発明の分野
本発明は治療上適切なグルダミナーゼをコードするDNA、治療上適切なグルタミナーゼ活性をもつポリペプチド、および抗ウイルスと抗ガン治療におけるそれらの使用に関するものである。
従来の技術
腫瘍の宿主中でグルタミンを減少させるためにグルタミナーゼを使用するには、ガン細胞を攻める効果的な方法が必要である。グルタミンは、多くの細胞内代謝物の生合成において重要な役割を担っている。正常な組織と比べ、腫瘍は生合成の低下と利用の増加により、下限のグルタミン活性で働くことが示されている(レヴィントー(Levintow),1954,J.Natl.Cancer Inst.15:347-352;ロバーツら(Roberts,et al.,1960,Amino Acids,proteins and Cancer Biochemistry(J.T.エドソール(J.T.Edsall)編),Academic Press,New York,NY pp.121-145;ウェーバー(Weber,G.),1983.,Cancer Res.43:3466-3492;シーボルトら(Sebolt,et al.),1984,Life Sci.34:301-306)。グルタミン量と移植されたラット肝腫瘍の増殖率の間の負の相関が実験によって示された。肝腫瘍3924Aの生体内でのグルタミンの濃度(0.5mM)は肝臓(4.5mM)におけるより9倍低く、他のどのラットの組織(2から5mM)よりも低いことが示された(ウエーバー,1983,Cancer Res.43:3466-3492)。近年蓄積されてきたデータによると、グルタミンが、造血腫瘍、肝腫瘍、エールリヒ癌、Hela細胞を含むさまざまな腫瘍の細胞のエネルギーの重要な源であることが示されている(エイボウー-カーリルら(Abou-Khalil),1983,Cancer Res.43:1990-1993;コヴァツェヴィックら(Kovacevic),1972,J.Biol.Chem.33:326-333;コヴァツェヴィック,1971,Biochem.J.125:757-763;ライツァーら(Reitzer),1979,J.Biol.Chem.254:2669-2676)。
L-アスパラギナーゼは、ヒトに対する抗ガン薬剤として詳しく研究された最初の酵素であるが、急性リンパ芽球白血病の処置に非常に効果的である。しかし、この酵素はヒトの他の腫瘍に対してほとんど、あるいは全く活性をもたない。酵素グルタミナーゼはアスパラギナーゼよりずっと幅広いガンに対して活性をもつ。
幾つかの哺乳類と微生物のグルタミナーゼおよびグルタミナーゼ-アルパラギナーゼ酵素が精製され、解析されている。これらの中で、シュードモナス7Aのグルタミナーゼ-アスパラギアンーゼが、グルタミンに対するその低いKm値(マイクロモルの範囲)、生理条件下での優れた安定性および活性、腫瘍宿主中での長い半減期のために、治療上の使用に最も適しているようである(ロバーツ,1976,J.Biol.Chem.251:2119-2123,ロバーツら、,1979,Cancer Treat.Rep.63:1045-1054)。
既知の哺乳類のグルタミナーゼ酵素は、その高いKm値(ミリモルの範囲)、活性化に対するリン酸エステルまたはマレイン酸の必要性のため治療薬剤としての使用に適さない。E.coliのグルタミナーゼ(AおよびB)もまた、その高いKm値(ミリモルの範囲)、生理的pHでの低い活性(グルタミナーゼA)、また特別な活性化物質の必要性(グルタミナーゼB)のため治療上の使用に適さない。
Pseudomonas 7Aのグルタミナーゼ-アスパラギナーゼは分子量約35,000の4つの同一のサブユニットからなる。活性酵素沈殿法によると、触媒活性は4量体と結び付いており、もっと小さな活性種は見られない(ホルセンバーグ(Holcenberg)ら,1976,J.Biol.Chem.,251:5375-5380)。精製された酵素は、グルタミナーゼ対アスパラギナーゼで約2:1の活性をもつ。C14ラベルしたグルタミンアナログ(6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン;DON)とアスパラギンアナログ(6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルヴァリン;DONV)を用いた結合の研究から、2つのアナログがタンパクの2つの異なる部位で水酸基と選択的に反応し、2つの結合部位が活性部位の一部として協調的に働くことが示唆される(ホルセンバーグら,1978.,Biochemistry 17:411-417)。
Pseudomonas 7Aのグルタミナーゼ-アスパラギナーゼは、種々のげっし類の白血病(L1210,C1498,EARAD/1)、腹水腫瘍(テーパー肝臓、エーリッヒ癌、メスA肉腫、S180)、ある種の固形腫瘍(ウォーカー256癌肉腫、B16黒色腫に対してかなりの抗腫瘍活性をもつ。さらに、グルタミンアナログとグルタミナーゼによるグルタミンの拮抗作用は、無胸腺マウスで増殖するヒト結腸癌、胸癌、肺癌に対して強い阻害活性をもつことが分かった(マクレガー(McGregor),1989、Proc.Amer.Assoc.Cancer Res.30:578;ロバーツ,1979,Cancer Treat.Rep.63:1045-1054:オヴェジェラ(Ovejera),1979,Cancer Res.39:3220-3224;ホウヘンス(Houchens),1979,Cancer Treat.Rep.63:473-476;デゥヴォール(Duvall),1960,Cancer Chemother.Rep.7:86-98)。
グルタミナーゼ治療の重要な特徴は、この酵素を用いた繰返し行う処置の後でも耐性株が育たないことである(ロバーツ,1979,Cancer Treat.Rep.63:1045-1054)。グルタミナーゼを用いた処置はまた、メトトレキサートに対する耐性の発達を遅らせることが示された(ロバーツ,1979,Cancer Treat.Rep.63:1045-1054)。
生物活性グルタミナーゼ-アスパラギナーゼは、マウスレトロウイルスによる疾患を阻害することが示された。グルタミンの減少は、試験管内でラウシャーネズミ白血病レトロウイルス(RLV)の複製を著しく阻害する。長い期間グルタミンとアスパラギンを減少させることができるPseudomonas 7Aのグルタミナーゼ-アスパラギナーゼ(PGA)は、RLVかフレンドウイルスに感染したマウスでのグルタミンの減少という治療上の効果を調べるために用いられた。ウイルス血症動物をPGAで処理する間に、血清逆転写酵素活性はコントロールレベルに落ち、感染動物は脾腫にならなかった。PGAを用いて得られる治療上の結果は、腹膜内に30mg/kg/dayで投与されるアジドチミジンによって得られる結果と比べ優れている(ロバーツ,1991,Journal of General Virology,73:299-305)。
治療剤としてグルタミナーゼの有望性にもかかわらず、安価に、また例えば産生主の微生物の内毒素などの、他の物質の混入がほとんど、あるいは全くなく生産できる治療上有益な商品化されたグルタミナーゼはいまのところ存在しない。さらに、幅広い診療を行うのに十分な量の適切な酵素も存在しない。
発明の概要
感染細胞内におけるHIVの複製を阻害する方法を提供するのが本発明の目的である。
ガン細胞の増殖を阻害する方法を提供することが本発明のもう1つの目的である。
治療上適切なグルタミナーゼを産するE.coli細胞を提供するのが本発明のもう1つの目的である。
治療上適切なグルタミナーゼをコードするDNA分子を提供するのが本発明のもう1つの目的である。
Pseudomonasの内毒素を含まない治療上適切なグルタミナーゼを提供するのが本発明の目的である。
生体内の形質転換細胞を処理する方法を提供するのが本発明のもう1つの目的である。
癌細胞を処置する治療用組成物を提供するのが本発明のもう1つの目的である。
本発明のこれらおよび他の目的は、以下に記載する1つ以上の態様によって提供される。一つの態様中でHIV感染細胞内でのHIVの複製を阻害する方法が提供される。その方法は、HIV感染細胞内でのHIVの複製を阻害するのに十分な量の治療上適切なグルタミナーゼをその細胞に投与する事から成る。
もう一つの態様中では、ガン細胞の増殖を阻害する方法が提供される。その方法は、腫瘍関連抗原を発現する腫瘍細胞に結合複合体を、腫瘍細胞のDNA合成を阻害するのに十分な量投与することからなる。該複合体は、(a)治療上適切なグルタミナーゼ、および(b)腫瘍関連抗原と免疫反応する抗体からなる。
本発明のもう1つの態様中では、Pseudomonas 7Aのグルタミナーゼ-アルパラギナーゼ遺伝子をもつE.coliが提供される。
本発明のもう1つの態様中では、単離精製されたDNA分子が提供される。その分子は、治療上適切なグルタミナーゼをコードするヌクレオチド配列からなる。 本発明の1つの態様中では、治療上適切なグルタミナーゼの無細胞調製物が提供される。その調製物はPseudomonasの内毒素をふくまない。
本発明のもう1つの態様中では、生体内の形質転換細胞を処理する方法が提供される。その方法は、ヌクレオチド配列SEQ ID NO:1をもつプラスミドを投与することからなる。その配列は組織特異的なプロモーターの転写制御の支配下にあり、そのプラスミドは組織特異的なリガンドに共有結合したポリL-リジンでコートされている。
本発明のもう1つの態様中では、治療用の組成物が提供される。その組成物は、治療上適切なグルタミナーゼを含む複合体および腫瘍関連抗原に特異的な抗体からなる。
本発明のもう1つの態様中では、腫瘍患者を処置する方法が提供される。その方法は、腫瘍患者から腫瘍が浸潤したリンパ球を得て、その腫瘍が浸潤したリンパ球にヒト細胞中でPseudomonas 7Aのグルタミナーゼを発現できるベクターを感染させ、その腫瘍が侵潤したリンパ球を患者に投与しPseudomonas 7Aのグルタミナーゼを腫瘍に与えるという段階からなる。
本発明のもう1つの態様中では、以下の段階からなる腫瘍患者の処置方法を提供する。その方法は、腫瘍患者から腫瘍が侵潤したリンパ球を得て、該腫瘍が侵潤したリンパ球と、ヌクレオチド配列SEQ ID NO:1をもち、ヒト細胞中でPseudomonas 7Aのグルタミナーゼを発現できるベクターを混合し、そのリンパ球とベクターの混合物を腫瘍患者に投与し腫瘍にPseudomonas 7Aのグルタミナーゼを与えるという段階からなる。
本発明はそれゆえ、新規の有益な抗腫瘍、抗ウイルス治療薬剤および、それらを生産する手段、それらを使用する方法に関する技術を提供する。
Pseudomonas 7Aのグルタミナーゼ-アスパラギナーゼをコードする遺伝子のクローニングおよびE.coli中での発現は、Pseudomonas 7A中での収率と比べ、培養液1リットルあたりのグルタミナーゼの産生量が少なくとも12倍に増加する。これにより、グルタミナーゼの生産コストが顕著に軽減し、幅広い臨床使用が可能となる。さらに、E.coliでのグルタミナーゼの産生により、非常に毒性の高いPseudomonasの内毒素の抗腫瘍薬剤への混入も避けられる。
発明の詳細な説明
宿主細胞の毒性という障害にもかかわらず、宿主中でグルタミナーゼ酵素を分子的にクローン化できるということは、本発明の発見である。グルタミナーゼ活性は宿主細胞に対して毒性をもつので、この過程で厳密に制御されねばならない。出願人は、下流の遺伝子の発現を誘導するプロモーターによって、また遺伝子の5'と3'の転写終結部位を用いることにより、宿主細胞中のグルタミナーゼ活性を、グルタマーゼをコードするDNAを欠失することなく宿主細胞が生存できる程度に制御できることを見つけた。分子クローンが望ましい宿主細胞中で発現されると、グルタミナーゼが内毒素の混入なしに産生できる。グルタミナーゼがヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染細胞中での複製に対して阻害活性をもつことは、本発明のもう1つの発見である。さらに、グルタミナーゼを抗腫瘍抗体と混合し、腫瘍細胞に投与すると、腫瘍細胞の増殖が、グルタミナーゼまたは抗体を単独で投与した場合を大幅に上回り阻害されるということが分かった。
本発明のグルタミナーゼ酵素は、生理的pH値、即ちpH6.5とpH8.5の間で高い酵素活性を示すなら治療上安定である。治療上安定なグルタミナーゼ酵素は低いKM値、即ち10-6Mと10-4Mの間のKM値をもたなければならない。さらに。治療上の使用するグルタミナーゼ酵素の望まれる性質は以下からなる:
1.生理的pHでの高い安定性。
2.動物およびヒトの血清と血液中での高い活性と安定性の保持。
3.動物やヒトに注入されたとき血液循環からゆっくり除かれること。グルタミナーゼの半減期がマウス中で6時間以上、ヒト中で16時間以上であることが望ましい。
4.それが触媒する反応の産物または体液中に普通に見られるその他の成分によって強くは阻害されないこと。
5.酵素から容易に乖離する補助因子または置換群を必要としないこと。
6.厳密な基質特異性
7.生理的条件下での酵素反応の効果的な不可逆性。
8.低いレベルの内毒素しかもたない生物から得られること。
9.低い抗原性
抗腫瘍活性を示さない多くのアミノ酸分解酵素は以上の規範の少なくとも1つに合致しない。例えば、E.coliグルタミナーゼは至適pH5であり、生理的pHで基本的に活性をもたない。非効果的な型のE.coliアスパラギナーゼは1mM以上のKM値をもつ。酵母,Bacillus coagulansおよびFusarium tricinctumのアスパラギナーゼはマウス中で過剰に速く排除される。
クローン化した治療上適切なグルタミナーゼ遺伝子のうち1つのヌクレオチド配列をSEQ ID NO:1に示した。これは生物シュードモナス7A(P7A)由来である。本来のコード領域は1008塩基対に及び、336アミノ酸の一連のポリペプチド配列をコードしている(シグナル配列と思われる24アミノ酸は含めていない)。C末端はタンデムに並んだ終止コドンおよび推定転写終結点(ターミネーター)によって終結する。
本明細書中に説明したP7Aグルタミナーゼ配列を、類似タンパク質をコードする類似の配列を同定するのに使用できる。(ワトソン,J.D.ら.,"細胞の分子生物学"Benjamin/Cummings Publishing Company Inc.,メンロパーク カリフォルニア、I巻,p.608(1987)参照。)例えば、サザンハイブリダイゼーション実験を本発明のグルタミナーゼ遺伝子全長または一部をプローブとして原核または真核生物DNAについて行うことが出来る。典型的に、プローブは他の関連のない配列がハイブリダイゼーションしないようにするためにはグルタミナーゼ配列の少なくてもおよそ15塩基を含む。十分な高温および低塩濃度により、関連のない配列へのハイブリダイゼーションをさらに減少させる。このような技術を使用して、相同性遺伝子はシュードモナスプチダ中の大腸菌のdnaA(IngmerおよびAtlung,Mol.Gen.Genet.232、431(1992))および様々な真核生物中のras(松井,Gene76:313(1989)および堀、Gene105:91(1991))に発見された。P7AグルタミナーゼDNAにハイブリダイゼーションするDNA配列は相同の機能の酵素をコードする遺伝子を表している可能性が高い。本技術によって単離された遺伝子は発現させることが可能で、酵素はP7Aグルタミナーゼについて同定された望ましい特徴を共有するかを決定するための試験を行うことが可能である。
本明細書中で考慮されたプローブは、当該技術分野で既知の通り、本明細書中で説明したP7Aグルタミナーゼ遺伝子の正確なヌクレオチド配列を使用して、または当該酵素のアミノ酸配列に基づいて作製できる。このように、ある目的には縮重プローブを、即ち、同じアミノ酸をコードするが異なるコドンを含む配列のプローブの混合物を使用することが望ましい。このようなプローブを使用してより広域な領域における相同遺伝子を同定することができる。
P7Aグルタミナーゼ(PGA)のDNA配列を使用して、相補クローニングを利用して他の生物から他のグルタミナーゼ遺伝子を得ることが可能である。これは2つのグルタミナーゼ遺伝子間またはタンパク質間にクロスハイブリダイゼーションまたは免疫学的交差反応がない場合にも使用可能である。クランツら.,Proc.Natl.Acad.Sci.87:6629(1990)参照。一般的に、標的生物に突然変異を導入し、突然変異体はグルタミンを炭素および/または窒素源として使用できないことから選別される。P7Aグルタミナーゼを形質転換すれば、選別した突然変異のいくつかではグルタミンの使用が回復するはずである。これらの生物はPGAに相同な遺伝子中に突然変異を含むはずである。野生型生物より単離したDNAを導入することによってこの突然変異の表現型が回復すれば、PGAの相同体をスクリーニングするための手法として使用可能である。
SEQID NO:2に示したP7A由来のグルタミナーゼ遺伝子のアミノ酸配列が提供されると、抗体は通常の手法で得ることが可能である。これらは免疫源としてペプチド断片または完全なタンパク質を使用して得られる。特定の目的に応じるように、抗体はポリクローナルまたはモノクローナルでよい。抗体は関連酵素を持つ株のスクリーニング、細胞あたりの酵素量の定量、およびクローンのライブラリーから分子クローンの検出に使用可能である。
本発明に従ったグルタミナーゼ遺伝子は宿主生物における適合性を増加させるように容易に修飾可能である。例えば、コドンの使用は生物ごとに多様である。
それゆえ、グルタミナーゼの発現効率を増加させるために宿主のコドン使用様式に適応するようにコドンを変化させることが望ましい。このような変化はグルタミナーゼのアミノ酸配列は変えずに遺伝子配列のみ変えるであろう。このような変化は、当該技術分野において既知の手法によって成し遂げることが可能であり、例えばオリゴヌクレチド特異的突然変異導入は遺伝子配列中に変異を導入することに使用できる。あるいは、遺伝子全長を合成することができる。
本来のグルタミナーゼは分泌シグナル、即ち細胞膜を通して細胞膜周辺空間に分泌するための約20アミノ酸のN末端アミノ酸配列を含む。ある条件下では、グルタミナーゼ発現コンストラクト中にシグナル配列を含むことが有益の場合もある。酵素の分泌を遂行するために、本来のシグナル配列が使用されるかまたは成熟グルタミナーゼ配列に他のシグナル配列を付加してもよい。宿主細胞への毒性効果を減少させるため、シグナル配列の使用はグルタミナーゼの発現に有利であろう。使用されるシグナル配列の1つは大腸菌のompTシグナルである。このシグナルは他と同様に当該技術分野でよく知られている。宿主細胞からのグルタミナーゼの分泌は、酵素の精製を促進し、高純度のグルタミナーゼの形成及び回収を導くのであろう。
生きた細胞に対する酵素の本来の毒性のために、グルタミナーゼの発現には誘導可能なプロモーターが望ましい。使用される誘導可能なプロモーターにはlac,tac,trp,mal,およびPLがある。プロモーターの選択は当該技術分野の範囲内である。
転写終結点はまた、リードスルー発現を防ぐためにグルタミナーゼ遺伝子の5'および3'両方に存在するのが望ましい。多くの転写終結点が知られ、使用可能である。総説として、ワトソン,J.D.ら.,遺伝子の分子生物学、Benjamin/Cummings Publishing Co.,メンロパーク,カリフォルニア,I巻,pp.377-379(1987)参照。本出願で有効であることが分かった終結点の1つは、T7ファージのものである。
グルタミナーゼ遺伝子の修飾により、大腸菌中での酵素の生産を容易になった。このような修飾遺伝子の1つでは、成熟タンパク質のN末端にメチオニンが付加される。他のこのような修飾遺伝子中では、メチオニン、アスパラギン、およびセリンが成熟タンパク質のN末端に付加された。これらの付加のいずれも酵素活性または基質特異性を破壊しなかった。他の同様の変異は有意に酵素機能に影響を与えない本発明の範囲内で遂行される。
本発明の実行のためには、治療上の適正または生産しやすさを改良するために、グルタミナーゼの構造に修飾を施すことも望ましい。例えば、酵素機能に本質的ではない部分を除去するために、成熟前切断または特定部位の削除によってタンパク質の一部を除去することが望ましい。例えば、小さいタンパク質ほど腫瘍塊中への透過性が増加して治療指数が上がる可能性がある。同様に、点突然変異もまた治療上または生産特性を改善すると考えられる。これらは当該技術分野において既知の通り部位特異的またはランダムな突然変異導入、またはサーモサイクル突然変異導入増幅によって遂行される。
さらに、グルタミナーゼと他のタンパク質の間でキメラタンパク質を作製することも望ましい。例えば、抗腫瘍抗体をコードする遺伝子を本発明のグルタミナーゼ遺伝子と融合することが望ましい。本明細書中で説明するように、これらのタンパク質の共有結合による複合体は腫瘍細胞の増殖を停止させるのに劇的な相乗効果を生むことが可能である。このような複合体は、翻訳後にin vitroで2つのタンパク質を一緒に結合させるよりもキメラタンパク質として生産する方が生産上有利である。グルタミナーゼ遺伝子を他の遺伝子に融合させて、身体の望ましい領域にグルタミナーゼを輸送することを促進させること、例えば組織または腫瘍特異的なリガンドをコードする遺伝子と融合することもまた、本発明によって考慮されている。
本発明は、L−アスパラギンはグルタミン分解の競争阻害剤として働くため、グルタミナーゼ−アスパラギナーゼ酵素よりも治療上有利なアスパラギナーゼを含まないグルタミナーゼを得る可能性を提供する。この酵素からアスパラギナーゼ活性を除去すれば、宿主に対する毒性も減少するだろう。現在のところアスパラギナーゼ活性の欠如した治療上有益なグルタミナーゼは得られていない。
各々DONおよびDONVと呼ばれるグルタミンおよびアスパラギンアナログによる結合実験は、グルタミンおよびアスパラギンの部位は空間的に互いに近接しているが同一ではないことを示唆するために、グルタミン結合部位に影響を与えずにP7Aグルタミナーゼのアスパラギン結合部位を不活性化する事が可能である。DONは不可逆的に20番目のアミノ酸であるスレオニンに結合する一方、DONVはタンパク質の異なる領域中のスレオニンまたはセリン残基に結合するようである。クローン化したDNAへの相当する部位特異的突然変異導入は、標準的な技術に従って実行される(分子クローニング,実験手法−ザンブルクら,2巻,第2版.,1989,pp15.80-14.113,クローン化したDNAの部位特異的突然変異導入)。
オリゴヌクレオチドおよび欠失変異によって、グルタミナーゼ酵素活性のみを有し、および血管の外の領域中に位置する腫瘍およびウイルスが感染した組織への透過性が増大するのに十分小さい酵素が得られる。実施例1に従って得られたDNAが使用できる。アミノ酸配列解析(ヌクレオチド配列からの推定)およびX線結晶構造解析のデータ解析によって、触媒または構造維持に必要でないグルタミナーゼタンパク質の領域が同定され、DNAレベルで適切なヌクレオチド配列を欠失することによって欠失が可能である。
本発明のグルタミナーゼ遺伝子は、一時的な遺伝子治療に使用可能である。一般的に、遺伝子は形質転換した細胞にねらいを付けて取り込ませ、これらの細胞中で発現させ、発現されたグルタミナーゼによって形質転換した細胞の増殖を阻害することが可能である。この治療法は、治療薬を全身的に投与することを避け、潜在的な副作用を和らげるという利点がある。さらに、考察したように、細胞が一時的にのみ形質転換されたならば、治療は可逆的である。
この目的を達成するために考案した1つの方法は、ユーら,J.Biol.Chem.266:14338-42(1991)に記載されたように、組織特異的リガンドで修飾されたポリ−L−リジンの使用である。このような組織特異的リガンドの例は、肝臓のガラクトース受容体、マクロファージのマンノース受容体、ヘルパーT細胞のCD4受容体、上皮増殖因子(EGF)受容体、および甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体がある。グルタミナーゼ遺伝子は組織特異的プロモーターの転写調節下に置かれている。例えば、c-N-rasおよびc-mycのプロモーターは肝腫瘍中の発現に使用可能である。これらのプロモーターは通常細胞に比較して形質転換細胞中で正に制御されていて、それ故通常細胞中よりも腫瘍細胞中に置いてより高レベルの発現を提供するだろう。プラスミドを修飾ポリ−L−リジンで被い、患者の血流中に注入する。この複合体は組織特異的リガンドの存在によって標的細胞に特異的に取り込まれる。標的細胞は組織特異的プロモーターによってグルタミナーゼコンストラクトを特異的に発現するであろう。ある腫瘍は利用できるグルタミンが限界的レベルでも活動することが示されているが、これらの細胞中のグルタミナーゼ発現は腫瘍細胞中のグルタミンプールをさらに激減させるため、これらの細胞の増殖は特異的に阻害される。
このような処理は、B型肝炎ウイルス(HBV)感染の初期段階のような腫瘍の初期段階における細胞はもちろん十分に形質転換した細胞に対しても有用である。HBVはc−mycの発現を活性化するため、このプロモーター下に制御されるグルタミナーゼコンストラクト中でこのプロモーターを正に制御し、ウイルス感染した細胞を殺すグルタミナーゼの高レベルの発現を導くことができると期待される。
形質転換細胞またはHIV陽性細胞によるPGA遺伝子の取り込みを仲介する他の技術はリポソームの利用である。(ニコラウら,Methods in Enzymology,149巻,pp.157-176(1987)参照。)
PGA発現が可能なベクターを含む正に荷電したリポソームは、特異的な受容体リガンドまたはリポソーム二重膜に対する抗体の付加によって修飾される。(橋本ら,Methods in Enzymology、121巻、pp.817-829(1986)参照。)上記に記載したポリリジン法におけるように、リポソームはガラクトース受容体を介して肝臓細胞によってin vivoにおける外来DNAの特異的な取り込みを首尾よく仲介するために使用された。
PGA発現ベクターのキャリヤーとしての正に荷電したリポソームまたはポリリジンと標的用の組織特異的な試薬との組み合わせを使用することによって、グルタミナーゼは選択された組織または細胞中で極めて特異的および一時的に発現可能である。標的用のこのような組織特異的な試薬は、細胞表面マーカーに対する特異的な抗体および特異的な細胞受容体に対する任意のリガンドを含む。例えば、グルタミナーゼ遺伝子は、修飾リポソーム上のリガンドとしてCD4抗原に結合するHIVコートタンパク質の部分を使用して、エイズ患者中のCD4+のT細胞(HIVによって感染された型)に特異的に伝達されることが可能である。PGA発現系を含む炭水化物で修飾されたリポソームもまた使用可能である;肝臓のガラクトース受容体はこのような修飾リポソームの取り込みを仲介する。
細胞表面の受容体に対するリガンドの使用に加えて、細胞表面マーカーに対する抗体は、実質的に任意の細胞型に対してこれらの試薬を伝達する同様の手法において使用可能である。
PGAによる患者の処方において有益なさらなる技術はキャリヤー細胞の使用である。(ローゼンバーグ,Cancer Res.(補遺)51巻,pp.5074s-5079s(1991)参照。)この技術は、あるT細胞が腫瘍に浸潤する(腫瘍に浸潤するリンパ細胞)能力を持つという利点を利用する。これらの細胞はがん患者から採取され、グルタミナーゼ発現ベクターで形質転換し、患者に戻される。体内に戻し、腫瘍に浸潤すると、グルタミナーゼの高度に局所的なレベルが提供される。さらに、二機能性のキャリヤーが使用可能である。浸潤するリンパ細胞へのPGA発現ベクターの形質転換の代わりに、例えばポリ−L−リジンに結合させたモノクローナル抗体の使用といった、上記に記載したようなリンパ細胞上の特異的な表面マーカーによってベクターを標的に向かわせることが可能である。ベクターに付加したさらなる標的リガンド(腫瘍細胞特異的)の存在は標的腫瘍細胞によるPGA発現ベクターの取り込みを可能にする。本質的に、浸潤するリンパ細胞は発現ベクターを腫瘍に運ぶキャリヤーとして使用される。
体内へのグルタミナーゼの投与は当該技術分野に置いて既知の手法によって成し遂げることが可能である。グルタミナーゼを、器官または組織に流れる動脈への投与または器官または組織特異的リガンドによる手法によって特定の器官または組織に輸送することができる。機能的な標的成分にPGA酵素を直接結合することができる。これらの成分には抗体、レクチン、炭水化物、ホルモン、ペプチド、または細胞表面分子と相互作用可能な他の化合物を含む。これに関する特定の実施例はEnzymology,112巻,pp.238-306(1985)参照。
グルタミナーゼは例えば腫瘍関連抗原に特異的な抗体に結合できる。2つのタンパク質を結合させる様々な技術が知られており、酵素活性および抗体結合能力が破壊されない限り、グルタミナーゼでも使用可能である。適切な技術にはヘテロ二機能性試薬SPDP(N−サクシニミジル−3−(2−ピリジルジチオ)プロピオネート)[カールソンら.,Biochemical Journal,173巻、pp.723-737(1978)]またはSMPT(4−サクシニミジル−オキシカルボニル−α−メチル−α−(2−ピリジルジチオ)トルエン)[ソルプら.Cancer Research,47巻、pp.5924-5931(1987)]の使用を含む。腫瘍関連抗原と特異的に反応する多くの抗体が文献に記載されている。乳、肺および皮膚の腫瘍細胞を含む多くが、ATCC,12301パークローンドライブ、ロックビレ、メリーランド20852、より入手可能である。腫瘍特異的な抗体の総説はフーン,Canser Research,49巻、pp.1621-1631(1989)参照。
シュードモナス7Aグルタミナーゼ(PGA)での組織培養実験は、この酵素がヒトT細胞系列H9中に存在するヒト免疫不全性ウイルス(HIV)の複製を強力に阻害することを示す。培養液1ml中に0.4μgPGAが存在するとウイルス複製が実質的に100%阻害され、0.016μg/ml存在すると50%阻害される。はるかに高い濃度のPGAが(50μg/ml)、ヒトH9宿主細胞に明かな毒性を与えるのに必要であった。組織培養阻害はHIV−1ウイルスについて示したが、他の様々な株もまた阻害されると考えられる。
これらの組織培養の結果は、PGAが宿主ヒト細胞よりもHIVに対してより毒性が強いことを示唆し、PGAはHIV感染患者に投与されたら高い治療指数を示すと期待される。さらに、グルタミン代謝拮抗物質DONと結合させると、PGAは肺癌、乳癌または大腸癌の治療において特に効果的であることが証明された(マクグレガー,1989,Proc.Amer.Assoc.Cancer Res.30:587)。
治療上適切なグルタミナーゼおよびそれに相当するポリペプチドをコードするDNA分子は、既知のグルタミナーゼタンパク質配列に従って準備したオリゴヌクレオチドプローブを使用して微生物、動物または植物細胞から単離可能である。好適には、DNAはシュードモナス7A細胞から単離する。
[実施例1]
本実施例はシュードモナス7Aグルタミナーゼをコードする配列を含むクローンの同定およびそのヌクレオチド配列の決定を例示する
グルタミナーゼ産物はグルタミン(他のどのアミノ酸よりも代謝過程に関与しているアミノ酸)を分解する酵素であり、それ故増殖を阻害する。24回以上の独立した実験において、我々は様々な方法でグルタミナーゼをクローン化出来なかった。我々はpUCのような高いコピー数ではクローニングできないことを見いだした。また、上流の転写終結点および非常に厳密に制御されているプロモーターが存在しないとクローニングは困難であることが判明した。
染色体DNAは、本質的には文献に記載されたように(ストロム,1986,J.Bacteriol.165:367-372)シュードモナス7A(寄託番号ATCC29598でATCCに寄託されている土壌から単離された生物)から単離され、制限酵素Sau3Aで部分的に消化した。平均5−10kbのこの消化断片は調製用のアガロースゲル電気泳動によって分離され、pBR322ベクターのBamHI部位にクローン化された。作製したゲノムライブラリー(ATCCの受託番号33572の大腸菌株LE392中に存在)を混合オリゴヌクレオチドプローブ(ウォレス、ら.,1981,Nucleic Acids Res.9:879-89,およびパドック,G.V.,Biotechniques5:13-16)を使用してスクリーニングした。部分的なペプチド配列の情報を得て、それに基づいて表1に示した3つのオリゴヌクレオチドプローブを作成した。オリゴヌクレオチドプローブは酵素のアミノ末端(プローブA)、カルボキシ末端(プローブC)、およびタンパク質の中央付近のペプチド(プローブB)からのペプチド配列の情報を基に選択した。プローブBは3560個のアンピシリン耐性形質転換体の第1スクリーニングに使用した。第1スクリーニングから2つのハイブリダイゼーション陽性なクローンが同定された。これらはプローブAおよびCで再スクリーニングした。両クローンともプローブAにハイブリダイゼイションしたが、クローンのうち1つのみ、pME0.5がプローブCにハイブリダイゼーションした。pME0.5は3つすべてのプローブにハイブリダイゼーションしたことから、以下の解析用にこれを選択した。
プラスミドpME0.5で形質転換したLE392株由来の粗細胞抽出物は一晩培養物を破壊することによって準備し、壊れなかった細胞および細胞砕片を除くためにホモジネートを15,000rpmで遠心した。生じた上清について、直接的なアンモニアのネスレル試薬処置(ロバート、J.,1976,J.Biol.Chem.251:2119-2123)によってグルタミナーゼ活性を測定した。大腸菌の二種のグルタミナーゼ酵素のいずれによる妨害活性も最少にするために、酵素測定はpH8.0でD−グルタミンを基質として使用して行われた。大腸菌の酵素はこれらの条件下では活性状態にはない一方、シュードモナス7Aグルタミナーゼ(PGA)は87%の活性を残している(プルイスナー,1976,J.Biol.Chem.,251:3447-3456およびJ.ロバート,1976,J.Biol.Chem.251:2119-2123)。
粗細胞抽出液によるコントロール実験から大腸菌のグルタミナーゼ活性なしでPGA活性を測定する測定法の効率を確認した。活性は見られなかった。
推定されるPGAクローンがまさにPGAであることを確認するために、検索に用いられたプローブに類似性のある領域をサザンブロット分析によってつきとめ、その断片の適当な配列を部分的に決定した。この分析によってプローブAにハイブリダイゼーションする1.1kbのSalI断片、およびプローブBにハイブリダイゼーションする1.5kbのsalI断片が同定された。これは、この遺伝子内にsalI切断部位が存在し、この部位から塩基配列を決定すれば、その塩基配列を既知のアミノ酸配列と比較することによって即座にその遺伝子がPGAであると確認できるということを示している。1.1kbのsalI断片の塩基配列を決定することによって、この断片がグルタミナーゼのN末端側42アミノ酸をコードしていることが明らかになった。
塩基配列決定の簡便のため、Sambrookら(上述)の標準的なプロトコールによって、グルタミナーゼをコードしている領域の様々な断片がColE1由来のプラスミドにサブクローン化された。これらの中には1.1kbのN末端側salI断片(pME1)、1.5kbのC末端側salI断片(pME2)、温度サイクルによる増幅で変異導入されたN末端側(pME3)、および200bpのC末端側PstI断片(pME11)が含まれる。多くのシークエンスプライマーは、事前に決定されているグルタミナーゼのDNA配列を用いて合成された(図1を参照)。
全長のクローンpME0.5、およびサブクローン化された遺伝子断片を用いて、グルタミナーゼ遺伝子の塩基配列がSangerの連鎖終結DNAシークエンス法 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 74:5963(1977)によって両方向とも決定された。精製した二本鎖鋳型は標準的なアルカリ変性法によって変性された。
完全なコード領域(SEQ ID NO:1)は1008塩基対から成り、336アミノ酸の連続したペプチド配列をコードしている(24アミノ酸の推定のシグナル配列は含めていない)。そのC末端はタンデムに並んだ複数の終止コドン、および推定の転写ターミネーターによって終結されている。この配列の情報とペプチド配列のデータとの合致に基いて、PGA遺伝子が確かにクローン化されたと結論付けられた。
[実施例2]
この実施例はPseudomonas 7Aのグルタミナーゼ遺伝子の発現を示している。
最初の実験では強く調節されたプロモーター(例えばλPL)でさえ、PGAは過剰発現しづらいことが示された。Escherichia coli内で高レベルに調節されたPseudomonas 7A(P7A)のグルタミナーゼの発現を得るために、我々は最初に新しいベクター、pME15(クローン化には図3Aおよび3Bを参照、および表2を参照)を設計した。このベクターの基本骨格はpME12(表2を参照)であり、次のようなものを含んでいる:β‐ラクタマーゼ遺伝子(アンピシリン耐性を付与している)、lacI(ラクトースオペロンのリプレッサー)、T7転写ターミネーター、および低コピー数のColE1型複製起点(pBR322由来)。
我々はプロモーターとしてlacオペレーター配列(lacIによる抑制に感受性を付与する)を含むtac(trp/lac融合体)プロモーターを選択した(deBoerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,80:21(1983),およびRusselら,Gene,20:231 (1982))。我々は、重複したオリゴ核酸を合成し、これらを連結後、BamHI/HindIII断片としてクローニングベクターpUC19にクローン化することによってpME7を生じさせた。pME7のBamHI/EcoRIフラグメントをpME12にクローン化してpME12を得た。
これによってtacプロモーターはlacIで制御されるようになり、それゆえにこのプロモーターはイソプロピル‐β‐チオ‐D‐ガラクトシド(IPTG)によって誘導可能である。このプロモーターは一方向の複製起点と同じ向きで活性を持ち、そのためにプラスミドの増殖には影響を及ぼさないと思われる。転写ターミネーターは転写開始点のすぐ上流に存在し、"リード・スルー"の転写を排除している。lacIによる制御と上流の転写ターミネーターの組によって、ベクターは安定に増殖することができ、また、有害なグルタミナーゼ遺伝子さえ発現することができる。さらにlacI遺伝子をコードするプラスミドをもつことによって、事実上の宿主から独立することもできる。
先に述べたように、全長のP7Aグルタミナーゼには二つのSalI断片、すなわち遺伝子のN末端側を含む1.1kbの断片、およびC末端側を含む1.5kbの断片、に存在する。この遺伝子を発現システムにクローン化するために、我々はN末端の配列に手を加えて、制限酵素に便利な部位をつくろうと考えた。これによって我々のベクターpME15に加え、多くの既成の発現ベクターにクローン化することができる。このために我々は、N末端のリジン残基にBamHI部位およびNdeI部位を生じさせるように変異を与える、温度サイクル増幅プライマー(表3を参照)を用いた。この変異導入により、N末端のリジンのすぐ上流にメチオニン残基が付加された。また、我々は内部のSalI部位の下流にBamHI部位も加えた。温度サイクルを使った増幅によって変異導入されたグルタミナーゼ遺伝子のN末断片は、ColE1由来のベクターにBamHI断片としてクローン化された(pME3)。KpnIとEcoRVの間のポリリンカーは削除され、その結果、内部にあるSalI部位が除かれ、pME4が生じた。全長のグルタミナーゼは、C末端側をコードする1.5kbのSalI断片をpME4の単一なSalI部位に連結することによって再構成され、その結果pME14が生じた。pME14由来の1.7kbのBamHI断片は発現ベクターpME15にクローン化された。このクローン(pME16)はtacプロモーターによるグルタミナーゼの発現を提供する。より高レベルの発現を得るために、我々はpME16をNdeI部位で切断し、E.coliのDNAポリメラーゼのクレノウ・フラグメントを用いて平滑化した。再連結によって、シャイン‐ダルガルノ配列と翻訳開始点の間の距離が最適となった(表3を参照)。
このベクター(pME18)は安定で、本来のP7Aグルタミナーゼの発現を促す。このベクターは1992年11月3日、ブダペスト条約の条件で American Type Culture Collectionに寄託され、寄託番号69117が割り当てられた。タンパク質の産生のために、細胞を37℃で対数増殖中期まで増殖させ、0.4mM IPTGで1〜6時間処理した。タンパクの産生は変性条件のポリアクリルアミドゲル電気泳動(図4)、およびグルタミナーゼの特異的な活性によりモニターした。このような培養により、1Lの培養液当たり4100Uの活性が得られたが、これは細胞タンパク全体のおよそ3%に当たることを示している。Pseudomonas P7Aは1L当たり350Uしか産生しないことから、これは酵素の産生において12倍の増加を示している。
観察された活性がE.coliに内在するグルタミナーゼAおよびBではなく、Pseudomonasのグルタミナーゼによるものであるということを確認するために、pH8でD‐グルタミンとの反応を繰り返した。この条件下ではPseudomonasの酵素のみが機能する;実際にそれは、L‐グルタミンを転化するのと同じくらい効果的に、D‐グルタミンの87%をグルタミン酸に転化する。この結果は、測定できる全活性がPGAによるものであったことを証明している。酵素の活性を比活性で見積もることができるよう、細胞の粗抽出物に対してブラッドフォード・タンパク質分析が行われた。また、それぞれの抽出試料は実質的にLaemmli(Laemmli,U.K.(1970)Nature(London)227:680-685)によって記載されたSDS-PAGEで分析された。結果として生じた酵素の誘導曲線が図5に示されており、ここでは基質としてD-グルタミンを用いて細胞抽出物中のグルタミナーゼ活性の増加が示されている。見て分かるように、基質としてD-グルタミンを用いた酵素の活性は、IPTGによる誘導後4000倍以上に増加しているのに対し、コントロールの培養液はD-グルタミナーゼの活性において事実上まったく増加を示さない。
E.coli内でグルタミナーゼの効率的な翻訳を行わせるために、N末端のメチオニンコドンが付加された(表3を参照)。この余計なアミノ酸が酵素の活性を変えてしまうかどうかはいくらか懸念されるところである。これを検証するために、我々はL-およびD-アスパラギン同様、L-およびD-グルタミンに対しても酵素の活性を測定した。L-およびD-異性体の間での活性の割合は、本来の酵素および手を加えた酵素のどちらでも同じであった(例えば、L-グルタミン:D-グルタミン、およびL-アスパラギン:D-アスパラギン)。もう一つの懸念は、この改変が生体内における半減期に悪影響しないかということである。これを検証するために、我々はマウスにおいて生体内での半減期の研究を行った;どちらの酵素も生体内で同じ半減期を示した。これらの複合データに基づいて、我々は、N末端の付加的メチオニン残基は生物学的活性を変えないと結論付けた。
[実施例3]
この実施例は、P7Aグルタミナーゼの配列を、他の細菌類の相同な配列を同定するのに用いた例を示している。
Pseudomonas aeruginosaおよびAchromobacter sp.由来の染色体DNAは、標準的な方法を用いて単離された。EcoRIで完全消化後、DNA断片は30cmの1%アガロースゲル、89mM Tris-Cl,pH8; 89mMホウ酸; 1mM EDTA,50Vで15時間分離された。トランスファーおよびハイブリダイゼーションは文献記載通りで(Maniatisら Molecular cloning: 実験室マニュアル,pp.382-389,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.1982)、激しい条件を用いた。プローブは、α-32Pデオキシシトシン三リン酸で標識されたP7Aグルタミナーゼ遺伝子のコード領域を用いた。レーン1、Pseudomonas 7A(2時間露出);レーン2、Pseudomonas aeruginosa(6時間露出);レーン3、Achromobactersp.(24時間露出)。結果は図6に示されている。
[実施例4]
この実施例は、抗メラノーマ抗体に結合したグルタミナーゼによる、試験管内においてのヒトのメラノーマ細胞の阻害を示している。
ヒトのメラノーマ細胞(Heatherington)は遊離のR24抗メラノーマ抗体、または遊離のグルタミナーゼ、または共有結合した抗体‐グルタミナーゼ複合体と30分間試験管内でインキュベートされた。共有結合した抗体‐グルタミナーゼ複合体は、二機能性試薬SPDP(N-スクシニミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート[Carlssonら,Biochemical Journal,vol.173,pp.723-737(1978)])を用いて調製された。細胞は洗浄されて、新しい組織培地に移され、3H-チミジンの取り込みが測定された。メラノーマ細胞の取り込みが表4に示されている。遊離の抗体も、遊離のグルタミナーゼもチミジンの取り込みを阻害しなかった。抗体‐グルタミナーゼ複合体と共にインキュベートした細胞のみが3H-チミジンの取り込みの阻害を示した。このように、二つの要素、抗体およびグルタミナーゼが協同的に腫瘍細胞の増殖を阻害するように作用した。
図1はPseudomonas 7Aのグルタミナーゼ遺伝子のヌクレオチド配列及び予想されるアミノ酸配列を示す。コーディングDNA配列の上側の鎖は5'から3'の向きで示している。示されている数字はヌクレオチド塩基対を表す。予想されるペプチド配列はDNA配列の下に示す。操作されたN末端のメチオニン残基は示していない。
図2はPseudomonas 7Aのグルタミナーゼ遺伝子の塩基配列決定の方法を表す。図2A:P7Aグルタミナーゼのマップであり、選択された制限酵素の切断部位を示す。影のついた部分は実際の遺伝子産物をコードする領域を表す。平行線は100bpを表す。この図の下の矢印は、塩基配列決定のプライマーのおおよその位置と向きを表しており、それぞれのプライマーの名前も示している。停止矢印は、独立の塩基配列決定実験の範囲と方向を表す。図2B:塩基配列決定のプライマーの名前、配列、および向きを示す。数字はN末端のリジン残基をコードするAAGから始まる。
図3AはP7Aグルタミナーゼとの組換え体の構造を示す。"Apr"は、アンンピシリン耐性を付与するβ-ラクタマーゼ遺伝子である。"T"は転写終結部位を表す。"Ptac"はプロモーターである。"ori"はpBR322の複製オリジンである。 図3BはP7Aグルタミナーゼ過剰発現プラスミドの構造を示す。
図4は粗抽出物の変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動を示す。レーン1は非誘導のコントロールを示し、レーン2-4は全細胞抽出物内での誘導を示す。矢印は誘導されたグルタミナーゼのバンドの位置を示す。
図5はpME18をもつE.coli中でのIPTGによるPGAの発現誘導を表す。
図6は、異種DNAのPseudomonas 7Aグルタミナーゼ配列に対するハイブリダイゼーションを示す。レーン1,Pseudomonas 7A;レーン2,Pseudomonas aeruginosa;レーン3,Achromobacter sp。