JP2004255440A - 軽金属鋳物の表面改質方法及び表面改質装置 - Google Patents

軽金属鋳物の表面改質方法及び表面改質装置 Download PDF

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正巳 上野
Yukitoshi Hikita
幸俊 引田
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Abstract

【課題】軽金属鋳物の設計自由度、高生産性、製造コスト低下及び所期添加材特性の維持等の要求に応え、しかも、任意形状の軽金属鋳物を摩擦攪拌により表面改質するとともに、軽金属鋳物の表層に添加物を適切に添加する。
【解決手段】軽金属鋳物(2)の表面に対して、軽金属鋳物よりも高硬度且つ高融点の素材からなる回転軸(12)及び回転子(13)を押圧するとともに、回転軸及び回転子を回転させて軽金属鋳物の表面に摩擦接触せしめ、摩擦接触により発生する発熱で軽金属鋳物の表面を塑性流動温度域に昇温し且つ攪拌し、軽金属鋳物の表層の金属組織を微細化する。摩擦攪拌により金属組織を微細化する際に、金属組織を改質するための添加材(3)を金属組織に添加する。添加材は、回転軸及び/又は回転子に被着し、摩擦攪拌時に添加材の被覆層より金属組織に供給される。
【選択図】 図4

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、軽金属鋳物の表面改質方法及び表面改質装置に関するものであり、より詳細には、高速回転する回転軸及び回転子を軽金属鋳物の表面に押圧し、軽金属鋳物の表層部分を摩擦攪拌して鋳物表層の金属組織を微細化する摩擦攪拌法を利用した軽金属鋳物の表面改質方法及び表面改質装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム合金やマグネシウム合金等の軽金属成形品は、軽量で、しかも、熱放散性に優れるので、例えば、エンジンシリンダーブロック、シリンダーヘッド、ブレーキディスク、マニホールド等の自動車部品として使用される。
【0003】
このような金属成形品の製法として、鍛造法又は粉末焼結法等の採用も考慮し得るが、鍛造法又は粉末焼結法等の製法では、所望の設計自由度を得難く、成形可能な製品形状に限界が生じることから、一般には、設計自由度が高く、任意の形状又は複雑な形状の製品を成型し得る鋳造法が、この種の軽金属成形品の製法として採用される。
【0004】
軽金属成形品の鋳造法に関し、成形法自体に起因する課題、即ち、鋳物内部の凝固組織が不均一になり易く、巣や気孔等の鋳造欠陥が生じ易いという課題が長年に亘って指摘されている。しかしながら、組織の粗大化による素材特性のバラツキや品質低下等の鋳造法特有の課題は、容易には克服し難く、このため、素材を強化すべく、金属、セラミックス繊維等の添加による金属鋳物材料の複合化、圧接による鍛造材及び異種金属の接合、レーザーを用いたリメルト処理、更には、元素添加による合金化又は合金特性の改善等により、鋳造法の課題を克服する努力が払われてきた。
【0005】
このような鋳造法特有の課題を克服し得る手段として、近年、摩擦攪拌接合法(FSW法)を応用した鋳物材の表面改質技術が注目されている。摩擦攪拌接合法を応用した表面改質方法では、表面改質すべき金属材よりも高融点且つ高硬度のロッド状回転工具を金属材の表面に加圧接触せしめた状態で回転工具を回転させ且つ移動させ、金属材の表層部を塑性流動温度域に加熱し且つ摩擦攪拌して、金属材表層部の金属組織を緻密化ないし微細化する。このような摩擦攪拌技術を応用した表面改質法によれば、摩擦攪拌時の発熱及び機械的エネルギーにより、鋳物材の表層を或る程度まで改質し得ると考えられる(特許文献1〜3参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開2000−312980号公報
【0007】
【特許文献2】
特開2000−336465号公報
【0008】
【特許文献3】
特開2001−32058号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記複合化法、圧接法、リメルト処理法及び合金化法等の従来製法では、自由形状の金属鋳物を高い生産性且つ低コストで製造するという製造上の要求と、添加物を添加して添加材本来の特性により金属鋳物の表面改質を行うという品質上の要求との双方を所望の如く達成し難い事情がある。
【0010】
例えば、上記複合化法では、溶解金属中の金属添加物として、金属材との融点が大きく異なる物質、或いは、溶融金属と反応しない物質を選択せざるを得ず、これに適合しない場合、合金化による融点低下作用により添加物が溶融して消耗し、溶湯合金化する。
【0011】
上記圧接法は、接合形状の制約より、薄肉品に適用し難く、このため、設計自由度が大幅に制限される。上記リメルト処理法にあっては、添加物が比重差により溶融金属中で沈殿又は浮遊し易く、適切に添加物を添加し難い事情があり、また、リメルト処理法の場合、金属を急速溶解し且つ急速冷却することから、急激な組成変化による素材欠陥の発生が懸念されるとともに、溶解・冷却条件に合致した金属組織を得られるにすぎないという点で難点がある。
【0012】
金属材を合金化し又は合金化特性を改善する製法においては、添加材、合金元素、セラミックス粒子、繊維等の添加物を鋳物原料に予め添加して鋳造するので、鋳造性の悪化又は低下を招き易く、このため、単純な形状の製品を成形し得るにすぎなかった。また、このような製法では、製造工程の複雑化及び製造装置の部品点数増加等が生じ、しかも、添加物が鋳物原料全体に混合し、鋳物全体が複合化するので、鋳物製造コストが全体的に高額化してしまう。
【0013】
従って、複合化法、圧接法、リメルト処理法及び合金化法等の従来製法によっては、軽金属鋳物の設計自由度、高い生産性、低廉な製造コスト、所期添加材特性の維持等の各種要求に十分に応えることができなかった。
【0014】
他方、上記摩擦攪拌接合法を応用した表面改質方法は、回転ツール及び金属材料の間に発生する摩擦熱により軟化し又は半溶融状態にした金属を攪拌して金属組織の表層を改質するように構成されるが、金属表面の改質は、あくまで、摩擦・攪拌エネルギーに依存したものにすぎなかった。
【0015】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、軽金属鋳物の設計自由度、高生産性、製造コスト低下及び所期添加材特性の維持等の要求に応え、しかも、任意形状の軽金属鋳物を摩擦攪拌により表面改質するとともに、軽金属鋳物の表層に添加物を適切に添加することができる軽金属鋳物の表面改質方法及び表面改質装置を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく、本発明は、軽金属鋳物の表面に対して、該軽金属鋳物よりも高硬度且つ高融点の素材からなる回転軸及び回転子を押圧するとともに、該回転軸及び回転子を回転させて前記軽金属鋳物の表面に摩擦接触せしめ、摩擦接触により発生する発熱で前記軽金属鋳物の表面を塑性流動温度域に昇温し且つ攪拌し、前記軽金属鋳物の表層の金属組織を微細化する軽金属鋳物の表面改質方法において、
摩擦攪拌により前記金属組織を微細化する際に、前記金属組織を改質するための添加材を前記金属組織に添加することを特徴とする軽金属鋳物の表面改質方法を提供する。
【0017】
本発明の上記構成によれば、軽合金鋳物の表層組織は、回転軸及び回転子の摩擦力及び攪拌力によって塑性流動温度域に昇温して軟化し又は半溶融化するとともに、攪拌される。金属組織の粗大析出粒子は、塑性流動温度域で摩擦攪拌作用を受けて粉砕され、鋳物合金組成を維持した状態で微細化する。同時に、任意の添加材が塑性流動温度域の軟化金属組織に供給され、金属組織は、摩擦攪拌作用による組織微細化の作用を受けると同時に、任意の効果を与える添加材により適切に処理され、又は添加材と複合化する。従って、鋳物組織の微細化により材料特性を改善し得るのみならず、塑性流動温度域の軟化状態又は半溶融状態の金属組織に対して任意の添加材を添加することができる。
【0018】
また、本発明の上記構成によれば、表面改質方法は、鋳造法により成形した軽金属鋳物に適用されるので、鋳造法による鋳物形状の任意性、設計自由度及び高生産性は、損なわれず、また、金属溶融過程を経ずに金属組織に添加材を添加するので、母材(金属組織)及び添加材の所期の各材料特性は、損なわれない。添加材は、回転軸及び回転子の移動範囲のみに添加することができるので、添加領域の制御又は規制が可能となり、製造コストの高額化を回避し得る。
【0019】
しかも、添加材は、回転軸及び回転子の摩擦攪拌作用により、母材(金属組織)の特定範囲において母材表層部に均等に分散する。添加材の添加は、溶融状態を経ずに行われるので、上記構成の表面改質方法は、冷却速度の制御や、急速冷却等の温度制御、更には、鋳物及び型の制限といった特殊な制御又は制約を受けない。このようにして表面改質された軽金属鋳物の金属組織には、改質組織から鋳物の元組織まで滑らかに変化する組成変化が観られ、これは、界面の急激な組成変化による欠陥を防止し、熱処理等による後処理を不要にする上で有利である。また、本発明の表面改質方法によれば、金属組織の摩擦攪拌時に回転軸又は回転子から軟化金属組織に添加材を添加すれば良く、従って、添加材を予め金属鋳物の表層に配置し又は埋め込む工程を要しないので、製造工程を簡素化する上でも有利である。
【0020】
好ましくは、上記回転子に添加材を被覆し、摩擦攪拌時の回転子の磨耗又は消耗を利用して添加材を金属組織に供給し、或いは、上記回転軸又は回転子に添加材の供給路を形成し、回転軸又は回転子の下端部から添加材を吐出して金属組織に添加材を供給する。
【0021】
更に好ましくは、上記添加材として、軽金属鋳物の表層強度を高める強化材が使用される。強化材は、非溶融状態の軽金属組織に添加され、摩擦攪拌による攪拌作用を受け、均一に分散する。表面改質作用を受けた鋳物の領域は、摩擦攪拌による組織微細化と相まって、均等に強化される。殊に、強化材が金属を含む場合、上記表面改質方法によれば、溶融過程の合金化による強化材の特性変化を確実に防止し得るので、実用的に極めて有利である。
【0022】
本発明は又、軽金属鋳物よりも高硬度且つ高融点の素材からなり、軽金属鋳物の表面に押圧される回転軸及び回転子と、前記回転軸及び回転子を回転させる回転駆動手段と、前記回転軸及び回転子をワークに対して押圧し且つ相対移動させる主軸移動手段とを有し、前記軽金属鋳物の表面を塑性流動温度域に昇温し且つ攪拌し、前記軽金属鋳物の表層の金属組織を微細化する軽金属鋳物の表面改質装置において、
前記金属組織を改質するための添加材を前記回転軸及び/又は回転子に被着し、前記添加材の被覆層より添加材を摩擦攪拌時に前記金属組織に供給するようにしたことを特徴とする軽金属鋳物の表面改質装置を提供する。好ましくは、上記回転子は、回転軸の下端部に着脱可能に取付けられ、添加材は、回転軸のショルダー面から垂下する回転子の外周面に被覆される。例えば、焼結又は溶射鋳込みによる添加粒子の被覆層が回転子の表面に形成される。変形例として、添加粒子を所定量配合した硬質材を回転子の表面に被着又は装着しても良い。例えば、硬質材は、添加粒子を30〜70vol%配合し且つ鋳物金属の母材と同等の物性を有する金属材料又はセラミックスからなる。添加材を回転子に被着した場合、表面改質装置は、回転子の交換又は仕様変更等により、鋳物仕様の変更時にも鋳物の母材に適した表面改質効果を発揮する。
【0023】
本発明は更に、軽金属鋳物よりも高硬度且つ高融点の素材からなり、軽金属鋳物の表面に押圧される回転軸及び回転子と、前記回転軸及び回転子を回転させる回転駆動手段と、前記回転軸及び回転子をワークに対して押圧し且つ相対移動させる主軸移動手段とを有し、前記軽金属鋳物の表面を塑性流動温度域に昇温し且つ攪拌し、前記軽金属鋳物の表層の金属組織を微細化する軽金属鋳物の表面改質装置において、
前記金属組織を改質するための添加材を摩擦攪拌時に前記金属組織に供給する添加材供給路を前記回転軸及び/又は回転子に配設したことを特徴とする軽金属鋳物の表面改質装置を提供する。所望により、表面改質装置は、上記金属組織に添加材を吐出する供給路の吐出口から添加材を強制的に押出すための添加材押出手段を備える。
【0024】
このような表面改質装置によれば、添加材は、摩擦攪拌時の回転軸又は回転子の磨耗又は消耗に伴って被覆層より金属組織に供給され、或いは、摩擦攪拌時に添加材供給路から金属組織に供給される。添加材として、金属粒子、繊維又は固体を使用し、或いは、予め鋳物金属の母材と複合した繊維、粒子又は固体材料を使用し得る。金属組織に供給される添加材は、リメルト時又は鋳込み時に母材との比重差で沈殿又は浮遊してしまうような粒子であっても良く、このような粒子であっても、良好に金属組織に分散する。表面改質装置は、摩擦攪拌時に回転軸及び回転子が移動する経路に沿って添加材を金属組織に供給するので、所望の部位又は領域に確実に改質層を形成することができる。添加材供給路は、回転軸の回転軸線と平行に配置しても、所定角度をなして傾斜しても良く、添加材を回転軸又は回転子の中心より供給しても、回転軸又は回転子の外周面、周囲又は周辺から供給しても良い。複数の吐出口を回転子廻りに配置することも可能である。添加材押出手段は、重力下に添加材を供給しても、流体圧力又は動力により添加材を供給するよう構成しても良く、また、添加材を連続供給しても、断続的に供給しても良い。上記構成の表面改質装置を用いた作業は、従来技術の如く高度な技量が必要とされることもなく、小型又は小規模な装置構成に設計し得るので、表面改質装置の初期設備費及び製造コストを低減することが可能となる。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る摩擦攪拌装置の全体構成を示す正面図であり、図2は、図1に示す回転ツール及びプローブ部分の構造を示す部分拡大断面図である。
【0026】
図1に示す如く、摩擦攪拌装置1は、主軸駆動部11、回転ツール12及びプローブ13を有する。摩擦攪拌装置1、回転ツール12及びプローブ13は夫々、表面改質装置、回転軸及び回転子を構成する。主軸駆動部11は、昇降押圧機構16を介して支柱15に支持され、支柱15は、支持台14に垂直に固定される。ワークテーブル17が、支持台14上に配設され、アルミニウム合金又はマグネシウム合金等の軽金属鋳物からなるワーク2が、ワークテーブル17上に静置される。主軸駆動部11は、電動モーターからなり、回転ツール12は、主軸駆動部11の作動時に、主軸駆動部11の回転駆動軸(図示せず)と一体的に回転する。昇降押圧機構16は、主軸駆動部11をワーク2に対して垂直方向に相対移動させる。摩擦攪拌装置1は又、主軸駆動部11をワーク2に対して水平方向に相対変位させる水平移動機構(図示せず)を備える。昇降押圧機構16及び水平移動機構は、制御装置(図示せず)に接続され、制御装置の制御下に主軸駆動部11を垂直方向及び水平方向に移動させる。なお、昇降押圧機構16及び水平移動機構は、主軸移動手段を構成する。
【0027】
回転ツール12は、主軸回転軸線CLを軸芯とした均一な円形横断面を有し、ワーク2の母材よりも高硬度且つ高融点の金属材料、例えば、ステンレス鋼の成形品からなる。図2に示す如く、回転ツール12の下端部は、ワーク2の上面を押圧可能な水平押圧面18を備える。押圧面18は、軟化金属の飛び出しを防止し且つ摩擦接触面積を確保するショルダー面を構成する。押圧面18の中心には、プローブ13の上部を受入可能な凹部19が形成される。プローブ13の上部は、凹部19内に挿入され、回転ツール12の本体部分に着脱可能に固定される。プローブ13の下部は、押圧面18の中心において主軸回転軸線CLと同心に下方に突出する。プローブ13も又、主軸回転軸線CLを軸芯とした均一な円形横断面を有し、ワーク2の母材よりも高硬度且つ高融点の金属材料、例えば、ステンレス鋼の成形品からなる。
【0028】
図2に示す如く、プローブ13の下部表面は、添加材3により被覆される。添加材3として、Ni基合金、Co基合金、Al、SiC等の耐摩擦性を有するセラミックス、金属粒子、繊維、更には、黒鉛、Mo等の自己潤滑粒子をNiで被覆した複合金属粒子、Ni金属粉体を焼結して得られる中空粒子又は多孔質粒子、熱処理により拡散するSi、Cu等の合金成分等を好適に使用し得る。添加材3は、好ましくは、焼結又は溶射鋳込みにより、プローブ13の表面に予め被着される。
【0029】
次に、図3乃至図5を参照して、上記摩擦攪拌装置1を用いた軽金属鋳物の表面改質方法について説明する。
また、図3は、図1に示す摩擦攪拌装置における回転軸12の軸荷重及びワーク部分の温度の関係を示す線図であり、図4(A)〜(C)は、表面改質工程を段階的に示す工程説明図である。また、図5は、摩擦攪拌時の状態を示す回転ツール先端部の拡大断面図であり、図6は、摩擦攪拌時の状態を示す斜視図である。
【0030】
図4(A)に示す如く、ワーク2は、摩擦攪拌装置1のワークテーブル17上に固定される。摩擦攪拌装置1の制御装置は、主軸駆動部11、昇降押圧機構16及び水平移動機構を作動し、回転ツール12及びプローブ13は、ワーク2の上面レベルに降下し且つ高速回転する。
【0031】
水平移動機構は、回転ツール12及びプローブ13をワーク2に対して水平移動させ、図4(B)に示すように、押圧面18によりワーク2上面を押圧した状態で回転ツール12及びプローブ13をワーク2の母材と摩擦接触せしめる。回転ツール12とワーク2との相対運動により発生する摩擦熱により、ワーク2の母材は軟化し、摩擦攪拌される。
【0032】
昇降押圧機構16は、主軸の回転軸線方向Gに荷重Fを加え続け、水平移動機構は、回転ツール12を水平方向Hに移動させる。主軸駆動部11は、回転ツール12及びプローブ13の高速回転を維持し、押圧面18は、ワークWの表面を押圧し続ける。この結果、ワーク2の表層は、図4(C)及び図5に示す如く、回転ツール12の移動経路に沿って、摩擦攪拌による改質作用を受ける。
【0033】
図3に示す如く、ワーク2の軸荷重F及び温度には、特定の相関関係が観られる。軸荷重Fは、摩擦攪拌開始後、所定の目標範囲内の荷重値に制御され、これにより、ワーク2の攪拌領域の温度は、塑性流動温度域に制御される。従って、回転ツール12及びプローブ13の摩擦攪拌は、ワーク2を構成する金属材料を溶融温度域まで加熱せず、金属材料の溶融をもたらさない。軽金属鋳物組織は、このような制御下に回転ツール12及びプローブ13の摩擦力及び攪拌力により塑性流動温度域に維持され且つ攪拌され、これにより、金属組織の粗大析出粒子は、粉砕微細化される。
【0034】
ここに、プローブ13は、攪拌時にプローブ13自身が磨耗又は消耗するので、添加材3は、軟化したワーク2の母材に分散し、プローブ13の芯材及び回転ツール12の攪拌作用により、混合・攪拌される。従って、ワーク2の母材は、摩擦攪拌作用を受けると同時に、添加材を供給されるので、ワーク2は、摩擦攪拌により組織を微細化されると同時に、任意の効果を与える添加材により表面処理され、或いは、複合化される。
【0035】
このような添加材3の添加によれば、ワーク2の母材及び添加材3の素材特性を損なうことなく、ワーク母材の表層部5に添加材3を均一に分散させることができる。しかも、このような摩擦攪拌及び添加材添加を同時に受けたワークの金属組成は、図4(C)に示す如く、改質組織から鋳物の元組織まで滑らかに変化する。かくして、界面の急激な組成変化による欠陥が発生し難く、熱処理等の後処理を要しない良好な材料特性に改質することができる。
【0036】
また、添加材3は、摩擦攪拌による微細化処理を受ける部分又は領域のみに添加されるので、改質処理を要する所望の鋳物部位又は領域のみを確実に表層改質することができ、しかも、上記摩擦攪拌装置1を用いた改質作業は、従来技術の如く高度な技量を必要とすることなく、比較的小型又は小規模の装置構成により実施し得るので、製造コストを低減することが可能となる。
【0037】
図7は、回転ツール12及びプローブ13の関係を示す断面図である。
プローブ13は、添加材3を下半部外周面に被着した状態で上半部を凹部19内に挿入され(図7(A))、所定の係止手段(図示せず)により、回転ツール12に固定される(図7(B))。添加材3は、所定の摩擦攪拌工程を終えた段階でプローブ13から脱落し、プローブ13は、回転ツール12から取外される(図7(C))。このようなプローブ13の着脱により、所望の添加材3を被着したプローブ13を回転ツール12に適宜選択的に取付けることができる。
【0038】
図8は、本発明の他の実施形態に係る摩擦攪拌装置のプローブ部分を示す摩擦攪拌装置の部分拡大断面図であり、図9は、図8に示す摩擦攪拌装置の使用状態を示す断面図である。各図において、図1乃至図7に示す構成要素と実質的に同じ構成要素については、同一の参照符号が付されている。
【0039】
図8に示す摩擦攪拌装置1は、図1乃至図7に示す摩擦攪拌装置と実質的に同じ全体構成を有する。しかしながら、本実施形態の摩擦攪拌装置1では、ワーク2を摩擦攪拌する回転ツール12及びプローブ13は、添加材供給路20を備える。添加材供給路20は、主軸回転軸線CLと同心状に回転ツール12及びプローブ13を垂直に貫通する。添加材供給路20の吐出口21は、プローブ13の下端面に開口し、添加材3は、吐出口21から軟化金属に供給される。
【0040】
図9に示す如く、軽金属鋳物組織は、回転ツール12及びプローブ13の摩擦力及び攪拌力により塑性流動温度域に昇温し且つ攪拌され、これにより、金属組織の粗大析出粒子を粉砕微細化する。同時に、添加材3が吐出口21から軟化金属に供給され、添加材3は、ワーク2の母材に分散し、プローブ13及び回転ツール12の攪拌作用により、攪拌され、軟化した母材の金属組織に混合する。
【0041】
図10(A)は、添加材供給路20に設けられた添加材押出機構22を示す断面図である。
添加材供給路20は、好ましくは、添加材3を強制的に吐出口21から吐出すべく、添加材押出機構22を備える。押出機構22は、回転ツール12と同期回転しながら、供給路20内に充填された添加材3を所定圧力で押出し、吐出口21から吐出せしめる。
【0042】
図10(B)及び図10(C)は、添加材供給路20の変形例を示す断面図である。
添加材供給路20は、必ずしも回転ツール12の軸芯位置に開口する必要はなく、図10(B)及び図10(C)に示す如く、プローブ13廻りに吐出口21を配置し、或いは、ショルダー面(押圧面18)に吐出口21を配置しても良い。また、添加材供給路20は、図10(B)に示す如く、主軸回転軸線CLに対して所定角度をなして傾斜しても良い。
【0043】
なお、上記実施形態では、ショルダー面を構成する押圧面18は、水平面に形成されているが、例えば、径方向内方に傾斜したり、断部を備えた形態のものであっても良い。
【0044】
また、添加材供給路20内の添加材3を流体圧力により押出し、或いは、重力を適当に利用して吐出口21から吐出させることも可能である。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したとおり、本発明の表面改質方法及び表面改質装置によれば、軽金属鋳物の設計自由度、高生産性、製造コスト低下及び所期添加材特性の維持等の要求に応え、しかも、任意形状の軽金属鋳物を摩擦攪拌により表面改質するとともに、軽金属鋳物の表層に添加物を適切に添加することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る摩擦攪拌装置の全体構成を示す正面図である。
【図2】図1に示す回転ツール及びプローブ部分の構造を示す部分拡大断面図である。
【図3】図1に示す摩擦攪拌装置における回転軸の軸荷重及びワーク部分の温度の関係を示す線図である。
【図4】表面改質工程を段階的に示す工程説明図である。
【図5】摩擦攪拌時の状態を示す回転ツール先端部の拡大断面図である。
【図6】摩擦攪拌時の状態を示す斜視図である。
【図7】回転ツール及びプローブの関係を示す断面図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係る摩擦攪拌装置のプローブ部分を示す摩擦攪拌装置の部分拡大断面図である。
【図9】図8に示す摩擦攪拌装置の使用状態を示す断面図である。
【図10】添加材供給路に設けられた添加材押出機構の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
1 摩擦攪拌装置
2 ワーク
3 添加材
11 主軸駆動部
12 回転ツール
13 プローブ
16 昇降押圧機構
20 添加材供給路

Claims (8)

  1. 軽金属鋳物の表面に対して、該軽金属鋳物よりも高硬度且つ高融点の素材からなる回転軸及び回転子を押圧するとともに、該回転軸及び回転子を回転させて前記軽金属鋳物の表面に摩擦接触せしめ、摩擦接触により発生する発熱で前記軽金属鋳物の表面を塑性流動温度域に昇温し且つ攪拌し、前記軽金属鋳物の表層の金属組織を微細化する軽金属鋳物の表面改質方法において、
    摩擦攪拌により前記金属組織を微細化する際に、前記金属組織を改質するための添加材を前記金属組織に添加することを特徴とする軽金属鋳物の表面改質方法。
  2. 前記回転子に前記添加材を被着し、摩擦攪拌時の回転子の磨耗又は消耗を利用して前記添加材を前記金属組織に供給することを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
  3. 前記回転軸又は前記回転子に前記添加材の供給路を形成し、前記回転軸又は回転子の下端部から前記添加材を吐出して前記金属組織に該添加材を供給することを特徴とする請求項1に記載の表面改質方法。
  4. 前記添加材として、前記軽金属鋳物の表層強度を高める強化材を使用することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の表面改質方法。
  5. 軽金属鋳物よりも高硬度且つ高融点の素材からなり、軽金属鋳物の表面に押圧される回転軸及び回転子と、前記回転軸及び回転子を回転させる回転駆動手段と、前記回転軸及び回転子をワークに対して押圧し且つ相対移動させる主軸移動手段とを有し、前記軽金属鋳物の表面を塑性流動温度域に昇温し且つ攪拌し、前記軽金属鋳物の表層の金属組織を微細化する軽金属鋳物の表面改質装置において、
    前記金属組織を改質するための添加材を前記回転軸及び/又は回転子に被着し、前記添加材の被覆層より添加材を摩擦攪拌時に前記金属組織に供給するようにしたことを特徴とする軽金属鋳物の表面改質装置。
  6. 前記回転子を前記回転軸の下端部に着脱可能に取付け、前記添加材を前記回転軸のショルダー面から垂下する前記回転子の外周面に被着したことを特徴とする請求項5に記載の表面改質装置。
  7. 軽金属鋳物よりも高硬度且つ高融点の素材からなり、軽金属鋳物の表面に押圧される回転軸及び回転子と、前記回転軸及び回転子を回転させる回転駆動手段と、前記回転軸及び回転子をワークに対して押圧し且つ相対移動させる主軸移動手段とを有し、前記軽金属鋳物の表面を塑性流動温度域に昇温し且つ攪拌し、前記軽金属鋳物の表層の金属組織を微細化する軽金属鋳物の表面改質装置において、
    前記金属組織を改質するための添加材を摩擦攪拌時に前記金属組織に供給する添加材供給路を前記回転軸及び/又は回転子に配設したことを特徴とする軽金属鋳物の表面改質装置。
  8. 前記金属組織に前記添加材を吐出する前記供給路の吐出口から前記添加材を強制的に押出すための添加材押出手段を備えたことを特徴とする請求項7に記載の表面改質装置。
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