JP2004159849A - 細胞接着性生体吸収材料、人工血管およびそれらの製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、人工血管、人工皮膚、人工器官などとして使用される細胞接着性生体吸収材料、それを用いた人工血管およびそれらの製造方法に関し、更に詳細には、生体吸収性ポリマー材料からなる基体表面に、細胞接着性ペプチドである−RGD基を固定し、表面への細胞接着性を向上させた細胞接着性生体吸収材料、人工血管およびそれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、生体吸収性ポリマー材料(生体吸収材料、生体分解性材料などとも称される)であるポリ乳酸(PLA)、ポリリシン(PLL)、ポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)等を人工血管の材料に用いることは知られている。また血管内皮細胞を刺激誘因する物質を、アガロース、デキストラン、ポリ乳酸、ゼラチン、フィブリノーゲン等の生体分解性ポリマー中に分散して複合化した人工血管も知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、該特許文献1において、血管内皮細胞を刺激誘因する物質としては、ラミニン、γ−グロブリン、卵白アルブミン、トランスフェリン、EGF(上皮細胞成長因子)、ECGS(内皮細胞成長因子)、FGF(繊維芽細胞成長因子)、N−ホルミル−L−メチオニル−L−ロイシル−L−フェニルアラニンおよびL−スレオニル−L−リシル−L−プロリンが開示されている。
【0003】
生体吸収性ポリマー材料と細胞接着を促進する物質とを組み合わせた他の技術としては、ポリリシン(PLL)に細胞接着性のペプチド(GRGDS)を結合させ、それをポリ乳酸膜の表面に接着させる技術が知られている(例えば、非特許文献1参照)。この非特許文献1には、ポリ乳酸に官能基がないために細胞接着性のペプチドを固定することが困難であることが記載されている。また同文献には、0.01%のPLL−GRGDSで表面をコートしたポリ乳酸膜上でウシ大動脈内皮細胞を培養すると、未処理膜に比べて細胞がよく伸展すること、およびPLL−GRGDSの濃度を高くすると、細胞の伸展が阻害されることが記載されている。
【0004】
細胞接着性のペプチド(以下、細胞接着性材料と記す)としては、その他にRGD(アルギニル−グリシニル−アスパラギン酸)ペプチドが知られており、このRGDペプチドを生体吸収性のないポリメチルメタクリレート(PMMA)の表面に導入した材料も知られている(例えば、非特許文献2参照)。この非特許文献2に記載された材料は、PMMAの表面にチオールリンカーあるいはアクリルアミドリンカーを介して環状RGDを導入している。RGDペプチドは細胞側のインテグリンαvβ3やαvβ5によって認識される。チオールリンカーを用いて環状RGDを導入したPMMAでは、ヒト骨芽細胞、ヒト骨前駆体細胞、ラット骨芽細胞、マウス骨芽細胞の接着性が高くなった。インテグリンαvβ3やαvβ5を発現していないヒトメラノーマ細胞は接着しなかった。アクリルアミドリンカーを用いて環状RGDを導入したPMMAでは、リンカーが長い方がマウス骨芽細胞の接着性が高かった。また、環状RGDを導入したPMMAの動物実験においても、骨形成が促進されていたことが記載されてる。
【0005】
一方、細胞接着性材料を用いずに、ポリ乳酸膜の細胞増殖性を高めるために、プラズマ処理を施すことが提案されている(例えば、非特許文献3参照)。この非特許文献3では、ポリ乳酸膜をアンモニアプラズマ処理によって表面改質している。この処理をした膜上でヒト臍帯静脈内皮細胞とウサギ微小血管内皮細胞を培養すると、未処理膜やフィブロネクチンをコートしたポリ乳酸膜に比べて細胞の増殖性が良くなったことが記載されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平5−76588号公報
【非特許文献1】
Robin A. Quirk, Weng C. Chan, Martyn C. Davies, Saul J.B. Tendler, Kevin M. Shakesheff、「ポリ乳酸用の生体模倣性表面修飾剤としてのポリ(L−リシン)−GRGDS(Poly(L−lysine)−GRGDS as a biomimetic surface modifier for poly(lactic acid)」、Biomaterials 22 (2001) 865−872
【非特許文献2】
Martin Kantlehner, Patricia Schaffner, Dirk Finsinger, Jorg Meyer, Alfred Jonczyk, Beate Diefenbach, Berthold Nies, Gunter Holzemann, Simon L. Goodman, and Horst Kessler、「環状RGDペプチドでの表面コーティングは骨芽細胞接着と増殖および骨形成を促進する」(Surface Coating with Cyclic RGD Peptides Stimulates Osteoblast Adhesion and Proliferation as well as Bone Formation)」、CHEMBIOCHEM 2000, 1, 107−114
【非特許文献3】
Cecilia F.L. Chu, Albert Lu, Mark Liszkowski, Rajender Sipehia、「生体分解性ポリマー上の動物及びヒト内皮細胞の増大した増殖(Enhanced growth of animal and human endothelial cells on biodegradable polymers)」、Biochimica et Biophysica Acta、1472 (1999)、479−785
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術において、生体吸収性ポリマー材料であるポリ乳酸にRGD等の細胞接着性材料を固定することは困難であり、従来は細胞接着性材料を人工血管等に用いるために、細胞接着性材料をポリマー材料中に分散して使用したり(特許文献1参照)、PLLに細胞接着性材料を結合させたものをポリ乳酸膜に接着させたり(非特許文献1参照)、あるいはPMMAなどの細胞接着性をもたないポリマーに固定して用いる(非特許文献2参照)方法を採用していた。
【0008】
しかしながら、特許公報1に記載されたように、細胞接着性材料をポリマー材料に分散する方法では、ポリマー材料の表面から細胞接着性材料が抜け出し易いために、人工血管として使用する場合にその表面に細胞を接着させる効果が十分に得られない問題がある。
【0009】
また非特許公報1に記載されたように、PLLに細胞接着性材料を結合させたものをポリ乳酸膜に接着させる方法も、ポリ乳酸膜から細胞接着性材料が抜け出し易く、人工血管として使用する場合にその表面に細胞を接着させる効果が十分に得られない問題がある。また、この方法で長尺の管の内壁面に均一に細胞接着性材料を分布させた高品質の人工血管を製造するのは困難であり、しかも製造工程が複雑になって製造コストが高くなる問題がある。
【0010】
さらに非特許公報2に記載されたように、PMMAなどの細胞接着性をもたないポリマー基体に細胞接着性材料を固定して用いる方法は、人工血管として使用した後、ポリマー基体が生体内でなくならずに残存することから、生体内で徐々に細胞と入れ替わりながら、最終的に生体内から消滅するという生体吸収性ポリマー材料の長所を享受できない。
【0011】
また、非特許公報3に記載されたように、細胞接着性材料を用いず、ポリ乳酸膜をプラズマ処理によって表面改質する方法は、人工血管として使用する場合にその表面に細胞を接着させる効果が十分に得られない問題がある。
【0012】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、従来技術では製造困難であったポリ乳酸等の生体吸収性ポリマー材料に細胞接着性の−RGD基を固定した細胞接着性生体吸収材料、人工血管及びそれらの製造方法の提供を目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明は、生体吸収性ポリマー材料からなる基体の表面に構造式(1)
【0014】
【化4】
【0015】
で示される−RGD基が固定されたことを特徴とする細胞接着性生体吸収材料を提供する。
本発明の細胞接着性生体吸収材料において、前記−RGD基は、前記基体の表面の1cm2当たり1pmol〜5nmolの濃度で存在することが好ましい。もちろんこの濃度範囲に限定されることなく、細胞接着性生体吸収材料の用途に応じて前記−RGD基は幅広い濃度範囲で存在することが可能である。
また前記生体吸収性ポリマー材料は、ポリ乳酸、ポリリシンおよびポリ乳酸・グリコール酸からなる群から選択される1種が好ましい。
また本発明は、前記細胞接着性生体吸収材料からなる中空糸または管を含むことを特徴とする人工血管を提供する。
【0016】
さらに本発明は、前記構造式(1)で示される−RGD基と不飽和アシル基とを結合させて不飽和アシル化ペプチドを含む溶液を形成する工程と、
生体吸収性ポリマー材料からなる基体にプラズマを照射して表面活性化基体を形成する工程と、
前記表面活性化基体と、前記不飽和アシル化ペプチドを含む溶液とを接触させ、該基体の表面に−RGD基が固定された細胞接着性生体吸収材料を得る工程とを含むことを特徴とする細胞接着性生体吸収材料の製造方法を提供する。
【0017】
また本発明は、前記構造式(1)で示される−RGD基と不飽和アシル基とを結合させて不飽和アシル化ペプチドを含む溶液を形成する工程と、
生体吸収性ポリマー材料からなる中空糸または管状の中空基体にプラズマを照射して表面活性化中空基体を形成する工程と、
前記表面活性化中空基体と、前記不飽和アシル化ペプチドを含む溶液とを接触させ、該中空基体の表面に−RGD基が固定された人工血管を得る工程とを含むことを特徴とする人工血管の製造方法を提供する。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の細胞接着性生体吸収材料は、生体吸収性ポリマー材料からなる基体の表面に構造式(1)
【0019】
【化5】
【0020】
で示される−RGD基を固定したことを特徴とする。
【0021】
この細胞接着性生体吸収材料の基体として用いる生体吸収性ポリマー材料としては、生(生体)分解性ポリマーなどとも称されている周知の各種生体吸収性ポリマー材料の中から適宜選択して用いることができる。本発明において特に好適な生体吸収性ポリマー材料としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリリシン(PLL)およびポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)からなる群から選択される1種または2種以上をブレンドした材料を挙げることができる。これらの材料は、フィルム、中空糸を含む糸状、テープ状、極細フィラメントなどの各種の形態を製造することができ、あるいは適当な市販品があればそれを用いることもできる。基体の形状、厚み、寸法などは、本発明の細胞接着性生体吸収材料の使用用途に応じて適宜決定され、例えば人工血管用には多孔質の管状基体(大・中人工血管用)、中空糸基体(小人工血管用)が用いられ、人工皮膚用には適当な厚みのシート状基体、織物基体、多孔質シート基体などが用いられ、また種々の人工器官用には、管状基体やシート状基体を適宜接合して所望形状としたり、あるいは成形型を用いて所望形状に成形加工した基体を用いることができる。さらに本発明の細胞接着性生体吸収材料は、顆粒や粉体の形態として、あるいは製薬上許容される溶剤、賦形剤、可塑剤、結合剤、乳化剤、分散剤などの添加物を加えて、懸濁液、乳液、軟膏、クリーム、ペーストなどの注入や塗布に好適な形態とすることもできる。
【0022】
この基体に固定される−RGD基は、前記構造式(1)で表される通り、アルギニン残基、グリシン残基およびアスパラギン酸がこの順に結合してなるトリペプチドの基である。非特許公報2に記載されている通り、−RGD基自体は公知であり、また該基が生体内において細胞接着性を有することも知られている。しかし従来技術では、ポリ乳酸などの生体吸収性ポリマー材料からなる基体表面に直接該−RGD基を固定することは困難であり、利用方法としてはポリマー材料中にペプチドを分散させるか、PMMAなどの生体吸収性でないポリマーに固定して用いるしかなかった。本発明では、ポリ乳酸などの生体吸収性ポリマー材料からなる基体に−RGD基を固定した新規な細胞接着性生体吸収材料である。本発明の好適な形態において、該−RGD基は、R(アルギニン残基)の一端(アミノ基側)がリンカー(アクリロイル基などの不飽和アシル基)の結合によって該基体に固定されている。
【0023】
この−RGD基は周知のペプチド合成法を含めた種々の製造方法を用いて作製できる。このような合成はペプチド合成の分野で周知の技法、特に、市販の各種ペプチド合成機を用いて実施できる。
例えば、アスパラギン酸のカルボキシル基を、表面に適当な官能基を有する樹脂などの基材に結合させ、該アスパラギン酸のアミノ基とグリシンのカルボキシル基とを前記との間にペプチド結合を形成させる(GD形成)。次に、一端に不飽和アシル基などのリンカーを結合してあるアルギニンのカルボキシル基とGD中グリシン残基のアミノ基との間にペプチド結合を形成させて得ることができる。
あるいは、適当な基材の表面に、まずアルギニンのアミノ基を結合させる。次に、該基材をグリシン溶液(ペプチド合成用酵素又は触媒を含む)と接触させ、該アルギニンのカルボキシル基とグリシンのアミノ基との間にペプチド結合を形成させる(−RG形成)。次いで、該基材をアスパラギン酸溶液(ペプチド合成用酵素又は触媒を含む)と接触させ、グリシンのカルボキシル基とアスパラギン酸のアミノ基との間にペプチド結合を形成させる(RGD形成)。最後に、基材から該ペプチドを脱離することによってRGDペプチドが合成される。さらに、該RGDペプチドは、塩化アクリロイル等の不飽和アシル基含有化合物と接触させることでアルギニン残基のアミノ基側にリンカーとなる不飽和アシル基を結合させる。
【0024】
この細胞接着性生体吸収材料において、基体に固定された−RGD基の表面濃度は、基体表面の1cm2当たり1pmol〜5nmolの範囲とすることが好ましい。−RGD基の表面濃度が前記範囲より少ないと、得られる細胞接着性生体吸収材料の細胞接着性向上効果が十分に得られず、該基を固定していない基体と比べて細胞接着特性に有意の差がなくなる。一方、−RGD基の表面濃度が前記範囲より大きいと、製造が困難になり、また却って細胞接着性向上効果が減じられる可能性がある。しかし、生体材料の用途によって−RGD基の濃度範囲は自由に選択することが可能であり、化学的、生物的に許容される範囲内で調整することができる。
【0025】
この細胞接着性生体吸収材料は、生体内に移植、埋入または皮膚に貼着して用いることで、表面の−RGD基が周囲の細胞(血管内皮細胞、骨芽細胞、繊維芽細胞、表皮内皮細胞など)を接着し、基体の表面に該細胞を固定化し、増殖させる。一方、基体は時間の経過とともに徐々に生体内吸収され、漸次薄肉化する。最終的に該細胞接着性生体吸収材料は、表面に接着、増殖した細胞によって基体が置換された状態となり、基体自体は自己細胞からなる組織と置換して消滅する。
【0026】
本発明の細胞接着性生体吸収材料は、生体吸収性ポリマー材料からなる基体の表面に前記構造式(1)で示される細胞接着性の−RGD基が固定されたものなので、生体内に移植、埋入または皮膚に貼着して用いる際に、細胞接着性の−RGD基が基体から抜け出すことがなく、長期にわたり良好な細胞接着性能が維持されるので、基体表面に自己細胞を接着、増殖させて自己細胞からなる層や組織を形成する自己修復効果に優れている。
また基体が生体吸収性ポリマー材料からなるものなので、基体表面に自己細胞からなる層や組織が形成されるとともに基体が消滅して生体内に残らない生体吸収性ポリマー材料の長所を有している。
さらに基体に固定された−RGD基の表面濃度を基体表面1cm2当たり1pmol〜5nmolの範囲としたことによって、特に優れた細胞接着性能を得ることができ、基体表面に自己細胞を接着、増殖させて自己細胞からなる層や組織を形成する自己修復の確率を高めることができる。
【0027】
本発明の人工血管は、生体吸収性ポリマー材料からなる中空糸または管状基体の表面に前記構造式(1)で示される細胞接着性−RGD基が固定された構造になっている。これに用いられる中空糸または管状基体は、透液性の無い平膜、透液性のある多孔質膜、多数のフィラメントを織って作られた管状織物、管状不織布などの形態とすることができる。これらの形態は、人工血管の適用部位などに応じて適宜選択でき、例えば、直径5mm以下の小口径人工血管用には、平膜の中空糸や多孔質中空糸(管)を用いることができ、それ以上の直径を有する中または大口径人工血管には、強靭な管状織物基体を用いることができる。
【0028】
この中空糸または管状基体の材料は、前述した通り、ポリ乳酸(PLA)、ポリリシン(PLL)およびポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)からなる群から選択される1種または2種以上をブレンドした材料が好ましい。また基体に固定された−RGD基の表面濃度は、基体表面1cm2当たり1pmol〜5nmolの範囲が好ましい。
【0029】
本発明の人工血管の好ましい一例として、直径5mm以下の小口径人工血管を挙げることができる。従来技術によって製造された人工血管は、直径5mm以上のものが使用され、それより小径の人工血管は実験段階でしばしば血管閉塞が見られるために使用されていない。本発明では、生体吸収性ポリマー材料からなる中空糸または管状基体(以下、中空基体と記す)の表面に前記構造式(1)で示される細胞接着性の−RGD基が固定された構造とし、生体内で血管内皮細胞などの血管壁構築細胞を接着して増殖させることで、閉塞せずに血管再生を可能とする小口径人工血管を提供し得る。
【0030】
これに用いる中空基体は、ポリ乳酸などの生体吸収性ポリマーを用いた人工血管の製造方法として種々の文献に記載された従来公知のプロセス(例えば前掲の特許文献1、非特許文献1、2参照)を用いて種々の直径および口径のものを製造でき、または生体吸収性ポリマー材料からなる好ましい寸法の中空基体が市販されているならば、それを用いることもできる。例えばポリ乳酸からなる中空基体を製造するには、ポリ乳酸をメタノール、ジオキサンなどの溶媒に10〜40質量%程度の濃度で溶かしてポリマー溶液を作り、環状のスリットを設けたノズル(環の中心には水供給路を有する)から、水などの凝固液中に該ポリマー溶液を押し出し、ポリマーを中空糸または管状に凝固させて製造し得る。その際、凝固液の組成を水あるいは水と所望濃度のメタノール、ジオキサン等の混合液の中から適宜選択して用いることによって、中空基体を構成する膜が、実質的に透液性のない膜から透液性を有する多孔質膜まで変更することができる。例えば、凝固液として水を用いる場合には、実質的に透液性のない膜を作製でき、水と前記溶媒とを質量比3:7〜7:3程度の比率で混合した凝固液を用いる場合には、透液性を持った多孔質中空基体を製造できる。このような多孔質中空基体で作られた人工血管は、平滑表面の人工血管に比べて細胞接着性および増殖性に優れている点で好ましい。
【0031】
本発明の人工血管の好ましい別な形態として、中または大口径人工血管用の管状織物基体の表面に前記細胞接着性の−RGD基が固定された人工血管を挙げることができる。この管状織物基体の材料は、前述した通り、ポリ乳酸(PLA)、ポリリシン(PLL)およびポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)からなる群から選択される1種または2種以上をブレンドした材料が好ましい。また基体に固定された−RGD基の表面濃度は、基体表面1cm2当たり1pmol〜5nmolの範囲が好ましい。
【0032】
これに用いられる管状織物基体は、生体吸収性ポリマー材料からなる極細のフィラメントを管状に織り上げて作製される。この管状織物基体は、透液性があり薄手でありながら、機械的強度に優れ、強靭であり、しかも取り扱い性に優れた素材である。また該人工血管は、管状織物基体をベースとしているために、その端部と生体内の血管端部とを接合する際に、容易に縫合ができ、強固に接続することができる。また、−RGD基による細胞接着性、大きな表面積、基体の透液性、柔軟性、薄さなどの構造的特質によって、破損しにくく安全性が高い、細胞接着性および増殖性に優れる、血管再生が速やかに行われる、などの長所が得られる。
【0033】
本発明は、前記細胞接着性生体吸収性材料および人工血管の製造方法も提供する。
図1は本発明の細胞接着性生体吸収性材料および人工血管の製造方法の一実施形態を示す図である。この図中符号10は基体、11は細胞接着性生体吸収性材料または人工血管(以下、細胞接着性生体吸収性材料と記す)、12は表面活性化基体を示す。本実施形態では、図1中に概略的に示す(a)〜(d)の工程を順に行うことで、基体10の表面に前記構造式(1)で示される−RGD基をリンカーである不飽和アシル基の典型例であるアクリロイル基を介して固定した細胞接着性生体吸収性材料11を製造する。
【0034】
基体10は、前記の通り、種々の生体吸収性ポリマー材料を用いることができ、好ましくはポリ乳酸(PLA)、ポリリシン(PLL)およびポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)からなる群から選択される1種または2種以上をブレンドした材料を挙げることができる。基体10の形状は、製造するべき細胞接着性生体吸収性材料11に応じて適宜選択でき、中空基体、管状織物基体、フィルム基体などを使用し得る。
【0035】
本実施形態による製造方法では、まず前記構造式(1)で示される−RGD基とアクリロイル基とを結合させてアクリロイル化ペプチド(CH2=CH−CO−RGD)を含む溶液を形成する。該アクリロイル化ペプチドを合成する方法は、前述した通り、ペプチド合成機を用いて合成した保護RGDペプチドの溶液ないしはRGDを合成したペプチド固相担体に、アクリロイル化反応剤を加えて該アクリロイル化ペプチドを合成する方法、GDペプチドにアクリロイル化アルギニンをペプチド縮合する方法などを用いることができる。またアクリロイル化反応剤としては、塩化アクリロイルなどのハロゲン化アクリロイルやアクリル酸とジシクロヘキシルカルボジイミドなどの有機化学的に許容される脱水剤の組み合わせから自由に選ぶことができる。また、不飽和アシル基としては、前記アクリロイル基に限定されることなく、メタクロイル基、クロトニル基など二重結合を有するアシル基からなる群から選択される基を用いることができ、またその導入法も酸塩化物を用いる方法、カルボン酸と脱水剤を用いる方法などから自由に選ぶことができる。
【0036】
次に、生体吸収性ポリマー材料からなる基体10にArプラズマを照射して表面活性化基体12を形成する[図1中(a)、(b)参照]。この表面活性化基体12を形成するために用いるプラズマ処理は、Arプラズマ以外に、アンモニアガス、酸素ガス、水素ガス、他の不活性ガスなどの雰囲気中でのプラズマ処理を用いることができるが、基体10表面に均一に多数のラジカルを形成できること、処理が容易であることなどの点から、Arプラズマを用いることが望ましい。Arプラズマで基体10を処理するための装置は特に限定されず、従来公知のプラズマ表面処理用、スパッタリング用の装置を用いて実行し得る。このプラズマ処理の条件は、得られる表面活性化基体12に前記アクリロイル化ペプチド溶液を接触させた際に、−RGD基の表面濃度が基体10表面1cm2当たり1pmol〜5nmolの範囲となるように調整することが好ましい。具体的には、アルゴンガスの圧力0.01〜1torr、出力10〜50W、処理時間10〜60秒の条件下でプラズマ処理するのが好ましい。
【0037】
このプラズマ処理によって、図1(b)に示すように、生体吸収性ポリマー材料からなる基体10の表面に多数のラジカルが発生する。RGDペプチドと結合させた前記アクリロイル基は、このラジカルと反応して共有結合を形成する。
【0038】
次に、前記表面活性化基体12と、前記アクリロイル化ペプチドを含む溶液とを接触させ基体10の表面に−RGD基が固定された細胞接着性生体吸収材料11を得る[図1(c)、(d)参照]。該溶液中のアクリロイル化ペプチドの濃度は、−RGD基の表面濃度が基体10表面1cm2当たり1pmol〜5nmolの範囲となるように調整され、通常は0.01〜1モル/L程度とされる。この反応温度は30〜90℃、好ましくは40〜70℃程度とするのが好ましい。
【0039】
表面活性化基体12表面のラジカルと、アクリロイル化ペプチドとの反応によって、アクリロイル基の一端が基体10表面と共有結合し、該アクリロイル基を介して−RGD基が基体10に結合する。この反応は、中空糸、管状基体あるいは管状織物基体の管内壁でも均一に生じるため、これらの管状基体の内壁に−RGD基を容易に且つ確実に固定することができる。
【0040】
表面活性化基体12とアクリロイル化ペプチドとの反応によって、基体10の表面に−RGD基が固定された細胞接着性生体吸収材料11[図1(d)参照]が得られる。この細胞接着性生体吸収材料11は、生体内に移植、埋入または皮膚に添付して用いた場合、図1(e)に示すように、血管内皮細胞、繊維芽細胞などの細胞が基体10表面の−RGD基を認識して基体10表面に接着し、増殖して自己細胞からなる層や組織を形成する。一方、基体10は生体吸収性ポリマー材料からなるものなので、基体10表面に自己細胞からなる層や組織が形成されるとともに該基体10は漸次吸収され、消滅する。
【0041】
本発明の細胞接着性生体吸収性材料または人工血管の製造方法は、生体吸収性ポリマー材料からなる基体10にプラズマ処理して多数のラジカルを発生させた表面活性化基体12とアクリロイル化ペプチド溶液とを接触させ、基体10表面にアクリロイル基を介して−RGD基を固定することによって、生体吸収性ポリマー材料からなる基体10の表面に−RGD基が固定された細胞接着性生体吸収材料11を製造することができる。
また、管状基体を外側からプラズマ処理することで、管外面だけでなく内壁面にラジカルを生じさせることができ、その後アクリロイル化ペプチド溶液と接触させることで、管内壁面にも−RGD基を固定することができるので、管外面だけでなく内壁面に均一な濃度で−RGD基を有する中空糸、管状、管状織物からなる人工血管を製造することができる。
以下、実施例により本発明の作用効果を明確にする。
【0042】
【実施例】
(RGDペプチドの調製)
ペプチド合成機(Applied Biosystems,Inc.社製、Pioneer(商標)Peptide Synthesis System)を用い、アスパラギン酸プレロード樹脂(NOVA社製FmocAsp TGA樹脂)に保護グリシンとL−アルギニンを順次結合させ、保護RGDペプチドを固相上に合成した。合成したRGDペプチド260μgを30mLのDMFに溶かし、RGDペプチド溶液とした。塩化アクリロイル406μLを前記RGDペプチド溶液に混合し、室温で60分間撹拌して反応させ、RGDペプチドのアミノ末端にアクリロイル基が結合したアクリロイル化RGDペプチドを固相上に形成した。次いで、TFA・H2O・TIPS(95:2.5:2.5)を加え、室温で2時間撹拌し、濾過して得られた濾液を減圧濃縮した。得られた残渣を水に溶解し、エーテルで2回注出して水相を減圧濃縮し、アクリロイルRGDを得た。
【0043】
(細胞接着性生体吸収材料の製造)
基体としてポリ乳酸(Polysciences,Inc.社製、poly(L−lactic acid),Mw100,000)を用いた。この基体をSamco社製プラズマ照射装置(商品名RF POWER METER Model PM−43 RF Matchingg Unit MD−2 RFG−200)に接続したチャンバー内に入れ、チャンバー内を真空排気した後、プラズマガスとして0.1torrのアルゴン雰囲気とし、出力10Wで60秒間、基体にアルゴンプラズマを照射し、表面活性化処理をした。チャンバーから取り出した表面活性化基体を、前記アクリロイル化RGDペプチドを各種濃度で含む水溶液中に浸漬し、50〜60℃で浸透しながら24時間放置した。その後、基体表面に−RGD基を固定した細胞接着性生体吸収材料を蒸留水で洗浄し、8時間減圧乾燥した。
【0044】
前記の通り作製した−RGD基を固定した膜(以下、実施例の膜という)と、比較のために−RGD基を固定していないポリ乳酸膜(以下、比較例の膜という)とのそれぞれの膜に対するHUVEC(正常ヒト臍帯静脈内皮細胞)の接着性を調べた。
東洋紡社製HUVEC細胞を内皮細胞増殖培地(東洋紡社製)に懸濁させた。前記実施例と比較例のそれぞれの膜の破片(0.95cm2)を組織培養ポリスチレンプレートの各ウェルに入れ、前記細胞懸濁培地1mLを該ウェルに入れ、37℃で培養した。各ウェル内の播種細胞数は1×105細胞/ウェルとした。細胞播種後、4時間及び24時間経過時点で膜に接着している細胞のみをカウントし、各膜の細胞接着性を調べた。細胞数測定は、取り出した膜を洗浄後、接着細胞のみをトリプシン処理して剥がし、血球計算盤を用いてカウントした。
【0045】
ポリ乳酸からなる基体表面に−RGD基を固定した実施例の膜は、−RGD基を固定していない比較例の膜に比べ、接着細胞数が大きく、−RGD基による細胞接着性が認められた。
また基体表面の−RGD基濃度は1cm2当たり1pmol〜5nmol程度が好ましいことが判った。
【0046】
【発明の効果】
本発明の細胞接着性生体吸収材料は、生体吸収性ポリマー材料からなる基体の表面に細胞接着性の−RGD基が固定されたものなので、生体内に移植、埋入または皮膚に貼着して用いる際に、−RGD基が基体から抜け出すことがなく、長期にわたり良好な細胞接着性能が維持されるので、基体表面に自己細胞を接着、増殖させて自己細胞からなる層や組織を形成する自己修復効果に優れている。
また基体が生体吸収性ポリマー材料からなるものなので、基体表面に自己細胞からなる層や組織が形成されるとともに基体が消滅して生体内に残らない生体吸収性ポリマー材料の長所を有している。
さらに基体に固定された−RGD基の表面濃度を基体表面1cm2当たり1pmol〜5nmolの範囲としたことによって、特に優れた細胞接着性能を得ることができ、基体表面に自己細胞を接着、増殖させて自己細胞からなる層や組織を形成する自己修復の確率を高めることができる。
本発明の人工血管は、生体吸収性ポリマー材料からなる中空糸または管状基体の表面に細胞接着性の−RGD基が固定された構造とし、生体内で血管内皮細胞などの血管壁構築細胞を接着して増殖させることで、閉塞せずに血管再生を可能とする小口径人工血管を提供し得る。
本発明の細胞接着性生体吸収性材料または人工血管の製造方法は、生体吸収性ポリマー材料からなる基体にプラズマ処理して多数のラジカルを発生させた表面活性化基体と不飽和アシル化ペプチド溶液とを接触させ、基体表面に−RGD基を固定することによって、生体吸収性ポリマー材料からなる基体の表面に−RGD基が固定された細胞接着性生体吸収材料を製造することができる。
また、管状基体を外側からプラズマ処理することで、管外面だけでなく内壁面にラジカルを生じさせることができ、その後不飽和アシル化ペプチド溶液と接触させることで、管内壁面にも−RGD基を固定することができるので、管外面だけでなく内壁面に均一な濃度で−RGD基を有する中空糸、管状、管状織物からなる人工血管を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の細胞接着性生体吸収性材料の製造方法を説明するための概略図である。
【符号の説明】
10 基体
11 細胞接着性生体吸収材料
12 表面活性化基体
【発明の属する技術分野】
本発明は、人工血管、人工皮膚、人工器官などとして使用される細胞接着性生体吸収材料、それを用いた人工血管およびそれらの製造方法に関し、更に詳細には、生体吸収性ポリマー材料からなる基体表面に、細胞接着性ペプチドである−RGD基を固定し、表面への細胞接着性を向上させた細胞接着性生体吸収材料、人工血管およびそれらの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、生体吸収性ポリマー材料(生体吸収材料、生体分解性材料などとも称される)であるポリ乳酸(PLA)、ポリリシン(PLL)、ポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)等を人工血管の材料に用いることは知られている。また血管内皮細胞を刺激誘因する物質を、アガロース、デキストラン、ポリ乳酸、ゼラチン、フィブリノーゲン等の生体分解性ポリマー中に分散して複合化した人工血管も知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、該特許文献1において、血管内皮細胞を刺激誘因する物質としては、ラミニン、γ−グロブリン、卵白アルブミン、トランスフェリン、EGF(上皮細胞成長因子)、ECGS(内皮細胞成長因子)、FGF(繊維芽細胞成長因子)、N−ホルミル−L−メチオニル−L−ロイシル−L−フェニルアラニンおよびL−スレオニル−L−リシル−L−プロリンが開示されている。
【0003】
生体吸収性ポリマー材料と細胞接着を促進する物質とを組み合わせた他の技術としては、ポリリシン(PLL)に細胞接着性のペプチド(GRGDS)を結合させ、それをポリ乳酸膜の表面に接着させる技術が知られている(例えば、非特許文献1参照)。この非特許文献1には、ポリ乳酸に官能基がないために細胞接着性のペプチドを固定することが困難であることが記載されている。また同文献には、0.01%のPLL−GRGDSで表面をコートしたポリ乳酸膜上でウシ大動脈内皮細胞を培養すると、未処理膜に比べて細胞がよく伸展すること、およびPLL−GRGDSの濃度を高くすると、細胞の伸展が阻害されることが記載されている。
【0004】
細胞接着性のペプチド(以下、細胞接着性材料と記す)としては、その他にRGD(アルギニル−グリシニル−アスパラギン酸)ペプチドが知られており、このRGDペプチドを生体吸収性のないポリメチルメタクリレート(PMMA)の表面に導入した材料も知られている(例えば、非特許文献2参照)。この非特許文献2に記載された材料は、PMMAの表面にチオールリンカーあるいはアクリルアミドリンカーを介して環状RGDを導入している。RGDペプチドは細胞側のインテグリンαvβ3やαvβ5によって認識される。チオールリンカーを用いて環状RGDを導入したPMMAでは、ヒト骨芽細胞、ヒト骨前駆体細胞、ラット骨芽細胞、マウス骨芽細胞の接着性が高くなった。インテグリンαvβ3やαvβ5を発現していないヒトメラノーマ細胞は接着しなかった。アクリルアミドリンカーを用いて環状RGDを導入したPMMAでは、リンカーが長い方がマウス骨芽細胞の接着性が高かった。また、環状RGDを導入したPMMAの動物実験においても、骨形成が促進されていたことが記載されてる。
【0005】
一方、細胞接着性材料を用いずに、ポリ乳酸膜の細胞増殖性を高めるために、プラズマ処理を施すことが提案されている(例えば、非特許文献3参照)。この非特許文献3では、ポリ乳酸膜をアンモニアプラズマ処理によって表面改質している。この処理をした膜上でヒト臍帯静脈内皮細胞とウサギ微小血管内皮細胞を培養すると、未処理膜やフィブロネクチンをコートしたポリ乳酸膜に比べて細胞の増殖性が良くなったことが記載されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平5−76588号公報
【非特許文献1】
Robin A. Quirk, Weng C. Chan, Martyn C. Davies, Saul J.B. Tendler, Kevin M. Shakesheff、「ポリ乳酸用の生体模倣性表面修飾剤としてのポリ(L−リシン)−GRGDS(Poly(L−lysine)−GRGDS as a biomimetic surface modifier for poly(lactic acid)」、Biomaterials 22 (2001) 865−872
【非特許文献2】
Martin Kantlehner, Patricia Schaffner, Dirk Finsinger, Jorg Meyer, Alfred Jonczyk, Beate Diefenbach, Berthold Nies, Gunter Holzemann, Simon L. Goodman, and Horst Kessler、「環状RGDペプチドでの表面コーティングは骨芽細胞接着と増殖および骨形成を促進する」(Surface Coating with Cyclic RGD Peptides Stimulates Osteoblast Adhesion and Proliferation as well as Bone Formation)」、CHEMBIOCHEM 2000, 1, 107−114
【非特許文献3】
Cecilia F.L. Chu, Albert Lu, Mark Liszkowski, Rajender Sipehia、「生体分解性ポリマー上の動物及びヒト内皮細胞の増大した増殖(Enhanced growth of animal and human endothelial cells on biodegradable polymers)」、Biochimica et Biophysica Acta、1472 (1999)、479−785
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術において、生体吸収性ポリマー材料であるポリ乳酸にRGD等の細胞接着性材料を固定することは困難であり、従来は細胞接着性材料を人工血管等に用いるために、細胞接着性材料をポリマー材料中に分散して使用したり(特許文献1参照)、PLLに細胞接着性材料を結合させたものをポリ乳酸膜に接着させたり(非特許文献1参照)、あるいはPMMAなどの細胞接着性をもたないポリマーに固定して用いる(非特許文献2参照)方法を採用していた。
【0008】
しかしながら、特許公報1に記載されたように、細胞接着性材料をポリマー材料に分散する方法では、ポリマー材料の表面から細胞接着性材料が抜け出し易いために、人工血管として使用する場合にその表面に細胞を接着させる効果が十分に得られない問題がある。
【0009】
また非特許公報1に記載されたように、PLLに細胞接着性材料を結合させたものをポリ乳酸膜に接着させる方法も、ポリ乳酸膜から細胞接着性材料が抜け出し易く、人工血管として使用する場合にその表面に細胞を接着させる効果が十分に得られない問題がある。また、この方法で長尺の管の内壁面に均一に細胞接着性材料を分布させた高品質の人工血管を製造するのは困難であり、しかも製造工程が複雑になって製造コストが高くなる問題がある。
【0010】
さらに非特許公報2に記載されたように、PMMAなどの細胞接着性をもたないポリマー基体に細胞接着性材料を固定して用いる方法は、人工血管として使用した後、ポリマー基体が生体内でなくならずに残存することから、生体内で徐々に細胞と入れ替わりながら、最終的に生体内から消滅するという生体吸収性ポリマー材料の長所を享受できない。
【0011】
また、非特許公報3に記載されたように、細胞接着性材料を用いず、ポリ乳酸膜をプラズマ処理によって表面改質する方法は、人工血管として使用する場合にその表面に細胞を接着させる効果が十分に得られない問題がある。
【0012】
本発明は前記事情に鑑みてなされたもので、従来技術では製造困難であったポリ乳酸等の生体吸収性ポリマー材料に細胞接着性の−RGD基を固定した細胞接着性生体吸収材料、人工血管及びそれらの製造方法の提供を目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明は、生体吸収性ポリマー材料からなる基体の表面に構造式(1)
【0014】
【化4】
【0015】
で示される−RGD基が固定されたことを特徴とする細胞接着性生体吸収材料を提供する。
本発明の細胞接着性生体吸収材料において、前記−RGD基は、前記基体の表面の1cm2当たり1pmol〜5nmolの濃度で存在することが好ましい。もちろんこの濃度範囲に限定されることなく、細胞接着性生体吸収材料の用途に応じて前記−RGD基は幅広い濃度範囲で存在することが可能である。
また前記生体吸収性ポリマー材料は、ポリ乳酸、ポリリシンおよびポリ乳酸・グリコール酸からなる群から選択される1種が好ましい。
また本発明は、前記細胞接着性生体吸収材料からなる中空糸または管を含むことを特徴とする人工血管を提供する。
【0016】
さらに本発明は、前記構造式(1)で示される−RGD基と不飽和アシル基とを結合させて不飽和アシル化ペプチドを含む溶液を形成する工程と、
生体吸収性ポリマー材料からなる基体にプラズマを照射して表面活性化基体を形成する工程と、
前記表面活性化基体と、前記不飽和アシル化ペプチドを含む溶液とを接触させ、該基体の表面に−RGD基が固定された細胞接着性生体吸収材料を得る工程とを含むことを特徴とする細胞接着性生体吸収材料の製造方法を提供する。
【0017】
また本発明は、前記構造式(1)で示される−RGD基と不飽和アシル基とを結合させて不飽和アシル化ペプチドを含む溶液を形成する工程と、
生体吸収性ポリマー材料からなる中空糸または管状の中空基体にプラズマを照射して表面活性化中空基体を形成する工程と、
前記表面活性化中空基体と、前記不飽和アシル化ペプチドを含む溶液とを接触させ、該中空基体の表面に−RGD基が固定された人工血管を得る工程とを含むことを特徴とする人工血管の製造方法を提供する。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の細胞接着性生体吸収材料は、生体吸収性ポリマー材料からなる基体の表面に構造式(1)
【0019】
【化5】
【0020】
で示される−RGD基を固定したことを特徴とする。
【0021】
この細胞接着性生体吸収材料の基体として用いる生体吸収性ポリマー材料としては、生(生体)分解性ポリマーなどとも称されている周知の各種生体吸収性ポリマー材料の中から適宜選択して用いることができる。本発明において特に好適な生体吸収性ポリマー材料としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリリシン(PLL)およびポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)からなる群から選択される1種または2種以上をブレンドした材料を挙げることができる。これらの材料は、フィルム、中空糸を含む糸状、テープ状、極細フィラメントなどの各種の形態を製造することができ、あるいは適当な市販品があればそれを用いることもできる。基体の形状、厚み、寸法などは、本発明の細胞接着性生体吸収材料の使用用途に応じて適宜決定され、例えば人工血管用には多孔質の管状基体(大・中人工血管用)、中空糸基体(小人工血管用)が用いられ、人工皮膚用には適当な厚みのシート状基体、織物基体、多孔質シート基体などが用いられ、また種々の人工器官用には、管状基体やシート状基体を適宜接合して所望形状としたり、あるいは成形型を用いて所望形状に成形加工した基体を用いることができる。さらに本発明の細胞接着性生体吸収材料は、顆粒や粉体の形態として、あるいは製薬上許容される溶剤、賦形剤、可塑剤、結合剤、乳化剤、分散剤などの添加物を加えて、懸濁液、乳液、軟膏、クリーム、ペーストなどの注入や塗布に好適な形態とすることもできる。
【0022】
この基体に固定される−RGD基は、前記構造式(1)で表される通り、アルギニン残基、グリシン残基およびアスパラギン酸がこの順に結合してなるトリペプチドの基である。非特許公報2に記載されている通り、−RGD基自体は公知であり、また該基が生体内において細胞接着性を有することも知られている。しかし従来技術では、ポリ乳酸などの生体吸収性ポリマー材料からなる基体表面に直接該−RGD基を固定することは困難であり、利用方法としてはポリマー材料中にペプチドを分散させるか、PMMAなどの生体吸収性でないポリマーに固定して用いるしかなかった。本発明では、ポリ乳酸などの生体吸収性ポリマー材料からなる基体に−RGD基を固定した新規な細胞接着性生体吸収材料である。本発明の好適な形態において、該−RGD基は、R(アルギニン残基)の一端(アミノ基側)がリンカー(アクリロイル基などの不飽和アシル基)の結合によって該基体に固定されている。
【0023】
この−RGD基は周知のペプチド合成法を含めた種々の製造方法を用いて作製できる。このような合成はペプチド合成の分野で周知の技法、特に、市販の各種ペプチド合成機を用いて実施できる。
例えば、アスパラギン酸のカルボキシル基を、表面に適当な官能基を有する樹脂などの基材に結合させ、該アスパラギン酸のアミノ基とグリシンのカルボキシル基とを前記との間にペプチド結合を形成させる(GD形成)。次に、一端に不飽和アシル基などのリンカーを結合してあるアルギニンのカルボキシル基とGD中グリシン残基のアミノ基との間にペプチド結合を形成させて得ることができる。
あるいは、適当な基材の表面に、まずアルギニンのアミノ基を結合させる。次に、該基材をグリシン溶液(ペプチド合成用酵素又は触媒を含む)と接触させ、該アルギニンのカルボキシル基とグリシンのアミノ基との間にペプチド結合を形成させる(−RG形成)。次いで、該基材をアスパラギン酸溶液(ペプチド合成用酵素又は触媒を含む)と接触させ、グリシンのカルボキシル基とアスパラギン酸のアミノ基との間にペプチド結合を形成させる(RGD形成)。最後に、基材から該ペプチドを脱離することによってRGDペプチドが合成される。さらに、該RGDペプチドは、塩化アクリロイル等の不飽和アシル基含有化合物と接触させることでアルギニン残基のアミノ基側にリンカーとなる不飽和アシル基を結合させる。
【0024】
この細胞接着性生体吸収材料において、基体に固定された−RGD基の表面濃度は、基体表面の1cm2当たり1pmol〜5nmolの範囲とすることが好ましい。−RGD基の表面濃度が前記範囲より少ないと、得られる細胞接着性生体吸収材料の細胞接着性向上効果が十分に得られず、該基を固定していない基体と比べて細胞接着特性に有意の差がなくなる。一方、−RGD基の表面濃度が前記範囲より大きいと、製造が困難になり、また却って細胞接着性向上効果が減じられる可能性がある。しかし、生体材料の用途によって−RGD基の濃度範囲は自由に選択することが可能であり、化学的、生物的に許容される範囲内で調整することができる。
【0025】
この細胞接着性生体吸収材料は、生体内に移植、埋入または皮膚に貼着して用いることで、表面の−RGD基が周囲の細胞(血管内皮細胞、骨芽細胞、繊維芽細胞、表皮内皮細胞など)を接着し、基体の表面に該細胞を固定化し、増殖させる。一方、基体は時間の経過とともに徐々に生体内吸収され、漸次薄肉化する。最終的に該細胞接着性生体吸収材料は、表面に接着、増殖した細胞によって基体が置換された状態となり、基体自体は自己細胞からなる組織と置換して消滅する。
【0026】
本発明の細胞接着性生体吸収材料は、生体吸収性ポリマー材料からなる基体の表面に前記構造式(1)で示される細胞接着性の−RGD基が固定されたものなので、生体内に移植、埋入または皮膚に貼着して用いる際に、細胞接着性の−RGD基が基体から抜け出すことがなく、長期にわたり良好な細胞接着性能が維持されるので、基体表面に自己細胞を接着、増殖させて自己細胞からなる層や組織を形成する自己修復効果に優れている。
また基体が生体吸収性ポリマー材料からなるものなので、基体表面に自己細胞からなる層や組織が形成されるとともに基体が消滅して生体内に残らない生体吸収性ポリマー材料の長所を有している。
さらに基体に固定された−RGD基の表面濃度を基体表面1cm2当たり1pmol〜5nmolの範囲としたことによって、特に優れた細胞接着性能を得ることができ、基体表面に自己細胞を接着、増殖させて自己細胞からなる層や組織を形成する自己修復の確率を高めることができる。
【0027】
本発明の人工血管は、生体吸収性ポリマー材料からなる中空糸または管状基体の表面に前記構造式(1)で示される細胞接着性−RGD基が固定された構造になっている。これに用いられる中空糸または管状基体は、透液性の無い平膜、透液性のある多孔質膜、多数のフィラメントを織って作られた管状織物、管状不織布などの形態とすることができる。これらの形態は、人工血管の適用部位などに応じて適宜選択でき、例えば、直径5mm以下の小口径人工血管用には、平膜の中空糸や多孔質中空糸(管)を用いることができ、それ以上の直径を有する中または大口径人工血管には、強靭な管状織物基体を用いることができる。
【0028】
この中空糸または管状基体の材料は、前述した通り、ポリ乳酸(PLA)、ポリリシン(PLL)およびポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)からなる群から選択される1種または2種以上をブレンドした材料が好ましい。また基体に固定された−RGD基の表面濃度は、基体表面1cm2当たり1pmol〜5nmolの範囲が好ましい。
【0029】
本発明の人工血管の好ましい一例として、直径5mm以下の小口径人工血管を挙げることができる。従来技術によって製造された人工血管は、直径5mm以上のものが使用され、それより小径の人工血管は実験段階でしばしば血管閉塞が見られるために使用されていない。本発明では、生体吸収性ポリマー材料からなる中空糸または管状基体(以下、中空基体と記す)の表面に前記構造式(1)で示される細胞接着性の−RGD基が固定された構造とし、生体内で血管内皮細胞などの血管壁構築細胞を接着して増殖させることで、閉塞せずに血管再生を可能とする小口径人工血管を提供し得る。
【0030】
これに用いる中空基体は、ポリ乳酸などの生体吸収性ポリマーを用いた人工血管の製造方法として種々の文献に記載された従来公知のプロセス(例えば前掲の特許文献1、非特許文献1、2参照)を用いて種々の直径および口径のものを製造でき、または生体吸収性ポリマー材料からなる好ましい寸法の中空基体が市販されているならば、それを用いることもできる。例えばポリ乳酸からなる中空基体を製造するには、ポリ乳酸をメタノール、ジオキサンなどの溶媒に10〜40質量%程度の濃度で溶かしてポリマー溶液を作り、環状のスリットを設けたノズル(環の中心には水供給路を有する)から、水などの凝固液中に該ポリマー溶液を押し出し、ポリマーを中空糸または管状に凝固させて製造し得る。その際、凝固液の組成を水あるいは水と所望濃度のメタノール、ジオキサン等の混合液の中から適宜選択して用いることによって、中空基体を構成する膜が、実質的に透液性のない膜から透液性を有する多孔質膜まで変更することができる。例えば、凝固液として水を用いる場合には、実質的に透液性のない膜を作製でき、水と前記溶媒とを質量比3:7〜7:3程度の比率で混合した凝固液を用いる場合には、透液性を持った多孔質中空基体を製造できる。このような多孔質中空基体で作られた人工血管は、平滑表面の人工血管に比べて細胞接着性および増殖性に優れている点で好ましい。
【0031】
本発明の人工血管の好ましい別な形態として、中または大口径人工血管用の管状織物基体の表面に前記細胞接着性の−RGD基が固定された人工血管を挙げることができる。この管状織物基体の材料は、前述した通り、ポリ乳酸(PLA)、ポリリシン(PLL)およびポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)からなる群から選択される1種または2種以上をブレンドした材料が好ましい。また基体に固定された−RGD基の表面濃度は、基体表面1cm2当たり1pmol〜5nmolの範囲が好ましい。
【0032】
これに用いられる管状織物基体は、生体吸収性ポリマー材料からなる極細のフィラメントを管状に織り上げて作製される。この管状織物基体は、透液性があり薄手でありながら、機械的強度に優れ、強靭であり、しかも取り扱い性に優れた素材である。また該人工血管は、管状織物基体をベースとしているために、その端部と生体内の血管端部とを接合する際に、容易に縫合ができ、強固に接続することができる。また、−RGD基による細胞接着性、大きな表面積、基体の透液性、柔軟性、薄さなどの構造的特質によって、破損しにくく安全性が高い、細胞接着性および増殖性に優れる、血管再生が速やかに行われる、などの長所が得られる。
【0033】
本発明は、前記細胞接着性生体吸収性材料および人工血管の製造方法も提供する。
図1は本発明の細胞接着性生体吸収性材料および人工血管の製造方法の一実施形態を示す図である。この図中符号10は基体、11は細胞接着性生体吸収性材料または人工血管(以下、細胞接着性生体吸収性材料と記す)、12は表面活性化基体を示す。本実施形態では、図1中に概略的に示す(a)〜(d)の工程を順に行うことで、基体10の表面に前記構造式(1)で示される−RGD基をリンカーである不飽和アシル基の典型例であるアクリロイル基を介して固定した細胞接着性生体吸収性材料11を製造する。
【0034】
基体10は、前記の通り、種々の生体吸収性ポリマー材料を用いることができ、好ましくはポリ乳酸(PLA)、ポリリシン(PLL)およびポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)からなる群から選択される1種または2種以上をブレンドした材料を挙げることができる。基体10の形状は、製造するべき細胞接着性生体吸収性材料11に応じて適宜選択でき、中空基体、管状織物基体、フィルム基体などを使用し得る。
【0035】
本実施形態による製造方法では、まず前記構造式(1)で示される−RGD基とアクリロイル基とを結合させてアクリロイル化ペプチド(CH2=CH−CO−RGD)を含む溶液を形成する。該アクリロイル化ペプチドを合成する方法は、前述した通り、ペプチド合成機を用いて合成した保護RGDペプチドの溶液ないしはRGDを合成したペプチド固相担体に、アクリロイル化反応剤を加えて該アクリロイル化ペプチドを合成する方法、GDペプチドにアクリロイル化アルギニンをペプチド縮合する方法などを用いることができる。またアクリロイル化反応剤としては、塩化アクリロイルなどのハロゲン化アクリロイルやアクリル酸とジシクロヘキシルカルボジイミドなどの有機化学的に許容される脱水剤の組み合わせから自由に選ぶことができる。また、不飽和アシル基としては、前記アクリロイル基に限定されることなく、メタクロイル基、クロトニル基など二重結合を有するアシル基からなる群から選択される基を用いることができ、またその導入法も酸塩化物を用いる方法、カルボン酸と脱水剤を用いる方法などから自由に選ぶことができる。
【0036】
次に、生体吸収性ポリマー材料からなる基体10にArプラズマを照射して表面活性化基体12を形成する[図1中(a)、(b)参照]。この表面活性化基体12を形成するために用いるプラズマ処理は、Arプラズマ以外に、アンモニアガス、酸素ガス、水素ガス、他の不活性ガスなどの雰囲気中でのプラズマ処理を用いることができるが、基体10表面に均一に多数のラジカルを形成できること、処理が容易であることなどの点から、Arプラズマを用いることが望ましい。Arプラズマで基体10を処理するための装置は特に限定されず、従来公知のプラズマ表面処理用、スパッタリング用の装置を用いて実行し得る。このプラズマ処理の条件は、得られる表面活性化基体12に前記アクリロイル化ペプチド溶液を接触させた際に、−RGD基の表面濃度が基体10表面1cm2当たり1pmol〜5nmolの範囲となるように調整することが好ましい。具体的には、アルゴンガスの圧力0.01〜1torr、出力10〜50W、処理時間10〜60秒の条件下でプラズマ処理するのが好ましい。
【0037】
このプラズマ処理によって、図1(b)に示すように、生体吸収性ポリマー材料からなる基体10の表面に多数のラジカルが発生する。RGDペプチドと結合させた前記アクリロイル基は、このラジカルと反応して共有結合を形成する。
【0038】
次に、前記表面活性化基体12と、前記アクリロイル化ペプチドを含む溶液とを接触させ基体10の表面に−RGD基が固定された細胞接着性生体吸収材料11を得る[図1(c)、(d)参照]。該溶液中のアクリロイル化ペプチドの濃度は、−RGD基の表面濃度が基体10表面1cm2当たり1pmol〜5nmolの範囲となるように調整され、通常は0.01〜1モル/L程度とされる。この反応温度は30〜90℃、好ましくは40〜70℃程度とするのが好ましい。
【0039】
表面活性化基体12表面のラジカルと、アクリロイル化ペプチドとの反応によって、アクリロイル基の一端が基体10表面と共有結合し、該アクリロイル基を介して−RGD基が基体10に結合する。この反応は、中空糸、管状基体あるいは管状織物基体の管内壁でも均一に生じるため、これらの管状基体の内壁に−RGD基を容易に且つ確実に固定することができる。
【0040】
表面活性化基体12とアクリロイル化ペプチドとの反応によって、基体10の表面に−RGD基が固定された細胞接着性生体吸収材料11[図1(d)参照]が得られる。この細胞接着性生体吸収材料11は、生体内に移植、埋入または皮膚に添付して用いた場合、図1(e)に示すように、血管内皮細胞、繊維芽細胞などの細胞が基体10表面の−RGD基を認識して基体10表面に接着し、増殖して自己細胞からなる層や組織を形成する。一方、基体10は生体吸収性ポリマー材料からなるものなので、基体10表面に自己細胞からなる層や組織が形成されるとともに該基体10は漸次吸収され、消滅する。
【0041】
本発明の細胞接着性生体吸収性材料または人工血管の製造方法は、生体吸収性ポリマー材料からなる基体10にプラズマ処理して多数のラジカルを発生させた表面活性化基体12とアクリロイル化ペプチド溶液とを接触させ、基体10表面にアクリロイル基を介して−RGD基を固定することによって、生体吸収性ポリマー材料からなる基体10の表面に−RGD基が固定された細胞接着性生体吸収材料11を製造することができる。
また、管状基体を外側からプラズマ処理することで、管外面だけでなく内壁面にラジカルを生じさせることができ、その後アクリロイル化ペプチド溶液と接触させることで、管内壁面にも−RGD基を固定することができるので、管外面だけでなく内壁面に均一な濃度で−RGD基を有する中空糸、管状、管状織物からなる人工血管を製造することができる。
以下、実施例により本発明の作用効果を明確にする。
【0042】
【実施例】
(RGDペプチドの調製)
ペプチド合成機(Applied Biosystems,Inc.社製、Pioneer(商標)Peptide Synthesis System)を用い、アスパラギン酸プレロード樹脂(NOVA社製FmocAsp TGA樹脂)に保護グリシンとL−アルギニンを順次結合させ、保護RGDペプチドを固相上に合成した。合成したRGDペプチド260μgを30mLのDMFに溶かし、RGDペプチド溶液とした。塩化アクリロイル406μLを前記RGDペプチド溶液に混合し、室温で60分間撹拌して反応させ、RGDペプチドのアミノ末端にアクリロイル基が結合したアクリロイル化RGDペプチドを固相上に形成した。次いで、TFA・H2O・TIPS(95:2.5:2.5)を加え、室温で2時間撹拌し、濾過して得られた濾液を減圧濃縮した。得られた残渣を水に溶解し、エーテルで2回注出して水相を減圧濃縮し、アクリロイルRGDを得た。
【0043】
(細胞接着性生体吸収材料の製造)
基体としてポリ乳酸(Polysciences,Inc.社製、poly(L−lactic acid),Mw100,000)を用いた。この基体をSamco社製プラズマ照射装置(商品名RF POWER METER Model PM−43 RF Matchingg Unit MD−2 RFG−200)に接続したチャンバー内に入れ、チャンバー内を真空排気した後、プラズマガスとして0.1torrのアルゴン雰囲気とし、出力10Wで60秒間、基体にアルゴンプラズマを照射し、表面活性化処理をした。チャンバーから取り出した表面活性化基体を、前記アクリロイル化RGDペプチドを各種濃度で含む水溶液中に浸漬し、50〜60℃で浸透しながら24時間放置した。その後、基体表面に−RGD基を固定した細胞接着性生体吸収材料を蒸留水で洗浄し、8時間減圧乾燥した。
【0044】
前記の通り作製した−RGD基を固定した膜(以下、実施例の膜という)と、比較のために−RGD基を固定していないポリ乳酸膜(以下、比較例の膜という)とのそれぞれの膜に対するHUVEC(正常ヒト臍帯静脈内皮細胞)の接着性を調べた。
東洋紡社製HUVEC細胞を内皮細胞増殖培地(東洋紡社製)に懸濁させた。前記実施例と比較例のそれぞれの膜の破片(0.95cm2)を組織培養ポリスチレンプレートの各ウェルに入れ、前記細胞懸濁培地1mLを該ウェルに入れ、37℃で培養した。各ウェル内の播種細胞数は1×105細胞/ウェルとした。細胞播種後、4時間及び24時間経過時点で膜に接着している細胞のみをカウントし、各膜の細胞接着性を調べた。細胞数測定は、取り出した膜を洗浄後、接着細胞のみをトリプシン処理して剥がし、血球計算盤を用いてカウントした。
【0045】
ポリ乳酸からなる基体表面に−RGD基を固定した実施例の膜は、−RGD基を固定していない比較例の膜に比べ、接着細胞数が大きく、−RGD基による細胞接着性が認められた。
また基体表面の−RGD基濃度は1cm2当たり1pmol〜5nmol程度が好ましいことが判った。
【0046】
【発明の効果】
本発明の細胞接着性生体吸収材料は、生体吸収性ポリマー材料からなる基体の表面に細胞接着性の−RGD基が固定されたものなので、生体内に移植、埋入または皮膚に貼着して用いる際に、−RGD基が基体から抜け出すことがなく、長期にわたり良好な細胞接着性能が維持されるので、基体表面に自己細胞を接着、増殖させて自己細胞からなる層や組織を形成する自己修復効果に優れている。
また基体が生体吸収性ポリマー材料からなるものなので、基体表面に自己細胞からなる層や組織が形成されるとともに基体が消滅して生体内に残らない生体吸収性ポリマー材料の長所を有している。
さらに基体に固定された−RGD基の表面濃度を基体表面1cm2当たり1pmol〜5nmolの範囲としたことによって、特に優れた細胞接着性能を得ることができ、基体表面に自己細胞を接着、増殖させて自己細胞からなる層や組織を形成する自己修復の確率を高めることができる。
本発明の人工血管は、生体吸収性ポリマー材料からなる中空糸または管状基体の表面に細胞接着性の−RGD基が固定された構造とし、生体内で血管内皮細胞などの血管壁構築細胞を接着して増殖させることで、閉塞せずに血管再生を可能とする小口径人工血管を提供し得る。
本発明の細胞接着性生体吸収性材料または人工血管の製造方法は、生体吸収性ポリマー材料からなる基体にプラズマ処理して多数のラジカルを発生させた表面活性化基体と不飽和アシル化ペプチド溶液とを接触させ、基体表面に−RGD基を固定することによって、生体吸収性ポリマー材料からなる基体の表面に−RGD基が固定された細胞接着性生体吸収材料を製造することができる。
また、管状基体を外側からプラズマ処理することで、管外面だけでなく内壁面にラジカルを生じさせることができ、その後不飽和アシル化ペプチド溶液と接触させることで、管内壁面にも−RGD基を固定することができるので、管外面だけでなく内壁面に均一な濃度で−RGD基を有する中空糸、管状、管状織物からなる人工血管を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の細胞接着性生体吸収性材料の製造方法を説明するための概略図である。
【符号の説明】
10 基体
11 細胞接着性生体吸収材料
12 表面活性化基体
Claims (10)
- 前記−RGD基が、前記基体の表面の1cm2当たり1pmol〜5nmolの濃度で存在する請求項1記載の細胞接着性生体吸収材料。
- 前記生体吸収性ポリマー材料が、ポリ乳酸、ポリリシンおよびポリ乳酸・グリコール酸からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1または2記載の細胞接着性生体吸収材料。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の細胞接着性生体吸収材料からなる中空糸または管を含むことを特徴とする人工血管。
- 前記−RGD基が、前記基体の表面の1cm2当たり1pmol〜5nmolの濃度で存在する請求項5記載の細胞接着性生体吸収材料の製造方法。
- 前記生体吸収性ポリマー材料が、ポリ乳酸、ポリリシンおよびポリ乳酸・グリコール酸からなる群から選択される少なくとも1種である請求項5または6記載の細胞接着性生体吸収材料の製造方法。
- 前記−RGD基が、前記中空基体の表面の1cm2当たり1pmol〜5nmolの濃度で存在する請求項8記載の人工血管の製造方法。
- 前記生体吸収性ポリマー材料が、ポリ乳酸、ポリリシンおよびポリ乳酸・グリコール酸からなる群から選択される少なくとも1種である請求項8または9記載の人工血管の製造方法。
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