JP2004323503A - ヒストン脱アセチル化酵素阻害活性を有する放射線感受性亢進剤および有効な放射線感受性亢進剤の至適投与量を特定するための方法 - Google Patents

ヒストン脱アセチル化酵素阻害活性を有する放射線感受性亢進剤および有効な放射線感受性亢進剤の至適投与量を特定するための方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の前処理により、本来、放射線照射に対する感受性の低い癌細胞の感受性を高めることを課題とする。また、本発明は、これにより新規の放射線増感剤を提供することを課題とする。
【解決手段】細胞分裂に依存する従来型の抗癌剤とは異なった機序で働くヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を癌細胞に前処理することによって、放射線照射によるアポトーシスが増強することを確認した。これにより、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を利用した放射線治療の適応拡大と応用性が高まった。
【選択図】図2

Description

本発明は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害活性またはアポトーシス誘導活性を利用して細胞の生物活性を変化させ、放射線による治療効果を高める放射線感受性亢進剤に関する。また、ヒストン脱アセチル化酵素阻害活性を有する放射線感受性亢進剤添加後に生じるヒストンのアセチル化レベルの変化によって、上記した治療効果を高めるために必要な放射線感受性亢進剤の至適投与量を定めるための検査法に関する。
放射線照射後に生じるアポトーシスは、癌治療のなかで極めて重要な位置付けにある。すなわち、手術不能な進行癌に対し、局所の放射線照射によって、放射線感受性の低い癌細胞であっても、寿命の延長効果があり、また、放射線感受性のある早期喉頭癌食道癌、頭頚部癌、または子宮頚癌などの扁平上皮癌では手術による摘出に匹敵する治療効果をあげている。しかし、放射線照射の十分な効果の得られない疾患症例も認められることから、近年、放射線照射と同時に5−FUやシスプラチン及びその類似抗がん剤などの化学療法を併用して治療効果を高める試みがなされている(非特許文献1)。
また、放射線照射によるアポトーシスを用いた癌治療における他の問題点として、ヒトの癌種で最も高頻度に認められる腺癌、特に消化器癌の多くは放射線に対する感受性が低く、また正常粘膜への傷害などの理由から実際に臨床で使用されることは稀である点が挙げられる。
これまでの放射線照射の感受性亢進させる癌の治療薬として、様々な薬剤、遺伝子導入などが試みられているが、未だに十分な効果が得られているとは言えない。例えば、膵癌の治療薬である塩酸ゲムシタビンは、放射線治療効果を高めるとの期待があったが、副作用の増大のため、併用による明らかな有効性は不明である(非特許文献2)。さらに塩酸ゲムシタビンの作用は、従来の抗癌剤と同様な代謝拮抗薬であることから、細胞増殖、DNA合成のさかんな細胞に作用するものであり、このような機序を考慮すると放射線との併用効果は、困難であるといわざるをえない。また、癌遺伝子蛋白Rasを介するシグナルを阻害させ、放射線に対する感受性を高めるとの報告がなされているが、例えば特許文献1に記載されているように、これはRas遺伝子に変異のある癌を対象とした治療であり、その汎用性に難点があるため実用化は困難と思われる。同様に、低酸素性細胞に対し勝れた放射線増感作用を有する、例えば特許文献2に記載されているように、低酸素状態である細胞を対象としており、その汎用性に問題がある。
一方、遺伝子転写の制御にはヒストンのアセチル化および脱アセチル化ヒストンのアセチル化が関与していることは知られている。また、ヒストンのアセチル化に関連する現象として、ヒストンのアセチル化によりコンパクトになったDNAが弛緩する結果、DNA消化酵素や放射線照射によってDNAが消化、切断されやすくなるという現象が既知のものとなっている(非特許文献3)。しかし、ヒストンの脱アセチル化阻害とアポトーシスとの直接の関連については未だ不明である。
また、アセチル化を促す可能性のある酪酸を添加することにより、放射線照射後の細胞死が増加することも明らかになっている(非特許文献4)。しかし、酪酸には様々な作用があり、果たしてヒストンアセチル化が放射線照射後の生物学的変化に関与しているのかは不明である。
上記のとおり、従来の放射線増感剤として試みられている薬剤は、DNA合成を阻害することによって細胞周期の進行を阻害するものであり、必ずしも放射線照射による生物活性すなわち放射線照射によるアポトーシスと関連性がないため、相加的な効果と思われる程度の放射線増強作用を認めるに留まっており、とくに感受性の低い癌種には治療効果が期待できないものであった。
すなわち、放射線照射によるアポトーシスを用いた癌治療をより効果的なものにするために、抗癌剤との併用により細胞の放射線感受性を亢進せしめる試みがなされているが、癌種の放射線照射に対する感受性の高低を問わず、いずれの方法も十分な効果を得るには至っていないのが現状である。
特表2000―508661号公報 特開2000―212087号公報 Ann. Oncol. 14:1278-1284, 2003; Am. J. Clin. Oncol. 24:91-95, 2001 Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys. 56:974-980, 2003 Chromosome Res. 9:69-75, 2001 Neoplasia 3:331-338, 2001 Proc. Natl. Acad. Sci. U S A., 96:4592-4597, 1999 Cancer Res. 59:4392-4399, 1999
したがって、本発明の課題は、癌細胞の放射線照射に対する感受性を亢進せしめる薬剤を見いだすことである。かかる薬剤を放射線照射と併用することによって、放射線照射に対し低感受性である癌の感受性を亢進させ、従来の照射のみでは十分な効果の得られなかった癌種を放射線治療の対象にしえるようにし、これらの癌の放射線治療効果を飛躍的に高めることができる。また、放射線照射感受性のある癌に対しても、さらなる治療効果の向上により、低線量で治療しうるようにすることも可能になる。
また、本発明の他の課題は、十分な治療効果を得るために必要な前記薬剤の量を定めるための方法を提供することである。
上記課題に鑑み、鋭意研究を重ねたところ、本発明者らは、驚くべきことにヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC) 阻害剤活性および/または単独ではアポトーシスを生じせしめない量のアポトーシス誘導活性を有する化合物が、顕著な放射線照射によるアポトーシス誘導増強活性を有することを見いだし、さらに放射線照射によるアポトーシス誘導を増強する活性を有する化合物を探索することによって、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害活性化合物および/または単独ではアポトーシスを生じせしめない量のアポトーシス誘導活性化合物に関する。
また、本発明は、放射線に対する感受性が低い細胞に対しても放射線感受性亢進活性を有する、前記放射線感受性亢進剤に関する。
さらに、本発明は、放射線治療効果を高めるための放射線感受性亢進活性を有する、前記放射線感受性亢進剤に関する。
また、本発明は、単独ではアポトーシスを生じせしめない量のアポトーシス誘導活性化合物を有効成分として含む前記放射線感受性亢進剤に関する。
さらに、本発明は、アポトーシス誘導活性化合物として、アポトーシス関連分子Bimの発現誘導活性またはBcl−xL発現抑制活性を有する化合物を含む、前記放射線感受性亢進剤に関する。
また、本発明は、ヒストン脱アセチル化酵素阻害活性化合物またはアポトーシス誘導活性化合物としてMS−275および/またはCBHAを含む、前記放射線感受性亢進剤に関する。
さらに、本発明は、前記いずれかの放射線感受性亢進剤を含む、悪性の腫瘍細胞に与える生物活性に対する効果を高めるための医薬に関する。
また、本発明は、前記いずれかの放射線感受性亢進剤を含む、放射線照射によって縮小効果が増強される良性の腫瘍細胞に与える生物活性対する効果を高めるための医薬に関する。具体的には、対象となる良性細胞とは、バセドー病などの甲状腺腫、疣、神経腫瘍、線維腫などの非上皮性腫瘍、血管腫、過誤腫、非腫瘍性に肥大した脾腫などを意味する。
さらにまた、本発明は、前記いずれかの記載の放射線感受性亢進剤を用いた増感療法において、以下のステップを含む、該増感療法によって細胞の縮小効果が得られるための放射線感受性亢進剤の至適投与量を特定するための方法に関する:
(a)前記放射線感受性亢進剤を細胞培養液に添加し培養するステップ、
(b)培養後の前記培養液からヒストンを精製する工程、および
(c)前記精製されたヒストンのアセチル化のレベルを評価する工程。
そして、本発明は、ステップ(a)における培養液の培養を24時間行う、前記方法に関する。
HDAC阻害剤は、強い抗癌活性を有することも知られている剤であるが、その作用機構は他の抗癌作用物質の作用機構とは異なるものである。すなわち、既知の他の抗癌作用物質、例えば5−FUは、ヌクレオシド類縁体であるかまたは遺伝毒性物質であり、DNA合成を阻害することによって細胞周期の進行を阻害するものである。これに対して、遺伝子転写の制御にはヒストンのアセチル化および脱アセチル化ヒストンのアセチル化が関与しているところ、前記HDAC阻害剤はヒストンのアセチル化を促進し、種々の遺伝子における転写活性を増大せしめる。
さらに詳細には、この作用はアセチルトランスフェラーゼ活性が相対的に増大されることによってHDACが不活化されることにより発現されるものである。すなわち、HDAC阻害剤は他の多くの抗癌剤とは異なり、DNA自体には影響を及ぼさない。したがって、他の多くの抗癌剤に比較して副作用を生ぜしめる危険性が小さいことが特徴である。すなわち、本発明による放射線感受性亢進剤は、優れた放射線感受性亢進活性を有するのみならず、副作用を生ぜしめる危険性が小さいものである。
また、本発明による放射線感受性亢進剤の放射線感受性亢進作用の機構は、DNAを封入しているヒストンが本発明による放射線感受性亢進剤によってアセチル化過剰(hyper-acetylated)状態になり弛緩し、DNAも弛緩する結果外的刺激に対するDNAの感受性が増大することによるものであると推察される。
一方、本発明による放射線感受性亢進剤の有効成分として、単独ではアポトーシスを生じせしめない量のアポトーシスを誘導活性化合物を含有せしめることによって、放射線感受性を顕著に亢進することができる。かかる本発明による放射線感受性亢進剤の効果は、増殖中に放射線感受性が高い細胞に対して処理された場合に、増殖抑制に働くアポトーシス誘導活性を有する放射線感受性亢進剤が前記細胞の放射線感受性を低下せしめることとは対照的である。例えば、前記5−FUを用いた場合、放射線に対する細胞の感受性は低下する(図2参照)。
すなわち、本発明による放射線感受性亢進剤は、投与量の観点からも、副作用を生ぜしめる危険性が小さいものである。
本発明によれば、放射線照射後のアポトーシスに対する細胞の感受性を飛躍的に増大せしめることができる。また、本発明によれば、本発明の放射線感受性亢進剤を用いた増感療法において、該増感療法によって細胞の縮小効果が得られるための放射線感受性亢進剤の至適投与量を短時間で特定することができる。
したがって、本発明の放射線感受性亢進剤は、放射線照射との併用抗癌剤として極めて有用である。
本発明による放射線感受性亢進剤の有効成分は、HDAC阻害活性化合物またはアポトーシス誘導活性化合物であれば制限されない。
本発明による放射線感受性亢進剤のうち、放射線感受性が高い細胞に対して、放射線感受性亢進活性を有するものは、治療に必要とする放射線線量を減弱させうることが期待できる。例えば、頭頚部癌、肺癌、子宮頚癌、外陰部癌などの扁平上皮癌や腎臓癌、前立腺癌、乳癌、甲状腺癌、骨腫瘍、さらに基底細胞癌などの皮膚癌、悪性リンパ腫、白血病からなる少なくとも一種の腫瘍において、放射線の治療効果を高めることが期待できる。具体的には、口腔癌細胞(SAS細胞等)のように20Gy程度の放射線照射36時間後の細胞死の割合が、約5%以上である細胞を意味する。
本発明による放射線感受性亢進剤のうち、放射線感受性が低い細胞に対しても放射線感受性亢進活性を有するものは、放射線との併用治療においてより広範な適用範囲を有するため好ましい。
なお、本明細書における「放射線感受性が低い細胞」とは、これまで一般的には放射線治療の対象とはなっていない細胞を意味する。例えば、胃腸管腫瘍や膵癌、肝癌、胆管癌、肺癌(腺癌)等を意味する。より具体的には、胃癌細胞(MKN45細胞等)または大腸癌細胞(DLD1細胞等)のような、30Gy程度の放射線照射60時間後の細胞死の割合が、約5〜10%以下である細胞を意味する。
アポトーシス誘導活性化合物としては、アポトーシス誘導を促進するアポトーシス関連分子であるBimの発現誘導活性またはアポトーシス誘導を阻害するアポトーシス関連分子であるBcl−xL発現抑制活性を有する化合物は、高い放射線感受性亢進作用を有するため好ましい。
アポトーシス誘導活性化合物の含有量は、単独ではアポトーシスを生じせしめない量であればよい。なお、本明細書における「単独ではアポトーシスを生じせしめない量」とは、投与3日後の細胞死の割合が全細胞の20%未満となる量を意味する。例えば下記MS−275においては約4μM以下であり、CBHAにおいては約8μM以下である。
また、HDAC阻害活性化合物として、高い放射線感受性亢進活性を有するものは好ましい。したがって、本発明の放射線感受性亢進剤のうち、MS−275(非特許文献5)および/または CBHA (非特許文献6)を有効成分として含有するものは好ましい。
Figure 2004323503
また、本発明は前記放射線感受性亢進剤を含む、癌種の細胞に与える生物活性に対する効果を高めるための医薬に関する。
なお、本明細書において「生物活性」とは、アポトーシスを含む、生物の一連の活動を意味する。
本発明の放射線感受性亢進剤を含む医薬によれば、有効成分を効果的に送達することができるため、放射線感受性亢進剤による作用をより効果的発現せしめることができる。
本発明の放射線感受性亢進剤を含む医薬は、ヒト医薬または獣医薬として効果的に用いることができる。本発明の医薬を製剤化する場合に好適な賦形剤は、経腸(例えば経口)、非経口または局所投与に好適で、前記化合物と反応しない有機または無機物質、例えば水、植物油、ベンジルアルコール、アルキレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロールトリアセテート、ゼラチン、乳糖またはデンプンなどの炭水化物、ステアリン酸マグネシウム、タルクまたはワセリンである。
経口投与に好適なのは、特に錠剤、ピル、被覆錠剤、カプセル、粉末、顆粒、シロップ、ジュース、溶液、懸濁液またはドロップであり、直腸投与に好適なのは坐剤であり、非経口投与に好適なのは、溶液、好ましくはオイルベースのまたは水性の溶液、さらにまた懸濁液、エマルションまたは移植片であり、そして局所投与に好適なのは、軟膏、クリームまたはパウダーであり、またはパッチで経皮的になされるものである。
本発明の医薬の投与形態としては、本発明の放射線感受性亢進剤は治療対象部位に確実に送達せしめる必要性、および投与の簡便さの観点から非経口投与が好ましく、とくに注射、腫瘍内投与もしくは支配動脈からの注入等が好ましい。
本発明による放射線感受性亢進剤の有効成分は、凍結乾燥してもよく、精製した凍結乾燥物を、例えば、注射製剤の製造に使用してもよい。示された前記製剤は、滅菌してもよく、および/または、潤滑剤、保存剤、安定剤などの助剤、および/または、湿潤剤、乳化剤、浸透圧を変更するための塩、緩衝物質、着色剤および風味剤、および/または、多数のさらなる活性成分、例えば1種または2種以上のビタミンを含んでもよい。
エアロゾル又はスプレーの形態での投与のための好適な製剤は、例えば、薬学的に許容し得る溶媒中の式Iで表される活性成分の溶液、懸濁液またはエマルジョンである。
一般的に、本発明の放射線感受性亢進剤は、好ましくは用量単位あたり、有効成分の量として1〜800mg、特に好ましくは5〜200mgの用量で投与される。日量は、体重1kgあたり約0.01〜50mgであり、好ましくは体重1kgあたり約0.1〜10mgであり、特に好ましくは体重1kgあたり約 0.5〜8mgである。しかしながら、各患者への具体的な用量は、広範な因子、例えば、用いられる具体的な化合物の活性、癌の発症部位、年齢、体重、健康の一般状態、性別、食餌、投与の時間および方法、排泄率、医薬の組合せおよび治療が適用される特定の疾患の重篤度に左右される。
したがって、本発明はさらにまた、本発明の放射線感受性亢進剤の、癌種の細胞に与える生物活性対する効果を高めるための医薬に関する。この場合、これらの放射線感受性亢進剤の有効成分である化合物は、少なくとも1種の固形、液状および/または半液状賦形剤または助剤と共に、そして、所望に応じて1種または2種以上のさらなる活性成分との組合せで好適な用量形態に変換することができる。
本発明の放射線感受性亢進剤を含む医薬のうち、良性の腫瘍細胞に与える生物活性に対する効果を高める医薬は、DNAに傷害を与えない変異原性の低い活性を有するため好ましい。
本発明の放射線感受性亢進剤を増感療法に用いれば、放射線感受性亢進剤または医薬を放射線照射前に細胞に処理することによって、放射線照射後に生じる生物学的反応を強め、放射線治療効果を高めることができる。また、本発明による放射線感受性亢進剤を放射線照射の1時間以上前に投与すれば、放射線照射誘導細胞死を増強させることにより効能を十分に発揮するため好ましい。
本発明の放射線感受性亢進剤、とくに単独ではアポトーシスを生じさせない量のアポトーシス誘導活性化合物を含有する放射線感受性亢進によって細胞の縮小効果を得るための放射線感受性亢進剤の至適投与量、すなわち細胞の放射線感受性を顕著に、例えば25%以上亢進せしめる投与量は、以下のステップを含む方法によって特定することが好ましい:
(a)前記放射線感受性亢進剤を細胞培養液に添加し培養するステップ、
(b)培養後の前記培養液からヒストンを精製する工程、および
(c)前記精製されたヒストンのアセチル化のレベルを評価する工程。
すなわち、十分な治療効果を発揮させるために放射線感受性亢進剤を添加後、ヒストンを部分精製しそのアセチル化のレベルを評価し、必要なヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の量を把握する。これにより、適切な用量で副作用を軽減し最大の放射線増強効果を発揮させることができるようになる。上記ステップ(a)における培養液の培養時間は、24時間であれば十分かつ長すぎないため好ましい。
さらに、治療対象となる細胞の種類によって、薬剤の選択も行うことは、治療の最適化の観点から好ましい。
以上のとおり、本発明によれば、HDAC阻害活性化合物および/またはまたはアポトーシス誘導活性化合物、好ましくはMS−275またはCBHAの前処理により、放射線照射後のアポトーシスに対する感受性を飛躍的に増加させることができる。具体的な実施の形態の例としては、ヒト癌患者または癌罹患動物、例えば胃癌、大腸癌、口腔粘膜癌患者等に、様々な量のヒストン脱アセチル化酵素阻害またはアポトーシス誘導剤、好ましくはMS−275またはCBHAを予め、好ましくは放射線照射1時間前に投与し、放射線治療をおこなう。投与の形態は、治療対象部位に確実に送達せしめる必要性、および投与の簡便さの観点から非経口投与が好ましく、とくに注射が好ましい。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例において対象とした癌細胞は、放射線感受性に乏しいものとして胃癌、大腸癌、すなわちヒト胃癌細胞株MKN45、大腸癌細胞株DLD1細胞を用いた。また、放射線感受性のある扁平上皮癌細胞として、口腔粘膜癌SASを用いた。これらの細胞株は、放射線照射(10〜20Gy)に対し、ほとんど細胞死を起こさなかったが、CBHAを放射線照射の一時間前に前処理することによって、明らかに放射線照射後の細胞死を増大させた。この薬剤は、放射線感受性を増強させた濃度において単独ではほとんど細胞死を惹起しなかったことから、放射線感受性を亢進させる作用があることが示された。さらにインビボにおける実施例として、ヌードマウスにおいて形成したヒト胃癌細胞株MKN45の皮下腫瘍に対する放射線治療において、CBHAによる増強効果が発揮された実施例を示す。
〔実施例1〕
(1)放射線低感受性細胞に対する効果1
(方法)ヒト胃癌細胞株MKN45のMS−275(以下HDAC阻害剤Iとする)及び CBHA(HDAC阻害剤IIとする)に対する反応性を以下のように調べた。
(a)MKN45細胞のHDAC阻害剤に対する感受性
図1に示された濃度のHDAC阻害剤添加後の細胞死をトリパンブルー排出試験によって評価した。
(b)MKN45細胞のHDAC阻害剤前処理による放射線感受性の亢進(細胞死)
HDAC阻害剤I(2μM) 及び II(4μM)の添加後1時間培養後に放射線30Gy照射。60時間後にトリパンブルー染色によって細胞死を評価した。コントロールとして前処理をしないもの 5−FU(10μM) 添加したものとの比較検討を行った。
(c)MKN45細胞のHDAC阻害剤前処理による放射線感受性の亢進(DNA断片化)
HDAC阻害剤I(2μM) 及び II(4μM)の添加後1時間培養後に放射線30Gy 照射(IR)。48時間後に低分子量DNAを抽出し1.5%アガロースゲルにて分離し、エチジウムブロマイドにてDNAを染色、UV蛍光下に観察した。DNAマーカーとしてラムダDNA (HindIII消化DNA) を泳動した(M)。
(d)MKN45細胞中におけるヒストンH4のアセチル化
HDAC阻害剤I(1〜2μM) 及びII(2〜4μM) 添加後24時間培養後にヒストンを分離、精製し、尿素―酢酸アクリルアミド電気泳動にて分離解析した。ヒストンアセチル化は分子量の増加による移動度の低下から評価した。蛋白染色はクマシーブリリアントブルーにより行った。
(結果)
2〜8μMの低濃度では、いずれも細胞毒性の少ない薬剤であることが示された(図1)。
MKN45は、放射線照射に対し低い感受性を示しており、照射30Gy処理単独においてアポトーシスを強く誘導することはない。しかし、照射1時間前にHDAC阻害剤Iを細胞培養液中(一般的な細胞培養液;RPMI1640、10% 仔牛血清)に図に示された濃度の添加により、約30%の細胞が細胞死を起こしていた(図2)。HDAC阻害剤I単独ではこのような細胞死誘導作用はないことから、この結果はHDAC阻害剤Iは、放射線照射の感受性を亢進させていることを示している。このような効果は、他のHDAC阻害剤IIにおいても同様に認められた。
しかし一般的な抗癌剤であり、放射線増感作用があるとされている5−FUでは、このような併用効果を認めなかった(図2)。
HDAC阻害剤IまたはIIによる細胞死の亢進はDNA断片化を明らかに増強していることから放射線照射誘導アポトーシスの増強作用である(図3)。図1〜3に示す効果の認められたHDAC阻害剤I及びIIの培養液中濃度により、明らかにヒストンH4のアセチル化を起こしていることから、ヒストンのアセチル化と放射線増強効果と関連性があり、前者を調べることにより効果を示す至適投与量を定めることができることも明らかになった(図4)。
〔実施例2〕
(2)アポトーシス関連分子の発現
MKN45細胞培養液中にHDAC阻害剤I及びIIを図に示された濃度において添加し、その後に生じるアポトーシス関連分子の発現の変化を一般的なウエスタンブロット法(BAX、Bim、14−3−3 はサンタクルーズ社、Bcl−xLはトランスダクションラボラトリー社の抗体を用いたウエスタンブロット法)により検討した。
その結果、アポトーシス誘導を促進させるBAXやBimなどの蛋白質の発現が増加するとともに、アポトーシス誘導を阻害するBcl−xLの発現の低下が生じていた(図5)。
〔実施例3〕
(3)放射線低感受性細胞に対する効果2
ヒト大腸癌細胞株DLD1は、やや放射線照射に感受性がある。実施例1と同様にHDAC阻害剤I及びIIが放射線照射後のアポトーシスの増強を起こすか否かを細胞死及びカスパーゼ活性を調べて評価した。
その結果、HDAC阻害剤I及びIIのいずれの前処理によって明らかに細胞死(図6)、及びカスパーゼ活性が増強していることが判明した(図7)。また、この時に必要なHDAC阻害剤I及びIIの濃度は、明らかにヒストンH4のアセチル化を起こしていたことから(図8)、アセチル化の評価により放射線照射増強効果に必要な薬剤濃度を知ることができることも明らかになった。
〔実施例4〕
(4)放射線高感受性細胞に対する効果
ヒト口腔癌細胞株SASは、放射線照射に感受性がある腫瘍である扁平上皮癌由来である。実施例1と同様にHDAC阻害剤IIの前処理を行うことにより、放射線照射後のアポトーシスの増強を起こすか否かを細胞死を調べて評価した。さらに具体的には、HDAC阻害剤II (1もしくは2μM)の添加後1時間培養後に放射線10〜20Gy照射し、36時間後にトリパンブルー染色によって細胞死を評価した。コントロールとして、5−FUを20μM添加後、1時間培養後に放射線20Gy照射した。
その結果、HDAC阻害剤IIの前処理によって明らかに細胞死が増加したが、5−FUにはそのような効果を認めることができなかった(図9)。
〔実施例5〕
(5)インビボ(ヌードマウス)における効果
MKN45細胞 (2×10個)をヌードマウスの足腹部に皮下接種し、2週間前後より皮下腫瘍が判別しうるようになった時点(腫瘍の半径4μM前後)で、以下の4グループに分けて治療を開始した。すなわち、何も処理しない群、放射線照射4Gy×8(総量32Gy)のみの群、HDAC阻害剤II、(20μM、80ml)×8(総量12.8nmol)の腫瘍内注入単独のみの群、この両者の治療をおこなう群である。治療を開始して3週間まで大きさの変化を観察(図10)し、その後、腫瘍の重量(図11)を測定し、各群の治療効果を比較した。その結果、HDAC阻害剤IIが、明らかに放射線照射単独もしくはHDAC阻害剤II投与単独より、腫瘍の増大を抑制し、放射線治療増強作用を有していることが示された。
〔実施例6〕
(6)副作用の検討
ヒト正常リンパ球に対する影響を検討した。通常のリンパ球分離方法によって正常単核球を分離し、IL−2存在下に一晩培養し、HDAC阻害剤I及びIIを添加後の細胞死の程度をトリパンブルーにて検討した。3日間の薬剤処理によりやや細胞死を誘発させる可能性があるが、36時間までは特に影響がないことが明らかになった (図12)。
以上説明したように、本発明の放射線感受性亢進剤によれば、インビトロにおいて、放射線照射後に生じるアポトーシス誘導能を亢進させることができる。また、本発明の放射線感受性亢進剤によって、インビボ(ヌードマウス)においても放射線治療効果が増強された。さらに、本発明の放射線感受性亢進剤の至適投与量を特定するための方法によれば、本発明の放射線感受性亢進剤の至適投与量を簡便かつ迅速に特定することができる。
したがって、本発明の放射線感受性亢進剤は、放射線照射との併用抗癌剤として極めて有用である。
MKN45細胞のHDAC阻害剤に対する感受性を示した図である。 示された濃度のHDAC阻害剤添加後の細胞死をトリパンブルー排出試験によって評価した。非添加細胞(白)、HDAC阻害剤I(斜線)、HDAC阻害剤II(黒)。 MKN45細胞のHDAC阻害剤前処理による放射線感受性の亢進(細胞死)を示した図である。 HDAC阻害剤I(2μM) 及び II(4μM)の添加後1時間培養後に放射線30Gy照射。60時間後にトリパンブルー染色によって細胞死を評価した。コントロールとして前処理をしないもの 5−FU(10μM) 添加したものとの比較検討を行った。非放射線照射群 (白) 放射線照射群(黒)における細胞死。 MKN45細胞のHDAC阻害剤前処理による放射線感受性の亢進(DNA断片化)を示した写真図である。 HDAC阻害剤I(2μM) 及び II(4μM)の添加後1時間培養後に放射線30Gy 照射(IR)。48時間後に低分子量DNAを抽出し1.5%アガロースゲルにて分離し、エチジウムブロマイドにてDNAを染色、UV蛍光下に観察した。DNAマーカーとしてラムダDNA (HindIII消化DNA) を泳動した(M)。 MKN45細胞中におけるヒストンH4のアセチル化を示した写真図である。 HDAC阻害剤I(1〜2μM) 及びII(2〜4μM) 添加後24時間培養後にヒストンを分離、精製し、尿素―酢酸アクリルアミド電気泳動にて分離解析した。ヒストンアセチル化は分子量の増加による移動度の低下から評価した。蛋白染色はクマシーブリリアントブルーにより行った。矢印は、非アセチル化ヒストンH4、数字は、そのアセチル化レベルを示す。 HDAC阻害剤添加後のMKN45細胞中におけるアポトーシス関連蛋白の発現の変化を示した写真図である。 各蛋白質の発現は、BAX、Bim、14−3−3 はサンタクルーズ社、Bcl−xLはトランスダクションラボラトリー社の抗体を用いたウエスタンブロット法による検出。HDAC阻害剤 I (2μM 及び II (4μM)を添加している。 DLD1細胞のHDAC阻害剤前処理による放射線感受性の亢進(細胞死)を示した図である。 HDAC阻害剤 I (2μM)及び II (4μM)の添加後1時間培養後に放射線30Gy照射。60時間後にトリパンブルー染色によって細胞死を評価した。非放射線照射群 (白) 放射線照射群(黒)における細胞死。 DLD1細胞のHDAC阻害剤前処理による放射線感受性の亢進を示した図である。 HDAC阻害剤 I (2μM )及び II (4μM)の添加後1時間後に放射線30Gy照射。24時間後に各細胞のカスパーゼ活性を測定した。非放射線照射群 (白) 放射線照射群(黒)におけるカスパーゼ活性。 DLD1細胞中におけるヒストンH4のアセチル化を示した写真図である。 HDAC阻害剤 I (2μM )及び II (4μM)の添加後24時間後にヒストンを分離精製し、アセチル化を評価した。矢印は、非アセチル化ヒストンH4、数字は、そのアセチル化レベルを示す。 SAS細胞のHDAC阻害剤II前処理による放射線感受性の亢進(細胞死)を示した図である。 HDAC阻害剤II (1もしくは2μM)の添加後1時間培養後に放射線10〜20Gy照射。コントロールとして5−FU 20μM添加後1時間培養後に放射線20Gy照射。36時間後にトリパンブルー染色によって細胞死を評価した。非放射線照射群 (白) 放射線照射群(黒)における細胞死。 MKN45細胞のヌードマウス皮下腫瘍に対する放射線治療を示した図である。 4μM前後の皮下腫瘍形成後に4群にわけて、腫瘍のサイズをノズルを用いて3週間まで測定した。無治療群(黒三角)、HDAC阻害剤II単独群(白四角)、放射線治療単独群(黒四角)、両者の治療併用群(白三角)。HDAC阻害剤II (20μM、80ml)の添加後1時間後に放射線照射した群の腫瘍の増大傾向は、他の群に比較して明らかに抑制された。 MKN45細胞のヌードマウス皮下腫瘍に対する放射線治療。図10で示された実例において3週間後に腫瘍の重量を測定した結果を示す。無治療群(白)、放射線治療単独群(斜線)、HDAC阻害剤II単独群(点線)、両者の治療併用群(黒)。HDAC阻害剤II(4μM)の添加後1時間後に放射線照射した群の腫瘍の重量は、他の群に比較して明らかに軽く腫瘍の増大を抑制していることが示される。 正常リンパ球におけるHDAC阻害剤I及びIIに対する感受性。示された濃度のHDAC阻害剤I及びIIを培養液中に添加後、もしくは非添加後の細胞死をトリパンブルー排出試験によって評価した。非添加細胞72時間培養後(白)、HDAC阻害剤を添加し36時間後 (斜線)、72時間後(黒)の細胞死を示す。全ての細胞の総培養時間は72時間である。

Claims (9)

  1. ヒストン脱アセチル化酵素阻害活性化合物および/または単独ではアポトーシスを生じせしめない量のアポトーシス誘導活性化合物を有効成分として含む放射線感受性亢進剤。
  2. 放射線に対する感受性が低い細胞に対しても放射線感受性亢進活性を有する、請求項1に記載の放射線感受性亢進剤。
  3. 放射線治療効果を高めるための放射線感受性亢進活性を有する、請求項1または2に記載の放射線感受性亢進剤。
  4. アポトーシス誘導活性化合物として、アポトーシス関連分子Bimの発現誘導活性またはBcl−xL発現抑制活性を有する化合物を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の放射線感受性亢進剤。
  5. ヒストン脱アセチル化酵素阻害活性化合物またはアポトーシス誘導活性化合物としてMS−275および/またはCBHAを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の放射線感受性亢進剤。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の放射線感受性亢進剤を含む、悪性の腫瘍細胞に与える生物活性に対する効果を高めるための医薬。
  7. 請求項1〜5のいずれかに記載の放射線感受性亢進剤を含む、放射線照射によって縮小効果が増強される良性の腫瘍細胞に与える生物活性対する効果を高めるための医薬。
  8. 請求項1〜4のいずれかに記載の放射線感受性亢進剤を用いた増感療法において、以下のステップを含む、該増感療法によって細胞の縮小効果が得られるための放射線感受性亢進剤の至適投与量を特定するための方法:
    (a)前記放射線感受性亢進剤を細胞培養液に添加し培養するステップ、
    (b)培養後の前記培養液からヒストンを精製する工程、および
    (c)前記精製されたヒストンのアセチル化のレベルを評価する工程。
  9. ステップ(a)における培養液の培養を24時間行う、請求項8に記載の方法。
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