JP2004362878A - セラミックス誘電体膜の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】ガラス基板上にペロブスカイト結晶構造を有するセラミックス誘電体膜の製造方法を提供する。
【解決手段】基材上にセラミックス誘電体膜をプラズマ溶射で形成するセラミックス誘電体膜の製造方法であって、プラズマ溶射原料として平均粒子直径1μm以下のセラミックス粒子を使用することを特徴とするセラミックス誘電体膜の製造方法。
【選択図】なし
【解決手段】基材上にセラミックス誘電体膜をプラズマ溶射で形成するセラミックス誘電体膜の製造方法であって、プラズマ溶射原料として平均粒子直径1μm以下のセラミックス粒子を使用することを特徴とするセラミックス誘電体膜の製造方法。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ペロブスカイト型などの複合酸化物の誘電体膜をプラズマ溶射により製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
BaTiO3、SrTiO3などの誘電体は、ABO3と表記されるペロブスカイト型酸化物として知られている。これらペロブスカイト型酸化物の薄膜の形成法として、特許文献1にはペロブスカイト型酸化物の前駆体となる材料またはそれら前駆体の混合物から溶射法により基材上にペロブスカイト型酸化物薄膜の製造方法が提案されている。このような前駆体をプラズマ溶射用原料として使用する方法では、原料中の水分量や炭酸ガス放出源の量が多くペロブスカイト型酸化物などのセラミックス粉の割合が少ないため、成膜速度が安定せず膜質が変化しやすい問題がある。
【0003】
特許文献2には、粉粒状のペロブスカイト型酸化物を出発原料としてペロブスカイト型酸化物の溶射被膜の形成方法において使用する、プラズマガスの制御法が提案されている。しかし、プラズマ溶射の出発原料については、種類、形態、粒度などを含めて特に記載もされておらず、示唆もされていない。
【0004】
特許文献3には、粒径5〜40μmの原料を用いてプラズマ溶射により被膜を形成する方法であって、基材を600℃以上に加熱するか、または溶射により形成した被膜を600℃以上で加熱して完全なペロブスカイト型被膜とする方法が提案されている。しかし、溶射時に基板を600℃以上に加熱することは、生産性等に悪影響を及ばすなどの問題点があった。溶射により形成した被膜を600℃以上で加熱することは、安価で大型化が容易なガラス基板の歪点が一般に600℃以下にあることからその適用が困難であり、石英ガラスやアルミナ等の高価な基板を使用しなければならないという問題点があった。
【0005】
特許文献4には、有機溶媒のゾルを溶射用原料として使用するプラズマ溶射法であって、基板を加熱し、成膜後に結晶化するための熱処理工程を有する熱プラズマ工程が記載されている。すなわち、PZTの誘電・圧電特性を向上させるためオルガノゾルを原料として用い基板温度500℃でプラズマ溶射後800℃で熱処理して結晶系をパイロクロア(A2B2O7)型構造からペロブスカイト型構造にする方法が提案されている。
【0006】
これらのプラズマ溶射法ではいずれも基板温度を600〜800℃に保つ必要があり、この温度範囲に軟化点があるソーダライム系などの通常のガラス基板を使用できない欠点があった。特に、無機エレクトロ・ルミネッセンス(以下、ELと略す)用ディスプレイの用途では通常のガラス基板上に5〜50μm程度の膜厚でペロブスカイト型構造をはじめとする誘電率が高くバラツキの少ないセラミックス誘電体膜を形成できる方法が求められている。
【0007】
【特許文献1】
特開平5−9003号公報(第1頁〜第6頁)
【特許文献2】
特開平5−202460号公報(第1頁〜第10頁)
【特許文献3】
特開平9−321364号公報(第1頁〜第12頁)
【特許文献4】
特開平11−314999号公報(第1頁〜第6頁)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、仮焼結・粉砕・焼結という煩雑な工程を経由することなく基板上に直接ペロブスカイト型複合酸化物薄膜を製造する方法であって、事前に基板を600℃以上に加熱することなく、また膜形成後に基板を600℃以上に熱処理しないですみ、さらに基板として通常のガラス基板を使用できるプラズマ溶射によるセラミックス誘電体膜の製造方法の提供を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、基材上にセラミックス誘電体膜をプラズマ溶射で形成するセラミックス誘電体膜の製造方法であって、プラズマ溶射原料として平均粒子直径1μm以下のセラミックス粒子を使用することを特徴とするセラミックス誘電体膜の製造方法を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のセラミックス誘電体膜の製造方法(以下、本製造法という)は、溶射原料として平均粒子直径(以下、平均粒径という)1μm以下のセラミックス粒子を使用することを特徴とする。
【0011】
セラミックス粒子の平均粒径としては1μm以下であれば特に制限されない。原料となるセラミックス粒子の平均粒径が1μmを超えると基板を事前に600℃を超える高温度にすることや膜形成後に結晶化のための600℃を超える高温度での熱処理が必要となるが、セラミックス粒子の平均粒径が1μm以下であると基板を600℃以上の高温度で保持したり、成膜後の基板を600℃以上の高温度で加熱処理することが不要となり、これにより安価で大型サイズの入手が容易なガラス基板を使用できる。さらに、セラミックス粒子の平均粒径が1μm以下であると成膜したセラミックス誘電体膜の膜厚の均一性や破壊電圧が向上する利点がある。原料となるセラミックス粒子の平均粒径が0.5μm以下であると好ましく、0.2μm以下であると特に好ましい。セラミックス粒子の平均粒径が0.01μm以上であると溶射時のハンドリング性に優れるため好ましい。
【0012】
本製造法において、平均粒径1μm以下のセラミックス粒子を得る方法に特に制限はないが、例えば炭酸バリウムと酸化チタンの粉末を等モルずつ混合し1000℃以上の熱処理によりチタン酸バリウムを得る方法のように固相反応で合成した粗粉を粉砕するブレークダウン法、シュウ酸法、水熱合成法、ゾルゲル法などの液相から合成、成長させたビルトアップ法またはCVD法などの気相から合成、成長させたビルトアップ法などが挙げられる。この中でも液相や気相から合成・成長させたビルトアップ法が粒径が均一で粉砕による不純物のコンタミが少ない点で好ましい。
【0013】
本製造法において、セラミックス粒子の種類としては所望の誘電体膜が得られるものであれば特に制限はない。BaTiO3、SrTiO3、PbTiO3、Pb(Zr,Ti)O3、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3などのペロブスカイト型複合酸化物やLiNbO3、LiTaO3などのイルメナイト型複合酸化物などの粒子が挙げられる。
【0014】
本製造法において、セラミックス粒子がカーボン粒子を含むものであると本製造法で得られるセラミックス誘電体膜の結晶構造が安定し、気孔が少なく緻密な組織となるため好ましい。詳細なメカニズムは不明であるが、これはカーボン粒子を含有することにより、セラミックス粒子のプラズマフレーム中での分解と溶融滴の増大が抑制されるものと思われる。前記カーボン粒子としては特に制限されないが、カーボンブラックなどの無定形炭素や人造黒鉛が挙げられる。
【0015】
本製造法において、セラミックス粒子中のカーボン粒子の含有量が0.5〜10質量%(以下、単に%と略す)であると膜の気孔が少なく、結晶構造も安定し、緻密な膜が得られるため好ましい。セラミックス粒子中のカーボン粒子の含有量が10%を超えると、膜中の気孔が増えるおそれがあり、一方、セラミックス粒子中のカーボン粒子の含有量が0.5%未満であると添加の効果が得られないおそれがある。セラミックス粒子中のカーボン粒子の含有量が1〜8%であるとさらに好ましい。
【0016】
本製造法において、基材としては特に制限がないが、ガラス基板を採用できる点は本製造法の特徴である。ガラス基板としては550℃以下の熱処理で反りや変形がでないように前記温度程度の耐熱性があることが好ましい。また、BaTiO3やPZTなどのセラミックス誘電体膜の熱膨張との差が約2×10−6/℃以内であるとセラミックス誘電体膜が剥離しにくく基板の反りが小さいので好ましい。
【0017】
さらにガラス基板がナトリウムイオンなどの発生源となるアルカリ金属の含有量が少ないとセラミックス誘電体膜の絶縁性などの電気特性を劣化させないため好ましい。このような特性を満足するガラス基板としては、ソーダライム(例えば、歪点511℃、熱膨張率8.7×10−6/℃)、高歪点ガラス(例えば、歪点570℃、熱膨張率8.3×10−6/℃)などが挙げられる。
【0018】
本製造法において、プラズマ溶射法については特に制限がなく、一般的なプラズマ溶射装置を使用し、セラミックス誘電体膜の種類に応じた溶射条件を適宜採用できる。プラズマ溶射後に成膜した基板を密着性などを向上する目的で550℃以下の温度で熱処理してもかまわない。
【0019】
本製造法において、セラミックス誘電体膜の種類としては特に制限されないが、BaTiO3、SrTiO3、PbTiO3、Pb(Zr,Ti)O3、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3などのペロブスカイト型複合酸化物やLiNbO3、LiTaO3などのイルメナイト型複合酸化物などの膜が挙げられる。
【0020】
本製造法により得られるセラミックス誘電体膜の膜厚としては、無機ELディスプレイ用基板ではある程度の耐電圧を必要とすることから、5μm以上が好ましい。なお、膜厚は溶射時間で制御できる。
【0021】
【実施例】
以下に本発明の実施例(例1〜例4)と比較例(例5)を示す。
【0022】
[例1]
プラズマ溶射装置内にAu電極を全面に形成した50mm角、厚み2mmのソーダライム系ガラス基板をセットし、平均粒径0.2μmのチタン酸バリウム(BaTiO3)の微粉末をプラズマ溶射用原料粉末とし、前記ガラス基板上に平均膜厚15μmまでプラズマ溶射した。なお、溶射時の基板温度は400℃とした。プラズマ溶射後、このガラス基板を取出し、X線回折により結晶構造を調べたところプラズマ溶射したセラミックス膜はほぼペロブスカイト構造からなっており、1kHzでの比誘電率は1050、直流破壊電圧は190Vであった。ここで、プラズマ溶射した膜の面内の膜厚バラツキは5%以内であり、ガラス基板に反りや変形は認められなかった。
【0023】
[例2]
プラズマ溶射装置内にAu電極を全面に形成した50mm角、厚み2mmのソーダライム系ガラス基板をセットし、平均粒径0.2μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の微粉末をプラズマ溶射用原料粉末とし、前記ガラス基板上に平均膜厚15μmまでプラズマ溶射した。なお、プラズマ溶射時の基板温度は400℃とした。プラズマ溶射後、このガラス基板を取出し、X線回折により結晶構造を調べたところプラズマ溶射したセラミックス膜はほぼペロブスカイト構造からなっており、1kHzでの比誘電率は1250、直流破壊電圧は170Vであった。ここで、プラズマ溶射した膜の面内の膜厚バラツキは5%以内であり、ガラス基板に反りや変形は認められなかった。
【0024】
[例3]
プラズマ溶射装置内にAu電極を全面に形成した50mm角、厚み2mmのソーダライム系ガラス基板をセットし、平均粒径0.2μmのPMN−PT(0.6Pb(Mg1/3Nb2/3)O3+0.4PbTiO3)の微粉末をプラズマ溶射用原料粉末とし、前記ガラス基板上に平均膜厚15μmまでプラズマ溶射した。なお、プラズマ溶射時の基板温度は400℃とした。プラズマ溶射後、このガラス基板を取出し、X線回折により結晶構造を調べたところプラズマ溶射したセラミックス膜はほぼペロブスカイト構造からなっており、1kHzでの比誘電率は2600、直流破壊電圧は160Vであった。また、プラズマ溶射した膜の面内の膜厚バラツキは5%以内であり、ガラス基板に反りや変形は認められなかった。
【0025】
[例4]
プラズマ溶射装置内にAu電極を全面に形成した50mm角、厚み2mmのソーダライム系ガラス基板をセットし、平均粒径0.2μmのPMN−PT(0.6Pb(Mg1/3Nb2/3)O3+0.4PbTiO3)の微粉末をプラズマ溶射用原料粉末とし、前記ガラス基板上に平均膜厚15μmまでプラズマ溶射した。なお、プラズマ溶射時の基板温度は200℃とした。プラズマ溶射後、このガラス基板を取出し、アニール炉で更に400℃の熱処理をした。熱処理後、X線回折により結晶構造を調べたところプラズマ溶射したセラミックス膜はほぼペロブスカイト構造からなっており、1kHzでの比誘電率は2650、直流破壊電圧は160Vであった。また、プラズマ溶射した膜の面内の膜厚バラツキは5%以内であり、ガラス基板に反りや変形は認められなかった。
【0026】
[例5]
プラズマ溶射装置内にAu電極を全面に形成した50mm角、厚み2mmのソーダライム系ガラス基板をセットし、平均粒径5μmのPMN−PT(0.6Pb(Mg1/3Nb2/3)O3+0.4PbTiO3)の微粉末をプラズマ溶射用原料粉末とし、前記ガラス基板上に平均膜厚15μmまでプラズマ溶射した。なお、プラズマ溶射時の基板温度は400℃とした。プラズマ溶射後、このガラス基板を取出し、X線回折により結晶構造を調べたところプラズマ溶射したセラミックス膜は主に非晶質とパイロクロア結晶構造からなっており、1kHzでの比誘電率は400、直流破壊電圧は70Vであった。ガラス基板に反りや変形は認められなかったものの、プラズマ溶射した膜の面内の膜厚バラツキは約25%とバラツキが大きくなった。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、成膜したセラミックス誘電体膜の膜厚の均一性が改善し耐電圧が向上する利点を有する。また、本発明では溶射原料としてカーボン粒子を含むセラミックス粒子を使用しているため緻密で結晶構造の安定な膜が得られる。溶射時または溶射後の基板温度を500℃以下としても結晶性に優れたペロブスカイト構造を有するセラミックス誘電体膜が得られる。したがって、低温度で処理可能なため、基板として安価で大型サイズの入手が容易なガラス基板を使用できる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ペロブスカイト型などの複合酸化物の誘電体膜をプラズマ溶射により製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
BaTiO3、SrTiO3などの誘電体は、ABO3と表記されるペロブスカイト型酸化物として知られている。これらペロブスカイト型酸化物の薄膜の形成法として、特許文献1にはペロブスカイト型酸化物の前駆体となる材料またはそれら前駆体の混合物から溶射法により基材上にペロブスカイト型酸化物薄膜の製造方法が提案されている。このような前駆体をプラズマ溶射用原料として使用する方法では、原料中の水分量や炭酸ガス放出源の量が多くペロブスカイト型酸化物などのセラミックス粉の割合が少ないため、成膜速度が安定せず膜質が変化しやすい問題がある。
【0003】
特許文献2には、粉粒状のペロブスカイト型酸化物を出発原料としてペロブスカイト型酸化物の溶射被膜の形成方法において使用する、プラズマガスの制御法が提案されている。しかし、プラズマ溶射の出発原料については、種類、形態、粒度などを含めて特に記載もされておらず、示唆もされていない。
【0004】
特許文献3には、粒径5〜40μmの原料を用いてプラズマ溶射により被膜を形成する方法であって、基材を600℃以上に加熱するか、または溶射により形成した被膜を600℃以上で加熱して完全なペロブスカイト型被膜とする方法が提案されている。しかし、溶射時に基板を600℃以上に加熱することは、生産性等に悪影響を及ばすなどの問題点があった。溶射により形成した被膜を600℃以上で加熱することは、安価で大型化が容易なガラス基板の歪点が一般に600℃以下にあることからその適用が困難であり、石英ガラスやアルミナ等の高価な基板を使用しなければならないという問題点があった。
【0005】
特許文献4には、有機溶媒のゾルを溶射用原料として使用するプラズマ溶射法であって、基板を加熱し、成膜後に結晶化するための熱処理工程を有する熱プラズマ工程が記載されている。すなわち、PZTの誘電・圧電特性を向上させるためオルガノゾルを原料として用い基板温度500℃でプラズマ溶射後800℃で熱処理して結晶系をパイロクロア(A2B2O7)型構造からペロブスカイト型構造にする方法が提案されている。
【0006】
これらのプラズマ溶射法ではいずれも基板温度を600〜800℃に保つ必要があり、この温度範囲に軟化点があるソーダライム系などの通常のガラス基板を使用できない欠点があった。特に、無機エレクトロ・ルミネッセンス(以下、ELと略す)用ディスプレイの用途では通常のガラス基板上に5〜50μm程度の膜厚でペロブスカイト型構造をはじめとする誘電率が高くバラツキの少ないセラミックス誘電体膜を形成できる方法が求められている。
【0007】
【特許文献1】
特開平5−9003号公報(第1頁〜第6頁)
【特許文献2】
特開平5−202460号公報(第1頁〜第10頁)
【特許文献3】
特開平9−321364号公報(第1頁〜第12頁)
【特許文献4】
特開平11−314999号公報(第1頁〜第6頁)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、仮焼結・粉砕・焼結という煩雑な工程を経由することなく基板上に直接ペロブスカイト型複合酸化物薄膜を製造する方法であって、事前に基板を600℃以上に加熱することなく、また膜形成後に基板を600℃以上に熱処理しないですみ、さらに基板として通常のガラス基板を使用できるプラズマ溶射によるセラミックス誘電体膜の製造方法の提供を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、基材上にセラミックス誘電体膜をプラズマ溶射で形成するセラミックス誘電体膜の製造方法であって、プラズマ溶射原料として平均粒子直径1μm以下のセラミックス粒子を使用することを特徴とするセラミックス誘電体膜の製造方法を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明のセラミックス誘電体膜の製造方法(以下、本製造法という)は、溶射原料として平均粒子直径(以下、平均粒径という)1μm以下のセラミックス粒子を使用することを特徴とする。
【0011】
セラミックス粒子の平均粒径としては1μm以下であれば特に制限されない。原料となるセラミックス粒子の平均粒径が1μmを超えると基板を事前に600℃を超える高温度にすることや膜形成後に結晶化のための600℃を超える高温度での熱処理が必要となるが、セラミックス粒子の平均粒径が1μm以下であると基板を600℃以上の高温度で保持したり、成膜後の基板を600℃以上の高温度で加熱処理することが不要となり、これにより安価で大型サイズの入手が容易なガラス基板を使用できる。さらに、セラミックス粒子の平均粒径が1μm以下であると成膜したセラミックス誘電体膜の膜厚の均一性や破壊電圧が向上する利点がある。原料となるセラミックス粒子の平均粒径が0.5μm以下であると好ましく、0.2μm以下であると特に好ましい。セラミックス粒子の平均粒径が0.01μm以上であると溶射時のハンドリング性に優れるため好ましい。
【0012】
本製造法において、平均粒径1μm以下のセラミックス粒子を得る方法に特に制限はないが、例えば炭酸バリウムと酸化チタンの粉末を等モルずつ混合し1000℃以上の熱処理によりチタン酸バリウムを得る方法のように固相反応で合成した粗粉を粉砕するブレークダウン法、シュウ酸法、水熱合成法、ゾルゲル法などの液相から合成、成長させたビルトアップ法またはCVD法などの気相から合成、成長させたビルトアップ法などが挙げられる。この中でも液相や気相から合成・成長させたビルトアップ法が粒径が均一で粉砕による不純物のコンタミが少ない点で好ましい。
【0013】
本製造法において、セラミックス粒子の種類としては所望の誘電体膜が得られるものであれば特に制限はない。BaTiO3、SrTiO3、PbTiO3、Pb(Zr,Ti)O3、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3などのペロブスカイト型複合酸化物やLiNbO3、LiTaO3などのイルメナイト型複合酸化物などの粒子が挙げられる。
【0014】
本製造法において、セラミックス粒子がカーボン粒子を含むものであると本製造法で得られるセラミックス誘電体膜の結晶構造が安定し、気孔が少なく緻密な組織となるため好ましい。詳細なメカニズムは不明であるが、これはカーボン粒子を含有することにより、セラミックス粒子のプラズマフレーム中での分解と溶融滴の増大が抑制されるものと思われる。前記カーボン粒子としては特に制限されないが、カーボンブラックなどの無定形炭素や人造黒鉛が挙げられる。
【0015】
本製造法において、セラミックス粒子中のカーボン粒子の含有量が0.5〜10質量%(以下、単に%と略す)であると膜の気孔が少なく、結晶構造も安定し、緻密な膜が得られるため好ましい。セラミックス粒子中のカーボン粒子の含有量が10%を超えると、膜中の気孔が増えるおそれがあり、一方、セラミックス粒子中のカーボン粒子の含有量が0.5%未満であると添加の効果が得られないおそれがある。セラミックス粒子中のカーボン粒子の含有量が1〜8%であるとさらに好ましい。
【0016】
本製造法において、基材としては特に制限がないが、ガラス基板を採用できる点は本製造法の特徴である。ガラス基板としては550℃以下の熱処理で反りや変形がでないように前記温度程度の耐熱性があることが好ましい。また、BaTiO3やPZTなどのセラミックス誘電体膜の熱膨張との差が約2×10−6/℃以内であるとセラミックス誘電体膜が剥離しにくく基板の反りが小さいので好ましい。
【0017】
さらにガラス基板がナトリウムイオンなどの発生源となるアルカリ金属の含有量が少ないとセラミックス誘電体膜の絶縁性などの電気特性を劣化させないため好ましい。このような特性を満足するガラス基板としては、ソーダライム(例えば、歪点511℃、熱膨張率8.7×10−6/℃)、高歪点ガラス(例えば、歪点570℃、熱膨張率8.3×10−6/℃)などが挙げられる。
【0018】
本製造法において、プラズマ溶射法については特に制限がなく、一般的なプラズマ溶射装置を使用し、セラミックス誘電体膜の種類に応じた溶射条件を適宜採用できる。プラズマ溶射後に成膜した基板を密着性などを向上する目的で550℃以下の温度で熱処理してもかまわない。
【0019】
本製造法において、セラミックス誘電体膜の種類としては特に制限されないが、BaTiO3、SrTiO3、PbTiO3、Pb(Zr,Ti)O3、Pb(Mg1/3Nb2/3)O3などのペロブスカイト型複合酸化物やLiNbO3、LiTaO3などのイルメナイト型複合酸化物などの膜が挙げられる。
【0020】
本製造法により得られるセラミックス誘電体膜の膜厚としては、無機ELディスプレイ用基板ではある程度の耐電圧を必要とすることから、5μm以上が好ましい。なお、膜厚は溶射時間で制御できる。
【0021】
【実施例】
以下に本発明の実施例(例1〜例4)と比較例(例5)を示す。
【0022】
[例1]
プラズマ溶射装置内にAu電極を全面に形成した50mm角、厚み2mmのソーダライム系ガラス基板をセットし、平均粒径0.2μmのチタン酸バリウム(BaTiO3)の微粉末をプラズマ溶射用原料粉末とし、前記ガラス基板上に平均膜厚15μmまでプラズマ溶射した。なお、溶射時の基板温度は400℃とした。プラズマ溶射後、このガラス基板を取出し、X線回折により結晶構造を調べたところプラズマ溶射したセラミックス膜はほぼペロブスカイト構造からなっており、1kHzでの比誘電率は1050、直流破壊電圧は190Vであった。ここで、プラズマ溶射した膜の面内の膜厚バラツキは5%以内であり、ガラス基板に反りや変形は認められなかった。
【0023】
[例2]
プラズマ溶射装置内にAu電極を全面に形成した50mm角、厚み2mmのソーダライム系ガラス基板をセットし、平均粒径0.2μmのチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の微粉末をプラズマ溶射用原料粉末とし、前記ガラス基板上に平均膜厚15μmまでプラズマ溶射した。なお、プラズマ溶射時の基板温度は400℃とした。プラズマ溶射後、このガラス基板を取出し、X線回折により結晶構造を調べたところプラズマ溶射したセラミックス膜はほぼペロブスカイト構造からなっており、1kHzでの比誘電率は1250、直流破壊電圧は170Vであった。ここで、プラズマ溶射した膜の面内の膜厚バラツキは5%以内であり、ガラス基板に反りや変形は認められなかった。
【0024】
[例3]
プラズマ溶射装置内にAu電極を全面に形成した50mm角、厚み2mmのソーダライム系ガラス基板をセットし、平均粒径0.2μmのPMN−PT(0.6Pb(Mg1/3Nb2/3)O3+0.4PbTiO3)の微粉末をプラズマ溶射用原料粉末とし、前記ガラス基板上に平均膜厚15μmまでプラズマ溶射した。なお、プラズマ溶射時の基板温度は400℃とした。プラズマ溶射後、このガラス基板を取出し、X線回折により結晶構造を調べたところプラズマ溶射したセラミックス膜はほぼペロブスカイト構造からなっており、1kHzでの比誘電率は2600、直流破壊電圧は160Vであった。また、プラズマ溶射した膜の面内の膜厚バラツキは5%以内であり、ガラス基板に反りや変形は認められなかった。
【0025】
[例4]
プラズマ溶射装置内にAu電極を全面に形成した50mm角、厚み2mmのソーダライム系ガラス基板をセットし、平均粒径0.2μmのPMN−PT(0.6Pb(Mg1/3Nb2/3)O3+0.4PbTiO3)の微粉末をプラズマ溶射用原料粉末とし、前記ガラス基板上に平均膜厚15μmまでプラズマ溶射した。なお、プラズマ溶射時の基板温度は200℃とした。プラズマ溶射後、このガラス基板を取出し、アニール炉で更に400℃の熱処理をした。熱処理後、X線回折により結晶構造を調べたところプラズマ溶射したセラミックス膜はほぼペロブスカイト構造からなっており、1kHzでの比誘電率は2650、直流破壊電圧は160Vであった。また、プラズマ溶射した膜の面内の膜厚バラツキは5%以内であり、ガラス基板に反りや変形は認められなかった。
【0026】
[例5]
プラズマ溶射装置内にAu電極を全面に形成した50mm角、厚み2mmのソーダライム系ガラス基板をセットし、平均粒径5μmのPMN−PT(0.6Pb(Mg1/3Nb2/3)O3+0.4PbTiO3)の微粉末をプラズマ溶射用原料粉末とし、前記ガラス基板上に平均膜厚15μmまでプラズマ溶射した。なお、プラズマ溶射時の基板温度は400℃とした。プラズマ溶射後、このガラス基板を取出し、X線回折により結晶構造を調べたところプラズマ溶射したセラミックス膜は主に非晶質とパイロクロア結晶構造からなっており、1kHzでの比誘電率は400、直流破壊電圧は70Vであった。ガラス基板に反りや変形は認められなかったものの、プラズマ溶射した膜の面内の膜厚バラツキは約25%とバラツキが大きくなった。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、成膜したセラミックス誘電体膜の膜厚の均一性が改善し耐電圧が向上する利点を有する。また、本発明では溶射原料としてカーボン粒子を含むセラミックス粒子を使用しているため緻密で結晶構造の安定な膜が得られる。溶射時または溶射後の基板温度を500℃以下としても結晶性に優れたペロブスカイト構造を有するセラミックス誘電体膜が得られる。したがって、低温度で処理可能なため、基板として安価で大型サイズの入手が容易なガラス基板を使用できる。
Claims (5)
- 基材上にセラミックス誘電体膜をプラズマ溶射で形成するセラミックス誘電体膜の製造方法であって、プラズマ溶射原料として平均粒子直径1μm以下のセラミックス粒子を使用することを特徴とするセラミックス誘電体膜の製造方法。
- 前記セラミックス粒子中にカーボン粒子を0.5〜10質量%含有する請求項1記載のセラミックス誘電体膜の製造方法。
- 前記セラミックス誘電体膜の膜厚が5〜50μmである請求項1または2記載のセラミックス誘電体膜の製造方法。
- 前記基材がガラス基板である請求項1、2または3記載のセラミックス誘電体膜の製造方法。
- 前記プラズマ溶射時の基板温度が10〜550℃である請求項1、2、3または4記載のセラミックス誘電体膜の製造方法。
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JP2003158076A JP2004362878A (ja) | 2003-06-03 | 2003-06-03 | セラミックス誘電体膜の製造方法 |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2006246433A (ja) * | 2005-02-03 | 2006-09-14 | Canon Inc | 通信装置及び通信方法 |
US20160133826A1 (en) * | 2014-11-06 | 2016-05-12 | Agency For Science, Technology & Research | Method of making lead-free ceramic coating |
-
2003
- 2003-06-03 JP JP2003158076A patent/JP2004362878A/ja active Pending
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