JP2004346177A - 金ナノ粒子が固定化されたインプリントポリマー - Google Patents
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Abstract
【課題】認識対象分子に対する特異的識別能を有するポリマーを提供する。
【解決手段】金ナノ粒子が固定化されたインプリントポリマー及び該ポリマーを含む認識対象分子の測定用デバイス、並びに認識対象分子の測定方法であって、下記の工程:(a)該デバイスと試料とを接触させる工程;及び(b)該デバイスと認識対象分子との相互作用を金ナノ粒子に由来する例えばプラズモン吸収変化などのシグナル変化により検出する工程を含む方法。
【選択図】 なし
【解決手段】金ナノ粒子が固定化されたインプリントポリマー及び該ポリマーを含む認識対象分子の測定用デバイス、並びに認識対象分子の測定方法であって、下記の工程:(a)該デバイスと試料とを接触させる工程;及び(b)該デバイスと認識対象分子との相互作用を金ナノ粒子に由来する例えばプラズモン吸収変化などのシグナル変化により検出する工程を含む方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、認識対象分子に対する特異的識別能を有し、ナノサイズの金粒子が固定化されたポリマー及び該ポリマーを用いた認識対象分子の測定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、サイズ量子効果によりユニークな特徴を示すナノサイズの構造物の合成と応用に着目した数多くの研究が行われている。金ナノ粒子は粒径および粒子間距離に依存して色変化を起すこと、及び表面への化学修飾が容易であることからセンサーデバイスへの展開が期待されている。特に金ナノ粒子に生体分子を結合させ、生体分子間の特異的反応を検出する新しいシステムへの期待が大きい。
【0003】
Bangらは抗体で修飾した金ナノ粒子が抗原と特異的に結合すると粒子が凝集する現象に基づいたイムノアッセイ法を開示している(非特許文献1)。Mirkinらは特異的配列を有するポリヌクレオチドの検出において、特異的配列と相補的配列を有するヌクレオチドを結合させた金ナノ粒子とターゲットポリヌクレオチドがハイブリダイゼーションすると金粒子が凝集する現象を利用する技術を開示している(非特許文献2)。その他に、抗体、レクチン、又は重金属などの検出システムが非特許文献3ないし5に報告されている。
【0004】
もっとも、これらのシステムは溶液中でのナノ粒子の凝集を利用しているため、繰り返しの使用が困難であり、また分析機器へ組み込んでハイスループットに検体を処理することが困難であった。このような観点から、金ナノ粒子を固相担体上に固定化したシステムが実用的デバイスを構築するには最適であると思われる。例えば、単分子層として固定化された金クラスターはナノ電子デバイス(非特許文献6)や光学検出デバイス(非特許文献7)として実用的レベルにあることが見出されている。しかし、固相担体上で化学反応や生体分子間相互作用を検出するシステムで実用レベルのものは報告されていなかった。
【0005】
一方、ある分子を特異的に認識する化合物として生体分子(抗体やポリヌクレオチドなど)をそのまま利用する例が多いが、生体分子は入手性、安定性に問題があることが多く、一般に極めて高価である。実用的観点からは合成高分子により分子認識能を付与することが好ましい。すぐれた分子認識能を合成ポリマーに付与する手法として、Molecular Inprinting法が知られている(非特許文献8)。インプリントポリマー(IP)はポリマー化反応混合物にあらかじめ認識対象分子を添加して重合反応を行うことにより作成でき。ポリマー化反応中にテンプレート分子との相互作用により三次元構造が固定され、ポリマー鎖中に分子認識部位が形成されると考えられている。
【0006】
インプリントポリマーの製造方法と使用に関しては特許文献1に開示されており、イムノアッセイ、特にラジオイムノアッセイによる認識対象分子検出法が記載されている。その方法は、既知量の標識された認識対象分子と試料中の未知量の認識対象分子とを、競合的に人工の分子認識物質(ポリマー)と反応させて、上清中の遊離の標識された認識対象分子、またはポリマーに結合した標識された認識対象分子のいずれか一方を測定するアッセイ方法である。もっとも、この方法では、別に標識を付した試薬の調製が必須であり、このための試薬構成が複雑となるという問題がある。さらに、認識対象分子の検出のために遊離の標識分子と、人工抗体と結合した標識・認識対象分子複合体とを分離して計測する必要があり、検出操作も煩雑となるなどの問題が生じる。
【0007】
このインプリンティングポリマーを利用したアッセイ法として、特許文献2には、かび臭物質の検出方法として、水晶振動子の周波数変化あるいは表面プラズモン共鳴を利用した光の共鳴角変化を検出する方法が開示されている。この方法では水晶振動子上あるいは金属薄膜上にモレキュラーインプリントポリマーを層状に固定化させる必要が生じ、そのための特殊なポリマー合成技術が必要となり、また、検出に関しては、水晶振動子あるいは、表面プラズモン共鳴装置といった高価で特殊な専用装置を必要とするといった問題が生じる。特に表面プラズモン共鳴装置を利用した場合、薄膜近傍のエバネッセント波という極めて特殊な光学パラメータを使用するため、装置が非常に高価になるという問題がある。
【0008】
特殊な装置を必要とせず、簡便に測定対象とする認識対象分子を検出するためには、吸収、蛍光、燐光、散乱光、旋光などの光学的特性の変化を検出する方法が好ましい。非特許文献9及び特許文献3には認識対象分子の認識により分光学的変化を示すポリマーセンサーが報告されている。しかしながら、この方法では認識対象分子と相互作用して光学特性が変化する化合物(ポルフィリン類、シクロデキストリン類、クラウンエーテル類、カリックスアレーン類、スフェランド類およびクリプタンド類など)をあらかじめ選定し、それを重合可能な機能性モノマーに化学変換しなければならず、簡便性及び汎用性に問題があった。従って、簡便に検出可能なシグナルを発信することが可能な分子認識物質を担持させたポリマーの提供が強く望まれていた。
【非特許文献1】Pure Appl. Chem. 68, 1873−1879 (1996)
【非特許文献2】Anal. Chem.,72, 5535−5541 (2000)
【非特許文献3】Anal. Chem., 74, 1624−1628 (2002)
【非特許文献4】J. Am. Chem. Soc., 123, 8226−8230 (2001)
【非特許文献5】Nano. Lett., 1, 165−167 (2001)
【非特許文献6】Nature, 67, 486 (2000)
【非特許文献7】Anal. Chem., 74, 504−509 (2002)
【非特許文献8】J. Am. Chem. Soc., 122, 5218−5219 (2000)
【非特許文献9】J. Am. Chem. Soc., 120, 5577−5578 (1998)
【特許文献1】特表平8−506320号公報
【特許文献2】特開平8−15160号公報
【特許文献3】特開平11−255948号
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、認識対象分子を特異的に認識することができ、かつ認識のプロセスおよび認識結果を光学的及び/又は物理的なシグナル変化として検出可能な手段を提供することを課題としている。本発明の別の課題は、上記の特徴を有する手段であって、調製が簡便で、かつ繰り返し使用が可能な手段を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題について鋭意研究を行った結果、認識対象分子を特異的に認識可能なインプリントポリマーに金ナノ粒子を固定化することにより、認識対象分子の認識過程及び認識結果を該インプリントポリマー中の金ナノ粒子に由来するシグナル変化として検出することができ、極めて高精度かつ高感度に認識対象分子を測定できることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明により、金ナノ粒子が固定化されたインプリントポリマーが提供される。この発明の好ましい態様によれば、温度感受性である上記のインプリントポリマーが提供される。また、上記のインプリントポリマーを含む認識対象分子の測定用デバイスも本発明により提供される。
【0012】
別の観点からは、認識対象分子の測定方法であって、下記の工程:
(a)上記のデバイスと試料とを接触させる工程;及び
(b)上記デバイスと認識対象分子との相互作用を金ナノ粒子に由来するシグナル変化により検出する工程
を含む方法も提供される。この発明の好ましい態様によれば、シグナル変化がプラズモン吸収変化である上記の方法、及びシグナル変化がポリマーの膨張率変化に起因するシグナル変化である上記の方法が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
本明細書において、金ナノ粒子とは、平均粒径がナノメートルの範囲である金粒子のことであり、形状は特に限定されないが、例えば、球形であることが好ましい。平均粒径は特に限定されない。金ナノ粒子の調製方法は特に限定されないが、例えば、保護ポリマー存在下で金属塩を溶液中で還元する方法が一般的である。例えば、表面、第17巻、279 頁(1979年);J. Mater. Chem., 12, 2862−2865 (2002);及び特開平5−224006号公報などに記載された方法を利用することができる。反応溶媒及び反応温度も特に限定されないが、水溶液系、水と有機溶媒との混合溶媒系、又は有機溶媒中のいずれの系で反応を行ってもよく、好ましくは水と有機溶媒との混合溶媒系又は有機溶媒中での反応であり、さらに好ましくは水と有機溶媒との混合溶媒系での反応である。
【0014】
インプリントポリマーとは、重合反応の過程においてテンプレート分子の三次元構造がポリマー中に固定され、ポリマー中に分子認識部位が形成されたポリマーである。インプリントポリマーは、あらかじめ認識対象分子を添加して重合反応を行うことにより調製できることが知られているが、本発明のポリマーは、認識対象分子と金ナノ粒子の共存下で重合を行うことにより製造できる。
【0015】
インプリントポリマーは、例えば、以下の3工程を含む方法により調製することができる。
(1)テンプレート分子に機能性モノマー(通常はテンプレート分子と結合可能な官能基と重合可能なビニル基をもつ2官能性のモノマー)を共有結合または非共有結合により結合させ、テンプレート分子−機能性モノマー複合体を形成させる工程;
(2)テンプレート分子−機能性モノマー複合体と必要に応じて他のモノマーの1種以上とを含む溶液に架橋剤と重合開始剤とを加えて重合反応を行う工程;及び
(3)得られたポリマーからテンプレート分子を抽出して除去し、特異的結合部位を形成する工程。上記工程(2)において、架橋剤は重合反応中にテンプレート分子とポリマー間の相補性を保つのために用いられる。本発明のインプリントポリマーの製造は、上記の工程(2)において金ナノ粒子を添加することにより行うことができる。金ナノ粒子の添加量は特に限定されない。
【0016】
機能性モノマーの種類は特に限定されず、例えば、可逆的共有結合(例えば、ホウ酸エステル、アセタール、ケタール、アミド、シッフ塩基、配位結合など)を利用するモノマーであってもよく、あるいは水素結合などの非共有結合を利用するモノマーであってよい。認識対象分子をそのままテンプレート分子として利用でき、重合後のテンプレート分子の回収が容易で、低コスト生産が可能な機能性モノマーを利用することが好ましく、このような観点から、非共有結合を利用するモノマーが好ましい。
【0017】
より具体的には、機能性モノマーとして、例えば、メタクリル酸、アクリル酸およびそれらの誘導体、ビニルイミダゾール、又はビニルピリジンなどが挙げられるが、水素結合する際のドナーにもアクセプターにもなりうるカルボキシル基を有するメタクリル酸、アクリル酸、およびそれらの誘導体を使用することが好ましい。また、本発明のポリマーに温度感受性を付与すると、認識対象分子との相互作用及び測定のために最適な温度条件を設定することができる。温度感受性ポリマーを製造するためのモノマー成分として、例えば、N−イソプロピルアクリルアミドを用いることが好ましい。
【0018】
インプリントポリマーを製造するためのテンプレート分子の種類は特に限定されず、例えば、有機低分子化合物(好ましくは生理活性化合物)、アミノ酸およびその誘導体、糖化合物、核酸、ペプチド、蛋白質、脂質などをあげることができる。重合を行うにあたり、2種以上のテンプレート化合物を用いてもよい。重合反応に用いる溶媒は特に限定されないが、合成されるポリマーを多孔性にするためのpore formerとして作用する溶剤を選択することが好ましい。架橋剤としては、重合中にテンプレート分子と高分子間との相補性を保つために最適なものを適宜選択することができる。重合開始剤の種類は特に限定されず、当業者が適宜選択できる。本発明の方法において、このテンプレート分子を認識対象分子として用いることができる。
【0019】
上記のインプリントポリマーは認識対象分子の測定のためのデバイスとして利用することができる。上記のインプリントポリマーを含む本発明の測定用デバイスの形状は特に限定されず、認識対象分子の測定のために好適な形状を適宜選択可能である。粒子状、板状、棒状などのほか、各種の分析機器への組み込みに適した形状を適宜選択できる。
【0020】
本発明の方法は、認識対象分子の測定方法であって、下記の工程:
(a)上記のインプリントポリマーを含む認識対象分子の測定用デバイスと試料とを接触させる工程;及び
(b)上記デバイスと認識対象分子との相互作用を金ナノ粒子に由来するシグナル変化により検出する工程
を含む方法ことを特徴としている。
相互作用の種類は特に限定されず、例えば、イオン結合(静電的相互作用)、共有結合、配位結合、金属結合、分子間結合(水素結合、ファンデルワールス力)、疎水結合などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0021】
金ナノ粒子に由来するシグナル変化の種類は特に限定されないが、例えば、光学的なシグナル変化及び物理的なシグナル変化からなる群から選ばれる1種以上の変化を利用することができる。例えば、シグナル変化としてプラズモン吸収変化を利用することができる。また、ポリマーの膨張率変化に起因して生じる金ナノ粒子からのシグナル変化を利用することもできる。本明細書において用いられる「金ナノ粒子に由来するシグナル変化」の用語は、このようなシグナル変化を含めて最も広義に解釈する必要がある。
【0022】
本明細書において用いられる「測定」の用語は、検出、定量、及び定性のための測定を含み、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。試料の種類も特に限定されず、ヒトを含む哺乳類動物から分離・採取された血液、組織、器官などの生体試料のほか、土壌、上下水、排水、大気、排気ガスなど、あらゆる試料を測定対象として用いることができる。通常は試料を水や有機溶媒などの溶媒中に溶解又は懸濁し、得られた溶液又は懸濁液と上記デバイスとを接触させ、その後に工程(b)を行うことができる。接触による上記デバイスと認識対象分子との反応温度は特に限定されず、通常は室温から50℃以下の範囲の温度で反応を行うことができる。シグナル変化の検出も好ましくは工程(a)と同じ温度で行うことができ、室温から50℃以下の温度で行うことができる。
【0023】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
例1:アドレナリン検出センサーの調製
(金粒子の調製)
テトラオクチルアンモニウムブロミド(TOAB, 3.3g, 6.0mmol)をトルエン400mlに溶解し、テトラクロロ金(III)酸・4水和物の水溶液 (15mM, 200ml, 3.0mmol)を添加した。この溶液を激しく攪拌しながら11−メルカプトウンデカン酸(MUA, 655mg, 3.0mmol)のトルエン溶液(100ml)を少量ずつ添加し、ついで水素化ホウ素ナトリウム水溶液(0.30M, 100ml, 30mmol)を滴下した。1時間攪拌した後、有機層を分液し、蒸留水で洗浄した。減圧下で溶媒を完全に除去した後、1日間減圧乾燥をおこなった。得られた黒色固体を2℃/分の速度で昇温し、155℃にて30分間加熱した。加熱処理品をトルエン50mlに分散させ、過剰のTOABとMUAを除去するためにクロロホルム800mlを加えて濾取した。
【0024】
(インプリントポリマー(IP)の合成)
ジメチルスルホキシド(2.7ml)に温度感受性ポリマー原料であるN−イソプロピルアクリルアミド(3.65mmol)、アクリル酸(0.23mmol)、架橋剤としてN,N’−メチレンビスアクリルアミド(0.23mmol)、テンプレートとして塩酸アドレナリン(0.23mmol)、メルカプトウンデカン酸で表面修飾した金ナノ粒子(230mg)を添加し、60℃にて24時間重合反応を行った。得られたポリマーをアドレナリンの吸収スペクトルをモニターしながらメタノールと含水酢酸(9:1, v/v)で十分に洗浄してアドレナリン分子を完全に除去した。次に水洗を行い、減圧乾燥した。また、比較用ポリマーとして、上記重合反応においてアドレナリンを添加せずに合成したnon−インプリントポリマー(NP)を同様に調製した。
【0025】
(ポリマー形状の観察)
透過型電子顕微鏡(TEM)によるIP像を図1に示す。金ナノ粒子の平均粒経は5.3nm (cv : 8.5%, n = 445)であり、ナノ粒子はIP中、2nmの隣接粒子間距離で均一に分散されていることがわかった。
【0026】
例2:アドレナリン分子の検出
調製したポリマーの水中およびアドレナリン水溶液(1mM)の40℃における可視吸収スペクトルを測定した。結果を図2(a)に示した。水中では吸収極大が533nmに観測されるが、アドレナリン存在下では22nmの短波長化が観測された。検出感度とダイナミックレンジを調べるため、種々のアドレナリン濃度でのスペクトル測定を行った。結果を図2(b)に示す。アドレナリン濃度が10−5から10−3 Mの範囲で短波長化の程度が直線的関係を示した。この結果は、得られたIPを用いてプラズモン吸収シフトを観測することによりアドレナリンを定量できることを示している。
【0027】
15℃から60℃の種々の温度でIPとNPをアドレナリン水溶液(1mM)中でインキュベートして、吸着したアドレナリンの量を温度に対してプロットした。結果を図3(a)に示す。この結果から、IPへのアドレナリン吸着量はNPの1.8−4.9倍であり、十分な選択性を有することが明らかになった。つぎに、ポリマーの膨潤率(V/V0)の温度依存性を調べた。ここで、Vは水中またはアドレナリン水溶液中でのポリマーの体積、V0は合成時の体積である。結果を図3(b)に示す。ポリマーの膨潤率は温度だけでなくアドレナリンの有無にも影響されており、IPとNPとでアドレナリンの有無により明確な違いが観測された。IPはアドレナリン存在下で明確な体積の増加を示した。IPで観測された膨張により金ナノ粒子間の距離が変化し、その結果プラズモン吸収極大が短波シフトしたものと考えられる。
【0028】
例3:分子認識の選択性
アドレナリンと類似する構造を有する化合物を用いてIPによる分子認識の選択性を調べた。下記に示した各化合物(0.1mM)をIP又はNPとインキュベートし、その吸収極大を水中での吸収極大と比較し、シフト幅をプロットした。結果を図4に示す。
【0029】
【化1】
【0030】
図4に示すように、IPはアドレナリンとインキュベートした場合に最も大きな吸収シフトを示すが、NPは被験化合物の構造によらずにシフト幅が小さかった。この結果から、IPはテンプレート分子であるアドレナリンに対して選択性を有しており、このIPがアドレナリン特異的センサーとして利用可能であることが明らかである。また、アドレナリンと同様のオルト−ジヒドロキシルフェニル構造を有するカテコールは吸収シフトを示さなかったことから、アドレナリンのIPへの取り込みは、オルト−ジヒドロキシルフェニル構造に支配されるものではないことが示唆された。さらに、ポリマー中のアクリル酸由来のカルボキシル基は静電的相互作用または水素結合性相互作用により分子を捕捉するのに効果的であると考えられるが、カルボキシル基と相互作用可能な官能基を持った化合物はIPを使用した場合にはシフトを示さないか、示してもわずかであった。一方、NPでは大きなシフトが観測された。これらの結果から、IPによる分子の捕捉はカルボキシル基との単純な相互作用に基づくものではなく、ポリマーネットワーク中での種々の官能基との複合的な相互作用に基づく分子認識によると考えることができる。
【0031】
【発明の効果】
金ナノ粒子を固定化した本発明のインプリントポリマーは、通常のインプリントポリマーと同様に高い分子認識能を保持しており、かつ分子認識プロセスを少なくとも2つのシグナル、すなわち膨張率変化及び色変化で出力できるので、認識対象分子を特異的に測定するためのデバイスとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】金ナノ粒子を含む本発明のインプリントポリマーの電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明のインプリントポリマーを用いて認識対象分子であるアドレナリン分子の測定を行った結果を示した図である。図中、(a)はアドレナリン存在下において22nmの短波長化が生じた結果を示し、(b)はこの短波長化がアドレナリン濃度依存的に生じることを示す。
【図3】本発明のインプリントポリマーを用いて認識対象分子であるアドレナリン分子の測定を種々の温度で行った結果を示した図である。図中、(a)は本発明のインプリントポリマーがnon−インプリンティングポリマーと比較してアドレナリンに対して高い選択性を有することを示しており、(b)はアドレナリンの認識により本発明のインプリントポリマーでは体積が膨張する結果を示す。
【図4】本発明のインプリントポリマーを認識対象分子であるアドレナリン及びそれに類似する各種の化合物と反応させた結果を示した図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、認識対象分子に対する特異的識別能を有し、ナノサイズの金粒子が固定化されたポリマー及び該ポリマーを用いた認識対象分子の測定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、サイズ量子効果によりユニークな特徴を示すナノサイズの構造物の合成と応用に着目した数多くの研究が行われている。金ナノ粒子は粒径および粒子間距離に依存して色変化を起すこと、及び表面への化学修飾が容易であることからセンサーデバイスへの展開が期待されている。特に金ナノ粒子に生体分子を結合させ、生体分子間の特異的反応を検出する新しいシステムへの期待が大きい。
【0003】
Bangらは抗体で修飾した金ナノ粒子が抗原と特異的に結合すると粒子が凝集する現象に基づいたイムノアッセイ法を開示している(非特許文献1)。Mirkinらは特異的配列を有するポリヌクレオチドの検出において、特異的配列と相補的配列を有するヌクレオチドを結合させた金ナノ粒子とターゲットポリヌクレオチドがハイブリダイゼーションすると金粒子が凝集する現象を利用する技術を開示している(非特許文献2)。その他に、抗体、レクチン、又は重金属などの検出システムが非特許文献3ないし5に報告されている。
【0004】
もっとも、これらのシステムは溶液中でのナノ粒子の凝集を利用しているため、繰り返しの使用が困難であり、また分析機器へ組み込んでハイスループットに検体を処理することが困難であった。このような観点から、金ナノ粒子を固相担体上に固定化したシステムが実用的デバイスを構築するには最適であると思われる。例えば、単分子層として固定化された金クラスターはナノ電子デバイス(非特許文献6)や光学検出デバイス(非特許文献7)として実用的レベルにあることが見出されている。しかし、固相担体上で化学反応や生体分子間相互作用を検出するシステムで実用レベルのものは報告されていなかった。
【0005】
一方、ある分子を特異的に認識する化合物として生体分子(抗体やポリヌクレオチドなど)をそのまま利用する例が多いが、生体分子は入手性、安定性に問題があることが多く、一般に極めて高価である。実用的観点からは合成高分子により分子認識能を付与することが好ましい。すぐれた分子認識能を合成ポリマーに付与する手法として、Molecular Inprinting法が知られている(非特許文献8)。インプリントポリマー(IP)はポリマー化反応混合物にあらかじめ認識対象分子を添加して重合反応を行うことにより作成でき。ポリマー化反応中にテンプレート分子との相互作用により三次元構造が固定され、ポリマー鎖中に分子認識部位が形成されると考えられている。
【0006】
インプリントポリマーの製造方法と使用に関しては特許文献1に開示されており、イムノアッセイ、特にラジオイムノアッセイによる認識対象分子検出法が記載されている。その方法は、既知量の標識された認識対象分子と試料中の未知量の認識対象分子とを、競合的に人工の分子認識物質(ポリマー)と反応させて、上清中の遊離の標識された認識対象分子、またはポリマーに結合した標識された認識対象分子のいずれか一方を測定するアッセイ方法である。もっとも、この方法では、別に標識を付した試薬の調製が必須であり、このための試薬構成が複雑となるという問題がある。さらに、認識対象分子の検出のために遊離の標識分子と、人工抗体と結合した標識・認識対象分子複合体とを分離して計測する必要があり、検出操作も煩雑となるなどの問題が生じる。
【0007】
このインプリンティングポリマーを利用したアッセイ法として、特許文献2には、かび臭物質の検出方法として、水晶振動子の周波数変化あるいは表面プラズモン共鳴を利用した光の共鳴角変化を検出する方法が開示されている。この方法では水晶振動子上あるいは金属薄膜上にモレキュラーインプリントポリマーを層状に固定化させる必要が生じ、そのための特殊なポリマー合成技術が必要となり、また、検出に関しては、水晶振動子あるいは、表面プラズモン共鳴装置といった高価で特殊な専用装置を必要とするといった問題が生じる。特に表面プラズモン共鳴装置を利用した場合、薄膜近傍のエバネッセント波という極めて特殊な光学パラメータを使用するため、装置が非常に高価になるという問題がある。
【0008】
特殊な装置を必要とせず、簡便に測定対象とする認識対象分子を検出するためには、吸収、蛍光、燐光、散乱光、旋光などの光学的特性の変化を検出する方法が好ましい。非特許文献9及び特許文献3には認識対象分子の認識により分光学的変化を示すポリマーセンサーが報告されている。しかしながら、この方法では認識対象分子と相互作用して光学特性が変化する化合物(ポルフィリン類、シクロデキストリン類、クラウンエーテル類、カリックスアレーン類、スフェランド類およびクリプタンド類など)をあらかじめ選定し、それを重合可能な機能性モノマーに化学変換しなければならず、簡便性及び汎用性に問題があった。従って、簡便に検出可能なシグナルを発信することが可能な分子認識物質を担持させたポリマーの提供が強く望まれていた。
【非特許文献1】Pure Appl. Chem. 68, 1873−1879 (1996)
【非特許文献2】Anal. Chem.,72, 5535−5541 (2000)
【非特許文献3】Anal. Chem., 74, 1624−1628 (2002)
【非特許文献4】J. Am. Chem. Soc., 123, 8226−8230 (2001)
【非特許文献5】Nano. Lett., 1, 165−167 (2001)
【非特許文献6】Nature, 67, 486 (2000)
【非特許文献7】Anal. Chem., 74, 504−509 (2002)
【非特許文献8】J. Am. Chem. Soc., 122, 5218−5219 (2000)
【非特許文献9】J. Am. Chem. Soc., 120, 5577−5578 (1998)
【特許文献1】特表平8−506320号公報
【特許文献2】特開平8−15160号公報
【特許文献3】特開平11−255948号
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、認識対象分子を特異的に認識することができ、かつ認識のプロセスおよび認識結果を光学的及び/又は物理的なシグナル変化として検出可能な手段を提供することを課題としている。本発明の別の課題は、上記の特徴を有する手段であって、調製が簡便で、かつ繰り返し使用が可能な手段を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題について鋭意研究を行った結果、認識対象分子を特異的に認識可能なインプリントポリマーに金ナノ粒子を固定化することにより、認識対象分子の認識過程及び認識結果を該インプリントポリマー中の金ナノ粒子に由来するシグナル変化として検出することができ、極めて高精度かつ高感度に認識対象分子を測定できることを見出した。本発明は上記の知見を基にして完成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明により、金ナノ粒子が固定化されたインプリントポリマーが提供される。この発明の好ましい態様によれば、温度感受性である上記のインプリントポリマーが提供される。また、上記のインプリントポリマーを含む認識対象分子の測定用デバイスも本発明により提供される。
【0012】
別の観点からは、認識対象分子の測定方法であって、下記の工程:
(a)上記のデバイスと試料とを接触させる工程;及び
(b)上記デバイスと認識対象分子との相互作用を金ナノ粒子に由来するシグナル変化により検出する工程
を含む方法も提供される。この発明の好ましい態様によれば、シグナル変化がプラズモン吸収変化である上記の方法、及びシグナル変化がポリマーの膨張率変化に起因するシグナル変化である上記の方法が提供される。
【0013】
【発明の実施の形態】
本明細書において、金ナノ粒子とは、平均粒径がナノメートルの範囲である金粒子のことであり、形状は特に限定されないが、例えば、球形であることが好ましい。平均粒径は特に限定されない。金ナノ粒子の調製方法は特に限定されないが、例えば、保護ポリマー存在下で金属塩を溶液中で還元する方法が一般的である。例えば、表面、第17巻、279 頁(1979年);J. Mater. Chem., 12, 2862−2865 (2002);及び特開平5−224006号公報などに記載された方法を利用することができる。反応溶媒及び反応温度も特に限定されないが、水溶液系、水と有機溶媒との混合溶媒系、又は有機溶媒中のいずれの系で反応を行ってもよく、好ましくは水と有機溶媒との混合溶媒系又は有機溶媒中での反応であり、さらに好ましくは水と有機溶媒との混合溶媒系での反応である。
【0014】
インプリントポリマーとは、重合反応の過程においてテンプレート分子の三次元構造がポリマー中に固定され、ポリマー中に分子認識部位が形成されたポリマーである。インプリントポリマーは、あらかじめ認識対象分子を添加して重合反応を行うことにより調製できることが知られているが、本発明のポリマーは、認識対象分子と金ナノ粒子の共存下で重合を行うことにより製造できる。
【0015】
インプリントポリマーは、例えば、以下の3工程を含む方法により調製することができる。
(1)テンプレート分子に機能性モノマー(通常はテンプレート分子と結合可能な官能基と重合可能なビニル基をもつ2官能性のモノマー)を共有結合または非共有結合により結合させ、テンプレート分子−機能性モノマー複合体を形成させる工程;
(2)テンプレート分子−機能性モノマー複合体と必要に応じて他のモノマーの1種以上とを含む溶液に架橋剤と重合開始剤とを加えて重合反応を行う工程;及び
(3)得られたポリマーからテンプレート分子を抽出して除去し、特異的結合部位を形成する工程。上記工程(2)において、架橋剤は重合反応中にテンプレート分子とポリマー間の相補性を保つのために用いられる。本発明のインプリントポリマーの製造は、上記の工程(2)において金ナノ粒子を添加することにより行うことができる。金ナノ粒子の添加量は特に限定されない。
【0016】
機能性モノマーの種類は特に限定されず、例えば、可逆的共有結合(例えば、ホウ酸エステル、アセタール、ケタール、アミド、シッフ塩基、配位結合など)を利用するモノマーであってもよく、あるいは水素結合などの非共有結合を利用するモノマーであってよい。認識対象分子をそのままテンプレート分子として利用でき、重合後のテンプレート分子の回収が容易で、低コスト生産が可能な機能性モノマーを利用することが好ましく、このような観点から、非共有結合を利用するモノマーが好ましい。
【0017】
より具体的には、機能性モノマーとして、例えば、メタクリル酸、アクリル酸およびそれらの誘導体、ビニルイミダゾール、又はビニルピリジンなどが挙げられるが、水素結合する際のドナーにもアクセプターにもなりうるカルボキシル基を有するメタクリル酸、アクリル酸、およびそれらの誘導体を使用することが好ましい。また、本発明のポリマーに温度感受性を付与すると、認識対象分子との相互作用及び測定のために最適な温度条件を設定することができる。温度感受性ポリマーを製造するためのモノマー成分として、例えば、N−イソプロピルアクリルアミドを用いることが好ましい。
【0018】
インプリントポリマーを製造するためのテンプレート分子の種類は特に限定されず、例えば、有機低分子化合物(好ましくは生理活性化合物)、アミノ酸およびその誘導体、糖化合物、核酸、ペプチド、蛋白質、脂質などをあげることができる。重合を行うにあたり、2種以上のテンプレート化合物を用いてもよい。重合反応に用いる溶媒は特に限定されないが、合成されるポリマーを多孔性にするためのpore formerとして作用する溶剤を選択することが好ましい。架橋剤としては、重合中にテンプレート分子と高分子間との相補性を保つために最適なものを適宜選択することができる。重合開始剤の種類は特に限定されず、当業者が適宜選択できる。本発明の方法において、このテンプレート分子を認識対象分子として用いることができる。
【0019】
上記のインプリントポリマーは認識対象分子の測定のためのデバイスとして利用することができる。上記のインプリントポリマーを含む本発明の測定用デバイスの形状は特に限定されず、認識対象分子の測定のために好適な形状を適宜選択可能である。粒子状、板状、棒状などのほか、各種の分析機器への組み込みに適した形状を適宜選択できる。
【0020】
本発明の方法は、認識対象分子の測定方法であって、下記の工程:
(a)上記のインプリントポリマーを含む認識対象分子の測定用デバイスと試料とを接触させる工程;及び
(b)上記デバイスと認識対象分子との相互作用を金ナノ粒子に由来するシグナル変化により検出する工程
を含む方法ことを特徴としている。
相互作用の種類は特に限定されず、例えば、イオン結合(静電的相互作用)、共有結合、配位結合、金属結合、分子間結合(水素結合、ファンデルワールス力)、疎水結合などが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0021】
金ナノ粒子に由来するシグナル変化の種類は特に限定されないが、例えば、光学的なシグナル変化及び物理的なシグナル変化からなる群から選ばれる1種以上の変化を利用することができる。例えば、シグナル変化としてプラズモン吸収変化を利用することができる。また、ポリマーの膨張率変化に起因して生じる金ナノ粒子からのシグナル変化を利用することもできる。本明細書において用いられる「金ナノ粒子に由来するシグナル変化」の用語は、このようなシグナル変化を含めて最も広義に解釈する必要がある。
【0022】
本明細書において用いられる「測定」の用語は、検出、定量、及び定性のための測定を含み、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。試料の種類も特に限定されず、ヒトを含む哺乳類動物から分離・採取された血液、組織、器官などの生体試料のほか、土壌、上下水、排水、大気、排気ガスなど、あらゆる試料を測定対象として用いることができる。通常は試料を水や有機溶媒などの溶媒中に溶解又は懸濁し、得られた溶液又は懸濁液と上記デバイスとを接触させ、その後に工程(b)を行うことができる。接触による上記デバイスと認識対象分子との反応温度は特に限定されず、通常は室温から50℃以下の範囲の温度で反応を行うことができる。シグナル変化の検出も好ましくは工程(a)と同じ温度で行うことができ、室温から50℃以下の温度で行うことができる。
【0023】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
例1:アドレナリン検出センサーの調製
(金粒子の調製)
テトラオクチルアンモニウムブロミド(TOAB, 3.3g, 6.0mmol)をトルエン400mlに溶解し、テトラクロロ金(III)酸・4水和物の水溶液 (15mM, 200ml, 3.0mmol)を添加した。この溶液を激しく攪拌しながら11−メルカプトウンデカン酸(MUA, 655mg, 3.0mmol)のトルエン溶液(100ml)を少量ずつ添加し、ついで水素化ホウ素ナトリウム水溶液(0.30M, 100ml, 30mmol)を滴下した。1時間攪拌した後、有機層を分液し、蒸留水で洗浄した。減圧下で溶媒を完全に除去した後、1日間減圧乾燥をおこなった。得られた黒色固体を2℃/分の速度で昇温し、155℃にて30分間加熱した。加熱処理品をトルエン50mlに分散させ、過剰のTOABとMUAを除去するためにクロロホルム800mlを加えて濾取した。
【0024】
(インプリントポリマー(IP)の合成)
ジメチルスルホキシド(2.7ml)に温度感受性ポリマー原料であるN−イソプロピルアクリルアミド(3.65mmol)、アクリル酸(0.23mmol)、架橋剤としてN,N’−メチレンビスアクリルアミド(0.23mmol)、テンプレートとして塩酸アドレナリン(0.23mmol)、メルカプトウンデカン酸で表面修飾した金ナノ粒子(230mg)を添加し、60℃にて24時間重合反応を行った。得られたポリマーをアドレナリンの吸収スペクトルをモニターしながらメタノールと含水酢酸(9:1, v/v)で十分に洗浄してアドレナリン分子を完全に除去した。次に水洗を行い、減圧乾燥した。また、比較用ポリマーとして、上記重合反応においてアドレナリンを添加せずに合成したnon−インプリントポリマー(NP)を同様に調製した。
【0025】
(ポリマー形状の観察)
透過型電子顕微鏡(TEM)によるIP像を図1に示す。金ナノ粒子の平均粒経は5.3nm (cv : 8.5%, n = 445)であり、ナノ粒子はIP中、2nmの隣接粒子間距離で均一に分散されていることがわかった。
【0026】
例2:アドレナリン分子の検出
調製したポリマーの水中およびアドレナリン水溶液(1mM)の40℃における可視吸収スペクトルを測定した。結果を図2(a)に示した。水中では吸収極大が533nmに観測されるが、アドレナリン存在下では22nmの短波長化が観測された。検出感度とダイナミックレンジを調べるため、種々のアドレナリン濃度でのスペクトル測定を行った。結果を図2(b)に示す。アドレナリン濃度が10−5から10−3 Mの範囲で短波長化の程度が直線的関係を示した。この結果は、得られたIPを用いてプラズモン吸収シフトを観測することによりアドレナリンを定量できることを示している。
【0027】
15℃から60℃の種々の温度でIPとNPをアドレナリン水溶液(1mM)中でインキュベートして、吸着したアドレナリンの量を温度に対してプロットした。結果を図3(a)に示す。この結果から、IPへのアドレナリン吸着量はNPの1.8−4.9倍であり、十分な選択性を有することが明らかになった。つぎに、ポリマーの膨潤率(V/V0)の温度依存性を調べた。ここで、Vは水中またはアドレナリン水溶液中でのポリマーの体積、V0は合成時の体積である。結果を図3(b)に示す。ポリマーの膨潤率は温度だけでなくアドレナリンの有無にも影響されており、IPとNPとでアドレナリンの有無により明確な違いが観測された。IPはアドレナリン存在下で明確な体積の増加を示した。IPで観測された膨張により金ナノ粒子間の距離が変化し、その結果プラズモン吸収極大が短波シフトしたものと考えられる。
【0028】
例3:分子認識の選択性
アドレナリンと類似する構造を有する化合物を用いてIPによる分子認識の選択性を調べた。下記に示した各化合物(0.1mM)をIP又はNPとインキュベートし、その吸収極大を水中での吸収極大と比較し、シフト幅をプロットした。結果を図4に示す。
【0029】
【化1】
【0030】
図4に示すように、IPはアドレナリンとインキュベートした場合に最も大きな吸収シフトを示すが、NPは被験化合物の構造によらずにシフト幅が小さかった。この結果から、IPはテンプレート分子であるアドレナリンに対して選択性を有しており、このIPがアドレナリン特異的センサーとして利用可能であることが明らかである。また、アドレナリンと同様のオルト−ジヒドロキシルフェニル構造を有するカテコールは吸収シフトを示さなかったことから、アドレナリンのIPへの取り込みは、オルト−ジヒドロキシルフェニル構造に支配されるものではないことが示唆された。さらに、ポリマー中のアクリル酸由来のカルボキシル基は静電的相互作用または水素結合性相互作用により分子を捕捉するのに効果的であると考えられるが、カルボキシル基と相互作用可能な官能基を持った化合物はIPを使用した場合にはシフトを示さないか、示してもわずかであった。一方、NPでは大きなシフトが観測された。これらの結果から、IPによる分子の捕捉はカルボキシル基との単純な相互作用に基づくものではなく、ポリマーネットワーク中での種々の官能基との複合的な相互作用に基づく分子認識によると考えることができる。
【0031】
【発明の効果】
金ナノ粒子を固定化した本発明のインプリントポリマーは、通常のインプリントポリマーと同様に高い分子認識能を保持しており、かつ分子認識プロセスを少なくとも2つのシグナル、すなわち膨張率変化及び色変化で出力できるので、認識対象分子を特異的に測定するためのデバイスとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】金ナノ粒子を含む本発明のインプリントポリマーの電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明のインプリントポリマーを用いて認識対象分子であるアドレナリン分子の測定を行った結果を示した図である。図中、(a)はアドレナリン存在下において22nmの短波長化が生じた結果を示し、(b)はこの短波長化がアドレナリン濃度依存的に生じることを示す。
【図3】本発明のインプリントポリマーを用いて認識対象分子であるアドレナリン分子の測定を種々の温度で行った結果を示した図である。図中、(a)は本発明のインプリントポリマーがnon−インプリンティングポリマーと比較してアドレナリンに対して高い選択性を有することを示しており、(b)はアドレナリンの認識により本発明のインプリントポリマーでは体積が膨張する結果を示す。
【図4】本発明のインプリントポリマーを認識対象分子であるアドレナリン及びそれに類似する各種の化合物と反応させた結果を示した図である。
Claims (6)
- 金ナノ粒子が固定化されたインプリントポリマー。
- 温度感受性である請求項1に記載のインプリントポリマー。
- 請求項1又は2に記載のインプリントポリマーを含む認識対象分子の測定用デバイス。
- 認識対象分子の測定方法であって、下記の工程:
(a)請求項3に記載のデバイスと試料とを接触させる工程;及び
(b)上記デバイスと認識対象分子との相互作用を金ナノ粒子に由来するシグナル変化により検出する工程
を含む方法。 - シグナル変化がプラズモン吸収変化である請求項4に記載の方法。
- シグナル変化がポリマーの膨張率変化に起因するシグナル変化である請求項4に記載の方法。
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