JP2004268192A - 分子細線パターンの作製方法 - Google Patents

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和紀 乙部
Hidenobu Nakao
秀信 中尾
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Abstract

【課題】鋳型となるパターンをリソグラフィ技術に基づく基板加工技術により予め形成する必要なしに、分子サイズの極細の線幅を有する分子細線パターンを作製する手段を提供する。
【解決手段】以下の(1)及び(2)の工程を含むことを特徴とする分子細線パターンの作製方法。
(1)鎖状又はチューブ状分子を伸長した状態で転写元基板上に固定する工程
(2)転写元基板の分子固定面を、転写先基板と密着させる工程
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、鎖状又はチューブ状分子を用いて、基板上に分子細線パターンを作製する方法に関するものである。この方法は、リソグラフィによる基板加工技術を用いずに、分子細線パターンを作製できるので、従来よりも微細な分子細線パターンの作製が可能である。また、この方法により作製された分子細線パターン基板は、1分子認識の可能なバイオセンサや微細電子回路への応用が考えられる。
【0002】
【従来の技術】
基板の上に分子をパターン状に配置する技術は、精密分析機器用検出器、バイオセンサ、超高密度LSI等の製造において重要であることから、これまでに種々の手法が開発されている。従来はリソグラフィを用いてパターンを直接基板上に形成する方法が主流であったが、近年では多品種少量生産に対応しやすいということから、分子パターンの転写による方法が注目されている。例えばマイクロコンタクトプリント法(以下MCPと略す)を用いた分子パターン製造法はすでに1990年代から知られている。MCPは微細な凹凸パターンを表面に形成したシリコーンゴム上にパターン形成したい分子を凸部全面に付着させてから、別の基板上に分子固定面を押し当てることにより、凹凸パターンに対応した分子パターンを形成する手法である。また特開平5−98484号公報「分子パターニング装置」においては微細電極を用いて分子を集積して形成した分子パターンを転写する方法、特開平7−211957号公報「分子パターン複製方法」においては電子線リソグラフィで形成されたパターン上に分子を結合させて転写する方法が掲載されている。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−98484号公報
【0004】
【特許文献2】
特開平7−211957号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来の分子転写法で微細なパターンを形成するためには鋳型となる凹凸パターンや分子を局在化するための微細電極パターンを予め基板上に形成する必要があるが、リソグラフィ技術により形成可能な基板を用いなければならないという制約があった。また、パターン形成のための鋳型を用いるために鋳型パターンの加工精度が制約条件となり、鋳型パターンより微細なパターンを形成することは不可能であった。この理由により、従来法では数100ナノメートル程度の線幅を有するパターンが限界であった。本発明の目的は、鋳型となるパターンをリソグラフィ技術に基づく基板加工技術により予め形成する必要なしに、分子サイズの極細の線幅を有する分子細線パターンを作製することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、鎖状又はチューブ状分子を伸長した状態で基板上に固定し、その後、この基板を別の基板と密着させ、分子を転写することにより、リソグラフィによる基板加工技術を用いずに、分子細線パターンを作製でき、これにより、従来よりも微細なパターンを作製できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、以下の(1)及び(2)の工程を含むことを特徴とする分子細線パターンの作製方法である。
(1)鎖状又はチューブ状分子を伸長した状態で転写元基板上に固定する工程
(2)転写元基板の分子固定面を、転写先基板と密着させる工程
また、本発明は、以下の(1)、(2)及び(3)の工程を含み、(3)の工程を1回以上行うことを特徴とする分子細線パターンの作製方法である。
(1)鎖状又はチューブ状分子を伸長した状態で転写元基板上に固定し、これにより鎖状又はチューブ状分子を固定した転写元基板を複数作製する工程
(2)(1)の工程で作製した基板から一つを選択し、その基板の分子固定面を、転写先基板と密着させる工程
(3)(1)の工程で作製した基板から他の一つを選択し、その基板の分子固定面を、転写先基板と密着させる工程
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明の分子細線パターンの作製方法は、以下の工程(1)及び工程(2)を含むことを特徴とするものである。
【0010】
工程(1)では、鎖状又はチューブ状分子を伸長した状態で転写元基板上に固定する。
【0011】
鎖状またはチューブ状分子の種類は特に限定されないが、鎖状分子としてデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、アミロース、アクチンフィラメントなどがあげられ、チューブ状分子としてカーボンナノチューブ、微小管、ポリスチレンナノチューブなどがあげられる。鎖状又はチューブ状分子としては、生物活性を持つ分子(例えば、DNA、RNA、ポリペプチドなど)、導電性を持つ分子(例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなど)、光学活性を持つ分子(ポリ−L−リジンなど)など特定の機能を持つ分子を用いてもよい。
【0012】
鎖状またはチューブ状分子は別種の分子で修飾されていてもよい。別種の分子は特に限定されないが、DNAを修飾する分子としてYOYO−1、ビオチン、金コロイドなどがあげられ、カーボンナノチューブを修飾する分子としてポリジシラアゼピンならびにその誘導体、ポリフェニレンビニレンなどがあげられる。また、別種の分子としては、生物活性を持つ分子(例えば、アミロース、アミロペクチン、有機ポリシランなど)、導電性を持つ分子(例えば、金コロイド、白金錯体など)、光学活性を持つ分子(ポリジシラアゼピン、光学活性ポリシランなど)など特定の機能を持つ分子を用いてもよい。
【0013】
伸長した状態での分子の固定は、分子の種類に応じた方法で行う。例えば、固定する分子がDNAの場合は、DNAを保護するための緩衝液(水溶液)中に懸濁し、この懸濁液を基板上に滴下し該基板上に拡げればよい。基板上に拡がった懸濁液中に含まれるDNAは、気液界面移動法(特開平9−509057号公報)の原理により基板表面上に伸張された状態で固定される。溶液中のDNA濃度は特に限定されないが、5.2×10−3μg/μl程度が適当である。懸濁液を基板上に拡げる方法は特に限定されず、人為的手段によって拡げてもよいし、また、懸濁液の自然な流動により拡げてもよい。滴下する懸濁液量は特に限定されないが、5μl程度が適当である。また、固定する分子がカーボンナノチューブである場合、懸濁可能にするためにカーボンナノチューブと親和性の高いポリマーを溶解した有機溶媒中にカーボンナノチューブを懸濁する。それ以後の操作は、DNAの場合と同様である。溶液中のカーボンナノチューブ濃度は特に限定されないが、1.0×10−3μg/μl程度が適当である。DNAやカーボンナノチューブ以外の分子についても、上記に準じた方法により基板上に固定することができる。
【0014】
工程(2)では、転写元基板の分子固定面を、転写先基板と密着させる。
【0015】
転写元基板および転写先基板は特に限定されないが、両者あるいは一方の基板は、分子固定面を密着させるために必要な表面の柔軟性を有し、なおかつ化学反応性が低い基板が適当である。たとえば転写元基板としてポリジメチルシロキサンまたはポリジメチルシランを基材としたシリコーンゴムを用いた場合には、転写先基板としてカバーガラスや雲母の劈開面を組み合わせる、あるいは逆の組み合わせも可能である。この場合、転写する鎖状分子等の種類に応じて転写元基板と転写先基板の組み合わせを決める。例えば、DNAのような親水的な分子を転写する場合には転写元基板としてポリジメチルシロキサン等の基板を用い、転写先基板としてカバーガラス等を用いる。逆にカーボンナノチューブのような疎水的な分子を転写する場合には転写元基板としてカバーガラス等を用い、転写先基板としてポリジメチルシロキサン等の基板を用いる。
【0016】
転写元基板を転写先基板と密着させることにより、転写先の表面と強い相互作用を有するもののみが移行される。このことは鎖状又はチューブ状分子の表面または転写先基板表面を化学修飾することで達成される。したがってこの事を利用すれば、混在する別種の鎖状またはチューブ状分子のうちの特定分子のみを転写させることが出来る。
【0017】
転写元基板は、複数作製してよく、これらを順次転写先基板に密着させ、鎖状又はチューブ状分子を転写していってもよい。これにより、より複雑な分子細線パターンを作製できる。また、鎖状又はチューブ状分子を転写元基板から転写先基板に直接転写せずに、一旦、別の基板(例えば、転写先基板に転写しやすくするために一時的に転写しておく基板)に転写し、その基板から転写先基板に転写してもよい。
【0018】
以下に本発明の方法の一態様を図1により説明する。
【0019】
図1において、1は分子懸濁液、2は転写元基板、3は伸張した直鎖状分子、4は転写先基板をそれぞれ表す。
【0020】
(1)清浄な状態の転写元基板2上の所定の位置に直鎖状分子懸濁液1を5μl程度滴下して、(2)気液界面移動を生じさせることにより転写元基板上に一定方向に伸長・固定した直鎖状分子3を得る。(3)次に転写元基板の分子伸張面と転写先基板4の転写面を対向させてから両者を密着させ、(4)転写先基板上に分子パターンを転写してから両者を分離する。これにより転写先基板上に伸長・固定した分子パターンが形成される。
【0021】
以上の操作を繰り返すことにより、様々なパターンを有する微細線幅の分子細線パターンを得ることができる。
【0022】
【実施例】
型取り用シリコーンゴムをポリスチレン製シャーレに流し込み、脱気後、12時間64℃で硬化させたものを適当な大きさにカット(例えば5×5mm程度)し、これを転写元基板とした。この転写元基板上に蛍光色素ラベルしたλファージDNA溶液(濃度5.2×10−4μg/μl)5μlを滴下し、5分間静置した後にマイクロピペットにて静かに液滴を吸引除去した。このとき気液界面の移動が生じて溶液中のDNAが移動方向に対して並行に伸張した状態で転写元基板上に固定された。次に転写先基板である市販のカバーガラス(24mm×36mm、厚さ0.17mm)上に、転写面を対向させて転写元基板を静かに置いた。転写先基板としてはカバーガラスの他に雲母、シリコンウェハーも使用できる。このとき空気が転写元基板と転写先基板の間に残らないよう、両者が密着するように置いた。およそ5秒間静置した後、転写元基板をカバーガラスから静かにはがして、伸張状態で並列配向させたDNAの転写を完了した。上記カバーガラスの対向方向をDNAの伸張方向に対して角度を変えて同様の操作を再度行うことにより、交差した状態で配置されたDNAパターンを得ることができることを蛍光顕微鏡観察により確認した(図2)。
【0023】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の分子パターンの作製方法は従来の分子転写法と異なり、微細なパターンを形成するためにリソグラフィ等の技術が適用可能な基板を用いなければならないという制約がない。また、分子の形態そのものをパターンとして利用するため、鋳型パターンの加工精度が制約条件となることがなく、微細なパターンを作製することが可能である。これにより、従来法では困難であった100ナノメートル以下の線幅のパターンを作製できる。以上のように本発明により、鋳型となるパターンをリソグラフィ等に基づく基板加工技術により予め形成する必要なしに、分子サイズの線幅を有する分子パターンを作製することが可能となる。
【0024】
また、本発明の分子細線パターンの作製方法では伸長した状態の分子を転写元基板から分子細線パターンを作製しようとする基板(転写先基板)へ転写するので、鎖状又はチューブ状分子を伸張した状態で固定することが困難な基板の上にも分子細線パターンを作製することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】転写元基板への分子伸張・固定から転写先基板への転写による分子パターン作製方法の流れ図。
【図2】伸張状態のλファージDNAを交差させて配置したカバーガラス表面の蛍光観察写真。
【符号の説明】
1 分子懸濁溶液
2 転写元基板
3 伸張した直鎖状分子
4 転写先基板

Claims (5)

  1. 以下の(1)及び(2)の工程を含むことを特徴とする分子細線パターンの作製方法。
    (1)鎖状又はチューブ状分子を伸長した状態で転写元基板上に固定する工程
    (2)転写元基板の分子固定面を、転写先基板と密着させる工程
  2. 以下の(1)、(2)及び(3)の工程を含み、(3)の工程を1回以上行うことを特徴とする分子細線パターンの作製方法。
    (1)鎖状又はチューブ状分子を伸長した状態で転写元基板上に固定し、これにより鎖状又はチューブ状分子を固定した転写元基板を複数作製する工程
    (2)(1)の工程で作製した基板から一つを選択し、その基板の分子固定面を、転写先基板と密着させる工程
    (3)(1)の工程で作製した基板から他の一つを選択し、その基板の分子固定面を、転写先基板と密着させる工程
  3. 鎖状又はチューブ状分子が別種の分子で修飾されており、鎖状又はチューブ状分子及びこれを修飾する別種分子の両者を転写元基板から転写先基板へ転写することを特徴とする請求項1又は2記載の分子細線パターンの作製方法。
  4. 鎖状又はチューブ状分子が別種の分子で修飾されており、鎖状又はチューブ状分子を修飾する別種分子のみを転写元基板から転写先基板へ転写することを特徴とする請求項1又は2記載の分子細線パターンの作製方法。
  5. 鎖状又はチューブ状分子、又はこれを修飾する別種の分子が、生物活性、導電性、又は光学活性を持つ分子であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の分子細線パターンの作製方法。
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