従来、エレクトロニクス分野において、樹脂基板としては、機械的強度、電気的性質、耐熱性などの観点から、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ガラスエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂が使用されている(例えば、非特許文献1参照)。
近年、エレクトロニクス分野における高周波化、高速化に伴い、基板に要求される材料特性として、特に低誘電率化が求められている。多孔質樹脂は、通常の無孔質の樹脂材料に比べて、誘電率が低いため、樹脂基板材料として注目されている。
回路接続用材料や異方性導電材料は、基板の必要箇所に穿孔(「貫通孔」ともいう)を設けて、該穿孔の内壁面に導電性材料を付着させた構造を有している。そのため、これらの基板材料として多孔質樹脂材料を使用するには、多孔質樹脂材料の孔径よりも大きい穿孔を形成する必要がある。
一般に、基板に穿孔(貫通孔)を設ける方法としては、例えば、ポンチとダイによるパンチング、金型による打ち抜き、ドリルによる穿孔などの機械的加工法がある(例えば、非特許文献2参照)。穿孔方法として、工具先端を超音波振動させて穿孔する方法、化学的腐食作用を利用して穿孔する化学エッチング法、レーザー光を照射して穿孔する光アブレーション法も知られている。
しかし、基板の形状に成形した多孔質樹脂材料(以下、「多孔質樹脂基材」という)を機械的加工法により穿孔すると、基材自体が変形したり、穿孔のエッジや内壁面の多孔質構造が潰れたり、穿孔の開口部にバリが発生したりするため、多孔質構造を保持しながら、高精度で穿孔を形成することが極めて困難である。多孔質樹脂基材は、工具先端を超音波振動させて穿孔する方法を適用しても、高精度の穿孔を形成することは困難である。
多孔質樹脂基材は、レーザー光を照射して穿孔すると、熱により穿孔部の周囲が溶融して変形したり、穿孔のエッジや内壁の多孔質構造が潰れたりする。化学エッチング法は、多孔質樹脂基材を構成する樹脂の種類によっては、穿孔の可能性があるものの、耐食性樹脂からなる多孔質樹脂基材の穿孔方法としては不向きである。多孔質樹脂基材は、エキシマレーザーの如き短波長レーザーを照射して穿孔できる可能性はあるけれども、加工時間が長くかつコスト的に高いものとなる。
多孔質樹脂基材は、穿孔のエッジや内壁の多孔質構造が破壊されると、多孔質樹脂材料としての特性が損なわれる。多孔質樹脂基材は、厚み方向に弾力性を有しているが、穿孔部周辺の多孔質構造が破壊されると、一度圧縮荷重を負荷しただけで、穿孔部が潰れて弾力性が失われてしまう。
穿孔された多孔質樹脂基材を回路接続用材料や異方性導電材料として使用する場合には、穿孔の内壁面にめっき粒子などの導電性金属を付着させて、厚み方向に導電化することが求められる。ところが、穿孔の内壁面の多孔質構造が潰れていると、めっき触媒の付与が困難となる。また、穿孔部周辺の多孔質構造が破壊されていると、穿孔の内壁面を導電化しても、導電化部の弾力性が損なわれているため、圧縮荷重を負荷すると導電部自体が潰れてしまう。
さらに、多孔質樹脂基材を穿孔しても、その後の二次加工により、穿孔の内壁面のみに選択的に導電性金属を付着させて導電化することは極めて困難である。このように、多孔質樹脂基材は、精密な穿孔が困難であり、穿孔後の二次加工も困難である。これらの問題点について、異方性導電シート(「異方性導電膜」ともいう)を例にとって、より具体的に説明する。
半導体デバイスの如きエレクトロニクス分野において、回路素子相互間の電気的接合をコンパクトに行う手段として、厚み方向のみに導電性を付与することができる異方性導電シートが用いられている。例えば、異方性導電シートは、回路素子相互間の電気的接合を、ハンダ付けなどの手段を用いずにコンパクトに行うために広く用いられている。
また、半導体ウェハや半導体デバイス、半導体パッケージの電気的導通検査において、検査対象の回路基板一面に形成された被検査電極と検査装置電極との間の電気的接続を達成するために、被検査電極と検査装置電極との間に異方性導電シートを介在させる方法が提案されている。この異方性導電シートは、被検査電極に損傷を与えずに、また、被検査電極の高さのバラツキを吸収して、検査装置電極との間の電気的接続を達成するために、膜厚方向に弾力性のあるものが好ましい。
異方性導電シートの具体例としては、例えば、導電性粒子をエポキシ樹脂からなるバインダー中に分散させてシート化した接続用異方性導電材が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この接続用異方性導電材は、対向する端子間で押圧されて圧縮された部分でのみ各端子と導電性粒子とが接触して、両端子間の厚み方向のみが導通するようになっている。導電性粒子の分散状態を調整することにより、シートの横方向での絶縁性は保持されている。
高分子材料から形成されたシートに多数の貫通孔を形成し、各貫通孔に導電性材料を充填して、厚み方向の特定部位のみを導電化した異方性導電シートも知られている。例えば、樹脂材料またはガラス繊維で補強された複合樹脂材料から形成された剛性を有する絶縁性フレーム板に設けた複数の貫通孔の各々に、導電性粒子を分散した絶縁性弾性高分子体を充填して導電路形成素子とした異方性導電シートが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
電気絶縁性高分子膜に多数の貫通孔を形成し、各貫通孔に金属を充填して膜厚方向のみを導電化した電気的接続部材(例えば、特許文献3参照。)、発泡処理された弾性シート部材の厚み方向に形成された複数の小穴の内部に、導電部材を配設した弾性コネクタ(例えば、特許文献4参照。)が提案されている。
高分子材料から形成されたシートの各貫通孔に導電性材料を充填した構造を有する異方性導電シートにおいて、貫通孔(穿孔)を形成する方法としては、例えば、レーザー等の光源を使用したエッチング法や、プレス加工、パンチング法、ドリル法などの機械加工法が採用されている。エッチング法によれば、一般に、孔径が100μm以下、さらには50μm以下の微細な貫通孔を形成することができるが、加工コストは比較的高い。機械加工法は、一般に、孔径が100μm以上の比較的大きな貫通孔を形成する場合に使用され、加工コストが安いという特徴を有している。
他方、接合する電極や被検査電極を損傷させることなく接続するため、また、被検査電極の高さのバラツキを吸収して良好に電気的に接続を行うには、異方性導電シートが十分な弾力性を有することが望ましい。膜厚方向に弾力性があり、低圧縮荷重で膜厚方向の導通が可能な異方性導電シートは、被検査電極を損傷させることが少ないことに加えて、弾性回復性があるため、電気的導通検査において繰り返し使用することができる。
また、電気絶縁性の高分子材料から形成されたシートの各貫通孔に、導電性粒子を分散したエラストマーや金属を充填して導通部(導電路)とした異方性導電シートは、膜厚方向に導通を得るのに高圧縮荷重を必要としたり、エラストマーの経時劣化やバーンイン試験などの高温下で使用する際に、導通部の弾力性が低下するなどの問題を有している。
しかし、膜厚方向に弾力性がある多孔質樹脂基材を用いて、多孔質構造を破壊することなく、高精度で穿孔を形成し、さらに、穿孔の内壁面に導電性金属を選択的に付着させるなどの二次加工を行うことは、従来技術水準では、当業者といえども容易ではなかった。
他方、医療分野では、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(以下、「延伸多孔質PTFE」と略記)が人工血管やパッチ修復材料、縫合糸などの医療用デバイスとして使用されている。延伸多孔質PTFEは、高度に不活性な化学的性質を有する上、多孔質構造を形成している微細構造を調整することにより、生体組織の内部成長を許容するなどの特性を有している。延伸多孔質PTFEは、厚みを貫く巨視的な穿孔を設けることにより、生体組織の内部成長を促進することが知られている。
従来、フィブリルによって相互に結合されたノードからなる微細構造を有し、シート材料を貫く巨視的な穿孔を有する延伸多孔質PTFEシート材料が提案されている(例えば、特許文献5参照)。特許文献5には、穿孔前に延伸した延伸多孔質PTFE材料を針で穿孔すると、その穿孔が、材料の不規則な切抜及び変形から生じたと見られる非常に粗いエッジを有すると記載されている。また、特許文献5には、鋭い刃を用いた延伸多孔質PTFE材料の除去による穿孔法も、粗いエッジを有する穿孔に帰着することが示されている。穿孔された延伸多孔質PTFE材料をパッチなどの医療用デバイスとして使用する場合、穿孔が粗いエッジを有すると、生体内で何らかの障害が生じるおそれがある。
そこで、特許文献5は、延伸多孔質PTFE材料を穿孔するのではなく、延伸前の押出成形物を穿孔してから延伸する方法を提案している。具体的に、引用文献5には、PTFEと液体潤滑剤の混合物の予備成形されたビレットを押出して押出物を作成し、その押出物から液体潤滑剤を除去し、その押出成形物を貫いて巨視的な穿孔を形成し、次いで、押出成形物を一軸延伸または二軸延伸することにより、フィブリルによって相互に結合されたノードからなる微細構造を有する巨視的に穿孔された延伸多孔質PTFE材料を製造する方法が開示されている。特許文献5には、延伸前の押出成形物を穿孔してから延伸すると、実質的に滑らかなエッジを備えた穿孔を有する延伸多孔質PTFE材料が得られることが記載されている。
特許文献5に記載の方法では、延伸前の押出成形物を穿孔してから延伸することにより、穿孔時に生じるエッジの粗さを和らげているが、高度に滑らかなエッジを有する穿孔を形成するには十分ではない。しかも、引用文献5に記載の方法では、押出成形物を穿孔してから一軸方向または二軸方向に延伸して多孔質構造を形成するため、穿孔の位置や径を高精度で制御することが困難である。
回路接続用材料や異方性導電材料の基板として用いる穿孔された多孔質樹脂基材は、複数の穿孔の位置や径を高精度で設定する必要がある。穿孔の位置を高精度で制御することができないと、穿孔の内壁面に導電性金属を付着させて導電化しても、そのような多孔質樹脂基材を用いて、回路素子相互間の電気的接合や回路基板の被検査電極と検査装置電極との間の電気的接続を精密に行うことができない。
さらに、引用文献5に記載の方法では、穿孔を有する延伸多孔質PTFE材料を作製することができるものの、穿孔の内壁面に選択的に導電性金属を付着させて導電化する方法に応用することができない。
「エレクトロニクス実装技術基礎講座 第1巻 総論」、ハイブリッドマイクロエレクトロニクス協会編、工業調査会出版、1998年7月1日発行、第4章203−209ページ)
「マイクロ加工技術」、マイクロ加工技術編集委員会編、日刊工業新聞社出版、1988年9月30日発行、第1章8−13ページ、第2章168−175ページ)
特開平4−242010号公報
特開平9−320667号公報
特開平2−49385号公報
特開2003−22849号公報
特表平8−506777号公報
1.多孔質樹脂基材(基膜)
本発明で使用する多孔質樹脂基材を構成する樹脂材料としては、多孔質樹脂を形成できるものであれば、如何なる樹脂でも使用することができる。多孔質樹脂基材は、本発明で採用する穿孔方法や導電性金属の付着に耐え、エレクトロニクス分野や医療用分野での用途に適したものであるためには、耐熱性、加工性、機械特性、誘電特性などに優れた樹脂材料から形成されたものを選択することが好ましい。
例えば、回路素子相互間の電気的接合や電気的導通検査に用いられる異方性導電シートは、基材(基膜)の耐熱性に優れていることが好ましい。特にバーンイン試験では、回路基板の被検査電極と検査装置電極との間に異方性導電シートを介在させた状態で高温加速劣化が行われるため、耐熱性に優れた基材を用いることが必要となる。
また、異方性導電シートは、膜厚方向に導電化することができると共に、横方向(膜厚方向に対して垂直方向)には電気絶縁性であることが必要である。したがって、基膜となる多孔質樹脂基材を形成する合成樹脂は、電気絶縁性であることが必要である。特に電気的接合用の異方性導電シートは、半導体デバイス等を高周波信号にて使用する場合、信号遅延の発生原因とならないように、比誘電率が低い合成樹脂からなる多孔質樹脂基材を用いたものが好ましい。
多孔質樹脂基材を形成する合成樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)などのフッ素樹脂;ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、変性ポリフェニレンエーテル(mPPE)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、液晶ポリマー(LCP)などのエンジニアリングプラスチック;が挙げられる。
これらの合成樹脂の中でも、耐熱性、耐薬品性、加工性、機械的特性、誘電特性(低誘電率)などの観点から、フッ素樹脂が好ましく、PTFEが特に好ましい。
本発明の製造方法では、例えば、溶剤に可溶性のポリマーまたはパラフィンをマスキング材料として使用し、金属イオンの還元反応を促進する触媒を付与後には、一般に、可溶性ポリマーまたはパラフィンを溶剤に溶解させて除去する方法を採用するため、基材を構成する合成樹脂は、溶剤に対して不溶性もしくは難溶性であることが好ましく、少なくとも可溶性ポリマーまたはパラフィンを溶解するのに使用する溶剤に対して不溶性もしくは難溶性であることが好ましい。このことは、穿孔された多孔質樹脂基材の製造方法において、多孔質構造内の固形物を溶剤で溶解除去する場合にも該当する。このような溶剤に対する挙動の観点からも、フッ素樹脂が好ましく、PTFEが特に好ましい。
多孔質樹脂基材を作製する方法としては、造孔法、相分離法、溶媒抽出法、延伸法、レーザー照射法などが挙げられる。多孔質樹脂基材の形状は、シート、チューブ、ブロックなど使用目的に応じて適宜設定することができるが、多くの場合、シート(フィルムを含む)である。例えば、多孔質樹脂シートを基膜として使用することにより、異方性導電シートに膜厚方向に弾力性を持たせることができると共に、比誘電率を更に下げることができる。
多孔質樹脂基材は、気孔率が20〜80%の範囲内にあることが好ましい。多孔質樹脂基材は、平均孔径が10μm以下あるいはバブルポイントが2kPa以上であることが好ましく、導通部のファインピッチ化の観点からは、平均孔径が1μm以下、あるいはバブルポイントが10kPa以上であることがより好ましい。
多孔質樹脂基材の厚みは、使用目的や使用箇所に応じて適宜選択することができるが、通常3mm以下、好ましくは1mm以下であり、その下限は、通常5μm、好ましくは10μmである。例えば、電気導通試験用の異方性導電シートでは、多孔質合成樹脂シートの膜厚は、好ましくは5〜500μm、より好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜100μm程度である。
多孔質樹脂基材の中でも、延伸法により製造された延伸多孔質PTFEシートは、耐熱性、加工性、機械的特性、誘電特性などに優れ、均一な孔径分布を有するため、異方性導電シートの基膜として優れた材料である。また、延伸多孔質PTFEシートは、パッチ修復材料などの医療用デバイスとしても好適である。
本発明で使用する延伸多孔質PTFEシートは、例えば、特公昭42−13560号公報に記載の方法により製造することができる。まず、PTFEの未焼結粉末に液体潤滑剤を混合し、ラム押し出しによってチューブ状または板状に押し出す。厚みの薄いシートが所望の場合は、圧延ロールによって板状体の圧延を行う。押出圧延工程の後、必要に応じて、押出成形品または圧延成形品から液体潤滑剤を除去する。
こうして得られた板状の押出成形品または圧延成形品を一軸方向または二軸方向に延伸すると、未焼結の多孔質PTFEシートが得られる。未焼結の多孔質PTFEシートは、収縮が起こらないように固定しながら、PTFEの融点である327℃以上の温度に加熱して、延伸した構造を焼結して固定すると、強度の高い延伸多孔質PTFEシートが得られる。チューブ状の押出成形品を一軸延伸して焼結すると、延伸多孔質PTFEチューブが得られる。延伸多孔質PTFEチューブは、長手方向に切り開くことにより、シートにすることができる。
延伸多孔質PTFEシートは、それぞれPTFEにより形成された非常に細い多数のフィブリルと該フィブリルによって互いに連結された多数のノードとからなる微細構造(「微細繊維状組織」ともいう)を有している。延伸多孔質PTFEシートでは、この微細構造が多孔質構造を形成している。したがって、延伸多孔質PTFEシートにおいて、多孔質構造の樹脂部は、フィブリルとノードであり、多孔質構造内(「空隙部」または「気孔部と」もいう)は、フィブリルとノードによって形成される空間である。延伸多孔質PTFEシートは、膜厚方向の弾力性に優れており、弾性回復性にも優れている。
2.含浸させる液体または溶液(含浸させる物質)
本発明では、穿孔に先立って、多孔質樹脂基材の多孔質構造内に液体または溶液を含浸させる。これらの液体または溶液は、固形物を形成することができるものである。この固形物は、融解もしくは溶解させることができるものである。本発明では、含浸させる物質を液体または溶液と呼んでいるが、それは含浸時の状態で表現しているのであり、その中には、常温で固体状態であるものも含まれている。
液体及び溶液は、多孔質樹脂基材の多孔質構造内に含浸させるときに、液体または溶液であればよい。例えば、凝固点または融点が高く、常温(15〜30℃の範囲の温度)で固体である物質は、加熱して液体(融液)にしてから、多孔質樹脂基材の多孔質構造内に含浸させればよい。含浸後に、凝固点または融点以下の温度に冷却して固化させる。
常温で液体の物質は、含浸させた後、凝固点または融点以下の温度に冷却して固化させる。溶液は、含浸させた後、溶剤を揮散させて、固体の溶質を析出させればよい。重合性モノマーなどの化学反応により固形物を形成することができる物質は、液体または溶液として含浸させた後、重合反応などの化学反応により、固体のポリマーの如き固形物を形成する。
多孔質構造内からの固形物の除去は、凝固点または融点を超える温度に加熱して融解させ、液体として除去するか、あるいは溶剤を用いて溶解させ、溶液として除去する。溶剤を用いて除去する方法は、溶剤による抽出または溶出と呼ぶことがある。
液体が、凝固または冷却により固化されるものである場合、その凝固点または融点は、好ましくは−150〜150℃、より好ましくは−80〜100℃である。凝固点または融点が低すぎると、固化のための冷却手段にコストが嵩む。凝固点または融点が高すぎると、多孔質樹脂基材の軟化点もしくは分解点に近づくため、多孔質樹脂基材の劣化を促進するおそれがある。また、凝固点または融点が高すぎると、加熱して液体にしても、高粘性となるため、含浸時に真空引きを行う必要が生じ、操作が煩雑になる。
凝固または冷却により固化される液体(物質)としては、使用する多孔質樹脂基材の軟化点もしくは分解点以下の温度で固化できるものであればよく、前記温度範囲内に凝固点または融点を有するものが好ましい。このような液体(物質)としては、水、アルコール、炭化水素、ポリマー、これら2種以上の混合物が挙げられる。
より具体的に、含浸させる液体(物質)としては、例えば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール、シクロヘキサノール、1−メチルシクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、グリセリン、2−エチル−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオールなどのアルコール;ブタン、ペンタン、n−ヘキサン、2,2−ジメチルブタン、2,3−ジメチルブタン、ヘプタン、n−オクタン、2,2,3−トリメチルペンタン、イソオクタン、n−ノナン、n−デカン、n−ドデカン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、ナフタレン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの炭化水素;が挙げられる。
また、含浸させる液体(物質)としては、常温で液状のポリマー、常温で固体の低融点ポリマー、常温で固体の高融点のパラフィン(アルカン;炭化水素の一種)なども使用することができる。これらのポリマーやパラフィンは、溶液として使用することもできる。
常温で固体の物質を溶液として使用する場合には、溶剤として、ポリマーやパラフィン、ナフタレンなどの常温で固体の物質を溶解することができ、かつ、多孔質樹脂基材に対して不溶性もしくは難溶性のものを選択する。溶剤は、多孔質樹脂基材を侵食、溶解、分解しないものが好ましい。
溶液は、流延法(キャスト法)または浸漬法(ディップ法)により、多孔質樹脂基材の多孔質構造内に含浸させ、溶剤を除去することにより、溶質の固形物を析出させる方法に適用することが好ましい。穿孔した後は、使用した溶剤を用いて、多孔質構造内から固形物を溶出すればよい。
前記液体または溶液として、可溶性ポリマーまたは高融点のパラフィンを使用すれば、高精度の穿孔が可能なことに加えて、穿孔の内壁面を選択的に導電化するに際し、可溶性ポリマーまたはパラフィンをマスキング材料として使用することができる。
本発明の穿孔内壁面が導電化された多孔質樹脂基材の第一製造方法では、マスキング材料として、例えば、溶剤に対して可溶性のポリマー材料または常温で固体のパラフィンを使用する。可溶性ポリマーとしては、水や有機溶剤等の溶剤に可溶性のポリマーであれば特に限定されないが、多孔質樹脂基材との密着性に優れ、多孔質樹脂基材の多孔質構造内に容易に含浸させることができ、かつ、溶剤によって容易に溶解除去することができるものであることが好ましい。
可溶性ポリマーとしては、該可溶性ポリマーを溶解する溶剤が多孔質樹脂基材の多孔質構造内に容易に浸透することができるものであることが好ましい。可溶性ポリマーは、機械的な穿孔法により穿孔(貫通孔)を常温で容易に形成することができる点で、常温(15〜30℃)において固体であるものが好ましい。
例えば、多孔質樹脂基材として、延伸多孔質PTFEシートなどの多孔質フッ素樹脂シートを用いる場合には、可溶性ポリマーとして、アクリル系樹脂が好ましい。アクリル系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのアクリル酸アルキルエステル(すなわち、アクリレート)もしくはメタクリル酸アルキルエステル(すなわち、メタクリレート)の単独重合体または共重合体を挙げることができる。
アクリル酸アルキルエステル及びメタクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシルなどのアクリレート;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸イソノニル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボルニルなどのメタクリレート;を挙げることができる。
可溶性ポリマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合可能な他のビニルモノマーを共重合したアクリル系樹脂であってもよい。その他のビニルモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸などのカルボキシル基含有モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミドとその誘導体;(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル;スチレン、パラメチルスチレンなどのビニル芳香族化合物;などを挙げることができる。その他のビニルモノマーは、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下の共重合割合で用いられる。
本発明では、マスキング材料として、パラフィン(すなわち、アルカン)を使用することができる。パラフィンとしては、常温での貫通孔の形成を容易にする観点から、常温で固体のパラフィンが好ましい。パラフィンの融点は、好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上、特に好ましくは25℃以上である。パラフィンの融点が低すぎると、機械的加工法により穿孔を形成するに際し、作業環境温度を低くするか、複合化シートを冷却する必要が生じ、エネルギーコストの点で望ましくない。
パラフィンの好ましい具体例としては、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサン、ヘンイコサン、ドコサン、トリアコンタン、ヘプタコンタンなどを挙げることができる。パラフィンは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。パラフィンは、2種以上の混合物であってもよく、その場合、低融点アルカンが含まれていても、混合物の融点が好ましくは15℃以上であれば良好に使用することができる。同様に、パラフィンには、合成時に混入する不純物等が含まれていもよい。パラフィンとしては、市販の高融点のパラフィンを使用することができる。
可溶性ポリマーとしては、延伸多孔質PTFEシートなどの多孔質樹脂基材との密着性に優れ、機械的加工法により穿孔の形成が容易で、穿孔形成工程や触媒付着工程などで剥離することがなく、しかもマスキング材料として使用した後には、溶剤を用いて容易に溶解除去することができる点で、PMMAが特に好ましい。同様に、常温で固体の高融点パラフィンも好ましい。
本発明では、多孔質樹脂基材の多孔質構造内に含浸させる液体または溶液として、化学反応により固形物を形成し得る化合物を含有する液体または溶液を使用することができる。化学反応により固形物を形成し得る化合物としては、重合性モノマーが典型的なものである。
重合性モノマーとしては、単官能モノマー、好ましくはアクリロイル基またはメタクリロイル基を一つだけ有する単官能モノマーを用いる。二官能以上の官能基を有する多官能モノマーを用いると、重合反応により架橋構造を形成して、溶剤に対して不溶性もしくは難溶性になり、溶剤抽出することができなくなるため好ましくない。
単官能モノマーとしては、重合反応後に溶剤に可溶なポリマーを形成し得るものであれば特に限定されない。単官能モノマーの具体例としては、前述の可溶性ポリマーを形成するのに用いるアクリレートまたはメタクリレートを用いることができる。これらの中でも、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、イソボニルアクリレート、イソボニルメタクリレートなどが好ましい。
これらの重合性モノマーから生成したポリマーは、キシレン、メチルエチルケトン、アセトンなどの有機溶剤に可溶性である。これらの重合性モノマーは、それぞれ単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。
重合性モノマーは、多孔質樹脂基材の多孔質構造内に含浸しやすいように、粘度及び表面張力が低いものの方が好ましく、この点では、メチルメタクリレートが特に好ましい。ただし、粘度の高い重合性モノマーでも、多孔質樹脂基材に含浸させるときに、加熱することによって粘度を下げて含浸させることができる。表面張力の高い重合性モノマーは、界面活性剤を添加することによって、表面張力を下げて多孔質樹脂基材に含浸させることができる。
機械加工で穿孔した場合に、バリの発生を防ぐ観点から、重合性モノマーは、硬く脆いポリマーを形成できるものであることが好ましい。生成ポリマーは、ガラス転移温度が高いものの方が、機械加工で穿孔する場合に、摩擦熱が発生して加工部位の温度が上昇しても、軟化しないため好ましい。この点では、ガラス転移温度が180℃と高いポリマーを生成するイソボニルメタクリレートが好ましい。
重合性モノマーに、重合性モノマーを予め重合させて得られたポリマーを溶解させた溶液(以下、「重合性モノマー溶液」と呼ぶことがある)を用いると、重合性モノマーが重合したときに生じる体積収縮を抑えることができ、それによって、多孔質樹脂基材の反りや歪みを抑制することができ、ひいては、精度よく穿孔することができるため好ましい。ポリマーの濃度は、モノマー溶液の粘度が高すぎる事がない範囲で適宜選択することができるが、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下である。ポリマーの数平均分子量は、好ましくは10,000〜1,000,000である。ポリマーの分子量が低すぎると、体積収縮の抑制効果が小さくなり、高すぎると、モノマーに対する溶解性が低下する。
重合性モノマーを重合させる方法としては、熱重合法及び光重合法がある。作業時間短縮のためには、光重合法を採用することが好ましい。多孔質樹脂基材の膜厚が厚い場合には、光が透過しにくくなるので、その場合には、熱重合法を用いることが好ましい。
光重合する場合には、重合性モノマーまたは重合性モノマー溶液に、光重合開始剤を添加する。光重合開始剤の添加割合は、モノマー全量基準で、通常0.1〜5重量%である。光重合開始剤としては、水素引き抜き型のものとして、ベンゾフェノン、チオキサントンなどが挙げられ、分子内開裂のものとして、α−アミノアルキルフェノン、α−ヒドロキシアルキルフェノン、アシルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
熱重合を行う場合には、重合性モノマーまたは重合性モノマー溶液に、熱重合開始剤として、アゾイソブチロニトリルなどのアゾ化合物あるいはジクミルパーオキサイドなどの過酸化物を添加する。熱重合開始剤の添加割合は、モノマー全量基準で、通常0.1〜5重量%である。
重合性モノマーまたは重合性モノマー溶液には、重合開始剤以外に、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、光増感剤、滑剤、離型剤などの添加剤を添加してもよい。
重合性モノマーを多孔質樹脂基材の多孔質構造内に含浸させる方法としては、流延法または浸漬法を用いることができる。含浸後、重合性モノマーに添加した重合開始剤の種類に応じて、光照射または加熱を行って、重合反応を行って固体のポリマーを生成させる。
3.穿孔された多孔質樹脂基材の製造方法
本発明では、下記の工程1〜4:
(1)多孔質樹脂基材の多孔質構造内に液体または溶液を含浸させる工程1;
(2)含浸させた液体または溶液から固形物を形成する工程2;
(3)多孔質構造内に固形物を有する多孔質樹脂基材の第一表面から第二表面を貫く複数の穿孔を形成する工程3;及び
(4)固形物を融解もしくは溶解させて、多孔質構造内から除去する工程4;
を含む一連の工程により、穿孔された多孔質樹脂基材を製造する。
このように、本発明の方法は、多孔質樹脂基材の多孔質構造内に、液体または溶液を含浸させ、含浸させた液体または溶液から固形物を形成させた後、穿孔を行う点に特徴を有している。
穿孔には、機械的加工法を適用することが可能である。多孔質樹脂基材は、多孔質構造内が固形物によって充填されているため、穿孔は、無孔質の樹脂基材に対するのと同様に実施することができる。
多孔質樹脂基材としては、通常、多孔質樹脂シートが用いられる。多孔質樹脂シートとしては、多孔質フッ素樹脂シートが好ましく、延伸多孔質PTFEシートがより好ましい。延伸多孔質PTFEシートは、多孔質構造として、フィブリルと該フィブリルによって互いに連結されたノードとからなる微細構造を有している。
工程1において、多孔質樹脂基材の多孔質構造内に、液体または溶液を流延法または浸漬法により含浸させることが好ましい。使用する液体としては、前述の−150〜150℃の範囲内に凝固点または融点を有する物質が用いられる。このような物質としては、水、アルコール、炭化水素、ポリマー、またはこれら2種以上の混合物が好ましい。また、−150〜150℃の範囲内に凝固点または融点を有する物質が、融点が15℃以上のパラフィンであることが好ましい。
工程1において、多孔質樹脂基材の多孔質構造内に、−150〜150℃の範囲内に凝固点または融点を有する物質(例えば、水、アルコール、炭化水素、ポリマー)を、凝固点または融点を超える温度の液体として含浸させる。工程2において、該物質を凝固点または融点以下の温度で凝固させて固形物とする。
工程3では、多孔質構造内に固形物が存在する状態で穿孔する。穿孔工程後の工程4においては、該物質を凝固点または融点を超える温度で融解させて除去する。含浸させる物質が高融点である場合、溶剤を用いて溶出させてもよい。
工程1で使用する溶液として、融点が15〜30℃の可溶性ポリマーまたはパラフィンの溶液を用いることができる。このような溶液を使用する場合には、工程1において、多孔質樹脂基材の多孔質構造内に、可溶性ポリマーまたはパラフィンの溶液を含浸させ、工程2において、溶剤を揮散させてポリマーまたはパラフィンの固形物を形成する。工程3では、多孔質構造内に固形物が存在する状態で穿孔する。穿孔工程後の工程4においては、該固形物を溶剤で溶解させて除去する。
工程1では、液体または溶液として、化学反応により固形物を形成し得る化合物を含有する液体または溶液を使用することができる。化学反応により固形物を形成し得る化合物は、熱または光により重合反応してポリマーを形成する重合性モノマーであることが好ましい。化学反応により固形物を形成し得る化合物を含有する液体または溶液として、重合性モノマーに加えて、該重合性モノマーの重合により得られたポリマーをも含有する重合性モノマー溶液を使用することができる。重合性モノマーとしては、単官能のアクリレートまたはメタクリレートが好ましい。
重合性モノマーなどを用いる場合には、工程1において、多孔質樹脂基材の多孔質構造内に、化学反応により固形物を形成し得る化合物を含有する液体または溶液を含浸させ、工程2において、該化合物を化学反応させて固形物を形成させる。工程3では、多孔質構造内に固形物が存在する状態で穿孔する。穿孔工程後の工程4においては、該固形物を溶剤で溶解させて除去する。
穿孔工程3においては、例えば、i)機械的に穿孔する方法、ii)光アブレーション法によりエッチングする方法、iii)先端部に少なくとも1本の振動子を備えた超音波ヘッドを用い、該振動子の先端を押し付けて超音波エネルギーを加えて穿孔する方法により、穿孔を形成する。
多孔質樹脂基材の第一表面及び第二表面とは、大きな表面積を有する部分を意味する。例えば、多孔質樹脂基材がシートの場合、第一表面及び第二表面とは、薄い厚み部分の表面ではなく、広く平坦な部分の表面(いわゆるシートの表面または裏面)を意味する。
穿孔方法としては、機械的な穿孔法や、先端部に少なくとも1本の振動子を備えた超音波ヘッドを用い、該振動子の先端を押し付けて超音波エネルギーを加えて穿孔する方法(工具先端を超音波振動させて穿孔する方法)が好ましい。機械的な穿孔法(機械的加工法)としては、パンチング法、打ち抜き法、ドリル加工法などが好ましい。超音波振動により、加工速度が増し、作業性が向上する。
スポンジなどの柔軟性や弾力性に富む多孔質樹脂材料は、ゴム材料と同様、一般に、樹脂の一次転移点以下の温度もしくは一次転移点近くの温度で、精度良い機械加工が可能となる。ところが、多孔質構造を多く含む多孔質樹脂材料は、一次転移点以下の温度では、機械加工時に穿孔部付近の脆弱性により、形状を維持することが困難である。
本発明は、多孔質樹脂基材の多孔質構造内を固形物で充填した状態とすることにより、機械的な穿孔を容易に行うことができるようにしている点に特徴を有している。本発明の優れた他の特徴点の一つは、使用目的にあった凝固点または融点を有する物質を選択することにより、多孔質樹脂基材を構成する樹脂の一次転移点に関係なく、加工温度を選択できる点にある。後で容易に除去可能な高分子を多孔質樹脂基材の多孔質構造内に充填すれば、同様に機械的加工を容易に行うことができる。
多孔質樹脂基材が連続したシートの場合には、例えば、含浸工程、冷却工程、機械加工による穿孔工程を並べ、順次これらの工程を経れば、連続的に製品を得ることができる。穿孔工程後は、凝固点または融点以上の温度に昇温し、固形物を液体として除去することができる。
ポリマー溶液などの溶液を用いる場合には、前記の冷却工程の代わりに、溶剤を乾燥除去する工程を配置すればよい。穿孔工程後には、固形物を溶剤で溶解して除去する工程を配置する。
本発明の製造方法により得られる穿孔された多孔質樹脂基材は、用途に応じて所定の複数箇所に穿孔(貫通孔)を有するものである。穿孔された多孔質樹脂基材は、穿孔による変形がなく、穿孔の内壁面を含む周辺部に多孔質構造の破壊がなく、バリの発生がなく、さらには、穿孔がシャープなエッジを有している。
図1は、本発明の実施例1で穿孔した延伸多孔質PTFEシートの穿孔部分の顕微鏡写真であり、シャープなエッジを有する穿孔が形成されていることがわかる。これに対して、図2は、比較例3により、延伸多孔質PTFEシートを穿孔した延伸多孔質PTFEシートの穿孔部分の顕微鏡写真であり、バリの発生や多孔質構造の部分的な破壊が観察される。
本発明の製造方法により得られた穿孔された多孔質樹脂基材は、穿孔の内壁面も多孔質構造が保持されているため、分離膜として適用することができる。穿孔の内壁面に導電性金属を付着させれば、回路接続用材料や異方性導電材料として利用することができる。多孔質樹脂基材が、フィブリルと該フィブリルによって連結されたノードとからなる微細構造を有する延伸多孔質PTFE基材である場合には、多孔質構造が保持されているため、柔軟性や弾力性に富み、比誘電率が小さく電気的絶縁性が特に優れている。延伸多孔質PTFE基材は、化学的安定性に優れることから、医療用デバイスとしても非常に有用である。
4.穿孔内壁面を導電化した多孔質樹脂基材の製造方法(1)
本発明の穿孔の内壁面を選択的に導電化した多孔質樹脂基材(例えば、異方性導電シート)の製造方法は、下記の工程I〜VI:
(1)多孔質樹脂基材の両面を含む多孔質構造内に、可溶性ポリマーまたはパラフィンまたは化学反応により固形物を形成し得る化合物を含浸させる工程I;
(2)含浸させた可溶性ポリマーまたはパラフィンまたは化学反応により固形物を形成し得る化合物から固形物を形成して、多孔質樹脂基材の両面に固形物の層を有し、かつ、多孔質構造内に固形物が含浸した構造の複合化シートを形成する工程II;
(3)該複合化シートの第一表面から第二表面を貫く複数の穿孔を形成する工程III;
(4)各穿孔の内壁面を含む複合化シートの表面に、金属イオンの還元反応を促進する触媒を付着させる工程IV;
(5)複合化シートから固形物を除去する工程V;及び
(6)多孔質樹脂基材の各穿孔の内壁面に付着して残留している前記触媒を利用して、該内壁面に導電性金属を付着させる工程VI;
を含む一連の工程により、穿孔の内壁面を選択的に導電化する方法である。
工程Iでは、電気絶縁性の多孔質樹脂基材(通常は、多孔質樹脂シート)の両面を含む多孔質構造内に可溶性ポリマーまたはパラフィンまたは化学反応により固形物を形成し得る化合物を含浸させる。
工程IIでは、含浸させた可溶性ポリマーまたはパラフィンまたは化学反応により固形物を形成し得る化合物から固形物を形成して、多孔質樹脂基材の両面に固形物の層を有し、かつ、多孔質構造内に固形物が含浸した構造の複合化シートを形成する。
複合化シートを形成する方法としては、工程Iにおいて、多孔質樹脂基材の両面に可溶性ポリマーまたはパラフィンの溶液もしくは溶融液を流延するか、多孔質樹脂基材を可溶性ポリマーまたはパラフィンの溶液もしくは溶融液中に浸漬する方法により、可溶性ポリマーまたはパラフィンを含浸させ、次いで、工程IIにおいて、溶剤を揮散させるか、凝固点もしくは融点以下の温度に低下させる方法により、多孔質樹脂基材の両面に固体の可溶性ポリマーまたはパラフィンの層を有し、かつ、多孔質構造内に固体の可溶性ポリマーまたはパラフィンが含浸した構造の複合化シートを形成する方法がある。
複合化シートを形成する他の方法としては、工程Iにおいて、多孔質樹脂基材の両面に化学反応により固形物を形成し得る化合物を含有する液体または溶液を流延するか、多孔質樹脂基材を該化合物を含有する液体または溶液中に浸漬する方法により、該化合物を含浸させ、次いで、工程IIにおいて、化学反応により固形物を形成する方法により、多孔質樹脂基材の両面に固形物層を有し、かつ、多孔質構造内に固形物が含浸した構造の複合化シートを形成する方法がある。
後者の場合、工程Iにおいて、多孔質樹脂基材の両面に熱または光により重合反応してポリマーを形成する重合性モノマーを含有する液体または溶液を流延するか、多孔質樹脂基材を熱または光により重合反応してポリマーを形成する重合性モノマーを含有する液体または溶液中に浸漬する方法により、重合性モノマーを含浸させ、次いで、工程IIにおいて、熱または光により重合性モノマーを重合させて固体のポリマーを形成する方法により、多孔質樹脂基材の両面に固体のポリマー層を有し、かつ、多孔質構造内に固体のポリマーが含浸した構造の複合化シートを形成する方法を採用することが好ましい。
可溶性樹脂またはパラフィンの溶液を用いて多孔質合成樹脂シートの両面に流延したり、多孔質構造の空隙内に含浸させる場合には、溶剤として、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジクロロエタン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素類;キシレン、トルエンなどの芳香族炭化水素類;テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジアセトンアルコール、ジメチルホルムアミドなどの極性有機溶剤;等を使用することができる。
溶剤は、可溶性ポリマー、パラフィン、及び多孔質樹脂基材の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、多孔質樹脂基材として、延伸多孔質PTFEシートを用い、可溶性ポリマーとしてポリメタクリル酸メチル(PMMA)を用いる場合には、溶剤として、PMMAを溶解することができ、かつ、延伸多孔質PTFEシートの多孔質構造内に浸透しやすいアセトン、テトラヒドロフランなどの極性溶剤を用いることが好ましい。
可溶性ポリマーの融点が低く、好ましくは100℃以下の温度に加熱して溶融させることができる場合には、その溶融液を用いて流延や含浸を行うことができる。パラフィンも融点がそれほど高くなく、好ましくは融点が100℃以下であれば、融点以上の温度に加熱して溶融させた溶融液を用いて、流延や含浸を行うことができる。
複合化シートの製造方法としては、例えば、多孔質合成樹脂シートとして延伸多孔質PTFEシートを用い、マスキング材料としてPMMAを使用し、多孔質構造内まで含浸させる場合、PMMAを溶解することができ、かつ、延伸多孔質PTFEシートの多孔質構造内に浸透しやすいアセトン、テトラヒドロフラン等の極性溶剤にPMMAを10〜30重量%程度の濃度で溶解した溶液を使用することが好ましい。この溶液に延伸多孔質PTFEシートを多孔質体構造内に空気が残らないようにゆっくり浸漬し、含浸させればよい。浸漬法によれば、多孔質樹脂基材の多孔質構造内を可溶性ポリマーで充填することができるが、同時に表面部分も可溶性ポリマーが覆い、この可溶性ポリマー層がマスク層としての機能も果たす。高融点パラフィンを用いる場合も、同様に、多孔質樹脂基材の両面をパラフィンが被覆して、マスク層を形成する。
多孔質樹脂基材として延伸多孔質PTFEシートを用い、マスキング材料としてPMMAを使用し、延伸多孔質PTFEシートの両面にマスク層としてPMMA膜を形成する場合、上記同様にアセトン、テトラヒドロフラン等にPMMAを10〜40重量%程度の濃度で溶解した溶液を延伸多孔質PTFEシートの両面に流延する方法を採用することが好ましい。この場合、延伸多孔質PTFEシートを30〜60℃程度の温度に加熱して、溶剤の蒸発を促進しながら流延することが好ましい。流延法によれば、多孔質樹脂基材の表面部分だけではなく、表面下の多孔質構造内にも可溶性ポリマーが浸透する。
パラフィンを用いる場合、常温で固体のパラフィンを加熱溶融し、得られた溶融液に延伸多孔質PTFEシートを浸漬して、多孔質構造内をパラフィンで充填する方法を採用することが好ましい。
多孔質樹脂基材の多孔質構造内を可溶性ポリマーまたはパラフィンで充填すれば、機械的加工法により穿孔を形成した場合でも、加工部付近すなわち穿孔部付近の多孔質構造が潰れるのを防ぐことができる。多孔質樹脂基材の多孔質構造内を可溶性ポリマーまたはパラフィンで充填すれば、穿孔形成時の多孔質構造を十分に維持することができるが、触媒の付与が穿孔の内壁面の表面部分に限定される。
他方、多孔質樹脂基材の表面近傍のみにマスク層を形成した場合には、機械的加工法により穿孔を形成した時、穿孔近傍での多孔質構造の維持性能は低下するが、穿孔の内壁面に触媒を付着する工程において、多孔質樹脂基材の気孔率にもよるが、内壁面の表面から数μm程度の深さまで触媒を付着させることができる。そこで、流延法や浸漬法により、多孔質樹脂基材に可溶性ポリマーまたはパラフィンを多孔質構造内に含浸させる場合、その含浸の程度を制御して、両表面にはマスク層を形成すると共に、多孔質構造内への含浸量を抑制すれば、穿孔工程後に、穿孔の内壁面の樹脂部分に触媒を十分に付着させることができる。
本発明では、複合化シートの第一表面から第二表面に貫通する複数の穿孔(貫通孔)を形成する。穿孔を形成する方法としては、i)機械的に穿孔する方法、ii)光アブレーション法によりエッチングする方法、またはiii)先端部に少なくとも1本の振動子を備えた超音波ヘッドを用い、該振動子の先端を押し付けて超音波エネルギーを加えて穿孔する方法などが挙げられる。
機械的に穿孔するには、例えば、プレス加工、パンチング法、ドリル法などの機械的加工法を採用することができる。機械的加工法によれば、通常100μm以上、多くの場合300μm以上の比較的大きな孔径を有する貫通孔を安価に形成することができる。
レーザー光の照射により貫通孔を形成するには、所定のパターン状にそれぞれ独立した複数の光透過部(開口部)を有する光遮蔽シートを介して、複合化シートの表面にレーザ光を照射することにより、パターン状の貫通孔を形成する方法を採用することが好ましい。光遮蔽シートの複数の開口部より光が透過し照射された箇所は、エッチングされて貫通孔が形成される。この方法によれば、孔径が小さな貫通孔を形成することができる。
超音波法では、先端部に少なくとも1本の振動子を有する超音波ヘッドを用いて、超音波エネルギーを加えることにより、複合化シートにパターン状の穿孔を形成する。振動子の先端が接触した複合化シートの付近のみに超音波エネルギーが加えられて、超音波による振動エネルギーによって局所的に温度が上昇し、容易に樹脂が切断され、除去されて、穿孔が形成される。
穿孔(貫通孔)の形状は、円形、楕円形、星型、八角形、六角形、四角形、三角形など任意である。穿孔の孔径は、小さな孔径が適した用途分野では、通常5〜100μm、好ましくは5〜30μm程度にすることができ、他方、比較的大きな孔径が適した分野では、通常100〜3,000μm、好ましくは150〜2,000μm、より好ましくは200〜1,500μm程度にすることができる。複数の穿孔は、回路基板等の電極の分布に合わせて、所定のパターン状に形成することが好ましい。
複合化シートに穿孔を形成すると、穿孔の内壁面に多孔質樹脂基材の多孔質構造の樹脂部が露出する。延伸多孔質PTFEシートの場合には、多孔質構造の樹脂部は、PTFEから形成されたフィブリルとノードである。
本発明では、各穿孔の内壁面を含む複合化シートの表面に、金属イオンの還元反応を促進する触媒を付着させる。多孔質樹脂基材の穿孔の内壁面に導電性金属を付着させる方法としては、無電解めっき法が好ましい。無電解めっき法では、一般に、めっきを析出させたい箇所に、予め化学還元反応を促進する触媒を付与する。多孔質樹脂基材の穿孔の内壁面のみに無電解めっきを行うには、当該箇所のみに触媒を付着する必要がある。穿孔の内壁面以外の箇所にめっきが付着すると、各穿孔の内壁面に付着した導電性金属により形成された各導通部が短絡するおそれがある。
複合化シートに複数の穿孔を設け、各穿孔の内壁面を含む複合化シートの表面に触媒を付着させると、多孔質樹脂基材の穿孔の内壁面に露出した多孔質構造の樹脂部にも触媒が付着する。
金属イオンの化学還元反応を促進する触媒を付与するには、穿孔を形成した複合化シートを、例えばパラジウム−スズコロイド触媒付与液に十分撹拌しながら浸漬すればよい。
本発明では、前記工程後、複合化シートから可溶性ポリマーまたはパラフィンを除去する。多孔質樹脂基材の両面にある可溶性ポリマー層やパラフィン層は、剥離して除去することができるが、多孔質構造内に含浸している可溶性ポリマーまたはパラフィンと一緒に、溶剤を用いて溶解させて除去する方法を採用することが好ましい。
可溶性ポリマーまたはパラフィンの溶解除去に使用する溶剤としては、可溶性ポリマーまたはパラフィンを溶解することができるものであれば特に限定されないが、多孔質樹脂基材に対して不溶性もしくは難溶性の溶剤であることが好ましい。多孔質樹脂基材として延伸多孔質PTFEシートを用い、マスキング材料としてPMMAを使用した場合には、溶剤としてアセトン、テトラヒドロフラン等の極性溶剤を使用することが好ましい。パラフィンの場合も、アセトンなどを用いて溶解除去することができる。一般に、可溶性ポリマーまたはパラフィンの溶解除去は、溶剤中に複合化シートを浸漬する方法により行う。
複合化シートから可溶性ポリマーまたはパラフィンを除去すると、触媒が多孔質樹脂基材の穿孔の内壁面に付着して残留する。
本発明では、多孔質合成樹脂シートの穿孔(貫通孔)の内壁面に付着して残留する触媒を利用して、該内壁面に導電性金属を付着させる。導電性金属を付着させる方法としては、無電解めっき法が好適に採用される。
無電解めっきを行う前に穿孔の内壁面に残留した触媒(例えば、パラジウム−スズ)を活性化する。具体的には、めっき触媒活性化用として市販されている有機酸塩等に浸漬することで、スズを溶解し、触媒を活性化する。
穿孔の内壁面に触媒を付与した多孔質樹脂基材を無電解めっき液に浸漬することにより、穿孔の内壁面のみに導電性金属を析出させることができ、それによって、筒状の導通部(導電路または電極ともいう)が形成される。導電性金属としては、銅、ニッケル、銀、金、ニッケル合金などが挙げられるが、特に高導電性が必要な場合は、銅を使用することが好ましい。
延伸多孔質PTFEシートを用いた場合、めっき粒子(結晶粒)は、初め多孔質PTFEシートの穿孔の内壁面に露出したフィブリルに絡むように析出するので、めっき時間をコントロールすることにより、導電性金属の付着状態をコントロールすることができる。無電解めっき時間が短すぎると、膜厚方向への導電性を得ることが困難になる。無電解めっき時間が長すぎると、導電性金属が金属塊になり、通常の使用圧縮荷重ではシートの弾性回復が困難になる。適度なめっき量とすることにより、多孔質構造を維持した状態で導電性金属層が形成され、弾力性と同時に膜厚方向への導電性も与えることが可能となる。
多孔質構造の樹脂部の太さ(例えば、延伸多孔質PTFEシートのフィブリルの太さ)は、50μm以下であることが好ましい。導電性金属の粒子径は、0.001〜5μm程度であることが好ましい。導電性金属の付着量は、多孔質構造と弾力性を維持するために、0.01〜4.0g/ml程度とすることが好ましい。
上記で作製された筒状の導通部は、酸化防止及び電気的接触性を高めるため、酸化防止剤を使用するか、貴金属または貴金属の合金で被覆しておくことが好ましい。貴金属としては、電気抵抗の小さい点で、パラジウム、ロジウム、金が好ましい。貴金属等の被覆層の厚さは、0.005〜0.5μmが好ましく、0.01〜0.1μmがより好ましい。この被覆層の厚みが薄すぎると、電気的接触性の改善効果が小さく、厚すぎると、被覆層が剥離しやすくなるため、いずれも好ましくない。例えば、導通部を金で被覆する場合、8nm程度のニッケルで導電性金属層を被覆した後、置換金めっきを行う方法が効果的である。
本発明の製造方法によれば、多孔質樹脂基材の複数箇所に、第一表面から第二表面に貫通する穿孔を形成することができ、さらに、穿孔の内壁面で多孔質構造の樹脂部に付着した導電性金属により形成された導通部を有し、かつ、各導通部が膜厚方向のみに導電性を付与することが可能な異方性導電シートを製造することができる。
図面を参照しながら、上記の製造方法について、可溶性ポリマーまたはパラフィンを用いる場合を例にとって説明する。図3は、本発明の製造方法の一例を示すフロー図である。図3(a)に示すように、多孔質樹脂基材(例えば、延伸多孔質PTFEシート)1を準備する。図3(b)に示すように、その両面を含む多孔質構造内に可溶性ポリマー2を含浸させて、両面に可溶性ポリマー層(被覆層)を有し、多孔質構造内にも可溶性ポリマーが含浸した複合化シート3を調製する。次いで、図3(c)に示すように、複合化シートを穿孔して、複数の穿孔4,4が形成された複合化シートを作製する。
図3(d)に示すように、各穿孔の内壁面を含む複合化シートの表面に、めっき触媒5を付着させる。次に、図3(e)に示すように、可溶性ポリマーを溶解除去すると、多孔質樹脂基材の両面の可溶性ポリマー層(マスク層)表面に付着しためっき触媒は、可溶性ポリマーと共に除去され、多孔質樹脂基材の穿孔の内壁面に付着した触媒のみが残留する。図3(f)は、無電解めっき工程を示している。無電解めっきを行うと、めっき粒子(導電性金属粒子)は、触媒が付着した穿孔の内壁面にのみ析出し、導電性金属層6を形成する。このようにして、穿孔の内壁面のみを選択的に導電化した多孔質樹脂基材7を得ることができる。
上記製造方法では、多孔質樹脂基材として、多孔質樹脂シートを用いることが好ましい。多孔質樹脂シートとしては、多孔質フッ素樹脂シートが好ましく、多孔質構造として、フィブリルと該フィブリルによって互いに連結されたノードとからなる微細構造を有する延伸多孔質PTFEであることがより好ましい。可溶性ポリマーまたはパラフィンは、15〜30℃の範囲内の温度で固体であることが好ましい。
工程Iにおいて、多孔質樹脂基材の両面に可溶性ポリマーまたはパラフィンの溶液もしくは溶融液を流延するか、多孔質樹脂基材を可溶性ポリマーまたはパラフィンの溶液もしくは溶融液中に浸漬し、次いで、工程IIにおいて、溶剤を揮散させるか、凝固点もしくは融点以下の温度に低下させる方法により、多孔質樹脂基材の両面に固体の可溶性ポリマーまたはパラフィンの層を有し、多孔質構造内に固体の可溶性ポリマーまたはパラフィンが含浸した構造の複合化シートを形成することが好ましい。
工程IIIにおいては、i)機械的に穿孔する方法、ii)光アブレーション法によりエッチングする方法、またはiii)先端部に少なくとも1本の振動子を備えた超音波ヘッドを用い、該振動子の先端を押し付けて超音波エネルギーを加えて穿孔する方法により、複合化シートに複数の穿孔を形成することが好ましい。
工程Vにおいては、多孔質樹脂基材に対して不溶性もしくは難溶性であるが、可溶性ポリマーまたはパラフィンに対して溶解性を示す溶剤を用いて、可溶性ポリマーまたはパラフィンを溶解させて除去することが好ましい。工程Vにおいて、可溶性ポリマーまたはパラフィンを融解させて除去することもできる。
工程VIにおいて、無電解めっきにより、各穿孔の内壁面に導電性金属を付着させることが好ましい。本発明の製造方法によれば、穿孔の内壁面を導電化した多孔質樹脂基材が、第一表面から第二表面を貫く複数の穿孔の内壁面で、多孔質構造の樹脂部に付着した導電性金属により形成された導通部を有し、各導通部が膜厚方向のみに導電性を付与することが可能な異方性導電シートを作製することができる。
上記製造方法について、主として可溶性ポリマーまたはパラフィンを使用する場合について述べたが、これらに代えて、重合性モノマーの如き化学反応により固形物を形成し得る化合物を用いることによっても、同様に固形物によりマスク層を形成し、穿孔の内壁面のみが導電化された多孔質樹脂基材(異方性導電シート)を作製することができる。
5.穿孔内壁面を導電化した多孔質樹脂基材の製造方法(2)
本発明の穿孔の内壁面を選択的に導電化した多孔質樹脂基材(例えば、異方性導電シート)の他の製造方法は、下記の工程i〜viii:
(1)多孔質樹脂基材(A)の両面に、マスク層として多孔質樹脂層(B)及び(C)を積層して、3層構成の積層体を形成する工程i;
(2)該積層体の各多孔質構造内に、可溶性ポリマーまたはパラフィンまたは化学反応により固形物を形成し得る化合物を含浸させる工程ii;
(3)含浸させた可溶性ポリマーまたはパラフィンまたは化学反応により固形物を形成し得る化合物から固形物を形成する工程iii;
(4)各多孔質構造内に固形物を有する積層体の第一表面から第二表面を貫く複数の穿孔を形成する工程iv;
(5)固形物を溶解させて、各多孔質構造内から除去する工程v;
(6)各穿孔の内壁面を含む積層体の表面に、金属イオンの還元反応を促進する触媒を付着させる工程vi;
(7)多孔質樹脂基材(A)から両面のマスク層を剥離する工程vii;及び
(8)多孔質樹脂基材(A)の各穿孔の内壁面に付着して残留している前記触媒を利用して、該内壁面に導電性金属を付着させる工程viii;
を含む一連の工程により、穿孔の内壁面を選択的に導電化する方法である。
上記方法では、工程iiにおいて、積層体の両面に可溶性ポリマーまたはパラフィンの溶液もしくは溶融液を流延するか、積層体を可溶性ポリマーまたはパラフィンの溶液もしくは溶融液中に浸漬することにより、可溶性ポリマーまたはパラフィンを含浸させ、次いで、工程iiiにおいて、溶剤を揮散させるか、凝固点もしくは融点以下の温度に低下させる方法により、固体のポリマーまたはパラフィンを形成することが好ましい。
また、上記方法では、工程iiにおいて、積層体の各多孔質構造内に、化学反応により固形物を形成し得る化合物として、熱または光により重合反応してポリマーを形成する重合性モノマーを含有する液体または溶液を含浸させ、次いで、工程iiiにおいて、熱または光により重合性モノマーを重合させて固体のポリマーを形成することが好ましい。
図面を参照しながら、上記の製造方法について、重合性モノマーを使用する場合を例にとって説明する。図4は、本発明の製造方法で採用する各工程を示すフロー図である。図4(A)及び(B)に示すように、多孔質樹脂基材41の両面に、マスク層として多孔質樹脂層42及び43を積層して、3層構成の積層体44を形成する。マスク層となる多孔質樹脂層は、多孔質樹脂基材と同じでも異なっていてもよい。通常は、同じ多孔質樹脂基材を3枚用いて積層体を形成する。
多孔質樹脂基材41の両面を効果的にマスキングするために、各層間を融着させて一体化させることが好ましい。多孔質樹脂基材及びマスク層として、延伸多孔質PTFEシートを用いると、加熱圧着することにより、各層間を容易に融着させて一体化することができ、マスク層の剥離が必要なときには、容易に剥離することができる。
次に、図4(C)に示すように、積層体44の各多孔質構造内に、化学反応により固形物を形成し得る化合物を含有する液体または溶液を含浸させる。化学反応により固形物を形成し得る化合物としては、熱または光により重合反応してポリマーを形成する重合性モノマーが好ましい。化学反応により固形物を形成し得る化合物を含有する液体または溶液は、重合性モノマーに加えて、該重合性モノマーの重合により得られたポリマーをも含有する溶液であってもよい。
重合性モノマーとしては、前述したメチルメタクリレートの如き単官能のアクリレートまたはメタクリレートが好ましい。重合性モノマーには、光重合開始剤または熱重合開始剤を添加する。
図4(D)に示すように、含浸させた液体または溶液中の化合物を化学反応させて固形物を形成する。この工程では、重合性モノマーを光重合または熱重合して常温で固体のポリマー(例えば、PMMA)を形成する。このようにして、積層体の3層のすべてがポリマーにより充填された積層体46を得る。
次に、図4(E)に示すように、各多孔質構造内に固形物(ポリマー)を有する積層体の第一表面から第二表面を貫く複数の穿孔48を形成する。穿孔が形成された積層体47から、図4(F)に示すように、溶剤を用いて固形物(ポリマー)を溶解させ、各多孔質構造内から除去する。
図4(G)に示すように、溶剤抽出した積層体49の各穿孔の内壁面を含む表面に、金属イオンの還元反応を促進する触媒(めっき触媒)を付着させる。この際、両面に配置された多孔質樹脂層42,43は、マスク層として機能し、多孔質樹脂基材41の両面に触媒が付着するのを防いでいる。
次に、図4(H)に示すように、めっき触媒が付着した積層体50からマスク層42,43を剥離して、穿孔の内壁面のみに触媒が付着した多孔質樹脂基材51を取得する。この多孔質樹脂基材51の各穿孔の内壁面に付着して残留している前記触媒を利用して、図4(I)に示すように、該内壁面に導電性金属を付着させる。導電性金属の付着は、通常、無電解めっき法により行う。このようにして、穿孔の内壁面のみを導電化した多孔質樹脂基材52を得ることができる。
多孔質樹脂基材としては、多孔質樹脂シートが好ましい。多孔質樹脂シートとしては、多孔質フッ素樹脂シートが好ましく、多孔質構造として、フィブリルと該フィブリルによって互いに連結されたノードとからなる微細構造を有する延伸多孔質PTFEシートがより好ましい。
工程ivにおいて、i)機械的に穿孔する方法、ii)光アブレーション法によりエッチングする方法、またはiii)先端部に少なくとも1本の振動子を備えた超音波ヘッドを用い、該振動子の先端を押し付けて超音波エネルギーを加えて穿孔する方法により、積層体に複数の穿孔を形成することが好ましい。
工程vにおいて、多孔質樹脂基材に対して不溶性もしくは難溶性であるが、固形物に対して溶解性を示す溶剤を用いて、固形物を溶解させて除去することが好ましい。
工程viでは、各穿孔の内壁面を含む積層体の表面に、金属イオンの還元反応を促進する触媒(めっき触媒)を付着させる。この製造方法では、めっき触媒を付着させる前に、工程vにおいて、固形物を溶解させて多孔質構造内から除去しているため、穿孔の内壁面の樹脂部分(例えば、PTFEのフィブリル)が十分に露出している。そのため、めっき触媒を穿孔内壁面の多孔質構造の少し内部に至る樹脂部分(内壁面の表面から数μm程度の深さの樹脂部分)にまで強固付着させることができる。工程viiiにおいては、無電解めっきにより、各穿孔の内壁面に導電性金属を付着させることが好ましい。
本発明の製造方法によれば、穿孔内壁面を導電化した多孔質樹脂基材が、第一表面から第二表面を貫く複数の穿孔の内壁面で、多孔質構造の樹脂部に付着した導電性金属により形成された導通部を有し、各導通部が膜厚方向のみに導電性を付与することが可能な異方性導電シートを製造することができる。
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。物性の測定法は、下記の通りである。
(1)バブルポイント(BP):
延伸法による多孔質PTFE膜のバブルポイントは、イソプロピルアルコールを使用して、ASTM−F−316−76に従って測定した。
(2)気孔率:
延伸法による多孔質PTFE膜の気孔率は、ASTM D−792に従って測定した。
(3)導通開始荷重:
図5に示す導通確認装置を用いて、異方性導電膜の導通開始荷重を測定した。図5に示す導通確認装置において、異方性導電シート501を、金めっきを施した銅板(「Au板」と呼ぶ)502上に置く、その全体を重量計506上に載置する。プローブとして外径2mmφの銅柱503を使用し、荷重を加える。異方性導電シートの抵抗値を4端子法により測定した。504は、定電流電源であり、505は、電圧計である。
[実施例1]
面積10cm角、気孔率60%、平均孔径0.1μm、厚み0.5mmの多孔質PTFE基材を用意した。この多孔質PTFE基材は、延伸法によって作製した延伸多孔質PTFEシートであり、フィブリルと該フィブリルによって連結されたノードとからなる微細構造を有するものである。
この延伸多孔質PTFEシートをエタノールに浸漬して親水処理した後、水を含浸させ、そして、0℃以下の温度に冷却して水を凝固させた。多孔質構造内に凝固した水を充填した延伸多孔質PTFEシートに、貫通孔の直径が250μmとなるポンチとダイを組み合わせて用い穿孔した。穿孔速度は100孔/1分であった。穿孔後、常温に戻し、水を乾燥除去した。
穿孔シートの穿孔部を顕微鏡観察したところ、図1に示すように、穿孔の周囲が陥没せず、穿孔の内壁面もほぼポンチ面に沿って切断された面となっていた。穿孔の周囲は、穿孔部以外の箇所の粗密と同等の粗密であり、微細構造に変化は見られなかった。
[実施例2]
実施例1で用いた延伸多孔質PTFEシートと同じものを用意し、これに水を含浸させ、凝固点以下の温度に冷却した後、貫通孔の直径が1mmになるように作製された打ち抜き刃を用いて穿孔した。穿孔速度は100孔貫通させるのに4分かかった。穿孔後、常温に戻し、水を乾燥除去してから穿孔シートの孔部を観察したところ、実施例1と同様に、穿孔の周囲に変形やバリは見あたらず、穿孔周囲の微細構造も穿孔部以外の箇所と同様の形状を維持していた。
[実施例3]
実施例1で用いた延伸多孔質PTFEシートと同じものを用意し、これに水を含浸させ、凝固点以下の温度に冷却した後、貫通孔の直径が250μmとなるように調整されたドリルを用いて穿孔した。このときのドリルの回転数は100,000rpmであった。穿孔速度は、100孔貫通させるのに2分で終了した。穿孔後常温に戻し、水を乾燥除去してから穿孔シートの孔部を観察したところ、実施例1と同様、穿孔の周囲にバリはなく、穿孔部周辺の陥没も観察されなかった。
[実施例4]
実施例1で用いた延伸多孔質PTFEシートと同じものを用意し、これに水を含浸させ、凝固点以下の温度に冷却した後、貫通孔の直径が1mmになるように作製された打ち抜き刃を用いて穿孔した。穿孔時に刃先に40kHz、25Wの超音波振動を加えた。
穿孔速度は、100孔貫通させるのに2分で終了した。実施例2と比べ、半分の時間で処理することができた。その後、常温に戻して水を乾燥除去し、穿孔を観察した。穿孔の周囲に陥没やバリは発見されず、円滑でシャープなエッジに仕上がっていた。
[実施例5]
実施例1で用いた延伸多孔質PTFEシートと同じものを用意した。別にポリメチルメタクリレート(PMMA)のアセトン溶液を用意した。PTFEシートが水平に浸漬できる大きさの容器にアセトン溶液を入れ、浸漬法により延伸多孔質PTFEシートを含浸し、乾燥し、アセトンを除去して、PTFE−PMMA複合化シートとした。この複合化シートを、貫通孔の直径が250μmになるドリルを用いて、回転数100,000rpmで穿孔した。100孔穿孔するのに4分かかった。穿孔終了後、延伸多孔質PTFEシートをアセトンに浸漬し、PMMAを溶出し、穿孔された延伸多孔質PTFEシートを得た。穿孔を顕微鏡観察したところ、穿孔の周囲は他の箇所の微細組織と変化なく、穿孔のエッジにへこみやバリは見られなかった。
[比較例1]
実施例1で用いた延伸多孔質PTFEシートと同じものを用意し、そのままの状態で貫通孔の直径が500μmとなるポンチとダイを使用して穿孔した。穿孔時間は、実施例1と同様100孔を1分で処理した。処理後、穿孔を観察したところ、バリが発生しており、500μmの孔径は保持されていなかった。また、穿孔の周囲の微細構造が一部引きつり状態になり、多孔質構造が維持できていなかった。
[比較例2]
実施例1で用いた延伸多孔質PTFEシートと同じものを用意し、そのままの状態で実施例2で用いた打ち抜き刃により穿孔した。穿孔時間は、実施例2と同様、100孔を4分で処理した。処理後、穿孔を観察したところ、バリが発生していた。また、穿孔の周辺が陥没状態になり、その部分の微細構造が他の箇所と明らかに違って見えた。
[比較例3]
実施例1で用いた延伸多孔質PTFEシートと同じものを用意し、そのままの状態でドリルにより穿孔した。ドリルは、実施例3で用いたものと同じものを用い、回転数も100,000rpmとした。穿孔時間は、100孔貫通するのに2分とし、実施例3と同様にした。穿孔後、穿孔を観察したところ、図2に示すように、バリが発生していることに加えて、回転による樹脂の引きつりが観察され、孔部周囲の微細構造が潰れた状態に観察された。
[実施例6]
メタクリル樹脂(PMMA;住友化学工業製、商品名「LG6A」)25gをアセトン75gに室温で溶解して、メタクリル樹脂溶液を調製した。2cm角に切り出した延伸多孔質PTFEシート(住友電工ファインポリマー株式会社製、商品名「HP−010−30」;イソプロピルアルコールバブルポイント150kPa、気孔率60%)を、その多孔質構造内に空気が残らないように注意しながらゆっくりとメタクリル樹脂溶液に浸漬した。延伸多孔質PTFEシートが半透明になり、その多孔質構造内にメタクリル樹脂溶液が完全に含浸したことを確認した後、取り出して、約18時間、室温で自然乾燥させた。このようにして得られた複合化シートに、直径250μmのドリルを用いて、100,000rpmで複数箇所に貫通孔(穿孔)を形成した。
次に、貫通孔を形成した複合化シートをエタノール中に1分間浸漬して親水化した後、100ml/Lに希釈したメルテックス(株)製メルプレートPC−321に60℃の温度で4分間浸漬し、コンディショニングを行った。さらに、該複合化シートを10%硫酸に1分間浸漬した後、プレディップとして0.8%塩酸にメルテックス(株)製エンプレートPC−236を180g/Lの割合で溶解した液に2分間浸漬した。
さらに、該複合化シートを、メルテックス(株)製エンプレートアクチベータ444を3%、エンプレートアクチベータアディティブを1%、塩酸を3%溶解した水溶液にメルテックス(株)製エンプレートPC−236を150g/Lの割合で溶解した液に5分間浸漬して、スズ−パラジウムコロイド粒子を複合化シートの表面及び貫通孔壁面に付着させた。
次に、該複合化シートをアセトンに浸漬して、延伸多孔質PTFEシートに含浸させたメタクリル樹脂を抽出(溶解除去)し、延伸多孔質PTFEシートの貫通孔の壁面のみにパラジウム−スズ粒子が付着した延伸多孔質PTFEシートを得た。さらに、メルテックス(株)製PA−360を50ml/Lの割合にて純水で希釈した液に該シートを浸漬し、スズを溶解し、触媒を活性化した。
メルテックス(株)製メルプレートCu−3000A、メルプレートCu−3000B、メルプレートCu−3000C、メルプレートCu−3000Dをそれぞれ5%、メルプレートCu−3000スタビライザーを0.1%で建浴した無電解銅めっき液に、十分エアー撹拌を行いながら、該延伸多孔質PTFEシートを30分間浸漬して、貫通孔の壁面のみに銅粒子を析出させて導電化した。次いで、防錆、デバイスとの接触性向上のため、銅粒子の金めっきを行った。金めっきは、以下の方法により、ニッケルからの置換金めっき法を採用した。
貫通孔の壁面に銅粒子を付着させた延伸多孔質PTFEシートをプレディップとしてアトッテック製アクチベーターオーロテックSITアディティブ(80ml/L)に3分間浸漬した後、触媒付与としてアトッテック製オーロテックSITアクチベーターコンク(125mg/L)、アトッテック製アクチベーターオーロテックSITアディティブ(80ml/L)の建浴液に1分間浸漬し、さらにアトッテック製オーロテックSITポストディップ(25ml/L)に1分間浸漬し、パラジウム触媒を銅粒子上に付着させた。
次に、次亜燐酸ナトリウム(20g/L)、クエン酸三ナトリウム(40g/L)、ホウ酸アンモニウム(13g/L)、硫酸ニッケル(22g/L)で建浴した無電解ニッケルめっき液に延伸多孔質PTFEシートを5分間浸漬し、該銅粒子をニッケルコートした。
その後、メルテックス製置換金めっき液[メルプレートAU−6630A(200ml/L)、メルプレートAU−6630B(100m1/L)、メルプレートAU6630C(20g/L)、亜硫酸金ナトリウム水溶液(金としてl.0g/L)]に5分間浸漬し、銅粒子の金コートを行い、1.00mmの貫通孔の壁面のみを導電化した延伸多孔質PTFEシートによる異方性導電シートを得た。
上記のようにして得られた延伸多孔質PTFEシートを基膜とする異方性導電シートを10mm角に切り取り、図5に示す装置にて導通開始荷重を測定した。プローブとして2mmφの銅柱を使用し、1つの電極にプローブを接触させ、抵抗値を4端子法にて測定した。その結果、押圧荷重5.0MPaで3.1Ωであった。
[実施例7]
パラフィン(和光純薬工業製、融点68〜70℃)を80℃のホットプレート上に置いたステンレス容器に入れ溶解した。2cm角の正方形に切り出した延伸多孔質PTFEシート(住友電工ファインポリマー株式会社製HP−010−30)を多孔質構造の空隙内に空気が残らないように注意しながらゆっくりと溶解したパラフィンに浸漬した。延伸多孔質PTFEシートが半透明になり完全に浸透したことを確認した後、取り出して室温で自然冷却し固化させた。このようにして得られた複合化シートに、直径250μmのドリルを用いて、100,000rpmで複数箇所に貫通孔(穿孔)を形成した。
貫通孔を形成した複合化シートをエタノールに1分間浸漬して親水化した後、100ml/Lに希釈したメルテックス(株)製メルプレートPC−321に60℃の温度で4分間浸漬し、コンディショニングを行った。さらに、該複合化シートを10%硫酸に1分間浸漬した後、プレディップとして0.8%塩酸にメルテックス(株)製エンプレートPC−236を180g/Lの割合で溶解した液に2分間浸漬した。
さらに、該複合化シートを、メルテックス(株)製エンプレートアクチベータ444を3%、エンプレートアクチベータアディティブを1%、塩酸を3%溶解した水溶液にメルテックス(株)製エンプレートPC−236を150g/Lの割合で溶解した液に5分間浸漬して、スズ−パラジウムコロイド粒子を複合化シートの表面及び貫通孔壁面に付着させた。さらに、メルテックス(株)製PA−360を50ml/Lの割合にて純水で希釈した液に該シートを浸漬し、スズを溶解し、触媒を活性化した。
次に、該複合化シートをアセトンに浸漬し、延伸多孔質PTFEシートに含浸させたパラフィンを抽出除去し、貫通孔の壁面のみにパラジウム−スズ粒子が付着した延伸多孔質PTFEシートを得た。
メルテックス(株)製メルプレートCu−3000A、メルプレートCu−3000B、メルプレートCu−3000C、メルプレートCu−3000Dをそれぞれ5%、メルプレートCu−3000スタビライザーを0.1%で建浴した無電解銅めっき液に、十分エアー撹拌を行いながら、該延伸多孔質PTFEシートを30分間浸漬して、貫通孔の壁面のみを銅粒子にて導電化した。
次いで、防錆、デバイスとの接触性向上のための銅粒子の金コートを行った。金めっきによるコートは、以下の方法により、ニッケルからの置換金めっき法を採用した。
貫通孔の壁面に銅粒子を付着させた延伸多孔質PTFEシートをプレディップとしてアトッテック製アクチベーターオーロテックSITアディティブ(80ml/L)に3分間浸漬した後、触媒付与としてアトッテック製オーロテックSITアクチベーターコンク(125mg/L)、アトッテック製アクチベーターオーロテックSITアディティブ(80ml/L)の建浴液に1分間浸漬し、さらにアトッテック製オーロテックSITポストディップ(25ml/L)に1分間浸漬し、パラジウム触媒を銅粒子上に付着させた。
次に、次亜燐酸ナトリウム(20g/L)、クエン酸三ナトリウム(40g/L)、ホウ酸アンモニウム(13g/L)、硫酸ニッケル(22g/L)で建浴した無電解ニッケルめっき液に延伸多孔質PTFEシートを5分間浸漬し、該銅粒子をニッケルコートした。
その後、メルテックス製置換金めっき液[メルプレートAU−6630A(200ml/L)、メルプレートAU−6630B(100m1/L)、メルプレートAU−6630C(20g/L)、亜硫酸金ナトリウム水溶液(金として1.0g/L)]に5分間浸漬し、銅粒子の金コートを行い、1.00mmの貫通孔の壁面のみを導電化した延伸多孔質PTFEシートによる異方性導電シートを得た。
上記のようにして得られた延伸多孔質PTFEシートを基膜とする異方性導電シートを10mm角に切り取り、図5に示す装置にて導通開始荷重を測定した。プローブとして2mmφの銅柱を使用し、1つの電極にプローブを接触させ、抵抗値を4端子法にて測定した。その結果、押圧荷重5.0MPaで3.9Ωであった。
[比較例4]
延伸多孔質PTFEシート(住友電工ファインポリマー株式会社製HP−010−30)を直径250μmのドリルを用いて、100,000rpmで複数箇所に貫通孔(穿孔)を形成した。次に、実施例1と同様の方法にて貫通孔の壁面のみの導電化を試みたが、貫通孔の内壁面の多孔質構造(微細構造)が潰れて銅粒子がアンカリングせず、銅粒子を析出させることができなかった。
[実施例8]
メチルメタクリレート(共栄社化学社製、ライトエステルM)100gに熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業社製)を0.2g添加し、撹拌した。実施例1で用いた延伸多孔質PTFEシートを用意し、メチルメタクリレート溶液を含浸させた。メチルメタクリレート溶液を含浸させた延伸多孔質PTFEシートをホットプレートにて80℃で4時間加熱し、メチルメタクリレートを熱重合させた。
重合後、延伸多孔質PTFEシートに貫通孔の直径が250μmとなるポンチとダイを組み合わせて用い穿孔した。穿孔速度は100孔/1分であった。穿孔後、ソックスレー抽出器を用い、溶剤としてメチルエチルケトンを用いて、メチルメタクリレートの重合体(ポリメチルメタクリレート)を溶解させ、抽出除去した。
このようにして得られた穿孔シートの穿孔を顕微鏡観察したところ、実施例1と同様に、穿孔の周囲が陥没せず、穿孔の内壁面もほぼパンチ孔に沿って切断された面となっていた。穿孔の周囲に変形やバリは見あたらず、穿孔の周囲の微細構造も他の箇所と同様の形状を維持していた。
[実施例9]
メチルメタクリレート(共栄社化学社製、ライトエステルM)100gに光重合開始剤としてイルガキュア184(和光純薬工業社製)を0.2g添加し、撹拌した。実施例1と同じ延伸多孔質PTFEシートを用意し、メチルメタクリレート溶液を含浸させた。
次いで、高圧水銀灯ランプを用いて、50mW/cm2で10分間、紫外線を照射し、メチルメタクリレートを光重合させた。実施例8と同様にして、穿孔を行った後、重合体を溶剤で抽出除去した。
このようにして得られた穿孔シートの穿孔を顕微鏡観察したところ、実施例1と同様に、穿孔の周囲が陥没せず、穿孔の内壁面もほぼパンチ孔に沿って切断した面となっていた。穿孔の周囲に変形やバリは見あたらず、穿孔の周囲の微細構造も他の箇所と同様の形状を維持していた。
[実施例10]
メチルメタクリレート(共栄社化学社製、ライトエステルM)80gにポリメチルメタクリレート(住友化学社製、スミペックスLG35)20gを40℃12時間の条件で溶解させ、光重合開始剤としてイルガキュア184(和光純薬工業社製)を0.2g添加し、撹拌した。実施例1と同じ延伸多孔質PTFEシートを用意し、メチルメタクリレートの溶液を含浸させた。
次いで、高圧水銀灯ランプを用いて、50mW/cm2で10分間、紫外線を照射し、メチルメタクリレートを光重合させた。実施例8と同様に、穿孔を行った後、重合体を溶剤で抽出除去した。
このようにして得られた穿孔シートの穿孔を顕微鏡観察したところ、実施例1と同様に、穿孔の周囲が陥没せず、穿孔の内壁面もほぼパンチ孔に沿って切断した面となっていた。穿孔の周囲に変形やバリは見あたらず、穿孔の周囲の微細構造も他の箇所と同様の形状を維持していた。
[実施例11]
面積10cm角で、気孔率60%、平均孔径0.1μm(イソプロピルアルコールバブルポイント150kPa)、膜厚30μmの延伸多孔質PTFEシート3枚を重ね合わせて、厚さ3mm、縦150mm、横100mmのステンレス板2枚の間に挟み、ステンレス板の荷重をかけるとともに、350℃で30分間加熱処理した。加熱後、ステンレス板の上から水にて急冷し、3層に融着された多孔質PTFE膜の積層体を得た。
メチルメタクリレート(共栄社化学社製、ライトエステルM)100gに熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬工業社製)を0.2g添加し、撹拌した。上記で作製した積層体にメチルメタクリレート溶液を含浸させた。メチルメタクリレート溶液を含浸させた積層体をホットプレートにて80℃で4時間加熱し、メチルメタクリレートを熱重合させた。
重合後、延伸多孔質PTFEシートに貫通孔の直径が250μmとなるポンチとダイを組み合わせて用い穿孔した。穿孔速度は100孔/1分であった。穿孔後、ソックスレー抽出器を用い、溶剤としてメチルエチルケトンを用いて、メチルメタクリレートの重合体(ポリメチルメタクリレート)を溶解させ、抽出除去した。
積層体をエタノールに1分間浸漬して親水化した後、100ml/Lに希釈したメルテックス(株)製メルプレートPC−321に、60℃の温度で4分間浸漬し、コンディショニングを行った。さらに、積層体を10%硫酸に1分間浸漬した後、プレディップとして、0.8%塩酸にメルテックス(株)製エンプレートPC−236を180g/Lの割合で溶解した液に2分間浸漬した。
積層体を、メルテックス(株)製エンプレートアクチベータ444を3%、エンプレートアクチベータアディティブを1%、塩酸を3%溶解した水溶液にメルテックス(株)製エンプレートPC−236を150g/Lの割含で溶解した液に5分間浸漬して、スズ−パラジウムコロイド粒子を積層体の表面及び穿孔の内壁面に付着させた。次に、積層体を、メルテックス(株)製エンプレートPA−360を50ml/Lの割合で純水で希釈した液に浸漬し、スズを溶解して、触媒を活性化した。その後、両面のマスク層を剥離して、穿孔の内壁面のみに触媒パラジウム粒子が付着した延伸多孔質PTFEシート(基膜)を得た。
メルテックス(株)製メルプレートCu−3000A、メルプレートCu−3000B、メルプレートCu−3000C、メルプレートCu−3000Dをそれぞれ5%、メルプレートCu−3000スタビライザーを0.1%で建浴した無電解銅めっき液に、十分エアー撹拌を行いながら、上記基膜を20分間浸漬して、穿孔の内壁面のみを銅粒子にて導電化した。さらに、5ml/Lで建浴したメルテックス(株)製エンテックCu−56に30秒間浸漬して、防錆処理して、延伸多孔質PTFEシートを基膜とする異方性導電膜を得た。
めっき工程において、無電解銅めっきのプレディップ工程と触媒付与工程の間以外の各液浸漬後は、蒸留水にて30秒間から1分間程度水洗を行った。各液の温度は、コンディショニングを除いて全て常温(20〜30℃)で行った。
上記のようにして得られた延伸多孔質PTFEシートを基膜とする異方性導電膜を10mm角に切り取り、図5に示す装置にて導通開始荷重を測定した。プローブは、3mmφの銅柱を使用し、1つの電極にプローブを接触させ、抵抗値を4端子法にて測定した。その結果、押出荷重5.0MPaで3.5Ωであった。