JP2005052687A - 絶縁材料にて被覆された撹拌槽における撹拌条件設定方法、撹拌条件設定プログラム及びそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体 - Google Patents
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Abstract
【課題】絶縁材料にて内壁が被覆された撹拌槽の絶縁破壊を防止し得る撹拌条件設定方法、撹拌条件設定プログラム及びそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供する。
【解決手段】本発明の撹拌条件設定方法は、内壁が絶縁材料にて被覆されてなる撹拌槽内にて内容物を撹拌する場合に、撹拌槽内における内容物の体積V(m3)、内容物の密度ρ(kg/m3)、撹拌器の動力数Np、撹拌器の撹拌数n(s−1)、撹拌翼の翼径d(m)からなる撹拌条件群より選択される、あらかじめ設定された4つの撹拌条件に基づいて、内容物の単位体積あたりの動力である撹拌所要動力Pv(W/m3)が、式(1)
Pv=(Np/V)×(ρn3d5)≦200 ……(1)
を満たすように、上記撹拌条件群の中から選択されていない残り1つの撹拌条件を設定する。
【選択図】 図3
【解決手段】本発明の撹拌条件設定方法は、内壁が絶縁材料にて被覆されてなる撹拌槽内にて内容物を撹拌する場合に、撹拌槽内における内容物の体積V(m3)、内容物の密度ρ(kg/m3)、撹拌器の動力数Np、撹拌器の撹拌数n(s−1)、撹拌翼の翼径d(m)からなる撹拌条件群より選択される、あらかじめ設定された4つの撹拌条件に基づいて、内容物の単位体積あたりの動力である撹拌所要動力Pv(W/m3)が、式(1)
Pv=(Np/V)×(ρn3d5)≦200 ……(1)
を満たすように、上記撹拌条件群の中から選択されていない残り1つの撹拌条件を設定する。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内壁が絶縁材料にて被覆されてなる撹拌槽における撹拌条件設定方法、撹拌条件設定プログラム及びそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
撹拌槽では、該撹拌槽内の物質を撹拌することにより、該物質を拡散あるいは分散させ、該物質の濃度の均一化、化学反応、熱の移動等を行っている。上記撹拌槽では、撹拌槽内の物質の付着や撹拌槽の腐食を防止するために、鋼鉄製のタンクの内面にコーティング層が形成されている場合がある。このコーティング層を形成するためのコーティング処理としては、例えば、ガラスをコーティングするグラスライニング処理、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂をコーティングする樹脂被覆処理が知られている。
【0003】
上記ガラスや樹脂等の絶縁材料を用いてコーティング処理が施された撹拌槽にて、該撹拌槽の内容物として導電性の低い物質を撹拌すると、物質間の摩擦や、物質と撹拌槽との衝突、撹拌槽への物質の配管輸送等によって発生した静電気がコーティング層に蓄積されやすくなる。つまり、コーティング層から静電気が放電されるよりも帯電される量が多くなって、コーティング層に静電気が蓄積することになる。
【0004】
コーティング層に蓄積された静電気量が、該コーティング層の破壊電圧を超えると、コーティング層は、ピンホールや欠けの発生、コーティング材料の剥離等の絶縁破壊を受ける。上記コーティング層に蓄積される静電気量は、一般に、撹拌槽での撹拌速度が速くなるほど増加することが知られている(非特許文献1参照)。そのため、コーティング層の絶縁破壊を防止するためには、撹拌槽での撹拌速度を制御する必要がある。
【0005】
【非特許文献1】
澤田雅光「GL槽での静電気の発生と対策」、化学工学、61巻、p.860−862、1997年
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、例えば化学反応では、一般に、撹拌速度が速いほど、反応速度が速くなる、あるいは、熱交換が迅速に行われることが知られている。このように、撹拌槽での撹拌操作が求められる場合には、撹拌槽に備えられている撹拌器の撹拌数を大きくして、撹拌槽での撹拌速度を高めることが一般に求められている。
【0007】
それゆえ、コーティング層を有する撹拌槽にて、化学反応を行う場合には、コーティング層の絶縁破壊を引き起こすことのない範囲で、最大の撹拌速度を設定することが好ましい。
【0008】
また、コーティング層を有する撹拌槽にて初めて撹拌が行われる物質の撹拌や、コーティング層を有する新しい撹拌槽にて撹拌を行う場合にも、コーティング層の絶縁破壊を引き起こすことのない最大の撹拌速度を簡単に決定することができれば、撹拌操作の効率化を図ることができ、さらに、コーティング層の絶縁破壊によって撹拌槽の使用が不可能となることを防止することができる。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、撹拌槽内の内容物を撹拌する際に、内壁がコーティング層等の絶縁材料からなる撹拌槽の絶縁破壊を防止し得る撹拌所要動力を、実測等によって経験的に決定するのではなく、撹拌される物質の諸特性や撹拌槽に備えられた撹拌器の特性に応じて決定するための撹拌槽における撹拌条件設定方法、撹拌条件設定プログラム及びそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の撹拌条件設定方法は、上記課題を解決するために、内壁が絶縁材料からなる撹拌槽内にて、撹拌翼を有する撹拌器が回転することによって内容物を撹拌する場合の撹拌条件を設定するための撹拌条件設定方法であって、上記撹拌槽内における内容物の体積V(m3)、上記内容物の密度ρ(kg/m3)、上記撹拌器の動力数Np、上記撹拌器の撹拌数n(s−1)、上記撹拌翼の翼径d(m)からなる撹拌条件群より選択される、あらかじめ設定された4つの撹拌条件に基づいて、上記内容物の単位体積あたりの動力である撹拌所要動力Pv(W/m3)が、式(1)
Pv=(Np/V)×(ρn3d5)≦200 ……(1)
を満たすように、上記撹拌条件群の中から選択されていない残り1つの撹拌条件を設定することを特徴としている。
【0011】
また、本発明の撹拌条件設定方法は、上記の撹拌条件設定方法において、上記動力数Npは、式(2)
Re=ρnd2/μ ……(2)
(ρは混合物の密度(kg/m3)、nは撹拌器の回転速度(s−1)、dは撹拌翼の翼径(m)、μは混合物の粘度(Pa・s))で表されるレイノルズ数Reに基づいて決定されることが好ましい。
【0012】
上記の方法によれば、内容物の体積V及び密度ρ、撹拌器の回転速度n及び動力数Np、撹拌翼の翼径dの各撹拌条件からなる撹拌条件群より選択される1つの撹拌条件を、撹拌所要動力Pvが上記式(1)を満たすように設定している。これにより、内壁を被覆してなる絶縁材料(以下、コーティング層と記載する)に、絶縁破壊が生じることを防止することができる。
【0013】
また、撹拌所要動力Pvが上記式(1)を満たすように上記撹拌条件群より選択される撹拌条件が設定されるので、撹拌槽にて新規な内容物を撹拌する場合や、新しい撹拌槽にて内容物を撹拌する場合にも、コーティング層の絶縁破壊を防止することができる。これにより、コーティング層の絶縁破壊の補修等に煩わされることなく、撹拌操作を効率よく行うことが可能になる。
【0014】
本発明の撹拌条件設定方法は、上記内容物が、固体物質と液体物質との混合物であり、上記固体物質及び液体物質の体積抵抗率がそれぞれ独立して、1×1011(Ω・m)以上である場合に、特に好適に用いることができる。
【0015】
また、本発明には、上記の撹拌条件設定方法をコンピュータに実行させるための撹拌条件設定プログラムも含まれる。
【0016】
上記の構成によれば、上記の撹拌条件設定方法がプログラムとして格納されているので、該プログラムを読み出すことによって、上記式(1)を満たすように撹拌条件を設定することができる。これにより、上記撹拌条件設定方法を汎用的なものにして、撹拌槽における絶縁破壊を好適に防止することができる。
【0017】
さらに、本発明の撹拌条件設定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、上記撹拌条件設定方法をコンピュータに実現させるための、撹拌条件設定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0018】
上記の構成により、上記記録媒体から読み出された撹拌条件設定プログラムによって、コンピュータ上で、撹拌条件設定方法を実現することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の一形態について図1及び図2に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0020】
本実施の形態の撹拌装置は、図1に示すように、内壁にグラスライニング処理が施された撹拌槽(以下、GL撹拌槽)1と、GL撹拌槽1内の内容物を撹拌する撹拌器2と、撹拌時に撹拌槽内の物質(以下、内容物と記載する)の流れを乱すための邪魔板としてのビーバーテイルバッフル3とを備えている。
【0021】
上記GL撹拌槽1は、例えば、鋼鉄、ステンレス等の導電性材料からなる円筒型の密閉式のタンク1aの内壁に、上記グラスライニング処理によって形成されたガラス(絶縁材料)からなるコーティング層1bを有している。該GL撹拌槽1のタンク1aの外壁は接地されており、GL撹拌槽1内部にて発生してコーティング層1bに蓄積される静電気を放電するようになっている。
【0022】
上記撹拌器2は、撹拌軸2aを中心に回転するように、撹拌軸の一方の先端部がモータ4に取り付けられている。該モータ4には、トルク計付きコントローラ(以下、コントローラ)5が接続されている。さらに、該コントローラ5は、パーソナルコンピュータ(以下、コンピュータ)6によって制御されている。それゆえ、このコンピュータ6によって、コントローラ5を介してモータ4の回転数を任意に調節することにより、撹拌器2の撹拌数を制御することができる。
【0023】
また、撹拌軸2aの他方の先端部には撹拌翼2bが備えられ、撹拌軸2aが回転すると、該撹拌軸2aを中心として撹拌翼2bが回転する。これにより、GL撹拌槽1内の内容物が撹拌される。ここで、本実施の形態のGL撹拌槽1は、上記撹拌翼2bとして、図2(b)に示すように、ファウドラー型の3つの撹拌翼2b・2b・2b(以下、撹拌翼2bと記載する)を有している。この撹拌翼2bは、図2(a)に示すように、撹拌軸2aの中心から、該中心から最も遠い撹拌翼2bの先端部分までの直線距離が、d/2(dは撹拌翼の翼径(m))となっている。言い換えれば、翼径dは、撹拌器2が撹拌軸2aを中心に回転した場合に、撹拌翼2bが描く軌跡である円の直径として定義される。
【0024】
なお、上記撹拌器2の撹拌軸2a及び撹拌翼2bは、絶縁体にて、又は、導電体を絶縁材料で被覆されて、形成されている。これにより、撹拌軸2a及び撹拌翼2bに、GL撹拌槽1内の内容物の付着することを防止し、また、撹拌軸2a及び撹拌翼2bの腐食を防止することができる。さらに、図1に示すように、針金を撹拌軸2a部分に接続するようにコイル状に巻き、該針金を接地して、撹拌器2に発生する静電気を放電している。
【0025】
また、上記ビーバーテイルバッフル3は、絶縁体にて、又は、導電体を絶縁材料で被覆されて、形成されている。これにより、ビーバーテイルバッフル3表面に、内容物が付着することを防止するとともに、ビーバーテイルバッフル3の腐食を防止している。
【0026】
上記撹拌装置のGL撹拌槽1(図1)にて、内容物を撹拌する際には、上記コントローラ5によって、モータ4を回転させて撹拌器2を駆動する。これにより、撹拌軸2aが回転して、撹拌翼2bが回転し、GL撹拌槽1内の内容物が流動して撹拌される。このとき、ビーバーテイルバッフル3に内容物が衝突することにより、内容物の流れの方向が変化する。これにより、GL撹拌槽1内の内容物全体が均一になるように、流動させることができる。なお、本実施の形態の撹拌装置では、GL撹拌槽1に、邪魔板としてのビーバーテイルバッフル3が備えられているが、該ビーバーテイルバッフル3を備えていない構成であってもよい。
【0027】
本実施の形態では、上記構成の撹拌装置にて、撹拌操作を行う際に、内容物の単位体積あたりの動力である撹拌所要動力Pv(W/m3)が200W/m3以下となるように、後述する撹拌条件を設定している。より好ましくは、上記撹拌所要動力Pvが150W/m3以下となるように、撹拌条件を設定している。
【0028】
一般に、上記GL撹拌槽1にて内容物を撹拌する際には、内容物同士の摩擦や、内容物と撹拌槽との衝突等によって発生した静電気が、上記GL撹拌槽1の、絶縁材料であるガラスからなるコーティング層1bに蓄積されやすい。該コーティング層1bに蓄積された静電気量が、コーティング層1bの破壊電圧を超えると、コーティング層1bの絶縁破壊が引き起こされる。そのため、本実施の形態では、このコーティング層1bの絶縁破壊を防止するために、撹拌所要動力Pv(W/m3)を上記値の範囲内に設定している。
【0029】
上記GL撹拌槽1にて撹拌される内容物としては、液体、気体、気−液系の混合物、液−液系の混合物、固−液系の混合物等の流体が挙げられる。このうち、内容物として絶縁性物質を用いて撹拌を行う場合、特に、内容物として絶縁性固体物質(固体物質)と絶縁性液体物質(液体物質)との混合物を用いて撹拌を行う場合、上記GL撹拌槽1の、絶縁材料であるガラスからなるコーティング層1bには、流体の撹拌時に生じる流動電位によって絶縁破壊が生じる可能性がある。従って、上記混合物の撹拌を好適に行うためには、特に、流体の流動特性や、撹拌所要動力(撹拌強度)、伝熱速度等の諸特性を総合的に判断して、上記コーティング層1bの絶縁破壊を引き起こさないように、撹拌動作を制御する必要がある。
【0030】
ここで、上記絶縁性固体物質、及び、絶縁性液体物質とは、体積抵抗率がそれぞれ独立して1×1011(Ω・m)以上である固体物質、及び、液体物質をいうものとする。具体的には、上記体積抵抗率を有する固体物質としては、例えば、アルミナ、雲母類、ガラス類、セラミックス類等の無機物;ゴム類、天然樹脂、合成樹脂、ジアジド化合物,フェノール性酸化防止剤,フェノール性光安定剤等を挙げることができる(文献:労働省産業安全研究所著、産業安全研究所技術指針「静電気安全指針」、社団法人産業安全技術協会、1988年3月改訂、表R.4等(p.157〜)に記載の物質を参照)。また、上記体積抵抗率を有する液体物質としては、炭化水素系の有機溶剤に多く見られる。
【0031】
内容物の体積抵抗率、すなわち、絶縁性固体物質、絶縁性液体物質の体積抵抗率は、それぞれの物質の単位断面積、単位長さの電気抵抗を測定して得られる体積抵抗率(JIS C2525)として決定される。上記内容物の体積抵抗率が、いずれも1×1011(Ω・m)以上である、絶縁性固体物質と絶縁性液体物質との混合物である場合、撹拌所要動力Pv(W/m3)を200W/m3以下に制御することによって、コーティング層1bの絶縁破壊を特に好適に防止することができる。
【0032】
言い換えれば、上記体積抵抗率を有する固体物質と液体物質との混合物を撹拌する場合に、上記撹拌所要動力Pvが200W/m3を超えると、GL撹拌槽1のコーティング層1bの絶縁破壊が生じやすくなるため、撹拌所要動力Pv(W/m3)を200W/m3以下に制御することが好ましい。
【0033】
上記したように、上記コーティング層1bの絶縁破壊は、上記混合物をGL撹拌槽1(図1)にて撹拌する場合に生じる、固体物質と液体物質との摩擦等によって、流動電位に起因する。この流動電位は、GL撹拌槽1のコーティング層1bに、静電気として徐々に蓄積され、コーティング層1bは、GL撹拌槽1の外壁であるタンク1aを介して放電する。一方、GL撹拌槽1での撹拌動作における撹拌所要動力Pvが増加すると、コーティング層1bにおける静電気の蓄積量が放電量を超え、さらには静電気の蓄積量がコーティング層1bの破壊電圧を超えることがある。このように、混合物の撹拌によって、静電気の蓄積量がコーティング層1bの破壊電圧を超えた場合には、コーティング層1bに絶縁破壊が生じることになる。
【0034】
そこで、本発明では、この絶縁破壊を防止するために、上記したように、上記混合物の単位体積あたりの動力である撹拌所要動力Pv(W/m3)が、200W/m3以下となるように、より好ましくは、150W/m3以下となるように、撹拌条件を設定している。
【0035】
このような撹拌所要動力Pvの制御は、一般に、撹拌槽における撹拌では、上記撹拌所要動力Pvの増加とともに、混合物の単位体積あたりの電荷密度が上昇することに基づいている。混合物の電荷密度が上昇すれば、GL撹拌槽1のコーティング層1bにおける静電気の蓄積量が増加する。それゆえ、本実施の形態では、上記撹拌所要動力Pvを200W/m3以下となるように制御することによって、混合物の電荷密度の増加を抑制して、コーティング層1bの絶縁破壊を防止している。
【0036】
ここで、上記撹拌所要動力Pvは、下記式(3)
Pv=(Np/V)×(ρn3d5) ……(3)
に基づいて算出することができる。なお、上記式(3)中、Vは内容物の体積(m3)、ρは内容物の密度(kg/m3)、Npは撹拌器2の動力数、nは撹拌器2の撹拌数(s−1)、dは撹拌翼2bの翼径(m)を表す。
【0037】
本実施の形態では、上記したように、撹拌所要動力Pvは、
Pv=(Np/V)×(ρn3d5)≦200 ……(1)
を満たす値に設定される。
【0038】
上記撹拌所要動力Pvが200W/m3以下となるように設定するためには、まず、上記GL撹拌槽1内における内容物の体積V(m3)、内容物の密度ρ(kg/m3)、上記撹拌器2の動力数Np、撹拌器2の撹拌数n(s−1)、上記撹拌翼の翼径d(m)の5つの撹拌条件からなる撹拌条件群のうちの4つの撹拌条件をあらかじめ設定し、該4つの撹拌条件を式(1)に導入する。そして、上記撹拌条件群のうちの残り1つの撹拌条件を、上記式(1)を満たすように設定すればよい。
【0039】
上記5つの撹拌条件(V,ρ,n,Np,d)を用いて、撹拌所要動力Pvを200W/m3以下に設定するためには、具体的には、(a)GL撹拌槽1内の内容物の体積Vを小さくする、すなわち、内容物の容量を減少させる、(b)内容物の密度ρを小さくする、例えば、固体物質と液体物質との混合物であれば、相対的に密度の低い液体物質の含有率を高める、(c)撹拌翼2bの翼径dを小さくする、(d)動力数Npを小さくする、(e)撹拌数nを小さくする、という5つの撹拌条件の設定方法のうちの少なくとも1つの設定方法を採用すればよい。
【0040】
また、上記動力数Npは、撹拌数nとして任意の値を定めて、レイノルズ数Reを下記式(2)
Re=ρnd2/μ ……(2)
(ρは内容物の密度(kg/m3)、nは撹拌器2の撹拌数(s−1)、dは撹拌翼2bの翼径(m)、μは内容物の粘度(Pa・s))によって算出し、このレイノルズ数Reに基づいて決定することができる。すなわち、上記動力数Npは、レイノルズ数Re及び撹拌器2の撹拌翼2bの形状に依存する値として知られている。それゆえ、レイノルズ数Reを上記式(2)に基づいて決定すれば、GL撹拌槽1に備えられている撹拌器2の撹拌翼2bの形状に基づいて、従来の知見(例えば、社団法人化学工学協会編、「化学工学便覧改訂四版」、丸善株式会社、1978年10月25日発行、18章『撹拌および混合』(p.1305〜)、図18・10(p.1317)等参照)から、一義的にNpを決定することができる。
【0041】
上記従来の知見は、具体的には、動力数Npとレイノルズ数Reとの関係が、完全な層流域にて、下式
Np=A/Re ……(4)
(式中、Aは、撹拌翼2bの形状等に依存する定数)で表され、十分に発達した乱流域、すなわちレイノルズ数Reが無限大となる流域では、上記動力数Npが一定の値に収束することに基づいている。このように、動力数Npは、撹拌翼2bの形状に応じて、レイノルズ数Reの関数として表されるため、レイノルズ数Re及び撹拌翼2bの形状から、一義的に決定することができる。
【0042】
上記のように、式(1)及び(2)に基づいて、撹拌所要動力Pvを決定することにより、GL撹拌槽1の絶縁破壊が生じる撹拌所要動力Pvを実測して経験的に把握することなく、GL撹拌槽1の絶縁破壊を防止することが可能になる。つまり、内容物の体積V及び密度ρ、撹拌器2の動力数Np及び撹拌数n、撹拌翼2bの翼径dの各撹拌条件に基づいて、撹拌所要動力Pvを制御することにより、GL撹拌槽1の絶縁破壊を防止することが可能になる。
【0043】
それゆえ、GL撹拌槽1にて初めて撹拌される内容物の撹拌や、初めて使用されるGL撹拌槽1での撹拌に際しても、コーティング層1bが絶縁破壊する撹拌所要動力Pvを実際に測定して決定する必要がない。従って、コーティング層1bを絶縁破壊することのない最大の撹拌数を決定して、撹拌操作を効率よく行うことができる。
【0044】
なお、上記した(a)〜(e)のに示す撹拌条件の設定方法のうち、(a)及び(b)の体積V及び密度ρは、内容物に固有の値に基づくものであるため、内容物が決められている場合には、これらの撹拌条件を制御することは困難である。また、上記(c)及び(d)の翼径d及び動力数Npは、撹拌に使用する撹拌器2及びGL撹拌槽1によって規定されるものであるため、使用する撹拌器2及びGL撹拌槽1が決められている場合には、これらの撹拌条件を制御することは困難である。そのため、通常、(e)の撹拌数nを設定して、撹拌所要動力Pvを制御することが好ましい。
【0045】
そこで、上記した5つの撹拌条件(V,ρ,n,Np,d)のうち、あらかじめ定められている、内容物の体積V、内容物の密度ρ、撹拌器2の動力数Np、撹拌翼2bの翼径dに基づいて、撹拌所要動力Pvが式(1)を満たすように、撹拌器2の撹拌数nを設定する手順について、図3に示すフローチャートに基づいて具体的に説明する。
【0046】
すなわち、図3のS1では、まず、撹拌条件として、内容物の体積V、内容物の密度ρ、内容物の粘度μ、撹拌翼2bの翼径dを設定する。該S1では、撹拌条件の設定とともに、撹拌翼2bの形状も設定する。続いて、S2では、撹拌器2の仮の撹拌数n’を任意の値として仮に設定する。
【0047】
次に、S3では、S1及びS2で入力された密度ρ、粘度μ、翼径d、仮の撹拌数n’を用い、式(2)に基づいて、レイノルズ数Reを算出する。ここで、式(2)中の撹拌数nとして、上記仮りの撹拌数n’を用いる。そして、S4では、S3にて算出されたレイノルズ数Reに基づいて、上記した従来の知見から、動力数Npを決定する。次いで、S5では、S1にて入力された体積V、密度ρ、翼径d、S2で入力された仮の撹拌数n’、S4で決定された動力数Npを用い、上記した式(3)に基づいて、撹拌所要動力Pvを算出する。該Pvの算出に際しても、式(3)中の撹拌数nとして、上記仮りの撹拌数n’を用いる。
【0048】
続いて、S6では、S5にて算出された撹拌所要動力Pvが200以下であるか否かを判定し、Pvが200以下であれば(S6にてYES)、S7に進み、S7にて、上記n’をnに置き換え、該nを撹拌数として決定する。
【0049】
一方、S6にて、Pvが200を超えると判定されれば(S6にてNO)、S8に進む。S8では、n’を、n’よりも小さい値であるn”に変更し、さらに、S9にて、該n”を仮の撹拌数n’に置き換えて、上記にて説明したS3以降の操作を繰り返す。このようにして、撹拌所要動力Pvが200以下となるように、撹拌数nが決定される。
【0050】
なお、上記のS6及びS7では、仮の撹拌数n’を用いて算出される撹拌所要動力Pvが200以下であれば、該仮の撹拌数n’を撹拌数nとして決定しているが、例えば、撹拌所要動力Pvの下限値xを設定して、撹拌所要動力Pvが所定範囲内である場合の仮の撹拌数n’を撹拌数nとして決定するようにしてもよい。
【0051】
この場合、上記S6では、S5にて算出された撹拌所要動力Pvが所定範囲内であるか否かを判定すればよい。ここで、S6にて、Pvが下限値x未満であると判定された場合には、仮の撹拌数n’を、n’よりも大きい値に変更して、S3以降の操作を繰り返せばよい。S6にて、Pvが200以下である場合については、S8以降の操作を行い、Pvが下限値x以上200以下である場合には、S7の操作を行えばよい。
【0052】
このように、撹拌所要動力Pvの下限値xを設定することにより、撹拌数nが極端に小さい値に設定されることを防止することができる。言い換えれば、Pvが200に収束するように仮の撹拌数n’を決定すれば、GL撹拌槽1のコーティング層1bの絶縁破壊を引き起こすことのない範囲で、撹拌所要動力Pvが200以下となる範囲内で、最大の撹拌数nを設定することができる。
【0053】
また、図3に示すフローチャートでは、内容物の体積V、内容物の密度ρ、撹拌器2の動力数Np、撹拌翼2bの翼径dをあらかじめ設定しておき、撹拌所要動力Pvが式(1)を満たすように、撹拌器2の撹拌数nを設定する場合を例に挙げて説明したが、撹拌数n以外の撹拌条件(V,ρ,Np,d)のうちのいずれかを設定するようにしてもよい。
【0054】
つまり、本発明の撹拌条件設定方法では、まず、式(1)中の5つの撹拌条件(V,ρ,n,Np,d)からなる撹拌条件群のうちの、4つの撹拌条件をあらかじめ設定しておく。そして、上記撹拌条件群のうちの、あらかじめ設定されていない残り1つの撹拌条件を、撹拌所要動力Pvが式(1)を満たすように設定すればよい。つまり、本発明の撹拌条件設定方法は、撹拌装置での撹拌操作を行うにあたって、制御が可能な撹拌条件を上記撹拌条件群の中から1つ選択し、残りの4つの撹拌条件を式(1)に入力した上で、撹拌所要動力Pvが式(1)を満たすように、上記制御可能な撹拌条件を設定すればよい。
【0055】
なお、本実施の形態では、ガラスのコーティング層を有するGL撹拌槽を用いているが、コーティング層は、例えば、フッ素樹脂やポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂や熱硬化ポリエステル、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂にて形成されていてもよい。すなわち、撹拌槽の内壁のコーティング層が、ガラスや上記樹脂等、通常、電気抵抗が1×109(Ω・m)以上の絶縁材料にて形成されている場合に、式(3)にて表される撹拌所要動力Pvを200W/m3以下となるように、より好ましくは150W/m3以下となるように、撹拌器の撹拌を制御すれば、コーティング層の絶縁破壊を防止することができる。
【0056】
また、本実施の形態では、撹拌器の撹拌翼の形状として、ファウドラー型を例に挙げて説明したが、ファウドラー型以外の種々の形状の撹拌翼を用いた場合にも、撹拌所要動力Pvを200W/m3以下とすることによって、コーティング層の絶縁破壊を防止することができる。撹拌翼の形状や撹拌器の羽根板数に応じて、翼径dの値及びレイノルズ数Reに基づいて算出されるNpの値を変化させて、式(1)を満たすように、撹拌所要動力Pvを制御すればよい。
【0057】
さらに、上記撹拌所要動力Pvの制御は、撹拌槽の容積が数L程度の実験装置レベルの場合に対しても、また、例えば、撹拌槽の容積が数m3以上の実装置レベルの場合に対しても、適用することができる。特に、撹拌槽の容積が大きい実装置レベルにて、コーティング層1bの絶縁破壊を引き起こさないように、上記撹拌所要動力Pvの制御すれば、撹拌槽の補修等に煩わされることなく、好適な撹拌操作を行うことが可能になる。
【0058】
最後に、上記実施の形態における撹拌所要動力Pvを式(1)を満たすように設定する撹拌条件設定方法は、例えば、ハードウェアロジックによって実現してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0059】
すなわち、コンピュータ6は、入力部7と、出力部8と、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行する制御手段であるCPU(central processing unit )10と、上記プログラム及び各種データを格納する記憶手段であるメモリ9とを備えていてもよい。
【0060】
上記入力部7は、ユーザによって入力される撹拌条件等を受け付ける、例えばキーボードやマウス等の入力手段である。また、上記出力部8は、後述するCPU10の判定部13から出力される撹拌数nを、図1に示すコントローラ5に出力する、例えば通信手段である。
【0061】
上記CPU10は、コンピュータ6の各部を制御する。また、該CPU10は、レイノルズ数Reを算出するレイノルズ数算出部11と、動力数算出部12と、撹拌所要動力算出部13と、判定部14とを備えている。該レイノルズ数算出部11は、上記した式(2)に基づいて、レイノルズ数Reを算出する。動力数算出部12は、上記した式(4)で表される関数に基づいて、動力数Npを算出する。撹拌所要動力算出部13は、上記した式(3)に基づいて、撹拌所要動力Pvを算出する。判定部14は、撹拌所要動力算出部13で算出された撹拌所要動力Pvが、200W/m3以下であるか否かを判定するとともに、判定結果を出力部8又はレイノルズ数算出部11に出力する。
【0062】
上記メモリ9は、コンピュータ6の各機能を実現するためのプログラム、種々の値に設定された仮の撹拌数n’、式(4)で表される関数等をあらかじめ格納している。また、該メモリ9は、入力部7から入力された撹拌条件、レイノルズ数算出部11で算出されたレイノルズ数Re、動力数算出部12で算出された動力数Np、等を必要に応じて格納する。
【0063】
上記構成のコンピュータ6にて、図3のフローチャートに示す撹拌条件設定方法を実行する場合、S1の撹拌条件の設定は、ユーザが入力部7に、内容物の体積V、内容物の密度ρ、内容物の粘度μ、撹拌翼2bの翼径dの4つの撹拌条件と、撹拌翼2bの形状とを入力することによって行われる。入力部7に入力された撹拌条件及び撹拌翼2bの形状は、CPU10を介して、メモリ9に格納される。
【0064】
また、S2及びS3の動作は、レイノルズ数算出部11が、あらかじめメモリ9に格納されている仮の撹拌数n’を読み出すとともに、メモリ9に格納された撹拌条件のうち、密度ρ、粘度μ、翼径dを読み出すことによって行われる。そして、レイノルズ数算出部11は、メモリ9から読み出された仮の撹拌数n’及び撹拌条件を、式(2)に導入してレイノルズ数Reを算出し、算出されたレイノルズ数Reを、メモリ9に格納する。
【0065】
さらに、S4で行われる動力数Npの決定は、動力数算出部12が、メモリ9に格納されたレイノルズ数Reを読み出すとともに、S1にて入力された撹拌翼2bの形状に基づいてあらかじめ設定されている関数(例えば、式(4)参照)を読み出し、動力数Npを算出することによって行われる。このように算出された動力数Npは、動力数算出部12によって、メモリ9に格納される。
【0066】
また、S5の撹拌所要動力Pvの算出は、撹拌所要動力算出部13が、メモリ9に格納された動力数Np、内容物の体積V、内容物の密度ρ、S2で設定された仮の撹拌数n’を読出し、これらの撹拌条件を式(3)に導入して、撹拌所要動力Pvを算出することによって行われる。そして、S6にて、判定部13は、算出された撹拌所要動力Pvが200以下であるか否かを判定する。また、判定部13は、撹拌所要動力Pvが200以下である場合には、仮の撹拌数n’を撹拌数nとする判定結果を出力部8に出力する。さらに、出力部8は、判定結果である撹拌数nを図1に示すコントローラ5に出力する。これにより、コントローラ5は、判定部13にて設定された撹拌数nにて作動するように撹拌器2(図1)を制御する。
【0067】
なお、上記出力部8として、通信手段を例に挙げたが、出力部8は、判定結果を表示する、例えばCRT(cathode−ray tube)や液晶ディスプレイ等の表示手段であってもよい。この場合には、判定結果である撹拌数nを上記表示手段の表示画面に表示することによってユーザに通知し、ユーザがコントローラ5を操作すればよい。
【0068】
一方、撹拌所要動力Pvが200を超える場合には、判定部13は、レイノルズ数算出部11に、仮の撹拌数n’に代えて、仮の撹拌数n’よりも小さい値を用いて、再度、撹拌所要動力Pvを算出することを要求する再計算要求を出力する。レイノルズ数算出部11は、この再計算要求に基づいて、仮の撹拌数n’に代えて、該仮の撹拌数n’よりも小さい値のn”を読み出し、該n”を仮の撹拌数n’に置き換えて、上記と同様にレイノルズ数を算出する。
【0069】
このように、本発明の撹拌条件設定方法は、コンピュータ6を用いて実現することもできる。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアであるコンピュータ6の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記コンピュータ6に供給し、そのコンピュータ6(又はCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0070】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系等を用いることができる。このように、記録媒体に上記撹拌条件設定方法を実行するプログラムを記録した場合には、撹拌条件設定方法を行うプログラムを記録した記録媒体を、持ち運び自在に提供することができる。
【0071】
また、コンピュータ6を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。
【0072】
このように、上記撹拌条件設定方法がプログラムとして格納されていれば、上記撹拌条件設定方法を汎用的なものとすることが可能になる。
【0073】
【実施例】
〔実施例1〕
本発明の一実施例について説明すれば、以下のとおりである。
【0074】
表1に示すように、溶媒(液体物質)としてヘプタンと、粉体(固体物質)としてアルミナとを混合して、密度ρが685kg/m3となるように混合物を調製し、翼径が1.1mの撹拌翼を備えた容積5m3のGL撹拌槽に、2.6m3の上記混合物を仕込んだ。なお、上記ヘプタン及びアルミナの体積抵抗率、上記混合物の粘度μは、それぞれ、表1に示すとおりである。
【0075】
続いて、上記撹拌翼の撹拌回転数を40rpm(回転速度n=0.67s−1)として撹拌器を回転させて、GL撹拌槽内の混合物を50℃にて、24時間撹拌した。このときのレイノルズ数Re、撹拌器の動力数Np、混合物の単位体積あたりの撹拌所要動力Pvは、表1に示すとおりである。
【0076】
その後、上記GL撹拌槽から混合物を取り出し、GL撹拌槽のコーティング層の剥離やピンホール、欠け等の絶縁破壊の有無を判定したところ、絶縁破壊は見られなかった。
【0077】
〔実施例2〜5〕
表1に示す溶媒と粉体とを混合してなる混合物を用い、表1に示すGL撹拌槽にて、実施例1と同様に混合物の撹拌を行い、絶縁破壊の有無を判定した。なお、溶媒、粉体、混合物の諸物性(体積抵抗率、密度ρ、仕込み体積V、粘度μ)、撹拌操作条件(GL撹拌槽の容積、撹拌翼の翼径、撹拌翼の撹拌回転数(回転速度)、レイノルズ数Re、撹拌器の動力数Np、混合物の単位体積あたりの撹拌所要動力Pv)は、表1に示すとおりである。また、表中、フロン(商品名、デュポン社製)は、炭化水素のクロロフルオロ置換体をいう。
【0078】
【表1】
【0079】
〔比較例1〜7〕
表2に示す溶媒と粉体とを混合してなる混合物を用い、表2に示すGL撹拌槽にて、実施例1と同様に混合物の撹拌を行い、絶縁破壊の有無を判定した。なお、溶媒、粉体、混合物の諸物性、撹拌操作条件は、表2に示すとおりである。また、比較例7は、溶媒として、ヘキサンとモノクロロベンゼンとの混合溶媒(ヘキサン:モノクロロベンゼン=1:1の体積比)を用いた。
【0080】
【表2】
【0081】
以上の結果より、グラスライニング処理によるコーティング層を備えた撹拌槽にて、溶媒と粉体との混合物の撹拌を行う場合、撹拌所要動力Pvが、200(W/m3)以下となるように制御すれば、絶縁破壊が生じないことがわかる。
【0082】
【発明の効果】
本発明の撹拌条件設定方法は、以上のように、撹拌槽内における内容物の体積V(m3)、内容物の密度ρ(kg/m3)、撹拌器の動力数Np、撹拌器の撹拌数n(s−1)、撹拌翼の翼径d(m)からなる撹拌条件群より選択される、あらかじめ設定された4つの撹拌条件に基づいて、上記内容物の単位体積あたりの動力である撹拌所要動力Pv(W/m3)が、式(1)
Pv=(Np/V)×(ρn3d5)≦200 ……(1)
を満たすように、上記撹拌条件群の中から選択されていない残り1つの撹拌条件を設定する方法である。
【0083】
それゆえ、これまで撹拌槽にて撹拌されたことがない未知の内容物の撹拌を行う場合や、これまで使用されていない新規な撹拌槽にて撹拌を行う場合にも、コーティング層の絶縁破壊等の破損を防止して、撹拌を好適に行うことができるという効果を奏する。
【0084】
また、上記撹拌条件設定方法は、コンピュータに実行させるためのプログラムであってもよい。上記プログラムを用いれば、上記撹拌条件設定方法を汎用的なものとすることが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における撹拌装置の実施の一形態を示す概略の断面図である。
【図2】(a)は、上記撹拌装置における撹拌器の撹拌翼を示す概略の断面図であり、(b)は、撹拌翼の平面図である。
【図3】本発明のおける撹拌条件設定方法の一例を示すフローチャートである。
【図4】本発明の撹拌条件設定方法を実行するコンピュータを示すブロック図である。
【符号の説明】
1 GL撹拌槽(撹拌槽)
1a タンク
1b コーティング層
2 撹拌器
2a 撹拌軸
2b 撹拌翼
3 ビーバーテイルバッフル
4 モータ
5 トルク計付きコントローラ(コントローラ)
6 コンピュータ
7 入力部
8 出力部
9 メモリ
10 CPU
11 レイノルズ数算出部
12 動力数算出部
13 撹拌所要動力算出部
14 判定部
【発明の属する技術分野】
本発明は、内壁が絶縁材料にて被覆されてなる撹拌槽における撹拌条件設定方法、撹拌条件設定プログラム及びそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
撹拌槽では、該撹拌槽内の物質を撹拌することにより、該物質を拡散あるいは分散させ、該物質の濃度の均一化、化学反応、熱の移動等を行っている。上記撹拌槽では、撹拌槽内の物質の付着や撹拌槽の腐食を防止するために、鋼鉄製のタンクの内面にコーティング層が形成されている場合がある。このコーティング層を形成するためのコーティング処理としては、例えば、ガラスをコーティングするグラスライニング処理、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂をコーティングする樹脂被覆処理が知られている。
【0003】
上記ガラスや樹脂等の絶縁材料を用いてコーティング処理が施された撹拌槽にて、該撹拌槽の内容物として導電性の低い物質を撹拌すると、物質間の摩擦や、物質と撹拌槽との衝突、撹拌槽への物質の配管輸送等によって発生した静電気がコーティング層に蓄積されやすくなる。つまり、コーティング層から静電気が放電されるよりも帯電される量が多くなって、コーティング層に静電気が蓄積することになる。
【0004】
コーティング層に蓄積された静電気量が、該コーティング層の破壊電圧を超えると、コーティング層は、ピンホールや欠けの発生、コーティング材料の剥離等の絶縁破壊を受ける。上記コーティング層に蓄積される静電気量は、一般に、撹拌槽での撹拌速度が速くなるほど増加することが知られている(非特許文献1参照)。そのため、コーティング層の絶縁破壊を防止するためには、撹拌槽での撹拌速度を制御する必要がある。
【0005】
【非特許文献1】
澤田雅光「GL槽での静電気の発生と対策」、化学工学、61巻、p.860−862、1997年
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、例えば化学反応では、一般に、撹拌速度が速いほど、反応速度が速くなる、あるいは、熱交換が迅速に行われることが知られている。このように、撹拌槽での撹拌操作が求められる場合には、撹拌槽に備えられている撹拌器の撹拌数を大きくして、撹拌槽での撹拌速度を高めることが一般に求められている。
【0007】
それゆえ、コーティング層を有する撹拌槽にて、化学反応を行う場合には、コーティング層の絶縁破壊を引き起こすことのない範囲で、最大の撹拌速度を設定することが好ましい。
【0008】
また、コーティング層を有する撹拌槽にて初めて撹拌が行われる物質の撹拌や、コーティング層を有する新しい撹拌槽にて撹拌を行う場合にも、コーティング層の絶縁破壊を引き起こすことのない最大の撹拌速度を簡単に決定することができれば、撹拌操作の効率化を図ることができ、さらに、コーティング層の絶縁破壊によって撹拌槽の使用が不可能となることを防止することができる。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、撹拌槽内の内容物を撹拌する際に、内壁がコーティング層等の絶縁材料からなる撹拌槽の絶縁破壊を防止し得る撹拌所要動力を、実測等によって経験的に決定するのではなく、撹拌される物質の諸特性や撹拌槽に備えられた撹拌器の特性に応じて決定するための撹拌槽における撹拌条件設定方法、撹拌条件設定プログラム及びそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の撹拌条件設定方法は、上記課題を解決するために、内壁が絶縁材料からなる撹拌槽内にて、撹拌翼を有する撹拌器が回転することによって内容物を撹拌する場合の撹拌条件を設定するための撹拌条件設定方法であって、上記撹拌槽内における内容物の体積V(m3)、上記内容物の密度ρ(kg/m3)、上記撹拌器の動力数Np、上記撹拌器の撹拌数n(s−1)、上記撹拌翼の翼径d(m)からなる撹拌条件群より選択される、あらかじめ設定された4つの撹拌条件に基づいて、上記内容物の単位体積あたりの動力である撹拌所要動力Pv(W/m3)が、式(1)
Pv=(Np/V)×(ρn3d5)≦200 ……(1)
を満たすように、上記撹拌条件群の中から選択されていない残り1つの撹拌条件を設定することを特徴としている。
【0011】
また、本発明の撹拌条件設定方法は、上記の撹拌条件設定方法において、上記動力数Npは、式(2)
Re=ρnd2/μ ……(2)
(ρは混合物の密度(kg/m3)、nは撹拌器の回転速度(s−1)、dは撹拌翼の翼径(m)、μは混合物の粘度(Pa・s))で表されるレイノルズ数Reに基づいて決定されることが好ましい。
【0012】
上記の方法によれば、内容物の体積V及び密度ρ、撹拌器の回転速度n及び動力数Np、撹拌翼の翼径dの各撹拌条件からなる撹拌条件群より選択される1つの撹拌条件を、撹拌所要動力Pvが上記式(1)を満たすように設定している。これにより、内壁を被覆してなる絶縁材料(以下、コーティング層と記載する)に、絶縁破壊が生じることを防止することができる。
【0013】
また、撹拌所要動力Pvが上記式(1)を満たすように上記撹拌条件群より選択される撹拌条件が設定されるので、撹拌槽にて新規な内容物を撹拌する場合や、新しい撹拌槽にて内容物を撹拌する場合にも、コーティング層の絶縁破壊を防止することができる。これにより、コーティング層の絶縁破壊の補修等に煩わされることなく、撹拌操作を効率よく行うことが可能になる。
【0014】
本発明の撹拌条件設定方法は、上記内容物が、固体物質と液体物質との混合物であり、上記固体物質及び液体物質の体積抵抗率がそれぞれ独立して、1×1011(Ω・m)以上である場合に、特に好適に用いることができる。
【0015】
また、本発明には、上記の撹拌条件設定方法をコンピュータに実行させるための撹拌条件設定プログラムも含まれる。
【0016】
上記の構成によれば、上記の撹拌条件設定方法がプログラムとして格納されているので、該プログラムを読み出すことによって、上記式(1)を満たすように撹拌条件を設定することができる。これにより、上記撹拌条件設定方法を汎用的なものにして、撹拌槽における絶縁破壊を好適に防止することができる。
【0017】
さらに、本発明の撹拌条件設定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、上記撹拌条件設定方法をコンピュータに実現させるための、撹拌条件設定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【0018】
上記の構成により、上記記録媒体から読み出された撹拌条件設定プログラムによって、コンピュータ上で、撹拌条件設定方法を実現することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の一形態について図1及び図2に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0020】
本実施の形態の撹拌装置は、図1に示すように、内壁にグラスライニング処理が施された撹拌槽(以下、GL撹拌槽)1と、GL撹拌槽1内の内容物を撹拌する撹拌器2と、撹拌時に撹拌槽内の物質(以下、内容物と記載する)の流れを乱すための邪魔板としてのビーバーテイルバッフル3とを備えている。
【0021】
上記GL撹拌槽1は、例えば、鋼鉄、ステンレス等の導電性材料からなる円筒型の密閉式のタンク1aの内壁に、上記グラスライニング処理によって形成されたガラス(絶縁材料)からなるコーティング層1bを有している。該GL撹拌槽1のタンク1aの外壁は接地されており、GL撹拌槽1内部にて発生してコーティング層1bに蓄積される静電気を放電するようになっている。
【0022】
上記撹拌器2は、撹拌軸2aを中心に回転するように、撹拌軸の一方の先端部がモータ4に取り付けられている。該モータ4には、トルク計付きコントローラ(以下、コントローラ)5が接続されている。さらに、該コントローラ5は、パーソナルコンピュータ(以下、コンピュータ)6によって制御されている。それゆえ、このコンピュータ6によって、コントローラ5を介してモータ4の回転数を任意に調節することにより、撹拌器2の撹拌数を制御することができる。
【0023】
また、撹拌軸2aの他方の先端部には撹拌翼2bが備えられ、撹拌軸2aが回転すると、該撹拌軸2aを中心として撹拌翼2bが回転する。これにより、GL撹拌槽1内の内容物が撹拌される。ここで、本実施の形態のGL撹拌槽1は、上記撹拌翼2bとして、図2(b)に示すように、ファウドラー型の3つの撹拌翼2b・2b・2b(以下、撹拌翼2bと記載する)を有している。この撹拌翼2bは、図2(a)に示すように、撹拌軸2aの中心から、該中心から最も遠い撹拌翼2bの先端部分までの直線距離が、d/2(dは撹拌翼の翼径(m))となっている。言い換えれば、翼径dは、撹拌器2が撹拌軸2aを中心に回転した場合に、撹拌翼2bが描く軌跡である円の直径として定義される。
【0024】
なお、上記撹拌器2の撹拌軸2a及び撹拌翼2bは、絶縁体にて、又は、導電体を絶縁材料で被覆されて、形成されている。これにより、撹拌軸2a及び撹拌翼2bに、GL撹拌槽1内の内容物の付着することを防止し、また、撹拌軸2a及び撹拌翼2bの腐食を防止することができる。さらに、図1に示すように、針金を撹拌軸2a部分に接続するようにコイル状に巻き、該針金を接地して、撹拌器2に発生する静電気を放電している。
【0025】
また、上記ビーバーテイルバッフル3は、絶縁体にて、又は、導電体を絶縁材料で被覆されて、形成されている。これにより、ビーバーテイルバッフル3表面に、内容物が付着することを防止するとともに、ビーバーテイルバッフル3の腐食を防止している。
【0026】
上記撹拌装置のGL撹拌槽1(図1)にて、内容物を撹拌する際には、上記コントローラ5によって、モータ4を回転させて撹拌器2を駆動する。これにより、撹拌軸2aが回転して、撹拌翼2bが回転し、GL撹拌槽1内の内容物が流動して撹拌される。このとき、ビーバーテイルバッフル3に内容物が衝突することにより、内容物の流れの方向が変化する。これにより、GL撹拌槽1内の内容物全体が均一になるように、流動させることができる。なお、本実施の形態の撹拌装置では、GL撹拌槽1に、邪魔板としてのビーバーテイルバッフル3が備えられているが、該ビーバーテイルバッフル3を備えていない構成であってもよい。
【0027】
本実施の形態では、上記構成の撹拌装置にて、撹拌操作を行う際に、内容物の単位体積あたりの動力である撹拌所要動力Pv(W/m3)が200W/m3以下となるように、後述する撹拌条件を設定している。より好ましくは、上記撹拌所要動力Pvが150W/m3以下となるように、撹拌条件を設定している。
【0028】
一般に、上記GL撹拌槽1にて内容物を撹拌する際には、内容物同士の摩擦や、内容物と撹拌槽との衝突等によって発生した静電気が、上記GL撹拌槽1の、絶縁材料であるガラスからなるコーティング層1bに蓄積されやすい。該コーティング層1bに蓄積された静電気量が、コーティング層1bの破壊電圧を超えると、コーティング層1bの絶縁破壊が引き起こされる。そのため、本実施の形態では、このコーティング層1bの絶縁破壊を防止するために、撹拌所要動力Pv(W/m3)を上記値の範囲内に設定している。
【0029】
上記GL撹拌槽1にて撹拌される内容物としては、液体、気体、気−液系の混合物、液−液系の混合物、固−液系の混合物等の流体が挙げられる。このうち、内容物として絶縁性物質を用いて撹拌を行う場合、特に、内容物として絶縁性固体物質(固体物質)と絶縁性液体物質(液体物質)との混合物を用いて撹拌を行う場合、上記GL撹拌槽1の、絶縁材料であるガラスからなるコーティング層1bには、流体の撹拌時に生じる流動電位によって絶縁破壊が生じる可能性がある。従って、上記混合物の撹拌を好適に行うためには、特に、流体の流動特性や、撹拌所要動力(撹拌強度)、伝熱速度等の諸特性を総合的に判断して、上記コーティング層1bの絶縁破壊を引き起こさないように、撹拌動作を制御する必要がある。
【0030】
ここで、上記絶縁性固体物質、及び、絶縁性液体物質とは、体積抵抗率がそれぞれ独立して1×1011(Ω・m)以上である固体物質、及び、液体物質をいうものとする。具体的には、上記体積抵抗率を有する固体物質としては、例えば、アルミナ、雲母類、ガラス類、セラミックス類等の無機物;ゴム類、天然樹脂、合成樹脂、ジアジド化合物,フェノール性酸化防止剤,フェノール性光安定剤等を挙げることができる(文献:労働省産業安全研究所著、産業安全研究所技術指針「静電気安全指針」、社団法人産業安全技術協会、1988年3月改訂、表R.4等(p.157〜)に記載の物質を参照)。また、上記体積抵抗率を有する液体物質としては、炭化水素系の有機溶剤に多く見られる。
【0031】
内容物の体積抵抗率、すなわち、絶縁性固体物質、絶縁性液体物質の体積抵抗率は、それぞれの物質の単位断面積、単位長さの電気抵抗を測定して得られる体積抵抗率(JIS C2525)として決定される。上記内容物の体積抵抗率が、いずれも1×1011(Ω・m)以上である、絶縁性固体物質と絶縁性液体物質との混合物である場合、撹拌所要動力Pv(W/m3)を200W/m3以下に制御することによって、コーティング層1bの絶縁破壊を特に好適に防止することができる。
【0032】
言い換えれば、上記体積抵抗率を有する固体物質と液体物質との混合物を撹拌する場合に、上記撹拌所要動力Pvが200W/m3を超えると、GL撹拌槽1のコーティング層1bの絶縁破壊が生じやすくなるため、撹拌所要動力Pv(W/m3)を200W/m3以下に制御することが好ましい。
【0033】
上記したように、上記コーティング層1bの絶縁破壊は、上記混合物をGL撹拌槽1(図1)にて撹拌する場合に生じる、固体物質と液体物質との摩擦等によって、流動電位に起因する。この流動電位は、GL撹拌槽1のコーティング層1bに、静電気として徐々に蓄積され、コーティング層1bは、GL撹拌槽1の外壁であるタンク1aを介して放電する。一方、GL撹拌槽1での撹拌動作における撹拌所要動力Pvが増加すると、コーティング層1bにおける静電気の蓄積量が放電量を超え、さらには静電気の蓄積量がコーティング層1bの破壊電圧を超えることがある。このように、混合物の撹拌によって、静電気の蓄積量がコーティング層1bの破壊電圧を超えた場合には、コーティング層1bに絶縁破壊が生じることになる。
【0034】
そこで、本発明では、この絶縁破壊を防止するために、上記したように、上記混合物の単位体積あたりの動力である撹拌所要動力Pv(W/m3)が、200W/m3以下となるように、より好ましくは、150W/m3以下となるように、撹拌条件を設定している。
【0035】
このような撹拌所要動力Pvの制御は、一般に、撹拌槽における撹拌では、上記撹拌所要動力Pvの増加とともに、混合物の単位体積あたりの電荷密度が上昇することに基づいている。混合物の電荷密度が上昇すれば、GL撹拌槽1のコーティング層1bにおける静電気の蓄積量が増加する。それゆえ、本実施の形態では、上記撹拌所要動力Pvを200W/m3以下となるように制御することによって、混合物の電荷密度の増加を抑制して、コーティング層1bの絶縁破壊を防止している。
【0036】
ここで、上記撹拌所要動力Pvは、下記式(3)
Pv=(Np/V)×(ρn3d5) ……(3)
に基づいて算出することができる。なお、上記式(3)中、Vは内容物の体積(m3)、ρは内容物の密度(kg/m3)、Npは撹拌器2の動力数、nは撹拌器2の撹拌数(s−1)、dは撹拌翼2bの翼径(m)を表す。
【0037】
本実施の形態では、上記したように、撹拌所要動力Pvは、
Pv=(Np/V)×(ρn3d5)≦200 ……(1)
を満たす値に設定される。
【0038】
上記撹拌所要動力Pvが200W/m3以下となるように設定するためには、まず、上記GL撹拌槽1内における内容物の体積V(m3)、内容物の密度ρ(kg/m3)、上記撹拌器2の動力数Np、撹拌器2の撹拌数n(s−1)、上記撹拌翼の翼径d(m)の5つの撹拌条件からなる撹拌条件群のうちの4つの撹拌条件をあらかじめ設定し、該4つの撹拌条件を式(1)に導入する。そして、上記撹拌条件群のうちの残り1つの撹拌条件を、上記式(1)を満たすように設定すればよい。
【0039】
上記5つの撹拌条件(V,ρ,n,Np,d)を用いて、撹拌所要動力Pvを200W/m3以下に設定するためには、具体的には、(a)GL撹拌槽1内の内容物の体積Vを小さくする、すなわち、内容物の容量を減少させる、(b)内容物の密度ρを小さくする、例えば、固体物質と液体物質との混合物であれば、相対的に密度の低い液体物質の含有率を高める、(c)撹拌翼2bの翼径dを小さくする、(d)動力数Npを小さくする、(e)撹拌数nを小さくする、という5つの撹拌条件の設定方法のうちの少なくとも1つの設定方法を採用すればよい。
【0040】
また、上記動力数Npは、撹拌数nとして任意の値を定めて、レイノルズ数Reを下記式(2)
Re=ρnd2/μ ……(2)
(ρは内容物の密度(kg/m3)、nは撹拌器2の撹拌数(s−1)、dは撹拌翼2bの翼径(m)、μは内容物の粘度(Pa・s))によって算出し、このレイノルズ数Reに基づいて決定することができる。すなわち、上記動力数Npは、レイノルズ数Re及び撹拌器2の撹拌翼2bの形状に依存する値として知られている。それゆえ、レイノルズ数Reを上記式(2)に基づいて決定すれば、GL撹拌槽1に備えられている撹拌器2の撹拌翼2bの形状に基づいて、従来の知見(例えば、社団法人化学工学協会編、「化学工学便覧改訂四版」、丸善株式会社、1978年10月25日発行、18章『撹拌および混合』(p.1305〜)、図18・10(p.1317)等参照)から、一義的にNpを決定することができる。
【0041】
上記従来の知見は、具体的には、動力数Npとレイノルズ数Reとの関係が、完全な層流域にて、下式
Np=A/Re ……(4)
(式中、Aは、撹拌翼2bの形状等に依存する定数)で表され、十分に発達した乱流域、すなわちレイノルズ数Reが無限大となる流域では、上記動力数Npが一定の値に収束することに基づいている。このように、動力数Npは、撹拌翼2bの形状に応じて、レイノルズ数Reの関数として表されるため、レイノルズ数Re及び撹拌翼2bの形状から、一義的に決定することができる。
【0042】
上記のように、式(1)及び(2)に基づいて、撹拌所要動力Pvを決定することにより、GL撹拌槽1の絶縁破壊が生じる撹拌所要動力Pvを実測して経験的に把握することなく、GL撹拌槽1の絶縁破壊を防止することが可能になる。つまり、内容物の体積V及び密度ρ、撹拌器2の動力数Np及び撹拌数n、撹拌翼2bの翼径dの各撹拌条件に基づいて、撹拌所要動力Pvを制御することにより、GL撹拌槽1の絶縁破壊を防止することが可能になる。
【0043】
それゆえ、GL撹拌槽1にて初めて撹拌される内容物の撹拌や、初めて使用されるGL撹拌槽1での撹拌に際しても、コーティング層1bが絶縁破壊する撹拌所要動力Pvを実際に測定して決定する必要がない。従って、コーティング層1bを絶縁破壊することのない最大の撹拌数を決定して、撹拌操作を効率よく行うことができる。
【0044】
なお、上記した(a)〜(e)のに示す撹拌条件の設定方法のうち、(a)及び(b)の体積V及び密度ρは、内容物に固有の値に基づくものであるため、内容物が決められている場合には、これらの撹拌条件を制御することは困難である。また、上記(c)及び(d)の翼径d及び動力数Npは、撹拌に使用する撹拌器2及びGL撹拌槽1によって規定されるものであるため、使用する撹拌器2及びGL撹拌槽1が決められている場合には、これらの撹拌条件を制御することは困難である。そのため、通常、(e)の撹拌数nを設定して、撹拌所要動力Pvを制御することが好ましい。
【0045】
そこで、上記した5つの撹拌条件(V,ρ,n,Np,d)のうち、あらかじめ定められている、内容物の体積V、内容物の密度ρ、撹拌器2の動力数Np、撹拌翼2bの翼径dに基づいて、撹拌所要動力Pvが式(1)を満たすように、撹拌器2の撹拌数nを設定する手順について、図3に示すフローチャートに基づいて具体的に説明する。
【0046】
すなわち、図3のS1では、まず、撹拌条件として、内容物の体積V、内容物の密度ρ、内容物の粘度μ、撹拌翼2bの翼径dを設定する。該S1では、撹拌条件の設定とともに、撹拌翼2bの形状も設定する。続いて、S2では、撹拌器2の仮の撹拌数n’を任意の値として仮に設定する。
【0047】
次に、S3では、S1及びS2で入力された密度ρ、粘度μ、翼径d、仮の撹拌数n’を用い、式(2)に基づいて、レイノルズ数Reを算出する。ここで、式(2)中の撹拌数nとして、上記仮りの撹拌数n’を用いる。そして、S4では、S3にて算出されたレイノルズ数Reに基づいて、上記した従来の知見から、動力数Npを決定する。次いで、S5では、S1にて入力された体積V、密度ρ、翼径d、S2で入力された仮の撹拌数n’、S4で決定された動力数Npを用い、上記した式(3)に基づいて、撹拌所要動力Pvを算出する。該Pvの算出に際しても、式(3)中の撹拌数nとして、上記仮りの撹拌数n’を用いる。
【0048】
続いて、S6では、S5にて算出された撹拌所要動力Pvが200以下であるか否かを判定し、Pvが200以下であれば(S6にてYES)、S7に進み、S7にて、上記n’をnに置き換え、該nを撹拌数として決定する。
【0049】
一方、S6にて、Pvが200を超えると判定されれば(S6にてNO)、S8に進む。S8では、n’を、n’よりも小さい値であるn”に変更し、さらに、S9にて、該n”を仮の撹拌数n’に置き換えて、上記にて説明したS3以降の操作を繰り返す。このようにして、撹拌所要動力Pvが200以下となるように、撹拌数nが決定される。
【0050】
なお、上記のS6及びS7では、仮の撹拌数n’を用いて算出される撹拌所要動力Pvが200以下であれば、該仮の撹拌数n’を撹拌数nとして決定しているが、例えば、撹拌所要動力Pvの下限値xを設定して、撹拌所要動力Pvが所定範囲内である場合の仮の撹拌数n’を撹拌数nとして決定するようにしてもよい。
【0051】
この場合、上記S6では、S5にて算出された撹拌所要動力Pvが所定範囲内であるか否かを判定すればよい。ここで、S6にて、Pvが下限値x未満であると判定された場合には、仮の撹拌数n’を、n’よりも大きい値に変更して、S3以降の操作を繰り返せばよい。S6にて、Pvが200以下である場合については、S8以降の操作を行い、Pvが下限値x以上200以下である場合には、S7の操作を行えばよい。
【0052】
このように、撹拌所要動力Pvの下限値xを設定することにより、撹拌数nが極端に小さい値に設定されることを防止することができる。言い換えれば、Pvが200に収束するように仮の撹拌数n’を決定すれば、GL撹拌槽1のコーティング層1bの絶縁破壊を引き起こすことのない範囲で、撹拌所要動力Pvが200以下となる範囲内で、最大の撹拌数nを設定することができる。
【0053】
また、図3に示すフローチャートでは、内容物の体積V、内容物の密度ρ、撹拌器2の動力数Np、撹拌翼2bの翼径dをあらかじめ設定しておき、撹拌所要動力Pvが式(1)を満たすように、撹拌器2の撹拌数nを設定する場合を例に挙げて説明したが、撹拌数n以外の撹拌条件(V,ρ,Np,d)のうちのいずれかを設定するようにしてもよい。
【0054】
つまり、本発明の撹拌条件設定方法では、まず、式(1)中の5つの撹拌条件(V,ρ,n,Np,d)からなる撹拌条件群のうちの、4つの撹拌条件をあらかじめ設定しておく。そして、上記撹拌条件群のうちの、あらかじめ設定されていない残り1つの撹拌条件を、撹拌所要動力Pvが式(1)を満たすように設定すればよい。つまり、本発明の撹拌条件設定方法は、撹拌装置での撹拌操作を行うにあたって、制御が可能な撹拌条件を上記撹拌条件群の中から1つ選択し、残りの4つの撹拌条件を式(1)に入力した上で、撹拌所要動力Pvが式(1)を満たすように、上記制御可能な撹拌条件を設定すればよい。
【0055】
なお、本実施の形態では、ガラスのコーティング層を有するGL撹拌槽を用いているが、コーティング層は、例えば、フッ素樹脂やポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂や熱硬化ポリエステル、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂にて形成されていてもよい。すなわち、撹拌槽の内壁のコーティング層が、ガラスや上記樹脂等、通常、電気抵抗が1×109(Ω・m)以上の絶縁材料にて形成されている場合に、式(3)にて表される撹拌所要動力Pvを200W/m3以下となるように、より好ましくは150W/m3以下となるように、撹拌器の撹拌を制御すれば、コーティング層の絶縁破壊を防止することができる。
【0056】
また、本実施の形態では、撹拌器の撹拌翼の形状として、ファウドラー型を例に挙げて説明したが、ファウドラー型以外の種々の形状の撹拌翼を用いた場合にも、撹拌所要動力Pvを200W/m3以下とすることによって、コーティング層の絶縁破壊を防止することができる。撹拌翼の形状や撹拌器の羽根板数に応じて、翼径dの値及びレイノルズ数Reに基づいて算出されるNpの値を変化させて、式(1)を満たすように、撹拌所要動力Pvを制御すればよい。
【0057】
さらに、上記撹拌所要動力Pvの制御は、撹拌槽の容積が数L程度の実験装置レベルの場合に対しても、また、例えば、撹拌槽の容積が数m3以上の実装置レベルの場合に対しても、適用することができる。特に、撹拌槽の容積が大きい実装置レベルにて、コーティング層1bの絶縁破壊を引き起こさないように、上記撹拌所要動力Pvの制御すれば、撹拌槽の補修等に煩わされることなく、好適な撹拌操作を行うことが可能になる。
【0058】
最後に、上記実施の形態における撹拌所要動力Pvを式(1)を満たすように設定する撹拌条件設定方法は、例えば、ハードウェアロジックによって実現してもよいし、次のようにCPUを用いてソフトウェアによって実現してもよい。
【0059】
すなわち、コンピュータ6は、入力部7と、出力部8と、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行する制御手段であるCPU(central processing unit )10と、上記プログラム及び各種データを格納する記憶手段であるメモリ9とを備えていてもよい。
【0060】
上記入力部7は、ユーザによって入力される撹拌条件等を受け付ける、例えばキーボードやマウス等の入力手段である。また、上記出力部8は、後述するCPU10の判定部13から出力される撹拌数nを、図1に示すコントローラ5に出力する、例えば通信手段である。
【0061】
上記CPU10は、コンピュータ6の各部を制御する。また、該CPU10は、レイノルズ数Reを算出するレイノルズ数算出部11と、動力数算出部12と、撹拌所要動力算出部13と、判定部14とを備えている。該レイノルズ数算出部11は、上記した式(2)に基づいて、レイノルズ数Reを算出する。動力数算出部12は、上記した式(4)で表される関数に基づいて、動力数Npを算出する。撹拌所要動力算出部13は、上記した式(3)に基づいて、撹拌所要動力Pvを算出する。判定部14は、撹拌所要動力算出部13で算出された撹拌所要動力Pvが、200W/m3以下であるか否かを判定するとともに、判定結果を出力部8又はレイノルズ数算出部11に出力する。
【0062】
上記メモリ9は、コンピュータ6の各機能を実現するためのプログラム、種々の値に設定された仮の撹拌数n’、式(4)で表される関数等をあらかじめ格納している。また、該メモリ9は、入力部7から入力された撹拌条件、レイノルズ数算出部11で算出されたレイノルズ数Re、動力数算出部12で算出された動力数Np、等を必要に応じて格納する。
【0063】
上記構成のコンピュータ6にて、図3のフローチャートに示す撹拌条件設定方法を実行する場合、S1の撹拌条件の設定は、ユーザが入力部7に、内容物の体積V、内容物の密度ρ、内容物の粘度μ、撹拌翼2bの翼径dの4つの撹拌条件と、撹拌翼2bの形状とを入力することによって行われる。入力部7に入力された撹拌条件及び撹拌翼2bの形状は、CPU10を介して、メモリ9に格納される。
【0064】
また、S2及びS3の動作は、レイノルズ数算出部11が、あらかじめメモリ9に格納されている仮の撹拌数n’を読み出すとともに、メモリ9に格納された撹拌条件のうち、密度ρ、粘度μ、翼径dを読み出すことによって行われる。そして、レイノルズ数算出部11は、メモリ9から読み出された仮の撹拌数n’及び撹拌条件を、式(2)に導入してレイノルズ数Reを算出し、算出されたレイノルズ数Reを、メモリ9に格納する。
【0065】
さらに、S4で行われる動力数Npの決定は、動力数算出部12が、メモリ9に格納されたレイノルズ数Reを読み出すとともに、S1にて入力された撹拌翼2bの形状に基づいてあらかじめ設定されている関数(例えば、式(4)参照)を読み出し、動力数Npを算出することによって行われる。このように算出された動力数Npは、動力数算出部12によって、メモリ9に格納される。
【0066】
また、S5の撹拌所要動力Pvの算出は、撹拌所要動力算出部13が、メモリ9に格納された動力数Np、内容物の体積V、内容物の密度ρ、S2で設定された仮の撹拌数n’を読出し、これらの撹拌条件を式(3)に導入して、撹拌所要動力Pvを算出することによって行われる。そして、S6にて、判定部13は、算出された撹拌所要動力Pvが200以下であるか否かを判定する。また、判定部13は、撹拌所要動力Pvが200以下である場合には、仮の撹拌数n’を撹拌数nとする判定結果を出力部8に出力する。さらに、出力部8は、判定結果である撹拌数nを図1に示すコントローラ5に出力する。これにより、コントローラ5は、判定部13にて設定された撹拌数nにて作動するように撹拌器2(図1)を制御する。
【0067】
なお、上記出力部8として、通信手段を例に挙げたが、出力部8は、判定結果を表示する、例えばCRT(cathode−ray tube)や液晶ディスプレイ等の表示手段であってもよい。この場合には、判定結果である撹拌数nを上記表示手段の表示画面に表示することによってユーザに通知し、ユーザがコントローラ5を操作すればよい。
【0068】
一方、撹拌所要動力Pvが200を超える場合には、判定部13は、レイノルズ数算出部11に、仮の撹拌数n’に代えて、仮の撹拌数n’よりも小さい値を用いて、再度、撹拌所要動力Pvを算出することを要求する再計算要求を出力する。レイノルズ数算出部11は、この再計算要求に基づいて、仮の撹拌数n’に代えて、該仮の撹拌数n’よりも小さい値のn”を読み出し、該n”を仮の撹拌数n’に置き換えて、上記と同様にレイノルズ数を算出する。
【0069】
このように、本発明の撹拌条件設定方法は、コンピュータ6を用いて実現することもできる。そして、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアであるコンピュータ6の制御プログラムのプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記コンピュータ6に供給し、そのコンピュータ6(又はCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出し実行することによっても、達成可能である。
【0070】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系等を用いることができる。このように、記録媒体に上記撹拌条件設定方法を実行するプログラムを記録した場合には、撹拌条件設定方法を行うプログラムを記録した記録媒体を、持ち運び自在に提供することができる。
【0071】
また、コンピュータ6を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定されず、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。
【0072】
このように、上記撹拌条件設定方法がプログラムとして格納されていれば、上記撹拌条件設定方法を汎用的なものとすることが可能になる。
【0073】
【実施例】
〔実施例1〕
本発明の一実施例について説明すれば、以下のとおりである。
【0074】
表1に示すように、溶媒(液体物質)としてヘプタンと、粉体(固体物質)としてアルミナとを混合して、密度ρが685kg/m3となるように混合物を調製し、翼径が1.1mの撹拌翼を備えた容積5m3のGL撹拌槽に、2.6m3の上記混合物を仕込んだ。なお、上記ヘプタン及びアルミナの体積抵抗率、上記混合物の粘度μは、それぞれ、表1に示すとおりである。
【0075】
続いて、上記撹拌翼の撹拌回転数を40rpm(回転速度n=0.67s−1)として撹拌器を回転させて、GL撹拌槽内の混合物を50℃にて、24時間撹拌した。このときのレイノルズ数Re、撹拌器の動力数Np、混合物の単位体積あたりの撹拌所要動力Pvは、表1に示すとおりである。
【0076】
その後、上記GL撹拌槽から混合物を取り出し、GL撹拌槽のコーティング層の剥離やピンホール、欠け等の絶縁破壊の有無を判定したところ、絶縁破壊は見られなかった。
【0077】
〔実施例2〜5〕
表1に示す溶媒と粉体とを混合してなる混合物を用い、表1に示すGL撹拌槽にて、実施例1と同様に混合物の撹拌を行い、絶縁破壊の有無を判定した。なお、溶媒、粉体、混合物の諸物性(体積抵抗率、密度ρ、仕込み体積V、粘度μ)、撹拌操作条件(GL撹拌槽の容積、撹拌翼の翼径、撹拌翼の撹拌回転数(回転速度)、レイノルズ数Re、撹拌器の動力数Np、混合物の単位体積あたりの撹拌所要動力Pv)は、表1に示すとおりである。また、表中、フロン(商品名、デュポン社製)は、炭化水素のクロロフルオロ置換体をいう。
【0078】
【表1】
【0079】
〔比較例1〜7〕
表2に示す溶媒と粉体とを混合してなる混合物を用い、表2に示すGL撹拌槽にて、実施例1と同様に混合物の撹拌を行い、絶縁破壊の有無を判定した。なお、溶媒、粉体、混合物の諸物性、撹拌操作条件は、表2に示すとおりである。また、比較例7は、溶媒として、ヘキサンとモノクロロベンゼンとの混合溶媒(ヘキサン:モノクロロベンゼン=1:1の体積比)を用いた。
【0080】
【表2】
【0081】
以上の結果より、グラスライニング処理によるコーティング層を備えた撹拌槽にて、溶媒と粉体との混合物の撹拌を行う場合、撹拌所要動力Pvが、200(W/m3)以下となるように制御すれば、絶縁破壊が生じないことがわかる。
【0082】
【発明の効果】
本発明の撹拌条件設定方法は、以上のように、撹拌槽内における内容物の体積V(m3)、内容物の密度ρ(kg/m3)、撹拌器の動力数Np、撹拌器の撹拌数n(s−1)、撹拌翼の翼径d(m)からなる撹拌条件群より選択される、あらかじめ設定された4つの撹拌条件に基づいて、上記内容物の単位体積あたりの動力である撹拌所要動力Pv(W/m3)が、式(1)
Pv=(Np/V)×(ρn3d5)≦200 ……(1)
を満たすように、上記撹拌条件群の中から選択されていない残り1つの撹拌条件を設定する方法である。
【0083】
それゆえ、これまで撹拌槽にて撹拌されたことがない未知の内容物の撹拌を行う場合や、これまで使用されていない新規な撹拌槽にて撹拌を行う場合にも、コーティング層の絶縁破壊等の破損を防止して、撹拌を好適に行うことができるという効果を奏する。
【0084】
また、上記撹拌条件設定方法は、コンピュータに実行させるためのプログラムであってもよい。上記プログラムを用いれば、上記撹拌条件設定方法を汎用的なものとすることが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における撹拌装置の実施の一形態を示す概略の断面図である。
【図2】(a)は、上記撹拌装置における撹拌器の撹拌翼を示す概略の断面図であり、(b)は、撹拌翼の平面図である。
【図3】本発明のおける撹拌条件設定方法の一例を示すフローチャートである。
【図4】本発明の撹拌条件設定方法を実行するコンピュータを示すブロック図である。
【符号の説明】
1 GL撹拌槽(撹拌槽)
1a タンク
1b コーティング層
2 撹拌器
2a 撹拌軸
2b 撹拌翼
3 ビーバーテイルバッフル
4 モータ
5 トルク計付きコントローラ(コントローラ)
6 コンピュータ
7 入力部
8 出力部
9 メモリ
10 CPU
11 レイノルズ数算出部
12 動力数算出部
13 撹拌所要動力算出部
14 判定部
Claims (5)
- 内壁が絶縁材料にて被覆されてなる撹拌槽内にて、撹拌翼を有する撹拌器が回転することによって内容物を撹拌する場合の撹拌条件を設定するための撹拌条件設定方法であって、
上記撹拌槽内における内容物の体積V(m3)、上記内容物の密度ρ(kg/m3)、上記撹拌器の動力数Np、上記撹拌器の撹拌数n(s−1)、上記撹拌翼の翼径d(m)からなる撹拌条件群より選択される、あらかじめ設定された4つの撹拌条件に基づいて、上記内容物の単位体積あたりの動力である撹拌所要動力Pv(W/m3)が、式(1)
Pv=(Np/V)×(ρn3d5)≦200 ……(1)
を満たすように、上記撹拌条件群の中から選択されていない残り1つの撹拌条件を設定することを特徴とする撹拌条件設定方法。 - 上記動力数Npは、式(2)
Re=ρnd2/μ ……(2)
(ρは内容物の密度(kg/m3)、nは撹拌器の撹拌数(s−1)、dは撹拌翼の翼径(m)、μは混合物の粘度(Pa・s))
で表されるレイノルズ数Reに基づいて決定されることを特徴とする請求項1に記載の撹拌条件設定方法。 - 上記内容物は、固体物質と液体物質との混合物であり、
上記固体物質及び液体物質の体積抵抗率がそれぞれ独立して、1×1011(Ω・m)以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の撹拌条件設定方法。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の撹拌条件設定方法をコンピュータに実行させるための撹拌条件設定プログラム。
- 請求項4に記載の撹拌条件設定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
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