JP2004244651A - 穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】穴拡げ性のばらつきが小さい、強度が690MPa以上の穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】C:0.01〜0.07%、N≦0.005%、S≦0.005%、Ti:0.03〜0.15%を含み、さらに、V:0.01〜0.1%、Nb:0.01〜0.1%、Mo:0.01〜0.1%の一種または二種以上を含有し、フェライトもしくはベイニティックフェライト組織を面積率最大の相とし、面積率で硬質第2相が3%以下で、かつセメンタイトが3%以下であり、円相当径で5μm以上のTiNが1mm2 当たり1個以下で、引張強さが690MPA以上の穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。
【選択図】 図2
【解決手段】C:0.01〜0.07%、N≦0.005%、S≦0.005%、Ti:0.03〜0.15%を含み、さらに、V:0.01〜0.1%、Nb:0.01〜0.1%、Mo:0.01〜0.1%の一種または二種以上を含有し、フェライトもしくはベイニティックフェライト組織を面積率最大の相とし、面積率で硬質第2相が3%以下で、かつセメンタイトが3%以下であり、円相当径で5μm以上のTiNが1mm2 当たり1個以下で、引張強さが690MPA以上の穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、穴拡げ性に代表されるバーリング加工性や伸びフランジ性と延性に優れた引張強さ690MPa以上の高強度熱延鋼板に関し、その優れた加工性を活かして自動車部品、例えばメンバー類やアーム類などの足周り部品やシャーシなどの材料として有効に活用できる穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の燃費向上などのために軽量化を目的として、Al合金等の軽金属や高強度鋼板の自動車部材への適用が進められている。ただ、Al合金等の軽金属は比強度が高いという利点があるものの、鋼に比較して著しく高価であるため、その適用は特殊な用途に限られてきた。より広い範囲で自動車の軽量化を推進するためには、安価な高強度鋼板の適用が強く求められている。
【0003】
一般に材料は高強度になるほど延性が低下して加工性(成形性)が悪くなる。鉄鋼材においても例外ではなく、これまでに高強度と高延性の両立の試みがなされてきた。一方、自動車のサスペンションアーム等の足廻り部品に使用される材料には、これらの特性に加えて高いバーリング加工性(穴拡げ性)が求められている。しかし、高強度化に伴って穴拡げ性は延性と同様に低下する傾向を示し、複雑な形状をしている自動車の足廻り部品等への高強度鋼板の適用にあたっては、その穴拡げ性が重要な検討課題となる。
【0004】
穴拡げ性(伸びフランジ性またはバーリング加工性)に優れた高強度熱延鋼板として、例えば特開平6−172924号公報(特許文献1)にはラス状組織を有しかつ炭化物が生成していない転位密度の高いベイニティックフェライト組織とすることで高い伸びフランジ性を得る発明が開示されている。また、特開平7−70696号公報(特許文献2)には、Ti,NbをC当量以上添加しミクロ組織をフェライト単相にすると共にCuを添加し、TiC,NbCと共にε−Cuを析出させることにより高強度化した発明が開示されている。
【0005】
また、特開2001−20030号公報(特許文献3)には、やはり同じくNb,Tiを添加しグラニュラーベイニティックフェライトもしくはベイニティックフェライト組織とした上で、C2系介在物の清浄度や鋼中に含まれるTiNの平均サイズを規定した発明が開示されている。更に特開2002−322541号公報(特許文献4)にはMo,Tiを添加しフェライト単相組織とした上で、コイル内、特に幅方向の材質均一性に優れた発明が開示されている。
【0006】
【引用文献】
(1)特許文献1(特開平6−172924号公報)
(2)特許文献2(特開平7−70696号公報)
(3)特許文献3(特開2001−20030号公報)
(4)特許文献4(特開2002−322541号公報)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、サスペンションアーム等一部の部品用鋼板においては、延性とバーリング加工性とが両方共に優れた材料が要求されており、上記従来技術では満足する特性が得られない。更に材質、とりわけバーリング加工性の指標となる穴拡げ性の安定性の点から見て、上記従来技術は不十分であると言わざるを得ない。すなわち、特許文献1に記載の発明では、転位密度の高いベイニティックフェライト組織とすることにより穴拡げ性は優れているものの、800MPaで伸びが15%程度と延性に劣っている。また、特許文献2に記載の発明では、延性に優れたフェライト単相組織で高強度を得る為に多量の析出強化を利用しており、このためC,Ti共にその添加量が高く、加工性に影響を与える粗大析出物の発生に対する注意が払われていない。
【0008】
これに対し特許文献3に記載の発明では、TiNなどのC2系介在物の量やサイズが規定されているものの、やはりTiの添加量が高いため影響する析出物のサイズが20μm程度と極めて大きく、この析出物の量やサイズのレベルで穴拡げ性の安定性まで議論することはできない。なお、特許文献4に記載の発明では、材質の安定性としてコイル幅方向端部と中央部の強度や伸びの変動に注意が払われているものの、穴拡げ性の変動に関する検討は成されていない。
そこで本発明は、上記従来技術にて十分に検討されているとは言い難い材質特性である、穴拡げ性のばらつきが小さい、引張強さが690MPa以上の穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、現在通常に採用されている連続熱間圧延設備により工業的規模で生産されている熱延鋼板の製造プロセスを念頭において、熱延鋼板のバーリング加工性の支配因子について鋭意研究を重ねた。その結果、バーリング加工性の指標となる穴拡げ試験での穴拡げ値は、例えば延性の指標となる引張試験での伸び値と比較して大きな変動を有する場合があり、この変動が鋼中のTiNを主体とした粗大析出物の量やサイズに影響するものであること、即ち、この析出物の量やサイズを規定することにより穴拡げ値の変動が少なく安定して高い穴拡げ性を有する高強度熱延鋼板が得られることを見出し、本発明をなしたものである。
【0010】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)質量%にて(以下同じ)、C:0.01〜0.07%、N≦0.005%、S≦0.005%、Ti:0.03〜0.15%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼であって、フェライトもしくはベイニティックフェライト組織を面積率最大の相とし、面積率で硬質第2相が3%以下で、かつセメンタイトが3%以下であり、板厚中心部断面において円相当径で5μm以上のTiNが1mm2 当たり1個以下で、引張強さが690MPa以上であることを特徴とする穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。
【0011】
(2)さらに、V:0.01〜0.1%、Nb:0.01〜0.1%、Mo:0.01〜0.1%の一種または二種以上を含有し、かつTi/48+V/51+Nb/93+Mo/96−C/12−N/14−S/32≧0%を満足することを特徴とする穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。
(3)さらに、Si:0.01〜2%、Mn:0.05〜2%、P≦0.1%、Al:0.005〜0.5%を含有することを特徴とする穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。
【0012】
(4)さらに、Ca:0.0005〜0.02%、REM:0.0005〜0.2%の一種または二種を含有することを特徴とする穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の鋼板を製造する方法であって、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の成分を有する鋼片の熱間圧延に際し、熱延加熱温度を1200℃以上とし、Ar3 変態点以上で熱間仕上圧延を終了した後、450℃から650℃で巻き取ることを特徴とする穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法にある。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を更に詳細に説明する。まず、本発明における鋼のミクロ組織の限定理由を記述する。
本発明のミクロ組織はフェライトもしくはベイニティックフェライト組織を面積率最大の相とするものであり、穴拡げ性を大きく低下させる硬質第二相は面積率で3%以下(0%を含む)とする。ここで硬質第二相とはマルテンサイトが代表的なものであるが、穴拡げ加工の際これに先行して行われる打ち抜き加工においてマルテンサイトに変態する可能性のある残留オーステナイトなども含む。更にセメンタイトもやはり硬質であり穴拡げ性を劣化させる。そこで本発明ではフェライトもしくはベイニティックフェライト組織を面積率最大の相とし、面積率で硬質第2相が3%以下で、かつセメンタイトを3%以下と規定した。なお、好ましくはセメンタイトの面積率は1%以下である。ここで言うセメンタイトの存在状態はフェライト粒界などに塊状に存在するものの他、ベイニティックフェライト組織内のラス状の境界に生成するものも含まれる。
【0014】
そして鋼中のTiNは穴拡げ性のばらつきに関わる本発明の最も重要な因子である。即ち、穴拡げ試験は値のばらつきを考慮して通常、複数個の供試材を試験材から採取して各々穴拡げ値を求め、その平均値で評価される。しかし穴拡げ値の個々の値の差異(ばらつき)に着目すると、例えば供試材中最低の穴拡げ値が異なっていても平均値としては同等の値を示す場合があり、平均値のみで材料の優劣を評価することは不十分と言わざるを得ない。元来、穴拡げ試験方法は打ち抜きと穴拡げの二工程からなること、更に穴拡げ値を算出する際の穴拡げ後の穴径(打ち抜き端面に発生した割れが成長し鋼板板厚を貫通した時点の穴径)の判定誤差の影響も受けること、などから試験値がばらつきを有し易い。
【0015】
しかしながら、本発明者らが種々のフェライトもしくはベイニティックフェライト組織を主体としたTi添加の高強度熱延鋼板について穴拡げ値のばらつきを調査した結果、同様な強度を有しかつ同様なミクロ組織を有しているように見える鋼板間でもばらつきのレベルが大きく異なる場合があること、そしてこのばらつきが鋼中のTiNに代表される粗大析出物によって大きく変化することを見出した。
【0016】
そこで以下では本発明を得た基礎実験結果を説明する。
供試材として0.04%C−1.0%Si−1.4%Mn−0.01%P−0.001%S−0.03%Al−0.001%NをベースにTi添加量およびV,Nb,Mo添加量を変化させて成分調整し、溶製した鋳片の凝固後の冷却速度や熱間圧延の際の加熱温度及び時間を変えて、種々のTiNの量及びサイズを変化させ、920℃の仕上温度、550℃の巻取温度にて引張強さが780〜830MPaの熱延鋼板を得た。そして各熱延鋼板から穴拡げ試験用に6枚の供試材を採取して、得られた6つの穴拡げ値から平均値(λ)と標準偏差(σ)を算出した。ここで穴拡げ試験は、日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の試験方法に従って評価した。
【0017】
一方、鋼板板幅の1/2W位置から切出した試料を圧延方向断面に研磨し、光学顕微鏡を用い200〜500倍の倍率で観察された板厚中心部のTiNの数とサイズ(円相当径)を画像解析により測定した。なお、TiNは立方体が任意に切断された角状の形状を有しており、また、研磨ままであるにもかかわらず黄〜桃色の色調を有することから光学顕微鏡にて容易に同定可能である。測定に際しては観察されるTiNの個数が20〜30個になるよう観察視野を調整した。因みにこれらの一部はエネルギー分散型X線分光(Energy Dispersive X−ray Spectroscope:EDS)の組成分析機能を有する走査電子顕微鏡(SEM)測定を用いてTiを含む析出物であることを確認した。
【0018】
図1は観察されたTiNの平均サイズが異なる鋼板について、また、図2はTiNの平均サイズは5〜8μmとほぼ同程度であるが、1mm2 断面当たりに存在する5μm以上のTiNの個数が異なる鋼板について、その穴拡げ値のばらつきをλ±σで整理したものである。図1からTiNの平均サイズが5μm以上でばらつきが大きくなること、更に図2から同程度の大きさのTiNであっても1mm2 当たりの個数が1個以上で急激にばらつきが大きくなることが知られる。なお、ここではσが10%以上のものを便宜的にばらつきが大きなものとした。
【0019】
以上の実験から、種々のTi添加した高強度熱延鋼板の穴拡げ値のばらつき程度がその材料の板厚中心部断面におけるTiNの量とサイズによって変化することが明らかとなったため、本発明においては穴拡げ性のばらつきを小さくするための要件として、板厚中心部断面において円相当径で5μm以上のTiNが1mm2 当たり1個以下であるとした。
【0020】
次に、本発明の化学成分の限定理由について説明する。化学成分の量は質量%である。
Cは、0.07%超含有していると加工性が劣化するので、0.07%以下とする。また、0.01%未満では強度が低下するので0.01%以上とする。
Nは、本発明で重要な要件としているTiNを形成する元素であり、基本的には穴拡げ性のばらつきを小さくするために極力低減させるべきであるが、いたずらな低減は製鋼コストの上昇を招くこと、また製鋼能力も勘案して0.005%以下とする。
【0021】
Sは、多すぎるとMnSなどの介在物としてTiNと同様穴拡げ性を劣化させ、更に熱間圧延時の割れを引き起こすので極力低減させるべきであるが、0.005%以下ならば許容できる範囲である。
Tiは、本発明における最も重要な元素の一つである。すなわち、Tiは析出強化により鋼板の強度上昇に寄与する。ただし、0.03%未満ではこの効果が不十分であり、一方、0.15%超含有すると穴拡げ性のばらつきを大きくする5μm以上の粗大なTiNの生成を1mm2 当たり1個以下に抑制することができない。従って、Tiの含有量は0.03%以上、0.15%以下とする。
【0022】
V,Nb,Moは、共にTiを補完する析出強化元素として、またこの析出によりセメンタイト生成に寄与するCを固着する目的として添加される。ただし、それぞれの含有量が0.01%未満ではこの効果が不十分であり、一方、0.1%超含有するとTiNを形成する際にもTiを補完してしまい粗大析出物の生成に寄与してしまう。従って、V,Nb,Moの含有量は共に0.01%以上、0.1%以下とするが、これらは一種のみならず二種以上を上記範囲において含むことを許容する。
【0023】
更にこれらの元素は下記式を満足することを要件とする(元素名は各元素の化学成分の質量%を意味する)。
Ti/48+V/51+Nb/93+Mo/96−C/12−N/14−S/32≧0
本式はTiを始めとするV,Nb,Moなどの析出物構成元素が鋼中のC,N,Sを十分固定するに必要なだけ添加されていることを規定するものとして公知な式であり、これによりセメンタイト量を低減することが可能となる。
【0024】
Siは、固溶強化元素として強度上昇に有効であるので、必要に応じて添加する。所望の強度を得るためには0.01%以上含有する必要がある。しかし、2%超含有すると加工性が劣化する。そこで、Siの含有量は0.01%以上、2%以下とする。
Mnは、固溶強化元素として強度上昇に有効であるので、必要に応じて添加する。所望の強度を得るためには0.05%以上必要である。また、2%超添加するとスラブ割れを生ずるため、2%以下とする。
【0025】
Pは、0.1%超含有すると加工性や溶接性に悪影響を及ぼすので、0.1%以下とする。
Alは、溶鋼脱酸のために必要に応じて添加する。0.005%以上添加する必要があるが、コストの上昇を招くため、その上限を0.5%とする。また、あまり多量に添加すると非金属介在物を増大させ伸びを劣化させるので、好ましくは0.3%以下とする。
【0026】
CaおよびREMは、破壊の起点となったり、加工性を劣化させる非金属介在物の形態変化させて無害化する元素である。ただし、0.0005%未満では添加してもその効果がなく、Caならば0.02%超、REMならば0.2%超添加してもその効果が飽和するので、Ca:0.0005〜0.02%、REM:0.0005〜0.2%の添加とする。
【0027】
次に、本発明の製造方法の限定理由について以下に述べる。
本発明では、目的の成分含有量になるように成分調整した溶鋼を鋳込むことによって得たスラブを熱間圧延するに際し、その加熱温度を1200℃以上とする。これは1200℃未満であると鋼中のTiを始めとするV,Nb,Moなどの析出物構成元素が十分に再固溶されないために、析出強化が不十分となるためである。加熱温度の上限は特に設けないが1400℃以上であるとスケールオフ量が多量になり歩留まりが低下するので、再加熱温度は1400℃未満が望ましい。なお、本発明は上記の鋳片を冷却後に加熱炉にて再加熱する場合のほか、高温鋳片のまま熱間圧延機に直送してもかまわない。
【0028】
熱間圧延工程は、粗圧延を終了後、仕上圧延を行うが、仕上温度がAr3 変態点以上の温度域で終了する必要がある。これは、熱間圧延中に圧延温度がAr3 変態点を切るとひずみが残留して延性が低下するためである。仕上温度の上限は本発明の効果を得るためには特に定める必要はないが、操業上スケール疵が発生する可能性があるのため、1000℃以下とすることが望ましい。
【0029】
仕上圧延を終了した後は、指定の巻取温度まで冷却するが、その冷却速度は本発明の効果を得るためには特に定める必要はない。ただし冷却速度があまりに遅いと、熱間圧延後の冷却中に析出する析出物のサイズが粗大化して析出強化による強度上昇に寄与しなくなるばかりか、穴拡げ性に有害なセメンタイトのような硬質相やパーライトなどの有害組織が発生する可能性があることから、冷却速度の下限は20℃/s以上が望ましい。一方、冷却の途中のフェライト生成域にて短時間の空冷のような低冷速領域を冷却帯内に設けることで、フェライト変態を促進させるなどの冷却条件の調整を施しても良い。
【0030】
巻取温度は450℃未満では巻取後の析出が不十分となり、析出強化が得られず、更に鋼中に固溶Cが残留して加工性を低下させる恐れがあるばかりか、穴拡げ性に有害な硬質のマルテンサイトが発生する可能性がある。逆に、650℃超では前述の冷却速度があまりに遅い場合に懸念されるものと同様の現象、即ち、析出する析出物のサイズが粗大化して析出強化による強度上昇に寄与しなくなるばかりか、穴拡げ性に有害なセメンタイトのような硬質相やパーライトなどの有害組織が発生する可能性がある。従って巻取温度は450〜650℃とする。
なお、本発明鋼は表面に表面処理(例えば亜鉛メッキ等)が施されていても同様の効果を有し、本発明を逸脱するものではない。
【0031】
【実施例】
以下に、実施例により本発明をさらに説明する。表1に示す化学成分を有するA〜Pの鋼を、転炉にて溶製して連続鋳造し熱間圧延用のスラブを得た。ただし、表中の化学組成についての表示は質量%である。また表1中には本発明の要件である下記式の左辺の値を併記した。
Ti/48+V/51+Nb/93+Mo/96−C/12−N/14−S/32≧0
これらを表2に示す加熱温度(SRT)で再加熱し、粗圧延後に仕上温度(FT)で1.2〜6.0mmの板厚に圧延した後、巻取温度(CT)でそれぞれ巻き取った。
【0032】
【表1】
【0033】
このようにして得られた熱延板の鋼板板幅の1/4W位置から切出した試料を圧延方向断面に研磨し、ナイタール試薬にてエッチングし、光学顕微鏡を用い200〜500の倍率で観察されたミクロ組織からより、面積率最大の相の組織名と硬質相が存在する場合はその組織名と各面積率を、また同試料をピクラール試薬にてエッチングし観察された組織から画像解析によって算出したセメンタイトの面積率(θ)と、更に研磨まま(エッチングなし)で観察された板厚中心部のTiNの存在状態を表2に併記する。ここでTiNの量とサイズの算出は前記の基礎実験に準じて行った。引張特性は供試材をJIS Z 2201記載の5号試験片に加工してJIS Z 2201記載の試験方法に従って評価した。
【0034】
穴拡げ試験は前記した日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の試験方法に従って評価した。表2にその試験結果を示す。ここで穴拡げ試験は板幅方向に6枚の供試材を採取して、得られた6つの穴拡げ値から平均値と標準偏差を算出した。よって本穴拡げ値のばらつきはコイル幅方向の材質変動をも同時に評価したものとなっている。
本発明に沿うNo.1〜11は、引張強さ(TS)が690MPa以上で伸び(El)が20%以上あり、更に穴拡げ値として平均(λ)で90%以上の特性を有するのみならず、そのばらつきも標準偏差(σ)で10%以内と小さいものが得られている。
【0035】
上記以外は以下の理由によって本発明の範囲外である。すなわち、No.12はTi量が過剰で本発明外のためTiNのサイズと量が多く、この結果引張強さTS−伸び、El−穴拡げ値の平均λは本発明と同レベルであるにも関わらず穴拡げ値の標準偏差σが大きい。また、TiではなくMo量が本発明外のNo.16でも同様にTiNのサイズと量が多く、引張強さTS−伸びEl−穴拡げ値の平均λは決して劣位ではないがやはり穴拡げ値の標準偏差σが大きい。
【0036】
一方、No.13はTi量が少なく本発明外のため析出強化が不足して引張強さTSが低い。また、低TSのため直接伸び、Elや穴拡げ値の平均λに影響を及ぼしていないがセメンタイトθも多い。No.14はC量が少なく本発明外のためミクロ組織やTiN状態は全く問題ないものの肝心の引張強さTSが低い。これに対し、No.15は逆にC量が過剰で本発明外のものであり、製造条件によって引張強さTSは比較的他と差異はないが、セメンタイトθが多いため伸びElと穴拡げ値の平均λの両方共に低い。更に、No.17は本発明の成分式で規定される要件を満足していないため、やはりセメンタイトθが多くこれにより特に穴拡げ値の平均λが劣っている。
【0037】
また、鋼成分としては本発明範囲であるにも関わらず製造条件が外れているため特性が不十分となったものがNo.18〜22である。即ち、No.18及びNo.19では加熱温度SRTが低く本発明外のため十分にTiなどの析出物構成元素を固溶できておらず、析出強化が不十分で本発明条件のNo.1やNo.19と比較して引張強さTSが低下しているにもかかわらず、セメンタイトθが多いために特に穴拡げ値の平均λが低い。No.20は仕上温度FTがAr3 温度以下のためひずみが残留し、またセメンタイトθが多く、伸びElが低い。No.21は巻取温度CTが高く本発明外のため穴拡げ性に極めて有害なパーライトが生成しており、この結果穴拡げ値の平均λが低い。これに対しNo.22は逆に巻取温度CTが低く硬質なマルテンサイトが生成しており、伸びElは優れているもののやはり穴拡げ値の平均λが低い。
【0038】
【表2】
【0039】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明は穴拡げ性のばらつきが小さく、安定して高い穴拡げ性を有する、引張強さが690MPa以上の穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法を提供するものであり、その優れた加工性を活かして自動車部品、例えばメンバー類やアーム類などの足周り部品やシャーシなどの材料として有効な、工業的価値が高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】穴拡げ値のばらつきをTiNの平均サイズとの関係で示す図である。
【図2】穴拡げ値のばらつきをサイズが5μm以上のTiN個数との関係で示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、穴拡げ性に代表されるバーリング加工性や伸びフランジ性と延性に優れた引張強さ690MPa以上の高強度熱延鋼板に関し、その優れた加工性を活かして自動車部品、例えばメンバー類やアーム類などの足周り部品やシャーシなどの材料として有効に活用できる穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の燃費向上などのために軽量化を目的として、Al合金等の軽金属や高強度鋼板の自動車部材への適用が進められている。ただ、Al合金等の軽金属は比強度が高いという利点があるものの、鋼に比較して著しく高価であるため、その適用は特殊な用途に限られてきた。より広い範囲で自動車の軽量化を推進するためには、安価な高強度鋼板の適用が強く求められている。
【0003】
一般に材料は高強度になるほど延性が低下して加工性(成形性)が悪くなる。鉄鋼材においても例外ではなく、これまでに高強度と高延性の両立の試みがなされてきた。一方、自動車のサスペンションアーム等の足廻り部品に使用される材料には、これらの特性に加えて高いバーリング加工性(穴拡げ性)が求められている。しかし、高強度化に伴って穴拡げ性は延性と同様に低下する傾向を示し、複雑な形状をしている自動車の足廻り部品等への高強度鋼板の適用にあたっては、その穴拡げ性が重要な検討課題となる。
【0004】
穴拡げ性(伸びフランジ性またはバーリング加工性)に優れた高強度熱延鋼板として、例えば特開平6−172924号公報(特許文献1)にはラス状組織を有しかつ炭化物が生成していない転位密度の高いベイニティックフェライト組織とすることで高い伸びフランジ性を得る発明が開示されている。また、特開平7−70696号公報(特許文献2)には、Ti,NbをC当量以上添加しミクロ組織をフェライト単相にすると共にCuを添加し、TiC,NbCと共にε−Cuを析出させることにより高強度化した発明が開示されている。
【0005】
また、特開2001−20030号公報(特許文献3)には、やはり同じくNb,Tiを添加しグラニュラーベイニティックフェライトもしくはベイニティックフェライト組織とした上で、C2系介在物の清浄度や鋼中に含まれるTiNの平均サイズを規定した発明が開示されている。更に特開2002−322541号公報(特許文献4)にはMo,Tiを添加しフェライト単相組織とした上で、コイル内、特に幅方向の材質均一性に優れた発明が開示されている。
【0006】
【引用文献】
(1)特許文献1(特開平6−172924号公報)
(2)特許文献2(特開平7−70696号公報)
(3)特許文献3(特開2001−20030号公報)
(4)特許文献4(特開2002−322541号公報)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、サスペンションアーム等一部の部品用鋼板においては、延性とバーリング加工性とが両方共に優れた材料が要求されており、上記従来技術では満足する特性が得られない。更に材質、とりわけバーリング加工性の指標となる穴拡げ性の安定性の点から見て、上記従来技術は不十分であると言わざるを得ない。すなわち、特許文献1に記載の発明では、転位密度の高いベイニティックフェライト組織とすることにより穴拡げ性は優れているものの、800MPaで伸びが15%程度と延性に劣っている。また、特許文献2に記載の発明では、延性に優れたフェライト単相組織で高強度を得る為に多量の析出強化を利用しており、このためC,Ti共にその添加量が高く、加工性に影響を与える粗大析出物の発生に対する注意が払われていない。
【0008】
これに対し特許文献3に記載の発明では、TiNなどのC2系介在物の量やサイズが規定されているものの、やはりTiの添加量が高いため影響する析出物のサイズが20μm程度と極めて大きく、この析出物の量やサイズのレベルで穴拡げ性の安定性まで議論することはできない。なお、特許文献4に記載の発明では、材質の安定性としてコイル幅方向端部と中央部の強度や伸びの変動に注意が払われているものの、穴拡げ性の変動に関する検討は成されていない。
そこで本発明は、上記従来技術にて十分に検討されているとは言い難い材質特性である、穴拡げ性のばらつきが小さい、引張強さが690MPa以上の穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、現在通常に採用されている連続熱間圧延設備により工業的規模で生産されている熱延鋼板の製造プロセスを念頭において、熱延鋼板のバーリング加工性の支配因子について鋭意研究を重ねた。その結果、バーリング加工性の指標となる穴拡げ試験での穴拡げ値は、例えば延性の指標となる引張試験での伸び値と比較して大きな変動を有する場合があり、この変動が鋼中のTiNを主体とした粗大析出物の量やサイズに影響するものであること、即ち、この析出物の量やサイズを規定することにより穴拡げ値の変動が少なく安定して高い穴拡げ性を有する高強度熱延鋼板が得られることを見出し、本発明をなしたものである。
【0010】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)質量%にて(以下同じ)、C:0.01〜0.07%、N≦0.005%、S≦0.005%、Ti:0.03〜0.15%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼であって、フェライトもしくはベイニティックフェライト組織を面積率最大の相とし、面積率で硬質第2相が3%以下で、かつセメンタイトが3%以下であり、板厚中心部断面において円相当径で5μm以上のTiNが1mm2 当たり1個以下で、引張強さが690MPa以上であることを特徴とする穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。
【0011】
(2)さらに、V:0.01〜0.1%、Nb:0.01〜0.1%、Mo:0.01〜0.1%の一種または二種以上を含有し、かつTi/48+V/51+Nb/93+Mo/96−C/12−N/14−S/32≧0%を満足することを特徴とする穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。
(3)さらに、Si:0.01〜2%、Mn:0.05〜2%、P≦0.1%、Al:0.005〜0.5%を含有することを特徴とする穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。
【0012】
(4)さらに、Ca:0.0005〜0.02%、REM:0.0005〜0.2%の一種または二種を含有することを特徴とする穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の鋼板を製造する方法であって、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の成分を有する鋼片の熱間圧延に際し、熱延加熱温度を1200℃以上とし、Ar3 変態点以上で熱間仕上圧延を終了した後、450℃から650℃で巻き取ることを特徴とする穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法にある。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を更に詳細に説明する。まず、本発明における鋼のミクロ組織の限定理由を記述する。
本発明のミクロ組織はフェライトもしくはベイニティックフェライト組織を面積率最大の相とするものであり、穴拡げ性を大きく低下させる硬質第二相は面積率で3%以下(0%を含む)とする。ここで硬質第二相とはマルテンサイトが代表的なものであるが、穴拡げ加工の際これに先行して行われる打ち抜き加工においてマルテンサイトに変態する可能性のある残留オーステナイトなども含む。更にセメンタイトもやはり硬質であり穴拡げ性を劣化させる。そこで本発明ではフェライトもしくはベイニティックフェライト組織を面積率最大の相とし、面積率で硬質第2相が3%以下で、かつセメンタイトを3%以下と規定した。なお、好ましくはセメンタイトの面積率は1%以下である。ここで言うセメンタイトの存在状態はフェライト粒界などに塊状に存在するものの他、ベイニティックフェライト組織内のラス状の境界に生成するものも含まれる。
【0014】
そして鋼中のTiNは穴拡げ性のばらつきに関わる本発明の最も重要な因子である。即ち、穴拡げ試験は値のばらつきを考慮して通常、複数個の供試材を試験材から採取して各々穴拡げ値を求め、その平均値で評価される。しかし穴拡げ値の個々の値の差異(ばらつき)に着目すると、例えば供試材中最低の穴拡げ値が異なっていても平均値としては同等の値を示す場合があり、平均値のみで材料の優劣を評価することは不十分と言わざるを得ない。元来、穴拡げ試験方法は打ち抜きと穴拡げの二工程からなること、更に穴拡げ値を算出する際の穴拡げ後の穴径(打ち抜き端面に発生した割れが成長し鋼板板厚を貫通した時点の穴径)の判定誤差の影響も受けること、などから試験値がばらつきを有し易い。
【0015】
しかしながら、本発明者らが種々のフェライトもしくはベイニティックフェライト組織を主体としたTi添加の高強度熱延鋼板について穴拡げ値のばらつきを調査した結果、同様な強度を有しかつ同様なミクロ組織を有しているように見える鋼板間でもばらつきのレベルが大きく異なる場合があること、そしてこのばらつきが鋼中のTiNに代表される粗大析出物によって大きく変化することを見出した。
【0016】
そこで以下では本発明を得た基礎実験結果を説明する。
供試材として0.04%C−1.0%Si−1.4%Mn−0.01%P−0.001%S−0.03%Al−0.001%NをベースにTi添加量およびV,Nb,Mo添加量を変化させて成分調整し、溶製した鋳片の凝固後の冷却速度や熱間圧延の際の加熱温度及び時間を変えて、種々のTiNの量及びサイズを変化させ、920℃の仕上温度、550℃の巻取温度にて引張強さが780〜830MPaの熱延鋼板を得た。そして各熱延鋼板から穴拡げ試験用に6枚の供試材を採取して、得られた6つの穴拡げ値から平均値(λ)と標準偏差(σ)を算出した。ここで穴拡げ試験は、日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の試験方法に従って評価した。
【0017】
一方、鋼板板幅の1/2W位置から切出した試料を圧延方向断面に研磨し、光学顕微鏡を用い200〜500倍の倍率で観察された板厚中心部のTiNの数とサイズ(円相当径)を画像解析により測定した。なお、TiNは立方体が任意に切断された角状の形状を有しており、また、研磨ままであるにもかかわらず黄〜桃色の色調を有することから光学顕微鏡にて容易に同定可能である。測定に際しては観察されるTiNの個数が20〜30個になるよう観察視野を調整した。因みにこれらの一部はエネルギー分散型X線分光(Energy Dispersive X−ray Spectroscope:EDS)の組成分析機能を有する走査電子顕微鏡(SEM)測定を用いてTiを含む析出物であることを確認した。
【0018】
図1は観察されたTiNの平均サイズが異なる鋼板について、また、図2はTiNの平均サイズは5〜8μmとほぼ同程度であるが、1mm2 断面当たりに存在する5μm以上のTiNの個数が異なる鋼板について、その穴拡げ値のばらつきをλ±σで整理したものである。図1からTiNの平均サイズが5μm以上でばらつきが大きくなること、更に図2から同程度の大きさのTiNであっても1mm2 当たりの個数が1個以上で急激にばらつきが大きくなることが知られる。なお、ここではσが10%以上のものを便宜的にばらつきが大きなものとした。
【0019】
以上の実験から、種々のTi添加した高強度熱延鋼板の穴拡げ値のばらつき程度がその材料の板厚中心部断面におけるTiNの量とサイズによって変化することが明らかとなったため、本発明においては穴拡げ性のばらつきを小さくするための要件として、板厚中心部断面において円相当径で5μm以上のTiNが1mm2 当たり1個以下であるとした。
【0020】
次に、本発明の化学成分の限定理由について説明する。化学成分の量は質量%である。
Cは、0.07%超含有していると加工性が劣化するので、0.07%以下とする。また、0.01%未満では強度が低下するので0.01%以上とする。
Nは、本発明で重要な要件としているTiNを形成する元素であり、基本的には穴拡げ性のばらつきを小さくするために極力低減させるべきであるが、いたずらな低減は製鋼コストの上昇を招くこと、また製鋼能力も勘案して0.005%以下とする。
【0021】
Sは、多すぎるとMnSなどの介在物としてTiNと同様穴拡げ性を劣化させ、更に熱間圧延時の割れを引き起こすので極力低減させるべきであるが、0.005%以下ならば許容できる範囲である。
Tiは、本発明における最も重要な元素の一つである。すなわち、Tiは析出強化により鋼板の強度上昇に寄与する。ただし、0.03%未満ではこの効果が不十分であり、一方、0.15%超含有すると穴拡げ性のばらつきを大きくする5μm以上の粗大なTiNの生成を1mm2 当たり1個以下に抑制することができない。従って、Tiの含有量は0.03%以上、0.15%以下とする。
【0022】
V,Nb,Moは、共にTiを補完する析出強化元素として、またこの析出によりセメンタイト生成に寄与するCを固着する目的として添加される。ただし、それぞれの含有量が0.01%未満ではこの効果が不十分であり、一方、0.1%超含有するとTiNを形成する際にもTiを補完してしまい粗大析出物の生成に寄与してしまう。従って、V,Nb,Moの含有量は共に0.01%以上、0.1%以下とするが、これらは一種のみならず二種以上を上記範囲において含むことを許容する。
【0023】
更にこれらの元素は下記式を満足することを要件とする(元素名は各元素の化学成分の質量%を意味する)。
Ti/48+V/51+Nb/93+Mo/96−C/12−N/14−S/32≧0
本式はTiを始めとするV,Nb,Moなどの析出物構成元素が鋼中のC,N,Sを十分固定するに必要なだけ添加されていることを規定するものとして公知な式であり、これによりセメンタイト量を低減することが可能となる。
【0024】
Siは、固溶強化元素として強度上昇に有効であるので、必要に応じて添加する。所望の強度を得るためには0.01%以上含有する必要がある。しかし、2%超含有すると加工性が劣化する。そこで、Siの含有量は0.01%以上、2%以下とする。
Mnは、固溶強化元素として強度上昇に有効であるので、必要に応じて添加する。所望の強度を得るためには0.05%以上必要である。また、2%超添加するとスラブ割れを生ずるため、2%以下とする。
【0025】
Pは、0.1%超含有すると加工性や溶接性に悪影響を及ぼすので、0.1%以下とする。
Alは、溶鋼脱酸のために必要に応じて添加する。0.005%以上添加する必要があるが、コストの上昇を招くため、その上限を0.5%とする。また、あまり多量に添加すると非金属介在物を増大させ伸びを劣化させるので、好ましくは0.3%以下とする。
【0026】
CaおよびREMは、破壊の起点となったり、加工性を劣化させる非金属介在物の形態変化させて無害化する元素である。ただし、0.0005%未満では添加してもその効果がなく、Caならば0.02%超、REMならば0.2%超添加してもその効果が飽和するので、Ca:0.0005〜0.02%、REM:0.0005〜0.2%の添加とする。
【0027】
次に、本発明の製造方法の限定理由について以下に述べる。
本発明では、目的の成分含有量になるように成分調整した溶鋼を鋳込むことによって得たスラブを熱間圧延するに際し、その加熱温度を1200℃以上とする。これは1200℃未満であると鋼中のTiを始めとするV,Nb,Moなどの析出物構成元素が十分に再固溶されないために、析出強化が不十分となるためである。加熱温度の上限は特に設けないが1400℃以上であるとスケールオフ量が多量になり歩留まりが低下するので、再加熱温度は1400℃未満が望ましい。なお、本発明は上記の鋳片を冷却後に加熱炉にて再加熱する場合のほか、高温鋳片のまま熱間圧延機に直送してもかまわない。
【0028】
熱間圧延工程は、粗圧延を終了後、仕上圧延を行うが、仕上温度がAr3 変態点以上の温度域で終了する必要がある。これは、熱間圧延中に圧延温度がAr3 変態点を切るとひずみが残留して延性が低下するためである。仕上温度の上限は本発明の効果を得るためには特に定める必要はないが、操業上スケール疵が発生する可能性があるのため、1000℃以下とすることが望ましい。
【0029】
仕上圧延を終了した後は、指定の巻取温度まで冷却するが、その冷却速度は本発明の効果を得るためには特に定める必要はない。ただし冷却速度があまりに遅いと、熱間圧延後の冷却中に析出する析出物のサイズが粗大化して析出強化による強度上昇に寄与しなくなるばかりか、穴拡げ性に有害なセメンタイトのような硬質相やパーライトなどの有害組織が発生する可能性があることから、冷却速度の下限は20℃/s以上が望ましい。一方、冷却の途中のフェライト生成域にて短時間の空冷のような低冷速領域を冷却帯内に設けることで、フェライト変態を促進させるなどの冷却条件の調整を施しても良い。
【0030】
巻取温度は450℃未満では巻取後の析出が不十分となり、析出強化が得られず、更に鋼中に固溶Cが残留して加工性を低下させる恐れがあるばかりか、穴拡げ性に有害な硬質のマルテンサイトが発生する可能性がある。逆に、650℃超では前述の冷却速度があまりに遅い場合に懸念されるものと同様の現象、即ち、析出する析出物のサイズが粗大化して析出強化による強度上昇に寄与しなくなるばかりか、穴拡げ性に有害なセメンタイトのような硬質相やパーライトなどの有害組織が発生する可能性がある。従って巻取温度は450〜650℃とする。
なお、本発明鋼は表面に表面処理(例えば亜鉛メッキ等)が施されていても同様の効果を有し、本発明を逸脱するものではない。
【0031】
【実施例】
以下に、実施例により本発明をさらに説明する。表1に示す化学成分を有するA〜Pの鋼を、転炉にて溶製して連続鋳造し熱間圧延用のスラブを得た。ただし、表中の化学組成についての表示は質量%である。また表1中には本発明の要件である下記式の左辺の値を併記した。
Ti/48+V/51+Nb/93+Mo/96−C/12−N/14−S/32≧0
これらを表2に示す加熱温度(SRT)で再加熱し、粗圧延後に仕上温度(FT)で1.2〜6.0mmの板厚に圧延した後、巻取温度(CT)でそれぞれ巻き取った。
【0032】
【表1】
【0033】
このようにして得られた熱延板の鋼板板幅の1/4W位置から切出した試料を圧延方向断面に研磨し、ナイタール試薬にてエッチングし、光学顕微鏡を用い200〜500の倍率で観察されたミクロ組織からより、面積率最大の相の組織名と硬質相が存在する場合はその組織名と各面積率を、また同試料をピクラール試薬にてエッチングし観察された組織から画像解析によって算出したセメンタイトの面積率(θ)と、更に研磨まま(エッチングなし)で観察された板厚中心部のTiNの存在状態を表2に併記する。ここでTiNの量とサイズの算出は前記の基礎実験に準じて行った。引張特性は供試材をJIS Z 2201記載の5号試験片に加工してJIS Z 2201記載の試験方法に従って評価した。
【0034】
穴拡げ試験は前記した日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の試験方法に従って評価した。表2にその試験結果を示す。ここで穴拡げ試験は板幅方向に6枚の供試材を採取して、得られた6つの穴拡げ値から平均値と標準偏差を算出した。よって本穴拡げ値のばらつきはコイル幅方向の材質変動をも同時に評価したものとなっている。
本発明に沿うNo.1〜11は、引張強さ(TS)が690MPa以上で伸び(El)が20%以上あり、更に穴拡げ値として平均(λ)で90%以上の特性を有するのみならず、そのばらつきも標準偏差(σ)で10%以内と小さいものが得られている。
【0035】
上記以外は以下の理由によって本発明の範囲外である。すなわち、No.12はTi量が過剰で本発明外のためTiNのサイズと量が多く、この結果引張強さTS−伸び、El−穴拡げ値の平均λは本発明と同レベルであるにも関わらず穴拡げ値の標準偏差σが大きい。また、TiではなくMo量が本発明外のNo.16でも同様にTiNのサイズと量が多く、引張強さTS−伸びEl−穴拡げ値の平均λは決して劣位ではないがやはり穴拡げ値の標準偏差σが大きい。
【0036】
一方、No.13はTi量が少なく本発明外のため析出強化が不足して引張強さTSが低い。また、低TSのため直接伸び、Elや穴拡げ値の平均λに影響を及ぼしていないがセメンタイトθも多い。No.14はC量が少なく本発明外のためミクロ組織やTiN状態は全く問題ないものの肝心の引張強さTSが低い。これに対し、No.15は逆にC量が過剰で本発明外のものであり、製造条件によって引張強さTSは比較的他と差異はないが、セメンタイトθが多いため伸びElと穴拡げ値の平均λの両方共に低い。更に、No.17は本発明の成分式で規定される要件を満足していないため、やはりセメンタイトθが多くこれにより特に穴拡げ値の平均λが劣っている。
【0037】
また、鋼成分としては本発明範囲であるにも関わらず製造条件が外れているため特性が不十分となったものがNo.18〜22である。即ち、No.18及びNo.19では加熱温度SRTが低く本発明外のため十分にTiなどの析出物構成元素を固溶できておらず、析出強化が不十分で本発明条件のNo.1やNo.19と比較して引張強さTSが低下しているにもかかわらず、セメンタイトθが多いために特に穴拡げ値の平均λが低い。No.20は仕上温度FTがAr3 温度以下のためひずみが残留し、またセメンタイトθが多く、伸びElが低い。No.21は巻取温度CTが高く本発明外のため穴拡げ性に極めて有害なパーライトが生成しており、この結果穴拡げ値の平均λが低い。これに対しNo.22は逆に巻取温度CTが低く硬質なマルテンサイトが生成しており、伸びElは優れているもののやはり穴拡げ値の平均λが低い。
【0038】
【表2】
【0039】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明は穴拡げ性のばらつきが小さく、安定して高い穴拡げ性を有する、引張強さが690MPa以上の穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板及びその製造方法を提供するものであり、その優れた加工性を活かして自動車部品、例えばメンバー類やアーム類などの足周り部品やシャーシなどの材料として有効な、工業的価値が高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】穴拡げ値のばらつきをTiNの平均サイズとの関係で示す図である。
【図2】穴拡げ値のばらつきをサイズが5μm以上のTiN個数との関係で示す図である。
Claims (5)
- 質量%にて、C:0.01〜0.07%、N≦0.005%、S≦0.005%、Ti:0.03〜0.15%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼であって、フェライトもしくはベイニティックフェライト組織を面積率最大の相とし、面積率で硬質第2相が3%以下で、かつセメンタイトが3%以下であり、板厚中心部断面において円相当径で5μm以上のTiNが1mm2 当たり1個以下で、引張強さが690MPa以上であることを特徴とする穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。
- さらに質量%にて、V:0.01〜0.1%、Nb:0.01〜0.1%、Mo:0.01〜0.1%の一種または二種以上を含有し、かつTi/48+V/51+Nb/93+Mo/96−C/12−N/14−S/32≧0%
を満足することを特徴とする請求項1に記載の穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。 - さらに質量%にて、Si:0.01〜2%、Mn:0.05〜2%、P≦0.1%、Al:0.005〜0.5%を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。
- さらに質量%にて、Ca:0.0005〜0.02%、REM:0.0005〜0.2%の一種または二種を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の鋼板を製造する方法であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の成分を有する鋼片の熱間圧延に際し、熱延加熱温度を1200℃以上とし、Ar3 変態点以上で熱間仕上圧延を終了した後、450℃から650℃で巻き取ることを特徴とする穴拡げ性と延性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
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EP2617850A4 (en) * | 2010-09-17 | 2015-08-26 | Jfe Steel Corp | HIGH-RESISTANT HOT-ROLLED STEEL PLATE WITH EXCEPTIONAL FRICTION STRENGTH AND MANUFACTURING METHOD THEREFOR |
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- 2003-02-10 JP JP2003032867A patent/JP2004244651A/ja not_active Withdrawn
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