JP2004531698A - 方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、1若しくは2以上の実験動物を試料と接触させ、該実験動物のインキュベーションを行い、該実験動物における悪影響や死亡例を観察し、プリオンを証明するため悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を任意に実施する工程からなり、実験動物での潜伏期間が196日以下であることを特徴とする試料中のプリオンを検出する方法に関する。
Description
【技術分野】
【0001】
本発明は方法に関する。具体的に本発明は試料中のプリオンを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景知識として、プリオンタンパク質(PrP)とは核酸をもたない伝達性(伝播性)粒子である。PrP遺伝子はプリオンタンパク質をコードする。プリオン病の中で最も注目されているのは牛海綿状脳症(BSE;Bovine Spongiform Encephalopathy)、羊スクレイピー、及びヒトにおけるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD;Creutzfeldt-Jacob Disease)である。CJDの最も一般的な症状は、個体に特発性に現れる孤発性(散発性)CJD(sCJD)である。医原性CJD(iCJD)は事故感染による疾病である。家族性CJD(fCJD)は、ヒトPrP遺伝子の変異を原因として稀に家族内で発生する形態のCJDである。ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS;Gerstmann-Strassler-Scheinker Disease)は、遺伝性のヒト・プリオン病であり、常染色体優性疾患から発生する。ヒトにおける「新変異型」CJD(vCJD)は、他のCJD型におけるものとは異なるPrPグリコシル化パターンを伴う別種のCJD株型である。畜牛からBSEが伝播してヒトvCJDが発生した可能性が示唆されている。
【0003】
プリオン感染伝達性の研究にはマウスが汎用されている。マウスにプリオンを接種し、その後の経過観察からマウスがプリオン感染の臨床症状を呈するかどうかを確認するのである。マウス馴化プリオン株のマウスへの伝達性は非常に有効であり、潜伏期間も例えば48±2日と短かった(米国特許第6008435号)。さらに感染マウスのほぼ100%がプリオン病を発症し、標準誤差も極めて小さかった。一例として、Stephenson et al. (2000) Genomics 69, 47-53には、CAST/Ei及びSJL/Jという異なる2種のマウス系統におけるRMLマウスプリオン単離物のプリオン潜伏期間を研究した結果が示されている。それぞれの潜伏期間は、172±6日と105±4日だった。CAST/EiとSJL/Jマウスを交配させた結果の平均プリオン潜伏期間は129日(範囲=58〜173日)だった。
【0004】
しかしながらプリオンを種から種へと伝達する場合は状況が大きく異なる。プリオン病の特徴としては、異なる種間でプリオンを伝達させるには、さらに長い潜伏期間が必要となる。これは、「種の壁」と言われ、マウスを用いて遺伝的に異なる種からプリオンを検出することを試みる際の問題となっている。例えば、Scott et al., (1999), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 15137-15142は、BSE及びvCJDに対するトランスジェニックマウスの感受性についての報告である。最短潜伏期間は217±6日及び247±4日だった。
【0005】
WO9704814号及び米国特許第6008435号にはプリオン検出法が記載されている。遺伝的に異なる多様な種から作製され、プリオン感染に感受性をもつトランスジェニック動物を使用している。これは遺伝的に多様な動物のPrP遺伝子の要素をもつマウスに由来するPrP遺伝子を用いることにより達成される。従って上記のトランスジェニックマウスは人工PrP遺伝子をもち、sCJD、iCJD、fCJD又はGSSを引き起こすヒト・プリオンによる感染に対し感受性を示す。sCJDを引き起こすプリオンを接種されたトランスジェニックマウスにおける最短潜伏期間は157+3日である。
【0006】
WO9950404号には、PrP遺伝子の発現効率をあげる誘導配列を有する外因性PrP遺伝子をもつトランスジェニック動物の使用についての記載がみられる。これらのトランスジェニック動物は、sCJD、iCJD、fCJD又はGSSを引き起こすヒト・プリオンによる感染に対し感受性を示し、200日以内にプリオン病の症状を顕現させる。
【0007】
ウシ及びヒトから得た試料から、BSE及びvCJDの原因となるプリオンを検出する診断アッセイには種の壁による制限が課せられる。その結果、かかる試料を実験動物と接触させても、先行技術による方法では試験結果が判明するまでに217±6日から247±4日、さらにはもっと長期間が必要とされた。アッセイ結果にはでき得る限りの迅速性が求められるので、このことは障壁となる。
【0008】
本発明は、先行技術が抱える問題を克服しようとするものである。
【発明の開示】
【0009】
本発明は、試料中のプリオンを検出する方法を提供する。これらの方法は、ウシ及びヒトにそれぞれBSE又はvCJDを引き起こす試料に含まれるプリオンを検出するのに有用である。これらの方法では、先行技術の方法に比し、驚くほど速やかにプリオン感染の臨床症状を呈するSJLマウス等の実験動物を用いる。本発明の方法における一般的なプリオン感染潜伏期間は196日以下である。マウスとウシ、或いはマウスとヒトとの間に存在する種の壁により、臨床症状が得られるまでの期間が先行技術の方法では比較的長いことを考慮すると、これは驚きに値する知見である。本発明の方法では潜伏期間が従来既知のものより短いことから、先行技術の方法によるよりもプリオン感染の診断が著しく迅速に行われる。
【0010】
第一の特徴として本発明は、1若しくは2以上の実験動物を試料と接触させ;該実験動物のインキュベーションを行い;該実験動物における悪影響や死亡例を観察し;またプリオンを証明するため、悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を任意に実施する工程からなり、実験動物のプリオン潜伏期間が196日以下であることを特徴とする試料中のプリオンを検出する方法に関する。
【0011】
試料と接触させる実験動物はマウスであることが好ましい。試料と接触させる実験動物がSJLマウス又はSJLマウス由来であることがより好ましい。試料と接触させる実験動物がSJLマウスであることが最も好ましい。
【0012】
本発明の第一の特長による方法にはさらに、SJLマウスの1若しくは2以上の遺伝子を導入した実験動物の使用も含まれる。トランスジーンが1若しくは2以上のPrP遺伝子を含むことが好ましい。かかるPrPトランスジーンが哺乳動物のPrPをコードすることがより好ましい。最も好ましいのはPrPトランスジーンが家畜又はヒトのPrPをコードすることである。
【0013】
好適な実験動物には、1若しくは2以上のプリオン感受性遺伝子を導入した実験動物が含まれる。
【0014】
本発明の方法によれば、好適宿主にBSE又はvCJDを引き起こすプリオンが有利に検出される。プリオンを含有する試料は、哺乳動物由来であることが好ましい。より好ましいのは、プリオンを含有する試料が家畜又はヒトに由来することである。
【0015】
第二の特徴として本発明は以下の工程からなる、より短い潜伏期間に関連する遺伝子の同定法に関する。かかる工程はすなわち、1若しくは2以上の実験動物を試料と接触させ;該実験動物のインキュベーションを行い;該実験動物における悪影響や死亡例を観察し;プリオンを証明するため、悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を任意に実施し;短期及びより長期のプリオン潜伏期間を示す実験動物を同定し;短期及びより長期のプリオン潜伏期間を示す実験動物の遺伝子を比較し;短期及びより長期のプリオン潜伏期間を示す実験動物間で異なる1若しくは2以上の遺伝子を同定し;短期及びより長期のプリオン潜伏期間を示す実験動物間で異なる1若しくは2以上の遺伝子の機能を任意で決定することからなる工程である。
【0016】
感受性及び非感受性動物の遺伝子の比較には、遺伝子構造の比較(例:存在若しくは不在、又は配列決定、又はSNP等の物性、或いは他の適当な手法)及び/又は遺伝子発現の比較(例:ディファレンシャル・ディスプレイ、サブトラクト・ハイブリダイゼーション、又は他の好適手法)が含まれる。
【0017】
第三の特徴として本発明は、以下の工程からなるプリオン感染を調節し得る1若しくは2以上の作用因子(agent)を同定する方法に関する。かかる工程はすなわち、1若しくは2以上の実験動物を試料と接触させ;1若しくは2以上の実験動物を作用因子と接触させ;実験動物のインキュベーションを行い;実験動物における悪影響や死亡例を観察し;プリオンを証明するため、悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を任意に実施し;プリオン潜伏期間を延長又は短縮させる作用因子を同定することからなる工程である。
【0018】
従って別の特徴として本発明は、プリオン感染調節能を有する作用因子に関する。かかる作用因子は薬理組成物の調製に有利に用いることができる。従って本発明は別の特徴として、被験者に上記作用因子を治療有効量投与することにより、該被験者におけるプリオン感染を調節することに関する。
【0019】
第四の特徴として本発明は、以下の工程からなる試料に含まれるプリオン量を推定する方法に関する。以下の工程とはすなわち、1若しくは2以上の実験動物を試料と接触させ;該実験動物のインキュベーションを行い;該実験動物を観察し;該実験動物がプリオン感染の臨床症状を呈するまで、及び実験動物が死亡に至るまでの経過時間を記録し;それらの時間から試料中のプリオン量を推定することからなる工程である。
【0020】
第五に本発明は、以下の工程からなる実験動物におけるプリオン感染に対する感受性を推定する方法に関する。以下の工程とはすなわち、1若しくは2以上の実験動物をプリオン含有試料と接触させ;該実験動物のインキュベーションを行い;該実験動物における悪影響や死亡例を観察し;プリオンを証明するため、悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を実施し;グリコフォーム率分析を行い;プリオン感染に対する実験動物の感受性を推定することからなる工程である。
試料がプリオンを含有している場合、そのプリオンは好適宿主にBSE又はvCJDを引き起こすプリオンであることが好ましい。
【0021】
本発明に用いる実験動物の潜伏期間は196日以下であることが好ましい。かかる実験動物の潜伏期間が100日以下であることがより好ましい。最も好ましいのは、実験動物の潜伏期間が40日以下であることである。
【0022】
利点
本発明には数多くの利点がある。それらの利点を以下に明らかにする。
【0023】
例えば本発明は、商業的に有用な方法を提供する点で有利である。
【0024】
さらに例をあげると本発明は、既存の諸方法より迅速に試料に含まれるプリオンを同定する方法を提供する点で有利である。
【0025】
さらに例をあげると本発明は、実験動物、哺乳動物、家畜、又はヒトにおけるプリオン感受性関連遺伝子を同定する方法を提供する点で有利である。
【0026】
さらに例をあげると本発明は、プリオン感染調節能を有する1若しくは2以上の作用因子を同定すること、及びかかる作用因子を含有するプリオン感染治療用の薬理組成物を調製することを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
プリオン
ここに用いられる「プリオン」なる用語は、核酸をもたないタンパク性感染性粒子のことである。
【0028】
「プリオン」なる用語は、「プリオンタンパク質(PrP)」なる用語と同義である。
【0029】
本発明の好ましい実施形態においては、プリオンを含有している可能性のある試料を試験する。試料がプリオンを含有している場合、かかるプリオンは好適宿主にBSE又はvCJDを引き起こすプリオンであることが好ましい。
【0030】
Victor A. McKusick et alが HYPERLINK "http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim" http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim においてプリオンの背景を教示している。以下に記載するプリオンに関する情報は、そこからの抜粋である。
【0031】
プリオンタンパク質遺伝子の変異は、ゲルストマン・ストロイスラー病(GSD;Gerstmann-Straussler disease)、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD;Creutzfeldt-Jakob disease)、及び家族性致死性不眠症と関係があり、プリオンタンパク質の異常アイソフォームは、上記疾病、並びにクールー病及び羊スクレイピーにおける感染性作用因子として作用し得る。
【0032】
Prusiner(1982、1987)は、プリオンが核酸をもたない新しい分類の感染性作用因子を代表していることを示唆した(プリオンという用語はPrusiner(1982)によって提唱されたもので、「タンパク質感染性作用因子(protein infectious agent)」を表している)。プリオン病は接種により伝達し、或いは常染色体優性疾患として遺伝する神経変性症状である。Prusiner(1994)は、伝達性海綿状脳症の病因を再検討し、プリオンタンパク質のプロテアーゼ耐性アイソフォームがかかる疾患の病因として重要であることを記している。Mestel(1996)は、感染性タンパク質の存在についての肯定的及び否定的証拠(並びに肯定的又は否定的見解)を再検討している。
【0033】
Tagliavini et al.(1991)は、インディアナ州の家族(Indiana kindred)内患者2名から単離したアミロイド・プラークコアから抽出したタンパク質を精製して特徴づけを行った。上記著者らは、GSDアミロイドの主要成分は11kDのPrP分解産物であり、そのN末端がヒトPrPcDNAから推定されるアミノ酸配列の58番目に位置するグリシン残基に相当していることを見出した。またアミロイド断片は、さらに大きなPrP断片を含み、外見上無処理のN末端及びアミロイドP成分を有していた。Tagliavini et al.(1991)はこれらの知見を、疾患プロセスに伴いタンパク質分解によるPrPの開裂が生じ、不溶性フィブリルへとポリマー化するアミロイド生成ペプチドが生成されることを示唆するものであると解釈した。上記家族には、構造遺伝子の変異が認められなかったので、PrPの一次構造以外の要因が、アミロイド形成過程において重要な役割を担っている可能性がある。
【0034】
プリオンが、上記疾患の主要原因たる感染性作用因子によって合成が刺激されるシアロ糖タンパク質であるというのが、一つの解釈となっており、Manuelidis et al.(1987)は、PrPペプチドがCJDにおける感染性作用因子ではないことを示唆する証拠を提示した。Pablos-Mendez et al.(1993)は、「プリオン病のねじれた歴史」を再検討し、プリオンが感染性であるという見解にとって代わる見解、すなわちプリオンは細胞毒性代謝産物であるとの見解を示唆した。上記著者らは、代謝産物PrPのプロセシングの研究、及びこのタンパク質の出現を増強する作用因子の試験を行うことが、自分達の仮説を立証する上で有用であると示唆した。上記著者らのモデルからは、PrPの異化を阻害し得る物質によりPrPが蓄積されることが予想された。トランスジェニックマウスにおいてPrP合成量が増加すると、実験用スクレイピーの潜伏期間が短縮される。Pablos-Mendez et al.(1993)の仮説は、PrPの合成経路よりむしろ分解経路が細胞内で脱線することを示唆した。
【0035】
Forloni et al.(1993)は、PrPの106〜126ペプチドには、インビトロにおいてアミロイド様フィブリルへとポリマー化する高い固有の能力がみられることを見出した。上記著者らはまた、初期ラット海馬培養物を、上記ペプチドに相当するペプチドにマイクロモル濃度下で慢性的に曝すことにより、神経死が生じることを示した。このようなペプチドの細胞毒効果にはアポトーシス機構が関与していることをForloni et al.は示唆した。
【0036】
伝達性海綿状脳症の感染性、病原性作用因子は、PrPタンパク質のプロテアーゼ耐性かつ不溶性の形態であり、正常型プロテアーゼ感受性PrPタンパク質から翻訳後に派生することが示唆されている(Beyreuther and Masters, 1994)。Kocisko et al.(1994)は、精製成分からなる無細胞系において、正常型PrPタンパク質がプロテアーゼ耐性PrPタンパク質へと転化することについて報告している。このようにPrPが正常型から病原性へと選択的に転化するには、既存の病原性PrPが存在していることが必要とされる。上記著者らは、新たなPrPタンパク質の生合成、アミノ基に結合することによるPrPタンパク質のグリコシル化、又はPrPタンパク質における正常型グリコシルホスファチジルイノシトール・アンカーの存在は、上述の転化には不要であることを示した。これは、病原性PrPタンパク質が、それ自身と正常型PrPタンパク質との間の特異的タンパク質−タンパク質相互作用の結果、形成され得ることを示す直接的な証拠である。
【0037】
Rivera et al.(1989)は、13歳の重症進行性神経疾患男性患者について記載している。その患者の核型は、15p;20pのテロメア融合に起因する偽中心重複性染色体を示していた。リンパ球においては、異常染色体のセントロメア収縮は常に20番染色体で起きるのに対し、線維芽細胞においては上記両染色体のセントロメアが交互に収縮していた。上記著者らは、機能性DNA配列の構造が修飾される結果、セントロメア特異的タンパク質への正常な結合が妨げられ、セントロメアが不活化することを示唆した。上記著者らはまた、クロイツフェルト・ヤコブ病で認められる海綿状グリオニューロナル(glioneuronal)ジストロフィーを想起させる上記患者の疾患は、プリオンタンパク質の変異が生じた後に発生すると主張した。
【0038】
Collinge et al.(1990)は、家族性であれ孤発性であれ、「プリオン病」という用語が診断用語として、より適切であると示唆した。GSD病に罹患したインディアナ州の家族(Indiana kindred)の症例が、Farlow et al.(1989)及び Ghetti et al.(1989)によって報告された。遺伝子予測にPrP遺伝子分析を採用することには、遺伝性の遅発性神経変性疾患の発症前検査の浸透度や合併症が不確実であるがゆえに生じる潜在的な問題がある。しかしCollinge et al.(1991)は、遺伝性プリオン病を抱える家族にとって、リスク保持者の発症前診断並びにCJD又はGSDの排斥を可能し、遺伝カウンセリングの質を向上させる機能が上記分析にはあると結論付けた。
【0039】
Gajdusek(1991)は、現在までに判明しているPRNP変異をチャート図にまとめた。すなわち単一アミノ酸の変化を起こす5種類の変異と、オクタペプチド反復がそれぞれ5、6、7、8又は9回行われる5ヶ所における挿入である。上記著者はまた、トランスサイレチン遺伝子(TTR;176300)において同定されたアミロイドーシスを惹起する18種類のアミノ酸置換をまとめた表も発表し、上述した2分類の疾患における挙動を比較した。
【0040】
Schellonberg et al.(1991)は、PRNP挿入変異と共に、CJD及びGSSDと関連するPRNP遺伝子の102、117及び200番目のコドンにおけるミスセンス変異を、アルツハイマー病の76家族、孤発性アルツハイマー病と推測される127症例、ダウン症候群の16症例、及び256正常対照例で調べたが、いずれの症例も上記のどの変異に対しても、ポジティブではなかった。Jendroska et al.(1994)は、特発性パーキンソン病(PD;168600)、多系統萎縮症、びまん性レビー小体病(127750)、スチール−リチャードソン−オルゼウスキー(Steele-Richardson-Olszewski)症候群(260540)大脳皮質基底核変性症、及びピック病(172700)を含む種々の運動障害を呈する90症例において、組織ブロット免疫染色法により病原性プリオンタンパク質の検出を試みた。これらの脳標本のいずれからも病原性プリオンタンパク質は同定されなかったが、クロイツフェルト・ヤコブ病に罹患している4対照例からは容易に検出された。Perry et al.(1995)は、54家族からのアルツハイマー病患者82名(家族内症例を30件含む)と、これら患者とそれぞれ同年齢の対照群39名のプリオン遺伝子座における変異をSSCPによりスクリーニングした。その結果、第68コドン近傍に24bpの欠失が認められたが、それは遅発性アルツハイマー病家族の成員中、罹患した兄弟姉妹2名と子供1名においてgly−proに富む5個のオクタペプチド反復のうちの1個が消失したものだった。しかし、同じ家系で罹患した他の家族成員には、このような欠失が認められなかった。ただし遅発性アルツハイマー病家族の非罹患成員6名のうち年齢が一致する対照3名においても上記の欠失が認められた。これとは別のオクタペプチド反復の欠失が同じアルツハイマー病家族のさらに別の成員3名において観察されたが、その3名のうち2名は罹患していた。これら以外に変異は認められなかった。Perry et al.(1995)は、プリオンタンパク質の変異とアルツハイマー病との間に関係があるとの証拠はないと結論した。
【0041】
Hsiao et al.(1990)は、分析対象家族のうち3名のPrP遺伝子のオープンリーディングフレームに変異は認められなかったが、その後Hsiao et al.(1992)は、phe198−to−ser変異を明らかにした。176640.0011を参照のこと。
【0042】
Palmer and Collinge(1993)は、プリオンタンパク質遺伝子における変異及び多型性について再検討を行った。
【0043】
Chapman et al.(1996)は、プリオンタンパク質遺伝子の第200コドンにおける病原性リシン変異(176640.0006)に対してヘテロ接合性で、第129コドンでのメチオニンに対してホモ接合性である患者の致死性不眠症及び重症視床病理について報告した。上記著者らは、この表現型と、第178コドンでの変異(176640.0010)に関する表現型との類似性を強調した。
【0044】
Collinge et al.(1996)は、ヒト・プリオン病を広範な症例から調べ、種々の天然型プリオン株型を示す可能性があるプロテアーゼ耐性PrPのパターンを同定した。上記著者らは「新変異型」CJDのプロテアーゼ耐性PrPを研究して、かかるPrPが、他の形態のCJDから分子基準によって区別され得る別種の株型であるか否かを判定した。Collinge et al.(1996)は、ウエスタンブロット法を行った結果、孤発性CJD及び医原性CJD(死体の脳から得た成長ホルモンの投与に通常起因する)が、異なる3種類のプロテアーゼ耐性PrPパターンを伴うことを明らかにした。1型及び2型は、孤発性CJDと一部の医原性CJDにおいて認められる。3番目の型は、抹消経路からプリオンに暴露されることによる後天性プリオン病で認められる。Collinge et al.(1996)は、「新変異型」CJDが、PrPグリコシル化の特徴的なパターンを含むウエスタンブロット上でみられるプロテアーゼ耐性PrPの独特で高度に一貫した出現と会合していることを明らかにした。近交系マウスにCJDを伝達すると、接種したCJDに特有のPrPパターンを示した。牛海綿状脳症(BSE)プリオンを伝達すると「新変異型」CJDのグリコフォーム率と極めて近いグリコフォーム率パターンが生じた。上記著者らは、サルにおける実験的BSEと、家猫における天然型BSEのPrPが、実験的マウスBSE及び「新変異型」CJDのものと区別できないグリコシル化パターンを示すことを見出した。Collinge et al.(1996)の報告に対し、Aguzzi and Weissmann(1996)による再検討が行われたが、その再検討においてCollinge et al.(1996)はBSEと関連性のある「新変異型」CJDの神経病理性及び臨床上の性質の再検討を行ったのであると結論された。
【0045】
Prusiner(1996)は、プリオン病に関する分子生物学及び遺伝子学に包括的な再検討を加えた。Collinge(1997)も同様に、この観点から再検討した。Collingeは、ヒト・プリオン病の3種類のカテゴリー、すなわち(1)クールー及び医原性CJDを含む後天性、(2)定型及び非定型CJDを含む孤発性、(3)家族性CJD、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、致死性家族性不眠症、及び種々の非定型痴呆を含む遺伝性、を認識した。Collinge(1997)は、当時までに報告されていた12種の病理性変異を表に示した。疾患表現型をコードするタンパク質の能力は、生物学に重要なメンデルの法則に依拠しない伝達性を表していることを記した上でCollinge(1997)は、進化の過程で、多様な種において他のタンパク質にかかる方法が用いられてこなかったとすれば驚きであると述べている。同著者はまた、酵母にみられるプリオン様機構の同定についても言及した(Wickner, 1994; Ter Avanesyan et al., 1994)。
【0046】
Horwich and Weissman(1997)は、関連性のある伝達性神経変性疾患群におけるプリオンタンパク質の中心的役割について再検討した。そのデータからはプリオンタンパク質が疾患プロセスに必要であることが示され、プリオンタンパク質が、その正常な可溶性αへリックス構造から不溶性βシート構造へと構造転化することが疾患及び感染の発生と密接に関連していることが示された。上記著者らは、かかる転化プロセスの多くは未だ解明されていないと記している。
【0047】
Mallucci et al.(1999)は、常染色体優性分裂により、初老期痴呆、運動失調及び他の神経精神症状がみられる英国の大家族について報告した。特定の個々人について種々の時期に、脱髄疾患、アルツハイマー病、クロイツフェルト・ヤコブ病、及びゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群の診断を行った。Mallucci et al.(1999)はまた、上記家族と血縁関係にあると思われるアイルランドの家族についても記載しており、その記載においては罹患した個人に対し、多発性硬化症、痴呆、大脳皮質基底核変性症、及び「新変異型」CJDの診断が考慮された。分子研究を行った結果、PRNP遺伝子のala117−to−valに変異が認められたことから、上記罹患者の疾患がプリオン病であると同定した。上記著者らは、上述の血縁関係にある両家族にみられる表現型の発現に多様性があることを強調し、「新変異型」CJDが疑われる症例を含め、非定型初老期痴呆又は神経精神性特性や運動失調を呈する個人に関しては、PRNP分析により遺伝性プリオン病を除外すべきであると提唱した。Hegde et al.1999は、伝達性プリオン病と遺伝性プリオン病には神経変性に至る共通の経路があることを明らかにした。Hegde et al.1999は、異常な折りたたみを有するアイソフォームである蓄積したPrPScがもつ神経変性疾患を引き起こす際の有効性は、宿主がコードするPrPがCtmPrPと呼ばれる膜透過体となって偏在することに依存していることを観察した。さらに、伝達性プリオン病におけるPrPSc蓄積の時間経過に密接に引き続いてCtmPrP生成量が増加する。従って、PrPScが蓄積することにより、CtmPrPの発生又は代謝に関与する現象がイントランスで調節されていることが明らかである。以上のデータからHegde et al.1999は、CtmPrPに介される神経変性現象が、遺伝性プリオン病と感染性プリオン病の病原における共通のステップであるかもしれないと結論した。
【0048】
PrPの非病原性細胞アイソフォームであるPrPCは、神経細胞に強く発現される遍在型(ユビキタスな)糖タンパク質である。Mouillet-Richard et al.(2000)は、抗体仲介架橋を介したPrPC依存性シグナルトランスダクションを調べるためにマウス1C11神経細胞分化モデルを用いた。この1C11クローンは、上皮形態を有し、神経細胞会合機能をもたない委任神経外胚葉幹細胞である。1C11細胞は誘導を受けて神経細胞様形態を発達させ、セロトニン作動性細胞又はノルアドレナリン作動性細胞のいずれかへと分化する。これら2つの分化経路のどちらを選択するかは、どのような誘導体が用いられたかに依存する。PrPCが特異的抗体と結合することにより、セロトニン作動性細胞又はノルアドレナリン作動性細胞の双方においてチロシンキナーゼFYN(137025)のリン酸化レベルが著減した。PrPCのFYNへの結合は、カベオリン−1(601047)依存性だった。Mouillet-Richard et al.(2000)は、クラトウリン(clathourin)(118960を参照のこと)もまた、この結合に関与している可能性のあることを示唆した。PrPC依存性のFYN活性化を誘導する1C11細胞株の能力は、完全に分化したそのセロトニン作動性又はノルアドレナリン作動性幹細胞に限定されていた。さらに、PrPCのシグナリング活性は主として神経突起で生じた。Mouillet-Richard et al.(2000)は、PrPCがシグナルトランスダクションタンパク質である可能性を示唆した。
【0049】
マッピング
体細胞ハイブリダイゼーション及びインサイチューハイブリダイゼーションを組み合わせることにより(Sparkes et al., 1986)、或いは染色体をソーティングして得たDNAをスポットブロッティングすることにより(Liao et al., 1986)、プリオン関連タンパク質のヒト遺伝子を20p12−pterにマッピングした。Robakis et al.(1986)もまたインサイチューハイブリダイゼーションによりPRNP遺伝子座を20pに定めた。
【0050】
20pの中間部欠失を分析した結果からSchnittger et al.(1992)は、pter−−PRNP−−SCG1(118920)−−BMP2A(11226−−PAX1(167411)−−cenの順番の遺伝子座を明らかにした。Puckett et al.(1991)は、PRNP遺伝子の5−primeであり、高いヘテロ接合性を有するRFLPを同定した。このRFLPは、20番染色体のpter−p12領域における有用なマーカーとして使える可能性がある。
【0051】
Riek et al.(1998)は、マウス・プリオンタンパク質の精製NMR構造を用いて、遺伝性のヒト伝達性海綿状脳症の構造基礎を解明した。マウス・プリオンタンパク質細胞型においては、疾病特異的サブドメインの存在を示唆する変異部位の空間クラスターは観察されなかった。ヒトPRNP第129位置における多型性が、asp178−to−asn(D178N;176640.0007)変異から遮断されている疾患表現型に対して高度に特異的な影響を及ぼすことが観察されたが、第128残基と第178残基との水素結合がかかる影響の構造的基礎となっている。全般的にみて、一部の疾患関連アミノ酸の置換が発生するだけで、PRNPの細胞型の安定性が減じられることをNMR構造は示しており、変異タンパク質にみられる僅かな構造上の差異が、種々多様な方法により分子間のシグナリングに影響することが示唆される。
【0052】
Windl et al.(1999)は、ドイツ・クロイツフェルト・ヤコブ病サーベイランスユニットと呼ばれる、プリオン病が疑われる患者578名のPRNP遺伝子のコーディング領域における変異及び多型性の調査を4年半にわたり実施した。上記著者らは、病原性であることが既に報告されていたミスセンス変異が認められた40症例を見出した。その中ではD178N変異が一番多かった。それらの症例全てにおいてD178Nは第129コドンのメチオニンと結びついており、それにより定型致死性家族性不眠症遺伝子型がもたらされていた。新規なミスセンス変異が2例と、サイレントな多型性が数例認められた。Windl et al.(1999)は、文献記載中の図1にPRNPのコーディング領域における既知の病原性変異を図式化した。
【0053】
歴史
Aguzzi and Brandner(1999)は、「プリオン遺伝子学(the genetics of prions)」を再検討したが、上記著者らが伝達性海綿状脳症を引き起こす不可解な作用因子と定義したプリオンは、非遺伝性病原のパラダイムに含まれることから、「プリオン遺伝子学」というのは言葉の矛盾ではないかとの疑問を呈した。Griffith(1967)が初めて提唱したタンパク質オンリー(protein-only)仮説によれば、プリオン感染性は、現在ではPRNPと呼ばれる細胞タンパク質の異常型であるスクレイピータンパク質と同一である。スクレイピープリオンが細胞プリオンを集めて、それらをさらにスクレイピープリオンに転化させることにより複製が行われる。新たに形成されたスクレイピープリオンが転化サイクルに参加して連鎖反応が生じ、スクレイピープリオンがこれまでにない速さで蓄積されることになる。Prusiner(1982)が病原性タンパク質を精製し、Weissmannら(Oesch et al., 1985; Basler et al., 1986)が、その正常細胞型タンパク質であるPRNPと同様にスクレイピータンパク質もコードする遺伝子をクローニングしてからは、上記の仮説は広く認められ、受け入れられるようになった。タンパク質オンリー仮説から予測されたように、Prnp遺伝子を除去することにより、プリオンに暴露させたマウスが実験的スクレイピーに罹患することが阻止されたことを、Weissmannのグループ(Bueler et al., 1993)が報告したことから、上記の説にさらに弾みがついた。Aguzzi and Brandner(1999)は、プリオン病の家族性形状とプリオン遺伝子の変異との関連性に関する発見は、非常に画期的なものであると考えた。
【0054】
動物モデル
プリオンの構造遺伝子(Prn−p)をマウス2番染色体にマッピングした。マウスの第2遺伝子座であり、Prn−pと密接な関連性があるPrn−iは、マウスにおけるスクレイピーの潜伏期間の長さを決定する(Carlson et al., 1986)。スクレイピーの潜伏期間を制御する別の遺伝子であるシンボル化した(symbolized)Pid−1はマウス17番染色体に位置している。プリオン潜伏期間に影響を及ぼす量的形質遺伝子座(QTL)についても第9、11章(Stephenson et al 2000)、第2、11、12章(Lloyd et al 2001)、及び第2、8、4、15章(Manolatron et al 2001)に記載がある。Scott et al.(1989)は、シリアンハムスターから得たプリオンタンパク質遺伝子をハーバリングするトランスジェニックマウスに、ハムスター・スクレイピープリオンを接種すると、ハムスターに特有のスクレイピー感染力、潜伏期間、及びプリオンタンパク質アミロイドプラークを示すことを報告した。Hsiao et al.(1994)は、高レベルの変異型P101Lプリオンタンパク質を発現する2系統のトランスジェニックマウスは、実験的マウス・スクレイピーと識別ができない神経疾患及び中枢神経系病理を発生した。ヒト・プリオンタンパク質の第102アミノ酸は、マウス・プリオンタンパク質の第101アミノ酸に対応しているので、P101Lマウス変異は、ゲルストマン・ストロイスラー病をヒトに発生させるpro102−to−leu変異(176640.0002)に相当する。Hsiao et al.(1994)は、P101Lトランスジーンを低レベルに発現するマウスと、変異型P101Lプリオンタンパク質を高レベルに発現するトランスジェニックマウスの脳抽出物を投与されたシリアンハムスターとに、神経変性が連続して伝達されたことを報告した。上記高発現トランスジェニックマウスの脳には低レベルの感染性プリオンしか蓄積しなかったにもかかわらず、接種を受けた動物に連続して疾患が伝達されたことは、これら未接種動物の脳においてもプリオンのデノボ形成が生じたことを示唆しており、プリオンに外来核酸がないことのさらなる証拠となった。
【0055】
Bueler et al.(1994)、Manson et al.(1994)、及びSakaguchi et al.(1996)は、PrPノックアウトマウスに関する研究を報告した。Sakaguchi et al.(1996)は、自分たちが作製したPrPノックアウトマウスは、70週齢までは一見正常だが、その時点から一様に小脳性失調症の兆候を呈し始めたと報告した。組織学的研究により、小脳回の大部分においてプルキニェ細胞(Purkinje cells)が顕著に消失していることが判明した。小脳萎縮及び第四脳室拡張についての記載がある。同様の病理学的変化は、Bueler et al.(1994)及びManson et al.(1994)が作製したPrPノックアウトマウスでは観察されなかった。Sakaguchi et al.(1996)は、この結果の違いは、マウス系統の違い、或いはPrP遺伝子内におけるノックアウトの程度の違いに起因する可能性があると述べた。特筆すべきは、記載されている3系統全てのノックアウトマウスにおいてプリオン感染感受性が消失していたことである。
【0056】
Collinge et al.(1994)は、PrPヌルマウスに関する自らの研究に基づき、正常なシナプス機能にとってプリオンタンパク質が必要であると結論付けた。上記著者らは、細胞性PrPが翻訳後に修飾された形態であるPrPScの生成に伴うドミナントネガティブ効果により、遺伝性プリオン病が引き起こされ、究極的には機能性PrP(PrPC)が漸進的に消失すると主張した。Tobler et al.(1996)は、PrPヌルマウスにおいてサーカディアンリズムや睡眠の変化がみられることを報告し、かかる変化が致死性家族性不眠症における睡眠変化との興味深い類似性を示すものであると強調した。
【0057】
PrPを欠損するマウスは正常に発達するが、スクレイピー耐性であり、PrPトランスジーンを導入することにより、スクレイピー病に対する感受性が回復する。かかる活性に必要なPrP内の領域を同定するため、Shmerling et al.(1998)は、アミノ近位(amino-proximal)に欠失をもつPrPを発現するPrPノックアウトマウスを調製した。驚くべきことに、第32〜121残基又は第32〜134残基は欠失しているが、それより短い欠失のないPrPは、生後1〜3ヶ月という早い段階で重篤な運動失調、及び小脳の顆粒層に限定される神経細胞死を惹起した。この欠陥は、野生型PrP遺伝子の複製を1つ導入することにより完全に防ぐことができた。Shmerling et al.(1998)は、上述の切断PrPが非機能的であり、PrP様機能を有する別の分子と、共通リガンドを目指して競合するのではと推測した。
【0058】
Telling et al.(1996)は、プリオン病における基本的現象は、細胞性プリオンタンパク質が病原性アイソフォームPrPScへと転化する該タンパク質における構造変化であるとする見解を支持する観察結果を報告した。上記著者らは、致死性家族性不眠症(FFI)においては、脱グリコシル化後のPrPScのプロテアーゼ耐性断片の大きさは19kDであるのに対し、他の遺伝性及び孤発性プリオン病におけるそれは21kDだったことを見出した。FFI患者の脳から得た抽出物は、ヒト−マウスキメラPrP遺伝子を発現するトランスジェニックマウスへの接種約200日後に疾患を伝達し、19−kDのPrPSc断片の形成を誘導したが、他方、家族性及び孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病患者の脳から得た抽出物を接種した場合は、上述のマウスに21−kDのPrPSc断片が産生された。Telling et al.(1996)の結果は、PrPScの構造が初期PrPSc形成を指示する鋳型として機能することを示しており、PrPSc構造内において多様性が暗号化されている各種プリオン株を説明する機構が示唆された。
【0059】
Lindquist(1997)は、「一見無関係の現象が予期せぬ衝突をすることにより生まれた最もエキサイティングな科学の概念のひとつ」を指摘した。上記著者が論じているのは、酵母遺伝学における2つの不可解な問題は、プリオン仮説と同様の仮説により説明できるかもしれないとするWickner(1994)による示唆についてである。Two- yeast変異から、表現型の遺伝はときとして異なる核酸が遺伝するというより、むしろ異なるタンパク質構造が遺伝することに基づいている可能性があることを確信させる例が得られた。従って、酵母はプリオン様プロセスを研究する上で新しい重要なツールとなる可能性がある。さらに上記著者は、プリオンが病原性である必要はないと示唆した。実際、同著者は高分子の自発的構造変化は、クロマチン構造の変化に関連する現象等の後成現象だけでなく、発達途上で調節される一部の正常な現象をも含めた多様で正常な生物学的プロセスの中心に位置していることを示唆した。
【0060】
Hegde et al.(1998)は、位相体の相対比率を変化させるPrP変異を発現するトランスジェニックマウスを用いて種々のPrP位相体の形態を研究した。ある位相体は完全に小胞体腔へと転位し、PrP−Secと命名された。他の2つの位相体は、カルボキシル末端側から体腔側(PrP−Ctm)へ、又はアミノ末端側から体腔側(PrP−Ntm)へのいずれかの方向性により小胞体膜全体に及んでいる。高レベルのPrP−Ctmをもたらす変異をハーバリングするF2産生マウスは、58±11日に神経変性を発生した。PrPの過剰発現がその原因ではなかった。神経病理はスクレイピーのものと類似の変化を示したが、PrPScは存在しなかった。PrP−Ctmの発現レベルは疾患の程度と相関していた。
【0061】
Supattapone et al.(1999)は、野生型PrPを欠損する(Prnp−/−)トランスジェニック(Tg)マウスにおいて、大きな欠失を2つ有する106アミノ酸の編集後PrPが発現することから、プリオンの伝播が支持されると報告した。完全長PrPScを含むRocky Mountain laboratory(RML)プリオンは、約300日後にTg(PrP106)Prnp−/−マウスに疾患を発生させたが、他方、PrPSc106を含むRML106プリオンを伝達した場合、反復継代により約66日後にTg(PrP106)Prnp−/−マウスに疾患を発生させた。約165日以内にスクレイピーを発病したTg(PrP106)Prnp+/−マウスに野生型のマウスPrPCを共発現させることにより、RMLプリオンの継代に対する人工的伝達障壁が消失し、野生型のマウスPrPが、RML106プリオンの複製をイントランスで加速する作用を有していることが示唆された。精製PrPSc106は、プロテアーゼ耐性であり、糸状体を形成し、非変性洗浄剤に不溶だった。
【0062】
Kuwahara et al.(1999)は、Prnp−/−及びPrnp+/+マウスから海馬細胞株を樹立した。14日齢マウス胚から、かかる培養物を樹立した。研究対象とした6細胞株は、その発達段階は異なるものの、全て神経前駆細胞系統に属していた。Kuwahara et al.(1999)は、細胞培養物から血清を除去するとPrnp−/−細胞ではアポトーシスが生じたが、Prnp+/+細胞では生じなかったことを見出した。プリオンタンパク質又はBCL2遺伝子に形質導入を行うことにより、無血清条件下におけるPrnp−/−細胞のアポトーシスが抑制された。Prnp−/−細胞はPrnp+/+細胞のものより短い神経突起を伸張していたが、PrPを発現させることにより、Prnp−/−細胞の神経突起の長さが伸びた。Kuwahara et al.(1999)は、かかる知見から、野生型プリオンタンパク質の機能消失がプリオン病の病理の一部要因になり得ると結論した。Yeast−2−ハイブリッドシステムにおいてBCL2遺伝子がプリオンタンパク質と相互作用することが既に報告されていたことから、上記著者らはBCL2遺伝子に形質導入を試みた。その結果は、哺乳動物細胞においてもBCL2とPrPとの間に何らかの相互作用があることを示唆するものだった。
【0063】
スクレイピー感染マウスにおいてプリオンは、循環B及びTリンパ球でなく、脾臓B及びTリンパ球と会合することが見出され、また濾胞樹状細胞を含む間質において見出される。成熟濾胞樹状細胞の形成及び維持には、膜結合型リンフォトキシン−α/βを発現させるB細胞の存在が必要とされる。可溶性リンフォトキシン−β受容体でマウスを処理すると、脾臓から成熟濾胞樹状細胞が消失する。Montrasio et al.(2000)は、上記処理により脾臓でのプリオン蓄積が消失し、またスクレイピーを腹腔内接種した後に神経侵入が遅延したことを明らかにした。Montrasio et al.(2000)は、脾臓におけるプリオン複製にとって濾胞性樹状細胞が主要な部位であることが、自分たちの研究結果により証明されたと結論した。
【0064】
Chiesa et al.(1998)は、14回のオクタペプチド反復を含む変異プリオンタンパク質を発現するトランスジェニックマウス系統を作製した。この変異プリオンタンパク質のヒトホモログは、遺伝性プリオン痴呆と会合する。この挿入部はPRNP遺伝子において同定されたものとしては当時最大のものであり、進行性痴呆及び運動失調によって、また小脳及び基底核におけるPrP含有アミロイドプラークの存在によって特徴付けられるプリオン病と会合していた(Owen et al., 1992; Duchen et al., 1993; Krasemann et al., 1995)。上記の変異タンパク質を発現するマウスは、トランスジーンアレイがそれぞれホモ接合性かヘミ接合性であるかにより、65日齢又は240日齢で顕著な運動失調を伴う神経系の疾患を発症した。変異PrPは誕生直後からプロテアーゼに耐性及び洗浄剤に不溶な形態に転化したが、その形態はPrPのスクレイピーアイソフォームに似たものだった。かかる形態は、マウスの生涯にわたり脳の多くの領域で劇的に蓄積した。PrPが蓄積するに連れ、小脳では顆粒細胞の大規模なアポトーシスが生じた。
【0065】
実験動物
ここに用いる「実験動物(test animal)」なる用語は、本発明の方法に有用な動物を指す。実験動物は、プリオン感染に感受性を示す動物ならいずれの動物でもよい。実験動物は哺乳動物であることが好ましい。より好ましくは、実験動物が成熟哺乳動物であることである。実験動物がラット、ハムスター、ウサギ、モルモット、又はマウスであることがより好ましい。実験動物がマウスであることがより好ましい。最も好ましい実験動物はSJLマウスである。
【0066】
ここに用いる「SJLマウス」なる用語は、SJL系統のマウス、又はSJL系統由来マウスのことである。「SJL系統由来マウス」なる用語については以下に詳述する。
【0067】
Crispens(1973)は、SJLマウスに関する一般的な生物学的情報に再検討を加えた。SJLマウスの寿命は従来の条件下では短い(通常、雄で472日、雌で395日)。SJLマウスの腫瘍総発生率は高く(Storer, 1966)、平均月齢約13ヶ月のSJLマウスの約90%が細網細胞肉腫(ホジキン病に似ている)を発病する(Murphy, 1963; Crispens, 1973; Fujinaga et al., 1970, 1970)。SJL細網細胞腫瘍独特の特徴としては、22日という早期に新生物発生前病斑が検出されるように、規則正しくかつ早期に顕現することが挙げられる(Potter, 1972)。免疫応答を効率よく増幅させることにより、自己免疫性や腫瘍発生がもたらされる可能性も考えられる(Owens and Bonavida, 1976)。SJLマウスは、恐らく闘争に関連して起きると思われる突発性アミロイドーシスを高頻度に発病し(Page and Glenner, 1972)、γ−1及びγ−2異常蛋白血症(Wanebo et al., 1966, 1966)、及び増殖性神経網膜症(Caffe et al., 1993)を発病する。
【0068】
生理学及び生化学の点からみると、SJLマウスの24週齢時における血漿コレストロール値は低く(Weibust,1973)、代謝率は高く(Storer, 1967)、雌の血清セルロプラスミン値は低く、雄における同値は中程度である(Meier and MacPike, 1968)。SJL系統マウスの最高血圧は高く(Schlager and Weibust, 1967)、雄の血漿コリンエステラーゼ活性は低く(Angel et al., 1967)、平均心拍数は高く(Blizard and Welty, 1971)、脳内スフィンゴシンは高レベルで脳内ステロールは低レベルである(Sampugna et al., 1975, 1975)。静脈血は低pHであり(Dagg, 1966)、半合成高脂肪食を与えてもアテローム性動脈硬化発生に耐性を示す(Nishina et al., 1993)。インビボ及びインビトロのいずれにおいても筋肉細胞の高度な内在性筋原性を示すこと(Maley et al., 1994, Mitchell et al, 1995)もその特徴である。
【0069】
SJLマウスの解剖所見は、脳重量が軽く(Storer, 1967)、脊髄が小さく(Roderick et al., 1973, 1973)、また小脳においては、虫部第IV小様及び虫部第V小葉(山頂の背側及び腹側の小葉)の間に山頂間の溝が認められない(Cooper et al., 1991)。高脂肪食摂取マウスの死体の脂肪率は低く(West et al., 1992)、網膜神経節細胞数は少ない(Williams et al., 1996)。SJLマウスの大腿骨にみる骨密度は高い(Beamer et al., 1996)。
3−メチルコラントレンによる皮下腫瘍誘導(Kouri ET al., 1973, 1973)、X線照射(Roderick, 1963)、高圧酸素(Hill et al., 1968, 1968)、真菌毒素のスポリデスミンを500μg経口投与することによる胆道損傷(Bhathal et al., 1990)のそれぞれに対し、SJLマウスは耐性を示す。SJLマウスはカゼイン注入による脾臓アミロイドーシスの誘導(Clerici, 1972)、DMBAによるリンパ性白血病、骨髄性白血病の誘導(Crispens, 1973)、オゾンに誘発される気管電位の低下(Takahashi et al., 1995)、コカイン使用による体重減少(但しかかる体重減少はアニソマイシンにより緩和される)、(Shimosato et al., 1994)のそれぞれに対しては感受性を示す。また、気道はアセチルコリンに低反応性で(Zhang et al, 1995)、2本のビンから選択する状況下にあって、自発的にモルヒネを摂取することは少ない(Belknap et al., 1993)。
【0070】
SJLマウスは実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)誘導に対し感受性を示し(Levine and Sowinski, 1973)、リンパ球フィトヘムアグルチニン低応答性である(Heiniger et al., 1975, 1975)。SJLマウスは、ウシγ−グロブリンの低量投与に対し (Levine and Vaz, 1970)、DNP−スカシ貝ヘモシアニンに対し(Borel and Kilham, 1974)、(Pro66、Gly34)に対し(Fuchs et al., 1974) 、それぞれ弱い免疫応答を示し、GAT(Glu60、Ala30、Tyr10のランダムテルポリマー)に対しては(Dorf et al., 1974, 1974)、何の免疫応答も示さない。SJL系統はアナフィラキシーショックに高感受性だが(Treadwell, 1969)、免疫寛容誘導に対し耐性を示す。(Fujiwara and Cinader, 1974)。SJL系統は、IgE及びIgG1に介される受身皮膚アナフィラキシーに対し、高感受性を示し(De Souza et al., 1974, 1974)、赤血球は高い凝集能を示す(Rubinstein et al., 1974, 1974)。デキストランには低応答性で(Blomberg et al., 1972, 1972)、BALB/c及びC3H系統とは対照的に、III型肺炎球菌性多糖体に対する免疫応答は42週までに減少する(Smith, 1976)。
【0071】
SJLマウスは、実験的自己免疫性甲状腺炎誘導に対し、感受性を示す(Vladutiu and Rose, 1971a)。イソプロテレノールによるホルモン刺激に対する胸腺細胞の応答は周期性(5〜9日間)を有する。かかる応答においては、応答の強度(約6倍に変化する細胞内cAMPのピーク値)が大きく変化し、また、その応答パターン、つまりホルモンに誘導される非感受性化が直ちに発生するか否かというパターンが大きく変化する。SJLマウスは紫外線B波による接触性過敏症による免疫抑制に対し耐性であり(Noonan and Hoffman, 1994)、免疫刺激性7−アリル−8−オキソグアノシンに対し、ナチュラルキラー細胞は低応答性である(Pope et al., 1994)。また、欠損T細胞受容体に誘発されてインターロイキン−4を産生し、NK1.1抗原に対してはT細胞が不在である。しかし、ナチュラルキラー様T細胞は、上記の欠点にも関わらず、正常に発達する(Beutner et al., 1997)。殆どの細胞は培養下で、より早く成長し、その顆粒には高レベルのヒスタミン及びTNF−αが含まれる(Bebo et al., 1996)。SJLマウスは、血清補体C5を高レベルに有している(Lynch and Kay, 1995)。
【0072】
SJLマウスは、脳心筋炎ウイルスにより糖尿病を発病し(Boucher et al., 1975)、フレンドウイルス感染による白血病発症に高い感受性を示す(Dietz and Rich, 1972)。麻疹ウイルスには耐性で(Rager-Zisman et al., 1976)、弛緩性麻痺を発症するが、その後も生存するマウスは、タイラー脳脊髄炎(Theiler's encephalomyelitis)ウイルスを大脳内接種した後、著しい単核球浸潤や脊髄での活性的脱髄化を伴う独特な神経疾患を発病する。潜伏期間は2〜3ヶ月である(Lipton and Dal Canto, 1976)。SJLマウスは狂犬病ウイルス(SRV;street rabies virus)を腹腔内注入した場合、耐性を示し (Perry and Lodmell, 1991)、単純ヘルペスウイルス1型の神経毒性臨床単離物を経鼻感染させた後、ヒトにおける症状に似た単純ヘルペス脳炎(HSE)を発病する(Hudson et al., 1991)。ライム病(Borrelia burgdorferi)感染による心臓炎には耐性であり(Barthold et al., 1990)、蠕虫Mesocestoides corti感染による好酸球増加が顕著にみられ、寄生虫感染に対しても高感受性である。100匹のテトラチリジアを感染させた21日後における幼虫数は、全ての系統に比べ著しく多かったが(1000を超える)、NIH系統だけはSJLと同程度だった(Lammas et al.,1990)。SJLマウスは、ヘリコバクターフェリス菌に対して感受性を示し、胃体部における活性な慢性胃炎は、中症から重症であり、時間経過とともに悪化する(Sakagami et al., 1996)。
【0073】
SJLマウスに関しては、Victor A. McKusick et alが HYPERLINK "http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim" http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omimで、その背景についてさらに教示している。そこからSJLマウスに関する以下の情報を抜粋した。
【0074】
SJLマウス系統(Festing, 1979)は、実験的自己免疫脳炎(EAE)等の誘導された自己免疫疾患、及び炎症性筋肉疾患に対し感受性である。また、SJLマウスの骨格筋は高い再生能力を有し、力の消失を伴う「炎症性ミオパチー」と称される特発的事象を示す。月齢の異なるSJLマウスの筋肉を用いた組織病理学的実験により、Bittner et al.,(1999)は、筋肉繊維の変性及び再生による変化や進行性線維症を含み、進行性筋肉ジストロフィーに匹敵する特性を見出した。組織学的にみてこれらの変化は、3週齢マウスで早くも観察された。これらの変化により、主に近傍筋肉群が影響を受けたが、遠位の筋肉はさほど影響されなかった。形態上の変化は徐々に進行する筋肉弱化の兆候と関連し、Bittner et al.(1999)によると、マウスを尾から吊り上げて調べたところ、僅か生後3週間でこのような弱化傾向が観察された。その表現型は、常染色体劣性形質として遺伝することが見出され、マウス6番染色体上の、DYSF遺伝子がマッピングされているヒト2p13とシンテニーな領域にマッピングされることが見出された。かようなシンテニーが存在することから、Bittner et al.(1999)は、上記マウスのジスフェリンを調べた。上記著者らは、SJLマウスの制御レベルが約15%低下したことを見出した。上記著者らは、SJLマウスのDysf遺伝子に171bpの欠失があることを発見し、それが4番目のC2ドメインの大部分を含む57個のアミノ酸の除去につながると推測した。最後のC2ドメインは、fer様遺伝子ファミリーの他のメンバーに保存されている。
【0075】
SJL系統由来マウス
ここに使用する「SJL系統由来マウス」なる用語は、一般的にSJLマウスの遺伝子を1若しくは2以上有する遺伝背景をもつマウスのことである。
【0076】
先祖にSJLをもつマウスならどれでもSJLマウス由来のマウスとなる。SJLマウス由来のマウスとしては、祖父母にSJLマウスをもつことが好ましい。SJLマウス由来のマウスとしては、両親にSJLマウスをもつことより好ましい。
【0077】
上記マウスは、血縁内繁殖、血縁関係のない繁殖や、当業者に既知の他の方法を含む種々の繁殖法によりSJLマウス由来とすることができる。
【0078】
SJLマウス由来マウスには、1若しくは2以上のトランスジーンを有するSJLマウスを含めてもよい。かかるトランスジーンは、SJLマウス由来、非SJLマウス由来、又はこれら以外のもの由来であってよい。
【0079】
好適な実施態様においては、SJL由来マウスが、遺伝的に異なる種から感染したプリオンに対して異なる感受性を示す。SJLマウスにおけるプリオン潜伏期間が短縮されることが好ましい。
【0080】
試料
ここに使う「試料」なる用語は、その本来の意味で用いる。試料は、本発明の方法によりプリオンの存在を試験した実存物質であればいかなるものでもよい。試料は、生物材料であるか、又は生物材料に由来するものであってもよい。
【0081】
かかる試料は、同じ若しくは異なる適切な材料を有する綿棒擦過物、生検、脳ホモジェネート、又はプリオン結合物質・対象から選択される1若しくは2以上の実存物質であるか、或いはこれら実存物質に由来するものであってもよい。
【0082】
試料の投与
試料は溶液と混合して調製することができる。このときの溶液は、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液であることが好ましい。ハロタン/O2等の麻酔薬で麻酔した1若しくは2以上の実験動物を試料と接触させる。試料は、腹腔内(IP)又は経口経路などの適当な経路を通じて、或いは脳などの神経組織に直接導入することにより、実験動物と接触させることができる。腹腔内接種によりプリオンをマウスに接触させる場合の好適投与量は、10%ホモジェネートとして100μlである。経口投与によりプリオンをマウスに接触させる場合の好適投与量は、例えばBSEに感染したウシの脳を食餌にするとして10gである。接触方法としては、少なくとも試料の一部を注入等により実験動物の脳に導入する方法が好ましい。より好ましいのは、試料を実験動物の脳の右体壁葉に注入することである。試料と接触させた後、実験動物のインキュベーションを行ってもよい。ここに使う「インキュベーションを行う」という用語は、当技術分野では既知の封じ込め施設等の適切な条件下で実験動物を維持することである。
【0083】
実験動物の観察
プリオン感染症状の発生を調べることにより、実験動物におけるプリオン感染の症状を観察する。症状を呈した実験動物を定期的に調べ、苦痛を示す兆候が現れたら殺処分してもよい。マウスにおけるプリオン感染の臨床診断の基準は、症例も含めてCarlson (1986), Cell, 46, 503-511に記載されており、全身振戦、運動失調又は尾部硬直、或いはそれらの組合わせが他の例と共に挙げられている。実験動物の生検を任意に行ってもよい。生検は、プリオンが蓄積している臓器や組織など、適切なものであればいずれの臓器や組織に対してでも行うことができる。脳生検を実施することが好ましい。プリオンタンパク質の検出には、ウエスタンブロット法(Collinge et al. 1996, Nature 383, 685-690)、免疫測定法(WO9837210号に記載)、及び電気特性のプロービング(WO9831839号に記載)等、当技術分野においてよく知られている種々の方法を採用することができる。
【0084】
悪影響
ここに用いる「悪影響」なる用語は、上述したようにプリオン感染によって生じる神経機能障害の臨床兆候のことである。臨床兆候が認められた場合、実験動物の検査を毎日実施する。1若しくは2以上の実験動物の死期が確実に近い場合、組織病理学的研究及びプリオン感染確認のために、その脳を摘出する。
【0085】
プリオン潜伏期間
ここに用いる「プリオン潜伏期間」なる用語は、実験動物を試料に接触させてから実験動物が最初に悪影響を示すまで、又はプリオン感染により死亡するまでに要した経過時間のことである。
【0086】
本発明の方法によれば、潜伏期間が有利に短縮される。その結果、従来法に比べ、より迅速に、かつより経済的に結果が得られる。プリオン潜伏期間は196日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は189日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は169日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は151日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は149日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は139日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は117日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は100日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は89日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は78日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は65日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は51日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は40日以下であることが好ましい。
【0087】
好適な実施態様においてプリオン潜伏期間は、vCJD誘起能を有するプリオン又はBSE誘起能を有するプリオンを含有する試料に実験動物を接触させてから、該実験動物が最初に悪影響を呈するまで、又はプリオン感染により死亡するまでに要した経過時間のことである。これらの時間は、プリオン試料の初代継代に関する時間であることが好ましい。以下の実施例等において、さらに説明を行う。
【0088】
発病率
ここに用いる「発病率」なる用語は、同一試料と接触させた実験動物のうち、プリオン感染症状を発症した実験動物の割合のことである。例えば10匹(頭)の実験動物を同じ試料に接触させ、その内4匹(頭)がプリオン感染症状を発症した場合の発病率は40%である。発病率が低いのは「種の壁」の特徴であるが、これについては以下に述べる。
【0089】
当技術の専門家には、発病率を考慮すれば本発明による方法において、一試料につき十分数の実験動物を使わなければならないことは明らかである。用いる実験動物の数は5〜50匹(頭)であることが好ましい。用いる実験動物の数が15〜40匹(頭)であることが、より好ましい。用いる実験動物の数が20〜30匹(頭)であることが最も好ましい。本発明における好適実施例での発病率は50%を超える。
【0090】
種の壁
ここに用いる「種の壁」なる用語は、種間の伝達を制限する1若しくは2以上の要素を意味する。
【0091】
種の壁の効果は、最有効経路を介した伝達を意図する場合であっても、新たな宿主へと継代される間のプリオン潜伏期間が延長される(Pattison, 1965)ことにある。これとは対照的に同種間におけるプリオンの伝達は、通常、非常に有効である。PrP配列やプリオン株の違いなどの多くの要素が、ドナーと受け手との間に存する種の壁に影響を及ぼしている。PrP配列は、プリオンの「種」を決定するところのドナーによって決定される。プリオン株は、PrPScの構造により決定されるようである(Collinge et al. 1996)。例えば、野生型PrPを発現するヒトに伝播するCJDプリオンは、ヒトPrPを発現するトランスジェニックマウスに非常に効果的に伝達する。同様な方法で伝播・伝達させたvCJDプリオンは、CJDプリオンの伝達特性とは全く異なる伝達特性を有している(Collinge et al. 1995; Hill et al. 1997)。やはり種の壁に影響する要素として、当初タンパク質Xと呼ばれたタンパク質の種特異性がある(Telling et al. 1995)。このタンパク質は、PrPCに結合してPrPScの形成を促進する。かかるタンパク質の1つが、プリオンタンパク質調節因子(PPMF)として米国特許第5962669号に記載されている。ある種の哺乳動物のPPMFは同種若しくは遺伝的に類似の種のPrPCとしか結合しないことからわかるように、PPMFは種特異的である。
【0092】
種の壁の生物学的効果は、平均潜伏期間の延長、潜伏期間幅の増大及び疾患に罹患する動物画分の減少をもたらすことにある(Hill et al. 1960)。最も広く研究されている種の壁は、ハムスターとマウスの間の伝達性を制限しているものである。例えばハムスター・スクレイピーSc237株(Hecker et al. 1992)は、マウスに対しては非病原性であると考えられ、トランスジェニックマウスに用いられて種々の研究に供されてきた。ハムスターPrP発現トランスジェニックマウスは、Sc237ハムスター・プリオンに対し、潜伏期間が短く高感受性を示す。近年、上述の種の壁が再評価されており、Sc237ハムスター・プリオンを接種された従来マウスは、臨床兆候を示さないものの、脳にあっては高プリオン価を蓄積していたことが見出されている(Hill et al. 1960)。
【0093】
種の壁の効果を低減することが本発明の有利な点である。本発明に従えば、例えばプリオン潜伏期間が196日以下に短縮されるようにして、プリオンを実験動物に効果的に伝達することが可能となる。
【0094】
遺伝的に異なる種
ここにおいて「遺伝的に異なる種」とは、プリオン感染に関して種の壁が存在する種同士のことである。結果として、遺伝的に異なる種から種へとプリオンを伝達する場合のプリオン潜伏期間は長くなる。例えばマウスは、ヒトやウシとは遺伝的に異なる種である。先行技術による方法では、遺伝的に異なる種から得た試料から、先行技術によるマウス系統(1若しくは2以上)等の実験動物を使ってプリオンを検出する場合、217±6日を超えるプリオン潜伏期間を要していた。
【0095】
遺伝的に異なる種間におけるプリオン潜伏期間が196日以下であることは、本発明の有利な点である。
【0096】
プリオンレベルの測定
別の特徴として本発明は、試料に含まれるプリオンの量を推定することに関する。かかる推定は、プリオン感染性試料に接触させた実験動物が臨床症状を呈するまでに要した時間、及びプリオン感染性試料に接触させた実験動物が死亡するまでに要した時間を調べることにより実現する。簡潔に説明すると、実験動物を試料(又はその希釈液)と接触させた時間を記録する。次に実験動物を観察して臨床症状の発生を調べる。マウスにおけるプリオン感染の臨床診断は上記してあり、またCarlson et al. (1986), Cell, 46, 503-511にもさらなる記載がみられる。臨床症状が発生した時間を記録する。再び実験動物を観察するが、その際、最初は1日1回で、死期が近づくにつれ観察回数を増やす。マウスが死亡すると、その時間も再び記録する。臨床症状の発生と死亡までの間隔を計算する。この時間間隔は、試料中のプリオン量と反比例関係にある。この時間間隔から時間係数を引いたものの対数は、試料中におけるプリオン数の対数の一次関数として表される。時間係数は、Pruisner et al. (1982), Annals. of Neurology 11 353-358)に従い、時間間隔と投与量との線形関係を最大化することにより決定される。
【0097】
トランスジェニック動物
ここに用いる「トランスジェニック動物」なる用語は、元々組換えDNA技術により導入された遺伝性補体に遺伝子を有する動物を指す。組換えDNA技術は当技術分野の専門家にはよく知られている。トランスジェニック動物においては、「遺伝子」なる用語は「トランスジーン」という用語と同義である。
【0098】
本発明の実験動物はトランスジェニック実験動物でもよい。かかる実験動物がトランスジェニックラット、トランスジェニックハムスター、トランスジェニックラビット、トランスジェニックモルモット、又はトランスジェニックマウスであることが好ましい。より好ましいのは、実験動物がトランスジェニックマウスであることである。実験動物がトランスジェニックSJLマウスであることが最も好ましい。
【0099】
異なる遺伝背景のトランスジーン(1若しくは2以上)を有する別のトランスジェニックマウスにおいて、かかるトランスジーンを増殖させ、SJL背景を有するマウスに導入する。
【0100】
外因性PrP遺伝子
ここに用いる「外因性PrP遺伝子」なる用語は一般的に、PrPのアミノ酸配列又はタンパク質を、その生来の並び方又は文脈とは異なるいずれかの形態でコードするいずれかの種のPrP遺伝子を指す。Gabriel et al. (1992), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 9097-9101 に、一般に知られているいくつかのPrP配列が記載されている。従って、「外因性PrP遺伝子」なる用語は、「人工PrP遺伝子」及び「キメラPrP遺伝子」をも包含するものである。ここにおいて「人工PrP遺伝子」及び「キメラPrP遺伝子」とは、組換えDNA技術を用い、当技術の専門家には公知の方法により構築された遺伝子のことである。ある動物のゲノムに外因性PrP遺伝子が含まれると、その動物に、本来その動物とは遺伝的に異なる種にしか感染しないプリオンによる感染に対して感受性が生じることになる。米国特許第5792901号、同5908969号、同6008435号及びWO9704814号に、人工PrP遺伝子を有するトランスジェニック動物に関する記載がある。
【0101】
実験動物が、1若しくは2以上の外因性PrP遺伝子が導入されたSJLマウスであることが好適である。外因性PrP遺伝子が哺乳動物のPrPをコードすることが好ましい。外因性PrP遺伝子が家畜若しくはヒトのPrPをコードすることが最も好ましい。
【0102】
家畜
ここに用いる「家畜」なる用語は、いずれの飼育動物をも意味する。豚、羊、牛、又は雄牛から選択される1若しくは2種以上の家畜であることが好ましい。家畜が牛又は雄牛であることがより好ましい。
【0103】
調節配列
本発明の適用例の中には、インビボなどで実験動物にコード配列の発現を指令することができる調節配列に、ポリヌクレオチドをオペラブル(operable)に結合させる場合もある。本発明には一例として、1若しくは2以上のトランスジーンに調節配列をオペラブルに結合させて該遺伝子の発現を調節することが含まれる。1若しくは2以上の外因性PrP遺伝子の発現は、プリオン潜伏期間を延長又は短縮させるべく調節される。ウシ若しくはヒト由来の1若しくは2以上の外因性PrP遺伝子の発現が、SJLマウス等のトランスジェニック動物において調節される点が有利である。
【0104】
WO99/50404号に、外因性PrP遺伝子が誘導発現されるトランスジェニック動物及びその使用法が記載されている。
【0105】
「オペラブルに結合」なる表現は、説明にある成分同士が、互いにそれ自身の意図どおりに機能し得る並列関係にあることを意味する。コード配列に「オペラブルに結合」する調節配列は、制御配列に適合する条件下でかかるコード配列が発現されるように結合しているのである。
【0106】
「調節配列」なる用語には、プロモーターやエンハンサー、また他の発現調節シグナルが含まれる。
【0107】
「プロモーター」なる用語は、例えばRNAポリメラーゼ結合部位のように、当技術分野における通常の意味で使われる。
【0108】
選択した発現宿主における目的タンパク質の発現や、必要なら分泌レベルも増強させる機能を有する、及び/又はポリペプチド発現を誘導的に制御する機能を有する、例えばプロモーター、分泌リーダー及び末端領域などの異種調節領域を選択することにより、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現もまた強化される。
【0109】
ヌクレオチド配列(1若しくは2以上)は、少なくともプロモーターにオペラブルに結合させる。
【0110】
ポリペプチドをコードする遺伝子に生来備わるプロモーター以外にも、かかるポリペプチドの発現を指示する他のプロモーターを使用してもよい。所望の発現宿主に上記ポリペプチドの発現を指示する効率を考慮してプロモーターを選択する。
【0111】
別の実施態様では、構成性プロモーターを選択して、特定ポリペプチドの発現を指示してもよい。誘導基質含有培地で発現宿主を培養する必要がなくなるという点において、上記発現構築物はさらに有利である。
【0112】
真菌発現宿主に用いるのに好適な強力な構成性プロモーター及び/又は誘導性プロモーターとしては、キシラナーゼ(xlnA)、フィターゼ、ATP合成酵素、サブユニット9(oliC)、トリオースリン酸イソメラーゼ(tpi)、アルコールデヒドロゲナーゼ(AdhA)、α−アミラーゼ(amy)、アミログルコシダーゼ(glaA遺伝子のAG−)、アセトアミダーゼ(amdS)、及びグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(gpd)の各真菌遺伝子から得られるプロモーターが列挙される。
【0113】
強力な酵母プロモーターとしては、アルコールデヒドロゲナーゼ、ラクターゼ、3−ホスホグリセリン酸キナーゼ、及びトリオースリン酸イソメラーゼの各遺伝子から得られるプロモーターが列挙される。
【0114】
強力な細菌プロモーターの例としては、細胞外プロテアーゼ遺伝子から得られるプロモーター同様、α−アミラーゼプロモーター及びSP02プロモーターがある。
【0115】
ハイブリッドプロモーターも発現構築物の誘導調節性を向上させるために用いることができる。
【0116】
プロモーターは、適当な宿主内での発現を確保又は増加させる特性をさらに有していてもよい。かかる特性としては例えば、プリブノーボックス(Pribnow Box)又はTATAボックス等の保存された領域が挙げられる。プロモーターは他に、ヌクレオチド配列の発現レベルを左右する(維持する、増強する、低減するなど)配列までも含んでいてもよい。例えば他の好適配列には、Sh1−イントロン又はADHイントロンが含まれる。他の配列には、温度、化学、光又はストレスを誘導する要素等の誘導要素が含まれる。さらに、転写又は翻訳を増強する適当な要素も存在していてもよい。後者である転写又は翻訳を増強する要素の一例として、TMV5´シグナル配列がある(Sleat (1987), Gene 217, 217-225; 及びDawson (1993), Plant Mol. Biol.23, 97を参照)。
【0117】
トランスジェニック動物の調製
実験動物へのトランスジーンの導入は、当該分野の専門家には十分既知のいくつかの技術により行われる。かかる技術には、(1)ある胚から別の胚への細胞移動、(2)レトロウイルスに感染した細胞の導入、(3)Scott et al. (1989), Cell 59, 847-857 及びScott et al. (1992) Protein Sci., 1, 986-997に記載の方法による受精卵前核へのcDNAのマイクロインジェクション、(4)1匹(頭)の動物への複数卵の移植などがある。その後公知の手法によって、得られた子孫がトランスジェニック動物であるかどうかを調べる。
【0118】
ここにおいて「トランスジェニック動物」にはさらに、当技術の専門家には公知のノックアウトマウスも含まれる。
【0119】
本発明の好適実施例において、実験動物は1若しくは2以上の遺伝子を導入されている。2以上のトランスジーンを有するトランスジェニック動物は、当技術分野で十分公知の方法により、ある遺伝子が導入された第1動物を、第2の遺伝子が導入された第2動物と交配させることにより得ることができる。例えば本来のトランスジェニックマウスの遺伝背景を、コンジェニックマウスを作出するなどの繁殖技術によってSJLのものに変換することが可能である。コンジェニックマウスは通常、戻し交配を10世代繰り返すことにより作出される。例えばFvB背景のトランスジェニックマウスを作出し、その後上記の技術によりSJL背景へと変換させることができる。
【0120】
本発明により同定されたSJLマウスのプリオン感受性遺伝子を有するトランスジェニック動物を調製することが当然望ましい。このようにしてプリオン感受性が上昇又は低下したトランスジェニック動物の調製が可能になる。
【0121】
遺伝子の同定
本発明における別の実施態様は、実験動物のプリオンに対する感受性(susceptibility)と関連のある遺伝子の同定方法に関する。ここに用いる「遺伝子の同定」なる用語は、プリオン感受性遺伝子を有する核酸の同定に関するものである。
【0122】
感受性(例;SJL)マウスと非感受性(例;C57B16)マウスとの遺伝子比較は、マイクロアレイを用いた発現解析、サブトラクションハイブリダイゼーション(Sambrook et al. (1989) Konietzko U & Kuhl D (1998). Nucleic Acids Res 26, 1359-61)、及びゲノム走査法(Stephenson et al. (2000) Genomics 69, 47-53)等、当技術の専門家に公知の種々の方法により実施することが可能である。これらの方法により、非感受性及び感受性マウスの間で異なるDNA領域を同定する。次に、SJL等の特定マウス系統において、好適宿主にBSE及びvCJDを引き起こすプリオンに対する感受性に関与する遺伝子を同定する。
【0123】
プリオン感受性遺伝子を同定するマッピング法は、例えばF2(雑種第2世代)をインタークロス又は戻し交配させることにより、SJLとC57BL/6の交雑を作製することである。かかる交配の結果得られたマウス全てにプリオンを接種し、その潜伏期間を割り出し、マイクロサテライト法により遺伝型を決定した。連鎖解析を行って候補領域を同定する。次に、標準的なポジショナルクローニングを実施する(例えばバイオインフォマティクス)により候補遺伝子を同定し、配列を決定し、発現レベルを分析する;下記も参照)。
【0124】
非ポジショナルなアプローチとしては、市販のマイクロアレイとのハイブリダイゼーションも可能である。例えば、少なくとも3匹のSJLマウスと3匹のC57BL/6マウスから(脳又は脾臓からが好ましい)全RNAを調製することができる。Ambion社製のRNAwizTMなどの市販のキットを用いてRNAを単離する。cRNAを調製してアレイ(例:Affymetrix mouse Genechips)とハイブリダイズし、感受性マウスと非感受性マウスの遺伝的差異を同定する。
【0125】
サブトラクションハイブリダイゼーションにおいては、感受性マウス及び非感受性マウスからcDNAを調製し、感受性マウスにのみ存在する配列においてcDNAが高度濃縮化するように処理を施す。次に、かかる濃縮cDNAの配列との相同配列を有するクローンを得るために、上記濃縮cDNAを用いてcDNAライブラリーのスクリーニングを行う。かかるスクリーニングは、核酸ハイブリダイゼーションやPCRプローブを使う方法など、当技術分野で十分公知の種々の方法により実施できる。
【0126】
プローブの特異性(高度に保存された領域、保存された領域、又は非保存領域のいずれにプローブが由来するか)と、ハイブリダイゼーション又は増幅におけるストリンジェンシー(高い、中程度、低い)とにより、かかるプローブが天然に生じるコード配列だけを同定するのか、若しくは関連配列をも同定するのかが決まる。
【0127】
ゲノムスクリーニングにおいては、DNAの反復断片(マイクロサテライトDNAと呼ぶ)から得たゲノムDNAを感受性及び非感受性マウスからPCRで増幅する。続いて連鎖解析を行い、染色体上におけるそれぞれの遺伝子の相対的位置を決定する。
【0128】
マイクロサテライトDNAの増幅に用いるPCRプライマーは、the mouse genome-wide screening set(Research Genetics社製、 Huntsville, AL)等の市販のキットから選択することが好ましい。PCR反応は例えば放射標識又は蛍光標識したプライマーを使用し、96ウエルのプレート上で行う。これらPCR産物を次に変性ゲル電気泳動にかけて分解し、例えばオートラジオグラフィーを用いることにより、或いは自動シークエンサー又は毛管シークエンサーを用いることにより産物を検出することができる。感受性及び非感受性マウスにおいて、染色体上の位置がわかっているマーカー遺伝子を比較し、示唆的な又は顕著な連鎖を示すマーカー遺伝子について連鎖解析を行った。かかる解析にはMap Manager QT(Manly & Olson et al. 1999, Mamm. Genome 10 327-334)などの適切なソフトウエアパッケージが使用できる。感受性及び非感受性マウスで異なる遺伝子があれば、その位置のマッピングを行う。
【0129】
米国特許第4683195号、同4800195号、及び同4965188号に記載のあるPCRでは、さらに標的配列に基づくオリゴヌクレオチドの使用法を提供している。かかるオリゴマーは通常化学合成されるが、酵素法でも作製され、又は組換え材料からも作出される。通常オリゴマーはヌクレオチド配列を2つ有し、その1つはセンス方向(5´−>3´)の配列で、もう一方は特異的遺伝子又は条件を同定するための最適化条件下で採用されるアンチセンス方向(3´<−5´)の配列である。密接に関連しているDNA又はRNA配列の検出及び/又は定量のために、同じ2つのオリゴマー、枝分かれしたオリゴマーのセット、さらにはオリゴマーが変性した集団を、より低いストリンジェンシー下で用いることができる。
【0130】
プリオン感受性遺伝子の外因性ゲノム配列のマッピングのために、又はバイオインフォマティクス上の目的のためにプローブを使用してもよい。かかる配列は特定の染色体に、又は染色体の特異的領域に公知の手法によりマッピングされる。公知の手法には、染色体スプレッド(spread)へのインサイチューハイブリダイゼーション(Verma et al (1988) Human Chromosomes: A manual of Basic Techniques, Pergamon Press, New York City)、フローソーティングによる染色体の調製、或いは、YAC、細菌人工染色体(BAC)、細菌PI構築物や単一染色体cDNAライブラリー等の人工染色体構築物が含まれる。
【0131】
染色体の調製におけるインサイチューハイブリダイゼーション、及び樹立された染色体マーカーを用いる連鎖解析等の物理的マッピング手法は、遺伝地図を拡大する上で重要である。Science (1995; 270:410f and 1994; 265:1981f) に遺伝地図の例がみられる。ある特定のヒト染色体の数や腕が未知の場合であっても、別の種の染色体上に遺伝子を配置することにより、関連マーカー遺伝子を明らかにできることが多い。物理的マッピングにより、染色体の腕やその一部に対し新たに配列を決めることができる。これにより、ポジショナルクローニングや他の遺伝子発見法を用いてプリオン感受性遺伝子を検索する際に貴重な情報がもたらされることになる。プリオン感受性遺伝子がひとたび遺伝連鎖により特定のゲノム領域に大雑把に位置付けられると、その領域にマッピングされる配列はいずれも、さらなる調査に供される関連遺伝子若しくは調節遺伝子を表すことになる。
【0132】
任意にプリオン感受性遺伝子の機能を、まず該遺伝子(1若しくは2以上)のDNA配列を当技術分野で公知の方法を用いて決定することにより確かめることができる。各系統のマウス尾部から切片を得て、それら切片を、500μg/mlのプロテイナーゼK(Proteinase K)を含有する緩衝液(50mMのTris−HCl、pH8.0、100mMのEDTA、100mMのNaCl、1%SDS)0.7mlを用いて55℃で一晩インキュベーションを行うことにより、マウス各系統からDNAを単離する。次に、フェノール:クロロフォルムを用いて試料を抽出した。エタノール沈殿を行った後に、分子量の大きいDNAをガラス製ピペットに取り上げ、TE緩衝液(10mMのTris、1mMのEDTA、pH7.5)に再溶解した。DNAは、Promega社が提供しているもの(核溶解緩衝液を用い、その後タンパク質沈殿緩衝液を用いる)のような適当な市販DNA抽出キットを使用して単離できるので、フェノール:クロロフォルム抽出を行わなくても済むのが有利な点である。次に配列(1若しくは2以上)をデータベース上で利用できるDNA配列と比較することにより、相同配列を同定する。この情報を利用して相同配列の機能を決定することができる。
【0133】
プリオン感染を調節する
「調節する」なる用語は、哺乳動物におけるプリオン感染を予防する、抑制する、軽減する、回復させる、又は亢進させる、或いは別の方法で影響することを意味する。
【0134】
グリコフォーム率分析
ここにおいて「グリコフォーム率分析」とは、PrPScにおける異なるグリコシル化パターンの分析を意味する。すなわち、Baron et al. (1999) J. Clin. Microbiol. 37, 3701-3704に記載されているように、ジグリコシル化形態、モノグリコシル化形態、及び非グリコシル化形態である。これら3種類のグリコフォームのそれぞれの分子量と相対強度を測定してグリコフォーム率を計算する。例えば、FVBマウス及びTg152マウスで継代されたBSE及びvCJDは、ジグリコシル化のバンドが最も強く染色されるという特徴的なグリコフォーム率を示した。
【0135】
実験動物のプリオン感染に対する感受性の推定
本発明の方法は、プリオン感染に対する動物の感受性を推定することに用いることができるので有利である。1若しくは2以上の実験動物をプリオン含有試料と接触させる。かかるプリオンは、BSE又はvCJDを好適宿主に引き起こすプリオンであることが好ましい。次に実験動物のインキュベーションを行い、悪影響や死亡例を観察する。プリオンを証明するため、悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を実施する。脳生検を実施することが好ましい。次にBaron et al. (1999) J. Clin. Microbiol. 37, 3701-3704に従い、グリコフォーム率分析を行う。簡潔にまとめると、脳をホモジェナイズする。この脳ホモジェネートを、プロテイナーゼK等のプロテイナーゼ共存下でインキュベーションする。遠心分離にかけた後、ペレットを変性緩衝液に再懸濁する。次にこれらタンパク質をSDS−PAGEによって分離する。3種のグリコフォーム全てと交叉反応を起こす適当な宿主から得たPrPに対する抗血清を用いてウエスタンブロッティングを行う。次に、当技術分野の専門家には公知の種々の方法により、結合した抗体を検出する。3種の異なるSDS−PAGEゲルを個別にウエスタンブロッティングに供することが好ましい。次に3種のグリコフォーム各々における相対強度を推定する。グリコフォーム率分析の結果、モノグリコシル化形態が最もドミナントであれば、その実験動物のプリオン潜伏期間は241±15日以下であると推定される。グリコフォーム率分析の結果、最もドミナントであるのがモノグリコシル化形態以外の場合は、その実験動物のプリオン潜伏期間は241±15日以上であると推定される。ドミナントなモノグリコシル化形態を示す実験動物の正確なプリオン潜伏期間は、本発明に記載する方法により任意に決定できる。
【0136】
処理
ここに挙げる処理に関する記述は、全てプリオン感染の調節に関する。
【0137】
処理とは、家畜及び/又はヒト等の哺乳動物に対するものである。
【0138】
作用因子
ここに用いる「作用因子」なる用語は、単一の実存物質(entity)又は実存物質の組合せである。
【0139】
作用因子は、有機化合物又は他の化学物質である。作用因子は、天然若しくは人工を問わず適切な材料から入手可能、又はかかる適切な材料を用いて産生される化合物である。作用因子は、アミノ酸分子、ポリペプチド、又はそれらの化学誘導体、又はそれらの組合せである。作用因子は、ポリヌクレオチド分子(センス分子、アンチセンス分子のいずれも可)であることさえ可能である。作用因子は抗体でもよい。
【0140】
作用因子は設計して得てもよく、また有機小分子等の他の化合物からと同様に、化合物のライブラリー(ペプチドを含む)から得ることもできる。
【0141】
作用因子としては、天然物質、生物高分子、細菌若しくは真菌若しくは動物(特に哺乳動物)の細胞・組織等の生物材料から生成された抽出物、有機若しくは無機分子、合成作用因子、半合成作用因子、構造的若しくは機能的模倣体、ペプチド、模倣ペプチド、誘導化作用因子、全タンパク質から分裂したペプチド、又は合成的に合成されたペプチド(例えばペプチド合成装置を用いて、又は組換え技術、又はそれらを組み合わせて)、組換え作用因子、抗体、天然型若しくは非天然型作用因子、融合タンパク質若しくはその均等物、並びにこれらの変異体、誘導体又は組合せが列挙される。
【0142】
作用因子は通常、有機化合物である。有機化合物は通常、2若しくは3以上のヒドロカルビル基を有する。ここにおいて「ヒドロカルビル基」とは、少なくともC及びHを含む基のことであり、任意に1若しくは2以上の他の適切な置換基を有していてもよい。置換基の例としては、ハロ−、アルコキシ−、ニトロ−、アルキル基、環式基などがある。置換基が環式基である可能性に加えて、置換基を組み合わせたものも環式基を構成する。ヒドロカルビル基が2個以上のCを有する場合、それらの炭素は必ずしも互いに結合していなくてもよい。例えば炭素のうち少なくとも2個の炭素が適当な元素又は基を介して結合していてもよい。従って、ヒドロカルビル基にはヘテロ原子が含まれていてもよい。当技術分野の専門家には適切なヘテロ原子は明らかであるが、例えば硫黄、窒素、酸素などがある。一部の適用例においては作用因子が少なくとも1個の環式基を有することが好ましい。環式基は、非融合多環式基等の多環式基でもよい。一部の適用例では、作用因子において上記環式基の少なくとも1つが別のヒドロカルビル基に結合している。
【0143】
作用因子にはハロ基が含まれていてもよい。ここにおいて「ハロ」は、フルオロ、クロロ、ブロモ、又はヨードのことである。
【0144】
作用因子には1個若しくは2個以上の非分枝鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキレン及びアルケニレンの各基が含まれていてもよい。
【0145】
作用因子の形状は、酸付加塩又は塩基性塩等の薬理学的に許容される塩、或いは水和物を含むその溶媒和物であってもよい。好適な塩に関してはBerge et al, J. Pharm. Sci., 1977, 66, 1-19を参照のこと。
【0146】
本発明の作用因子は、他の治療上の特性を示すことが可能である。
【0147】
作用因子は、1若しくは2以上の他の薬理学的に活性な作用因子と併用してもよい。
【0148】
複数の活性作用因子を併用投与する場合は、同時に、個別に、又は連続して投与してよい。
【0149】
アミノ酸配列
本発明の特徴は、データベース上で入手可能なアミノ酸配列の使用に関する。これらのアミノ酸配列には本発明の作用因子が含まれていてもよい。別の実施態様では、本発明の組成物に用いる適当な作用因子を同定するための標的として、アミノ酸配列が用いられる。別の実施態様では、作用因子が本発明による作用因子として使用し得ることを証明するための標的としてアミノ酸配列が用いられる。
【0150】
ここにおいて、「アミノ酸配列」なる用語は、「ポリペプチド」及び/又は「タンパク質」という用語と同義である。場合によっては、「アミノ酸配列」なる用語が「ペプチド」なる用語と同じ意味をもつ。場合によっては、「アミノ酸配列」なる用語が「タンパク質」なる用語と同じ意味をもつ
アミノ酸配列は、適当な材料から単離されるか、合成して作製されるか、組換えDNA技術により調製されるかのいずれでもよい。
【0151】
ヌクレオチド配列
本発明の特徴には、データベース上で入手可能なヌクレオチド配列の使用が含まれる。これらのヌクレオチド配列は、本発明の組成物の成分として使用されるアミノ酸配列を発現させるために用いられる。別の実施態様では、本発明の組成物に用いる好適作用因子を同定するための標的として、ヌクレオチド配列が用いられる。別の実施態様では、作用因子が本発明による組成物における阻害因子として使用し得ることを証明するための標的としてヌクレオチド配列が用いられる。
【0152】
ここにおいて、「ヌクレオチド配列」なる用語は、「ポリヌクレオチド」なる用語と同義である。
【0153】
ヌクレオチド配列は、ゲノム又は合成又は組換えに端を発するDNA若しくはRNAである。ヌクレオチド配列は、センス鎖若しくはアンチセンス鎖のいずれかの二本鎖若しくは一本鎖、又はそれらの組合せのいずれでもよい。
【0154】
ヌクレオチド配列はDNAであってもよい。
【0155】
ヌクレオチド配列は、組換えDNA技術(例えば組換えDNA)を用いて調製できる。
【0156】
ヌクレオチド配列は、cDNAであってもよい。
【0157】
ヌクレオチド配列は、自然に発生する配列と同じでもよく、それに由来するものでもよい。
【0158】
変異体/ホモログ/誘導体
本発明はまた、変異体、ホモログ及びそれらの誘導体の使用も包含するものである。ここにおいて、「ホモログ」なる用語は、対象とするアミノ酸配列及び対象とするヌクレオチド配列とある程度の相同性を有する実存物質を意味する。ここにおいて、「相同性(homology)」なる用語は、「同一性(identity)」と言い換えることもできる。
【0159】
本発明の文脈において相同配列には、対象とする配列と、少なくとも75、85若しくは90%の同一性を示し、好ましくは少なくとも95若しくは98%の同一性を示すアミノ酸配列が含まれると解される。通常相同配列は、対象とするアミノ酸配列と同じ活性部位等を有する。相同性は類似性として捉えることもできるが(すなわち、アミノ酸残基が類似の化学特性・機能を有する)、本発明の文脈においては相同性が配列の同一性を表すことが好ましい。
【0160】
本発明の文脈において相同配列には、対象とする配列と、少なくとも75、85若しくは90%の同一性を示し、好ましくは少なくとも95若しくは98%の同一性を示すヌクレオチド配列が含まれると解される。通常相同体は、活性部位等をコードする配列として、対象とする配列と同じ配列を有している。相同性は類似性として捉えることもできるが(すなわち、アミノ酸残基が類似の化学特性・機能を有する)、本発明の文脈においては相同性が配列の同一性を表すことが好ましい。
【0161】
相同性の比較は、肉眼により、さらに一般的には、容易に入手可能な配列比較プログラムの助けを借りて行うことができる。これら市販コンピュータープログラムにより、2若しくは3以上の配列間における相同性の割合(%)が計算できる。
【0162】
相同性の割合は、隣接する配列を基に計算される。すなわち、一方の配列を他方の配列と並べ、一方の配列中の各アミノ酸を、他方の配列中の対応するアミノ酸と直接、一残基毎に比較するのである。これは、「ギャップなし」アラインメントと呼ばれる。通常、このようなギャップなしアラインメントは、比較的残基数の少ない場合に行われる。
【0163】
上記の方法は、非常に簡便かつ堅実な方法であるが、1つの挿入部又は欠失部以外は同一な2つの配列において、かかる挿入部又は欠失部以降のアミノ酸残基がアラインメントから外れてしまう結果になるということが考慮されず、その結果、全体のアラインメントが終了したときの相同性の割合が大きく低下してしまう可能性がある。結果的に殆どの配列比較法は、全体としての相同性スコアに不当にペナルティを課すことなく、可能性のある挿入部又は欠失部を考慮に入れた最適化アラインメントを作出するように設計されている。これは、局所相同性を最大化することを意図して、配列アラインメントに「ギャップ」を挿入することにより実現される。
【0164】
しかしながら、より複雑なこれらの方法は、アラインメントで生じるそれぞれのギャップに「ギャップペナルティ」を課すことになり、同数の同一アミノ酸に対し、配列アラインメント内のギャップ数が少なければ少ないほど(比較する2つの配列間における高い関連性を反映して)、ギャップ数の多い場合より高いスコアが得られる。ギャップの存在に対し相対的に高いコストを課し、ギャップ内に続く残基の各々に、より少ないペナルティを課す「アフィンギャップコスト」が通常使用される。これは最も一般的に使用されるギャップスコアリングシステムである。当然のことながら高いギャップペナルティは、より少ないギャップで最適化アラインメントをもたらす。殆どのアラインメントプログラムは、ギャッププログラムに修正を加えることを認めている。しかし、そのようなソフトウエアを配列比較に用いる際には、初期値を使用することが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfit packageを使う場合のアミノ酸配列に対する初期ギャップペナルティは、ギャップ1個につき−12で、各ギャップ延長につき−4である。
【0165】
従って相同性の最大割合(%)を計算するには、まず、ギャップペナルティを考慮した上で最適化アラインメントを作製する必要がある。かかるアラインメントを実現するのに適したコンピュータープログラムは、GCG Wisconsin Bestfit package(University of Wisconsin, U.S.A.; Devereux et al., 1984, Nucleic Acids Research 12: 387)である。配列比較を行えるソフトウエアの例としては他にも、BLAST package(Ausubel et al., 1999 ibid-Chapter 18を参照)、FASTA(Atschul et al., 1990, J. Mol. Biol., 403-410)、及びGENEWORKSの比較ツールセットがあるが、これらに限定されない。BLAST及びFASTAはいずれもオフライン及びオンラインでのサーチに利用できる(Ausubel et al., 1999 ibid、7-58〜7-60頁を参照)。しかし適用例の中には、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい場合もある。BLAST 2 Sequencesという新しいツールもタンパク質とヌクレオチド配列との比較を行うために利用できる(FEMS Microbiol Lett 1999 174(2): 247-50; FEMS Microbiol Lett 1999 177(1): 187-8を参照)。
【0166】
最終的な相同性割合は同一性に換算して求められものの、通常アラインメントプロセス自体は、オールオアナッシング(all-or-nothing)という考えに依拠して2つの配列を比較するものではない。その代わり、化学的類似性又は進化論的距離に基づき、2つ1組の比較にスコアを与える類似性スコア拡大縮小マトリックス(scaled similarity score matrix)が一般的に使用される。そのようなマトリックスの中でよく用いられるものとして、BLASTプログラムセットの初期マトリックスであるBLOSUM62 matrixが例示される。GCG Wisconsinプログラムには一般的に公開初期値を、カスタムシンボル比較表(custom symbol comparison table)(詳細はユーザーマニュアルを参照)がある場合は、それらのいずれかを使用する。適用例の中には、GCG packageには公開初期値を、また他のソフトウエアには、BLOSUM62などの初期マトリックスを用いることが好ましい場合がある。
【0167】
ソフトウエアが一旦最適化アラインメントを作製すると、相同性割合、好ましくは配列同一性割合を計算することが可能になる。通常ソフトウエアは配列比較の一部として上記計算を行い、数字で結果を出す。
【0168】
配列にはまた、アミノ酸残基の欠失、挿入又は置換があり、沈黙の変化をもたらし、機能的同等物を産生する。残基の極性、電荷、可溶性、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性に基づき、物質の二次結合活性が保持される限りにおいて意図的にアミノ酸の置換を行ってもよい。例えば、負電荷アミノ酸にはアスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれ、正電荷アミノ酸にはリシン及びアルギニンが含まれ、同じような親水性値を有する無電荷極性頭部基をもつアミノ酸にはロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、及びチロシンが含まれる。
【0169】
例えば下記の表に基づき、保存的置換を行うことができる。2段目の同じブロック内のアミノ酸同士、及び好ましくは3段目の同じ行にあるアミノ酸同士は、互いに置換させてもよい。
【0170】
【表A】
本発明はまた、相同的置換(ここでは、置換(substitution)及び交換(replacement)はいずれも、既存のアミノ酸残基を他の残基と入れ替えることを意味する)の発生、すなわち、塩基性と塩基性、酸性と酸性、極性と極性など、既存物ベース(like-for-like)の置換が生じることもその範囲に含むものである。非相同的置換、すなわち、ある分類の残基から別の分類の残基への置換、或いは、オルニチン(以下Zと記す)、ジアミノ酪酸オルニチン(以下Bと記す)、ノルロイシンオルニチン(以下Oと記す)、ピリルアラニン、チエニルアラニン、ナフチルアラニン、及びフェニルグリシン等の非天然型アミノ酸を含めることも包含している。
【0171】
α*及びα二基置換*アミノ酸、N−アルキルアミノ酸*、乳酸*、天然型アミノ酸のハロゲン化誘導体(トリフルオロチロシン*、p−Cl−フェニルアラニン*、p−Br−フェニルアラニン*、p−I−フェニルアラニン*、L−アリル−グリシン*、β−アラニン*、L−α−アミノ酪酸*、L−γ−アミノ酪酸*、L−α−アミノイソ酪酸*、L−ε−アミノカプロン酸#、7−ヘプタン酸*、L−メチオニンスルホン#*、L−ノルロイシン*、L−ノルバリン*、p−ニトロ−L−フェニルアラニン*、L−ヒドロキシプロリン#、L−チオプロリン*など)、フェニルアラニン(Phe)のメチル誘導体[4−メチル−Phe*、ペンタメチル−Phe*、L−Phe(4−アミノ)#、L−Tyr(メチル)*、L−Phe(4−イソプロピル)*、L−Tic(1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボキシル酸)*、L−ジアミノプロピオン酸#及びL−Phe(4−ベンジル)*など]を含む非天然型アミノ酸によって交換を行ってもよい。記号*は、上記の説明に照らして(相同的又は非相同的置換に関連して)つけたものであって誘導体が疎水性であることを示し、記号#は、誘導体が親水性であることを示し、また記号#*は、誘導体が両親媒性であることを示している。
【0172】
変異型アミノ酸配列には、配列中の2個のアミノ酸の間ならどこにでも挿入できる適当なスペーサー基を含んでいてもよく、かかるスペーサー基には、グリシン又はβ−アラニン残基等のアミノ酸スペーサーの他にメチル、エチル又はプロピル基等のアルキル基が含まれる。さらなる変異型には、1個若しくは2個以上のアミノ酸残基がペプトイド型で存在することが含まれ、当技術分野の専門家には十分理解されるものである。誤解を招かないように、ここにおいて、「ペプトイド型」とは、α−炭素置換基が、残基内においてα−炭素上よりむしろ窒素原子上に存在している変異型アミノ酸残基のことである。ペプトイド型ペプチドの調製法については、例えば、Simon RJ et al., PNAS (1992)89(20), 9367-9371 and Horwell DC, Trends Biotechnol.(1995)13(4), 132-134等の文献に見出せる。
【0173】
本発明に用いるヌクレオチド配列は、その中に合成若しくは修飾ヌクレオチドが含まれていてもよい。オリゴヌクレオチドに施す種々多様の修飾の形は当技術分野では公知である。かかる修飾には、メチルホスホン酸バックボーン及びホスホロチオ酸バックボーン、及び/又は、分子の3´及び/又は5´末端へのアクリジン鎖又はポリリシン鎖の付加が含まれる。本発明の目的を達成するために、ここに説明するヌクレオチド配列は、当技術で利用されるいずれの方法によって修飾されても構わない。そのような修飾は、本発明において有用なヌクレオチド配列のインビボでの活性増強や寿命延長を図るために行われる。
【0174】
本発明はさらに、ここに開示された方法により同定された配列との相補ヌクレオチド配列若しくはそれらの誘導体、断片若しくはその誘導体の使用にも関する。配列がその断片と相補的であれば、その配列は別の生物等における類似のコード配列を同定するためのプローブとして用いることができる。
【0175】
ハイブリダイゼーション
本発明にはまた、ここに記す配列又は誘導体、断片若しくはその誘導体とのハイブリダイズ能を有するヌクレオチド配列の使用も含まれる(作用因子がアンチセンス配列の場合など)。
【0176】
ここにおいて、「ハイブリダイゼーション」とは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術による増幅方法と同様に、「塩基ペアリングによって核酸鎖を相補鎖に結びつける方法」をも含むものである。
【0177】
本発明にはさらに、ここに開示した方法により同定された配列若しくは誘導体、断片若しくはその誘導体と相補的な配列とのハイブリダイズ能を有するヌクレオチド配列の使用も含まれる。
【0178】
「変異型」なる用語には、他のヌクレオチド配列とのハイブリダイズ能を有する配列と相補的な配列も含まれる。
【0179】
「変異型」なる用語が、ストリンジェントな条件下(例えば、50℃、0.2×SSC[1×SSC=0.15M NaCl,0.015M Na3クエン酸 pH7.0])でヌクレオチド配列とのハイブリダイズ能を有する配列と相補的な配列を包含することが好ましい。
【0180】
より好ましいのは、「変異型」なる用語が、高度にストリンジェントな条件下(例えば、65℃、0.1×SSC[1×SSC=0.15M NaCl,0.015M Na3クエン酸 pH7.0])でヌクレオチド配列とのハイブリダイズ能を有する配列と相補的な配列を包含することである。
【0181】
分泌
本発明に有用なポリペプチドは、発現宿主から、より簡便にポリペプチドを回収できる培養培地へと分泌される。
【0182】
構築物
「共役体」、「カセット」、及び「ハイブリッド」等の用語と同じ意味を有する「構築物」なる用語には、直接的又は間接的にプロモーターに結合する本発明に有用なヌクレオチド配列が含まれる。「融合」なる用語には、直接的又は間接的な結合が含まれる。通常は野生型遺伝子プロモーターと会合するタンパク質をコードするヌクレオチド配列が自然に結びつくとき、また両方の配列が自然環境下にあるときは、これらの用語に含まれない場合もある。
【0183】
構築物が導入された例えば細菌、好ましくはBacillus subtilis等のBacillus属の細菌又は植物において遺伝的構築物の選択を可能にするために、構築物にさらにマーカーを含有させるか発現させることもできる。使用できるマーカーは数多く存在し、マンノース−6−リン酸イソメラーゼをコードするマーカー(特に植物に対して)、或いはG418耐性、ヒグロマイシン耐性、ブレオマイシン耐性、カナマイシン耐性及びゲンタマイシン耐性等の抗生物質耐性をもたらすマーカー等が例示される。
【0184】
ベクター
「ベクター」なる用語には、発現ベクター、形質転換ベクター、及びシャトルベクターが含まれる。
【0185】
「発現ベクター」なる用語は、インビボ又はインビトロでの発現が可能な構築物を意味する。
【0186】
「形質転換ベクター」なる用語は、ある実存物質から別の実存物質へと伝達させることが可能な構築物を意味し、これら実存物質は同じ種でも異なる種でもよい。構築物がある種から別の種へと伝達され得るとき、例えばE.coliプラスミドからBacillus属等の細菌へ伝達され得るとき、かかる形質転換ベクターは「シャトルベクター」と呼ばれることがある。シャトルベクターは、E.coliプラスミドからアグロバクテリア菌へと導入され、それがさらに植物に導入されることさえ可能な構築物である。
【0187】
ベクターを、下記に説明するように適切な宿主細胞に導入し、本発明の範疇にあるポリペプチドを発現させる。従って本発明はさらなる特徴として、本発明に用いるポリペプチドの調製法を提供するものであり、かかる調製法は、上述したように発現ベクターを導入又はトランスフェクトした宿主細胞を、ポリペプチドをコードするコード配列のベクターによる発現が可能な条件下において培養し、発現したポリペプチドを回収することからなる方法である。
【0188】
ベクターとしては、複製起点を有するプラスミド、ウイルス、又はファージベクター、任意に上記ポリヌクレオチドの発現プロモーター及び任意にかかるプロモーターの調節因子が例示される。
【0189】
ベクターには、1若しくは2以上の選択マーカー遺伝子が含まれていてもよい。産業用微生物に対する最適な選択系は、宿主生物内において変異を必要としない選択マーカー集団によって形成されるものである。真菌選択マーカーとしては、アセタミダーゼ(amdS)、ATP合成酵素、サブユニット9(oliC)、オロチジン−5´−リン酸−脱炭酸酵素(pvrA)、フレオマイシン耐性及びベノミル耐性(benA)の各遺伝子が例示される。非真菌選択マーカーとしては、細菌性G418耐性遺伝子(これは酵母にも使用できるが、糸状菌には使えない)、アンピシリン耐性遺伝子(E. coli)、ネオマイシン耐性遺伝子(Bacillus)、及びβ−グルクロニダーゼ(GUS)をコードするE. coli uidA遺伝子が例示される。
【0190】
ベクターは、例えばRNA産生のため、若しくは宿主細胞のトランスフェクション及び形質転換に用いるため、インビトロで用いることができる。
【0191】
従って本発明に用いるポリヌクレオチドは、例えばクローニングベクター又は発現ベクター等の組換えベクター(特に複製ベクター)に取り込むことができる。かかるベクターは適合宿主細胞において核酸を複製するのに用いられる。従って、ポリヌクレオチドを複製ベクターに導入し、該ベクターを適合宿主細胞に導入し、また該宿主細胞を、ベクター複製を生じさせる条件下で増殖させることにより、多量のポリヌクレオチドが作出される。ベクターは宿主細胞から回収する。好適な宿主細胞については発現ベクターとの関連で下記に説明する。
【0192】
遺伝子工学的に作出された宿主細胞は、作用因子及び拮抗因子を同定するスクリーニング法において、アミノ酸配列(又はその変異体、ホモログ、断片又はその誘導体)を発現させることに用いられる。このような遺伝子工学的に作出された宿主細胞をペプチドライブラリー又は有機分子のスクリーニングに用いることができる。拮抗因子、及び抗体、ペプチド、又は有機小分子等の作用因子は、薬理組成物の基礎となる。プリオン感染治療における治療薬として、かかる作用因子又は拮抗因子は、単独又は他の治療薬との併用のいずれで投与してもよい。
【0193】
発現ベクター
ヌクレオチド配列は組換え複製ベクターに取り込むことができる。かかるベクターは、ヌクレオチド配列の複製・発現に用いられる。発現は、プロモーター/エンハンサー及び他の発現調節シグナルを含む制御配列を使用することによって制御できる。原核プロモーター、及び真核細胞において機能を有するプロモーターが使用される。組織特異的又は刺激特異的プロモーターが用いられる。上記2若しくは3以上の異なるプロモーターの配列エレメントを有するキメラプロモーターもまた用いられる。
【0194】
ヌクレオチド配列を発現させることにより、宿主組換え細胞によって産生されるタンパク質は、その配列及び/又は使用するベクターによって、分泌されるか或いは細胞内で保持されるかが決まる。特定の原核又は真核細胞膜を介して配列をコードする物質の分泌を指示するシグナル配列を用いて、コード配列を設計することができる。
【0195】
融合タンパク質
本発明に用いられるアミノ酸配列を、例えば、抽出及び精製の補助とするための融合タンパク質として作出してもよい。融合タンパク質とするためのパートナーとしては、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、6xHis、GAL4(DNA結合及び/又は転写活性化ドメイン)及びβ−ガラクトシダーゼなどが挙げられる。融合タンパク質パートナーとタンパク質配列との間に、融合タンパク質配列を除去させるためのタンパク質分解開裂部位を含めても都合よい。融合タンパク質がタンパク質配列の活性を阻害しないことが好ましい。
【0196】
融合タンパク質には、目的物質に融合させた抗原又は抗原決定基が含まれていてもよい。融合タンパク質は、免疫系の全身性刺激をもたらすという意味においてアジュバントとして作用する物質を有し、非天然に生成された融合タンパク質であってもよい。抗原又は抗原決定基は、かかる物質のアミノ末端又はカルボキシ末端いずれに結合させてもよい。
【0197】
融合タンパク質をコードするためにアミノ酸配列を異種配列と結合させてもよい。例えば、上記物質の活性に影響し得る作用因子のペプチドライブラリーをスクリーニングする際に、市販抗体によって認識される異種エピトープを発現させるキメラ物質をコードすることが有用であるとも考えられる。
【0198】
立体異性体及び幾何異性体
作用因子は、立体異性体及び/又は幾何異性体として存在することができる。例えば、作用因子は1若しくは2以上の不斉中心及び/又は幾何中心を有し、2若しくは3以上の立体異性型及び/又は幾何異性型として存在し得る。本発明は、かかる作用因子の立体異性体及び幾何異性体の全体を個別に、又はそれらを混合したものを使用することを意図する。これらの形態が適切な機能的活性をもち続ける限りにおいて(必ずしも同程度の活性を維持しなくてもよいが)、請求項に用いる用語はこれらの形態を包含するものである。
【0199】
薬理学的塩
作用因子は薬理学的に許容される塩として投与される。
【0200】
薬理学的に許容される塩は、当技術分野の専門家には公知であり、例えば、Berge et al, in J. Pharm. Sci., 66, 1-19 (1977) に記載されている塩が該当する。好適な酸付加塩は、非毒性塩を形成する酸から形成することができ、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸、硫酸、重硫酸、リン酸、リン酸水素、酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、乳酸、サリチル酸、クエン酸、タトル酸、アスコルビン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、ギ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びp−トルエンスルホン酸が含まれる。
【0201】
1若しくは2以上の酸性成分が存在するとき、薬理学的に許容される適切な塩基が付加された塩は、非毒性塩を形成する塩基から形成することができ、アルミニウム塩、カルシウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、亜鉛塩、及びジエタノールアミン塩等の薬理学的に活性なアミン類が含まれる。
【0202】
作用因子における薬理学的に許容される塩は、作用因子の溶液と必要な酸又は塩基を適宜混合することにより、容易に調製できる。かかる塩を溶液中で沈殿させ、濾過により回収するか、又は溶媒を留去させることにより回収する。
【0203】
作用因子は、多型性として存在することができる。
【0204】
作用因子には、1個若しくは2個以上の不斉炭素原子が含まれていてもよく、従って作用因子は2若しくは3以上の立体異性型として存在する。作用因子がアルケニル又はアルケニレン基を有するとき、シス(E)及びトランス(Z)異性もまた生じる。本発明は、作用因子の個々の立体異性体、適宜にその個々の互変異性型、またその混合物を含むものである。
【0205】
ジアステレオ異性体又はシス−及びトランス−異性体は、例えば作用因子又はその適切な塩若しくは誘導体の立体異性体混合物に、画分の結晶化、クロマトグラフィー又はHPLCといった従来法を施すことにより分離できる。作用因子の個別の鏡像異性体もまた、対応する光学的に純粋な中間体から調製されるか、或いは、適切な対掌性支持体を用いて、HPLC等により対応ラセミ体を分解することにより調製されるか、或いは、対応ラセミ体を、適当な光学活性を有する酸又は塩基と適宜に反応させて形成されたジアステレオ異性塩の画分を結晶化することにより調製される。
【0206】
また本発明は、作用因子又はその薬理学的に許容される塩の適切な同位体バリエーション(isotopic variations)を全て含む。作用因子又はその薬理学的に許容される塩の同位体バリエーションとは、少なくとも1個の原子が、原子番号は同じだが自然界で通常見出されるものとは原子量が異なる原子に置換されているものと定義される。作用因子又はその薬理学的に許容される塩に取り込まれてもよい同位体には、例えば、それぞれ水素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄、フッ素及び塩素の同位体である2H、3H、13C、14C、15N、17O、31P、32P、35S、18F及び36Cl等が含まれる。作用因子又はその薬理学的に許容される塩の同位体バリエーションの中には、例えば3Hや、14Cなどの放射性同位体が取り込まれたもののように、薬剤及び/又は基質の組織分布の研究用として有用なものがある。トリチウム化した同位体(3H)、及び炭素14同位体(14C)は、その調製及び検出が簡便な点で特に好ましい。さらに重水素(2H)等の同位体で置換すると代謝安定性が向上し、例えばインビボでの半減期の延長又は必要投与量の低減化などの一定の治療上の利点が得られので、好ましい場合がある。本発明の作用因子又は本発明におけるその薬理学的に許容される塩の同位体バリエーションは一般的に、適切な試薬の好適な同位体バリエーションを用いて従来どおりの手順により調製される。
【0207】
作用因子がプロドラッグに由来してもよいことは当技術の専門家には理解されるところである。プロドラッグとしては、保護基(1又は複数)を有し、そのままでは薬物学的活性はもたないが、状況次第で投与に供してもよく(経口又は非経口で)、投与されると体内で代謝されて薬物学的に活性な本発明作用因子を形成する実存物質が例として挙げられる。
【0208】
例えばH. Bundgaard, Elsevier,1985「プロドラッグの設計(Design of Prodrugs)」(その開示を参考のため本明細書に添付する)に記載があるように、「プロ成分」として知られるある種の成分を、作用因子の適切な機能上に配置してもよい。このようなプロドラッグも本発明の範疇に含まれる。
【0209】
本発明はまた、本発明作用因子の両性イオン型の使用も含む。請求項で用いられる用語は、かかる型を1若しくは2以上包含している。
【0210】
溶媒和物
本発明には、本発明作用因子を溶媒和物として使用することも含まれる。
【0211】
プロドラッグ
上に示したとおり本発明はまた、作用因子のプロドラッグとしての使用も含むものである。
【0212】
薬理学的に許容される塩
作用因子は、薬理学的に許容される塩として投与される。通常薬理学的に許容される塩は、所望の酸又は塩基を適宜に用いて容易に調製できる。塩は溶液中で沈殿させ、濾過により回収し、又は溶媒を留去させて回収する。
【0213】
化学合成法
作用因子は化学合成技術により調製できる。
【0214】
本発明化合物の合成過程において、感作性官能基の保護、脱保護を行わければならないことは、当技術の専門家には明白である。従来法によってもこれは可能であり、そのような方法としては例えば、「有機合成における保護基(Protective Groups in Organic Synthesis)」T W Greene and P G M Wuts, John Wiley and Sons Inc. (1991)、及び「保護基(Protective Groups)」P.J. Kocienski, Georg Thieme Verlag (1994)に記載の方法が挙げられる。
【0215】
反応過程において、特定条件下、例えば塩基感作性基を含む光学中心を有する基質と共に塩基を反応に用いる場合、存在する立体中心のラセミ化が起こり得る場合がある。これは例えばグアニル酸化の過程で起こり得る。当技術分野で公知のように、反応に用いる配列、条件、試薬、保護/脱保護方法等を選択することにより、このような潜在的な問題を回避することが可能となる。
【0216】
本発明の化合物及び塩は、従来法により分離・精製される。
【0217】
ジアステレオ異性体は従来法により分離され、かかる従来法としては、式[1]に示される化合物又はその適当な塩若しくは誘導体と立体異性体との混合物の画分結晶化、クロマトグラフィー又はHPLCがある。式[1]に示される化合物の個別の鏡像異性体もまた、対応する光学的に純粋な中間体から調製されるか、或いは、適当な対掌性支持体を用いて、HPLC等により対応ラセミ体を分解することにより調製されるか、或いは、対応ラセミ体を、適切な光学活性を有する酸又は塩基と反応させて形成されたジアステレオ異性塩の画分結晶化とにより調製される。
【0218】
作用因子、又はその変異体、ホモログ、誘導体、断片若しくは模倣体は、作用物質の全体若しくは一部を合成する化学的手法により生成される。例えば、ペプチドの場合は、固相法によりペプチドを合成し、樹脂から剥がし、分取高速液体クロマトグラフィー(例:Creighton (1983) Proteins Structures And Molecular Principles, WH Freeman and Co, New York NY)により精製する。合成ペプチド組成物はアミノ酸分析又は配列決定(例:the Edman degradation procedure; Creighton, supra)を行うことにより確認できる。
【0219】
ペプチド作用因子は、種々の固相法(Roberge JY et al (1995) Science 269: 202-204)により合成され、また例えば、ABI 43 1 A Peptide Synthesizer(Perkin Elmer社製)を製造者マニュアルに準拠して用いることにより、自動的な合成も可能である。従って、作用因子若しくはその一部を有するアミノ酸配列を、直接合成を行う間に改変させ、及び/又は他のサブユニット若しくはその一部から得た配列と化学的手法により結合させて、変異型作用因子を生成することもできる。
【0220】
本発明の別の実施態様においては、ペプチド作用因子(又はその変異体、ホモログ、誘導体、断片、若しくは模倣体)のコード配列は、全体的若しくは部分的に、当技術分野で十分公知の化学的手法により合成される(Caruthers MH et al (1980) Nuc Acids Res Symp Ser 215-23, Horn T et al (1980) Nuc Acids Res Symp Ser 225-232を参照)。
【0221】
模倣体
ここにおいて、「模倣体」なる用語は、基準(reference)作用因子と同質の活性若しくは効果を有するペプチド、ポリペプチド、抗体、又は他の有機化学物質などを含む全ての化学物質に関するが、それらに限定されない。
【0222】
化学誘導体
ここに用いられる「誘導体」又は[誘導された]なる用語には、作用因子の化学修飾が含まれる。かかる化学修飾は、水素を、ハロ基、アルキル基、アシル基、又はアミノ基と置換することであると説明される。
【0223】
化学修飾
作用因子の化学修飾により、作用因子と標的との間の水素結合相互作用、電荷相互作用、疎水相互作用、Van Der Waals相互作用、又は双極相互作用が、増強又は減弱される。
【0224】
1つの特徴として、同定された作用因子は他の化合物の発生モデル(例えば、鋳型として)となり得る。
【0225】
組換え法
作用因子又は標的は、組換えDNA法により調製できる。
【0226】
他の活性成分
組成物には作用因子以外にも治療に用いられる別の物質が含まれていてもよい。
【0227】
抗体
組成物に使用する作用因子には1若しくは2以上の抗体が含まれていてもよい。
【0228】
ここにおいて、「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、Fab断片、及びFab発現ライブラリーから作出された断片が含まれるが、それらに限定されない。かかる断片には、標的物質に対する結合活性を保持している全抗体の断片、Fv、F(ab´)及びF(ab´)2の各断片、一本鎖抗体(scFv)、抗体の抗原結合部位を有する融合タンパク質や他の合成タンパク質が含まれる。さらに抗体又はその断片は、例えば米国特許A−239400号に記載のあるヒト化抗体であってもよい。中和抗体、すなわち対象ポリペプチドの生物活性を阻害する抗体は、特に診断及び治療において好ましい。
【0229】
抗体は、本発明物質で免疫したり、ファージディスプレイライブラリーを用いたりするなどの標準的な方法で作製される。
【0230】
ポリクローナル抗体が望まれる場合、本発明において同定された作用因子及び/又は物質から得られるエピトープ(1又は複数)を有する免疫原性ポリペプチドを用い、選択した哺乳動物(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマなど)を免疫する。宿主の種に応じて、種々のアジュバントを使用して免疫応答を高めてもよい。かかるアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウム等のミネラルゲル、並びにリソレシチン、プルロン酸ポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油性乳剤、スカシ貝ヘモシアニン及びジニトロフェノール等の界面活性物質が含まれるが、これらに限定されない。BCG(Bacilli Calmette-Guerin)及び Corynebacterium parvumは、ヒト・アジュバントとして潜在的有用性をもち、精製した上で採用され、全身性防御を刺激することを目的として対象ポリペプチドを免疫反応不全の個体に投与する。
【0231】
免疫した動物の血清を回収し、公知の手法に従って処理する。本発明において同定された作用因子及び/又は物質から得られるエピトープに対するポリクローナル抗体を含有する血清に、他の抗原に対する抗体が含まれている場合、かかるポリクローナル抗体を免疫親和性クロマトグラフィーにかけて精製する。ポリクローナル抗血清の作製及び処理方法は、当技術分野で公知である。このようなポリクローナル抗体を作製するために、本発明はさらに、動物やヒトにおける免疫原として用いるために、本発明のポリペプチド又はその断片を別のポリペプチドにハプテン結合させることも含む。
【0232】
特定のエピトープに対することを意図したモノクローナル抗体の作出も、当技術分野の専門家には容易なことである。ハイブリドーマを用いてモノクローナル抗体を作製する一般的な方法がよく知られている。細胞を融合させることにより、また、腫瘍形成DNAでBリンパ球の形質転換を直接行うことや、Epstein-Barrウイルスによるトランスフェクションによっても、抗体産生不死化細胞株を作出することができる。軌道エピトープに対して産生されたモノクローナル抗体のパネルをスクリーニングして、アイソタイプ又はエピトープ親和性といった種々の特性を調べる。
【0233】
培養中の連続細胞株を用いた抗体分子の産生方法であればいずれの方法によってモノクローナル抗体を調製してもよい。これらの方法には、Koehler and Milstein (1975 Nature 256: 495-497) によって初めて報告されたハイブリドーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kosbor et al (1983) Immunol Today 4: 72; Cote et al (1983) Proc Natl Acad Sci 80: 2026-2030)、及びEBV−ハイブリドーマ法(Cole et al (1985) Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss Inc, pp 77-96)が含まれるが、これらに限定されない。さらに、好適な抗原特異性及び生物活性を有する分子を得るために、マウス抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子に挿入するという、「キメラ抗体」を産生するために開発された方法も用いられる(Morrison et al (1984) Proc Natl Acad Sci 81: 6851-6855; Neuberger et al (1984) Nature 312: 604-608; Takeda et al (1985) Nature 314: 452-454)。或いは、一本鎖抗体の作製に関する記載に基づく方法(米国特許第4946779号)を、ある物質に特異的な一本鎖抗体の産生に採用してもよい。
【0234】
Orlandi et al (1989, Proc Natl Acad Sci 86: 3833-3837)及びWinter G and Milstein C (1991; Nature 349: 293-299)に記載されているように、リンパ球集団においてインビボでの産生を誘導することによっても抗体は産生され、また、組換え免疫グロブリンライブラリー又は高度に特異的な結合試薬のパネルをスクリーニングすることによっても産生される。
【0235】
物質に対する特異的結合部位を有する抗体断片も作製することができる。かかる断片には例えば、抗体分子のペプシンを消化させることにより作出されるF(ab´)2断片、及びF(ab´)2断片のジスルフィド架橋を還元することにより作出されるFab断片が含まれるが、これらに限定されない。或いは、所望の特異性を有するモノクローナルFab断片の迅速かつ簡便な同定を可能にするため、Fab発現ライブラリーを構築してもよい(Huse WD et al (1989) Science 256: 1275-1281)。
【0236】
一般的なアッセイ方法
1若しくは2以上の好適標的(プリオン感受性タンパク質又は遺伝子のアミノ酸配列及び/又はヌクレオチド配列など)を用いて、本発明の作用因子を同定する。
【0237】
そのような試験において使用される標的は、溶液中で遊離の状態、固体支持体に固着させた状態、細胞表面に担持されている状態、又は細胞内に局在する状態のいずれであってもよい。標的活性の消失、又は標的と試験に供する作用因子との間の結合複合体の形成を測定する。
【0238】
本発明の方法としてはスクリーニングがあり、それにより数多くの作用因子におけるプリオン感染調節性を試験する。
【0239】
薬剤スクリーニングの方法は、1984年9月13日に公開された欧州特許出願84/03564号に記載の方法に基づいて行う。概略を述べると、種々の小ペプチド試験化合物を、プラスチックピン又は他の物の表面などの固体基質上で多数合成する。これらのペプチド試験化合物を適当な標的又はその断片と反応させ、洗浄する。その後、当技術分野で十分公知の方法を適切に実施するなどして、結合した実存物質を検出する。精製した標的もまた、プレートに直接コーティングして薬剤スクリーニング法に用いることができる。或いは、非中和抗体を使用し、ペプチドを捕捉して固体支持体上で不死化させることができる。
【0240】
本発明による方法は、定量アッセイにだけでなく、試験化合物の小規模及び大規模いずれのスクリーニングにも適していると期待される。
【0241】
好ましい特徴の1つとして本発明は、プリオン感染に対する調節(modulating)能を有する作用因子の同定法に関する。
【0242】
レポーター
本発明の方法により同定された作用因子のスクリーニングには種々多様なレポーターを用いることができ、好都合に検出され得る(例えば分光法により)シグナルを有するレポーターが好適である。例を挙げると、Pharmacia Biotech(Piscataway, NJ)、Promega(Madison, WI)及びUS Biochemical Corp(Cleveland, OH)等の数多くの企業が、アッセイ手法に用いる市販キットやプロトコールを供給している。適切なレポーター分子若しくは標識物には、基質、補因子、阻害剤、磁気粒子などと同様、放射性核種、酵素、蛍光剤、化学発光剤、又はクロモジェニック(発色性)材料が含まれる。かかる標識物の使用について教示している特許には、米国特許A−3817837号、同A−3850752号、同A−3939350号、同A−3996345号、同A−4277437号、同A−4275149号、及び同A−4366241号がある。
【0243】
宿主細胞
「宿主細胞」なる用語には、本発明の作用因子に対する標的を有することができる全ての細胞が含まれる。
【0244】
従って、本発明のさらなる実施態様では、本発明の標的である、若しくは本発明の標的を発現させるポリヌクレオチドにより形質転換若しくはトランスフェクトさせた宿主細胞を提供する。かかるポリヌクレオチドが、標的となるポリヌクレオチド若しくは標的を発現させるポリヌクレオチドの複製及び発現に用いるベクターに担持されていることが好ましい。細胞は、このようなベクターと適合するものを選択するが、原核細胞(例えば細菌)、真菌細胞、酵母細胞、又は植物細胞が例挙される。
【0245】
グラム陰性細菌であるE. coliは、異種遺伝子発現のための宿主として広く使用されている。しかし、E. coli細胞内には大量の異種タンパク質が蓄積する傾向がみられる。しかる後にE. coli細胞内の大量のタンパク質から所望のタンパク質を精製することは時として困難である。
【0246】
E. coliとは対照的に、Bacillus属の細菌は培養培地へのタンパク質分泌能を有している点で異種宿主として非常に好適である。他にも宿主として適している細菌としては、Streptomyces属やPseudomonas属のものがある。
【0247】
本発明に有用なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの特質及び/又は発現されたタンパク質をさらにプロセシングする必要度によっては、酵母や他の真菌等の真核宿主が好ましい。一般的に、真菌細胞より酵母細胞の方が、操作が容易な点で好ましい。しかしタンパク質の中には、酵母細胞からの分泌が乏しいものや、時には正しくプロセシングされない(例えば、酵母における過グリコシル化)ものがある。そういった場合には、別の真菌宿主生物を選択しなければならない。
【0248】
本発明の範囲における発現宿主としての好適例には、Aspergillus種(欧州特許出願公開第0184438号及び同0284603号に記載あるもの)及びTrichoderma種等の真菌;Bacillus種(欧州特許出願公開第0134048号及び同0253455号に記載あるもの)、Streptomyces種及びPseudomonas種等の細菌;並びにKluyveromyces種(欧州特許出願公開第0096430号、同0301670号に記載あるもの)及びSaccharomyces種等の酵母がある。例を挙げると一般的な発現宿主は、Aspergillus niger、Aspergillus niger var. tubigenis、Aspergillus niger var. awamori、Aspergillus aculeatis、Aspergillus nidulans、Aspergillus orvzae、Trichoderma reesei、Bacillus subtilis、Bacillus licheniformis、Bacillus amyloliquefaciens、Kluyveromyces lactis及びSaccharomyces cerevisiaeから選択される。
【0249】
好適な宿主細胞(酵母、真菌及び植物宿主細胞等)を使用することにより、本発明の組換え発現産物に最適化生物活性を発生させるために必要な翻訳後修飾(例:ミリストイル化、グリコシル化、切断化(truncation)、ラピデーション(lapidation)及びチロシン、セリン又はトレオニンのリン酸化)をもたらすことができる。
【0250】
生物
「生物」なる用語には、本発明による標的及び/又は該標的から得られる産物を有することができる生物であればいかなる生物も含まれる。生物の例には、真菌、酵母又は植物が含まれる。
【0251】
本発明に関し、「トランスジェニック生物」なる用語には、本発明による標的及び/又は得られた産物を有する生物であればいかなる生物も含まれる。
【0252】
治療
本発明の方法により同定される作用因子は、治療用の作用因子として用いられる。つまり治療に利用される。
【0253】
「治療(therapy)」なる用語は、「治療(treatment)」なる用語同様、治療効果、軽減効果、及び予防効果を含意するものである。
【0254】
治療は、ヒト及び家畜等の哺乳動物を対象とする。
【0255】
治療は、プリオン感染に伴う症状を治療するためのものである。
【0256】
薬理組成物
本発明に有用な薬理組成物には、治療有効量の作用因子(1若しくは2以上)及び薬理学的に許容される担体、希釈剤若しくは賦形剤が含まれる(それらを併用することも含めて)。
【0257】
薬理組成物は、ヒト医学及び獣医学におけるヒト及び動物への使用に供され、通常1若しくは2以上の薬理学的に許容される希釈剤、担体若しくは賦形剤を含んでいる。治療に使用する上で許容される担体又は希釈剤は薬理学分野では十分公知であり、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (A.R. Gennaro edit. 1985) に、それらに関する記載がみられる。薬理学的担体、賦形剤若しくは希釈剤は、意図する投与経路及び標準的な薬理学的運用例に基づいて選択される。薬理組成物には、担体、賦形剤若しくは希釈剤として(或いはそれらに加えて)、(1若しくは2以上の)適切な結合剤、潤滑剤、懸濁化剤、コーティング剤又は可溶化剤が含まれていてもよい。
【0258】
保存料、安定剤、染料、さらには香料が薬理組成物に含まれることもある。保存料としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、p−ヒドロキシ安息香酸のエステルが例示される。酸化防止剤及び懸濁化剤も用いられる。
【0259】
送達系が異なると、異なる組成物/処方要件が必要とされる場合もある。例を挙げると本発明に有用な薬理組成物を、吸入用若しくは摂取可能溶液用の鼻腔スプレー若しくはエアゾールとして、ミニポンプを用いて投与又は粘膜経路から投与すべく処方し、或いは、非経口経路により投与するために、例えば静脈内、筋肉内若しくは皮下経路により送達するために組成物を注入可能な剤型に処方する。その他、数多くの経路から投与するような処方を計画することもできる。
【0260】
作用因子はシクロデキストリンと併用することもできる。シクロデキストリンは、薬剤分子と包接及び非包接複合体を形成することが知られている。薬剤−シクロデキストリン複合体が形成されると、薬剤分子における可溶性、溶解速度、生体利用率及び/又は安定性が変化する。一般的に薬剤−シクロデキストリン複合体は、殆どの投与形態及び投与経路において有用である。シクロデキストリンは、薬剤との複合体化を指示する代わりに、例えば担体、希釈剤若しくは可溶化剤などの補助添加剤として用いることもできる。α−、β−、及びγ−シクロデキストリンが最も一般的に用いられ、好適例については、WO−A−91/11172号、同A−94/02518号、及び同A−98/55148号に記載がある。
【0261】
作用因子がタンパク質の場合、該タンパク質は、治療中の被験者においてインサイチューで調製される。これに関し、上記タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、上記タンパク質が上記ヌクレオチド配列により発現されるように、非ウイルス方法(例えばリポソームを用いて)及び/又はウイルス方法(例えばレトロウイルスベクターを用いて)により送達される。
【0262】
投与
「投与する」なる用語には、ウイルス又は非ウイルス方法による送達が含まれる。ウイルス送達機構には、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、及びバキュロウイルスベクターが含まれるが、これらに限定されない。非ウイルス送達機構には、脂質仲介トランスフェクション、リポソーム、免疫リポソーム、リポフェクチン、陽イオン性界面両親媒性物質(CFA)、及びそれらを組み合わせたものが含まれる。
【0263】
本発明に有用な成分は単独でも投与できるが、例えば成分が、意図する投与経路や標準的な薬理学的運用例に基づいて選択された好適な薬理賦形剤、希釈剤又は担体と混合される場合のように、一般的には薬理組成物として投与される。
【0264】
例えばかかる成分は、香料又は色素を含有していてもよい錠剤、カプセル剤、胚珠(ovule)剤、エリキシル剤、液剤、又は懸濁剤の各剤型において、即効性、遅延性、非定型性、徐放性、間欠性、又は放出制御性の各処方にて投与される。
【0265】
薬剤が錠剤の場合、かかる錠剤は、ミクロクリスタリンセルロース、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、二塩基酸カルシウムホスフェート及びグリシン等の賦形剤、澱粉(トウモロコシ、ジャガイモ、タピオカの澱粉が好ましい)、ナトリウムデンプングリコラート、クロスカルメロースナトリウム及びある種の錯体珪酸塩等の崩壊剤、並びにポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、スクロース、ゼラチン及びアカシア等の粒状化バインダーを含有していてもよい。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル、及びタルク等の潤滑剤を含有していてもよい。
【0266】
同じような形状をした各種固形組成物もゼラチンカプセルへの充填物として採用される。この場合の好適な賦形剤には、ラクトース、澱粉、セルロース、乳糖、又は高分子ポリエチレングリコールが含まれる。水性懸濁剤及び/又はエリキシル剤とする場合は、種々の甘味料、香味料、色素若しくは染料を、乳化剤及び/又は懸濁剤を、水、エタノール、プロピレングリコール及びグリセリン等の希釈剤を、或いはこれらの組合せを、作用因子と混合させることができる。
【0267】
投与(送達)経路には、経口(例えば錠剤、カプセル剤として、又は摂取可能溶液として)、局所、粘膜(例えば吸入用鼻腔スプレー若しくはエアゾールとして)、鼻腔内、非経口(例えば注入により)、胃腸内、脊髄内、腹腔内、筋肉内、静脈内、子宮内、眼窩内、皮内、頭蓋内、気管内、膣内、大脳室内、大脳内、皮下、眼内(硝子体内若しくは前房内を含む)、経皮、経直腸、口腔内、経膣、硬膜外、舌下からの1若しくは2以上が含まれるが、これらに限定されない。
【0268】
薬理成分の全てが同じ経路から投与されなければならない訳ではない。同様に、組成物が2以上の活性成分を有しているとき、これらの成分は異なる経路から投与されることもある。
【0269】
非経口投与される場合の成分の投与例には、静脈内投与、動脈内投与、くも膜下投与、脳室内投与、尿道内投与、胸骨内投与、頭蓋内投与、筋肉内投与、又は皮下投与からの1若しくは2以上が含まれ、及び/又は点滴法により投与される。
【0270】
非経口投与の場合、成分は無菌水溶液として用いることが最適であり、かかる無菌水溶液には、該溶液を血液と等張にするために十分量の例えば塩分又はグルコース等の物質が別に含まれていてもよい。水溶液は、必要に応じて適宜に緩衝化しなければならない(pH3〜9が好ましい)。無菌条件下での好適な非経口製剤の調製は、当該技術の専門家には公知である標準的な薬理技術に基づいて容易に実施される。
【0271】
上述したように本発明における有用成分(1若しくは2以上)は、鼻腔内投与又は吸入により投与され、乾燥パウダー吸入器により、或いは加圧容器、ポンプ、スプレー若しくはネブライザーを用いたエアゾールスプレー方式により好都合に伝達される。その際、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134ATM)若しくは1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA 227EATM)等のヒドロフルオロアルカン、二酸化炭素、又は他の好適ガス等の噴射剤が用いられる。加圧式エアゾールの場合は、一定量を送達するためのバルブ弁を設けることにより、投与単位を決定できる。例えば溶媒としてエタノールと噴射剤との混合物を使用して、活性化合物の溶液若しくは懸濁液を、加圧容器、ポンプ、スプレー、又はネブライザーに収容させることができ、さらには、ソルビタントリオレアートなどの潤滑剤を収容することもできる。吸入器又は散布器に用いるカプセル及びカートリッジ(例えばゼラチンから作られる)は、作用因子とラクトースや澱粉等の適当なパウダーベースとの混合パウダーを収容するような製法とする。
【0272】
或いは、成分(1若しくは2以上)を座剤、膣座薬の剤型で投与するか、ゲル、ヒドロゲル、ローション、液剤、クリーム、軟膏、又は粉パウダーの剤型として局所に塗布することもできる。成分(1若しくは2以上)は、例えば皮膚パッチを用いて皮膚に、つまり経皮的に投与することもできる。上記成分はまた、肺若しくは直腸を経路として投与することもできる。また、眼を経路として投与することもできる。眼に使用するときは、pHを調整した等張の無菌生理食塩水を用いた微粉状懸濁剤として、又は好ましくはpHを調整した等張の無菌生理食塩水を用いた溶液として、任意に塩化ベンジルアルコニウム等の保存料を添加し、化合物を処方する。或いはまたペトロラツム等の軟膏として処方することもできる。
【0273】
皮膚に局所塗布する場合、成分(1若しくは2以上)は、例えば鉱物油、液状ペトロラツム、白色ペトロラツム、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン・ ポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス及び水の1若しくは2以上を混合したものに懸濁若しくは溶解させた活性化合物を含有する好適な軟膏として処方される。
【0274】
或いは、成分(1若しくは2以上)は、例えば鉱物油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール、液状パラフィン、ポリソルビン酸60、セチルエステルワックス、セテアリールアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコール及び水の1若しくは2以上を混合したものに懸濁若しくは溶解させた適切なローション又はクリームとして処方される。
【0275】
投与量
通常医師は、実際に個々の対象者にとって最適な投与量を決定する。特定患者に対する投与量及び投与回数は多様であり、用いる特定化合物の活性、該化合物の代謝安定性及び作用持続時間、年齢、体重、健康状態、食生活、投与形態及び投与時期、排出速度、薬剤の併用状況、特定症状の程度、個々人が受ける治療などの種々の要因に左右される。
【0276】
処方
成分(1若しくは2以上)は、当技術分野で公知の手法を用いて、1若しくは2以上の好適な担体、希釈剤又は賦形剤と混合することにより、薬理組成物に処方される。
【0277】
動物実験モデル
プリオン感染を調節する療法又は治療的作用因子を探索及び/又は設計する際に、インビボモデルを使用する。かかるモデルは、プリオン感染の発生又は治療に関与する多様なパラメーターに対する種々のツール/リード化合物の効果を調べるために用いられる。これらの動物実験モデルは、本発明の方法として、又は本発明の方法において使用される。動物実験モデルは、非ヒト動物実験モデルである。
【0278】
一般的な組換えDNA方法技術
ここに述べる方法は、当技術分野において一般的によく知られているが、特に、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual (1989)、及びAusubel et al., Short Protocols in Molecular Biology (1999) 4th Ed, John Wiley & Sons, Inc.を参照している。PCRについては、米国特許A−4683195号、同A−4800195号、同A−4965188号に記載されている。
【0279】
本発明の別の特徴として、プリオン感染確認試験において、プリオンをSJLマウスで2代継代させることが挙げられる。ここに用いる「継代」なる用語は、プリオン感染SJLマウスから得た試料にSJLマウスを接触させることを指し、かかるプリオン感染SJLマウスとは、既に試料と接触済みでプリオン感染の症状を呈しているマウスである。2代継代後のプリオン潜伏期間は、初代継代後の潜伏期間より短いことが好ましい。2代継代による発病率は初代継代によるものより高いことが好ましい。
【0280】
本発明の別の特徴としては、実験動物の試験系統(1若しくは2以上)を使用することにより、本発明の方法が強化されることが挙げられる。ここにおいて、「試験系統」とは、ウシ、ヒト等の所定の種においてプリオン感染に感受性を示すことが知られている実験動物を指す。未知起源の試料をSJLマウスに接触させると、これらマウスがその後プリオン感染の症状を呈する。同じ試料を、それぞれが特定宿主(1若しくは2以上)におけるプリオンに対してのみ感受性を示す数多くの試験系統と接触させることにより、プリオン源を有利に確定できる。このような試験系統は、プリオンタンパク質調節因子(PPMF)を導入したマウスであってもよい。PPMFは種特異的であり、PrPCへの結合能を有し、PrPCからPrPScへの構造変換をもたらす。PPMFについては米国特許第5962669号に記載がある。
【0281】
以下に実施例を参照しながら本発明を説明する。
【実施例1】
【0282】
試料中のプリオンの検出
実験動物を以下のようにして試料と接触させる。
【0283】
試料の調製はレベル3の微生物用封じ込め施設で行う。試料は、プリオンの存在を試験するウシの冷凍脳組織由来である。無菌使い捨てホモジェナイザーを用い、リン酸緩衝生理食塩水中にて試料を解離する。次に懸濁液を、まず18ゲージのシリンジ針により、次に22ゲージの針により、繰り返し流出させる。SJLマウスへの接種用試料をPBSで希釈し、1%(w/v)脳抽出物を調製する。
【0284】
試験に供する試料と接触させるSJLマウスは、レベル1の動物微生物用封じ込め施設で飼育し、耳穿孔又はトランスポンダーで標識することにより、識別する。SJLマウスは、試料と接触させる前にハロタン/O2で麻酔する。27ゲージ針を用いた脳右頭頂葉への大脳内注入により、SJLマウス40匹をそれぞれ、30μlの1%(w/v)脳抽出物と接触させる。この手順はレベル3の封じ込め施設で行う。
【0285】
試料との接触後、レベル3の動物微生物用封じ込め施設においてSJLマウスを試料共存下でインキュベーションする。
【0286】
全てのSJLマウスについて3日間にわたり、悪影響を観察した。プリオン感染の臨床兆候が現れたら、そのマウスを毎日調べ、苦痛の兆候がみられたらCO2で窒息死させる。マウスにおけるプリオン感染臨床症状の基準は、Carlson et al. (1986), Cell 46, 503-511に記載されている。またプリオン潜伏期間も測定する。この測定は、各実験動物を試料と接触させてから、実験動物がプリオン感染による悪影響を最初に示すまで、又は死亡するまでの経過時間を記録することによってなされる。試料との接触から196±13日後に、上記実験動物40匹のうち25匹にプリオン感染の症状が認められた。
【0287】
プリオン感染を確認するため、以下のようにして生検を実施した。
【0288】
マウス25匹におけるプリオン感染を、BSEプリオンに対する抗体を使用したウエスタンブロット分析により確認した。10%(w/v)脳ホモジェネートを冷温の溶解緩衝液(PBS中に10mMのTris−HCl及び10mMのEDTA(pH7.4)、100mMのNaCl、0.5%NP−40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム)において調製する。3000rpmで5分間遠心分離を行って不溶物を除去する。37℃で1時間、プロテイナーゼK(50mg/ml)により消化させる。Pefabloc(Boehringer社製)を最終濃度が2mMとなるまで添加して反応を終了させる。16%トリス−グリシン・ゲル上での電気泳動を行う前に、等量のローディングバッファー(125mMのTris−HCl(pH6.8)、20%グリセロール、4%SDS、0.02%ブロモフェノールブルー)中で、試料を5分間沸騰させる。Immobilon-P 膜上にゲルをブロットし、5%Blotto(0.05%Tween-20を含むPBS中に5%無脂肪粉ミルク)に固定した後、モノクローナル抗体ICSM18共存下で一晩インキュベーションする。0.05%Tween-20を含むPBSでブロットを洗浄し、アルカリホスファターゼ共役抗マウス抗体共存下にて室温で1時間インキュベーションする。ブロットを再度洗浄し、化学発光基質(Amersham社製)を用いて現像し、Storm 840 phosphoimager(Molecular Dynamics社製)上で視覚化する。
【0289】
以上より、プリオンが試料から検出されたことが示された。
【実施例2】
【0290】
マウスにおけるBSEプリオン初代継代
既に組織病理学的検査によってBSEの臨床診断が確定しているウシの冷凍脳組織に試料が由来することを除けば、実施例1の方法と同様にして試料中のプリオンを検出する。この方法は、脳を摘出して10%緩衝ホルマリンに浸漬固定することによって行われる。次に脳をパラフィンに包埋して、7μM厚の切片に切る。連続切片をヘマトキシリン、エオジン及びゴモリ・トリクローム(Gomori trichrome)で染色する。
【0291】
異なる7系統のマウスを上記試料と大脳内で接触させ、各系統におけるプリオン潜伏期間を測定する。表1に結果を示す。
【0292】
【表1】
SJLマウスを、好適宿主にBSEを引き起こすプリオンを含有する試料に接触させると、試験した他の6系統のマウスの場合(241±15日〜710±15日の範囲)に比べ、プリオン潜伏期間が196±13日へと、実質上短縮される。
【0293】
従って、SJLマウスのプリオン潜伏期間は有利に短いことが示される。
【実施例3】
【0294】
マウスにおけるBSE2代継代
試料が、好適宿主にBSEを引き起こすプリオンを含有する試料を一度継代させたSJLマウスの脳組織由来であることを除けば、実施例2と同様にして実験を行う。さらに上記試料をSJLマウス及びFVBマウスと接触させる。
【0295】
結果を表2に示す。
【0296】
【表2】
BSEをSJLマウスで2代継代することにより、潜伏期間が196±13日(実施例2を参照)から125±3日に短縮される。全てのSJLマウス(7/7)が臨床的に疾患を発症し、よって発病率は100%である。SJLマウスはFVBマウスに比し、プリオン潜伏期間が短く、発病率は高くなっている。SJL及びFVBマウスにBSEプリオンが存在しているかどうかについては、ウエスタンブロッティングによって確認する。
【0297】
従って、BSEをSJLマウスで2代継代させた結果、プリオン潜伏期間が短縮し、発病率が上昇することが示される。
【実施例4】
【0298】
SJLマウスにおけるCJD及びvCJDの初代継代
CJD又はvCJDの臨床診断が既に組織病理学的検査によって確定しているヒトの冷凍脳組織に試料が由来することを除けば、実施例1の方法と同様にして試料中のプリオンを検出する。CJD及びvCJDをSJLマウスで初代継代させ、プリオン潜伏期間を測定する。
【0299】
結果を表3に示す。
【0300】
【表3】
vCJDを接種したSJLマウスのプリオン潜伏期間は、CJDを接種した場合の潜伏期間に比し、実質的に短い。この驚きに値する知見は、SJLマウスが、CJDを引き起こすプリオンに対するより、vCJDを引き起こすプリオンに対して、より強い感受性を示すことを示唆している。平均潜伏期間(異なるvCJD接種原間における)は、189±24日である。
【0301】
さらに上記の結果は、SJLマウスが、CJDを引き起こすプリオンに対する場合より、BSEを引き起こすプリオンに対して、より強い感受性を示す(196±13日、表1)という驚くべき知見を説明するものとなっている。
【0302】
従って、好適宿主にvCJDを引き起こすプリオンと接触させたSJLマウスのプリオン潜伏期間は189日以下であることが示される。
【実施例5】
【0303】
プリオン感受性遺伝子の同定
SJL及びC57B16マウスを使用する以外は実施例2と同様にしてプリオン潜伏期間を測定する。好適宿主にBSEを引き起こすプリオンを初代継代した後のSJLマウスのプリオン潜伏期間は、196±13日であることが明らかになっており、従ってSJLマウスは感受性マウスであると考えられる。好適宿主にBSEを引き起こすプリオンを初代継代した後のC57B16マウスのプリオン潜伏期間は710±15日であり、従ってC57B16マウスは非感受性マウスであると考えられる。
【0304】
SJLマウス(第1mRNA)及びC57B16マウス(第2mRNA)のmRNAからcDNAを調製する。50ng−1μgのmRNAを500ngのオリゴ(dT)プライマーと混合し、この混合物を70℃まで10分間加熱し、直ちに氷上で冷却する。次に10mMのdNTPmix、100mMのDTT、逆転写酵素緩衝液、及び逆転写酵素を添加する。42℃で90分間反応をインキュベーションし、その後60mMのEDTAを加えて反応を停止させる。第2mRNAが20倍に増えるまで、2組のcDNAを連続して2〜3回互いにハイブリダイズさせ、cDNA:mRNAハイブリッドをヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーにより除去する。ハイブリダイゼーションを起こさなかったSJLマウスcDNAを、合成開始時におけるmRNA調製物の100倍に増加するまでアニーリングし、得られたcDNA:mRNAハイブリッドをヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーにより回収する。アルカリ加水分解によってmRNAが除去された後に、SJLマウスのmRNAに特異的な配列が著しく増強されたcDNAをプローブとして、かかる配列と相同なクローンのcDNAライブラリーを得る。得られたクローンはプリオン感受性遺伝子若しくはその断片の候補である。
【0305】
従って、プリオン感受性又は非感受性実験動物の遺伝子を比較することにより、プリオン感受性遺伝子が同定されることが示される。
【実施例6】
【0306】
プリオン潜伏期間を延長又は短縮させる作用因子の同定
vCJDの臨床診断が既に組織病理学的検査によって確定しているヒトの冷凍脳組織に試料が由来することを除けば、実施例1と同様にしてプリオンを検出する。SJLマウス20匹を試料に接触させる。別のSJLマウス20匹も同じ試料に接触させ、さらに試験する作用因子とも接触させる。該作用因子は、試料とは別個に試料との接触直後に投与する。該作用因子は、27ゲージ針を用いて30μlを脳右頭頂葉へ大脳内投与する。
【0307】
プリオン接種以前に若しくは接種と同時に作用因子を投与することにより、或いはまず接種を行い、感染期間(好ましくは疾患の症状が出るまでに)に作用因子を投与することにより本実施例を実施することが明らかに有利である。
【0308】
従って、プリオン潜伏期間を延長若しくは短縮させる作用因子が同定されることが示される。
【実施例7】
【0309】
試料中のプリオン量の推定
BSEの臨床診断が既に組織病理学的検査によって確定しているウシ由来の試料を用い、実施例1に従ってプリオンの検出を行う。
【0310】
実験動物として、SJLマウスを使用する。SJLマウスの観察において、SJLマウスがプリオン感染の症状を呈するまでの経過時間と、SJLマウスが死亡するまでの経過時間を記録する。次にこれら2つのパラメーターの間の時間間隔を計算する。
【0311】
上記2つの時間間隔からBSE価を推定する際に検量曲線を用いることができる。
【0312】
上記検量曲線は、既知のBSEプリオン価を有する多段階に希釈した試料にSJLマウスを接触させることにより作製される。各希釈液を用いた場合の疾患発生から死に至るまでの経過時間を測定する。プリオン価と、症状が最初に顕現してから死亡するまでの時間間隔との関係を表に示す。
【0313】
次に、多段階に希釈した実験試料にSJLマウスを接触させる。それぞれの希釈試料を4匹のSJLマウスに接種する。使用する希釈範囲は、103〜109ID50Units/mlである。次にマウスのインキュベーションを行い、各希釈試料につき、各マウスにおける疾患の発生から死亡に至るまでの時間間隔をそれぞれ測定し、必要なら各希釈試料についての平均を求める。
【0314】
検量曲線から試料中のプリオン量を読み取って推定する。
【0315】
従って、本発明の方法を用いることにより、試料中のプリオン量が推定されることが示される。
【実施例8】
【0316】
プリオン感染に対する実験動物の感受性の推定
BSEの臨床診断が既に組織病理学的検査によって確定しているウシの冷凍脳組織に試料が由来することを除けば、実施例1と同様にしてプリオンを検出する。実施例2で使用したマウスと同じマウスを用いた。ウエスタンブロッティングで得られたブロット(洗浄後)を、ホースラディッシュペルオキシダーゼ共役抗マウス抗体共存下で1時間インキュベーションすることにより、PrPのグリコフォームを定量する。上記ブロットを再度洗浄し、化学発光基質(ECL、 Amersham社製)及びBiomax MR film(Kodak社製)を用いて現像する。
【0317】
この実験の結果から、FVB、Tg152、SWR、NZW、C57BL6及びSM/Jの各マウスに継代したBSEプリオンは、ジグリコシル化のバンドが、より強く染色されるという特徴的なグリコフォーム率を示すことがわかった。SJLマウスの場合、BSEプリオンのグリコフォーム率は上記とは異なりモノグリコシル化のバンドがドミナントである。これはRIIIS/Jマウスにも該当する。この情報から、プリオン潜伏期間はSJL及びRIIIS/Jマウスにおいて最も短い、つまりSJL及びRIIIS/Jマウスがプリオン感染に対して最も感受性を示すと推定される。
【0318】
以上のことは、7系統全てにおいて、BSE初代継代後のプリオン潜伏期間を測定することによって調べられる。表4に結果を示す。
【0319】
【表4】
上記の結果から、SJL及びRIIIS/Jマウスのプリオン潜伏期間が最も短いことが確認できる。
【0320】
従って、グリコフォーム率分析を行うことにより、実験動物のプリオン感染に対する感受性が推定されることが明らかである。
【実施例9】
【0321】
マウスにおけるBSEの3代継代
試料が、好適宿主にBSEを引き起こすプリオンを含有する試料を2回継代したSJLマウスの脳組織由来であることを除けば、実施例2と同様にして実験を行う。この試料をSJLマウス及びFVBマウスと接触させる。
【0322】
【表B】
SJLマウスにおいてBSEを3代継代させた後に、潜伏期間が125±3日からさらに110±3日へと短縮される。全てのマウスに臨床疾患の発生が認められ、従って発病率は100%である。FVBマウスの場合よりSJLマウスの場合の方が、プリオン潜伏期間が短く、発病率が高い。SJLマウス及びFVBマウスにBSEプリオンが存在しているかどうかについては、ウエスタンブロッティングによって確認する。
【0323】
試料が、SJLで継代したBSEに感染した臨床罹患FVBマウスの脳組織に由来していること以外は、実施例2と同様にして実験を行う。この試料をSJL及びFVBマウスと接触させる。
【0324】
【表C】
【実施例10】
【0325】
試料が、好適宿主にvCJDを引き起こすプリオンを含有する試料を1回継代したSJLマウスの脳組織由来であることを除けば、実施例2と同様にして実験を行う。
【0326】
【表D】
SJLマウスにおいてvCJDを2代継代する結果、潜伏期間が短縮される(実施例4も参照)。殆どのSJLマウスが、死亡前に疾患の臨床兆候を発生するが、これは発病率の上昇を反映している(実施例4も参照)。
(参考文献)
【0001】
本発明は方法に関する。具体的に本発明は試料中のプリオンを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景知識として、プリオンタンパク質(PrP)とは核酸をもたない伝達性(伝播性)粒子である。PrP遺伝子はプリオンタンパク質をコードする。プリオン病の中で最も注目されているのは牛海綿状脳症(BSE;Bovine Spongiform Encephalopathy)、羊スクレイピー、及びヒトにおけるクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD;Creutzfeldt-Jacob Disease)である。CJDの最も一般的な症状は、個体に特発性に現れる孤発性(散発性)CJD(sCJD)である。医原性CJD(iCJD)は事故感染による疾病である。家族性CJD(fCJD)は、ヒトPrP遺伝子の変異を原因として稀に家族内で発生する形態のCJDである。ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS;Gerstmann-Strassler-Scheinker Disease)は、遺伝性のヒト・プリオン病であり、常染色体優性疾患から発生する。ヒトにおける「新変異型」CJD(vCJD)は、他のCJD型におけるものとは異なるPrPグリコシル化パターンを伴う別種のCJD株型である。畜牛からBSEが伝播してヒトvCJDが発生した可能性が示唆されている。
【0003】
プリオン感染伝達性の研究にはマウスが汎用されている。マウスにプリオンを接種し、その後の経過観察からマウスがプリオン感染の臨床症状を呈するかどうかを確認するのである。マウス馴化プリオン株のマウスへの伝達性は非常に有効であり、潜伏期間も例えば48±2日と短かった(米国特許第6008435号)。さらに感染マウスのほぼ100%がプリオン病を発症し、標準誤差も極めて小さかった。一例として、Stephenson et al. (2000) Genomics 69, 47-53には、CAST/Ei及びSJL/Jという異なる2種のマウス系統におけるRMLマウスプリオン単離物のプリオン潜伏期間を研究した結果が示されている。それぞれの潜伏期間は、172±6日と105±4日だった。CAST/EiとSJL/Jマウスを交配させた結果の平均プリオン潜伏期間は129日(範囲=58〜173日)だった。
【0004】
しかしながらプリオンを種から種へと伝達する場合は状況が大きく異なる。プリオン病の特徴としては、異なる種間でプリオンを伝達させるには、さらに長い潜伏期間が必要となる。これは、「種の壁」と言われ、マウスを用いて遺伝的に異なる種からプリオンを検出することを試みる際の問題となっている。例えば、Scott et al., (1999), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 15137-15142は、BSE及びvCJDに対するトランスジェニックマウスの感受性についての報告である。最短潜伏期間は217±6日及び247±4日だった。
【0005】
WO9704814号及び米国特許第6008435号にはプリオン検出法が記載されている。遺伝的に異なる多様な種から作製され、プリオン感染に感受性をもつトランスジェニック動物を使用している。これは遺伝的に多様な動物のPrP遺伝子の要素をもつマウスに由来するPrP遺伝子を用いることにより達成される。従って上記のトランスジェニックマウスは人工PrP遺伝子をもち、sCJD、iCJD、fCJD又はGSSを引き起こすヒト・プリオンによる感染に対し感受性を示す。sCJDを引き起こすプリオンを接種されたトランスジェニックマウスにおける最短潜伏期間は157+3日である。
【0006】
WO9950404号には、PrP遺伝子の発現効率をあげる誘導配列を有する外因性PrP遺伝子をもつトランスジェニック動物の使用についての記載がみられる。これらのトランスジェニック動物は、sCJD、iCJD、fCJD又はGSSを引き起こすヒト・プリオンによる感染に対し感受性を示し、200日以内にプリオン病の症状を顕現させる。
【0007】
ウシ及びヒトから得た試料から、BSE及びvCJDの原因となるプリオンを検出する診断アッセイには種の壁による制限が課せられる。その結果、かかる試料を実験動物と接触させても、先行技術による方法では試験結果が判明するまでに217±6日から247±4日、さらにはもっと長期間が必要とされた。アッセイ結果にはでき得る限りの迅速性が求められるので、このことは障壁となる。
【0008】
本発明は、先行技術が抱える問題を克服しようとするものである。
【発明の開示】
【0009】
本発明は、試料中のプリオンを検出する方法を提供する。これらの方法は、ウシ及びヒトにそれぞれBSE又はvCJDを引き起こす試料に含まれるプリオンを検出するのに有用である。これらの方法では、先行技術の方法に比し、驚くほど速やかにプリオン感染の臨床症状を呈するSJLマウス等の実験動物を用いる。本発明の方法における一般的なプリオン感染潜伏期間は196日以下である。マウスとウシ、或いはマウスとヒトとの間に存在する種の壁により、臨床症状が得られるまでの期間が先行技術の方法では比較的長いことを考慮すると、これは驚きに値する知見である。本発明の方法では潜伏期間が従来既知のものより短いことから、先行技術の方法によるよりもプリオン感染の診断が著しく迅速に行われる。
【0010】
第一の特徴として本発明は、1若しくは2以上の実験動物を試料と接触させ;該実験動物のインキュベーションを行い;該実験動物における悪影響や死亡例を観察し;またプリオンを証明するため、悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を任意に実施する工程からなり、実験動物のプリオン潜伏期間が196日以下であることを特徴とする試料中のプリオンを検出する方法に関する。
【0011】
試料と接触させる実験動物はマウスであることが好ましい。試料と接触させる実験動物がSJLマウス又はSJLマウス由来であることがより好ましい。試料と接触させる実験動物がSJLマウスであることが最も好ましい。
【0012】
本発明の第一の特長による方法にはさらに、SJLマウスの1若しくは2以上の遺伝子を導入した実験動物の使用も含まれる。トランスジーンが1若しくは2以上のPrP遺伝子を含むことが好ましい。かかるPrPトランスジーンが哺乳動物のPrPをコードすることがより好ましい。最も好ましいのはPrPトランスジーンが家畜又はヒトのPrPをコードすることである。
【0013】
好適な実験動物には、1若しくは2以上のプリオン感受性遺伝子を導入した実験動物が含まれる。
【0014】
本発明の方法によれば、好適宿主にBSE又はvCJDを引き起こすプリオンが有利に検出される。プリオンを含有する試料は、哺乳動物由来であることが好ましい。より好ましいのは、プリオンを含有する試料が家畜又はヒトに由来することである。
【0015】
第二の特徴として本発明は以下の工程からなる、より短い潜伏期間に関連する遺伝子の同定法に関する。かかる工程はすなわち、1若しくは2以上の実験動物を試料と接触させ;該実験動物のインキュベーションを行い;該実験動物における悪影響や死亡例を観察し;プリオンを証明するため、悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を任意に実施し;短期及びより長期のプリオン潜伏期間を示す実験動物を同定し;短期及びより長期のプリオン潜伏期間を示す実験動物の遺伝子を比較し;短期及びより長期のプリオン潜伏期間を示す実験動物間で異なる1若しくは2以上の遺伝子を同定し;短期及びより長期のプリオン潜伏期間を示す実験動物間で異なる1若しくは2以上の遺伝子の機能を任意で決定することからなる工程である。
【0016】
感受性及び非感受性動物の遺伝子の比較には、遺伝子構造の比較(例:存在若しくは不在、又は配列決定、又はSNP等の物性、或いは他の適当な手法)及び/又は遺伝子発現の比較(例:ディファレンシャル・ディスプレイ、サブトラクト・ハイブリダイゼーション、又は他の好適手法)が含まれる。
【0017】
第三の特徴として本発明は、以下の工程からなるプリオン感染を調節し得る1若しくは2以上の作用因子(agent)を同定する方法に関する。かかる工程はすなわち、1若しくは2以上の実験動物を試料と接触させ;1若しくは2以上の実験動物を作用因子と接触させ;実験動物のインキュベーションを行い;実験動物における悪影響や死亡例を観察し;プリオンを証明するため、悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を任意に実施し;プリオン潜伏期間を延長又は短縮させる作用因子を同定することからなる工程である。
【0018】
従って別の特徴として本発明は、プリオン感染調節能を有する作用因子に関する。かかる作用因子は薬理組成物の調製に有利に用いることができる。従って本発明は別の特徴として、被験者に上記作用因子を治療有効量投与することにより、該被験者におけるプリオン感染を調節することに関する。
【0019】
第四の特徴として本発明は、以下の工程からなる試料に含まれるプリオン量を推定する方法に関する。以下の工程とはすなわち、1若しくは2以上の実験動物を試料と接触させ;該実験動物のインキュベーションを行い;該実験動物を観察し;該実験動物がプリオン感染の臨床症状を呈するまで、及び実験動物が死亡に至るまでの経過時間を記録し;それらの時間から試料中のプリオン量を推定することからなる工程である。
【0020】
第五に本発明は、以下の工程からなる実験動物におけるプリオン感染に対する感受性を推定する方法に関する。以下の工程とはすなわち、1若しくは2以上の実験動物をプリオン含有試料と接触させ;該実験動物のインキュベーションを行い;該実験動物における悪影響や死亡例を観察し;プリオンを証明するため、悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を実施し;グリコフォーム率分析を行い;プリオン感染に対する実験動物の感受性を推定することからなる工程である。
試料がプリオンを含有している場合、そのプリオンは好適宿主にBSE又はvCJDを引き起こすプリオンであることが好ましい。
【0021】
本発明に用いる実験動物の潜伏期間は196日以下であることが好ましい。かかる実験動物の潜伏期間が100日以下であることがより好ましい。最も好ましいのは、実験動物の潜伏期間が40日以下であることである。
【0022】
利点
本発明には数多くの利点がある。それらの利点を以下に明らかにする。
【0023】
例えば本発明は、商業的に有用な方法を提供する点で有利である。
【0024】
さらに例をあげると本発明は、既存の諸方法より迅速に試料に含まれるプリオンを同定する方法を提供する点で有利である。
【0025】
さらに例をあげると本発明は、実験動物、哺乳動物、家畜、又はヒトにおけるプリオン感受性関連遺伝子を同定する方法を提供する点で有利である。
【0026】
さらに例をあげると本発明は、プリオン感染調節能を有する1若しくは2以上の作用因子を同定すること、及びかかる作用因子を含有するプリオン感染治療用の薬理組成物を調製することを提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
プリオン
ここに用いられる「プリオン」なる用語は、核酸をもたないタンパク性感染性粒子のことである。
【0028】
「プリオン」なる用語は、「プリオンタンパク質(PrP)」なる用語と同義である。
【0029】
本発明の好ましい実施形態においては、プリオンを含有している可能性のある試料を試験する。試料がプリオンを含有している場合、かかるプリオンは好適宿主にBSE又はvCJDを引き起こすプリオンであることが好ましい。
【0030】
Victor A. McKusick et alが HYPERLINK "http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim" http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim においてプリオンの背景を教示している。以下に記載するプリオンに関する情報は、そこからの抜粋である。
【0031】
プリオンタンパク質遺伝子の変異は、ゲルストマン・ストロイスラー病(GSD;Gerstmann-Straussler disease)、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD;Creutzfeldt-Jakob disease)、及び家族性致死性不眠症と関係があり、プリオンタンパク質の異常アイソフォームは、上記疾病、並びにクールー病及び羊スクレイピーにおける感染性作用因子として作用し得る。
【0032】
Prusiner(1982、1987)は、プリオンが核酸をもたない新しい分類の感染性作用因子を代表していることを示唆した(プリオンという用語はPrusiner(1982)によって提唱されたもので、「タンパク質感染性作用因子(protein infectious agent)」を表している)。プリオン病は接種により伝達し、或いは常染色体優性疾患として遺伝する神経変性症状である。Prusiner(1994)は、伝達性海綿状脳症の病因を再検討し、プリオンタンパク質のプロテアーゼ耐性アイソフォームがかかる疾患の病因として重要であることを記している。Mestel(1996)は、感染性タンパク質の存在についての肯定的及び否定的証拠(並びに肯定的又は否定的見解)を再検討している。
【0033】
Tagliavini et al.(1991)は、インディアナ州の家族(Indiana kindred)内患者2名から単離したアミロイド・プラークコアから抽出したタンパク質を精製して特徴づけを行った。上記著者らは、GSDアミロイドの主要成分は11kDのPrP分解産物であり、そのN末端がヒトPrPcDNAから推定されるアミノ酸配列の58番目に位置するグリシン残基に相当していることを見出した。またアミロイド断片は、さらに大きなPrP断片を含み、外見上無処理のN末端及びアミロイドP成分を有していた。Tagliavini et al.(1991)はこれらの知見を、疾患プロセスに伴いタンパク質分解によるPrPの開裂が生じ、不溶性フィブリルへとポリマー化するアミロイド生成ペプチドが生成されることを示唆するものであると解釈した。上記家族には、構造遺伝子の変異が認められなかったので、PrPの一次構造以外の要因が、アミロイド形成過程において重要な役割を担っている可能性がある。
【0034】
プリオンが、上記疾患の主要原因たる感染性作用因子によって合成が刺激されるシアロ糖タンパク質であるというのが、一つの解釈となっており、Manuelidis et al.(1987)は、PrPペプチドがCJDにおける感染性作用因子ではないことを示唆する証拠を提示した。Pablos-Mendez et al.(1993)は、「プリオン病のねじれた歴史」を再検討し、プリオンが感染性であるという見解にとって代わる見解、すなわちプリオンは細胞毒性代謝産物であるとの見解を示唆した。上記著者らは、代謝産物PrPのプロセシングの研究、及びこのタンパク質の出現を増強する作用因子の試験を行うことが、自分達の仮説を立証する上で有用であると示唆した。上記著者らのモデルからは、PrPの異化を阻害し得る物質によりPrPが蓄積されることが予想された。トランスジェニックマウスにおいてPrP合成量が増加すると、実験用スクレイピーの潜伏期間が短縮される。Pablos-Mendez et al.(1993)の仮説は、PrPの合成経路よりむしろ分解経路が細胞内で脱線することを示唆した。
【0035】
Forloni et al.(1993)は、PrPの106〜126ペプチドには、インビトロにおいてアミロイド様フィブリルへとポリマー化する高い固有の能力がみられることを見出した。上記著者らはまた、初期ラット海馬培養物を、上記ペプチドに相当するペプチドにマイクロモル濃度下で慢性的に曝すことにより、神経死が生じることを示した。このようなペプチドの細胞毒効果にはアポトーシス機構が関与していることをForloni et al.は示唆した。
【0036】
伝達性海綿状脳症の感染性、病原性作用因子は、PrPタンパク質のプロテアーゼ耐性かつ不溶性の形態であり、正常型プロテアーゼ感受性PrPタンパク質から翻訳後に派生することが示唆されている(Beyreuther and Masters, 1994)。Kocisko et al.(1994)は、精製成分からなる無細胞系において、正常型PrPタンパク質がプロテアーゼ耐性PrPタンパク質へと転化することについて報告している。このようにPrPが正常型から病原性へと選択的に転化するには、既存の病原性PrPが存在していることが必要とされる。上記著者らは、新たなPrPタンパク質の生合成、アミノ基に結合することによるPrPタンパク質のグリコシル化、又はPrPタンパク質における正常型グリコシルホスファチジルイノシトール・アンカーの存在は、上述の転化には不要であることを示した。これは、病原性PrPタンパク質が、それ自身と正常型PrPタンパク質との間の特異的タンパク質−タンパク質相互作用の結果、形成され得ることを示す直接的な証拠である。
【0037】
Rivera et al.(1989)は、13歳の重症進行性神経疾患男性患者について記載している。その患者の核型は、15p;20pのテロメア融合に起因する偽中心重複性染色体を示していた。リンパ球においては、異常染色体のセントロメア収縮は常に20番染色体で起きるのに対し、線維芽細胞においては上記両染色体のセントロメアが交互に収縮していた。上記著者らは、機能性DNA配列の構造が修飾される結果、セントロメア特異的タンパク質への正常な結合が妨げられ、セントロメアが不活化することを示唆した。上記著者らはまた、クロイツフェルト・ヤコブ病で認められる海綿状グリオニューロナル(glioneuronal)ジストロフィーを想起させる上記患者の疾患は、プリオンタンパク質の変異が生じた後に発生すると主張した。
【0038】
Collinge et al.(1990)は、家族性であれ孤発性であれ、「プリオン病」という用語が診断用語として、より適切であると示唆した。GSD病に罹患したインディアナ州の家族(Indiana kindred)の症例が、Farlow et al.(1989)及び Ghetti et al.(1989)によって報告された。遺伝子予測にPrP遺伝子分析を採用することには、遺伝性の遅発性神経変性疾患の発症前検査の浸透度や合併症が不確実であるがゆえに生じる潜在的な問題がある。しかしCollinge et al.(1991)は、遺伝性プリオン病を抱える家族にとって、リスク保持者の発症前診断並びにCJD又はGSDの排斥を可能し、遺伝カウンセリングの質を向上させる機能が上記分析にはあると結論付けた。
【0039】
Gajdusek(1991)は、現在までに判明しているPRNP変異をチャート図にまとめた。すなわち単一アミノ酸の変化を起こす5種類の変異と、オクタペプチド反復がそれぞれ5、6、7、8又は9回行われる5ヶ所における挿入である。上記著者はまた、トランスサイレチン遺伝子(TTR;176300)において同定されたアミロイドーシスを惹起する18種類のアミノ酸置換をまとめた表も発表し、上述した2分類の疾患における挙動を比較した。
【0040】
Schellonberg et al.(1991)は、PRNP挿入変異と共に、CJD及びGSSDと関連するPRNP遺伝子の102、117及び200番目のコドンにおけるミスセンス変異を、アルツハイマー病の76家族、孤発性アルツハイマー病と推測される127症例、ダウン症候群の16症例、及び256正常対照例で調べたが、いずれの症例も上記のどの変異に対しても、ポジティブではなかった。Jendroska et al.(1994)は、特発性パーキンソン病(PD;168600)、多系統萎縮症、びまん性レビー小体病(127750)、スチール−リチャードソン−オルゼウスキー(Steele-Richardson-Olszewski)症候群(260540)大脳皮質基底核変性症、及びピック病(172700)を含む種々の運動障害を呈する90症例において、組織ブロット免疫染色法により病原性プリオンタンパク質の検出を試みた。これらの脳標本のいずれからも病原性プリオンタンパク質は同定されなかったが、クロイツフェルト・ヤコブ病に罹患している4対照例からは容易に検出された。Perry et al.(1995)は、54家族からのアルツハイマー病患者82名(家族内症例を30件含む)と、これら患者とそれぞれ同年齢の対照群39名のプリオン遺伝子座における変異をSSCPによりスクリーニングした。その結果、第68コドン近傍に24bpの欠失が認められたが、それは遅発性アルツハイマー病家族の成員中、罹患した兄弟姉妹2名と子供1名においてgly−proに富む5個のオクタペプチド反復のうちの1個が消失したものだった。しかし、同じ家系で罹患した他の家族成員には、このような欠失が認められなかった。ただし遅発性アルツハイマー病家族の非罹患成員6名のうち年齢が一致する対照3名においても上記の欠失が認められた。これとは別のオクタペプチド反復の欠失が同じアルツハイマー病家族のさらに別の成員3名において観察されたが、その3名のうち2名は罹患していた。これら以外に変異は認められなかった。Perry et al.(1995)は、プリオンタンパク質の変異とアルツハイマー病との間に関係があるとの証拠はないと結論した。
【0041】
Hsiao et al.(1990)は、分析対象家族のうち3名のPrP遺伝子のオープンリーディングフレームに変異は認められなかったが、その後Hsiao et al.(1992)は、phe198−to−ser変異を明らかにした。176640.0011を参照のこと。
【0042】
Palmer and Collinge(1993)は、プリオンタンパク質遺伝子における変異及び多型性について再検討を行った。
【0043】
Chapman et al.(1996)は、プリオンタンパク質遺伝子の第200コドンにおける病原性リシン変異(176640.0006)に対してヘテロ接合性で、第129コドンでのメチオニンに対してホモ接合性である患者の致死性不眠症及び重症視床病理について報告した。上記著者らは、この表現型と、第178コドンでの変異(176640.0010)に関する表現型との類似性を強調した。
【0044】
Collinge et al.(1996)は、ヒト・プリオン病を広範な症例から調べ、種々の天然型プリオン株型を示す可能性があるプロテアーゼ耐性PrPのパターンを同定した。上記著者らは「新変異型」CJDのプロテアーゼ耐性PrPを研究して、かかるPrPが、他の形態のCJDから分子基準によって区別され得る別種の株型であるか否かを判定した。Collinge et al.(1996)は、ウエスタンブロット法を行った結果、孤発性CJD及び医原性CJD(死体の脳から得た成長ホルモンの投与に通常起因する)が、異なる3種類のプロテアーゼ耐性PrPパターンを伴うことを明らかにした。1型及び2型は、孤発性CJDと一部の医原性CJDにおいて認められる。3番目の型は、抹消経路からプリオンに暴露されることによる後天性プリオン病で認められる。Collinge et al.(1996)は、「新変異型」CJDが、PrPグリコシル化の特徴的なパターンを含むウエスタンブロット上でみられるプロテアーゼ耐性PrPの独特で高度に一貫した出現と会合していることを明らかにした。近交系マウスにCJDを伝達すると、接種したCJDに特有のPrPパターンを示した。牛海綿状脳症(BSE)プリオンを伝達すると「新変異型」CJDのグリコフォーム率と極めて近いグリコフォーム率パターンが生じた。上記著者らは、サルにおける実験的BSEと、家猫における天然型BSEのPrPが、実験的マウスBSE及び「新変異型」CJDのものと区別できないグリコシル化パターンを示すことを見出した。Collinge et al.(1996)の報告に対し、Aguzzi and Weissmann(1996)による再検討が行われたが、その再検討においてCollinge et al.(1996)はBSEと関連性のある「新変異型」CJDの神経病理性及び臨床上の性質の再検討を行ったのであると結論された。
【0045】
Prusiner(1996)は、プリオン病に関する分子生物学及び遺伝子学に包括的な再検討を加えた。Collinge(1997)も同様に、この観点から再検討した。Collingeは、ヒト・プリオン病の3種類のカテゴリー、すなわち(1)クールー及び医原性CJDを含む後天性、(2)定型及び非定型CJDを含む孤発性、(3)家族性CJD、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、致死性家族性不眠症、及び種々の非定型痴呆を含む遺伝性、を認識した。Collinge(1997)は、当時までに報告されていた12種の病理性変異を表に示した。疾患表現型をコードするタンパク質の能力は、生物学に重要なメンデルの法則に依拠しない伝達性を表していることを記した上でCollinge(1997)は、進化の過程で、多様な種において他のタンパク質にかかる方法が用いられてこなかったとすれば驚きであると述べている。同著者はまた、酵母にみられるプリオン様機構の同定についても言及した(Wickner, 1994; Ter Avanesyan et al., 1994)。
【0046】
Horwich and Weissman(1997)は、関連性のある伝達性神経変性疾患群におけるプリオンタンパク質の中心的役割について再検討した。そのデータからはプリオンタンパク質が疾患プロセスに必要であることが示され、プリオンタンパク質が、その正常な可溶性αへリックス構造から不溶性βシート構造へと構造転化することが疾患及び感染の発生と密接に関連していることが示された。上記著者らは、かかる転化プロセスの多くは未だ解明されていないと記している。
【0047】
Mallucci et al.(1999)は、常染色体優性分裂により、初老期痴呆、運動失調及び他の神経精神症状がみられる英国の大家族について報告した。特定の個々人について種々の時期に、脱髄疾患、アルツハイマー病、クロイツフェルト・ヤコブ病、及びゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群の診断を行った。Mallucci et al.(1999)はまた、上記家族と血縁関係にあると思われるアイルランドの家族についても記載しており、その記載においては罹患した個人に対し、多発性硬化症、痴呆、大脳皮質基底核変性症、及び「新変異型」CJDの診断が考慮された。分子研究を行った結果、PRNP遺伝子のala117−to−valに変異が認められたことから、上記罹患者の疾患がプリオン病であると同定した。上記著者らは、上述の血縁関係にある両家族にみられる表現型の発現に多様性があることを強調し、「新変異型」CJDが疑われる症例を含め、非定型初老期痴呆又は神経精神性特性や運動失調を呈する個人に関しては、PRNP分析により遺伝性プリオン病を除外すべきであると提唱した。Hegde et al.1999は、伝達性プリオン病と遺伝性プリオン病には神経変性に至る共通の経路があることを明らかにした。Hegde et al.1999は、異常な折りたたみを有するアイソフォームである蓄積したPrPScがもつ神経変性疾患を引き起こす際の有効性は、宿主がコードするPrPがCtmPrPと呼ばれる膜透過体となって偏在することに依存していることを観察した。さらに、伝達性プリオン病におけるPrPSc蓄積の時間経過に密接に引き続いてCtmPrP生成量が増加する。従って、PrPScが蓄積することにより、CtmPrPの発生又は代謝に関与する現象がイントランスで調節されていることが明らかである。以上のデータからHegde et al.1999は、CtmPrPに介される神経変性現象が、遺伝性プリオン病と感染性プリオン病の病原における共通のステップであるかもしれないと結論した。
【0048】
PrPの非病原性細胞アイソフォームであるPrPCは、神経細胞に強く発現される遍在型(ユビキタスな)糖タンパク質である。Mouillet-Richard et al.(2000)は、抗体仲介架橋を介したPrPC依存性シグナルトランスダクションを調べるためにマウス1C11神経細胞分化モデルを用いた。この1C11クローンは、上皮形態を有し、神経細胞会合機能をもたない委任神経外胚葉幹細胞である。1C11細胞は誘導を受けて神経細胞様形態を発達させ、セロトニン作動性細胞又はノルアドレナリン作動性細胞のいずれかへと分化する。これら2つの分化経路のどちらを選択するかは、どのような誘導体が用いられたかに依存する。PrPCが特異的抗体と結合することにより、セロトニン作動性細胞又はノルアドレナリン作動性細胞の双方においてチロシンキナーゼFYN(137025)のリン酸化レベルが著減した。PrPCのFYNへの結合は、カベオリン−1(601047)依存性だった。Mouillet-Richard et al.(2000)は、クラトウリン(clathourin)(118960を参照のこと)もまた、この結合に関与している可能性のあることを示唆した。PrPC依存性のFYN活性化を誘導する1C11細胞株の能力は、完全に分化したそのセロトニン作動性又はノルアドレナリン作動性幹細胞に限定されていた。さらに、PrPCのシグナリング活性は主として神経突起で生じた。Mouillet-Richard et al.(2000)は、PrPCがシグナルトランスダクションタンパク質である可能性を示唆した。
【0049】
マッピング
体細胞ハイブリダイゼーション及びインサイチューハイブリダイゼーションを組み合わせることにより(Sparkes et al., 1986)、或いは染色体をソーティングして得たDNAをスポットブロッティングすることにより(Liao et al., 1986)、プリオン関連タンパク質のヒト遺伝子を20p12−pterにマッピングした。Robakis et al.(1986)もまたインサイチューハイブリダイゼーションによりPRNP遺伝子座を20pに定めた。
【0050】
20pの中間部欠失を分析した結果からSchnittger et al.(1992)は、pter−−PRNP−−SCG1(118920)−−BMP2A(11226−−PAX1(167411)−−cenの順番の遺伝子座を明らかにした。Puckett et al.(1991)は、PRNP遺伝子の5−primeであり、高いヘテロ接合性を有するRFLPを同定した。このRFLPは、20番染色体のpter−p12領域における有用なマーカーとして使える可能性がある。
【0051】
Riek et al.(1998)は、マウス・プリオンタンパク質の精製NMR構造を用いて、遺伝性のヒト伝達性海綿状脳症の構造基礎を解明した。マウス・プリオンタンパク質細胞型においては、疾病特異的サブドメインの存在を示唆する変異部位の空間クラスターは観察されなかった。ヒトPRNP第129位置における多型性が、asp178−to−asn(D178N;176640.0007)変異から遮断されている疾患表現型に対して高度に特異的な影響を及ぼすことが観察されたが、第128残基と第178残基との水素結合がかかる影響の構造的基礎となっている。全般的にみて、一部の疾患関連アミノ酸の置換が発生するだけで、PRNPの細胞型の安定性が減じられることをNMR構造は示しており、変異タンパク質にみられる僅かな構造上の差異が、種々多様な方法により分子間のシグナリングに影響することが示唆される。
【0052】
Windl et al.(1999)は、ドイツ・クロイツフェルト・ヤコブ病サーベイランスユニットと呼ばれる、プリオン病が疑われる患者578名のPRNP遺伝子のコーディング領域における変異及び多型性の調査を4年半にわたり実施した。上記著者らは、病原性であることが既に報告されていたミスセンス変異が認められた40症例を見出した。その中ではD178N変異が一番多かった。それらの症例全てにおいてD178Nは第129コドンのメチオニンと結びついており、それにより定型致死性家族性不眠症遺伝子型がもたらされていた。新規なミスセンス変異が2例と、サイレントな多型性が数例認められた。Windl et al.(1999)は、文献記載中の図1にPRNPのコーディング領域における既知の病原性変異を図式化した。
【0053】
歴史
Aguzzi and Brandner(1999)は、「プリオン遺伝子学(the genetics of prions)」を再検討したが、上記著者らが伝達性海綿状脳症を引き起こす不可解な作用因子と定義したプリオンは、非遺伝性病原のパラダイムに含まれることから、「プリオン遺伝子学」というのは言葉の矛盾ではないかとの疑問を呈した。Griffith(1967)が初めて提唱したタンパク質オンリー(protein-only)仮説によれば、プリオン感染性は、現在ではPRNPと呼ばれる細胞タンパク質の異常型であるスクレイピータンパク質と同一である。スクレイピープリオンが細胞プリオンを集めて、それらをさらにスクレイピープリオンに転化させることにより複製が行われる。新たに形成されたスクレイピープリオンが転化サイクルに参加して連鎖反応が生じ、スクレイピープリオンがこれまでにない速さで蓄積されることになる。Prusiner(1982)が病原性タンパク質を精製し、Weissmannら(Oesch et al., 1985; Basler et al., 1986)が、その正常細胞型タンパク質であるPRNPと同様にスクレイピータンパク質もコードする遺伝子をクローニングしてからは、上記の仮説は広く認められ、受け入れられるようになった。タンパク質オンリー仮説から予測されたように、Prnp遺伝子を除去することにより、プリオンに暴露させたマウスが実験的スクレイピーに罹患することが阻止されたことを、Weissmannのグループ(Bueler et al., 1993)が報告したことから、上記の説にさらに弾みがついた。Aguzzi and Brandner(1999)は、プリオン病の家族性形状とプリオン遺伝子の変異との関連性に関する発見は、非常に画期的なものであると考えた。
【0054】
動物モデル
プリオンの構造遺伝子(Prn−p)をマウス2番染色体にマッピングした。マウスの第2遺伝子座であり、Prn−pと密接な関連性があるPrn−iは、マウスにおけるスクレイピーの潜伏期間の長さを決定する(Carlson et al., 1986)。スクレイピーの潜伏期間を制御する別の遺伝子であるシンボル化した(symbolized)Pid−1はマウス17番染色体に位置している。プリオン潜伏期間に影響を及ぼす量的形質遺伝子座(QTL)についても第9、11章(Stephenson et al 2000)、第2、11、12章(Lloyd et al 2001)、及び第2、8、4、15章(Manolatron et al 2001)に記載がある。Scott et al.(1989)は、シリアンハムスターから得たプリオンタンパク質遺伝子をハーバリングするトランスジェニックマウスに、ハムスター・スクレイピープリオンを接種すると、ハムスターに特有のスクレイピー感染力、潜伏期間、及びプリオンタンパク質アミロイドプラークを示すことを報告した。Hsiao et al.(1994)は、高レベルの変異型P101Lプリオンタンパク質を発現する2系統のトランスジェニックマウスは、実験的マウス・スクレイピーと識別ができない神経疾患及び中枢神経系病理を発生した。ヒト・プリオンタンパク質の第102アミノ酸は、マウス・プリオンタンパク質の第101アミノ酸に対応しているので、P101Lマウス変異は、ゲルストマン・ストロイスラー病をヒトに発生させるpro102−to−leu変異(176640.0002)に相当する。Hsiao et al.(1994)は、P101Lトランスジーンを低レベルに発現するマウスと、変異型P101Lプリオンタンパク質を高レベルに発現するトランスジェニックマウスの脳抽出物を投与されたシリアンハムスターとに、神経変性が連続して伝達されたことを報告した。上記高発現トランスジェニックマウスの脳には低レベルの感染性プリオンしか蓄積しなかったにもかかわらず、接種を受けた動物に連続して疾患が伝達されたことは、これら未接種動物の脳においてもプリオンのデノボ形成が生じたことを示唆しており、プリオンに外来核酸がないことのさらなる証拠となった。
【0055】
Bueler et al.(1994)、Manson et al.(1994)、及びSakaguchi et al.(1996)は、PrPノックアウトマウスに関する研究を報告した。Sakaguchi et al.(1996)は、自分たちが作製したPrPノックアウトマウスは、70週齢までは一見正常だが、その時点から一様に小脳性失調症の兆候を呈し始めたと報告した。組織学的研究により、小脳回の大部分においてプルキニェ細胞(Purkinje cells)が顕著に消失していることが判明した。小脳萎縮及び第四脳室拡張についての記載がある。同様の病理学的変化は、Bueler et al.(1994)及びManson et al.(1994)が作製したPrPノックアウトマウスでは観察されなかった。Sakaguchi et al.(1996)は、この結果の違いは、マウス系統の違い、或いはPrP遺伝子内におけるノックアウトの程度の違いに起因する可能性があると述べた。特筆すべきは、記載されている3系統全てのノックアウトマウスにおいてプリオン感染感受性が消失していたことである。
【0056】
Collinge et al.(1994)は、PrPヌルマウスに関する自らの研究に基づき、正常なシナプス機能にとってプリオンタンパク質が必要であると結論付けた。上記著者らは、細胞性PrPが翻訳後に修飾された形態であるPrPScの生成に伴うドミナントネガティブ効果により、遺伝性プリオン病が引き起こされ、究極的には機能性PrP(PrPC)が漸進的に消失すると主張した。Tobler et al.(1996)は、PrPヌルマウスにおいてサーカディアンリズムや睡眠の変化がみられることを報告し、かかる変化が致死性家族性不眠症における睡眠変化との興味深い類似性を示すものであると強調した。
【0057】
PrPを欠損するマウスは正常に発達するが、スクレイピー耐性であり、PrPトランスジーンを導入することにより、スクレイピー病に対する感受性が回復する。かかる活性に必要なPrP内の領域を同定するため、Shmerling et al.(1998)は、アミノ近位(amino-proximal)に欠失をもつPrPを発現するPrPノックアウトマウスを調製した。驚くべきことに、第32〜121残基又は第32〜134残基は欠失しているが、それより短い欠失のないPrPは、生後1〜3ヶ月という早い段階で重篤な運動失調、及び小脳の顆粒層に限定される神経細胞死を惹起した。この欠陥は、野生型PrP遺伝子の複製を1つ導入することにより完全に防ぐことができた。Shmerling et al.(1998)は、上述の切断PrPが非機能的であり、PrP様機能を有する別の分子と、共通リガンドを目指して競合するのではと推測した。
【0058】
Telling et al.(1996)は、プリオン病における基本的現象は、細胞性プリオンタンパク質が病原性アイソフォームPrPScへと転化する該タンパク質における構造変化であるとする見解を支持する観察結果を報告した。上記著者らは、致死性家族性不眠症(FFI)においては、脱グリコシル化後のPrPScのプロテアーゼ耐性断片の大きさは19kDであるのに対し、他の遺伝性及び孤発性プリオン病におけるそれは21kDだったことを見出した。FFI患者の脳から得た抽出物は、ヒト−マウスキメラPrP遺伝子を発現するトランスジェニックマウスへの接種約200日後に疾患を伝達し、19−kDのPrPSc断片の形成を誘導したが、他方、家族性及び孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病患者の脳から得た抽出物を接種した場合は、上述のマウスに21−kDのPrPSc断片が産生された。Telling et al.(1996)の結果は、PrPScの構造が初期PrPSc形成を指示する鋳型として機能することを示しており、PrPSc構造内において多様性が暗号化されている各種プリオン株を説明する機構が示唆された。
【0059】
Lindquist(1997)は、「一見無関係の現象が予期せぬ衝突をすることにより生まれた最もエキサイティングな科学の概念のひとつ」を指摘した。上記著者が論じているのは、酵母遺伝学における2つの不可解な問題は、プリオン仮説と同様の仮説により説明できるかもしれないとするWickner(1994)による示唆についてである。Two- yeast変異から、表現型の遺伝はときとして異なる核酸が遺伝するというより、むしろ異なるタンパク質構造が遺伝することに基づいている可能性があることを確信させる例が得られた。従って、酵母はプリオン様プロセスを研究する上で新しい重要なツールとなる可能性がある。さらに上記著者は、プリオンが病原性である必要はないと示唆した。実際、同著者は高分子の自発的構造変化は、クロマチン構造の変化に関連する現象等の後成現象だけでなく、発達途上で調節される一部の正常な現象をも含めた多様で正常な生物学的プロセスの中心に位置していることを示唆した。
【0060】
Hegde et al.(1998)は、位相体の相対比率を変化させるPrP変異を発現するトランスジェニックマウスを用いて種々のPrP位相体の形態を研究した。ある位相体は完全に小胞体腔へと転位し、PrP−Secと命名された。他の2つの位相体は、カルボキシル末端側から体腔側(PrP−Ctm)へ、又はアミノ末端側から体腔側(PrP−Ntm)へのいずれかの方向性により小胞体膜全体に及んでいる。高レベルのPrP−Ctmをもたらす変異をハーバリングするF2産生マウスは、58±11日に神経変性を発生した。PrPの過剰発現がその原因ではなかった。神経病理はスクレイピーのものと類似の変化を示したが、PrPScは存在しなかった。PrP−Ctmの発現レベルは疾患の程度と相関していた。
【0061】
Supattapone et al.(1999)は、野生型PrPを欠損する(Prnp−/−)トランスジェニック(Tg)マウスにおいて、大きな欠失を2つ有する106アミノ酸の編集後PrPが発現することから、プリオンの伝播が支持されると報告した。完全長PrPScを含むRocky Mountain laboratory(RML)プリオンは、約300日後にTg(PrP106)Prnp−/−マウスに疾患を発生させたが、他方、PrPSc106を含むRML106プリオンを伝達した場合、反復継代により約66日後にTg(PrP106)Prnp−/−マウスに疾患を発生させた。約165日以内にスクレイピーを発病したTg(PrP106)Prnp+/−マウスに野生型のマウスPrPCを共発現させることにより、RMLプリオンの継代に対する人工的伝達障壁が消失し、野生型のマウスPrPが、RML106プリオンの複製をイントランスで加速する作用を有していることが示唆された。精製PrPSc106は、プロテアーゼ耐性であり、糸状体を形成し、非変性洗浄剤に不溶だった。
【0062】
Kuwahara et al.(1999)は、Prnp−/−及びPrnp+/+マウスから海馬細胞株を樹立した。14日齢マウス胚から、かかる培養物を樹立した。研究対象とした6細胞株は、その発達段階は異なるものの、全て神経前駆細胞系統に属していた。Kuwahara et al.(1999)は、細胞培養物から血清を除去するとPrnp−/−細胞ではアポトーシスが生じたが、Prnp+/+細胞では生じなかったことを見出した。プリオンタンパク質又はBCL2遺伝子に形質導入を行うことにより、無血清条件下におけるPrnp−/−細胞のアポトーシスが抑制された。Prnp−/−細胞はPrnp+/+細胞のものより短い神経突起を伸張していたが、PrPを発現させることにより、Prnp−/−細胞の神経突起の長さが伸びた。Kuwahara et al.(1999)は、かかる知見から、野生型プリオンタンパク質の機能消失がプリオン病の病理の一部要因になり得ると結論した。Yeast−2−ハイブリッドシステムにおいてBCL2遺伝子がプリオンタンパク質と相互作用することが既に報告されていたことから、上記著者らはBCL2遺伝子に形質導入を試みた。その結果は、哺乳動物細胞においてもBCL2とPrPとの間に何らかの相互作用があることを示唆するものだった。
【0063】
スクレイピー感染マウスにおいてプリオンは、循環B及びTリンパ球でなく、脾臓B及びTリンパ球と会合することが見出され、また濾胞樹状細胞を含む間質において見出される。成熟濾胞樹状細胞の形成及び維持には、膜結合型リンフォトキシン−α/βを発現させるB細胞の存在が必要とされる。可溶性リンフォトキシン−β受容体でマウスを処理すると、脾臓から成熟濾胞樹状細胞が消失する。Montrasio et al.(2000)は、上記処理により脾臓でのプリオン蓄積が消失し、またスクレイピーを腹腔内接種した後に神経侵入が遅延したことを明らかにした。Montrasio et al.(2000)は、脾臓におけるプリオン複製にとって濾胞性樹状細胞が主要な部位であることが、自分たちの研究結果により証明されたと結論した。
【0064】
Chiesa et al.(1998)は、14回のオクタペプチド反復を含む変異プリオンタンパク質を発現するトランスジェニックマウス系統を作製した。この変異プリオンタンパク質のヒトホモログは、遺伝性プリオン痴呆と会合する。この挿入部はPRNP遺伝子において同定されたものとしては当時最大のものであり、進行性痴呆及び運動失調によって、また小脳及び基底核におけるPrP含有アミロイドプラークの存在によって特徴付けられるプリオン病と会合していた(Owen et al., 1992; Duchen et al., 1993; Krasemann et al., 1995)。上記の変異タンパク質を発現するマウスは、トランスジーンアレイがそれぞれホモ接合性かヘミ接合性であるかにより、65日齢又は240日齢で顕著な運動失調を伴う神経系の疾患を発症した。変異PrPは誕生直後からプロテアーゼに耐性及び洗浄剤に不溶な形態に転化したが、その形態はPrPのスクレイピーアイソフォームに似たものだった。かかる形態は、マウスの生涯にわたり脳の多くの領域で劇的に蓄積した。PrPが蓄積するに連れ、小脳では顆粒細胞の大規模なアポトーシスが生じた。
【0065】
実験動物
ここに用いる「実験動物(test animal)」なる用語は、本発明の方法に有用な動物を指す。実験動物は、プリオン感染に感受性を示す動物ならいずれの動物でもよい。実験動物は哺乳動物であることが好ましい。より好ましくは、実験動物が成熟哺乳動物であることである。実験動物がラット、ハムスター、ウサギ、モルモット、又はマウスであることがより好ましい。実験動物がマウスであることがより好ましい。最も好ましい実験動物はSJLマウスである。
【0066】
ここに用いる「SJLマウス」なる用語は、SJL系統のマウス、又はSJL系統由来マウスのことである。「SJL系統由来マウス」なる用語については以下に詳述する。
【0067】
Crispens(1973)は、SJLマウスに関する一般的な生物学的情報に再検討を加えた。SJLマウスの寿命は従来の条件下では短い(通常、雄で472日、雌で395日)。SJLマウスの腫瘍総発生率は高く(Storer, 1966)、平均月齢約13ヶ月のSJLマウスの約90%が細網細胞肉腫(ホジキン病に似ている)を発病する(Murphy, 1963; Crispens, 1973; Fujinaga et al., 1970, 1970)。SJL細網細胞腫瘍独特の特徴としては、22日という早期に新生物発生前病斑が検出されるように、規則正しくかつ早期に顕現することが挙げられる(Potter, 1972)。免疫応答を効率よく増幅させることにより、自己免疫性や腫瘍発生がもたらされる可能性も考えられる(Owens and Bonavida, 1976)。SJLマウスは、恐らく闘争に関連して起きると思われる突発性アミロイドーシスを高頻度に発病し(Page and Glenner, 1972)、γ−1及びγ−2異常蛋白血症(Wanebo et al., 1966, 1966)、及び増殖性神経網膜症(Caffe et al., 1993)を発病する。
【0068】
生理学及び生化学の点からみると、SJLマウスの24週齢時における血漿コレストロール値は低く(Weibust,1973)、代謝率は高く(Storer, 1967)、雌の血清セルロプラスミン値は低く、雄における同値は中程度である(Meier and MacPike, 1968)。SJL系統マウスの最高血圧は高く(Schlager and Weibust, 1967)、雄の血漿コリンエステラーゼ活性は低く(Angel et al., 1967)、平均心拍数は高く(Blizard and Welty, 1971)、脳内スフィンゴシンは高レベルで脳内ステロールは低レベルである(Sampugna et al., 1975, 1975)。静脈血は低pHであり(Dagg, 1966)、半合成高脂肪食を与えてもアテローム性動脈硬化発生に耐性を示す(Nishina et al., 1993)。インビボ及びインビトロのいずれにおいても筋肉細胞の高度な内在性筋原性を示すこと(Maley et al., 1994, Mitchell et al, 1995)もその特徴である。
【0069】
SJLマウスの解剖所見は、脳重量が軽く(Storer, 1967)、脊髄が小さく(Roderick et al., 1973, 1973)、また小脳においては、虫部第IV小様及び虫部第V小葉(山頂の背側及び腹側の小葉)の間に山頂間の溝が認められない(Cooper et al., 1991)。高脂肪食摂取マウスの死体の脂肪率は低く(West et al., 1992)、網膜神経節細胞数は少ない(Williams et al., 1996)。SJLマウスの大腿骨にみる骨密度は高い(Beamer et al., 1996)。
3−メチルコラントレンによる皮下腫瘍誘導(Kouri ET al., 1973, 1973)、X線照射(Roderick, 1963)、高圧酸素(Hill et al., 1968, 1968)、真菌毒素のスポリデスミンを500μg経口投与することによる胆道損傷(Bhathal et al., 1990)のそれぞれに対し、SJLマウスは耐性を示す。SJLマウスはカゼイン注入による脾臓アミロイドーシスの誘導(Clerici, 1972)、DMBAによるリンパ性白血病、骨髄性白血病の誘導(Crispens, 1973)、オゾンに誘発される気管電位の低下(Takahashi et al., 1995)、コカイン使用による体重減少(但しかかる体重減少はアニソマイシンにより緩和される)、(Shimosato et al., 1994)のそれぞれに対しては感受性を示す。また、気道はアセチルコリンに低反応性で(Zhang et al, 1995)、2本のビンから選択する状況下にあって、自発的にモルヒネを摂取することは少ない(Belknap et al., 1993)。
【0070】
SJLマウスは実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)誘導に対し感受性を示し(Levine and Sowinski, 1973)、リンパ球フィトヘムアグルチニン低応答性である(Heiniger et al., 1975, 1975)。SJLマウスは、ウシγ−グロブリンの低量投与に対し (Levine and Vaz, 1970)、DNP−スカシ貝ヘモシアニンに対し(Borel and Kilham, 1974)、(Pro66、Gly34)に対し(Fuchs et al., 1974) 、それぞれ弱い免疫応答を示し、GAT(Glu60、Ala30、Tyr10のランダムテルポリマー)に対しては(Dorf et al., 1974, 1974)、何の免疫応答も示さない。SJL系統はアナフィラキシーショックに高感受性だが(Treadwell, 1969)、免疫寛容誘導に対し耐性を示す。(Fujiwara and Cinader, 1974)。SJL系統は、IgE及びIgG1に介される受身皮膚アナフィラキシーに対し、高感受性を示し(De Souza et al., 1974, 1974)、赤血球は高い凝集能を示す(Rubinstein et al., 1974, 1974)。デキストランには低応答性で(Blomberg et al., 1972, 1972)、BALB/c及びC3H系統とは対照的に、III型肺炎球菌性多糖体に対する免疫応答は42週までに減少する(Smith, 1976)。
【0071】
SJLマウスは、実験的自己免疫性甲状腺炎誘導に対し、感受性を示す(Vladutiu and Rose, 1971a)。イソプロテレノールによるホルモン刺激に対する胸腺細胞の応答は周期性(5〜9日間)を有する。かかる応答においては、応答の強度(約6倍に変化する細胞内cAMPのピーク値)が大きく変化し、また、その応答パターン、つまりホルモンに誘導される非感受性化が直ちに発生するか否かというパターンが大きく変化する。SJLマウスは紫外線B波による接触性過敏症による免疫抑制に対し耐性であり(Noonan and Hoffman, 1994)、免疫刺激性7−アリル−8−オキソグアノシンに対し、ナチュラルキラー細胞は低応答性である(Pope et al., 1994)。また、欠損T細胞受容体に誘発されてインターロイキン−4を産生し、NK1.1抗原に対してはT細胞が不在である。しかし、ナチュラルキラー様T細胞は、上記の欠点にも関わらず、正常に発達する(Beutner et al., 1997)。殆どの細胞は培養下で、より早く成長し、その顆粒には高レベルのヒスタミン及びTNF−αが含まれる(Bebo et al., 1996)。SJLマウスは、血清補体C5を高レベルに有している(Lynch and Kay, 1995)。
【0072】
SJLマウスは、脳心筋炎ウイルスにより糖尿病を発病し(Boucher et al., 1975)、フレンドウイルス感染による白血病発症に高い感受性を示す(Dietz and Rich, 1972)。麻疹ウイルスには耐性で(Rager-Zisman et al., 1976)、弛緩性麻痺を発症するが、その後も生存するマウスは、タイラー脳脊髄炎(Theiler's encephalomyelitis)ウイルスを大脳内接種した後、著しい単核球浸潤や脊髄での活性的脱髄化を伴う独特な神経疾患を発病する。潜伏期間は2〜3ヶ月である(Lipton and Dal Canto, 1976)。SJLマウスは狂犬病ウイルス(SRV;street rabies virus)を腹腔内注入した場合、耐性を示し (Perry and Lodmell, 1991)、単純ヘルペスウイルス1型の神経毒性臨床単離物を経鼻感染させた後、ヒトにおける症状に似た単純ヘルペス脳炎(HSE)を発病する(Hudson et al., 1991)。ライム病(Borrelia burgdorferi)感染による心臓炎には耐性であり(Barthold et al., 1990)、蠕虫Mesocestoides corti感染による好酸球増加が顕著にみられ、寄生虫感染に対しても高感受性である。100匹のテトラチリジアを感染させた21日後における幼虫数は、全ての系統に比べ著しく多かったが(1000を超える)、NIH系統だけはSJLと同程度だった(Lammas et al.,1990)。SJLマウスは、ヘリコバクターフェリス菌に対して感受性を示し、胃体部における活性な慢性胃炎は、中症から重症であり、時間経過とともに悪化する(Sakagami et al., 1996)。
【0073】
SJLマウスに関しては、Victor A. McKusick et alが HYPERLINK "http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omim" http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omimで、その背景についてさらに教示している。そこからSJLマウスに関する以下の情報を抜粋した。
【0074】
SJLマウス系統(Festing, 1979)は、実験的自己免疫脳炎(EAE)等の誘導された自己免疫疾患、及び炎症性筋肉疾患に対し感受性である。また、SJLマウスの骨格筋は高い再生能力を有し、力の消失を伴う「炎症性ミオパチー」と称される特発的事象を示す。月齢の異なるSJLマウスの筋肉を用いた組織病理学的実験により、Bittner et al.,(1999)は、筋肉繊維の変性及び再生による変化や進行性線維症を含み、進行性筋肉ジストロフィーに匹敵する特性を見出した。組織学的にみてこれらの変化は、3週齢マウスで早くも観察された。これらの変化により、主に近傍筋肉群が影響を受けたが、遠位の筋肉はさほど影響されなかった。形態上の変化は徐々に進行する筋肉弱化の兆候と関連し、Bittner et al.(1999)によると、マウスを尾から吊り上げて調べたところ、僅か生後3週間でこのような弱化傾向が観察された。その表現型は、常染色体劣性形質として遺伝することが見出され、マウス6番染色体上の、DYSF遺伝子がマッピングされているヒト2p13とシンテニーな領域にマッピングされることが見出された。かようなシンテニーが存在することから、Bittner et al.(1999)は、上記マウスのジスフェリンを調べた。上記著者らは、SJLマウスの制御レベルが約15%低下したことを見出した。上記著者らは、SJLマウスのDysf遺伝子に171bpの欠失があることを発見し、それが4番目のC2ドメインの大部分を含む57個のアミノ酸の除去につながると推測した。最後のC2ドメインは、fer様遺伝子ファミリーの他のメンバーに保存されている。
【0075】
SJL系統由来マウス
ここに使用する「SJL系統由来マウス」なる用語は、一般的にSJLマウスの遺伝子を1若しくは2以上有する遺伝背景をもつマウスのことである。
【0076】
先祖にSJLをもつマウスならどれでもSJLマウス由来のマウスとなる。SJLマウス由来のマウスとしては、祖父母にSJLマウスをもつことが好ましい。SJLマウス由来のマウスとしては、両親にSJLマウスをもつことより好ましい。
【0077】
上記マウスは、血縁内繁殖、血縁関係のない繁殖や、当業者に既知の他の方法を含む種々の繁殖法によりSJLマウス由来とすることができる。
【0078】
SJLマウス由来マウスには、1若しくは2以上のトランスジーンを有するSJLマウスを含めてもよい。かかるトランスジーンは、SJLマウス由来、非SJLマウス由来、又はこれら以外のもの由来であってよい。
【0079】
好適な実施態様においては、SJL由来マウスが、遺伝的に異なる種から感染したプリオンに対して異なる感受性を示す。SJLマウスにおけるプリオン潜伏期間が短縮されることが好ましい。
【0080】
試料
ここに使う「試料」なる用語は、その本来の意味で用いる。試料は、本発明の方法によりプリオンの存在を試験した実存物質であればいかなるものでもよい。試料は、生物材料であるか、又は生物材料に由来するものであってもよい。
【0081】
かかる試料は、同じ若しくは異なる適切な材料を有する綿棒擦過物、生検、脳ホモジェネート、又はプリオン結合物質・対象から選択される1若しくは2以上の実存物質であるか、或いはこれら実存物質に由来するものであってもよい。
【0082】
試料の投与
試料は溶液と混合して調製することができる。このときの溶液は、リン酸緩衝生理食塩水等の緩衝液であることが好ましい。ハロタン/O2等の麻酔薬で麻酔した1若しくは2以上の実験動物を試料と接触させる。試料は、腹腔内(IP)又は経口経路などの適当な経路を通じて、或いは脳などの神経組織に直接導入することにより、実験動物と接触させることができる。腹腔内接種によりプリオンをマウスに接触させる場合の好適投与量は、10%ホモジェネートとして100μlである。経口投与によりプリオンをマウスに接触させる場合の好適投与量は、例えばBSEに感染したウシの脳を食餌にするとして10gである。接触方法としては、少なくとも試料の一部を注入等により実験動物の脳に導入する方法が好ましい。より好ましいのは、試料を実験動物の脳の右体壁葉に注入することである。試料と接触させた後、実験動物のインキュベーションを行ってもよい。ここに使う「インキュベーションを行う」という用語は、当技術分野では既知の封じ込め施設等の適切な条件下で実験動物を維持することである。
【0083】
実験動物の観察
プリオン感染症状の発生を調べることにより、実験動物におけるプリオン感染の症状を観察する。症状を呈した実験動物を定期的に調べ、苦痛を示す兆候が現れたら殺処分してもよい。マウスにおけるプリオン感染の臨床診断の基準は、症例も含めてCarlson (1986), Cell, 46, 503-511に記載されており、全身振戦、運動失調又は尾部硬直、或いはそれらの組合わせが他の例と共に挙げられている。実験動物の生検を任意に行ってもよい。生検は、プリオンが蓄積している臓器や組織など、適切なものであればいずれの臓器や組織に対してでも行うことができる。脳生検を実施することが好ましい。プリオンタンパク質の検出には、ウエスタンブロット法(Collinge et al. 1996, Nature 383, 685-690)、免疫測定法(WO9837210号に記載)、及び電気特性のプロービング(WO9831839号に記載)等、当技術分野においてよく知られている種々の方法を採用することができる。
【0084】
悪影響
ここに用いる「悪影響」なる用語は、上述したようにプリオン感染によって生じる神経機能障害の臨床兆候のことである。臨床兆候が認められた場合、実験動物の検査を毎日実施する。1若しくは2以上の実験動物の死期が確実に近い場合、組織病理学的研究及びプリオン感染確認のために、その脳を摘出する。
【0085】
プリオン潜伏期間
ここに用いる「プリオン潜伏期間」なる用語は、実験動物を試料に接触させてから実験動物が最初に悪影響を示すまで、又はプリオン感染により死亡するまでに要した経過時間のことである。
【0086】
本発明の方法によれば、潜伏期間が有利に短縮される。その結果、従来法に比べ、より迅速に、かつより経済的に結果が得られる。プリオン潜伏期間は196日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は189日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は169日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は151日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は149日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は139日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は117日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は100日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は89日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は78日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は65日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は51日以下であることが好ましい。プリオン潜伏期間は40日以下であることが好ましい。
【0087】
好適な実施態様においてプリオン潜伏期間は、vCJD誘起能を有するプリオン又はBSE誘起能を有するプリオンを含有する試料に実験動物を接触させてから、該実験動物が最初に悪影響を呈するまで、又はプリオン感染により死亡するまでに要した経過時間のことである。これらの時間は、プリオン試料の初代継代に関する時間であることが好ましい。以下の実施例等において、さらに説明を行う。
【0088】
発病率
ここに用いる「発病率」なる用語は、同一試料と接触させた実験動物のうち、プリオン感染症状を発症した実験動物の割合のことである。例えば10匹(頭)の実験動物を同じ試料に接触させ、その内4匹(頭)がプリオン感染症状を発症した場合の発病率は40%である。発病率が低いのは「種の壁」の特徴であるが、これについては以下に述べる。
【0089】
当技術の専門家には、発病率を考慮すれば本発明による方法において、一試料につき十分数の実験動物を使わなければならないことは明らかである。用いる実験動物の数は5〜50匹(頭)であることが好ましい。用いる実験動物の数が15〜40匹(頭)であることが、より好ましい。用いる実験動物の数が20〜30匹(頭)であることが最も好ましい。本発明における好適実施例での発病率は50%を超える。
【0090】
種の壁
ここに用いる「種の壁」なる用語は、種間の伝達を制限する1若しくは2以上の要素を意味する。
【0091】
種の壁の効果は、最有効経路を介した伝達を意図する場合であっても、新たな宿主へと継代される間のプリオン潜伏期間が延長される(Pattison, 1965)ことにある。これとは対照的に同種間におけるプリオンの伝達は、通常、非常に有効である。PrP配列やプリオン株の違いなどの多くの要素が、ドナーと受け手との間に存する種の壁に影響を及ぼしている。PrP配列は、プリオンの「種」を決定するところのドナーによって決定される。プリオン株は、PrPScの構造により決定されるようである(Collinge et al. 1996)。例えば、野生型PrPを発現するヒトに伝播するCJDプリオンは、ヒトPrPを発現するトランスジェニックマウスに非常に効果的に伝達する。同様な方法で伝播・伝達させたvCJDプリオンは、CJDプリオンの伝達特性とは全く異なる伝達特性を有している(Collinge et al. 1995; Hill et al. 1997)。やはり種の壁に影響する要素として、当初タンパク質Xと呼ばれたタンパク質の種特異性がある(Telling et al. 1995)。このタンパク質は、PrPCに結合してPrPScの形成を促進する。かかるタンパク質の1つが、プリオンタンパク質調節因子(PPMF)として米国特許第5962669号に記載されている。ある種の哺乳動物のPPMFは同種若しくは遺伝的に類似の種のPrPCとしか結合しないことからわかるように、PPMFは種特異的である。
【0092】
種の壁の生物学的効果は、平均潜伏期間の延長、潜伏期間幅の増大及び疾患に罹患する動物画分の減少をもたらすことにある(Hill et al. 1960)。最も広く研究されている種の壁は、ハムスターとマウスの間の伝達性を制限しているものである。例えばハムスター・スクレイピーSc237株(Hecker et al. 1992)は、マウスに対しては非病原性であると考えられ、トランスジェニックマウスに用いられて種々の研究に供されてきた。ハムスターPrP発現トランスジェニックマウスは、Sc237ハムスター・プリオンに対し、潜伏期間が短く高感受性を示す。近年、上述の種の壁が再評価されており、Sc237ハムスター・プリオンを接種された従来マウスは、臨床兆候を示さないものの、脳にあっては高プリオン価を蓄積していたことが見出されている(Hill et al. 1960)。
【0093】
種の壁の効果を低減することが本発明の有利な点である。本発明に従えば、例えばプリオン潜伏期間が196日以下に短縮されるようにして、プリオンを実験動物に効果的に伝達することが可能となる。
【0094】
遺伝的に異なる種
ここにおいて「遺伝的に異なる種」とは、プリオン感染に関して種の壁が存在する種同士のことである。結果として、遺伝的に異なる種から種へとプリオンを伝達する場合のプリオン潜伏期間は長くなる。例えばマウスは、ヒトやウシとは遺伝的に異なる種である。先行技術による方法では、遺伝的に異なる種から得た試料から、先行技術によるマウス系統(1若しくは2以上)等の実験動物を使ってプリオンを検出する場合、217±6日を超えるプリオン潜伏期間を要していた。
【0095】
遺伝的に異なる種間におけるプリオン潜伏期間が196日以下であることは、本発明の有利な点である。
【0096】
プリオンレベルの測定
別の特徴として本発明は、試料に含まれるプリオンの量を推定することに関する。かかる推定は、プリオン感染性試料に接触させた実験動物が臨床症状を呈するまでに要した時間、及びプリオン感染性試料に接触させた実験動物が死亡するまでに要した時間を調べることにより実現する。簡潔に説明すると、実験動物を試料(又はその希釈液)と接触させた時間を記録する。次に実験動物を観察して臨床症状の発生を調べる。マウスにおけるプリオン感染の臨床診断は上記してあり、またCarlson et al. (1986), Cell, 46, 503-511にもさらなる記載がみられる。臨床症状が発生した時間を記録する。再び実験動物を観察するが、その際、最初は1日1回で、死期が近づくにつれ観察回数を増やす。マウスが死亡すると、その時間も再び記録する。臨床症状の発生と死亡までの間隔を計算する。この時間間隔は、試料中のプリオン量と反比例関係にある。この時間間隔から時間係数を引いたものの対数は、試料中におけるプリオン数の対数の一次関数として表される。時間係数は、Pruisner et al. (1982), Annals. of Neurology 11 353-358)に従い、時間間隔と投与量との線形関係を最大化することにより決定される。
【0097】
トランスジェニック動物
ここに用いる「トランスジェニック動物」なる用語は、元々組換えDNA技術により導入された遺伝性補体に遺伝子を有する動物を指す。組換えDNA技術は当技術分野の専門家にはよく知られている。トランスジェニック動物においては、「遺伝子」なる用語は「トランスジーン」という用語と同義である。
【0098】
本発明の実験動物はトランスジェニック実験動物でもよい。かかる実験動物がトランスジェニックラット、トランスジェニックハムスター、トランスジェニックラビット、トランスジェニックモルモット、又はトランスジェニックマウスであることが好ましい。より好ましいのは、実験動物がトランスジェニックマウスであることである。実験動物がトランスジェニックSJLマウスであることが最も好ましい。
【0099】
異なる遺伝背景のトランスジーン(1若しくは2以上)を有する別のトランスジェニックマウスにおいて、かかるトランスジーンを増殖させ、SJL背景を有するマウスに導入する。
【0100】
外因性PrP遺伝子
ここに用いる「外因性PrP遺伝子」なる用語は一般的に、PrPのアミノ酸配列又はタンパク質を、その生来の並び方又は文脈とは異なるいずれかの形態でコードするいずれかの種のPrP遺伝子を指す。Gabriel et al. (1992), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 9097-9101 に、一般に知られているいくつかのPrP配列が記載されている。従って、「外因性PrP遺伝子」なる用語は、「人工PrP遺伝子」及び「キメラPrP遺伝子」をも包含するものである。ここにおいて「人工PrP遺伝子」及び「キメラPrP遺伝子」とは、組換えDNA技術を用い、当技術の専門家には公知の方法により構築された遺伝子のことである。ある動物のゲノムに外因性PrP遺伝子が含まれると、その動物に、本来その動物とは遺伝的に異なる種にしか感染しないプリオンによる感染に対して感受性が生じることになる。米国特許第5792901号、同5908969号、同6008435号及びWO9704814号に、人工PrP遺伝子を有するトランスジェニック動物に関する記載がある。
【0101】
実験動物が、1若しくは2以上の外因性PrP遺伝子が導入されたSJLマウスであることが好適である。外因性PrP遺伝子が哺乳動物のPrPをコードすることが好ましい。外因性PrP遺伝子が家畜若しくはヒトのPrPをコードすることが最も好ましい。
【0102】
家畜
ここに用いる「家畜」なる用語は、いずれの飼育動物をも意味する。豚、羊、牛、又は雄牛から選択される1若しくは2種以上の家畜であることが好ましい。家畜が牛又は雄牛であることがより好ましい。
【0103】
調節配列
本発明の適用例の中には、インビボなどで実験動物にコード配列の発現を指令することができる調節配列に、ポリヌクレオチドをオペラブル(operable)に結合させる場合もある。本発明には一例として、1若しくは2以上のトランスジーンに調節配列をオペラブルに結合させて該遺伝子の発現を調節することが含まれる。1若しくは2以上の外因性PrP遺伝子の発現は、プリオン潜伏期間を延長又は短縮させるべく調節される。ウシ若しくはヒト由来の1若しくは2以上の外因性PrP遺伝子の発現が、SJLマウス等のトランスジェニック動物において調節される点が有利である。
【0104】
WO99/50404号に、外因性PrP遺伝子が誘導発現されるトランスジェニック動物及びその使用法が記載されている。
【0105】
「オペラブルに結合」なる表現は、説明にある成分同士が、互いにそれ自身の意図どおりに機能し得る並列関係にあることを意味する。コード配列に「オペラブルに結合」する調節配列は、制御配列に適合する条件下でかかるコード配列が発現されるように結合しているのである。
【0106】
「調節配列」なる用語には、プロモーターやエンハンサー、また他の発現調節シグナルが含まれる。
【0107】
「プロモーター」なる用語は、例えばRNAポリメラーゼ結合部位のように、当技術分野における通常の意味で使われる。
【0108】
選択した発現宿主における目的タンパク質の発現や、必要なら分泌レベルも増強させる機能を有する、及び/又はポリペプチド発現を誘導的に制御する機能を有する、例えばプロモーター、分泌リーダー及び末端領域などの異種調節領域を選択することにより、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現もまた強化される。
【0109】
ヌクレオチド配列(1若しくは2以上)は、少なくともプロモーターにオペラブルに結合させる。
【0110】
ポリペプチドをコードする遺伝子に生来備わるプロモーター以外にも、かかるポリペプチドの発現を指示する他のプロモーターを使用してもよい。所望の発現宿主に上記ポリペプチドの発現を指示する効率を考慮してプロモーターを選択する。
【0111】
別の実施態様では、構成性プロモーターを選択して、特定ポリペプチドの発現を指示してもよい。誘導基質含有培地で発現宿主を培養する必要がなくなるという点において、上記発現構築物はさらに有利である。
【0112】
真菌発現宿主に用いるのに好適な強力な構成性プロモーター及び/又は誘導性プロモーターとしては、キシラナーゼ(xlnA)、フィターゼ、ATP合成酵素、サブユニット9(oliC)、トリオースリン酸イソメラーゼ(tpi)、アルコールデヒドロゲナーゼ(AdhA)、α−アミラーゼ(amy)、アミログルコシダーゼ(glaA遺伝子のAG−)、アセトアミダーゼ(amdS)、及びグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(gpd)の各真菌遺伝子から得られるプロモーターが列挙される。
【0113】
強力な酵母プロモーターとしては、アルコールデヒドロゲナーゼ、ラクターゼ、3−ホスホグリセリン酸キナーゼ、及びトリオースリン酸イソメラーゼの各遺伝子から得られるプロモーターが列挙される。
【0114】
強力な細菌プロモーターの例としては、細胞外プロテアーゼ遺伝子から得られるプロモーター同様、α−アミラーゼプロモーター及びSP02プロモーターがある。
【0115】
ハイブリッドプロモーターも発現構築物の誘導調節性を向上させるために用いることができる。
【0116】
プロモーターは、適当な宿主内での発現を確保又は増加させる特性をさらに有していてもよい。かかる特性としては例えば、プリブノーボックス(Pribnow Box)又はTATAボックス等の保存された領域が挙げられる。プロモーターは他に、ヌクレオチド配列の発現レベルを左右する(維持する、増強する、低減するなど)配列までも含んでいてもよい。例えば他の好適配列には、Sh1−イントロン又はADHイントロンが含まれる。他の配列には、温度、化学、光又はストレスを誘導する要素等の誘導要素が含まれる。さらに、転写又は翻訳を増強する適当な要素も存在していてもよい。後者である転写又は翻訳を増強する要素の一例として、TMV5´シグナル配列がある(Sleat (1987), Gene 217, 217-225; 及びDawson (1993), Plant Mol. Biol.23, 97を参照)。
【0117】
トランスジェニック動物の調製
実験動物へのトランスジーンの導入は、当該分野の専門家には十分既知のいくつかの技術により行われる。かかる技術には、(1)ある胚から別の胚への細胞移動、(2)レトロウイルスに感染した細胞の導入、(3)Scott et al. (1989), Cell 59, 847-857 及びScott et al. (1992) Protein Sci., 1, 986-997に記載の方法による受精卵前核へのcDNAのマイクロインジェクション、(4)1匹(頭)の動物への複数卵の移植などがある。その後公知の手法によって、得られた子孫がトランスジェニック動物であるかどうかを調べる。
【0118】
ここにおいて「トランスジェニック動物」にはさらに、当技術の専門家には公知のノックアウトマウスも含まれる。
【0119】
本発明の好適実施例において、実験動物は1若しくは2以上の遺伝子を導入されている。2以上のトランスジーンを有するトランスジェニック動物は、当技術分野で十分公知の方法により、ある遺伝子が導入された第1動物を、第2の遺伝子が導入された第2動物と交配させることにより得ることができる。例えば本来のトランスジェニックマウスの遺伝背景を、コンジェニックマウスを作出するなどの繁殖技術によってSJLのものに変換することが可能である。コンジェニックマウスは通常、戻し交配を10世代繰り返すことにより作出される。例えばFvB背景のトランスジェニックマウスを作出し、その後上記の技術によりSJL背景へと変換させることができる。
【0120】
本発明により同定されたSJLマウスのプリオン感受性遺伝子を有するトランスジェニック動物を調製することが当然望ましい。このようにしてプリオン感受性が上昇又は低下したトランスジェニック動物の調製が可能になる。
【0121】
遺伝子の同定
本発明における別の実施態様は、実験動物のプリオンに対する感受性(susceptibility)と関連のある遺伝子の同定方法に関する。ここに用いる「遺伝子の同定」なる用語は、プリオン感受性遺伝子を有する核酸の同定に関するものである。
【0122】
感受性(例;SJL)マウスと非感受性(例;C57B16)マウスとの遺伝子比較は、マイクロアレイを用いた発現解析、サブトラクションハイブリダイゼーション(Sambrook et al. (1989) Konietzko U & Kuhl D (1998). Nucleic Acids Res 26, 1359-61)、及びゲノム走査法(Stephenson et al. (2000) Genomics 69, 47-53)等、当技術の専門家に公知の種々の方法により実施することが可能である。これらの方法により、非感受性及び感受性マウスの間で異なるDNA領域を同定する。次に、SJL等の特定マウス系統において、好適宿主にBSE及びvCJDを引き起こすプリオンに対する感受性に関与する遺伝子を同定する。
【0123】
プリオン感受性遺伝子を同定するマッピング法は、例えばF2(雑種第2世代)をインタークロス又は戻し交配させることにより、SJLとC57BL/6の交雑を作製することである。かかる交配の結果得られたマウス全てにプリオンを接種し、その潜伏期間を割り出し、マイクロサテライト法により遺伝型を決定した。連鎖解析を行って候補領域を同定する。次に、標準的なポジショナルクローニングを実施する(例えばバイオインフォマティクス)により候補遺伝子を同定し、配列を決定し、発現レベルを分析する;下記も参照)。
【0124】
非ポジショナルなアプローチとしては、市販のマイクロアレイとのハイブリダイゼーションも可能である。例えば、少なくとも3匹のSJLマウスと3匹のC57BL/6マウスから(脳又は脾臓からが好ましい)全RNAを調製することができる。Ambion社製のRNAwizTMなどの市販のキットを用いてRNAを単離する。cRNAを調製してアレイ(例:Affymetrix mouse Genechips)とハイブリダイズし、感受性マウスと非感受性マウスの遺伝的差異を同定する。
【0125】
サブトラクションハイブリダイゼーションにおいては、感受性マウス及び非感受性マウスからcDNAを調製し、感受性マウスにのみ存在する配列においてcDNAが高度濃縮化するように処理を施す。次に、かかる濃縮cDNAの配列との相同配列を有するクローンを得るために、上記濃縮cDNAを用いてcDNAライブラリーのスクリーニングを行う。かかるスクリーニングは、核酸ハイブリダイゼーションやPCRプローブを使う方法など、当技術分野で十分公知の種々の方法により実施できる。
【0126】
プローブの特異性(高度に保存された領域、保存された領域、又は非保存領域のいずれにプローブが由来するか)と、ハイブリダイゼーション又は増幅におけるストリンジェンシー(高い、中程度、低い)とにより、かかるプローブが天然に生じるコード配列だけを同定するのか、若しくは関連配列をも同定するのかが決まる。
【0127】
ゲノムスクリーニングにおいては、DNAの反復断片(マイクロサテライトDNAと呼ぶ)から得たゲノムDNAを感受性及び非感受性マウスからPCRで増幅する。続いて連鎖解析を行い、染色体上におけるそれぞれの遺伝子の相対的位置を決定する。
【0128】
マイクロサテライトDNAの増幅に用いるPCRプライマーは、the mouse genome-wide screening set(Research Genetics社製、 Huntsville, AL)等の市販のキットから選択することが好ましい。PCR反応は例えば放射標識又は蛍光標識したプライマーを使用し、96ウエルのプレート上で行う。これらPCR産物を次に変性ゲル電気泳動にかけて分解し、例えばオートラジオグラフィーを用いることにより、或いは自動シークエンサー又は毛管シークエンサーを用いることにより産物を検出することができる。感受性及び非感受性マウスにおいて、染色体上の位置がわかっているマーカー遺伝子を比較し、示唆的な又は顕著な連鎖を示すマーカー遺伝子について連鎖解析を行った。かかる解析にはMap Manager QT(Manly & Olson et al. 1999, Mamm. Genome 10 327-334)などの適切なソフトウエアパッケージが使用できる。感受性及び非感受性マウスで異なる遺伝子があれば、その位置のマッピングを行う。
【0129】
米国特許第4683195号、同4800195号、及び同4965188号に記載のあるPCRでは、さらに標的配列に基づくオリゴヌクレオチドの使用法を提供している。かかるオリゴマーは通常化学合成されるが、酵素法でも作製され、又は組換え材料からも作出される。通常オリゴマーはヌクレオチド配列を2つ有し、その1つはセンス方向(5´−>3´)の配列で、もう一方は特異的遺伝子又は条件を同定するための最適化条件下で採用されるアンチセンス方向(3´<−5´)の配列である。密接に関連しているDNA又はRNA配列の検出及び/又は定量のために、同じ2つのオリゴマー、枝分かれしたオリゴマーのセット、さらにはオリゴマーが変性した集団を、より低いストリンジェンシー下で用いることができる。
【0130】
プリオン感受性遺伝子の外因性ゲノム配列のマッピングのために、又はバイオインフォマティクス上の目的のためにプローブを使用してもよい。かかる配列は特定の染色体に、又は染色体の特異的領域に公知の手法によりマッピングされる。公知の手法には、染色体スプレッド(spread)へのインサイチューハイブリダイゼーション(Verma et al (1988) Human Chromosomes: A manual of Basic Techniques, Pergamon Press, New York City)、フローソーティングによる染色体の調製、或いは、YAC、細菌人工染色体(BAC)、細菌PI構築物や単一染色体cDNAライブラリー等の人工染色体構築物が含まれる。
【0131】
染色体の調製におけるインサイチューハイブリダイゼーション、及び樹立された染色体マーカーを用いる連鎖解析等の物理的マッピング手法は、遺伝地図を拡大する上で重要である。Science (1995; 270:410f and 1994; 265:1981f) に遺伝地図の例がみられる。ある特定のヒト染色体の数や腕が未知の場合であっても、別の種の染色体上に遺伝子を配置することにより、関連マーカー遺伝子を明らかにできることが多い。物理的マッピングにより、染色体の腕やその一部に対し新たに配列を決めることができる。これにより、ポジショナルクローニングや他の遺伝子発見法を用いてプリオン感受性遺伝子を検索する際に貴重な情報がもたらされることになる。プリオン感受性遺伝子がひとたび遺伝連鎖により特定のゲノム領域に大雑把に位置付けられると、その領域にマッピングされる配列はいずれも、さらなる調査に供される関連遺伝子若しくは調節遺伝子を表すことになる。
【0132】
任意にプリオン感受性遺伝子の機能を、まず該遺伝子(1若しくは2以上)のDNA配列を当技術分野で公知の方法を用いて決定することにより確かめることができる。各系統のマウス尾部から切片を得て、それら切片を、500μg/mlのプロテイナーゼK(Proteinase K)を含有する緩衝液(50mMのTris−HCl、pH8.0、100mMのEDTA、100mMのNaCl、1%SDS)0.7mlを用いて55℃で一晩インキュベーションを行うことにより、マウス各系統からDNAを単離する。次に、フェノール:クロロフォルムを用いて試料を抽出した。エタノール沈殿を行った後に、分子量の大きいDNAをガラス製ピペットに取り上げ、TE緩衝液(10mMのTris、1mMのEDTA、pH7.5)に再溶解した。DNAは、Promega社が提供しているもの(核溶解緩衝液を用い、その後タンパク質沈殿緩衝液を用いる)のような適当な市販DNA抽出キットを使用して単離できるので、フェノール:クロロフォルム抽出を行わなくても済むのが有利な点である。次に配列(1若しくは2以上)をデータベース上で利用できるDNA配列と比較することにより、相同配列を同定する。この情報を利用して相同配列の機能を決定することができる。
【0133】
プリオン感染を調節する
「調節する」なる用語は、哺乳動物におけるプリオン感染を予防する、抑制する、軽減する、回復させる、又は亢進させる、或いは別の方法で影響することを意味する。
【0134】
グリコフォーム率分析
ここにおいて「グリコフォーム率分析」とは、PrPScにおける異なるグリコシル化パターンの分析を意味する。すなわち、Baron et al. (1999) J. Clin. Microbiol. 37, 3701-3704に記載されているように、ジグリコシル化形態、モノグリコシル化形態、及び非グリコシル化形態である。これら3種類のグリコフォームのそれぞれの分子量と相対強度を測定してグリコフォーム率を計算する。例えば、FVBマウス及びTg152マウスで継代されたBSE及びvCJDは、ジグリコシル化のバンドが最も強く染色されるという特徴的なグリコフォーム率を示した。
【0135】
実験動物のプリオン感染に対する感受性の推定
本発明の方法は、プリオン感染に対する動物の感受性を推定することに用いることができるので有利である。1若しくは2以上の実験動物をプリオン含有試料と接触させる。かかるプリオンは、BSE又はvCJDを好適宿主に引き起こすプリオンであることが好ましい。次に実験動物のインキュベーションを行い、悪影響や死亡例を観察する。プリオンを証明するため、悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を実施する。脳生検を実施することが好ましい。次にBaron et al. (1999) J. Clin. Microbiol. 37, 3701-3704に従い、グリコフォーム率分析を行う。簡潔にまとめると、脳をホモジェナイズする。この脳ホモジェネートを、プロテイナーゼK等のプロテイナーゼ共存下でインキュベーションする。遠心分離にかけた後、ペレットを変性緩衝液に再懸濁する。次にこれらタンパク質をSDS−PAGEによって分離する。3種のグリコフォーム全てと交叉反応を起こす適当な宿主から得たPrPに対する抗血清を用いてウエスタンブロッティングを行う。次に、当技術分野の専門家には公知の種々の方法により、結合した抗体を検出する。3種の異なるSDS−PAGEゲルを個別にウエスタンブロッティングに供することが好ましい。次に3種のグリコフォーム各々における相対強度を推定する。グリコフォーム率分析の結果、モノグリコシル化形態が最もドミナントであれば、その実験動物のプリオン潜伏期間は241±15日以下であると推定される。グリコフォーム率分析の結果、最もドミナントであるのがモノグリコシル化形態以外の場合は、その実験動物のプリオン潜伏期間は241±15日以上であると推定される。ドミナントなモノグリコシル化形態を示す実験動物の正確なプリオン潜伏期間は、本発明に記載する方法により任意に決定できる。
【0136】
処理
ここに挙げる処理に関する記述は、全てプリオン感染の調節に関する。
【0137】
処理とは、家畜及び/又はヒト等の哺乳動物に対するものである。
【0138】
作用因子
ここに用いる「作用因子」なる用語は、単一の実存物質(entity)又は実存物質の組合せである。
【0139】
作用因子は、有機化合物又は他の化学物質である。作用因子は、天然若しくは人工を問わず適切な材料から入手可能、又はかかる適切な材料を用いて産生される化合物である。作用因子は、アミノ酸分子、ポリペプチド、又はそれらの化学誘導体、又はそれらの組合せである。作用因子は、ポリヌクレオチド分子(センス分子、アンチセンス分子のいずれも可)であることさえ可能である。作用因子は抗体でもよい。
【0140】
作用因子は設計して得てもよく、また有機小分子等の他の化合物からと同様に、化合物のライブラリー(ペプチドを含む)から得ることもできる。
【0141】
作用因子としては、天然物質、生物高分子、細菌若しくは真菌若しくは動物(特に哺乳動物)の細胞・組織等の生物材料から生成された抽出物、有機若しくは無機分子、合成作用因子、半合成作用因子、構造的若しくは機能的模倣体、ペプチド、模倣ペプチド、誘導化作用因子、全タンパク質から分裂したペプチド、又は合成的に合成されたペプチド(例えばペプチド合成装置を用いて、又は組換え技術、又はそれらを組み合わせて)、組換え作用因子、抗体、天然型若しくは非天然型作用因子、融合タンパク質若しくはその均等物、並びにこれらの変異体、誘導体又は組合せが列挙される。
【0142】
作用因子は通常、有機化合物である。有機化合物は通常、2若しくは3以上のヒドロカルビル基を有する。ここにおいて「ヒドロカルビル基」とは、少なくともC及びHを含む基のことであり、任意に1若しくは2以上の他の適切な置換基を有していてもよい。置換基の例としては、ハロ−、アルコキシ−、ニトロ−、アルキル基、環式基などがある。置換基が環式基である可能性に加えて、置換基を組み合わせたものも環式基を構成する。ヒドロカルビル基が2個以上のCを有する場合、それらの炭素は必ずしも互いに結合していなくてもよい。例えば炭素のうち少なくとも2個の炭素が適当な元素又は基を介して結合していてもよい。従って、ヒドロカルビル基にはヘテロ原子が含まれていてもよい。当技術分野の専門家には適切なヘテロ原子は明らかであるが、例えば硫黄、窒素、酸素などがある。一部の適用例においては作用因子が少なくとも1個の環式基を有することが好ましい。環式基は、非融合多環式基等の多環式基でもよい。一部の適用例では、作用因子において上記環式基の少なくとも1つが別のヒドロカルビル基に結合している。
【0143】
作用因子にはハロ基が含まれていてもよい。ここにおいて「ハロ」は、フルオロ、クロロ、ブロモ、又はヨードのことである。
【0144】
作用因子には1個若しくは2個以上の非分枝鎖状若しくは分枝鎖状のアルキル、アルコキシ、アルケニル、アルキレン及びアルケニレンの各基が含まれていてもよい。
【0145】
作用因子の形状は、酸付加塩又は塩基性塩等の薬理学的に許容される塩、或いは水和物を含むその溶媒和物であってもよい。好適な塩に関してはBerge et al, J. Pharm. Sci., 1977, 66, 1-19を参照のこと。
【0146】
本発明の作用因子は、他の治療上の特性を示すことが可能である。
【0147】
作用因子は、1若しくは2以上の他の薬理学的に活性な作用因子と併用してもよい。
【0148】
複数の活性作用因子を併用投与する場合は、同時に、個別に、又は連続して投与してよい。
【0149】
アミノ酸配列
本発明の特徴は、データベース上で入手可能なアミノ酸配列の使用に関する。これらのアミノ酸配列には本発明の作用因子が含まれていてもよい。別の実施態様では、本発明の組成物に用いる適当な作用因子を同定するための標的として、アミノ酸配列が用いられる。別の実施態様では、作用因子が本発明による作用因子として使用し得ることを証明するための標的としてアミノ酸配列が用いられる。
【0150】
ここにおいて、「アミノ酸配列」なる用語は、「ポリペプチド」及び/又は「タンパク質」という用語と同義である。場合によっては、「アミノ酸配列」なる用語が「ペプチド」なる用語と同じ意味をもつ。場合によっては、「アミノ酸配列」なる用語が「タンパク質」なる用語と同じ意味をもつ
アミノ酸配列は、適当な材料から単離されるか、合成して作製されるか、組換えDNA技術により調製されるかのいずれでもよい。
【0151】
ヌクレオチド配列
本発明の特徴には、データベース上で入手可能なヌクレオチド配列の使用が含まれる。これらのヌクレオチド配列は、本発明の組成物の成分として使用されるアミノ酸配列を発現させるために用いられる。別の実施態様では、本発明の組成物に用いる好適作用因子を同定するための標的として、ヌクレオチド配列が用いられる。別の実施態様では、作用因子が本発明による組成物における阻害因子として使用し得ることを証明するための標的としてヌクレオチド配列が用いられる。
【0152】
ここにおいて、「ヌクレオチド配列」なる用語は、「ポリヌクレオチド」なる用語と同義である。
【0153】
ヌクレオチド配列は、ゲノム又は合成又は組換えに端を発するDNA若しくはRNAである。ヌクレオチド配列は、センス鎖若しくはアンチセンス鎖のいずれかの二本鎖若しくは一本鎖、又はそれらの組合せのいずれでもよい。
【0154】
ヌクレオチド配列はDNAであってもよい。
【0155】
ヌクレオチド配列は、組換えDNA技術(例えば組換えDNA)を用いて調製できる。
【0156】
ヌクレオチド配列は、cDNAであってもよい。
【0157】
ヌクレオチド配列は、自然に発生する配列と同じでもよく、それに由来するものでもよい。
【0158】
変異体/ホモログ/誘導体
本発明はまた、変異体、ホモログ及びそれらの誘導体の使用も包含するものである。ここにおいて、「ホモログ」なる用語は、対象とするアミノ酸配列及び対象とするヌクレオチド配列とある程度の相同性を有する実存物質を意味する。ここにおいて、「相同性(homology)」なる用語は、「同一性(identity)」と言い換えることもできる。
【0159】
本発明の文脈において相同配列には、対象とする配列と、少なくとも75、85若しくは90%の同一性を示し、好ましくは少なくとも95若しくは98%の同一性を示すアミノ酸配列が含まれると解される。通常相同配列は、対象とするアミノ酸配列と同じ活性部位等を有する。相同性は類似性として捉えることもできるが(すなわち、アミノ酸残基が類似の化学特性・機能を有する)、本発明の文脈においては相同性が配列の同一性を表すことが好ましい。
【0160】
本発明の文脈において相同配列には、対象とする配列と、少なくとも75、85若しくは90%の同一性を示し、好ましくは少なくとも95若しくは98%の同一性を示すヌクレオチド配列が含まれると解される。通常相同体は、活性部位等をコードする配列として、対象とする配列と同じ配列を有している。相同性は類似性として捉えることもできるが(すなわち、アミノ酸残基が類似の化学特性・機能を有する)、本発明の文脈においては相同性が配列の同一性を表すことが好ましい。
【0161】
相同性の比較は、肉眼により、さらに一般的には、容易に入手可能な配列比較プログラムの助けを借りて行うことができる。これら市販コンピュータープログラムにより、2若しくは3以上の配列間における相同性の割合(%)が計算できる。
【0162】
相同性の割合は、隣接する配列を基に計算される。すなわち、一方の配列を他方の配列と並べ、一方の配列中の各アミノ酸を、他方の配列中の対応するアミノ酸と直接、一残基毎に比較するのである。これは、「ギャップなし」アラインメントと呼ばれる。通常、このようなギャップなしアラインメントは、比較的残基数の少ない場合に行われる。
【0163】
上記の方法は、非常に簡便かつ堅実な方法であるが、1つの挿入部又は欠失部以外は同一な2つの配列において、かかる挿入部又は欠失部以降のアミノ酸残基がアラインメントから外れてしまう結果になるということが考慮されず、その結果、全体のアラインメントが終了したときの相同性の割合が大きく低下してしまう可能性がある。結果的に殆どの配列比較法は、全体としての相同性スコアに不当にペナルティを課すことなく、可能性のある挿入部又は欠失部を考慮に入れた最適化アラインメントを作出するように設計されている。これは、局所相同性を最大化することを意図して、配列アラインメントに「ギャップ」を挿入することにより実現される。
【0164】
しかしながら、より複雑なこれらの方法は、アラインメントで生じるそれぞれのギャップに「ギャップペナルティ」を課すことになり、同数の同一アミノ酸に対し、配列アラインメント内のギャップ数が少なければ少ないほど(比較する2つの配列間における高い関連性を反映して)、ギャップ数の多い場合より高いスコアが得られる。ギャップの存在に対し相対的に高いコストを課し、ギャップ内に続く残基の各々に、より少ないペナルティを課す「アフィンギャップコスト」が通常使用される。これは最も一般的に使用されるギャップスコアリングシステムである。当然のことながら高いギャップペナルティは、より少ないギャップで最適化アラインメントをもたらす。殆どのアラインメントプログラムは、ギャッププログラムに修正を加えることを認めている。しかし、そのようなソフトウエアを配列比較に用いる際には、初期値を使用することが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfit packageを使う場合のアミノ酸配列に対する初期ギャップペナルティは、ギャップ1個につき−12で、各ギャップ延長につき−4である。
【0165】
従って相同性の最大割合(%)を計算するには、まず、ギャップペナルティを考慮した上で最適化アラインメントを作製する必要がある。かかるアラインメントを実現するのに適したコンピュータープログラムは、GCG Wisconsin Bestfit package(University of Wisconsin, U.S.A.; Devereux et al., 1984, Nucleic Acids Research 12: 387)である。配列比較を行えるソフトウエアの例としては他にも、BLAST package(Ausubel et al., 1999 ibid-Chapter 18を参照)、FASTA(Atschul et al., 1990, J. Mol. Biol., 403-410)、及びGENEWORKSの比較ツールセットがあるが、これらに限定されない。BLAST及びFASTAはいずれもオフライン及びオンラインでのサーチに利用できる(Ausubel et al., 1999 ibid、7-58〜7-60頁を参照)。しかし適用例の中には、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい場合もある。BLAST 2 Sequencesという新しいツールもタンパク質とヌクレオチド配列との比較を行うために利用できる(FEMS Microbiol Lett 1999 174(2): 247-50; FEMS Microbiol Lett 1999 177(1): 187-8を参照)。
【0166】
最終的な相同性割合は同一性に換算して求められものの、通常アラインメントプロセス自体は、オールオアナッシング(all-or-nothing)という考えに依拠して2つの配列を比較するものではない。その代わり、化学的類似性又は進化論的距離に基づき、2つ1組の比較にスコアを与える類似性スコア拡大縮小マトリックス(scaled similarity score matrix)が一般的に使用される。そのようなマトリックスの中でよく用いられるものとして、BLASTプログラムセットの初期マトリックスであるBLOSUM62 matrixが例示される。GCG Wisconsinプログラムには一般的に公開初期値を、カスタムシンボル比較表(custom symbol comparison table)(詳細はユーザーマニュアルを参照)がある場合は、それらのいずれかを使用する。適用例の中には、GCG packageには公開初期値を、また他のソフトウエアには、BLOSUM62などの初期マトリックスを用いることが好ましい場合がある。
【0167】
ソフトウエアが一旦最適化アラインメントを作製すると、相同性割合、好ましくは配列同一性割合を計算することが可能になる。通常ソフトウエアは配列比較の一部として上記計算を行い、数字で結果を出す。
【0168】
配列にはまた、アミノ酸残基の欠失、挿入又は置換があり、沈黙の変化をもたらし、機能的同等物を産生する。残基の極性、電荷、可溶性、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性に基づき、物質の二次結合活性が保持される限りにおいて意図的にアミノ酸の置換を行ってもよい。例えば、負電荷アミノ酸にはアスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれ、正電荷アミノ酸にはリシン及びアルギニンが含まれ、同じような親水性値を有する無電荷極性頭部基をもつアミノ酸にはロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、及びチロシンが含まれる。
【0169】
例えば下記の表に基づき、保存的置換を行うことができる。2段目の同じブロック内のアミノ酸同士、及び好ましくは3段目の同じ行にあるアミノ酸同士は、互いに置換させてもよい。
【0170】
【表A】
本発明はまた、相同的置換(ここでは、置換(substitution)及び交換(replacement)はいずれも、既存のアミノ酸残基を他の残基と入れ替えることを意味する)の発生、すなわち、塩基性と塩基性、酸性と酸性、極性と極性など、既存物ベース(like-for-like)の置換が生じることもその範囲に含むものである。非相同的置換、すなわち、ある分類の残基から別の分類の残基への置換、或いは、オルニチン(以下Zと記す)、ジアミノ酪酸オルニチン(以下Bと記す)、ノルロイシンオルニチン(以下Oと記す)、ピリルアラニン、チエニルアラニン、ナフチルアラニン、及びフェニルグリシン等の非天然型アミノ酸を含めることも包含している。
【0171】
α*及びα二基置換*アミノ酸、N−アルキルアミノ酸*、乳酸*、天然型アミノ酸のハロゲン化誘導体(トリフルオロチロシン*、p−Cl−フェニルアラニン*、p−Br−フェニルアラニン*、p−I−フェニルアラニン*、L−アリル−グリシン*、β−アラニン*、L−α−アミノ酪酸*、L−γ−アミノ酪酸*、L−α−アミノイソ酪酸*、L−ε−アミノカプロン酸#、7−ヘプタン酸*、L−メチオニンスルホン#*、L−ノルロイシン*、L−ノルバリン*、p−ニトロ−L−フェニルアラニン*、L−ヒドロキシプロリン#、L−チオプロリン*など)、フェニルアラニン(Phe)のメチル誘導体[4−メチル−Phe*、ペンタメチル−Phe*、L−Phe(4−アミノ)#、L−Tyr(メチル)*、L−Phe(4−イソプロピル)*、L−Tic(1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボキシル酸)*、L−ジアミノプロピオン酸#及びL−Phe(4−ベンジル)*など]を含む非天然型アミノ酸によって交換を行ってもよい。記号*は、上記の説明に照らして(相同的又は非相同的置換に関連して)つけたものであって誘導体が疎水性であることを示し、記号#は、誘導体が親水性であることを示し、また記号#*は、誘導体が両親媒性であることを示している。
【0172】
変異型アミノ酸配列には、配列中の2個のアミノ酸の間ならどこにでも挿入できる適当なスペーサー基を含んでいてもよく、かかるスペーサー基には、グリシン又はβ−アラニン残基等のアミノ酸スペーサーの他にメチル、エチル又はプロピル基等のアルキル基が含まれる。さらなる変異型には、1個若しくは2個以上のアミノ酸残基がペプトイド型で存在することが含まれ、当技術分野の専門家には十分理解されるものである。誤解を招かないように、ここにおいて、「ペプトイド型」とは、α−炭素置換基が、残基内においてα−炭素上よりむしろ窒素原子上に存在している変異型アミノ酸残基のことである。ペプトイド型ペプチドの調製法については、例えば、Simon RJ et al., PNAS (1992)89(20), 9367-9371 and Horwell DC, Trends Biotechnol.(1995)13(4), 132-134等の文献に見出せる。
【0173】
本発明に用いるヌクレオチド配列は、その中に合成若しくは修飾ヌクレオチドが含まれていてもよい。オリゴヌクレオチドに施す種々多様の修飾の形は当技術分野では公知である。かかる修飾には、メチルホスホン酸バックボーン及びホスホロチオ酸バックボーン、及び/又は、分子の3´及び/又は5´末端へのアクリジン鎖又はポリリシン鎖の付加が含まれる。本発明の目的を達成するために、ここに説明するヌクレオチド配列は、当技術で利用されるいずれの方法によって修飾されても構わない。そのような修飾は、本発明において有用なヌクレオチド配列のインビボでの活性増強や寿命延長を図るために行われる。
【0174】
本発明はさらに、ここに開示された方法により同定された配列との相補ヌクレオチド配列若しくはそれらの誘導体、断片若しくはその誘導体の使用にも関する。配列がその断片と相補的であれば、その配列は別の生物等における類似のコード配列を同定するためのプローブとして用いることができる。
【0175】
ハイブリダイゼーション
本発明にはまた、ここに記す配列又は誘導体、断片若しくはその誘導体とのハイブリダイズ能を有するヌクレオチド配列の使用も含まれる(作用因子がアンチセンス配列の場合など)。
【0176】
ここにおいて、「ハイブリダイゼーション」とは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術による増幅方法と同様に、「塩基ペアリングによって核酸鎖を相補鎖に結びつける方法」をも含むものである。
【0177】
本発明にはさらに、ここに開示した方法により同定された配列若しくは誘導体、断片若しくはその誘導体と相補的な配列とのハイブリダイズ能を有するヌクレオチド配列の使用も含まれる。
【0178】
「変異型」なる用語には、他のヌクレオチド配列とのハイブリダイズ能を有する配列と相補的な配列も含まれる。
【0179】
「変異型」なる用語が、ストリンジェントな条件下(例えば、50℃、0.2×SSC[1×SSC=0.15M NaCl,0.015M Na3クエン酸 pH7.0])でヌクレオチド配列とのハイブリダイズ能を有する配列と相補的な配列を包含することが好ましい。
【0180】
より好ましいのは、「変異型」なる用語が、高度にストリンジェントな条件下(例えば、65℃、0.1×SSC[1×SSC=0.15M NaCl,0.015M Na3クエン酸 pH7.0])でヌクレオチド配列とのハイブリダイズ能を有する配列と相補的な配列を包含することである。
【0181】
分泌
本発明に有用なポリペプチドは、発現宿主から、より簡便にポリペプチドを回収できる培養培地へと分泌される。
【0182】
構築物
「共役体」、「カセット」、及び「ハイブリッド」等の用語と同じ意味を有する「構築物」なる用語には、直接的又は間接的にプロモーターに結合する本発明に有用なヌクレオチド配列が含まれる。「融合」なる用語には、直接的又は間接的な結合が含まれる。通常は野生型遺伝子プロモーターと会合するタンパク質をコードするヌクレオチド配列が自然に結びつくとき、また両方の配列が自然環境下にあるときは、これらの用語に含まれない場合もある。
【0183】
構築物が導入された例えば細菌、好ましくはBacillus subtilis等のBacillus属の細菌又は植物において遺伝的構築物の選択を可能にするために、構築物にさらにマーカーを含有させるか発現させることもできる。使用できるマーカーは数多く存在し、マンノース−6−リン酸イソメラーゼをコードするマーカー(特に植物に対して)、或いはG418耐性、ヒグロマイシン耐性、ブレオマイシン耐性、カナマイシン耐性及びゲンタマイシン耐性等の抗生物質耐性をもたらすマーカー等が例示される。
【0184】
ベクター
「ベクター」なる用語には、発現ベクター、形質転換ベクター、及びシャトルベクターが含まれる。
【0185】
「発現ベクター」なる用語は、インビボ又はインビトロでの発現が可能な構築物を意味する。
【0186】
「形質転換ベクター」なる用語は、ある実存物質から別の実存物質へと伝達させることが可能な構築物を意味し、これら実存物質は同じ種でも異なる種でもよい。構築物がある種から別の種へと伝達され得るとき、例えばE.coliプラスミドからBacillus属等の細菌へ伝達され得るとき、かかる形質転換ベクターは「シャトルベクター」と呼ばれることがある。シャトルベクターは、E.coliプラスミドからアグロバクテリア菌へと導入され、それがさらに植物に導入されることさえ可能な構築物である。
【0187】
ベクターを、下記に説明するように適切な宿主細胞に導入し、本発明の範疇にあるポリペプチドを発現させる。従って本発明はさらなる特徴として、本発明に用いるポリペプチドの調製法を提供するものであり、かかる調製法は、上述したように発現ベクターを導入又はトランスフェクトした宿主細胞を、ポリペプチドをコードするコード配列のベクターによる発現が可能な条件下において培養し、発現したポリペプチドを回収することからなる方法である。
【0188】
ベクターとしては、複製起点を有するプラスミド、ウイルス、又はファージベクター、任意に上記ポリヌクレオチドの発現プロモーター及び任意にかかるプロモーターの調節因子が例示される。
【0189】
ベクターには、1若しくは2以上の選択マーカー遺伝子が含まれていてもよい。産業用微生物に対する最適な選択系は、宿主生物内において変異を必要としない選択マーカー集団によって形成されるものである。真菌選択マーカーとしては、アセタミダーゼ(amdS)、ATP合成酵素、サブユニット9(oliC)、オロチジン−5´−リン酸−脱炭酸酵素(pvrA)、フレオマイシン耐性及びベノミル耐性(benA)の各遺伝子が例示される。非真菌選択マーカーとしては、細菌性G418耐性遺伝子(これは酵母にも使用できるが、糸状菌には使えない)、アンピシリン耐性遺伝子(E. coli)、ネオマイシン耐性遺伝子(Bacillus)、及びβ−グルクロニダーゼ(GUS)をコードするE. coli uidA遺伝子が例示される。
【0190】
ベクターは、例えばRNA産生のため、若しくは宿主細胞のトランスフェクション及び形質転換に用いるため、インビトロで用いることができる。
【0191】
従って本発明に用いるポリヌクレオチドは、例えばクローニングベクター又は発現ベクター等の組換えベクター(特に複製ベクター)に取り込むことができる。かかるベクターは適合宿主細胞において核酸を複製するのに用いられる。従って、ポリヌクレオチドを複製ベクターに導入し、該ベクターを適合宿主細胞に導入し、また該宿主細胞を、ベクター複製を生じさせる条件下で増殖させることにより、多量のポリヌクレオチドが作出される。ベクターは宿主細胞から回収する。好適な宿主細胞については発現ベクターとの関連で下記に説明する。
【0192】
遺伝子工学的に作出された宿主細胞は、作用因子及び拮抗因子を同定するスクリーニング法において、アミノ酸配列(又はその変異体、ホモログ、断片又はその誘導体)を発現させることに用いられる。このような遺伝子工学的に作出された宿主細胞をペプチドライブラリー又は有機分子のスクリーニングに用いることができる。拮抗因子、及び抗体、ペプチド、又は有機小分子等の作用因子は、薬理組成物の基礎となる。プリオン感染治療における治療薬として、かかる作用因子又は拮抗因子は、単独又は他の治療薬との併用のいずれで投与してもよい。
【0193】
発現ベクター
ヌクレオチド配列は組換え複製ベクターに取り込むことができる。かかるベクターは、ヌクレオチド配列の複製・発現に用いられる。発現は、プロモーター/エンハンサー及び他の発現調節シグナルを含む制御配列を使用することによって制御できる。原核プロモーター、及び真核細胞において機能を有するプロモーターが使用される。組織特異的又は刺激特異的プロモーターが用いられる。上記2若しくは3以上の異なるプロモーターの配列エレメントを有するキメラプロモーターもまた用いられる。
【0194】
ヌクレオチド配列を発現させることにより、宿主組換え細胞によって産生されるタンパク質は、その配列及び/又は使用するベクターによって、分泌されるか或いは細胞内で保持されるかが決まる。特定の原核又は真核細胞膜を介して配列をコードする物質の分泌を指示するシグナル配列を用いて、コード配列を設計することができる。
【0195】
融合タンパク質
本発明に用いられるアミノ酸配列を、例えば、抽出及び精製の補助とするための融合タンパク質として作出してもよい。融合タンパク質とするためのパートナーとしては、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、6xHis、GAL4(DNA結合及び/又は転写活性化ドメイン)及びβ−ガラクトシダーゼなどが挙げられる。融合タンパク質パートナーとタンパク質配列との間に、融合タンパク質配列を除去させるためのタンパク質分解開裂部位を含めても都合よい。融合タンパク質がタンパク質配列の活性を阻害しないことが好ましい。
【0196】
融合タンパク質には、目的物質に融合させた抗原又は抗原決定基が含まれていてもよい。融合タンパク質は、免疫系の全身性刺激をもたらすという意味においてアジュバントとして作用する物質を有し、非天然に生成された融合タンパク質であってもよい。抗原又は抗原決定基は、かかる物質のアミノ末端又はカルボキシ末端いずれに結合させてもよい。
【0197】
融合タンパク質をコードするためにアミノ酸配列を異種配列と結合させてもよい。例えば、上記物質の活性に影響し得る作用因子のペプチドライブラリーをスクリーニングする際に、市販抗体によって認識される異種エピトープを発現させるキメラ物質をコードすることが有用であるとも考えられる。
【0198】
立体異性体及び幾何異性体
作用因子は、立体異性体及び/又は幾何異性体として存在することができる。例えば、作用因子は1若しくは2以上の不斉中心及び/又は幾何中心を有し、2若しくは3以上の立体異性型及び/又は幾何異性型として存在し得る。本発明は、かかる作用因子の立体異性体及び幾何異性体の全体を個別に、又はそれらを混合したものを使用することを意図する。これらの形態が適切な機能的活性をもち続ける限りにおいて(必ずしも同程度の活性を維持しなくてもよいが)、請求項に用いる用語はこれらの形態を包含するものである。
【0199】
薬理学的塩
作用因子は薬理学的に許容される塩として投与される。
【0200】
薬理学的に許容される塩は、当技術分野の専門家には公知であり、例えば、Berge et al, in J. Pharm. Sci., 66, 1-19 (1977) に記載されている塩が該当する。好適な酸付加塩は、非毒性塩を形成する酸から形成することができ、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸、硫酸、重硫酸、リン酸、リン酸水素、酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、乳酸、サリチル酸、クエン酸、タトル酸、アスコルビン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルコン酸、ギ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びp−トルエンスルホン酸が含まれる。
【0201】
1若しくは2以上の酸性成分が存在するとき、薬理学的に許容される適切な塩基が付加された塩は、非毒性塩を形成する塩基から形成することができ、アルミニウム塩、カルシウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、亜鉛塩、及びジエタノールアミン塩等の薬理学的に活性なアミン類が含まれる。
【0202】
作用因子における薬理学的に許容される塩は、作用因子の溶液と必要な酸又は塩基を適宜混合することにより、容易に調製できる。かかる塩を溶液中で沈殿させ、濾過により回収するか、又は溶媒を留去させることにより回収する。
【0203】
作用因子は、多型性として存在することができる。
【0204】
作用因子には、1個若しくは2個以上の不斉炭素原子が含まれていてもよく、従って作用因子は2若しくは3以上の立体異性型として存在する。作用因子がアルケニル又はアルケニレン基を有するとき、シス(E)及びトランス(Z)異性もまた生じる。本発明は、作用因子の個々の立体異性体、適宜にその個々の互変異性型、またその混合物を含むものである。
【0205】
ジアステレオ異性体又はシス−及びトランス−異性体は、例えば作用因子又はその適切な塩若しくは誘導体の立体異性体混合物に、画分の結晶化、クロマトグラフィー又はHPLCといった従来法を施すことにより分離できる。作用因子の個別の鏡像異性体もまた、対応する光学的に純粋な中間体から調製されるか、或いは、適切な対掌性支持体を用いて、HPLC等により対応ラセミ体を分解することにより調製されるか、或いは、対応ラセミ体を、適当な光学活性を有する酸又は塩基と適宜に反応させて形成されたジアステレオ異性塩の画分を結晶化することにより調製される。
【0206】
また本発明は、作用因子又はその薬理学的に許容される塩の適切な同位体バリエーション(isotopic variations)を全て含む。作用因子又はその薬理学的に許容される塩の同位体バリエーションとは、少なくとも1個の原子が、原子番号は同じだが自然界で通常見出されるものとは原子量が異なる原子に置換されているものと定義される。作用因子又はその薬理学的に許容される塩に取り込まれてもよい同位体には、例えば、それぞれ水素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄、フッ素及び塩素の同位体である2H、3H、13C、14C、15N、17O、31P、32P、35S、18F及び36Cl等が含まれる。作用因子又はその薬理学的に許容される塩の同位体バリエーションの中には、例えば3Hや、14Cなどの放射性同位体が取り込まれたもののように、薬剤及び/又は基質の組織分布の研究用として有用なものがある。トリチウム化した同位体(3H)、及び炭素14同位体(14C)は、その調製及び検出が簡便な点で特に好ましい。さらに重水素(2H)等の同位体で置換すると代謝安定性が向上し、例えばインビボでの半減期の延長又は必要投与量の低減化などの一定の治療上の利点が得られので、好ましい場合がある。本発明の作用因子又は本発明におけるその薬理学的に許容される塩の同位体バリエーションは一般的に、適切な試薬の好適な同位体バリエーションを用いて従来どおりの手順により調製される。
【0207】
作用因子がプロドラッグに由来してもよいことは当技術の専門家には理解されるところである。プロドラッグとしては、保護基(1又は複数)を有し、そのままでは薬物学的活性はもたないが、状況次第で投与に供してもよく(経口又は非経口で)、投与されると体内で代謝されて薬物学的に活性な本発明作用因子を形成する実存物質が例として挙げられる。
【0208】
例えばH. Bundgaard, Elsevier,1985「プロドラッグの設計(Design of Prodrugs)」(その開示を参考のため本明細書に添付する)に記載があるように、「プロ成分」として知られるある種の成分を、作用因子の適切な機能上に配置してもよい。このようなプロドラッグも本発明の範疇に含まれる。
【0209】
本発明はまた、本発明作用因子の両性イオン型の使用も含む。請求項で用いられる用語は、かかる型を1若しくは2以上包含している。
【0210】
溶媒和物
本発明には、本発明作用因子を溶媒和物として使用することも含まれる。
【0211】
プロドラッグ
上に示したとおり本発明はまた、作用因子のプロドラッグとしての使用も含むものである。
【0212】
薬理学的に許容される塩
作用因子は、薬理学的に許容される塩として投与される。通常薬理学的に許容される塩は、所望の酸又は塩基を適宜に用いて容易に調製できる。塩は溶液中で沈殿させ、濾過により回収し、又は溶媒を留去させて回収する。
【0213】
化学合成法
作用因子は化学合成技術により調製できる。
【0214】
本発明化合物の合成過程において、感作性官能基の保護、脱保護を行わければならないことは、当技術の専門家には明白である。従来法によってもこれは可能であり、そのような方法としては例えば、「有機合成における保護基(Protective Groups in Organic Synthesis)」T W Greene and P G M Wuts, John Wiley and Sons Inc. (1991)、及び「保護基(Protective Groups)」P.J. Kocienski, Georg Thieme Verlag (1994)に記載の方法が挙げられる。
【0215】
反応過程において、特定条件下、例えば塩基感作性基を含む光学中心を有する基質と共に塩基を反応に用いる場合、存在する立体中心のラセミ化が起こり得る場合がある。これは例えばグアニル酸化の過程で起こり得る。当技術分野で公知のように、反応に用いる配列、条件、試薬、保護/脱保護方法等を選択することにより、このような潜在的な問題を回避することが可能となる。
【0216】
本発明の化合物及び塩は、従来法により分離・精製される。
【0217】
ジアステレオ異性体は従来法により分離され、かかる従来法としては、式[1]に示される化合物又はその適当な塩若しくは誘導体と立体異性体との混合物の画分結晶化、クロマトグラフィー又はHPLCがある。式[1]に示される化合物の個別の鏡像異性体もまた、対応する光学的に純粋な中間体から調製されるか、或いは、適当な対掌性支持体を用いて、HPLC等により対応ラセミ体を分解することにより調製されるか、或いは、対応ラセミ体を、適切な光学活性を有する酸又は塩基と反応させて形成されたジアステレオ異性塩の画分結晶化とにより調製される。
【0218】
作用因子、又はその変異体、ホモログ、誘導体、断片若しくは模倣体は、作用物質の全体若しくは一部を合成する化学的手法により生成される。例えば、ペプチドの場合は、固相法によりペプチドを合成し、樹脂から剥がし、分取高速液体クロマトグラフィー(例:Creighton (1983) Proteins Structures And Molecular Principles, WH Freeman and Co, New York NY)により精製する。合成ペプチド組成物はアミノ酸分析又は配列決定(例:the Edman degradation procedure; Creighton, supra)を行うことにより確認できる。
【0219】
ペプチド作用因子は、種々の固相法(Roberge JY et al (1995) Science 269: 202-204)により合成され、また例えば、ABI 43 1 A Peptide Synthesizer(Perkin Elmer社製)を製造者マニュアルに準拠して用いることにより、自動的な合成も可能である。従って、作用因子若しくはその一部を有するアミノ酸配列を、直接合成を行う間に改変させ、及び/又は他のサブユニット若しくはその一部から得た配列と化学的手法により結合させて、変異型作用因子を生成することもできる。
【0220】
本発明の別の実施態様においては、ペプチド作用因子(又はその変異体、ホモログ、誘導体、断片、若しくは模倣体)のコード配列は、全体的若しくは部分的に、当技術分野で十分公知の化学的手法により合成される(Caruthers MH et al (1980) Nuc Acids Res Symp Ser 215-23, Horn T et al (1980) Nuc Acids Res Symp Ser 225-232を参照)。
【0221】
模倣体
ここにおいて、「模倣体」なる用語は、基準(reference)作用因子と同質の活性若しくは効果を有するペプチド、ポリペプチド、抗体、又は他の有機化学物質などを含む全ての化学物質に関するが、それらに限定されない。
【0222】
化学誘導体
ここに用いられる「誘導体」又は[誘導された]なる用語には、作用因子の化学修飾が含まれる。かかる化学修飾は、水素を、ハロ基、アルキル基、アシル基、又はアミノ基と置換することであると説明される。
【0223】
化学修飾
作用因子の化学修飾により、作用因子と標的との間の水素結合相互作用、電荷相互作用、疎水相互作用、Van Der Waals相互作用、又は双極相互作用が、増強又は減弱される。
【0224】
1つの特徴として、同定された作用因子は他の化合物の発生モデル(例えば、鋳型として)となり得る。
【0225】
組換え法
作用因子又は標的は、組換えDNA法により調製できる。
【0226】
他の活性成分
組成物には作用因子以外にも治療に用いられる別の物質が含まれていてもよい。
【0227】
抗体
組成物に使用する作用因子には1若しくは2以上の抗体が含まれていてもよい。
【0228】
ここにおいて、「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、Fab断片、及びFab発現ライブラリーから作出された断片が含まれるが、それらに限定されない。かかる断片には、標的物質に対する結合活性を保持している全抗体の断片、Fv、F(ab´)及びF(ab´)2の各断片、一本鎖抗体(scFv)、抗体の抗原結合部位を有する融合タンパク質や他の合成タンパク質が含まれる。さらに抗体又はその断片は、例えば米国特許A−239400号に記載のあるヒト化抗体であってもよい。中和抗体、すなわち対象ポリペプチドの生物活性を阻害する抗体は、特に診断及び治療において好ましい。
【0229】
抗体は、本発明物質で免疫したり、ファージディスプレイライブラリーを用いたりするなどの標準的な方法で作製される。
【0230】
ポリクローナル抗体が望まれる場合、本発明において同定された作用因子及び/又は物質から得られるエピトープ(1又は複数)を有する免疫原性ポリペプチドを用い、選択した哺乳動物(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマなど)を免疫する。宿主の種に応じて、種々のアジュバントを使用して免疫応答を高めてもよい。かかるアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウム等のミネラルゲル、並びにリソレシチン、プルロン酸ポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油性乳剤、スカシ貝ヘモシアニン及びジニトロフェノール等の界面活性物質が含まれるが、これらに限定されない。BCG(Bacilli Calmette-Guerin)及び Corynebacterium parvumは、ヒト・アジュバントとして潜在的有用性をもち、精製した上で採用され、全身性防御を刺激することを目的として対象ポリペプチドを免疫反応不全の個体に投与する。
【0231】
免疫した動物の血清を回収し、公知の手法に従って処理する。本発明において同定された作用因子及び/又は物質から得られるエピトープに対するポリクローナル抗体を含有する血清に、他の抗原に対する抗体が含まれている場合、かかるポリクローナル抗体を免疫親和性クロマトグラフィーにかけて精製する。ポリクローナル抗血清の作製及び処理方法は、当技術分野で公知である。このようなポリクローナル抗体を作製するために、本発明はさらに、動物やヒトにおける免疫原として用いるために、本発明のポリペプチド又はその断片を別のポリペプチドにハプテン結合させることも含む。
【0232】
特定のエピトープに対することを意図したモノクローナル抗体の作出も、当技術分野の専門家には容易なことである。ハイブリドーマを用いてモノクローナル抗体を作製する一般的な方法がよく知られている。細胞を融合させることにより、また、腫瘍形成DNAでBリンパ球の形質転換を直接行うことや、Epstein-Barrウイルスによるトランスフェクションによっても、抗体産生不死化細胞株を作出することができる。軌道エピトープに対して産生されたモノクローナル抗体のパネルをスクリーニングして、アイソタイプ又はエピトープ親和性といった種々の特性を調べる。
【0233】
培養中の連続細胞株を用いた抗体分子の産生方法であればいずれの方法によってモノクローナル抗体を調製してもよい。これらの方法には、Koehler and Milstein (1975 Nature 256: 495-497) によって初めて報告されたハイブリドーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kosbor et al (1983) Immunol Today 4: 72; Cote et al (1983) Proc Natl Acad Sci 80: 2026-2030)、及びEBV−ハイブリドーマ法(Cole et al (1985) Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss Inc, pp 77-96)が含まれるが、これらに限定されない。さらに、好適な抗原特異性及び生物活性を有する分子を得るために、マウス抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子に挿入するという、「キメラ抗体」を産生するために開発された方法も用いられる(Morrison et al (1984) Proc Natl Acad Sci 81: 6851-6855; Neuberger et al (1984) Nature 312: 604-608; Takeda et al (1985) Nature 314: 452-454)。或いは、一本鎖抗体の作製に関する記載に基づく方法(米国特許第4946779号)を、ある物質に特異的な一本鎖抗体の産生に採用してもよい。
【0234】
Orlandi et al (1989, Proc Natl Acad Sci 86: 3833-3837)及びWinter G and Milstein C (1991; Nature 349: 293-299)に記載されているように、リンパ球集団においてインビボでの産生を誘導することによっても抗体は産生され、また、組換え免疫グロブリンライブラリー又は高度に特異的な結合試薬のパネルをスクリーニングすることによっても産生される。
【0235】
物質に対する特異的結合部位を有する抗体断片も作製することができる。かかる断片には例えば、抗体分子のペプシンを消化させることにより作出されるF(ab´)2断片、及びF(ab´)2断片のジスルフィド架橋を還元することにより作出されるFab断片が含まれるが、これらに限定されない。或いは、所望の特異性を有するモノクローナルFab断片の迅速かつ簡便な同定を可能にするため、Fab発現ライブラリーを構築してもよい(Huse WD et al (1989) Science 256: 1275-1281)。
【0236】
一般的なアッセイ方法
1若しくは2以上の好適標的(プリオン感受性タンパク質又は遺伝子のアミノ酸配列及び/又はヌクレオチド配列など)を用いて、本発明の作用因子を同定する。
【0237】
そのような試験において使用される標的は、溶液中で遊離の状態、固体支持体に固着させた状態、細胞表面に担持されている状態、又は細胞内に局在する状態のいずれであってもよい。標的活性の消失、又は標的と試験に供する作用因子との間の結合複合体の形成を測定する。
【0238】
本発明の方法としてはスクリーニングがあり、それにより数多くの作用因子におけるプリオン感染調節性を試験する。
【0239】
薬剤スクリーニングの方法は、1984年9月13日に公開された欧州特許出願84/03564号に記載の方法に基づいて行う。概略を述べると、種々の小ペプチド試験化合物を、プラスチックピン又は他の物の表面などの固体基質上で多数合成する。これらのペプチド試験化合物を適当な標的又はその断片と反応させ、洗浄する。その後、当技術分野で十分公知の方法を適切に実施するなどして、結合した実存物質を検出する。精製した標的もまた、プレートに直接コーティングして薬剤スクリーニング法に用いることができる。或いは、非中和抗体を使用し、ペプチドを捕捉して固体支持体上で不死化させることができる。
【0240】
本発明による方法は、定量アッセイにだけでなく、試験化合物の小規模及び大規模いずれのスクリーニングにも適していると期待される。
【0241】
好ましい特徴の1つとして本発明は、プリオン感染に対する調節(modulating)能を有する作用因子の同定法に関する。
【0242】
レポーター
本発明の方法により同定された作用因子のスクリーニングには種々多様なレポーターを用いることができ、好都合に検出され得る(例えば分光法により)シグナルを有するレポーターが好適である。例を挙げると、Pharmacia Biotech(Piscataway, NJ)、Promega(Madison, WI)及びUS Biochemical Corp(Cleveland, OH)等の数多くの企業が、アッセイ手法に用いる市販キットやプロトコールを供給している。適切なレポーター分子若しくは標識物には、基質、補因子、阻害剤、磁気粒子などと同様、放射性核種、酵素、蛍光剤、化学発光剤、又はクロモジェニック(発色性)材料が含まれる。かかる標識物の使用について教示している特許には、米国特許A−3817837号、同A−3850752号、同A−3939350号、同A−3996345号、同A−4277437号、同A−4275149号、及び同A−4366241号がある。
【0243】
宿主細胞
「宿主細胞」なる用語には、本発明の作用因子に対する標的を有することができる全ての細胞が含まれる。
【0244】
従って、本発明のさらなる実施態様では、本発明の標的である、若しくは本発明の標的を発現させるポリヌクレオチドにより形質転換若しくはトランスフェクトさせた宿主細胞を提供する。かかるポリヌクレオチドが、標的となるポリヌクレオチド若しくは標的を発現させるポリヌクレオチドの複製及び発現に用いるベクターに担持されていることが好ましい。細胞は、このようなベクターと適合するものを選択するが、原核細胞(例えば細菌)、真菌細胞、酵母細胞、又は植物細胞が例挙される。
【0245】
グラム陰性細菌であるE. coliは、異種遺伝子発現のための宿主として広く使用されている。しかし、E. coli細胞内には大量の異種タンパク質が蓄積する傾向がみられる。しかる後にE. coli細胞内の大量のタンパク質から所望のタンパク質を精製することは時として困難である。
【0246】
E. coliとは対照的に、Bacillus属の細菌は培養培地へのタンパク質分泌能を有している点で異種宿主として非常に好適である。他にも宿主として適している細菌としては、Streptomyces属やPseudomonas属のものがある。
【0247】
本発明に有用なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの特質及び/又は発現されたタンパク質をさらにプロセシングする必要度によっては、酵母や他の真菌等の真核宿主が好ましい。一般的に、真菌細胞より酵母細胞の方が、操作が容易な点で好ましい。しかしタンパク質の中には、酵母細胞からの分泌が乏しいものや、時には正しくプロセシングされない(例えば、酵母における過グリコシル化)ものがある。そういった場合には、別の真菌宿主生物を選択しなければならない。
【0248】
本発明の範囲における発現宿主としての好適例には、Aspergillus種(欧州特許出願公開第0184438号及び同0284603号に記載あるもの)及びTrichoderma種等の真菌;Bacillus種(欧州特許出願公開第0134048号及び同0253455号に記載あるもの)、Streptomyces種及びPseudomonas種等の細菌;並びにKluyveromyces種(欧州特許出願公開第0096430号、同0301670号に記載あるもの)及びSaccharomyces種等の酵母がある。例を挙げると一般的な発現宿主は、Aspergillus niger、Aspergillus niger var. tubigenis、Aspergillus niger var. awamori、Aspergillus aculeatis、Aspergillus nidulans、Aspergillus orvzae、Trichoderma reesei、Bacillus subtilis、Bacillus licheniformis、Bacillus amyloliquefaciens、Kluyveromyces lactis及びSaccharomyces cerevisiaeから選択される。
【0249】
好適な宿主細胞(酵母、真菌及び植物宿主細胞等)を使用することにより、本発明の組換え発現産物に最適化生物活性を発生させるために必要な翻訳後修飾(例:ミリストイル化、グリコシル化、切断化(truncation)、ラピデーション(lapidation)及びチロシン、セリン又はトレオニンのリン酸化)をもたらすことができる。
【0250】
生物
「生物」なる用語には、本発明による標的及び/又は該標的から得られる産物を有することができる生物であればいかなる生物も含まれる。生物の例には、真菌、酵母又は植物が含まれる。
【0251】
本発明に関し、「トランスジェニック生物」なる用語には、本発明による標的及び/又は得られた産物を有する生物であればいかなる生物も含まれる。
【0252】
治療
本発明の方法により同定される作用因子は、治療用の作用因子として用いられる。つまり治療に利用される。
【0253】
「治療(therapy)」なる用語は、「治療(treatment)」なる用語同様、治療効果、軽減効果、及び予防効果を含意するものである。
【0254】
治療は、ヒト及び家畜等の哺乳動物を対象とする。
【0255】
治療は、プリオン感染に伴う症状を治療するためのものである。
【0256】
薬理組成物
本発明に有用な薬理組成物には、治療有効量の作用因子(1若しくは2以上)及び薬理学的に許容される担体、希釈剤若しくは賦形剤が含まれる(それらを併用することも含めて)。
【0257】
薬理組成物は、ヒト医学及び獣医学におけるヒト及び動物への使用に供され、通常1若しくは2以上の薬理学的に許容される希釈剤、担体若しくは賦形剤を含んでいる。治療に使用する上で許容される担体又は希釈剤は薬理学分野では十分公知であり、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (A.R. Gennaro edit. 1985) に、それらに関する記載がみられる。薬理学的担体、賦形剤若しくは希釈剤は、意図する投与経路及び標準的な薬理学的運用例に基づいて選択される。薬理組成物には、担体、賦形剤若しくは希釈剤として(或いはそれらに加えて)、(1若しくは2以上の)適切な結合剤、潤滑剤、懸濁化剤、コーティング剤又は可溶化剤が含まれていてもよい。
【0258】
保存料、安定剤、染料、さらには香料が薬理組成物に含まれることもある。保存料としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、p−ヒドロキシ安息香酸のエステルが例示される。酸化防止剤及び懸濁化剤も用いられる。
【0259】
送達系が異なると、異なる組成物/処方要件が必要とされる場合もある。例を挙げると本発明に有用な薬理組成物を、吸入用若しくは摂取可能溶液用の鼻腔スプレー若しくはエアゾールとして、ミニポンプを用いて投与又は粘膜経路から投与すべく処方し、或いは、非経口経路により投与するために、例えば静脈内、筋肉内若しくは皮下経路により送達するために組成物を注入可能な剤型に処方する。その他、数多くの経路から投与するような処方を計画することもできる。
【0260】
作用因子はシクロデキストリンと併用することもできる。シクロデキストリンは、薬剤分子と包接及び非包接複合体を形成することが知られている。薬剤−シクロデキストリン複合体が形成されると、薬剤分子における可溶性、溶解速度、生体利用率及び/又は安定性が変化する。一般的に薬剤−シクロデキストリン複合体は、殆どの投与形態及び投与経路において有用である。シクロデキストリンは、薬剤との複合体化を指示する代わりに、例えば担体、希釈剤若しくは可溶化剤などの補助添加剤として用いることもできる。α−、β−、及びγ−シクロデキストリンが最も一般的に用いられ、好適例については、WO−A−91/11172号、同A−94/02518号、及び同A−98/55148号に記載がある。
【0261】
作用因子がタンパク質の場合、該タンパク質は、治療中の被験者においてインサイチューで調製される。これに関し、上記タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、上記タンパク質が上記ヌクレオチド配列により発現されるように、非ウイルス方法(例えばリポソームを用いて)及び/又はウイルス方法(例えばレトロウイルスベクターを用いて)により送達される。
【0262】
投与
「投与する」なる用語には、ウイルス又は非ウイルス方法による送達が含まれる。ウイルス送達機構には、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、及びバキュロウイルスベクターが含まれるが、これらに限定されない。非ウイルス送達機構には、脂質仲介トランスフェクション、リポソーム、免疫リポソーム、リポフェクチン、陽イオン性界面両親媒性物質(CFA)、及びそれらを組み合わせたものが含まれる。
【0263】
本発明に有用な成分は単独でも投与できるが、例えば成分が、意図する投与経路や標準的な薬理学的運用例に基づいて選択された好適な薬理賦形剤、希釈剤又は担体と混合される場合のように、一般的には薬理組成物として投与される。
【0264】
例えばかかる成分は、香料又は色素を含有していてもよい錠剤、カプセル剤、胚珠(ovule)剤、エリキシル剤、液剤、又は懸濁剤の各剤型において、即効性、遅延性、非定型性、徐放性、間欠性、又は放出制御性の各処方にて投与される。
【0265】
薬剤が錠剤の場合、かかる錠剤は、ミクロクリスタリンセルロース、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、二塩基酸カルシウムホスフェート及びグリシン等の賦形剤、澱粉(トウモロコシ、ジャガイモ、タピオカの澱粉が好ましい)、ナトリウムデンプングリコラート、クロスカルメロースナトリウム及びある種の錯体珪酸塩等の崩壊剤、並びにポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、スクロース、ゼラチン及びアカシア等の粒状化バインダーを含有していてもよい。さらに、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリル、及びタルク等の潤滑剤を含有していてもよい。
【0266】
同じような形状をした各種固形組成物もゼラチンカプセルへの充填物として採用される。この場合の好適な賦形剤には、ラクトース、澱粉、セルロース、乳糖、又は高分子ポリエチレングリコールが含まれる。水性懸濁剤及び/又はエリキシル剤とする場合は、種々の甘味料、香味料、色素若しくは染料を、乳化剤及び/又は懸濁剤を、水、エタノール、プロピレングリコール及びグリセリン等の希釈剤を、或いはこれらの組合せを、作用因子と混合させることができる。
【0267】
投与(送達)経路には、経口(例えば錠剤、カプセル剤として、又は摂取可能溶液として)、局所、粘膜(例えば吸入用鼻腔スプレー若しくはエアゾールとして)、鼻腔内、非経口(例えば注入により)、胃腸内、脊髄内、腹腔内、筋肉内、静脈内、子宮内、眼窩内、皮内、頭蓋内、気管内、膣内、大脳室内、大脳内、皮下、眼内(硝子体内若しくは前房内を含む)、経皮、経直腸、口腔内、経膣、硬膜外、舌下からの1若しくは2以上が含まれるが、これらに限定されない。
【0268】
薬理成分の全てが同じ経路から投与されなければならない訳ではない。同様に、組成物が2以上の活性成分を有しているとき、これらの成分は異なる経路から投与されることもある。
【0269】
非経口投与される場合の成分の投与例には、静脈内投与、動脈内投与、くも膜下投与、脳室内投与、尿道内投与、胸骨内投与、頭蓋内投与、筋肉内投与、又は皮下投与からの1若しくは2以上が含まれ、及び/又は点滴法により投与される。
【0270】
非経口投与の場合、成分は無菌水溶液として用いることが最適であり、かかる無菌水溶液には、該溶液を血液と等張にするために十分量の例えば塩分又はグルコース等の物質が別に含まれていてもよい。水溶液は、必要に応じて適宜に緩衝化しなければならない(pH3〜9が好ましい)。無菌条件下での好適な非経口製剤の調製は、当該技術の専門家には公知である標準的な薬理技術に基づいて容易に実施される。
【0271】
上述したように本発明における有用成分(1若しくは2以上)は、鼻腔内投与又は吸入により投与され、乾燥パウダー吸入器により、或いは加圧容器、ポンプ、スプレー若しくはネブライザーを用いたエアゾールスプレー方式により好都合に伝達される。その際、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFA134ATM)若しくは1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFA 227EATM)等のヒドロフルオロアルカン、二酸化炭素、又は他の好適ガス等の噴射剤が用いられる。加圧式エアゾールの場合は、一定量を送達するためのバルブ弁を設けることにより、投与単位を決定できる。例えば溶媒としてエタノールと噴射剤との混合物を使用して、活性化合物の溶液若しくは懸濁液を、加圧容器、ポンプ、スプレー、又はネブライザーに収容させることができ、さらには、ソルビタントリオレアートなどの潤滑剤を収容することもできる。吸入器又は散布器に用いるカプセル及びカートリッジ(例えばゼラチンから作られる)は、作用因子とラクトースや澱粉等の適当なパウダーベースとの混合パウダーを収容するような製法とする。
【0272】
或いは、成分(1若しくは2以上)を座剤、膣座薬の剤型で投与するか、ゲル、ヒドロゲル、ローション、液剤、クリーム、軟膏、又は粉パウダーの剤型として局所に塗布することもできる。成分(1若しくは2以上)は、例えば皮膚パッチを用いて皮膚に、つまり経皮的に投与することもできる。上記成分はまた、肺若しくは直腸を経路として投与することもできる。また、眼を経路として投与することもできる。眼に使用するときは、pHを調整した等張の無菌生理食塩水を用いた微粉状懸濁剤として、又は好ましくはpHを調整した等張の無菌生理食塩水を用いた溶液として、任意に塩化ベンジルアルコニウム等の保存料を添加し、化合物を処方する。或いはまたペトロラツム等の軟膏として処方することもできる。
【0273】
皮膚に局所塗布する場合、成分(1若しくは2以上)は、例えば鉱物油、液状ペトロラツム、白色ペトロラツム、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン・ ポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス及び水の1若しくは2以上を混合したものに懸濁若しくは溶解させた活性化合物を含有する好適な軟膏として処方される。
【0274】
或いは、成分(1若しくは2以上)は、例えば鉱物油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリエチレングリコール、液状パラフィン、ポリソルビン酸60、セチルエステルワックス、セテアリールアルコール、2−オクチルドデカノール、ベンジルアルコール及び水の1若しくは2以上を混合したものに懸濁若しくは溶解させた適切なローション又はクリームとして処方される。
【0275】
投与量
通常医師は、実際に個々の対象者にとって最適な投与量を決定する。特定患者に対する投与量及び投与回数は多様であり、用いる特定化合物の活性、該化合物の代謝安定性及び作用持続時間、年齢、体重、健康状態、食生活、投与形態及び投与時期、排出速度、薬剤の併用状況、特定症状の程度、個々人が受ける治療などの種々の要因に左右される。
【0276】
処方
成分(1若しくは2以上)は、当技術分野で公知の手法を用いて、1若しくは2以上の好適な担体、希釈剤又は賦形剤と混合することにより、薬理組成物に処方される。
【0277】
動物実験モデル
プリオン感染を調節する療法又は治療的作用因子を探索及び/又は設計する際に、インビボモデルを使用する。かかるモデルは、プリオン感染の発生又は治療に関与する多様なパラメーターに対する種々のツール/リード化合物の効果を調べるために用いられる。これらの動物実験モデルは、本発明の方法として、又は本発明の方法において使用される。動物実験モデルは、非ヒト動物実験モデルである。
【0278】
一般的な組換えDNA方法技術
ここに述べる方法は、当技術分野において一般的によく知られているが、特に、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual (1989)、及びAusubel et al., Short Protocols in Molecular Biology (1999) 4th Ed, John Wiley & Sons, Inc.を参照している。PCRについては、米国特許A−4683195号、同A−4800195号、同A−4965188号に記載されている。
【0279】
本発明の別の特徴として、プリオン感染確認試験において、プリオンをSJLマウスで2代継代させることが挙げられる。ここに用いる「継代」なる用語は、プリオン感染SJLマウスから得た試料にSJLマウスを接触させることを指し、かかるプリオン感染SJLマウスとは、既に試料と接触済みでプリオン感染の症状を呈しているマウスである。2代継代後のプリオン潜伏期間は、初代継代後の潜伏期間より短いことが好ましい。2代継代による発病率は初代継代によるものより高いことが好ましい。
【0280】
本発明の別の特徴としては、実験動物の試験系統(1若しくは2以上)を使用することにより、本発明の方法が強化されることが挙げられる。ここにおいて、「試験系統」とは、ウシ、ヒト等の所定の種においてプリオン感染に感受性を示すことが知られている実験動物を指す。未知起源の試料をSJLマウスに接触させると、これらマウスがその後プリオン感染の症状を呈する。同じ試料を、それぞれが特定宿主(1若しくは2以上)におけるプリオンに対してのみ感受性を示す数多くの試験系統と接触させることにより、プリオン源を有利に確定できる。このような試験系統は、プリオンタンパク質調節因子(PPMF)を導入したマウスであってもよい。PPMFは種特異的であり、PrPCへの結合能を有し、PrPCからPrPScへの構造変換をもたらす。PPMFについては米国特許第5962669号に記載がある。
【0281】
以下に実施例を参照しながら本発明を説明する。
【実施例1】
【0282】
試料中のプリオンの検出
実験動物を以下のようにして試料と接触させる。
【0283】
試料の調製はレベル3の微生物用封じ込め施設で行う。試料は、プリオンの存在を試験するウシの冷凍脳組織由来である。無菌使い捨てホモジェナイザーを用い、リン酸緩衝生理食塩水中にて試料を解離する。次に懸濁液を、まず18ゲージのシリンジ針により、次に22ゲージの針により、繰り返し流出させる。SJLマウスへの接種用試料をPBSで希釈し、1%(w/v)脳抽出物を調製する。
【0284】
試験に供する試料と接触させるSJLマウスは、レベル1の動物微生物用封じ込め施設で飼育し、耳穿孔又はトランスポンダーで標識することにより、識別する。SJLマウスは、試料と接触させる前にハロタン/O2で麻酔する。27ゲージ針を用いた脳右頭頂葉への大脳内注入により、SJLマウス40匹をそれぞれ、30μlの1%(w/v)脳抽出物と接触させる。この手順はレベル3の封じ込め施設で行う。
【0285】
試料との接触後、レベル3の動物微生物用封じ込め施設においてSJLマウスを試料共存下でインキュベーションする。
【0286】
全てのSJLマウスについて3日間にわたり、悪影響を観察した。プリオン感染の臨床兆候が現れたら、そのマウスを毎日調べ、苦痛の兆候がみられたらCO2で窒息死させる。マウスにおけるプリオン感染臨床症状の基準は、Carlson et al. (1986), Cell 46, 503-511に記載されている。またプリオン潜伏期間も測定する。この測定は、各実験動物を試料と接触させてから、実験動物がプリオン感染による悪影響を最初に示すまで、又は死亡するまでの経過時間を記録することによってなされる。試料との接触から196±13日後に、上記実験動物40匹のうち25匹にプリオン感染の症状が認められた。
【0287】
プリオン感染を確認するため、以下のようにして生検を実施した。
【0288】
マウス25匹におけるプリオン感染を、BSEプリオンに対する抗体を使用したウエスタンブロット分析により確認した。10%(w/v)脳ホモジェネートを冷温の溶解緩衝液(PBS中に10mMのTris−HCl及び10mMのEDTA(pH7.4)、100mMのNaCl、0.5%NP−40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム)において調製する。3000rpmで5分間遠心分離を行って不溶物を除去する。37℃で1時間、プロテイナーゼK(50mg/ml)により消化させる。Pefabloc(Boehringer社製)を最終濃度が2mMとなるまで添加して反応を終了させる。16%トリス−グリシン・ゲル上での電気泳動を行う前に、等量のローディングバッファー(125mMのTris−HCl(pH6.8)、20%グリセロール、4%SDS、0.02%ブロモフェノールブルー)中で、試料を5分間沸騰させる。Immobilon-P 膜上にゲルをブロットし、5%Blotto(0.05%Tween-20を含むPBS中に5%無脂肪粉ミルク)に固定した後、モノクローナル抗体ICSM18共存下で一晩インキュベーションする。0.05%Tween-20を含むPBSでブロットを洗浄し、アルカリホスファターゼ共役抗マウス抗体共存下にて室温で1時間インキュベーションする。ブロットを再度洗浄し、化学発光基質(Amersham社製)を用いて現像し、Storm 840 phosphoimager(Molecular Dynamics社製)上で視覚化する。
【0289】
以上より、プリオンが試料から検出されたことが示された。
【実施例2】
【0290】
マウスにおけるBSEプリオン初代継代
既に組織病理学的検査によってBSEの臨床診断が確定しているウシの冷凍脳組織に試料が由来することを除けば、実施例1の方法と同様にして試料中のプリオンを検出する。この方法は、脳を摘出して10%緩衝ホルマリンに浸漬固定することによって行われる。次に脳をパラフィンに包埋して、7μM厚の切片に切る。連続切片をヘマトキシリン、エオジン及びゴモリ・トリクローム(Gomori trichrome)で染色する。
【0291】
異なる7系統のマウスを上記試料と大脳内で接触させ、各系統におけるプリオン潜伏期間を測定する。表1に結果を示す。
【0292】
【表1】
SJLマウスを、好適宿主にBSEを引き起こすプリオンを含有する試料に接触させると、試験した他の6系統のマウスの場合(241±15日〜710±15日の範囲)に比べ、プリオン潜伏期間が196±13日へと、実質上短縮される。
【0293】
従って、SJLマウスのプリオン潜伏期間は有利に短いことが示される。
【実施例3】
【0294】
マウスにおけるBSE2代継代
試料が、好適宿主にBSEを引き起こすプリオンを含有する試料を一度継代させたSJLマウスの脳組織由来であることを除けば、実施例2と同様にして実験を行う。さらに上記試料をSJLマウス及びFVBマウスと接触させる。
【0295】
結果を表2に示す。
【0296】
【表2】
BSEをSJLマウスで2代継代することにより、潜伏期間が196±13日(実施例2を参照)から125±3日に短縮される。全てのSJLマウス(7/7)が臨床的に疾患を発症し、よって発病率は100%である。SJLマウスはFVBマウスに比し、プリオン潜伏期間が短く、発病率は高くなっている。SJL及びFVBマウスにBSEプリオンが存在しているかどうかについては、ウエスタンブロッティングによって確認する。
【0297】
従って、BSEをSJLマウスで2代継代させた結果、プリオン潜伏期間が短縮し、発病率が上昇することが示される。
【実施例4】
【0298】
SJLマウスにおけるCJD及びvCJDの初代継代
CJD又はvCJDの臨床診断が既に組織病理学的検査によって確定しているヒトの冷凍脳組織に試料が由来することを除けば、実施例1の方法と同様にして試料中のプリオンを検出する。CJD及びvCJDをSJLマウスで初代継代させ、プリオン潜伏期間を測定する。
【0299】
結果を表3に示す。
【0300】
【表3】
vCJDを接種したSJLマウスのプリオン潜伏期間は、CJDを接種した場合の潜伏期間に比し、実質的に短い。この驚きに値する知見は、SJLマウスが、CJDを引き起こすプリオンに対するより、vCJDを引き起こすプリオンに対して、より強い感受性を示すことを示唆している。平均潜伏期間(異なるvCJD接種原間における)は、189±24日である。
【0301】
さらに上記の結果は、SJLマウスが、CJDを引き起こすプリオンに対する場合より、BSEを引き起こすプリオンに対して、より強い感受性を示す(196±13日、表1)という驚くべき知見を説明するものとなっている。
【0302】
従って、好適宿主にvCJDを引き起こすプリオンと接触させたSJLマウスのプリオン潜伏期間は189日以下であることが示される。
【実施例5】
【0303】
プリオン感受性遺伝子の同定
SJL及びC57B16マウスを使用する以外は実施例2と同様にしてプリオン潜伏期間を測定する。好適宿主にBSEを引き起こすプリオンを初代継代した後のSJLマウスのプリオン潜伏期間は、196±13日であることが明らかになっており、従ってSJLマウスは感受性マウスであると考えられる。好適宿主にBSEを引き起こすプリオンを初代継代した後のC57B16マウスのプリオン潜伏期間は710±15日であり、従ってC57B16マウスは非感受性マウスであると考えられる。
【0304】
SJLマウス(第1mRNA)及びC57B16マウス(第2mRNA)のmRNAからcDNAを調製する。50ng−1μgのmRNAを500ngのオリゴ(dT)プライマーと混合し、この混合物を70℃まで10分間加熱し、直ちに氷上で冷却する。次に10mMのdNTPmix、100mMのDTT、逆転写酵素緩衝液、及び逆転写酵素を添加する。42℃で90分間反応をインキュベーションし、その後60mMのEDTAを加えて反応を停止させる。第2mRNAが20倍に増えるまで、2組のcDNAを連続して2〜3回互いにハイブリダイズさせ、cDNA:mRNAハイブリッドをヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーにより除去する。ハイブリダイゼーションを起こさなかったSJLマウスcDNAを、合成開始時におけるmRNA調製物の100倍に増加するまでアニーリングし、得られたcDNA:mRNAハイブリッドをヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーにより回収する。アルカリ加水分解によってmRNAが除去された後に、SJLマウスのmRNAに特異的な配列が著しく増強されたcDNAをプローブとして、かかる配列と相同なクローンのcDNAライブラリーを得る。得られたクローンはプリオン感受性遺伝子若しくはその断片の候補である。
【0305】
従って、プリオン感受性又は非感受性実験動物の遺伝子を比較することにより、プリオン感受性遺伝子が同定されることが示される。
【実施例6】
【0306】
プリオン潜伏期間を延長又は短縮させる作用因子の同定
vCJDの臨床診断が既に組織病理学的検査によって確定しているヒトの冷凍脳組織に試料が由来することを除けば、実施例1と同様にしてプリオンを検出する。SJLマウス20匹を試料に接触させる。別のSJLマウス20匹も同じ試料に接触させ、さらに試験する作用因子とも接触させる。該作用因子は、試料とは別個に試料との接触直後に投与する。該作用因子は、27ゲージ針を用いて30μlを脳右頭頂葉へ大脳内投与する。
【0307】
プリオン接種以前に若しくは接種と同時に作用因子を投与することにより、或いはまず接種を行い、感染期間(好ましくは疾患の症状が出るまでに)に作用因子を投与することにより本実施例を実施することが明らかに有利である。
【0308】
従って、プリオン潜伏期間を延長若しくは短縮させる作用因子が同定されることが示される。
【実施例7】
【0309】
試料中のプリオン量の推定
BSEの臨床診断が既に組織病理学的検査によって確定しているウシ由来の試料を用い、実施例1に従ってプリオンの検出を行う。
【0310】
実験動物として、SJLマウスを使用する。SJLマウスの観察において、SJLマウスがプリオン感染の症状を呈するまでの経過時間と、SJLマウスが死亡するまでの経過時間を記録する。次にこれら2つのパラメーターの間の時間間隔を計算する。
【0311】
上記2つの時間間隔からBSE価を推定する際に検量曲線を用いることができる。
【0312】
上記検量曲線は、既知のBSEプリオン価を有する多段階に希釈した試料にSJLマウスを接触させることにより作製される。各希釈液を用いた場合の疾患発生から死に至るまでの経過時間を測定する。プリオン価と、症状が最初に顕現してから死亡するまでの時間間隔との関係を表に示す。
【0313】
次に、多段階に希釈した実験試料にSJLマウスを接触させる。それぞれの希釈試料を4匹のSJLマウスに接種する。使用する希釈範囲は、103〜109ID50Units/mlである。次にマウスのインキュベーションを行い、各希釈試料につき、各マウスにおける疾患の発生から死亡に至るまでの時間間隔をそれぞれ測定し、必要なら各希釈試料についての平均を求める。
【0314】
検量曲線から試料中のプリオン量を読み取って推定する。
【0315】
従って、本発明の方法を用いることにより、試料中のプリオン量が推定されることが示される。
【実施例8】
【0316】
プリオン感染に対する実験動物の感受性の推定
BSEの臨床診断が既に組織病理学的検査によって確定しているウシの冷凍脳組織に試料が由来することを除けば、実施例1と同様にしてプリオンを検出する。実施例2で使用したマウスと同じマウスを用いた。ウエスタンブロッティングで得られたブロット(洗浄後)を、ホースラディッシュペルオキシダーゼ共役抗マウス抗体共存下で1時間インキュベーションすることにより、PrPのグリコフォームを定量する。上記ブロットを再度洗浄し、化学発光基質(ECL、 Amersham社製)及びBiomax MR film(Kodak社製)を用いて現像する。
【0317】
この実験の結果から、FVB、Tg152、SWR、NZW、C57BL6及びSM/Jの各マウスに継代したBSEプリオンは、ジグリコシル化のバンドが、より強く染色されるという特徴的なグリコフォーム率を示すことがわかった。SJLマウスの場合、BSEプリオンのグリコフォーム率は上記とは異なりモノグリコシル化のバンドがドミナントである。これはRIIIS/Jマウスにも該当する。この情報から、プリオン潜伏期間はSJL及びRIIIS/Jマウスにおいて最も短い、つまりSJL及びRIIIS/Jマウスがプリオン感染に対して最も感受性を示すと推定される。
【0318】
以上のことは、7系統全てにおいて、BSE初代継代後のプリオン潜伏期間を測定することによって調べられる。表4に結果を示す。
【0319】
【表4】
上記の結果から、SJL及びRIIIS/Jマウスのプリオン潜伏期間が最も短いことが確認できる。
【0320】
従って、グリコフォーム率分析を行うことにより、実験動物のプリオン感染に対する感受性が推定されることが明らかである。
【実施例9】
【0321】
マウスにおけるBSEの3代継代
試料が、好適宿主にBSEを引き起こすプリオンを含有する試料を2回継代したSJLマウスの脳組織由来であることを除けば、実施例2と同様にして実験を行う。この試料をSJLマウス及びFVBマウスと接触させる。
【0322】
【表B】
SJLマウスにおいてBSEを3代継代させた後に、潜伏期間が125±3日からさらに110±3日へと短縮される。全てのマウスに臨床疾患の発生が認められ、従って発病率は100%である。FVBマウスの場合よりSJLマウスの場合の方が、プリオン潜伏期間が短く、発病率が高い。SJLマウス及びFVBマウスにBSEプリオンが存在しているかどうかについては、ウエスタンブロッティングによって確認する。
【0323】
試料が、SJLで継代したBSEに感染した臨床罹患FVBマウスの脳組織に由来していること以外は、実施例2と同様にして実験を行う。この試料をSJL及びFVBマウスと接触させる。
【0324】
【表C】
【実施例10】
【0325】
試料が、好適宿主にvCJDを引き起こすプリオンを含有する試料を1回継代したSJLマウスの脳組織由来であることを除けば、実施例2と同様にして実験を行う。
【0326】
【表D】
SJLマウスにおいてvCJDを2代継代する結果、潜伏期間が短縮される(実施例4も参照)。殆どのSJLマウスが、死亡前に疾患の臨床兆候を発生するが、これは発病率の上昇を反映している(実施例4も参照)。
(参考文献)
Claims (23)
- (a)1若しくは2以上の実験動物を試料と接触させ;
(b)上記実験動物のインキュベーションを行い;
(c)上記実験動物における悪影響や死亡例を観察し;また任意に
(d)プリオンを証明するため、悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を実施する工程からなり;上記実験動物におけるプリオン潜伏期間が196日以下であることを特徴とする試料中のプリオンを検出する方法。 - 試料と接触させる実験動物がマウスであることを特徴とする請求項1記載の方法。
- 試料と接触させる実験動物がSJLマウス由来であることを特徴とする請求項2記載の方法。
- 試料と接触させる実験動物がSJLマウスであることを特徴とする請求項3記載の方法。
- 試料と接触させる実験動物に、SJLマウスの1若しくは2以上の遺伝子が導入されていることを特徴とする先行請求項のいずれかに記載の方法。
- 遺伝子に1若しくは2以上のPrP遺伝子が含まれることを特徴とする請求項5記載の方法。
- PrP遺伝子が、哺乳動物のPrPをコードすることを特徴とする請求項6記載の方法。
- PrP遺伝子が、家畜又はヒトのPrPをコードすることを特徴とする請求項7記載の方法。
- 試料が、好適宿主にBSE又はvCJDを引き起こすプリオンを含むことを特徴とする請求項1〜8いずれかに記載の方法。
- 試料が哺乳動物由来であることを特徴とする請求項9記載の方法。
- 試料が家畜又はヒト由来であることを特徴とする請求項10記載の方法。
- (a)1若しくは2以上の実験動物を試料と接触させ;
(b)上記実験動物のインキュベーションを行い;
(c)上記実験動物における悪影響や死亡例を観察し;また任意に
(d)プリオンを証明するため、悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を実施し;
(e)短期及びより長期のプリオン潜伏期間を示す実験動物を同定し;
(f)短期及びより長期のプリオン潜伏期間を示す実験動物の遺伝子を比較し;
(g)短期及びより長期のプリオン潜伏期間を示す実験動物間で異なる1若しくは2以上の遺伝子を同定し;また任意に
(h)短期及びより長期のプリオン潜伏期間を示す実験動物間で異なる1若しくは2以上の遺伝子の機能を決定する
工程からなる短期のプリオン潜伏期間に関連する遺伝子を同定する方法。 - 試料と接触させる実験動物に、1若しくは2以上のプリオン感受性遺伝子が導入されていることを特徴とする請求項12記載の方法。
- (a)1若しくは2以上の実験動物を試料と接触させ;
(b)1若しくは2以上の実験動物を作用因子と接触させ;
(c)上記実験動物のインキュベーションを行い;
(d)上記実験動物における悪影響や死亡例を観察し、プリオンを証明するため、悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を実施し;
(e)プリオン潜伏期間を延長又は短縮する作用因子を同定する工程からなり、プリオンを証明するために悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を工程(d)の後に任意に実施することを特徴とするプリオン感染調節能を有する1若しくは2以上の作用因子を同定する方法。 - 請求項14記載の方法により同定され、プリオン感染調節能を有することを特徴とする作用因子。
- プリオン感染治療に用いる治療薬の製造における請求項15記載の作用因子の使用法。
- 請求項15記載の作用因子を被験者に治療有効量投与することを含む該被験者におけるプリオン感染を調節する方法。
- (a)1若しくは2以上の実験動物を試料と接触させ;
(b)上記実験動物のインキュベーションを行い;
(c)上記実験動物を観察し;
(d)上記実験動物がプリオン感染の臨床症状を呈するまでの経過時間及び実験動物が死亡に至るまでの経過時間を記録し;
(f)(d)における両方の時間から試料中のプリオン量を推定する
工程からなる試料中のプリオン量を推定する方法。 - (a)1若しくは2以上の実験動物を、プリオン含有試料と接触させ;
(b)上記実験動物のインキュベーションを行い;
(c)上記実験動物における悪影響や死亡例を観察し;
(d)プリオンを証明するため、悪影響又は死亡が認められる実験動物の生検を実施し;
(e)グリコフォーム率分析を行い;
(f)プリオン感染に対する実験動物の感受性を推定する
工程からなるプリオン感染に対する実験動物の感受性を推定する方法。 - 試料が、好適宿主にBSE又はvCJDを引き起こすプリオンを含むことを特徴とする請求項21記載の方法。
- 実験動物のプリオン潜伏期間が100日以下であることを特徴とする請求項1〜14又は請求項18〜20のいずれかに記載の方法。
- 実験動物のプリオン潜伏期間が40日以下であることを特徴とする請求項1〜14又は請求項18〜20のいずれかに記載の方法。
- 請求項15記載の作用因子を含む薬理組成物。
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