JP2004517051A - ワクチン接種を進行させるための胸腺の刺激 - Google Patents
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Abstract
Description
技術分野
本願開示内容は、動物でのワクチンに対する応答に関する分野のものである。特に、本願開示内容は、胸腺を刺激することでワクチン応答を改善する分野のものである。
【0002】
背景
免疫系
免疫系の主な機能は、「外来」抗原を「自己」と区別し、これに応じて応答して生体を感染から保護することである。この定義については、「悪い」分子を「良い」分子と区別しているともいうことができる。通常の免疫応答における一連のイベントでは、特定の抗原提示細胞(APC)によって外来抗原が小さなペプチド断片へと貪食分解され、APC表面の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の溝に提示される。MHC分子には、すべての有核細胞上に発現するクラスI分子(細胞障害性T細胞(Tc)によって認識される)と、主に免疫系の細胞によって発現されるクラスII分子(ヘルパーT細胞(Th)によって認識される)とがある。
【0003】
休眠状態のAPCは抗原を捕捉してペプチド断片へと切断処理するようにプログラムされており、これが表面にあるMHC分子で発現される。こうして活性化されると、APCは別の抗原を捕食処理するのではなくT細胞の方をよりよく刺激できるようになる。Th細胞はAPC上のMHC II/ペプチド複合体を認識し、応答する。
【0004】
Th細胞には2種類あり、それぞれ細胞が産生する可溶性制御因子のタイプの違いで区別されている。このうち、主にIL2とガンマインターフェロン(IFNγ)とを産生するのがTh1細胞である。ナイーブT細胞と抗原とが最初に接触したときにガンマインターフェロンが存在していると、このガンマインターフェロンによって細胞性免疫(主にTc)の優先的活性化が促進される。Th2細胞はプロファイルの異なるサイトカイン、特にIL4、IL5、IL10を発現し、これが特定の抗原に特異な抗体産生B細胞による体液性免疫を誘導する。このようにして免疫が誘導されると、場合によってはIgEが産生されて不適切なアレルギー反応につながることがある。
【0005】
事実上すべての免疫応答においてTh細胞がいかに重要かを最もよく示しているのがHIV/AIDSである。この疾患ではTh細胞がウイルスに破壊されることで死滅して重篤な免疫不全が起こり、最終的には死につながる。その免疫調節細胞としての中心的な重要性から考えて、Th1細胞とTh2細胞とのバランスが免疫応答の性質に大きく影響する可能性もある。このような不釣り合いは免疫応答の開始時に分化異常や不適切な活性化によって生じ得るものであり、アレルギーや癌、自己免疫疾患などのさまざまな疾患につながる場合がある。
【0006】
胸腺
胸腺はTリンパ球産生の中心となる部位であるため、免疫系における重要な臓器だと言えるだろう。胸腺の役割として、骨髄由来の適当な前駆細胞を血液中から取り込み、この前駆細胞をT細胞抗原受容体(TCR)の産生に必要な遺伝子再構成などのT細胞系譜に関与させることがあげられる。これに関連しているのが、T細胞数を増すことであらゆる外来抗原を認識して排除できる機会を増やす、驚くべき細胞分裂である。実際に起こり得る多様性がこのように桁外れに多いことはすなわち、生体が遭遇するかもしれないあらゆる抗原に対して複数のリンパ球がさまざまな結合強度(親和性)でこれを認識し、さまざまな度合いで応答できるようになるということを意味する。しかしながら、T細胞による抗原認識の奇妙な特徴のひとつに、B細胞とは異なり、TCRはMHC分子に物理的に結合したペプチド断片しか認識しない点がある。通常、これは自己MHCであり、この機能は胸腺で選択される。この過程は正の選択と呼ばれ、皮質上皮細胞だけにみられる特徴である。TCRが自己MHC/ペプチド複合体との結合に失敗すると、T細胞は「無視」されて死滅する。T細胞が成熟していくためには、TCRによるシグナル伝達が多少なりとも必要なのである。
【0007】
皮質での選択後、発達中の胸腺細胞は機能的に成熟して移動できるようになり、ナイーブ(まだ抗原とは接触していない)T細胞として血流中に出ていく。この細胞は、抗原を探しながらリンパ液と血液との間を循環する。3〜4週間経過しても刺激されることがなければ、ナイーブT細胞は後から胸腺を出てきた他の細胞(recent thymic emigrant)によって末梢T細胞プールから追い出されやすくなる。このように胸腺には輸出機構と末梢T細胞の交換機構が備わっているため、恒常性により適切なレベルを保ちつつ良質のT細胞が継続して補充されるのである。
【0008】
胸腺は、内部のT細胞のうち約1%を毎日血流中に放出する、機能的免疫系には欠かせないものであるが、哺乳動物だけが持つ明らかな特異点のひとつに、性ステロイドが産生されると胸腺に重篤な萎縮が起こることがあげられる。これは幼い子どもにも起こり得るものであるが、思春期頃からが深刻である。健常な個体であれば、新たなT細胞が産生・放出されなくなっても常に臨床的な結果が出てくるとは限らない。事実、年齢とともに胸腺は萎縮し、子どもの場合と比べると1%にも満たない(下記参照)が、それでも新しいT細胞を極めて低いレベルで血流中に放出し続けている。これらのT細胞は末梢T細胞サブセットを最適なレベルに維持するには不十分であるが、胸腺が完全に休止しているわけではなく、これを治療の対象にできる可能性が高くなる。
【0009】
老化が進むにつれて胸腺での輸出能が落ちると、末梢T細胞の状態は定量的な側面と定性的な側面の両方で次第に変化することになる。加齢に伴い、刺激を受けなかったT細胞が次々と死んで血液中のT細胞の絶対数が徐々に減る上、抗原と接触するたびに関連の抗原特異性ナイーブT細胞(それまで抗原と出会っていない)が刺激されて増殖する。いずれかのサブセットが効果器細胞へと発展して病原体を排除することになるが、この効果器細胞も最終的には抗原誘発細胞死によって死滅する。
【0010】
さらに、別のサブセットが記憶細胞になり、将来の病原体との接触に対して生体を長期的に保護する。このためナイーブT細胞のレベルが下がり、結果として抗原に応答する機能が低下する。また、老化が起こるとTc細胞(CD8を発現)に対してTh細胞(CD4を発現することが特徴)が選択的に減少するため、Th1細胞とTh2細胞との比のバランスが崩れる。健常な子どもでは先に述べたとおり胸腺から輸出される新たなT細胞が継続的に供給され、これによって末梢のナイーブT細胞プールが連続して補充されるため、上記のようなことは起こらない。
【0011】
胸腺の萎縮
胸腺は神経内分泌系(Kendall、1988)との間における双方向の情報伝達に大きく影響される。胸腺の機能にとって特に重要なのが、栄養効果(甲状腺刺激ホルモンすなわちTSH、成長ホルモンすなわちGH)と萎縮効果(黄体形成ホルモンすなわちLH、卵胞刺激ホルモンすなわちFSHの両方ならびに副腎皮質刺激ホルモンすなわちACTH)(Kendall、1988;Homo−Delarche、1991)を含む、脳下垂体、副腎、性腺の相互関係である。特に、胸腺生理学の特性のひとつに、思春期前後に体内を循環する性ステロイドの産生量が増えるのに比例して構造と機能とが徐々に衰えることがあげられる(HirokawaおよびMakinodan、1975;Tosiら、1982;Hirokawaら、1994)。ホルモンの正確な標的とホルモンが胸腺の萎縮を誘導する機序については、今のところ明らかになっていない。胸腺は末梢T細胞プールを産生して維持する中心となる部位であるため、免疫による機能障害の出現率が高齢者で増加している主な原因が上記の萎縮にあるのではないかと考えられてきた。特に、T細胞の細胞溶解活性や細胞分裂応答などのT細胞依存性免疫機能が低下することで明らかになる免疫系の欠如が認められると、これが以後の生涯で免疫不全や自己免疫疾患、腫瘍荷重の出現率が増える形で表れてくる(Hirokawa、1998)。
【0012】
胸腺の萎縮による影響は末梢においてもT細胞プールへの胸腺からの入力の減少という形で表れ、結果としてT細胞受容体(TCR)レパートリーが少なくなる。また、サイトカインプロファイルの変動(Hobbsら、1993;Kurashimaら、1995)、CD4+サブセットおよびCD8+サブセットの変化、ナイーブT細胞ではなく記憶細胞への偏り(Mackallら、1995)も認められる。さらに、加齢に伴って、T細胞の枯渇後に免疫系が正常なT細胞数まで再生する能力が最終的に失われてしまうほど胸腺形成(thymopoiesis)の効率が悪くなる(Mackallら、1995)。しかしながら、Douekら(1998)による近年の研究で、胸腺の出力はヒトではおそらく老齢期でも起こるであろうことが明らかになった。すなわち、TCR遺伝子再構成の摘出(excisional)DNA産物を用いて、高齢患者でHIV感染後に新たに生成されて循環しているナイーブT細胞を示したのである。化学療法の経験のある患者では、思春期前の患者に比べて思春期後の患者で、T細胞プール、特にCD4+T細胞の再生速度が大幅に減少することから、上記出力の速度と以後の末梢T細胞プールの再生についてはさらに検討する必要がある(Mackallら、1995)。これは、TimmおよびThomanによる近年の研究(1999)でさらに実証されている。彼らは、骨髄移植(BMT)後の老齢マウスではCD4+T細胞の再生が認められるが、胸腺でのナイーブT細胞の産生量が減ることと相まって、末梢の微小環境が老化することで記憶細胞に偏るのではないかということを示した。
【0013】
胸腺は基本的に、さまざまな支質細胞(主に上皮細胞サブセット)の間に点在する発達中の胸腺細胞からなるものであり、この支質細胞によって微小環境が構成され、T細胞が最適な状態で発達するのに必要な成長因子と細胞間相互作用とが得られる。胸腺細胞と上皮サブセットとの間にその分化および成熟を左右する共生発達の関係(Boydら、1993)があるということは、他方の状態に影響するかもしれない何らかの細胞型のレベルで性ステロイドの阻害が起こり得ることを意味する。放射線キメラを利用した過去の研究で、骨髄(BM)幹細胞は年齢に影響されず(Hirokawa、1998;MackallおよびGress、1997)、若いBM細胞と同程度に胸腺再増殖の可能性があることが明らかになっているため、胸腺細胞自体の内部に固有の問題があるということは考えにくい。さらに、高齢動物の胸腺細胞にも少なくとも若干は分化能力が残っている(MackallおよびGress、1997;GeorgeおよびRitter、1996;Hirokawaら、1994)。しかしながら、Aspinallによる近年の研究(1997)で、TCR□鎖の遺伝子再構成の段階で起こった前駆CD3−CD4−CD8−トリプルネガティブ(TN)個体群に欠陥があることが明らかになった。
【0014】
T細胞が失われる条件は老化だけではなく、たとえばHIV/AIDS羅患時と以後の化学療法や放射線療法でも極めて深刻なT細胞の喪失が起こる。繰り返すが、思春期後は胸腺が萎縮しているため免疫系の回復に1〜2年を要するのに対し、胸腺に異常のない子どもでは免疫系が(T細胞による免疫の回復を通して)比較的短期間(2〜3ヶ月)で回復する。
【0015】
ワクチン
ワクチンは、能動ワクチン接種用と受動ワクチン接種用の2つのクラスに分類することができる。受動ワクチン接種では、異種ソースから得た抗体を患者に投与し、患者の体内の外来抗原または患者がその後遭遇することになる外来抗原に反応させる。患者が本来持つ免疫系が関与しないため、このようなワクチン接種は通常は極めて短期間しか持たない。本願開示内容は、患者に抗原を投与し、患者の免疫系がこの抗原に特異な抗体を形成することでこれに応答する、能動ワクチン接種分野のものである。
【0016】
免疫応答の性質と度合いに影響し得るパラメータとして、抗原のレベルとタイプ、ワクチン接種部位、適切なAPCの可用性、個体の全身の健康状態、T細胞プールとB細胞プールの状態など、いくつかのパラメータがあげられる。このうち、思春期に入る頃から深刻になる性ステロイドによる胸腺輸出の活動停止が顕著であることから、T細胞が最も脆弱である。したがって、ワクチン接種プログラムはいずれも必然的に、広いレパートリーの特異性を示すナイーブT細胞が存在し、Th1細胞とTh2細胞との比ならびにTh細胞とTc細胞との比が正常である点の両方について潜在的な応答T細胞のレベルが最適である場合にのみ行うべきだということになる。サイトカインのレベルとタイプについても所望の応答を得るのに適切なものとなるように操作する必要がある。
【0017】
たとえば脳下垂体への黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)シグナル伝達のレベルで性ステロイドの産生を阻害して萎縮した胸腺を再活性化する能力が、TCRタイプのレパートリーの異なるナイーブT細胞からなる新たなグループを生成する潜在的な手段となる。このプロセスは、最適な胸腺形成につながる正常な調節分子と経路とを用いて、胸腺を思春期の状態まで効果的に戻すものである。
【0018】
発明の開示
本願開示内容は、ワクチンに対する動物の免疫応答を改善するための方法に関するものである。これは、末梢T細胞プールを、特にナイーブT細胞のレベルで定量的および定性的に復旧させることで達成される。こうして復旧されることで、ナイーブT細胞が提示された外来抗原に対してさらに応答できるようになる。
【0019】
本発明の方法は、性ステロイドによる胸腺へのシグナル伝達を遮断することに依存している。本発明の実施例では化学的な性腺摘除を用いる。別の実施例では外科的な性腺摘除を用いる。性腺摘除によって、胸腺の状態が逆行して思春期での状態に戻るため、胸腺が活性化されることになる。
【0020】
本発明の特定の形態では、LHRHのアゴニストまたはアンタゴニスト、抗エストロゲン抗体、抗アンドロゲン抗体を投与すること、受動(抗体)または能動(抗原)抗LHRHワクチン接種またはこれらの組み合わせ(「ブロッカー」)によって、性ステロイドによる胸腺へのシグナル伝達を遮断する。
【0021】
また、本発明の好ましい形態では、徐放性ペプチド放出製剤によってブロッカー(単数または複数)を投与する。徐放性ペプチド放出製剤については一例がWO98/08533号公報に開示されており、その内容を本明細書に援用する。
【0022】
発明の詳細な説明
本願開示内容は、患者のワクチン応答を改善するための方法に関するものである。これは、末梢T細胞プールを、特にナイーブT細胞のレベルで定量的および定性的に復旧させることで達成される。ナイーブT細胞とは、まだ抗原と接触していないため、広範囲にわたる特異性を持つすなわち多種多様な抗原のいずれに対しても応答できるT細胞である。本発明による方法を用いた結果として、ナイーブT細胞の大きなプールをワクチンで投与される抗原に対して応答する目的で利用できるようになる。
【0023】
本発明の実施例では、性ステロイドによる胸腺へのシグナル伝達を遮断することで、萎縮した胸腺を再活性化させて上記のナイーブT細胞のプールを形成する。この破壊によって、レシピエントのホルモンの状態が逆行する。破壊を達成するための好ましい方法のひとつが性腺摘除によるものである。性腺摘除方法としては、化学的な性腺摘除と外科的な性腺摘除とがあげられるが、これに限定されるものではない。
【0024】
胸腺を再活性化するための好ましい方法のひとつに、脳下垂体に対するLHRHの刺激作用を遮断することがあげられる。これはゴナドトロフィンFSHおよびLHの喪失につながる。これらのゴナドトロフィンは通常、性腺に作用して性ホルモンを放出させ、特に女性の場合はエストロゲンを、男性の場合はテストステロンを放出させる。FSHおよびLHの喪失によって上記の放出が遮断されるのである。これによって生じる直接的な作用に性ステロイドの血漿濃度の瞬時降下があり、結果として胸腺に阻害信号が放出され続けることになる。そこで、CD34+造血細胞(理想的には自家または同系)を注射することで胸腺再成長の度合いを高め、動態を強めることができる。
【0025】
本発明は、性ステロイドによって成熟して免疫系を持つ動物であればどのような種の動物にも(ヒトを含む)使用できるものであり、たとえば哺乳動物や有袋動物など、好ましくは大型の哺乳動物、最も好ましくはヒトがあげられる。
【0026】
「再生」、「再活性化」、「再構築」という用語ならびにその派生語は、本明細書では同義に用いられるものであり、萎縮した胸腺が活性状態に回復することを意味する。
【0027】
本明細書において使用する「性腺摘除」とは、生体での性ステロイドの産生と運搬を顕著に低減または排除することを意味する。これによって患者は胸腺が十分に機能している思春期の状態に効率よく戻る。外科的な性腺摘除では患者の性腺を摘出する。
【0028】
外科的な方法ほどの永続性はない性腺摘除方法のひとつに、一定期間のあいだ化学薬品を投与する方法があり、本明細書ではこれを「化学的な性腺摘除」と呼ぶ。さまざまな化学薬品をこのように機能させることができる。化学薬品の送達時ならびにその後の一定期間のあいだ、患者のホルモン産生が停止する。好ましくは、化学薬品の送達終了時に性腺摘除を無効にする。
【0029】
本発明は多くの条件に役立つものである。たとえば、長期間にわたって、免疫系には基本的にナイーブ細胞がなくなる。これらの細胞の数が次第に少なくなるにつれて、ワクチンとして提示された抗原に対する応答も低下する。これは、応答に必要なナイーブ細胞の数が十分ではないためである。胸腺を再活性化させると、ワクチンに対して正しく応答することのできるナイーブT細胞の大きなプールが新たに生成される。
【0030】
さらに、癌などの長期にわたって免疫応答を惹起している疾患または症状のある患者には抗原特異的な「クローン消耗(clonal burnout)」がみられる場合がある。最初のうちは患者のナイーブT細胞が腫瘍上の外来抗原に対して正しく応答したため外来抗原に特異な抗体を作り続けるさまざまな細胞クローンが生成されたが、長い時間が経過するとこれらのクローンはその産生能を失ってしまう。胸腺が萎縮した患者では、免疫応答を維持するのに利用できるナイーブT細胞のプールが大幅に減少してほとんど皆無になる可能性が極めて高く、免疫反応は基本的に衰えてしまうかそうでなければ患者から腫瘍を取り除くことができない程度に機能する。胸腺を再活性化させることで、外来腫瘍抗原に応答することのできるナイーブT細胞の大きなプールを形成してクローン消耗を妨害または軽減することができる。
【0031】
性ステロイドによる胸腺へのシグナル伝達の破壊
容易に理解できるように、性ステロイドによる胸腺へのシグナル伝達を当業者間で周知のいろいろな方法で破壊することができるため、そのうちいくつかを本明細書で説明する。たとえば、胸腺での性ステロイド産生を阻害するか、あるいは1種またはそれ以上の性ステロイド受容体を遮断することで、性ステロイドアゴニストまたはアンタゴニスト、あるいは能動(抗原)または受動(抗体)抗性ステロイドワクチン接種を投与する場合のように所望の破壊が達成される。性ステロイドの産生については、1種またはそれ以上の性ステロイド類縁体を投与して阻害することも可能である。臨床例の中には、物理的な性腺摘除によって性腺を永久的に除去する方がよいこともある。
【0032】
本発明の実施例では、性ステロイド類縁体、好ましくは黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)の類縁体を投与することによって、性ステロイドによる胸腺へのシグナル伝達を破壊する。性ステロイド類縁体とこれを治療や化学的な性腺摘除に利用することについては周知である。このような類縁体としては、ブセレリン(ヘキスト)、シストレリン(ヘキスト)、デカペプチル(商品名デビオファーム;ボーフール・イプセン)、デスロレリン(バランスファーマシューティカルズ)、ゴナドレリン(エアスト)、ゴセレリン(商品名ゾラデックス;ゼネカ)、ヒストレリン(オルト)、リュープロライド(商品名ルプロン;アボット/TAP)、リュープロレリン(Ploskerら)、ルトレリン(ワイエス)、メテレリン(WO9118016)、ナファレリン(シンテックス)、トリプトレリン(米国特許第4,010,125号明細書)などのLHRH受容体(LHRH−R)アゴニストがあげられるが、これに限定されるものではない。また、LHRH類縁体としては、アバレリックス(Abarelix)(商品名プレナクシス;プラエシス)およびセトロレリックス(商品名;ゼンタリス)などのLHRH−Rアンタゴニストもあげられるが、これに限定されるものではない。アゴニストの組み合わせ、アンタゴニストの組み合わせ、アゴニストとアンタゴニストとの組み合わせも含まれる。なお、上述した各参考文献の開示内容を本明細書に援用する。現時点では上記類縁体がデスロレリン(米国特許第44,218,439号明細書に記載)であると好ましい。さらに包括的な一覧については、Vickeryら、1984を参照のこと。
【0033】
本発明の実施例では、LHRH−Rアンタゴニストを患者に送達した後、LHRH−Rアゴニストを送達する。このプロトコールを用いることで、性ステロイドの産生を抑える前に、アゴニストを投与することで発生し得る性ステロイド産生のスパイクを排除または制限することができる。別の実施例では、LHRH−Rアンタゴニストを事前に投与するかまたは投与せずに、性ステロイド産生のスパイクをほとんど発生させないか全く発生させないLHRH−Rアゴニストを使用する。
【0034】
胸腺の再活性化を刺激することについては、基本的には性ステロイドの作用および/またはLHRH類縁体の直接的な作用を阻害して行うものであるが、相互に作用して胸腺の作用を高めることのできる別の物質を含むと有用な場合もある。このような化合物としては、インターロイキン2(IL2)、インターロイキン7(IL7)、インターロイキン15(IL15)、上皮成長因子ファミリおよび線維芽細胞成長因子ファミリのメンバ、幹細胞成長因子、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)があげられるが、これに限定されるものではない。これらの別の化合物(単数または複数)についてはLHRH類縁体を最初に適用するときに1回だけ与えることを前提にしている。しかしながら、これらの物質1種類または2種類以上の組み合わせからなる投与量をさらに適当な時期に与え、胸腺をさらに刺激するようにしてもよい。また、胸腺特異性になるように標的してもよいステロイド受容体ベースのモジュレータを開発して使用してもよい。
【0035】
製薬組成物
本発明において用いられる化合物は、薬学的に許容される何らかの担体に含有させて供給してもよいし、担体なしで供給してもよいものである。一例として、生理的に適合するコーティング、溶剤、希釈剤があげられる。非経口投与、皮下投与、静脈内投与、筋肉内投与では、カプセル化などによって組成物を保護してもよい。あるいは、活性成分の徐放を可能にしつつこれらの活性成分(単数または複数)を保護する担体と一緒に組成物を供給してもよい。さまざまなバージョンの乳酸/グリコール酸コポリマーなどの持続放出薬剤を調製するための多数のポリマーおよびコポリマーが従来技術において周知である。たとえば、ポリエチレングリコール(PEG)の変性ポリマーを生分解性コーティングとして用いる米国特許第5,410,016号明細書を参照のこと。
【0036】
経口送達を意図した製剤であれば、液体、カプセル、錠剤などとして調製することが可能である。これらの組成物には、活性成分が分解されないように保護する、賦形剤、希釈剤および/または被膜などを含むことが可能である。これらの製剤は周知である。
【0037】
どのような製剤であっても、LHRH類縁体の活性に悪影響をおよぼすことのない他の化合物を含むようにしてもよい。一例として、本明細書にて説明するさまざまな成長因子および他のサイトカインがあげられる。
【0038】
用量
このLHRH類縁体は、一定の期間持続する単回用量で投与することが可能なものである。好ましくは製剤の薬効が1〜2ヶ月間である。標準用量は使用する類縁体のタイプによって決まる。通常、この用量は約0.01μg/kgから約10mg/kgであり、好ましくは約0.01mg/kgから約5mg/kgである。用量は使用するLHRH類縁体またはワクチンによって変わる。本発明の実施例では、周期的な流行が続いている間は維持される用量にする。たとえば、通常は冬季が「インフルエンザシーズン」になる。本明細書に記載のようにしてLHRH類縁体の製剤を製造および送達し、インフルエンザシーズンの最初から2ヶ月以上患者を保護することができる。この場合、感染の危険性が小さくなるかなくなるまで2ヶ月に1回程度かそれ以上の期間をあけて追加投与するようにする。
【0039】
免疫系を強化するための製剤を製造することが可能である。あるいは、免疫系を強化する一方でインフルエンザウイルスによる感染を特異的に防止するための製剤を調製することが可能である。後者の製剤には、インフルエンザウイルスに対する耐性を生むべく作られてきたGM細胞が含まれるであろう(下記参照)。GM細胞については、LHRH類縁体製剤との併用で投与することもできるし、あるいは空間的および/または時間的に別々に投与することもできる。非GM細胞の場合と同様に、長期にわたって複数回用量を患者に投与し、インフルエンザシーズンの最初から最後までインフルエンザウイルスによる感染から患者を保護し、感染を妨害することができる。
【0040】
化学的な性腺摘除用薬剤の送達
本発明による化合物の送達は、当業者間で周知の多くの方法で達成可能なものである。化学的なインヒビターを投与して性ステロイドによる胸腺へのシグナル伝達を阻害する標準的なやり方のひとつに、3ヶ月間有効なLHRHアゴニストを単回用量で用いる方法がある。この方法では、3ヶ月が経過するずっと前にアゴニストが患者の体から排泄されてしまうため、単純に1回のi.v.(静脈内)またはi.m.(筋肉内)注射を行うだけでは不十分なことがある。代わりにデポ注射またはインプラントを利用してもよいし、あるいは、インヒビターの徐放が可能な他のインヒビター送達手段。同様に、ここで必要な機能を保ちつつ、たとえば化学薬品を変性させるなどの方法で体内におけるインヒビターの半減期を延ばすための方法を利用してもよい。
【0041】
さらに有用な送達機序の一例として、皮膚にレーザを照射する方法や皮膚表面で高圧神経衝撃トランジェント(high pressure impulse transient)(応力波または神経衝撃トランジェントとも呼ばれる)を発生させる方法があげられるが、これに限定されるものではない。いずれの方法でも、同じ場所に担体を併用または併用せずに、化合物(単数または複数)を接触させる処理を同時にまたは後から行う。好ましい接触方法のひとつに、処置を行っている間は皮膚の上にパッチを載せたままにしておく方法がある。
【0042】
ひとつの送達手段では、適切な波長が維持され、厳密に焦点の合ったレーザ光線を利用して、患者の皮膚に小さなパーフォレーションを作るか、皮膚を変質させる。米国特許第4,775,361号明細書、米国特許第5,643,252号明細書、米国特許第5,839,446号明細書、米国特許第6,056,738号明細書を参照のこと(いずれも本明細書に援用する)。本発明の実施例では、レーザ光線の波長は0.2から10ミクロンである。より好ましくは、波長は約1.5から3.0ミクロンである。最も好ましくは、波長は約2.94ミクロンである。一実施例では、レンズを用いてレーザ光線の焦点を合わせ、皮膚の表皮をとおして皮膚表面に照射スポットを形成する。別の実施例では、レーザ光線の焦点を合わせ、皮膚の表皮細胞のみをとおして照射スポットを形成する。
【0043】
本明細書において使用する「アブレーション」および「パーフォレーション」とは、皮膚に形成された穴を意味する。このような穴については深さを変えることが可能である。たとえば表皮細胞のみを貫通するようにしてもよいし、皮膚の毛細管層まで全体を貫通するようにしてもよく、あるいはその間のいずれかの場所で終端してもよい。本明細書において使用する「変質」とは、穴を形成することなく皮膚の透過性を高める、皮膚構造の変化を意味する。パーフォレーションと同様に、皮膚をどのような深さで変質させてもよい。
【0044】
レーザ光線を規定するにあたって、波長、エネルギフルエンス、パルス時間幅および照射スポットサイズをはじめとする、いくつかの要素が考慮されることがある。本発明の実施例では、エネルギフルエンスは0.03〜100,000J/cm2の範囲である。より好ましくは、エネルギフルエンスは、0.03〜9.6J/cm2の範囲である。光線の波長は、Er:YAGなどのレーザ材料にある程度は左右される。パルス時間幅は、コンデンサ群、フラッシュランプ、レーザロッドの材料などによって生成されるパルス幅から必然的に得られる。パルス幅は1fs(フェムト秒)から1,000μsの間であると最適である。
【0045】
この方法によれば、レーザで形成するパーフォレーションまたは変質を必ずしも1回のレーザパルスで形成しなくてもよい。本発明の実施例では、表皮細胞をとおしてのパーフォレーションまたは変質を、各々が標的組織厚の一部のみを貫通または変化させる複数のレーザパルスを用いて形成する。
【0046】
この目的を達成するために、パルス1回分のエネルギを求めて所望のパルス数で割ることで、複数のパルスで表皮細胞を貫通または変化させるのに必要なエネルギをおおざっぱに見積もることができる。たとえば、あるサイズのスポットで表皮細胞全体をとおしてパーフォレーションまたは変質を形成するのに1Jのエネルギが必要な場合、各々がそのエネルギの1/10である10のパルスを用いて定性的に同様のパーフォレーションまたは変質を形成することができる。放射線照射の間は患者が標的組織を動かさず、各パルスの間に生成される熱が有意に拡散しないことが望ましい(ヒトの反応時間は100ms程度)ため、本発明の実施例では、レーザからのパルスの繰り返し数を100ms未満の時間で完全なパーフォレーションを形成できるような数にしなければならない。あるいは、標的組織とレーザの向きを機械的に固定し、これよりも長い放射線照射時間のあいだ標的位置の変化が起こらないようにすることも可能である。
【0047】
血流をほとんど発生させないか全く発生させない形で皮膚を貫通するには、表皮細胞層などの外側の表面を介するが毛細管層ほど深部ではない位置で皮膚を穿孔または変質すればよい。このとき、皮膚での光線直径が約0.5ミクロン〜5.0cmの範囲になるようにレーザ光線の焦点を皮膚に正確に合わせる。任意に、スポットを幅約0.05〜0.5mmで長さ最大2.5mmのスリット形にしてもよい。幅はどのようなサイズであってもよく、除去対象となる流体または適用対象となる医薬品の所望の透過率と照射部分の組織構造とによって制御される。焦点レンズの焦点距離はどのような長さであってもよいが、一実施例では30mmである。
【0048】
波長、パルス長、エネルギフルエンス(レーザエネルギ出力(ジュール)および焦点での光線サイズ(cm2)の関数)、照射スポットサイズを調節することで、表皮細胞への影響をアブレーション(パーフォレーション)と非焼灼性の変性(変質)との間で変えることが可能である。表皮細胞のアブレーションと非焼灼性の変質はいずれもその後に適用される製剤の透過性を高めるものである。
【0049】
たとえば、パルスエネルギ以外の変数を一定に維持したままパルスエネルギを小さくすると、組織への作用を焼灼性と非焼灼性との間で変化させることができる。パルス長約300μsのEr:YAGレーザを用いて、パルスまたは輻射エネルギ1回分で2mmのスポットを皮膚に照射する場合、パルスエネルギが約100mJを超えると部分的または完全なアブレーションが形成され、パルスエネルギが約100mJ未満であると部分的なアブレーションまたは非焼灼性の変質が表皮細胞に形成される。任意に、複数のパルスを利用して、体液の透過性を高めるのに必要または医薬品送達用の閾値パルスエネルギをパルス数にほぼ等しい分だけ減少させてもよい。
【0050】
あるいは、スポットサイズ以外の変数を一定に維持したままスポットサイズを小さくしても、組織への作用を焼灼性と非焼灼性との間で変化させることができる。たとえば、スポット面積を半分にすることで同じ効果を得るのに必要なエネルギも半分になる。レーザの輻射出力を顕微鏡対物レンズ(microscope objective)の対物レンズ(たとえばニューヨーク州メルビルのニコン社から入手可能なものなど)に結合することで、0.5ミクロンまで抑えて照射を行うことができる。このような場合、おおよそ顕微鏡の解像限界までのスポットに光線の焦点を合わせることができるが、これはおそらく約0.5ミクロン程度である。実際、光線のプロファイルがガウスであれば、対象となる照射部分のサイズを実測光線サイズよりも小さくすることができ、顕微鏡の画像解像度を超えることが可能なのである。この場合、組織を非焼灼的に変質させるには、エネルギフルエンスを3.2J/cm2にすると良いであろうと思われるが、この場合に二分の一ミクロンのスポットサイズであれば必要なパルスエネルギは約5nJになる。このように低いパルスエネルギはダイオードレーザで容易に得ることができ、ガラスなどの吸収用フィルタを用いて光線を減衰させれば、Er:YAGレーザなどでも得ることができるものである。
【0051】
任意に、輻射エネルギの波長以外の変数を一定に維持したまま輻射エネルギの波長を変えることで、組織への作用を焼灼性と非焼灼性との間で変化させるようにしてもよい。たとえば、Er:YAG(エルビウム:YAG;2.94ミクロン)レーザの代わりにHo:YAG(ホルミウム:YAG;2.127ミクロン)を使用すると組織によるエネルギの吸収量が小さくなり、少な目のパーフォレーションまたは変質が形成される。
【0052】
レーザによって生成されるピコ秒およびフェムト秒のパルスを利用し、皮膚に変質またはアブレーションを形成するようにしてもよい。これは、時間幅1フェムト秒から1msの範囲で1回のパルスを送達する調節済みのダイオードまたは関連のマイクロチップレーザで達成可能なものである(パルス長を1フェムト秒まで抑えて用いることについて開示した、本明細書に援用するD.Sternらの「Corneal Ablation by Nanosecond,Picosecond, and Femtosecond Lasers at 532 and 625 nm」、Corneal Laser Ablation、第107巻、第587〜592頁(1989)を参照のこと)。
【0053】
もうひとつの送達方法では、皮膚での高圧神経衝撃トランジェントを利用して透過性を得る。本明細書に援用する米国特許第5,614,502号明細書および米国特許第5,658,892号明細書を参照のこと。立ち上がり時間と最大応力(または圧力)とを定めた応力波(たとえばレーザで生成する場合はレーザ応力波(LSW))などの高圧神経衝撃トランジェントを用いて、表皮細胞や粘膜などの上皮組織の層をとおして本願開示内容にあるものなどの化合物を安全かつ効率的に移動させることができる。これらの方法を利用すれば、正味電荷とは関係なく広範囲にわたるサイズの化合物を送達することができる。また、本方法で用いる神経衝撃トランジェントでは組織の損傷が回避される。
【0054】
神経衝撃トランジェントに曝露する前は、表皮細胞などの上皮組織層は外来化合物を通さないことが多い。このため、上皮層よりも下にある細胞に化合物を拡散させることができない。上皮層を神経衝撃トランジェントに曝露すると、上皮層をとおして化合物を拡散させることができる。拡散速度は通常、神経衝撃トランジェントの性質と送達対象となる化合物のサイズとによって決まる。
【0055】
皮膚の表皮細胞などの特定の上皮組織層をとおしての貫通速度も、pH、皮膚支持体組織の代謝、表皮細胞外の領域と表皮細胞内の領域との圧差ならびに皮膚の解剖組織上の部位および生理状態をはじめとする、ほかのいくつかの要因に左右される。さらに、皮膚の生理状態は、健康状態、年齢、性別、人種、スキンケア、病歴に左右される。たとえば、事前に有機溶剤または界面活性剤に触れると皮膚の生理状態に影響する。
【0056】
また、上皮組織層をとおして送達される化合物の量も上皮層が透過性である時間と透過性にされる上皮層の表面積の大きさとに左右されることになる。
【0057】
神経衝撃トランジェントの特性と特徴を、神経衝撃トランジェントを生成するエネルギ源によって制御する。本明細書に援用するWO98/23325号公報を参照のこと。しかしながら、この特徴は、神経衝撃トランジェントが伝播する接触媒質の線形特性と非線形特性とによって変わってくる。接触媒質によって生じる線形の減衰は主に神経衝撃トランジェントの高周波成分を減衰する。これによって帯域幅が小さくなり、これに伴って神経衝撃トランジェントの立ち上がり時間が長くなる。一方、接触媒質の非線形特性は立ち上がり時間を短くする。立ち上がり時間が短くなるのは、音と粒子の速度が応力(圧力)に依存するためである。応力が大きくなると、音と粒子の速度も上昇する。これによって神経衝撃トランジェントの立ち上がりが急勾配になる。立ち上がり時間の急勾配の増加を実質的なものとするのに波をどのくらいの時間伝搬させることになるかは、線形の減衰、非線形係数、最大応力の相対強度によって決まる。
【0058】
神経衝撃トランジェントの立ち上がり時間、規模、持続時間については、一時的に上皮組織層の透過性を高める非破壊的な(すなわち非衝撃波)神経衝撃トランジェントが得られるように選択する。通常、立ち上がり時間は少なくとも1nsであり、より好ましくは約10nsである。
【0059】
神経衝撃トランジェントの最大応力または圧力は上皮組織または細胞層によって異なる。たとえば、表皮細胞をとおして化合物を移動させる場合、神経衝撃トランジェントの最大応力または圧力を少なくとも400バール、より好ましくは少なくとも1,000バールに設定しなければならないが、約2,000バールを超えないようにする。
【0060】
上皮粘膜層では最大圧力を300バールから800バール、好ましくは300バールから600バールの間に設定するものとする。
【0061】
神経衝撃トランジェントは、持続時間が数十ns前後で上皮組織と互いに影響しあうのが短時間しかないと好ましい。
【0062】
神経衝撃トランジェントとの相互作用後、上皮組織が永久的に損傷されることはなく、最大約3分間透過性を維持するだけである。
【0063】
また、この新たな方法では、高振幅の別個のパルスを数回患者に印加するだけである。患者に施される神経衝撃トランジェントの数は一般に100未満であり、より好ましくは50未満、最も好ましくは10未満である。複数の光学パルスを用いて神経衝撃トランジェントを生成する場合、連続したパルス間の時間は10から120秒であるが、これは上皮組織の永久的な損傷を防ぐには十分な長さである。
【0064】
神経衝撃トランジェントの特性については、従来技術において標準の方法を用いて測定することが可能である。たとえば、Doukasら、Ultrasound Med.Biol.、21:961(1995)に記載されているようなポリフッ化ビニリデン(PVDF)トランスデューサ法を用いて、最大応力または圧力、立ち上がり時間を測定することができる。
【0065】
神経衝撃トランジェントは、さまざまなエネルギ源によって生成可能なものである。神経衝撃トランジェントの発射を担う物理現象は、通常、(1)熱弾性生成、(2)光破壊または(3)アブレーションという3通りの機序から選択される。
【0066】
たとえば、高エネルギのレーザ源を適用して標的材料を焼灼することで神経衝撃トランジェントを開始することができ、その後この神経衝撃トランジェントを接触媒質によって上皮組織または細胞層に結合する。接触媒質は、たとえば、非線形である限りは液体またはゲルである。よって、水、ひまし油などの油、ホスフェート緩衝生理食塩水(PBS)などの等張媒質またはコラーゲンゲルなどのゲルを接触媒質として用いることができる。
【0067】
また、たとえば神経衝撃トランジェントの生成後に化合物に対して表皮細胞が透過性である時間を引き延ばすことによって移動性を高める界面活性剤を接触媒質に含むようにしてもよい。界面活性剤には、たとえばイオン性洗剤または非イオン性洗剤が考えられ、よって、たとえばラウリル硫酸ナトリウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、ラウリルジメチルアミンオキシドを含むことができる。
【0068】
吸収する標的材料は光学的に誘発されるトランスデューサとして作用する。光を吸収すると標的材料には急激な熱膨張が起こって焼灼され、神経衝撃トランジェントが起こる。一般に、金属およびポリマーのフィルムは可視スペクトル領域および紫外スペクトル領域での吸収係数が大きい。
【0069】
使用するレーザの波長で光を完全に吸収する限り、多くのタイプの材料をレーザ光線と併用の標的材料として用いることができる。標的材料については、アルミニウムまたは銅などの金属、黒いポリスチレンなどのポリスチレンなどのプラスチック、セラミック、高濃縮染料溶液で構成することが可能である。標的材料は印加するレーザエネルギの断面積よりも寸法の大きなものでなければならない。また、光が皮膚表面に衝突しないように、標的材料は光学的貫通深さよりも厚くなければならない。さらに、標的材料は機械的に支持できるだけの十分な厚さのものでなければならない。標的材料が金属製の場合、一般的な厚さは1/32から1/16インチである。プラスチックの標的材料では、厚さは1/16から1/8インチである。
【0070】
また、限られた狭い範囲の(confined)アブレーションによって神経衝撃トランジェントを強めることもできる。限られた狭い範囲のアブレーションでは、石英の光学ウィンドウなどのレーザ光線透過材料を標的材料と密着させて配置する。この透明材料を用いて標的材料を焼灼してプラズマを限局すると、結合係数が桁違いに大きくなる(Fabroら、J.Appl.Phys.、68:775、1990)。透明材料には、石英、ガラスまたは透明プラスチックを用いることが可能である。
【0071】
標的材料と限局用の透明材料との間に空間ができるとプラズマが膨張する余裕ができ、標的に加わる運動量が小さくなってしまうため、炭素含有エポキシなどの最初は液体状である接着剤を用いて透明材料を標的材料に接着し、このような空間をなくすようにすると好ましい。
【0072】
たとえば電気光学的装置または音響光学的装置を用いてQスイッチレーザまたはモード同期レーザを利用するなどの従来技術において周知の標準的な光学的変調技法によってレーザ光線を生成することができる。赤外スペクトル、可視スペクトルおよび/または赤外スペクトルにおいてパルスモードで動作できる標準的な市販レーザとしては、Nd:YAG、Nd:YLF、CO2、エキシマ、染料、Ti:サファイア、ダイオード、ホルミウム(および他の希土材料)、金属蒸気レーザがあげられる。これらの光源はパルス幅が調節可能であり、数十ピコ秒(ps)から数百マイクロ秒まで可変である。本願開示内容で使用する光学パルス幅は100psから約200nsで可変であり、好ましくは約500psから40nsの間である。
【0073】
また、体外砕石機によって神経衝撃トランジェントを生成することも可能である(一例が、Colemanら、Ultrasound Med.Biol.、15:213〜227、1989に記載されている)。これらの神経衝撃トランジェントは立ち上がり時間が30から450nsであり、レーザで生成する神経衝撃トランジェントの場合よりも長い。この新たな方法用に体外砕石機を用いて適切な立ち上がり時間の神経衝撃トランジェントを形成するために、上記の式(1)によって求められる距離だけ非線形の接触媒質(水など)中で神経衝撃トランジェントを伝播させる。たとえば、立ち上がり時間100nsでピーク圧力が500バールの神経衝撃トランジェントを生成する砕石機を用いる場合、上皮細胞層と接触する前に神経衝撃トランジェントが接触媒質を介して移動しなければならない距離は約5mmである。
【0074】
砕石機によって生成される神経衝撃トランジェントを加工する方法のもうひとつの利点として、波の引張成分(tensile component)が広がり、非線形の接触媒質中を伝播することで減衰される点があげられる。この伝播距離を調整し、圧力が波の圧縮成分の最大圧力のわずか約5から10%の引張成分を持つ神経衝撃トランジェントを生成する必要がある。したがって、加工された(shaped)神経衝撃トランジェントが組織を損傷することはない。
【0075】
使用する砕石機のタイプは重要ではない。電気水力学式砕石機、電磁式砕石機または圧電式砕石機のいずれかを用いることができる。
【0076】
また、圧電トランスデューサなどのトランスデューサを用いて神経衝撃トランジェントを生成することも可能である。好ましくは、トランスデューサが接触媒質と直接接触し、光学的、熱的または電気的に場を印加して神経衝撃トランジェントを生成した後に急激に変位する。たとえば、絶縁破壊を利用することができ、この絶縁破壊は一般に高電圧スパークまたは圧電トランスデューサによって誘導される(特定の体外砕石機で用いられているものと同様である。Colemanら、Ultrasound Med.Biol.、15:213〜227、1989)。圧電トランスデューサの場合、電界を印加した後にトランスデューサが急激に膨張して接触媒質の急激な変位を発生させる。
【0077】
また、光ファイバを用いて神経衝撃トランジェントを生成することも可能である。光ファイバ送達系は特に扱いやすく、上皮組織層に隣接して位置する標的材料に光線を照射し、到達しにくい場所で神経衝撃トランジェントを生成するのに利用できるものである。これらのタイプの送達系は、カテーテルおよび関連の可撓性装置に統合し、人体のほとんどの器官への照射に利用できるため、レーザと光学的に結合させる場合に好ましいものである。また、所望の立ち上がり時間と最大応力の神経衝撃トランジェントを得るには、これに光学源(optical source)の波長を合わせて特定の標的材料で適切な吸収を生成する方法が簡単である。
【0078】
あるいは、爆発的に生じる神経衝撃に応答して強力な(energetic)材料で神経衝撃トランジェントを生成することもできる。放電またはスパークを発生させることで、この強力な材料を起爆装置で爆発させる。
【0079】
神経衝撃トランジェントと併せて静水圧を利用し、上皮組織層を介しての化合物の移動性を高めることができる。神経衝撃トランジェントによって誘発される作用は数分間持続するため、神経衝撃トランジェントの印加後に皮膚の表皮細胞などの上皮組織層の表面に静水圧を加えることで、濃度勾配に沿って上皮細胞層を介して受動的に拡散していく薬剤の移動速度を増すことができる。
【0080】
ワクチン応答の改善
本明細書に記載の方法によって、性ステロイドによる萎縮胸腺が現時点で定義可能なあらゆる点で構造的および機能的にほぼ最適な思春期前の能力まで劇的に回復する。これには、すべてのT細胞サブセットの数、タイプおよび割合が含まれる。また、T細胞の生成に必要な胸腺の微小環境を構成する複雑な(complex)支質細胞とその三次元アーキテクチャも含まれる。新たに生成されるT細胞は胸腺から移出し、末梢T細胞レベルと機能とが元に戻る。
【0081】
胸腺が再生を始める直前または再生を始めるときにCD34+造血幹細胞(HSC)および/または上皮幹細胞を加えることで、胸腺の再活性化を補うことができる。理想的には、これらの細胞は自家または同系であり、胸腺の再活性化前に患者または双子から得られたものである。HSCを得るには、CD34+細胞を患者の血液および/または骨髄から選り分ければよい。HSCの数については、細胞採取前にG−CSF(Neupogen、Amgen)を患者に投与する、幹細胞成長因子で採取した細胞を培養する、および/またはCD34+細胞補充後にG−CSFを患者に投与することを含む(これに限定されるものではない)いくつかの方法で増やすことができる。あるいは、患者にG−CSFを事前に注射することで個体群が増えているのであれば、必ずしも血液またはBMからCD34+細胞を選り分ける必要はない。
【0082】
性ステロイドによるシグナル伝達の遮断開始から3〜4週間以内(LHRH処置開始の約2〜3週間後)に、血流中には最初の新T細胞が認められる。しかしながら、T細胞プールが完全に発達するまでには3〜4ヶ月要することがある。原理的には新たに生成されたナイーブ細胞が見られた直後にワクチン接種を開始することができるが、ワクチン接種を開始するのは、強い応答を得られるだけの十分な新T細胞が生成され、必要な胸腺の成熟後になる、LHRH治療の開始後4〜6週間待つ方が好ましい。
【0083】
このやり方は、アジュバント、アクセサリ分子、サイトカイン療法をはじめとする他のどの免疫系刺激形態とも併用できるものである。たとえば、有用なサイトカインとして、一般的な免疫成長因子としてのインターロイキン2(IL2)、Th2(体液性免疫)に対する応答をそらすIL4、Th1(細胞による炎症反応)に対する応答をそらすインターフェロン□があげられるが、これに限定されるものではない。アクセサリ分子としては、通常はCTLA4.小動物研究(CTLA4.SMALL ANIMAL STUDIES)によって阻害されるCD28/B7.1、B7.2刺激経路を促進することで一般的な免疫応答を亢進するCTLA4のインヒビターがあげられるが、これに限定されるものではない。
【0084】
材料および方法
動物
モナッシュ大学のCentral Animal ServicesからオスのCBA/CAHマウスおよびC57B16/Jマウスを入手し、従来の条件下で飼育した。週齢は4〜6週間から26ヶ月までの範囲であり、関連がある場合はこれを明記する。
【0085】
性腺摘除
キシラジン(ロンプン;オーストラリアのニューサウスウェールズ州ボタニーのバイエルオーストラリアリミテッド)0.3mgと塩酸ケタミン(ケタラール;オーストラリアのニューサウスウェールズ州Caringbahのパークデービス)1.5mgとを生理食塩水に入れた溶液0.3mlを腹腔内注射し、動物を麻酔した。陰嚢を切開して精巣を露出させ、縫合糸で結紮した後、周囲の脂肪組織と一緒に摘出して外科的な性腺摘除を行った。
【0086】
ブロモデオキシウリジン(BrdU)の取り込み
BrdU(ミズーリ州セントルイスのシグマケミカルコーポレーション)(PBS100μl中100mg/体重kg)を4時間の間隔でマウスに2回腹腔内注射した。対照のマウスにはビヒクル単独の注射を行った。2回目の注射の1時間後、胸腺を切断解剖し、FACS解析用に細胞浮遊液を生成するか、あるいはすみやかにTissue Tek(インディアナ州O.C.T.compound,Miles INC)に埋め込み、液体窒素中でスナップ凍結させ(snap−frozen)、使用するまで−70℃で保管した。
【0087】
フローサイトメトリーによる分析
マウスをCO2窒息で屠殺し、胸腺、脾臓、腸間膜リンパ節を摘出した。器官を冷たいPBS/1%FCS/0.02%アジド中にて200μmの篩で静かに押しつぶし、遠心分離(650g、5分、4℃)し、PBS/FCS/Azのいずれか一方に再懸濁させた。赤血球溶解液(8.9g/リットル塩化アンモニウム)中にて10分間4℃で脾臓細胞をインキュベートし、洗浄し、PBS/FCS/Azに再懸濁させた。血球計算盤と臭化エチジウム/アクリジンオレンジとを用いて細胞濃度および生存度を2回重複して求め、蛍光顕微鏡(Axioskop;ドイツのオーバーコッヘンのカールツアイス)下で観察した。
【0088】
3色免疫蛍光法では、抗αβTCR−FITCまたは抗γδTCR−FITC、抗−CD4−PEおよび抗−CD8−APC(いずれもカリフォルニア州サンディエゴのファーミンジェンから入手)を用いて常法に従って胸腺細胞を標識し、続いてフローサイトメトリー分析を行った。αβTCR−FITC/CD4−PE/CD8−APCまたはB220−B(シグマ)とCD4−PEおよびCD8−APCとのいずれかで脾臓およびリンパ節の懸濁液を標識した。カリフォルニア州バーリンゲームのカルタグラボラトリーズインコーポレイテッドから購入したストレプトアビジンTri−color複合体でB220−Bを発色させた。
【0089】
BrdU検出では、CD4−PEおよびCD8−APCで細胞を表面標識し、続いて、従来すでに説明されている(CarayonおよびBord、1989)ようにして固定および膜透過処理を行った。簡単に説明すると、染色した細胞を1%PFA/0.01%Tween−20中にて4℃でO/Nに固定した。洗浄後の細胞を、DNase(100Kunitz単位、西ドイツのベーリンガー・マンハイム)500μl中にて30分間37℃でインキュベートし、DNAを変性させた。最後に、抗BrdU FITC(ベクトン・ディッキンソン)を用いて細胞をインキュベートした。
【0090】
4色免疫蛍光法では、抗ラットIg−Cy5(英国、アマシャム)によって共通に検出される、CD3、CD4、CD8、B220およびMac−1で胸腺細胞を標識し、ネガティブ細胞(TN)を解析用に選び出した。これをさらにCD25−PE(ファーミンジェン)およびCD44−B(ファーミンジェン)で染色し、続いて、従来すでに説明されている(GodfreyおよびZlotnik、1993)ようにしてストレプトアビジンTri−colour(カリフォルニア州、カルタグ)での染色を行った。次に、上述したようにしてBrdU検出を行った。
【0091】
FacsCalibur(ベクトン・ディッキンソン)にて試料を分析した。0°および90°の光散乱プロファイルに基づいて生存可能なリンパ球を選び出し、Cell questソフトウェア(ベクトン・ディッキンソン)を用いてデータを分析した。
【0092】
免疫組織学
凍結保存した胸腺切片(4μm)を、クライオスタット(レイカ)を用いて切断し、100%アセトン中にてすみやかに固定した。
【0093】
2色免疫蛍光法では、この実験室で生成したモノクローナル抗体のパネルである、MTS 6、10、12、15、16、20、24、32、33、35および44(Godfreyら、1990、表1)で切片を二重標識し、多価ウサギ抗サイトケラチンAb(カリフォルニア州カーピンテリアのダコ)を用いて上皮細胞決定基の同時発現を評価した。結合したmAbをFITC標識ヒツジ抗ラットIg(Silenus Laboratories)と反応させ、抗サイトケラチンをTRITC標識ヤギ抗ウサギIg(Silenus Laboratories)と反応させた。
【0094】
BrdU検出では、切片を抗サイトケラチンに続いて抗ウサギTRITCで染色するか、あるいは特定のmAbで染色し、これを抗ラットIg−Cγ3(アマシャム)と反応させた。続いて、従来すでに説明されている(Penitら、1996)ようにしてBrdU検出を行った。簡単に説明すると、70%エタノール中にて30分間切片を固定した。半乾燥させた切片を4MのHCl中にてインキュベートし、ホウ酸緩衝液(シグマ)中で洗浄して中和し、続いてPBS中で2回洗浄した。抗BrdU−FITC(ベクトン・ディッキンソン)を用いてBrdUを検出した。
【0095】
3色免疫蛍光法では、抗サイトケラチンと一緒に特定のMTS mAbで切片を標識した。次に、上述したようにしてBrdU検出を実施した。
【0096】
レイカの蛍光顕微鏡とニコンの共焦点顕微鏡とを用いて切片を分析した。
【0097】
移行についての検討
キシラジン(ロンプン;オーストラリアのニューサウスウェールズ州ボタニーのバイエルオーストラリアリミテッド)0.3mgと塩酸ケタミン(ケタラール;オーストラリアのニューサウスウェールズ州Caringbahのパークデービス)1.5mgとを生理食塩水に入れた溶液0.3mlを腹腔内注射し、動物を麻酔した。
【0098】
胸腺細胞手法のFITC標識の詳細は他の資料に記載されているものと同様である(Scollayら、1980;Berzinsら、1998)。簡単に説明すると、胸腺の葉を露出させ、各葉に350μg/mlFITC(PBS中)約10μmを注射した。創傷を外科用ステープルで縫合し、完全に麻酔からさめるまでマウスを温めた。注射の約24時間後にCO2窒息によってマウスを屠殺し、リンパ系器官を分析用に摘出した。
【0099】
細胞数を計数した後、抗CD4−PEおよび抗CD8−APCで試料を染色し、続いてフローサイトメトリーで分析した。(自己蛍光細胞および重複物(doublets)を排除するために)移行細胞をCD4またはCD8のいずれかを発現しているlive−gated FITC+細胞として同定した。FITC+ CD4細胞およびCD8細胞のパーセンテージを加え、リンパ節と脾臓のそれぞれについて総移行率を求めた。また、Berzinsら(1998)に説明されているようにして1日あたりの輸出速度を算出した。
【0100】
対応のないスチューデントのt検定またはノンパラメトリックなMann−Whitney検定を用いて分析したデータを利用し、少なくとも3回重複して行った実験について対照と試験結果との間の統計的有意性を判定した。対照値とは有意に異なっている実験値を、*p≦0.05、**p≦0.01、***p≦0.001として示す。
【0101】
結果
胸腺細胞個体群に対して年月がおよぼす影響
(i)胸腺の重量および胸腺細胞数
時が経過するにつれて胸腺の重量(図1A)と胸腺細胞の総数(図1B)がいずれも極めて有意に(p≦0.0001)減少する。若い成体での相対胸腺重量(胸腺mg/体重g)は平均値で3.34であり、これが18〜24月齢で0.66まで減少する(脂肪が蓄積するため正確な計算には限度がある)。胸腺の重量が減少するのは胸腺細胞の総数が減少することによる可能性がある。1〜2月齢では胸腺の胸腺細胞数は〜6.7×107個であり、これが24月齢までに細胞数〜4.5×106個まで減少する。性腺を摘除して胸腺に対する性ステロイドの影響を排除すると、再生が起こり、性腺摘除後4週間が経過するまでに胸腺は重量と細胞充実性のいずれも若い成体の場合と等しくなる(図1Aおよび図1B)。興味深いことに、性腺摘除後2週間で胸腺細胞数は有意に(p≦0.001)増加(〜1.2×108)し、これが性腺摘除後4週間が経過するまでに正常な若い成体のレベルまで回復する(図1B)。
【0102】
胸腺で生成されるT細胞数が減少してもこれが末梢に反映されることはなく、末梢では時が経過しても脾臓細胞数は一定のままである(図2A)。時が経過して末梢に到達するT細胞数が減少しても脾臓とリンパ節でのB細胞とT細胞との比には何ら影響がない(図2B)ため、末梢に恒常性の機序が働いていることは明らかであった。しかしながら、CD4+T細胞とCD8+T細胞との比は時の経過に伴って2月齢の2:1から2年の時点での比1:1(図2C)まで有意に減少(p≦0.001)した。性腺摘除後に末梢に到達するT細胞数が増えても末梢のT細胞数には何ら変化は観察されなかった。性腺摘除後、脾臓のT細胞数は変化せず、B細胞:T細胞の比も脾臓とリンパ節のいずれにおいても変化しなかった(図2Aおよび図2B)。性腺摘除後2週間が経過した時点で末梢のCD4:CD8比の経時的な減少は依然として顕著であったが、これは性腺摘除後4週間が経過するまでに完全に反転した(図2C)。
【0103】
(ii)αβTCR、γδTCR、CD4およびCD8の発現
時の経過に伴って見られる胸腺細胞数の減少が特定の細胞個体群が枯渇した結果として生じたものであるか否かを判定するために、特徴のあるマーカーで胸腺細胞を標識して別々の部分母集団を分析できるようにした。また、これによって性腺摘除後の胸腺再増殖の動力学を分析できるようになった。主な胸腺細胞部分母集団の割合を正常な若い胸腺の割合と比較した(図3)ところ、時が経過しても均一のままであることが明らかになった。また、αβTCRおよびγδTCRの発現によって胸腺細胞がさらに分割されてもこれらの個体群の割合には経時的に何ら変化がないことが明らかになった(データ図示せず)。性腺摘除後2週間および4週間の時点で、胸腺細胞の部分母集団は同じ割合のままであり、胸腺細胞数が性腺摘除後に最大100倍まで増加するため、すべての胸腺細胞サブセットが徐々に増えるのではなく同期的に増えることが分かる。
【0104】
したがって、高齢動物の胸腺で細胞数の減少が認められるのは、T細胞個体群に有意な変化が検出されることなくあらゆる細胞表現型がバランスよく減少した結果であるように思われる。胸腺の再生は、すべてのT細胞部分母集団を逐次的ではなく同時に補充しながら同期的に行われる。
【0105】
胸腺細胞の増殖
図4に示されるように、4〜6週齢で胸腺細胞の15〜20%が増殖している。このうちの大半(〜80%)はDPであり、TNサブセットが〜6%(図5A)で二番目に大きい個体群を構成している。したがって、免疫組織学的には大半の分裂が被膜下および皮質に見られる(データ図示せず)。髄領域にも若干の分裂が見られ、FACS分析によって分裂しているSP細胞の割合(CD4T細胞9%とCD8T細胞25%)が明らかになっている(図5B)。
【0106】
老化胸腺では細胞数が有意に減少するが、胸腺細胞の増殖は一定のままであり、2年で12〜15%まで減少(図4)し、増殖中の個体群の表現型は2ヶ月の胸腺(図5A)に似ている。1歳での分裂が若い成体に見られる分裂を反映していることが免疫組織学的に明らかになったが、2年の時点では、増殖は主に外皮質で見られ、脈管系を囲んでいる(データ図示せず)。性腺摘除後2週間の時点で、胸腺細胞数は有意に増加するが、増殖している胸腺細胞の割合には変化がないことから、ここでも細胞が同期増殖していることが分かる(図4)。性腺摘除後2週間が経過するまでに、胸腺細胞増殖の局在位置と分裂している細胞が2月齢の胸腺の状況を真似る度合いとが免疫組織学的に明らかになった(データ図示せず)。増殖中の個体群を示す各部分母集団の割合を分析すると、増殖中の個体群に含まれるCD8T細胞のパーセンテージに有意な(p<0.001)増加が認められた(2月齢および2歳で1%、性腺摘除後2週間で〜6%まで増加)(図5A)。
【0107】
図5Bは、若いマウス、高齢マウス、性腺摘除を行ったマウスの各サブセットでの増殖の度合いを示している。DNサブセットでは増殖の有意な(p≦0.001)崩壊がある(2ヶ月の時点で35%であったものが2年までに4%へ)。CD8+T細胞の増殖も有意に(p≦0.001)減少し、老化胸腺の髄では分裂の痕跡が認められないという免疫組織学による所見(データ図示せず)が反映されていた。性腺摘除後4週間が経過するまでにDN増殖の減少が正常な若いレベルに戻ることはない。しかしながら、CD8+T細胞サブセットでの増殖は性腺摘除後2週間の時点で有意に(p≦0.001)増加し、性腺摘除後4週間の時点で正常な若いレベルに戻っている。
【0108】
DNサブセットでの増殖の減少について、マーカーCD44およびCD25を用いてさらに分析した。胸腺細胞の前駆細胞だけでなくDN部分母集団にもαβTCR+CD4−CD8胸腺細胞が含まれており、これがSP細胞への遷移時に両方のコレセプターを下方制御していたと思われる(GodfreyおよびZlotnik、1993)。これらの成熟細胞を選び出すことで、真のTNコンパートメント(CD3−CD4−CD8−)を分析することができ、この分析によって時の経過に伴う増殖率または性腺摘除後における増殖率に何ら違いはないことが分かった(図5C)。しかしながら、CD44およびCD25を発現している部分母集団を分析したところ、TN1サブセット(CD44+CD25−)の増殖に正常な若い頃の20%から18月齢の時点での約6%への有意な(p<0.001)減少が認められ(図5D)、これが性腺摘除後4週間が経過するまでに回復した。TN1サブセットで増殖が減少した分だけTN2部分母集団(CD44+CD25+)では増殖が有意に(p≦0.001)増えたが、これも性腺摘除後2週間が経過するまでに正常な若いレベルに戻った(図5D)。
【0109】
胸腺の微小環境に対して年月がおよぼす影響
ポリクローナル抗サイトケラチンAbで二重標識した、MTSシリーズからのMAbの包括的なパネルを用いる免疫蛍光法によって、時の経過に伴う胸腺の微小環境の変化について検討した。
【0110】
これらのMAbによって認識される抗原については、胸腺の上皮サブセット、脈管関連(vascular−associated)抗原、支質細胞と胸腺細胞の両方に存在するものという3つのグループに細分化することができる。
【0111】
(i)上皮細胞抗原
2年齢のマウス胸腺を抗ケラチン染色(pan−上皮)したところ、上皮細胞の重篤な組織破壊が認められると共にはっきりと識別できる皮髄境界領域が欠如し、通常の胸腺アーキテクチャが失われていることが明らかになった。MAb、MTS 10(髄)、MTS 44(皮質)を用いてさらに分析を行ったところ、皮質のサイズが時の経過に伴って明らかに減少し、髄上皮にはそれほど大きな減少が見られない(データ図示せず)ことが分かった。上皮細胞のない領域またはケラチンネガティブエリア(KNA、van Ewijkら、1980;Godfreyら、1990;Bruijntjesら、1993).)が一層はっきりとしており、抗サイトケラチン標識で明らかなように老化胸腺のサイズが大きくなった。また、老化胸腺の見た目には胸腺上皮の「嚢胞状」構造があり、これは髄領域で特に顕著(データ図示せず)である。抗サイトケラチン染色によって、脂肪蓄積、胸腺サイズの激しい減少、皮髄境界領域の完全性の低下が疑う余地なく明らかに認められる(データ図示せず)。胸腺は性腺摘除後2週間が経過するまでに再生しはじめる。これは、胸腺の葉のサイズ、MTS 44によって明らかになる皮質上皮の増加、髄上皮の局在において明白である。髄上皮はMTS 10によって検出され、2週間の時点で皮質全体に散在したMTS 10で染色された上皮のサブポケットが依然として残っている。性腺摘除後4週間が経過するまでに、明確な髄および皮質があり、識別できる皮髄境界領域がある(データ図示せず)。
【0112】
MTS 20マーカーおよび24マーカーで原始上皮細胞を検出(Godfreyら、1990)し、老化胸腺の退化をさらに示すことができるのではないかと思われる。いずれもE14に豊富に存在し、単離された髄上皮細胞クラスターを4〜6週間で検出するが、老化胸腺の強度を再度高める(データ図示せず)。性腺摘除後、これらの抗原はいずれも若い成体の胸腺でのレベルと同じレベルで発現され(データ図示せず)、MTS 20およびMTS 24が皮髄境界領域に位置する上皮の不連続なサブポケットに逆戻りしている。
【0113】
(ii)脈管関連抗原
T細胞前駆細胞の胸腺への移行と成熟T細胞の胸腺から末梢への移出を血液胸腺障壁(blood−thymus barrier)が担っているのではないかと考えられる。
【0114】
MAb MTS 15は胸腺の血管内皮に特異的であり、粒状の拡散染色パターン(Godfreyら、1990)が得られる。老化胸腺では、MTS 15の発現量が大幅に増え、脈拍数と血管・末梢脈管系スペースのサイズの増大を反映している(データ図示せず)。
【0115】
コラーゲン、ラミニン、フィブリノゲンなどの重要な構造・細胞接着分子を含む胸腺の細胞外マトリックスをmAb MTS 16によって検出する。正常な若い胸腺全体に散在させると、MTS 16の発現の性質が老化胸腺で一層広範囲かつ相関性のあるものになる。MTS 16の発現は性腺摘除の2週間後にさらに亢進されるが、性腺摘除の4週間後には発現は2月齢の胸腺で見られる状況を表している(データ図示せず)。
【0116】
(iii)共有抗原
MAb MTS 6によって検出される、正常な若い胸腺でのMHC IIの発現は、皮質上皮で強い陽性(粒状)であり(Godfreyら、1990)、髄上皮では染色が弱い。老化胸腺ではMHC IIの発現の減少が認められ、性腺摘除後2週間の時点で発現が実質的に増加する。性腺摘除後4週間が経過するまでに発現は再度減少し、2月齢の胸腺に類似して見える(データ図示せず)。
【0117】
胸腺細胞の移出
幼齢マウスではT細胞の約1%が毎日胸腺から移行する(Scollayら、1980)。本願発明者らは、数は有意に(p≦0.0001)減少したが、14月齢、さらには2年齢ですら、正常な幼齢マウスに匹敵する比例率で移行が起こっている(図5)ことを見出した。後から胸腺を出てきた細胞のCD4:CD8比は2ヶ月の時点での〜3:1から26ヶ月の時点での〜7:1に増大した。性腺摘除後1週間が経過するまでに、末梢に移出している細胞の数は実質的に増加し、全体としての移行率は1〜1.5%のままであった。
【0118】
[具体例]
以下の例は本発明による方法の具体的な形態を示すものであり、その記載内容に本発明を限定するものと解釈すべきではない。便宜上、これらの実施例ではLHRHアゴニストを送達して性ステロイドによる胸腺へのシグナル伝達を遮断することについて説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0119】
(例1)
性ステロイドアブレーション療法
LHRHアゴニストを送達する形で患者に性ステロイドアブレーション療法を施した。これについては、Leucrin(デポ注射;22.5mg)またはゾラデックス(インプラント;10.8mg)のいずれかの形で、どちらも3ヶ月効果のある単回用量で与えた。この方法は、胸腺を再活性化できる程度まで性ステロイドレベルを低下させる上で有効であった。場合によっては、性ステロイドアブレーション療法を行っている間、性ステロイドの副腎での産生を抑える、Cosudex(5mg/日)などのサプレッサも1日1錠の量で送達する必要がある。副腎で産生される性ステロイドはヒトのステロイドの10〜15%前後を占めている。
【0120】
血液中の性ステロイドを最低値まで減少させるには約1〜3週間を要した。これと一致していたのは、胸腺の再活性化であった。場合によっては、さらに3ヶ月間にわたる注射/インプラントまで処置を延長する必要がある。
【0121】
(例2)
別の送達方法
LHRHアゴニストを3ヶ月間デポまたはインプラント投与する代わりに、別の方法を用いてもよい。一例として、Er:YAGレーザなどのレーザを患者の皮膚に照射し、表皮細胞の妨害作用が低減するように皮膚を焼灼または変質させることができる。
【0122】
A.レーザアブレーションまたは変質:2枚の平らな共振器ミラーと、活性媒質としてのEr:YAG結晶と、電源と、レーザ光線の焦点を合わせるための手段とで構成される固体パルスEr:YAGレーザを用いて、赤外線レーザ光パルスを形成した。レーザ光線の波長は2.94ミクロンとした。シングルパルスを用いた。
【0123】
動作パラメータについては以下のとおりとした。1パルスあたりのエネルギを40、80または120mJ、焦点での光線サイズを2mmとし、1.27、2.55または3.82J/cm2のエネルギフルエンスを得た。パルス時間幅を300μsとして、エネルギフルエンス率0.42、0.85または1.27×104W/cm2を得た。
【0124】
続いて、一定量のLHRHアゴニストを皮膚に適用し、放射線照射部位に塗り拡げた。LHRHアゴニストを放射線照射部位に保持できるようにこれを軟膏の形にしてもよい。任意に、アゴニストを閉塞パッチし、放射線照射部位上の適所にこれを保持するようにしてもよい。
【0125】
任意に、光線スプリッタを用いてレーザ光線を分岐させ、複数のアブレーションまたは変質部位を得るようにしてもよい。このようにすることで、皮膚をとおしてLHRHアゴニストを一層短時間で血流まで流動させることができる。部位数をあらかじめ決定し、所望の約30日間のあいだ患者の系内にアゴニストを維持できるようにすればよい。
【0126】
B.圧力波:一定用量のLHRHアゴニストをプラスチック製の可撓性ワッシャ(直径約1インチ、厚さ約1/16インチ)などの適当な容器に入れ、圧力波を作り出す予定の部位の皮膚にのせる。次に、この部位を厚さ約1mmの黒いポリスチレンシートなどの標的材料で被覆する。Qスイッチ式固体ルビーレーザ(パルス持続時間は20nsであり、1パルスあたり最大2ジュールを生成可能)を用いてレーザ光線を生成し、これを標的材料に衝突させて1回の神経衝撃トランジェントを発生させる。黒いポリスチレンの標的はレーザ光を完全に吸収するため、皮膚はレーザ光に曝露されずに神経衝撃トランジェントにのみ曝露されることになる。このやり方では痛みは発生しない。アゴニストの循環血液濃度を維持すべく、上記の手順を毎日繰返してもよいし、必要に応じて行うようにしてもよい。
【0127】
(例3)
HSCの任意投与
一実施例では、患者に造血幹細胞(HSC)を与えて胸腺の再活性化速度を高める。これらの細胞は自家または同系であると好ましいが、ミスマッチドナー(同種または異種)からのHSCを利用することもできる。実用的であれば、細胞を採取する前に患者またはドナーに顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)を10μg/kgの量で2〜5日間注射し、患者またはドナーの血液中のHSCレベルを増やす。患者またはドナーの血液または骨髄から、好ましくはフローサイトメータまたは免疫磁気ビーズを用いてCD34+細胞を精製する。フローサイトメトリーでHSCをCD34+として同定する。任意に、これらのHSCを幹細胞成長因子でex vivoにて増やしてもよい。LHRHアゴニスト送達の約1〜3週間後、胸腺が再生を開始する直前または胸腺が再生を開始した時点で、最適には細胞約2〜4×106個/kgの用量で、患者にHSCを注射する。任意に、レシピエントにG−CSFも注射し、HSCの増加を助けるようにしてもよい。
【0128】
HSCがミスマッチドナー由来のものである場合、T細胞アブレーションおよび免疫抑制療法をレシピエントに適用し、外来HSCの拒絶を防ぐようにしてもよい。このような治療法の一例として、Atgam(外来抗T細胞グロブリン、ファルマシア・アップジョン)15mg/kgを毎日注射する形での抗T細胞抗体を、T細胞活性化のインヒビターであるシクロスポリンA 3mg/kgと併用して、10日間の期間にわたって3〜4週間の連続輸注で投与し、続いて必要に応じて毎日9mg/kgの錠剤を投与する。T細胞再活性の予防とインターロイキンまたは細胞接着分子などのセカンドレベルシグナルのインヒビターとを併用し、T細胞のアブレーションを亢進してもよい。この処置については、性ステロイドアブレーションの開始前または開始と同時に開始する。
【0129】
再活性化された胸腺は精製後のHSCを取り込み、これを新たなT細胞に変換する。マッチしないドナーのHSCを用いる場合、ドナーの樹状細胞は、細胞死による欠失を誘発するか免疫調節細胞によって耐性を誘発することで患者に作用する可能性のあるT細胞すべてに耐性となる。
【0130】
宿主の胸腺の上皮によって正の選択を受け、新たな細胞が潜在的に自己反応性の細胞および宿主反応性の細胞を追い出すため、これらの細胞は末梢で宿主APCによって提示されるペプチドを認識して正常な感染に応答することができる。患者およびドナーの両方のCD34+HSCが発達して樹状細胞になり、続いて患者のリンパ系器官になり、ナイーブT細胞の量が増えているとはいえ患者だけの免疫系と事実上等しい免疫系を構築する。したがって、正常な免疫調節機序が存在するようになる。
【0131】
(例4)
胸腺の再生
再活性化された胸腺はHSCを取り込み、これを新たなT細胞に変換する。このT細胞が移出して血流に入り、患者の体内で最適な末梢T細胞プールを再構築する。特に、ナイーブT細胞のレベルと割合との注目に値する増加が認められ、これによってワクチン接種プログラムにおける潜在的な応答細胞の数が大幅に増加する。Th:TcおよびTh1細胞:Th2細胞の比が正しいと、最適なタイプの応答が達成される。
【0132】
成熟T細胞の新たなコホートが胸腺を出始めたら、患者から血液を採取してT細胞(特に全血液細胞)の状態を調べる。特に、T細胞がTh1であるかTh2であるかを調べ、ナイーブ細胞であるか記憶細胞であるかを調べる。また、この細胞が産生するサイトカインのタイプ(Th1対Th2)も調べる。
【0133】
ミスマッチのHSCを投与することが理由で免疫抑制治療を用いる場合、これを徐々に縮小して感染に対して防御できるようにし、血液中に活性化T細胞が存在することである程度は分かる拒絶の徴候が全く認められなくなったら完全に中止する。HSCには強い自己更新能力があるため、形成される造血キメラは、ミスマッチのHSCを全く用いていない状況と同じように、理論的には患者の生涯をとおして安定する。
【0134】
(例5)
LHRHアゴニストを用いてヒト胸腺を再活性化
本発明による方法でヒトの胸腺を再活性化できることを示すために、前立腺癌に対する化学療法での治療を受けてきた患者でこれらの方法を用いた。性ステロイドアブレーション療法を施す前と4ヶ月後とにこの前立腺癌患者を評価した。結果を図23〜図27にまとめておく。全体的にみて、これらのデータから、多くの患者でT細胞の状態が定量的かつ定性的に改善され、LHRH療法がリンパ球とそのT細胞のサブセットの総数に影響することがわかる。
【0135】
前立腺癌のLHRHアゴニスト処置を受けている患者(全体>60歳)にて末梢血リンパ球の表現型組成(phenotypic composition)を分析した(図23)。処置前とLHRHアゴニスト処置開始の4ヶ月後に患者の試料を分析した。処置前には患者全員で血液1mlあたりのリンパ球細胞の総数が対照値の下端であった。処置後、9名中6名の患者に総リンパ球数の実質的な増加が認められた(事例によっては総細胞数の倍増が観察された)。これと相関しているのが、9名中6名の患者における総T細胞数の増加であった。CD4+サブセットでは、この上昇が9名中8名の患者でさらに目立っていることから、CD4+T細胞のレベルが上昇していることが分かった。CD8+サブセットでは、全体的にCD4+T細胞の場合よりも程度が低く、9名中4名の患者でレベルが上昇するという、それほど特徴的ではない傾向が認められた。
【0136】
LHRH療法がT細胞サブセットの割合におよぼす影響
LHRHアゴニスト処置の前後に患者の血液を分析したところ、処置後に、T細胞、CD4+T細胞またはCD8+T細胞の全体的な割合には実質的な変化が認められず、CD4+:CD8+比にはさまざまな変化があった(図24)。このことから、処置後に総T細胞数が実質的に増加するにもかかわらず、処置を行ってもT細胞サブセットの恒常性維持にはほとんど影響しないことが分かる。値はいずれも対照値に対する相対的なものとした。
【0137】
LHRH療法がB細胞および骨髄細胞の割合におよぼす影響
LHRHアゴニスト処置を受けている患者の末梢血に含まれるB細胞および骨髄細胞(NK、NKTおよびマクロファージ)の割合を分析したところ、サブセットごとにさまざまな度合いで変化することが分かった(図25)。NK、NKT、マクロファージの割合は処置後も比較的一定のままであったが、B細胞の割合は9名中4名の患者で減少した。
【0138】
LHRHアゴニスト療法がB細胞および骨髄細胞の総数におよぼす影響
処置後に末梢血に含まれるB細胞と骨髄細胞の総細胞数を分析したところ、処置後に、NK(9名中5名の患者)、NKT(9名中4名の患者)、マクロファージ(9名中3名の患者)で細胞数に明らかなレベルの上昇が認められた(図26)。B細胞数については、9名中2名の患者でレベルが上昇し、9名中4名の患者では変化なし、9名中3名の患者ではレベルが低下するといった具合で、顕著な傾向は特に認められなかった。
【0139】
LHRH療法が記憶細胞に対するナイーブ細胞のレベルにおよぼす影響
LHRHアゴニスト処置後に見られた主な変化は末梢血のT細胞個体群でのものであった。特に、CD4+T細胞サブセットでのナイーブ(CD45RA+)と記憶(CD45RO+)との比が患者9名中6名で増加する、ナイーブ(CD45RA+)CD4+細胞の割合の選択的な増加が認められた(図27)。
【0140】
結論
このように、胸腺が萎縮したヒトなどの動物にLHRHアゴニスト処置を施すことによって、胸腺の再生を惹起することが可能だと結論付けることができる。性ステロイドアブレーション療法を受けた前立腺癌患者では血液のTリンパ球の状態に全般的な改善が認められた。このような細胞が胸腺由来のものだけであるか否かを正確に判定するのは極めて困難であるが、主流の(CD8 αβ鎖)T細胞については他の起源が全く説明されていないため、これは極めて論理的な結論であろう。胃腸管T細胞は大部分がTCRγδまたはCD8αα鎖である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
A及びBは性腺摘除前後の胸腺細胞数の変化を示す図である。胸腺が萎縮した結果、時の経過に伴って胸腺細胞数が有意に減少する。細胞数は性腺摘除後2週間が経過するまでに若い成体のレベルまで増加した。性腺摘除後3週間が経過するまでに細胞数は若い成体の値から有意に増加し、性腺摘除後4週間が経過するまでに安定している。***=若い成体(2ヶ月)の胸腺とは有意に異なっている。p<0.001。
【図2】
A,B,及びCにおいて、(A)脾臓の数値は時が経過したり性腺を摘除したりしても一定のまま維持される。末梢のB:T細胞比も一定のままである(B)が、CD4:CD8比は時の経過に伴って有意に(p<0.001)小さくなり、性腺摘除後4週間が経過するまでに正常な若い成体のレベルまで回復する。
【図3】
CD4対CD8胸腺細胞個体群の蛍光標示式細胞分取器(FACS)の経時および性腺摘除後のプロファイルを示す図である。それぞれのプロットの上に各象限のパーセンテージを示してある。胸腺細胞の部分母集団は時が経過しても一定のままであり、性腺摘除後に胸腺細胞が同期的に増加する。
【図4】
BrdUパルスを取り込ませて検出した場合の胸腺細胞の増殖を示す図である。増殖中の胸腺細胞の割合は時が経過したり性腺を摘除したりしても一定のままである。
【図5】
A,B,C,及びDは齢と性腺摘除とが胸腺細胞サブセットの増殖に対してどのような影響をおよぼすかを示す図である。
(A)増殖中の個体群全体を構成する各サブセットの割合――増殖中の個体群のうちCD8+T細胞の割合が有意に増加している。(B)増殖している各部分母集団のパーセンテージ――TNサブセットとCD8サブセットは2ヶ月目よりも2年の時点での増殖が有意に少ない。性腺摘除後2週間の時点で、TN個体群は若い頃の正常な増殖レベルに戻ったがCD8個体群では増殖の有意な増加が認められる。このレベルは性腺摘除後4週間までに若い頃の正常なレベルと等しくなる。(C)TNの増殖量は時が経過したり性腺を摘除したりしても全体として一定のままである。しかしながら、(D)TN1部分母集団では増殖が経時的に有意に減少し、性腺摘除後4週間が経過するまでには正常なレベルに戻らない。***=極めて有意、p<0.001、**=有意、p<0.01。
【図6】
マウスにFITCを胸腺内注射した。24時間後に末梢におけるFITC+細胞の数を算出した。できたばかりの胸腺移行物(RTE)の割合は一貫して胸腺細胞数年齢(thymus cell number age)の約1%に保たれて性腺摘除後2週間で有意に減少したが、RTE細胞数は時の経過に伴って有意に(p<0.01)減少した。性腺摘除後、これらの値は増加しているが、性腺摘除後2週間の時点で依然として若いマウスの場合よりも有意に低かった。時の経過に伴ってCD4+とCD8+RTEとの比の有意な増大が認められたが、これは性腺摘除後1週間が経過するまでに正常になった。
【図7】
化学療法剤であるシクロホスファミドで処置した後の胸腺(A)、脾臓(B)、リンパ節(C)での細胞数の変化を示す図である。処置後1週間および2週間の時点で、非性腺摘除(シクロホスファミド単独)群と比較して性腺摘除を行った動物の方が胸腺で急激な増加が認められる点に注意されたい。また、シクロホスファミド単独の群よりも摘除群の脾臓およびリンパ節での数値がかなり増加した。細胞数は4週間が経過するまでに正常になる(処置群ごとにそれぞれの時点でn=3〜4)。
【図8】
外科的な性腺摘除後1週間で放射線照射(625ラド)した後の胸腺(A)、脾臓(B)、リンパ節(C)での細胞数の変化を示す図である。処置後1週間および2週間の時点で、非性腺摘除(放射線照射単独)群と比較して性腺摘除を行った動物の方が胸腺で急激な増加が認められる点に注意されたい。(処置群ごとにそれぞれの時点でn=3〜4)。
【図9】
放射線照射と性腺摘除とを同日に行った後の胸腺(A)、脾臓(B)、リンパ節(C)での細胞数の変化を示す図である。処置後2週間の時点で、非性腺摘除群と比較して性腺摘除を行った動物の方が胸腺で急激な増加が認められる点に注意されたい。しかしながら、観察された差異は処置の1週間前にマウスに性腺摘除を施した場合(図7)ほど顕著ではない。(処置群ごとにそれぞれの時点でn=3〜4)。
【図10】
化学療法剤であるシクロホスファミドと外科的な性腺摘除または化学的な性腺摘除とを同日に行う処置後の胸腺(A)、脾臓(B)、リンパ節(C)での細胞数の変化を示す図である。処置後1週間および2週間の時点で、非性腺摘除(シクロホスファミド単独)群と比較して性腺摘除を行った動物の方が胸腺で急激な増加が認められる点に注意されたい。また、シクロホスファミド単独の群よりも摘除群の脾臓およびリンパ節での数値がかなり増加した。(処置群ごとにそれぞれの時点でn=3〜4)。化学的な性腺摘除は、シクロホスファミド処置後の免疫系の再生という点では外科的な性腺摘除に匹敵する。
【図11】
単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)でのフットパッド免疫付与後のリンパ節の細胞充実性を示す図である。高齢の非性腺摘除群よりも高齢の性腺摘除後の方が細胞充実性が高くなった点に注意されたい。一番下のグラフは、CD25対CD8細胞についてFACSで選び出した活性化細胞の総数を示している。
【図12】
HSV−1接種後に活性化されたLN(リンパ節)のCTL(細胞障害性T細胞)におけるVβ10の発現について示す図である。高齢マウスでクローン反応が減少し、予想した応答が性腺摘除後に元通りになる点に注意されたい。
【図13A】
性腺摘除によってHSV−1免疫付与に対する応答性が回復する。(a)高齢マウスでは、若いマウスおよび性腺摘除後のマウスと比較して感染後にリンパ節の細胞充実性全体の有意な減少が認められた。(b)HSV−1感染マウスのLNにおける活性化(CD8+CD25+)細胞の代表的なFACSプロファイルである。時が経過するにつれ、あるいは性腺摘除によって、活性化CTLの割合には何ら差異は認められなかった。(c)高齢マウスのリンパ節での細胞充実性低下が活性化CTL数の有意な減少という形で表れてきた。高齢マウスでは性腺摘除によってHSV−1に対する免疫応答が回復し、CTL数は若いマウスの場合に匹敵していた。結果については8〜12体のマウスの平均±1SDで示す。**=若い(2月齢)マウスに対してp≦0.01、^=高齢(非性腺摘除)マウスに対してp≦0.01。
【図13B】
性腺摘除によってHSV−1免疫付与に対する応答性が回復する。(a)高齢マウスでは、若いマウスおよび性腺摘除後のマウスと比較して感染後にリンパ節の細胞充実性全体の有意な減少が認められた。(b)HSV−1感染マウスのLNにおける活性化(CD8+CD25+)細胞の代表的なFACSプロファイルである。時が経過するにつれ、あるいは性腺摘除によって、活性化CTLの割合には何ら差異は認められなかった。(c)高齢マウスのリンパ節での細胞充実性低下が活性化CTL数の有意な減少という形で表れてきた。高齢マウスでは性腺摘除によってHSV−1に対する免疫応答が回復し、CTL数は若いマウスの場合に匹敵していた。結果については8〜12体のマウスの平均±1SDで示す。**=若い(2月齢)マウスに対してp≦0.01、^=高齢(非性腺摘除)マウスに対してp≦0.01。
【図13C】
性腺摘除によってHSV−1免疫付与に対する応答性が回復する。(a)高齢マウスでは、若いマウスおよび性腺摘除後のマウスと比較して感染後にリンパ節の細胞充実性全体の有意な減少が認められた。(b)HSV−1感染マウスのLNにおける活性化(CD8+CD25+)細胞の代表的なFACSプロファイルである。時が経過するにつれ、あるいは性腺摘除によって、活性化CTLの割合には何ら差異は認められなかった。(c)高齢マウスのリンパ節での細胞充実性低下が活性化CTL数の有意な減少という形で表れてきた。高齢マウスでは性腺摘除によってHSV−1に対する免疫応答が回復し、CTL数は若いマウスの場合に匹敵していた。結果については8〜12体のマウスの平均±1SDで示す。**=若い(2月齢)マウスに対してp≦0.01、^=高齢(非性腺摘除)マウスに対してp≦0.01。
【図14】
HSV−1で免疫付与したマウスから膝窩リンパ節を取り出し、3日間培養した。バックグラウンドレベルの溶解(51Cr放出量で判定)について免疫付与していないマウスを対照として用いてCTLアッセイを実施した。結果を8体のマウスの平均として±1SDで3組(in tripricate)示す。高齢マウスではE:T比10:1および3:1のどちらでもCTL活性の有意な(p≦0.01,*)低減が認められたことから、リンパ節内に存在する特定のCTLのパーセンテージが減少したことが分かる。高齢マウスでは、性腺摘除によってCTL応答が若い成体のレベルまで回復した。
【図15A】
HSV−1感染に対するCD4+T細胞の助けとVβTCR応答とについての分析内容を示す図である。HSV−1感染後にD5で膝窩リンパ節を取り出し、(a)CD25、CD8および特定のTCRVβマーカーおよび(b)CD4/CD8T細胞の発現をex−vivoにて分析した。(a)Vβ10またはVβ8.1を発現している活性化(CD25+)CD8+T細胞のパーセンテージを1群あたり8体のマウスの平均±1SDとして示す。時が経過するにつれ、あるいは性腺摘除によって、何ら差異は認められなかった。(b)休眠状態のLN個体群では時が経過するにつれてCD4/CD8比の減少が認められた。これは性腺摘除後に回復した。結果を1群あたり8体のマウスの平均±1SDとして示す。***=若いマウスおよび性腺摘除マウスに対してp≦0.001。
【図15B】
HSV−1感染に対するCD4+T細胞の助けとVβTCR応答とについての分析内容を示す図である。HSV−1感染後にD5で膝窩リンパ節を取り出し、(a)CD25、CD8および特定のTCRVβマーカーおよび(b)CD4/CD8T細胞の発現をex−vivoにて分析した。(a)Vβ10またはVβ8.1を発現している活性化(CD25+)CD8+T細胞のパーセンテージを1群あたり8体のマウスの平均±1SDとして示す。時が経過するにつれ、あるいは性腺摘除によって、何ら差異は認められなかった。(b)休眠状態のLN個体群では時が経過するにつれてCD4/CD8比の減少が認められた。これは性腺摘除後に回復した。結果を1群あたり8体のマウスの平均±1SDとして示す。***=若いマウスおよび性腺摘除マウスに対してp≦0.001。
【図16】
Ly5近交系マウスの骨髄移植後の胸腺(A)、脾臓(B)、リンパ節(C)、骨髄(D)での細胞数の変化を示す図である。処置後のすべての時点で、非性腺摘除群と比較して性腺摘除を行った動物の方が胸腺で急激な増加が認められる点に注意されたい。また、シクロホスファミド単独の群よりも摘除群の方が脾臓およびリンパ節での数値がかなり増加した(処置群ごとにそれぞれの時点でn=3〜4)。性腺摘除を行ったマウスでは、非性腺摘除動物の場合(データ図示せず)よりも近交系の(Ly5.2)細胞が有意に増加した。
【図17】
胎仔肝臓再構築後に性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスの胸腺細胞数の変化を示す図である。(各被験群についてn=3〜4)。(A)2週間の時点で、性腺摘除を行ったマウスの胸腺細胞数は正常なレベルであり、性腺摘除を行っていないマウスの場合よりも有意に(*p≦0.05)高かった。4週間後に性腺摘除を行ったマウスで胸腺の肥大が観察された。性腺摘除を行っていない方の細胞数は対照レベル未満のままである。(B)CD45.2+細胞――CD45.2+はドナー由来を示すマーカーである。再構築の2週間後、性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスの両方にドナー由来の細胞が存在した。処置の4週間後、性腺摘除を行った方の胸腺細胞の約85%がドナー由来であった。性腺摘除を行っていない方の胸腺にはドナー由来の細胞がなかった。
【図18】
致死量放射線照射および胎仔肝臓再構築後に外科的な性腺摘除を行った後のCD4対CD8ドナー由来の胸腺細胞個体群のFACSプロファイルを示す図である。それぞれのプロットの右側に各象限のパーセンテージを示してある。同年齢の対照プロファイルは8月齢のLy5.1近交系マウス胸腺のものである。性腺摘除を行ったマウスおよび性腺摘除を行っていないマウスのプロファイルをCD45.2+細胞について選び出し、ドナー由来の細胞のみを示す。再構築の2週間後、性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスとで胸腺細胞の部分母集団に違いはない。
【図19】
A及びBは致死量放射線照射、胎仔肝臓再構築および性腺摘除後の骨髄およびリンパ球の樹状細胞(DC)数を示す図である。(各被験群についてn=3〜4体のマウス)。以下の(following)グラフにおける対照の(斜線)バーは同年齢の未処置マウスにおける樹状細胞の正常数を表している。(A)ドナー由来の骨髄樹状細胞−再構築の2週間後、性腺摘除を行っていないマウスでDCが正常なレベルで存在した。同じ時点でDCは性腺摘除を行ったマウスの方が有意に(*p≦0.05)多かった。4週間の時点で、性腺摘除を行ったマウスではDC数が対照レベルより高いままだった。(B)ドナー由来のリンパ球樹状細胞−再構築の2週間後、性腺摘除を行ったマウスのDC数が性腺摘除を行っていないマウスの2倍であった。処置の4週間後、DC数は対照レベルより高いままだった。
【図20】
性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスとについて、胎仔肝臓再構築後の骨髄での総細胞数と骨髄のCD45.2+細胞数の変化を示す図である。各被験群についてn=3〜4体のマウス。(A)総細胞数――再構築の2週間後、骨髄細胞の数が正常になり、性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスとで細胞数に有意な差は認められなかった。再構築の4週間後、性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスとで細胞数に有意な(*p≦0.05)差が認められた。(B)CD45.2+細胞数。再構築の2週間後、性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスとで骨髄中のCD45.2+細胞数に有意な差は認められなかった。性腺摘除を行ったマウスでは、4週間の時点でCD45.2+細胞数が多いままであった。同じ時点で性腺摘除を行っていないマウスにドナー由来の細胞はなかった。
【図21A】
性腺摘除を行ったマウスおよび性腺摘除を行っていないマウスの胎仔肝臓再構築後における骨髄中のT細胞、骨髄由来の樹状細胞、リンパ球由来の樹状細胞(DC)を示す図である。(各被験群についてn=3〜4体のマウス)。以下のグラフにおける対照の(斜線)バーは同年齢の未処置マウスにおけるT細胞と樹状細胞の正常な数を表している。(A)T細胞数――性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスのいずれも再構築の2週間後および4週間後に数値が減少した。
【図21B】
性腺摘除を行ったマウスおよび性腺摘除を行っていないマウスの胎仔肝臓再構築後における骨髄中のT細胞、骨髄由来の樹状細胞、リンパ球由来の樹状細胞(DC)を示す図である。(各被験群についてn=3〜4体のマウス)。以下のグラフにおける対照の(斜線)バーは同年齢の未処置マウスにおけるT細胞と樹状細胞の正常な数を表している。(B)ドナー由来の骨髄樹状細胞――性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスのいずれも再構築の2週間後にDC細胞数は正常であった。この時点で、性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスとで有意な数値差は認められなかった。
【図21C】
性腺摘除を行ったマウスおよび性腺摘除を行っていないマウスの胎仔肝臓再構築後における骨髄中のT細胞、骨髄由来の樹状細胞、リンパ球由来の樹状細胞(DC)を示す図である。(各被験群についてn=3〜4体のマウス)。以下のグラフにおける対照の(斜線)バーは同年齢の未処置マウスにおけるT細胞と樹状細胞の正常な数を表している。(C)ドナー由来のリンパ球樹状細胞――再構築の2週間後および4週間後に数値は正常なレベルであった。2週間の時点で、性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスとで有意な数値差は認められなかった。
【図22】
A及びBは性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスの胎仔肝臓再構築後における脾臓での総細胞数と脾臓のドナー(CD45.2+)細胞数の変化を示す図である。(各被験群についてn=3〜4体のマウス)。(A)総細胞数――再構築の2週間後、細胞数は減少したが、性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスとで細胞数に有意な差は認められなかった。再構築の4週間後、細胞数は性腺摘除を行ったマウスで正常なレベルに近づいていた。(B)CD45.2+細胞数――再構築の2週間後、性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスとで脾臓のCD45.2+細胞数に関して有意な差は認められなかった。性腺摘除を行ったマウスでは、4週間の時点でCD45.2+細胞数が多いままであった。同じ時点で性腺摘除を行っていないマウスにドナー由来の細胞はなかった。
【図23】
A,B,及びCは胎仔肝臓再構築後における脾臓のT細胞、骨髄由来の樹状細胞およびリンパ球由来の樹状細胞(DC)を示す図である。(各被験群についてn=3〜4体のマウス)。以下のグラフにおける対照の(斜線)バーは同年齢の未処置マウスにおけるT細胞と樹状細胞の正常な数を表している。(A)T細胞数−性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスのいずれも再構築の2週間後および4週間後に数値が減少した。(B)ドナー由来の(CD45.2+)骨髄樹状細胞−性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスのいずれも再構築の2週間後および4週間後にDC細胞数は正常であった。2週間の時点で、性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスとで有意な数値差はなかった。(C)ドナー由来の(CD45.2+)リンパ球樹状細胞―再構築の2週間後および4週間後に数値は正常なレベルであった。2週間の時点で、性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスとで有意な数値差はなかった。
【図24】
A及びBは性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスの胎仔肝臓再構築後におけるリンパ節での総細胞数とリンパ節のドナー(CD45.2+)細胞数の変化を示す図である。(各被験群についてn=3〜4)。(A)総細胞数−再構築の2週間後、細胞数は正常なレベルであり、性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスとで有意な差はなかった。再構築の4週間後、性腺摘除を行ったマウスでは細胞数が正常なレベルであった。(B)CD45.2+細胞数−性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスとで再構築の2週間後にリンパ節のドナーCD45.2+細胞数に有意な差はなかった。性腺摘除を行ったマウスでは、4週間の時点でCD45.2細胞数が多いままであった。同じ時点で性腺摘除を行っていないマウスにドナー由来の細胞はなかった。
【図25】
A,B,及びCは性腺摘除を行ったマウスおよび性腺摘除を行っていないマウスの胎仔肝臓再構築後における腸間膜リンパ節のT細胞、骨髄由来の樹状細胞、リンパ球由来の樹状細胞(DC)を示す図である。(各被験群についてn=3〜4体のマウス)。対照の(斜線)バーは同年齢の未処置マウスにおけるT細胞数と樹状細胞数である。(A)性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスのいずれも再構築の2週間後および4週間後にT細胞数が減少した。(B)性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスのいずれもドナー由来の骨髄樹状細胞は正常であった。4週間の時点でこれらの細胞が減少した。2週間の時点で、性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスとで有意な数値差はなかった。(C)ドナー由来のリンパ球樹状細胞−再構築の2週間後および4週間後に数値は正常なレベルであった。2週間の時点で、性腺摘除を行ったマウスと性腺摘除を行っていないマウスとで有意な数値差はなかった。
【図26】
前立腺癌のLHRHアゴニスト処置を受けているヒトの患者(全体>60歳)にて末梢血リンパ球の表現型組成を分析した。処置前とLHRHアゴニスト処置開始の4ヶ月後に患者の試料を分析した。処置前には患者全員で血液1mlあたりのリンパ球細胞の総数が対照値の下端であった。処置後、9名中6名の患者に総リンパ球数の実質的な増加が認められた(事例によっては総細胞数の倍増が観察された)。これと相関しているのが、9名中6名の患者における総T細胞数の増加であった。CD4+サブセットでは、この上昇が9名中8名の患者でさらに目立っていることから、CD4T細胞のレベルが上昇していることが分かった。CD8+サブセットでは、全体的にCD4+T細胞の場合よりも程度が低いとはいえ、9名中4名の患者でレベルが上昇するという、それほど特徴的ではない傾向が認められた。
【図27】
LHRHアゴニスト処置の前後にヒトの患者の血液を分析したところ、処置後に、T細胞、CD4T細胞またはCD8T細胞の全体的な割合には実質的な変化が認められず、CD4:CD8比にはさまざまな変化があった。このことから、処置後に総T細胞数が実質的に増加するにもかかわらず、処置を行ってもT細胞サブセットの恒常性維持に対しては最小限の影響しかおよばないことが分かる。値はいずれも対照値に対する相対的なものとした。
【図28】
LHRHアゴニスト処置を受けているヒトの患者の末梢血に含まれるB細胞および骨髄細胞(NK、NKTおよびマクロファージ)の割合を分析したところ、サブセットごとにさまざまな度合いで変化することが分かった。NK、NKT、マクロファージの割合は処置後も比較的一定のままであったが、B細胞の割合は9名中4名の患者で減少した。
【図29】
処置後にヒトの患者の末梢血に含まれるB細胞と骨髄細胞の総細胞数を分析したところ、処置後に、NK(9名中5名の患者)、NKT(9名中4名の患者)、マクロファージ(9名中3名の患者)で細胞数に明らかなレベルの上昇が認められた。B細胞数については、9名中2名の患者でレベルが上昇し、9名中4名の患者では変化なし、9名中3名の患者ではレベルが低下するといった具合で、顕著な傾向は特に認められなかった。
【図30】
LHRHアゴニスト処置後に見られた主な変化は末梢血のT細胞個体群でのものであった。特に、CD4+T細胞サブセットでのナイーブ(CD45RA+)と記憶(CD45RO+)との比がヒトの患者9名中6名で増加する、ナイーブ(CD45RA+)CD4+細胞の割合の選択的な増加が認められた。
【図31】
さまざまなレーザパルスエネルギを用いた場合における皮膚のインピーダンスの低下について示す図である。フィット曲線を用いてデータを補間すると、10mJという低いエネルギを照射した皮膚で皮膚インピーダンスが低下する。
【図32】
皮膚の医薬品透過について示す図である。インスリンを試料医薬品として用いた場合の皮膚の透過性は放射線照射によって大幅に亢進された。
【図33】
皮膚に5−アミノレブリン酸(ALA)を加え、1回の神経衝撃トランジェント後の皮膚の経時蛍光変化を示す図である。強度のピークは約640nmに見られ、処置後210分経過すると(点線)高くなる。
【図34】
神経衝撃トランジェントなしで5−アミノレブリン酸(ALA)を加えた後の皮膚の経時蛍光変化を示す図である。どの時点をみても強度がわずかに変化するだけである。
【図35】
5−アミノレブリン酸(ALA)を加え、さまざまなピーク応力下での神経衝撃トランジェント後の皮膚の蛍光変化を比較した図である。表皮細胞の膜透過は最大応力に左右される。
Claims (14)
- 患者の胸腺を再活性化することを含むことを特徴とするワクチン接種の改善方法。
- 請求項1に記載の方法において、前記患者の胸腺が、少なくとも部分的に不活性化されたものであることを特徴とする方法。
- 請求項2に記載の方法において、前記患者が思春期後であることを特徴とする方法。
- 請求項1に記載の方法において、造血幹細胞を前記患者に投与するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
- 請求項4に記載の方法において、前記造血幹細胞がCD34+であることを特徴とする方法。
- 請求項4に記載の方法において、前記造血幹細胞が自家または同系であることを特徴とする方法。
- 請求項4に記載の方法において、前記造血幹細胞が同種または異種であることを特徴とする方法。
- 請求項4に記載の方法において、前記胸腺が再生しはじめるのとほぼ同時またはその直後に前記造血幹細胞を投与することを特徴とする方法。
- 請求項4に記載の方法において、前記造血幹細胞を、前記胸腺への性ステロイドによるシグナル伝達の崩壊が始まった時点で与えることを特徴とする方法。
- 請求項1に記載の方法において、前記胸腺への前記性ステロイドによるシグナル伝達を崩壊させる方法が、前記患者の性腺を摘出するための外科的な性腺摘除によるものであることを特徴とする方法。
- 請求項1に記載の方法において、前記胸腺への前記性ステロイドによるシグナル伝達を崩壊させる方法が、1種またはそれ以上の製薬の投与によるものであることを特徴とする方法。
- 請求項11に記載の方法において、前記製薬が、LHRHアゴニストと、LHRHアンタゴニストと、抗LHRHワクチンおよびこれらの組み合わせと、からなる群から選択されることを特徴とする方法。
- 請求項12に記載の方法において、前記LHRHアゴニストが、ユーレキシン(Eulexin)と、ゴセレリンと、リュープロライドと、ジオキサラン(Dioxalan)誘導体と、トリプトレリンと、メテレリンと、ブセレリンと、ヒストレリンと、ナファレリンと、ルトレリンと、リュープロレリンと、デスロレリンと、からなる群から選択されることを特徴とする方法。
- 請求項1に記載の方法において、思春期前の患者の応答に匹敵する、患者の免疫系によるワクチン応答が得られることを特徴とする方法。
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