JP2004279619A - 調光素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】雰囲気中の水素ガス圧力を調節する必要がない調光素子を提供する。
【解決手段】第1層M1および第2層M2を含む積層構造を備え、外部刺激に応答して第1層M2の光反射率が変化する調光素子である。第1層M1は、水素の濃度に応じて光学的特性が変化する第1材料を含んでいる。第2層M2は、水素を含有し得る第2材料を含み、第2材料は電荷の授受に応じて水素を放出または吸収する。
【選択図】 図2
【解決手段】第1層M1および第2層M2を含む積層構造を備え、外部刺激に応答して第1層M2の光反射率が変化する調光素子である。第1層M1は、水素の濃度に応じて光学的特性が変化する第1材料を含んでいる。第2層M2は、水素を含有し得る第2材料を含み、第2材料は電荷の授受に応じて水素を放出または吸収する。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光の反射率や透過率を制御できる調光素子に関している。
【0002】
【従来の技術】
イットリウム(Y)やランタン(La)などの金属薄膜が水素と結合することにより、可視光を透過し得る水素化物に変化する現象が報告されている(特許文献1、非特許文献1)。この現象は可逆的であるため、雰囲気中の水素圧力を調節することにより、薄膜を金属光沢状態と透明状態との間で変化させることが可能である。
【0003】
上記薄膜の光学特性を変化させ、金属光沢を示す状態と透明な状態とを切り替えることができれば、光の反射率/透過率を自由に調節できる調光ミラーを実現することができる。調光ミラーを例えば建物や自動車の窓ガラスとして使用すれば、太陽光を必要に応じて遮断(反射)し、または透過させることができる。
【0004】
このような調光ミラーは、例えば、イットリウム薄膜の上にパラジウム層を形成した構造を有している。パラジウムは、イットリウム薄膜の表面酸化を防止する機能と、雰囲気中の水素分子を効率的に水素原子に変化させ、イットリウムに供給する機能とを有している。イットリウムが水素原子と化学的に結合すると、YH2またはYH3が形成される。YH2は金属であるが、YH3は半導体であり、その禁制帯幅が可視光のエネルギよりも大きいため、透明である。
【0005】
また、室温においてもYH2⇔YH3の状態変化が迅速(数秒程度)で生じるため、雰囲気中の水素含有量に応じて反射(金属光沢)状態と透明状態との間でスイッチングを行うことが可能である。
【0006】
このように金属光沢⇔透明の遷移が可能な他の材料として、例えば、Mg2Ni薄膜が非特許文献2に開示されている。
【0007】
【特許文献1】
米国特許第5635729号明細書
【非特許文献1】
Huibert、他6名、ネイチャー(Nature)、(英国)、1996年3月、第380巻、p.231−234
【非特許文献2】
応用物理学会講演会2001春31−a−ZS−14
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記の従来技術によれば、薄膜の光学的状態を変化させるには、薄膜を水素雰囲気へ暴露することが必要である。具体的には、薄膜と接する雰囲気ガス中の水素量(水素分圧)を制御することが必要になる。このため、上記従来の構成を用いて調光素子を実用化することは難しい。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、雰囲気ガス中の水素量(水素分圧)の制御によらず、薄膜の状態を金属反射状態と透過状態との間で遷移させることが可能な調光素子を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の調光素子は、第1層および第2層を含む積層構造を備え、外部刺激に応答して前記第1層の光反射率が変化する調光素子であって、前記第1層は、特定元素の濃度に応じて光学的特性が変化する第1材料を含んでおり、前記第2層は、前記特定元素を含有し得る第2材料を含み、前記第2材料は前記外部刺激に応じて前記特定元素を放出または吸収する。
【0011】
好ましい実施形態において、前記元素は水素であり、前記第1材料は、水素濃度に応じて光反射状態と光透過状態との間を遷移し得る。
【0012】
好ましい実施形態において、前記第2層は、水素貯蔵材料を含んでいる。
【0013】
好ましい実施形態において、前記第1層および前記第2層の各々の水素平衡圧−組成等温線(PTC特性曲線)がほぼ平坦である領域において動作する。
【0014】
好ましい実施形態において、前記PTC特性曲線がほぼ平坦である領域で、前記第1層および前記第2層の水素平衡圧力がほぼ同等である。
【0015】
好ましい実施形態において、前記第2層におけるPTC特性曲線がほぼ平坦である領域の水素貯蔵量の範囲は、前記第1層におけるPTC特性曲線がほぼ平坦である領域の水素貯蔵量の範囲を含んでいる。
【0016】
好ましい実施形態において、前記第2材料は、電子の授受により、前記特定元素の放出または吸収を行う。
【0017】
好ましい実施形態において、前記第2材料は、光の照射により、前記特定元素の放出または吸収を行う。
【0018】
好ましい実施形態において、前記第2層は、光触媒性を有する材料を含んでいる。
【0019】
好ましい実施形態において、前記特定元素のイオンを前記第2材料から前記第1材料へ、または前記第1材料から前記第2材料へ移動させるための電界を形成する1対の導電層を備えている。
【0020】
好ましい実施形態において、前記第1および第2層は、前記一対の導電層の間に位置している。
【0021】
好ましい実施形態において、前記第1層は導電性を有しており、前記一対の導電層の一方として機能する。
【0022】
好ましい実施形態において、前記第2層は導電性を有しており、前記一対の導電層の一方として機能する。
【0023】
好ましい実施形態において、前記第2層は、光透過性を要している。
【0024】
好ましい実施形態において、前記第1層の上面または下面の少なくとも一方は凹凸を有しており、前記第1層は、光を拡散反射する状態と光を透過する状態との間を遷移し、前記第1層を透過した光を吸収する光吸収層を更に備えている。
【0025】
好ましい実施形態において、前記第2層は、可視光吸収性を要している。
【0026】
好ましい実施形態において、前記第1層の上面または下面の少なくとも一方は凹凸を有しており、前記第1層は、光を拡散反射する状態と光を透過する状態との間を遷移し、前記第2層は、前記第1層の光入射面とは反対側に配置されている。
【0027】
好ましい実施形態において、前記第1層および第2層の少なくとも一方が多層構造を有している。
【0028】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の調光素子の基本的な構成を説明する。本発明の調光素子は、図1に示すように、調光層M1および変換層M2を含む積層構造を備え、調光層M1の光反射率が外部刺激に応答して変化する。
【0029】
調光層M1は、特定元素の濃度に応じて光学的特性が変化する調光材料を含んでいる。調光材料の好ましい例は、前述したY、La、Mg2Ni合金であり、Y、La、Mg2Ni合金などの材料は、水素濃度に応じて金属−半導体(または絶縁体)状態間の遷移を行う。
【0030】
変換層M2は、水素などの特定元素を含有し得る材料(本明細書では「変換材料」と称する。)を含んでいる。変換材料は、電荷(電子や正孔)の注入/放出または光照射などの外部刺激に応じて、上記の特定元素(例えば水素)を放出または吸収する。
【0031】
以下、電荷の注入/放出により、水素イオンが変換層M2から調光層M1へ、あるいは調光層M1から変換層M2へ移動するメカニズムを説明する。このメカニズムの特徴点は、調光層M1の光学的特性を変化させる特定元素(水素)のイオンを、電気化学的な反応によってよってではなく、電荷の移動を媒介として移動させる点にある。
【0032】
まず、図1を参照する。図1に示されている調光層M1および変換層M2は、いずれも、水素を吸収/放出する能力を有するとともに、電荷(電子または正孔)およびイオンを移動させることができる電気伝導性を有している。
【0033】
次に、図2(a)を参照する。図2(a)は、図1の構造に含まれる調光層M1および変換層M2の初期状態を示している。この初期状態では、水素を実質的に貯蔵していない調光層M1と、あらかじめ水素を貯蔵した変換層M2との間で平衡状態が形成されている。調光層M1には充分な濃度の水素が存在していないため、調光層M1は金属状態にあり、金属光沢を示している。
【0034】
次に、図2(b)に示すように、調光層M1の側に負電位を与えるとともに、変換層M2の側に正電位を与える。このとき、調光層M1には負の電極(不図示)から電子が注入され、調光層M1は電子リッチな状態となる。一方、変換層M2には正孔が注入される(電子が引き抜かれる)。変換層M2に注入された正孔は、変換層M2の内部を調光層M1に向かって移動してゆく。このような正孔の移動過程で、更に継続して変換層M2に正孔が注入されると、変換層M2は正孔リッチな状態となる。このため、変換層M2では、水素イオンを放出しやすい状態となる一方、調光層M1では、変換層M2から水素イオンを受け取り、保持する量が増える。
【0035】
このため、調光層M1と変換層M2との間で成立していた水素の平衡状態が崩れ、調光層M1が水素をより多く保持しやすい状態となり、変換層M2から放出された水素イオンが調光層M1に移動することになる。こうして、図2(c)に示すように、新しい平衡状態が形成される。この状態では、調光層M1に移動した水素と調光材料とが結合して、調光層M1が透明になる。
【0036】
以上の反応を記述すると、M1+M2(H)→M1(H)+M2となる。ここで、M1(H)およびM2(H)は、それぞれ、調光層M1に水素が保持されている状態、および変換層M2に水素が保持されている状態を示している。
【0037】
以上の説明から明らかなように、調光層M1と変換層M2との間では水素イオンの受け渡しが行なわれるだけで、他のイオンの関与する反応は生じていない。また、図2(c)の状態で印加電圧の極性を反転すると、逆方向に反応が進行するため、図2(a)に示す元の平衡状態に復帰する。
【0038】
このように本発明によれば、電荷(電子や正孔)の移動によって水素の平衡状態を変化させることにより、水素を駆動することができるため、水素イオン以外の他のイオンを反応に関与させる必要がない。このため、複数種のイオンが関与する電気化学的な反応に比べて応答速度が高くなる。また、電気化学的な反応が生じないため、正極側で水素ガスが発生する可能性も低く、電子素子としての安定した動作が可能になる。
【0039】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0040】
(実施形態1)
まず、図3を参照しながら、本発明による調光素子の第1の実施形態を説明する。
【0041】
本実施形態の調光素子は、調光層1および変換層2を含む積層構造を備え、調光層1の光反射率(光学的特性)が電気的刺激に応答して変化する。この調光素子は、調光層1および変換層2を挟みこむ一対の電極3a、3bと、積層構造を支持する基板4とを備えている。一対の電極3a、3bには、外部から適切な電圧が印加され得るが、適宜、電極3aと電極3bとを単純に短絡させることも可能である。
【0042】
なお、基板4に対する変換層2および調光層1の積層順序は、図示されているものに限定されず、基板4に近い側に変換層2を配置し、その上に調光層1を形成してもよい。
【0043】
本実施形態における調光層1は、水素濃度に応じて光学的特性が変化する調光材料(例えばイットリウム)を含んでいる。調光層1の全体または一部が1層または多層の調光材料から形成されてもよいし、あるいは、他の材料からなる膜中に調光材料の粒子が分散または連結した状態で存在していても良い。
【0044】
変換層2は、水素を含有し得る変換材料を含んでいる。この変換材料は電極3aとの間で電子の授受を行うことにより、水素のイオン(H+)を放出/吸収を行うことができる。
【0045】
図示する例では、電極3aに正の電位を与え、電極3bに負の電位を与えると、あらかじめ充分な量の水素を含有している変換層2の調光材料から水素イオンが放出される。放出された水素イオンは、積層構造中に形成された電界中を移動し、調光層1に達した後、調光材料にドープされる。このような水素の放出および移動のメカニズムは、前述したとおりである。調光層1における調光材料は、水素と結合することにより、水素金属化合物を形成する。この結果、当初は金属状態にあった調光材料は、可視光を透過する半導体または絶縁体に変化する。
【0046】
調光層1は、蒸着法、スパッタ法などによって作製され得る。金属光沢を示すミラーとして調光層1を機能させる場合には、できる限り平坦性に優れた膜から調光層1を形成することが好ましい。
【0047】
変換層2に含まれる変換材料は、定常状態で水素の原子またはイオンを貯蔵し保持することができ、外部刺激に応じて、水素貯蔵量(保持量)を変化させる。このような水素を貯蔵できる材料としては、LaNi5、MnNi5、CaNi5・TiMn1.5、ZrMn1.5、ZrMn2、TiNi、TiFe、Mg2Niなどの合金を用いることができる。また、カーボンナノチューブ(CNT)を用いることもできる。
【0048】
変換層2は、水素貯蔵材料のほかに電気導電性材料を含んでいてもよい。電気導電性材料が変換層2に含まれていると、調光層1との間で水素イオンのやりとりを迅速に行うことができる。電気伝導性材料としては、液体または固体電解質のようにイオン伝導を行うことが出来る材料、電荷(電子または正孔)を伝導させる導電性高分子や電荷移動錯体を用いることができる。また、変換層2には、上記の水素貯蔵材料や電気伝導性材料以外とは別に必要に応じてバインダ樹脂などの結合材料を加えても良い。なお、一方の電極から注入された電荷がそのまま他方の電極に移動してしまうことを確実に抑制するため、調光層と変換層との間にセパレータ層を挿入してもよい。セパレータ層の材料としては、イオンの移動が可能でありながら電荷の移動は生じにくい材料を選択することが望ましい。例えば、イオン交換体、多孔質絶縁物、イオン導電性高分子材料などを用いることができる。このような材料からなるセパレート層を配置するればよれば、電極から注入された電荷が反対の電極に突き抜けることが確実に防止されるため、調光層と変換層との間における電荷の移動効率を高めることができる。
【0049】
変換層2が複数の材料の混合物から形成される場合、これらの材料を溶媒に溶解させた溶液を用意し、スピンコート法や印刷法によって塗布すれば、変換層2を用意に形成することができる。このような変換層2の形成は、インクジェット法やその他の薄膜堆積技術用いて行っても良い。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、電極3a、3bに電圧を印加することにより、変換層2の内部で電荷およびイオンの授受が行われる結果、前述したメカニズムにより、変換層2と調光層1との間で水素の移動を引き起こすことができる。このため、例えば、初期状態で水素がドープされていない調光層1と、あらかじめ水素を貯蔵した変換層2とを用い、図1に示すような電圧を印加すると、水素イオンが正極側から負極側に移動して、調光層1にドープされる。すなわち、正極側では水素放出反応が進行し、負極側では水素と金属との結合反応が進行して、水素金属化合物が形成される。これに対して、逆方向の電圧を印加すると、逆方向に水素の移動が生じるため、印加電圧の極性を交替することにより、調光層1の光学的状態を金属光沢−透明の間で可逆的に切り替えることができる。
【0051】
変換層2に貯蔵された水素の移動だけを考えると、電極3aと電極3bと積層構造の外部で短絡させてもよい。このような短絡は、二次電池における放電と同様の現象であり、積層構造の内部状態を初期状態に復帰させることができる。
【0052】
変換層2と調光層1が水素を保持する能力を持つため、電圧の印加を行わないとき(外部の回路を開放しているとき)、水素の移動が生じず、調光層1の光学的状態が保持される(調光層のメモリ機能)。このため、水素保持能力に優れた材料を選択すれば、電力を消費することなく調光状態を長期間保持することができる。
【0053】
上記の例とは逆に、あらかじめ水素をドープした調光層1と、水素を彫像していない状態の変換層2とを用いてもよい。その場合は、調光層1に正電位を、変換層2に負電位を与えることにより、調光層1から変換層2に水素を移動させ、それによって調光層1における調光材料の光学的状態を変化させても良い。
【0054】
本実施形態では、水素のドーピング量によって調光材料の光反射率/光透過率を制御することができるため、電極に印加する電圧や印加時間(デューティ比など)を調節することにより、調光層1の光反射率/光透過率を制御することができる。水素保持能力に基づくメモリー性を利用すれば、適切な光反射率/光透過率を保持することも容易である。
【0055】
このような水素の貯蔵/放出を適切に制御する際には、水素平衡圧−組成等温線(以下、「PTC特性曲線」と称する。)に注目する必要がある。PTC特性曲線は、図4に示すように、水素の貯蔵量と水素平衡圧力との関係を示す。図4のグラフでは、横軸が水素貯蔵量を示し、縦軸が水素平行圧力を示している。
【0056】
PTC特性曲線が横軸に対して概平行な部分(以下、「プラトー領域」と称する。)では、一定の平衡圧力内のもとで水素の貯蔵量が変化しえるため、水素平衡圧力を一定にした状態で水素の吸収/放出を可逆的に行うことができる。このため、本実施形態の調光素子は、PTC特性曲線のプラトー領域でスイッチング動作を行う。
【0057】
変換層2および調光層1は略同様のPTC特性を示すことが望ましい。より具体的には、図4に示すように、変換層2および調光層1のPTC特性曲線におけるプラトー領域の「水素貯蔵量」の範囲が重なり合い、かつ、「水素平衡圧力」のレベルがほぼ等しいことが望ましい。同等の水素平衡圧力を示すことによって、調光層1および変換層2の間で水素の授受をスムーズに行うことができる。調光層1および変換層2の間で、水素平衡圧力差が大きくなると、それぞれの層で水素の吸放出が生じても、2つの層の間で水素のやりとりを行うことができなくなってしまうからである。
【0058】
また、変換層2におけるPTC特性曲線のプラトー領域の水素貯蔵量範囲(幅)は、調光層1におけるPTC特性曲線のプラトー領域の水素貯蔵量範囲(幅)を含む大きさを有していることが更に好ましい。本実施形態の調光素子では、調光層1の水素ドーピング量によって調光層1の光透過率を制御するため、変換層2における水素貯蔵量の変化の幅が調光層1の状態変化に必要な水素ドーピング量の変化の幅よりも少ないと、調光層1の光学的状態を充分に変化させることができなくなるからである。
【0059】
再び、図3を参照する。図3に示す調光素子は、変換層2が透明である場合、金属反射状態と透明状態との間でスイッチングを行うことができる。透明度の高い状態を形成するには、基板4および電極3a、3bだけではなく、変換層2を可視光域の全範囲で透過率の高い(吸収の無い)材料から形成する必要がある。しかし、水素貯蔵材料などの変換材料は、金属または着色した材料である場合が多く、このような変換材料の層から透明性の高い変換層2を形成することは難しい。このため、変換材料の微粒子を透明な材料と混合することによって変換層2を形成することが好ましい。具体的には、光の波長以下の粒径を持つナノ粒子を変換材料から形成し、このナノ粒子を透明性に優れたバインダ樹脂で結合することができる。このようにして作製される変換層2は、透明性および水素貯蔵能力の両方を発揮することができるだけではなく、変換材料がナノ粒子化することにより、その表面積が増加するため、水素の吸放出効率も上昇することも期待される。変換材料による水素の吸放出効率が上昇すると、調光動作の応答速度が向上するので好ましい。超微粒子状態の変換材料としては、カーボン系材料(CNT、フラーレンなど)やカリウム−黒鉛層間化合物などを用いることもできる。
【0060】
このような調光素子は、基板4としてガラス板を用いると、調光ガラスとして機能する。調光ガラスは、建物や自動車の窓ガラスなどに使用され、夏場や昼間のように外光が強いときに光反射量を上昇させることにより、強い外光の入射を抑制し、快適な空間とすることが出来る。また、透明なガラスと鏡を兼用したインテリアとして用いることも出来る。
【0061】
(実施形態2)
以下、図5(a)および(b)を参照しながら、本発明による調光素子の第2の実施形態を説明する。本実施形態では、金属反射状態と透明状態との間のスイッチングではなく、金属反射状態と吸収(黒)状態との間でのスイッチングを行うことができる。
【0062】
図5(a)および図5(b)は、変換層2と調光層1の積層順序が相互に反転した構成を有する調光素子を示している。図5(a)の構成では、基板4の背面側から光が入射され、図5(b)の構成では、基板4の上面側から光が入射される。いずれの調光素子も、可視光を吸収する変換層2を備えている。このような変換層2は、例えば、黒色のCNTから形成することができる。なお、変換層2が着色している場合、あるいは、変換層2が透明であっても、その中に顔料や着色樹脂が混入されている場合は、金属反射状態と着色状態との間でのスイッチングが可能になる。
【0063】
図5(a)に示す調光素子においては、基板4および下層の電極3bを透明な材料から形成することが好ましい。基板4は、透明であれば、ガラスやプラスチックなどの材料から形成され得る。下層の電極3bは、ITOなどの透明導電性材料から形成されることが好ましく、この場合の好ましい電極厚さは、例えば150nmに設定される。
【0064】
調光層1は、例えば、厚さは50nm程度のイットリウム膜から構成される。変換層2は、例えば、AB5型Mm水素貯蔵合金であるNi合金の超微粒子(分散中心半径10nm)と、導電性高分子材料P1(電子、正孔両電荷を輸送できる材料)、及びバインダ樹脂としてアクリル系樹脂で屈折率がガラスとほぼ同等のものをブレンドしたものを用いることができる。
【0065】
ブレンド樹脂は、溶液化できるのでスピンコートによって膜を形成することができる。厚さは500nm程度にすることができる。変換層2に用いる水素貯蔵合金については、あらかじめ水素を貯蔵させたものを用いることができる。調光材料としては、イットリウム以外に、La、MgNiなどが用いることができる。
【0066】
調光層1と変換層2との間における電荷やイオンのやりとりを行うため、調光層1と変換層2との間に導電性高分子P1の膜を配置することが好ましい。電荷移動性をもつ高分子膜に加えて、電解質材料を用いて形成された層を配置してもよい。また、電荷移動性をもつ高分子材料と電界質材料とを含む層を配置しても良い。このような膜を配置すると、水素イオンの移動が電解質を介して起こりやすいので、特性を向上させることも可能である。
【0067】
光吸収性を有する変換層2は、水素貯蔵材料として機能するカリウム−黒鉛層間化合物および導電性高分子材料P1(電子、正孔両電荷を輸送できる材料)、を、バインダ樹脂として機能するアクリル系樹脂と混合したもの(ブレンド樹脂)から形成することもできる。ブレンド樹脂は溶液化できため、変換層2は、スピンコートによって形成され得る。変換層2の厚さは、例えば500nm程度に設定され得る。
【0068】
図5(a)に示す調光素子に対して、変換層2が正極側、調光層1が負極側になるように電極3a、3bに電圧を印加すると、初期状態で金属反射を示していた調光素子の光入射面側が徐々に黒状態に変化してゆく。これは、調光層1が透明になるに連れて、黒色の変換層2が視認されるようになるためである。電源を切ってもこの状態は保持される。また、電極3aと電極3bとの間をショートさせ、あるいは電極3a、3bに対して極性を反転させた電圧を印加すると、調光素子の光入射側面が金属光沢を示すように変化する。
【0069】
なお、図5(b)に示す構成の調光素子では、図面の上方から光が入射する。この場合、調光層1の上層に位置する電極3aを透明にする必要があるが、基板4や下側の電極3を透明にするは必要ない。
【0070】
(実施形態3)
次に、図6を参照しながら、本発明による調光素子の第3の実施形態を説明する。
【0071】
本実施形態の調光素子は、可視光に対して透明な変換層2を備えているが、光吸収層として機能する部材(光吸収板)5を更に備えているため、金属反射状態と黒(光吸収)状態との間でのスイッチングが可能である。光吸収板5は、可視光域の全域で光を吸収するもの(黒)であってもよいし、可視光域の全体一部の光を吸収するもの(他の色)であってもよい。
【0072】
光吸収体5は、調光層1に対して、光入射側とは反対の側に配置される。本実施形態では、図6に示すように、調光層1の上に透明な変換層2が配置されているが、変換層2と調光層1との上下関係は逆転されても良い。
【0073】
光吸収板5を基板の背面に配置する代わりに、光吸収性を有する層を基板4の光入射側面、または、積層構造の内部に配置しても良い。このような光吸収層が導電性を有しない場合は、調光層1と電極3bとの間に配置することができないので、基板4と電極3bとの間に配置すればよい。一方、光吸収層が導電性を有する場合、電極3bと一体的に、または電極3bの代わりに光吸収層を用いることも可能である。
【0074】
なお、壁材の色や模様と等しい色や模様を示す光吸収層を用いることにより、通常は壁の一部として機能し、必要に応じて鏡としての機能を発揮し得る調光ミラーを実現することも可能になる。
【0075】
(実施形態4)
次に、図7および図8を参照しながら、本発明による調光素子の第4の実施形態を説明する。本実施形態の調光素子は、金属拡散反射(白)状態と光吸収状態の間でスイッチングを行うことが可能である。
【0076】
本実施形態の調光素子は、図8に示すように、凹凸を有する基板4上に、電極3a、変換層2、調光層1、および電極3bが、この順序で積層された構造を有している。拡散反射を行うため、調光層1の表面に微細な凸部および/または凹部が存在している。
【0077】
次に、図7を参照しながら、図8の調光素子の動作を説明する。
【0078】
図7では、簡単化のため、電極3a、3bの記載は省略している。調光層1の表面に微細な凸部が存在しているため、図7(a)に示すように調光層1が金属反射状態にあるとき、光を拡散反射することができる。一方、図7(b)に示すように調光層1が透明状態にあるときは、下層に位置する変換層2が光を吸収する。
【0079】
図7に示す例では、基板の表面が微細な凸部を有しているため、変換層2および調光層1の全体の平坦性が基板の凹凸を反映した形状を有している。言い換えると、調光層1の上面(光反射側の面)だけではなく、底面も下地の凹凸を反映した形状を有している。しかし、下地である変換層2は凹凸構造を有している必要性は無いため、基板表面および変換層2は平坦に形成した上で、調光層1の上面のみに微細な凹部および/また凸部を形成するようにしてもよい。
【0080】
このように、本実施形態の調光素子によれば、調光層1が金属反射状態にあるとき、反射光は散乱して白色として認識されるため、調光層1の表面は白色に見える。一方、調光層1が透明な状態にあるときには、変換層2によって光が吸収されるため、黒または他の色に見える。
【0081】
本実施形態の調光素子は、表面に凹凸を形成した基板4を用いていることを除けば、他の実施形態と同様の構成を有し得る。例えば、変換層2としては、水素貯蔵材料であるカリウム−黒鉛層間化合物、導電性高分子材料P1(電子、正孔両電荷を輸送できる材料)、及びバインダ樹脂としてアクリル系樹脂を、ブレンドしたものを好適に用いることができる。
【0082】
(実施形態5)
図9を参照しながら、本発明による調光素子の第5の実施形態を説明する。
【0083】
本実施形態の調光素子では、図9に示すように、調光層1それ自体が電極の一方を兼ねている。調光層1は、基本的に金属薄膜であるので電極として機能しえる。電極を調光層1が兼ねることにより、電極を形成する工程がひとつ簡略化されるため、調光素子の製造工程数を低減することができる。
【0084】
なお、図9の調光素子は、透明−金属反射型調光素子であるが、上述した他のタイプの調光素子であっても、調光層1で電極を兼ねることができる。
【0085】
(実施形態6)
図10を参照しながら、本発明による調光素子の第6の実施形態を説明する。
【0086】
本実施形態では、変換層と第1変換層2aと第2変換層2bの複数層に分離した構成を有している。本発明の調光素子では、水素などの特定元素を調光層1にドープすることによって調光層1の状態を変化させるため、2つの変換層2a、2bで調光層1を挟み込む構成を採用すれば、効率的なドーピングが可能となり、調光に必要な状態変化の速度が向上する。調光層1は、電極として機能し得るため、図10の例では、調光層1を電極として用いている。
【0087】
図10の例では、水素の吸放出を行う部分が第1変換層2a、調光層1、および第2変換層2bの3層構造を有しているが、更に多層化することも可能である。調光層1が単層であれば、調光の程度が不充分な場合でも、調光層1の層数を増加させることにより、調光の程度を充分に大きくすることが可能になる。
【0088】
(実施形態7)
図11を参照しながら、本発明による調光素子の第7の実施形態を説明する。
【0089】
本実施形態では、変換層2の機能分離を行うため、変換層2に多層構造を付与している。前述のように、変換層2の機能は水素を貯蔵し、また、電荷の注入/放出に応じて水素を放出/再貯蔵することである。これらの機能を1つの材料で実行するよりも、機能ごとに異なる材料を選択し、それぞれの材料からなる層を重ねるほうが容易である。すなわち、変換層を、電荷またはイオンのやりとりを行うための電荷輸送材料または電解質材料から形成した第1変換層2aと、水素貯蔵の機能を持つ材料から形成した第1変換層2aとに分離することにより、効率のよい水素移動を行うことができる。
【0090】
本実施形態では、導電性高分子材料P1(電子、正孔両電荷を輸送できる材料)と、屈折率がガラスとほぼ同等のアクリル系樹脂を混合して形成した電荷・イオン交換層を第1変換層2aとして用いている。また、AB5型Mm水素貯蔵合金であるNi合金の超微粒子(分散中心半径10nm)を屈折率がガラスとほぼ同等のアクリル系樹脂と混合したブレンド樹脂を用いて第2変換層2bとして機能させている。
【0091】
(実施形態8)
以下、図12を参照しながら、本発明による調光素子の第8の実施形態を説明する。
【0092】
本実施形態が前述の各実施形態と異なる点は、図12に示すように、電極構造を有してない点にある。本実施形態では、変換層2に光電荷発生特性を有する材料を添加している。光電荷発生特性を有する材料とは、ここでは光照射において電子あるいは正孔を放出する材料系のことである。具体的には、蛍光色素、SiO2微粒子、カルバゾールなどのような有機分子、またそれを高分子化した高分子材料などである。これらの材料はそれぞれが有する吸収波長に応じて、光照射によって正孔、または電子を放出する。これらの電荷によって水素貯蔵材料が有する水素を隔離させ変換層内を伝達して調光層の金属膜に運ばれ金属膜を水素化する。通常、可視光域で調光するので可視光領域に吸収を持つ材料を用いるのがいいが、紫外線や熱線(赤外線)の強度によって調光量を制御したい場合にはそのような領域に吸収を持つような材料系を使えばよい。
【0093】
この変換層に光電荷発生特性を有する調光素子は、特に電界などの外部から制御系を用いることなく調光出来ることが特徴である。光照射している間は電荷の放出が行われるので調光量を制御することが出来る。
【0094】
初期状態の制御については、水素を変換層の水素貯蔵材料に貯蔵させ、調光層をノンドープ状態にすれば金属反射状態が初期状態になるし、あらかじめ調光層に水素をドープしておけば、調光層は透明状態になるので変換層の色味によって決まる。
【0095】
また、光照射による調光量制御では、光量による蓄積によって調光量が変わるので、弱い光でも長時間照射が続くと調光量が変化していく場合がある。調光量を光照射の強さのみで制御したい場合には不都合が生じる。このような場合は、変換層と調光層の水素貯蔵能力、つまりは水素との反応スピードを調整する。平衡が調光層の方向に強い場合は光があたって水素が変換層に伝達され変換層が水素ドープしてもほとんどが再度調光層のほうへ引き戻されてしまう。更に、変換を示す照射量を調整すれば、変換層の透明状態(水素ドープ状態)は光照射がある程度の強さを保って当たっている場合調光層の透明状態を維持することができる。光照射が弱い場合や、光照射がなくなった場合には、平衡状態が変換層のほうに移るので、調光層は初期状態に戻る。光の照射で調光層の金属反射−透明状態を繰り返し使う場合にも、調光層、変換層の平衡状態の方向を制御するとよい。
【0096】
本実施形態では、調光層1の調光材料として、PTC特性曲線平坦領域の平衡圧力が変換層2の変換材料に比べて大きい材料を選択している。
【0097】
変換層2内には、追加的にRu錯体色素が添加している。この色素は可視光全体域の光を吸収し、光を吸収すると、電子を放出する特性を有している。また、変換層2は、あらかじめ水素を貯蔵させている。
【0098】
本実施形態の調光素子に対して、光を照射すると、光の照射量が充分なレベルに達したとき、金属反射の程度が低くなって調光素子が黒色を呈してくる。これは、光照射によって生成された電子が変換層2の水素貯蔵材料において還元反応を引き起こし、それによって生じた水素が調光層1における水素平衡圧力以上になるために起こる。調光層1に移動した水素は、そこで水素化化合物を形成し、調光層1を透明化する。このため、調光層1を介して変換層2の色(黒色)が視資されるためである。
【0099】
光照射を停止すると、電子の発生/供給が停止すため、調光層1の状態変化も停止する。水素平衡圧力の差が生じているため、平衡状態が変換層側に移り、調光層に移動した水素も変換層にほとんど再移動することができる。
【0100】
このように、本実施形態によれば、光照射によって自然に調光量を調整できる。上記の構成例では、光の照射強度が増加すると調光層1による反射量が少なくなるが、変換層に透明な材料を用いて、あらかじめ調光層のほうに水素ドーピングしておくことで、光強度に応じて、透過と反射を制御できる窓ガラスを提供できる。この場合、変換層内に入れる色素が着色するので完全な透明状態は難しいが色ガラスと反射の素子は容易に作成できる。
【0101】
外部からの光照射によって調光層の状態変化をスイッチングする代わりに、照射光の強さや照射量の積算値に応じて水素の平衡状態を制御し、調光することも可能である。光照射のみによって調光する場合は、使用者の要求に応じた調光が実現できない。また、調光素子の使用中に水素が完全に移動できずに、初期状態がシフトする問題も生じ得る。このような問題を回避するためには、電極を付加的に配置することが好ましい。付加的に設けた電極によって水素ドープ量を調整すれば、通常の光照射による調光とあわせて、調光量を自在に変化させることが可能になる。また、電極を用いた電圧印加により、水素の平衡状態に初期化することが可能になるため、再現性に優れた調光の制御が実現する。
【0102】
【発明の効果】
本発明の調光素子によれば、電気または光の刺激を外部から与えることによって調光を行うことができるために、雰囲気ガス中に含まれる水素などの特定元素の濃度や圧力を制御する必要が無い。このため、簡単な構成で調光ガラスなどの調光素子を安価に提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による調光素子の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】図1に示す調光素子の動作原理を示す図である。
【図3】本発明による調光素子の第1の実施形態を示す断面図である。
【図4】調光層および変化層の水素平衡圧−組成等温線(PTC特性曲線)を示すグラフである。
【図5】本発明による調光素子の第2の実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明による調光素子の第3の実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明による調光素子の第4の実施形態について、その動作を示す図である。
【図8】本発明による調光素子の第4の実施形態を示す断面図である。
【図9】本発明による調光素子の第5の実施形態を示す断面図である。
【図10】本発明による調光素子の第6の実施形態を示す断面図である。
【図11】本発明による調光素子の第7の実施形態を示す断面図である。
【図12】本発明による調光素子の第8の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
M1 調光層
M2 変換層
1 調光層
2 変換層
2a 第1変換層
2b 第2変換層
3 電極
3a 上層の電極
3b 下層の電極
4 基板
5 吸収板
【発明の属する技術分野】
本発明は、光の反射率や透過率を制御できる調光素子に関している。
【0002】
【従来の技術】
イットリウム(Y)やランタン(La)などの金属薄膜が水素と結合することにより、可視光を透過し得る水素化物に変化する現象が報告されている(特許文献1、非特許文献1)。この現象は可逆的であるため、雰囲気中の水素圧力を調節することにより、薄膜を金属光沢状態と透明状態との間で変化させることが可能である。
【0003】
上記薄膜の光学特性を変化させ、金属光沢を示す状態と透明な状態とを切り替えることができれば、光の反射率/透過率を自由に調節できる調光ミラーを実現することができる。調光ミラーを例えば建物や自動車の窓ガラスとして使用すれば、太陽光を必要に応じて遮断(反射)し、または透過させることができる。
【0004】
このような調光ミラーは、例えば、イットリウム薄膜の上にパラジウム層を形成した構造を有している。パラジウムは、イットリウム薄膜の表面酸化を防止する機能と、雰囲気中の水素分子を効率的に水素原子に変化させ、イットリウムに供給する機能とを有している。イットリウムが水素原子と化学的に結合すると、YH2またはYH3が形成される。YH2は金属であるが、YH3は半導体であり、その禁制帯幅が可視光のエネルギよりも大きいため、透明である。
【0005】
また、室温においてもYH2⇔YH3の状態変化が迅速(数秒程度)で生じるため、雰囲気中の水素含有量に応じて反射(金属光沢)状態と透明状態との間でスイッチングを行うことが可能である。
【0006】
このように金属光沢⇔透明の遷移が可能な他の材料として、例えば、Mg2Ni薄膜が非特許文献2に開示されている。
【0007】
【特許文献1】
米国特許第5635729号明細書
【非特許文献1】
Huibert、他6名、ネイチャー(Nature)、(英国)、1996年3月、第380巻、p.231−234
【非特許文献2】
応用物理学会講演会2001春31−a−ZS−14
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記の従来技術によれば、薄膜の光学的状態を変化させるには、薄膜を水素雰囲気へ暴露することが必要である。具体的には、薄膜と接する雰囲気ガス中の水素量(水素分圧)を制御することが必要になる。このため、上記従来の構成を用いて調光素子を実用化することは難しい。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、雰囲気ガス中の水素量(水素分圧)の制御によらず、薄膜の状態を金属反射状態と透過状態との間で遷移させることが可能な調光素子を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の調光素子は、第1層および第2層を含む積層構造を備え、外部刺激に応答して前記第1層の光反射率が変化する調光素子であって、前記第1層は、特定元素の濃度に応じて光学的特性が変化する第1材料を含んでおり、前記第2層は、前記特定元素を含有し得る第2材料を含み、前記第2材料は前記外部刺激に応じて前記特定元素を放出または吸収する。
【0011】
好ましい実施形態において、前記元素は水素であり、前記第1材料は、水素濃度に応じて光反射状態と光透過状態との間を遷移し得る。
【0012】
好ましい実施形態において、前記第2層は、水素貯蔵材料を含んでいる。
【0013】
好ましい実施形態において、前記第1層および前記第2層の各々の水素平衡圧−組成等温線(PTC特性曲線)がほぼ平坦である領域において動作する。
【0014】
好ましい実施形態において、前記PTC特性曲線がほぼ平坦である領域で、前記第1層および前記第2層の水素平衡圧力がほぼ同等である。
【0015】
好ましい実施形態において、前記第2層におけるPTC特性曲線がほぼ平坦である領域の水素貯蔵量の範囲は、前記第1層におけるPTC特性曲線がほぼ平坦である領域の水素貯蔵量の範囲を含んでいる。
【0016】
好ましい実施形態において、前記第2材料は、電子の授受により、前記特定元素の放出または吸収を行う。
【0017】
好ましい実施形態において、前記第2材料は、光の照射により、前記特定元素の放出または吸収を行う。
【0018】
好ましい実施形態において、前記第2層は、光触媒性を有する材料を含んでいる。
【0019】
好ましい実施形態において、前記特定元素のイオンを前記第2材料から前記第1材料へ、または前記第1材料から前記第2材料へ移動させるための電界を形成する1対の導電層を備えている。
【0020】
好ましい実施形態において、前記第1および第2層は、前記一対の導電層の間に位置している。
【0021】
好ましい実施形態において、前記第1層は導電性を有しており、前記一対の導電層の一方として機能する。
【0022】
好ましい実施形態において、前記第2層は導電性を有しており、前記一対の導電層の一方として機能する。
【0023】
好ましい実施形態において、前記第2層は、光透過性を要している。
【0024】
好ましい実施形態において、前記第1層の上面または下面の少なくとも一方は凹凸を有しており、前記第1層は、光を拡散反射する状態と光を透過する状態との間を遷移し、前記第1層を透過した光を吸収する光吸収層を更に備えている。
【0025】
好ましい実施形態において、前記第2層は、可視光吸収性を要している。
【0026】
好ましい実施形態において、前記第1層の上面または下面の少なくとも一方は凹凸を有しており、前記第1層は、光を拡散反射する状態と光を透過する状態との間を遷移し、前記第2層は、前記第1層の光入射面とは反対側に配置されている。
【0027】
好ましい実施形態において、前記第1層および第2層の少なくとも一方が多層構造を有している。
【0028】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の調光素子の基本的な構成を説明する。本発明の調光素子は、図1に示すように、調光層M1および変換層M2を含む積層構造を備え、調光層M1の光反射率が外部刺激に応答して変化する。
【0029】
調光層M1は、特定元素の濃度に応じて光学的特性が変化する調光材料を含んでいる。調光材料の好ましい例は、前述したY、La、Mg2Ni合金であり、Y、La、Mg2Ni合金などの材料は、水素濃度に応じて金属−半導体(または絶縁体)状態間の遷移を行う。
【0030】
変換層M2は、水素などの特定元素を含有し得る材料(本明細書では「変換材料」と称する。)を含んでいる。変換材料は、電荷(電子や正孔)の注入/放出または光照射などの外部刺激に応じて、上記の特定元素(例えば水素)を放出または吸収する。
【0031】
以下、電荷の注入/放出により、水素イオンが変換層M2から調光層M1へ、あるいは調光層M1から変換層M2へ移動するメカニズムを説明する。このメカニズムの特徴点は、調光層M1の光学的特性を変化させる特定元素(水素)のイオンを、電気化学的な反応によってよってではなく、電荷の移動を媒介として移動させる点にある。
【0032】
まず、図1を参照する。図1に示されている調光層M1および変換層M2は、いずれも、水素を吸収/放出する能力を有するとともに、電荷(電子または正孔)およびイオンを移動させることができる電気伝導性を有している。
【0033】
次に、図2(a)を参照する。図2(a)は、図1の構造に含まれる調光層M1および変換層M2の初期状態を示している。この初期状態では、水素を実質的に貯蔵していない調光層M1と、あらかじめ水素を貯蔵した変換層M2との間で平衡状態が形成されている。調光層M1には充分な濃度の水素が存在していないため、調光層M1は金属状態にあり、金属光沢を示している。
【0034】
次に、図2(b)に示すように、調光層M1の側に負電位を与えるとともに、変換層M2の側に正電位を与える。このとき、調光層M1には負の電極(不図示)から電子が注入され、調光層M1は電子リッチな状態となる。一方、変換層M2には正孔が注入される(電子が引き抜かれる)。変換層M2に注入された正孔は、変換層M2の内部を調光層M1に向かって移動してゆく。このような正孔の移動過程で、更に継続して変換層M2に正孔が注入されると、変換層M2は正孔リッチな状態となる。このため、変換層M2では、水素イオンを放出しやすい状態となる一方、調光層M1では、変換層M2から水素イオンを受け取り、保持する量が増える。
【0035】
このため、調光層M1と変換層M2との間で成立していた水素の平衡状態が崩れ、調光層M1が水素をより多く保持しやすい状態となり、変換層M2から放出された水素イオンが調光層M1に移動することになる。こうして、図2(c)に示すように、新しい平衡状態が形成される。この状態では、調光層M1に移動した水素と調光材料とが結合して、調光層M1が透明になる。
【0036】
以上の反応を記述すると、M1+M2(H)→M1(H)+M2となる。ここで、M1(H)およびM2(H)は、それぞれ、調光層M1に水素が保持されている状態、および変換層M2に水素が保持されている状態を示している。
【0037】
以上の説明から明らかなように、調光層M1と変換層M2との間では水素イオンの受け渡しが行なわれるだけで、他のイオンの関与する反応は生じていない。また、図2(c)の状態で印加電圧の極性を反転すると、逆方向に反応が進行するため、図2(a)に示す元の平衡状態に復帰する。
【0038】
このように本発明によれば、電荷(電子や正孔)の移動によって水素の平衡状態を変化させることにより、水素を駆動することができるため、水素イオン以外の他のイオンを反応に関与させる必要がない。このため、複数種のイオンが関与する電気化学的な反応に比べて応答速度が高くなる。また、電気化学的な反応が生じないため、正極側で水素ガスが発生する可能性も低く、電子素子としての安定した動作が可能になる。
【0039】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0040】
(実施形態1)
まず、図3を参照しながら、本発明による調光素子の第1の実施形態を説明する。
【0041】
本実施形態の調光素子は、調光層1および変換層2を含む積層構造を備え、調光層1の光反射率(光学的特性)が電気的刺激に応答して変化する。この調光素子は、調光層1および変換層2を挟みこむ一対の電極3a、3bと、積層構造を支持する基板4とを備えている。一対の電極3a、3bには、外部から適切な電圧が印加され得るが、適宜、電極3aと電極3bとを単純に短絡させることも可能である。
【0042】
なお、基板4に対する変換層2および調光層1の積層順序は、図示されているものに限定されず、基板4に近い側に変換層2を配置し、その上に調光層1を形成してもよい。
【0043】
本実施形態における調光層1は、水素濃度に応じて光学的特性が変化する調光材料(例えばイットリウム)を含んでいる。調光層1の全体または一部が1層または多層の調光材料から形成されてもよいし、あるいは、他の材料からなる膜中に調光材料の粒子が分散または連結した状態で存在していても良い。
【0044】
変換層2は、水素を含有し得る変換材料を含んでいる。この変換材料は電極3aとの間で電子の授受を行うことにより、水素のイオン(H+)を放出/吸収を行うことができる。
【0045】
図示する例では、電極3aに正の電位を与え、電極3bに負の電位を与えると、あらかじめ充分な量の水素を含有している変換層2の調光材料から水素イオンが放出される。放出された水素イオンは、積層構造中に形成された電界中を移動し、調光層1に達した後、調光材料にドープされる。このような水素の放出および移動のメカニズムは、前述したとおりである。調光層1における調光材料は、水素と結合することにより、水素金属化合物を形成する。この結果、当初は金属状態にあった調光材料は、可視光を透過する半導体または絶縁体に変化する。
【0046】
調光層1は、蒸着法、スパッタ法などによって作製され得る。金属光沢を示すミラーとして調光層1を機能させる場合には、できる限り平坦性に優れた膜から調光層1を形成することが好ましい。
【0047】
変換層2に含まれる変換材料は、定常状態で水素の原子またはイオンを貯蔵し保持することができ、外部刺激に応じて、水素貯蔵量(保持量)を変化させる。このような水素を貯蔵できる材料としては、LaNi5、MnNi5、CaNi5・TiMn1.5、ZrMn1.5、ZrMn2、TiNi、TiFe、Mg2Niなどの合金を用いることができる。また、カーボンナノチューブ(CNT)を用いることもできる。
【0048】
変換層2は、水素貯蔵材料のほかに電気導電性材料を含んでいてもよい。電気導電性材料が変換層2に含まれていると、調光層1との間で水素イオンのやりとりを迅速に行うことができる。電気伝導性材料としては、液体または固体電解質のようにイオン伝導を行うことが出来る材料、電荷(電子または正孔)を伝導させる導電性高分子や電荷移動錯体を用いることができる。また、変換層2には、上記の水素貯蔵材料や電気伝導性材料以外とは別に必要に応じてバインダ樹脂などの結合材料を加えても良い。なお、一方の電極から注入された電荷がそのまま他方の電極に移動してしまうことを確実に抑制するため、調光層と変換層との間にセパレータ層を挿入してもよい。セパレータ層の材料としては、イオンの移動が可能でありながら電荷の移動は生じにくい材料を選択することが望ましい。例えば、イオン交換体、多孔質絶縁物、イオン導電性高分子材料などを用いることができる。このような材料からなるセパレート層を配置するればよれば、電極から注入された電荷が反対の電極に突き抜けることが確実に防止されるため、調光層と変換層との間における電荷の移動効率を高めることができる。
【0049】
変換層2が複数の材料の混合物から形成される場合、これらの材料を溶媒に溶解させた溶液を用意し、スピンコート法や印刷法によって塗布すれば、変換層2を用意に形成することができる。このような変換層2の形成は、インクジェット法やその他の薄膜堆積技術用いて行っても良い。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば、電極3a、3bに電圧を印加することにより、変換層2の内部で電荷およびイオンの授受が行われる結果、前述したメカニズムにより、変換層2と調光層1との間で水素の移動を引き起こすことができる。このため、例えば、初期状態で水素がドープされていない調光層1と、あらかじめ水素を貯蔵した変換層2とを用い、図1に示すような電圧を印加すると、水素イオンが正極側から負極側に移動して、調光層1にドープされる。すなわち、正極側では水素放出反応が進行し、負極側では水素と金属との結合反応が進行して、水素金属化合物が形成される。これに対して、逆方向の電圧を印加すると、逆方向に水素の移動が生じるため、印加電圧の極性を交替することにより、調光層1の光学的状態を金属光沢−透明の間で可逆的に切り替えることができる。
【0051】
変換層2に貯蔵された水素の移動だけを考えると、電極3aと電極3bと積層構造の外部で短絡させてもよい。このような短絡は、二次電池における放電と同様の現象であり、積層構造の内部状態を初期状態に復帰させることができる。
【0052】
変換層2と調光層1が水素を保持する能力を持つため、電圧の印加を行わないとき(外部の回路を開放しているとき)、水素の移動が生じず、調光層1の光学的状態が保持される(調光層のメモリ機能)。このため、水素保持能力に優れた材料を選択すれば、電力を消費することなく調光状態を長期間保持することができる。
【0053】
上記の例とは逆に、あらかじめ水素をドープした調光層1と、水素を彫像していない状態の変換層2とを用いてもよい。その場合は、調光層1に正電位を、変換層2に負電位を与えることにより、調光層1から変換層2に水素を移動させ、それによって調光層1における調光材料の光学的状態を変化させても良い。
【0054】
本実施形態では、水素のドーピング量によって調光材料の光反射率/光透過率を制御することができるため、電極に印加する電圧や印加時間(デューティ比など)を調節することにより、調光層1の光反射率/光透過率を制御することができる。水素保持能力に基づくメモリー性を利用すれば、適切な光反射率/光透過率を保持することも容易である。
【0055】
このような水素の貯蔵/放出を適切に制御する際には、水素平衡圧−組成等温線(以下、「PTC特性曲線」と称する。)に注目する必要がある。PTC特性曲線は、図4に示すように、水素の貯蔵量と水素平衡圧力との関係を示す。図4のグラフでは、横軸が水素貯蔵量を示し、縦軸が水素平行圧力を示している。
【0056】
PTC特性曲線が横軸に対して概平行な部分(以下、「プラトー領域」と称する。)では、一定の平衡圧力内のもとで水素の貯蔵量が変化しえるため、水素平衡圧力を一定にした状態で水素の吸収/放出を可逆的に行うことができる。このため、本実施形態の調光素子は、PTC特性曲線のプラトー領域でスイッチング動作を行う。
【0057】
変換層2および調光層1は略同様のPTC特性を示すことが望ましい。より具体的には、図4に示すように、変換層2および調光層1のPTC特性曲線におけるプラトー領域の「水素貯蔵量」の範囲が重なり合い、かつ、「水素平衡圧力」のレベルがほぼ等しいことが望ましい。同等の水素平衡圧力を示すことによって、調光層1および変換層2の間で水素の授受をスムーズに行うことができる。調光層1および変換層2の間で、水素平衡圧力差が大きくなると、それぞれの層で水素の吸放出が生じても、2つの層の間で水素のやりとりを行うことができなくなってしまうからである。
【0058】
また、変換層2におけるPTC特性曲線のプラトー領域の水素貯蔵量範囲(幅)は、調光層1におけるPTC特性曲線のプラトー領域の水素貯蔵量範囲(幅)を含む大きさを有していることが更に好ましい。本実施形態の調光素子では、調光層1の水素ドーピング量によって調光層1の光透過率を制御するため、変換層2における水素貯蔵量の変化の幅が調光層1の状態変化に必要な水素ドーピング量の変化の幅よりも少ないと、調光層1の光学的状態を充分に変化させることができなくなるからである。
【0059】
再び、図3を参照する。図3に示す調光素子は、変換層2が透明である場合、金属反射状態と透明状態との間でスイッチングを行うことができる。透明度の高い状態を形成するには、基板4および電極3a、3bだけではなく、変換層2を可視光域の全範囲で透過率の高い(吸収の無い)材料から形成する必要がある。しかし、水素貯蔵材料などの変換材料は、金属または着色した材料である場合が多く、このような変換材料の層から透明性の高い変換層2を形成することは難しい。このため、変換材料の微粒子を透明な材料と混合することによって変換層2を形成することが好ましい。具体的には、光の波長以下の粒径を持つナノ粒子を変換材料から形成し、このナノ粒子を透明性に優れたバインダ樹脂で結合することができる。このようにして作製される変換層2は、透明性および水素貯蔵能力の両方を発揮することができるだけではなく、変換材料がナノ粒子化することにより、その表面積が増加するため、水素の吸放出効率も上昇することも期待される。変換材料による水素の吸放出効率が上昇すると、調光動作の応答速度が向上するので好ましい。超微粒子状態の変換材料としては、カーボン系材料(CNT、フラーレンなど)やカリウム−黒鉛層間化合物などを用いることもできる。
【0060】
このような調光素子は、基板4としてガラス板を用いると、調光ガラスとして機能する。調光ガラスは、建物や自動車の窓ガラスなどに使用され、夏場や昼間のように外光が強いときに光反射量を上昇させることにより、強い外光の入射を抑制し、快適な空間とすることが出来る。また、透明なガラスと鏡を兼用したインテリアとして用いることも出来る。
【0061】
(実施形態2)
以下、図5(a)および(b)を参照しながら、本発明による調光素子の第2の実施形態を説明する。本実施形態では、金属反射状態と透明状態との間のスイッチングではなく、金属反射状態と吸収(黒)状態との間でのスイッチングを行うことができる。
【0062】
図5(a)および図5(b)は、変換層2と調光層1の積層順序が相互に反転した構成を有する調光素子を示している。図5(a)の構成では、基板4の背面側から光が入射され、図5(b)の構成では、基板4の上面側から光が入射される。いずれの調光素子も、可視光を吸収する変換層2を備えている。このような変換層2は、例えば、黒色のCNTから形成することができる。なお、変換層2が着色している場合、あるいは、変換層2が透明であっても、その中に顔料や着色樹脂が混入されている場合は、金属反射状態と着色状態との間でのスイッチングが可能になる。
【0063】
図5(a)に示す調光素子においては、基板4および下層の電極3bを透明な材料から形成することが好ましい。基板4は、透明であれば、ガラスやプラスチックなどの材料から形成され得る。下層の電極3bは、ITOなどの透明導電性材料から形成されることが好ましく、この場合の好ましい電極厚さは、例えば150nmに設定される。
【0064】
調光層1は、例えば、厚さは50nm程度のイットリウム膜から構成される。変換層2は、例えば、AB5型Mm水素貯蔵合金であるNi合金の超微粒子(分散中心半径10nm)と、導電性高分子材料P1(電子、正孔両電荷を輸送できる材料)、及びバインダ樹脂としてアクリル系樹脂で屈折率がガラスとほぼ同等のものをブレンドしたものを用いることができる。
【0065】
ブレンド樹脂は、溶液化できるのでスピンコートによって膜を形成することができる。厚さは500nm程度にすることができる。変換層2に用いる水素貯蔵合金については、あらかじめ水素を貯蔵させたものを用いることができる。調光材料としては、イットリウム以外に、La、MgNiなどが用いることができる。
【0066】
調光層1と変換層2との間における電荷やイオンのやりとりを行うため、調光層1と変換層2との間に導電性高分子P1の膜を配置することが好ましい。電荷移動性をもつ高分子膜に加えて、電解質材料を用いて形成された層を配置してもよい。また、電荷移動性をもつ高分子材料と電界質材料とを含む層を配置しても良い。このような膜を配置すると、水素イオンの移動が電解質を介して起こりやすいので、特性を向上させることも可能である。
【0067】
光吸収性を有する変換層2は、水素貯蔵材料として機能するカリウム−黒鉛層間化合物および導電性高分子材料P1(電子、正孔両電荷を輸送できる材料)、を、バインダ樹脂として機能するアクリル系樹脂と混合したもの(ブレンド樹脂)から形成することもできる。ブレンド樹脂は溶液化できため、変換層2は、スピンコートによって形成され得る。変換層2の厚さは、例えば500nm程度に設定され得る。
【0068】
図5(a)に示す調光素子に対して、変換層2が正極側、調光層1が負極側になるように電極3a、3bに電圧を印加すると、初期状態で金属反射を示していた調光素子の光入射面側が徐々に黒状態に変化してゆく。これは、調光層1が透明になるに連れて、黒色の変換層2が視認されるようになるためである。電源を切ってもこの状態は保持される。また、電極3aと電極3bとの間をショートさせ、あるいは電極3a、3bに対して極性を反転させた電圧を印加すると、調光素子の光入射側面が金属光沢を示すように変化する。
【0069】
なお、図5(b)に示す構成の調光素子では、図面の上方から光が入射する。この場合、調光層1の上層に位置する電極3aを透明にする必要があるが、基板4や下側の電極3を透明にするは必要ない。
【0070】
(実施形態3)
次に、図6を参照しながら、本発明による調光素子の第3の実施形態を説明する。
【0071】
本実施形態の調光素子は、可視光に対して透明な変換層2を備えているが、光吸収層として機能する部材(光吸収板)5を更に備えているため、金属反射状態と黒(光吸収)状態との間でのスイッチングが可能である。光吸収板5は、可視光域の全域で光を吸収するもの(黒)であってもよいし、可視光域の全体一部の光を吸収するもの(他の色)であってもよい。
【0072】
光吸収体5は、調光層1に対して、光入射側とは反対の側に配置される。本実施形態では、図6に示すように、調光層1の上に透明な変換層2が配置されているが、変換層2と調光層1との上下関係は逆転されても良い。
【0073】
光吸収板5を基板の背面に配置する代わりに、光吸収性を有する層を基板4の光入射側面、または、積層構造の内部に配置しても良い。このような光吸収層が導電性を有しない場合は、調光層1と電極3bとの間に配置することができないので、基板4と電極3bとの間に配置すればよい。一方、光吸収層が導電性を有する場合、電極3bと一体的に、または電極3bの代わりに光吸収層を用いることも可能である。
【0074】
なお、壁材の色や模様と等しい色や模様を示す光吸収層を用いることにより、通常は壁の一部として機能し、必要に応じて鏡としての機能を発揮し得る調光ミラーを実現することも可能になる。
【0075】
(実施形態4)
次に、図7および図8を参照しながら、本発明による調光素子の第4の実施形態を説明する。本実施形態の調光素子は、金属拡散反射(白)状態と光吸収状態の間でスイッチングを行うことが可能である。
【0076】
本実施形態の調光素子は、図8に示すように、凹凸を有する基板4上に、電極3a、変換層2、調光層1、および電極3bが、この順序で積層された構造を有している。拡散反射を行うため、調光層1の表面に微細な凸部および/または凹部が存在している。
【0077】
次に、図7を参照しながら、図8の調光素子の動作を説明する。
【0078】
図7では、簡単化のため、電極3a、3bの記載は省略している。調光層1の表面に微細な凸部が存在しているため、図7(a)に示すように調光層1が金属反射状態にあるとき、光を拡散反射することができる。一方、図7(b)に示すように調光層1が透明状態にあるときは、下層に位置する変換層2が光を吸収する。
【0079】
図7に示す例では、基板の表面が微細な凸部を有しているため、変換層2および調光層1の全体の平坦性が基板の凹凸を反映した形状を有している。言い換えると、調光層1の上面(光反射側の面)だけではなく、底面も下地の凹凸を反映した形状を有している。しかし、下地である変換層2は凹凸構造を有している必要性は無いため、基板表面および変換層2は平坦に形成した上で、調光層1の上面のみに微細な凹部および/また凸部を形成するようにしてもよい。
【0080】
このように、本実施形態の調光素子によれば、調光層1が金属反射状態にあるとき、反射光は散乱して白色として認識されるため、調光層1の表面は白色に見える。一方、調光層1が透明な状態にあるときには、変換層2によって光が吸収されるため、黒または他の色に見える。
【0081】
本実施形態の調光素子は、表面に凹凸を形成した基板4を用いていることを除けば、他の実施形態と同様の構成を有し得る。例えば、変換層2としては、水素貯蔵材料であるカリウム−黒鉛層間化合物、導電性高分子材料P1(電子、正孔両電荷を輸送できる材料)、及びバインダ樹脂としてアクリル系樹脂を、ブレンドしたものを好適に用いることができる。
【0082】
(実施形態5)
図9を参照しながら、本発明による調光素子の第5の実施形態を説明する。
【0083】
本実施形態の調光素子では、図9に示すように、調光層1それ自体が電極の一方を兼ねている。調光層1は、基本的に金属薄膜であるので電極として機能しえる。電極を調光層1が兼ねることにより、電極を形成する工程がひとつ簡略化されるため、調光素子の製造工程数を低減することができる。
【0084】
なお、図9の調光素子は、透明−金属反射型調光素子であるが、上述した他のタイプの調光素子であっても、調光層1で電極を兼ねることができる。
【0085】
(実施形態6)
図10を参照しながら、本発明による調光素子の第6の実施形態を説明する。
【0086】
本実施形態では、変換層と第1変換層2aと第2変換層2bの複数層に分離した構成を有している。本発明の調光素子では、水素などの特定元素を調光層1にドープすることによって調光層1の状態を変化させるため、2つの変換層2a、2bで調光層1を挟み込む構成を採用すれば、効率的なドーピングが可能となり、調光に必要な状態変化の速度が向上する。調光層1は、電極として機能し得るため、図10の例では、調光層1を電極として用いている。
【0087】
図10の例では、水素の吸放出を行う部分が第1変換層2a、調光層1、および第2変換層2bの3層構造を有しているが、更に多層化することも可能である。調光層1が単層であれば、調光の程度が不充分な場合でも、調光層1の層数を増加させることにより、調光の程度を充分に大きくすることが可能になる。
【0088】
(実施形態7)
図11を参照しながら、本発明による調光素子の第7の実施形態を説明する。
【0089】
本実施形態では、変換層2の機能分離を行うため、変換層2に多層構造を付与している。前述のように、変換層2の機能は水素を貯蔵し、また、電荷の注入/放出に応じて水素を放出/再貯蔵することである。これらの機能を1つの材料で実行するよりも、機能ごとに異なる材料を選択し、それぞれの材料からなる層を重ねるほうが容易である。すなわち、変換層を、電荷またはイオンのやりとりを行うための電荷輸送材料または電解質材料から形成した第1変換層2aと、水素貯蔵の機能を持つ材料から形成した第1変換層2aとに分離することにより、効率のよい水素移動を行うことができる。
【0090】
本実施形態では、導電性高分子材料P1(電子、正孔両電荷を輸送できる材料)と、屈折率がガラスとほぼ同等のアクリル系樹脂を混合して形成した電荷・イオン交換層を第1変換層2aとして用いている。また、AB5型Mm水素貯蔵合金であるNi合金の超微粒子(分散中心半径10nm)を屈折率がガラスとほぼ同等のアクリル系樹脂と混合したブレンド樹脂を用いて第2変換層2bとして機能させている。
【0091】
(実施形態8)
以下、図12を参照しながら、本発明による調光素子の第8の実施形態を説明する。
【0092】
本実施形態が前述の各実施形態と異なる点は、図12に示すように、電極構造を有してない点にある。本実施形態では、変換層2に光電荷発生特性を有する材料を添加している。光電荷発生特性を有する材料とは、ここでは光照射において電子あるいは正孔を放出する材料系のことである。具体的には、蛍光色素、SiO2微粒子、カルバゾールなどのような有機分子、またそれを高分子化した高分子材料などである。これらの材料はそれぞれが有する吸収波長に応じて、光照射によって正孔、または電子を放出する。これらの電荷によって水素貯蔵材料が有する水素を隔離させ変換層内を伝達して調光層の金属膜に運ばれ金属膜を水素化する。通常、可視光域で調光するので可視光領域に吸収を持つ材料を用いるのがいいが、紫外線や熱線(赤外線)の強度によって調光量を制御したい場合にはそのような領域に吸収を持つような材料系を使えばよい。
【0093】
この変換層に光電荷発生特性を有する調光素子は、特に電界などの外部から制御系を用いることなく調光出来ることが特徴である。光照射している間は電荷の放出が行われるので調光量を制御することが出来る。
【0094】
初期状態の制御については、水素を変換層の水素貯蔵材料に貯蔵させ、調光層をノンドープ状態にすれば金属反射状態が初期状態になるし、あらかじめ調光層に水素をドープしておけば、調光層は透明状態になるので変換層の色味によって決まる。
【0095】
また、光照射による調光量制御では、光量による蓄積によって調光量が変わるので、弱い光でも長時間照射が続くと調光量が変化していく場合がある。調光量を光照射の強さのみで制御したい場合には不都合が生じる。このような場合は、変換層と調光層の水素貯蔵能力、つまりは水素との反応スピードを調整する。平衡が調光層の方向に強い場合は光があたって水素が変換層に伝達され変換層が水素ドープしてもほとんどが再度調光層のほうへ引き戻されてしまう。更に、変換を示す照射量を調整すれば、変換層の透明状態(水素ドープ状態)は光照射がある程度の強さを保って当たっている場合調光層の透明状態を維持することができる。光照射が弱い場合や、光照射がなくなった場合には、平衡状態が変換層のほうに移るので、調光層は初期状態に戻る。光の照射で調光層の金属反射−透明状態を繰り返し使う場合にも、調光層、変換層の平衡状態の方向を制御するとよい。
【0096】
本実施形態では、調光層1の調光材料として、PTC特性曲線平坦領域の平衡圧力が変換層2の変換材料に比べて大きい材料を選択している。
【0097】
変換層2内には、追加的にRu錯体色素が添加している。この色素は可視光全体域の光を吸収し、光を吸収すると、電子を放出する特性を有している。また、変換層2は、あらかじめ水素を貯蔵させている。
【0098】
本実施形態の調光素子に対して、光を照射すると、光の照射量が充分なレベルに達したとき、金属反射の程度が低くなって調光素子が黒色を呈してくる。これは、光照射によって生成された電子が変換層2の水素貯蔵材料において還元反応を引き起こし、それによって生じた水素が調光層1における水素平衡圧力以上になるために起こる。調光層1に移動した水素は、そこで水素化化合物を形成し、調光層1を透明化する。このため、調光層1を介して変換層2の色(黒色)が視資されるためである。
【0099】
光照射を停止すると、電子の発生/供給が停止すため、調光層1の状態変化も停止する。水素平衡圧力の差が生じているため、平衡状態が変換層側に移り、調光層に移動した水素も変換層にほとんど再移動することができる。
【0100】
このように、本実施形態によれば、光照射によって自然に調光量を調整できる。上記の構成例では、光の照射強度が増加すると調光層1による反射量が少なくなるが、変換層に透明な材料を用いて、あらかじめ調光層のほうに水素ドーピングしておくことで、光強度に応じて、透過と反射を制御できる窓ガラスを提供できる。この場合、変換層内に入れる色素が着色するので完全な透明状態は難しいが色ガラスと反射の素子は容易に作成できる。
【0101】
外部からの光照射によって調光層の状態変化をスイッチングする代わりに、照射光の強さや照射量の積算値に応じて水素の平衡状態を制御し、調光することも可能である。光照射のみによって調光する場合は、使用者の要求に応じた調光が実現できない。また、調光素子の使用中に水素が完全に移動できずに、初期状態がシフトする問題も生じ得る。このような問題を回避するためには、電極を付加的に配置することが好ましい。付加的に設けた電極によって水素ドープ量を調整すれば、通常の光照射による調光とあわせて、調光量を自在に変化させることが可能になる。また、電極を用いた電圧印加により、水素の平衡状態に初期化することが可能になるため、再現性に優れた調光の制御が実現する。
【0102】
【発明の効果】
本発明の調光素子によれば、電気または光の刺激を外部から与えることによって調光を行うことができるために、雰囲気ガス中に含まれる水素などの特定元素の濃度や圧力を制御する必要が無い。このため、簡単な構成で調光ガラスなどの調光素子を安価に提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による調光素子の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】図1に示す調光素子の動作原理を示す図である。
【図3】本発明による調光素子の第1の実施形態を示す断面図である。
【図4】調光層および変化層の水素平衡圧−組成等温線(PTC特性曲線)を示すグラフである。
【図5】本発明による調光素子の第2の実施形態を示す断面図である。
【図6】本発明による調光素子の第3の実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明による調光素子の第4の実施形態について、その動作を示す図である。
【図8】本発明による調光素子の第4の実施形態を示す断面図である。
【図9】本発明による調光素子の第5の実施形態を示す断面図である。
【図10】本発明による調光素子の第6の実施形態を示す断面図である。
【図11】本発明による調光素子の第7の実施形態を示す断面図である。
【図12】本発明による調光素子の第8の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
M1 調光層
M2 変換層
1 調光層
2 変換層
2a 第1変換層
2b 第2変換層
3 電極
3a 上層の電極
3b 下層の電極
4 基板
5 吸収板
Claims (18)
- 第1層および第2層を含む積層構造を備え、外部刺激に応答して前記第1層の光反射率が変化する調光素子であって、
前記第1層は、特定元素の濃度に応じて光学的特性が変化する第1材料を含んでおり、
前記第2層は、前記特定元素を含有し得る第2材料を含み、前記第2材料は前記外部刺激に応じて前記特定元素を放出または吸収する、調光素子。 - 前記元素は水素であり、前記第1材料は、水素濃度に応じて光反射状態と光透過状態との間を遷移し得る、請求項1に記載の調光素子。
- 前記第2層は、水素貯蔵材料を含んでいる請求項2に記載の調光素子。
- 前記第1層および前記第2層の各々の水素平衡圧−組成等温線(PTC特性曲線)がほぼ平坦である領域において動作する請求項3に記載の調光素子。
- 前記PTC特性曲線がほぼ平坦である領域で、前記第1層および前記第2層の水素平衡圧力がほぼ同等である請求項4に記載の調光素子。
- 前記第2層におけるPTC特性曲線がほぼ平坦である領域の水素貯蔵量の範囲は、前記第1層におけるPTC特性曲線がほぼ平坦である領域の水素貯蔵量の範囲を含んでいる請求項5に記載の調光素子。
- 前記第2材料は、電子の授受により、前記特定元素の放出または吸収を行う請求項1から6のいずれかに記載の調光素子。
- 前記第2材料は、光の照射により、前記特定元素の放出または吸収を行う請求項1から7のいずれかに記載の調光素子。
- 前記第2層は、光触媒性を有する材料を含んでいる請求項8に記載の調光素子。
- 前記特定元素のイオンを前記第2材料から前記第1材料へ、または前記第1材料から前記第2材料へ移動させるための電界を形成する1対の導電層を備えている請求項1から9のいずれかに記載の調光素子。
- 前記第1および第2層は、前記一対の導電層の間に位置している請求項10に記載の調光素子。
- 前記第1層は導電性を有しており、前記一対の導電層の一方として機能する請求項10または11に記載の調光素子。
- 前記第2層は導電性を有しており、前記一対の導電層の一方として機能する請求項10または11に記載の調光素子。
- 前記第2層は、光透過性を要している請求項1から13のいずれかに記載の調光素子。
- 前記第1層の上面または下面の少なくとも一方は凹凸を有しており、前記第1層は、光を拡散反射する状態と光を透過する状態との間を遷移し、
前記第1層を透過した光を吸収する光吸収層を更に備えている、請求項14に記載の調光素子。 - 前記第2層は、可視光吸収性を要している請求項1から13のいずれかに記載の調光素子。
- 前記第1層の上面または下面の少なくとも一方は凹凸を有しており、前記第1層は、光を拡散反射する状態と光を透過する状態との間を遷移し、
前記第2層は、前記第1層の光入射面とは反対側に配置されている請求項16に記載の調光素子。 - 前記第1層および第2層の少なくとも一方が多層構造を有している請求項1から17のいずれかに記載の調光素子。
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