以下、本発明について実施形態を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるべきものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
本発明の回転式熱処理炉は、金属からなるワークピースの熱処理に用いられるものである。金属として好ましくはAl合金を挙げることが出来るが、熱処理を施すことにより一定の効果を生じ得るものであれば限定されるものではなく、Mg合金、炭素鋼や鋳鉄等の鉄合金、チタン(Ti)合金、その他複合材料等も対象となる。
熱処理として好ましいものは具体的に溶体化処理、時効処理を挙げることが出来るが、被熱処理体である金属に一定の効果を生じ得る処理であれば限定されず、焼き入れ、焼きなまし、炭化、窒化(表面硬化)、その他の処理も対象となる。
ワークピースとしての具体的な金属製品は、好ましくは車両用ホイールを挙げることが出来るが、上記熱処理によって機械的性質の向上等の一定の効果を期待するものであれば限定されず、ホイール以外の車両用足周り部品、歯車やカム等の伝達系機械部品、各種構造部材等も対象となる。特に車両用ホイールは、熱処理によって実質的な機械的性質向上の効果を薄肉化に結実させ得るところに意義がある。熱処理によって、より薄肉化しても熱処理を施さない場合と同等の機械的性質、例えば引張強度、伸び等を保つことが出来るので、併せて軽合金材料を採用することにより、更なる軽量化を図ることが出来る。軽量化した車両用ホイールは、加速性能、ブレーキ性能等の運動性能を向上させるとともに、燃費向上に寄与するので、環境負荷の低減が求められる自動車の製造者あるいは需要者に望まれる製品である。
本発明の回転式熱処理炉は、熱風管と炉体内に充填された粉粒体とワークピース搬送手段とを少なくとも構成要素とし、熱風管から吹き出る熱風により粉粒体が熱せられ流動して流動層が形成され、ワークピースがワークピース搬送手段により流動層中で回転し熱処理される炉であり、好ましくはワークピースを炉体内へ入れ炉体外へ取り出すワークピース搬入出手段を有するものである。
ワークピースは、後述するワークピース搬入出手段により炉体内へ入れられ、ワークピース搬送手段により炉体内の流動層中を回転し、炉体内を1周した後に、ワークピース搬入出手段により炉体外へ取り出される。ワークピースには、回転中に、流動層を形成する熱風管から吹き出る熱風により熱せられた粉粒体からの熱伝導によって熱処理が施される。
粉粒体は熱媒体であり、粒状であって一定の比重を有し流動層を形成し得るものであれば限定されるものではない。例えば、径が概ね100〜800μmφのケイ砂を使用することが出来る。ケイ砂の径は、流動層の流動状態をより一定にするためにより均一であることが好ましく、概ね400〜600μmφのものが50%以上を占めるように構成することが好ましい。
本発明の回転式熱処理炉において流動層は粉粒体が熱風により加熱され且つ均一に混合されて形成されており、空気を熱媒体とする雰囲気炉に対して伝熱効率がよい。加えて、後述する特徴を有することから、温度分布の均一性が格段に優れ流動層内の最高温度と最低温度の差は約±2℃以下に収まり、且つ、流動層全域で流動状態が概ね一定に保持され得るので、熱処理にかかる質の向上が期待出来る。
本明細書にいう熱処理にかかる質とは、ワークピースの機械的性質等の改善され具合等により評価出来る熱処理自体の質をいう。質の高い熱処理とは、例えば、より高い生産性を実現しつつ、より省エネルギーで、より安全・確実に、より高い機械的性質をワークピースに付与し得る熱処理をいう。炭素鋼の変態を利用する熱処理やAl合金の固溶を利用する熱処理その他熱処理において所望の現象(変態、固溶その他)は温度によって左右されるので、質の高い熱処理を実現するには、温度分布が均一で全域で流動状態が概ね一定な流動層を有する熱処理炉が必要となる。
より具体的に例示すれば、Al−Si合金からなるワークピースに対し融点直下の温度で溶体化処理を施すことにより、短時間(数分〜数十分オーダー)で固溶量を大きく出来、時効硬化後のワークピースに優れた機械的性質を付与することが可能である。短時間で溶体化処理を終えられるメリットは大きい。先ずスループットが向上し且つ熱使用量がより少なくて済む。そして、仮に溶体化処理中に融点に達しても、一般に、潜熱により短時間ではAl−Si合金は溶融しないので安全である。又、固溶と同時に進行する共晶Si組織の肥大化が抑制され、他方、処理温度がより高温であることから球状化は促進されるため、応力集中が緩和され得るものになり、より優れた機械的性質が付与され得る。更に、温度分布が一定であるのでワークピース全体で固溶率は概ね均一になり、部分的に機械的性質が低下するといった問題は生じ得ない。
上記融点直下の温度で行う溶体化処理(熱処理)は、流動層の温度分布が均一であるから実現出来るのである。温度分布が均一でない場合には、温度がオーバーシュートすることによってAl−Si合金が溶融する可能性が生じるので、融点より一定以上低い温度で安全を確保しつつ溶体化処理を行う必要があり、上記メリット等は減じられるか又は享受出来ない。
尚、熱処理にかかる質の向上を図るために、全域で流動状態が概ね一定な流動層が好ましい。その一の理由は、実際に、ワークピース全体に均一に熱が伝導されることを担保するためである。
又、熱処理中において継続して流動層内の最高温度と最低温度の差が約±2℃以下、より好ましくは約±1.5℃以下に収まるような格段に均一性に優れた温度分布の流動層を実現するには、必然的に概ね一定の流動状態が求められるという別の理由がある。流動層は炉体内に吹き込まれる熱風により粉粒体が流動するものであるから、流動層に対し常に一定の熱が供給され排出されている。従って、流動状態が乱れると流動層の部分毎に熱の収支バランスが保ち難くなり、温度分布の乱れを導くからである。
本発明の回転式熱処理炉は、熱風管に第1の特徴を発現する。これは必須の特徴である。本発明の回転式熱処理炉の熱風管は複数のヘッダー管を有しており、その複数のヘッダー管は、個々には分割リング状を呈し、全体では一のリングを構成して配置される。又、複数のヘッダー管の各々には複数の分散管が備えられる。複数の分散管は、それぞれが熱風を吹き出す多数のノズル又は小孔を有し、概ね細長筒状を呈するものである。そして、分散管はヘッダー管の側面からヘッダー管全体で構成するリングの中心へ向けて水平方向に配置されている。
複数のヘッダー管が全体で構成する一のリングの形状は、ワークピース搬送手段によって流動層中を移動(回転)するワークピースの移動の軌跡に合わせて決定される。より詳細には、所定の幅を有するワークピースの軌跡の概ね外側の線に沿って、複数のヘッダー管が全体で一のリングを構成するように配置される。そして、熱風を吹き出すノズル又は小孔を有する分散管は、ヘッダー管の側面からヘッダー管のリングの中心へ向けて水平方向に配置されるので、丁度、ワークピースの移動の軌跡に合わせて、熱風がノズル又は小孔から吹き出されることになり、熱効率よくワークピースを昇温させることが出来る。
特許文献1に開示された回転式熱処理炉では、分散管はヘッダー管の上に配置されていたが、本発明においては、分散管がヘッダー管の側面からヘッダー管のリングの中心へ向けて水平方向に配置される。この態様により、熱風管に必要な流動層高さを低くすることが出来る。一方、ワークピース全体を浸漬させるのに必要な流動層高さはワークピースによって一定である。従って、本発明の回転式熱処理炉は、従来より流動層高さを低く出来、炉体を更にコンパクトにすることが可能である。そして、併せて流動層の形状を熱風管に合わせてドーナツ形状又は円柱形状にすることによって、より流動層体積を小さく出来るので、流動層内の温度分布が均一になり易く、且つ、昇温に必要な熱量が低減され得る。
又、本発明の分散管の配置態様によれば、ヘッダー管のリングの中心へ向かうに従って分散管どうしの間隔が狭まるようになるため、分散管におけるノズル又は小孔の取付ピッチを一定とすれば、流動層を形成するために熱風が吹き出されるノズル又は小孔は、ヘッダー管のリングの中心へ向かうに従って高密度に配置されることになる。このことは、流動層の一定水平面積あたりヘッダー管から遠くになるほどノズル又は小孔が多く存在することを意味し、同時に流動層を形成するために吹き出される熱風の量がヘッダー管のリングの中心へ向かいヘッダー管から遠くになるほど多くなり得ることを示すが、他方、ヘッダー管から遠いほどにノズル又は小孔から吹き出される熱風の温度は低下するので、流動層を形成するために炉体内の一定面積あたりに送り込まれる熱量は概ね一定に近づく。従って、本発明の分散管の態様は、流動層内の温度分布をより均一化し、熱処理にかかる質の向上に寄与し得る。
一方、特許文献1に開示された回転式熱処理炉では、リング状の1のヘッダー管が採用されていたが、本発明においては、熱風管が複数即ち2以上のヘッダー管を有していて、それぞれに熱風を吹き出す多数のノズル又は小孔を有する分散管が備わっている。この態様により、上記したようにヘッダー管から遠いノズル又は小孔ほど熱風の温度は低下するものの、その温度低下はより小さくなり、吹き出し点毎の温度のバラツキは従来より抑制される。流動層を形成するために吹き出す熱風の温度は、より高温に保たれ熱エネルギーのロスが低減され、加えて、吹き出す熱風の温度が全域で均一に近くなるので、炉体内の一定体積あたりに吹き込まれる熱風の量を、より一定に近づけた場合でも、流動層の温度分布の均一性が維持され得る。従って、本発明のヘッダー管の態様は、流動層全域の流動状態を概ね一定に保持し、熱処理にかかる質の向上に寄与し得る。
即ち、本発明は、分散管の配置、複数のヘッダー管の具備、等の熱風管の工夫によって、流動層内の温度分布をより均一にするとともに、流動状態をより一定にし、尚且つ、熱エネルギーのロスを低減している。分散管の配置態様によって熱風の温度低下を熱風の量でカバーし流動層全域において供給される熱量を一定にして流動層内の温度分布を均一化する手段のみでは、流動層の流動状態は一定になり難く、既に述べたように温度分布の均一化にも限界がある。複数のヘッダー管を具備することにより、熱風の温度低下を極小さく抑え熱風の量を一定に近づける態様が実現される。反対に複数のヘッダー管の具備のみでも、流動層内の温度分布の均一化及び流動状態の一定化の両立が難しい。
ヘッダー管の数は複数であればよいが、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上である。分散管の数はヘッダー管毎に5以上であることが好ましい。ヘッダー管を2とすると分散管の数は10以上となるが、より好ましくは分散管の数は全部で100以上、更に好ましくは120以上である。特許文献1に開示された回転式熱処理炉では、分散管の数は全部で概ね12であったが、分散管の数を増加させることによって、流動層内の最高温度と最低温度の差を極小さく抑えることが容易となる。
又、分散管の径は、流動層中で強度が保持出来得る限り、より細いことが好ましい。150A(mm)以下であることが好ましく、より好ましくは50A以下、更に好ましくは40A以下である。分散管が有する熱風が吹き出されるノズル又は小孔を、より高密度に配置することが出来、流動層全域の流動状態をより一定にし易いからである。
分散管が有する多数のノズル又は小孔は、その開口ピッチが、分散管のヘッダー管の側面側から一のリングの中心側に向けて、徐々に大きく又は小さくなることが好ましい。これは、熱風管全体の形状によって、流動層内の温度分布の均一化及び流動状態の一定化を両立させるために、好ましい手段である。開口ピッチが大きい又は小さいとは、隣接するノズル又は小孔の間隔が長い又は短いことを意味するが、ノズル又は小孔は一直線上に設けられることに限定されず、流動層全域における流動状態を一定化すべく設ければよい。
熱風管の形状は流動層の形状を主要因として決定される。そして、流動層の形状は、ワークピースの形状及び同時に流動層中を回転し熱処理されるワークピースの数を主要因として決定される。例えば、ワークピースが幅の大きなものであり、一方、熱処理炉のコンパクト化のために同時に処理されるワークピースの数を少なくする場合には、ヘッダー管が表すリングの半径と分散管の長さとの差が小さい熱風管になる。
この態様の場合、熱風が吹き出されるノズル又は小孔がヘッダー管のリングの中心側で、熱風の温度が下がる以上に高密度に配置される結果、温度分布が偏り易い。一方、既に述べたように、流動層全域における流動状態を一定化するには熱風の温度低下は極小さいことが好ましく、更に、本発明は、開口ピッチではなく、分散管が有するノズル又は小孔の開口断面積を大きく又は小さくする手段を否定するものではないが、熱風の量も一定に近づけることが好ましいことから、熱風の量が変化し易い開口断面積による調節はより好ましい手段ではない。そこで、ノズル又は小孔の開口ピッチを分散管のヘッダー管の側面側から一のリングの中心側に向けて徐々に大きくする手段をとることによって、流動層内の温度分布の均一化と流動状態の一定化とを両立させることが出来る。
ヘッダー管が表すリングの半径と分散管の長さとの差あるいは比によっては、熱風管のノズル又は小孔の開口ピッチを、分散管のヘッダー管の側面側から一のリングの中心側に向けて徐々に小さくするか又は一定とする態様もあり得る。熱風管は、熱風の温度低下を抑えるために炉体内における熱風の吹き出し点であるノズル又は小孔までの距離を小さくしつつ、そのノズル又は小孔がより均一且つ高い密度で配設されることが好ましい。
次に、本発明の回転式熱処理炉の第2の特徴について説明する。本発明の回転式熱処理炉においては、ワークピース搬入出手段に、好ましい第2の特徴を発現する。本発明の回転式熱処理炉は、ワークピース搬入出手段として炉体内と炉体外との間に設けられる副室を備えており、ワークピースは、この副室を経由して、炉体外から炉体内の流動層中に、好ましくは連続的に、搬入、浸漬され、流動層中から引き上げられて炉体外へ搬出される。尚、副室と炉体内においてワークピースはワークピース固定用ジグに載置された状態で移動するが、本明細書においてこれを単にワークピースの移動と記す場合がある。
副室は、上記ワークピースの移動を可能とするため、炉体外への搬入出口と及び炉体内への搬入出口を有するが、副室は有限な空間であるため、ワークピースの搬出入にかかり副室の炉体内側の搬入出口が開くときに起こり得る炉体内の熱の放出が抑えられる。特許文献1に開示された回転式熱処理炉においても、搬入口(搬出口)は直接、炉体外に開いていて、導入壁が採用され放出ルートが限定されることにより熱放出ロスが低減されているが、本発明にかかる副室を設ける効果は放出ルートが限定される点で同等である。しかしながら、副室は以下の好ましい機能を発揮する態様をとることにより、従来技術を凌駕する。
本発明の回転式熱処理炉においては、上記した副室は、炉体内と遮断可能に設けられ、且つ、炉体外と遮断可能に設けられることが好ましい。副室を炉体内及び炉体外と遮断することが出来れば、搬出入時に、炉体内と炉体外とを通じさせることなくワークピースを炉体内(流動層中)と炉体外とを移動させることが出来、熱放出ロスが極めて少なくなるからである。
具体的には、ワークピースの搬入出を行わないときには副室は炉体内と通じており炉体外と遮断されていて、ワークピース搬出時には、先ず、ワークピースが流動層中から副室に引き上げられる。副室と炉体外とは遮断されたままであるので、炉体内の熱は炉体外に放出されない。次に、ワークピースが副室に入ったら、副室と炉体内とが遮断される。従って、この後に炉体内の熱は炉体外に放出されない。そして、副室と炉体外との遮断が解かれ副室と炉体外とが通じ、ワークピースが副室から炉体外に搬出される。ワークピース搬入時には、先ず、副室と炉体外との遮断が解かれ副室と炉体外とが通じ、ワークピースが炉体外から副室に入れられる。副室と炉体内とは遮断されたままであるので、炉体内の熱は炉体外に放出されない。次に、ワークピースが副室に入ったら、副室と炉体外とが遮断される。そして、副室と炉体内との遮断が解かれ副室と炉体内とが通じ、ワークピースが副室から炉体内に入り流動層中に浸漬される。副室と炉体外とは既に遮断されているので、炉体内の熱は炉体外に放出されない。
副室が炉体内と遮断可能であること及び副室が炉体外と遮断可能であることは、副室と炉体内との間及び副室と炉体外との間に、遮断手段を備えることによって実現される。ここで、遮断手段は、何れもが完全に隔離し得る手段であることが望ましい。
より好ましい遮断手段は、副室と炉体内及び副室と炉体外の何れもが完全に隔離し得る手段であり、例えば、好ましくはワークピースの移動に伴い自動的に開閉する機構を有するスライド式、観音開き式、引き倒し式、押し上げ式その他のドアを例示することが出来る。ワークピースやワークピース固定用ジグ等には流動層を形成する粉粒体が付着して持ち出されることがあるが、例えば、副室と炉体内の遮断手段として炉体内側へ開く観音開き式自動ドアを採用し、副室と炉体外の遮断手段として炉体外側へ開く引き倒し自動ドアを採用すると、これら粉粒体が炉体内側へ戻り易いので好ましい。
本発明の回転式熱処理炉では、副室と炉体内との間のワークピースの移動はワークピース固定用ジグに載置された状態で行われ、副室と炉体外との間のワークピースの移動はワークピースのみで行われる。ワークピースは、後述するようにワークピース固定用ジグに載置された状態で流動層中を回転し熱処理されるので、ワークピース固定用ジグもワークピース同様に高温になるが、ワークピース固定用ジグは副室と炉体内との間を移動し炉体外に出ないので常時高温が維持され、自らが保有する熱を失うことがない。仮にワークピース固定用ジグを炉体外に出し入れすれば、その都度、ワークピース固定用ジグは冷やされ熱を失うので炉体内で再度熱を必要とするが、本発明では、このようなワークピース固定用ジグを介した熱放出ロスが防止される。又、ワークピース固定用ジグが常時高温に維持される結果、ワークピースの昇温が早められ、ワークピースが流動層中を回転する時間が短縮され得ることとなり、熱処理にかかるスループット向上に寄与する。更には、ワークピース固定用ジグが炉体外に出ないので、ワークピース固定用ジグに付着した粉粒体が炉体外に無用に排出されることがない。尚更には、ワークピース固定用ジグが加熱・冷却を繰り返さない結果、熱変形が抑えられ、量産中のトラブル発生が少なくなる。
本発明の回転式熱処理炉は、そのワークピース搬入出手段として、流動層中と副室との間をワークピースが載置されたワークピース固定用ジグを移動させる搬送装置を有している。搬送装置は、ワークピース固定用ジグを移動させる移動手段と、ワークピース固定用ジグの保持及び取り外しが出来る着脱手段とを有するものであれば限定されない。搬送装置は、流動層中にワークピース固定用ジグを浸漬した後に後述するワークピース搬送手段にワークピース固定用ジグを預ける動作を繰り返すため、着脱手段は、より簡素で早く脱着可能な手段を採用することが好ましい。
具体的には、例えば、移動手段としてエアーシリンダ、又は電動式乃至油圧式エレベータに準じた手段を採用することが出来る。又、着脱手段としては、例えばワークピース固定用ジグ側に掛止部や凹部を設けることを条件として掛止部や凸部等を採用出来る。
本発明の回転式熱処理炉は、そのワークピース搬入出手段として、副室に移動したワークピース固定用ジグ内と炉体外の所定の場所との間でワークピースを移動させる搬入出装置を有している。搬入出装置は、ワークピース固定用ジグに載置されたワークピースを掴み離すことが可能な把持手段と、その把持手段をワークピース固定用ジグ内と炉体外の所定の場所との間で移動可能な移載手段とを有するものであれば限定されない。搬入出装置は、把持したワークピースを反転する機能を有することが好ましい。ワークピースを反転させることにより、ワークピースに付着した粉粒体を振り落とすことが出来、粉粒体が炉体外に無用に排出されることがない。このことは、上記ワークピース固定用ジグが炉体外に出ないことと併せて、流動層を形成する粉粒体の補給頻度を極少なくするために有用である。
具体的には、搬入出装置は、空圧、油圧、電動機等を駆動力源として、例えば、移載手段として直動アクチュエータを採用し、その先端に把持手段として独立した多指ハンド装置を取り付けた態様をとることが出来る。より好ましい移載手段は、把持したワークピースの回転を容易に実現出来ることから、ハンド及びアームを有する所謂産業用多軸ロボットである。
次に、本発明の回転式熱処理炉の第3の特徴について説明する。本発明の回転式熱処理炉においては、ワークピース搬送手段に、好ましい第3の特徴を発現する。本発明の回転式熱処理炉は、ワークピース搬送手段として、炉体の中心に配置された回転軸と、回転軸に接続されるとともにワークピースが載置されたワークピース固定用ジグを着脱自在に保持するステムと、回転軸及びステムを介してワークピース固定用ジグを回転させる駆動機と、を有している。ワークピースはワークピース固定用ジグに載置されたまま、炉体内においてワークピース搬入出手段から受け渡され、そのままの状態で流動層中を少なくとも1周し(回転し)熱処理される。ワークピースを回転させるため、炉体においてワークピースを熱処理する有効な流動層の形状は概ねドーナツ形状又は円柱形状となる。従って、炉体のコンパクト化が可能となるとともに、比表面積が最も小さくなる形状であるので、炉体外面から生じる熱放出ロスが最も少なくなる。
炉体内は高温になるので、ワークピース搬送手段として最も留意すべき点は、熱による電気・機械系部品部材のトラブルである。炉体の中心に配置された回転軸にステムが接続され、そのステムにワークピース固定用ジグが保持され、そのワークピース固定用ジグに載置されたワークピースが、駆動機が回転軸を回すことにより流動層中を回転軸を中心にして回転するという搬送手段は、回転軸が炉体の中心に配されることから、回転軸と炉体とのシール、及び、回転軸の冷却に留意する必要があるが、例えばワークピース固定用ジグに自立性を持たせ流動層中の一定の軌跡を自ら移動させる等の手段に比較して、より簡素であり、摺動、係合等の機械的構造部分がより少なく、長期運転時の安定性に優れる。
ワークピース固定用ジグ(ワークピース)の回転動作は、流動層中を断続的に移動するピッチ送りが好ましく、送り時間及び停止時間が任意に設定可能であり、トータルの熱処理時間が調節可能であることが好ましい。回転運動を起こす駆動機は、限定されるものではなく内燃機関等でもよいが、一般に電動機が採用される。
次に、ワークピース固定用ジグについて説明する。1サイクルの熱処理において、ワークピース固定用ジグは、副室において搬入出装置からワークピースを受け取り、流動層中を回った後に、副室において搬入出装置へワークピースを受け渡すまで、ワークピースを載置する。図6は、ワークピース固定用ジグの一例を示す斜視図であり、図7は他例を示す斜視図である。1つのワークピース固定用ジグが載置するワークピースの数は、図6に示されるワークピース固定用ジグの如く1つでもよいが、スペース効率向上を図るためには、図7に示されるワークピース固定用ジグのように、1つのワークピース固定用ジグが2以上のワークピースを載置する態様が好ましい。但し、1つのワークピース固定用ジグが2以上のワークピースを載置する場合には、ワークピース固定用ジグが大きくなるため、副室も大きくすることが必要となる。副室を大きくすることは、副室が炉体外及び炉体内と遮断可能に設けられていても、熱放出ロスの抑制の観点から好ましくない。従って、1つのワークピース固定用ジグが載置するワークピースの数は、好ましくは1〜3、より好ましくは2である。又、1サイクルの熱処理において、ワークピース固定用ジグは、ワ−クピース搬入出手段、ワークピース搬送手段と、一定時間の間、保持される。これらの役割から、ワークピース固定用ジグに求められる要件は、次の3つである。
先ず、ワークピースを載せ置き出来るものであること。形状は限定されず、流動層中でも安定してワークピースが保持されるように、ワークピースの形状に合わせて決定することが望ましい。
次に、ワ−クピース搬入出手段及びワークピース搬送手段と容易に着脱可能なものであること。着脱手段は対象毎に設けてもよく共通の手段であってもよいが、より簡素且つ意図しない脱着が生じ難いしくみを採用することが好ましい。
次に、流動層において粉粒体とワークピースとの接触を妨げないものであること。熱処理のみを考慮すればワークピースのみを流動層中に浸漬させることが望ましいが、そうすると、流動層中へ入れるとき及び流動層中から出すときにワークピースを直接把持する必要が生じるので好ましくなく、そこにワークピース固定用ジグの使用の有用性が認められる。尚、ジグと称しているが、これは容器状の如く形態で粉粒体の自由な移動を妨げるものではないことを表している。
ワークピース固定用ジグを用いることによって、ワークピースの位置が決まるので、ワークピースのみを流動層中に浸漬させる場合より、位置決め精度を上げることが出来る。又、ワークピース固定用ジグの上端を流動層に埋没せず露わにすることによって、ワークピースのみを流動層中に浸漬させる場合より流動層中からワークピース(ワークピース固定用ジグ)を取り出し易くなり、加えて、搬入出装置を流動層中に入れる必要がないので熱による搬入出装置の劣化を抑えることが出来る。
続いて、回転式熱処理炉について、図面に基づいて、より具体的に説明する。図1、図2は、本発明の回転式熱処理炉の一実施形態を示す図である。図1は平面図であり、図2は炉体及び副室の断面を表した立面図である。又、図3は本発明の回転式熱処理炉内に設置される熱風管の平面図である。尚、ワークピースは車両用ホイールを想定している。
回転式熱処理炉3は、炉体39内に流動層13が形成され、その上部に雰囲気層14を有し、ヘッダー管34と分散管35とからなる熱風管が流動層13中に浸漬されるように備わり、ワークピース11を、流動層13中且つ熱風管の分散管35上部において回転させて熱処理する炉である。
炉体39内には粉粒体が充填される。粉粒体は、ヘッダー管34を経て分散管35から吹き込まれる熱風により、流動し加熱され均一に混合されて流動層13を形成する。熱風製造装置5は、例えば、図示しないブロワーより送られる空気を火炎により加熱するもので、その熱風は温度調節され、熱風管を経て炉体39内に吹き込まれ流動層13を形成する。粉粒体抜口36は弁の付いた排出口であり、適宜、粉粒体を外部に排出する。
ワークピースを回転させる手段として、炉体39の中心に配置された回転軸40と、回転軸40に接続されるとともにワークピース11が載置されたワークピース固定用ジグ25を着脱自在に保持するステム41と、回転軸40及びステム41を介してワークピース固定用ジグ25を回転させる駆動機33とを備えている。
ステム41とワークピース固定用ジグ25との着脱は、ワークピース固定用ジグ25に下方に向けた凹部を形成し、ステム41に凸部を形成し、ステム41の凸部にワークピース固定用ジグ25の凹部が噛み合わせて、ワークピース固定用ジグ25をステム41に保持させればよい。
ワークピースを搬出・搬入する手段として、炉体内と炉体外との間に設けられる副室43と、炉体内の流動層13中と副室43との間でワークピース11が載置されたワークピース固定用ジグ25を移動させる搬送装置と、副室43のワークピース固定用ジグ25と炉体外の所定の場所との間でワークピース11を移動させる搬入出装置とを備えている。これらにより、複数のワークピースが、連続的に、炉体内に搬入され熱処理後に炉体外から搬出される。
搬送装置は、ワークピース固定用ジグ25を昇降させるエアシリンダを駆動源とする昇降機21と、昇降機21の先端に設けられた雄掛止部22とからなり、雄掛止部22でワークピース固定用ジグ25の雌掛止部23を掛止することにより保持し、ワークピース固定用ジグ25を昇降させて流動層13中及び副室43間を移動させる。
搬入出装置は、ワークピース固定用ジグ25に載置されたワークピース11を掴み離すことが可能な多指ハンドを有し、その多指ハンドをワークピース固定用ジグ25内と炉体外の所定の場所との間で自在に移動可能なアームを有する産業用多軸ロボット8で構成されている。
回転式熱処理炉3では、図示されるように、ワークピース固定用ジグ25を回す回転軸40が高温の流動層13と隔離されているため、回転軸40の軸受けが流動層13を形成する粉粒体を噛み込む等の問題は生じず、安定した運転が長期にわたり実現される。又、雰囲気層14も高温になるが、回転軸40の中には、図示しない冷却水が循環しており、回転軸40を冷却することによって、回転軸40自体の保全を図るとともに駆動機33に熱が伝達し故障を招来するのを防止している。回転軸40はシール部38により炉体39を通じ、ステム41を張り出して、その先にワークピース固定用ジグ25を着脱自在に保持している。
回転式熱処理炉3の上には、副室43が設けられ、ワークピース11の炉体外〜炉体内間の移動は、副室43を通過して行われる。従って、熱の放出ルートは限定され熱の放出ロスは少ない。又、副室43には、炉体外と通じる開口に炉体外側へ開く引き倒しドア37が設けられ、副室43と炉体外とを遮断可能としている。更に、副室43には、炉体内と通じる開口に、炉体内側へ開く観音開きドア31が設けられ、副室43と炉体内とを遮断可能としている。この態様によって炉体内から炉体外への熱放出ロスは極めて低く抑えられる。
熱風管は、図3に示すように、5つのヘッダー管34で構成され、その5つのヘッダー管34は、個々には分割リング状を呈し、全体としてリング状に形成される。そのリング状とは、ワークピース11を載せたワークピース固定用ジグ25の回転(移動)の軌跡に合わせた形状である。
分散管35は、各ヘッダー管34毎に23本備わり、ヘッダー管34の内側の側面から水平方向にヘッダー管34のリングの中心に向けて配置されている。従って、流動層の高さを、より低くすることが出来る。
個々の分散管35は、径が40Aであり、概ね細長筒状を呈し、熱風を放散するノズルや小孔を有している。熱風製造装置5により生じた熱風は、5つのヘッダー管34毎に送られ、直ぐに、分散管35を介して炉体39内へ吹き込まれ流動層13を形成する。又、5つのヘッダー管34及び分散管35は、概ね同形状である。このような態様により、流動層内の温度分布がより均一になるとともに、熱エネルギーロスが抑制される。
炉体39からの排気は、排気ダクト32により図示しない集塵機6へ送られ、図示しない配管で排出される。排気の有する熱は図示しない熱交換器により加熱される前の空気に与えられる。熱交換器は、サイクロン45の後段で集塵機6の前段に設けられるが、狭い板間に排気を流すので、排気に粉塵が混入しているとつまり易い。排気ダクト32の経路に設けられたサイクロン45は、排気に混合した粉塵を除去し、熱交換器に粉塵がつまる問題を回避する。
次に、回転式熱処理炉の別の態様について説明する。図4、図5は、本発明の回転式熱処理炉の他の実施形態を示す図である。図4は平面図であり、図5は炉体及び副室の断面を表した立面図である。
図示される回転式熱処理炉103は、上記回転式熱処理炉3と同様に、炉体139内に流動層113が形成され、その上部に雰囲気層14を有し、ヘッダー管34と分散管135とからなる熱風管が流動層113中に浸漬されるように備わり、ワークピース11を、流動層113中且つ熱風管の分散管135上部において回転させて熱処理する炉である。
回転式熱処理炉103は、上記回転式熱処理炉3のワークピース固定用ジグ25がワークピース11を1つ載置するのに対し、車両用ホイールを想定したワークピース11を2つ載置するワークピース固定用ジグ125を有するところが異なる。回転式熱処理炉103は、スペース効率が回転式熱処理炉3より向上しており、外形が回転式熱処理炉3と概ね同じ大きさであって、流動層113は、その幅が回転式熱処理炉3の流動層13より回転軸40側に少し拡げられ、熱風管の分散管135も回転式熱処理炉3の分散管35より長くなっているものであるが、回転式熱処理炉3が炉体内に最大16ピース同時に熱処理可能なのに対し、回転式熱処理炉103は炉体内に最大24ピース同時に熱処理可能である。
回転式熱処理炉103では、流動層113中において、2つのワークピース11が回転の進行方向に対し並列になるようにワークピース固定用ジグ125に載置される。換言すれば、流動層113中において、2つのワークピース11の中心を結ぶ直線が概ね回転軸40を向くようにワークピース固定用ジグ125がステム141に保持される。
一方、搬入・搬出時にワークピース11が通過する副室143では、2つのワークピース11は回転軸40に対し並列になるようにワークピース固定用ジグ125に載置され、流動層113中とは概ね90°向きを変えている。これは、ワークピース11が副室143のワークピース固定用ジグ125内と炉体外の所定の場所との間を移動するに際し、産業用多軸ロボット8が2つのワークピース11の各々を掴み離しし易くするためである。2つのワークピース11を載置したワークピース固定用ジグ125の向きを概ね90°変える手段は、例えば昇降機121に回転機能を付加させることにより実現出来る。
尚、ワークピース固定用ジグ125は、2つのワークピース11を載置するため、回転式熱処理炉3のワークピース固定用ジグ25より大きくなる。そして、副室143も、回転式熱処理炉3の副室43より大きくなり、より大きな観音開きドア131及び引き倒しドア137を有する。以上の説明の他、回転式熱処理炉103は、既に説明した回転式熱処理炉3に準じた構成要素を有し同様の機能を発揮するが、再述は避ける。
3,103…回転式熱処理炉、5…熱風製造装置、6…集塵機、8…産業用多軸ロボット、11…ワークピース、13,113…流動層、14…雰囲気層、21,121…昇降機、22…雄掛止部、23…雌掛止部、25,125…ワークピース固定用ジグ、31,131…観音開きドア、32…排気ダクト、33…駆動機、34…ヘッダー管、35,135…分散管、36…粉粒体抜口、37,137…引き倒しドア、38…シール部、39,139…炉体、40…回転軸、41…ステム、43,143…副室、45…サイクロン。