JP2005037510A - 平版印刷版、その製造方法、および平版印刷版製造装置 - Google Patents

平版印刷版、その製造方法、および平版印刷版製造装置 Download PDF

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Yuzo Inukai
祐蔵 犬飼
Hiroshi Ando
弘 安藤
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Abstract

【課題】感光層の膜強度が低い場合にも感光層を損傷させることなく上層を形成できる平版印刷版の製造方法、平版印刷版製造装置、平版印刷版の提供。
【解決手段】支持体ウェブを一定方向に搬送しつつ、前記支持体ウェブの少なくとも一方の面に感光層を形成する感光層形成工程と、前記感光層の表面に塗布液を塗布、乾燥して上層を形成する上層形成工程とを有し、前記上層形成工程においては、回転塗布手段を、前記支持体ウェブの搬送速度に対して0.9〜1.1倍の周速で回転させて前記塗布液を塗布することを特徴とする平版印刷版の製造方法、平版印刷版製造装置、前記製造方法で製造された平版印刷版。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、平版印刷版、その製造方法、および平版印刷版製造装置に関し、特に、支持体ウェブに形成された感光層の膜強度が低い場合にも、前記感光層が製造中に破損することを効果的に防止できる平版印刷版の製造方法、前記製造方法で製造された平版印刷版、および前記製造方法に使用される平版印刷版製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
平版印刷版は、通常、アルミニウムウェブの一方の面を粗面化した支持体ウェブの粗面化面に感光層形成液を塗布し、乾燥して感光層を形成し、更に必要に応じて前記感光層に塗布液を塗布して乾燥し、上層を形成する(特許文献1)。
【0003】
感光層に塗布液を塗布する塗布装置としては、ビード塗布のような非接触式の塗布装置およびバー塗布やグラビア塗布のような接触式の塗布装置がある。
【0004】
近年、前記感光層として、レーザ光で走査して直に露光するタイプの感光層を形成したダイレクト製版型平版印刷版が広く使用されるようになってきた。
【0005】
レーザ光で直接書込みをする感光層には、赤外レーザ光で露光するサーマル型感光層と、可視レーザ光で露光するフォトポリマー型感光層とがある。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−129459号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
サーマル型感光層は膜強度が高いので、接触式の塗布方法で塗布液を塗布することができる。
【0008】
一方、フォトポリマー型感光層には光重合性感光層と光による可溶性の増大を利用するポジ型感光層とがあるが、何れも膜強度が低い。とくに、光重合性感光層中のエチレン性不飽和化合物の割合を増加させると、感光層の感度および露光後の耐刷性は向上するが、露光前の膜強度が低下する上、表面が常温でも接着性を帯びるようになる。
【0009】
したがって、バーコータなどの接触式の塗布装置で塗布液を塗布する場合において、ラップ角を大きくしたときには、バーと支持体ウェブとの間の面圧が高くなり、膜面に押し傷や剥れが生じやすくなる。
【0010】
この現象を回避するには、ラップ角を小さくすることが有効であるが、ラップ角を小さくして面圧を下げ過ぎると、感光層の膜面との接触抵抗によってバーが回転する力よりも、前記バーの回転抵抗の方が大きくなって回転不良を起こし、塗布液の塗布が殆ど不可能になるという問題が生じやすくなる。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みて成されたものであり、光重合性感光層中のエチレン性不飽和化合物の割合を増加させたときのように感光層の膜強度が低い場合にも、中間層形成液などの塗布液を前記感光層の表面に安定に塗布でき、中間層などの上層を安定に形成できる平版印刷版の製造方法、前記製造方法を効果的に実施できる平版印刷版製造装置、および感光層に上層が重ねて形成された平版印刷版において、感光層の膜強度が低い場合にも感光層に欠陥が存在しない平版印刷版を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、支持体ウェブを一定方向に搬送しつつ、前記支持体ウェブの少なくとも一方の面に感光層を形成する感光層形成工程と、前記感光層の表面に塗布液を塗布、乾燥して上層を形成する上層形成工程とを有し、前記上層形成工程においては、回転塗布手段を、前記支持体ウェブの搬送速度に対して0.9〜1.1倍の周速で回転させて前記塗布液を塗布することを特徴とする平版印刷版の製造方法に関する。
【0013】
前記平版印刷版の製造方法においては、回転塗布手段を、前記支持体ウェブの搬送速度にほど等しい周速で回転させているから、回転塗布手段から感光層に及ぼされる面圧が低い場合においても、前記回転塗布手段の回転不良が生じることがない。また、前記回転塗布手段が感光層の膜表面で擦られることもない。
【0014】
したがって、感光層の膜強度が低い場合にも、塗布液が安定して塗布される上、感光層が前記回転塗布手段によって擦られて損傷することがない。
【0015】
前記回転塗布手段は、支持体ウェブが搬送されるのに合わせて回転しつつ塗布液を塗布する機能を有し、具体的にはバーコータにおけるワイヤバー、およびグラビアコータやロールコータにおける塗布ローラなどが挙げられる。
【0016】
前記塗布液としては、たとえば中間層を形成する中間層形成液などがある。
【0017】
上層は、前記感光層に重ねて形成される層であればどのようなものであってもよいが、具体的には中間層などがある。
【0018】
なお、前記支持体ウェブの搬送速度に対して0.9〜1.1倍の周速で回転塗布手段を回転させて塗布液を塗布する塗布方法は、一定方向に搬送される帯状体に塗布液を塗布する塗布方法であれば、平版印刷版の製造以外にも適用できる。ここで、前記支持体ウェブは、前記帯状体の一例である。したがって、前記塗布方法は、たとえば、アセテートフィルムやポリエステルフィルム、バライタ紙に感光乳剤を塗布、乾燥して写真フィルムや映画フィルム、印画紙などの銀塩写真材料を製造する場合や、磁気記録材料をポリエステルフィルムなどの基材に塗布、乾燥してオーディオテープやビデオテープ、フロッピディスクなどの磁気記録材料を製造する場合などに適用できる。
【0019】
請求項2に記載の発明は、帯状のアルミニウムウェブの少なくとも一方の面を粗面化した支持体ウェブを一定方向に搬送しつつ、前記粗面化面に光重合性感光層を形成する光重合性感光層形成工程と、前記光重合性感光層の表面に中間層形成液を塗布、乾燥して非接着性の中間層を形成する中間層形成工程とを有し、前記中間層形成工程においては、表面にワイヤが巻回されたワイヤバーを、前記支持体ウェブの搬送速度に対して0.9〜1.1倍の周速で回転させて前記中間層形成液を塗布することを特徴とする平版印刷版の製造方法に関する。
【0020】
前記平版印刷版の製造方法においては、光重合性感光層の表面に中間層形成液を塗布するのにワイヤバーを用い、しかも、支持体ウェブの搬送速度とほぼ等しい回転速度で回転させて塗布しているから、前記ワイヤバーは、表面が中間層形成液によって均一に被覆された状態で光重合性感光層の表面に当接すると考えられる。したがって、光重合性感光層の表面には中間層形成液が均一に塗布されるから、前記光重合性感光層が接着性を帯びていても、前記光重合性感光層が中間層によって完全に被覆されるので、前記支持体ウェブの前記光重合性感光層が形成された側の面に搬送ローラが当接しても、光重合性感光層が搬送ローラに付着して傷付きや破損が生じたり、搬送ローラが汚れたりすることはない。
【0021】
その上、ワイヤバーが光重合性感光層に直接に接触することがないから、ワイヤバーに光重合性感光層が付着してワイヤバーが目詰まりしたり、光重合性感光層の表面にワイヤ押し痕がついたりすることもない。
【0022】
更に、前記ワイヤバーを有するワイヤバーコータは寸法が小さいから設置スペースが少なくて済む。また、少量の中間層形成液を高精度の厚みで塗布できるから、塗布設備コストを抑えることができ、また、中間層のように比較的薄い層の形成に好適である。
【0023】
なお、ワイヤバーの周速が前記支持体ウェブの搬送速度に対して0.95〜1.05倍の範囲であれば、支持体ウェブの温度が高い場合においてもワイヤバーに光重合性感光層が付着してワイヤバーが目詰まりしたり、光重合性感光層の表面にワイヤ押し痕がついたりしないから好ましい。
【0024】
請求項3に記載の発明は、前記中間層形成工程において、前記ワイヤバーを前記支持体ウェブに従動回転させる平版印刷版の製造方法に関する。
【0025】
前記平版印刷版の製造方法においては、ワイヤバーを駆動するバー駆動手段を省略できるから、製造ラインが簡略になる。
【0026】
請求項4に記載の発明は、前記中間層形成工程において、前記ワイヤバーを前記範囲の回転速度で駆動回転させる平版印刷版の製造方法に関する。
【0027】
前記平版印刷版の製造方法においては、支持体ウェブを前記ワイヤバーに特に大きなラップ角で巻き掛けなくても前記ワイヤバーは、前記支持体ウェブの搬送速度とほぼ等しい周速で回転するから、ワイヤバーの表面に光重合性感光層が付着したり、ワイヤバーの表面に付着した光重合性感光層によってワイヤが目詰まりしたりすることがない。
【0028】
請求項5に記載の発明は、前記中間層形成工程において、前記支持体ウェブの搬送速度を測定し、前記測定結果に基づいて前記搬送速度に実質的に等しい周速で前記ワイヤバーを駆動回転させる平版印刷版の製造方法に関する。
【0029】
前記平版印刷版の製造方法においては、たとえラップ角が0であっても、ワイヤバーは、前記支持体ウェブの搬送速度と実質的に等しい周速で回転するから、低い面圧で中間層形成液を塗布できる。
【0030】
したがって、エチレン性不飽和化合物の含有量が多い場合のように光重合性感光層の膜強度が低い場合においても、ワイヤバーの表面に光重合性感光層が付着したり、ワイヤバーの表面に付着した光重合性感光層によってワイヤが目詰まりした、ワイヤバーによって光重合性感光層が剥れたり押し傷がついたりすることなく、均一な厚さで中間層形成液を塗布できる。
【0031】
「支持体ウェブの搬送速度と実質的に等しい周速で回転させる」のであるから、前記搬送速度に対して通常は0.95〜1.05倍、好ましくは0.97〜1.03倍、特に好ましくは0.99〜1.01倍の周速で前記ワイヤバーを回転させる。
【0032】
請求項6に記載の発明は、前記光重合性感光層が、エチレン性不飽和化合物と高分子バインダと光重合開始剤とを含有する平版印刷版の製造方法に関する。
【0033】
前記製造方法で得られる平版印刷版は従来のPS版と類似している故に、従来のPS版と同様に取り扱うことができるから信頼性が高い。
【0034】
請求項7に記載の発明は、前記エチレン性不飽和化合物と高分子バインダとの重量比が1.3以上である平版印刷版の製造方法に関する。
【0035】
前記製造方法で得られる平版印刷版は、レーザ光の照射により光重合するエチレン性不飽和化合物が高分子バインダよりも多いから高い感度が得られ、更に露光、現像後の耐刷性にも優れている。
【0036】
請求項8に記載の発明は、前記エチレン性不飽和化合物と高分子バインダとの重量比が1.3〜2.5である平版印刷版の製造方法に関する。
【0037】
前記製造方法で得られる平版印刷版は、露光時の感度および露光、現像後の耐刷性に特に優れている上に、中間層形成工程においてワイヤバーによって表面が影響を受けることがない点でも好ましい。
【0038】
請求項9に記載の発明は、前記中間層形成工程で塗布される中間層形成液が水溶性ポリマー水溶液を主成分とする平版印刷版の製造方法に関する。
【0039】
光重合性感光層は、通常、有機溶剤を溶媒とする光重合性感光層を塗布して乾燥することにより形成される。
【0040】
したがって、中間層形成液に水溶性ポリマー水溶液を主成分とする水性塗布液を使用すれば、中間層形成液によって光重合性感光層が悪影響を受けることは殆どない。また、現像に水系の弱アルカリ性現像液を用いる場合には、現像と同時に中間層を除去できるという特長もある。
【0041】
請求項10に記載の発明は、前記中間層形成液が含有する水溶性ポリマーが、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンから選択される少なくとも1種である平版印刷版の製造方法に関する。
【0042】
ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンは何れも高い酸素遮断性を有しているから、前記製造方法において形成される中間層は酸素遮断性の皮膜である。
【0043】
したがって、前記製造方法で得られる平版印刷版においては、光重合性感光層は、オーバーコート層だけでなく中間層によっても空気中の酸素から保護されるから、前記平版印刷版は保存安定性に優れる。
【0044】
請求項11に記載の発明は、前記中間層形成工程で塗布される中間層形成液の粘度が1〜20mPa・s(25℃)である平版印刷版の製造方法に関する。
【0045】
請求項12に記載の発明は、前記ワイヤバーに巻回されたワイヤの直径が0.04〜0.4mmの範囲である平版印刷版の製造方法に関する。
【0046】
請求項13に記載の発明は、前記ワイヤバーのロッド径が5〜13mmである平版印刷版の製造方法に関する。
【0047】
これらの製造方法においては、中間層形成液の粘度、ワイヤバーに巻回されるワイヤの直径、およびワイヤバーのロッド径を、それぞれ前記の範囲に設定しているから、ワイヤバーへの中間層形成液の付着や目詰まり、光重合性感光層におけるワイヤ押し痕の発生を防止できる。
【0048】
請求項14に記載の発明は、前記中間層形成工程において前記ワイヤバーのラップ角が3〜20度になるように前記中間層の塗布を行う平版印刷版の製造方法に関する。
【0049】
前記製造方法においては、ワイヤバーを支持体ウェブに従動回転させる場合において、ワイヤバーが前記支持体ウェブによく追従するから、ワイヤバーの追従遅れに起因するワイヤバーへの中間層形成液の付着や目詰まり、光重合性感光層におけるワイヤ押し痕の発生を防止できる。ただし、請求項4および5に記載したようにワイヤバーを駆動回転させる場合には、ラップ角は、前記範囲よりも小さくてもよい。
【0050】
請求項15に記載の発明は、前記中間層形成工程において前記支持体ウェブを前記ワイヤバーに20〜250kg/mの張力で巻き掛ける平版印刷版の製造方法に関する。
【0051】
前記製造方法においては、支持体ウェブの張力を前記範囲に設定しているから、前記ワイヤバーによって支持体ウェブの表面に中間層形成液が均一に塗布される上に、支持体ウェブが前記ワイヤバーに過剰な押圧力で押圧されて、表面に形成された光重合性感光層の表面にワイヤー押し痕が付くことがない点で好ましい。
【0052】
請求項16に記載の発明は、前記中間層の表面にオーバーコート層を形成するオーバーコート層形成工程を有する平版印刷版の製造方法に関する。
【0053】
前記平版印刷版の製造方法においては、光重合性感光層が中間層で被覆された状態においてオーバーコート層を形成するから、光重合性感光層の表面が粘着性を帯びている場合においても、光重合性感光層を破損させること無くオーバーコート層が形成できる。
【0054】
オーバーコート層は、光重合性感光層を保護する機能を有する層であればどのようなものであってもよいが、具体的には、酸素遮断性樹脂を主成分とする酸素遮断層が挙げられる。
【0055】
前記酸素遮断層に使用される酸素遮断性樹脂は、酸素バリア性の高い樹脂として一般に知られているものであればどのようなものでも使用できる。主なものとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、エチレン・ビニルアルコール共重合体、塩化ビニリデン・塩化ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン・酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0056】
これらの酸素遮断性樹脂は、冷水溶液、温水溶液、有機溶媒溶液、またはエマルションなどの形態で塗布できる。
【0057】
請求項17に記載の発明は、請求項2〜16の何れか1項に記載の方法によって製造されたことを特徴とする平版印刷版に関する。
【0058】
前記平版印刷版においては、光重合性感光層の表面に、均一な中間層が形成され、その上にオーバーコート層が形成されている。
【0059】
したがって、光重合性感光層の表面が接着性を帯びている場合においても、中間層を形成することにより、表面の接着性を無くすることができるから、製造ラインにおいて光重合性感光層を形成した側に搬送ローラが当接しても、光重合性感光層が搬送ローラに付着して破損するなどの事故が生じることはない。
【0060】
また、中間層として酸素遮断性樹脂の層を形成すれば、光重合性感光層の表面には、酸素遮断性を有する層として中間層とオーバーコート層とが形成されるから、既存の設備においてライン速度を上げた場合、およびオーバーコート層形成液の塗布量を減少させた場合のように、オーバーコート層にピンホールが残る可能性が高い製造条件で平版印刷版を製造した場合においても、オーバーコート層に形成されたピンホールは、その下の中間層によって塞がれる。したがって、前記ピンホールから侵入した空気中の酸素によって光重合性感光層の光重合性が失われることがないから、前記平版印刷版は、高い保存安定性を有している。
【0061】
請求項18に記載の発明は、持体ウェブを一定方向に搬送しつつ、前記支持体ウェブの少なくとも一方の面に感光層を形成する感光層形成手段と、前記感光層形成手段で形成された感光層の表面に塗布液を塗布、乾燥して上層を形成する上層形成手段とを有し、前記上層形成手段は、前記支持体ウェブに前記塗布液を塗布する回転塗布手段を有する塗布部と、前記塗布部が備える回転塗布手段を駆動回転させる駆動回転部と、前記支持体ウェブの搬送速度を測定するウェブ搬送速度検出部と、前記ウェブ搬送速度検出部における支持体ウェブ搬送速度の測定結果に基づき、前記回転塗布手段の周速が前記搬送速度に実質的に等しくなるように前記駆動回転部を制御する駆動回転制御部とを備えてなることを特徴とする平版印刷版製造装置に関する。
【0062】
前記平版印刷版製造装置においては、ウェブ搬送速度検出部において前記支持体ウェブの搬送速度を測定し、前記駆動回転制御部においては、前記搬送速度の測定結果に基づいて前記回転塗布手段の周速が前記搬送速度に実質的に等しくなるように駆動回転部を制御しているから、たとえばバーコータにおいてラップ角が0〜3度と小さな場合においても、ワイヤバーのような回転塗布手段は、前記搬送速度に実質的に等しい周速で回転する。
【0063】
したがって、感光層が、光重合性感光層やポジ型感光層のように膜強度が低い場合においても、回転塗布手段の表面に感光層が付着したり、回転塗布手段の表面に一定の模様が設けられている場合において、前記回転塗布手段が表面に付着した光重合性感光層によって前記模様が目詰まりしたり、前記回転塗布手段によって光重合性感光層が剥れたり押し傷がついたりすることなく、均一な厚さで上層形成液を塗布できる。
【0064】
「支持体ウェブの搬送速度と実質的に等しい周速で回転させる」ことについては請求項5のところで説明した通りである。
【0065】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る製造方法で製造された平版印刷版の各構成要素について詳説する。
【0066】
1.支持体ウェブ
支持体ウェブとしては、純アルミニウムまたはアルミニウム合金の帯状薄板であるアルミニウムウェブの少なくとも一方の面を粗面化したものが使用される。
【0067】
アルミニウムウェブの粗面化は、たとえば、機械的粗面化工程→アルカリエッチング工程(1)→デスマット工程(1)→電解粗面化工程→アルカリエッチング工程(2)→デスマット工程(2)という順序で行うことができる。前記各処理工程の間には水洗工程を挿入することが好ましい。
【0068】
前記機械的粗面化工程においては、アルミニウムウェブを一定方向に搬送しつつ、アルミニウムウェブの表面に研磨剤を吹きつけてローラ状のナイロンブラシで擦るブラシグレイン処理などを行うことができる。
【0069】
前記アルカリエッチング工程においては、アルミニウムウェブの両面または粗面化した側の面に苛性ソーダなどのアルカリ溶液を噴霧することにより、アルカリエッチング処理を行うことができる。アルカリエッチング工程(1)とアルカリエッチング工程(2)とにおいては、使用するアルカリ溶液の濃度や組成、温度が異なっていてもよい。
【0070】
デスマット工程においては、アルミニウムウェブの両面または粗面化した側の面に塩酸や硝酸などの酸性溶液を噴霧することにより、デスマット処理を行う。後述する電解粗面化処理においてアルミニウムウェブの表面にスマットと称する微量成分の黒色酸化物が析出するが、前記デスマット処理により除去される。デスマット工程(1)とデスマット工程(2)とにおいては、使用する酸性溶液の濃度や種類、組成、温度が異なっていてもよい。
【0071】
電解粗面化工程においては、通常は、前記アルミニウムウェブを酸性電解液中で交流電解する。酸性電解液としては、希塩酸や希硝酸が主に使用される。電解粗面化工程は1回だけでもよく、2回以上行ってもよい。
【0072】
前記粗面化処理が終了したら、前記アルミニウムウェブに陽極酸化処理を施し、次に、水ガラス溶液等により、親水化処理を施してもよい。
【0073】
前記純アルミニウムおよびアルミニウム合金としては、アルミニウムハンドブック第4版(1990、軽金属協会)に記載の、例えばJIS A 1050材、JIS A 3103材、JIS A 3005材、JIS A 1100材、JIS A 3004材、および引っ張り強度を増す目的でこれらに5重量%以下のマグネシウムを添加した合金などが挙げられる。また、再生アルミニウムも使用できる。
【0074】
2.光重合性感光層
光重合性感光層としては、たとえばエチレン性不飽和化合物と高分子バインダと光重合開始剤とを含有するものが挙げられる。
【0075】
光重合性感光層におけるエチレン性不飽和化合物と高分子バインダとの比率には特に制限はないが、重量比で、高分子バインダが1に対してエチレン性不飽和化合物は1.3以上が好ましく、中でも1.3〜2.5が好ましく、特に1.5〜2.3の範囲が好ましい。エチレン性不飽和化合物と高分子バインダとの比率を前記範囲に設定することにより、特に感度および耐刷性に優れた平版印刷版が得られる。
【0076】
また、光重合開始剤は、エチレン性不飽和化合物100重量部に対し、0.05〜100重量部、好ましくは0.1〜70重量部、更に好ましくは0.2〜50重量部の範囲で用いることができる。光重合開始剤の使用量が前記範囲内であれば、可視レーザ光を照射したときに光重合性感光層が迅速に重合、固化するから好ましい。
【0077】
光重合性感光層には、必要に応じ、増感剤、熱重合禁止剤、着色剤、可塑剤等の種々の成分を配合することができる。
【0078】
以下、各成分について詳説する。
【0079】
2−1 エチレン性不飽和化合物
エチレン性不飽和化合物としては、エチレン性不飽和二重結合を含む付加重合可能な化合物が挙げられ、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物の中から任意に選択することができる。
【0080】
これらの化合物には、例えばエチレン性不飽和モノマー、前記エチレン性不飽和モノマーの2量体や3量体などのプレポリマー、前記エチレン性不飽和モノマーの低分子量重合体であるオリゴマー、およびそれらの混合物などが包含される。
【0081】
前記エチレン性不飽和モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、およびマレイン酸などのエチレン性不飽和結合を有するエチレン性不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステルである不飽和エステルモノマー、前記エチレン性不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミドである不飽和アミドモノマーなどが挙げられる。
【0082】
不飽和エステルモノマーとしては、
エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレートアクリル酸エステルなどのアクリル酸エステル、
テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等のメタクリル酸エステル、
エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネートなどのイタコン酸エステル、
エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラジクロトネートなどのクロトン酸エステル、
エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネートなどのイソクロトン酸エステル、
エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレートなどのマレイン酸エステルなどがあげられる。
【0083】
これらの不飽和エステルモノマーは、2種以上を併用することもできる。
【0084】
前記不飽和アミドモノマーとしては、たとえば、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等があげられる。
【0085】
その他の例としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に下記の一般式(A):
CH=C(R)COOCH CH(R’)OH
(ただし、RおよびR′はH又はCHを示す。)
で示される水酸基を含有するビニルモノマーを付加させたビニルウレタン化合物等があげられる。ポリイソシアネート化合物としては、たとえば特公昭48−41708号公報中に記載されているものが挙げられる。
【0086】
また、特開昭51−37193号に記載されているようなウレタンアクリレート類、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号各公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートをあげることができる。さらに日本接着協会誌 vol. 20、No. 7、300〜308ページ(1984年)に光硬化性モノマーおよびオリゴマーとして紹介されているものも使用することができる。
【0087】
2−2 光重合開始剤
光重合開始剤としては、使用する光源の波長に応じて種々の公知な光重合開始剤を適宜選択して使用することができる。前記光重合開始剤は、2種以上を併用してもよい。
【0088】
紫外レーザ光を光源として使用する場合には、前記光重合開始剤としては、例えば、ベンジル、ベンゾインエーテル、ミヒラーズケトン、アントラキノン、アクリジン、フェナジン、ベンゾフェノン等が使用される。
【0089】
また、波長400nm以上700nm以下の可視光線、アルゴンレーザー、YAG−SHGレーザーを光源とする場合には、米国特許第2,850,445 号に記載のある種の感光性染料、染料とアミンの複合開始系(特公昭44−20189号)、ヘキサアリールビイミダゾールとラジカル発生剤と染料との併用系(特公昭45−37377号)、ヘキサアリールビイミダゾールとp−ジアルキルアミノベンジリデンケトンの系(特公昭47−2528号、特開昭54−155292号)、環状シス−α−ジカルボニル化合物と染料の系(特開昭48−84183号)、環状トリアジンとメロシアニン色素の系(特開昭54−151024号)、3−ケトクマリンと活性剤の系(特開昭52−112681号、特開昭58−15503号)、ビイミダゾール、スチレン誘導体、チオールの系(特開昭59−140203号)、有機過酸化物と色素の系(特開昭59−140203号、特開昭59−189340号)、特定のメロシアニン色素とラジカル発生剤の系(特開平2−244050、2−179643、8−129257、8−220757、8−220756、8−220755号)、チタノセンと3−ケトクマリン色素の系(特開昭63−221110号)、チタノセンとキサンテン色素さらにアミノ基あるいはウレタン基を含む付加重合可能なエチレン性不飽和化合物を組み合わせた系(特開平4−221958号、特開平4−219756号)、チタノセンと特定のメロシアニン色素の系(特開平6−295061号)チタノセンと特定のベンゾピラン色素の系(特開平8−334897号)等を挙げることができる。これらのうち、感度の観点からは、特定のメロシアニン色素とラジカル発生剤の系(特開平2−244050、2−179643、8−129257、8−220757、8−220756、8−220755号)やチタノセンと特定のメロシアニン色素の系(特開平6−295061号)チタノセンと特定のベンゾピラン色素の系(特開平8−334897号)等の光重合開始系を使用できる。
【0090】
2−3 高分子バインダ
高分子バインダは、光重合性感光層を形成するための皮膜形成剤として機能する。
【0091】
高分子バインダーとしては、線状有機ポリマーを用いることが好ましい。このような「線状有機ポリマー」としては、公知のものが使用できる。現像液として水または弱アルカリ性現像液を用いるときは、水や弱アルカリ性溶液に可溶であるかまたは膨潤する水可溶性ポリマーが好ましく、現像液として有機溶剤現像液を用いるときは、有機溶媒可溶性ポリマーが好ましい。
【0092】
水可溶性有機ポリマーとしては、側鎖にカルボン酸基を有するラジカル重合体、例えば特開昭59−44615号、特公昭54−34327号、特公昭58−12577号、特公昭54−25957号、特開昭54−92723号、特開昭59−53836号、特開昭59−71048号の各公報に記載されているもの、即ち、メタクリル酸共重合体、アクリル酸共重合体、イタコン酸共重合体、クロトン酸共重合体、マレイン酸共重合体、部分エステル化マレイン酸共重合体等がある。また同様に側鎖にカルボン酸基を有する酸性セルロース誘導体がある。この他に水酸基を有する重合体に環状酸無水物を付加させたものなどがある。
【0093】
特にこれらの中で、ベンジル基又はアリル基と、カルボキシル基を側鎖に有する(メタ)アクリル樹脂が、膜強度、感度、現像性のバランスに優れており、好適である。
【0094】
また、特公平7−12004号、特公平7−120041号、特公平7−120042号、特公平8−12424号、特開昭63−287944号、特開昭63−287947号、特開平1−271741号の各公報、特願平10−116232号明細書等に記載される酸基を含有するウレタン系バインダーポリマーは、非常に、強度に優れるので、耐刷性・低露光適性の点で有利である。
【0095】
さらにこの他に水溶性線状有機ポリマーとして、ポリビニルピロリドンやポリエチレンオキサイド等が有用である。また硬化皮膜の強度を上げるためにアルコール可溶性ナイロンや2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−プロパンとエピクロロヒドリンのポリエーテル等も有用である。
【0096】
有機溶媒可溶性ポリマーとしては、前記アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、イタコン酸エステル、クロトン酸エステル、マレイン酸エステルなどのの不飽和エステルモノマーの単独重合体および共重合体が挙げられる。また、これらの不飽和エステルモノマーと、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレンなどのスチレン系モノマーとの共重合体、および前記不飽和エステルモノマーと前記スチレン系モノマーと(メタ)アクリロニトリルとの共重合体も挙げられる。これらの共重合体は、ランダムポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマー等いずれであってもよいが、ランダムポリマーが好ましい。
【0097】
高分子バインダーとして使用されるポリマーの重量平均分子量については好ましくは5000以上であり、さらに好ましくは1万〜30万の範囲であり、数平均分子量については好ましくは1000以上であり、さらに好ましくは2000〜25万の範囲である。多分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は1以上が好ましく、さらに好ましくは1.1〜10の範囲である。
【0098】
2−4 その他の成分
また、本発明においては以上の基本成分の他に感光材料の製造中あるいは保存中において重合可能なエチレン性不飽和化合物の不要な熱重合を阻止するために少量の熱重合防止剤を添加することが望ましい。適当な熱重合防止剤としてはハイドロキノン、p−メトキシフェノール、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4′−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン第一セリウム塩等があげられる。熱重合防止剤の添加量は、全固形分の重量に対して約0.01%〜約5%が好ましい。また必要に応じて、酸素による重合阻害を防止するためにベヘン酸やベヘン酸アミドのような高級脂肪酸誘導体等を添加して、塗布後の乾燥の過程で光重合層の表面に偏在させてもよい。高級脂肪酸誘導体の添加量は、全組成物の約0.5%〜約10%が好ましい。
【0099】
更に光重合層の着色を目的として、着色剤を添加してもよい。着色剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、カーボンブラック、酸化チタンなどの顔料、エチルバイオレット、クリスタルバイオレット、アゾ染料、アントラキノン系染料、シアニン系染料がある。染料および顔料の添加量は全固形分の約0.5%〜約5%が好ましい。
【0100】
加えて、硬化皮膜の物性を改良するために、無機充填剤やジオクチルフタレート、ジメチルフタレート、トリクレジルホスフェート等の可塑剤等の添加剤を加えてもよい。
【0101】
これらの添加量は全組成物の10%以下が好ましい。
【0102】
2−5 光重合性感光層の形成
光重合性感光層は、前記エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤、高分子バインダなどの各成分を有機溶剤に溶解または懸濁させた感光層形成液を支持体ウェブに塗布し、乾燥させて形成できる。
【0103】
前記有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、酢酸エチル、エチレンジクロライド、テトラヒドロフラン、トルエン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3−メトキシプロパノール、メトキシメトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、3−メトキシプロピルアセテート、N,N−ジメチルホルムアミド,ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチルなどがある。これらの溶剤は、単独あるいは混合して使用することができる。
ここで、塗布溶液中の固形分の濃度は、2〜50重量%が好ましい。
【0104】
前記感光層形成液には、塗布面質を向上するために界面活性剤を添加することができる。
【0105】
その被覆量は乾燥後の重量に換算して約0.1g/m〜約10g/mの範囲が好ましく、0.5〜5g/mの範囲がより好ましい。
【0106】
3.中間層およびオーバーコート層
中間層は、光重合性感光層に重ねて形成される非接着性層であり、換言すれば光重合性感光層のべとつきを防止し、光重合性感光層が搬送ローラの表面に接着するのを防止する機能を有する層である。一方、オーバーコート層は、前記中間層に重ねて空気中の酸素から前記光重合性感光層を保護する機能を有している。
【0107】
中間層は、光重合性感光層が搬送ローラの表面に接着するのを防止でき、また、オーバーコート層との密着性が良好なものであれば、どのような樹脂でも使用できるが、オーバーコート層と同様に、高い酸素遮断性を有する酸素遮断性樹脂を用いることが、オーバーコート層にピンホールが残存しないようにして光重合性感光層を空気中の酸素から確実に保護できる点、およびオーバーコート層との密着性が良好な点から好ましい。
【0108】
中間層およびオーバーコート層に使用できる酸素遮断性樹脂としては、具体的には、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール/フタル酸ビニル共重合体、酢酸ビニル/ビニルアルコール/フタル酸ビニル共重合体、酢酸ビニル/クロトン酸共重合体、ポリビニルピロリドン、酸性セルロース類、ゼラチン、アラビアゴム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミドなどのような水溶性ポリマーが挙げられ、これらは単独または混合して使用できる。前記水溶性ポリマーのうちでは、酸素遮断性および現像除去性の点からポリビニルアルコールが最も好ましい。
【0109】
前記酸素遮断性樹脂としては、ほかに、塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合体樹脂、塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体樹脂のような塩化ビニリデン樹脂、およびエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂など、酸素遮断性が高い樹脂として一般に知られているものが挙げられる。
【0110】
前記ポリビニルアルコールは、必要な酸素遮断性と水溶性を付与するのに充分な数の未置換ビニルアルコール単位を有している限り、ビニルアルコール単位の水酸基の一部がエステル、エーテル、およびアセタールで置換されていても良く、また、ビニルアルコールと他のモノマーとの共重合体の形態を有していても良い。
【0111】
ポリビニルアルコールの具体例としては71〜100%加水分解され、重合繰り返し単位が300から2400の範囲のものをあげることができる。具体的には、株式会社クラレ製のPVA−105、PVA−110、PVA−117、PVA−117H、PVA−120、PVA−124、PVA−124H、PVA−CS、PVA−CST、PVA−HC、PVA−203、PVA−204、PVA−205、PVA−210、PVA−217、PVA−220、PVA−224、PVA−217EE、PVA−217E、PVA−220E、PVA−224E、PVA−405、PVA−420、PVA−613、L−8等が挙げられる。
【0112】
前記酸素遮断性樹脂の種類は、所望の酸素遮断性・現像除去性の他、カブリ性、光重合性感光層およびオーバーコート層との密着性を考慮して決定することができる。また、中間層においては、オーバーコート層と同一の種類の酸素遮断性樹脂を使用してもよく、また,異なる種類の酸素遮断性樹脂を使用してもよいが、同一の種類の酸素遮断性樹脂を使用すれば、オーバーコート層との密着性が良くなるから好ましい。ただし、前記中間層と前記オーバーコート層とでは、酸素遮断性樹脂の分子量が異なっていてもよい。
【0113】
中間層およびオーバーコート層に使用される酸素遮断性樹脂の酸素透過係数は1×10−16〜1×10−10cm・cm/cm・sec・cmHgの範囲が適当であり、特に好ましくは1×10−15〜1×10−11cm・cm/cm・sec・cmHgである。酸素遮断性樹脂の分子量は、2000〜1000万の範囲が好ましく、特に2万〜300万の範囲のものが好ましい。
【0114】
中間層およびオーバーコート層は、前記酸素遮断性樹脂の溶液またはエマルションを主成分とする中間層形成液またはオーバーコート層形成液を塗布し、乾燥させることにより、形成できるが、前記中間層形成液としては、既に形成された光重合性感光層に対して影響を及ぼさないようなものを用いることが好ましい。
【0115】
たとえば、高分子バインダとして水可溶性ポリマーを用いたときは、中間層形成液としては塩化ビニリデン樹脂の有機溶媒溶液が好ましい。一方、高分子バインダとして有機溶媒可溶性ポリマーを用いたときは、中間層形成液としては、ポビニルアルコールやポリビニルピロリドンの水溶液、または塩化ビニリデン樹脂のエマルションが好ましい。
【0116】
中間層形成液およびオーバーコート層形成液には、更にグリセリン、ジプロピレングリコール等を前記酸素遮断性樹脂に対して数重量%配合して、得られる中間層に可撓性を付与することができる。また、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤や、アルキルアミノカルボン酸塩、アルキルアミノジカルボン酸塩等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン界面活性剤を、前記酸素遮断性樹脂に対して数重量%配合して塗布性を改善することができる。また、酸素遮断性樹脂としてポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマーを使用する場合には、光重合性感光層との密着性を高めるため、アクリル系エマルジョンまたは水不溶性ビニルピロリドン−ビニルアセテート共重合体などを前記酸素遮断性樹脂に対して20〜60重量%配合してもよい。
【0117】
5.製造ライン
中間層およびオーバーコート層の形成に使用される製造ラインの一例を図1に示す。
【0118】
製造ライン100は、支持体ウェブWの搬送方向aに沿って上流側から下流側に向かって連続的に搬送しつつ、支持体ウェブW上に光重合性感光層、中間層、およびオーバーコート層を順次形成して平版印刷版Pを製造するラインである。
【0119】
製造ライン100は、図1に示すように、支持体ウェブWの搬送方向aに沿って光重合性感光層形成液を塗布する感光層塗布部2と、感光層塗布部2で塗布された光重合性感光層形成液の層を乾燥して光重合性感光層を形成する感光層乾燥部4と、感光層乾燥部4を通過した支持体ウェブWを冷却する第1冷却部6と、第1冷却部6を通過した支持体ウェブWの光重合性感光層の表面に中間層形成液を塗布する中間層塗布部8と、中間層塗布部8で塗布された中間層形成液を乾燥して中間層を形成する中間層乾燥部10と、中間層乾燥部10を通過した支持体ウェブWを冷却する第2冷却部12と、第2冷却部12を通過した支持体ウェブWの中間層の表面にオーバーコート層形成液を塗布するオーバーコート層塗布部14と、オーバーコート層塗布部14で塗布されたオーバーコート層形成液を乾燥させてオーバーコート層を形成し、平版印刷原版Pとするオーバーコート層乾燥部16と、オーバーコート層乾燥部16を通過した平版印刷原版Pを冷却する第3冷却部18と、第3冷却部18で冷却された平版印刷版Pを巻き取る巻取り部20とが設けられている。
【0120】
感光層塗布部2と感光層乾燥部4との間には、搬送ローラ22が設けられ、感光層乾燥部4と第1冷却部6との間には搬送ローラ24が設けられている。また、中間層乾燥部10と第2冷却部12との間には搬送ローラ26が設けられ、第2冷却部12とオーバーコート層塗布部14との間には、搬送ローラ28、30、および32が設けられている。オーバーコート層塗布部14とオーバーコート層乾燥部16との間には、搬送ローラ34および36が設けられ、オーバーコート層乾燥部16と第3冷却部18との間には搬送ローラ38が設けられている。搬送ローラ40は、第3冷却部18と巻取り部20との間に設けられた搬送ローラである。
【0121】
感光層塗布部2、中間層塗布部8、およびオーバーコート層塗布部14にはワイヤバーコータが使用される。ワイヤバーコータが備えるワイヤバーについては[課題を解決するための手段]で述べたとおりである。
【0122】
感光層塗布部2において支持体ウェブWの粗面化面に光重合性感光層形成液が塗布され、塗布された光重合性感光層形成液は感光層乾燥部4で乾燥される。感光層乾燥部4から導出された支持体ウェブWは、温度が約100℃と高く、表面に形成された光重合性感光層は軟膜状態で傷つきやすいが、第1冷却部6を通過するうちに、60〜70℃程度に冷却される。中間層塗布部8においては、第1冷却部6を通過した支持体ウェブWの光重合性感光層に重ねて中間層形成液が塗布され、中間層乾燥部10において乾燥され、光重合性感光層の表面が中間層で被覆されることにより、光重合性感光層の表面は接着性を失う。ここで、搬送ローラ26、28、30、および32は、何れも、支持体ウェブWの光重合性感光層が形成された側の面に当接するが、前述のように、光重合性感光層の表面は中間層に被覆されて接着性を失っているので、光重合性感光層が搬送ローラ26、28、30、および32に付着することはない。また、中間層塗布部8と中間層乾燥部10との間には搬送ローラは設けられていないから、未乾燥の中間層形成液が搬送ローラに付着するトラブルが生じることもない。
【0123】
なお、感光層塗布部2およびオーバーコート層塗布部14においてはバーコータの代わりにスライドビードコータ、エクストルージョンコータ、ロールコータ等の各種塗布装置を用いてもよい。
【0124】
図1に示す製造ラインにおいては、図2に示すように、中間層塗布部8にワイヤバー駆動制御装置82を設けてもよい。
【0125】
中間層塗布部8は、ワイヤバー80Aによって中間層形成液を塗布するワイヤバーコータ80と、ワイヤバーコータ80の上流側および下流側に配設され、支持体ウェブWがワイヤバー80Aに所定のラップ角α(0度のラップ角も含む。)で巻き掛けられるように支持体ウェブWを上方からワイヤバー80Aに押圧する上流側押圧ローラ86および下流側押圧ローラ88と、ワイヤバー80Aを駆動回転する駆動モータ84と、支持体ウェブWの搬送速度を測定して、前記測定結果に応じて駆動回転モータ84の回転速度を制御するワイヤバー駆動制御装置82とを備える。
【0126】
前記製造ラインは、本発明に係る平版印刷版製造装置の一例であり、感光層塗布部2と感光層乾燥部4と第1冷却部6とは、前記平版印刷版製造装置における感光層形成手段に相当し、中間層塗布部8と中間層乾燥部10と第2冷却部12とは、前記平版印刷版製造装置における上層形成手段に相当する。
【0127】
そして、ワイヤバーコータ80、ワイヤバー80A、ワイヤバー駆動制御装置82、および駆動モータ84は、それぞれ、前記上層形成手段の備える塗布部、回転塗布手段、ウェブ搬送速度検出部と駆動回転制御部、および駆動回転部に相当する。
【0128】
ワイヤバー駆動制御装置82は、上流側押圧ローラ86よりも上流側において支持体ウェブWの裏面、即ち光重合性感光層の形成されていない側の面に当接しつつ支持体ウェブWに従動する速度検出ローラ82Aと、速度検出ローラ82Aの回転軸に直結されて速度検出ローラ82Aの回転数を検出するロータリーエンコーダ82Bと、ロータリーエンコーダ82Bで検出された回転数と速度検出ローラ82Aの外径とから前記搬送速度を求める演算部82Cと、演算部82Cで求めた搬送速度とワイヤバー80の周速とが実質的に等しくなるように駆動モータ84の回転速度を制御するモータ制御装置82Dとを有する。速度検出ローラ82Aとロータリーエンコーダ82Bとは前記ウェブ搬送速度検出部に相当し、演算部82Cとモータ制御装置82Dとは前記駆動回転制御部に相当する。
【0129】
前記製造ラインにおいては、このように、ワイヤバー駆動制御装置82によってワイヤバー80Aの周速が支持体ウェブWの搬送速度と実質的に等しくなるようにワイヤバー80Aの回転速度が制御されるから、ラップ角αが0〜3度と小さな場合においても、ワイヤバー80Aは支持体ウェブWに追随して回転する。
【0130】
したがって、光重合性感光層がワイヤバー80Aによって削られて光重合性感光層が剥離したり、ワイヤバー80Aの溝に光重合性感光層が付着してワイヤバー80Aが目詰まりすることなく、中間層形成液が安定して塗布できる。
【0131】
中間層形成液は、乾燥後の重量が0.15g/m以上になるように塗布することが好ましく、特に、0.20g/m以上になるように塗布することが好ましく、0.20〜0.50g/mの範囲になるように塗布することが、搬送ロールへの平版印刷版の表面の接着を防止する点から好ましい。一方、オーバーコート層形成液は、乾燥後の重量が、中間層との合計で0.5〜5g/mになるように塗布するのが好適であり、特に1〜3g/mになるように塗布するのが好適である。
【0132】
【実施例】
(実施例1〜13、比較例1〜5)
厚さ0.24mmのアルミニウムウェブの表面に、ブラシグレイン法によって機械的砂目立てを施した後、交流電解槽において電気的砂目立て処理を行った。次いで、陽極酸化皮膜の量が2g/mになるように陽極酸化処理を施し、親水化処理を行って支持体ウェブを製造した。
【0133】
次に、図1に示す製造ラインを用い、支持体ウェブの搬送速度を一定に設定し、感光層塗布部2において、前記支持体ウェブの粗面化面に、乾燥後の膜量が1.5g/mになるように光重合性感光層形成液を塗布し、塗布した光重合性感光層形成液を感光層乾燥部4において100℃の熱風で乾燥させ、第1冷却部6で支持体ウェブを所定の温度まで冷却して光重合性感光層を形成した。
【0134】
次に、中間層塗布部8において、前記光重合性感光層の上に液温23〜25度の中間層塗布液を塗布し、中間層乾燥部10において120℃の熱風で乾燥させて中間層を形成した。支持体ウェブの搬送速度をモニタするとともに、中間層塗布部8におけるワイヤバーの回転速度を変化させ、ワイヤバーへの光重合性感光層の付着および付着した光重合性感光層による目詰まりの有無を目視で評価した。また、中間層を形成した支持体ウェブをサンプリングして中間層を剥離し、表面を電子顕微鏡で観察して光重合性感光層の剥離の有無および程度を評価した。ワイヤバーへの光重合性感光層の付着および目詰まりの度合い、および光重合性感光層の剥離の程度については、以下に示す4段階の基準に従って評価した。
【0135】
◎…なし、○…殆どなし、△…若干あり、×…かなりあり。
【0136】
結果を表1および表2に示す。
【0137】
前記ワイヤバーの周速は、支持体ウェブWの搬送速度に対して所定の倍数になるように設定した。前記倍数については表1および表2に示す。なお、実施例1〜6および比較例1、2、3では、第1冷却部6で35〜38℃に冷却した支持体ウェブに中間層形成液を塗布し、実施例7〜13および比較例4および5では、第1冷却部6で60〜63℃に冷却した支持体ウェブに中間層形成液を塗布した。
【0138】
【表1】
Figure 2005037510
【0139】
【表2】
Figure 2005037510
光重合性感光層形成液および中間層形成液の処方を以下に示す。
【0140】
Figure 2005037510
【0141】
【化1】
Figure 2005037510
【0142】
【化2】
Figure 2005037510
なお、エチレン性不飽和化合物と高分子バインダとの重量比は2.5である。
Figure 2005037510
【0143】
なお、前記中間層形成液の粘度は4.5mPa・s(25℃)であった。
【0144】
表1および表2に示すように、中間層塗布部8におけるワイヤバーの周速と支持体ウェブの搬送速度との速度比が0.9〜1.1倍の範囲のときは、支持体ウェブの温度が35〜38℃の場合、および60〜63℃の場合の何れにおいても、ワイヤバーのワイヤの間の溝には光重合性感光層の著しい付着や目詰まりは見られなかったが、前記速度比が前記範囲外のときは、前記ワイヤ間の溝には、光重合性感光層の著しい付着や目詰まりが見られた。なお、表1と表2とを比較すると、支持体ウェブの温度が35〜38℃である表1においては、前記速度比が0.90〜1.10の範囲において、前記光重合性感光層の付着や目詰まりは殆どまたは全く見られなかったのに対し、支持体ウェブの温度が60〜63℃である表2においては、前記光重合性感光層の付着や目詰まりは殆どまたは全く見られない速度比の範囲は0.95〜1.05と、表1の結果よりも狭かった。これは、前記光重合性感光層形成液においては、エチレン性不飽和化合物が高分子バインダよりも多いので、前記光重合性感光層形成液を塗布して形成される光重合性感光層も高温で軟膜化し、ワイヤバーによる擦れに対して弱くなっているためであると推察される。
【0145】
(実施例14〜43)
実施例1〜13と同様に作製した支持体ウェブの砂目立て面に、図1に示す製造ラインを用いて光重合性感光層形成液P−1、P−2、またはP−3を塗布し、100℃の熱風で乾燥して光重合性感光層を形成した。そして、その上に中間層形成液C−1〜C−10の何れかを塗布し、120℃の熱風で乾燥して中間層を形成した。
【0146】
P−1液、P−2液、およびP−3液は、何れも下記の基本処方:
Figure 2005037510
を基本とし、P−1、P−2,およびP−3は、エチレン性不飽和化合物/高分子バインダ(重量比)がそれぞれ1.8(P−1)、2.3(P−2)、2.5(P−3)になるようにエチレン性不飽和化合物を増量した。また、メチルエチルケトンとプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートとトルエンとの比率は、上の基本処方と同一に設定したが、P−1液〜P−3液の総固形分濃度が前記基本処方と同一になるように各溶媒の量を調整した。
【0147】
また、C−1液〜C−5液は、以下の処方:
Figure 2005037510
を有するとともに、25℃における粘度が、
C−1液 … 1.5mPa・s
C−2液 … 5.4mPa・s
C−3液 …10.2mPa・s
C−4液 …20.4mPa・s
C−5液 …25.4mPa・s
になるように蒸留水の量を調節した。
【0148】
一方、C−6〜C−10液は、以下の処方:
Figure 2005037510
を有するとともに、25℃における粘度が、
C−6液 … 1.3mPa・s
C−7液 … 5.1mPa・s
C−8液 … 9.8mPa・s
C−9液 …20.1mPa・s
C−10液 …24.9mPa・s
になるように蒸留水の量を調節した。
【0149】
中間層塗布部8においては、ワイヤ径0.15mm、ロッド径10mmのワイヤバーを用い、ラップ角を10度に、支持体ウェブの張力を100kg/mに設定した。なお、C−1液〜C−10液の液温は約23℃であり、中間層形成液を塗布するときの支持体ウェブの温度は約50〜65℃であった。
【0150】
中間層塗布部8におけるワイヤバーへの光重合性感光層の付着および付着した光重合性感光層による目詰まりの有無、光重合性感光層の剥離の有無、およびワイヤ押し痕の有無を評価した。ワイヤバーへの光重合性感光層の付着および目詰まりの度合い、および光重合性感光層の剥離の有無については、実施例1〜13および比較例1〜5と同様の手順に従って評価した。また、ワイヤ押し痕の有無についても、光重合性感光層の剥離の有無と同様に表面を電子顕微鏡で観察して光重合性感光層の剥離の有無および程度を評価した。評価は、以下に示す4段階の基準で行った。
【0151】
◎…なし、○…殆どなし、△…若干あり、×…かなりあり。
【0152】
結果を表3に示す。なお、表3に示す塗布速度は、光重合性感光層上に均一に中間層形成液を塗布できる支持体ウェブの搬送速度の最大値を示す。
【0153】
【表3】
Figure 2005037510
表3に示すように、実施例14〜43の何れにおいても、ワイヤバーへの光重合性感光層の付着および目詰まり、並びに光重合性感光層の剥離およびワイヤ押し痕は殆ど乃至全く見られなかった。しかし、粘度が約1〜10mPa・sのC−1〜C−3液およびC−5〜C−8液を塗布した場合には、塗布速度が50〜125m/分であり、高速でも安定に塗布できたのに対し、粘度が20mPa・sを超えるC−4液、C−5液、C−9液、C−10液を塗布した場合には、塗布速度が24〜31m/分であった。
【0154】
このことから、中間層形成液の好適な粘度は20mPa・s以下であり、特に好ましくは1〜20mPa・sであり、最も好ましくは1.3〜20mPa・sであることが判る。
【0155】
(実施例44〜56、比較例6)
光重合性感光層形成液としてエチレン性不飽和化合物/高分子バインダの重量比が2.5であるP−3液を用い、中間層形成液として25℃での粘度が5.4mPa・sであるC−2液を用い、前記中間層形成液を45℃の支持体ウェブに塗布した。また、中間層塗布部8においては、塗布バーとしてワイヤのない平滑バー、およびワイヤ径が0.04〜0,40mmのワイヤバーを用いた。
【0156】
上記の点を除いては、実施例13〜43と同様に塗布を行い、中間層を形成した支持体ウェブについて光重合性感光層の付着や目詰まり、光重合性感光層の剥離、およびワイヤ押し痕の有無に加えて表面の接着性を評価した。光重合性感光層による目詰まりの有無、光重合性感光層の剥離の有無、およびワイヤ押し痕の有無については、実施例13〜44と同様の手順および基準に従って評価した。表面の接着性については、常温の支持体ウェブにおける中間層の表面を指先で触ったときの粘着性に基き、以下の基準:
◎ …べとつき無し、
○ …べとつき殆ど無し、
△ …べとつき若干あり、
× …べとつきかなりあり
に基いて評価した。結果を表4に示す。
【0157】
【表4】
Figure 2005037510
表4から明らかなように、ワイヤーバーを用いた実施例44〜56では、ワイヤバーへの光重合性感光層の付着や目詰まり、光重合性感光層の剥離、およびワイヤ押し痕は殆ど、若しくは全く見られず、また中間層も接着性を帯びてはいなかった。これに対して平滑バーを用いた比較例6では、ワイヤバーへの光重合性感光層の付着や目詰まり、光重合性感光層の剥離、およびワイヤ押し痕は全く見られなかったものの、中間層表面にはべとつきが明確に認められた。
【0158】
(実施例57〜70、参考例1〜6)
中間層塗布部8においてワイヤーバーとしてワイヤ直径が0.15mmのものを用い、ラップ角を0度〜15度の範囲で変化させるとともに、支持体ウェブの張力を30〜250kg/mの範囲で変化させて中間層形成液の塗布を行った以外は、実施例44〜56と同様に実施した。結果を表5に示す。
【0159】
【表5】
Figure 2005037510
表5から、ラップ角は3〜10度の範囲が好ましく、支持体ウェブの張力は30〜200kg/mの範囲が好ましいことが判る。但し、参考例1〜6に示すラップ角および支持体ウェブ張力においても、組成の異なる中間層形成液を使用すればワイヤバーへの光重合性感光層の付着や目詰まり、光重合性感光層の剥離、およびワイヤ押し痕の発生は見られないと考えられる。
【0160】
(実施例71〜74)
実施例57〜70のうち、特に良好な結果の得られた実施例63、64、66、67について、中間層の上に、以下の組成のオーバーコート層形成液を塗布して乾燥し、光重合性感光層、中間層、およびオーバーコート層の3層からなる光重合型の平版印刷版を作製した。なお、オーバーコート層は、中間層との合計乾燥重量が2.0g/mになるように塗布し、120℃の熱風で1分間乾燥した。オーバーコート層形成液の処方を以下に示す。
【0161】
Figure 2005037510
【0162】
得られた平版印刷版は、保存安定性に特に優れ、空気中で長期間保存しても良好な製版性を有していた。
【0163】
(実施例75〜82)
図1に示す製造ラインにおいて、図2に示すように、中間層塗布部8におけるワイヤバーコータ80のワイヤバー80Aを駆動回転させる駆動モータ84と、駆動モータ84の回転を制御するワイヤバー駆動制御装置82とを設けたものを用い、支持体ウェブWの搬送速度に実質的に等しい周速でワイヤバー80Aを駆動回転させた以外は、参考例1〜3および実施例57〜61と同様に実施した。結果を表6に示す。
【0164】
【表6】
Figure 2005037510
表6から明らかなように、ラップ角が0〜3度と小さな場合においても、支持体ウェブWの搬送速度とワイヤバー80Aの周速とが実質的に等しくなるようにワイヤバー80Aの回転を制御することにより、光重合性感光層の表面にワイヤ押し傷を生じさせたり、ワイヤバー80Aに剥離した光重合性感光層が付着して目詰まりを生じさせたりすることなく、安定して中間層形成液を塗布することができた。
【0165】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、感光層の膜強度が低い場合にも、中間層形成液などの塗布液を前記感光層の表面に安定に塗布でき、中間層などの上層を安定に形成できる平版印刷版の製造方法、前記製造方法を効果的に実施できる平版印刷版製造装置、および感光層に上層が重ねて形成された平版印刷版において、感光層の膜強度が低い場合にも感光層に欠陥が存在しない平版印刷版が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の平版印刷版の製造方法で使用できる製造ラインの一例を示す概略図である。
【図2】図2は、図1の製造ラインにおいて、中間層塗布部にワイヤバー駆動制御装置を設けた例につき、中間層塗布部付近の構成を示す概略図である。
【符号の説明】
2 感光層塗布部
4 感光層乾燥部
6 第1冷却部
8 中間層塗布部
10 中間層乾燥部
12 第2冷却部
14 オーバーコート層塗布部
16 オーバーコート層乾燥部
18 第3冷却部
80 ワイヤバー塗布部
80A ワイヤバー
82 ワイヤバー駆動制御装置
84 駆動モータ

Claims (18)

  1. 支持体ウェブを一定方向に搬送しつつ、前記支持体ウェブの少なくとも一方の面に感光層を形成する感光層形成工程と、
    前記感光層の表面に塗布液を塗布、乾燥して上層を形成する上層形成工程とを有し、
    前記上層形成工程においては、回転塗布手段を、前記支持体ウェブの搬送速度に対して0.9〜1.1倍の周速で回転させて前記塗布液を塗布することを特徴とする平版印刷版の製造方法。
  2. 帯状のアルミニウムウェブの少なくとも一方の面を粗面化した支持体ウェブを一定方向に搬送しつつ、前記粗面化面に光重合性感光層を形成する光重合性感光層形成工程と、
    前記光重合性感光層の表面に中間層形成液を塗布、乾燥して非接着性の中間層を形成する中間層形成工程とを有し、
    前記中間層形成工程においては、表面にワイヤが巻回されたワイヤバーを、前記支持体ウェブの搬送速度に対して0.9〜1.1倍の周速で回転させて前記中間層形成液を塗布することを特徴とする平版印刷版の製造方法。
  3. 前記中間層形成工程においては、前記ワイヤバーを前記支持体ウェブに従動回転させる請求項2に記載の平版印刷版の製造方法。
  4. 前記中間層形成工程においては、前記ワイヤバーを前記範囲の回転速度で駆動回転させる請求項2に記載の平版印刷版の製造方法。
  5. 前記中間層形成工程においては、前記支持体ウェブの搬送速度を測定し、前記測定結果に基づいて前記搬送速度に実質的に等しい周速で前記ワイヤバーを駆動回転させる請求項4に記載の平版印刷版の製造方法。
  6. 前記光重合性感光層は、エチレン性不飽和化合物と高分子バインダと光重合開始剤とを含有する請求項2〜5の何れか1項に記載の平版印刷版の製造方法。
  7. 前記エチレン性不飽和化合物と高分子バインダとの重量比が1.3以上である請求項6に記載の平版印刷版の製造方法。
  8. 前記エチレン性不飽和化合物と高分子バインダとの重量比が1.3〜2.5である請求項7に記載の平版印刷版の製造方法。
  9. 前記中間層形成工程で塗布される中間層形成液は、水溶性ポリマー水溶液を主成分とする請求項2〜8の何れか1項に記載の平版印刷版の製造方法。
  10. 前記中間層形成液が含有する水溶性ポリマーは、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンから選択される少なくとも1種である請求項9に記載の平版印刷版の製造方法。
  11. 前記中間層形成工程で塗布される中間層形成液の粘度は、1〜20mPa・s(25℃)である請求項2〜10の何れか1項に記載の平版印刷版の製造方法。
  12. 前記ワイヤバーに巻回されるワイヤの直径は0.04〜0.4mmの範囲である請求項2〜11の何れか1項に記載の平版印刷版の製造方法。
  13. 前記ワイヤバーのロッド径は、5〜13mmである請求項2〜12の何れか1項に記載の平版印刷版の製造方法。
  14. 前記中間層形成工程において前記ワイヤバーのラップ角が3〜20度になるように前記中間層の塗布を行う請求項2〜13の何れか1項に記載の平版印刷版の製造方法。
  15. 前記中間層形成工程において前記支持体ウェブを前記ワイヤバーに20〜250kg/mの張力で巻き掛ける請求項2〜14の何れか1項に記載の平版印刷版の製造方法。
  16. 前記中間層の表面にオーバーコート層を形成するオーバーコート層形成工程を有する請求項2〜15の何れか1項に記載の平版印刷版の製造方法。
  17. 請求項2〜16の何れか1項に記載の方法によって製造されたことを特徴とする平版印刷版。
  18. 持体ウェブを一定方向に搬送しつつ、前記支持体ウェブの少なくとも一方の面に感光層を形成する感光層形成手段と、
    前記感光層形成手段で形成された感光層の表面に塗布液を塗布、乾燥して上層を形成する上層形成手段とを有し、
    前記上層形成手段は、前記支持体ウェブに前記塗布液を塗布する回転塗布手段を有する塗布部と、前記塗布部が備える回転塗布手段を駆動回転させる駆動回転部と、前記支持体ウェブの搬送速度を測定するウェブ搬送速度検出部と、前記ウェブ搬送速度検出部における支持体ウェブ搬送速度の測定結果に基づき、前記回転塗布手段の周速が前記搬送速度に実質的に等しくなるように前記駆動回転部を制御する駆動回転制御部とを備えてなることを特徴とする平版印刷版製造装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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