JP2004221271A - 電磁遮蔽筒体及び電磁遮蔽室 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】電磁遮蔽室2に設けられた電磁遮蔽筒体1は導波管3からなり、導波管3の内面に磁性体層4を備える。また、磁性体層4は、導波管3の遮断周波数より高い所定範囲の周波数の電磁波に対し、その磁性体層4の厚さを所定の電気長にする複素透磁率を有する。さらに、その磁性体層4の内面にその電磁波に損失を生じさせる抵抗層5を備える。
【選択図】図2
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、その内部を伝送する電磁波を減衰させる電磁遮蔽筒体、およびこれを用いた電磁遮蔽室に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、電気機器から不要輻射として放射される放射電磁界強度を測定したり、人の脳波等の微弱な電気信号を測定したりする場合、外部からの電磁波ノイズの影響を排除するため、金属板等のシールド板で覆われた電磁遮蔽室が用いられる(例えば、特許文献1参照。)。このような電磁遮蔽室は、シールド板に隙間や穴等があると、外部から電磁波ノイズが電磁遮蔽室内に入り込んでしまうため、シールド板で隙間なく密閉された構造にされている。また、機器類等を電磁遮蔽室に出し入れするための遮蔽扉にも電磁シールドが施され、遮蔽扉を閉じることによって、電磁遮蔽室内が電磁遮蔽状態に保たれるようにされている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−9988号公報
【特許文献2】
特開平7−159441号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のような電磁遮蔽室では、機器類等の出し入れのためにその遮蔽扉を開けると、遮蔽扉を開けた開口部から電磁波ノイズが電磁遮蔽室内に入り込んでしまうため、電磁遮蔽室の電磁遮蔽効果が失われてしまうという不都合があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、開放状態の開口部を備えると共に電磁波を減衰させる電磁遮蔽筒体、及びこれを用いた電磁遮蔽室を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、両端が開口された導波管からなる電磁遮蔽筒体であって、前記導波管は、その導波管の内面に、その導波管のサイズから規定される遮断周波数より高い所定範囲の周波数の電磁波に対し、損失を生じさせる損失層を備えることを特徴としている。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、前記導波管によりその導波管の遮断周波数より低い周波数の電磁波は遮断される。また、前記導波管の内面に設けられた損失層により、その導波管の遮断周波数より高い所定範囲の周波数の電磁波に対して損失が生じる。これにより、電磁遮蔽筒体内を伝送する電磁波が減衰する。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の電磁遮蔽筒体において、前記損失層は、前記所定範囲の周波数の電磁波に対し、その損失層の厚さをさらに所定の電気長にするべく複素透磁率を有するものであることを特徴としている。請求項2に記載の発明によれば、前記損失層により、その導波管の遮断周波数より高い所定範囲の周波数の電磁波に対してその損失層の厚さが物理長よりも増大された所定の電気長にされるので、その損失層の厚みを増加させた場合に近似する損失が、その電磁波に生じる。これにより、電磁遮蔽筒体内を伝送する電磁波の減衰量を大きくすることが可能になる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2記載の電磁遮蔽筒体において、前記損失層は、所定の厚さを有する磁性体層を備え、その磁性体層の磁気損失によって前記所定範囲の周波数の電磁波に損失を生じさせるものであることを特徴としている。請求項3に記載の発明によれば、磁性体層による磁気損失が、その電磁波に生じる。これにより、電磁遮蔽筒体内を伝送する電磁波を減衰させることが可能になる。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の電磁遮蔽筒体において、前記磁性体層は、磁性体微粒子が絶縁体中に分散されてなる誘電体であり、その磁性体層の誘電損失によって前記所定範囲の周波数の電磁波にさらに損失を生じさせるものであることを特徴としている。請求項4に記載の発明によれば、磁性体微粒子が絶縁体中に分散されることにより誘電体にされた磁性体層の誘電損失によって、所定範囲の周波数の電磁波にさらに損失が生じる。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4記載の電磁遮蔽筒体において、前記損失層は、前記磁性体層の内面に抵抗層を備え、その抵抗層の抵抗損失によって、前記所定範囲の周波数の電磁波にさらに損失を生じさせるものであることを特徴としている。請求項5に記載の発明によれば、磁性体層の内面に抵抗層が設けられるので、その導波管の内壁面から離れた位置、すなわち電界が強い位置に抵抗層を設けた場合に近似する損失が、その電磁波に生じる。これにより、電磁遮蔽筒体内を伝送する電磁波の減衰量を大きくすることが可能になる。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5記載の電磁遮蔽筒体において、前記損失層は、前記磁性体層と前記抵抗層との間に非磁性体層を備えることにより、その損失層の複素透磁率が前記所定範囲の周波数の電磁波に対してその損失層の厚さをさらに所定の電気長にさせる値にされるものであることを特徴としている。請求項6に記載の発明によれば、前記磁性体層と前記抵抗層との間に非磁性体層を設けることにより、その損失層の複素透磁率を所定範囲の周波数の電磁波に対してその損失層の厚さが物理長よりも増大された所定の電気長にされる。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の電磁遮蔽筒体において、前記導波管は、矩形導波管であることを特徴としている。請求項7に記載の発明によれば、前記導波管は矩形導波管であるので、電磁遮蔽筒体の内壁面を平らにすることが可能になる。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の電磁遮蔽筒体において、電磁遮蔽空間との間の境界に設けられ、通路として用いられることを特徴としている。請求項8に記載の発明によれば、電磁遮蔽空間との間の境界に設けられた請求項1〜7のいずれかに記載の電磁遮蔽筒体が通路として用いられるので、通路を伝送する電磁波が減衰させられる。
【0015】
請求項9に記載の電磁遮蔽室は、請求項1〜8のいずれかに記載の電磁遮蔽筒体を通路として備えることを特徴としている。請求項9に記載の発明によれば、請求項1〜8のいずれかに記載の電磁遮蔽筒体が、電磁遮蔽室の内外をつなぐ通路として用いられるので、通路を伝送する電磁波が減衰させられる。
【0016】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電磁遮蔽筒体1を備えた電磁遮蔽室2を示す外観斜視図である。図1に示す電磁遮蔽室2は、例えば、その壁面が電磁波を遮蔽する金属導体で構成された略立方体形状にされている。また、電磁遮蔽室2の一壁面部に矩形状の開口部11が設けられ、さらに開口部11から矩形の管状に延設された電磁遮蔽筒体1が設けられている。そして、電磁遮蔽筒体1の他端側には開口部12が設けられている。
【0017】
これにより、電磁遮蔽室2は、電磁遮蔽筒体1の開口部12及び開口部11を介して物を出し入れしたり、換気したりすることが可能にされている。また、電磁遮蔽筒体1は、その内部を伝送する電磁波を減衰させ、開口部12及び開口部11を通って外部から電磁遮蔽室2内に入り込む電磁波を遮蔽するものである。これにより、電磁遮蔽室2は、開口部を有すると共にその内部は電磁遮蔽状態に保たれる。
【0018】
図2は、図1に示す電磁遮蔽筒体1の詳細を説明するためのX方向から見た断面図である。図2に示す電磁遮蔽筒体1は、例えば、断面が矩形の導波管3と、導波管3の内壁面のすべてを覆うように密着して設けられた磁性体層4と、磁性体層4の内側表面のすべてを覆うように密着して設けられた抵抗層5とを備え、磁性体層4と抵抗層5とから電磁波を減衰させる損失層が構成されている。
【0019】
導波管3は、例えばその管壁面が金属等の導体で構成された断面形状が矩形の導波管である。図3は、磁性体層4の構成の一例を示す図である。図3に示す磁性体層4は、例えば、アモルファス合金等の強磁性体からなる微粒子41と、誘電体からなるバインダー42とから構成される。そして、微粒子41と微粒子41との間には、バインダー42が入り込んで微粒子41同士が非接触にされ、磁性体層4全体として、誘電体(絶縁体)になるようにされている。
【0020】
この磁性体層4は、例えば、磁気テープ等と同様の公知の方法により製造が可能であり、例えば、微粒子41に対して濡れ性の良い液状のバインダー42の中に所定の重量比、例えば70%程度の重量比で微粒子41を入れることにより、バインダー42が濡れによって微粒子41の表面をコーティングしつつその隙間に入り込んで微粒子41同士が非接触にされた材料が得られる。さらにこの材料をローラ等を用いてシート状に引き伸ばした後に、液状のバインダー42を硬化させることによって、シート状にされた磁性体層4を得ることが可能である。
【0021】
一般に、強磁性体はマイクロ波に対して反射導体として働くため、マイクロ波は強磁性体材料の中に浸入することができない。一方、磁性体層4は、強磁性体である微粒子41を含みながら、全体としては絶縁体であるため、マイクロ波が磁性体層4の中まで浸入可能にされている。
【0022】
また、磁性体層4が図3に示す構成にされている場合、磁性体層4の内部では導体である微粒子41によって絶縁距離が短縮されるため、磁性体層4全体として、材料そのものの誘電率よりも等価的に高い誘電率が得られる。実験によれば、直径が20〜30μm程度の微粒子41を70%程度の重量比で、誘電率が2F/m程度のバインダー42中に分散させ、その微粒子41同士の間隔(バインダー42による微粒子41間の絶縁距離)を0.1μm〜0.5μm程度とすることにより、磁性体層4全体として40F/m程度の誘電率が得られた。
【0023】
また、このようにして構成された磁性体層4は、電磁波の周波数が高くなると、その透磁率及び誘電率が低下する傾向があるが、微粒子41の直径を小さくすることにより、その透磁率及び誘電率の低下傾向を抑制することができる。なお、微粒子41は、必ずしも図3に示すような球体である必要はなく、その形状がばらついている場合であっても、おおよそ球体に近似して、同様の効果を得ることが可能である。
【0024】
これにより、磁性体層4に浸入した電磁波は、その磁界成分のエネルギーは、高い透磁率を有する微粒子41の表面に電流を生じることにより熱に変換され、磁気損失(磁性体層4の複素透磁率の虚数項)等として消費される。一方、磁性体層4中に分散された微粒子41は導体であるため、電界は誘電体であるバインダー42に集中させられ、強い電界がバインダー42に印加される。そして、強められた電界に応じてバインダー42の分子が振動させられる等による誘電損失(磁性体層4の複素誘電率の虚数項)が生じるので、電界成分のエネルギーが効率よく消費される。
【0025】
また、磁性体層4そのものは、微粒子41の絶縁距離の短縮効果によって等価的に誘電率が高められた誘電体となるので、電界によって磁性体層4に誘起される電荷量は高められた誘電率に応じて増加し、さらにその増加された電荷が微粒子41中を移動する結果、電流が微粒子41中を流れることによる等価的な誘電損失が生じることによっても電界成分のエネルギーが消費される。
【0026】
抵抗層5は例えば炭素皮膜等からなる抵抗体であり、導波管3内で電磁波の電界成分に抵抗損失を生じさせ、電磁波を減衰させる。
【0027】
以上のように、図3に示す構成にされた磁性体層4と抵抗層5からなる損失層は、その内部にマイクロ波(電磁波)が浸入可能にされると共に、その電磁波に対して磁気損失、誘電損失、及び抵抗損失を生じさせることができるので、効果的に電磁波を減衰させることができる。
【0028】
図4、図5は、図2に示す電磁遮蔽筒体1の作用を説明するための図である。図4は、矩形導波管100の中をTE10モードで伝送される電磁波による電界101の分布を示す断面図である。矩形導波管100の内部には正弦波状に電界101が分布し、電界101は矩形導波管100の側壁面に接する位置で零になり、その側壁面から離れるに従って電界強度が上昇し、矩形導波管100の略中央で最も電界が強くなる。
【0029】
一方、従来より、導波管内の電界に平行に板状の抵抗体を挿入することによって、その抵抗損失によって電磁波を減衰させるものが、導波管抵抗減衰器として知られている。このような抵抗体を用いて電磁波を減衰させる場合、上記のように矩形導波管100の略中央で電界が最大になるため、抵抗体が矩形導波管100の略中央に配置されたときに最も減衰量が大きくなる一方、電界が弱い矩形導波管100の壁面付近に抵抗体が配置された場合には、十分な減衰効果を得ることができない。しかし、電磁波を十分減衰させるために矩形導波管100の中央付近に抵抗体を配置したのでは、矩形導波管100を介して物を出し入れしたり、人が出入りしたりすることが困難である。
【0030】
図5は、図2に示す電磁遮蔽筒体1の中をTE10モードで伝送される電磁波による電界6の分布を示す断面図である。図5において、説明を容易にするため厚さtの磁性体層4を導波管3の左右側壁内面に設けた例を示している。実際には、外部から電磁遮蔽筒体1内に浸入してくる電磁波の偏波面に関わらず電磁波を減衰させるために、導波管3の上下壁面の内面にも磁性体層4を備えることがより望ましい。なお、対象とする電磁波の偏波方向が予め判っている場合には、その電磁波の電界と平行な壁面の内面にのみ磁性体層4及び抵抗層5を備える構成としても良い。
【0031】
図5において、磁性体層4の中に浸入した電磁波は、磁性体層4の透磁率μによりその波長が短縮され、従って磁性体層4内に浸入した電磁波から見た磁性体層4の厚さtは、その電気長による厚さTが大きくなる。また、その電磁波の磁界は、導波管3の左右側壁内面位置で磁界最大となるため、その壁面に密着して磁性体層4を設けることにより、効果的に波長短縮効果、すなわち電気長の増大効果が得られる。
【0032】
この場合、厚さtの磁性体層4内に浸入した電磁波の波長をλとすると、その電気長による厚さTは、式(1)で与えられる。
【0033】
【数1】
【0034】
なお、式(1)は、下記式(3)で示す条件の範囲では式(2)で近似される。
【0035】
【数2】
【0036】
式(2)において、電気長による厚さTは透磁率μの関数として与えられるため、T>tとなる透磁率μを磁性体層4に持たせることにより、磁性体層4の電気長による厚さTを物理的な厚さtよりも大きくすることができる。これにより、図5における導波管3の側壁面からtの距離離れた位置、すなわち磁性体層4の内側表面位置の電界は、図4における矩形導波管100の側壁面からTの距離離れた位置の電界とほぼ等しくなる。
【0037】
また、式(1)においては、電気長による厚さTは磁性体層4の複素透磁率μrと複素誘電率εrとの関数として与えられるが、式(1)において厚さTとして大きな値が得られる複素透磁率μrと複素誘電率εrとを有する材料を磁性体層4として用いることにより、式(2)の場合と同様の作用が得られることが示される。
【0038】
従って、磁性体層4による電界に対する誘電損失の効果が、物理的な厚さtよりも厚みが大きい厚さTの磁性体層4を導波管3の内面に設けた場合と同様となり、電磁波の減衰量を大きくすることができる。さらに、磁性体層4の表面に抵抗層5を設けることにより、抵抗層5を導波管3の壁面から距離T離れた位置に配置した場合と同様の効果が得られ、抵抗損失による電磁波の減衰量をより大きくすることができる。また、導波管3断面の長辺の長さがaである場合、導波管3の遮断波長λcは、λc=2aで与えられ、波長が遮断波長λc以上の電磁波は遮断される。
【0039】
すなわち、導波管3の遮断周波数より高い所定範囲の周波数の電磁波に対する電気長が長くされることにより厚みが増加された磁性体層4の内面に抵抗層5が設けられるので、その導波管3の内壁面から離れた位置、すなわち電界が強い位置に抵抗層4を設けた場合に近似する損失が、その電磁波に生じる。これにより、電磁遮蔽筒体1内を伝送する電磁波の減衰量が大きくなる。
【0040】
なお、電磁遮蔽筒体1は、磁性体層4によって導波管3内の電磁波を十分減衰させることができる場合は、抵抗層5を設けない構成であっても良い。また、導波管3断面の長辺の長さaが遮蔽しようとする電磁波の波長に対してより大きい場合には、その電磁波の高次のモードで損失が生じるため、電磁遮蔽筒体1の開口寸法を大きくした場合であってもその電磁波を減衰させることができる。また、電磁遮蔽筒体1を長さ方向に大きくしたり、磁性体層4の厚さtを大きくしたりすることにより、減衰量をさらに増加させることができる。
【0041】
また、磁性体層4の代わりに、例えば発泡スチロール等の誘電性素材にカーボン粉末等の抵抗体材料を分散して混在させた材料等の損失誘電体を用いても良い。この場合、磁性体層4を用いたときよりも、その損失誘電体の層の厚さtを大きくすることが望ましい。
【0042】
また、磁性体層4は、導波管3の壁面に密着して設けられることがより望ましいが、導波管3の内面に設けられるものであれば良く、例えば導波管3の壁面と磁性体層4との間に絶縁性のシート材等を備えたり、壁面位置から所定の距離離れた内面位置に磁性体層4を備える構成としてもよい。
【0043】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2の実施形態に係る電磁遮蔽筒体1の詳細を説明するための断面図である。図6に示す電磁遮蔽筒体1と図2に示す電磁遮蔽筒体1とは、図6に示す電磁遮蔽筒体1が磁性体層4と抵抗層5の間に例えば誘電体からなる非磁性体層7を備える点で異なる。他の点においては図2に示す電磁遮蔽筒体1と同様であるので、説明を省略する。
【0044】
図2に示す電磁遮蔽筒体1において、磁性体層4の物理的な厚さtからより効果的に大きな電気長による厚さTを得るためには、磁性体層4の複素透磁率μrを式(1)において厚さTとして大きな値が得られる複素透磁率μrを、磁性体層4の複素透磁率として設定することが好ましい。一方、磁性体層4の複素透磁率を任意に設定することは容易ではない。
【0045】
そこで、図6に示す電磁遮蔽筒体1においては、磁性体層4と抵抗層5の間に、例えば誘電体からなる非磁性体層7を設け、磁性体層4と非磁性体層7とを合わせた厚さtを有する等価的な磁性体層の複素透磁率μrを、式(1)において厚さTとして大きな値が得られる複素透磁率の範囲に設定するようにしている。この場合、非磁性体層7の厚さを調整することにより、等価的な磁性体層の複素透磁率μrを任意に設定することが可能となる。
【0046】
このように、透磁率を任意に設定することが難しい磁性体層4と、任意に厚さを調整することができる非磁性体層7とを組み合わせることにより、等価的な磁性体層の複素透磁率μrを、式(1)において厚さTとして大きな値が得られる範囲に容易に設定することができる。
【0047】
なお、磁性体層4は、微粒子41とバインダー42とからなる構成に限られず、その透磁率が式(2)において、T>tとなる透磁率μを有するものであればよい。例えば、発泡性の誘電性素材にフェライト等の磁性付与素材を分散させて混入させたものや、合成樹脂からなるテープ状の基材表面にフェライト等の磁性体の微粒子を塗布して構成される磁気テープを細かく裁断した後に加熱成型したもの(例えば、フジ化成工業社の「EMパネル」(登録商標))等を磁性体層4として用いることができる。あるいは、フェライト等の主に磁気損失のみによって電磁波に損失を生じさせるものを磁性体層4として用いてもよい。
【0048】
図7は、図2に示す電磁遮蔽筒体1において、透過減衰量の測定を行うための実験装置を示す図である。図7においては、電磁遮蔽体により構成された隔壁201を貫通して設けられた電磁遮蔽筒体1と、その隔壁201とを示す断面図を示している。図7において、電磁遮蔽筒体1を、隔壁201の左右に開口するように設けると共に、電磁遮蔽筒体1の左側開口部から350mm離れた位置に電磁波発生装置202を配置し、電磁遮蔽筒体1の右側開口部から350mm離れた位置に電磁波測定装置203を配置した。これにより、電磁波発生装置202から出力された電磁波は、電磁遮蔽筒体1内部を通って電磁波測定装置203に到達し、電磁遮蔽筒体1を通らない電磁波は隔壁201によって遮蔽される。また、図7に示す電磁遮蔽筒体1は、導波管3の内径の長辺の長さaを130mm、導波管3の内径の短辺の長さbを80mmとし、磁性体層4として厚さtが15mmのフジ化成工業社の「EMパネル」(登録商標)を用い、抵抗層5を390Ωとしている。
【0049】
図8は、図7に示す実験装置によって測定した透過減衰量の測定値を示すグラフである。図7に示す電磁遮蔽筒体1によれば、図8に示すように、0.7GHz〜3.1GHzの周波数範囲の電磁波に対して100dBを超える透過減衰量が得られた。また、図8において、0.7GHz以下の周波数範囲の電磁波に対しては、図7に示す電磁遮蔽筒体1の導波管としての遮断周波数以下の周波数範囲になるため、より高い透過減衰量が得られる。
【0050】
これにより、例えば、電磁遮蔽室2内の電磁遮蔽状態を保ったまま電磁遮蔽筒体1を介して機器類等を出し入れしたり、電磁遮蔽室2内の換気を行ったりすることが可能になる。また、例えば病院等において電磁遮蔽室2を脳波測定等の微弱な電気信号の測定に用いることにより、脳波測定等の測定結果に外部からの電磁波ノイズの影響を与えることなく電磁遮蔽筒体1を通って医師や測定技師等が電磁遮蔽室2内に出入りすることが可能になる。また、電磁遮蔽筒体1は、外部から電磁遮蔽室2内に浸入する電磁波を遮蔽するものであってもよく、電磁遮蔽室2内の機器や試験装置等によって発生した電磁波を外部に漏らさないように遮蔽するものであっても良い。
【0051】
また、電磁遮蔽室2に、複数、例えば二つの電磁遮蔽筒体1を備えてもよい。この場合、電磁遮蔽室2内の電磁遮蔽状態を保ったまま一方の電磁遮蔽筒体1から電磁遮蔽室2内を通って他方の電磁遮蔽筒体1へ通り抜け可能にすることができる。
【0052】
さらに、例えば、上記のように通り抜け可能にされた電磁遮蔽筒体1及び電磁遮蔽室2内にベルトコンベア等の搬送装置を備え、例えば工場の生産ラインから搬送されてきた製品を一方の電磁遮蔽筒体1を経由して電磁遮蔽室2内に搬送し、例えばIEC(International Electrotechnical Commisson)規格等による電磁適合性の検査を行いつつ他方の電磁遮蔽筒体1へ通り抜けさせるようにしてもよい。この場合、従来の電磁遮蔽室のように製品の検査を実施するときに生産ラインの流れを止めて遮蔽扉を閉じる必要がないので、生産ライン上に製品を流したままオンラインで電磁適合性の検査を行うことが可能になり、生産効率を向上させることができる。
【0053】
図9は、上記のように二つの電磁遮蔽筒体1を備えた電磁遮蔽室2をベルトコンベア8を用いて通り抜け可能にした状態を示す断面図である。図9に示すベルトコンベア8は、例えば図略の生産ラインの一部とされている。また、ベルトコンベア8は、生産ラインの上流から搬送されてきた電磁適合性の検査対象製品を、一方の電磁遮蔽筒体1の開口部12から搬入すると共に電磁遮蔽室2を経由して他方の電磁遮蔽筒体1の開口部12から搬出するための搬送ベルト81と、搬送ベルト81を駆動させるための駆動部82から構成されている。これにより、検査対象製品を生産ライン上に流したまま電磁遮蔽室2内に搬入し、電磁適合性の検査を実施することが可能にされている。
【0054】
また、搬送ベルト81は、その表面に抵抗体、損失誘電体、及び損失磁性体等からなる損失層83を備えることが望ましい。さらに、搬送ベルト81の表面に設けられる損失誘電体は、電磁遮蔽筒体1内の電界と平行な方向にされることが望ましい。一方、損失磁性体は、電磁遮蔽筒体1内の磁界と平行な方向にされることが望ましい。これにより、電磁遮蔽筒体1の壁面から離れた中央に近い位置に損失層を配置することが可能になり、より電磁遮蔽筒体1内の電磁波の減衰量を大きくすることができる。
【0055】
なお、導波管3として矩形導波管を用いる例を示したが、円筒導波管等、他の断面形状の導波管を用いても良い。また、導波管の基本モードであるTE10モードを例に説明したが、これ以外の高次の伝搬モードであってもよい。
【0056】
また、例えばガラス等の透明部材を用いて電磁遮蔽筒体1の開口部を閉鎖し、電磁遮蔽筒体1を光の通路として用いることにより、レーザー出力装置やビデオカメラ等の電磁波ノイズ発生源となる光学機器を電磁遮蔽室2の外部に配置し、レーザー出力装置から電磁遮蔽筒体1を介して電磁遮蔽室2内の試料等にレーザー光を照射したり、電磁遮蔽室2内の状態を電磁遮蔽筒体1を介してビデオカメラで撮影したりするようにしてもよい。これにより、電磁遮蔽室2内の気密状態と電磁遮蔽状態とを保ちつつ、電磁遮蔽室2内に配置された試料等に光学的な処置を施したり、電磁遮蔽室2内の状態を撮影したりすることが可能になる。
【0057】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明によれば、電磁遮蔽筒体内を伝送する電磁波を減衰させることができるので、この電磁遮蔽筒体を電磁遮蔽空間と非電磁遮蔽空間との境界に設けることにより、開放状態の開口部を備えると共に電磁波を減衰させることができる。
【0058】
請求項2に記載の発明によれば、損失層の厚みを増加させた場合に近似する損失を、前記所定範囲の周波数の電磁波に対し生じさせることができるので、電磁遮蔽筒体内を伝送する電磁波の減衰量を大きくすることができる。
【0059】
請求項3に記載の発明によれば、磁性体層による磁気損失によって、電磁遮蔽筒体内を伝送する電磁波を減衰させることができる。
【0060】
請求項4に記載の発明によれば、誘電損失によって、電磁遮蔽筒体内を伝送する電磁波をさらに減衰させることができる。
【0061】
請求項5に記載の発明によれば、電磁遮蔽筒体内を伝送する電磁波の減衰量をより大きくすることができる。
【0062】
請求項6に記載の発明によれば、磁性体層と抵抗層との間に非磁性体層を設けることにより、その損失層の複素透磁率を、その損失層の厚さが所定範囲の周波数の電磁波に対して物理長よりも増大された所定の電気長になるように調整することができる。
【0063】
請求項7に記載の発明によれば、電磁遮蔽筒体の内壁面を平らにすることができるので、電磁遮蔽筒体内を物流に好適な形状にすることができる。
【0064】
請求項8に記載の発明によれば、電磁遮蔽空間との間の境界に設けられた通路を伝送する電磁波を減衰させることができる。
【0065】
請求項9に記載の発明によれば、電磁遮蔽室の内外をつなぐ通路を伝送する電磁波を減衰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る電磁遮蔽筒体を備えた電磁遮蔽室を示す外観斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る電磁遮蔽筒体の詳細を説明するための断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る磁性体層の構成の一例を示す図である。
【図4】導波管内の電界分布を説明するための図である。
【図5】図2に示す電磁遮蔽筒体の作用を説明するための図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る電磁遮蔽筒体の詳細を説明するための断面図である。
【図7】図2に示す電磁遮蔽筒体1において、透過減衰量の測定を行うための実験装置を示す図である。
【図8】図7に示す実験装置によって測定した透過減衰量の測定値を示すグラフである。
【図9】本発明の一実施形態に係る電磁遮蔽筒体を用いた搬送装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 電磁遮蔽筒体
2 電磁遮蔽室
3 導波管
4 磁性体層
5 抵抗層
6 電界
7 非磁性体層
8 ベルトコンベア
11,12 開口部
41 微粒子(磁性体微粒子)
42 バインダー(絶縁体)
Claims (9)
- 両端が開口された導波管からなる電磁遮蔽筒体であって、前記導波管は、その導波管の内面に、その導波管のサイズから規定される遮断周波数より高い所定範囲の周波数の電磁波に対し、損失を生じさせる損失層を備えることを特徴とする電磁遮蔽筒体。
- 前記損失層は、前記所定範囲の周波数の電磁波に対し、その損失層の厚さをさらに所定の電気長にするべく複素透磁率を有するものであることを特徴とする請求項1記載の電磁遮蔽筒体。
- 前記損失層は、所定の厚さを有する磁性体層を備え、その磁性体層の磁気損失によって前記所定範囲の周波数の電磁波に損失を生じさせるものであることを特徴とする請求項1又は2記載の電磁遮蔽筒体。
- 前記磁性体層は、磁性体微粒子が絶縁体中に分散されてなる誘電体であり、その磁性体層の誘電損失によって前記所定範囲の周波数の電磁波にさらに損失を生じさせるものであることを特徴とする請求項3記載の電磁遮蔽筒体。
- 前記損失層は、前記磁性体層の内面に抵抗層を備え、その抵抗層の抵抗損失によって、前記所定範囲の周波数の電磁波にさらに損失を生じさせるものであることを特徴とする請求項3又は4記載の電磁遮蔽筒体。
- 前記損失層は、前記磁性体層と前記抵抗層との間に非磁性体層を備えることにより、その損失層の複素透磁率が前記所定範囲の周波数の電磁波に対してその損失層の厚さをさらに所定の電気長にさせる値にされるものであることを特徴とする請求項5記載の電磁遮蔽筒体。
- 前記導波管は、矩形導波管であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電磁遮蔽筒体。
- 電磁遮蔽空間との間の境界に設けられ、通路として用いられることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電磁遮蔽筒体。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の電磁遮蔽筒体を通路として備えることを特徴とする電磁遮蔽室。
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