JP2005009135A - 複合建築物及びその設計方法 - Google Patents

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Masaki Masuda
正樹 増田
Kazuhisa Fukuda
一久 福田
Hiroshi Umemori
浩 梅森
Kazuhiro Kaneda
和浩 金田
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Abstract

【課題】合理的な構造であり、かつ、安価に構築可能である複合建築物を提供する。
【解決手段】複数階の本体躯体Kと、当該本体躯体を支持する基礎部Bとを備え、前記本体躯体を所定の階を境として、上階部の剛性と、下階部の剛性とが異なる複合建築物Fにおいて、前記下階部の剛性に対する前記上階部の剛性の比率が、前記下階部の床面積に対する前記上階部の床面積の比率に応じて定められる臨界値以下となるように形成した。
【選択図】 図4

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、前記本体躯体を所定の階を境として上階部と下階部に区分した場合に、当該上階部の剛性と下階部の剛性とが異なる複合建築物及びその設計方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、住宅等に代表される複数階の建築物を構築する場合において、所定の階を境として下階部と上階部とで異なる構造形式を採用し、下階部の剛性と比較して上階部の剛性を小さくする構造(例えば、下階部10’を鉄筋コンクリート造(以下、鉄筋コンクリートを「RC」という場合がある)、上階部30’を木造とした複合建築物F’、図8)が提案されている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】
特開平6−212687号公報(第3頁−第4頁、第1図−第2図)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の複合構造物F’は、現場で本体躯体の構築を行うため、以下のような各種の問題が生じてしまう場合がある。
(1)木造の上階部30’は養生期間を経てから施工に着手する必要があるとともに、階段室の開口から下階部に雨水が入らないように保護しなければならず、工期の長期化してしまうとともに、施工作業が煩雑となる。
(2)上階部30’は、下階部10’におけるコンクリートスラブ33’上に木土台34’を設け、当該木土台34’上に構築することになるが、木土台34’をコンクリートスラブ33’に固定するためのアンカー部材(図示せず)は、下階部10’の鉄筋(図示せず)の一部に固定する必要があるため、精度の確保が難しい。
(3)上階部30’の建築面積が下階部10’の建築面積より小さく形成する場合に、下階部10’におけるコンクリートスラブ33’において、上階部30’の建築領域の外周縁に沿って、雨水の浸入を防ぐための立上部33b’を設けることが一般的であるが、この場合には、型枠の設置、配筋及びコンクリート打設後の均し等の各作業が煩雑であるとともに、施工精度も良好とならない場合がある。
【0005】
また、従来は、前記のような複合構造物F’を構築する場合には、下階部10’と上階部30’とで剛性が大きく異なる構造とすると、剛性が小さい上階部30’が集中して破壊しやすくなってしまうと考えられていた。そのため、上階部30’の剛性を下階部10’の剛性と比較して6割程度の値とすることが一般的であり、それ以下の剛性にする場合には必要保有水平耐力が大きくなるように割増係数を大きくする設計方法が採用されていた。
しかし、この場合には、上階部30’の剛性や必要保有水平耐力を増加させる必要があるため、部材断面を大きくすること、或いは、開口部の面積や数を減少させなければならず、設計の自由度に制約が生じると共に施工費用が増加するという問題点を有していた。
【0006】
本発明は、前記の問題点を解決するためになされたものであり、実証解析の結果を踏まえ、より合理的な構造であり、かつ、安価に構築可能である複合建築物及びその設計方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、本発明の複合建築物は、複数階の本体躯体と、当該本体躯体を支持する基礎部とを備え、前記本体躯体を所定の階を境として、上階部の剛性と下階部の剛性とが異なる複合建築物において、前記下階部はプレキャストコンクリート造で構築されており、前記上階部は木造で構築されていることを特徴としている。
【0008】
本発明によれば、上階部の剛性と、下階部の剛性とが異なる複合建築物を構築する場合において、下階部がプレキャストコンクリート造により構築されていることから、上階部の施工にあたって下階部の養生期間が必要とならないため、迅速な施工が可能となる。
【0009】
また、前記複合建築物において、前記下階部は、基礎部上に立設されている複数のプレキャストコンクリート製の壁部材と床部材を有しており、前記上階部は、土台部材を介して前記壁部材又は前記床部材の上部に固定されている壁面構成部材を有しており、前記壁部材又は前記床部材に予め埋設されたアンカー部材により、前記土台部材又は前記壁面構成部材が固定されている構成とすることもできる。
【0010】
ここで、壁面構成部材とは、木造の上階部を形成するための部材であり、木質の枠組材や面材等をいう。
【0011】
本発明によれば、アンカー部材が予め埋設されて一体化されている壁部材又は床部材を用いることにより、土台部材又は壁面構成部材をアンカー部材に取り付ける作業を容易かつ正確に行うことができるため、当該土台部材又は壁面構成部材を固定させる作業の施工精度を向上させることができる。
【0012】
また、前記複合建築物において、前記上階部の建築面積が前記下階部の建築面積より小さくなっているとともに、前記上階部と前記下階部の間に、前記プレキャストコンクリート製の床部材が前記上階部の建築領域より広領域で設けられており、前記床部材には、上階部の建築領域の外周縁の少なくとも一部に沿って、雨水の浸入を防ぐための立上部が予め設けられている構成とすることもできる。
【0013】
ここで、建築面積とは、各階の建物を真上から見た時の水平投影面積(外壁で囲まれた部分の水平投影面積)をいう。
【0014】
本発明によれば、予め立上部が設けられたプレキャストコンクリート製の床部材を用いて、上階部が構築されているため、現場において床部を構築するための配筋及びコンクリート打設後の均し等の各作業が不要となるとともに、良好な施工精度を確保することができる。
【0015】
また、本発明の複合建築物は、複数階の本体躯体と、当該本体躯体を支持する基礎部とを備え、前記本体躯体を所定の階を境として、上階部の剛性と下階部の剛性とが異なる複合建築物において、前記下階部の剛性に対する前記上階部の剛性の比率が、前記下階部の床面積に対する前記上階部の床面積の比率に応じて定められる臨界値以下となるように形成されていることを特徴としている。
【0016】
ここで、下階部はRC造(特に、RC造の耐力壁とスラブを主体として構成された壁式RC構造を採用すれば剛性比が大きくなるため好適)で構築されており、上階部は木造で構築されている構成とすれば、容易に複合構造物を提供することができる。
【0017】
本発明によれば、上階部の剛性と下階部の剛性とが異なる複合建築物において、前記下階部の剛性に対する前記上階部の剛性の比率が、前記下階部の床面積に対する前記上階部の床面積の比率に応じて定められる臨界値以下となるように形成されている。従って、上階部の剛性や必要保有水平耐力を、必要以上に増加させなくてもよいことから、部材断面を小さくできるとともに、開口部の面積やその数を増加させることができるため、合理的な設計を行うことができる。
【0018】
また、前記複合建築物を設計するに当たり、各階の床面積比及び剛性比に応じた固有値解析の結果から高さ方向外力分布係数を設定し、前記設定された高さ方向外力分布係数を用いて算出された必要保有水平耐力を満たすように、前記上階部の構造設計を行うこととすれば、合理的かつ正確に設計を行うことができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の一形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
[本発明の複合建築物の設計思想]
我国の耐震設計規定では、31m以上60mまでの建物、及び、31m以下の建物であっても所定の形状制限、耐力・じん性の条件を満たさない場合には、骨組の保有水平耐力を算定し、この値を、大地震時を対象とした必要保有水平耐力と比較することにより、耐震安全性を確認する必要がある。この必要保有水平耐力は、大地震時に建築物に生じる応答層せん断力を基本として、これに許容し得る塑性変形量に基づく低減や形状の不整による割増を考慮して算出されるものであり、式(a)で示される。
【0021】
Figure 2005009135
【0022】
従来は、下階部と上階部とで異なる構造形式を採用しており、立面的に剛性が偏っている複数階立ての複合建築物の場合には、図1(a)に示すように、剛性率(R)が小さくなるほど補正係数(F)を割増して大きくし、必要保有水平耐力が大きくなるような設計法を採用して、その構築を行っていた。
【0023】
一方、式(a)によれば、必要保有水平耐力は、偏心率と剛性率に応じて定まる補正係数(Fes)を除くと、i階以上の部分の重量(W)と高さ方向外力分布係数(A)に依存して定められる。
そこで、複合建築物をモデル化して、多自由度系(複合構造物の階数が自由度の数に相当する)の固有値解析を行い、地震時における各階の高さ方向外力分布係数(A)を算定して、その傾向を検討した。
なお、前記高さ方向外力分布係数(A)は、式(b)(「2001年版 建築物の構造関係技術基準解説書、国土交通省住宅局建築指導課、日本建築主事会議、(財)日本建築センター」に基づく算出式)で算出されるものであり、各階の重量、剛性、各階に作用させる所定の刺激関数の入力値、固有値解析により得られる複合建築物のJ次固有周期、及び、当該J次固有周期に対応する加速度応答スペクトルの値から求められるものである。
【0024】
【数1】
Figure 2005009135
【0025】
ここで、本実施形態では、対象とする複合建築物(図2(a))を3階建てとして、3自由度系のモデル(図2(b))を作成し、2階部と3階部の床面積及び剛性の組み合わせを複数ケース設定して固有値解析を行い、高さ方向外力分布係数(A)を算定した。
【0026】
なお、解析に使用した、重量、剛性及び階高は表1の通りであり、2階部の床面積に対する3階部の床面積の比(以下「床面積比」という)は、0.25、0.50、0.75,1.00の4段階で変化させた。また、2階部の剛性(K)に対する3階部の剛性(K)の比(以下「剛性比」という)は、表2に示すように、K=K/K=1/24の場合を基準として、0.125K〜2.00Kの範囲で適宜変化させた。
【0027】
【表1】
Figure 2005009135
【0028】
【表2】
Figure 2005009135
【0029】
3階部(i=3)における高さ方向外力分布係数(A)の算出結果は、図3に示すようになった。この結果によれば、各階部の床面積比によってその値は異なるが、剛性比がある臨界値(床面積比が1.00の場合には約1/11、床面積比が0.75の場合には約1/11.5、床面積比が0.50の場合には約1/18、床面積比が0.25の場合には約1/32)に達すると高さ方向外力分布係数(A)が逆転して小さくなることが明らかになった。
このことは、剛性比を前記臨界値以下の値とした場合には、高さ方向外力分布係数(A)が小さくなる(すなわち、3階部に作用する外力が小さくなる)ことを示しており、2階部に比べて3階部の剛性を低下させた複合建築物とした方が、かえって地震時外力が低下することが明らかになった。
【0030】
この結果によれば、上階部の剛性が小さい場合には地震時外力が小さくなるため必要保有水平耐力は小さく設定すればよいことになり、「剛性率(R)が小さくなるほど補正係数(F)を割増して大きくし、必要保有水平耐力が大きくなるようにする」という従来の設計法を採用することは、不合理であることが実証されたことになる。
【0031】
従って、本発明では、下階部と上階部とで異なる構造形式を採用しており、立面的に剛性が偏っている複数階立ての複合建築物では、「下階部と比較して上階部の剛性を低下させることにより地震時外力を低下させることが実現可能となる」という実証実験の結果を踏まえ、下階部と比較して上階部の剛性を臨界値以下に低下させ、必要保有水平耐力を小さくするようにして複合建築物を構築することとしたものである。
そして、このような複合建築物とすることにより、上階部の剛性や必要保有水平耐力を、必要以上に増加させなくてもよいことから、部材断面を小さくできるとともに、開口部の面積やその数を増加させることができることになる。
【0032】
このとき、上階部の高さ方向外力分布係数(A)が逆転する剛性比の臨界値は、上階部と下階部(下階部がさらに複数階から構築される場合には上階部と隣接する下階)との床面積比に応じて(なお、この床面積比は重量比とほぼ対応することが確認されている)異なるものであるが、通常の複合建築物のように床面積比が0.75〜1.0の範囲内にある場合には、剛性比が1/10以下、床面積比が0.50〜0.75の範囲内にある場合には、剛性比が1/18以下、床面積比が0.50〜0.25の範囲内にある場合には、剛性比が1/32以下、となるように設定すれば、剛性比の臨界値以上の外力が上階部に作用しないことから好ましいことが前記実証実験により確認されるに至った。
【0033】
すなわち、上階部の剛性比を前記臨界値以下となるように設定すれば、必要水平保有耐力は、臨界値に対応する高さ方向外力分布係数に基づいて算出された値を超えることがないことが確認された。
なお、実際の設計にあたっては、構築すべき複合建築物に関して、前記と同様の固有値解析を行い、その結果に基づいて、高さ方向外力分布係数(A)を算出して(予め、種々のケースを想定して、高さ方向外力分布係数(A)のデータベース(図表も含む)を作成してもよい)必要水平保有耐力を求め、その値を基準として耐震安全性を確認することになる。
【0034】
また、剛性比の下限値は理論上は制限がないが、上階部が有効に構築可能となるために最低限必要となる値として定められる必要があり、通常は1/96程度とすることが限界であると考えられる。
【0035】
[本発明の複合建築物の構成]
前記設計思想に基づいた複合建築物Fの具体例を説明する。
図4及び図5に示すように、複合建築物Fは、3階建てである本体躯体Kと、その下部において当該本体躯体Kを支持する基礎部Bとから形成されている。本体躯体Kは、1階部10及び2階部20(下階部に相当する)がプレキャストコンクリート(以下「PCa」という)壁式RC構造であり、3階部30(上階部に相当する)が木造の枠組壁構造となっており、3階部30に対する1階部10及び2階部20の剛性比は1/12となっている。
そして、1階部10及び2階部20は略直方体形状(建築面積は同一)であり、3階部30の建築面積は2階部の約75%(床面積比)となっており、当該3階部30は、2階部20の一方の短辺と、両側の長辺の一部が外周となるように構築されている。
【0036】
基礎部Bは、べた基礎であり、本体躯体Kの形状に適合するように打設されたスラブ部51と、当該本体躯体Kの外縁に沿って形成されている鉛直方向の立上部52とを有している。
基礎部Bの立上部52には、アンカーボルト(図示せず)を介して、予め所定寸法に形成されたPCa壁版11(壁部材)(以下「1階PCa壁版」という)が、外周縁及び各室の区画に沿って鉛直方向に複数枚立設することにより1階部10が構築されている。また、1階PCa壁版11の上縁部には、水平方向に1階部10と2階部20との境界となるPCa床版23(床部材)(以下「2階PCa床版」という)が横設されている。なお、符号13は、1階部のPCa床版であり、符号14は1階部のPCa床版13を支持する支持金物である。
【0037】
そして、2階PCa床版23の上には、外周縁及び各室の区画に沿って2階部20のPCa壁版21(壁部材)(以下「2階PCa壁版という」)が鉛直方向に立設され、当該2階PCa壁版21の上縁部には、水平方向に2階部20と3階部30の境界となるPCa床版33,33’(床部材)(以下「3階PCa床版」という)が横設されている。
【0038】
さらに、3階PCa床版33の上には、外周縁及び各室の区画に沿って(バルコニー部38は除く)木土台34(土台部材)が設けられている。そして、木土台34の上面に枠組材35と面材(図示せず)が設けられており、その上に3階部30の天井部41及び寄棟屋根42が設けられている。
【0039】
前記2階PCa壁材21の上面からは、木土台34を固定させるためのアンカー部材25が突出しており、その先端部は、3階PCa床版33及び木土台34を貫通した状態で、ナット26により固定されている。このアンカー部材25は、2階PCa壁材21の内部における上下方向に予め配置されて所定深さにまで埋設されており、当該2階PCa壁材21と一体化されている。
【0040】
また、図4に示すように、3階部30の建築面積は2階部20の建築面積より小さく、3階部30の建築領域以外の部分がバルコニー部38となっている。
この3階部30は、3階PCa床版33,33’の上に構築されており、建築領域における3階PCa床版33(以下「平板PCa版」という)は平板形状であり、バルコニー部38の3階PCa床版33’(以下「L字PCa版」という)は、側面視で倒立したL字形状を呈するように予め成形されている。このL字PCa版33’は、水平部33a’と立上部33b’を有しており、立上部33a’が平板PCa版33の厚さと等しくなるように形成されている(図6)。そして、この立上部33b’の存在により、3階部30の建築領域における一面の外周縁に沿ってバルコニー部38との境界に段差が形成されることにより、雨水の浸入が防ぐことができるようになっている。
【0041】
以上のように、本発明の複合構造物Fによれば、1,2階部10,20の剛性と、3階部30の剛性とが異なる構造とする場合において、1,2階部10,20がPCa造であることから、3階部30の施工にあたり、1,2階部10,20の養生期間を必要とせず、迅速な施工が可能となる。
また、木土台34を定着させるためのアンカー部材25が2階PCa壁材21に予め埋設されて一体化されているため、当該木土台34をアンカー部材25に取り付ける作業を容易かつ正確に行うことができるため、木土台34を2階PCa壁版21に固定させる作業の施工精度を向上させることができる。
【0042】
また、3階部30において、予め立上部33b’が形成されたL字PCa版33’を用いてバルコニー部38が形成されているため、現場においてバルコニー部38を構築するための配筋及びコンクリート打設後の均し等の各作業が不要となるとともに、良好な施工精度を確保することができる。
【0043】
[本発明の複合建築物の設計方法]
図7に示すように、本発明の複合建築物は、設計仕様書を確認して、3階部及び1,2階部における耐力壁の初期配置を行い(S1)、所定の耐力条件を満たすように3階部の耐力壁配置の決定を行う(S2)とともに、1,2階部の耐力壁配置の決定を行う(S3)ことにより、設計を行う。
【0044】
3階部の耐力壁配置の決定(S2)は、損傷時壁枚数決定ステップ(S21)と、倒壊時壁枚数決定ステップ(S22)とから構成される。
【0045】
損傷時壁枚数決定ステップ(S21)では、耐力壁の初期配置の条件から算出された設計壁枚数が、損傷時必要壁枚数を満たすか否かの検討を以下の手順により行う。
【0046】
まず、耐力壁の初期配置の条件に基づき、式(c)により3階部における設計壁枚数を算出する(S21a)。
設計壁枚数=Σ(壁倍率×耐力壁の脚長) (c)
但し、Σは総ての耐力壁についての総和を求めることを示す
【0047】
次に、3階部における地震力による損傷時必要壁枚数(以下「地震損傷時必要壁枚数」という)と風圧力による損傷時必要壁枚数(以下「風圧損傷時必要壁枚数」という)とを算出する(S21b,S21c)。
【0048】
地震損傷時必要壁枚数は、C(標準せん断力係数)=0.2とするとともに、各階の重量に対応して求められた3階部の高さ方向外力分布係数(A’)を当該3階部の重量に乗じて算出する。
また、風圧損傷時必要壁枚数は既存の方法と同様に、3階部の見付面積に所定の係数(この係数は、軒高9m、建築物最高高さを13mとして、想定屋根平均高さを求め、屋根勾配毎に決定された値)を乗じることにより算出する。
【0049】
続いて、設計壁枚数が地震損傷時必要壁枚数以上となること、及び、設計壁枚数が風圧損傷時必要壁枚数以上となるか否かを判定する(S21d)。このとき、いずれかの条件を満たさない場合(S21dにおけるNo)には、耐力壁の初期条件を修正して同様の検討を行う。
一方、両条件(以下「損傷時条件」という)を満たした場合(S21dにおけるYes)には、倒壊時壁枚数決定ステップ(S22)に進む。
【0050】
倒壊時壁枚数決定ステップ(S22)では、損傷時条件を満たした耐力壁の配置条件から算出された設計壁枚数が、倒壊時必要壁枚数を満たすか否かの検討を行う。
【0051】
まず、3階部における地震力による倒壊時必要壁枚数(以下「地震倒壊時必要壁枚数」という)を算出する(S22a)。
地震倒壊時必要壁枚数は、C(標準せん断力係数)=1.0、D=0.3とするとともに、3階部の床面積及び3階部と2階部の剛性比に対応して予め固有値解析により求められた3階部の高さ方向外力分布係数(A)に応じた割増係数を前記式(a)に代入することにより算出する。
【0052】
続いて、設計壁枚数が地震倒壊時必要壁枚数以上となるか否かを判定する(S22b)。このときこの条件を満たさない場合(S22bにおけるNo)には、耐力壁の配置条件を修正して同様の検討を行う。
一方、この条件を満たした場合(S22bにおけるYes)には接合金物等を適切に決定して(S23)、3階部の設計を終了する。
【0053】
その後、1,2階部について、既存の設計方法と同様の方法を用いて、損傷防止用壁と倒壊防止用壁がそれぞれ必要壁枚数以上となるよう耐力壁配置の決定を行い(S3)、設計を終了する。
【0054】
このように、本発明の設計方法を採用することにより、前記複合建築物を合理的かつ正確に設計を行うことができることになる。
【0055】
以上、本発明について、好適な実施形態の一例を説明した。しかし、本発明は、前記実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、以下のように適宜設計変更が可能である。
特に、建築物は、複数階建てであれば何階建てであってもよく、また、その形状や間取り等についても制限はない。
【0056】
また、下階部は必ずしもPCa造でなくてもよく、通常のRC造であってもよい。また、上階部についても、木造であればよく、枠組壁構造(木構造組立パネル工法)以外の在来工法(木造軸組構造)を採用することもできる。
【0057】
【発明の効果】
本発明によれば、より合理的な構造であり、かつ、安価に構築可能である複合建築物及びその設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は、必要保有水平耐力を算出するためのF(剛性率に応じて定まる補正係数)と剛性率(R)の関係を示すグラフであり、(b)は、必要保有水平耐力を算出するためのF(偏心率に応じて定まる補正係数)と偏心率(R)の関係を示すグラフである。
【図2】(a)は固有値解析を行う際の複合建築物を示す概念図であり、(b)固有値解析を行う際の複合建築物のモデルを示す概念図である。
【図3】高さ方向外力分布係数(A)と剛性比の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の複合建築物を示す斜視図である。
【図5】本発明の複合建築物の要部を拡大した側断面図である。
【図6】3階部のプレキャストコンクリート床版の要部を拡大した側断面図である。
【図7】本発明の複合構造物の設計方法を示すフロー図である。
【図8】従来の複合建築物を示す側面断面図である。
【符号の説明】
F 複合建築物
K 本体躯体
B 基礎部
10 1階部(下階部)
11,21 プレキャストコンクリート壁版
13,23 プレキャストコンクリート床版
20 2階部(下階部)
30 3階部(上階部)
33,33’ プレキャストコンクリート床版
33a’ 水平部
33b’ 立上部
34 木土台(土台部材)
35 枠組材
41 天井部
42 寄棟屋根

Claims (5)

  1. 複数階の本体躯体と、当該本体躯体を支持する基礎部とを備え、
    前記本体躯体を所定の階を境として、上階部の剛性と下階部の剛性とが異なる複合建築物において、
    前記下階部はプレキャストコンクリート造で構築されており、
    前記上階部は木造で構築されていることを特徴とする複合建築物。
  2. 前記下階部は、基礎部上に立設されている複数のプレキャストコンクリート製の壁部材と床部材を有しており、
    前記上階部は、土台部材を介して前記壁部材又は前記床部材の上部に固定されている壁面構成部材を有している請求項1に記載の複合建築物であって、
    前記壁部材又は前記床部材に予め埋設されたアンカー部材により、前記土台部材又は前記壁面構成部材が固定されていることを特徴とする複合建築物。
  3. 前記上階部の建築面積が前記下階部の建築面積より小さくなっているとともに、
    前記上階部と前記下階部の境界に、前記プレキャストコンクリート製の床部材が前記上階部の建築領域より広領域で設けられている請求項2に記載の複合建築物であって、
    前記床部材には、上階部の建築領域の外周縁の少なくとも一部に沿って、雨水の浸入を防ぐための立上部が予め設けられていることを特徴とする複合建築物。
  4. 複数階の本体躯体と、当該本体躯体を支持する基礎部とを備え、
    前記本体躯体を所定の階を境として、上階部の剛性と下階部の剛性とが異なる複合建築物において、
    前記下階部の剛性に対する前記上階部の剛性の比率が、
    前記下階部の床面積に対する前記上階部の床面積の比率に応じて定められる臨界値以下となるように形成されていることを特徴とする複合建築物。
  5. 請求項4に記載の複合建築物に関し、
    各階の床面積比及び剛性比に応じた固有値解析の結果から高さ方向外力分布係数を設定し、
    前記設定された高さ方向外力分布係数を用いて算出された必要保有水平耐力を満たすように、前記上階部の構造設計を行うことを特徴とする複合建築物の設計方法。
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