JP2004219140A - 質量スペクトルの解析方法およびコンピュータプログラム - Google Patents
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Abstract
【課題】合成高分子などに適した質量スペクトルの解析方法を提供する。
【解決手段】解析の対象となる質量スペクトルの質量数の範囲を選択する過程;選択された範囲に含まれる各ピークの強度を、その範囲においてピークが存在しないはずの質量数の強度に基づいて補正するベースライン補正の過程;ベースライン補正されたスペクトル全体の質量数範囲について、その範囲よりも小さな一定の質量数の間隔で分割して、その分割された各範囲における質量数と強度とをそれぞれ1つの代表値に変換する分別の過程;および分別された各範囲における強度の代表値を用いて、全体の質量数分布を規格化する過程;を含む質量スペクトルの解析方法である。
【選択図】 図2
【解決手段】解析の対象となる質量スペクトルの質量数の範囲を選択する過程;選択された範囲に含まれる各ピークの強度を、その範囲においてピークが存在しないはずの質量数の強度に基づいて補正するベースライン補正の過程;ベースライン補正されたスペクトル全体の質量数範囲について、その範囲よりも小さな一定の質量数の間隔で分割して、その分割された各範囲における質量数と強度とをそれぞれ1つの代表値に変換する分別の過程;および分別された各範囲における強度の代表値を用いて、全体の質量数分布を規格化する過程;を含む質量スペクトルの解析方法である。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、質量スペクトルデータの解析方法およびそれを実行するコンピュータ用のプログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、質量スペクトルの測定方法の改良が進み、質量数で100000amu(amuは原子質量単位)程度以上の測定も可能となっている(例えば、非特許文献1参照)。この測定では、特にタンパク質などの生体高分子(集合体などの高次構造体を含む)への適用が進んでいる。これは、生体高分子の質量数(分子量)の分布が狭い(特に酵素などの場合、ただし、構成元素の同位体の存在などにより、完全な単分散ではない)ために、また、例えば酵素ではDNAの情報からも分子量の予測が可能であるために、生体高分子の同定や解析の多くが、質量数の一致または不一致を調べることで完結するためである。
他方、比較的種類の少ない単量体から重合される合成高分子についての適用も進んでおり、多くの合成高分子の測定結果が蓄積されてきている(例えば、非特許文献2参照)。その中には、ビスフェノールAのポリカーボネートへの適用例も含まれる(例えば、非特許文献3参照)。
また、このような質量スペクトルの解析方法としては、多数のピークを扱うために、データ処理にコンピュータ用いるのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特許第2517970号公報。
【非特許文献1】
田中耕一,「マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法」,ぶんせき,1996年,第4号,pp.253−261。
【非特許文献2】
佐藤浩昭 他,「マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法による合成高分子の分析」,ぶんせき,2001年,第9号,pp.467−473。
【非特許文献3】
C.Puglisi他,「Analysis of Poly(bisphenol A carbonate) by Size Exclusion Chromatography/Matrix−assisted Laser Desorption/Ionization.1.End Group and Molar Mass Determination」,Rapid Commun.Mass Spectrom.,1999年,第13巻,pp.2260−2267。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
合成高分子は、一般に生体高分子よりも分子量の分布が広く、質量スペクトル測定でも多数のピークが現れる。そのため、合成高分子の質量スペクトルの解析では、分子量の分布を正しく扱うことや、分子量の平均値を計算することが重要になる。その計算では、質量スペクトルの測定で得られる各ピークの質量数(分子量)だけでなく、各ピークの強度の値も重要であり、例えば、質量数が正確でも強度が不正確では、正しい平均値を計算することができない。
しかし、一般に、質量スペクトルの測定では、強度値はノイズなどの影響による誤差を含むことが多い。そのために、平均値の計算などでは強度値の補正が必須になる。また、互いに異なる複数種の、広い分布を持つ高分子の質量スペクトルを比較する場合には、各質量スペクトルの全ピークの強度を規格化された相対値にする必要がある。また、測定物質に含まれる構造が互いに異なる複数の系列に分類できる場合に、質量スペクトルに含まれる多数のピークをそれらの系列に分類し、集計できることが望ましい。
これらのように、合成高分子に代表される分子量分布の広い測定対象に適したデータ処理が可能な、汎用で定型化された、質量スペクトルの解析方法が必要と考えられる。
【0005】
【課題を解決するための手段】
発明者は、上記の課題を解決するために、分子量分布の広い質量スペクトルの解析方法を検討して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、次の過程を含む質量スペクトルの解析方法である。
(a):解析の対象となる質量スペクトルの質量数の範囲を選択する過程、
(b):過程(a)で選択された範囲に含まれる各ピークの強度を、その範囲においてピークが存在しないはずの質量数の強度に基づいて補正するベースライン補正の過程、
(c):過程(b)でベースライン補正されたスペクトル全体の質量数範囲について、その範囲よりも小さな一定の質量数の間隔で分割して、その分割された各範囲における質量数と強度とをそれぞれ1つの代表値に変換する分別の過程、
(d):過程(c)で分別された各範囲における強度の代表値を用いて、全体の質量数分布を規格化する過程。
【0006】
本発明の解析方法では、過程(a)によって任意に選択された範囲の質量スペクトルについて、過程(b)でベースラインを補正し、その後、過程(c)で適当な間隔に分割して、各範囲における質量数と強度とをそれぞれ1つの代表値に変換する。過程(c)で得られた分割された各範囲の代表値を用いて、過程(d)で、全体の質量数分布を規格化する。過程(a)〜過程(d)を経て得られた解析結果は、全体の質量数分布が規格化されているので、同様に分割及び規格化された他の試料の解析結果と、互いの分布を容易に比較することができる。分子量分布が広いという特徴を有する合成高分子は、分子量分布を正確に知るのが困難であるが、本発明の解析方法によれば、合成高分子の分子量分布を迅速かつ簡易に知ることができ、しかも他の試料との比較が容易であるので、合成高分子の研究開発および生産管理に大きく寄与する。
【0007】
本発明の一態様では、高分子の質量スペクトルを対象とし、過程(c)における分割の間隔を前記高分子の繰り返し単位の1.0倍以上として代表値に変換することで分別し、その分割した各範囲の代表値を過程(d)で規格化することにより、質量スペクトルを粗視化することができ、分子量分布などをより迅速に知ることができる。
また、本発明の他の態様では、高分子の質量スペクトルを対象とし、過程(c)における分割の間隔を質量数で1以上として代表値に変換することで分別し、その分割した各範囲の代表値を過程(d)で規格化することで、データ量を低減することができ、より迅速な解析が可能となる。
【0008】
また、本発明の他の態様は、前記過程(b)、過程(c)および過程(d)のいずれかの処理結果を用いて、質量数の平均値を計算する過程(e)を含む質量スペクトルの解析方法である。
本態様の解析方法では、少なくともベースラインが補正された質量スペクトルの各ピークの強度を用いて平均値が計算されているので、正確な平均値が得られる。
【0009】
また、本発明の他の態様は、測定対象が、互いに異なる複数の系列に分類可能な構造を含む化合物であって、前記過程(b)、過程(c)および過程(d)のいずれかの処理結果を用いて、多数のピークを前記各系列のピーク群に分類し、各ピーク群について集計して、各系列の分率を求める帰属の過程(f)を含む質量スペクトルの解析方法である。
本態様の解析方法では、少なくともベースラインが補正された質量スペクトルの各ピークの強度を用いて各系列の分率を求めているので、正確な分率を求めることが可能になる。
【0010】
また、本発明の解析方法は、解析の対象がマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)を用いた質量スペクトル測定装置で得られる質量スペクトルの解析に適用することができる。
本発明の解析方法は、質量数の範囲を選択する過程(a)を含んでいるので、マトリックス由来のピークが含まれるMALDIによって得られた質量スペクトルについても、マトリックス由来のピークが出現した範囲を除外して選択すれば、測定対象試料について正確な分析が可能となる。
【0011】
また、本発明は、本発明の解析方法を実行するコンピュータのプログラムに関する。なお、本明細書において、「コンピュータプログラム」は、コンピュータ内のハードディスク装置等の補助記録装置に格納された態様であっても、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の可搬性の記録媒体に格納された態様であってもよい。また、通信手段を介してコンピュータにダウンロード可能な態様であってもよい。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
図1に本発明の解析方法を実行可能な解析装置の一実施形態を示す。図1の解析装置は、質量スペクトル測定装置11と、質量スペクトル測定装置11で検出したデータを収集し解析するCPU(計算機本体)12と、その結果を表示する表示装置13と、各過程の実行に必要な条件を入力するための入力装置14とを含む。CPU12は、以下に説明するプログラム1および2を、ハードディスク、またはCD−ROM等の記録媒体から読み込むことによって、本発明の解析方法を実行する。
【0013】
質量測定装置11の種類について特に制限はないが、測定対象が高分子試料である場合は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)を用いた質量スペクトル測定装置を用いることができる。
【0014】
図2に、本発明における解析の流れを模式的に示す。
質量スペクトル測定装置11によって検出されたデータは、質量スペクトルの複数のピークの組、すなわち質量数(m)と強度(a)の複数の組(m1,a1)、(m2,a2).....(mn,an)からなる。質量数は、通常、質量数既知の標準試料で他の物理量と関連付けられている。そこで、例えば飛行時間法の質量スペクトル測定装置では、予め飛行時間から各ピークの分子量を計算し、分子量と強度との複数の組にしてから、以下の解析に用いることができる。
【0015】
解析者は、入力装置14により解析の対象とする範囲を入力し、CPU12は入力装置14からの入力値に基づいて、データの解析対象範囲を選択する(過程(a))。例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法では、マトリックス成分(イオン化を容易にする追加成分であり、測定対象ではない)のピークが含まれる範囲を除いて、解析したい範囲を選ぶことができる。また、対象試料のピークが存在しない質量数の領域を含めて測定している場合に、その領域を除いて範囲を選ぶことや、ピークが存在している領域の一部の範囲のみを選ぶことなども可能である。
【0016】
次に、選択された範囲をベースライン補正することで、その範囲に含まれる各ピークの強度を適正な値に補正する(過程(b))。質量スペクトルの強度は、主に、ノイズなどの影響で、正しい値よりも大きな値になっているので、ベースライン補正の過程を経ることで、解析の精度を向上させることができる。ベースラインの補正は、その範囲においてピークが存在しないはずの質量数の強度(以下、「ベースライン補正用強度」という場合がある)に基づいて行う。具体的には、まず、高い強度のピークが存在すると期待される質量数の領域に対して充分に大きな質量数の領域(例えば、5000amu程度に最大のピークがある場合における50000amu付近の領域)では、強度は充分に小さくなると期待されるため、その領域の強度が0でない場合には、その強度をベースライン補正用強度とし、この値が0になるように補正する。次に、質量スペクトル測定では、本来、多数のピークは個別の離散値であるため、例えば、解析の対象が単一または複数の明らかな繰り返し単位を有する高分子であれば、その繰り返し単位の周期以外の範囲にはピークは存在せず、強度は0になるはずである。従って、前記繰り返し単位の周期以外の範囲において測定された強度が0でない場合には、その強度をベースライン補正用強度とし、この値が0になるように補正する。ベースライン補正用強度として用いる値は、解析者が表示装置13に表示された質量スペクトルを観察しながら入力装置14から入力することができる。CPU12は、指定されたピークの強度をベースライン補正用強度として、上記の方法でベースラインを補正する。
【0017】
この補正の過程については、実際の計算方法における自由度が高いため、例えば、その補正の必要性の程度に応じて、全範囲における単純な1本の線分、適当な領域ごとの複数の線分(折れ線)、全範囲における1本の曲線、適当な領域ごとの複数の曲線などでノイズ相当分を差し引けばよい(曲線の場合、正確にはベースラインではなく、ベースカーブと呼ぶことが望ましい)。ただし、ノイズはその平均値に対して大きいものと小さいものを含むため、補正に際して、全範囲または各領域の端点の強度(補正の基準点になる)を計算する場合、その端点付近の複数(例えば10点など)の強度値を用いて平均化することが望ましい。また、同位体の影響(一般に同位体の質量数の多項分布になる)により、大きな質量数の場合ほど、粗く見たピーク(微細に見ると質量数の近い多数のピークの集合)が広がる点に注意が必要である。
【0018】
次に、ベースライン補正されたスペクトル全体の質量数範囲について、その範囲よりも小さな一定の質量数ΔMの間隔で分割し、その分割された各範囲における質量数と強度とをそれぞれ1つの代表値に変換する(過程(c))。分割の質量数間隔ΔMについては、特に制限はなく、過程(a)で指定された範囲よりも小さい一定の質量数であればよい(例えば、全体の範囲が1000〜20000amuの場合に、5amuの間隔で分割することができる)。これにより、質量スペクトルのデータ量を小さくして、扱い易く、また、質量スペクトル全体を認識し易くすることが可能になる。ΔMは、解析者が解析の目的に応じて、あらかじめ設定し、または表示装置13に表示された質量スペクトルを観察しながら、入力することができる。CPU12は、入力されたΔMの間隔で分割し、その分割された各範囲における質量数と強度とをそれぞれ1つの代表値に変換する。代表値への変換は、全体の分布をほぼ正確に反映させる必要がある。具体的には、全体の質量数の範囲をMS〜ME、質量数の分割の間隔をΔM、各ピークの質量数をmi、強度をai(aiには過程(b)の補正結果を用いる)とすると、例えば以下の各範囲における代表の質量数Mjと、各範囲における代表の強度Ajとに変換することができる。
各範囲における代表の質量数Mj=MS+(j+0.5)ΔM
各範囲における代表の強度Aj=Σai
ここでj=0〜n−1、jは整数、nは分割数であり、n=(ME−MS)/ΔMである。Σは分割した各範囲内でのiについての総和を表す。
ただし、ベースラインの選び方によっては、代表の強度が小さな負の値になることがあり、その場合には代表の強度の値を0としてもよい。また、代表の強度が大きな負の値になる場合はベースラインの選び方を変更するべきである。
【0019】
分割の質量数間隔ΔMの値は、解析の目的に応じて決定することができる。例えば、分子量分布の全体像を把握する場合や、さらに複数の試料の分布を相互に比較する場合には、ΔMは、繰り返し単位の質量数の1.0倍以上が好ましく、より好ましくは約2.0倍以上である。これにより、細かいピークの凹凸を無視して粗視化することが可能になる。また、分割の間隔の上限については特に制限は無いが、分布を認識することが目的であれば、解析の対象とする範囲の半分以下(2つ以上に分別)とするのが妥当である。他方、単にデータ量を低減して扱いやすくする場合には、分割の間隔を質量数で1以上(例えば5)などとすればよい。
【0020】
次に、分別された各範囲における強度の代表値を用いて、全体の質量数分布を規格化する(過程(d))。過程(b)の補正結果を用いても規格化できるが、ピーク間隔が不均一であり、一般的には他の測定結果との比較が困難になる。過程(c)で得られた代表値を用いて規格化することで、例えば互いに異なる複数種の高分子の質量スペクトルを、規格化された相対強度を用いて比較することが可能になる。例えば、解析者の入力装置14からの指示に応じて、CPU12は前記過程で得られた各範囲の代表値を用いて規格化を実行する。具体的には、積分強度を1とする場合、各範囲における代表の強度をAjとすると、規格化された各範囲における代表の強度A’jは以下の式で求められる。
規格化された各範囲における代表の強度A’j=Aj/(ΔMΣAj)
ここで、Σはjについての総和を表す。また、得られたA’jはモル分率に相当する。
【0021】
図2に示した様に、試料の質量数の平均値を計算することができる(過程(e))。図2では、過程(d)の結果を用いて質量数の平均値を計算しているが、過程(b)または過程(c)の結果を用いて計算してもよい。これらの値を利用して、通常知られているような質量数(分子量)の平均値(数平均、重量平均、Z平均など)を計算することができる。例えば、解析者の入力装置14からの指示に応じて、CPU12は前記過程(b)、(c)および(d)のいずれかの結果を用いて、試料の質量数の平均値を計算する。具体的な計算式は、過程(b)の解析結果を用いる場合には、各ピークの質量数miと強度aiとすると、数平均の質量数Mn、重量平均の質量数MwおよびZ平均の質量数Mzはそれぞれ、以下の式で求められる。
数平均の質量数Mn=Σaimi/Σai
重量平均の質量数Mw=Σaimi 2/Σaimi
Z平均の質量数Mz=Σaimi 3/Σaimi 2
但し、Σはiについての総和を表す。
【0022】
また、過程(c)の解析結果を用いる場合には、miとaiの代わりに、各範囲における代表の質量数Mjと各範囲における代表の強度Ajを用い(Σはjについての総和を表す)、過程(d)の解析結果を用いる場合には、同様に、Mjと規格化された代表の強度A’jを用いて、それぞれ計算することができる。ここで、分割の間隔が全範囲に比較して小さければ、過程(b)、過程(c)および過程(d)のいずれの解析結果を用いてもほぼ同じ平均値となるが、分割の範囲が大きすぎると平均値は不正確になるので、そのような場合は、過程(b)で得られた結果に基づいて算出するのが好ましい。
【0023】
また、図2に示したように、測定対象物質が、互いに異なる構造の複数の系列に分類できる場合は、過程(b)、(c)および(d)の結果に対して、多数のピークを各系列のピーク群に分類し、各ピーク群について集計して、各系列の分率を求めることができる(過程(f))。この過程(f)により、例えば、異なる2種以上のモノマーの共重合体が試料である場合は、共重合組成の解析が可能である。また、ポリカーボネート等の末端構造が多様である高分子試料については、末端構造や分岐構造についての解析も可能となる。
【0024】
この過程(f)についても、実際の計算方法における自由度が高いため、種々の方法が考えられる。例えば、1つの系列に帰属される最大ピークの位置(同位体の存在確率を考慮した平均値(通常の原子量)で計算される質量数において、ほぼ最大のピークになる)は、繰り返し単位の数が互いに異なる等差級数であり、等差級数の初項と公差で規定できる。図2に示した解析の流れでは、解析者が、予測される構造から等差級数の初項と公差とを算出し、これらの値を入力装置14から入力、または測定データとは別の数値ファイルで入力する。入力されたこれらの値に基づいて、CPU12は、多数のピークを各系列のピーク群に分類し、各ピーク群について集計して、各系列の分率を求める。また、質量スペクトルのピーク位置には、その前後に広がりがあるので、その広がりに対応する許容範囲に含まれる全てのピークをその構造に一致すると判定して、集計するのが好ましく、図2では、等差級数の初項と公差とともに、許容範囲を指定する場合を示している。
【0025】
以上の解析は、コンピュータ用の単独または複数の解析プログラムを作成して半自動化(範囲の選択などは解析担当者が途中で介入してもよい)または全自動化することが望ましく、そのプログラムは、測定装置の一部であるコンピュータ、別のコンピュータのいずれで実行してもよい。また、以上の解析で得られる結果を、さらに別の解析に用いることも可能であり、その場合には、解析結果を電子データで受け渡すことが望ましい。
なお、図2では、上記過程(a)〜(e)を実行するプログラム1とは、別のプログラム2を用いて、過程(f)を実行する流れを示したが、勿論、1つのプログラムによって、過程(a)〜(f)の全てを実行することもできる。
【0026】
また、図2では、過程(e)および過程(f)の結果を表示装置13に表示させているが、いずれの過程においても、表示装置13への表示は可能である。解析者が各過程に必要な条件を予測可能である場合は、それらの値をあらかじめ入力しておき、必要とする解析が終了するまで表示装置13への表示を省略してもよいし、表示装置13上の表示を観察しながら、入力する条件を最適化することもできる。
なお、図1には示さなかったが、プリンタ等の出力装置を接続し、過程(a)〜(f)のいずれの結果も紙等にプリントアウトすることができる。さらに、いずれの過程のデータも数値ファイルとして記憶装置に保存することもできる。
【0027】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
[実施例1]
試料としてビスフェノールAのポリカーボネート(光学グレード)を用い、マトリックス成分としてインドールアクリル酸を加えて、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)を用いた飛行時間型の質量スペクトル測定(TOFMS)装置で質量スペクトルを得た。ここで、予め質量数既知であるインシュリンを用いて装置を校正した。
【0028】
得られた未加工の元データを図3に示す。図3中、横軸はイオンの質量数mと電荷数zの比を示し、縦軸はカウント数(強度に相当)を示す。m/zが約1000以下の領域に現れている多数の大きなピークはマトリックス成分由来のものであり、m/zが約1000以上の領域に現れている多数の極めて小さなピークがポリカーボネート由来のものである。ここで、ポリカーボネート分子のほとんどが1価のイオンになっている(z=1)と仮定して、m/zは質量数(電荷を無視すれば分子量)mと一致する(以降の図ではmとする)。
【0029】
このデータを測定装置に付属のコンピュータから電子データで取り出し、BASIC言語(富士通ミドルウェア(株)製)で作成した専用の解析プログラム(プログラム1)を用いて、別のパーソナルコンピューターで以下の解析を行った。すなわち、元データに対して、質量数の範囲を1300〜33000と選択し(図4)、さらに質量数が1300、1740、2230、2990、4770、6550、9840、13640、16170、25020、29810、33000の各点の強度が0となるように各点を順に結ぶ折れ線でベースラインを補正し(図5)、続けて、間隔5で分別し(図6)、全体の積分強度が1となるように規格化した(図7、縦軸は規格化された強度)。ここで、図6と図7は縦軸の値が変化しただけである。また、この結果に対して、数平均、重量平均、Z平均の質量数(分子量)は、順に、10800、13900、17000と計算された(ナトリウムイオン分は差し引いていない)。さらに、他の測定分との比較が容易であるように、間隔500で分別、規格化した(図8、縦軸は規格化された強度、間隔が大きくなったために図7よりも縦軸の目盛りが小さくなる)。
【0030】
得られた結果(図7に相当)を用いて、ピークの微細構造(その一部を図9に示す、横軸の範囲はポリカーボネートの繰り返し単位である254.3の3倍分とした)を系統的に調べ、用いたポリカーボネートの合成方法を考慮して、各ピークとポリカーボネート分子の末端構造との対応付けを試みた。その結果、2種の片末端構造(水酸基とフェニル基の2種、ただし、後記の計算との関連で、繰り返し構造以外の部分構造として扱う場合は、水酸基の代わりに−C6H4C(CH3)2C6H4OHを用いることや、フェニル基の代わりにC6H5OCOO−を用いることもある)の組み合わせ(両末端では、水酸基と水酸基、水酸基とフェニル基、フェニル基とフェニル基、の3種)に対応し、それぞれの構造にナトリウムイオン(この測定では添加していないが、別の測定時に混入していた装置由来の不純物)が付加されたイオンで説明できることが分かった。ここで、部分構造−C6H4C(CH3)2C6H4−をBP、−C6H4C(CH3)2C6H4OCOO−をBPCと略記すると、図9において、ピーク1は「HO(BPC)n(BP)OH+Na+」(ここではn=27〜29)、ピーク2は「HO(BPC)nC6H5+Na+」(同n=28〜30)、ピーク3は「C6H5OCOO(BPC)nC6H5+Na+」(同n=27〜29)の各構造になる。
【0031】
さらに、規格化を行ったデータ(図7に相当)に対して、別の解析プログラム(プログラム2)を用いて、各構造のモル分率を求める解析を行った。まず、各構造のピーク群を、それらの最大のピーク位置を与える質量数について等差級数で表現する(nは正の整数)と、構造1:「HO(BPC)n(BP)OH+Na+」は式「254.3n+251.3」、構造2:「HO(BPC)nC6H5+Na+」は式「254.3n+126.1」、構造3:「C6H5OCOO(BPC)nC6H5+Na+」は式「254.3n+246.2」になる。ここで、構造1と構造3は分離が困難なので、まとめて式「254.3n+250」で扱うことにして、次に、この式と構造2の式とに含まれる公差と各初項を解析用のパラメータに用い、さらに、最大のピーク位置の前後の許容範囲を60として、プログラム2で、各構造に一致する各ピークの強度を集計し、相対値にして、各構造の比率を得た。これより、両末端についてのモル分率は、構造1と構造3の合計が0.73、構造2が0.27、となった。さらに、これらの値から連立方程式を立てることで、片末端のモル分率はフェニル基が0.84、水酸基が0.16と計算され、逆に、構造1のモル分率が0.03、構造3のモル分率が0.70と計算で分離できた。ただし、これらの計算では、両方の末端構造が独立して形成され、単に確率論的な計算が適用できると仮定した。
【0032】
以上のように、本発明の解析方法によれば、合成高分子の分子量分布と分子構造(ここでは末端構造)の解析を迅速且つ簡易に行うことができた。
【0033】
[実施例2]
実施例1の測定結果(図10中丸記号)と、他のポリカーボネート(低分子量グレード)の測定結果(図10中三角記号)とを、それぞれ、質量数の範囲を選択し、ベースラインを補正し、分別して、規格化した。得られた2種の結果の比較は容易であった。
【0034】
[比較例1]
実施例1の測定結果を用い、質量数の範囲を選択しただけ(図4に相当)で、平均の質量数(分子量)を計算した。数平均は15200、重量平均は20400、Z平均は23700であり、ベースラインの補正をしていないために各平均値はいずれも過大評価になった。
[比較例2]
実施例1の測定結果と、他のポリカーボネート(低分子量グレード)の測定結果とを、それぞれ、質量数の範囲を選択し、ベースラインを補正し、分別した(実施例1の測定結果を用いた分については図6に相当)。得られた2種の結果を比較したが、規格化していないため、実施例2の場合よりも比較が困難であった。
【0035】
【発明の効果】
本発明の質量スペクトルの解析方法は、酵素などの生体高分子に比較して分子量分布が広く、繰り返し単位が明らかな合成高分子などに適したデータ処理方法であり、分子量分布、平均値、構造の異なる複数の系列の各分率、などを正しく得ることが可能で、合成高分子などの研究開発や生産管理に大きく寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の質量スペクトルの解析方法を実行可能な解析装置の一実施形態である。
【図2】質量スペクトルの解析手順の例(2つのプログラムとした例)を示す模式図である。
【図3】実施例1で得られたポリカーボネートの質量スペクトル(元データ)である。
【図4】実施例1で得られたポリカーボネートの質量スペクトル(範囲を選択したデータ)である。
【図5】実施例1で得られたポリカーボネートの質量スペクトル(さらにベースラインを補正したデータ)である。
【図6】実施例1で得られたポリカーボネートの質量スペクトル(さらに分別したデータ、間隔5)である。
【図7】実施例1で得られたポリカーボネートの質量スペクトル(さらに規格化したデータ、分別の間隔は5)である。
【図8】実施例1で得られたポリカーボネートの質量スペクトル(さらに規格化したデータ、分別の間隔は500)である。
【図9】実施例1で得られたポリカーボネートの質量スペクトル(図7の一部の拡大、繰り返し単位の3倍分)である。
【図10】実施例1と2でそれぞれ得られたポリカーボネートの質量スペクトル(2種のグレードの規格化したデータによる比較、分別の間隔は500)である。
【符号の説明】
11 質量スペクトル測定装置
12 CPU(計算機本体)
13 表示装置
14 入力装置
【発明の属する技術分野】
本発明は、質量スペクトルデータの解析方法およびそれを実行するコンピュータ用のプログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、質量スペクトルの測定方法の改良が進み、質量数で100000amu(amuは原子質量単位)程度以上の測定も可能となっている(例えば、非特許文献1参照)。この測定では、特にタンパク質などの生体高分子(集合体などの高次構造体を含む)への適用が進んでいる。これは、生体高分子の質量数(分子量)の分布が狭い(特に酵素などの場合、ただし、構成元素の同位体の存在などにより、完全な単分散ではない)ために、また、例えば酵素ではDNAの情報からも分子量の予測が可能であるために、生体高分子の同定や解析の多くが、質量数の一致または不一致を調べることで完結するためである。
他方、比較的種類の少ない単量体から重合される合成高分子についての適用も進んでおり、多くの合成高分子の測定結果が蓄積されてきている(例えば、非特許文献2参照)。その中には、ビスフェノールAのポリカーボネートへの適用例も含まれる(例えば、非特許文献3参照)。
また、このような質量スペクトルの解析方法としては、多数のピークを扱うために、データ処理にコンピュータ用いるのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特許第2517970号公報。
【非特許文献1】
田中耕一,「マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法」,ぶんせき,1996年,第4号,pp.253−261。
【非特許文献2】
佐藤浩昭 他,「マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法による合成高分子の分析」,ぶんせき,2001年,第9号,pp.467−473。
【非特許文献3】
C.Puglisi他,「Analysis of Poly(bisphenol A carbonate) by Size Exclusion Chromatography/Matrix−assisted Laser Desorption/Ionization.1.End Group and Molar Mass Determination」,Rapid Commun.Mass Spectrom.,1999年,第13巻,pp.2260−2267。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
合成高分子は、一般に生体高分子よりも分子量の分布が広く、質量スペクトル測定でも多数のピークが現れる。そのため、合成高分子の質量スペクトルの解析では、分子量の分布を正しく扱うことや、分子量の平均値を計算することが重要になる。その計算では、質量スペクトルの測定で得られる各ピークの質量数(分子量)だけでなく、各ピークの強度の値も重要であり、例えば、質量数が正確でも強度が不正確では、正しい平均値を計算することができない。
しかし、一般に、質量スペクトルの測定では、強度値はノイズなどの影響による誤差を含むことが多い。そのために、平均値の計算などでは強度値の補正が必須になる。また、互いに異なる複数種の、広い分布を持つ高分子の質量スペクトルを比較する場合には、各質量スペクトルの全ピークの強度を規格化された相対値にする必要がある。また、測定物質に含まれる構造が互いに異なる複数の系列に分類できる場合に、質量スペクトルに含まれる多数のピークをそれらの系列に分類し、集計できることが望ましい。
これらのように、合成高分子に代表される分子量分布の広い測定対象に適したデータ処理が可能な、汎用で定型化された、質量スペクトルの解析方法が必要と考えられる。
【0005】
【課題を解決するための手段】
発明者は、上記の課題を解決するために、分子量分布の広い質量スペクトルの解析方法を検討して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、次の過程を含む質量スペクトルの解析方法である。
(a):解析の対象となる質量スペクトルの質量数の範囲を選択する過程、
(b):過程(a)で選択された範囲に含まれる各ピークの強度を、その範囲においてピークが存在しないはずの質量数の強度に基づいて補正するベースライン補正の過程、
(c):過程(b)でベースライン補正されたスペクトル全体の質量数範囲について、その範囲よりも小さな一定の質量数の間隔で分割して、その分割された各範囲における質量数と強度とをそれぞれ1つの代表値に変換する分別の過程、
(d):過程(c)で分別された各範囲における強度の代表値を用いて、全体の質量数分布を規格化する過程。
【0006】
本発明の解析方法では、過程(a)によって任意に選択された範囲の質量スペクトルについて、過程(b)でベースラインを補正し、その後、過程(c)で適当な間隔に分割して、各範囲における質量数と強度とをそれぞれ1つの代表値に変換する。過程(c)で得られた分割された各範囲の代表値を用いて、過程(d)で、全体の質量数分布を規格化する。過程(a)〜過程(d)を経て得られた解析結果は、全体の質量数分布が規格化されているので、同様に分割及び規格化された他の試料の解析結果と、互いの分布を容易に比較することができる。分子量分布が広いという特徴を有する合成高分子は、分子量分布を正確に知るのが困難であるが、本発明の解析方法によれば、合成高分子の分子量分布を迅速かつ簡易に知ることができ、しかも他の試料との比較が容易であるので、合成高分子の研究開発および生産管理に大きく寄与する。
【0007】
本発明の一態様では、高分子の質量スペクトルを対象とし、過程(c)における分割の間隔を前記高分子の繰り返し単位の1.0倍以上として代表値に変換することで分別し、その分割した各範囲の代表値を過程(d)で規格化することにより、質量スペクトルを粗視化することができ、分子量分布などをより迅速に知ることができる。
また、本発明の他の態様では、高分子の質量スペクトルを対象とし、過程(c)における分割の間隔を質量数で1以上として代表値に変換することで分別し、その分割した各範囲の代表値を過程(d)で規格化することで、データ量を低減することができ、より迅速な解析が可能となる。
【0008】
また、本発明の他の態様は、前記過程(b)、過程(c)および過程(d)のいずれかの処理結果を用いて、質量数の平均値を計算する過程(e)を含む質量スペクトルの解析方法である。
本態様の解析方法では、少なくともベースラインが補正された質量スペクトルの各ピークの強度を用いて平均値が計算されているので、正確な平均値が得られる。
【0009】
また、本発明の他の態様は、測定対象が、互いに異なる複数の系列に分類可能な構造を含む化合物であって、前記過程(b)、過程(c)および過程(d)のいずれかの処理結果を用いて、多数のピークを前記各系列のピーク群に分類し、各ピーク群について集計して、各系列の分率を求める帰属の過程(f)を含む質量スペクトルの解析方法である。
本態様の解析方法では、少なくともベースラインが補正された質量スペクトルの各ピークの強度を用いて各系列の分率を求めているので、正確な分率を求めることが可能になる。
【0010】
また、本発明の解析方法は、解析の対象がマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)を用いた質量スペクトル測定装置で得られる質量スペクトルの解析に適用することができる。
本発明の解析方法は、質量数の範囲を選択する過程(a)を含んでいるので、マトリックス由来のピークが含まれるMALDIによって得られた質量スペクトルについても、マトリックス由来のピークが出現した範囲を除外して選択すれば、測定対象試料について正確な分析が可能となる。
【0011】
また、本発明は、本発明の解析方法を実行するコンピュータのプログラムに関する。なお、本明細書において、「コンピュータプログラム」は、コンピュータ内のハードディスク装置等の補助記録装置に格納された態様であっても、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の可搬性の記録媒体に格納された態様であってもよい。また、通信手段を介してコンピュータにダウンロード可能な態様であってもよい。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
図1に本発明の解析方法を実行可能な解析装置の一実施形態を示す。図1の解析装置は、質量スペクトル測定装置11と、質量スペクトル測定装置11で検出したデータを収集し解析するCPU(計算機本体)12と、その結果を表示する表示装置13と、各過程の実行に必要な条件を入力するための入力装置14とを含む。CPU12は、以下に説明するプログラム1および2を、ハードディスク、またはCD−ROM等の記録媒体から読み込むことによって、本発明の解析方法を実行する。
【0013】
質量測定装置11の種類について特に制限はないが、測定対象が高分子試料である場合は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)を用いた質量スペクトル測定装置を用いることができる。
【0014】
図2に、本発明における解析の流れを模式的に示す。
質量スペクトル測定装置11によって検出されたデータは、質量スペクトルの複数のピークの組、すなわち質量数(m)と強度(a)の複数の組(m1,a1)、(m2,a2).....(mn,an)からなる。質量数は、通常、質量数既知の標準試料で他の物理量と関連付けられている。そこで、例えば飛行時間法の質量スペクトル測定装置では、予め飛行時間から各ピークの分子量を計算し、分子量と強度との複数の組にしてから、以下の解析に用いることができる。
【0015】
解析者は、入力装置14により解析の対象とする範囲を入力し、CPU12は入力装置14からの入力値に基づいて、データの解析対象範囲を選択する(過程(a))。例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法では、マトリックス成分(イオン化を容易にする追加成分であり、測定対象ではない)のピークが含まれる範囲を除いて、解析したい範囲を選ぶことができる。また、対象試料のピークが存在しない質量数の領域を含めて測定している場合に、その領域を除いて範囲を選ぶことや、ピークが存在している領域の一部の範囲のみを選ぶことなども可能である。
【0016】
次に、選択された範囲をベースライン補正することで、その範囲に含まれる各ピークの強度を適正な値に補正する(過程(b))。質量スペクトルの強度は、主に、ノイズなどの影響で、正しい値よりも大きな値になっているので、ベースライン補正の過程を経ることで、解析の精度を向上させることができる。ベースラインの補正は、その範囲においてピークが存在しないはずの質量数の強度(以下、「ベースライン補正用強度」という場合がある)に基づいて行う。具体的には、まず、高い強度のピークが存在すると期待される質量数の領域に対して充分に大きな質量数の領域(例えば、5000amu程度に最大のピークがある場合における50000amu付近の領域)では、強度は充分に小さくなると期待されるため、その領域の強度が0でない場合には、その強度をベースライン補正用強度とし、この値が0になるように補正する。次に、質量スペクトル測定では、本来、多数のピークは個別の離散値であるため、例えば、解析の対象が単一または複数の明らかな繰り返し単位を有する高分子であれば、その繰り返し単位の周期以外の範囲にはピークは存在せず、強度は0になるはずである。従って、前記繰り返し単位の周期以外の範囲において測定された強度が0でない場合には、その強度をベースライン補正用強度とし、この値が0になるように補正する。ベースライン補正用強度として用いる値は、解析者が表示装置13に表示された質量スペクトルを観察しながら入力装置14から入力することができる。CPU12は、指定されたピークの強度をベースライン補正用強度として、上記の方法でベースラインを補正する。
【0017】
この補正の過程については、実際の計算方法における自由度が高いため、例えば、その補正の必要性の程度に応じて、全範囲における単純な1本の線分、適当な領域ごとの複数の線分(折れ線)、全範囲における1本の曲線、適当な領域ごとの複数の曲線などでノイズ相当分を差し引けばよい(曲線の場合、正確にはベースラインではなく、ベースカーブと呼ぶことが望ましい)。ただし、ノイズはその平均値に対して大きいものと小さいものを含むため、補正に際して、全範囲または各領域の端点の強度(補正の基準点になる)を計算する場合、その端点付近の複数(例えば10点など)の強度値を用いて平均化することが望ましい。また、同位体の影響(一般に同位体の質量数の多項分布になる)により、大きな質量数の場合ほど、粗く見たピーク(微細に見ると質量数の近い多数のピークの集合)が広がる点に注意が必要である。
【0018】
次に、ベースライン補正されたスペクトル全体の質量数範囲について、その範囲よりも小さな一定の質量数ΔMの間隔で分割し、その分割された各範囲における質量数と強度とをそれぞれ1つの代表値に変換する(過程(c))。分割の質量数間隔ΔMについては、特に制限はなく、過程(a)で指定された範囲よりも小さい一定の質量数であればよい(例えば、全体の範囲が1000〜20000amuの場合に、5amuの間隔で分割することができる)。これにより、質量スペクトルのデータ量を小さくして、扱い易く、また、質量スペクトル全体を認識し易くすることが可能になる。ΔMは、解析者が解析の目的に応じて、あらかじめ設定し、または表示装置13に表示された質量スペクトルを観察しながら、入力することができる。CPU12は、入力されたΔMの間隔で分割し、その分割された各範囲における質量数と強度とをそれぞれ1つの代表値に変換する。代表値への変換は、全体の分布をほぼ正確に反映させる必要がある。具体的には、全体の質量数の範囲をMS〜ME、質量数の分割の間隔をΔM、各ピークの質量数をmi、強度をai(aiには過程(b)の補正結果を用いる)とすると、例えば以下の各範囲における代表の質量数Mjと、各範囲における代表の強度Ajとに変換することができる。
各範囲における代表の質量数Mj=MS+(j+0.5)ΔM
各範囲における代表の強度Aj=Σai
ここでj=0〜n−1、jは整数、nは分割数であり、n=(ME−MS)/ΔMである。Σは分割した各範囲内でのiについての総和を表す。
ただし、ベースラインの選び方によっては、代表の強度が小さな負の値になることがあり、その場合には代表の強度の値を0としてもよい。また、代表の強度が大きな負の値になる場合はベースラインの選び方を変更するべきである。
【0019】
分割の質量数間隔ΔMの値は、解析の目的に応じて決定することができる。例えば、分子量分布の全体像を把握する場合や、さらに複数の試料の分布を相互に比較する場合には、ΔMは、繰り返し単位の質量数の1.0倍以上が好ましく、より好ましくは約2.0倍以上である。これにより、細かいピークの凹凸を無視して粗視化することが可能になる。また、分割の間隔の上限については特に制限は無いが、分布を認識することが目的であれば、解析の対象とする範囲の半分以下(2つ以上に分別)とするのが妥当である。他方、単にデータ量を低減して扱いやすくする場合には、分割の間隔を質量数で1以上(例えば5)などとすればよい。
【0020】
次に、分別された各範囲における強度の代表値を用いて、全体の質量数分布を規格化する(過程(d))。過程(b)の補正結果を用いても規格化できるが、ピーク間隔が不均一であり、一般的には他の測定結果との比較が困難になる。過程(c)で得られた代表値を用いて規格化することで、例えば互いに異なる複数種の高分子の質量スペクトルを、規格化された相対強度を用いて比較することが可能になる。例えば、解析者の入力装置14からの指示に応じて、CPU12は前記過程で得られた各範囲の代表値を用いて規格化を実行する。具体的には、積分強度を1とする場合、各範囲における代表の強度をAjとすると、規格化された各範囲における代表の強度A’jは以下の式で求められる。
規格化された各範囲における代表の強度A’j=Aj/(ΔMΣAj)
ここで、Σはjについての総和を表す。また、得られたA’jはモル分率に相当する。
【0021】
図2に示した様に、試料の質量数の平均値を計算することができる(過程(e))。図2では、過程(d)の結果を用いて質量数の平均値を計算しているが、過程(b)または過程(c)の結果を用いて計算してもよい。これらの値を利用して、通常知られているような質量数(分子量)の平均値(数平均、重量平均、Z平均など)を計算することができる。例えば、解析者の入力装置14からの指示に応じて、CPU12は前記過程(b)、(c)および(d)のいずれかの結果を用いて、試料の質量数の平均値を計算する。具体的な計算式は、過程(b)の解析結果を用いる場合には、各ピークの質量数miと強度aiとすると、数平均の質量数Mn、重量平均の質量数MwおよびZ平均の質量数Mzはそれぞれ、以下の式で求められる。
数平均の質量数Mn=Σaimi/Σai
重量平均の質量数Mw=Σaimi 2/Σaimi
Z平均の質量数Mz=Σaimi 3/Σaimi 2
但し、Σはiについての総和を表す。
【0022】
また、過程(c)の解析結果を用いる場合には、miとaiの代わりに、各範囲における代表の質量数Mjと各範囲における代表の強度Ajを用い(Σはjについての総和を表す)、過程(d)の解析結果を用いる場合には、同様に、Mjと規格化された代表の強度A’jを用いて、それぞれ計算することができる。ここで、分割の間隔が全範囲に比較して小さければ、過程(b)、過程(c)および過程(d)のいずれの解析結果を用いてもほぼ同じ平均値となるが、分割の範囲が大きすぎると平均値は不正確になるので、そのような場合は、過程(b)で得られた結果に基づいて算出するのが好ましい。
【0023】
また、図2に示したように、測定対象物質が、互いに異なる構造の複数の系列に分類できる場合は、過程(b)、(c)および(d)の結果に対して、多数のピークを各系列のピーク群に分類し、各ピーク群について集計して、各系列の分率を求めることができる(過程(f))。この過程(f)により、例えば、異なる2種以上のモノマーの共重合体が試料である場合は、共重合組成の解析が可能である。また、ポリカーボネート等の末端構造が多様である高分子試料については、末端構造や分岐構造についての解析も可能となる。
【0024】
この過程(f)についても、実際の計算方法における自由度が高いため、種々の方法が考えられる。例えば、1つの系列に帰属される最大ピークの位置(同位体の存在確率を考慮した平均値(通常の原子量)で計算される質量数において、ほぼ最大のピークになる)は、繰り返し単位の数が互いに異なる等差級数であり、等差級数の初項と公差で規定できる。図2に示した解析の流れでは、解析者が、予測される構造から等差級数の初項と公差とを算出し、これらの値を入力装置14から入力、または測定データとは別の数値ファイルで入力する。入力されたこれらの値に基づいて、CPU12は、多数のピークを各系列のピーク群に分類し、各ピーク群について集計して、各系列の分率を求める。また、質量スペクトルのピーク位置には、その前後に広がりがあるので、その広がりに対応する許容範囲に含まれる全てのピークをその構造に一致すると判定して、集計するのが好ましく、図2では、等差級数の初項と公差とともに、許容範囲を指定する場合を示している。
【0025】
以上の解析は、コンピュータ用の単独または複数の解析プログラムを作成して半自動化(範囲の選択などは解析担当者が途中で介入してもよい)または全自動化することが望ましく、そのプログラムは、測定装置の一部であるコンピュータ、別のコンピュータのいずれで実行してもよい。また、以上の解析で得られる結果を、さらに別の解析に用いることも可能であり、その場合には、解析結果を電子データで受け渡すことが望ましい。
なお、図2では、上記過程(a)〜(e)を実行するプログラム1とは、別のプログラム2を用いて、過程(f)を実行する流れを示したが、勿論、1つのプログラムによって、過程(a)〜(f)の全てを実行することもできる。
【0026】
また、図2では、過程(e)および過程(f)の結果を表示装置13に表示させているが、いずれの過程においても、表示装置13への表示は可能である。解析者が各過程に必要な条件を予測可能である場合は、それらの値をあらかじめ入力しておき、必要とする解析が終了するまで表示装置13への表示を省略してもよいし、表示装置13上の表示を観察しながら、入力する条件を最適化することもできる。
なお、図1には示さなかったが、プリンタ等の出力装置を接続し、過程(a)〜(f)のいずれの結果も紙等にプリントアウトすることができる。さらに、いずれの過程のデータも数値ファイルとして記憶装置に保存することもできる。
【0027】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
[実施例1]
試料としてビスフェノールAのポリカーボネート(光学グレード)を用い、マトリックス成分としてインドールアクリル酸を加えて、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)を用いた飛行時間型の質量スペクトル測定(TOFMS)装置で質量スペクトルを得た。ここで、予め質量数既知であるインシュリンを用いて装置を校正した。
【0028】
得られた未加工の元データを図3に示す。図3中、横軸はイオンの質量数mと電荷数zの比を示し、縦軸はカウント数(強度に相当)を示す。m/zが約1000以下の領域に現れている多数の大きなピークはマトリックス成分由来のものであり、m/zが約1000以上の領域に現れている多数の極めて小さなピークがポリカーボネート由来のものである。ここで、ポリカーボネート分子のほとんどが1価のイオンになっている(z=1)と仮定して、m/zは質量数(電荷を無視すれば分子量)mと一致する(以降の図ではmとする)。
【0029】
このデータを測定装置に付属のコンピュータから電子データで取り出し、BASIC言語(富士通ミドルウェア(株)製)で作成した専用の解析プログラム(プログラム1)を用いて、別のパーソナルコンピューターで以下の解析を行った。すなわち、元データに対して、質量数の範囲を1300〜33000と選択し(図4)、さらに質量数が1300、1740、2230、2990、4770、6550、9840、13640、16170、25020、29810、33000の各点の強度が0となるように各点を順に結ぶ折れ線でベースラインを補正し(図5)、続けて、間隔5で分別し(図6)、全体の積分強度が1となるように規格化した(図7、縦軸は規格化された強度)。ここで、図6と図7は縦軸の値が変化しただけである。また、この結果に対して、数平均、重量平均、Z平均の質量数(分子量)は、順に、10800、13900、17000と計算された(ナトリウムイオン分は差し引いていない)。さらに、他の測定分との比較が容易であるように、間隔500で分別、規格化した(図8、縦軸は規格化された強度、間隔が大きくなったために図7よりも縦軸の目盛りが小さくなる)。
【0030】
得られた結果(図7に相当)を用いて、ピークの微細構造(その一部を図9に示す、横軸の範囲はポリカーボネートの繰り返し単位である254.3の3倍分とした)を系統的に調べ、用いたポリカーボネートの合成方法を考慮して、各ピークとポリカーボネート分子の末端構造との対応付けを試みた。その結果、2種の片末端構造(水酸基とフェニル基の2種、ただし、後記の計算との関連で、繰り返し構造以外の部分構造として扱う場合は、水酸基の代わりに−C6H4C(CH3)2C6H4OHを用いることや、フェニル基の代わりにC6H5OCOO−を用いることもある)の組み合わせ(両末端では、水酸基と水酸基、水酸基とフェニル基、フェニル基とフェニル基、の3種)に対応し、それぞれの構造にナトリウムイオン(この測定では添加していないが、別の測定時に混入していた装置由来の不純物)が付加されたイオンで説明できることが分かった。ここで、部分構造−C6H4C(CH3)2C6H4−をBP、−C6H4C(CH3)2C6H4OCOO−をBPCと略記すると、図9において、ピーク1は「HO(BPC)n(BP)OH+Na+」(ここではn=27〜29)、ピーク2は「HO(BPC)nC6H5+Na+」(同n=28〜30)、ピーク3は「C6H5OCOO(BPC)nC6H5+Na+」(同n=27〜29)の各構造になる。
【0031】
さらに、規格化を行ったデータ(図7に相当)に対して、別の解析プログラム(プログラム2)を用いて、各構造のモル分率を求める解析を行った。まず、各構造のピーク群を、それらの最大のピーク位置を与える質量数について等差級数で表現する(nは正の整数)と、構造1:「HO(BPC)n(BP)OH+Na+」は式「254.3n+251.3」、構造2:「HO(BPC)nC6H5+Na+」は式「254.3n+126.1」、構造3:「C6H5OCOO(BPC)nC6H5+Na+」は式「254.3n+246.2」になる。ここで、構造1と構造3は分離が困難なので、まとめて式「254.3n+250」で扱うことにして、次に、この式と構造2の式とに含まれる公差と各初項を解析用のパラメータに用い、さらに、最大のピーク位置の前後の許容範囲を60として、プログラム2で、各構造に一致する各ピークの強度を集計し、相対値にして、各構造の比率を得た。これより、両末端についてのモル分率は、構造1と構造3の合計が0.73、構造2が0.27、となった。さらに、これらの値から連立方程式を立てることで、片末端のモル分率はフェニル基が0.84、水酸基が0.16と計算され、逆に、構造1のモル分率が0.03、構造3のモル分率が0.70と計算で分離できた。ただし、これらの計算では、両方の末端構造が独立して形成され、単に確率論的な計算が適用できると仮定した。
【0032】
以上のように、本発明の解析方法によれば、合成高分子の分子量分布と分子構造(ここでは末端構造)の解析を迅速且つ簡易に行うことができた。
【0033】
[実施例2]
実施例1の測定結果(図10中丸記号)と、他のポリカーボネート(低分子量グレード)の測定結果(図10中三角記号)とを、それぞれ、質量数の範囲を選択し、ベースラインを補正し、分別して、規格化した。得られた2種の結果の比較は容易であった。
【0034】
[比較例1]
実施例1の測定結果を用い、質量数の範囲を選択しただけ(図4に相当)で、平均の質量数(分子量)を計算した。数平均は15200、重量平均は20400、Z平均は23700であり、ベースラインの補正をしていないために各平均値はいずれも過大評価になった。
[比較例2]
実施例1の測定結果と、他のポリカーボネート(低分子量グレード)の測定結果とを、それぞれ、質量数の範囲を選択し、ベースラインを補正し、分別した(実施例1の測定結果を用いた分については図6に相当)。得られた2種の結果を比較したが、規格化していないため、実施例2の場合よりも比較が困難であった。
【0035】
【発明の効果】
本発明の質量スペクトルの解析方法は、酵素などの生体高分子に比較して分子量分布が広く、繰り返し単位が明らかな合成高分子などに適したデータ処理方法であり、分子量分布、平均値、構造の異なる複数の系列の各分率、などを正しく得ることが可能で、合成高分子などの研究開発や生産管理に大きく寄与することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の質量スペクトルの解析方法を実行可能な解析装置の一実施形態である。
【図2】質量スペクトルの解析手順の例(2つのプログラムとした例)を示す模式図である。
【図3】実施例1で得られたポリカーボネートの質量スペクトル(元データ)である。
【図4】実施例1で得られたポリカーボネートの質量スペクトル(範囲を選択したデータ)である。
【図5】実施例1で得られたポリカーボネートの質量スペクトル(さらにベースラインを補正したデータ)である。
【図6】実施例1で得られたポリカーボネートの質量スペクトル(さらに分別したデータ、間隔5)である。
【図7】実施例1で得られたポリカーボネートの質量スペクトル(さらに規格化したデータ、分別の間隔は5)である。
【図8】実施例1で得られたポリカーボネートの質量スペクトル(さらに規格化したデータ、分別の間隔は500)である。
【図9】実施例1で得られたポリカーボネートの質量スペクトル(図7の一部の拡大、繰り返し単位の3倍分)である。
【図10】実施例1と2でそれぞれ得られたポリカーボネートの質量スペクトル(2種のグレードの規格化したデータによる比較、分別の間隔は500)である。
【符号の説明】
11 質量スペクトル測定装置
12 CPU(計算機本体)
13 表示装置
14 入力装置
Claims (8)
- 以下の過程を含む質量スペクトルの解析方法:
(a):解析の対象となる質量スペクトルの質量数の範囲を選択する過程、
(b):過程(a)で選択された範囲に含まれる各ピークの強度を、その範囲においてピークが存在しないはずの質量数の強度に基づいて補正するベースライン補正の過程、
(c):過程(b)でベースライン補正されたスペクトル全体の質量数範囲について、その範囲よりも小さな一定の質量数の間隔で分割して、その分割された各範囲における質量数と強度とをそれぞれ1つの代表値に変換する分別の過程、
(d):過程(c)で分別された各範囲における強度の代表値を用いて、全体の質量数分布を規格化する過程。 - 請求項1中の過程(b)、過程(c)および過程(d)のいずれかの処理結果を用いて、質量数の平均値を計算する過程(e)を含む質量スペクトルの解析方法。
- 測定対象が、互いに異なる複数の系列に分類可能な構造を含む化合物であって、請求項1中の過程(b)、過程(c)および過程(d)のいずれかの処理結果を用いて、多数のピークを前記各系列のピーク群に分類し、各ピーク群について集計して、各系列の分率を求める帰属の過程(f)を含む質量スペクトルの解析方法。
- 単一または複数の明らかな繰り返し単位を有する高分子の質量スペクトルの解析方法であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の質量スペクトルの解析方法。
- 高分子の質量スペクトルの解析方法であって、過程(c)における分割の間隔を前記高分子の繰り返し単位の1.0倍以上として代表値に変換し、各範囲の代表値を過程(d)で規格化することで質量スペクトルを粗視化することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の質量スペクトルの解析方法。
- 高分子の質量スペクトルの解析方法であって、過程(c)における分割の間隔を質量数で1以上として代表値に変換し、各範囲の代表値を過程(d)で規格化することでデータ量を低減することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の質量スペクトルの解析方法。
- マトリックス支援レーザー脱離イオン化法を用いた質量スペクトル測定装置で得られる質量スペクトルの解析方法であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の質量スペクトルの解析方法。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の解析を行うコンピュータ用のプログラム。
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