JP2004500122A - RNAポリメラーゼのσ因子結合領域とその使用 - Google Patents
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Abstract
本発明は、コアRNAポリメラーゼとσ因子からホロ酵素が形成されるのを妨げる抑制剤の同定方法を提供する。
Description
【0001】
関連する出願の相互参照
本出願は、35U.S.C.§119(e)のもとで2000年3月30日に出願されたアメリカ合衆国出願シリアル番号第60/193,116号の出願日の恩恵を主張する。
【0002】
政府が権利を有することの宣言
本発明は、少なくともその一部が、アメリカ合衆国政府の助成金によりなされた(国立保健研究所からの助成金GM28575)。政府は、この発明に対して所定の権利を持つことができよう。
【0003】
発明の背景
大腸菌RNAポリメラーゼは多数のサブユニットを有する大きな酵素であり、2つの形態で存在している。コア酵素は、βサブユニットと、β’サブユニットと、αサブユニット・ダイマーとで構成されており、プロセシングによる転写伸長の後、終結を行なう(Helmann他、1988年)。さまざまなσ因子のうちの1つがコアに結合するとホロ酵素が形成される(Burgess他、1969年)。σ因子は、酵素に対し、プロモーター特異的なDNA結合能力と転写開始能力を与える(Helmann他、1988年;Burgess他、1969年;Gross他、1996年;Gross他、1992年)。σ因子のうちで最初に報告され、特性が明らかにされたのは、大腸菌のσ70だった(Burgess他、1969年)。そのとき以来、多数のσ因子が真正細菌目の中から発見されている。その中には、大腸菌の他の6種類のσ因子が含まれる。それぞれのσ因子は、対応するコグネイト・ホロ酵素に命令し、そのσ因子によって特異的に認識されるDNA配列を含むプロモーターだけから転写を開始させる。したがって、それぞれのσ因子は、一般に、特定のプロモーター群から転写の開始を命令し、機能が互いに関連した遺伝子群を転写させる。この転写制御の一部は、個々のσ因子がコア酵素と競合することによって起こり、細菌における全体的な遺伝子調節は、主にこの転写制御による(Zhou他、1992年)。
【0004】
同定されるσ因子の数が増えるにつれ、σ因子同士がアミノ酸配列の似た領域をいくつか共有していることが明らかになってきた(Helmann他、1988年;Gribskov他、1986年;Lonetto他、1992年)。その間、研究者は、保存されている領域の機能に興味を持ち続けてきた(Waldburger他、1994年;Dombrowski他、1993年;Siegele他、1989年;Gardella他、1989年;Lesley他、1989年)。σ70の欠失分析により、このタンパク質の重複している保存領域2.1(残基番号361−390)が、コアとの結合に必要かつ十分であることが明らかにされた(Lesley他、1989年)。枯草菌のσEの相同領域における突然変異がコアとの結合に影響を与えることも見いだされた(Shuler他、1995年)。しかしσ32の他の保存領域ならびに非保存領域においてコアと結合する突然変異に関する最近の知見をもとに、コア酵素上にはσ因子の結合部位が多数あるという考え方が生まれている(Joo他、1997年;Zhou他、1992年;Joo他、1998年;Sharp他、1999年)。
【0005】
βサブユニットとβ’サブユニットのそれぞれは、真核生物のポリメラーゼの最大の2つのサブユニットと高い配列相同性を有する領域を含んでいる(Allison他、1985年;Sweetser他、1987年;Jokerst他、1989年)。これら保存領域のうちのいくつかは、相互作用ドメインとして機能している可能性がある。相互作用ドメインとは、タンパク質内にあって、他のタンパク質、DNA、RNA、リガンドのいずれかと相互作用するのに必要な2次構造および3次構造を形成するために独立に折り畳むことができるという条件を満たす最小の領域のことである。相互作用ドメインは、アミノ酸によって形成されていて結合相手と直接接触する実際の結合部位よりも大きい。セヴェリノフら(Severinov他、1992年、1995年、1996年)は、機能を有するRNAポリメラーゼを断片化したβサブユニットとβ’サブユニットから再構成することにより、βサブユニットとβ’サブユニットがドメインに似た特性を持つことを明らかにした。したがって、ポリメーラーぜの特性が生まれるのにサブユニットの全長は必要とせず、それよりも短いドメイン・モジュールがあればよい。
【0006】
βサブユニットまたはβ’サブユニットに欠失があると、コア酵素は形成できるが、ホロ酵素は形成できないという2つの観察結果が知られている。第1は、C末端の約200個のアミノ酸が失われたβサブユニット断片は、グリセロール勾配遠心分離により他のコア・サブユニットとともに移動するが、σ因子を含む分画中には決して見られなかったというものである(Glass他、1986年)。第2は、残基番号201−477のアミノ酸が失われたβ’サブユニット欠失突然変異体を含む再構成されたRNAポリメラーゼを用いて免疫沈降アッセイを行なったところ、コア・サブユニットは同じ分画中に見いだされたが、σ因子は見当たらなかったというものである(Luo他、1996年)。しかしβ’サブユニットの欠失が非特異的であるかどうか、例えば相互作用ドメインの正しい形成がβ’サブユニットの欠失によって妨げられるかどうかははっきりしなかった。
【0007】
βサブユニットのC末端とβ’サブユニットのN末端が乱れるとσ因子の結合に影響があるという考え方は、実験結果と整合性がある。その実験結果というのは、これら2つのサブユニットの端部は物理的に互いに近い位置にあるためフレキシブルなリンカーを通じて融合することが可能であり、その場合にも機能を有する酵素が形成されるというものである(Severinov他、1997年)。タンパク質−タンパク質フットプリンティングに関する最近のデータから、β’サブユニット内の似た1つの領域と、βサブユニット内の2つの新しい部位が、σ70と相互作用することが可能であることが明らかになった(Owens他、1998年)。オーエンスらは、β’サブユニットの残基番号228−461がσ因子と物理的に近い位置にあることを示したが、彼らは、β’サブユニットとσ因子の間に直接的な相互作用があるという結論は出さなかった。
【0008】
バージスら(1998年)は、インビトロでのファー−ウエスタン・アッセイおよび同時固定化(co−immobilization)アッセイに基づき、β’サブユニットの残基番号260〜309がσ因子と結合することを報告している。しかし無細胞系で結合させた結果によれば、インビトロで結合に関与する領域がインビボでも結合に関与することは明らかでない。例えば、β’サブユニットのこの領域(例えば疎水性領域)は天然の構造では隠れていて、インビボでは結合に関与しない可能性がある。構造分析プログラムによれば、β’サブユニットの残基番号260〜309は、ランダム・コイルによって結合した2つのαヘリックスを有すること、また、これら2つのヘリックスは両親媒性であり、7個からなる繰り返しモチーフに基づいたコイルドコイルを形成している可能性のあることが示唆される(Chao他、1998年;Cohen他、1986年;Lupas他、1991年)。中でも、コイルドコイルのモチーフ内にあるaおよびdという特定の位置は疎水性であるため、天然のβ’サブユニットでは隠れている可能性がある。
【0009】
そのため、必要とされているのは、コアRNAポリメラーゼのサブユニット内にあって、インビボでσ因子と相互作用する領域を同定することである。また、σ因子がコアRNAポリメラーゼに結合するのを妨げる特異的な抑制剤の同定方法も必要とされている。
【0010】
発明の要約
本発明は、RNAポリメラーゼの単離・精製されたβ’サブユニットまたはその一部(すなわち断片)のうち、インビボでσ因子と特異的に結合するβ’サブユニットまたはその断片を提供する。この断片は、β’サブユニットを構成する残基の少なくとも39個を含んでいることが好ましく、より好ましいのは少なくとも44個を含んでいることであり、さらに好ましいのは少なくとも49個含んでいることである。しかし、インビボでσ因子と特異的に結合するこれよりも小さな断片も可能である。また、β’サブユニットの単離・精製されたこの断片は、残基番号270〜309を含んでいることが好ましく、さらに好ましいのは残基番号260〜309を含んでいることである。以下に説明するように、RNAポリメラーゼのβ’サブユニット内にあってσ因子と直接相互作用する領域(相互作用ドメイン)を同定した。β’サブユニット内にあってσ因子とインビトロで相互作用する相互作用ドメインは、ファー−ウエスタン・ブロット分析と同時固定化アッセイにより同定した。ファー−ウエスタン・ブロット分析は、1つのタンパク質上で、別のタンパク質と結合するのに必要なドメインの位置を特定する一般的な方法の1つである。
【0011】
この明細書で用いる“相互作用ドメイン”は、タンパク質内にあって、他のタンパク質、DNA、RNA、リガンドのいずれかと相互作用するのに必要な2次構造および3次構造を形成するために独立に折り畳むことができるという条件を満たす最小の領域のことを意味する。β’サブユニット上でσ因子が結合する領域は、σ70を始めとする大腸菌のσ因子群、T4ファージのσgp55、枯草菌のσAなど、さまざまなσ因子と相互作用することがわかった。
【0012】
やはり以下に説明することだが、β’サブユニットの残基番号260〜309に位置することが予測されるコイルドコイル内に点突然変異を有するタンパク質を調製した。これら突然変異体のうちのいくつかは、インビトロでσ70と結合できなかった。これら突然変異体のうち、3つ(R275Q、E295K、A302Dであり、これらは、コイルドコイルとなることが予測されるβ’260−309のe残基とg残基の位置において電荷が変化した突然変異体である)は、突然変異したβ’サブユニットだけがβ’サブユニット源であるインビボ・アッセイでまったく成長できなかった。すべての突然変異体をコア酵素に組み込むことができたが、R275Q、E295K、A302Dは、Eσ70−ホロ酵素を形成できなかった。突然変異体のうちのいくつかは、マイナーなさまざまなσ因子とホロ酵素を形成することがやはりできなかった。いくつかの突然変異は、あるアッセイでは機能しなかったが、別のアッセイでは機能した。これは、β’260−309の部位における結合がないことを、他の部位が結合することで補償した可能性のあることを示唆している。したがって、これらの結果は、β’サブユニットの残基番号260〜309がインビボでσ因子と特異的に結合すること、また、この領域における突然変異が、σ70その他のマイナーなσ因子とコアの結合を顕著に減らす可能性のあることを示していた。最近発表された好熱菌テルムス・アクアティクス(Thermus aquaticus)のコアRNAポリメラーゼの結晶構造(Zhang他、1999年)によれば、大腸菌のβ’260−309と相同な領域は、コイルドコイルを形成している。この明細書で説明するβ’サブユニットの突然変異をこのコイルドコイルと照らし合わせてみると、最も欠陥のある突然変異はヘリックスの一方の面に位置していることがわかる。これは、σ70との接触面がたいていの場合にどこになるかを示唆している可能性がある。RNAポリメラーゼは多数のサブユニットを有する大きな複合体(約3300個のアミノ酸)であり、RNAポリメラーゼのβ’サブユニットは大きなタンパク質(例えば大腸菌のβ’サブユニットは約155,000ダルトン)であるため、コアRNAポリメラーゼ内の領域のうちでσ因子とインビボで特異的に相互作用する領域を同定することは、非常に意味がある。というのも、その領域が、薬剤(例えばコアとσ因子の相互作用を特異的に妨げる薬剤)を発見するための特別な標的となるからである。
【0013】
そこで本発明は、σ因子が、コアRNAポリメラーゼ、そのサブユニット、そのサブユニットの一部のいずれかと結合するのを抑制または阻止する薬剤の同定方法を提供する。この方法は、薬剤をコアRNAポリメラーゼ(例えば単離されたコアRNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼの単離されたサブユニット、そのサブユニットの一部)に接触させて複合体を形成する操作を含んでいる。この明細書で用いる“単離および/または精製された”は、タンパク質または生体分子の複合体(例えばコアRNAポリメラーゼ)をインビトロで調製し、単離および/または精製して、インビボの物質と会合しないようにすること、またはインビトロの物質から実質的に精製された状態にすることを意味する。サブユニットの上記一部は、β’サブユニットを構成する残基の少なくとも39個を含んでいることが好ましく、より好ましいのは少なくとも44個を含んでいることであり、さらに好ましいのは少なくとも49個を含んでいることである。次に、複合体をσ因子またはその一部に接触させ、σ因子がコアRNAポリメラーゼ、またはRNAポリメラーゼの単離されたサブユニット、またはそのサブユニットの一部と結合するのを薬剤が抑制または阻止するかどうかを確認する。σ因子の一部は、σ因子を構成する残基の少なくとも30個、好ましくは少なくとも55個、より好ましくは少なくとも100個、さらに好ましくは少なくとも140個を含んでいる。しかしインビボでβ’サブユニットと特異的に結合するこれよりも小さな断片も可能である。薬剤は、コアRNAポリメラーゼ、そのサブユニットおよび/またはその一部、σ因子またはその一部と同時に接触させることもできる。σ因子は、同種σ因子が可能である。例えばコアRNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼの単離されたサブユニットが大腸菌のものであるならば、σ因子は大腸菌のゲノムによってコードされたσ因子にする。また、σ因子を異種σ因子にすることもできる。それは例えば、ファージによってコードされたσ因子である。
【0014】
薬剤を、単離されたσ因子またはその一部に接触させて複合体を形成する操作を含む方法がさらに提供される。この複合体は、次に、単離されたコアRNAポリメラーゼ、またはRNAポリメラーゼの単離されたサブユニット、またはそのサブユニットの一部と接触させ、σ因子がコアRNAポリメラーゼ、またはRNAポリメラーゼの単離されたサブユニット、またはそのサブユニットの一部と結合するのを薬剤が抑制または阻止するかどうかを確認する。
【0015】
細菌における新しい転写抑制剤を見つけるため、蛍光標識したタンパク質σ70とβ’サブユニットの断片(残基番号100〜309)をもとにして、単色ルミネッセンス共鳴エネルギー移動(LRET)に基づいたアッセイを開発した。アッセイを行なうため、LRETのドナーとしてのユーロピウム・キレート(Eu(III)−DTPA−AMCA−マレイミド)でσ70を標識し、アクセプターとしてのIC5−マレイミドでβ’サブユニットを標識した。標識したタンパク質を用いて時間分解された蛍光を測定するにあたってLRETアクセプター(IC5で標識したβ’サブユニットの断片)の発光を観測することにより、β’サブユニットに対するσ70の結合を調べることができた。アクセプターの発光は、色素が互いに近づく(<75オングストローム)ときにLRETドナー(DTPA−AMCA−Eu−複合体で標識したσ70)からエネルギーが移動することによって増感される。IC5からの蛍光はもともと寿命が数ナノ秒と短いため、50マイクロ秒後に得られる残留蛍光はLRETだけによるものであり、そのためバックグラウンドの信号が最低になり、したがって信号対雑音比がよくなる。このアッセイを利用して、環境(溶媒、変性剤、塩)の影響を測定した。またこのアッセイは、σ70がβ’サブユニットの断片に結合するのを妨げる可能性のある抑制剤候補の効果を測定するのに用いることもできる。このようなアッセイは、ハイスループット・スクリーニングに特に適している。
【0016】
コアRNAポリメラーゼのサブユニット上でσ因子と特異的に結合する領域を同定する方法も提供される。この方法は、コアRNAポリメラーゼ(例えば単離されたコアRNAポリメラーゼ、またはRNAポリメラーゼの単離されたサブユニット、またはそのサブユニットの一部)をσ因子またはその一部に接触させ、複合体を形成する操作を含んでいる。コアRNAポリメラーゼ、または単離されたサブユニット、またはそのサブユニットの一部は、置換されたアミノ酸を少なくとも1つ含んでいる。次に、この複合体の形成を検出または確認し、例えば、置換されたアミノ酸を含まないコアRNAポリメラーゼ、または単離されたサブユニット、またはそのサブユニットの一部と、σ因子またはその一部との間の複合体形成と比較する。
【0017】
本発明はさらに、コアRNAポリメラーゼのβ’サブユニットに対するσ因子の結合を抑制または阻止する薬剤の同定方法も提供する。この方法は、原核細胞を薬剤と接触させ、この細胞内でこの薬剤が、RNAポリメラーゼのβ’サブユニットに対するσ因子の結合を抑制または阻止しているかどうかを検出または確認する操作を含んでいる。細胞としては、組み換え細胞、すなわち、外部から例えば形質転換または形質導入によって核酸を導入することによって増強した細胞が可能である。したがって本発明により、RNAポリメラーゼのβ’サブユニットをコードしている組み換えDNAを含む宿主細胞も提供される。
【0018】
本発明はさらに、本発明の方法によって同定される薬剤、中でも病気と関係する原核細胞(例えば『ズィンサーの微生物学』(第17版、アップルトン−センチュリー−クロフツ社、ニューヨーク、1980年)を参照のこと)の成長を抑制する薬剤も提供する。
【0019】
発明の詳細な説明
細菌のRNAポリメラーゼは、細胞遺伝子からRNAを合成しているため、遺伝子の発現調節において中心的な役割を果たす。コアRNAポリメラーゼは、RNAを合成できるが、DNAをプロモーター部位に特異的に結合させることはできない。DNAを特異的に結合させて遺伝子の転写を開始させるため、σ因子をコアに結合させてホロ酵素を形成する。σ因子がコアRNAポリメラーゼと結合するのを阻止する薬剤は、細胞の成長を阻止することになろう。インビトロでの方法(実施例2と、Burgess他、1998年)により、σ因子が結合するのに重要な、コアRNAポリメラーゼのβ’サブユニットに含まれるアミノ酸49個からなる領域が同定された。この領域は、細菌のポリメラーゼにおいて非常によく保存されている。しかしこの領域がインビボでσ因子の結合にとって重要であることを明確にするには、突然変異を用いた研究が必要であった(実施例3)。インビボでσ因子が結合するコアRNAポリメラーゼの領域が同定されると、その結合を特異的に妨げる多彩な抗生物質(例えばペプチドその他の小分子)の同定が非常に容易になる。
本発明を以下の実施例に基づいてさらに説明するが、実施例がこれだけに限定されるわけではない。
【0020】
実施例 1
ファー − ウエスタン・ブロット・マッピング
SDSゲルから物質をニトロセルロース膜に移動させる(ブロッティング)というのが、広く用いられている方法になっている。この方法は、ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動が高分解能であることを利用できるという利点だけでなく、ブロットされた標的物質にさまざまな相互作用プローブを用いてアクセスできるという利点を有する。ウエスタン・ブロット法では、一般に抗体を用いて調べたり検出したりするが、サウスウエスタン・ブロット法では、標識したDNAを用いて調べる。ファー−ウエスタン・ブロット法では、抗体の代わりに別のタンパク質を用い、特異的なタンパク質−タンパク質相互作用を利用して調べる。この方法では、ブロットされた標的タンパク質の断片の少なくともある領域(相互作用ドメイン)が膜上で再度折り畳まれ、相互作用部位を含む三次元構造を形成できる必要がある。この方法は、多数のサブユニットからなる複合体のどのサブユニットがプローブのタンパク質との相互作用に関与するかを明らかにする上で、特に有効である。
【0021】
整列断片ラダー・ファー−ウエスタン分析は、タグ(例えばヘキサヒスチジン・タグ(His6−タグ))をいずれかの末端部に有するハイブリッド・タンパク質を構成するのが容易であるという利点を活用している。ヘキサヒスチジン・タグが付いたタンパク質は、たとえ変性剤が存在していても、Niキレート・カラムと結合する。この方法は、タンパク質−タンパク質相互作用に関するあらゆる研究に適用できる可能性がある。ヘキサヒスチジン・タグを用いたこの方法の原理を図1に示す。
【0022】
整列断片ラダー・ファー−ウエスタン分析には以下の操作が含まれる。
A.興味の対象となるタンパク質に対してヘキサヒスチジン・タグがN末端またはC末端に融合したものをクローニングして精製する操作;
B.ヘキサヒスチジン・タグが付いたこのタンパク質の一部を化学的に切断することによって、または酵素を用いて切断することによって一連の断片を得る操作;
C.ヘキサヒスチジン・タグが付いた断片を変性条件下にてNi−キレート・アフィニティ・カラムで精製し、どれにもヘキサヒスチジン・タグが付いた断片群を得る操作;
【0023】
D.SDS−ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動によりこれら断片をサイズに基づいて分画し、整列断片ラダーを形成する操作;
E.タンパク質の断片群をゲルからニトロセルロース膜に移し、タンパク質のこれら断片群が膜上で再び折り畳まれるようにする操作;
F.32Pで標識したタンパク質プローブを調製する操作(例えば心筋プロテインキナーゼ(HMK)認識部位タグを付けたタンパク質に、γ32P−ATPと心筋プロテインキナーゼで標識する);
G.膜をこの標識したプローブで調べ、洗浄し、検出を行なう操作;
H.ファー−ウエスタン複合体を確認し、その特性を明らかにする操作。
【0024】
A .ヘキサヒスチジン・タグが付いたタンパク質のクローニングと精製
標準的なクローニング法を利用して興味の対象であるタンパク質を過剰発現ベクターに組み込み、このタンパク質のN末端またはC末端にヘキサヒスチジン・タグを付ける。さまざまなベクターが利用できる。例えばpETベクター(Studier他、1990年)はT7ポリメラーゼをベースとした発現系であり、ノヴァジェン社(マディソン、ウィスコンシン州)から入手できる。イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を用いて適切な過剰発現菌株を誘導し、細胞を溶解させ、封入体を調製する(ArthurとBurgess、1998年)。再分散した封入体は1mgずつのアリコートに分け、使用するときまで−70℃に凍結する。
【0025】
B .タンパク質の化学的切断および酵素による切断
過剰に産生されたヘキサヒスチジン・タグ付き標的タンパク質が化学的に切断される部位と酵素により切断される部位を予測するには、タンパク質の切断部位を予測するコンピュータ・プログラムに標的タンパク質のアミノ酸配列を入力するとよい(例えばそのようなプログラムとして、マックベクターまたはDNAスターというパッケージがある)。予測される切断パターンに基づき、1つ以上の切断プロトコルを選択する。大腸菌RNAポリメラーゼのβ’サブユニットにおいて2種類の化学的切断剤に対して予測される切断部位の一例を図2Aに示してある。
【0026】
切断プロトコル
以下に説明する条件は一例であり、切断が特に容易だったり困難だったりするタンパク質に対しては、切断時間や切断剤の量を変えることによって条件をそのタンパク質に合うようにすることができる。切断条件は、断片の分布ができるだけ均一になるような条件であることが好ましい。これは、切断されないポリペプチドが10〜30%残る反応であることがしばしばある。
【0027】
ヨードソ安息香酸による切断( Fontana 他、 1993 年)(トリプトファンの後ろで切断)
1)タンパク質1mgを8MのGuHCl 200μlに溶かす。
2)100%酢酸を800μl、p−クレゾールを3μl、ヨードソ安息香酸(IBA;シグマ・カタログ#I=8000)を2mg添加する。
3)室温で20時間にわたってインキュベートする。
4)急激に真空にして乾燥させる(約1時間)。
5)1mlの尿素緩衝液(緩衝液B+8Mの尿素;緩衝液Bは、20mMのトリス−HCl、pH7.9;500mMのNaCl;5mMのイミダゾール(フィッシャー・カタログ#BP305−50);0.1%(v/v)のトゥイーン20;10%(v/v)のグリセロール)に再び分散させる。
6)Ni−カラムに充填する。
【0028】
2− ニトロ −5− チオシアノ安息香酸( NTCB )による切断( Jacobson 他、 1973 年)(システインの前で切断)
1)タンパク質1mgを、グリセロールなしの尿素緩衝液1mlに溶かす。
2)作ったばかりのジチオトレイトール(DTT)(1Mのストック)を、モル数が(タンパク質中のシステインと比べて)5倍過剰になるようにして添加する。
3)37℃で15分間インキュベートし、二硫化物を還元する。
4)(全システインと比べて)5倍過剰な量のNTCB(シグマ・カタログ#N=7009)を添加し、NaOHを用いてpHを9.5に調節する。
5)室温で2〜6時間にわたってインキュベートして部分的に切断するか、あるいは24〜30時間にわたってインキュベートして完全に切断する。
6)尿素緩衝液中に1:10の割合になるよう希釈し、Ni−カラムに充填する。
【0029】
ヒドロキシルアミンによる切断( Bornstein と Bolian 、 1970 年)(アスパラギンとグリシンの間で切断)
1)タンパク質1mgを尿素緩衝液1mlに溶かす。
2)37℃で15分間にわたってインキュベートする。
3)タンパク質を溶かした尿素500μlにヒドロキシルアミン緩衝液500μl(400mMのCHES緩衝液、pH9.5;4Mのヒドロキシルアミン−ヒドロクロリド(アルドリッチ・カタログ番号15,941−7);10MのNaOHを用いてpHを9.5に調節する)を添加し、42℃で2時間にわたってインキュベートする。
4)2−メルカプトエタノール7μlを添加し(0.1Mまで)、混合し、37℃で15分間にわたってインキュベートする。
5)尿素緩衝液中に1:10になるように希釈し、Ni−カラムに充填する。
【0030】
サーモリシンによる切断( Rao 他、 1996 年)(疎水性アミノ酸の前で切断)
1)1mgの封入体タンパク質を100μlの尿素緩衝液の中に再び分散させる。
2)37℃で15分間にわたってインキュベートする。
3)サーモリシン(バチルス・テルモプロテオリティクスからのもの、ベーリンガー・マンハイム社)をタンパク質に添加する:プロテアーゼの比は、4,000:1、8,000:1、16,000:1(w/w)。
4)室温で30分間消化させる。
5)Ni−カラムに充填する。
【0031】
トリプシンによる切断( Rao 他、 1996 年)(アルギニンおよびリシンの後ろで切断)
1)1mgの封入体タンパク質を1mlの尿素緩衝液の中に再び分散させる。
2)37℃で15分間にわたってインキュベートする。
3)緩衝液Bを同じ容積添加することにより希釈して4Mの尿素にする。
4)トリプシンをタンパク質に添加する(TPCK処理したもの、ワーシントン・バイオケミカルズ社):プロテアーゼの比は、4,000:1、8,000:1、16,000:1(w/w)。
5)室温で30分間消化させる。
6)Ni−カラムに充填する。
【0032】
化学的切断によるラダーは、断片の正確なサイズを決定するのに非常に役立つ。というのも、切断がどこで起こるかが正確にわかるからである。多くのタンパク質がSDSポリアクリルアミド・ゲル電気泳動の際に異常な移動をするため、これは特に重要である。
【0033】
たいていの化学的切断剤はポリペプチド鎖1本につき数箇所の切断しか行なわないため、化学的切断によって生まれる整列断片ラダーは、ラダーにほんのいくつかの“横棒”しか持っていない。したがって、1つ以上のプロテアーゼを用いて部分的切断を行なうことによってより多くの横棒を有するラダーを生み出すと、相互作用ドメインをより高精度にマッピングすることができる。わずかな切断が起こる反応、中程度の量の切断が起こる反応、多数の切断が起こる反応を、所定のプロテアーゼを用いて行なわせることができる。その結果得られる切断反応物を混合する前に、または混合した後に、Ni−キレート・カラムで精製する。これは、それぞれのサイズの断片を同じくらいの量含むラダーを得るのに役立つ。 部分的切断法ではよいラダーを得るのが難しいことが時々ある。その理由として、化学的切断部位の分布が少なかったり不均一だったりすること、またはタンパク質が加水分解に対して比較的抵抗力を持つことが挙げられる。これらのケースでは、端部が切断された個々の断片をクローニングすることによってラダーを作ることもできる。
【0034】
C . Ni− キレート・カラムによるヘキサヒスチジン・タグ付き断片の精製
手順
1)Ni2+−NTA樹脂(Ni2+−NTAアガロース、キアジェン社)のスラリーをバイオラド・ミニ・カラムに充填し、300μlのカラム床を作る。
2)5カラム分の容積のミリキュー(MilliQ)水を用いて洗浄する。カラムに関わるすべての操作は室温で行なう。
3)5カラム分の容積の尿素緩衝液を用いて洗浄する。
4)切断反応物(上の説明を参照のこと)を充填し、ドレーンが樹脂の頂部に来るようにする。
5)10カラム分の容積の尿素緩衝液を用いて洗浄し、ヒスチジン・タグの付いていない断片を除去する。
6)10カラム分の容積の緩衝液Bを用いて洗浄し、尿素を除去する。
7)200mMのイミダゾールを含む緩衝液Bを500μl用いて溶離させる。
8)SDS−PAGEにより切断の程度を調べる。
9)断片を50μlのアリコートにして−20℃で凍らせ、保存する。
【0035】
Ni−キレート・カラムを用いて精製すると、ヒスチジン・タグ付きのタンパク質または断片は、8Mの尿素または6MのGuHClの存在下でさえ、Ni2+−NTAカラムと結合できる。変性剤を含む溶液を用いて洗浄すると、疎水性タンパク質断片同士の相互作用が妨げられ、ヒスチジン・タグ付きの断片だけが精製されることが保証される。
【0036】
整列した断片群が得られると、その断片群は、−20℃または−70℃で1年以上の期間にわたって保存することができる。そしてモノクローナル抗体または相互作用するタンパク質との結合をマッピングする必要があるとき、その断片群を使用する。
【0037】
D .ゲル電気泳動
標準的なSDSポリアクリルアミド・ゲル電気泳動の手順を利用する。着色したMWマーカー(例えば、ノヴェックス・マルチマーク・マルチカラー基準)は、ニトロセルロースへの移動が効果的に行なわれたかどうかを確認することと、いくつかの異なる放射性プローブまたは抗体で調べる場合にニトロセルロース・フィルタを切断することに役立つ可能性がある。8〜16%の勾配のポリアクリルアミドをあらかじめ注いだトリス−グリシン・ゲル(ノヴェックス社)は、大きなポリペプチド(例えば、大腸菌RNAポリメラーゼのβ’サブユニット)と、それよりも小さな断片(例えば部分的タンパク質分解による断片)の両方を同じゲル上で見えるようにするのに役立つ。
【0038】
E . SDS ゲルからニトロセルロース膜へのタンパク質断片の移動
SDSゲル電気泳動によって単離されたタンパク質またはペプチドは、以下に説明するようにして電気泳動によってニトロセルロース膜に移動させた後、ウエスタン分析またはファー−ウエスタン分析を行なう。
手順
1)1枚のニトロセルロースと2枚のホワットマン(Whatman)紙(3MMクロマトグラフィ紙、フィッシャー・カタログ#05−714−5)を、ゲルよりもわずかに大きなサイズに切断する。
2)スポンジ1個とホワットマン紙1枚を、タウビン緩衝液(TB)(Towbin他、1979年)(2l〜400mlのメタノール(最終濃度20%)に対し;500mlの4×トリス−グリシン(1×最終;1lの4×トリス−グリシン、pH8.5に対し、57.6gのグリシンと12.0gのトリス塩基);10mlの10%SDS(最終濃度0.05%))であらかじめ濡らしておく。
3)ホワットマン紙をスポンジの上に置き、次いでゲルをホワットマン紙の上に置く。
4)ニトロセルロース(シュライヒャー&シュエル・プロトラン0.05μm、カタログ#00870)を濡らしてゲルの上に置き(泡がゲルとニトロセルロースの間に入らないようにする)、その上に濡らしたホワットマン紙1枚とスポンジ2個を置く。
【0039】
5)得られたサンドイッチ構造物をかごの中に入れ、そのかごを移動ボックスの中に入れる。そのとき、ニトロセルロース膜をプラス端子の方向に向けておく。
6)移動ボックスにTBを満たし、3時間にわたって200mAの定電流を流す(約60ボルト)。
7)ニトロセルロース膜を取り出し、タンパク質の側を上にしてペトリ皿の中に置き、ブロットー(Blotto:TBST中に2%(w/v)のカーネーション脱脂粉乳;TBST1lに対し、1Mのトリス−HClを10ml、pH7.9(最終濃度10mM);4MのNaClを37.5ml(最終濃度150mM);トゥイーン20を1ml(最終濃度0.1%))を10〜25ml添加してブロットが覆われるようにし、室温で振動させながら1〜2時間にわたって、または4℃で一晩にわたって膜の反応を停止させる。
【0040】
8)ウエスタン分析を行なうため:室温で約30秒間にわたってTBSTで1回洗浄し;1:1000に希釈した一次抗体を含む10mlのブロットーの中で室温にて1時間にわたってインキュベートし;10mlのTBSTで5分間ずつ3回にわたって洗浄し;セイヨウワサビのペルオキシダーゼ(HP)またはアルカリホスファターゼ(AP)と結合した二次抗体を1:1000に希釈したものを含む10mlのブロットーの中で室温にて1時間にわたってインキュベートし;10mlのTBSTで5分間ずつ3回にわたって洗浄し;適切な比色剤または化学発光検出剤を用いて現像する。
9)ファー−ウエスタン分析を行なうため:以下のセクションGに記載した操作を行なう。
【0041】
F .ファー − ウエスタン分析のための、プロテインキナーゼ A を用いた 32 P 標識タンパク質
クローニングされたタンパク質の端部に、心筋からのcAMP依存性プロテインキナーゼA(RRASV)の触媒サブユニットに対する5アミノ酸認識部位が結合している場合には、このタンパク質は、γ32P−ATPおよびプロテインキナーゼAと反応させることにより容易に標識することができる(Li他、1989年;Blanar他、1992年;Destka他、1999年)。pETベクターであるpET−28b(+)(ノヴァジェン社)をベースとしたクローニング・ベクターを調製した。このpET−28b(+)はHMK認識部位を含んでおり、クローニングされたタンパク質のN末端に25個のアミノ酸を付加する(deArrudaとBurgess、1996年)。このクローニング・ベクターは、ノヴァジェン社からpET−33b(+)として入手できる。HMK部位がタグとして付いたタンパク質プローブを作るため、別のベクターもいくつか用意した。これらベクターは、プローブ用タンパク質のN末端にあるメチオニンをN末端のHMK−ヘキサヒスチジン・タグと融合させて抗生物質耐性マーカーであるkanRとampRのいずれかを選択するNdeIクローニング部位またはNcoIクローニング部位を含んでいる。これらベクターに関するデータを以下の表1にまとめておく。
【0042】
【表1】
【0043】
HMK 認識部位がタグとして付いたプローブ用タンパク質の調製
上に説明したベクターのうちの適切な1つのベクターの中にクローニングして入れたプローブ用タンパク質を含む大腸菌株BL21(DE3)(Studier他、1990年)を培養し、誘導し、アーサーとバージス(1998年)が記載している方法で封入体を精製した。洗浄した封入体は、GuHClまたは洗浄剤であるナトリウム−N−ラウロイル・サルコシン(サルコシル)を用いて溶解させ、バージス(1996年)とマーシャク他(1996年)が記載しているようにして再び折り畳ませることができる。洗浄した封入体は、8Mの尿素を用いて溶解させ、Ni−キレート・カラムでアフィニティ・クロマトグラフィによって精製する前または精製した後に、再び折り畳ませることがしばしばある(Burgess他、1998年)。
【0044】
手順
1)1.5mlのマイクロ遠心管に、5μlの10×プロテインキナーゼA(PKA)緩衝液(ノヴァジェン社のPkaseキット、カタログ#70510−3)(200mMのトリス−HCl、pH8.0;1.5MのNaCl;200mMのMgCl2;100μMのATP)を入れる。
2)標識するタンパク質(50%グリコール中に保存することがしばしばある)を20〜40μg(約500ピコモル)添加し、ミリキュー水を用いて全容積を43μlにする。グリセロールの最終濃度は20〜25%となっている必要がある。
3)5μlのPKA(ノヴァジェン社;20U/μlのストック)と2μlのγ32P−ATP(NEN/デュポン社、600Ci/ミリモル、5mCi/33μl;300μCi=6.6×108dmp)を添加し、混合し、室温で60分間にわたってインキュベートする。
4)50μlの1×標識用緩衝液(1×LB)(25%のグリセロール;40mMのトリス−HCl、pH7.4;100mMのNaCl;12mMのMgCl2;0.1mMのDTT(新鮮なものを添加))を添加して反応させ、得られた反応物を希釈したもの100μlを、洗浄したスピン・カラム(バイオラド社のバイオスピンP6)に添加し、1000×gで4分間にわたって回転させる。使用する直前に、カラムを撹拌して樹脂を再び分散させ、カラムの底を取り除いてカラムから排水されるようにする。1mlの1×LBを添加し、それが重力によって流れ出していくようにする。ベックマンTJ−6遠心分離機(TH−4スウィンギング・バケット・ローター)の中で、50mlの円錐形プラスチック管を1000×gで室温にて2分間にわたって回転させ、流出液を捨てる。
5)流出液をマイクロ遠心管に回収する。
6)標識したプローブを−20℃に凍らせ、使用するときまで保存する。30日間保存しておくことができる。
【0045】
標識の約30〜50%がタンパク質に組み込まれ、スピン・カラムでの処理後は標識の約90%がタンパク質の中にある。50μlの反応物中でHMK−σ70を35μg標識するという典型例では、約1〜4×106cpm/μgとなる。上記のプロトコルにより、約100μlの材料が得られる。これだけの量あると、10〜20のファー−ウエスタン・ブロットを調べることができる。また、γ33P−ATPで標識することもできる(deArrudaとBurgess、1996年)。こうすると比活性は低下し、したがって検出の感度も低下するが、標識したプローブの半減期がより長くなり、その結果、画像にしたときにより鋭いバンドが得られる。
【0046】
G . 32 P で標識したタンパク質を用いたファー − ウエスタン・ブロットの検査
手順
1)タンパク質または断片を、ゲルまたはスポット状タンパク質からニトロセルロース膜に移動させる。
2)プローブ用緩衝液(ProB;最終的に、ミリキュー水の中に、20mMのHepes、pH7.2;200mMのKCl;2mMのMgCl2−6H2O;0.1mMのZnCl2;1mMのDTT;0.5%のトゥイーン20;1%の脱脂粉乳;10%のグリセロールを含む)の中で振動させながら室温にて2時間(あるいは4℃で一晩)にわたってこの膜の反応を停止させる。
3)標識したプローブ(32Pで標識したタンパク質)の溶液5〜10μlを15mlのProBに添加し、膜とともに室温で振動させながら2時間にわたってインキュベートする。
4)膜を10mlのProBを用いて3分間ずつ3回にわたって洗浄する。
5)膜を空気中で乾燥させ(約15分間)、サランラップで包み、フィルムまたはフォスファーイメージャー・スクリーン(モレキュラー・ダイナミックス社)に曝露する。
【0047】
N末端とC末端の両方にヘキサヒスチジン・タグを有する標的タンパク質の整列断片ラダーを生成させることができる場合には、この方法のほうが強力である。このようにして、両側から相互作用ドメインをマッピングすることができる。図2Bには、予想される断片パターンと、クーマシー・ブルー染色したSDSゲルが示してある。整列断片ラダーについてのこのSDSゲルは、大腸菌RNAポリメラーゼのβ’サブユニットにおいてN末端(N)とC末端(C)の両方にヘキサヒスチジン・タグを付けたものをヒドロキシルアミン(NH2OH)またはNTCBを用いて切断して得られた。図2Bの右側には、同じゲルを32Pで標識したσ70で調べたファー−ウエスタン分析の結果を示してある(実施例2を参照のこと)。
【0048】
整列断片ラダー・ファー−ウエスタン分析では、ブロットされた断片バンド中の分子の少なくとも一部が、三次元の相互作用面または相互作用部位を作り出すのに必要なポリペプチドの少なくとも一部(相互作用ドメイン)を再び折り畳めるようになっていなくてはならない。ブロットされた標的タンパク質を変性させた後に再生させて調べると、折り畳みが増加し、したがってファー−ウエスタン分析の感度が向上することが、多数の論文に報告されている(LiebermanとBerk、1991年;Vinson他、1988年)。おそらく、ブロットされたタンパク質とともに移動したSDSが(プローブ用緩衝液中にはるかに過剰に存在しているカゼインと結合することによって)除去され、標的タンパク質が膜上で少なくとも部分的に再び折り畳めるようになるのであろう。
【0049】
ニトロセルロースの孔のサイズは0.05μmよりも大きくすることができるが、0.05μmのほうが小さなタンパク質断片をよりよく保持できる。
標識した何種類かのプローブは、着色したMWマーカーに非特異的に結合する。それは、ヘキサヒスチジン・タグまたはHMKタグと、マーカーに付着している色素との間の相互作用による可能性が最も大きい。しかしこれは、得られたデータの方向づけをするのに有効な標識付きマーカー群となる。
【0050】
H .ファー − ウエスタン複合体の確認と特性決定
有望なシグナルがファー−ウエスタン分析で検出された場合、観測された結合が、問題にしている特異的な相互作用によるものであり、単なる非特異的なイオン性または疎水性の相互作用ではないことを示す追加の証拠が必要となろう。そのための方法として挙げられるのは、同時固定化アッセイ(実施例2;ArthurとBurgess、1998年;Burgess他、1998年)、相互作用ドメインの位置指定突然変異誘発(実施例3)などである。同時固定化アッセイは、予想される相互作用ドメインをクローニングしてベクターに入れ(このベクターが、この相互作用ドメインをヘキサヒスチジン・タグと結合させる)、得られたタンパク質をNi−キレート・カラムに移す操作を含んでいる。固定化された標的ドメインに(ヘキサヒスチジン・タグのない)プローブが結合し、この標的ドメインがイミダゾールで溶離するときにこのプローブがカラムから溶離する場合には、2つのタンパク質が相互作用していると推定することができる。より小さな標的ドメインを同時固定化アッセイで観測することができる。こうしたことが可能なのは、おそらく、再び折り畳まれた標的ドメインが端部のヘキサヒスチジン・タグの相互作用を通じてNi−キレート・カラムと結合することで、この標的ドメインが最小の機能的相互作用ドメインとなりうるからであろう。これとは逆に、ブロットされた断片は、タンパク質と膜の間の少なくとも1つ以上の接点によって結合していなくてはならない。そのためには、膜上で最小の相互作用ドメインが再び折り畳まれるのを妨げることなく結合できるよう、余分なアミノ酸が存在している必要がある。
【0051】
有意な非特異的相互作用を排除するには、標識付きプローブを用いて細菌抽出液中の多数のタンパク質(例えばBSA、または細菌の主要なタンパク質)のブロットを調べるとき、その標識付きプローブがバックグラウンドを超えるシグナルを出さないことを示すとよい。
【0052】
プローブ−標的複合体の性質の一部は、整列断片ラダー・ファー−ウエスタン分析によって明らかにすることができる。これは、セクションGに記載したようにして調べた後、膜をプローブ用緩衝液で時間をさまざまに変えて洗浄し、膜に結合したままになっている標識付きプローブの量を測定することによって実現できる。このようにして、膜上の複合体の大まかな半減期を決定することができる。例えば、σ70とβ’サブユニットの複合体は、約2.5時間の半減期で解離する。同様に、洗浄する際の塩を変えて、塩が解離速度に及ぼす効果を明らかにすることもできる。
【0053】
結論
有望な結果が特異的であることを示せるならば、その結果は有効である。これは、結合を検出し、相互作用ドメインを含む領域を特定するための迅速な方法である。この方法により、切断された個々の断片をクローニングしたり、多数の突然変異を作ったりするなどのより退屈なマッピング法の適用範囲を、標的ポリペプチドの比較的小さな断片に集中させることができる。32Pで標識したタンパク質プローブを用いると、比較的弱い相互作用を検出することができる。プローブを106cpm/μgを超える状態に標識するのは容易であり、ブロットをプローブとともにインキュベートした後、フォスファーイメージングに曝露する前に最後の洗浄を行なうには、ほんの5〜10分しかかからない。これとは逆に、結合したプローブを免疫学的方法で検出するには、一次抗体および二次抗体とともにインキュベートする必要があり、この場合には数時間またはそれ以上かかる可能性がある。インキュベーションと洗浄の時間が長いとプローブが標的から解離する可能性がある。
【0054】
この方法では、相互作用部位をマッピングするのではなく、接触面または相互作用部位を形成するのに必要な全領域(相互作用ドメイン)をマッピングすることになる。相互作用ドメインが再び折り畳まれることが難しかったり、相互作用ドメインとプローブ・タンパク質の結合が弱すぎたりする場合には、重要な相互作用が検出されない可能性がある。結合を検出するためには、“アッセイの窓”の中にいる必要がある。つまり、半減期が洗浄時間よりも長くなっている必要がある。結合が弱く、任意のタンパク質またはバックグラウンドと非特異的に結合するようだと、納得のゆく結果は得られない。相互作用ドメインがサイズの異なる2つのポリペプチドからなる領域を含んでいる場合には、この方法は役に立たない。また、相互作用ドメインが同じポリペプチドの離れた2つの領域を含んでいる場合にも、この方法ではうまくいかない可能性がある。相互作用ドメインの中にニトロセルロース膜と強く結合する部位があって膜上で再び折り畳まれることが阻止される場合にも、この方法はうまくいかないであろう。
【0055】
この方法は、抗体のエピトープのマッピング、タンパク質−タンパク質相互作用ドメインのマッピング、DNAまたはRNAの結合部位のマッピング、リン酸化などにより修飾された部位(例えば放射線修飾部位)のマッピングに役立つほか、タッグが移動する切断可能な架橋剤(Chen他、1994年)から標識付きタグをポリペプチド上でマッピングするのに役に立つ。ヘキサヒスチジン・タグの付いたタンパク質から出発し、修飾させ、標的タンパク質を化学的に、または酵素を用いて切断し、ヘキサヒスチジン・タグの付いた断片をNi−キレート・カラムで単離し、SDSゲル電気泳動によって分画し、膜に移動させ、フィルムまたはフォスファーイメージング・スクリーンに曝露することにより、整列断片ラダー上のどの地点まで来るともはや標識が検出されないかを確認することができよう。
【0056】
実施例 2
β ’ サブユニット、βサブユニット、σ因子のファー − ウエスタン・ブロット分析 材料と方法
プラスミド
プラスミドの特性を以下の表2に示す。
【表2】
【表3】
【0057】
プラスミドの構成
pRL663からXbaI−HindIII断片を取り出し、それをpET28b(ノヴァジェン社)に組み込むことにより、C末端にヘキサヒスチジン(His6)・タグを有するβ’サブユニットのための過剰発現ベクター(pTA500)を構成した(Studier他、1990年)。PCRにより、ヘキサヒスチジン・タグをβ’サブユニットのNruI部位含有断片のN末端に置いたpTA499を構成し、このpTA499から、N末端にヘキサヒスチジン・タグが付いたβ’サブユニットを発現させた。この断片をpET28bベクターに組み込んだ後、遺伝子のC末端部分をpRL663からのNruI−HindIII断片に挿入した。RsrII−HindIII断片を野生型のC末端をコードするPCR産物で置換することにより、pRL663断片からのC末端ヘキサヒスチジン・タグを除去した。PCRにより、ヘキサヒスチジン・タグをβサブユニットのKpnI部位含有断片のN末端に付け、pTA501を構成した。この断片をpET28bベクターに組み込んだ。遺伝子のC末端には、野生型コード配列を含むKpnI−HindIII断片を挿入した。C末端にヘキサヒスチジン・タグが付いたβサブユニットをコードするpTA502は、PCRを利用してKpnI含有断片のN末端にNcoI部位を挿入することにより作製した。C末端にヘキサヒスチジン・タグを含む断片を、pRL706(Severinov他、1997年)からのKpnI−HindIII断片に挿入した。
【0058】
β’サブユニットの非修飾断片を発現するベクターは、望む断片をPCRによりクローニングし、その断片を、NdeIおよびXhoIという制限部位を用いて、pTA528、pTA530、pTA535、pTA536に関してはpET21a(ノヴァジェン社)に、pTA519に関しては pET24a(ノヴァジェン社)に組み込むことによって得た。pTA522−525、pTA531、pTA533はすべて、PCR増幅したβ’サブユニットの特定の領域をpET21a誘導体に挿入することによって作製した。なおpET21a誘導体に対しては、あらかじめ、発現したタンパク質に対してN末端にヘキサヒスチジン・タグと心筋キナーゼ(HMK)認識部位を融合させるという修飾をしておいた。pTA532とpTA534も同様にして構成したが、ヘキサヒスチジン・タグ−HMKベクター誘導体をpET28bから構成した点が異なる。pTA547−549は、β’サブユニットのSnaBI部位を含むがN末端がPCRにより切り取られた断片を、pET24aに導入することによって作製した。遺伝子のC末端をコードしている領域は、pTA500からのSnaBI−HindIII断片に挿入した。pTA546は、PCRによりC末端のヘキサヒスチジン・タグを残基番号309の後ろに直接融合させることによって作製した。この断片は、NdeI部位とXhoI部位を用いてpET24aベクターに組み込んだ。σ70を放射性プローブとして用いるため、HMK部位をσ70のN末端およびヘキサヒスチジン精製タグと融合させた。N末端にヘキサヒスチジンとHMKが融合したpET28bベクターの誘導体にσ70遺伝子を組み込み、そのσ70のN末端に13個のアミノ酸(MHHHHHHARRASV:配列ID番号5)を追加することにより、pHMK−ヘキサヒスチジン−σ70を作製した。PCRにより生成されたすべての産物のシークエンシングを行ない、突然変異がまったく導入されていないことを確認した。
【0059】
タンパク質の発現と精製
プラスミドを導入して発現用BL21(DE3)(ノヴァジェンン社)を形質転換した。この細胞を1リットルの培養物としてLB培地中で37℃にて成長させた。LB培地には、100μg/mlのアンピリシンまたは50μg/mlのカナマイシンを入れた。培養物をA600が0.6と0.8の間の値になるまで成長させた後、1mMのイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシドで誘導した。誘導を開始してから3時間後、8,000×gで15分間にわたって遠心分離することによって細胞を回収し、−20℃で凍らせて使用するときまで保存した。
【0060】
細胞を解凍して10mlの溶解用緩衝液(40mMのトリス−HCl、pH7.9;0.3MのKCl;10mMのEDTA;0.1mMのフッ化フェニルメチルスルホニル)に再び分散させ、リゾチームを100μg/ml添加した。細胞を氷の上で15分間インキュベートし、60秒間の超音波バーストで3回にわたって処理した。封入体の形態をした組み換えタンパク質を、27,000×gで15分間にわたって遠心分離することにより可溶性ライセートから分離した。超音波処理により封入体ペレットを10mlの溶解用緩衝液+2%(w/v)デオキシコール酸ナトリウムの中に再び分散させた。この混合物を27,000×gで15分間にわたって遠心分離し、上澄みを捨てた。デオキシコール酸ナトリウムで洗浄した封入体を10mlの脱イオン水に再び分散させ、27,000×gで15分間にわたって遠心分離した。水による洗浄を繰り返し、封入体を1mgのペレットに分割し、−20℃で凍らせて使用するときまで保存した。
【0061】
グリブスコフとバージスの方法(1983年)を変形した方法に従い、σ70封入体を溶解させ、再び折り畳ませ、精製した。封入体を6MのグアニジンHCl(GuHCl)の中に再び分散させた。変性剤を緩衝液A(50mMのトリス−HCl;0.5mMのEDTA;5%(v/v)のグリセロール)でもって2段階で2時間かけて64倍に希釈することにより、タンパク質が再び折り畳まれるようにした。1gのDE52樹脂(ホワットマン社)を添加し、4℃でゆっくりと撹拌しながら24時間にわたって混合した。次にこの樹脂を10mlのカラムの中に回収し、洗浄し、タンパク質を、NaClの勾配を0.1〜1Mにした緩衝液Aを用いて溶離させた。σ70分画をプールし、1リットルの保存用緩衝液(50mMのトリス−HCl;0.5mMのEDTA;0.1MのNaCl;0.1mMのDTT;50%(v/v)のグリセロール)を用いて一晩にわたって透析を行ない、−20℃で保存した。
【0062】
全細胞ライセートを以下のようにして調製した。先端が切断されたβ’サブユニットを発現するプラスミドを含む細胞を、A600が0.6と0.8の間の値になるまで成長させ、1mMのイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシドで誘導した。細胞をさらに30分間成長させた。サンプル200μlを取り出し、30秒間の超音波処理を3回行なった。グリセロール20μlとSDS−サンプル緩衝液20μlを添加し、95℃で2分間にわたって加熱し、−20℃で凍らせて使用するときまで保存した。
【0063】
タンパク質の切断
以下に説明するように、βサブユニットとβ’サブユニットの封入体に対して化学的切断と酵素による切断(以下の説明を参照のこと)を行ない、ニッケル・アフィニティ・クロマトグラフィにより精製した。切断反応物を、バイオラド・ミニカラム内の300μlのNi2+−NTA樹脂(キアジェン社)に充填した。この樹脂は、緩衝液B(20mMのトリス−HCl、pH7.9;500mMのNaCl;5mMのイミダゾール;0.1%(v/v)のトゥイーン20;10%(v/v)のグリセロール)+8Mの尿素であらかじめ平衡させてある。樹脂と結合したタンパク質を10カラム分の容積の緩衝液B+8Mの尿素で洗浄し、次いで10カラム分の容積の緩衝液Bで洗浄し、タンパク質が再び折り畳まれるようにした。次にこの樹脂を500μlの緩衝液B+40mMのイミダゾールで洗浄した。タンパク質を500μlの緩衝液B+200mMのイミダゾールで溶離させた。溶離した分画を−20℃で保存した。
【0064】
NTCB による切断( Jacobson 他、 1983 年)
1mgの封入体タンパク質を1mlの緩衝液B+8Mの尿素の中に再び分散させた。チオ基がタンパク質中の5倍過剰なモル数になる量のDTTを添加した。この混合物を37℃で15分間にわたってインキュベートし、二硫化結合をすべて還元した。全スルフヒドリル基の5倍過剰なモル数になる量のNTCBを添加した。NaOHを用いてpHを9.5に調節した。反応混合物を室温で2時間にわたってインキュベートした。切断混合物を緩衝液B+8Mの尿素の中に1:10になるように希釈し、上に説明したようにしてNi2+−NTAカラムに充填した。
【0065】
ヒドロキシルアミンによる切断( Bornstein 他、 1970 年)
1mgの封入体タンパク質を1mlの緩衝液B+8Mの尿素の中に再び分散させた。溶解したタンパク質500μlを、切断用ヒドロキシルアミン溶液(0.4MのCHES、pH9.5;4MのヒドロキシルアミンHCl)500μlに添加し、42℃で2時間にわたってインキュベートした。β−メルカプトエタノールを0.1Mになるまで添加し、37℃で10分間にわたってインキュベートした。この混合物を緩衝液B+8Mの尿素の中に1:10になるように希釈し、上に説明したようにしてNi2+−NTAカラムに充填した。
【0066】
サーモリシンによる切断( Rao 他、 1996 年)
1mgの封入体タンパク質を100μlの緩衝液B+8Mの尿素の中に再び分散させ、37℃で15分間にわたってインキュベートした。サーモリシンをタンパク質に添加した:プロテアーゼの比は、4,000:1、8,000:1、16,000:1(w/w)である。室温で30分間反応させた。反応物を上に説明したようにしてNi2+−NTAカラムに充填した。
【0067】
トリプシンによる切断( Rao 他、 1996 年)
1mgの封入体タンパク質を100μlの緩衝液B+8Mの尿素の中に再び分散させ、37℃で15分間にわたってインキュベートした。等量の緩衝液Bを添加することにより、この混合物を尿素が4Mになるまで希釈した。トリプシンをタンパク質に添加した:プロテアーゼの比は、4,000:1、8,000:1、16,000:1(w/w)である。室温で30分間反応させた。反応物を上に説明したようにしてNi2+−NTAカラムに充填した。
【0068】
ファー − ウエスタン・ブロッティング
ドット・ブロット
シュライヒャー&シュエル“ミニフォールド”ドット・ブロット装置を用い、ニトロセルロース膜(シュライヒャー&シュエル社)上に、緩衝液B+8Mの尿素の中に再び分散させた封入体タンパク質のスポットを直接形成した。ウエルは緩衝液Bで3回洗浄した。HYB緩衝液(20mMのHepes、pH7.2;200mMのKCl;2mMのMgCl2;0.1mMのZnCl2;1mMのDTT;0.5%(v/v)のトゥイーン20;1%(w/v)の脱脂粉乳)の中で4℃で16時間にわたってインキュベートすることにより、ニトロセルロースの反応を停止させた。
【0069】
ゲル・ブロット
切断されたタンパク質断片または全細胞ライセートを、SDS−ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動(PAGE)により分離した。電気泳動によりタンパク質を0.05μmのニトロセルロースに移した。HYB緩衝液の中で4℃で16時間にわたってインキュベートすることにより、ニトロセルロースの反応を停止させた。
【0070】
標識の付着
σ70に標識を付ける操作は、100μlの反応容積の中で行なった。50μlのキナーゼ緩衝液(40mMのトリス−HCl、pH7.4;200mMのNaCl;24mMのMgCl2;2mMのDTT;50%(v/v)のグリセロール)を50μgのσ70タンパク質に添加した。240単位のcAMP依存性キナーゼ触媒サブユニット(プロメガ社)を添加し、脱イオン水を用いて全容量を99μlにした。1μlの[γ−32P]ATP(0.15mCi/μl)を添加した。この混合物を室温で30分間にわたってインキュベートした。次に、この反応混合物を、1×キナーゼ緩衝液であらかじめ平衡させたバイオスピンP6カラム(バイオラド社)に充填し、1,100×gで4分間にわたって回転させた。流出液を回収し、−20℃で保存した。
【0071】
プロービング
反応を停止させたニトロセルロースを、4×105cpm/mlの32Pで標識したσ70とともに、10mlのHYB緩衝液中で室温にて3時間にわたってインキュベートした。ブロットを10mlのHYB緩衝液でそれぞれ3分間ずつ3回にわたって洗浄した。次にブロットを乾燥させ、フィルムまたはフォスファーイメージャー(モレキュラー・ダイナミックス社)に曝露した。
【0072】
同時固定化
ヘキサヒスチジン・タグを有する切断されたβ’サブユニット1mgを1mlの緩衝液C(20mMのトリス−HCl、pH7.9;200mMのNaCl;5mMのイミダゾール;0.1%(v/v)のトゥイーン20;10%(v/v)のグリセロール)+8Mの尿素の中に溶かした。このタンパク質溶液20μgを150μlのNi2+−NTA樹脂に充填した。カラムを15カラム分の容積の緩衝液C+8Mの尿素で洗浄した後、15カラム分の容積の緩衝液Cで洗浄し、タンパク質が再び折り畳まれるようにした。次に、30μgの天然のσ70をカラムに充填した。カラムを20カラム分の容積の緩衝液Cで洗浄した。結合したタンパク質を300μlの緩衝液C+250mMのイミダゾールで溶離させた。σ70流出液からのサンプル、洗浄液、溶離した分画を、SDS−PAGEで分析した。
【0073】
結果
ファー − ウエスタン・ブロット分析において、σ 70 はβ ’ サブユニットと強く相互作用し、βサブユニットと弱く相互作用する
ドット・ブロットに対してファー−ウエスタン・アッセイを行なうことにより、コア複合体の外で個々のβサブユニットおよびβ’サブユニットに結合するσ70を評価した。βサブユニットおよびβ’サブユニットの封入体タンパク質を別々に尿素に溶かし、ニトロセルロース上にスポットにして載せた。非特異的結合をする対照として、ウシ血清アルブミン(BSA)をスポットにして載せた。ニトロセルロースの反応を停止させ、変性剤を洗浄して除去した。次に、32Pで標識したσ70を用いてブロットを調べた。βサブユニットとβ’サブユニットの両方ともσ70と結合したが、対照であるBSAは結合しなかった。同じドット・ブロットを、キナーゼまたはσ70のいずれかが欠けている対照溶液を用いて調べ、シグナルが、ヌクレオチドの結合や、βサブユニットまたはβ’サブユニットのリン酸化によるものではないことを確認した。どの対照ブロットも検出可能なシグナルを出すことはなかった。したがって、βサブユニットとβ’サブユニットの両方とも、別々にσ70と結合することができる。
【0074】
ファー − ウエスタン・ブロット分析において、βサブユニット/β ’ サブユニットに対して特異的に相互作用するσ 70
別のテストを行ない、σ70をプローブとして用いた場合のファー−ウエスタン・ブロット分析の特異性を評価した。対数増殖期の培養物からの細胞ライセートをSDS−PAGEにより分離し、ニトロセルロースにブロットし、σ70で調べた。発生した唯一の強いシグナルは、βサブユニットおよびβ’サブユニットと同じ移動度であった。他に強いシグナルがないという事実は、σ70がβサブユニットおよび/またはβ’サブユニットに非特異的に結合しているのではないことを示唆している。σ70と相互作用する他のタンパク質(アクティベータ、アンチσ因子など)があることがわかっているため(Ishihama、1993年;Jishage他、1998年)、予想通りマイナーなバンドが観測された。
【0075】
σ 70 に対する強くて特異的な結合部位は、β ’ サブユニットの N 末端に位置する
βサブユニットおよびβ’サブユニット上におけるσ70との相互作用部位をマッピングするため、これら2つの大きなサブユニットの化学的切断による産物について、ファー−ウエスタン分析を行なった。マックベクター・ソフトウエア(オックスフォード・モレキュラー・グループ)を用いて両者のアミノ酸配列を分析し、特異的な化学的切断部位を同定した。この分析に基づき、部分的消化の後にマッピングする上で最高の分解能を示した産物群を生み出した切断剤を選択した。βサブユニットおよびβ’サブユニットのN末端とC末端の両方にヘキサヒスチジン・タグを有する構造物を、変性条件のもとで切断した。切断反応による産物を変性条件下でNi2+−NTAを用いて精製し、ヘキサヒスチジン・タグを有する切断断片を単離した。次に、精製したこれら断片をSDS−PAGEにおける移動度に基づいて同定し、これら断片を生み出した切断部位に基づいてその正確なサイズを決定した。切断断片は、SDS−PAGEによって分画化されるとき、共通の端部(ヘキサヒスチジン・タグの位置に応じてN末端またはC末端になる)を持っていてサイズが徐々に短くなる断片群からなるラダーが生まれる。N末端とC末端の両方にヘキサヒスチジン・タグを有する断片を用いると、相互作用ドメインのN末端とC末端の両方を積極的に同定することができる。σ70プローブは、完全な相互作用ドメインを有する断片とだけ結合することになろう。N末端にヘキサヒスチジン・タグを有するβ’サブユニットのラダーは、ヒドロキシルアミンによる切断とNTCBによる切断のどちらで生成された場合も、σ70に結合する能力を保持している断片をいくつか含んでいた。したがって、β’サブユニットのC末端にある大きな部分は、σ70の結合に影響を与えることなく除去することができる。σ70と結合する最小の断片は、ヒドロキシルアミンで切断したラダーにおける、β’サブユニットのアミノ酸番号1〜309からなる断片であった。C末端にヘキサヒスチジン・タグを有するラダーでは、完全長β’サブユニットだけがσ70と結合した。これらの結果は、強くて特異的な結合部位が、β’サブユニットのアミノ酸番号1〜309(β’1−309)に位置していることを示唆していた。βサブユニットの断片群からなるラダーは、相互作用ドメインをマッピングするのに十分なほど強いシグナルを出さなかった。
【0076】
化学的切断によるマッピングの精度は、利用できる試薬に対するβ’サブユニット上の切断部位の数が限られていたため、比較的低かった。マッピングにおいて利用できるタンパク質分解断片の数を増やすため、われわれは酵素による切断を利用した。多数のプロテアーゼによる切断の特異性の数は、化学的切断剤ほど限られてはいない。したがって切断部位がはるかに多くなり、生まれる断片もより多くなる。N末端とC末端にヘキサヒスチジン・タグを有するβ’サブユニットを部分的に消化させるのに、トリプシンとサーモリシンを用いた。断片を再度精製し、ブロットし、σ70で調べた。しかし断片の数を増やしても、相互作用ドメインの範囲を上記のアミノ酸番号1〜309という長さより狭めることはできなかった。
【0077】
切断された断片を用いたファー − ウエスタン・ブロッティングにより相互作用ドメインをアミノ酸番号 60 〜 309 の範囲に狭める
この結合部位をより正確に決定するため、先端が切断されたさまざまな断片をPCRを利用して作った。β’1−309という断片を出発点とし、N末端とC末端のいずれかが切断された構造物を作製した。切断された断片をコードしているDNAをクローニングし、過剰発現プラスミドに組み込んだ。これらプラスミドを含む細胞を、A600が0.6になるまで成長させ、発現を誘導した。細胞は、誘導後に30分間だけ成長させた。それぞれの培養物から全細胞ライセートを作り、それに対してファー−ウエスタン・ブロッティング・アッセイを行なった。発現時間を短くしたため、誘導されたタンパク質の発現レベルは、ライセート中の他のタンパク質と同じくらいに維持された。ファー−ウエスタン・ブロッティング・アッセイにおいて全細胞ライセートを内部対照として使用し、興味の対象であるタンパク質に関して結合が特異的であることを確認した。これは、さまざまなタンパク質を精製する必要はなく、精製タグなしでさまざまなタンパク質を発現させうることも意味していた。β’1−309のC末端においてアミノ酸番号300から先が切り取られた構造物を作製した場合には、σ70との結合は失われた。しかし同じ断片のN末端は、アミノ酸が60個切り取られるまでシグナルが消えなかった。β’100−309はまだ結合能力を持っていたが結合の程度は弱くなり、β’150−309はσ70と結合しなかった。これらの結果により、σ70の結合部位がβ’60−309に狭まった。アンチβ’サブユニット・モノクローナル抗体を用いたウエスタン・ブロットの実験を行ない、タンパク質断片がニトロセルロースに移動したこと、また、その断片がβ’サブユニットの断片であることを確認した。
【0078】
同時固定化アッセイにより、相互作用部位がβ ’ サブユニットの残基番号 260 〜 309 へとさらに狭まる
Ni2+−NTA同時固定化アッセイを利用することにより、ファー−ウエスタン・ブロッティングを用いて得られた結果を確認するとともに、その結果をさらに展開した。σ70の結合を調べるタンパク質をヘキサヒスチジン精製タグと融合させ、封入体の形態で過剰発現させた。この封入体タンパク質を8Mの尿素を用いて溶かし、Ni2+−NTA樹脂に充填した。変性剤を洗浄して除去するとタンパク質が再び折り畳まれるようになるが、タンパク質は樹脂に結合したままである。次に天然のσ70をカラムに充填する。カラムを洗浄し、結合したタンパク質をイミダゾールを用いて溶離させる。切断されたタンパク質は、σ70に対する相互作用ドメインを含んでいさえすればσ70と結合するため、溶離された分画の中にσ70が含まれることになろう。これら結合実験の結果は、相互作用ドメインのC末端側の境界を明らかにするファー−ウエスタン・ブロッティング実験の結果と整合性がある。β’1−309はσ70と結合したが、β’1−300とβ’1−280はσ70と結合しなかった。再び折り畳まれたヘキサヒスチジン・タグなしのβ’1−309をσ70と混合し、Ni2+−NTAに移動させて、複合体がカラムと非特異的な結合をしないことを確認した。複合体はカラムを通過してしまい、溶離された分画中には見つからなかった。β’1−309を含むカラムに対照としてBSAを充填した。BSAは、流出液の中にだけ見つかり、溶離された分画中には見つからなかった。これは、β’1−309がσ70と特異的に結合していることを示唆する。
【0079】
N末端側の境界に関しては、ファー−ウエスタン・アッセイにおけるよりもN末端を多く除去してもσ70の結合に影響がないことがわかった。N末端が切断されたいくつかの断片(どれもC末端側の境界は残基番号309のアミノ酸であり、その後ろにヘキサヒスチジン・タグを有する)を構成し、同時固定化アッセイにおいて使用した。残基番号が33、60、100、178、200の位置で切断した断片もまだσ70に結合できた。β’260−309を調製したところ、うまく取り扱うことができたが、このβ’260−309は、σ70に結合する能力を保持していた。相互作用ドメインのN末端を見つけるため、残基番号が240よりも先の部分からなる切断物を完全長β’サブユニットから作った。β’サブユニットの頭部の260残基を取り除いた切断物(β’260−C)はσ70と結合したが、β’270−Cは結合の程度が減り、β’280−Cはσ70との結合が検出できなかった。これらの結果を合わせて考えると、コア・ポリメラーゼ上の強いσ70結合部位がβ’サブユニットの残基番号260〜309に位置していることが示唆される。
【0080】
考察
これまでのところ、生化学や遺伝子に関するいくつかの研究により、σ因子上にあるコアとの結合ドメインの推定位置に関する現在の知見がもたらされたが、コア上でσ因子と結合する部位に関しては、はるかに少ないことしかわかっていない(Gross他、1996年)。ホロ酵素が組み立てられるときには、β’サブユニットがα2β複合体に付加され、次いでσ因子が付加されてホロ酵素を形成する(Ishihama、1981年)。これは、σ因子と結合する主要な部位がβ’サブユニット上に位置するか、あるいはσ因子と結合する主要な部位が、β’サブユニットが付加されてコア酵素になるときにαサブユニットおよび/またはβサブユニットと共同して形成されることを示唆していよう。σ70−β’サブユニット複合体の単離により、前者であることの証拠が得られる(Luo他、1996年)。上記の結果により、β’サブユニット上のσ70に対する強い結合部位の位置が限定されるとともに、σ70がβサブユニットに対して低い結合アフィニティを示すことが明らかにされた。したがって、ホロ酵素においてはβ’サブユニットがσ70に対する主要な結合相互作用を提供するのに対し、βサブユニットは二次的な相互作用を与えるだけである。保存された領域2.1の外側におけるσ因子の突然変異がコアとの結合に明らかに影響を与えていることに基づき、σ因子上にはコアとの結合部位が多数あると考えられている(Joo他、1997年;Zhou他、1992年;Joo他、1998年;Sharp他、1999年)。
【0081】
σ70に対する強い結合部位は、β’サブユニットの残基番号260〜309に位置する。β’サブユニットの残基番号201〜477を除去すると突然変異タンパク質が生まれ、その突然変異タンパク質はそれでもコアを形成することができるものの、ホロ酵素は形成できないことが、以前に報告されている(Luo他、1996年)。このような除去実験における問題点は、結合部位が除去した領域に位置することは結論できず、その領域が除去されたときに相互作用ドメインの正しい形成を妨げることしか結論できないことである。タンパク質−タンパク質フットプリンティング実験で得られた結果は、β’サブユニットの似た領域(残基番号228〜461)が、σ70と物理的に近い位置にあることを示唆していた(Owens他、1998年)。このアッセイは、タンパク質同士が物理的に近い位置にあっても必ずしもタンパク質−タンパク質の結合に対応していないことを示唆しているため、この結果を解釈するのは難しい。この明細書に記載した知見から、σ70との主要な結合部位がこれら領域に位置していることが結論できる。
【0082】
β’サブユニット上のσ70との相互作用ドメインは、保存された領域Bに位置するいくつかの残基を含んでいる(Jokerst他、1989年)。この領域の機能はまったく知られていない。PHDプログラム(Rost他、1994年)から残基番号260〜309に関して予想される二次構造は、残基番号264〜283のヘリックスが、ループによって、残基番号292〜309の第2のヘリックスと結合していることを示唆している。予想されるこれらのヘリックスがコイルドコイルを形成することも予想される(Lupas他、1991年)。これは特に興味深い。というのも、同様の予測がσ70の残基番号355〜391に対してなされているからである。これら残基は、保存された領域2.1と重なっている。σ70のプロテアーゼ耐性断片の結晶構造から、領域2.1を含むヘリックスが、保存された領域1.2と合わさってコイルドコイルを形成しているという予想が確認された(Malhotra他、1996年)。コイルドコイルは多くのタンパク質−タンパク質相互作用に関与していることがわかっているため(Landschulz他、1988年;Gentz他、1989年;O’Shea他、1989年)、これは、β’260−309がσ70の領域2.1と相互作用している可能性のあることを示唆していよう。
【0083】
整列断片ラダー・ファー−ウエスタン・ブロッティングを利用して、β’サブユニット上のσ70との結合部位がβ’60−309であることを特定した。この方法は、変性剤を除去するとブロットされたタンパク質分画のどれかが再び折り畳まれ、プローブの結合にとって適切な立体配座を生み出すことができるという事実に基づいている。全細胞ライセートを調べ、β’サブユニットが主要な結合相互作用を行なうことを明らかにすることによって、このアッセイの特異性が明確になった。タンパク質の部位特異的な化学的切断とファー−ウエスタン・ブロッティングを組み合わせることにより、このタンパク質−タンパク質相互作用の位置を特定する非常に迅速で効果的な方法が提供される。切断された個々の断片をクローニングし、スクリーニングすることは、相互作用ドメインがわかった後に初めて必要になる。β’サブユニットの切断物をこのサブユニットの全長にわたって作製せねばならないというのは、時間のかかる退屈な作業であろう。タンパク質の切断とNi2+カラムでの精製は一日で行なうことができ、したがってこのアッセイはコストがより安く、退屈さもより少ない。
【0084】
ファー−ウエスタン・ブロッティングで得られた結果を確認し、さらに展開するため、Ni2+同時固定化アッセイを行なった。この実験により、N末端から残基番号309までの断片はまだσ70と結合できるのに対し、C末端のほんの9個のアミノ酸を除去して残基番号300までにすると結合性が失われることも明らかになった。これらアッセイにおいてN末端を切断した断片から得られた結果は、ファー−ウエスタン・ブロッティングから得られた結果よりも結合部位の位置に関して高精度であった。N末端からアミノ酸を260個まで除去してもσ70の結合には影響がなかった。アミノ酸を270個除去すると、σ70の結合が減ったが、完全になくなりはしなかった。これは、結合部位の一部が除去されたか、結合部位は完全なままであるが、上流の残基が失われたため、再び折り畳まれたときに結合部位が隠れてしまったかであることを示唆している。結合部位が実際にマッピングされた通りであり、実際の結合部位が適切に折り畳まれるのに必要な領域となっているだけではないことを確認するため、β’サブユニットの残基番号260〜309からタンパク質の断片を作り、その断片があれば結合に十分であることを示した。同定された相互作用ドメインのサイズの違いがファー−ウエスタン・アッセイ(β’60−309)と同時固定化アッセイ(β’260−309)で見られることに、それぞれのアッセイの特徴が反映している。ファー−ウエスタン・アッセイは、タンパク質の一部がニトロセルロース膜に付着している状態で相互作用ドメインが再び折り畳まれて結合部位が適切に提示されることを要求している。このようになっていると、タンパク質は、Ni2+−NTA同時固定化アッセイにおけるように一方の端部だけで結合しているタンパク質よりも立体配座が制限される。したがって、相互作用ドメインを膜の表面から離しておくための足場のような構造を形成するため、タンパク質がより長くなっている必要がある。複数のマッピング法を組み合わせることにより、タンパク質の相互作用ドメインを同定するための迅速で高精度の方法が提供される。
【0085】
実施例 3
β ’ 260−309 の突然変異分析
材料と方法
プラスミドの構成
プラスミドの特性は、図7と後掲の表3〜表4に示してある。プラスミドpTA577とpTA600−620は、ベースとなるプラスミドpRL663(Wang他、1995年)から作製した。サイレント突然変異誘発によりpRL663のrpoC遺伝子にHindIII制限部位とBamHI制限部位を1つずつ挿入し、pTA577を作製した。pTA561は、もとになるプラスミドをpRL308(Weilbaecher他、1994年)にした以外は、pTA577と同様にして作製した。さまざまな突然変異を含むPCR増幅したDNA断片を挿入するのにHindIII制限部位とBamHI制限部位を用い、pTA600−609を作製した。β’サブユニットの残基番号1〜309をコードしているrpoC切断断片を含むpTA620に関しては、pRL663をXbaI−HindIIIで切断し、PCR増幅したrpoC断片を挿入した。σ70の結合部位がβ’サブユニットの残基番号260〜309であることを特定したが、構造物のいくつかは残基番号319まで延びるようにした。これは、上記のBamHI部位が含まれるようにするためであった。このようにしてこれらのさまざまな突然変異を新しいプラスミドに組み込み、pTA610−619を作製した。残基番号309で終わる断片と残基番号319で終わる断片では、性質に違いが見られなかった。
【0086】
プラスミドpTA145、655、658、660、661は、野生型β’240−309またはさまざまな突然変異体β’240−309をコードしているPCR増幅したrpoC断片をpET24aのNdeI−XhoI制限部位に挿入することにより構成した。C末端のヘキサヒスチジン・タグをこれら挿入物に対する逆プライマーに組み込み、発現したタンパク質に精製タグを融合した。
【0087】
【表4】
【表5】
【0088】
σ 70 の発現と精製
細胞を1リットルの培養物として、A600が0.6〜0.8になるまで、100μg/mlのアンピリシンを入れたLB培地中で37℃にて成長させた。濃度が1mMになるまでイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加した。誘導を開始してから3時間後、8,000×gで15分間にわたって遠心分離することによって細胞を回収し、−20℃で凍らせた。
【0089】
1リットルの培養物からの細胞ペレットを解凍し、10mlの溶解用緩衝液(40mMのトリス−HCl、pH7.9;0.3MのKCl;10mMのEDTA;0.1mMのフッ化フェニルメチルスルホニル)に再び分散させ、リゾチームを0.1mg/ml添加した。細胞を氷の上で15分間インキュベートし、60秒間の超音波バーストで3回にわたって処理した。封入体の形態をした組み換えタンパク質を、27,000×gで15分間にわたって遠心分離することによって可溶性ライセートから分離した。超音波処理により封入体ペレットを10mlの溶解用緩衝液+2%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム(DOC)の中に再び分散させた。この混合物を27,000×gで15分間にわたって遠心分離し、上澄みを捨てた。DOCで洗浄した封入体を10mlの脱イオン水に再び分散させ、27,000×gで15分間にわたって遠心分離した。水による洗浄を繰り返し、封入体を1mgのペレットに分割し、−20℃で凍らせて使用するときまで保存した。
グリブスコフとバージスの方法(1986年)を変形した方法に従い、σ70封入体(10mg)を溶解させ、再び折り畳ませ、精製した。封入体を6MのグアニジンHCl(GuHCl)の中に再び分散させた。変性剤を緩衝液A(50mMのトリス−HCl、pH7.9;0.5mMのEDTA;5%(v/v)のグリセロール)でもって2段階で2時間かけて64倍に希釈することにより、タンパク質が再び折り畳まれるようにした。1gの樹脂(DEAE−セルロース、ホワットマン社)を添加し、4℃でゆっくりと撹拌しながら24時間にわたって混合した。次にこの樹脂を10mlのカラムの中に回収し、洗浄し、タンパク質を、NaClの勾配を0.1〜1.0Mにした緩衝液Aを用いて溶離させた。σ70分画をプールし、1リットルの保存用緩衝液(50mMのトリス−HCl、pH7.9;0.5mMのEDTA;0.1MのNaCl;0.1mMのDTT;50%(v/v)のグリセロール)を用いて一晩にわたって透析を行ない、−20℃で保存した。
【0090】
定量的ウエスタン・ブロッティング
定量測定するタンパク質サンプルに対してSDS−ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動(PAGE)を行なった。電気泳動によりタンパク質をルから0.05μmのニトロセルロースに移した。ブロットーの中でブロットの反応を停止させ、モノクローナル抗体(MAb)で調べた。ELC+システム(アマーシャム社)を用いてシグナルを発生させ、ストーム・フルオロイメージャー(Storm FluoroImager:モレキュラー・ダイナミクス社)で検出した。イメージクアント(ImageQuant)・ソフトウエア(モレキュラー・ダイナミクス社)を用いてシグナルを定量測定した。
【0091】
ファー − ウエスタン・ブロッティング
切断されたβ’サブユニットを発現するプラスミドpTA610−620を含む細胞を、A600が0.6と0.8の間の値になるまで成長させ、1mMのIPTGで誘導した。細胞をさらに30分間成長させた。サンプル200μlを取り出し、30秒間の超音波処理を3回行なった。グリセロール20μlとSDS−サンプル緩衝液20μlを添加し、95℃で2分間にわたって加熱し、−20℃で凍らせて使用するときまで保存した。ライセートをSDS−PAGEにより分離した。タンパク質を電気泳動により0.05μmのニトロセルロースに移動させた。HYB緩衝液(20mMのHepes、pH7.2;200mMのKCl;2mMのMgCl2;0.1mMのZnCl2;1mMのDTT;0.5%(v/v)のトゥイーン20;1%(w/v)の脱脂粉乳)の中で4℃で16時間にわたってインキュベートすることにより、ニトロセルロースの反応を停止させた。
【0092】
σ70に標識を付ける操作を100μlの反応容積の中で行なった。50μlの2×キナーゼ緩衝液(40mMのトリス−HCl、pH7.4;200mMのNaCl;24mMのMgCl2;2mMのDTT)を50μgのHMK−σ70タンパク質に添加した。240単位のcAMP依存性キナーゼ触媒性サブユニット(プロメガ社)を添加し、脱イオン水を用いて全容量を99μlにした。1μlのγ−32P−ATP(0.15mCi/μl)を添加した。この混合物を室温で30分間にわたってインキュベートした。次に、この反応混合物を、1×キナーゼ緩衝液であらかじめ平衡させたバイオスピンP6カラム(バイオラド社)に充填し、1,100×gで4分間にわたって回転させた。流出液を回収し、−20℃で保存した。
反応を停止させたニトロセルロースを、4×105cpm/mlの32Pで標識したσ70とともに、10mlのHYB緩衝液中で室温にて3時間にわたってインキュベートした。ブロットを10mlのHYB緩衝液でそれぞれ3分間ずつ3回にわたって洗浄した。次にブロットを乾燥させ、フォスファーイメージャー(PhosphorImager)を用いてシグナルが目に見えるようにし、イメージクアント・ソフトウエア(モレキュラー・ダイナミックス社)を用いてそのシグナルを定量測定した。
【0093】
成長の評価
プラスミドpTA577、600−609(0.1μg)を導入してRL602菌株を形質転換した(Weilbaecher他、1994年;Ridley他、1982年)。熱ショックを与え、氷の上でインキュベートした後、300μlのLBを細胞混合物50μlに添加した。10μlの形質転換反応物を、アンピリシン(100μg/ml)を加えたLBプレートの上にスポット状に載せ、30℃でインキュベートした。さらに10μlをプレートの上にスポット状に載せ、42℃でインキュベートした。プレートを24〜48時間にわたってインキュベートし、成長を評価した。
【0094】
コア/ホロ酵素複合体の精製
アンピリシン(100μg/ml)とIPTG(0.15mM)を加えた200ml のLBを入れた1リットルのフラスコに、プラスミドpTA561、577、600−609を含む細胞を一晩インキュベートした培養物から採取した200μlを接種した。この培養物を37℃で振動させながらA600が0.4になるまで成長させて対数増殖期アッセイ用にした。さらに2時間成長させたもの(A600が約2.0)は、初期定常期アッセイ用にした。6,000rpmで10分間にわたって遠心分離することにより細胞を回収し、使用するときまで−20℃で保存した。細胞ペレットを、0.15MのNaClとリゾチーム(0.1mg/ml)を添加した5mlのTE(10mMのトリス−HCl、pH7.9;0.1mMのEDTA)の中に再び分散させ、氷の上で15分間インキュベートした。細胞を超音波で30秒間ずつ2回にわたって処理し、27,000×gで25分間にわたって遠心分離することにより、不溶性のペレットにした。上澄みを、ポリオール反応性アンチβ’モノクローナル抗体(MAb)であるNT73(Thompson他、1992年)を含む1.5mlのイムノアフィニティ・カラムに充填した。このカラムを、0.15MのNaClを加えた15mlのTEで洗浄した後、0.5MのNaClを加えた10mlのTEで2回目の洗浄を行なった。0.7MのNaClと30%のプロピレングリコールを加えた4mlのTEを用いてタンパク質をカラムから溶離させた。溶離したサンプル(4ml)を6mlの緩衝液B(20mMのトリス−HCl、pH7.9;500mMのNaCl;5mMのイミダゾール;0.1%(v/v)のトゥイーン20;10%(v/v)のグリセロール)で希釈し、500μlのNi2+−NTA樹脂に充填した(2回)。この樹脂を5mlの緩衝液Bで洗浄し(2回)、0.25Mのイミダゾールを加えた0.5mlの緩衝液Bで溶離させた。溶離した分画からのサンプルを、それぞれのサブユニットまたはσ因子に対するMabを用いて上記のようにしてウエスタン・ブロット法で調べた。二次抗体は、セイヨウワサビのペルオキシダーゼで標識したヤギの抗マウスIgG抗体であり、ELC+システム(アマーシャム社)を用いてシグナルを発生させ、ストーム・フルオロイメージャー(モレキュラー・ダイナミクス社)で検出した。イメージクアント・ソフトウエア(モレキュラー・ダイナミクス社)を用いてシグナルを定量測定した。
【0095】
結果
突然変異の設計
コイル予測プログラム(Lupas他、1991年)は、β’260−309において予想される2つのαヘリックスが、両方ともコイルドコイルを形成する確率が高いことを示した(図3a)。この予測を確かめるため、プロリンをいずれかのヘリックスに挿入した2つのβ’サブユニット突然変異体を構成した。これらのβ’サブユニット突然変異体は、ヘリックスまたはコイルドコイルをもはや形成しないことが予想された。ファー−ウエスタン・アッセイとインビボ成長アッセイの両方でこれら2つの突然変異体の機能を調べたところ、どちらも機能を持たないことがわかった。これは、この領域におけるヘリックス/コイルドコイルの構造が機能にとって重要であることを示唆している。しかしこれら突然変異体タンパク質の溶解度は100%ではなく、したがって機能の喪失は、単に折り畳みに大きな欠陥があることに起因している可能性がある。その後、主としてヘリックスの“e”と“g”の位置についてさらに分析を行なった。コイルドコイルのe残基とg残基は、イオン相互作用や塩の架橋形成といったヘリックス間相互作用に関係していることがしばしばある(Cohen他、1986年;Chao他、1998年)。今回のケースでは、このような相互作用は、σ因子が結合する上で必要なコイルドコイル構造を形成する(β’260−309の2つのヘリックス間の)分子内相互作用である可能性がある(図3b)。また、β’260−309のe残基とg残基は、結合する際にσ因子のヘリックスと分子間接触する可能性もある。電荷が変化する突然変異をβ’サブユニットのこれら残基において起こさせ、その突然変異が結合に及ぼす影響を明らかにした(図3b)。
【0096】
図示した突然変異のうちの2つは、e残基またはg残基と関係していない。チロシン残基とアルギニン残基がタンパク質−タンパク質相互作用の“ホット・スポット”に位置することがしばしばあるという知見(Bogan他、1998年)に基づき、残基番号269のチロシン残基をアラニンで置換し、残基番号297のアルギニン残基をセリンで置換した。残基番号297の位置にロイシンが挿入されると、σ70が結合する上で機能しないβ’サブユニットが生まれることがすでに明らかにされていた(データは示さない)。したがって、この位置にこれほど劇的ではない突然変異が起こった場合にもσ因子の結合に影響が及ぶかどうかを明らかにすることは、興味深いことだった。β’260−319領域内にあるいくつかの突然変異は、ファー−ウエスタン・アッセイにおいてσ70との相互作用を消失させる。
ファー−ウエスタン・ブロッティングは、β’サブユニットのN末端領域に対するσ70の結合部位を特定するのに用いた(実際例2)。この方法は、もともとはβ’サブユニットの突然変異体の機能を検出するのに用いられた。突然変異体をクローニングして、β’サブユニットのアミノ酸残基番号1〜319をコードしている遺伝子断片に導入した。これら遺伝子を含む細胞を短時間誘導し、β’サブユニットの断片のレベルが、抽出液中の他のタンパク質と同程度になるようにした。ファー−ウエスタン分析により、サンプルに対するσ70の結合について分析した。それぞれの突然変異体β’1−319断片が結合したσ70プローブの量を、野生型β’1−319断片が結合した量と比較した。それぞれのシグナルを、ウエスタン・ブロッティングによって明らかになった上澄みに含まれるβ’1−319の量で規格化した。
【0097】
突然変異体のうちの5つ(R275Q、R293Q、E295K、R297S、A302D)は、σ70との結合能力が大きく低下していた(図4)。突然変異体Q300EとN309Dは逆の効果を持ち、野生型β’1−319よりも多くのσ70が結合した。Q300Eは、相対的な結合能力が7倍以上に増大した。突然変異体N266D、Y269A、K280Eでは結合に対する影響が見られなかった。
【0098】
β ’ サブユニット突然変異体を用いた場合の成長
インビボにおけるσ70結合部位の重要性を評価するため、β’サブユニット突然変異体が、細胞にとって唯一のβ’サブユニット源として機能する能力を評価した。突然変異体か野生型の完全長β’サブユニットを含むプラスミドを導入してRL602菌株を形質転換した(Weilbaecher他、1994年;Ridley他、1982年)。RL602の染色体rpoC遺伝子は、サプレッサーtRNAの不在下で機能するβ’サブユニットの生成を阻止するアンバー突然変異を有する。RL602は、温度感受性のある染色体アンバー・サプレッサーも含んでいる。許容可能な温度(30℃)では、アンバー・サプレッサーは活性で染色体β’サブユニットの生成が可能であり、細胞は成長することができる。アンバー・サプレッサーは、許容不能な温度(42℃)では活性ではない。したがって、42℃では、染色体β’サブユニットは生成されず、細胞は、別のβ’サブユニット源がないと成長できない。プラスミド由来のβ’サブユニットがβ’サブユニットの代わりになるのであれば、細胞は成長し、許容不能な温度でプレート上にコロニーを形成するであろう。β’サブユニット突然変異体が代役を務められない場合には、この温度においてプレート上で細胞が成長することはない。
【0099】
ファー−ウエスタン・アッセイにおいてσ因子の結合に欠陥のあった3つの突然変異体(R275Q、E295K、A302D)は、許容不能な温度で成長を維持することはできなかった。これは、これら突然変異体がインビボでもσ因子の結合に関して欠陥を有することを示唆している(図5)。ファー−ウエスタン・アッセイにおいて検出可能な効果が見られなかった突然変異体であるN266Dの場合には、許容不能な温度で幾分か成長が可能であったが、野生型と見なせるほど十分ではなかった。逆に、ファー−ウエスタン・アッセイにおいてσ70と結合しなかった突然変異体R293QとR297Sは、インビボでの成長を維持することができた。他の突然変異体(Y269A、K280E、Q300E、N309D)では、成長に対する効果が検出されなかった。機能しないβ’サブユニット突然変異体の発現レベルは、37℃で成長させる場合、プラスミド由来の野生型β’サブユニットのレベルと同じであることがわかった(データは示さない)。
【0100】
コア/ホロ集合体
上記のさまざまな突然変異体によって引き起こされる可能性のある集合体の欠陥を評価するため、ヘキサヒスチジン・タグ付きβ’サブユニット突然変異体を、野生型の染色体β’サブユニット・タンパク質も発現する細胞の中で発現させた。Ni2+−NTAカラムを用い、β’サブユニット突然変異体を、付随する細胞タンパク質とともに精製した。イムノアフィニティ・カラムを用いてサンプルを取り除き、Ni2+−NTAカラムへのあらゆる非特異的な結合を減らした。
テストしたすべてのβ’サブユニット突然変異体は、集合してコア酵素になる能力を保持していた。そのことは、精製の間を通じてαサブユニットとβサブユニットが会合していたことで証明される(図6aと図6b)。ここでも、突然変異体R275Q、E295K、A302Dは、対数増殖期のサンプルと定常期のサンプルの両方でσ70の結合に欠陥をもたらした。Eσ70の形成がやはり減ったのは、N266Dの対数増殖期のサンプルと定常期のサンプルの両方、およびR297Sの対数増殖期のサンプルである。Q300Eは、σ70の結合が野生型よりも多いという性質を今回も示した。Y269A、K280E、R293Q、N309Dでは、Eσ70集合体に対する影響を検出できなかった。ヘキサヒスチジン・タグのないβ’サブユニットをプラスミドから発現させたとき、Ni2+−NTAカラムへの非特異的結合は検出できなかった。
すべてのサンプル溶離液についても、マイナーなσ因子のどれかが存在しているかどうかを調べた。検出するのに十分の濃度があったマイナーなσ因子は、対数増殖期のσ32サンプル、および定常期のσ32サンプルとσFサンプルだけであった。これらのσ因子に関する結果は、突然変異体R297SとQ300Eを除いてσ70に関する結果と本質的に同じだった。定常期における突然変異体Q300Eからのサンプルでは、σ32とσFのレベルが大きく低下していたのに対し、σ70のレベルは野生型よりも高かった。この突然変異体の対数増殖期のサンプルでも、含まれているσ32の量が低下していた。これは、Eσ32の形成に欠陥があるが、定常期におけるほど深刻ではないことを示唆している。
【0101】
分子モデリング
最近、ツァン他(1999年)がテルムス・アクアティクスのRNAポリメラーゼの結晶構造を報告した。大腸菌RNAポリメラーゼのβ’260−309領域をテルムス・アクアティクスにおける相同領域と比べると、配列が高い割合で保存されている(図8a)。テルムス・アクアティクスのβ’サブユニットのこの領域は、“コイルドコイルのような”構造を形成する。この明細書で検討している突然変異をラスモル・ソフトウエア・プログラム(Sayle他、1998年)を用いてテルムス・アクアティクスに当てはめてみると、σ因子の結合に関して最も欠陥のある突然変異は、コイルドコイルの一方の面に集まっていることがわかる。あるアッセイでは欠陥のある表現型だが別のアッセイでは欠陥のない突然変異は、この面の外縁部にある。検出できる影響をもたらさなかった突然変異は、コイルドコイルの反対側の面に集まっている。ただしN309Dは例外で、“舵”のすぐ隣りにある、コイルドコイルのまさにC末端に位置している(図8bと図8c)。
【0102】
考察
コア・ポリメラーゼに対してさまざまなσ因子が結合するというのは、遺伝子全体の発現と制御を行なうプロセスにおける1つの重要なステップである。このステップが、限られた数のコアに対して結合しようとして競合することによる制御の一部であるか、それとも自由なσ因子が過剰なコアに対して単純に結合するというものであるかはわかっていない。σ因子相互間で競合しながらコアに結合する場合には、その競合は、σ因子の結合特異性による影響を受ける可能性がある。たいていのσ因子で配列の保存性が高いことから、すべてのσ因子がコア酵素の同じ位置に結合すると考えられている(Helmann他、1988年)。この明細書に記載したように、RNAポリメラーゼのβ’サブユニット上でσ70がインビボで結合する部位を同定した。しかもこの結合部位は、少なくともいくつかのマイナーなσ因子の結合にも関係している。さらに、この明細書に記載した方法、組成物、化合物は、σ因子が結合するにあたって重要なコアRNAポリメラーゼ中の残基を同定し、σ因子−コア相互作用の結合インターフェイス候補を明らかにするのに役立つ。
【0103】
予測されるコイルドコイル内のe位置またはg位置を占めることが明らかにされたβ’サブユニットの残基番号260〜309の領域を対象としてσ70の結合の消失を探すことを目的とした突然変異分析法により、3つのタイプの突然変異が得られた。すなわち、行なったすべてのアッセイでσ因子の結合が機能しなかったタイプ;いくつかのアッセイでは機能しなかったが他のアッセイでは機能したタイプ;行なったすべてのアッセイで機能したタイプである。第1のグループは、突然変異体R275Q、E295K、A302Dを含んでいる。これら3つの突然変異体は、インビトロとインビボでσ70の結合が機能しなかった。これは、これら突然変異体がσ70の結合において非常に重要な役割を果たしていることを示唆する。アルギニン275は、予測される2つのヘリックスのうちの第1のヘリックスのC末端の近くに位置しているのに対し、グルタミン295は第2のヘリックスの中央部に、アラニン302は第2のヘリックスのC末端の近くに位置している。このことから、β’260−309において予測される2つのヘリックスの両方がσ70の結合に関係していることが確認される。染色体β’サブユニットの発現を止めたとき、これら残基の位置における突然変異だけが、テストした突然変異のうちで検出可能な成長を維持できなかった。これらβ’サブユニット突然変異体も、ここでの研究でテストしたどの突然変異体も、コア酵素を形成するのに必要なαサブユニットとβサブユニットの間の相互作用に関しては検出可能な欠陥を持っていなかったという事実を考えると、これは重要である。したがって折り畳みに関しては、σ70が結合しない原因となる大きな欠陥はない。
【0104】
これら突然変異体タンパク質の局所構造を乱すことが可能である。全部で10個のサブユニット突然変異体の配列を分析したところ、野生型タンパク質と比べて二次構造に変化のないことが予測された(Rost他、1994年;Munoz他、1994年)。しかしグループ1の突然変異体の中では、A302Dという変化が局所構造を最も乱しやすいであろう。この変化により、1個のメチル基の代わりに帯電した大きな側鎖が導入されることになる。また、テルムス・アクアティクスのRNAポリメラーゼの結晶構造(Zhang他、1999年)に基づくと、A302α炭素のほうが、溶媒に曝露されるR275またはE295の側鎖よりも、コイルドコイルの反対側のヘリックスのほうを向くことになる。R275QとE295Kがβ’サブユニットの局所構造に影響を与えることがなければ、σ70の結合を妨げる性質は、立体障害、電荷の反発、σ因子との特異的相互作用の欠如のいずれかに由来する可能性が非常に高い。
グループ2の突然変異体であるN266D、R293Q、R297Sは、特に興味深い。というのも、これら突然変異体を分析したいくつかのアッセイで、これら突然変異体が何らかの機能を持っているらしいことがわかったからである。R293QとR297Sは、ファー−ウエスタン・アッセイではインビトロでσ70の結合が機能しなかったが、成長を維持し、σ70の結合が可能なコア酵素を形成することができた。ただしR297Sは、対数増殖期でコア酵素突然変異体の結合効率の低下を引き起こす。これら突然変異体に関してインビトロ・アッセイとインビボ・アッセイにおいて得られた結果の違いを説明できる方法は多数ある。第1に、ファー−ウエスタン・アッセイにおける決定的な結果は、β’サブユニットの断片(1〜319)が、このタンパク質の一部が膜に固定化されたままσ70の結合に必要な二次構造を取るように折り畳まれると解釈せざるをえない。したがって、欠陥を生み出す突然変異は、インビトロで折り畳みの不足をもたらす可能性がある。第2に、インビボ・アッセイでは、多数のサブユニットからなるコア酵素へのσ因子の結合を分析しており、個々のサブユニットまたは断片だけについては分析しない。コアRNAポリメラーゼにはσ因子のための多数の結合部位があるという多くの証拠が報告されている(Sharp他、1999年;Joo他、1998年;Nagai他、1997年;Owens他、1998年)。したがって、これら部位のうちの1つが消失しても、残っている結合相互作用によってその消失を補償できる可能性がある。突然変異体R293QとR297Sは、β’260−309に対してσ因子を結合させないが、σ70がコア・ポリメラーゼ上でこれ以外の接触をすることは妨げない。
【0105】
N266Dは、上に説明したグループ2の他の突然変異体とは異なり、β’サブユニットに対するσ70の結合には影響を与えなかったが、Eσ70の形成をグループ1の突然変異体と同じレベルまで低下させ、しかも成長不足は少なかった。N266Dは、コイルドコイルの底部に位置しているため、突然変異があると局所構造を変化させる可能性がある。この変化は、コイルドコイルの向きをコア酵素の残りの部分に対してずらしている可能性がある。このようになっていてもコイルドコイルに対するσ70の結合が影響を受けることはないが、σ70とコアの間に通常は存在している他の接触がなくなる可能性がある。
【0106】
グループ3の突然変異体であるY269A、K280E、Q300E、N309Dは、どれも十分に機能した。これは、これら残基とσ70の接触が決定的に重要ではないことを示唆している。Q300Eという変化はかなり興味深い。この突然変異により、β’サブユニットに対するσ70の結合が増加するように見える。ファー−ウエスタン・アッセイにおいて見られた相対的結合の大幅な増加は、インビボではそれほど劇的なものではなかった。これは、おそらく、σ70−コア相互作用のKeqがσ70−β’サブユニット相互作用のKeqよりも大きいためであろう。しかし、この突然変異体を含むEσ70集合体はそれでも野生型のほぼ2倍であった。コイルドコイルの相互作用に基づく抑制剤は、細胞にウイルスが導入されるプロセスを妨げたりトポイソメラーゼ活性をなくしたりするのに有効であることがわかっている(Eckert他、1999年;Wild他、1994年;Frere−Gallois他、1997年)。σ因子−コア相互作用の抑制剤は、抗菌療法と同様、有効であろう。中でも、Q300E突然変異体は、そのような抑制剤の結合定数を大きくすることに関する有効な情報を提供する可能性がある。
【0107】
他のσ因子群は、コアRNAポリメラーゼ上でσ70と同じ部位に結合すると考えられてきた。異なるσ因子の間で保存されている残基が突然変異すると、コアとの結合が失われるであろう(Sharp他、1999年)トラヴィーリャら(1999年)は、結合したFe−EDTAによる切断を利用して、大腸菌のマイナーなσ因子のいくつかが、Eσ複合体の中では、コアRNAポリメラーゼにσ70が結合している領域の極めて近くに位置していることを明らかにした。マイナーなσ因子は、少なくともσ32とσFに関しては、確かに、コア上でσ70が結合しているのと同じ部位の1つと結合している。これらσ因子は同じ部位と結合しているが、結合の仕方には幾分か違いがある。σ70の結合を増加させたQ300E突然変異体は、σ32とσFに関しては特に定常期で逆の効果を持っていた。R297Sも、σ因子ごとに異なる結合特性を持っていた。この突然変異は、マイナーなσ因子の結合を増加させたが、σ70の結合を減少させた。これら2つの突然変異体がどちらもσ70に対してとマイナーなσ因子に対してでは逆の効果を持つことは興味深い。もっとも、検出可能なレベルだったのは2つのマイナーなσ因子だけである。これは、局所的な環境の変化が、σ70と比べた場合、マイナーなσ因子の結合全体に対してプラスやマイナスの影響を与え得ることを示唆している。
【0108】
最後に、テルムス・アクアティクスのRNAポリメラーゼの結晶構造は、突然変異の結果を理解しようとする際に非常に役に立ってきた。コンピュータによる予測とこの明細書に記載した突然変異の結果だけに基づいたのでは、β’260−309がコイルドコイル構造を形成することは結論できなかったであろう。しかしこの情報を、テルムス・アクアティクスと大腸菌でβ’サブユニットの配列をアラインメントしたもの、ならびにテルムス・アクアティクスの結晶構造と組み合わせることで、β’260−309がコイルドコイル構造を取っていることが明らかになる。しかしσ因子が結合する際にこの領域がどのような構造を取るかははっきりしていない。コアの結合に関係するσ70の保存領域2.1(Lesley他、1989年)は、σ70のプロテアーゼ耐性ドメインの結晶構造において、領域1.2と合わさってコイルドコイルを形成する(Malhotra他、1996年)。また、大腸菌のσ54において予測されるコイルドコイルは、σ因子−コア相互作用にとって重要であることがわかっている(Hsieh他、1999年)。これらσ因子構造は、β’260−309と相互作用して、4つのヘリックスを有するコイルドコイルを形成している可能性がある。またσ因子は、コアと結合する際に立体配座が変化することも知られている(Nagai他、1997年;Callaci他、1998年;McMahan他、1999年)。これは、コイルドコイルが再配置されて新しい接触が生まれたことによって起こっている可能性がある(Grum他、1999年;El−Kettani他、1996年)。
【0109】
グループ1の突然変異がコイルドコイルの同じ面にクラスターを形成しており、グループ2の突然変異がこのクラスターの縁部にあり、グループ3の突然変異がこのコイルドコイルの反対側の面にあるという事実をもとにして、β’サブユニット上のσ70に対する結合インターフェイスを明らかにした。最近の研究により、β’260−309と相互作用しているσ70内の領域が、σ70の非保存領域と領域2.1−2.2の一部とを含むペプチドであることが特定された(Burgess他、1998年)。β’サブユニットの残基番号198〜237の領域は、ブロドリンら(2000年)により、lacUV5プロモーターの非鋳型鎖と相互作用していることが明らかにされた。lacUV5プロモーターは、σ70の領域2.4と接触していることも知られている(Siegele他、1989年;Waldburger他、1990年)。
【0110】
実施例 4
σ 70 とコア RNA ポリメラーゼの間の相互作用を調べるためのルミネッセンス共鳴エネルギー移動( LRET )
細菌の転写機構は、薬剤を発見したり設計したりするための魅力的なターゲットを提供してくれるように思われる。というのも、細菌同士の間では転写機構が非常によく保存されているが、真核生物の転写機構とは大きく異なっているからである。σ因子の集合がコアRNAポリメラーゼとホロ酵素を形成するのを妨げる抑制剤は、どのようなものであれ、一般に、転写の開始を抑制し、したがって細胞の成長や、場合によっては細胞の生存を妨げるであろう。細菌の転写因子(大腸菌のσ70)がコアと結合する際に重要であると推定されている領域(領域2.1−2.2、図20)は、相同性が顕著に大きく(>80%)、細菌のマイナーなσ因子とも非常によく似ている(LesleyとBurgess、1989年;Lonetto他、1998年)。さらに、コアRNAポリメラーゼのβ’サブユニット(図20)は、σ因子が結合する領域(大腸菌のβ’サブユニットの残基番号260〜309)において配列が非常によく保存されている(Arthur他、2000年;ArthurとBurgess、1998年)。これらホモロジーは、コアRNAポリメラーゼのホロ形態中に、高度に保存された構造があることを示唆している。このホロ形態が形成されることは、転写が正しく開始される上で極めて重要である。したがって、この相互作用を妨げるどのような抑制剤も、幅広いスペクトルの抗生物質であることが予想される。哺乳類の細胞では、σ70のホモログは見つかっていない。例外として、ミトコンドリアのσ因子(TracyとStern、1995年)と、葉緑体のσ因子(Allison、2000年)があるが、これらは、原核生物における対応物とは有意な相同性を持っていない。この事実は、真核生物のRNAポリメラーゼ群を抑制する新しい抗生物質の候補が見つかる可能性は非常に小さく、そのような抗生物質が見つからない場合にその抗生物質を薬剤として使用すると重大な副作用を引き起こす可能性があることを意味する。
【0111】
σ因子を用いてRNAポリメラーゼ群の抑制剤をスクリーニングするため、σ70−β’サブユニット複合体を形成するための単純で迅速かつ信頼性の高いアッセイが必要とされている。電気泳動移動度シフト(EMS)アッセイとファー−ウエスタン・ブロットは、大腸菌RNAポリメラーゼ内の結合領域を同定するのに非常に有効であることがわかっている(Burgess他、2000年)が、強力なハイスループット・スクリーニングを行なうためには、信号対雑音比が非常に大きい、より高速で好ましくは均一なアッセイが望ましかろう。そこで蛍光を利用としたプローブによるアッセイを選択し、複合体の形成を調べることにした。この点に関し、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)は、複合体が形成されたときに望むシグナルを発生させることのできるシステムである(Selvin、1995年;Selvin、2000年;Stryer、1978年)。FRETは、色素のスペクトル特性により違いはあるが、2つの適切な色素が約75オングストローム未満に接近したときに起こる。これら色素の間でのエネルギーの移動は、双極子−双極子相互作用による。するとアクセプターが増感し、特別な波長の蛍光を出せるようになる。2つの発光は波長が異なっているため、別々に感知することができる。ここから2つの色素の量と相互間の距離に関する情報が得られる。効果を定量的に記述するには、2つの色素間の距離の6乗に反比例してエネルギーの移動が減少するというフェルスター理論を利用する。したがって、エネルギーの移動と色素間の距離は、発光強度とその減衰を測定することによって決定できる。
【0112】
LRET(ルミネッセンス共鳴エネルギー移動)は、この効果を変えたものである(Selvin、1999年)。FRETとは異なり、ドナーは、ランタノイド複合体と結合した有機色素である。この違いが、分光分析における好ましい特徴となる。ストークス・シフト(励起振動数と発光振動数の差)が大きいことで、装置の励起源と発光の間の大きなクロストークが避けられる。発光線が狭いため、ドナーのシグナルとアクセプターのシグナルを正確に分離することができる。EuやTbなど、たいていのランタノイドの寿命は、Cy5などの一般に使用される大部分の有機色素の寿命(ナノ秒)よりも有意に長い(ミリ秒)。時間分解蛍光モードで測定することにより、バックグラウンドの蛍光とアクセプターに固有の蛍光が減衰した後に、シグナルの取得を開始することができる。したがってドナーによって増感したアクセプターの発光だけが測定できるため、信号対雑音比が非常に大きくなる。アッセイに使用した2つの色素を図10に示してある。
【0113】
ヘイドゥクとその共同研究者は、これと同じ色素ペアを用い、LRETを利用して、ホロ酵素におけるσ70に対するDNAの結合を測定した(HeydukとHeyduk、1999年)。以下に説明するアッセイを行なうため、IC5で標識したβ’サブユニットの断片(残基番号100〜309からなり、N末端に心筋キナーゼ(HMK)認識部位とヘキサヒスチジン・タグが融合したもの)を、Cy5で標識したポリヌクレオチドで置換した。均一アッセイのため、σ70をユーロピウム−DTPA−ANCA複合体で標識してドナーとし、HMK−ヘキサヒスチジン・タグ−β’サブユニットの断片(100〜309)をCy5−アナログIC5−マレイミド(同仁化学研究所、日本)で標識した。図11にこのアッセイを示してある。複合体が形成されるとき、LRETが起こる。σ70とβ’サブユニットの間で複合体が形成されたことは、単純に、複合体の形成を示す光学的に測定可能なシグナルとして、アクセプターの遅延した発光を観測するだけでモニターできる。アッセイはマルチウエル・プレートの中で実行できる。アッセイの結果は、任意の化合物ライブラリーからの多数のサンプルに対して自動化したハイスループット・アッセイを行なうためのマルチプレート読み取り装置で測定する。典型的な反応容積は10〜200μlであり、テスト物質を含む成分をマルチウエル・プレートの中で直接混合した後、プレートを読み取り装置で読み取る。蛍光を利用したこのようなアッセイは非常に感度が高い(一般に数ナノモルのレベル)ため、精度と信号対雑音比に優れており、測定中に現われる偽のヒットを避けることができる。また、このアッセイでは標識したタンパク質と基質の使用量が少ないため、全体のコストが下げられる。
【0114】
方法
緩衝液
以下の緩衝液を使用した:NTGED緩衝液(50mMのNaCl;50mMのトリス−HCl、pH7.9;5%のグリセロール;0.1mMのEDTA;0.1mMのDDT);TGE緩衝液(50mMのトリス−HCl、pH7.9;5%のグリセロール;0.1mMのEDTA);NTG緩衝液=FRET緩衝液(50mMのNaCl;50mMのトリス−HCl、pH7.9;5%のグリセロール);TNTwGu緩衝液(50mMのトリス−HCl、pH7.9;500mMのNaCl;0.1(v/v)%のトゥイーン20;6MのGu−HCl);ネイティブ・サンプル緩衝液(200mMのトリス−HCl、pH8.8;20(v/v)%のグリセロール;0.005%のブロモフェノール・ブルー);保存用緩衝液(50mMのNaCl;50mMのトリス−HCl、pH7.9;50%のグリセロール;0.5mMのEDTA;0.1mMのDDT)。
【0115】
HMK− ヘキサヒスチジン・タグ − β ’ サブユニットの断片( 100 〜 309 )とσ 70 の過剰産生( C132S 、 C291S 、 C295S 、 S442C )
プラスミドpTA133(ArthurとBurgess、1998年;図12)は、発現ベクターpET28b(+)の誘導体である。まず最初に、HMK部位をMCSの5’開始部に挿入し、得られたベクターにβ’サブユニット配列の一部をクローニングして組み込むことで、アミノ酸配列MARRASVHHHHHHM(配列ID番号1)がβ’サブユニット(100〜309)の末端に融合したキメラ(25kDa)を得た。HMK認識部位を下線で示してある。
【0116】
プラスミドpSigma70(442C)(HeydukとHeyduk、1999年;図13)を、σ70発現系であるpGEMD(IgarashiとIshihara、1991年;Nakamura、1980年)から誘導した。このpGEMDは、クローニングしてpGEMX−1(プロメガ社)ベクターに組み込んだ大腸菌からのrpoD遺伝子を含むHindIII断片を含んでいる。これは、IPTGによる制御された誘導と、アンピリシンを用いた選択が可能なT7発現系である。このプラスミドを組み込んで発現用BL21(DE3)(ノヴァジェン社)を形質転換した。細胞を1リットルの培養物としてLB培地中で37℃にて成長させた。LB培地には、100μg/mlのアンピリシンを入れた。培養物をOD600が0.5と0.7の間の値になるまで成長させ、0.5mMのイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導した。誘導を開始してから2時間後、8,000×gで15分間にわたって遠心分離することにより細胞を回収し、−20℃で凍らせて使用するときまで保存した。
【0117】
封入体の精製
細胞ペレット(湿った状態の重量が1〜2g)を、10mMのEDTAと100μg/mgのリゾチームを加えた10mlのNTGED緩衝液の中に再び分散させた。細胞を氷の上で30分間インキュベートし、次いで4℃にて60秒間の超音波バーストで3回にわたって処理した。トリトンX−100(1%v/v)を添加して撹拌した。封入体の形態をした組み換えタンパク質を、25,000×gで15分間にわたって遠心分離することによって可溶性ライセートから分離した。それぞれのステップでSDS−PAGE用にサンプルを100μl採取した。SDS−PAGEの結果を図14に示してある。封入体ペレットを超音波処理により10mlのNTGED緩衝液+1%(v/v)トリトンX−100の中に再び分散させた。この混合物を25,000×gで15分間にわたって遠心分離し、上澄みを捨てた。洗浄した封入体を10mlのNTGED緩衝液+0.1%(v/v)トリトンX−100の中に再び分散させ、25,000×gで15分間にわたって遠心分離した。10mlのNTGED緩衝液+0.01%(v/v)トリトンX−100による洗浄を繰り返し、封入体の分散液を5等分して2mlの小容器に入れた後、ベックマン・マイクロフュージ(Microfuge:登録商標)18遠心分離機を用いて最大速度で遠心分離した。上澄みをピペットで除去し、封入体を−20℃で凍らせて使用するときまで保存した。
【0118】
β ’ サブユニットの Ni−NTA による精製と IC5 による誘導体化
精製のさまざまな段階で採取したサンプルのSDS−PAGEゲルを図15に見ることができる(クーマシー染色とIC5感受性スキャン)。β’サブユニット封入体を3mlのTNTwGu緩衝液+5mMのイミダゾールの中に再び分散させ、室温で15分間にわたってインキュベートした。沈殿物をマイクロ遠心機の中で18,000×g(14,000rpm)で5分間にわたって回転させることにより沈殿させ、上澄みを、5mlのTNTwGu緩衝液+5mMのイミダゾールであらかじめ平衡させた約0.8mlのNi−NTAマトリックス(キアジェン社)とともにバイオラド・カラム(ポリプレップ(PolyPrep)10ml、0.8×4cm)に充填した。結合しなかったタンパク質を除去するため、カラムを少なくとも3mlのTNTwGu緩衝液+5mMのイミダゾールで洗浄した。二硫化結合をすべて還元するため、カラムを調製したばかりの5mlのTNTwGu緩衝液+20mMのイミダゾールと2mlのトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)で洗浄した。N2が飽和した3mlのTNTwGu緩衝液+20mMのイミダゾールで洗浄することにより、過剰なTCEPと非特異的な結合をしたタンパク質を除去した。結合したタンパク質は、調製したばかりの2mlのTNTwGu緩衝液+20mMのイミダゾールと0.2mMのIC5を充填することにより、IC5−マレイミドで誘導体化した。流出液をカラムに2回にわたって充填した後、3mlのTNTwGu緩衝液+20mMのイミダゾールで洗浄することにより過剰な色素を除去した。誘導体化したタンパク質は、TNTwGu緩衝液+200mMのイミダゾールで溶離させ、変性した状態で−20℃にて保存した。
【0119】
σ 70 の精製と誘導体化
1アリコート分の封入体(10ナノモルのタンパク質、0.7mg)を5mlのTNTwGu緩衝液+6MのGuHClの中に再び分散させることにより溶解させた。タンパク質を折り畳ませるため、変性剤を100倍に希釈した。希釈にあたっては、変性剤を氷の上でゆっくりと撹拌している冷たい500mlのTGE緩衝液+0.01%のトリトンX−100の中に入れた。沈殿が起こる場合には、遠心分離機で4℃にて25,000×g(15,000rpm、SS−34ローター)で15分間にわたって回転させることにより沈殿物を沈殿させる。次に、POROS HQ50(パーセプティヴ・バイオシステムズ社)という乾燥樹脂1gを分散させた5mlのTGE緩衝液+0.01%のトリトンX−100を混合物に直接添加することにより、再び折り畳まれたタンパク質を陰イオン交換樹脂に結合させた。30分間にわたって撹拌した後、分散液を25mlのエコノ・パック・カラム(バイオラド社)の上に注ぎ、5mlのNTG緩衝液で洗浄した。カラムに栓をし、樹脂を5mlの保存用緩衝液の中に再び分散させ、10のアリコートに等分し、ゆすいだ空のファルマシア・スピン・カラムに移し、−20℃で保存した。使用する前に、卓上遠心分離機を用い、スピン・カラム内の緩衝液を、5000×g(4500rpm)で遠心分離することにより除去した。σ70に標識するため、500μlのNTGE緩衝液+0.01%のトリトンX−100と0.1μモルのDTPA−ANCA(ヘイドゥク研究室からの寄贈)を用いて樹脂を再び分散させ、室温で30分間にわたってインキュベートした。5μMのEuCl3を誘導体化されたタンパク質とともに樹脂に充填することにより、Eu−複合を形成した。4500rpmで遠心分離した後、カラムを500μlのNTGE緩衝液+0.01%のトリトンX−100で洗浄した。次に、100μlのNTGE緩衝液+500mMのNaClを用い、標識したタンパク質を溶離させた。流出液(標識したσ70)をそのままアッセイで使用した。
【0120】
陰イオン交換樹脂POROS HQ50(パーセプティヴ・バイオシステムズ社)の代わりにDE52(ホワットマン社)を用いることができる。さらに、標識操作は、イオン交換カラムからタンパク質溶液を精製・溶離した後、そのタンパク質溶液に色素のアリコートを添加するだけで実現することもできる(同じ緩衝液、同じ条件)。次に、ファルマシアG50スピン・カラムを用いて過剰な標識とEuイオンを除去した。
【0121】
標識したσ 70 とβ ’ サブユニットの間で複合体が形成されたことを確認するための電気泳動移動度シフト( EMS )アッセイ
このアッセイは、2×天然サンプル緩衝液とNTG緩衝液(全量が200μl;5%のグリセロール;50mMのトリス−HCl、pH8.8;50mMのNaCl;0.005%(w/v)のブロモフェノール・ブルー;不溶性添加物を添加する場合に使用する2.5%のDMSO)を用いることにより得られた緩衝液の中で実行した。標準的なタンパク質の濃度は、σ70(標識したタンパク質)が2μM、β’サブユニット(標識したタンパク質)が2μMであったが、それぞれ200nMと100nMまで少なくすることができる。テスト物質に対し、標識したσ70を最初に添加し、次に抑制剤の候補を添加し、次いで変性した標識付きβ’サブユニットを添加する。それぞれの成分を添加した後、溶液をよく混合した。この混合物を室温で5分間にわたってインキュベートし、次にそこから15μlを採取して、成型したポリアクリルアミド・ゲル(12ウエル、12%、トリス/グリシン、ノヴェックス社)に充填した。温度の低い部屋(4℃)の中で、あらかじめ冷やした緩衝液、ゲル、装置を用い、120Vの定圧(5〜20mA、可変)で2.5時間にわたって電気泳動を行なった。IC5の発光は、ストーム・システム(モレキュラー・ダイナミクス社)を赤色蛍光モードにして測定した。Euの発光は、UVボックス(λ励起=312nm、フォトダイン社)を用いて6秒間の取得時間で測定した。ゲル・コード染色溶液(ピアース社)を製造会社の指示に従って用いてすべてのタンパク質をクーマシー・ブルー色素で染色し、ヒューレット・パッカード社のスキャナーにオレンジ色のフィルタを付けて測定した。
【0122】
標識したσ 70 とβ ’ サブユニットの間のタンパク質 − タンパク質相互作用が抑制されたかどうかを調べる FRET アッセイ
このアッセイは、NTG緩衝液(合計200μL)+2.5%のDMSO(不溶性添加物を用いる場合)に10nMのσ70*(標識したタンパク質)と50nMのβ’サブユニット*(標識したタンパク質)を加えたものの中で行なった。テスト物質に対し、標識したσ70をまず最初に添加し、次に抑制剤の候補を添加し、最後に変性した標識付きβ’サブユニットを添加した。それぞれの成分を添加した後、溶液をよく混合した。この混合物を室温で5分間にわたってインキュベートし、96ウエル・プレート(コスター3650)の中でマルチプレート読み取り装置(ワラック社、VictorV2 1420)を用いて測定を行なった。この時間分解蛍光測定では、製造業者のプロトコル(LANCEハイ・カウント615/665)を利用した(1000フラッシュにより325nmで励起し、測定は、100マイクロ秒遅延させて行ない、615nmと665nmで50マイクロ秒にわたってシグナルを取得した)。蛍光測定では、内部基準として二次発光の波長を用いるのが一般的である。こうすることにより、装置の雑音を補正することができるだけでなく、個々のケースにおけるドナーの実際の量に対して信号を規格化することもできる。こうしたことが可能なのは、ドナーの発光波長とアクセプターの発光波長がよく分離されており、マルチプレート読み取り装置で別々に測定できるからである。IC5の発光は、(基準のクロストークを測定することにより)Eu発光バンドからの非常に少量のシグナルに対して補正し、Euシグナルの強度で割る。規格化は測定プロトコルの中に組み込まれており、マルチプレート読み取り装置の製造業者(ワラック社)がそれについて説明している。この方法にはこのような特徴があるため、実際の抑制によるシグナルの低下と、検体からの内部フィルタ効果によって起こる単なる吸収とを区別することができる。これは、実際のハイスループット・スクリーニングにおける偽のシグナルを同定するのに役立つ。
【0123】
結果
標識したσ 70 とβ ’ サブユニットの間で複合体が形成されたことを確認するための電気泳動移動度シフト( EMS )アッセイ
EMSアッセイの結果は、標識したタンパク質も標識のないタンパク質も複合体を形成でき、天然ゲル中で単独のσ70よりも高い位置に来ることをはっきりと示していた。別のいろいろな測定法によってもEMSアッセイにおけるバンドが何であるかが確認された(図11)。さらに、EMSアッセイにより、標識のないβ’サブユニットの断片が、標識したσ70と競合できることが示された。したがって、標識のないβ’サブユニットの断片それ自体は、アッセイにおいて標識したβ’サブユニットの断片とσ70の結合を妨げることのできる薬剤に対する正の調節物質となる。
【0124】
標識したσ 70 とβ ’ サブユニットの間でタンパク質 − タンパク質相互作用の抑制が起こるかどうかを調べる LRET アッセイ
LRETアッセイはEMSアッセイの代わりになる迅速で再現性のある方法であり、このLRETアッセイにより、標識したσ70とβ’サブユニットの間でのタンパク質−タンパク質相互作用の発生と抑制を調べることができる。EMSアッセイによるすべての結果は、LRETアッセイでも再現された。例えば、標識のないσ70の量を増やすことにより、β’サブユニットに対する結合が、標識したσ70と競合することが観測された(図17)。さらに別の実験では、塩(NaCl)と溶媒(DMSO)に対する依存性が明らかになった(図18と図19)。NaClの濃度を100mMから400mMに増やすとシグナルが50%に低下する。NaClがアッセイに対してこのように影響を及ぼすことからわかるように、塩の濃度はシグナルに対して大きな効果を持つ。β’サブユニットとσ70の間のこの相互作用は、NaClの濃度を大きくすると弱くなることが知られている。他方、テストすべきエフェクターのための溶媒候補であるDMSOは、アッセイに対して有意な効果を及ぼさなかった。図19からわかるように、LRETアッセイにおけるシグナルは、存在するDMSOの量が5%のところまで大きな影響を与えない。同じ実験において、エタノールは1〜5%の範囲で有意な効果を示した。このアッセイの信号対雑音比は7〜10であった。このような値だと、より正確な読み取りによって偽のシグナルが除去されるので、ハイスループット・スクリーニングにとって特に望ましい。
【0125】
考察
細菌のコアRNAポリメラーゼ(RNAP)とσ因子の間の主要なタンパク質−タンパク質相互作用が薬剤発見のための第1の標的となると考えてよい理由がいくつかある。この標的に可能性があることを理解するためのカギは、転写が開始されるためにはσ因子がコアRNAPに結合することが絶対に必要だということにある。いかなる細菌の細胞も、この相互作用を効果的に妨げる抑制剤を取り込むと必ず死ぬからである。両方のタンパク質の結合領域は細菌間で非常によく保存されており(図20)、既知のどの真核生物のホモログとも有意に異なっているので、生物活性が非常に大きいことに加え、特異性がよいことも期待される。これは、ヒトRNAPとの干渉によって副作用が起こる確率が非常に小さいことを意味する。
部位それ自体に、特異的な多数の標的候補よりも優れている別の点がある。RNAPのβ’サブユニット上の結合部位は1つの細菌のすべてのσ因子と相互作用するため、結合部位でいずれか1つのσ因子と結合する抑制剤に対抗するのに点突然変異を通じて耐性を発達させることはありそうにない。それというのも、β’サブユニットとすべてのσ因子の両方で同時に耐性が生まれる必要があるからである。抗生物質に対する耐性が高まり、新しい抗生物質がますます要求されていることから、このことが、最近、薬剤発見における主要な問題となっている。
コアRNAPに対するσ因子の結合を測定するルミネセンス共鳴エネルギー移動(LRET)アッセイは、ヘイドゥクとその共同研究者により、効果的で非常に感度のよい方法であることが示されている。上記のアッセイにおけるLRETのドナーを調製するため、特性がよくわかったσ70(442C)突然変異体を用いた。この突然変異体は、突然変異によりすべての天然のシステイン残基がセリン残基に代わったもので、DTPA−AMCA−マレイミド−Eu複合体を用いて誘導した。N末端にHMK部位とヘキサヒスチジン・タグが融合したRNAPのβ’サブユニットの断片(残基番号100〜309)は、IC5−マレイミドを用いて誘導し、LRETのレセプターとした。この色素ペアについては、分光分析における特徴とLRET実験における挙動がよくわかっている。時間分解された蛍光に基づく比色測定とEMSアッセイにより、標識したタンパク質が、標識があろうがなかろうがあらゆる組み合わせで互いに結合できることがわかった。対照として、標識のないタンパク質をテストし、標識のある対応物と競合できるかどうかを確認した。EMSとLRETの両方のアッセイにおいて、標識のないβ’サブユニットまたはσ70は、複合体内で標識のある対応物と結合を競合することができた。したがって、LRETアッセイを利用してσ70のβ’サブユニットへの結合を調べるとともに、このタンパク質−タンパク質相互作用の抑制剤をスクリーニングすることができる。
【0126】
LRETアッセイは、この特定の複合体の形成に対する迅速で感度のよいプローブとなる。基質と材料は、容易に入手できるか、簡単で効率的な方法で調製することができる。標識したすべてのタンパク質は、保存中も非常に安定していた。これは、10,000〜100,000またはそれ以上の物質を含む大きなライブラリーのスクリーニングをするときに大きな利点となる。さらに、LRETアッセイは非常に高感度であるため、タンパク質の濃度が1〜100nMと非常に低い場合でも測定を行なうことができ、その結果としてスクリーニングする物質1つあたりのコストが非常に低くなる。
【0127】
LRETアッセイは、非常に感度がよいだけでなく、正確でもあることがわかった。偽のシグナルが正しいシグナルであるかのごとく読み取られるのを避ける上で、信号対雑音比が7〜10と非常によいことと、テスト物質の内部フィルタ効果による蛍光のクエンチを結合の抑制から識別するのに有効な内部基準法とは、大いに役立つ。また、テスト物質に対する溶媒候補であるDMSOとこのアッセイは非常に相性がよいため、ハイスループット・スクリーニングへの適用可能性が大きくなる。多くの天然産物も、ライブラリーとコンビナトリアル・ライブラリーからのたいていのペプチドまたは小分子も水に溶けにくいため、有機溶媒を使う必要がある。この点に関し、DMSOは最も柔軟性がある強力な溶媒である。また、DMSOはいろいろなライブラリーでしばしば用いられているため、どのようなハイスループット・アッセイに対しても望ましい相溶性を示す。
【0128】
さらに、シグナルの特性を向上させるため、あるいは単により安くてより入手しやすい化合物を利用するため、DTPA−AMCA−EuIIIとIC5以外でFRETに基づくシグナルを出すプローブを用いることもできる。IC5(同仁化学研究所、日本)の代わりにCy5(アマーシャム社)を用いるという単純な変更について上に説明したが、この変更がアッセイに影響しないことがわかっている。DTPA−cs124−RやTTHA−AMCA−R(Selvin、1999年)といった他のユーロピウム・キレートが適切であることが報告されている。パッカード社((Eu)KまたはXL665試薬、TRACE試薬)やワラック社(DELFIA試薬とLANCE試薬)などの会社は、プレート読み取り装置とともにこのような色素も提供している。例えば、アロフィコシアニンAPC(XL665のアナログ)(Boisclair他、2000年)をアクセプターとし、Euドナーと組み合わせて使用することができる。いずれの場合にも、色素は、標的タンパク質を認識する特異的抗体に付着させることができる。テルビウムという別の希土類金属は、同様の複合体中でEuに対する別のLRETドナーとして機能することができる。ファロイジン−テトラメチルローダミンもLRETアクセプターであることが報告されている。最近、標的タンパク質といろいろな緑色蛍光タンパク質が融合したさまざまな融合体を用いてインビボでFRETを観測し(Harpur他、2001年;PollokとHeim、1999年)、インビボでの条件下で化合物候補の抑制効果を測定することが可能になっている。この抑制効果では、薬剤を標的とする組織に運ぶことも考慮されている。色素ペアとしては、例えばBFP、eGFP、CFP(シアン)、YFP(イエロー)、eYFPの中から選択したペアを用いることができよう。したがってタンパク質は、トランスフェクションまたは接合を通じて任意の細菌に届けることができよう。あるいはタンパク質を酵母の2ハイブリッド系で用い、インビボでの抑制性化合物候補をスクリーニングすることができよう。
【0129】
天然産物ライブラリーをハイスループット・アッセイでスクリーニングする場合には、決定的なヒットがあると、そのような活性モードの物質は知られていないため、新しい抗生物質である可能性がある。他方、スクリーニングが、活性モードがまだ同定されていなかったり、2つ以上の活性を持っていたりする既知の抗生物質を同定するのに役立つこともある。コンビナトリアル・ライブラリーからの決定的なヒットと合わせて考えることにより、これらの物質は、望ましい特性を有する新しい化合物を設計したり要求に合わせて作ったりするためのリード構造物として役に立つ可能性がある。なお望ましい特性としては、活性、特異性、安定性、細胞内に入る能力などが高いことのほか、副作用、コスト、耐性の発達可能性などが小さいことが挙げられる。さらに、このアッセイは、コアに対するさまざまなσ因子とσ因子突然変異体の相対的結合度を調べるための強力なツールとなりうる。
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
あらゆる出版物、特許、特許出願を、本明細書に援用する。ここまで本発明をいくつかの好ましい実施態様について説明するとともに、理解しやすくすることを目的として多くの細かい点を示してきたが、本発明にはさらに別の実施態様が可能であり、ここに説明した細かい点のいくつかを本発明の基本本質の範囲内で大幅に変更しうることは、当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【図1】
整列断片ラダー(ordered fragment ladder)・ファー−ウエスタン法の概略図。ヘキサヒスチジン・タグを付けた標的タンパク質を切断し、得られた断片をNi2+−NTAカラムで精製し、SDS−PAGEにより分画し、ニトロセルロース上で電気泳動にかける。ブロットされたタンパク質の断片を洗浄して変性剤を除去し、断片内の相互作用ドメインが再び折り畳まれるようにする。相互作用ドメインは、放射性標識したタンパク質をプローブとして用いることにより同定できる。相互作用ドメインのマッピングは、相互作用ドメインの一部が失われているためにプローブとはもはや結合しない断片を同定することにより行なう。
【図2】
整列断片ラダー・ファー−ウエスタン・ブロットの一例。A)ヒドロキシルアミン(NH2OH、“Hyd”)および2−ニトロ−5−チオシアノ安息香酸(NTCB)という化学的切断剤を用いた場合の、大腸菌RNAポリメラーゼのβ’サブユニット上にある化学的切断部位の位置を示す図。これら切断部位は、マックヴェクター(MacVector)プログラム(オックスフォード・モレキュラー・グループ)を用いてアミノ酸配列から予測した。数字は、左側のN末端から数えたアミノ酸の位置を示す。“1”は切断部位を、“2”は互いに非常に近接した2つの部位を示す。B)C末端にヘキサヒスチジン・タグが付いたβ’サブユニットをNH2OHまたはNTCBで切断した場合の整列断片ラダー。左側にはSDSゲル上で予想されるバンドの図が示してある。中央にはクーマシー染色した実際のゲル、右側には、ニトロセルロース上にブロットし、32Pで標識したσ70をプローブとして調べた同じゲルが示してある。NH2OHにより切断された断片の結果から、N末端にヘキサヒスチジン・タグが付いた断片のほとんどはプローブと結合するのに対し、C末端にヘキサヒスチジン・タグが付いたタンパク質は完全長のものだけがプローブと結合することがわかる。したがって相互作用ドメインは、β’サブユニットのアミノ酸番号1〜309の間の領域にある。
【図3a】
β’サブユニットの残基番号260〜309の領域。(A)β’サブユニットの残基番号260〜309にある相互作用ドメインの概略図。文字が書かれている区画は、真核生物と原核生物のRNAポリメラーゼの最大のサブユニット群の中にある保存された領域を示す(Jokerst他、1989年)。β’260−309という相互作用ドメインは、β’サブユニット内の保存された領域Bの一部と重なっている。相互作用ドメインの下には、予測されるαヘリックスとコイルドコイルが示してある。
【図3b】
(B)β’260−309において予測されるコイルドコイルのヘリカル・ホイール図。予測される2つのヘリックスが互いに相互作用して逆平行のコイルドコイルを形成している様子が示してある。突然変異は、元の残基の隣りに残基番号とともに示してある。N末端は、右側のヘリックスのアミノ酸N266の位置にある。このヘリックスは紙面から手前に飛び出すように描かれているのに対し、左側のヘリックスは紙面の裏側に向かい、N309で終結している。
【図4】
野生型β’1−319または突然変異体β’1−319を含む細胞抽出液のウエスタン・ブロットおよびファー−ウエスタン・ブロット。細胞抽出液は、8〜16%のトリス−グリシンSDS−PAGEで分析し、ニトロセルロースにブロットし、プローブとして(A)アンチβ’サブユニット抗体、または(B)32Pで標識したσ70を用いて調べた。(C)β’サブユニットの野生型断片とβ’サブユニットの突然変異体断片に対するσ70の結合度の相対値。野生型β’1−319断片と突然変異体β’1−319断片に対するσ70の結合をファー−ウエスタン・ブロット分析で測定した値の相対値は、使用したβ’1−319断片の量を定量的ウエスタン・ブロット分析により測定した値で規格化した(野生型=1.0)。誤差棒は、標準偏差を表わす。結果は、別々に3回行なった実験の平均である。
【図5】
β’サブユニット源としてプラスミドに由来するβ’サブユニットの野生型または突然変異体だけを用いた場合の成長。野生型または突然変異体の完全長β’サブユニットをコードするプラスミドを用いて菌株RL602を形質転換した。次に、形質転換した細胞(10μl)を2枚のプレート上にスポットになるように載せ、一方は30℃(許容範囲内)で、他方は42℃(許容範囲外)で24〜48時間にわたってインキュベートし、成長を評価した。
【図6A】
できあがったコア酵素および/またはホロ酵素。成長した細胞を、野生型β’サブユニットまたは突然変異体β’サブユニットを発現したプラスミドとともに回収し、精製して、プラスミド由来のヘキサヒスチジン・タグ付きβ’サブユニットを単離するとともに、そのβ’サブユニットとの間のあらゆる複合体も単離した。Ni2+−NTAで精製したサンプルからのタンパク質は、SDS−PAGEで分離し、ニトロセルロースにブロットした。次にこのブロットを、指定された各サブユニットに対するモノクローナル抗体(MAb)を用いて調べた。(A)対数増殖期のサンプル。
【図6B】
(B)定常期のサンプル。His6タグなし:ヘキサヒスチジン・タグなしでプラスミド由来の野生型β’サブユニットを発現している菌株。
【図6C】
(C)突然変異体β’サブユニットに対するσ70の結合を野生型β’サブユニットに対するσ70の結合と比較し、保持されているαサブユニットの量で規格化した値(野生型=1.0)。結果は、別々に3回行なった実験の平均である。誤差棒は、標準偏差を表わす。
【図6D】
マイナーなσ因子について調べた場合の対数増殖期のサンプルと定常期のサンプル。
【図6E】
マイナーなσ因子について調べた場合の対数増殖期のサンプルと定常期のサンプル。
【図7】
突然変異体に関するデータのまとめ。
【図8a】
突然変異のモデリング。(A)大腸菌のβ’260−309と、テルムス・アクアティクスにおける相同領域のタンパク質配列をアラインメントした図。白抜きの文字は、大腸菌とは一致しない文字を示す。
【図8b】
ラスモル(Rasmol)・ソフトウエア・プログラム(Sayle他、1995年)を利用してテルムス・アクアティクスのRNAポリメラーゼの結晶構造(Zhang他、1999年)上に突然変異を配置したモデルに関する2つの図。(B)ポリメラーゼの方向を向いたコイルドコイルの中心を見下ろした図。
【図8c】
(C)コイルドコイルの側面図。実行したすべてのアッセイで欠陥のあった突然変異は緑色にした。すべてではなくいくつかのアッセイで欠陥のあった突然変異はシアンに着色してある。常に機能した突然変異は紫色にしてある。この構造の向きを示すため、茶色の“方向標識”を付けてある。
【図9】
実施例4で説明するタンパク質結合アッセイで使用するσ70とβ’サブユニットの断片の構造を示す。名称の下には、突然変異部位と誘導体化部位(太字)がそれぞれ示してある。HMK−His6−β’−100−309は、残基番号100〜309を含むβ’サブユニットの断片であり、N末端に心筋キナーゼ(HMK)認識部位とヘキサヒスチジン・タグが融合している。β’サブユニットの断片中にあるマゼンタに着色したコイルドコイルのαヘリックス構造は、RNAPにおける主要なG結合エレメントであるらしい。IC5は、ピンク色にしてある。σ70でコアRNAPと結合するのに中心的な役割を果たす領域は、領域2.1(緑色)と領域2.2(黄色)である。これ以外に着色してあるのは、σ70構造の領域2.3(青色)、領域2.4(茶色)、非保存領域(白色)、N末端(赤色)である。Eu−DTPA−AMCA複合体は、濃い青色にしてある。
【図10】
タンパク質を誘導体化するのに用い、LRETアッセイにおいて蛍光体となる色素。
【図11】
標識したタンパク質β’100−309とσ70が結合するときにLRETシグナルがどのようにして発生するかを示す図。IC5で標識したβ’サブユニットの断片の蛍光は、320nmで励起してから50マイクロ秒後にデータを取得するまでの遅延時間の間に減衰する。Euの発光は長くて1ミリ秒を超えるため、複合体からは、標識したσ70のEuの発光と、増感したIC5の発光だけが、遅延時間を経過した後に観測できる。このため、バックグラウンドの信号が最小になり、効率的なハイスループット・スクリーニング・アッセイにおいて望ましい信号対雑音比が得られる。
【図12】
プラスミドpTA133のマップ。プラスミドpTA133は、発現ベクターpET28b(+)(ノヴァジェン社)に由来する。N末端のHMK部位とヘキサヒスチジン・タグ・コード配列を、β’サブユニットの残基番号100〜309の領域とともに挿入した。このプラスミドは、大腸菌内でクローニングするためのpBR322複製起点と、選択のためのカナマイシン耐性遺伝子とを有する。IPTGを通じた誘導をよく制御できるようにするため、lacIリプレッサー遺伝子を含めてある。
【図13】
発現プラスミドpSigma70(442C)のプラスミド・マップ。このプラスミドはpGEMX−1(プロメガ社)由来であり、アンピリシン選択を伴ったT7発現系において発現させることができる。
【図14】
封入体を精製したSDS−PAGEゲル。β’サブユニットの断片(左)とσ70(右)についてのもの。ゲルは、ジェルコード(GELCODE:ピアース社)とクーマシー・ブルーで染色した。ゲルは両方ともNuPAGE(ノヴェックス社)だが、左のゲルは12%のポリアクリルアミド、右のゲルは4〜12%の勾配を有するポリアクリルアミドにした。
【図15】
β’サブユニット精製ステップと、誘導体化ステップ(クーマシー染色とIC5スキャン)でのSDS−PAGEゲル。IC5スキャンは、モレキュラー・ダイナミックス・ストーム・システムを赤色蛍光モードで用いて実施した。
【図16】
2回のEMSアッセイと3つの異なる取得方法による結果。右側の図から、標識したβ’サブユニットの断片の量を増やすと、複合体を表わす上方のバンドにすべてのσ因子をシフトさせうることが、クーマシー染色したゲルからわかる。同じゲルに関する下の写真は、UVボックスで取得したものである。このUVボックスでは、カメラにオレンジ色のフィルタを付けて312nmの波長で励起させるため、Euの発光だけを見えるようにすることができる。この写真により、両方のバンドがEu標識したσ因子を含んでいることが確認される。両側の一番下には、上と同じゲルに関する別の写真がある。これは、IC5標識だけを見えるようにするストーム・イメージャー(Storm Imager:モレキュラー・ダイナミックス社)を用いて取得したものである。この写真により、上方のバンドだけがβ’サブユニットの断片を含んでいることが確認される。結合していないβ’サブユニットの断片はほとんどゲルの中に移動せず、拡散バンドとなる(データは示さず)。
【図17】
標識していないσ70の量を増やしていったとき、β’サブユニットの断片に対する結合が、標識したσ70との間で競合する様子。シグナルが低下していくのは、標識したβ’サブユニットの断片が競合により標識したσ70から取り去られ、もはやLRETを通じて増感されることがないからである。
【図18】
LRETアッセイのNaCl濃度依存性。塩の量が増えるにつれ、LRETシグナルは有意に減少する。これは、σ70/β’サブユニット複合体の形成量が減少しているためであるに違いない。
【図19】
アッセイのDMSO濃度依存性。タンパク質の添加前にアッセイ用緩衝液と混合するDMSOの量(0〜5%)を増やしても、シグナルには有意な影響が現われない。
【図20】
A)大腸菌のσ70の構造領域と機能領域の図。B)σ70の領域2.1−2.2のホモログの配列をアラインメントした図。C)大腸菌のσ因子をアラインメントした図。D)さまざまな細菌のβ’260−309の配列をアラインメントした図。
関連する出願の相互参照
本出願は、35U.S.C.§119(e)のもとで2000年3月30日に出願されたアメリカ合衆国出願シリアル番号第60/193,116号の出願日の恩恵を主張する。
【0002】
政府が権利を有することの宣言
本発明は、少なくともその一部が、アメリカ合衆国政府の助成金によりなされた(国立保健研究所からの助成金GM28575)。政府は、この発明に対して所定の権利を持つことができよう。
【0003】
発明の背景
大腸菌RNAポリメラーゼは多数のサブユニットを有する大きな酵素であり、2つの形態で存在している。コア酵素は、βサブユニットと、β’サブユニットと、αサブユニット・ダイマーとで構成されており、プロセシングによる転写伸長の後、終結を行なう(Helmann他、1988年)。さまざまなσ因子のうちの1つがコアに結合するとホロ酵素が形成される(Burgess他、1969年)。σ因子は、酵素に対し、プロモーター特異的なDNA結合能力と転写開始能力を与える(Helmann他、1988年;Burgess他、1969年;Gross他、1996年;Gross他、1992年)。σ因子のうちで最初に報告され、特性が明らかにされたのは、大腸菌のσ70だった(Burgess他、1969年)。そのとき以来、多数のσ因子が真正細菌目の中から発見されている。その中には、大腸菌の他の6種類のσ因子が含まれる。それぞれのσ因子は、対応するコグネイト・ホロ酵素に命令し、そのσ因子によって特異的に認識されるDNA配列を含むプロモーターだけから転写を開始させる。したがって、それぞれのσ因子は、一般に、特定のプロモーター群から転写の開始を命令し、機能が互いに関連した遺伝子群を転写させる。この転写制御の一部は、個々のσ因子がコア酵素と競合することによって起こり、細菌における全体的な遺伝子調節は、主にこの転写制御による(Zhou他、1992年)。
【0004】
同定されるσ因子の数が増えるにつれ、σ因子同士がアミノ酸配列の似た領域をいくつか共有していることが明らかになってきた(Helmann他、1988年;Gribskov他、1986年;Lonetto他、1992年)。その間、研究者は、保存されている領域の機能に興味を持ち続けてきた(Waldburger他、1994年;Dombrowski他、1993年;Siegele他、1989年;Gardella他、1989年;Lesley他、1989年)。σ70の欠失分析により、このタンパク質の重複している保存領域2.1(残基番号361−390)が、コアとの結合に必要かつ十分であることが明らかにされた(Lesley他、1989年)。枯草菌のσEの相同領域における突然変異がコアとの結合に影響を与えることも見いだされた(Shuler他、1995年)。しかしσ32の他の保存領域ならびに非保存領域においてコアと結合する突然変異に関する最近の知見をもとに、コア酵素上にはσ因子の結合部位が多数あるという考え方が生まれている(Joo他、1997年;Zhou他、1992年;Joo他、1998年;Sharp他、1999年)。
【0005】
βサブユニットとβ’サブユニットのそれぞれは、真核生物のポリメラーゼの最大の2つのサブユニットと高い配列相同性を有する領域を含んでいる(Allison他、1985年;Sweetser他、1987年;Jokerst他、1989年)。これら保存領域のうちのいくつかは、相互作用ドメインとして機能している可能性がある。相互作用ドメインとは、タンパク質内にあって、他のタンパク質、DNA、RNA、リガンドのいずれかと相互作用するのに必要な2次構造および3次構造を形成するために独立に折り畳むことができるという条件を満たす最小の領域のことである。相互作用ドメインは、アミノ酸によって形成されていて結合相手と直接接触する実際の結合部位よりも大きい。セヴェリノフら(Severinov他、1992年、1995年、1996年)は、機能を有するRNAポリメラーゼを断片化したβサブユニットとβ’サブユニットから再構成することにより、βサブユニットとβ’サブユニットがドメインに似た特性を持つことを明らかにした。したがって、ポリメーラーぜの特性が生まれるのにサブユニットの全長は必要とせず、それよりも短いドメイン・モジュールがあればよい。
【0006】
βサブユニットまたはβ’サブユニットに欠失があると、コア酵素は形成できるが、ホロ酵素は形成できないという2つの観察結果が知られている。第1は、C末端の約200個のアミノ酸が失われたβサブユニット断片は、グリセロール勾配遠心分離により他のコア・サブユニットとともに移動するが、σ因子を含む分画中には決して見られなかったというものである(Glass他、1986年)。第2は、残基番号201−477のアミノ酸が失われたβ’サブユニット欠失突然変異体を含む再構成されたRNAポリメラーゼを用いて免疫沈降アッセイを行なったところ、コア・サブユニットは同じ分画中に見いだされたが、σ因子は見当たらなかったというものである(Luo他、1996年)。しかしβ’サブユニットの欠失が非特異的であるかどうか、例えば相互作用ドメインの正しい形成がβ’サブユニットの欠失によって妨げられるかどうかははっきりしなかった。
【0007】
βサブユニットのC末端とβ’サブユニットのN末端が乱れるとσ因子の結合に影響があるという考え方は、実験結果と整合性がある。その実験結果というのは、これら2つのサブユニットの端部は物理的に互いに近い位置にあるためフレキシブルなリンカーを通じて融合することが可能であり、その場合にも機能を有する酵素が形成されるというものである(Severinov他、1997年)。タンパク質−タンパク質フットプリンティングに関する最近のデータから、β’サブユニット内の似た1つの領域と、βサブユニット内の2つの新しい部位が、σ70と相互作用することが可能であることが明らかになった(Owens他、1998年)。オーエンスらは、β’サブユニットの残基番号228−461がσ因子と物理的に近い位置にあることを示したが、彼らは、β’サブユニットとσ因子の間に直接的な相互作用があるという結論は出さなかった。
【0008】
バージスら(1998年)は、インビトロでのファー−ウエスタン・アッセイおよび同時固定化(co−immobilization)アッセイに基づき、β’サブユニットの残基番号260〜309がσ因子と結合することを報告している。しかし無細胞系で結合させた結果によれば、インビトロで結合に関与する領域がインビボでも結合に関与することは明らかでない。例えば、β’サブユニットのこの領域(例えば疎水性領域)は天然の構造では隠れていて、インビボでは結合に関与しない可能性がある。構造分析プログラムによれば、β’サブユニットの残基番号260〜309は、ランダム・コイルによって結合した2つのαヘリックスを有すること、また、これら2つのヘリックスは両親媒性であり、7個からなる繰り返しモチーフに基づいたコイルドコイルを形成している可能性のあることが示唆される(Chao他、1998年;Cohen他、1986年;Lupas他、1991年)。中でも、コイルドコイルのモチーフ内にあるaおよびdという特定の位置は疎水性であるため、天然のβ’サブユニットでは隠れている可能性がある。
【0009】
そのため、必要とされているのは、コアRNAポリメラーゼのサブユニット内にあって、インビボでσ因子と相互作用する領域を同定することである。また、σ因子がコアRNAポリメラーゼに結合するのを妨げる特異的な抑制剤の同定方法も必要とされている。
【0010】
発明の要約
本発明は、RNAポリメラーゼの単離・精製されたβ’サブユニットまたはその一部(すなわち断片)のうち、インビボでσ因子と特異的に結合するβ’サブユニットまたはその断片を提供する。この断片は、β’サブユニットを構成する残基の少なくとも39個を含んでいることが好ましく、より好ましいのは少なくとも44個を含んでいることであり、さらに好ましいのは少なくとも49個含んでいることである。しかし、インビボでσ因子と特異的に結合するこれよりも小さな断片も可能である。また、β’サブユニットの単離・精製されたこの断片は、残基番号270〜309を含んでいることが好ましく、さらに好ましいのは残基番号260〜309を含んでいることである。以下に説明するように、RNAポリメラーゼのβ’サブユニット内にあってσ因子と直接相互作用する領域(相互作用ドメイン)を同定した。β’サブユニット内にあってσ因子とインビトロで相互作用する相互作用ドメインは、ファー−ウエスタン・ブロット分析と同時固定化アッセイにより同定した。ファー−ウエスタン・ブロット分析は、1つのタンパク質上で、別のタンパク質と結合するのに必要なドメインの位置を特定する一般的な方法の1つである。
【0011】
この明細書で用いる“相互作用ドメイン”は、タンパク質内にあって、他のタンパク質、DNA、RNA、リガンドのいずれかと相互作用するのに必要な2次構造および3次構造を形成するために独立に折り畳むことができるという条件を満たす最小の領域のことを意味する。β’サブユニット上でσ因子が結合する領域は、σ70を始めとする大腸菌のσ因子群、T4ファージのσgp55、枯草菌のσAなど、さまざまなσ因子と相互作用することがわかった。
【0012】
やはり以下に説明することだが、β’サブユニットの残基番号260〜309に位置することが予測されるコイルドコイル内に点突然変異を有するタンパク質を調製した。これら突然変異体のうちのいくつかは、インビトロでσ70と結合できなかった。これら突然変異体のうち、3つ(R275Q、E295K、A302Dであり、これらは、コイルドコイルとなることが予測されるβ’260−309のe残基とg残基の位置において電荷が変化した突然変異体である)は、突然変異したβ’サブユニットだけがβ’サブユニット源であるインビボ・アッセイでまったく成長できなかった。すべての突然変異体をコア酵素に組み込むことができたが、R275Q、E295K、A302Dは、Eσ70−ホロ酵素を形成できなかった。突然変異体のうちのいくつかは、マイナーなさまざまなσ因子とホロ酵素を形成することがやはりできなかった。いくつかの突然変異は、あるアッセイでは機能しなかったが、別のアッセイでは機能した。これは、β’260−309の部位における結合がないことを、他の部位が結合することで補償した可能性のあることを示唆している。したがって、これらの結果は、β’サブユニットの残基番号260〜309がインビボでσ因子と特異的に結合すること、また、この領域における突然変異が、σ70その他のマイナーなσ因子とコアの結合を顕著に減らす可能性のあることを示していた。最近発表された好熱菌テルムス・アクアティクス(Thermus aquaticus)のコアRNAポリメラーゼの結晶構造(Zhang他、1999年)によれば、大腸菌のβ’260−309と相同な領域は、コイルドコイルを形成している。この明細書で説明するβ’サブユニットの突然変異をこのコイルドコイルと照らし合わせてみると、最も欠陥のある突然変異はヘリックスの一方の面に位置していることがわかる。これは、σ70との接触面がたいていの場合にどこになるかを示唆している可能性がある。RNAポリメラーゼは多数のサブユニットを有する大きな複合体(約3300個のアミノ酸)であり、RNAポリメラーゼのβ’サブユニットは大きなタンパク質(例えば大腸菌のβ’サブユニットは約155,000ダルトン)であるため、コアRNAポリメラーゼ内の領域のうちでσ因子とインビボで特異的に相互作用する領域を同定することは、非常に意味がある。というのも、その領域が、薬剤(例えばコアとσ因子の相互作用を特異的に妨げる薬剤)を発見するための特別な標的となるからである。
【0013】
そこで本発明は、σ因子が、コアRNAポリメラーゼ、そのサブユニット、そのサブユニットの一部のいずれかと結合するのを抑制または阻止する薬剤の同定方法を提供する。この方法は、薬剤をコアRNAポリメラーゼ(例えば単離されたコアRNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼの単離されたサブユニット、そのサブユニットの一部)に接触させて複合体を形成する操作を含んでいる。この明細書で用いる“単離および/または精製された”は、タンパク質または生体分子の複合体(例えばコアRNAポリメラーゼ)をインビトロで調製し、単離および/または精製して、インビボの物質と会合しないようにすること、またはインビトロの物質から実質的に精製された状態にすることを意味する。サブユニットの上記一部は、β’サブユニットを構成する残基の少なくとも39個を含んでいることが好ましく、より好ましいのは少なくとも44個を含んでいることであり、さらに好ましいのは少なくとも49個を含んでいることである。次に、複合体をσ因子またはその一部に接触させ、σ因子がコアRNAポリメラーゼ、またはRNAポリメラーゼの単離されたサブユニット、またはそのサブユニットの一部と結合するのを薬剤が抑制または阻止するかどうかを確認する。σ因子の一部は、σ因子を構成する残基の少なくとも30個、好ましくは少なくとも55個、より好ましくは少なくとも100個、さらに好ましくは少なくとも140個を含んでいる。しかしインビボでβ’サブユニットと特異的に結合するこれよりも小さな断片も可能である。薬剤は、コアRNAポリメラーゼ、そのサブユニットおよび/またはその一部、σ因子またはその一部と同時に接触させることもできる。σ因子は、同種σ因子が可能である。例えばコアRNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼの単離されたサブユニットが大腸菌のものであるならば、σ因子は大腸菌のゲノムによってコードされたσ因子にする。また、σ因子を異種σ因子にすることもできる。それは例えば、ファージによってコードされたσ因子である。
【0014】
薬剤を、単離されたσ因子またはその一部に接触させて複合体を形成する操作を含む方法がさらに提供される。この複合体は、次に、単離されたコアRNAポリメラーゼ、またはRNAポリメラーゼの単離されたサブユニット、またはそのサブユニットの一部と接触させ、σ因子がコアRNAポリメラーゼ、またはRNAポリメラーゼの単離されたサブユニット、またはそのサブユニットの一部と結合するのを薬剤が抑制または阻止するかどうかを確認する。
【0015】
細菌における新しい転写抑制剤を見つけるため、蛍光標識したタンパク質σ70とβ’サブユニットの断片(残基番号100〜309)をもとにして、単色ルミネッセンス共鳴エネルギー移動(LRET)に基づいたアッセイを開発した。アッセイを行なうため、LRETのドナーとしてのユーロピウム・キレート(Eu(III)−DTPA−AMCA−マレイミド)でσ70を標識し、アクセプターとしてのIC5−マレイミドでβ’サブユニットを標識した。標識したタンパク質を用いて時間分解された蛍光を測定するにあたってLRETアクセプター(IC5で標識したβ’サブユニットの断片)の発光を観測することにより、β’サブユニットに対するσ70の結合を調べることができた。アクセプターの発光は、色素が互いに近づく(<75オングストローム)ときにLRETドナー(DTPA−AMCA−Eu−複合体で標識したσ70)からエネルギーが移動することによって増感される。IC5からの蛍光はもともと寿命が数ナノ秒と短いため、50マイクロ秒後に得られる残留蛍光はLRETだけによるものであり、そのためバックグラウンドの信号が最低になり、したがって信号対雑音比がよくなる。このアッセイを利用して、環境(溶媒、変性剤、塩)の影響を測定した。またこのアッセイは、σ70がβ’サブユニットの断片に結合するのを妨げる可能性のある抑制剤候補の効果を測定するのに用いることもできる。このようなアッセイは、ハイスループット・スクリーニングに特に適している。
【0016】
コアRNAポリメラーゼのサブユニット上でσ因子と特異的に結合する領域を同定する方法も提供される。この方法は、コアRNAポリメラーゼ(例えば単離されたコアRNAポリメラーゼ、またはRNAポリメラーゼの単離されたサブユニット、またはそのサブユニットの一部)をσ因子またはその一部に接触させ、複合体を形成する操作を含んでいる。コアRNAポリメラーゼ、または単離されたサブユニット、またはそのサブユニットの一部は、置換されたアミノ酸を少なくとも1つ含んでいる。次に、この複合体の形成を検出または確認し、例えば、置換されたアミノ酸を含まないコアRNAポリメラーゼ、または単離されたサブユニット、またはそのサブユニットの一部と、σ因子またはその一部との間の複合体形成と比較する。
【0017】
本発明はさらに、コアRNAポリメラーゼのβ’サブユニットに対するσ因子の結合を抑制または阻止する薬剤の同定方法も提供する。この方法は、原核細胞を薬剤と接触させ、この細胞内でこの薬剤が、RNAポリメラーゼのβ’サブユニットに対するσ因子の結合を抑制または阻止しているかどうかを検出または確認する操作を含んでいる。細胞としては、組み換え細胞、すなわち、外部から例えば形質転換または形質導入によって核酸を導入することによって増強した細胞が可能である。したがって本発明により、RNAポリメラーゼのβ’サブユニットをコードしている組み換えDNAを含む宿主細胞も提供される。
【0018】
本発明はさらに、本発明の方法によって同定される薬剤、中でも病気と関係する原核細胞(例えば『ズィンサーの微生物学』(第17版、アップルトン−センチュリー−クロフツ社、ニューヨーク、1980年)を参照のこと)の成長を抑制する薬剤も提供する。
【0019】
発明の詳細な説明
細菌のRNAポリメラーゼは、細胞遺伝子からRNAを合成しているため、遺伝子の発現調節において中心的な役割を果たす。コアRNAポリメラーゼは、RNAを合成できるが、DNAをプロモーター部位に特異的に結合させることはできない。DNAを特異的に結合させて遺伝子の転写を開始させるため、σ因子をコアに結合させてホロ酵素を形成する。σ因子がコアRNAポリメラーゼと結合するのを阻止する薬剤は、細胞の成長を阻止することになろう。インビトロでの方法(実施例2と、Burgess他、1998年)により、σ因子が結合するのに重要な、コアRNAポリメラーゼのβ’サブユニットに含まれるアミノ酸49個からなる領域が同定された。この領域は、細菌のポリメラーゼにおいて非常によく保存されている。しかしこの領域がインビボでσ因子の結合にとって重要であることを明確にするには、突然変異を用いた研究が必要であった(実施例3)。インビボでσ因子が結合するコアRNAポリメラーゼの領域が同定されると、その結合を特異的に妨げる多彩な抗生物質(例えばペプチドその他の小分子)の同定が非常に容易になる。
本発明を以下の実施例に基づいてさらに説明するが、実施例がこれだけに限定されるわけではない。
【0020】
実施例 1
ファー − ウエスタン・ブロット・マッピング
SDSゲルから物質をニトロセルロース膜に移動させる(ブロッティング)というのが、広く用いられている方法になっている。この方法は、ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動が高分解能であることを利用できるという利点だけでなく、ブロットされた標的物質にさまざまな相互作用プローブを用いてアクセスできるという利点を有する。ウエスタン・ブロット法では、一般に抗体を用いて調べたり検出したりするが、サウスウエスタン・ブロット法では、標識したDNAを用いて調べる。ファー−ウエスタン・ブロット法では、抗体の代わりに別のタンパク質を用い、特異的なタンパク質−タンパク質相互作用を利用して調べる。この方法では、ブロットされた標的タンパク質の断片の少なくともある領域(相互作用ドメイン)が膜上で再度折り畳まれ、相互作用部位を含む三次元構造を形成できる必要がある。この方法は、多数のサブユニットからなる複合体のどのサブユニットがプローブのタンパク質との相互作用に関与するかを明らかにする上で、特に有効である。
【0021】
整列断片ラダー・ファー−ウエスタン分析は、タグ(例えばヘキサヒスチジン・タグ(His6−タグ))をいずれかの末端部に有するハイブリッド・タンパク質を構成するのが容易であるという利点を活用している。ヘキサヒスチジン・タグが付いたタンパク質は、たとえ変性剤が存在していても、Niキレート・カラムと結合する。この方法は、タンパク質−タンパク質相互作用に関するあらゆる研究に適用できる可能性がある。ヘキサヒスチジン・タグを用いたこの方法の原理を図1に示す。
【0022】
整列断片ラダー・ファー−ウエスタン分析には以下の操作が含まれる。
A.興味の対象となるタンパク質に対してヘキサヒスチジン・タグがN末端またはC末端に融合したものをクローニングして精製する操作;
B.ヘキサヒスチジン・タグが付いたこのタンパク質の一部を化学的に切断することによって、または酵素を用いて切断することによって一連の断片を得る操作;
C.ヘキサヒスチジン・タグが付いた断片を変性条件下にてNi−キレート・アフィニティ・カラムで精製し、どれにもヘキサヒスチジン・タグが付いた断片群を得る操作;
【0023】
D.SDS−ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動によりこれら断片をサイズに基づいて分画し、整列断片ラダーを形成する操作;
E.タンパク質の断片群をゲルからニトロセルロース膜に移し、タンパク質のこれら断片群が膜上で再び折り畳まれるようにする操作;
F.32Pで標識したタンパク質プローブを調製する操作(例えば心筋プロテインキナーゼ(HMK)認識部位タグを付けたタンパク質に、γ32P−ATPと心筋プロテインキナーゼで標識する);
G.膜をこの標識したプローブで調べ、洗浄し、検出を行なう操作;
H.ファー−ウエスタン複合体を確認し、その特性を明らかにする操作。
【0024】
A .ヘキサヒスチジン・タグが付いたタンパク質のクローニングと精製
標準的なクローニング法を利用して興味の対象であるタンパク質を過剰発現ベクターに組み込み、このタンパク質のN末端またはC末端にヘキサヒスチジン・タグを付ける。さまざまなベクターが利用できる。例えばpETベクター(Studier他、1990年)はT7ポリメラーゼをベースとした発現系であり、ノヴァジェン社(マディソン、ウィスコンシン州)から入手できる。イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を用いて適切な過剰発現菌株を誘導し、細胞を溶解させ、封入体を調製する(ArthurとBurgess、1998年)。再分散した封入体は1mgずつのアリコートに分け、使用するときまで−70℃に凍結する。
【0025】
B .タンパク質の化学的切断および酵素による切断
過剰に産生されたヘキサヒスチジン・タグ付き標的タンパク質が化学的に切断される部位と酵素により切断される部位を予測するには、タンパク質の切断部位を予測するコンピュータ・プログラムに標的タンパク質のアミノ酸配列を入力するとよい(例えばそのようなプログラムとして、マックベクターまたはDNAスターというパッケージがある)。予測される切断パターンに基づき、1つ以上の切断プロトコルを選択する。大腸菌RNAポリメラーゼのβ’サブユニットにおいて2種類の化学的切断剤に対して予測される切断部位の一例を図2Aに示してある。
【0026】
切断プロトコル
以下に説明する条件は一例であり、切断が特に容易だったり困難だったりするタンパク質に対しては、切断時間や切断剤の量を変えることによって条件をそのタンパク質に合うようにすることができる。切断条件は、断片の分布ができるだけ均一になるような条件であることが好ましい。これは、切断されないポリペプチドが10〜30%残る反応であることがしばしばある。
【0027】
ヨードソ安息香酸による切断( Fontana 他、 1993 年)(トリプトファンの後ろで切断)
1)タンパク質1mgを8MのGuHCl 200μlに溶かす。
2)100%酢酸を800μl、p−クレゾールを3μl、ヨードソ安息香酸(IBA;シグマ・カタログ#I=8000)を2mg添加する。
3)室温で20時間にわたってインキュベートする。
4)急激に真空にして乾燥させる(約1時間)。
5)1mlの尿素緩衝液(緩衝液B+8Mの尿素;緩衝液Bは、20mMのトリス−HCl、pH7.9;500mMのNaCl;5mMのイミダゾール(フィッシャー・カタログ#BP305−50);0.1%(v/v)のトゥイーン20;10%(v/v)のグリセロール)に再び分散させる。
6)Ni−カラムに充填する。
【0028】
2− ニトロ −5− チオシアノ安息香酸( NTCB )による切断( Jacobson 他、 1973 年)(システインの前で切断)
1)タンパク質1mgを、グリセロールなしの尿素緩衝液1mlに溶かす。
2)作ったばかりのジチオトレイトール(DTT)(1Mのストック)を、モル数が(タンパク質中のシステインと比べて)5倍過剰になるようにして添加する。
3)37℃で15分間インキュベートし、二硫化物を還元する。
4)(全システインと比べて)5倍過剰な量のNTCB(シグマ・カタログ#N=7009)を添加し、NaOHを用いてpHを9.5に調節する。
5)室温で2〜6時間にわたってインキュベートして部分的に切断するか、あるいは24〜30時間にわたってインキュベートして完全に切断する。
6)尿素緩衝液中に1:10の割合になるよう希釈し、Ni−カラムに充填する。
【0029】
ヒドロキシルアミンによる切断( Bornstein と Bolian 、 1970 年)(アスパラギンとグリシンの間で切断)
1)タンパク質1mgを尿素緩衝液1mlに溶かす。
2)37℃で15分間にわたってインキュベートする。
3)タンパク質を溶かした尿素500μlにヒドロキシルアミン緩衝液500μl(400mMのCHES緩衝液、pH9.5;4Mのヒドロキシルアミン−ヒドロクロリド(アルドリッチ・カタログ番号15,941−7);10MのNaOHを用いてpHを9.5に調節する)を添加し、42℃で2時間にわたってインキュベートする。
4)2−メルカプトエタノール7μlを添加し(0.1Mまで)、混合し、37℃で15分間にわたってインキュベートする。
5)尿素緩衝液中に1:10になるように希釈し、Ni−カラムに充填する。
【0030】
サーモリシンによる切断( Rao 他、 1996 年)(疎水性アミノ酸の前で切断)
1)1mgの封入体タンパク質を100μlの尿素緩衝液の中に再び分散させる。
2)37℃で15分間にわたってインキュベートする。
3)サーモリシン(バチルス・テルモプロテオリティクスからのもの、ベーリンガー・マンハイム社)をタンパク質に添加する:プロテアーゼの比は、4,000:1、8,000:1、16,000:1(w/w)。
4)室温で30分間消化させる。
5)Ni−カラムに充填する。
【0031】
トリプシンによる切断( Rao 他、 1996 年)(アルギニンおよびリシンの後ろで切断)
1)1mgの封入体タンパク質を1mlの尿素緩衝液の中に再び分散させる。
2)37℃で15分間にわたってインキュベートする。
3)緩衝液Bを同じ容積添加することにより希釈して4Mの尿素にする。
4)トリプシンをタンパク質に添加する(TPCK処理したもの、ワーシントン・バイオケミカルズ社):プロテアーゼの比は、4,000:1、8,000:1、16,000:1(w/w)。
5)室温で30分間消化させる。
6)Ni−カラムに充填する。
【0032】
化学的切断によるラダーは、断片の正確なサイズを決定するのに非常に役立つ。というのも、切断がどこで起こるかが正確にわかるからである。多くのタンパク質がSDSポリアクリルアミド・ゲル電気泳動の際に異常な移動をするため、これは特に重要である。
【0033】
たいていの化学的切断剤はポリペプチド鎖1本につき数箇所の切断しか行なわないため、化学的切断によって生まれる整列断片ラダーは、ラダーにほんのいくつかの“横棒”しか持っていない。したがって、1つ以上のプロテアーゼを用いて部分的切断を行なうことによってより多くの横棒を有するラダーを生み出すと、相互作用ドメインをより高精度にマッピングすることができる。わずかな切断が起こる反応、中程度の量の切断が起こる反応、多数の切断が起こる反応を、所定のプロテアーゼを用いて行なわせることができる。その結果得られる切断反応物を混合する前に、または混合した後に、Ni−キレート・カラムで精製する。これは、それぞれのサイズの断片を同じくらいの量含むラダーを得るのに役立つ。 部分的切断法ではよいラダーを得るのが難しいことが時々ある。その理由として、化学的切断部位の分布が少なかったり不均一だったりすること、またはタンパク質が加水分解に対して比較的抵抗力を持つことが挙げられる。これらのケースでは、端部が切断された個々の断片をクローニングすることによってラダーを作ることもできる。
【0034】
C . Ni− キレート・カラムによるヘキサヒスチジン・タグ付き断片の精製
手順
1)Ni2+−NTA樹脂(Ni2+−NTAアガロース、キアジェン社)のスラリーをバイオラド・ミニ・カラムに充填し、300μlのカラム床を作る。
2)5カラム分の容積のミリキュー(MilliQ)水を用いて洗浄する。カラムに関わるすべての操作は室温で行なう。
3)5カラム分の容積の尿素緩衝液を用いて洗浄する。
4)切断反応物(上の説明を参照のこと)を充填し、ドレーンが樹脂の頂部に来るようにする。
5)10カラム分の容積の尿素緩衝液を用いて洗浄し、ヒスチジン・タグの付いていない断片を除去する。
6)10カラム分の容積の緩衝液Bを用いて洗浄し、尿素を除去する。
7)200mMのイミダゾールを含む緩衝液Bを500μl用いて溶離させる。
8)SDS−PAGEにより切断の程度を調べる。
9)断片を50μlのアリコートにして−20℃で凍らせ、保存する。
【0035】
Ni−キレート・カラムを用いて精製すると、ヒスチジン・タグ付きのタンパク質または断片は、8Mの尿素または6MのGuHClの存在下でさえ、Ni2+−NTAカラムと結合できる。変性剤を含む溶液を用いて洗浄すると、疎水性タンパク質断片同士の相互作用が妨げられ、ヒスチジン・タグ付きの断片だけが精製されることが保証される。
【0036】
整列した断片群が得られると、その断片群は、−20℃または−70℃で1年以上の期間にわたって保存することができる。そしてモノクローナル抗体または相互作用するタンパク質との結合をマッピングする必要があるとき、その断片群を使用する。
【0037】
D .ゲル電気泳動
標準的なSDSポリアクリルアミド・ゲル電気泳動の手順を利用する。着色したMWマーカー(例えば、ノヴェックス・マルチマーク・マルチカラー基準)は、ニトロセルロースへの移動が効果的に行なわれたかどうかを確認することと、いくつかの異なる放射性プローブまたは抗体で調べる場合にニトロセルロース・フィルタを切断することに役立つ可能性がある。8〜16%の勾配のポリアクリルアミドをあらかじめ注いだトリス−グリシン・ゲル(ノヴェックス社)は、大きなポリペプチド(例えば、大腸菌RNAポリメラーゼのβ’サブユニット)と、それよりも小さな断片(例えば部分的タンパク質分解による断片)の両方を同じゲル上で見えるようにするのに役立つ。
【0038】
E . SDS ゲルからニトロセルロース膜へのタンパク質断片の移動
SDSゲル電気泳動によって単離されたタンパク質またはペプチドは、以下に説明するようにして電気泳動によってニトロセルロース膜に移動させた後、ウエスタン分析またはファー−ウエスタン分析を行なう。
手順
1)1枚のニトロセルロースと2枚のホワットマン(Whatman)紙(3MMクロマトグラフィ紙、フィッシャー・カタログ#05−714−5)を、ゲルよりもわずかに大きなサイズに切断する。
2)スポンジ1個とホワットマン紙1枚を、タウビン緩衝液(TB)(Towbin他、1979年)(2l〜400mlのメタノール(最終濃度20%)に対し;500mlの4×トリス−グリシン(1×最終;1lの4×トリス−グリシン、pH8.5に対し、57.6gのグリシンと12.0gのトリス塩基);10mlの10%SDS(最終濃度0.05%))であらかじめ濡らしておく。
3)ホワットマン紙をスポンジの上に置き、次いでゲルをホワットマン紙の上に置く。
4)ニトロセルロース(シュライヒャー&シュエル・プロトラン0.05μm、カタログ#00870)を濡らしてゲルの上に置き(泡がゲルとニトロセルロースの間に入らないようにする)、その上に濡らしたホワットマン紙1枚とスポンジ2個を置く。
【0039】
5)得られたサンドイッチ構造物をかごの中に入れ、そのかごを移動ボックスの中に入れる。そのとき、ニトロセルロース膜をプラス端子の方向に向けておく。
6)移動ボックスにTBを満たし、3時間にわたって200mAの定電流を流す(約60ボルト)。
7)ニトロセルロース膜を取り出し、タンパク質の側を上にしてペトリ皿の中に置き、ブロットー(Blotto:TBST中に2%(w/v)のカーネーション脱脂粉乳;TBST1lに対し、1Mのトリス−HClを10ml、pH7.9(最終濃度10mM);4MのNaClを37.5ml(最終濃度150mM);トゥイーン20を1ml(最終濃度0.1%))を10〜25ml添加してブロットが覆われるようにし、室温で振動させながら1〜2時間にわたって、または4℃で一晩にわたって膜の反応を停止させる。
【0040】
8)ウエスタン分析を行なうため:室温で約30秒間にわたってTBSTで1回洗浄し;1:1000に希釈した一次抗体を含む10mlのブロットーの中で室温にて1時間にわたってインキュベートし;10mlのTBSTで5分間ずつ3回にわたって洗浄し;セイヨウワサビのペルオキシダーゼ(HP)またはアルカリホスファターゼ(AP)と結合した二次抗体を1:1000に希釈したものを含む10mlのブロットーの中で室温にて1時間にわたってインキュベートし;10mlのTBSTで5分間ずつ3回にわたって洗浄し;適切な比色剤または化学発光検出剤を用いて現像する。
9)ファー−ウエスタン分析を行なうため:以下のセクションGに記載した操作を行なう。
【0041】
F .ファー − ウエスタン分析のための、プロテインキナーゼ A を用いた 32 P 標識タンパク質
クローニングされたタンパク質の端部に、心筋からのcAMP依存性プロテインキナーゼA(RRASV)の触媒サブユニットに対する5アミノ酸認識部位が結合している場合には、このタンパク質は、γ32P−ATPおよびプロテインキナーゼAと反応させることにより容易に標識することができる(Li他、1989年;Blanar他、1992年;Destka他、1999年)。pETベクターであるpET−28b(+)(ノヴァジェン社)をベースとしたクローニング・ベクターを調製した。このpET−28b(+)はHMK認識部位を含んでおり、クローニングされたタンパク質のN末端に25個のアミノ酸を付加する(deArrudaとBurgess、1996年)。このクローニング・ベクターは、ノヴァジェン社からpET−33b(+)として入手できる。HMK部位がタグとして付いたタンパク質プローブを作るため、別のベクターもいくつか用意した。これらベクターは、プローブ用タンパク質のN末端にあるメチオニンをN末端のHMK−ヘキサヒスチジン・タグと融合させて抗生物質耐性マーカーであるkanRとampRのいずれかを選択するNdeIクローニング部位またはNcoIクローニング部位を含んでいる。これらベクターに関するデータを以下の表1にまとめておく。
【0042】
【表1】
【0043】
HMK 認識部位がタグとして付いたプローブ用タンパク質の調製
上に説明したベクターのうちの適切な1つのベクターの中にクローニングして入れたプローブ用タンパク質を含む大腸菌株BL21(DE3)(Studier他、1990年)を培養し、誘導し、アーサーとバージス(1998年)が記載している方法で封入体を精製した。洗浄した封入体は、GuHClまたは洗浄剤であるナトリウム−N−ラウロイル・サルコシン(サルコシル)を用いて溶解させ、バージス(1996年)とマーシャク他(1996年)が記載しているようにして再び折り畳ませることができる。洗浄した封入体は、8Mの尿素を用いて溶解させ、Ni−キレート・カラムでアフィニティ・クロマトグラフィによって精製する前または精製した後に、再び折り畳ませることがしばしばある(Burgess他、1998年)。
【0044】
手順
1)1.5mlのマイクロ遠心管に、5μlの10×プロテインキナーゼA(PKA)緩衝液(ノヴァジェン社のPkaseキット、カタログ#70510−3)(200mMのトリス−HCl、pH8.0;1.5MのNaCl;200mMのMgCl2;100μMのATP)を入れる。
2)標識するタンパク質(50%グリコール中に保存することがしばしばある)を20〜40μg(約500ピコモル)添加し、ミリキュー水を用いて全容積を43μlにする。グリセロールの最終濃度は20〜25%となっている必要がある。
3)5μlのPKA(ノヴァジェン社;20U/μlのストック)と2μlのγ32P−ATP(NEN/デュポン社、600Ci/ミリモル、5mCi/33μl;300μCi=6.6×108dmp)を添加し、混合し、室温で60分間にわたってインキュベートする。
4)50μlの1×標識用緩衝液(1×LB)(25%のグリセロール;40mMのトリス−HCl、pH7.4;100mMのNaCl;12mMのMgCl2;0.1mMのDTT(新鮮なものを添加))を添加して反応させ、得られた反応物を希釈したもの100μlを、洗浄したスピン・カラム(バイオラド社のバイオスピンP6)に添加し、1000×gで4分間にわたって回転させる。使用する直前に、カラムを撹拌して樹脂を再び分散させ、カラムの底を取り除いてカラムから排水されるようにする。1mlの1×LBを添加し、それが重力によって流れ出していくようにする。ベックマンTJ−6遠心分離機(TH−4スウィンギング・バケット・ローター)の中で、50mlの円錐形プラスチック管を1000×gで室温にて2分間にわたって回転させ、流出液を捨てる。
5)流出液をマイクロ遠心管に回収する。
6)標識したプローブを−20℃に凍らせ、使用するときまで保存する。30日間保存しておくことができる。
【0045】
標識の約30〜50%がタンパク質に組み込まれ、スピン・カラムでの処理後は標識の約90%がタンパク質の中にある。50μlの反応物中でHMK−σ70を35μg標識するという典型例では、約1〜4×106cpm/μgとなる。上記のプロトコルにより、約100μlの材料が得られる。これだけの量あると、10〜20のファー−ウエスタン・ブロットを調べることができる。また、γ33P−ATPで標識することもできる(deArrudaとBurgess、1996年)。こうすると比活性は低下し、したがって検出の感度も低下するが、標識したプローブの半減期がより長くなり、その結果、画像にしたときにより鋭いバンドが得られる。
【0046】
G . 32 P で標識したタンパク質を用いたファー − ウエスタン・ブロットの検査
手順
1)タンパク質または断片を、ゲルまたはスポット状タンパク質からニトロセルロース膜に移動させる。
2)プローブ用緩衝液(ProB;最終的に、ミリキュー水の中に、20mMのHepes、pH7.2;200mMのKCl;2mMのMgCl2−6H2O;0.1mMのZnCl2;1mMのDTT;0.5%のトゥイーン20;1%の脱脂粉乳;10%のグリセロールを含む)の中で振動させながら室温にて2時間(あるいは4℃で一晩)にわたってこの膜の反応を停止させる。
3)標識したプローブ(32Pで標識したタンパク質)の溶液5〜10μlを15mlのProBに添加し、膜とともに室温で振動させながら2時間にわたってインキュベートする。
4)膜を10mlのProBを用いて3分間ずつ3回にわたって洗浄する。
5)膜を空気中で乾燥させ(約15分間)、サランラップで包み、フィルムまたはフォスファーイメージャー・スクリーン(モレキュラー・ダイナミックス社)に曝露する。
【0047】
N末端とC末端の両方にヘキサヒスチジン・タグを有する標的タンパク質の整列断片ラダーを生成させることができる場合には、この方法のほうが強力である。このようにして、両側から相互作用ドメインをマッピングすることができる。図2Bには、予想される断片パターンと、クーマシー・ブルー染色したSDSゲルが示してある。整列断片ラダーについてのこのSDSゲルは、大腸菌RNAポリメラーゼのβ’サブユニットにおいてN末端(N)とC末端(C)の両方にヘキサヒスチジン・タグを付けたものをヒドロキシルアミン(NH2OH)またはNTCBを用いて切断して得られた。図2Bの右側には、同じゲルを32Pで標識したσ70で調べたファー−ウエスタン分析の結果を示してある(実施例2を参照のこと)。
【0048】
整列断片ラダー・ファー−ウエスタン分析では、ブロットされた断片バンド中の分子の少なくとも一部が、三次元の相互作用面または相互作用部位を作り出すのに必要なポリペプチドの少なくとも一部(相互作用ドメイン)を再び折り畳めるようになっていなくてはならない。ブロットされた標的タンパク質を変性させた後に再生させて調べると、折り畳みが増加し、したがってファー−ウエスタン分析の感度が向上することが、多数の論文に報告されている(LiebermanとBerk、1991年;Vinson他、1988年)。おそらく、ブロットされたタンパク質とともに移動したSDSが(プローブ用緩衝液中にはるかに過剰に存在しているカゼインと結合することによって)除去され、標的タンパク質が膜上で少なくとも部分的に再び折り畳めるようになるのであろう。
【0049】
ニトロセルロースの孔のサイズは0.05μmよりも大きくすることができるが、0.05μmのほうが小さなタンパク質断片をよりよく保持できる。
標識した何種類かのプローブは、着色したMWマーカーに非特異的に結合する。それは、ヘキサヒスチジン・タグまたはHMKタグと、マーカーに付着している色素との間の相互作用による可能性が最も大きい。しかしこれは、得られたデータの方向づけをするのに有効な標識付きマーカー群となる。
【0050】
H .ファー − ウエスタン複合体の確認と特性決定
有望なシグナルがファー−ウエスタン分析で検出された場合、観測された結合が、問題にしている特異的な相互作用によるものであり、単なる非特異的なイオン性または疎水性の相互作用ではないことを示す追加の証拠が必要となろう。そのための方法として挙げられるのは、同時固定化アッセイ(実施例2;ArthurとBurgess、1998年;Burgess他、1998年)、相互作用ドメインの位置指定突然変異誘発(実施例3)などである。同時固定化アッセイは、予想される相互作用ドメインをクローニングしてベクターに入れ(このベクターが、この相互作用ドメインをヘキサヒスチジン・タグと結合させる)、得られたタンパク質をNi−キレート・カラムに移す操作を含んでいる。固定化された標的ドメインに(ヘキサヒスチジン・タグのない)プローブが結合し、この標的ドメインがイミダゾールで溶離するときにこのプローブがカラムから溶離する場合には、2つのタンパク質が相互作用していると推定することができる。より小さな標的ドメインを同時固定化アッセイで観測することができる。こうしたことが可能なのは、おそらく、再び折り畳まれた標的ドメインが端部のヘキサヒスチジン・タグの相互作用を通じてNi−キレート・カラムと結合することで、この標的ドメインが最小の機能的相互作用ドメインとなりうるからであろう。これとは逆に、ブロットされた断片は、タンパク質と膜の間の少なくとも1つ以上の接点によって結合していなくてはならない。そのためには、膜上で最小の相互作用ドメインが再び折り畳まれるのを妨げることなく結合できるよう、余分なアミノ酸が存在している必要がある。
【0051】
有意な非特異的相互作用を排除するには、標識付きプローブを用いて細菌抽出液中の多数のタンパク質(例えばBSA、または細菌の主要なタンパク質)のブロットを調べるとき、その標識付きプローブがバックグラウンドを超えるシグナルを出さないことを示すとよい。
【0052】
プローブ−標的複合体の性質の一部は、整列断片ラダー・ファー−ウエスタン分析によって明らかにすることができる。これは、セクションGに記載したようにして調べた後、膜をプローブ用緩衝液で時間をさまざまに変えて洗浄し、膜に結合したままになっている標識付きプローブの量を測定することによって実現できる。このようにして、膜上の複合体の大まかな半減期を決定することができる。例えば、σ70とβ’サブユニットの複合体は、約2.5時間の半減期で解離する。同様に、洗浄する際の塩を変えて、塩が解離速度に及ぼす効果を明らかにすることもできる。
【0053】
結論
有望な結果が特異的であることを示せるならば、その結果は有効である。これは、結合を検出し、相互作用ドメインを含む領域を特定するための迅速な方法である。この方法により、切断された個々の断片をクローニングしたり、多数の突然変異を作ったりするなどのより退屈なマッピング法の適用範囲を、標的ポリペプチドの比較的小さな断片に集中させることができる。32Pで標識したタンパク質プローブを用いると、比較的弱い相互作用を検出することができる。プローブを106cpm/μgを超える状態に標識するのは容易であり、ブロットをプローブとともにインキュベートした後、フォスファーイメージングに曝露する前に最後の洗浄を行なうには、ほんの5〜10分しかかからない。これとは逆に、結合したプローブを免疫学的方法で検出するには、一次抗体および二次抗体とともにインキュベートする必要があり、この場合には数時間またはそれ以上かかる可能性がある。インキュベーションと洗浄の時間が長いとプローブが標的から解離する可能性がある。
【0054】
この方法では、相互作用部位をマッピングするのではなく、接触面または相互作用部位を形成するのに必要な全領域(相互作用ドメイン)をマッピングすることになる。相互作用ドメインが再び折り畳まれることが難しかったり、相互作用ドメインとプローブ・タンパク質の結合が弱すぎたりする場合には、重要な相互作用が検出されない可能性がある。結合を検出するためには、“アッセイの窓”の中にいる必要がある。つまり、半減期が洗浄時間よりも長くなっている必要がある。結合が弱く、任意のタンパク質またはバックグラウンドと非特異的に結合するようだと、納得のゆく結果は得られない。相互作用ドメインがサイズの異なる2つのポリペプチドからなる領域を含んでいる場合には、この方法は役に立たない。また、相互作用ドメインが同じポリペプチドの離れた2つの領域を含んでいる場合にも、この方法ではうまくいかない可能性がある。相互作用ドメインの中にニトロセルロース膜と強く結合する部位があって膜上で再び折り畳まれることが阻止される場合にも、この方法はうまくいかないであろう。
【0055】
この方法は、抗体のエピトープのマッピング、タンパク質−タンパク質相互作用ドメインのマッピング、DNAまたはRNAの結合部位のマッピング、リン酸化などにより修飾された部位(例えば放射線修飾部位)のマッピングに役立つほか、タッグが移動する切断可能な架橋剤(Chen他、1994年)から標識付きタグをポリペプチド上でマッピングするのに役に立つ。ヘキサヒスチジン・タグの付いたタンパク質から出発し、修飾させ、標的タンパク質を化学的に、または酵素を用いて切断し、ヘキサヒスチジン・タグの付いた断片をNi−キレート・カラムで単離し、SDSゲル電気泳動によって分画し、膜に移動させ、フィルムまたはフォスファーイメージング・スクリーンに曝露することにより、整列断片ラダー上のどの地点まで来るともはや標識が検出されないかを確認することができよう。
【0056】
実施例 2
β ’ サブユニット、βサブユニット、σ因子のファー − ウエスタン・ブロット分析 材料と方法
プラスミド
プラスミドの特性を以下の表2に示す。
【表2】
【表3】
【0057】
プラスミドの構成
pRL663からXbaI−HindIII断片を取り出し、それをpET28b(ノヴァジェン社)に組み込むことにより、C末端にヘキサヒスチジン(His6)・タグを有するβ’サブユニットのための過剰発現ベクター(pTA500)を構成した(Studier他、1990年)。PCRにより、ヘキサヒスチジン・タグをβ’サブユニットのNruI部位含有断片のN末端に置いたpTA499を構成し、このpTA499から、N末端にヘキサヒスチジン・タグが付いたβ’サブユニットを発現させた。この断片をpET28bベクターに組み込んだ後、遺伝子のC末端部分をpRL663からのNruI−HindIII断片に挿入した。RsrII−HindIII断片を野生型のC末端をコードするPCR産物で置換することにより、pRL663断片からのC末端ヘキサヒスチジン・タグを除去した。PCRにより、ヘキサヒスチジン・タグをβサブユニットのKpnI部位含有断片のN末端に付け、pTA501を構成した。この断片をpET28bベクターに組み込んだ。遺伝子のC末端には、野生型コード配列を含むKpnI−HindIII断片を挿入した。C末端にヘキサヒスチジン・タグが付いたβサブユニットをコードするpTA502は、PCRを利用してKpnI含有断片のN末端にNcoI部位を挿入することにより作製した。C末端にヘキサヒスチジン・タグを含む断片を、pRL706(Severinov他、1997年)からのKpnI−HindIII断片に挿入した。
【0058】
β’サブユニットの非修飾断片を発現するベクターは、望む断片をPCRによりクローニングし、その断片を、NdeIおよびXhoIという制限部位を用いて、pTA528、pTA530、pTA535、pTA536に関してはpET21a(ノヴァジェン社)に、pTA519に関しては pET24a(ノヴァジェン社)に組み込むことによって得た。pTA522−525、pTA531、pTA533はすべて、PCR増幅したβ’サブユニットの特定の領域をpET21a誘導体に挿入することによって作製した。なおpET21a誘導体に対しては、あらかじめ、発現したタンパク質に対してN末端にヘキサヒスチジン・タグと心筋キナーゼ(HMK)認識部位を融合させるという修飾をしておいた。pTA532とpTA534も同様にして構成したが、ヘキサヒスチジン・タグ−HMKベクター誘導体をpET28bから構成した点が異なる。pTA547−549は、β’サブユニットのSnaBI部位を含むがN末端がPCRにより切り取られた断片を、pET24aに導入することによって作製した。遺伝子のC末端をコードしている領域は、pTA500からのSnaBI−HindIII断片に挿入した。pTA546は、PCRによりC末端のヘキサヒスチジン・タグを残基番号309の後ろに直接融合させることによって作製した。この断片は、NdeI部位とXhoI部位を用いてpET24aベクターに組み込んだ。σ70を放射性プローブとして用いるため、HMK部位をσ70のN末端およびヘキサヒスチジン精製タグと融合させた。N末端にヘキサヒスチジンとHMKが融合したpET28bベクターの誘導体にσ70遺伝子を組み込み、そのσ70のN末端に13個のアミノ酸(MHHHHHHARRASV:配列ID番号5)を追加することにより、pHMK−ヘキサヒスチジン−σ70を作製した。PCRにより生成されたすべての産物のシークエンシングを行ない、突然変異がまったく導入されていないことを確認した。
【0059】
タンパク質の発現と精製
プラスミドを導入して発現用BL21(DE3)(ノヴァジェンン社)を形質転換した。この細胞を1リットルの培養物としてLB培地中で37℃にて成長させた。LB培地には、100μg/mlのアンピリシンまたは50μg/mlのカナマイシンを入れた。培養物をA600が0.6と0.8の間の値になるまで成長させた後、1mMのイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシドで誘導した。誘導を開始してから3時間後、8,000×gで15分間にわたって遠心分離することによって細胞を回収し、−20℃で凍らせて使用するときまで保存した。
【0060】
細胞を解凍して10mlの溶解用緩衝液(40mMのトリス−HCl、pH7.9;0.3MのKCl;10mMのEDTA;0.1mMのフッ化フェニルメチルスルホニル)に再び分散させ、リゾチームを100μg/ml添加した。細胞を氷の上で15分間インキュベートし、60秒間の超音波バーストで3回にわたって処理した。封入体の形態をした組み換えタンパク質を、27,000×gで15分間にわたって遠心分離することにより可溶性ライセートから分離した。超音波処理により封入体ペレットを10mlの溶解用緩衝液+2%(w/v)デオキシコール酸ナトリウムの中に再び分散させた。この混合物を27,000×gで15分間にわたって遠心分離し、上澄みを捨てた。デオキシコール酸ナトリウムで洗浄した封入体を10mlの脱イオン水に再び分散させ、27,000×gで15分間にわたって遠心分離した。水による洗浄を繰り返し、封入体を1mgのペレットに分割し、−20℃で凍らせて使用するときまで保存した。
【0061】
グリブスコフとバージスの方法(1983年)を変形した方法に従い、σ70封入体を溶解させ、再び折り畳ませ、精製した。封入体を6MのグアニジンHCl(GuHCl)の中に再び分散させた。変性剤を緩衝液A(50mMのトリス−HCl;0.5mMのEDTA;5%(v/v)のグリセロール)でもって2段階で2時間かけて64倍に希釈することにより、タンパク質が再び折り畳まれるようにした。1gのDE52樹脂(ホワットマン社)を添加し、4℃でゆっくりと撹拌しながら24時間にわたって混合した。次にこの樹脂を10mlのカラムの中に回収し、洗浄し、タンパク質を、NaClの勾配を0.1〜1Mにした緩衝液Aを用いて溶離させた。σ70分画をプールし、1リットルの保存用緩衝液(50mMのトリス−HCl;0.5mMのEDTA;0.1MのNaCl;0.1mMのDTT;50%(v/v)のグリセロール)を用いて一晩にわたって透析を行ない、−20℃で保存した。
【0062】
全細胞ライセートを以下のようにして調製した。先端が切断されたβ’サブユニットを発現するプラスミドを含む細胞を、A600が0.6と0.8の間の値になるまで成長させ、1mMのイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシドで誘導した。細胞をさらに30分間成長させた。サンプル200μlを取り出し、30秒間の超音波処理を3回行なった。グリセロール20μlとSDS−サンプル緩衝液20μlを添加し、95℃で2分間にわたって加熱し、−20℃で凍らせて使用するときまで保存した。
【0063】
タンパク質の切断
以下に説明するように、βサブユニットとβ’サブユニットの封入体に対して化学的切断と酵素による切断(以下の説明を参照のこと)を行ない、ニッケル・アフィニティ・クロマトグラフィにより精製した。切断反応物を、バイオラド・ミニカラム内の300μlのNi2+−NTA樹脂(キアジェン社)に充填した。この樹脂は、緩衝液B(20mMのトリス−HCl、pH7.9;500mMのNaCl;5mMのイミダゾール;0.1%(v/v)のトゥイーン20;10%(v/v)のグリセロール)+8Mの尿素であらかじめ平衡させてある。樹脂と結合したタンパク質を10カラム分の容積の緩衝液B+8Mの尿素で洗浄し、次いで10カラム分の容積の緩衝液Bで洗浄し、タンパク質が再び折り畳まれるようにした。次にこの樹脂を500μlの緩衝液B+40mMのイミダゾールで洗浄した。タンパク質を500μlの緩衝液B+200mMのイミダゾールで溶離させた。溶離した分画を−20℃で保存した。
【0064】
NTCB による切断( Jacobson 他、 1983 年)
1mgの封入体タンパク質を1mlの緩衝液B+8Mの尿素の中に再び分散させた。チオ基がタンパク質中の5倍過剰なモル数になる量のDTTを添加した。この混合物を37℃で15分間にわたってインキュベートし、二硫化結合をすべて還元した。全スルフヒドリル基の5倍過剰なモル数になる量のNTCBを添加した。NaOHを用いてpHを9.5に調節した。反応混合物を室温で2時間にわたってインキュベートした。切断混合物を緩衝液B+8Mの尿素の中に1:10になるように希釈し、上に説明したようにしてNi2+−NTAカラムに充填した。
【0065】
ヒドロキシルアミンによる切断( Bornstein 他、 1970 年)
1mgの封入体タンパク質を1mlの緩衝液B+8Mの尿素の中に再び分散させた。溶解したタンパク質500μlを、切断用ヒドロキシルアミン溶液(0.4MのCHES、pH9.5;4MのヒドロキシルアミンHCl)500μlに添加し、42℃で2時間にわたってインキュベートした。β−メルカプトエタノールを0.1Mになるまで添加し、37℃で10分間にわたってインキュベートした。この混合物を緩衝液B+8Mの尿素の中に1:10になるように希釈し、上に説明したようにしてNi2+−NTAカラムに充填した。
【0066】
サーモリシンによる切断( Rao 他、 1996 年)
1mgの封入体タンパク質を100μlの緩衝液B+8Mの尿素の中に再び分散させ、37℃で15分間にわたってインキュベートした。サーモリシンをタンパク質に添加した:プロテアーゼの比は、4,000:1、8,000:1、16,000:1(w/w)である。室温で30分間反応させた。反応物を上に説明したようにしてNi2+−NTAカラムに充填した。
【0067】
トリプシンによる切断( Rao 他、 1996 年)
1mgの封入体タンパク質を100μlの緩衝液B+8Mの尿素の中に再び分散させ、37℃で15分間にわたってインキュベートした。等量の緩衝液Bを添加することにより、この混合物を尿素が4Mになるまで希釈した。トリプシンをタンパク質に添加した:プロテアーゼの比は、4,000:1、8,000:1、16,000:1(w/w)である。室温で30分間反応させた。反応物を上に説明したようにしてNi2+−NTAカラムに充填した。
【0068】
ファー − ウエスタン・ブロッティング
ドット・ブロット
シュライヒャー&シュエル“ミニフォールド”ドット・ブロット装置を用い、ニトロセルロース膜(シュライヒャー&シュエル社)上に、緩衝液B+8Mの尿素の中に再び分散させた封入体タンパク質のスポットを直接形成した。ウエルは緩衝液Bで3回洗浄した。HYB緩衝液(20mMのHepes、pH7.2;200mMのKCl;2mMのMgCl2;0.1mMのZnCl2;1mMのDTT;0.5%(v/v)のトゥイーン20;1%(w/v)の脱脂粉乳)の中で4℃で16時間にわたってインキュベートすることにより、ニトロセルロースの反応を停止させた。
【0069】
ゲル・ブロット
切断されたタンパク質断片または全細胞ライセートを、SDS−ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動(PAGE)により分離した。電気泳動によりタンパク質を0.05μmのニトロセルロースに移した。HYB緩衝液の中で4℃で16時間にわたってインキュベートすることにより、ニトロセルロースの反応を停止させた。
【0070】
標識の付着
σ70に標識を付ける操作は、100μlの反応容積の中で行なった。50μlのキナーゼ緩衝液(40mMのトリス−HCl、pH7.4;200mMのNaCl;24mMのMgCl2;2mMのDTT;50%(v/v)のグリセロール)を50μgのσ70タンパク質に添加した。240単位のcAMP依存性キナーゼ触媒サブユニット(プロメガ社)を添加し、脱イオン水を用いて全容量を99μlにした。1μlの[γ−32P]ATP(0.15mCi/μl)を添加した。この混合物を室温で30分間にわたってインキュベートした。次に、この反応混合物を、1×キナーゼ緩衝液であらかじめ平衡させたバイオスピンP6カラム(バイオラド社)に充填し、1,100×gで4分間にわたって回転させた。流出液を回収し、−20℃で保存した。
【0071】
プロービング
反応を停止させたニトロセルロースを、4×105cpm/mlの32Pで標識したσ70とともに、10mlのHYB緩衝液中で室温にて3時間にわたってインキュベートした。ブロットを10mlのHYB緩衝液でそれぞれ3分間ずつ3回にわたって洗浄した。次にブロットを乾燥させ、フィルムまたはフォスファーイメージャー(モレキュラー・ダイナミックス社)に曝露した。
【0072】
同時固定化
ヘキサヒスチジン・タグを有する切断されたβ’サブユニット1mgを1mlの緩衝液C(20mMのトリス−HCl、pH7.9;200mMのNaCl;5mMのイミダゾール;0.1%(v/v)のトゥイーン20;10%(v/v)のグリセロール)+8Mの尿素の中に溶かした。このタンパク質溶液20μgを150μlのNi2+−NTA樹脂に充填した。カラムを15カラム分の容積の緩衝液C+8Mの尿素で洗浄した後、15カラム分の容積の緩衝液Cで洗浄し、タンパク質が再び折り畳まれるようにした。次に、30μgの天然のσ70をカラムに充填した。カラムを20カラム分の容積の緩衝液Cで洗浄した。結合したタンパク質を300μlの緩衝液C+250mMのイミダゾールで溶離させた。σ70流出液からのサンプル、洗浄液、溶離した分画を、SDS−PAGEで分析した。
【0073】
結果
ファー − ウエスタン・ブロット分析において、σ 70 はβ ’ サブユニットと強く相互作用し、βサブユニットと弱く相互作用する
ドット・ブロットに対してファー−ウエスタン・アッセイを行なうことにより、コア複合体の外で個々のβサブユニットおよびβ’サブユニットに結合するσ70を評価した。βサブユニットおよびβ’サブユニットの封入体タンパク質を別々に尿素に溶かし、ニトロセルロース上にスポットにして載せた。非特異的結合をする対照として、ウシ血清アルブミン(BSA)をスポットにして載せた。ニトロセルロースの反応を停止させ、変性剤を洗浄して除去した。次に、32Pで標識したσ70を用いてブロットを調べた。βサブユニットとβ’サブユニットの両方ともσ70と結合したが、対照であるBSAは結合しなかった。同じドット・ブロットを、キナーゼまたはσ70のいずれかが欠けている対照溶液を用いて調べ、シグナルが、ヌクレオチドの結合や、βサブユニットまたはβ’サブユニットのリン酸化によるものではないことを確認した。どの対照ブロットも検出可能なシグナルを出すことはなかった。したがって、βサブユニットとβ’サブユニットの両方とも、別々にσ70と結合することができる。
【0074】
ファー − ウエスタン・ブロット分析において、βサブユニット/β ’ サブユニットに対して特異的に相互作用するσ 70
別のテストを行ない、σ70をプローブとして用いた場合のファー−ウエスタン・ブロット分析の特異性を評価した。対数増殖期の培養物からの細胞ライセートをSDS−PAGEにより分離し、ニトロセルロースにブロットし、σ70で調べた。発生した唯一の強いシグナルは、βサブユニットおよびβ’サブユニットと同じ移動度であった。他に強いシグナルがないという事実は、σ70がβサブユニットおよび/またはβ’サブユニットに非特異的に結合しているのではないことを示唆している。σ70と相互作用する他のタンパク質(アクティベータ、アンチσ因子など)があることがわかっているため(Ishihama、1993年;Jishage他、1998年)、予想通りマイナーなバンドが観測された。
【0075】
σ 70 に対する強くて特異的な結合部位は、β ’ サブユニットの N 末端に位置する
βサブユニットおよびβ’サブユニット上におけるσ70との相互作用部位をマッピングするため、これら2つの大きなサブユニットの化学的切断による産物について、ファー−ウエスタン分析を行なった。マックベクター・ソフトウエア(オックスフォード・モレキュラー・グループ)を用いて両者のアミノ酸配列を分析し、特異的な化学的切断部位を同定した。この分析に基づき、部分的消化の後にマッピングする上で最高の分解能を示した産物群を生み出した切断剤を選択した。βサブユニットおよびβ’サブユニットのN末端とC末端の両方にヘキサヒスチジン・タグを有する構造物を、変性条件のもとで切断した。切断反応による産物を変性条件下でNi2+−NTAを用いて精製し、ヘキサヒスチジン・タグを有する切断断片を単離した。次に、精製したこれら断片をSDS−PAGEにおける移動度に基づいて同定し、これら断片を生み出した切断部位に基づいてその正確なサイズを決定した。切断断片は、SDS−PAGEによって分画化されるとき、共通の端部(ヘキサヒスチジン・タグの位置に応じてN末端またはC末端になる)を持っていてサイズが徐々に短くなる断片群からなるラダーが生まれる。N末端とC末端の両方にヘキサヒスチジン・タグを有する断片を用いると、相互作用ドメインのN末端とC末端の両方を積極的に同定することができる。σ70プローブは、完全な相互作用ドメインを有する断片とだけ結合することになろう。N末端にヘキサヒスチジン・タグを有するβ’サブユニットのラダーは、ヒドロキシルアミンによる切断とNTCBによる切断のどちらで生成された場合も、σ70に結合する能力を保持している断片をいくつか含んでいた。したがって、β’サブユニットのC末端にある大きな部分は、σ70の結合に影響を与えることなく除去することができる。σ70と結合する最小の断片は、ヒドロキシルアミンで切断したラダーにおける、β’サブユニットのアミノ酸番号1〜309からなる断片であった。C末端にヘキサヒスチジン・タグを有するラダーでは、完全長β’サブユニットだけがσ70と結合した。これらの結果は、強くて特異的な結合部位が、β’サブユニットのアミノ酸番号1〜309(β’1−309)に位置していることを示唆していた。βサブユニットの断片群からなるラダーは、相互作用ドメインをマッピングするのに十分なほど強いシグナルを出さなかった。
【0076】
化学的切断によるマッピングの精度は、利用できる試薬に対するβ’サブユニット上の切断部位の数が限られていたため、比較的低かった。マッピングにおいて利用できるタンパク質分解断片の数を増やすため、われわれは酵素による切断を利用した。多数のプロテアーゼによる切断の特異性の数は、化学的切断剤ほど限られてはいない。したがって切断部位がはるかに多くなり、生まれる断片もより多くなる。N末端とC末端にヘキサヒスチジン・タグを有するβ’サブユニットを部分的に消化させるのに、トリプシンとサーモリシンを用いた。断片を再度精製し、ブロットし、σ70で調べた。しかし断片の数を増やしても、相互作用ドメインの範囲を上記のアミノ酸番号1〜309という長さより狭めることはできなかった。
【0077】
切断された断片を用いたファー − ウエスタン・ブロッティングにより相互作用ドメインをアミノ酸番号 60 〜 309 の範囲に狭める
この結合部位をより正確に決定するため、先端が切断されたさまざまな断片をPCRを利用して作った。β’1−309という断片を出発点とし、N末端とC末端のいずれかが切断された構造物を作製した。切断された断片をコードしているDNAをクローニングし、過剰発現プラスミドに組み込んだ。これらプラスミドを含む細胞を、A600が0.6になるまで成長させ、発現を誘導した。細胞は、誘導後に30分間だけ成長させた。それぞれの培養物から全細胞ライセートを作り、それに対してファー−ウエスタン・ブロッティング・アッセイを行なった。発現時間を短くしたため、誘導されたタンパク質の発現レベルは、ライセート中の他のタンパク質と同じくらいに維持された。ファー−ウエスタン・ブロッティング・アッセイにおいて全細胞ライセートを内部対照として使用し、興味の対象であるタンパク質に関して結合が特異的であることを確認した。これは、さまざまなタンパク質を精製する必要はなく、精製タグなしでさまざまなタンパク質を発現させうることも意味していた。β’1−309のC末端においてアミノ酸番号300から先が切り取られた構造物を作製した場合には、σ70との結合は失われた。しかし同じ断片のN末端は、アミノ酸が60個切り取られるまでシグナルが消えなかった。β’100−309はまだ結合能力を持っていたが結合の程度は弱くなり、β’150−309はσ70と結合しなかった。これらの結果により、σ70の結合部位がβ’60−309に狭まった。アンチβ’サブユニット・モノクローナル抗体を用いたウエスタン・ブロットの実験を行ない、タンパク質断片がニトロセルロースに移動したこと、また、その断片がβ’サブユニットの断片であることを確認した。
【0078】
同時固定化アッセイにより、相互作用部位がβ ’ サブユニットの残基番号 260 〜 309 へとさらに狭まる
Ni2+−NTA同時固定化アッセイを利用することにより、ファー−ウエスタン・ブロッティングを用いて得られた結果を確認するとともに、その結果をさらに展開した。σ70の結合を調べるタンパク質をヘキサヒスチジン精製タグと融合させ、封入体の形態で過剰発現させた。この封入体タンパク質を8Mの尿素を用いて溶かし、Ni2+−NTA樹脂に充填した。変性剤を洗浄して除去するとタンパク質が再び折り畳まれるようになるが、タンパク質は樹脂に結合したままである。次に天然のσ70をカラムに充填する。カラムを洗浄し、結合したタンパク質をイミダゾールを用いて溶離させる。切断されたタンパク質は、σ70に対する相互作用ドメインを含んでいさえすればσ70と結合するため、溶離された分画の中にσ70が含まれることになろう。これら結合実験の結果は、相互作用ドメインのC末端側の境界を明らかにするファー−ウエスタン・ブロッティング実験の結果と整合性がある。β’1−309はσ70と結合したが、β’1−300とβ’1−280はσ70と結合しなかった。再び折り畳まれたヘキサヒスチジン・タグなしのβ’1−309をσ70と混合し、Ni2+−NTAに移動させて、複合体がカラムと非特異的な結合をしないことを確認した。複合体はカラムを通過してしまい、溶離された分画中には見つからなかった。β’1−309を含むカラムに対照としてBSAを充填した。BSAは、流出液の中にだけ見つかり、溶離された分画中には見つからなかった。これは、β’1−309がσ70と特異的に結合していることを示唆する。
【0079】
N末端側の境界に関しては、ファー−ウエスタン・アッセイにおけるよりもN末端を多く除去してもσ70の結合に影響がないことがわかった。N末端が切断されたいくつかの断片(どれもC末端側の境界は残基番号309のアミノ酸であり、その後ろにヘキサヒスチジン・タグを有する)を構成し、同時固定化アッセイにおいて使用した。残基番号が33、60、100、178、200の位置で切断した断片もまだσ70に結合できた。β’260−309を調製したところ、うまく取り扱うことができたが、このβ’260−309は、σ70に結合する能力を保持していた。相互作用ドメインのN末端を見つけるため、残基番号が240よりも先の部分からなる切断物を完全長β’サブユニットから作った。β’サブユニットの頭部の260残基を取り除いた切断物(β’260−C)はσ70と結合したが、β’270−Cは結合の程度が減り、β’280−Cはσ70との結合が検出できなかった。これらの結果を合わせて考えると、コア・ポリメラーゼ上の強いσ70結合部位がβ’サブユニットの残基番号260〜309に位置していることが示唆される。
【0080】
考察
これまでのところ、生化学や遺伝子に関するいくつかの研究により、σ因子上にあるコアとの結合ドメインの推定位置に関する現在の知見がもたらされたが、コア上でσ因子と結合する部位に関しては、はるかに少ないことしかわかっていない(Gross他、1996年)。ホロ酵素が組み立てられるときには、β’サブユニットがα2β複合体に付加され、次いでσ因子が付加されてホロ酵素を形成する(Ishihama、1981年)。これは、σ因子と結合する主要な部位がβ’サブユニット上に位置するか、あるいはσ因子と結合する主要な部位が、β’サブユニットが付加されてコア酵素になるときにαサブユニットおよび/またはβサブユニットと共同して形成されることを示唆していよう。σ70−β’サブユニット複合体の単離により、前者であることの証拠が得られる(Luo他、1996年)。上記の結果により、β’サブユニット上のσ70に対する強い結合部位の位置が限定されるとともに、σ70がβサブユニットに対して低い結合アフィニティを示すことが明らかにされた。したがって、ホロ酵素においてはβ’サブユニットがσ70に対する主要な結合相互作用を提供するのに対し、βサブユニットは二次的な相互作用を与えるだけである。保存された領域2.1の外側におけるσ因子の突然変異がコアとの結合に明らかに影響を与えていることに基づき、σ因子上にはコアとの結合部位が多数あると考えられている(Joo他、1997年;Zhou他、1992年;Joo他、1998年;Sharp他、1999年)。
【0081】
σ70に対する強い結合部位は、β’サブユニットの残基番号260〜309に位置する。β’サブユニットの残基番号201〜477を除去すると突然変異タンパク質が生まれ、その突然変異タンパク質はそれでもコアを形成することができるものの、ホロ酵素は形成できないことが、以前に報告されている(Luo他、1996年)。このような除去実験における問題点は、結合部位が除去した領域に位置することは結論できず、その領域が除去されたときに相互作用ドメインの正しい形成を妨げることしか結論できないことである。タンパク質−タンパク質フットプリンティング実験で得られた結果は、β’サブユニットの似た領域(残基番号228〜461)が、σ70と物理的に近い位置にあることを示唆していた(Owens他、1998年)。このアッセイは、タンパク質同士が物理的に近い位置にあっても必ずしもタンパク質−タンパク質の結合に対応していないことを示唆しているため、この結果を解釈するのは難しい。この明細書に記載した知見から、σ70との主要な結合部位がこれら領域に位置していることが結論できる。
【0082】
β’サブユニット上のσ70との相互作用ドメインは、保存された領域Bに位置するいくつかの残基を含んでいる(Jokerst他、1989年)。この領域の機能はまったく知られていない。PHDプログラム(Rost他、1994年)から残基番号260〜309に関して予想される二次構造は、残基番号264〜283のヘリックスが、ループによって、残基番号292〜309の第2のヘリックスと結合していることを示唆している。予想されるこれらのヘリックスがコイルドコイルを形成することも予想される(Lupas他、1991年)。これは特に興味深い。というのも、同様の予測がσ70の残基番号355〜391に対してなされているからである。これら残基は、保存された領域2.1と重なっている。σ70のプロテアーゼ耐性断片の結晶構造から、領域2.1を含むヘリックスが、保存された領域1.2と合わさってコイルドコイルを形成しているという予想が確認された(Malhotra他、1996年)。コイルドコイルは多くのタンパク質−タンパク質相互作用に関与していることがわかっているため(Landschulz他、1988年;Gentz他、1989年;O’Shea他、1989年)、これは、β’260−309がσ70の領域2.1と相互作用している可能性のあることを示唆していよう。
【0083】
整列断片ラダー・ファー−ウエスタン・ブロッティングを利用して、β’サブユニット上のσ70との結合部位がβ’60−309であることを特定した。この方法は、変性剤を除去するとブロットされたタンパク質分画のどれかが再び折り畳まれ、プローブの結合にとって適切な立体配座を生み出すことができるという事実に基づいている。全細胞ライセートを調べ、β’サブユニットが主要な結合相互作用を行なうことを明らかにすることによって、このアッセイの特異性が明確になった。タンパク質の部位特異的な化学的切断とファー−ウエスタン・ブロッティングを組み合わせることにより、このタンパク質−タンパク質相互作用の位置を特定する非常に迅速で効果的な方法が提供される。切断された個々の断片をクローニングし、スクリーニングすることは、相互作用ドメインがわかった後に初めて必要になる。β’サブユニットの切断物をこのサブユニットの全長にわたって作製せねばならないというのは、時間のかかる退屈な作業であろう。タンパク質の切断とNi2+カラムでの精製は一日で行なうことができ、したがってこのアッセイはコストがより安く、退屈さもより少ない。
【0084】
ファー−ウエスタン・ブロッティングで得られた結果を確認し、さらに展開するため、Ni2+同時固定化アッセイを行なった。この実験により、N末端から残基番号309までの断片はまだσ70と結合できるのに対し、C末端のほんの9個のアミノ酸を除去して残基番号300までにすると結合性が失われることも明らかになった。これらアッセイにおいてN末端を切断した断片から得られた結果は、ファー−ウエスタン・ブロッティングから得られた結果よりも結合部位の位置に関して高精度であった。N末端からアミノ酸を260個まで除去してもσ70の結合には影響がなかった。アミノ酸を270個除去すると、σ70の結合が減ったが、完全になくなりはしなかった。これは、結合部位の一部が除去されたか、結合部位は完全なままであるが、上流の残基が失われたため、再び折り畳まれたときに結合部位が隠れてしまったかであることを示唆している。結合部位が実際にマッピングされた通りであり、実際の結合部位が適切に折り畳まれるのに必要な領域となっているだけではないことを確認するため、β’サブユニットの残基番号260〜309からタンパク質の断片を作り、その断片があれば結合に十分であることを示した。同定された相互作用ドメインのサイズの違いがファー−ウエスタン・アッセイ(β’60−309)と同時固定化アッセイ(β’260−309)で見られることに、それぞれのアッセイの特徴が反映している。ファー−ウエスタン・アッセイは、タンパク質の一部がニトロセルロース膜に付着している状態で相互作用ドメインが再び折り畳まれて結合部位が適切に提示されることを要求している。このようになっていると、タンパク質は、Ni2+−NTA同時固定化アッセイにおけるように一方の端部だけで結合しているタンパク質よりも立体配座が制限される。したがって、相互作用ドメインを膜の表面から離しておくための足場のような構造を形成するため、タンパク質がより長くなっている必要がある。複数のマッピング法を組み合わせることにより、タンパク質の相互作用ドメインを同定するための迅速で高精度の方法が提供される。
【0085】
実施例 3
β ’ 260−309 の突然変異分析
材料と方法
プラスミドの構成
プラスミドの特性は、図7と後掲の表3〜表4に示してある。プラスミドpTA577とpTA600−620は、ベースとなるプラスミドpRL663(Wang他、1995年)から作製した。サイレント突然変異誘発によりpRL663のrpoC遺伝子にHindIII制限部位とBamHI制限部位を1つずつ挿入し、pTA577を作製した。pTA561は、もとになるプラスミドをpRL308(Weilbaecher他、1994年)にした以外は、pTA577と同様にして作製した。さまざまな突然変異を含むPCR増幅したDNA断片を挿入するのにHindIII制限部位とBamHI制限部位を用い、pTA600−609を作製した。β’サブユニットの残基番号1〜309をコードしているrpoC切断断片を含むpTA620に関しては、pRL663をXbaI−HindIIIで切断し、PCR増幅したrpoC断片を挿入した。σ70の結合部位がβ’サブユニットの残基番号260〜309であることを特定したが、構造物のいくつかは残基番号319まで延びるようにした。これは、上記のBamHI部位が含まれるようにするためであった。このようにしてこれらのさまざまな突然変異を新しいプラスミドに組み込み、pTA610−619を作製した。残基番号309で終わる断片と残基番号319で終わる断片では、性質に違いが見られなかった。
【0086】
プラスミドpTA145、655、658、660、661は、野生型β’240−309またはさまざまな突然変異体β’240−309をコードしているPCR増幅したrpoC断片をpET24aのNdeI−XhoI制限部位に挿入することにより構成した。C末端のヘキサヒスチジン・タグをこれら挿入物に対する逆プライマーに組み込み、発現したタンパク質に精製タグを融合した。
【0087】
【表4】
【表5】
【0088】
σ 70 の発現と精製
細胞を1リットルの培養物として、A600が0.6〜0.8になるまで、100μg/mlのアンピリシンを入れたLB培地中で37℃にて成長させた。濃度が1mMになるまでイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加した。誘導を開始してから3時間後、8,000×gで15分間にわたって遠心分離することによって細胞を回収し、−20℃で凍らせた。
【0089】
1リットルの培養物からの細胞ペレットを解凍し、10mlの溶解用緩衝液(40mMのトリス−HCl、pH7.9;0.3MのKCl;10mMのEDTA;0.1mMのフッ化フェニルメチルスルホニル)に再び分散させ、リゾチームを0.1mg/ml添加した。細胞を氷の上で15分間インキュベートし、60秒間の超音波バーストで3回にわたって処理した。封入体の形態をした組み換えタンパク質を、27,000×gで15分間にわたって遠心分離することによって可溶性ライセートから分離した。超音波処理により封入体ペレットを10mlの溶解用緩衝液+2%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム(DOC)の中に再び分散させた。この混合物を27,000×gで15分間にわたって遠心分離し、上澄みを捨てた。DOCで洗浄した封入体を10mlの脱イオン水に再び分散させ、27,000×gで15分間にわたって遠心分離した。水による洗浄を繰り返し、封入体を1mgのペレットに分割し、−20℃で凍らせて使用するときまで保存した。
グリブスコフとバージスの方法(1986年)を変形した方法に従い、σ70封入体(10mg)を溶解させ、再び折り畳ませ、精製した。封入体を6MのグアニジンHCl(GuHCl)の中に再び分散させた。変性剤を緩衝液A(50mMのトリス−HCl、pH7.9;0.5mMのEDTA;5%(v/v)のグリセロール)でもって2段階で2時間かけて64倍に希釈することにより、タンパク質が再び折り畳まれるようにした。1gの樹脂(DEAE−セルロース、ホワットマン社)を添加し、4℃でゆっくりと撹拌しながら24時間にわたって混合した。次にこの樹脂を10mlのカラムの中に回収し、洗浄し、タンパク質を、NaClの勾配を0.1〜1.0Mにした緩衝液Aを用いて溶離させた。σ70分画をプールし、1リットルの保存用緩衝液(50mMのトリス−HCl、pH7.9;0.5mMのEDTA;0.1MのNaCl;0.1mMのDTT;50%(v/v)のグリセロール)を用いて一晩にわたって透析を行ない、−20℃で保存した。
【0090】
定量的ウエスタン・ブロッティング
定量測定するタンパク質サンプルに対してSDS−ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動(PAGE)を行なった。電気泳動によりタンパク質をルから0.05μmのニトロセルロースに移した。ブロットーの中でブロットの反応を停止させ、モノクローナル抗体(MAb)で調べた。ELC+システム(アマーシャム社)を用いてシグナルを発生させ、ストーム・フルオロイメージャー(Storm FluoroImager:モレキュラー・ダイナミクス社)で検出した。イメージクアント(ImageQuant)・ソフトウエア(モレキュラー・ダイナミクス社)を用いてシグナルを定量測定した。
【0091】
ファー − ウエスタン・ブロッティング
切断されたβ’サブユニットを発現するプラスミドpTA610−620を含む細胞を、A600が0.6と0.8の間の値になるまで成長させ、1mMのIPTGで誘導した。細胞をさらに30分間成長させた。サンプル200μlを取り出し、30秒間の超音波処理を3回行なった。グリセロール20μlとSDS−サンプル緩衝液20μlを添加し、95℃で2分間にわたって加熱し、−20℃で凍らせて使用するときまで保存した。ライセートをSDS−PAGEにより分離した。タンパク質を電気泳動により0.05μmのニトロセルロースに移動させた。HYB緩衝液(20mMのHepes、pH7.2;200mMのKCl;2mMのMgCl2;0.1mMのZnCl2;1mMのDTT;0.5%(v/v)のトゥイーン20;1%(w/v)の脱脂粉乳)の中で4℃で16時間にわたってインキュベートすることにより、ニトロセルロースの反応を停止させた。
【0092】
σ70に標識を付ける操作を100μlの反応容積の中で行なった。50μlの2×キナーゼ緩衝液(40mMのトリス−HCl、pH7.4;200mMのNaCl;24mMのMgCl2;2mMのDTT)を50μgのHMK−σ70タンパク質に添加した。240単位のcAMP依存性キナーゼ触媒性サブユニット(プロメガ社)を添加し、脱イオン水を用いて全容量を99μlにした。1μlのγ−32P−ATP(0.15mCi/μl)を添加した。この混合物を室温で30分間にわたってインキュベートした。次に、この反応混合物を、1×キナーゼ緩衝液であらかじめ平衡させたバイオスピンP6カラム(バイオラド社)に充填し、1,100×gで4分間にわたって回転させた。流出液を回収し、−20℃で保存した。
反応を停止させたニトロセルロースを、4×105cpm/mlの32Pで標識したσ70とともに、10mlのHYB緩衝液中で室温にて3時間にわたってインキュベートした。ブロットを10mlのHYB緩衝液でそれぞれ3分間ずつ3回にわたって洗浄した。次にブロットを乾燥させ、フォスファーイメージャー(PhosphorImager)を用いてシグナルが目に見えるようにし、イメージクアント・ソフトウエア(モレキュラー・ダイナミックス社)を用いてそのシグナルを定量測定した。
【0093】
成長の評価
プラスミドpTA577、600−609(0.1μg)を導入してRL602菌株を形質転換した(Weilbaecher他、1994年;Ridley他、1982年)。熱ショックを与え、氷の上でインキュベートした後、300μlのLBを細胞混合物50μlに添加した。10μlの形質転換反応物を、アンピリシン(100μg/ml)を加えたLBプレートの上にスポット状に載せ、30℃でインキュベートした。さらに10μlをプレートの上にスポット状に載せ、42℃でインキュベートした。プレートを24〜48時間にわたってインキュベートし、成長を評価した。
【0094】
コア/ホロ酵素複合体の精製
アンピリシン(100μg/ml)とIPTG(0.15mM)を加えた200ml のLBを入れた1リットルのフラスコに、プラスミドpTA561、577、600−609を含む細胞を一晩インキュベートした培養物から採取した200μlを接種した。この培養物を37℃で振動させながらA600が0.4になるまで成長させて対数増殖期アッセイ用にした。さらに2時間成長させたもの(A600が約2.0)は、初期定常期アッセイ用にした。6,000rpmで10分間にわたって遠心分離することにより細胞を回収し、使用するときまで−20℃で保存した。細胞ペレットを、0.15MのNaClとリゾチーム(0.1mg/ml)を添加した5mlのTE(10mMのトリス−HCl、pH7.9;0.1mMのEDTA)の中に再び分散させ、氷の上で15分間インキュベートした。細胞を超音波で30秒間ずつ2回にわたって処理し、27,000×gで25分間にわたって遠心分離することにより、不溶性のペレットにした。上澄みを、ポリオール反応性アンチβ’モノクローナル抗体(MAb)であるNT73(Thompson他、1992年)を含む1.5mlのイムノアフィニティ・カラムに充填した。このカラムを、0.15MのNaClを加えた15mlのTEで洗浄した後、0.5MのNaClを加えた10mlのTEで2回目の洗浄を行なった。0.7MのNaClと30%のプロピレングリコールを加えた4mlのTEを用いてタンパク質をカラムから溶離させた。溶離したサンプル(4ml)を6mlの緩衝液B(20mMのトリス−HCl、pH7.9;500mMのNaCl;5mMのイミダゾール;0.1%(v/v)のトゥイーン20;10%(v/v)のグリセロール)で希釈し、500μlのNi2+−NTA樹脂に充填した(2回)。この樹脂を5mlの緩衝液Bで洗浄し(2回)、0.25Mのイミダゾールを加えた0.5mlの緩衝液Bで溶離させた。溶離した分画からのサンプルを、それぞれのサブユニットまたはσ因子に対するMabを用いて上記のようにしてウエスタン・ブロット法で調べた。二次抗体は、セイヨウワサビのペルオキシダーゼで標識したヤギの抗マウスIgG抗体であり、ELC+システム(アマーシャム社)を用いてシグナルを発生させ、ストーム・フルオロイメージャー(モレキュラー・ダイナミクス社)で検出した。イメージクアント・ソフトウエア(モレキュラー・ダイナミクス社)を用いてシグナルを定量測定した。
【0095】
結果
突然変異の設計
コイル予測プログラム(Lupas他、1991年)は、β’260−309において予想される2つのαヘリックスが、両方ともコイルドコイルを形成する確率が高いことを示した(図3a)。この予測を確かめるため、プロリンをいずれかのヘリックスに挿入した2つのβ’サブユニット突然変異体を構成した。これらのβ’サブユニット突然変異体は、ヘリックスまたはコイルドコイルをもはや形成しないことが予想された。ファー−ウエスタン・アッセイとインビボ成長アッセイの両方でこれら2つの突然変異体の機能を調べたところ、どちらも機能を持たないことがわかった。これは、この領域におけるヘリックス/コイルドコイルの構造が機能にとって重要であることを示唆している。しかしこれら突然変異体タンパク質の溶解度は100%ではなく、したがって機能の喪失は、単に折り畳みに大きな欠陥があることに起因している可能性がある。その後、主としてヘリックスの“e”と“g”の位置についてさらに分析を行なった。コイルドコイルのe残基とg残基は、イオン相互作用や塩の架橋形成といったヘリックス間相互作用に関係していることがしばしばある(Cohen他、1986年;Chao他、1998年)。今回のケースでは、このような相互作用は、σ因子が結合する上で必要なコイルドコイル構造を形成する(β’260−309の2つのヘリックス間の)分子内相互作用である可能性がある(図3b)。また、β’260−309のe残基とg残基は、結合する際にσ因子のヘリックスと分子間接触する可能性もある。電荷が変化する突然変異をβ’サブユニットのこれら残基において起こさせ、その突然変異が結合に及ぼす影響を明らかにした(図3b)。
【0096】
図示した突然変異のうちの2つは、e残基またはg残基と関係していない。チロシン残基とアルギニン残基がタンパク質−タンパク質相互作用の“ホット・スポット”に位置することがしばしばあるという知見(Bogan他、1998年)に基づき、残基番号269のチロシン残基をアラニンで置換し、残基番号297のアルギニン残基をセリンで置換した。残基番号297の位置にロイシンが挿入されると、σ70が結合する上で機能しないβ’サブユニットが生まれることがすでに明らかにされていた(データは示さない)。したがって、この位置にこれほど劇的ではない突然変異が起こった場合にもσ因子の結合に影響が及ぶかどうかを明らかにすることは、興味深いことだった。β’260−319領域内にあるいくつかの突然変異は、ファー−ウエスタン・アッセイにおいてσ70との相互作用を消失させる。
ファー−ウエスタン・ブロッティングは、β’サブユニットのN末端領域に対するσ70の結合部位を特定するのに用いた(実際例2)。この方法は、もともとはβ’サブユニットの突然変異体の機能を検出するのに用いられた。突然変異体をクローニングして、β’サブユニットのアミノ酸残基番号1〜319をコードしている遺伝子断片に導入した。これら遺伝子を含む細胞を短時間誘導し、β’サブユニットの断片のレベルが、抽出液中の他のタンパク質と同程度になるようにした。ファー−ウエスタン分析により、サンプルに対するσ70の結合について分析した。それぞれの突然変異体β’1−319断片が結合したσ70プローブの量を、野生型β’1−319断片が結合した量と比較した。それぞれのシグナルを、ウエスタン・ブロッティングによって明らかになった上澄みに含まれるβ’1−319の量で規格化した。
【0097】
突然変異体のうちの5つ(R275Q、R293Q、E295K、R297S、A302D)は、σ70との結合能力が大きく低下していた(図4)。突然変異体Q300EとN309Dは逆の効果を持ち、野生型β’1−319よりも多くのσ70が結合した。Q300Eは、相対的な結合能力が7倍以上に増大した。突然変異体N266D、Y269A、K280Eでは結合に対する影響が見られなかった。
【0098】
β ’ サブユニット突然変異体を用いた場合の成長
インビボにおけるσ70結合部位の重要性を評価するため、β’サブユニット突然変異体が、細胞にとって唯一のβ’サブユニット源として機能する能力を評価した。突然変異体か野生型の完全長β’サブユニットを含むプラスミドを導入してRL602菌株を形質転換した(Weilbaecher他、1994年;Ridley他、1982年)。RL602の染色体rpoC遺伝子は、サプレッサーtRNAの不在下で機能するβ’サブユニットの生成を阻止するアンバー突然変異を有する。RL602は、温度感受性のある染色体アンバー・サプレッサーも含んでいる。許容可能な温度(30℃)では、アンバー・サプレッサーは活性で染色体β’サブユニットの生成が可能であり、細胞は成長することができる。アンバー・サプレッサーは、許容不能な温度(42℃)では活性ではない。したがって、42℃では、染色体β’サブユニットは生成されず、細胞は、別のβ’サブユニット源がないと成長できない。プラスミド由来のβ’サブユニットがβ’サブユニットの代わりになるのであれば、細胞は成長し、許容不能な温度でプレート上にコロニーを形成するであろう。β’サブユニット突然変異体が代役を務められない場合には、この温度においてプレート上で細胞が成長することはない。
【0099】
ファー−ウエスタン・アッセイにおいてσ因子の結合に欠陥のあった3つの突然変異体(R275Q、E295K、A302D)は、許容不能な温度で成長を維持することはできなかった。これは、これら突然変異体がインビボでもσ因子の結合に関して欠陥を有することを示唆している(図5)。ファー−ウエスタン・アッセイにおいて検出可能な効果が見られなかった突然変異体であるN266Dの場合には、許容不能な温度で幾分か成長が可能であったが、野生型と見なせるほど十分ではなかった。逆に、ファー−ウエスタン・アッセイにおいてσ70と結合しなかった突然変異体R293QとR297Sは、インビボでの成長を維持することができた。他の突然変異体(Y269A、K280E、Q300E、N309D)では、成長に対する効果が検出されなかった。機能しないβ’サブユニット突然変異体の発現レベルは、37℃で成長させる場合、プラスミド由来の野生型β’サブユニットのレベルと同じであることがわかった(データは示さない)。
【0100】
コア/ホロ集合体
上記のさまざまな突然変異体によって引き起こされる可能性のある集合体の欠陥を評価するため、ヘキサヒスチジン・タグ付きβ’サブユニット突然変異体を、野生型の染色体β’サブユニット・タンパク質も発現する細胞の中で発現させた。Ni2+−NTAカラムを用い、β’サブユニット突然変異体を、付随する細胞タンパク質とともに精製した。イムノアフィニティ・カラムを用いてサンプルを取り除き、Ni2+−NTAカラムへのあらゆる非特異的な結合を減らした。
テストしたすべてのβ’サブユニット突然変異体は、集合してコア酵素になる能力を保持していた。そのことは、精製の間を通じてαサブユニットとβサブユニットが会合していたことで証明される(図6aと図6b)。ここでも、突然変異体R275Q、E295K、A302Dは、対数増殖期のサンプルと定常期のサンプルの両方でσ70の結合に欠陥をもたらした。Eσ70の形成がやはり減ったのは、N266Dの対数増殖期のサンプルと定常期のサンプルの両方、およびR297Sの対数増殖期のサンプルである。Q300Eは、σ70の結合が野生型よりも多いという性質を今回も示した。Y269A、K280E、R293Q、N309Dでは、Eσ70集合体に対する影響を検出できなかった。ヘキサヒスチジン・タグのないβ’サブユニットをプラスミドから発現させたとき、Ni2+−NTAカラムへの非特異的結合は検出できなかった。
すべてのサンプル溶離液についても、マイナーなσ因子のどれかが存在しているかどうかを調べた。検出するのに十分の濃度があったマイナーなσ因子は、対数増殖期のσ32サンプル、および定常期のσ32サンプルとσFサンプルだけであった。これらのσ因子に関する結果は、突然変異体R297SとQ300Eを除いてσ70に関する結果と本質的に同じだった。定常期における突然変異体Q300Eからのサンプルでは、σ32とσFのレベルが大きく低下していたのに対し、σ70のレベルは野生型よりも高かった。この突然変異体の対数増殖期のサンプルでも、含まれているσ32の量が低下していた。これは、Eσ32の形成に欠陥があるが、定常期におけるほど深刻ではないことを示唆している。
【0101】
分子モデリング
最近、ツァン他(1999年)がテルムス・アクアティクスのRNAポリメラーゼの結晶構造を報告した。大腸菌RNAポリメラーゼのβ’260−309領域をテルムス・アクアティクスにおける相同領域と比べると、配列が高い割合で保存されている(図8a)。テルムス・アクアティクスのβ’サブユニットのこの領域は、“コイルドコイルのような”構造を形成する。この明細書で検討している突然変異をラスモル・ソフトウエア・プログラム(Sayle他、1998年)を用いてテルムス・アクアティクスに当てはめてみると、σ因子の結合に関して最も欠陥のある突然変異は、コイルドコイルの一方の面に集まっていることがわかる。あるアッセイでは欠陥のある表現型だが別のアッセイでは欠陥のない突然変異は、この面の外縁部にある。検出できる影響をもたらさなかった突然変異は、コイルドコイルの反対側の面に集まっている。ただしN309Dは例外で、“舵”のすぐ隣りにある、コイルドコイルのまさにC末端に位置している(図8bと図8c)。
【0102】
考察
コア・ポリメラーゼに対してさまざまなσ因子が結合するというのは、遺伝子全体の発現と制御を行なうプロセスにおける1つの重要なステップである。このステップが、限られた数のコアに対して結合しようとして競合することによる制御の一部であるか、それとも自由なσ因子が過剰なコアに対して単純に結合するというものであるかはわかっていない。σ因子相互間で競合しながらコアに結合する場合には、その競合は、σ因子の結合特異性による影響を受ける可能性がある。たいていのσ因子で配列の保存性が高いことから、すべてのσ因子がコア酵素の同じ位置に結合すると考えられている(Helmann他、1988年)。この明細書に記載したように、RNAポリメラーゼのβ’サブユニット上でσ70がインビボで結合する部位を同定した。しかもこの結合部位は、少なくともいくつかのマイナーなσ因子の結合にも関係している。さらに、この明細書に記載した方法、組成物、化合物は、σ因子が結合するにあたって重要なコアRNAポリメラーゼ中の残基を同定し、σ因子−コア相互作用の結合インターフェイス候補を明らかにするのに役立つ。
【0103】
予測されるコイルドコイル内のe位置またはg位置を占めることが明らかにされたβ’サブユニットの残基番号260〜309の領域を対象としてσ70の結合の消失を探すことを目的とした突然変異分析法により、3つのタイプの突然変異が得られた。すなわち、行なったすべてのアッセイでσ因子の結合が機能しなかったタイプ;いくつかのアッセイでは機能しなかったが他のアッセイでは機能したタイプ;行なったすべてのアッセイで機能したタイプである。第1のグループは、突然変異体R275Q、E295K、A302Dを含んでいる。これら3つの突然変異体は、インビトロとインビボでσ70の結合が機能しなかった。これは、これら突然変異体がσ70の結合において非常に重要な役割を果たしていることを示唆する。アルギニン275は、予測される2つのヘリックスのうちの第1のヘリックスのC末端の近くに位置しているのに対し、グルタミン295は第2のヘリックスの中央部に、アラニン302は第2のヘリックスのC末端の近くに位置している。このことから、β’260−309において予測される2つのヘリックスの両方がσ70の結合に関係していることが確認される。染色体β’サブユニットの発現を止めたとき、これら残基の位置における突然変異だけが、テストした突然変異のうちで検出可能な成長を維持できなかった。これらβ’サブユニット突然変異体も、ここでの研究でテストしたどの突然変異体も、コア酵素を形成するのに必要なαサブユニットとβサブユニットの間の相互作用に関しては検出可能な欠陥を持っていなかったという事実を考えると、これは重要である。したがって折り畳みに関しては、σ70が結合しない原因となる大きな欠陥はない。
【0104】
これら突然変異体タンパク質の局所構造を乱すことが可能である。全部で10個のサブユニット突然変異体の配列を分析したところ、野生型タンパク質と比べて二次構造に変化のないことが予測された(Rost他、1994年;Munoz他、1994年)。しかしグループ1の突然変異体の中では、A302Dという変化が局所構造を最も乱しやすいであろう。この変化により、1個のメチル基の代わりに帯電した大きな側鎖が導入されることになる。また、テルムス・アクアティクスのRNAポリメラーゼの結晶構造(Zhang他、1999年)に基づくと、A302α炭素のほうが、溶媒に曝露されるR275またはE295の側鎖よりも、コイルドコイルの反対側のヘリックスのほうを向くことになる。R275QとE295Kがβ’サブユニットの局所構造に影響を与えることがなければ、σ70の結合を妨げる性質は、立体障害、電荷の反発、σ因子との特異的相互作用の欠如のいずれかに由来する可能性が非常に高い。
グループ2の突然変異体であるN266D、R293Q、R297Sは、特に興味深い。というのも、これら突然変異体を分析したいくつかのアッセイで、これら突然変異体が何らかの機能を持っているらしいことがわかったからである。R293QとR297Sは、ファー−ウエスタン・アッセイではインビトロでσ70の結合が機能しなかったが、成長を維持し、σ70の結合が可能なコア酵素を形成することができた。ただしR297Sは、対数増殖期でコア酵素突然変異体の結合効率の低下を引き起こす。これら突然変異体に関してインビトロ・アッセイとインビボ・アッセイにおいて得られた結果の違いを説明できる方法は多数ある。第1に、ファー−ウエスタン・アッセイにおける決定的な結果は、β’サブユニットの断片(1〜319)が、このタンパク質の一部が膜に固定化されたままσ70の結合に必要な二次構造を取るように折り畳まれると解釈せざるをえない。したがって、欠陥を生み出す突然変異は、インビトロで折り畳みの不足をもたらす可能性がある。第2に、インビボ・アッセイでは、多数のサブユニットからなるコア酵素へのσ因子の結合を分析しており、個々のサブユニットまたは断片だけについては分析しない。コアRNAポリメラーゼにはσ因子のための多数の結合部位があるという多くの証拠が報告されている(Sharp他、1999年;Joo他、1998年;Nagai他、1997年;Owens他、1998年)。したがって、これら部位のうちの1つが消失しても、残っている結合相互作用によってその消失を補償できる可能性がある。突然変異体R293QとR297Sは、β’260−309に対してσ因子を結合させないが、σ70がコア・ポリメラーゼ上でこれ以外の接触をすることは妨げない。
【0105】
N266Dは、上に説明したグループ2の他の突然変異体とは異なり、β’サブユニットに対するσ70の結合には影響を与えなかったが、Eσ70の形成をグループ1の突然変異体と同じレベルまで低下させ、しかも成長不足は少なかった。N266Dは、コイルドコイルの底部に位置しているため、突然変異があると局所構造を変化させる可能性がある。この変化は、コイルドコイルの向きをコア酵素の残りの部分に対してずらしている可能性がある。このようになっていてもコイルドコイルに対するσ70の結合が影響を受けることはないが、σ70とコアの間に通常は存在している他の接触がなくなる可能性がある。
【0106】
グループ3の突然変異体であるY269A、K280E、Q300E、N309Dは、どれも十分に機能した。これは、これら残基とσ70の接触が決定的に重要ではないことを示唆している。Q300Eという変化はかなり興味深い。この突然変異により、β’サブユニットに対するσ70の結合が増加するように見える。ファー−ウエスタン・アッセイにおいて見られた相対的結合の大幅な増加は、インビボではそれほど劇的なものではなかった。これは、おそらく、σ70−コア相互作用のKeqがσ70−β’サブユニット相互作用のKeqよりも大きいためであろう。しかし、この突然変異体を含むEσ70集合体はそれでも野生型のほぼ2倍であった。コイルドコイルの相互作用に基づく抑制剤は、細胞にウイルスが導入されるプロセスを妨げたりトポイソメラーゼ活性をなくしたりするのに有効であることがわかっている(Eckert他、1999年;Wild他、1994年;Frere−Gallois他、1997年)。σ因子−コア相互作用の抑制剤は、抗菌療法と同様、有効であろう。中でも、Q300E突然変異体は、そのような抑制剤の結合定数を大きくすることに関する有効な情報を提供する可能性がある。
【0107】
他のσ因子群は、コアRNAポリメラーゼ上でσ70と同じ部位に結合すると考えられてきた。異なるσ因子の間で保存されている残基が突然変異すると、コアとの結合が失われるであろう(Sharp他、1999年)トラヴィーリャら(1999年)は、結合したFe−EDTAによる切断を利用して、大腸菌のマイナーなσ因子のいくつかが、Eσ複合体の中では、コアRNAポリメラーゼにσ70が結合している領域の極めて近くに位置していることを明らかにした。マイナーなσ因子は、少なくともσ32とσFに関しては、確かに、コア上でσ70が結合しているのと同じ部位の1つと結合している。これらσ因子は同じ部位と結合しているが、結合の仕方には幾分か違いがある。σ70の結合を増加させたQ300E突然変異体は、σ32とσFに関しては特に定常期で逆の効果を持っていた。R297Sも、σ因子ごとに異なる結合特性を持っていた。この突然変異は、マイナーなσ因子の結合を増加させたが、σ70の結合を減少させた。これら2つの突然変異体がどちらもσ70に対してとマイナーなσ因子に対してでは逆の効果を持つことは興味深い。もっとも、検出可能なレベルだったのは2つのマイナーなσ因子だけである。これは、局所的な環境の変化が、σ70と比べた場合、マイナーなσ因子の結合全体に対してプラスやマイナスの影響を与え得ることを示唆している。
【0108】
最後に、テルムス・アクアティクスのRNAポリメラーゼの結晶構造は、突然変異の結果を理解しようとする際に非常に役に立ってきた。コンピュータによる予測とこの明細書に記載した突然変異の結果だけに基づいたのでは、β’260−309がコイルドコイル構造を形成することは結論できなかったであろう。しかしこの情報を、テルムス・アクアティクスと大腸菌でβ’サブユニットの配列をアラインメントしたもの、ならびにテルムス・アクアティクスの結晶構造と組み合わせることで、β’260−309がコイルドコイル構造を取っていることが明らかになる。しかしσ因子が結合する際にこの領域がどのような構造を取るかははっきりしていない。コアの結合に関係するσ70の保存領域2.1(Lesley他、1989年)は、σ70のプロテアーゼ耐性ドメインの結晶構造において、領域1.2と合わさってコイルドコイルを形成する(Malhotra他、1996年)。また、大腸菌のσ54において予測されるコイルドコイルは、σ因子−コア相互作用にとって重要であることがわかっている(Hsieh他、1999年)。これらσ因子構造は、β’260−309と相互作用して、4つのヘリックスを有するコイルドコイルを形成している可能性がある。またσ因子は、コアと結合する際に立体配座が変化することも知られている(Nagai他、1997年;Callaci他、1998年;McMahan他、1999年)。これは、コイルドコイルが再配置されて新しい接触が生まれたことによって起こっている可能性がある(Grum他、1999年;El−Kettani他、1996年)。
【0109】
グループ1の突然変異がコイルドコイルの同じ面にクラスターを形成しており、グループ2の突然変異がこのクラスターの縁部にあり、グループ3の突然変異がこのコイルドコイルの反対側の面にあるという事実をもとにして、β’サブユニット上のσ70に対する結合インターフェイスを明らかにした。最近の研究により、β’260−309と相互作用しているσ70内の領域が、σ70の非保存領域と領域2.1−2.2の一部とを含むペプチドであることが特定された(Burgess他、1998年)。β’サブユニットの残基番号198〜237の領域は、ブロドリンら(2000年)により、lacUV5プロモーターの非鋳型鎖と相互作用していることが明らかにされた。lacUV5プロモーターは、σ70の領域2.4と接触していることも知られている(Siegele他、1989年;Waldburger他、1990年)。
【0110】
実施例 4
σ 70 とコア RNA ポリメラーゼの間の相互作用を調べるためのルミネッセンス共鳴エネルギー移動( LRET )
細菌の転写機構は、薬剤を発見したり設計したりするための魅力的なターゲットを提供してくれるように思われる。というのも、細菌同士の間では転写機構が非常によく保存されているが、真核生物の転写機構とは大きく異なっているからである。σ因子の集合がコアRNAポリメラーゼとホロ酵素を形成するのを妨げる抑制剤は、どのようなものであれ、一般に、転写の開始を抑制し、したがって細胞の成長や、場合によっては細胞の生存を妨げるであろう。細菌の転写因子(大腸菌のσ70)がコアと結合する際に重要であると推定されている領域(領域2.1−2.2、図20)は、相同性が顕著に大きく(>80%)、細菌のマイナーなσ因子とも非常によく似ている(LesleyとBurgess、1989年;Lonetto他、1998年)。さらに、コアRNAポリメラーゼのβ’サブユニット(図20)は、σ因子が結合する領域(大腸菌のβ’サブユニットの残基番号260〜309)において配列が非常によく保存されている(Arthur他、2000年;ArthurとBurgess、1998年)。これらホモロジーは、コアRNAポリメラーゼのホロ形態中に、高度に保存された構造があることを示唆している。このホロ形態が形成されることは、転写が正しく開始される上で極めて重要である。したがって、この相互作用を妨げるどのような抑制剤も、幅広いスペクトルの抗生物質であることが予想される。哺乳類の細胞では、σ70のホモログは見つかっていない。例外として、ミトコンドリアのσ因子(TracyとStern、1995年)と、葉緑体のσ因子(Allison、2000年)があるが、これらは、原核生物における対応物とは有意な相同性を持っていない。この事実は、真核生物のRNAポリメラーゼ群を抑制する新しい抗生物質の候補が見つかる可能性は非常に小さく、そのような抗生物質が見つからない場合にその抗生物質を薬剤として使用すると重大な副作用を引き起こす可能性があることを意味する。
【0111】
σ因子を用いてRNAポリメラーゼ群の抑制剤をスクリーニングするため、σ70−β’サブユニット複合体を形成するための単純で迅速かつ信頼性の高いアッセイが必要とされている。電気泳動移動度シフト(EMS)アッセイとファー−ウエスタン・ブロットは、大腸菌RNAポリメラーゼ内の結合領域を同定するのに非常に有効であることがわかっている(Burgess他、2000年)が、強力なハイスループット・スクリーニングを行なうためには、信号対雑音比が非常に大きい、より高速で好ましくは均一なアッセイが望ましかろう。そこで蛍光を利用としたプローブによるアッセイを選択し、複合体の形成を調べることにした。この点に関し、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)は、複合体が形成されたときに望むシグナルを発生させることのできるシステムである(Selvin、1995年;Selvin、2000年;Stryer、1978年)。FRETは、色素のスペクトル特性により違いはあるが、2つの適切な色素が約75オングストローム未満に接近したときに起こる。これら色素の間でのエネルギーの移動は、双極子−双極子相互作用による。するとアクセプターが増感し、特別な波長の蛍光を出せるようになる。2つの発光は波長が異なっているため、別々に感知することができる。ここから2つの色素の量と相互間の距離に関する情報が得られる。効果を定量的に記述するには、2つの色素間の距離の6乗に反比例してエネルギーの移動が減少するというフェルスター理論を利用する。したがって、エネルギーの移動と色素間の距離は、発光強度とその減衰を測定することによって決定できる。
【0112】
LRET(ルミネッセンス共鳴エネルギー移動)は、この効果を変えたものである(Selvin、1999年)。FRETとは異なり、ドナーは、ランタノイド複合体と結合した有機色素である。この違いが、分光分析における好ましい特徴となる。ストークス・シフト(励起振動数と発光振動数の差)が大きいことで、装置の励起源と発光の間の大きなクロストークが避けられる。発光線が狭いため、ドナーのシグナルとアクセプターのシグナルを正確に分離することができる。EuやTbなど、たいていのランタノイドの寿命は、Cy5などの一般に使用される大部分の有機色素の寿命(ナノ秒)よりも有意に長い(ミリ秒)。時間分解蛍光モードで測定することにより、バックグラウンドの蛍光とアクセプターに固有の蛍光が減衰した後に、シグナルの取得を開始することができる。したがってドナーによって増感したアクセプターの発光だけが測定できるため、信号対雑音比が非常に大きくなる。アッセイに使用した2つの色素を図10に示してある。
【0113】
ヘイドゥクとその共同研究者は、これと同じ色素ペアを用い、LRETを利用して、ホロ酵素におけるσ70に対するDNAの結合を測定した(HeydukとHeyduk、1999年)。以下に説明するアッセイを行なうため、IC5で標識したβ’サブユニットの断片(残基番号100〜309からなり、N末端に心筋キナーゼ(HMK)認識部位とヘキサヒスチジン・タグが融合したもの)を、Cy5で標識したポリヌクレオチドで置換した。均一アッセイのため、σ70をユーロピウム−DTPA−ANCA複合体で標識してドナーとし、HMK−ヘキサヒスチジン・タグ−β’サブユニットの断片(100〜309)をCy5−アナログIC5−マレイミド(同仁化学研究所、日本)で標識した。図11にこのアッセイを示してある。複合体が形成されるとき、LRETが起こる。σ70とβ’サブユニットの間で複合体が形成されたことは、単純に、複合体の形成を示す光学的に測定可能なシグナルとして、アクセプターの遅延した発光を観測するだけでモニターできる。アッセイはマルチウエル・プレートの中で実行できる。アッセイの結果は、任意の化合物ライブラリーからの多数のサンプルに対して自動化したハイスループット・アッセイを行なうためのマルチプレート読み取り装置で測定する。典型的な反応容積は10〜200μlであり、テスト物質を含む成分をマルチウエル・プレートの中で直接混合した後、プレートを読み取り装置で読み取る。蛍光を利用したこのようなアッセイは非常に感度が高い(一般に数ナノモルのレベル)ため、精度と信号対雑音比に優れており、測定中に現われる偽のヒットを避けることができる。また、このアッセイでは標識したタンパク質と基質の使用量が少ないため、全体のコストが下げられる。
【0114】
方法
緩衝液
以下の緩衝液を使用した:NTGED緩衝液(50mMのNaCl;50mMのトリス−HCl、pH7.9;5%のグリセロール;0.1mMのEDTA;0.1mMのDDT);TGE緩衝液(50mMのトリス−HCl、pH7.9;5%のグリセロール;0.1mMのEDTA);NTG緩衝液=FRET緩衝液(50mMのNaCl;50mMのトリス−HCl、pH7.9;5%のグリセロール);TNTwGu緩衝液(50mMのトリス−HCl、pH7.9;500mMのNaCl;0.1(v/v)%のトゥイーン20;6MのGu−HCl);ネイティブ・サンプル緩衝液(200mMのトリス−HCl、pH8.8;20(v/v)%のグリセロール;0.005%のブロモフェノール・ブルー);保存用緩衝液(50mMのNaCl;50mMのトリス−HCl、pH7.9;50%のグリセロール;0.5mMのEDTA;0.1mMのDDT)。
【0115】
HMK− ヘキサヒスチジン・タグ − β ’ サブユニットの断片( 100 〜 309 )とσ 70 の過剰産生( C132S 、 C291S 、 C295S 、 S442C )
プラスミドpTA133(ArthurとBurgess、1998年;図12)は、発現ベクターpET28b(+)の誘導体である。まず最初に、HMK部位をMCSの5’開始部に挿入し、得られたベクターにβ’サブユニット配列の一部をクローニングして組み込むことで、アミノ酸配列MARRASVHHHHHHM(配列ID番号1)がβ’サブユニット(100〜309)の末端に融合したキメラ(25kDa)を得た。HMK認識部位を下線で示してある。
【0116】
プラスミドpSigma70(442C)(HeydukとHeyduk、1999年;図13)を、σ70発現系であるpGEMD(IgarashiとIshihara、1991年;Nakamura、1980年)から誘導した。このpGEMDは、クローニングしてpGEMX−1(プロメガ社)ベクターに組み込んだ大腸菌からのrpoD遺伝子を含むHindIII断片を含んでいる。これは、IPTGによる制御された誘導と、アンピリシンを用いた選択が可能なT7発現系である。このプラスミドを組み込んで発現用BL21(DE3)(ノヴァジェン社)を形質転換した。細胞を1リットルの培養物としてLB培地中で37℃にて成長させた。LB培地には、100μg/mlのアンピリシンを入れた。培養物をOD600が0.5と0.7の間の値になるまで成長させ、0.5mMのイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導した。誘導を開始してから2時間後、8,000×gで15分間にわたって遠心分離することにより細胞を回収し、−20℃で凍らせて使用するときまで保存した。
【0117】
封入体の精製
細胞ペレット(湿った状態の重量が1〜2g)を、10mMのEDTAと100μg/mgのリゾチームを加えた10mlのNTGED緩衝液の中に再び分散させた。細胞を氷の上で30分間インキュベートし、次いで4℃にて60秒間の超音波バーストで3回にわたって処理した。トリトンX−100(1%v/v)を添加して撹拌した。封入体の形態をした組み換えタンパク質を、25,000×gで15分間にわたって遠心分離することによって可溶性ライセートから分離した。それぞれのステップでSDS−PAGE用にサンプルを100μl採取した。SDS−PAGEの結果を図14に示してある。封入体ペレットを超音波処理により10mlのNTGED緩衝液+1%(v/v)トリトンX−100の中に再び分散させた。この混合物を25,000×gで15分間にわたって遠心分離し、上澄みを捨てた。洗浄した封入体を10mlのNTGED緩衝液+0.1%(v/v)トリトンX−100の中に再び分散させ、25,000×gで15分間にわたって遠心分離した。10mlのNTGED緩衝液+0.01%(v/v)トリトンX−100による洗浄を繰り返し、封入体の分散液を5等分して2mlの小容器に入れた後、ベックマン・マイクロフュージ(Microfuge:登録商標)18遠心分離機を用いて最大速度で遠心分離した。上澄みをピペットで除去し、封入体を−20℃で凍らせて使用するときまで保存した。
【0118】
β ’ サブユニットの Ni−NTA による精製と IC5 による誘導体化
精製のさまざまな段階で採取したサンプルのSDS−PAGEゲルを図15に見ることができる(クーマシー染色とIC5感受性スキャン)。β’サブユニット封入体を3mlのTNTwGu緩衝液+5mMのイミダゾールの中に再び分散させ、室温で15分間にわたってインキュベートした。沈殿物をマイクロ遠心機の中で18,000×g(14,000rpm)で5分間にわたって回転させることにより沈殿させ、上澄みを、5mlのTNTwGu緩衝液+5mMのイミダゾールであらかじめ平衡させた約0.8mlのNi−NTAマトリックス(キアジェン社)とともにバイオラド・カラム(ポリプレップ(PolyPrep)10ml、0.8×4cm)に充填した。結合しなかったタンパク質を除去するため、カラムを少なくとも3mlのTNTwGu緩衝液+5mMのイミダゾールで洗浄した。二硫化結合をすべて還元するため、カラムを調製したばかりの5mlのTNTwGu緩衝液+20mMのイミダゾールと2mlのトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)で洗浄した。N2が飽和した3mlのTNTwGu緩衝液+20mMのイミダゾールで洗浄することにより、過剰なTCEPと非特異的な結合をしたタンパク質を除去した。結合したタンパク質は、調製したばかりの2mlのTNTwGu緩衝液+20mMのイミダゾールと0.2mMのIC5を充填することにより、IC5−マレイミドで誘導体化した。流出液をカラムに2回にわたって充填した後、3mlのTNTwGu緩衝液+20mMのイミダゾールで洗浄することにより過剰な色素を除去した。誘導体化したタンパク質は、TNTwGu緩衝液+200mMのイミダゾールで溶離させ、変性した状態で−20℃にて保存した。
【0119】
σ 70 の精製と誘導体化
1アリコート分の封入体(10ナノモルのタンパク質、0.7mg)を5mlのTNTwGu緩衝液+6MのGuHClの中に再び分散させることにより溶解させた。タンパク質を折り畳ませるため、変性剤を100倍に希釈した。希釈にあたっては、変性剤を氷の上でゆっくりと撹拌している冷たい500mlのTGE緩衝液+0.01%のトリトンX−100の中に入れた。沈殿が起こる場合には、遠心分離機で4℃にて25,000×g(15,000rpm、SS−34ローター)で15分間にわたって回転させることにより沈殿物を沈殿させる。次に、POROS HQ50(パーセプティヴ・バイオシステムズ社)という乾燥樹脂1gを分散させた5mlのTGE緩衝液+0.01%のトリトンX−100を混合物に直接添加することにより、再び折り畳まれたタンパク質を陰イオン交換樹脂に結合させた。30分間にわたって撹拌した後、分散液を25mlのエコノ・パック・カラム(バイオラド社)の上に注ぎ、5mlのNTG緩衝液で洗浄した。カラムに栓をし、樹脂を5mlの保存用緩衝液の中に再び分散させ、10のアリコートに等分し、ゆすいだ空のファルマシア・スピン・カラムに移し、−20℃で保存した。使用する前に、卓上遠心分離機を用い、スピン・カラム内の緩衝液を、5000×g(4500rpm)で遠心分離することにより除去した。σ70に標識するため、500μlのNTGE緩衝液+0.01%のトリトンX−100と0.1μモルのDTPA−ANCA(ヘイドゥク研究室からの寄贈)を用いて樹脂を再び分散させ、室温で30分間にわたってインキュベートした。5μMのEuCl3を誘導体化されたタンパク質とともに樹脂に充填することにより、Eu−複合を形成した。4500rpmで遠心分離した後、カラムを500μlのNTGE緩衝液+0.01%のトリトンX−100で洗浄した。次に、100μlのNTGE緩衝液+500mMのNaClを用い、標識したタンパク質を溶離させた。流出液(標識したσ70)をそのままアッセイで使用した。
【0120】
陰イオン交換樹脂POROS HQ50(パーセプティヴ・バイオシステムズ社)の代わりにDE52(ホワットマン社)を用いることができる。さらに、標識操作は、イオン交換カラムからタンパク質溶液を精製・溶離した後、そのタンパク質溶液に色素のアリコートを添加するだけで実現することもできる(同じ緩衝液、同じ条件)。次に、ファルマシアG50スピン・カラムを用いて過剰な標識とEuイオンを除去した。
【0121】
標識したσ 70 とβ ’ サブユニットの間で複合体が形成されたことを確認するための電気泳動移動度シフト( EMS )アッセイ
このアッセイは、2×天然サンプル緩衝液とNTG緩衝液(全量が200μl;5%のグリセロール;50mMのトリス−HCl、pH8.8;50mMのNaCl;0.005%(w/v)のブロモフェノール・ブルー;不溶性添加物を添加する場合に使用する2.5%のDMSO)を用いることにより得られた緩衝液の中で実行した。標準的なタンパク質の濃度は、σ70(標識したタンパク質)が2μM、β’サブユニット(標識したタンパク質)が2μMであったが、それぞれ200nMと100nMまで少なくすることができる。テスト物質に対し、標識したσ70を最初に添加し、次に抑制剤の候補を添加し、次いで変性した標識付きβ’サブユニットを添加する。それぞれの成分を添加した後、溶液をよく混合した。この混合物を室温で5分間にわたってインキュベートし、次にそこから15μlを採取して、成型したポリアクリルアミド・ゲル(12ウエル、12%、トリス/グリシン、ノヴェックス社)に充填した。温度の低い部屋(4℃)の中で、あらかじめ冷やした緩衝液、ゲル、装置を用い、120Vの定圧(5〜20mA、可変)で2.5時間にわたって電気泳動を行なった。IC5の発光は、ストーム・システム(モレキュラー・ダイナミクス社)を赤色蛍光モードにして測定した。Euの発光は、UVボックス(λ励起=312nm、フォトダイン社)を用いて6秒間の取得時間で測定した。ゲル・コード染色溶液(ピアース社)を製造会社の指示に従って用いてすべてのタンパク質をクーマシー・ブルー色素で染色し、ヒューレット・パッカード社のスキャナーにオレンジ色のフィルタを付けて測定した。
【0122】
標識したσ 70 とβ ’ サブユニットの間のタンパク質 − タンパク質相互作用が抑制されたかどうかを調べる FRET アッセイ
このアッセイは、NTG緩衝液(合計200μL)+2.5%のDMSO(不溶性添加物を用いる場合)に10nMのσ70*(標識したタンパク質)と50nMのβ’サブユニット*(標識したタンパク質)を加えたものの中で行なった。テスト物質に対し、標識したσ70をまず最初に添加し、次に抑制剤の候補を添加し、最後に変性した標識付きβ’サブユニットを添加した。それぞれの成分を添加した後、溶液をよく混合した。この混合物を室温で5分間にわたってインキュベートし、96ウエル・プレート(コスター3650)の中でマルチプレート読み取り装置(ワラック社、VictorV2 1420)を用いて測定を行なった。この時間分解蛍光測定では、製造業者のプロトコル(LANCEハイ・カウント615/665)を利用した(1000フラッシュにより325nmで励起し、測定は、100マイクロ秒遅延させて行ない、615nmと665nmで50マイクロ秒にわたってシグナルを取得した)。蛍光測定では、内部基準として二次発光の波長を用いるのが一般的である。こうすることにより、装置の雑音を補正することができるだけでなく、個々のケースにおけるドナーの実際の量に対して信号を規格化することもできる。こうしたことが可能なのは、ドナーの発光波長とアクセプターの発光波長がよく分離されており、マルチプレート読み取り装置で別々に測定できるからである。IC5の発光は、(基準のクロストークを測定することにより)Eu発光バンドからの非常に少量のシグナルに対して補正し、Euシグナルの強度で割る。規格化は測定プロトコルの中に組み込まれており、マルチプレート読み取り装置の製造業者(ワラック社)がそれについて説明している。この方法にはこのような特徴があるため、実際の抑制によるシグナルの低下と、検体からの内部フィルタ効果によって起こる単なる吸収とを区別することができる。これは、実際のハイスループット・スクリーニングにおける偽のシグナルを同定するのに役立つ。
【0123】
結果
標識したσ 70 とβ ’ サブユニットの間で複合体が形成されたことを確認するための電気泳動移動度シフト( EMS )アッセイ
EMSアッセイの結果は、標識したタンパク質も標識のないタンパク質も複合体を形成でき、天然ゲル中で単独のσ70よりも高い位置に来ることをはっきりと示していた。別のいろいろな測定法によってもEMSアッセイにおけるバンドが何であるかが確認された(図11)。さらに、EMSアッセイにより、標識のないβ’サブユニットの断片が、標識したσ70と競合できることが示された。したがって、標識のないβ’サブユニットの断片それ自体は、アッセイにおいて標識したβ’サブユニットの断片とσ70の結合を妨げることのできる薬剤に対する正の調節物質となる。
【0124】
標識したσ 70 とβ ’ サブユニットの間でタンパク質 − タンパク質相互作用の抑制が起こるかどうかを調べる LRET アッセイ
LRETアッセイはEMSアッセイの代わりになる迅速で再現性のある方法であり、このLRETアッセイにより、標識したσ70とβ’サブユニットの間でのタンパク質−タンパク質相互作用の発生と抑制を調べることができる。EMSアッセイによるすべての結果は、LRETアッセイでも再現された。例えば、標識のないσ70の量を増やすことにより、β’サブユニットに対する結合が、標識したσ70と競合することが観測された(図17)。さらに別の実験では、塩(NaCl)と溶媒(DMSO)に対する依存性が明らかになった(図18と図19)。NaClの濃度を100mMから400mMに増やすとシグナルが50%に低下する。NaClがアッセイに対してこのように影響を及ぼすことからわかるように、塩の濃度はシグナルに対して大きな効果を持つ。β’サブユニットとσ70の間のこの相互作用は、NaClの濃度を大きくすると弱くなることが知られている。他方、テストすべきエフェクターのための溶媒候補であるDMSOは、アッセイに対して有意な効果を及ぼさなかった。図19からわかるように、LRETアッセイにおけるシグナルは、存在するDMSOの量が5%のところまで大きな影響を与えない。同じ実験において、エタノールは1〜5%の範囲で有意な効果を示した。このアッセイの信号対雑音比は7〜10であった。このような値だと、より正確な読み取りによって偽のシグナルが除去されるので、ハイスループット・スクリーニングにとって特に望ましい。
【0125】
考察
細菌のコアRNAポリメラーゼ(RNAP)とσ因子の間の主要なタンパク質−タンパク質相互作用が薬剤発見のための第1の標的となると考えてよい理由がいくつかある。この標的に可能性があることを理解するためのカギは、転写が開始されるためにはσ因子がコアRNAPに結合することが絶対に必要だということにある。いかなる細菌の細胞も、この相互作用を効果的に妨げる抑制剤を取り込むと必ず死ぬからである。両方のタンパク質の結合領域は細菌間で非常によく保存されており(図20)、既知のどの真核生物のホモログとも有意に異なっているので、生物活性が非常に大きいことに加え、特異性がよいことも期待される。これは、ヒトRNAPとの干渉によって副作用が起こる確率が非常に小さいことを意味する。
部位それ自体に、特異的な多数の標的候補よりも優れている別の点がある。RNAPのβ’サブユニット上の結合部位は1つの細菌のすべてのσ因子と相互作用するため、結合部位でいずれか1つのσ因子と結合する抑制剤に対抗するのに点突然変異を通じて耐性を発達させることはありそうにない。それというのも、β’サブユニットとすべてのσ因子の両方で同時に耐性が生まれる必要があるからである。抗生物質に対する耐性が高まり、新しい抗生物質がますます要求されていることから、このことが、最近、薬剤発見における主要な問題となっている。
コアRNAPに対するσ因子の結合を測定するルミネセンス共鳴エネルギー移動(LRET)アッセイは、ヘイドゥクとその共同研究者により、効果的で非常に感度のよい方法であることが示されている。上記のアッセイにおけるLRETのドナーを調製するため、特性がよくわかったσ70(442C)突然変異体を用いた。この突然変異体は、突然変異によりすべての天然のシステイン残基がセリン残基に代わったもので、DTPA−AMCA−マレイミド−Eu複合体を用いて誘導した。N末端にHMK部位とヘキサヒスチジン・タグが融合したRNAPのβ’サブユニットの断片(残基番号100〜309)は、IC5−マレイミドを用いて誘導し、LRETのレセプターとした。この色素ペアについては、分光分析における特徴とLRET実験における挙動がよくわかっている。時間分解された蛍光に基づく比色測定とEMSアッセイにより、標識したタンパク質が、標識があろうがなかろうがあらゆる組み合わせで互いに結合できることがわかった。対照として、標識のないタンパク質をテストし、標識のある対応物と競合できるかどうかを確認した。EMSとLRETの両方のアッセイにおいて、標識のないβ’サブユニットまたはσ70は、複合体内で標識のある対応物と結合を競合することができた。したがって、LRETアッセイを利用してσ70のβ’サブユニットへの結合を調べるとともに、このタンパク質−タンパク質相互作用の抑制剤をスクリーニングすることができる。
【0126】
LRETアッセイは、この特定の複合体の形成に対する迅速で感度のよいプローブとなる。基質と材料は、容易に入手できるか、簡単で効率的な方法で調製することができる。標識したすべてのタンパク質は、保存中も非常に安定していた。これは、10,000〜100,000またはそれ以上の物質を含む大きなライブラリーのスクリーニングをするときに大きな利点となる。さらに、LRETアッセイは非常に高感度であるため、タンパク質の濃度が1〜100nMと非常に低い場合でも測定を行なうことができ、その結果としてスクリーニングする物質1つあたりのコストが非常に低くなる。
【0127】
LRETアッセイは、非常に感度がよいだけでなく、正確でもあることがわかった。偽のシグナルが正しいシグナルであるかのごとく読み取られるのを避ける上で、信号対雑音比が7〜10と非常によいことと、テスト物質の内部フィルタ効果による蛍光のクエンチを結合の抑制から識別するのに有効な内部基準法とは、大いに役立つ。また、テスト物質に対する溶媒候補であるDMSOとこのアッセイは非常に相性がよいため、ハイスループット・スクリーニングへの適用可能性が大きくなる。多くの天然産物も、ライブラリーとコンビナトリアル・ライブラリーからのたいていのペプチドまたは小分子も水に溶けにくいため、有機溶媒を使う必要がある。この点に関し、DMSOは最も柔軟性がある強力な溶媒である。また、DMSOはいろいろなライブラリーでしばしば用いられているため、どのようなハイスループット・アッセイに対しても望ましい相溶性を示す。
【0128】
さらに、シグナルの特性を向上させるため、あるいは単により安くてより入手しやすい化合物を利用するため、DTPA−AMCA−EuIIIとIC5以外でFRETに基づくシグナルを出すプローブを用いることもできる。IC5(同仁化学研究所、日本)の代わりにCy5(アマーシャム社)を用いるという単純な変更について上に説明したが、この変更がアッセイに影響しないことがわかっている。DTPA−cs124−RやTTHA−AMCA−R(Selvin、1999年)といった他のユーロピウム・キレートが適切であることが報告されている。パッカード社((Eu)KまたはXL665試薬、TRACE試薬)やワラック社(DELFIA試薬とLANCE試薬)などの会社は、プレート読み取り装置とともにこのような色素も提供している。例えば、アロフィコシアニンAPC(XL665のアナログ)(Boisclair他、2000年)をアクセプターとし、Euドナーと組み合わせて使用することができる。いずれの場合にも、色素は、標的タンパク質を認識する特異的抗体に付着させることができる。テルビウムという別の希土類金属は、同様の複合体中でEuに対する別のLRETドナーとして機能することができる。ファロイジン−テトラメチルローダミンもLRETアクセプターであることが報告されている。最近、標的タンパク質といろいろな緑色蛍光タンパク質が融合したさまざまな融合体を用いてインビボでFRETを観測し(Harpur他、2001年;PollokとHeim、1999年)、インビボでの条件下で化合物候補の抑制効果を測定することが可能になっている。この抑制効果では、薬剤を標的とする組織に運ぶことも考慮されている。色素ペアとしては、例えばBFP、eGFP、CFP(シアン)、YFP(イエロー)、eYFPの中から選択したペアを用いることができよう。したがってタンパク質は、トランスフェクションまたは接合を通じて任意の細菌に届けることができよう。あるいはタンパク質を酵母の2ハイブリッド系で用い、インビボでの抑制性化合物候補をスクリーニングすることができよう。
【0129】
天然産物ライブラリーをハイスループット・アッセイでスクリーニングする場合には、決定的なヒットがあると、そのような活性モードの物質は知られていないため、新しい抗生物質である可能性がある。他方、スクリーニングが、活性モードがまだ同定されていなかったり、2つ以上の活性を持っていたりする既知の抗生物質を同定するのに役立つこともある。コンビナトリアル・ライブラリーからの決定的なヒットと合わせて考えることにより、これらの物質は、望ましい特性を有する新しい化合物を設計したり要求に合わせて作ったりするためのリード構造物として役に立つ可能性がある。なお望ましい特性としては、活性、特異性、安定性、細胞内に入る能力などが高いことのほか、副作用、コスト、耐性の発達可能性などが小さいことが挙げられる。さらに、このアッセイは、コアに対するさまざまなσ因子とσ因子突然変異体の相対的結合度を調べるための強力なツールとなりうる。
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
あらゆる出版物、特許、特許出願を、本明細書に援用する。ここまで本発明をいくつかの好ましい実施態様について説明するとともに、理解しやすくすることを目的として多くの細かい点を示してきたが、本発明にはさらに別の実施態様が可能であり、ここに説明した細かい点のいくつかを本発明の基本本質の範囲内で大幅に変更しうることは、当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【図1】
整列断片ラダー(ordered fragment ladder)・ファー−ウエスタン法の概略図。ヘキサヒスチジン・タグを付けた標的タンパク質を切断し、得られた断片をNi2+−NTAカラムで精製し、SDS−PAGEにより分画し、ニトロセルロース上で電気泳動にかける。ブロットされたタンパク質の断片を洗浄して変性剤を除去し、断片内の相互作用ドメインが再び折り畳まれるようにする。相互作用ドメインは、放射性標識したタンパク質をプローブとして用いることにより同定できる。相互作用ドメインのマッピングは、相互作用ドメインの一部が失われているためにプローブとはもはや結合しない断片を同定することにより行なう。
【図2】
整列断片ラダー・ファー−ウエスタン・ブロットの一例。A)ヒドロキシルアミン(NH2OH、“Hyd”)および2−ニトロ−5−チオシアノ安息香酸(NTCB)という化学的切断剤を用いた場合の、大腸菌RNAポリメラーゼのβ’サブユニット上にある化学的切断部位の位置を示す図。これら切断部位は、マックヴェクター(MacVector)プログラム(オックスフォード・モレキュラー・グループ)を用いてアミノ酸配列から予測した。数字は、左側のN末端から数えたアミノ酸の位置を示す。“1”は切断部位を、“2”は互いに非常に近接した2つの部位を示す。B)C末端にヘキサヒスチジン・タグが付いたβ’サブユニットをNH2OHまたはNTCBで切断した場合の整列断片ラダー。左側にはSDSゲル上で予想されるバンドの図が示してある。中央にはクーマシー染色した実際のゲル、右側には、ニトロセルロース上にブロットし、32Pで標識したσ70をプローブとして調べた同じゲルが示してある。NH2OHにより切断された断片の結果から、N末端にヘキサヒスチジン・タグが付いた断片のほとんどはプローブと結合するのに対し、C末端にヘキサヒスチジン・タグが付いたタンパク質は完全長のものだけがプローブと結合することがわかる。したがって相互作用ドメインは、β’サブユニットのアミノ酸番号1〜309の間の領域にある。
【図3a】
β’サブユニットの残基番号260〜309の領域。(A)β’サブユニットの残基番号260〜309にある相互作用ドメインの概略図。文字が書かれている区画は、真核生物と原核生物のRNAポリメラーゼの最大のサブユニット群の中にある保存された領域を示す(Jokerst他、1989年)。β’260−309という相互作用ドメインは、β’サブユニット内の保存された領域Bの一部と重なっている。相互作用ドメインの下には、予測されるαヘリックスとコイルドコイルが示してある。
【図3b】
(B)β’260−309において予測されるコイルドコイルのヘリカル・ホイール図。予測される2つのヘリックスが互いに相互作用して逆平行のコイルドコイルを形成している様子が示してある。突然変異は、元の残基の隣りに残基番号とともに示してある。N末端は、右側のヘリックスのアミノ酸N266の位置にある。このヘリックスは紙面から手前に飛び出すように描かれているのに対し、左側のヘリックスは紙面の裏側に向かい、N309で終結している。
【図4】
野生型β’1−319または突然変異体β’1−319を含む細胞抽出液のウエスタン・ブロットおよびファー−ウエスタン・ブロット。細胞抽出液は、8〜16%のトリス−グリシンSDS−PAGEで分析し、ニトロセルロースにブロットし、プローブとして(A)アンチβ’サブユニット抗体、または(B)32Pで標識したσ70を用いて調べた。(C)β’サブユニットの野生型断片とβ’サブユニットの突然変異体断片に対するσ70の結合度の相対値。野生型β’1−319断片と突然変異体β’1−319断片に対するσ70の結合をファー−ウエスタン・ブロット分析で測定した値の相対値は、使用したβ’1−319断片の量を定量的ウエスタン・ブロット分析により測定した値で規格化した(野生型=1.0)。誤差棒は、標準偏差を表わす。結果は、別々に3回行なった実験の平均である。
【図5】
β’サブユニット源としてプラスミドに由来するβ’サブユニットの野生型または突然変異体だけを用いた場合の成長。野生型または突然変異体の完全長β’サブユニットをコードするプラスミドを用いて菌株RL602を形質転換した。次に、形質転換した細胞(10μl)を2枚のプレート上にスポットになるように載せ、一方は30℃(許容範囲内)で、他方は42℃(許容範囲外)で24〜48時間にわたってインキュベートし、成長を評価した。
【図6A】
できあがったコア酵素および/またはホロ酵素。成長した細胞を、野生型β’サブユニットまたは突然変異体β’サブユニットを発現したプラスミドとともに回収し、精製して、プラスミド由来のヘキサヒスチジン・タグ付きβ’サブユニットを単離するとともに、そのβ’サブユニットとの間のあらゆる複合体も単離した。Ni2+−NTAで精製したサンプルからのタンパク質は、SDS−PAGEで分離し、ニトロセルロースにブロットした。次にこのブロットを、指定された各サブユニットに対するモノクローナル抗体(MAb)を用いて調べた。(A)対数増殖期のサンプル。
【図6B】
(B)定常期のサンプル。His6タグなし:ヘキサヒスチジン・タグなしでプラスミド由来の野生型β’サブユニットを発現している菌株。
【図6C】
(C)突然変異体β’サブユニットに対するσ70の結合を野生型β’サブユニットに対するσ70の結合と比較し、保持されているαサブユニットの量で規格化した値(野生型=1.0)。結果は、別々に3回行なった実験の平均である。誤差棒は、標準偏差を表わす。
【図6D】
マイナーなσ因子について調べた場合の対数増殖期のサンプルと定常期のサンプル。
【図6E】
マイナーなσ因子について調べた場合の対数増殖期のサンプルと定常期のサンプル。
【図7】
突然変異体に関するデータのまとめ。
【図8a】
突然変異のモデリング。(A)大腸菌のβ’260−309と、テルムス・アクアティクスにおける相同領域のタンパク質配列をアラインメントした図。白抜きの文字は、大腸菌とは一致しない文字を示す。
【図8b】
ラスモル(Rasmol)・ソフトウエア・プログラム(Sayle他、1995年)を利用してテルムス・アクアティクスのRNAポリメラーゼの結晶構造(Zhang他、1999年)上に突然変異を配置したモデルに関する2つの図。(B)ポリメラーゼの方向を向いたコイルドコイルの中心を見下ろした図。
【図8c】
(C)コイルドコイルの側面図。実行したすべてのアッセイで欠陥のあった突然変異は緑色にした。すべてではなくいくつかのアッセイで欠陥のあった突然変異はシアンに着色してある。常に機能した突然変異は紫色にしてある。この構造の向きを示すため、茶色の“方向標識”を付けてある。
【図9】
実施例4で説明するタンパク質結合アッセイで使用するσ70とβ’サブユニットの断片の構造を示す。名称の下には、突然変異部位と誘導体化部位(太字)がそれぞれ示してある。HMK−His6−β’−100−309は、残基番号100〜309を含むβ’サブユニットの断片であり、N末端に心筋キナーゼ(HMK)認識部位とヘキサヒスチジン・タグが融合している。β’サブユニットの断片中にあるマゼンタに着色したコイルドコイルのαヘリックス構造は、RNAPにおける主要なG結合エレメントであるらしい。IC5は、ピンク色にしてある。σ70でコアRNAPと結合するのに中心的な役割を果たす領域は、領域2.1(緑色)と領域2.2(黄色)である。これ以外に着色してあるのは、σ70構造の領域2.3(青色)、領域2.4(茶色)、非保存領域(白色)、N末端(赤色)である。Eu−DTPA−AMCA複合体は、濃い青色にしてある。
【図10】
タンパク質を誘導体化するのに用い、LRETアッセイにおいて蛍光体となる色素。
【図11】
標識したタンパク質β’100−309とσ70が結合するときにLRETシグナルがどのようにして発生するかを示す図。IC5で標識したβ’サブユニットの断片の蛍光は、320nmで励起してから50マイクロ秒後にデータを取得するまでの遅延時間の間に減衰する。Euの発光は長くて1ミリ秒を超えるため、複合体からは、標識したσ70のEuの発光と、増感したIC5の発光だけが、遅延時間を経過した後に観測できる。このため、バックグラウンドの信号が最小になり、効率的なハイスループット・スクリーニング・アッセイにおいて望ましい信号対雑音比が得られる。
【図12】
プラスミドpTA133のマップ。プラスミドpTA133は、発現ベクターpET28b(+)(ノヴァジェン社)に由来する。N末端のHMK部位とヘキサヒスチジン・タグ・コード配列を、β’サブユニットの残基番号100〜309の領域とともに挿入した。このプラスミドは、大腸菌内でクローニングするためのpBR322複製起点と、選択のためのカナマイシン耐性遺伝子とを有する。IPTGを通じた誘導をよく制御できるようにするため、lacIリプレッサー遺伝子を含めてある。
【図13】
発現プラスミドpSigma70(442C)のプラスミド・マップ。このプラスミドはpGEMX−1(プロメガ社)由来であり、アンピリシン選択を伴ったT7発現系において発現させることができる。
【図14】
封入体を精製したSDS−PAGEゲル。β’サブユニットの断片(左)とσ70(右)についてのもの。ゲルは、ジェルコード(GELCODE:ピアース社)とクーマシー・ブルーで染色した。ゲルは両方ともNuPAGE(ノヴェックス社)だが、左のゲルは12%のポリアクリルアミド、右のゲルは4〜12%の勾配を有するポリアクリルアミドにした。
【図15】
β’サブユニット精製ステップと、誘導体化ステップ(クーマシー染色とIC5スキャン)でのSDS−PAGEゲル。IC5スキャンは、モレキュラー・ダイナミックス・ストーム・システムを赤色蛍光モードで用いて実施した。
【図16】
2回のEMSアッセイと3つの異なる取得方法による結果。右側の図から、標識したβ’サブユニットの断片の量を増やすと、複合体を表わす上方のバンドにすべてのσ因子をシフトさせうることが、クーマシー染色したゲルからわかる。同じゲルに関する下の写真は、UVボックスで取得したものである。このUVボックスでは、カメラにオレンジ色のフィルタを付けて312nmの波長で励起させるため、Euの発光だけを見えるようにすることができる。この写真により、両方のバンドがEu標識したσ因子を含んでいることが確認される。両側の一番下には、上と同じゲルに関する別の写真がある。これは、IC5標識だけを見えるようにするストーム・イメージャー(Storm Imager:モレキュラー・ダイナミックス社)を用いて取得したものである。この写真により、上方のバンドだけがβ’サブユニットの断片を含んでいることが確認される。結合していないβ’サブユニットの断片はほとんどゲルの中に移動せず、拡散バンドとなる(データは示さず)。
【図17】
標識していないσ70の量を増やしていったとき、β’サブユニットの断片に対する結合が、標識したσ70との間で競合する様子。シグナルが低下していくのは、標識したβ’サブユニットの断片が競合により標識したσ70から取り去られ、もはやLRETを通じて増感されることがないからである。
【図18】
LRETアッセイのNaCl濃度依存性。塩の量が増えるにつれ、LRETシグナルは有意に減少する。これは、σ70/β’サブユニット複合体の形成量が減少しているためであるに違いない。
【図19】
アッセイのDMSO濃度依存性。タンパク質の添加前にアッセイ用緩衝液と混合するDMSOの量(0〜5%)を増やしても、シグナルには有意な影響が現われない。
【図20】
A)大腸菌のσ70の構造領域と機能領域の図。B)σ70の領域2.1−2.2のホモログの配列をアラインメントした図。C)大腸菌のσ因子をアラインメントした図。D)さまざまな細菌のβ’260−309の配列をアラインメントした図。
Claims (35)
- σ因子が、コアRNAポリメラーゼに対して、またはコアRNAポリメラーゼのサブユニットに対して、またはそのサブユニットの一部に対して結合するのを抑制する薬剤を同定する方法であって、
a)その薬剤を、コアRNAポリメラーゼに、またはRNAポリメラーゼの単離されたサブユニットに、またはそのサブユニットの一部に接触させて複合体を形成し;
b)その複合体を、σ因子またはその一部に接触させ;
c)σ因子が、コアRNAポリメラーゼに対して、またはコアRNAポリメラーゼの単離されたサブユニットに対して、またはそのサブユニットの一部に対して結合するのを上記薬剤が抑制または阻止しているかどうかを検出または確認する操作を含む方法。 - σ因子が、コアRNAポリメラーゼに対して、またはコアRNAポリメラーゼのサブユニットに対して、またはそのサブユニットの一部に対して結合するのを抑制する薬剤を同定する方法であって、
a)その薬剤を、σ因子またはその一部に接触させて複合体を形成し;
b)その複合体を、コアRNAポリメラーゼに、またはRNAポリメラーゼの単離されたサブユニットに、またはそのサブユニットの一部に接触させ;
c)σ因子が、コアRNAポリメラーゼに対して、またはコアRNAポリメラーゼの単離されたサブユニットに対して、またはそのサブユニットの一部に対して結合するのを上記薬剤が抑制または阻止しているかどうかを検出または確認する操作を含む方法。 - RNAポリメラーゼの単離された上記サブユニット、またはコアRNAポリメラーゼの上記一部が、β’サブユニットである、請求項1または2に記載の方法。
- 上記β’サブユニットの一部が、そのβ’サブユニットの相互作用ドメインを含む、請求項3に記載の方法。
- β’サブユニットの上記一部が、そのβ’サブユニットの残基番号270〜309、そのβ’サブユニットの残基番号265〜309、そのβ’サブユニットの残基番号100〜309、そのβ’サブユニットの残基番号260〜309のいずれかを含む、請求項4に記載の方法。
- 単離された上記サブユニットが、融合タンパク質である、請求項1または2に記載の方法。
- σ因子が、同種σ因子である、請求項1または2に記載の方法。
- σ因子が、異種σ因子である、請求項1または2に記載の方法。
- RNAポリメラーゼの単離された上記サブユニット、またはそのサブユニットの上記一部が、天然のサブユニットと比較して、置換された少なくとも1個のアミノ酸を有する、請求項1または2に記載の方法。
- コアRNAポリメラーゼ、またはコアRNAポリメラーゼの単離されたサブユニット、またはそのサブユニットの一部が、検出可能な標識で標識されているか、あるいは検出可能な標識と結合している、請求項1または2に記載の方法。
- σ因子が、検出可能な標識で標識されているか、あるいは検出可能な標識と結合しており、その検出可能な標識は、コアRNAポリメラーゼに対する標識、またはコアRNAポリメラーゼの単離されたサブユニットに対する標識、またはそのサブユニットの一部に対する標識とは異なっている、請求項10に記載の方法。
- β’サブユニットがIC5で標識されており、σ因子がEuで標識されている、請求項11に記載の方法。
- σ因子が、コアRNAポリメラーゼに対して、またはコアRNAポリメラーゼの単離されたサブユニットに対して、またはそのサブユニットの一部に対して結合するのを上記薬剤が抑制または阻止しているかどうかを検出または確認するのに、ルミネッセンス共鳴エネルギー移動を利用する、請求項1または2に記載の方法。
- σ因子が、コアRNAポリメラーゼに対して、またはコアRNAポリメラーゼの単離されたサブユニットに対して、またはそのサブユニットの一部に対して結合するのを上記薬剤が抑制または阻止しているかどうかを検出または確認するのに、蛍光共鳴エネルギー移動を利用する、請求項1または2に記載の方法。
- ユーロピウムまたはテルビウムを利用する、請求項13に記載の方法。
- IC5、Cy5、アロフィコシアニン、APC、ファロイジン−テトラメチルローダミンのうちのいずれかを用いる、請求項13に記載の方法。
- σ因子またはその一部が、検出可能な標識で標識されているか、あるいは検出可能な標識と結合している、請求項1または2に記載の方法。
- コアRNAポリメラーゼ、またはコアRNAポリメラーゼの単離されたサブユニット、またはそのサブユニットの一部が、検出可能な標識で標識されているか、あるいは検出可能な標識と結合しており、その検出可能な標識は、σ因子またはその一部に対する標識とは異なっている、請求項17に記載の方法。
- 請求項1または2に記載の方法によって同定される薬剤。
- σ因子がコアRNAポリメラーゼのβ’サブユニットに結合するのを抑制または阻止する薬剤を同定する方法であって、
a)原核細胞をその薬剤に接触させ;
b)その薬剤が、その細胞内でσ因子がコアRNAポリメラーゼのβ’サブユニットに結合するのを抑制または阻止するかどうかを検出または確認する操作を含む方法。 - 上記細胞が、異なる2つの形態のβ’サブユニットをコードしている、請求項20に記載の方法。
- 上記形態の一方が発現しない条件で、薬剤を上記細胞に接触させる、請求項21に記載の方法。
- 発現する形態が、発現しない形態と比較して、置換された少なくとも1個のアミノ酸を有する、請求項22に記載の方法。
- 上記細胞の成長抑制を検出または確認する、請求項20に記載の方法。
- σ因子が、β’サブユニットの残基番号270〜309、そのβ’サブユニットの残基番号265〜309、そのβ’サブユニットの残基番号100〜309、そのβ’サブユニットの残基番号260〜309のいずれかと結合するのを上記薬剤が抑制または阻止する、請求項20に記載の方法。
- 請求項20に記載の方法によって同定される薬剤。
- 原核細胞の成長を抑制する方法であって、その細胞を、請求項19または26に記載の薬剤の有効量と接触させる操作を含む方法。
- 組み換えDNA分子を含む宿主細胞であって、組み換えDNA分子はこの宿主細胞中で機能するプロモーターを含んでおり、このプロモーターは、RNAポリメラーゼのβ’サブユニットをコードするDNA断片と機能上の関連がある宿主細胞。
- 上記DNA断片が、内在性β’サブユニットと比較して置換された少なくとも1個のアミノ酸を有するβ’サブユニットをコードしている、請求項28に記載の宿主細胞。
- 上記DNA断片が、C末端が欠失したβ’サブユニットをコードしている、請求項28に記載の宿主細胞。
- 上記組み換えDNA分子が、融合タンパク質をコードしている、請求項28に記載の宿主細胞。
- RNAポリメラーゼのβ’サブユニットの単離・精製された部分であって、インビボでσ因子と結合する、単離・精製された部分。
- β’サブユニットの残基番号270〜309、残基番号265〜309、残基番号100〜309、残基番号260〜309からなるグループの中から選択したいずれかの部分を含む、請求項32に記載のβ’サブユニットの単離・精製された部分。
- コアRNAポリメラーゼのサブユニット上でσ因子と特異的に結合する領域を同定する方法であって、
a)天然のコアRNAポリメラーゼと比較して置換された少なくとも1個のアミノ酸を有するコアRNAポリメラーゼ、またはRNAポリメラーゼの単離された天然のサブユニットと比較して置換された少なくとも1個のアミノ酸を有する単離されたサブユニット、またはその天然のサブユニットの一部と比較して置換された少なくとも1個のアミノ酸を有するサブユニットの一部を、σ因子またはその一部に接触させて複合体を形成し;そして
b)その複合体の形成を検出または確認する操作を含む方法。 - 上記置換が、複合体の形成を抑制しない、請求項34に記載の方法。
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