JP2004338429A - バラスト水の処理方法及び船舶 - Google Patents
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Abstract
【課題】安価で、効果的にバラストタンク内に存在する生物を死滅させるバラスト水の処理方法を提供すること。また、その処理方法を用いてバラスト水を積込み地で排出可能な船舶を提供すること。
【解決手段】バラスト水の処理方法は、水と接触すると水のpHが上昇する固体とバラスト水とを接触させる。また、本発明の船舶は、バラストタンク内で水と接触すると水のpHが上昇する固体と、バラスト水とを接触させる手段を有する。
【選択図】 なし
【解決手段】バラスト水の処理方法は、水と接触すると水のpHが上昇する固体とバラスト水とを接触させる。また、本発明の船舶は、バラストタンク内で水と接触すると水のpHが上昇する固体と、バラスト水とを接触させる手段を有する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はバラスト水の処理方法に関する。更に詳細には、船舶のバラストタンク内に存在する有害プランクトン等の生物を死滅させることによりバラスト水を無害化し、荷物の積込み地でのバラスト水の排出を可能とし、海洋環境を保護することのできる、バラスト水の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
原油や鉄鉱石等の貨物用船舶には、航行の安定性をはかるためバラストタンクが設けられている。一般に、貨物が積載されていない時にはバラストタンク内にバラスト水と呼ばれる海水を漲水し、貨物を積込む際にはバラスト水を排出することによって、船体の浮力を調整して船体を安定に保つことが行われている。
【0003】
バラスト水は、通常、寄港地の海水を利用しているため、寄港地付近の海に生息する微小生物が大量に混入している。このバラスト水を目的地の湾内で排出することは、外来の微小生物を湾内に大量に放出することとなり、生態系を破壊するおそれがある。このため、航海途中の洋上でバラスト水を交換することが行われている。しかしながら、バラスト水の交換は、エネルギーと時間が余分にかかるためコストアップにつながり、さらに交換作業中には安全上の問題もある。また、バラスト水を洋上で交換しても、交換を行った海域を汚染することになるので環境保護の観点からも好ましくない。そのため、バラスト水を排出する前に、バラスト内に生存する微小生物を死滅、不活性化あるいは除去して、バラスト水を無害化することも提案されている。
【0004】
バラスト内に生存する微小生物を死滅、不活性化あるいは除去する方法としては、例えば、微小生物を濾し取って除去するフィルタリング、エンジンやボイラーの廃熱等を利用してバラスト水を加熱する方法、せん断力とキャビテーションで微小生物を破壊する方法、吸引チャンバーを用いて溶存酸素を除去する酸素除去法、空気及び窒素と空気の超過飽和状態から減圧するガス過飽和法、水酸基ラジカル等の強い酸化物質を発生させる電気化学処理法、紫外線ランプを照射する紫外線殺菌法、塩素を投入する塩素殺菌法、オゾンガスを吹き込むオゾン殺菌法、消毒薬を投入する化学処理法等が挙げられる。また、上記方法を2つ以上組み合わせて行う場合もある。
しかしながら、上記の方法は特別な設備を必要とするため、輸送コストの上昇につながる。また、上記の方法には、休眠シストに対して充分な効果が得られない場合があるため、赤潮の原因となる有害プランクトンの移動を防ぐことは困難であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の目的は、安価で、効果的にバラストタンク内に存在する生物を死滅させることのできる、バラスト水の処理方法を提供することにある。また、その処理方法を用いてバラスト水を積込み地で排出可能な船舶を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のバラスト水の処理方法は、水と接触すると水のpHが上昇する固体とバラスト水とを接触させることを特徴とし、バラスト水のpHを上昇させて、バラスト水に含まれているプランクトン等の生物を死滅させる。
ここで、水と接触すると水のpHが上昇する固体とバラスト水との接触は、船舶のバラストタンク内で行われることが好ましい。
また、前記固体としては、塩基性物質を含有しているものが挙げられる。
また、前記固体としては、金属製錬スラグ及びコンクリート廃材が挙げられる。
さらに、バラスト水のpHは、10以上に上昇させることが好ましい。
【0007】
本発明の船舶は、バラストタンク内で、水と接触すると水のpHが上昇する固体と、バラスト水とを接触させる手段を有することを特徴とする。
ここで、前記固体としては、鉄鋼スラグ及びコンクリート廃材が挙げられる。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のバラスト水の処理方法は、水と接触すると水のpHが上昇する固体とバラスト水とを接触させる処理方法であって、バラスト水のpHが上昇することにより、バラスト水に含まれている生物を死滅させることができる。
本発明において、バラスト水に含まれている生物とは、主にウイルス、細菌、カビ、酵母、藻類や原生動物等のプランクトンを意味し、特には有害プランクトンを意味する。また、本発明において、生物を死滅させるとは、完全に生物を死滅させることのみならず、生物を不活性化することも含むものとする。
【0009】
本発明で用いる水と接触すると水のpHが上昇する固体としては、例えば、水に溶解するとアルカリ性を示す塩基性物質を含有する固体が挙げられる。塩基性物質としては、特に限定されるものではないが、例えば酸化カルシウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム等が挙げられる。
【0010】
本発明において用いられる固体としては、例えば、鉄鋼スラグ及びコンクリート廃材が挙げられる。金属製錬スラグ及びコンクリート廃材を用いることは、コストの点、又は副生品を利用できるという観点から好ましい。
金属製錬スラグは、一般に石灰(CaO)及びシリカ(SiO2)を主成分としており、水に接触させると、主成分として含まれる石灰が水に溶出してアルカリ性を示すものであり、鉄鋼スラグと非鉄製錬スラグとがある。鉄鋼スラグは、スラグが生成する工程によって高炉スラグや製鋼スラグ等の種類に分けられるが、本発明では製鋼スラグを用いることがより好ましい。製鋼スラグは石灰の一部が遊離石灰分として含まれており、遊離石灰は水との反応性が高いため、同量のスラグを海水に添加した場合に、高炉スラグを用いるよりもpHを高くできるからである。また、コンクリート廃材も鉄鋼スラグと同様に石灰とシリカを主成分としており、水に接触させると、成分として含まれる石灰が水に溶出してアルカリ性を示すため、安価であることやリサイクルの面で好ましく用いることができる。
本発明においては、例えば製鋼スラグと高炉スラグとの混合物のように、複数の種類の上記固体を併用してもよい。
【0011】
上記固体をバラスト水と接触させる手段としては、特に限定されるものではないが、例えば船舶のバラストタンク内にあらかじめ上記固体をそのまま入れる、あるいは袋や容器に充填したものを入れておく方法が挙げられる。この場合、バラスト水が漲水された時に上記固体とバラスト水とが接触し、水のpHが上昇する。さらに、バラストタンク内のバラスト水のpHが均一に上昇するよう、攪拌機等を用いてバラスト水を循環させてもよい。また、バラストタンク外に上記固体を充填したカラム等を設置し、そこにバラスト水をポンプ等を用いて循環させてもよい。
【0012】
本発明においては、金属製錬スラグ又はコンクリート廃材をバラストタンク内に、バラスト水の漲水前あるいは漲水後に投入するという方法が安価で好ましい。
【0013】
上記固体の形状は、塊状でも粒状でもよく特に限定されない。ただし、バラスト水との接触効率を考慮すると、上記固体の表面積は大きい方が好ましい。例えば鉄鋼スラグを用いる場合、鉄鋼スラグの粒径は2〜10mmの範囲内が好ましい。粒径がこの範囲内であれば少量で効率よくバラスト水のpHを上昇させることができる。
【0014】
本発明では、上昇したバラスト水のpHの値は特に規定しないが、10以上であることが好ましく、11以上であることがさらに好ましい。
3種類の光合成プランクトンの生育速度のpH依存性について調査したHansenの報告(Aquatic Microbial Ecology、vol.28(2002)、p.279−288)には、Ceratium lineatum、Heterocapsa triquetra、Prorocentrum minimumの生育速度は、それぞれpHが8.5、9.0、9.0以上になると減少し、8.8、9.5、9.6以上でマイナス、すなわち個体数が減少するという結果が記載されている。
上記文献の記載より、10以上のpHを日単位で維持しつづけることにより、例えば、上記報告のようなプランクトンを所定の個体数まで減少させることができる。バラスト水の無害化はバラスト水を排水するまでに行う必要があるので、所定の期間内に有害な生物を死滅させるためには、より高いpHであることが好ましい。
【0015】
本発明において、上昇したバラスト水のpHは、上記固体の種類や海水に対して接触させる上記固体の量等に依存する。したがって、船舶の航行スケジュールに合わせて、使用する上記固体の種類や量を設定することが好ましい。また、バラスト水は海水であるため、海水中のマグネシウムイオンがpHの緩衝能を有すること、また海水のpHには季節的な変動があることも考慮して設定することが好ましい。
【0016】
例えば、粒径が2〜10mmの製鋼スラグをバラストタンク内に入れ、緩やかな攪拌のみを行う手段であれば、バラスト水と製鋼スラグとの質量比は30:1〜3:1の範囲内であることが好ましい。質量比がこの範囲内であれば、バラスト水のpHを10以上のアルカリ性に維持することができ、また必要以上に製鋼スラグを用いることなく安価にバラスト水を処理することができる。
高炉スラグをバラストタンク内に入れ、緩やかな攪拌のみを行う手段であれば、バラスト水と製鋼スラグとの質量比は10:1〜3:1の範囲内であることが好ましい。質量比がこの範囲内であれば、バラスト水のpHを10以上のアルカリ性に維持することができ、また必要以上に高炉スラグを用いることなく安価にバラスト水を処理することができる。
【0017】
次に、本発明の船舶について説明する。本発明の船舶は、本発明のバラスト水の処理方法を用いてバラスト水に存在する生物を死滅させる手段を備えた船舶である。例えば、バラストタンク内で上記固体とバラスト水とが接触できる手段を有する船舶が挙げられる。例えば、上記固体をバラスト水の漲水前あるいは漲水後にバラストタンク内に投入できるよう、バラストタンクに投入口が設けられた船舶が挙げられる。又はバラスト水をバラストタンクに汲み入れる経路に、上記固体を混入する設備を有する船舶が挙げられる。上記固体をバラストタンク内に投入あるいは混合する手段は、人手でも、機械を用いてもよく、特に限定されない。また、上記固体の投入や量の調節が自動化されていてもよい。
通常に積込まれるバラスト水量は船舶載貨重量トンの25〜30%といわれており、船舶のサイズによっては上記固体を大量に用いることが必要となる。この場合、航行前にあらかじめバラストタンク内に上記固体を備えておくことが好ましい。
【0018】
本発明のバラスト水の処理方法によれば、バラスト水がアルカリ性に維持されることにより、バラストタンクを構成する鋼板やバラスト水が接触する部位の腐食を防止することができる。
また、固体として鉄鋼スラグを用いた場合には、鉄鋼スラグ中に含まれるシリコン、リン、鉄等がバラスト水中に溶出し、バラスト水を排出した際に周辺の海水によって希釈され、植物プランクトンの栄養源となり、海洋中バイオマス量の増大、ひいては地球温暖化の原因とみなされる大気中の二酸化炭素の海洋への吸収促進に役立つ。
【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、かかる実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0020】
本発明の実施例における鉄鋼スラグとしては、下記に示すものを用いた。
<鉄鋼スラグ>
製鋼スラグ:粒径2〜10mm、自然エージング約1ヶ月、CaO52%、SiO217%、Al2O34%、Fe分15%
高炉スラグ:粒径2〜10mm、自然エージング約1ヶ月、CaO42%、SiO235%、Al2O314%、MgO4%
【0021】
実施例1
上記の製鋼スラグ及び高炉スラグを海水に添加した場合の、製鋼スラグ及び高炉スラグの添加量と海水のpHとの関係を図1に示す。また、製鋼スラグ及び高炉スラグの添加量は、海水と鉄鋼スラグとの質量比(以下、これを「液固比」と称する。)の自然対数で示した。すなわち、鉄鋼スラグの質量が1に対して海水の質量が10の場合、液固比は10となり、図中のグラフの横軸は、log(液固比)=1となる。
図1から明らかなように、製鋼スラグを海水に添加した場合、海水と製鋼スラグとの質量比が30:1〜3:1の範囲であれば、海水のpHが10以上となる。また、高炉スラグを海水に添加した場合、海水と高炉スラグとの質量比が10:1〜3:1の範囲であれば、海水のpHが10以上となる。
【0022】
実施例2
光合成プランクトンであるHeterocapsa triquetraを50〜70セル/ml含有する海水2リットルに製鋼スラグをそれぞれ200g(液固比=10)、20g(液固比=100)、2g(液固比=1000)添加し、温度15℃で7日間緩やかに攪拌した。7日撹拌した後、海水中に生存するHeterocapsa triquetraの個体数を測定した。この時の海水のpHはそれぞれ11.3、9.4、及び8.7であった。
得られた結果を、製鋼スラグを添加しない条件での結果(比較例1)と併せて表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
実施例3
赤潮の原因プランクトンの一種であるアレキサンドリウム・タマランセのシストを含有する海底泥を含む海水1リットルに、製鋼スラグを100g添加し、温度15℃で7日間緩やかに攪拌した。鉄鋼スラグを海水から分離した後、シストを含む海水をシストの発芽環境にして35日間放置した。その後、発芽したアレキサンドリウム・タマランセの有無を確認した。結果は、発芽したアレキサンドリウム・タマランセは確認されなかった。
なお、海底泥は、特許第2807775号に開示された方法(海底泥中の植物性プランクトンのシストを、蛍光染色により定量する方法)によりアレキサンドリウム・タマランセのシストの存在を確認してから用いた。
【0025】
実施例2の結果から明らかなように、海水に製鋼スラグを添加することにより海水中のプランクトンを殺滅し、7日間で生存するプランクトンの個体数を1/3以下に減少させたことが確認された。また、実施例3では、プランクトンのシストも不活性化できることが確認された。
【0026】
【発明の効果】
以上、詳しく説明したように、本発明によれば、安価で、効果的にバラストタンク内に存在する生物を死滅させるバラスト水の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鉄鋼スラグを海水に添加した場合の、鉄鋼スラグの添加量と海水のpHとの関係を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明はバラスト水の処理方法に関する。更に詳細には、船舶のバラストタンク内に存在する有害プランクトン等の生物を死滅させることによりバラスト水を無害化し、荷物の積込み地でのバラスト水の排出を可能とし、海洋環境を保護することのできる、バラスト水の処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
原油や鉄鉱石等の貨物用船舶には、航行の安定性をはかるためバラストタンクが設けられている。一般に、貨物が積載されていない時にはバラストタンク内にバラスト水と呼ばれる海水を漲水し、貨物を積込む際にはバラスト水を排出することによって、船体の浮力を調整して船体を安定に保つことが行われている。
【0003】
バラスト水は、通常、寄港地の海水を利用しているため、寄港地付近の海に生息する微小生物が大量に混入している。このバラスト水を目的地の湾内で排出することは、外来の微小生物を湾内に大量に放出することとなり、生態系を破壊するおそれがある。このため、航海途中の洋上でバラスト水を交換することが行われている。しかしながら、バラスト水の交換は、エネルギーと時間が余分にかかるためコストアップにつながり、さらに交換作業中には安全上の問題もある。また、バラスト水を洋上で交換しても、交換を行った海域を汚染することになるので環境保護の観点からも好ましくない。そのため、バラスト水を排出する前に、バラスト内に生存する微小生物を死滅、不活性化あるいは除去して、バラスト水を無害化することも提案されている。
【0004】
バラスト内に生存する微小生物を死滅、不活性化あるいは除去する方法としては、例えば、微小生物を濾し取って除去するフィルタリング、エンジンやボイラーの廃熱等を利用してバラスト水を加熱する方法、せん断力とキャビテーションで微小生物を破壊する方法、吸引チャンバーを用いて溶存酸素を除去する酸素除去法、空気及び窒素と空気の超過飽和状態から減圧するガス過飽和法、水酸基ラジカル等の強い酸化物質を発生させる電気化学処理法、紫外線ランプを照射する紫外線殺菌法、塩素を投入する塩素殺菌法、オゾンガスを吹き込むオゾン殺菌法、消毒薬を投入する化学処理法等が挙げられる。また、上記方法を2つ以上組み合わせて行う場合もある。
しかしながら、上記の方法は特別な設備を必要とするため、輸送コストの上昇につながる。また、上記の方法には、休眠シストに対して充分な効果が得られない場合があるため、赤潮の原因となる有害プランクトンの移動を防ぐことは困難であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の目的は、安価で、効果的にバラストタンク内に存在する生物を死滅させることのできる、バラスト水の処理方法を提供することにある。また、その処理方法を用いてバラスト水を積込み地で排出可能な船舶を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明のバラスト水の処理方法は、水と接触すると水のpHが上昇する固体とバラスト水とを接触させることを特徴とし、バラスト水のpHを上昇させて、バラスト水に含まれているプランクトン等の生物を死滅させる。
ここで、水と接触すると水のpHが上昇する固体とバラスト水との接触は、船舶のバラストタンク内で行われることが好ましい。
また、前記固体としては、塩基性物質を含有しているものが挙げられる。
また、前記固体としては、金属製錬スラグ及びコンクリート廃材が挙げられる。
さらに、バラスト水のpHは、10以上に上昇させることが好ましい。
【0007】
本発明の船舶は、バラストタンク内で、水と接触すると水のpHが上昇する固体と、バラスト水とを接触させる手段を有することを特徴とする。
ここで、前記固体としては、鉄鋼スラグ及びコンクリート廃材が挙げられる。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のバラスト水の処理方法は、水と接触すると水のpHが上昇する固体とバラスト水とを接触させる処理方法であって、バラスト水のpHが上昇することにより、バラスト水に含まれている生物を死滅させることができる。
本発明において、バラスト水に含まれている生物とは、主にウイルス、細菌、カビ、酵母、藻類や原生動物等のプランクトンを意味し、特には有害プランクトンを意味する。また、本発明において、生物を死滅させるとは、完全に生物を死滅させることのみならず、生物を不活性化することも含むものとする。
【0009】
本発明で用いる水と接触すると水のpHが上昇する固体としては、例えば、水に溶解するとアルカリ性を示す塩基性物質を含有する固体が挙げられる。塩基性物質としては、特に限定されるものではないが、例えば酸化カルシウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム等が挙げられる。
【0010】
本発明において用いられる固体としては、例えば、鉄鋼スラグ及びコンクリート廃材が挙げられる。金属製錬スラグ及びコンクリート廃材を用いることは、コストの点、又は副生品を利用できるという観点から好ましい。
金属製錬スラグは、一般に石灰(CaO)及びシリカ(SiO2)を主成分としており、水に接触させると、主成分として含まれる石灰が水に溶出してアルカリ性を示すものであり、鉄鋼スラグと非鉄製錬スラグとがある。鉄鋼スラグは、スラグが生成する工程によって高炉スラグや製鋼スラグ等の種類に分けられるが、本発明では製鋼スラグを用いることがより好ましい。製鋼スラグは石灰の一部が遊離石灰分として含まれており、遊離石灰は水との反応性が高いため、同量のスラグを海水に添加した場合に、高炉スラグを用いるよりもpHを高くできるからである。また、コンクリート廃材も鉄鋼スラグと同様に石灰とシリカを主成分としており、水に接触させると、成分として含まれる石灰が水に溶出してアルカリ性を示すため、安価であることやリサイクルの面で好ましく用いることができる。
本発明においては、例えば製鋼スラグと高炉スラグとの混合物のように、複数の種類の上記固体を併用してもよい。
【0011】
上記固体をバラスト水と接触させる手段としては、特に限定されるものではないが、例えば船舶のバラストタンク内にあらかじめ上記固体をそのまま入れる、あるいは袋や容器に充填したものを入れておく方法が挙げられる。この場合、バラスト水が漲水された時に上記固体とバラスト水とが接触し、水のpHが上昇する。さらに、バラストタンク内のバラスト水のpHが均一に上昇するよう、攪拌機等を用いてバラスト水を循環させてもよい。また、バラストタンク外に上記固体を充填したカラム等を設置し、そこにバラスト水をポンプ等を用いて循環させてもよい。
【0012】
本発明においては、金属製錬スラグ又はコンクリート廃材をバラストタンク内に、バラスト水の漲水前あるいは漲水後に投入するという方法が安価で好ましい。
【0013】
上記固体の形状は、塊状でも粒状でもよく特に限定されない。ただし、バラスト水との接触効率を考慮すると、上記固体の表面積は大きい方が好ましい。例えば鉄鋼スラグを用いる場合、鉄鋼スラグの粒径は2〜10mmの範囲内が好ましい。粒径がこの範囲内であれば少量で効率よくバラスト水のpHを上昇させることができる。
【0014】
本発明では、上昇したバラスト水のpHの値は特に規定しないが、10以上であることが好ましく、11以上であることがさらに好ましい。
3種類の光合成プランクトンの生育速度のpH依存性について調査したHansenの報告(Aquatic Microbial Ecology、vol.28(2002)、p.279−288)には、Ceratium lineatum、Heterocapsa triquetra、Prorocentrum minimumの生育速度は、それぞれpHが8.5、9.0、9.0以上になると減少し、8.8、9.5、9.6以上でマイナス、すなわち個体数が減少するという結果が記載されている。
上記文献の記載より、10以上のpHを日単位で維持しつづけることにより、例えば、上記報告のようなプランクトンを所定の個体数まで減少させることができる。バラスト水の無害化はバラスト水を排水するまでに行う必要があるので、所定の期間内に有害な生物を死滅させるためには、より高いpHであることが好ましい。
【0015】
本発明において、上昇したバラスト水のpHは、上記固体の種類や海水に対して接触させる上記固体の量等に依存する。したがって、船舶の航行スケジュールに合わせて、使用する上記固体の種類や量を設定することが好ましい。また、バラスト水は海水であるため、海水中のマグネシウムイオンがpHの緩衝能を有すること、また海水のpHには季節的な変動があることも考慮して設定することが好ましい。
【0016】
例えば、粒径が2〜10mmの製鋼スラグをバラストタンク内に入れ、緩やかな攪拌のみを行う手段であれば、バラスト水と製鋼スラグとの質量比は30:1〜3:1の範囲内であることが好ましい。質量比がこの範囲内であれば、バラスト水のpHを10以上のアルカリ性に維持することができ、また必要以上に製鋼スラグを用いることなく安価にバラスト水を処理することができる。
高炉スラグをバラストタンク内に入れ、緩やかな攪拌のみを行う手段であれば、バラスト水と製鋼スラグとの質量比は10:1〜3:1の範囲内であることが好ましい。質量比がこの範囲内であれば、バラスト水のpHを10以上のアルカリ性に維持することができ、また必要以上に高炉スラグを用いることなく安価にバラスト水を処理することができる。
【0017】
次に、本発明の船舶について説明する。本発明の船舶は、本発明のバラスト水の処理方法を用いてバラスト水に存在する生物を死滅させる手段を備えた船舶である。例えば、バラストタンク内で上記固体とバラスト水とが接触できる手段を有する船舶が挙げられる。例えば、上記固体をバラスト水の漲水前あるいは漲水後にバラストタンク内に投入できるよう、バラストタンクに投入口が設けられた船舶が挙げられる。又はバラスト水をバラストタンクに汲み入れる経路に、上記固体を混入する設備を有する船舶が挙げられる。上記固体をバラストタンク内に投入あるいは混合する手段は、人手でも、機械を用いてもよく、特に限定されない。また、上記固体の投入や量の調節が自動化されていてもよい。
通常に積込まれるバラスト水量は船舶載貨重量トンの25〜30%といわれており、船舶のサイズによっては上記固体を大量に用いることが必要となる。この場合、航行前にあらかじめバラストタンク内に上記固体を備えておくことが好ましい。
【0018】
本発明のバラスト水の処理方法によれば、バラスト水がアルカリ性に維持されることにより、バラストタンクを構成する鋼板やバラスト水が接触する部位の腐食を防止することができる。
また、固体として鉄鋼スラグを用いた場合には、鉄鋼スラグ中に含まれるシリコン、リン、鉄等がバラスト水中に溶出し、バラスト水を排出した際に周辺の海水によって希釈され、植物プランクトンの栄養源となり、海洋中バイオマス量の増大、ひいては地球温暖化の原因とみなされる大気中の二酸化炭素の海洋への吸収促進に役立つ。
【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。なお、本発明の範囲は、かかる実施例に限定されないことはいうまでもない。
【0020】
本発明の実施例における鉄鋼スラグとしては、下記に示すものを用いた。
<鉄鋼スラグ>
製鋼スラグ:粒径2〜10mm、自然エージング約1ヶ月、CaO52%、SiO217%、Al2O34%、Fe分15%
高炉スラグ:粒径2〜10mm、自然エージング約1ヶ月、CaO42%、SiO235%、Al2O314%、MgO4%
【0021】
実施例1
上記の製鋼スラグ及び高炉スラグを海水に添加した場合の、製鋼スラグ及び高炉スラグの添加量と海水のpHとの関係を図1に示す。また、製鋼スラグ及び高炉スラグの添加量は、海水と鉄鋼スラグとの質量比(以下、これを「液固比」と称する。)の自然対数で示した。すなわち、鉄鋼スラグの質量が1に対して海水の質量が10の場合、液固比は10となり、図中のグラフの横軸は、log(液固比)=1となる。
図1から明らかなように、製鋼スラグを海水に添加した場合、海水と製鋼スラグとの質量比が30:1〜3:1の範囲であれば、海水のpHが10以上となる。また、高炉スラグを海水に添加した場合、海水と高炉スラグとの質量比が10:1〜3:1の範囲であれば、海水のpHが10以上となる。
【0022】
実施例2
光合成プランクトンであるHeterocapsa triquetraを50〜70セル/ml含有する海水2リットルに製鋼スラグをそれぞれ200g(液固比=10)、20g(液固比=100)、2g(液固比=1000)添加し、温度15℃で7日間緩やかに攪拌した。7日撹拌した後、海水中に生存するHeterocapsa triquetraの個体数を測定した。この時の海水のpHはそれぞれ11.3、9.4、及び8.7であった。
得られた結果を、製鋼スラグを添加しない条件での結果(比較例1)と併せて表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
実施例3
赤潮の原因プランクトンの一種であるアレキサンドリウム・タマランセのシストを含有する海底泥を含む海水1リットルに、製鋼スラグを100g添加し、温度15℃で7日間緩やかに攪拌した。鉄鋼スラグを海水から分離した後、シストを含む海水をシストの発芽環境にして35日間放置した。その後、発芽したアレキサンドリウム・タマランセの有無を確認した。結果は、発芽したアレキサンドリウム・タマランセは確認されなかった。
なお、海底泥は、特許第2807775号に開示された方法(海底泥中の植物性プランクトンのシストを、蛍光染色により定量する方法)によりアレキサンドリウム・タマランセのシストの存在を確認してから用いた。
【0025】
実施例2の結果から明らかなように、海水に製鋼スラグを添加することにより海水中のプランクトンを殺滅し、7日間で生存するプランクトンの個体数を1/3以下に減少させたことが確認された。また、実施例3では、プランクトンのシストも不活性化できることが確認された。
【0026】
【発明の効果】
以上、詳しく説明したように、本発明によれば、安価で、効果的にバラストタンク内に存在する生物を死滅させるバラスト水の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鉄鋼スラグを海水に添加した場合の、鉄鋼スラグの添加量と海水のpHとの関係を示すグラフである。
Claims (6)
- 水と接触すると水のpHが上昇する固体と、バラスト水とを接触させることを特徴とするバラスト水の処理方法。
- 船舶のバラストタンク内で、前記固体と前記バラスト水とを接触させることを特徴とする請求項1記載のバラスト水の処理方法。
- 前記固体が、金属製錬スラグ又はコンクリート廃材であることを特徴とする請求項1または2に記載のバラスト水の処理方法。
- 前記バラスト水のpHを10以上に上昇させることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のバラスト水の処理方法。
- バラストタンク内で水と接触すると水のpHが上昇する固体と、バラスト水とを接触させる手段を有することを特徴とする船舶。
- 前記固体が金属製錬スラグ又はコンクリート廃材であることを特徴とする請求項5記載の船舶。
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---|---|---|---|
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2009016878A1 (ja) * | 2007-08-01 | 2009-02-05 | Seisuke Tanabe | バラスト水の処理方法 |
WO2011062398A2 (ko) * | 2009-11-18 | 2011-05-26 | 신강하이텍(주) | 선박 엔진의 배출가스를 이용한 선박평형수 처리방법 및 처리장치 |
-
2003
- 2003-05-13 JP JP2003134031A patent/JP2004338429A/ja active Pending
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2009016878A1 (ja) * | 2007-08-01 | 2009-02-05 | Seisuke Tanabe | バラスト水の処理方法 |
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WO2011062398A3 (ko) * | 2009-11-18 | 2011-11-17 | 신강하이텍(주) | 선박 엔진의 배출가스를 이용한 선박평형수 처리방법 및 처리장치 |
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