JP2004353738A - トロイダル式無段変速機、トロイダル式無段変速機用転動部材およびその転動部材の加工方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】高寿命のトロイダル式無段変速機が得られるその転動部材の加工方法を提供する。
【解決手段】本発明のトロイダル式無段変速機用転動部材の加工方法は、入力ディスク11、12、出力ディスク21、22および変速ローラ31、32を組付けた状態で、これらの転動部材の転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下となる加工応力に相応する押付け荷重を、変速ローラを挟持した入力ディスクと出力ディスクとの間に印加させつつ、変速ローラの傾角を変化させて全変速範囲を1回以上実働させ、転動部材の転動部を塑性加工する塑性加工工程を備えることを特徴とする。これにより、転動部材の転動部には加工硬化によって変形抵抗が増すと共に圧縮残留応力が付与されて、それらの疲労強度が大きく増大する。
【選択図】図2
【解決手段】本発明のトロイダル式無段変速機用転動部材の加工方法は、入力ディスク11、12、出力ディスク21、22および変速ローラ31、32を組付けた状態で、これらの転動部材の転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下となる加工応力に相応する押付け荷重を、変速ローラを挟持した入力ディスクと出力ディスクとの間に印加させつつ、変速ローラの傾角を変化させて全変速範囲を1回以上実働させ、転動部材の転動部を塑性加工する塑性加工工程を備えることを特徴とする。これにより、転動部材の転動部には加工硬化によって変形抵抗が増すと共に圧縮残留応力が付与されて、それらの疲労強度が大きく増大する。
【選択図】図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、トロイダル式無段変速機とそれに使用される転動部材およびその加工方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の車両に使用される変速機はその殆どが、手動式のマニュアルトランスミッション(MT)からオートマチックトランスミッション(AT)に変りつつある。そして、最近はさらに、滑らかな変速、エンジンの省燃費制御、多段化によるスポーツシフト等を達成し易い無段変速機が増えつつある。これまで無段変速機はベルト式のものが主流であったが、最近では、大排気量車等に搭載可能な、ベルト式よりも高容量のトロイダル式が着目されている。
【0003】
トロイダル式無段変速機は、入力ディスクと出力ディスクとの間に挟持されつつ回転する変速ローラの傾角によって、入力ディスクと出力ディスク間の変速比を変化させるものである。変速ローラと入力ディスクおよび出力ディスクとの間は、トラクションによって動力伝達がなされる。ここで、トロイダル式無段変速機が高容量になる程、それらの間に大きなトラクションを発生させることが必要となり、入力ディスクと出力ディスクとの間で印加される押付け荷重(垂直抗力)も大きくしなければならない。この押付け荷重が大きくなると、当然ながら、入力ディスク等の転動面やその近傍(内部)にも、非常に大きな面圧が繰返し作用することとなる。その結果、転動面やその近傍で陥没、剥離等が早期に生じ易くなり、入力ディスク等の転動部材の高寿命化ひいてはトロイダル式無段変速機の高信頼性を確保することが難しくなる。
【0004】
そこで、トロイダル式無段変速機の小型高容量化を達成する上で、高面圧下でも疲労強度等に優れた転動部材が望まれている。下記特許文献1には、それらに適した構造用鋼材からなる高面圧疲労強度材に関する開示がなされている。また、下記特許文献2には、構造用鋼材に浸炭窒化焼入した後、バニシング加工を施して、最大せん断応力深さZ0位置での硬度をHV750以上860以下とした転動部材が開示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−254744号公報
【特許文献2】
特開平9−264394号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記いずれの特許文献に開示されたものも、高面圧下での疲労強度等が十分ではない。特に、上記特許文献2の場合、バニシング加工を行う際に、予め実動時と同等の最大せん断応力を実動時と同等のZ0位置付近に発生させて金属材料を加工硬化させている。ところが、その加工条件では、転動部材のZ0位置付近での塑性変形量が小さく、加工硬化の程度も小さいため、トロイダル式無段変速機の実動時の陥没が十分には抑制されず、転動部材の十分な高寿命化も図れない。また、そのバニシング加工は、ボールまたはローラからなる工具を転動部材に押付け転がす専用の加工機によってなされるが、その工具には過大な変形が生じて、工具寿命が著しく短い。さらに、その際、入力ディスク、出力ディスクおよび変速ローラは、それぞれ別々に処理する必要があり、加工コストも上昇し易い。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、十分な疲労強度の向上を図れるトロイダル式無段変速機およびそれに使用される転動部材を提供することを目的とする。さらに、そのような転動部材を効率的に得ることができるトロイダル式無段変速機用転動部材の加工方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
そこで、本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、転動部材に、それを構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下の加工応力を加える塑性加工を施すことを思いつき、本発明を完成するに至った。
【0009】
(トロイダル式無段変速機)
すなわち、本発明のトロイダル式無段変速機は、入力軸に連動して回転駆動される入力ディスクと、出力軸と連動して該出力軸を回転駆動させる出力ディスクと、該入力ディスクおよび該出力ディスクによって挟持されつつ回転すると共に傾角の変化する変速ローラとを少なくとも備え、該入力ディスクと該出力ディスクとの間の動力伝達比である変速比が該変速ローラの傾角によって変化するトロイダル式無段変速機であって、
前記入力ディスク、前記出力ディスクまたは前記変速ローラの少なくとも1つからなる転動部材の転動部は、該転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下の加工応力によって塑性加工される塑性加工工程の施されたものであることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、従来以上に、高面圧下でも、転動面等に剥離や陥没等を生じない、高寿命のトロイダル式無段変速機が得られる。このような効果が発現するメカニズムは必ずしも明らかではないが、現状、次のように考えられる。
動力伝達を担う転動部は、前記塑性加工工程により、その転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上の加工応力が付与されて、その大きさに応じた塑性変形(特に、局所的な窪み)を生じる。この塑性変形した部分は、十分な加工硬化を生じて、転動部材の転動部は変形抵抗が十分に向上したものとなる。さらに、その塑性変形によって転動部近傍には圧縮残留応力が付与され、前記加工硬化による強度向上と併せて、転動部の面圧疲労強度が著しく高まる。
【0011】
ここで、塑性加工時の加工応力の下限を、転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上としたのは、少なくとも局所的な塑性変形を十分に生じさせるためである。一方、その加工応力の上限をシェイクダウン限界としたのは、シェイクダウン限界を超えて応力を加えると、変形が一定量で止まらずに、時間とともに増大して過大となり、場合によっては、表面あるいは内部に微小な亀裂などの損傷を生じさせる恐れもあるからである。なお、上記弾性限界およびシェイクダウン限界は、ヘルツ面圧に対するものであり、その算出方法の詳細は後述する。
【0012】
(トロイダル式無段変速機用転動部材)
また、本発明は、上記トロイダル式無段変速機に使用される転動部材としても把握できる。
すなわち、本発明は、入力軸に連動して回転駆動される入力ディスクと、出力軸と連動して該出力軸を回転駆動させる出力ディスクと、該入力ディスクおよび該出力ディスクによって挟持されつつ回転すると共に傾角の変化する変速ローラとを少なくとも備えて該入力ディスクと該出力ディスクとの間の動力伝達比である変速比が該変速ローラの傾角によって変化するトロイダル式無段変速機で使用される該入力ディスク、該出力ディスクまたは該変速ローラの少なくとも1つからなる転動部材であって、
前記転動部材の転動部は、該転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下の加工応力によって塑性加工される塑性加工工程の施されたものであることを特徴とするトロイダル式無段変速機用転動部材としても良い。
【0013】
(トロイダル式無段変速機用転動部材の加工方法)
上記トロイダル式無段変速機用転動部材の加工方法は、特に限定されるものではなく、例えば、入力ディスク、出力ディスクおよび変速ローラを別々に専用工具や専用機等を用いて加工しても良い。もっとも、次に示す本発明の加工方法によれば、より効率的に上記転動部材を得ることができる。
すなわち、入力軸に連動して回転駆動される入力ディスクと、出力軸と連動して該出力軸を回転駆動させる出力ディスクと、該入力ディスクおよび該出力ディスクによって挟持されつつ回転すると共に傾角の変化する変速ローラとを少なくとも備えて該入力ディスクと該出力ディスクとの間の動力伝達比である変速比が該変速ローラの傾角によって変化するトロイダル式無段変速機で使用される該入力ディスク、該出力ディスクまたは該変速ローラの少なくとも1つからなる転動部材の加工方法であって、
前記入力ディスク、前記出力ディスクおよび前記変速ローラを組付けた状態で、前記転動部材の転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下となる加工応力に相応する押付け荷重を、該変速ローラを挟持した該入力ディスクと該出力ディスクとの間に印加させつつ、該変速ローラの傾角を変化させて全変速範囲を1回以上実働させ、該転動部材の転動部を塑性加工する塑性加工工程を備えることを特徴とするトロイダル式無段変速機用転動部材の加工方法を用いると良い。
【0014】
この本発明の加工方法では、入力ディスク等の転動部材を組付けた状態で変速ローラの傾角を変化させつつ、1回以上全変速範囲を実働(スイープ)させて、前述した塑性加工工程を行っている。このため、各転動部材の転動面近傍が全体的にかつ均一に塑性加工され、局所的な窪み等が不均一に形成されることがない。従って、全変速範囲でスムーズな変速を可能とするトロイダル式無段変速機が得られる。しかも、本発明の加工方法によると、加工を必要とする各転動部材の転動面が同時に加工されるので、非常に効率的でもある。こうして、各転動部材の転動面全体がシェイクダウン状態となって、塑性変形による変形抵抗上昇と圧縮残留応力付与による転動疲労寿命が飛躍的に増大する。
【0015】
さらに、この加工方法によると、変速ローラの転動部(特に、外周先端部)も自ずと塑性変形して、当初の円弧状から非円弧状となる。特に、大きな面圧の作用する接触中心部分(クラウニング部)ほど、接触領域の面圧を均一化する方向に大きく変形して、最大面圧を実質的に低下させる。これにより、その先端部が入力ディスク等と接触する際の面圧分布は、当初の楕円分布から、クラウニング中央部に存在した最大面圧の低下した平均的な面圧分布に変化する。こうして、変速ローラおよびそれと接触する入力ディスクおよび出力ディスクの転動疲労寿命も向上することとなる。なお、このような作用効果は、変速ローラの転動部が非円弧状に塑性変形する限り、前述した本発明のトロイダル式無段変速機やその転動部材についても適宜該当する。
【0016】
なお、弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下となる加工応力は、前述したように、変速ローラと入力ディスクおよび出力ディスク間に作用するヘルツ面圧から算出される。作用する面圧は、変速ローラの傾角によっても変化するため、変速ローラの傾角に応じて押付け荷重を調整、制御するのが好ましい。なお、ここでいう押付け荷重とは、例えば、入力ディスクおよび出力ディスクを軸方向へ油圧または機械的に押圧するものである。
【0017】
本発明の加工方法によると、わざわざ特別な加工機械等を導入せずに、各転動部材を実機のトロイダル式無段変速機に組込んで行うこともできるため、非常に簡便な加工方法でもある。もっとも、トロイダル式無段変速機全体を使用せずに、入力ディスク、出力ディスクおよび変速ローラ等の主要部分単体を組立て状態で、本発明の加工方法を実施しても良い。
本発明でいうトロイダル式無段変速機は、ハーフトロイダル式でもフルトロイダル式でも良い。また、入力ディスク、出力ディスクおよび変速ローラの個数、サイズ等も問わない。
【0018】
【発明の実施の形態】
実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
(1)トロイダル式無段変速機
本発明に係る一実施形態であるトロイダル式無段変速機100の主要断面図を図1に示す。図示していないが、トロイダル式無段変速機100は、ハウジング、エンジンの出力軸に連結されるトルクコンバータあるいはクラッチ、変速比を駆動制御する油圧回路、その電子制御装置等をも当然に有する。
【0019】
トロイダル式無段変速機100は、2キャビティのフルトロイダル式であって、入力ディスク11、12と、出力ディスク21、22と、変速ローラ31、32と、入力軸4と、出力軸(図示せず)と連動する出力ギヤ51と、入力ディスク12の後方(図右側)にエンドロード油圧室72をもつ油圧シリンダ71とから主になる。
【0020】
入力ディスク11、12は、それぞれ、一方の面側に形成された断面円弧状の環状溝11a、12aをもつ。入力ディスク11、12は、これらの環状溝11a、12aを対向させつつ、入力軸4の両端付近に配置される。なお、入力ディスク11、12と入力軸4とはスプライン41、42により結合されており、入力ディスク11、12は軸方向への移動が許容されつつ、両者は一体回転する。
【0021】
出力ディスク21、22も、入力ディスク11、12と同様に、一方の面側に断面円弧状の環状溝21a、22aをもつ。出力ディスク21、22は、これら環状溝11a、12aを背中合せにして入力軸4の中央付近に軸受61、62を介して配置されている。なお、出力ギヤ51は、出力ディスク21、22の背面で挟持されて固定された状態となっている。
【0022】
変速ローラ31、32は、外周先端部にクラウニング部をもつ略円盤状部材であって、図示しない支持体によってベアリングを介して支持されている。複数の変速ローラ31は、対向配置された入力ディスク11と出力ディスク21とで形成された断面略円形の環状溝内でその傾角を変化させ得る。また、複数の変速ローラ32は、対向配置された入力ディスク12と出力ディスク22とで形成された断面略円形の環状溝内でその傾角を変化させ得る。なお、変速ローラ31、32の傾角が変化する際の回転量(角度)は同じでも、その回転方向は逆向きである。外側に入力ディスク11、12があり、中央に出力ディスク21、22が配置されているためである。
【0023】
トロイダル式無段変速機100は、この変速ローラ31、32の傾角変化によって、入力ディスク11、12と出力ディスク21、22との間の動力伝達比、つまり変速比を可変とする。変速ローラ31、32が図1中に実線で示した位置にあるときが増速側(高速側)となり、図1中に2点鎖線で示した位置にあるときが減速側(低速側)となる。このとき、変速ローラ31、32と入力ディスク11、12および出力ディスク21、22とが接触する接触面間には、トラクション油を介してトラクションによって動力伝達がなされる。このため、その伝達動力に相応する押付け荷重(垂直抗力)が、接触する両部材間に作用していることが必要となる。この押付け荷重を作用させるのが、入力ディスク12の後端側に設けられた油圧シリンダ71である。この油圧シリンダ71のエンドロード油圧室72にトラクション油が所定圧力で充填されると、入力ディスク12が前方(図左方向)へ押されて、前述の各接触面間には必要となる高圧の押付け荷重が発生する。
【0024】
ここで、前記押付け荷重をFn、油圧シリンダ71による入力ディスク12に作用する荷重(エンドロード)をFend、変速ローラ31、32の水平方向からの傾角をθとすると、Fend=Fn・cosθ (数式1)という関係がある。従って、押付け荷重Fnの調整は、変速ローラ31、32の傾角に応じたエンドロードFendの制御によってなされる。
【0025】
(2)塑性加工工程
塑性加工工程は、入力ディスク、出力ディスクおよび変速ローラを組付けた状態で、それらの転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下となる加工応力に相応する押付け荷重を、それらの接触面間に印加させつつ、変速ローラの傾角を変化させて全変速範囲を1回以上実働させて、前記転動部を塑性加工する工程である。
【0026】
上記トロイダル式無段変速機100でいえば、変速ローラ31、32と入力ディスク11、12および出力ディスク21、22との接触面間に作用するヘルツ面圧が弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下となるように、前記押付け荷重Fnを印加させる工程となる。ここで、変速ローラ31、32の傾角が特定域にある場合のみについて塑性加工を行うと、入力ディスク11、12の環状溝11a、12aや出力ディスク21、22の環状溝21a、22aによって形成される転動面に段差等を生じるため好ましくない。そこで、トロイダル式無段変速機100の全変速範囲に相当する分の傾角変化を少なくとも1回以上行いつつ、上記塑性加工を行う。この際、押付け荷重Fnを弾性限界〜シェイクダウン限界内で順次に増大させて、上記塑性加工工程を複数回行うとより好ましい。但し、あまり長時間繰返し行うのは寿命低下を招くため好ましくない。
【0027】
ここで、弾性限界およびシェイクダウン限界の荷重は、K.L.Johnson著”Contact Mechanics”に基づいて、次のように計算される。すなわち、接触楕円のアスペクト比が1のとき、弾性限界のヘルツ面圧(p0)Eおよびシェイクダウン限界のヘルツ面圧(p0)Pは、Trescaの降伏条件より、 (p0)E =1.6Y (数式2)、(p0)P =2.35Y (数式3)となる。ここで、Yは、転動部の構成金属材料の引張降伏応力である。この引張降伏応力Yは、使用する金属材料の引張試験値から求められる。この他、引張降伏応力Yは、ビッカース硬さH(HV)から、Y=3.1Hによって求めても良い。
【0028】
また、前述の押付け荷重Fnと、上記ヘルツ面圧(p0)との間には、Fn=(2/3)・πab・p0 (数式4)なる関係がある。ここで、a、bは、接触楕円の長軸および短軸の長さである。
こうして転動部の構成金属材料に応じて、(数式2)および(数式3)から、弾性限界のヘルツ面圧(p0)E 、シェイクダウン限界のヘルツ面圧(p0)P が決定される。また、これらの各ヘルツ面圧p0から、それぞれの場合に必要となる押付け荷重Fnが(数式4)から算出される。さらに(数式1)から、この押付け荷重Fnの発生に必要となるエンドロードFendが算出される。その結果、上記トロイダル式無段変速機100の例でいえば、エンドロード油圧室72に印加すべき油圧が決定される。
【0029】
【実施例】
次に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0030】
(トロイダル式無段変速機の諸元等)
前述したトロイダル式無段変速機100を構成する入力ディスク11、12、出力ディスク21、22および変速ローラ31、32(以下、適宜、単に「転動部材」という。)に塑性加工工程を施した。この塑性加工前の各転動部材の材質、サイズ等は次の通りである。
【0031】
使用した構成金属材料は、軸受鋼SUJ2(JIS)である。これを所定形状に加工した後、焼入れ焼戻しを行い、その後に仕上げ加工を施した。このときの各転動部材の硬さは750HVであった。これにより、前述の(数式2)〜(数式4)により、弾性限界ヘルツ面圧(p0)E =3.7GPa、シェイクダウン限界ヘルツ面圧(p0)P =5.4GPaと見積られる。そして、本実施例では塑性加工時の最大ヘルツ応力を弾性限界ヘルツ面力の約1.2倍である4.4GPaと選定した。なお、塑性加工前の変速ローラ31、32のクラウニング部分は断面円弧状であった。
変形ローラは外径100mm、厚さ13mmであり、入力ディスク、出力ディスクは外径176mm、環状溝の半径50mmである。
【0032】
(塑性加工工程)
本実施例では、トロイダル式無段変速機100の実機そのものを使用せず、図1に示した主要部のみを取出して、次のように転動部材の塑性加工を行うこととした。
先ず、油圧シリンダ71に印加するエンドロードFendおよび入力軸4にかける入力トルクを充分に低い値にセットした。この状態で、変速ローラ31、32の傾角を制御して最大減速(図1の2点鎖線位置)から最大増速(図1の実線位置)の間をスイープさせた。入力は、入力軸4の前方に載置した駆動モータにより行った。エンドロード油圧室72への油圧供給は、別途用意した油圧発生装置によって行った。
【0033】
次に、エンドロードFendを段階的に上げながら、同様の操作を繰返し行った。最終的に、前述の最大ヘルツ応力が4.4GPaとなるまで行い、その後にエンドロードFendを低下させた。このとき、変速ローラ31、32の傾角に応じてエンドロード油圧室72の油圧を調整することで、そのヘルツ面圧に必要な押付け荷重Fnを発生させた。ちなみに、1スイープあたりの変速ローラ31、32の傾角θは、26〜−26度とし、最大ヘルツ応力下で2回スイープを行った。また、最大ヘルツ応力下での入力トルクおよび入力軸4の回転数は、それぞれ、100Nmおよび500rpmとした。
【0034】
こうして、入力ディスク11、12および出力ディスク21、22の転動面全体に塑性加工を施した。このとき、環状溝11a、12aおよび環状溝21a、22aによって形成されたキャビティの形状は基本的に変わらなかった。この塑性加工により、転動面の表面層部分は加工硬化されて変形抵抗を増し、また、圧縮残留応力が付与された状態となった。変速ローラ31、32は転動部であるクラウニング頂点付近が塑性加工を受けて、断面が円弧状から、その先端部分が鈍化した非円弧状となった。この結果、変速ローラ31、32と入力ディスク11、12および出力ディスク21、22との間の接触領域における応力分布は平坦化して、両者間に作用する接触応力(ヘルツ面圧)のピーク値は低下した。勿論、変速ローラ31、32の場合も、その表面層部分が加工硬化されて変形抵抗を増し、また圧縮残留応力が付与された状態となった。
【0035】
(評価)
上記の塑性加工工程を施した転動部材を用いて、転動疲労試験を行った。
この転動疲労試験は、上記の各転動部材を実機であるトロイダル式無段変速機100に組付けて行った。このときの入力軸4の回転数を1000rpm、減速比を1(1/1)、押付け荷重Fnを34kN、40kN、46kNの3水準ととした。なお、比較例として、上記塑性加工のみを施さなかったものを用意して、実施例と同様に試験を行った。
【0036】
こうして、実施例と比較例とについて、各押付け荷重(kN)と破損に至るまでの繰返し数(回)との関係を調べた。その結果を図2に示す。図2から明らかなように、本発明に係る実施例の場合、従来のもの(比較例)に対して、いずれの押付け荷重下においても、疲労耐久性(寿命)が3倍以上も顕著に延びることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るトロイダル式無段変速機の一実施例を示す主要断面図である。
【図2】トロイダル式無段変速機における押付け荷重と破損に至るまでの繰返し数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
11、12 入力ディスク
21、22 出力ディスク
31、32 変速ローラ
4 入力軸
71 油圧シリンダ
100 トロイダル式無段変速機
【発明の属する技術分野】
本発明は、トロイダル式無段変速機とそれに使用される転動部材およびその加工方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の車両に使用される変速機はその殆どが、手動式のマニュアルトランスミッション(MT)からオートマチックトランスミッション(AT)に変りつつある。そして、最近はさらに、滑らかな変速、エンジンの省燃費制御、多段化によるスポーツシフト等を達成し易い無段変速機が増えつつある。これまで無段変速機はベルト式のものが主流であったが、最近では、大排気量車等に搭載可能な、ベルト式よりも高容量のトロイダル式が着目されている。
【0003】
トロイダル式無段変速機は、入力ディスクと出力ディスクとの間に挟持されつつ回転する変速ローラの傾角によって、入力ディスクと出力ディスク間の変速比を変化させるものである。変速ローラと入力ディスクおよび出力ディスクとの間は、トラクションによって動力伝達がなされる。ここで、トロイダル式無段変速機が高容量になる程、それらの間に大きなトラクションを発生させることが必要となり、入力ディスクと出力ディスクとの間で印加される押付け荷重(垂直抗力)も大きくしなければならない。この押付け荷重が大きくなると、当然ながら、入力ディスク等の転動面やその近傍(内部)にも、非常に大きな面圧が繰返し作用することとなる。その結果、転動面やその近傍で陥没、剥離等が早期に生じ易くなり、入力ディスク等の転動部材の高寿命化ひいてはトロイダル式無段変速機の高信頼性を確保することが難しくなる。
【0004】
そこで、トロイダル式無段変速機の小型高容量化を達成する上で、高面圧下でも疲労強度等に優れた転動部材が望まれている。下記特許文献1には、それらに適した構造用鋼材からなる高面圧疲労強度材に関する開示がなされている。また、下記特許文献2には、構造用鋼材に浸炭窒化焼入した後、バニシング加工を施して、最大せん断応力深さZ0位置での硬度をHV750以上860以下とした転動部材が開示されている。
【0005】
【特許文献1】
特開2001−254744号公報
【特許文献2】
特開平9−264394号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記いずれの特許文献に開示されたものも、高面圧下での疲労強度等が十分ではない。特に、上記特許文献2の場合、バニシング加工を行う際に、予め実動時と同等の最大せん断応力を実動時と同等のZ0位置付近に発生させて金属材料を加工硬化させている。ところが、その加工条件では、転動部材のZ0位置付近での塑性変形量が小さく、加工硬化の程度も小さいため、トロイダル式無段変速機の実動時の陥没が十分には抑制されず、転動部材の十分な高寿命化も図れない。また、そのバニシング加工は、ボールまたはローラからなる工具を転動部材に押付け転がす専用の加工機によってなされるが、その工具には過大な変形が生じて、工具寿命が著しく短い。さらに、その際、入力ディスク、出力ディスクおよび変速ローラは、それぞれ別々に処理する必要があり、加工コストも上昇し易い。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、十分な疲労強度の向上を図れるトロイダル式無段変速機およびそれに使用される転動部材を提供することを目的とする。さらに、そのような転動部材を効率的に得ることができるトロイダル式無段変速機用転動部材の加工方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
そこで、本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、転動部材に、それを構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下の加工応力を加える塑性加工を施すことを思いつき、本発明を完成するに至った。
【0009】
(トロイダル式無段変速機)
すなわち、本発明のトロイダル式無段変速機は、入力軸に連動して回転駆動される入力ディスクと、出力軸と連動して該出力軸を回転駆動させる出力ディスクと、該入力ディスクおよび該出力ディスクによって挟持されつつ回転すると共に傾角の変化する変速ローラとを少なくとも備え、該入力ディスクと該出力ディスクとの間の動力伝達比である変速比が該変速ローラの傾角によって変化するトロイダル式無段変速機であって、
前記入力ディスク、前記出力ディスクまたは前記変速ローラの少なくとも1つからなる転動部材の転動部は、該転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下の加工応力によって塑性加工される塑性加工工程の施されたものであることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、従来以上に、高面圧下でも、転動面等に剥離や陥没等を生じない、高寿命のトロイダル式無段変速機が得られる。このような効果が発現するメカニズムは必ずしも明らかではないが、現状、次のように考えられる。
動力伝達を担う転動部は、前記塑性加工工程により、その転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上の加工応力が付与されて、その大きさに応じた塑性変形(特に、局所的な窪み)を生じる。この塑性変形した部分は、十分な加工硬化を生じて、転動部材の転動部は変形抵抗が十分に向上したものとなる。さらに、その塑性変形によって転動部近傍には圧縮残留応力が付与され、前記加工硬化による強度向上と併せて、転動部の面圧疲労強度が著しく高まる。
【0011】
ここで、塑性加工時の加工応力の下限を、転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上としたのは、少なくとも局所的な塑性変形を十分に生じさせるためである。一方、その加工応力の上限をシェイクダウン限界としたのは、シェイクダウン限界を超えて応力を加えると、変形が一定量で止まらずに、時間とともに増大して過大となり、場合によっては、表面あるいは内部に微小な亀裂などの損傷を生じさせる恐れもあるからである。なお、上記弾性限界およびシェイクダウン限界は、ヘルツ面圧に対するものであり、その算出方法の詳細は後述する。
【0012】
(トロイダル式無段変速機用転動部材)
また、本発明は、上記トロイダル式無段変速機に使用される転動部材としても把握できる。
すなわち、本発明は、入力軸に連動して回転駆動される入力ディスクと、出力軸と連動して該出力軸を回転駆動させる出力ディスクと、該入力ディスクおよび該出力ディスクによって挟持されつつ回転すると共に傾角の変化する変速ローラとを少なくとも備えて該入力ディスクと該出力ディスクとの間の動力伝達比である変速比が該変速ローラの傾角によって変化するトロイダル式無段変速機で使用される該入力ディスク、該出力ディスクまたは該変速ローラの少なくとも1つからなる転動部材であって、
前記転動部材の転動部は、該転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下の加工応力によって塑性加工される塑性加工工程の施されたものであることを特徴とするトロイダル式無段変速機用転動部材としても良い。
【0013】
(トロイダル式無段変速機用転動部材の加工方法)
上記トロイダル式無段変速機用転動部材の加工方法は、特に限定されるものではなく、例えば、入力ディスク、出力ディスクおよび変速ローラを別々に専用工具や専用機等を用いて加工しても良い。もっとも、次に示す本発明の加工方法によれば、より効率的に上記転動部材を得ることができる。
すなわち、入力軸に連動して回転駆動される入力ディスクと、出力軸と連動して該出力軸を回転駆動させる出力ディスクと、該入力ディスクおよび該出力ディスクによって挟持されつつ回転すると共に傾角の変化する変速ローラとを少なくとも備えて該入力ディスクと該出力ディスクとの間の動力伝達比である変速比が該変速ローラの傾角によって変化するトロイダル式無段変速機で使用される該入力ディスク、該出力ディスクまたは該変速ローラの少なくとも1つからなる転動部材の加工方法であって、
前記入力ディスク、前記出力ディスクおよび前記変速ローラを組付けた状態で、前記転動部材の転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下となる加工応力に相応する押付け荷重を、該変速ローラを挟持した該入力ディスクと該出力ディスクとの間に印加させつつ、該変速ローラの傾角を変化させて全変速範囲を1回以上実働させ、該転動部材の転動部を塑性加工する塑性加工工程を備えることを特徴とするトロイダル式無段変速機用転動部材の加工方法を用いると良い。
【0014】
この本発明の加工方法では、入力ディスク等の転動部材を組付けた状態で変速ローラの傾角を変化させつつ、1回以上全変速範囲を実働(スイープ)させて、前述した塑性加工工程を行っている。このため、各転動部材の転動面近傍が全体的にかつ均一に塑性加工され、局所的な窪み等が不均一に形成されることがない。従って、全変速範囲でスムーズな変速を可能とするトロイダル式無段変速機が得られる。しかも、本発明の加工方法によると、加工を必要とする各転動部材の転動面が同時に加工されるので、非常に効率的でもある。こうして、各転動部材の転動面全体がシェイクダウン状態となって、塑性変形による変形抵抗上昇と圧縮残留応力付与による転動疲労寿命が飛躍的に増大する。
【0015】
さらに、この加工方法によると、変速ローラの転動部(特に、外周先端部)も自ずと塑性変形して、当初の円弧状から非円弧状となる。特に、大きな面圧の作用する接触中心部分(クラウニング部)ほど、接触領域の面圧を均一化する方向に大きく変形して、最大面圧を実質的に低下させる。これにより、その先端部が入力ディスク等と接触する際の面圧分布は、当初の楕円分布から、クラウニング中央部に存在した最大面圧の低下した平均的な面圧分布に変化する。こうして、変速ローラおよびそれと接触する入力ディスクおよび出力ディスクの転動疲労寿命も向上することとなる。なお、このような作用効果は、変速ローラの転動部が非円弧状に塑性変形する限り、前述した本発明のトロイダル式無段変速機やその転動部材についても適宜該当する。
【0016】
なお、弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下となる加工応力は、前述したように、変速ローラと入力ディスクおよび出力ディスク間に作用するヘルツ面圧から算出される。作用する面圧は、変速ローラの傾角によっても変化するため、変速ローラの傾角に応じて押付け荷重を調整、制御するのが好ましい。なお、ここでいう押付け荷重とは、例えば、入力ディスクおよび出力ディスクを軸方向へ油圧または機械的に押圧するものである。
【0017】
本発明の加工方法によると、わざわざ特別な加工機械等を導入せずに、各転動部材を実機のトロイダル式無段変速機に組込んで行うこともできるため、非常に簡便な加工方法でもある。もっとも、トロイダル式無段変速機全体を使用せずに、入力ディスク、出力ディスクおよび変速ローラ等の主要部分単体を組立て状態で、本発明の加工方法を実施しても良い。
本発明でいうトロイダル式無段変速機は、ハーフトロイダル式でもフルトロイダル式でも良い。また、入力ディスク、出力ディスクおよび変速ローラの個数、サイズ等も問わない。
【0018】
【発明の実施の形態】
実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
(1)トロイダル式無段変速機
本発明に係る一実施形態であるトロイダル式無段変速機100の主要断面図を図1に示す。図示していないが、トロイダル式無段変速機100は、ハウジング、エンジンの出力軸に連結されるトルクコンバータあるいはクラッチ、変速比を駆動制御する油圧回路、その電子制御装置等をも当然に有する。
【0019】
トロイダル式無段変速機100は、2キャビティのフルトロイダル式であって、入力ディスク11、12と、出力ディスク21、22と、変速ローラ31、32と、入力軸4と、出力軸(図示せず)と連動する出力ギヤ51と、入力ディスク12の後方(図右側)にエンドロード油圧室72をもつ油圧シリンダ71とから主になる。
【0020】
入力ディスク11、12は、それぞれ、一方の面側に形成された断面円弧状の環状溝11a、12aをもつ。入力ディスク11、12は、これらの環状溝11a、12aを対向させつつ、入力軸4の両端付近に配置される。なお、入力ディスク11、12と入力軸4とはスプライン41、42により結合されており、入力ディスク11、12は軸方向への移動が許容されつつ、両者は一体回転する。
【0021】
出力ディスク21、22も、入力ディスク11、12と同様に、一方の面側に断面円弧状の環状溝21a、22aをもつ。出力ディスク21、22は、これら環状溝11a、12aを背中合せにして入力軸4の中央付近に軸受61、62を介して配置されている。なお、出力ギヤ51は、出力ディスク21、22の背面で挟持されて固定された状態となっている。
【0022】
変速ローラ31、32は、外周先端部にクラウニング部をもつ略円盤状部材であって、図示しない支持体によってベアリングを介して支持されている。複数の変速ローラ31は、対向配置された入力ディスク11と出力ディスク21とで形成された断面略円形の環状溝内でその傾角を変化させ得る。また、複数の変速ローラ32は、対向配置された入力ディスク12と出力ディスク22とで形成された断面略円形の環状溝内でその傾角を変化させ得る。なお、変速ローラ31、32の傾角が変化する際の回転量(角度)は同じでも、その回転方向は逆向きである。外側に入力ディスク11、12があり、中央に出力ディスク21、22が配置されているためである。
【0023】
トロイダル式無段変速機100は、この変速ローラ31、32の傾角変化によって、入力ディスク11、12と出力ディスク21、22との間の動力伝達比、つまり変速比を可変とする。変速ローラ31、32が図1中に実線で示した位置にあるときが増速側(高速側)となり、図1中に2点鎖線で示した位置にあるときが減速側(低速側)となる。このとき、変速ローラ31、32と入力ディスク11、12および出力ディスク21、22とが接触する接触面間には、トラクション油を介してトラクションによって動力伝達がなされる。このため、その伝達動力に相応する押付け荷重(垂直抗力)が、接触する両部材間に作用していることが必要となる。この押付け荷重を作用させるのが、入力ディスク12の後端側に設けられた油圧シリンダ71である。この油圧シリンダ71のエンドロード油圧室72にトラクション油が所定圧力で充填されると、入力ディスク12が前方(図左方向)へ押されて、前述の各接触面間には必要となる高圧の押付け荷重が発生する。
【0024】
ここで、前記押付け荷重をFn、油圧シリンダ71による入力ディスク12に作用する荷重(エンドロード)をFend、変速ローラ31、32の水平方向からの傾角をθとすると、Fend=Fn・cosθ (数式1)という関係がある。従って、押付け荷重Fnの調整は、変速ローラ31、32の傾角に応じたエンドロードFendの制御によってなされる。
【0025】
(2)塑性加工工程
塑性加工工程は、入力ディスク、出力ディスクおよび変速ローラを組付けた状態で、それらの転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下となる加工応力に相応する押付け荷重を、それらの接触面間に印加させつつ、変速ローラの傾角を変化させて全変速範囲を1回以上実働させて、前記転動部を塑性加工する工程である。
【0026】
上記トロイダル式無段変速機100でいえば、変速ローラ31、32と入力ディスク11、12および出力ディスク21、22との接触面間に作用するヘルツ面圧が弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下となるように、前記押付け荷重Fnを印加させる工程となる。ここで、変速ローラ31、32の傾角が特定域にある場合のみについて塑性加工を行うと、入力ディスク11、12の環状溝11a、12aや出力ディスク21、22の環状溝21a、22aによって形成される転動面に段差等を生じるため好ましくない。そこで、トロイダル式無段変速機100の全変速範囲に相当する分の傾角変化を少なくとも1回以上行いつつ、上記塑性加工を行う。この際、押付け荷重Fnを弾性限界〜シェイクダウン限界内で順次に増大させて、上記塑性加工工程を複数回行うとより好ましい。但し、あまり長時間繰返し行うのは寿命低下を招くため好ましくない。
【0027】
ここで、弾性限界およびシェイクダウン限界の荷重は、K.L.Johnson著”Contact Mechanics”に基づいて、次のように計算される。すなわち、接触楕円のアスペクト比が1のとき、弾性限界のヘルツ面圧(p0)Eおよびシェイクダウン限界のヘルツ面圧(p0)Pは、Trescaの降伏条件より、 (p0)E =1.6Y (数式2)、(p0)P =2.35Y (数式3)となる。ここで、Yは、転動部の構成金属材料の引張降伏応力である。この引張降伏応力Yは、使用する金属材料の引張試験値から求められる。この他、引張降伏応力Yは、ビッカース硬さH(HV)から、Y=3.1Hによって求めても良い。
【0028】
また、前述の押付け荷重Fnと、上記ヘルツ面圧(p0)との間には、Fn=(2/3)・πab・p0 (数式4)なる関係がある。ここで、a、bは、接触楕円の長軸および短軸の長さである。
こうして転動部の構成金属材料に応じて、(数式2)および(数式3)から、弾性限界のヘルツ面圧(p0)E 、シェイクダウン限界のヘルツ面圧(p0)P が決定される。また、これらの各ヘルツ面圧p0から、それぞれの場合に必要となる押付け荷重Fnが(数式4)から算出される。さらに(数式1)から、この押付け荷重Fnの発生に必要となるエンドロードFendが算出される。その結果、上記トロイダル式無段変速機100の例でいえば、エンドロード油圧室72に印加すべき油圧が決定される。
【0029】
【実施例】
次に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0030】
(トロイダル式無段変速機の諸元等)
前述したトロイダル式無段変速機100を構成する入力ディスク11、12、出力ディスク21、22および変速ローラ31、32(以下、適宜、単に「転動部材」という。)に塑性加工工程を施した。この塑性加工前の各転動部材の材質、サイズ等は次の通りである。
【0031】
使用した構成金属材料は、軸受鋼SUJ2(JIS)である。これを所定形状に加工した後、焼入れ焼戻しを行い、その後に仕上げ加工を施した。このときの各転動部材の硬さは750HVであった。これにより、前述の(数式2)〜(数式4)により、弾性限界ヘルツ面圧(p0)E =3.7GPa、シェイクダウン限界ヘルツ面圧(p0)P =5.4GPaと見積られる。そして、本実施例では塑性加工時の最大ヘルツ応力を弾性限界ヘルツ面力の約1.2倍である4.4GPaと選定した。なお、塑性加工前の変速ローラ31、32のクラウニング部分は断面円弧状であった。
変形ローラは外径100mm、厚さ13mmであり、入力ディスク、出力ディスクは外径176mm、環状溝の半径50mmである。
【0032】
(塑性加工工程)
本実施例では、トロイダル式無段変速機100の実機そのものを使用せず、図1に示した主要部のみを取出して、次のように転動部材の塑性加工を行うこととした。
先ず、油圧シリンダ71に印加するエンドロードFendおよび入力軸4にかける入力トルクを充分に低い値にセットした。この状態で、変速ローラ31、32の傾角を制御して最大減速(図1の2点鎖線位置)から最大増速(図1の実線位置)の間をスイープさせた。入力は、入力軸4の前方に載置した駆動モータにより行った。エンドロード油圧室72への油圧供給は、別途用意した油圧発生装置によって行った。
【0033】
次に、エンドロードFendを段階的に上げながら、同様の操作を繰返し行った。最終的に、前述の最大ヘルツ応力が4.4GPaとなるまで行い、その後にエンドロードFendを低下させた。このとき、変速ローラ31、32の傾角に応じてエンドロード油圧室72の油圧を調整することで、そのヘルツ面圧に必要な押付け荷重Fnを発生させた。ちなみに、1スイープあたりの変速ローラ31、32の傾角θは、26〜−26度とし、最大ヘルツ応力下で2回スイープを行った。また、最大ヘルツ応力下での入力トルクおよび入力軸4の回転数は、それぞれ、100Nmおよび500rpmとした。
【0034】
こうして、入力ディスク11、12および出力ディスク21、22の転動面全体に塑性加工を施した。このとき、環状溝11a、12aおよび環状溝21a、22aによって形成されたキャビティの形状は基本的に変わらなかった。この塑性加工により、転動面の表面層部分は加工硬化されて変形抵抗を増し、また、圧縮残留応力が付与された状態となった。変速ローラ31、32は転動部であるクラウニング頂点付近が塑性加工を受けて、断面が円弧状から、その先端部分が鈍化した非円弧状となった。この結果、変速ローラ31、32と入力ディスク11、12および出力ディスク21、22との間の接触領域における応力分布は平坦化して、両者間に作用する接触応力(ヘルツ面圧)のピーク値は低下した。勿論、変速ローラ31、32の場合も、その表面層部分が加工硬化されて変形抵抗を増し、また圧縮残留応力が付与された状態となった。
【0035】
(評価)
上記の塑性加工工程を施した転動部材を用いて、転動疲労試験を行った。
この転動疲労試験は、上記の各転動部材を実機であるトロイダル式無段変速機100に組付けて行った。このときの入力軸4の回転数を1000rpm、減速比を1(1/1)、押付け荷重Fnを34kN、40kN、46kNの3水準ととした。なお、比較例として、上記塑性加工のみを施さなかったものを用意して、実施例と同様に試験を行った。
【0036】
こうして、実施例と比較例とについて、各押付け荷重(kN)と破損に至るまでの繰返し数(回)との関係を調べた。その結果を図2に示す。図2から明らかなように、本発明に係る実施例の場合、従来のもの(比較例)に対して、いずれの押付け荷重下においても、疲労耐久性(寿命)が3倍以上も顕著に延びることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るトロイダル式無段変速機の一実施例を示す主要断面図である。
【図2】トロイダル式無段変速機における押付け荷重と破損に至るまでの繰返し数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
11、12 入力ディスク
21、22 出力ディスク
31、32 変速ローラ
4 入力軸
71 油圧シリンダ
100 トロイダル式無段変速機
Claims (5)
- 入力軸に連動して回転駆動される入力ディスクと、出力軸と連動して該出力軸を回転駆動させる出力ディスクと、該入力ディスクおよび該出力ディスクによって挟持されつつ回転すると共に傾角の変化する変速ローラとを少なくとも備え、該入力ディスクと該出力ディスクとの間の動力伝達比である変速比が該変速ローラの傾角によって変化するトロイダル式無段変速機であって、
前記入力ディスク、前記出力ディスクまたは前記変速ローラの少なくとも1つからなる転動部材の転動部は、該転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下の加工応力によって塑性加工される塑性加工工程の施されたものであることを特徴とするトロイダル式無段変速機。 - 前記塑性加工工程は、前記入力ディスク、前記出力ディスクおよび前記変速ローラを組付けた状態で、前記加工応力に相応する押付け荷重を該変速ローラを挟持した該入力ディスクと該出力ディスクとの間に印加させつつ、該変速ローラの傾角を変化させて全変速範囲を1回以上実働させる工程である請求項1に記載のトロイダル式無段変速機。
- 前記塑性加工工程後の変速ローラは、非円弧形状の転動部を有する請求項2に記載のトロイダル式無段変速機。
- 入力軸に連動して回転駆動される入力ディスクと、出力軸と連動して該出力軸を回転駆動させる出力ディスクと、該入力ディスクおよび該出力ディスクによって挟持されつつ回転すると共に傾角の変化する変速ローラとを少なくとも備えて該入力ディスクと該出力ディスクとの間の動力伝達比である変速比が該変速ローラの傾角によって変化するトロイダル式無段変速機で使用される該入力ディスク、該出力ディスクまたは該変速ローラの少なくとも1つからなる転動部材であって、
前記転動部材の転動部は、該転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下の加工応力によって塑性加工される塑性加工工程の施されたものであることを特徴とするトロイダル式無段変速機用転動部材。 - 入力軸に連動して回転駆動される入力ディスクと、出力軸と連動して該出力軸を回転駆動させる出力ディスクと、該入力ディスクおよび該出力ディスクによって挟持されつつ回転すると共に傾角の変化する変速ローラとを少なくとも備えて該入力ディスクと該出力ディスクとの間の動力伝達比である変速比が該変速ローラの傾角によって変化するトロイダル式無段変速機で使用される該入力ディスク、該出力ディスクまたは該変速ローラの少なくとも1つからなる転動部材の加工方法であって、
前記入力ディスク、前記出力ディスクおよび前記変速ローラを組付けた状態で、前記転動部材の転動部を構成する金属材料の弾性限界ヘルツ応力の1.1倍以上でシェイクダウン限界以下となる加工応力に相応する押付け荷重を、該変速ローラを挟持した該入力ディスクと該出力ディスクとの間に印加させつつ、該変速ローラの傾角を変化させて全変速範囲を1回以上実働させ、該転動部材の転動部を塑性加工する塑性加工工程を備えることを特徴とするトロイダル式無段変速機用転動部材の加工方法。
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