる処理を施す。このようにして得られた試料を、HRGC−LRMSにてPCBを定量し、必要により13Cが含まれたPCBを使用した内部標準試料による補正などを行い、PCB量を求める。
【0036】
【実施例】
次に、実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は、本発明の範囲を制限するものではない。
【0037】
以下の実施例、比較例、参考例で使用したHRGC−LRMSは、Hewlett Packard社製の四重極型質量分析器付きガスクロマトグラフィー(HP5973N)であり、選択的イオン検出法(SIM)により測定した。
【0038】
実施例1
絶縁油の0.5gを秤量し、0.2μg/ml濃度のKCmix(鐘淵化学製PCB、KC300:KC400:KC500:KC600を1:1:1:1で含有するもの)へキサン標準液1mlと、公定法(特別管理産業廃棄物に係わる基準の検定方法:平4.7.3厚告192号)に記載されたPCB標準物質を各0.005μg/mlを含有するヘキサン標準液1mlを添加した。その後、得られた混合物に、無水硫酸ナトリウム1gを添加したシリカゲルカラム(バリアン社製ボンドエルートSi)による処理を実施し、さらに、ジメチルスルホキシド各lmlを添加、撹拌して分液する操作を5回行い、それぞれの抽出液を合わせた。得られたジメチルスルホキシドの抽出液に、水5mlを添加、撹拌した後、逆相カラム(バリアン社製エンバイエルートPAH)に通液した。
【0039】
通液後、該逆相カラムに、ジメチルスルホキシドの4.35m1に対し0.65m1の水を添加した含水ジメチルスルホキシドを通液し、PCBを抽出した。得られた抽出液に水5mlを添加し、撹拌、混合した後逆相カラム(バリアン社製ボンドエルートC18)に通液し、次いで該逆相カラムに5mlのヘキサンを通液してPCBを溶出し、その後無水硫酸ナトリウム−シリカゲルカラム処理を行い定容後にHRGC−LRMSによる分析を行った。
得られたガスクロマトグラフを図2に示す(図中、*はPCBのピークを表す。)。
【0040】
比較例
絶縁油の0.5gを秤量し、0.2μg/ml濃度のKCmixへキサン標準液1mlと、公定法に記載されたPCB標準物質を各0.005μg/mlを含有するヘキサン標準液1mlを添加した。その後、得られた混合物に、無水硫酸ナトリウム1gを添加したシリカゲルカラム(バリアン社製ボンドエルートSi)による処理を実施し、さらに、ジメチルスルホキシド各lmlを添加、撹拌して分液する操作を5回行い、それぞれの抽出液を合わせた。得られたジメチルスルホキシドの抽出液に水5mlを添加、撹拌した後、逆相カラム(バリアン社製エンバイエルートPAH)に通液した。
【0041】
通液後、該逆相カラムに5mlの無水ジメチルスルホキシドを通液し、得られた抽出液に水5mlを添加、撹拌、混合した後、逆相カラム(バリアン社製ボンドエルートC18)に通液し、次いで該逆相カラムに5mlのヘキサンを通液してPCBを溶出し、その後無水硫酸ナトリウム−シリカゲルカラム処理を行い、定容後にHRGC−LRMSによる分析を行った。
得られたガスクロマトグラフを図3に示す(図中、*はPCBのピークを表す。)。
【0042】
参考例
0.2μg/mlのKCmixヘキサン標準液1mlと公定法に記載されたPCB標準物質各0.005μg/mlを含有するにキサン標準液1mlを、実施例1および比較例と同じ最終液量となるように、へキサンで希釈した後、HRGC−LRMSによる分析を行った。
得られたガスクロマトグラフを図4に示す(図中、*はPCBのピークを表す。)。
【0043】
図4は、妨害物質のないヘキサン中のPCBのガスクロマトグラフであるが、本発明の分析法により得られた図2のガスクロマトグラフにおいて、*印の付けられたピークは、図4のピークと溶出位置が一致しておりPCBのピークであることが明らかである。そして、図2より明らかなように、1塩素化PCB、2塩素化PCBのいずれについても、PCBについての大きなピークを有しており、このピークに基づき精度の高い定量が可能になる。
一方、図3(比較例)では、1塩素化PCB、2塩素化PCBについては、妨害物質の影響によりPCBのピークは明確でなく、精度の高い定量は困難である。また図2と図3との比較より、本発明により容易に低塩素化PCB領域の妨害物質が除去されることが明らかである。
【0044】
実施例2
絶縁油に0.1mg/kgとなるようにPCB(KCmix)を添加した標準油を0.5g秤量し、ヘキサン2mlを添加した後、無水硫酸ナトリウム1gを添加したシリカゲルカラム(バリアン社製ボンドエルートSi)処理を実施した。その後、ジメチルスルホキシド各lmlを添加、撹拌して分液する操作を5回行い、それぞれの抽出液を合わせた。得られたジメチルスルホキシドの抽出液に水5mlを添加した後、逆相カラム(バリアン社製エンバイエルートPAH)に通液した。
【0045】
通液後、該逆相カラムに、ジメチルスルホキシドの4.35m1に対し0.65m1の水を添加した含水ジメチルスルホキシドを通液し、低塩素化PCBを抽出した。得られた抽出液に水5mlを添加し撹拌、混合した後、逆相カラム(バリアン社製ボンドエルートC18)に通液し、次いで、該逆相カラムにヘキサンを通液してPCBを溶出し、その後無水硫酸ナトリウム−シリカゲルカラム処理を行い、定容後にHRGC−LRMSによる分析を行った。
【0046】
含水ジメチルスルホキシドを通液した後の逆相カラムには、さらに無水ジメチルスルホキシド5mlを通液し、高塩素化PCBを抽出した。得られた抽出液に水5mlを添加し撹拌、混合した後、逆相カラム(バリアン社製ボンドエルートC18)に通液し、次いで、該逆相カラムにヘキサンを通液してPCBを溶出し、その後無水硫酸ナトリウム−シリカゲルカラム処理を行い、定容後にHRGC−LRMSによる分析を行った。
【0047】
以上の測定は3回行った。得られた全PCB量(低塩素化PCB+高塩素化PCB)は、調整値とよく一致しており、またCVは約3%であり、本発明の分析法により、精度の高い分析が達成されることが示された。
【0048】
【発明の効果】
本発明の分析方法により、質量分析器付きガスクロマトグラフィーを用いてPCBの分析を行う場合の、低塩素化PCB領域での妨害物質の影響を除去できる。そして、GC−LRMSなどの安価で簡便な装置を使用して、絶縁油などの油中のPCBを精度よく定量することができる。
また、本発明の分析方法により、PCBの分析を迅速に行うことができる。すなわち、前処理操作に要する時間および質量分析器付きガスクロマトグラフィーによる測定時間を合わせても1.5時間以内に結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一例のフローチャート。
【図2】実施例1により得られたガスクロマトグラフ。
【図3】比較例により得られたガスクロマトグラフ。
【図4】参考例により得られたガスクロマトグラフ。
【発明の属する技術分野】
本発明は、油中、特に絶縁油中のポリ塩化ビフェニル類(PCB)の分析法に関する。より具体的には、油中のPCBを、質量分析器付きガスクロマトグラフィーを使用して定量分析する方法であって、油中の妨害物質の影響を特定の前処理により除去することを特徴とし、低塩素化PCBの精度の高い定量、かつ迅速な分析を可能とするPCBの分析方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
PCBの処理法として、従来の高温焼却処理に加えて、近年、PCBを化学反応により脱塩素化する化学処理法が認められ、この方法による処理が実施され始めている。しかし化学処理法の場合は、PCBが完全に脱塩素化、無害化されたことを確認するため処理物中のPCB濃度の分析を行う必要がある。
【0003】
油中のPCBの分析法としては、パックドカラム−電子捕獲検出器(LRGC−ECD)を用いる方法、およびキャピラリーカラム−二重収束型高分解能質量分析検出器(HRGC−HRMS)を用いる方法が公定法として採用されている(非特許文献1)。
【0004】
しかし、LRGC−ECDにより油中のPCBを分析する場合、選択性は充分とは言えず、妨害物質の影響により精度の高い測定は困難である。また妨害物質の影響を除くためには高度な前処理が必要となる。
さらに、化学処理法により処理されたPCBは分解により低塩素側にシフトする傾向があるので、処理後のPCBは、1塩素化PCBや2塩素化PCBなどの低塩素化PCBを主成分とする。しかし、ECDは原理的に低塩素化PCBの感度が悪く、この点からも精度の高い測定は困難である。
【0005】
一方、HRGC−HRMSを用いる方法は、高度な分離技術と高価な機器を必要とし、従って費用も高く、また分析に一週間程度の時間がかかるという問題がある。
【0006】
HRGC−HRMSと比較して安価な四重極型質量分析器付きガスクロマトグラフィー(GC−LRMS)を使用する方法も提案されている(非特許文献1)。例えば、特開2000−88825号公報(特許文献1)には、絶縁油中に混入したPCBを質量分析器付きガスクロマトグラフィーで迅速に分析する方法が記載されており、該質量分析器付きガスクロマトグラフィーの代表例として、四重極型質量分析器を使用したもの、すなわちGC−LRMSが記載されている(特許文献1、段落0008)。
【0007】
特開2000−88825号公報記載の方法は、極性溶媒を用いて被験試料である絶縁油中からPCBを抽出し、PCBを抽出した極性溶媒を固相抽出器に通してPCB画分を分離し、該PCB画分からPCBを揮発性溶媒に転溶する前処理を行うことを特徴とする方法であり、前処理操作に要する時間およびGC−LRMSによる測定時間を合わせても2時間以内に結果を得ることができると記載されている。
【0008】
しかし、絶縁油中には1塩素化PCBや2塩素化PCBなどの低塩素化PCBの分析を妨害する妨害物質が含まれているが、該妨害物質の除去が困難であり、この方法によっても、低塩素化PCBの定量を精度よく行うことはできなかった。そこで、絶縁油中のPCBを、質量分析器付きガスクロマトグラフィーを用いて迅速に分析する方法であって、低塩素化PCBの定量も精度よく行うことができるPCBの分析方法が望まれていた。
【0009】
【特許文献1】
特開2000−88825号公報(請求項1、段落0008)
【0010】
【非特許文献1】
「廃棄物処理法新処理基準に基づくPCB処理技術ガイドブック」、1999年(編集 産業廃棄物処理事業振興財団、ぎょうせい、第197頁、表4.1−2 測定機器による油中PCB分析方法の特徴)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、絶縁油などの油中のPCBを、質量分析器付きガスクロマトグラフィー、特にGC−LRMSを使用して迅速に分析する方法であって、低塩素化PCBの定量を精度よく行うことができるPCBの分析方法を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は検討の結果、油中のPCBを、水を加えて極性を調整した混合液により抽出させれば、PCBのみが抽出され、油中の妨害物質を除去できること、従って、この抽出液に所定の処理を行った後、質量分析器付きガスクロマトグラフィーにより分析すれば、妨害物質の影響を受けず精度の高いPCBの定量分析が可能になることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0013】
本発明は、油中のPCBを、定量分析する方法であって、PCBを油中から水と極性溶媒の混合液中に抽出する工程、PCBを抽出した該混合液からPCBを揮発性溶媒に転溶する工程、およびPCBが転溶された該揮発性溶媒中のPCBの含有量を、質量分析器付きガスクロマトグラフィーを使用して定量する工程を含むことを特徴とするPCBの分析方法である(請求項1)。
【0014】
PCBを油中から水と極性溶媒の混合液中に抽出する工程は、例えば、PCBを油中から極性溶媒へ抽出し、PCBを抽出した該極性溶媒を、逆相系充填剤に接触させてPCBを該逆相系充填剤に吸着させた後、水と極性溶媒の混合液を、PCBを吸着した該逆相系充填剤に接触させ、PCBを該混合液中に抽出する方法により行うことができる。そこで本発明は、前記の分析方法であって、PCBを油中から水と極性溶媒の混合液中に抽出する工程が、PCBを油中から極性溶媒へ抽出し、PCBを抽出した該極性溶媒を、逆相系充填剤に接触させてPCBを該逆相系充填剤に吸着させた後、水と極性溶媒の混合液を、PCBを吸着した該逆相系充填剤に接触させる方法により行われることを特徴とするPCBの分析方法も提供する(請求項2)。
なお、PCBを抽出した極性溶媒を、逆相系充填剤に接触させてPCBを該逆相系充填剤に吸着させるとき、通常、該極性溶媒に水を添加する必要がある。水の量としては、該極性溶媒と同体積またはそれ以上が好ましい。本明細書において、PCBを抽出した極性溶媒との語は、PCBを抽出した極性溶媒に水を添加したものも含む意味でも用いられる。
【0015】
PCBの分析方法の公定法においては、極性溶媒として、ジメチルスルホキシドが用いられている。そこで前記の極性溶媒として、ジメチルスルホキシドが好ましく例示される。本発明は、前記の分析方法であって、極性溶媒がジメチルスルホキシドであることをさらに特徴とするPCBの分析方法も提供する(請求項3)。
【0016】
前記の水と極性溶媒の混合液としては、水とジメチルスルホキシドを、体積比0.01〜0.5:1の範囲で混合したものが好ましい。本発明は、前記の分析方法であって、水と極性溶媒の混合液が、水とジメチルスルホキシドを体積比0.01〜0.5:1の範囲で混合したものであることをさらに特徴とするPCBの分析方法も提供する(請求項4)。
【0017】
前記の質量分析器付きガスクロマトグラフィーとしては、キャピラリーカラムおよび四重極型質量分析器を使用するものが好適である。本発明は、前記の分析方法であって、質量分析器付きガスクロマトグラフィーが、キャピラリーカラムおよび四重極型質量分析器を使用するものであることをさらに特徴とするPCBの分析方法も提供する(請求項5)。
【0018】
本発明の方法は、特に、塩素化数1〜2のPCBの分析に好適に用いられる。本発明は、前記の分析方法であって、PCBが、塩素化数1〜2のPCBであることを特徴とするPCBの分析方法も提供する(請求項6)。
【0019】
【発明の実施の形態】
次に、本発明のPCBの分析方法の好ましい実施の形態について説明する。
この実施の形態では、先ず、被験試料である油中のPCBを極性溶媒へ抽出する。抽出操作は、該油中に極性溶媒を添加して混合、撹拌し、分液することにより行うことができる。
極性溶媒の添加前に、被験試料(油)中の不純物を除去するために該被験試料はシリカゲルなどにより処理されることが好ましい。シリカゲル処理により、分析精度に悪影響を与える可能性がある着色成分(極性化合物)を除去することができる。また、シリカゲルには、無水硫酸ナトリウムを添加することが好ましい。無水硫酸ナトリウムの添加により、シリカゲル処理に悪影響を及ぼす可能性がある水分を除去することができる。
【0020】
ここで使用される極性溶媒としては、アセトニトリル、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルフォルムアミドなどを挙げることができる。PCBの組成の違いにより抽出効率が異なるため、その組成により極性溶媒を使い分けることができる。前記のように、ジメチルスルホキシドが好ましく例示される。
【0021】
PCBを抽出した後、該極性溶媒は逆相系充填剤と接触され、該極性溶媒中のPCBは該逆相系充填剤に吸着される。
逆相系充填剤へPCBを吸着させるために、通常、該極性溶媒に同体積またはそれ以上の水を添加し混合撹拌した後、逆相系充填剤との接触が行われる。
【0022】
該極性溶媒と逆相系充填剤との接触は、例えば、該逆相系充填剤を充填したカラムの一端から、PCBを抽出した極性溶媒を注入する方法により行うことができる。
逆相系充填剤としては、具体的にはC8シリカ、C18シリカなどが例示される。また、極性溶媒と逆相系充填剤との接触には、予め逆相系充填剤が充填された市販の固相抽出器を利用してもよく、該固相抽出器の形状としては、前記のカラム型に限定されず、ディスク型なども挙げることができる。
【0023】
このようにしてPCBを逆相系充填剤に吸着した後、水と極性溶媒の混合液を、該逆相系充填剤に接触させて、吸着されたPCBを水と極性溶媒の混合液中に抽出する。本発明は、PCBの抽出に、水を添加して極性を調整した極性溶媒を用いることをその特徴とするが、この特徴により、油中の、低塩素化PCBの分析を妨害する物質を除去することができる。
【0024】
一方、水を添加して極性を調整した極性溶媒を用いることにより、高塩素化PCBの回収率が低下する場合があるが、この問題は、水を添加して極性を調整した極性溶媒により低塩素化PCBの抽出をするとともに、無水の極性溶媒により高塩素化PCBの抽出をし、低塩素化PCBと高塩素化PCBを別々に定量することにより回避することができる。従って、通常はこのようにして、低塩素化PCBと高塩素化PCBを別々に定量する方法が好ましい。
【0025】
ここで使用される極性溶媒としては、被験試料である油中のPCBの抽出に用いる極性溶媒と同じものが例示され、同様に、ジメチルスルホキシドが好ましい。すなわち、低塩素化PCBの抽出には、水を添加して極性を調整したジメチルスルホキシドが好ましく用いられる。
【0026】
ジメチルスルホキシドに添加される水の量は、前記のように、ジメチルスルホキシドに対して、0.01〜0.5体積倍が好ましい。0.01倍未満の場合は、妨害物質を充分に除去できない場合がある。0.5倍を越える場合は、PCBの回収率が低下する場合がある。
より好ましくは、0.1〜0.2倍の範囲である。
【0027】
水と極性溶媒の混合液を逆相系充填剤に接触させる方法は、通常、該逆相系充填剤が充填されたカラムやディスクなどに、該混合液を通液することにより行うことができる。
なお、前記のように、通常は低塩素化PCBと高塩素化PCBを別々に定量する方法が好ましく採用されるが、この接触させる方法は、高塩素化PCBの抽出に用いる無水の極性溶媒についても同様である。
【0028】
次に、低塩素化PCBを抽出した水と極性溶媒の混合液から、PCBは、揮発性溶媒に転溶される。なお、高塩素化PCBを抽出した極性溶媒からも、同様な条件で、PCBは、揮発性溶媒に転溶される。
【0029】
PCBを転溶するための揮発性溶媒としては、ガスクロマトグラフィーによる分析に支障の無いものであれば特に限定されないが、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素またはトルエンなどの芳香族炭化水素が好ましく用いられ、特にヘキサンが好ましい。
【0030】
PCBを転溶する工程としては、特に限定されないが、例えば、PCBを抽出した混合液(または極性溶媒)に、同体積以上の水を添加した後、逆相系充填剤を充填したカラム(逆相カラム)に通液してPCBを該カラムに吸着させた後、ヘキサンなどの揮発性溶媒を該カラムに通液して、PCBを該揮発性溶媒中に溶出する方法が挙げられる。PCBを溶出した後の揮発性溶媒は、好ましくは、不純物の除去などのため無水硫酸ナトリウムが添加されたシリカゲルで処理される。
【0031】
次に、PCBが転溶された該揮発性溶媒中のPCBの含有量を、質量分析器付きガスクロマトグラフィーを使用して定量する。
本発明で使用される質量分析器付きガスクロマトグラフィーの質量分析器としては、特に限定されないが、前記のように、四重極型質量分析器が、取扱が容易で本発明の方法の特徴である迅速かつ簡便である利点がより生かされるため好ましい。
【0032】
また、ガスクロマトグラフィーとしては、パックドカラムガスクロマトグラフィーを使用することもできるが、塩素化の異なった各PCBの分離をよくするためなどの理由により、キャピラリーカラムガスクロマトグラフィーを使用することが好ましい。
すなわち、本発明で使用する質量分析器付きガスクロマトグラフィーとして好ましいものは、前記のように、四重極型質量分析器付キャピラリーカラムガスクロマトグラフィー(HRGC−LRMS)である。
【0033】
本発明のPCB分析では、抽出操作、逆相型充填剤による吸着などの際にPCBの損失が起こり得る。そこで、被験試料に13Cが含まれたPCBを所定量添加し、内部標準試料による補正を行なうこともできる。
【0034】
次に、前記実施の形態のより具体的な例を説明する。図1は、この例のフローチャートである。
この例では、先ず、被験試料であるPCBを含んだ絶縁油に、無水硫酸ナトリウムを添加したシリカゲルカラム処理を施した後、該絶縁油にジメチルスルホキシド(DMSO)を添加、撹拌した後分液し、PCBをジメチルスルホキシドに抽出する。得られたPCBを抽出したジメチルスルホキシドに、同体積以上の水を添加、撹拌した後、逆相系充填剤が充填されたカラム(逆相カラム)に通液する。
【0035】
その後、該逆相カラムに、水を添加して極性を調整したジメチルスルホキシド(含水DMSO)を通液し、先ず、低塩素化PCB成分を抽出する。次いで、無水のジメチルスルホキシド(無水DMSO)を通液し、高塩素化PCB成分を抽出する。得られたそれぞれの抽出液に、さらに同体積以上の水を添加、撹拌した後、別の逆相カラムに通液する。その後、該逆相カラムにヘキサンを通液して吸着されているPCBを溶出し、無水硫酸ナトリウムを添加したシリカゲルカラムによる処理を施す。このようにして得られた試料を、HRGC−LRMSにてPCBを定量し、必要により13Cが含まれたPCBを使用した内部標準試料による補正などを行い、PCB量を求める。
【0036】
【実施例】
次に、実施例により本発明をより具体的に説明するが、実施例は、本発明の範囲を制限するものではない。
【0037】
以下の実施例、比較例、参考例で使用したHRGC−LRMSは、Hewlett Packard社製の四重極型質量分析器付きガスクロマトグラフィー(HP5973N)であり、選択的イオン検出法(SIM)により測定した。
【0038】
実施例1
絶縁油の0.5gを秤量し、0.2μg/ml濃度のKCmix(鐘淵化学製PCB、KC300:KC400:KC500:KC600を1:1:1:1で含有するもの)へキサン標準液1mlと、公定法(特別管理産業廃棄物に係わる基準の検定方法:平4.7.3厚告192号)に記載されたPCB標準物質を各0.005μg/mlを含有するヘキサン標準液1mlを添加した。その後、得られた混合物に、無水硫酸ナトリウム1gを添加したシリカゲルカラム(バリアン社製ボンドエルートSi)による処理を実施し、さらに、ジメチルスルホキシド各lmlを添加、撹拌して分液する操作を5回行い、それぞれの抽出液を合わせた。得られたジメチルスルホキシドの抽出液に、水5mlを添加、撹拌した後、逆相カラム(バリアン社製エンバイエルートPAH)に通液した。
【0039】
通液後、該逆相カラムに、ジメチルスルホキシドの4.35m1に対し0.65m1の水を添加した含水ジメチルスルホキシドを通液し、PCBを抽出した。得られた抽出液に水5mlを添加し、撹拌、混合した後逆相カラム(バリアン社製ボンドエルートC18)に通液し、次いで該逆相カラムに5mlのヘキサンを通液してPCBを溶出し、その後無水硫酸ナトリウム−シリカゲルカラム処理を行い定容後にHRGC−LRMSによる分析を行った。
得られたガスクロマトグラフを図2に示す(図中、*はPCBのピークを表す。)。
【0040】
比較例
絶縁油の0.5gを秤量し、0.2μg/ml濃度のKCmixへキサン標準液1mlと、公定法に記載されたPCB標準物質を各0.005μg/mlを含有するヘキサン標準液1mlを添加した。その後、得られた混合物に、無水硫酸ナトリウム1gを添加したシリカゲルカラム(バリアン社製ボンドエルートSi)による処理を実施し、さらに、ジメチルスルホキシド各lmlを添加、撹拌して分液する操作を5回行い、それぞれの抽出液を合わせた。得られたジメチルスルホキシドの抽出液に水5mlを添加、撹拌した後、逆相カラム(バリアン社製エンバイエルートPAH)に通液した。
【0041】
通液後、該逆相カラムに5mlの無水ジメチルスルホキシドを通液し、得られた抽出液に水5mlを添加、撹拌、混合した後、逆相カラム(バリアン社製ボンドエルートC18)に通液し、次いで該逆相カラムに5mlのヘキサンを通液してPCBを溶出し、その後無水硫酸ナトリウム−シリカゲルカラム処理を行い、定容後にHRGC−LRMSによる分析を行った。
得られたガスクロマトグラフを図3に示す(図中、*はPCBのピークを表す。)。
【0042】
参考例
0.2μg/mlのKCmixヘキサン標準液1mlと公定法に記載されたPCB標準物質各0.005μg/mlを含有するにキサン標準液1mlを、実施例1および比較例と同じ最終液量となるように、へキサンで希釈した後、HRGC−LRMSによる分析を行った。
得られたガスクロマトグラフを図4に示す(図中、*はPCBのピークを表す。)。
【0043】
図4は、妨害物質のないヘキサン中のPCBのガスクロマトグラフであるが、本発明の分析法により得られた図2のガスクロマトグラフにおいて、*印の付けられたピークは、図4のピークと溶出位置が一致しておりPCBのピークであることが明らかである。そして、図2より明らかなように、1塩素化PCB、2塩素化PCBのいずれについても、PCBについての大きなピークを有しており、このピークに基づき精度の高い定量が可能になる。
一方、図3(比較例)では、1塩素化PCB、2塩素化PCBについては、妨害物質の影響によりPCBのピークは明確でなく、精度の高い定量は困難である。また図2と図3との比較より、本発明により容易に低塩素化PCB領域の妨害物質が除去されることが明らかである。
【0044】
実施例2
絶縁油に0.1mg/kgとなるようにPCB(KCmix)を添加した標準油を0.5g秤量し、ヘキサン2mlを添加した後、無水硫酸ナトリウム1gを添加したシリカゲルカラム(バリアン社製ボンドエルートSi)処理を実施した。その後、ジメチルスルホキシド各lmlを添加、撹拌して分液する操作を5回行い、それぞれの抽出液を合わせた。得られたジメチルスルホキシドの抽出液に水5mlを添加した後、逆相カラム(バリアン社製エンバイエルートPAH)に通液した。
【0045】
通液後、該逆相カラムに、ジメチルスルホキシドの4.35m1に対し0.65m1の水を添加した含水ジメチルスルホキシドを通液し、低塩素化PCBを抽出した。得られた抽出液に水5mlを添加し撹拌、混合した後、逆相カラム(バリアン社製ボンドエルートC18)に通液し、次いで、該逆相カラムにヘキサンを通液してPCBを溶出し、その後無水硫酸ナトリウム−シリカゲルカラム処理を行い、定容後にHRGC−LRMSによる分析を行った。
【0046】
含水ジメチルスルホキシドを通液した後の逆相カラムには、さらに無水ジメチルスルホキシド5mlを通液し、高塩素化PCBを抽出した。得られた抽出液に水5mlを添加し撹拌、混合した後、逆相カラム(バリアン社製ボンドエルートC18)に通液し、次いで、該逆相カラムにヘキサンを通液してPCBを溶出し、その後無水硫酸ナトリウム−シリカゲルカラム処理を行い、定容後にHRGC−LRMSによる分析を行った。
【0047】
以上の測定は3回行った。得られた全PCB量(低塩素化PCB+高塩素化PCB)は、調整値とよく一致しており、またCVは約3%であり、本発明の分析法により、精度の高い分析が達成されることが示された。
【0048】
【発明の効果】
本発明の分析方法により、質量分析器付きガスクロマトグラフィーを用いてPCBの分析を行う場合の、低塩素化PCB領域での妨害物質の影響を除去できる。そして、GC−LRMSなどの安価で簡便な装置を使用して、絶縁油などの油中のPCBを精度よく定量することができる。
また、本発明の分析方法により、PCBの分析を迅速に行うことができる。すなわち、前処理操作に要する時間および質量分析器付きガスクロマトグラフィーによる測定時間を合わせても1.5時間以内に結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一例のフローチャート。
【図2】実施例1により得られたガスクロマトグラフ。
【図3】比較例により得られたガスクロマトグラフ。
【図4】参考例により得られたガスクロマトグラフ。
Claims (6)
- 油中のポリ塩化ビフェニル類を、定量分析する方法であって、ポリ塩化ビフェニル類を油中から水と極性溶媒の混合液中に抽出する工程、ポリ塩化ビフェニル類を抽出した該混合液からポリ塩化ビフェニル類を揮発性溶媒に転溶する工程、およびポリ塩化ビフェニル類が転溶された該揮発性溶媒中のポリ塩化ビフェニル類の含有量を、質量分析器付きガスクロマトグラフィーを使用して定量する工程を含むことを特徴とするポリ塩化ビフェニル類の分析方法。
- ポリ塩化ビフェニル類を油中から水と極性溶媒の混合液中に抽出する工程が、ポリ塩化ビフェニル類を油中から極性溶媒へ抽出し、ポリ塩化ビフェニル類を抽出した該極性溶媒を、逆相系充填剤に接触させてポリ塩化ビフェニル類を該逆相系充填剤に吸着させた後、水と極性溶媒の混合液を、ポリ塩化ビフェニル類を吸着した該逆相系充填剤に接触させる方法により行われることを特徴とする請求項1に記載のポリ塩化ビフェニル類の分析方法。
- 極性溶媒が、ジメチルスルホキシドであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリ塩化ビフェニル類の分析方法。
- 水と極性溶媒の混合液が、水とジメチルスルホキシドを、体積比0.01〜0.5:1の範囲で混合したものであることを特徴とする請求項3に記載のポリ塩化ビフェニル類の分析方法。
- 質量分析器付きガスクロマトグラフィーが、キャピラリーカラムおよび四重極型質量分析器を使用するものであることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のポリ塩化ビフェニル類の分析方法。
- ポリ塩化ビフェニル類が、塩素化数1〜2のポリ塩化ビフェニル類であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のポリ塩化ビフェニル類の分析方法。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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2003
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