JP2004290056A - 心筋細胞の調製方法及びそれに利用する装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明により、単離された心筋細胞を調製する方法において、迅速かつ効率よく、よりダメージの少ない状態の心筋細胞を簡便かつ再現性良くに調製する新たな方法等を提供すること。
【解決手段】ランゲンドルフ式還流装置を用いて、心臓組織に細胞外生理液を還流して血液を洗浄除去した後、心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解し、さらに心臓組織に細胞外生理液を再度還流して残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去し、次いで心臓組織より心筋細胞を剥離させることにより、単離された心筋細胞を調製する方法において、
ランゲンドルフ式還流装置が2系統の還流ラインを有する2ライン型ランゲンドルフ式還流装置であることを特徴とする方法、及び、当該方法を実行するためのランゲンドルフ式還流装置であって、2系統の還流ラインを有することを特徴とするランゲンドルフ式還流装置等が提供可能になった。
【選択図】 なし
【解決手段】ランゲンドルフ式還流装置を用いて、心臓組織に細胞外生理液を還流して血液を洗浄除去した後、心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解し、さらに心臓組織に細胞外生理液を再度還流して残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去し、次いで心臓組織より心筋細胞を剥離させることにより、単離された心筋細胞を調製する方法において、
ランゲンドルフ式還流装置が2系統の還流ラインを有する2ライン型ランゲンドルフ式還流装置であることを特徴とする方法、及び、当該方法を実行するためのランゲンドルフ式還流装置であって、2系統の還流ラインを有することを特徴とするランゲンドルフ式還流装置等が提供可能になった。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、心筋細胞の調製方法及びそれに利用する装置等に関する。
【0002】
【従来の技術】
心筋細胞は、種々の生理学・薬理学的特性等に係る研究調査において利用されている(例えば、非特許文献1参照)。これは、動物そのものや心臓組織を用いる場合には、例えば、少量でしか調製することが難しいとか、多種の実験に応用し辛い等の問題があり、これに代わるものとして、簡便かつ大量に調製することが可能である心筋細胞が使用されている。具体的には、例えば、高純度初代心筋細胞の大量調製法とこれを用いてなる心疾患治療薬の多検体対応型探索法を提供するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−78483号
【非特許文献1】
標準生理学 第5版 (株)医学書院(2000年12月1日発行) 第68頁〜第73頁、第491頁〜第499頁
【非特許文献2】
杉 晴夫、平本幸男編、実験生物学講座 第10巻、27頁(1984年)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、通常の方法によって調製される哺乳動物の心筋細胞は、その生存率が極めて低く、回収される心筋細胞の性質等に問題があり、上記のような心疾患治療薬の多検体対応型の探索には適していない。
また、心臓組織から心筋細胞を単離する際には、トリプシンやコラゲナーゼ等の蛋白質分解酵素液を必要以上の時間で処理すると心臓組織中の心筋細胞を取り巻く間質を分解するだけではなく、当該結合組織以外の部分(例えば、細胞膜)にも傷害を与え、その結果としてパッチクランプ法における目的の電流の測定が不可能となったり、逆にトリプシンやコラゲナーゼ等の蛋白質分解酵素液を必要以下の時間で処理すると心筋細胞の回収率が著しく低下する等の問題があり、当該処理に係る正確な時間の制御が必要不可欠であった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる状況のもと鋭意検討した結果、ランゲンドルフ式還流装置を用いて、心臓組織に細胞外生理液を還流して血液を洗浄除去した後、心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解し、さらに心臓組織に細胞外生理液を再度還流して残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去し、次いで心臓組織より心筋細胞を剥離させることにより、単離された心筋細胞を調製する方法において、細胞外生理液から蛋白質分解酵素液への切替と蛋白質分解酵素液から細胞外生理液への切替との両者操作時における時間的損失を無くすことにより、蛋白質分解酵素液による還流を正確に時間制御することを可能とし、迅速かつ効率よく、よりダメージの少ない状態の心筋細胞を簡便かつ再現性良くに調製する新たな方法を見出し、本発明に至った。
本発明は、
1.ランゲンドルフ式還流装置を用いて、心臓組織に細胞外生理液を還流して血液を洗浄除去した後、心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解し、さらに心臓組織に細胞外生理液を再度還流して残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去し、次いで心臓組織より心筋細胞を剥離させることにより、単離された心筋細胞を調製する方法において、
ランゲンドルフ式還流装置が2系統の還流ラインを有する2ライン型ランゲンドルフ式還流装置であることを特徴とする方法(以下、本発明方法と記すこともある。);
2.2ライン型ランゲンドルフ式還流装置が有する2系統の還流ラインのうち、一方は心臓組織に細胞外生理液を還流するための還流ラインで、他方は心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流するための還流ラインであることを特徴とする前項1記載の方法;
3.前項1記載の方法を実行するためのランゲンドルフ式還流装置であって、2系統の還流ラインを有することを特徴とするランゲンドルフ式還流装置;
4.前項2記載の方法を実行するためのランゲンドルフ式還流装置であって、2系統の還流ラインを有し、当該還流ラインのうち一方は心臓組織に細胞外生理液を還流するための還流ラインで、他方は心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流するための還流ラインであることを特徴とするランゲンドルフ式還流装置;
等を提供するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明方法は、ランゲンドルフ式還流装置を用いて、心臓組織に細胞外生理液を還流して血液を洗浄除去した後、心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解し、さらに心臓組織に細胞外生理液を再度還流して残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去し、次いで心臓組織より心筋細胞を剥離させることにより、単離された心筋細胞を調製する方法において、ランゲンドルフ式還流装置が2系統の還流ラインを有する2ライン型ランゲンドルフ式還流装置であることを特徴とする。
【0007】
ランゲンドルフ式還流装置を用いて、心臓組織に細胞外生理液を還流して血液を洗浄除去した後、心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解し、さらに心臓組織に細胞外生理液を再度還流して残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去し、次いで心臓組織より心筋細胞を剥離させることにより、単離された心筋細胞を調製する方法は、例えば、杉 晴夫、平本幸男編、実験生物学講座 第10巻、27頁(1984年)等に記載される通常の方法でよく、特別なものである必要はない。
【0008】
本発明におけるランゲンドルフ式還流装置は、2系統の還流ラインを有する2ライン型ランゲンドルフ式還流装置であって、通常市販される1系統の還流ラインを有するランゲンドルフ式還流装置に、他の独立した1系統の還流ラインを追加的に設置することにより、容易に製造することができる。増設される還流ラインは、既存の還流ラインでの制御方法と同様な方法に従いながら、独立又は連携しながら制御方法すればよい。
【0009】
まず、2ライン型ランゲンドルフ式還流装置が有する2系統の還流ラインのうち、一方の還流ラインを利用して、心臓組織に細胞外生理液を還流する(以下、第一還流と記すこともある。)。これにより、心臓組織内に存在する血液を洗浄除去する。次いで、他方の還流ラインを利用して、心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流する(以下、第二還流と記すこともある。)。これにより、心筋細胞を取り巻く間質を分解する。さらに、第一還流において使用された還流ラインを再度利用して、心臓組織に細胞外生理液を再度還流する(以下、第三還流と記すこともある。)。これにより、残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去する。
このように独立した2系統の還流ラインを切り替えながら使用できることで、第一還流から第三還流までの間における還流ラインの切替を時間的損失を無く実施することが可能となるために、蛋白質分解酵素液による還流を正確に時間制御することが可能となり、迅速かつ効率よく、よりダメージの少ない状態の心筋細胞を簡便かつ再現性良く調製できる。
【0010】
蛋白質分解酵素液による還流は、例えば、当該酵素液に含まれる酵素の種類、還流される当該酵素液の温度等に応じて適正な当該酵素液の還流時間に基づき正確に時間制御を行えばよい。
【0011】
さらに具体的に本発明方法について記述する。
例えば、モルモット(例えば、成熟個体等)の心筋細胞を調製する場合には、まずモルモットの腹腔内に麻酔薬を注射により投与する。麻酔が十分に効いていることを確認した後、当該モルモットを開胸する。ここで下大静脈よりヘパリンを注射することにより心筋梗塞を予防する措置を行うことが好ましい。次に、大動脈より左心室方向へカニューレを挿入し、ランゲンドルフ式還流装置の1つの還流ラインを用いて、例えば、Ca2+を含むHEPES緩衝液(組成mM:NaCl 14, KCl 0.54, NaH2PO4・2H2O 0.03, HEPES 0.5, MgCl2・6H20 0.05 CaCl2 1.8, glucose 5.5, pH7.4)等の細胞外生理液を心臓組織に、例えば、約5〜15分間程度還流して血液を洗浄除去する。さらにCa2+を含まないHEPES緩衝液等の細胞外生理液を心臓組織に、例えば、約5〜10分間程度還流する。次に、ランゲンドルフ式還流装置の還流ラインを他の還流ラインに切り替えることにより、コラーゲナーゼ溶液等の蛋白質分解酵素液(具体的には、例えば、100mlのCa2+を含まないHEPES緩衝液に18.7mgのコラゲナーゼ500units/mg(ヤクルト社製)を溶解したもの)を心臓組織に例えば、約10〜20分間程度還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解する。次に、ランゲンドルフ式還流装置の還流ラインを元の還流ラインに切り替えることにより、KB液(KraftBruhe)液(組成mM:K−glutamate 70, KCl 30, KH2PO4 10, HEPES 10, MgCl2・6H20 1, EGTA 0.3, taurine 20, glucose 10, pH7.3)等の細胞外生理液を心臓組織に、例えば、約5〜10分間程度還流して残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去する。次に、心室を切り離し、KB液中で心室をピンセットで摘んで、例えば、5〜15分間程度振動させる。以上のようにして心臓組織より心筋細胞を剥離させて、単離した心筋細胞を調製すればよい。
【0012】
【実施例】
以下に試験例によって本発明をさらに具体的に説明する。試験例は本発明の一例にすぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
試験例1
本発明方法により調製された心筋細胞と、1系統の還流ラインのみを有する従来型のランゲンドルフ式還流装置を用いて調製された心筋細胞についてパッチクランプ実験を試みた場合における高抵抗(ギガオーム)電気シールの成功率に関する比較試験は全てチャールスリバー社製のモルモットの3〜5週齢を使用して行った。
モルモットの腹腔内に麻酔薬(具体的には、ペントバルビタール)を注射により投与した。麻酔が十分に効いていることを確認した後、当該モルモットを開胸した。そして心筋梗塞を予防するために、下大静脈よりヘパリンを注射により投与した。次に、大動脈より左心室方向へカニューレを挿入し、2ライン型ランゲンドルフ式還流装置の1つの還流ラインを用いて、Ca2+を含むHEPES緩衝液(組成mM:NaCl 14, KCl 0.54, NaH2PO4・2H2O 0.03, HEPES 0.5, MgCl2・6H20 0.05 CaCl2 1.8, glucose 5.5, pH7.4)を心臓組織に10分間還流して血液を洗浄除去した(第一還流)。さらにKB液を心臓組織に5分間還流した。次に、ランゲンドルフ式還流装置の還流ラインを他の還流ラインに切り替えることにより、100mlのCa2+を含まないHEPES緩衝液に18.7mgのコラゲナーゼ500units/mg(ヤクルト社製)を溶解して得られたコラゲナーゼ水溶液を心臓組織に15分間還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解した(第二還流)。次に、ランゲンドルフ式還流装置の還流ラインを元の還流ラインに切り替えることにより、前記KB(KraftBruhe)液(組成mM:K−glutamate 70, KCl 30, KH2PO4 10, HEPES 10, MgCl2・6H20 1, EGTA 0.3, taurine 20, glucose 10, pH7.3)を心臓組織に5分間還流して残存する前記コラゲナーゼ水溶液を洗浄除去した(第三還流)。次に、心室を眼科用ハサミで切り離し、前記KB液中で心室をピンセットで摘んで10分間振動させた。以上のようにして心臓組織より心筋細胞を剥離させて、本発明方法により調製された心筋細胞を含む細胞懸濁液を得た。これに対して、1系統の還流ラインのみを有する従来型のランゲンドルフ式還流装置を用いて調製された心筋細胞を含む細胞懸濁液を得るために、2ライン型ランゲンドルフ式還流装置の代わりに従来の1ライン型ランゲンドルフ式還流装置を用いて、第一還流から第三還流までの間における還流ラインの切替なく1系統の還流ラインのみを使用して上記と同様な方法に従って心筋細胞の調製を実施した(以下、従来法と記すこともある。)。
その結果、本発明方法では、状態のよい(形が良く、表面がきれい)心筋細胞が高頻度に得られるようになり、安定した心筋細胞の調製が可能となった。具体的には、従来法では2〜3回中1回程度でしか得られなかった状態のよい細胞が本発明方法では略毎回得られ、それに伴い実験効率が倍増した。
【0013】
【発明の効果】
本発明により、ランゲンドルフ式還流装置を用いて、心臓組織に細胞外生理液を還流して血液を洗浄除去した後、心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解し、さらに心臓組織に細胞外生理液を再度還流して残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去し、次いで心臓組織より心筋細胞を剥離させることにより、単離された心筋細胞を調製する方法において、細胞外生理液から蛋白質分解酵素液への切替と蛋白質分解酵素液から細胞外生理液への切替との両者操作時における時間的損失を無くすことにより、蛋白質分解酵素液による還流を正確に時間制御することを可能とし、迅速かつ効率よく、よりダメージの少ない状態の心筋細胞を簡便かつ再現性良く調製する新たな方法が提供可能となった。
【発明の属する技術分野】
本発明は、心筋細胞の調製方法及びそれに利用する装置等に関する。
【0002】
【従来の技術】
心筋細胞は、種々の生理学・薬理学的特性等に係る研究調査において利用されている(例えば、非特許文献1参照)。これは、動物そのものや心臓組織を用いる場合には、例えば、少量でしか調製することが難しいとか、多種の実験に応用し辛い等の問題があり、これに代わるものとして、簡便かつ大量に調製することが可能である心筋細胞が使用されている。具体的には、例えば、高純度初代心筋細胞の大量調製法とこれを用いてなる心疾患治療薬の多検体対応型探索法を提供するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−78483号
【非特許文献1】
標準生理学 第5版 (株)医学書院(2000年12月1日発行) 第68頁〜第73頁、第491頁〜第499頁
【非特許文献2】
杉 晴夫、平本幸男編、実験生物学講座 第10巻、27頁(1984年)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、通常の方法によって調製される哺乳動物の心筋細胞は、その生存率が極めて低く、回収される心筋細胞の性質等に問題があり、上記のような心疾患治療薬の多検体対応型の探索には適していない。
また、心臓組織から心筋細胞を単離する際には、トリプシンやコラゲナーゼ等の蛋白質分解酵素液を必要以上の時間で処理すると心臓組織中の心筋細胞を取り巻く間質を分解するだけではなく、当該結合組織以外の部分(例えば、細胞膜)にも傷害を与え、その結果としてパッチクランプ法における目的の電流の測定が不可能となったり、逆にトリプシンやコラゲナーゼ等の蛋白質分解酵素液を必要以下の時間で処理すると心筋細胞の回収率が著しく低下する等の問題があり、当該処理に係る正確な時間の制御が必要不可欠であった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる状況のもと鋭意検討した結果、ランゲンドルフ式還流装置を用いて、心臓組織に細胞外生理液を還流して血液を洗浄除去した後、心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解し、さらに心臓組織に細胞外生理液を再度還流して残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去し、次いで心臓組織より心筋細胞を剥離させることにより、単離された心筋細胞を調製する方法において、細胞外生理液から蛋白質分解酵素液への切替と蛋白質分解酵素液から細胞外生理液への切替との両者操作時における時間的損失を無くすことにより、蛋白質分解酵素液による還流を正確に時間制御することを可能とし、迅速かつ効率よく、よりダメージの少ない状態の心筋細胞を簡便かつ再現性良くに調製する新たな方法を見出し、本発明に至った。
本発明は、
1.ランゲンドルフ式還流装置を用いて、心臓組織に細胞外生理液を還流して血液を洗浄除去した後、心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解し、さらに心臓組織に細胞外生理液を再度還流して残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去し、次いで心臓組織より心筋細胞を剥離させることにより、単離された心筋細胞を調製する方法において、
ランゲンドルフ式還流装置が2系統の還流ラインを有する2ライン型ランゲンドルフ式還流装置であることを特徴とする方法(以下、本発明方法と記すこともある。);
2.2ライン型ランゲンドルフ式還流装置が有する2系統の還流ラインのうち、一方は心臓組織に細胞外生理液を還流するための還流ラインで、他方は心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流するための還流ラインであることを特徴とする前項1記載の方法;
3.前項1記載の方法を実行するためのランゲンドルフ式還流装置であって、2系統の還流ラインを有することを特徴とするランゲンドルフ式還流装置;
4.前項2記載の方法を実行するためのランゲンドルフ式還流装置であって、2系統の還流ラインを有し、当該還流ラインのうち一方は心臓組織に細胞外生理液を還流するための還流ラインで、他方は心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流するための還流ラインであることを特徴とするランゲンドルフ式還流装置;
等を提供するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明方法は、ランゲンドルフ式還流装置を用いて、心臓組織に細胞外生理液を還流して血液を洗浄除去した後、心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解し、さらに心臓組織に細胞外生理液を再度還流して残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去し、次いで心臓組織より心筋細胞を剥離させることにより、単離された心筋細胞を調製する方法において、ランゲンドルフ式還流装置が2系統の還流ラインを有する2ライン型ランゲンドルフ式還流装置であることを特徴とする。
【0007】
ランゲンドルフ式還流装置を用いて、心臓組織に細胞外生理液を還流して血液を洗浄除去した後、心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解し、さらに心臓組織に細胞外生理液を再度還流して残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去し、次いで心臓組織より心筋細胞を剥離させることにより、単離された心筋細胞を調製する方法は、例えば、杉 晴夫、平本幸男編、実験生物学講座 第10巻、27頁(1984年)等に記載される通常の方法でよく、特別なものである必要はない。
【0008】
本発明におけるランゲンドルフ式還流装置は、2系統の還流ラインを有する2ライン型ランゲンドルフ式還流装置であって、通常市販される1系統の還流ラインを有するランゲンドルフ式還流装置に、他の独立した1系統の還流ラインを追加的に設置することにより、容易に製造することができる。増設される還流ラインは、既存の還流ラインでの制御方法と同様な方法に従いながら、独立又は連携しながら制御方法すればよい。
【0009】
まず、2ライン型ランゲンドルフ式還流装置が有する2系統の還流ラインのうち、一方の還流ラインを利用して、心臓組織に細胞外生理液を還流する(以下、第一還流と記すこともある。)。これにより、心臓組織内に存在する血液を洗浄除去する。次いで、他方の還流ラインを利用して、心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流する(以下、第二還流と記すこともある。)。これにより、心筋細胞を取り巻く間質を分解する。さらに、第一還流において使用された還流ラインを再度利用して、心臓組織に細胞外生理液を再度還流する(以下、第三還流と記すこともある。)。これにより、残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去する。
このように独立した2系統の還流ラインを切り替えながら使用できることで、第一還流から第三還流までの間における還流ラインの切替を時間的損失を無く実施することが可能となるために、蛋白質分解酵素液による還流を正確に時間制御することが可能となり、迅速かつ効率よく、よりダメージの少ない状態の心筋細胞を簡便かつ再現性良く調製できる。
【0010】
蛋白質分解酵素液による還流は、例えば、当該酵素液に含まれる酵素の種類、還流される当該酵素液の温度等に応じて適正な当該酵素液の還流時間に基づき正確に時間制御を行えばよい。
【0011】
さらに具体的に本発明方法について記述する。
例えば、モルモット(例えば、成熟個体等)の心筋細胞を調製する場合には、まずモルモットの腹腔内に麻酔薬を注射により投与する。麻酔が十分に効いていることを確認した後、当該モルモットを開胸する。ここで下大静脈よりヘパリンを注射することにより心筋梗塞を予防する措置を行うことが好ましい。次に、大動脈より左心室方向へカニューレを挿入し、ランゲンドルフ式還流装置の1つの還流ラインを用いて、例えば、Ca2+を含むHEPES緩衝液(組成mM:NaCl 14, KCl 0.54, NaH2PO4・2H2O 0.03, HEPES 0.5, MgCl2・6H20 0.05 CaCl2 1.8, glucose 5.5, pH7.4)等の細胞外生理液を心臓組織に、例えば、約5〜15分間程度還流して血液を洗浄除去する。さらにCa2+を含まないHEPES緩衝液等の細胞外生理液を心臓組織に、例えば、約5〜10分間程度還流する。次に、ランゲンドルフ式還流装置の還流ラインを他の還流ラインに切り替えることにより、コラーゲナーゼ溶液等の蛋白質分解酵素液(具体的には、例えば、100mlのCa2+を含まないHEPES緩衝液に18.7mgのコラゲナーゼ500units/mg(ヤクルト社製)を溶解したもの)を心臓組織に例えば、約10〜20分間程度還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解する。次に、ランゲンドルフ式還流装置の還流ラインを元の還流ラインに切り替えることにより、KB液(KraftBruhe)液(組成mM:K−glutamate 70, KCl 30, KH2PO4 10, HEPES 10, MgCl2・6H20 1, EGTA 0.3, taurine 20, glucose 10, pH7.3)等の細胞外生理液を心臓組織に、例えば、約5〜10分間程度還流して残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去する。次に、心室を切り離し、KB液中で心室をピンセットで摘んで、例えば、5〜15分間程度振動させる。以上のようにして心臓組織より心筋細胞を剥離させて、単離した心筋細胞を調製すればよい。
【0012】
【実施例】
以下に試験例によって本発明をさらに具体的に説明する。試験例は本発明の一例にすぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
試験例1
本発明方法により調製された心筋細胞と、1系統の還流ラインのみを有する従来型のランゲンドルフ式還流装置を用いて調製された心筋細胞についてパッチクランプ実験を試みた場合における高抵抗(ギガオーム)電気シールの成功率に関する比較試験は全てチャールスリバー社製のモルモットの3〜5週齢を使用して行った。
モルモットの腹腔内に麻酔薬(具体的には、ペントバルビタール)を注射により投与した。麻酔が十分に効いていることを確認した後、当該モルモットを開胸した。そして心筋梗塞を予防するために、下大静脈よりヘパリンを注射により投与した。次に、大動脈より左心室方向へカニューレを挿入し、2ライン型ランゲンドルフ式還流装置の1つの還流ラインを用いて、Ca2+を含むHEPES緩衝液(組成mM:NaCl 14, KCl 0.54, NaH2PO4・2H2O 0.03, HEPES 0.5, MgCl2・6H20 0.05 CaCl2 1.8, glucose 5.5, pH7.4)を心臓組織に10分間還流して血液を洗浄除去した(第一還流)。さらにKB液を心臓組織に5分間還流した。次に、ランゲンドルフ式還流装置の還流ラインを他の還流ラインに切り替えることにより、100mlのCa2+を含まないHEPES緩衝液に18.7mgのコラゲナーゼ500units/mg(ヤクルト社製)を溶解して得られたコラゲナーゼ水溶液を心臓組織に15分間還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解した(第二還流)。次に、ランゲンドルフ式還流装置の還流ラインを元の還流ラインに切り替えることにより、前記KB(KraftBruhe)液(組成mM:K−glutamate 70, KCl 30, KH2PO4 10, HEPES 10, MgCl2・6H20 1, EGTA 0.3, taurine 20, glucose 10, pH7.3)を心臓組織に5分間還流して残存する前記コラゲナーゼ水溶液を洗浄除去した(第三還流)。次に、心室を眼科用ハサミで切り離し、前記KB液中で心室をピンセットで摘んで10分間振動させた。以上のようにして心臓組織より心筋細胞を剥離させて、本発明方法により調製された心筋細胞を含む細胞懸濁液を得た。これに対して、1系統の還流ラインのみを有する従来型のランゲンドルフ式還流装置を用いて調製された心筋細胞を含む細胞懸濁液を得るために、2ライン型ランゲンドルフ式還流装置の代わりに従来の1ライン型ランゲンドルフ式還流装置を用いて、第一還流から第三還流までの間における還流ラインの切替なく1系統の還流ラインのみを使用して上記と同様な方法に従って心筋細胞の調製を実施した(以下、従来法と記すこともある。)。
その結果、本発明方法では、状態のよい(形が良く、表面がきれい)心筋細胞が高頻度に得られるようになり、安定した心筋細胞の調製が可能となった。具体的には、従来法では2〜3回中1回程度でしか得られなかった状態のよい細胞が本発明方法では略毎回得られ、それに伴い実験効率が倍増した。
【0013】
【発明の効果】
本発明により、ランゲンドルフ式還流装置を用いて、心臓組織に細胞外生理液を還流して血液を洗浄除去した後、心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解し、さらに心臓組織に細胞外生理液を再度還流して残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去し、次いで心臓組織より心筋細胞を剥離させることにより、単離された心筋細胞を調製する方法において、細胞外生理液から蛋白質分解酵素液への切替と蛋白質分解酵素液から細胞外生理液への切替との両者操作時における時間的損失を無くすことにより、蛋白質分解酵素液による還流を正確に時間制御することを可能とし、迅速かつ効率よく、よりダメージの少ない状態の心筋細胞を簡便かつ再現性良く調製する新たな方法が提供可能となった。
Claims (4)
- ランゲンドルフ式還流装置を用いて、心臓組織に細胞外生理液を還流して血液を洗浄除去した後、心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流して心筋細胞を取り巻く間質を分解し、さらに心臓組織に細胞外生理液を再度還流して残存する蛋白質分解酵素液を洗浄除去し、次いで心臓組織より心筋細胞を剥離させることにより、単離された心筋細胞を調製する方法において、
ランゲンドルフ式還流装置が2系統の還流ラインを有する2ライン型ランゲンドルフ式還流装置であることを特徴とする方法。 - 2ライン型ランゲンドルフ式還流装置が有する2系統の還流ラインのうち、一方は心臓組織に細胞外生理液を還流するための還流ラインで、他方は心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流するための還流ラインであることを特徴とする請求項1記載の方法。
- 請求項1記載の方法を実行するためのランゲンドルフ式還流装置であって、2系統の還流ラインを有することを特徴とするランゲンドルフ式還流装置。
- 請求項2記載の方法を実行するためのランゲンドルフ式還流装置であって、2系統の還流ラインを有し、当該還流ラインのうち一方は心臓組織に細胞外生理液を還流するための還流ラインで、他方は心臓組織に蛋白質分解酵素液を還流するための還流ラインであることを特徴とするランゲンドルフ式還流装置。
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JP2003085682A JP2004290056A (ja) | 2003-03-26 | 2003-03-26 | 心筋細胞の調製方法及びそれに利用する装置 |
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Cited By (2)
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---|---|---|---|---|
CN109280610A (zh) * | 2018-09-19 | 2019-01-29 | 贵州医科大学附属医院 | 一种批量自动分离成年鼠心肌细胞灌注系统 |
JP2020522282A (ja) * | 2017-06-07 | 2020-07-30 | チェントロ カルディオロジコ モンヅィーノ エスピーエー | 心臓前駆細胞の亜集団を単離する方法、及び医療分野における関連する使用 |
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2003
- 2003-03-26 JP JP2003085682A patent/JP2004290056A/ja active Pending
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JP2020522282A (ja) * | 2017-06-07 | 2020-07-30 | チェントロ カルディオロジコ モンヅィーノ エスピーエー | 心臓前駆細胞の亜集団を単離する方法、及び医療分野における関連する使用 |
CN109280610A (zh) * | 2018-09-19 | 2019-01-29 | 贵州医科大学附属医院 | 一种批量自动分离成年鼠心肌细胞灌注系统 |
CN109280610B (zh) * | 2018-09-19 | 2023-09-19 | 贵州医科大学附属医院 | 一种批量自动分离成年鼠心肌细胞灌注系统 |
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