JP2004285187A - 炭化水素の部分酸化方法およびマイクロリアクタ装置 - Google Patents

炭化水素の部分酸化方法およびマイクロリアクタ装置 Download PDF

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智洋 野崎
Takeshi Okazaki
健 岡崎
Shigeru Sumi
茂 角
Akitomo Hattori
旭倫 服部
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Abstract

【課題】爆発的に進行する酸化反応を効果的に抑制しつつ、エネルギー効率が高い炭化水素の部分酸化方法を提供する。
【解決手段】酸素の存在下、炭化水素を常圧の非平衡プラズマで処理することにより、該炭化水素を部分酸化する。反応の一例としてはメタン5からのメタノール6、ホルムアルデヒド、ギ酸の合成があげられる。本発明によれば、常圧マイクロプラズマを用いて、常温常圧で石油、バイオマス等の天然ガスを直接、液体燃料に転換可能となる。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭化水素を酸素の存在下で常圧・非平衡プラズマ処理することにより、該炭化水素を部分酸化する方法に関する。本発明によれば、例えば、常圧マイクロプラズマを用いて、常温常圧で石油、石炭、天然ガス、バイオマス等の天然ガスを直接液体燃料に変換することが可能となる。
【0002】
【従来の技術】
人類の消費・生産等の諸活動の範囲・速度の更なる増大に従って、産業・社会におけるエネルギー消費が益々増大することは、現実的には避けがたい傾向である。他方、このような増大する一方のエネルギー消費を満たすための手段が、現在の石油を始めとする化石燃料大量消費によるエネルギー供給体制のみでは、エネルギー資源の確保や化石燃料消費に伴う種々の環境問題(環境汚染、地球温暖化等)を解決することは到底不可能である。
【0003】
そこで、化石燃料のより一層の有効利用、ないしは化石燃料に代替すべき新エネルギー源の一つとして、天然ガス(通常はメタンおよびエタンが主成分;石油、石炭と同時に、ないしはそれらに由来する天然ガスもある)、バイオガス、炭層メタン、メタンハイドレート等の炭化水素(特にメタン)を液体(例えば、液体燃料)に変換して有効活用することが、近年、脚光を浴びている。これらの炭化水素の中でも、メタンは、その分子中に豊富に水素を含むことによりクリーンな炭素資源とされているが、他方で、飽和炭化水素中で特に安定な化合物であるため、そのメタンの液体への変換には困難な問題が多い。
【0004】
従来より、メタンを始めとする炭化水素の液体への変換方法としては、熱化学的手法により、天然ガスから中問ガスの合成ガス(H+CO)を生成させ、その後で灯油・軽油、ガソリン、DME、メタノール、水素、エタノール、酢酸、蟻酸、オレフィン等に液化することが一般的に行われて来た。
【0005】
このような従来の熱化学的手法のうち、商業化されているプロセスにおいては水蒸気改質法が主流で、その他部分酸化、自己熱改質、CO改質等がある。
【0006】
上記の水蒸気改質法においては、多管式反応器に触媒が充填され、その外側から熱が加えられるため、反応のためのエネルギー消費が大きいとされている。すなわち、この熱化学的手法(水蒸気改質法)は、燃料に、O、CO、HOを加えて反応させ、一旦合成ガスとするが、この合成ガス形成反応が多大な吸熱反応であるため、通常800℃以上の高温を必要とする。
【0007】
更には、この熱化学的手法は、中間生成物として合成ガスを経由する間接法であるため、エネルギー効率が低いという問題がある。このため、熱化学的手法はプロセスの高効率化において改良の余地が最も大きく、その改良プロセスが求められている。
【0008】
上記熱化学的手法に対する改善手法の一つして検討されている、酸素を利用する部分酸化法は熱力学的に優位なプロセスであるが、爆発的に進行する酸化反応を抑制することが課題である。プロセスの低温化によって完全酸化反応を抑制できるが、触媒を活性化させる点から、500℃以下の低温化は困難とされている。
【0009】
他方、プラズマを用いた燃料改質法も行われており、現在、実用レベルに最も近い燃料改質法として、Kvaerner CB&H、SynGen、Plasmatron等が挙げられる(例えばhttp://www.geocities.co.jp/Technopolis−Mars/1598/plasma/を参照)。これらは全て高温の過渡的な熱プラズマをベースとしており、この高温を利用する点でエネルギー的に不利である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点を解消した炭化水素の部分酸化方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、爆発的に進行する酸化反応を効果的に抑制しつつ、エネルギー効率が高い炭化水素の部分酸化方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者は鋭意研究の結果、従来におけるように熱平衡・化学平衡の制約を受ける反応(熱化学的ないしは熱プラズマ反応)ではなく、常圧の非平衡プラズマを用いて炭化水素を部分酸化することが、上記目的の達成のために極めて効果的なことを見出した。
【0013】
本発明の炭化水素の部分酸化方法は上記知見に基づくものであり、より詳しくは、酸素の存在下、炭化水素を常圧の非平衡プラズマで処理することにより、該炭化水素を部分酸化するものである。
【0014】
本発明によれば、更に、その内部に炭化水素を含むガスを流通可能とした、絶縁体からなるチューブと;該チューブの外側に配置された、プラズマ発生のための電力を供給可能とするための第1の電極と;該チューブの内側に配置された、プラズマ発生のための電力を供給可能とするための第2の電極とを少なくとも含むマイクロリアクタ装置であって;該チューブの内径が、前記炭化水素を含むガスの消炎距離以下であるマイクロリアクタ装置が提供される。
【0015】
上記構成を有する本発明の部分酸化方法においては、常圧の非平衡プラズマプロセスを利用するために、減圧や高温化に伴う反応器材料が受ける制約がほとんどなく、反応器形状の自由度がきわめて高く、目的にかなった様々な反応プロセスを設計できる利点がある。更に、本発明においては、常温・常圧で原料気体を活性化することにより、エネルギー消費をより少なくできる。
【0016】
本発明において、「非平衡プラズマ」とは、電子温度が反応場の温度(ないしガス温度)と等しくないプラズマを言う。また、「常圧プラズマ」とは、反応場の圧力が常圧に近い圧力、より具体的には、反応場の圧力が、対流が実質的に効果的な133.3hPa(100mmHg)以上であるプラズマを言う。
【0017】
他方、従来の熱プラズマ法においては、天然ガス(メタン)の部分酸化は発熱反応であるため、熱化学的な水蒸気改質よりエネルギー的に優位な改質プロセスである。しかしながら、逐次的に進行するメタンの酸化反応をCOとHで停止させることは容易ではないため、この熱プラズマ改質法は、実質的には、メタンの完全酸化反応と引続くスチーム(ドライ)リフォーミングの多段反応となっている。比較的低い温度で動作する接触部分酸化反応の場合でも、本質的に多段反応であることに変わりない。低温ほど高い選択性が期待できるが、触媒活性の問題から充分な原料転換率を得ることは容易でなく、これが熱力学的手法(熱・化学平衡)の限界となっている。
【0018】
これに対して、本発明の炭化水素の部分酸化方法においては、上記したように非平衡常圧プラズマを用いるため、高温を必須とせず、したがってエネルギー的に有利である。
【0019】
上記した本発明の方法によれば、天然ガス/酸素の可燃性混合ガスを、合成ガスを経由せずに、直接メタノール等の有価な液体燃料へ転換することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
(部分酸化方法)
本発明においては、酸素の存在下で、炭化水素を常圧の非平衡プラズマで処理することにより、該炭化水素を部分酸化することが特徴である。ここに、「部分酸化」とは、炭化水素を、その分子中に1以上の酸素原子を含む、「他の分子」に変換することを言う。ここで、一酸化炭素(CO)、水素(H)は「他の分子」に含まれるが、二酸化炭素(CO)、水(HO)は含まない。メタノール合成の点からは、この部分酸化においては、メタノール収率(メタン転換率×メタノール選択性)が、更には5%程度、特に10%を超えれば、経済的に優位なプロセスとして工業化の見通しが立つと考えられる。メタノールだけでなく、ホルムアルデヒド+メタノールの合計収率が10%を超える場合でも同様に工業化の見通しが立つ。
(炭化水素)
本発明において使用可能な炭化水素は、常圧の非平衡プラズマ処理による部分酸化が可能である限り、特に制限されない。原料のハンドリングの点からは、常温常圧で液体であることが好ましく、該炭化水素は炭素数15以下の炭化水素であることが好ましい。
【0021】
本発明において使用可能な炭化水素としては、例えば、天然ガス(主成分としてメタン、エタン)、液化石油ガス(主成分としてプロパン)等を主成分とするものが挙げられるが、特にメタンを主成分とするものが好ましい。メタン(CH)とメタノール(CHOH)はいずれも水素/炭素比が4で等しいことから、メタンに含まれる炭素と水素を過不足なくメタノールに変換できるメリットがある。メタノールは液化合成ガス(CO+H)として作用するため、天然ガスの輸送性、貯蔵性を著しく増大させる。
【0022】
メタンを主成分とする炭化水素ガスにおいては、メタンの含量は、炭化水素全体の質量を基準として、20質量%以上であることが好ましく、更には50質量%以上であることが好ましい。
(常圧の非平衡プラズマ)
本発明において使用可能な常圧の非平衡プラズマ発生方法は、該方法により常圧の非平衡プラズマを発生させることが可能である限り、特に制限されない。この常圧の非平衡プラズマ発生方法としては、例えば、マイクロプラズマ・リアクタ方式、マイクロプラズマ・リアクタ方式、誘電体バリア放電、コロナ放電法、マイクロ波放電等が挙げられる。なお、「マイクロ波プラズマ」と「マイクロプラズマ」は全く異なるプラズマである。マイクロ波プラズマとは、1000MHz以上の高周波電源を用いてプラズマを発生させるものを言う。
【0023】
酸素存在下の被処理ガスたる炭化水素ガス(すなわち、可燃性ガス)の爆発を抑制する点からは、これらの中でも、マイクロプラズマ・リアクタ方式が特に有利である。
【0024】
ここに「マイクロプラズマ・リアクタ」とは、そのリアクタスケールが被処理ガスたる炭化水素/酸素火炎の消炎(クェンチング)距離より小さいリアクタを言う。被処理ガスがメタンを主成分として含む場合、このメタン/酸素火炎の消炎距離は約2000μmである(この「消炎距離」の詳細については、例えば、 B Lewis et al, Combustion, flames and explosions of gases 3rd ed., Academic press, INC. 1987を参照することができる)。
【0025】
このようにスケールが消炎距離より小さいマイクロプラズマ・リアクタを用いた場合には、たとえO/CHが量論比以上でも完全酸化を回避して、一段で改質ガスを生成することができる。特に、反応温度が100℃以下の場合には、CHがCOに至るまでの中間生成物であるメタノールや、ホルムアルデヒド、ギ酸等がリアクタ内部で凝集し、該中間生成物が反応場から効率よく除去されるため、これら中間生成物のプラズマによる再分解を効果的に回避できる。結果として、常温・常圧で液体成分を高い収率で取り出すことができる。
【0026】
図1に、本発明において好適に使用可能なマイクロプラズマ・リアクタの概念図を示す。このマイクロプラズマ・リアクタ1は、その内部に炭化水素を含むガスを流通可能とした、絶縁体(例えばガラス)からなるチューブと;該チューブ2の外側に配置された、プラズマ発生のための電力を供給可能とするための第1の電極3と;該チューブ2の内側に配置された、プラズマ発生のための電力を供給可能とするための第2の電極(ワイヤ電極)4とを少なくとも含む。チューブ2の内径は、このマイクロプラズマ・リアクタ1に供給すべき炭化水素を含むガス(例えば、メタンと酸素との混合ガス)5の消炎距離(炭化水素がメタンの場合、約2mm)以下に設定されている。このようなマイクロリアクタ1を用いることにより、炭化水素を含むガスを部分酸化してなる生成物(例えば、メタノール等の液体燃料)6を得ることができる。
【0027】
本発明においてこの図1に示すようなマイクロプラズマ・リアクタを用いた場合には、以下の利点を得ることができる。
【0028】
(1)高エネルギー電子により、常温・常圧でも原料ガスを活性化し、化学反応を引起すことが容易である。
【0029】
(2)リアクタ・スケールをメタン/酸素火炎の消炎距離以下に設定した態様(すなわち、マイクロリアクタを用いた態様)においては、爆発的に進行する酸化反応を効果的に回避し、マイルドな部分酸化反応を実現できる。
【0030】
(3)合成ガスを経由しないため、プロセスの大幅な簡素化と省エネルギー化を図ることができる。
【0031】
(4)反応温度を100℃以下に設定した態様においては、液体燃料が反応器内部で凝縮するため、液体成分のプラズマによる再分解を効果的に抑制できる。よって、更に高収率化を図ることができる。
【0032】
本発明において好適に使用可能なマイクロプラズマ・リアクタは、その電気特性によっても、規定することができる。すなわち、本発明において好適に使用可能なマイクロプラズマ・リアクタの電気特性は、以下の通りである。
<好適マイクロプラズマ・リアクタの電気特性>
図7は、一般的に用いられる誘電体バリア放電の電気特性と、当該マイクロプラズマ・リアクタの電気特性を比較した結果である。横軸は換算電界強度(電子エネルギーを決定する)で、縦軸は電子数密度を表している。電界強度と電子数密度が高くなるほどエネルギー密度が高いプラズマが形成される(このような誘電体バリア放電の電気特性に関しては、例えば、D W Larkin, et al, “Oxygen Pathways and Carbon Dioxide Utilization in Methane Partial Oxidation in Ambient Temperature Electric Discharges”, Energy & Fuels, 1998;およびS Tanabe, et al, “Partial Oxidation on Methane with Nitrous Oxide in a dielectric−Barrier discharge System”, Chemistry Letters, 1999. を参照することができる)。
【0033】
誘電体バリア放電(曲線A)、マイクロプラズマ・リアクタ、いずれの場合でも、電極間距離は0.5mm〜1.0mmの範囲にあり、”マイクロプラズマリアクタの最適設計条件(今回お送りしたパワーポイントの資料)”を満たしていることなる。しかし従来型のリアクタでは、電極間スペースが2次元的な広がりをもっており、反応あるいはプラズマのクウェンチング効果を最大限まで引き出すには至っていない。また、0.5mmギャップと1.0mmギャップで電気特性にほとんど差が生じていない。一方マイクロプラズマ・リアクタでは、直径1mm以下という極めて抑制された空隙のなかでプラズマの形成と化学反応を生じさせるため、同じ代表寸法を有するリアクタでも、電界強度、電子数密度が著しく低下している様子が明示されている。
【0034】
図7に示すように、高いクウェンチング特性を有し、既往のリアクタと差別化をはかることができることができるものを総称して、マイクロプラズマ・リアクタと定義する。反応器形状やサイズはここに述べる当該マイクロプラズマ・リアクタに制約されるものではない。
【0035】
メタン/酸素系は発熱反応系であるから、プラズマは部分酸化反応のトリガーを与えれば十分であり、必要以上のエネルギーを投入する必要はない。すなわち、マイクロプラズマ・リアクタは過度なエネルギー消費を最小限に抑えることができる、高効率な反応器と定義することもできる。
(リアクタサイズ)
一般に、リアクタサイズについては「パッシェンの法則」が知られている。この法則を不等式で表せば、以下の通りである。
【0036】
(A)<(B)<(C)
式中、(A)=大気圧でパッシェン・ミニマムを与える電極間距離(原子ガス(希ガス)〜30μm、分子ガス〜10μm)
(B)=マイクロプラズマ・リアクタの最適管径
(C)=メタン/酸素火炎の消炎距離(1000μm〜2000μm)
すなわち、「パッシェンの法則」においては、放電開始電圧は、(気体圧力)×(電極間距離)に対して極小値を持つ。この極小値をパッシェンミニマムといい、これより(気体圧力)×(電極間距離)が小さくなると、放電開始電圧は著しく上昇してしまう。この法則によれば、電極サイズを少なくとも10μm以上にしなければ、マイクロリアクタ内部でプラズマを形成できないこととなる。
【0037】
このようなパッシェンの法則をグラフで示したものが、図2および図3である(このようなパッシェンカーブの詳細については、Von Engel: Ionized Gases, Oxford press (1955) を参照することができる)。
(酸素の存在下)
本発明においては、炭化水素の部分酸化が可能である限り、反応に用いるべき酸素の量は特に制限されないが、部分酸化の効率と爆発の抑制のバランスの点からは、Oと炭化水素(例えばメタン)のモル比で、O/炭化水素=0.2〜2.0(更には0.5〜1.0の範囲)が好ましい。
(圧力)
本発明においては常圧プラズマを用いるため、反応場の圧力(ないしガス圧)は、100mmHg以上かつ760mmHg付近であることが好ましい。対流熱物質移動によるクウェンチングを促進する観点から、反応場の圧力は少なくとも100mmHg以上であることが好ましく、更には22800mmHgまでの高圧雰囲気(30気圧)であることが好ましい。
(温度)
本発明においては、炭化水素の部分酸化が可能である限り、反応温度は特に制限されないが、リアクタ内部で液体成分の凝縮を促進する点から、この温度は100℃以下であることが好ましく、更には常温(20℃)以下であることが好ましい。上述したように、反応温度が100℃以下の場合には、CHがCOに至るまでの中間生成物であるメタノールや、ホルムアルデヒド、ギ酸等がリアクタ内部で凝集し、該中間生成物が反応場から効率よく除去されるため、これら中間生成物のプラズマによる再分解を効果的に回避できる。結果として、常温・常圧で液体成分を高い収率で取り出すことができる。
(好適な反応系)
本発明において好適に使用可能な反応系の一例を、図面を参照しつつ説明する。
【0038】
図4は、本発明において好適に使用可能な反応系(マイクロプラズマ・リアクタ)の一例を示す模式断面図である。図2を参照して、このマイクロプラズマ・リアクタ11は、所定の内径(例えば、1mm=1000μm)を有する薄いガラス管12と、該ガラス管12内に配置された、ツィスト型のステンレス・ワイヤ13(直径200μm;中心に張られた電極)とから構成される。ガラス管12の長さ、ステンレス・ワイヤ13の(直線とした際の)長さの好適なサイズは、以下の通りである。
【0039】
肉厚 0.2mm〜1mm
ワイヤ直径 0.2〜0.5mm
ガラス管の長さ 60mm程度
ワイヤ長さ 100mm程度
なお、ガラス管内径とガラス管長さは、メタン/酸素からなる原料ガスの滞留時間(反応体積÷ガスの全流量)が、当該反応器において0.2〜0.5秒程度になるように設計されることが好ましい。これは、周波数75kHzを用いる場合の条件であって、周波数が1/10に低下すれば、滞留時間は概ね10倍長く設定すべきである。
【0040】
ガラス管12の周囲は、銅ブロック14でカバーされている。この銅ブロック14は、接地電極として作用するのみならず、ヒートシンクとしても作用することができ、リアクタ内部で発生した熱を効果的に除去することができる。すなわち、この態様では、銅ブロック14は、反応場の温度を効率よく下げるヒートシンクとしても用いられる。肉厚は5mm程度以上が好ましい。リアクタが水冷されるような場合であれば、肉厚は0.2mm〜1mm程度の薄肉厚管を用いることもできる。
【0041】
ガラス管12内の途中には、反応温度をモニタするための熱電対15が配置されている。また、ガラス管12内の途中には、反応の進行をモニタするための観察位置16a、16bおよび16cが設けられている。この反応位置16a〜16cにおいては、例えば、分光器(高感度CCDカメラ(CCDカメラ、分光器、集光レンズ)等;図示せず)により反応の進行をモニタすることができる。
【0042】
図2に示したマイクロプラズマ・リアクタ11において、760mmHgの圧力下で、ガラス管12内に、例えばO/CH=0.2〜2.0の混合ガスを20cc/min程度で流しつつ、ステンレス・ワイヤ13にサイン型の高電圧(高電圧(例えば1000〔V〕、75〔kHz〕、平均電流0.002〔A〕)を印加することにより、ガラス管12内でメタンの部分酸化反応を生じさせることができる。この部分酸化反応により得られたガス生成物17は例えばGC(ガスクロマトグラフィー;検出器はFIDまたはTCD)により分析することができ、液体生成物18は、例えば、GC−MS(ガスクロマトグラフィー/マススペクトロメトリー)により分析することができる。
【0043】
本発明者の実験によれば、この図2に示すような反応系を用いることにより、従来のメタノール直接合成の収率(5%)を大幅に上回る、20%のメタノール収率をも達成することができる。また、ホルムアルデヒドとの合計収率は32%に達することができる。
【0044】
例えば、この図4に示すような反応系を用いることにより、流通式反応器のワン・パス収率が、メタノール収率20%、ホルムアルデヒド10%、ギ酸10%が得られている。
【0045】
この場合、メタノール収率(又は液体成分の総合収率)は、CH:O2=2:1の場合に最高となる傾向がある。酸素過多ではCOとHOが生成され易く(完全燃料)、酸素不足ではメタン転換率が低すぎる傾向がある。原料はメタン・酸素のみの混合ガスの場合、混合比は少なくとも0.2<O/CH<2.0の範囲で可変であった。このように高エネルギー電子によってラジカルを供給する一方で、酸素リッチの可燃性ガスを爆発させることなく処理するためには、リアクタのスケールをメタン/酸素火炎のクウェンチング距離より小さく(<2000μm)すればよいことが判明している。
【0046】
また、本発明者の実験によれば、少なくとも3気圧までの加圧プロセスも同様に実施できることが実証されている。すなわち、当該反応器では、(耐圧関係から3気圧までのデータであるが)、メタノール合成を考えれば、30気圧まで加圧することで、(1)平衡論的にメタノールが合成されやすくなる;(2)分子間衝突頻度が高くなり、より一層クウェンチング効果を高めることができる;(3)沸点が上昇し液体成分が凝縮しやすくなる;などの利点があり、さらなる大幅なメタノール収率の向上が可能となる。
(スケールアップの態様)
図5の模式斜視図に示すように、例えば、(工業用オゾナイザで最も実績のあるスケールアップ手法と同様に)マイクロプラズマリアクタを並列に接続してなるマルチチューブ・リアクタとすることにより、圧力容器内に設置することでスケールアップを図ることができる。この図5の態様によれば、室温または室温より低温で運転が容易であり、且つ、大気圧〜30気圧まで運転条件の拡張が容易である。また、加圧によって液体成分の凝縮を促進できるという利点もある。
(高収率化の態様−1)
図6の模式斜視図に示すように、例えば、いわゆるタンデム型のリアクタ構成とすることにより、リアクタ途中から消費された酸素を供給して最適な酸素濃度を維持して、メタノール収率を更に向上させることが可能である。この図4の態様においては、メタノール収率を左右する重要なパラメータである酸素濃度を最適化するために、消費酸素の一部をリアクタ途中から供給することによって最適酸素濃度(例えばCH:O=2:1)を維持している。
(高収率化の態様−2)
図7の模式斜視図に示すように、例えば、電極金属を触媒金属とすることで、メタノール合成反応を選択的に引起すことも可能である。このような態様においては、電極材質を変えるだけで触媒を併用でき、且つこの触媒反応に適した温度、圧力条件を適用できるという利点がある。
【0047】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。
【0048】
【実施例】
実施例1
図4に示す構成のマイクロプラズマ・リアクタ11を用いた。より具体的なサイズ等は、図8に示す通りであった。
<図8の構成>
ガラス管12の内径 1.0mm〜2.0mm
ガラス管12の外径 1.5mm〜3.0mm
ガラス管12の長さ 約60.0mm
ステンレス(SUS)ワイヤ13の外径 0.2mm
ステンレス(SUS)ワイヤ13の長さ 約100mm(直線とした長さで)
銅ブロックの厚さ:図10に示す通り
熱電対15の位置:図10に示す通り
観察位置16a〜16cの位置:図10に示す通り
観察位置16a〜16cにおける観察手段:高感度CCDカメラ及び分光器と集光レンズセット。
<反応条件>
ガラス管12内の温度:−5℃〜200℃
ガラス管12内の圧力:1気圧から3気圧
ガス流量:O/CH=0.2〜2.0の混合ガス、20cc/min
印加電圧:sine型、75kHz、1000V、0.002アンペア(平均値)なお、この図10に示す装置においては、銅ブロックに内臓された電気ヒーターにより250℃まで昇温でき、銅ブロックに外付けされたペルチエ素子により−5℃まで冷却できる構成であった。また、この実験においては、100℃以下の低温が好ましかった。他方、0℃以下では水分が凍結して管が閉塞する傾向がった(〜30気圧までの加圧によりクウェンチング効果を高めることが可能と考えられた)。
<生成物の分析>
上記の条件で、ガラス管12のガス供給側へ供給する原料ガスはGCで分析した。反対側から出る生成物は、コールドとラップにより液体成分を捕集し、常温常圧で液体成分となるものはGC−MSで、ガス成分はGCで分析した。
<GCおよびGC−MSの分析条件>
下記表1および表2に示す通りであった。
【0049】
【表1】
Figure 2004285187
【0050】
【表2】
Figure 2004285187
【0051】
上記により、以下の表3に示す結果が得られた。
【0052】
【表3】
Figure 2004285187
【0053】
この部分酸化反応の結果を見れば、本発明の方法により、極端な酸素不足(1−1、2−1)や酸素過多(2−2)を除けば、一段でメタノール収率10%(すなわち、従来法では超えることが困難であった収率)を超られることが理解できよう。すなわち、この例では、一段でメタノール収率17.7%、ホルムアルデヒドとの合計収率20%が得られた。
実施例2
(メタン比率の変更、等)
反応条件を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にしてメタンの部分酸化反応を行った。
<変更した反応条件>
/CH比を0.2から1.0まで変化させた。
【0054】
上記により得られた結果を図11に示す。これらの図において、
収率=(メタン転換率)×(生成物の選択率)と定義する。
【0055】
上記に示すように、酸素濃度が低すぎる場合には、メタン転換率が高くならないため、結果としてメタノール収率は低くなる傾向がある。一方、酸素が多過ぎると、メタノールはほぼ完全に消滅してしまう傾向がある(ただし、COが多量に精製されるというメリットはある)。このことから、最適酸素濃度はO/CH=0.5であることが分かる。
実施例3
(滞留時間の影響)
反応条件を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にしてメタンの部分酸化反応を行った。
<変更した反応条件>
滞留時間を0.1秒から0.6秒まで変化させた。O/CH比は0.5で一定とした。
【0056】
上記により得られた結果を図12に示す。
【0057】
上記に示したように滞留時間が短過ぎると充分な量のメタンが反応することができず、未反応のままリアクタから排出される傾向がある。一方、滞留時間が長すぎると、原料である酸素が消費され尽くされ、一旦生成されたメタノールが再びCOまで酸化される傾向がある。滞留時間の問題は酸素消費時間の問題でもあり、当該リアクタでは、酸素比0.5、滞留時間0.3秒が最も適している事がわかる。
【0058】
また、この実施例3で用いた種々のマイクロプラズマ・リアクタの電気的特性を図3のグラフに示す。
【0059】
プラズマの換算電界強度、電子数密度ともに従来のバリア放電と比較して大幅に低下している。すなわち、極細管の内部では電気的、化学的に極めて抑制された状態にあるため、プラズマ中の電子がエネルギーを得難い状態にあり、クウェンチ効果が顕著に現れていることが理解できる。換言すれば、部分酸化反応自体も抑制された状態にあり、プラズマの電気特性から客観的に反応特性をも特徴付けることに成功している。従来技術(図中の曲線Aで表される特性)との差別化をはかる上で重要な特性曲線を与えており、このような電気特性を有するものは、全てマイクロプラズマ・リアクタの範疇に入る。
実施例4
(反応温度の影響)
反応条件を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にしてメタンの部分酸化反応を行った。
<変更した反応条件>
反応温度を5℃から120℃まで変化させた。滞留時間は0.3秒、O/CH比は0.5で一定とした。
【0060】
上記により得られた結果を図13に示す。
【0061】
メタンの転換率はほぼ一定であるが、メタノール収率は温度が高いほど低くなる。よって100℃より低い方が好ましいが、更に常温より低温度の5℃の場合に最も収率が高くなった。
【0062】
【発明の効果】
上述したように本発明によれば、爆発的に進行する酸化反応を効果的に抑制しつつ、エネルギー効率が高い炭化水素の部分酸化方法が提供される。本発明の方法によれば、エネルギー効率良く、メタン等の炭化水素を直接に液化することが可能となる。
【0063】
本発明のプロセスは、液体燃料のみならず、水素製造を目的とした合成ガス製造へも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の部分酸化方法に好適に使用可能な反応系の一例を示す概念図である。
【図2】「パッシェンの法則」を説明するためのグラフである。
【図3】「パッシェンの法則」を説明するためのグラフである。
【図4】本発明の部分酸化方法に好適に使用可能な反応系の一例を示す模式断面図である。
【図5】本発明の部分酸化方法に好適に使用可能な反応系の他の例を示す模式断面図である。
【図6】本発明の部分酸化方法に好適に使用可能な反応系の他の例を示す模式断面図である。
【図7】本発明の部分酸化方法に好適に使用可能な反応系の他の例を示す模式断面図である。
【図8】実施例で用いた反応系の一例を示す模式断面図である。
【図9】実施例で用いた反応系の電気的特性を示すグラフである。このグラフは、従来のコーアキシャル型のDBDリアクタと、マイクロ−プラズマリアクタとの電気特性(E/N対Ne)を比較したものである。
【図10】実施例で用いた反応系の一例(詳細な構成)を示す模式断面図である。
【図11】実施例2で得られた結果(酸素濃度の影響)を示すグラフである。
【図12】実施例3で得られた結果(滞留時間の影響)を示すグラフである。
【図13】実施例4で得られた結果(反応場温度の影響)を示すグラフである。

Claims (8)

  1. 酸素の存在下、炭化水素を常圧の非平衡プラズマで処理することにより、該炭化水素を部分酸化する方法。
  2. 前記非平衡プラズマが、マイクロプラズマである請求項1に記載の部分酸化方法。
  3. 前記非平衡プラズマで処理時の反応温度が100℃以下である請求項1または2に記載の部分酸化方法。
  4. 前記炭化水素が、メタンを主成分とするものである請求項1〜3のいずれかに記載の部分酸化方法。
  5. その内部に炭化水素を含むガスを流通可能とした、絶縁体からなるチューブと、
    該チューブの外側に配置された、プラズマ発生のための電力を供給可能とするための第1の電極と、
    該チューブの内側に配置された、プラズマ発生のための電力を供給可能とするための第2の電極とを少なくとも含むマイクロリアクタ装置であって;
    該チューブの内径が、前記炭化水素を含むガスの消炎距離以下であるマイクロリアクタ装置。
  6. 前記チューブの内径が2mm以下である請求項5に記載のマイクロリアクタ装置。
  7. 前記チューブの内径が1mm以下である請求項6に記載のマイクロリアクタ装置。
  8. 前記チューブが、ガスの流通方向に沿って並列に複数配置されている請求項5〜7のいずれかに記載のマイクロリアクタ装置。
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