JP2005046068A - 蛋白質生産用の新規なバクテリア及び蛋白質の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 遺伝的改変によって翻訳効率が高められ、さらにバクテリア宿主にて産生される蛋白質の折りたたみが改善された組換え蛋白質生産用バクテリア宿主を提供し、該バクテリア宿主を用いて蛋白質を高効率に生産すること。
【解決手段】 tRNAの含有量が増加され、かつ分子シャペロン又はその部分ペプチドが補強されていることを特徴とするバクテリア。
【選択図】 なし

Description

本発明は、組換え蛋白質生産に利用できる、新規な遺伝的改変が施された宿主バクテリア、及び該バクテリアを用いた蛋白質の製造方法に関するものである。
宿主微生物、特に大腸菌などのバクテリアにおける組換え蛋白質の発現効率を向上させるため、これまでに転写・翻訳・ポリペプチドの折りたたみといった成熟蛋白質に到達するまでの様々の過程を改善する目的で、遺伝子工学的な手法による改善が試みられている(Baneyx,F.,Curr.Opin.Biotechnol.,1999 10,411−421)。
例えば、宿主バクテリアにおける使用頻度が低いコドンに対応するtRNAの枯渇は外来遺伝子の翻訳途中での停止、生産されるポリペプチド鎖におけるアミノ酸の取り込みミス等を起こすことになり、これは組換え蛋白質生産における重大な問題点の原因となる。例えばAGA/AGG、CGG/CGA(Arg)、GGA(Gly)、AUA(Ile)、CUA(Leu)及びCCC(Pro)は大腸菌では使用頻度が極めて低い。従って、これらのコドンが頻繁に採用されている真核生物や古細菌の遺伝子の翻訳過程においては、その速度低下、翻訳途中での停止、読みとり配列のフレームシフト、及び誤ったアミノ酸の取り込みといった悪い影響を及ぼす可能性がある(Kurland, C. and
Gallet, J. 1996, Curr. Opin. Biotechnol. 7, 489−493)。この問題を回避する目的で、バクテリアでの発現量が非常に少な
いtRNAを補充する遺伝的改変がなされている(非特許文献1)。
また、バクテリア宿主で特に真核生物由来の蛋白質を大量発現した場合には、この蛋白質は可溶化が困難な封入体(不溶性凝集体)として発現してしまう傾向がある。この解決手段として、例えば、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)(非特許文献2)やチオレドキシン(非特許文献3)、マルトース結合蛋白質(非特許文献4)等との融合蛋白質として発現したり、目的蛋白質を蛋白質の折り畳み反応を支援する蛋白質群である分子シャペロンと共発現させる(非特許文献5)ことで、目的蛋白質を可溶性画分に発現させることに成功している。また近年、分子シャペロンの代表的蛋白質であり、7−9の回転対称性リング構造を形成するシャペロニンのサブユニットの数回連結体と目的蛋白質を融合蛋白質として発現させると、シャペロニンサブユニットの会合によって、目的蛋白質はシャペロニンが有するキャビティ内部に格納された状態で発現し、細胞質環境から隔離されることで、宿主生物への毒性、封入体の形成及び宿主プロテアーゼによる分解といった殆ど全ての問題を解消することができることが報告されている(特許文献1)。
以上のように、バクテリア宿主での蛋白質大量発現の問題点を解消する目的で、レアコドンあるいは蛋白質折り畳みといった側面から個々に改変された例はあるが、両方の遺伝子工学的改変を施した大腸菌で目的蛋白質を大量発現させる技術はこれまでになかった。従って、当該技術分野においては、蛋白質を高効率に生産するための方法及びツールが望まれていた。
特願2000−395740号 Baca, A.M. and Hol, W.G.J., Int. J. Parasitology 30, 113−118 (2000) Smith,D.B.,et al.,Gene 67, 31−40(1988) Lavallie,E.R.et al.,Bio/Technology 11,187−193(1993) Guan,C.,et al.,Gene 67,21−30(1988) Nishihara et al.,Apply.Environ.Microbiol.,64,1694−1699(1998)
本発明は、遺伝的改変によって翻訳効率が高められ、さらにバクテリア宿主にて産生される蛋白質の折りたたみが改善された組換え蛋白質生産用バクテリア宿主を提供し、該バクテリア宿主を用いて蛋白質を高効率に生産することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、バクテリアにおいて使用頻度が低いコドンに対応するtRNAの含有量を増加させる遺伝的改変をバクテリアに施し、さらに分子シャペロンの共存下にて目的とする蛋白質を発現させることによって、その蛋白質生産効率が改善され、かつ正確な折りたたみを有する蛋白質が可溶性画分に産生されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(14)を提供する。
(1)tRNAの含有量が増加され、かつ分子シャペロン又はその部分ペプチドが補充されていることを特徴とするバクテリア。
上記バクテリアにおいて、tRNAはバクテリアにおける使用頻度の低いコドンの少なくとも1つに対応するtRNAであることが好ましい。また分子シャペロン又はその部分ペプチドの補充は、例えば、該分子シャペロン又はその部分ペプチドをコードする遺伝子の導入により行うことができる。
(2)バクテリアにおける使用頻度が低いコドンの少なくとも1つに対応するtRNAをコードする遺伝子を含むプラスミド、及び分子シャペロン又はその部分ペプチドをコードする遺伝子を含むプラスミドを有することを特徴とするバクテリア。
上記バクテリアにおいて、2つのプラスミドはそれぞれゲノム当たり15コピー以上複製され得るものであることが好ましい。
(3)バクテリアにおける使用頻度が低いコドンの少なくとも1つに対応するtRNAをコードする遺伝子がゲノムに組み込まれ、かつ分子シャペロン又はその部分ペプチドをコードする遺伝子を含むプラスミドを有することを特徴とするバクテリア。
上記バクテリアにおいて、分子シャペロンは、例えばシャペロニン、HSP90、HSP70、HSP40、HSP25、ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼ、ジスルフィドイソメラーゼ、プロティンディスルフィドイソメラーゼ及びチオレドキシンからなる群より選択される少なくとも1つでありうる。
上記(1)〜(3)のバクテリアとしては、例えば大腸菌が挙げられる。
(4)以下の工程を含む、上記(1)〜(3)のいずれかのバクテリアを製造する方法。
(a)バクテリアにおいてtRNAの含有量を増加させる工程;及び
(b)バクテリアにおいて分子シャペロン又はその部分ペプチドを補充する工程
(5)以下の工程を含む、上記(2)のバクテリアを製造する方法。
(a)バクテリアにおける使用頻度が低いコドンの少なくとも1つに対応するtRNAをコードする遺伝子を含むプラスミドを該バクテリアに導入する工程;及び
(b)少なくとも1つの分子シャペロン又はその部分ペプチドをコードする遺伝子を含むプラスミドをバクテリアに導入する工程
(6)以下の工程を含む、上記(3)のバクテリアを製造する方法。
(a)バクテリアにおける使用頻度が低いコドンの少なくとも1つに対応するtRNAをコードする遺伝子を該バクテリアのゲノムに導入する工程;及び
(b)少なくとも1つの分子シャペロン又はその部分ペプチドをコードする遺伝子を含むプラスミドをバクテリアに導入する工程
(7)上記(1)〜(3)のいずれかのバクテリアに目的蛋白質又はペプチドをコードする遺伝子が導入されていることを特徴とする形質転換体。
上記形質転換体において、目的蛋白質又はペプチドとしては、例えば膜蛋白質が挙げられる。
(8)上記(1)〜(3)のいずれかのバクテリアの粗抽出物を含むことを特徴とする組成物。
(9)上記(7)の形質転換体を培養し、得られる培養物から目的蛋白質又はペプチドを回収することを特徴とする、目的蛋白質又はペプチドの製造方法。
上記方法においては、目的蛋白質又はペプチドをコードする遺伝子を、少なくとも1つの分子シャペロン又はその部分ペプチドをコードする遺伝子と共発現させてもよいし、あるいは、目的蛋白質又はペプチドを、少なくとも1つの分子シャペロン又はその部分ペプチドとの融合蛋白質として発現させてもよい。融合蛋白質として発現させる場合には、例えば、目的蛋白質又はペプチドを分子シャペロン又はその部分ペプチドのC末端側に融合させることができる。
(10)in vitro翻訳系において、上記(8)の組成物を用いて目的蛋白質又は
ペプチドを産生することを特徴とする、目的蛋白質又はペプチドの製造方法。
上記(9)又は(10)の方法においては、目的蛋白質又はペプチドをコードする遺伝子が、真核生物由来cDNAの全長配列、又は6残基以上のアミノ酸配列をコードするその部分配列であることが好ましい。
(11)上記(9)又は(10)の方法により製造された目的蛋白質若しくはペプチド、上記(7)の形質転換体若しくはその膜画分成分、又は上記(8)の組成物のいずれかを動物に免疫する工程を含むことを特徴とする、目的蛋白質又はペプチドに対する抗体の作製方法。
(12)上記(11)の方法によって得られる抗体。
(13)上記(11)に記載される免疫動物より抗体遺伝子を分離する工程を含むことを特徴とする、目的タンパク質又はペプチドに対する抗体をコードする遺伝子の調製方法。
(14)上記(13)の方法によって得られる抗体遺伝子、及び抗体の抗原認識領域の6残基以上のペプチドをコードする遺伝子。
本発明により、tRNA含有量が増加され、かつ分子シャペロンを含むバクテリアが提供される。このバクテリアは、所望の蛋白質又はペプチドを、正確な配列及び折りたたみを保ち、かつ高効率に生産するために有用である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の新規なバクテリアは、tRNAの含有量が増加され、かつ分子シャペロン又はその部分ペプチドが補充されていることを特徴とするものであり、これを目的蛋白質又はペプチドの遺伝子組換え手法による製造に用いた場合には、該目的蛋白質又はペプチドを高効率に製造することができる。
1.バクテリア及びその製造
(1)バクテリア
本発明において使用するバクテリアとしては、蛋白質生産に利用されている一般的なバクテリアであれば特に限定されるものではなく、例えば、大腸菌、枯草菌等が含まれる。本発明においては、簡便性の点から大腸菌を使用することが好ましい。大腸菌としては、例えばエッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)DH5αなどが挙げられ、枯草菌としては、例えばバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)などが挙げられる。
(2)tRNA補充
本発明では、バクテリアにおけるtRNAの含有量を増加させる。これによって、組換え蛋白質の生産性はさらに向上するとともに、間違ったアミノ酸配列のものが生産される可能性は極めて低くなると考えられる。例えば、バクテリアにおける使用頻度が低いコドンに対応するtRNAのうち、少なくとも1つ以上を補充することで、翻訳の効率を上昇させることが可能である。
tRNAは、該tRNAをコードする遺伝子をバクテリアのゲノム上に導入して補充してもよく、また該遺伝子をプラスミドDNAとしてバクテリアに導入して補充してもよい。本明細書中、「tRNAの補充」とは、バクテリアにおけるtRNAの含有量を増大させることを指す。例えば、ランバダインテグラーゼを発現させ得るバクテリアにて、ランバダインテグラーゼの部位特異的組換え機能を利用して、少なくともプロモーター部位(−35〜−10領域)、tRNA遺伝子及び転写停止領域を含むtRNAの発現ユニットを宿主ゲノムへ組み込むことが可能である(Olson,P.et al.1998,Protein Expr.Purif.14,160−166)。tRNAの発現ユニットはTitoらの方法(Tito,BJ.et al.,J.Bacteriol 1995,177,7086)に従って作製すればよい。この場合、挿入しようとするtRNAの発現ユニット遺伝子を事前に複数連結したものをゲノムに導入することでtRNAの含有量をより増加させることが可能となる。
一方、プラスミドDNAによりtRNAを補充する場合、その種類は特に問わないが、後述する目的蛋白質又はペプチドをコードする遺伝子を含む発現プラスミドと共存可能な複製領域を有していることが必要であり、またプラスミドのコピー数がゲノム当たり5コピー程度以上、好ましくは10コピー以上のものが好ましい。現在市販されているほとんどの発現プラスミドはColE1由来の複製部位を有するため、tRNAをコードする遺伝子を補充するために使用可能なプラスミドとしては、これと同一細胞内で共存可能なプラスミドである、例えば複製部位がP15Aに由来するpACYC184、pACYC177プラスミド(Chang,ACY.et al.,1978,J.Bacteroiol.134,1141)、複製部位の由来がR6−5であるpSC101(Cohen,SN.et al.,1977,J.Bacteriol.132,734)、及びこれらの誘導体が挙げられる。tRNAを補充するためのプラスミドのコピー数は高いほどその効果が期待されるため、pUC18、pTZ等の複製部位がColE1であるハイコピープラスミドでtRNAを発現させてもよい。この場合、目的蛋白質又はペプチドをコードする遺伝子の発現ユニットとtRNAの発現ユニットは同一プラスミドに配置するか
、あるいは、目的蛋白質又はペプチドをコードする遺伝子の発現ユニットをpACYCプラスミド等の、tRNAの発現ユニットを含むプラスミド(例えばColE1)と共存可能なプラスミドに配置すればよい。
補充するtRNAの種類は問わないが、補充しようとするバクテリアにおいて使用頻度が低いコドンの少なくとも1つに対応していることが好ましい。例えば、バクテリアとして大腸菌を用いる場合には、AGA/AGG、CGG/CGA(Arg)、GGA(Gly)、AUA(Ile)、CUA(Leu)及びCCC(Pro)の少なくとも1つのコドンに対応するtRNAを補充すればよいが、あらゆる遺伝子配列に対応できる点から全ての上記コドンに対応するtRNAを補充することが特に好ましい。例えば、コドンAGA/AGG(Arg)、AUA(Ile)、及びGGA(Gly)に対応するtRNAであるglyT、argU及びileXが補充されたpACYC184誘導体プラスミドpRIGを保持した大腸菌において、大腸菌での使用頻度が低いコドンを多く有する寄生虫由来の蛋白質をコードする遺伝子を高レベルで発現することに成功している(Baca,A.M.2000、 Int.J.Parasitology 30,113−118)
例えば、バクテリアとして大腸菌を使用する場合には、予め大腸菌において使用頻度が低いコドン(AGG、AGA、AUA、CUA、CCC及びGGA)に対応するtRNAがクロラムフェニコール耐性プラスミドpRAREに組み込まれ、それがTuner株(大腸菌BL21株のラックパーミアーゼ欠損株)へ導入されて作製された大腸菌Rosetta株とその系統株が市販されており(Novagen社)、このような市販の大腸菌株を用いても本発明のバクテリアを製造することができる。
以上のように、tRNAを補充することによって、種々の生物に由来する蛋白質又はペプチドであっても、正確なアミノ酸配列を有する蛋白質又はペプチドを、翻訳時の速度低下などの問題なく生産することができる。
(3)分子シャペロン様活性を有する蛋白質の存在
本発明は、上述したように、tRNAの含有量が増加されているバクテリア宿主を提供し、該バクテリアを用いることにより、あらゆる蛋白質又はペプチドの高効率生産を達成することができる(蛋白質製造に関しては、「4.目的蛋白質及びペプチドの製造」の項を参照されたい)。またさらに、本発明は、不溶性凝集体を形成しうる蛋白質又はペプチドを生産する場合に可溶性画分への蛋白質又はペプチドの生産効率を向上させる目的で、さらに、本発明のバクテリア宿主内で、目的蛋白質又はペプチドを、蛋白質の折りたたみに関与する蛋白質因子と共発現させたり、該蛋白質因子との融合蛋白質として発現させる技術をも包含する。
生体内には、新生ポリペプチドが正常に折りたたまれて成熟蛋白質に至るまでの過程を支援している蛋白質群が存在し、これらは、分子シャペロン(Hartl,FU et al.,2002,Science 295,1852;Thomas,JD et a
l.,1997,Appli.Biochem.Biotechnol.66,197)、ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼ(以下、PPIaseとも称する)、ジスルフィドイソメラーゼ(以下、Dsbとも称する)、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(以下、PDIとも称する)及びチオレドキシンである。分子シャペロンは、ATPの存在下及び非存在下で不安定な折りたたみ中間体に結合し、蛋白質の凝集形成を抑制する作用がある。分子シャペロンには、シャペロニン、DnaK、DnaJ及びGrpE、並びにその他の熱ショック蛋白質(HSP)群が含まれる。一方、蛋白質又はペプチドにおけるプロリンのN末端側のペプチド結合は、トランス異性体よりも安定なシス異性体をとる場合があり、シス異性体の形成は蛋白質の立体構造形成で重要な役割を果たす。プロ
リン残基の立体異性化反応は蛋白質折りたたみ過程の律速段階であるが、これを触媒する酵素がPPIaseである。また蛋白質の構造形成過程でシステインを介したジスルフィド結合の形成・交換反応も重要であり、Dsb、PDI及びチオレドキシンがこれを触媒することが知られている。また、興味深いことに、一部のPPIase及びPDIは本来の機能とは独立して、蛋白質の折りたたみ中間体に結合することにより、分子シャペロンのように、蛋白質の凝集形成を抑制することが知られている(Furutani,M.et al.,2000,Biochemistry 39,453;Song,JL.,
1995,Eur.J.Biochem.231,312)。近年では、PPIase、Dsb、PDI及びチオレドキシンも分子シャペロンの1種とみなされている(本発明では、分子シャペロン、PPIase、Dsb、PDI及びチオレドキシンを一括して「分子シャペロン」と称する)。
すなわち、本発明では、宿主バクテリアとしてtRNAの含有量を増加させるだけではなく、分子シャペロンに属する蛋白質又はシャペロン活性を保持したこれらの部分ペプチドと、目的蛋白質又はペプチドとを共発現させる、又はこれらを融合蛋白質として発現させることをも含む。本発明においては、上記共発現又は融合蛋白質としての発現のいずれでもよい。例えば、目的蛋白質又はペプチドを分子シャペロンとの融合蛋白質として発現させることにより、それらを時空間的に接近させることができることから、不溶性凝集体形成の抑制効果が高いと考えられ、その点からは融合蛋白質としての発現が好ましい。一方、融合蛋白質として発現させる場合は、分子シャペロンと目的蛋白質又はペプチドを、これらの間に介在する配列を特異的に切断するプロテアーゼによって切断する工程を必要とするため、共発現法で不溶性凝集体形成を抑制できる場合には、融合蛋白質として発現させる必要はない。従って、目的蛋白質又はペプチドの性質に応じて共発現と融合蛋白質としての発現を使い分ければよい。
共発現法を行う場合、目的蛋白質若しくはペプチドをコードする遺伝子を含むプラスミド(「2.形質転換体」の項を参照)、又はこれと共存可能なtRNA遺伝子を含むプラスミド(上記(2)を参照)のいずれかに分子シャペロン蛋白質をコードする遺伝子の発現ユニットを含有させることで、本発明の意図する効果を達成することが可能である。また、互いに複製部位の異なる3種のプラスミドを用いることも可能である。例えば、目的蛋白質又はペプチドの発現は、複製部位がColE1由来であるプラスミド、tRNAの発現は複製部位がR6K(Kolter, R. et al., 1978, Plasmid 1, 571)由来であるプラスミド、そして分子シャペロンの発現は複製部位がP15A由来であるプラスミドを使用することができる。これらのプラスミドに互いに異なる薬剤耐性遺伝子を含ませることで3種のプラスミドをバクテリア内部で安定的に複製させることが可能である。
本発明で使用できる分子シャペロンは、これに定義されるもの全てを含むが、その分子種の多様性は高い。例えばシャペロニンの場合、グループ1型と2型に分類されており、前者にはバクテリア、ミトコンドリア若しくは葉緑体のものが属し、後者には古細菌及び真核生物細胞質由来のものが属するが、いずれのグループのものでも蛋白質の折りたたみを改善する効果が期待でき、本発明において使用可能である。
シャペロニンのサブユニットは、頂上ドメイン(apical domain)、中間ドメイン(intermediate domain)、及び赤道ドメイン(equatorial domain)の3つのドメインから構成されており、頂上ドメインは不安定な蛋白質の折りたたみ中間体を特異的に捉えて結合する活性を有し、シャペロニンの蛋白質折りたたみ機能において特に重要な役割を果たしている。従って、本発明のバクテリアにおいて、目的蛋白質又はペプチドを、シャペロニンの全長又はその頂上ドメインのペプチドと共発現させたり、融合蛋白質として発現させることは有効である。本発明におい
ては、分子シャペロンの部分ペプチド、例えばシャペロニンの場合には頂上ドメインを含む部分ペプチドを、目的蛋白質又はペプチドと共発現又は融合蛋白質として発現させることを含む。
PPIaseは、シクロフィリン(サイクロスポリン結合性蛋白質)、FKBP(FK506 binding protein)、及びパーブリンの3種に分類されるが、これらは全て蛋白質中のプロリン残基の立体異性化反応を触媒する。中でも古細菌由来FKBPは、PPIase活性以外に蛋白質の折りたたみ中間体の凝集形成を抑制する分子シャペロン様の活性を持つ(Furutani,M.et al.Biochemistry(2000)39,453;Ideno,A.et al.Biochem.J.(2001)357,465)。古細菌のFKBPの中には、PPIase活性自体は殆ど無いが、強い分子シャペロン様活性を有するものも存在する(Ideno,A.et al.Eur.J.Biochem.(2000)267,3139)。従って、不溶性凝集体の形成抑制を効果的に行うには、PPIaseの中でも古細菌由来のFKBPと、目的蛋白質又はペプチドとを共発現したり、あるいはこれらを融合蛋白質として発現させることが好ましい。
目的蛋白質又はペプチドと分子シャペロン又はその部分ペプチドとを融合蛋白質として発現させる場合には、使用する分子シャペロンの種類及び由来に応じて、融合蛋白質における目的蛋白質又はペプチドと分子シャペロン又はその部分ペプチドの数の比を選択することが好ましい。例えば、分子シャペロン:目的蛋白質の比がn:1(n=約1.0〜9.0)となることが好ましい。
融合蛋白質における目的蛋白質又はペプチドと分子シャペロン又はその部分ペプチドとの連結パターンとしては、分子シャペロン又はその部分ペプチドのC末端若しくはN末端、又は分子シャペロンが連結しているその連結部に目的蛋白質又はペプチドを配置することが好ましい。また、目的蛋白質又はペプチドの細胞膜に対する親和性が極めて高い場合には、分子シャペロン又はその部分ペプチドの複数の部分に配置することによって毒性蛋白質の発現を抑制することが可能となる。また、目的蛋白質又はペプチドと分子シャペロン又はその部分ペプチドとの連結は、限定するものではないがペプチド結合が挙げられる。さらに、目的蛋白質又はペプチドと分子シャペロン又はその部分ペプチドとの間に、トロンビンやエンテロキナーゼなどのプロテアーゼの切断配列を配置させ、発現された融合蛋白質においてその両者を切断しやすくしてもよい。
融合蛋白質として発現させるには、制限酵素を用いる方法、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いる方法などの通常の遺伝子工学手法を利用して、融合蛋白質をコードする遺伝子を構築し、これを挿入した発現ベクター又はプラスミドを宿主バクテリアに導入し、該宿主において融合蛋白質として発現させることができる。
以上のように本発明では、翻訳系が強化されたバクテリアを提供するとともに、このバクテリア宿主内で遺伝子工学的に目的蛋白質又はペプチドを分子シャペロン又はその部分ペプチドと共発現又は融合蛋白質として発現させることによって、特に真核生物のcDNAにコードされるポリペプチドを活性型蛋白質(正確に折りたたまれた蛋白質)として、不溶性凝集体の形成を抑制して高効率で生産するものである。
(4)その他の改変
以上の改変に加えて、さらに目的に応じてその他の様々な遺伝的改変と組み合わせてもよい。例えば、生産される蛋白質又はペプチドの宿主プロテアーゼによる分解を抑制するには、lon,OmpTのようなプロテアーゼをコードする構造遺伝子を欠損又は変異させればよい(Phillips,et al.1984,J.Bacteriol.15
9,283−287)。生産しようとする蛋白質又はペプチドが構造形成にS−S(ジスルフィド)結合の形成を必要する場合は、バクテリアの細胞質内を酸化的に保つために、チオレドキシン還元酵素遺伝子及びグルタチオン還元酵素をコードする遺伝子を欠損又は変異させればよい(Prinz,W.A.et al.1997,J.Biol.Chem.272,15661−15667)。また、宿主バクテリアに導入されたプラスミド内に繰り返し配列が存在する場合は、プラスミドの安定化を計るために、特定のリコンビナーゼ遺伝子を欠損又は変異させればよい。本発明が提供する宿主バクテリアの改良はこれらに限られるものではない。
2.形質転換体
本発明の形質転換体は、上記「1.バクテリア及びその製造」の項に記載のバクテリアを宿主とし、目的蛋白質又はペプチドをコードする遺伝子が導入されていることを特徴とする。
本発明において、目的蛋白質としては、特に限定されないが、A型肝炎ウィルス、B型肝炎ウィルス、C型肝炎ウィルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、インフルエンザウィルス等の病原性ウィルスゲノムにコードされる蛋白質(外被蛋白質、コア蛋白質、プロテアーゼ、逆転写酵素、インテグラーゼ等);scFV(一本鎖抗体)、Fab、(Fab)2、及び完全抗体(IgG)型である治療・診断用抗体;G蛋白質共役型受容体等の
膜受容体;血小板由来増殖因子(PDGF)、血液幹細胞成長因子、肝細胞成長因子(HGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、神経成長・栄養因子(NGF又はNF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、インスリン様成長因子(IGF)等の成長因子に属するもの;腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン(IFN)、インターロイキン(IL)、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージ・コロニー刺激因子(M−CSF)、アルブミン、ヒト成長ホルモン等に属するもの、が挙げられる。その他、ヒト、マウス及び線虫等の高等生物由来の疾病関連遺伝子産物の全てが、本発明に従って発現させる対象の目的蛋白質となり得る。
本発明においては、宿主として使用するバクテリアの性質から、可溶性蛋白質又は膜蛋白質をも目的蛋白質として発現対象とすることができる。そのような可溶性蛋白質としては、核内受容体、病原性ウイルスゲノムにコードされる蛋白質(外被蛋白質、コア蛋白質、プロテアーゼ、逆転写酵素、インテグラーゼ等)、scFv(単鎖抗体)、Fab、(Fab)2、及び完全IgG型である治療・診断用抗体、血小板増殖因子、血液幹細胞成
長因子、肝細胞成長因子、トランスフォーミング成長因子、神経成長・栄養因子、線維芽細胞成長因子、インスリン様成長因等の成長因子に属するもの、腫瘍壊死因子、インターフェロン、インターロイキン、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、マクロファージ・コロニー刺激因子、アルブミン、ヒト成長ホルモン等が好ましく、また膜蛋白質としては、チロシンカイネース型受容体、G蛋白質共役型受容体、イオンチャンネル構成蛋白質及びイオンチャンネル共役型膜貫通型受容体等が好ましい。
また本発明においては、宿主として使用するバクテリアの性質から、分子量が大きい蛋白質、例えば分子量が15〜800キロダルトン、好ましくは100〜500キロダルトンの蛋白質をも目的蛋白質として生産することができる。
さらに本発明においては、上記目的蛋白質の部分ペプチドをコードする遺伝子をバクテリアに導入し、本発明の形質転換体を作製してもよい。その場合、部分ペプチドは、蛋白質の全長アミノ酸配列のうち6残基以上のアミノ酸からなるものとすることができる。従って、本発明の形質転換体は、目的蛋白質をコードするcDNAのうち、6残基以上のアミノ酸配列をコードする部分配列が導入されたものであってもよい。
形質転換体は、適当なプラスミド又はベクターに所望の目的蛋白質又はペプチドをコードする遺伝子、並びにこれらの遺伝子を発現させるのに必要な配列を連結(挿入)することによりプラスミド又はベクターを構築し、該プラスミド又はベクターを宿主バクテリアに導入することにより得ることができる。
本発明で使用するプラスミド又はベクターとしては、宿主バクテリア中で複製可能なものであれば特に限定されない。例えば、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどが挙げられる。
プラスミドDNAとしては、放線菌由来のプラスミド(例えばpK4,pRK401等)、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET21,pBR322,pUC118等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110等)、酵母由来のプラスミド(例えばYEp13,YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしてはλファージ(λgt10,λZAP等)が挙げられる。
プラスミド又はベクターに遺伝子を挿入するには、まず、精製されたDNAを適当な制限酵素で切断し、それを適当なプラスミド又はベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してプラスミド又はベクターに連結する方法などが採用される。
目的蛋白質又はペプチドをコードする遺伝子は、その遺伝子の機能が発揮されるようにプラスミド又はベクターに組み込まれることが必要である。そこで、プラスミド又はベクターには、プロモーター、目的蛋白質又はペプチドをコードする遺伝子のほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを連結することができる。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
宿主がバクテリアであるため、プラスミド又はベクターDNAは、該バクテリア中で自律複製可能であると同時に、プロモーター、リボゾーム結合配列、目的蛋白質又はペプチドをコードする遺伝子、転写終結配列により構成されていることが好ましい。また、プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。プロモーターは、大腸菌等のバクテリア中で発現できるものであればいずれを用いてもよい。例えばtrpプロモーター、lacプロモーターなどの、大腸菌やファージに由来するプロモーターが用いられる。tacプロモーターなどのように、人為的に設計改変されたプロモーターを用いてもよい。
また、本発明においては、上記「1.バクテリア及びその製造」の項に記載したバクテリアの改変を行うための蛋白質又はその部分ペプチドと、所望の目的蛋白質又はペプチドとを共発現させることもある。本明細書中、「共発現」とは、2つ以上の異なる蛋白質をコードする遺伝子が、同じか又は異なるプロモーターに作動可能に結合されており、同時期に発現されることを意味する。したがって、共発現が可能であるならば、上記のそれぞれの遺伝子を同一のベクター若しくはプラスミドに組み込んでもよいし、又は、異なるベクター若しくはプラスミドに組み込んでバイナリーベクターとして使用してもよい。
プラスミド又はベクターDNAを宿主バクテリアに導入する手法は、バクテリアにDNAを導入する方法であれば特に限定されず、例えば、カルシウムイオンを用いる方法、エレクトロポレーション法等が挙げられる。
3.バクテリア抽出物を含む組成物
本発明のバクテリアの抽出物は無細胞翻訳反応にも利用可能であり、これも発明の対象
となる。該抽出物を得るためには、バクテリアの細胞は比較的穏和な条件で破砕することが好ましく、例えば、ガラスビーズによる破砕、リゾチーム処理と浸透圧ショックを組み合わせた方法による破砕が挙げられる。このとき使用する緩衝液は転写、翻訳に関わる蛋白質、酵素等の活性を低下させないものが好ましく、例えばpH6.0〜7.8、10〜50mMのリン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、Hepes−KOH緩衝液等が挙げられる。また必要に応じて5〜200mMのNaCl等の塩類を添加してもよい。細胞抽出液は3000−5000gで遠心分離を行うことで、沈殿物と分離して回収されうる。無細胞翻訳反応に供するためには、得られた細胞抽出液にアミノ酸、ATP等のエネルギー物質、及びヌクレオチド等を添加して使用する。通常さらにtRNAの補充を行うが、本発明のバクテリアの抽出物を用いる場合は、補充量が少なくてすみ、経済的に優位である。
4.目的蛋白質及びペプチドの製造
本発明のバクテリアは、上述したように、tRNA含有量が増加され、かつ分子シャペロンを含むものであるため、所望の蛋白質又はペプチドを、正確な配列及び折りたたみを保ち、かつ高効率に、不溶性凝集体の形成を抑制して生産するために有用である。従って、本発明は、さらに本発明のバクテリアを用いることを特徴とする目的蛋白質又はペプチドの製造方法を提供する。
本発明において、目的蛋白質又はペプチドは、上記「2.形質転換体」の項に記載の形質転換体を培養し、その培養物から採取することにより得ることができる。「培養物」とは、培養上清、培養菌体、又は菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。本発明の形質転換体を培地で培養する方法は、バクテリアの培養に用いられる通常の方法に従って行われる。
バクテリアを培養する培地としては、バクテリアが資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、バクテリアの培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、グルコース、フラクトース、スクロース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類、そしてジベンゾフラン、ゲンチジン酸、サリチル酸等の芳香族炭化水素が用いられる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、又はその他の含窒素化合物が用いられる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
培養は、通常、振盪培養又は通気攪拌培養などの好気的条件下、25〜37℃で10〜50時間行う。培養期間中、pHは約7.4(5.0〜7.9)に保持する。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いたプラスミド又はベクターで形質転換したバクテリアを培養する場合は、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換したバクテリアを培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いたプラスミド又はベクターで形質転換したバクテリアを培養するときにはインドール酢酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
培養後、目的蛋白質又はペプチドが菌体内に生産される場合には、菌体を破砕すること
により当該目的蛋白質又はペプチドを抽出する。また、目的蛋白質又はペプチドが菌体外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離等により菌体を除去する。その後、蛋白質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、前記培養物中から目的の蛋白質又はペプチドを単離精製することができる。
また、目的蛋白質又はペプチドが、分子シャペロン又はその部分ペプチドとの融合蛋白質として生産される場合には、この融合蛋白質をそのまま精製して使用してもよいし、あるいは融合蛋白質から目的の蛋白質又はペプチドのみを分離してもよい。この分離は、培養物をエチレンジアミン四酢酸(EDTA)で処理し、マグネシウム及びATPを含有しない緩衝液に対して透析を行い、マグネシウム及びATPを取り除く。これによって分子シャペロン又はその部分ペプチドの立体構造が破壊され、目的蛋白質又はペプチドが露出することになる。また、透析内液にトロンビンなどのプロテアーゼを作用させ、目的蛋白質又はペプチドと分子シャペロン又はその部分ペプチドとの切断を行ってもよい。
目的蛋白質又はペプチドが不溶性凝集体を形成した場合には、この不溶性凝集物を回収し、リポソーム、界面活性剤、蛋白質変性剤(グアニジウム塩酸、尿素)又は適当な担体の存在下にて可溶化させ、分子シャペロン又はその部分ペプチドの存在下にて再構成(再折りたたみ)してもよい。この工程により、正しい折りたたみを有する目的蛋白質又はペプチドを再生することができる。
あるいは、当業者には周知のように、in vitro翻訳系を利用して目的蛋白質又
はペプチドを製造することも可能である。in vitro翻訳系とは、mRNA転写及
び/又は蛋白質翻訳に必要な成分が含まれ、所望の蛋白質をコードするDNA又はRNAを添加することにより、それらの成分が細胞内と同様に機能して、蛋白質が生産される系を指し、このようなin vitro翻訳系は当業者に周知である。本発明においては、
このin vitro翻訳系は、上記「3.バクテリア抽出物を含む組成物」の項に記載
の組成物を利用して行うことができる。簡単に説明すると、本発明のバクテリアの抽出物を含む組成物中に、目的蛋白質又はペプチドをコードするDNA又はRNAを添加し、該目的蛋白質又はペプチドを発現させ、その組成物から目的蛋白質又はペプチドを回収する。
5.抗体及び抗体をコードする遺伝子
人工的に調製される組換えマウス・ヒトキメラ抗体、ヒト化抗体、及びヒト抗体が、今後、蛋白医薬の中でも最も成長する素材の一つであると予測されている。従って本発明は、哺乳動物由来のcDNAから上述したように生産された目的蛋白質又はペプチドを動物に免疫することを含む、目的蛋白質又はペプチドに対する抗体の作製方法、及びその抗体をコードする遺伝子の単離方法をも包含する。
現在では、抗原(目的蛋白質又はペプチド)を動物に免疫して免疫応答を誘発することができる。動物の免疫手法は当該技術分野で周知であり、また抗体の単離も慣例的な手法に従って行うことができる。また抗体をコードする遺伝子を単離する場合には、免疫した動物の抗体産生組織からmRNAを回収し、逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって抗体可変領域に相当する遺伝子を増幅し、例えば大腸菌を用いたファージディスプレイ法(Winter,G.et al.,1994,Ann.Rev.Immunol.12,433)等によって抗体可変領域遺伝子をクローニングすることができる。クローン化された可変領域遺伝子とヒト抗体遺伝子と融合させることで、キメラ又はヒト化抗体が作製可能である。また免疫動物としてヒト抗体産生マウス(Bruggemann,M.et al.,1996,Immunol.Today 17,391;
Tomizuka,et al.,2000,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97,722)を用いることにより、直接ヒト抗体及びその遺伝子を得ることも
可能である。目的蛋白質が膜蛋白質である場合、バクテリア宿主の膜画分に蓄積する場合が多いため、バクテリア宿主自体を動物に免疫しても膜蛋白質に対する抗体及びその遺伝子は取得できる。このような膜蛋白質又はそのペプチドに対する抗体は、膜蛋白質に対するアゴニスト(作動薬)又はアンタゴニスト(拮抗薬)の作用を示すものと考えられ、医薬として多大な可能性を有する。
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕低頻度コドンに対応するtRNA遺伝子及びシャペロニン遺伝子の大腸菌への導入
大腸菌Rosetta(DE3)株(Novagen社)をクロラムフェニコール34μg/ml含むLB培地にて培養し、プラスミドpRAREを回収した。pRAREは大腸菌での低頻度コドンに対応する6個のtRNA遺伝子(proL,leuW,argW,glyT,及びileX)がpACYCプラスミドに導入されたものである(inNovation,2001,12,1−3)。
この大腸菌BL21(DE3)株をpRAREで形質転換してBL21(DE3)/pRARE株を得た。配列番号1に示された大腸菌GroEL/GroESオペロン遺伝子(GenBank No.X07850)をpET21ベクター(Novagen社)に挿入した後、GroEL/GroES遺伝子のT7系発現ユニットをBglII−SalIを用いる制限酵素反応によって切り出した。これをpSC101(Cohen,SN.et al.,1977,J.Bacteriol.132,734)の誘導体(複製領域:R6−5)に導入し、pTCPNを構築した。コンピテント化したBL21(DE3)/pRARE株をpTCPNで形質転換し、クロラムフェニコール34μg/ml及びカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天培地にてコロニーを選抜することによって大腸菌の低頻度コドンに対応する6個のtRNA遺伝子、及びシャペロニンGroEL/GroES遺伝子が補充された大腸菌BL21(DE3)/pRARE/pTCPN株を得た。
〔実施例2〕大腸菌BL21(DE3)/pRARE/pTCPN株でのアクチン蛋白質の発現
配列番号2に示されたヒト由来アクチン遺伝子(GenBank No.X00351)をpET21に挿入し、発現ベクターpACTを得た。pACTを用いて実施例1で得られた大腸菌BL21(DE3)/pRARE/pTCPN株を形質転換し、アンピシリン100μg/ml、クロラムフェニコール34μg/ml、及びカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天培地にて培養し、生育した10コロニーを同様の薬剤を含有したLB液体培地200mlに接種し、37℃で培養した。OD600が1.5に到達した時点で、1mM IPTGを添加し、さらに4時間培養した。コントロール実験として、pRARE若しくはpTCPNのみが導入されたBL21(DE3)株、あるいはBL21(DE3)株でのアクチン蛋白質の発現も行った。
各発現実験の菌体を回収した後、超音波破砕し、遠心分離によって上清と沈殿を得た。これらをドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分離した後、SDS−PAGEデータからEDAS200電気泳動システム(Invitrogen社)によって各バンドの面積を数値化して発現レベルを定量し、各サンプルにおける発現した組換えアクチン蛋白質の細胞質可溶性全蛋白質に対する含有量
(%)を算出した。またアクチン蛋白質の発現は、抗アクチンポリクローナル抗体を用いるウエスタンブロッティングによって確認した。BL21(DE3)株及びBL21(DE3)/pTCPN株ではアクチン蛋白質はほとんど発現しなかったが、BL21(DE3)/pRARE株では発現することがわかった。しかし、大部分は沈殿画分に生成していた。tRNA及びGroEL/GroES遺伝子が補充された株、BL21(DE3)/pRARE/pTCPNでは細胞質可溶性全蛋白質の10%までアクチン蛋白質が発現していることがわかった。GroES/GroELによってアクチンの凝集形成が抑制されたものと考えられる。
〔実施例3〕大腸菌BL21(DE3)/pRARE/pTCPN株でのチューブリン蛋白質の発現
配列番号3に示されたヒト由来チューブリン遺伝子(GenBank No.K00558)をpET21に挿入し、発現ベクターpTUBを得た。pTUBを用いて実施例1で得られた大腸菌BL21(DE3)/pRARE/pTCPN株を形質転換し、アンピシリン100μg/ml、クロラムフェニコール34μg/ml、及びカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天培地にて培養し、生育した10コロニーを同様の薬剤を含有したLB液体培地200mlに接種し、37℃で培養した。OD600が1.5に到達した時点で、1mM IPTGを添加し、さらに4時間培養した。コントロール実験としてpRARE若しくはpTGROのみが導入されたBL21(DE3)株、あるいはBL21(DE3)株でのチューブリン蛋白質の発現も行った。
各発現実験の菌体を回収した後、超音波破砕し、遠心分離によって上清と沈殿を得た。これらをSDS−PAGEによって分離した後、SDS−PAGEデータからEDAS200電気泳動システム(Invitrogen社)によって各バンドの面積を数値化して発現レベルを定量し、各サンプルにおける発現した組換えチューブリン蛋白質の細胞質可溶性全蛋白質に対する含有量(%)を算出した。またチューブリン蛋白質の発現は抗チューブリンポリクローナル抗体を用いるウエスタンブロッティングによって確認した。BL21(DE3)株及びBL21(DE3)/pTCPN株ではチューブリン蛋白質はほとんど発現しなかったが、BL21(DE3)/pRARE株では発現することがわかった。しかし、大部分は沈殿画分に生成していた。tRNA及びGroEL/GroES遺伝子が補充された株、BL21(DE3)/pRARE/pTCPNでは細胞質可溶性全蛋白質の10%までチューブリン蛋白質が発現していることがわかった。GroES/GroELによってチューブリンの凝集形成が抑制されたものと考えられる。
〔実施例4〕低頻度コドンに対応するtRNA遺伝子及びペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼ遺伝子の大腸菌への導入
配列番号4に示された古細菌Thermococcus KS−1株由来FKBP型ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼ(TcFK)遺伝子(GenBank No.AB012209)をpET21に挿入し、制限酵素BglII−BamHIによってT7系のTcFKの発現ユニットを切り出し、実施例1と同様にpSC101誘導体ベクターに挿入し、pRTFKを構築した。pRTFKを用いて実施例1で作製された大腸菌BL21(DE3)/pRARE株を形質転換して、クロラムフェニコール34μg/m
l及びカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天培地にて生育コロニーを分離し、tR
NA及びTcFK遺伝子が補充された大腸菌BL21(DE3)/pRARE/pRTFK株を得た。
〔実施例5〕大腸菌BL21(DE3)/pRARE/pRTFK株でのアクチン蛋白質の発現
配列番号2に示されたヒト由来アクチン遺伝子(GenBank No.X00351)をpET21に挿入し、発現ベクターpACTを得た。pACTを用いて実施例1で得
られた大腸菌BL21(DE3)/pRARE/pRTFK株を形質転換し、アンピシリン100μg/ml、クロラムフェニコール34μg/ml、及びカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天培地にて培養し、生育した10コロニーを同様の薬剤を含有したLB液体培地200mlに接種し、37℃で培養した。OD600が1.5に到達した時点で、1mM IPTGを添加し、さらに4時間培養した。コントロール実験としてpRARE若しくはpRTFKのみが導入されたBL21(DE3)株、あるいはBL21(DE3)株でのアクチン蛋白質の発現も行った。
各発現実験の菌体を回収した後、超音波破砕し、遠心分離によって上清と沈殿を得た。これらをSDS−PAGEによって分離した後、SDS−PAGEデータからEDAS200電気泳動システム(Invitrogen社)によって各バンドの面積を数値化して発現レベルを定量し、各サンプルにおける発現した組換えアクチン蛋白質の細胞質可溶性全蛋白質に対する含有量(%)を算出した。またアクチン蛋白質の発現は抗アクチンポリクローナル抗体を用いるウエスタンブロッティングによって確認した。BL21(DE3)株及びBL21(DE3)/pRTFK株ではアクチン蛋白質はほとんど発現しなかったが、BL21(DE3)/pRARE株では発現することがわかった。しかし、大部分は沈殿画分に生成していた。tRNA及びTcFK遺伝子が補充された株、BL21(DE3)/pRARE/pRTFKでは細胞質可溶性全蛋白質の10%までアクチン蛋白質が発現していることがわかった。TcFKによってアクチンの凝集形成が抑制されたものと考えられる。
〔実施例6〕大腸菌BL21(DE3)/pRARE/pRTFK株でのチューブリン蛋白質の発現
配列番号3に示されたヒト由来チューブリン遺伝子(GenBank No. K00558)をpET21に挿入し、発現ベクターpTUBを得た。このpTUBを用いて実施例1で得られた大腸菌BL21(DE3)/pRARE/pRTFK株を形質転換し、アンピシリン100μg/ml、クロラムフェニコール34μg/ml、及びカナマイシン50μg/mlを含むLB寒天培地にて培養し、生育した10コロニーを同様の薬剤を含有したLB液体培地200mlに接種し、37℃で培養した。OD600が1.5に到達した時点で、1mM IPTGを添加し、さらに4時間培養した。コントロール実験としてpRARE若しくはpRTFKのみが導入されたBL21(DE3)株、あるいはBL21(DE3)株でのチューブリン蛋白質の発現も行った。
各発現実験の菌体を回収した後、超音波破砕し、遠心分離によって上清と沈殿を得た。これらをSDS−PAGEによって分離した後、SDS−PAGEデータからEDAS200電気泳動システム(Invitrogen社)によって各バンドの面積を数値化して定量し、各サンプルにおける発現した組換えチューブリン蛋白質の細胞質可溶性全蛋白質に対する含有量(%)を算出した。またチューブリン蛋白質の発現は抗チューブリンポリクローナル抗体を用いるウエスタンブロッティングによって確認した。BL21(DE3)株及びBL21(DE3)/pRTFKではチューブリン蛋白質はほとんど発現しなかったが、BL21(DE3)/pRARE株では発現することがわかった。しかし、大部分は沈殿画分に生成していた。tRNA及びTcFKが補充された株、BL21(DE3)/pRARE/pRTFKでは細胞質可溶性全蛋白質の10%までチューブリン蛋白質が発現していることがわかった。TcFKによってチューブリンの凝集形成が抑制されたものと考えられる。
本発明により、tRNA含有量が増加され、かつ分子シャペロンを含むバクテリアが提供される。このバクテリアは、所望の蛋白質又はペプチドを、正確な配列及び折りたたみを保ち、かつ高効率に生産するために有用である。

Claims (24)

  1. tRNAの含有量が増加され、かつ分子シャペロン又はその部分ペプチドが補充されていることを特徴とするバクテリア。
  2. tRNAが、バクテリアにおける使用頻度の低いコドンの少なくとも1つに対応するtRNAである請求項1記載のバクテリア。
  3. 分子シャペロン又はその部分ペプチドの補充が、該分子シャペロン又はその部分ペプチドをコードする遺伝子の導入により行われる、請求項1又は2記載のバクテリア。
  4. バクテリアにおける使用頻度が低いコドンの少なくとも1つに対応するtRNAをコードする遺伝子を含むプラスミド、及び分子シャペロン又はその部分ペプチドをコードする遺伝子を含むプラスミドを有することを特徴とするバクテリア。
  5. 2つのプラスミドがそれぞれゲノム当たり15コピー以上複製され得るものである請求項4記載のバクテリア。
  6. バクテリアにおける使用頻度が低いコドンの少なくとも1つに対応するtRNAをコードする遺伝子がゲノムに組み込まれ、かつ分子シャペロン又はその部分ペプチドをコードする遺伝子を含むプラスミドを有することを特徴とするバクテリア。
  7. 分子シャペロンが、シャペロニン、HSP90、HSP70、HSP40、HSP25、ペプチジルプロリルシストランスイソメラーゼ、ジスルフィドイソメラーゼ、プロティンジスルフィドイソメラーゼ及びチオレドキシンからなる群より選択される少なくとも1つである請求項1〜6のいずれか1項に記載のバクテリア。
  8. バクテリアが大腸菌である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のバクテリア。
  9. 以下の工程:
    (a)バクテリアにおいてtRNAの含有量を増加させる工程;及び
    (b)バクテリアにおいて分子シャペロン又はその部分ペプチドを補充する工程;
    を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載のバクテリアを製造する方法。
  10. 以下の工程:
    (a)バクテリアにおける使用頻度が低いコドンの少なくとも1つに対応するtRNAをコードする遺伝子を含むプラスミドを該バクテリアに導入する工程;及び
    (b)少なくとも1つの分子シャペロン又はその部分ペプチドをコードする遺伝子を含むプラスミドをバクテリアに導入する工程;
    を含む、請求項4又は5記載のバクテリアを製造する方法。
  11. 以下の工程:
    (a)バクテリアにおける使用頻度が低いコドンの少なくとも1つに対応するtRNAをコードする遺伝子を該バクテリアのゲノムに導入する工程;及び
    (b)少なくとも1つの分子シャペロン又はその部分ペプチドをコードする遺伝子を含むプラスミドをバクテリアに導入する工程;
    を含む、請求項6記載のバクテリアを製造する方法。
  12. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のバクテリアに目的蛋白質又はペプチドをコードする遺伝子が導入されていることを特徴とする形質転換体。
  13. 目的蛋白質又はペプチドが膜蛋白質である、請求項12記載の形質転換体。
  14. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のバクテリアの粗抽出物を含むことを特徴とする組成物。
  15. 請求項12又は13記載の形質転換体を培養し、得られる培養物から目的蛋白質又はペプチドを回収することを特徴とする、目的蛋白質又はペプチドの製造方法。
  16. 目的蛋白質又はペプチドをコードする遺伝子を、少なくとも1つの分子シャペロン又はその部分ペプチドをコードする遺伝子と共発現することを特徴とする請求項15記載の方法。
  17. 目的蛋白質又はペプチドを、少なくとも1つの分子シャペロン又はその部分ペプチドとの融合蛋白質として発現することを特徴とする請求項15記載の方法。
  18. 目的蛋白質又はペプチドが分子シャペロン又はその部分ペプチドのC末端側に融合する、請求項17記載の方法。
  19. in vitro翻訳系において、請求項14記載の組成物を用いて目的蛋白質又はペ
    プチドを産生することを特徴とする、目的蛋白質又はペプチドの製造方法。
  20. 目的蛋白質又はペプチドをコードする遺伝子が、真核生物由来cDNAの全長配列、又は6残基以上のアミノ酸配列をコードするその部分配列である、請求項15〜19のいずれか1項に記載の方法。
  21. 請求項15〜20のいずれか1項に記載の方法により製造された目的蛋白質若しくはペプチド、請求項12若しくは13記載の形質転換体若しくはその膜画分成分、又は請求項14記載の組成物のいずれかを動物に免疫する工程を含むことを特徴とする、目的蛋白質又はペプチドに対する抗体の作製方法。
  22. 請求項21記載の方法によって得られる抗体。
  23. 請求項21に記載される免疫動物より抗体遺伝子を分離する工程を含むことを特徴とする、目的タンパク質又はペプチドに対する抗体をコードする遺伝子の調製方法。
  24. 請求項23に記載の方法によって得られる抗体遺伝子、及び抗体の抗原認識領域の6残基以上のペプチドをコードする遺伝子。
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