JP2004331507A - 着果促進剤 - Google Patents
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Abstract
【課題】果菜類又は穀実等の植物の新規着果促進剤及び該着果促進剤を用いた着果促進方法を提供すること。
【解決手段】ポリアミンからなる着果促進剤を、果菜類又は穀実等の植物の着果時に用いることにより、高温期等における着果・結実障害を軽減し、着果の促進を行う。本発明の着果促進剤の有効成分であるポリアミンとしては、例えば、プトレシン、スペルミジン、スペルミン及びカダベリン等の生体ポリアミンが挙げられる。本発明の着果促進剤は、広範囲の果菜類又は穀実等の植物に適用可能であり、高温期における着果促進が可能である。更に、花器や茎葉に散布することが可能であり、他の農薬と混合して施用することも可能である。また、昆虫の放飼による受粉媒助と併用することが可能である。
【解決手段】ポリアミンからなる着果促進剤を、果菜類又は穀実等の植物の着果時に用いることにより、高温期等における着果・結実障害を軽減し、着果の促進を行う。本発明の着果促進剤の有効成分であるポリアミンとしては、例えば、プトレシン、スペルミジン、スペルミン及びカダベリン等の生体ポリアミンが挙げられる。本発明の着果促進剤は、広範囲の果菜類又は穀実等の植物に適用可能であり、高温期における着果促進が可能である。更に、花器や茎葉に散布することが可能であり、他の農薬と混合して施用することも可能である。また、昆虫の放飼による受粉媒助と併用することが可能である。
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、果菜類又は穀実等の植物の着果促進剤及び該着果促進剤を用いた着果促進方法、特に、花器や茎葉に散布することが可能であり、かつ高温期における着果促進が可能である着果促進剤及び該着果促進剤を用いた着果促進方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、果菜類等の栽培においては、特に低温下や日照不足下などのような着果不良環境下において、開花後の着果・結実を促進するために、植物ホルモンのような着果促進剤が用いられてきた。例えば、トマトのような果菜類の施設栽培においては、冬期の低温・日照不足による花器の発育不全や施設内の通風不良から来る受粉不良などによって、着果が不良になるという問題を生じることから、これらの回避策として、オーキシン系の植物ホルモンである4−クロロフェノキシ酢酸(4−CPA:トマトトーン)、クロキシホナック(トマトラン)及び2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)等が用いられてきた。また、ナス等においても、その施設栽培において、トマトの場合と同じ理由から、落花や肥大不良果が問題となり、これを回避するために4−クロロフェノキシ酢酸、クロキシホナック及び2,4−D等の植物ホルモンによる開花時単花処理等が行われてきた。
【0003】
スイカやメロン等のウリ科野菜の施設栽培においては、冬期や天候不良時の低温や日照不足による着果不良を改善するために、サイトカイニン系のベンジルアミノプリンを開花期前後に花梗部に塗布したり、メロンでは、最近ホルクロロフェニュロンが効果の高い着果剤として用いられている。カボチャでは低温短日下の栽培で雄花の着生が阻害され、受粉不良の原因となったり、天候不良によって着果が阻害されるのを回避するためにベンジルアミノプリンの開花時花梗部処理が行われている。
このように、果菜類等の栽培に際しては、特に低温下や日照不足下などのような着果不良環境下において、開花後の着果・結実を促進するために、植物ホルモンのような種々の着果促進剤が用いられているが、これらの着果促進剤は、例えば、4−クロロフェノキシ酢酸などのように、茎葉散布すると葉に薬害が生じることから、着果促進剤の処理は、花房(花梗)処理のような形で処理しなければならず、それには多大の労力と時間を要することとなっている。
【0004】
近年、植物の茎葉に散布することが可能な着果促進剤として、2−メチル−4−クロロフェノキシ酪酸をナスやトマトの着果促進に用いるものが開示されている(特開2002−29906号公報)。この着果促進剤は、ナスやトマトの開花直前から開花終了直後に、ナスやトマトの植物体全体に散布することにより、処理されるものであるが、その対象植物はナスやトマトのような特定の植物に限定されている。したがって、該着果促進剤を例えばナスやトマト以外の果菜類や、マメ類或いはトウモロコシ等のような広い範囲の果菜類又は穀実等の植物の着果促進剤として用いることはできない。
【0005】
従来、着果促進剤として用いられている4−クロロフェノキシ酢酸や、2,4−Dなどの植物ホルモン剤は、単為結果促進剤であるため、マメ類やトウモロコシのように単為結果性の低い作物の着果または結実障害を軽減するために用いることはできない。また、トマト等の栽培においては、開花期の受粉を促進するために、例えばマルハナバチのような昆虫の放飼による受粉媒助が広く普及しているが、従来、着果促進剤として用いられている植物ホルモン剤は、単為結果促進剤であるため、このようなマルハナバチのような昆虫の放飼による受粉媒助にはマイナスに作用する。更に、マルハナバチのような昆虫の放飼による受粉媒助による着果の促進を行う場合には、花粉は稔性であること(発芽力があること)が不可欠である。しかし、7〜8月には高温により花粉稔性が著しく低下するために、マルハナバチを放飼しても着果が促進されないという問題点がある。また、4−クロロフェノキシ酢酸や、2,4−Dなどの植物ホルモン剤等、従来の着果促進剤は、果菜類等の着果促進剤として広く用いられているが、例えば、トマトでは、高温期には着生した果実に異常が発生する等の問題がある。
【0006】
一方、生体に広く分布するポリメチレンジアミン及びそのアミノ基を共有する結合体としてポリアミンが知られている。ポリアミンは、細胞増殖必須因子として、動物細胞、植物細胞、細菌などの増殖に深く関わっている生理活性物質である。最近、本発明者はポリアミンの植物における生理活性について考察する中で、高温下における花粉の発芽に対するポリアミンの影響についてin vitroで試験した結果、花粉の発芽が高温下で著しく阻害され、該阻害がポリアミンの添加で回復することを確認し、報告した(Scientia Horticulturae 80, 203−212, 1999)。また、花粉発芽及び花粉管伸長におけるポリアミン生合成阻害剤(polyamine biosynthesis inhibitors)の効果並びに発芽中のトマト(Lycopersicon esculentum Mill)花粉のプトレシン(Put)、スぺルミジン(Spd)及びスペルミン(Spm)の濃度(level)について研究を行う中で、トマト花粉が正常に発芽し花粉管が伸長するためには、Spd及びSpm含量の上昇が、必要不可欠であることを明らかにし、報告した(Plant Science 161, 507−515, 2001)。更に、ポリアミン生合成(polyamine biosynthesis)の低下が高温状態におけるトマト花粉の性能不良(poor performance)に関与している可能性について研究を行う中で、蛋白質合成又は機能的酵素形成の悪化(impaired protein synthesis or functional enzyme formation)に基づくと考えられるS−アデノシルメチオニン・デカルボキシラーゼ(S−adenosylmethionine decarboxylase)(SAMDC)活性の低下は、高温におけるトマト花粉の性能不良の主な原因であることを明らかにし、報告した(Plant Cell Physiolol. 43, 6, 619−627, 2002)。
【0007】
また、近年、このポリアミンについて、その生理活性を利用して、植物の発根促進、低温ストレス抵抗性の付与、或いは植物生長促進剤等として用いることについていくつかの開示がなされている。例えば、特開平7−46940号公報には、ポリアミンを木本植物の発根促進に用いる方法が開示されている。また、特開2000−290102号公報には、植物を種子形態において、或いは生育過程において、ポリアミンで処理することにより低温ストレス抵抗性を増強する方法が開示されている。更に、特開2001−46709号公報には、植物の低温ストレス遭遇時に、その発現量が変化する植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子を取得し、該遺伝子を用いて植物の低温ストレス抵抗性を増強する方法が開示されている。また、特開2002−29905号公報には、ポリアミンなどの生理活性物質を、植物生長促進剤として用いる方法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】
特開平7−46940号公報。
【特許文献2】
特開2000−290102号公報。
【特許文献3】
特開2001−46709号公報。
【特許文献4】
特開2002−29905号公報。
【特許文献5】
特開2002−29906号公報。
【非特許文献1】
Scientia Horticulturae 80, 203−212, 1999。
【非特許文献1】
Plant Science 161, 507−515, 2001。
【非特許文献1】
Plant Cell Physiolol. 43, 6, 619−627, 2002。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、果菜類又は穀実等の植物の新規着果促進剤及び該着果促進剤を用いた着果促進方法を提供すること、特に、広範囲の果菜類又は穀実等の植物に適用可能であり、更に、花器や茎葉に散布することが可能であり、かつ高温期における着果促進が可能である新規着果促進剤及び該着果促進剤を用いた着果促進方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意新規着果促進物質の探索を行った結果、ポリアミン、特に、生物体内に普遍的に存在するポリアミン(以下、「生体ポリアミン」という)が過高温による花粉稔性の低下や花粉発芽抑制を軽減することを確認し、これを果菜類又は穀実等の植物の着果時に用いることにより、該植物の高温期における着果・結実障害が軽減され、着果の促進作用が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。本発明の着果促進剤の有効成分であるポリアミンとしては、特には、プトレシン、スペルミジン、スペルミン及びカダベリン等の生体ポリアミンが挙げられる。本発明の着果促進剤は、トマトや豆類或いはトウモロコシのような広範囲の果菜類又は穀実等の植物に適用することが可能である。
【0011】
更に、本発明の着果促進剤は、4−クロロフェノキシ酢酸や、2,4−Dなどのような従来の着果促進剤で問題を生じた高温期(例えば、35〜40℃)における着果促進が可能であり、7〜8月のような高温期の栽培における着果・結実障害を軽減し、着果の促進を図ることができる。また、本発明の着果促進剤は、従来着果促進剤として用いられている植物ホルモン剤のような単為結果促進剤でないため、例えば、トマト等の栽培において開花期の受粉を促進するために行われている、マルハナバチのような昆虫の放飼による受粉媒助と併用することが可能である。更に、本発明の着果促進剤は、葉等に薬害が生じることがないので、花器や茎葉に散布によって施用することができ、着果促進剤の処理にあたっての多大な労力と時間の節減を可能とすると共に、他の農薬との併用による茎葉処理が可能となるなど、農作物の栽培における生産性向上を図ることができる。
【0012】
すなわち具体的には本発明は、ポリアミンを有効成分とする着果促進剤(請求項1)や、ポリアミンが、生体ポリアミンであることを特徴とする請求項1記載の着果促進剤(請求項2)や、ポリアミンが、プトレシン、スペルミジン、スペルミン及びカダベリンから選択される1又は2以上のポリアミンであることを特徴とする請求項1又は2記載の着果促進剤(請求項3)からなる。
【0013】
また本発明は、請求項1〜3のいずれか記載のポリアミンを有効成分とする着果促進剤を、開花前後の植物の花器及び/又は茎葉に散布することを特徴とする着果促進方法(請求項4)や、着果促進が、果菜類又は穀実の高温期における着果促進であることを特徴とする請求項4記載の着果促進方法(請求項5)や、果菜類又は穀実が、ナス科果菜類、ウリ科果菜類、豆類又はトウモロコシであることを特徴とする請求項5記載の着果促進方法(請求項6)や、ナス科果菜類が、トマト、ナス又はピーマンであり、ウリ科果菜類が、スイカ、メロンであることを特徴とする請求項6記載の着果促進方法(請求項7)や、請求項4〜7のいずれか記載のポリアミンを有効成分とする着果促進剤を用いた着果促進と、昆虫の放飼による受粉媒助とを併用することを特徴とする着果促進方法(請求項8)や、昆虫の放飼による受粉媒助が、トマト栽培におけるマルハナバチの放飼による受粉媒助であることを特徴とする請求項8記載の着果促進方法(請求項9)からなる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明は、ポリアミンを有効成分とする着果促進剤及び該着果促進剤を用いた着果促進方法よりなる。本発明において有効成分として用いられるポリアミンは、第一級アミノ基を二つ以上もつ(直鎖の)脂肪族炭化水素の総称であるが、生体には、ジアミン、トリアミン、テトラアミン,ペンタアミン、ヘキサアミン等20種類以上が見い出されている(生体ポリアミン)。本発明の目的のために特に適した生体ポリアミンとしては、プトレシン(ジアミン)、スペルミジン(トリアミン)、スペルミン(テトラアミン)及びカダベリン(ジアミン)が挙げられる。
本発明においては、これらのポリアミンから選択される1又は2以上のポリアミンを有効成分として用いることができる。
【0015】
本発明の有効成分を着果促進剤として用いるには、農薬の施用において通常用いられる製剤化形態を用いて行うことができる。本発明の着果促進剤は、植物の花器や茎葉に直接散布することが可能であるため、農薬製剤において通常用いられている、液剤、乳剤、水和剤、粉剤のような形に製剤化して用いるのが好ましい。これらの製剤化に用いられる液体担体としては、キシレン、トルエン、ナフサ、パラフィン油、低級アルコール類、グリコール類、グリコールエステル類、グリコールエーテル類、セロソルブ類、ジオキサン、N−メチルピロリドン、植物油類及び鉱物油類等、また、固体担体としては、カオリン、クレー、タルク、珪砂、白土、合成シリカ、珪藻土、ベントナイト、各種粘土鉱物、各種植物粉末、PVA、デンプン、セルロース、CMC、各種糖類、糖類誘導体等、液体担体或いは固体担体として通常用いられている担体を用いることができる。本発明の着果促進剤の製剤化に際しては、必要により、乳化、分散、湿潤、可溶化、拡散、潤滑、発泡などの目的で各種界面活性剤を用いることができる。
【0016】
本発明の着果促進剤は、トマト、ナス、ピーマンなどのナス科果菜類やスイカ、メロンなどのウリ科果菜類、及び豆類又はトウモロコシのような広範囲の果菜類或いは穀実の着果促進に用いることができ、特に、果菜類又は穀実の高温期における着果促進に用いることができる。
本発明の着果促進剤を植物に施用するには、上記のようにして製剤化した本発明の着果促進剤を、常法により開花前後の植物の花器及び/又は茎葉に散布するすることにより施用することができる。本発明の着果促進剤は、葉等に薬害が生じることがないので、茎葉に直接散布することによって施用することができ、したがって、殺菌剤や殺虫剤のような他の農薬と混合して散布することが可能である。また、本発明の着果促進剤は、4−クロロフェノキシ酢酸や、2,4−Dなどのような従来の着果促進剤で問題を生じた高温期(例えば、35〜40℃)における着果促進が可能であり、7〜8月のような高温期の栽培における着果・結実障害を軽減し、着果の促進を図ることができる。
【0017】
更に、本発明の着果促進剤は、従来着果促進剤として用いられている植物ホルモン剤のような単為結果促進剤でないため、例えば、トマト等の栽培において開花期の受粉を促進するために行われているマルハナバチのような昆虫の放飼による受粉媒助と併用することが可能である。該昆虫の放飼による受粉媒助を用いたトマト等の栽培においては、本発明の着果促進剤は上記のように過高温下でも稔性花粉を得、着果促進が可能であることから、周年に亘りマルハナバチのような昆虫の放飼による受粉媒助を利用することができる。
【0018】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例1.(種々の発育ステージに高温に遭遇したトマトの花の花粉粘性に及ぼす蕾へのポリアミン前処理の影響)
発育ステージの異なる蕾の一時的な高温遭遇が成熟花粉の稔性(25℃での発芽率と花粉管伸長)に及ぼす影響とそれに対する高温遭遇前の蕾への2.5mMスペルミジン溶液処理の軽減効果を調べた。第1花房に開花3、5、8日前の蕾が着生しているトマト株を用いた。第1花房の蕾数を3個に制限して、第1番花が開花3日前になったときに花房全体をスペルミジン溶液又は水に10秒間浸漬し、翌日から3日間だけ昼夜気温36/26℃に遭わせ、その後は28/20℃に戻した。対照区として高温に遭遇しない区を設けた。開花時に、花粉を採取して稔性花粉率(25℃で培養6時間後の花粉発芽率と花粉管長)を調査した。上記スペルミジン処理は、1mM、2.5mMスペルミジン(Spd)溶液に蕾を10秒間浸漬する方法により行った。更に、前記と同じ方法で植物体を3日間高温に遭わせ、その直後に葯(花粉を含む)を採取して、遊離体ポリアミン含量を測定した。
【0019】
その結果、特に開花8日前に高温に遭遇した蕾では花粉稔性が顕著に低下したが、これはスペルミジン処理により顕著に軽減された(図1)。また、開花8日前に高温に遭遇した蕾では、3日間の高温遭遇直後に調査した蕾の花粉+葯のスペルミジン濃度が著しく低下していた(図2)。これらの結果は、花粉発育中期の蕾が高温に遭遇するとポリアミン合成が阻害され、それが正常な花粉の発育に負の影響を及ぼすこと、および高温遭遇前の蕾へのスペルミジン処理により発育中の葯及び花粉のスペルミジン濃度が高まり、その結果、高温によって引き起こされる花粉稔性障害が軽減されることを示している。
【0020】
実施例2.(高温によるトマトの着果障害に対する蕾へのポリアミン処理の軽減及び着果促進作用)
前実施例と同様の実験条件で、高温遭遇前の蕾へのポリアミン処理が高温による着果率の低下を軽減できるかどうかを調べた。鉢植えトマト苗(品種:ハウス桃太郎)を1処理区当たり6株ずつを供試し、第1花房の蕾数を4個に制限した。常温区は、実験終了まで昼夜気温28/20℃で栽培した。高温区は、第1花房1番花が開花3日前(蕾長9−10mm)になった時に、36/26℃の高温室に3日間移し、その後は常温下で栽培した。ポリアミン処理は、高温遭遇1日前にすべての蕾を2.5mMスペルミジン溶液に10秒間浸漬することで行った。開花時に自家花粉を人工受粉し(ただし、高温遭遇区では常温区の花粉を受粉した)、受粉20日後に着果率と果実生体重を測定した。
【0021】
結果を表1に示す。高温に遭遇しなかった花の着果率は71%であった。一方、蕾時に高温に遭遇した花に自家花粉を受粉した場合は、スペルミジン無処理花の着果率は約30%(着果した花は大部分が開花3日前に高温に遭遇したもの)であったが、スペルミジン処理花では54%が着果した。また、着生した果実の初期肥大もポリアミン処理により促進された。以上の結果、発育中の蕾へのスペルミジン処理により高温による着果不良が軽減され、着果促進効果が得られることは明らかになった。なお、高温に遭遇しなかった花から得た花粉を高温遭遇花に受粉した場合は、スペルミジン無処理花でも65%の着果率が得られた(表1)。この結果は、高温による着果率の低下は主として花粉稔性の低下によっており、雌ずいの受精力は少なくとも36℃の高温では失われないことを示している。このことと、実施例1の実験で、花粉稔性の低下した花粉でも培地にスペルミジンを添加すると発芽率が29%から41%に上昇したことを併せて考えると、花粉稔性が低下した花でも、開花時の花へのスペルミジン処理によって着果率が高まることが明らかとなった。
【0022】
【表1】
【0023】
実施例3.(高温によるダイズの着果障害に対する蕾へのポリアミン処理の軽減及び着果促進作用)
前記二つの実施例と同様の実験条件で、ダイズの高温による着果障害に対する蕾へのポリアミン処理の影響について調べた。
夏季(7月20日)に播種した鉢植えダイズ苗(品種:福豊)を1処理区当たり12株ずつ供試した。各処理区とも8月12日までガラス室外で均一に栽培した。常温区は、実験終了までガラス室外で栽培した。高温区は、8月12日から8月22日まで換気を制限したガラス室に移し、その後は常温区とともにガラス室外で栽培し、気温が低下した9月25日に全株を無加温ガラス室に搬入して栽培を続けた。高温・ポリアミン処理区では、8月12日から3日ごとに、2.5mMスペルミジン溶液又は2.5mMカダベリン溶液を未開花の蕾に噴霧処理した。8月12日から8月22日までの平均気温は、常温区で32/26℃、高温区で40/30℃であった。8月22日に、異常な蕾を除去した後、正常蕾数を調査した。11月7日に、結実莢数、1莢当たりの種重量、1株の全種実の平均100粒重、株当たり種実重量を調査した。なお、8月22日以降に発生した蕾については調査の対象から外した。
【0024】
結果を表2に示す。夏季高温期にガラス室外(昼夜平均気温32/26℃)で栽培したダイズの結莢率は58.9%で、株当たり穀実収量は60.8gであった。これに対して、蕾が肉眼で認められる頃からガラス室(昼夜平均気温40/30℃)に移して栽培したものでは、結莢率及び株当たり穀実収量はそれぞれ37.3%、38.1gに激減した。しかし、開花前の蕾に2.5mMスペルミジン又は2.5mMカダベリン溶液を3日おきに3回噴霧することにより、ガラス室外で栽培したものとほぼ同じ結莢率・穀実収量が得られた(表2)。この結果は、ポリアミンは結実に受精を必要とする農作物全般の高温による着果不良に対して軽減及び着果促進作用を有することを示す。
【0025】
【表2】
【0026】
【発明の効果】
本発明の、ポリアミンを有効成分とする着果促進剤を用いることにより、高温下での果菜類や穀実の結実率の向上が可能となる。また、結実に受精を必要とする農作物は少なくないが、本発明の着果促進剤の有効成分であるポリアミンの着果促進作用は、従来の着果促進剤のような単為結果促進剤でないため、豆類やトウモロコシのような単為結果性の低い作物の着果促進等、広い範囲の果菜類や穀実に対する着果促進剤として適用することができる。また、本発明の着果促進剤の主成分であるポリアミンは茎葉に散布しても薬害を生じることがないため、本発明の着果促進剤は、直接植物の花器や茎葉に散布して施用することができ、該施用形態の特徴から、病害虫防除農薬と混合して茎葉散布することも可能となる。したがって、着果促進剤処理に要する労力と時間を大幅に節約することができる。
【0027】
更に、本発明の着果促進剤は、従来着果促進剤として用いられている植物ホルモン剤のような単為結果促進剤でないため、例えば、トマト等の栽培において開花期の受粉を促進するために行われているマルハナバチのような昆虫の放飼による受粉媒助と併用することが可能である。したがって、作物に対して効果的な着果促進処理を行うことができ、作物の生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例において、種々の発育ステージに高温に遭遇したトマト花の花粉稔性に及ぼす蕾へのポリアミン前処理の影響についての試験の結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例において、葯の内生ポリアミンレベルに及ぼす種々の発育ステージの蕾への高温処理の影響についての試験の結果を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、果菜類又は穀実等の植物の着果促進剤及び該着果促進剤を用いた着果促進方法、特に、花器や茎葉に散布することが可能であり、かつ高温期における着果促進が可能である着果促進剤及び該着果促進剤を用いた着果促進方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、果菜類等の栽培においては、特に低温下や日照不足下などのような着果不良環境下において、開花後の着果・結実を促進するために、植物ホルモンのような着果促進剤が用いられてきた。例えば、トマトのような果菜類の施設栽培においては、冬期の低温・日照不足による花器の発育不全や施設内の通風不良から来る受粉不良などによって、着果が不良になるという問題を生じることから、これらの回避策として、オーキシン系の植物ホルモンである4−クロロフェノキシ酢酸(4−CPA:トマトトーン)、クロキシホナック(トマトラン)及び2,4−ジクロロフェノキシ酢酸(2,4−D)等が用いられてきた。また、ナス等においても、その施設栽培において、トマトの場合と同じ理由から、落花や肥大不良果が問題となり、これを回避するために4−クロロフェノキシ酢酸、クロキシホナック及び2,4−D等の植物ホルモンによる開花時単花処理等が行われてきた。
【0003】
スイカやメロン等のウリ科野菜の施設栽培においては、冬期や天候不良時の低温や日照不足による着果不良を改善するために、サイトカイニン系のベンジルアミノプリンを開花期前後に花梗部に塗布したり、メロンでは、最近ホルクロロフェニュロンが効果の高い着果剤として用いられている。カボチャでは低温短日下の栽培で雄花の着生が阻害され、受粉不良の原因となったり、天候不良によって着果が阻害されるのを回避するためにベンジルアミノプリンの開花時花梗部処理が行われている。
このように、果菜類等の栽培に際しては、特に低温下や日照不足下などのような着果不良環境下において、開花後の着果・結実を促進するために、植物ホルモンのような種々の着果促進剤が用いられているが、これらの着果促進剤は、例えば、4−クロロフェノキシ酢酸などのように、茎葉散布すると葉に薬害が生じることから、着果促進剤の処理は、花房(花梗)処理のような形で処理しなければならず、それには多大の労力と時間を要することとなっている。
【0004】
近年、植物の茎葉に散布することが可能な着果促進剤として、2−メチル−4−クロロフェノキシ酪酸をナスやトマトの着果促進に用いるものが開示されている(特開2002−29906号公報)。この着果促進剤は、ナスやトマトの開花直前から開花終了直後に、ナスやトマトの植物体全体に散布することにより、処理されるものであるが、その対象植物はナスやトマトのような特定の植物に限定されている。したがって、該着果促進剤を例えばナスやトマト以外の果菜類や、マメ類或いはトウモロコシ等のような広い範囲の果菜類又は穀実等の植物の着果促進剤として用いることはできない。
【0005】
従来、着果促進剤として用いられている4−クロロフェノキシ酢酸や、2,4−Dなどの植物ホルモン剤は、単為結果促進剤であるため、マメ類やトウモロコシのように単為結果性の低い作物の着果または結実障害を軽減するために用いることはできない。また、トマト等の栽培においては、開花期の受粉を促進するために、例えばマルハナバチのような昆虫の放飼による受粉媒助が広く普及しているが、従来、着果促進剤として用いられている植物ホルモン剤は、単為結果促進剤であるため、このようなマルハナバチのような昆虫の放飼による受粉媒助にはマイナスに作用する。更に、マルハナバチのような昆虫の放飼による受粉媒助による着果の促進を行う場合には、花粉は稔性であること(発芽力があること)が不可欠である。しかし、7〜8月には高温により花粉稔性が著しく低下するために、マルハナバチを放飼しても着果が促進されないという問題点がある。また、4−クロロフェノキシ酢酸や、2,4−Dなどの植物ホルモン剤等、従来の着果促進剤は、果菜類等の着果促進剤として広く用いられているが、例えば、トマトでは、高温期には着生した果実に異常が発生する等の問題がある。
【0006】
一方、生体に広く分布するポリメチレンジアミン及びそのアミノ基を共有する結合体としてポリアミンが知られている。ポリアミンは、細胞増殖必須因子として、動物細胞、植物細胞、細菌などの増殖に深く関わっている生理活性物質である。最近、本発明者はポリアミンの植物における生理活性について考察する中で、高温下における花粉の発芽に対するポリアミンの影響についてin vitroで試験した結果、花粉の発芽が高温下で著しく阻害され、該阻害がポリアミンの添加で回復することを確認し、報告した(Scientia Horticulturae 80, 203−212, 1999)。また、花粉発芽及び花粉管伸長におけるポリアミン生合成阻害剤(polyamine biosynthesis inhibitors)の効果並びに発芽中のトマト(Lycopersicon esculentum Mill)花粉のプトレシン(Put)、スぺルミジン(Spd)及びスペルミン(Spm)の濃度(level)について研究を行う中で、トマト花粉が正常に発芽し花粉管が伸長するためには、Spd及びSpm含量の上昇が、必要不可欠であることを明らかにし、報告した(Plant Science 161, 507−515, 2001)。更に、ポリアミン生合成(polyamine biosynthesis)の低下が高温状態におけるトマト花粉の性能不良(poor performance)に関与している可能性について研究を行う中で、蛋白質合成又は機能的酵素形成の悪化(impaired protein synthesis or functional enzyme formation)に基づくと考えられるS−アデノシルメチオニン・デカルボキシラーゼ(S−adenosylmethionine decarboxylase)(SAMDC)活性の低下は、高温におけるトマト花粉の性能不良の主な原因であることを明らかにし、報告した(Plant Cell Physiolol. 43, 6, 619−627, 2002)。
【0007】
また、近年、このポリアミンについて、その生理活性を利用して、植物の発根促進、低温ストレス抵抗性の付与、或いは植物生長促進剤等として用いることについていくつかの開示がなされている。例えば、特開平7−46940号公報には、ポリアミンを木本植物の発根促進に用いる方法が開示されている。また、特開2000−290102号公報には、植物を種子形態において、或いは生育過程において、ポリアミンで処理することにより低温ストレス抵抗性を増強する方法が開示されている。更に、特開2001−46709号公報には、植物の低温ストレス遭遇時に、その発現量が変化する植物由来のポリアミン代謝関連酵素遺伝子を取得し、該遺伝子を用いて植物の低温ストレス抵抗性を増強する方法が開示されている。また、特開2002−29905号公報には、ポリアミンなどの生理活性物質を、植物生長促進剤として用いる方法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】
特開平7−46940号公報。
【特許文献2】
特開2000−290102号公報。
【特許文献3】
特開2001−46709号公報。
【特許文献4】
特開2002−29905号公報。
【特許文献5】
特開2002−29906号公報。
【非特許文献1】
Scientia Horticulturae 80, 203−212, 1999。
【非特許文献1】
Plant Science 161, 507−515, 2001。
【非特許文献1】
Plant Cell Physiolol. 43, 6, 619−627, 2002。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、果菜類又は穀実等の植物の新規着果促進剤及び該着果促進剤を用いた着果促進方法を提供すること、特に、広範囲の果菜類又は穀実等の植物に適用可能であり、更に、花器や茎葉に散布することが可能であり、かつ高温期における着果促進が可能である新規着果促進剤及び該着果促進剤を用いた着果促進方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意新規着果促進物質の探索を行った結果、ポリアミン、特に、生物体内に普遍的に存在するポリアミン(以下、「生体ポリアミン」という)が過高温による花粉稔性の低下や花粉発芽抑制を軽減することを確認し、これを果菜類又は穀実等の植物の着果時に用いることにより、該植物の高温期における着果・結実障害が軽減され、着果の促進作用が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。本発明の着果促進剤の有効成分であるポリアミンとしては、特には、プトレシン、スペルミジン、スペルミン及びカダベリン等の生体ポリアミンが挙げられる。本発明の着果促進剤は、トマトや豆類或いはトウモロコシのような広範囲の果菜類又は穀実等の植物に適用することが可能である。
【0011】
更に、本発明の着果促進剤は、4−クロロフェノキシ酢酸や、2,4−Dなどのような従来の着果促進剤で問題を生じた高温期(例えば、35〜40℃)における着果促進が可能であり、7〜8月のような高温期の栽培における着果・結実障害を軽減し、着果の促進を図ることができる。また、本発明の着果促進剤は、従来着果促進剤として用いられている植物ホルモン剤のような単為結果促進剤でないため、例えば、トマト等の栽培において開花期の受粉を促進するために行われている、マルハナバチのような昆虫の放飼による受粉媒助と併用することが可能である。更に、本発明の着果促進剤は、葉等に薬害が生じることがないので、花器や茎葉に散布によって施用することができ、着果促進剤の処理にあたっての多大な労力と時間の節減を可能とすると共に、他の農薬との併用による茎葉処理が可能となるなど、農作物の栽培における生産性向上を図ることができる。
【0012】
すなわち具体的には本発明は、ポリアミンを有効成分とする着果促進剤(請求項1)や、ポリアミンが、生体ポリアミンであることを特徴とする請求項1記載の着果促進剤(請求項2)や、ポリアミンが、プトレシン、スペルミジン、スペルミン及びカダベリンから選択される1又は2以上のポリアミンであることを特徴とする請求項1又は2記載の着果促進剤(請求項3)からなる。
【0013】
また本発明は、請求項1〜3のいずれか記載のポリアミンを有効成分とする着果促進剤を、開花前後の植物の花器及び/又は茎葉に散布することを特徴とする着果促進方法(請求項4)や、着果促進が、果菜類又は穀実の高温期における着果促進であることを特徴とする請求項4記載の着果促進方法(請求項5)や、果菜類又は穀実が、ナス科果菜類、ウリ科果菜類、豆類又はトウモロコシであることを特徴とする請求項5記載の着果促進方法(請求項6)や、ナス科果菜類が、トマト、ナス又はピーマンであり、ウリ科果菜類が、スイカ、メロンであることを特徴とする請求項6記載の着果促進方法(請求項7)や、請求項4〜7のいずれか記載のポリアミンを有効成分とする着果促進剤を用いた着果促進と、昆虫の放飼による受粉媒助とを併用することを特徴とする着果促進方法(請求項8)や、昆虫の放飼による受粉媒助が、トマト栽培におけるマルハナバチの放飼による受粉媒助であることを特徴とする請求項8記載の着果促進方法(請求項9)からなる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明は、ポリアミンを有効成分とする着果促進剤及び該着果促進剤を用いた着果促進方法よりなる。本発明において有効成分として用いられるポリアミンは、第一級アミノ基を二つ以上もつ(直鎖の)脂肪族炭化水素の総称であるが、生体には、ジアミン、トリアミン、テトラアミン,ペンタアミン、ヘキサアミン等20種類以上が見い出されている(生体ポリアミン)。本発明の目的のために特に適した生体ポリアミンとしては、プトレシン(ジアミン)、スペルミジン(トリアミン)、スペルミン(テトラアミン)及びカダベリン(ジアミン)が挙げられる。
本発明においては、これらのポリアミンから選択される1又は2以上のポリアミンを有効成分として用いることができる。
【0015】
本発明の有効成分を着果促進剤として用いるには、農薬の施用において通常用いられる製剤化形態を用いて行うことができる。本発明の着果促進剤は、植物の花器や茎葉に直接散布することが可能であるため、農薬製剤において通常用いられている、液剤、乳剤、水和剤、粉剤のような形に製剤化して用いるのが好ましい。これらの製剤化に用いられる液体担体としては、キシレン、トルエン、ナフサ、パラフィン油、低級アルコール類、グリコール類、グリコールエステル類、グリコールエーテル類、セロソルブ類、ジオキサン、N−メチルピロリドン、植物油類及び鉱物油類等、また、固体担体としては、カオリン、クレー、タルク、珪砂、白土、合成シリカ、珪藻土、ベントナイト、各種粘土鉱物、各種植物粉末、PVA、デンプン、セルロース、CMC、各種糖類、糖類誘導体等、液体担体或いは固体担体として通常用いられている担体を用いることができる。本発明の着果促進剤の製剤化に際しては、必要により、乳化、分散、湿潤、可溶化、拡散、潤滑、発泡などの目的で各種界面活性剤を用いることができる。
【0016】
本発明の着果促進剤は、トマト、ナス、ピーマンなどのナス科果菜類やスイカ、メロンなどのウリ科果菜類、及び豆類又はトウモロコシのような広範囲の果菜類或いは穀実の着果促進に用いることができ、特に、果菜類又は穀実の高温期における着果促進に用いることができる。
本発明の着果促進剤を植物に施用するには、上記のようにして製剤化した本発明の着果促進剤を、常法により開花前後の植物の花器及び/又は茎葉に散布するすることにより施用することができる。本発明の着果促進剤は、葉等に薬害が生じることがないので、茎葉に直接散布することによって施用することができ、したがって、殺菌剤や殺虫剤のような他の農薬と混合して散布することが可能である。また、本発明の着果促進剤は、4−クロロフェノキシ酢酸や、2,4−Dなどのような従来の着果促進剤で問題を生じた高温期(例えば、35〜40℃)における着果促進が可能であり、7〜8月のような高温期の栽培における着果・結実障害を軽減し、着果の促進を図ることができる。
【0017】
更に、本発明の着果促進剤は、従来着果促進剤として用いられている植物ホルモン剤のような単為結果促進剤でないため、例えば、トマト等の栽培において開花期の受粉を促進するために行われているマルハナバチのような昆虫の放飼による受粉媒助と併用することが可能である。該昆虫の放飼による受粉媒助を用いたトマト等の栽培においては、本発明の着果促進剤は上記のように過高温下でも稔性花粉を得、着果促進が可能であることから、周年に亘りマルハナバチのような昆虫の放飼による受粉媒助を利用することができる。
【0018】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例1.(種々の発育ステージに高温に遭遇したトマトの花の花粉粘性に及ぼす蕾へのポリアミン前処理の影響)
発育ステージの異なる蕾の一時的な高温遭遇が成熟花粉の稔性(25℃での発芽率と花粉管伸長)に及ぼす影響とそれに対する高温遭遇前の蕾への2.5mMスペルミジン溶液処理の軽減効果を調べた。第1花房に開花3、5、8日前の蕾が着生しているトマト株を用いた。第1花房の蕾数を3個に制限して、第1番花が開花3日前になったときに花房全体をスペルミジン溶液又は水に10秒間浸漬し、翌日から3日間だけ昼夜気温36/26℃に遭わせ、その後は28/20℃に戻した。対照区として高温に遭遇しない区を設けた。開花時に、花粉を採取して稔性花粉率(25℃で培養6時間後の花粉発芽率と花粉管長)を調査した。上記スペルミジン処理は、1mM、2.5mMスペルミジン(Spd)溶液に蕾を10秒間浸漬する方法により行った。更に、前記と同じ方法で植物体を3日間高温に遭わせ、その直後に葯(花粉を含む)を採取して、遊離体ポリアミン含量を測定した。
【0019】
その結果、特に開花8日前に高温に遭遇した蕾では花粉稔性が顕著に低下したが、これはスペルミジン処理により顕著に軽減された(図1)。また、開花8日前に高温に遭遇した蕾では、3日間の高温遭遇直後に調査した蕾の花粉+葯のスペルミジン濃度が著しく低下していた(図2)。これらの結果は、花粉発育中期の蕾が高温に遭遇するとポリアミン合成が阻害され、それが正常な花粉の発育に負の影響を及ぼすこと、および高温遭遇前の蕾へのスペルミジン処理により発育中の葯及び花粉のスペルミジン濃度が高まり、その結果、高温によって引き起こされる花粉稔性障害が軽減されることを示している。
【0020】
実施例2.(高温によるトマトの着果障害に対する蕾へのポリアミン処理の軽減及び着果促進作用)
前実施例と同様の実験条件で、高温遭遇前の蕾へのポリアミン処理が高温による着果率の低下を軽減できるかどうかを調べた。鉢植えトマト苗(品種:ハウス桃太郎)を1処理区当たり6株ずつを供試し、第1花房の蕾数を4個に制限した。常温区は、実験終了まで昼夜気温28/20℃で栽培した。高温区は、第1花房1番花が開花3日前(蕾長9−10mm)になった時に、36/26℃の高温室に3日間移し、その後は常温下で栽培した。ポリアミン処理は、高温遭遇1日前にすべての蕾を2.5mMスペルミジン溶液に10秒間浸漬することで行った。開花時に自家花粉を人工受粉し(ただし、高温遭遇区では常温区の花粉を受粉した)、受粉20日後に着果率と果実生体重を測定した。
【0021】
結果を表1に示す。高温に遭遇しなかった花の着果率は71%であった。一方、蕾時に高温に遭遇した花に自家花粉を受粉した場合は、スペルミジン無処理花の着果率は約30%(着果した花は大部分が開花3日前に高温に遭遇したもの)であったが、スペルミジン処理花では54%が着果した。また、着生した果実の初期肥大もポリアミン処理により促進された。以上の結果、発育中の蕾へのスペルミジン処理により高温による着果不良が軽減され、着果促進効果が得られることは明らかになった。なお、高温に遭遇しなかった花から得た花粉を高温遭遇花に受粉した場合は、スペルミジン無処理花でも65%の着果率が得られた(表1)。この結果は、高温による着果率の低下は主として花粉稔性の低下によっており、雌ずいの受精力は少なくとも36℃の高温では失われないことを示している。このことと、実施例1の実験で、花粉稔性の低下した花粉でも培地にスペルミジンを添加すると発芽率が29%から41%に上昇したことを併せて考えると、花粉稔性が低下した花でも、開花時の花へのスペルミジン処理によって着果率が高まることが明らかとなった。
【0022】
【表1】
【0023】
実施例3.(高温によるダイズの着果障害に対する蕾へのポリアミン処理の軽減及び着果促進作用)
前記二つの実施例と同様の実験条件で、ダイズの高温による着果障害に対する蕾へのポリアミン処理の影響について調べた。
夏季(7月20日)に播種した鉢植えダイズ苗(品種:福豊)を1処理区当たり12株ずつ供試した。各処理区とも8月12日までガラス室外で均一に栽培した。常温区は、実験終了までガラス室外で栽培した。高温区は、8月12日から8月22日まで換気を制限したガラス室に移し、その後は常温区とともにガラス室外で栽培し、気温が低下した9月25日に全株を無加温ガラス室に搬入して栽培を続けた。高温・ポリアミン処理区では、8月12日から3日ごとに、2.5mMスペルミジン溶液又は2.5mMカダベリン溶液を未開花の蕾に噴霧処理した。8月12日から8月22日までの平均気温は、常温区で32/26℃、高温区で40/30℃であった。8月22日に、異常な蕾を除去した後、正常蕾数を調査した。11月7日に、結実莢数、1莢当たりの種重量、1株の全種実の平均100粒重、株当たり種実重量を調査した。なお、8月22日以降に発生した蕾については調査の対象から外した。
【0024】
結果を表2に示す。夏季高温期にガラス室外(昼夜平均気温32/26℃)で栽培したダイズの結莢率は58.9%で、株当たり穀実収量は60.8gであった。これに対して、蕾が肉眼で認められる頃からガラス室(昼夜平均気温40/30℃)に移して栽培したものでは、結莢率及び株当たり穀実収量はそれぞれ37.3%、38.1gに激減した。しかし、開花前の蕾に2.5mMスペルミジン又は2.5mMカダベリン溶液を3日おきに3回噴霧することにより、ガラス室外で栽培したものとほぼ同じ結莢率・穀実収量が得られた(表2)。この結果は、ポリアミンは結実に受精を必要とする農作物全般の高温による着果不良に対して軽減及び着果促進作用を有することを示す。
【0025】
【表2】
【0026】
【発明の効果】
本発明の、ポリアミンを有効成分とする着果促進剤を用いることにより、高温下での果菜類や穀実の結実率の向上が可能となる。また、結実に受精を必要とする農作物は少なくないが、本発明の着果促進剤の有効成分であるポリアミンの着果促進作用は、従来の着果促進剤のような単為結果促進剤でないため、豆類やトウモロコシのような単為結果性の低い作物の着果促進等、広い範囲の果菜類や穀実に対する着果促進剤として適用することができる。また、本発明の着果促進剤の主成分であるポリアミンは茎葉に散布しても薬害を生じることがないため、本発明の着果促進剤は、直接植物の花器や茎葉に散布して施用することができ、該施用形態の特徴から、病害虫防除農薬と混合して茎葉散布することも可能となる。したがって、着果促進剤処理に要する労力と時間を大幅に節約することができる。
【0027】
更に、本発明の着果促進剤は、従来着果促進剤として用いられている植物ホルモン剤のような単為結果促進剤でないため、例えば、トマト等の栽培において開花期の受粉を促進するために行われているマルハナバチのような昆虫の放飼による受粉媒助と併用することが可能である。したがって、作物に対して効果的な着果促進処理を行うことができ、作物の生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例において、種々の発育ステージに高温に遭遇したトマト花の花粉稔性に及ぼす蕾へのポリアミン前処理の影響についての試験の結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例において、葯の内生ポリアミンレベルに及ぼす種々の発育ステージの蕾への高温処理の影響についての試験の結果を示す図である。
Claims (9)
- ポリアミンを有効成分とする着果促進剤。
- ポリアミンが、生体ポリアミンであることを特徴とする請求項1記載の着果促進剤。
- ポリアミンが、プトレシン、スペルミジン、スペルミン及びカダベリンから選択される1又は2以上のポリアミンであることを特徴とする請求項1又は2記載の着果促進剤。
- 請求項1〜3のいずれか記載のポリアミンを有効成分とする着果促進剤を、開花前後の植物の花器及び/又は茎葉に散布することを特徴とする着果促進方法。
- 着果促進が、果菜類又は穀実の高温期における着果促進であることを特徴とする請求項4記載の着果促進方法。
- 果菜類又は穀実が、ナス科果菜類、ウリ科果菜類、豆類又はトウモロコシであることを特徴とする請求項5記載の着果促進方法。
- ナス科果菜類が、トマト、ナス又はピーマンであり、ウリ科果菜類が、スイカ、メロンであることを特徴とする請求項6記載の着果促進方法。
- 請求項4〜7のいずれか記載のポリアミンを有効成分とする着果促進剤を用いた着果促進と、昆虫の放飼による受粉媒助とを併用することを特徴とする着果促進方法。
- 昆虫の放飼による受粉媒助が、トマト栽培におけるマルハナバチの放飼による受粉媒助であることを特徴とする請求項8記載の着果促進方法。
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Cited By (3)
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WO2007058347A1 (ja) * | 2005-11-21 | 2007-05-24 | National University Corporation Chiba University | 栽培植物の着果・生育促進方法および着果・生育促進装置 |
KR101288043B1 (ko) * | 2010-06-28 | 2013-07-22 | 대한민국 | 흑오미자 개화결실 인공촉진법 |
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-
2003
- 2003-04-30 JP JP2003124741A patent/JP2004331507A/ja active Pending
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WO2007058347A1 (ja) * | 2005-11-21 | 2007-05-24 | National University Corporation Chiba University | 栽培植物の着果・生育促進方法および着果・生育促進装置 |
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