JP2004180435A - 誘導発電機の安定度解析方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】誘導発電機の安定度解析を簡単に行う。
【解決手段】まず定常状態における誘導発電機出力電力Pssを与える共に故障発生時間t=0とする。そして、故障期間中の誘導発電機の回転子角速度ωを近似式(10)式を用いて誘導発電機の定数から求め、次に誘導発電機の出力電力−すべり特性式(12)式を用いて故障発生からPsc=Pss(回転子角速度の変化に対する出力特性=定常状態における誘導発電機出力電力)までの時間t′を求める。次いで(13)、(14)式を用いて故障期間中に発電機に加えられ回転子を加速するエネルギーAacと再閉路後に発電機速度を減少させるエネルギーAdeを算出し、Aac=Adeを解いて安定限界再閉路時間t′crを求める。この方法によれば、等面積法に基づく安定限界式から数値積分などを必要とせずに誘導発電機の安定限界再閉路時間を算出することができる。
【選択図】 図7

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘導発電機の安定度解析方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年環境問題に対する意識の高揚により風力エネルギーなどの自然エネルギーの有効利用が推進されており、我が国においても、1999年11月に北海道苫前町で民間大規模ウインドパーク(容量20MW,1MW×20機)が運転開始するなど、風力発電が環境に優しいエネルギー源として注目されている。風力エネルギーは自然エネルギーの中でもエネルギー密度は希薄であるが、化石燃料を使用しないクリーンなエネルギーであることから良風地域では将来有望なエネルギーとして期待されている。また、風力エネルギーは純国産エネルギーであることからエネルギー資源の大半を海外に依存している我が国においては、エネルギーセキュリティーの観点からも重要である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
風力発電では一般に、構造が簡単、堅牢なため保守が容易であり、その上価格が安く、さらに系統並列時に位相調整の必要がないなどの利点からかご形誘導発電機が多く用いられる。しかし誘導発電機は励磁源を持たないため、系統並列時には発電機定格電流の6〜7倍の突入電流が流れる。また、誘導発電機が系統に連系されて運転している際に短絡故障や地落故障等が生じた場合にも過大な故障電流が流れ系統へ多大な影響を与える。この誘導発電機は系統で短絡故障や地絡故障が生じた場合には回転子が加速し始めるため、故障発生から比較的短時問で系統へ再投入されると発電機は安定な動作を維持するが、再投入時間が長くなれば不安定な状態に陥る。したがって、誘導発電機の故障電流解析または過渡安定度解析は重要な課題となっている。
【0004】
このような背景から、本発明者らはこれまでに三相地落故障時における誘導発電機の故障電流及び各出力に関する解析式を導出し、これらの解析式を用いて過渡時における誘導発電機の挙動について解析を行ってきた(例えば、非特許文献1参照。)。
【0005】
また、これまで等面積法による同期発電機の過渡安定度解析等を行ってきた。この同期発電機の過渡安定度解析は、入力する最終の擾乱発生時間以外の発電機機械的入力,発電機内部電圧,無限大母線電圧,発電機渦渡リアクタンス,変圧器リアクタンス,送電線リアクタンス,発電機単位慣性定数,発電機定格角速度,事故発生時間,事故遮断時間等のすべての入力を固定して等面積法により安定限界相差角を求め、次いで、最終の擾乱発生時間も含めてすべての入力を固定し擾乱発生時の揺動方程式により最終の擾乱発生時の相差角を求め、安定限界相差角と擾乱発生時の相差角とを比較して安定判別を行うというものである(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
【非特許文献1】
千住智信、末吉儀秀、上里勝美、藤田秀紀「三相地落故障時における導発電機の過渡現象解析」平成14年電気学会 電力技術電力系統技術合同研究会試料、PE−02−16、PSE−お2−26、2002.
【0007】
【特許文献1】
特開2000−270481号公報
ただし、これらの安定度解析手法は同期発電機を対象とするものであり、誘導発電機の安定度解析には適用できない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、上記誘導発電機の故障電流及び各出力に関する解析式を用いて上記同期発電機の安定度解析に用いられてきた等面積法による安定度解析を誘導発電機の安定度解析へ適用した誘導発電機の安定度解析方法を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の誘導発電機の安定度解析方法は、誘導発電機の出力電力−時間特性を用いて故障期間中に発電機に加えられ回転子を加速するエネルギーと再閉路後に発電機速度を減少させるエネルギーを算出し、その両者が等しいことから安定限界再閉路時間を算出することを特徴とするものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
〔発明が解決しようとする課題〕の項で述べたように、誘導発電機は故障発生から再投入までの時間によりその動作が安定状態と不安定状態に分かれる。つまり、再投入後誘導発電機が安定な動作を維持するための安定限界再閉路時間が存在する。本発明はこの安定限界時間を「臨界最閉路時間」と定義し、この値を等面積法によって求める。このとき一般によく知られている誘導発電機のすべり−出力電力特性を用いる。
I.解析式の導出
まず、本発明の誘導発電機の安定度解析方法に使用する解析式の導出について説明する。
【0011】
1.三相地絡故障時の過渡解析式
対象とする誘導発電機が連繋された一機無限大母線系統を図1に示す。この一機無限大母線系統は、無限大母線1に接続された送電線路2と、送電線路2の負荷側母線3に接続されたかご型誘導発電機4で構成されている。なお、図中、Fは送電線路3に発生した三相地絡故障点、R、R30−1及びL、L30−1は送電線路3の抵抗及インダクタンス、CB1、CB2、CB3は遮断器、lは誘導発電機から故障点までの距離を示す。また、シミュレーションに用いたシステムパラメータを表1に示す。
【0012】
【表1】
システムパラメータ
定格電力 674kVA
定格線間電圧電圧 690V
定格周波数 50Hz
極数P 4極
回転子抵抗R 0.0118p.u.
回転子漏洩インダクタンスLls 0.217p.u.
回転子抵抗r′ 0.0156p.u.
励磁インダクタンスL′ 7.28p.u.
線路抵抗R 0.000195p.u./Km
線路インダクタンスL 0.0195p.u./Km
慣性定数J 18.03kgm
図1のかご形誘導発電機4を用いた一機無限大母線系統において、送電線路3上で三相地絡故障Fが発生することを想定した誘導発電機4の安定解析を行つた。図2は三相地落時の誘導発電機4の等価回路であり、図中、Vは故障点Fでの電圧、R、Lは線路の抵抗及びインダクタンス、r′,L′は誘導発電機回転子の抵抗及びインダクタンス、ωは回転子角速度、λ′drはd軸鎖交磁束数を示す。図2より三相地落故障時におけるq軸,d軸電流は回転子角速度ωを一定と仮定すれば、q軸電流iqs、i′qr及びd軸電流ids、i′drは(1)〜(4)式のように表される。
【0013】
【数1】
Figure 2004180435
【0014】
ただし、式中のωrssは定常状態における回転子角速度、θは三相地落故障発生時のa相固定子電流の位相角、また式中の時間tに付してある” ′”は三相地落故障発生時刻をゼロと考えた場合の経過時間であることを示している。なお、他の定数を表2に示す。
【0015】
【表2】
Figure 2004180435
【0016】
また、誘導発電機の出力トルクTem及び電力PIGは(5)、(6式)で表される。
【0017】
【数2】
Figure 2004180435
【0018】
(1)〜(4)式を(5)式に代入し、整理すると、(7)式となる。
【0019】
【数3】
Figure 2004180435
【0020】
2.運動方程式
上記過渡解析式((1)〜(7)式)を用いて三相地落故障時の回転子角速度を表現する速度方程式の導出を説明する。回転子の運動方程式は(8)式で表される。
【0021】
【数4】
Figure 2004180435
【0022】
ただし、ω;故障期間中の回転子角速度、Tmech;機械的入力トルク、Tdamp;制動トルクである。ここで、
【0023】
【数5】
Figure 2004180435
【0024】
とおき、(8)式を回転子角速度ωについて解くと(9)式となる。
【0025】
【数6】
Figure 2004180435
【0026】
【数7】
Figure 2004180435
【0027】
である。ここで、(2α/ωrss≪1よりZ≒1であり、またL≫L′lの場合にはθ≒θ及びA≒Bが成り立つ。したがって、(9)式右辺第1項は第2項に比して十分小となり、(10)式のように近似できる。
【0028】
【数8】
Figure 2004180435
【0029】
(10)式を用いることで三相地落故障期間中の回転子の速度変化を考慮した誘導発電機の出力電力を表現できる。(10)式を用いると故障期間中の誘導発電機の出力電力は(11)式のように書き直される。
【0030】
【数9】
Figure 2004180435
【0031】
(10)、(11)式の妥当性を数値計算プログラムを用いたシミュレーシン結果と比較することで検証する。数値計算プログラムにおけるシミュレーシンモデルは誘導発電機の非線形性を考慮したシステム方程式を用いて構成されている。
図3(a)及び(b)に回転子角速度及び出力電力の解析式による計算結果(実線)及び数値計算プログラムを用いたシミュレーション結果(点線)を示す。ただし、図3は誘導発電機が定常運転中、送電線路中央で三相地落故障が発生(t=4.0sec)した場合のシミュレーション結果である。
【0032】
図3より、解析式による計算結果は数値計算プログラムを用いたシミュレーション結果によく一致おり、解析式の妥当性が確認できる。図3において数値計算プログラムを用いたシミュレーション結果で地絡故障直後の回転子角速度に振動がみられるが、これは(9)式右辺第一項に示す成分である。また、出力電力のシミュレーション結果に関する誤差は、解析式を導出する際に用いた近似の影響により(11)式中の係数Zの値に誤差が生じたためである。
3.等面積法による誘導発電機の安定性解析
誘導発電機の出力特性表示に通常よく用いられる出力電力−すべり特性を(10)式を用いて時間領域に変換し,等面積法によって安定性解析を行うために必要な方程式の導出を行う。
3.1 出力電力−すべり特性
誘導発電機の回転子角速度の変化に対する出力特性は(12)式によって表される。
【0033】
【数10】
Figure 2004180435
【0034】
ここで、ωは電源電圧の角速度である。(12)式より誘導発電機の出力電力−すべり特性は図4(a)のようになる。ただし、図4の特性は故障発生後の誘導発電機の出力電力をゼロと仮定した場合である。図中のsは定常状態における発電機機速度であり、scrは再閉路時の発電機速度である。ここで、発電機の損失を無視すれば図中のA′acは故障期間中発電機に加えられ、回転子を加速させるエネルギーであり、A′deは再投入後発電機速度を減少させるエネルギーである。したがって、A′ac=A′deとなるすべりscrが誘導発電機の安定限界である。
3.2 出力電力−時間特性
時間領域における誘導発電機の出力特性について説明する。(12)式に(10)式を代入すると、故障期間における誘導発電機の出力電力−時間特性は図4(b)のようになる。ただし、図4は故障発生後の誘導発電機の出力電力をゼロと仮定した場合を表しており、実際の解析では(11)式に示す出力を考慮した安定性解析を行う。したがって、故障期間中の発電機出力を考慮すれば図中のAac、Adcは(13)、(14)式によって求められる。
【0035】
【数11】
Figure 2004180435
【0036】
ただし、Pssは定常状態における発電機出力電力である。等面積法では、Aac=Adcの場合が安定限界であり、Aac>Adcの場合は不安定、Aac<Adcの場合が安定である。(13)、(14)式を用いることにより、Aac=Adcにより得られる安定限界時間t′crを計算できる。
4.シミュレーション結果
送電線路上で三相地落故障が生じた場合に、各機械的入力トルクに対して安定限界となる再閉路時間tcrを(13)、(14)式とを用いて求め、その結果の妥当性を数値計算プログラムを用いたシミュレーション結果と比較することにより検証する。安定限界となる再閉路時間tcrの評価は、送電線路長l=30km、故障発生時間t=4.00sec、故障継続時間tcont=0.10secに固定し、再投入時間のみを変化させた場合に誘導発電機が再投入後に安定な動作をするか否かで行った。図5(a)及び(b)はその時の回転速度及び有効電力の出力波形で、図5(a)は再投入後誘導発電機が安定な動作を継続する場合の出力波形、図5(b)は再投入後不変定な場合の出力波形である。この安定限界となる再閉路時間を臨界再閉路時間(CriticarReclosingTime;CRT)とし、(15)式によって定義する。
【0037】
【数12】
CRT=tcr−t (15)
ここで、t及びtcrはそれぞれ故障発生時間及び再閉路時間である。故障シーケンスは、誘導発電機が定常運転中送電線路上で三相地落故障が発生(t=t)、その後線路ブレーカを開放(t=t)し、故障復旧後発電機を系統へ再投入(t=tcr)とした。通常、風力発電機の系統への再投入は故障除去から数分程度後であるが、等面積法を誘導発電機の安定解析へ適用することの妥当性を確認するするために発電機の再投入は故障消滅から数サイクル後とした。
【0038】
図6(a)に各機械的入力トルクに対する臨界再閉路時間CRTの解析式による計算結果(実線)及び数値計算プログラムを用いたシミュレーション結果(鎖線)を表3に、また表3をプロットした結果を図6に示す。
【0039】
【表3】
Figure 2004180435
【0040】
また、図6(b)にCRTの解析エラーを示す。図6より等面積法を用いた誘導発電機の安定性解析結果(実線)は数値計算プログラムによるシミュレーション結果(鎖線)で得られた機械的入力トルク−CRTの特性とよく一致していることが確認できる。
II.実施形態
本発明の実施形態に係る等面積法による三相地絡故障時おける誘導発電機の安定性解析方法について説明する。この安定性解析は上記(10)、(12)〜(14)式を用い図7の手順で行う。まず、定常状態における誘導発電機出力電力Pssを与える共に故障発生時間t=0とする。そして、故障期間中の誘導発電機の回転子角速度ωを近似式(10)式を用いて誘導発電機の定数から求め、次に誘導発電機の出力電力−すべり特性式(12)式を用いて故障発生からPsc=Pssまでの時間t′を求める。次いで(13)、(14)式を用いて故障期間中に発電機に加えられ回転子を加速するエネルギーAacと再閉路後に発電機速度を減少させるエネルギーAdeを算出し、Aac=Adeを解いて安定限界再閉路時間t′crを求める。
【0041】
この等面積法による誘導発電機の安定性解析方法によれば、三相地絡故障時おける誘導発電機の安定度を簡単に求めることができる。この方法による誘導発電機の過渡安定度解析結果は上述したように数値計算プログラムを用いたシミュレーション結果と比較することでその妥当性が確認された。この等面積法による誘導発電機の安定性解析は三相地落故障時における誘導発電機の安定度を評価する上で有効である。
【0042】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明によれば、三相地絡故障時おける誘導発電機の安定性解析時間を短縮できる。また、等面積法に基づく安定限界式から数値積分などを必要とせずに誘導発電機の安定限界再閉路時間を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】対象とする誘導発電機が接続された一騎無限大母線系統図。
【図2】一騎無限大母線系統三相地絡故障時のq軸等価回路図。
【図3】(a)は回転子速度の解析式の計算結果及びシミュレーション結果を示す回転子の角速度時間−時間特性図、(b)は出力電力の解析式の計算結果及びシミュレーション結果を示す出力電力−時間特性図。
【図4】(a)は故障発生後の誘導発電機の出力電力をゼロと仮定した場合の出力電力−スリップ特性図、(b)は故障発生後の誘導発電機の出力電力をゼロと仮定した場合の出力電力−時間特性図。
【図5】(a)は再投入後誘導発電機が安定な動作を継続する場合の出力波形図、(b)は再投入後不変定な場合の出力波形図。
【図6】(a)は誘導発動機の機械的入力トルクに対するCRT(臨界再閉路時間)の解析式による計算結果及びシミュレーション結果を示す機械的入力トルク−CRT特性図、(b)はその計算結果とシミュレーション結果と差を示す機械的入力トルク−CRT解析エラー特性図。
【図7】本発明のシステム概念図。
【符号の説明】
1…無限大母線
2…送電線路
4…かご型誘導発電機
F…三相地絡故障点
P…誘導発電機の極数(表1)?出力電力(図4等)?
ss…定常状態における誘導発電機出力電力
IG…誘導発電機出力電力
sc…誘導発電機回転子角速度の変化に対する出力特性
CTR…臨界再閉路時間

Claims (3)

  1. 誘導発電機の出力電力−時間特性を用いて故障期間中に発電機に加えられ回転子を加速するエネルギーと再閉路後に発電機速度を減少させるエネルギーを算出し、その両者が等しいことから安定限界再閉路時間を算出することを特徴とする誘導発電機の安定度解析方法。
  2. 請求項1において、
    上記誘導発電機の出力電力−時間特性を求める場合に、誘導発電機の出力電力−すべり特性式から求めることを特徴とする誘導発電機の安定度解析方法。
  3. 請求項2において、
    上記誘導発電機の出力電力−すべり特性式から上記誘導発電機の出力電力−時間特性を求める場合に、故障期間中の誘導発電機の回転子角速度を回転子角速度の近似式を用いて誘導発電機の定数から求めることを特徴とする誘導発電機の安定度解析方法。
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