JP2004517631A - クエルセチンにより血管内皮成長因子及びエリスロポエチンの遺伝子発現を阻害する方法 - Google Patents
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Abstract
本発明はクエルセチン処理により低酸素腫瘍細胞におけるVEGF(血管内皮成長因子)及びEPO(エリスロポエチン)の遺伝子発現を阻害する方法に関する。クエルセチンは固形腫瘍細胞において脈管形成関連因子であるVEGF及びEPOに対する遺伝子発現を阻害することができるため、低酸素腫瘍細胞に対する治療効率の向上と癌細胞転移の抑制に実用できると考えられる。
Description
【0001】
(発明の背景)
(技術分野)
本発明はクエルセチンにより血管内皮成長因子(以下「VEGF」と称する)及びエリスロポエチン(以下「EPO」と称する)の遺伝子発現を阻害する方法に関するものであって、より詳しく言えば、クエルセチン処理により低酸素腫瘍細胞におけるVEGF及びEPOの遺伝子発現を阻害する方法に関する。
【0002】
(背景技術)
一般に悪性腫瘍は、不適当な脈管構造(参照: Moulder and Rockwell,Cancer Metastasis Rev.,5:313−341,1987; Vaupel et al.,Cancer Res.,49:6449−6465、1989)又は腫瘍内微細血管中の赤血球細胞供給量の変化により(参照: Kimura et al.,Cancer Res.,56:5522−5528,1996)、多量の低酸素細胞を含有する。このような低酸素細胞の一部は、腫瘍細胞の成長を阻害しないような一時的に閉鎖又は閉塞した微細血管の再開(参照: Brown、J.M.,Br.J.Radiol.,52:650−656,1979)又は細分化放射線治療による腫瘍細胞の不活性化(参照: Kallman、R.F.,Radiology,105:135−142,1972)によって得られる再酸素化により酸素正常細胞に転換されるが、一般に酸素正常細胞に比べて低酸素細胞は放射線治療又は通常の化学療法に対する抵抗性が高いことが知られている(参照: Teicher et al.,Cancer Res.、41:73−81、1981; Gatenby et al.,Int.J.Radiat.Oncol.Biol.Phys.,14:831−838,1988; Teicher et al.,Cancer Metastasis Rev.,13:139−168,1994)。
【0003】
腫瘍細胞が低酸素状態によるストレスに適応するメカニズムは明確に理解されてはいないが、低酸素が腫瘍細胞における遺伝子発現のパターンに影響を及ぼすことが知られており(参照: Brown and Giaccia,Int.J.Radiat.Biol.,65:95−102,1994)、また低酸素環境によって正常細胞にストレス反応が誘導され、その結果、インビボ及びインビトロでストレス蛋白の合成が誘導されることが報告されている(参照: Guttman et al.,Cell,22:229−307,1980; Heacock and Sutherland,Br.J.Cancer,62:217−225、1990; Iwaki et al.,Circulation,87:2023−2032,1993)。例えば、Baekらは低酸素によりマウスの放射線誘導腺維肉腫(RIF)細胞においてhsp70及びhsp25のようなヒートショックプロテインが増加し、ヒートショックプロテインのレベルが増加した低酸素腫瘍細胞は酸素正常細胞よりも低酸素に対する耐性が高いことを証明した(参照: Baek et al.,J.Biochem.& Mol.Biol.,32:112−118、1999)。
【0004】
上記の低酸素腫瘍細胞が進行し転移するための必須過程である脈管形成に必要なVEGF(参照: Stein et al.,Mol.Cell.Biol.,15:5363−5368,1995)、EPO(参照: Wang and Semenza、Blood、82:3610−3615、1993)及びTGFβ−1(芽球分化成長因子β1)(参照:Brown et al.,EXS.,79:233−269、1997)のような成長因子が低酸素により増加しうるということが証明されている。このため、ストレス蛋白と脈管形成因子の遺伝子の協同的な誘導が腫瘍細胞を低酸素ストレスに適応させ、そのことが腫瘍細胞をさらに悪性の表現型に進行させるものと考えられている。
【0005】
低酸素腫瘍細胞により引き起こされる問題を克服するために、当技術分野では以下の3つの方法が主に使われている: i)腫瘍細胞の酸素化、ii)放射線照射又は化学療法による低酸素細胞の弱毒化、iii)低酸素細胞から得られる細胞毒を用いた低酸素細胞の細胞死誘導(参照:Brown and Koong,J.Intl.Cancer Inst.,83:178−185,1991)。しかしながら、低酸素腫瘍細胞は放射線照射及び化学療法の両方に対して抵抗性を持つため、上記以外の方法を用いて腫瘍細胞の生存と脈管形成に必要なタンパク合成を阻害することにより、腫瘍細胞に対する治療効率を向上させることが絶えず求められている。
【0006】
(発明の開示)
本発明者らは腫瘍細胞に対する治療効率を向上させるために鋭意努力し、ヒートショックプロテインの発現に対して阻害効果を有することが知られているクエルセチンで低酸素腫瘍細胞を処理すると、脈管形成に関わる因子であるVEGF及びEGFの発現を阻害することができ、その結果脈管形成を阻害して腫瘍細胞に対する治療効率を向上させられることを見出した。
すなわち、本発明の主な目的はクエルセチンによりVEGF及びEPOの遺伝子発現を阻害する方法を提供することにある。
本発明の上記及び他の目的及び特徴は添付の図面と合わせて以下の説明から明らかになるであろう。
【0007】
(発明の実施の形態)
本発明のVEGF及びEPOの遺伝子発現を阻害する方法によって、低酸素腫瘍細胞をクエルセチンで処理することにより脈管形成関連因子の発現が阻害される。すなわち、前記クエルセチンで腫瘍細胞を処理するとプロテインキナーゼCデルタ(以下「PKCδ」と称する)の活性が阻害され、その結果、PKCδにより制御される低酸素誘導因子−1(以下「HIF−1」と称する)の活性が阻害され、最終的にHIF−1により発現が調節される脈管形成関連因子、すなわち、VEGF及びEPOに対する遺伝子発現が阻害される。
【0008】
以下、本発明をさらに具体的に説明する。
腫瘍細胞におけるヒートショックプロテインの発現を阻害するクエルセチンを癌治療に適用することができるという知見に基づき、別のメカニズムを見出すために、マウスの腫瘍細胞をクエルセチンで処理し、低酸素チャンバー内で細胞をインキュベートして低酸素を誘導し、細胞から全RNA及び蛋白を単離して、脈管形成関連因子であるVEGF及びEPOの遺伝子発現パターンを調べた。その結果、クエルセチン処理した腫瘍細胞における脈管形成関連遺伝子の発現阻害を立証することにより、クエルセチンが脈管形成に関与していることが明らかになった。さらに、VEGF及びEPOの遺伝子発現の阻害が脈管形成に直接影響を与えるのかどうかを見るために、クエルセチン処理した受精卵あるいは処理していない受精卵でCAMアッセイ法を用いて脈管形成をアッセイし、クエルセチン処理した絨毛尿膜での脈管形成はクエルセチン処理していないものと比較すると減少した。
【0009】
さらに、クエルセチンによるVEGF及びEPOの遺伝子発現に対する阻害作用のメカニズムを調べるために、VEGF及びEPOの遺伝子発現を制御することが知られているHIF−1の遺伝子活性をEMSA(電気泳動移動度シフトアッセイ)を用いてアッセイした。その結果、クエルセチン処理した細胞のHIF−1遺伝子活性が低下したことが確認された。遺伝子調節序列の上位レベルのいずれの酵素がHIF−1活性の減少に関与しているかを見るために、低酸素細胞における信号伝達に影響を及ぼしHIF−1活性に関与することが知られているPKCδの発現を調べた。その結果、PKCδが腫瘍細胞の細胞膜中に発現されないことが見出され、これはPKCδがVEGF及びEPOの遺伝子発現を低下させる上位レベルの調節因子であることを示唆している。
【0010】
以下の実施例を通して本発明をさらに詳しく説明するが、これら実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0011】
実施例1: 腫瘍細胞における低酸素誘導
腫瘍細胞の生理的な特徴である低酸素状態をインビトロで誘導するために、37℃の低酸素チャンバー(Forma Scientific、USA)中、酸素−グルコース枯渇条件下で腫瘍細胞を培養した。細胞内の酸素及びグルコースを枯渇させるために、グルコースを添加した培地中で成育させたRIF腫瘍細胞を、37℃で5%CO2−85%N2−10%H2の低酸素混合ガスで予め平衡化したグルコース枯渇培地(GIBCO−BRL、USA)を3回交換した後その培地中でインキュベートし、酸素分圧を0.02%に維持した。RIF細胞の低酸素状態は、細胞にグルコースを添加した培地を加え酸素正常インキュベーター中でインキュベートすることにより停止された。
【0012】
実施例2: 腫瘍細胞に対するクエルセチンの有効濃度の決定
RIF細胞に有効なクエルセチン濃度を測定するために、対数増殖期にあるRIF細胞を、0.05、0.1及び0、2mM濃度のクエルセチンで、37℃、0、3、6、9、12、15時間処理した後、細胞生存率をトリパンブルー排除法で測定した。DMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解したクエルセチンは、最終濃度が0.1%(v/v)以下になるように培地に加えた。この実験で、細胞生存率に影響を及ぼすクエルセチン有効濃度は0.05mMであり、最適インキュベート時間は6時間であることが見出された。
【0013】
実施例3: 腫瘍細胞を低酸素条件にさらす時間の決定
腫瘍細胞を低酸素条件にさらす時間を決めるために、蛋白生合成速度を35Sでラベルされたアミノ酸の取り込み量を測定して評価した(参照: Anderson et al.,Mol.Cell.Biol.,9:3509−3516、1989)。腫瘍細胞をそれぞれ0、2、4、8及び16時間低酸素条件にさらした後、35S−メチオニン(特異活性>140Ci/mM、Amersham、USA)を含む培地中でインキュベートし、その後細胞中に取り込まれた放射能を測定して蛋白合成速度を評価した(参照:図1)。図1は時間に伴う蛋白生合成速度を示すグラフで、蛋白生合成速度は1μgの蛋白に取り込まれた放射能と定義する。図1に示されるように、細胞を低酸素条件に2時間さらした場合、蛋白合成は酸素正常条件下にある細胞の蛋白合成の67%まで阻害され、その阻害は8時間まで維持された。しかしながら、8時間さらした後は低酸素によって起きる細胞死により生存細胞数が減少し始め、そのため、その後の実験では、細胞が生存力と形態において酸素正常状態の特徴を示す4時間後まで低酸素条件にさらした。
【0014】
実施例4:VEGF及びEPOの遺伝子の転写に対するクエルセチンの影響
クエルセチン処理した場合としていない場合のVEGF及びEPOの遺伝子の転写速度を調べるために、RT−PCRを前記遺伝子に行った。クエルセチン処理したRIF細胞又は処理していないRIF細胞を低酸素条件に0、1、4及び8時間さらした後、細胞からそれぞれ全体RNAを単離した。次いで、1μgの全RNA、500ngのランダムヘキサマー、0.5mMの各dNTP、10X 反応用バッファー及び400ユニットのMMLV(モロニーネズミ白血病ウィルス)逆転写酵素を混合し、この混合液を37℃で1時間インキュベートした。上記の反応混合液の各2μlを鋳型として使用し、各0.2mMのVEGFプライマー1:5’−tgcactggaccctggcttta−3’(配列番号1)及びプライマー2:5’−tttgcaggaacatttacacg−3’(配列番号2)、又はEPOプライマー3:5’−agccctgcgtctaatgtttc−3’(配列番号3)及びプライマー4:5’−cgaccaccagagacccttca−3’(配列番号4)、10X PCTバッファー溶液(50mM KCl、1.5mM MgCl2、0.01%ゼラチン、10mM Tris、pH8.3)及びアンプリタクDNAポリメラーゼ(Perkin Elmer、USA)を含む混合液中でPCRを行った。反応生成物をゲル電気泳動にかけ、各PCR産物をそれぞれイメージクアントソフトウェア(Molecular Dynamics、USA)を用いて定量した(参照:図2a及び図2b)。図2a及び図2bはそれぞれVEGF遺伝子及びEPO遺伝子の発現を示すグラフである。図2a及び図2bに見られるように、クエルセチン処理した細胞ではクエルセチン処理していない細胞に比べてVEGF及びEPO遺伝子のmRNA発現が阻害された。
【0015】
実施例5:VEGF及びEPO遺伝子の発現に対するクエルセチンの影響
クエルセチン処理したRIF細胞又は処理していないRIF細胞を0、1、4及び8時間低酸素条件にさらした後、冷却リン酸バッファー溶液で3回洗浄し、SDS−ゲル試料バッファー(0.1%(w/v)ブロモフェノールブルー、20%グリセロール(v/v)、4%ドデシル硫酸ナトリウム(w/v)、10% β−メルカプトエタノール(v/v))の溶液中に再懸濁し、その後100℃で5分間加熱した。その後、上記蛋白の30μgを13%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(参照: Laemmli、Nature、227:680−685、1970)にかけ、次いでVEGF及びEPOに対する抗体(Santa Cruz、USA)を用いてウェスタンブロットを行った(参照:図3a、図3b)。図3a及び図3bはVEGF蛋白及びEPO蛋白のウェスタンブロットの写真である。図3a及び図3bに見られるように、クエルセチン処理していない細胞では、VEGF及びEPO遺伝子の発現レベルが時間経過中一定であり、一方クエルセチン処理した細胞のVEGF及びEPO遺伝子の発現は経時的に阻害されたことが見出された。
【0016】
実施例6: 脈管形成に対するクエルセチンの阻害効果
クエルセチンがインビボでも脈管形成を阻害するかどうかを見るために、鶏胚絨毛尿膜(CAM)アッセイを行った:すなわち、3日齢の鶏受精卵を用いて、卵殻の一部を注意深く破り、割れ目をセロハンテープで密封した。37℃ないし38℃、90%以上の湿度条件下で2日間インキュベートした後、各受精卵当たり1、5、及び10μgの濃度でエタノール(対照群)又はクエルセチンをCAM上に注入し、次いで48時間インキュベートし、受精卵の脈管形成の阻害をアッセイした(参照:図4)。図4はクエルセチン濃度による受精卵における脈管形成の阻害を示すグラフである。図4に見られるように、5ないし10μgのクエルセチンで細胞が処理された場合は脈管形成阻害が最大70ないし80%に達した。
【0017】
実施例7:HIF−1活性に対するクエルセチンの阻害効果
低酸素腫瘍細胞におけるVEGF及びEPOの遺伝子発現の阻害に上位のいずれの調節遺伝子が関与しているのかを見るために、VEGF及びEPOの遺伝子発現を制御することが知られているHIF−1遺伝子の転写速度をEMSA法を用いて測定した:すなわち、クエルセチン処理したRIF細胞又は処理していないRIF細胞を低酸素条件に0、0.5及び1.5時間さらし、リン酸バッファー溶液で3回洗浄した後、1mlのバッファー溶液(1.5mM MgCl2、10mM HEPES、pH7.9)に再懸濁し、氷上で15分間インキュベートした後、3000×gで15分間、4℃で遠心分離して核沈澱物を得た。この核沈澱物を200μlのバッファー溶液(1.5mM MgCl2、0.2mM DTT、1mM PMSF、1μg/mlアプロチニン、1mM ロイペプチン、100mM KCl、10%(v/v)グリセロール、10mM HEPES、pH7.9)に再懸濁して氷上で15分間インキュベートした後、4℃、12000×gで15分間遠心分離して上清を得た。
【0018】
被験群として、上記の上清蛋白8μgを19μlの結合用バッファー溶液(1.5mM MgCl2、0.2mM DTT、1mM PMSF、1μg/mlアプロチニン、1mMロイペプチン、100mM KCl、10%(v/v)グリセロール、0.5μg/μlポリ(dI−dC)、10mM HEPES、pH7.9)に加えた後、HIF−1 DNAに対して結合部位を有し32Pでラベルしたプローブ類、すなわちプローブ1:5’−agcttgccctacgtgctgtctcag−3’(配列番号5)及びプローブ2: 5’−acgggatgcacgacagagtcttaa−3’(配列番号6)を1μl(0.05pmol/μl)を加えた。対照群としては、5pmolのラベルしていない上記プローブ1及び2を室温で核抽出物と混合した後、32Pでラベルしたプローブ1及び2を加えた。上記で得られた対照及び被験群のサンプルを4%ポリアクリルアマミドゲル電気泳動にかけ、その後X線フィルムに感光させて32Pでラベルしたプローブ1及び2に結合したmRNAを検出した(参照:図5)。図5はHIF−1 mRNAを表すX線フィルム写真である:レーンcは対照群を示し、レーンフリーは32Pでラベルしたプローブを示し、これは単にプローブの有効性を確認するためのものである。図5に見られるように、クエルセチン処理していない細胞ではHIF−1遺伝子活性に変化はなかったが、一方クエルセチン処理した細胞のHIF−1遺伝子活性は低下した。
【0019】
実施例8:PKCδに対するクエルセチンの阻害効果
クエルセチン処理によるHIF−1遺伝子の転写活性の減少とPKCδ遺伝子との相関関係を調べた。クエルセチン処理したRIF細胞又は処理していないRIF細胞を低酸素条件に0、0.5及び1.5時間さらし、リン酸バッファー溶液で3回洗浄した。5×106細胞を100μlのバッファー溶液(10%SDS(w/v)、5% β−メルカプトエタノール(v/v)、10%グリセロール(v/v)、25mM Tris−Cl、pH6.8)に再懸濁させた。ソニケーターを用いて細胞膜を粉砕した後、混合液を100,000×gで30分間、4℃で遠心分離して上清中に細胞質分画を得た。上記細胞質分画をTriton X−100を含むバッファー溶液(10%SDS(w/v)、5% β−メルカプトエタノール(v/v)、10% グリセロール(v/v)、1%triton X−100、25mM Tris−Cl、pH6.8)70μlと混合して4℃で30分間インキュベートし、100,000×gで30分間、4℃で遠心分離し、上清中に粒子分画を得た。細胞質分画及び粒子分画の同量を電気泳動にかけ、PKCδ抗体を用いてPKCδの発現を調べた(参照:図6a及び図6b)。図6a及び図6bは細胞質分画におけるPKCδの発現と粒子分画におけるPKCδの発現を表すウェスタンブロットの写真で、cは陽性対照を表す。図6a及び図6bに見られるように、クエルセチン処理していない細胞では細胞質分画及び粒子分画の両方においてPKCδの発現レベルが維持されたが、一方、クエルセチン処理した細胞では細胞質分画のPKCδ発現レベルは維持されたが、粒子分画のPKCδの発現レベルは低下した。従って、VEGF及びEPO遺伝子の発現阻害はPKCδ遺伝子発現の低下によって起きることが立証された。
【0020】
上記で明確に説明及び証明したように、本発明は低酸素腫瘍細胞をクエルセチンで処理することにより脈管形成関連因子であるVEGF及びEPOの遺伝子発現を阻害する方法を提供する。本発明によれば、クエルセチンは固形腫瘍細胞において脈管形成関連因子であるVEGF及びEPOに対する遺伝子発現を阻害することができるため、低酸素腫瘍細胞に対する治療効率の向上と癌細胞転移の抑制に実用できると考えられる。
【0021】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、培養時間に伴うタンパク合成率を示すグラフである。
【図2】図2aは、VEGF遺伝子の発現を示すグラフである。
【図3】図2bは、EPO遺伝子の発現を示すグラフである。
【図4】図3aは、VEGF蛋白のウェスタンブロットの写真である。
【図5】図3bは、EPO蛋白のウェスタンブロットの写真である。
【図6】図4は、クエルセチン濃度による受精卵における脈管形成阻害を示すグラフである。
【図7】図5は、HIF−1遺伝子の活性を表すX線フィルム写真である。
【図8】図6aは、細胞質分画におけるPKCδの発現を表すウェスタンブロットの写真である。
【図9】図6bは、粒子分画におけるPKCδの発現を表すウェスタンブロットの写真である。
(発明の背景)
(技術分野)
本発明はクエルセチンにより血管内皮成長因子(以下「VEGF」と称する)及びエリスロポエチン(以下「EPO」と称する)の遺伝子発現を阻害する方法に関するものであって、より詳しく言えば、クエルセチン処理により低酸素腫瘍細胞におけるVEGF及びEPOの遺伝子発現を阻害する方法に関する。
【0002】
(背景技術)
一般に悪性腫瘍は、不適当な脈管構造(参照: Moulder and Rockwell,Cancer Metastasis Rev.,5:313−341,1987; Vaupel et al.,Cancer Res.,49:6449−6465、1989)又は腫瘍内微細血管中の赤血球細胞供給量の変化により(参照: Kimura et al.,Cancer Res.,56:5522−5528,1996)、多量の低酸素細胞を含有する。このような低酸素細胞の一部は、腫瘍細胞の成長を阻害しないような一時的に閉鎖又は閉塞した微細血管の再開(参照: Brown、J.M.,Br.J.Radiol.,52:650−656,1979)又は細分化放射線治療による腫瘍細胞の不活性化(参照: Kallman、R.F.,Radiology,105:135−142,1972)によって得られる再酸素化により酸素正常細胞に転換されるが、一般に酸素正常細胞に比べて低酸素細胞は放射線治療又は通常の化学療法に対する抵抗性が高いことが知られている(参照: Teicher et al.,Cancer Res.、41:73−81、1981; Gatenby et al.,Int.J.Radiat.Oncol.Biol.Phys.,14:831−838,1988; Teicher et al.,Cancer Metastasis Rev.,13:139−168,1994)。
【0003】
腫瘍細胞が低酸素状態によるストレスに適応するメカニズムは明確に理解されてはいないが、低酸素が腫瘍細胞における遺伝子発現のパターンに影響を及ぼすことが知られており(参照: Brown and Giaccia,Int.J.Radiat.Biol.,65:95−102,1994)、また低酸素環境によって正常細胞にストレス反応が誘導され、その結果、インビボ及びインビトロでストレス蛋白の合成が誘導されることが報告されている(参照: Guttman et al.,Cell,22:229−307,1980; Heacock and Sutherland,Br.J.Cancer,62:217−225、1990; Iwaki et al.,Circulation,87:2023−2032,1993)。例えば、Baekらは低酸素によりマウスの放射線誘導腺維肉腫(RIF)細胞においてhsp70及びhsp25のようなヒートショックプロテインが増加し、ヒートショックプロテインのレベルが増加した低酸素腫瘍細胞は酸素正常細胞よりも低酸素に対する耐性が高いことを証明した(参照: Baek et al.,J.Biochem.& Mol.Biol.,32:112−118、1999)。
【0004】
上記の低酸素腫瘍細胞が進行し転移するための必須過程である脈管形成に必要なVEGF(参照: Stein et al.,Mol.Cell.Biol.,15:5363−5368,1995)、EPO(参照: Wang and Semenza、Blood、82:3610−3615、1993)及びTGFβ−1(芽球分化成長因子β1)(参照:Brown et al.,EXS.,79:233−269、1997)のような成長因子が低酸素により増加しうるということが証明されている。このため、ストレス蛋白と脈管形成因子の遺伝子の協同的な誘導が腫瘍細胞を低酸素ストレスに適応させ、そのことが腫瘍細胞をさらに悪性の表現型に進行させるものと考えられている。
【0005】
低酸素腫瘍細胞により引き起こされる問題を克服するために、当技術分野では以下の3つの方法が主に使われている: i)腫瘍細胞の酸素化、ii)放射線照射又は化学療法による低酸素細胞の弱毒化、iii)低酸素細胞から得られる細胞毒を用いた低酸素細胞の細胞死誘導(参照:Brown and Koong,J.Intl.Cancer Inst.,83:178−185,1991)。しかしながら、低酸素腫瘍細胞は放射線照射及び化学療法の両方に対して抵抗性を持つため、上記以外の方法を用いて腫瘍細胞の生存と脈管形成に必要なタンパク合成を阻害することにより、腫瘍細胞に対する治療効率を向上させることが絶えず求められている。
【0006】
(発明の開示)
本発明者らは腫瘍細胞に対する治療効率を向上させるために鋭意努力し、ヒートショックプロテインの発現に対して阻害効果を有することが知られているクエルセチンで低酸素腫瘍細胞を処理すると、脈管形成に関わる因子であるVEGF及びEGFの発現を阻害することができ、その結果脈管形成を阻害して腫瘍細胞に対する治療効率を向上させられることを見出した。
すなわち、本発明の主な目的はクエルセチンによりVEGF及びEPOの遺伝子発現を阻害する方法を提供することにある。
本発明の上記及び他の目的及び特徴は添付の図面と合わせて以下の説明から明らかになるであろう。
【0007】
(発明の実施の形態)
本発明のVEGF及びEPOの遺伝子発現を阻害する方法によって、低酸素腫瘍細胞をクエルセチンで処理することにより脈管形成関連因子の発現が阻害される。すなわち、前記クエルセチンで腫瘍細胞を処理するとプロテインキナーゼCデルタ(以下「PKCδ」と称する)の活性が阻害され、その結果、PKCδにより制御される低酸素誘導因子−1(以下「HIF−1」と称する)の活性が阻害され、最終的にHIF−1により発現が調節される脈管形成関連因子、すなわち、VEGF及びEPOに対する遺伝子発現が阻害される。
【0008】
以下、本発明をさらに具体的に説明する。
腫瘍細胞におけるヒートショックプロテインの発現を阻害するクエルセチンを癌治療に適用することができるという知見に基づき、別のメカニズムを見出すために、マウスの腫瘍細胞をクエルセチンで処理し、低酸素チャンバー内で細胞をインキュベートして低酸素を誘導し、細胞から全RNA及び蛋白を単離して、脈管形成関連因子であるVEGF及びEPOの遺伝子発現パターンを調べた。その結果、クエルセチン処理した腫瘍細胞における脈管形成関連遺伝子の発現阻害を立証することにより、クエルセチンが脈管形成に関与していることが明らかになった。さらに、VEGF及びEPOの遺伝子発現の阻害が脈管形成に直接影響を与えるのかどうかを見るために、クエルセチン処理した受精卵あるいは処理していない受精卵でCAMアッセイ法を用いて脈管形成をアッセイし、クエルセチン処理した絨毛尿膜での脈管形成はクエルセチン処理していないものと比較すると減少した。
【0009】
さらに、クエルセチンによるVEGF及びEPOの遺伝子発現に対する阻害作用のメカニズムを調べるために、VEGF及びEPOの遺伝子発現を制御することが知られているHIF−1の遺伝子活性をEMSA(電気泳動移動度シフトアッセイ)を用いてアッセイした。その結果、クエルセチン処理した細胞のHIF−1遺伝子活性が低下したことが確認された。遺伝子調節序列の上位レベルのいずれの酵素がHIF−1活性の減少に関与しているかを見るために、低酸素細胞における信号伝達に影響を及ぼしHIF−1活性に関与することが知られているPKCδの発現を調べた。その結果、PKCδが腫瘍細胞の細胞膜中に発現されないことが見出され、これはPKCδがVEGF及びEPOの遺伝子発現を低下させる上位レベルの調節因子であることを示唆している。
【0010】
以下の実施例を通して本発明をさらに詳しく説明するが、これら実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0011】
実施例1: 腫瘍細胞における低酸素誘導
腫瘍細胞の生理的な特徴である低酸素状態をインビトロで誘導するために、37℃の低酸素チャンバー(Forma Scientific、USA)中、酸素−グルコース枯渇条件下で腫瘍細胞を培養した。細胞内の酸素及びグルコースを枯渇させるために、グルコースを添加した培地中で成育させたRIF腫瘍細胞を、37℃で5%CO2−85%N2−10%H2の低酸素混合ガスで予め平衡化したグルコース枯渇培地(GIBCO−BRL、USA)を3回交換した後その培地中でインキュベートし、酸素分圧を0.02%に維持した。RIF細胞の低酸素状態は、細胞にグルコースを添加した培地を加え酸素正常インキュベーター中でインキュベートすることにより停止された。
【0012】
実施例2: 腫瘍細胞に対するクエルセチンの有効濃度の決定
RIF細胞に有効なクエルセチン濃度を測定するために、対数増殖期にあるRIF細胞を、0.05、0.1及び0、2mM濃度のクエルセチンで、37℃、0、3、6、9、12、15時間処理した後、細胞生存率をトリパンブルー排除法で測定した。DMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解したクエルセチンは、最終濃度が0.1%(v/v)以下になるように培地に加えた。この実験で、細胞生存率に影響を及ぼすクエルセチン有効濃度は0.05mMであり、最適インキュベート時間は6時間であることが見出された。
【0013】
実施例3: 腫瘍細胞を低酸素条件にさらす時間の決定
腫瘍細胞を低酸素条件にさらす時間を決めるために、蛋白生合成速度を35Sでラベルされたアミノ酸の取り込み量を測定して評価した(参照: Anderson et al.,Mol.Cell.Biol.,9:3509−3516、1989)。腫瘍細胞をそれぞれ0、2、4、8及び16時間低酸素条件にさらした後、35S−メチオニン(特異活性>140Ci/mM、Amersham、USA)を含む培地中でインキュベートし、その後細胞中に取り込まれた放射能を測定して蛋白合成速度を評価した(参照:図1)。図1は時間に伴う蛋白生合成速度を示すグラフで、蛋白生合成速度は1μgの蛋白に取り込まれた放射能と定義する。図1に示されるように、細胞を低酸素条件に2時間さらした場合、蛋白合成は酸素正常条件下にある細胞の蛋白合成の67%まで阻害され、その阻害は8時間まで維持された。しかしながら、8時間さらした後は低酸素によって起きる細胞死により生存細胞数が減少し始め、そのため、その後の実験では、細胞が生存力と形態において酸素正常状態の特徴を示す4時間後まで低酸素条件にさらした。
【0014】
実施例4:VEGF及びEPOの遺伝子の転写に対するクエルセチンの影響
クエルセチン処理した場合としていない場合のVEGF及びEPOの遺伝子の転写速度を調べるために、RT−PCRを前記遺伝子に行った。クエルセチン処理したRIF細胞又は処理していないRIF細胞を低酸素条件に0、1、4及び8時間さらした後、細胞からそれぞれ全体RNAを単離した。次いで、1μgの全RNA、500ngのランダムヘキサマー、0.5mMの各dNTP、10X 反応用バッファー及び400ユニットのMMLV(モロニーネズミ白血病ウィルス)逆転写酵素を混合し、この混合液を37℃で1時間インキュベートした。上記の反応混合液の各2μlを鋳型として使用し、各0.2mMのVEGFプライマー1:5’−tgcactggaccctggcttta−3’(配列番号1)及びプライマー2:5’−tttgcaggaacatttacacg−3’(配列番号2)、又はEPOプライマー3:5’−agccctgcgtctaatgtttc−3’(配列番号3)及びプライマー4:5’−cgaccaccagagacccttca−3’(配列番号4)、10X PCTバッファー溶液(50mM KCl、1.5mM MgCl2、0.01%ゼラチン、10mM Tris、pH8.3)及びアンプリタクDNAポリメラーゼ(Perkin Elmer、USA)を含む混合液中でPCRを行った。反応生成物をゲル電気泳動にかけ、各PCR産物をそれぞれイメージクアントソフトウェア(Molecular Dynamics、USA)を用いて定量した(参照:図2a及び図2b)。図2a及び図2bはそれぞれVEGF遺伝子及びEPO遺伝子の発現を示すグラフである。図2a及び図2bに見られるように、クエルセチン処理した細胞ではクエルセチン処理していない細胞に比べてVEGF及びEPO遺伝子のmRNA発現が阻害された。
【0015】
実施例5:VEGF及びEPO遺伝子の発現に対するクエルセチンの影響
クエルセチン処理したRIF細胞又は処理していないRIF細胞を0、1、4及び8時間低酸素条件にさらした後、冷却リン酸バッファー溶液で3回洗浄し、SDS−ゲル試料バッファー(0.1%(w/v)ブロモフェノールブルー、20%グリセロール(v/v)、4%ドデシル硫酸ナトリウム(w/v)、10% β−メルカプトエタノール(v/v))の溶液中に再懸濁し、その後100℃で5分間加熱した。その後、上記蛋白の30μgを13%ポリアクリルアミドゲル電気泳動(参照: Laemmli、Nature、227:680−685、1970)にかけ、次いでVEGF及びEPOに対する抗体(Santa Cruz、USA)を用いてウェスタンブロットを行った(参照:図3a、図3b)。図3a及び図3bはVEGF蛋白及びEPO蛋白のウェスタンブロットの写真である。図3a及び図3bに見られるように、クエルセチン処理していない細胞では、VEGF及びEPO遺伝子の発現レベルが時間経過中一定であり、一方クエルセチン処理した細胞のVEGF及びEPO遺伝子の発現は経時的に阻害されたことが見出された。
【0016】
実施例6: 脈管形成に対するクエルセチンの阻害効果
クエルセチンがインビボでも脈管形成を阻害するかどうかを見るために、鶏胚絨毛尿膜(CAM)アッセイを行った:すなわち、3日齢の鶏受精卵を用いて、卵殻の一部を注意深く破り、割れ目をセロハンテープで密封した。37℃ないし38℃、90%以上の湿度条件下で2日間インキュベートした後、各受精卵当たり1、5、及び10μgの濃度でエタノール(対照群)又はクエルセチンをCAM上に注入し、次いで48時間インキュベートし、受精卵の脈管形成の阻害をアッセイした(参照:図4)。図4はクエルセチン濃度による受精卵における脈管形成の阻害を示すグラフである。図4に見られるように、5ないし10μgのクエルセチンで細胞が処理された場合は脈管形成阻害が最大70ないし80%に達した。
【0017】
実施例7:HIF−1活性に対するクエルセチンの阻害効果
低酸素腫瘍細胞におけるVEGF及びEPOの遺伝子発現の阻害に上位のいずれの調節遺伝子が関与しているのかを見るために、VEGF及びEPOの遺伝子発現を制御することが知られているHIF−1遺伝子の転写速度をEMSA法を用いて測定した:すなわち、クエルセチン処理したRIF細胞又は処理していないRIF細胞を低酸素条件に0、0.5及び1.5時間さらし、リン酸バッファー溶液で3回洗浄した後、1mlのバッファー溶液(1.5mM MgCl2、10mM HEPES、pH7.9)に再懸濁し、氷上で15分間インキュベートした後、3000×gで15分間、4℃で遠心分離して核沈澱物を得た。この核沈澱物を200μlのバッファー溶液(1.5mM MgCl2、0.2mM DTT、1mM PMSF、1μg/mlアプロチニン、1mM ロイペプチン、100mM KCl、10%(v/v)グリセロール、10mM HEPES、pH7.9)に再懸濁して氷上で15分間インキュベートした後、4℃、12000×gで15分間遠心分離して上清を得た。
【0018】
被験群として、上記の上清蛋白8μgを19μlの結合用バッファー溶液(1.5mM MgCl2、0.2mM DTT、1mM PMSF、1μg/mlアプロチニン、1mMロイペプチン、100mM KCl、10%(v/v)グリセロール、0.5μg/μlポリ(dI−dC)、10mM HEPES、pH7.9)に加えた後、HIF−1 DNAに対して結合部位を有し32Pでラベルしたプローブ類、すなわちプローブ1:5’−agcttgccctacgtgctgtctcag−3’(配列番号5)及びプローブ2: 5’−acgggatgcacgacagagtcttaa−3’(配列番号6)を1μl(0.05pmol/μl)を加えた。対照群としては、5pmolのラベルしていない上記プローブ1及び2を室温で核抽出物と混合した後、32Pでラベルしたプローブ1及び2を加えた。上記で得られた対照及び被験群のサンプルを4%ポリアクリルアマミドゲル電気泳動にかけ、その後X線フィルムに感光させて32Pでラベルしたプローブ1及び2に結合したmRNAを検出した(参照:図5)。図5はHIF−1 mRNAを表すX線フィルム写真である:レーンcは対照群を示し、レーンフリーは32Pでラベルしたプローブを示し、これは単にプローブの有効性を確認するためのものである。図5に見られるように、クエルセチン処理していない細胞ではHIF−1遺伝子活性に変化はなかったが、一方クエルセチン処理した細胞のHIF−1遺伝子活性は低下した。
【0019】
実施例8:PKCδに対するクエルセチンの阻害効果
クエルセチン処理によるHIF−1遺伝子の転写活性の減少とPKCδ遺伝子との相関関係を調べた。クエルセチン処理したRIF細胞又は処理していないRIF細胞を低酸素条件に0、0.5及び1.5時間さらし、リン酸バッファー溶液で3回洗浄した。5×106細胞を100μlのバッファー溶液(10%SDS(w/v)、5% β−メルカプトエタノール(v/v)、10%グリセロール(v/v)、25mM Tris−Cl、pH6.8)に再懸濁させた。ソニケーターを用いて細胞膜を粉砕した後、混合液を100,000×gで30分間、4℃で遠心分離して上清中に細胞質分画を得た。上記細胞質分画をTriton X−100を含むバッファー溶液(10%SDS(w/v)、5% β−メルカプトエタノール(v/v)、10% グリセロール(v/v)、1%triton X−100、25mM Tris−Cl、pH6.8)70μlと混合して4℃で30分間インキュベートし、100,000×gで30分間、4℃で遠心分離し、上清中に粒子分画を得た。細胞質分画及び粒子分画の同量を電気泳動にかけ、PKCδ抗体を用いてPKCδの発現を調べた(参照:図6a及び図6b)。図6a及び図6bは細胞質分画におけるPKCδの発現と粒子分画におけるPKCδの発現を表すウェスタンブロットの写真で、cは陽性対照を表す。図6a及び図6bに見られるように、クエルセチン処理していない細胞では細胞質分画及び粒子分画の両方においてPKCδの発現レベルが維持されたが、一方、クエルセチン処理した細胞では細胞質分画のPKCδ発現レベルは維持されたが、粒子分画のPKCδの発現レベルは低下した。従って、VEGF及びEPO遺伝子の発現阻害はPKCδ遺伝子発現の低下によって起きることが立証された。
【0020】
上記で明確に説明及び証明したように、本発明は低酸素腫瘍細胞をクエルセチンで処理することにより脈管形成関連因子であるVEGF及びEPOの遺伝子発現を阻害する方法を提供する。本発明によれば、クエルセチンは固形腫瘍細胞において脈管形成関連因子であるVEGF及びEPOに対する遺伝子発現を阻害することができるため、低酸素腫瘍細胞に対する治療効率の向上と癌細胞転移の抑制に実用できると考えられる。
【0021】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、培養時間に伴うタンパク合成率を示すグラフである。
【図2】図2aは、VEGF遺伝子の発現を示すグラフである。
【図3】図2bは、EPO遺伝子の発現を示すグラフである。
【図4】図3aは、VEGF蛋白のウェスタンブロットの写真である。
【図5】図3bは、EPO蛋白のウェスタンブロットの写真である。
【図6】図4は、クエルセチン濃度による受精卵における脈管形成阻害を示すグラフである。
【図7】図5は、HIF−1遺伝子の活性を表すX線フィルム写真である。
【図8】図6aは、細胞質分画におけるPKCδの発現を表すウェスタンブロットの写真である。
【図9】図6bは、粒子分画におけるPKCδの発現を表すウェスタンブロットの写真である。
Claims (2)
- VEGF及びEPOの遺伝子発現を阻害する方法であって、低酸素腫瘍細胞をクエルセチンで処理する工程を含む方法。
- 請求項1に記載のVEGF及びEPOの遺伝子発現を阻害する方法であって、クエルセチンによる腫瘍細胞の処理がPKCδの活性を阻害し、それによりPKCδが制御するHIF−1活性が阻害され、最終的にHIF−1により発現が調節される脈管形成関連因子であるVEGF及びEPOの遺伝子発現を阻害する方法。
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