JP2004360597A - エンジンのピストン構造 - Google Patents
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Abstract
【課題】ピストンのスカート部にスカッフ防止のための条痕を形成したものにおいて、スカート部表面と気筒内壁面との摺動抵抗を低減させ、燃費向上を図る。
【解決手段】エンジン1に設けられるピストン2のスカート部14表面に螺旋状となるよう条痕15を形成する。この条痕15は、隣り合う条痕15同士との間隔、つまりピッチPを100μmから500μmの範囲に設定するとともに、隣り合う条痕15との頂部17からの条痕15の最大深さDは、1μm以上に設定する。更に、該ピストンの往復動方向に対して垂直な方向から見て、隣り合う該条痕の頂部から条痕の深さ方向の距離が、0.8μmとなるそれぞれの条痕の表面同士における往復動方向の長さをLとした場合、ピッチ(P)に対するLの比(L/P)を、10%以上に設定する。
【選択図】 図3
【解決手段】エンジン1に設けられるピストン2のスカート部14表面に螺旋状となるよう条痕15を形成する。この条痕15は、隣り合う条痕15同士との間隔、つまりピッチPを100μmから500μmの範囲に設定するとともに、隣り合う条痕15との頂部17からの条痕15の最大深さDは、1μm以上に設定する。更に、該ピストンの往復動方向に対して垂直な方向から見て、隣り合う該条痕の頂部から条痕の深さ方向の距離が、0.8μmとなるそれぞれの条痕の表面同士における往復動方向の長さをLとした場合、ピッチ(P)に対するLの比(L/P)を、10%以上に設定する。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンの気筒内に往復動可能に配置されるピストンに関し、特にピストンのスカート部に形成される条痕の技術に属すものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、エンジンのシリンダーブロックの気筒内には、ピストンが配置されており、このピストン外形のクランク軸側にはスカート部が形成されている。また、気筒内壁面とスカート部表面(外周面)との間はオイル(エンジンオイル)によって湿潤に保たれており、これにより、ピストンは気筒内をスムーズに往復動可能となる。
このようなピストンのスカート部に対して、例えば下記の特許文献1は、条痕を加工形成したものを開示する。条痕とは、スカート部の外周面において周方向に亘って、例えば、螺旋状に施されるU字状若しくはV字状の溝であり、この溝の深さは、数μmから数十μmぐらいで、ピストンの往復動方向に対して垂直な方向から見た場合における隣り合う溝同士の間隔、つまりピッチは、略数十μmから数百μm程度である。
【0003】
【特許文献1】
特公平5−35265号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、こうした条痕は、ピストンが高速で往復動する際において、スカート部表面やスカート部表面と接触する気筒内壁面に発生するスカッフ(焼き付き)を防止する効果を備えるが、一方で、条痕により、スカート部表面と気筒内壁面との間における摺動抵抗が増大して燃費が悪化するといった問題がある。
つまり、スカッフは、気筒内壁面と密接に摺動するピストンのスカート部に条痕を形成することにより、条痕に溜まった比較的多量のオイルによって、気筒内壁面とピストンのスカート部表面との間を極めて湿潤に保つことで、スカッフが防止される。これに対し、摺動抵抗の増大は、スカート部表面の隣り合う条痕の頂部と気筒内壁面との間に存在するオイルが条痕内に流れ、この頂部と気筒内壁面との間のオイル油膜の圧力が低下し、この部分における摺動抵抗が大きくなると考えられており、スカート部表面に条痕がないときは、摺動抵抗は減少傾向にある。
このように、スカッフの防止と摺動抵抗低減との観点から、条痕の形状は最適に設定する必要があるが、従来において、これらの観点から条痕の形状を最適化したものはなく、比較的重大な欠陥であるスカッフに対する対策を優先する余り、摺動抵抗が増大して燃費が悪化するといった問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような課題に勘案してなされたもので、その目的は、ピストンのスカート部の表面に条痕を形成したものにおいて、条痕を最適な形状に規定することにより、スカート部表面と気筒内壁面との間におけるスカッフを防止しつつ、この間の摺動抵抗を低減し、燃費向上を図ることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するために、本発明の請求項1記載の発明においては、エンジンの気筒内に配置されるピストンのスカート部分の表面に、上記スカート部の表面と上記気筒の内壁面との間におけるスカッフが抑制されるように、周方向に亘って溝状の条痕を形成するとともに、該ピストンの往復動方向中心軸を通る該ピストン断面において、隣り合う該条痕を、略一定のピッチ(P)で形成したエンジンのピストン構造において、該ピストンの往復動方向中心軸を通る該ピストン断面において、隣り合う該条痕の頂部から条痕の深さ方向の距離が、0.8μmとなるそれぞれの該条痕の表面同士における往復動方向の長さをLとした場合、ピッチ(P)に対するLの比(L/P)を、10%以上に設定したことを特徴としている。
このような構成により、スカッフの抑制を図る条痕において、隣り合う条痕同士のピッチをPとし、該ピストンの往復動方向中心軸を通る該ピストンの断面において、隣り合う該条痕の頂部から条痕の深さ方向の距離が0.8μmとなるそれぞれの条痕の表面同士における往復動方向の長さをLとした場合、上記ピッチ(P)に対するLの比(L/P)を10%以上とすることで、摺動抵抗の低減が図れる。
この摺動抵抗を低減可能な理由は明らかではないが、条痕の頂部から条痕の深さ方向までの距離が0.8μmまでの範囲内に存在するオイルが、主にピストンの往復動による動的圧力を発生させており、この動的圧力がピストンのスカート部に形成された条痕の頂部と気筒内壁面との間のオイル油膜圧力を増大させると考えられる。このオイル油膜圧力が増大すると、摺動抵抗が低減する傾向にある。
そして、ピッチ(P)に対する、上記条痕の頂部からの深さが0.8μm以内となる該条痕の一部における往復動方向の長さ(L)の比(L/P)を、10%以下に設定することで、条痕内で、条痕の頂部からの深さが0.8μm以内のオイルによる動的圧力が、条痕の頂部と気筒内壁面との間のオイル油膜圧力を適宜な圧力に保ち、適切なオイル油膜を形成することにより、スカート部表面と気筒内壁面との間のスカッフを防止しつつ、摺動抵抗を低減できると考えられる。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1において、上記条痕のピッチ(P)に対するLの比(L/P)を、15%以上に設定することを特徴としている。
このような構成により、スカッフ防止のために形成した条痕による摺動抵抗を、更に低減できる。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1あるいは請求項2において、上記条痕のピッチ(P)が100μmから500μmの場合において、条痕の上記頂部からの該条痕の最大深さ(D)が、1μm以上とすることを特徴としている。
このような構成により、条痕に保持されるオイル量を、スカート部表面と気筒内壁面との間に発生するスカッフを抑制可能とする適切な量に設定することができ、確実にスカッフ防止を図ることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
(全体構成)
図1に示すように、本発明にかかるガソリンエンジン1の円筒形状のピストン2は、エンジン1のシリンダーブロック3に形成された気筒(シリンダ)4内に配置される。また、シリンダーブロック3の上部には、シリンダーヘッド5が固定されており、シリンダーヘッド5の下面で気筒4に対応する位置は、ペントルーフ形状の面6が形成されて、気筒内壁面4aとペントルーフ形状の面6とピストン2の頂部とにより、燃焼室7が形成されている。
またピストン2の下方側(ピストン2に対し燃焼室7がある方向とは反対側)は、コンロッド8が連結されており、このコンロッド8はエキセントリックなシャフトであるクランクシャフト(図示せず)に連結される。
シリンダーブロック3の気筒4は、シリンダーライナー9をシリンダーブロック3に鋳込むことで形成されており、シリンダーライナー9の外周側には、シリンダーブロック3を冷却するための冷却水通路10が形成されている。
【0012】
また、シリンダーヘッド5には、吸気ポート11と排気ポート12とが形成されており、ぞれぞれは、図示しない吸気弁及び排気弁により燃焼室7と連通可能となる。
尚、シリンダーブロック3、シリンダーヘッド5及びシリンダーライナー9はいずれもアルミニウム製であるが、この内シリンダーライナー9だけ鋳鉄製であっても良いし、すべてが鋳鉄製であっても良い。
【0013】
ピストン2の上部には、その周方向に亘って上方から順に2本のピストンリング溝11、12とオイルリング溝13とが形成され、これに夫々、ピストンリング11a、12aと、オイルリング13aとが嵌挿されている。
また、オイルリング溝13より下方側の外周部であり、ピストン2の往復動方向中心軸に対して垂直な方向から見て略樽状となるスカート部14には、周方向に条痕15が加工形成されている。尚、スカート部は略樽状でなく、釣鐘状でも構わない。
【0014】
図2は、スカート部14に対して条痕15を加工形成する際の概略を示す図である。但し、紙面横方向がピストン2の往復動方向(エンジン1の上下方向)であり、紙面の下側がピストン2の往復動方向中心軸(つまり、ピストン2を往復動方向から見た時のピストン2の中心点を通り、往復動方向に沿った軸)側となる。
図2に示すように、ピストン2のスカート部14に対し、条痕加工用の刃16の刃先を当接させるとともに、ピストン2を、往復動方向を軸として回転させ、刃16を、一定の速度で往復動方向(図2の白抜き矢印方向)に移動させることで、スカート部14表面に条痕15を加工成形する。このような加工方法により、スカート部14には、U字状の溝が周方向に亘って螺旋状に形成される。また、この時、条痕15の最大深さD(図3参照)が一定となるように、樽状となるスカート部14の表面の軌跡に対する刃の位置(つまり、ピストン2の往復動方向中心軸からの距離)を調整することにより、スカート部14を横方向から見て、樽状で且つすべての条痕15の最大深さDを略一定にできる。また、同時に、刃16の往復動方向の速度を調整することで、すべての隣り合う条痕15の間隔、つまりピッチP(図3参照)も略一定にすることが可能である。
【0015】
条痕15は、スカート部14の表面と気筒内壁面4aとの間のスカッフ防止を目的として形成されるが、このためには一般に、条痕15のピッチPを100μmから500μmの範囲内にするとともに、条痕15の最大深さDを1μm以上にすれば良いとされる。条痕15の形状を、このような条件に適合させることで、条痕15により保持されるオイル量が、スカッフを防止可能な量となり、スカッフ防止が図れるものと考えられる。
より好ましくは、条痕のピッチPが100μmから200μmの範囲内であれば、条痕15の最大深さDは2μm以上が好ましく、条痕のピッチPが200μmから500μmの範囲内であれば、条痕15の最大深さDは1μm以上30μm以下(好ましくは、20μm以下)とすることが好ましい。
【0016】
尚、条痕15のピッチPを、100μmより小さくすると、スカート部表面において螺旋状に形成される条痕15を加工する際の条痕15全体の長さが極めて長くなるため、条痕15成形のための加工処理時間が長くなり、生産性が悪化し、条痕15のピッチPを、500μmより大きくすると、必然的に条痕の幅も広くなり、先の細い条痕加工用の刃16による単位時間当たりの切削量が増大し、このような刃16の加工負荷の増大により生産性が悪化する。また、条痕15の最大深さDを30μm以上にしてもスカッフ防止効果の増大は望めず、加工上の観点から生産性が悪化する。
【0017】
このようにしてスカート部14表面に条痕15を加工成形したピストン2を、シリンダーブロック3の気筒4内に挿入させることでエンジン1を製造する。
【0018】
また、本実施形態では、1本の条痕15がスカート部15の外周に螺旋状となるよう形成したが、1本の条痕15をスカート部14外周に沿って円を描くように形成し、このような条痕15をスカート部14表面に対し往復動方向に亘って複数本配置するとともに、これら複数本の条痕15の間隔が所定のピッチ毎となるよう形成しても良い。
【0019】
図3(a)及び(b)は、スカート部14の表面と気筒内壁面4aとの間隙を、ピストン2の往復動方向中心軸を通る断面として示した拡大図である。但し、紙面横方向がピストン2の往復動方向(エンジン1の上下方向)であり、紙面の下側がピストン2の往復動方向中心軸側となる。
図3(a)は、条痕15の加工時に刃16の往復動方向の移動速度を低速にした場合に形成される条痕15と気筒内壁面4aとの間隙の拡大図である。この場合、条痕15はU字状で、且つ凹状となるが、隣の条痕15とを仕切る頂部17は頂状となる。
【0020】
図3(a)において、隣り合う条痕15との間隔、つまり、ピッチPは、隣り合う頂部17同士の間隔であり、また、条痕15の深さDは、頂部17からピストン2の往復動方向中心軸側における条痕15の面までの距離となる。LDは、頂部17からピストン2の往復動方向中心軸側に0.8μm離間した線であり、この線LD上を含んで、線LDからピストン2の外周側における条痕15の往復動方向の距離をLとする。つまり、Lは、隣り合う条痕15において、線LDと交わるそれぞれの条痕15の表面上の点同士における往復動方向の距離である。図3(a)の本実施形態においては、ピッチPに対するLの比(L/P)を、10%以上、より好ましくは15%以上とする。これにより、ピストン2のスカート部と気筒内壁面4a(つまり、シリンダーライナー9の内壁面)との間に発生するスカッフを防止しつつ、この間の摺動抵抗を低減して燃費を向上できる。
【0021】
また、図3(b)は、条痕15の加工時に刃16の往復動方向の移動速度を高速にした場合に形成される条痕15と気筒内壁面4aとの間隙の拡大図である。この場合も、条痕15はU字状で且つ凹状となるが、隣りの条痕15との間の頂部17は、ピストン3の往復動方向に対し平行で、気筒内壁面4aと近接に対面する面が形成される。
図3(b)において、隣り合う条痕15とのピッチPは、頂部17の一方端と隣り合う頂部17の一方端との間隔であり、また、条痕15の深さDは、頂部17からピストン2の内方側における条痕15の面までの距離となる。LDは、頂部17からピストン2の内方側に0.8μm離間した線で、この線LD上を含んで、線LDからピストン2の外周側における条痕15の往復動方向の距離をLとする。つまり、Lは、隣り合う条痕15において、線LDと交わるそれぞれの条痕15の表面上の点同士における往復動方向の距離である。
図3(b)の本実施形態においても、上述の図3(a)と同様に、ピッチPに対するLの比(L/P)が、10%以上、より好ましくは15%以上とすることで、ピストン2のスカート部と気筒内壁面4aとの間に発生するスカッフを防止しつつ、この間の摺動抵抗を低減して燃費を向上できる。
【0022】
このように、L/Pを規定することで、スカッフを防止しつつ摺動抵抗を低減できる理由は、明らかではないが、以下のように考えられる。
スカート部14の表面と気筒内壁面4aとの間は、オイル(エンジンオイル)により湿潤が保持されているが、その内、条痕15の頂部17からピストン3の内方側、つまり条痕15の深さ方向に、0.8μmの位置までに存在するオイルが、主にピストン3の往復動による動的圧力を発生させる。この動的圧力が大きい場合、スカート部14の条痕15の頂部17と気筒内壁面4aとの間に発生するオイル油膜圧力も増大される。このオイル油膜圧力は、スカート部14表面と気筒内壁面4aとを離間させる方向に作用するものであるため、オイル油膜圧力の増大により、適切な厚さのオイル油膜が生成され、スカート部14の表面と気筒内壁面4aとの間における摺動抵抗の低減が可能となるものと考えられる。
仮にL/Pが10%未満の場合、スカート部14の条痕15の頂部17における面積、つまり、スカート部14表面の内、気筒内壁面4aと比較的接近する頂部17の面積が小さくなるため、ピストン3の往復動により発生される動的圧力が大きくて単位面積当たりのオイルの油膜圧力を増大できたとしても、面積が少ない分だけ、全体的な油膜圧力が低減し、適切な厚さのオイル油膜を生成することができずに、摺動抵抗が増大するものと考えられる。
【0023】
尚、条痕におけるL/Pの上限は、条痕のピッチPに応じて異なる。これは、上述したスカッフの防止可能な条痕形状の規定から求まるもので、ピッチPが100μmから200μm以下の場合、L/Pは30%以下(好ましくは、20%以下)、ピッチPが200μmから250μm以下の場合、L/Pは40%以下(好ましくは30%以下)、ピッチPが250μmから300μm以下の場合、L/Pは50%以下(好ましくは40%以下)、ピッチPが300μmから350μm以下の場合、L/Pは60%以下(好ましくは50%以下)、ピッチPが350μmから400μm以下の場合、L/Pは70%以下(好ましくは60%以下)、ピッチPが400μmから450μm以下の場合、L/Pは90%以下(好ましくは80%以下)、ピッチPが450μmから500μm以下の場合、L/Pは100%以下で、この条件では条痕の深さが0.8μm以下でも条痕さえあればスカッフが防止できることになる。
【0024】
次に、L/Pと機械損失平均有効圧との関係について実験結果について説明する。
図4は、LDを0.8μmとした時におけるL/Pと機械損失平均有効圧との関係についての実験結果を示す。
先ずは、サンプルとしてそれぞれの条痕15のピッチPと深さDとが調整された異なる条痕15形状を持つ12個のピストンが準備され、各ピストンについて機械損失平均有効圧力を測定した。因みに、条痕15の加工の際に使用する刃16としては、図2に示すように刃先の断面が略半円形のものを使用しており、このため条痕15の形状も刃先の先端形状と等しくなるため、条痕15の形状を略半円状の一部軌跡であるとして、ピッチPと深さDから、幾何学的にL/Pを求めている。
図4の横軸にL/Pが示され、縦軸には、機械損失平均有効圧が示されているが、機械平均有効圧とは、ピストン2の外周面と気筒内壁面4aとの間の摺動抵抗を示しており、機械平均有効圧が大きい程、摺動抵抗も大きくなる。
【0025】
また、図4において、黒丸(●)で示されるプロットは、図3(a)に示すように頂部17が頂状となるタイプの条痕が施されたピストン2であり、白抜き三角(△)で示されるプロットは、図3(b)に示すように頂部17が面となるタイプの条痕が施されたピストン2である。
図4に示すように、L/Pが10%未満の場合では、機械損失平均有効圧が大きく、L/Pが増大するにつれ、機械損失平均有効圧が急激に減少する。そして、L/Pが10%以上では、機械損失平均有効圧が減少し、摺動抵抗を低減できる。
更に、L/Pを15%以上とすると、スカート部15に条痕を形成させず鏡面状態にした場合とほぼ同等な位まで機械損失平均有効圧を減少させて、摺動抵抗を大幅に低減でき、L/Pを20以上とすると、機械損失平均有効圧を略最低値まで減少でき、これにより摺動抵抗も最低レベルにすることが可能となる。
【0026】
また、図4の実験の際に使用したいくつかのサンプルのデータから、LDの定義を変更して、L/Pと機械損失平均有効圧との関係について求めた結果を図5、図6に示す。具体的には、図5(a)、5図(b)は、LDをそれぞれ0.4μm、0.6μmとした時におけるL/Pと機械損失平均有効圧との関係を示し、図6(a)、図6(b)は、LDをそれぞれ1.0μm、1.2μmとしたときにおけるL/Pとの機械損失平均有効圧との関係を示す。
【0027】
これによれば、図5、図6の(a)、(b)いずれのグラフも、図4のグラフに対して不規則的な傾向を示しており、本発明において、LDとして、条痕15の頂部から条痕15の深さ方向に0.8μm離間した位置を規定することにより、より確実に摺動抵抗の低減を可能とする条痕形状を規定することができる。
【0028】
(他の実施形態)
以上の実施形態においては、条痕15の溝の形状を、スカート部14表面においてピストン2の往復動方向断面から見て、U字状としたが、本発明は、これような形状に限定されるものではなく、図7の(a)(b)に示すように断面がV字状で、同様に頂状や平面状の頂部17を有する条痕15にも適応可能である。また、本実施形態では、ガソリンを燃料とする火花点火式エンジンについて適用したが、軽油を燃料とする高圧縮比を有するディーゼルエンジンのピストンにおいても適用可能である。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る発明においては、ピストンのスカート部の表面にスカッフ防止用の条痕を形成したものにおいて、ピストンの往復動方向中心軸を通るピストン断面において、隣り合う条痕を略一定にピッチ(P)で形成するとともに、隣り合う条痕において、条痕の頂部から条痕の深さ方向の距離が0.8μmとなるそれぞれの条痕の表面同士における往復動方向の長さをLとし、Pに対するLの比(L/P)を10%以上に設定することにより、スカート部表面と気筒内壁面との間におけるスカッフを防止しつつ、この間の摺動抵抗を低減して燃費を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジン1の全体構成図。
【図2】条痕15の加工方法を説明する概略図。
【図3】条痕15のLとPとの定義を説明する概略図。
【図4】L/Pと機械損失平均有効圧との関係を示すグラフ。
【図5】L/Pと機械損失平均有効圧との関係を示すグラフ。
【図6】L/Pと機械損失平均有効圧との関係を示すグラフ。
【図7】他の実施形態における条痕15の形状を示す断面図。
【符号の説明】
1:エンジン
2:ピストン
4:気筒(シリンダ)
4a:気筒内壁面
14:スカート部
15:条痕
17:頂部
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジンの気筒内に往復動可能に配置されるピストンに関し、特にピストンのスカート部に形成される条痕の技術に属すものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、エンジンのシリンダーブロックの気筒内には、ピストンが配置されており、このピストン外形のクランク軸側にはスカート部が形成されている。また、気筒内壁面とスカート部表面(外周面)との間はオイル(エンジンオイル)によって湿潤に保たれており、これにより、ピストンは気筒内をスムーズに往復動可能となる。
このようなピストンのスカート部に対して、例えば下記の特許文献1は、条痕を加工形成したものを開示する。条痕とは、スカート部の外周面において周方向に亘って、例えば、螺旋状に施されるU字状若しくはV字状の溝であり、この溝の深さは、数μmから数十μmぐらいで、ピストンの往復動方向に対して垂直な方向から見た場合における隣り合う溝同士の間隔、つまりピッチは、略数十μmから数百μm程度である。
【0003】
【特許文献1】
特公平5−35265号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、こうした条痕は、ピストンが高速で往復動する際において、スカート部表面やスカート部表面と接触する気筒内壁面に発生するスカッフ(焼き付き)を防止する効果を備えるが、一方で、条痕により、スカート部表面と気筒内壁面との間における摺動抵抗が増大して燃費が悪化するといった問題がある。
つまり、スカッフは、気筒内壁面と密接に摺動するピストンのスカート部に条痕を形成することにより、条痕に溜まった比較的多量のオイルによって、気筒内壁面とピストンのスカート部表面との間を極めて湿潤に保つことで、スカッフが防止される。これに対し、摺動抵抗の増大は、スカート部表面の隣り合う条痕の頂部と気筒内壁面との間に存在するオイルが条痕内に流れ、この頂部と気筒内壁面との間のオイル油膜の圧力が低下し、この部分における摺動抵抗が大きくなると考えられており、スカート部表面に条痕がないときは、摺動抵抗は減少傾向にある。
このように、スカッフの防止と摺動抵抗低減との観点から、条痕の形状は最適に設定する必要があるが、従来において、これらの観点から条痕の形状を最適化したものはなく、比較的重大な欠陥であるスカッフに対する対策を優先する余り、摺動抵抗が増大して燃費が悪化するといった問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような課題に勘案してなされたもので、その目的は、ピストンのスカート部の表面に条痕を形成したものにおいて、条痕を最適な形状に規定することにより、スカート部表面と気筒内壁面との間におけるスカッフを防止しつつ、この間の摺動抵抗を低減し、燃費向上を図ることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するために、本発明の請求項1記載の発明においては、エンジンの気筒内に配置されるピストンのスカート部分の表面に、上記スカート部の表面と上記気筒の内壁面との間におけるスカッフが抑制されるように、周方向に亘って溝状の条痕を形成するとともに、該ピストンの往復動方向中心軸を通る該ピストン断面において、隣り合う該条痕を、略一定のピッチ(P)で形成したエンジンのピストン構造において、該ピストンの往復動方向中心軸を通る該ピストン断面において、隣り合う該条痕の頂部から条痕の深さ方向の距離が、0.8μmとなるそれぞれの該条痕の表面同士における往復動方向の長さをLとした場合、ピッチ(P)に対するLの比(L/P)を、10%以上に設定したことを特徴としている。
このような構成により、スカッフの抑制を図る条痕において、隣り合う条痕同士のピッチをPとし、該ピストンの往復動方向中心軸を通る該ピストンの断面において、隣り合う該条痕の頂部から条痕の深さ方向の距離が0.8μmとなるそれぞれの条痕の表面同士における往復動方向の長さをLとした場合、上記ピッチ(P)に対するLの比(L/P)を10%以上とすることで、摺動抵抗の低減が図れる。
この摺動抵抗を低減可能な理由は明らかではないが、条痕の頂部から条痕の深さ方向までの距離が0.8μmまでの範囲内に存在するオイルが、主にピストンの往復動による動的圧力を発生させており、この動的圧力がピストンのスカート部に形成された条痕の頂部と気筒内壁面との間のオイル油膜圧力を増大させると考えられる。このオイル油膜圧力が増大すると、摺動抵抗が低減する傾向にある。
そして、ピッチ(P)に対する、上記条痕の頂部からの深さが0.8μm以内となる該条痕の一部における往復動方向の長さ(L)の比(L/P)を、10%以下に設定することで、条痕内で、条痕の頂部からの深さが0.8μm以内のオイルによる動的圧力が、条痕の頂部と気筒内壁面との間のオイル油膜圧力を適宜な圧力に保ち、適切なオイル油膜を形成することにより、スカート部表面と気筒内壁面との間のスカッフを防止しつつ、摺動抵抗を低減できると考えられる。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1において、上記条痕のピッチ(P)に対するLの比(L/P)を、15%以上に設定することを特徴としている。
このような構成により、スカッフ防止のために形成した条痕による摺動抵抗を、更に低減できる。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1あるいは請求項2において、上記条痕のピッチ(P)が100μmから500μmの場合において、条痕の上記頂部からの該条痕の最大深さ(D)が、1μm以上とすることを特徴としている。
このような構成により、条痕に保持されるオイル量を、スカート部表面と気筒内壁面との間に発生するスカッフを抑制可能とする適切な量に設定することができ、確実にスカッフ防止を図ることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0011】
(全体構成)
図1に示すように、本発明にかかるガソリンエンジン1の円筒形状のピストン2は、エンジン1のシリンダーブロック3に形成された気筒(シリンダ)4内に配置される。また、シリンダーブロック3の上部には、シリンダーヘッド5が固定されており、シリンダーヘッド5の下面で気筒4に対応する位置は、ペントルーフ形状の面6が形成されて、気筒内壁面4aとペントルーフ形状の面6とピストン2の頂部とにより、燃焼室7が形成されている。
またピストン2の下方側(ピストン2に対し燃焼室7がある方向とは反対側)は、コンロッド8が連結されており、このコンロッド8はエキセントリックなシャフトであるクランクシャフト(図示せず)に連結される。
シリンダーブロック3の気筒4は、シリンダーライナー9をシリンダーブロック3に鋳込むことで形成されており、シリンダーライナー9の外周側には、シリンダーブロック3を冷却するための冷却水通路10が形成されている。
【0012】
また、シリンダーヘッド5には、吸気ポート11と排気ポート12とが形成されており、ぞれぞれは、図示しない吸気弁及び排気弁により燃焼室7と連通可能となる。
尚、シリンダーブロック3、シリンダーヘッド5及びシリンダーライナー9はいずれもアルミニウム製であるが、この内シリンダーライナー9だけ鋳鉄製であっても良いし、すべてが鋳鉄製であっても良い。
【0013】
ピストン2の上部には、その周方向に亘って上方から順に2本のピストンリング溝11、12とオイルリング溝13とが形成され、これに夫々、ピストンリング11a、12aと、オイルリング13aとが嵌挿されている。
また、オイルリング溝13より下方側の外周部であり、ピストン2の往復動方向中心軸に対して垂直な方向から見て略樽状となるスカート部14には、周方向に条痕15が加工形成されている。尚、スカート部は略樽状でなく、釣鐘状でも構わない。
【0014】
図2は、スカート部14に対して条痕15を加工形成する際の概略を示す図である。但し、紙面横方向がピストン2の往復動方向(エンジン1の上下方向)であり、紙面の下側がピストン2の往復動方向中心軸(つまり、ピストン2を往復動方向から見た時のピストン2の中心点を通り、往復動方向に沿った軸)側となる。
図2に示すように、ピストン2のスカート部14に対し、条痕加工用の刃16の刃先を当接させるとともに、ピストン2を、往復動方向を軸として回転させ、刃16を、一定の速度で往復動方向(図2の白抜き矢印方向)に移動させることで、スカート部14表面に条痕15を加工成形する。このような加工方法により、スカート部14には、U字状の溝が周方向に亘って螺旋状に形成される。また、この時、条痕15の最大深さD(図3参照)が一定となるように、樽状となるスカート部14の表面の軌跡に対する刃の位置(つまり、ピストン2の往復動方向中心軸からの距離)を調整することにより、スカート部14を横方向から見て、樽状で且つすべての条痕15の最大深さDを略一定にできる。また、同時に、刃16の往復動方向の速度を調整することで、すべての隣り合う条痕15の間隔、つまりピッチP(図3参照)も略一定にすることが可能である。
【0015】
条痕15は、スカート部14の表面と気筒内壁面4aとの間のスカッフ防止を目的として形成されるが、このためには一般に、条痕15のピッチPを100μmから500μmの範囲内にするとともに、条痕15の最大深さDを1μm以上にすれば良いとされる。条痕15の形状を、このような条件に適合させることで、条痕15により保持されるオイル量が、スカッフを防止可能な量となり、スカッフ防止が図れるものと考えられる。
より好ましくは、条痕のピッチPが100μmから200μmの範囲内であれば、条痕15の最大深さDは2μm以上が好ましく、条痕のピッチPが200μmから500μmの範囲内であれば、条痕15の最大深さDは1μm以上30μm以下(好ましくは、20μm以下)とすることが好ましい。
【0016】
尚、条痕15のピッチPを、100μmより小さくすると、スカート部表面において螺旋状に形成される条痕15を加工する際の条痕15全体の長さが極めて長くなるため、条痕15成形のための加工処理時間が長くなり、生産性が悪化し、条痕15のピッチPを、500μmより大きくすると、必然的に条痕の幅も広くなり、先の細い条痕加工用の刃16による単位時間当たりの切削量が増大し、このような刃16の加工負荷の増大により生産性が悪化する。また、条痕15の最大深さDを30μm以上にしてもスカッフ防止効果の増大は望めず、加工上の観点から生産性が悪化する。
【0017】
このようにしてスカート部14表面に条痕15を加工成形したピストン2を、シリンダーブロック3の気筒4内に挿入させることでエンジン1を製造する。
【0018】
また、本実施形態では、1本の条痕15がスカート部15の外周に螺旋状となるよう形成したが、1本の条痕15をスカート部14外周に沿って円を描くように形成し、このような条痕15をスカート部14表面に対し往復動方向に亘って複数本配置するとともに、これら複数本の条痕15の間隔が所定のピッチ毎となるよう形成しても良い。
【0019】
図3(a)及び(b)は、スカート部14の表面と気筒内壁面4aとの間隙を、ピストン2の往復動方向中心軸を通る断面として示した拡大図である。但し、紙面横方向がピストン2の往復動方向(エンジン1の上下方向)であり、紙面の下側がピストン2の往復動方向中心軸側となる。
図3(a)は、条痕15の加工時に刃16の往復動方向の移動速度を低速にした場合に形成される条痕15と気筒内壁面4aとの間隙の拡大図である。この場合、条痕15はU字状で、且つ凹状となるが、隣の条痕15とを仕切る頂部17は頂状となる。
【0020】
図3(a)において、隣り合う条痕15との間隔、つまり、ピッチPは、隣り合う頂部17同士の間隔であり、また、条痕15の深さDは、頂部17からピストン2の往復動方向中心軸側における条痕15の面までの距離となる。LDは、頂部17からピストン2の往復動方向中心軸側に0.8μm離間した線であり、この線LD上を含んで、線LDからピストン2の外周側における条痕15の往復動方向の距離をLとする。つまり、Lは、隣り合う条痕15において、線LDと交わるそれぞれの条痕15の表面上の点同士における往復動方向の距離である。図3(a)の本実施形態においては、ピッチPに対するLの比(L/P)を、10%以上、より好ましくは15%以上とする。これにより、ピストン2のスカート部と気筒内壁面4a(つまり、シリンダーライナー9の内壁面)との間に発生するスカッフを防止しつつ、この間の摺動抵抗を低減して燃費を向上できる。
【0021】
また、図3(b)は、条痕15の加工時に刃16の往復動方向の移動速度を高速にした場合に形成される条痕15と気筒内壁面4aとの間隙の拡大図である。この場合も、条痕15はU字状で且つ凹状となるが、隣りの条痕15との間の頂部17は、ピストン3の往復動方向に対し平行で、気筒内壁面4aと近接に対面する面が形成される。
図3(b)において、隣り合う条痕15とのピッチPは、頂部17の一方端と隣り合う頂部17の一方端との間隔であり、また、条痕15の深さDは、頂部17からピストン2の内方側における条痕15の面までの距離となる。LDは、頂部17からピストン2の内方側に0.8μm離間した線で、この線LD上を含んで、線LDからピストン2の外周側における条痕15の往復動方向の距離をLとする。つまり、Lは、隣り合う条痕15において、線LDと交わるそれぞれの条痕15の表面上の点同士における往復動方向の距離である。
図3(b)の本実施形態においても、上述の図3(a)と同様に、ピッチPに対するLの比(L/P)が、10%以上、より好ましくは15%以上とすることで、ピストン2のスカート部と気筒内壁面4aとの間に発生するスカッフを防止しつつ、この間の摺動抵抗を低減して燃費を向上できる。
【0022】
このように、L/Pを規定することで、スカッフを防止しつつ摺動抵抗を低減できる理由は、明らかではないが、以下のように考えられる。
スカート部14の表面と気筒内壁面4aとの間は、オイル(エンジンオイル)により湿潤が保持されているが、その内、条痕15の頂部17からピストン3の内方側、つまり条痕15の深さ方向に、0.8μmの位置までに存在するオイルが、主にピストン3の往復動による動的圧力を発生させる。この動的圧力が大きい場合、スカート部14の条痕15の頂部17と気筒内壁面4aとの間に発生するオイル油膜圧力も増大される。このオイル油膜圧力は、スカート部14表面と気筒内壁面4aとを離間させる方向に作用するものであるため、オイル油膜圧力の増大により、適切な厚さのオイル油膜が生成され、スカート部14の表面と気筒内壁面4aとの間における摺動抵抗の低減が可能となるものと考えられる。
仮にL/Pが10%未満の場合、スカート部14の条痕15の頂部17における面積、つまり、スカート部14表面の内、気筒内壁面4aと比較的接近する頂部17の面積が小さくなるため、ピストン3の往復動により発生される動的圧力が大きくて単位面積当たりのオイルの油膜圧力を増大できたとしても、面積が少ない分だけ、全体的な油膜圧力が低減し、適切な厚さのオイル油膜を生成することができずに、摺動抵抗が増大するものと考えられる。
【0023】
尚、条痕におけるL/Pの上限は、条痕のピッチPに応じて異なる。これは、上述したスカッフの防止可能な条痕形状の規定から求まるもので、ピッチPが100μmから200μm以下の場合、L/Pは30%以下(好ましくは、20%以下)、ピッチPが200μmから250μm以下の場合、L/Pは40%以下(好ましくは30%以下)、ピッチPが250μmから300μm以下の場合、L/Pは50%以下(好ましくは40%以下)、ピッチPが300μmから350μm以下の場合、L/Pは60%以下(好ましくは50%以下)、ピッチPが350μmから400μm以下の場合、L/Pは70%以下(好ましくは60%以下)、ピッチPが400μmから450μm以下の場合、L/Pは90%以下(好ましくは80%以下)、ピッチPが450μmから500μm以下の場合、L/Pは100%以下で、この条件では条痕の深さが0.8μm以下でも条痕さえあればスカッフが防止できることになる。
【0024】
次に、L/Pと機械損失平均有効圧との関係について実験結果について説明する。
図4は、LDを0.8μmとした時におけるL/Pと機械損失平均有効圧との関係についての実験結果を示す。
先ずは、サンプルとしてそれぞれの条痕15のピッチPと深さDとが調整された異なる条痕15形状を持つ12個のピストンが準備され、各ピストンについて機械損失平均有効圧力を測定した。因みに、条痕15の加工の際に使用する刃16としては、図2に示すように刃先の断面が略半円形のものを使用しており、このため条痕15の形状も刃先の先端形状と等しくなるため、条痕15の形状を略半円状の一部軌跡であるとして、ピッチPと深さDから、幾何学的にL/Pを求めている。
図4の横軸にL/Pが示され、縦軸には、機械損失平均有効圧が示されているが、機械平均有効圧とは、ピストン2の外周面と気筒内壁面4aとの間の摺動抵抗を示しており、機械平均有効圧が大きい程、摺動抵抗も大きくなる。
【0025】
また、図4において、黒丸(●)で示されるプロットは、図3(a)に示すように頂部17が頂状となるタイプの条痕が施されたピストン2であり、白抜き三角(△)で示されるプロットは、図3(b)に示すように頂部17が面となるタイプの条痕が施されたピストン2である。
図4に示すように、L/Pが10%未満の場合では、機械損失平均有効圧が大きく、L/Pが増大するにつれ、機械損失平均有効圧が急激に減少する。そして、L/Pが10%以上では、機械損失平均有効圧が減少し、摺動抵抗を低減できる。
更に、L/Pを15%以上とすると、スカート部15に条痕を形成させず鏡面状態にした場合とほぼ同等な位まで機械損失平均有効圧を減少させて、摺動抵抗を大幅に低減でき、L/Pを20以上とすると、機械損失平均有効圧を略最低値まで減少でき、これにより摺動抵抗も最低レベルにすることが可能となる。
【0026】
また、図4の実験の際に使用したいくつかのサンプルのデータから、LDの定義を変更して、L/Pと機械損失平均有効圧との関係について求めた結果を図5、図6に示す。具体的には、図5(a)、5図(b)は、LDをそれぞれ0.4μm、0.6μmとした時におけるL/Pと機械損失平均有効圧との関係を示し、図6(a)、図6(b)は、LDをそれぞれ1.0μm、1.2μmとしたときにおけるL/Pとの機械損失平均有効圧との関係を示す。
【0027】
これによれば、図5、図6の(a)、(b)いずれのグラフも、図4のグラフに対して不規則的な傾向を示しており、本発明において、LDとして、条痕15の頂部から条痕15の深さ方向に0.8μm離間した位置を規定することにより、より確実に摺動抵抗の低減を可能とする条痕形状を規定することができる。
【0028】
(他の実施形態)
以上の実施形態においては、条痕15の溝の形状を、スカート部14表面においてピストン2の往復動方向断面から見て、U字状としたが、本発明は、これような形状に限定されるものではなく、図7の(a)(b)に示すように断面がV字状で、同様に頂状や平面状の頂部17を有する条痕15にも適応可能である。また、本実施形態では、ガソリンを燃料とする火花点火式エンジンについて適用したが、軽油を燃料とする高圧縮比を有するディーゼルエンジンのピストンにおいても適用可能である。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る発明においては、ピストンのスカート部の表面にスカッフ防止用の条痕を形成したものにおいて、ピストンの往復動方向中心軸を通るピストン断面において、隣り合う条痕を略一定にピッチ(P)で形成するとともに、隣り合う条痕において、条痕の頂部から条痕の深さ方向の距離が0.8μmとなるそれぞれの条痕の表面同士における往復動方向の長さをLとし、Pに対するLの比(L/P)を10%以上に設定することにより、スカート部表面と気筒内壁面との間におけるスカッフを防止しつつ、この間の摺動抵抗を低減して燃費を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジン1の全体構成図。
【図2】条痕15の加工方法を説明する概略図。
【図3】条痕15のLとPとの定義を説明する概略図。
【図4】L/Pと機械損失平均有効圧との関係を示すグラフ。
【図5】L/Pと機械損失平均有効圧との関係を示すグラフ。
【図6】L/Pと機械損失平均有効圧との関係を示すグラフ。
【図7】他の実施形態における条痕15の形状を示す断面図。
【符号の説明】
1:エンジン
2:ピストン
4:気筒(シリンダ)
4a:気筒内壁面
14:スカート部
15:条痕
17:頂部
Claims (3)
- エンジンの気筒内に配置されるピストンのスカート部分の表面に、上記スカート部の表面と上記気筒の内壁面との間におけるスカッフが抑制されるように、周方向に亘って溝状の条痕を形成するとともに、該ピストンの往復動方向中心軸を通る該ピストン断面において、隣り合う該条痕を、略一定のピッチ(P)で形成したエンジンのピストン構造において、
該ピストンの往復動方向中心軸を通る該ピストン断面において、隣り合う該条痕の頂部から条痕の深さ方向の距離が、0.8μmとなるそれぞれの該条痕の表面同士における往復動方向の長さをLとした場合、ピッチ(P)に対するLの比(L/P)を、10%以上に設定したことを特徴とするエンジンのピストン構造。 - 上記条痕のピッチ(P)に対するLの比(L/P)を、15%以上に設定することを特徴とする請求項1記載のエンジンのピストン構造。
- 上記条痕のピッチ(P)が100μmから500μmの場合において、条痕の上記頂部からの該条痕の最大深さ(D)が、1μm以上とすることを特徴とする請求項1、あるいは請求項2記載のエンジンのピストン構造。
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