JP2004137652A - キレート形成性繊維およびこれを用いた金属イオン含有水の処理法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】キレート形成能を有する酸型の官能基をアルカリ金属塩型またはアンモニウム塩型に変えて金属捕捉能を高めたキレート形成性繊維を開示し、また、酸型のキレート形成性官能基が繊維分子中に導入されたキレート形成性繊維を用いて金属イオン含有水を処理するに際し、前記酸型の官能基をアルカリ金属塩型またはアンモニウム塩型に変えてから金属イオン含有水と接触させることで、金属イオン捕捉能を高める。
【選択図】図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維を改質することによって得られるキレート形成性繊維と、該繊維を用いた金属イオン含有水の処理法に関し、より詳細には、繊維分子中に導入された特定の酸基が、アルカリ金属塩またはアンモニウム塩に中和された構造のキレート形成性官能基を有するキレート形成性繊維と、該繊維を用いて、用水や排水を問わず水中に含まれる金属イオン(例えば、Cu,Ni,Co,Fe,Pb,Cd等の重金属、Ga,Pd,In,Rh等の貴金属類などを含む)を効率よく除去乃至捕捉し得る様に改善された処理法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
産業廃水等には様々の有害金属イオンが含まれていることがあり、環境汚染防止の観点からそれら有害金属イオンは、排水処理によって可及的に除去する必要がある。またそれらの重金属イオンには有効に活用できるものも多く、これらを濃縮して回収し2次資源として有効に利用可能にすれば一石二鳥である。また、Ga,Pd,In,Rh等の貴金属類についても、それら金属類を用水や排水等から捕捉して濃縮・回収することができれば極めて有益である。
【0003】
ところで、用水や排水などに含まれる金属イオンの除去あるいは捕捉には、イオン交換樹脂が広く利用されているが、低濃度の金属イオンを選択的に吸着する効果は必ずしも満足し得るものとは言えない。
【0004】
また、金属イオンとの間でキレートを形成してこれらを選択的に捕捉する性質を持ったキレート樹脂は、金属イオン、特に重金属イオンに対して優れた選択捕捉能を有しているので、水処理分野で重金属の除去や捕捉などに実用化されている。しかし、キレート樹脂の大半はビーズ状であるため疎水性が高く、樹脂内部への金属イオンや再生剤(溶離液)の拡散速度が遅いため、処理効率が低い。
【0005】
こうしたビーズ状キレート樹脂の欠点を改善するものとして、例えば特許第2772010号には、繊維状のキレート樹脂が提案されている。該繊維状のキレート樹脂は表面積が大きく、金属イオンの吸着、脱着点となるキレート形成性官能基が表面に存在するため、高い吸着、脱着能を示す。ところが、基材がオレフィンやハロゲン化オレフィンの重合体であるため焼却処分が困難であり、しかも、焼却処理時にダイオキシンなどの有害ガスが発生するという問題も生じてくる。また、該繊維状キレート樹脂はその製法、即ち金属キレート活性を付与するための改質処理が煩雑であり、電離性放射線などを用いた特殊な方法を採用しなければならないため、設備面、安全性、製造コスト等の点で改善すべき点も多い。
【0006】
こうした状況の下で、本出願人はかねてより繊維状の金属キレート形成材についての改良研究を進めており、先に特開平10−183470号、特開2000−169828号、同2000−248467号などを提供している。これらの公開発明は、天然繊維や合成繊維の分子中にアミノポリカルボン酸やリン酸型などのキレート形成性官能基を導入したもので、該キレート形成性官能基によって重金属イオンや類金属イオンを効率よく除去、捕捉もしくは濃縮・回収することができる。
【0007】
しかも上記公報に開示した技術によれば、グリシジルアクリレート等の架橋反応性化合物を使用することにより、例えば天然繊維の分子中に任意のキレート形成性官能基を簡単且つ安全な方法で効率よく導入することができる。しかも、導入するキレート形成性官能基を選択すれば、様々の金属に対して十分な選択吸着性や吸着速度を得ることができるので、その用途は大幅に拡大していくものと期待される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
前掲の公開公報に開示したような、天然繊維の分子中にキレート形成性官能基を導入したキレート形成性繊維は、選択吸着性や吸着速度などにおいて非常に優れたものであるが、用途や使用形態によってはキレート捕捉能が十分に発揮されないこともあり得る。例えば、酸型のキレート形成性官能基が導入されたキレート形成性繊維をpH緩衝効果のない被処理水に適用した場合、キレート形成性官能基の導入によって当然に発揮されるべきキレート捕捉能が有効に発揮されないことがある。
【0009】
そこでその理由を追及したところ、次の様なことが分った。即ち、酸型のキレート形成性官能基が導入されたキレート形成性繊維をpH緩衝効果のない被処理水に適用した場合、処理中に被処理水のpHが低下して金属との安定度定数が下がり、金属イオンに対する吸着性能が低下するのが原因と思われた。
【0010】
従って本発明では、前掲の公開公報等に開示されている如く、酸型のキレート形成性官能基が繊維分子中に導入されたキレート形成性繊維を対象とし、これを改質して金属イオンをより効率よく捕捉し得るようなキレート形成性繊維を開発すると共に、該キレート形成性繊維を用いて金属イオンをより効率よく捕捉することのできる処理法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明のキレート形成性繊維とは、アルカリ金属塩型またはアンモニウム塩型のアミノポリカルボン酸基及び/又はリン酸基が、キレート形成性官能基として繊維分子中に導入されたものであるところに特徴を有している。
【0012】
また本発明の他の構成は、酸型のキレート形成性官能基が導入されたキレート形成性繊維を用いて、金属イオン含有水から金属イオンをより効率よく捕捉除去することのできる処理法を提供するもので、当該キレート形成性繊維に導入された酸型の官能基をアルカリ金属塩型またはアンモニウム塩型に変換した後、金属イオン含有水と接触させて処理するところに要旨を有している。
【0013】
本発明に係る上記キレート形成性繊維および処理法を実施する際に、繊維分子中に導入されるキレート形成性官能基として特に好ましいのは、アミノポリカルボン酸基またはリン酸基であり、中でも、イミノ二酢酸基、ニトリロ三酢酸基、エチレンジアミン三酢酸基、エチレンジアミン四酢酸基、ジエチレントリアミン五酢酸基、グルタミン酸二酢酸基、エチレンジアミン二コハク酸基は最適であり、これらは単独で繊維分子中に導入し得る他、必要により2種以上を適宜組み合せて導入することができる。
【0014】
上記酸型のキレート形成性官能基を塩型に変えるためのアルカリ金属塩としては、金属イオンに対する捕捉能や経済性、無害性などの観点からナトリウム塩またはカリウム塩が最適である。また基材となる前記繊維として、セルロースを主たる構成単位とする植物性繊維や再生繊維の如く分子中に水酸基を有する繊維を使用すると、キレート形成性官能基をアルカリ金属塩型に変える際に繊維基材もアルカリセルロースとなり、一段と優れた金属イオン捕捉能を発揮するので好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
上記本発明の処理法を実施する際に使用するキレート形成性繊維は、動物性や植物性の天然繊維、再生繊維、合成繊維などの繊維分子中に、キレート形成能を有する酸型の官能基が導入されたもので、具体的には、本件出願人が先に特開平10−183470号、特開2000−169828号、同2000−248467号として提示した様なキレート形成性繊維が例示される。
【0016】
即ちキレート形成性繊維を製造する有効な方法としては、分子中に反応性二重結合とグリシジル基の双方を有する架橋反応性化合物(具体的には、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル等)を用いて、繊維基材分子中にキレート形成性官能基を導入する方法などが例示される。
【0017】
より具体的には、天然繊維や合成繊維などの繊維基材を例えばレドックス触媒などの存在下で上記架橋反応性化合物と接触反応させると、該化合物中の反応性二重結合が繊維分子と反応し、反応性官能基としてグリシジル基を有する基が繊維分子中にペンダント状にグラフト付加する。そしてこのグラフト付加物に、グリシジル基との反応性官能基を有するキレート形成性化合物(例えば、イミノ二酢酸、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、グルタミン酸二酢酸、エチレンジアミン二コハク酸、リン酸など)を反応させると、該反応性官能基が、グラフト付加した前記架橋反応性化合物のグリシジル基と反応し、繊維分子中にキレート形成性官能基が導入される。
【0018】
その結果、繊維分子の表面に酸型のキレート形成性官能基が導入され、該キレート形成性官能基の中に存在する酸基がその付近に存在する窒素原子や硫黄原子などとの相互作用とも相俟って、重金属イオンや貴金属イオンに対して優れたキレート捕捉能を発揮することになる。
【0019】
但し、上記キレート形成性繊維をそのまま、即ち酸型キレート形成性官能基のままで被処理水と接触させる場合、被処理水の種類などによっては、該酸型官能基の存在によって被処理水のpHが低下し、重金属イオンや貴金属イオンに対する捕捉能が有効に発揮され難くなることがある。そこで本発明では、該酸型のキレート形成性官能基の導入後、これを金属イオン捕捉材として使用するに先立って、該官能基をアルカリ金属塩型もしくはアンモニウム塩型に変えてから被処理水と接触させる。そうすると、前述した如く該キレート形成性繊維を、Cu,Ni,Co,Fe,Pb,Cd、或いはGa,Pd,In,Rhなどの金属イオンを含む被処理水と接触させて処理する際にも、被処理液のpH低下が起こらず、後記実施例でも明らかにする如く、金属イオンを極めて効率よくキレート捕捉し得ることが確認された。
【0020】
酸型のキレート形成性官能基をアルカリ金属塩型やアンモニウム塩型に変える方法には、格別特殊な条件を要するものではなく、通常の中和法を採用すればよい。具体的には、酸型のキレート形成性官能基が導入された繊維を、例えば0.01〜1モル/リットルのアルカリ水溶液やアンモニア水にバッチ浸漬し、或いはカラム通液させて中和する方法が採用される。繊維基材としてセルロース系繊維を使用する場合、該中和処理工程でやや過剰量のアルカリやアンモニアを使用すると、酸型のキレート形成性官能基がアルカリ金属塩またはアンモニウム塩に変換されると共に、基材繊維自体がアルカリセルロースとなって、基材として補助キレート作用が向上し、より一段と優れた金属イオン捕捉作用を発揮するので好ましい。
【0021】
なお上記では、酸型として得たキレート形成性官能基をアルカリ金属塩型やアンモニウム塩型に変えてから金属イオン含有水の処理に用いる場合について説明したが、最初からアルカリ金属塩型やアンモニウム型のキレート形成性官能基を繊維分子中に導入したものは、そのままで同様の卓越した金属イオン捕捉能を発揮する。従って、この様なアルカリ金属塩型やアンモニウム型のキレート形成性官能基が繊維分子中に導入されたキレート形成性繊維も、新規な物として本発明の保護範囲に包含される。
【0022】
本発明で使用する上記キレート形成性繊維の基材となる繊維の種類は特に制限されず、植物繊維や動物繊維を含む天然繊維、再生繊維、ポリアミド繊維やポリエステル繊維などの合成繊維を全て使用できるが、前述した様なキレート形成性官能基の繊維分子内への導入の容易性や導入量、繊維材としての取扱い性やコストなどを総合的に考慮して特に好ましいのは、綿、麻、木材などを始めとする種々の植物性繊維;キュプラ、レーヨン、ポリノジック等の再生繊維;アセテートなどの半合成繊維;絹、羊毛などを始めとする動物性繊維である。
【0023】
これらの繊維の中でもとりわけ好ましいのは、セルロース系を主体とする植物性繊維、再生繊維、半合成繊維である。即ちセルロース系主体の植物性繊維は、分子中に無数のメチロール基や水酸基を有しており、前述した様な架橋反応性化合物を使用することで酸型のキレート形成性官能基を簡単に効率よく導入し得ることに加えて、酸型官能基をアルカリ金属塩型やアンモニウム塩型に変換する際に基材繊維自体がアルカリセルロース型となり、金属イオン捕捉作用が一段と高められるからである。
【0024】
上記基材繊維の形状にも格別の制限はなく、長繊維のモノフィラメント、マルチフィラメント、短繊維の紡績糸あるいはこれらを織物状や編物状に製織もしくは製編した布帛、更には不織布であってもよく、また2種以上の繊維を複合もしくは混紡した繊維や織・編物を使用することができる。また木材パルプや紙、更には木材片や木材チップ、薄板などを使用することも可能である。
【0025】
更に被処理水との接触効率を高めるため、上記基材繊維として短繊維状の粉末あるいはフィルター状に加工した繊維素材を使用することも有効である。
【0026】
ここで用いられる短繊維粉末の好ましい形状は、長さ0.01〜5mm、好ましくは0.03〜3mmで、単繊維径が1〜50μm程度、好ましくは5〜30μmであり、アスペクト比としては1〜600程度、好ましくは1〜100程度のものである。
【0027】
この様な短繊維状の粉末素材を使用すれば、金属イオンを含む被処理水に該短繊維粉末状のキレート形成性繊維を添加して撹拌し、通常の濾過処理を行うという非常に簡単な方法で、且つ短時間で被処理水中に含まれる金属イオンを効率よく捕捉することができる。また場合によっては、該短繊維粉末状のキレート形成性繊維をカラム等に充填して被処理水を通過させることによっても、同様の金属イオン捕捉効果を得ることができる。また短繊維状の粉末素材に、前述した様な方法でキレート形成性官能基を導入してから抄紙等の加工を行えば、金属キレート捕捉能を有する濾過材を得ることもできる。
【0028】
これらフィルター状の素材を使用する場合も、該フィルター状の繊維素材に前述の様な架橋反応性化合物をグラフトさせた後、繊維分子にグラフト結合した該架橋反応性化合物のグリシジル基にキレート形成性化合物を付加反応させてキレート形成性官能基を導入し、これを上記の様なフィルター状に加工して使用すれば良い。この他、上記繊維素材をフィルター状に加工してフィルター装置内へ組み込み、該装置内に組込まれた繊維フィルターに、架橋反応性化合物を含む処理液を接触させてグラフト重合反応させ、更にキレート形成性化合物と接触させることにより、繊維フィルターに事後的にキレート形成性官能基を導入することも可能である。
【0029】
そして、上記の様にして酸型キレート形成性官能基が導入された繊維素材を用いて被処理水を処理する際には、当該繊維素材を予めアルカリ水やアンモニア水にバッチ浸漬し、或いはカラム通液することによってアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩に変えてから、被処理水を処理すればよい。
【0030】
また、前述した如くキレート形成性官能基として最初からアルカリ金属塩型やアンモニウム塩型のキレート形成性官能基が導入されたキレート形成性繊維を使用する場合は、上記の様な事前のアルカリ処理などは不要であるから、直接金属イオン含有水の処理に適用すればよい。
【0031】
上記の様に、フィルター状の繊維素材にキレート形成性官能基を導入すれば、キレート捕捉能と不溶性夾雑物捕捉能を兼ね備えたフィルターを得ることができる。即ち、被処理水中に含まれる不溶性夾雑物の大きさに応じた網目サイズとなる様に繊維密度を調整した繊維素材を使用すれば、被処理水が該フィルターを通過する際に、該被処理水中に含まれる金属イオンがキレート形成性官能基によって捕捉されると共に、不溶性夾雑物は該フィルターの網目によって通過を阻止され、金属イオンと不溶性介在物を同時に除去することが可能となる。
【0032】
このとき、使用する繊維素材の太さや織・編密度、積層数や積層密度などを調整し、また紐状のキレート形成性繊維を複数層に巻回してフィルターとする場合は、巻回密度や層厚、巻回張力などを調整すれば、繊維間隙間を任意に調整できるので、被処理水中に混入している不溶性夾雑物の粒径に応じて該繊維間隙間を調整すれば、必要に応じた浄化性能のフィルターを得ることができる。
【0033】
尚、繊維基材の分子中に酸型のキレート形成性官能基を導入し、或いはそのアルカリ金属塩型やアンモニウム塩型キレート形成性官能基を導入する方法としては、前述した如く架橋反応性化合物を介してキレート形成性化合物を反応させる方法が工業的に極めて有効な方法であるが、もとよりこれらの方法に限定されるわけではなく、要は酸型もしくはアルカリ金属塩型やアンモニウム塩型のキレート形成性官能基を繊維分子中に導入し得る方法であれば、例えば前掲の特開2000−169828号や同2000−249467号などに開示されたような方法を採用することも勿論可能である。
【0034】
また前記では、キレート形成性官能基として最も有効なアミノポリカルボン酸基、より具体的にはイミノ二酢酸基、ニトリロ三酢酸基、エチレンジアミン三酢酸基、エチレンジアミン四酢酸基、ジエチレントリアミン五酢酸基、グルタミン酸二酢酸基、エチレンジアミン二コハク酸基;およびリン酸基を示したが、これら以外のキレート形成性官能基を導入し、或いはそれらを更にアルカリ金属塩型やアンモニウム塩型に変えたものも、本発明の技術的範囲に包含される。
【0035】
繊維基材としてセルロース系の繊維を使用し、該分子内に架橋反応性化合物を用いてキレート形成性官能基を導入する方法は特に制限されないが、好ましい方法を例示すると下記の通りである。
【0036】
即ち、セルロース系繊維を予め2価鉄塩水溶液に室温で1〜30分程度浸漬し、その後洗浄してから、過酸化水素水、二酸化チオ尿素および架橋反応性化合物(必要により乳化剤などの均一反応促進剤)を含む水溶液に浸漬し、40〜100℃で10分〜5時間程度反応させる方法である。
【0037】
この方法によれば、架橋反応性化合物がセルロース系繊維分子中の水酸基やアミノ基に効率よくグラフト付加し、前記キレート形成性化合物と容易に反応するグリシジル基を繊維分子内に効率よく導入できる。
【0038】
次いで、上記反応によりグリシジル基が導入された繊維とキレート形成性化合物を、水やN,N’−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒中で、必要により50〜100℃で10分〜数十時間程度加熱して反応させると、前記キレート形成性化合物中のアミノ基や酸基などが前記グリシジル基と反応し、繊維分子中にキレート形成性官能基が導入される。
【0039】
繊維基材に対するキレート形成性化合物の導入量は、繊維分子中の反応性官能基の量を考慮し、その導入反応に用いる架橋反応性化合物の量、あるいはキレート形成性化合物の量や反応条件などによって任意に調整できるが、繊維に十分な金属イオン捕捉能を与えるには、下記式によって計算される置換率が10質量%程度以上、より好ましくは20質量%程度以上となる様に調整することが望ましい。
置換率(質量%)=[(置換基導入後の繊維質量−置換基導入前の繊維質量)/置換基導入前の繊維質量]×100
(ただし置換基とは、架橋反応性化合物とキレート形成性化合物に由来して導入された全置換基を意味する)。
【0040】
金属イオン捕捉能を高めるうえでは、上記置換率は高い程好ましく、従って置換率の上限は特に規定されないが、置換率が高くなり過ぎると置換基導入繊維の結晶性が高くなって繊維が脆弱になる傾向があり、また濾材やフィルター等を兼ねて使用する場合は、金属イオン捕捉材として使用する際の圧力損失が高くなる傾向が生じてくるので、金属イオン捕捉材としての実用性や経済性などを総合的に考慮すると、置換率は200質量%程度以下、より好ましくは100質量%程度以下に抑えることが望ましい。ただし、基材繊維の種類や形状、キレート形成性化合物の種類、あるいは用途等によっては、150〜200質量%といった高レベルの置換率とすることにより、金属イオン捕捉能を高めることも可能である。
【0041】
上記の様にして得られるキレート形成性繊維は、前述の如く用いる基材繊維の性状に応じてモノフィラメント状、マルチフィラメント状、紡績糸状、不織布状、繊維織物状、編物状、粉末状、フィルター状など任意の性状のものとして得ることができるが、いずれにしても細い繊維の分子表面に導入された酸型キレート形成性官能基の少なくとも一部、好ましくは実質的に全てをアルカリ金属塩型やアンモニウム塩型に変えることにより卓越した金属イオン捕捉性能を発揮するので、例えば顆粒状やフィルム状などの捕捉材に比べると非常に優れた金属イオン捕捉能を発揮する。
【0042】
従ってこの繊維を金属イオンを含む被処理水と接触させ、具体的には該繊維を任意の厚さで積層したり或はカラム内に充填して被処理水を通すと、被処理水中に含まれる金属イオンを効率よく除去し、あるいは特定の金属イオンを選択的に捕捉することができる。
【0043】
しかも、上記の様にして金属イオンを捕捉した繊維を、例えば塩酸や硫酸等の強酸水溶液で処理すると、キレートを形成して捕捉された金属イオンは簡単に離脱するので、こうした特性を利用すれば再生液から金属成分を有益成分として濃縮して回収することも可能となる。
【0044】
【実施例】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0045】
実施例1
長さ0.5mmにカットした約3デシテックスのレーヨン糸に、メタクリル酸グリシジルを介してイミノ二酢酸を固定化したキレート形成性繊維(キレート形成性官能基の導入量:0.822ミリモル/g)5.8ml(1.16g)を、内径0.7cm、長さ20cmのガラスカラムに充填高さが15cmとなるように充填する。これに、0.1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を流速1ml/分の流速で50ml通液することにより、イミノ二酢酸に由来する酸基の実質的に全てをナトリウム塩型に変えた後、イオン交換水を50ml通液して洗浄し、ナトリウム塩型のキレート形成性繊維とした。これに、50ppmのGaを含む排水を1ml/分の流速で900ml通液し、流出液中のGa濃度を測定することによって破過曲線を調べ、結果を図1に示した。
【0046】
次に比較のため、水酸化ナトリウム水溶液による処理を省略した以外は上記と同様の操作を行うことによって得た酸型のままのキレート形成性繊維を使用し、これに同様にしてGa含有排水を通液させて破過曲線を求め、結果を図2に示した。
【0047】
これらの破過曲線を比較すれば明らかな様に、酸型のキレート形成性繊維では、Bed vo1ume約10でGa捕捉量が破過しているのに対し、ナトリウム塩型キレート形成性繊維を用いた場合は、Bed volume約60までGaを完全にキレート捕捉しており、本発明処理法の効率が極めて高いことを確認できる。
【0048】
実施例2
長さ0.5mmにカットした約3デシテックスのレーヨン糸に、メタクリル酸グリシジルを介してエチレンジアミン三酢酸を固定化したキレート形成性繊維(キレート形成性官能基の導入量:0.622ミリモル/g)5.8ml(1.10g)を、内径0.7cm、長さ20cmのガラスカラムに層高15cmとなるように充填する。これに、0.5モル/リットルの水酸化カリウム水溶液を流速3ml/分の流速で30ml通液することにより、エチレンジアミン三酢酸に由来する酸基の実質的に全てをカリウム塩型に変えた後、イオン交換水を50ml通液して洗浄し、カリウム塩型のキレート形成性繊維とした。これに50ppmのCuを含む排水を3ml/分の流速で1000ml通液し、流出液中のGa濃度を測定することにより破過曲線を求め、結果を図3に示した。
【0049】
また比較のため、水酸化カリウム水溶液による処理を省略した以外は上記と同様の操作を繰り返して得た酸型のままのキレート形成性繊維を使用し、これに同様にしてCu含有排水を通液させた時の破過曲線を図4に示した。
【0050】
これらの破過曲線を比較すれば明らかな様に、酸型キレート形成性繊維では、Bed volume約70でCu捕捉量が破過しているのに対し、カリウム塩型キレート形成性繊維を用いた場合は、Bed vo1ume約110までCuを完全にキレート捕捉しており、本発明処理法の効率が極めて高いことを確認できる。
【0051】
実施例3
前記実施例1で用いたのと同じナトリウム塩型のキレート形成性繊維2.5gを、300ppmのCuを含む排水1リットルに添加して撹拌し、所定時間毎に排水のCu濃度を測定することによって吸着速度を調べたところ、図5に示す結果が得られた。尚、ここに示す吸着率(%)とは、24時間撹拌した後の排水中のCu濃度を吸着率100%として算出した値である。
【0052】
次に比較のため、前記実施例1で用いたのと同じ酸型のままのキレート形成性繊維2.5gを使用し、上記と同様にしてCu含有排水を処理したときの吸着速度を調べたところ、図6に示す結果が得られた。
【0053】
図5,6に示した吸着速度曲線を比較すれば明らかな様に、ナトリウム塩型のキレート形成性繊維は、酸型のキレート形成性繊維に比べてCu吸着速度が非常に高く、本発明処理法の顕著な優位性を確認できる。
【0054】
実施例4
長さ0.5mmにカットした約3デシテックスのレーヨン糸に、メタクリル酸グリシジルを介してイミノ二酢酸を固定化したキレート形成性繊維(キレート形成性官能基の導入量:0.822ミリモル/g)5.8ml(1.10g)を、内径0.7cm、長さ20cmのガラスカラムに充填高さが15cmとなるように充填する。これに、0.5モル/リットルのアンモニア水溶液を流速0.5ml/分の流速で30ml通液することにより、イミノ二酢酸に由来する酸基の実質的に全てをアンモニウム塩型に変えた後、イオン交換水を50ml通液して洗浄し、アンモニウム塩型のキレート形成性繊維とした。
【0055】
これに、50ppmのGaを含む排水を1ml/分の流速で900ml通液し、流出液中のGa濃度を測定することによって破過曲線を調べ、結果を図7に示した。
【0056】
前記図2に示した如く、酸型のキレート形成性繊維では、Bed vo1ume約10でGa捕捉量が破過しているのに対し、アンモニウム塩型キレート形成性繊維を用いた場合は、Bed volume約65までGaを完全にキレート捕捉しており、アンモニウム塩型でも卓越したキレート捕捉能を有していることが分る。
【0057】
実施例5
長さ0.5mmにカットした約3デシテックスのレーヨン糸に、メタクリル酸グリシジルを介してリン酸を固定化したキレート形成性繊維(キレート形成性官能基の導入量:0.605ミリモル/g)5.8ml(1.18g)を、内径0.7cm、長さ20cmのガラスカラムに充填高が15cmとなるように充填する。これに、0.1モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を流速1ml/分の流速で50ml通液することにより、リン酸に由来する酸基の実質的に全てをナトリウム塩型に変えた後、イオン交換水を50ml通液して洗浄し、ナトリウム塩型のキレート形成性繊維とした。これに、50ppmのCuを含む排水を2.5ml/分の流速で1000ml通液し、流出液中のCu濃度を測定することにより破過曲線を求め、結果を図8に示した。
【0058】
また比較のため、水酸化ナトリウム水溶液による処理を省略した以外は上記と同様にして得た酸型のままのキレート形成性繊維を使用し、これに同様にしてCu含有排水を通液させた時の破過曲線を図9に示した。
【0059】
図8,9の破過曲線を比較すれば明らかな様に、酸型キレート形成性繊維では、Bed volume約15でCu捕捉量が破過しているのに対し、ナトリウム塩型キレート形成性繊維を用いた場合は、Bed vo1ume約40までCuを完全にキレート捕捉しており、本発明処理法の効率が極めて高いことを確認できる。
【0060】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、酸型のキレート形成性官能基をアルカリ金属塩型もしくはアンモニウム塩型に変えることによって、金属イオン捕捉能の一段と高められたキレート形成性繊維を提供し、或いは、キレート形成能を有する酸型の官能基が繊維分子中に導入されたキレート形成性繊維を用いて金属イオン含有水を処理する際に、該酸型の官能基をアルカリ金属塩型またはアンモニウム塩型としてから金属イオン含有水と接触させることにより、キレート形成性官能基の金属イオン捕捉効率を著しく高めることができる。
【0061】
特にアルカリ金属塩型またはアンモニウム塩型としたキレート形成性官能基は、Cu,Ni,Co,Pb,Cd等の重金属イオンに対して卓越したキレート捕捉作用を有しているので、例えばメッキ廃液からの有害重金属イオンの捕捉除去などに有効に活用し得るほか、例えばGa,Pd,In,Rh等の貴金属類に対しても優れた捕捉機能を有しているので、これらの貴金属を含むメッキ液回収槽や半導体製造設備からの排水などから貴金属の濃縮・回収などにも幅広く有効に活用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得たナトリウム塩型キレート形成性繊維を用いてGa含有排水を処理したときの破過曲線を示す図である。
【図2】実施例1で比較対照として用いた酸型のままのキレート形成性繊維を用いてGa含有排水を処理したときの破過曲線を示す図である。
【図3】実施例2で得たカリウム塩型キレート形成性繊維を用いてCu含有排水を処理したときの破過曲線を示す図である。
【図4】実施例2で比較対照として用いた酸型のままのキレート形成性繊維を用いてCu含有排水を処理したときの破過曲線を示す図である。
【図5】実施例3のナトリウム塩型キレート形成性繊維を用いてCu含有排水を処理したときのCuの吸着速度を示すグラフである。
【図6】実施例3で比較対照として用いた酸型のままのキレート形成性繊維を用いてCu含有排水を処理したときのCuの吸着速度を示すグラフである。
【図7】実施例4で得たアンモニウム塩型キレート形成性繊維を用いてGa含有排水を処理したときのGaの吸着速度を示すグラフである。
【図8】実施例5で得たリン酸ナトリウム塩型キレート形成性繊維を用いてCu含有排水を処理したときのCuの吸着速度を示すグラフである。
【図9】実施例5で比較対照として用いたリン酸型のままのキレート形成性繊維を用いてCu含有排水を処理したときのCuの吸着速度を示すグラフである。
Claims (9)
- アルカリ金属塩型またはアンモニウム塩型のアミノポリカルボン酸基及び/又はリン酸基が、キレート形成性官能基として繊維分子中に導入されていることを特徴とするキレート形成性繊維。
- 前記アミノポリカルボン酸基が、イミノ二酢酸基、ニトリロ三酢酸基、エチレンジアミン三酢酸基、エチレンジアミン四酢酸基、ジエチレントリアミン五酢酸基、グルタミン酸二酢酸基、エチレンジアミン二コハク酸基よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載のキレート形成性繊維。
- 前記アルカリ金属塩がナトリウム塩またはカリウム塩である請求項1または2に記載のキレート形成性繊維。
- 前記繊維がセルロース系繊維である請求項1〜3のいずれかに記載のキレート形成性繊維。
- 金属キレート形成能を有する酸型の官能基が繊維分子中に導入されたキレート形成性繊維を用いて金属イオン含有水を処理するに際し、当該キレート形成性繊維に導入された前記酸型の官能基をアルカリ金属塩型またはアンモニウム塩型に変換した後、金属イオン含有水と接触させることを特徴とする金属イオン含有水の処理法。
- 前記酸型の官能基が、アミノポリカルボン酸基またはリン酸基である請求項5に記載の金属イオン含有水の処理法。
- 前記アミノポリカルボン酸基が、イミノ二酢酸基、ニトリロ三酢酸基、エチレンジアミン三酢酸基、エチレンジアミン四酢酸基、ジエチレントリアミン五酢酸基、グルタミン酸二酢酸基、エチレンジアミン二コハク酸基よりなる群から選択される少なくとも1種である請求項5または6に記載の金属イオン含有水の処理法。
- 前記アルカリ金属塩がナトリウム塩またはカリウム塩である請求項5〜7のいずれかに記載の金属イオン含有水の処理法。
- 前記繊維がセルロース系繊維である請求項5〜8のいずれかに記載の金属イオン含有排水の処理法。
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