JP2004308714A - 複列偏心スラスト軸受 - Google Patents

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Abstract

【課題】一定距離相対移動が可能であって、且つ相対移動時の抵抗が極めて少ない複列偏心スラスト軸受を提供する。
【解決手段】互いに同心で対向し且つ一体的に接合された円環状の二つの外側部材2と、この二つの外側部材相互間に同心で介在する円環状の内側部材3とを有し、これらの間に複数の転動体8が挟持された複列偏心スラスト軸受1である。この軸受1は、内側部材3又は外側部材2に固定され、且つ各転動体8の移動可能範囲を所定範囲内に規制する転動体ガイド部9を備える。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、複列の偏心スラスト軸受に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の複列偏心スラスト軸受は、一枚の内側レースと、この内側部材の両面に対して対向する2枚の外側レースと、これらレース間に介在する2列の転動体からなるものが公然実施されている。この複列偏心スラスト軸受では、2枚の外側レースを備え、2列の転動体がそれぞれ互いに逆方向のアキシャル荷重を支持することにより、両方向のアキシャル荷重を支持できるようになっている。かかる公然実施された複列偏心スラスト軸受には、転動体である玉がレース間の空間内にランダムに配置されているものや、あるいはレース間の空間に総玉状態で玉を設けるものがあった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このような従来型の複列偏心スラスト軸受では、動作時において抵抗が大きく、エネルギー損失が過大であった。即ち、前記のように転動体をランダムに配置した場合や総玉状態で配置した場合には、転動体同士が接触して擦れ合って摩擦を起こしてしまっていた。この対策として、転動体の相対関係を維持すべく保持器を用いることが考えられるが、この場合は保持器とレース間の摺動により摩擦が発生してしまっていた。
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、一定距離相対移動可能であって、且つ相対移動時の損失が極めて少ない複列偏心スラスト軸受を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するため、本発明では、互いに同心で対向し且つ一体的に接合された円環状の二つの外側部材と、この二つの外側部材相互間に同心で介在する円環状の内側部材と、を有し、前記二つの外側部材のそれぞれは、円環状の外側ケース部と、この外側ケース部の内面に取り付けられた円環板状の外レース部を有し、前記内側部材は、円環状の内側ケース部と、この内側ケース部から径方向に突出して延びる円環板状の内レース部と、を有するとともに、前記内レース部の両面と対向する前記二つの外レース部との間に複数の転動体が挟持された複列偏心スラスト軸受であって、前記内側部材又は外側部材に固定され、且つ各転動体の移動可能範囲を所定範囲内に規制する転動体ガイド部を備えていることを特徴とする複列偏心スラスト軸受としている。
【0006】
このようにすると、転動体ガイド部により別々に仕切られた転動体相互間では、転動体同士が接触することがない。また、転動体ガイドは内側部材又は外側部材に固定されているので、これらの部材と摺動することもない。よって、転動体ガイド部に規制される範囲内で転動体が移動する場合に抵抗が少ない。また、外側部材及び内側部材は円環状であり且つ互いに同心で配置されているので、両者間の隙間が一定幅の円環状となる。且つ転動体ガイドにより規制される各転動体の移動範囲も一定範囲であるので、一定距離相対移動可能な軸受とすることができる。また、前記転動体ガイド部が規制する前記所定範囲は、所定半径の円形範囲とすると、径方向全方位に一定距離相対移動可能な軸受とすることができるので好ましい。
【0007】
転動体ガイド部は、各転動体の移動可能範囲を規制するが、これと同時に、各転動体をレース上の最適位置に調整して配置することを容易とする。即ち、軽予圧を作用させた状態で軸受を全周に亘って最大に相対移動させることにより、転動体ガイド部が位置ズレした転動体をレース上で滑らせて、転動体を最適位置に調整することができる。
【0008】
また、以上の構成からなる軸受は、各構成部材が分離せず、組み立てられた軸受単体で供給することが可能である。なお、この軸受では、各転動体は内側部材に固定された転動体ガイド部によって規制される範囲内でのみ移動が可能であり、この範囲を超えて各転動体が移動することはできない。従って、例えば内側部材と外側部材が互いに相対的に所定角度以上回転することはできない。
【0009】
さらに、前記外側部材と前記内側部材との間の径方向隙間により生ずる相対移動可能範囲が、転動体の前記移動可能範囲に略対応している構成とするのが好ましい。このようにすると、内側部材と外側部材とを両者の径方向隙間が無くなるまで相対移動させると、転動体は転動体ガイド部との間に存在する隙間が略無くなる位置まで移動する。即ち、内側部材と外側部材をその相対移動可能範囲の全体に亘って相対移動させると、各転動体もその移動可能範囲の略全体に亘って移動することとなる。よって、内側部材と外側部材との間の余分な隙間が無くなり、又は余分な隙間を最小限とすることができる。したがって、軸受を小型化しながらその偏心可能範囲を大きくすることができる。
【0010】
また、転動体ガイド部は円環状であり、且つ、この転動体ガイド部には、同一円周上で且つ周方向に均等な位置に三つ以上の可動範囲規制孔が設けられるとともに、これら可動範囲規制孔の一つにつき一個の転動体が配置されている構成とするのが好ましい。このようにすると、可動範囲規制孔内に設けられた転動体が周方向及び径方向に均等な配置となるので、軸受のアキシャル荷重及びモーメント荷重がより安定的に支持できる。また、一つの可動範囲規制孔には転動体が一個のみ配置されるので、転動体同士が接触して摩擦を起こすことがない。
【0011】
さらに、転動体ガイド部により規制される転動体の径方向移動距離が前記内レース部又は外レース部の径方向幅と略対応している構成とするのが好ましい。このようにすると、内レース部又は外レース部の径方向幅を最小限とすることができる。よって、軸受の軽量化やコストダウンが可能となる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の第一実施形態に係る偏心スラスト軸受の分解斜視図であり、図2はこの軸受の断面図(軸心から下半分は記載を省略)である。図1及び図2に示すように、この軸受1は互いに軸方向に対向し且つその径方向外側周縁部において外側ねじ11(図2参照。図1において省略。)にて一体的に接合された円環状の二つの外側部材2,2と、この二つの外側部材相互間に介在する円環状の内側部材3と、を有する。なお、図2は、転動体である玉8が径方向のいずれにも動いていない中立の状態(以後、標準状態などという)における図である。
【0013】
この二つの外側部材2,2のそれぞれは、円環状の外側ケース部4と、この外側ケース部4の内面に取り付けられた円環板状の外レース部5を有する。外側ケース部4と外レース部5は別部材となっており、外側ケース部4の対向面側に設けられた凹部4aに円環板状の外レース部5が取り付けられている。(図2参照)。また、二つの外側ケース部4,4は、その径方向外側の周縁部近傍において外側ねじ11により一体的に接合されている(図2参照。図1において記載省略。)。内側部材3は、円環状の2つの内側ケース部6,6と、この二つの内側ケース部6,6に表裏両側から内側ねじ12(図2参照。図1において記載省略)により挟まれつつ固定された円環板状の内レース部7を備える。内側ケース部6,6と内レース部7はそれぞれ別体となっており、内レース部7が二つの内側ケース部6,6によって挟まれつつ、三者が内側ねじ12で一体的に接合されている(図2参照。図1において記載省略。)。図2に示すように、内レース部7の軸方向中心は、軸受1の軸方向中心と一致しており、この中心を通り軸に垂直な平面に対して両側に対称な構成の軸受1となっている。
【0014】
この第一実施形態に係る軸受1では、内側ケース部6は転動体ガイド部9と一体となっている。即ち、円環状の内側ケース部6の外周面側からフランジ状の転動体ガイド部9が径方向外側に向かって延在している。この円環状の転動体ガイド部9には、転動体である各玉8の移動可能範囲を規制する円形の貫通孔である可動範囲規制孔9aが周方向に等間隔をおいて設けられている。全ての可動範囲規制孔9aの孔径及び(標準状態における)径方向位置は同一である。玉8は一つの可動範囲規制孔9aに対して一つずつ配置されており、かつ標準状態において各玉8は可動範囲規制孔9aの中心に位置している(図2参照。)。なお、転動体ガイド部9の軸方向外側面と外レース部5の軌道面との間には軸方向隙間Xが設けられているので、軸受1が相対移動しても転動体ガイド部9が外レース部5に接触したり、互いに摺動したりすることはない。
【0015】
前記内レース部7の軸方向両面はいずれも軌道面となっており、この内レース部7両面と対向する二つの外レース部5,5との間に複数の転動体である玉8が挟持された複列構造のスラスト軸受となっている。玉8は一列あたり32個、合計で64個が使用されており、これらの玉8は各列においてそれぞれ周方向に略均等に配置されている。このように、軸受1の支持点となる複数の玉8が周方向に略等間隔に配置されていることにより、アキシャル荷重及びモーメント荷重が安定的に支持され、また、各玉8にかかる負荷を均等化できる。
【0016】
軸受1の軸方向最外面には、薄い円環板状のシールド13,13が設けられている。図2に示すように、これらのシールド13,13は、内側ケース部6の軸方向外側端部に固定されており、そこから外側ケース部4の軸方向外側面に沿って径方向外側に向かって延在している。このシールド13,13は、外側ケース部4の軸方向外側面とわずかな隙間を介して重なるように配置されているので、軸受1内への異物の侵入を抑制するとともに、軸受1内の潤滑油やグリース等の潤滑剤が外部に漏れることを防止するシール機能を有する。なお、シール効果を更に高めるため、軸受1内を密封するシールをさらに追加することもできる。
【0017】
転動体である玉8を除き、軸受1のすべての部材は径方向幅が全周に亘って一定の円環状であって、且つ標準状態においてすべて同心で配置されている。従って、標準状態において、内側部材3の径方向最外端面である転動体ガイド部外周面15と外側部材2,2との間には、径方向で距離Mの隙間が周方向の全周に亘って存在している。さらに、同じく標準状態において、外側部材2,2の径方向最内端面17と内側部材3(本実施形態では、内側ケース部6と接合したシールド13のうち外側部材2,2の径方向最内端面17と対向する対向面16)との間には、径方向で距離Lの隙間が周方向の全周に亘って存在している。このように、軸受1は周方向の全周に亘って均等な隙間を有しているので、周方向全方位に対して一定距離相対移動が可能となっている。これら外側部材2と内側部材3との間の径方向隙間によって、両者間の相対移動可能範囲が決定される。
【0018】
一方、外レース部5,5は、所定の径方向幅を有する円環板状の部材であって、この径方向幅は全周に亘って同一となっている。このように外レース部5,5は径方向に幅を有しており、且つ内側レース部7はこの外レース部5,5の径方向幅以上の径方向幅をもって外レース部5,5と対向している。転動体ガイド部9の各可動範囲規制孔9aの孔径は、それぞれの可動範囲規制孔9aに収容される各玉8の直径よりも大きいので、玉8の周囲には玉8の移動を可能とする隙間が存在する。一方、玉8が可動範囲規制孔9a内の全域に亘って移動しても内外レース部5,7から外れることがないように、内外レース部5,7は可動範囲規制孔9aの略全域において対向している。よって各玉8は、可動範囲規制孔9aの規制する範囲内で径方向及び周方向に移動することができる。つまり、この軸受1では、玉8は可動範囲規制孔9aの内周面に当接するまで転動できる。標準状態において、玉8は可動範囲規制孔9aの中心に位置しているので、玉8と可動範囲規制孔9aの内周面との間には、玉8を中心とした全周囲に距離Rの幅の隙間が存在している(図2参照)。よって、玉8は稼働面内における任意の方向に距離Rだけ移動できる。
【0019】
この軸受1では、前記距離Lは前記距離Rの2倍になっている。即ち、次の式
L=2R
が成立している。これは、転動体である玉8の移動距離が内外レース部5,7の相対移動距離の半分(1/2)となることに対応させたものである。また、前記距離Mは距離Lと略同一である。さらには、距離Mと距離Lを同一とするのが好ましい。また、L≧2Rとなっていればよい。
【0020】
このように、軸受1においては、外側部材2と内側部材3との間の径方向隙間により生ずる相対移動可能範囲が、可動範囲規制孔9aの孔径により規制される玉8の移動可能範囲に対応している。即ち、外側部材2と内側部材3とを前記距離L(外側部材2,2の径方向最内端面17と内側部材3との間の径方向隙間距離)が無くなるまで相対移動させると、その移動方向において玉8の周囲の距離Rが無くなるまで移動する。即ち、外側部材2と内側部材3とをその相対移動可能範囲の全体に亘って相対移動させると、玉8はその移動可能範囲の全体に亘って移動する。従って、外側部材2の径方向最内端面17と内側部材3との間には余分な隙間が無い。よって、軸受1を小型化しながら偏心可能範囲を大きくすることができる。さらに、軸受1の軽量化やコストダウンが可能となる。
【0021】
さらに、この第一実施形態の軸受1では、前記距離Lは距離M(転動体ガイド部外周面15と外側部材2,2との間の径方向隙間距離)とを略同一としている。即ち、距離Mは距離Rの略2倍となっている。このようにすると、隙間距離Mが最小限となるので、外側部材2の外径を小さくすることができ、軸受1を小型化することができる。また、距離Lと距離Mとの差が大きい場合には、これらのうち小さい方の隙間によって軸受1の偏心可能範囲が制約されてしまうが、両者を略同一としたことにより、軸受1を小型化しながら軸受1の偏心可能範囲を最大限とすることができる。
【0022】
さらに、この軸受1では、転動体ガイド部9により規制される転動体である玉8の径方向移動距離が、外レース部5の径方向幅と略対応している。即ち、図2に示すように、外レース部5の径方向幅は、可動範囲規制孔9aの孔径と略等しく(より詳細には、可動範囲規制孔9aの孔径よりも若干小さく)なっている。よって、玉8が可動範囲規制孔9aの内周面に接触するまで径方向に移動しても外レース部5を外れることはない一方、外レース部5の径方向幅は必要以上に大きくされていない。
【0023】
また、内レース部7の径方向幅は、可動範囲規制孔9aの孔径よりも大きくなっているが、これは内レース部7を固定するための挟み代を確保している為であって、必要以上に大きくしている訳ではない。即ち、内レース部7については、内レース部7が二つの内側ケース部6,6に挟まれることにより固定されているため、挟み代の分を確保するために、その径方向幅が可動範囲規制孔9aの孔径よりも広くなっているが、内レース部7の外周面の径方向位置は外レース部5の外周面のそれと同一とされている。
【0024】
このように、外レース部5の径方向幅が転動体である玉8の径方向移動距離と略対応しており、また、内レース部7の径方向幅も前記挟み代を除いて玉8の径方向移動距離と略対応しているので、内外レース部5,7の径方向幅は最小限とされている。内外レース部5,7は軸受用鋼等の鉄系金属で作製される一方、外側ケース部4及び内側ケース部6はアルミ合金等の軽金属で作製可能なので、内外レース部5,7を小さくすることにより、軸受1の軽量化やコストダウンが可能となる。
【0025】
軸受1が転動体ガイド部9の可動範囲規制孔9aにより規制される円形範囲内を移動する場合、内外レース部5,7と転動体ガイド部9との間で摺動はおこらない。なぜなら、転動体ガイド部9は内側部材3に固定され内レース部7と一体となっており、また前述の隙間X(図2参照)により転動体ガイド部9と外レース部5との間の接触もないからである。よって、軸受1は相対移動時の抵抗が極めて少なくなる。
【0026】
転動体ガイド部9は円環状であり、且つ、この転動体ガイド部9に設けられた可動範囲規制孔9aは、同一円周上で且つ周方向に均等な位置に32個設けられている。これら可動範囲規制孔9aのそれぞれに転動体である玉8が配置されているので、軸受1の支持点が径方向及び周方向に均等となり、アキシャル荷重及びモーメント荷重をより安定的に支持できる。さらに、これら可動範囲規制孔9aの一つにつき一個の転動体が配置されているので、玉8同士が接触して擦れ合うことがなく、相対移動時の抵抗をより少なくすることができる。なお、可動範囲規制孔9aは、隣り合う可動範囲規制孔9aが接触しない限りにおいてその数を増やすことが可能であり、玉8を増やして軸受1の負荷容量を向上させることができる。
【0027】
本実施形態では、図2に示すように、内レース部7の両面に設けた二つの内側ケース部6,6は、内レース部7の表裏において同一の位相であるので、標準状態においては、可動範囲規制孔9aや玉8の配置位置も内レース部7の両面で同位相となる。本発明はこのような構成に限定されず、可動範囲規制孔9aや玉8の位相が内レース部7の表裏で異なっていてもよい
【0028】
なお、シールド13,13は、軸受1の偏心可能範囲を制約しないように工夫されている。即ち、図2に示すように、標準状態においてシールド13,13の径方向外側末端から、外側ケース部4の外面に設けられ且つシールド13,13の面厚さと略同じ深さを有するシールド用段差14までの径方向距離Sは、距離Lよりも若干長くなっている。なお、標準状態においてシールド13,13と外側ケース部4の外面が重なった部分の径方向長さTは、距離Lよりも若干長くされており、軸受1の偏心可能範囲の全てにおいて軸受1の内部を隠蔽するようにされている。
【0029】
各玉8を図2のような位置、即ち、標準状態において可動範囲規制孔9aの中心位置に配置するには、予圧付加用ねじ等で内外部材間に軽予圧を与えた状態で軸受1を全ての径方向(全周)に亘って最大に相対移動させればよい。このようにすると、標準状態において可動範囲規制孔9aの中心から位置ズレしている玉8は、可動範囲規制孔9aの内周面に押されて内外レース部5,7上を滑り位置調整される。その後軸受1を使用する際には、規定のトルクで予圧付加用ねじを締結すればよい。なお、転動体ガイド部9の可動範囲規制孔9aの内周面の高さ(軸方向厚さ)は、玉8の半径(玉径/2)以上であると、玉8が可動範囲規制孔9aの内周面に押される際、玉8の頂点がこの内周面に当接することとなり、玉8の位置調整が安定的に行われるので好ましい。
【0030】
このように、転動体ガイド部9は単に玉8の移動可能範囲を規制しているだけではなく、玉8を可動範囲規制孔9aの中心位置(標準状態)に確実かつ簡便に配置することを可能とし、この中心位置から一定距離Rの隙間を確保して、この範囲で玉8が移動できるようにする役割を果たしているのである。なお、この第一実施形態にかかる軸受1では、玉8に偏荷重が作用することにより玉8が内外レース5,7から浮くなどして、玉8の位置が、標準状態で可動範囲規制孔9aの中心位置からずれてしまうことがありうる。この場合でも、前述のように軽予圧下で最大に相対移動させることにより、軸受1を組み立てた状態で且つ極めて簡便に玉8の位置を修正することができる。また、玉8の位置ズレを抑制し、各玉8のPCD(ピッチ円径)を維持するためには、予圧付加用ねじ等により内外部材間に予圧を与えて、各玉8と内外レース5,7間の滑りを抑えるようにしておくのがよい。
【0031】
この軸受1の素材は特に限定しない。ただし、軸受1を軽量化する観点からは、外側ケース部4と内側ケース部6はアルミ合金等の軽金属や樹脂とし、内レース部7と外レース部5は軸受用鋼等の鉄系金属とするのが好ましい。このようにすると、外側部材2及び内側部材3のうち、玉8との接点となる内外レース部5,7のみを硬度の高い軸受用鋼等とする一方で、外側ケース部4及び内側ケース部6をアルミ合金等の軽金属等として、軸受1を軽量化できる。なお通常、リング状保持器9は樹脂等で作製され、玉8は軸受用鋼等により作製される。シールド13はステンレス鋼あるいは樹脂等で作製することが可能である。
【0032】
図3は、本発明の第二実施形態に係る軸受20の断面図(軸心から下半分は記載を省略)である。この軸受20では、第一実施形態の軸受1と異なり、外側部材2は、外レース部5と外側ケース部4の一部とが一体となった外側一体部材21,21と、外側ケース部4の残りの一部であるリング状外側ケース22から成る。略円環板状の二つの外側一体部材21,21は、その径方向最外縁部近傍において、リング状外側ケース22を介して外側ねじ11で一体的に連結されている。このようにすると、部品点数が少なくなり、また軸受20の軸方向厚みを薄くし易い点において好ましい。ただし、外レース部を軸受用鋼等で作製する場合に、外レース部と外側ケース部の一部とが一体となった外側一体部材21の全体を軸受用鋼等により作製することになるため、軽量化の観点からは不利である。即ち、軽量化の観点からは、第一実施形態に係る軸受1のように、外側ケース部4と外レース部5を別体とするのが好ましい。
【0033】
なお、この軸受20では、第一実施形態の軸受1のように転動体ガイド部が内側ケース部6と一体ではなく、転動体ガイド部23は単独で別体とされている。この転動体ガイド部23は樹脂製であって、二つの転動体ガイド部23,23が内レース部7の両面に配置されている。この転動体ガイド部23は、第一実施形態の転動体ガイド部9と同様円環状であり、同一円周上で且つ周方向に均等な位置に複数の可動範囲規制孔23aが設けられている。これら可動範囲規制孔23aの孔径はすべて同一である。この転動体ガイド部23,23はねじ等の固定手段によって内レース部7あるいは内側ケース部6などの内側部材3に固定されている。従って、この別体の転動体ガイド部23は第一実施形態の転動体ガイド部9と同様に玉8の移動可能範囲を所定半径の円形範囲に規制している。このように転動体ガイド部23を別体とすると、転動体ガイド部を樹脂製等別材料で形成とすることができコストダウンや軽量化に役立つ。
【0034】
図4は、本発明の第三実施形態に係る軸受30の断面図(軸心から下半分は記載を省略)である。この軸受30は、第二実施形態に係る軸受20と同様に外側部材2のうち外レース部5と外側ケース部4とが一体となっているが、軸受20と異なり第二実施形態におけるリング状外側ケース22の部分も一体となった外側一体部材31,31を有している。さらにこの軸受30では、内レース部7と内側ケース部6,6とを一体とした内側一体部材32が用いられる。従って、第二実施形態に係る軸受20よりも更に更に部品点数が少なくなり、軸受の軸方向厚みを薄くできる点においてより好ましい。ただし、前述のように軽量化の観点からは不利である。即ち、軽量化の観点からより好ましいのは、第一実施形態に係る軸受1のように、内レース部7と内側ケース部6を別体とし且つ外側ケース部4と外レース部5を別体とするのがよい。
【0035】
この軸受30では、樹脂製の転動体ガイド部33がシールド効果をも有する構成となっている。即ち、転動体ガイド部33の軸方向外側面を外側一体部材31の軌道面に対して近接させ両者間の軸方向隙間Y(図4参照)を微小なものとしている。また、外側一体部材31は、玉8が転動する軌道面よりも径方向内側の部分に段差34があり、この段差34よりも径方向内側に環状薄肉部35を有する構成となっている。この環状薄肉部35と前記転動体ガイド部33の間の軸方向隙間Yが微小であることによりシールド効果を奏する。このような構成とすると、第一実施形態における軸受1のように別体のシールド13を設ける必要がないため、部品点数が更に減少する。また、外側一体部材31のうちシールドの役目を果たす部分を薄肉の環状薄肉部35とすることにより軸受30が軽量化される。
【0036】
この軸受30においても、軸受20と同様二つの転動体ガイド部33,33が設けられており、これら転動体ガイド部33,33は内側一体部材32等とは別体の樹脂製であって、内側一体部材32とねじ等適宜の手段で固定されている。転動体ガイド部33,33は第一実施形態の転動体ガイド部9と同様円環状であり、同一円周上で且つ周方向に均等な位置に複数の可動範囲規制孔33aが設けられている。これら可動範囲規制孔33aの孔径はすべて同一である。従って、この別体の転動体ガイド部33,33は第一実施形態の転動体ガイド部9と同様に玉8の移動可能範囲を所定半径の円形範囲に規制している。なお、この軸受30においては、二つの外側一体部材31,31が分離しないように、例えば予圧付加用ねじ等を別途設けてもよい。
【0037】
本発明にかかる軸受がアセンブル部材として軸受以外の他の外部部材に取り付けられて使用された場合に、この外部部材において例えばゴムやバネ等の反力を用いて移動範囲を制約する手段があり、これにより制約される範囲が軸受の偏心可能範囲より狭い範囲であれば、軸受は各部材間で干渉することがない。
【0038】
なお、上記の実施形態では、外側部材2を径方向外側に配し、内側部材3を外側部材2の径方向内側に配する例を示したが、逆に、外側部材2を径方向内側に配し、内側部材3を外側部材2の径方向外側に配しても良い。この場合、内側部材3の円環状の内レース部7は、内側ケース部6から径方向内側に突出して設けられる。また、上記の実施例では、転動体ガイド部9を内側部材3に固定する例を示したが、外側部材2に固定してもよい。
【0039】
【発明の効果】
以上のように、本発明により、一定距離相対移動が可能であって、且つ相対移動時の損失が極めて少ない複列偏心スラスト軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第一実施形態に係る偏心スラスト軸受の分解斜視図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る偏心スラスト軸受の断面図である
【図3】本発明の第二実施形態に係る軸受の断面図である。
【図4】本発明の第三実施形態に係る軸受の断面図である。
【符号の説明】
1 軸受
2 外側部材
3 内側部材
4 外側ケース部
5 外レース部
6 内側ケース部
7 内レース部
8 玉
9 転動体ガイド部
9a 可動範囲規制孔
13 シールド
20 軸受
21 外側一体部材
23 転動体ガイド部
30 軸受
31 外側一体部材
32 内側一体部材
33 転動体ガイド部
M 転動体ガイド部外周面と外側部材との間の径方向隙間距離
R 玉と可動範囲規制孔の内周面との間の隙間距離
L 外側部材の径方向最内端面と内側部材との間の径方向隙間距離
X 転動体ガイド部の軸方向外側面と外レース部軌道面との間の軸方向隙間

Claims (5)

  1. 互いに同心で対向し且つ一体的に接合された円環状の二つの外側部材と、
    これら二つの外側部材間に同心で介在する円環状の内側部材と、を有し、
    前記二つの外側部材のそれぞれは、円環状の外側ケース部と、この外側ケース部の内面に取り付けられた円環板状の外レース部を有し、
    前記内側部材は、円環状の内側ケース部と、この内側ケース部から径方向に突出して延びる円環板状の内レース部と、を有するとともに、
    前記内レース部の両面と対向する前記二つの外レース部との間に複数の転動体が挟持された複列偏心スラスト軸受であって、
    前記内側部材又は外側部材に固定され、且つ各転動体の移動可能範囲を所定範囲内に規制する転動体ガイド部を備えていることを特徴とする複列偏心スラスト軸受。
  2. 前記転動体ガイド部が規制する前記所定範囲は、所定半径の円形範囲であることを特徴とする請求項1に記載の複列偏心スラスト軸受。
  3. 前記外側部材と前記内側部材との間の径方向隙間により生ずる相対移動可能範囲が、転動体の前記移動可能範囲に略対応していることを特徴とする請求項1又は2に記載の複列偏心スラスト軸受。
  4. 前記転動体ガイド部は円環状であり、且つ、この転動体ガイド部には、同一円周上で且つ周方向に均等な位置に三つ以上の可動範囲規制孔が設けられるとともに、これら可動範囲規制孔の一つにつき一個の転動体が配置されていることを特徴とする請求項1乃至3に記載の複列偏心スラスト軸受。
  5. 前記転動体ガイド部により規制される転動体の径方向移動距離が前記内レース部又は外レース部の径方向幅と略対応していることを特徴とする請求項1乃至4に記載の複列偏心スラスト軸受。
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