特許文献1の弾丸は、図示からも明らかなように、およそ弾丸の全長が長いライフル弾等を想定しているため、スラッグ弾のように短尺な弾丸にそのまま適用できない。なぜなら、重心位置を前面側に移動させる内孔を設けるためには、勢い急傾斜のテーパ状の内孔を設けざるを得ず、そうした内孔ではかえって空気の乱流を招き、スラッグ弾の飛翔を阻害しかねないからである。
また、こうした内孔を備えた弾丸では、発射時の火薬の爆発エネルギーを弾丸に伝えるため、後面に開口する内孔後端を一時的に塞いでおく必要がある。この点、特許文献1は、火薬の爆発により溶融状態になる融点を有するハンダでカバープレート又はキャップを弾丸後面にハンダ付けしている。しかし、火薬の爆発エネルギーを漏れなく弾丸が受けるには、弾丸後面とカバープレート又はキャップとを隙間なくハンダ付けする必要があるが、そうすると発射後に弾丸の後面からカバープレート又はキャップが速やかに離脱しない虞れが出てくる。このように、発射までの内孔後端を閉鎖する手段としてハンダ付けするカバープレート又はキャップは好ましいが、発射後の離脱に関してはハンダ付けするカバープレート又はキャップは適していない。
特許文献2のスラッグ弾は、特に重心を前面側に寄せる点で優れているが、図示から明らかなように、前段及び後段の各要素を繋ぎ止めるために、両者を貫通する接続ネジ(joining screw)が必要であり、上述の特許文献1のような内孔を設けることができず、依然として低威力及び低射程の問題が残ってしまう。また、前記接続ネジによる前段及び後段の一体化は、接続ネジの緩みによってスラッグ弾発射時の危険を招く可能性がある。そこで、スラッグ弾に特許文献1に見られるような内孔を設ける改良を施しつつ、特許文献2に見られる重量位置の調整を前記内孔のあるスラッグ弾にも適用できるような構造について検討した。
検討の結果開発したものが、前面から後面への前貫通孔を設けた前段円筒と、前面から後面への後貫通孔を設けた後段円筒と、前面に差込突起を突設したキャップとからなり、前段円筒は後段円筒より相対的に重くし、前段円筒の後面と後段円筒の前面とに対な凹凸からなる連結部位をそれぞれ設け、前貫通孔及び後貫通孔を互いに連通させて前記連結部位を連結して前段円筒及び後段円筒を一体化し、後段円筒の後貫通孔後端にキャップの差込突起を挿入してこの後貫通孔後端をキャップで塞いだスラッグ弾である。前段円筒及び後段円筒は、それぞれの外径が同一であることを基本とする。前段円筒及び後段円筒の外径が異なる場合、後段円筒の外径を前段円筒より小さくするが、後述するように後段円筒が樹脂製の場合、銃身を通過する際の抵抗は問題にならないので、後段円筒の外径を前段円筒に比べて若干(1〜2mm程度)大きくしてもよい。
本発明のスラッグ弾は、重心位置の調整の観点から前段円筒及び後段円筒の2段構成としながら、前段円筒の前面から後段円筒の後面に向けて連通する内孔を構成するため、前段円筒及び後段円筒を対な凹凸からなる連結部位で連結する。具体的な連結部位は、前段円筒の後面に設けた凹部と後段円筒の前面に設けた凸部とするか、逆に前段円筒の後面に設けた凸部と後段円筒の前面に設けた凹部とし、前貫通孔及び後貫通孔を互いに連通させて前記凹部に凸部を結合して前段円筒及び後段円筒を一体化する。前段円筒又は後段円筒のいずれに凸部又は凹部を設けても、同様な結合関係を構成できるが、凸部を前段円筒に設けると前段円筒の重心が後方に寄ってしまうことから、前段円筒に凹部を設け、後段円筒に凸部を設ける方が好ましい。
より具体的な結合関係は、前段円筒の後面に設けた凹部と後段円筒の前面に設けた凸部とは転写構造の関係で、凹部に凸部を嵌着することにより前段円筒及び後段円筒を一体化する構成(嵌着構成)と、前段円筒の後面に設けた凹部は雌ネジ部、後段円筒の前面に設けた凸部は雄ネジ部で、凹部に凸部を螺着することにより前段円筒及び後段円筒を一体化する構成(螺着構成)とを例示できる。前段円筒及び後段円筒それぞれに設ける凸部及び凹部が逆の関係になっても、同様の嵌着構成又は螺着構成を採用できる。凸部の外径又は凹部の内径は、前段円筒又は後段円筒の外径に対して1/4〜2/3程度、好ましくは1/2程度とする。また、凸部の突出量又は凹部の深さは、前段円筒の長さに対して1/4〜2/3程度、好ましくは1/3〜1/2程度とする。
嵌着構成では、後段円筒の凸部を凹部に嵌め込んだ前段円筒をかしめることで凹部に対して凸部を嵌着する。この場合、凸部に周方向のかしめ溝を設けておけば、前段円筒のかしめにより凹部内面が前記かしめ溝に噛み込み、嵌着による強固な連結構造を実現できる。ここで、凹部及び凸部が転写構造の関係にあるとは、両者が密な関係で結合する関係にあることを意味する。凸部にかしめ溝を設けた場合、部分的にかしめ溝に沿った隙間を生ずるが、前記隙間はかしめにより凹部の内面が噛み込んで消滅するため、かしめ溝を設けた凸部と凹部とはなお転写構造の関係にあると言える。また、前記転写構造の関係があれば凸部又は凹部の外形状は問わず、円柱形状、三角柱形状、四角柱形状又は多角柱形状を用いることができるが、断面が円形となる前段円筒及び後段円筒における強度的偏りをなくす観点から、円柱形状の凹部及び凸部の組み合わせが好ましい。
螺着構成では、雄ネジ部である後段円筒の凸部を雌ネジ部である凹部に螺合していくことにより凹部に対して凸部を螺着する。螺着構成では、雌ネジ部となる凹部は円柱形状となるが、雄ネジ部となる凸部は、外側面にネジ溝を形成できればよく、円柱形状、三角柱形状、四角柱形状又は多角柱形状を用いることができる。しかし、上述同様、凹部及び凸部を両者が互いに密着する円柱形状にすれば、断面が円形となる前段円筒及び後段円筒における強度的偏りをなくすことができ、好ましい。この螺着構成では、前記螺着後、更に前段円筒をかしめることで、弛みのない嵌着による強固な連結構造を実現できる。しかし、前段円筒に対して後段円筒を周方向に旋回させて連結するため、両者の連結関係に位置合わせが必要な場合、例えば前段円筒及び後段円筒の各外側面に設けた螺旋溝の連続性を形成する場合(ライフルドスラッグ弾の場合)には、位置合わせが容易な上記嵌着構成のほうが好ましい。
本発明のスラッグ弾は、重心を前方に寄せるため、前段円筒を後段円筒より相対的に重くしている。これには、基本的に前段円筒及び後段円筒は同種材料を用い、それぞれに設ける前貫通孔及び後貫通孔の大きさ又は形状に差を設けることで前段円筒の体積を後段円筒より大きくし、同種の材料を用いながら前段円筒を後段円筒より相対的に重くできる。前段円筒及び後段円筒の材料が異なる場合、前段円筒に用いる材料の比重が、後段円筒に用いる材料の比重より大きければよい。この場合、前段円筒は金属製を基本とし、後段円筒は樹脂製にするとよい。
前段円筒は、標的を貫通又は破壊するスラッグ弾の主要部であり、金属製が好ましい。本発明のスラッグ弾の場合、前段円筒の前面に前貫通孔の前端が存在するため、標的に当たった前段円筒のマッシュルーム効果(着弾時に弾頭が潰れて破壊力を増す効果)が期待でき、前記マッシュルーム効果を高める観点からも前段円筒は金属製が好ましい。この場合、従来同様鉛を用いてもよいが、近年問題とされている鉛害を避けるため、内部を鉛として表面に無害な金属を被覆した前段円筒とするか、加工性に優れ、比重が鉛に近いホワイトメタル(JIS H 5401規定、第1種、第2種及び第5種)を用いることが望ましい。鉛害を問題としない競技用スラッグ弾であれば、ホワイトメタル全般(JIS H 5401規定、第1種〜第10種)を利用できる。
後段円筒は、スラッグ弾の全長を長くし、飛翔中のスラッグ弾の軸ぶれを抑制又は防止する。これから、後段円筒は長いほど好ましい。この場合、後貫通孔を設けてもなお体積は前段円筒以上になりやすく、前段円筒と同種の材料を用いると前段円筒に比べて重くなる可能性がある。これから、後段円筒は、明らかに前段円筒よりも軽くなる樹脂製、より具体的にはロックウェル硬度でR110以上のエンジニアリングプラスチック製とすることが望ましい。金属製の前段円筒に比べ、樹脂製の後段円筒は軽くしやすいため、例えば後述するような空気が抜けやすいテーパ状の後貫通孔も形成しやすい利点がある。
前段円筒の前貫通孔と後段円筒の後貫通孔とは、両者が連通することで、スラッグ弾の前面(前段円筒の前面)から後面(後段円筒の後面)に至る内孔を構成し、前面の空気を内孔から後面へと逃がし、破壊力及び射程の向上を図る効果がある。また、前貫通孔及び後貫通孔は独立して構成されているため、両貫通孔を通過する空気の流れを両貫通孔の断面積の大小によって一定程度制御したり、既述したように、前段円筒及び後段円筒それぞれの体積を各貫通孔の大きさ又は形状によって調整し、スラッグ弾全体の重心位置を調整することもできる。
前貫通孔及び後貫通孔は、前段円筒又は後段円筒それぞれの前面から後面に向けて同一径の平行筒状であることを基本とする。各貫通孔の内径は、前段円筒又は後段円筒の外径に対して1/10〜1/3程度の大きさ、好ましくは1/8〜1/4程度の大きさとする。この場合、前段円筒及び後段円筒の体積をそれぞれ調整する場合、前貫通孔の内径より後貫通孔の内径を大きくするとよい。この場合、前貫通孔の後端と後貫通孔の前端との境に段差が形成されることになるが、前面から流れ込む空気は前貫通孔の範囲に従って後貫通孔を通過していくので、前記段差が問題になることはほとんどない。
厳密に言えば、前貫通孔の前端から流れ込む空気は、前貫通孔の後端、そして後貫通孔へ至るにつれて圧縮され、前記空気の流れを阻害する虞れがある。そこで、空気の流れを確保するため、前貫通孔及び後貫通孔は、前段円筒又は後段円筒それぞれの前面から後面に向けて拡径するテーパ状にし、後貫通孔の後端に向けて圧力が低下するようにするとよい。各貫通孔のテーパ角は10度以下、好ましくは7度以下にする。各貫通孔のテーパ角は同一を基本とするが、異なってもよい。また、前貫通孔の後端と後貫通孔の前端との各内径を等しくすると、両貫通孔は連続するテーパ状となり、好ましい。ここで、前貫通孔の後端と後貫通孔の前端との各内径が異なる場合、前貫通孔の後端より後貫通孔の前端の内径が大きければ、両者の境に形成される段差に空気の流れが阻害されることなく、前貫通孔の範囲に従って後貫通孔を通過させることができる。
更に、前貫通孔への空気の流入を助けるため、前段円筒の前貫通孔は、この前段円筒の前面に覗く前端を錐台状に切り欠いているとよい。この場合、前段円筒の前面、前記切欠、そして前貫通孔の境界が鋭角なエッジを形成しないように、前記境界を丸く面取りしておくとよい。この前貫通孔の前端に設ける切欠は、こうした空気の取込みを助けるほか、上述した前段円筒のマッシュルーム効果を助長する働きを有する。この場合、更に切欠又は前貫通孔前方に周方向に断続した切れ込みを設けておくと、より前段円筒の前面が潰れる際に広がりやすくなり、マッシュルーム効果をより高めることができる。
上記前貫通孔の切欠同様、後段円筒の後貫通孔は、この後段円筒の後面に覗く後端を錐台状に切り欠いておくと、急激な断面積の増加に伴う急激な圧力低下が見込まれ、両貫通孔を通過してくる空気の放出がしやすくなり、前貫通孔から後貫通孔を通じて流れてくる空気の流れを円滑にできる。また、後貫通孔の後端に設ける切欠は、後段円筒の後面に覗く後貫通孔を塞ぐキャップの差込突起を差し込みやすくするガイドの働きも有する。
本発明のスラッグ弾は、重さに差のある前段円筒及び後段円筒を連結することにより重心位置を前面寄りに調整し、更に前段円筒の前面から後段円筒の後面に至る内孔を形成することにより飛翔時の空気抵抗による影響を抑制又は低減している。前記構造を採用するだけでも、本発明のスラッグ弾は従来に比べて破壊力又は射程を向上させることができるが、更に前段円筒又は後段円筒の外側面に螺旋条又は螺旋溝を刻設すれば、スラッグ弾を自転させることができるようになり、破壊力又は射程をより向上させることができる。螺旋条と螺旋溝とは補完的な構造関係にあり、幅の広い螺旋溝を設けた場合、螺旋溝に挟まれた部位が螺旋条と見ることができるため、いずれか一方を設ければ結果として他方をも設けることになる。
本発明のスラッグ弾は、キャップが後段円筒の後面に張り付いた状態で銃身を抜け、銃身から脱したところでキャップのみが脱落し、前段円筒及び後段円筒のみが飛翔していく。すなわち、キャップは発射時に火薬の爆発エネルギーを前段円筒及び後段円筒に伝達し、前記爆発エネルギーが前段円筒及び後段円筒の前貫通孔及び後貫通孔を通じて前方へ逃げないようにする。このため、キャップは後段円筒の後面と火薬との間に介在するのみならず、火薬の爆発によって後段円筒の後面からずれないようにしなければならない。キャップは、後段円筒の後貫通孔の後端に差込突起を差し込むことで、前記火薬の爆発時における後段円筒に対する位置ずれを防止している。また、この差込突起は単に後貫通孔に差し込んでいるだけなので、重心から前段円筒及び後段円筒が脱したところで、前貫通孔及び後貫通孔を通じて流れ込む空気に押されて容易に脱落することができ、上述した前貫通孔及び後貫通孔の働きを阻害せずに済む。
キャップの形状又は大きさに制限はなく、例えば後貫通孔に差し込むだけの差込突起のみの外観を備えたキャップでもよい。この場合、キャップはあくまで後貫通孔を塞ぐのみで、火薬の爆発エネルギーは主に後段円筒の後面で受けることになる。しかし、キャップの働きはあくまで火薬の爆発エネルギーを漏れなく前段円筒及び後段円筒に伝達することにあるから、キャップは後段円筒の外径に略等しい円盤状で、この円盤状キャップの前面中心に差込突起を突設する構造が好ましい。また、こうした円盤状キャップの場合、後面が凹面であると、厳密には放射状に拡がる爆発エネルギーをキャップ全体で等しく受けることができ、前段円筒及び後段円筒に効率よく運動エネルギーを与えることができる。
また、キャップ自体が銃身を通過する際の運動エネルギーとして爆発エネルギーを消費しては意味がないので、できるだけ軽量にすることが好ましく、樹脂製、より具体的にはロックウェル硬度でR100以上で、特に耐熱性に優れたエンジニアリングプラスチック製とすることが望ましい。前記硬度以上で耐熱性を備えた樹脂製のキャップであれば、爆発による衝撃及び熱による変形がなく、確実に前段円筒及び後段円筒へ運動エネルギーを伝達することができる。このキャップは、再利用しても構わないが、樹脂製とすることでコスト面から使い捨てすることもできる。
本発明により、スラッグ弾の破壊力及び射程を共に向上させることができる。こうした破壊力及び射程の向上は、標的に達するまでにスラッグ弾が有する運動エネルギーが従来に比べて大きいこと、裏返せば飛翔中に運動エネルギーの損失が少ないことを意味する。運動エネルギーの損失が少ない理由は、直接には、前段円筒及び後段円筒に連通して設けた両貫通孔により、前段円筒の前面に加えられる空気の抵抗が後段円筒の後面へと逃がされることによるところが大きい。
また、前段円筒を後段円筒より重くすることにより重心が前面側に寄り、飛翔中のスラッグ弾の軸ぶれが抑制されることも、運動エネルギーの損失を抑制する効果をもたらす。この飛翔中のぶれを抑制することは、弾丸としての直進性を助ける働きを有するので、本発明に基づくスラッグ弾は、命中率を高めることができる効果もある。
こうした本発明の効果(破壊力及び射程の向上)は、同一散弾銃で散弾を発射するために弾丸としての大きさ又は形状に制約を受けるスラッグ弾に最も顕著に現れる。しかし、本発明の構造は、スラッグ弾に限らず、例えばライフル弾やマグナム弾にも適用可能である。いずれの場合も、従来と同じ大きさ又は形状のライフル弾やマグナム弾に比べ、破壊力及び射程の向上を図り、合わせて命中率を高めることができる。
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。図1は本発明に基づくスラッグ弾1を内蔵した散弾銃用のカートリッジ2を表した斜視図、図2は同スラッグ弾1の側面図、図3は同スラッグ弾1の正面図、図4は同スラッグ弾1の縦断面図であり、図5は同スラッグ弾1の分解斜視図である。
本例のスラッグ弾1は12番(外径17〜18.5mm)相当の仕様で、前段円筒3がホワイトメタル製でテーパ状の前貫通孔4を、後段円筒5がMCナイロン製で平行筒状の後貫通孔6をそれぞれ設け、キャップ7はポリカーボネート製とした構成である。このスラッグ弾1は、図1に見られるように、後端に雷管8を備えたケース9内に、火薬10を介して内装し、一体のカートリッジ2として使用する。すなわち、ケース9内では、前段円筒3、後段円筒5、キャップ7及び火薬10の順に並んでおり、発射時から銃身を通過するまでは前段円筒3、後段円筒5及びキャップ7が一体に進み、銃身を脱した段階でキャップ7が脱落して前段円筒3及び後段円筒5が飛翔していく。
前段円筒3は、従来のスラッグ弾に相当する外形を備えたホワイトメタル製で、全長が18.0〜24.0mm、好ましくは20.0〜22.0mmの円筒状であり、旋盤による棒体からの削り出し品又は鋳造品から加工して製造する。外形は、図1〜図3に見られるように、前面11が略半球状で、外側面12に螺旋溝13を刻設している。この螺旋溝13は、飛翔中のスラッグ弾1が空気の流れによって自転力を発生させるための構造である。これから、空気の流れを受けてスラッグ弾1を自転させればよいため、螺旋溝13に代えて螺旋条を用いてもよい。本例の前段円筒3は、図4に見られるように、前面11から後面14に向けてテーパ状の前貫通孔4を設け、後面14から前面11に向けて円柱状の凹部15を形成している。凹部15は、内径5.0〜12.0mm、好ましくは8.5〜9.0mmとし、深さを8.0mm前後で構成する。前貫通孔4の後端は、凹部15の底面に開口しており、この凹部15に嵌着する後段円筒5の凸部16に開口する後貫通孔6の前端と連通する。本例の前貫通孔4は、前面11に開口した前端の内径を2〜6mm、好ましくは3.0〜5.0mmとし、後貫通孔6の前端に繋がる後端の内径を4.0〜8.0mm、好ましくは5.0〜7.0mmとする。
後段円筒5は、従来のスラッグ弾を後方に延長する外形状を備えたMCナイロン製で、全長が23.0〜29.0mm、好ましくは25.0〜27.0mmの円筒状であり、旋盤による棒体からの削り出し品又は一体成形品から加工して製造する。外形は、図1〜図3に見られるように、前面に円柱状の凸部16を突設している。本例の後段円筒5は、図4に見られるように、前面17から後面18に向けて平行筒状の後貫通孔6を設け、後面18に開口する前記後貫通孔6の後端を円錐状に切り欠いて拡開口19を形成している。凸部16は、上記凹部15内面に密着して結合できるような転写構造であり、外径5.0〜12.0mm、好ましくは8.5〜9.0mmとし、高さを8.0mm前後で構成する。後貫通孔6の前端は、凸部16の頂上面に開口しており、この凸部16を嵌着する前段円筒3の凹部15に開口する前貫通孔4の後端と連通する。本例の後貫通孔6は、前貫通孔4の後端の内径と、後貫通孔6の前端の内径とを一致させており、上述の前貫通孔4の大きさに基づき、前面に開口した前端の内径を4.0〜8.0mm、好ましくは5.0〜7.0mmとしている。
キャップ7は、従来のスラッグ弾を後方に延長する外形状を備えたポリカーボネート製の円盤で、図1〜図5に見られるように、前面20に細長い円柱状の差込突起21を突設している。キャップ7を構成する円盤は、前段円筒3及び後段円筒5の外径と同一外径で17.0〜18.5mmであり、周縁に形成したリブ22により後面23を凹面とし、銃身内において火薬と後段円筒5とを隙間なく隔絶する。前記リブ22の高さは、2.0〜4.0mm程度、好ましくは3.0mm程度とする。火薬の爆発エネルギーは、もれなくキャップ7から後段円筒5へと伝達され、無駄なくスラッグ弾1の運動エネルギーとして利用できる。前面20に突設した差込突起21は、後段円筒5に設けた後貫通孔6の内径に等しい外径を有し、スラッグ弾1が銃身を脱するまで、後段円筒5に対してキャップ7ががたつかないようにする。後述するように、後貫通孔24がテーパ状であれば、差込突起もテーパ状にする(図21参照)。
本例のスラッグ弾1は、前段円筒3の凹部15に後段円筒5の凸部16を嵌合し、前段円筒3の外側面から半径方向内向きにかしめ、嵌着構成により前段円筒3及び後段円筒5を一体化する。前記凹部15及び凸部16は、対となる連結部位であり、これらはそれぞれ対な関係で設ければよい。例えば、図6及び図7に見られるように、前段円筒3の後面14に凸部16を形成し、後段円筒5の前面17に凹部15を成形してもよい。この例示(図6及び図7)のスラッグ弾1は、前記凹部15及び凸部16による嵌着構成であり、両者の嵌着を強固にするため、凹部15及び凸部16を転写関係にある逆錐台状に形成し、凹部15に凸部16を打ち込むようにして嵌着する。こうした嵌着構成による一体化は、前段円筒3及び後段円筒5相互の向きを揃えることができる利点がある。例えば、図8に見られるように、前段円筒3及び後段円筒5の外側面12,25それぞれに同様な螺旋溝13,26を刻設した場合、両螺旋溝13,26が連続するように前段円筒3及び後段円筒5の向きを揃えることが望ましい。嵌着構成は、前段円筒3及び後段円筒5の向きと凹部15及び凸部16の嵌合とは無関係であるため、前記両螺旋溝13,26を揃えて前段円筒3及び後段円筒5を一体化できる。
また、前段円筒3及び後段円筒5を嵌着構成により一体化する場合、前段円筒3及び後段円筒5を一体に自転させながら前段円筒3の外側面12にローラ27を押し当てる(図14参照)。このとき、後段円筒5の前面17が前段円筒3の後面14に密着していると、併せて後段円筒5の前面17付近もかしめてしまう可能性がある。そこで、図9に見られるように、後段円筒5の前面外周縁を斜面とする切欠28を設けると、前段円筒3の後面外周縁のみをかしめることができて都合がよい(図15参照)。前記後段円筒5の前面外周縁における切欠28は、スラッグ弾1としての外側面12,25に段差を形成することになるが、スラッグ弾1の外側面12,25に流れる空気は、前段円筒3の略半球状の前面11に沿って広がるため、空気の流れを乱すことはなく、飛翔中の運動エネルギーを損失させることはない。
嵌着構成に代わる一体化の手段として、図10及び図11に見られるように、螺着構成を示すことができる。嵌着構成は、凹部15及び凸部16を嵌合しただけでは前段円筒3及び後段円筒5の一体化が不十分で、火薬の爆発によって両者が分離する虞れが残るため、かしめることにより十分な一体化を実現する。しかし、螺着構成は、雄ネジ部である凸部29を雌ネジ部である凹部30に螺着した段階で必要十分な連結強度で前段円筒3及び後段円筒5を連結できる。また、火薬の爆発による衝撃印加方向(スラッグ弾1の軸方向)と螺着するための後段円筒5の旋回方向とは異なるため、火薬の爆発力によって螺着が緩むこともない。これにより、螺着構成はかしめを必要としないが、かしめを併用することによって経年劣化に基づく螺着の弛みを防止できるようになる。
嵌着構成に基づく本例のスラッグ弾1(図1〜図5参照)は、次の手順で製造する。図12はホワイトメタルの棒体から削り出しにより、前段円筒3よりわずかに外形の大きな前段素体31を形成した段階を表した側面図、図13はMCナイロンの棒体から削り出しにより後段円筒5よりわずかに外形の大きな後段素体32を形成した段階を表した側面図、図14は前記前段素体31及び後段素体32の凹部15及び凸部16を嵌合し、ローラ27によるかしめを施している段階の縦断面図、図15は前面外周縁を切り欠いた後段素体33を用いた場合のかしめを表した図14相当縦断面図、図16はかしめを終えた段階を表した縦断面図、そして図17は外側面12,25を切削し、スラッグ弾1の外径に揃えた完成段階を表した側面図である。
本例のスラッグ弾1は、前段円筒3及び後段円筒5の連結に際して嵌着構成を採用したため、図12及び図13に見られるように、かしめによる凹みを仕上代Δt1,Δt2として上乗せした前段素体31及び後段素体32を基礎として加工する。まず、前段素体31は、図12に見られるように、完成品である前段円筒3の外径に対して仕上代Δt1だけ外径の大きな中実円筒として、ホワイトメタル製の棒体から削り出す。大量生産を試みる場合は、前段素体31は鋳造製にすることが望ましい。前面11の半球形状や前貫通孔4は、この前段素体31の形成段階で設けてもよいし(図12では形成済み)、前段素体31及び後段素体32の連結後、最終仕上げの段階でスラッグ弾1に対して形成してもよい。
また、後段素体32は、図13に見られるように、完成品である後段円筒5の外径に対して仕上代Δt2だけ外径の大きな中実円筒として、MCナイロン製の棒体から削り出す。大量生産を試みる場合は、後段素体32は一体成形による樹脂製とすることが望ましい。前記仕上代Δtと上記仕上代Δt1とは、同じでもよいし、異なってもよい。前面17に設ける凸部16、後貫通孔5や後貫通孔5の後端に設ける拡開口19は、この後段素体32の形成段階で設けてもよいし(図13では形成済み)、前段素体31及び後段素体32の連結後、最終仕上げの段階でスラッグ弾1に対して形成してもよい。本例では、更に、凸部16の根元には、かしめ溝を設けている。これにより、後工程におけるかしめに際し、前段素体31に設けた前貫通孔4の凹部15内周縁を食い込ませることができ、前段素体31及び後段素体32の強固な一体化を図ることができる。
こうして形成した前段素体31及び後段素体32は、図14に見られるように、前段素体31の凹部15に後段素体32の凸部16を嵌合し、前段素体31の外側面35に3方向からローラ27を押し当てて前段素体31及び後段素体32を一体に自転させながらかしめていくことで、一体化を図る。前段素体31及び後段素体32の強固な一体化は、上述したように、かしめ溝への凹部15内周縁の食い込みにより実現する。前段素体31及び後段素体32相互のがたつきを防ぐには、凹部15の内径及び凸部16の外径を略等しいか、凸部16の外径をわずかに大きくし、凹部15に対して凸部16をプレス機により圧入、嵌合するとよい。
かしめ溝34に対して凹部15内周縁をより確実に食い込ませるには、図15に見られるように、後段素体33の前面外周縁に切欠28を設け、前段素体31の後面外周縁から斜めにローラ27を押し当てるとよい。これにより、前段素体31の後面36は斜め内向きに押し込まれることになるが、前段素体31の外側面35は仕上代Δt1だけ大きく形成しているため、前記押し込みによる凹みは前記仕上代Δt1の切削により除去しうる。
こうしてかしめによる嵌着によって一体化を終えた前段素体31及び後段素体32は、図16に見られるように、それぞれの仕上代Δt1及びΔt2だけ、完成品であるスラッグ弾1の外径よりも大きい。また、かしめによる凹み37が、前段素体31の後面36外周縁に形成されている。そこで、最終仕上げとして、図17に見られるように、前記仕上代Δt1及びΔt2を研削して除去し、前段素体31を前段円筒3に、そして後段素体32を前段円筒5に仕上げる。かしめによる凹み37は、仕上代Δt1及びΔt2の除去により、解消する。前段円筒3の外側面12の螺旋溝13(図2参照)は、必要に応じて、前記仕上げ後に刻設すればよい。後は、別途製造したキャップ7で後段円筒5の後貫通孔6後端を塞ぎ、従来のスラッグ弾同様にケース9に封入すれば、本発明のスラッグ弾1からなるカートリッジ2が完成する(図1参照)。
最後に、本発明に基づくスラッグ弾1の発射から飛翔時の状態についいて説明する。図18は銃身38内で火薬の爆発エネルギーEbを受ける発射直後を表したスラッグ弾1の側面図(カートリッジは図示略)、図19は銃身38離脱後の飛翔開始を表したスラッグ弾1の側面図、図20は飛翔中を表したスラッグ弾1の側面図である。
発射直後は、図18に見られるように、火薬の爆発エネルギーEbをキャップ7の後面23で受け、キャップ7を介して後段円筒5へと伝達され、スラッグ弾1として飛翔する運動エネルギーEmとなる。ここで、厳密には前貫通孔4及び後貫通孔6を通じて銃身38内の空気がキャップ7を後方へ押すことになるが、銃身38内の空気の量は少なく、また銃身38内ではキャップ7は後方へしか離脱できないが、発射直後は火薬の爆発エネルギーEbに押されるため、キャップ7は後段円筒5の後面18に密着した状態で、銃身38内を進んでいく。本例のスラッグ弾1は、前段円筒3の外側面12に螺旋溝13を刻設しているため、銃身38と前段円筒3との摩擦により、若干の自転運動が加えられる。
スラッグ弾1が銃身38から離脱すると、図19に見られるように、十分な量の空気が前貫通孔4及び後貫通孔6を通じてキャップ7に対して流れていき、また銃身38による空間的な制約がなくなるため、キャップ7は後段円筒5の後面18から離脱し、落下していく。そして、前段円筒3の外側面12に沿った空気の流れAoが、刻設した螺旋溝13を介してスラッグ弾1に自転運動を与える。こうして、本発明のスラッグ弾1は、図20に見られるように、前段円筒3の前面11から後段円筒5の後面18に向けて、前貫通孔4から後貫通孔6を抜ける直線的な空気の流れAiと、前段円筒3の前面11から外側面12、そして後段円筒5の外側面25に沿って流れる空気の流れAoとに従って飛翔していく。
スラッグ弾の運動エネルギーEmは、火薬の爆発エネルギーEbにより総量が決定され、発射直後では銃身38内の摩擦により、また銃身38を離脱後は飛翔中に受ける空気の抵抗によって減衰していく。本発明のスラッグ弾1は、図20に見られるように、前段円筒3の前面11から外側面12、そして後段円筒5の外側面25に沿って流れる従来同様の空気の流れAoのほか、前段円筒3の前面11に開口した前貫通孔4から後貫通孔6を通って後段円筒5の後面18に抜ける空気の流れAiがある。このうち、両貫通孔4,6を抜ける空気の流れAiは、前段円筒3の前面11に受ける空気の抵抗と、後段円筒5の後面18に生ずる相対的な負圧との発生を抑制又は防止し、運動エネルギーEmの減衰を大幅に低減する。この結果、大きな運動エネルギーEmを保ってスラッグ弾1は飛翔するため、従来に比べて破壊力又は射程を向上させることができる。
これから、前貫通孔4及び後貫通孔6を通過する空気の流れAiは、円滑になることが望ましい。本例の後貫通孔6の後端に設けた拡開口19は、前記後貫通孔5の後端の断面積を急激に大きくすることで急激な圧力低下をもたらし、空気の抜けを向上させる構造である。このように、空気の流れAiの円滑化は、前貫通孔4から後貫通孔6に向けて圧力を低下させることで実現できる。例えば、図21に見られるように、前貫通孔4及び後貫通孔24を連続するテーパ状に形成することが考えられる。この場合、前貫通孔4の前端から後貫通孔24の後端へと断面積が連続して大きくなるため、前貫通孔4及び後貫通孔24を通過する空気の流れAiは連続して相対的高圧(前貫通孔4の前端)から低圧(後貫通孔24の後端)へと圧力変化し、円滑に両貫通孔4,24を通過できる。
両貫通孔は、必ずしもテーパ状でなくてもよく、例えば図22に見られるように、内径が相対的に小さな前貫通孔39と相対的に大きな後貫通孔6を結ぶようにしてもよい。この場合、連続的にではないが、前貫通孔39から後貫通孔6へと断面積が段階的に大きくなるため、前貫通孔39及び後貫通孔6を通過する空気の流れAiは、段階的に相対的高圧(前貫通孔39)から低圧(後貫通孔6)へと圧力変化し、円滑に両貫通孔39,6を通過できる。ここで、前貫通孔39の後端から前貫通孔6の断面積に応じた空気の流れAiが断面積の大きな後貫通孔6へ流れ込むため、前貫通孔39の後端と後貫通孔6の前端との境界にできる段差40は、前記空気の流れAiを阻害するものではない。
このほか、前段円筒3の前面11の面積を低減する(空気抵抗の低減)と共に、特に前貫通孔4への空気の流れ込みを促すため、図23に見られるように、前貫通孔4の前端に拡開口41を設けてもよい。これにより、抵抗となる空気の衝突領域が前段円筒3の前面11から低減されると共に、空気が比較的円滑に前貫通孔4へ流れ込むことになる。これは、前貫通孔4の前端における圧力上昇をもたらし、後貫通孔6の後端に対する圧力差を大きくするため、前貫通孔4の前端から後貫通孔6の後端に向けて圧力変化を下り勾配にすることができる。これにより、前貫通孔4から後貫通孔6を抜ける空気の流れAuを向上させることができる。
また、破壊力及び射程は、前段円筒3を後段円筒5に比べて相対的に重くしたことによっても向上している。すなわち、前段円筒3の前面11から外側面12、そして後段円筒5の外側面25に沿って流れる空気Aoは、必ずしも安定した層流にはならない。このため、スラッグ弾1は、飛翔中に軸ぶれを引き起こすモーメントを発生させる。しかし、本発明のスラッグ弾1は、前段円筒3に比べて後段円筒5が軽くなっているため、前記軸ぶれを引き起こすモーメントが比較的小さくなり、直進性を向上させるほか、軸ぶれによる運動エネルギーEmの損失が抑えられる結果、破壊力及び射程を向上させることができる。