JP2004219071A - 織物の風合い予測方法、装置、およびプログラム - Google Patents
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Abstract
【課題】
【解決手段】演算式により定量化した風合い値を教師データとして学習したニューラルネットワークに、織物の組織図における浮き沈みデータ、およびよこ糸密度データを入力データとして入力し、対象織物の風合いを予測する。これにより、企画設計段階の架空の織物についても風合い予測が可能となる。
【選択図】 図2
【解決手段】演算式により定量化した風合い値を教師データとして学習したニューラルネットワークに、織物の組織図における浮き沈みデータ、およびよこ糸密度データを入力データとして入力し、対象織物の風合いを予測する。これにより、企画設計段階の架空の織物についても風合い予測が可能となる。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、織物の風合いを予測するための方法、装置、およびプログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
織物生産においては多品種小ロット化が進み、これに対応するため、設計段階でのデザインシステムの導入や準備機械および織機の革新化などが行われている。しかし、ヌメリ、シャリ等の風合いについては、これらは布に触れたときの触感で官能的なものであるため、要望された風合いを設計段階で知り得ることはできず、熟練者の経験と勘により求めているのが現状である。
【0003】
かかる現状に鑑み、生地の風合いを定量的かつ客観的な測定を簡単に行うことを目的として、特開2001−27636号では、生地の風合いの2つ以上のバンドにおけるスペクトル(生地に光をあてた時の反射光の周波数分布等)をニューラルネットワークに入力することにより、風合いを計算する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】
特開2001−27636号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
反射光のスペクトルは、主として織密度に依拠して変化すると考えられるが、風合いは織密度のみならず、広く織組織の構造的な特徴に左右される。従って、かかるスペクトルに頼るだけでは、風合いの定量化手段としての客観性、正確性に疑問が残る。また、上記開示技術は、生地のスペクトルを計測するもので、既に織り上がった製品の風合いを評価する手段にすぎず、織成前の企画・設計段階において織成後の風合いを予測することは困難である。
【0006】
そこで、本発明は、織成前の段階でも織成後の風合いを精度良く正確に予測することのできる織物の風合い予測方法、装置、およびコンピュータプログラムの提供を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
一般に、人は風合いを見分けるとき、「なでる」、「引張る」、「折り曲げる」、「指で押す」といった動作を行う。従って、風合いは、この人の動作に対応した織物の力学的特性によって定量化することができると考えられ、この観点から、風合い評価における力学的性質の評価値として、次の16項目が以前から使用されている。
【0008】
A.引張特性(図3参照)
引張試験における特性値は以下の3つである。
(1)直線性(LT)
引張りの線形性
LT=WT/(εmFm×102/2)
(2)引張りエネルギ(WT)
単位面積当たりの引張りエネルギー
【数1】
(3)引張りレジリエンスRT
RT=WT’/WT×100(%)
(但し、WT’は回復エネルギー)
【0009】
B.曲げ特性(図4参照)
曲げ試験における特性値は以下の2つである。
(4)布1cm幅当たりの曲げ剛性B
B=曲率が0.5〜1.5cm−1での平均傾斜(単位:N・cm2/cm)×102
(5)布1cm幅当たりの曲げヒステリシス2HB
2HB=曲率が0.5cm−1における幅(単位:N・cm/cm)×102
【0010】
C.せん断特性(図5参照)
(6)布1cm幅当たりのせん断剛性G
G=せん断角0.5〜5度の平均傾斜(単位:N/cm・degree)×102
(7)布1cm幅当たりのせん断ヒステリシス2HG
2HG=せん断角0.5度におけるヒステリシス(単位:N/cm)×102
(8)布1cm幅当たりのせん断ヒステリシス2HG5
2HG5=せん断角5度におけるヒステリシス(単位:N/cm)×102
【0011】
D.圧縮特性(図6参照)
(9)圧縮の直線性LC
LC=WC/{(To−Tm)Pm×102/2}
(10)布1cm2当たりの圧縮エネルギWC
【数2】
(11)圧縮レジリエンスRC
RC=WC’/WC×100(%)
WC’:圧縮回復エネルギー
(12)圧力49Paのときの厚みTo(単位:mm)
【0012】
E.表面特性(図7、図8参照)
(13)平均表面摩擦係数MIU
i)摩擦子の形状と接触面積
0.5φのピアノ線を10本重ねた形状(5mm×5mm)
ii)荷重:0.49N
(14)摩擦係数の平均偏差MMD
MMD=斜線の面積/L
(15)表面粗さ(平均偏差)SMD
SMD=斜線の面積/L(単位:μm)
0.5φのピアノ線を1本により測定
荷重:0.098N
【0013】
F.目付
(16)1cm2面積当たりの重量W(単位:mg/cm2)
【0014】
なお、引張り特性(A)と圧縮特性(C)の試験条件として、図3では最大引張り力Fmを0.49N/cmとし、図6では最大圧力Pmを980Paとしているが、これは布の用途が薄手生地の場合の試験条件(高感度条件)である。厚手布地の場合、最大引張り力Fmは4.9N/cmに、最大圧力Pmは4900Paに設定される。
【0015】
織物の風合い(KOSHI、HARI、NUMERI、FUKURAMI、SHARI、KISHIMIの6種類)についての熟練者による風合い評価値(熟練技術者の官能検査により上記各風合いを0〜10までの11段階で表した数値)と上記各力学的特性[(1)〜(16)]との関係を解析した結果、次式▲1▼により風合い値を定量的に評価できることが判明した。本発明では、次式▲1▼より求めた各値Yを各風合いの数値(風合い値)として使用する。
【0016】
【数3】
【0017】
なお、上記でいう「用途」とは、男用スーツ地や婦人外衣用薄地布などのような布の範疇(カテゴリー)を意味する。例えば、婦人外衣用薄手布地(KN202−LDY)の場合における上記各定数は、図27に示すように定められる。
【0018】
次に、本発明者らは、織物の風合いを種々の角度から検討した結果、織物の風合いは織物規格によっても左右される、との着想得た。そこで、これを実証すべく、規格の異なる綿織物を複数試織し、それらの風合い値を定量的に求めることにより、織物規格と風合いとの関係を検討した。
【0019】
なお、風合いは上記6種類であり、各風合いは、風合い計測システム(カトーテック株式会社製KES−AUTO型)を用い、20cm×20cmサイズに調整した織物3枚について上記(1)〜(16)の力学的特性を測定し、その平均値を上記▲1▼式に代入することにより算出した[▲1▼式の定数は婦人外衣用薄手布地 (KN−202LDY)とした]。
【0020】
風合い計測用の綿織物としては、電子ジャカード付きレピア織機(津田駒工業株式会社製ER型)を用い、図9(a)に示す平、同図(b)に示す綾(2/2)、同図(c)に示す朱子(5枚)、同図(d)に示すオックス (2/2)、同図(e)に示すオックス (3/2)、および同図(f)に示すオックス (4/2)の6組織の綿織物を試織した。なお、図9の各組織図の黒色部は、たて糸が浮いている箇所であり、白色部はよこ糸が浮いている部分を表す。
【0021】
使用した糸は、たて糸およびよこ糸とも、120/2Sの綿糸である。織密度は、たて糸はすべての組織で120本/インチ、よこ糸は65、76、87、98本/インチの4種類とし、合計24(=6×4)種類の織物を試織した。試織した織物は、糊抜き、シルケット加工およびサンフォライズ加工後、風合い計測用の試料とした。
【0022】
ここで各試料No.を以下のとおり定義する。各組織を表す記号は、平、綾、朱子、オックス(2/2)、オックス(3/2)、オックス(4/2)の順に、H,A,S,O2,O3,O4とし、よこ糸密度を組織を表す記号の後に付け、表示することとした。例えば組織が朱子織で、よこ糸密度が87本/インチの場合は、S−87と表記することになる。
【0023】
図10によこ糸密度が異なる4種類の平織の各風合い値を示す。また、図11に平織、綾織、朱子織のKOSHI、SHINAYAKASAの風合い値とよこ糸密度の関係を示す。
【0024】
その結果、よこ糸密度が大きくなるほど、KOSHI、HARIは大きくなる傾向を示したが、逆にSHINAYAKASA、FUKURAMIは小さくなった。また、よこ糸密度が65本/インチの場合は、図11のとおり、KOSHIおよびSHINAYAKASAは、3組織ともほぼ同じ値を示した。しかし、よこ糸密度が大きくなるにしたがって、平織は、KOSHIおよびSHINAYAKASAとも値の変化が大きく、綾織、朱子織と風合い値の差が大きくなった。
【0025】
図12に、平織、綾織、朱子織の3組織のたて方向およびよこ方向の曲げ剛性とよこ糸密度の関係を示す。なお、曲げ剛性は、曲率0.5〜1.5cm−1および−0.5〜−1.5cm−1の曲げモーメントの増加時の傾きから求め、織物1cm幅当たりの数値に換算した。また、図13によこ糸密度65本/インチの値を基準とした曲げ剛性の変化率を示す。今回、測定した織物試料は、たて糸密度は一定であるにも関わらず、たて方向の曲げ剛性はよこ糸密度が大きくなるにしたがって増加している。その増加率はよこ方向よりも小さいものの平織(98本/インチ)の場合、約1.5倍と大きくなった。平織は、糸の浮き沈みが交互にあるため糸の屈曲が大きく、糸の交差部での接触圧が他の組織と比較して高いと考えられる。そのために、糸の動きを強く拘束され、曲げ剛性が高くなったと考えられる。また、せん断剛性も平織の方が大きくなったが、これも同じ要因と考えられる。したがって、よこ糸のみの密度増加の場合でも、密度増加によるよこ糸のたて糸に対する拘束力が増加するので、たて方向の曲げ剛性が大きくなったと考えられる。
【0026】
各風合い値は、上述の通り正規化された16の測定値(力学的特性値)に重み係数を掛けて積算することにより算出されるが、曲げ剛性は測定値のうち、KOSHI、HARI、SHINAYAKASAとの相関が最大であり、各風合い値に与える影響が最も大きい。その結果、以上の曲げ剛性の変化が図10および図11の傾向となって表れたと考えられる。
【0027】
図14によこ糸密度が98本/インチの綿織物6種類の風合い値を示す。この中で3種類のオックスは、他の3組織と比較して、SHARIの数値が際だって大きくなっている。図15に、平織とオックス(4/2)のよこ方向の表面粗さ曲線を示す。オックス(4/2)の方が明らかに表面粗さが大きく、そのためざらつき感であるSHARIが増したと考えられる。この要因としてオックスは糸が引き揃えで組織化されていることから、糸の凹凸感が強く表れたためと考えられる。そのため、オックスは、KOSHIおよびHARIは綾織や朱子織のような風合いを有しながら、しゃり感の極めて大きな特異な風合いを有した組織であることがわかる。
【0028】
以上の検証から、織物の風合いは、織物規格のうちで平、綾、朱子、オックス等の織組織に大きく左右され、さらには糸密度(上記の例ではよこ糸密度)によっても左右されることが明らかになった。従って、これら織物規格と風合いとの関係をデータベース化すれば、企画設計段階で要望される風合いを備えた織物を得ることも可能と考えられる。しかしながら、多種多様な織物を製織もしくは収集し、風合いを計測してデータベース化することは多大な労力を要し、現実的には困難である。
【0029】
そこで、本発明では、織物の風合いの予測モデルにニューラルネットワークを適用した。すなわち、織物の組織図における浮き沈みデータを少なくとも含む織物規格を入力データとし、かつ定量化した風合い値を教師データとして学習させたニューラルネットワークを用いて、対象織物の風合いを予測することとした。なお、教師データの学習に際しては、上記入力データに対応した織物規格と関連付けた形で各風合い値を入力し、学習させる。
【0030】
上述のとおり、織物の織組織と風合いとの間には深い関係があるが、ニューラルネットワークへのデータ入力に際しては、織組織を如何にデータ化し、入力するかが問題となる。本発明では、上述のとおり織物組織における糸の浮き沈みデータを使用することによりこれを解決した。
【0031】
また、本発明にかかる織物の風合い予測装置は、織物の組織図における浮き沈みデータを少なくとも含む織物規格を入力データとして入力するデータ入力部と、定量化した風合い値を教師データとして学習したニューラルネットワークにより、対象織物の予測風合い値を演算する演算部と、演算部で求められた予測風合い値を出力する出力部とを備えるものである。
【0032】
また、本発明は、ニューラルネットワークを含むコンピュータに、定量化した風合い値を教師データとしてニューラルネットワークに学習させ、入力された、織物の組織図における浮き沈みデータを少なくとも含む織物規格に基づいて風合い値を予測する、という処理を行わせるコンピュータプログラムによっても特定され得るものである。
【0033】
以上に記載した何れかの方法、装置、またはプログラムにおいて、織物規格には、さらに織物のよこ糸およびたて糸のうち少なくとも何れか一方の織密度データを含むものとすることができる。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0035】
上記の通り、本発明は、風合い値を教師データとして学習させたニューラルネットワークモデルを構築し、入力データから直接風合い値を予測することにより織物の風合いを予測するものである。
【0036】
この予測装置は、図1に示すように織物規格を入力データとして入力するためのデータ入力部1と、予め定量化した風合い値を教師データとして学習させたニューラルネットワークにより、上記入力データに基づいて対象織物の風合い値を演算する演算部2と、演算した風合い値を出力する出力部3とを備える。データ入力部1はキーボード等で、また出力部3は例えばコンピュータのディスプレイ等で構成することができる。演算部2は、例えばパーソナルコンピュータ等に装備され、そのうちのニューラルネットワークは、例えば拡張ボード等を後付けすることによりコンピュータ内に組み込むことができる。この実施形態では、ニューラルネットワークの一例として、図16に示すように、入力層(Input layer)、中間層(Hidden layer)1層および出力層(Output layer)の3層からなる階層型ネットワークを使用した。
【0037】
図2は、ニューラルネットワークを使用した風合い予測のフローチャート図である。図示のように風合い予測に際しては、ニューラルネットワークに事前に教師データを学習させておく必要がある。学習は、多数の試料について、予め上記力学的特性(1)〜(16)を測定し、この測定結果から上記演算式▲1▼にて6種類の風合い値(KOSHI、HARI、NUMERI、FUKURAMI、SHARI、KISHIMI)を求め、各風合い値を個々の試料の織物規格(後述する浮き沈みデータおよびよこ糸密度)と対応付けた形でニューラルネットワークに入力することにより行われる。
【0038】
本発明では、織物規格として、織物の組織図における糸の浮き沈み情報およびよこ糸密度を使用した。
【0039】
入力層への織物規格の入力は、図9に示す全ての組織情報が含まれるように設定する必要があるため、組織図をたて5×よこ8=40サイズに拡大した。この組織図からネットワークヘの入力順序は図17の矢印の順とし、組織図の黒色部を1、白色部を0として数値入力した。
【0040】
なお、入力データは、同一組織であっても組織図の作成における原点が異なれば変化する。そこで、組織図は以下の基準により作成することにした。図17における組織図の左下は、たて糸が浮いている箇所(黒色)でかつ、一完全組織の中で一番長く連続して浮いている箇所を左端に位置するようにする。そしてその位置から上方および右方へ組織図を広げることにより入力データ用の組織図とした。また、よこ糸が多く表面に現れている組織の湯合は、たて糸が多く現れている裏面を基に組織図を作成することとした。
【0041】
以上の基準から、綾およびオックス(4/2)の場合の入力データ用の組織図は図18に示すとおりとなる。つまり、綾の場合、「100110011100・・・・001」の順にネットワークヘ数値を入力することになる。これらの数値の後に、よこ糸の密度データ1つ加えた合計41個のデータが入力データである。
【0042】
なお、よこ糸密度データの入力は、よこ糸密度(65〜98本/インチ)を0.0〜1.0の範囲で正規化して与えた。一方、教師データである、KOSHI、HARI、SHINAYAKASA、FUKURAMI、SHARI、KISHIMIの各風合い値も各々正規化して入力した。正規化において、それぞれの風合い値の最大値が0.9、最小値は0.1となるように線形変換して教師データとした。従って、ユニット数は、入力層41個、出力層6個の構成となる。なお、中間層のユニット数は、ユニット数を変化させた実験を行い、計算回数や収束速度などから15個と決定した。また、ニューラルネットの学習定数、慣性項はそれぞれ0.05、0.9と設定した。ネットワークの学習方法については、つぎのとおり簡単に示す。
【0043】
入力層を除く各層のユニットは、前の層の重み付き入力を受けてその総和を計算し、その値を非線形関数fに入力して出力値を得る。ここで、ik i,ok iを第k層の第iユニットの入力の合計および出力、第k−1層の第jユニットから第k層の第iユニットの結合強さをwk−1 j k iとすると、ik i,ok iは以下の式で表すことができる。
【0044】
【数4】
【0045】
ここで、ユニットの入出力関数fは、以下の式を用いた。
【0046】
【数5】
【0047】
各ユニット間の結合強さwk−1 j k iの変更は、誤差逆伝播法を用いた。これは、誤差関数rを次式のとおり定義すると、rが最小となるように結合強さを変更する方法である。
【数6】
【0048】
上式において、yj,om j(m=3)は、教師信号およびネットワークの出力である。誤差逆伝播法は、考慮する二乗誤差によって、逐次型(各学習パターンの学習ごとに学習定数および慣性項を修正)と一括型(すべての学習パターンについて得られる修正量の総和をとり、一度に学習定数および慣性項を修正)に分類される。ここでは、1回の学習当たりの修正量は小さくなるものの、微調整が効き、非線形性の強い連続写像の学習に有効な逐次型を採用した。なお、学習の終了条件は、各出力ユニットの誤差関数rp(p=1〜6)全てが、
rp<0.0005
の条件となったときとした。
【0049】
図19に全データを学習させたネットワークを用いて、平織の風合いを予測した結果と実験結果を示す。よこ糸密度が98本/インチの場合である。なお、学習終了までの学習回数は、3回の平均で6022回であり、学習回数と誤差関数rpの平均値の変化の一例を図20に示す。学習の繰り返し回数の増加に伴い、誤差関数が減少しているのが確認できる。
【0050】
構築したニューラルネットワークによる風合い予測の結果、6つの各風合い値とも実験値と良い一致を示している。その他の密度および5つの組織においても、その予測値は、実験値と良く一致した。つまり、学習させたデータについては、精度良く再現できることがわかった。
【0051】
つぎに、6組織の内5組織の風合い値を教師データとして学習し、未学習組織1組織について、ネットワークから風合い予測を試みた。図21は、朱子織以外のデータを学習したネットワークから、朱子織の風合い値を予測した結果と実験値を示す。また、図22には、オックス(2/2)以外のデータを学習したネットワークからのオックス(2/2)の予測値と実験値の比較を示す。両者ともよこ糸密度は98本/インチの場合である。その結果、図19と比較すると推定精度は低下しているものの、朱子織およびオックス(2/2)とも実験値に近い風合い値を予測できているのが確認できた。
【0052】
学習データをさらに変化させ、綾、朱子、オックス(4/2)の3つの組織の風合い値を教師データとして学習させたネットワークから、未学習組織である平、オックス(2/2)、オックス(3/2)の風合い予測を試みた結果を図23〜25に示す。図23は平、図24はオックス(2/2)、図25はオックス(3/2)の風合い値の予測結果である。なお、よこ糸密度は98本/インチの場合である。以上の結果から、どの組織においても、一部の風合い値で実験値との一致精度は低下しているが、他の風合い値では実験値に近い値を予測できている。
【0053】
従って、これより、未学習の織組織の風合い評価についても本発明は有効であり、予測対象織物の学習の有無にかかわらず、多種多様の織物組織に対して風合い予測が可能となることが確認できた。
【0054】
つぎに、全データを学習したネットワークから、平織で、未学習のよこ糸密度(よこ糸密度が72、91本/インチ)を有する綿織物の風合い値を予測した結果を図26に示す。図10、図11に示すとおり、よこ糸密度が大きいほど、KOSHI、HARIは大きくなった。ネットワークから予測したKOSHI、HARIは、実験によるそれぞれの風合い値との大小の比較を行うと、よこ糸密度の順に並んでいる。一方、SHINAYAKASAは、よこ糸密度が小さいほど大きくなるが、予測値と実験結果は、よこ糸密度の小さい順にSHINAYAKASAは大きくなっている。以上から、よこ糸密度が未学習であっても風合いを比較的精度良く予測できることが確認できた。
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、織物規格から精度良く正確に風合いを予測することができるので、企画設計段階の架空の織物についても風合い予測が可能となる。また、織物規格が一部未学習であっても風合い予測が可能であり、学習の有無を問わず、多種多様の織物に対しても風合い予測を行うことができ、高い汎用性を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる織物の風合い予測装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明にかかる織物の風合い予測方法のフローチャート図である。
【図3】引張試験におけるひずみεと引張り力Fの関係を示す図である。
【図4】曲げ試験における曲率と曲げモーメントとの関係を示す図である。
【図5】せん断試験におけるせん断角φとせん断力Fの関係を示す図である。
【図6】圧縮試験における厚みTと圧力Pの関係を示す図である。
【図7】摩擦係数の波形を示す図である。
【図8】表面粗さの波形を示す図である。
【図9】平、綾、およびオックス(2/2,3/2,4/2)織物の組織図である。
【図10】よこ糸密度の異なる平織の各風合い値(実験値)を示す図である。
【図11】KOSHI,SHINAYAKASAの風合い値(実験値)とよこ糸密度との関係を示す図である。
【図12】たて方向およびよこ方向の曲げ剛性とよこ糸密度の関係を示す図である。
【図13】曲げ剛性の変化率とよこ糸密度との関係を示す図である。
【図14】6種類の織物の風合い値(実験値)を示す図である。
【図15】平織とオックス(4/2)のよこ方向の表面粗さ曲線を示す図である。
【図16】本発明にかかるニューラルネットワークの概略構造を示す図である。
【図17】組織図におけるニューラルネットワークへの入力順序を示す図である。
【図18】綾、およびオックス(4/2)の入力データ用の組織図である。
【図19】全データを学習させたネットワークによる風合い値の予測値と実験値との関係を示す図である。
【図20】学習回数と誤差関数rpの平均値の変化を示す図である。
【図21】朱子織以外のデータを学習したネットワークから、朱子織の風合い値を予測した結果と実験値を示す図である。
【図22】オックス(2/2)以外のデータを学習したネットワークからオックス(2/3)の風合い値を予測した結果と実験値を示す図である。
【図23】綾、朱子、オックス(4/2)の3つの組織の風合い値を学習したネットワークから未学習の平織の風合い値を予測した結果と実験値を示す図である。
【図24】同じく未学習のオックス(2/2)の風合い値を予測した結果と実験値を示す図である。
【図25】同じく未学習のオックス(3/2)の風合い値を予測した結果と実験値を示す図である。
【図26】全データを学習したネットワpークから、平織で、よこ糸密度72、91本/インチの風合い値を予測した結果と、よこ糸密度65、98本/インチの実験値を示す図である。
【図27】婦人外衣用薄手布地の各定数の一覧を示す図である。
【符号の説明】
1 データ入力部
2 演算部
3 出力部
【発明の属する技術分野】
本発明は、織物の風合いを予測するための方法、装置、およびプログラムに関する。
【0002】
【従来の技術】
織物生産においては多品種小ロット化が進み、これに対応するため、設計段階でのデザインシステムの導入や準備機械および織機の革新化などが行われている。しかし、ヌメリ、シャリ等の風合いについては、これらは布に触れたときの触感で官能的なものであるため、要望された風合いを設計段階で知り得ることはできず、熟練者の経験と勘により求めているのが現状である。
【0003】
かかる現状に鑑み、生地の風合いを定量的かつ客観的な測定を簡単に行うことを目的として、特開2001−27636号では、生地の風合いの2つ以上のバンドにおけるスペクトル(生地に光をあてた時の反射光の周波数分布等)をニューラルネットワークに入力することにより、風合いを計算する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】
特開2001−27636号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
反射光のスペクトルは、主として織密度に依拠して変化すると考えられるが、風合いは織密度のみならず、広く織組織の構造的な特徴に左右される。従って、かかるスペクトルに頼るだけでは、風合いの定量化手段としての客観性、正確性に疑問が残る。また、上記開示技術は、生地のスペクトルを計測するもので、既に織り上がった製品の風合いを評価する手段にすぎず、織成前の企画・設計段階において織成後の風合いを予測することは困難である。
【0006】
そこで、本発明は、織成前の段階でも織成後の風合いを精度良く正確に予測することのできる織物の風合い予測方法、装置、およびコンピュータプログラムの提供を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
一般に、人は風合いを見分けるとき、「なでる」、「引張る」、「折り曲げる」、「指で押す」といった動作を行う。従って、風合いは、この人の動作に対応した織物の力学的特性によって定量化することができると考えられ、この観点から、風合い評価における力学的性質の評価値として、次の16項目が以前から使用されている。
【0008】
A.引張特性(図3参照)
引張試験における特性値は以下の3つである。
(1)直線性(LT)
引張りの線形性
LT=WT/(εmFm×102/2)
(2)引張りエネルギ(WT)
単位面積当たりの引張りエネルギー
【数1】
(3)引張りレジリエンスRT
RT=WT’/WT×100(%)
(但し、WT’は回復エネルギー)
【0009】
B.曲げ特性(図4参照)
曲げ試験における特性値は以下の2つである。
(4)布1cm幅当たりの曲げ剛性B
B=曲率が0.5〜1.5cm−1での平均傾斜(単位:N・cm2/cm)×102
(5)布1cm幅当たりの曲げヒステリシス2HB
2HB=曲率が0.5cm−1における幅(単位:N・cm/cm)×102
【0010】
C.せん断特性(図5参照)
(6)布1cm幅当たりのせん断剛性G
G=せん断角0.5〜5度の平均傾斜(単位:N/cm・degree)×102
(7)布1cm幅当たりのせん断ヒステリシス2HG
2HG=せん断角0.5度におけるヒステリシス(単位:N/cm)×102
(8)布1cm幅当たりのせん断ヒステリシス2HG5
2HG5=せん断角5度におけるヒステリシス(単位:N/cm)×102
【0011】
D.圧縮特性(図6参照)
(9)圧縮の直線性LC
LC=WC/{(To−Tm)Pm×102/2}
(10)布1cm2当たりの圧縮エネルギWC
【数2】
(11)圧縮レジリエンスRC
RC=WC’/WC×100(%)
WC’:圧縮回復エネルギー
(12)圧力49Paのときの厚みTo(単位:mm)
【0012】
E.表面特性(図7、図8参照)
(13)平均表面摩擦係数MIU
i)摩擦子の形状と接触面積
0.5φのピアノ線を10本重ねた形状(5mm×5mm)
ii)荷重:0.49N
(14)摩擦係数の平均偏差MMD
MMD=斜線の面積/L
(15)表面粗さ(平均偏差)SMD
SMD=斜線の面積/L(単位:μm)
0.5φのピアノ線を1本により測定
荷重:0.098N
【0013】
F.目付
(16)1cm2面積当たりの重量W(単位:mg/cm2)
【0014】
なお、引張り特性(A)と圧縮特性(C)の試験条件として、図3では最大引張り力Fmを0.49N/cmとし、図6では最大圧力Pmを980Paとしているが、これは布の用途が薄手生地の場合の試験条件(高感度条件)である。厚手布地の場合、最大引張り力Fmは4.9N/cmに、最大圧力Pmは4900Paに設定される。
【0015】
織物の風合い(KOSHI、HARI、NUMERI、FUKURAMI、SHARI、KISHIMIの6種類)についての熟練者による風合い評価値(熟練技術者の官能検査により上記各風合いを0〜10までの11段階で表した数値)と上記各力学的特性[(1)〜(16)]との関係を解析した結果、次式▲1▼により風合い値を定量的に評価できることが判明した。本発明では、次式▲1▼より求めた各値Yを各風合いの数値(風合い値)として使用する。
【0016】
【数3】
【0017】
なお、上記でいう「用途」とは、男用スーツ地や婦人外衣用薄地布などのような布の範疇(カテゴリー)を意味する。例えば、婦人外衣用薄手布地(KN202−LDY)の場合における上記各定数は、図27に示すように定められる。
【0018】
次に、本発明者らは、織物の風合いを種々の角度から検討した結果、織物の風合いは織物規格によっても左右される、との着想得た。そこで、これを実証すべく、規格の異なる綿織物を複数試織し、それらの風合い値を定量的に求めることにより、織物規格と風合いとの関係を検討した。
【0019】
なお、風合いは上記6種類であり、各風合いは、風合い計測システム(カトーテック株式会社製KES−AUTO型)を用い、20cm×20cmサイズに調整した織物3枚について上記(1)〜(16)の力学的特性を測定し、その平均値を上記▲1▼式に代入することにより算出した[▲1▼式の定数は婦人外衣用薄手布地 (KN−202LDY)とした]。
【0020】
風合い計測用の綿織物としては、電子ジャカード付きレピア織機(津田駒工業株式会社製ER型)を用い、図9(a)に示す平、同図(b)に示す綾(2/2)、同図(c)に示す朱子(5枚)、同図(d)に示すオックス (2/2)、同図(e)に示すオックス (3/2)、および同図(f)に示すオックス (4/2)の6組織の綿織物を試織した。なお、図9の各組織図の黒色部は、たて糸が浮いている箇所であり、白色部はよこ糸が浮いている部分を表す。
【0021】
使用した糸は、たて糸およびよこ糸とも、120/2Sの綿糸である。織密度は、たて糸はすべての組織で120本/インチ、よこ糸は65、76、87、98本/インチの4種類とし、合計24(=6×4)種類の織物を試織した。試織した織物は、糊抜き、シルケット加工およびサンフォライズ加工後、風合い計測用の試料とした。
【0022】
ここで各試料No.を以下のとおり定義する。各組織を表す記号は、平、綾、朱子、オックス(2/2)、オックス(3/2)、オックス(4/2)の順に、H,A,S,O2,O3,O4とし、よこ糸密度を組織を表す記号の後に付け、表示することとした。例えば組織が朱子織で、よこ糸密度が87本/インチの場合は、S−87と表記することになる。
【0023】
図10によこ糸密度が異なる4種類の平織の各風合い値を示す。また、図11に平織、綾織、朱子織のKOSHI、SHINAYAKASAの風合い値とよこ糸密度の関係を示す。
【0024】
その結果、よこ糸密度が大きくなるほど、KOSHI、HARIは大きくなる傾向を示したが、逆にSHINAYAKASA、FUKURAMIは小さくなった。また、よこ糸密度が65本/インチの場合は、図11のとおり、KOSHIおよびSHINAYAKASAは、3組織ともほぼ同じ値を示した。しかし、よこ糸密度が大きくなるにしたがって、平織は、KOSHIおよびSHINAYAKASAとも値の変化が大きく、綾織、朱子織と風合い値の差が大きくなった。
【0025】
図12に、平織、綾織、朱子織の3組織のたて方向およびよこ方向の曲げ剛性とよこ糸密度の関係を示す。なお、曲げ剛性は、曲率0.5〜1.5cm−1および−0.5〜−1.5cm−1の曲げモーメントの増加時の傾きから求め、織物1cm幅当たりの数値に換算した。また、図13によこ糸密度65本/インチの値を基準とした曲げ剛性の変化率を示す。今回、測定した織物試料は、たて糸密度は一定であるにも関わらず、たて方向の曲げ剛性はよこ糸密度が大きくなるにしたがって増加している。その増加率はよこ方向よりも小さいものの平織(98本/インチ)の場合、約1.5倍と大きくなった。平織は、糸の浮き沈みが交互にあるため糸の屈曲が大きく、糸の交差部での接触圧が他の組織と比較して高いと考えられる。そのために、糸の動きを強く拘束され、曲げ剛性が高くなったと考えられる。また、せん断剛性も平織の方が大きくなったが、これも同じ要因と考えられる。したがって、よこ糸のみの密度増加の場合でも、密度増加によるよこ糸のたて糸に対する拘束力が増加するので、たて方向の曲げ剛性が大きくなったと考えられる。
【0026】
各風合い値は、上述の通り正規化された16の測定値(力学的特性値)に重み係数を掛けて積算することにより算出されるが、曲げ剛性は測定値のうち、KOSHI、HARI、SHINAYAKASAとの相関が最大であり、各風合い値に与える影響が最も大きい。その結果、以上の曲げ剛性の変化が図10および図11の傾向となって表れたと考えられる。
【0027】
図14によこ糸密度が98本/インチの綿織物6種類の風合い値を示す。この中で3種類のオックスは、他の3組織と比較して、SHARIの数値が際だって大きくなっている。図15に、平織とオックス(4/2)のよこ方向の表面粗さ曲線を示す。オックス(4/2)の方が明らかに表面粗さが大きく、そのためざらつき感であるSHARIが増したと考えられる。この要因としてオックスは糸が引き揃えで組織化されていることから、糸の凹凸感が強く表れたためと考えられる。そのため、オックスは、KOSHIおよびHARIは綾織や朱子織のような風合いを有しながら、しゃり感の極めて大きな特異な風合いを有した組織であることがわかる。
【0028】
以上の検証から、織物の風合いは、織物規格のうちで平、綾、朱子、オックス等の織組織に大きく左右され、さらには糸密度(上記の例ではよこ糸密度)によっても左右されることが明らかになった。従って、これら織物規格と風合いとの関係をデータベース化すれば、企画設計段階で要望される風合いを備えた織物を得ることも可能と考えられる。しかしながら、多種多様な織物を製織もしくは収集し、風合いを計測してデータベース化することは多大な労力を要し、現実的には困難である。
【0029】
そこで、本発明では、織物の風合いの予測モデルにニューラルネットワークを適用した。すなわち、織物の組織図における浮き沈みデータを少なくとも含む織物規格を入力データとし、かつ定量化した風合い値を教師データとして学習させたニューラルネットワークを用いて、対象織物の風合いを予測することとした。なお、教師データの学習に際しては、上記入力データに対応した織物規格と関連付けた形で各風合い値を入力し、学習させる。
【0030】
上述のとおり、織物の織組織と風合いとの間には深い関係があるが、ニューラルネットワークへのデータ入力に際しては、織組織を如何にデータ化し、入力するかが問題となる。本発明では、上述のとおり織物組織における糸の浮き沈みデータを使用することによりこれを解決した。
【0031】
また、本発明にかかる織物の風合い予測装置は、織物の組織図における浮き沈みデータを少なくとも含む織物規格を入力データとして入力するデータ入力部と、定量化した風合い値を教師データとして学習したニューラルネットワークにより、対象織物の予測風合い値を演算する演算部と、演算部で求められた予測風合い値を出力する出力部とを備えるものである。
【0032】
また、本発明は、ニューラルネットワークを含むコンピュータに、定量化した風合い値を教師データとしてニューラルネットワークに学習させ、入力された、織物の組織図における浮き沈みデータを少なくとも含む織物規格に基づいて風合い値を予測する、という処理を行わせるコンピュータプログラムによっても特定され得るものである。
【0033】
以上に記載した何れかの方法、装置、またはプログラムにおいて、織物規格には、さらに織物のよこ糸およびたて糸のうち少なくとも何れか一方の織密度データを含むものとすることができる。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0035】
上記の通り、本発明は、風合い値を教師データとして学習させたニューラルネットワークモデルを構築し、入力データから直接風合い値を予測することにより織物の風合いを予測するものである。
【0036】
この予測装置は、図1に示すように織物規格を入力データとして入力するためのデータ入力部1と、予め定量化した風合い値を教師データとして学習させたニューラルネットワークにより、上記入力データに基づいて対象織物の風合い値を演算する演算部2と、演算した風合い値を出力する出力部3とを備える。データ入力部1はキーボード等で、また出力部3は例えばコンピュータのディスプレイ等で構成することができる。演算部2は、例えばパーソナルコンピュータ等に装備され、そのうちのニューラルネットワークは、例えば拡張ボード等を後付けすることによりコンピュータ内に組み込むことができる。この実施形態では、ニューラルネットワークの一例として、図16に示すように、入力層(Input layer)、中間層(Hidden layer)1層および出力層(Output layer)の3層からなる階層型ネットワークを使用した。
【0037】
図2は、ニューラルネットワークを使用した風合い予測のフローチャート図である。図示のように風合い予測に際しては、ニューラルネットワークに事前に教師データを学習させておく必要がある。学習は、多数の試料について、予め上記力学的特性(1)〜(16)を測定し、この測定結果から上記演算式▲1▼にて6種類の風合い値(KOSHI、HARI、NUMERI、FUKURAMI、SHARI、KISHIMI)を求め、各風合い値を個々の試料の織物規格(後述する浮き沈みデータおよびよこ糸密度)と対応付けた形でニューラルネットワークに入力することにより行われる。
【0038】
本発明では、織物規格として、織物の組織図における糸の浮き沈み情報およびよこ糸密度を使用した。
【0039】
入力層への織物規格の入力は、図9に示す全ての組織情報が含まれるように設定する必要があるため、組織図をたて5×よこ8=40サイズに拡大した。この組織図からネットワークヘの入力順序は図17の矢印の順とし、組織図の黒色部を1、白色部を0として数値入力した。
【0040】
なお、入力データは、同一組織であっても組織図の作成における原点が異なれば変化する。そこで、組織図は以下の基準により作成することにした。図17における組織図の左下は、たて糸が浮いている箇所(黒色)でかつ、一完全組織の中で一番長く連続して浮いている箇所を左端に位置するようにする。そしてその位置から上方および右方へ組織図を広げることにより入力データ用の組織図とした。また、よこ糸が多く表面に現れている組織の湯合は、たて糸が多く現れている裏面を基に組織図を作成することとした。
【0041】
以上の基準から、綾およびオックス(4/2)の場合の入力データ用の組織図は図18に示すとおりとなる。つまり、綾の場合、「100110011100・・・・001」の順にネットワークヘ数値を入力することになる。これらの数値の後に、よこ糸の密度データ1つ加えた合計41個のデータが入力データである。
【0042】
なお、よこ糸密度データの入力は、よこ糸密度(65〜98本/インチ)を0.0〜1.0の範囲で正規化して与えた。一方、教師データである、KOSHI、HARI、SHINAYAKASA、FUKURAMI、SHARI、KISHIMIの各風合い値も各々正規化して入力した。正規化において、それぞれの風合い値の最大値が0.9、最小値は0.1となるように線形変換して教師データとした。従って、ユニット数は、入力層41個、出力層6個の構成となる。なお、中間層のユニット数は、ユニット数を変化させた実験を行い、計算回数や収束速度などから15個と決定した。また、ニューラルネットの学習定数、慣性項はそれぞれ0.05、0.9と設定した。ネットワークの学習方法については、つぎのとおり簡単に示す。
【0043】
入力層を除く各層のユニットは、前の層の重み付き入力を受けてその総和を計算し、その値を非線形関数fに入力して出力値を得る。ここで、ik i,ok iを第k層の第iユニットの入力の合計および出力、第k−1層の第jユニットから第k層の第iユニットの結合強さをwk−1 j k iとすると、ik i,ok iは以下の式で表すことができる。
【0044】
【数4】
【0045】
ここで、ユニットの入出力関数fは、以下の式を用いた。
【0046】
【数5】
【0047】
各ユニット間の結合強さwk−1 j k iの変更は、誤差逆伝播法を用いた。これは、誤差関数rを次式のとおり定義すると、rが最小となるように結合強さを変更する方法である。
【数6】
【0048】
上式において、yj,om j(m=3)は、教師信号およびネットワークの出力である。誤差逆伝播法は、考慮する二乗誤差によって、逐次型(各学習パターンの学習ごとに学習定数および慣性項を修正)と一括型(すべての学習パターンについて得られる修正量の総和をとり、一度に学習定数および慣性項を修正)に分類される。ここでは、1回の学習当たりの修正量は小さくなるものの、微調整が効き、非線形性の強い連続写像の学習に有効な逐次型を採用した。なお、学習の終了条件は、各出力ユニットの誤差関数rp(p=1〜6)全てが、
rp<0.0005
の条件となったときとした。
【0049】
図19に全データを学習させたネットワークを用いて、平織の風合いを予測した結果と実験結果を示す。よこ糸密度が98本/インチの場合である。なお、学習終了までの学習回数は、3回の平均で6022回であり、学習回数と誤差関数rpの平均値の変化の一例を図20に示す。学習の繰り返し回数の増加に伴い、誤差関数が減少しているのが確認できる。
【0050】
構築したニューラルネットワークによる風合い予測の結果、6つの各風合い値とも実験値と良い一致を示している。その他の密度および5つの組織においても、その予測値は、実験値と良く一致した。つまり、学習させたデータについては、精度良く再現できることがわかった。
【0051】
つぎに、6組織の内5組織の風合い値を教師データとして学習し、未学習組織1組織について、ネットワークから風合い予測を試みた。図21は、朱子織以外のデータを学習したネットワークから、朱子織の風合い値を予測した結果と実験値を示す。また、図22には、オックス(2/2)以外のデータを学習したネットワークからのオックス(2/2)の予測値と実験値の比較を示す。両者ともよこ糸密度は98本/インチの場合である。その結果、図19と比較すると推定精度は低下しているものの、朱子織およびオックス(2/2)とも実験値に近い風合い値を予測できているのが確認できた。
【0052】
学習データをさらに変化させ、綾、朱子、オックス(4/2)の3つの組織の風合い値を教師データとして学習させたネットワークから、未学習組織である平、オックス(2/2)、オックス(3/2)の風合い予測を試みた結果を図23〜25に示す。図23は平、図24はオックス(2/2)、図25はオックス(3/2)の風合い値の予測結果である。なお、よこ糸密度は98本/インチの場合である。以上の結果から、どの組織においても、一部の風合い値で実験値との一致精度は低下しているが、他の風合い値では実験値に近い値を予測できている。
【0053】
従って、これより、未学習の織組織の風合い評価についても本発明は有効であり、予測対象織物の学習の有無にかかわらず、多種多様の織物組織に対して風合い予測が可能となることが確認できた。
【0054】
つぎに、全データを学習したネットワークから、平織で、未学習のよこ糸密度(よこ糸密度が72、91本/インチ)を有する綿織物の風合い値を予測した結果を図26に示す。図10、図11に示すとおり、よこ糸密度が大きいほど、KOSHI、HARIは大きくなった。ネットワークから予測したKOSHI、HARIは、実験によるそれぞれの風合い値との大小の比較を行うと、よこ糸密度の順に並んでいる。一方、SHINAYAKASAは、よこ糸密度が小さいほど大きくなるが、予測値と実験結果は、よこ糸密度の小さい順にSHINAYAKASAは大きくなっている。以上から、よこ糸密度が未学習であっても風合いを比較的精度良く予測できることが確認できた。
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、織物規格から精度良く正確に風合いを予測することができるので、企画設計段階の架空の織物についても風合い予測が可能となる。また、織物規格が一部未学習であっても風合い予測が可能であり、学習の有無を問わず、多種多様の織物に対しても風合い予測を行うことができ、高い汎用性を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる織物の風合い予測装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明にかかる織物の風合い予測方法のフローチャート図である。
【図3】引張試験におけるひずみεと引張り力Fの関係を示す図である。
【図4】曲げ試験における曲率と曲げモーメントとの関係を示す図である。
【図5】せん断試験におけるせん断角φとせん断力Fの関係を示す図である。
【図6】圧縮試験における厚みTと圧力Pの関係を示す図である。
【図7】摩擦係数の波形を示す図である。
【図8】表面粗さの波形を示す図である。
【図9】平、綾、およびオックス(2/2,3/2,4/2)織物の組織図である。
【図10】よこ糸密度の異なる平織の各風合い値(実験値)を示す図である。
【図11】KOSHI,SHINAYAKASAの風合い値(実験値)とよこ糸密度との関係を示す図である。
【図12】たて方向およびよこ方向の曲げ剛性とよこ糸密度の関係を示す図である。
【図13】曲げ剛性の変化率とよこ糸密度との関係を示す図である。
【図14】6種類の織物の風合い値(実験値)を示す図である。
【図15】平織とオックス(4/2)のよこ方向の表面粗さ曲線を示す図である。
【図16】本発明にかかるニューラルネットワークの概略構造を示す図である。
【図17】組織図におけるニューラルネットワークへの入力順序を示す図である。
【図18】綾、およびオックス(4/2)の入力データ用の組織図である。
【図19】全データを学習させたネットワークによる風合い値の予測値と実験値との関係を示す図である。
【図20】学習回数と誤差関数rpの平均値の変化を示す図である。
【図21】朱子織以外のデータを学習したネットワークから、朱子織の風合い値を予測した結果と実験値を示す図である。
【図22】オックス(2/2)以外のデータを学習したネットワークからオックス(2/3)の風合い値を予測した結果と実験値を示す図である。
【図23】綾、朱子、オックス(4/2)の3つの組織の風合い値を学習したネットワークから未学習の平織の風合い値を予測した結果と実験値を示す図である。
【図24】同じく未学習のオックス(2/2)の風合い値を予測した結果と実験値を示す図である。
【図25】同じく未学習のオックス(3/2)の風合い値を予測した結果と実験値を示す図である。
【図26】全データを学習したネットワpークから、平織で、よこ糸密度72、91本/インチの風合い値を予測した結果と、よこ糸密度65、98本/インチの実験値を示す図である。
【図27】婦人外衣用薄手布地の各定数の一覧を示す図である。
【符号の説明】
1 データ入力部
2 演算部
3 出力部
Claims (4)
- 織物の組織図における浮き沈みデータを少なくとも含む織物規格を入力データとし、かつ定量化した風合い値を教師データとして学習したニューラルネットワークを用いて、対象織物の風合いを予測することを特徴とする織物の風合い予測方法。
- 織物の組織図における浮き沈みデータを少なくとも含む織物規格を入力データとして入力するデータ入力部と、定量化した風合い値を教師データとして学習したニューラルネットワークにより、対象織物の予測風合い値を演算する演算部と、演算部で求められた予測風合い値を出力する出力部とを備える織物の風合い予測装置。
- ニューラルネットワークを含むコンピュータに下記の処理を行わせるコンピュータプログラム;
定量化した風合い値を教師データとしてニューラルネットワークに学習させ、
入力された、織物の組織図における浮き沈みデータを少なくとも含む織物規格に基づいて風合い値を予測する。 - 請求項1〜3に記載した何れかの方法、装置、またはプログラムにおいて、織物規格が、さらに織物のよこ糸、およびたて糸のうち少なくとも何れか一方の織密度データを含むことを特徴とするもの。
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- 2002-11-29 JP JP2002348294A patent/JP2004219071A/ja active Pending
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