JP2004159614A - 表面細胞マーカーを指標に精製した中胚葉系幹細胞 - Google Patents

表面細胞マーカーを指標に精製した中胚葉系幹細胞 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明の技術的課題は、1)胚性幹細胞をインビトロで分化させ、ある特定の組織の幹細胞を誘導すること、2)誘導した細胞を精製すること、3)精製した細胞が成熟細胞への分化能を有することを立証すること、である。
【解決手段】インビトロで胚性幹細胞から分化させた種々の中胚葉系幹細胞を、3種類の特別な細胞表面マーカー、PDGFRα、E−CadおよびFLK1の発現様式を指標に精製する。
【選択図】図3

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、多能性幹細胞から分化した中間幹細胞の混合物から高度に精製された、中胚葉系幹細胞に関するものである。また、本発明は、そのような細胞の精製を可能にする新しい精製、調製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
胚性幹細胞(Embryonic stem cell, ES細胞)は、初期胚に存在する分化多能性を有する細胞であり、他の胚盤胞中に注入されると生殖細胞をも含む種々の細胞に分化し得る。最も研究が進んでいるマウスの胚性幹細胞は、発生3.5日の胞胚内の内部細胞塊より樹立された多能性と自己複製能を持つ細胞である。この細胞は、通常の培養培地に血清と白血病阻害因子(leukemia inhibitory factor:LIF)と呼ばれる増殖因子を加えるだけで、未分化の状態を保持させつつ、増殖を維持させることが可能である。マウス胚性幹細胞は、発生3.5日目の胞胚に注入し、その胞胚を母体に戻すことによって、インビボで再びすべての組織細胞に分化することができ、キメラマウスやノックアウトマウスの作成に利用されている。また、近年、胚性幹細胞をインビトロで操作して、様々な成熟組織細胞へ分化させることが可能になっている。このような、胚性幹細胞の持つ分化多能性と簡単な操作性から、将来の医療において、細胞を用いる移植治療の材料としての利用が期待されている。
【0003】
胚性幹細胞を強制的にインビトロで分化させた場合、成熟細胞が出現することは本発明者や他のグループの研究で明らかとなった(例えば、非特許文献1ないし3参照)。現在、胚性幹細胞は様々な分化段階にある幹細胞(中間幹細胞)を経て完全な成熟細胞に至ると考えられているが、その分化過程には未だ不明な点が多い。
【0004】
【非特許文献1】
西川伸一、外4名、「デベロップメント(development)」、(英国)、1998年、125号、p.1747−1757
【非特許文献2】
仲野徹、他2名、「サイエンス(Science)」、(米国)、1994年、265号、1098−1101頁
【非特許文献2】
江良拓実、他4名、「ブラッド(blood)」、(米国)、2000年、95号、870−878頁
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
細胞移植治療のためには、試験管内(インビトロ)において胚性幹細胞を分化させ、特定の胚葉系に分化する中間幹細胞を出現させ、さらにそれを精製して1種類の中間幹細胞を調製することが求められる。細胞移植治療に利用される細胞材料として、中間幹細胞は成熟細胞よりも以下の点において利用価値が高い。
1.ほとんどの組織の成熟細胞の増殖能は低いが、中間幹細胞のインビトロでの増殖能ははるかに高い。即ち、適切な条件さえ整えば、インビトロで強制的に増幅させることが可能となる。
2.1種類の中間幹細胞が多種類の成熟細胞に分化するので、治療効果を比較した場合、少ない細胞でより高い成果をあげることが可能である。
従って、本発明の技術的課題は、1)胚性幹細胞をインビトロで分化させ、ある特定の組織の中間幹細胞を誘導すること、2)誘導した細胞を精製すること、3)精製した細胞が成熟細胞への分化能を有することを立証すること、である。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために研究を重ねた結果、インビトロで胚性幹細胞から分化させた種々の中胚葉系幹細胞は、3種類の特別な細胞表面マーカー、即ち、血小板由来増殖因子(Platelet−derived growth factor receptor α:PDGFRα)、上皮カドヘリン(Epithelial−Cadherin:E−Cad)および胎児肝キナーゼ1(fetal liver kinase−1:FLK1)を、ある一定の様式で発現していることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0007】
【発明の実施の形態】
従って、本発明の目的は、一定の様式でPDGFRα、E−CadおよびFLK1の細胞表面マーカーを発現している中胚葉系幹細胞を提供することにある。他の目的は、そのような細胞を他の細胞から選別し分離する調製方法を提供することにある。これらの目的およびその他の目的は、当業者にとって、以下に記載する本発明の詳細な説明から明らかとなるであろう。
【0008】
本発明は、PDGFRα陽性、E−Cad陰性かつFLK1陽性である、インビトロで胚性幹細胞から分化した中胚葉系幹細胞を提供する。この細胞は、生体に移植した場合、血管、血液、骨、軟骨、筋肉組織などに分化し得る。
【0009】
本発明はまた、PDGFRα陽性、E−Cad陽性かつFLK1陰性である、インビトロで胚性幹細胞から分化した中軸中胚葉系幹細胞を提供する。この細胞は、生体に移植した場合、骨、軟骨、筋肉組織などに分化し得る。
【0010】
本発明は、以下の段階を含む中胚葉系幹細胞の調製方法を提供する。
a)胚性幹細胞を培養すること、
b)PDGFRαおよびFLK1を発現し、かつ、E−Cadを発現していない細胞を選別し分離すること。
【0011】
本発明はさらに、以下の段階を含む中軸中胚葉系幹細胞の調製方法を提供する。
a)胚性幹細胞を培養すること、
b)PDGFRαおよびE−Cadを発現していて、かつ、FLK1を発現していない細胞を選別し分離すること。
【0012】
上記の調製方法では、好ましくは、抗PDGFRα抗体、抗E−Cad抗体および抗FLK1抗体の少なくとも1つを使用する。また、各分子の発現に基づいて細胞を選別するために、蛍光活性化セルソーター(FACS)を使用できる。さらに、上記の方法による精製に先立ち、胚性幹細胞を分化させることができる。
【0013】
本明細書において、「インビトロ」とは、反応や培養が胚を含む生体外で実施されることを意味する。インビトロで細胞を培養および/または分化させる際には、細胞の成育に適するあらゆる培地、試薬及び容器を使用し得る。また、本明細書における「インビボ」は、反応や培養が胚を含む生体内で実施されること、またはある現象が生体内で起こることを意味する。
【0014】
本明細書において、「多能性幹細胞」とは、外胚葉、中胚葉および内胚葉系幹細胞から選ばれる少なくとも2つに分化する能力を有する自己複製可能な幹細胞を意味し、これには、胚性幹細胞(embryonic stem cell: ES細胞)、胚性生殖細胞(embryonic germ cell: EG細胞)、胚性癌細胞(embryonal carcinomacell: EC細胞)、多能性成体前駆細胞(multipotent adult progenitor cells: MAP細胞)、成体多能性幹細胞(adult pluripotent stem cell: APS細胞)、骨髄幹細胞などが含まれる。ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、モルモット、ウシ、ブタ、イヌ、ウマ、ネコ、ヤギ、ヒツジを含む哺乳類、鳥類、爬虫類などの多様な動物に由来する多能性幹細胞を使用し得るが、通常は哺乳類に由来するものである。
【0015】
本明細書において、「胚性幹細胞」は、初期胚に存在する分化多能性を有する細胞であって、他の胚盤胞中に注入されると生殖細胞をも含む種々の細胞に分化し得る細胞を意味する。本発明では、胞胚内の内部細胞塊より新たに樹立した胚性幹細胞を使用してもよく、あるいは既に樹立された細胞系統を使用してもよい。
【0016】
本明細書において、「中間幹細胞」は、多能性幹細胞の分化が進んだ細胞であって、外胚葉、中胚葉、内胚葉系幹細胞のいずれか1つに分化する能力を有する細胞を意味する。
【0017】
本明細書における「中胚葉系幹細胞」は、中胚葉系の組織に属する細胞に分化する中間幹細胞であって、内胚葉および外胚葉系の組織に属する細胞には分化しない細胞を意味する。母体内のマウスの発生では、発生6.5日から7.5日にかけて起こる原腸胚形成の際、胞胚を形成する上皮組織の一定領域から離脱した予定中胚葉細胞が胚の内部に入り込み、予定外胚葉と予定内胚葉の間を移動して予定中胚葉を形成する。これら予定外胚葉、予定内胚葉および予定中胚葉を構成する細胞がそれぞれ、外胚葉系幹細胞、内胚葉系幹細胞および中胚葉系幹細胞である。
【0018】
予定中胚葉が形成される時期における、もっとも腹側の中胚葉細胞群は側板中胚葉と呼ばれ、これらは主に将来、血管、血液細胞へと分化する。一方、筋肉、骨、軟骨へと分化する中胚葉系細胞は原始線条のすぐ近傍の両側に存在し、中軸中胚葉と呼ばれている。側板中胚葉に存在する、血管、血液細胞への分化能を有する細胞を「側板中胚葉系幹細胞」と呼び、中軸中胚葉に存在する、筋肉、骨、軟骨への分化能を有する細胞を「中軸中胚葉系幹細胞」と呼ぶ。中胚葉系幹細胞には、これら側板中胚葉および中軸中胚葉が含まれる。
【0019】
「外胚葉系幹細胞」は同様に、外胚葉系組織に属する細胞に分化する能力を有する中間幹細胞であって、内胚葉および中胚葉系の組織に属する細胞には分化しない細胞を意味する。「内胚葉系幹細胞」も同様である。
【0020】
PDGFRαは、膜貫通型受容体であり、細胞内部分にチロシンキナーゼ活性を有する。そのリガンドは血小板由来増殖因子である。PDGFRαを欠損したマウスは、体節および血管形成分化に異常をきたす。E−Cadは、細胞間の接着を担う膜貫通型の膜タンパク質である。E−Cadを欠損したマウスは、極めて早い時期の胎生致死である。FLK1は、PDGFRαと同様に、細胞内部分にチロシンキナーゼ活性を有する膜貫通型受容体である。そのリガンドは血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)である。FLK1を欠損したマウスは、血液および血管内皮細胞の分化に異常をきたし、胎生致死である。
【0021】
本明細書において、ある分子について「陽性(+)である」は、細胞が当該分子を発現していることを意味し、「陰性(−)である」は、発現していないことを意味する。細胞がある分子を発現しているか否かは、後述のFACS等により判定できる。
【0022】
胚性幹細胞の培養には、細胞の維持または分化の目的に適する組成の培地を使用する。胚性幹細胞維持用培地は、通常、細胞培養用の最小培地に、血清、LIF、L−グルタミン、2−メルカプトエタノール等を添加したものであり、組成の一例を挙げると、85%KNOCKOUT D−MEM、15%FBS、10−4M 2−ME、2mM L−グルタミン、0.1mM NEAA、1000U/ml LIFである。また、胚性幹細胞分化用培地は、通常、細胞培養用の最小培地に、血清、L−グルタミン、2−メルカプトエタノール等を添加したものであり、LIFを含有しない。組成の一例を挙げると、90%αMEM、10%FBS、5x10−5M 2−ME、2mM L−グルタミンである。各培地には、抗生物質などの培養に有用な他の物質を添加することができ、各成分に代えて、同等の機能を有する代替物を使用してもよい。また、培地の各成分は、各々適する方法で滅菌して使用する。
【0023】
本発明による胚性幹細胞の培養方法における具体的な操作は、当該技術分野で常套の操作及び条件に従って行うことができる。例えば、中辻憲夫編:実験医学別冊・ポストゲノム時代の実験講座4「幹細胞・クローン研究プロトコール」、羊土社(2001年)、Hogan, G. ら編:マウス胚の操作:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Plainview,NY(1994)、Robertson, E. J. 編:奇形ガンおよび胚性幹細胞、A Practical Approach,IRL Press Oxford,UK (1987) などの記載を参酌して適宜に決定することができる。
【0024】
代表的な継代操作と培養条件を挙げれば、以下のとおりである。即ち、ディッシュをゼラチンでコートし、そのディッシュに10,000個/cmの濃度で胚性幹細胞を播種し、37℃、5%COのインキュベーター内で培養する。翌日1度培地を交換し、2日目でコンフレントになったら、リン酸緩衝塩水で1〜2回リンスし、その後十分量の0.25%(W/V)トリプシン−EDTAを、細胞層を覆うように添加して約5分間放置する。トリプシン液を除去し、適量の胚性幹細胞培養用培地を添加し、ピペッティングによりディッシュから分離させる。この細胞懸濁液から、通常遠心分離により細胞を沈殿させる。上清を除去後、沈殿した細胞を胚性幹細胞培養用培地に再懸濁し、再び10,000個/cmの濃度で、ゼラチンコートしたディッシュに播種し、培養する。
【0025】
各細胞表面マーカーを指標に細胞を選択する際には、蛍光活性化セルソーター(FACS)を使用できる。FACSは、通常、フローサイトメーター、レーザー発生装置、光学系、データ処理装置および細胞分取装置を備えている。FACSの機能は、蛍光標識細胞の自動分離および、蛍光強度のコンピューターによる分析である。FACSにより、特定物質で蛍光標識した細胞に、細い流路の途中でレーザー光を照射し、散乱光(前方散乱光や側方散乱光)や蛍光のシグナル情報を個々の細胞ごとに測定し、その結果を、例えば度数分布として表示し、特定のシグナル情報を発する細胞を分取することができる。FACSの装置は Becton−Dickinson 等から市販されており、製造者の指示に従って当業者が操作することが可能である。
【0026】
本発明で使用する抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であるが、FACSで使用する場合、モノクローナル抗体が好ましい。そのような抗体は、実施例に記載の方法を参照して当業者が作成することができるが、市販のものを使用してもよい。抗E−Cadモノクローナル抗体(品番M108)は宝酒造から、抗PDGFRαモノクローナル抗体(品番558774)および抗FLK1モノクローナル抗体(品番555308)は BD Pharmingen から販売されており、容易に入手できる。
【0027】
本発明のある実施態様では、胚性幹細胞を中胚葉系幹細胞に分化させる段階が含まれる。当分野で既知のいかなる方法で分化させてもよいが、典型的には、コラーゲンIVでコートした培養容器内で、LIF不含の培地を使用して胚性幹細胞を培養することによる。このような条件で胚性幹細胞を培養すると、マウスの胚性幹細胞では、通常4日目に本発明による精製に適する中胚葉系幹細胞の数が最大になる。あるいは、上記方法より効率は低いが、従来から行われている胚体形成法(Embryoid body formation method)によっても、胚性幹細胞を中胚葉系幹細胞に分化させることができる。また、効率は低いが、コラーゲンIVをゼラチンやフィブロネクチン等に代えても胚性幹細胞を中胚葉系幹細胞に分化させることができる(例えば、Wiles, M. et al. Development 111, 259−267, 1991 参照)。
【0028】
本発明における細胞の選別方法について、抗体を使用する方法を詳述したが、各細胞表面マーカーのmRNAの存在を指標にして選別することも可能である。
【0029】
以下の実施例は、本発明の1態様を示すと共に、本発明の方法によって調製した中胚葉系幹細胞が成熟細胞への分化能を有することを証明するものである。
【0030】
【実施例】
実施例1 胚性幹細胞から分化した中胚葉系幹細胞の精製
材料と方法
1.胚性幹細胞の維持
a.材料
胚性幹細胞の維持には、表1の試薬および器具を使用した。
【表1】
Figure 2004159614
【0031】
胚性幹細胞維持用培地の組成は、85%KNOCKOUT D−MEM、15%FBS、10−4M 2−ME、2mM L−グルタミン、0.1mM NEAA、1000U/ml LIF、であった。胚性幹細胞は、マウス129sv系統由来のCCE胚性幹細胞を使用した(Robertson, E. et al. Nature 323, 445−448, 1986)。
【0032】
b.方法
6cmディッシュをゼラチンでコートした。このディッシュに2x10のCCE胚性幹細胞を播種した。翌日、1度培地を交換した。2日目でコンフレントになったら、トリプシンを使用して細胞をディッシュから分離させ、再び2x10の濃度で、ゼラチンコートされたディッシュに播種した。培養は、37℃、5%COのインキュベーター内で行った。
【0033】
2.胚性幹細胞の分化
a.材料
胚性幹細胞の分化には、表2の試薬および器具を使用した。
【表2】
Figure 2004159614
【0034】
胚性幹細胞分化用培地の組成は、90%αMEM、10%FBS、5x10−5M 2−ME、2mM L−グルタミン、であった。
【0035】
b.方法
BIOCOATコラーゲンIVコート10cmディッシュに1x10のCCE胚性幹細胞を播種した。2日目で1度培地を交換した。4日目に細胞分離緩衝液(Invitrogen)を使用して細胞を分離させ、その後の実験に使用した。
【0036】
3.抗体の作製
当業者に周知の方法で各分子の細胞外部分を認識するモノクローナル抗体を作成した。具体的には、以下のように行った。マウスPDGFRαの細胞外部分のcDNAを、PCRを用いて増幅させ、このDNA配列をヒトIgG1のFc部分のDNA配列と結合させて融合cDNAを作成した。このcDNAをCOS1細胞に導入し、培養上清中の融合タンパク質を、Protein A カラムを用いて回収した。回収したタンパク質でラットを免疫した。免疫終了後、脾臓を回収し、脾臓細胞を骨髄腫細胞株X63.Ag8と融合させてハイブリドーマ細胞を作成した。目的の抗体を得るために、ハイブリドーマ細胞の培養上清中に含有される抗体の中から、融合蛋白およびPDGFRαを発現しているBalb/c−3T3細胞に反応する抗体を選別し、そのハイブリドーマ細胞のクローンを同定した。この方法により、PDGFRαを特異的に認識するモノクロナール抗体を得た。ほぼ同様の方法で抗マウスFLK1モノクローナル抗体を作成した。抗マウスE−Cad抗体(ECCD2)は、理化学研究所の竹市雅俊氏より譲渡されたハイブリドーマから精製した。
【0037】
4.抗体染色と FACS Vantage による細胞の選別
a.試薬の作成
表3の試薬を使用した。
【表3】
Figure 2004159614
脱イオン水900mlに対して100mlの10xハンクス緩衝液と10gのBSA(終濃度1%)を加えてよく撹拌した。BSAが溶解した後、0.2μmのフィルターを用いて滅菌した。
【0038】
b.方法
抗PDGFRα抗体をビオチンで、抗FLK1抗体をフィコエリスリンで、抗E−Cad抗体をアレクサ(Alexa)488(すべてMolecular probe)でそれぞれ標識し、以下の染色に使用した。分化4日目の細胞を細胞分離緩衝液で分離した後、マウス血清を10μl/細胞10個で加え、氷上で20分間インキュベートした。次にそれぞれの抗体を添加し、氷上で20分間インキュベートした。20分後、1%BSAハンクス緩衝液で細胞を1回洗浄した。ストレプトアビジン−アロピコシアニン(Allopycocyanine)(APC)を含む500μlの1%BSAハンクス緩衝液に細胞を再溶解し、氷上で20分間インキュベートした。最後に1%BSAハンクス緩衝液で2回洗浄し、細胞10個につき1mlの1%BSAハンクス緩衝液に溶解し、細胞選別に使用した。
【0039】
FACSVantage(Becton−Dickinson)の使用方法は、付属のガイドブックに準じた。ノズルの振動の頻度は26000程度、レベルは3V、drop delay は約12−14で行った。
【0040】
結果と考察
中胚葉系幹細胞の分離
発生7.5日のマウス胎児では、PDGFRαが中軸中胚葉と尿膜に、またFLK1が側板中胚葉、尿膜および胚体外中胚葉に特異的に発現することが知られている(図1)。さらにE−cadは外胚葉および内胚葉細胞で強く発現していることが知られているが、本研究において、本発明者らは、発生8.5日のマウス胎児に抗E−Cad抗体による免疫染色を行い、体節が形成される直前の前体節中胚葉にもこの分子が発現していることを明らかにした(図2)。そこで、このようなマーカーを使い分けることにより、インビボでは困難である中胚葉系細胞の分離を、分化した胚性幹細胞からできるか否かについて検討した(図3、4)。
【0041】
胚性幹細胞をコラーゲン4上で培養し分化を誘導した場合、これらのマーカーは誘導後3日目から出現し、4日目で最大となり、5日目ではその発現が低下することが判明した(図4)。そこで、4日目の分化した胚性幹細胞におけるPDGFRα、E−Cad、FLK1の発現を、それぞれの分子を認識するモノクロナール抗体を用いて FACS Vantage にて解析した。約30%の細胞がPDGFRα陽性であり、これらの細胞はさらにE−Cadを弱く発現している分画とE−Cadを発現していない分画に分けられた。また、PDGFRα陽性の細胞の一部はFLK1を発現しているが、PDGFRα陰性のFLK1陽性細胞も存在していた(図3)。
【0042】
次に、FACS Vantage を使用してこれらの細胞分画を精製し、RNAを抽出し、RT−PCR法を用いて初期分化に関わるいくつかの分子の発現を解析した。その結果、実験で用いた分子は、それぞれの分画に応じて、様々な発現様式をとることが判明した(図5)。特に、中軸中胚葉特異的に発現するbHLHファミリーの転写因子であるメソゲニン(Mesogenin)は、PDGFRα陽性、E−Cad弱陽性、FLK1陰性分画のみで特異的に発現していた。そして、側板および胚体外中胚葉特異的に発現するフォークヘッド(forkhead)ファミリーの転写因子であるHFH−8、およびジンクフィンガーファミリーの転写因子であるGATA2は、両者ともFLK1陽性分画に特異的に発現していた。従って、PDGFRα陽性、E−Cad弱陽性、FLK1陰性(P+、E+、F−)の分画が中軸中胚葉系の細胞を含み、PDGFRα陰性、E−Cad陰性、FLK1陽性分画(P−、E−、F+)が側板中胚葉系の細胞を含んでいることが示唆される。
【0043】
実施例2 中胚葉系幹細胞の移植
ドナー由来であることを識別できるように恒常的にlacZ遺伝子を発現しているCCE胚性幹細胞を使用した。その他の材料および方法は、実施例1に記載のものと同様であった。LIFを加えずに胚性幹細胞をコラーゲン4のプレート上で4日間培養し、分化を誘導した。FACS Vantage を使用して、この分化した胚性幹細胞から、P+、E+、F−分画およびP+、E−、F+分画を精製した。精製後の細胞を、免疫不全マウスであるヌードマウスの腎臓皮膜下へ移植し、28日後に移植片を摘出して移植細胞の状態を組織レベルで解析した(図6)。
【0044】
図7は、P+、E+、F−分画を移植し、28日後の移植片をヘマトキシリン・エオジン(HE)染色したものであり、筋肉組織のみが観察された(A.弱拡大、B強拡大)。図8は、P+、E−、F+分画を移植し、28日後の移植片をヘマトキシリン・エオジン(HE)染色したものである(A,C:弱拡大、B,D:強拡大)。この移植片では、30%ほどが横紋をもつ筋肉組織(横紋筋A,B)30%ほどが軟骨組織(C,D)であり、中胚葉由来の組織が半分以上の割合を占めた。
【0045】
以上の結果より、P+、E−、F+分画の細胞が中胚葉系の幹細胞を含むことが示唆される。また、P+、E+、F−分画で筋肉細胞のみの分化が観察されたことは、中胚葉系細胞の中で、分化能の違いが胚性幹細胞の分画間ですでに存在していることを示している。この研究により、これらの細胞マーカーを使用することにより、分化した胚性幹細胞から中胚葉系幹細胞を分離、調製することが可能となった。
【0046】
【発明の効果】
本発明により、胚性幹細胞からインビトロで分化させた中胚葉系幹細胞および中軸中胚葉系幹細胞を高度に精製することが可能になる。このようにして精製された細胞は、生体に移植されると、前者は軟骨組織および筋肉組織に、後者は筋肉組織にのみ分化し、移植治療において使用できる純度であることが立証された。
【図面の簡単な説明】
【図1】PDGFRα、FLK1のマウス発生初期における発現様式を示す。
【図2】PDGFRα、E−Cadのマウス発生初期における発現様式を示す。
【図3】インビトロにおいて分化させた胚性幹細胞におけるPDGFRα、E−Cad、FLK1の発現を示す。
【図4】インビトロにおいて分化させた胚性幹細胞におけるPDGFRα、E−Cad、FLK1の発現の経時的な変化を示す。
【図5】インビトロにおいて分化させた胚性幹細胞における、いくつかの分化マーカーの発現を示す。
【図6】胚性幹細胞由来のP+、E−、F+分画とP+、E+、F−分画の分化能を解析する実験方法を示す。
【図7】P+、E+、F−分画を移植したマウスにおける、移植片の組織学的解析の結果を示す。
【図8】P+、E−、F+分画を移植したマウスにおける、移植片の組織学的解析の結果を示す。

Claims (13)

  1. インビトロにおいて多能性幹細胞から分化させた中胚葉系幹細胞であって、αPDGFR陽性、E−Cad陰性かつFLK1陽性である細胞。
  2. インビトロにおいて多能性幹細胞から分化させた中軸中胚葉系幹細胞であって、αPDGFR陽性、E−Cad陽性かつFLK1陰性である細胞。
  3. 多能性幹細胞が哺乳動物由来である、請求項1または2に記載の細胞。
  4. 多能性幹細胞が胚性幹細胞である、請求項1ないし3のいずれかに記載の細胞。
  5. 哺乳動物に移植するための、請求項1ないし4のいずれかに記載の細胞。
  6. a)多能性幹細胞を培養すること、
    b)αPDGFRおよびFLK1を発現し、かつ、E−Cadを発現していない細胞を選別し分離すること、
    の各段階を含む、中胚葉系幹細胞の調製方法。
  7. a)多能性幹細胞を培養すること、
    b)αPDGFRおよびE−Cadを発現し、かつ、FLK1を発現していない細胞を選別し分離すること、
    の各段階を含む、中軸中胚葉系幹細胞の調製方法。
  8. 該選別段階が、抗αPDGFR抗体、抗E−Cad抗体および抗FLK1抗体の少なくとも1つを使用するものである、請求項6または7に記載の方法。
  9. 該選別段階がFACSによるものである、請求項6ないし8のいずれかに記載の方法。
  10. 多能性幹細胞を分化させる段階をさらに含む、請求項6ないし9のいずれかに記載の方法。
  11. コラーゲンIVでコートした培養プレート上で多能性幹細胞を培養することにより多能性幹細胞を中胚葉系細胞に分化させる、請求項6ないし10のいずれかに記載の方法。
  12. 哺乳動物の多能性幹細胞を使用する、請求項6ないし11のいずれかに記載の方法。
  13. 多能性幹細胞として胚性幹細胞を使用する、請求項6ないし12のいずれかに記載の方法。
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