JP2004131435A - 抗癌剤のスクリーニング方法及び組織の癌化の判定方法 - Google Patents
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Abstract
【目的】非癌細胞には変化を与えず、癌細胞特異的に作用をあらわす抗癌剤を提供する。また、dysplasiaのような境界病変と癌組織とを判別できるような精度の高い組織の癌化の判定方法を提供する。
【解決手段】癌細胞において特異的にMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を変化させる能力を有する物質のスクリーニング方法、該方法により選択される物質を有効成分として含む抗癌剤、及び、該方法により選択される物質を製剤化することを特徴とする抗癌剤の製造方法。また、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に基づいて組織の癌化を判定する方法。
【選択図】 なし
【解決手段】癌細胞において特異的にMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を変化させる能力を有する物質のスクリーニング方法、該方法により選択される物質を有効成分として含む抗癌剤、及び、該方法により選択される物質を製剤化することを特徴とする抗癌剤の製造方法。また、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に基づいて組織の癌化を判定する方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、癌細胞特異的にMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を変化させる能力を有する物質のスクリーニング方法、該方法により選択される物質を有効成分として含む抗癌剤、該方法により選択される物質を製剤化することを特徴とする抗癌剤の製造方法に関する。また、組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に基づいて組織の癌化を判定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
DNAの複製は、多くの蛋白質や酵素等が関与する複雑な機構により行われているが、その中で、二本鎖DNAを巻き戻す機能を有する蛋白質としてDNAヘリカーゼ(DNA helicase)が知られている。DNAヘリカーゼとは、一本鎖DNA上を一定方向に移動し、ATP加水分解のエネルギーを利用して水素結合と疎水結合を切断することにより、そのDNAに結合している相補的DNAを解離させる活性を有する蛋白質である。真核細胞においては既に20種類以上のヘリカーゼが同定され、その多くはDNAの複製を中心に、DNAの組換え、遺伝子の転写、DNAの修復等に関与すると考えられている。
【0003】
このように、DNAの複製をはじめとする各種の重要な機構に関わるヘリカーゼは、細胞さらには生体にとって重要な役割を果たすことが推測されているが、例えば、DNAヘリカーゼの一つであるワーナー症候群蛋白質(例えば、非特許文献1参照)は、その遺伝子産物の異常がヒト早老症の原因となることが解明されている。また、DNAの複製過程における異常と癌との関連についても、多数の報告がなされている。例えば、RecQ型DNAヘリカーゼは、形質転換細胞においてその発現量が増えることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。また、ヘリカーゼを阻害することにより細胞の増殖を抑制するという作用機序を有する抗生物質ヘリキシノマイシンは、抗癌剤としての適用を目的に開発されている(例えば、非特許文献3参照)。しかし、ヘリカーゼは生体にとって重要な役割を果たすことから、この発現を抑制する作用を有することのみを指標とした抗癌剤のスクリーニングによって選択された物質は、正常細胞の細胞増殖等にも影響を及ぼす危険性がある。
【0004】
一方、Mcm(Minichromosome maintenance)蛋白質は、Mcm2からMcm7までの6種類の蛋白質として存在し、そのすべてのメンバーがゲノムの複製に必須の役割を果たすことで知られる蛋白質群である。Mcm蛋白質は、二本鎖DNAを解離させるDNAヘリカーゼとして機能すると考えられており(例えば、非特許文献4参照)、本発明者らは、このMcm蛋白質が、Mcm4/6/7複合体を形成し、一本鎖DNA上を3’末端から5’末端方向へ移動することによりヘリカーゼ活性を示すこと(例えば、非特許文献5参照)等を報告している。
【0005】
Mcm蛋白質についても、他のヘリカーゼと同様に、これまでに癌との関連について多くの知見が報告されている。例えば、癌組織のマーカーとしては、PCNA(増殖細胞核抗原: 例えば、非特許文献6参照)、Ki67(例えば、非特許文献7参照)等が知られているが、組織の癌化の判定において、Mcm蛋白質に対する抗体(以下、これを「抗Mcm蛋白質抗体」と称することがある)を用いる染色法はこれらのマーカーに対する抗体を用いた染色法よりも優れているとの報告がある(例えば、非特許文献8参照)。実際に、癌化した組織において抗Mcm蛋白質抗体を用いた免疫染色により陽性所見を示す細胞の頻度が正常組織に比べて増加していることが示されている(例えば、非特許文献9参照)。さらに、境界病変であるdysplasiaにおいても抗Mcm蛋白質抗体により陽性所見を示す細胞の頻度が正常組織に比べて高頻度になることが示され、また、一つの細胞中のMcm遺伝子発現量については、癌細胞、dysplasiaに含まれる細胞、及び正常細胞の間で変化がないことから、癌組織とdysplasiaは区別されないとの報告(例えば、非特許文献8参照)がある。癌組織とdysplasiaの判別は、ヘマトキシリン・エオシン染色等の一般的な組織染色法では困難な場合も多く、これらを判別する手法が求められているが、Mcm蛋白質を指標とした方法ではその判別は不可能であると考えられていた。
【0006】
このように、組織レベルでの解析に比べて、個々の細胞中のMcm遺伝子発現量又は蛋白質量と癌化の相関等についての詳細な解析は未だ行われておらず、Mcm2〜7のすべてのメンバーについて、網羅的に癌細胞における遺伝子発現量又は蛋白質量の変化が解析されることが望まれていた。また、Mcm蛋白質を指標とする組織の癌化の判定についても、上記のとおり、抗Mcm蛋白質抗体を用いた免疫染色により陽性所見を示す細胞の頻度を指標にしているにすぎず、熟練した病理学者による判定が不要となるような一般化された画一的な判定方法は確立されていない。さらに、dysplasiaのような境界病変と癌組織との鑑別診断や、癌の種類や進行状態等についての詳細な解析も未だ不十分である。このようなことから、癌組織及び癌細胞におけるMcm蛋白質の詳細な解析が強く望まれていた。
【0007】
【非特許文献1】
Nat.Genet., 17, 100−103(1997)
【非特許文献2】
Oncogene, 19, 4764−4772(2000)
【非特許文献3】
J.Antibiotics, 51, 480−486(1998)
【非特許文献4】
Annu.Rev.Biochem., 68, 649(1999)
【非特許文献5】
J.Biol.Chem., 272, 24508(1997)
【非特許文献6】
Nature, 326, 517−520(1987)
【非特許文献7】
J.Cell Physiol., 182, 311−322(2000)
【非特許文献8】
Clin.Cancer Res., 5, 2121−2132(1999)
【非特許文献9】
Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 95, 14932−14937(1998)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、癌細胞においてMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を変化させる能力を有する物質のスクリーニング方法、該方法により選択される物質を有効成分として含む抗癌剤、該方法により選択される物質を製剤化することを特徴とする抗癌剤の製造方法を提供するためになされたものである。また、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に基づいて組織の癌化を判定する方法を提供するためになされたものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を進めた結果、ヒト子宮頸癌組織由来の培養癌細胞において、Mcm2〜7のすべてについて、その蛋白質量が正常繊維芽細胞に比べて上昇していることを見出した。また、子宮頸癌摘出手術検体の病理切片について抗Mcm蛋白質抗体を用いた免疫組織染色を行った結果、組織の癌化を判定することができ、さらに、dysplasiaのような境界病変と癌組織とを判別できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0010】
すなわち本発明によれば、
(1)癌細胞及び非癌細胞に被験物質を添加し、これらの細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を検出して、非癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量には変化を与えず、癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に変化を与える物質を選択することを特徴とする、癌細胞特異的にMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を変化させる能力を有する物質のスクリーニング方法、
(2)癌細胞が扁平上皮癌又は腺癌由来の細胞である上記(1)に記載の方法、
(3)扁平上皮癌が子宮頸癌である上記(2)に記載の方法、
(4)腺癌が大腸癌である上記(2)に記載の方法、
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法により選択される物質を有効成分として含む抗癌剤、
(6)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法により選択される物質を製剤化することを特徴とする抗癌剤の製造方法、
が提供される。
【0011】
また、本発明の別の態様によれば、
(7)癌に罹患していることが疑われる患者から癌化が疑われる組織を採取して、該組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を検出し、該量を非癌細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量と比較することを特徴とする組織の癌化の判定方法、
(8)組織の癌化の判定が、境界病変と癌組織とを判別するものである上記(7)に記載の方法、
(9)Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量の検出が免疫学的方法によるものである上記(7)又は(8)に記載の方法、
が提供される。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
1.癌細胞において Mcm2 〜 7 の遺伝子発現量又は蛋白質量を変化させる能力を有する物質のスクリーニング方法
本発明の癌細胞特異的にMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を変化させる能力を有する物質のスクリーニング方法は、癌細胞及び非癌細胞に被験物質を添加し、これらの細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を検出して、非癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量には変化を与えず、癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量のみに変化を与える物質を選択することを特徴としている。
【0013】
本発明において、Mcm(Minichromosome maintenance)遺伝子とは、Mcm蛋白質をコードする遺伝子を意味する。Mcm蛋白質はMcm2〜7までの6つの遺伝子によりコードされる6つの蛋白質として存在する。Mcm遺伝子及びMcm蛋白質の詳細は、Annu.Rev.Biochem., 68, 649(1999)、J.Biol.Chem., 272, 24508(1997)等に開示されている。
【0014】
本発明の方法においては、まず、癌細胞及び非癌細胞に被検物質を投与する。ここで、癌細胞とは、無限増殖能を獲得した細胞であって悪性のものを意味する。すなわち、細胞の形態、配列、機能等が種々の点で発生母地のもとの細胞と異なり、無限増殖能に加えて浸潤性、生体内での転移性等を有する細胞を意味する。
本発明のスクリーニング方法において癌細胞として用いられる細胞は、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が非癌細胞に比べて上昇しているものであれば、発癌の誘因や機構、癌の種類、組織型、細胞の種類等いかなるものでもよいが、例えば、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が非癌細胞に比べて2倍以上、好ましくは5倍以上のものが用いられる。例えば、ヒト癌組織由来のライン化(株化)された培養癌細胞、ウィルス等による形質転換により無限増殖能を獲得した培養癌細胞等が好ましく用いられる。このような培養細胞の中でも、扁平上皮癌又は腺癌由来の細胞が好ましく用いられ、具体的には、例えば、ヒト子宮頸癌由来の培養癌細胞(HeLa細胞:Cancer Res., 12, 264−265(1952))、ヒトバーキットリンパ腫由来の培養癌細胞(Raji細胞:J.Natl.Cancer Inst., 53, 347−360(1974))、大腸癌由来の培養癌細胞(HT29細胞:J.Natl.Cancer Inst., 55, 555−560(1975))、肺癌由来の培養癌細胞(A549細胞:Int.J.Cancer, 17, 62−70(1976))等が挙げられる。ウィルス等による形質転換により無限増殖能を獲得させた培養癌細胞としては、例えば、SV40ウィルスにより形質転換された繊維芽細胞(GM00637細胞:J.Biol.Chem., 276, 36194−36199(2001)等:Coriell Institute for Medical Research製)等が挙げられる。また、培養、被検物質の添加、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量の検出等が可能なものであれば、培養組織等も同様にして用いることができる。
【0015】
一方、非癌細胞とは前記癌細胞以外の細胞であって、いわゆる正常細胞を意味するが、本発明においては、例えばdysplasiaのような、様々な細胞異型・構造異型を示すが組織病理学上は癌組織とは判定されない病変(以下、これを「境界病変」と称することがある)に含まれる異型細胞等をも含む。ここで、細胞異型とは一つの細胞において認められる異型であって、例えば、細胞自体の形状の異常、核、クロマチン、核小体、細胞質等の形状の異常、分裂像や分化状態の異常等が挙げられ、このような異型を呈する細胞を「異型細胞」と称する。一方、構造異型とは組織構築の異型であって、例えば、細胞配列の不規則性、細胞極性の乱れや喪失、細胞結合性の異常等が挙げられる。
【0016】
非癌細胞としては、癌細胞以外のもので、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が癌細胞に比べて低いものであればいかなるものでも用い得るが、その中でも、比較に用いる癌細胞と同じ動物種由来の正常培養細胞等が好ましく用いられる。より好ましくは、同じ組織由来のものである。具体的には、例えば、正常繊維芽細胞であるWI−38(Exp.Cell Res., 37, 614−636(1965))、HUC−F(Cytotechnology, 5, 273−277(1991))等が挙げられる。また、培養、被検物質の添加、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量の検出等が可能なものであれば、培養組織等も同様にして用いることができる。
【0017】
これらの細胞に添加される被検物質としては、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。その投与量、投与方法、処理時間等は、用いる癌細胞又は非癌細胞の種類に従って適宜選択すればよいが、例えば、前記培養細胞に添加する場合には、被検物質を適当な濃度の溶液等として調製し、該細胞の培養上清に直接添加する方法等が好ましく用いられる。
【0018】
次に、前記の癌細胞及び非癌細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を検出する。これらの検出方法としては、それ自体公知の通常用いられる方法を用いることができるが、具体的には、例えば、Mcm2〜7の遺伝子発現量の検出は、Northern Blot法、定量的RT−PCR法等により行うことができ、蛋白質量の検出は、Western Blot法、ELISA法等により行うことができる。また、免疫細胞染色法等の手法もこれらと組み合わせて用いることができる。これらの手法は、例えば、新生化学実験講座(日本生化学会編;東京化学同人)、Molecular Cloning, A Laboratory Manual (T. Maniatis et al., Cold Spring Harbor Laboratory (1982))、Antibodies − A Laboratory Manual(E.Harlow, et al., Cold Spring Harbor Laboratory(1988))等の一般的実験書に記載の方法又はそれに準じて行うことができる。
【0019】
検出は、被検物質を投与した細胞を公知の方法に従って細胞抽出液に調製し、これを試料として用いてもよいし、細胞を培養プレートやスライドグラス上に固定化し、これを試料として用いてもよい。例えば、細胞抽出液を調製してこれを試料とする場合には、Western blot法、ELISA法等により検出を行うことができる。細胞を固定化した培養プレートやスライドグラスを用いる場合には、免疫細胞染色法等により検出を行うことができる。また、Northern blot法の場合には、細胞から公知の方法に従ってRNAを精製し、これを試料として用いればよい。これらの試料は、検出の結果得られた数値を正確に比較・解析できるように、あらかじめ抽出に用いる細胞数をそろえるか、精製されたRNA量又は抽出された蛋白質量をそろえることが好ましい。
【0020】
細胞抽出液の調製は、例えば、培養後の細胞に適当な細胞抽出用溶液を添加し、細胞を溶解することにより行うことができる。細胞抽出用の溶液としては、具体的には、例えば、適当な緩衝液に、界面活性剤、還元剤、蛋白質分解酵素阻害剤等を添加して調製することができる。細胞の溶解は、該細胞抽出用溶液を加えた後、ピペットやホモジェナイザー等により機械的に行ってもよいし、超音波破砕機による超音波処理等を行ってもよい。
【0021】
これらの検出法は、一つのみを行ってもよいし、二つ以上の検出法を選択して行い、得られた結果を総合的に解析してもよい。また、検出は、Mcm2〜7の遺伝子又は蛋白質の全てについて行ってもよいし、そのうちの任意に選択されたいずれか一つ、もしくは二つ以上について行ってもよい。これらの中でも、Mcm3、Mcm4について検出・解析を行うことが好ましい。
【0022】
上記のとおり、被検物質を添加した癌細胞又は非癌細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を検出し、これを比較する。別に、被検物質を添加していない癌細胞又は非癌細胞において同様の検出法を行って、これらの結果を比較することが好ましい。比較は、Mcm2〜7の遺伝子又は蛋白質の全てについて行ってもよいし、そのうちの任意に選択されたいずれか一つ、もしくは二つ以上について行ってもよい。比較の結果、非癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量には変化を与えず、癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に変化を与える物質を選択する。
【0023】
変化を与えるとは、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が減少もしくは増加することを意味するが、被検物質が添加された癌細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が、被検物質が添加されていない癌細胞に比べて減少した物質を選択することが好ましい。減少するとは、例えば、被検物質が添加されていない癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量の1/2以下、好ましくは1/5以下になることを意味する。特に、非癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量と同程度もしくはそれ以下であることが好ましい。増加するとは、例えば、被検物質が添加されていない癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に比較して2倍以上、好ましくは5倍以上になることを意味する。
【0024】
かくして選択された物質は、癌細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に変化を与えることから、癌細胞におけるDNA複製等の機構の異常に作用する効果を有し、抗癌剤等の有効成分として有用である。該物質は、非癌細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量には変化を与えないことから、副作用の少ない抗癌剤となり得ることが期待される。
【0025】
本発明のスクリーニング方法は、上記のとおり個々の細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に基づいて行われるが、癌細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量は非癌細胞に比べて上昇していることから、癌細胞におけるMcm蛋白質の活性も相対的に上昇している。従って、Mcm蛋白質の活性、すなわちMcm蛋白質の機能に基づいた解析を行い、得られた結果を用いて総合的な検討を行ってもよい。具体的には、例えば、Mcm蛋白質がDNAヘリカーゼ及びATPaseとしての機能を有することから、これらの活性を指標としてスクリーニングを行うことができる。
【0026】
まず、同じ細胞数の癌細胞及び非癌細胞に上記したような被検物質を添加し、それぞれの細胞から活性型Mcm蛋白質を調製し、これらのヘリカーゼ活性もしくはATPase活性を測定する。得られた結果を比較し、非癌細胞から調製されたMcm蛋白質の活性には変化を与えず、癌細胞から調製されたMcm蛋白質の活性に変化を与える物質を選択する。好ましくは、それぞれ被検物質を添加していない癌細胞及び非癌細胞から調製された活性型Mcm蛋白質のヘリカーゼ活性もしくはATPase活性を測定し、これらの値も鑑みて総合的に判断を行う。ここで、癌細胞から調製されたMcm蛋白質の活性を低下させる効果を有する物質を選択することによれば、抗癌剤等の有効成分となる物質を選択することができる。被検物質の添加濃度により、測定されるMcm蛋白質活性の変化の度合いが異なる場合には、さらに、非癌細胞から調製されたMcm蛋白質の活性には変化を与えず、癌細胞から調製されたMcm蛋白質の活性に変化を与える濃度を決定することが好ましい。
【0027】
細胞からの活性型Mcm蛋白質の調製及び活性の測定は、それ自体公知の通常用いられる方法に従って行うことができる。具体的には、例えば、ヘリカーゼ活性の測定を行う場合には、Mcm4/6/7の複合体が好ましく用いられ、該複合体の調製及びヘリカーゼ活性の測定方法はJ.Biol.Chem., 272, 24508(1997)等に開示されている。ATPase活性の測定を行う場合には、Mcm4/6/7の複合体又はMcm2〜7の複合体を用いることが好ましい。Mcm4/6/7の複合体の調製方法、及びATPase活性の測定方法は、ヘリカーゼ活性の測定と同様にJ.Biol.Chem., 272, 24508(1997)等に開示されている。また、Mcm2〜7の複合体は、抗Mcm蛋白質抗体を用いた免疫沈降法等により調製することができる。
【0028】
かくして選択された物質は、癌細胞におけるMcm蛋白質の機能に変化を与えることから、DNA複製等の機構に作用する効果が大きく、抗癌剤等の有効成分として有用である。
【0029】
2.本発明のスクリーニング方法により得られた物質を有効成分として含む抗癌剤、及び該抗癌剤の製造方法
上記1に記載のスクリーニング方法により選択された物質を、必要に応じて、それ自体公知の方法により、さらに試験管内や生体内における薬理学的又は生理学的試験によりその活性を調べ、所望の活性を有する物質を選択し、実際に抗癌剤として応用可能な物質を得ることができる。かくして選択された物質を、それ自体公知の通常用いられる方法により製剤化し、抗癌剤として用いることができる。また、上記スクリーニング方法で得られた物質から誘導される化合物も同様に用いることができる。これらの化合物は塩を形成していてもよく、水和物並びに溶媒和物等であってもよい。該化合物の塩としては、例えば、無機塩基との塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩などの薬学的に許容し得る塩などがあげられる。
【0030】
該化合物は、それ自体単独で癌に罹患している患者に投与することもできるが、これらの有効成分の1種又は2種以上を含むこともできる。また、薬理学的に許容される製剤用添加物等を用いて医薬品組成物として調製し、これを投与するのが好ましい。例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、丸剤、マイクロカプセル剤、リポソーム製剤、トローチ、舌下剤、液剤、エリキシル剤、乳剤、懸濁剤等として経口的に、あるいは無菌の水性液もしくは油性液として製造した注射剤や、座剤、軟膏、貼付剤等として非経口的に使用できる。これらは例えば、該化合物を生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和し、充填又は打錠等の当業界で周知の方法を用いて製造することができる。これらの医薬品組成物における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
【0031】
かくして得られる医薬品組成物は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトや、ヒト以外の哺乳動物に対して抗癌剤として投与することができる。該組成物に含まれる前記化合物の投与量は、対象となる癌の種類、症状、対象臓器、投与対象、投与方法等により差異はあるが、例えば、一般的に成人(体重60kgとして)においては、一日につき約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。また、非経口的に投与する場合、例えば、注射剤の形で通常成人(60kgとして)に投与する場合は、一日につき約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好ましい。また、一日の投与量を一〜数回に分けて投与するのが望ましい。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を同様に投与することができる。
【0032】
3.組織の癌化の判定方法
本発明の組織の癌化の判定方法は、癌に罹患していることが疑われる患者から癌化が疑われる組織を採取して、該組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を検出し、該量を非癌細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量と比較することを特徴とする方法である。
【0033】
ここで判定の対象となる癌とは、組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量の変化を伴うものであればいかなるものでもよく、発癌の誘因や機構、癌の種類、組織型等によらず適用することができるが、例えば、扁平上皮癌、腺癌等に好ましく適用される。また、対象となる組織とは、例えば、各種臓器の組織、皮膚等、患者から採取可能なものであればいかなるものでもよいが、好ましくは、子宮頸部組織、大腸組織等が挙げられる。また、組織に限らず、血液、尿等の体液や、唾液、喀痰等を用いたり、擦過細胞診のように各種細胞を直接採取して、該細胞が由来する組織の癌化の判定を行うこともできる。
【0034】
比較に用いられる非癌組織又は細胞は、患者より採取された組織又は細胞と同じ部位のものであることが好ましい。ここで、非癌組織とは癌組織以外の組織であって、いわゆる正常組織を意味するが、本発明においては、例えばdysplasiaのような、様々な細胞異型・構造異型を示すが組織病理学上は癌組織とは判定されない病変(境界病変)を呈した組織等を含む。非癌細胞としては、上記1に詳述したものと同様のものを用いることができる。
【0035】
これらの組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量の検出は、上記1に記載の方法に準じて行うことができる。該組織から細胞抽出液を調製し、これを用いてWestern blot法、ELISA法等による検出を行ってもよいし、該組織の組織切片を調製し、これを用いて免疫組織染色法、免疫細胞染色法等による検出を行ってもよい。また、前記細胞からRNAを精製し、Northern blot法、定量的RT−PCR法等による検出を行ってもよい。これらの中でも、免疫組織染色法、免疫細胞染色法、Western blot法、ELISA法等の免疫学的方法による方法が好ましく用いられる。細胞抽出液の調製は、上記1に記載の方法と同様にして行うことができる。組織切片の調製は、それ自体公知の通常用いられる方法により行うことができるが、例えば、ホルマリン固定、パラフィン包埋後にミクロトームを用いて薄切する方法等が好ましく用いられる。
【0036】
組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量の検出及び定量は、それ自体公知の通常用いられる方法から任意に選択して用いられる。例えば、Western blot法の検出は、化学発光法、発色法、ラジオアイソトープラベル法等の公知の方法から選択することができ、得られた結果をデンシトメーター等の公知の定量装置を用いて定量することができる。また、免疫組織染色法又は免疫細胞染色法の場合には、例えば、蛍光抗体法を用いて測定を行うことができる。抗体の標識に用いられる蛍光物質や、該物質による二次抗体又は抗Mcm蛋白質抗体の標識方法、測定方法等は、それ自体公知の通常用いられる方法を用いることができる。また、反応後、得られた蛍光強度を、フリーウエアとして提供されているNIH Image(NIH製)やIP Lab(Signal Analytics Corporation社製)等の公知の画像解析技術等を用いて解析し数値化することができる。このように結果を数値化することにより、値の比較や解析を簡便に行うことができる。このような検出、定量、及び解析は、Mcm2〜7の遺伝子又は蛋白質の全てについて行ってもよいし、そのうちの任意に選択されたいずれか一つ、もしくは二つ以上について行ってもよい。これらの中でも、例えば、Mcm3、Mcm4について行われることが好ましい。
【0037】
かくして検出された、患者より得られた組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量と、非癌細胞中の該量を比較し、患者より得られた組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が多かった場合に、その組織は癌化している可能性があると判定することができる。ここで、多い場合とは、例えば、非癌細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に比較して2倍以上である。有意差がなかった場合には、その組織は癌化していないと判定することができる。
【0038】
また、本発明の別の態様によれば、組織の境界病変と癌組織とを判別する方法が提供される。試料として組織を用いて免疫組織染色法等による検出を行った場合には、個々の細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を解析することにより、単なる癌化の判定にとどまらず、境界病変と癌組織との判別を行うことができる。また、該組織中のMcm2〜7の遺伝子又は蛋白質を高発現している細胞の頻度や該細胞の存在部位を総合的に比較・解析することが好ましい。ここで境界病変とは、例えば、dysplasiaのように病理組織学的には癌組織とは見なされないが、種々の細胞異型、構造異型を示し、従来の一般的な組織染色法等では時に癌組織との判別が困難な病変を意味する。細胞異型、構造異型等の詳細については、上記1に詳述されている。
【0039】
例えば、扁平上皮組織の場合、本発明の方法を用いて解析を行えば、dysplasiaにおいてはMcm2〜7の遺伝子又は蛋白質を高発現している細胞が正常細胞と同様に基底層付近に限局して分布している(すなわち、正常な細胞分裂が盛んな部位のみに分布している)こと、及び、該細胞の頻度が少ないことから、癌化した組織と明確に区別することができる。癌化した扁平上皮組織では、一つの細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が正常な細胞分裂が盛んに行われている非癌細胞と比べても十分に高いだけでなく、このような細胞の頻度が非常に高く、また、該細胞の分布が基底層付近に限局されない。より具体的には、例えば、扁平上皮癌の一つである子宮頸癌の場合には、癌細胞の浸潤が粘膜層のみに限局している、いわゆる「carcinoma in situ」の状態においても、Mcm2〜7の遺伝子又は蛋白質を高発現している細胞が粘膜層全体にわたることがしばしばであり、該細胞の分布が基底層のみに限局される正常粘膜組織あるいはdysplasiaとは明確に判別される。
【0040】
ここで、一つの細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が高いことは、例えば、抗Mcm蛋白質抗体によって検出される免疫反応性が高いこと等により確認することができ、非癌細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に比較して、例えば2倍以上であることを意味する。また、このようにMcm2〜7の遺伝子又は蛋白質を高発現している細胞の頻度が、例えば、癌化が疑われる組織もしくはその特定の部分において50%以上、好ましくは80%以上を占める場合に、該組織が癌化していると判定できる。
【0041】
本発明の組織の境界病変の判定方法は、癌化に従ってMcm2〜7の遺伝子又は蛋白質を高発現している細胞の頻度、存在部位等が変化する組織であればいかなる組織にも適用可能であるが、具体的には、例えば、扁平上皮癌、腺癌等に好ましく用いられ、中でも子宮頸癌に特に好ましく用いられる。また、本発明の方法は、一般的に繁用される病理組織学的な染色法と組み合わせて用いることも好ましい。このような染色法としては、例えば、ヘマトキシリン・エオジン染色等が挙げられる。
【0042】
上記のように、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に加えて、Mcm2〜7の遺伝子又は蛋白質を高発現している細胞の頻度、存在部位をあわせて総合的な解析を行うことにより、より精度の高い組織の癌化の判定を行うことができる。
【0043】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
実施例1.癌細胞又は非癌細胞における Mcm2 〜 7 の発現解析
(1)抗体
Mcm2に対する抗体(以下、これを「抗Mcm2抗体」と称することがある)としては、マウスMcm2(J.Biol.Chem., 273, 8369(1998)に記載の方法に準じて調製)をウサギに0.3mg、3回投与して免疫し、該ウサギから得られた抗血清を、Mcm2を予め1mg固定化させておいた抗原ビーズ(CNBr−activated Sepharose 4B:アマシャム社製)を用いた親和精製法(アフィニティーカラム精製法)により精製したものを用いた。Mcm3、Mcm4、及びMcm5に対する抗体(以下、これらをそれぞれ「抗Mcm3抗体」、「抗Mcm4抗体」、及び「抗Mcm5抗体」と称することがある)については、Kimura et al., Genes Cells, 1, 977−993(1996)に記載の方法に準じて調製した。Mcm6及びMcm7に対する抗体(以下、これらをそれぞれ「抗Mcm6抗体」及び「抗Mcm7抗体」と称することがある)は、Santa Cruz社より購入した。
【0044】
また、Mcm蛋白質の検出と比較するために、PCNA、ORC2、及びHistonesの検出を行った。PCNAは、DNA複製に関わる蛋白質の一つであり、コントロールとして用いた。抗PCNA抗体はSanta Cruz社より購入した。ORC2は、DNA複製に関わる蛋白質の一つであり、Mcm蛋白質の機能に必要な因子の一つであることが知られている蛋白質であることから、その挙動を解析することとした。抗ORC2抗体は、ヒトORC2(Genomics, 31, 119−122(1996))のアミノ酸番号1−145に相当するポリペプチドを調製してウサギに免疫し、常法に従って作製した。Histonesは、細胞内の染色体数(染色体量)の指標として用いた。検出は、CBB染色法により行った。
【0045】
(2)細胞
ヒト子宮頸癌由来の癌細胞として用いたHeLa細胞は、榎本武美教授(東北大)より供与された。SV40ウイルスにより形質転換された繊維芽細胞であるGM00637細胞は、Coriell Cell Repositoriesより購入した。非癌細胞として用いた正常繊維芽細胞の培養株であるWI−38細胞は、理研細胞バンクより購入した。
【0046】
HeLa細胞は、75cm2ボトル中で、DMEM培地(Sigma社製)に10%ウシ血清(GIBCO社製)を含む培養液中で培養した。WI−38細胞及びGM00637細胞の培養には、DMEM培地に10%ウシ胎児血清(Equitech−Bio, Inc.社製)を含む培養液を用いた。
培養は、いずれの細胞も、37℃、7.5%C02の条件下で2日間程度行い、対数増殖期になったところで実験に用いた。
【0047】
(3)細胞分画
上記(2)に記載の方法により培養された3種類の細胞を、それぞれ細胞抽出液に調製した。まず、培養細胞をそれぞれトリプシン−EDTA溶液(Gibco社製)で剥がし、細胞数をカウントして、2×106 cells/100μlの濃度になるように調整してから溶液A(10 mM Pipes, pH 6.8, 100 mM NaCl, 300 mM sucrose, 1 mM MgCl2, 1 mM EDTA, 1 mM dithiothreitol, 1 mM phenylmethylsulfonyl floride,10 μg/ml aprotinin, 0.1 % TritonX−100, 1 mMATP and proteinase inhibitors (Pharmingen社製))を加えて溶解した。得られた溶液に濃縮した電気泳動用の試料溶液(0.188M Tris(pH6.8)/6% SDS/30% Glycerol/0.006% BPB/20mM Dithiothreitol)を加え、超音波破砕機(Dr.Hielscher社製)を用いて、超音波処理を20秒間行ったものをポリアクリルアミドゲル電気泳動の試料とした。該試料には細胞の総蛋白質が含まれる(以下、この抽出液を「total抽出液」と称することがある)。
【0048】
また、クロマチン結合画分を得るために、以下の操作を行った。上記(2)に記載の方法により培養された3種類の細胞を、同様に前記溶液Aで溶解し、氷中で15分間静置した後、遠心分離(5000rpm、5min)を行って、上清を除いて沈殿画分を得た。同じ操作をもう一度繰り返した後、沈殿画分に溶液Aを加えて再び溶解したものをクロマチン結合画分の抽出液(以下、これを「chromatin抽出液」と称することがある)とした。総蛋白質の抽出液と同様に、濃縮した電気泳動用の試料溶液を加えて、ポリアクリルアミドゲル電気泳動の試料とした。
【0049】
(4)電気泳動及びMcm蛋白質の検出・定量
次に、得られた各試料を用いてポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。HeLa細胞及びGM00637細胞由来の2通りの細胞抽出液(total及びchromatin)は、6、3、1.5、0.7μlを分取し、これをゲルに供した。WI−38細胞由来の2通りの抽出液(total及びchromatin)は、6及び12μlを分取し、ゲルに供した。電気泳動は、ドデシル硫酸ナトリウム塩を含む10%ポリアクリルアミドゲルを用いて、ゲル1枚あたり200V、1時間の条件で行った。ここで、Histone検出用のゲルのみ、CBB染色を行った。
【0050】
その他のゲルについては、ゲル中で分画された蛋白質のニトロセルロース膜(Immobilon:Millipore社製)への転写を行った。転写は、20%メタノール、48mM トリス、0.037%ドデシル硫酸ナトリウム塩、3.9 mM グリシン中、15Vで1時間の条件で行った。次に、転写後のニトロセルロース膜をブロックエース(大日本製薬社製)中に一時間浸してブロッキングした後、各Mcmに対する抗体の存在下に、37℃で1時間保温し、反応させた。抗Mcm2抗体、抗Mcm6抗体、及び抗Mcm7抗体はそれぞれ0.5μg/mlの濃度で反応させた。抗Mcm3抗体、抗Mcm4抗体、抗Mcm5抗体はそれぞれ抗血清を2000倍希釈して反応させた。また、抗PCNA抗体は0.5μg/ml、抗ORC2抗体は抗血清を2000倍希釈して用いた。反応後の膜を、0.1% TritonX−100を含むTBS(50 mMトリス(pH 7.5)、150 mM NaCl)で洗浄後、ペルオキシダーゼの結合した抗ウサギあるいは抗マウス抗体(BioRad社製)を含むブロックエース中で、37℃、1時間保温して反応させた。再び膜を0.1% TritonX−100を含むTBSで洗浄した後、ペルオキシダーゼの発色基質(SuperSignal West Pico Chemiluminescent substrate:Pierce社製)を加えて化学発光反応を行った。
【0051】
生じた化学発光を発光・蛍光撮影出力装置(Cool saver, AE−6955:アトー社製)により検出した(HeLa細胞由来の細胞抽出液を用いた結果を図1、GM00637細胞由来の細胞抽出液を用いた結果を図2に示した)。また、同装置で発光量を定量し、癌細胞と正常細胞とで各Mcmの存在量を比較した結果を、表1(HeLa細胞)及び表2(GM00637細胞)に示した。いずれも、非癌細胞として用いたWI−38細胞の値を1とした場合のHeLa細胞又はGM00637細胞中に含まれるMcm2〜7の各蛋白質量とし、表中の「HeLa/WI」又は「GM/WI」として示した。値は複数回行われた実験の平均値であり、括弧内には複数回の実験の最小値と最大値を示した。表中、「ND」はnot determined(測定せず)を意味する。
【0052】
また、HeLa細胞とWI−38細胞を用いた比較実験では、各Mcm蛋白質の分子数(表中、「mol.no」として示す)を、あらかじめ作成しておいた各Mcm蛋白質の発光量と分子数とを対応付ける標準曲線を用いて算出した(表1)。標準曲線は、J.Biol.Chem., 272, 24508(1997)に記載の方法に従ってHeLa細胞から精製したMcm2/4/6/7複合体(存在比1:1:1:1)を種々の容量(分子数)で電気泳動に供し、各Mcm蛋白質に対する抗体を用いたウエスタンブロットを行い、上記と同様の発光法により検出して、これをプロットすることにより作成した。
【0053】
さらに、PCNA、ORC2、Histonesについても、Mcm蛋白質と同様に、非癌細胞として用いたWI−38細胞の値を1とした場合のHeLa細胞又はGM00637細胞中に含まれる各マーカーの値として示した。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
この結果より、癌細胞として用いたHeLa細胞では、Mcm2〜7のすべての蛋白質について、その発現が正常細胞として用いたWI−38細胞に比べて上昇していることがわかった。また、SV40ウイルスにより形質転換された繊維芽細胞(GM00637細胞)でも、WI−38細胞に比べてMcm蛋白質の高発現が認められた。このことは、total抽出液においてのみならず、chromatin画分抽出液でも確認された。
【0057】
また、コントロールとして用いたPCNA及びHistonesについては、HeLa細胞とWI−38細胞の間で差が見られず、Mcm蛋白質に関連する蛋白質として検出したORC2については、HeLa細胞ではMcm蛋白質と同様に増加が見られたことから、Mcm蛋白質及びその機能に関わる因子の発現が特異的に増加していることが確認できた。
【0058】
実施例 2. 癌組織における Mcm 蛋白質の発現解析
次に、患者より得られた病理検体(生検又は剖検材料)におけるMcm蛋白質の発現解析を、免疫組織染色法により行った。病理検体は、子宮頸部に生じた扁平上皮癌、及び、大腸に生じた腺癌より常法に従って採取されたものであった。免疫組織染色は、下記のとおり、DAB(ジメチルアミノアゾベンゼン)染色による方法と、蛍光抗体を用いる方法の2通りによる検出を行った。いずれも(1)〜(11)までの操作は共通で、検出が発色反応により行われるか、蛍光反応により行われるかが異なる。
(1)組織切片の調製
組織切片は、病理検体をホルマリン固定及びパラフィン包埋し、これをミクロトームを用いて薄切したものを用いた。ホルマリン固定及びパラフィン包埋の方法は、「組織学研究法(佐野 豊・著:南山堂刊)」等に記載の公知の方法に従って行った。得られた組織切片は、スライドグラスに貼り付けて保存した。
(2)組織切片の脱パラフィン処理
上記(1)で調製し、保存した組織切片を、キシレンへ5分、3回ずつ浸漬し、脱パラフィン処理を行った。
(3)組織切片の親水化
下記のステップに従って、脱パラフィン処理された組織切片の親水化を行った。
a)100%エタノールによる洗浄、5分×2回
b)90%エタノールによる洗浄、5分×1回
c)80%エタノールによる洗浄、5分×1回
d)70%エタノールによる洗浄、5分×1回
e)精製水による洗浄、5分×1回
(4)抗原の賦活化
上記(3)において親水化した組織切片を、0.01M Citrate Buffer (pH 6.0) へ浸漬し、電子レンジで95℃、10分間加熱して、抗原の賦活化を行った。
【0059】
0.01M Citrate Bufferの調製は、次の通り行った。まず、Citric acid monohydrate (分子量=210.14) を、精製水1Lあたり21.014g溶解した。これを、5N NaOHN NaOHで滴定し、pH 6.0に調整した。これを、使用時に精製水で10倍希釈し、最終濃度0.01Mとして使用した。
(5)上記(4)において抗原の賦活化を行った組織切片を、自然冷却後、精製水で5分ずつ3回洗浄し、次いで、0.01M PBS(NaClを、0.01M phosphate buffer
(pH 7.2) 1Lあたり9g溶解したもの) で5分ずつ3回洗浄した。
(6) 非特異反応のブロッキング
上記(5)において洗浄された組織切片に、10% 正常ブタ血清(X0901:DAKO社製)/0.01M PBSをのせ、室温で30分間反応させて、ブロッキングを行った。
(7)0.01M PBSで5分間、1回洗浄した。
(8)抗Mcm抗体の反応
上記実施例1において調製したMcm3及び4蛋白質に対する2種類の抗体それぞれを、2%正常ブタ血清(0.2% Triton−X を含む 0.01M PBS で調製)で希釈し、切片に載せ、4℃で終夜反応させた。抗体の濃度は、抗Mcm3抗体は4μg/ml、抗Mcm4抗体は1μg/mlとした。
(9)0.01M PBSを用いて、5分間、3回洗浄を行った。
(10)ビオチン標識2次抗体(キット名・LSAB2:DAKO社製)を、キットの添付説明書に記載の方法に従い、原液を組織切片に載せ、室温で20分間反応させた。(11)0.01M PBSで、5分間ずつ、3回洗浄を行った。
【0060】
以下、2通りの方法による検出を行った。
<DAB染色による検出方法>
(1)内因性peroxidaseのブロッキングのため、組織切片を0.3% H2O2/ Metanolに浸漬し、室温で30分間反応させた。
(2)組織切片を、精製水で5分間、1回洗浄し、次いで0.01M PBS (pH 7.2) で、5分間ずつ、3回洗浄した。
(3)Peroxidase標識streptavidine(LSAB2:DAKO社製) を切片に載せ、室温 で20分間反応させた。
(4)0.01M PBSで、5分間ずつ、3回洗浄した。
(5)Peroxidase基質液(Stable DAB:Research Genetics社製)を切片に載せて、室温で3〜6分間反応させた。
(6)MilliQ水(MILLIPORE社製)で3回洗浄した。
(7)5%メチルグリーン液(メチルグリーン(Merck社製)を0.1 M phosphate buffer (pH 5.5)に溶解)で対比染色を行った。反応は、室温で2〜3時間行った。
(8)ブチルアルコールで分別後、99%無水エタノールに通して脱水し、さらにキシレンに浸漬した後、カバーガラスをかけた。分別とは、過剰の染色液を、目的の構造のみが適当に染まる程度まで除去する操作を意味する。
<蛍光抗体法による検出方法>
(1)0.2% Triton−X を含む 0.01M PBS で100倍希釈したFITC−avidine(ICN 社製)を組織切片に載せ、室温で20分間反応させた。
(2)0.01M PBSで、5分間ずつ、3回洗浄を行った。
(3)無蛍光グリセリンで切片を覆い、カバーガラスで封入した。
(4)共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss 社製)で切片を観察し、画像を取り込んだ。
(5)画像解析ソフトウェア NIH Image(NIH製)又はIP Labo(Signal Analytics Corporation社製)を用いて、免疫反応を示す蛍光強度を測定し、画像解析を行った。
【0061】
免疫組織化学的解析の結果、子宮頸部の扁平上皮癌ではMcm3又は4蛋白質が陽性の細胞が、上皮内癌(癌細胞の浸潤が扁平上皮層に止まっている初期状態)においても、深部への浸潤部(癌細胞の浸潤が進行している状態)においても、きわめて高頻度(ほぼ全ての癌細胞)で認められた。一方、癌組織に近接した正常の扁平上皮組織ではMcm3又は4蛋白質が陽性の細胞は基底層に限局していた。さらに個々の細胞での免疫染色性を比較したところ、正常な扁平上皮組織の基底層の細胞に比べて癌細胞では大型の核により強い免疫反応性が認められ、細胞あたりのMcm蛋白質の発現量が増大していることが示された。これに対し、細胞異型を伴っているが、病理組織学的に癌組織とは認められないdysplasiaについては、正常な扁平上皮組織に比べてやや広い範囲の細胞層で陽性所見が認められたものの、癌組織に比べては依然として分布が基底層に近い部分に限局しており、Mcm蛋白質の発現パターンから癌組織と明瞭に区別できることが示された。
【0062】
腺癌の一つである大腸癌についても同様の免疫組織化学的解析を行った結果、正常大腸粘膜ではMcm3又は4蛋白質が陽性の細胞は基底層に限局して分布しているのに対し、癌組織では瀰漫性に陽性細胞が認められ、しばしば大型の核に強い免疫反応性が認められた。このことから、腺癌においても前記扁平上皮癌と同様に癌化の判定が行えることがわかった。
【0063】
【発明の効果】
本発明によれば、癌細胞において特異的にMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を変化させる能力を有する物質のスクリーニングを行うことができ、かくして選択された物質を有効成分として含む抗癌剤が提供される。該抗癌剤は、非癌細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量には変化を与えないことから、副作用の少ない抗癌剤となり得る。また、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に基づいて組織の癌化を判定する方法が提供され、本法によれば、従来の一般的な組織染色法では時に判別が困難であったdysplasiaのような境界病変についても、癌組織と明確に区別することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】HeLa細胞及びWI−38細胞由来の細胞抽出液について、Mcm2〜7の蛋白質、PCNA、ORC2の量を化学発光法により検出したウエスタンブロットの結果を示す写真である。最下図はHistonesの検出を目的として電気泳動後のゲルをCBB染色した結果を示す写真である。「(A)total」は細胞の総蛋白質の抽出液、「(B)chromatin」はクロマチン結合画分の抽出液を用いた結果を示す。図中、「HeLa」はHeLa細胞、「WI」はWI−38細胞を意味する。
【図2】GM00637細胞及びWI−38細胞由来の細胞抽出液について、Mcm2〜7の蛋白質、PCNA、ORC2の量を化学発光法により検出したウエスタンブロットの結果を示す写真である。最下図はHistonesの検出を目的として電気泳動後のゲルをCBB染色した結果を示す写真である。「(A)total」は細胞の総蛋白質の抽出液、「(B)chromatin」はクロマチン結合画分の抽出液を用いた結果を示す。図中、「GM」はGM00637細胞、「WI」はWI−38細胞を意味する。
【発明の属する技術分野】
本発明は、癌細胞特異的にMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を変化させる能力を有する物質のスクリーニング方法、該方法により選択される物質を有効成分として含む抗癌剤、該方法により選択される物質を製剤化することを特徴とする抗癌剤の製造方法に関する。また、組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に基づいて組織の癌化を判定する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
DNAの複製は、多くの蛋白質や酵素等が関与する複雑な機構により行われているが、その中で、二本鎖DNAを巻き戻す機能を有する蛋白質としてDNAヘリカーゼ(DNA helicase)が知られている。DNAヘリカーゼとは、一本鎖DNA上を一定方向に移動し、ATP加水分解のエネルギーを利用して水素結合と疎水結合を切断することにより、そのDNAに結合している相補的DNAを解離させる活性を有する蛋白質である。真核細胞においては既に20種類以上のヘリカーゼが同定され、その多くはDNAの複製を中心に、DNAの組換え、遺伝子の転写、DNAの修復等に関与すると考えられている。
【0003】
このように、DNAの複製をはじめとする各種の重要な機構に関わるヘリカーゼは、細胞さらには生体にとって重要な役割を果たすことが推測されているが、例えば、DNAヘリカーゼの一つであるワーナー症候群蛋白質(例えば、非特許文献1参照)は、その遺伝子産物の異常がヒト早老症の原因となることが解明されている。また、DNAの複製過程における異常と癌との関連についても、多数の報告がなされている。例えば、RecQ型DNAヘリカーゼは、形質転換細胞においてその発現量が増えることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。また、ヘリカーゼを阻害することにより細胞の増殖を抑制するという作用機序を有する抗生物質ヘリキシノマイシンは、抗癌剤としての適用を目的に開発されている(例えば、非特許文献3参照)。しかし、ヘリカーゼは生体にとって重要な役割を果たすことから、この発現を抑制する作用を有することのみを指標とした抗癌剤のスクリーニングによって選択された物質は、正常細胞の細胞増殖等にも影響を及ぼす危険性がある。
【0004】
一方、Mcm(Minichromosome maintenance)蛋白質は、Mcm2からMcm7までの6種類の蛋白質として存在し、そのすべてのメンバーがゲノムの複製に必須の役割を果たすことで知られる蛋白質群である。Mcm蛋白質は、二本鎖DNAを解離させるDNAヘリカーゼとして機能すると考えられており(例えば、非特許文献4参照)、本発明者らは、このMcm蛋白質が、Mcm4/6/7複合体を形成し、一本鎖DNA上を3’末端から5’末端方向へ移動することによりヘリカーゼ活性を示すこと(例えば、非特許文献5参照)等を報告している。
【0005】
Mcm蛋白質についても、他のヘリカーゼと同様に、これまでに癌との関連について多くの知見が報告されている。例えば、癌組織のマーカーとしては、PCNA(増殖細胞核抗原: 例えば、非特許文献6参照)、Ki67(例えば、非特許文献7参照)等が知られているが、組織の癌化の判定において、Mcm蛋白質に対する抗体(以下、これを「抗Mcm蛋白質抗体」と称することがある)を用いる染色法はこれらのマーカーに対する抗体を用いた染色法よりも優れているとの報告がある(例えば、非特許文献8参照)。実際に、癌化した組織において抗Mcm蛋白質抗体を用いた免疫染色により陽性所見を示す細胞の頻度が正常組織に比べて増加していることが示されている(例えば、非特許文献9参照)。さらに、境界病変であるdysplasiaにおいても抗Mcm蛋白質抗体により陽性所見を示す細胞の頻度が正常組織に比べて高頻度になることが示され、また、一つの細胞中のMcm遺伝子発現量については、癌細胞、dysplasiaに含まれる細胞、及び正常細胞の間で変化がないことから、癌組織とdysplasiaは区別されないとの報告(例えば、非特許文献8参照)がある。癌組織とdysplasiaの判別は、ヘマトキシリン・エオシン染色等の一般的な組織染色法では困難な場合も多く、これらを判別する手法が求められているが、Mcm蛋白質を指標とした方法ではその判別は不可能であると考えられていた。
【0006】
このように、組織レベルでの解析に比べて、個々の細胞中のMcm遺伝子発現量又は蛋白質量と癌化の相関等についての詳細な解析は未だ行われておらず、Mcm2〜7のすべてのメンバーについて、網羅的に癌細胞における遺伝子発現量又は蛋白質量の変化が解析されることが望まれていた。また、Mcm蛋白質を指標とする組織の癌化の判定についても、上記のとおり、抗Mcm蛋白質抗体を用いた免疫染色により陽性所見を示す細胞の頻度を指標にしているにすぎず、熟練した病理学者による判定が不要となるような一般化された画一的な判定方法は確立されていない。さらに、dysplasiaのような境界病変と癌組織との鑑別診断や、癌の種類や進行状態等についての詳細な解析も未だ不十分である。このようなことから、癌組織及び癌細胞におけるMcm蛋白質の詳細な解析が強く望まれていた。
【0007】
【非特許文献1】
Nat.Genet., 17, 100−103(1997)
【非特許文献2】
Oncogene, 19, 4764−4772(2000)
【非特許文献3】
J.Antibiotics, 51, 480−486(1998)
【非特許文献4】
Annu.Rev.Biochem., 68, 649(1999)
【非特許文献5】
J.Biol.Chem., 272, 24508(1997)
【非特許文献6】
Nature, 326, 517−520(1987)
【非特許文献7】
J.Cell Physiol., 182, 311−322(2000)
【非特許文献8】
Clin.Cancer Res., 5, 2121−2132(1999)
【非特許文献9】
Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 95, 14932−14937(1998)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、癌細胞においてMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を変化させる能力を有する物質のスクリーニング方法、該方法により選択される物質を有効成分として含む抗癌剤、該方法により選択される物質を製剤化することを特徴とする抗癌剤の製造方法を提供するためになされたものである。また、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に基づいて組織の癌化を判定する方法を提供するためになされたものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を進めた結果、ヒト子宮頸癌組織由来の培養癌細胞において、Mcm2〜7のすべてについて、その蛋白質量が正常繊維芽細胞に比べて上昇していることを見出した。また、子宮頸癌摘出手術検体の病理切片について抗Mcm蛋白質抗体を用いた免疫組織染色を行った結果、組織の癌化を判定することができ、さらに、dysplasiaのような境界病変と癌組織とを判別できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0010】
すなわち本発明によれば、
(1)癌細胞及び非癌細胞に被験物質を添加し、これらの細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を検出して、非癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量には変化を与えず、癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に変化を与える物質を選択することを特徴とする、癌細胞特異的にMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を変化させる能力を有する物質のスクリーニング方法、
(2)癌細胞が扁平上皮癌又は腺癌由来の細胞である上記(1)に記載の方法、
(3)扁平上皮癌が子宮頸癌である上記(2)に記載の方法、
(4)腺癌が大腸癌である上記(2)に記載の方法、
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法により選択される物質を有効成分として含む抗癌剤、
(6)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法により選択される物質を製剤化することを特徴とする抗癌剤の製造方法、
が提供される。
【0011】
また、本発明の別の態様によれば、
(7)癌に罹患していることが疑われる患者から癌化が疑われる組織を採取して、該組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を検出し、該量を非癌細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量と比較することを特徴とする組織の癌化の判定方法、
(8)組織の癌化の判定が、境界病変と癌組織とを判別するものである上記(7)に記載の方法、
(9)Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量の検出が免疫学的方法によるものである上記(7)又は(8)に記載の方法、
が提供される。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
1.癌細胞において Mcm2 〜 7 の遺伝子発現量又は蛋白質量を変化させる能力を有する物質のスクリーニング方法
本発明の癌細胞特異的にMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を変化させる能力を有する物質のスクリーニング方法は、癌細胞及び非癌細胞に被験物質を添加し、これらの細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を検出して、非癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量には変化を与えず、癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量のみに変化を与える物質を選択することを特徴としている。
【0013】
本発明において、Mcm(Minichromosome maintenance)遺伝子とは、Mcm蛋白質をコードする遺伝子を意味する。Mcm蛋白質はMcm2〜7までの6つの遺伝子によりコードされる6つの蛋白質として存在する。Mcm遺伝子及びMcm蛋白質の詳細は、Annu.Rev.Biochem., 68, 649(1999)、J.Biol.Chem., 272, 24508(1997)等に開示されている。
【0014】
本発明の方法においては、まず、癌細胞及び非癌細胞に被検物質を投与する。ここで、癌細胞とは、無限増殖能を獲得した細胞であって悪性のものを意味する。すなわち、細胞の形態、配列、機能等が種々の点で発生母地のもとの細胞と異なり、無限増殖能に加えて浸潤性、生体内での転移性等を有する細胞を意味する。
本発明のスクリーニング方法において癌細胞として用いられる細胞は、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が非癌細胞に比べて上昇しているものであれば、発癌の誘因や機構、癌の種類、組織型、細胞の種類等いかなるものでもよいが、例えば、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が非癌細胞に比べて2倍以上、好ましくは5倍以上のものが用いられる。例えば、ヒト癌組織由来のライン化(株化)された培養癌細胞、ウィルス等による形質転換により無限増殖能を獲得した培養癌細胞等が好ましく用いられる。このような培養細胞の中でも、扁平上皮癌又は腺癌由来の細胞が好ましく用いられ、具体的には、例えば、ヒト子宮頸癌由来の培養癌細胞(HeLa細胞:Cancer Res., 12, 264−265(1952))、ヒトバーキットリンパ腫由来の培養癌細胞(Raji細胞:J.Natl.Cancer Inst., 53, 347−360(1974))、大腸癌由来の培養癌細胞(HT29細胞:J.Natl.Cancer Inst., 55, 555−560(1975))、肺癌由来の培養癌細胞(A549細胞:Int.J.Cancer, 17, 62−70(1976))等が挙げられる。ウィルス等による形質転換により無限増殖能を獲得させた培養癌細胞としては、例えば、SV40ウィルスにより形質転換された繊維芽細胞(GM00637細胞:J.Biol.Chem., 276, 36194−36199(2001)等:Coriell Institute for Medical Research製)等が挙げられる。また、培養、被検物質の添加、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量の検出等が可能なものであれば、培養組織等も同様にして用いることができる。
【0015】
一方、非癌細胞とは前記癌細胞以外の細胞であって、いわゆる正常細胞を意味するが、本発明においては、例えばdysplasiaのような、様々な細胞異型・構造異型を示すが組織病理学上は癌組織とは判定されない病変(以下、これを「境界病変」と称することがある)に含まれる異型細胞等をも含む。ここで、細胞異型とは一つの細胞において認められる異型であって、例えば、細胞自体の形状の異常、核、クロマチン、核小体、細胞質等の形状の異常、分裂像や分化状態の異常等が挙げられ、このような異型を呈する細胞を「異型細胞」と称する。一方、構造異型とは組織構築の異型であって、例えば、細胞配列の不規則性、細胞極性の乱れや喪失、細胞結合性の異常等が挙げられる。
【0016】
非癌細胞としては、癌細胞以外のもので、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が癌細胞に比べて低いものであればいかなるものでも用い得るが、その中でも、比較に用いる癌細胞と同じ動物種由来の正常培養細胞等が好ましく用いられる。より好ましくは、同じ組織由来のものである。具体的には、例えば、正常繊維芽細胞であるWI−38(Exp.Cell Res., 37, 614−636(1965))、HUC−F(Cytotechnology, 5, 273−277(1991))等が挙げられる。また、培養、被検物質の添加、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量の検出等が可能なものであれば、培養組織等も同様にして用いることができる。
【0017】
これらの細胞に添加される被検物質としては、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。その投与量、投与方法、処理時間等は、用いる癌細胞又は非癌細胞の種類に従って適宜選択すればよいが、例えば、前記培養細胞に添加する場合には、被検物質を適当な濃度の溶液等として調製し、該細胞の培養上清に直接添加する方法等が好ましく用いられる。
【0018】
次に、前記の癌細胞及び非癌細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を検出する。これらの検出方法としては、それ自体公知の通常用いられる方法を用いることができるが、具体的には、例えば、Mcm2〜7の遺伝子発現量の検出は、Northern Blot法、定量的RT−PCR法等により行うことができ、蛋白質量の検出は、Western Blot法、ELISA法等により行うことができる。また、免疫細胞染色法等の手法もこれらと組み合わせて用いることができる。これらの手法は、例えば、新生化学実験講座(日本生化学会編;東京化学同人)、Molecular Cloning, A Laboratory Manual (T. Maniatis et al., Cold Spring Harbor Laboratory (1982))、Antibodies − A Laboratory Manual(E.Harlow, et al., Cold Spring Harbor Laboratory(1988))等の一般的実験書に記載の方法又はそれに準じて行うことができる。
【0019】
検出は、被検物質を投与した細胞を公知の方法に従って細胞抽出液に調製し、これを試料として用いてもよいし、細胞を培養プレートやスライドグラス上に固定化し、これを試料として用いてもよい。例えば、細胞抽出液を調製してこれを試料とする場合には、Western blot法、ELISA法等により検出を行うことができる。細胞を固定化した培養プレートやスライドグラスを用いる場合には、免疫細胞染色法等により検出を行うことができる。また、Northern blot法の場合には、細胞から公知の方法に従ってRNAを精製し、これを試料として用いればよい。これらの試料は、検出の結果得られた数値を正確に比較・解析できるように、あらかじめ抽出に用いる細胞数をそろえるか、精製されたRNA量又は抽出された蛋白質量をそろえることが好ましい。
【0020】
細胞抽出液の調製は、例えば、培養後の細胞に適当な細胞抽出用溶液を添加し、細胞を溶解することにより行うことができる。細胞抽出用の溶液としては、具体的には、例えば、適当な緩衝液に、界面活性剤、還元剤、蛋白質分解酵素阻害剤等を添加して調製することができる。細胞の溶解は、該細胞抽出用溶液を加えた後、ピペットやホモジェナイザー等により機械的に行ってもよいし、超音波破砕機による超音波処理等を行ってもよい。
【0021】
これらの検出法は、一つのみを行ってもよいし、二つ以上の検出法を選択して行い、得られた結果を総合的に解析してもよい。また、検出は、Mcm2〜7の遺伝子又は蛋白質の全てについて行ってもよいし、そのうちの任意に選択されたいずれか一つ、もしくは二つ以上について行ってもよい。これらの中でも、Mcm3、Mcm4について検出・解析を行うことが好ましい。
【0022】
上記のとおり、被検物質を添加した癌細胞又は非癌細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を検出し、これを比較する。別に、被検物質を添加していない癌細胞又は非癌細胞において同様の検出法を行って、これらの結果を比較することが好ましい。比較は、Mcm2〜7の遺伝子又は蛋白質の全てについて行ってもよいし、そのうちの任意に選択されたいずれか一つ、もしくは二つ以上について行ってもよい。比較の結果、非癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量には変化を与えず、癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に変化を与える物質を選択する。
【0023】
変化を与えるとは、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が減少もしくは増加することを意味するが、被検物質が添加された癌細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が、被検物質が添加されていない癌細胞に比べて減少した物質を選択することが好ましい。減少するとは、例えば、被検物質が添加されていない癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量の1/2以下、好ましくは1/5以下になることを意味する。特に、非癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量と同程度もしくはそれ以下であることが好ましい。増加するとは、例えば、被検物質が添加されていない癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に比較して2倍以上、好ましくは5倍以上になることを意味する。
【0024】
かくして選択された物質は、癌細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に変化を与えることから、癌細胞におけるDNA複製等の機構の異常に作用する効果を有し、抗癌剤等の有効成分として有用である。該物質は、非癌細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量には変化を与えないことから、副作用の少ない抗癌剤となり得ることが期待される。
【0025】
本発明のスクリーニング方法は、上記のとおり個々の細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に基づいて行われるが、癌細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量は非癌細胞に比べて上昇していることから、癌細胞におけるMcm蛋白質の活性も相対的に上昇している。従って、Mcm蛋白質の活性、すなわちMcm蛋白質の機能に基づいた解析を行い、得られた結果を用いて総合的な検討を行ってもよい。具体的には、例えば、Mcm蛋白質がDNAヘリカーゼ及びATPaseとしての機能を有することから、これらの活性を指標としてスクリーニングを行うことができる。
【0026】
まず、同じ細胞数の癌細胞及び非癌細胞に上記したような被検物質を添加し、それぞれの細胞から活性型Mcm蛋白質を調製し、これらのヘリカーゼ活性もしくはATPase活性を測定する。得られた結果を比較し、非癌細胞から調製されたMcm蛋白質の活性には変化を与えず、癌細胞から調製されたMcm蛋白質の活性に変化を与える物質を選択する。好ましくは、それぞれ被検物質を添加していない癌細胞及び非癌細胞から調製された活性型Mcm蛋白質のヘリカーゼ活性もしくはATPase活性を測定し、これらの値も鑑みて総合的に判断を行う。ここで、癌細胞から調製されたMcm蛋白質の活性を低下させる効果を有する物質を選択することによれば、抗癌剤等の有効成分となる物質を選択することができる。被検物質の添加濃度により、測定されるMcm蛋白質活性の変化の度合いが異なる場合には、さらに、非癌細胞から調製されたMcm蛋白質の活性には変化を与えず、癌細胞から調製されたMcm蛋白質の活性に変化を与える濃度を決定することが好ましい。
【0027】
細胞からの活性型Mcm蛋白質の調製及び活性の測定は、それ自体公知の通常用いられる方法に従って行うことができる。具体的には、例えば、ヘリカーゼ活性の測定を行う場合には、Mcm4/6/7の複合体が好ましく用いられ、該複合体の調製及びヘリカーゼ活性の測定方法はJ.Biol.Chem., 272, 24508(1997)等に開示されている。ATPase活性の測定を行う場合には、Mcm4/6/7の複合体又はMcm2〜7の複合体を用いることが好ましい。Mcm4/6/7の複合体の調製方法、及びATPase活性の測定方法は、ヘリカーゼ活性の測定と同様にJ.Biol.Chem., 272, 24508(1997)等に開示されている。また、Mcm2〜7の複合体は、抗Mcm蛋白質抗体を用いた免疫沈降法等により調製することができる。
【0028】
かくして選択された物質は、癌細胞におけるMcm蛋白質の機能に変化を与えることから、DNA複製等の機構に作用する効果が大きく、抗癌剤等の有効成分として有用である。
【0029】
2.本発明のスクリーニング方法により得られた物質を有効成分として含む抗癌剤、及び該抗癌剤の製造方法
上記1に記載のスクリーニング方法により選択された物質を、必要に応じて、それ自体公知の方法により、さらに試験管内や生体内における薬理学的又は生理学的試験によりその活性を調べ、所望の活性を有する物質を選択し、実際に抗癌剤として応用可能な物質を得ることができる。かくして選択された物質を、それ自体公知の通常用いられる方法により製剤化し、抗癌剤として用いることができる。また、上記スクリーニング方法で得られた物質から誘導される化合物も同様に用いることができる。これらの化合物は塩を形成していてもよく、水和物並びに溶媒和物等であってもよい。該化合物の塩としては、例えば、無機塩基との塩、有機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩、塩基性または酸性アミノ酸との塩などの薬学的に許容し得る塩などがあげられる。
【0030】
該化合物は、それ自体単独で癌に罹患している患者に投与することもできるが、これらの有効成分の1種又は2種以上を含むこともできる。また、薬理学的に許容される製剤用添加物等を用いて医薬品組成物として調製し、これを投与するのが好ましい。例えば、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、丸剤、マイクロカプセル剤、リポソーム製剤、トローチ、舌下剤、液剤、エリキシル剤、乳剤、懸濁剤等として経口的に、あるいは無菌の水性液もしくは油性液として製造した注射剤や、座剤、軟膏、貼付剤等として非経口的に使用できる。これらは例えば、該化合物を生理学的に認められる担体、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、安定剤、結合剤などとともに一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態で混和し、充填又は打錠等の当業界で周知の方法を用いて製造することができる。これらの医薬品組成物における有効成分量は指示された範囲の適当な容量が得られるようにするものである。
【0031】
かくして得られる医薬品組成物は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトや、ヒト以外の哺乳動物に対して抗癌剤として投与することができる。該組成物に含まれる前記化合物の投与量は、対象となる癌の種類、症状、対象臓器、投与対象、投与方法等により差異はあるが、例えば、一般的に成人(体重60kgとして)においては、一日につき約0.1〜100mg、好ましくは約1.0〜50mg、より好ましくは約1.0〜20mgである。また、非経口的に投与する場合、例えば、注射剤の形で通常成人(60kgとして)に投与する場合は、一日につき約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好ましい。また、一日の投与量を一〜数回に分けて投与するのが望ましい。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を同様に投与することができる。
【0032】
3.組織の癌化の判定方法
本発明の組織の癌化の判定方法は、癌に罹患していることが疑われる患者から癌化が疑われる組織を採取して、該組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を検出し、該量を非癌細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量と比較することを特徴とする方法である。
【0033】
ここで判定の対象となる癌とは、組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量の変化を伴うものであればいかなるものでもよく、発癌の誘因や機構、癌の種類、組織型等によらず適用することができるが、例えば、扁平上皮癌、腺癌等に好ましく適用される。また、対象となる組織とは、例えば、各種臓器の組織、皮膚等、患者から採取可能なものであればいかなるものでもよいが、好ましくは、子宮頸部組織、大腸組織等が挙げられる。また、組織に限らず、血液、尿等の体液や、唾液、喀痰等を用いたり、擦過細胞診のように各種細胞を直接採取して、該細胞が由来する組織の癌化の判定を行うこともできる。
【0034】
比較に用いられる非癌組織又は細胞は、患者より採取された組織又は細胞と同じ部位のものであることが好ましい。ここで、非癌組織とは癌組織以外の組織であって、いわゆる正常組織を意味するが、本発明においては、例えばdysplasiaのような、様々な細胞異型・構造異型を示すが組織病理学上は癌組織とは判定されない病変(境界病変)を呈した組織等を含む。非癌細胞としては、上記1に詳述したものと同様のものを用いることができる。
【0035】
これらの組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量の検出は、上記1に記載の方法に準じて行うことができる。該組織から細胞抽出液を調製し、これを用いてWestern blot法、ELISA法等による検出を行ってもよいし、該組織の組織切片を調製し、これを用いて免疫組織染色法、免疫細胞染色法等による検出を行ってもよい。また、前記細胞からRNAを精製し、Northern blot法、定量的RT−PCR法等による検出を行ってもよい。これらの中でも、免疫組織染色法、免疫細胞染色法、Western blot法、ELISA法等の免疫学的方法による方法が好ましく用いられる。細胞抽出液の調製は、上記1に記載の方法と同様にして行うことができる。組織切片の調製は、それ自体公知の通常用いられる方法により行うことができるが、例えば、ホルマリン固定、パラフィン包埋後にミクロトームを用いて薄切する方法等が好ましく用いられる。
【0036】
組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量の検出及び定量は、それ自体公知の通常用いられる方法から任意に選択して用いられる。例えば、Western blot法の検出は、化学発光法、発色法、ラジオアイソトープラベル法等の公知の方法から選択することができ、得られた結果をデンシトメーター等の公知の定量装置を用いて定量することができる。また、免疫組織染色法又は免疫細胞染色法の場合には、例えば、蛍光抗体法を用いて測定を行うことができる。抗体の標識に用いられる蛍光物質や、該物質による二次抗体又は抗Mcm蛋白質抗体の標識方法、測定方法等は、それ自体公知の通常用いられる方法を用いることができる。また、反応後、得られた蛍光強度を、フリーウエアとして提供されているNIH Image(NIH製)やIP Lab(Signal Analytics Corporation社製)等の公知の画像解析技術等を用いて解析し数値化することができる。このように結果を数値化することにより、値の比較や解析を簡便に行うことができる。このような検出、定量、及び解析は、Mcm2〜7の遺伝子又は蛋白質の全てについて行ってもよいし、そのうちの任意に選択されたいずれか一つ、もしくは二つ以上について行ってもよい。これらの中でも、例えば、Mcm3、Mcm4について行われることが好ましい。
【0037】
かくして検出された、患者より得られた組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量と、非癌細胞中の該量を比較し、患者より得られた組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が多かった場合に、その組織は癌化している可能性があると判定することができる。ここで、多い場合とは、例えば、非癌細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に比較して2倍以上である。有意差がなかった場合には、その組織は癌化していないと判定することができる。
【0038】
また、本発明の別の態様によれば、組織の境界病変と癌組織とを判別する方法が提供される。試料として組織を用いて免疫組織染色法等による検出を行った場合には、個々の細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を解析することにより、単なる癌化の判定にとどまらず、境界病変と癌組織との判別を行うことができる。また、該組織中のMcm2〜7の遺伝子又は蛋白質を高発現している細胞の頻度や該細胞の存在部位を総合的に比較・解析することが好ましい。ここで境界病変とは、例えば、dysplasiaのように病理組織学的には癌組織とは見なされないが、種々の細胞異型、構造異型を示し、従来の一般的な組織染色法等では時に癌組織との判別が困難な病変を意味する。細胞異型、構造異型等の詳細については、上記1に詳述されている。
【0039】
例えば、扁平上皮組織の場合、本発明の方法を用いて解析を行えば、dysplasiaにおいてはMcm2〜7の遺伝子又は蛋白質を高発現している細胞が正常細胞と同様に基底層付近に限局して分布している(すなわち、正常な細胞分裂が盛んな部位のみに分布している)こと、及び、該細胞の頻度が少ないことから、癌化した組織と明確に区別することができる。癌化した扁平上皮組織では、一つの細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が正常な細胞分裂が盛んに行われている非癌細胞と比べても十分に高いだけでなく、このような細胞の頻度が非常に高く、また、該細胞の分布が基底層付近に限局されない。より具体的には、例えば、扁平上皮癌の一つである子宮頸癌の場合には、癌細胞の浸潤が粘膜層のみに限局している、いわゆる「carcinoma in situ」の状態においても、Mcm2〜7の遺伝子又は蛋白質を高発現している細胞が粘膜層全体にわたることがしばしばであり、該細胞の分布が基底層のみに限局される正常粘膜組織あるいはdysplasiaとは明確に判別される。
【0040】
ここで、一つの細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量が高いことは、例えば、抗Mcm蛋白質抗体によって検出される免疫反応性が高いこと等により確認することができ、非癌細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に比較して、例えば2倍以上であることを意味する。また、このようにMcm2〜7の遺伝子又は蛋白質を高発現している細胞の頻度が、例えば、癌化が疑われる組織もしくはその特定の部分において50%以上、好ましくは80%以上を占める場合に、該組織が癌化していると判定できる。
【0041】
本発明の組織の境界病変の判定方法は、癌化に従ってMcm2〜7の遺伝子又は蛋白質を高発現している細胞の頻度、存在部位等が変化する組織であればいかなる組織にも適用可能であるが、具体的には、例えば、扁平上皮癌、腺癌等に好ましく用いられ、中でも子宮頸癌に特に好ましく用いられる。また、本発明の方法は、一般的に繁用される病理組織学的な染色法と組み合わせて用いることも好ましい。このような染色法としては、例えば、ヘマトキシリン・エオジン染色等が挙げられる。
【0042】
上記のように、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に加えて、Mcm2〜7の遺伝子又は蛋白質を高発現している細胞の頻度、存在部位をあわせて総合的な解析を行うことにより、より精度の高い組織の癌化の判定を行うことができる。
【0043】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
実施例1.癌細胞又は非癌細胞における Mcm2 〜 7 の発現解析
(1)抗体
Mcm2に対する抗体(以下、これを「抗Mcm2抗体」と称することがある)としては、マウスMcm2(J.Biol.Chem., 273, 8369(1998)に記載の方法に準じて調製)をウサギに0.3mg、3回投与して免疫し、該ウサギから得られた抗血清を、Mcm2を予め1mg固定化させておいた抗原ビーズ(CNBr−activated Sepharose 4B:アマシャム社製)を用いた親和精製法(アフィニティーカラム精製法)により精製したものを用いた。Mcm3、Mcm4、及びMcm5に対する抗体(以下、これらをそれぞれ「抗Mcm3抗体」、「抗Mcm4抗体」、及び「抗Mcm5抗体」と称することがある)については、Kimura et al., Genes Cells, 1, 977−993(1996)に記載の方法に準じて調製した。Mcm6及びMcm7に対する抗体(以下、これらをそれぞれ「抗Mcm6抗体」及び「抗Mcm7抗体」と称することがある)は、Santa Cruz社より購入した。
【0044】
また、Mcm蛋白質の検出と比較するために、PCNA、ORC2、及びHistonesの検出を行った。PCNAは、DNA複製に関わる蛋白質の一つであり、コントロールとして用いた。抗PCNA抗体はSanta Cruz社より購入した。ORC2は、DNA複製に関わる蛋白質の一つであり、Mcm蛋白質の機能に必要な因子の一つであることが知られている蛋白質であることから、その挙動を解析することとした。抗ORC2抗体は、ヒトORC2(Genomics, 31, 119−122(1996))のアミノ酸番号1−145に相当するポリペプチドを調製してウサギに免疫し、常法に従って作製した。Histonesは、細胞内の染色体数(染色体量)の指標として用いた。検出は、CBB染色法により行った。
【0045】
(2)細胞
ヒト子宮頸癌由来の癌細胞として用いたHeLa細胞は、榎本武美教授(東北大)より供与された。SV40ウイルスにより形質転換された繊維芽細胞であるGM00637細胞は、Coriell Cell Repositoriesより購入した。非癌細胞として用いた正常繊維芽細胞の培養株であるWI−38細胞は、理研細胞バンクより購入した。
【0046】
HeLa細胞は、75cm2ボトル中で、DMEM培地(Sigma社製)に10%ウシ血清(GIBCO社製)を含む培養液中で培養した。WI−38細胞及びGM00637細胞の培養には、DMEM培地に10%ウシ胎児血清(Equitech−Bio, Inc.社製)を含む培養液を用いた。
培養は、いずれの細胞も、37℃、7.5%C02の条件下で2日間程度行い、対数増殖期になったところで実験に用いた。
【0047】
(3)細胞分画
上記(2)に記載の方法により培養された3種類の細胞を、それぞれ細胞抽出液に調製した。まず、培養細胞をそれぞれトリプシン−EDTA溶液(Gibco社製)で剥がし、細胞数をカウントして、2×106 cells/100μlの濃度になるように調整してから溶液A(10 mM Pipes, pH 6.8, 100 mM NaCl, 300 mM sucrose, 1 mM MgCl2, 1 mM EDTA, 1 mM dithiothreitol, 1 mM phenylmethylsulfonyl floride,10 μg/ml aprotinin, 0.1 % TritonX−100, 1 mMATP and proteinase inhibitors (Pharmingen社製))を加えて溶解した。得られた溶液に濃縮した電気泳動用の試料溶液(0.188M Tris(pH6.8)/6% SDS/30% Glycerol/0.006% BPB/20mM Dithiothreitol)を加え、超音波破砕機(Dr.Hielscher社製)を用いて、超音波処理を20秒間行ったものをポリアクリルアミドゲル電気泳動の試料とした。該試料には細胞の総蛋白質が含まれる(以下、この抽出液を「total抽出液」と称することがある)。
【0048】
また、クロマチン結合画分を得るために、以下の操作を行った。上記(2)に記載の方法により培養された3種類の細胞を、同様に前記溶液Aで溶解し、氷中で15分間静置した後、遠心分離(5000rpm、5min)を行って、上清を除いて沈殿画分を得た。同じ操作をもう一度繰り返した後、沈殿画分に溶液Aを加えて再び溶解したものをクロマチン結合画分の抽出液(以下、これを「chromatin抽出液」と称することがある)とした。総蛋白質の抽出液と同様に、濃縮した電気泳動用の試料溶液を加えて、ポリアクリルアミドゲル電気泳動の試料とした。
【0049】
(4)電気泳動及びMcm蛋白質の検出・定量
次に、得られた各試料を用いてポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。HeLa細胞及びGM00637細胞由来の2通りの細胞抽出液(total及びchromatin)は、6、3、1.5、0.7μlを分取し、これをゲルに供した。WI−38細胞由来の2通りの抽出液(total及びchromatin)は、6及び12μlを分取し、ゲルに供した。電気泳動は、ドデシル硫酸ナトリウム塩を含む10%ポリアクリルアミドゲルを用いて、ゲル1枚あたり200V、1時間の条件で行った。ここで、Histone検出用のゲルのみ、CBB染色を行った。
【0050】
その他のゲルについては、ゲル中で分画された蛋白質のニトロセルロース膜(Immobilon:Millipore社製)への転写を行った。転写は、20%メタノール、48mM トリス、0.037%ドデシル硫酸ナトリウム塩、3.9 mM グリシン中、15Vで1時間の条件で行った。次に、転写後のニトロセルロース膜をブロックエース(大日本製薬社製)中に一時間浸してブロッキングした後、各Mcmに対する抗体の存在下に、37℃で1時間保温し、反応させた。抗Mcm2抗体、抗Mcm6抗体、及び抗Mcm7抗体はそれぞれ0.5μg/mlの濃度で反応させた。抗Mcm3抗体、抗Mcm4抗体、抗Mcm5抗体はそれぞれ抗血清を2000倍希釈して反応させた。また、抗PCNA抗体は0.5μg/ml、抗ORC2抗体は抗血清を2000倍希釈して用いた。反応後の膜を、0.1% TritonX−100を含むTBS(50 mMトリス(pH 7.5)、150 mM NaCl)で洗浄後、ペルオキシダーゼの結合した抗ウサギあるいは抗マウス抗体(BioRad社製)を含むブロックエース中で、37℃、1時間保温して反応させた。再び膜を0.1% TritonX−100を含むTBSで洗浄した後、ペルオキシダーゼの発色基質(SuperSignal West Pico Chemiluminescent substrate:Pierce社製)を加えて化学発光反応を行った。
【0051】
生じた化学発光を発光・蛍光撮影出力装置(Cool saver, AE−6955:アトー社製)により検出した(HeLa細胞由来の細胞抽出液を用いた結果を図1、GM00637細胞由来の細胞抽出液を用いた結果を図2に示した)。また、同装置で発光量を定量し、癌細胞と正常細胞とで各Mcmの存在量を比較した結果を、表1(HeLa細胞)及び表2(GM00637細胞)に示した。いずれも、非癌細胞として用いたWI−38細胞の値を1とした場合のHeLa細胞又はGM00637細胞中に含まれるMcm2〜7の各蛋白質量とし、表中の「HeLa/WI」又は「GM/WI」として示した。値は複数回行われた実験の平均値であり、括弧内には複数回の実験の最小値と最大値を示した。表中、「ND」はnot determined(測定せず)を意味する。
【0052】
また、HeLa細胞とWI−38細胞を用いた比較実験では、各Mcm蛋白質の分子数(表中、「mol.no」として示す)を、あらかじめ作成しておいた各Mcm蛋白質の発光量と分子数とを対応付ける標準曲線を用いて算出した(表1)。標準曲線は、J.Biol.Chem., 272, 24508(1997)に記載の方法に従ってHeLa細胞から精製したMcm2/4/6/7複合体(存在比1:1:1:1)を種々の容量(分子数)で電気泳動に供し、各Mcm蛋白質に対する抗体を用いたウエスタンブロットを行い、上記と同様の発光法により検出して、これをプロットすることにより作成した。
【0053】
さらに、PCNA、ORC2、Histonesについても、Mcm蛋白質と同様に、非癌細胞として用いたWI−38細胞の値を1とした場合のHeLa細胞又はGM00637細胞中に含まれる各マーカーの値として示した。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
この結果より、癌細胞として用いたHeLa細胞では、Mcm2〜7のすべての蛋白質について、その発現が正常細胞として用いたWI−38細胞に比べて上昇していることがわかった。また、SV40ウイルスにより形質転換された繊維芽細胞(GM00637細胞)でも、WI−38細胞に比べてMcm蛋白質の高発現が認められた。このことは、total抽出液においてのみならず、chromatin画分抽出液でも確認された。
【0057】
また、コントロールとして用いたPCNA及びHistonesについては、HeLa細胞とWI−38細胞の間で差が見られず、Mcm蛋白質に関連する蛋白質として検出したORC2については、HeLa細胞ではMcm蛋白質と同様に増加が見られたことから、Mcm蛋白質及びその機能に関わる因子の発現が特異的に増加していることが確認できた。
【0058】
実施例 2. 癌組織における Mcm 蛋白質の発現解析
次に、患者より得られた病理検体(生検又は剖検材料)におけるMcm蛋白質の発現解析を、免疫組織染色法により行った。病理検体は、子宮頸部に生じた扁平上皮癌、及び、大腸に生じた腺癌より常法に従って採取されたものであった。免疫組織染色は、下記のとおり、DAB(ジメチルアミノアゾベンゼン)染色による方法と、蛍光抗体を用いる方法の2通りによる検出を行った。いずれも(1)〜(11)までの操作は共通で、検出が発色反応により行われるか、蛍光反応により行われるかが異なる。
(1)組織切片の調製
組織切片は、病理検体をホルマリン固定及びパラフィン包埋し、これをミクロトームを用いて薄切したものを用いた。ホルマリン固定及びパラフィン包埋の方法は、「組織学研究法(佐野 豊・著:南山堂刊)」等に記載の公知の方法に従って行った。得られた組織切片は、スライドグラスに貼り付けて保存した。
(2)組織切片の脱パラフィン処理
上記(1)で調製し、保存した組織切片を、キシレンへ5分、3回ずつ浸漬し、脱パラフィン処理を行った。
(3)組織切片の親水化
下記のステップに従って、脱パラフィン処理された組織切片の親水化を行った。
a)100%エタノールによる洗浄、5分×2回
b)90%エタノールによる洗浄、5分×1回
c)80%エタノールによる洗浄、5分×1回
d)70%エタノールによる洗浄、5分×1回
e)精製水による洗浄、5分×1回
(4)抗原の賦活化
上記(3)において親水化した組織切片を、0.01M Citrate Buffer (pH 6.0) へ浸漬し、電子レンジで95℃、10分間加熱して、抗原の賦活化を行った。
【0059】
0.01M Citrate Bufferの調製は、次の通り行った。まず、Citric acid monohydrate (分子量=210.14) を、精製水1Lあたり21.014g溶解した。これを、5N NaOHN NaOHで滴定し、pH 6.0に調整した。これを、使用時に精製水で10倍希釈し、最終濃度0.01Mとして使用した。
(5)上記(4)において抗原の賦活化を行った組織切片を、自然冷却後、精製水で5分ずつ3回洗浄し、次いで、0.01M PBS(NaClを、0.01M phosphate buffer
(pH 7.2) 1Lあたり9g溶解したもの) で5分ずつ3回洗浄した。
(6) 非特異反応のブロッキング
上記(5)において洗浄された組織切片に、10% 正常ブタ血清(X0901:DAKO社製)/0.01M PBSをのせ、室温で30分間反応させて、ブロッキングを行った。
(7)0.01M PBSで5分間、1回洗浄した。
(8)抗Mcm抗体の反応
上記実施例1において調製したMcm3及び4蛋白質に対する2種類の抗体それぞれを、2%正常ブタ血清(0.2% Triton−X を含む 0.01M PBS で調製)で希釈し、切片に載せ、4℃で終夜反応させた。抗体の濃度は、抗Mcm3抗体は4μg/ml、抗Mcm4抗体は1μg/mlとした。
(9)0.01M PBSを用いて、5分間、3回洗浄を行った。
(10)ビオチン標識2次抗体(キット名・LSAB2:DAKO社製)を、キットの添付説明書に記載の方法に従い、原液を組織切片に載せ、室温で20分間反応させた。(11)0.01M PBSで、5分間ずつ、3回洗浄を行った。
【0060】
以下、2通りの方法による検出を行った。
<DAB染色による検出方法>
(1)内因性peroxidaseのブロッキングのため、組織切片を0.3% H2O2/ Metanolに浸漬し、室温で30分間反応させた。
(2)組織切片を、精製水で5分間、1回洗浄し、次いで0.01M PBS (pH 7.2) で、5分間ずつ、3回洗浄した。
(3)Peroxidase標識streptavidine(LSAB2:DAKO社製) を切片に載せ、室温 で20分間反応させた。
(4)0.01M PBSで、5分間ずつ、3回洗浄した。
(5)Peroxidase基質液(Stable DAB:Research Genetics社製)を切片に載せて、室温で3〜6分間反応させた。
(6)MilliQ水(MILLIPORE社製)で3回洗浄した。
(7)5%メチルグリーン液(メチルグリーン(Merck社製)を0.1 M phosphate buffer (pH 5.5)に溶解)で対比染色を行った。反応は、室温で2〜3時間行った。
(8)ブチルアルコールで分別後、99%無水エタノールに通して脱水し、さらにキシレンに浸漬した後、カバーガラスをかけた。分別とは、過剰の染色液を、目的の構造のみが適当に染まる程度まで除去する操作を意味する。
<蛍光抗体法による検出方法>
(1)0.2% Triton−X を含む 0.01M PBS で100倍希釈したFITC−avidine(ICN 社製)を組織切片に載せ、室温で20分間反応させた。
(2)0.01M PBSで、5分間ずつ、3回洗浄を行った。
(3)無蛍光グリセリンで切片を覆い、カバーガラスで封入した。
(4)共焦点レーザー顕微鏡(Zeiss 社製)で切片を観察し、画像を取り込んだ。
(5)画像解析ソフトウェア NIH Image(NIH製)又はIP Labo(Signal Analytics Corporation社製)を用いて、免疫反応を示す蛍光強度を測定し、画像解析を行った。
【0061】
免疫組織化学的解析の結果、子宮頸部の扁平上皮癌ではMcm3又は4蛋白質が陽性の細胞が、上皮内癌(癌細胞の浸潤が扁平上皮層に止まっている初期状態)においても、深部への浸潤部(癌細胞の浸潤が進行している状態)においても、きわめて高頻度(ほぼ全ての癌細胞)で認められた。一方、癌組織に近接した正常の扁平上皮組織ではMcm3又は4蛋白質が陽性の細胞は基底層に限局していた。さらに個々の細胞での免疫染色性を比較したところ、正常な扁平上皮組織の基底層の細胞に比べて癌細胞では大型の核により強い免疫反応性が認められ、細胞あたりのMcm蛋白質の発現量が増大していることが示された。これに対し、細胞異型を伴っているが、病理組織学的に癌組織とは認められないdysplasiaについては、正常な扁平上皮組織に比べてやや広い範囲の細胞層で陽性所見が認められたものの、癌組織に比べては依然として分布が基底層に近い部分に限局しており、Mcm蛋白質の発現パターンから癌組織と明瞭に区別できることが示された。
【0062】
腺癌の一つである大腸癌についても同様の免疫組織化学的解析を行った結果、正常大腸粘膜ではMcm3又は4蛋白質が陽性の細胞は基底層に限局して分布しているのに対し、癌組織では瀰漫性に陽性細胞が認められ、しばしば大型の核に強い免疫反応性が認められた。このことから、腺癌においても前記扁平上皮癌と同様に癌化の判定が行えることがわかった。
【0063】
【発明の効果】
本発明によれば、癌細胞において特異的にMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を変化させる能力を有する物質のスクリーニングを行うことができ、かくして選択された物質を有効成分として含む抗癌剤が提供される。該抗癌剤は、非癌細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量には変化を与えないことから、副作用の少ない抗癌剤となり得る。また、Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に基づいて組織の癌化を判定する方法が提供され、本法によれば、従来の一般的な組織染色法では時に判別が困難であったdysplasiaのような境界病変についても、癌組織と明確に区別することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】HeLa細胞及びWI−38細胞由来の細胞抽出液について、Mcm2〜7の蛋白質、PCNA、ORC2の量を化学発光法により検出したウエスタンブロットの結果を示す写真である。最下図はHistonesの検出を目的として電気泳動後のゲルをCBB染色した結果を示す写真である。「(A)total」は細胞の総蛋白質の抽出液、「(B)chromatin」はクロマチン結合画分の抽出液を用いた結果を示す。図中、「HeLa」はHeLa細胞、「WI」はWI−38細胞を意味する。
【図2】GM00637細胞及びWI−38細胞由来の細胞抽出液について、Mcm2〜7の蛋白質、PCNA、ORC2の量を化学発光法により検出したウエスタンブロットの結果を示す写真である。最下図はHistonesの検出を目的として電気泳動後のゲルをCBB染色した結果を示す写真である。「(A)total」は細胞の総蛋白質の抽出液、「(B)chromatin」はクロマチン結合画分の抽出液を用いた結果を示す。図中、「GM」はGM00637細胞、「WI」はWI−38細胞を意味する。
Claims (9)
- 癌細胞及び非癌細胞に被験物質を添加し、これらの細胞におけるMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を検出して、非癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量には変化を与えず、癌細胞のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量に変化を与える物質を選択することを特徴とする、癌細胞特異的にMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を変化させる能力を有する物質のスクリーニング方法。
- 癌細胞が扁平上皮癌又は腺癌由来の細胞である請求項1に記載の方法。
- 扁平上皮癌が子宮頸癌である請求項2に記載の方法。
- 腺癌が大腸癌である請求項2に記載の方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の方法により選択される物質を有効成分として含む抗癌剤。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の方法により選択される物質を製剤化することを特徴とする抗癌剤の製造方法。
- 癌に罹患していることが疑われる患者から癌化が疑われる組織を採取して、該組織細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量を検出し、該量を非癌細胞中のMcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量と比較することを特徴とする組織の癌化の判定方法。
- 組織の癌化の判定が、境界病変と癌組織とを判別するものである請求項7に記載の方法。
- Mcm2〜7の遺伝子発現量又は蛋白質量の検出が免疫学的方法によるものである請求項7又は8に記載の方法。
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