JP2004500871A5 - - Google Patents

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JP2004500871A5
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Description

【書類名】明細書
【発明の名称】人工ヘモグロビン変異体、医薬組成物、プラスミド、人工ヘモグロビン変異体および人工ヒトヘモグロビン変異体、ならびに人工ヘモグロビンの製造方法
【特許請求の範囲】
【請求項1】β鎖108位のアスパラギン残基がグルタミン残基によって置換されている(配列番号5)、人工ヒトヘモグロビン変異体。
【請求項2】健常成人ヘモグロビンと比較して、低い酸素親和性を示す、請求項1に記載の人工ヘモグロビン変異体。
【請求項3】さらに、健常成人ヘモグロビンに匹敵する、酸素結合における高い協同性を示す、請求項2に記載の人工ヘモグロビン変異体。
【請求項4】さらに、自動酸化に対する安定性が向上した、請求項3に記載の人工ヘモグロビン変異体。
【請求項5】組み換え法により製造される、請求項1に記載の人工ヘモグロビン変異体。
【請求項6】配列番号5に記載の、人工ヒトヘモグロビン変異体rHb(βN108Q)。
【請求項7】無細胞条件下において、赤血球中における健常成人ヘモグロビンに匹敵する、酸素結合特性を示し、β鎖108位のアスパラギン残基がグルタミン残基となる変異を有する、人工ヘモグロビン変異体(配列番号5)。
【請求項8】組み換え法により製造される、請求項7に記載の人工ヘモグロビン変異体。
【請求項9】薬学的に許容される担体中、β鎖108位のアスパラギン残基がグルタミン残基に置換されている(配列番号5)、非天然ヘモグロビン変異体を含むことからなる非毒性医薬組成物。
【請求項10】ヘモグロビン変異体が、無細胞条件下で、健常成人ヘモグロビンと比べて低い酸素結合特性を示す、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】ヘモグロビン変異体が組み換えヒトヘモグロビン変異体rHb(βN108Q)(配列番号5)である、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】プラスミドpHE7009。
【請求項13】自動酸化に対する安定性を示し、アロステリック・エフェクター2,3−ビスホスホグリセリン酸存在下で健常成人ヘモグロビンに匹敵する酸素結合特性を示し、β鎖108位のアスパラギン残基がグルタミン残基に置換されている(配列番号5)、低酸素親和性を示す人工ヘモグロビン変異体。
【請求項14】β鎖108位のアスパラギン残基に変異があり(配列番号5)、アロステリック・エフェクター2,3−ビスホスホグリセリン酸存在下のHb Aと類似した、P50により計測される酸素親和性の酸素結合特性、およびヒル係数(nmax)により計測される協同性を示し、該計測値が次の通りである人工ヘモグロビン変異体:
pH7.4、29℃、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中において、P50が約17.4mmHg、nmaxが約3.1である。
【請求項15】β鎖108位のアスパラギン残基がグルタミン残基に置換されている(配列番号5)ヒトヘモグロビン配列をコードするDNAを有する発現プラスミドを、赤血球以外の適切な宿主に導入し、形質転換細胞を増殖させ、人工ヘモグロビンを産生させるため上記DNAを発現させ、ヘモグロビンを回収し、精製する工程を含むことからなる、人工ヘモグロビンの製造方法。
【請求項16】宿主細胞が大腸菌(E.coli)である、請求項15に記載の人工ヘモグロビンの製造方法。
【請求項17】発現プラスミドがpHE7009である、請求項16に記載の人工ヘモグロビンの製造方法。
【請求項18】pHE7009で形質転換された細胞から得られた、人工ヒトヘモグロビン変異体rHb(βN108Q)(配列番号5)。
【請求項19】β鎖105位のロイシン残基がトリプトファン残基に置換されている(配列番号7)、人工ヒトヘモグロビン変異体。
【請求項20】健常成人ヘモグロビンと比較して、低い酸素親和性を示す、請求項19に記載の人工ヘモグロビン変異体。
【請求項21】さらに、健常成人ヘモグロビンに匹敵する、酸素結合における高い協同性を示す、請求項20に記載の人工ヘモグロビン変異体。
【請求項22】組み換え法により製造される、請求項19に記載の人工ヘモグロビン変異体。
【請求項23】組み換えヒトヘモグロビン変異体rHb(βL105W)(配列番号7)。
【請求項24】無細胞条件下において、赤血球中における健常成人ヘモグロビンに匹敵する酸素結合特性を示し、β鎖105位のロイシン残基がトリプトファン残基に置換されている(配列番号7)変異を有する、人工ヘモグロビン変異体。
【請求項25】組み換え法により製造される、請求項24に記載の人工ヘモグロビン変異体。
【請求項26】薬学的に許容される担体中、β鎖105位のロイシン残基がトリプトファン残基に置換されている(配列番号7)、人工ヘモグロビン変異体を含むことからなる非毒性医薬組成物。
【請求項27】ヘモグロビン変異体が、無細胞条件下で、健常成人ヘモグロビンと比べて低い酸素結合特性を有する、請求項26に記載の医薬組成物。
【請求項28】ヘモグロビン変異体が、組み換えヒトヘモグロビン変異体rHb(βL105W)(配列番号7)である、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】プラスミドpHE7004。
【請求項30】自動酸化に対する安定性を示し、アロステリック・エフェクター2,3−ビスホスホグリセリン酸存在下で、健常成人ヘモグロビンに匹敵する酸素結合特性を示し、β鎖105位のロイシン残基がトリプトファン残基に置換されている(配列番号7)、低酸素親和性を示す人工ヘモグロビン変異体。
【請求項31】β鎖105位のロイシン残基に変異があり(配列番号7)、アロステリック・エフェクター2,3−ビスホスホグリセリン酸存在下のHb Aと類似した、P50により計測される酸素親和性の酸素結合特性、およびヒル係数(nmax)により計測される協同性を示し、該計測値が次の通りである人工ヒトヘモグロビン変異体:
pH7.4、29℃、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中において、P50が約28.2mmHg、nmaxが約2.6である。
【請求項32】β鎖105位のロイシン残基がトリプトファン残基に置換されている(配列番号7)ヒトヘモグロビン配列をコードするDNAを有する発現プラスミドを、赤血球以外の適切な宿主に導入し、形質転換細胞を増殖させ、人工ヘモグロビンを産生させるために上記DNAを発現させ、ヘモグロビンを回収し、精製する工程を含むことからなる、人工ヘモグロビンの製造方法。
【請求項33】宿主細胞が大腸菌(E.coli)である、請求項32に記載の人工ヘモグロビンの製造方法。
【請求項34】発現プラスミドがpHE7004である、請求項33に記載の人工ヘモグロビンの製造方法。
【請求項35】pHE7004で形質転換された細胞から得られた、人工ヒトヘモグロビン変異体rHb(βL105W)(配列番号7)。
【発明の詳細な説明】
【0001】
承認
本発明は、一部助成金HL−24525号およびHL−58249号の下で政府の援助を受けて開発された。政府は、本発明に対しある一定の権利を有する。
【0002】
本発明の分野
本発明は、新規のヘモグロビン変異体、特に、低い酸素親和性を示し、酸素結合に高い共同性を示す組み換えヘモグロビン変異体である「rHb(βN108Q)」(または「rHb(β108Asn→Gln)」)および「rHb(βL105W)」(または「rHb(β105Leu→Trp」)に関する。特に、rHb(βN108Q)は、既に知られている他の低酸素親和性変異体に比べ、自動酸化に対する抵抗性の増加を示す。本発明はさらに、代用赤血球としてまたはヘモグロビン由来の治療法として有用なヘモグロビン変異体の組み換えDNA技術を用いた製造方法に関する。
【0003】
発明の背景
ヒト血液製剤の赤血球に潜むHIVや肝炎などの病原菌の流行は、適当なドナー不足による血液不足とあいまって、代用赤血球、特にヒトヘモグロビン(「Hb」)とその誘導体の開発に多大な関心をもたらしている。ヘモグロビン由来の酸素運搬体は、緊急医療時の代用血液のもととなり得る。(例えば、アール・エム・ウィンスロー(Winslow R.M.)らHemoglobin−Based Red Cell Substitutes, Johns Hopkins University Press, Baltimore (1992)(以下、「ウィンスローら (1992)」と呼ぶ)参照。(この開示内容は本明細書に引用される。))
【0004】
ヘモグロビンは、血液の酸素運搬成分であり、赤血球内に存在して血流中を循環している。健常なヒト成人ヘモグロビン(「Hb A」)は、分子量約64,500の四量体タンパク質で、各々141のアミノ酸残基を有する同一のα鎖を2つと各々146のアミノ酸残基を有する同一のβ鎖を2つ含有している。また、両鎖はヘムとして知られる補欠分子族を有する。赤血球は、ヘモグロビンが還元型、機能型を維持するのを助けている。ヘム−鉄原子は酸化を受けやすいが、赤血球内のシトクロムb5またはグルタチオン還元系のどちらかによって再び還元される。(ヘモグロビンについては、アール・エフ・ディカーソン(Dickerson, R.E.)らのHemoglobin: Structure, Function, Evolution, and Pathology, Benjamin/Cummings, Menlo Park, CA(1983)(以下、「ディカーソンら(1983)」と呼ぶ)参照。(この開示内容は、本明細書に引用される。))
【0005】
Hb Aの酸化工程には協同性がある、すなわち、最初の酸素分子の結合は、2つ目、3つ目、4つ目の酸素分子の結合を加速させる。酸化工程は、また、ヘテロトロピックアロステリックエフェクターとして知られる、個々のアミノ酸残基と様々な溶解物質との間の相互作用によっても調整されている。これらのエフェクターには、水素イオン、塩素、二酸化炭素、無機リン酸塩、または、2,3−ビスホスホグリセリン酸(「2,3−BPG」)若しくはイノシトール6リン酸(「IHP」)などの有機ポリアニオンなどのイオンまたは分子が含まれる。
【0006】
ヘモグロビンは、アロステリック・エフェクター2,3−BPGに依存してその酸素親和性が変化し、それにより体内での酸素運搬効率を増加させることができる。2,3−BPGは、ヘモグロビンが結合酸素を組織へ放出することができる濃度で赤血球中に存在する。2,3−BPG非存在下では、ヘモグロビンは酸素と強固に結合し、容易に結合酸素を放出しない。Hb A分子のみを被験体に導入すると、血漿中の2,3−BPGが欠如しているため、Hbの酸素親和性が下がり、適切に酸素を体内組織に運搬することができない。(ウィンスローら(1992)参照。)Hb由来の酸素運搬体としてまたはヘモグロビン治療法として機能するように設計されたHbは、全て効率的な酸素運搬が可能でなければならない、すなわち、Hb Aが赤血球内で行うように協同的に酸素と結合、解離しなければならない。
【0007】
酸素運搬性代用赤血球の候補としてヘモグロビンの無細胞溶液を使用することが、長い間研究されている。(例えば、エー・ジー・ムルダー(Mulder, A.G.)らのJ. Cell Comp. Physiol. 5:383(1934)参照。(この開示内容は参考のため本明細書に引用される。))しかしながら、赤血球から精製された非修飾無細胞ヒトヘモグロビンの使用には、上記の感染や供給不足のほかにも、いくつかの限界がある。すなわち、2,3−BPGなどのアロステリック・エフェクターが喪失することにより酸素親和性が増加すること、およびHb四量体がαβ二量体へと解離することにより腎臓の濾過により排出されてしまうため、長期にわたる腎臓障害を引き起こすことなどである。(例えば、エイチ・エフ・ブン(Bunn, H.F.)らのJ. Exp. Med.129:909(1969)参照。(この開示内容は、本明細書に引用される。))
【0008】
ヒトグロビンとヘモグロビンは、以下に示すものにより発現されてきた:例えば、トランスジェニックマウス、トランスジェニックブタ(ケイ・チャダ(Chada, K.)らのNature (London) 314:377(1985)、ティー・エム・タウンズ(Townes, T.M.)らのEMBO J. 4:1715(1985)およびエム・イー・スワンソン(Swanson, M.E.)らのBio/Technology 10:557(1992)参照。)、昆虫細胞培養(ディー・アール・グロブ(Groebe, D.R.)らのProtein Expression and Purification 3:134(1992)参照。)、酵母菌(エム・ワーゲンバッハ(Wagenbach, M.)らのBio/Technology 9:57(1991)およびジェイ・ジェイ・デリアノ(DeLiano, J.J.)らのProc. Natl. Acad. Sci. USA 90:918(1993)参照。)、大腸菌(「E. coli」)(エス・ジェイ・ホフマン(Hoffman, S.J.)らのProc. Natl. Acad. Sci. USA 87:8521(1990)、アール・エー・ハーナン(Hernan, R.A.)らのBiochemistry 31:8619(1992)、および、ティー・ジェイ・シェン(Shen, T.−J.)らのProc. Natl. Acad. Sci USA 90:8108 (1993)(以下、「シェンら(1993)」と呼ぶ)参照。)などである。(これらの開示内容は、本明細書に引用される。)多くの点で、大腸菌(E. coli)系は、発現効率が高く特定部位の変異誘発の実施が容易なことから、このような目的には最適とされている。
【0009】
エイチ・エフ・ブンらのHemoglobin: Molecular, Genetic and Clinical Aspects(W.B. Saunders, Co., Philadelphia, PA)pp.37−60(1986)(以下、「ブンら(1986)」と呼ぶ)(この開示内容は本明細書に引用される)で報告されているとおり、Hb Aの天然N−末端バリン残基は、酸素親和性を制御するボーア効果において、およびアロステリック・エフェクターやアニオンの相互作用において重要な役割を果たすことが知られている。ジェイ・エス・カバナウ(Kavanaugh, J.S.)らのBiochemistry 31:8640(1992)(この開示内容は、本明細書に引用される)で報告されているとおり、過剰なメチオニンは、Hb分子のN−末残基の構造を変化させることができる。従って、Hbの酸素結合特性はそのN−末端残基が完全であるかに依存しており、そのため、大腸菌系を用いて所望の非修飾および変異Hbを効果的に産生させる前に、発現されたHb内のα−およびβ−グロビンの両方のN−末端から余分なメチオニン残基を除去する必要がある。
【0010】
ヒル係数(「nmax」)として測定されるHbの協同的酸化は、その酸素結合特性の便利な基準となる(ディカーソンら(1983)を参照。)通常の実験条件下、Oとの結合におけるHb Aのnmax値は、約3である。αβ(またはαβ)サブユニット界面においてアミノ酸変異を有する異常ヒトHbは、通例、Hb Aと比較して、高い酸素親和性および酸素結合における協同性の低下を示す(ディカーソンら(1983)、ブンら(1986)、エム・エフ・ペルツ(Perutz, M.F.)らのMechanisms of Cooperatively and Allosteric Regulation in Prosteins, Cambridge University Press (1990)を参照。(この開示内容は本明細書に引用される。))
【0011】
ビー・シャーナン(Shaanan, B.)らのJ. Mol. Biol 171:31(1983)(以下、「シャーナンら(1983)」と呼ぶ)(この開示内容は本明細書に引用される)で報告されているように、オキシ型のHb A(酸素分子を有するHb A)は、αβサブユニット界面のα94Aspとβ102Asn間に特徴的な水素結合を有する。Hb Titusville(α94Asp→Asn)(アール・ジー・シュナイダー(Schneider, R.G.)らのBiochim. Biophys. Acta. 400:365 (1975)参照。この開示内容は、本明細書に引用される))のようにα94Asp位に、または、Hb Kansas(β102Asn→Thr)(ジェイ・ボナベンチュラ(Bonaventura, J.)らのJ. Biol. Chem. 243:980 (1968)参照。この開示内容は、本明細書に引用される))のようにβ102Asn位にアミノ酸変異を有するヒトHbや、同様にαβサブユニット界面に変異を有するその他の変異体は、非常に低い酸素親和性を示す。しかし、オキシ型のHbにおいて、α94Aspとβ102Asn間の水素結合が直接切断されたこれらのすべてのHb変異体は、酸素結合に著しく低い協同性を示し、さらに結合状態で二量体へと容易に解離する。
【0012】
また、デオキシ型からオキシ型への移行時に、Hb Aのαβサブユニットは滑るような動きをするが、αβサブユニット界面はほとんど変化しないまま残されることが知られている(エム・エフ・ペルツのNature 228:726 (1970)(以下、「ペルツ (1970)」と呼ぶ)、ジェイ・エム・ボールドウィン(Baldwin, J. M.)らのJ. Mol. Biol. 129:175(1979)、ジェイ・エム・ボールドウィン(Baldwin, J. M.)らのJ. Mol. Biol. 136:103(1980)、シャーナンら (1983)、ジー・ファーニ(Fermi, G.)らのJ. Mol. Biol. 175:159(1984)(以下、「ファーミら (1984)」と呼ぶ)を参照。(これらの開示内容は、本明細書に引用される。))。双方のサブユニット界面の特性を示すものとして、特有の水素結合、塩橋、および非共有の相互作用がある。Hb分子はまた、オキシ型四次構造(R型構造(R−structure))よりは、デオキシ型四次構造(T型構造(T−structure))において低い酸素親和性を示す(ディカーソンら(1983)を参照。)。
【0013】
α94Aspとβ102Asnのいずれも関与しない、低酸素親和性ヒトHb変異体も存在する。例えば、Hb Presbyterian(β108Asn→Lys)(ダブリュー・エフ・モーペン(Moo−Penn, W.F.)らのFEBS Lett. 92:53(1978)およびジェイ・ケイ・オドーネル(O’Donnell, J.K.)らのJ. Bol. Chem. 269:27692(1994)(以下、「オドーネルら (1994)」と呼ぶ)参照。)、Hb Yoshizuka(β108Asn→Asp)(オドーネルら (1994)参照。)、および、組み換えHbメクォン(β41Phe→Tyr)(ブイ・バウディン(Baudin, V.)らのBiochim. Biophys. Acta. 1159:223(1992)参照。)はすべてHb Aに比べ低い酸素親和性を示すが、ヒル係数を測定すると、n値が1.8から2.9の間で変動し、それらは全て可変の協同性を示す。(上記これらの著書の開示内容は、本明細書に引用される。)シー・エイチ・ツァイ(Tsai, C.−H.)らのBiochemistry 38:8751(1999)(以下、「ツァイら(1999)」と呼ぶ)は、Hb(α96Val→Trp、β108Asn→Lys)が低酸素親和性を示し、T型四次構造への転換傾向が大きいことを報告している。エス・ティ・ジェオング(Jeong, S.T.)らのBiochemistry 38:13433(1999)(以下、「ジェオングら (1999)」と呼ぶ)は、Hb(α29Leu→Phe、α96Val→Trp、β108Asn→Lys)が、低酸素親和性と自動酸化への抵抗性と相まった高い協同性を示す。
【0014】
シェンら(1993)および米国特許第5,753,465号(これらの開示内容は、本明細書に引用される)には、合成ヒトα−およびβ−グロビン遺伝子が、別々のtacプロモーターの制御下で、大腸菌(E.coli)メチオニンアミノペプチダーゼ遺伝子と同時発現される大腸菌(E.coli)発現プラスミド(pHE2)が記載されている。このプラスミドで形質転換された大腸菌(E.coli)は、組み換えHb A(以下、「rHb A」と呼ぶ)を発現し、そのN−末端メチオニンは同時発現されたメチオニンアミノペプチダーゼによって効率良く切断される。生じたN−末端メチオニン欠如rHb Aは、天然Hb Aと構造および機能特性の多くの点で同一である。
【0015】
Kim, H.W.(エイチ・ダブリュー・キム)らのProc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11547 (1994)(以下、「キムら(1994)」と呼ぶ)および米国特許第5,843,888号(これらの開示内容は、本明細書に引用される)は、非天然変異ヘモグロビン(rHb(α96Val→Trp)(または「rHb(αV96W)」)が、天然ヘモグロビンと比べて低い酸素親和性を示す一方で、酸素結合に高い協同性を示すことを開示している。
【0016】
しかしながら、ヘモグロビン由来の代用血液または治療法として、さらなるヘモグロビン変異体が必要とされている。低い酸素親和性と酸素結合に高い協同性を示し、自動酸化に対する安定性が向上した変異ヘモグロビンに特に関心が高まっている。また、組み換え法によって産生されるこのようなヘモグロビン、および、特に代用血液製剤またはヘモグロビン治療法に使用される、このようなヘモグロビン変異体を多量生産する効果的な発現システムが必要とされている。
【0017】
発明の要旨
従って、本発明の主な目的は、低い酸素親和性および酸素結合に高い協同性を示すヘモグロビン変異体を提供することである。
【0018】
本発明の他の目的は、低い酸素親和性および酸素結合に高い協同性を示し、かつ、自動酸化への安定性が向上したヘモグロビン変異体を提供することである。
【0019】
また、本発明の別の目的は、天然に存在せず、低い酸素親和性および酸素結合に高い協同性を示すヘモグロビン変異体を提供することである。
【0020】
本発明の他の目的は、天然に存在せず、低い酸素親和性および酸素結合に高い協同性を示し、かつ、自動酸化への安定性が向上したヘモグロビン変異体を提供することである。
【0021】
さらに、本発明の別の目的は、天然に存在せず、低い酸素親和性および酸素結合に高い協同性を示し、好ましくは自動酸化に対して安定であり、かつ、人工的に、好ましくは組み換え手段を用いて産生され、正しいヘム構造を有するヘモグロビン変異体を提供することである。
【0022】
また、本発明の別の目的は、無細胞条件下で、赤血球中の健常成人ヘモグロビンと同様の酸素結合性を示すヘモグロビン変異体を提供することである。
【0023】
本発明のさらに別の目的は、低い酸素親和性および酸素結合に高い協同性を示し、R構造に影響を与えることなくT構造を安定化させた、ヘモグロビン変異体を提供することである。
【0024】
本発明のさらに別の目的は、ヘモグロビン由来酸素運搬体/代用赤血球または治療薬として使用される、人工ヘモグロビンを提供することである。
【0025】
本発明のこれらおよび他の目的は、以下の実施態様の1つまたはそれ以上により達成される。
【0026】
本発明の一つの態様においては、β鎖108位のアスパラギン残基がグルタミン残基によって置換された、非天然型ヘモグロビン変異体を特徴とする。
【0027】
好適には、当該ヘモグロビンは、健常成人ヘモグロビンに比べて低い酸素親和性を示し、酸素結合に高い協同性を示し、自動酸化に対して安定で、かつ、組み換え法により産生される。
【0028】
本発明の別の形態においては、無細胞条件下で、赤血球中の健常成人ヘモグロビンに匹敵する酸素結合性を示す、人工ヘモグロビン変異体を特徴とし、該ヘモグロビンは、β鎖108位のアスパラギン残基がグルタミンに変異したものである。
【0029】
自動酸化に対して安定な、非天然型低酸素親和性ヘモグロビン変異体は、β鎖108位のアスパラギン残基がグルタミン残基に置換されており、アロステリック・エフェクターである2,3−ビスホスグリセンリン酸の存在下で、健常成人ヘモグロビンに匹敵する酸素結合性を示す。
【0030】
さらに別の様態において、本発明は、β鎖105位のロイシン残基がトリプトファン残基に置換された、非天然型ヒトヘモグロビン変異体を特徴とする。
好適には、当該ヘモグロビンは、健常成人ヘモグロビンと比べて低い酸素親和性を示し、酸素結合に高い協同性を示し、かつ、組み換え法により産生される。
【0031】
別の様態において、本発明は、無細胞条件下で、赤血球中の健常成人ヘモグロビンに匹敵する酸素結合性を示す、人工ヘモグロビン変異体を特徴とし、該ヘモグロビンは、β鎖105位のロイシン残基がトリプトファンに変異したものである。
【0032】
天然型低酸素親和性ヘモグロビン変異体は、β鎖105位におけるロイシン残基がトリプトファン残基に置換されており、アロステリックエフェクターである2,3−ビスホスグリセンリン酸の存在下で、健常成人ヘモグロビンに匹敵する酸素結合性を示す。
【0033】
本発明の他の特徴および有利な効果は、以下の好適な実施態様の説明および請求の範囲にも示されている。
【0034】
定義
本明細書において「Hb A」または「天然型Hb A」とは、ヒト被験体から得られたヒト健常成人ヘモグロビンを意味する。
【0035】
「組み換えヒト健常成人ヘモグロビン」、「rHb A」および「非修飾rHb A」とは、組み換えDNA技術により産生されたヒト健常成人ヘモグロビンを意味し、シェン(Shen)ら(1993)、および米国特許第5,753,465号に記載の通り、基本的に天然型Hb Aと同じ構造と機能を有する。
【0036】
「rHb(βL105W)」は、Hb分子の各β鎖の105位に位置するロイシン残基がトリプトファン残基で置換されている、組み換えヒトヘモグロビン変異体を意味する。このヘモグロビンはHb Aと比較して、低い酸素親和性および酸素結合における高い協同性を示す。rHb(βL105W)は、デオキシ四次構造を安定化させることにより、酸素親和性を低下させるため、αβサブユニット界面においてα94Aspとβ105Trpの間で水素結合を形成するように設計されている。
【0037】
「rHb(βN108Q)」は、αβ界面およびHb分子の中央空洞に位置する各β鎖の108位のアスパラギン残基がグルタミン残基で置換されるように、組み換えDNA技術によって産生されたヒトヘモグロビン変異体を意味する。このヘモグロビンは、低い酸素親和性、酸素結合における高い協同性、および、rHb(αV96W)およびrHb(αV96W、βN108K)等の、他の既知の組み換え低酸素親和性ヘモグロビン変異体と比較して向上した自動酸化に対する抵抗性を示す。
【0038】
「自動酸化」は、オキシヘモグロビン(「HbO」または「オキシ−Hb」)のメトヘモグロビン(「met−Hb」)への変化または変換を意味する。HbOではヘム鉄原子は還元第一鉄(Fe2+)状態であるが、met−Hbではヘム−鉄原子は酸化第二鉄(Fe3+)状態である。
【0039】
「デオキシ」および「オキシ」は、Hb AおよびrHbのヘム鉄原子の酸化状態を意味する。オキシヘモグロビン(「オキシ−Hb」または「HbO」)は、ヘム基に結合した4つの酸素分子を持つ。デオキシヘモグロビン(「デオキシ−Hb」)は、酸素分子を含有しない。正常な動脈血では、健常成人ヘモグロビンA(「Hb A」)はオキシ型(「Hb O A」または「オキシ−Hb A」)である。静脈血では、Hb Aの一部はデオキシ型(「デオキシ−Hb A」)である。
【0040】
「一酸化炭素−Hb」、「HbCO A」、「rHbCO」、および「CO型」はすべて、酸素分子ではなく一酸化炭素分子と結合したヘモグロビンを意味する。
【0041】
「フェリ−ヘモグロビン」、「フェリ−Hb」、「第二鉄型」、「メトヘモグロビン」、「met−Hb」、および「Fe 3+ 状態」はすべて、それぞれのヘム鉄原子が第二鉄(Fe3+)状態に酸化されたヘモグロビンを意味する。フェリ−Hbは酸素と結合しない。
【0042】
「メチオニンアミノペプチダーゼ」は、ペプチド配列からアミノ−(N)末端チオニン残基を特定的に切断する、酵素メチオニンアミノペプチダーゼを意味する。
【0043】
「酸素親和性」は、ヘモグロビン分子への酸素の結合強度を意味する。酸素親和性が高いことは、ヘモグロビンが結合酸素分子を容易に放出しないことを意味する。P50は、酸素親和性の尺度である。
【0044】
「協同性」は、ヘモグロビン分子の4つのサブユニットによる酸素結合を意味し、ヒル係数(nmax)で測定される。29℃、pH7.4、0.1Mリン酸ナトリウム中におけるHb Aのnmaxは約3.2である。
【0045】
2つの典型的な四次構造として、酸素親和性の低いデオキシ−HbのT(緊張)四次構造および親和性の高いオキシ−HbのR(弛緩)四次構造がある。「R型」または「R様」および類似の用語は、H−NMRスペクトルでのDSSから10.7ppmのプロトン共鳴といった、特徴的な四次構造マーカーを示すヘモグロビンを意味する。「T型」または「T様」および類似の用語は、H−NMRスペクトルでのDSSから〜14.0ppmのプロトン共鳴といった、特徴的なT四次構造を示すヘモグロビンを意味する。
【0046】
方法および結果
シェンら(1993)、米国特許第5,753,465号、およびキムら(1995)、米国特許第5,843,888号に記載された大腸菌(E. Coli)発現系を使用して、低酸素親和性を示し、かつ、酸素結合における高い協同性を保持する、新しい非天然型人工組み換えヘモグロビン(「rHb」)を作製した。これらのrHbの一つであるrHb(βN108Q)は、他に知られている特定の低酸素親和性変異体と比較して、自動酸化に対する抵抗の増加を示す。さらに詳しくは、本発明は、本明細書でrHb(βN108Q)として表す、Hb分子のαβサブユニット界面および中央空洞に位置する各β鎖の108位のアスパラギン残基がグルタミン残基により置換されている、組み換え法により産生されるHb A変異体、および、本明細書でrHb(βL105W)として表す、各β鎖の105位のロイシン残基がトリプトファン残基に置換されており、デオキシ四次構造を安定化させて酸素結合親和性を低下させるため分子内のα β サブユニット界面においてβ105Trpとβ94Aspの間で新しい水素結合を形成している、組み換え法により産生されるHb Aの突然変異体に関する。
【0047】
これらの新しい人工ヘモグロビン(すなわち、完全に血液以外の供給源から得られるヘモグロビン)は、低い酸素親和性および酸素結合における高い協同性を示す。その上、rHb(βN108Q)は、rHb(αV96W)およびrHb(αV96W、βN108K)といった他の既知の低酸素親和性変異体と比較して、自動酸化に対する抵抗の増加を示す。さらに、これらの新しい人工ヘモグロビンは、結合の際に未使用サブユニットの解離を示さない。無細胞条件下で、本発明のrHbは、赤血球中のHb Aと同様またはより低い酸素結合性を示す。したがって、これらのrHbは、ヘモグロビン由来の酸素運搬体、すなわち、潜在的代用血液、またはヘモグロビン治療法として有用である。
【0048】
また、他の適切な変異を有する低酸素親和性ヘモグロビンの調製および使用も、本発明に含まれる。特に、本発明の方法は、更なる有利な特性を示す他のヘモグロビン変異体の産生に使用することも可能である。代用血液または治療法に適した、低い酸素親和性、高い酸素結合協同性、および自動酸化に対する抵抗の増加を示す、他の有用な変異体の適性を評価する方法は、本明細書で後述する。rHb(βL105W)およびrHb(βN108Q)を得るために好適な物質および方法は、下記の参考例に示す。本発明のrHbの産生は、好適には組み換え法によるが、非組み換え法による産生も可能であると考えられている。
【0049】
本発明の好適なrHb変異体、rHb(βL105W)およびrHb(βN108Q)は、アロステリックエフェクターIHPの添加および/または温度の低下によって、結合状態のままでR四次構造からT四次構造に切り替わることができる。したがって、本発明の組み換えヘモグロビンは、αβおよびαβ界面におけるサブユニット相互作用の性質ならびにヘモグロビンのアロステリック機構における分子的機序に関して新しい知見を得るために使用することができる。
【0050】
以下に示すように、本発明のrHb(βN108Q)は、低い酸素親和性、つまりボーア効果の増強を示すが、Hb Aと同様の協同性を示し、また、他の既知の低酸素親和性組み換えヘモグロビンと比較して、メトヘモグロビン(「met−Hb」)への酸化が遅い。例えば、既知の低酸素親和性組み換えヘモグロビンであるrHb(α96Val→Trp)およびrHb(α96Val→Trp、β108Asn→Lys)(エイチ・ダブリュー・キム(Kim, H.−W.)ら、Biochemistry 35:6620−6627(1996)(以下、「キムら(1996)」と呼ぶ)、シー・ホ(Ho, C.)ら、Blood Substitutes: Present and Future Perspectives of Blood Substitutes(Tsuchida, E., Ed.)、エルセビアー・サイエンス・SA(Elsevier Science SA)、ローザンヌ、スイス、pp.281−296(1998)(以下、「ホら(1998)」と呼ぶ)、ジェオング(Jeong)ら(1999)、およびツァイ(Tsai)ら(1999)参照。(この開示内容は、本明細書に引用される))は、より早く酸化される。したがって、rHb(βN108Q)はヘモグロビン由来の酸素運搬体およびヘモグロビン治療法として有用である。
【0051】
プロトン核磁気共鳴(「H−NMR」)試験によって、rHb(βN108Q)のヘムポケット周囲の三次構造並びにαβおよびαβサブユニット界面の四次構造が、Hb Aのそれらと類似していることが示された。H−NMR試験はまた、アロステリックエフェクターIHPの添加および/または温度の低下により、rHb(βN108Q)がその結合状態を変えることなくR四次構造からT四次構造に切り替わることが可能であることを示している。このことは、rHb(βN108Q)のT四次構造が、Hb Aのそれよりも安定していることを示唆している。これは、rHb(αV96W)(エイチ・ダブリュー・キム(Kim, H.W.)ら、J. Mol. Biol. 248:867(1995)(以下、「キムら(1995)」と呼ぶ))およびrHb(αV96W、βN108Q)(ホら(1998)、ツァイら(1999))に見られる低酸素親和性の分子機構と一致している。
【0052】
ティー・イー・カーバー(Carver, T.E.)ら、J. Biol. Chem. 267:14443(1992);アール・イー・ブラントレー・ジュニア(Brantley, R. E. Jr.)ら、J. Biol. Chem.268:6995(1996)(以下、「ブラントレーら(1993)」と呼ぶ);およびアール・エフ・エイク(Eich, R. F.)ら、Biochemistry 35: 6976(1996)(この開示内容は、本明細書に引用される)によって、B10位のLeu残基をフェニルアラニンで置換すると、ミオグロビンの自動酸化が抑制されること、並びに、α鎖のB10位は、デオキシ−およびオキシ−Hb AのNO反応を低下させることが報告されている。末端のヘムポケットに適切な変異(すなわち、αL29F)をいれることによるオキシ−Hb AのNO反応の減少は、生体内で記録された高血圧効果の抑制と関連付けられている(ディー・エイチ・ドハーティ(Doherty, D. H.)ら、Nature Biotech. 16: 672(1998)(この開示内容は、本明細書に引用される)。したがって、以下に詳述されるように、この変異をβN108Qにさらに加えることにより、二重の突然変異体、rHb(αL29F、βN108Q)を作製した。この二重の変異体は、rHb(βN108Q)と比較して、自動酸化に対してより安定しているが、アロステリックエフェクター2,3−BPG 2 mMの存在下でHb Aと同等の酸素結合性を示すことが見出された。
【0053】
変異rHb(βL105W)は、デオキシ四次構造を安定化させることにより酸素親和性を低下させるため、αβサブユニット界面においてβ105Trpと94Aspが新しい水素結合を形成するよう設計された。rHb(βL105W)は、非常に低い酸素親和性を示し、Hb A(29℃、pH 7.4、0.1Mリン酸ナトリウム中で、P50=9.9mm Hg、nmax=3.2)と比較すると、高い協同性(29℃、pH 7.4、0.1Mリン酸ナトリウム中で、P50=28.2mm Hg、nmax=2.6)を維持していることが見出された。
【0054】
rHb(βL105W)のデオキシ四次構造のαβサブユニット界面において、β105Trpとα94Aspが新しい水素結合を形成する証拠を示すために、rHb(αD94A、βL105W)変異体およびrHb(αD94A)変異体が設計された。本発明に従って実施された15N−ラベルのrHb(βL105W)中での多核、多次元の核磁気共鳴(「NMR」)試験により、rHb(βL105W)のβ105Trpにおいて、インドール窒素が結合したプロトン共鳴が識別された。Hb AおよびrHb変異体のH−NMR 試験を使用して、rHb(βL105W)が示す低酸素親和性の構造上の原理を調べた。NMRの結果から、rHb(βL105W)がデオキシ四次構造のαβサブユニットにおいてβ105Trpと94Aspが新しい水素結合を形成することが示された。rHb(βL105W)の低酸素親和性は、β105Trpとα94Aspの間で形成された新しい水素結合に起因すると考えられる。
【0055】
プロトン核磁気共鳴(「NMR」)分光法を使用して、溶解状態のHbの三次構造および四次構造を検討した(ホら(1992))。2,2−ジメチル−2−シラペンタン−5−スルホネート(「DSS」)のメチルプロトン共鳴から、〜15から〜9ppmの位置にある数個の置換性プロトン共鳴が、Hb Aのオキシおよびデオキシの両方の状態におけるαβおよびαβサブユニット界面におけるサブユニット間水素結合として特徴付けられた。
【0056】
NMRによって観測されたこれらの水素結合プロトンは、機能の検討において構造マーカーとして使用できる。詳細には、DSSから〜14ppmの共鳴は、デオキシ−Hb Aのαβ界面におけるα42Tyrとβ99Aspとの間のサブユニット間水素結合して識別されており、これはHb AのT構造の特徴である(エル・ダブリュー・エム・ファン(Fung, L. W.M)ら、Biochemistry 14:2526(1975)(以下、「ファンら(1975)」と呼ぶ)、1975;アイ・エム・ルッス(Russu, I.M.)らBiochem. Biophys. Acta 914:40(1987)(以下、「ルッスら(1987)」と呼ぶ)参照。)。デオキシ型およびCO型両方のHbのT構造マーカーを様々な条件下で観測することによって、T構造の安定性を評価し、T構造からR構造への変換を観測することができる。
【0057】
本発明において、低酸素親和性および高い協同性を示すrHbの設計は、R構造を乱すことなくT構造を安定化させることで達成される(ホら(1998)参照)。このことは、低酸素親和性および健常な協同性を示すrHb(αV96W)の設計において表れている(キムら(1995)、米国特許第5,834,888号参照。)。こうして設計した変異は、αβサブユニット界面およびHb分子の中央空洞に位置する。H−NMR試験によると、rHbCO(αV96W)にアロステリックエフェクターIHPを添加しおよび/または温度を低下させることにより、その結合状態を変えることなくR構造からT構造に切り替わることが可能であった。
【0058】
T状態にあるrHb(αV96W)の結晶構造は、αβサブユニット界面にて、α96Trp Nε1とβ101Glu Oε2の間で水を媒体とする新しい水素結合を示した(ティー・エー・プイウス(Puius, T.A.)ら、Biochemistry 37:9258(1998)(以下、「プイウスら(1998)」と呼ぶ)参照。)。H−NMR試験および結晶構造解析の両方により、rHbのT構造が安定化していることが示された。本発明ではまた、NMR試験によって、rHbCO(βN108Q)とrHbCO(βL105W)が結合状態のままでT四次構造に切り替えられることも示された。これらの結果は、これら2つのrHbのT構造が、Hb Aのそれよりも安定していることを示唆している。
【0059】
上に述べたように、本発明の方法は、他の異なる特性を持つ人工ヘモグロビン変異体や自然に発生する突然変異を補うヘモグロビン変異体の産生にも使用することができる。rHb(βN108Q)およびrHb(βL105W)を得るために好適な物質および方法は、下記の参考例に示した。なお、非組み換え法の使用も可能である。
【0060】
参考例
rHb(βN108Q)およびrHb(βL105W)の発現プラスミドの作製
【0061】
大腸菌(E. coli)Hb A発現プラスミドpHE2およびpHE7(それぞれヒトα−グロビンおよびβ−グロビン遺伝子ならびにcDNAを含有する)は、本発明のヘモグロビン変異体を発現するための出発プラスミドとして使用した。プラスミドpHE2およびpHE7の作製並びに該プラスミドにより産生されるrHb Aの特性については、シェンら(1993)、米国特許第5,753,465号、ティー・ジェイ・シェン(Shen,T.−J.)らProtein Eng.10:1085(1997)(以下、「シェンら(1997)」と呼ぶ)、キムら(1994)、および米国特許第5,843,888号に全て記載されている(この開示内容は、本明細書に引用される)。
【0062】
合成グロビン遺伝子を使用した、rHb(βN108Q)変異体の発現に使用されるプラスミドpHE2009は、以下の通り作製した。プラスミドpHE2を出発プラスミドとして使用し、配列5’−CGTCTGCTGGGTCAGGTACTAGTTTGCG−3’(配列番号1)(変異コドンに下線を引いた)のオリゴヌクレオチドをディーエヌエー・インターナショナル社(DNA International, Inc)(レイク・オスウィーゴ(Lake Oswego)、オレゴン州)より購入し、pHE2にβN108Q変異を導入するためプライマーとして使用した。オリゴヌクレオチド合成の方法は当該分野で公知であり、本発明は特定の方法に限定されない。特定部位への変異導入の手順は「Altered Sites II In−Vitro Mutagenesis System」キット(プロメガ社(Promega Corporation)、マディソン(Madison)、ウィスコンシン州)のプロトコルに従った。得られたプラスミドpHE2009には、予測されたβN108Q変異が含まれていた。
【0063】
合成グロビン遺伝子を使用した、プラスミドpHE2020(rHb(αD94A))変異体およびpHE2004(rHbβL105W)変異体)の作製は、変異オリゴヌクレオチド5’−CTGCGTGTTGCTCCGGTCAACTTCAAACTG−3’(配列番号2、変異コドンαD94Aに下線を引いた)および5’−GGAAAACTTCCGATGGCTGGGTAACGTAC−3’(配列番号3、変異コドンβL105Wには下線を引いた)を使用したことを除き、pHE2009の作製と同様に行った。両方のオリゴヌクレオチドを、ディーエヌエー・インターナショナル社(DNA International, Inc)(レイク・オスウィーゴ(Lake Oswego)、オレゴン州)より購入した。
【0064】
プラスミドpHE2017(変異rHb(αD94A、BL105W))は、プラスミドpHE2020の0.51kb SmaI−PstI 断片とpHE2004の6.34kb PstI−SmaI断片を結合することにより作製した。rHb(αL29F、βN108Q)変異体を発現するプラスミドpHE2018は、pHE2009の6.06kb PstI−BamHI断片とpHE284の0.79kb BamHI−PstI断片を結合することにより作製した。プラスミドpHE2から、変異αL29Fを有するプラスミドpHE284を作製する方法は、ジェオングら(1999)によってすでに報告されている。
【0065】
ヒトグロビンcDNAを用いた、rHb(βN108Q)変異体を発現するプラスミドpHE7009の作製は、以下の通り行った。プラスミドpHE7のヒトα−グロビンおよびβ−グロビンcDNAをコードする配列を、当該分野で公知の方法により、pTZ18U(バイオラッド・ラボラトリーズ(Bio−Rad Laboratories)、ハーキュリーズ(Hercules)、カリフォルニア州)に挿入した。特定部位の変異導入は、ティー・エム・クンケル(Kunkel, T.M.)らProc. Natl. Acad. Sci. USA 82:488(1985)(この開示内容は、本明細書に引用される)およびシェンら(1993)に記載の方法で行った。配列5’−ACAGACCAGTACTTGTCCCAGGAGCCT−3’(配列番号4)(変異コドンAsn→Glnに下線を引いた)からなるオリゴヌクレオチドをディーエヌエー・インターナショナル社(DNA International, Inc)(レイク・オスウィーゴ(Lake Oswego)、オレゴン州)より購入し、変異プライマーとして使用した。
【0066】
次に、プラスミドpHE7中のヒト健常β−グロビンcDNAを変異cDNAと置換して、プラスミドpHE7009を製造した。pHE7009のα−グロビンおよびβ−グロビンcDNAのDNA配列を、図1A(配列番号5)に示す。宿主細胞大腸菌(E. coli)JM109中のプラスミドpHE7009を、pHE7009/JM109と名付け、2000年4月27日、バージニア州マナッサス(Manassas)のアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)、寄託番号PTA−1768号で寄託した。
【0067】
ヒトグロビンcDNAを用いた、rHb(βL105W)変異体を発現するプラスミドpHE7004の作製は、配列5’−CCTGAGAACTTCAGGTGGCTAGGCAACGTGCTGGTC−3’(配列番号6)(変異コドンLeu→Trpに下線を引いた)のオリゴヌクレオチドをディーエヌエー・インターナショナル社(DNA International, Inc)(レイク・オスウィーゴ(Lake Oswego)、オレゴン州)より購入し、変異プライマーとして使用したことを除き、プラスミドpHE7009と同様の方法で行った。pHE7004内のα−グロビンおよびβ−グロビンcDNAのDNA配列を、図1B(配列番号7)に示す。宿主細胞大腸菌(E. coli)JM109中のプラスミドpHE7004を、pHE7004/JM109と名付け、2000年4月27日、バージニア州(VA)マナッサス(Manassas)のアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)に、寄託番号PTA−1769号で寄託した。
【0068】
細胞の増殖
プラスミドpHE7009、およびpHE7004を、当該分野で公知の方法により、個別に大腸菌(E. coli)JM109(プロメガ(Promega)、マディソン(Madison)、ウィスコンシン州)に形質転換した。大腸菌(E. coli)を、10リットルのマイクロファーム(Microferm)発酵槽(ニュー・ブラウンズウィック・サイエンティフィック(New Brunswick Scientific)、モデルBioFlo 3000)を用いて、100μg/mLアンピシリンを含有するTB(「Terrific Broth」)培地、32℃の条件で、600nmの光学密度が10に達するまで増殖させた。
【0069】
TB培地は、1.2%バクトトリプトン、2.4%バクトイーストエキス、0.17M KHPO、0.072M KHPO、および1%グルコース溶液を含有する。rHbの発現は、0.1−0.4mMの濃度になるようにイソプロピルβ−チオガラクトピラノシド(シグマ(Sigma)、セントルイス(St. Louis)、ミズーリ州)を加えて誘導した。次に培養液にヘミン(20−50mg/L)(シグマ(Sigma))を添加し、さらに少なくとも4時間増殖を続けた。次に遠心分離して細胞を集め、精製が必要になるまで−80℃で冷凍保存した。(詳細については、シェンら(1993)、およびシェンら(1997)を参照。)
【0070】
本発明の組み換えヘモグロビン変異体の発現と産生には、現在、大腸菌(E. coli)細胞が好適であるが、本発明は大腸菌(E. coli)に限定されない。他の適当な発現系、例えば、酵母、昆虫細胞、およびブタ、ヒツジ、ウシなどのトランスジェニック動物を使用してヘモグロビン変異体を発現させることも有効である。プラスミドpHE7009およびpHE7004は大腸菌(E. coli)細胞に対して最適化されているが、他の発現系に使用することも有効である。また、これらのプラスミドはヒト遺伝子によって作製することも可能である。
【0071】
rHbの単離と精製
プラスミドpHE7009およびpHE7004で形質転換した細胞から得られた組み換えヘモグロビンを、シェンら(1993)、およびシェンら(1997)に記載の方法を用いて精製した。冷凍保存した細胞ペーストを溶解緩衝液(40mMトリス塩基/1mMベンズアミジン(シグマ(Sigma)))に、細胞ペースト3ml/gとなるように加えた。細胞の溶解手順を使用して、高圧ホモジナイザー(モデル EmulsiFlex−C5、アベスティン(Avestin))に細胞ペーストを3回通した。次に溶解物をベックマン遠心分離機(ベックマン(Beckman)JA14ローター)で、4℃、13,000回転/分で2.5時間遠心分離した。
【0072】
次にツァイら(1999)に記載の方法で、溶解物の上精をCOガスで飽和させ、30℃で一晩放置した。次に上精をミリポア・ミニタン・アクリリック(Millipore Minitan Acrylic)限外濾過装置に通して、タンパク質を濃縮させた。ポリエチレンイミン(シグマ(Sigma))を最終濃度を0.5%となるように加え、核酸を沈殿させた。遠心分離後、試料をpH8.3の20mMトリス−塩酸/0.5mMトリエチレンテトラアミン(「TETA」)(シグマ(sigma))で、一晩、緩衝液を1〜2回交換して透析した。この手順を通じて、試料は4℃、CO環境下で保存した。シェンら(1993)およびシェンら(1997)の手順に従って、Q−セファロース・ファスト−フロー・カラム(ファルマシア(Pharmacia)陰イオン交換体)を通した後、rHb画分を収集した。ファルマシアを酸化、還元してCO型に転化した。このHb溶液を、次にファスト・プロテイン液体クロマトグラフィー(「FPLC」)モノ−Sカラム(ファルマシア(Pharmacia)陽イオン交換体、HR16/10)を通して、pH6.8の0.1−0.5mMエチレンジアミン四酢酸(「EDTA」)中の10mMリン酸ナトリウム(溶解液A)およびpH8.3の0.1−0.5mMEDTA中の20mMリン酸ナトリウム(溶解液B)の勾配で溶出して精製した。
【0073】
rHb(βN108Q)は2つの主要なピークで個別に溶出した。図2Aは、rHb(βN108Q)のピークaおよびピークbを示している。図2Bは、rHb(βL105W)が、3つの主要なピークであるピークa、b、およびcで個別に溶出したことを示している。両方のケースで、ピークbから集められたrHbは、アミノ末端に2%以下のメチオニンを含有し、正しい分子量を有していた。
【0074】
質量分光分析
質量分光分析に用いるHb試料を、蒸留水に対して充分に透析し、次に凍結乾燥した。分析の直前に、試料を水に溶解して、125pmolHb/μl HO(7.8mg/ml)の濃度にした。次にこれらの溶液を等分して希釈し、最終濃度10pmol/μl(50:50水/アセトニトリル、0.2%ギ酸を含む)とした。等分したこれらの最終溶液(10μl)を、5μl/分で電子噴霧イオン源に導入した。
【0075】
電子噴霧分析は、シェンら(1993)に記載のように、ブイジー・クアトロ−ビーキュー(VG Quattro−BQ)(フィソンズ・インスツルメンツ(Fisons Instruments)、ブイジー・バイオテク(VG Biotech)、オルトリナム(Altrincham)、英国)で行なった。エドマン分解法の自動サイクルを、アプライド・バイオシステムズ(Applied Biosystems)ガス/液相シーケンサー(モデル 470/900A)にオンライン・フェニルチオヒダントイン・アミノ酸解析器(モデル120A)を装備して行なった。これら2つの分析手順を使用して、rHbの性質を評価した。この試験で使用したすべてのrHbは正しい分子量を持ち、アミノ末端に含有するメチオニンは2%以下だった。
【0076】
rHbの酸素結合特性
酸素解離曲線は、ヘモックス−アナライザー(Hemox−Analyzer)(ティーシーエス・メディカル・プロダクツ(TCS Medical Products)、ハンティントンバレイ(Huntington Valley)、ペンシルバニア州)により、29℃で、pHの関数として測定した。使用したHbの濃度は、およそ0.1mM/ヘムであった。エー・ハヤシ(Hayashi, A)ら、Biochem. Biophys. Acta 310:309(1973)(この開示内容は、本明細書に引用される)に記載のメトヘモグロビン(「met−Hb」)還元酵素系を、試料中のmet−Hbを還元する必要がある場合に使用した。
【0077】
酸素平衡測定後、直ちに各試料の可視の吸収スペクトルを記録し、イー・アントニニ(Antonini, E)ら、Physiol. Rev. 45:123(1965)(この開示内容は本明細書に引用される)に記載されたHbの吸光係数を使用してmet−Hbの内容を推計した。酸素平衡パラメーターは、アデア(Adair)の式を各平衡酸素結合曲線に当てはめ、非線形最小二乗法により導き出された。酸素親和性の単位であるP50は、50%の飽和度を示す点から求められた。協同性の単位であるヒル係数(nmax)は、線形回帰によるヒルプロットの最大勾配として求められた。nmaxは60%〜65%の間の酸素飽和度で導いた。P50測定の誤差範囲はmmHgでプラスマイナス5%、nmax測定の誤差範囲はプラスマイナス7%である。
【0078】
rHbのH−NMR分光法測定
rHbのH−NMRスペクトルは、ブルカー(Bruker)アバンス(AVANCE)DRX−300、アバンス(AVANCE)DRX−500、およびアバンス(AVANCE)DRX−600 のNMR分光計をそれぞれ300、500、および600MHz、温度範囲10℃〜36℃の間で操作して得られた。すべてのHb試料は、pH7.0、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(100% HO中)に溶解した。Hbの濃度範囲は、およそ5%(〜3mMのヘム条件)であった。水のシグナルは、ピー・プラトー(Plateau, P.)らJ. Am. Chem. Soc. 104:7310(1982)(以下、「プラトーら(1982)」と呼ぶ)(この開示内容は、本明細書に引用される)にて報告された、「ジャンプ−アンド−リターン」パルスシーケンスを用いて抑制した。プロトン化学シフトは、2,2−ジメチル−2−シラペンタン−5−サルホネート(「DSS」)のナトリウム塩のメチルプロトン共鳴を基準とし、29℃でDSSのシグナルより低磁場側の4.76ppmに発生する水のシグナルを内部基準として使用した。
【0079】
rHbの自動酸化
rHbの自動酸化はブルカー(Bruker)アバンス(AVANCE)DRX−300 H−NMRスペクトルを用いて、オキシ−マーカー(DSSより−2.34ppm)の消失率を観測することにより記録した。自動酸化反応は37℃、pH7.4、EDTA 5mMを含むプラズマライト(PlasmaLyte)緩衝液(バクスター(Baxter))(5% DO)中で行われた。HbOの濃度は5%(〜3mMのヘム条件)であった。
【0080】
関数検討
rHbの酸素結合特性
図3Aおよび図3Bは、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中の、rHb(αL29F)、rHb(βN108Q)、rHb(α29F、βN108Q)、rHb(βL105W)、およびHb Aの、29℃における酸素結合測定値を、pHの関数として示している。rHb(βN108Q)はHb Aと比較して、pH6.79からpH8.09の範囲において著しく低い酸素親和性を示す。rHb(βN108Q)の酸化プロセスは、Hb Aのnmax値約3.2と比較して、pHに依存して、nmax値が約2.7から3.1 という非常に高い協同性を示す(図3B)。一方、α鎖のB10位における変異(すなわちαL29F)は、酸素親和性を高め、協同性を低下させる。rHb(αL29F、βN108Q)は、pH7.4以下において、Hb AのP50値と比較してわずかに高いP50値を示し、変異の酸素親和性に対する効果が相加的であることを示唆している。rHb(αL29F、βN108Q)は、nmax値2.4から2.8と酸素結合における協同性を保持している(図3B)。rHb(βL105W)は、pH7.0から8.0において、Hb Aと比較して非常に低い酸素親和性(約2〜3倍低い)を示し、標準的な協同性を保持している。
【0081】
図4は、2,3−BPG非存在下のrHb(βN108Q)およびrHb(βL105W)が、5mM2,3−BPG存在下のHb Aよりも低い酸素親和性であることを示しており、これらのrHbが代用血液系の酸素運搬体候補となりうることを示している。また、図3Aおよび図3Bは、アルカリボーア効果(これは、Hb Aでは、pHの低下に伴い酸素親和性の低下を示す)が、Hb Aと比較してrHb(βN108Q)およびrHb(αL29F、βN108Q)では増強されていることも示している。
【0082】
次の表1は、ヘムごとの酸化の際に放出されるボーアプロトン数の比較である。この計算には、連鎖方程式ΔH+=−∂log P50/∂pHを使用した(ジェイ・ワイマン(Wyman, J.)Adv. Protein Chem. 4:407(1948)およびAdv. Protein Chem.19:233(1964)(以下、「ジェイ・ワイマン(1948)および(1964)」と呼ぶ)参照。)(この開示内容は、本明細書に引用される)。rHb(βN108Q)およびrHb(αL29F、βN108Q)の両方が、Hb Aよりも多くのボーアプロトンを放出した。
【0083】
Hb A、rHb(βN108Q)、rHb(αL29F、βN108Q)、およびrHb(βL105W)の29℃、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中でのボーア効果
【0084】
【表1】
Figure 2004500871
【0085】
rHbの自動酸化
オキシ−Hb A、オキシ−rHb(βN108Q)、オキシ−rHb(αL29F、βN108Q)、オキシ−rHb(βL105W)、および他に知られている3つの低酸素親和性変異体、オキシ−rHb(αV96W)、オキシ−rHb(αV96W、βN108K)およびオキシ−rHb(αL29F、αV96W、βN108K)の自動酸化プロセスを、300−MHzのNMR分光計で観測した。DSSより高磁場側の−2.34ppmでの共鳴が、オキシ型Hb AのE11Valのγ−CHであると決定されている(シー・ダルビト(Dalvit, C.)ら、Biochemistry24:3398(1985)参照(この開示内容は、本明細書に引用される))。オキシ−マーカー(DSSから−2.34ppm)の消失率を時間との関数で観測すると、Hb試料の自動酸化率を決定することができる。その結果を、図5に示す。
【0086】
フェロ−Hbの比率は、時間(t)とともにモノ−指数関数的に変化し、自動酸化率定数は、kautoを自動酸化率定数として、[フェロ−Hb]=[フェロ−b]t=0×exp(−kauto×t)の式で求めることができる。Hb AおよびrHbの自動酸化率定数を、次の表2に示す。37℃、pH7.4のプラズマライト(PlasmaLyte)緩衝液中で、rHb(βN108Q)、rHb(βL105W)、rHb(αV96W)、およびrHb(αV96W、βN108K)は、Hb Aよりそれぞれ2.8倍、8倍、4.4倍、および8倍早く酸化した。rHb(βN108Q)は、研究室で開発された他の既知の低酸素親和性変異体、すなわちrHb(αV96W)、rHb(βL105W)、およびrHb(αV96W、βN108K)と比較して、自動酸化に対してより安定していることが示された。変異αL29FをrHb(βN108Q)およびrHb(αV96W、βN108K)に導入することで、自動酸化率が低下した。
【0087】
rHb(αL29F、βN108Q)およびrHb(αL29F、αV96W、βN108K)は、rHb(βN108Q)およびrHb(αV96W、βN108K)と比較して、それぞれ2.5倍および2.8倍遅く自動酸化した。このように、変異αL29Fは、自動酸化プロセスの速度を下げるのに非常に効果的であり、ミオグロビンでの結果(ブラントレーら(1993)参照。)(この開示内容は、本明細書に引用される)でもそのことが示唆されている。
【0088】
ヘミクローム様のスペクトルが、試験された全ての低酸素親和性rHbの中で、rHb(αL29F、αV96W、βN108K)のみの自動酸化プロセスで観測されている。ヘミクロームは、メトヘモグロビン(met−Hb)が第二鉄高スピン型から第二鉄低スピン型に転化する際に形成される。第二鉄低スピン型では、末端のイミダゾールがHOリガンドと置き換わる(レビー(Levy)ら、Biochemistry 29:9311(1990);レビー(Levy)ら、Biophys. J. 61:750(1992);ブランバーグ(Blumberg)ら、Adv. Chem. Series 100:271(1991)参照)。これは、rHb(αL29F、αV96W、βN108K)の酸化型がヘミクローム様スペクトルを示すという、ジェオングら(1999)の結果に従っており、酸素運搬体の候補として考慮するに相応しくないことを示している。
【0089】
自動酸化率定数、低酸素親和性変異体の酸素親和性および協同性
【0090】
【表2】
Figure 2004500871
【0091】
a Hb AおよびrHbの自動酸化率定数( auto )は、37℃、pH7.4のプラズマライト(PlasmaLyte)緩衝液中、[オキシ−Hb]の3mMヘムによって得た。
【0092】
b 酸素親和性および協同性は、29℃、pH7.4、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中で得た。タンパク質濃度は、0.1mMヘムであった。
【0093】
c ジェオングら(1999)より。
【0094】
rHb(βN108Q)およびrHb(αL29F、βN108)の構造検討
【0095】
H−NMR測定
H−NMR分光計は、Hb Aおよびその変異体の三次および四次構造変化の観測に優れた装置である(シェンら(1993);キムら(1994);キムら(1995);キムら(1996);およびディー・バリック(Barrick, D.)らNat. Struct. Biol. 4:78(1997)参照(この開示内容は本明細書に引用される))。
【0096】
500MHzで測定したCO型Hb A、rHb(βN108Q)、およびrHb(αL29F、βN108Q)について、図6Aは置換性プロトン共鳴を示し、図6Bは環流シフトプロトン共鳴を示す。環流シフト共鳴は、ヘムポケット中のアミノ酸残基に関連したヘム基の配向性および/または立体配座、すなわちHb 分子の三次構造に対する感度がよい(シー・ホ(Ho, C.)Adv. Protein Chem. 43:153(1992)(以下、「ホ(1992)」と呼ぶ)参照(この開示内容は、本明細書に引用される))。約−1.8および約−1.7ppmでの共鳴が、HbCO Aのβ鎖およびα鎖のE11Valにおけるγ−CHとそれぞれ決定された(リンドストーム(Lindstrom)ら(1972);ダルビト(Dalvit)ら(1985)参照)。これら2つの共鳴はrHbCO(βN108Q)では変化しない。
【0097】
しかし、rHbCO(αL29F、βN108Q)のα−E11Valのγ−CHと決定された共鳴は、高磁場側に約−2.0ppmシフトする。このことは、rHbCO(αL29F、βN108Q)中α−E11バリン残基のγ−CH基が、HbCO Aのそれよりも標準のヘムの近くに位置していることを示唆している。α29Lは、E11Valに極めて接近しており、
【0098】
したがって、αL29Fアミノ酸置換体は、α鎖末端のヘムポケット特定部位の立体構造を変えると考えられる。これらのrHbの環流シフト共鳴には、他にもいくつかの変化がある。この実験から、環流シフト共鳴の強度および位置のわずかな違いは、多くのrHb変異体に見られる一般的な特徴といえる。(例えば、シェンら(1993);キムら(1994);キムら(1995);キムら(1996);ホら(1998);ディー・ピー・サン(Sun, D. P.)らBiochemistry 36:6663(1997)(以下、「サンら(1997)」と呼ぶ)(この開示内容は、本明細書に引用される)およびツァイら(1999)参照。これらの変化は、変異の結果、ヘムおよび/またはヘムポケット中のアミノ酸残基の配置がわずかに調整されることを反映している。
【0099】
Hb分子の置換性プロトン共鳴は、サブユニット界面の置換可能なプロトンから発生する。本発明において特に関心があるのは、DSSより14.2、12.9、12.1、11.2、および10.7ppmの置換性プロトン共鳴であり、これらはHb Aのデオキシ(T)および/またはオキシ(R)の両方の状態における、αβおよびαβサブユニット界面のサブユニット間水素結合として特徴付けられているものである(ルッスら(1987);ファンら(1975);およびホら(1992)参照(この開示内容は、本明細書に引用される))。
【0100】
DSSより12.9ppmおよび12.1ppmの共鳴は、それぞれ、α122Hisとβ35Tyr、およびα103Hisとβ131GInの間の水素結合であると決定されている(ルッスら(1987)、およびシンプラセアヌ(Simplaceanu)ら、Biophys. J.(印刷中)(2000)(以下、「シンプラセアヌら(2000)」と呼ぶ)参照)。rHbCO(βN108Q)およびrHbCO(αL29F、βN108Q)(図6Aに示す)のスペクトル中では、12.1ppmにおけるHbCO Aの化学シフトに対応して、1つではなく3つの共鳴が発生する。主ピークは12.0ppmで発生し、その肩は11.8ppmにあり、付加的な共鳴が12.3ppmにある。12.3ppmおよび11.8ppmの共鳴の強度は、12.0ppmおよび12.9ppmでの共鳴の強度の10分の1にも満たない。
【0101】
これは、これら2つの付加的な共鳴に追加のプロトンが寄与している可能性は低いことを示唆している。11.8、12.0、および12.3ppmでの共鳴の積分値の合計は、12.9ppmの単一の共鳴のものとほぼ同じである。これは、CO型のrHb(βN108Q)の3つの立体異性体が共存していることを示唆している。
【0102】
29℃、pH7.0、0.1Mリン酸塩中のデオキシ型rHbおよびHb Aについて、図7Aに超微細シフトを示し、図7Bに置換性プロトン共鳴を示す。DSSからの63ppmの共鳴が、デオキシ−Hb Aのα鎖の近接ヒスチジン残基(α87His)の超微細シフトNδH−置換性プロトンであると決定され、DSSからの77ppmの共鳴が、デオキシ−Hb Aのβ鎖(β92His)の対応する残基であると決定されている(エス・タカハシ(Takahashi, S.)ら、Biochemistry 19:5196(1980)、およびジー・エヌ・ラマール(La Mar, G. N.)ら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 96:1172(1980)参照(この開示内容は、本明細書に引用される))。
【0103】
rHb(βN108Q)のこれら2つの近接ヒスチジル共鳴の化学シフト位置は、Hb Aのそれらとまったく同じである。これは、このrHbの近接ヒスチジン残基の周囲に動きがないことを示唆している。しかし、rHb(αL29F)およびrHb(αL29F、βN108Q)のDSSから63ppmの共鳴は、低磁場側に4ppmシフトし、67ppmとなっている。これは、αL29Fの変異の結果、α鎖の近接ヘムポケットの環境が変化したことを反映している。
【0104】
10−25ppmからのスペクトル領域は、ヘムポケットの近接に位置するアミノ酸残基およびポルフィリン環の超微細シフト共鳴ならびに置換性プロトン共鳴から発生する。デオキシ−Hb Aとデオキシ−rHb(βN108Q)の間には、10−25ppmの共鳴において、顕著な差は見られない。しかし、rHb(αL29F)およびrHb(αL29F、βN108Q)は、16−20ppmの領域上でスペクトルの変化がある。
【0105】
これは、α鎖およびβ鎖両方のヘムポケットの環境が変化したことを反映している。14.2ppmの共鳴が、デオキシ−Hb Aのαβ界面におけるα42Tyrとβ99Asp間のサブユニット間水素結合として識別されている(ファンら(1975))。これは、Hb Aのデオキシ(T)四次構造の特徴(ペルツ(1970))である。これに対するrHb(αL29F)およびrHb(αL29F、βN108Q)の共鳴は、高磁場側に0.5ppmシフトして13.7ppmとなる。これは、このデオキシ型のαβ界面における水素結合が、αL29Fの変異によって動かされていることを示唆している。
【0106】
本発明における低酸素親和性および高い協同性を示すrHbに特有の特徴は、これらrHbのCO型にIHPを添加および/または温度を低下させることによって、14.2ppmにT−マーカーが出現することである(キムら(1995);ホら(1998);ツァイら(1999)参照)。CO型rHbの置換性プロトン共鳴の温度依存性を調べることにより、酸素親和性の構造的影響を評価することができる。
【0107】
図8Aおよび図8Bならびに図9Aおよび図9Bは、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中におけるCO型のrHb(βN108Q)およびrHb(αL29F、βN108Q)について、4mM IHP非存在下(図8A、図9A)または存在下(図8B、図9B)での置換性プロトン共鳴を、温度別に示したものである。4mMのIHP存在下、pH7.0、0.1Mリン酸塩中では、14.2ppmのrHb(βN108Q)の共鳴は、29℃から観測することができる(図8B)。CO結合したrHb(βN108Q)およびrHb(αL29F、βN108Q)のスペクトルにおいて、低温、4mMのIHP存在下でT−マーカーが出現するということは、rHb(βN108Q)およびrHb(αL29F、βN108Q)のT状態が、Hb AのT状態よりも安定していることを示唆している。しかし、rHb(αL29F、βN108Q)の該スペクトルの共鳴は、低温(例えば、11℃)、4mMのIHP存在下で、rHb(βN108Q)のスペクトルの共鳴よりも強度が弱かった。
【0108】
rHb(βL105W)の構造の検討
rHb(βL105W)は、デオキシ四次構造の安定化により酸素結合親和性を低下させるため、αβサブユニット界面においてα94Aspとの間で水素結合を形成するよう設計した。rHb(BL105W)のβ105Trpが、デオキシ四次構造のαβサブユニット界面においてα94Aspと新しい水素結合を形成することを証明するために、rHb(αD94A、βL105W)およびrHb(αD94A)を作成した。15N−ラベルのrHb(βL105W)での多核、多次元の核磁気共鳴(「NMR」)試験により、rHb(βL105W)のβ105Trpのインドール窒素結合プロトン共鳴が識別された。H−NMR 試験を利用して、rHb(βL105W)の低酸素親和性の構造上の基礎を調べた。
CO型rHbの構造のH−NMR測定
【0109】
図10Aは、CO型のHb A、rHb(βL105W)、rHb(αD94A、βL105W)、およびrHb(αD94A)の置換性プロトン共鳴を示している。置換性プロトン共鳴は、サブユニット界面の置換可能なプロトンから発生する。最近の15N−ラベルrHb Aの多核、多次元のNMR試験で、10.6ppm、10.4ppm、および10.1ppmの共鳴が、それぞれ、β37Trp、α14TIP、およびβ15Trpであると決定されている(シンプラセアヌら(2000))。Hb Aのオキシ型結晶構造(シャアナン(1983))は、αβサブユニット界面でβ37Trpが水素結合を形成する相手方の候補として、α94Aspの可能性が高いことを示唆している。CO型rHb(βL105W)のスペクトルは、置換性プロトン共鳴領域内での追加プロトン共鳴を示している(図10A)。
【0110】
β37残基およびβ105残基が両方ともαβ界面に位置し、R四次構造では近い位置にある(シャアナン(1983))ことから、β105位のLeuをTrpに置換することにより、β37Trpのプロトン共鳴を元の化学シフトからシフト変化させる可能性がある。このことは、追加の共鳴(11.0ppmまたは10.8ppmのいずれか)がβ105Trpに由来することを示唆している。このため、rHb(β105W)のスペクトルにおける当該共鳴を決定するため、15N−ラベルrHb(βL105W)の異核、二次元(「2D」)のNMR試験を行った。
【0111】
CO型rHb(αD94A)のスペクトルは、10.6ppmでの共鳴(Hb Aでは、β37Trpと決定されている)が欠如しており、Hb A(図10A)と比較して9.7ppmに新しい共鳴が出現することを示した。この結果において、β37Trpの10.6ppmの共鳴が、9.7ppm(水の共鳴に近い)へシフトしたことは、CO型rHb(αD94A)においてα94とβ37間の水素結合が欠如したことに原因があることを示唆している。また、この結果から、10.6ppmの共鳴が、α94Aspとβ37Trpのサブユニット間水素結合に対するものであることを確認した。CO型rHb(αD94A、βL105W)のスペクトルでは、rHb(αD94A)と比較して、10.8ppmに1つの追加プロトン共鳴が出現したことを示している。この10.8ppmでの共鳴は、rHb(αD94A、βL105W)およびrHb(βL105W)のβ105TrpのインドールNHであると決定した。
【0112】
図10Bは、CO型Hb A、rHb(βL105W)、rHb(αD94A、βL105W)、およびrHb(αD94A)の環流シフトプロトン共鳴を示す。環流シフト共鳴はヘム配置およびヘムポケットの三次構造に非常に感度よく反応する(ホ(1992)参照)。CO型rHb(βL105W)の環流シフトプロトン共鳴のスペクトルは、Hb Aのスペクトルとわずかな違いしかないが、rHb(αD94A、βL105W)およびrHb(αD94A)の環流シフトプロトン共鳴のスペクトルは、Hb Aのスペクトルとは大きく異なっている。これらの差は、αD94Aの変異を加えたことにより、ヘム立体構造および/またはヘムポケット内のアミノ酸残基が調整されたことを示唆している。従前の試験により、環流シフト共鳴のわずかな差は、多くのrHbにおいて一般的な特徴であることが示されている。(キムら(1994);キムら(1995);キムら(1996);サンら(1997)参照)。
【0113】
CO型15N−ラベルrHb(βL105W)の異核2次元NMR試験
rHb(βL105W)のH−NMRスペクトルにおける11.0ppmおよび10.8ppmのプロトン共鳴を決定するために、CO型の15N−ラベルrHb(βL105W)の異核2次元NMR試験を行った。その結果を、図11Aおよび図11B、ならびに図12A−図12Dに示す。
【0114】
図11Aおよび図11Bは、CO型15N−ラベルのrHb(βL105W)およびrHb Aの600MHzのHMQCスペクトルを示す。このスペクトルは15Nを分断せずに得たため、Trp残基の化学シフト座標(ε115ε1)で双極子が観測された。一般的に、Trp残基のε1共鳴は、通常プロトン次元内で〜9から〜12ppmに出現し(カバナー(Cavanagh)ら(1996);BioMagResBank(1999)(www.bmrb.wisc.edu/ref_info/statsel.htm)参照。)、それらの15ε1共鳴は、通常15N次元内で〜121から〜133ppm(BioMagResBank)に出現する。rHb(βL105W)のH−NMRスペクトルにおいて、11.0ppmおよび10.8ppmでのプロトン共鳴の15N化学シフトは、それぞれ134ppmおよび129ppmであり、これらの共鳴がTrp残基由来であることを示唆している。
【0115】
プロトンの化学シフトは窒素の化学シフトに比べて容易に環境からの影響を受けるため、(11.0、134)ppmをβ37Trpと決定し、また、(10.8、129)ppmをβ105Trpと決定した(図11Aおよび図11B)。これはまた、図10Aに示されている内容と一致する。また、HMQCスペクトルは、Trp15ε1化学シフトと、炭素結合したプロトンδ1との相互関係を示す。図11Aおよび図11Bに示されるように、CO型15N−ラベルのrHb(βL105W)とrHb Aの両方のスペクトルにおいて、α14Trpおよびβ15Trpのδ1の交差ピークが、それぞれ(7.3、129)および(7.1、127)ppmで観測された。同様に、CO型15N−ラベルrHb Aのスペクトルにおいて、より弱い強度のβ37Trpのδ1交差ピーク(2つの結合のカップリングを通して)が、(7.3、134)ppmで観測されている(結果は図11Bには示していない)。β37Trpおよびβ105Trpのδ1交差ピークがCO型15N−ラベルrHb Aのスペクトルにおいて見られないことから(図11A)、存在するTrp決定に関するより多くの証拠を得るため、異なる混合時間でのNOESY−HMQC実験を行った。
【0116】
図12A−図12Dで示すように、4つのTrp残基すべてのδ1およびζ2の交差ピークが、短い混合時間で見られた。これらの交差ピークの強度は、混合時間が60または100分になると低下する(図12C、12D)。図12A−図12Dはまた、β37Trpとβ105Trpのδ1およびζ2の化学シフトがお互いに非常に近接していることも示している。これらすべての結果により、Trp残基を決定することができる。
【0117】
デオキシ型rHbの構造のH−NMR試験
図13Aは、デオキシ型Hb A、rHb(βL105W)、rHb(αD94A、βL105W)、およびrHb(αD94A)の300−Mhz H−NMRスペクトルにおける近接ヒスチジンの超微細シフトNδH共鳴を示している。デオキシ型rHb変異体の近接ヒスチジンの超微細シフトNδH共鳴スペクトルは、Hb Aのそれと非常によく似ている。
【0118】
図13Bは、デオキシ型Hb A、rHb(βL105W)、rHb(αD94A、βL105W)、およびrHb(αD94A)の300−Mhz H−NMRスペクトルにおける、超微細シフトおよび置換性プロトン共鳴を示している。超微細シフトプロトン共鳴は、ヘム基およびその近接アミノ酸残基のプロトンと、ヘムポケット中のFe(II)の不対電子の超微細な相互作用によって発生する(ホ(1992))。rHb(βL105W)の+24から+16ppmの領域における超微細シフトプロトン共鳴は、Hb Aと非常によく似ているが、rHb(αD94A、βL105W)およびrHb(αD94A)の当該超微細シフトプロトン共鳴は、Hb Aと幾分異なっている。
【0119】
図13Cは、デオキシ型Hb A、rHb(βL105W)、rHb(αD94A、βL105W)、およびrHb(αD94A)の300−Mhz H−NMRスペクトルにおける置換性プロトン共鳴を示す。〜14ppmのH共鳴を、デオキシ−Hb Aのαβ界面におけるα42Tyrとβ99Aspとの間のサブユニット間水素結合として識別した。これは、Hb AのデオキシT型四次構造の特性である(ファンら(1975)参照)。〜12.2ppmの共鳴は、αβ界面におけるα103Hisとβ131Aspとの間の水素結合であると決定した(非公開の結果)。〜11.1ppmの共鳴は、αβ界面におけるα94Aspとβ37Trpとの間の水素結合であると暫定的に決定されている(ファンら(1975);イシモリら(1992))。最近の15N−ラベルrHb Aに対する異核、多次元のNMR試験によって、〜13.0ppmの共鳴がα122Hisであると決定され、〜11.1ppmの共鳴がβ37Trpであると決定している(未発表の結果)。
【0120】
デオキシ型のrHb(βL105W)のスペクトルは、置換性プロトン共鳴の領域内に追加プロトン共鳴が出現することを示している(図13C)。これは、12.7ppmの追加の共鳴がβ105Trpに由来することを示唆している。デオキシ型のrHb(αD94A)においてはα94とβ37との間の水素結合が欠如していることから、β37Trpの共鳴は、元の化学シフトからシフトして、水の共鳴に近い状態に変化するはずである(CO型で観測された状態と類似している)。デオキシ型rHb(αD94A)のスペクトルは、〜11.1ppmでの共鳴(Hb Aでは、β37Trpと決定)が欠如していることを示している(図13C)。
【0121】
しかし、デオキシ型rHb(αD94A)のβ37Trpの新しい化学シフトがどれであるかは明らかにされていない。デオキシ型rHb(αD94A、βL105W)のスペクトルには、rHb(αD94A)のスペクトルと比較して、追加のプロトン共鳴が11.1ppmに出現している。この共鳴は、rHb(αD94A、βL105W)のβ105Trpに由来していると見られる。rHb(αD94A、βL105W)においてα94AspをAlaで置換すると、rHb(βL105W)のβ105TrpのNH共鳴に対する化学シフトが、高磁場側に1.7ppmシフトし、水の共鳴に近い状態となる。
【0122】
これらの結果は、デオキシ型のrHb(βL105W)において、β105Trpとα94Aspの間に新しい水素結合が形成されることを示唆している。
【0123】
デオキシ型15N−ラベルのrHb(βL105W)の異核2次元NMR試験
デオキシ型rHb(βL105W)のH−NMRスペクトルにおける、12.7ppmの共鳴がβ105Trpであることをさらに確認するため、デオキシ型15N−ラベルrHb(βL105W)の異核2次元NMR試験を行った(図14および図15A−図15D)。図14は、デオキシ型15N−ラベルrHb(βL105W)の600−MHz HMQCスペクトルを示す。
【0124】
rHb(βL105W)のH−NMRスペクトルにおける12.7ppmのプロトン共鳴の15N化学シフトは134ppmで、この共鳴がトリプトファン残基に由来していることを示している。また、デオキシ型15N−ラベルrHb(βL105W)のHQMCスペクトルにおいて、Trp 15ε1δ1交差ピークが、β105Trp、β37Trp、α14Trpおよびβ15Trpについて、それぞれ(7.8、134)、(7.6、135)、(7.1、129)、および(7.0、127)ppmに観測された。また、His 15ε1ε1 およびζ2との交差ピークが、α103Hisではそれぞれ(8.3、163)および(7.1、163)ppmに、α122Hisではそれぞれ(7.6、167)および(7.0、167)ppmに観測された。また、現在の決定に関してより多くの根拠を示し、デオキシ型rHb(βL105W)中のβ105Trpの微小環境を調べるために、異なる混合時間でのNOESY−HMQC実験を行った。
【0125】
β105Trp(12.7ppm)では、そのδ1およびζ2の交差ピークを、それぞれ7.8および8.2ppmに、4つ全ての混合時間において観測した(図15A−図15D)。β37Trp(11.2ppm)については、そのδ1およびζ2の交差ピークを、それぞれ7.6および7.3ppmに、4つ全ての混合時間において観測した(図15A−図15D)。さらに、図15A−図15Dに示される通り、デオキシ型の15N−ラベルrHb(βL105W)のNOESY−HQMCスペクトルにおいて、β105Trp残基とβ37Trp残基との間にNOE効果を観測した。
【0126】
CO型のHbに対するIHPおよび温度の影響
図16Aおよび図16Bは、CO型のHb A、rHb(βL105W)、rHb(αD94A、βL105W)、およびrHb(αD94A)について、11、20、または29℃、IHP非存在下(図16A)またはIHP存在下(図16B)における、置換性プロトン共鳴を示す。IHP非存在下では、Tマーカーは低温のrHb(αD94A、βL105W)のスペクトルにおいてのみ観測された。IHP存在下では、Tマーカーは3つ全てのrHb変異体で観測された。
【0127】
これらの結果は、これらのrHb変異体が、その結合状態を変えることなく、温度の低下および/またはIHPの添加によって、R構造からT構造に切り替わることが可能であることを示している。Tマーカーが出現した側における、IHP存在下のCO型rHb(βL105W)のスペクトルは、IHP非存在下のものと比較して、いくつかの違いを示した。IHP存在下では、温度を低下させることにより、隣接する12.9および11.0(または10.8)ppmの共鳴から、13.1および11.2ppmの新しいピークが、徐々に出現する(図16B)。
【0128】
これらの変化を観測するために、15N−ラベルrHb(βL105W)に対するより詳細なHSQC実験を、IHP非存在下および存在下の両方で行った。IHP存在下のHSQC実験については、低温下でも行った(図17A−図17D)。29℃、IHP存在下、β37Trp(11.0、134)ppmの交差ピーク(ε115ε1)は消滅した。β105Trpの、29℃、IHP存在下における(10.8、129)ppmの交差ピーク(ε115ε1)は、IHP非存在下と比較して非常に弱かった(図17Aおよび図17B)。IHP存在下で温度が低下すると、(11.0、134)ppmの交差ピークが再び出現し、2つの新しい交差ピークが(11.0、131)および(10.9、130)ppmに出現する(図17Cおよび図17D)。これら2つの新しい交差ピークは、β37Trpおよびβ105Trpに由来すると見られる。
【0129】
図18Aおよび図18Bは、IHP非存在下または存在下、11、20、29℃における、CO型のHb A、rHb(βL105W)、rHb(αD94A、βL105W)、およびrHb(αD94A)の環流シフトプロトン共鳴を示している。CO型rHb(βL105W)の環流シフトプロトン共鳴は、IHP非存在下ではHb Aとごく僅かしか違わないが、IHP存在下では、Hb Aとは非常に異なる。CO型のrHb(αD94A、βL105W)およびrHb(αD94A)の環流シフトプロトン共鳴は、IHP非存在下および存在下の両方において、Hb Aとは非常に異なるが、IHP存在下では、これらrHbの環流シフトプロトン共鳴は互いに非常に類似している。
【0130】
さらに、IHP存在下のCO型rHb(βL105W)の環流シフトプロトン共鳴は、温度を下げると、rHb(αD94A/βL105W)およびrHb(αD94A)と非常に類似したものとなる(図18B)。IHP存在下のCO型のrHb (αD94A、βL105W)およびrHb(αD94A)の環流シフトプロトン共鳴のスペクトルは、安定したT構造を持つCO型rHbのスペクトルの1つのタイプを表すと考えられている。したがって、rHb変異体とHb Aのヘムポケット立体構造の違いは、置換性プロトン共鳴のTマーカーを考慮に入れると、これらのrHb変異体が容易にR構造からT構造に切り替えられることも示唆している。−1.8および1.9ppmの共鳴は、それぞれHb Aのα鎖およびβ鎖のヘムポケット末端バリン(E11)と決定されている(シー・ダルビト(Dalvit, C.)ら、Biochemistry 24:3398(1985)およびシー・ティー・クラエスク(Craescu, C.T.)ら、Eur. J. Biochem 181:87(1989)(この開示内容は、本明細書に引用される))。
【0131】
Hb Aのスペクトルと比較して、β鎖の末端バリン(E11)の共鳴は、特に、IHP存在下において、α鎖よりも、rHb変異体のスペクトルがより影響を受けていた(図18Aおよび図18B)。これらの結果から、IHP、温度、または本明細書に記載の変異によって誘導されるR構造からT構造への切り替えは、主にβ鎖で行われていることが判明した。
【0132】
適切に架橋したrHb(βN108Q)および/またはrHb(βL105W)は、当該分野における公知の方法により、臨床学的または獣医学的に使用することが許容可能な、ヘモグロビン由来の代用血液または治療用ヘモグロビンとして具体化することができる。(例えば、アール・エム・ウインスロー(R.M. Winslow)ら編、Blood Substitutes Physiological Basis of Efficacy(バークハウザー(Birkhauser)、ボストン、マサチューセッツ州)(1995)参照。(この開示内容は、本明細書に引用される))。本発明のヘモグロビンは、敗血性ショックの治療および透析中のアナフィラキシー・ショックの治療などにも有効に使用することができる。
【0133】
本発明を例示の目的で詳細に記述したが、このような詳細な説明は、単にそのためになされたものであり、本発明の請求の範囲により限定されることを除き、本発明の思想と範囲から逸脱することがない限り、本発明の当業者が適宜変更して実施することができるものである。
【図面の簡単な説明】
図1Aは、プラスミドpHE7009由来の、組み換えヒトヘモグロビン変異体rHb(βN108Q)のアルファ−およびベータ−グロビン遺伝子のcDNA配列(配列番号5)である。
図1Bは、プラスミドpHE7004由来の、組み換えヒトヘモグロビン変異体rHb(βL105W)のアルファ−およびベータ−グロビン遺伝子のcDNA配列(配列番号7)である。
図2Aおよび図2Bは、rHb(βN108Q)(ピークb)(図2A)およびrHb(βL105W)(ピークb)(図2B)のFPLCプロファイルを示す。
図3Aおよび図3Bは、酸素親和性(P50)又はヒル係数(nmax)とpHとの相関関係を示す。記号は、それぞれ、rHb(αL29F)(□);rHb(βN108Q)(△);rHb(αL29F、βN108Q)(×);rHb(βL105W)(▲);およびHb A(○)であり、いずれも29℃、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液条件下で測定した。酸素解離データは、0.1mM Hb条件下で測定した。
図4は、pH7.4、29℃、0.1Mリン酸緩衝液中、アロステリックエフェクター2,3−BPG(5mM)の存在下又は非存在下での、rHb(βN108Q);rHb(αL29F、βN108Q);rHb(βL105W);およびHb Aの酸素飽和度曲線を示す。タンパク質濃度は、ヘム0.1mMであった。
図5は、pH7.4、37℃、EDTA 5mMおよびDO 5%のプラズマライト緩衝液中の自動酸化を示す。Hb A(○);rHb(βN108Q)(▲);rHb(βL105W)(△);rHb(αV96W)(▽);rHb(αV96W、βN108K)(▼);rHb(αL29F、βN108Q)(◇);およびrHb(αL29F、αV96W、βN108K)(□)である。自動酸化工程は、300−MHz H−NMR、DSS基準により、−2.34ppmに観測されるオキシ−マーカーの消滅率により測定した。
図6Aおよび図6Bは、500−MHz H−NMRスペクトルを示す。それぞれpH7.0、29℃、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液条件下で、CO型におけるHb A;rHb(βN108Q);およびrHb(αL29F、βN108Q)につき、置換性プロトン共鳴(図6A)および環流シフトプロトン共鳴(図6B)を示す。
図7Aおよび図7Bは、300−MHz H−NMRスペクトルを示す。それぞれpH7.0、29℃、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液条件下で、CO型におけるrHb A;rHb(αL29F);rHb(βN108Q);およびrHb(αL29F、βN108Q)の近接ヒスチジンの第一鉄超微細シフトNδH共鳴ならびに超微細シフトで置換性プロトン共鳴を示す。
図8Aおよび図8Bは、500−MHzスペクトルを示す。それぞれpH7.0、500MHz、種々の温度(7℃、11℃、17℃、23℃、29℃)、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中、アロステリックエフェクター非存在下(図8A)または4mMイノシトール6リン酸(「IHP」)存在下(図8B)での、CO型rHb(βN108Q)の置換性プロトン共鳴を示す。
図9Aおよび図9Bは、500−MHz のスペクトルを示す。4mM IHP非存在下(図8A)または存在下(図9B)、pH7.0、種々の温度(7℃、11℃、17℃、23℃、29℃)、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中での、CO型rHb(αL29F、βN108Q)の置換性プロトン共鳴を示す。
図10Aおよび図10Bは、600−MHz H−NMRのスペクトルを示す。pH7.0、29℃、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中でのCO型Hb A;rHb(βL105W);rHb(αD94A、βL105W);およびrHb(αD94A)3〜6%水溶液の、置換性プロトン共鳴(図10A)または環流シフトプロトン共鳴(図10B)を示す。
図11Aおよび図11Bは、pH7.0、29℃、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中、90% HO/10% DO条件下での、CO型15N−ラベルrHb(βL105W)(図11A)またはHb A(図11B)5〜8%の水溶液の、600−MHz 2次元異種核相関(「HMQC」)スペクトルである。
図12A〜図12Dは、種々の時間:15秒(図12A);30秒(図12B);60秒(図12C)または100秒(図12D)に測定した、pH7.0、29℃、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中、90% HO/10% DO条件下での、CO型15N−ラベルrHb(βL105W)5%水溶液の、600−MHz 2次元 NOESY−HMQC (「NOESY」−核オーバーハウザー効果相関二次元NMR)スペクトルである。
図13A〜図13Cは、pH7.0、29℃、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中、デオキシ型Hb A;rHb(βL105W);rHb(αD94A、βL105W);またはrHb(αD94A)3〜6%水溶液の300−MHz H−NMRスペクトルである。図13Aは、300−MHzで測定した近接ヒスチジンの超微細シフトNδH共鳴;図13Bは、300−MHzで測定した超微細シフト置換性プロトン共鳴:図13Cは、300−MHzで測定した置換性プロトン共鳴を示す。rHb(αD94A、βL105W)およびrHb(αD94A)は、酸化工程で容易にmet−Hbを形成するので、met−Hbの形成を減少させるため、少量の亜ジチオン酸ナトリウムをこれらのNMRサンプルに添加した。
図14は、pH7.0、29℃、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中、90% HO/10% DO条件下における、デオキシ型15N−ラベルrHb(βL105W)5〜8%水溶液の600−MHz 2次元 HMQCスペクトルである。
図15A〜図15Dは、種々の時間:15秒(図15A);30秒(図15B);60秒(図15C)および100秒(図15D)に測定した、pH7.0、29℃、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中、90% HO/10% DO条件下における、デオキシ型15N−ラベルrHb(βL105W)5%水溶液の600−MHz 2次元 NOESY−HMQCスペクトルである。二つの交わるピーク間の実線は、残基内のε1と他の残基のδ1およびζ2との間におけるNOE効果を、β37Trpとβ105Trpについて示したものである。
図16A〜図16Bは、pH7.0、温度が11℃、20℃若しくは29℃、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中、2mM IHP非存在下(図16A)または存在下(図16B)で測定した、CO型Hb A;rHb(βL105W);rHb(αD94A、βL105W);またはrHb(αD94A)3〜6%水溶液の置換性プロトン共鳴600−MHz H−NMRスペクトルである。
図17A〜図17Dは、2mM IHP存在下または非存在下、pH7.0、各温度、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中、90% HO/10% DO条件下での、CO型15N−ラベルrHb(βL105W)5〜8%水溶液の600−MHz 2次元異種核相関(「HSQC」)スペクトルである。図17Aは、IHP非存在下、29℃;図17Bは、2mM IHP存在下、29℃;図17Cは、2mM IHP存在下、20℃;そして図17Dは、2mM IHP存在下、17℃のデータをそれぞれ示す。
図18A〜図18Bは、2mM IHP非存在下(図18A)または存在下(図18B)、pH7.0、各温度、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中での、CO型Hb A;rHb(βL105W);rHb(αD94A、βL105W);またはrHb(αD94A)3〜6%水溶液の環流シフトプロトン共鳴600−MHz H−NMRスペクトルである。
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