JP2004537283A - 輸送体及びイオンチャネル - Google Patents
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Abstract
本発明はヒト輸送体およびイオンチャネル(TRICH)、並びにTRICHを同定し、コードするポリヌクレオチドを提供する。本発明はまた、発現ベクター、宿主細胞、抗体、アゴニストおよびアンタゴニストをも提供する。本発明はまた、TRICHの異常発現に関連する疾患を診断、治療または予防する方法をも提供する。
Description
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送体及びイオンチャネルの核酸配列及びアミノ酸配列に関する。本発明はまた、これらの配列を利用した、輸送障害、神経疾患、筋疾患、免疫疾患、および細胞増殖異常の、診断・治療・予防に関する。本発明はさらに、輸送体及びイオンチャネルの核酸配列及びアミノ酸配列の発現における外来性化合物の効果についての評価に関する。
【背景技術】
【0002】
真核細胞は、殆どの極性分子にとって高度に非浸透性であるような疎水性脂質二重層膜に囲まれ、この膜によって機能的に異なるオルガネラに細区画される。細胞及びオルガネラは、必須栄養素及び、K+、NH4 +、Pi、SO4 2- を含む金属イオン、糖、ビタミン及び種々の代謝廃棄物を移出入するための輸送タンパク質を必要とする。輸送タンパク質は、抗生物質抵抗性、毒素分泌、イオンバランス、シナプス神経伝達、腎機能、腸管吸収、腫瘍成長及びその他の多様な細胞機能においても役割を果たす(Griffith, J. および C. Sansom (1998) The Transporter Facts Book. Academic Press, San Diego CA, 3-29ページ)。輸送は、受動的な濃度依存メカニズムによって起こるか、或いはATP加水分解またはイオン勾配などのエネルギー源に関連し得る。輸送時に機能するタンパク質には、担体タンパク質及びチャネルタンパク質がある。担体タンパク質は、特定の溶質に結合して、あるコンフォメーションの変化を起こし、その変化によって結合した溶質が膜を通過できるようにする。チャネルタンパク質は、特定の溶質が電気化学的溶質勾配に従って膜を通過して拡散することができるような疎水性ポアを形成する。
【0003】
膜の一方の側から他方の側へ単一溶質を輸送するキャリアタンパク質をユニポーターと呼ぶ。対照的に、共役輸送体は、1つの溶質の移動を第2溶質の移動に連結させ、その移動は同時または順次に起こるかのいずれかであり、移動の方向は同一方向(シンポート)または逆方向(アンチポート)のいずれかである。例えば、腸管及び腎臓の上皮は、原形質膜内外のナトリウム勾配によって駆動される種々のシンポーター系を含む。ナトリウムは、電気化学勾配に従って細胞内に移動し、その移動と共に溶質を細胞内に運ぶ。溶質を取り込むための駆動力を供給するナトリウム勾配は、遍在性のNa+/K+ ATP分解酵素系によって維持される。ナトリウム共役輸送体には、哺乳動物グルコース輸送体(SGLT1)、ヨウ化物輸送体(NIS)及びマルチビタミン輸送体(SMVT)がある。3つの輸送体はすべて、12個の推定上の膜貫通セグメント、細胞外グリコシル化部位、並びに細胞質内側にあるN末端及びC末端を有する。NISは、放射性ヨウ素甲状腺イメージング技術及び甲状腺への放射性同位元素の特異的ターゲッティングの分子的基礎であるため、種々の甲状腺病理の評価、診断及び治療において重大な役割を果たす(Levy, O. 他 (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:5568-5573)。SMVTは、腸管粘膜、腎臓及び胎盤において発現され、ビオチンやパントテン酸などの水溶性ビタミンの輸送に関与していると考えられる(Prasad, P. D. 他 (1998) J. Biol. Chem. 273:7501-7506)。
【0004】
MFS(major facilitator superfamily)は、輸送体の最大ファミリーの1つであり、ユニポーター−シンポーター−アンチポーターファミリーとも呼ばれる。MFS輸送体は、イオン勾配に応じて小溶質を輸送する、単一ポリペプチドキャリアである。MFSのメンバーは、すべてのクラスの生物に見られ、糖、オリゴ糖、リン酸、硝酸、ヌクレオシド、モノカルボン酸及び薬剤のための輸送体を含む。真核生物に見られるMFS輸送体はすべて12個の膜貫通セグメントを含む構成となっている(Pao, S. S. 他 (1998) Microbiol. Molec. Biol. Rev. 62:1-34)。MFS輸送体の最大のファミリーは糖輸送体ファミリーであり、ヒトに見られるような、グルコース及びその他の六炭糖の輸送に必要な7つのグルコース輸送体(GLUT1〜GLUT7)を含む。これらのグルコース輸送タンパク質は、独自の組織分布及び生理学的機能を有する。GLUT1は、基礎的グルコース要求量を多くの細胞型に提供して、上皮及び内皮の障壁組織を通ってグルコースを輸送し、GLUT2は、グルコースの取り込みまたは肝臓からの流出を促進し、GLUT3は、ニューロンへのグルコースの供給を調整し、GLUT4は、インスリンによって調整されるグルコース処理に関与し、GLUT5は、骨格筋へのフルクトースの取り込みを調節する。グルコース輸送体の欠陥は、最近同定された神経症候群であって、グリコーゲン貯蔵病、ファンコーニ−ビッケル症候群、及び非インスリン依存糖尿病のみならず、乳幼児けいれん及び発達遅滞の原因となるような神経症候群に関与している(Mueckler, M. (1994) Eur. J. Biochem. 219:713-725、Longo, N. および L. J. Elsas (1998) Adv. Pediatr. 45:293-313)。
【0005】
モノカルボン酸アニオン輸送体は、L-乳酸、ピルビン酸及びケトン体アセテート、アセトアセテート及びβヒドロキシ酪酸を含む広範な基質特異性を有するプロトン共役シンポーターである。これまでに少なくとも7つのアイソフォームが同定されている。アイソフォームは、TM6とTM7との間に大きな細胞内ループを有する12個の膜貫通(TM)らせん状ドメインを有し、解糖中に乳酸と共に化学量論的に生成されるプロトンを除去することにより、細胞内pHを維持する際に重要な役割を果たすと推定されている。最も良く特徴付けられたH+ モノカルボン酸輸送体は、L-乳酸及び広範囲の他の脂肪族モノカルボン酸を輸送する赤血球膜の輸送体である。その他の細胞は、異なる基質選択性及び抑制因子選択性を有するH+ 共役モノカルボン酸輸送体を有する。特に心筋及び腫瘍細胞は、数種の基質に対するKm値(D-乳酸よりL-乳酸を選択する立体化学的選択性を含む)及び抑制因子に対する感受性が異なる輸送体を有する。腸管及び腎臓上皮の管腔表面にNa+ モノカルボン酸共輸送体があり、それによってこれらの組織における乳酸、ピルビン酸及びケトン体の取り込みが可能になる。更に、腎臓、腸及び肝臓を含む器官に、有機カチオン及び有機アニオンのための特異的且つ選択的な輸送体がある。有機アニオン輸送体は、電子求引側基を有する疎水性の荷電分子に選択的である。アンモニウム輸送体などの有機カチオン輸送体は、種々の薬剤及び内因性代謝物の分泌を媒介し、細胞内pHの維持に寄与する(Poole, R. C. 及び A. P. Halestrap (1993) Am. J. Physiol. 264:C761-C782、Price, N. T. 他 (1998) Biochem. J. 329:321-328、Martinelle, K. 及び I. Haggstrom (1993) J. Biotechnol. 30:339-350)。
【0006】
ATP結合カセット(ABC)輸送体は、イオン、糖、アミノ酸、ペプチド、リン脂質のような小分子からリポペプチド、大タンパク質、及び複雑な疎水性薬剤までに及ぶ物質を輸送するような、膜タンパク質のスーパーファミリーのメンバーである。ABC輸送体は、4つのモジュール即ち2つのヌクレオチド結合ドメイン(NBD)及び2つの膜貫通ドメイン(MSD)を含む。NBDは、ATPを加水分解して輸送に必要なエネルギーを供給し、各MSDは、推定上の6つの膜貫通セグメントを含む。これら4つのモジュールは、単一の遺伝子または別々の遺伝子によりコードし得る。単一の遺伝子によりコードし得るのは、嚢胞性繊維症膜貫通調節因子(CFTR)に対する場合などである。別々の遺伝子にコードされる場合には、各遺伝子産物には1つのNBD及び1つのMSDが含まれる。これらの「半分子」は、小胞体での主要組織適合性(MHC)ペプチド輸送系であるTap1及びTap2などのホモ及びヘテロ二量体を形成する。幾つかの遺伝病は、ABC輸送体の欠陥に起因し、その疾患及びそれに対応するタンパク質の例としては、嚢胞性繊維症(CFTR、イオンチャネル)、副腎白質ジストロフィー(副腎白質ジストロフィータンパク質、ALDP)、ツェルヴェーガー症候群(ペルオキシソーム膜タンパク質-70、PMP70)及び高インスリン性低血糖症(スルホニル尿素受容体、SUR)がある。別のABC輸送体である多剤耐性(MDR)タンパク質がヒトの癌細胞において過剰発現すると、化学療法に用いられる種々の細胞毒性薬剤に対して細胞が耐性を有する(Taglicht, D. および S. Michaelis (1998) Meth. Enzymol. 292:130-162)。
【0007】
鉄、亜鉛、銅、コバルト、マンガン、モリブデン、セレン、ニッケル、クロムなどの多数の金属イオンは、多数の酵素に対する補助因子として重要である。例えば銅は、スーパーオキシドジスムターゼ、フェロキシダーゼ(セルロプラスミン)およびリジルオキシダーゼ等の酸化還元酵素の補因子として作用することによって、ヘモグロビン合成、結合組織の代謝および骨の発達に関与している。銅およびその他の金属イオンは食餌で摂取する必要があり、胃腸管の輸送体によって吸収される。血漿タンパク質は、金属イオンを肝臓及びその他の標的器官へ輸送し、ここで特異的輸送体群が必要に応じてイオンを細胞及び細胞のオルガネラに移動させる。金属イオン代謝の不均衡は、多数の病態に関連してきた(Danks, D. M. (1986) J. Med. Genet. 23:99-106)。
【0008】
P型ATP分解酵素はカチオン輸送膜貫通タンパク質の一つのクラスからなる。これらは、膜内在性タンパク質で、アスパルチルホスフェート中間体を使ってカチオンを膜通過させる。P型ATP分解酵素の特徴には、(i) カチオンチャネル、(ii) 膜貫通αへリックスの細胞質内への伸長によって形成される柄、(iii) ATP結合ドメイン、(iv)リン酸化アスパラギン酸、(v)隣接伝達ドメイン、(vi) 反応サイクルの一部としてアスパラギン酸からリン酸を除くホスファターゼドメイン、(vii)6個以上の膜貫通ドメインが含まれる。このクラスには重金属輸送ATP分解酵素とアミノリン脂質輸送体が含まれる。
【0009】
アミノリン脂質転位酵素によるホスファチジルセリンとホスファチジルエタノールアミンの輸送によって、二重層の一つの側から他の側へこれらの分子が移動される。この輸送はP型ATP分解酵素の新しく同定されたサブファミリによって行われ、このP型ATP分解酵素は両親媒性の輸送体であることが提唱されている。両親媒性輸送体は親水性領域と疎水性領域の両方を持つ分子を移動させる。このP型ATP分解酵素サブファミリに属する17種ほどの異なった遺伝子は、いくつかの異なったクラスとサブクラスのグループに分けられる(Halleck, M.S. 他(1999) Physiol. Genomics 1:139-150; Vulpe,C. 他 (1993) Nat. Genet. 3:7-13)。
【0010】
原形質膜を通過する脂肪酸の輸送は、高容量の低親和性プロセスである拡散により起こりうる。しかしながら、正常な生理学的条件下では、脂肪酸輸送の有意の割合が、高親和性、低容量のタンパク質媒介輸送プロセスによって起こっているように見える。脂肪酸輸送タンパク質(FATP)は、4つの膜貫通セグメントを有する膜内在性タンパク質であり、筋肉、心臓及び脂肪などの、高レベルの原形質膜脂肪酸流入を示す組織において発現される。FATPの発現は、脂肪変換中に3T3-L1細胞において上方制御され、COS7線維芽細胞における発現は、長鎖脂肪酸の取り込みを増加させる(Hui, T. Y. 他 (1998) J. Biol. Chem. 273:27420-27429)。
【0011】
リポカリンスーパーファミリは、小さな疎水性分子に結合して輸送する細胞外リガンド結合タンパク質として機能する40以上のタンパク質群であり、系統的に保存されている。このファミリのメンバーはレチノイド、臭気物質、発色団、フェロモン、アレルゲンおよびステロールのキャリアーとして機能し、また栄養輸送、細胞成長調節、免疫応答、およびプロスタグランジン合成を含むさまざまなプロセスにおいて機能する。これらのタンパク質のあるサブセットは、多機能で、生合成酵素または特異的酵素インヒビターとしての役割を果たしている可能性がある(Tanaka, T. 他 (1997) J. Biol. Chem. 272:15789-15795; および van't Hof, W. 他 (1997) J. Biol. Chem. 272:1837-1841)。リポカリンのファミリのメンバーは、異常に低い全体的な配列保存レベルを示す。ペアワイズの配列同一性はしばしば20%以下に落ちる。ファミリメンバー間の配列類似性は、ジスルフィド結合を形成する保存されたシステイン、および標的細胞認識部位として機能する並列クラスターを形成する3つのモチーフに限定されている。リポカリン類は1枚の8本鎖逆平行βシートを共有する。このシートはそれ自体が折れ曲がることにより、連続的に水素結合したβバレルを形成する。このバレルが形成するポケットは、内部リガンド結合部位として機能する。7つのループ(L1〜L7)は短いβヘアピン群を形成するが、ループL1のみは大きなオメガループであって蓋を形成し、この内部リガンド結合部位を部分的に閉鎖する(Flower (1996) Biochem. J. 318:1-14)。
【0012】
リポカリンは重要な輸送分子である。各リポカリンは、特定のリガンドと会合して、そのリガンドを生物体の中の適切な標的部位に送達する。最もよく研究されたリポカリンの一つであるレチノール結合タンパク質(RBP)は、肝臓内の貯蔵場所からレチノールを標的組織に輸送する。アポリポプロテインD(アポD)は高密度リポプロテイン(HDL)と低密度リポプロテイン(LDL)のコンポーネントであり、全身のコレステロールの標的を特定した収集と送達の役割を果たす。リポカリンは細胞の調節過程にも関与する。アポDは巨視的(グロス)嚢胞性疾患液タンパク質(GCDFP)24と同じもので、乳房の嚢胞液内に高レベルで発現するプロゲステロン/プレグネノロン結合タンパク質である。数種のヒト乳癌細胞株におけるアポDの分泌は、細胞増殖の低減および、細胞の、より分化した表現型への進行を伴う。同様に、アポDと他のリポカリンであるα1-酸糖タンパク質 (AGP)は神経細胞再生に関与している。AGPは、また、抗炎症活性および免疫抑制活性にも関与する。AGPは、ポジティブな急性期タンパク質(APP)の1種であり、AGPの循環レベルの増加は、ストレスおよび炎症の刺激に応答して起こる。AGPは炎症部位に蓄積し、血小板と好中球の活性化を阻害し、食細胞活動を阻害する。AGPの免疫調節特性はグリコシル化に起因している。AGPは40%が糖質であるため、異常に酸性で可溶性である。AGPのグリコシル化パターンは急性期反応中に変化し、脱グリコシル化されたAGPは免疫抑制活性を持っていない(Flower (1994) FEBS Lett. 354:7-11; 前出Flower (1996))。
【0013】
リポカリンスーパーファミリにはまた、いくつかの動物アレルゲンが含まれる。例えばマウス主要尿タンパク質(mMUP)、ラットα-2-ミクログロブリン (rA2U) 、ウシβ-ラクトグロブリン (βlg) 、ゴキブリのアレルゲン (Bla g4) 、ウシふけ(dander)アレルゲン (Bos d2) 、および、主要なウマのアレルゲンであるEquus caballus アレルゲン 1 (Equ c1)を含む。Equ c1は、慢性的にウマのアレルゲンに曝される患者の抗ウマIgE抗体反応の原因の約80%を占める強力なアレルゲンである。リポカリンはIgE反応を誘発する能力を持った共通の構造を持っているように見える(Gregoire, C. 他,(1996) J. Biol. Chem. 271:32951-32959)。
【0014】
リポカリン類は、診断マーカーおよび予後マーカーとして、多様な病態において用いられる。AGPの血漿レベルの測定は、妊娠時や、以下の状況での診断と予後診断とにおいてなされる。すなわち例えば癌化学療法、腎臓機能障害、心筋梗塞、関節炎、および多発性硬化症などを含む状況である。RBPは臨床上、腎臓の尿細管再吸収のマーカーとして利用され、また、apo Dは、グロス嚢胞性乳房疾患(gross cystic breast disease)におけるマーカーである(Flower (1996) 、前出)。さらに、リポカリン動物アレルゲンの使用は、ウマ(前出のGregoire)、ブタ、ゴキブリ、マウスおよびラットへのアレルギー反応の診断に役立つ可能性がある。
【0015】
ミトコンドリア担体タンパク質は、細胞質及びミトコンドリア基質の間でイオン及び荷電代謝産物を輸送する膜貫通タンパク質である。例として、ADP、ATP担体タンパク質、2-オキソグルタル酸/リンゴ酸担体、リン酸担体タンパク質、ピルビン酸担体、ジカルボン酸担体(リンゴ酸、コハク酸、フマル酸及びリン酸を輸送する)、トリカルボン酸担体(クエン酸及びリンゴ酸を輸送する)、及びグレーブス病担体タンパク質(即ち甲状腺機能亢進症の原因となる自己免疫異常である活性グレーブス病を患った患者のIgGにより認識されたタンパク質)がある。このファミリーのタンパク質は、約100アミノ酸ドメインの3つのタンデムリピートからなり、各タンデムリピートは2つの膜貫通領域を有する(Stryer, L. (1995) Biochemistrv, W. H. Freeman and Company, New York NY, 551頁、PROSITE PDOC00189 Mitochondrial energy transfer proteins signature、Online Mendelian Inheritance in Man (OMIM) *275000 Graves Disease)。
【0016】
このクラスの輸送体には、またミトコンドリア脱共役タンパク質も含まれる。この脱共役タンパク質はミトコンドリア内膜でプロトンリークを起こさせ、酸化的リン酸化をATP合成から脱共役させる。結果として、熱の形態でのエネルギー散逸が起こる。ミトコンドリア脱共役タンパク質は、温度調節及び代謝率のモジュレーターと関連するとされており、肥満症などの代謝疾患に対する薬剤の可能性のある標的として提案されてきた(Ricquier, D. 他 (1999) J. Int. Med. 245:637-642)。
【0017】
イオンチャネル
細胞の電位は、原形質膜を通過するイオンの動きを制御することにより起こり、かつ維持される。イオンが動くためには、膜内にイオン選択性ポアを形成するようなイオンチャネルを必要とする。イオンチャネルには2つの基本型があり、それはイオン輸送体とゲート型イオンチャネルである。イオン輸送体は、ATP加水分解から得られるエネルギーを利用して、イオンの濃度勾配に逆らってイオンを能動的に輸送する。ゲート型イオンチャネルは、制限された条件下でイオンの電気化学勾配に従ってイオンの受動的流動を起こさせる。これらのタイプのイオンチャネルは共に、1)神経細胞の軸索に沿った電気インパルス伝導、2)濃度勾配に逆らった細胞内への分子の輸送、3)筋収縮の開始、及び4)内分泌細胞の分泌に用いられるような電気化学勾配を、発生させ、維持し、利用する。
【0018】
イオン輸送体
イオン輸送体は、細胞の静止電位を発生させ及び維持する。ATP加水分解に由来するエネルギーを利用して、イオン輸送体は、イオンの濃度勾配に逆らってイオンを輸送する。これらの膜貫通ATPアーゼは、3つのファミリーに区分される。リン酸化(P)クラスイオン輸送体には、Na+/K+ ATP分解酵素、Ca2+ ATP分解酵素及びH+ ATP分解酵素があり、リン酸化イベントによって活性化される。Pクラスイオン輸送体は、Na+ 及びCa2+ のサイトゾル内濃度が低く、K+ のサイトゾル内濃度が高くなるように静止電位の分布を維持するのに関与している。液胞(V)クラスのイオン輸送体には、リソソーム及びゴルジなどの細胞内オルガネラ上のH+ ポンプがある。オルガネラの内腔内では低いpHが、その機能に必要であり、Vクラスイオン輸送体は、その低pHを発生させるのに関与している。共役因子(F)クラスは、ミトコンドリアのH+ ポンプからなる。Fクラスイオン輸送体は、プロトン勾配を利用してADP及び無機リン酸(Pi)からATPを生成する。
【0019】
P-ATPアーゼは、イオン結合に関与し得るような、10個の膜貫通ドメイン及び幾つかの大きな細胞質領域を有する100 kD サブユニットの六量体である(Scarborough, G. A. (1999) Curr. Opin. Cell Biol. 11:517-522)。P型ATP分解酵素はアスパルチルホスフェート中間体を用いてカチオンを膜通過させる。P型ATP分解酵素の特徴には、(i) カチオンチャネル、(ii) 膜貫通αへリックスの細胞質への伸長によって形成された柄(ストーク)、(iii) ATP結合ドメイン 、(iv)リン酸化アスパラギン酸、(v)隣接伝達ドメイン、(vi) 反応サイクルの一部としてアスパラギン酸からリン酸を除くホスファターゼドメイン、(vii)6個以上の膜貫通ドメインが含まれる。このクラスには重金属輸送ATP分解酵素とアミノリン脂質輸送体が含まれる。FIC1 遺伝子は、突然変異して遺伝性胆汁鬱滞の2つの形態になるP型ATP分解酵素をコードする。FIC1 のタンパク質産物は肝臓での胆汁酸循環に必須の役割を果たしている可能性がある(Bull, L.N. 他 (1998) Nat. Genet. 18:219-224)。V-ATPアーゼは、2つの機能的ドメインから構成される。V1ドメインは、ATP加水分解に関与する周辺複合体であり、V0ドメインは、プロトンの膜通過移動に関与する、膜内在性の複合体である。F-ATP分解酵素は、構造的及び進化的にV-ATP分解酵素に関連する。F-ATP分解酵素F0ドメインは、12個のコピーのcサブユニットを含んでおり、各サブユニットは高度に疎水性のタンパク質で、2つの膜貫通ドメインから成り、プロトン輸送に不可欠なTM2に1つの埋没されたカルボキシル基を含む。V-ATP分解酵素V0ドメインは、TM4またはTM3に4つまたは5つの膜貫通ドメイン及び必須カルボキシル基を有する3つの型の相同cサブユニットを含む。複合体の両型は、活性のpH依存性の制御に関与し得る単一サブユニットも含む(Forgac, M. (1999) J. Biol. Chem. 274:12951-12954)。
【0020】
細胞の静止電位は、キャリアタンパク質及びゲート型イオンチャネルに関連する多くのプロセスに利用される。キャリアタンパク質は、静止電位を利用して分子を細胞内外に輸送する。多くの細胞へのアミノ酸及びグルコースの輸送は、ナトリウムイオン共輸送(シンポート)にリンクされ、Na+ の電気化学勾配に従った動きが他の分子を濃度勾配に逆らって輸送させる。同様にして、心筋は、細胞からのCa2+ の移動を細胞内へのNa+の輸送にリンクさせる(アンチポート)。
【0021】
ゲート型イオンチャネル
ゲート型イオンチャネルは、ポアの開閉を調節することによってイオンの流れを制御する。種々のゲーティング機構によってイオン流束を制御する能力は、ニューロン及び内分泌シグナル伝達、筋収縮、受精並びに、イオン及びpHバランスの調整などの多様なシグナル伝達及び恒常性機能をイオンチャネルに媒介させ得る。ゲート型イオンチャネルは、開口機能の制御方法に応じて区分される。機械依存性チャネルは、機械的応力に応じてポアを開け、電位依存性チャネル(例えばNa+、K+、Ca2+ 及びCl- チャネル)は膜電位の変化に応じてポアを開け、リガンド依存性チャネル(例えばアセチルコリン依存性、セロトニン依存性、及びグルタミン依存性カチオンチャネル、並びにGABA依存性及びグリシン依存性クロライドチャネル)は、特定のイオン、ヌクレオチドまたは神経伝達物質の存在下でポアを開ける。特定のイオンチャネルの開口特性(即ち開閉に対するその閾値及び持続時間)は、補助チャネルタンパク質及び/または、リン酸化などの翻訳後修飾と関連して時折調節される。
【0022】
機械刺激依存性または機械刺激感受性イオンチャネルは、触覚、聴覚及び平衡感覚のトランスデューサとして作用し、細胞容積調整、平滑筋収縮及び心リズム生成においても重要な役割を果たす。伸展不活性化チャネル(SIC)は、最近ラットの腎臓からクローニングされた。SICチャネルは、細胞膜への圧力またはストレスによって活性化され、Ca2+及びNa+ を共に伝導するようなあるグループのチャネルに属している(Suzuki, M. 他 (1999) J. Biol. Chem. 274:6330-6335)。
【0023】
電位依存性カチオンチャネルのポア形成サブユニットは、イオンチャネルタンパク質のスーパーファミリーを形成する。これらのチャネルタンパク質の特徴的なドメインには、6つの膜貫通ドメイン(S1〜S6)、S5とS6との間にあるポア形成領域(P)及び、細胞内にあるアミノ末端及びカルボキシ末端がある。Na+ 及びCa2+ サブファミリーでは、このドメインは4回繰り返され、K+チャネルサブファミリーでは、各チャネルは、同一または非類似のいずれかであるサブユニットの四量体から形成される。P領域は、チャネルに対するイオン選択性を特定する情報を含む。K+ チャネルの場合、GYGトリペプチドがこの選択性に関与する(Ishii, T. M. 他 (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:11651-11656)。
【0024】
電位依存性Na+ 及びK+ チャネルは、神経及び筋肉細胞などの電気的興奮性細胞の機能に必要である。神経伝達物質放出及び筋収縮の原因となる活動電位は、Na+及びK+ イオンの膜透過性における大きな一過的変化から生じる。閾値レベルを超えた膜の脱分極は、電位依存性Na+ チャネルを開く。ナトリウムイオンは、細胞へ流れ、膜を更に脱分極してより多くの電位依存性Na+チャネルを開き、このようにして脱分極が細胞に沿って伝わっていく。脱分極はまた、電位依存性カリウムチャネルを開く。結果として、カリウムイオンは外向きに流れ、それによって膜の再分極が生じる。電位依存性チャネルは、第4膜貫通セグメント(S4)において荷電した残基を利用して電圧変化を検出する。開状態は、約1ミリ秒しか持続せず、その約1ミリ秒後に、チャネルは膜電位と無関係に開き得ない不活性化状態に自然に変換する。不活性化は、ポアを閉じるプラグとして作用するようなチャネルのN末端によって媒介される。不活性化状態から閉状態へ遷移するには、静止電位に戻ることが必要である。
【0025】
電位依存性Na+ チャネルは、2つの更に小さな補助サブユニットβ1及びβ2に会合する260 kDaのポア形成αサブユニットから構成されるようなヘテロ三量体の複合体である。β2サブユニットは、細胞外Igドメインを含む内在性膜糖タンパク質であり、そのα及びβ1サブユニットとの会合は、チャネルの機能的発現の増加と、そのゲーティング特性の変化と、膜表面面積の増加に起因する全細胞キャパシタンスの増加とに相関する(Isom, L. L. 他 (1995) Cell 83: 433-442)。
【0026】
非電位依存性Na+ チャネルには、アミロライド感受性Na+ チャネル/degenerin(NaC/DEG)ファミリーのメンバーが含まれる。このファミリーのチャネルサブユニットは、アミノ末端及びカルボキシル末端が細胞内にあり、長い細胞外ループに隣接する2つの膜貫通ドメインを含むと考えられる。NaC/DEGファミリーには、気道、遠位結腸、腎臓の皮質集合管及び外分泌有導管腺(exocrine duct glands)を含む上皮におけるNa+ 再吸収に関与する上皮性Na+ チャネル(EnaC)がある。EnaCにおける突然変異は、1型偽性低アルドステロン症及びリドル症候群(偽性高アルドステロン症)を引き起こす。NaC/DEGファミリーには、最近特徴付けられたH+ 依存性カチオンチャネルまたは酸感受性イオンチャネル(ASIC)もある。ASICサブユニットは、脳で発現し、ヘテロ多量体のNa+ 透過性チャネルを形成する。これらのチャネルは、活性化のために酸性pH変動を必要とする。ASICサブユニットは、元々は線虫から単離された機械刺激依存性チャネルのファミリーであるdegenerinとの相同性を示す。degenerinでの突然変異は、神経変性を引き起こす。組織アシドーシスが痛みの原因となるため、ASICサブユニットは、神経機能または痛みの知覚にも関与し得る(Waldmann, R. および M. Lazdunski (1998) Curr. Opin. Neurobiol. 8:418-424; Eglen, R. M. 他 (1999) Trends Pharmacol. Sci. 20:337-342)。
【0027】
K+ チャネルはすべての細胞種に存在し、電圧、ATP濃度、またはCa2+ 及びcAMPなどのセカンドメッセンジャーによってK+ チャネルを制御し得る。非興奮性組織では、K+ チャネルが、タンパク質合成、内分泌性分泌の制御、及び、膜内外の浸透平衡の維持に関与している。ニューロン及びその他の興奮性細胞では、活動電位の調整及び膜の再分極に加えて、K+ チャネルが静止膜電位の設定に関与する。サイトゾルは、非拡散性アニオンを含み、この負の電荷総ての平衡を保持するために、細胞にはNa+、K+ 及びCl- の再分布を提供するNa+/K+ ポンプ及びイオンチャネルが含まれる。ポンプは、能動的にNa+ を細胞外へ輸送し、K+ を細胞内に輸送する(Na+:K+ の割合は3:2である)。原形質膜のイオンチャネルは、K+ 及びCl- が受動的な拡散により流出入することを許容する。サイトゾル内の電荷が高度に負であるので、Cl- は細胞外に流出する。K+ の流れは、K+ を細胞内に引き込む起電力及びK+ を細胞外に押し出すK+濃度勾配によって均衡が保たれる。従って、静止膜電位は、主としてK+ の流れによって調整される(Salkoff, L. および T. Jegla (1995) Neuron 15:489-492)。
【0028】
Shaker様スーパーファミリーのカリウムチャネルサブユニットはすべて6つの膜貫通ドメイン/1つのポアドメイン構造の特徴を有する。4つのサブユニットは、ホモまたはヘテロ四量体として結合し、機能的Kチャネルを形成する。これらのポア形成サブユニットは、チャネル不活性化動力学を変化させるような種々の細胞質βサブユニットとも関連している。Shaker様チャネルファミリーには、QT延長症(1種の心律動異常症候群/不整脈)に関連するようなヒトether-a-go-go関連遺伝子(HERG)などの遅延整流型チャネルや、電位依存性K+チャネルがある(Curran, M. E. (1998) Curr. Opin. Biotechnol. 9:565-572、Kaczarowski, G. J. および M. L. Garcia (1999) Curr. Opin. Chem. Biol. 3:448-458)。
【0029】
K+ チャネルの第2のスーパーファミリーは、内向き整流型チャネル(Kir)で構成される。Kirチャネルは、優先的にK+ の流れを内向きに導く特性を有する。これらのタンパク質は、1つのカリウム選択性ポアドメイン及び2つの膜貫通ドメインから構成され、これらは電位依存性K+チャネルの第5及び第6膜貫通ドメインに対応する。Kirサブユニット群は、四量体としても会合している。Kirファミリーには、腎尿細管疾患のバーター症候群の原因となる突然変異であるROMK1がある。Kirチャネルは、心臓ペースメーカー活動の調整、発作及びてんかん、並びにインスリン調整にも関与している(Doupnik, C. A. 他 (1995) Curr. Opin. Neurobiol. 5:268-277、前出のCurran)。
【0030】
最近認識されたTWIK K+ チャネルファミリーには、哺乳類のTWIK-1、TREK-1及びTASKタンパク質がある。このファミリーのメンバーは、4つの膜貫通ドメイン及び2つのPドメインを含む全体構造を有する。これらのタンパク質は、おそらく多くの細胞種における静止電位の制御に関与している(Duprat, F. ら (1997) EMBO J 16:5464-5471)。
【0031】
電位依存性Ca2+ チャネルは、電気生理学的特性及び薬理学的特性に基づき、幾つかのサブタイプに区分されてきた。L型Ca2+ チャネルは、心筋及び骨格筋に優勢に発現し、興奮収縮連関において不可欠な役割を果たす。T型チャネルは、心臓ペースメーカー活動に重要であり、N型及びP/Q型チャネルは、中枢及び抹消神経系における神経伝達物質放出の制御に関与している。L型及びN型電位依存性Ca2+ チャネルは精製されており、両チャネルは機能が非常に異なるが、類似のサブユニット組成を有する。両チャネルは、3つのサブユニットを含む。α1 サブユニットは膜のポアと電位センサーを形成するが、α2δと β サブユニットはチャネルの電位依存性、開口特性および電流振幅を調節する。これらのサブユニットは少なくとも6つのα1、1つのα2δおよび4つのβ遺伝子によってコードされる。四番目のサブユニットであるγは骨格筋で同定された(Walker, D. 他 (1998) J. Biol. Chem. 273:2361-2367; McCleskey, E.W. (1994) Curr. Opin. Neurobiol. 4:304-312)。
【0032】
生化学的特性が研究されてきた高電位活性化Ca 2+ チャネルには、約190〜250 kDaのポア形成アルファ1サブユニットの複合体、アルファ2およびデルタサブユニットの膜貫通複合体、細胞内ベータサブユニット、および場合によっては膜貫通ガンマサブユニットを含む。さまざまなアルファ1サブユニット、アルファ2デルタ複合体、ベータサブユニットおよびガンマサブユニットが知られている。アルファ1サブユニットのCav1ファミリはLタイプCa 2+ 電流を流し、それによって筋肉の収縮、内分泌および遺伝子の転写が始まる。LタイプCa 2+ 電流の調節は主にセカンドメッセンジャー活性化タンパク質リン酸化経路によって行われる。アルファ1サブユニットのCav2ファミリはNタイプ、P/QタイプおよびRタイプのCa 2+ 電流を流し、それによって急速なシナプス伝達が始まる。調節は主にGタンパク質およびSNAREタンパク質との直接の相互作用によって、そして補助的にタンパク質リン酸化によって行われる。アルファ1サブユニットのCav3ファミリはTタイプのCa 2+ 電流を流すが、この活性化と不活性化は他のCa 2+ 電流タイプと比べてより速く起こり、またより負の膜電位で起こる。これら3つのファミリのCa 2+ チャネルの異なる構造と調節パターンにより、膜電位の変化に応答してさまざまなCa 2+ 流入経路が提供され、またセカンドメッセンジャー経路および相互作用するタンパク質によってCa 2+ の流入を調節するさまざまな可能性が提供される(Catterall, W.A. (2000) Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 16:521-555)。
【0033】
電位依存性Ca 2+チャネルのアルファ2サブユニットは1つ以上のCache ドメインを含んでいる可能性がある。細胞外Cacheドメインは、細胞内触媒ドメイン(ヒスチジンキナーゼ、PP2Cホスファターゼ、GGDEF(推定ジグアニレートシクラーゼ)、HD-GYP(推定ホスホジエステラーゼ)、またはアデニリルシクラーゼドメイン等)あるいは非触媒ドメイン(メチル受容DNA結合ウィング付きヘリックス・ターン・ヘリックス、GAF、PASまたはHAMP(istidine キナーゼ、デニリルシクラーゼ、エチル結合タンパク質、およびホスファターゼに見られるドメイン)等)に融合している可能性がある。小さな分子はCacheドメインを通じて結合し、このシグナルが細胞内ドメインに依存して多様な出力に変換される(Anantharaman, V. および Aravind, L.(2000) Trends Biochem. Sci. 25:535-537)。
【0034】
カルシウムイオンチャネルの一過性受容体(電位)ファミリ(Trp)は容量性カルシウム流入(CCE)を媒介すると考えられている。CCEは、イノシトール三リン酸(IP3)や、多くのホルモンや成長因子に応答する他の物質の作用によって消耗されるCa2+ 貯蔵を再供給するためのCa2+ の細胞内への流入である。Trpおよび Trp様物質は、最初にショウジョウバエからクローンされ、S3 から S6領域における電位依存性Ca2+ チャネルに類似性を持つ。これはTrpおよび/またはその関連タンパク質が、哺乳動物のCCEチャネルを形成することを示唆する (Zhu, X. 他 (1996) Cell 85:661-671; Boulay, G. 他 (1997) J. Biol. Chem. 272:29672-29680)。メラスタチン(melastatin)はマウスおよびヒトの両方において単離された遺伝子であり、黒色腫細胞におけるその発現は、生体内における黒色腫の侵襲性と逆相関している。このヒトcDNA転写物は、Trpファミリのメンバーに相同性を有する1533基のアミノ酸をもつタンパク質に相当する。メラスタチンmRNA発現状態と腫瘍の厚さを組み合わせて利用すると、転移性疾患の発症に対するリスクの低いグループと高いグループに患者のグループ分けを決定できる可能性が提示されている (Duncan, L.M. 他(2001) J. Clin. Oncol. 19:568-576).。
【0035】
クロライドチャネルは、内分泌性分泌及び、細胞質およびオルガネラのpH調節に必要である。分泌上皮細胞では、Cl- はNa+、K+/Cl- 共輸送体によって側底膜を通過して細胞に入り、電気化学的平衡濃度以上で細胞内に蓄積する。ホルモンの刺激に応じて、尖端表面からのCl- を分泌することにより、Na+ 及び水が分泌性ルーメンに流入する。嚢胞性線維症膜通過伝導制御因子(CFTR)は、ヒトによく見られる致命的な遺伝病である嚢胞性繊維症のための遺伝子によってコードされるクロライドチャネルである。CFTRはABC輸送体ファミリーのメンバーであり、6つの膜貫通ドメインを各々有するような2つのドメインとその後に続くヌクレオチド結合部位から構成される。CFTR機能の損失は、経上皮水分泌を減少させ、結果的に、呼吸樹、膵管及び腸を被膜する粘液の層は、脱水されて、取り除くのが困難になる。結果的にこれらの部位が閉塞することにより、膵不全、「胎便性イレウス」及び悲惨な「慢性閉塞性肺疾患」を生じさせる(Al-Awqati, Q. 他 (1992) J. Exp. Biol. 172:245-266)。
【0036】
電位依存性クロライドチャネル(CLC)は、CBSドメインとして知られる2つの小球形ドメインの他に10〜12個の膜貫通ドメインによって特徴付けられる。CLCサブユニット群は、おそらくホモ四量体として機能する。CLCタンパク質は、細胞容積、膜電位安定化、シグナル伝達及び経上皮輸送の調整に関与している。骨格筋で主に発現されるようなCLC-1の突然変異は、常染色体劣性全身性ミオトニー及び常染色体優性先天性ミオトニーの原因であり、腎臓チャネルCLC-5における突然変異は、腎臓結石を引き起こす(Jentsch, T. J. (1996) Curr. Opin. Neurobiol. 6:303-310)。
【0037】
リガンド依存性チャネルがポアを開くのは、細胞外または細胞内メディエータがチャネルに結合するときである。神経伝達物質依存性チャネルは、神経伝達物質が細胞外ドメインに結合すると開くチャネルである。これらのチャネルは、神経または筋肉細胞のシナプス後膜に存在する。神経伝達物質依存性チャネルには、2つの型がある。ナトリウムチャネルは、アセチルコリン、グルタミン酸及びセロトニンなどの興奮性神経伝達物質に応じて開く。こうして開くことによって、Na+ の流入を引き起こし、電位依存性チャネルを活性化して活動電位を開始する最初の局在脱分極を提供する。クロライドチャネルは、γアミノ酪酸(GABA)及びグリシンなどの抑制神経伝達物質に応じて開き、膜の過分極及びそれに続く活動電位の生成を引き起こす。神経伝達物質依存性イオンチャネルは、4つの膜貫通ドメインを有し、おそらく五量体として機能する(前出のJentsch)。第2膜貫通ドメインのアミノ酸は、チャネル透過性及び選択性の決定において重要であるように見える(Sather, W. A. 他 (1994) Curr. Opin. Neurobiol. 4:313-323)。
【0038】
リガンド依存性チャネルは、細胞内のセカンドメッセンジャーによって制御することができる。例えば、カルシウム活性化K+ チャネルは、内部カルシウムイオンによってゲーティングされる。神経細胞では、脱分極中のカルシウムの流入は、K+ チャネルを開いて活動電位の大きさを調節する(前出のIshiiら)。大コンダクタンス(BK)チャネルは、脳から精製され、そのサブユニット組成が決定された。BKチャネルのαサブユニットは、電位依存性K+ チャネルとは対照的に6つでなく7つの膜貫通ドメインを有する。付加的な膜貫通ドメインは、サブユニットN末端に位置する。サブユニットのC末端領域(「カルシウムボウル(calcium bowl)」領域)の28個のアミノ酸ストレッチは、負に荷電した残基を多数含み、カルシウム結合に責任を果たす領域であると考えられる。βサブユニットは、グリコシル化細胞外ループによって結合された2つの膜貫通ドメインを含み、細胞内にN末端及びC末端を有する(前出のKaczorowski、Vergara, C. ら (1998) Curr. Opin. Neurobiol. 8:321-329)。
【0039】
サイクリックヌクレオチド依存性(CNG)チャネルは、サイトゾルのサイクリックヌクレオチドによってゲーティングされる。最も良い例は、嗅覚に関与するcAMP依存性Na+ チャネルと、視覚に関与するcGMP依存性カチオンチャネルである。両システムは、Gタンパク質共役受容体のリガンド媒介活性化に関与し、Gタンパク質共役受容体は次に細胞内でのサイクリックヌクレオチドのレベルを変化させる。CNGチャネルはまた、Ca2+ がニューロンに入る主要経路を示し、ニューロンの発達及び可塑性において役割を果たす。CNGチャネルは、少なくとも2つのタイプのサブユニット即ち機能的ホモマーチャネルを形成し得るαサブユニットとチャネル特性を調節するβサブユニットとを含む四量体である。すべてのCNGサブユニットは、電位依存性K+ チャネルに類似の、6つの膜貫通ドメイン及び、第5及び第6膜貫通ドメインの間のポア形成領域を有する。大きなC末端ドメインにはサイクリックヌクレオチド結合ドメインが含まれ、N末端ドメインはチャネルサブタイプ間に変異をもたらす(Zufall, F. ら (1997) Curr. Opin. Neurobiol. 7:404-412)。
【0040】
別のタイプのイオンチャネルタンパク質の活性は、種々の細胞内シグナル伝達タンパク質によっても調節し得る。多くのチャネルは、1個以上のプロテインキナーゼによるリン酸化部位を有する。プロテインキナーゼには、プロテインキナーゼA、プロテインキナーゼC、チロシンキナーゼ及びカゼインキナーゼIIがあり、これらはすべて細胞のイオンチャネル活性を調節する。Kirチャネルは、ヘテロ三量体Gタンパク質のGβγサブユニットの結合により活性化される(Reimann, F. および F. M. Ashcroft (1999) Curr. Opin. Cell. Biol. 11:503-508)。別のタンパク質は、細胞膜の特定部位へのイオンチャネルの局在化に関与している。このようなタンパク質にはPDZドメインタンパク質があり、これはニューロンのシナプスでイオンチャネルのクラスター形成を調整するMAGUK(膜関連グアニル酸キナーゼ)として知られている(Craven, S. E. および D. S. Bredt (1998) Cell 93:495-498)。
【0041】
疾患との相関関係
多くのヒトの疾患及び障害の原因は、膜を通過する分子輸送における欠陥に帰しし得る。膜結合輸送体及びイオンチャネルの輸送における欠陥は、嚢胞性繊維症、グルコース−ガラクトース吸収不良症候群、高コレステロール血症、フォンギールケ病及び或る種の糖尿病など幾つかの疾患に関連している。膜を通過して小分子を輸送できなくなる単一遺伝子の欠陥による疾患には、例えばシスチン尿症、イミノグリシン尿症、Hartup病及びファンコーニ病がある(van't Hoff, W. G. (1996) Exp. Nephrol. 4:253-262、Talente, G. M. ら (1994) Ann. Intern. Med. 120:218-226、及びChillon, M. ら (1995) New Engl. J. Med. 332:1475-1480)。
【0042】
イオンチャネル遺伝子における突然変異に起因するヒト疾患には、骨格筋、心筋及び中枢神経系の疾患がある。ナトリウムチャネル及びクロライドチャネルのポア形成サブユニットにおける突然変異は、ミオトニーを引き起こす。ミオトニーは、随意収縮後の弛緩が遅れる筋肉障害である。ナトリウムチャネルミオトニーは、チャネル遮断薬で治療されてきた。筋肉のナトリウム及びカルシウムチャネルにおける突然変異は、数種の周期性麻痺を引き起こし、筋形質カルシウム放出チャネル、T細管カルシウムチャネル及び筋肉ナトリウムチャネルにおける突然変異は、悪性高熱症を引き起こす。QT延長症候群及び特発性心室細動などの心不整脈疾患は、カリウム及びナトリウムチャネルにおける突然変異に起因する(Cooper, E. C. および L. Y. Jan (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:4759-4766)。既知のヒト特発性てんかん遺伝子は、4つがすべてイオンチャネルタンパク質をコードする(Berkovic, S. F. および I. E. Scheffer (1999) Curr. Opin. Neurology 12:177182)。その他の神経疾患、例えば運動失調、片麻痺性片頭痛及び遺伝性難聴などもまた、イオンチャネル遺伝子における突然変異に起因し得る(Jen, J. (1999) Curr. Opin. Neurobiol. 9:274-280、前出のCooper)。
【0043】
イオンチャネルは、多くの薬物治療法に対する標的となっている。神経伝達物質依存性チャネルは、不眠症、不安、抑うつ症及び精神分裂病(統合失調症)の治療において標的とされて来た。電位依存性チャネルは、不整脈、虚血性発作、頭部外傷及び神経変性疾患の治療法において標的にされてきた(Taylor, C. P. および L. S. Narasimhan (1997) Adv. Pharmacol. 39:47-98)。種々のクラスのイオンチャネルは、痛みの知覚においても重要な役割を果たすので、新たな鎮痛薬の標的となり得る。このようなイオンチャネルにはバニロイド(vanilloid)依存性イオンチャネルがあり、これは侵害熱によってのみならずバニロイドであるカプサイシンによっても活性化される。電位依存性Na+ チャネルを遮断するリドカインやメキシレチンなどの局部麻酔薬は、神経障害性の痛みの治療において有用である(前出のEglen)。
【0044】
免疫調節のための標的として、最近では免疫系におけるイオンチャネルが示唆されている。T細胞活性化は、カルシウムシグナル伝達に依存し、多様なT細胞特異的イオンチャネルは、このシグナル伝達過程に影響することが特徴付けられている。チャネル遮断薬は、リンホカインの分泌、細胞増殖、及び標的細胞の死滅を阻害することができる。T細胞カリウムチャネルKv1.3のペプチドアンタゴニストは、ブタにおける遅延型過敏症及び異質遺伝子型反応を抑制し、安全で効果的な免疫抑制薬としてのチャネル遮断薬の使用のアイデアを実証している(Calahan, M. D. および K. G. Chandy (1997) Curr. Opin. Biotechnol. 8:749-756)。
老化
【0045】
大部分の通常の真核細胞は特定の回数、分裂した後、老化状態に入り、この状態において細胞は生存でき、代謝的に活性であるが、もはや複製はしない。細胞サイズの増加やpH依存性ベータガラクトシダーゼ活性のような多くの形質的変化、および特定遺伝子群の上方制御のような分子的変化が老化細胞(senescent cells)において生じる(Shelton (1999) Current Biology 9:939-945)。老化細胞が分裂促進因子に曝露されると、多数の遺伝子が上方制御されるが、細胞は増殖しない。老化細胞がin vivoで年齢とともに蓄積され、生体の老化(aging)に寄与していることが示されている。さらに、老化は腫瘍形成を抑制し、老化に必要な多くの遺伝子もまた、p53や網膜芽細胞腫感受性遺伝子のような癌抑制遺伝子として機能する。大部分の腫瘍はその複製限界を凌いだ細胞を含んでいる。つまり、これらは不死化されている。多くの癌遺伝子は腫瘍形成の第1段階として細胞を不死化する。
【0046】
酸化的ストレス、放射、活性化腫瘍性タンパク質および細胞周期阻害剤のような多様な挑戦によって老化表現型が誘発され、老化が多くの増殖的シグナルや、抗増殖的シグナルによって影響されることが示されている(Shelton 前出)。老化は各々の細胞分裂とともに発生するテロメアの進行的短縮化と相関している。細胞内のテロメラーゼの触媒的成分の発現によってテロメアの短縮化が防がれ、また線維芽細胞や上皮細胞のような細胞が不死化されるが、別種の細胞(例えばCD8+ T細胞)は不死化しない(Migliaccio 他(2000) J. Immunol. 165:4978-4984).。このようにして、テロメアの短縮化および、細胞種によってはその他の機構によって老化は制御される。
【0047】
加齢における老化と腫瘍形成の役割を理解するための進行中の研究の一部として、老化細胞と前老化細胞の間で異なって発現される多数の遺伝子が同定されている。大部分の老化細胞は細胞周期のG1期において増殖が静止されている。多くの細胞周期遺伝子の発現は老化細胞および前老化細胞に類似している(Cristofalo (1992) Ann. N. Y. Acad. Sci. 663:187-194)が、増殖を抑制するサイクリン依存性キナーゼp21 とp16、およびサイクリンD1とEのような他の遺伝子の発現は老化細胞において上昇している。細胞周期に直接関与していない他の遺伝子群もまた、細胞外基質タンパク質のフィブロネクチン、プロコラーゲン、およびオステオネクチンに、またコラゲナーゼ、ストロメライシンおよびカテプシンBのようなプロテアーゼに上方制御される(Chen (2000) Ann. N.Y. Acad. Sci. 908:111-125).。老化細胞において発現不足の遺伝子には、熱ショックタンパク質である c-fosと cdc-2 をコードする遺伝子が含まれる(Chen 前出)。
【0048】
P-糖タンパク質は免疫系の細胞に発現されるABC輸送体ファミリのメンバーであり、またサイトカインや細胞毒性分子の分泌に関与している。P-糖タンパク質の発現と機能は老化リンパ球において増大することが発見された。これらの相違は免疫応答における変化に関与し得る。これには、ヒトの加齢に伴う感染頻度や自己免疫現象の増加が含まれる(Aggrawal, S. 他(1997) J. Clin. Immunol. 17:448-454)。
【0049】
新たな輸送体及びイオンチャネル並びにこれらをコードするポリヌクレオチドの発見は、輸送障害、神経疾患、筋肉疾患、免疫疾患、および細胞増殖異常の、診断、治療並びに予防において、また、輸送体及びイオンチャネルの核酸配列及びアミノ酸配列の発現に対する外因性化合物の効果の評価において有用であるような新たな組成物を提供することにより、当分野における必要性を満たす。
【発明の開示】
【発明の効果】
【0050】
本発明は、総称して「TRICH」、個別にはそれぞれ「TRICH-1」、「TRICH-2」、「TRICH- 3」、「TRICH-4」、「TRICH-5」、「TRICH-6」、「TRICH-7」、「TRICH-8」、「TRICH-9」、「TRICH-10」、「TRICH-11」、「TRICH-12」、「TRICH-13」、「TRICH-14」、「TRICH-15」、「TRICH-16」、「TRICH-17」、「TRICH-18」、「TRICH-19」、および「TRICH-20」と呼ぶ輸送体及びイオンチャネルである精製されたポリペプチドを提供する。或る実施態様において本発明は、(a)SEQ ID NO:1-20を有する群から選択したアミノ酸配列からなるポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20を有する群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%が同一性のある天然のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20を有する群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的活性断片、および(d)SEQ ID NO:1-20を有する群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片を含む群から選択した単離されたポリペプチドを提供する。一実施態様では、SEQ ID NO:1-20のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドを提供する。
【0051】
また、本発明は(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択した或るアミノ酸配列を持つポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択した或るアミノ酸配列との少なくとも90%の同一性を持つ或る天然アミノ酸配列を有するポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択した或るアミノ酸配列を持つポリペプチドの生物学的活性断片、または(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択した或るアミノ酸配列を持つポリヌクレオチドの免疫原性断片、からなる群から選択した或るポリペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチドを提供する。一実施態様では、該ポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:1-20からなる群から選択した或るポリペプチドをコードする。別の実施態様では、ポリヌクレオチドはSEQ ID NO:21-40からなる群から選択される。
【0052】
本発明は更に、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%が同一である天然のアミノ酸配列を含むポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的活性断片、および(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片からなる群から選択したポリペプチドをコードするようなポリヌクレオチドと機能的に連結したプロモーター配列を有する組換えポリヌクレオチドを提供する。一実施態様では、本発明は組換えポリヌクレオチドを用いて形質転換した細胞を提供する。別の実施態様では、本発明は組換えポリヌクレオチドを含む遺伝形質転換体を提供する。
【0053】
更に本発明は、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択されたアミノ酸配列からなるポリペプチドと、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択されたアミノ酸配列と90%以上の同一性を有する天然のアミノ酸配列からなるポリペプチドと、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的に活性な断片と、(d)SEQ ID NO:1-20とからなる群から選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片とで構成される群から選択されたポリペプチドを製造する方法を提供する。製造方法は、(a)組換えポリヌクレオチドを用いて形質転換した細胞をポリペプチドの発現に適した条件下で培養する過程と、(b)そのように発現したポリペプチドを回収する過程とを有し、組換えポリヌクレオチドはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結したプロモーター配列を有する。
【0054】
本発明は更に、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%同一である天然のアミノ酸配列を含むポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的活性断片、および(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片から構成される群から選択されたポリペプチドに特異結合するような単離された抗体を提供する。
【0055】
本発明は更に、(a)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド、(b)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、(c)(a)に相補的なポリヌクレオチド配列、(d)(b)に相補的なポリヌクレオチド配列、および(e)(a)〜(d)のRNA等価物からなる群から選択された単離されたポリヌクレオチドを提供する。一実施態様では、ポリヌクレオチドは少なくとも60の連続したヌクレオチドを有する。
【0056】
本発明は更に、サンプル中の標的ポリヌクレオチドを検出する方法を提供する。ここで、標的ポリヌクレオチドは(a)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド、(b)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のポリヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド、(c)(a)に相補的なポリヌクレオチド、(d)(b)に相補的なポリヌクレオチド、および(e)(a)〜(d)のRNA等価物からなる群から選択されたポリヌクレオチドの配列を有する。検出方法は、(a)サンプル中の上記標的ポリヌクレオチドに相補的な或る配列からなる少なくとも20の連続したヌクレオチド群からなる或るプローブを用いて該サンプルをハイブリダイズする過程と、(b)該ハイブリダイゼーション複合体の有無を検出し、複合体が存在すればオプションでその量を検出する過程からなる。該プローブと該標的ポリヌクレオチドあるいはその断片との間でハイブリダイゼーション複合体が形成されるような条件下で、プローブは、該標的ポリヌクレオチドに対し特異的にハイブリダイズする。一実施態様では、プローブは少なくとも60の連続したヌクレオチドを含む。
【0057】
本発明はまた、サンプル中の標的ポリヌクレオチドを検出する一方法を提供する。ここで、標的ポリヌクレオチドは、(a)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列を持つポリヌクレオチド、(b)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列との少なくとも90%の同一性を有する天然ポリヌクレオチド配列を持つポリヌクレオチド、(c)(a)のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド、(d)(b)のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド、および(e)(a)〜(d)のRNA等価物、からなる群から選択した、或るポリヌクレオチドの配列を持つ。検出方法は、(a)ポリメラーゼ連鎖反応増幅を用いて標的ポリヌクレオチドまたはその断片を増幅する過程と、(b)前記の増幅した標的ポリヌクレオチドまたはその断片の存在・不存在を検出し、該標的ポリヌクレオチドまたはその断片が存在する場合にはオプションでその量を検出する過程を含む。
【0058】
本発明は更に、有効量のポリペプチドと薬剤として許容できる賦形剤とを含む組成物を提供する。有効量のポリペプチドは、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のアミノ酸配列を含むポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチドの生物学的活性断片、および(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列の免疫原性断片からなる群から選択される。一実施例では、SEQ ID NO:1-20からなる一群から選択されたアミノ酸配列を含む組成物を提供する。更に、本発明は、機能的TRICHの発現の低下に関連した疾患やその症状の治療を要する患者にこの組成物を投与することを含む治療方法を提供する。
【0059】
本発明はまた、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のアミノ酸配列を含むポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的活性断片、および(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片からなる群から選択されたポリペプチドのアゴニストとしての有効性を確認するために化合物をスクリーニングする方法を提供する。スクリーニング方法は、(a)ポリペプチドを含むサンプルを化合物に曝す過程と、(b)サンプル中のアゴニスト活性を検出する過程とを含む。別法では、本発明は、この方法によって同定されたアゴニスト化合物と好適な医薬用賦形剤とを含む組成物を提供する。更なる別法では、本発明は、この組成物の、機能的TRICHの発現の低下に関連した疾患やその症状の治療を要する患者への投与を含む治療方法を提供する。
【0060】
本発明は更に、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のアミノ酸配列を含むポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列の生物学的活性断片、および(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列のポリペプチドの免疫抗原性断片からなる群から選択されたポリペプチドのアンタゴニストとしての有効性を確認するために化合物をスクリーニングする方法を提供する。スクリーニング方法は、(a)ポリペプチドを含むサンプルを化合物に曝す過程と、(b)サンプル中のアンタゴニスト活性を検出する過程とを含む。一実施態様で本発明は、この方法によって同定したアンタゴニスト化合物と薬剤として許容できる賦形剤とを含む組成物を提供する。更なる別法では、本発明は、この組成物の、機能的TRICHの過剰な発現に関連した疾患やその症状の治療を要する患者への投与を含む治療方法を提供する。
【0061】
本発明は更に、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のアミノ酸配列を含むポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的活性断片、または(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片を含む群から選択されたポリペプチドに特異結合する化合物をスクリーニングする方法を提供する。スクリーニング方法は、(a)ポリペプチドを適切な条件下で少なくとも1つの試験化合物と混合させる過程と、(b)試験化合物とのポリペプチドの結合を検出し、それによってポリペプチドに特異結合する化合物を同定する過程とを含む。
【0062】
本発明は更に、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有する天然のアミノ酸配列を含むポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的活性断片、または(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片を含む群から選択されたポリペプチドの活性を調節する化合物をスクリーニングする方法を提供する。スクリーニング方法は、(a)ポリペプチドの活性が許容された条件下で、ポリペプチドを少なくとも1つの試験化合物と混合させる過程と、(b)ポリペプチドの活性を試験化合物の存在下で算定する過程と、(c)試験化合物の存在下でのポリペプチドの活性を試験化合物の不存在下でのポリペプチドの活性と比較する過程とを含み、試験化合物の存在下でのポリペプチドの活性の変化は、ポリペプチドの活性を調節する化合物であることを意味する。
【0063】
更に本発明は、SEQ ID NO:21-40からなる群から選択されたポリヌクレオチド配列を含む標的ポリヌクレオチドの発現を変容させるのに効果的な化合物をスクリーニングする方法であって、(a)この標的ポリヌクレオチドを含むサンプルを化合物に曝露する過程と、(b)この標的ポリヌクレオチドの発現の変容を検出する過程と、c)化合物の存在下での異なる量の標的ポリヌクレオチドの発現を化合物の不存在下での発現と比較する過程を含む、該スクリーニング方法を提供する。
【0064】
本発明は更に、(a)核酸を含む生物学的サンプルを試験化合物で処理する過程と、(b)(i)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、(ii)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、(iii)(i)に相補的な配列を有するポリヌクレオチド、(iv)(ii)のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド、(v)(i)〜(iv)のRNA等価物からなる群から選択したポリヌクレオチドの少なくとも20の連続したヌクレオチドを含むプローブを用いて、処理した生物学的サンプルの核酸をハイブリダイズする過程を含む、試験化合物の毒性の算定方法を提供する。ハイブリダイゼーションは、上記プローブと生物学的サンプル中の標的ポリヌクレオチドの間に特定のハイブリダイゼーション複合体が形成されるような条件下で発生し、上記標的ポリヌクレオチドは、(i)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、(ii)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、(iii)(i)のポリヌクレオチドに相補的な配列を有するポリヌクレオチド、(iv)(ii)のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド、および(v)(i)〜(iv)のRNA等価物からなる群から選択する。或いは、標的ポリヌクレオチドは、上記(i)〜(v)からなる群から選択したポリヌクレオチド配列の断片を有する。毒性の算定方法には更に(c)ハイブリダイゼーション複合体の量を定量する過程と、(d)処理した生物学的サンプルのハイブリダイゼーション複合体の量を、非処理の生物学的サンプルのハイブリダイゼーション複合体の量と比較する過程を含み、処理した生物学的サンプルのハイブリダイゼーション複合体の量の差は、試験化合物の毒性を示す。
【0065】
(本発明の記載について)
本発明のタンパク質、ヌクレオチド配列及び方法について説明する前に、説明した特定の装置、材料及び方法に本発明が限定されるものではなく、改変し得ることを理解されたい。また、ここで使用する専門用語は特定の実施例を説明する目的で用いたものに過ぎず、特許請求の範囲にのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図したものではないことも併せて理解されたい。
【0066】
請求の範囲及び明細書中で用いている単数形の「或る」及び「その(この)」の表記は、文脈から明らかにそうでないとされる場合を除いて複数のものを指す場合もあることに注意しなければならない。従って、例えば「或る宿主細胞」と記されている場合にはそのような宿主細胞が複数あることもあり、「或る抗体」と記されている場合には単数または複数の抗体、及び、当業者に公知の抗体の等価物等についても言及しているのである。
【0067】
本明細書中で用いる全ての技術用語及び科学用語は、特に定義されている場合を除き、当業者に一般に理解されている意味と同じ意味を有する。本明細書で説明するものと類似あるいは同等の任意の装置、材料及び方法を用いて本発明の実施または試験を行うことができるが、ここでは好適な装置、材料、方法について説明する。本発明で言及する全ての刊行物は、刊行物中で報告されていて且つ本発明に関係して用い得る細胞株、プロトコル、試薬及びベクターについて説明及び開示する目的で引用しているものである。本明細書のいかなる開示内容も、本発明が先行技術の効力によってこのような開示に対して先行する権利を与えられていないことを認めるものではない。
【0068】
(定義)
用語「TRICH」は、天然、合成、半合成或いは組換え体などからの、全ての種(特にウシ、ヒツジ、ブタ、ネズミ、ウマ及びヒトを含む哺乳動物)から得られる実質的に精製されたTRICHのアミノ酸配列を指す。
【0069】
用語「アゴニスト」は、TRICHの生物学的活性を強めたり、模倣する分子を指す。このアゴニストは、TRICHに直接相互作用するか、或いはTRICHが関与する生物学的経路の成分と作用して、TRICHの活性を調節するタンパク質、核酸、糖質、小分子、任意の他の化合物や組成物を含み得る。
【0070】
用語「対立遺伝子変異体/変異配列」は、TRICHをコードする遺伝子の別の形を指す。対立遺伝子変異体は、核酸配列における少なくとも1つの突然変異から作製し得る。また、変容したmRNAまたはポリペプチドを作製し得る。その構造または機能は、変容することもしないこともある。遺伝子は、天然の対立遺伝子変異体を全く有しないか、1個若しくは数個の天然の対立遺伝子変異体を有し得る。対立遺伝子変異体を生じさせる通常の突然変異性変化は一般に、ヌクレオチドの自然な欠失、付加または置換に帰するものである。これら各変化は、単独或いは他の変化と共に、所定の配列内で1回若しくは数回生じ得る。
【0071】
TRICHをコードする「変容した/改変された」核酸配列は、様々なヌクレオチドの欠失、挿入、或いは置換を有し、その結果、TRICHと同じポリペプチド或いはTRICHの機能特性の少なくとも1つを備えるポリペプチドを指す。この定義には、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列の正常な染色体の遺伝子座ではない位置での対立遺伝子変異配列との不適当或いは予期しないハイブリダイゼーション、並びにTRICHをコードするポリヌクレオチドの特定のオリゴヌクレオチドプローブを用いて容易に検出可能な或いは検出困難な多型性を含む。コードされるタンパク質も「変容する/改変される」ことがあり、サイレント変化を生じ機能的に等価なTRICHとなる、アミノ酸残基の欠失、挿入、或いは置換を含み得る。意図的なアミノ酸置換は、生物学的或いは免疫学的にTRICHの活性が保持される範囲で、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、及び/または両親媒性についての類似性に基づいて成され得る。例えば、負に帯電したアミノ酸にはアスパラギン酸及びグルタミン酸があり、正に帯電したアミノ酸にはリジン及びアルギニンがある。親水性値が近似している非荷電極性側鎖を有するアミノ酸には、アスパラギンとグルタミン、セリンとトレオニンがある。親水性値が近似している非荷電側鎖を有するアミノ酸には、ロイシン、イソロイシンおよびバリン、グリシンとアラニン、フェニルアラニンとチロシンがある。
【0072】
「アミノ酸」または「アミノ酸配列」の語は、オリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチド若しくはタンパク質の配列またはその断片を指し、天然または合成分子を指す。ここで「アミノ酸配列」は天然のタンパク質分子のアミノ酸配列を指すものであり、「アミノ酸配列」及び類似の語は、アミノ酸配列を、列挙したタンパク質分子に関連する完全な本来のアミノ酸配列に限定しようとするものではない。
【0073】
「増幅」は、核酸配列の追加複製に関連する。増幅は通常、当業者によく知られたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を用いて行う。
【0074】
用語「アンタゴニスト」は、TRICHの生物学的活性を阻害或いは減弱する分子である。アンタゴニストは、TRICHに直接相互作用するか、或いはTRICHが関与する生物学的経路の成分と作用して、TRICHの活性を調節する抗体、核酸、糖質、小分子、任意の他の化合物や組成物などのタンパク質を含み得る。
【0075】
「抗体」の語は、そのままの免疫グロブリン分子やその断片、例えばFab,、F(ab')2 及びFv断片を指し、これらは抗原決定基と結合することができる。TRICHポリペプチドと結合する抗体は、免疫抗原として、そのままのポリペプチド、または関心のある小ペプチドを含む断片を用いて作製可能である。動物(マウス、ラット、ウサギ等)を免疫化するために用いるポリペプチドまたはオリゴペプチドは、RNAの翻訳、または化学合成によって得られるポリペプチドまたはオリゴペプチドに由来し得るもので、所望によりキャリアタンパク質に抱合することも可能である。通常用いられるキャリアであってペプチドと化学結合するものは、ウシ血清アルブミン、サイログロブリン及びスカシガイのヘモシアニン(KLH)等がある。結合その結合ペプチドは、動物を免疫化するために用いる。
【0076】
「抗原決定基」の語は、特定の抗体と接触する、分子の領域(即ちエピトープ)を指す。タンパク質またはタンパク質断片を用いて宿主動物を免疫化する場合、タンパク質の多数の領域が、抗原決定基(タンパク質の特定の領域または3次元構造)に特異結合する抗体の産生を誘導し得る。抗原決定基は、抗体への結合において無損傷抗原(即ち免疫応答を誘発するために用いられる免疫原)と競合し得る。
【0077】
用語「アプタマー」は、特定の分子標的に結合する核酸またはオリゴヌクレオチドを指す。アプタマーはin vitroの進化過程(例えば米国特許番号第5,270,163号に記載されたSELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential Enrichmentの略、試験管内選択法))から由来するもので、そのような過程は大きな組み合わせライブラリから標的特異的なアプタマー配列を選択する。アプタマー組成は、2本鎖または1本鎖であってもよく、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ヌクレオチド誘導体、または他のヌクレオチド様分子を含み得る。アプタマーのヌクレオチド構成要素は修飾された糖基(例えば、リボヌクレオチドの2'-OH 基が2'-F または 2'-NH2で置換されている)を有することが可能で、これらの糖基は、例えば、ヌクレアーゼに対する耐性あるいは血中でのより長い寿命など、望む性質を改善しうる。循環系からアプタマーが除去される速度を遅くするために、アプタマーを高分子量キャリアー等の分子に抱合させることができる。アプタマー類は、例えば或る架橋剤の光活性化によって、それらの同種リガンド群と特異的に架橋させ得る(Brody, E.N. および L. Gold (2000) J. Biotechnol. 74:5-13等を参照)。
【0078】
「intramer」の用語はin vivoで発現されるアプタマーを意味するたとえば、ワクシニアウィルスに基づくRNA発現系は、白血球の細胞質で特定のRNA アプタマーを高度に発現させるために使用されている(Blind, M. 他 (1999) Proc. Natl Acad. Sci. USA 96:3606-3610)。
【0079】
「spiegelmer」の語はL-DNA、L-RNAその他の左旋性ヌクレオチド誘導体またはヌクレオチド様分子を含むアプタマーを指す。左旋性ヌクレオチドを含むアプタマーは、右旋性のヌクレオチドを含む基質に通常作用する天然の酵素による分解に耐性がある。
【0080】
「アンチセンス」の語は、特定の核酸配列の「センス」(コーディング)鎖と塩基対を形成することが可能な任意の組成物を指す。アンチセンス組成物の例には、DNAや、RNAや、ペプチド核酸(PNA)や、修飾されたバックボーン連鎖たとえばホスホロチオ酸、メチルホスホン酸またはベンジルホスホン酸などを有するオリゴヌクレオチドや、修飾された糖基たとえば2'-メトキシエチル糖または2'-メトキシエトキシ糖などを有するオリゴヌクレオチドや、あるいは修飾された塩基たとえば5-メチルシトシン、2-デオキシウラシルまたは7-デアザ-2'-デオキシグアノシンなどを有するオリゴヌクレオチドがあり得る。アンチセンス分子は、化学合成または転写を含む任意の方法で製造することができる。相補的アンチセンス分子は、ひとたび細胞に導入されたら、細胞が形成した天然の核酸配列と塩基対を形成し、転写または翻訳を阻止する二重鎖を形成する。「負」または「マイナス」という表現は、或る参考DNA分子のアンチセンス鎖を指すことがあり、「正」または「プラス」という表現は、或る参考DNA分子のセンス鎖を意味し得る。
【0081】
「生物学的に活性」の語は、天然分子の構造的機能、調節機能または生化学的機能を有するタンパク質を指す。同様に、用語「免疫学的に活性」または「免疫原性」は、天然或いは組換え体のTRICH、合成のTRICHまたはそれらの任意のオリゴペプチドが、適当な動物或いは細胞の特定の免疫応答を誘発して特定の抗体と結合する能力を指す。
【0082】
「相補(的)」または「相補性」の語は、塩基対形成によってアニーリングする2つの一本鎖核酸の間の関係を指す。例えば、配列「5'-AGT-3'」は、相補配列「3'-TCA-5'」と対合する。
【0083】
「〜のポリヌクレオチド配列を含む(有する)組成物」及び「〜のアミノ酸配列を有する組成物」は、所定のポリヌクレオチド配列またはアミノ酸配列を含む広範囲の任意の成分を指す。この組成物には、乾燥製剤または水溶液が含まれ得る。TRICH 若しくはTRICH の断片をコードするポリヌクレオチド配列を含む組成物は、ハイブリダイゼーションプローブとして使用され得る。このプローブは、凍結乾燥状態で保存可能であり、糖質などの安定化剤と結合させることが可能である。ハイブリダイゼーションにおいては、塩(例えばNaCl)、界面活性剤(例えばドデシル硫酸ナトリウム;SDS)及びその他の構成要素(例えばデンハート液、粉乳、サケの精子のDNA等)を含む水溶液中にプローブを分散させることができる。
【0084】
「コンセンサス配列」は、不要な塩基を分離するためにDNA配列の解析を繰り返し行い、XL-PCRキット(Applied Biosystems,Foster City CA)を用いて5'及び/または3'の方向に伸長され、再度シークエンシングされた核酸配列、またはGELVIEW 断片構築システム(GCG, Madison, WI)か、あるいはPhrap (University of Washington, Seattle WA)等の断片構築用のコンピュータプログラムを用いて1つ或いはそれ以上の重複するcDNAやEST、またはゲノムDNA断片から構築された核酸配列を指す。伸長及び構築の両方を行ってコンセンサス配列を作製する配列もある。
【0085】
「保存的なアミノ酸置換」は、置換がなされた時に元のタンパク質の特性を殆ど損なわないと予測されるような置換、即ちタンパク質の構造と特に機能が保存され、そのような置換による大きな変化がない置換を指す。下表は、タンパク質中で元のアミノ酸と置換可能で、保存アミノ酸置換と認められるアミノ酸を示している。
【0086】
保存アミノ酸置換では通常、(a)置換領域におけるポリペプチドのバックボーン構造、例えばβシートやαヘリックス構造、(b)置換部位における分子の電荷または疎水性、及び/または(c)側鎖の大部分が保持される。
【0087】
「欠失」は、結果的に1個若しくは数個のアミノ酸残基またはヌクレオチドが失われてなくなるようなアミノ酸またはヌクレオチド配列における変化を指す。
【0088】
「誘導体」の語は、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの化学修飾を指す。例えば、アルキル基、アシル基、ヒドロキシル基またはアミノ基による水素の置換は、ポリヌクレオチド配列の化学修飾に含まれ得る。ポリヌクレオチド誘導体は、天然分子の生物学的または免疫学的機能を少なくとも1つは保持しているポリペプチドをコードする。ポリペプチド誘導体は、グリコシル化、ポリエチレングリコール化(pegylation)、或いは任意の同様なプロセスであって誘導起源のポリペプチドの、少なくとも1つの生物学的若しくは免疫学的機能を保持するプロセスによって修飾されたポリペプチドである。
【0089】
「検出可能な標識」は、測定可能なシグナルを生成することができ、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに共有結合または非共有結合するようなレポーター分子または酵素を指す。
【0090】
「差次的発現」は少なくとも2つの異なったサンプルを比較することによって決められる、増加(上方調節)、あるいは減少(下方調節)、または欠損遺伝子またはタンパク発現の欠損を指す。このような比較は例えば、治療後サンプルと未治療のサンプルまたは病態のサンプルと正常サンプルの間で行われ得る。
【0091】
「エキソンシャフリング」は、異なるコード領域(エキソン)の組換えを意味する。1つのエキソンはコードされるタンパク質の1つの構造的または機能的ドメインを代表し得るため、安定したサブストラクチャー群の新たな組み合わせによって、新しいタンパク質が組立てられることが可能であり、新しいタンパク質機能の進化を促進できる。
【0092】
用語「断片」は、TRICHまたはTRICHをコードするポリヌクレオチドの固有の部分であって、その親配列(parent sequence)と同一であるがその配列より長さが短いものを指す。断片は、定義された配列の全長から1ヌクレオチド/アミノ酸残基を差し引いた長さよりも短い長さを有し得る。例えば或る断片は、5〜1000の連続したヌクレオチドまたはアミノ酸残基を有し得る。プローブ、プライマー、抗原、治療用分子として、或いはその他の目的のために用いられる断片は、少なくとも5、10、15、16、20、25、30、40、50、60、75、100、150、250若しくは500の連続したヌクレオチド或いはアミノ酸残基長さであり得る。断片は、或る分子の特定領域から優先的に選択し得る。例えば、ポリペプチド断片は、所定の配列に示すような最初の250または500アミノ酸(またはポリペプチドの最初の25%または50%)から選択された或る長さの連続したアミノ酸を有し得る。これらの長さは明らかに例として挙げているものであり、本発明の実施例では、配列表、表及び図面を含む明細書に裏付けされた任意の長さであってよい。SEQ ID NO:21-40 の断片は、例えば、この断片を得たゲノム内の他の配列とは異なる、SEQ ID NO:21-40 を明確に同定する固有のポリヌクレオチド配列の領域を含む。SEQ ID NO:21-40のある断片は、例えば、ハイブリダイゼーションや増幅技術、またはSEQ ID NO:21-40を関連ポリヌクレオチド配列から区別する類似の方法に有用である。SEQ ID NO:21-40の断片の正確な長さ及び、断片が対応するSEQ ID NO:21-40の領域は、断片に対する意図した目的に基づき当業者が慣例的に決定することが可能である。 SEQ ID NO:1-20 のある断片は、SEQ ID NO:21-40のある断片によってコードされる。SEQ ID NO:1-20 の断片には、SEQ ID NO:1-20を特異的に同定する固有のアミノ酸配列領域が含まれている。 例えば、SEQ ID NO:1-20 の断片は、SEQ ID NO:1-20を特異認識する抗体を産出するための免疫抗原性ペプチドとして有用である。SEQ ID NO:1-20 の断片、及び断片が対応するSEQ ID NO:1-20 の領域の正確な長さは、断片に対する意図した目的に基づき当業者が慣例的に決定することが可能である。
【0093】
「完全長」ポリヌクレオチド配列とは、少なくとも1つの翻訳開始コドン(例えばメチオニン)、オープンリーディングフレーム及び翻訳終止コドンを有する配列である。 「完全長」ポリヌクレオチド配列は、「完全長」ポリペプチド配列をコードする。
【0094】
「相同性」の語は、2つ以上のポリヌクレオチド配列または2つ以上のポリペプチド配列の配列類似性、互換性、または配列同一性を意味する。
【0095】
ポリヌクレオチド配列に適用される「一致率」または「一致%」の語は、標準化されたアルゴリズムを用いてアラインメントされた少なくとも2つ以上のポリヌクレオチド配列間で一致する残基の割合を意味する。このようなアルゴリズムは、2配列間のアラインメントを最適化するために比較する配列において、標準化された再現性のある方法でギャップを挿入するので、2つの配列をより有意に比較できる。
【0096】
ポリヌクレオチド配列間の一致率は、MEGALIGN version 3.12e配列アラインメントプログラムに組込まれているようなCLUSTAL Vアルゴリズムのデフォルトのパラメータを用いて決定できる。このプログラムは、LASERGENE ソフトウエアパッケージ(一組の分子生物学的分析プログラム)(DNASTAR, Madison WI)の一部である。このCLUSTAL Vは、Higgins, D.G. 及び P.M. Sharp (1989) CABIOS 5:151-153、Higgins, D.G. 他 (1992) CABIOS 8:189-191に記載されている。ポリヌクレオチド配列をペアワイズでアラインメントする際のデフォルトパラメータは、Ktuple=2、gap penalty=5、window=4、「diagonals saved」=4と設定される。「weighted(重み付けされた)」残基重み付け表が、デフォルトとして選択される。CLUSTAL Vは、アラインメントされたポリヌクレオチド配列対間の「percent similarity(類似率)」として一致率を報告する。
【0097】
或いは、米国国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)が一般的に用いられ、且つ、無料で入手可能な配列比較アルゴリズム一式を提供している(Altschul, S.F. 他 (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410)。 このアルゴリズムは、幾つかの情報源から入手可能であり、メリーランド州ベセスダにあるNCBI及びインターネット(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)からも入手可能である。BLASTソフトウェア一式には様々な配列分析プログラムが含まれており、既知のポリヌクレオチド配列を種々のデータベースから得た別のポリヌクレオチド配列とアラインメントする「blastn」もその1つである。その他にも、2つのヌクレオチド配列をペアワイズで直接比較するために用いる「BLAST 2 Sequences」と称されるツールも利用可能である。「BLAST 2 Sequences」は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gorf/bl2.htmlにアクセスして対話形式で利用することが可能である。「BLAST 2 Sequences」ツールは、blastn 及び blastp(以下に記載)の両方に用いることができる。BLASTプログラムは、一般的には、ギャップ及び他のパラメータをデフォルト設定に設定して用いる。例えば、2つのヌクレオチド配列を比較するために、デフォルトパラメータに設定された「BLAST 2 Sequences」ツールVersion 2.0.12(2000年4月21日)を用いてblastnを実行してもよい。デフォルトパラメータの設定例を以下に示す。
【0098】
Matrix: BLOSUM62
Reward for match: 1
Penalty for mismatch: -2
Open Gap: 5 and Extension Gap: 2 penalties
Gap x drop-off: 50
Expect: 10
Word Size: 11
Filter: on
【0099】
一致率は、ある定義された配列の全長(例えば特定のSEQ IDナンバーで定義された配列)で測定し得る。或いは、より短い長さ、例えば、定義された、より大きな配列から得られた断片(例えば少なくとも20、30、40、50、70、100または200の連続したヌクレオチドの断片)の長さと比較して一致率を測定してもよい。ここに挙げた長さは単なる例示的なものに過ぎず、表、図及び配列リストを含めた本明細書に記載された配列に裏付けられた任意の配列長さの断片を用いて、一致率を測定し得る長さを説明し得ることを理解されたい。
【0100】
高度の相同性を示さない核酸配列が、それにもかかわらず遺伝子コードの縮重が原因で類似のアミノ酸配列をコードする場合がある。この縮重を利用して核酸配列内で変化を生じさせて、全ての核酸配列が実質上同一のタンパク質をコードするような多数の核酸配列を生成し得ることを理解されたい。
【0101】
ポリペプチド配列に用いられる用語「一致率」または「一致性%」とは、標準化されたアルゴリズムを用いてアラインメントされる2つ以上のポリペプチド配列間の一致する残基の百分率のことである。ポリペプチド配列アラインメントの方法は公知である。保存的アミノ酸置換を考慮するアラインメント方法もある。既に詳述したこのような保存的置換は通常、置換部位の電荷及び疎水性を保存するので、ポリペプチドの構造を(従って機能も)保存する。
【0102】
ポリペプチド配列間の一致率は、MEGALIGN version 3.12e配列アラインメントプログラムに組込まれているようなCLUSTAL Vアルゴリズムのデフォルトのパラメータを用いて決定できる(既に説明したのでそれを参照されたい)。CLUSTAL Vを用いて、ポリペプチド配列をペアワイズでアラインメントする際のデフォルトパラメータは、Ktuple=1、gap penalty=3、window=5、「diagonals saved」=5と設定される。デフォルトの残基重み付け表としてPAM250マトリクスが選択される。ポリヌクレオチドアラインメントと同様に、CLUSTAL Vは、アラインメントされたポリペプチド配列対間の「類似率」として一致率を報告する。
【0103】
或いは、NCBI BLASTソフトウェア一式を用いてもよい。例えば、2つのポリペプチド配列をペアワイズで比較をする場合、ある者は、デフォルトパラメータで設定された「BLAST 2 Sequences」ツールVersion 2.0.12 (Apr-21-2000)でblastpを使用しうる。デフォルトパラメータの設定例を以下に示す。
【0104】
Matrix: BLOSUM62
Open Gap: 11 and Extension Gap: 1 penalties
Gap x drop-off: 50
Expect: 10
Word Size: 3
Filter: on
【0105】
一致率は、定義された(例えば特定の配列番号で定義された)ポリペプチド配列全体の長さと比較して測定し得る。或いは、より短い長さ、例えばより大きな定義されたポリペプチド配列から得られた断片(例えば少なくとも15、20、30、40、50、70または150の連続した残基の断片)の長さと比較して一致率を測定してもよい。ここに挙げた長さは単なる例示的なものに過ぎず、表、図及び配列リストを含めた本明細書に記載された配列に裏付けられた任意の配列長さの断片を用いて、或る長さであってその長さに対して一致率を測定し得る長さを説明し得ることを理解されたい。
【0106】
「ヒト人工染色体(HAC)」は、約6kb(キロベース)〜10MbのサイズのDNA配列を含み得る、染色体の複製、分離及び維持に必要な全ての要素を含む直鎖状の微小染色体である。
【0107】
用語「ヒト化抗体」は、もとの結合能力を保持しつつよりヒトの抗体に似せるために、非抗原結合領域のアミノ酸配列が変えられた抗体分子を指す。
【0108】
「ハイブリダイゼーション」とは、所定のハイブリダイゼーション条件下で、ある一本鎖ポリヌクレオチドがある相補的な一本鎖と塩基対を形成するアニーリングのプロセスである。特異的ハイブリダイゼーションは、2つの核酸配列が高い相補性を共有することの指標である。特異的ハイブリダイゼーション複合体は許容的アニーリング条件下で形成され、「洗浄」ステップ後もハイブリダイズされたままである。洗浄ステップは、ハイブリダイゼーションプロセスのストリンジェンシーを決定する際に特に重要であり、よりストリンジェントな条件では、非特異結合(即ち完全には一致しない核酸鎖間の対の結合)が減少する。核酸配列のアニーリングに対する許容条件は、当業者が慣例的に決定できる。許容条件は、どのハイブリダイゼーション実験でも一定でありうるが、洗浄条件は所望のストリンジェンシーを得るように、従ってハイブリダイゼーション特異性も得るように実験によって変更することができる。アニーリングが許容される条件は、例えば、温度が68℃で、約6×SSC、約1%(w/v)のSDS、並びに約100μg/mlのせん断して変性したサケ精子DNAが含まれる。
【0109】
一般に、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは或る程度、洗浄ステップを実行する温度を基準にして表すことができる。このような洗浄温度は通常、所定のイオン強度及びpHにおける特定の配列の融点(Tm)より約5〜20℃低くなるように選択する。このTmは、所定のイオン強度及びpHの下で、完全に一致するプローブに標的配列の50%がハイブリダイズする温度である。Tmを計算する式及び核酸のハイブリダイゼーション条件はよく知られており、Sambrook 他 (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, 1-3巻, Cold Spring Harbor Press, Plainview NYに記載されており、特に2巻の9章を参照されたい。
【0110】
本発明の、ポリヌクレオチドとポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションに対する高ストリンジェンシー条件には、約0.2×SSC及び約1%のSDS存在下で約68℃において1時間の洗浄条件が含まれる。或いは、65℃、60℃、55℃または42℃の温度で行ってもよい。SSC濃度は、約0.1%のSDS存在下で、約0.1〜2×SSCの範囲で変化し得る。通常は、ブロッキング剤を用いて非特異ハイブリダイゼーションを阻止する。このようなブロッキング剤には、例えば、約100〜200μg/mlの変性サケ精子DNAがある。特定条件下で、例えばRNAとDNAのハイブリダイゼーションに有機溶剤、例えば約35〜50%v/vの濃度のホルムアミドを用いることもできる。洗浄条件の有用なバリエーションは、当業者には自明であろう。ハイブリダイゼーションは、特に高ストリンジェント条件下では、ヌクレオチド間の進化的な類似性を示唆し得る。このような類似性は、ヌクレオチド及びヌクレオチドにコードされるポリペプチドに対する類似の役割を強く示唆している。
【0111】
用語「ハイブリダイゼーション複合体」は、相補的な塩基間の水素結合によって形成された、2つの核酸配列の複合体を指す。ハイブリダイゼーション複合体は、溶解状態で形成し得る(C0tまたはR0t解析等)。或いは、一方の核酸配列が溶解状態で存在し、もう一方の核酸配列が固体支持体(例えば紙、膜、フィルタ、チップ、ピンまたはガラススライド、或いは他の適切な基板であって細胞若しくはその核酸が固定される基板)に固定されているような2つの核酸配列間に形成され得る。
【0112】
用語「挿入」或いは「付加」は、1個以上のアミノ酸残基或いはヌクレオチドがそれぞれ追加されるアミノ酸配列或いは核酸配列の変化を指す。
【0113】
「免疫応答」は、炎症、外傷、免疫異常症、伝染性疾患または遺伝性疾患に関連する症状を指し得る。これらの症状は、細胞及び全身の防御系に作用し得る種々の因子、例えばサイトカイン、ケモカイン、その他のシグナル伝達分子の発現によって特徴づけることができる。
【0114】
用語「免疫原性断片」は、例えば哺乳動物などの生物に導入すると免疫反応を引き起こす、TRICHのポリペプチド断片またはオリゴペプチド断片を指す。用語「免疫原性断片」はまた、本明細書で開示するまたは当分野で周知のあらゆる抗体生産方法に有用なTRICHのポリペプチド断片またはオリゴペプチド断片を含む。
【0115】
用語「マイクロアレイ」は、基板上の複数のポリヌクレオチド、ポリペプチドまたはその他の化合物の構成を指す。
【0116】
用語「エレメント」または「アレイエレメント」は、マイクロアレイ上に固有の指定された位置を有する、ポリヌクレオチド、ポリペプチドまたはその他の化合物を指す。
【0117】
用語「モジュレート」または「活性の調節」は、TRICHの活性の変化を指す。例えば、調節によって、TRICHのタンパク質活性の増減、或いは結合特性またはその他の生物学的特性、機能的特性或いは免疫学的特性の変化が起こる。
【0118】
「核酸」及び「核酸配列」の語は、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたはこれらの断片を指す。「核酸」及び「核酸配列」の語は、ゲノム起源または合成起源のDNAまたはRNAであって一本鎖または二本鎖であるか或いはセンス鎖またはアンチセンス鎖を表し得るようなDNAまたはRNAや、ペプチド核酸(PNA)や、任意のDNA様またはRNA様物質を指すこともある。
【0119】
「機能的に連結した」は、第1の核酸配列と第2の核酸配列が機能的な関係にある状態を指す。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合には、そのプロモーターはそのコード配列に機能的に連結している。機能的に連結したDNA配列は非常に近接するか、或いは連続的に隣接し得、2つのタンパク質コード領域を接続するために必要な場合は同一リーディングフレーム内にある。
【0120】
「ペプチド核酸(PNA)」は、末端がリジンで終わるアミノ酸残基のペプチドのバックボーンに結合した、少なくとも約5ヌクレオチドの長さのオリゴヌクレオチドを含む、アンチセンス分子または抗遺伝子剤を指す。末端のリジンは、この組成物に溶解性を与える。PNAは、相補的一本鎖DNAまたはRNAに優先的に結合して転写の伸長を停止するものであり、ポリエチレングリコール化して細胞におけるPNAの寿命を延長し得る。
【0121】
TRICHの「翻訳後修飾」には、脂質化、グリコシル化、リン酸化、アセチル化、ラセミ化、蛋白分解性切断及び当分野で既知の、その他の修飾が含まれ得る。 これらのプロセスは、合成或いは生化学的に生じ得る。生化学的修飾は、TRICHの酵素環境に依存し、細胞の種類によって異なることとなる。
【0122】
「プローブ」とは、同一配列或いは対立遺伝子核酸配列、関連する核酸配列の検出に用いる、TRICHやそれらの相補配列、またはそれらの断片をコードする核酸配列のことである。プローブは、単離されたオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドであって、検出可能な標識またはレポーター分子に結合したものである。典型的な標識には、放射性アイソトープ、リガンド、化学発光試薬及び酵素がある。「プライマー」は、短い核酸、通常はDNAオリゴヌクレオチドであり、相補的塩基対を形成することで標的ポリヌクレオチドにアニーリングされ得る。プライマーは次に、DNAポリメラーゼ酵素によって標的DNA鎖に沿って伸長し得る。プライマー対は、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による核酸配列の増幅(及び同定)に用い得る。
【0123】
本発明に用いるようなプローブ及びプライマーは通常、既知の配列の少なくとも15の連続したヌクレオチドを含んでいる。特異性を高めるために長めのプローブ及びプライマー、例えば開示した核酸配列の少なくとも20、25、30、40、50、60、70、80、90、100または150の連続したヌクレオチドからなるようなプローブ及びプライマーを用いてもよい。これよりもかなり長いプローブ及びプライマーもある。表、図面及び配列リストを含む本明細書に裏付けされた任意の長さのヌクレオチドを用いることができるものと理解されたい。
【0124】
プローブ及びプライマーの調製及び使用方法については、Sambrook, J. 他 (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, 1-3巻, Cold Spring Harbor Press, Plainview NY、Ausubel, F.M. 他, (1987) Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publ. Assoc. & Wiley-Intersciences, New York NY、Innis他 (1990) PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications Academic Press, San Diego CA等を参照されたい。PCRプライマー対は、その目的のためのコンピュータプログラム、例えばPrimer(Version 0.5, 1991, Whitehead Institute for Biomedical Research, Cambridge MA)を用いるなどして既知の配列から得ることができる。
【0125】
プライマーとして用いるオリゴヌクレオチドの選択は、そのような目的のために本技術分野でよく知られているソフトウェアを用いて行う。例えばOLIGO 4.06ソフトウェアは、各100ヌクレオチドまでのPCRプライマー対の選択に有用であり、オリゴヌクレオチド及び最大5,000までの大きめのポリヌクレオチドであって32キロベースまでのインプットポリヌクレオチド配列から得たものを分析するのにも有用である。類似のプライマー選択プログラムには、拡張能力のための追加機能が組込まれている。例えば、PrimOUプライマー選択プログラム(テキサス州ダラスにあるテキサス大学南西部医療センターのゲノムセンターから一般向けに入手可能)は、メガベース配列から特定のプライマーを選択することが可能であり、従ってゲノム全体の範囲でプライマーを設計するのに有用である。Primer3プライマー選択プログラム(Whitehead Institute/MIT Center for Genome Research(マサチューセッツ州ケンブリッジ)より入手可能)によって、ユーザーは、プライマー結合部位として避けたい配列を指定できる「非プライミングライブラリ(mispriming library)」を入力できる。Primer3は特に、マイクロアレイのためのオリゴヌクレオチドの選択に有用である(後二者のプライマー選択プログラムのソースコードは、それぞれの情報源から得てユーザー固有のニーズを満たすように修正し得る)。PrimerGenプログラム(英国ケンブリッジ市の英国ヒトゲノムマッピングプロジェクト-リソースセンターから一般向けに入手可能)は、多数の配列アラインメントに基づいてプライマーを設計し、それによって、アラインメントされた核酸配列の最大保存領域または最小保存領域の何れかとハイブリダイズするようなプライマーの選択を可能にする。従って、このプログラムは、固有であって保存されたオリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドの断片の同定に有用である。上記選択方法のいずれかによって同定したオリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドの断片は、ハイブリダイゼーション技術において、例えばPCRまたはシークエンシングプライマーとして、マイクロアレイエレメントとして、或いは核酸のサンプルにおいて完全または部分的相補的ポリヌクレオチドを同定する特異プローブとして有用である。オリゴヌクレオチドの選択方法は、上記の方法に限定されるものではない。
【0126】
本明細書における「組換え核酸」は天然の配列ではなく、2つ以上の配列の離れたセグメントを人工的に組み合わせた配列である。この人為的組合せはしばしば化学合成によって達成するが、より一般的には核酸の単離セグメントの人為的操作によって、例えばSambrookらの文献(前出)に記載されているような遺伝子工学的手法によって達成する。組換え核酸の語は、単に核酸の一部を付加、置換または欠失した、変容した核酸も含む。しばしば組換え核酸には、プロモーター配列に機能的に連結した核酸配列が含まれる。このような組換え核酸は、例えばある細胞を形質転換するために使用されるベクターの一部とすることが可能である。
【0127】
或いはこのような組換え核酸は、ウイルスベクターの一部であって、例えばワクシニアウイルスに基づくものであり得る。そのようなワクシニアウイルスは哺乳動物に接種され、その組換え核酸が発現されて、その哺乳動物内で防御免疫応答を誘導するように使用することができる。
【0128】
「調節因子」は、通常は遺伝子の非翻訳領域に由来する核酸配列であり、エンハンサー、プロモーター、イントロン及び5'及び3'の非翻訳領域(UTR)を含む。調節因子は、転写、翻訳またはRNA安定性を調節する宿主タンパク質またはウイルスタンパク質と相互作用する。
【0129】
「レポーター分子」は、核酸、アミノ酸または抗体の標識に用いられる化学的または生化学的な部分である。レポーター分子には、放射性核種、酵素、蛍光剤、化学発光剤、発色剤、基質、補助因子、阻害因子、磁気粒子及びその他の当分野で既知の成分がある。
【0130】
本明細書において、DNA配列に対する「RNA等価物」とは、基準となるDNA配列と同じ直鎖の核酸配列から構成されるが、窒素性塩基のチミンがウラシルに置換され、糖鎖のバックボーンがデオキシリボースではなくリボースからなる。
【0131】
用語「サンプル」は、その最も広い意味で用いられている。TRICH、TRICHをコードする核酸、またはその断片を含むと推定されるサンプルは、体液と、細胞や細胞から単離された染色体や細胞内小器官(オルガネラ)または膜からの抽出物と、細胞と、溶液中に存在するまたは基板に固定されたゲノムDNA、RNA、cDNAと、組織と、組織プリント等を含み得る。
【0132】
用語「特異的結合」及び「特異的に結合する」は、タンパク質若しくはペプチドと、アゴニスト、抗体、アンタゴニスト、小分子、若しくは任意の天然若しくは合成の結合組成物との間の相互作用を指す。この相互作用は、タンパク質の特定の構造(例えば抗原決定基即ちエピトープ)であって結合分子が認識するものが存在するか否かに依存している。例えば、抗体がエピトープ「A」に対して特異的である場合、遊離した標識A及びその抗体を含む反応において、エピトープA(つまり遊離した、標識されていないA)を含むポリペプチドの存在が、抗体に結合する標識されたAの量を低減させる。
【0133】
「実質的に精製された」の語は、自然環境から取り除かれ、単離または分離された核酸またはアミノ酸配列であって、自然に会合する他の構成要素の少なくとも約60%、好ましくは少なくとも約75%、最も好ましいのは少なくとも約90%が無いものを指す。
【0134】
「置換」とは、一つ以上のアミノ酸またはヌクレオチドをそれぞれ別のアミノ酸またはヌクレオチドに置き換えることである。
【0135】
用語「基板」は、任意の好適な固体或いは半固体の支持物を指し、膜及びフィルター、チップ、スライド、ウエハ、ファイバー、磁気または非磁気ビーズ、ゲル、チューブ、プレート、ポリマー、微小粒子、毛細管が含まれる。基板は、壁、溝、ピン、チャネル、孔等、様々な表面形態を有することができ、基板表面にはポリヌクレオチドやポリペプチドが結合する。
【0136】
「転写イメージ(transcript image)」または「発現プロファイル(プロフィール)」は、所定条件下での所定時間における特定の細胞の種類または組織による集合的遺伝子発現のパターンを指す。
【0137】
「形質転換(transformation)」とは、外来DNAが受容細胞に導入されるプロセスのことである。形質転換は、本技術分野で知られている種々の方法に従って自然条件または人工条件下で生じ得るものであり、外来性の核酸配列を原核宿主細胞または真核宿主細胞に挿入する任意の既知の方法を基にし得る。形質転換の方法は、形質転換する宿主細胞の種類によって選択する。限定するものではないが形質転換方法には、ウイルス感染、電気穿孔法(エレクトロポレーション)、熱ショック、リポフェクション及び微粒子銃を用いる方法がある。「形質転換された細胞」には、導入されたDNAが自律的に複製するプラスミドとして或いは宿主染色体の一部として複製可能である安定的に形質転換された細胞が含まれる。さらに、限られた時間に一過的に導入DNA若しくは導入RNAを発現する細胞も含まれる。
【0138】
ここで用いる「遺伝形質転換体(transgenic organism)」とは任意の生物であり、限定するものではないが動植物を含み、生物の1個以上の細胞が、ヒトの関与によって、例えば本技術分野でよく知られているトランスジェニック技術によって導入された異種核酸を有する。核酸の細胞への導入は、直接または間接的に、細胞の前駆物質に導入することにより、計画的な遺伝子操作によって、例えば微量注射法によって或いは組換えウイルスの感染によって行う。遺伝子操作の語は、古典的な交雑育種或いは試験管内受精を指すものではなく、組換えDNA分子の導入を指すものである。本発明に基づいて予期される遺伝形質転換体には、バクテリア、シアノバクテリア、真菌及び動植物がある。本発明の単離されたDNAは、本技術分野で知られている方法、例えば感染、形質移入、形質転換またはトランス接合(transconjugation)によって宿主に導入することができる。本発明のDNAをこのような生物体に移入する技術はよく知られており、前出のSambrook 他 (1989) 等の参考文献に記載されている。
【0139】
特定の核酸配列の「変異体」は、核酸配列1本全部の長さに対して特定の核酸配列と少なくとも40%の相同性を有する核酸配列であると定義する。 その際、デフォルトパラメータに設定した「BLAST 2 Sequences」ツールVersion 2.0.9(1999年5月7日)を用いてblastnを実行する。このような核酸対は、所定の長さに対して、例えば少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の相同性を示し得る。或る変異体は、例えば「対立遺伝子」変異体(前述)、「スプライス」変異体、「種」変異体または「多型性」変異体として記載し得る。スプライス変異体は参照分子とかなりの相同性を有し得るが、mRNAプロセッシング中のエキソンの選択的スプライシングによって通常、より多くまたはより少数のヌクレオチドを有することになる。対応するポリペプチドは、追加機能ドメインを有するか或いは参照分子に存在するドメインが欠落していることがある。種変異体は、種によって異なるポリヌクレオチド配列である。結果的に生じるポリペプチドは通常、相互にかなりのアミノ酸相同性を有する。多型性変異体は、所与の種の個体間で特定の遺伝子のポリヌクレオチド配列が異なる。多型変異配列はまた、ポリヌクレオチド配列の1つのヌクレオチドが異なる「1塩基多型性」(SNP)も含み得る。SNPの存在は、例えば特定の個体群、病状または病状性向を示し得る。
【0140】
特定のポリペプチド配列の「変異体」は、ポリペプチド配列の1本の長さ全体で特定のポリペプチド配列に対して少なくとも40%の相同性を有するポリペプチド配列として定義される。定義付けには、デフォルトパラメータに設定した「BLAST 2 Sequences」ツールVersion 2.0.9(1999年5月7日)を用いてblastpを実行する。このようなポリペプチド対は、所定の長さに対して、例えば少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を示し得る。
(発明)
本発明は、新規のヒト輸送体及びイオンチャネル(TRICH)、並びにTRICHをコードするポリヌクレオチドの発見に基づく。また、これらの組成物を利用した、輸送障害、神経の疾患、筋疾患、免疫疾患、および細胞増殖異常の、診断、治療、及び予防法の発見に基づく。
【0141】
表1は、本発明の完全長ポリヌクレオチド配列及びポリペプチド配列の命名の概略である。各ポリヌクレオチド及びその対応するポリペプチドは、1つのIncyteプロジェクト識別番号(IncyteプロジェクトID)と相関する。各ポリペプチド配列は、ポリペプチド配列識別番号(ポリペプチドSEQ ID NO)とIncyteポリペプチド配列番号(IncyteポリペプチドID)によって表示した。各ポリヌクレオチド配列は、ポリヌクレオチド配列識別番号(ポリヌクレオチドSEQ ID NO)とIncyteポリヌクレオチドコンセンサス配列番号(IncyteポリヌクレオチドID)によって表示した。
【0142】
表2は、GenBankタンパク質(genpept)データベースとPROTEOMEデータベースとに対するBLAST分析で同定した、本発明のポリペプチド群に相同な配列群を示す。列1および列2はそれぞれ、本発明の各ポリペプチドに対するポリペプチド配列識別番号(ポリペプチド SEQ ID NO :)およびそれに対応するIncyte ポリペプチド配列番号(Incyte ポリペプチド ID)を示す。列3は、GenBankの最も近い相同体のGenBank識別番号(Genbank ID NO :)と最も近いPROTEOME データベース相同体のPROTEOME データベース識別番号 (PROTEOME ID NO:) を示す。列4は、各ポリペプチドとその相同体との間の一致を表す確率スコアを示す。列5は、GenBankとPROTEOME データベースの相同体の注釈を示し、更に該当箇所には関連する引用文献も示す。 これらを引用することを以って本明細書の一部とする。
【0143】
表3は、本発明のポリペプチドの様々な構造的特徴を示す。列1および列2はそれぞれ、本発明の各ポリペプチドのポリペプチド配列識別番号(SEQ ID NO :)およびそれに対応するIncyte ポリペプチド配列番号(Incyte ポリペプチド ID)を示す。列3は、各ポリペプチドのアミノ酸残基数を示す。列4および列5はそれぞれ、GCG配列分析ソフトウェアパッケージのMOTIFSプログラム(Genetics Computer Group, Madison WI)によって決定された、リン酸化およびグリコシル化の可能性のある部位を示す。列6は、シグネチャ配列、ドメイン、およびモチーフを含むアミノ酸残基を示す。列7は、タンパク質の構造/機能の分析のための分析方法を示し、該当箇所にはさらに分析方法に利用した検索可能なデータベースを示す。
【0144】
表2及び3は共に、本発明の各々のポリペプチドの特性を要約しており、それら特性が請求の範囲に記載されたポリペプチドが輸送体及びイオンチャネルであることを確立している。例えば、SEQ ID NO:3は、ウサギのアニオン交換体4a (GenBank ID g11611537) と残基M27から残基N989まで、85%の同一性を有することが、Basic Local Alignment Search Tool (BLAST)によって示された(表2参照)。BLAST確率スコアは0.0であるが、これは観測されたポリペプチド配列が偶然に得られる確率を示す。SEQ ID NO:3はまた、HCO3- 輸送体ファミリドメインを有するが、これは、隠れマルコフモデル(HMM)を基にした保存されたタンパク質ファミリードメインのPFAMデータベースにおいて、統計的に有意な一致を検索して決定された(表3参照)。BLIMPS及びPROFILESCAN解析よりのデータは、SEQ ID NO:3がアニオン交換体であることをさらに確証する証拠を提供する。
【0145】
別の例において、SEQ ID NO:6 は、ハムスターのナトリウムイオン依存性回腸胆汁酸輸送体(GenBank ID g455033) と残基S7から残基E350まで、47%の同一性を有することがBasic Local Alignment 検索ツール(BLAST)によって確認された(表2参照)。BLAST確率スコアは3.7e-88であり、これは偶然に観測されたポリペプチド配列を得る確率を示す。SEQ ID NO:6はまた、ナトリウム胆汁酸シンポーターファミリドメインを有するが、これは、隠れマルコフモデル(HMM)を基にした保存されたタンパク質ファミリードメインのPFAMデータベースにおいて、統計的に有意な一致を検索して決定された(表3参照)。PRODOMとDOMOのデータベースを用いた追加BLAST解析よりのデータは、SEQ ID NO:6がナトリウム/胆汁酸シンポーターであることをさらに確証する証拠を提供する。
【0146】
他の例において、SEQ ID NO:9 はマウスの液胞型ATP分解酵素のサブユニットであるAc39/フィゾフィリン(physophilin) (GenBank ID g1226235) に残基E6から残基I349まで、68%の同一性を有することがBasic Local Alignment 検索ツール(BLAST)によって確認された(表2参照)。BLAST確率スコアは3.2e-130であり、これは保存されたポリペプチド配列アラインメントが偶然に得られる確率を示している。SEQ ID NO:9はまた、ATPシンターゼ(C/AC39) サブユニットドメインを有するが、 これは、隠れマルコフモデル(HMM)を基にした保存されたタンパク質ファミリードメインのPFAMデータベースにおいて、統計的に有意な一致を検索して決定された(表3参照)。PRODOMとDOMOのデータベースを用いた追加BLAST解析よりのデータは、SEQ ID NO:9が液胞型ATP分解酵素のサブユニットであることをさらに確証する証拠を提供する。
【0147】
別の例でSEQ ID NO:10 は、ネズミのメラスタチン(GenBank ID g3047272) と残基M154より残基R591まで、83%同一であることがBasic Local Alignment Search Tool (BLAST)で確認された(表2参照)。BLAST確率スコアは8.6e-200であり、これは観測されたポリペプチド配列アラインメントが偶然に得られる確率を示している。SEQ ID NO:10はまた、一過性受容体ドメインを有するが、 これは、隠れマルコフモデル(HMM)を基にした保存されたタンパク質ファミリードメインのPFAMデータベースにおいて、統計的に有意な一致を検索して決定された (表3参照)。BLIMPS解析から得たデータは、SEQ ID NO:10 がカルシウムイオンチャネルであることを更に確証する証拠を提供する(メラスタチンは「カルシウムチャネル」の「一過性受容体」ファミリのメンバーに相同性を持つ)。
【0148】
別の例において、SEQ ID NO:12 はラットの多剤耐性タンパク質MRP5 (GenBank ID g6682827) と残基G761から残基E1326まで、51%の同一性を有することがBasic Local Alignment Search Tool (BLAST)によって決定された(表2参照)。BLAST確率スコアは3.5e-236であり、これは観測されたポリペプチド配列アラインメントが偶然に得られる確率を示している。SEQ ID NO:12はまた、二つのABC輸送体膜貫通領域と二つのABC輸送体ドメインを有するが、 これは、隠れマルコフモデル(HMM)を基にした保存されたタンパク質ファミリードメインのPFAMデータベースにおいて、統計的に有意な一致を検索して決定された(表3を参照)。BLIMPS、MOTIFS、及びPROFILESCAN解析のデータは、SEQ ID NO:12 がABC輸送体である、さらに実証的な証拠を提供する。
【0149】
例えば、SEQ ID NO:18 はラット腎浸透圧ストレス誘発性Na-Cl 有機溶質共輸送体 (GenBank ID g531469) と残基M1から残基D597まで、76%の同一性を有することがBasic Local Alignment Search Tool (BLAST)によって決定された(表2参照)。BLAST確率スコアは1.2e-260であり、これは観察されたポリペプチド配列アラインメントが偶然に得られる確率を示している。SEQ ID NO:18はまた、ナトリウム神経伝達物質シンポーターファミリドメインをも有するが、これは、隠れマルコフモデル(HMM)を基にした保存されたタンパク質ファミリードメインのPFAMデータベースにおいて、統計的に有意な一致を検索して決定された(表3参照)。BLIMPS及びPROFILESCAN解析よりのデータは、SEQ ID NO:18 がナトリウム依存性有機溶質輸送体である、さらに確証的な証拠を提供する。SEQ ID NO:1-2、SEQ ID NO:4-5、SEQ ID NO:7-8、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:13-17およびSEQ ID NO:19-20 は同様にして解析し、注釈付けされた。SEQ ID NO:1-20の解析のためのアルゴリズム及びパラメータを表7に記述する。
【0150】
表4に示すように、本発明の完全長ポリヌクレオチド配列は、cDNA配列、またはゲノムDNA由来のコード(エキソン)配列、或いはこれらの2種類の配列の任意の組み合わせを用いて組み立てた。列1は本発明の各ポリヌクレオチドに対するポリヌクレオチド配列識別番号(ポリヌクレオチドSEQ ID NO)および対応するIncyteポリヌクレオチドコンセンサス配列番号(Incyte ID)、および塩基対の各ポリヌクレオチド配列の長さを示している。列2は、本発明の完全長ポリヌクレオチド配列の構築(アセンブリ)に用いたcDNA配列および/またはゲノム配列の、また、例えば、SEQ ID NO:21-40 を同定する、あるいはSEQ ID NO:21-40 と関連するポリヌクレオチド配列を区別するハイブリダイゼーションまたは増幅技術に有用なポリヌクレオチド配列の断片の、開始ヌクレオチド(5')位置および終了ヌクレオチド(3')位置を示す。
【0151】
表4の列2で記述されたポリヌクレオチド断片は、具体的にはたとえば組織特異的なcDNAライブラリまたはプールされたcDNAライブラリに由来するIncyte cDNAを指す場合がある。或いは列2の識別番号は、完全長ポリヌクレオチド配列のアセンブリに寄与するGenBank cDNAまたはESTを指す場合もある。さらに、列2のポリヌクレオチド断片は、ENSEMBL(The Sanger Centre、英国ケンブリッジ)データベースから由来した配列(即ち「ENST」命名を含む配列)を同定し得る。或いは、列2で記述されたポリヌクレオチド断片は、NCBI RefSeq Nucleotide Sequence Records データベースから由来する場合もあり(即ち「NM」または「NT」の命名を含む配列)、またNCBI RefSeq Protein Sequence Recordsから由来する場合もある(即ち「NP」の命名を含む配列)。または列2で記述されたポリヌクレオチド断片は、「エキソンスティッチング(exon-stitching)」アルゴリズムにより結び合わせたcDNA及びGenscan予想エキソンの両方からなる群を指す場合がある。例えば、FL_XXXXXX_N1_N2_YYYYY_N3_N4として同定されるポリヌクレオチド配列はアルゴリズムが適用される配列のクラスターの識別番号がXXXXXXであり、アルゴリズムにより生成される予測の番号がYYYYY であり、(もし存在すれば)N1,2,3..が解析中に手動で編集された可能性のある特定のエキソンであるような「縫合された」配列である( 実施例5参照 )。または、列2のポリヌクレオチド断片は「エキソンストレッチング(exon-stretching)」アルゴリズムにより結び合わせたエキソンの集合を指す場合もある。例えば、FLXXXXXX_gAAAAA_gBBBBB_1_N として同定されるポリヌクレオチド配列は「ストレッチ」配列である。ここでXXXXXXはIncyteプロジェクト識別番号、gAAAAAは「エキソンストレッチング」アルゴリズムを適用したヒトゲノム配列のGenBank識別番号、gBBBBBは一番近いGenBankタンパク質相同体のGenBank識別番号またはNCBI RefSeq 識別番号である。(実施例5を参照。)RefSeq 配列が「エキソンストレッチング」アルゴリズムのタンパク質相同体として使われた場合は、RefSeq 識別子(「NM 」、「NP」または「 NT」と表示した)がGenBank 識別子(すなわち、gBBBBB)の代わりに使われる場合もある。
【0152】
あるいは、接頭コードは手動で編集されたか、ゲノムDNA配列から予測されたか、または配列解析方法の組み合わせから由来している構成配列を識別する。次の表は構成配列の接頭コードと、接頭コードに対応する配列分析方法の例を列記する(実施例4と5を参照)。
【0153】
場合によっては、最終コンセンサスポリヌクレオチド配列を確認するために表4に示すような配列の適用範囲と重複するIncyte cDNAの適用範囲が得られたが、それに関連するIncyte cDNA識別番号は示さなかった。
【0154】
表5はIncyte cDNA配列を用いて構築された完全長ポリヌクレオチド配列のための代表的なcDNAライブラリを示している。代表的なcDNAライブラリは、上記のポリヌクレオチド配列を構築及び確認するために用いられるIncyte cDNA配列によって最も頻繁に代表されるIncyte cDNAライブラリである。cDNAライブラリを作製するために用いた組織及びベクターを表5に示し、表6で説明している。
【0155】
本発明はまた、TRICHの変異体も含む。好適なTRICH変異体は、TRICHの機能的或いは構造的特徴の少なくともどちらか一方を有し、かつ該TRICHアミノ酸配列に対して少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性、或いは少なくとも約90%のアミノ酸配列同一性、更には少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0156】
本発明はまた、TRICHをコードするポリヌクレオチドを提供する。特定の実施例において、本発明は、TRICHをコードするSEQ ID NO:21-40からなる一群から選択された配列を含むポリヌクレオチド配列を提供する。SEQ ID NO:21-40のポリヌクレオチド配列には、配列表に示したように等価RNA配列をも含むが、そこでは窒素塩基チミンの出現はウラシルに置換され、糖のバックボーンはデオキシリボースではなくリボースで構成される。
【0157】
本発明はまた、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列の変異配列を含む。詳細には、このようなポリヌクレオチド配列の変異配列は、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列と少なくとも70%のポリヌクレオチド配列同一性、或いは少なくとも85%のポリヌクレオチド配列同一性、更には少なくとも95%ものポリヌクレオチド配列同一性を有することとなる。本発明の特定の実施形態は、SEQ ID NO:21-40からなる一群から選択された核酸配列と少なくとも約70%のポリヌクレオチド配列同一性、或いは少なくとも約85%のポリヌクレオチド配列同一性、更には少なくとも約95%ものポリヌクレオチド配列同一性を有するSEQ ID NO:21-40からなる一群から選択された配列を含むポリヌクレオチド配列の変異配列を提供する。 上記したポリヌクレオチド変異配列は何れも、TRICHの機能的或いは構造的特徴の少なくとも1つを有するアミノ酸配列をコードしうる。
【0158】
さらに、あるいは別法において、本発明のポリヌクレオチド変異体はTRICHをコードするポリヌクレオチド配列のスプライス変異体である。スプライス変異体はTRICHをコードするポリヌクレオチド配列との有意の配列同一性を持つ部分複数を有し得るが、mRNAプロセッシング中のエキソン群の選択的スプライシングによる、配列ブロック群の付加または欠失により、通常、より多くまたはより少数のポリヌクレオチドを有することになる。スプライス変異体はその全長について、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列とのポリヌクレオチド配列同一性が約70%未満、あるいは約60%、あるいは約50%未満でありえるが、そのスプライス変異体のいくつかの部分は、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列の各部分とのポリヌクレオチド配列同一性が少なくとも約70%、あるいは少なくとも約85%、あるいは少なくとも95%、あるいは100%になる。例えば、SEQ ID:40の配列を含むポリヌクレオチドはSEQ ID:29の配列を含むポリヌクレオチドのスプライス変異体である。前記のスプライス変異体のいずれもが、TRICHの少なくとも一つの機能的特徴か、または構造的特徴を含むアミノ酸配列をコードできる。
【0159】
遺伝暗号の縮重により、TRICHをコードする種々のポリヌクレオチド配列が作り出され得、中には、いかなる既知の自然発生する遺伝子のポリヌクレオチド配列とも最小の類似性しか有しないものも含まれることを、当業者は理解するであろう。したがって本発明は、可能コドン選択に基づく組合せの選択によって産出し得るようなありとあらゆる可能性のあるポリヌクレオチド配列変異体を網羅し得る。これらの組み合わせは、天然TRICHのポリヌクレオチド配列に適用される標準的なトリプレット遺伝暗号を基に作られる。また、こうした全ての変異が明確に開示されていると考慮されたい。
【0160】
TRICHとその変異配列とをコードするヌクレオチド配列は一般に、好適に選択されたストリンジェントな条件下で、天然TRICHのヌクレオチド配列とハイブリダイズ可能であるが、非天然コドンを含めるなどの実質的に異なったコドン使用を有する、TRICH或いはその誘導体をコードするヌクレオチド配列を作ることは有益であり得る。宿主が特定のコドンを利用する頻度に基づいて、特定の真核又は原核宿主に発生するペプチドの発現率を高めるようにコドンを選択することが可能である。コードされるアミノ酸配列を改変せずに、TRICH及びその誘導体をコードするヌクレオチド配列を実質的に改変する別の理由には、天然の配列から作られる転写物より例えば長い半減期など好ましい特性を備えるRNA転写物を作ることもある。
【0161】
本発明はまた、TRICH及びその誘導体をコードするDNA配列またはそれらの断片を完全に合成化学によって作り出すことも含む。作製後にこの合成配列を、当分野で良く知られた試薬を用いて、種々の入手可能な発現ベクター及び細胞系の何れの中にも挿入可能である。 更に、合成化学を用いて、TRICHまたはその任意の断片をコードする配列の中に突然変異を導入することも可能である。
【0162】
更に本発明には、種々のストリンジェンシー条件下で、請求項に記載されたポリヌクレオチド配列、特に、SEQ ID NO:21-40 及びそれらの断片とハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド配列が含まれる(例えば、Wahl, G.M.及びS.L. Berger (1987) Methods Enzymol.152:399-407、Kimmel, A.R. (1987) Methods Enzymol. 152:507-511等を参照)。アニーリング及び洗浄条件を含むハイブリダイゼーションの条件は、「定義」に記載されている。
【0163】
DNAシークエンシングの方法は当分野では公知であり、本発明のいずれの実施例もDNAシークエンシング方法を用いて実施可能である。DNAシークエンシング方法には酵素を用いることができ、例えばDNAポリメラーゼ1のクレノウ断片、SEQUENASE(US Biochemical, Cleveland OH)、Taqポリメラーゼ(Applied Biosystems)、熱安定性T7ポリメラーゼ(Amersham, Pharmacia Biotech, Piscataway NJ)を用いることができる。或いは、例えばELONGASE増幅システム(Life Technologies, Gaithersburg MD)において見られるように、ポリメラーゼと校正エキソヌクレアーゼを併用することができる。好適には、MICROLAB2200液体転移システム(Hamilton, Reno, NV)、PTC200サーマルサイクラー(MJ Research, Watertown MA)及びABI CATALYST 800サーマルサイクラー(Applied Biosystems)等の装置を用いて配列の準備を自動化する。次に、ABI 373 或いは 377 DNAシークエンシングシステム(Applied Biosystems)、MEGABACE 1000 DNAシークエンシングシステム(Molecular Dynamics, Sunnyvale CA)または当分野で既知の他の方法を用いてシークエンシングを行う。 結果として得られた配列を当分野でよく知られている種々のアルゴリズムを用いて分析する。 (Ausubel, F.M. (1997) Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York NY, unit 7.7、Meyers, R.A. (1995) Molecular Biology and Biotechnology, Wiley VCH, New York NY, 856-853ページ等を参照)。
【0164】
当分野で周知の、PCR法をベースにした種々の方法で、部分的なヌクレオチド配列を利用して、TRICHをコードする核酸配列を伸長し、プロモーターや調節エレメントなど、上流にある配列を検出しうる。例えば、使用し得る方法の1つである制限部位PCR法は、ユニバーサルプライマー及びネステッドプライマーを用いてクローニングベクター内のゲノムDNAから未知の配列を増幅する方法である(例えば、 Sarkar, G. (1993) PCR Methods Applic. 2:318322を参照。)別の方法に逆PCR法があり、これは広範な方向に伸長させたプライマーを用いて環状化した鋳型から未知の配列を増幅する方法である。鋳型は、既知のゲノム遺伝子座及びその周辺の配列を含む制限酵素断片から得る(例えば、Triglia, T. 他 (1988) Nucleic Acids Res. 16:8186)。第3の方法としてキャプチャPCR法があり、これはヒト及び酵母菌人工染色体DNAの既知の配列に隣接するDNA断片をPCR増幅する方法に関与している(Lagerstrom, M.他(1991) PCR Methods Applic 1:111-119等を参照)。この方法では、PCRを行う前に複数の制限酵素の消化及びライゲーション反応を用いて未知の配列領域内に組換え二本鎖配列を挿入することが可能である。また、未知の配列を検索するために用い得る別の方法については当分野で知られている(Parker, J.D.他 (1991) Nucleic Acids Res. 19:3055-3060等を参照)。更に、PCR、ネステッドプライマー及びPromoterFinderライブラリ(Clontech, Palo Alto CA)を用いてゲノムDNAをウォーキングすることができる。この手順は、ライブラリをスクリーニングする必要がなく、イントロン/エキソン接合部を見付けるのに有用である。全てのPCRベースの方法では、市販されているソフトウェア、例えばOLIGO 4.06プライマー分析ソフトウェア(National Biosciences, Plymouth MN)或いは別の好適なプログラムを用いて、長さが約22〜30ヌクレオチド、GC含有率が約50%以上、温度約68℃〜72℃で鋳型に対してアニーリングするようにプライマーを設計し得る。
【0165】
完全長cDNAをスクリーニングする際は、より大きなcDNAを含むようにサイズ選択されたライブラリを用いるのが好ましい。更に、ランダムプライマーのライブラリは、しばしば遺伝子の5'領域を有する配列を含み、オリゴd(T)ライブラリが完全長cDNAを作製できない状況に対して好適である。ゲノムライブラリは、5'非転写調節領域への配列の伸長に有用であろう。
【0166】
市販のキャピラリー電気泳動システムを用いて、シークエンシングまたはPCR産物のサイズを分析し、またはそのヌクレオチド配列を確認することができる。具体的には、キャピラリーシークエンシングは、電気泳動による分離のための流動性ポリマーと、4つの異なるヌクレオチドに特異的であるような、レーザで活性化される蛍光色素と、発光された波長の検出に利用するCCDカメラとを有し得る。出力/光の強度は、適切なソフトウェア(Applied Biosystems社のGENOTYPER、SEQUENCE NAVIGATOR等)を用いて電気信号に変換し得る。サンプルのロードからコンピュータ分析及び電子データ表示までの全プロセスがコンピュータ制御可能である。キャピラリー電気泳動法は、特定のサンプルに少量しか存在しないようなDNA小断片のシークエンシングに特に適している。
【0167】
本発明の別の実施例では、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列またはその断片を組換えDNA分子にクローニングして、適切な宿主細胞内にTRICH、その断片または機能的等価物を発現させることが可能である。遺伝暗号固有の縮重により、実質的に同じ或いは機能的に等価のアミノ酸配列をコードする別のDNA配列が作られ得、これらの配列をTRICHの発現に利用可能である。
【0168】
種々の目的で、TRICHをコードする配列を改変するために、当分野で一般的に知られている方法を用いて、本発明のヌクレオチド配列を組換えることができる。 この目的には、遺伝子産物のクローン化、プロセッシング及び/または発現の調節(modification)が含まれるが、これらに限定されるものではない。遺伝子断片及び合成オリゴヌクレオチドのランダムなフラグメンテーション及びPCR再アセンブリによるDNAシャッフリングを用い、ヌクレオチド配列を組み換えることが可能である。例えば、オリゴヌクレオチドを介した部位特異的変異誘導を利用して、新規な制限部位の作製、グリコシル化パターンの変更、コドン優先の変更、スプライス変異体の生成等を起こす突然変異を導入し得る。
【0169】
本発明のヌクレオチドを、MOLECULARBREEDING (Maxygen Inc., Santa Clara CA; 米国特許第5,837,458号; Chang, C.-C. 他 (1999) Nat. Biotechnol. 17:793-797; Christians, F.C. 他 (1999) Nat. Biotechnol. 17:259-264; Crameri, A. 他 (1996) Nat. Biotechnol. 14:315-319)などのDNAシャフリング技術を用いてシャフリングして、TRICHの生物学的または酵素的な活性、或いは他の分子や化合物と結合する能力などのTRICHの生物学的特性を変更或いは改良することができる。DNAシャッフリングは、遺伝子断片のPCRを介する組換えを用いて遺伝子変異体のライブラリを作製するプロセスである。ライブラリはその後、その遺伝子変異体を所望の特性に同定するような選択またはスクリーニングにかける。次にこれらの好適な変異体をプールし、更に反復してDNAシャッフリング及び選択/スクリーニングを行ってもよい。従って、「人工的な」育種及び急速な分子の進化によって多様な遺伝子が作られる。例えば、ランダムポイント突然変異を有する単一の遺伝子の断片を組み換えて、スクリーニングし、その後所望の特性が最適化されるまでシャッフリングすることができる。或いは、所定の遺伝子を同種または異種のいずれかから得た同一遺伝子ファミリーの相同遺伝子と組み換え、それによって天然に存在する複数の遺伝子の遺伝多様性を、定方向の制御可能な方法で最大化させることができる。
【0170】
別の実施例によれば、TRICHをコードする配列は、当分野で周知の化学的方法を用いて、全体或いは一部が合成可能である(例えば、Caruthers. M.H.ら(1980)Nucl. Acids Res. Symp. Ser 7:215-223; 及びHorn, T.他(1980)Nucl. Acids Res. Symp. Ser.225-232を参照)。別法として、化学的方法を用いてTRICH自体またはその断片を合成することが可能である。例えば、種々の液相または固相技術を用いてペプチド合成を行うことができる(Creighton, T. (1984) Proteins, Structures and Molecular Properties, WH Freeman, New York NY, 55-60ページ、Roberge, J.Y.他 (1995) Science 269:202-204等を参照)。自動合成はABI 431Aペプチドシンセサイザ(Applied Biosystems)を用いて達成し得る。更にTRICHのアミノ酸配列または任意のその一部を用い、直接合成の際の改変により、及び/または化学的方法を用いた他のタンパク質からの配列または任意のその一部との組み合わせにより、天然ポリペプチドの配列を有するポリペプチドまたは変異体ポリペプチドを作製することが可能である。
【0171】
このペプチドは、分取用高速液体クロマトグラフィーを用いて実質的に精製し得る(Chiez, R.M.およびF.Z. Regnier (1990) Methods Enzymol. 182:392-421などを参照)。この合成ペプチドの組成は、アミノ酸分析またはシークエンシングによって確認できる(前出のCreighton, 28-53ページ等を参照)。
【0172】
生物学的に活性なTRICHを発現させるために、TRICHをコードするヌクレオチド配列またはその誘導体を好適な発現ベクターに挿入する。 この発現ベクターは、好適な宿主に挿入されたコーディング配列の転写及び翻訳の調節に必要なエレメントを含む。これらのエレメントには、ベクター及びTRICHをコードするポリヌクレオチド配列における、エンハンサー、構成型及び発現誘導型のプロモーター、5'及び3'の非翻訳領域などの調節配列が含まれる。このようなエレメントは、強度及び特異性が様々である。特定の開始シグナルによって、TRICHをコードする配列のより効果的な翻訳を達成することが可能である。このようなシグナルには、ATG開始コドンと、コザック配列などの近傍の配列が含まれる。TRICHをコードする配列及びその開始コドン、上流の調節配列が好適な発現ベクターに挿入された場合は、更なる転写調節シグナルや翻訳調節シグナルは必要ないこともある。しかしながら、コーディング配列或いはその断片のみが挿入された場合は、インフレームのATG開始コドンを含む外来性の翻訳調節シグナルが発現ベクターに含まれるようにすべきである。外来性の翻訳エレメント及び開始コドンは、様々な天然物及び合成物を起源とし得る。用いられる特定の宿主細胞系に好適なエンハンサーを含めることで発現の効率を高めることが可能である(例えば、Scharf, D. 他 (1994) Results Probl. Cell Differ. 20:125-162.を参照)。
【0173】
当業者に周知の方法を用いて、TRICHをコードする配列、好適な転写及び翻訳調節エレメントを含む発現ベクターを作製することが可能である。これらの方法には、in vitro組換えDNA技術、合成技術、及びin vivo遺伝子組換え技術が含まれる(例えば、 Sambrook, J. 他. (1989) Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Plainview NY, 4章及び8章, および16-17章; およびAusubel, F.M. 他. (1995) Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York NY, ch. 9章、13章および16章を参照)。
【0174】
種々の発現ベクター/宿主系を利用して、TRICHをコードする配列の保持及び発現が可能である。限定するものではないがこのような発現ベクター/宿主系には、組換えバクテリオファージ、プラスミドまたはコスミドDNA発現ベクターで形質転換させた細菌等や、酵母菌発現ベクターで形質転換させた酵母菌などの微生物や、ウイルス発現ベクター(例えばバキュロウイルス)に感染した昆虫細胞系や、ウイルス発現ベクター(例えばカリフラワーモザイクウイルス:CaMVまたはタバコモザイクウイルス:TMV)または細菌発現ベクター(例えばTiまたはpBR322プラスミド)で形質転換させた植物細胞系、動物細胞系がある。(前出のSambrook、前出のAusubel、Van Heeke, G. および S.M. Schuster (1989) J. Biol. Chem. 264:5503-5509、; Engelhard、E.K. ら (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:3224-3227、Sandig, V. ら (1996) Hum. Gene Ther. 7:1937-1945、Takamatsu, N. (1987) EMBO J. 6:307-311、;『マグローヒル科学技術年鑑』(The McGraw Hill Yearbook of Science and Technology) (1992) McGraw Hill New York NY, 191-196ページ、Logan, J. および T. Shenk (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3655-3659、Harrington, J.J. ら (1997) Nat. Genet. 15:345-355等を参照)レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルスまたはワクシニアウイルス由来の発現ベクター、または種々の細菌性プラスミド由来の発現ベクターを用いて、ヌクレオチド配列を標的器官、組織または細胞集団へ送達することができる(Di Nicola, M. 他 (1998) Cancer Gen. Ther. 5(6):350-356、Yu, M. 他 (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90(13):6340-6344、Buller, R.M. 他 (1985) Nature 317(6040):813-815; McGregor, D.P. 他 (1994) Mol. Immunol. 31(3):219-226、Verma, I.M. 及び N. Somia (1997) Nature 389:239-242等を参照)。本発明は使用される宿主細胞によって限定されるものではない。
【0175】
細菌系では、多数のクローニングベクター及び発現ベクターが、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列の使用目的に応じて選択可能である。例えば、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列の日常的なクローニング、サブクローニング、増殖には、PBLUESCRIPT (Stratagene, La Jolla CA)またはpSPORT1プラスミド(Life Technologies)などの多機能の大腸菌ベクターを用いることができる。ベクターのマルチクローニング部位にTRICHをコードする配列をライゲーションするとlacZ遺伝子が破壊され、組換え分子を含む形質転換された細菌の同定のための比色スクリーニング法が可能となる。更にこれらのベクターは、クローニングされた配列におけるin vitro転写、ジデオキシのシークエンシング、ヘルパーファージによる一本鎖のレスキュー、入れ子欠失の生成にも有用であろう(例えば、Van Heeke, G. および S.M. Schuster (1989) J. Biol. Chem. 264:5503-5509を参照)。例えば、抗体の産生のためなどに多量のTRICHが必要な場合は、TRICHの高レベル発現を誘導するベクターが使用できる。例えば、強力な誘導SP6バクテリオファージプロモーターまたは誘導T7バクテリオファージプロモーターを含むベクターが使用できる。
【0176】
TRICHの産生には酵母発現系の使用が可能である。α因子、アルコールオキシダーゼ、PGHプロモーター等の構成型或いは誘導型のプロモーターを含む多数のベクターが、出芽酵母菌(Saccharomyces cerevisiae ) またはピキア酵母(Pichia pastoris )に使用可能である。更に、このようなベクターは、発現したタンパク質の分泌か細胞内への保持のどちらかを誘導し、安定した増殖のために宿主ゲノムの中に外来配列を組み込む。(例えば、Ausubel, 1995,前出、Bitter, G.A. 他 (1987) Methods Enzymol.153:516-544、及びScorer. C. A. 他 (1994) Bio/Technology 12:181-184を参照)。
【0177】
植物系もTRICHの発現に使用可能である。TRICHをコードする配列の転写は、ウイルスプロモーター、例えば単独或いはTMV(Takamatsu, N. (1987) EMBO J 6:307-311)由来のオメガリーダー配列と組み合わせて用いられるようなCaMV由来の35S及び19Sプロモーターによって促進される。或いは、RUBISCOの小サブユニット等の植物プロモーターまたは熱ショックプロモーターを用いてもよい(例えば、Coruzzi, G. 他 (1984) EMBO J. 3:1671-1680 ; Broglie, R. 他 (1984) Science 224:838-843 ; および Winter, J. 他 (1991) Results Probl. Cell Differ. 17:85-105を参照)これらの作製物は、直接DNA形質転換にまたは病原体を媒介とする形質移入によって、植物細胞内に導入可能である。(『マグローヒル科学技術年鑑』(The McGraw Hill Yearbook of Science and Technology) (1992) McGraw Hill New York NY,191-196ページ等を参照)。
【0178】
哺乳動物細胞においては、多数のウイルスベースの発現系を利用し得る。アデノウイルスが発現ベクターとして用いられる場合、後期プロモーター及び3連リーダー配列からなるアデノウイルス転写/翻訳複合体に、TRICHをコードする配列を結合し得る。ウイルスゲノムの可欠E1またはE3領域へ挿入することにより、宿主細胞でTRICHを発現する感染ウイルスを得ることが可能である。(例えば、Logan, J. および T. Shenk (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3655-3659を参照)。更に、ラウス肉腫ウイルス(RSV)エンハンサー等の転写エンハンサーを用いて、哺乳動物宿主細胞における発現を増大させ得る。SV40またはEBVをベースにしたベクターを用いてタンパク質を高レベルで発現させることもできる。
【0179】
ヒト人工染色体(HAC)を用いて、プラスミドに含まれ且つプラスミドから発現するものより大きなDNAの断片を送達することもできる。治療のために約6kb〜10MbのHACを作製し、従来の輸送方法(リポソーム、ポリカチオンアミノポリマー、またはベシクル)で供給する。(例えば、Harrington. J.J. 他 (1997) Nat Genet.15:345-355を参照)。
【0180】
哺乳動物系での組換えタンパク質の長期にわたる産生のためには、株化細胞におけるTRICHの安定した発現が望ましい。例えば、TRICHをコードする配列を株化細胞に形質転換するために、発現ベクターと、同じ或いは別のベクターの上の選択可能マーカー遺伝子を用いることが可能である。このような発現ベクターは、ウイルス起源の複製要素及び/または内因性の発現要素を持ちうる。ベクターの導入後、選択培地に移す前に強化培地で約1〜2日間細胞を増殖させることができる。選択可能マーカーの目的は選択培地への抵抗性を与えることであり、選択可能マーカーが存在することにより、導入された配列をうまく発現するような細胞の成長及び回収が可能となる。安定的に形質転換された細胞の耐性クローンは、その細胞型に適した組織培養技術を用いて増殖可能である。
【0181】
任意の数の選択系を用いて、形質転換細胞株を回収できる。限定するものではないがこのような選択系には、tk−細胞のために用いられる単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子と、apr−細胞のために用いられる単純ヘルペスウイルスのアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子がある(例えば、Wigler, M. 他 (1977) Cell 11:223-232; 及びLowy, I. 他(1980) Cell 22:817-823を参照)。また、選択の基礎として代謝拮抗物質、抗生物質或いは除草剤への耐性を用いることができる。例えばdhfrはメトトレキセートに対する耐性を与え、neoはアミノグリコシッドネオマイシン及びG-418に対する耐性を与え、alsはクロルスルフロンに対する耐性を、patはホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼに対する耐性を各々与える( Wigler, M. 他(1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:3567-3570; Colbere-Garapin, F. 他(1981) J. Mol. Biol. 150:1-14 等を参照。)この他の選択可能な遺伝子、例えば、代謝のための細胞の必要条件を変えるtrpB及びhisDは、文献に記載されている(例えば、 Hartman, S.C. 及びR.C. Mulligan (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:8047-8051参照。)可視マーカー、例えばアントシアニン、緑色蛍光タンパク質(GFP;Clontech)、βグルクロニダーゼ及びその基質βグルクロニド、またはルシフェラーゼ及びその基質ルシフェリン等を用いてもよい。これらのマーカーを用いて、トランスフォーマントを特定するだけでなく、特定のベクター系に起因する一過性或いは安定したタンパク質発現を定量することが可能である(Rhodes, C.A. (1995) Methods Mol. Biol. 55:121-131等を参照)。
【0182】
マーカー遺伝子発現の存在/不存在によって目的の遺伝子の存在が示唆されても、その遺伝子の存在及び発現の確認が必要な場合もある。例えば、TRICHをコードする配列がマーカー遺伝子配列の中に挿入された場合、TRICHをコードする配列を含む形質転換された細胞は、マーカー遺伝子機能の欠落により同定可能である。または、1つのプロモーターの制御下で、マーカー遺伝子を、TRICHをコードする配列とタンデムに配置することも可能である。誘導または選択に応答したマーカー遺伝子の発現は通常、タンデム遺伝子の発現も示す。
【0183】
一般に、TRICHをコードする核酸配列を含み、TRICHを発現する宿主細胞は、当業者に周知の種々の方法を用いて特定することが可能である。 これらの方法には、DNA−DNA或いはDNA−RNAハイブリダイゼーションや、PCR増幅が含まれ、また、核酸配列或いはタンパク質配列の検出及び/または数量化のための膜系、溶液ベース、或いはチップベースの技術を含むタンパク質生物学的試験法または免疫学的アッセイが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0184】
特異的なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のどちらかを用いるTRICHの発現の検出及び計測のための免疫学的な方法は、当分野で既知である。 このような技法には、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光標示式細胞分取(FACS)などがある。TRICH上の2つの非干渉エピトープに反応するモノクローナル抗体を用いた、2部位のモノクローナルベースイムノアッセイ(two-site, monoclonal-based immunoassay)が好ましいが、競合結合アッセイを用いることもできる。これらのアッセイ及びこれ以外のアッセイは、当分野で公知である(Hampton. R. 他 (1990) Serological Methods, a Laboratory Manual. APS Press. St Paul. MN, Sect. IV、Coligan, J. E. 他 (1997) Current Protocols in Immunology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience, New York NY、Pound, J.D. (1998) Immunochemical Protocols, Humans Press, Totowa NJ等を参照)。
【0185】
多岐にわたる標識方法及び抱合方法が、当業者に知られており、様々な核酸アッセイおよびアミノ酸アッセイにこれらの方法を用い得る。TRICHをコードするポリヌクレオチドに関連する配列を検出するための、標識されたハイブリダイゼーションプローブ或いはPCRプローブを生成する方法には、オリゴ標識化、ニックトランスレーション、エンドラベリング(末端標識化)、または標識されたヌクレオチドを用いるPCR増幅が含まれる。別法として、TRICHをコードする配列、またはその任意の断片をmRNAプローブを生成するためのベクターにクローニングすることも可能である。このようなベクターは、当分野において知られており、市販もされており、T7、T3またはSP6等の好適なRNAポリメラーゼ及び標識されたヌクレオチドを加えて、in vitroでRNAプローブの合成に用いることができる。このような方法は、例えばAmersham Pharmacia Biotech、Promega(Madison WI)、U.S. Biochemical等から市販されている種々のキットを用いて実行することができる。検出を容易にするために用い得る好適なレポーター分子或いは標識には、基質、補助因子、インヒビター、磁気粒子のほか、放射性核種、酵素、蛍光剤、化学発光剤、発色剤等がある。
【0186】
TRICHをコードするヌクレオチド配列で形質転換された宿主細胞は、細胞培地でのこのタンパク質の発現及び回収に好適な条件下で培養される。形質転換細胞から製造されたタンパク質が分泌されるか細胞内に留まるかは、使用される配列、ベクター、或いはその両者に依存する。TRICHをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、原核細胞膜及び真核細胞膜を透過するTRICH分泌を指示するシグナル配列を含むように設計できることは、当業者には理解されよう。
【0187】
更に、宿主細胞株の選択は、挿入した配列の発現を調節する能力または発現したタンパク質を所望の形に処理する能力によって行い得る。限定するものではないがこのようなポリペプチドの修飾には、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質化及びアシル化がある。タンパク質の「プレプロ」または「プロ」形を切断する翻訳後のプロセシングを利用して、タンパク質の標的への誘導、折りたたみ及び/または活性を特定することが可能である。翻訳後の活性のための特異的な細胞装置及び特徴のある機構を有する種々の宿主細胞(例えばCHO、HeLa、MDCK、MEK293、WI38等)は、American Type Culture Collection(ATCC, Manassas, VA)から入手可能であり、外来タンパク質の正しい修飾及びプロセッシングを確実にするように選択し得る。
【0188】
本発明の別の実施例では、TRICHをコードする自然或いは修飾された、または組換えの核酸配列を異種配列に結合させることにより、上記した任意の宿主系で融合タンパク質の翻訳を生じうる。例えば、市販の抗体によって認識できる異種部分を含むキメラTRICHタンパク質が、TRICH活性のインヒビターに対するペプチドライブラリのスクリーニングを促進し得る。また、異種タンパク質部分及び異種ペプチド部分も、市販されている親和性基質を用いて融合タンパク質の精製を促進し得る。限定されるものではないがこのような部分には、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、チオレドキシン(Trx)、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)、6-His、FLAG、c-myc、赤血球凝集素(HA)がある。GSTは固定化グルタチオン上で、MBPはマルトース上で、Trxはフェニルアルシンオキシド上で、CBPはカルモジュリン上で、そして6-Hisは金属キレート樹脂上で、同族の融合タンパク質の精製を可能にする。FLAG、c-myc及び赤血球凝集素(HA)は、これらのエピトープ標識を特異的に認識する市販されているモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を用いて、融合タンパク質の免疫親和性精製を可能にする。また、TRICHをコードする配列と異種タンパク質配列との間にタンパク質分解切断部位を融合タンパク質が含むように遺伝子操作すると、TRICHが精製の後に異種部分から切断され得る。融合タンパク質の発現及び精製方法は、前出のAusubel (1995) 10章に記載されている。市販されている種々のキットを用いて融合タンパク質の発現及び精製を促進することもできる。
【0189】
本発明の別の実施例では、TNTウサギ網状赤血球可溶化液またはコムギ胚芽抽出系(Promega)を用いてin vitroで、放射能標識したTRICHの合成が可能である。これらの系は、T7、T3またはSP6プロモーターと機能的に連結したタンパク質コード配列の、転写及び翻訳をカップルさせる。翻訳は、例えば35Sメチオニンのような放射能標識したアミノ酸前駆体の存在下で起こる。
【0190】
本発明のTRICHまたはその断片を用いて、TRICHに特異結合する化合物をスクリーニングすることができる。少なくとも1つまたは複数の試験化合物を用いて、TRICHへの特異的な結合をスクリーニングすることが可能である。試験化合物の例には、抗体、オリゴヌクレオチド、タンパク質(例えば受容体)または小分子が挙げられる。
【0191】
一実施例では、このように同定された化合物はTRICHの天然リガンドに密接に関連し、例えばリガンドやその断片であり、または天然基質、構造的または機能的な擬態物質、または自然結合パートナーである(Coligan, J.E. 他 (1991) Current Protocols in Immunology 1(2)の5章等を参照)。同様に、この化合物は、TRICHが結合する天然受容体に、或いは例えばリガンド結合部位などの少なくともこの受容体のある断片に密接に関連し得る。何れの場合も、既知の技術を用いてこの化合物を合理的に設計することができる。一実施例では、このような化合物に対するスクリーニングには、分泌タンパク質或いは細胞膜上のタンパク質の何れか一方としてTRICHを発現する好適な細胞の作製が含まれる。好適な細胞には、哺乳動物、酵母、ショウジョウバエ、または大腸菌からの細胞が含まれる。TRICHを発現する細胞またはTRICHを含有する細胞膜分画を試験化合物と接触させて、TRICHまたは化合物の何れかの結合、刺激または活性の阻害を分析する。
【0192】
あるアッセイは、単に試験化合物をポリペプチドに実験的に結合させ、フルオロフォア、放射性同位体、酵素抱合体またはその他の検出可能な標識によりその結合を検出することができる。例えば、このアッセイは、少なくとも1つの試験化合物を、溶液中の或いは固体支持物に固定されたTRICHと混合するステップと、TRICHとこの化合物との結合を検出するステップを含み得る。別法では、標識された競合物の存在下での試験化合物の結合の検出及び測定を行うことができる。更にこのアッセイでは、無細胞再構成標本、化学ライブラリまたは天然の生成混合物を用いて実施することができ、試験化合物は、溶液中で遊離させるか固体支持体に固定させる。
【0193】
本発明のTRICHまたはその断片を用いて、TRICHの活性を調節する化合物をスクリーニングすることが可能である。このような化合物には、アゴニスト、アンタゴニスト、部分的アゴニスト、または逆アゴニスト等が含まれる。一実施例では、TRICHの活性が許容される条件下でアッセイを実施し、そのアッセイでは少なくとも1つの試験化合物をTRICHと混合し、試験化合物の存在下でのTRICHの活性を試験化合物不在下でのTRICHの活性と比較する。試験化合物の存在下でのTRICHの活性の変化は、TRICHの活性を調節する化合物の存在を示唆する。別法では、試験化合物をTRICHの活性に適した条件下でTRICHを含むin vitroすなわち無細胞系と混合してアッセイを実施する。これらアッセイの何れかにおいて、TRICHの活性を調節する試験化合物は間接的に結合する場合があり、その際は試験化合物と直接接触する必要がない。少なくとも1つ、または複数の試験化合物をスクリーニングすることができる。
【0194】
別の実施例では、胚性幹細胞(ES細胞)における相同組換えを用いて動物モデル系内で、TRICHまたはその哺乳動物相同体をコードするポリヌクレオチドを「ノックアウト」する。このような技術は当技術分野において周知であり、ヒト疾患動物モデルの産生に有用である(米国特許第5,175,383号及び第5,767,337号等を参照)。例えば129/SvJ細胞株等のマウスES細胞は初期のマウス胚に由来し、培地で増殖させることができる。このES細胞は、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo: Capecchi, M.R. (1989) Science 244:1288-1292)等のマーカー遺伝子で破壊された目的の遺伝子を含むベクターで形質転換する。このベクターは、相同組換えにより宿主ゲノムの対応する領域に組み込まれる。別法では、Cre-loxP系を用いて相同組換えを行い、組織特異的または発生段階特異的に目的遺伝子をノックアウトする(Marth, J.D. (1996) Clin. Invest. 97:1999-2002; Wagner, K.U. 他 (1997) Nucleic Acids Res. 25:4323-4330)。形質転換したES細胞を同定し、例えばC57BL/6マウス系等から採取したマウス細胞胚盤胞に微量注入する。胚盤胞を偽妊娠メスに外科的に導入し、得られるキメラ子孫の遺伝形質を決め、これを交配させてヘテロ接合性系またはホモ接合性系を作製する。このようにして作製した遺伝子組換え動物は、可能性のある治療薬や毒性薬剤で検査することができる。TRICHをコードするポリヌクレオチドをin vitroでヒト胚盤胞由来のES細胞において操作することが可能である。ヒトES細胞は、内胚葉、中胚葉及び外胚葉の細胞の種類を含む少なくとも8つの別々の細胞系統に分化する可能性を有する。これらの細胞系統は、例えば神経細胞、造血系統及び心筋細胞に分化する(Thomson, J.A. 他 (1998) Science 282:1145-1147)。
【0195】
TRICHをコードするポリヌクレオチドを用いて、ヒト疾患をモデルとした「ノックイン」ヒト化動物(ブタ)または遺伝子組換え動物(マウスまたはラット)を作製することが可能である。ノックイン技術を用いて、TRICHをコードするポリヌクレオチドの或る領域を動物ES細胞に注入し、注入した配列を動物細胞ゲノムに組み込ませる。形質転換細胞を胞胚に注入し、胞胚を上記のように移植する。遺伝子組換え子孫または近交系について研究し、可能性のある医薬品を用いて処理し、ヒトの疾患の治療に関する情報を得る。別法では、例えばTRICHを乳汁内に分泌するなどTRICHを過剰に発現する哺乳動物近交系は、便利なタンパク質源となり得る(Janne, J. 他 (1998) Biotechnol. Annu. Rev. 4:55-74)。
【0196】
(治療)
TRICHのある領域と輸送体及びイオンチャネルのある領域との間に、例えば配列及びモチーフの文脈における化学的及び構造的類似性が存在する。さらに、TRICH を発現する組織の例には初代ヒト乳房上皮細胞があり、表6にも見られる。したがって、TRICH は輸送障害、神経疾患、筋肉疾患、免疫疾患および細胞増殖異常、に関与していると考えられる。TRICHの発現若しくは活性の増大に関連する疾患の治療においては、TRICHの発現または活性を低下させることが望ましい。また、TRICHの発現または活性の低下に関連する疾患の治療においては、TRICHの発現または活性を増大させることが望ましい。
【0197】
従って、一実施例において、TRICHの発現または活性の低下に関連した疾患の治療または予防のために、患者にTRICHまたはその断片や誘導体を投与することが可能である。限定するものではないが、こうした疾患としては、輸送障害(運動不能症、筋萎縮性側索硬化症、毛細血管拡張性運動失調症, 嚢胞性線維症、 ベッカー型筋ジストロフィー、, 顔面神経麻痺、シャルコー・マリー・ツース病、 糖尿病、尿崩症, 糖尿病性ニューロパシー、 デュシェンヌ型筋ジストロフィー、高カリウム血性周期性四肢麻痺、 正常カリウム血性周期性四肢麻痺, パーキンソン病、 悪性高体温症, 多剤耐性, 重症筋無力症, 筋緊張性異栄養症(筋強直性ジストロフィー), 緊張病, 遅発性ジスキネジー, ジストニー, 末梢神経障害, 脳腫瘍, 前立腺癌等)輸送障害や、例えば狭心症, 徐脈性不整脈, 頻脈性不整脈, 高血圧, QT延長症候群, 心筋炎, 心筋症, ネマリンミオパシー, 中心核ミオパシー, 脂質ミオパシー, ミトコンドリアミオパシー, 甲状腺中毒性ミオパシー, エタノールミオパシー, 皮膚筋炎, 封入体筋炎, 感染性筋炎, 多発性筋炎のような輸送に関連する心臓疾患や、例えばアルツハイマー病, 記憶喪失、双極性障害、痴呆、 鬱病、 癲癇、トゥーレット病、パラノイド精神病、 および精神分裂病(統合失調症)のような輸送に関連する神経疾患、 および、例えば神経線維腫症、ヘルペス後神経痛、三叉神経障害, サルコイドーシス、 鎌状赤血球貧血、 ウィルソン病、 白内障、 不妊症、 肺動脈狭窄、 感音常染色体難聴、 高血糖症、 低血糖症、 グレーヴズ病、 甲状腺腫、 クッシング病、 アジソン病、 グルコース・ガラクトース吸収不良症候群、グリコーゲン貯蔵病、高コレステロール血症、 副腎脳白質ジストロフィー、ツェルヴェーガー症候群、 Menkes病、 後角症候群、 von Gierke病、I型偽性低アルドステロン症、リドル症候群、シスチン尿症、 イミノグリシン尿症、Hartup病、ファンコーニ病およびバーター症候群のような輸送に関連するその他の疾患が含まれ、神経疾患の中には、癲癇、虚血性脳血管障害、脳卒中、大脳新生物、アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン病、痴呆、パーキンソン病及びその他の錐体外路障害、筋萎縮性側索硬化及びその他の運動ニューロン障害、進行性神経性筋萎縮症、色素性網膜炎(網膜色素変性症)、遺伝性運動失調、多発性硬化症及び他の脱髄疾患、細菌性及びウイルス性髄膜炎、脳膿瘍、硬膜下膿瘍、硬膜外膿瘍、化膿性頭蓋内血栓性静脈炎、脊髄炎及び神経根炎、ウイルス性中枢神経系疾患、プリオン病(クールー、クロイツフェルト‐ヤコブ病、及びGerstmann -Straussler -Scheinker症候群を含む)、致死性家族性不眠症、神経系性栄養病及び代謝病、神経線維腫症、結節硬化症、小脳網膜血管芽腫症(cerebelloretinal hemangioblastomatosis)、脳三叉神経血管腫症候群、ダウン症候群を含む中枢神経系性の精神遅滞及び他の発生障害、脳性麻痺、神経骨格異常症、自律神経系障害、脳神経疾患、脊髄障害、筋ジストロフィー及びその他の神経筋障害、末梢神経疾患、皮膚筋炎及び多発性筋炎、遺伝性、代謝性、内分泌性、及び中毒性のミオパシー、重症筋無力症、周期性四肢麻痺、精神障害(気分性、不安性の障害、分裂病性疾患)、季節性感情障害(SAD)、静座不能、健忘症、緊張病、糖尿病性ニューロパシー、片麻痺性片頭痛、遅発性ジスキネジー、ジストニー、パラノイド精神病、帯状疱疹後神経痛、及びトゥーレット病と、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症、及び家族性前頭側頭型痴呆が含まれ、筋疾患には、心筋症、心筋炎、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、筋緊張(強直)性ジストロフィー、セントラルコア病、ネマリンミオパシー、中心核ミオパシー、脂質ミオパシー、ミトコンドリアミオパシー、感染性筋炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、封入体筋炎、甲状腺中毒性ミオパシーおよびエタノールミオパシー、狭心症、アナフィラキシーショック、不整脈、喘息、心血管ショック、クッシング病、高血圧症、低血糖症、心筋梗塞、片頭痛、クロム親和細胞腫、脳症、てんかん、カーンズ‐セイヤ症候群、乳酸アシドーシス、ミオクローヌス疾患、眼筋麻痺、および酸性マルターゼ欠損症(AMD、ポンペ病としても知られる)、全身性筋緊張症(generalized myotonia)、および先天性筋緊張症が含まれ、免疫疾患には、後天性免疫不全症候群(AIDS)、アジソン病、成人呼吸窮迫症候群、アレルギー、強直性脊椎炎、アミロイド症、貧血症、喘息、アテローム性動脈硬化症、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性多腺性内分泌カンジダ症外胚葉ジストロフィ(APECED)、気管支炎、胆嚢炎、接触皮膚炎、クローン病、アトピー皮膚炎、皮膚筋炎、真性糖尿病、肺気腫、リンパ球傷害因子性偶発性リンパ球減少症、胎児赤芽球症(新生児溶血性疾患)、結節性紅斑、萎縮性胃炎、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、痛風、グレーブス病、橋本甲状腺炎、過好酸球増加症、過敏性腸症候群、多発性硬化症、重症筋無力症、心筋または心膜炎症、骨関節炎、骨粗しょう症、膵炎、多発性筋炎、乾癬、ライター症候群、リウマチ様関節炎、強皮症、シェーグレン症候群、全身性アナフィラキシー、全身性エリテマトーデス、全身性硬化症(強皮症)、血小板減少性紫斑病、潰瘍性大腸炎、ぶどう膜炎、ウェルナー症候群、癌合併症、血液透析、体外循環、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、寄生虫感染症、原虫感染症、蠕虫感染症、外傷が含まれ、また、細胞増殖異常では日光性角化症及びアテローム性動脈硬化、滑液包炎、硬変、肝炎、混合性結合組織病(MCTD)、骨髄線維症、発作性夜間ヘモグロビン尿症、真性多血症、乾癬、原発性血小板血症、並びに腺癌及び白血病、リンパ腫、黒色腫、骨髄腫、肉腫、及び奇形癌など癌、具体的には、副腎、膀胱、骨、骨髄、脳、乳房、頚部、胆嚢、神経節、消化管、心臓、腎臓、肝臓、肺、筋肉、卵巣、膵臓、副甲状腺、陰茎、前立腺、唾液腺、皮膚、脾臓、精巣、胸腺、甲状腺、子宮の癌が含まれる。
【0198】
別の実施例では、限定するものではないが上に列記した疾患を含むTRICHの発現または活性の低下に関連した疾患の治療または予防のために、TRICHまたはその断片や誘導体を発現し得るベクターを被験者に投与することも可能である。
【0199】
更に別の実施例では、限定するものではないが上に列記した疾患を含むTRICHの発現または活性の低下に関連した疾患の治療または予防のために、実質的に精製されたTRICHを含む組成物を好適な医薬用担体と共に被験者に投与することも可能である。
【0200】
更に別の実施例では、限定するものではないが上に列記した疾患を含むTRICHの発現または活性の低下に関連した疾患の治療または予防のために、TRICHの活性を調節するアゴニストを被験者に投与することも可能である。
【0201】
更なる実施例では、TRICHの発現または活性の増大に関連した疾患の治療または予防のために、被験者にTRICHのアンタゴニストを投与することが可能である。限定するものではないが、このような疾患の例には、上記した輸送障害、神経疾患、筋疾患、免疫疾患および細胞増殖異常が含まれる。一実施態様では、TRICHと特異的に結合する抗体が直接アンタゴニストとして、或いはTRICHを発現する細胞または組織に薬剤を運ぶターゲッティング或いは送達機構として間接的に用いられ得る。
【0202】
別の実施例では、限定するものではないが上に列記した疾患を含むTRICHの発現または活性の増大に関連した疾患の治療または予防のために、TRICHをコードするポリヌクレオチドの相補配列を発現するベクターを被験者に投与することも可能である。
【0203】
別の実施例では、本発明の任意のタンパク質、アンタゴニスト、抗体、アゴニスト、相補配列、またはベクターを、別の好適な治療薬と組み合わせて投与することもできる。併用療法で用いる好適な治療薬は、当業者が従来の医薬原理に従って選択し得る。治療薬と組み合わせることにより、上記した種々の疾患の治療または予防に相乗効果をもたらし得る。この方法を用いることにより少量の各薬剤で医薬効果をあげることが可能となり、それによって副作用の可能性を低減し得る。
【0204】
TRICHのアンタゴニストは、当分野で一般的な方法を用いて製造することが可能である。 詳しくは、精製されたTRICHを用いて抗体を作ったり、治療薬のライブラリをスクリーニングしてTRICHと特異的に結合するものの同定が可能である。TRICHの抗体も、当分野で公知の方法を用いて製造することが可能である。 このような抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、Fabフラグメント、及びFab発現ライブラリによって作られたフラグメントが含まれる。 但し、これらに限定されるものではない。中和抗体(即ち二量体の形成を阻害する抗体)は通常、治療用に好適である。一本鎖抗体(例えば、ラクダまたはラマ)は有力な酵素阻害剤であり、またペプチド擬態物質の設計および免疫吸着剤やバイオセンサーの開発に利点があるであろう(Muyldermans, S. (2001) J. Biotechnol. 74:277-302)。
【0205】
抗体の産生のためには、ヤギ、ウサギ、ラット、マウス、ラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ、ヒト及びその他のものを含む種々の宿主が、TRICHまたは任意の断片、または免疫原性の特性を備えるそのオリゴペプチドの注入によって免疫化され得る。宿主の種に応じて、種々のアジュバントを用いて免疫応答を高めることもできる。限定するものではないがこのようなアジュバントには、フロイントアジュバントと、水酸化アルミニウム等のミネラルゲルアジュバントと、リゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油性乳剤、スカシガイのヘモシニアン、ジニトロフェノール等の界面活性剤とがある。ヒトに用いられるアジュバントの中では、BCG(カルメット‐ゲラン杆菌)及びコリネバクテリウム‐パルバム(Corynebacterium parvum)が特に好ましい。TRICHに対する抗体を誘発するために用いられるオリゴペプチド、ペプチド、または断片は、少なくとも約5個のアミノ酸からなるものが好ましく、一般的には約10個以上のアミノ酸からなるものとなる。これらのオリゴペプチド、ペプチドまたは断片は、天然のタンパク質のアミノ酸配列の一部と同一であることが望ましい。TRICHアミノ酸の短いストレッチは、KLHなどの別のタンパク質の配列と融合し、このキメラ分子に対する抗体が産生され得る。
【0206】
TRICHに対するモノクローナル抗体は、培地内の連続した細胞株によって、抗体分子を産生する任意の技術を用いて作製することが可能である。限定するものではないがこのような技術には、ハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術及びEBV-ハイブリドーマ技術がある(Kohler, G. 他. (1975) Nature 256:495-497、Kozbor, D. 他 (1985) .J. Immunol. Methods 81:31-42、Cote, R.J. 他 (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:2026-2030、Cole, S.P. 他 (1984) Mol. Cell Biol. 62:109-120等を参照)。
【0207】
更に、ヒト抗体遺伝子にマウス抗体遺伝子をスプライシングするなどの「キメラ抗体」作製のために開発された技術が、好適な抗原特異性及び生物学的活性を備える分子を得るために用いられる(例えば、Morrison, S.L.他. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. 81:6851-6855; Neuberger, M.S.他. (1984) Nature 312:604-608; Takeda, S.他. (1985) Nature 314:452-454を参照)。別法では、当分野で周知の方法を用いて、一本鎖抗体の産生のための記載された技術を適用して、TRICH特異性一本鎖抗体を生成する。関連特異性を有するがイディオタイプ組成が異なるような抗体を、ランダムな組合せの免疫グロブリンライブラリからチェーンシャッフリングによって産生することもできる(Burton D.R. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:10134-10137等を参照)。
【0208】
抗体の産生は、リンパ球集団におけるin vivo産生の誘導によって、或いは文献に開示されているように非常に特異的な結合試薬の免疫グロブリンのライブラリまたはパネルのスクリーニングによっても行い得る。(Orlandi, R. 他 (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 3833-3837、Winter, G. 他 (1991) Nature 349:293-299等を参照)。
【0209】
TRICHに対する特異的な結合部位を含む抗体も得ることができる。例えば、限定するものではないが、このような断片には、抗体分子のペプシン消化によって作製されるF(ab')2 断片と、F(ab')2 断片のジスルフィド架橋を還元することによって作製されるFab断片とがある。あるいは、Fab発現ライブラリを作製することによって、所望の特異性を持つモノクローナルFab断片を迅速且つ容易に同定することが可能となる(Huse, W.D. 他 (1989) Science 246:1275-1281等を参照)。
【0210】
種々のイムノアッセイを用いてスクリーニングし、所望の特異性を有する抗体を同定することができる。確立された特異性を有するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の何れかを用いる競合結合アッセイ、または免疫放射線アッセイのための数々のプロトコルが、当分野では周知である。 通常このようなイムノアッセイには、TRICHとその特異抗体との間の複合体形成の計測が含まれる。二つの非干渉性TRICHエピトープに対して反応性を持つモノクローナル抗体を用いる、2部位モノクローナルベースのイムノアッセイが一般に利用されるが、競合的結合アッセイも利用することができる(Pound、前出)。
【0211】
ラジオイムノアッセイ技術と共にScatchard分析などの様々な方法を用いて、TRICHに対する抗体の親和性を評価しうる。親和性を結合定数Kaで表すが、このKaは、平衡状態の下でTRICH抗体複合体のモル濃度を遊離抗体と遊離抗原のモル濃度で除して得られる値である。ポリクローナル抗体類は多様なTRICHエピトープに対して親和性が不均一であり、或るポリクローナル抗体製剤に関して判定したKaは、TRICHに対する抗体の平均親和性または結合活性を表す。モノクローナル抗体は或る特定のTRICHエピトープに単一特異的であり、或るモノクローナル抗体製剤について判定したKaは、親和性の真の測定値を表す。Ka値が109〜1012L/molの高親和性抗体製剤は、TRICH抗体複合体が激しい操作に耐えなければならないイムノアッセイに用いるのが好ましい。Ka値が106〜107L/molの低親和性抗体製剤は、TRICHが抗体から最終的に活性化状態で解離する必要がある免疫精製(immunopurification)及び類似の処理に用いるのが好ましい。 (Catty, D. (1988) Antibodies, Volume I: A Practical Approach. IRL Press, Washington, DC; Liddell, J. E. および Cryer, A. (1991) A Practical Guide to Monoclonal Antibodies, John Wiley & Sons, New York NY)。
【0212】
ポリクローナル抗体製剤の抗体価及び結合活性を更に評価して、後に使う或る適用例に対するこのような製剤の品質及び適性を決定することができる。例えば、少なくとも1〜2mg/mlの特異的な抗体、好ましくは5〜10mg/mlの特異的な抗体を含むポリクローナル抗体製剤は一般に、TRICH抗体複合体を沈殿させなければならない処理に用いられる。抗体の特異性、抗体価、結合活性、様々な適用例における抗体の品質や使用に対する指針については、一般に入手可能である(前出のCattyの文献、同Coligan 他の文献等を参照)。
【0213】
本発明の別の実施例では、TRICHをコードするポリヌクレオチド、またはその任意の断片や相補配列を、治療目的で使用することができる。ある実施態様では、TRICHをコードする遺伝子のコーディング領域や調節領域に相補的な配列やアンチセンス分子(DNA、RNA、PNA、または修飾したオリゴヌクレオチド)を設計して遺伝子発現を変更することができる。このような技術は当分野では周知であり、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはより大きな断片を、TRICHをコードする配列の制御領域、またはコード領域に沿ったさまざまな位置から設計可能である。(例えばAgrawal, S., ed. (1996) Antisense Therapeut ics, Humana Press Inc., Totawa NJを参照。)
治療に用いる場合、アンチセンス配列を好適な標的細胞に導入するのに好適な任意の遺伝子送達系を用いることができる。アンチセンス配列は、転写時に標的タンパク質をコードする細胞配列の少なくとも一部に相補的な配列を作製する発現プラスミドの形で、細胞内に送達し得る(Slater, J.E. 他 (1998) J. Allergy Clin. Immunol. 102(3):469-475 及び Scanlon, K.J. 他 (1995)9(13):1288-1296.等を参照)アンチセンス配列はまた、例えばレトロウイルスやアデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターを用いて細胞内に導入することもできる(Miller, A.D. (1990) Blood 76:271、前出のAusubel、Uckert, W. and W. Walther (1994) Pharmacol. Ther. 63(3):323-347等を参照)。その他の遺伝子送達機構には、リポソーム系、人工的なウイルスエンベロープ及び当分野で公知のその他のシステムが含まれる(Rossi, J.J. (1995) Br. Med. Bull. 51(1):217-225; Boado、R.J.他 (1998) J. Pharm. Sci. 87(11):1308-1315、Morris, M.C. 他 (1997) Nucleic Acids Res. 25(14):2730-2736. 等を参照)。
【0214】
本発明の別の実施例では、TRICHをコードするポリヌクレオチドを、体細胞若しくは生殖細胞の遺伝子治療に用いることが可能である。遺伝子治療を行うことにより、(i)遺伝子欠損症(例えばX染色体連鎖遺伝(Cavazzana-Calvo, M. ら (2000) Science 288:669-672)により特徴付けられる重症複合型免疫不全(SCID)-X1病の場合)、先天性アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症に関連する重症複合型免疫不全症候群(Blaese, R.M. ら (1995) Science 270:475-480、Bordignon, C. ら (1995) Science 270:470-475)、嚢胞性繊維症(Zabner, J. ら (1993) Cell 75:207-216: Crystal、R.G. ら (1995) Hum. Gene Therapy 6:643-666、Crystal, R.G. ら. (1995) Hum. Gene Therapy 6:667-703)、サラセミア(thalassamia)、家族性高コレステロール血症、第VIII因子若しくは第IX因子欠損に起因する血友病(Crystal, 35 R.G. (1995) Science 270:404-410、Verma, I.M. および N. Somia (1997) Nature 389:239-242)を治療し、(ii)条件的致死性遺伝子産物を発現させ(例えば制御不能な細胞増殖に起因する癌の場合)、(iii)細胞内の寄生体(例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)(Baltimore, D. (1988) Nature 335:395-396、Poescbla, E. ら (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 93:11395-11399)などヒトレトロウイルス、B型若しくはC型肝炎ウイルス(HBV、HCV)、Candida albicans及びParacoccidioides brasiliensis等の真菌寄生体、並びにPlasmodium falciparum及びTrypanosoma cruzi等の原虫寄生体に対する防御機能を有するタンパク質を発現させることができる。TRICHの発現若しくは調節に必要な遺伝子の欠損が疾患を引き起こす場合、導入した細胞の好適な集団からTRICHを発現させて、遺伝子欠損によって起こる症状の発現を緩和することが可能である。
【0215】
本発明の更なる実施例では、TRICHの欠損による疾患や異常症は、TRICHをコードする哺乳動物発現ベクターを作製して、これらのベクターを機械的手段によってTRICH欠損細胞に導入することによって治療する。in vivo或いはex vitroの細胞に用いる機械的導入技術には、(i)個々の細胞内への直接的なDNA微量注射法、(ii)遺伝子銃、(iii)リポソームを介した形質移入、(iv)受容体を介した遺伝子導入、及び(v)DNAトランスポソンの使用(Morgan, R.A. および W.F. Anderson (1993) Annu. Rev. Biochem. 62:191-217、Ivics, Z. (1997) Cell 91:501-510; Boulay, J-L. および H. Recipon (1998) Curr. Opin. Biotechnol. 9:445-450)がある。
【0216】
限定するものではないがTRICHの発現に影響を及ぼし得る発現ベクターには、PCDNA 3.1、EPITAG、PRCCMV2、PREP、PVAX、PCR2-TOPOTAベクター(Invitrogen, Carlsbad CA)、PCMV-SCRIPT、PCMV-TAG、PEGSH/PERV(Stratagene, La Jolla CA)及びPTET-OFF、PTET-ON、PTRE2、PTRE2-LUC、PTK-HYG(Clontech, Palo Alto CA)がある。TRICHを発現させるために、(i)構成的に活性なプロモーター(例えば、サイトメガロウイルス(CMV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、SV40ウイルス、チミジンキナーゼ(TK)、若しくはβ−アクチン遺伝子等)、(ii)誘導性プロモーター(例えば、市販されているT-REXプラスミド(Invitrogen)に含まれている、テトラサイクリン調節性プロモーター(Gossen, M. および H. Bujard (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89:5547-5551; Gossen, M. 他 (1995) Science 268:1766-1769; Rossi, F.M.V. および H.M. Blau (1998) Curr. Opin. Biotechnol. 9:451-456))、エクジソン誘導性プロモーター(市販されているプラスミドPVGRXR及びPINDに含まれている:Invitrogen)、FK506/ラパマイシン誘導性プロモーター、またはRU486/ミフェプリストーン誘導性プロモーター(Rossi, F.M.V. および H.M. Blau, 前出)、または(iii)正常な個体に由来するTRICHをコードする内在性遺伝子の天然のプロモーター若しくは組織特異的プロモーターを用いることが可能である。
【0217】
市販のリポソーム形質転換キット(例えばInvitrogen社のPerFect Lipid Transfection Kit)を用いれば、当業者はポリヌクレオチドを培養中の標的細胞に送達することが可能になる。また、実験パラメータ群を最適化する努力は最小限で良い。別法では、リン酸カルシウム法(Graham. F.L. 及び A.J. Eb (1973) Virology 52:456-467)若しくは電気穿孔法(Neumann, B. 他 (1982) EMBO J. 1:841-845)を用いて形質転換を行う。初代培養細胞にDNAを導入するためには、標準化された哺乳動物の形質移入プロトコルの修飾が必要である。
【0218】
本発明の別の実施例では、TRICHの発現に関連する遺伝子欠損によって起こる疾患や異常症を、(i)レトロウイルス末端反復配列(LTR)プロモーター若しくは独立したプロモーターのコントロール下でTRICHをコードするポリヌクレオチドと、(ii)好適なRNAパッケージングシグナルと、(iii)追加のレトロウイルス・シス作用性RNA配列及び効率的なベクターの増殖に必要なコーディング配列を伴うRev応答性エレメント(RRE)とからなるレトロウイルスベクターを作製して治療することができる。レトロウイルスベクター(例えばPFB及びPFBNEO)はStratagene社から市販されており、刊行データ(Riviere, I. 他 (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92:6733-6737)に基づいている。 上記データを引用することをもって本明細書の一部とする。ベクターは、好適なベクター産生細胞株(VPCL)において増殖され、VPCLは、標的細胞上の受容体に対する親和性を有するエンベロープ遺伝子またはVSVg等の汎親和性エンベロープタンパク質を発現する(Armentano, D. 他 (1987) J. Virol. 61:1647-1650、Bender, M.A. 他 (1987) J. Virol. 61:1639-1646、Adam, M.A. および A.D. Miller (1988) J. Virol. 62:3802-3806、Dull, T. 他 (1998) J. Virol. 72:8463-8471、Zufferey, R. 他 (1998) J. Virol. 72:9873-9880)。Riggに付与された米国特許第5,910,434号(「Method for obtaining retrovirus packaging cell lines producing high transducing efficiency retroviral supernatant」)において、レトロウイルスパッケージング細胞株を得るための方法が開示されており、引用することをもって本明細書の一部とする。レトロウイルスベクターの増殖、細胞集団(例えばCD4+ T細胞)の形質導入、及び形質導入した細胞の患者への戻しは、遺伝子治療の分野では当業者に公知の方法であり、多数の文献に記載されている(Ranga, U. 他 (1997) J. Virol. 71:7020-7029、Bauer, G. 他 (1997) Blood 89:2259-2267、Bonyhadi, M.L. (1997) J. Virol. 71:4707-4716、Ranga, U. 他 (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95:1201-1206、Su, L. (1997) Blood 89:2283-2290)。
【0219】
別法では、アデノウイルス系遺伝子治療の送達系を用いて、TRICHの発現に関連する1或いは複数の遺伝子異常を有する細胞にTRICHをコードするポリヌクレオチドを送達する。アデノウイルス系ベクターの作製及びパッケージングについては、当業者に公知である。 複製欠損型アデノウイルスベクターは、免疫調節タンパク質をコードする遺伝子を膵臓の無損傷の膵島内に導入するために広く用いられることが証明された(Csete, M.E. 他 (1995) Transplantation 27:263-268)。使用できる可能性のあるアデノウイルスベクターは、Armentanoに付与された米国特許第5,707,618号(「Adenovirus vectors for gene therapy」)に記載されており、引用することをもって本明細書の一部とする。アデノウイルスベクターについては、Antinozzi, P.A. 他 (1999) Annu. Rev. Nutr. 19:511-544 及び Verma, I.M. 及び N. Somia (1997) Nature 18:389:239-242も参照されたい。両文献は、引用することをもって本明細書の一部とする。
【0220】
別法では、ヘルペス系遺伝子治療の送達系を用いて、TRICHの発現に関連する1つ或いは複数の遺伝子異常を有する標的細胞にTRICHをコードするポリヌクレオチドを送達する。単純疱疹ウイルス(HSV)系のベクターは、HSVが向性を持つ中枢神経細胞にTRICHを導入する際に特に有用たりうる。ヘルペス系ベクターの作製及びパッケージングは、当業者に公知である。 複製適格性単純ヘルペスウイルス(HSV)I型系のベクターは、レポーター遺伝子を霊長類の眼に送達するために用いられてきた(Liu, X. 他 (1999) Exp. Eye Res.169:385-395)。HSV-1ウイルスベクターの作製についても、DeLucaに付与された米国特許第5,804,413号(「Herpes simplex virus swains for gene transfer」)に開示されており、該特許の引用をもって本明細書の一部とする。 米国特許第5,804,413号には、ヒト遺伝子治療を含む目的のために好適なプロモーターの制御下において細胞に導入される少なくとも1つの外因性遺伝子を有するゲノムを含む組換えHSV d92についての記載がある。上記特許はまた、ICP4、ICP27及びICP22を欠失した組換えHSV系統の作製及び使用について開示している。HSVベクターについては、Goins, W.F. 他 (1999) J. Virol. 73:519-532 及び Xu, H. 他 (1994) Dev. Biol. 163:152-161も参照されたい。両文献は、引用をもって本明細書の一部とする。クローン化ヘルペスウイルス配列の操作、巨大ヘルペスウイルスのゲノムの異なったセグメント群を含む多数のプラスミドを形質移入した後の組換えウイルスの産生、ヘルペスウイルスの成長及び増殖、並びにヘルペスウイルスの細胞への感染は、当業者に公知の技術である。
【0221】
別法では、αウイルス(正の一本鎖RNAウイルス)ベクターを用いてTRICHをコードするポリヌクレオチドを標的細胞に送達する。プロトタイプのαウイルスであるセムリキ森林熱ウイルス(Semliki Forest Virus, SFV)の生物学的研究が広範に行われており、遺伝子導入ベクター類はSFVゲノムに基づく(Garoff, H. 及び K.-J. Li (1998) Cun. Opin. Biotech. 9:464-469)。αウイルスRNAの複製中に、通常はウイルスのカプシドタンパク質をコードするサブゲノムRNAが作り出される。このサブゲノムRNAは、完全長のゲノムRNAより高いレベルに複製されるため、酵素活性(例えばプロテアーゼ及びポリメラーゼ)を有するウイルスタンパク質に比べてカプシドタンパク質が過剰産生される。同様に、TRICHをコードする配列をαウイルスゲノムのカプシドをコードする領域に導入することによって、ベクター導入細胞において多数のTRICHをコードするRNAが産生され、高いレベルでTRICHが合成される。通常、αウイルスの感染は、数日以内の細胞溶解を伴う。一方、シンドビスウイルス(SIN)の或る変異体を有するハムスター正常腎臓細胞(BHK-21)群が持続的な感染を確立する能力は、αウイルスの溶解複製を遺伝子治療に適用できるように好適に変更可能であることを示唆している(Dryga, S.A. 他 (1997) Virology 228 :74-83)。αウイルスの宿主域は広いので、様々なタイプの細胞にTRICHを導入できることとなる。或る集団におけるサブセットの細胞の特定形質導入は、形質導入前に細胞の選別を必要とし得る。αウイルスの感染性cDNAクローンの処置方法、αウイルスのcDNA及びRNAの形質移入方法及びαウイルスの感染方法は、当業者に公知である。
【0222】
転写開始部位(transcription initiation site)由来のオリゴヌクレオチドを用いて遺伝子発現を阻害することも可能である。転写開始部位とは例えば開始部位(start site)から数えて約−10と約+10の間である。同様に、三重らせん塩基対の形成方法を用いて阻害が可能となる。三重らせん塩基対形成は、ポリメラーゼ、転写因子または調節分子の結合のために十分に開くような二重らせんの能力を阻害するので、三重らせん塩基対形成は有用である。三重らせんDNAを用いる最近の治療の進歩については文献に記載がある(Gee, J.E. 他 (1994) in: Huber, B.E.及びB.I. Carr, Molecular and Immunologic Approaches, Futura Publishing Co., Mt. Kisco, NY, 163-177ページ等を参照)。相補配列またはアンチセンス分子もまた、転写物がリボソームに結合するのを阻止することによってmRNAの翻訳を阻止するべく設計することができる。
【0223】
リボザイムは酵素的RNA分子であり、RNAの特異的切断を触媒するためにリボザイムを用いることもできる。リボザイム作用のメカニズムは、相補的標的RNAへのリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーションと、その後に起こる内ヌクレオチド鎖切断に関与している。例えば、遺伝子操作で作られたハンマーヘッド型リボザイム分子が、TRICHをコードする配列の内ヌクレオチド鎖切断を特異的且つ効果的に触媒できる可能性がある。
【0224】
任意のRNA標的内の特異的リボザイム切断部位は、GUA、GUU、GUC配列を含めたリボザイム切断部位に対して標的分子をスキャンすることによって先ず同定される。一度同定されると、切断部位を含む標的遺伝子の領域に対応する15〜20リボヌクレオチドの短いRNA配列が、そのオリゴヌクレオチドを機能不全にするような2次構造の特徴をもっていないかを評価することが可能になる。候補標的の適合性の評価も、リボヌクレアーゼ保護アッセイを用いて相補的オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションのアクセス可能性をテストすることによって行うことができる。
【0225】
本発明の相補リボ核酸分子及びリボザイムは、核酸分子合成のために当分野で既知の任意の方法を用いて作製し得る。作製方法には、固相フォスフォアミダイト化学合成等のオリゴヌクレオチドを化学的に合成する方法がある。或いは、TRICHをコードするDNA配列のin vitro及びin vivo転写によってRNA分子を産出し得る。このようなDNA配列は、T7やSP6等の好適なRNAポリメラーゼプロモーターを用いて多様なベクター内に取り込むことが可能である。或いは、相補的RNAを構成的或いは誘導的に合成するようなこれらcDNA産物を、細胞株、細胞または組織内に導入することができる。
【0226】
細胞内の安定性を高め、半減期を長くするためにRNA分子を修飾することができる。限定するものではないが可能な修飾には、分子の5'末端、3'末端、あるいはその両方においてフランキング配列を追加したり、分子の主鎖内においてホスホジエステラーゼ結合ではなくホスホロチオネートまたは2' O-メチルを使用したりすることが含まれる。この概念は、PNAの産出に固有のものであるが、これら全ての分子に拡大することができる。そのためには、内因性エンドヌクレアーゼによって容易には認識されないアデニン、シチジン、グアニン、チミン、及びウリジンにアセチル−、メチル−、チオ−及び同様の修飾をしたものや、非従来型塩基、例えばイノシン、クエオシン(queosine)、ワイブトシン(wybutosine)等を含める。
【0227】
本発明の更なる実施例は、TRICHをコードするポリヌクレオチドの発現の改変に有効な化合物をスクリーニングする方法を含む。限定するものではないが特異ポリヌクレオチドの発現改変を起こすのに有効な化合物には、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、三重らせん形成オリゴヌクレオチド、転写因子その他のポリペプチド転写制御因子、及び特異ポリヌクレオチド配列と相互作用し得る非高分子化学的実体がある。有効な化合物は、ポリヌクレオチド発現のインヒビターまたはエンハンサーのいずれかとして作用することによりポリヌクレオチド発現を改変し得る。従って、TRICHの発現または活性の増加に関連する疾患の治療においては、TRICHをコードするポリヌクレオチドの発現を特異的に阻害する化合物が治療上有用であり、TRICHの発現または活性の低下に関連する疾患の治療においては、TRICHをコードするポリヌクレオチドの発現を特異的に促進する化合物が治療上有用であり得る。
【0228】
特異ポリヌクレオチドの発現改変における有効性に対して、少なくとも1個から複数個の試験化合物をスクリーニングし得る。試験化合物は、当分野で通常知られている任意の方法により得られる。このような方法には、ポリヌクレオチドの発現を変容させる場合と、既存の、商用または専用の、天然または非天然の化合物ライブラリから選択する場合と、標的ポリヌクレオチドの化学的及び/または構造的特性に基づく化合物を合理的にデザインする場合と、組合せ的にまたは無作為に生成した化合物のライブラリから選択する場合に有効であることが知られているような化合物の化学修飾がある。TRICHをコードするポリヌクレオチドを含むサンプルは、このようにして得られた試験化合物の少なくとも1つに曝露する。サンプルには例えば、無傷細胞、透過化処理した細胞、またはin vitro無細胞系すなわち再構成生化学系があり得る。TRICHをコードするポリヌクレオチドの発現における変容は、当分野で周知の任意の方法でアッセイする。 通常、TRICHをコードするポリヌクレオチドの配列に相補的なヌクレオチド配列を有するプローブを用いたハイブリダイゼーションにより、特定のヌクレオチドの発現を検出する。ハイブリダイゼーション量を定量し、それによって1つ若しくは複数の試験化合物に曝露される及び曝露されないポリヌクレオチドの発現の比較に対する基礎を形成し得る。試験化合物に曝露されるポリヌクレオチドの発現における変化の検出は、ポリヌクレオチドの発現を改変する際に試験化合物が有効であることを示している。特異ポリヌクレオチドの発現改変に有効な化合物に対して、例えば分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe )遺伝子発現系(Atkins, D. 他 (1999) 米国特許第5,932,435号、Arndt, G.M. 他 (2000) Nucleic Acids Res. 28:E15)またはHeLa細胞等のヒト細胞株(Clarke, M.L. 他 (2000) Biochem. Biophys. Res. Commun. 268:8-13)を用いてスクリーニングを実行する。本発明の特定の実施例は、特異的ポリヌクレオチド配列に対するアンチセンス活性を調べるためのオリゴヌクレオチド(デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ペプチド核酸、修飾オリゴヌクレオチド)の組み合わせライブラリをスクリーニングすることに関与している(Bruice, T.W. 他 (1997) 米国特許第5,686,242号、Bruice, T.W. 他 (2000) 米国特許第6,022,691号)。
【0229】
ベクターを細胞または組織に導入する多数の方法が利用可能であり、in vivo、in vitro及びex vivoの使用に対して同程度に適している。ex vivo治療の場合、ベクターを患者から採取した幹細胞内に導入し、クローニング増殖して同一患者に自家移植で戻すことができる。トランスフェクション、リポソーム注入またはポリカチオンアミノポリマーによる送達は、当分野でよく知られている方法を用いて実行することができる。 (Goldman, C.K. ら (1997) Nat. Biotechnol. 15:462-466.等を参照)。
【0230】
上記の治療方法はいずれも、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ウサギ、サル等の哺乳動物を含めて治療が必要な全ての対象に適用できる。
【0231】
本発明の更なる実施例は、通常薬剤として許容できる賦形剤で処方される活性成分を有する組成物の投与に関連する。賦形剤には例えば、糖、でんぷん、セルロース、ゴム及びタンパク質がある。様々な処方が通常知られており、詳細はRemington's Pharmaceutical Sciences(Maack Publishing, Easton PA)の最新版に記載されている。このような組成物は、TRICH、TRICHの抗体、擬態物質、アゴニスト、アンタゴニスト、またはTRICHのインヒビターなどからなる。
【0232】
本発明に用いられる組成物は、任意の数の経路によって投与することができ、限定するものではないが経路には、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、クモ膜下腔内、心室内、肺、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸内、局所、舌下または直腸がある。
【0233】
肺から投与する組成物は、液状または乾燥粉末状で調製し得る。このような組成物は通常、患者が吸入する直前にエアロゾル化する。小分子(例えば従来の低分子量有機薬)の場合には、速効製剤のエアロゾル送達は当分野で公知である。高分子(例えばより大きなペプチド及びタンパク質)の場合には、当該分野において肺の肺胞領域を介しての肺送達が最近向上したことにより、インスリン等の薬剤を実質的に血液循環へ輸送することを可能にした(Patton, J.S. 他, 米国特許第5,997,848号等を参照)。肺送達は、針注射なしに投与する点で優れており、有毒な可能性のある浸透エンハンサーの必要性をなくす。
【0234】
本発明での使用に適した組成物には、所定の目的を達成するために必要なだけの量の活性成分を含有する組成物が含まれる。有効投与量の決定は、当業者の能力の範囲内で行う。 TRICHまたはその断片を含む高分子を直接細胞内に送達するべく、特殊な種々の形状の組成物が調製されうる。例えば、細胞不透過性高分子を含むリポソーム製剤は、細胞融合及び高分子の細胞内送達を促進し得る。別法では、TRICHまたはその断片をHIV Tat-1タンパク質から得た短い陽イオンN末端部に結合することもできる。このようにして生成された融合タンパク質は、マウスモデル系の脳を含む全ての組織の細胞に形質導入することがわかっている(Schwarze, S.R. 他 (1999) Science 285:1569-1572)。
【0235】
任意の化合物に対して、細胞培養アッセイ、例えば新生物性細胞の細胞培養アッセイにおいて、或いは、動物モデル、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、サルまたはブタ等において、先ず治療有効投与量を推定することができる。動物モデルはまた、好適な濃度範囲及び投与経路を決定するためにも用い得る。このような情報を用いて、次にヒトに対する有益な投与量及び投与経路を決定することができる。
【0236】
治療有効投与量とは、症状や容態を回復させる、例えばTRICHまたはその断片、TRICHの抗体、TRICHのアゴニストまたはアンタゴニスト、インヒビターなどの活性成分の量を指す。治療有効性及び毒性は、細胞培養または動物実験における標準的な薬学手法によって、例えばED50(集団の50%の治療有効量)またはLD50(集団の50%の致死量)統計を計算するなどして決定することができる。毒性効果の治療効果に対する投与量比が治療指数であり、LD50/ED50比として表すことができる。高い治療指数を示すような組成物が望ましい。細胞培養アッセイ及び動物実験から得られたデータは、ヒトに用いるための投与量の範囲を定式化するのに用いられる。このような組成物が含まれる投与量は、毒性を殆ど或いは全く含まず、ED50を含むような血中濃度の範囲にあることが好ましい。用いられる投与形態、患者の感受性及び投与の経路によって、投与量はこの範囲内で様々に変わる。
【0237】
正確な投与量は、治療が必要な被験者に関する要素を考慮して、現場の医者が決定することになる。効果的なレベルの活性成分を与え、或いは所望の効果を維持するべく、投与量及び投与を調節する。被験者に関する要素としては、疾患の重症度、患者の全身の健康状態、患者の年齢、体重及び性別(ジェンダー)、投与の時間及び頻度、併用薬、反応感受性及び治療に対する応答等を考慮しうる。作用期間が長い組成物は、特定の製剤の半減期及びクリアランス率によって3〜4日毎に1度、1週間に1度、或いは2週間に1度の間隔で投与し得る。
【0238】
通常の投与量は、投与の経路にもよるが約0.1〜100,000μgであり、合計で約1gまでとする。特定の投与量及び送達方法に関するガイダンスは文献に記載されており、現場の医者は通常それを利用することができる。当業者は、タンパク質またはインヒビターに対する処方とは異なる、ヌクレオチドに対する処方を利用することになる。同様に、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの送達は、特定の細胞、状態、位置等に特異的なものとなる。
【0239】
(診断)
別の実施例では、TRICHに特異的に結合する抗体が、TRICHの発現によって特徴付けられる疾患の診断、またはTRICHやTRICHのアゴニストまたはアンタゴニスト、インヒビターで治療を受けている患者をモニターするためのアッセイに用いられる。診断目的に有用な抗体は、上記の治療の箇所で記載した方法と同じ方法で調合される。TRICHの診断アッセイには、抗体及び標識を用いてヒトの体液或いは細胞や組織の抽出物からTRICHを検出する方法が含まれる。この抗体は修飾されたものも、されていないものも可能であり、レポーター分子との共有結合または非共有結合で標識化できる。レポーター分子としては広くさまざまな種類が本分野で知られており、また使用可能であるが、そのうちのいくつかは上記で説明されている。
【0240】
TRICHを測定するためのELISA,RIA,及びFACSを含む種々のプロトコルは、当分野では周知であり、変容した或いは異常なレベルのTRICHの発現を診断するための基盤を提供する。正常或いは標準的なTRICHの発現の値は、複合体の形成に適した条件の下、正常な哺乳動物、例えばヒトなどの被験者から採取した体液または細胞抽出物とTRICHに対する抗体とを混合させることによって確定する。標準複合体形成量は、種々の方法、例えば測光法で定量できる。被験体、対照、および、生検組織からの疾患サンプルでの、TRICHの発現の量が基準値と比較される。標準値と被験者との偏差が疾患を診断するパラメータとなる。
【0241】
本発明の別の実施例によれば、TRICHをコードするポリヌクレオチドを診断のために用いることもできる。用いられることができるポリヌクレオチドには、オリゴヌクレオチド配列、相補的RNA及びDNA分子、そしてPNAが含まれる。このポリヌクレオチドを用いて、TRICHの発現が疾患と相関し得る生検組織における遺伝子の発現を検出し定量する。この診断アッセイを用いて、TRICHの存在の有無、更に過剰な発現を調べ、治療中のTRICH値の調節を監視する。
【0242】
一実施形態では、TRICHまたは近縁の分子をコードする、ゲノム配列を含むポリヌクレオチド配列を検出可能なPCRプローブとのハイブリダイゼーションによって、TRICHをコードする核酸配列を同定することが可能である。例えば5'調節領域など高度に特異的な領域か、例えば保存されたモチーフなどやや特異性の低い領域から作られているかのプローブの特異性と、ハイブリダイゼーション或いは増幅のストリンジェンシーとによって、そのプローブがTRICHをコードする自然界の配列のみを同定するかどうか、或いは対立遺伝子や関連配列を同定するかどうかが決まることとなる。
【0243】
プローブはまた、関連する配列の検出に利用されうる。また、TRICHをコードする任意の配列と少なくとも50%の配列同一性を有し得る。本発明のハイブリダイゼーションプローブには、DNAあるいはRNAが可能であり、SEQ ID NO:21-40の配列、或いはTRICH遺伝子のプロモーター、エンハンサー、イントロンを含むゲノム配列に由来し得る。
【0244】
TRICHをコードするDNAに対して特異的なハイブリダイゼーションプローブの作製方法には、TRICHまたはTRICH誘導体をコードするポリヌクレオチド配列をmRNAプローブの作製のためのベクターにクローニングする方法がある。mRNAプローブ作製のためのベクターは、当業者に知られており、市販されており、また好適なRNAポリメラーゼ及び好適な標識されたヌクレオチドを加えることによって、in vitroでRNAプローブを合成するために用いられ得る。ハイブリダイゼーションプローブは、種々のレポーターの集団によって標識され得る。レポーター集団の例としては、32Pまたは35S等の放射性核種、或いはアビジン/ビオチン結合系を介してプローブに結合されたアルカリホスファターゼ等の酵素標識などが挙げられる。
【0245】
TRICHをコードするポリヌクレオチド配列を用いて、TRICHの発現に関連する疾患を診断することが可能である。限定するものではないが、このような疾患のうち、輸送障害には運動不能症、筋萎縮性側索硬化症、毛細血管拡張性運動失調、嚢胞性線維症、ベッカー筋ジストロフィー、顔面麻痺、シャルコー‐マリー‐ツース病、糖尿病、尿崩症、糖尿病性ニューロパシー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、高カリウム血性周期性四肢麻痺、正常カリウム血性周期性四肢麻痺、パーキンソン病、悪性高熱(高体温)、多剤耐性、重症筋無力症、筋緊張性異栄養症(筋強直性ジストロフィー)、緊張病、遅発性ジスキネジー、ジストニー、末梢神経障害、脳腫瘍、前立腺癌と、狭心症、徐脈性不整脈、頻拍(頻脈)性不整脈、高血圧症、QT延長症候群、心筋炎、心筋症、ネマリンミオパシー、中心核ミオパシー、脂質ミオパシー、ミトコンドリアミオパシー、甲状腺中毒性ミオパシー、エタノールミオパシー、皮膚筋炎、封入体筋炎、感染性節炎、及び多発性筋炎などの輸送に関連した心臓病と、アルツハイマー病、健忘症、双極性障害、痴呆、うつ病、てんかん、トゥーレット病、妄想性(パラノイド)精神病、及び分裂病(統合失調症)などの輸送に関連した神経疾患と、神経線維腫症、帯状疱疹(ヘルペス)後神経痛、三叉神経ニューロパシー、サルコイドーシス、鎌状赤血球性貧血、ウィルソン病、白内障、不妊症、肺動脈狭窄症、常染色体性感音性難聴、高/低血糖症、グレーブス病、甲状腺腫、クッシング病、アジソン病(慢性原発性副腎機能不全)、グルコース‐ガラクトース吸収不全(不良)症候群、グリコーゲン貯蔵病、高コレステロール血症、副腎白質ジストロフィー、ツェルヴェーガー症候群、メンケス病、後角症候群、フォンギールケ症候群、偽性低アルドステロン症(タイプ1)、リドル症候群、シスチン尿症、イミノグリシン尿症、Hartup病、ファンコーニ病およびBartter症候群が含まれ、神経疾患の中には、癲癇、虚血性脳血管障害、脳卒中、大脳新生物、アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン病、痴呆、パーキンソン病及びその他の錐体外路障害、筋萎縮性側索硬化及びその他の運動ニューロン障害、進行性神経性筋萎縮症、色素性網膜炎(網膜色素変性症)、遺伝性運動失調、多発性硬化症及び他の脱髄疾患、細菌性及びウイルス性髄膜炎、脳膿瘍、硬膜下膿瘍、硬膜外膿瘍、化膿性頭蓋内血栓性静脈炎、脊髄炎及び神経根炎、ウイルス性中枢神経系疾患と、クールー及びクロイツフェルト‐ヤコブ病、Gerstmann- Straussler-Scheinker症候群を含むプリオン病(prion disease)と、致死性家族性不眠症、神経系性栄養病及び代謝病、神経線維腫症、結節硬化症、小脳網膜血管芽腫症(cerebelloretinal hemangioblastomatosis)、脳三叉神経血管腫症候群、ダウン症を含む中枢神経系性精神遅滞及び他の発生障害、脳性麻痺、神経骨格異常症、自律神経系障害、脳神経疾患、脊髄病、筋ジストロフィー及び他の神経筋障害、末梢神経疾患、皮膚筋炎及び多発性筋炎と、遺伝性、代謝性、内分泌性、及び中毒性ミオパシーと、重症筋無力症、周期性四肢麻痺と、気分性及び不安性精神障害、及び分裂病(統合失調症)性精神障害と、季節性感情障害(SAD)、静座不能、健忘症、緊張病、糖尿病性ニューロパシー、片麻痺性片頭痛、遅発性ジスキネジー、ジストニー、パラノイド精神病、帯状疱疹後神経痛、トゥーレット病、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症、及び家族性前頭側頭型痴呆が含まれ、筋疾患の中には、心筋症、心筋炎、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型(良性仮性肥大性)筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー、セントラルコア病、ネマリンミオパシー、中心核ミオパシー、脂質ミオパシー、ミトコンドリアミオパチー、感染性筋炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、封入体筋炎、甲状腺中毒性ミオパシー、エタノールミオパシー(ethanol myopathy)、狭心症、アナフィラキシーショック、不整脈、喘息、心血管ショック、クッシング病、高血圧症、低血糖症、心筋梗塞、片頭痛、クロム親和細胞腫、脳症、てんかん、カーンズ‐セイヤ症候群、乳酸アシドーシス、ミオクローヌス疾患、眼筋麻痺、酸性マルターゼ欠損症(AMD、ポンペ病としても知られる)、全身性筋緊張症(generalized myotonia)および先天性筋緊張症を含む筋障害が含まれ、免疫疾患の中には、後天性免疫不全症候群(AIDS)及びアジソン病、成人呼吸窮迫症候群、アレルギー、強直性脊椎炎、アミロイド症、貧血、喘息、アテローム性動脈硬化症、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性多腺性内分泌カンジダ症外胚葉ジストロフィー(APECED)、気管支炎、胆嚢炎、接触皮膚炎、クローン病、アトピー性皮膚炎、皮膚筋炎、糖尿病、肺気腫、リンパ球傷害因子性偶発性リンパ球減少症、胎児赤芽球症(新生児溶血性疾患)、結節性紅斑、萎縮性胃炎、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、痛風、グレーブス病、橋本甲状腺炎、過好酸球増加症、過敏性腸症候群、多発性硬化症、重症筋無力症、心筋または心膜炎症、骨関節炎、骨粗しょう症、膵炎、多発性筋炎、乾癬、ライター症候群、リウマチ様関節炎、強皮症、シェ−グレン症候群、全身性アナフィラキシー、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症(硬化症)、血小板減少性紫斑病、潰瘍性大腸炎、ぶどう膜炎、ウェルナー症候群、癌合併症、血液透析、体外循環、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、寄生虫感染症、原虫感染症、蠕虫感染症、外傷が、細胞異常増殖には日光性角化症及びアテローム性動脈硬化、滑液包炎、硬変、肝炎、混合性結合組織病(MCTD)、骨髄線維症、発作性夜間ヘモグロビン尿症、真性多血症、乾癬、原発性血小板血症、並びに腺癌及び白血病、リンパ腫、黒色腫、骨髄腫、肉腫、及び奇形癌など癌、具体的には、副腎、膀胱、骨、骨髄、脳、乳房、頚部、胆嚢、神経節、消化管、心臓、腎臓、肝臓、肺、筋肉、卵巣、膵臓、副甲状腺、陰茎、前立腺、唾液腺、皮膚、脾臓、精巣、胸腺、甲状腺、子宮の癌が含まれる。TRICHをコードするポリヌクレオチド配列は、変容したTRICH発現を検出するために患者から採取した体液或いは組織を利用する、サザーン法やノーザン法、ドットブロット法、或いはその他の膜系の技術や、PCR法や、ディップスティック(dipstick)、ピン(pin)、およびマルチフォーマットのELISA式アッセイ、及びマイクロアレイに使用することが可能である。このような定性方法または定量方法は、当分野で公知である。
【0246】
ある実施態様では、TRICHをコードするヌクレオチド配列は、関連する疾患、特に上記した疾患を検出するアッセイにおいて有用であろう。TRICHをコードするヌクレオチド配列は、標準的な方法で標識化され、ハイブリダイゼーション複合体の形成に好適な条件の下、患者から採取した体液或いは組織のサンプルに加えることができる。好適なインキュベーション期間が経過したらサンプルを洗浄し、シグナルを定量して標準値と比較する。患者のサンプルのシグナルの量が、対照サンプルと較べて著しく変わっている場合は、サンプル内の、TRICHをコードするヌクレオチド配列の変容したレベルにより、関連する疾患の存在が明らかになる。このようなアッセイは、動物実験、臨床試験における特定の治療効果を推定するため、或いは個々の患者の治療をモニターするために用いることもできる。
【0247】
TRICHの発現に関連する疾患の診断の基礎を提供するために、発現の正常すなわち標準的なプロファイルが確立される。これは、ハイブリダイゼーション或いは増幅に好適な条件の下、動物或いはヒトの何れかの正常な被験者から抽出された体液或いは細胞と、TRICHをコードする配列或いはその断片とを混合させることにより達成され得る。実質的に精製されたポリヌクレオチドを既知量用いて行った実験から得た値を正常な被験者から得た値と比較することにより、標準ハイブリダイゼーションを定量することができる。このようにして得た標準値は、疾患の徴候を示す患者から得たサンプルから得た値と比較することができる。標準値からの偏差を用いて疾患の存在を確定する。
【0248】
疾患の存在が確定されて治療プロトコルが開始されると、患者の発現レベルが正常な被検者に観察されるレベルに近づき始めたかどうかを測定するため、ハイブリダイゼーションアッセイを定期的に繰り返し得る。連続アッセイから得られた結果を用いて、数日から数ヶ月の期間にわたる治療の効果を示し得る。
【0249】
癌に関しては、個体からの生体組織における異常な量の転写物(過少発現または過剰発現)の存在は、疾患の発生素質を示したり、実際に臨床的症状が現れる前に疾患を検出する方法を提供したりし得る。この種のより明確な診断により、医療の専門家が予防方法または積極的な治療法を早くから利用し、それによって癌の発生または更なる進行を防止することが可能となる。
【0250】
TRICHをコードする配列から設計されたオリゴヌクレオチドのさらなる診断への利用には、PCRの利用が含まれ得る。これらのオリゴマーは、化学的に合成するか、酵素により生産するか、或いはin vitroで産出し得る。オリゴマーは、好ましくはTRICHをコードするポリヌクレオチドの断片、或いはTRICHをコードするポリヌクレオチドと相補的なポリヌクレオチドの断片を含み、最適化した条件下で、特定の遺伝子や条件を識別するために利用される。また、オリゴマーは、やや緩いストリンジェンシー条件下で、近縁のDNA或いはRNA配列の検出、定量、或いはその両方のため用いることが可能である。
【0251】
或る実施態様において、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列由来のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、一塩基多型(SNP)を検出し得る。SNPは、多くの場合にヒトの先天性または後天性遺伝病の原因となるような置換、挿入及び欠失である。限定するものではないがSNPの検出方法には、SSCP(single-stranded conformation polymorphism)及び蛍光SSCP(fSSCP)がある。SSCPでは、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列由来のオリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)でDNAを増幅する。DNAは例えば、病変組織または正常組織、生検サンプル、体液その他に由来し得る。DNA内のSNPは、一本鎖形状のPCR生成物の2次及び3次構造に差異を生じさせる。差異は非変性ゲル中でのゲル電気泳動法を用いて検出可能である。fSCCPでは、オリゴヌクレオチドプライマーを蛍光性に標識する。それによってDNAシークエンシング機などの高処理機器でアンプリマー(amplimer)の検出が可能になる。更に、インシリコSNP(in silico SNP, isSNP)と呼ばれる配列データベース分析法は、一般的なコンセンサス配列へ構築されるような個々のオーバーラップするDNA断片の配列を比較することにより、多型性を同定し得る。これらのコンピュータベースの方法は、DNAの実験室での調製に、また統計モデル及びDNA配列クロマトグラムの自動分析を用いたシークエンシングのエラーに起因する配列の変異をフィルタリングして除去する。別の態様では、例えば高処理MASSARRAYシステム(Sequenom, Inc., San Diego CA)を用いた質量分析によりSNPを検出し、特徴付ける。
【0252】
SNPはヒト疾患の遺伝的根拠を研究するために用いられ得る。例えば、少なくとも16個の一般的SNPは非インスリン依存型真性糖尿病に関連している。また、SNPは、嚢胞性線維症、鎌状赤血球貧血または慢性肉芽腫症のような単一遺伝子病の疾患転帰の相違を調べるために役立つ。例えば、マンノース結合レクチンでの変異体であるMBL2は、嚢胞性線維症での肺の有害な転帰と相関することがわかっている。SNPにはまた薬理ゲノミックス(命にかかわる毒性など、患者の薬への反応に影響する遺伝的変異体の同定)における有用性がある。例えば、N-アセチルトランスフェラーゼにおける変異は抗結核剤、イソニアジドに応答した末梢神経障害の高発生率と関連しているが、ALOX5 遺伝子のコアプロモータの変異は5-リポキシゲナーゼ経路を標的とする抗喘息薬での治療に対する臨床的反応を減少する。異なった集団でのSNPの分布についての分析は遺伝的浮動、突然変異、組み換えや選択の調査、および集団の起源および集団の移動の追跡に有用である。(Taylor, J.G. 他 (2001) Trends Mol. Med. 7:507-512; Kwok, P.-Y. および Z. Gu (1999) Mol. Med. Today 5:538-543; Nowotny, P. 他 (2001) Curr. Opin. Neurobiol. 11:637-641)。TRICHの発現を定量するために用い得る方法には、ヌクレオチドの放射標識またはビオチン標識、対照核酸の共増幅(coamplification)及び標準曲線から得た結果の補間もある(例えば、 Melby, P.C. 他 (1993) J. Immunol. Methods 159:235-244; Duplaa, C. 他 (1993) Anal. Biochem. 212:229-236を参照。)目的のオリゴマーが種々の希釈液中に存在し、分光光度法または比色反応によって定量が迅速になるような高処理フォーマットのアッセイを行うことによって、複数のサンプルの定量速度を加速することができる。
【0253】
更に別の実施例では、本明細書で記載した任意のポリヌクレオチド配列由来のオリゴヌクレオチドまたはより長い断片を、マイクロアレイにおけるエレメントとして用いることができる。多数の遺伝子の関連発現レベルを同時にモニターする転写イメージング技術にマイクロアレイを用いることが可能である。これについては、以下に記載する。マイクロアレイはまた、遺伝変異体、突然変異及び多型性の同定に用いることができる。この情報を用いることで、遺伝子機能を決定し、疾患の遺伝的根拠を理解し、疾患を診断し、遺伝子発現の機能としての疾病の進行/後退をモニターし、疾病治療における薬剤の活性を開発及びモニターすることができる。特に、患者にとって最もふさわしく、有効な治療法を選択するために、この情報を用いて患者の薬理ゲノムプロフィールを開発することができる。例えば、患者の薬理ゲノムプロフィールに基づき、患者に対して高度に有効で副作用を殆ど示さない治療薬を選択することができる。
【0254】
別の実施例では、TRICH、TRICHの断片、TRICHに特異的な抗体をマイクロアレイ上のエレメントとして用いることができる。マイクロアレイを用いて、上記のようなタンパク質間相互作用、薬剤と標的間の相互作用及び遺伝子発現プロフィールをモニターまたは測定することが可能である。
【0255】
或る実施例は、或る組織または細胞タイプの転写イメージを生成するような本発明のポリヌクレオチドの使用に関連する。転写イメージは、特定の組織または細胞タイプによる遺伝子発現の包括的パターンを表す。包括的遺伝子発現パターンは、所与の条件下で所与の時間に発現した遺伝子の数及び相対存在量を定量することにより分析される(Seilhamer 他、米国特許第5,840,484号の「Comparative Gene Transcript Analysis」を参照。該特許は引用することを以って本明細書の一部とする)。従って、特定の組織または細胞タイプの転写または逆転写の全体に本発明のポリヌクレオチドまたはその相補体をハイブリダイズすることにより、転写イメージを生成し得る。或る実施例では、本発明のポリヌクレオチドまたはその相補体がマイクロアレイ上のエレメントのサブセットを複数含むような高処理フォーマットでハイブリダイゼーションを発生させる。結果として得られる転写イメージは、遺伝子活性のプロフィールを提供し得る。
【0256】
転写イメージは、組織、株化細胞、生検またはその生物学的サンプルから単離した転写物を用いて生成し得る。転写イメージは従って、組織または生検サンプルの場合にはin vivo、または株化細胞の場合にはin vitroでの遺伝子発現を反映する。
【0257】
本発明のポリヌクレオチドの発現のプロフィールを作製する転写イメージはまた、工業的または天然の環境化合物の毒性試験のみならず、in vitroモデル系及び薬剤の前臨床評価と併せて使用し得る。全ての化合物は、作用及び毒性のメカニズムを示す、しばしば分子フィンガープリントまたは毒性シグネチャ(toxicant signatures)と称される特徴的な遺伝子発現パターンを惹起する(Nuwaysir, E.F. 他 (1999) Mol. Carcinog. 24:15 3-159、Steiner, S. 及び N.L. Anderson (2000) Toxicol. Lett. 112-113:467-471、該文献は特に引用することを以って本明細書の一部となす)。試験化合物が、既知の毒性を有する化合物のシグネチャと同様のシグネチャを有する場合には、毒性特性を共有している可能性がある。フィンガープリントまたはシグネチャは、多数の遺伝子及び遺伝子ファミリーからの発現情報を含んでいる場合には、最も有用且つ正確である。理想的には、発現のゲノム全域にわたる測定が最高品質のシグネチャを提供する。たとえ、発現が任意の試験された化合物によって変容しない遺伝子があったとしても、それらの遺伝子の発現レベルを残りの発現データをノーマライズするために使用できるため、それらの遺伝子は重要である。ノーマライズ手順は、異なる化合物で処理した後の発現データの比較に有用である。毒性シグネチャの要素に遺伝子機能を割り当てることが毒性メカニズムの解釈に役立つが、毒性の予測につながるシグネチャの統計的マッチングに遺伝子機能の知識は必要とされない(例えば2000年2月29日に米国国立環境健康科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences)より発行されたPress Release 00-02を参照されたい。これについてはhttp://www.niehs.nih.gov/oc/news/toxchip.htmで入手可能である)。従って、毒性シグネチャを用いる中毒学的スクリーニングの際に、全ての発現した遺伝子配列を含めることは重要且つ望ましいことである。
【0258】
或る実施例では、核酸を含有する生物学的サンプルを試験化合物で処理することにより試験化合物の毒性を算定する。処理した生物学的サンプル中で発現した核酸は、本発明のポリヌクレオチドに特異的な1つ若しくは複数のプローブでハイブリダイズし、それによって本発明のポリヌクレオチドに対応する転写物レベルを定量し得る。処理した生物学的サンプル中の転写物レベルを、未処理生物学的サンプル中のレベルと比較する。両サンプル間の転写物レベルの差は、処理されたサンプル中で試験化合物が引き起こす毒性反応を示す。
【0259】
別の実施例は、本発明のポリペプチド配列を用いて組織または細胞タイプのプロテオームを分析することに関連する。プロテオームの語は、特定の組織または細胞タイプでのタンパク質発現の包括的パターンを指す。プロテオームの各タンパク質成分は、個々に更に分析の対象とすることができる。プロテオーム発現パターン即ちプロフィールは、所与の条件下で所与の時間に発現したタンパク質の数及び相対存在量を定量することにより分析される。従って細胞のプロテオームのプロフィールは、特定の組織または細胞タイプのポリペプチドを分離及び分析することにより作成し得る。或る実施例では、1次元等電点電気泳動によりサンプルからタンパク質を分離し、2次元ドデシル硫酸ナトリウムスラブゲル電気泳動により分子量に応じて分離するような2次元ゲル電気泳動により分離が達成される(前出のSteiner および Anderson)。タンパク質は、通常はクーマシーブルー、あるいは銀染色液または蛍光染色液などの物質を用いてゲルを染色することにより、分散した、独自の位置にある点としてゲル中で可視化される。各タンパク質スポットの光学密度は、通常サンプル中のタンパク質レベルに比例する。異なるサンプル、例えば試験化合物または治療薬で処理された、または未処理の生物学的サンプルから得られるタンパク質スポットの光学密度を比較し、処理に関連するタンパク質スポット密度の変化を同定する。スポット内のタンパク質は、例えば化学的または酵素的切断とそれに続く質量分析を用いる標準的な方法を用いて部分的にシークエンシングする。スポット内のタンパク質の同一性は、その部分配列を、好適には少なくとも5個の連続するアミノ酸残基を、本発明のポリペプチド配列と比較することにより決定し得る。場合によっては、決定的なタンパク質同定のための更なる配列が得られる。
【0260】
プロテオームのプロファイルは、TRICHに特異的な抗体を用いてTRICH発現レベルを定量することによっても作成可能である。或る実施例では、マイクロアレイ上でエレメントとして抗体を用い、マイクロアレイをサンプルに曝して各アレイエレメントへのタンパク質結合レベルを検出することによりタンパク質発現レベルを定量する(Lueking, A. 他 (1999) Anal. Biochern. 270:103-111、Mendoze, L.G. 他 (1999) Biotechniques 27:778-788)。検出は当分野で既知の様々な方法で行うことができ、例えば、チオールまたはアミノ反応性蛍光化合物とサンプル中のタンパク質を反応させ、各アレイのエレメントにおける蛍光結合の量を検出し得る。
【0261】
プロテオームレベルでの毒性シグネチャも中毒学的スクリーニングに有用であり、転写レベルでの毒性シグネチャと並行して分析するべきである。或る組織の或るタンパク質に対しては、転写物とタンパク質の存在量の相関が乏しいこともあるので(Anderson, N.L. 及び J. Seilhamer (1997) Electrophoresis 18:533-537)、転写イメージにはそれ程影響しないがプロテオームのプロフィールを変化させるような化合物の分析においてプロテオーム毒性シグネチャは有用たり得る。更に、体液中の転写物の分析はmRNAの急速な分解のために困難なので、プロテオームのプロフィール作成はこのような場合により信頼し得、情報価値があり得る。
【0262】
別の実施例では、タンパク質を含有する生物学的サンプルを試験化合物で処理することにより試験化合物の毒性を算定する。処理された生物学的サンプル中で発現したタンパク質は、各タンパク質の量を定量し得るように分離する。各タンパク質の量を、未処理生物学的サンプル中の対応するタンパク質の量と比較する。両サンプルのタンパク質量の差は、処理サンプル中の試験化合物に対する毒性反応を示す。個々のタンパク質は、個々のタンパク質のアミノ酸残基をシークエンシングし、これら部分配列を本発明のポリペプチドと比較することにより同定する。
【0263】
別の実施例では、タンパク質を含有する生物学的サンプルを試験化合物で処理することにより試験化合物の毒性を算定する。生物学的サンプルから得たタンパク質は、本発明のポリペプチドに特異的な抗体を用いてインキュベートする。抗体により認識されたタンパク質の量を定量する。処理された生物学的サンプル中のタンパク質の量を、未処理生物学的サンプル中のタンパク質の量と比較する。両サンプルのタンパク質量の差は、処理サンプル中の試験化合物に対する反応を示す。
【0264】
マイクロアレイは、本技術分野で既知の方法を用いて調製し、使用し、そして分析しうる(Brennan, T.M. 他 (1995) の米国特許第5,474,796号、Schena, M. 他 (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:10614-10619、Baldeschweiler 他の (1995) PCT出願第WO95/251116号、Shalon, D.他の (1995) PCT出願第WO95/35505号、Heller, R.A. 他(1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:2150-2155、Heller, M.J. 他の (1997) 米国特許第5,605,662号等を参照)。様々なタイプのマイクロアレイが公知であり、詳細については、DNA Microarrays: A Practical Approach, M. Schena, 編集. (1999) Oxford University Press, Londonに記載されている。 該文献は、特に引用することを以って本明細書の一部となす。
【0265】
本発明の別の実施例ではまた、TRICHをコードする核酸配列を用いて、天然のゲノム配列をマッピングするのに有用なハイブリダイゼーションプローブを作製することが可能である。コード配列または非コード配列のいずれかを用いることができ、或る例では、コード配列より非コード配列の方が好ましい。例えば、多重遺伝子ファミリーのメンバー内でのコード配列の保存により、染色体マッピング中に望ましくないクロスハイブリダイゼーションが生じる可能性がある。核酸配列は、特定の染色体、染色体の特定領域または人工形成の染色体、例えば、ヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、細菌P1産物、或いは単一染色体cDNAライブラリに対してマッピングされる(例えば、 Harrington, J.J. 他 (1997) Nat. Genet. 15:345-355; Price, C.M. (1993) Blood Rev. 7:127134; and Trask, B.J. (1991) Trends Genet. 7:149-154を参照。)一度マッピングすると、本発明の核酸配列を用いて例えば、或る病状の遺伝を特定の染色体領域の遺伝または制限酵素断片長多型(RFLP)と相関させるような遺伝子連鎖地図を作製できる。(例えば、 Lander, E.S. 及び D. Botstein (1986) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:7353-7357を参照。)
蛍光in situハイブリッド形成法(FISH)は、他の物理的及び遺伝地図データと相関し得る(前出のHeinz-Ulrich, 他 (1995) in Meyers, 965-968ページ等を参照)遺伝地図データの例は、種々の科学雑誌あるいはOnline Mendelian Inheritance in Man(OMIM)のウェブサイトに見ることができる。物理的な染色体地図上の、TRICHをコードする遺伝子の位置と、特定の疾患または特定の疾患に対する素因との間の相関性が、このような疾患と関連するDNA領域の決定に役立つため、更なる位置決定クローニングが行われうる。
【0266】
確定した染色体マーカーを用いた連鎖分析等の物理的マッピング技術及び染色体標本原位置ハイブリッド形成法を用いて、遺伝地図を拡張することができる。例えばマウスなどの別の哺乳動物の染色体上に遺伝子を配置することにより、正確な染色体上の遺伝子座が未知でも、関連するマーカー類をしばしば明らかにし得る。この情報は、位置クローニングその他の遺伝子発見技術を用いて遺伝的疾患を探す研究者にとって価値がある。疾患または症候群に関与する遺伝子が、血管拡張性失調症の11q22-23領域のように、特定のゲノム領域への遺伝的連関によって大まかに位置決めがなされると、該領域にマップされた任意の配列は、更なる調査のための関連遺伝子或いは調節遺伝子を提示している可能性がある(Gatti, R.A.他 (1988) Nature 336:577-580等を参照)転座、反転等に起因する、健常者、保有者、感染者の三者間における染色体位置の相違を検出するために本発明のヌクレオチド配列を用いてもよい。
【0267】
本発明の別の実施例では、TRICH、その触媒作用断片或いは免疫原断片またはそのオリゴペプチドを、種々の任意の薬剤スクリーニング技術における化合物のライブラリのスクリーニングに用いることができる。薬剤スクリーニングに用いる断片は、溶液中に遊離しているか、固体支持物に固定されるか、細胞表面上に保持されるか、細胞内に位置しうる。TRICHと検査する薬剤との結合による複合体の形成を測定してもよい。
【0268】
別の薬剤スクリーニング方法は、目的のタンパク質に対して好適な結合親和性を有する化合物を高い処理能力でスクリーニングするために用いられる(Geysen, 他 (1984) PCT application WO84/03564等を参照。)この方法においては、多数の異なる小さな試験用化合物を固体基板上で合成する。試験用化合物は、TRICH、或いはその断片と反応してから洗浄される。次ぎに、結合したTRICHが、当分野で周知の方法で検出される。 精製されたTRICHはまた、前記した薬剤をスクリーニングする技術に用いられるプレート上に直接被覆することもできる。別法では、非中和抗体を用いてペプチドを捕捉し、ペプチドを固体支持物に固定することもできる。
【0269】
別の実施例では、TRICHと特異結合可能な中和抗体が、TRICHとの結合を試験化合物と競合する、競合的薬剤スクリーニングアッセイを用いることができる。このようにして、TRICHと1つ以上の抗原決定因子を共有するどのペプチドの存在をも、抗体を使って検出できる。
【0270】
別の実施例では、TRICHをコードするヌクレオチド配列を、将来に開発される分子生物学技術であり、現在知られているヌクレオチド配列の特性(限定はされないが、トリプレット遺伝コード、特異的な塩基対相互作用等を含む)に依存する新技術に用い得る。
【0271】
更に詳細説明をしなくとも、当業者であれば以上の説明を以って本発明を最大限に利用できるであろう。従って、これ以下に記載する実施例は単なる例示目的にすぎず、いかようにも本発明を限定するものではない。
【0272】
本明細書において開示した全ての特許、特許出願及び刊行物、特に米国特許出願第60/267.892号、第60/271.168号、第60/272.890号、第60/276.860号、第60/278.255号、第60/280.538および米国特許出願第[米国弁護士側管理番号(Attorney Docket No.) PF-1366、2002年1月25日に提出] は、言及することをもって本明細書の一部となす。
【実施例】
【0273】
1 cDNA ライブラリの作製
Incyte cDNA群の由来は、LIFESEQ GOLDデータベース (Incyte Genomics, Palo Alto CA)に記載されたcDNAライブラリ群である。幾つかの組織はホモジナイズしてグアニジニウムイソチオシアネート溶液に溶解し、他の組織はホモジナイズしてフェノールにまたは変性剤群の好適な混合液に溶解した。混合液の1例であるTRIZOL(Life Technologies)は、フェノールとグアニジンイソチオシアネートとの単相溶液である。結果として得られた溶解物は、塩化セシウムのクッション液の上に重層して遠心分離するかクロロホルムで抽出した。イソプロパノールか、酢酸ナトリウムとエタノールか、いずれか一方、或いは別の方法を用いて、溶解物からRNAを沈殿させた。
【0274】
RNAの純度を高めるため、RNAのフェノールによる抽出及び沈殿を必要な回数繰り返した。場合によっては、DNA分解酵素でRNAを処理した。殆どのライブラリでは、オリゴd(T)連結常磁性粒子(Promega)、OLIGOTEXラテックス粒子(QIAGEN, Chatsworth CA)またはOLIGOTEX mRNA精製キット(QIAGEN)を用いて、ポリ(A+) RNAを単離した。別法では、別のRNA単離キット、例えばPOLY(A)PURE mRNA精製キット(Ambion, Austin TX)を用いて組織溶解物からRNAを直接単離した。
【0275】
場合によってはStratagene社へのRNA提供を行い、対応するcDNAライブラリをStratagene社が作製することもあった。そうでない場合は、UNIZAPベクターシステム(Stratagene)またはSUPERSCRIPTプラスミドシステム(Life Technologies)を用いて本技術分野で既知の推奨方法または類似の方法でcDNAを合成し、cDNAライブラリを作製した(前出のAusubel, 1997, 5.1-6.6ユニットなどを参照)。逆転写は、オリゴd(T)またはランダムプライマーを用いて開始した。合成オリゴヌクレオチドアダプターを二本鎖cDNAに連結反応させ、好適な制限酵素でcDNAを消化した。殆どのライブラリに対して、cDNAのサイズの選択(300〜1000bp)は、SEPHACRYL S1000、SEPHAROSE CL2BまたはSEPHAROSE CL4Bカラムクロマトグラフィー(Amersham Pharmacia Biotech)、或いは分取用アガロースゲル電気泳動法を用いて行った。cDNAは好適なプラスミドのポリリンカーの適合する制限酵素部位に結合させた。 好適なプラスミドは例えば、PBLUESCRIPT プラスミド (Stratagene)、PSPORT1 プラスミド(Life Technologies)、PCDNA2.1 プラスミド(Invitrogen, Carlsbad CA)、PBK-CMV プラスミド(Stratagene)、 PCR2-TOPOTAプラスミド (Invitrogen)、 PCMV-ICISプラスミド (Stratagene)、pIGEN (Incyte Genomics, Palo Alto CA)、pRARE (Incyte Genomics)または pINCY (Incyte Genomics)、あるいはその誘導体である。組換えプラスミドは、Stratagene社のXL1-Blue、XL1-BIueMRFまたはSOLR、或いはLife Technologies社のDH5α、DH10BまたはELECTROMAX DH10Bを含む大腸菌細胞に形質転換した。
【0276】
2 cDNA クローンの単離
UNIZAPベクターシステム(Stratagene)を用いたin vivo切除によって、或いは細胞溶解によって、実施例 1のようにして得たプラスミドを宿主細胞から回収した。プラスミドの精製には、下記の少なくとも1つを用いた。すなわちMagicまたはWIZARD Minipreps DNA精製システム(Promega)、AGTC Miniprep精製キット(Edge Biosystems, Gaithersburg MD)、QIAGEN社のQIAWELL 8 Plasmid、QIAWELL 8 Plus PlasmidおよびQIAWELL 8 Ultra Plasmid 精製システム、R.E.A.L. Prep 96プラスミド精製キットのいずれかである。プラスミドは、沈殿させた後、0.1mlの蒸留水に再懸濁して、凍結乾燥して或いは凍結乾燥しないで4℃で保管した。
【0277】
別法では、高処理フォーマットにおいて直接結合PCR法を用いて宿主細胞溶解物からプラスミドDNAを増幅した(Rao, V.B. (1994) Anal. Biochem. 216:1-14)。宿主細胞の溶解及び熱サイクリング過程は、単一反応混合液中で行った。サンプルを処理し、それを384穴プレート内で保管し、増幅したプラスミドDNAの濃度をPICOGREEN色素(Molecular Probes, Eugene OR)及びFLUOROSKAN2蛍光スキャナ(Labsystems Oy, Helsinki, Finland)を用いて蛍光分析的に定量した。
【0278】
3 シークエンシング及び分析
実施例2に記載したようにプラスミドから回収したIncyte cDNAを、以下に示すようにシークエンシングした。cDNAのシークエンス反応は、標準的方法或いは高処理装置、例えばABI CATALYST 800 サーマルサイクラー(Applied Biosystems)またはPTC-200 サーマルサイクラー(MJ Research)をHYDRAマイクロディスペンサー(Robbins Scientific)またはMICROLAB 2200(Hamilton)液体転移システムと併用して処理した。cDNAのシークエンス反応は、Amersham Pharmacia Biotech社が提供する試薬、またはABIシークエンシングキット、例えばABI PRISM BIGDYE Terminator cycle sequencing ready reaction kit(Applied Biosystems)の試薬を用いて準備した。cDNAのシークエンス反応の電気泳動的分離及び標識したポリヌクレオチドの検出には、MEGABACE 1000 DNAシークエンシングシステム(Molecular Dynamics)か、標準ABIプロトコル及び塩基呼び出し(base calling)ソフトウェアを用いるABI PRISM 373または377シークエンシングシステム(Applied Biosystems)か、或いはその他の本技術分野で既知の配列解析システムを用いた。cDNA配列内のリーディングフレームは、標準的方法(前出のAusubel, 1997, 7.7ユニットに概説)を用いて決定した。cDNA配列の幾つかを選択して、実施例8に記載した方法で配列を伸長させた。
【0279】
Incyte cDNA配列に由来するポリヌクレオチド配列は、ベクター、リンカー及びポリ(A)配列を除去し、あいまいな塩基対をマスクすることによって有効性を確認した。 その際、BLAST、動的プログラミング及び隣接ジヌクレオチド頻度分析に基づくアルゴリズム及びプログラムを用いた。次に、IncyteのcDNA配列、またはその翻訳を公共のデータベース(例えばGenBankの霊長類及びげっ歯類、哺乳動物、脊椎動物、真核生物のデータベースと、BLOCKS、PRINTS、DOMO、PRODOM)と、ヒト、ラット、マウス、線虫、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、および鵞口瘡カンジダ(Candida albicans )からの配列を含むPROTEOMEデータベース(Incyte Genomics, Palo Alto CA)、及びPFAM等隠れマルコフモデル(HMM)に基づいたタンパク質ファミリーデータベース並びに、SMART(Schultz 他(1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:5857-5864; Letunic, I. 他 (2002) Nucleic Acids Res. 30:242-244)のようなHMMに基づいたタンパク質ドメインデータベースから選択したデータベースに対して問い合わせた。(HMMは、遺伝子ファミリーのコンセンサス1次構造を分析する確率的アプローチである。Eddy, S.R. (1996) Cuff. Opin. Struct. Biol. 6:361-365等を参照。)問合せは、BLAST、FASTA、BLIMPS及びHMMERに基づくプログラムを用いて行った。Incyte cDNA配列は、完全長のポリヌクレオチド配列を産出するように構築した。或いは、GenBank cDNA、GenBank EST、ステッチされた配列、ストレッチされた配列またはGenscan予測コード配列(実施例4及び5を参照)を用いてIncyte cDNAの集団を完全長まで伸長させた。Phred、Phrap及びConsedに基づくプログラムを用いて構築し、GenMark、BLAST及びFASTAに基づくプログラムを用いてcDNAの集団をオープンリーディングフレームに対してスクリーニングした。対応する完全長ポリペプチド配列を誘導するべく完全長ポリヌクレオチド配列を翻訳した。或いは、本発明のポリペプチドは完全長翻訳ポリペプチドの任意のメチオニン残基で開始し得る。引き続いて、GenBankタンパク質データベース(genpept)、SwissProt、PROTEOMEデータベース、BLOCKS、PRINTS、DOMO、PRODOM及びProsite等のデータベース、PFAM等の隠れマルコフモデル(HMM)に基づいたタンパク質ファミリーデータベース、およびSMARTのようなHMMに基づいたタンパク質ドメインデータベースに対する問合せによって完全長ポリペプチド配列を分析した。完全長ポリヌクレオチド配列はまた、MACDNASIS PROソフトウェア(日立ソフトウェアエンジニアリング, South San Francisco CA)及びLASERGENEソフトウェア(DNASTAR)を用いて分析した。ポリヌクレオチド及びポリペプチド配列アラインメントは、アラインメントした配列間の一致率も計算するMEGALIGNマルチシークエンスアラインメントプログラム(DNASTAR)に組み込まれているようなCLUSTALアルゴリズムによって指定されるデフォルトパラメータを用いて作製する。
【0280】
Incyte cDNA及び完全長配列の分析及びアセンブリに利用したツール、プログラム及びアルゴリズムの概略と、適用可能な説明、参照文献、閾値パラメータを表7に示す。用いたツール、プログラムおよびアルゴリズムを表7の列1に、それらの簡単な説明を列2に示す。列3は好適な参照文献であり、全ての文献は引用を以って全文を本明細書の一部となす。適用可能な場合には、列4は、2つの配列が一致する強さを評価するために用いた、スコア、確率値その他のパラメータを示す(スコアが高いほど、または確率値が低いほど、2配列間の同一性が高い)。
【0281】
完全長ポリヌクレオチド配列およびポリペプチド配列の組み立て及び分析に用いる上記のプログラムは、SEQ ID NO:21-40のポリヌクレオチド配列断片の同定にも利用できる。 ハイブリダイゼーション及び増幅技術に有用である約20〜約4000ヌクレオチドの断片を表2の列4に示した。
【0282】
4 ゲノム DNA からのコード配列の同定及び編集
推定上の輸送体及びイオンチャネルは、公共のゲノム配列データベース(例えば、gbpriやgbhtg)においてGenscan遺伝子同定プログラムを実行して初めに同定された。Genscanは、様々な生物からのゲノムDNA配列を分析する汎用遺伝子同定プログラムである(Burge, C. および S. Karlin (1997) J. Mol. Biol. 268:78-94 及びBurge, C. 及び S. Karlin (1998) Cuff. Opin. Struct. Biol. 8:346-354参照)。プログラムは予測エキソンを連結し、メチオニンから停止コドンに及ぶ構築されたcDNA配列を形成する。Genscanの出力は、ポリヌクレオチド及びポリペプチド配列のFASTAデータベースである。Genscanが一度に分析する配列の最大範囲は、30kbに設定した。これらのGenscan予測cDNA配列の内、どの配列が輸送体及びイオンチャネルをコードするかを決定するために、コードされるポリペプチドをPFAMモデルにおいて輸送体及びイオンチャネルについて問合せて分析した。潜在的な輸送体及びイオンチャネルもまた、輸送体及びイオンチャネルとして注釈を付けたインサイトcDNA配列に対する相同性を基に同定した。こうして選択されたGenscan予測配列は、次にBLAST分析により公共データベースgenpept及びgbpriと比較した。必要であれば、genpeptからのトップのBLASTヒットと比較することによりGenscan予測配列を編集し、余分なまたは取り除かれたエキソンなどのGenscanにより予測された配列のエラーを修正する。BLAST分析はまた、任意のIncyte cDNAまたはGenscan予測配列の公共cDNA適用範囲の発見に用いられるため、転写の証拠を提供する。Incyte cDNA適用範囲が利用できる場合には、この情報を用いてGenscan予測配列を修正または確認した。完全長ポリヌクレオチド配列は、実施例3に記載された構築プロセスを用いて、Incyte cDNA配列及び/または公共のcDNA配列でGenscan予測コード配列を構築することにより得た。或いは、完全長ポリヌクレオチド配列は編集または非編集のGenscan予測コード配列に完全に由来する。
【0283】
5 cDNA 配列データを使ったゲノム配列データの構築
ステッチ配列( Stitched Sequence )
部分cDNA配列は、実施例4に記載のGenscan遺伝子同定プログラムにより予測されたエキソンを用いて伸長させた。実施例3に記載されたように構築された部分cDNAは、ゲノムDNAにマッピングし、関連するcDNA及び1つ若しくは複数のゲノム配列から予測されたGenscanエキソンを含むクラスタに分解した。cDNA及びゲノム情報を統合するべくグラフ理論及び動的プログラミングに基づくアルゴリズムを用いて各クラスタを分析し、引き続いて確認、編集または伸長して完全長配列を産出するような潜在的スプライス変異体を生成した。区間の長さ全体がクラスタ中の2以上の配列に存在するような配列区間を同定し、そのように同定された区間は推移性により等しいと考えられた。例えば、1つのcDNA及び2つのゲノム配列に或る区間が存在する場合、3つの躯幹は全て等しいと考えた。このプロセスは、無関係であるが連続したゲノム配列をcDNA配列により結び合わせて架橋し得る。このようにして同定された区間を親配列(parent sequence)に沿って現われる順にステッチアルゴリズムで縫い合わせ、可能な最も長い配列および変異配列を作製する。1種類の親配列に沿って発生した区間間の連鎖(cDNA−cDNAまたはゲノム配列−ゲノム配列)は、親の種類を変える連鎖(cDNA−ゲノム配列)に優先した。結果として得られるステッチ配列は、翻訳されてBLAST分析により公共データベースgenpept及びgbpriと比較された。Genscanにより予測された不正確なエキソンは、genpeptからのトップのBLASTヒットと比較することにより修正した。必要な場合には、追加cDNA配列を用いるかゲノムDNAの検査により配列を更に伸長させた。
【0284】
ストレッチ配列( Stretched Sequence )
部分DNA配列は、BLAST分析に基づくアルゴリズムにより完全長まで伸長された。先ず、BLASTプログラムを用いて、GenBankの霊長類、げっ歯類、哺乳動物、脊椎動物及び真核生物のデータベースなどの公共データベースに対し、実施例3に記載したように構築された部分cDNAを問い合わせた。次に、最も近いGenBankタンパク質相同体をBLAST分析によりIncyte cDNA配列または実施例4に記載のGenScanエキソン予測配列のいずれかと比較した。結果として得られる高スコアリングセグメント対(HSP)を用いてキメラタンパク質を産出し、翻訳した配列をGenBankタンパク質相同体上にマッピングした。元のGenBankタンパク質相同体と比較して、キメラタンパク質内では挿入または欠失が起こり得る。GenBankタンパク質相同体、キメラタンパク質またはその両方をプローブとして用い、公共のヒトゲノムデータベースから相同ゲノム配列を検索した。このようにして、部分的なDNA配列を相同ゲノム配列の付加によりストレッチすなわち伸長した。結果として得られるストレッチ配列を検査し、完全遺伝子を含んでいるか否かを決定した。
【0285】
6 TRICH をコードするポリヌクレオチドの染色体マッピング
SEQ ID NO:21-40を構築するために用いた配列を、BLAST及び他のSmith-Watermanアルゴリズムの実装を用いて、Incyte LIFESEQデータベース及び公共のドメインデータベースの配列と比較した。SEQ ID NO:21-40 と一致するこれらのデータベースの配列を、Phrapなどの構築アルゴリズム(表7)を使用して、連続及びオーバーラップした配列のクラスターに組み入れた。スタンフォード・ヒトゲノムセンター(SHGC)、ホワイトヘッド・ゲノム研究所(WIGR)、Genethon等の公的な情報源から入手可能な放射線ハイブリッド及び遺伝地図データを用いて、クラスタ化された配列が既にマッピングされていたかを確認した。マッピングされた配列が或るクラスターに含まれている場合、そのクラスターの全配列が、個々の配列番号と共に、地図上の位置に割り当てられた。
【0286】
地図上の位置は、ヒト染色体の範囲または間隔として表される。センチモルガン間隔の地図上の位置は、染色体のpアームの末端に関して測定する。(センチモルガン(cM)は、染色体マーカー間の組換え頻度に基づく計測単位である。平均して、1cMは、ヒト中のDNAの1メガベース(Mb)にほぼ等しい。 もっとも、この値は、組換えのホットスポット及びコールドスポットによって広範囲に変化する。)cM距離は、配列が各クラスタ内に含まれるような放射線ハイブリッドマーカーに対する境界となるようなGenethonによってマッピングされた遺伝マーカーに基づく。NCBI「GeneMap'99」(http://www.ncbi.nlm.nih.gpv/genemap)などの公的に入手可能なヒト遺伝子マップおよびその他の情報源を用いて、既に同定された疾患遺伝子類が、上記の区間内若しくは近傍にマップされているかを決定できる。
【0287】
7 ポリヌクレオチド発現の分析
ノーザン分析は、転写された遺伝情報の存在を検出するために用いられる実験技術であり、特定の細胞種または組織からのRNAが結合されている膜への標識ヌクレオチド配列のハイブリダイゼーションに関与している。(前出のSambrook, 7章、同Ausubel. F.M. 他, 4章及び16章等を参照。)
BLASTを適用する類似のコンピュータ技術を用いて、GenBankやLifeSeq(Incyte Genomics)等のcDNAデータベースにおいて同一または関連分子を検索した。ノーザン分析は、多数の膜系ハイブリダイゼーションよりも非常に速い。更に、特定の一致を厳密な一致、或いは類似的な一致として分類するか否かを決定するため、コンピュータ検索の感度を変更することができる。検索の基準は積スコアであり、次式で定義される。
【0288】
【数1】
積スコアは、2つの配列間の類似度及び配列が一致する長さの両方を考慮している。積スコアは、0〜100のノーマライズされた値であり、次のようにして求める。BLASTスコアにヌクレオチドの配列一致率を乗じ、その積を2つの配列の短い方の長さの5倍で除する。高スコアリングセグメント対(HSP)に一致する各塩基に+5のスコアを割り当て、各不一致塩基対に−4を割り当てることにより、BLASTスコアを計算する。2つの配列は、2以上のHSPを共有し得る(ギャップにより隔離され得る)。2以上のHSPがある場合には、最高BLASTスコアのセグメント対を用いて積スコアを計算する。積スコアは、断片的オーバーラップとBLASTアラインメントの質とのバランスを表す。例えば積スコア100は、比較した2つの配列の短い方の長さ全体にわたって100%一致する場合のみ得られる。積スコア70は、一端が100%一致し、70%オーバーラップしているか、他端が88%一致し、100%オーバーラップしているかのいずれかの場合に得られる。積スコア50は、一端が100%一致し、50%オーバーラップしているか、他端が79%一致し、100%オーバーラップしているかのいずれかの場合に得られる。
【0289】
或いは、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列は、由来する組織に対して分析する。例えば或る完全長配列は、Incyte cDNA配列(実施例3を参照)と少なくとも一部はオーバーラップするように構築される。各cDNA配列は、ヒト組織から作製されたcDNAライブラリに由来する。各ヒト組織は、心血管系、結合組織、消化系、胚構造、内分泌系、外分泌腺、女性生殖器、男性生殖器、生殖細胞、血液および免疫系、肝臓、筋骨格系、神経系、膵臓、呼吸器系、感覚器官、皮膚、顎口腔系、分類不能/混合、または尿路などの1つの器官/組織のカテゴリーに分類される。各カテゴリーのライブラリ数を数えて、全カテゴリーの総ライブラリ数で除する。同様に、各ヒト組織は、以下の疾患/条件カテゴリー即ち癌、細胞株、発達、炎症、神経性、外傷、心血管、プール、その他の1つに分類される。各カテゴリーのライブラリ数を数えて、全カテゴリーの総ライブラリ数で除する。得られるパーセンテージは、TRICHをコードするcDNAの組織特異的発現および疾患特異的発現を反映する。 cDNA配列およびcDNAライブラリ/組織の情報は、LIFESEQ GOLD データベース(Incyte Genomics, Palo Alto CA)から得ることができる。
【0290】
8 TRICH をコードするポリヌクレオチドの伸長
完全長のポリヌクレオチド配列はまた、完全長分子の適切な断片から設計したオリゴヌクレオチドプライマー複数を用いて該断片を伸長させて生成した。一方のプライマーは既知の断片の5'伸長を開始するべく合成し、他方のプライマーは既知の断片の3'伸長を開始するべく合成した。開始プライマーは、長さが約22〜30ヌクレオチド、GC含有率が約50%以上となり、約68〜72℃の温度で標的配列にアニーリングするように、OLIGO 4.06ソフトウェア(National Biosciences)或いは別の適切なプログラムを用いて設計した。 ヘアピン構造及びプライマー−プライマー二量体を生ずるようなヌクレオチドの伸長は全て回避した。
【0291】
配列を伸長するために、選択されたヒトcDNAライブラリを用いた。2段階以上の伸長が必要または望ましい場合には、付加的プライマー或いはプライマーのネステッドセットを設計した。
【0292】
高忠実度の増幅が、当業者によく知られている方法を利用したPCR法によって得られた。 PCRは、PTC-200 サーマルサイクラー(MJ Research, Inc.)を用いて96穴プレート内で行った。反応混合液は、鋳型DNA及び200 nmolの各プライマーを有する。また、Mg2 +と(NH4)2SO4と2−メルカプトエタノールを含むバッファー、Taq DNAポリメラーゼ(Amersham Pharmacia Biotech)、ELONGASE酵素(Life Technologies)、Pfu DNAポリメラーゼ(Stratagene)を含む。 プライマーの組、PCI AとPCI Bに対して以下のパラメータで増幅を行った。ステップ1: 94℃, 3分、 ステップ 2: 94℃, 15 秒、ステップ 3: 60℃, 1 分、ステップ 4: 68℃, 2 分、 ステップ 5: ステップ2、3および 4を20回反復する。ステップ6: 68℃, 5 分、ステップ7: 4℃で保存する。別法では、プライマーの組、T7とSK+に対して以下のパラメータで増幅を行った。ステップ1: 94℃, 3分、 ステップ 2: 94℃, 15 秒、ステップ 3: 57℃, 1 分、ステップ 4: 68℃, 2 分、 ステップ 5: ステップ2、3および 4を20回反復する。ステップ6: 68℃、5 分、ステップ7: 4℃で保存する。
【0293】
各ウェルのDNA濃度は、1X TE及び0.5μlの希釈していないPCR産物に溶解した100μlのPICOGREEN定量試薬(0.25%(v/v) PICOGREEN; Molecular Probes, Eugene OR)を不透明な蛍光光度計プレート(Coming Costar, Acton MA)の各ウェルに分配してDNAが試薬と結合できるようにして測定した。サンプルの蛍光を計測してDNAの濃度を定量するためにプレートをFluoroskan II (Labsystems Oy, Helsinki, Finland)でスキャンした。反応混合物のアリコート5〜10μlを1%アガロースミニゲル上で電気泳動法によって解析し、どの反応が配列の伸長に成功したかを決定した。
【0294】
伸長したヌクレオチドは、脱塩及び濃縮して384穴プレートに移し、CviJIコレラウイルスエンドヌクレアーゼ(Molecular Biology Research, Madison WI)を用いて消化し、pUC 18ベクター(Amersham Pharmacia Biotech)への再連結反応前に音波処理またはせん断した。ショットガン・シークエンシングのために、消化したヌクレオチドを低濃度(0.6〜0.8%)のアガロースゲル上で分離し、断片を切除し、寒天をAgar ACE(Promega)で消化した。伸長したクローンをT4リガーゼ(New England Biolabs, Beverly MA)を用いてpUC 18ベクター(Amersham Pharmacia Biotech)に再連結し、Pfu DNAポリメラーゼ(Stratagene)で処理して制限部位のオーバーハング部分を満たし、大腸菌細胞に形質移入した。形質移入した細胞を選択して抗生物質を含む培地に移し、それぞれのコロニーを切りとってLB/2Xカルベニシリン培養液の384ウェルプレートに37℃で一晩培養した。
【0295】
細胞を溶解して、Taq DNAポリメラーゼ(Amersham Pharmacia Biotech)及びPfu DNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いて以下の手順でDNAをPCR増幅した。ステップ1: 94℃, 3分、 ステップ 2: 94℃, 15 秒、ステップ 3: 60℃, 1 分、ステップ 4: 72℃, 2 分、 ステップ 5: ステップ2、3および 4を29回反復する。ステップ6: 72℃, 5 分、ステップ7: 4℃で保存する。上記のようにPICOGREEN試薬(Molecular Probes)でDNAを定量した。DNAの回収率が低いサンプルは、上記と同一の条件を用いて再増幅した。サンプルは20%ジメチルスルホキシド(1:2, v/v)で希釈し、DYENAMIC エネルギートランスファー シークエンシングプライマー、及びDYENAMIC DIRECT kit(Amersham Pharmacia Biotech)またはABI PRISM BIGDYE ターミネーターサイクル シークエンシング反応キット(Terminator cycle sequencing ready reaction kit)(Applied Biosystems)を用いてシークエンシングした。
【0296】
同様に、上記手順を用いて完全長ヌクレオチド配列を検証し、或いはそのような伸長のために設計されたオリゴヌクレオチド及び適切なゲノムライブラリを用いて5'調節配列を得る。
【0297】
9 TRICH をコードするポリヌクレオチドの SNP( 一塩基多型 ) の同定
一塩基多型(SNP)として知られる一般的なDNA配列変異体がLIFESEQ データベース(Incyte Genomics)を用いてSEQ ID NO:21-40 同定された。実施例3に記述されているように、同じ遺伝子からの配列を共にクラスターにして構築し、これによって遺伝子のすべての配列変異体の同定ができた。一連のフィルタからなるアルゴリズムを使って、SNPを他の配列変異体から区別した。前段フィルターは、最小限のPhredクオリティスコア15を要求することにより大多数のベースコールのエラーを除去し、また、配列アライメントエラーや、ベクター配列、キメラおよびスプライス変異体の不適当なトリミングにより生じるエラーを取り除いた。染色体の高度解析の自動化手順により、推定SNPの近傍におけるオリジナルのクロマトグラムファイルが解析された。クローンエラーフィルタは統計的に生み出されたアルゴリズムを用いて、逆転写酵素、ポリメラーゼ、または体細胞突然変異によって引き起こされるエラーのような、実験処理時に導入されるエラーを識別した。クラスターエラーフィルターは、統計的に生み出されたアルゴリズムを用いて近接の相同体または偽遺伝子のクラスター化に起因するエラー、または非ヒト配列によるコンタミネーションにより生じたエラーを同定した。最後のフィルター群によって、免疫グロブリンまたはT細胞受容体に存在する重複(duplicates)とSNPが除去された。
【0298】
高速処理MASSARRAY システム(Sequenom, Inc.) を用いて質量分析によってさらに特徴付けるために数種のSNPを選択して、四つの異なったヒト母集団中のSNP部位における対立遺伝子発生頻度を分析した。白人母集団は、ユタ州の83人、フランス人4人、ベネズエラ3人およびアーミッシュ派2人を含む92人(男性46人、女性46人)で構成された。アフリカ人母集団はすべてアフリカ系アメリカ人である194人( 男性97人、 女性97人)からなる。ヒスパニック母集団はすべてメキシコ系ヒスパニックの324人( 男性162人、 女性162人)からなる。アジア人母集団は126人(男性64人、女性62人)からなり、親の内訳は中国人43%、日本人31%、コリアン13%、ベトナム人5%およびその他のアジア人8%と報告されている。対立形質の発生頻度は最初に白人母集団において分析し、いくつかの例において、この母集団で対立形質分散を示さなかったSNPは他の三つの母集団においてさらに検査しなかった。
【0299】
10 個々のハイブリダイゼーションプローブの標識化及び使用
SEQ ID NO:21-40由来のハイブリダイゼーションプローブを用いて、cDNA、mRNA、またはゲノムDNAをスクリーニングする。約20塩基対からなるオリゴヌクレオチドの標識について特に記載するが、より大きなヌクレオチド断片に対しても事実上同一の手順が用いられる。オリゴヌクレオチドは、OLIGO 4.06ソフトウェア(National Biosciences)等の最新技術のソフトウェアを用いて設計し、各オリゴマー50pmolと、[γ-32P]アデノシン3リン酸 (Amersham Pharmacia Biotech)250μCiと、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(DuPont NEN, Boston MA)を混合することにより標識する。標識したオリゴヌクレオチドは、SEPHADEX G-25超細繊分子サイズ排除デキストラン ビードカラム(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて実質的に精製する。Ase I、Bgl II、Eco RI、Pst I、Xba1またはPvu II(DuPont NEN)のいずれか1つのエンドヌクレアーゼで消化したヒトゲノムDNAの典型的な膜ベースのハイブリダイゼーション解析において、毎分107カウントの標識されたプローブを含むアリコットを用いる。
【0300】
各消化物から得たDNAは、0.7%アガロースゲル上で分画してナイロン膜(Nytran Plus, Schleicher & Schuell, Durham NH)に移す。ハイブリダイゼーションは、40℃で16時間行う。 非特異的シグナルを除去するため、例えば0.1×クエン酸ナトリウム食塩水及び0.5%ドデシル硫酸ナトリウムに一致する条件下で、ブロットを室温で順次洗浄する。オートラジオグラフィーまたはそれに代わるイメージング手段を用いてハイブリダイゼーションパターンを視覚化し、比較する。
【0301】
11 マイクロアレイ
マイクロアレイ上でアレイエレメントの結合または合成は、フォトリソグラフィ、圧電印刷(インクジェット印刷、前出のBaldeschweiler等を参照)、機械的マイクロスポッティング技術及びこれらから派生したものを用いて達成することが可能である。上記各技術において基板は、均一且つ無孔の固体とするべきである(Schena (1999) 前出)。推奨する基板には、シリコン、シリカ、スライドガラス、ガラスチップ及びシリコンウエハがある。或いは、ドットブロット法またはスロットブロット法に類似のアレイを利用して、熱的、紫外線的、化学的または機械的結合手順を用いて基板の表面にエレメントを配置及び結合させてもよい。通常のアレイは、当業者に周知の利用可能な方法や機械を用いて作製でき、任意の適正数のエレメントを有し得る(例えばSchena, M. 他 (1995) Science 270:467-470、Shalon. D. 他 (1996) Genome Res. 6:639-645、Marshall, A. および J. Hodgson (1998) Nat. Biotechnol. 16:27-31を参照)。
【0302】
完全長cDNA、発現配列タグ(EST)、またはその断片またはオリゴマーは、マイクロアレイのエレメントと成り得る。ハイブリダイゼーションに好適な断片またはオリゴマーを、レーザGENEソフトウェア(DNASTAR)等の本技術分野で公知のソフトウェアを用いて選択することが可能である。アレイエレメントは、生物学的サンプル中でポリヌクレオチドを用いてハイブリダイズされる。生物学的サンプル中のポリヌクレオチドは、検出を容易にするために蛍光標識またはその他の分子タグに抱合される。ハイブリダイゼーション後、生物学的サンプルからハイブリダイズされていないヌクレオチドを除去し、蛍光スキャナを用いて各アレイエレメントにおいてハイブリダイゼーションを検出する。或いは、レーザ脱離及び質量スペクトロメトリを用いてもハイブリダイゼーションを検出し得る。マイクロアレイ上のエレメントにハイブリダイズする各ポリヌクレオチドの相補性の度合及び相対存在度は、算定し得る。 一実施例におけるマイクロアレイの調製及び使用について、以下に詳述する。
【0303】
組織または細胞サンプルの調製
グアニジニウムチオシアネート法を用いて組織サンプルから全RNAを単離し、オリゴ(dT)セルロース法を用いてポリ(A)+RNAを精製する。各ポリ(A)+RNAサンプルは、MMLV逆転写酵素、0.05pg/μlのオリゴ(dT)プライマー(21mer)、1×第1鎖バッファ、0.03unit/μlのRNアーゼ阻害剤、500μMのdATP、500μMのdGTP、500μMのdTTP、40μMのdCTP、40μMのdCTP-Cy3(BDS)またはdCTP-Cy5(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて逆転写する。逆転写反応は、GEMBRIGHTキット(Incyte)を用いてポリ(A)+RNA含有の25体積ml内で行う。特異的対照ポリ(A)+RNAは、非コード酵母ゲノムDNAからin vitro転写により合成する。37℃で2時間インキュベートした後、各反応サンプル(1つはCy3、もう1つはCy5標識)は、2.5mlの0.5M水酸化ナトリウムで処理し、85℃で20分間インキュベートし、反応を停止させてRNAを分解させる。サンプルは、2つの連続するCHROMA SPIN 30ゲル濾過スピンカラム(CLONTECH Laboratories, Inc. (CLONTECH), Palo Alto CA)を用いて精製する。 混合した後、2つの反応サンプルは、1mlのグリコーゲン(1mg/ml)、60mlの酢酸ナトリウム及び300mlの100%エタノールを用いてエタノール沈殿させる。サンプルは次に、SpeedVAC(Savant Instruments Inc., Holbrook NY)を用いて完全に乾燥させ、14μlの5×SSC/0.2%SDS中で再懸濁する。
【0304】
例えばSEQ ID:36の場合、或る正常ドナーから単離された初代ヒト乳房上皮細胞株のHMECは、哺乳動物上皮細胞増殖培地(Mammary Epithelial Cell Growth Medium)(Clonetics, Walkersville MD)において増殖した。哺乳動物上皮細胞増殖培地には、10 ng/mlのヒト組換え上皮成長因子、5mg/mlのインスリン、0.5 mg/ml のヒドロコルチゾン、50 mg/ml のゲンタマイシン、50 ng/mlのアンホテリシンBおよび0.5 mg/mlのウシ下垂体抽出物が補充された。細胞は収集前に70%-80%のコンフルエンスにまで増殖した。経過8(前駆細胞)、経過10及び12(進行性老化細胞:progressively senescent cells)、経過14(前老化細胞:presenescent cells)および経過15(老化細胞)で約1×107 の細胞が収集された。 このようにして、SEQ ID NO:36 の構成成分(component)2812176 の、老化細胞での発現は、少なくとも2倍に増加することが実証された。
【0305】
マイクロアレイの調製
本発明の配列を用いて、アレイエレメントを生成する。各アレイエレメントは、クローン化cDNAインサートを持つベクター含有細菌細胞から増幅する。PCR増幅は、cDNAインサートの側面に位置するベクター配列に相補的なプライマーを用いる。30サイクルのPCRで1〜2ngの初期量から5μgより大きい最終量までアレイエレメントを増幅する。増幅されたアレイエレメントは、SEPHACRYL-400(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて精製される。
【0306】
精製したアレイエレメントは、ポリマーコートされたスライドグラス上に固定する。顕微鏡スライドグラス(Corning)は、処理の間及び処理後に0.1%のSDS及びアセトン中で超音波をかけ、蒸留水で充分に洗浄する。スライドグラスは、4%フッ化水素酸(VWR Scientific Products Corporation (VWR), West Chester PA)中でエッチングし、蒸留水中で充分に洗浄し、95%エタノール中で0.05%アミノプロピルシラン(Sigma)を用いてコーティングする。コーティングしたスライドガラスは、110℃のオーブンで硬化させる。
【0307】
米国特許第5,807,522号に記載されている方法を用いて、コーティングしたガラス基板にアレイエレメントを付加する。 この特許は引用することを以って本明細書の一部とする。平均濃度が100ng/μlのアレイエレメントDNA1μlを高速ロボット装置により開放型キャピラリープリンティングエレメント(open capillary printing element)に充填する。装置はここで、スライド毎に約5nlのアレイエレメントサンプルを加える。
【0308】
マイクロアレイには、STRATALINKER UV架橋剤(Stratagene)を用いてUV架橋する。マイクロアレイは、室温において0.2%SDSで1度洗浄し、蒸留水で3度洗浄する。リン酸緩衝生理食塩水 (PBS)(Tropix, Inc., Bedford MA)中の0.2%カゼイン中において60℃で30分間マイクロアレイをインキュベートした後、前に行ったように0.2%SDS及び蒸留水で洗浄することにより、非特異結合部位をブロックする。
【0309】
ハイブリダイゼーション
ハイブリダイゼーション反応液は、5×SSC、0.2%SDSハイブリダイゼーション緩衝液にCy3及びCy5標識したcDNA合成産物を各0.2μg含む9μlのサンプル混合体を含めたものである。サンプル混合体は、65℃まで5分間加熱し、マイクロアレイ表面上に等分して1.8cm2 のカバーガラスで覆う。アレイは、顕微鏡スライドより僅かに大きい空洞を有する防水チェンバーに移す。チェンバーのコーナーに140μlの5×SSCを加えることにより、チェンバー内部を湿度100に保持する。アレイを含むチェンバーは、60℃で約6.5時間インキュベートする。 アレイは、第1洗浄緩衝液中(1×SSC、0.1%SDS)において45℃で10分間洗浄し、第2洗浄緩衝液中(0.1×SSC)において各々45℃で10分間3度洗浄して乾燥させる。
【0310】
検出
レポーター標識されたハイブリダイゼーション複合体は、Cy3の励起のためには488nm、Cy5の励起のためには632nmでスペクトル線を発生し得るInnova 70混合ガス10 Wレーザ(Coherent, Santa Clara CA)を備えた顕微鏡で検出する。20×顕微鏡対物レンズ(Nikon, Inc., Melville NY)を用いて、アレイ上に励起レーザ光の焦点を当てる。アレイを含むスライドを顕微鏡のコンピュータ制御のX-Yステージに置き、対物レンズを通過してラスタースキャンする。本実施例で用いた1.8cm×1.8cmのアレイは、20μmの解像度でスキャンした。
【0311】
2つの異なるスキャンで、混合ガスマルチラインレーザは2つのフルオロフォアを連続的に励起する。発光された光は、波長に基づき分離され、2つのフルオロフォアに対応する2つの光電子増倍管検出器(PMT R1477, Hamamatsu Photonics Systems, Bridgewater NJ)に送られる。アレイと光電子増倍管間に設置された好適なフィルターを用いて、シグナルをフィルターする。用いるフルオロフォアの最大発光の波長は、Cy3では565nm、Cy5では650nmである。装置は両方のフルオロフォアからのスペクトルを同時に記録し得るが、レーザ源において好適なフィルターを用いて、フルオロフォア1つにつき1度スキャンし、各アレイを通常2度スキャンする。
【0312】
スキャンの感度は通常、既知濃度でサンプル混合体に添加されるcDNA対照種により生成されるシグナル強度を用いて較正する。アレイ上の特定の位置には相補的DNA配列が含まれ、その位置におけるシグナルの強度を重量比1:100,000でハイブリダイゼーション種と相関させる。異なる源泉(例えば試験される細胞及び対照細胞など)からの2つのサンプルを、各々異なるフルオロフォアで標識し、他と異なって発現した遺伝子を同定するために単一のアレイにハイブリダイズする場合には、2つのフルオロフォアで較正するcDNAのサンプルを標識し、ハイブリダイゼーション混合液に各々等量を加えることによって較正を行う。
【0313】
光電子増倍管の出力は、IBM互換性PCコンピュータにインストールされた12ビットRTI-835Hアナログ−ディジタル(A/D)変換ボード(Analog Devices, Inc., Norwood MA)を用いてディジタル化される。ディジタル化されたデータは、青色(低シグナル)から赤色(高シグナル)までの擬似カラー範囲への直線的20色変換を用いてシグナル強度がマッピングされたようなイメージとして表示される。データは、定量的にも分析される。2つの異なるフルオロフォアを同時に励起及び測定する場合には、各フルオロフォアの発光スペクトルを用いて、データは先ずフルオロフォア間の光学的クロストーク(発光スペクトルの重なりに起因する)を補正する。
【0314】
グリッドが蛍光シグナルイメージ上に重ねられ、それによって各スポットからのシグナルはグリッドの各エレメントに集められる。各エレメント内の蛍光シグナルは統合され、シグナルの平均強度に応じた数値が得られる。シグナル分析に用いるソフトウェアは、GEMTOOLS遺伝子発現分析プログラム(Incyte)である。
【0315】
12 相補的ポリヌクレオチド
TRICHをコードする配列或いはその任意の一部に対して相補的な配列は、天然のTRICHの発現を検出、低減または阻害するために用いられる。約15〜30塩基対を含むオリゴヌクレオチドの使用について記すが、これより小さな或いは大きな配列の断片の場合でも本質的に同じ方法を用いることができる。Oligo4.06ソフトウェア(National Biosciences)及びTRICHのコーディング配列を用いて、適切なオリゴヌクレオチドを設計する。転写を阻害するためには、最も独特な5' 配列から相補的オリゴヌクレオチドを設計し、これを用いてプロモーターがコーディング配列に結合するのを阻害する。翻訳を阻害するためには、相補的なオリゴヌクレオチドを設計して、リボソームがTRICHをコードする転写物に結合するのを阻害する。
【0316】
1 3 TRICH の発現
TRICHの発現及び精製は、細菌若しくはウイルスを基にした発現系を用いて行うことができる。細菌でTRICHを発現させるためには、抗生物質耐性遺伝子と、cDNA転写レベルを高める誘導性のプロモーターとを含む好適なベクターにcDNAをサブクローニングする。このようなプロモーターには、lacオペレーター調節因子と併用するT5またはT7バクテリオファージプロモーター、及びtrp-lac(tac)ハイブリッドプロモーターが含まれるが、これらに限定するものではない。組換えベクターを、BL21(DE3)等の好適な細菌宿主に形質転換する。抗生物質耐性細菌は、イソプロピルβ−Dチオガラクトピラノシド(IPTG)で誘発されるとTRICHを発現する。真核細胞でのTRICHの発現は、昆虫細胞株または哺乳動物細胞株に一般にバキュロウイルスとして知られるAutographica californica核多角体病ウイルス(AcMNPV)の組換え型を感染させて行う。バキュロウイルスの非必須ポリヘドリン遺伝子を、相同組換え、或いはトランスファープラスミドの媒介を伴う細菌の媒介による遺伝子転移のどちらかによって、TRICHをコードするcDNAと置換する。ウイルスの感染力は維持され、強力なポリヘドリンプロモーターによって高いレベルのcDNAの転写が行われる。組換えバキュロウイルスは、多くの場合はSpodoptera frugiperda(Sf9)昆虫細胞への感染に用いられるが、ヒト肝細胞の感染にも用いられることもある。後者の感染の場合は、バキュロウイルスの更なる遺伝的変更が必要になる。(Engelhard. E. K.他 (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:3224-3227、Sandig, V. 他 (1996) Hum. Gene Ther. 7:1937-1945.等を参照)。
【0317】
殆どの発現系では、TRICHが、例えばグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)と、またはFLAGや6-Hisなどのペプチドエピトープ標識と合成された融合タンパク質となるため、未精製の細胞溶解物からの組換え融合タンパク質の親和性ベースの精製を素早く1回で行うことができる。GSTは日本住血吸虫からの26kDaの酵素であり、タンパク質の活性及び抗原性を維持した状態で、固定化グルタチオン上で融合タンパク質の精製を可能とする(Amersham Pharmacia Biotech)。精製の後、GST部分を特定の操作部位でTRICHからタンパク分解的に切断できる。FLAGは8アミノ酸のペプチドであり、市販されているモノクローナル及びポリクローナル抗FLAG抗体(Eastman Kodak)を用いて免疫親和性精製を可能にする。6ヒスチジン残基が連続して伸長した6-Hisは、金属キレート樹脂(QIAGEN)上での精製を可能にする。タンパク質の発現及び精製の方法は、前出のAusubel(1995)10章、16章に記載されている。これらの方法で得た精製TRICH を直接用いて以下の実施例17、18、および19の、適用可能なアッセイを行うことができる。
【0318】
14 機能的アッセイ
TRICHの機能は、哺乳動物細胞培養系において生理学的に高められたレベルでの、TRICHをコードする配列の発現によって評価する。 cDNAを、cDNAを高いレベルで発現する強いプロモーターを含む哺乳動物発現ベクターにサブクローニングする。選択されるベクターには、pCMV SPORTプラスミド(Life Technologies)及びpCR 3.1プラスミド(Invitrogen)が含まれ、どちらもサイトメガロウイルスプロモーターを有する。リポソーム製剤或いは電気穿孔法を用いて、5〜10μgの組換えベクターをヒト細胞株、例えば内皮由来または造血由来の細胞株に一過的に形質移入する。更に、標識タンパク質をコードする配列を含む1〜2μgのプラスミドを同時に形質移入する。標識タンパク質の発現により、形質移入細胞と非形質移入細胞を区別する手段が与えられる。 また、標識タンパク質の発現によって、cDNAの組換えベクターからの発現を正確に予想できる。標識タンパク質は、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP;Clontech)、CD64またはCD64-GFP融合タンパク質から選択できる。自動化された、レーザ光学に基づく技術であるフローサイトメトリー(FCM)を用いて、GFPまたはCD64-GFPを発現する形質移入された細胞を同定し、その細胞のアポトーシス状態や他の細胞特性を評価する。FCMは、細胞死に先行するか或いは同時に発生する現象を診断する蛍光分子の取込を検出して計量する。このような現象として挙げられるのは、ヨウ化プロピジウム物によるDNA染色によって計測される核DNA含量の変化、前方光散乱と90°側方光散乱によって計測される細胞サイズと粒度の変化、ブロモデオキシウリジンの取込量の低下によって計測されるDNA合成の下方調節、特異抗体との反応性によって計測される細胞表面及び細胞内におけるタンパク質の発現の変容、及びフルオレセイン抱合したアネキシンVタンパク質の細胞表面への結合によって計測される原形質膜組成の変容とがある。フローサイトメトリー法については、Ormerod, M. G. (1994) Flow Cytometry Oxford, New York, NY.に記述がある。
【0319】
遺伝子発現に与えるTRICHの影響は、TRICHをコードする配列とCD64またはCD64-GFPのどちらかが形質移入された高度に精製された細胞集団を用いて評価することができる。CD64またはCD64-GFPは、形質移入された細胞表面で発現し、ヒト免疫グロブリンG(IgG)の保存領域と結合する。形質移入された細胞と形質移入されていない細胞とは、ヒトIgGかCD64に対する抗体のどちらかで被覆された磁気ビーズを用いて分離することができる(DYNAL. Lake Success. NY)。 mRNAは、当分野で周知の方法で細胞から精製することができる。 TRICH及び目的の他の遺伝子をコードするmRNAの発現は、ノーザン分析やマイクロアレイ技術で分析することができる。
【0320】
15 TRICH 特異的抗体の作製
ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGE;例えば、Harrington, M.G. (1990) Methods Enzymol. 182:488-495を参照)または他の精製技術で実質的に精製されたTRICHを用いて、標準的なプロトコルで動物(例えば、ウサギ、マウス等)を免疫化して抗体を作り出す。
【0321】
別法では、TRICHアミノ酸配列をLASERGENEソフトウェア(DNASTAR)を用いて解析して免疫原性の高い領域を決定し、対応するオリゴペプチドを合成してこれを用いて当業者に周知の方法で抗体を生産する。 C末端付近の、或いは隣接する親水性領域内のエピトープなどの適切なエピトープの選択については、当分野で周知である(例えば、前出のAusubel, 1995,11章を参照)。
【0322】
通常は、長さ約15残基のオリゴペプチドを、FMOC ケミストリを用いるABI 431A ペプチドシンセサイザ(Applied Biosystems)を用いて合成し、N-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)を用いた反応によってKLH(Sigma-Aldrich, St. Louis MO)に結合させて、免疫原性を高める(前出のAusubel, 1995 等を参照)。完全フロイントアジュバントにおいてオリゴペプチド-KLH複合体を用いてウサギを免疫化する。得られた抗血清の抗ペプチド活性及び抗TRICH活性を検査するには、ペプチドまたはTRICHを基板に結合し、1%BSAを用いてブロッキング処理し、ウサギ抗血清と反応させて洗浄し、さらに放射性ヨウ素標識されたヤギ抗ウサギIgGと反応させる。
【0323】
16 特異的抗体を用いる天然 TRICH の精製
天然TRICH或いは組換えTRICHは、TRICHに特異的な抗体を用いたイムノアフィニティークロマトグラフィによって実質的に精製される。イムノアフィニティーカラムは、CNBr-活性化SEPHAROSE(Amersham Pharmacia Biotech)のような活性化クロマトグラフィー用レジンと抗TRICH抗体とを共有結合させることにより形成する。結合後に、製造者の使用説明書に従って樹脂をブロックし、洗浄する。
【0324】
TRICHを含む培養液をイムノアフィニティーカラムに通し、TRICHを優先的に吸着できる条件で(例えば、界面活性剤の存在下において高イオン強度のバッファーで)そのカラムを洗浄する。そのカラムを、抗体とTRICHとの結合を切るような条件で(例えば、pH2〜3のバッファー、或いは高濃度の尿素またはチオシアン酸イオンのようなカオトロープで)溶出させ、TRICHを回収する。
【0325】
17 TRICH と相互作用する分子の同定
TRICHと相互作用する分子としては、輸送体基質、アゴニスト若しくはアンタゴニスト、Gβγタンパク質(Reimann前出)のような調節性タンパク質(modulatory proteins)、又はMAGUKs(Craven前出)の様なTRICHの局在化若しくはクラスター形成に関与するタンパク質が含まれうる。TRICHまたは生物学的に活性であるTRICH断片を、125Iボルトンハンター試薬で標識する。(例えば Bolton A.E. および W.M. Hunter (1973) Biochem. J. 133:529-539を参照)。マルチウェルプレートのウェルに予め配列しておいた候補の分子を、標識したTRICHと共にインキュベートし、洗浄して、標識されたTRICH複合体を有する全てのウェルをアッセイする。様々なTRICH濃度で得られたデータを用いて、候補分子と結合したTRICHの数量及び親和性、会合についての値を計算する。
【0326】
別法では、TRICHと相互作用するタンパク質が、Fields, S.及びO. Song(1989, Nature 340:245-246)に記載の酵母2−ハイブリッドシステム(yeast 2-hybrid system)で単離される。TRICHもしくはその断片はGal4若しくはlexAのDNA結合ドメインを有する融合タンパク質として発現し、また潜在的な相互作用タンパク質は、活性化ドメインを有する融合タンパク質として発現する。TRICH融合タンパク質とTRICH相互作用タンパク質(活性化ドメインを有する融合タンパク質)間の相互作用は、レポーター遺伝子の発現によって観察されるトランス活性化機能を元に戻す。酵母2−ハイブリッドシステムは商業的に利用可能であり、イオンチャネルタンパク質を有する酵母2−ハイブリッドシステムの使用方法は、 Niethammer, M. およびM. Sheng(1998, Meth. Enzymol. 293:104-122)に記載されている。
【0327】
TRICHはまた、ハイスループット型の酵母2ハイブリッドシステムを使用するPATHCALLINGプロセス(CuraGen Corp., New Haven CT)に用いて、遺伝子の2つの大きなライブラリによってコードされるタンパク質間の全ての相互作用を決定することができる(Nandabalan, K. 他 (2000) 米国特許第6,057,101号)。
【0328】
潜在的なTRICHアゴニスト若しくはアンタゴニストは、実施例18に記載のアッセイを用いてTRICHイオンチャネル活性の活性化若しくは阻害について試験されうる。
【0329】
18 TRICH 活性の実証
TRICHのイオンチャネル活性は、イオンコンダクタンスの電気生理学的アッセイを用いて実証される。TRICHは、TRICHをコードする真核生物発現ベクターで、COS7、HeLa、若しくはCHOのようなほ乳類株化細胞を形質転換することによって発現され得る。真核生物発現ベクターは市販されており、それらを細胞内に導入する技術は当業者には周知である。 β−ガラクトシダーゼのような多数の標識遺伝子いずれか一つを発現させる第二のプラスミドが細胞へと同時形質転換され、外来DNAを取り込み発現させるそれら細胞の迅速な同定を可能とする。細胞は、形質転換の後、株化細胞がTRICH及びβ−ガラクトシダーゼを発現し蓄積するのに適した条件下で、48−72時間に渡ってインキュベートされる。
【0330】
β‐ガラクトシダーゼを発現させる形質転換細胞は、好適な比色用基質が本技術分野で公知の条件下で培地へ添加されると、青く染色される。 染色された細胞は、本技術分野で周知の電気生理学技術を用いて膜電気伝導度の違いを試験される。形質転換しない細胞、および/または、ベクター配列のみ或いはβガラクトシダーゼ配列のみの何れかで形質転換した細胞が対照として用いられ、並行して試験される。TRICHを発現する細胞は、対照細胞よりも高いアニオンコンダクタンス、若しくはカチオンコンダクタンスを有することとなる。TRICHの伝導度への寄与は、TRICHに特異的な抗体を用いて細胞をインキュベーションすることによって確認できる。抗体は、TRICHの細胞外側面に結合し、それによってイオンチャネル内の孔とそれに伴うコンダクタンスをブロッキングする。
【0331】
別法では、TRICHのイオンチャネル活性は、二電極電位クランプ技術(Ishi 他 前出、Jegla, T. 及び L. Salkoff (1997) J. Neurosci. 17:32-44)を用いて、TRICH含有アフリカツメガエル卵母細胞膜を通る電流として測定される。TRICHは、pBFのような適切なアフリカツメガエル卵母細胞発現ベクターへとサブクローニングされ、また0.5〜5ngのmRNAが成熟段階4の卵母細胞へ注入される。注入された卵母細胞は摂氏18度で1−5日間インキュベートされる。インサイド‐アウトマクロパッチが切り取られて、116 mMのK-グルコン酸、4 mMのKC1、および10 mMのHepes (pH 7. 2)を含む細胞内溶液へと移される。細胞内溶液には、適切な、cAMP、cGMP、またはCa+2 (CaCl2の形態)のような様々な濃度のTRICH媒介物質が補充される。電極の抵抗は2−5MΩにセットされ、電極は媒介物質のない細胞内溶液で満たされる。実験は、室温で0 mVの保持電位から実行される。-100mVから100mVの電圧ランプ(voltage ramps) (2.5 s)が、サンプリング周波数500Hzで得られる。測定される電流はアッセイに於けるTRICHの活性に比例する。 TRICHの輸送活性は、アフリカツメガエル卵母細胞への標識された基質の取り込みを測定してアッセイされる。第5期及び第6期における卵母細胞に、TRICH mRNA (卵母細胞あたり10 ng)を注入し、OR2培地(82. 5mMのNaCl、2. 5 mMのKC1、1mMのCaCl2、1mMのMgCl2、1mM Na2HPO4、5 mMのHepes、3. 8 mMのNaOH、 50μg/ml ゲンタマイシン、pH 7. 8) 内で18℃で3日間インキュベートし、TRICHを発現させる。卵母細胞は、次に標準取り込み培地(100mMのNaCl、2 mMのKC1、1mMのCaCl2、1mMのMgCl2、10 mMのHepes/Tris、pH 7. 5)へと移す。様々な基質(例えばアミノ酸、糖、薬剤、イオン、及び神経伝達物質)の取り込みは、標識された基質(例えば3Hで放射標識されていたり、ローダミンで蛍光標識されている)を添加することで開始される。30分間のインキュベートの後、取り込みは、卵母細胞を3回、Na+のない培養液で洗浄することで終了し、取り込まれた標識を測定して、対照と比較する。TRICH活性は、内部移行された標識基質のレベルに比例する。詳しくは、試験する基質としては、TRICH-1にはグルコースおよび他の糖類、TRICH-2にはアミノホスホリピッド、TRICH‐3にはHCO3- 、TRICH‐4には硫酸およびその他のアニオン、TRICH‐5にはヌクレオチド、TRICH‐6、TRICH‐8にはNa+ と胆汁酸、TRICH-11にはカチオンアミノ酸、 TRICH-7にはアミノ酸、TRICH-9にはプロトン、 TRICH-12には薬物、 TRICH-13 と TRICH-17には胆汁酸、TRICH-15にはヌクレオシド、TRICH-16には薬物とその他の生体異物、 TRICH-18には神経伝達物質または有機浸透圧物質(organic osmolytes)がある。
【0332】
TRICHに関連するATPase活性は、放射性ラベルされたATP-[γ-32P]の加水分解、クロマトグラフィー法による加水分解生成物の分離、及び、シンチレーションカウンターを用いる回収した32Pの定量化によって測定できる。反応混合物は、ATP-[γ-32P]と、好適な時間をかけて摂氏37度でインキュベートされた好適なバッファ中の様々な量のTRICHとを有する。反応は、トリクロロ酢酸での沈殿によって終了し、次に塩基で中和され、反応混合物のアリコットは、反応産物を分離するべく、膜若しくはろ紙ベースのクロマトグラフィーにかけられる。遊離された32Pの量は、シンチレーション計数器でカウントされる。このアッセイでは、回収した放射活性の量がTRICHのATPase活性に比例する。TRICHのlipocalin活性はリガンド蛍光エンハンスメント分光蛍光分析によって測定される(Lin 他 (1997) Molecular Vision 3:17)。リガンドの例としては、レチノール (Sigma, St. Louis MO) および 16-アントリルオキシ パルミチン酸(anthryloxy-palmitic acid)(16-AP) (Molecular Probes Inc., Eugene OR)を含む。リガンドは100%エタノールに溶解され、濃度は既知の吸光係数(レチノール: 46,000 A/M/cm @ 325 nm; 16-AP: 8,200 A/M/cm @ 361 nm)を使って推定される。10 mM Tris (pH 7.5)、2 mM EDTAおよび500 mM NaCl 溶液中に溶かした1μM TRICH の700μl アリコットを光路長1 cm の石英キュベットに入れ、1μl アリコットのリガンド溶液を加える。蛍光の測定は、それぞれの添加の100秒後に、読みが安定するまで行う。リガンド濃度の単位変化あたりの蛍光の変化がTRICHの活性に比例する。
【0333】
詳しくは、TRICH‐10の活性はCa2+ コンダクタンスとして測定され、TRICH-14の活性はK+ コンダクタンスとして測定され、またTRICH‐19の活性はカルシウム活性化K+ コンダクタンスとして測定される。
【0334】
19 TRICH アゴニストおよびアンタゴニストの同定
TRICHは、CHO(チャイニーズハムスターの卵巣)またはHEK (ヒト胎児腎臓) 293のような真核細胞株内で発現する。 形質転換細胞のイオンチャネル活性は、候補アゴニスト又は候補アンタゴニストの存在若しくは不在条件下で測定される。イオンチャネル活性は本技術分野で公知のパッチクランプ法を用いて、または実施例18に記載のように検定される。別法では、イオンチャネル活性が、細胞膜を通るイオンの流れを測定する蛍光技術を用い検定される(Velicelebi, G.ら(1999) Meth. Enzymol. 294:20-47 ; West, M. R.及びC. R. Molloy (1996) Anal. Biochem. 241:51-58)。これらアッセイは、マイクロプレートを用いる高処理のスクリーニングに適合されうる。内部イオン濃度の変化は、Ca2+ 指示薬Fluo-4 AM、SBFI及びナトリウムグリーンのようなナトリウム感受性色素、またはCl指示薬MQAE (すべてMolecular Probes社より入手可能) のような蛍光色素を用い、FLIPR蛍光定量プレートリーディングシステム(Molecular Device社)と併せて測定される。アッセイのさらに一般的な別法では、原形質膜を通るイオンの流れによって生じる膜電位の変化は、DiBAC4(Molecular Probes社)のようなoxonyl色素を用いて測定される。DiBAC4は、細胞膜電位に従って細胞外溶液と細胞部位との間で平衡となる。色素の蛍光強度は、疎水性の細胞内部位に結合すると20倍に大きくなり、細胞内へのDiBAC4の流入が検出可能となる(Gonzalez, J. E.及び P. A. Negulescu (1998) Curr. Opin. Biotechnol. 9:624-631)。候補アゴニスト若しくはアンタゴニストは、既知のイオンチャネルアゴニスト若しくはアンタゴニスト、ペプチドライブラリ、若しくは組み合わせの化学ライブラリより選択されてもよい。
【0335】
当業者には、本発明の範囲及び精神から逸脱しない、本発明に記載した方法及びシステムの種々の修正および変更は自明であろう。本発明について説明するにあたり特定の好適実施例に関連して説明を行ったが、本発明の範囲が、そのような特定の実施例に不当に制限されるべきではないことを理解されたい。実際に、分子生物学または関連分野の専門家には明らかな、本明細書に記載されている本発明の実施方法の様々な修正は、特許請求の範囲内にあるものとする。
【0336】
(表の簡単な説明)
表1は、本発明の完全長ポリヌクレオチド配列及びポリペプチド配列の命名法の概略を示す。
【0337】
表2は、本発明のポリペプチド群のGenBank識別番号と、最も近いGenBank相同体の注釈(annotation)と、PROTEOMEデータベース識別番号と、PROTEOMEデータベース相同体群の注釈とを示す。各ポリペプチドとそのGenBank相同体が一致する確率スコアも併せて示す。
【0338】
表3は、予測されるモチーフ及びドメインを含む本発明のポリヌクレオチド配列の構造的特徴を、ポリペプチドの分析に用いるための方法、アルゴリズム及び検索可能なデータベースと共に示す。
【0339】
表4は、本発明のポリヌクレオチド配列を構築するために用いたcDNAやゲノムDNA断片を、ポリヌクレオチド配列の選択した断片と共に示す。
【0340】
表5は、本発明のポリヌクレオチドの代表的なcDNAライブラリを示す。
【0341】
表6は、表5に示したcDNAライブラリの作製に用いた組織及びベクターを説明する付表である。
【0342】
表7は、本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの分析に用いたツール、プログラム、アルゴリズムを、適用可能な説明、参照文献及び閾値パラメータと共に示す。
【0343】
【表1】
【0344】
【表2−1】
【0345】
【表2−2】
【0346】
【表3−1】
【0347】
【表3−2】
【0348】
【表3−3】
【0349】
【表3−4】
【0350】
【表3−5】
【0351】
【表3−6】
【0352】
【表3−7】
【0353】
【表3−8】
【0354】
【表3−9】
【0355】
【表3−10】
【0356】
【表3−11】
【0357】
【表3−12】
【0358】
【表3−13】
【0359】
【表3−14】
【0360】
【表3−15】
【0361】
【表3−16】
【0362】
【表3−17】
【0363】
【表3−18】
【0364】
【表4−1】
【0365】
【表4−2】
【0366】
【表4−3】
【0367】
【表4−4】
【0368】
【表4−5】
【0369】
【表4−6】
【0370】
【表4−7】
【0371】
【表4−8】
【0372】
【表5】
【0373】
【表6−1】
【0374】
【表6−2】
【0375】
【表6−3】
【0376】
【表7−1】
【0377】
【表7−2】
【0001】
本発明は、輸送体及びイオンチャネルの核酸配列及びアミノ酸配列に関する。本発明はまた、これらの配列を利用した、輸送障害、神経疾患、筋疾患、免疫疾患、および細胞増殖異常の、診断・治療・予防に関する。本発明はさらに、輸送体及びイオンチャネルの核酸配列及びアミノ酸配列の発現における外来性化合物の効果についての評価に関する。
【背景技術】
【0002】
真核細胞は、殆どの極性分子にとって高度に非浸透性であるような疎水性脂質二重層膜に囲まれ、この膜によって機能的に異なるオルガネラに細区画される。細胞及びオルガネラは、必須栄養素及び、K+、NH4 +、Pi、SO4 2- を含む金属イオン、糖、ビタミン及び種々の代謝廃棄物を移出入するための輸送タンパク質を必要とする。輸送タンパク質は、抗生物質抵抗性、毒素分泌、イオンバランス、シナプス神経伝達、腎機能、腸管吸収、腫瘍成長及びその他の多様な細胞機能においても役割を果たす(Griffith, J. および C. Sansom (1998) The Transporter Facts Book. Academic Press, San Diego CA, 3-29ページ)。輸送は、受動的な濃度依存メカニズムによって起こるか、或いはATP加水分解またはイオン勾配などのエネルギー源に関連し得る。輸送時に機能するタンパク質には、担体タンパク質及びチャネルタンパク質がある。担体タンパク質は、特定の溶質に結合して、あるコンフォメーションの変化を起こし、その変化によって結合した溶質が膜を通過できるようにする。チャネルタンパク質は、特定の溶質が電気化学的溶質勾配に従って膜を通過して拡散することができるような疎水性ポアを形成する。
【0003】
膜の一方の側から他方の側へ単一溶質を輸送するキャリアタンパク質をユニポーターと呼ぶ。対照的に、共役輸送体は、1つの溶質の移動を第2溶質の移動に連結させ、その移動は同時または順次に起こるかのいずれかであり、移動の方向は同一方向(シンポート)または逆方向(アンチポート)のいずれかである。例えば、腸管及び腎臓の上皮は、原形質膜内外のナトリウム勾配によって駆動される種々のシンポーター系を含む。ナトリウムは、電気化学勾配に従って細胞内に移動し、その移動と共に溶質を細胞内に運ぶ。溶質を取り込むための駆動力を供給するナトリウム勾配は、遍在性のNa+/K+ ATP分解酵素系によって維持される。ナトリウム共役輸送体には、哺乳動物グルコース輸送体(SGLT1)、ヨウ化物輸送体(NIS)及びマルチビタミン輸送体(SMVT)がある。3つの輸送体はすべて、12個の推定上の膜貫通セグメント、細胞外グリコシル化部位、並びに細胞質内側にあるN末端及びC末端を有する。NISは、放射性ヨウ素甲状腺イメージング技術及び甲状腺への放射性同位元素の特異的ターゲッティングの分子的基礎であるため、種々の甲状腺病理の評価、診断及び治療において重大な役割を果たす(Levy, O. 他 (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:5568-5573)。SMVTは、腸管粘膜、腎臓及び胎盤において発現され、ビオチンやパントテン酸などの水溶性ビタミンの輸送に関与していると考えられる(Prasad, P. D. 他 (1998) J. Biol. Chem. 273:7501-7506)。
【0004】
MFS(major facilitator superfamily)は、輸送体の最大ファミリーの1つであり、ユニポーター−シンポーター−アンチポーターファミリーとも呼ばれる。MFS輸送体は、イオン勾配に応じて小溶質を輸送する、単一ポリペプチドキャリアである。MFSのメンバーは、すべてのクラスの生物に見られ、糖、オリゴ糖、リン酸、硝酸、ヌクレオシド、モノカルボン酸及び薬剤のための輸送体を含む。真核生物に見られるMFS輸送体はすべて12個の膜貫通セグメントを含む構成となっている(Pao, S. S. 他 (1998) Microbiol. Molec. Biol. Rev. 62:1-34)。MFS輸送体の最大のファミリーは糖輸送体ファミリーであり、ヒトに見られるような、グルコース及びその他の六炭糖の輸送に必要な7つのグルコース輸送体(GLUT1〜GLUT7)を含む。これらのグルコース輸送タンパク質は、独自の組織分布及び生理学的機能を有する。GLUT1は、基礎的グルコース要求量を多くの細胞型に提供して、上皮及び内皮の障壁組織を通ってグルコースを輸送し、GLUT2は、グルコースの取り込みまたは肝臓からの流出を促進し、GLUT3は、ニューロンへのグルコースの供給を調整し、GLUT4は、インスリンによって調整されるグルコース処理に関与し、GLUT5は、骨格筋へのフルクトースの取り込みを調節する。グルコース輸送体の欠陥は、最近同定された神経症候群であって、グリコーゲン貯蔵病、ファンコーニ−ビッケル症候群、及び非インスリン依存糖尿病のみならず、乳幼児けいれん及び発達遅滞の原因となるような神経症候群に関与している(Mueckler, M. (1994) Eur. J. Biochem. 219:713-725、Longo, N. および L. J. Elsas (1998) Adv. Pediatr. 45:293-313)。
【0005】
モノカルボン酸アニオン輸送体は、L-乳酸、ピルビン酸及びケトン体アセテート、アセトアセテート及びβヒドロキシ酪酸を含む広範な基質特異性を有するプロトン共役シンポーターである。これまでに少なくとも7つのアイソフォームが同定されている。アイソフォームは、TM6とTM7との間に大きな細胞内ループを有する12個の膜貫通(TM)らせん状ドメインを有し、解糖中に乳酸と共に化学量論的に生成されるプロトンを除去することにより、細胞内pHを維持する際に重要な役割を果たすと推定されている。最も良く特徴付けられたH+ モノカルボン酸輸送体は、L-乳酸及び広範囲の他の脂肪族モノカルボン酸を輸送する赤血球膜の輸送体である。その他の細胞は、異なる基質選択性及び抑制因子選択性を有するH+ 共役モノカルボン酸輸送体を有する。特に心筋及び腫瘍細胞は、数種の基質に対するKm値(D-乳酸よりL-乳酸を選択する立体化学的選択性を含む)及び抑制因子に対する感受性が異なる輸送体を有する。腸管及び腎臓上皮の管腔表面にNa+ モノカルボン酸共輸送体があり、それによってこれらの組織における乳酸、ピルビン酸及びケトン体の取り込みが可能になる。更に、腎臓、腸及び肝臓を含む器官に、有機カチオン及び有機アニオンのための特異的且つ選択的な輸送体がある。有機アニオン輸送体は、電子求引側基を有する疎水性の荷電分子に選択的である。アンモニウム輸送体などの有機カチオン輸送体は、種々の薬剤及び内因性代謝物の分泌を媒介し、細胞内pHの維持に寄与する(Poole, R. C. 及び A. P. Halestrap (1993) Am. J. Physiol. 264:C761-C782、Price, N. T. 他 (1998) Biochem. J. 329:321-328、Martinelle, K. 及び I. Haggstrom (1993) J. Biotechnol. 30:339-350)。
【0006】
ATP結合カセット(ABC)輸送体は、イオン、糖、アミノ酸、ペプチド、リン脂質のような小分子からリポペプチド、大タンパク質、及び複雑な疎水性薬剤までに及ぶ物質を輸送するような、膜タンパク質のスーパーファミリーのメンバーである。ABC輸送体は、4つのモジュール即ち2つのヌクレオチド結合ドメイン(NBD)及び2つの膜貫通ドメイン(MSD)を含む。NBDは、ATPを加水分解して輸送に必要なエネルギーを供給し、各MSDは、推定上の6つの膜貫通セグメントを含む。これら4つのモジュールは、単一の遺伝子または別々の遺伝子によりコードし得る。単一の遺伝子によりコードし得るのは、嚢胞性繊維症膜貫通調節因子(CFTR)に対する場合などである。別々の遺伝子にコードされる場合には、各遺伝子産物には1つのNBD及び1つのMSDが含まれる。これらの「半分子」は、小胞体での主要組織適合性(MHC)ペプチド輸送系であるTap1及びTap2などのホモ及びヘテロ二量体を形成する。幾つかの遺伝病は、ABC輸送体の欠陥に起因し、その疾患及びそれに対応するタンパク質の例としては、嚢胞性繊維症(CFTR、イオンチャネル)、副腎白質ジストロフィー(副腎白質ジストロフィータンパク質、ALDP)、ツェルヴェーガー症候群(ペルオキシソーム膜タンパク質-70、PMP70)及び高インスリン性低血糖症(スルホニル尿素受容体、SUR)がある。別のABC輸送体である多剤耐性(MDR)タンパク質がヒトの癌細胞において過剰発現すると、化学療法に用いられる種々の細胞毒性薬剤に対して細胞が耐性を有する(Taglicht, D. および S. Michaelis (1998) Meth. Enzymol. 292:130-162)。
【0007】
鉄、亜鉛、銅、コバルト、マンガン、モリブデン、セレン、ニッケル、クロムなどの多数の金属イオンは、多数の酵素に対する補助因子として重要である。例えば銅は、スーパーオキシドジスムターゼ、フェロキシダーゼ(セルロプラスミン)およびリジルオキシダーゼ等の酸化還元酵素の補因子として作用することによって、ヘモグロビン合成、結合組織の代謝および骨の発達に関与している。銅およびその他の金属イオンは食餌で摂取する必要があり、胃腸管の輸送体によって吸収される。血漿タンパク質は、金属イオンを肝臓及びその他の標的器官へ輸送し、ここで特異的輸送体群が必要に応じてイオンを細胞及び細胞のオルガネラに移動させる。金属イオン代謝の不均衡は、多数の病態に関連してきた(Danks, D. M. (1986) J. Med. Genet. 23:99-106)。
【0008】
P型ATP分解酵素はカチオン輸送膜貫通タンパク質の一つのクラスからなる。これらは、膜内在性タンパク質で、アスパルチルホスフェート中間体を使ってカチオンを膜通過させる。P型ATP分解酵素の特徴には、(i) カチオンチャネル、(ii) 膜貫通αへリックスの細胞質内への伸長によって形成される柄、(iii) ATP結合ドメイン、(iv)リン酸化アスパラギン酸、(v)隣接伝達ドメイン、(vi) 反応サイクルの一部としてアスパラギン酸からリン酸を除くホスファターゼドメイン、(vii)6個以上の膜貫通ドメインが含まれる。このクラスには重金属輸送ATP分解酵素とアミノリン脂質輸送体が含まれる。
【0009】
アミノリン脂質転位酵素によるホスファチジルセリンとホスファチジルエタノールアミンの輸送によって、二重層の一つの側から他の側へこれらの分子が移動される。この輸送はP型ATP分解酵素の新しく同定されたサブファミリによって行われ、このP型ATP分解酵素は両親媒性の輸送体であることが提唱されている。両親媒性輸送体は親水性領域と疎水性領域の両方を持つ分子を移動させる。このP型ATP分解酵素サブファミリに属する17種ほどの異なった遺伝子は、いくつかの異なったクラスとサブクラスのグループに分けられる(Halleck, M.S. 他(1999) Physiol. Genomics 1:139-150; Vulpe,C. 他 (1993) Nat. Genet. 3:7-13)。
【0010】
原形質膜を通過する脂肪酸の輸送は、高容量の低親和性プロセスである拡散により起こりうる。しかしながら、正常な生理学的条件下では、脂肪酸輸送の有意の割合が、高親和性、低容量のタンパク質媒介輸送プロセスによって起こっているように見える。脂肪酸輸送タンパク質(FATP)は、4つの膜貫通セグメントを有する膜内在性タンパク質であり、筋肉、心臓及び脂肪などの、高レベルの原形質膜脂肪酸流入を示す組織において発現される。FATPの発現は、脂肪変換中に3T3-L1細胞において上方制御され、COS7線維芽細胞における発現は、長鎖脂肪酸の取り込みを増加させる(Hui, T. Y. 他 (1998) J. Biol. Chem. 273:27420-27429)。
【0011】
リポカリンスーパーファミリは、小さな疎水性分子に結合して輸送する細胞外リガンド結合タンパク質として機能する40以上のタンパク質群であり、系統的に保存されている。このファミリのメンバーはレチノイド、臭気物質、発色団、フェロモン、アレルゲンおよびステロールのキャリアーとして機能し、また栄養輸送、細胞成長調節、免疫応答、およびプロスタグランジン合成を含むさまざまなプロセスにおいて機能する。これらのタンパク質のあるサブセットは、多機能で、生合成酵素または特異的酵素インヒビターとしての役割を果たしている可能性がある(Tanaka, T. 他 (1997) J. Biol. Chem. 272:15789-15795; および van't Hof, W. 他 (1997) J. Biol. Chem. 272:1837-1841)。リポカリンのファミリのメンバーは、異常に低い全体的な配列保存レベルを示す。ペアワイズの配列同一性はしばしば20%以下に落ちる。ファミリメンバー間の配列類似性は、ジスルフィド結合を形成する保存されたシステイン、および標的細胞認識部位として機能する並列クラスターを形成する3つのモチーフに限定されている。リポカリン類は1枚の8本鎖逆平行βシートを共有する。このシートはそれ自体が折れ曲がることにより、連続的に水素結合したβバレルを形成する。このバレルが形成するポケットは、内部リガンド結合部位として機能する。7つのループ(L1〜L7)は短いβヘアピン群を形成するが、ループL1のみは大きなオメガループであって蓋を形成し、この内部リガンド結合部位を部分的に閉鎖する(Flower (1996) Biochem. J. 318:1-14)。
【0012】
リポカリンは重要な輸送分子である。各リポカリンは、特定のリガンドと会合して、そのリガンドを生物体の中の適切な標的部位に送達する。最もよく研究されたリポカリンの一つであるレチノール結合タンパク質(RBP)は、肝臓内の貯蔵場所からレチノールを標的組織に輸送する。アポリポプロテインD(アポD)は高密度リポプロテイン(HDL)と低密度リポプロテイン(LDL)のコンポーネントであり、全身のコレステロールの標的を特定した収集と送達の役割を果たす。リポカリンは細胞の調節過程にも関与する。アポDは巨視的(グロス)嚢胞性疾患液タンパク質(GCDFP)24と同じもので、乳房の嚢胞液内に高レベルで発現するプロゲステロン/プレグネノロン結合タンパク質である。数種のヒト乳癌細胞株におけるアポDの分泌は、細胞増殖の低減および、細胞の、より分化した表現型への進行を伴う。同様に、アポDと他のリポカリンであるα1-酸糖タンパク質 (AGP)は神経細胞再生に関与している。AGPは、また、抗炎症活性および免疫抑制活性にも関与する。AGPは、ポジティブな急性期タンパク質(APP)の1種であり、AGPの循環レベルの増加は、ストレスおよび炎症の刺激に応答して起こる。AGPは炎症部位に蓄積し、血小板と好中球の活性化を阻害し、食細胞活動を阻害する。AGPの免疫調節特性はグリコシル化に起因している。AGPは40%が糖質であるため、異常に酸性で可溶性である。AGPのグリコシル化パターンは急性期反応中に変化し、脱グリコシル化されたAGPは免疫抑制活性を持っていない(Flower (1994) FEBS Lett. 354:7-11; 前出Flower (1996))。
【0013】
リポカリンスーパーファミリにはまた、いくつかの動物アレルゲンが含まれる。例えばマウス主要尿タンパク質(mMUP)、ラットα-2-ミクログロブリン (rA2U) 、ウシβ-ラクトグロブリン (βlg) 、ゴキブリのアレルゲン (Bla g4) 、ウシふけ(dander)アレルゲン (Bos d2) 、および、主要なウマのアレルゲンであるEquus caballus アレルゲン 1 (Equ c1)を含む。Equ c1は、慢性的にウマのアレルゲンに曝される患者の抗ウマIgE抗体反応の原因の約80%を占める強力なアレルゲンである。リポカリンはIgE反応を誘発する能力を持った共通の構造を持っているように見える(Gregoire, C. 他,(1996) J. Biol. Chem. 271:32951-32959)。
【0014】
リポカリン類は、診断マーカーおよび予後マーカーとして、多様な病態において用いられる。AGPの血漿レベルの測定は、妊娠時や、以下の状況での診断と予後診断とにおいてなされる。すなわち例えば癌化学療法、腎臓機能障害、心筋梗塞、関節炎、および多発性硬化症などを含む状況である。RBPは臨床上、腎臓の尿細管再吸収のマーカーとして利用され、また、apo Dは、グロス嚢胞性乳房疾患(gross cystic breast disease)におけるマーカーである(Flower (1996) 、前出)。さらに、リポカリン動物アレルゲンの使用は、ウマ(前出のGregoire)、ブタ、ゴキブリ、マウスおよびラットへのアレルギー反応の診断に役立つ可能性がある。
【0015】
ミトコンドリア担体タンパク質は、細胞質及びミトコンドリア基質の間でイオン及び荷電代謝産物を輸送する膜貫通タンパク質である。例として、ADP、ATP担体タンパク質、2-オキソグルタル酸/リンゴ酸担体、リン酸担体タンパク質、ピルビン酸担体、ジカルボン酸担体(リンゴ酸、コハク酸、フマル酸及びリン酸を輸送する)、トリカルボン酸担体(クエン酸及びリンゴ酸を輸送する)、及びグレーブス病担体タンパク質(即ち甲状腺機能亢進症の原因となる自己免疫異常である活性グレーブス病を患った患者のIgGにより認識されたタンパク質)がある。このファミリーのタンパク質は、約100アミノ酸ドメインの3つのタンデムリピートからなり、各タンデムリピートは2つの膜貫通領域を有する(Stryer, L. (1995) Biochemistrv, W. H. Freeman and Company, New York NY, 551頁、PROSITE PDOC00189 Mitochondrial energy transfer proteins signature、Online Mendelian Inheritance in Man (OMIM) *275000 Graves Disease)。
【0016】
このクラスの輸送体には、またミトコンドリア脱共役タンパク質も含まれる。この脱共役タンパク質はミトコンドリア内膜でプロトンリークを起こさせ、酸化的リン酸化をATP合成から脱共役させる。結果として、熱の形態でのエネルギー散逸が起こる。ミトコンドリア脱共役タンパク質は、温度調節及び代謝率のモジュレーターと関連するとされており、肥満症などの代謝疾患に対する薬剤の可能性のある標的として提案されてきた(Ricquier, D. 他 (1999) J. Int. Med. 245:637-642)。
【0017】
イオンチャネル
細胞の電位は、原形質膜を通過するイオンの動きを制御することにより起こり、かつ維持される。イオンが動くためには、膜内にイオン選択性ポアを形成するようなイオンチャネルを必要とする。イオンチャネルには2つの基本型があり、それはイオン輸送体とゲート型イオンチャネルである。イオン輸送体は、ATP加水分解から得られるエネルギーを利用して、イオンの濃度勾配に逆らってイオンを能動的に輸送する。ゲート型イオンチャネルは、制限された条件下でイオンの電気化学勾配に従ってイオンの受動的流動を起こさせる。これらのタイプのイオンチャネルは共に、1)神経細胞の軸索に沿った電気インパルス伝導、2)濃度勾配に逆らった細胞内への分子の輸送、3)筋収縮の開始、及び4)内分泌細胞の分泌に用いられるような電気化学勾配を、発生させ、維持し、利用する。
【0018】
イオン輸送体
イオン輸送体は、細胞の静止電位を発生させ及び維持する。ATP加水分解に由来するエネルギーを利用して、イオン輸送体は、イオンの濃度勾配に逆らってイオンを輸送する。これらの膜貫通ATPアーゼは、3つのファミリーに区分される。リン酸化(P)クラスイオン輸送体には、Na+/K+ ATP分解酵素、Ca2+ ATP分解酵素及びH+ ATP分解酵素があり、リン酸化イベントによって活性化される。Pクラスイオン輸送体は、Na+ 及びCa2+ のサイトゾル内濃度が低く、K+ のサイトゾル内濃度が高くなるように静止電位の分布を維持するのに関与している。液胞(V)クラスのイオン輸送体には、リソソーム及びゴルジなどの細胞内オルガネラ上のH+ ポンプがある。オルガネラの内腔内では低いpHが、その機能に必要であり、Vクラスイオン輸送体は、その低pHを発生させるのに関与している。共役因子(F)クラスは、ミトコンドリアのH+ ポンプからなる。Fクラスイオン輸送体は、プロトン勾配を利用してADP及び無機リン酸(Pi)からATPを生成する。
【0019】
P-ATPアーゼは、イオン結合に関与し得るような、10個の膜貫通ドメイン及び幾つかの大きな細胞質領域を有する100 kD サブユニットの六量体である(Scarborough, G. A. (1999) Curr. Opin. Cell Biol. 11:517-522)。P型ATP分解酵素はアスパルチルホスフェート中間体を用いてカチオンを膜通過させる。P型ATP分解酵素の特徴には、(i) カチオンチャネル、(ii) 膜貫通αへリックスの細胞質への伸長によって形成された柄(ストーク)、(iii) ATP結合ドメイン 、(iv)リン酸化アスパラギン酸、(v)隣接伝達ドメイン、(vi) 反応サイクルの一部としてアスパラギン酸からリン酸を除くホスファターゼドメイン、(vii)6個以上の膜貫通ドメインが含まれる。このクラスには重金属輸送ATP分解酵素とアミノリン脂質輸送体が含まれる。FIC1 遺伝子は、突然変異して遺伝性胆汁鬱滞の2つの形態になるP型ATP分解酵素をコードする。FIC1 のタンパク質産物は肝臓での胆汁酸循環に必須の役割を果たしている可能性がある(Bull, L.N. 他 (1998) Nat. Genet. 18:219-224)。V-ATPアーゼは、2つの機能的ドメインから構成される。V1ドメインは、ATP加水分解に関与する周辺複合体であり、V0ドメインは、プロトンの膜通過移動に関与する、膜内在性の複合体である。F-ATP分解酵素は、構造的及び進化的にV-ATP分解酵素に関連する。F-ATP分解酵素F0ドメインは、12個のコピーのcサブユニットを含んでおり、各サブユニットは高度に疎水性のタンパク質で、2つの膜貫通ドメインから成り、プロトン輸送に不可欠なTM2に1つの埋没されたカルボキシル基を含む。V-ATP分解酵素V0ドメインは、TM4またはTM3に4つまたは5つの膜貫通ドメイン及び必須カルボキシル基を有する3つの型の相同cサブユニットを含む。複合体の両型は、活性のpH依存性の制御に関与し得る単一サブユニットも含む(Forgac, M. (1999) J. Biol. Chem. 274:12951-12954)。
【0020】
細胞の静止電位は、キャリアタンパク質及びゲート型イオンチャネルに関連する多くのプロセスに利用される。キャリアタンパク質は、静止電位を利用して分子を細胞内外に輸送する。多くの細胞へのアミノ酸及びグルコースの輸送は、ナトリウムイオン共輸送(シンポート)にリンクされ、Na+ の電気化学勾配に従った動きが他の分子を濃度勾配に逆らって輸送させる。同様にして、心筋は、細胞からのCa2+ の移動を細胞内へのNa+の輸送にリンクさせる(アンチポート)。
【0021】
ゲート型イオンチャネル
ゲート型イオンチャネルは、ポアの開閉を調節することによってイオンの流れを制御する。種々のゲーティング機構によってイオン流束を制御する能力は、ニューロン及び内分泌シグナル伝達、筋収縮、受精並びに、イオン及びpHバランスの調整などの多様なシグナル伝達及び恒常性機能をイオンチャネルに媒介させ得る。ゲート型イオンチャネルは、開口機能の制御方法に応じて区分される。機械依存性チャネルは、機械的応力に応じてポアを開け、電位依存性チャネル(例えばNa+、K+、Ca2+ 及びCl- チャネル)は膜電位の変化に応じてポアを開け、リガンド依存性チャネル(例えばアセチルコリン依存性、セロトニン依存性、及びグルタミン依存性カチオンチャネル、並びにGABA依存性及びグリシン依存性クロライドチャネル)は、特定のイオン、ヌクレオチドまたは神経伝達物質の存在下でポアを開ける。特定のイオンチャネルの開口特性(即ち開閉に対するその閾値及び持続時間)は、補助チャネルタンパク質及び/または、リン酸化などの翻訳後修飾と関連して時折調節される。
【0022】
機械刺激依存性または機械刺激感受性イオンチャネルは、触覚、聴覚及び平衡感覚のトランスデューサとして作用し、細胞容積調整、平滑筋収縮及び心リズム生成においても重要な役割を果たす。伸展不活性化チャネル(SIC)は、最近ラットの腎臓からクローニングされた。SICチャネルは、細胞膜への圧力またはストレスによって活性化され、Ca2+及びNa+ を共に伝導するようなあるグループのチャネルに属している(Suzuki, M. 他 (1999) J. Biol. Chem. 274:6330-6335)。
【0023】
電位依存性カチオンチャネルのポア形成サブユニットは、イオンチャネルタンパク質のスーパーファミリーを形成する。これらのチャネルタンパク質の特徴的なドメインには、6つの膜貫通ドメイン(S1〜S6)、S5とS6との間にあるポア形成領域(P)及び、細胞内にあるアミノ末端及びカルボキシ末端がある。Na+ 及びCa2+ サブファミリーでは、このドメインは4回繰り返され、K+チャネルサブファミリーでは、各チャネルは、同一または非類似のいずれかであるサブユニットの四量体から形成される。P領域は、チャネルに対するイオン選択性を特定する情報を含む。K+ チャネルの場合、GYGトリペプチドがこの選択性に関与する(Ishii, T. M. 他 (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:11651-11656)。
【0024】
電位依存性Na+ 及びK+ チャネルは、神経及び筋肉細胞などの電気的興奮性細胞の機能に必要である。神経伝達物質放出及び筋収縮の原因となる活動電位は、Na+及びK+ イオンの膜透過性における大きな一過的変化から生じる。閾値レベルを超えた膜の脱分極は、電位依存性Na+ チャネルを開く。ナトリウムイオンは、細胞へ流れ、膜を更に脱分極してより多くの電位依存性Na+チャネルを開き、このようにして脱分極が細胞に沿って伝わっていく。脱分極はまた、電位依存性カリウムチャネルを開く。結果として、カリウムイオンは外向きに流れ、それによって膜の再分極が生じる。電位依存性チャネルは、第4膜貫通セグメント(S4)において荷電した残基を利用して電圧変化を検出する。開状態は、約1ミリ秒しか持続せず、その約1ミリ秒後に、チャネルは膜電位と無関係に開き得ない不活性化状態に自然に変換する。不活性化は、ポアを閉じるプラグとして作用するようなチャネルのN末端によって媒介される。不活性化状態から閉状態へ遷移するには、静止電位に戻ることが必要である。
【0025】
電位依存性Na+ チャネルは、2つの更に小さな補助サブユニットβ1及びβ2に会合する260 kDaのポア形成αサブユニットから構成されるようなヘテロ三量体の複合体である。β2サブユニットは、細胞外Igドメインを含む内在性膜糖タンパク質であり、そのα及びβ1サブユニットとの会合は、チャネルの機能的発現の増加と、そのゲーティング特性の変化と、膜表面面積の増加に起因する全細胞キャパシタンスの増加とに相関する(Isom, L. L. 他 (1995) Cell 83: 433-442)。
【0026】
非電位依存性Na+ チャネルには、アミロライド感受性Na+ チャネル/degenerin(NaC/DEG)ファミリーのメンバーが含まれる。このファミリーのチャネルサブユニットは、アミノ末端及びカルボキシル末端が細胞内にあり、長い細胞外ループに隣接する2つの膜貫通ドメインを含むと考えられる。NaC/DEGファミリーには、気道、遠位結腸、腎臓の皮質集合管及び外分泌有導管腺(exocrine duct glands)を含む上皮におけるNa+ 再吸収に関与する上皮性Na+ チャネル(EnaC)がある。EnaCにおける突然変異は、1型偽性低アルドステロン症及びリドル症候群(偽性高アルドステロン症)を引き起こす。NaC/DEGファミリーには、最近特徴付けられたH+ 依存性カチオンチャネルまたは酸感受性イオンチャネル(ASIC)もある。ASICサブユニットは、脳で発現し、ヘテロ多量体のNa+ 透過性チャネルを形成する。これらのチャネルは、活性化のために酸性pH変動を必要とする。ASICサブユニットは、元々は線虫から単離された機械刺激依存性チャネルのファミリーであるdegenerinとの相同性を示す。degenerinでの突然変異は、神経変性を引き起こす。組織アシドーシスが痛みの原因となるため、ASICサブユニットは、神経機能または痛みの知覚にも関与し得る(Waldmann, R. および M. Lazdunski (1998) Curr. Opin. Neurobiol. 8:418-424; Eglen, R. M. 他 (1999) Trends Pharmacol. Sci. 20:337-342)。
【0027】
K+ チャネルはすべての細胞種に存在し、電圧、ATP濃度、またはCa2+ 及びcAMPなどのセカンドメッセンジャーによってK+ チャネルを制御し得る。非興奮性組織では、K+ チャネルが、タンパク質合成、内分泌性分泌の制御、及び、膜内外の浸透平衡の維持に関与している。ニューロン及びその他の興奮性細胞では、活動電位の調整及び膜の再分極に加えて、K+ チャネルが静止膜電位の設定に関与する。サイトゾルは、非拡散性アニオンを含み、この負の電荷総ての平衡を保持するために、細胞にはNa+、K+ 及びCl- の再分布を提供するNa+/K+ ポンプ及びイオンチャネルが含まれる。ポンプは、能動的にNa+ を細胞外へ輸送し、K+ を細胞内に輸送する(Na+:K+ の割合は3:2である)。原形質膜のイオンチャネルは、K+ 及びCl- が受動的な拡散により流出入することを許容する。サイトゾル内の電荷が高度に負であるので、Cl- は細胞外に流出する。K+ の流れは、K+ を細胞内に引き込む起電力及びK+ を細胞外に押し出すK+濃度勾配によって均衡が保たれる。従って、静止膜電位は、主としてK+ の流れによって調整される(Salkoff, L. および T. Jegla (1995) Neuron 15:489-492)。
【0028】
Shaker様スーパーファミリーのカリウムチャネルサブユニットはすべて6つの膜貫通ドメイン/1つのポアドメイン構造の特徴を有する。4つのサブユニットは、ホモまたはヘテロ四量体として結合し、機能的Kチャネルを形成する。これらのポア形成サブユニットは、チャネル不活性化動力学を変化させるような種々の細胞質βサブユニットとも関連している。Shaker様チャネルファミリーには、QT延長症(1種の心律動異常症候群/不整脈)に関連するようなヒトether-a-go-go関連遺伝子(HERG)などの遅延整流型チャネルや、電位依存性K+チャネルがある(Curran, M. E. (1998) Curr. Opin. Biotechnol. 9:565-572、Kaczarowski, G. J. および M. L. Garcia (1999) Curr. Opin. Chem. Biol. 3:448-458)。
【0029】
K+ チャネルの第2のスーパーファミリーは、内向き整流型チャネル(Kir)で構成される。Kirチャネルは、優先的にK+ の流れを内向きに導く特性を有する。これらのタンパク質は、1つのカリウム選択性ポアドメイン及び2つの膜貫通ドメインから構成され、これらは電位依存性K+チャネルの第5及び第6膜貫通ドメインに対応する。Kirサブユニット群は、四量体としても会合している。Kirファミリーには、腎尿細管疾患のバーター症候群の原因となる突然変異であるROMK1がある。Kirチャネルは、心臓ペースメーカー活動の調整、発作及びてんかん、並びにインスリン調整にも関与している(Doupnik, C. A. 他 (1995) Curr. Opin. Neurobiol. 5:268-277、前出のCurran)。
【0030】
最近認識されたTWIK K+ チャネルファミリーには、哺乳類のTWIK-1、TREK-1及びTASKタンパク質がある。このファミリーのメンバーは、4つの膜貫通ドメイン及び2つのPドメインを含む全体構造を有する。これらのタンパク質は、おそらく多くの細胞種における静止電位の制御に関与している(Duprat, F. ら (1997) EMBO J 16:5464-5471)。
【0031】
電位依存性Ca2+ チャネルは、電気生理学的特性及び薬理学的特性に基づき、幾つかのサブタイプに区分されてきた。L型Ca2+ チャネルは、心筋及び骨格筋に優勢に発現し、興奮収縮連関において不可欠な役割を果たす。T型チャネルは、心臓ペースメーカー活動に重要であり、N型及びP/Q型チャネルは、中枢及び抹消神経系における神経伝達物質放出の制御に関与している。L型及びN型電位依存性Ca2+ チャネルは精製されており、両チャネルは機能が非常に異なるが、類似のサブユニット組成を有する。両チャネルは、3つのサブユニットを含む。α1 サブユニットは膜のポアと電位センサーを形成するが、α2δと β サブユニットはチャネルの電位依存性、開口特性および電流振幅を調節する。これらのサブユニットは少なくとも6つのα1、1つのα2δおよび4つのβ遺伝子によってコードされる。四番目のサブユニットであるγは骨格筋で同定された(Walker, D. 他 (1998) J. Biol. Chem. 273:2361-2367; McCleskey, E.W. (1994) Curr. Opin. Neurobiol. 4:304-312)。
【0032】
生化学的特性が研究されてきた高電位活性化Ca 2+ チャネルには、約190〜250 kDaのポア形成アルファ1サブユニットの複合体、アルファ2およびデルタサブユニットの膜貫通複合体、細胞内ベータサブユニット、および場合によっては膜貫通ガンマサブユニットを含む。さまざまなアルファ1サブユニット、アルファ2デルタ複合体、ベータサブユニットおよびガンマサブユニットが知られている。アルファ1サブユニットのCav1ファミリはLタイプCa 2+ 電流を流し、それによって筋肉の収縮、内分泌および遺伝子の転写が始まる。LタイプCa 2+ 電流の調節は主にセカンドメッセンジャー活性化タンパク質リン酸化経路によって行われる。アルファ1サブユニットのCav2ファミリはNタイプ、P/QタイプおよびRタイプのCa 2+ 電流を流し、それによって急速なシナプス伝達が始まる。調節は主にGタンパク質およびSNAREタンパク質との直接の相互作用によって、そして補助的にタンパク質リン酸化によって行われる。アルファ1サブユニットのCav3ファミリはTタイプのCa 2+ 電流を流すが、この活性化と不活性化は他のCa 2+ 電流タイプと比べてより速く起こり、またより負の膜電位で起こる。これら3つのファミリのCa 2+ チャネルの異なる構造と調節パターンにより、膜電位の変化に応答してさまざまなCa 2+ 流入経路が提供され、またセカンドメッセンジャー経路および相互作用するタンパク質によってCa 2+ の流入を調節するさまざまな可能性が提供される(Catterall, W.A. (2000) Annu. Rev. Cell Dev. Biol. 16:521-555)。
【0033】
電位依存性Ca 2+チャネルのアルファ2サブユニットは1つ以上のCache ドメインを含んでいる可能性がある。細胞外Cacheドメインは、細胞内触媒ドメイン(ヒスチジンキナーゼ、PP2Cホスファターゼ、GGDEF(推定ジグアニレートシクラーゼ)、HD-GYP(推定ホスホジエステラーゼ)、またはアデニリルシクラーゼドメイン等)あるいは非触媒ドメイン(メチル受容DNA結合ウィング付きヘリックス・ターン・ヘリックス、GAF、PASまたはHAMP(istidine キナーゼ、デニリルシクラーゼ、エチル結合タンパク質、およびホスファターゼに見られるドメイン)等)に融合している可能性がある。小さな分子はCacheドメインを通じて結合し、このシグナルが細胞内ドメインに依存して多様な出力に変換される(Anantharaman, V. および Aravind, L.(2000) Trends Biochem. Sci. 25:535-537)。
【0034】
カルシウムイオンチャネルの一過性受容体(電位)ファミリ(Trp)は容量性カルシウム流入(CCE)を媒介すると考えられている。CCEは、イノシトール三リン酸(IP3)や、多くのホルモンや成長因子に応答する他の物質の作用によって消耗されるCa2+ 貯蔵を再供給するためのCa2+ の細胞内への流入である。Trpおよび Trp様物質は、最初にショウジョウバエからクローンされ、S3 から S6領域における電位依存性Ca2+ チャネルに類似性を持つ。これはTrpおよび/またはその関連タンパク質が、哺乳動物のCCEチャネルを形成することを示唆する (Zhu, X. 他 (1996) Cell 85:661-671; Boulay, G. 他 (1997) J. Biol. Chem. 272:29672-29680)。メラスタチン(melastatin)はマウスおよびヒトの両方において単離された遺伝子であり、黒色腫細胞におけるその発現は、生体内における黒色腫の侵襲性と逆相関している。このヒトcDNA転写物は、Trpファミリのメンバーに相同性を有する1533基のアミノ酸をもつタンパク質に相当する。メラスタチンmRNA発現状態と腫瘍の厚さを組み合わせて利用すると、転移性疾患の発症に対するリスクの低いグループと高いグループに患者のグループ分けを決定できる可能性が提示されている (Duncan, L.M. 他(2001) J. Clin. Oncol. 19:568-576).。
【0035】
クロライドチャネルは、内分泌性分泌及び、細胞質およびオルガネラのpH調節に必要である。分泌上皮細胞では、Cl- はNa+、K+/Cl- 共輸送体によって側底膜を通過して細胞に入り、電気化学的平衡濃度以上で細胞内に蓄積する。ホルモンの刺激に応じて、尖端表面からのCl- を分泌することにより、Na+ 及び水が分泌性ルーメンに流入する。嚢胞性線維症膜通過伝導制御因子(CFTR)は、ヒトによく見られる致命的な遺伝病である嚢胞性繊維症のための遺伝子によってコードされるクロライドチャネルである。CFTRはABC輸送体ファミリーのメンバーであり、6つの膜貫通ドメインを各々有するような2つのドメインとその後に続くヌクレオチド結合部位から構成される。CFTR機能の損失は、経上皮水分泌を減少させ、結果的に、呼吸樹、膵管及び腸を被膜する粘液の層は、脱水されて、取り除くのが困難になる。結果的にこれらの部位が閉塞することにより、膵不全、「胎便性イレウス」及び悲惨な「慢性閉塞性肺疾患」を生じさせる(Al-Awqati, Q. 他 (1992) J. Exp. Biol. 172:245-266)。
【0036】
電位依存性クロライドチャネル(CLC)は、CBSドメインとして知られる2つの小球形ドメインの他に10〜12個の膜貫通ドメインによって特徴付けられる。CLCサブユニット群は、おそらくホモ四量体として機能する。CLCタンパク質は、細胞容積、膜電位安定化、シグナル伝達及び経上皮輸送の調整に関与している。骨格筋で主に発現されるようなCLC-1の突然変異は、常染色体劣性全身性ミオトニー及び常染色体優性先天性ミオトニーの原因であり、腎臓チャネルCLC-5における突然変異は、腎臓結石を引き起こす(Jentsch, T. J. (1996) Curr. Opin. Neurobiol. 6:303-310)。
【0037】
リガンド依存性チャネルがポアを開くのは、細胞外または細胞内メディエータがチャネルに結合するときである。神経伝達物質依存性チャネルは、神経伝達物質が細胞外ドメインに結合すると開くチャネルである。これらのチャネルは、神経または筋肉細胞のシナプス後膜に存在する。神経伝達物質依存性チャネルには、2つの型がある。ナトリウムチャネルは、アセチルコリン、グルタミン酸及びセロトニンなどの興奮性神経伝達物質に応じて開く。こうして開くことによって、Na+ の流入を引き起こし、電位依存性チャネルを活性化して活動電位を開始する最初の局在脱分極を提供する。クロライドチャネルは、γアミノ酪酸(GABA)及びグリシンなどの抑制神経伝達物質に応じて開き、膜の過分極及びそれに続く活動電位の生成を引き起こす。神経伝達物質依存性イオンチャネルは、4つの膜貫通ドメインを有し、おそらく五量体として機能する(前出のJentsch)。第2膜貫通ドメインのアミノ酸は、チャネル透過性及び選択性の決定において重要であるように見える(Sather, W. A. 他 (1994) Curr. Opin. Neurobiol. 4:313-323)。
【0038】
リガンド依存性チャネルは、細胞内のセカンドメッセンジャーによって制御することができる。例えば、カルシウム活性化K+ チャネルは、内部カルシウムイオンによってゲーティングされる。神経細胞では、脱分極中のカルシウムの流入は、K+ チャネルを開いて活動電位の大きさを調節する(前出のIshiiら)。大コンダクタンス(BK)チャネルは、脳から精製され、そのサブユニット組成が決定された。BKチャネルのαサブユニットは、電位依存性K+ チャネルとは対照的に6つでなく7つの膜貫通ドメインを有する。付加的な膜貫通ドメインは、サブユニットN末端に位置する。サブユニットのC末端領域(「カルシウムボウル(calcium bowl)」領域)の28個のアミノ酸ストレッチは、負に荷電した残基を多数含み、カルシウム結合に責任を果たす領域であると考えられる。βサブユニットは、グリコシル化細胞外ループによって結合された2つの膜貫通ドメインを含み、細胞内にN末端及びC末端を有する(前出のKaczorowski、Vergara, C. ら (1998) Curr. Opin. Neurobiol. 8:321-329)。
【0039】
サイクリックヌクレオチド依存性(CNG)チャネルは、サイトゾルのサイクリックヌクレオチドによってゲーティングされる。最も良い例は、嗅覚に関与するcAMP依存性Na+ チャネルと、視覚に関与するcGMP依存性カチオンチャネルである。両システムは、Gタンパク質共役受容体のリガンド媒介活性化に関与し、Gタンパク質共役受容体は次に細胞内でのサイクリックヌクレオチドのレベルを変化させる。CNGチャネルはまた、Ca2+ がニューロンに入る主要経路を示し、ニューロンの発達及び可塑性において役割を果たす。CNGチャネルは、少なくとも2つのタイプのサブユニット即ち機能的ホモマーチャネルを形成し得るαサブユニットとチャネル特性を調節するβサブユニットとを含む四量体である。すべてのCNGサブユニットは、電位依存性K+ チャネルに類似の、6つの膜貫通ドメイン及び、第5及び第6膜貫通ドメインの間のポア形成領域を有する。大きなC末端ドメインにはサイクリックヌクレオチド結合ドメインが含まれ、N末端ドメインはチャネルサブタイプ間に変異をもたらす(Zufall, F. ら (1997) Curr. Opin. Neurobiol. 7:404-412)。
【0040】
別のタイプのイオンチャネルタンパク質の活性は、種々の細胞内シグナル伝達タンパク質によっても調節し得る。多くのチャネルは、1個以上のプロテインキナーゼによるリン酸化部位を有する。プロテインキナーゼには、プロテインキナーゼA、プロテインキナーゼC、チロシンキナーゼ及びカゼインキナーゼIIがあり、これらはすべて細胞のイオンチャネル活性を調節する。Kirチャネルは、ヘテロ三量体Gタンパク質のGβγサブユニットの結合により活性化される(Reimann, F. および F. M. Ashcroft (1999) Curr. Opin. Cell. Biol. 11:503-508)。別のタンパク質は、細胞膜の特定部位へのイオンチャネルの局在化に関与している。このようなタンパク質にはPDZドメインタンパク質があり、これはニューロンのシナプスでイオンチャネルのクラスター形成を調整するMAGUK(膜関連グアニル酸キナーゼ)として知られている(Craven, S. E. および D. S. Bredt (1998) Cell 93:495-498)。
【0041】
疾患との相関関係
多くのヒトの疾患及び障害の原因は、膜を通過する分子輸送における欠陥に帰しし得る。膜結合輸送体及びイオンチャネルの輸送における欠陥は、嚢胞性繊維症、グルコース−ガラクトース吸収不良症候群、高コレステロール血症、フォンギールケ病及び或る種の糖尿病など幾つかの疾患に関連している。膜を通過して小分子を輸送できなくなる単一遺伝子の欠陥による疾患には、例えばシスチン尿症、イミノグリシン尿症、Hartup病及びファンコーニ病がある(van't Hoff, W. G. (1996) Exp. Nephrol. 4:253-262、Talente, G. M. ら (1994) Ann. Intern. Med. 120:218-226、及びChillon, M. ら (1995) New Engl. J. Med. 332:1475-1480)。
【0042】
イオンチャネル遺伝子における突然変異に起因するヒト疾患には、骨格筋、心筋及び中枢神経系の疾患がある。ナトリウムチャネル及びクロライドチャネルのポア形成サブユニットにおける突然変異は、ミオトニーを引き起こす。ミオトニーは、随意収縮後の弛緩が遅れる筋肉障害である。ナトリウムチャネルミオトニーは、チャネル遮断薬で治療されてきた。筋肉のナトリウム及びカルシウムチャネルにおける突然変異は、数種の周期性麻痺を引き起こし、筋形質カルシウム放出チャネル、T細管カルシウムチャネル及び筋肉ナトリウムチャネルにおける突然変異は、悪性高熱症を引き起こす。QT延長症候群及び特発性心室細動などの心不整脈疾患は、カリウム及びナトリウムチャネルにおける突然変異に起因する(Cooper, E. C. および L. Y. Jan (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96:4759-4766)。既知のヒト特発性てんかん遺伝子は、4つがすべてイオンチャネルタンパク質をコードする(Berkovic, S. F. および I. E. Scheffer (1999) Curr. Opin. Neurology 12:177182)。その他の神経疾患、例えば運動失調、片麻痺性片頭痛及び遺伝性難聴などもまた、イオンチャネル遺伝子における突然変異に起因し得る(Jen, J. (1999) Curr. Opin. Neurobiol. 9:274-280、前出のCooper)。
【0043】
イオンチャネルは、多くの薬物治療法に対する標的となっている。神経伝達物質依存性チャネルは、不眠症、不安、抑うつ症及び精神分裂病(統合失調症)の治療において標的とされて来た。電位依存性チャネルは、不整脈、虚血性発作、頭部外傷及び神経変性疾患の治療法において標的にされてきた(Taylor, C. P. および L. S. Narasimhan (1997) Adv. Pharmacol. 39:47-98)。種々のクラスのイオンチャネルは、痛みの知覚においても重要な役割を果たすので、新たな鎮痛薬の標的となり得る。このようなイオンチャネルにはバニロイド(vanilloid)依存性イオンチャネルがあり、これは侵害熱によってのみならずバニロイドであるカプサイシンによっても活性化される。電位依存性Na+ チャネルを遮断するリドカインやメキシレチンなどの局部麻酔薬は、神経障害性の痛みの治療において有用である(前出のEglen)。
【0044】
免疫調節のための標的として、最近では免疫系におけるイオンチャネルが示唆されている。T細胞活性化は、カルシウムシグナル伝達に依存し、多様なT細胞特異的イオンチャネルは、このシグナル伝達過程に影響することが特徴付けられている。チャネル遮断薬は、リンホカインの分泌、細胞増殖、及び標的細胞の死滅を阻害することができる。T細胞カリウムチャネルKv1.3のペプチドアンタゴニストは、ブタにおける遅延型過敏症及び異質遺伝子型反応を抑制し、安全で効果的な免疫抑制薬としてのチャネル遮断薬の使用のアイデアを実証している(Calahan, M. D. および K. G. Chandy (1997) Curr. Opin. Biotechnol. 8:749-756)。
老化
【0045】
大部分の通常の真核細胞は特定の回数、分裂した後、老化状態に入り、この状態において細胞は生存でき、代謝的に活性であるが、もはや複製はしない。細胞サイズの増加やpH依存性ベータガラクトシダーゼ活性のような多くの形質的変化、および特定遺伝子群の上方制御のような分子的変化が老化細胞(senescent cells)において生じる(Shelton (1999) Current Biology 9:939-945)。老化細胞が分裂促進因子に曝露されると、多数の遺伝子が上方制御されるが、細胞は増殖しない。老化細胞がin vivoで年齢とともに蓄積され、生体の老化(aging)に寄与していることが示されている。さらに、老化は腫瘍形成を抑制し、老化に必要な多くの遺伝子もまた、p53や網膜芽細胞腫感受性遺伝子のような癌抑制遺伝子として機能する。大部分の腫瘍はその複製限界を凌いだ細胞を含んでいる。つまり、これらは不死化されている。多くの癌遺伝子は腫瘍形成の第1段階として細胞を不死化する。
【0046】
酸化的ストレス、放射、活性化腫瘍性タンパク質および細胞周期阻害剤のような多様な挑戦によって老化表現型が誘発され、老化が多くの増殖的シグナルや、抗増殖的シグナルによって影響されることが示されている(Shelton 前出)。老化は各々の細胞分裂とともに発生するテロメアの進行的短縮化と相関している。細胞内のテロメラーゼの触媒的成分の発現によってテロメアの短縮化が防がれ、また線維芽細胞や上皮細胞のような細胞が不死化されるが、別種の細胞(例えばCD8+ T細胞)は不死化しない(Migliaccio 他(2000) J. Immunol. 165:4978-4984).。このようにして、テロメアの短縮化および、細胞種によってはその他の機構によって老化は制御される。
【0047】
加齢における老化と腫瘍形成の役割を理解するための進行中の研究の一部として、老化細胞と前老化細胞の間で異なって発現される多数の遺伝子が同定されている。大部分の老化細胞は細胞周期のG1期において増殖が静止されている。多くの細胞周期遺伝子の発現は老化細胞および前老化細胞に類似している(Cristofalo (1992) Ann. N. Y. Acad. Sci. 663:187-194)が、増殖を抑制するサイクリン依存性キナーゼp21 とp16、およびサイクリンD1とEのような他の遺伝子の発現は老化細胞において上昇している。細胞周期に直接関与していない他の遺伝子群もまた、細胞外基質タンパク質のフィブロネクチン、プロコラーゲン、およびオステオネクチンに、またコラゲナーゼ、ストロメライシンおよびカテプシンBのようなプロテアーゼに上方制御される(Chen (2000) Ann. N.Y. Acad. Sci. 908:111-125).。老化細胞において発現不足の遺伝子には、熱ショックタンパク質である c-fosと cdc-2 をコードする遺伝子が含まれる(Chen 前出)。
【0048】
P-糖タンパク質は免疫系の細胞に発現されるABC輸送体ファミリのメンバーであり、またサイトカインや細胞毒性分子の分泌に関与している。P-糖タンパク質の発現と機能は老化リンパ球において増大することが発見された。これらの相違は免疫応答における変化に関与し得る。これには、ヒトの加齢に伴う感染頻度や自己免疫現象の増加が含まれる(Aggrawal, S. 他(1997) J. Clin. Immunol. 17:448-454)。
【0049】
新たな輸送体及びイオンチャネル並びにこれらをコードするポリヌクレオチドの発見は、輸送障害、神経疾患、筋肉疾患、免疫疾患、および細胞増殖異常の、診断、治療並びに予防において、また、輸送体及びイオンチャネルの核酸配列及びアミノ酸配列の発現に対する外因性化合物の効果の評価において有用であるような新たな組成物を提供することにより、当分野における必要性を満たす。
【発明の開示】
【発明の効果】
【0050】
本発明は、総称して「TRICH」、個別にはそれぞれ「TRICH-1」、「TRICH-2」、「TRICH- 3」、「TRICH-4」、「TRICH-5」、「TRICH-6」、「TRICH-7」、「TRICH-8」、「TRICH-9」、「TRICH-10」、「TRICH-11」、「TRICH-12」、「TRICH-13」、「TRICH-14」、「TRICH-15」、「TRICH-16」、「TRICH-17」、「TRICH-18」、「TRICH-19」、および「TRICH-20」と呼ぶ輸送体及びイオンチャネルである精製されたポリペプチドを提供する。或る実施態様において本発明は、(a)SEQ ID NO:1-20を有する群から選択したアミノ酸配列からなるポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20を有する群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%が同一性のある天然のアミノ酸配列を有するポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20を有する群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的活性断片、および(d)SEQ ID NO:1-20を有する群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片を含む群から選択した単離されたポリペプチドを提供する。一実施態様では、SEQ ID NO:1-20のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチドを提供する。
【0051】
また、本発明は(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択した或るアミノ酸配列を持つポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択した或るアミノ酸配列との少なくとも90%の同一性を持つ或る天然アミノ酸配列を有するポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択した或るアミノ酸配列を持つポリペプチドの生物学的活性断片、または(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択した或るアミノ酸配列を持つポリヌクレオチドの免疫原性断片、からなる群から選択した或るポリペプチドをコードする、単離されたポリヌクレオチドを提供する。一実施態様では、該ポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:1-20からなる群から選択した或るポリペプチドをコードする。別の実施態様では、ポリヌクレオチドはSEQ ID NO:21-40からなる群から選択される。
【0052】
本発明は更に、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%が同一である天然のアミノ酸配列を含むポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的活性断片、および(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片からなる群から選択したポリペプチドをコードするようなポリヌクレオチドと機能的に連結したプロモーター配列を有する組換えポリヌクレオチドを提供する。一実施態様では、本発明は組換えポリヌクレオチドを用いて形質転換した細胞を提供する。別の実施態様では、本発明は組換えポリヌクレオチドを含む遺伝形質転換体を提供する。
【0053】
更に本発明は、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択されたアミノ酸配列からなるポリペプチドと、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択されたアミノ酸配列と90%以上の同一性を有する天然のアミノ酸配列からなるポリペプチドと、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的に活性な断片と、(d)SEQ ID NO:1-20とからなる群から選択されたアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片とで構成される群から選択されたポリペプチドを製造する方法を提供する。製造方法は、(a)組換えポリヌクレオチドを用いて形質転換した細胞をポリペプチドの発現に適した条件下で培養する過程と、(b)そのように発現したポリペプチドを回収する過程とを有し、組換えポリヌクレオチドはポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結したプロモーター配列を有する。
【0054】
本発明は更に、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%同一である天然のアミノ酸配列を含むポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的活性断片、および(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片から構成される群から選択されたポリペプチドに特異結合するような単離された抗体を提供する。
【0055】
本発明は更に、(a)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド、(b)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、(c)(a)に相補的なポリヌクレオチド配列、(d)(b)に相補的なポリヌクレオチド配列、および(e)(a)〜(d)のRNA等価物からなる群から選択された単離されたポリヌクレオチドを提供する。一実施態様では、ポリヌクレオチドは少なくとも60の連続したヌクレオチドを有する。
【0056】
本発明は更に、サンプル中の標的ポリヌクレオチドを検出する方法を提供する。ここで、標的ポリヌクレオチドは(a)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド、(b)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のポリヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド、(c)(a)に相補的なポリヌクレオチド、(d)(b)に相補的なポリヌクレオチド、および(e)(a)〜(d)のRNA等価物からなる群から選択されたポリヌクレオチドの配列を有する。検出方法は、(a)サンプル中の上記標的ポリヌクレオチドに相補的な或る配列からなる少なくとも20の連続したヌクレオチド群からなる或るプローブを用いて該サンプルをハイブリダイズする過程と、(b)該ハイブリダイゼーション複合体の有無を検出し、複合体が存在すればオプションでその量を検出する過程からなる。該プローブと該標的ポリヌクレオチドあるいはその断片との間でハイブリダイゼーション複合体が形成されるような条件下で、プローブは、該標的ポリヌクレオチドに対し特異的にハイブリダイズする。一実施態様では、プローブは少なくとも60の連続したヌクレオチドを含む。
【0057】
本発明はまた、サンプル中の標的ポリヌクレオチドを検出する一方法を提供する。ここで、標的ポリヌクレオチドは、(a)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列を持つポリヌクレオチド、(b)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列との少なくとも90%の同一性を有する天然ポリヌクレオチド配列を持つポリヌクレオチド、(c)(a)のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド、(d)(b)のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド、および(e)(a)〜(d)のRNA等価物、からなる群から選択した、或るポリヌクレオチドの配列を持つ。検出方法は、(a)ポリメラーゼ連鎖反応増幅を用いて標的ポリヌクレオチドまたはその断片を増幅する過程と、(b)前記の増幅した標的ポリヌクレオチドまたはその断片の存在・不存在を検出し、該標的ポリヌクレオチドまたはその断片が存在する場合にはオプションでその量を検出する過程を含む。
【0058】
本発明は更に、有効量のポリペプチドと薬剤として許容できる賦形剤とを含む組成物を提供する。有効量のポリペプチドは、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のアミノ酸配列を含むポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチドの生物学的活性断片、および(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列の免疫原性断片からなる群から選択される。一実施例では、SEQ ID NO:1-20からなる一群から選択されたアミノ酸配列を含む組成物を提供する。更に、本発明は、機能的TRICHの発現の低下に関連した疾患やその症状の治療を要する患者にこの組成物を投与することを含む治療方法を提供する。
【0059】
本発明はまた、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のアミノ酸配列を含むポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的活性断片、および(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片からなる群から選択されたポリペプチドのアゴニストとしての有効性を確認するために化合物をスクリーニングする方法を提供する。スクリーニング方法は、(a)ポリペプチドを含むサンプルを化合物に曝す過程と、(b)サンプル中のアゴニスト活性を検出する過程とを含む。別法では、本発明は、この方法によって同定されたアゴニスト化合物と好適な医薬用賦形剤とを含む組成物を提供する。更なる別法では、本発明は、この組成物の、機能的TRICHの発現の低下に関連した疾患やその症状の治療を要する患者への投与を含む治療方法を提供する。
【0060】
本発明は更に、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のアミノ酸配列を含むポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列の生物学的活性断片、および(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列のポリペプチドの免疫抗原性断片からなる群から選択されたポリペプチドのアンタゴニストとしての有効性を確認するために化合物をスクリーニングする方法を提供する。スクリーニング方法は、(a)ポリペプチドを含むサンプルを化合物に曝す過程と、(b)サンプル中のアンタゴニスト活性を検出する過程とを含む。一実施態様で本発明は、この方法によって同定したアンタゴニスト化合物と薬剤として許容できる賦形剤とを含む組成物を提供する。更なる別法では、本発明は、この組成物の、機能的TRICHの過剰な発現に関連した疾患やその症状の治療を要する患者への投与を含む治療方法を提供する。
【0061】
本発明は更に、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のアミノ酸配列を含むポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的活性断片、または(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片を含む群から選択されたポリペプチドに特異結合する化合物をスクリーニングする方法を提供する。スクリーニング方法は、(a)ポリペプチドを適切な条件下で少なくとも1つの試験化合物と混合させる過程と、(b)試験化合物とのポリペプチドの結合を検出し、それによってポリペプチドに特異結合する化合物を同定する過程とを含む。
【0062】
本発明は更に、(a)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチド、(b)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列と少なくとも90%の相同性を有する天然のアミノ酸配列を含むポリペプチド、(c)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的活性断片、または(d)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片を含む群から選択されたポリペプチドの活性を調節する化合物をスクリーニングする方法を提供する。スクリーニング方法は、(a)ポリペプチドの活性が許容された条件下で、ポリペプチドを少なくとも1つの試験化合物と混合させる過程と、(b)ポリペプチドの活性を試験化合物の存在下で算定する過程と、(c)試験化合物の存在下でのポリペプチドの活性を試験化合物の不存在下でのポリペプチドの活性と比較する過程とを含み、試験化合物の存在下でのポリペプチドの活性の変化は、ポリペプチドの活性を調節する化合物であることを意味する。
【0063】
更に本発明は、SEQ ID NO:21-40からなる群から選択されたポリヌクレオチド配列を含む標的ポリヌクレオチドの発現を変容させるのに効果的な化合物をスクリーニングする方法であって、(a)この標的ポリヌクレオチドを含むサンプルを化合物に曝露する過程と、(b)この標的ポリヌクレオチドの発現の変容を検出する過程と、c)化合物の存在下での異なる量の標的ポリヌクレオチドの発現を化合物の不存在下での発現と比較する過程を含む、該スクリーニング方法を提供する。
【0064】
本発明は更に、(a)核酸を含む生物学的サンプルを試験化合物で処理する過程と、(b)(i)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、(ii)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、(iii)(i)に相補的な配列を有するポリヌクレオチド、(iv)(ii)のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド、(v)(i)〜(iv)のRNA等価物からなる群から選択したポリヌクレオチドの少なくとも20の連続したヌクレオチドを含むプローブを用いて、処理した生物学的サンプルの核酸をハイブリダイズする過程を含む、試験化合物の毒性の算定方法を提供する。ハイブリダイゼーションは、上記プローブと生物学的サンプル中の標的ポリヌクレオチドの間に特定のハイブリダイゼーション複合体が形成されるような条件下で発生し、上記標的ポリヌクレオチドは、(i)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、(ii)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する天然のポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、(iii)(i)のポリヌクレオチドに相補的な配列を有するポリヌクレオチド、(iv)(ii)のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド、および(v)(i)〜(iv)のRNA等価物からなる群から選択する。或いは、標的ポリヌクレオチドは、上記(i)〜(v)からなる群から選択したポリヌクレオチド配列の断片を有する。毒性の算定方法には更に(c)ハイブリダイゼーション複合体の量を定量する過程と、(d)処理した生物学的サンプルのハイブリダイゼーション複合体の量を、非処理の生物学的サンプルのハイブリダイゼーション複合体の量と比較する過程を含み、処理した生物学的サンプルのハイブリダイゼーション複合体の量の差は、試験化合物の毒性を示す。
【0065】
(本発明の記載について)
本発明のタンパク質、ヌクレオチド配列及び方法について説明する前に、説明した特定の装置、材料及び方法に本発明が限定されるものではなく、改変し得ることを理解されたい。また、ここで使用する専門用語は特定の実施例を説明する目的で用いたものに過ぎず、特許請求の範囲にのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図したものではないことも併せて理解されたい。
【0066】
請求の範囲及び明細書中で用いている単数形の「或る」及び「その(この)」の表記は、文脈から明らかにそうでないとされる場合を除いて複数のものを指す場合もあることに注意しなければならない。従って、例えば「或る宿主細胞」と記されている場合にはそのような宿主細胞が複数あることもあり、「或る抗体」と記されている場合には単数または複数の抗体、及び、当業者に公知の抗体の等価物等についても言及しているのである。
【0067】
本明細書中で用いる全ての技術用語及び科学用語は、特に定義されている場合を除き、当業者に一般に理解されている意味と同じ意味を有する。本明細書で説明するものと類似あるいは同等の任意の装置、材料及び方法を用いて本発明の実施または試験を行うことができるが、ここでは好適な装置、材料、方法について説明する。本発明で言及する全ての刊行物は、刊行物中で報告されていて且つ本発明に関係して用い得る細胞株、プロトコル、試薬及びベクターについて説明及び開示する目的で引用しているものである。本明細書のいかなる開示内容も、本発明が先行技術の効力によってこのような開示に対して先行する権利を与えられていないことを認めるものではない。
【0068】
(定義)
用語「TRICH」は、天然、合成、半合成或いは組換え体などからの、全ての種(特にウシ、ヒツジ、ブタ、ネズミ、ウマ及びヒトを含む哺乳動物)から得られる実質的に精製されたTRICHのアミノ酸配列を指す。
【0069】
用語「アゴニスト」は、TRICHの生物学的活性を強めたり、模倣する分子を指す。このアゴニストは、TRICHに直接相互作用するか、或いはTRICHが関与する生物学的経路の成分と作用して、TRICHの活性を調節するタンパク質、核酸、糖質、小分子、任意の他の化合物や組成物を含み得る。
【0070】
用語「対立遺伝子変異体/変異配列」は、TRICHをコードする遺伝子の別の形を指す。対立遺伝子変異体は、核酸配列における少なくとも1つの突然変異から作製し得る。また、変容したmRNAまたはポリペプチドを作製し得る。その構造または機能は、変容することもしないこともある。遺伝子は、天然の対立遺伝子変異体を全く有しないか、1個若しくは数個の天然の対立遺伝子変異体を有し得る。対立遺伝子変異体を生じさせる通常の突然変異性変化は一般に、ヌクレオチドの自然な欠失、付加または置換に帰するものである。これら各変化は、単独或いは他の変化と共に、所定の配列内で1回若しくは数回生じ得る。
【0071】
TRICHをコードする「変容した/改変された」核酸配列は、様々なヌクレオチドの欠失、挿入、或いは置換を有し、その結果、TRICHと同じポリペプチド或いはTRICHの機能特性の少なくとも1つを備えるポリペプチドを指す。この定義には、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列の正常な染色体の遺伝子座ではない位置での対立遺伝子変異配列との不適当或いは予期しないハイブリダイゼーション、並びにTRICHをコードするポリヌクレオチドの特定のオリゴヌクレオチドプローブを用いて容易に検出可能な或いは検出困難な多型性を含む。コードされるタンパク質も「変容する/改変される」ことがあり、サイレント変化を生じ機能的に等価なTRICHとなる、アミノ酸残基の欠失、挿入、或いは置換を含み得る。意図的なアミノ酸置換は、生物学的或いは免疫学的にTRICHの活性が保持される範囲で、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、及び/または両親媒性についての類似性に基づいて成され得る。例えば、負に帯電したアミノ酸にはアスパラギン酸及びグルタミン酸があり、正に帯電したアミノ酸にはリジン及びアルギニンがある。親水性値が近似している非荷電極性側鎖を有するアミノ酸には、アスパラギンとグルタミン、セリンとトレオニンがある。親水性値が近似している非荷電側鎖を有するアミノ酸には、ロイシン、イソロイシンおよびバリン、グリシンとアラニン、フェニルアラニンとチロシンがある。
【0072】
「アミノ酸」または「アミノ酸配列」の語は、オリゴペプチド、ペプチド、ポリペプチド若しくはタンパク質の配列またはその断片を指し、天然または合成分子を指す。ここで「アミノ酸配列」は天然のタンパク質分子のアミノ酸配列を指すものであり、「アミノ酸配列」及び類似の語は、アミノ酸配列を、列挙したタンパク質分子に関連する完全な本来のアミノ酸配列に限定しようとするものではない。
【0073】
「増幅」は、核酸配列の追加複製に関連する。増幅は通常、当業者によく知られたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を用いて行う。
【0074】
用語「アンタゴニスト」は、TRICHの生物学的活性を阻害或いは減弱する分子である。アンタゴニストは、TRICHに直接相互作用するか、或いはTRICHが関与する生物学的経路の成分と作用して、TRICHの活性を調節する抗体、核酸、糖質、小分子、任意の他の化合物や組成物などのタンパク質を含み得る。
【0075】
「抗体」の語は、そのままの免疫グロブリン分子やその断片、例えばFab,、F(ab')2 及びFv断片を指し、これらは抗原決定基と結合することができる。TRICHポリペプチドと結合する抗体は、免疫抗原として、そのままのポリペプチド、または関心のある小ペプチドを含む断片を用いて作製可能である。動物(マウス、ラット、ウサギ等)を免疫化するために用いるポリペプチドまたはオリゴペプチドは、RNAの翻訳、または化学合成によって得られるポリペプチドまたはオリゴペプチドに由来し得るもので、所望によりキャリアタンパク質に抱合することも可能である。通常用いられるキャリアであってペプチドと化学結合するものは、ウシ血清アルブミン、サイログロブリン及びスカシガイのヘモシアニン(KLH)等がある。結合その結合ペプチドは、動物を免疫化するために用いる。
【0076】
「抗原決定基」の語は、特定の抗体と接触する、分子の領域(即ちエピトープ)を指す。タンパク質またはタンパク質断片を用いて宿主動物を免疫化する場合、タンパク質の多数の領域が、抗原決定基(タンパク質の特定の領域または3次元構造)に特異結合する抗体の産生を誘導し得る。抗原決定基は、抗体への結合において無損傷抗原(即ち免疫応答を誘発するために用いられる免疫原)と競合し得る。
【0077】
用語「アプタマー」は、特定の分子標的に結合する核酸またはオリゴヌクレオチドを指す。アプタマーはin vitroの進化過程(例えば米国特許番号第5,270,163号に記載されたSELEX(Systematic Evolution of Ligands by EXponential Enrichmentの略、試験管内選択法))から由来するもので、そのような過程は大きな組み合わせライブラリから標的特異的なアプタマー配列を選択する。アプタマー組成は、2本鎖または1本鎖であってもよく、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ヌクレオチド誘導体、または他のヌクレオチド様分子を含み得る。アプタマーのヌクレオチド構成要素は修飾された糖基(例えば、リボヌクレオチドの2'-OH 基が2'-F または 2'-NH2で置換されている)を有することが可能で、これらの糖基は、例えば、ヌクレアーゼに対する耐性あるいは血中でのより長い寿命など、望む性質を改善しうる。循環系からアプタマーが除去される速度を遅くするために、アプタマーを高分子量キャリアー等の分子に抱合させることができる。アプタマー類は、例えば或る架橋剤の光活性化によって、それらの同種リガンド群と特異的に架橋させ得る(Brody, E.N. および L. Gold (2000) J. Biotechnol. 74:5-13等を参照)。
【0078】
「intramer」の用語はin vivoで発現されるアプタマーを意味するたとえば、ワクシニアウィルスに基づくRNA発現系は、白血球の細胞質で特定のRNA アプタマーを高度に発現させるために使用されている(Blind, M. 他 (1999) Proc. Natl Acad. Sci. USA 96:3606-3610)。
【0079】
「spiegelmer」の語はL-DNA、L-RNAその他の左旋性ヌクレオチド誘導体またはヌクレオチド様分子を含むアプタマーを指す。左旋性ヌクレオチドを含むアプタマーは、右旋性のヌクレオチドを含む基質に通常作用する天然の酵素による分解に耐性がある。
【0080】
「アンチセンス」の語は、特定の核酸配列の「センス」(コーディング)鎖と塩基対を形成することが可能な任意の組成物を指す。アンチセンス組成物の例には、DNAや、RNAや、ペプチド核酸(PNA)や、修飾されたバックボーン連鎖たとえばホスホロチオ酸、メチルホスホン酸またはベンジルホスホン酸などを有するオリゴヌクレオチドや、修飾された糖基たとえば2'-メトキシエチル糖または2'-メトキシエトキシ糖などを有するオリゴヌクレオチドや、あるいは修飾された塩基たとえば5-メチルシトシン、2-デオキシウラシルまたは7-デアザ-2'-デオキシグアノシンなどを有するオリゴヌクレオチドがあり得る。アンチセンス分子は、化学合成または転写を含む任意の方法で製造することができる。相補的アンチセンス分子は、ひとたび細胞に導入されたら、細胞が形成した天然の核酸配列と塩基対を形成し、転写または翻訳を阻止する二重鎖を形成する。「負」または「マイナス」という表現は、或る参考DNA分子のアンチセンス鎖を指すことがあり、「正」または「プラス」という表現は、或る参考DNA分子のセンス鎖を意味し得る。
【0081】
「生物学的に活性」の語は、天然分子の構造的機能、調節機能または生化学的機能を有するタンパク質を指す。同様に、用語「免疫学的に活性」または「免疫原性」は、天然或いは組換え体のTRICH、合成のTRICHまたはそれらの任意のオリゴペプチドが、適当な動物或いは細胞の特定の免疫応答を誘発して特定の抗体と結合する能力を指す。
【0082】
「相補(的)」または「相補性」の語は、塩基対形成によってアニーリングする2つの一本鎖核酸の間の関係を指す。例えば、配列「5'-AGT-3'」は、相補配列「3'-TCA-5'」と対合する。
【0083】
「〜のポリヌクレオチド配列を含む(有する)組成物」及び「〜のアミノ酸配列を有する組成物」は、所定のポリヌクレオチド配列またはアミノ酸配列を含む広範囲の任意の成分を指す。この組成物には、乾燥製剤または水溶液が含まれ得る。TRICH 若しくはTRICH の断片をコードするポリヌクレオチド配列を含む組成物は、ハイブリダイゼーションプローブとして使用され得る。このプローブは、凍結乾燥状態で保存可能であり、糖質などの安定化剤と結合させることが可能である。ハイブリダイゼーションにおいては、塩(例えばNaCl)、界面活性剤(例えばドデシル硫酸ナトリウム;SDS)及びその他の構成要素(例えばデンハート液、粉乳、サケの精子のDNA等)を含む水溶液中にプローブを分散させることができる。
【0084】
「コンセンサス配列」は、不要な塩基を分離するためにDNA配列の解析を繰り返し行い、XL-PCRキット(Applied Biosystems,Foster City CA)を用いて5'及び/または3'の方向に伸長され、再度シークエンシングされた核酸配列、またはGELVIEW 断片構築システム(GCG, Madison, WI)か、あるいはPhrap (University of Washington, Seattle WA)等の断片構築用のコンピュータプログラムを用いて1つ或いはそれ以上の重複するcDNAやEST、またはゲノムDNA断片から構築された核酸配列を指す。伸長及び構築の両方を行ってコンセンサス配列を作製する配列もある。
【0085】
「保存的なアミノ酸置換」は、置換がなされた時に元のタンパク質の特性を殆ど損なわないと予測されるような置換、即ちタンパク質の構造と特に機能が保存され、そのような置換による大きな変化がない置換を指す。下表は、タンパク質中で元のアミノ酸と置換可能で、保存アミノ酸置換と認められるアミノ酸を示している。
【0086】
保存アミノ酸置換では通常、(a)置換領域におけるポリペプチドのバックボーン構造、例えばβシートやαヘリックス構造、(b)置換部位における分子の電荷または疎水性、及び/または(c)側鎖の大部分が保持される。
【0087】
「欠失」は、結果的に1個若しくは数個のアミノ酸残基またはヌクレオチドが失われてなくなるようなアミノ酸またはヌクレオチド配列における変化を指す。
【0088】
「誘導体」の語は、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの化学修飾を指す。例えば、アルキル基、アシル基、ヒドロキシル基またはアミノ基による水素の置換は、ポリヌクレオチド配列の化学修飾に含まれ得る。ポリヌクレオチド誘導体は、天然分子の生物学的または免疫学的機能を少なくとも1つは保持しているポリペプチドをコードする。ポリペプチド誘導体は、グリコシル化、ポリエチレングリコール化(pegylation)、或いは任意の同様なプロセスであって誘導起源のポリペプチドの、少なくとも1つの生物学的若しくは免疫学的機能を保持するプロセスによって修飾されたポリペプチドである。
【0089】
「検出可能な標識」は、測定可能なシグナルを生成することができ、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドに共有結合または非共有結合するようなレポーター分子または酵素を指す。
【0090】
「差次的発現」は少なくとも2つの異なったサンプルを比較することによって決められる、増加(上方調節)、あるいは減少(下方調節)、または欠損遺伝子またはタンパク発現の欠損を指す。このような比較は例えば、治療後サンプルと未治療のサンプルまたは病態のサンプルと正常サンプルの間で行われ得る。
【0091】
「エキソンシャフリング」は、異なるコード領域(エキソン)の組換えを意味する。1つのエキソンはコードされるタンパク質の1つの構造的または機能的ドメインを代表し得るため、安定したサブストラクチャー群の新たな組み合わせによって、新しいタンパク質が組立てられることが可能であり、新しいタンパク質機能の進化を促進できる。
【0092】
用語「断片」は、TRICHまたはTRICHをコードするポリヌクレオチドの固有の部分であって、その親配列(parent sequence)と同一であるがその配列より長さが短いものを指す。断片は、定義された配列の全長から1ヌクレオチド/アミノ酸残基を差し引いた長さよりも短い長さを有し得る。例えば或る断片は、5〜1000の連続したヌクレオチドまたはアミノ酸残基を有し得る。プローブ、プライマー、抗原、治療用分子として、或いはその他の目的のために用いられる断片は、少なくとも5、10、15、16、20、25、30、40、50、60、75、100、150、250若しくは500の連続したヌクレオチド或いはアミノ酸残基長さであり得る。断片は、或る分子の特定領域から優先的に選択し得る。例えば、ポリペプチド断片は、所定の配列に示すような最初の250または500アミノ酸(またはポリペプチドの最初の25%または50%)から選択された或る長さの連続したアミノ酸を有し得る。これらの長さは明らかに例として挙げているものであり、本発明の実施例では、配列表、表及び図面を含む明細書に裏付けされた任意の長さであってよい。SEQ ID NO:21-40 の断片は、例えば、この断片を得たゲノム内の他の配列とは異なる、SEQ ID NO:21-40 を明確に同定する固有のポリヌクレオチド配列の領域を含む。SEQ ID NO:21-40のある断片は、例えば、ハイブリダイゼーションや増幅技術、またはSEQ ID NO:21-40を関連ポリヌクレオチド配列から区別する類似の方法に有用である。SEQ ID NO:21-40の断片の正確な長さ及び、断片が対応するSEQ ID NO:21-40の領域は、断片に対する意図した目的に基づき当業者が慣例的に決定することが可能である。 SEQ ID NO:1-20 のある断片は、SEQ ID NO:21-40のある断片によってコードされる。SEQ ID NO:1-20 の断片には、SEQ ID NO:1-20を特異的に同定する固有のアミノ酸配列領域が含まれている。 例えば、SEQ ID NO:1-20 の断片は、SEQ ID NO:1-20を特異認識する抗体を産出するための免疫抗原性ペプチドとして有用である。SEQ ID NO:1-20 の断片、及び断片が対応するSEQ ID NO:1-20 の領域の正確な長さは、断片に対する意図した目的に基づき当業者が慣例的に決定することが可能である。
【0093】
「完全長」ポリヌクレオチド配列とは、少なくとも1つの翻訳開始コドン(例えばメチオニン)、オープンリーディングフレーム及び翻訳終止コドンを有する配列である。 「完全長」ポリヌクレオチド配列は、「完全長」ポリペプチド配列をコードする。
【0094】
「相同性」の語は、2つ以上のポリヌクレオチド配列または2つ以上のポリペプチド配列の配列類似性、互換性、または配列同一性を意味する。
【0095】
ポリヌクレオチド配列に適用される「一致率」または「一致%」の語は、標準化されたアルゴリズムを用いてアラインメントされた少なくとも2つ以上のポリヌクレオチド配列間で一致する残基の割合を意味する。このようなアルゴリズムは、2配列間のアラインメントを最適化するために比較する配列において、標準化された再現性のある方法でギャップを挿入するので、2つの配列をより有意に比較できる。
【0096】
ポリヌクレオチド配列間の一致率は、MEGALIGN version 3.12e配列アラインメントプログラムに組込まれているようなCLUSTAL Vアルゴリズムのデフォルトのパラメータを用いて決定できる。このプログラムは、LASERGENE ソフトウエアパッケージ(一組の分子生物学的分析プログラム)(DNASTAR, Madison WI)の一部である。このCLUSTAL Vは、Higgins, D.G. 及び P.M. Sharp (1989) CABIOS 5:151-153、Higgins, D.G. 他 (1992) CABIOS 8:189-191に記載されている。ポリヌクレオチド配列をペアワイズでアラインメントする際のデフォルトパラメータは、Ktuple=2、gap penalty=5、window=4、「diagonals saved」=4と設定される。「weighted(重み付けされた)」残基重み付け表が、デフォルトとして選択される。CLUSTAL Vは、アラインメントされたポリヌクレオチド配列対間の「percent similarity(類似率)」として一致率を報告する。
【0097】
或いは、米国国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)が一般的に用いられ、且つ、無料で入手可能な配列比較アルゴリズム一式を提供している(Altschul, S.F. 他 (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410)。 このアルゴリズムは、幾つかの情報源から入手可能であり、メリーランド州ベセスダにあるNCBI及びインターネット(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)からも入手可能である。BLASTソフトウェア一式には様々な配列分析プログラムが含まれており、既知のポリヌクレオチド配列を種々のデータベースから得た別のポリヌクレオチド配列とアラインメントする「blastn」もその1つである。その他にも、2つのヌクレオチド配列をペアワイズで直接比較するために用いる「BLAST 2 Sequences」と称されるツールも利用可能である。「BLAST 2 Sequences」は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/gorf/bl2.htmlにアクセスして対話形式で利用することが可能である。「BLAST 2 Sequences」ツールは、blastn 及び blastp(以下に記載)の両方に用いることができる。BLASTプログラムは、一般的には、ギャップ及び他のパラメータをデフォルト設定に設定して用いる。例えば、2つのヌクレオチド配列を比較するために、デフォルトパラメータに設定された「BLAST 2 Sequences」ツールVersion 2.0.12(2000年4月21日)を用いてblastnを実行してもよい。デフォルトパラメータの設定例を以下に示す。
【0098】
Matrix: BLOSUM62
Reward for match: 1
Penalty for mismatch: -2
Open Gap: 5 and Extension Gap: 2 penalties
Gap x drop-off: 50
Expect: 10
Word Size: 11
Filter: on
【0099】
一致率は、ある定義された配列の全長(例えば特定のSEQ IDナンバーで定義された配列)で測定し得る。或いは、より短い長さ、例えば、定義された、より大きな配列から得られた断片(例えば少なくとも20、30、40、50、70、100または200の連続したヌクレオチドの断片)の長さと比較して一致率を測定してもよい。ここに挙げた長さは単なる例示的なものに過ぎず、表、図及び配列リストを含めた本明細書に記載された配列に裏付けられた任意の配列長さの断片を用いて、一致率を測定し得る長さを説明し得ることを理解されたい。
【0100】
高度の相同性を示さない核酸配列が、それにもかかわらず遺伝子コードの縮重が原因で類似のアミノ酸配列をコードする場合がある。この縮重を利用して核酸配列内で変化を生じさせて、全ての核酸配列が実質上同一のタンパク質をコードするような多数の核酸配列を生成し得ることを理解されたい。
【0101】
ポリペプチド配列に用いられる用語「一致率」または「一致性%」とは、標準化されたアルゴリズムを用いてアラインメントされる2つ以上のポリペプチド配列間の一致する残基の百分率のことである。ポリペプチド配列アラインメントの方法は公知である。保存的アミノ酸置換を考慮するアラインメント方法もある。既に詳述したこのような保存的置換は通常、置換部位の電荷及び疎水性を保存するので、ポリペプチドの構造を(従って機能も)保存する。
【0102】
ポリペプチド配列間の一致率は、MEGALIGN version 3.12e配列アラインメントプログラムに組込まれているようなCLUSTAL Vアルゴリズムのデフォルトのパラメータを用いて決定できる(既に説明したのでそれを参照されたい)。CLUSTAL Vを用いて、ポリペプチド配列をペアワイズでアラインメントする際のデフォルトパラメータは、Ktuple=1、gap penalty=3、window=5、「diagonals saved」=5と設定される。デフォルトの残基重み付け表としてPAM250マトリクスが選択される。ポリヌクレオチドアラインメントと同様に、CLUSTAL Vは、アラインメントされたポリペプチド配列対間の「類似率」として一致率を報告する。
【0103】
或いは、NCBI BLASTソフトウェア一式を用いてもよい。例えば、2つのポリペプチド配列をペアワイズで比較をする場合、ある者は、デフォルトパラメータで設定された「BLAST 2 Sequences」ツールVersion 2.0.12 (Apr-21-2000)でblastpを使用しうる。デフォルトパラメータの設定例を以下に示す。
【0104】
Matrix: BLOSUM62
Open Gap: 11 and Extension Gap: 1 penalties
Gap x drop-off: 50
Expect: 10
Word Size: 3
Filter: on
【0105】
一致率は、定義された(例えば特定の配列番号で定義された)ポリペプチド配列全体の長さと比較して測定し得る。或いは、より短い長さ、例えばより大きな定義されたポリペプチド配列から得られた断片(例えば少なくとも15、20、30、40、50、70または150の連続した残基の断片)の長さと比較して一致率を測定してもよい。ここに挙げた長さは単なる例示的なものに過ぎず、表、図及び配列リストを含めた本明細書に記載された配列に裏付けられた任意の配列長さの断片を用いて、或る長さであってその長さに対して一致率を測定し得る長さを説明し得ることを理解されたい。
【0106】
「ヒト人工染色体(HAC)」は、約6kb(キロベース)〜10MbのサイズのDNA配列を含み得る、染色体の複製、分離及び維持に必要な全ての要素を含む直鎖状の微小染色体である。
【0107】
用語「ヒト化抗体」は、もとの結合能力を保持しつつよりヒトの抗体に似せるために、非抗原結合領域のアミノ酸配列が変えられた抗体分子を指す。
【0108】
「ハイブリダイゼーション」とは、所定のハイブリダイゼーション条件下で、ある一本鎖ポリヌクレオチドがある相補的な一本鎖と塩基対を形成するアニーリングのプロセスである。特異的ハイブリダイゼーションは、2つの核酸配列が高い相補性を共有することの指標である。特異的ハイブリダイゼーション複合体は許容的アニーリング条件下で形成され、「洗浄」ステップ後もハイブリダイズされたままである。洗浄ステップは、ハイブリダイゼーションプロセスのストリンジェンシーを決定する際に特に重要であり、よりストリンジェントな条件では、非特異結合(即ち完全には一致しない核酸鎖間の対の結合)が減少する。核酸配列のアニーリングに対する許容条件は、当業者が慣例的に決定できる。許容条件は、どのハイブリダイゼーション実験でも一定でありうるが、洗浄条件は所望のストリンジェンシーを得るように、従ってハイブリダイゼーション特異性も得るように実験によって変更することができる。アニーリングが許容される条件は、例えば、温度が68℃で、約6×SSC、約1%(w/v)のSDS、並びに約100μg/mlのせん断して変性したサケ精子DNAが含まれる。
【0109】
一般に、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは或る程度、洗浄ステップを実行する温度を基準にして表すことができる。このような洗浄温度は通常、所定のイオン強度及びpHにおける特定の配列の融点(Tm)より約5〜20℃低くなるように選択する。このTmは、所定のイオン強度及びpHの下で、完全に一致するプローブに標的配列の50%がハイブリダイズする温度である。Tmを計算する式及び核酸のハイブリダイゼーション条件はよく知られており、Sambrook 他 (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, 1-3巻, Cold Spring Harbor Press, Plainview NYに記載されており、特に2巻の9章を参照されたい。
【0110】
本発明の、ポリヌクレオチドとポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションに対する高ストリンジェンシー条件には、約0.2×SSC及び約1%のSDS存在下で約68℃において1時間の洗浄条件が含まれる。或いは、65℃、60℃、55℃または42℃の温度で行ってもよい。SSC濃度は、約0.1%のSDS存在下で、約0.1〜2×SSCの範囲で変化し得る。通常は、ブロッキング剤を用いて非特異ハイブリダイゼーションを阻止する。このようなブロッキング剤には、例えば、約100〜200μg/mlの変性サケ精子DNAがある。特定条件下で、例えばRNAとDNAのハイブリダイゼーションに有機溶剤、例えば約35〜50%v/vの濃度のホルムアミドを用いることもできる。洗浄条件の有用なバリエーションは、当業者には自明であろう。ハイブリダイゼーションは、特に高ストリンジェント条件下では、ヌクレオチド間の進化的な類似性を示唆し得る。このような類似性は、ヌクレオチド及びヌクレオチドにコードされるポリペプチドに対する類似の役割を強く示唆している。
【0111】
用語「ハイブリダイゼーション複合体」は、相補的な塩基間の水素結合によって形成された、2つの核酸配列の複合体を指す。ハイブリダイゼーション複合体は、溶解状態で形成し得る(C0tまたはR0t解析等)。或いは、一方の核酸配列が溶解状態で存在し、もう一方の核酸配列が固体支持体(例えば紙、膜、フィルタ、チップ、ピンまたはガラススライド、或いは他の適切な基板であって細胞若しくはその核酸が固定される基板)に固定されているような2つの核酸配列間に形成され得る。
【0112】
用語「挿入」或いは「付加」は、1個以上のアミノ酸残基或いはヌクレオチドがそれぞれ追加されるアミノ酸配列或いは核酸配列の変化を指す。
【0113】
「免疫応答」は、炎症、外傷、免疫異常症、伝染性疾患または遺伝性疾患に関連する症状を指し得る。これらの症状は、細胞及び全身の防御系に作用し得る種々の因子、例えばサイトカイン、ケモカイン、その他のシグナル伝達分子の発現によって特徴づけることができる。
【0114】
用語「免疫原性断片」は、例えば哺乳動物などの生物に導入すると免疫反応を引き起こす、TRICHのポリペプチド断片またはオリゴペプチド断片を指す。用語「免疫原性断片」はまた、本明細書で開示するまたは当分野で周知のあらゆる抗体生産方法に有用なTRICHのポリペプチド断片またはオリゴペプチド断片を含む。
【0115】
用語「マイクロアレイ」は、基板上の複数のポリヌクレオチド、ポリペプチドまたはその他の化合物の構成を指す。
【0116】
用語「エレメント」または「アレイエレメント」は、マイクロアレイ上に固有の指定された位置を有する、ポリヌクレオチド、ポリペプチドまたはその他の化合物を指す。
【0117】
用語「モジュレート」または「活性の調節」は、TRICHの活性の変化を指す。例えば、調節によって、TRICHのタンパク質活性の増減、或いは結合特性またはその他の生物学的特性、機能的特性或いは免疫学的特性の変化が起こる。
【0118】
「核酸」及び「核酸配列」の語は、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチドまたはこれらの断片を指す。「核酸」及び「核酸配列」の語は、ゲノム起源または合成起源のDNAまたはRNAであって一本鎖または二本鎖であるか或いはセンス鎖またはアンチセンス鎖を表し得るようなDNAまたはRNAや、ペプチド核酸(PNA)や、任意のDNA様またはRNA様物質を指すこともある。
【0119】
「機能的に連結した」は、第1の核酸配列と第2の核酸配列が機能的な関係にある状態を指す。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合には、そのプロモーターはそのコード配列に機能的に連結している。機能的に連結したDNA配列は非常に近接するか、或いは連続的に隣接し得、2つのタンパク質コード領域を接続するために必要な場合は同一リーディングフレーム内にある。
【0120】
「ペプチド核酸(PNA)」は、末端がリジンで終わるアミノ酸残基のペプチドのバックボーンに結合した、少なくとも約5ヌクレオチドの長さのオリゴヌクレオチドを含む、アンチセンス分子または抗遺伝子剤を指す。末端のリジンは、この組成物に溶解性を与える。PNAは、相補的一本鎖DNAまたはRNAに優先的に結合して転写の伸長を停止するものであり、ポリエチレングリコール化して細胞におけるPNAの寿命を延長し得る。
【0121】
TRICHの「翻訳後修飾」には、脂質化、グリコシル化、リン酸化、アセチル化、ラセミ化、蛋白分解性切断及び当分野で既知の、その他の修飾が含まれ得る。 これらのプロセスは、合成或いは生化学的に生じ得る。生化学的修飾は、TRICHの酵素環境に依存し、細胞の種類によって異なることとなる。
【0122】
「プローブ」とは、同一配列或いは対立遺伝子核酸配列、関連する核酸配列の検出に用いる、TRICHやそれらの相補配列、またはそれらの断片をコードする核酸配列のことである。プローブは、単離されたオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドであって、検出可能な標識またはレポーター分子に結合したものである。典型的な標識には、放射性アイソトープ、リガンド、化学発光試薬及び酵素がある。「プライマー」は、短い核酸、通常はDNAオリゴヌクレオチドであり、相補的塩基対を形成することで標的ポリヌクレオチドにアニーリングされ得る。プライマーは次に、DNAポリメラーゼ酵素によって標的DNA鎖に沿って伸長し得る。プライマー対は、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による核酸配列の増幅(及び同定)に用い得る。
【0123】
本発明に用いるようなプローブ及びプライマーは通常、既知の配列の少なくとも15の連続したヌクレオチドを含んでいる。特異性を高めるために長めのプローブ及びプライマー、例えば開示した核酸配列の少なくとも20、25、30、40、50、60、70、80、90、100または150の連続したヌクレオチドからなるようなプローブ及びプライマーを用いてもよい。これよりもかなり長いプローブ及びプライマーもある。表、図面及び配列リストを含む本明細書に裏付けされた任意の長さのヌクレオチドを用いることができるものと理解されたい。
【0124】
プローブ及びプライマーの調製及び使用方法については、Sambrook, J. 他 (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, 1-3巻, Cold Spring Harbor Press, Plainview NY、Ausubel, F.M. 他, (1987) Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publ. Assoc. & Wiley-Intersciences, New York NY、Innis他 (1990) PCR Protocols, A Guide to Methods and Applications Academic Press, San Diego CA等を参照されたい。PCRプライマー対は、その目的のためのコンピュータプログラム、例えばPrimer(Version 0.5, 1991, Whitehead Institute for Biomedical Research, Cambridge MA)を用いるなどして既知の配列から得ることができる。
【0125】
プライマーとして用いるオリゴヌクレオチドの選択は、そのような目的のために本技術分野でよく知られているソフトウェアを用いて行う。例えばOLIGO 4.06ソフトウェアは、各100ヌクレオチドまでのPCRプライマー対の選択に有用であり、オリゴヌクレオチド及び最大5,000までの大きめのポリヌクレオチドであって32キロベースまでのインプットポリヌクレオチド配列から得たものを分析するのにも有用である。類似のプライマー選択プログラムには、拡張能力のための追加機能が組込まれている。例えば、PrimOUプライマー選択プログラム(テキサス州ダラスにあるテキサス大学南西部医療センターのゲノムセンターから一般向けに入手可能)は、メガベース配列から特定のプライマーを選択することが可能であり、従ってゲノム全体の範囲でプライマーを設計するのに有用である。Primer3プライマー選択プログラム(Whitehead Institute/MIT Center for Genome Research(マサチューセッツ州ケンブリッジ)より入手可能)によって、ユーザーは、プライマー結合部位として避けたい配列を指定できる「非プライミングライブラリ(mispriming library)」を入力できる。Primer3は特に、マイクロアレイのためのオリゴヌクレオチドの選択に有用である(後二者のプライマー選択プログラムのソースコードは、それぞれの情報源から得てユーザー固有のニーズを満たすように修正し得る)。PrimerGenプログラム(英国ケンブリッジ市の英国ヒトゲノムマッピングプロジェクト-リソースセンターから一般向けに入手可能)は、多数の配列アラインメントに基づいてプライマーを設計し、それによって、アラインメントされた核酸配列の最大保存領域または最小保存領域の何れかとハイブリダイズするようなプライマーの選択を可能にする。従って、このプログラムは、固有であって保存されたオリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドの断片の同定に有用である。上記選択方法のいずれかによって同定したオリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドの断片は、ハイブリダイゼーション技術において、例えばPCRまたはシークエンシングプライマーとして、マイクロアレイエレメントとして、或いは核酸のサンプルにおいて完全または部分的相補的ポリヌクレオチドを同定する特異プローブとして有用である。オリゴヌクレオチドの選択方法は、上記の方法に限定されるものではない。
【0126】
本明細書における「組換え核酸」は天然の配列ではなく、2つ以上の配列の離れたセグメントを人工的に組み合わせた配列である。この人為的組合せはしばしば化学合成によって達成するが、より一般的には核酸の単離セグメントの人為的操作によって、例えばSambrookらの文献(前出)に記載されているような遺伝子工学的手法によって達成する。組換え核酸の語は、単に核酸の一部を付加、置換または欠失した、変容した核酸も含む。しばしば組換え核酸には、プロモーター配列に機能的に連結した核酸配列が含まれる。このような組換え核酸は、例えばある細胞を形質転換するために使用されるベクターの一部とすることが可能である。
【0127】
或いはこのような組換え核酸は、ウイルスベクターの一部であって、例えばワクシニアウイルスに基づくものであり得る。そのようなワクシニアウイルスは哺乳動物に接種され、その組換え核酸が発現されて、その哺乳動物内で防御免疫応答を誘導するように使用することができる。
【0128】
「調節因子」は、通常は遺伝子の非翻訳領域に由来する核酸配列であり、エンハンサー、プロモーター、イントロン及び5'及び3'の非翻訳領域(UTR)を含む。調節因子は、転写、翻訳またはRNA安定性を調節する宿主タンパク質またはウイルスタンパク質と相互作用する。
【0129】
「レポーター分子」は、核酸、アミノ酸または抗体の標識に用いられる化学的または生化学的な部分である。レポーター分子には、放射性核種、酵素、蛍光剤、化学発光剤、発色剤、基質、補助因子、阻害因子、磁気粒子及びその他の当分野で既知の成分がある。
【0130】
本明細書において、DNA配列に対する「RNA等価物」とは、基準となるDNA配列と同じ直鎖の核酸配列から構成されるが、窒素性塩基のチミンがウラシルに置換され、糖鎖のバックボーンがデオキシリボースではなくリボースからなる。
【0131】
用語「サンプル」は、その最も広い意味で用いられている。TRICH、TRICHをコードする核酸、またはその断片を含むと推定されるサンプルは、体液と、細胞や細胞から単離された染色体や細胞内小器官(オルガネラ)または膜からの抽出物と、細胞と、溶液中に存在するまたは基板に固定されたゲノムDNA、RNA、cDNAと、組織と、組織プリント等を含み得る。
【0132】
用語「特異的結合」及び「特異的に結合する」は、タンパク質若しくはペプチドと、アゴニスト、抗体、アンタゴニスト、小分子、若しくは任意の天然若しくは合成の結合組成物との間の相互作用を指す。この相互作用は、タンパク質の特定の構造(例えば抗原決定基即ちエピトープ)であって結合分子が認識するものが存在するか否かに依存している。例えば、抗体がエピトープ「A」に対して特異的である場合、遊離した標識A及びその抗体を含む反応において、エピトープA(つまり遊離した、標識されていないA)を含むポリペプチドの存在が、抗体に結合する標識されたAの量を低減させる。
【0133】
「実質的に精製された」の語は、自然環境から取り除かれ、単離または分離された核酸またはアミノ酸配列であって、自然に会合する他の構成要素の少なくとも約60%、好ましくは少なくとも約75%、最も好ましいのは少なくとも約90%が無いものを指す。
【0134】
「置換」とは、一つ以上のアミノ酸またはヌクレオチドをそれぞれ別のアミノ酸またはヌクレオチドに置き換えることである。
【0135】
用語「基板」は、任意の好適な固体或いは半固体の支持物を指し、膜及びフィルター、チップ、スライド、ウエハ、ファイバー、磁気または非磁気ビーズ、ゲル、チューブ、プレート、ポリマー、微小粒子、毛細管が含まれる。基板は、壁、溝、ピン、チャネル、孔等、様々な表面形態を有することができ、基板表面にはポリヌクレオチドやポリペプチドが結合する。
【0136】
「転写イメージ(transcript image)」または「発現プロファイル(プロフィール)」は、所定条件下での所定時間における特定の細胞の種類または組織による集合的遺伝子発現のパターンを指す。
【0137】
「形質転換(transformation)」とは、外来DNAが受容細胞に導入されるプロセスのことである。形質転換は、本技術分野で知られている種々の方法に従って自然条件または人工条件下で生じ得るものであり、外来性の核酸配列を原核宿主細胞または真核宿主細胞に挿入する任意の既知の方法を基にし得る。形質転換の方法は、形質転換する宿主細胞の種類によって選択する。限定するものではないが形質転換方法には、ウイルス感染、電気穿孔法(エレクトロポレーション)、熱ショック、リポフェクション及び微粒子銃を用いる方法がある。「形質転換された細胞」には、導入されたDNAが自律的に複製するプラスミドとして或いは宿主染色体の一部として複製可能である安定的に形質転換された細胞が含まれる。さらに、限られた時間に一過的に導入DNA若しくは導入RNAを発現する細胞も含まれる。
【0138】
ここで用いる「遺伝形質転換体(transgenic organism)」とは任意の生物であり、限定するものではないが動植物を含み、生物の1個以上の細胞が、ヒトの関与によって、例えば本技術分野でよく知られているトランスジェニック技術によって導入された異種核酸を有する。核酸の細胞への導入は、直接または間接的に、細胞の前駆物質に導入することにより、計画的な遺伝子操作によって、例えば微量注射法によって或いは組換えウイルスの感染によって行う。遺伝子操作の語は、古典的な交雑育種或いは試験管内受精を指すものではなく、組換えDNA分子の導入を指すものである。本発明に基づいて予期される遺伝形質転換体には、バクテリア、シアノバクテリア、真菌及び動植物がある。本発明の単離されたDNAは、本技術分野で知られている方法、例えば感染、形質移入、形質転換またはトランス接合(transconjugation)によって宿主に導入することができる。本発明のDNAをこのような生物体に移入する技術はよく知られており、前出のSambrook 他 (1989) 等の参考文献に記載されている。
【0139】
特定の核酸配列の「変異体」は、核酸配列1本全部の長さに対して特定の核酸配列と少なくとも40%の相同性を有する核酸配列であると定義する。 その際、デフォルトパラメータに設定した「BLAST 2 Sequences」ツールVersion 2.0.9(1999年5月7日)を用いてblastnを実行する。このような核酸対は、所定の長さに対して、例えば少なくとも50%、60%、70%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の相同性を示し得る。或る変異体は、例えば「対立遺伝子」変異体(前述)、「スプライス」変異体、「種」変異体または「多型性」変異体として記載し得る。スプライス変異体は参照分子とかなりの相同性を有し得るが、mRNAプロセッシング中のエキソンの選択的スプライシングによって通常、より多くまたはより少数のヌクレオチドを有することになる。対応するポリペプチドは、追加機能ドメインを有するか或いは参照分子に存在するドメインが欠落していることがある。種変異体は、種によって異なるポリヌクレオチド配列である。結果的に生じるポリペプチドは通常、相互にかなりのアミノ酸相同性を有する。多型性変異体は、所与の種の個体間で特定の遺伝子のポリヌクレオチド配列が異なる。多型変異配列はまた、ポリヌクレオチド配列の1つのヌクレオチドが異なる「1塩基多型性」(SNP)も含み得る。SNPの存在は、例えば特定の個体群、病状または病状性向を示し得る。
【0140】
特定のポリペプチド配列の「変異体」は、ポリペプチド配列の1本の長さ全体で特定のポリペプチド配列に対して少なくとも40%の相同性を有するポリペプチド配列として定義される。定義付けには、デフォルトパラメータに設定した「BLAST 2 Sequences」ツールVersion 2.0.9(1999年5月7日)を用いてblastpを実行する。このようなポリペプチド対は、所定の長さに対して、例えば少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれ以上の配列同一性を示し得る。
(発明)
本発明は、新規のヒト輸送体及びイオンチャネル(TRICH)、並びにTRICHをコードするポリヌクレオチドの発見に基づく。また、これらの組成物を利用した、輸送障害、神経の疾患、筋疾患、免疫疾患、および細胞増殖異常の、診断、治療、及び予防法の発見に基づく。
【0141】
表1は、本発明の完全長ポリヌクレオチド配列及びポリペプチド配列の命名の概略である。各ポリヌクレオチド及びその対応するポリペプチドは、1つのIncyteプロジェクト識別番号(IncyteプロジェクトID)と相関する。各ポリペプチド配列は、ポリペプチド配列識別番号(ポリペプチドSEQ ID NO)とIncyteポリペプチド配列番号(IncyteポリペプチドID)によって表示した。各ポリヌクレオチド配列は、ポリヌクレオチド配列識別番号(ポリヌクレオチドSEQ ID NO)とIncyteポリヌクレオチドコンセンサス配列番号(IncyteポリヌクレオチドID)によって表示した。
【0142】
表2は、GenBankタンパク質(genpept)データベースとPROTEOMEデータベースとに対するBLAST分析で同定した、本発明のポリペプチド群に相同な配列群を示す。列1および列2はそれぞれ、本発明の各ポリペプチドに対するポリペプチド配列識別番号(ポリペプチド SEQ ID NO :)およびそれに対応するIncyte ポリペプチド配列番号(Incyte ポリペプチド ID)を示す。列3は、GenBankの最も近い相同体のGenBank識別番号(Genbank ID NO :)と最も近いPROTEOME データベース相同体のPROTEOME データベース識別番号 (PROTEOME ID NO:) を示す。列4は、各ポリペプチドとその相同体との間の一致を表す確率スコアを示す。列5は、GenBankとPROTEOME データベースの相同体の注釈を示し、更に該当箇所には関連する引用文献も示す。 これらを引用することを以って本明細書の一部とする。
【0143】
表3は、本発明のポリペプチドの様々な構造的特徴を示す。列1および列2はそれぞれ、本発明の各ポリペプチドのポリペプチド配列識別番号(SEQ ID NO :)およびそれに対応するIncyte ポリペプチド配列番号(Incyte ポリペプチド ID)を示す。列3は、各ポリペプチドのアミノ酸残基数を示す。列4および列5はそれぞれ、GCG配列分析ソフトウェアパッケージのMOTIFSプログラム(Genetics Computer Group, Madison WI)によって決定された、リン酸化およびグリコシル化の可能性のある部位を示す。列6は、シグネチャ配列、ドメイン、およびモチーフを含むアミノ酸残基を示す。列7は、タンパク質の構造/機能の分析のための分析方法を示し、該当箇所にはさらに分析方法に利用した検索可能なデータベースを示す。
【0144】
表2及び3は共に、本発明の各々のポリペプチドの特性を要約しており、それら特性が請求の範囲に記載されたポリペプチドが輸送体及びイオンチャネルであることを確立している。例えば、SEQ ID NO:3は、ウサギのアニオン交換体4a (GenBank ID g11611537) と残基M27から残基N989まで、85%の同一性を有することが、Basic Local Alignment Search Tool (BLAST)によって示された(表2参照)。BLAST確率スコアは0.0であるが、これは観測されたポリペプチド配列が偶然に得られる確率を示す。SEQ ID NO:3はまた、HCO3- 輸送体ファミリドメインを有するが、これは、隠れマルコフモデル(HMM)を基にした保存されたタンパク質ファミリードメインのPFAMデータベースにおいて、統計的に有意な一致を検索して決定された(表3参照)。BLIMPS及びPROFILESCAN解析よりのデータは、SEQ ID NO:3がアニオン交換体であることをさらに確証する証拠を提供する。
【0145】
別の例において、SEQ ID NO:6 は、ハムスターのナトリウムイオン依存性回腸胆汁酸輸送体(GenBank ID g455033) と残基S7から残基E350まで、47%の同一性を有することがBasic Local Alignment 検索ツール(BLAST)によって確認された(表2参照)。BLAST確率スコアは3.7e-88であり、これは偶然に観測されたポリペプチド配列を得る確率を示す。SEQ ID NO:6はまた、ナトリウム胆汁酸シンポーターファミリドメインを有するが、これは、隠れマルコフモデル(HMM)を基にした保存されたタンパク質ファミリードメインのPFAMデータベースにおいて、統計的に有意な一致を検索して決定された(表3参照)。PRODOMとDOMOのデータベースを用いた追加BLAST解析よりのデータは、SEQ ID NO:6がナトリウム/胆汁酸シンポーターであることをさらに確証する証拠を提供する。
【0146】
他の例において、SEQ ID NO:9 はマウスの液胞型ATP分解酵素のサブユニットであるAc39/フィゾフィリン(physophilin) (GenBank ID g1226235) に残基E6から残基I349まで、68%の同一性を有することがBasic Local Alignment 検索ツール(BLAST)によって確認された(表2参照)。BLAST確率スコアは3.2e-130であり、これは保存されたポリペプチド配列アラインメントが偶然に得られる確率を示している。SEQ ID NO:9はまた、ATPシンターゼ(C/AC39) サブユニットドメインを有するが、 これは、隠れマルコフモデル(HMM)を基にした保存されたタンパク質ファミリードメインのPFAMデータベースにおいて、統計的に有意な一致を検索して決定された(表3参照)。PRODOMとDOMOのデータベースを用いた追加BLAST解析よりのデータは、SEQ ID NO:9が液胞型ATP分解酵素のサブユニットであることをさらに確証する証拠を提供する。
【0147】
別の例でSEQ ID NO:10 は、ネズミのメラスタチン(GenBank ID g3047272) と残基M154より残基R591まで、83%同一であることがBasic Local Alignment Search Tool (BLAST)で確認された(表2参照)。BLAST確率スコアは8.6e-200であり、これは観測されたポリペプチド配列アラインメントが偶然に得られる確率を示している。SEQ ID NO:10はまた、一過性受容体ドメインを有するが、 これは、隠れマルコフモデル(HMM)を基にした保存されたタンパク質ファミリードメインのPFAMデータベースにおいて、統計的に有意な一致を検索して決定された (表3参照)。BLIMPS解析から得たデータは、SEQ ID NO:10 がカルシウムイオンチャネルであることを更に確証する証拠を提供する(メラスタチンは「カルシウムチャネル」の「一過性受容体」ファミリのメンバーに相同性を持つ)。
【0148】
別の例において、SEQ ID NO:12 はラットの多剤耐性タンパク質MRP5 (GenBank ID g6682827) と残基G761から残基E1326まで、51%の同一性を有することがBasic Local Alignment Search Tool (BLAST)によって決定された(表2参照)。BLAST確率スコアは3.5e-236であり、これは観測されたポリペプチド配列アラインメントが偶然に得られる確率を示している。SEQ ID NO:12はまた、二つのABC輸送体膜貫通領域と二つのABC輸送体ドメインを有するが、 これは、隠れマルコフモデル(HMM)を基にした保存されたタンパク質ファミリードメインのPFAMデータベースにおいて、統計的に有意な一致を検索して決定された(表3を参照)。BLIMPS、MOTIFS、及びPROFILESCAN解析のデータは、SEQ ID NO:12 がABC輸送体である、さらに実証的な証拠を提供する。
【0149】
例えば、SEQ ID NO:18 はラット腎浸透圧ストレス誘発性Na-Cl 有機溶質共輸送体 (GenBank ID g531469) と残基M1から残基D597まで、76%の同一性を有することがBasic Local Alignment Search Tool (BLAST)によって決定された(表2参照)。BLAST確率スコアは1.2e-260であり、これは観察されたポリペプチド配列アラインメントが偶然に得られる確率を示している。SEQ ID NO:18はまた、ナトリウム神経伝達物質シンポーターファミリドメインをも有するが、これは、隠れマルコフモデル(HMM)を基にした保存されたタンパク質ファミリードメインのPFAMデータベースにおいて、統計的に有意な一致を検索して決定された(表3参照)。BLIMPS及びPROFILESCAN解析よりのデータは、SEQ ID NO:18 がナトリウム依存性有機溶質輸送体である、さらに確証的な証拠を提供する。SEQ ID NO:1-2、SEQ ID NO:4-5、SEQ ID NO:7-8、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:13-17およびSEQ ID NO:19-20 は同様にして解析し、注釈付けされた。SEQ ID NO:1-20の解析のためのアルゴリズム及びパラメータを表7に記述する。
【0150】
表4に示すように、本発明の完全長ポリヌクレオチド配列は、cDNA配列、またはゲノムDNA由来のコード(エキソン)配列、或いはこれらの2種類の配列の任意の組み合わせを用いて組み立てた。列1は本発明の各ポリヌクレオチドに対するポリヌクレオチド配列識別番号(ポリヌクレオチドSEQ ID NO)および対応するIncyteポリヌクレオチドコンセンサス配列番号(Incyte ID)、および塩基対の各ポリヌクレオチド配列の長さを示している。列2は、本発明の完全長ポリヌクレオチド配列の構築(アセンブリ)に用いたcDNA配列および/またはゲノム配列の、また、例えば、SEQ ID NO:21-40 を同定する、あるいはSEQ ID NO:21-40 と関連するポリヌクレオチド配列を区別するハイブリダイゼーションまたは増幅技術に有用なポリヌクレオチド配列の断片の、開始ヌクレオチド(5')位置および終了ヌクレオチド(3')位置を示す。
【0151】
表4の列2で記述されたポリヌクレオチド断片は、具体的にはたとえば組織特異的なcDNAライブラリまたはプールされたcDNAライブラリに由来するIncyte cDNAを指す場合がある。或いは列2の識別番号は、完全長ポリヌクレオチド配列のアセンブリに寄与するGenBank cDNAまたはESTを指す場合もある。さらに、列2のポリヌクレオチド断片は、ENSEMBL(The Sanger Centre、英国ケンブリッジ)データベースから由来した配列(即ち「ENST」命名を含む配列)を同定し得る。或いは、列2で記述されたポリヌクレオチド断片は、NCBI RefSeq Nucleotide Sequence Records データベースから由来する場合もあり(即ち「NM」または「NT」の命名を含む配列)、またNCBI RefSeq Protein Sequence Recordsから由来する場合もある(即ち「NP」の命名を含む配列)。または列2で記述されたポリヌクレオチド断片は、「エキソンスティッチング(exon-stitching)」アルゴリズムにより結び合わせたcDNA及びGenscan予想エキソンの両方からなる群を指す場合がある。例えば、FL_XXXXXX_N1_N2_YYYYY_N3_N4として同定されるポリヌクレオチド配列はアルゴリズムが適用される配列のクラスターの識別番号がXXXXXXであり、アルゴリズムにより生成される予測の番号がYYYYY であり、(もし存在すれば)N1,2,3..が解析中に手動で編集された可能性のある特定のエキソンであるような「縫合された」配列である( 実施例5参照 )。または、列2のポリヌクレオチド断片は「エキソンストレッチング(exon-stretching)」アルゴリズムにより結び合わせたエキソンの集合を指す場合もある。例えば、FLXXXXXX_gAAAAA_gBBBBB_1_N として同定されるポリヌクレオチド配列は「ストレッチ」配列である。ここでXXXXXXはIncyteプロジェクト識別番号、gAAAAAは「エキソンストレッチング」アルゴリズムを適用したヒトゲノム配列のGenBank識別番号、gBBBBBは一番近いGenBankタンパク質相同体のGenBank識別番号またはNCBI RefSeq 識別番号である。(実施例5を参照。)RefSeq 配列が「エキソンストレッチング」アルゴリズムのタンパク質相同体として使われた場合は、RefSeq 識別子(「NM 」、「NP」または「 NT」と表示した)がGenBank 識別子(すなわち、gBBBBB)の代わりに使われる場合もある。
【0152】
あるいは、接頭コードは手動で編集されたか、ゲノムDNA配列から予測されたか、または配列解析方法の組み合わせから由来している構成配列を識別する。次の表は構成配列の接頭コードと、接頭コードに対応する配列分析方法の例を列記する(実施例4と5を参照)。
【0153】
場合によっては、最終コンセンサスポリヌクレオチド配列を確認するために表4に示すような配列の適用範囲と重複するIncyte cDNAの適用範囲が得られたが、それに関連するIncyte cDNA識別番号は示さなかった。
【0154】
表5はIncyte cDNA配列を用いて構築された完全長ポリヌクレオチド配列のための代表的なcDNAライブラリを示している。代表的なcDNAライブラリは、上記のポリヌクレオチド配列を構築及び確認するために用いられるIncyte cDNA配列によって最も頻繁に代表されるIncyte cDNAライブラリである。cDNAライブラリを作製するために用いた組織及びベクターを表5に示し、表6で説明している。
【0155】
本発明はまた、TRICHの変異体も含む。好適なTRICH変異体は、TRICHの機能的或いは構造的特徴の少なくともどちらか一方を有し、かつ該TRICHアミノ酸配列に対して少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性、或いは少なくとも約90%のアミノ酸配列同一性、更には少なくとも約95%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0156】
本発明はまた、TRICHをコードするポリヌクレオチドを提供する。特定の実施例において、本発明は、TRICHをコードするSEQ ID NO:21-40からなる一群から選択された配列を含むポリヌクレオチド配列を提供する。SEQ ID NO:21-40のポリヌクレオチド配列には、配列表に示したように等価RNA配列をも含むが、そこでは窒素塩基チミンの出現はウラシルに置換され、糖のバックボーンはデオキシリボースではなくリボースで構成される。
【0157】
本発明はまた、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列の変異配列を含む。詳細には、このようなポリヌクレオチド配列の変異配列は、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列と少なくとも70%のポリヌクレオチド配列同一性、或いは少なくとも85%のポリヌクレオチド配列同一性、更には少なくとも95%ものポリヌクレオチド配列同一性を有することとなる。本発明の特定の実施形態は、SEQ ID NO:21-40からなる一群から選択された核酸配列と少なくとも約70%のポリヌクレオチド配列同一性、或いは少なくとも約85%のポリヌクレオチド配列同一性、更には少なくとも約95%ものポリヌクレオチド配列同一性を有するSEQ ID NO:21-40からなる一群から選択された配列を含むポリヌクレオチド配列の変異配列を提供する。 上記したポリヌクレオチド変異配列は何れも、TRICHの機能的或いは構造的特徴の少なくとも1つを有するアミノ酸配列をコードしうる。
【0158】
さらに、あるいは別法において、本発明のポリヌクレオチド変異体はTRICHをコードするポリヌクレオチド配列のスプライス変異体である。スプライス変異体はTRICHをコードするポリヌクレオチド配列との有意の配列同一性を持つ部分複数を有し得るが、mRNAプロセッシング中のエキソン群の選択的スプライシングによる、配列ブロック群の付加または欠失により、通常、より多くまたはより少数のポリヌクレオチドを有することになる。スプライス変異体はその全長について、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列とのポリヌクレオチド配列同一性が約70%未満、あるいは約60%、あるいは約50%未満でありえるが、そのスプライス変異体のいくつかの部分は、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列の各部分とのポリヌクレオチド配列同一性が少なくとも約70%、あるいは少なくとも約85%、あるいは少なくとも95%、あるいは100%になる。例えば、SEQ ID:40の配列を含むポリヌクレオチドはSEQ ID:29の配列を含むポリヌクレオチドのスプライス変異体である。前記のスプライス変異体のいずれもが、TRICHの少なくとも一つの機能的特徴か、または構造的特徴を含むアミノ酸配列をコードできる。
【0159】
遺伝暗号の縮重により、TRICHをコードする種々のポリヌクレオチド配列が作り出され得、中には、いかなる既知の自然発生する遺伝子のポリヌクレオチド配列とも最小の類似性しか有しないものも含まれることを、当業者は理解するであろう。したがって本発明は、可能コドン選択に基づく組合せの選択によって産出し得るようなありとあらゆる可能性のあるポリヌクレオチド配列変異体を網羅し得る。これらの組み合わせは、天然TRICHのポリヌクレオチド配列に適用される標準的なトリプレット遺伝暗号を基に作られる。また、こうした全ての変異が明確に開示されていると考慮されたい。
【0160】
TRICHとその変異配列とをコードするヌクレオチド配列は一般に、好適に選択されたストリンジェントな条件下で、天然TRICHのヌクレオチド配列とハイブリダイズ可能であるが、非天然コドンを含めるなどの実質的に異なったコドン使用を有する、TRICH或いはその誘導体をコードするヌクレオチド配列を作ることは有益であり得る。宿主が特定のコドンを利用する頻度に基づいて、特定の真核又は原核宿主に発生するペプチドの発現率を高めるようにコドンを選択することが可能である。コードされるアミノ酸配列を改変せずに、TRICH及びその誘導体をコードするヌクレオチド配列を実質的に改変する別の理由には、天然の配列から作られる転写物より例えば長い半減期など好ましい特性を備えるRNA転写物を作ることもある。
【0161】
本発明はまた、TRICH及びその誘導体をコードするDNA配列またはそれらの断片を完全に合成化学によって作り出すことも含む。作製後にこの合成配列を、当分野で良く知られた試薬を用いて、種々の入手可能な発現ベクター及び細胞系の何れの中にも挿入可能である。 更に、合成化学を用いて、TRICHまたはその任意の断片をコードする配列の中に突然変異を導入することも可能である。
【0162】
更に本発明には、種々のストリンジェンシー条件下で、請求項に記載されたポリヌクレオチド配列、特に、SEQ ID NO:21-40 及びそれらの断片とハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド配列が含まれる(例えば、Wahl, G.M.及びS.L. Berger (1987) Methods Enzymol.152:399-407、Kimmel, A.R. (1987) Methods Enzymol. 152:507-511等を参照)。アニーリング及び洗浄条件を含むハイブリダイゼーションの条件は、「定義」に記載されている。
【0163】
DNAシークエンシングの方法は当分野では公知であり、本発明のいずれの実施例もDNAシークエンシング方法を用いて実施可能である。DNAシークエンシング方法には酵素を用いることができ、例えばDNAポリメラーゼ1のクレノウ断片、SEQUENASE(US Biochemical, Cleveland OH)、Taqポリメラーゼ(Applied Biosystems)、熱安定性T7ポリメラーゼ(Amersham, Pharmacia Biotech, Piscataway NJ)を用いることができる。或いは、例えばELONGASE増幅システム(Life Technologies, Gaithersburg MD)において見られるように、ポリメラーゼと校正エキソヌクレアーゼを併用することができる。好適には、MICROLAB2200液体転移システム(Hamilton, Reno, NV)、PTC200サーマルサイクラー(MJ Research, Watertown MA)及びABI CATALYST 800サーマルサイクラー(Applied Biosystems)等の装置を用いて配列の準備を自動化する。次に、ABI 373 或いは 377 DNAシークエンシングシステム(Applied Biosystems)、MEGABACE 1000 DNAシークエンシングシステム(Molecular Dynamics, Sunnyvale CA)または当分野で既知の他の方法を用いてシークエンシングを行う。 結果として得られた配列を当分野でよく知られている種々のアルゴリズムを用いて分析する。 (Ausubel, F.M. (1997) Short Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York NY, unit 7.7、Meyers, R.A. (1995) Molecular Biology and Biotechnology, Wiley VCH, New York NY, 856-853ページ等を参照)。
【0164】
当分野で周知の、PCR法をベースにした種々の方法で、部分的なヌクレオチド配列を利用して、TRICHをコードする核酸配列を伸長し、プロモーターや調節エレメントなど、上流にある配列を検出しうる。例えば、使用し得る方法の1つである制限部位PCR法は、ユニバーサルプライマー及びネステッドプライマーを用いてクローニングベクター内のゲノムDNAから未知の配列を増幅する方法である(例えば、 Sarkar, G. (1993) PCR Methods Applic. 2:318322を参照。)別の方法に逆PCR法があり、これは広範な方向に伸長させたプライマーを用いて環状化した鋳型から未知の配列を増幅する方法である。鋳型は、既知のゲノム遺伝子座及びその周辺の配列を含む制限酵素断片から得る(例えば、Triglia, T. 他 (1988) Nucleic Acids Res. 16:8186)。第3の方法としてキャプチャPCR法があり、これはヒト及び酵母菌人工染色体DNAの既知の配列に隣接するDNA断片をPCR増幅する方法に関与している(Lagerstrom, M.他(1991) PCR Methods Applic 1:111-119等を参照)。この方法では、PCRを行う前に複数の制限酵素の消化及びライゲーション反応を用いて未知の配列領域内に組換え二本鎖配列を挿入することが可能である。また、未知の配列を検索するために用い得る別の方法については当分野で知られている(Parker, J.D.他 (1991) Nucleic Acids Res. 19:3055-3060等を参照)。更に、PCR、ネステッドプライマー及びPromoterFinderライブラリ(Clontech, Palo Alto CA)を用いてゲノムDNAをウォーキングすることができる。この手順は、ライブラリをスクリーニングする必要がなく、イントロン/エキソン接合部を見付けるのに有用である。全てのPCRベースの方法では、市販されているソフトウェア、例えばOLIGO 4.06プライマー分析ソフトウェア(National Biosciences, Plymouth MN)或いは別の好適なプログラムを用いて、長さが約22〜30ヌクレオチド、GC含有率が約50%以上、温度約68℃〜72℃で鋳型に対してアニーリングするようにプライマーを設計し得る。
【0165】
完全長cDNAをスクリーニングする際は、より大きなcDNAを含むようにサイズ選択されたライブラリを用いるのが好ましい。更に、ランダムプライマーのライブラリは、しばしば遺伝子の5'領域を有する配列を含み、オリゴd(T)ライブラリが完全長cDNAを作製できない状況に対して好適である。ゲノムライブラリは、5'非転写調節領域への配列の伸長に有用であろう。
【0166】
市販のキャピラリー電気泳動システムを用いて、シークエンシングまたはPCR産物のサイズを分析し、またはそのヌクレオチド配列を確認することができる。具体的には、キャピラリーシークエンシングは、電気泳動による分離のための流動性ポリマーと、4つの異なるヌクレオチドに特異的であるような、レーザで活性化される蛍光色素と、発光された波長の検出に利用するCCDカメラとを有し得る。出力/光の強度は、適切なソフトウェア(Applied Biosystems社のGENOTYPER、SEQUENCE NAVIGATOR等)を用いて電気信号に変換し得る。サンプルのロードからコンピュータ分析及び電子データ表示までの全プロセスがコンピュータ制御可能である。キャピラリー電気泳動法は、特定のサンプルに少量しか存在しないようなDNA小断片のシークエンシングに特に適している。
【0167】
本発明の別の実施例では、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列またはその断片を組換えDNA分子にクローニングして、適切な宿主細胞内にTRICH、その断片または機能的等価物を発現させることが可能である。遺伝暗号固有の縮重により、実質的に同じ或いは機能的に等価のアミノ酸配列をコードする別のDNA配列が作られ得、これらの配列をTRICHの発現に利用可能である。
【0168】
種々の目的で、TRICHをコードする配列を改変するために、当分野で一般的に知られている方法を用いて、本発明のヌクレオチド配列を組換えることができる。 この目的には、遺伝子産物のクローン化、プロセッシング及び/または発現の調節(modification)が含まれるが、これらに限定されるものではない。遺伝子断片及び合成オリゴヌクレオチドのランダムなフラグメンテーション及びPCR再アセンブリによるDNAシャッフリングを用い、ヌクレオチド配列を組み換えることが可能である。例えば、オリゴヌクレオチドを介した部位特異的変異誘導を利用して、新規な制限部位の作製、グリコシル化パターンの変更、コドン優先の変更、スプライス変異体の生成等を起こす突然変異を導入し得る。
【0169】
本発明のヌクレオチドを、MOLECULARBREEDING (Maxygen Inc., Santa Clara CA; 米国特許第5,837,458号; Chang, C.-C. 他 (1999) Nat. Biotechnol. 17:793-797; Christians, F.C. 他 (1999) Nat. Biotechnol. 17:259-264; Crameri, A. 他 (1996) Nat. Biotechnol. 14:315-319)などのDNAシャフリング技術を用いてシャフリングして、TRICHの生物学的または酵素的な活性、或いは他の分子や化合物と結合する能力などのTRICHの生物学的特性を変更或いは改良することができる。DNAシャッフリングは、遺伝子断片のPCRを介する組換えを用いて遺伝子変異体のライブラリを作製するプロセスである。ライブラリはその後、その遺伝子変異体を所望の特性に同定するような選択またはスクリーニングにかける。次にこれらの好適な変異体をプールし、更に反復してDNAシャッフリング及び選択/スクリーニングを行ってもよい。従って、「人工的な」育種及び急速な分子の進化によって多様な遺伝子が作られる。例えば、ランダムポイント突然変異を有する単一の遺伝子の断片を組み換えて、スクリーニングし、その後所望の特性が最適化されるまでシャッフリングすることができる。或いは、所定の遺伝子を同種または異種のいずれかから得た同一遺伝子ファミリーの相同遺伝子と組み換え、それによって天然に存在する複数の遺伝子の遺伝多様性を、定方向の制御可能な方法で最大化させることができる。
【0170】
別の実施例によれば、TRICHをコードする配列は、当分野で周知の化学的方法を用いて、全体或いは一部が合成可能である(例えば、Caruthers. M.H.ら(1980)Nucl. Acids Res. Symp. Ser 7:215-223; 及びHorn, T.他(1980)Nucl. Acids Res. Symp. Ser.225-232を参照)。別法として、化学的方法を用いてTRICH自体またはその断片を合成することが可能である。例えば、種々の液相または固相技術を用いてペプチド合成を行うことができる(Creighton, T. (1984) Proteins, Structures and Molecular Properties, WH Freeman, New York NY, 55-60ページ、Roberge, J.Y.他 (1995) Science 269:202-204等を参照)。自動合成はABI 431Aペプチドシンセサイザ(Applied Biosystems)を用いて達成し得る。更にTRICHのアミノ酸配列または任意のその一部を用い、直接合成の際の改変により、及び/または化学的方法を用いた他のタンパク質からの配列または任意のその一部との組み合わせにより、天然ポリペプチドの配列を有するポリペプチドまたは変異体ポリペプチドを作製することが可能である。
【0171】
このペプチドは、分取用高速液体クロマトグラフィーを用いて実質的に精製し得る(Chiez, R.M.およびF.Z. Regnier (1990) Methods Enzymol. 182:392-421などを参照)。この合成ペプチドの組成は、アミノ酸分析またはシークエンシングによって確認できる(前出のCreighton, 28-53ページ等を参照)。
【0172】
生物学的に活性なTRICHを発現させるために、TRICHをコードするヌクレオチド配列またはその誘導体を好適な発現ベクターに挿入する。 この発現ベクターは、好適な宿主に挿入されたコーディング配列の転写及び翻訳の調節に必要なエレメントを含む。これらのエレメントには、ベクター及びTRICHをコードするポリヌクレオチド配列における、エンハンサー、構成型及び発現誘導型のプロモーター、5'及び3'の非翻訳領域などの調節配列が含まれる。このようなエレメントは、強度及び特異性が様々である。特定の開始シグナルによって、TRICHをコードする配列のより効果的な翻訳を達成することが可能である。このようなシグナルには、ATG開始コドンと、コザック配列などの近傍の配列が含まれる。TRICHをコードする配列及びその開始コドン、上流の調節配列が好適な発現ベクターに挿入された場合は、更なる転写調節シグナルや翻訳調節シグナルは必要ないこともある。しかしながら、コーディング配列或いはその断片のみが挿入された場合は、インフレームのATG開始コドンを含む外来性の翻訳調節シグナルが発現ベクターに含まれるようにすべきである。外来性の翻訳エレメント及び開始コドンは、様々な天然物及び合成物を起源とし得る。用いられる特定の宿主細胞系に好適なエンハンサーを含めることで発現の効率を高めることが可能である(例えば、Scharf, D. 他 (1994) Results Probl. Cell Differ. 20:125-162.を参照)。
【0173】
当業者に周知の方法を用いて、TRICHをコードする配列、好適な転写及び翻訳調節エレメントを含む発現ベクターを作製することが可能である。これらの方法には、in vitro組換えDNA技術、合成技術、及びin vivo遺伝子組換え技術が含まれる(例えば、 Sambrook, J. 他. (1989) Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Plainview NY, 4章及び8章, および16-17章; およびAusubel, F.M. 他. (1995) Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York NY, ch. 9章、13章および16章を参照)。
【0174】
種々の発現ベクター/宿主系を利用して、TRICHをコードする配列の保持及び発現が可能である。限定するものではないがこのような発現ベクター/宿主系には、組換えバクテリオファージ、プラスミドまたはコスミドDNA発現ベクターで形質転換させた細菌等や、酵母菌発現ベクターで形質転換させた酵母菌などの微生物や、ウイルス発現ベクター(例えばバキュロウイルス)に感染した昆虫細胞系や、ウイルス発現ベクター(例えばカリフラワーモザイクウイルス:CaMVまたはタバコモザイクウイルス:TMV)または細菌発現ベクター(例えばTiまたはpBR322プラスミド)で形質転換させた植物細胞系、動物細胞系がある。(前出のSambrook、前出のAusubel、Van Heeke, G. および S.M. Schuster (1989) J. Biol. Chem. 264:5503-5509、; Engelhard、E.K. ら (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:3224-3227、Sandig, V. ら (1996) Hum. Gene Ther. 7:1937-1945、Takamatsu, N. (1987) EMBO J. 6:307-311、;『マグローヒル科学技術年鑑』(The McGraw Hill Yearbook of Science and Technology) (1992) McGraw Hill New York NY, 191-196ページ、Logan, J. および T. Shenk (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3655-3659、Harrington, J.J. ら (1997) Nat. Genet. 15:345-355等を参照)レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルスまたはワクシニアウイルス由来の発現ベクター、または種々の細菌性プラスミド由来の発現ベクターを用いて、ヌクレオチド配列を標的器官、組織または細胞集団へ送達することができる(Di Nicola, M. 他 (1998) Cancer Gen. Ther. 5(6):350-356、Yu, M. 他 (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90(13):6340-6344、Buller, R.M. 他 (1985) Nature 317(6040):813-815; McGregor, D.P. 他 (1994) Mol. Immunol. 31(3):219-226、Verma, I.M. 及び N. Somia (1997) Nature 389:239-242等を参照)。本発明は使用される宿主細胞によって限定されるものではない。
【0175】
細菌系では、多数のクローニングベクター及び発現ベクターが、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列の使用目的に応じて選択可能である。例えば、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列の日常的なクローニング、サブクローニング、増殖には、PBLUESCRIPT (Stratagene, La Jolla CA)またはpSPORT1プラスミド(Life Technologies)などの多機能の大腸菌ベクターを用いることができる。ベクターのマルチクローニング部位にTRICHをコードする配列をライゲーションするとlacZ遺伝子が破壊され、組換え分子を含む形質転換された細菌の同定のための比色スクリーニング法が可能となる。更にこれらのベクターは、クローニングされた配列におけるin vitro転写、ジデオキシのシークエンシング、ヘルパーファージによる一本鎖のレスキュー、入れ子欠失の生成にも有用であろう(例えば、Van Heeke, G. および S.M. Schuster (1989) J. Biol. Chem. 264:5503-5509を参照)。例えば、抗体の産生のためなどに多量のTRICHが必要な場合は、TRICHの高レベル発現を誘導するベクターが使用できる。例えば、強力な誘導SP6バクテリオファージプロモーターまたは誘導T7バクテリオファージプロモーターを含むベクターが使用できる。
【0176】
TRICHの産生には酵母発現系の使用が可能である。α因子、アルコールオキシダーゼ、PGHプロモーター等の構成型或いは誘導型のプロモーターを含む多数のベクターが、出芽酵母菌(Saccharomyces cerevisiae ) またはピキア酵母(Pichia pastoris )に使用可能である。更に、このようなベクターは、発現したタンパク質の分泌か細胞内への保持のどちらかを誘導し、安定した増殖のために宿主ゲノムの中に外来配列を組み込む。(例えば、Ausubel, 1995,前出、Bitter, G.A. 他 (1987) Methods Enzymol.153:516-544、及びScorer. C. A. 他 (1994) Bio/Technology 12:181-184を参照)。
【0177】
植物系もTRICHの発現に使用可能である。TRICHをコードする配列の転写は、ウイルスプロモーター、例えば単独或いはTMV(Takamatsu, N. (1987) EMBO J 6:307-311)由来のオメガリーダー配列と組み合わせて用いられるようなCaMV由来の35S及び19Sプロモーターによって促進される。或いは、RUBISCOの小サブユニット等の植物プロモーターまたは熱ショックプロモーターを用いてもよい(例えば、Coruzzi, G. 他 (1984) EMBO J. 3:1671-1680 ; Broglie, R. 他 (1984) Science 224:838-843 ; および Winter, J. 他 (1991) Results Probl. Cell Differ. 17:85-105を参照)これらの作製物は、直接DNA形質転換にまたは病原体を媒介とする形質移入によって、植物細胞内に導入可能である。(『マグローヒル科学技術年鑑』(The McGraw Hill Yearbook of Science and Technology) (1992) McGraw Hill New York NY,191-196ページ等を参照)。
【0178】
哺乳動物細胞においては、多数のウイルスベースの発現系を利用し得る。アデノウイルスが発現ベクターとして用いられる場合、後期プロモーター及び3連リーダー配列からなるアデノウイルス転写/翻訳複合体に、TRICHをコードする配列を結合し得る。ウイルスゲノムの可欠E1またはE3領域へ挿入することにより、宿主細胞でTRICHを発現する感染ウイルスを得ることが可能である。(例えば、Logan, J. および T. Shenk (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3655-3659を参照)。更に、ラウス肉腫ウイルス(RSV)エンハンサー等の転写エンハンサーを用いて、哺乳動物宿主細胞における発現を増大させ得る。SV40またはEBVをベースにしたベクターを用いてタンパク質を高レベルで発現させることもできる。
【0179】
ヒト人工染色体(HAC)を用いて、プラスミドに含まれ且つプラスミドから発現するものより大きなDNAの断片を送達することもできる。治療のために約6kb〜10MbのHACを作製し、従来の輸送方法(リポソーム、ポリカチオンアミノポリマー、またはベシクル)で供給する。(例えば、Harrington. J.J. 他 (1997) Nat Genet.15:345-355を参照)。
【0180】
哺乳動物系での組換えタンパク質の長期にわたる産生のためには、株化細胞におけるTRICHの安定した発現が望ましい。例えば、TRICHをコードする配列を株化細胞に形質転換するために、発現ベクターと、同じ或いは別のベクターの上の選択可能マーカー遺伝子を用いることが可能である。このような発現ベクターは、ウイルス起源の複製要素及び/または内因性の発現要素を持ちうる。ベクターの導入後、選択培地に移す前に強化培地で約1〜2日間細胞を増殖させることができる。選択可能マーカーの目的は選択培地への抵抗性を与えることであり、選択可能マーカーが存在することにより、導入された配列をうまく発現するような細胞の成長及び回収が可能となる。安定的に形質転換された細胞の耐性クローンは、その細胞型に適した組織培養技術を用いて増殖可能である。
【0181】
任意の数の選択系を用いて、形質転換細胞株を回収できる。限定するものではないがこのような選択系には、tk−細胞のために用いられる単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子と、apr−細胞のために用いられる単純ヘルペスウイルスのアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子がある(例えば、Wigler, M. 他 (1977) Cell 11:223-232; 及びLowy, I. 他(1980) Cell 22:817-823を参照)。また、選択の基礎として代謝拮抗物質、抗生物質或いは除草剤への耐性を用いることができる。例えばdhfrはメトトレキセートに対する耐性を与え、neoはアミノグリコシッドネオマイシン及びG-418に対する耐性を与え、alsはクロルスルフロンに対する耐性を、patはホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼに対する耐性を各々与える( Wigler, M. 他(1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:3567-3570; Colbere-Garapin, F. 他(1981) J. Mol. Biol. 150:1-14 等を参照。)この他の選択可能な遺伝子、例えば、代謝のための細胞の必要条件を変えるtrpB及びhisDは、文献に記載されている(例えば、 Hartman, S.C. 及びR.C. Mulligan (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:8047-8051参照。)可視マーカー、例えばアントシアニン、緑色蛍光タンパク質(GFP;Clontech)、βグルクロニダーゼ及びその基質βグルクロニド、またはルシフェラーゼ及びその基質ルシフェリン等を用いてもよい。これらのマーカーを用いて、トランスフォーマントを特定するだけでなく、特定のベクター系に起因する一過性或いは安定したタンパク質発現を定量することが可能である(Rhodes, C.A. (1995) Methods Mol. Biol. 55:121-131等を参照)。
【0182】
マーカー遺伝子発現の存在/不存在によって目的の遺伝子の存在が示唆されても、その遺伝子の存在及び発現の確認が必要な場合もある。例えば、TRICHをコードする配列がマーカー遺伝子配列の中に挿入された場合、TRICHをコードする配列を含む形質転換された細胞は、マーカー遺伝子機能の欠落により同定可能である。または、1つのプロモーターの制御下で、マーカー遺伝子を、TRICHをコードする配列とタンデムに配置することも可能である。誘導または選択に応答したマーカー遺伝子の発現は通常、タンデム遺伝子の発現も示す。
【0183】
一般に、TRICHをコードする核酸配列を含み、TRICHを発現する宿主細胞は、当業者に周知の種々の方法を用いて特定することが可能である。 これらの方法には、DNA−DNA或いはDNA−RNAハイブリダイゼーションや、PCR増幅が含まれ、また、核酸配列或いはタンパク質配列の検出及び/または数量化のための膜系、溶液ベース、或いはチップベースの技術を含むタンパク質生物学的試験法または免疫学的アッセイが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0184】
特異的なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のどちらかを用いるTRICHの発現の検出及び計測のための免疫学的な方法は、当分野で既知である。 このような技法には、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光標示式細胞分取(FACS)などがある。TRICH上の2つの非干渉エピトープに反応するモノクローナル抗体を用いた、2部位のモノクローナルベースイムノアッセイ(two-site, monoclonal-based immunoassay)が好ましいが、競合結合アッセイを用いることもできる。これらのアッセイ及びこれ以外のアッセイは、当分野で公知である(Hampton. R. 他 (1990) Serological Methods, a Laboratory Manual. APS Press. St Paul. MN, Sect. IV、Coligan, J. E. 他 (1997) Current Protocols in Immunology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience, New York NY、Pound, J.D. (1998) Immunochemical Protocols, Humans Press, Totowa NJ等を参照)。
【0185】
多岐にわたる標識方法及び抱合方法が、当業者に知られており、様々な核酸アッセイおよびアミノ酸アッセイにこれらの方法を用い得る。TRICHをコードするポリヌクレオチドに関連する配列を検出するための、標識されたハイブリダイゼーションプローブ或いはPCRプローブを生成する方法には、オリゴ標識化、ニックトランスレーション、エンドラベリング(末端標識化)、または標識されたヌクレオチドを用いるPCR増幅が含まれる。別法として、TRICHをコードする配列、またはその任意の断片をmRNAプローブを生成するためのベクターにクローニングすることも可能である。このようなベクターは、当分野において知られており、市販もされており、T7、T3またはSP6等の好適なRNAポリメラーゼ及び標識されたヌクレオチドを加えて、in vitroでRNAプローブの合成に用いることができる。このような方法は、例えばAmersham Pharmacia Biotech、Promega(Madison WI)、U.S. Biochemical等から市販されている種々のキットを用いて実行することができる。検出を容易にするために用い得る好適なレポーター分子或いは標識には、基質、補助因子、インヒビター、磁気粒子のほか、放射性核種、酵素、蛍光剤、化学発光剤、発色剤等がある。
【0186】
TRICHをコードするヌクレオチド配列で形質転換された宿主細胞は、細胞培地でのこのタンパク質の発現及び回収に好適な条件下で培養される。形質転換細胞から製造されたタンパク質が分泌されるか細胞内に留まるかは、使用される配列、ベクター、或いはその両者に依存する。TRICHをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、原核細胞膜及び真核細胞膜を透過するTRICH分泌を指示するシグナル配列を含むように設計できることは、当業者には理解されよう。
【0187】
更に、宿主細胞株の選択は、挿入した配列の発現を調節する能力または発現したタンパク質を所望の形に処理する能力によって行い得る。限定するものではないがこのようなポリペプチドの修飾には、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質化及びアシル化がある。タンパク質の「プレプロ」または「プロ」形を切断する翻訳後のプロセシングを利用して、タンパク質の標的への誘導、折りたたみ及び/または活性を特定することが可能である。翻訳後の活性のための特異的な細胞装置及び特徴のある機構を有する種々の宿主細胞(例えばCHO、HeLa、MDCK、MEK293、WI38等)は、American Type Culture Collection(ATCC, Manassas, VA)から入手可能であり、外来タンパク質の正しい修飾及びプロセッシングを確実にするように選択し得る。
【0188】
本発明の別の実施例では、TRICHをコードする自然或いは修飾された、または組換えの核酸配列を異種配列に結合させることにより、上記した任意の宿主系で融合タンパク質の翻訳を生じうる。例えば、市販の抗体によって認識できる異種部分を含むキメラTRICHタンパク質が、TRICH活性のインヒビターに対するペプチドライブラリのスクリーニングを促進し得る。また、異種タンパク質部分及び異種ペプチド部分も、市販されている親和性基質を用いて融合タンパク質の精製を促進し得る。限定されるものではないがこのような部分には、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、チオレドキシン(Trx)、カルモジュリン結合ペプチド(CBP)、6-His、FLAG、c-myc、赤血球凝集素(HA)がある。GSTは固定化グルタチオン上で、MBPはマルトース上で、Trxはフェニルアルシンオキシド上で、CBPはカルモジュリン上で、そして6-Hisは金属キレート樹脂上で、同族の融合タンパク質の精製を可能にする。FLAG、c-myc及び赤血球凝集素(HA)は、これらのエピトープ標識を特異的に認識する市販されているモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を用いて、融合タンパク質の免疫親和性精製を可能にする。また、TRICHをコードする配列と異種タンパク質配列との間にタンパク質分解切断部位を融合タンパク質が含むように遺伝子操作すると、TRICHが精製の後に異種部分から切断され得る。融合タンパク質の発現及び精製方法は、前出のAusubel (1995) 10章に記載されている。市販されている種々のキットを用いて融合タンパク質の発現及び精製を促進することもできる。
【0189】
本発明の別の実施例では、TNTウサギ網状赤血球可溶化液またはコムギ胚芽抽出系(Promega)を用いてin vitroで、放射能標識したTRICHの合成が可能である。これらの系は、T7、T3またはSP6プロモーターと機能的に連結したタンパク質コード配列の、転写及び翻訳をカップルさせる。翻訳は、例えば35Sメチオニンのような放射能標識したアミノ酸前駆体の存在下で起こる。
【0190】
本発明のTRICHまたはその断片を用いて、TRICHに特異結合する化合物をスクリーニングすることができる。少なくとも1つまたは複数の試験化合物を用いて、TRICHへの特異的な結合をスクリーニングすることが可能である。試験化合物の例には、抗体、オリゴヌクレオチド、タンパク質(例えば受容体)または小分子が挙げられる。
【0191】
一実施例では、このように同定された化合物はTRICHの天然リガンドに密接に関連し、例えばリガンドやその断片であり、または天然基質、構造的または機能的な擬態物質、または自然結合パートナーである(Coligan, J.E. 他 (1991) Current Protocols in Immunology 1(2)の5章等を参照)。同様に、この化合物は、TRICHが結合する天然受容体に、或いは例えばリガンド結合部位などの少なくともこの受容体のある断片に密接に関連し得る。何れの場合も、既知の技術を用いてこの化合物を合理的に設計することができる。一実施例では、このような化合物に対するスクリーニングには、分泌タンパク質或いは細胞膜上のタンパク質の何れか一方としてTRICHを発現する好適な細胞の作製が含まれる。好適な細胞には、哺乳動物、酵母、ショウジョウバエ、または大腸菌からの細胞が含まれる。TRICHを発現する細胞またはTRICHを含有する細胞膜分画を試験化合物と接触させて、TRICHまたは化合物の何れかの結合、刺激または活性の阻害を分析する。
【0192】
あるアッセイは、単に試験化合物をポリペプチドに実験的に結合させ、フルオロフォア、放射性同位体、酵素抱合体またはその他の検出可能な標識によりその結合を検出することができる。例えば、このアッセイは、少なくとも1つの試験化合物を、溶液中の或いは固体支持物に固定されたTRICHと混合するステップと、TRICHとこの化合物との結合を検出するステップを含み得る。別法では、標識された競合物の存在下での試験化合物の結合の検出及び測定を行うことができる。更にこのアッセイでは、無細胞再構成標本、化学ライブラリまたは天然の生成混合物を用いて実施することができ、試験化合物は、溶液中で遊離させるか固体支持体に固定させる。
【0193】
本発明のTRICHまたはその断片を用いて、TRICHの活性を調節する化合物をスクリーニングすることが可能である。このような化合物には、アゴニスト、アンタゴニスト、部分的アゴニスト、または逆アゴニスト等が含まれる。一実施例では、TRICHの活性が許容される条件下でアッセイを実施し、そのアッセイでは少なくとも1つの試験化合物をTRICHと混合し、試験化合物の存在下でのTRICHの活性を試験化合物不在下でのTRICHの活性と比較する。試験化合物の存在下でのTRICHの活性の変化は、TRICHの活性を調節する化合物の存在を示唆する。別法では、試験化合物をTRICHの活性に適した条件下でTRICHを含むin vitroすなわち無細胞系と混合してアッセイを実施する。これらアッセイの何れかにおいて、TRICHの活性を調節する試験化合物は間接的に結合する場合があり、その際は試験化合物と直接接触する必要がない。少なくとも1つ、または複数の試験化合物をスクリーニングすることができる。
【0194】
別の実施例では、胚性幹細胞(ES細胞)における相同組換えを用いて動物モデル系内で、TRICHまたはその哺乳動物相同体をコードするポリヌクレオチドを「ノックアウト」する。このような技術は当技術分野において周知であり、ヒト疾患動物モデルの産生に有用である(米国特許第5,175,383号及び第5,767,337号等を参照)。例えば129/SvJ細胞株等のマウスES細胞は初期のマウス胚に由来し、培地で増殖させることができる。このES細胞は、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(neo: Capecchi, M.R. (1989) Science 244:1288-1292)等のマーカー遺伝子で破壊された目的の遺伝子を含むベクターで形質転換する。このベクターは、相同組換えにより宿主ゲノムの対応する領域に組み込まれる。別法では、Cre-loxP系を用いて相同組換えを行い、組織特異的または発生段階特異的に目的遺伝子をノックアウトする(Marth, J.D. (1996) Clin. Invest. 97:1999-2002; Wagner, K.U. 他 (1997) Nucleic Acids Res. 25:4323-4330)。形質転換したES細胞を同定し、例えばC57BL/6マウス系等から採取したマウス細胞胚盤胞に微量注入する。胚盤胞を偽妊娠メスに外科的に導入し、得られるキメラ子孫の遺伝形質を決め、これを交配させてヘテロ接合性系またはホモ接合性系を作製する。このようにして作製した遺伝子組換え動物は、可能性のある治療薬や毒性薬剤で検査することができる。TRICHをコードするポリヌクレオチドをin vitroでヒト胚盤胞由来のES細胞において操作することが可能である。ヒトES細胞は、内胚葉、中胚葉及び外胚葉の細胞の種類を含む少なくとも8つの別々の細胞系統に分化する可能性を有する。これらの細胞系統は、例えば神経細胞、造血系統及び心筋細胞に分化する(Thomson, J.A. 他 (1998) Science 282:1145-1147)。
【0195】
TRICHをコードするポリヌクレオチドを用いて、ヒト疾患をモデルとした「ノックイン」ヒト化動物(ブタ)または遺伝子組換え動物(マウスまたはラット)を作製することが可能である。ノックイン技術を用いて、TRICHをコードするポリヌクレオチドの或る領域を動物ES細胞に注入し、注入した配列を動物細胞ゲノムに組み込ませる。形質転換細胞を胞胚に注入し、胞胚を上記のように移植する。遺伝子組換え子孫または近交系について研究し、可能性のある医薬品を用いて処理し、ヒトの疾患の治療に関する情報を得る。別法では、例えばTRICHを乳汁内に分泌するなどTRICHを過剰に発現する哺乳動物近交系は、便利なタンパク質源となり得る(Janne, J. 他 (1998) Biotechnol. Annu. Rev. 4:55-74)。
【0196】
(治療)
TRICHのある領域と輸送体及びイオンチャネルのある領域との間に、例えば配列及びモチーフの文脈における化学的及び構造的類似性が存在する。さらに、TRICH を発現する組織の例には初代ヒト乳房上皮細胞があり、表6にも見られる。したがって、TRICH は輸送障害、神経疾患、筋肉疾患、免疫疾患および細胞増殖異常、に関与していると考えられる。TRICHの発現若しくは活性の増大に関連する疾患の治療においては、TRICHの発現または活性を低下させることが望ましい。また、TRICHの発現または活性の低下に関連する疾患の治療においては、TRICHの発現または活性を増大させることが望ましい。
【0197】
従って、一実施例において、TRICHの発現または活性の低下に関連した疾患の治療または予防のために、患者にTRICHまたはその断片や誘導体を投与することが可能である。限定するものではないが、こうした疾患としては、輸送障害(運動不能症、筋萎縮性側索硬化症、毛細血管拡張性運動失調症, 嚢胞性線維症、 ベッカー型筋ジストロフィー、, 顔面神経麻痺、シャルコー・マリー・ツース病、 糖尿病、尿崩症, 糖尿病性ニューロパシー、 デュシェンヌ型筋ジストロフィー、高カリウム血性周期性四肢麻痺、 正常カリウム血性周期性四肢麻痺, パーキンソン病、 悪性高体温症, 多剤耐性, 重症筋無力症, 筋緊張性異栄養症(筋強直性ジストロフィー), 緊張病, 遅発性ジスキネジー, ジストニー, 末梢神経障害, 脳腫瘍, 前立腺癌等)輸送障害や、例えば狭心症, 徐脈性不整脈, 頻脈性不整脈, 高血圧, QT延長症候群, 心筋炎, 心筋症, ネマリンミオパシー, 中心核ミオパシー, 脂質ミオパシー, ミトコンドリアミオパシー, 甲状腺中毒性ミオパシー, エタノールミオパシー, 皮膚筋炎, 封入体筋炎, 感染性筋炎, 多発性筋炎のような輸送に関連する心臓疾患や、例えばアルツハイマー病, 記憶喪失、双極性障害、痴呆、 鬱病、 癲癇、トゥーレット病、パラノイド精神病、 および精神分裂病(統合失調症)のような輸送に関連する神経疾患、 および、例えば神経線維腫症、ヘルペス後神経痛、三叉神経障害, サルコイドーシス、 鎌状赤血球貧血、 ウィルソン病、 白内障、 不妊症、 肺動脈狭窄、 感音常染色体難聴、 高血糖症、 低血糖症、 グレーヴズ病、 甲状腺腫、 クッシング病、 アジソン病、 グルコース・ガラクトース吸収不良症候群、グリコーゲン貯蔵病、高コレステロール血症、 副腎脳白質ジストロフィー、ツェルヴェーガー症候群、 Menkes病、 後角症候群、 von Gierke病、I型偽性低アルドステロン症、リドル症候群、シスチン尿症、 イミノグリシン尿症、Hartup病、ファンコーニ病およびバーター症候群のような輸送に関連するその他の疾患が含まれ、神経疾患の中には、癲癇、虚血性脳血管障害、脳卒中、大脳新生物、アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン病、痴呆、パーキンソン病及びその他の錐体外路障害、筋萎縮性側索硬化及びその他の運動ニューロン障害、進行性神経性筋萎縮症、色素性網膜炎(網膜色素変性症)、遺伝性運動失調、多発性硬化症及び他の脱髄疾患、細菌性及びウイルス性髄膜炎、脳膿瘍、硬膜下膿瘍、硬膜外膿瘍、化膿性頭蓋内血栓性静脈炎、脊髄炎及び神経根炎、ウイルス性中枢神経系疾患、プリオン病(クールー、クロイツフェルト‐ヤコブ病、及びGerstmann -Straussler -Scheinker症候群を含む)、致死性家族性不眠症、神経系性栄養病及び代謝病、神経線維腫症、結節硬化症、小脳網膜血管芽腫症(cerebelloretinal hemangioblastomatosis)、脳三叉神経血管腫症候群、ダウン症候群を含む中枢神経系性の精神遅滞及び他の発生障害、脳性麻痺、神経骨格異常症、自律神経系障害、脳神経疾患、脊髄障害、筋ジストロフィー及びその他の神経筋障害、末梢神経疾患、皮膚筋炎及び多発性筋炎、遺伝性、代謝性、内分泌性、及び中毒性のミオパシー、重症筋無力症、周期性四肢麻痺、精神障害(気分性、不安性の障害、分裂病性疾患)、季節性感情障害(SAD)、静座不能、健忘症、緊張病、糖尿病性ニューロパシー、片麻痺性片頭痛、遅発性ジスキネジー、ジストニー、パラノイド精神病、帯状疱疹後神経痛、及びトゥーレット病と、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症、及び家族性前頭側頭型痴呆が含まれ、筋疾患には、心筋症、心筋炎、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、筋緊張(強直)性ジストロフィー、セントラルコア病、ネマリンミオパシー、中心核ミオパシー、脂質ミオパシー、ミトコンドリアミオパシー、感染性筋炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、封入体筋炎、甲状腺中毒性ミオパシーおよびエタノールミオパシー、狭心症、アナフィラキシーショック、不整脈、喘息、心血管ショック、クッシング病、高血圧症、低血糖症、心筋梗塞、片頭痛、クロム親和細胞腫、脳症、てんかん、カーンズ‐セイヤ症候群、乳酸アシドーシス、ミオクローヌス疾患、眼筋麻痺、および酸性マルターゼ欠損症(AMD、ポンペ病としても知られる)、全身性筋緊張症(generalized myotonia)、および先天性筋緊張症が含まれ、免疫疾患には、後天性免疫不全症候群(AIDS)、アジソン病、成人呼吸窮迫症候群、アレルギー、強直性脊椎炎、アミロイド症、貧血症、喘息、アテローム性動脈硬化症、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性多腺性内分泌カンジダ症外胚葉ジストロフィ(APECED)、気管支炎、胆嚢炎、接触皮膚炎、クローン病、アトピー皮膚炎、皮膚筋炎、真性糖尿病、肺気腫、リンパ球傷害因子性偶発性リンパ球減少症、胎児赤芽球症(新生児溶血性疾患)、結節性紅斑、萎縮性胃炎、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、痛風、グレーブス病、橋本甲状腺炎、過好酸球増加症、過敏性腸症候群、多発性硬化症、重症筋無力症、心筋または心膜炎症、骨関節炎、骨粗しょう症、膵炎、多発性筋炎、乾癬、ライター症候群、リウマチ様関節炎、強皮症、シェーグレン症候群、全身性アナフィラキシー、全身性エリテマトーデス、全身性硬化症(強皮症)、血小板減少性紫斑病、潰瘍性大腸炎、ぶどう膜炎、ウェルナー症候群、癌合併症、血液透析、体外循環、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、寄生虫感染症、原虫感染症、蠕虫感染症、外傷が含まれ、また、細胞増殖異常では日光性角化症及びアテローム性動脈硬化、滑液包炎、硬変、肝炎、混合性結合組織病(MCTD)、骨髄線維症、発作性夜間ヘモグロビン尿症、真性多血症、乾癬、原発性血小板血症、並びに腺癌及び白血病、リンパ腫、黒色腫、骨髄腫、肉腫、及び奇形癌など癌、具体的には、副腎、膀胱、骨、骨髄、脳、乳房、頚部、胆嚢、神経節、消化管、心臓、腎臓、肝臓、肺、筋肉、卵巣、膵臓、副甲状腺、陰茎、前立腺、唾液腺、皮膚、脾臓、精巣、胸腺、甲状腺、子宮の癌が含まれる。
【0198】
別の実施例では、限定するものではないが上に列記した疾患を含むTRICHの発現または活性の低下に関連した疾患の治療または予防のために、TRICHまたはその断片や誘導体を発現し得るベクターを被験者に投与することも可能である。
【0199】
更に別の実施例では、限定するものではないが上に列記した疾患を含むTRICHの発現または活性の低下に関連した疾患の治療または予防のために、実質的に精製されたTRICHを含む組成物を好適な医薬用担体と共に被験者に投与することも可能である。
【0200】
更に別の実施例では、限定するものではないが上に列記した疾患を含むTRICHの発現または活性の低下に関連した疾患の治療または予防のために、TRICHの活性を調節するアゴニストを被験者に投与することも可能である。
【0201】
更なる実施例では、TRICHの発現または活性の増大に関連した疾患の治療または予防のために、被験者にTRICHのアンタゴニストを投与することが可能である。限定するものではないが、このような疾患の例には、上記した輸送障害、神経疾患、筋疾患、免疫疾患および細胞増殖異常が含まれる。一実施態様では、TRICHと特異的に結合する抗体が直接アンタゴニストとして、或いはTRICHを発現する細胞または組織に薬剤を運ぶターゲッティング或いは送達機構として間接的に用いられ得る。
【0202】
別の実施例では、限定するものではないが上に列記した疾患を含むTRICHの発現または活性の増大に関連した疾患の治療または予防のために、TRICHをコードするポリヌクレオチドの相補配列を発現するベクターを被験者に投与することも可能である。
【0203】
別の実施例では、本発明の任意のタンパク質、アンタゴニスト、抗体、アゴニスト、相補配列、またはベクターを、別の好適な治療薬と組み合わせて投与することもできる。併用療法で用いる好適な治療薬は、当業者が従来の医薬原理に従って選択し得る。治療薬と組み合わせることにより、上記した種々の疾患の治療または予防に相乗効果をもたらし得る。この方法を用いることにより少量の各薬剤で医薬効果をあげることが可能となり、それによって副作用の可能性を低減し得る。
【0204】
TRICHのアンタゴニストは、当分野で一般的な方法を用いて製造することが可能である。 詳しくは、精製されたTRICHを用いて抗体を作ったり、治療薬のライブラリをスクリーニングしてTRICHと特異的に結合するものの同定が可能である。TRICHの抗体も、当分野で公知の方法を用いて製造することが可能である。 このような抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、Fabフラグメント、及びFab発現ライブラリによって作られたフラグメントが含まれる。 但し、これらに限定されるものではない。中和抗体(即ち二量体の形成を阻害する抗体)は通常、治療用に好適である。一本鎖抗体(例えば、ラクダまたはラマ)は有力な酵素阻害剤であり、またペプチド擬態物質の設計および免疫吸着剤やバイオセンサーの開発に利点があるであろう(Muyldermans, S. (2001) J. Biotechnol. 74:277-302)。
【0205】
抗体の産生のためには、ヤギ、ウサギ、ラット、マウス、ラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ、ヒト及びその他のものを含む種々の宿主が、TRICHまたは任意の断片、または免疫原性の特性を備えるそのオリゴペプチドの注入によって免疫化され得る。宿主の種に応じて、種々のアジュバントを用いて免疫応答を高めることもできる。限定するものではないがこのようなアジュバントには、フロイントアジュバントと、水酸化アルミニウム等のミネラルゲルアジュバントと、リゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油性乳剤、スカシガイのヘモシニアン、ジニトロフェノール等の界面活性剤とがある。ヒトに用いられるアジュバントの中では、BCG(カルメット‐ゲラン杆菌)及びコリネバクテリウム‐パルバム(Corynebacterium parvum)が特に好ましい。TRICHに対する抗体を誘発するために用いられるオリゴペプチド、ペプチド、または断片は、少なくとも約5個のアミノ酸からなるものが好ましく、一般的には約10個以上のアミノ酸からなるものとなる。これらのオリゴペプチド、ペプチドまたは断片は、天然のタンパク質のアミノ酸配列の一部と同一であることが望ましい。TRICHアミノ酸の短いストレッチは、KLHなどの別のタンパク質の配列と融合し、このキメラ分子に対する抗体が産生され得る。
【0206】
TRICHに対するモノクローナル抗体は、培地内の連続した細胞株によって、抗体分子を産生する任意の技術を用いて作製することが可能である。限定するものではないがこのような技術には、ハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術及びEBV-ハイブリドーマ技術がある(Kohler, G. 他. (1975) Nature 256:495-497、Kozbor, D. 他 (1985) .J. Immunol. Methods 81:31-42、Cote, R.J. 他 (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:2026-2030、Cole, S.P. 他 (1984) Mol. Cell Biol. 62:109-120等を参照)。
【0207】
更に、ヒト抗体遺伝子にマウス抗体遺伝子をスプライシングするなどの「キメラ抗体」作製のために開発された技術が、好適な抗原特異性及び生物学的活性を備える分子を得るために用いられる(例えば、Morrison, S.L.他. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. 81:6851-6855; Neuberger, M.S.他. (1984) Nature 312:604-608; Takeda, S.他. (1985) Nature 314:452-454を参照)。別法では、当分野で周知の方法を用いて、一本鎖抗体の産生のための記載された技術を適用して、TRICH特異性一本鎖抗体を生成する。関連特異性を有するがイディオタイプ組成が異なるような抗体を、ランダムな組合せの免疫グロブリンライブラリからチェーンシャッフリングによって産生することもできる(Burton D.R. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:10134-10137等を参照)。
【0208】
抗体の産生は、リンパ球集団におけるin vivo産生の誘導によって、或いは文献に開示されているように非常に特異的な結合試薬の免疫グロブリンのライブラリまたはパネルのスクリーニングによっても行い得る。(Orlandi, R. 他 (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86: 3833-3837、Winter, G. 他 (1991) Nature 349:293-299等を参照)。
【0209】
TRICHに対する特異的な結合部位を含む抗体も得ることができる。例えば、限定するものではないが、このような断片には、抗体分子のペプシン消化によって作製されるF(ab')2 断片と、F(ab')2 断片のジスルフィド架橋を還元することによって作製されるFab断片とがある。あるいは、Fab発現ライブラリを作製することによって、所望の特異性を持つモノクローナルFab断片を迅速且つ容易に同定することが可能となる(Huse, W.D. 他 (1989) Science 246:1275-1281等を参照)。
【0210】
種々のイムノアッセイを用いてスクリーニングし、所望の特異性を有する抗体を同定することができる。確立された特異性を有するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の何れかを用いる競合結合アッセイ、または免疫放射線アッセイのための数々のプロトコルが、当分野では周知である。 通常このようなイムノアッセイには、TRICHとその特異抗体との間の複合体形成の計測が含まれる。二つの非干渉性TRICHエピトープに対して反応性を持つモノクローナル抗体を用いる、2部位モノクローナルベースのイムノアッセイが一般に利用されるが、競合的結合アッセイも利用することができる(Pound、前出)。
【0211】
ラジオイムノアッセイ技術と共にScatchard分析などの様々な方法を用いて、TRICHに対する抗体の親和性を評価しうる。親和性を結合定数Kaで表すが、このKaは、平衡状態の下でTRICH抗体複合体のモル濃度を遊離抗体と遊離抗原のモル濃度で除して得られる値である。ポリクローナル抗体類は多様なTRICHエピトープに対して親和性が不均一であり、或るポリクローナル抗体製剤に関して判定したKaは、TRICHに対する抗体の平均親和性または結合活性を表す。モノクローナル抗体は或る特定のTRICHエピトープに単一特異的であり、或るモノクローナル抗体製剤について判定したKaは、親和性の真の測定値を表す。Ka値が109〜1012L/molの高親和性抗体製剤は、TRICH抗体複合体が激しい操作に耐えなければならないイムノアッセイに用いるのが好ましい。Ka値が106〜107L/molの低親和性抗体製剤は、TRICHが抗体から最終的に活性化状態で解離する必要がある免疫精製(immunopurification)及び類似の処理に用いるのが好ましい。 (Catty, D. (1988) Antibodies, Volume I: A Practical Approach. IRL Press, Washington, DC; Liddell, J. E. および Cryer, A. (1991) A Practical Guide to Monoclonal Antibodies, John Wiley & Sons, New York NY)。
【0212】
ポリクローナル抗体製剤の抗体価及び結合活性を更に評価して、後に使う或る適用例に対するこのような製剤の品質及び適性を決定することができる。例えば、少なくとも1〜2mg/mlの特異的な抗体、好ましくは5〜10mg/mlの特異的な抗体を含むポリクローナル抗体製剤は一般に、TRICH抗体複合体を沈殿させなければならない処理に用いられる。抗体の特異性、抗体価、結合活性、様々な適用例における抗体の品質や使用に対する指針については、一般に入手可能である(前出のCattyの文献、同Coligan 他の文献等を参照)。
【0213】
本発明の別の実施例では、TRICHをコードするポリヌクレオチド、またはその任意の断片や相補配列を、治療目的で使用することができる。ある実施態様では、TRICHをコードする遺伝子のコーディング領域や調節領域に相補的な配列やアンチセンス分子(DNA、RNA、PNA、または修飾したオリゴヌクレオチド)を設計して遺伝子発現を変更することができる。このような技術は当分野では周知であり、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはより大きな断片を、TRICHをコードする配列の制御領域、またはコード領域に沿ったさまざまな位置から設計可能である。(例えばAgrawal, S., ed. (1996) Antisense Therapeut ics, Humana Press Inc., Totawa NJを参照。)
治療に用いる場合、アンチセンス配列を好適な標的細胞に導入するのに好適な任意の遺伝子送達系を用いることができる。アンチセンス配列は、転写時に標的タンパク質をコードする細胞配列の少なくとも一部に相補的な配列を作製する発現プラスミドの形で、細胞内に送達し得る(Slater, J.E. 他 (1998) J. Allergy Clin. Immunol. 102(3):469-475 及び Scanlon, K.J. 他 (1995)9(13):1288-1296.等を参照)アンチセンス配列はまた、例えばレトロウイルスやアデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターを用いて細胞内に導入することもできる(Miller, A.D. (1990) Blood 76:271、前出のAusubel、Uckert, W. and W. Walther (1994) Pharmacol. Ther. 63(3):323-347等を参照)。その他の遺伝子送達機構には、リポソーム系、人工的なウイルスエンベロープ及び当分野で公知のその他のシステムが含まれる(Rossi, J.J. (1995) Br. Med. Bull. 51(1):217-225; Boado、R.J.他 (1998) J. Pharm. Sci. 87(11):1308-1315、Morris, M.C. 他 (1997) Nucleic Acids Res. 25(14):2730-2736. 等を参照)。
【0214】
本発明の別の実施例では、TRICHをコードするポリヌクレオチドを、体細胞若しくは生殖細胞の遺伝子治療に用いることが可能である。遺伝子治療を行うことにより、(i)遺伝子欠損症(例えばX染色体連鎖遺伝(Cavazzana-Calvo, M. ら (2000) Science 288:669-672)により特徴付けられる重症複合型免疫不全(SCID)-X1病の場合)、先天性アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症に関連する重症複合型免疫不全症候群(Blaese, R.M. ら (1995) Science 270:475-480、Bordignon, C. ら (1995) Science 270:470-475)、嚢胞性繊維症(Zabner, J. ら (1993) Cell 75:207-216: Crystal、R.G. ら (1995) Hum. Gene Therapy 6:643-666、Crystal, R.G. ら. (1995) Hum. Gene Therapy 6:667-703)、サラセミア(thalassamia)、家族性高コレステロール血症、第VIII因子若しくは第IX因子欠損に起因する血友病(Crystal, 35 R.G. (1995) Science 270:404-410、Verma, I.M. および N. Somia (1997) Nature 389:239-242)を治療し、(ii)条件的致死性遺伝子産物を発現させ(例えば制御不能な細胞増殖に起因する癌の場合)、(iii)細胞内の寄生体(例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)(Baltimore, D. (1988) Nature 335:395-396、Poescbla, E. ら (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 93:11395-11399)などヒトレトロウイルス、B型若しくはC型肝炎ウイルス(HBV、HCV)、Candida albicans及びParacoccidioides brasiliensis等の真菌寄生体、並びにPlasmodium falciparum及びTrypanosoma cruzi等の原虫寄生体に対する防御機能を有するタンパク質を発現させることができる。TRICHの発現若しくは調節に必要な遺伝子の欠損が疾患を引き起こす場合、導入した細胞の好適な集団からTRICHを発現させて、遺伝子欠損によって起こる症状の発現を緩和することが可能である。
【0215】
本発明の更なる実施例では、TRICHの欠損による疾患や異常症は、TRICHをコードする哺乳動物発現ベクターを作製して、これらのベクターを機械的手段によってTRICH欠損細胞に導入することによって治療する。in vivo或いはex vitroの細胞に用いる機械的導入技術には、(i)個々の細胞内への直接的なDNA微量注射法、(ii)遺伝子銃、(iii)リポソームを介した形質移入、(iv)受容体を介した遺伝子導入、及び(v)DNAトランスポソンの使用(Morgan, R.A. および W.F. Anderson (1993) Annu. Rev. Biochem. 62:191-217、Ivics, Z. (1997) Cell 91:501-510; Boulay, J-L. および H. Recipon (1998) Curr. Opin. Biotechnol. 9:445-450)がある。
【0216】
限定するものではないがTRICHの発現に影響を及ぼし得る発現ベクターには、PCDNA 3.1、EPITAG、PRCCMV2、PREP、PVAX、PCR2-TOPOTAベクター(Invitrogen, Carlsbad CA)、PCMV-SCRIPT、PCMV-TAG、PEGSH/PERV(Stratagene, La Jolla CA)及びPTET-OFF、PTET-ON、PTRE2、PTRE2-LUC、PTK-HYG(Clontech, Palo Alto CA)がある。TRICHを発現させるために、(i)構成的に活性なプロモーター(例えば、サイトメガロウイルス(CMV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、SV40ウイルス、チミジンキナーゼ(TK)、若しくはβ−アクチン遺伝子等)、(ii)誘導性プロモーター(例えば、市販されているT-REXプラスミド(Invitrogen)に含まれている、テトラサイクリン調節性プロモーター(Gossen, M. および H. Bujard (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89:5547-5551; Gossen, M. 他 (1995) Science 268:1766-1769; Rossi, F.M.V. および H.M. Blau (1998) Curr. Opin. Biotechnol. 9:451-456))、エクジソン誘導性プロモーター(市販されているプラスミドPVGRXR及びPINDに含まれている:Invitrogen)、FK506/ラパマイシン誘導性プロモーター、またはRU486/ミフェプリストーン誘導性プロモーター(Rossi, F.M.V. および H.M. Blau, 前出)、または(iii)正常な個体に由来するTRICHをコードする内在性遺伝子の天然のプロモーター若しくは組織特異的プロモーターを用いることが可能である。
【0217】
市販のリポソーム形質転換キット(例えばInvitrogen社のPerFect Lipid Transfection Kit)を用いれば、当業者はポリヌクレオチドを培養中の標的細胞に送達することが可能になる。また、実験パラメータ群を最適化する努力は最小限で良い。別法では、リン酸カルシウム法(Graham. F.L. 及び A.J. Eb (1973) Virology 52:456-467)若しくは電気穿孔法(Neumann, B. 他 (1982) EMBO J. 1:841-845)を用いて形質転換を行う。初代培養細胞にDNAを導入するためには、標準化された哺乳動物の形質移入プロトコルの修飾が必要である。
【0218】
本発明の別の実施例では、TRICHの発現に関連する遺伝子欠損によって起こる疾患や異常症を、(i)レトロウイルス末端反復配列(LTR)プロモーター若しくは独立したプロモーターのコントロール下でTRICHをコードするポリヌクレオチドと、(ii)好適なRNAパッケージングシグナルと、(iii)追加のレトロウイルス・シス作用性RNA配列及び効率的なベクターの増殖に必要なコーディング配列を伴うRev応答性エレメント(RRE)とからなるレトロウイルスベクターを作製して治療することができる。レトロウイルスベクター(例えばPFB及びPFBNEO)はStratagene社から市販されており、刊行データ(Riviere, I. 他 (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92:6733-6737)に基づいている。 上記データを引用することをもって本明細書の一部とする。ベクターは、好適なベクター産生細胞株(VPCL)において増殖され、VPCLは、標的細胞上の受容体に対する親和性を有するエンベロープ遺伝子またはVSVg等の汎親和性エンベロープタンパク質を発現する(Armentano, D. 他 (1987) J. Virol. 61:1647-1650、Bender, M.A. 他 (1987) J. Virol. 61:1639-1646、Adam, M.A. および A.D. Miller (1988) J. Virol. 62:3802-3806、Dull, T. 他 (1998) J. Virol. 72:8463-8471、Zufferey, R. 他 (1998) J. Virol. 72:9873-9880)。Riggに付与された米国特許第5,910,434号(「Method for obtaining retrovirus packaging cell lines producing high transducing efficiency retroviral supernatant」)において、レトロウイルスパッケージング細胞株を得るための方法が開示されており、引用することをもって本明細書の一部とする。レトロウイルスベクターの増殖、細胞集団(例えばCD4+ T細胞)の形質導入、及び形質導入した細胞の患者への戻しは、遺伝子治療の分野では当業者に公知の方法であり、多数の文献に記載されている(Ranga, U. 他 (1997) J. Virol. 71:7020-7029、Bauer, G. 他 (1997) Blood 89:2259-2267、Bonyhadi, M.L. (1997) J. Virol. 71:4707-4716、Ranga, U. 他 (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95:1201-1206、Su, L. (1997) Blood 89:2283-2290)。
【0219】
別法では、アデノウイルス系遺伝子治療の送達系を用いて、TRICHの発現に関連する1或いは複数の遺伝子異常を有する細胞にTRICHをコードするポリヌクレオチドを送達する。アデノウイルス系ベクターの作製及びパッケージングについては、当業者に公知である。 複製欠損型アデノウイルスベクターは、免疫調節タンパク質をコードする遺伝子を膵臓の無損傷の膵島内に導入するために広く用いられることが証明された(Csete, M.E. 他 (1995) Transplantation 27:263-268)。使用できる可能性のあるアデノウイルスベクターは、Armentanoに付与された米国特許第5,707,618号(「Adenovirus vectors for gene therapy」)に記載されており、引用することをもって本明細書の一部とする。アデノウイルスベクターについては、Antinozzi, P.A. 他 (1999) Annu. Rev. Nutr. 19:511-544 及び Verma, I.M. 及び N. Somia (1997) Nature 18:389:239-242も参照されたい。両文献は、引用することをもって本明細書の一部とする。
【0220】
別法では、ヘルペス系遺伝子治療の送達系を用いて、TRICHの発現に関連する1つ或いは複数の遺伝子異常を有する標的細胞にTRICHをコードするポリヌクレオチドを送達する。単純疱疹ウイルス(HSV)系のベクターは、HSVが向性を持つ中枢神経細胞にTRICHを導入する際に特に有用たりうる。ヘルペス系ベクターの作製及びパッケージングは、当業者に公知である。 複製適格性単純ヘルペスウイルス(HSV)I型系のベクターは、レポーター遺伝子を霊長類の眼に送達するために用いられてきた(Liu, X. 他 (1999) Exp. Eye Res.169:385-395)。HSV-1ウイルスベクターの作製についても、DeLucaに付与された米国特許第5,804,413号(「Herpes simplex virus swains for gene transfer」)に開示されており、該特許の引用をもって本明細書の一部とする。 米国特許第5,804,413号には、ヒト遺伝子治療を含む目的のために好適なプロモーターの制御下において細胞に導入される少なくとも1つの外因性遺伝子を有するゲノムを含む組換えHSV d92についての記載がある。上記特許はまた、ICP4、ICP27及びICP22を欠失した組換えHSV系統の作製及び使用について開示している。HSVベクターについては、Goins, W.F. 他 (1999) J. Virol. 73:519-532 及び Xu, H. 他 (1994) Dev. Biol. 163:152-161も参照されたい。両文献は、引用をもって本明細書の一部とする。クローン化ヘルペスウイルス配列の操作、巨大ヘルペスウイルスのゲノムの異なったセグメント群を含む多数のプラスミドを形質移入した後の組換えウイルスの産生、ヘルペスウイルスの成長及び増殖、並びにヘルペスウイルスの細胞への感染は、当業者に公知の技術である。
【0221】
別法では、αウイルス(正の一本鎖RNAウイルス)ベクターを用いてTRICHをコードするポリヌクレオチドを標的細胞に送達する。プロトタイプのαウイルスであるセムリキ森林熱ウイルス(Semliki Forest Virus, SFV)の生物学的研究が広範に行われており、遺伝子導入ベクター類はSFVゲノムに基づく(Garoff, H. 及び K.-J. Li (1998) Cun. Opin. Biotech. 9:464-469)。αウイルスRNAの複製中に、通常はウイルスのカプシドタンパク質をコードするサブゲノムRNAが作り出される。このサブゲノムRNAは、完全長のゲノムRNAより高いレベルに複製されるため、酵素活性(例えばプロテアーゼ及びポリメラーゼ)を有するウイルスタンパク質に比べてカプシドタンパク質が過剰産生される。同様に、TRICHをコードする配列をαウイルスゲノムのカプシドをコードする領域に導入することによって、ベクター導入細胞において多数のTRICHをコードするRNAが産生され、高いレベルでTRICHが合成される。通常、αウイルスの感染は、数日以内の細胞溶解を伴う。一方、シンドビスウイルス(SIN)の或る変異体を有するハムスター正常腎臓細胞(BHK-21)群が持続的な感染を確立する能力は、αウイルスの溶解複製を遺伝子治療に適用できるように好適に変更可能であることを示唆している(Dryga, S.A. 他 (1997) Virology 228 :74-83)。αウイルスの宿主域は広いので、様々なタイプの細胞にTRICHを導入できることとなる。或る集団におけるサブセットの細胞の特定形質導入は、形質導入前に細胞の選別を必要とし得る。αウイルスの感染性cDNAクローンの処置方法、αウイルスのcDNA及びRNAの形質移入方法及びαウイルスの感染方法は、当業者に公知である。
【0222】
転写開始部位(transcription initiation site)由来のオリゴヌクレオチドを用いて遺伝子発現を阻害することも可能である。転写開始部位とは例えば開始部位(start site)から数えて約−10と約+10の間である。同様に、三重らせん塩基対の形成方法を用いて阻害が可能となる。三重らせん塩基対形成は、ポリメラーゼ、転写因子または調節分子の結合のために十分に開くような二重らせんの能力を阻害するので、三重らせん塩基対形成は有用である。三重らせんDNAを用いる最近の治療の進歩については文献に記載がある(Gee, J.E. 他 (1994) in: Huber, B.E.及びB.I. Carr, Molecular and Immunologic Approaches, Futura Publishing Co., Mt. Kisco, NY, 163-177ページ等を参照)。相補配列またはアンチセンス分子もまた、転写物がリボソームに結合するのを阻止することによってmRNAの翻訳を阻止するべく設計することができる。
【0223】
リボザイムは酵素的RNA分子であり、RNAの特異的切断を触媒するためにリボザイムを用いることもできる。リボザイム作用のメカニズムは、相補的標的RNAへのリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーションと、その後に起こる内ヌクレオチド鎖切断に関与している。例えば、遺伝子操作で作られたハンマーヘッド型リボザイム分子が、TRICHをコードする配列の内ヌクレオチド鎖切断を特異的且つ効果的に触媒できる可能性がある。
【0224】
任意のRNA標的内の特異的リボザイム切断部位は、GUA、GUU、GUC配列を含めたリボザイム切断部位に対して標的分子をスキャンすることによって先ず同定される。一度同定されると、切断部位を含む標的遺伝子の領域に対応する15〜20リボヌクレオチドの短いRNA配列が、そのオリゴヌクレオチドを機能不全にするような2次構造の特徴をもっていないかを評価することが可能になる。候補標的の適合性の評価も、リボヌクレアーゼ保護アッセイを用いて相補的オリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションのアクセス可能性をテストすることによって行うことができる。
【0225】
本発明の相補リボ核酸分子及びリボザイムは、核酸分子合成のために当分野で既知の任意の方法を用いて作製し得る。作製方法には、固相フォスフォアミダイト化学合成等のオリゴヌクレオチドを化学的に合成する方法がある。或いは、TRICHをコードするDNA配列のin vitro及びin vivo転写によってRNA分子を産出し得る。このようなDNA配列は、T7やSP6等の好適なRNAポリメラーゼプロモーターを用いて多様なベクター内に取り込むことが可能である。或いは、相補的RNAを構成的或いは誘導的に合成するようなこれらcDNA産物を、細胞株、細胞または組織内に導入することができる。
【0226】
細胞内の安定性を高め、半減期を長くするためにRNA分子を修飾することができる。限定するものではないが可能な修飾には、分子の5'末端、3'末端、あるいはその両方においてフランキング配列を追加したり、分子の主鎖内においてホスホジエステラーゼ結合ではなくホスホロチオネートまたは2' O-メチルを使用したりすることが含まれる。この概念は、PNAの産出に固有のものであるが、これら全ての分子に拡大することができる。そのためには、内因性エンドヌクレアーゼによって容易には認識されないアデニン、シチジン、グアニン、チミン、及びウリジンにアセチル−、メチル−、チオ−及び同様の修飾をしたものや、非従来型塩基、例えばイノシン、クエオシン(queosine)、ワイブトシン(wybutosine)等を含める。
【0227】
本発明の更なる実施例は、TRICHをコードするポリヌクレオチドの発現の改変に有効な化合物をスクリーニングする方法を含む。限定するものではないが特異ポリヌクレオチドの発現改変を起こすのに有効な化合物には、オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、三重らせん形成オリゴヌクレオチド、転写因子その他のポリペプチド転写制御因子、及び特異ポリヌクレオチド配列と相互作用し得る非高分子化学的実体がある。有効な化合物は、ポリヌクレオチド発現のインヒビターまたはエンハンサーのいずれかとして作用することによりポリヌクレオチド発現を改変し得る。従って、TRICHの発現または活性の増加に関連する疾患の治療においては、TRICHをコードするポリヌクレオチドの発現を特異的に阻害する化合物が治療上有用であり、TRICHの発現または活性の低下に関連する疾患の治療においては、TRICHをコードするポリヌクレオチドの発現を特異的に促進する化合物が治療上有用であり得る。
【0228】
特異ポリヌクレオチドの発現改変における有効性に対して、少なくとも1個から複数個の試験化合物をスクリーニングし得る。試験化合物は、当分野で通常知られている任意の方法により得られる。このような方法には、ポリヌクレオチドの発現を変容させる場合と、既存の、商用または専用の、天然または非天然の化合物ライブラリから選択する場合と、標的ポリヌクレオチドの化学的及び/または構造的特性に基づく化合物を合理的にデザインする場合と、組合せ的にまたは無作為に生成した化合物のライブラリから選択する場合に有効であることが知られているような化合物の化学修飾がある。TRICHをコードするポリヌクレオチドを含むサンプルは、このようにして得られた試験化合物の少なくとも1つに曝露する。サンプルには例えば、無傷細胞、透過化処理した細胞、またはin vitro無細胞系すなわち再構成生化学系があり得る。TRICHをコードするポリヌクレオチドの発現における変容は、当分野で周知の任意の方法でアッセイする。 通常、TRICHをコードするポリヌクレオチドの配列に相補的なヌクレオチド配列を有するプローブを用いたハイブリダイゼーションにより、特定のヌクレオチドの発現を検出する。ハイブリダイゼーション量を定量し、それによって1つ若しくは複数の試験化合物に曝露される及び曝露されないポリヌクレオチドの発現の比較に対する基礎を形成し得る。試験化合物に曝露されるポリヌクレオチドの発現における変化の検出は、ポリヌクレオチドの発現を改変する際に試験化合物が有効であることを示している。特異ポリヌクレオチドの発現改変に有効な化合物に対して、例えば分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe )遺伝子発現系(Atkins, D. 他 (1999) 米国特許第5,932,435号、Arndt, G.M. 他 (2000) Nucleic Acids Res. 28:E15)またはHeLa細胞等のヒト細胞株(Clarke, M.L. 他 (2000) Biochem. Biophys. Res. Commun. 268:8-13)を用いてスクリーニングを実行する。本発明の特定の実施例は、特異的ポリヌクレオチド配列に対するアンチセンス活性を調べるためのオリゴヌクレオチド(デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ペプチド核酸、修飾オリゴヌクレオチド)の組み合わせライブラリをスクリーニングすることに関与している(Bruice, T.W. 他 (1997) 米国特許第5,686,242号、Bruice, T.W. 他 (2000) 米国特許第6,022,691号)。
【0229】
ベクターを細胞または組織に導入する多数の方法が利用可能であり、in vivo、in vitro及びex vivoの使用に対して同程度に適している。ex vivo治療の場合、ベクターを患者から採取した幹細胞内に導入し、クローニング増殖して同一患者に自家移植で戻すことができる。トランスフェクション、リポソーム注入またはポリカチオンアミノポリマーによる送達は、当分野でよく知られている方法を用いて実行することができる。 (Goldman, C.K. ら (1997) Nat. Biotechnol. 15:462-466.等を参照)。
【0230】
上記の治療方法はいずれも、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ウサギ、サル等の哺乳動物を含めて治療が必要な全ての対象に適用できる。
【0231】
本発明の更なる実施例は、通常薬剤として許容できる賦形剤で処方される活性成分を有する組成物の投与に関連する。賦形剤には例えば、糖、でんぷん、セルロース、ゴム及びタンパク質がある。様々な処方が通常知られており、詳細はRemington's Pharmaceutical Sciences(Maack Publishing, Easton PA)の最新版に記載されている。このような組成物は、TRICH、TRICHの抗体、擬態物質、アゴニスト、アンタゴニスト、またはTRICHのインヒビターなどからなる。
【0232】
本発明に用いられる組成物は、任意の数の経路によって投与することができ、限定するものではないが経路には、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、クモ膜下腔内、心室内、肺、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸内、局所、舌下または直腸がある。
【0233】
肺から投与する組成物は、液状または乾燥粉末状で調製し得る。このような組成物は通常、患者が吸入する直前にエアロゾル化する。小分子(例えば従来の低分子量有機薬)の場合には、速効製剤のエアロゾル送達は当分野で公知である。高分子(例えばより大きなペプチド及びタンパク質)の場合には、当該分野において肺の肺胞領域を介しての肺送達が最近向上したことにより、インスリン等の薬剤を実質的に血液循環へ輸送することを可能にした(Patton, J.S. 他, 米国特許第5,997,848号等を参照)。肺送達は、針注射なしに投与する点で優れており、有毒な可能性のある浸透エンハンサーの必要性をなくす。
【0234】
本発明での使用に適した組成物には、所定の目的を達成するために必要なだけの量の活性成分を含有する組成物が含まれる。有効投与量の決定は、当業者の能力の範囲内で行う。 TRICHまたはその断片を含む高分子を直接細胞内に送達するべく、特殊な種々の形状の組成物が調製されうる。例えば、細胞不透過性高分子を含むリポソーム製剤は、細胞融合及び高分子の細胞内送達を促進し得る。別法では、TRICHまたはその断片をHIV Tat-1タンパク質から得た短い陽イオンN末端部に結合することもできる。このようにして生成された融合タンパク質は、マウスモデル系の脳を含む全ての組織の細胞に形質導入することがわかっている(Schwarze, S.R. 他 (1999) Science 285:1569-1572)。
【0235】
任意の化合物に対して、細胞培養アッセイ、例えば新生物性細胞の細胞培養アッセイにおいて、或いは、動物モデル、例えばマウス、ラット、ウサギ、イヌ、サルまたはブタ等において、先ず治療有効投与量を推定することができる。動物モデルはまた、好適な濃度範囲及び投与経路を決定するためにも用い得る。このような情報を用いて、次にヒトに対する有益な投与量及び投与経路を決定することができる。
【0236】
治療有効投与量とは、症状や容態を回復させる、例えばTRICHまたはその断片、TRICHの抗体、TRICHのアゴニストまたはアンタゴニスト、インヒビターなどの活性成分の量を指す。治療有効性及び毒性は、細胞培養または動物実験における標準的な薬学手法によって、例えばED50(集団の50%の治療有効量)またはLD50(集団の50%の致死量)統計を計算するなどして決定することができる。毒性効果の治療効果に対する投与量比が治療指数であり、LD50/ED50比として表すことができる。高い治療指数を示すような組成物が望ましい。細胞培養アッセイ及び動物実験から得られたデータは、ヒトに用いるための投与量の範囲を定式化するのに用いられる。このような組成物が含まれる投与量は、毒性を殆ど或いは全く含まず、ED50を含むような血中濃度の範囲にあることが好ましい。用いられる投与形態、患者の感受性及び投与の経路によって、投与量はこの範囲内で様々に変わる。
【0237】
正確な投与量は、治療が必要な被験者に関する要素を考慮して、現場の医者が決定することになる。効果的なレベルの活性成分を与え、或いは所望の効果を維持するべく、投与量及び投与を調節する。被験者に関する要素としては、疾患の重症度、患者の全身の健康状態、患者の年齢、体重及び性別(ジェンダー)、投与の時間及び頻度、併用薬、反応感受性及び治療に対する応答等を考慮しうる。作用期間が長い組成物は、特定の製剤の半減期及びクリアランス率によって3〜4日毎に1度、1週間に1度、或いは2週間に1度の間隔で投与し得る。
【0238】
通常の投与量は、投与の経路にもよるが約0.1〜100,000μgであり、合計で約1gまでとする。特定の投与量及び送達方法に関するガイダンスは文献に記載されており、現場の医者は通常それを利用することができる。当業者は、タンパク質またはインヒビターに対する処方とは異なる、ヌクレオチドに対する処方を利用することになる。同様に、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの送達は、特定の細胞、状態、位置等に特異的なものとなる。
【0239】
(診断)
別の実施例では、TRICHに特異的に結合する抗体が、TRICHの発現によって特徴付けられる疾患の診断、またはTRICHやTRICHのアゴニストまたはアンタゴニスト、インヒビターで治療を受けている患者をモニターするためのアッセイに用いられる。診断目的に有用な抗体は、上記の治療の箇所で記載した方法と同じ方法で調合される。TRICHの診断アッセイには、抗体及び標識を用いてヒトの体液或いは細胞や組織の抽出物からTRICHを検出する方法が含まれる。この抗体は修飾されたものも、されていないものも可能であり、レポーター分子との共有結合または非共有結合で標識化できる。レポーター分子としては広くさまざまな種類が本分野で知られており、また使用可能であるが、そのうちのいくつかは上記で説明されている。
【0240】
TRICHを測定するためのELISA,RIA,及びFACSを含む種々のプロトコルは、当分野では周知であり、変容した或いは異常なレベルのTRICHの発現を診断するための基盤を提供する。正常或いは標準的なTRICHの発現の値は、複合体の形成に適した条件の下、正常な哺乳動物、例えばヒトなどの被験者から採取した体液または細胞抽出物とTRICHに対する抗体とを混合させることによって確定する。標準複合体形成量は、種々の方法、例えば測光法で定量できる。被験体、対照、および、生検組織からの疾患サンプルでの、TRICHの発現の量が基準値と比較される。標準値と被験者との偏差が疾患を診断するパラメータとなる。
【0241】
本発明の別の実施例によれば、TRICHをコードするポリヌクレオチドを診断のために用いることもできる。用いられることができるポリヌクレオチドには、オリゴヌクレオチド配列、相補的RNA及びDNA分子、そしてPNAが含まれる。このポリヌクレオチドを用いて、TRICHの発現が疾患と相関し得る生検組織における遺伝子の発現を検出し定量する。この診断アッセイを用いて、TRICHの存在の有無、更に過剰な発現を調べ、治療中のTRICH値の調節を監視する。
【0242】
一実施形態では、TRICHまたは近縁の分子をコードする、ゲノム配列を含むポリヌクレオチド配列を検出可能なPCRプローブとのハイブリダイゼーションによって、TRICHをコードする核酸配列を同定することが可能である。例えば5'調節領域など高度に特異的な領域か、例えば保存されたモチーフなどやや特異性の低い領域から作られているかのプローブの特異性と、ハイブリダイゼーション或いは増幅のストリンジェンシーとによって、そのプローブがTRICHをコードする自然界の配列のみを同定するかどうか、或いは対立遺伝子や関連配列を同定するかどうかが決まることとなる。
【0243】
プローブはまた、関連する配列の検出に利用されうる。また、TRICHをコードする任意の配列と少なくとも50%の配列同一性を有し得る。本発明のハイブリダイゼーションプローブには、DNAあるいはRNAが可能であり、SEQ ID NO:21-40の配列、或いはTRICH遺伝子のプロモーター、エンハンサー、イントロンを含むゲノム配列に由来し得る。
【0244】
TRICHをコードするDNAに対して特異的なハイブリダイゼーションプローブの作製方法には、TRICHまたはTRICH誘導体をコードするポリヌクレオチド配列をmRNAプローブの作製のためのベクターにクローニングする方法がある。mRNAプローブ作製のためのベクターは、当業者に知られており、市販されており、また好適なRNAポリメラーゼ及び好適な標識されたヌクレオチドを加えることによって、in vitroでRNAプローブを合成するために用いられ得る。ハイブリダイゼーションプローブは、種々のレポーターの集団によって標識され得る。レポーター集団の例としては、32Pまたは35S等の放射性核種、或いはアビジン/ビオチン結合系を介してプローブに結合されたアルカリホスファターゼ等の酵素標識などが挙げられる。
【0245】
TRICHをコードするポリヌクレオチド配列を用いて、TRICHの発現に関連する疾患を診断することが可能である。限定するものではないが、このような疾患のうち、輸送障害には運動不能症、筋萎縮性側索硬化症、毛細血管拡張性運動失調、嚢胞性線維症、ベッカー筋ジストロフィー、顔面麻痺、シャルコー‐マリー‐ツース病、糖尿病、尿崩症、糖尿病性ニューロパシー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、高カリウム血性周期性四肢麻痺、正常カリウム血性周期性四肢麻痺、パーキンソン病、悪性高熱(高体温)、多剤耐性、重症筋無力症、筋緊張性異栄養症(筋強直性ジストロフィー)、緊張病、遅発性ジスキネジー、ジストニー、末梢神経障害、脳腫瘍、前立腺癌と、狭心症、徐脈性不整脈、頻拍(頻脈)性不整脈、高血圧症、QT延長症候群、心筋炎、心筋症、ネマリンミオパシー、中心核ミオパシー、脂質ミオパシー、ミトコンドリアミオパシー、甲状腺中毒性ミオパシー、エタノールミオパシー、皮膚筋炎、封入体筋炎、感染性節炎、及び多発性筋炎などの輸送に関連した心臓病と、アルツハイマー病、健忘症、双極性障害、痴呆、うつ病、てんかん、トゥーレット病、妄想性(パラノイド)精神病、及び分裂病(統合失調症)などの輸送に関連した神経疾患と、神経線維腫症、帯状疱疹(ヘルペス)後神経痛、三叉神経ニューロパシー、サルコイドーシス、鎌状赤血球性貧血、ウィルソン病、白内障、不妊症、肺動脈狭窄症、常染色体性感音性難聴、高/低血糖症、グレーブス病、甲状腺腫、クッシング病、アジソン病(慢性原発性副腎機能不全)、グルコース‐ガラクトース吸収不全(不良)症候群、グリコーゲン貯蔵病、高コレステロール血症、副腎白質ジストロフィー、ツェルヴェーガー症候群、メンケス病、後角症候群、フォンギールケ症候群、偽性低アルドステロン症(タイプ1)、リドル症候群、シスチン尿症、イミノグリシン尿症、Hartup病、ファンコーニ病およびBartter症候群が含まれ、神経疾患の中には、癲癇、虚血性脳血管障害、脳卒中、大脳新生物、アルツハイマー病、ピック病、ハンチントン病、痴呆、パーキンソン病及びその他の錐体外路障害、筋萎縮性側索硬化及びその他の運動ニューロン障害、進行性神経性筋萎縮症、色素性網膜炎(網膜色素変性症)、遺伝性運動失調、多発性硬化症及び他の脱髄疾患、細菌性及びウイルス性髄膜炎、脳膿瘍、硬膜下膿瘍、硬膜外膿瘍、化膿性頭蓋内血栓性静脈炎、脊髄炎及び神経根炎、ウイルス性中枢神経系疾患と、クールー及びクロイツフェルト‐ヤコブ病、Gerstmann- Straussler-Scheinker症候群を含むプリオン病(prion disease)と、致死性家族性不眠症、神経系性栄養病及び代謝病、神経線維腫症、結節硬化症、小脳網膜血管芽腫症(cerebelloretinal hemangioblastomatosis)、脳三叉神経血管腫症候群、ダウン症を含む中枢神経系性精神遅滞及び他の発生障害、脳性麻痺、神経骨格異常症、自律神経系障害、脳神経疾患、脊髄病、筋ジストロフィー及び他の神経筋障害、末梢神経疾患、皮膚筋炎及び多発性筋炎と、遺伝性、代謝性、内分泌性、及び中毒性ミオパシーと、重症筋無力症、周期性四肢麻痺と、気分性及び不安性精神障害、及び分裂病(統合失調症)性精神障害と、季節性感情障害(SAD)、静座不能、健忘症、緊張病、糖尿病性ニューロパシー、片麻痺性片頭痛、遅発性ジスキネジー、ジストニー、パラノイド精神病、帯状疱疹後神経痛、トゥーレット病、進行性核上麻痺、大脳皮質基底核変性症、及び家族性前頭側頭型痴呆が含まれ、筋疾患の中には、心筋症、心筋炎、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型(良性仮性肥大性)筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー、セントラルコア病、ネマリンミオパシー、中心核ミオパシー、脂質ミオパシー、ミトコンドリアミオパチー、感染性筋炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、封入体筋炎、甲状腺中毒性ミオパシー、エタノールミオパシー(ethanol myopathy)、狭心症、アナフィラキシーショック、不整脈、喘息、心血管ショック、クッシング病、高血圧症、低血糖症、心筋梗塞、片頭痛、クロム親和細胞腫、脳症、てんかん、カーンズ‐セイヤ症候群、乳酸アシドーシス、ミオクローヌス疾患、眼筋麻痺、酸性マルターゼ欠損症(AMD、ポンペ病としても知られる)、全身性筋緊張症(generalized myotonia)および先天性筋緊張症を含む筋障害が含まれ、免疫疾患の中には、後天性免疫不全症候群(AIDS)及びアジソン病、成人呼吸窮迫症候群、アレルギー、強直性脊椎炎、アミロイド症、貧血、喘息、アテローム性動脈硬化症、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性甲状腺炎、自己免疫性多腺性内分泌カンジダ症外胚葉ジストロフィー(APECED)、気管支炎、胆嚢炎、接触皮膚炎、クローン病、アトピー性皮膚炎、皮膚筋炎、糖尿病、肺気腫、リンパ球傷害因子性偶発性リンパ球減少症、胎児赤芽球症(新生児溶血性疾患)、結節性紅斑、萎縮性胃炎、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、痛風、グレーブス病、橋本甲状腺炎、過好酸球増加症、過敏性腸症候群、多発性硬化症、重症筋無力症、心筋または心膜炎症、骨関節炎、骨粗しょう症、膵炎、多発性筋炎、乾癬、ライター症候群、リウマチ様関節炎、強皮症、シェ−グレン症候群、全身性アナフィラキシー、全身性エリテマトーデス、全身性強皮症(硬化症)、血小板減少性紫斑病、潰瘍性大腸炎、ぶどう膜炎、ウェルナー症候群、癌合併症、血液透析、体外循環、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症、寄生虫感染症、原虫感染症、蠕虫感染症、外傷が、細胞異常増殖には日光性角化症及びアテローム性動脈硬化、滑液包炎、硬変、肝炎、混合性結合組織病(MCTD)、骨髄線維症、発作性夜間ヘモグロビン尿症、真性多血症、乾癬、原発性血小板血症、並びに腺癌及び白血病、リンパ腫、黒色腫、骨髄腫、肉腫、及び奇形癌など癌、具体的には、副腎、膀胱、骨、骨髄、脳、乳房、頚部、胆嚢、神経節、消化管、心臓、腎臓、肝臓、肺、筋肉、卵巣、膵臓、副甲状腺、陰茎、前立腺、唾液腺、皮膚、脾臓、精巣、胸腺、甲状腺、子宮の癌が含まれる。TRICHをコードするポリヌクレオチド配列は、変容したTRICH発現を検出するために患者から採取した体液或いは組織を利用する、サザーン法やノーザン法、ドットブロット法、或いはその他の膜系の技術や、PCR法や、ディップスティック(dipstick)、ピン(pin)、およびマルチフォーマットのELISA式アッセイ、及びマイクロアレイに使用することが可能である。このような定性方法または定量方法は、当分野で公知である。
【0246】
ある実施態様では、TRICHをコードするヌクレオチド配列は、関連する疾患、特に上記した疾患を検出するアッセイにおいて有用であろう。TRICHをコードするヌクレオチド配列は、標準的な方法で標識化され、ハイブリダイゼーション複合体の形成に好適な条件の下、患者から採取した体液或いは組織のサンプルに加えることができる。好適なインキュベーション期間が経過したらサンプルを洗浄し、シグナルを定量して標準値と比較する。患者のサンプルのシグナルの量が、対照サンプルと較べて著しく変わっている場合は、サンプル内の、TRICHをコードするヌクレオチド配列の変容したレベルにより、関連する疾患の存在が明らかになる。このようなアッセイは、動物実験、臨床試験における特定の治療効果を推定するため、或いは個々の患者の治療をモニターするために用いることもできる。
【0247】
TRICHの発現に関連する疾患の診断の基礎を提供するために、発現の正常すなわち標準的なプロファイルが確立される。これは、ハイブリダイゼーション或いは増幅に好適な条件の下、動物或いはヒトの何れかの正常な被験者から抽出された体液或いは細胞と、TRICHをコードする配列或いはその断片とを混合させることにより達成され得る。実質的に精製されたポリヌクレオチドを既知量用いて行った実験から得た値を正常な被験者から得た値と比較することにより、標準ハイブリダイゼーションを定量することができる。このようにして得た標準値は、疾患の徴候を示す患者から得たサンプルから得た値と比較することができる。標準値からの偏差を用いて疾患の存在を確定する。
【0248】
疾患の存在が確定されて治療プロトコルが開始されると、患者の発現レベルが正常な被検者に観察されるレベルに近づき始めたかどうかを測定するため、ハイブリダイゼーションアッセイを定期的に繰り返し得る。連続アッセイから得られた結果を用いて、数日から数ヶ月の期間にわたる治療の効果を示し得る。
【0249】
癌に関しては、個体からの生体組織における異常な量の転写物(過少発現または過剰発現)の存在は、疾患の発生素質を示したり、実際に臨床的症状が現れる前に疾患を検出する方法を提供したりし得る。この種のより明確な診断により、医療の専門家が予防方法または積極的な治療法を早くから利用し、それによって癌の発生または更なる進行を防止することが可能となる。
【0250】
TRICHをコードする配列から設計されたオリゴヌクレオチドのさらなる診断への利用には、PCRの利用が含まれ得る。これらのオリゴマーは、化学的に合成するか、酵素により生産するか、或いはin vitroで産出し得る。オリゴマーは、好ましくはTRICHをコードするポリヌクレオチドの断片、或いはTRICHをコードするポリヌクレオチドと相補的なポリヌクレオチドの断片を含み、最適化した条件下で、特定の遺伝子や条件を識別するために利用される。また、オリゴマーは、やや緩いストリンジェンシー条件下で、近縁のDNA或いはRNA配列の検出、定量、或いはその両方のため用いることが可能である。
【0251】
或る実施態様において、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列由来のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、一塩基多型(SNP)を検出し得る。SNPは、多くの場合にヒトの先天性または後天性遺伝病の原因となるような置換、挿入及び欠失である。限定するものではないがSNPの検出方法には、SSCP(single-stranded conformation polymorphism)及び蛍光SSCP(fSSCP)がある。SSCPでは、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列由来のオリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)でDNAを増幅する。DNAは例えば、病変組織または正常組織、生検サンプル、体液その他に由来し得る。DNA内のSNPは、一本鎖形状のPCR生成物の2次及び3次構造に差異を生じさせる。差異は非変性ゲル中でのゲル電気泳動法を用いて検出可能である。fSCCPでは、オリゴヌクレオチドプライマーを蛍光性に標識する。それによってDNAシークエンシング機などの高処理機器でアンプリマー(amplimer)の検出が可能になる。更に、インシリコSNP(in silico SNP, isSNP)と呼ばれる配列データベース分析法は、一般的なコンセンサス配列へ構築されるような個々のオーバーラップするDNA断片の配列を比較することにより、多型性を同定し得る。これらのコンピュータベースの方法は、DNAの実験室での調製に、また統計モデル及びDNA配列クロマトグラムの自動分析を用いたシークエンシングのエラーに起因する配列の変異をフィルタリングして除去する。別の態様では、例えば高処理MASSARRAYシステム(Sequenom, Inc., San Diego CA)を用いた質量分析によりSNPを検出し、特徴付ける。
【0252】
SNPはヒト疾患の遺伝的根拠を研究するために用いられ得る。例えば、少なくとも16個の一般的SNPは非インスリン依存型真性糖尿病に関連している。また、SNPは、嚢胞性線維症、鎌状赤血球貧血または慢性肉芽腫症のような単一遺伝子病の疾患転帰の相違を調べるために役立つ。例えば、マンノース結合レクチンでの変異体であるMBL2は、嚢胞性線維症での肺の有害な転帰と相関することがわかっている。SNPにはまた薬理ゲノミックス(命にかかわる毒性など、患者の薬への反応に影響する遺伝的変異体の同定)における有用性がある。例えば、N-アセチルトランスフェラーゼにおける変異は抗結核剤、イソニアジドに応答した末梢神経障害の高発生率と関連しているが、ALOX5 遺伝子のコアプロモータの変異は5-リポキシゲナーゼ経路を標的とする抗喘息薬での治療に対する臨床的反応を減少する。異なった集団でのSNPの分布についての分析は遺伝的浮動、突然変異、組み換えや選択の調査、および集団の起源および集団の移動の追跡に有用である。(Taylor, J.G. 他 (2001) Trends Mol. Med. 7:507-512; Kwok, P.-Y. および Z. Gu (1999) Mol. Med. Today 5:538-543; Nowotny, P. 他 (2001) Curr. Opin. Neurobiol. 11:637-641)。TRICHの発現を定量するために用い得る方法には、ヌクレオチドの放射標識またはビオチン標識、対照核酸の共増幅(coamplification)及び標準曲線から得た結果の補間もある(例えば、 Melby, P.C. 他 (1993) J. Immunol. Methods 159:235-244; Duplaa, C. 他 (1993) Anal. Biochem. 212:229-236を参照。)目的のオリゴマーが種々の希釈液中に存在し、分光光度法または比色反応によって定量が迅速になるような高処理フォーマットのアッセイを行うことによって、複数のサンプルの定量速度を加速することができる。
【0253】
更に別の実施例では、本明細書で記載した任意のポリヌクレオチド配列由来のオリゴヌクレオチドまたはより長い断片を、マイクロアレイにおけるエレメントとして用いることができる。多数の遺伝子の関連発現レベルを同時にモニターする転写イメージング技術にマイクロアレイを用いることが可能である。これについては、以下に記載する。マイクロアレイはまた、遺伝変異体、突然変異及び多型性の同定に用いることができる。この情報を用いることで、遺伝子機能を決定し、疾患の遺伝的根拠を理解し、疾患を診断し、遺伝子発現の機能としての疾病の進行/後退をモニターし、疾病治療における薬剤の活性を開発及びモニターすることができる。特に、患者にとって最もふさわしく、有効な治療法を選択するために、この情報を用いて患者の薬理ゲノムプロフィールを開発することができる。例えば、患者の薬理ゲノムプロフィールに基づき、患者に対して高度に有効で副作用を殆ど示さない治療薬を選択することができる。
【0254】
別の実施例では、TRICH、TRICHの断片、TRICHに特異的な抗体をマイクロアレイ上のエレメントとして用いることができる。マイクロアレイを用いて、上記のようなタンパク質間相互作用、薬剤と標的間の相互作用及び遺伝子発現プロフィールをモニターまたは測定することが可能である。
【0255】
或る実施例は、或る組織または細胞タイプの転写イメージを生成するような本発明のポリヌクレオチドの使用に関連する。転写イメージは、特定の組織または細胞タイプによる遺伝子発現の包括的パターンを表す。包括的遺伝子発現パターンは、所与の条件下で所与の時間に発現した遺伝子の数及び相対存在量を定量することにより分析される(Seilhamer 他、米国特許第5,840,484号の「Comparative Gene Transcript Analysis」を参照。該特許は引用することを以って本明細書の一部とする)。従って、特定の組織または細胞タイプの転写または逆転写の全体に本発明のポリヌクレオチドまたはその相補体をハイブリダイズすることにより、転写イメージを生成し得る。或る実施例では、本発明のポリヌクレオチドまたはその相補体がマイクロアレイ上のエレメントのサブセットを複数含むような高処理フォーマットでハイブリダイゼーションを発生させる。結果として得られる転写イメージは、遺伝子活性のプロフィールを提供し得る。
【0256】
転写イメージは、組織、株化細胞、生検またはその生物学的サンプルから単離した転写物を用いて生成し得る。転写イメージは従って、組織または生検サンプルの場合にはin vivo、または株化細胞の場合にはin vitroでの遺伝子発現を反映する。
【0257】
本発明のポリヌクレオチドの発現のプロフィールを作製する転写イメージはまた、工業的または天然の環境化合物の毒性試験のみならず、in vitroモデル系及び薬剤の前臨床評価と併せて使用し得る。全ての化合物は、作用及び毒性のメカニズムを示す、しばしば分子フィンガープリントまたは毒性シグネチャ(toxicant signatures)と称される特徴的な遺伝子発現パターンを惹起する(Nuwaysir, E.F. 他 (1999) Mol. Carcinog. 24:15 3-159、Steiner, S. 及び N.L. Anderson (2000) Toxicol. Lett. 112-113:467-471、該文献は特に引用することを以って本明細書の一部となす)。試験化合物が、既知の毒性を有する化合物のシグネチャと同様のシグネチャを有する場合には、毒性特性を共有している可能性がある。フィンガープリントまたはシグネチャは、多数の遺伝子及び遺伝子ファミリーからの発現情報を含んでいる場合には、最も有用且つ正確である。理想的には、発現のゲノム全域にわたる測定が最高品質のシグネチャを提供する。たとえ、発現が任意の試験された化合物によって変容しない遺伝子があったとしても、それらの遺伝子の発現レベルを残りの発現データをノーマライズするために使用できるため、それらの遺伝子は重要である。ノーマライズ手順は、異なる化合物で処理した後の発現データの比較に有用である。毒性シグネチャの要素に遺伝子機能を割り当てることが毒性メカニズムの解釈に役立つが、毒性の予測につながるシグネチャの統計的マッチングに遺伝子機能の知識は必要とされない(例えば2000年2月29日に米国国立環境健康科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences)より発行されたPress Release 00-02を参照されたい。これについてはhttp://www.niehs.nih.gov/oc/news/toxchip.htmで入手可能である)。従って、毒性シグネチャを用いる中毒学的スクリーニングの際に、全ての発現した遺伝子配列を含めることは重要且つ望ましいことである。
【0258】
或る実施例では、核酸を含有する生物学的サンプルを試験化合物で処理することにより試験化合物の毒性を算定する。処理した生物学的サンプル中で発現した核酸は、本発明のポリヌクレオチドに特異的な1つ若しくは複数のプローブでハイブリダイズし、それによって本発明のポリヌクレオチドに対応する転写物レベルを定量し得る。処理した生物学的サンプル中の転写物レベルを、未処理生物学的サンプル中のレベルと比較する。両サンプル間の転写物レベルの差は、処理されたサンプル中で試験化合物が引き起こす毒性反応を示す。
【0259】
別の実施例は、本発明のポリペプチド配列を用いて組織または細胞タイプのプロテオームを分析することに関連する。プロテオームの語は、特定の組織または細胞タイプでのタンパク質発現の包括的パターンを指す。プロテオームの各タンパク質成分は、個々に更に分析の対象とすることができる。プロテオーム発現パターン即ちプロフィールは、所与の条件下で所与の時間に発現したタンパク質の数及び相対存在量を定量することにより分析される。従って細胞のプロテオームのプロフィールは、特定の組織または細胞タイプのポリペプチドを分離及び分析することにより作成し得る。或る実施例では、1次元等電点電気泳動によりサンプルからタンパク質を分離し、2次元ドデシル硫酸ナトリウムスラブゲル電気泳動により分子量に応じて分離するような2次元ゲル電気泳動により分離が達成される(前出のSteiner および Anderson)。タンパク質は、通常はクーマシーブルー、あるいは銀染色液または蛍光染色液などの物質を用いてゲルを染色することにより、分散した、独自の位置にある点としてゲル中で可視化される。各タンパク質スポットの光学密度は、通常サンプル中のタンパク質レベルに比例する。異なるサンプル、例えば試験化合物または治療薬で処理された、または未処理の生物学的サンプルから得られるタンパク質スポットの光学密度を比較し、処理に関連するタンパク質スポット密度の変化を同定する。スポット内のタンパク質は、例えば化学的または酵素的切断とそれに続く質量分析を用いる標準的な方法を用いて部分的にシークエンシングする。スポット内のタンパク質の同一性は、その部分配列を、好適には少なくとも5個の連続するアミノ酸残基を、本発明のポリペプチド配列と比較することにより決定し得る。場合によっては、決定的なタンパク質同定のための更なる配列が得られる。
【0260】
プロテオームのプロファイルは、TRICHに特異的な抗体を用いてTRICH発現レベルを定量することによっても作成可能である。或る実施例では、マイクロアレイ上でエレメントとして抗体を用い、マイクロアレイをサンプルに曝して各アレイエレメントへのタンパク質結合レベルを検出することによりタンパク質発現レベルを定量する(Lueking, A. 他 (1999) Anal. Biochern. 270:103-111、Mendoze, L.G. 他 (1999) Biotechniques 27:778-788)。検出は当分野で既知の様々な方法で行うことができ、例えば、チオールまたはアミノ反応性蛍光化合物とサンプル中のタンパク質を反応させ、各アレイのエレメントにおける蛍光結合の量を検出し得る。
【0261】
プロテオームレベルでの毒性シグネチャも中毒学的スクリーニングに有用であり、転写レベルでの毒性シグネチャと並行して分析するべきである。或る組織の或るタンパク質に対しては、転写物とタンパク質の存在量の相関が乏しいこともあるので(Anderson, N.L. 及び J. Seilhamer (1997) Electrophoresis 18:533-537)、転写イメージにはそれ程影響しないがプロテオームのプロフィールを変化させるような化合物の分析においてプロテオーム毒性シグネチャは有用たり得る。更に、体液中の転写物の分析はmRNAの急速な分解のために困難なので、プロテオームのプロフィール作成はこのような場合により信頼し得、情報価値があり得る。
【0262】
別の実施例では、タンパク質を含有する生物学的サンプルを試験化合物で処理することにより試験化合物の毒性を算定する。処理された生物学的サンプル中で発現したタンパク質は、各タンパク質の量を定量し得るように分離する。各タンパク質の量を、未処理生物学的サンプル中の対応するタンパク質の量と比較する。両サンプルのタンパク質量の差は、処理サンプル中の試験化合物に対する毒性反応を示す。個々のタンパク質は、個々のタンパク質のアミノ酸残基をシークエンシングし、これら部分配列を本発明のポリペプチドと比較することにより同定する。
【0263】
別の実施例では、タンパク質を含有する生物学的サンプルを試験化合物で処理することにより試験化合物の毒性を算定する。生物学的サンプルから得たタンパク質は、本発明のポリペプチドに特異的な抗体を用いてインキュベートする。抗体により認識されたタンパク質の量を定量する。処理された生物学的サンプル中のタンパク質の量を、未処理生物学的サンプル中のタンパク質の量と比較する。両サンプルのタンパク質量の差は、処理サンプル中の試験化合物に対する反応を示す。
【0264】
マイクロアレイは、本技術分野で既知の方法を用いて調製し、使用し、そして分析しうる(Brennan, T.M. 他 (1995) の米国特許第5,474,796号、Schena, M. 他 (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:10614-10619、Baldeschweiler 他の (1995) PCT出願第WO95/251116号、Shalon, D.他の (1995) PCT出願第WO95/35505号、Heller, R.A. 他(1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:2150-2155、Heller, M.J. 他の (1997) 米国特許第5,605,662号等を参照)。様々なタイプのマイクロアレイが公知であり、詳細については、DNA Microarrays: A Practical Approach, M. Schena, 編集. (1999) Oxford University Press, Londonに記載されている。 該文献は、特に引用することを以って本明細書の一部となす。
【0265】
本発明の別の実施例ではまた、TRICHをコードする核酸配列を用いて、天然のゲノム配列をマッピングするのに有用なハイブリダイゼーションプローブを作製することが可能である。コード配列または非コード配列のいずれかを用いることができ、或る例では、コード配列より非コード配列の方が好ましい。例えば、多重遺伝子ファミリーのメンバー内でのコード配列の保存により、染色体マッピング中に望ましくないクロスハイブリダイゼーションが生じる可能性がある。核酸配列は、特定の染色体、染色体の特定領域または人工形成の染色体、例えば、ヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、細菌P1産物、或いは単一染色体cDNAライブラリに対してマッピングされる(例えば、 Harrington, J.J. 他 (1997) Nat. Genet. 15:345-355; Price, C.M. (1993) Blood Rev. 7:127134; and Trask, B.J. (1991) Trends Genet. 7:149-154を参照。)一度マッピングすると、本発明の核酸配列を用いて例えば、或る病状の遺伝を特定の染色体領域の遺伝または制限酵素断片長多型(RFLP)と相関させるような遺伝子連鎖地図を作製できる。(例えば、 Lander, E.S. 及び D. Botstein (1986) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:7353-7357を参照。)
蛍光in situハイブリッド形成法(FISH)は、他の物理的及び遺伝地図データと相関し得る(前出のHeinz-Ulrich, 他 (1995) in Meyers, 965-968ページ等を参照)遺伝地図データの例は、種々の科学雑誌あるいはOnline Mendelian Inheritance in Man(OMIM)のウェブサイトに見ることができる。物理的な染色体地図上の、TRICHをコードする遺伝子の位置と、特定の疾患または特定の疾患に対する素因との間の相関性が、このような疾患と関連するDNA領域の決定に役立つため、更なる位置決定クローニングが行われうる。
【0266】
確定した染色体マーカーを用いた連鎖分析等の物理的マッピング技術及び染色体標本原位置ハイブリッド形成法を用いて、遺伝地図を拡張することができる。例えばマウスなどの別の哺乳動物の染色体上に遺伝子を配置することにより、正確な染色体上の遺伝子座が未知でも、関連するマーカー類をしばしば明らかにし得る。この情報は、位置クローニングその他の遺伝子発見技術を用いて遺伝的疾患を探す研究者にとって価値がある。疾患または症候群に関与する遺伝子が、血管拡張性失調症の11q22-23領域のように、特定のゲノム領域への遺伝的連関によって大まかに位置決めがなされると、該領域にマップされた任意の配列は、更なる調査のための関連遺伝子或いは調節遺伝子を提示している可能性がある(Gatti, R.A.他 (1988) Nature 336:577-580等を参照)転座、反転等に起因する、健常者、保有者、感染者の三者間における染色体位置の相違を検出するために本発明のヌクレオチド配列を用いてもよい。
【0267】
本発明の別の実施例では、TRICH、その触媒作用断片或いは免疫原断片またはそのオリゴペプチドを、種々の任意の薬剤スクリーニング技術における化合物のライブラリのスクリーニングに用いることができる。薬剤スクリーニングに用いる断片は、溶液中に遊離しているか、固体支持物に固定されるか、細胞表面上に保持されるか、細胞内に位置しうる。TRICHと検査する薬剤との結合による複合体の形成を測定してもよい。
【0268】
別の薬剤スクリーニング方法は、目的のタンパク質に対して好適な結合親和性を有する化合物を高い処理能力でスクリーニングするために用いられる(Geysen, 他 (1984) PCT application WO84/03564等を参照。)この方法においては、多数の異なる小さな試験用化合物を固体基板上で合成する。試験用化合物は、TRICH、或いはその断片と反応してから洗浄される。次ぎに、結合したTRICHが、当分野で周知の方法で検出される。 精製されたTRICHはまた、前記した薬剤をスクリーニングする技術に用いられるプレート上に直接被覆することもできる。別法では、非中和抗体を用いてペプチドを捕捉し、ペプチドを固体支持物に固定することもできる。
【0269】
別の実施例では、TRICHと特異結合可能な中和抗体が、TRICHとの結合を試験化合物と競合する、競合的薬剤スクリーニングアッセイを用いることができる。このようにして、TRICHと1つ以上の抗原決定因子を共有するどのペプチドの存在をも、抗体を使って検出できる。
【0270】
別の実施例では、TRICHをコードするヌクレオチド配列を、将来に開発される分子生物学技術であり、現在知られているヌクレオチド配列の特性(限定はされないが、トリプレット遺伝コード、特異的な塩基対相互作用等を含む)に依存する新技術に用い得る。
【0271】
更に詳細説明をしなくとも、当業者であれば以上の説明を以って本発明を最大限に利用できるであろう。従って、これ以下に記載する実施例は単なる例示目的にすぎず、いかようにも本発明を限定するものではない。
【0272】
本明細書において開示した全ての特許、特許出願及び刊行物、特に米国特許出願第60/267.892号、第60/271.168号、第60/272.890号、第60/276.860号、第60/278.255号、第60/280.538および米国特許出願第[米国弁護士側管理番号(Attorney Docket No.) PF-1366、2002年1月25日に提出] は、言及することをもって本明細書の一部となす。
【実施例】
【0273】
1 cDNA ライブラリの作製
Incyte cDNA群の由来は、LIFESEQ GOLDデータベース (Incyte Genomics, Palo Alto CA)に記載されたcDNAライブラリ群である。幾つかの組織はホモジナイズしてグアニジニウムイソチオシアネート溶液に溶解し、他の組織はホモジナイズしてフェノールにまたは変性剤群の好適な混合液に溶解した。混合液の1例であるTRIZOL(Life Technologies)は、フェノールとグアニジンイソチオシアネートとの単相溶液である。結果として得られた溶解物は、塩化セシウムのクッション液の上に重層して遠心分離するかクロロホルムで抽出した。イソプロパノールか、酢酸ナトリウムとエタノールか、いずれか一方、或いは別の方法を用いて、溶解物からRNAを沈殿させた。
【0274】
RNAの純度を高めるため、RNAのフェノールによる抽出及び沈殿を必要な回数繰り返した。場合によっては、DNA分解酵素でRNAを処理した。殆どのライブラリでは、オリゴd(T)連結常磁性粒子(Promega)、OLIGOTEXラテックス粒子(QIAGEN, Chatsworth CA)またはOLIGOTEX mRNA精製キット(QIAGEN)を用いて、ポリ(A+) RNAを単離した。別法では、別のRNA単離キット、例えばPOLY(A)PURE mRNA精製キット(Ambion, Austin TX)を用いて組織溶解物からRNAを直接単離した。
【0275】
場合によってはStratagene社へのRNA提供を行い、対応するcDNAライブラリをStratagene社が作製することもあった。そうでない場合は、UNIZAPベクターシステム(Stratagene)またはSUPERSCRIPTプラスミドシステム(Life Technologies)を用いて本技術分野で既知の推奨方法または類似の方法でcDNAを合成し、cDNAライブラリを作製した(前出のAusubel, 1997, 5.1-6.6ユニットなどを参照)。逆転写は、オリゴd(T)またはランダムプライマーを用いて開始した。合成オリゴヌクレオチドアダプターを二本鎖cDNAに連結反応させ、好適な制限酵素でcDNAを消化した。殆どのライブラリに対して、cDNAのサイズの選択(300〜1000bp)は、SEPHACRYL S1000、SEPHAROSE CL2BまたはSEPHAROSE CL4Bカラムクロマトグラフィー(Amersham Pharmacia Biotech)、或いは分取用アガロースゲル電気泳動法を用いて行った。cDNAは好適なプラスミドのポリリンカーの適合する制限酵素部位に結合させた。 好適なプラスミドは例えば、PBLUESCRIPT プラスミド (Stratagene)、PSPORT1 プラスミド(Life Technologies)、PCDNA2.1 プラスミド(Invitrogen, Carlsbad CA)、PBK-CMV プラスミド(Stratagene)、 PCR2-TOPOTAプラスミド (Invitrogen)、 PCMV-ICISプラスミド (Stratagene)、pIGEN (Incyte Genomics, Palo Alto CA)、pRARE (Incyte Genomics)または pINCY (Incyte Genomics)、あるいはその誘導体である。組換えプラスミドは、Stratagene社のXL1-Blue、XL1-BIueMRFまたはSOLR、或いはLife Technologies社のDH5α、DH10BまたはELECTROMAX DH10Bを含む大腸菌細胞に形質転換した。
【0276】
2 cDNA クローンの単離
UNIZAPベクターシステム(Stratagene)を用いたin vivo切除によって、或いは細胞溶解によって、実施例 1のようにして得たプラスミドを宿主細胞から回収した。プラスミドの精製には、下記の少なくとも1つを用いた。すなわちMagicまたはWIZARD Minipreps DNA精製システム(Promega)、AGTC Miniprep精製キット(Edge Biosystems, Gaithersburg MD)、QIAGEN社のQIAWELL 8 Plasmid、QIAWELL 8 Plus PlasmidおよびQIAWELL 8 Ultra Plasmid 精製システム、R.E.A.L. Prep 96プラスミド精製キットのいずれかである。プラスミドは、沈殿させた後、0.1mlの蒸留水に再懸濁して、凍結乾燥して或いは凍結乾燥しないで4℃で保管した。
【0277】
別法では、高処理フォーマットにおいて直接結合PCR法を用いて宿主細胞溶解物からプラスミドDNAを増幅した(Rao, V.B. (1994) Anal. Biochem. 216:1-14)。宿主細胞の溶解及び熱サイクリング過程は、単一反応混合液中で行った。サンプルを処理し、それを384穴プレート内で保管し、増幅したプラスミドDNAの濃度をPICOGREEN色素(Molecular Probes, Eugene OR)及びFLUOROSKAN2蛍光スキャナ(Labsystems Oy, Helsinki, Finland)を用いて蛍光分析的に定量した。
【0278】
3 シークエンシング及び分析
実施例2に記載したようにプラスミドから回収したIncyte cDNAを、以下に示すようにシークエンシングした。cDNAのシークエンス反応は、標準的方法或いは高処理装置、例えばABI CATALYST 800 サーマルサイクラー(Applied Biosystems)またはPTC-200 サーマルサイクラー(MJ Research)をHYDRAマイクロディスペンサー(Robbins Scientific)またはMICROLAB 2200(Hamilton)液体転移システムと併用して処理した。cDNAのシークエンス反応は、Amersham Pharmacia Biotech社が提供する試薬、またはABIシークエンシングキット、例えばABI PRISM BIGDYE Terminator cycle sequencing ready reaction kit(Applied Biosystems)の試薬を用いて準備した。cDNAのシークエンス反応の電気泳動的分離及び標識したポリヌクレオチドの検出には、MEGABACE 1000 DNAシークエンシングシステム(Molecular Dynamics)か、標準ABIプロトコル及び塩基呼び出し(base calling)ソフトウェアを用いるABI PRISM 373または377シークエンシングシステム(Applied Biosystems)か、或いはその他の本技術分野で既知の配列解析システムを用いた。cDNA配列内のリーディングフレームは、標準的方法(前出のAusubel, 1997, 7.7ユニットに概説)を用いて決定した。cDNA配列の幾つかを選択して、実施例8に記載した方法で配列を伸長させた。
【0279】
Incyte cDNA配列に由来するポリヌクレオチド配列は、ベクター、リンカー及びポリ(A)配列を除去し、あいまいな塩基対をマスクすることによって有効性を確認した。 その際、BLAST、動的プログラミング及び隣接ジヌクレオチド頻度分析に基づくアルゴリズム及びプログラムを用いた。次に、IncyteのcDNA配列、またはその翻訳を公共のデータベース(例えばGenBankの霊長類及びげっ歯類、哺乳動物、脊椎動物、真核生物のデータベースと、BLOCKS、PRINTS、DOMO、PRODOM)と、ヒト、ラット、マウス、線虫、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)、および鵞口瘡カンジダ(Candida albicans )からの配列を含むPROTEOMEデータベース(Incyte Genomics, Palo Alto CA)、及びPFAM等隠れマルコフモデル(HMM)に基づいたタンパク質ファミリーデータベース並びに、SMART(Schultz 他(1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:5857-5864; Letunic, I. 他 (2002) Nucleic Acids Res. 30:242-244)のようなHMMに基づいたタンパク質ドメインデータベースから選択したデータベースに対して問い合わせた。(HMMは、遺伝子ファミリーのコンセンサス1次構造を分析する確率的アプローチである。Eddy, S.R. (1996) Cuff. Opin. Struct. Biol. 6:361-365等を参照。)問合せは、BLAST、FASTA、BLIMPS及びHMMERに基づくプログラムを用いて行った。Incyte cDNA配列は、完全長のポリヌクレオチド配列を産出するように構築した。或いは、GenBank cDNA、GenBank EST、ステッチされた配列、ストレッチされた配列またはGenscan予測コード配列(実施例4及び5を参照)を用いてIncyte cDNAの集団を完全長まで伸長させた。Phred、Phrap及びConsedに基づくプログラムを用いて構築し、GenMark、BLAST及びFASTAに基づくプログラムを用いてcDNAの集団をオープンリーディングフレームに対してスクリーニングした。対応する完全長ポリペプチド配列を誘導するべく完全長ポリヌクレオチド配列を翻訳した。或いは、本発明のポリペプチドは完全長翻訳ポリペプチドの任意のメチオニン残基で開始し得る。引き続いて、GenBankタンパク質データベース(genpept)、SwissProt、PROTEOMEデータベース、BLOCKS、PRINTS、DOMO、PRODOM及びProsite等のデータベース、PFAM等の隠れマルコフモデル(HMM)に基づいたタンパク質ファミリーデータベース、およびSMARTのようなHMMに基づいたタンパク質ドメインデータベースに対する問合せによって完全長ポリペプチド配列を分析した。完全長ポリヌクレオチド配列はまた、MACDNASIS PROソフトウェア(日立ソフトウェアエンジニアリング, South San Francisco CA)及びLASERGENEソフトウェア(DNASTAR)を用いて分析した。ポリヌクレオチド及びポリペプチド配列アラインメントは、アラインメントした配列間の一致率も計算するMEGALIGNマルチシークエンスアラインメントプログラム(DNASTAR)に組み込まれているようなCLUSTALアルゴリズムによって指定されるデフォルトパラメータを用いて作製する。
【0280】
Incyte cDNA及び完全長配列の分析及びアセンブリに利用したツール、プログラム及びアルゴリズムの概略と、適用可能な説明、参照文献、閾値パラメータを表7に示す。用いたツール、プログラムおよびアルゴリズムを表7の列1に、それらの簡単な説明を列2に示す。列3は好適な参照文献であり、全ての文献は引用を以って全文を本明細書の一部となす。適用可能な場合には、列4は、2つの配列が一致する強さを評価するために用いた、スコア、確率値その他のパラメータを示す(スコアが高いほど、または確率値が低いほど、2配列間の同一性が高い)。
【0281】
完全長ポリヌクレオチド配列およびポリペプチド配列の組み立て及び分析に用いる上記のプログラムは、SEQ ID NO:21-40のポリヌクレオチド配列断片の同定にも利用できる。 ハイブリダイゼーション及び増幅技術に有用である約20〜約4000ヌクレオチドの断片を表2の列4に示した。
【0282】
4 ゲノム DNA からのコード配列の同定及び編集
推定上の輸送体及びイオンチャネルは、公共のゲノム配列データベース(例えば、gbpriやgbhtg)においてGenscan遺伝子同定プログラムを実行して初めに同定された。Genscanは、様々な生物からのゲノムDNA配列を分析する汎用遺伝子同定プログラムである(Burge, C. および S. Karlin (1997) J. Mol. Biol. 268:78-94 及びBurge, C. 及び S. Karlin (1998) Cuff. Opin. Struct. Biol. 8:346-354参照)。プログラムは予測エキソンを連結し、メチオニンから停止コドンに及ぶ構築されたcDNA配列を形成する。Genscanの出力は、ポリヌクレオチド及びポリペプチド配列のFASTAデータベースである。Genscanが一度に分析する配列の最大範囲は、30kbに設定した。これらのGenscan予測cDNA配列の内、どの配列が輸送体及びイオンチャネルをコードするかを決定するために、コードされるポリペプチドをPFAMモデルにおいて輸送体及びイオンチャネルについて問合せて分析した。潜在的な輸送体及びイオンチャネルもまた、輸送体及びイオンチャネルとして注釈を付けたインサイトcDNA配列に対する相同性を基に同定した。こうして選択されたGenscan予測配列は、次にBLAST分析により公共データベースgenpept及びgbpriと比較した。必要であれば、genpeptからのトップのBLASTヒットと比較することによりGenscan予測配列を編集し、余分なまたは取り除かれたエキソンなどのGenscanにより予測された配列のエラーを修正する。BLAST分析はまた、任意のIncyte cDNAまたはGenscan予測配列の公共cDNA適用範囲の発見に用いられるため、転写の証拠を提供する。Incyte cDNA適用範囲が利用できる場合には、この情報を用いてGenscan予測配列を修正または確認した。完全長ポリヌクレオチド配列は、実施例3に記載された構築プロセスを用いて、Incyte cDNA配列及び/または公共のcDNA配列でGenscan予測コード配列を構築することにより得た。或いは、完全長ポリヌクレオチド配列は編集または非編集のGenscan予測コード配列に完全に由来する。
【0283】
5 cDNA 配列データを使ったゲノム配列データの構築
ステッチ配列( Stitched Sequence )
部分cDNA配列は、実施例4に記載のGenscan遺伝子同定プログラムにより予測されたエキソンを用いて伸長させた。実施例3に記載されたように構築された部分cDNAは、ゲノムDNAにマッピングし、関連するcDNA及び1つ若しくは複数のゲノム配列から予測されたGenscanエキソンを含むクラスタに分解した。cDNA及びゲノム情報を統合するべくグラフ理論及び動的プログラミングに基づくアルゴリズムを用いて各クラスタを分析し、引き続いて確認、編集または伸長して完全長配列を産出するような潜在的スプライス変異体を生成した。区間の長さ全体がクラスタ中の2以上の配列に存在するような配列区間を同定し、そのように同定された区間は推移性により等しいと考えられた。例えば、1つのcDNA及び2つのゲノム配列に或る区間が存在する場合、3つの躯幹は全て等しいと考えた。このプロセスは、無関係であるが連続したゲノム配列をcDNA配列により結び合わせて架橋し得る。このようにして同定された区間を親配列(parent sequence)に沿って現われる順にステッチアルゴリズムで縫い合わせ、可能な最も長い配列および変異配列を作製する。1種類の親配列に沿って発生した区間間の連鎖(cDNA−cDNAまたはゲノム配列−ゲノム配列)は、親の種類を変える連鎖(cDNA−ゲノム配列)に優先した。結果として得られるステッチ配列は、翻訳されてBLAST分析により公共データベースgenpept及びgbpriと比較された。Genscanにより予測された不正確なエキソンは、genpeptからのトップのBLASTヒットと比較することにより修正した。必要な場合には、追加cDNA配列を用いるかゲノムDNAの検査により配列を更に伸長させた。
【0284】
ストレッチ配列( Stretched Sequence )
部分DNA配列は、BLAST分析に基づくアルゴリズムにより完全長まで伸長された。先ず、BLASTプログラムを用いて、GenBankの霊長類、げっ歯類、哺乳動物、脊椎動物及び真核生物のデータベースなどの公共データベースに対し、実施例3に記載したように構築された部分cDNAを問い合わせた。次に、最も近いGenBankタンパク質相同体をBLAST分析によりIncyte cDNA配列または実施例4に記載のGenScanエキソン予測配列のいずれかと比較した。結果として得られる高スコアリングセグメント対(HSP)を用いてキメラタンパク質を産出し、翻訳した配列をGenBankタンパク質相同体上にマッピングした。元のGenBankタンパク質相同体と比較して、キメラタンパク質内では挿入または欠失が起こり得る。GenBankタンパク質相同体、キメラタンパク質またはその両方をプローブとして用い、公共のヒトゲノムデータベースから相同ゲノム配列を検索した。このようにして、部分的なDNA配列を相同ゲノム配列の付加によりストレッチすなわち伸長した。結果として得られるストレッチ配列を検査し、完全遺伝子を含んでいるか否かを決定した。
【0285】
6 TRICH をコードするポリヌクレオチドの染色体マッピング
SEQ ID NO:21-40を構築するために用いた配列を、BLAST及び他のSmith-Watermanアルゴリズムの実装を用いて、Incyte LIFESEQデータベース及び公共のドメインデータベースの配列と比較した。SEQ ID NO:21-40 と一致するこれらのデータベースの配列を、Phrapなどの構築アルゴリズム(表7)を使用して、連続及びオーバーラップした配列のクラスターに組み入れた。スタンフォード・ヒトゲノムセンター(SHGC)、ホワイトヘッド・ゲノム研究所(WIGR)、Genethon等の公的な情報源から入手可能な放射線ハイブリッド及び遺伝地図データを用いて、クラスタ化された配列が既にマッピングされていたかを確認した。マッピングされた配列が或るクラスターに含まれている場合、そのクラスターの全配列が、個々の配列番号と共に、地図上の位置に割り当てられた。
【0286】
地図上の位置は、ヒト染色体の範囲または間隔として表される。センチモルガン間隔の地図上の位置は、染色体のpアームの末端に関して測定する。(センチモルガン(cM)は、染色体マーカー間の組換え頻度に基づく計測単位である。平均して、1cMは、ヒト中のDNAの1メガベース(Mb)にほぼ等しい。 もっとも、この値は、組換えのホットスポット及びコールドスポットによって広範囲に変化する。)cM距離は、配列が各クラスタ内に含まれるような放射線ハイブリッドマーカーに対する境界となるようなGenethonによってマッピングされた遺伝マーカーに基づく。NCBI「GeneMap'99」(http://www.ncbi.nlm.nih.gpv/genemap)などの公的に入手可能なヒト遺伝子マップおよびその他の情報源を用いて、既に同定された疾患遺伝子類が、上記の区間内若しくは近傍にマップされているかを決定できる。
【0287】
7 ポリヌクレオチド発現の分析
ノーザン分析は、転写された遺伝情報の存在を検出するために用いられる実験技術であり、特定の細胞種または組織からのRNAが結合されている膜への標識ヌクレオチド配列のハイブリダイゼーションに関与している。(前出のSambrook, 7章、同Ausubel. F.M. 他, 4章及び16章等を参照。)
BLASTを適用する類似のコンピュータ技術を用いて、GenBankやLifeSeq(Incyte Genomics)等のcDNAデータベースにおいて同一または関連分子を検索した。ノーザン分析は、多数の膜系ハイブリダイゼーションよりも非常に速い。更に、特定の一致を厳密な一致、或いは類似的な一致として分類するか否かを決定するため、コンピュータ検索の感度を変更することができる。検索の基準は積スコアであり、次式で定義される。
【0288】
【数1】
積スコアは、2つの配列間の類似度及び配列が一致する長さの両方を考慮している。積スコアは、0〜100のノーマライズされた値であり、次のようにして求める。BLASTスコアにヌクレオチドの配列一致率を乗じ、その積を2つの配列の短い方の長さの5倍で除する。高スコアリングセグメント対(HSP)に一致する各塩基に+5のスコアを割り当て、各不一致塩基対に−4を割り当てることにより、BLASTスコアを計算する。2つの配列は、2以上のHSPを共有し得る(ギャップにより隔離され得る)。2以上のHSPがある場合には、最高BLASTスコアのセグメント対を用いて積スコアを計算する。積スコアは、断片的オーバーラップとBLASTアラインメントの質とのバランスを表す。例えば積スコア100は、比較した2つの配列の短い方の長さ全体にわたって100%一致する場合のみ得られる。積スコア70は、一端が100%一致し、70%オーバーラップしているか、他端が88%一致し、100%オーバーラップしているかのいずれかの場合に得られる。積スコア50は、一端が100%一致し、50%オーバーラップしているか、他端が79%一致し、100%オーバーラップしているかのいずれかの場合に得られる。
【0289】
或いは、TRICHをコードするポリヌクレオチド配列は、由来する組織に対して分析する。例えば或る完全長配列は、Incyte cDNA配列(実施例3を参照)と少なくとも一部はオーバーラップするように構築される。各cDNA配列は、ヒト組織から作製されたcDNAライブラリに由来する。各ヒト組織は、心血管系、結合組織、消化系、胚構造、内分泌系、外分泌腺、女性生殖器、男性生殖器、生殖細胞、血液および免疫系、肝臓、筋骨格系、神経系、膵臓、呼吸器系、感覚器官、皮膚、顎口腔系、分類不能/混合、または尿路などの1つの器官/組織のカテゴリーに分類される。各カテゴリーのライブラリ数を数えて、全カテゴリーの総ライブラリ数で除する。同様に、各ヒト組織は、以下の疾患/条件カテゴリー即ち癌、細胞株、発達、炎症、神経性、外傷、心血管、プール、その他の1つに分類される。各カテゴリーのライブラリ数を数えて、全カテゴリーの総ライブラリ数で除する。得られるパーセンテージは、TRICHをコードするcDNAの組織特異的発現および疾患特異的発現を反映する。 cDNA配列およびcDNAライブラリ/組織の情報は、LIFESEQ GOLD データベース(Incyte Genomics, Palo Alto CA)から得ることができる。
【0290】
8 TRICH をコードするポリヌクレオチドの伸長
完全長のポリヌクレオチド配列はまた、完全長分子の適切な断片から設計したオリゴヌクレオチドプライマー複数を用いて該断片を伸長させて生成した。一方のプライマーは既知の断片の5'伸長を開始するべく合成し、他方のプライマーは既知の断片の3'伸長を開始するべく合成した。開始プライマーは、長さが約22〜30ヌクレオチド、GC含有率が約50%以上となり、約68〜72℃の温度で標的配列にアニーリングするように、OLIGO 4.06ソフトウェア(National Biosciences)或いは別の適切なプログラムを用いて設計した。 ヘアピン構造及びプライマー−プライマー二量体を生ずるようなヌクレオチドの伸長は全て回避した。
【0291】
配列を伸長するために、選択されたヒトcDNAライブラリを用いた。2段階以上の伸長が必要または望ましい場合には、付加的プライマー或いはプライマーのネステッドセットを設計した。
【0292】
高忠実度の増幅が、当業者によく知られている方法を利用したPCR法によって得られた。 PCRは、PTC-200 サーマルサイクラー(MJ Research, Inc.)を用いて96穴プレート内で行った。反応混合液は、鋳型DNA及び200 nmolの各プライマーを有する。また、Mg2 +と(NH4)2SO4と2−メルカプトエタノールを含むバッファー、Taq DNAポリメラーゼ(Amersham Pharmacia Biotech)、ELONGASE酵素(Life Technologies)、Pfu DNAポリメラーゼ(Stratagene)を含む。 プライマーの組、PCI AとPCI Bに対して以下のパラメータで増幅を行った。ステップ1: 94℃, 3分、 ステップ 2: 94℃, 15 秒、ステップ 3: 60℃, 1 分、ステップ 4: 68℃, 2 分、 ステップ 5: ステップ2、3および 4を20回反復する。ステップ6: 68℃, 5 分、ステップ7: 4℃で保存する。別法では、プライマーの組、T7とSK+に対して以下のパラメータで増幅を行った。ステップ1: 94℃, 3分、 ステップ 2: 94℃, 15 秒、ステップ 3: 57℃, 1 分、ステップ 4: 68℃, 2 分、 ステップ 5: ステップ2、3および 4を20回反復する。ステップ6: 68℃、5 分、ステップ7: 4℃で保存する。
【0293】
各ウェルのDNA濃度は、1X TE及び0.5μlの希釈していないPCR産物に溶解した100μlのPICOGREEN定量試薬(0.25%(v/v) PICOGREEN; Molecular Probes, Eugene OR)を不透明な蛍光光度計プレート(Coming Costar, Acton MA)の各ウェルに分配してDNAが試薬と結合できるようにして測定した。サンプルの蛍光を計測してDNAの濃度を定量するためにプレートをFluoroskan II (Labsystems Oy, Helsinki, Finland)でスキャンした。反応混合物のアリコート5〜10μlを1%アガロースミニゲル上で電気泳動法によって解析し、どの反応が配列の伸長に成功したかを決定した。
【0294】
伸長したヌクレオチドは、脱塩及び濃縮して384穴プレートに移し、CviJIコレラウイルスエンドヌクレアーゼ(Molecular Biology Research, Madison WI)を用いて消化し、pUC 18ベクター(Amersham Pharmacia Biotech)への再連結反応前に音波処理またはせん断した。ショットガン・シークエンシングのために、消化したヌクレオチドを低濃度(0.6〜0.8%)のアガロースゲル上で分離し、断片を切除し、寒天をAgar ACE(Promega)で消化した。伸長したクローンをT4リガーゼ(New England Biolabs, Beverly MA)を用いてpUC 18ベクター(Amersham Pharmacia Biotech)に再連結し、Pfu DNAポリメラーゼ(Stratagene)で処理して制限部位のオーバーハング部分を満たし、大腸菌細胞に形質移入した。形質移入した細胞を選択して抗生物質を含む培地に移し、それぞれのコロニーを切りとってLB/2Xカルベニシリン培養液の384ウェルプレートに37℃で一晩培養した。
【0295】
細胞を溶解して、Taq DNAポリメラーゼ(Amersham Pharmacia Biotech)及びPfu DNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いて以下の手順でDNAをPCR増幅した。ステップ1: 94℃, 3分、 ステップ 2: 94℃, 15 秒、ステップ 3: 60℃, 1 分、ステップ 4: 72℃, 2 分、 ステップ 5: ステップ2、3および 4を29回反復する。ステップ6: 72℃, 5 分、ステップ7: 4℃で保存する。上記のようにPICOGREEN試薬(Molecular Probes)でDNAを定量した。DNAの回収率が低いサンプルは、上記と同一の条件を用いて再増幅した。サンプルは20%ジメチルスルホキシド(1:2, v/v)で希釈し、DYENAMIC エネルギートランスファー シークエンシングプライマー、及びDYENAMIC DIRECT kit(Amersham Pharmacia Biotech)またはABI PRISM BIGDYE ターミネーターサイクル シークエンシング反応キット(Terminator cycle sequencing ready reaction kit)(Applied Biosystems)を用いてシークエンシングした。
【0296】
同様に、上記手順を用いて完全長ヌクレオチド配列を検証し、或いはそのような伸長のために設計されたオリゴヌクレオチド及び適切なゲノムライブラリを用いて5'調節配列を得る。
【0297】
9 TRICH をコードするポリヌクレオチドの SNP( 一塩基多型 ) の同定
一塩基多型(SNP)として知られる一般的なDNA配列変異体がLIFESEQ データベース(Incyte Genomics)を用いてSEQ ID NO:21-40 同定された。実施例3に記述されているように、同じ遺伝子からの配列を共にクラスターにして構築し、これによって遺伝子のすべての配列変異体の同定ができた。一連のフィルタからなるアルゴリズムを使って、SNPを他の配列変異体から区別した。前段フィルターは、最小限のPhredクオリティスコア15を要求することにより大多数のベースコールのエラーを除去し、また、配列アライメントエラーや、ベクター配列、キメラおよびスプライス変異体の不適当なトリミングにより生じるエラーを取り除いた。染色体の高度解析の自動化手順により、推定SNPの近傍におけるオリジナルのクロマトグラムファイルが解析された。クローンエラーフィルタは統計的に生み出されたアルゴリズムを用いて、逆転写酵素、ポリメラーゼ、または体細胞突然変異によって引き起こされるエラーのような、実験処理時に導入されるエラーを識別した。クラスターエラーフィルターは、統計的に生み出されたアルゴリズムを用いて近接の相同体または偽遺伝子のクラスター化に起因するエラー、または非ヒト配列によるコンタミネーションにより生じたエラーを同定した。最後のフィルター群によって、免疫グロブリンまたはT細胞受容体に存在する重複(duplicates)とSNPが除去された。
【0298】
高速処理MASSARRAY システム(Sequenom, Inc.) を用いて質量分析によってさらに特徴付けるために数種のSNPを選択して、四つの異なったヒト母集団中のSNP部位における対立遺伝子発生頻度を分析した。白人母集団は、ユタ州の83人、フランス人4人、ベネズエラ3人およびアーミッシュ派2人を含む92人(男性46人、女性46人)で構成された。アフリカ人母集団はすべてアフリカ系アメリカ人である194人( 男性97人、 女性97人)からなる。ヒスパニック母集団はすべてメキシコ系ヒスパニックの324人( 男性162人、 女性162人)からなる。アジア人母集団は126人(男性64人、女性62人)からなり、親の内訳は中国人43%、日本人31%、コリアン13%、ベトナム人5%およびその他のアジア人8%と報告されている。対立形質の発生頻度は最初に白人母集団において分析し、いくつかの例において、この母集団で対立形質分散を示さなかったSNPは他の三つの母集団においてさらに検査しなかった。
【0299】
10 個々のハイブリダイゼーションプローブの標識化及び使用
SEQ ID NO:21-40由来のハイブリダイゼーションプローブを用いて、cDNA、mRNA、またはゲノムDNAをスクリーニングする。約20塩基対からなるオリゴヌクレオチドの標識について特に記載するが、より大きなヌクレオチド断片に対しても事実上同一の手順が用いられる。オリゴヌクレオチドは、OLIGO 4.06ソフトウェア(National Biosciences)等の最新技術のソフトウェアを用いて設計し、各オリゴマー50pmolと、[γ-32P]アデノシン3リン酸 (Amersham Pharmacia Biotech)250μCiと、T4ポリヌクレオチドキナーゼ(DuPont NEN, Boston MA)を混合することにより標識する。標識したオリゴヌクレオチドは、SEPHADEX G-25超細繊分子サイズ排除デキストラン ビードカラム(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて実質的に精製する。Ase I、Bgl II、Eco RI、Pst I、Xba1またはPvu II(DuPont NEN)のいずれか1つのエンドヌクレアーゼで消化したヒトゲノムDNAの典型的な膜ベースのハイブリダイゼーション解析において、毎分107カウントの標識されたプローブを含むアリコットを用いる。
【0300】
各消化物から得たDNAは、0.7%アガロースゲル上で分画してナイロン膜(Nytran Plus, Schleicher & Schuell, Durham NH)に移す。ハイブリダイゼーションは、40℃で16時間行う。 非特異的シグナルを除去するため、例えば0.1×クエン酸ナトリウム食塩水及び0.5%ドデシル硫酸ナトリウムに一致する条件下で、ブロットを室温で順次洗浄する。オートラジオグラフィーまたはそれに代わるイメージング手段を用いてハイブリダイゼーションパターンを視覚化し、比較する。
【0301】
11 マイクロアレイ
マイクロアレイ上でアレイエレメントの結合または合成は、フォトリソグラフィ、圧電印刷(インクジェット印刷、前出のBaldeschweiler等を参照)、機械的マイクロスポッティング技術及びこれらから派生したものを用いて達成することが可能である。上記各技術において基板は、均一且つ無孔の固体とするべきである(Schena (1999) 前出)。推奨する基板には、シリコン、シリカ、スライドガラス、ガラスチップ及びシリコンウエハがある。或いは、ドットブロット法またはスロットブロット法に類似のアレイを利用して、熱的、紫外線的、化学的または機械的結合手順を用いて基板の表面にエレメントを配置及び結合させてもよい。通常のアレイは、当業者に周知の利用可能な方法や機械を用いて作製でき、任意の適正数のエレメントを有し得る(例えばSchena, M. 他 (1995) Science 270:467-470、Shalon. D. 他 (1996) Genome Res. 6:639-645、Marshall, A. および J. Hodgson (1998) Nat. Biotechnol. 16:27-31を参照)。
【0302】
完全長cDNA、発現配列タグ(EST)、またはその断片またはオリゴマーは、マイクロアレイのエレメントと成り得る。ハイブリダイゼーションに好適な断片またはオリゴマーを、レーザGENEソフトウェア(DNASTAR)等の本技術分野で公知のソフトウェアを用いて選択することが可能である。アレイエレメントは、生物学的サンプル中でポリヌクレオチドを用いてハイブリダイズされる。生物学的サンプル中のポリヌクレオチドは、検出を容易にするために蛍光標識またはその他の分子タグに抱合される。ハイブリダイゼーション後、生物学的サンプルからハイブリダイズされていないヌクレオチドを除去し、蛍光スキャナを用いて各アレイエレメントにおいてハイブリダイゼーションを検出する。或いは、レーザ脱離及び質量スペクトロメトリを用いてもハイブリダイゼーションを検出し得る。マイクロアレイ上のエレメントにハイブリダイズする各ポリヌクレオチドの相補性の度合及び相対存在度は、算定し得る。 一実施例におけるマイクロアレイの調製及び使用について、以下に詳述する。
【0303】
組織または細胞サンプルの調製
グアニジニウムチオシアネート法を用いて組織サンプルから全RNAを単離し、オリゴ(dT)セルロース法を用いてポリ(A)+RNAを精製する。各ポリ(A)+RNAサンプルは、MMLV逆転写酵素、0.05pg/μlのオリゴ(dT)プライマー(21mer)、1×第1鎖バッファ、0.03unit/μlのRNアーゼ阻害剤、500μMのdATP、500μMのdGTP、500μMのdTTP、40μMのdCTP、40μMのdCTP-Cy3(BDS)またはdCTP-Cy5(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて逆転写する。逆転写反応は、GEMBRIGHTキット(Incyte)を用いてポリ(A)+RNA含有の25体積ml内で行う。特異的対照ポリ(A)+RNAは、非コード酵母ゲノムDNAからin vitro転写により合成する。37℃で2時間インキュベートした後、各反応サンプル(1つはCy3、もう1つはCy5標識)は、2.5mlの0.5M水酸化ナトリウムで処理し、85℃で20分間インキュベートし、反応を停止させてRNAを分解させる。サンプルは、2つの連続するCHROMA SPIN 30ゲル濾過スピンカラム(CLONTECH Laboratories, Inc. (CLONTECH), Palo Alto CA)を用いて精製する。 混合した後、2つの反応サンプルは、1mlのグリコーゲン(1mg/ml)、60mlの酢酸ナトリウム及び300mlの100%エタノールを用いてエタノール沈殿させる。サンプルは次に、SpeedVAC(Savant Instruments Inc., Holbrook NY)を用いて完全に乾燥させ、14μlの5×SSC/0.2%SDS中で再懸濁する。
【0304】
例えばSEQ ID:36の場合、或る正常ドナーから単離された初代ヒト乳房上皮細胞株のHMECは、哺乳動物上皮細胞増殖培地(Mammary Epithelial Cell Growth Medium)(Clonetics, Walkersville MD)において増殖した。哺乳動物上皮細胞増殖培地には、10 ng/mlのヒト組換え上皮成長因子、5mg/mlのインスリン、0.5 mg/ml のヒドロコルチゾン、50 mg/ml のゲンタマイシン、50 ng/mlのアンホテリシンBおよび0.5 mg/mlのウシ下垂体抽出物が補充された。細胞は収集前に70%-80%のコンフルエンスにまで増殖した。経過8(前駆細胞)、経過10及び12(進行性老化細胞:progressively senescent cells)、経過14(前老化細胞:presenescent cells)および経過15(老化細胞)で約1×107 の細胞が収集された。 このようにして、SEQ ID NO:36 の構成成分(component)2812176 の、老化細胞での発現は、少なくとも2倍に増加することが実証された。
【0305】
マイクロアレイの調製
本発明の配列を用いて、アレイエレメントを生成する。各アレイエレメントは、クローン化cDNAインサートを持つベクター含有細菌細胞から増幅する。PCR増幅は、cDNAインサートの側面に位置するベクター配列に相補的なプライマーを用いる。30サイクルのPCRで1〜2ngの初期量から5μgより大きい最終量までアレイエレメントを増幅する。増幅されたアレイエレメントは、SEPHACRYL-400(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて精製される。
【0306】
精製したアレイエレメントは、ポリマーコートされたスライドグラス上に固定する。顕微鏡スライドグラス(Corning)は、処理の間及び処理後に0.1%のSDS及びアセトン中で超音波をかけ、蒸留水で充分に洗浄する。スライドグラスは、4%フッ化水素酸(VWR Scientific Products Corporation (VWR), West Chester PA)中でエッチングし、蒸留水中で充分に洗浄し、95%エタノール中で0.05%アミノプロピルシラン(Sigma)を用いてコーティングする。コーティングしたスライドガラスは、110℃のオーブンで硬化させる。
【0307】
米国特許第5,807,522号に記載されている方法を用いて、コーティングしたガラス基板にアレイエレメントを付加する。 この特許は引用することを以って本明細書の一部とする。平均濃度が100ng/μlのアレイエレメントDNA1μlを高速ロボット装置により開放型キャピラリープリンティングエレメント(open capillary printing element)に充填する。装置はここで、スライド毎に約5nlのアレイエレメントサンプルを加える。
【0308】
マイクロアレイには、STRATALINKER UV架橋剤(Stratagene)を用いてUV架橋する。マイクロアレイは、室温において0.2%SDSで1度洗浄し、蒸留水で3度洗浄する。リン酸緩衝生理食塩水 (PBS)(Tropix, Inc., Bedford MA)中の0.2%カゼイン中において60℃で30分間マイクロアレイをインキュベートした後、前に行ったように0.2%SDS及び蒸留水で洗浄することにより、非特異結合部位をブロックする。
【0309】
ハイブリダイゼーション
ハイブリダイゼーション反応液は、5×SSC、0.2%SDSハイブリダイゼーション緩衝液にCy3及びCy5標識したcDNA合成産物を各0.2μg含む9μlのサンプル混合体を含めたものである。サンプル混合体は、65℃まで5分間加熱し、マイクロアレイ表面上に等分して1.8cm2 のカバーガラスで覆う。アレイは、顕微鏡スライドより僅かに大きい空洞を有する防水チェンバーに移す。チェンバーのコーナーに140μlの5×SSCを加えることにより、チェンバー内部を湿度100に保持する。アレイを含むチェンバーは、60℃で約6.5時間インキュベートする。 アレイは、第1洗浄緩衝液中(1×SSC、0.1%SDS)において45℃で10分間洗浄し、第2洗浄緩衝液中(0.1×SSC)において各々45℃で10分間3度洗浄して乾燥させる。
【0310】
検出
レポーター標識されたハイブリダイゼーション複合体は、Cy3の励起のためには488nm、Cy5の励起のためには632nmでスペクトル線を発生し得るInnova 70混合ガス10 Wレーザ(Coherent, Santa Clara CA)を備えた顕微鏡で検出する。20×顕微鏡対物レンズ(Nikon, Inc., Melville NY)を用いて、アレイ上に励起レーザ光の焦点を当てる。アレイを含むスライドを顕微鏡のコンピュータ制御のX-Yステージに置き、対物レンズを通過してラスタースキャンする。本実施例で用いた1.8cm×1.8cmのアレイは、20μmの解像度でスキャンした。
【0311】
2つの異なるスキャンで、混合ガスマルチラインレーザは2つのフルオロフォアを連続的に励起する。発光された光は、波長に基づき分離され、2つのフルオロフォアに対応する2つの光電子増倍管検出器(PMT R1477, Hamamatsu Photonics Systems, Bridgewater NJ)に送られる。アレイと光電子増倍管間に設置された好適なフィルターを用いて、シグナルをフィルターする。用いるフルオロフォアの最大発光の波長は、Cy3では565nm、Cy5では650nmである。装置は両方のフルオロフォアからのスペクトルを同時に記録し得るが、レーザ源において好適なフィルターを用いて、フルオロフォア1つにつき1度スキャンし、各アレイを通常2度スキャンする。
【0312】
スキャンの感度は通常、既知濃度でサンプル混合体に添加されるcDNA対照種により生成されるシグナル強度を用いて較正する。アレイ上の特定の位置には相補的DNA配列が含まれ、その位置におけるシグナルの強度を重量比1:100,000でハイブリダイゼーション種と相関させる。異なる源泉(例えば試験される細胞及び対照細胞など)からの2つのサンプルを、各々異なるフルオロフォアで標識し、他と異なって発現した遺伝子を同定するために単一のアレイにハイブリダイズする場合には、2つのフルオロフォアで較正するcDNAのサンプルを標識し、ハイブリダイゼーション混合液に各々等量を加えることによって較正を行う。
【0313】
光電子増倍管の出力は、IBM互換性PCコンピュータにインストールされた12ビットRTI-835Hアナログ−ディジタル(A/D)変換ボード(Analog Devices, Inc., Norwood MA)を用いてディジタル化される。ディジタル化されたデータは、青色(低シグナル)から赤色(高シグナル)までの擬似カラー範囲への直線的20色変換を用いてシグナル強度がマッピングされたようなイメージとして表示される。データは、定量的にも分析される。2つの異なるフルオロフォアを同時に励起及び測定する場合には、各フルオロフォアの発光スペクトルを用いて、データは先ずフルオロフォア間の光学的クロストーク(発光スペクトルの重なりに起因する)を補正する。
【0314】
グリッドが蛍光シグナルイメージ上に重ねられ、それによって各スポットからのシグナルはグリッドの各エレメントに集められる。各エレメント内の蛍光シグナルは統合され、シグナルの平均強度に応じた数値が得られる。シグナル分析に用いるソフトウェアは、GEMTOOLS遺伝子発現分析プログラム(Incyte)である。
【0315】
12 相補的ポリヌクレオチド
TRICHをコードする配列或いはその任意の一部に対して相補的な配列は、天然のTRICHの発現を検出、低減または阻害するために用いられる。約15〜30塩基対を含むオリゴヌクレオチドの使用について記すが、これより小さな或いは大きな配列の断片の場合でも本質的に同じ方法を用いることができる。Oligo4.06ソフトウェア(National Biosciences)及びTRICHのコーディング配列を用いて、適切なオリゴヌクレオチドを設計する。転写を阻害するためには、最も独特な5' 配列から相補的オリゴヌクレオチドを設計し、これを用いてプロモーターがコーディング配列に結合するのを阻害する。翻訳を阻害するためには、相補的なオリゴヌクレオチドを設計して、リボソームがTRICHをコードする転写物に結合するのを阻害する。
【0316】
1 3 TRICH の発現
TRICHの発現及び精製は、細菌若しくはウイルスを基にした発現系を用いて行うことができる。細菌でTRICHを発現させるためには、抗生物質耐性遺伝子と、cDNA転写レベルを高める誘導性のプロモーターとを含む好適なベクターにcDNAをサブクローニングする。このようなプロモーターには、lacオペレーター調節因子と併用するT5またはT7バクテリオファージプロモーター、及びtrp-lac(tac)ハイブリッドプロモーターが含まれるが、これらに限定するものではない。組換えベクターを、BL21(DE3)等の好適な細菌宿主に形質転換する。抗生物質耐性細菌は、イソプロピルβ−Dチオガラクトピラノシド(IPTG)で誘発されるとTRICHを発現する。真核細胞でのTRICHの発現は、昆虫細胞株または哺乳動物細胞株に一般にバキュロウイルスとして知られるAutographica californica核多角体病ウイルス(AcMNPV)の組換え型を感染させて行う。バキュロウイルスの非必須ポリヘドリン遺伝子を、相同組換え、或いはトランスファープラスミドの媒介を伴う細菌の媒介による遺伝子転移のどちらかによって、TRICHをコードするcDNAと置換する。ウイルスの感染力は維持され、強力なポリヘドリンプロモーターによって高いレベルのcDNAの転写が行われる。組換えバキュロウイルスは、多くの場合はSpodoptera frugiperda(Sf9)昆虫細胞への感染に用いられるが、ヒト肝細胞の感染にも用いられることもある。後者の感染の場合は、バキュロウイルスの更なる遺伝的変更が必要になる。(Engelhard. E. K.他 (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:3224-3227、Sandig, V. 他 (1996) Hum. Gene Ther. 7:1937-1945.等を参照)。
【0317】
殆どの発現系では、TRICHが、例えばグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)と、またはFLAGや6-Hisなどのペプチドエピトープ標識と合成された融合タンパク質となるため、未精製の細胞溶解物からの組換え融合タンパク質の親和性ベースの精製を素早く1回で行うことができる。GSTは日本住血吸虫からの26kDaの酵素であり、タンパク質の活性及び抗原性を維持した状態で、固定化グルタチオン上で融合タンパク質の精製を可能とする(Amersham Pharmacia Biotech)。精製の後、GST部分を特定の操作部位でTRICHからタンパク分解的に切断できる。FLAGは8アミノ酸のペプチドであり、市販されているモノクローナル及びポリクローナル抗FLAG抗体(Eastman Kodak)を用いて免疫親和性精製を可能にする。6ヒスチジン残基が連続して伸長した6-Hisは、金属キレート樹脂(QIAGEN)上での精製を可能にする。タンパク質の発現及び精製の方法は、前出のAusubel(1995)10章、16章に記載されている。これらの方法で得た精製TRICH を直接用いて以下の実施例17、18、および19の、適用可能なアッセイを行うことができる。
【0318】
14 機能的アッセイ
TRICHの機能は、哺乳動物細胞培養系において生理学的に高められたレベルでの、TRICHをコードする配列の発現によって評価する。 cDNAを、cDNAを高いレベルで発現する強いプロモーターを含む哺乳動物発現ベクターにサブクローニングする。選択されるベクターには、pCMV SPORTプラスミド(Life Technologies)及びpCR 3.1プラスミド(Invitrogen)が含まれ、どちらもサイトメガロウイルスプロモーターを有する。リポソーム製剤或いは電気穿孔法を用いて、5〜10μgの組換えベクターをヒト細胞株、例えば内皮由来または造血由来の細胞株に一過的に形質移入する。更に、標識タンパク質をコードする配列を含む1〜2μgのプラスミドを同時に形質移入する。標識タンパク質の発現により、形質移入細胞と非形質移入細胞を区別する手段が与えられる。 また、標識タンパク質の発現によって、cDNAの組換えベクターからの発現を正確に予想できる。標識タンパク質は、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP;Clontech)、CD64またはCD64-GFP融合タンパク質から選択できる。自動化された、レーザ光学に基づく技術であるフローサイトメトリー(FCM)を用いて、GFPまたはCD64-GFPを発現する形質移入された細胞を同定し、その細胞のアポトーシス状態や他の細胞特性を評価する。FCMは、細胞死に先行するか或いは同時に発生する現象を診断する蛍光分子の取込を検出して計量する。このような現象として挙げられるのは、ヨウ化プロピジウム物によるDNA染色によって計測される核DNA含量の変化、前方光散乱と90°側方光散乱によって計測される細胞サイズと粒度の変化、ブロモデオキシウリジンの取込量の低下によって計測されるDNA合成の下方調節、特異抗体との反応性によって計測される細胞表面及び細胞内におけるタンパク質の発現の変容、及びフルオレセイン抱合したアネキシンVタンパク質の細胞表面への結合によって計測される原形質膜組成の変容とがある。フローサイトメトリー法については、Ormerod, M. G. (1994) Flow Cytometry Oxford, New York, NY.に記述がある。
【0319】
遺伝子発現に与えるTRICHの影響は、TRICHをコードする配列とCD64またはCD64-GFPのどちらかが形質移入された高度に精製された細胞集団を用いて評価することができる。CD64またはCD64-GFPは、形質移入された細胞表面で発現し、ヒト免疫グロブリンG(IgG)の保存領域と結合する。形質移入された細胞と形質移入されていない細胞とは、ヒトIgGかCD64に対する抗体のどちらかで被覆された磁気ビーズを用いて分離することができる(DYNAL. Lake Success. NY)。 mRNAは、当分野で周知の方法で細胞から精製することができる。 TRICH及び目的の他の遺伝子をコードするmRNAの発現は、ノーザン分析やマイクロアレイ技術で分析することができる。
【0320】
15 TRICH 特異的抗体の作製
ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGE;例えば、Harrington, M.G. (1990) Methods Enzymol. 182:488-495を参照)または他の精製技術で実質的に精製されたTRICHを用いて、標準的なプロトコルで動物(例えば、ウサギ、マウス等)を免疫化して抗体を作り出す。
【0321】
別法では、TRICHアミノ酸配列をLASERGENEソフトウェア(DNASTAR)を用いて解析して免疫原性の高い領域を決定し、対応するオリゴペプチドを合成してこれを用いて当業者に周知の方法で抗体を生産する。 C末端付近の、或いは隣接する親水性領域内のエピトープなどの適切なエピトープの選択については、当分野で周知である(例えば、前出のAusubel, 1995,11章を参照)。
【0322】
通常は、長さ約15残基のオリゴペプチドを、FMOC ケミストリを用いるABI 431A ペプチドシンセサイザ(Applied Biosystems)を用いて合成し、N-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)を用いた反応によってKLH(Sigma-Aldrich, St. Louis MO)に結合させて、免疫原性を高める(前出のAusubel, 1995 等を参照)。完全フロイントアジュバントにおいてオリゴペプチド-KLH複合体を用いてウサギを免疫化する。得られた抗血清の抗ペプチド活性及び抗TRICH活性を検査するには、ペプチドまたはTRICHを基板に結合し、1%BSAを用いてブロッキング処理し、ウサギ抗血清と反応させて洗浄し、さらに放射性ヨウ素標識されたヤギ抗ウサギIgGと反応させる。
【0323】
16 特異的抗体を用いる天然 TRICH の精製
天然TRICH或いは組換えTRICHは、TRICHに特異的な抗体を用いたイムノアフィニティークロマトグラフィによって実質的に精製される。イムノアフィニティーカラムは、CNBr-活性化SEPHAROSE(Amersham Pharmacia Biotech)のような活性化クロマトグラフィー用レジンと抗TRICH抗体とを共有結合させることにより形成する。結合後に、製造者の使用説明書に従って樹脂をブロックし、洗浄する。
【0324】
TRICHを含む培養液をイムノアフィニティーカラムに通し、TRICHを優先的に吸着できる条件で(例えば、界面活性剤の存在下において高イオン強度のバッファーで)そのカラムを洗浄する。そのカラムを、抗体とTRICHとの結合を切るような条件で(例えば、pH2〜3のバッファー、或いは高濃度の尿素またはチオシアン酸イオンのようなカオトロープで)溶出させ、TRICHを回収する。
【0325】
17 TRICH と相互作用する分子の同定
TRICHと相互作用する分子としては、輸送体基質、アゴニスト若しくはアンタゴニスト、Gβγタンパク質(Reimann前出)のような調節性タンパク質(modulatory proteins)、又はMAGUKs(Craven前出)の様なTRICHの局在化若しくはクラスター形成に関与するタンパク質が含まれうる。TRICHまたは生物学的に活性であるTRICH断片を、125Iボルトンハンター試薬で標識する。(例えば Bolton A.E. および W.M. Hunter (1973) Biochem. J. 133:529-539を参照)。マルチウェルプレートのウェルに予め配列しておいた候補の分子を、標識したTRICHと共にインキュベートし、洗浄して、標識されたTRICH複合体を有する全てのウェルをアッセイする。様々なTRICH濃度で得られたデータを用いて、候補分子と結合したTRICHの数量及び親和性、会合についての値を計算する。
【0326】
別法では、TRICHと相互作用するタンパク質が、Fields, S.及びO. Song(1989, Nature 340:245-246)に記載の酵母2−ハイブリッドシステム(yeast 2-hybrid system)で単離される。TRICHもしくはその断片はGal4若しくはlexAのDNA結合ドメインを有する融合タンパク質として発現し、また潜在的な相互作用タンパク質は、活性化ドメインを有する融合タンパク質として発現する。TRICH融合タンパク質とTRICH相互作用タンパク質(活性化ドメインを有する融合タンパク質)間の相互作用は、レポーター遺伝子の発現によって観察されるトランス活性化機能を元に戻す。酵母2−ハイブリッドシステムは商業的に利用可能であり、イオンチャネルタンパク質を有する酵母2−ハイブリッドシステムの使用方法は、 Niethammer, M. およびM. Sheng(1998, Meth. Enzymol. 293:104-122)に記載されている。
【0327】
TRICHはまた、ハイスループット型の酵母2ハイブリッドシステムを使用するPATHCALLINGプロセス(CuraGen Corp., New Haven CT)に用いて、遺伝子の2つの大きなライブラリによってコードされるタンパク質間の全ての相互作用を決定することができる(Nandabalan, K. 他 (2000) 米国特許第6,057,101号)。
【0328】
潜在的なTRICHアゴニスト若しくはアンタゴニストは、実施例18に記載のアッセイを用いてTRICHイオンチャネル活性の活性化若しくは阻害について試験されうる。
【0329】
18 TRICH 活性の実証
TRICHのイオンチャネル活性は、イオンコンダクタンスの電気生理学的アッセイを用いて実証される。TRICHは、TRICHをコードする真核生物発現ベクターで、COS7、HeLa、若しくはCHOのようなほ乳類株化細胞を形質転換することによって発現され得る。真核生物発現ベクターは市販されており、それらを細胞内に導入する技術は当業者には周知である。 β−ガラクトシダーゼのような多数の標識遺伝子いずれか一つを発現させる第二のプラスミドが細胞へと同時形質転換され、外来DNAを取り込み発現させるそれら細胞の迅速な同定を可能とする。細胞は、形質転換の後、株化細胞がTRICH及びβ−ガラクトシダーゼを発現し蓄積するのに適した条件下で、48−72時間に渡ってインキュベートされる。
【0330】
β‐ガラクトシダーゼを発現させる形質転換細胞は、好適な比色用基質が本技術分野で公知の条件下で培地へ添加されると、青く染色される。 染色された細胞は、本技術分野で周知の電気生理学技術を用いて膜電気伝導度の違いを試験される。形質転換しない細胞、および/または、ベクター配列のみ或いはβガラクトシダーゼ配列のみの何れかで形質転換した細胞が対照として用いられ、並行して試験される。TRICHを発現する細胞は、対照細胞よりも高いアニオンコンダクタンス、若しくはカチオンコンダクタンスを有することとなる。TRICHの伝導度への寄与は、TRICHに特異的な抗体を用いて細胞をインキュベーションすることによって確認できる。抗体は、TRICHの細胞外側面に結合し、それによってイオンチャネル内の孔とそれに伴うコンダクタンスをブロッキングする。
【0331】
別法では、TRICHのイオンチャネル活性は、二電極電位クランプ技術(Ishi 他 前出、Jegla, T. 及び L. Salkoff (1997) J. Neurosci. 17:32-44)を用いて、TRICH含有アフリカツメガエル卵母細胞膜を通る電流として測定される。TRICHは、pBFのような適切なアフリカツメガエル卵母細胞発現ベクターへとサブクローニングされ、また0.5〜5ngのmRNAが成熟段階4の卵母細胞へ注入される。注入された卵母細胞は摂氏18度で1−5日間インキュベートされる。インサイド‐アウトマクロパッチが切り取られて、116 mMのK-グルコン酸、4 mMのKC1、および10 mMのHepes (pH 7. 2)を含む細胞内溶液へと移される。細胞内溶液には、適切な、cAMP、cGMP、またはCa+2 (CaCl2の形態)のような様々な濃度のTRICH媒介物質が補充される。電極の抵抗は2−5MΩにセットされ、電極は媒介物質のない細胞内溶液で満たされる。実験は、室温で0 mVの保持電位から実行される。-100mVから100mVの電圧ランプ(voltage ramps) (2.5 s)が、サンプリング周波数500Hzで得られる。測定される電流はアッセイに於けるTRICHの活性に比例する。 TRICHの輸送活性は、アフリカツメガエル卵母細胞への標識された基質の取り込みを測定してアッセイされる。第5期及び第6期における卵母細胞に、TRICH mRNA (卵母細胞あたり10 ng)を注入し、OR2培地(82. 5mMのNaCl、2. 5 mMのKC1、1mMのCaCl2、1mMのMgCl2、1mM Na2HPO4、5 mMのHepes、3. 8 mMのNaOH、 50μg/ml ゲンタマイシン、pH 7. 8) 内で18℃で3日間インキュベートし、TRICHを発現させる。卵母細胞は、次に標準取り込み培地(100mMのNaCl、2 mMのKC1、1mMのCaCl2、1mMのMgCl2、10 mMのHepes/Tris、pH 7. 5)へと移す。様々な基質(例えばアミノ酸、糖、薬剤、イオン、及び神経伝達物質)の取り込みは、標識された基質(例えば3Hで放射標識されていたり、ローダミンで蛍光標識されている)を添加することで開始される。30分間のインキュベートの後、取り込みは、卵母細胞を3回、Na+のない培養液で洗浄することで終了し、取り込まれた標識を測定して、対照と比較する。TRICH活性は、内部移行された標識基質のレベルに比例する。詳しくは、試験する基質としては、TRICH-1にはグルコースおよび他の糖類、TRICH-2にはアミノホスホリピッド、TRICH‐3にはHCO3- 、TRICH‐4には硫酸およびその他のアニオン、TRICH‐5にはヌクレオチド、TRICH‐6、TRICH‐8にはNa+ と胆汁酸、TRICH-11にはカチオンアミノ酸、 TRICH-7にはアミノ酸、TRICH-9にはプロトン、 TRICH-12には薬物、 TRICH-13 と TRICH-17には胆汁酸、TRICH-15にはヌクレオシド、TRICH-16には薬物とその他の生体異物、 TRICH-18には神経伝達物質または有機浸透圧物質(organic osmolytes)がある。
【0332】
TRICHに関連するATPase活性は、放射性ラベルされたATP-[γ-32P]の加水分解、クロマトグラフィー法による加水分解生成物の分離、及び、シンチレーションカウンターを用いる回収した32Pの定量化によって測定できる。反応混合物は、ATP-[γ-32P]と、好適な時間をかけて摂氏37度でインキュベートされた好適なバッファ中の様々な量のTRICHとを有する。反応は、トリクロロ酢酸での沈殿によって終了し、次に塩基で中和され、反応混合物のアリコットは、反応産物を分離するべく、膜若しくはろ紙ベースのクロマトグラフィーにかけられる。遊離された32Pの量は、シンチレーション計数器でカウントされる。このアッセイでは、回収した放射活性の量がTRICHのATPase活性に比例する。TRICHのlipocalin活性はリガンド蛍光エンハンスメント分光蛍光分析によって測定される(Lin 他 (1997) Molecular Vision 3:17)。リガンドの例としては、レチノール (Sigma, St. Louis MO) および 16-アントリルオキシ パルミチン酸(anthryloxy-palmitic acid)(16-AP) (Molecular Probes Inc., Eugene OR)を含む。リガンドは100%エタノールに溶解され、濃度は既知の吸光係数(レチノール: 46,000 A/M/cm @ 325 nm; 16-AP: 8,200 A/M/cm @ 361 nm)を使って推定される。10 mM Tris (pH 7.5)、2 mM EDTAおよび500 mM NaCl 溶液中に溶かした1μM TRICH の700μl アリコットを光路長1 cm の石英キュベットに入れ、1μl アリコットのリガンド溶液を加える。蛍光の測定は、それぞれの添加の100秒後に、読みが安定するまで行う。リガンド濃度の単位変化あたりの蛍光の変化がTRICHの活性に比例する。
【0333】
詳しくは、TRICH‐10の活性はCa2+ コンダクタンスとして測定され、TRICH-14の活性はK+ コンダクタンスとして測定され、またTRICH‐19の活性はカルシウム活性化K+ コンダクタンスとして測定される。
【0334】
19 TRICH アゴニストおよびアンタゴニストの同定
TRICHは、CHO(チャイニーズハムスターの卵巣)またはHEK (ヒト胎児腎臓) 293のような真核細胞株内で発現する。 形質転換細胞のイオンチャネル活性は、候補アゴニスト又は候補アンタゴニストの存在若しくは不在条件下で測定される。イオンチャネル活性は本技術分野で公知のパッチクランプ法を用いて、または実施例18に記載のように検定される。別法では、イオンチャネル活性が、細胞膜を通るイオンの流れを測定する蛍光技術を用い検定される(Velicelebi, G.ら(1999) Meth. Enzymol. 294:20-47 ; West, M. R.及びC. R. Molloy (1996) Anal. Biochem. 241:51-58)。これらアッセイは、マイクロプレートを用いる高処理のスクリーニングに適合されうる。内部イオン濃度の変化は、Ca2+ 指示薬Fluo-4 AM、SBFI及びナトリウムグリーンのようなナトリウム感受性色素、またはCl指示薬MQAE (すべてMolecular Probes社より入手可能) のような蛍光色素を用い、FLIPR蛍光定量プレートリーディングシステム(Molecular Device社)と併せて測定される。アッセイのさらに一般的な別法では、原形質膜を通るイオンの流れによって生じる膜電位の変化は、DiBAC4(Molecular Probes社)のようなoxonyl色素を用いて測定される。DiBAC4は、細胞膜電位に従って細胞外溶液と細胞部位との間で平衡となる。色素の蛍光強度は、疎水性の細胞内部位に結合すると20倍に大きくなり、細胞内へのDiBAC4の流入が検出可能となる(Gonzalez, J. E.及び P. A. Negulescu (1998) Curr. Opin. Biotechnol. 9:624-631)。候補アゴニスト若しくはアンタゴニストは、既知のイオンチャネルアゴニスト若しくはアンタゴニスト、ペプチドライブラリ、若しくは組み合わせの化学ライブラリより選択されてもよい。
【0335】
当業者には、本発明の範囲及び精神から逸脱しない、本発明に記載した方法及びシステムの種々の修正および変更は自明であろう。本発明について説明するにあたり特定の好適実施例に関連して説明を行ったが、本発明の範囲が、そのような特定の実施例に不当に制限されるべきではないことを理解されたい。実際に、分子生物学または関連分野の専門家には明らかな、本明細書に記載されている本発明の実施方法の様々な修正は、特許請求の範囲内にあるものとする。
【0336】
(表の簡単な説明)
表1は、本発明の完全長ポリヌクレオチド配列及びポリペプチド配列の命名法の概略を示す。
【0337】
表2は、本発明のポリペプチド群のGenBank識別番号と、最も近いGenBank相同体の注釈(annotation)と、PROTEOMEデータベース識別番号と、PROTEOMEデータベース相同体群の注釈とを示す。各ポリペプチドとそのGenBank相同体が一致する確率スコアも併せて示す。
【0338】
表3は、予測されるモチーフ及びドメインを含む本発明のポリヌクレオチド配列の構造的特徴を、ポリペプチドの分析に用いるための方法、アルゴリズム及び検索可能なデータベースと共に示す。
【0339】
表4は、本発明のポリヌクレオチド配列を構築するために用いたcDNAやゲノムDNA断片を、ポリヌクレオチド配列の選択した断片と共に示す。
【0340】
表5は、本発明のポリヌクレオチドの代表的なcDNAライブラリを示す。
【0341】
表6は、表5に示したcDNAライブラリの作製に用いた組織及びベクターを説明する付表である。
【0342】
表7は、本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの分析に用いたツール、プログラム、アルゴリズムを、適用可能な説明、参照文献及び閾値パラメータと共に示す。
【0343】
【表1】
【0344】
【表2−1】
【0345】
【表2−2】
【0346】
【表3−1】
【0347】
【表3−2】
【0348】
【表3−3】
【0349】
【表3−4】
【0350】
【表3−5】
【0351】
【表3−6】
【0352】
【表3−7】
【0353】
【表3−8】
【0354】
【表3−9】
【0355】
【表3−10】
【0356】
【表3−11】
【0357】
【表3−12】
【0358】
【表3−13】
【0359】
【表3−14】
【0360】
【表3−15】
【0361】
【表3−16】
【0362】
【表3−17】
【0363】
【表3−18】
【0364】
【表4−1】
【0365】
【表4−2】
【0366】
【表4−3】
【0367】
【表4−4】
【0368】
【表4−5】
【0369】
【表4−6】
【0370】
【表4−7】
【0371】
【表4−8】
【0372】
【表5】
【0373】
【表6−1】
【0374】
【表6−2】
【0375】
【表6−3】
【0376】
【表7−1】
【0377】
【表7−2】
Claims (95)
- 以下の(a)乃至(d)からなる群から選択した単離されたポリペプチド。
(a) SEQ ID NO:1-20(配列番号1乃至20)からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチド
(b) SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列に対して少なくとも90%が同一であるような天然アミノ酸配列を含むポリペプチド
(c) SEQ ID NO:1-20を有する群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物学的活性断片
(d) SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドの免疫原性断片 - SEQ ID NO:1−20からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
- 請求項1のポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチド。
- 請求項2のポリペプチドをコードする単離されたポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:21−40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列を有する、請求項4に記載の単離されたポリヌクレオチド。
- 請求項3に記載のポリヌクレオチドに機能的に連結したプロモーター配列を含む組換えポリヌクレオチド。
- 請求項6に記載の組換えポリヌクレオチドを用いて形質転換した細胞。
- 請求項6に記載の組換えポリヌクレオチドを含む遺伝形質転換体。
- 請求項1のポリペプチドを生産する方法であって、
(a)前記ポリペプチドの発現に好適な条件下で、請求項1のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結したプロモーター配列を持つ組換えポリヌクレオチドで形質転換される細胞を培養する過程と、
(b)そのように発現した前記ポリペプチドを回収する過程とからなる方法。 - 前記ポリペプチドが、SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を持つことを特徴とする、請求項9に記載の方法。
- 請求項1に記載のポリペプチドと特異的に結合する単離された抗体。
- 以下の(a)乃至(e)からなる群から選択した単離されたポリヌクレオチド。
(a)SEQ ID NO:21-40からなる群から選択したポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド
(b)SEQ ID NO:21-40を有する群から選択したポリヌクレオチド配列と少なくとも90%が同一であるような天然のポリヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド
(c)(a)のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド
(d)(b)のポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド
(e)(a)〜(d)のRNA等価物 - 請求項12に記載のポリヌクレオチドの少なくとも60の連続したヌクレオチドを含む単離されたポリヌクレオチド。
- 請求項12に記載のポリヌクレオチドの配列を有する標的ポリヌクレオチドをサンプル中から検出する方法であって、
(a)前記サンプル中の前記標的ポリヌクレオチドに相補的な配列を持つ少なくとも20の連続したヌクレオチドを持つプローブを用いて前記サンプルをハイブリダイズする過程と、前記プローブと前記標的ポリヌクレオチドあるいはその断片との間でハイブリダイゼーション複合体が形成される条件下で、プローブが前記標的ポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズすることを特徴とする過程と、
(b)前記ハイブリダイゼーション複合体の有無を検出し、該複合体が存在する場合にはオプションでその量を検出する過程、とを含む方法。 - 前記プローブが少なくとも60の連続したヌクレオチドを含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
- 請求項12に記載のポリヌクレオチドの配列を有する標的ポリヌクレオチドをサンプル中から検出する方法であって、
(a)ポリメラーゼ連鎖反応増幅を用いて前記標的ポリヌクレオチドまたはその断片を増幅する過程と、
(b)前記の増幅した標的ポリヌクレオチドまたはその断片の存在・不存在を検出し、該標的ポリヌクレオチドまたはその断片が存在する場合にはオプションでその量を検出する過程を含むことを特徴とする方法。 - 請求項1に記載のポリペプチドと、薬剤として許容できる賦形剤とを含む組成物。
- 前記ポリペプチドが、SEQ ID NO:1-20からなる群から選択されたアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項17の組成物。
- 機能的TRICHの発現の低下に関連する疾患や病態の治療方法であって、そのような治療が必要な患者に請求項17の組成物を投与することを含むことを特徴とする治療方法。
- 請求項1に記載のポリペプチドのアゴニストとしての有効性を確認するために化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)請求項1のポリペプチドを含むサンプルを化合物に曝す過程と、
(b)前記サンプルにおいてアゴニスト活性を検出する過程とを含むことを特徴とするスクリーニング方法。 - 請求項20に記載の方法によって同定したアゴニスト化合物と、薬剤として許容できる賦形剤とを含むことを特徴とする組成物。
- 機能的TRICHの発現の低下に関連する疾患や病態の治療方法であって、そのような治療が必要な患者に請求項21の組成物を投与することを含むことを特徴とする治療方法。
- 請求項1に記載のポリペプチドのアンタゴニストとしての有効性を確認するために化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)請求項1のポリペプチドを含むサンプルを化合物に曝す過程と、
(b)前記サンプルにおいてアンタゴニスト活性を検出する過程とを含むことを特徴とするスクリーニング方法。 - 請求項23に記載の方法によって同定したアンタゴニスト化合物と、薬剤として許容できる賦形剤とを含む組成物。
- 機能的TRICHの過剰発現に関連する疾患や病態の治療方法であって、そのような治療が必要な患者に請求項24の組成物を投与することを含むことを特徴とする治療方法。
- 請求項1に記載のポリペプチドに特異結合する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a) 請求項1のポリペプチドを適切な条件下で少なくとも1つの試験化合物と混合する過程と、
(b) 請求項1のポリペプチドの試験化合物との結合を検出し、それによって請求項1のポリペプチドに特異結合する化合物を同定する過程を含む方法。 - 請求項1に記載のポリペプチドの活性を調節する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)請求項1のポリペプチドの活性が許容される条件下で、請求項1のポリペプチドを少なくとも1つの試験化合物に混合させる過程と、
(b)請求項1に記載のポリペプチドの活性を試験化合物の存在下で算定する過程と、
(c)試験化合物の存在下での請求項1のポリペプチドの活性を、試験化合物の不存在下での請求項1のポリペプチドの活性と比較する過程を含み、試験化合物の存在下での請求項1のポリペプチドの活性の変化が、請求項1のポリペプチドの活性を調節する化合物を標示するような方法。 - 請求項5の配列を含む標的ポリヌクレオチドの発現を変化させるのに効果的な化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)前記標的ポリヌクレオチドの発現に好適な条件下で、該標的ポリヌクレオチドを含むサンプルを化合物に曝露する過程と、
(b)前記標的ポリヌクレオチドの発現改変を検出する過程と、
(c)可変量の前記化合物の存在下と前記化合物の不存在下で、前記標的ポリヌクレオチドの発現を比較する過程とを含むことを特徴とする方法。 - 試験化合物の毒性を算定する方法であって、
(a)核酸を含む生物学的サンプルを前記試験化合物で処理する過程と、
(b)処理した前記生物学的サンプルの核酸と、請求項12のポリヌクレオチドの少なくとも20の連続するヌクレオチドを持つプローブをハイブリダイズさせる過程であって、このハイブリダイゼーションゼーションが、前記プローブと前記生物学的サンプル中の標的ポリヌクレオチドとの間で特異的なハイブリダイゼーション複合体が形成される条件下で行われ、前記標的ポリヌクレオチドが、請求項12のポリヌクレオチドまたはその断片のポリヌクレオチド配列を持つポリヌクレオチドである、前記過程と、
(c)ハイブリダイゼーション複合体の収量を定量する過程と、
(d)前記処理された生物学的サンプル中のハイブリタイゼーション複合体の量を、処理されていない生物学的サンプル中のハイブリタイゼーション複合体の量と比較する過程とを含み、前記処理された生物学的サンプル中のハイブリタイゼーション複合体の量の差が、前記試験化合物の毒性を標示するような方法。 - 生物学的サンプル中のTRICHの発現に関連する症状または疾患に対する診断試験法であって、
(a)前記生物学的サンプルと請求項11の抗体との混合を、前記抗体が前記ポリペプチドに結合し、抗体とポリペプチドとの複合体を形成するのに適した条件下で行う過程と、
(b)前記複合体を検出する過程とを含み、前記複合体の存在が、前記生物学的サンプル中の前記ポリペプチドの存在と相関することを特徴とする方法。 - 前記抗体が、
(a)キメラ抗体
(b)単鎖抗体
(c)Fab断片
(d)F(ab')2 断片
(e)ヒト化抗体、のいずれかである抗体。 - 請求項11に記載の抗体と、許容できる賦形剤とを含む組成物。
- 被検者でのTRICH の発現に関連する病状又は疾患の診断方法であって、請求項32に記載の組成物の有効量を前記被検者に投与する過程を含むことを特徴とする方法。
- 前記抗体が標識されることを特徴とする請求項32に記載の組成物。
- 被検者のTRICH の発現に関連する病状又は疾患の診断方法であって、請求項34に記載の組成物の有効量を前記被検者に投与する過程を含むことを特徴とする方法。
- 請求項11に記載の抗体の特異性を有するポリクローナル抗体を調製する方法であって、
(a)抗体反応を誘発する条件下で、SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列またはその免疫原性断片を含むポリペプチドを用いて動物を免疫化する過程と、
(b)前記動物から抗体を単離する過程と、
(c)前記単離された抗体を前記ポリペプチドでスクリーニングし、それによって、SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチドに特異結合するポリクローナル抗体を同定する過程とを含むような方法。 - 請求項36に記載の方法で産出したポリクローナル抗体。
- 請求項37に記載のポリクローナル抗体及び適切なキャリアーを含む組成物。
- 請求項11に記載の抗体の特異性を有するモノクローナル抗体を作製する方法であって、
(a)抗体反応を誘発する条件下で、SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列またはその免疫原性断片を含むポリペプチドを用いて動物を免疫化する過程と、
(b)前記動物から抗体産出細胞を単離する過程と、
(c)前記抗体産出細胞と不死化した細胞とを融合して、モノクローナル抗体を産出するハイブリドーマ細胞を形成する過程と、
(d)前記ハイブリドーマ細胞を培養する過程と、
(e)SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチドに特異結合するようなモノクローナル抗体を前記培養物から単離する過程とを含むことを特徴とする方法。 - 請求項39に記載の方法で産出したモノクローナル抗体。
- 請求項40に記載のモノクローナル抗体及び適切なキャリアーを含む組成物。
- Fab発現ライブラリをスクリーニングすることにより産出されることを特徴とする請求項11に記載の抗体。
- 組換え免疫グロブリンライブラリのスクリーニングにより前記抗体を産出することを特徴とする請求項11に記載の抗体。
- SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチドを検出する方法であって、
(a)請求項11に記載の抗体と前記ポリペプチドとの特異結合を許容する条件下で、前記抗体と1サンプルとをインキュベートする過程と、
(b)特異結合を検出する過程とを含み、該特異結合が、SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有するポリペプチドがサンプル中に存在することを標示することを特徴とする方法。 - SEQ ID NO:1-20 からなる群から選択したアミノ酸配列を含むポリペプチドを精製する方法であって、
(a)請求項11に記載の抗体と前記ポリペプチドとの特異結合を許容する条件下で、前記抗体と1サンプルとをインキュベートする過程と、
(b)前記サンプルから前記抗体を分離し、SEQ ID NO:1-20からなる群から選択したアミノ酸配列を有する精製ポリペプチドを得る過程、とを含むことを特徴とする方法。 - マイクロアレイの少なくとも1つのエレメントが請求項13に記載のポリヌクレオチドであることを特徴とするマイクロアレイ。
- ポリヌクレオチドを有するサンプルの発現プロフィールを作成する方法であって、
(a)サンプル中のポリヌクレオチドを標識化する過程と、
(b)ハイブリダイゼーション複合体が形成されるのに適した条件下で請求項46のマイクロアレイのエレメントとサンプル中の標識化ポリヌクレオチドとを接触させる過程と、
(c)サンプル中のポリヌクレオチドの発現を定量する過程とを含む方法。 - 固体基板上の固有の物理的位置に付着された種々のヌクレオチド分子を含むアレイであって、少なくとも1つの前記ヌクレオチド分子が、標的ポリヌクレオチドの少なくとも30の連続したヌクレオチドと特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを有し、前記の標的ポリヌクレオチドが請求項12に記載のポリヌクレオチドであることを特徴とするアレイ。
- 請求項48に記載のアレイで、前記の最初のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの配列が前記の標的ポリヌクレオチドの少なくとも30の連続したヌクレオチドに完全に相補的であることを特徴とするアレイ。
- 請求項48に記載のアレイで、前記の最初のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの配列が前記の標的ポリヌクレオチドの少なくとも60の連続したヌクレオチドに完全に相補的であることを特徴とするアレイ。
- 請求項48に記載のアレイで、前記の最初のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの配列が前記の標的ポリヌクレオチドに完全に相補的であることを特徴とするアレイ。
- 請求項48に記載のアレイで、マイクロアレイであることを特徴とするアレイ。
- 請求項48に記載のアレイで、前記のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの最初の配列を含むヌクレオチド分子にハイブリダイズした前記の標的ポリヌクレオチドを有することを特徴とするアレイ。
- 請求項48に記載のアレイで、リンカーが、少なくとも1つの前記のヌクレオチド分子と前記の固体基板を連結していることを特徴とするアレイ。
- 請求項48に記載のアレイで、基板上の固有の物理的位置の各々が複数のヌクレオチド分子を含み、任意の単一の固有の物理的位置でのその複数のヌクレオチド分子は同一の配列を有し、基板上の固有の物理的位置の各々は、基板上の別の固有の物理的位置でのヌクレオチド分子の配列とは異なる配列を有するヌクレオチド分子を含むことを特徴とするアレイ。
- SEQ ID NO:1のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:2のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:3のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:4のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:5のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:6のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:7のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:9のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:10のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:11のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:12のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:13のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:14のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:15のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:16のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:17のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:18のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:19のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:20のアミノ酸配列を有する請求項1に記載のポリペプチド。
- SEQ ID NO:21のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:22のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:23のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:24のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:25のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:26のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:27のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:28のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:29のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:30のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:31のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:32のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:33のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
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- SEQ ID NO:36のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:37のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:38のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:39のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
- SEQ ID NO:40のポリヌクレオチド配列を有する請求項12に記載のポリヌクレオチド。
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