JP2004519555A - 耐酸化性及び耐食性のモリブデン含有オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents
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Abstract
19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、1〜6重量%のモリブデン及び0.8重量%より少ないケイ素を含むオーステナイト系ステンレス鋼。本発明の鉄ベースの合金にモリブデンを添加すると、高温における耐食性が増加する。このオーステナイト系ステンレス鋼は、19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、1〜6重量%のモリブデン、0〜0.1重量%の炭素、0〜1.5重量%のマンガン、0〜0.05重量%のリン、及び0〜0.02重量%の硫黄、0.8重量%より少ないケイ素、0.15〜0.6重量%のチタン、0.15〜0.6重量%のアルミニウム、0〜0.75重量%の銅、鉄、及び付随不純物から実質的に構成されてもよい。本発明に従うオーステナイト系ステンレス鋼は少なくとも1500℃までの広い温度範囲で塩による腐食に対して高い抵抗性を示す。従って、本発明の前記ステンレス鋼は、例えば、自動車の構成部品、そして特に自動車排気装置の構成部品、及びフレキシブルコネクターとして、また耐食性が望まれるその他の用途に、広く利用されるであろう。
Description
【0001】
発明の技術分野及び産業上の利用性
本発明は耐酸化性及び耐食性のオーステナイト系ステンレス鋼に関する。特に、本発明は、例えば、自動車排気装置の構成部品に使用されるような、高温及び腐食性の環境での使用に適したオーステナイト系ステンレス鋼に関する。本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、1800°F以下の温度の腐食性環境に曝される、例えば、塩化物含量の多い水に曝される、構成部品として特に使用される。
【0002】
発明の背景の記述
自動車排気装置の構成部品の製造において、装置自体の性能を維持しながら、価格と重量の両方を共に最小にすることが求められる。一般に、これらの自動車構成部品は、構成部品の重量を最小にするために薄いステンレス鋼素材から作製され、従って、穿孔又はその他の手段による破損を防止するために、腐食性侵蝕に対する構成部品の抵抗性は高いことが必要である。特定の自動車排気装置の用途に使用される構成部品が高温において極めて腐食性の化学的環境に曝されるという事実によって、耐食性は複雑化する。特に、自動車排気装置の構成部品及びその他の自動車エンジン構成部品は、熱排気ガスに基づく高温の条件下で道路氷結防止塩からの汚染に曝される。これらの条件下のステンレス鋼及び他の金属の構成部品は熱い塩腐食として知られる複雑な形態の腐食性侵蝕を受けやすい。
【0003】
一般に、高温では、ステンレス鋼構成部品は空気に曝された表面が酸化されて、保護金属酸化物層を形成する。この酸化物層は下側の金属を保護して、更なる酸化と他の腐食の発生を低減する。しかしながら、道路氷結防止塩の堆積物はこの保護酸化物層を攻撃して、劣化させる。この保護酸化物層が劣化するにつれて、下側の金属が露出して、厳しい腐食を受けやすくなる。
【0004】
従って、自動車排気装置の構成部品のために選ばれる金属合金は種々の厳しい状態に曝される。自動車排気装置の構成部品の耐久性は極めて重要である。なぜならば、寿命の延長が、消費者によって、連邦規定によって、そして製造業者の保証要求によって要求されるからである。自動車排気装置の構成部品のために選ばれる更に複雑な合金に対して、2つの固定された排気装置の構成部品の間で自在ジョイントとして作用する金属フレキシブルコネクターを使用することが最近開発された。フレキシブルコネクターは、溶接ジョイント、スリップジョイント、及びその他のジョイントの使用に伴う問題を緩和するために使用できる。フレキシブルコネクターに使用するために選ばれる材料は高温の腐食性環境に曝され、そして成形可能であって、熱塩腐食及びその他の種々の形式の腐食、例えば、中間温度酸化、一般的な腐食、及び塩化物応力腐食割れ、のような腐食に対して抵抗性を有する必要がある。
【0005】
自動車排気装置のフレキシブルコネクターに用いられる合金は、合金が道路氷結防止塩のような汚染物に曝された後に、高温に暴露されるような状態にしばしば直面する。ハロゲン化物の塩は融剤として作用して、一般に高温で前記コネクター表面に形成される保護酸化物のスケールを除去する。コネクターの劣化はこのような条件下で極めて急速に進む。従って、簡単な空気酸化試験は、使用中の腐食性劣化に対する正確な抵抗性を示すためには不十分である。
【0006】
自動車産業は自動車排気装置の構成部品を製造するために数種類の合金を使用する。これらの合金は、中程度の耐食性を有する低価格物質から、高い耐食性を有する高度に合金化された高価格な物質までを包含する。中程度の耐食性を有する比較的低価格な合金は、AISIタイプ316Ti(UNS等級S31635)である。タイプ316Tiステンレス鋼は、高温に曝された場合、急速に腐食し、従って、温度が約1200°Fより高くなる場合、一般に自動車排気装置のフレキシブルコネクターに用いられない。タイプ316Tiは、一般に高い排気温度を生じない自動車排気装置の構成部品にのみ一般的に使用される。
【0007】
高価格で、高合金化された物質が、高温に曝された自動車排気装置のフレキシブルコネクターを作製するために一般的に使用される。高温腐食性環境に曝されるフレキシブルコネクターの製造に使用される代表的な合金は、オーステナイト系のニッケルをベースとする超合金のUNS等級N06625であって、これは、例えば、ALLEGHENY LUDLUM ALTEMP(登録商標)625(以後、“AL625”)として市販されている。AL625は、広範囲の腐食性条件において優れた耐酸化性と耐食性を有するオーステナイト系のニッケルをベースにした超合金であって、優れた成形性と強度を示す。UNS等級N06625の合金は、一般に約20〜25重量%のクロム、約8〜12重量%のモリブデン、約3.5重量%のニオブ、そして4重量%の鉄を含む。このタイプの合金は自動車排気装置のフレキシブルコネクターのための優れた選択の対象であるが、これらの合金はタイプ316Ti合金に比べて極めて高価である。
【0008】
自動車排気装置の構成部品の製造業者は、排気装置のフレキシブルコネクターを製造するために他の合金を使用できる。しかしながら、これらの合金は、特に高温ならびに道路氷結防止塩のような腐食性汚染物質に曝された場合、高い耐食性を提供できない。
【0009】
従って、高温の腐食性環境で使用されて、高度に合金化されていない耐食性物質、例えば、UNS等級N06625の合金のように、超合金よりも安価に製造される合金に対する必要性が存在する。特に、例えば、自動車排気装置用の軽量のフレキシブルコネクター及びその他の構成部品に成形されて、高温において塩堆積物及びその他の道路氷結防止製品のような腐食性物質からの腐食に耐えられる鉄をベースとする合金に対する必要性が存在する。
【0010】
発明の要約
本発明は19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、1〜6重量%のモリブデン及び0.8重量%より少ないケイ素を含むオーステナイト系ステンレス鋼を提供することによって、上述の要求に対処する。前記鉄ベースの合金にモリブデンを添加すると、高温における耐食性が増加する。
【0011】
また、本発明は19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、1〜6重量%のモリブデン、0〜0.1重量%の炭素、0〜1.5重量%のマンガン、0〜0.05重量%のリン、及び0〜0.02重量%の硫黄、0.8重量%より少ないケイ素、0.15〜0.6重量%のチタン、及び0.15〜0.6重量%のアルミニウム、0〜0.75重量%の銅、鉄、及び付随不純物から実質的に成るオーステナイト系ステンレス鋼を提供する。
【0012】
本発明に従うオーステナイト系ステンレス鋼は少なくとも1500℃までの広い温度範囲で塩による腐食に対して高い抵抗性を示す。また上述のオーステナイト系ステンレス鋼の製品も本発明によって提供される。従って、本発明の前記ステンレス鋼は、例えば、自動車の構成部品、そして特に自動車排気装置の構成部品、及びフレキシブルコネクターとして、また耐食性が望まれるその他の用途に、広く利用されるであろう。本発明の合金は高温で優れた耐酸化性を示し、従って発熱体シースのような高温の用途に広く適用される。また、本発明は19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、1〜6重量%のモリブデン及び0.8重量%より少ないケイ素を含むオーステナイト系ステンレス鋼から製品を作製する方法を提供する。
【0013】
読者は以下の本発明の態様の詳細な記述を検討することによって、上述した本発明の詳細と利点を理解できるであろう。また、読者は本発明の前記ステンレス鋼を作製及び/又は使用することによって、本発明の他の内容と利点を理解できるであろう。
【0014】
発明の態様の詳細な記述
本発明は高温において耐食性のオーステナイト系ステンレス鋼を提供する。本発明の耐食性オーステナイト系ステンレス鋼は自動車産業、特に自動車排気装置の構成部品に特殊な用途を有する。オーステナイト系ステンレス鋼は鉄、クロム及びニッケルを含む合金である。一般に、オーステナイト系ステンレス鋼は耐食性を要求される用途に使用され、そして16%を越えるクロム含量と7%を越えるニッケル含量によって特徴づけられる。
【0015】
一般に、腐蝕のプロセスは金属又は金属合金とこれらの環境との反応である。特定の環境下の金属又は合金の耐食性は、一般に、他の要素のなかでも、少なくとも部分的にその組成によって決定される。腐蝕の副生物は、一般に、鉄酸化物、アルミニウム酸化物、クロム酸化物、等のような金属酸化物である。特定の酸化物、特に酸化クロムをステンレス鋼上に形成することは有益であり、これにより下側の金属の更なる劣化が効果的に防止される。腐食は熱又は腐食剤の存在によって加速される。
【0016】
自動車に適用されるステンレス鋼の耐食性は、高温状態の下で道路氷結防止塩からの汚染物に曝されて低下する。その結果、高温で生じる酸化物と汚染塩との間の相互作用に基づいて、複雑な形態の腐食が生じる。高温酸化により、金属が空気中の酸素と直接に反応して保護酸化物を形成する。自動車構成部品上に堆積する道路氷結防止剤は保護酸化物層を攻撃して、劣化させる。保護層が劣化するにつれて、下側の金属は更なる腐食に曝される。ハロゲン化物塩、特に塩化物塩は、ピッチング(pitting)又は粒界酸化のような侵蝕の局部的形態を増進する傾向を示す。
【0017】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は1〜6重量%のモリブデンを含む。モリブデンは、耐食性、靭性、強度、及び高温におけるクリープ抵抗を与えるために、合金化剤として添加される。また本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、及び0.8重量%より少ないケイ素を含む。本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は従来技術のタイプ316Ti合金よりも優れた高温耐食性を示し、従って、自動車排気装置の構成部品として、更に汎用の用途を享受するであろう。しかしながら、本発明はUSN等級N06625合金よりも安い価格でこの耐食性を提供できる。なぜならば、例えば、本発明は鉄をベースにする合金であるのに対し、前記N06625合金はより高価なニッケルをベースにする超合金であることに基づく。
【0018】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、好ましくは2重量%より多いモリブデンを含有する。本発明のその他の好ましい態様は4重量%より少ないモリブデンを含有する。このようなモリブデン濃度により、妥当な価格で耐食性を改良できる。ケイ素を0〜0.8重量%の範囲で本発明のオーステナイト系ステンレス鋼に添加すると、スケール付着力が増大した合金が得られる。このケイ素は下側の金属の更なる酸化に抵抗する軽い表面酸化物層を形成する。本発明は、例えば、炭素、マンガン、リン、硫黄、及び銅のような別の合金化成分を任意に含有できる。また、本発明のステンレス鋼は、例えば、0.15〜0.6重量%のチタン、0.15〜0.6重量%のアルミニウム、及びその他の付随不純物を含有できる。
【0019】
電気発熱体シースは、一般に金属シースに包まれた抵抗心線を含む。この抵抗心線は、耐熱性の熱伝導物質を高密度に詰め込まれた層により、前記シース内に収納されて、シースから電気的に絶縁されてもよい。この抵抗心線は一般に螺旋状に巻かれたワイヤ部材であってもよく、一方、前記耐熱性熱伝導物質は粒状の酸化マグネシウムであってもよい。
【0020】
本発明のステンレス鋼を調製し、そして高温の腐食性環境における耐食性を評価した。19〜23重量%のクロム及び30〜35重量%のニッケルを含むターゲット組成物を用いて、2種類の合金を溶解した。第1の合金は2%のターゲットモリブデン濃度を有し、そして第2の合金は4%のターゲットモリブデン濃度を有した。本発明の合金の実組成を表1にサンプル1及びサンプル2として示す。サンプル1は1.81重量%のモリブデンを含有し、そしてサンプル2は3.54重量%のモリブデンを含有した。合金のサンプル1及び2を従来の方法、具体的には、ターゲット仕様に近い濃度の合金成分を真空溶解することによって調製した。次いで、生成したインゴットを研削し、約2000°Fで約0.1インチ厚で7インチ幅に熱間圧延した。得られた板をグリッドブラストし、そして酸を用いてスケール除去した。次いで、この板を0.008インチの厚さに冷間圧延し、そして不活性ガス中でアニールした。得られた板を平らなクーポン(flat coupon)のサンプルと溶接された涙滴(welded teardrop)のサンプルとに成形した。
【0021】
比較のために、別の市販の合金を用意して、これを平らなクーポンのサンプルと溶接された涙滴のサンプルに成形した。サンプル3を市販のAISIタイプ332(UNS等級S08800)合金の仕様に合わせて溶解した。タイプ332はサンプル1及び2の組成に近い組成によって特徴付けられたオーステナイト系ステンレス鋼であるが、モリブデンは添加されていない。タイプ332は、一般に、高温での酸化及び浸炭に耐えるように設計されたニッケル及びクロム含有ステンレス鋼である。試験されたタイプ332サンプルの分析結果を表1に示す。タイプ332は、典型的に、約32重量%のニッケル及び約20重量%のクロムを含む本発明の合金として特徴付けられた。タイプ332は、サンプル1及び2にモリブデンを添加することによって得られる熱塩腐食試験における耐食性の改善を決定する比較目的のために選択された。
【0022】
また、AISIタイプ316Ti(UNS等級S31635)(サンプル4)及びAL625(UNS等級N06625)(サンプル5)のサンプルを比較の目的のために試験した。これら2種類の合金は、これらが成形可能であり、中間温度における酸化、一般的な腐食、そして特に氷結防止塩のような道路汚染物が高レベルで存在する場合における塩化物応力腐食割れに耐えられるため、現在のところ、自動車排気装置のフレキシブルコネクターに採用される。サンプル4及び5の組成を表1に示す。AISIタイプ316Tiは低温用自動車排気装置のフレキシブルコネクターの用途に現在使用されている低価格合金である。これに対して、AL625は、1500°Fを超える温度に曝される自動車排気装置のフレキシブルコネクターとしての応用を含む広い用途を持つ高価格材料である。
【0023】
【表1】
【0024】
堆積した腐食性固形物の存在下において前記サンプルの高温での耐食性と耐酸化性を調べるための試験を工夫した。これらの高温の腐食性環境をシミュレートするために、特殊な腐食試験を開発した。一般に、高温において塩の腐食に耐える合金の大部分の試験は“カップ”試験又は“浸漬”試験として分類できる。
【0025】
カップ試験においては、合金のサンプルを一般にスイフト又はエリクセンの形状寸法のカップに入れる。次いで、このカップを既知の塩濃度を有する既知容量の試験水溶液で満たす。炉の中でカップ内の水を蒸発させて、サンプル表面に塩の被膜を残留させる。次いで、このサンプルを循環又は恒温の条件の下で高温に曝し、そして塩腐食に対するサンプルの抵抗力を評価する。浸漬試験において、平坦又はUベンド構造のサンプルを既知の塩濃度を有する水溶液中に浸漬する。炉の中で水を蒸発させて、サンプル表面に塩の被膜を残留させる。次いで、塩腐食に対する前記サンプルの抵抗力を評価する。
【0026】
しかしながら、塩による腐食に対する抵抗力を決定する上記両方の試験に関しては問題がある。試験の結果は、塩被膜がサンプルの試験表面に均一に形成されないために一致しないで、試験の始めから終わりまで簡単に比較ができない可能性もあり、又はサンプル間で一致する可能性もある。カップ又は浸漬の試験を採用することによって、塩は通常、最後に乾燥する領域に最も多く堆積する。サンプルに塩をより均一に付着させるために、簡単な塩付与の方法が本発明において採用された。この方法は平坦なサンプル上に塩水溶液を散布する方法である。この方法を用いて、脱イオン水に溶解した塩化ナトリウムから実質的に構成されるエアゾールスプレーから塩の均一層を堆積できる。エアゾールの堆積を通じて前記水溶液から水を急速に均等に蒸発させるために、サンプルを約300°Fまで加熱する。堆積した塩の量を散布量を秤量することによって監視し、そして表面濃度(mg塩/cm2サンプルの表面積)として記録する。塩の堆積はこの方法を注意深く使用することにより約±0.01mg/cm2まで制御できることが計算によって判る。散布後に、前記サンプルは、マッフル炉中において、実験室の静止空気中において、又はその他の所望の環境状態において、高温で少なくとも1回の72時間の熱サイクルに曝されてもよい。好ましくは、専用の試験炉及び実験器具が、他の試験物質からの二次汚染を回避するために、この試験に使用されるべきである。前記熱サイクルの実施後に、サンプル及び収集された非付着性腐食生成物を別々に秤量する。その結果は、比重量、即ち、上述したように、最初の(被覆されていない)試験片に対する変化、として報告される。
【0027】
平らなクーポンを最初に試験した。その理由は、これが熱塩腐食に影響され易い合金を保護する最も簡単な方法であるからである。各サンプルの重量を試験前に測定した。各試験合金の縦2インチ横1インチの試験サンプルに均一な塩の層を付与した。脱イオン水に溶解した塩化物塩の希薄水溶液をこれらの各サンプルに散布した。水溶液から水を急速に均等に蒸発させるために、サンプルをホットプレート上で約300°Fまで予熱した。それぞれのサンプルに堆積した塩の量を、それぞれの散布の後に秤量することにより監視した。散布の後に、サンプルをアルミナ坩堝に入れて、マッフル炉内で1500°Fまでの高温に曝した。典型的な暴露サイクルは実験室の静止空気中において高温で72時間であった。非付着性腐食生成物を集めて、別々に秤量した。サンプルの計算された増量及び減量は金属種と空気との反応及び被膜に残留する塩に起因する。付与された塩の量は、環境との相互作用に基づく重量変化よりも一般にずっと少ないため、一般に無視できる。
【0028】
成形又は溶接から生じる残留応力の効果も調査した。この試験のために、サンプルを溶接された“涙滴”サンプルに形成した。この“涙滴”サンプルは0.062インチ厚の平らなサンプルをジグ上で涙滴形状に折り曲げ、次いでその接合端部を自己加熱的に溶接することによって作製した。高温に曝す前に、このサンプルを、平らなサンプルを被覆するために記述した方法に類似した方法を用いて塩化物の塩で被覆した。前記涙滴表面の被膜は定量的方法では付与されなかった。しかしながら、被膜は平らで均一に堆積した塩の堆積物であった。涙滴サンプルの外面に堆積した塩の量は約0.05〜0.10mg/cm2であったと予測される。被覆された試験片を自動化熱重量循環酸化の実験室的集団運転設備に設置した。24時間毎に、各サンプル表面の塩被膜を蒸発によって除去し、次いで環境に曝すことによって生じた増量及び減量を測定するために、このサンプルを秤量した。秤量の後に、塩被膜を再度付与し、そして試験を続行した。
【0029】
表2はサンプル1〜5のそれぞれについて実施された試験を要約する。
【0030】
【表2】
【0031】
腐食試験の結果
平らなクーポンの試験を実施して初期性能を測定し、次いで溶接された涙滴試験を実施して平らなクーポンの試験を確認した。この試験結果を詳述する。
【0032】
平らなクーポンの試験結果
合金の耐食性に対して塩濃度の増大と温度の増大が与える影響を調べるために、4種類の試験物質から成る平らなクーポンのサンプル、即ち表1に示すサンプル2〜5について、試験を実施した。表1に示すサンプル2〜5の各組成のクーポンを、塩が添加されない被膜と0.05mg/cm2及び0.10mg/cm2の塩被膜に関して試験した。前記クーポンを2種類の温度、即ち、1200°Fと1500°Fで試験した。塩を被覆する前にサンプルを秤量して、初期重量を決定し、次いで各試験物質のための適当量の塩をサンプルに被覆し、そして熱酸化腐食に対する各合金の抵抗力を測定するために1200°Fの環境下に置いた。高温に72時間曝した後に、サンプルを炉から除去して、室温まで冷却した。サンプル表面に残留する塩を除去し、そしてサンプルを秤量して、サンプルの最終重量を決定した。
【0033】
平らなクーポンサンプルの熱酸化腐食試験の結果を図1に示す。図1は、0.0、0.5及び0.10mg/cm2の塩層で被覆され、そして1200°Fまで72時間曝された本発明の合金(サンプル2)と従来技術の合金の平らなクーポンサンプルの熱塩腐食試験の結果を比較する重量変化のデータのグラフである。この重量変化は、サンプルの最終重量からサンプルの初期重量を差し引き、次いでこの結果を平らなクーポンの初期表面積で割ることによって、決定された。
【0034】
合金の全てが1200°Fのこの試験で良好に機能した。各合金の各サンプルは付着性酸化物層の生成を示唆する僅かな増量を示した。この金属酸化物層が生成すると、これが金属表面に付着している限り、サンプル本体が保護される。一般に、このサンプルは、塩被膜の増大に比例して、増量が増えることを示した。この結果は、塩濃度が増大すると、サンプル表面の酸化の程度が増大することを示す。T316Tiのサンプル4は1mg/cm2を超える最大の増量を示したが、これに対し本発明の合金のサンプル2及びT332のサンプル3は0.5mg/cm2より少ない最小の増量を示した。
【0035】
同様の試験を同じサンプルについて1500°Fで実施し、その結果を図2に示す。低温用途の合金T‐316Tiは、予想どおり、不十分に機能した。重大なスポーリング(spalling:表面の剥落)が確認され、そして0.05mg/cm2及び0.10mg/cm2の被覆をしたクーポンは初期表面積の平方センチメートル当たり10mg以上を喪失した。この試験によれば、T‐316Tiは、1200°F以上の高温の用途の使用に適さないことが確認され、また熱塩酸化(hot salt oxidation)に対する合金の抵抗性を比較するために開発されたこの試験方法の信頼性が確認された。その他の試験された合金の全てが良好に機能した。T‐332のサンプル3はこの試験条件下で約1.3mg/cm2の減量を示した。高価格のAL625超合金のサンプル5はこの試験条件下で約1.7mg/cm2の増量を示した。この増量は合金表面の金属酸化物から成る保護層の形成及びこの保護層の最小のスポーリングと一致する。本発明の合金のサンプル2はこの試験条件下でほとんど重量変化を示さなかった。サンプル2には約4重量%のモリブデンが存在するため、従来技術のT‐332合金のサンプル3に比べて、熱塩腐食に対する本発明の合金の熱塩耐食性が増大した。サンプル3は塩被膜がない場合又は0.05mg/cm2の被膜を有する場合には、ほとんど重量変化を示さなかった。しかしながら、0.10mg/cm2の塩濃度に曝された場合、サンプル3は保護酸化層の劣化を示し、そして1.5mg/cm2より多い減量を示した。
【0036】
本発明の合金はこの試験において塩酸化腐食に対する強い抵抗性を発揮した。本発明のサンプル2のモリブデン濃度によって、本発明の合金の耐食性はT332のサンプル3の耐食性を超えて増大した。
【0037】
溶接された涙滴の試験結果
溶接された涙滴の試験は上記平らなクーポンの試験と一致した。溶接された涙滴の試験結果を重量変化の百分率で報告する。クーポンを最初に、そして200時間以上の長期間の試験を通じて、定期的に秤量した。図3及び図4は、それぞれ公称0.10mg/cm2の塩層で被覆され、そして1200°F〜1500°Fに曝された本発明の合金(サンプル2)及び従来技術の合金の、溶接された涙滴サンプルの熱塩腐食試験の結果を比較する重量変化のデータのグラフである。両方の図から、T‐316Tiは、この場合も先と同様に、極めて不十分に機能することが容易に理解でき、そして高温腐食性環境に適さない合金であることが分かる。他に試験された全てのサンプルは、図3及び図4の両方に示されるように、性能が実質的に同等であった。本発明の合金のサンプル2は、これらの条件下で最大の耐食性を示し、減量は1%より少なく、そして約30時間の試験の後において更なる重量変化を生じなかった。これは、1500°Fでの試験期間を通じて初期重量の約3%が減少した高性能の従来技術の合金AL625であるサンプル5の性能に匹敵する。本発明の合金はその他の試験された合金に比べて熱塩酸化に対し優れた抵抗性を示した。
【0038】
重量変化の情報は、これのみでは、極めて攻撃的な環境下での減損の総合的な影響を測定するパラメーターとして一般的に不十分である。熱塩酸化腐食のような極めて攻撃的な環境下における腐食は、しばしば実質的に不規則であり、そしてこの腐食によって合金本体の横断面部分が傷つけられ、この傷つけられた部分は、重量変化のデータのみの分析の際に合金本体の横断面が傷つけられた部分よりも極めて大きい可能性がある。従って、金属減量(残留横断面の百分率として)を単純な静的酸化試験のための標準的技法(ASTM‐G54)に基づいて測定した。図5はこの分析から誘導されるパラメーターの定義を説明する。試験サンプル30は図5において距離32として示される初期厚さ、To、を有する。残存金属の百分率は、距離34として示される、腐食試験に曝された後の試験サンプルの厚さ、Tml、を初期厚さ32で割ることによって決定される。腐食されない金属の百分率は、図5において距離36として示される、腐食の兆候を示さない試験サンプルの厚さ、Tm、を初期厚さ32で割ることによって決定される。これらの結果は、腐食が完全に金属クーポンを劣化させる場合に、単純な減量の測定よりも優れた指標を与える。
【0039】
上記金属組織検査の結果を図6及び図7に示す。低温度合金のT‐316Ti(サンプル4)を分析すると、1200°Fと1500°Fの両方の試験条件下において、著しい腐食を示した。1500°Fの試験の後に、初期横断面の25%のみがT‐316Tiクーポン中に残存した。
【0040】
その他の試験された合金は1200°Fで良好に機能し、サンプル2、3及び5に関して、その初期物質の90%以上が影響されないで残存した。1500°Fまで曝した後に、クーポンを分析した結果、ニッケルをベースとする高価格のAL625超合金のサンプル5は、初期厚さの減量が低い百分率を示したが、残存横断面積の百分率(約93%)と影響されない金属の百分率(約82%)との間の差によって示されるように、ピッチングの生成を示し始めることが判明した。ASTM‐G54の方法に従う分析の結果によって示されるように、物質に局部的なピッチングが存在すると、物質が局部的に破損する可能性を示すデータが与えられる。T332合金から成るクーポンも1500°Fに曝された後に僅かなピッチングを示し、初期物質の75%以下が影響されないで残存した。
【0041】
本発明の合金のサンプル2は、両方の温度の試験の後に、影響されない領域が最大の比率で残存することを示した。この結果はモリブデンが保護酸化層の劣化と分離を遅らせることを示す。前記残存横断面及び試験後に残存する影響されない領域の百分率は略等しく、約90%である。これは、本発明の合金の熱塩腐食が試験クーポン表面を通して均一であることを示し、また早すぎる破損は局部的破損に基づいて生じないことを示す。これに対して、このタイプの局部的破損は従来技術のT332合金のサンプル3によって示された。サンプル3を分析すると、局部的破損の可能性がある僅かなピッチングが示された。
【0042】
本明細書の記述は本発明の明確な理解に適切な本発明の態様を説明することを理解すべきである。当業者には明白であり、従って本発明の十分な理解を促進しないような本発明の特定の態様は、本発明を簡潔にするために提出されていない。本発明は特定の態様に関して記述されているが、当業者は、上述の記述を考慮することにより、本発明の多くの修正と変形例を採用できることを理解できるであろう。このような本発明の全ての変形例と修正は上記の記述と特許請求の範囲によって包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
0.0、0.5及び0.10mg/cm2の塩層で被覆され、そして1200°Fまで72時間曝された本発明の合金(サンプル2)と従来技術の合金の平らなクーポンサンプルの熱塩腐食試験の結果を比較する重量変化のデータのグラフである。
【図2】
0.0、0.5及び0.10mg/cm2の塩層で被覆され、そして1500°Fまで72時間曝された本発明の合金(サンプル2)と従来技術の合金の平らなクーポンサンプルの熱塩腐食試験の結果を比較する重量変化のデータのグラフである。
【図3】
公称0.10mg/cm2の塩層で被覆され、そして1200°Fに曝された本発明の合金(サンプル2)及び従来技術の合金の、溶接された涙滴サンプルの熱塩腐食試験の結果を比較する重量変化のデータのグラフである。
【図4】
公称0.10mg/cm2の塩層で被覆され、そして1500°Fに曝された本発明の合金(サンプル2)及び従来技術の合金の、溶接された涙滴サンプルの熱塩腐食試験の結果を比較する重量変化のデータのグラフである。
【図5】
単純な静的酸化試験のための標準的技法(ASTM‐G54)の分析方法の条件及び結果を示す腐食された典型的な金属サンプルの説明図である。
【図6】
本発明の合金のサンプル(サンプル2)及び従来技術の合金のサンプルにそれぞれ公称0.10mg/cm2の塩被膜を被覆し、1200°Fに曝した溶接涙滴サンプルに対してSTM‐G54に従って実施された測定結果を比較する侵入深さのグラフである。
【図7】
本発明の合金のサンプル(サンプル2)及び従来技術の合金のサンプルにそれぞれ公称0.10mg/cm2の塩被膜を被覆し、1500°Fに曝した溶接涙滴サンプルに対してSTM‐G54に従って実施された測定結果を比較する侵入深さのグラフである。
発明の技術分野及び産業上の利用性
本発明は耐酸化性及び耐食性のオーステナイト系ステンレス鋼に関する。特に、本発明は、例えば、自動車排気装置の構成部品に使用されるような、高温及び腐食性の環境での使用に適したオーステナイト系ステンレス鋼に関する。本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、1800°F以下の温度の腐食性環境に曝される、例えば、塩化物含量の多い水に曝される、構成部品として特に使用される。
【0002】
発明の背景の記述
自動車排気装置の構成部品の製造において、装置自体の性能を維持しながら、価格と重量の両方を共に最小にすることが求められる。一般に、これらの自動車構成部品は、構成部品の重量を最小にするために薄いステンレス鋼素材から作製され、従って、穿孔又はその他の手段による破損を防止するために、腐食性侵蝕に対する構成部品の抵抗性は高いことが必要である。特定の自動車排気装置の用途に使用される構成部品が高温において極めて腐食性の化学的環境に曝されるという事実によって、耐食性は複雑化する。特に、自動車排気装置の構成部品及びその他の自動車エンジン構成部品は、熱排気ガスに基づく高温の条件下で道路氷結防止塩からの汚染に曝される。これらの条件下のステンレス鋼及び他の金属の構成部品は熱い塩腐食として知られる複雑な形態の腐食性侵蝕を受けやすい。
【0003】
一般に、高温では、ステンレス鋼構成部品は空気に曝された表面が酸化されて、保護金属酸化物層を形成する。この酸化物層は下側の金属を保護して、更なる酸化と他の腐食の発生を低減する。しかしながら、道路氷結防止塩の堆積物はこの保護酸化物層を攻撃して、劣化させる。この保護酸化物層が劣化するにつれて、下側の金属が露出して、厳しい腐食を受けやすくなる。
【0004】
従って、自動車排気装置の構成部品のために選ばれる金属合金は種々の厳しい状態に曝される。自動車排気装置の構成部品の耐久性は極めて重要である。なぜならば、寿命の延長が、消費者によって、連邦規定によって、そして製造業者の保証要求によって要求されるからである。自動車排気装置の構成部品のために選ばれる更に複雑な合金に対して、2つの固定された排気装置の構成部品の間で自在ジョイントとして作用する金属フレキシブルコネクターを使用することが最近開発された。フレキシブルコネクターは、溶接ジョイント、スリップジョイント、及びその他のジョイントの使用に伴う問題を緩和するために使用できる。フレキシブルコネクターに使用するために選ばれる材料は高温の腐食性環境に曝され、そして成形可能であって、熱塩腐食及びその他の種々の形式の腐食、例えば、中間温度酸化、一般的な腐食、及び塩化物応力腐食割れ、のような腐食に対して抵抗性を有する必要がある。
【0005】
自動車排気装置のフレキシブルコネクターに用いられる合金は、合金が道路氷結防止塩のような汚染物に曝された後に、高温に暴露されるような状態にしばしば直面する。ハロゲン化物の塩は融剤として作用して、一般に高温で前記コネクター表面に形成される保護酸化物のスケールを除去する。コネクターの劣化はこのような条件下で極めて急速に進む。従って、簡単な空気酸化試験は、使用中の腐食性劣化に対する正確な抵抗性を示すためには不十分である。
【0006】
自動車産業は自動車排気装置の構成部品を製造するために数種類の合金を使用する。これらの合金は、中程度の耐食性を有する低価格物質から、高い耐食性を有する高度に合金化された高価格な物質までを包含する。中程度の耐食性を有する比較的低価格な合金は、AISIタイプ316Ti(UNS等級S31635)である。タイプ316Tiステンレス鋼は、高温に曝された場合、急速に腐食し、従って、温度が約1200°Fより高くなる場合、一般に自動車排気装置のフレキシブルコネクターに用いられない。タイプ316Tiは、一般に高い排気温度を生じない自動車排気装置の構成部品にのみ一般的に使用される。
【0007】
高価格で、高合金化された物質が、高温に曝された自動車排気装置のフレキシブルコネクターを作製するために一般的に使用される。高温腐食性環境に曝されるフレキシブルコネクターの製造に使用される代表的な合金は、オーステナイト系のニッケルをベースとする超合金のUNS等級N06625であって、これは、例えば、ALLEGHENY LUDLUM ALTEMP(登録商標)625(以後、“AL625”)として市販されている。AL625は、広範囲の腐食性条件において優れた耐酸化性と耐食性を有するオーステナイト系のニッケルをベースにした超合金であって、優れた成形性と強度を示す。UNS等級N06625の合金は、一般に約20〜25重量%のクロム、約8〜12重量%のモリブデン、約3.5重量%のニオブ、そして4重量%の鉄を含む。このタイプの合金は自動車排気装置のフレキシブルコネクターのための優れた選択の対象であるが、これらの合金はタイプ316Ti合金に比べて極めて高価である。
【0008】
自動車排気装置の構成部品の製造業者は、排気装置のフレキシブルコネクターを製造するために他の合金を使用できる。しかしながら、これらの合金は、特に高温ならびに道路氷結防止塩のような腐食性汚染物質に曝された場合、高い耐食性を提供できない。
【0009】
従って、高温の腐食性環境で使用されて、高度に合金化されていない耐食性物質、例えば、UNS等級N06625の合金のように、超合金よりも安価に製造される合金に対する必要性が存在する。特に、例えば、自動車排気装置用の軽量のフレキシブルコネクター及びその他の構成部品に成形されて、高温において塩堆積物及びその他の道路氷結防止製品のような腐食性物質からの腐食に耐えられる鉄をベースとする合金に対する必要性が存在する。
【0010】
発明の要約
本発明は19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、1〜6重量%のモリブデン及び0.8重量%より少ないケイ素を含むオーステナイト系ステンレス鋼を提供することによって、上述の要求に対処する。前記鉄ベースの合金にモリブデンを添加すると、高温における耐食性が増加する。
【0011】
また、本発明は19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、1〜6重量%のモリブデン、0〜0.1重量%の炭素、0〜1.5重量%のマンガン、0〜0.05重量%のリン、及び0〜0.02重量%の硫黄、0.8重量%より少ないケイ素、0.15〜0.6重量%のチタン、及び0.15〜0.6重量%のアルミニウム、0〜0.75重量%の銅、鉄、及び付随不純物から実質的に成るオーステナイト系ステンレス鋼を提供する。
【0012】
本発明に従うオーステナイト系ステンレス鋼は少なくとも1500℃までの広い温度範囲で塩による腐食に対して高い抵抗性を示す。また上述のオーステナイト系ステンレス鋼の製品も本発明によって提供される。従って、本発明の前記ステンレス鋼は、例えば、自動車の構成部品、そして特に自動車排気装置の構成部品、及びフレキシブルコネクターとして、また耐食性が望まれるその他の用途に、広く利用されるであろう。本発明の合金は高温で優れた耐酸化性を示し、従って発熱体シースのような高温の用途に広く適用される。また、本発明は19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、1〜6重量%のモリブデン及び0.8重量%より少ないケイ素を含むオーステナイト系ステンレス鋼から製品を作製する方法を提供する。
【0013】
読者は以下の本発明の態様の詳細な記述を検討することによって、上述した本発明の詳細と利点を理解できるであろう。また、読者は本発明の前記ステンレス鋼を作製及び/又は使用することによって、本発明の他の内容と利点を理解できるであろう。
【0014】
発明の態様の詳細な記述
本発明は高温において耐食性のオーステナイト系ステンレス鋼を提供する。本発明の耐食性オーステナイト系ステンレス鋼は自動車産業、特に自動車排気装置の構成部品に特殊な用途を有する。オーステナイト系ステンレス鋼は鉄、クロム及びニッケルを含む合金である。一般に、オーステナイト系ステンレス鋼は耐食性を要求される用途に使用され、そして16%を越えるクロム含量と7%を越えるニッケル含量によって特徴づけられる。
【0015】
一般に、腐蝕のプロセスは金属又は金属合金とこれらの環境との反応である。特定の環境下の金属又は合金の耐食性は、一般に、他の要素のなかでも、少なくとも部分的にその組成によって決定される。腐蝕の副生物は、一般に、鉄酸化物、アルミニウム酸化物、クロム酸化物、等のような金属酸化物である。特定の酸化物、特に酸化クロムをステンレス鋼上に形成することは有益であり、これにより下側の金属の更なる劣化が効果的に防止される。腐食は熱又は腐食剤の存在によって加速される。
【0016】
自動車に適用されるステンレス鋼の耐食性は、高温状態の下で道路氷結防止塩からの汚染物に曝されて低下する。その結果、高温で生じる酸化物と汚染塩との間の相互作用に基づいて、複雑な形態の腐食が生じる。高温酸化により、金属が空気中の酸素と直接に反応して保護酸化物を形成する。自動車構成部品上に堆積する道路氷結防止剤は保護酸化物層を攻撃して、劣化させる。保護層が劣化するにつれて、下側の金属は更なる腐食に曝される。ハロゲン化物塩、特に塩化物塩は、ピッチング(pitting)又は粒界酸化のような侵蝕の局部的形態を増進する傾向を示す。
【0017】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は1〜6重量%のモリブデンを含む。モリブデンは、耐食性、靭性、強度、及び高温におけるクリープ抵抗を与えるために、合金化剤として添加される。また本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、及び0.8重量%より少ないケイ素を含む。本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は従来技術のタイプ316Ti合金よりも優れた高温耐食性を示し、従って、自動車排気装置の構成部品として、更に汎用の用途を享受するであろう。しかしながら、本発明はUSN等級N06625合金よりも安い価格でこの耐食性を提供できる。なぜならば、例えば、本発明は鉄をベースにする合金であるのに対し、前記N06625合金はより高価なニッケルをベースにする超合金であることに基づく。
【0018】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、好ましくは2重量%より多いモリブデンを含有する。本発明のその他の好ましい態様は4重量%より少ないモリブデンを含有する。このようなモリブデン濃度により、妥当な価格で耐食性を改良できる。ケイ素を0〜0.8重量%の範囲で本発明のオーステナイト系ステンレス鋼に添加すると、スケール付着力が増大した合金が得られる。このケイ素は下側の金属の更なる酸化に抵抗する軽い表面酸化物層を形成する。本発明は、例えば、炭素、マンガン、リン、硫黄、及び銅のような別の合金化成分を任意に含有できる。また、本発明のステンレス鋼は、例えば、0.15〜0.6重量%のチタン、0.15〜0.6重量%のアルミニウム、及びその他の付随不純物を含有できる。
【0019】
電気発熱体シースは、一般に金属シースに包まれた抵抗心線を含む。この抵抗心線は、耐熱性の熱伝導物質を高密度に詰め込まれた層により、前記シース内に収納されて、シースから電気的に絶縁されてもよい。この抵抗心線は一般に螺旋状に巻かれたワイヤ部材であってもよく、一方、前記耐熱性熱伝導物質は粒状の酸化マグネシウムであってもよい。
【0020】
本発明のステンレス鋼を調製し、そして高温の腐食性環境における耐食性を評価した。19〜23重量%のクロム及び30〜35重量%のニッケルを含むターゲット組成物を用いて、2種類の合金を溶解した。第1の合金は2%のターゲットモリブデン濃度を有し、そして第2の合金は4%のターゲットモリブデン濃度を有した。本発明の合金の実組成を表1にサンプル1及びサンプル2として示す。サンプル1は1.81重量%のモリブデンを含有し、そしてサンプル2は3.54重量%のモリブデンを含有した。合金のサンプル1及び2を従来の方法、具体的には、ターゲット仕様に近い濃度の合金成分を真空溶解することによって調製した。次いで、生成したインゴットを研削し、約2000°Fで約0.1インチ厚で7インチ幅に熱間圧延した。得られた板をグリッドブラストし、そして酸を用いてスケール除去した。次いで、この板を0.008インチの厚さに冷間圧延し、そして不活性ガス中でアニールした。得られた板を平らなクーポン(flat coupon)のサンプルと溶接された涙滴(welded teardrop)のサンプルとに成形した。
【0021】
比較のために、別の市販の合金を用意して、これを平らなクーポンのサンプルと溶接された涙滴のサンプルに成形した。サンプル3を市販のAISIタイプ332(UNS等級S08800)合金の仕様に合わせて溶解した。タイプ332はサンプル1及び2の組成に近い組成によって特徴付けられたオーステナイト系ステンレス鋼であるが、モリブデンは添加されていない。タイプ332は、一般に、高温での酸化及び浸炭に耐えるように設計されたニッケル及びクロム含有ステンレス鋼である。試験されたタイプ332サンプルの分析結果を表1に示す。タイプ332は、典型的に、約32重量%のニッケル及び約20重量%のクロムを含む本発明の合金として特徴付けられた。タイプ332は、サンプル1及び2にモリブデンを添加することによって得られる熱塩腐食試験における耐食性の改善を決定する比較目的のために選択された。
【0022】
また、AISIタイプ316Ti(UNS等級S31635)(サンプル4)及びAL625(UNS等級N06625)(サンプル5)のサンプルを比較の目的のために試験した。これら2種類の合金は、これらが成形可能であり、中間温度における酸化、一般的な腐食、そして特に氷結防止塩のような道路汚染物が高レベルで存在する場合における塩化物応力腐食割れに耐えられるため、現在のところ、自動車排気装置のフレキシブルコネクターに採用される。サンプル4及び5の組成を表1に示す。AISIタイプ316Tiは低温用自動車排気装置のフレキシブルコネクターの用途に現在使用されている低価格合金である。これに対して、AL625は、1500°Fを超える温度に曝される自動車排気装置のフレキシブルコネクターとしての応用を含む広い用途を持つ高価格材料である。
【0023】
【表1】
【0024】
堆積した腐食性固形物の存在下において前記サンプルの高温での耐食性と耐酸化性を調べるための試験を工夫した。これらの高温の腐食性環境をシミュレートするために、特殊な腐食試験を開発した。一般に、高温において塩の腐食に耐える合金の大部分の試験は“カップ”試験又は“浸漬”試験として分類できる。
【0025】
カップ試験においては、合金のサンプルを一般にスイフト又はエリクセンの形状寸法のカップに入れる。次いで、このカップを既知の塩濃度を有する既知容量の試験水溶液で満たす。炉の中でカップ内の水を蒸発させて、サンプル表面に塩の被膜を残留させる。次いで、このサンプルを循環又は恒温の条件の下で高温に曝し、そして塩腐食に対するサンプルの抵抗力を評価する。浸漬試験において、平坦又はUベンド構造のサンプルを既知の塩濃度を有する水溶液中に浸漬する。炉の中で水を蒸発させて、サンプル表面に塩の被膜を残留させる。次いで、塩腐食に対する前記サンプルの抵抗力を評価する。
【0026】
しかしながら、塩による腐食に対する抵抗力を決定する上記両方の試験に関しては問題がある。試験の結果は、塩被膜がサンプルの試験表面に均一に形成されないために一致しないで、試験の始めから終わりまで簡単に比較ができない可能性もあり、又はサンプル間で一致する可能性もある。カップ又は浸漬の試験を採用することによって、塩は通常、最後に乾燥する領域に最も多く堆積する。サンプルに塩をより均一に付着させるために、簡単な塩付与の方法が本発明において採用された。この方法は平坦なサンプル上に塩水溶液を散布する方法である。この方法を用いて、脱イオン水に溶解した塩化ナトリウムから実質的に構成されるエアゾールスプレーから塩の均一層を堆積できる。エアゾールの堆積を通じて前記水溶液から水を急速に均等に蒸発させるために、サンプルを約300°Fまで加熱する。堆積した塩の量を散布量を秤量することによって監視し、そして表面濃度(mg塩/cm2サンプルの表面積)として記録する。塩の堆積はこの方法を注意深く使用することにより約±0.01mg/cm2まで制御できることが計算によって判る。散布後に、前記サンプルは、マッフル炉中において、実験室の静止空気中において、又はその他の所望の環境状態において、高温で少なくとも1回の72時間の熱サイクルに曝されてもよい。好ましくは、専用の試験炉及び実験器具が、他の試験物質からの二次汚染を回避するために、この試験に使用されるべきである。前記熱サイクルの実施後に、サンプル及び収集された非付着性腐食生成物を別々に秤量する。その結果は、比重量、即ち、上述したように、最初の(被覆されていない)試験片に対する変化、として報告される。
【0027】
平らなクーポンを最初に試験した。その理由は、これが熱塩腐食に影響され易い合金を保護する最も簡単な方法であるからである。各サンプルの重量を試験前に測定した。各試験合金の縦2インチ横1インチの試験サンプルに均一な塩の層を付与した。脱イオン水に溶解した塩化物塩の希薄水溶液をこれらの各サンプルに散布した。水溶液から水を急速に均等に蒸発させるために、サンプルをホットプレート上で約300°Fまで予熱した。それぞれのサンプルに堆積した塩の量を、それぞれの散布の後に秤量することにより監視した。散布の後に、サンプルをアルミナ坩堝に入れて、マッフル炉内で1500°Fまでの高温に曝した。典型的な暴露サイクルは実験室の静止空気中において高温で72時間であった。非付着性腐食生成物を集めて、別々に秤量した。サンプルの計算された増量及び減量は金属種と空気との反応及び被膜に残留する塩に起因する。付与された塩の量は、環境との相互作用に基づく重量変化よりも一般にずっと少ないため、一般に無視できる。
【0028】
成形又は溶接から生じる残留応力の効果も調査した。この試験のために、サンプルを溶接された“涙滴”サンプルに形成した。この“涙滴”サンプルは0.062インチ厚の平らなサンプルをジグ上で涙滴形状に折り曲げ、次いでその接合端部を自己加熱的に溶接することによって作製した。高温に曝す前に、このサンプルを、平らなサンプルを被覆するために記述した方法に類似した方法を用いて塩化物の塩で被覆した。前記涙滴表面の被膜は定量的方法では付与されなかった。しかしながら、被膜は平らで均一に堆積した塩の堆積物であった。涙滴サンプルの外面に堆積した塩の量は約0.05〜0.10mg/cm2であったと予測される。被覆された試験片を自動化熱重量循環酸化の実験室的集団運転設備に設置した。24時間毎に、各サンプル表面の塩被膜を蒸発によって除去し、次いで環境に曝すことによって生じた増量及び減量を測定するために、このサンプルを秤量した。秤量の後に、塩被膜を再度付与し、そして試験を続行した。
【0029】
表2はサンプル1〜5のそれぞれについて実施された試験を要約する。
【0030】
【表2】
【0031】
腐食試験の結果
平らなクーポンの試験を実施して初期性能を測定し、次いで溶接された涙滴試験を実施して平らなクーポンの試験を確認した。この試験結果を詳述する。
【0032】
平らなクーポンの試験結果
合金の耐食性に対して塩濃度の増大と温度の増大が与える影響を調べるために、4種類の試験物質から成る平らなクーポンのサンプル、即ち表1に示すサンプル2〜5について、試験を実施した。表1に示すサンプル2〜5の各組成のクーポンを、塩が添加されない被膜と0.05mg/cm2及び0.10mg/cm2の塩被膜に関して試験した。前記クーポンを2種類の温度、即ち、1200°Fと1500°Fで試験した。塩を被覆する前にサンプルを秤量して、初期重量を決定し、次いで各試験物質のための適当量の塩をサンプルに被覆し、そして熱酸化腐食に対する各合金の抵抗力を測定するために1200°Fの環境下に置いた。高温に72時間曝した後に、サンプルを炉から除去して、室温まで冷却した。サンプル表面に残留する塩を除去し、そしてサンプルを秤量して、サンプルの最終重量を決定した。
【0033】
平らなクーポンサンプルの熱酸化腐食試験の結果を図1に示す。図1は、0.0、0.5及び0.10mg/cm2の塩層で被覆され、そして1200°Fまで72時間曝された本発明の合金(サンプル2)と従来技術の合金の平らなクーポンサンプルの熱塩腐食試験の結果を比較する重量変化のデータのグラフである。この重量変化は、サンプルの最終重量からサンプルの初期重量を差し引き、次いでこの結果を平らなクーポンの初期表面積で割ることによって、決定された。
【0034】
合金の全てが1200°Fのこの試験で良好に機能した。各合金の各サンプルは付着性酸化物層の生成を示唆する僅かな増量を示した。この金属酸化物層が生成すると、これが金属表面に付着している限り、サンプル本体が保護される。一般に、このサンプルは、塩被膜の増大に比例して、増量が増えることを示した。この結果は、塩濃度が増大すると、サンプル表面の酸化の程度が増大することを示す。T316Tiのサンプル4は1mg/cm2を超える最大の増量を示したが、これに対し本発明の合金のサンプル2及びT332のサンプル3は0.5mg/cm2より少ない最小の増量を示した。
【0035】
同様の試験を同じサンプルについて1500°Fで実施し、その結果を図2に示す。低温用途の合金T‐316Tiは、予想どおり、不十分に機能した。重大なスポーリング(spalling:表面の剥落)が確認され、そして0.05mg/cm2及び0.10mg/cm2の被覆をしたクーポンは初期表面積の平方センチメートル当たり10mg以上を喪失した。この試験によれば、T‐316Tiは、1200°F以上の高温の用途の使用に適さないことが確認され、また熱塩酸化(hot salt oxidation)に対する合金の抵抗性を比較するために開発されたこの試験方法の信頼性が確認された。その他の試験された合金の全てが良好に機能した。T‐332のサンプル3はこの試験条件下で約1.3mg/cm2の減量を示した。高価格のAL625超合金のサンプル5はこの試験条件下で約1.7mg/cm2の増量を示した。この増量は合金表面の金属酸化物から成る保護層の形成及びこの保護層の最小のスポーリングと一致する。本発明の合金のサンプル2はこの試験条件下でほとんど重量変化を示さなかった。サンプル2には約4重量%のモリブデンが存在するため、従来技術のT‐332合金のサンプル3に比べて、熱塩腐食に対する本発明の合金の熱塩耐食性が増大した。サンプル3は塩被膜がない場合又は0.05mg/cm2の被膜を有する場合には、ほとんど重量変化を示さなかった。しかしながら、0.10mg/cm2の塩濃度に曝された場合、サンプル3は保護酸化層の劣化を示し、そして1.5mg/cm2より多い減量を示した。
【0036】
本発明の合金はこの試験において塩酸化腐食に対する強い抵抗性を発揮した。本発明のサンプル2のモリブデン濃度によって、本発明の合金の耐食性はT332のサンプル3の耐食性を超えて増大した。
【0037】
溶接された涙滴の試験結果
溶接された涙滴の試験は上記平らなクーポンの試験と一致した。溶接された涙滴の試験結果を重量変化の百分率で報告する。クーポンを最初に、そして200時間以上の長期間の試験を通じて、定期的に秤量した。図3及び図4は、それぞれ公称0.10mg/cm2の塩層で被覆され、そして1200°F〜1500°Fに曝された本発明の合金(サンプル2)及び従来技術の合金の、溶接された涙滴サンプルの熱塩腐食試験の結果を比較する重量変化のデータのグラフである。両方の図から、T‐316Tiは、この場合も先と同様に、極めて不十分に機能することが容易に理解でき、そして高温腐食性環境に適さない合金であることが分かる。他に試験された全てのサンプルは、図3及び図4の両方に示されるように、性能が実質的に同等であった。本発明の合金のサンプル2は、これらの条件下で最大の耐食性を示し、減量は1%より少なく、そして約30時間の試験の後において更なる重量変化を生じなかった。これは、1500°Fでの試験期間を通じて初期重量の約3%が減少した高性能の従来技術の合金AL625であるサンプル5の性能に匹敵する。本発明の合金はその他の試験された合金に比べて熱塩酸化に対し優れた抵抗性を示した。
【0038】
重量変化の情報は、これのみでは、極めて攻撃的な環境下での減損の総合的な影響を測定するパラメーターとして一般的に不十分である。熱塩酸化腐食のような極めて攻撃的な環境下における腐食は、しばしば実質的に不規則であり、そしてこの腐食によって合金本体の横断面部分が傷つけられ、この傷つけられた部分は、重量変化のデータのみの分析の際に合金本体の横断面が傷つけられた部分よりも極めて大きい可能性がある。従って、金属減量(残留横断面の百分率として)を単純な静的酸化試験のための標準的技法(ASTM‐G54)に基づいて測定した。図5はこの分析から誘導されるパラメーターの定義を説明する。試験サンプル30は図5において距離32として示される初期厚さ、To、を有する。残存金属の百分率は、距離34として示される、腐食試験に曝された後の試験サンプルの厚さ、Tml、を初期厚さ32で割ることによって決定される。腐食されない金属の百分率は、図5において距離36として示される、腐食の兆候を示さない試験サンプルの厚さ、Tm、を初期厚さ32で割ることによって決定される。これらの結果は、腐食が完全に金属クーポンを劣化させる場合に、単純な減量の測定よりも優れた指標を与える。
【0039】
上記金属組織検査の結果を図6及び図7に示す。低温度合金のT‐316Ti(サンプル4)を分析すると、1200°Fと1500°Fの両方の試験条件下において、著しい腐食を示した。1500°Fの試験の後に、初期横断面の25%のみがT‐316Tiクーポン中に残存した。
【0040】
その他の試験された合金は1200°Fで良好に機能し、サンプル2、3及び5に関して、その初期物質の90%以上が影響されないで残存した。1500°Fまで曝した後に、クーポンを分析した結果、ニッケルをベースとする高価格のAL625超合金のサンプル5は、初期厚さの減量が低い百分率を示したが、残存横断面積の百分率(約93%)と影響されない金属の百分率(約82%)との間の差によって示されるように、ピッチングの生成を示し始めることが判明した。ASTM‐G54の方法に従う分析の結果によって示されるように、物質に局部的なピッチングが存在すると、物質が局部的に破損する可能性を示すデータが与えられる。T332合金から成るクーポンも1500°Fに曝された後に僅かなピッチングを示し、初期物質の75%以下が影響されないで残存した。
【0041】
本発明の合金のサンプル2は、両方の温度の試験の後に、影響されない領域が最大の比率で残存することを示した。この結果はモリブデンが保護酸化層の劣化と分離を遅らせることを示す。前記残存横断面及び試験後に残存する影響されない領域の百分率は略等しく、約90%である。これは、本発明の合金の熱塩腐食が試験クーポン表面を通して均一であることを示し、また早すぎる破損は局部的破損に基づいて生じないことを示す。これに対して、このタイプの局部的破損は従来技術のT332合金のサンプル3によって示された。サンプル3を分析すると、局部的破損の可能性がある僅かなピッチングが示された。
【0042】
本明細書の記述は本発明の明確な理解に適切な本発明の態様を説明することを理解すべきである。当業者には明白であり、従って本発明の十分な理解を促進しないような本発明の特定の態様は、本発明を簡潔にするために提出されていない。本発明は特定の態様に関して記述されているが、当業者は、上述の記述を考慮することにより、本発明の多くの修正と変形例を採用できることを理解できるであろう。このような本発明の全ての変形例と修正は上記の記述と特許請求の範囲によって包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
0.0、0.5及び0.10mg/cm2の塩層で被覆され、そして1200°Fまで72時間曝された本発明の合金(サンプル2)と従来技術の合金の平らなクーポンサンプルの熱塩腐食試験の結果を比較する重量変化のデータのグラフである。
【図2】
0.0、0.5及び0.10mg/cm2の塩層で被覆され、そして1500°Fまで72時間曝された本発明の合金(サンプル2)と従来技術の合金の平らなクーポンサンプルの熱塩腐食試験の結果を比較する重量変化のデータのグラフである。
【図3】
公称0.10mg/cm2の塩層で被覆され、そして1200°Fに曝された本発明の合金(サンプル2)及び従来技術の合金の、溶接された涙滴サンプルの熱塩腐食試験の結果を比較する重量変化のデータのグラフである。
【図4】
公称0.10mg/cm2の塩層で被覆され、そして1500°Fに曝された本発明の合金(サンプル2)及び従来技術の合金の、溶接された涙滴サンプルの熱塩腐食試験の結果を比較する重量変化のデータのグラフである。
【図5】
単純な静的酸化試験のための標準的技法(ASTM‐G54)の分析方法の条件及び結果を示す腐食された典型的な金属サンプルの説明図である。
【図6】
本発明の合金のサンプル(サンプル2)及び従来技術の合金のサンプルにそれぞれ公称0.10mg/cm2の塩被膜を被覆し、1200°Fに曝した溶接涙滴サンプルに対してSTM‐G54に従って実施された測定結果を比較する侵入深さのグラフである。
【図7】
本発明の合金のサンプル(サンプル2)及び従来技術の合金のサンプルにそれぞれ公称0.10mg/cm2の塩被膜を被覆し、1500°Fに曝した溶接涙滴サンプルに対してSTM‐G54に従って実施された測定結果を比較する侵入深さのグラフである。
Claims (16)
- 19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、1〜6重量%のモリブデン及び0.8重量%より少ないケイ素を含む、オーステナイト系ステンレス鋼。
- 2〜4重量%のモリブデンを更に含む、請求項1記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
- 0〜0.1重量%の炭素、0〜1.5重量%のマンガン、0〜0.05重量%のリン、及び0〜0.02重量%の硫黄を更に含む、請求項1記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
- 2〜4重量%のモリブデン、0.15〜0.6重量%のチタン、及び0.15〜0.6重量%のアルミニウムを更に含む、請求項1記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
- 0〜0.1重量%の炭素、0〜1.5重量%のマンガン、0〜0.05重量%のリン、及び0〜0.02重量%の硫黄を更に含む、請求項4記載のオーステナイト系ステンレス鋼。
- 19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、1〜6重量%のモリブデン、0〜0.1重量%の炭素、0〜1.5重量%のマンガン、0〜0.05重量%のリン、及び0〜0.02重量%の硫黄、0.8重量%より少ないケイ素、0.15〜0.6重量%のチタン、及び0.15〜0.6重量%のアルミニウム、0〜0.75重量%の銅、鉄、及び付随不純物から実質的に成る、オーステナイト系ステンレス鋼。
- 19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、2〜4重量%のモリブデン、0〜0.1重量%の炭素、0〜1.5重量%のマンガン、0〜0.05重量%のリン、及び0〜0.02重量%の硫黄、0.8重量%より少ないケイ素、0.15〜0.6重量%のチタン、及び0.15〜0.6重量%のアルミニウム、0〜0.75重量%の銅、鉄、及び付随不純物から実質的に成る、オーステナイト系ステンレス鋼。
- 19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、1〜6重量%のモリブデン及び0.8重量%より少ないケイ素を含む、オーステナイト系ステンレス鋼を含む製品。
- 前記オーステナイト系ステンレス鋼は2〜4重量%のモリブデンを含む、請求項8記載の製品。
- 前記オーステナイト系ステンレス鋼は0〜0.1重量%の炭素、0〜1.5重量%のマンガン、0〜0.05重量%のリン、及び0〜0.02重量%の硫黄を更に含む、請求項8記載の製品。
- 前記オーステナイト系ステンレス鋼は2〜4重量%のモリブデン、0.15〜0.6重量%のチタン、及び0.15〜0.6重量%のアルミニウムを更に含む、請求項8記載の製品。
- 19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、1〜6重量%のモリブデン、0〜0.1重量%の炭素、0〜1.5重量%のマンガン、0〜0.05重量%のリン、及び0〜0.02重量%の硫黄、0.8重量%より少ないケイ素、0.15〜0.6重量%のチタン、及び0.15〜0.6重量%のアルミニウム、0〜0.75重量%の銅、鉄、及び付随不純物から実質的に成るオーステナイト系ステンレス鋼を含む、製品。
- 19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、2〜4重量%のモリブデン、0〜0.1重量%の炭素、0〜1.5重量%のマンガン、0〜0.05重量%のリン、及び0〜0.02重量%の硫黄、0.8重量%より少ないケイ素、0.15〜0.6重量%のチタン、及び0.15〜0.6重量%のアルミニウム、0〜0.75重量%の銅、鉄、及び付随不純物から実質的に成るオーステナイト系ステンレス鋼を含む、製品。
- 前記製品は自動車、自動車排気装置の構成部品、フレキシブルコネクター、発熱体シース及びガスケットから選ばれる、請求項8〜13いずれかに記載の製品。
- 製品を提供する方法であって、この方法は、
19〜23重量%のクロム、30〜35重量%のニッケル、1〜6重量%のモリブデン及び0.8重量%より少ないケイ素を含むオーステナイト系ステンレス鋼を用意し、
前記オーステナイト系ステンレス鋼から製品を作製する、ことを含む、前記方法。 - 前記製品は自動車排気装置の構成部品、フレキシブルコネクター、及びガスケットから選ばれる、請求項15記載の方法。
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