JP2004113112A - 哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】癌を早期に発見するための診断方法や治療方法等の評価に適する、遺伝子異常の検出に基づいた哺乳動物由来の検体の癌化度評価方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法であって、
(1)哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin (actin binding protein homologue) 遺伝子のメチル化頻度又はそれに相関関係がある指標値を測定する第一工程、及び
(2)測定された前記メチル化頻度又はそれに相関関係がある指標値と、対照とを比較することにより得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定する第二工程
を有することを特徴とする評価方法
等に関する。
【選択図】 なし
【解決手段】本発明は、哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法であって、
(1)哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin (actin binding protein homologue) 遺伝子のメチル化頻度又はそれに相関関係がある指標値を測定する第一工程、及び
(2)測定された前記メチル化頻度又はそれに相関関係がある指標値と、対照とを比較することにより得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定する第二工程
を有することを特徴とする評価方法
等に関する。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法等に関する。
【0002】
【従来の技術】
癌が遺伝子異常を原因とする疾病であること等が次第に明らかになりつつあるが、癌患者の死亡率は未だ高く、現在利用可能な診断方法や治療方法等の評価が必ずしも十分に満足できるものではないことを示している。その1つの原因として癌組織の種類に基づく多様性、マーカーとなる遺伝子等の低い正確性や低い検出感度等が考えられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、癌を早期に発見するための診断方法や治療方法等の評価に適する、遺伝子異常の検出に基づいた哺乳動物由来の検体の癌化度評価方法の開発が切望されている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる状況の下、鋭意検討した結果、癌細胞株においてGamma filamin遺伝子が、健常者の組織検体と比較して有意に高い頻度でメチル化されていること、そして、この癌細胞株においては、Gamma filamin遺伝子の発現レベルが健常者の組織検体と比較して有意に低いことを見出し、さらに、癌細胞株にDNAメチル化阻害剤を作用させることにより、かかる遺伝子の発現レベルを増加させ得ることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、
1.哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法であって、
(1)哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度又はそれに相関関係がある指標値を測定する第一工程、及び
(2)測定された前記メチル化頻度又はそれに相関関係がある指標値と、対照とを比較することにより得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定する第二工程
を有することを特徴とする評価方法(以下、本発明評価方法と記すこともある。);
2.哺乳動物由来の検体が細胞であることを特徴とする前項1記載の評価方法;
3.哺乳動物由来の検体が組織であることを特徴とする前項1記載の評価方法;
4.哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法であって、
(1)哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度を測定する第一工程、及び
(2)測定された前記メチル化頻度と、対照とを比較することにより得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定する第二工程
を有することを特徴とする評価方法;
5.哺乳動物由来の検体が細胞であって、かつ、当該検体の癌化度が哺乳動物由来の細胞の悪性度であることを特徴とする前項1記載の評価方法;
6.哺乳動物由来の検体が細胞であって、かつ、当該検体の癌化度が哺乳動物由来の細胞の悪性度であることを特徴とする前項4記載の評価方法;
7.哺乳動物由来の検体が組織であって、かつ、当該検体の癌化度が哺乳動物由来の組織における癌細胞の存在量であることを特徴とする前項1記載の評価方法;
8.哺乳動物由来の検体が組織であって、かつ、当該検体の癌化度が哺乳動物由来の組織における癌細胞の存在量であることを特徴とする前項4記載の評価方法;
9.組織が胃粘膜層、胃粘膜下組織層、筋層及び漿膜層であって、かつ、癌が胃癌であることを特徴とする前項8記載の評価方法;
10.遺伝子のメチル化頻度が、当該遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する一つ以上の5’−CG−3’で示される塩基配列中のシトシンのメチル化頻度であることを特徴とする前項1又は4記載の評価方法;
11.組織が胃粘膜層、胃粘膜下組織層、筋層及び漿膜層であって、かつ、癌が胃癌であることを特徴とする前項10記載の評価方法;
12.遺伝子のメチル化頻度が、当該遺伝子の非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する一つ以上の5’−CG−3’で示される塩基配列中のシトシンのメチル化頻度であることを特徴とする前項1又は4記載の評価方法;
13.遺伝子のメチル化頻度が、当該遺伝子の非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する一つ以上の5’−CG−3’で示される塩基配列中のシトシンのメチル化頻度であることを特徴とする前項1又は4記載の評価方法;
14.遺伝子のメチル化頻度が、配列番号1で示される塩基配列内に存在する一つ以上の5’−CG−3’で示される塩基配列中のシトシンのメチル化頻度であることを特徴とする前項1記載の評価方法;
15.組織が胃粘膜層、胃粘膜下組織層、筋層及び漿膜層であって、かつ、癌が胃癌であることを特徴とする前項14記載の評価方法;
16.哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法であって、
(1)哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値を測定する第一工程、及び
(2)測定された前記メチル化頻度に相関関係がある指標値と、対照とを比較することにより得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定する第二工程
を有することを特徴とする評価方法;
17.Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値が、Gamma filamin遺伝子の発現産物の量であることを特徴とする前項16記載の評価方法;
18.Gamma filamin遺伝子の発現産物の量が、当該遺伝子の転写産物の量であることを特徴とする前項17記載の評価方法;
19.Gamma filamin遺伝子の発現産物の量が、当該遺伝子の翻訳産物の量であることを特徴とする前項17記載の評価方法;
20.Gamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を有する物質の探索方法であって、
(1)癌細胞に被験物質を接触させる第一工程、
(2)第一工程(1)後に、前記癌細胞に含まれるGamma filamin遺伝子の発現産物量を測定する第二工程、
(3)測定された発現産物の量と対照とを比較することにより得られる差異に基づき被験物質が有するGamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を判定する第三工程
を有することを特徴とする探索方法(以下、本発明探索方法と記すこともある。);
21.癌細胞が胃癌細胞であることを特徴とする前項20記載の探索方法;
22.有効成分として、前項20の探索方法により見出された能力を有する物質を含み、当該有効成分が薬学的に許容される担体中に製剤化されてなることを特徴とする抗癌剤:
23.有効成分として、Gamma filaminのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸を含み、当該有効成分が薬学的に許容される担体中に製剤化されてなることを特徴とする抗癌剤;
24.癌マーカーとしての、メチル化されたGamma filamin遺伝子の使用;
25.癌マーカーが胃癌マーカーであることを特徴とする前項24記載の使用;
26.癌であると診断されうる哺乳動物の体内にある細胞に、Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度を低下させる物質を投与する工程を有することを特徴とする癌化抑制方法;
27.癌が胃癌であることを特徴とする前項26記載の癌化抑制方法;
【0005】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明は、癌マーカー(例えば、胃癌マーカー等)としての、メチル化されたGamma filamin遺伝子(以下、ABPL又はFLNC遺伝子と記すこともある。)の使用等に関連する発明である。
本発明においてマーカー遺伝子として用いられるGamma filamin遺伝子としては、例えば、ヒト由来のGamma filamin遺伝子のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むコーディング領域とその5’上流に位置するプロモーター領域とを含む遺伝子をあげることができる。具体的には、ヒト由来のGamma filamin遺伝子[Biochem. Biophys. Res. Commun. 251, 914−919 (1998)]のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む非翻訳領域及び翻訳領域(コーディング領域)とその5’上流に位置するプロモーター領域とを含む遺伝子等があげられる。ヒト由来のGamma filamin遺伝子のアミノ酸配列とそれをコードする塩基配列は、例えば、Genbank Accession No.NM_001458等に記載されている。また、ヒト由来のGamma filamin遺伝子のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む非翻訳領域及び翻訳領域(コーディング領域)のうち、最も5’上流側に位置するエクソン(以下、エクソン1と記す。)と、その5’上流に位置するプロモーター領域とが含まれるゲノムDNAの塩基配列は、例えば、Genbank Accession No.AC074373等に記載されている。Genbank Accession No.AC074373に記載される塩基配列63528〜64390の相補的な配列を配列番号1に示しており、その配列番号において、例えば、ヒト由来のGamma filaminタンパク質のアミノ酸配列の末端に位置するメチオニンをコードするATGコドンは、塩基番号572〜574に示されており、上記エクソン1の塩基配列は、塩基番号463〜863に示されている。本発明において利用されるGamma filamin遺伝子には、上記の公知の塩基配列を有する遺伝子のほか、かかる塩基配列に、生物の種差、個体差若しくは器官、組織間の差異等により天然に生じる変異による塩基の欠失、置換若しくは付加が生じた塩基配列を有する遺伝子も含まれる。
【0006】
哺乳動物では、遺伝子(ゲノムDNA)を構成する4種類の塩基のうち、シトシンのみがメチル化されるという現象がある。哺乳動物由来の、例えば、Gamma filamin遺伝子では、当該遺伝子のゲノムDNAの一部のシトシンがメチル化されている。そして、DNAのメチル化修飾は、5’−CG−3’で示される塩基配列(Cはシトシンを表し、Gはグアニンを表す。以下、当該塩基配列をCpGと記すこともある。)中のシトシンに限られる。シトシンにおいてメチル化される部位は、その5位である。細胞分裂に先立つDNA複製に際して、複製直後は鋳型鎖のCpG中のシトシンのみがメチル化された状態となるが、メチル基転移酵素の働きにより即座に新生鎖のCpG中のシトシンもメチル化される。従って、DNAのメチル化の状態は、DNA複製後も、新しい2組のDNAにそのまま引き継がれることになる。
【0007】
本発明評価方法の第一工程において「メチル化頻度」とは、例えば、調査対象となるCpG中のシトシンのメチル化の有無を複数のハプロイドについて調べたときの、当該シトシンがメチル化されているハプロイドの割合で表される。
また本発明評価方法の第一工程において「(メチル化頻度)に相関関係がある指標値」とは、例えば、Gamma filamin遺伝子の発現産物の量(より具体的には、当該遺伝子の転写産物の量や、当該遺伝子の翻訳産物の量)等をあげることができる。このような発現産物の量の場合には、上記メチル化頻度が高くなればそれに伴い減少するような負の相関関係が存在する。
【0008】
本発明評価方法の第一工程における哺乳動物由来の検体としては、例えば、胃癌細胞等の癌細胞若しくはそれを含む組織、及び、胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAが含まれる可能性のある、細胞、それを含む組織(ここでの組織とは、血液、血漿、血清、リンパ液等の体液、リンパ節等を含む広義の意味である。)若しくは体分泌物(尿や乳汁等)等の生体試料をあげることができる。具体的には、例えば、癌が胃癌である場合、被験動物から採取された胃粘膜層(表層上皮、腺組織、粘膜固有層及び粘膜筋板)、胃粘膜下組織層、(固有)筋層及び漿膜層等をあげることができる。
これらの生体試料はそのまま検体として用いてもよく、また、かかる生体試料から分離、分画、固定化等の種々の操作により調製された生体試料を検体として用いてもよい。
哺乳動物由来の検体が血液である場合には、定期健康診断や簡便な検査等での本発明評価方法の利用が期待できる。
【0009】
本発明評価方法の第一工程において、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度又はそれに相関関係がある指標値を測定する方法は、例えば、以下のように行えばよい。
【0010】
第一の方法として、まず哺乳動物由来の検体から、例えば、市販のDNA抽出用キット等を用いてDNAを抽出する。
因みに、血液を検体として用いる場合には、血液から通常の方法に準じて血漿又は血清を調製し、調製された血漿又は血清を検体としてその中に含まれる遊離DNA(胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAが含まれる)を分析すると、血球由来のDNAを避けて胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAを解析することができ、胃癌細胞等の癌細胞、それを含む組織等を検出する感度を向上させることができる。
次いで、抽出されたDNAを、非メチル化シトシンを修飾する試薬と接触させた後、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列中のシトシンを含むDNAを、解析対象とするシトシンのメチル化の有無を識別可能なプライマーを用いてポリメラーゼチェイン反応(以下、PCRと記す。)で増幅し、得られる増幅産物の量を調べる。
ここで、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列としては、ヒト由来のGamma filamin遺伝子のエクソン1と、その5’上流に位置するプロモーター領域とが含まれるゲノムDNAの塩基配列をあげることができ、より具体的には、配列番号1で示される塩基配列(Genbank Accession No.AC074373に記載される塩基配列の塩基番号63528〜64390で示される塩基配列の相補的配列に相当する。)があげられる。配列番号1で示される塩基配列においては、ヒト由来のGamma filaminタンパク質のアミノ末端のメチオニンをコードするATGコドンが、塩基番号572〜574に示されており、上記エクソン1の塩基配列は、塩基番号463〜863に示されている。配列番号1で示される塩基配列中に存在するCpGで示される塩基配列中のシトシン、とりわけ配列番号1で示される塩基配列においてCpGが密に存在する領域中に存在するCpG中のシトシンは、例えば、胃癌細胞等の癌細胞において高いメチル化頻度(即ち、高メチル化状態(hypermethylation))を示す。さらに具体的には、胃癌細胞においてメチル化頻度が高いシトシンとしては、例えば、配列番号1で示される塩基配列において、塩基番号329、333、337、350、353、360、363、370、379、382、384、409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505等で示される塩基番号であるシトシンをあげることができる。
【0011】
非メチル化シトシンを修飾する試薬としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等の重亜硫酸塩(bisulfite)等を用いることができる。因みに、原理的には、メチル化シトシンのみを特異的に修飾する試薬を用いても良い。
【0012】
非メチル化シトシンを修飾する試薬に抽出されたDNAを接触させるには、例えば、まず当該DNAをアルカリ溶液(pH9〜14)で変性した後、亜硫酸水素ナトリウム等の重亜硫酸塩(bisulfite)(溶液中の濃度:例えば、終濃度3M)等で約10〜16時間(一晩)程度、55℃で処理する。反応を促進するため、95℃での変性と、55℃での反応を10−20回繰り返すことも出来る。この場合、メチル化されていないシトシンはウラシルに変換され、一方、メチル化されているシトシンはウラシルに変換されず、シトシンのままである。
次いで、重亜硫酸塩等で処理されたDNAを鋳型とし、かつ、メチル化されたシトシンが含まれる場合の塩基配列[メチル化される位置のシトシン(CpG中のシトシン)はシトシンのままであり、メチル化されていないシトシン(CpGに含まれないシトシン)はウラシルとなった塩基配列]とかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列からそれぞれ選ばれる一対のメチル化特異的プライマーを用いるPCR(以下、メチル化特異的PCRとも記すこともある。)、と、重亜硫酸塩等で処理されたDNAを鋳型とし、かつ、シトシンがメチル化されていない場合の塩基配列(全てのシトシンがウラシルとなった塩基配列)とかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列からそれぞれ選ばれる一対の非メチル化特異的プライマーを用いるPCR(以下、非メチル化特異的PCRとも記すこともある。)とを行う。
上記PCRにおいて、メチル化特異的プライマーを用いるPCRの場合(前者)には、解析対象とするシトシンがメチル化されているDNAが増幅され、一方、非メチル化特異的プライマーを用いるPCRの場合(後者)には、解析対象とするシトシンがメチル化されていないDNAが増幅される。これらの増幅産物の量を比較することにより、対象となるシトシンのメチル化の有無を調べる。このようにしてメチル化頻度を測定することができる。
【0013】
ここで、メチル化特異的プライマーは、メチル化を受けていないシトシンがウラシルに変換され、かつ、メチル化を受けているシトシンはウラシルに変換されないことを考慮して、メチル化を受けているシトシンを含む塩基配列に特異的なPCRプライマー(メチル化特異的プライマー)を設計し、また、メチル化を受けていないシトシンを含む塩基配列に特異的なPCRプライマー(非メチル化特異的プライマー)を設計する。重亜硫酸塩処理により化学的に変換され相補的ではなくなったDNA鎖を基に設計することから、元来二本鎖であったDNAのそれぞれの鎖を基に、それぞれからメチル化特異的プライマーと非メチル化特異的プライマーとを作製することもできる。かかるプライマーは、メチル、非メチルの特異性を高めるために、プライマーの3’末端近傍にCpG中のシトシンを含むように設計することが好ましい。また、解析を容易にするために、プライマーの一方を標識してもよい。
【0014】
より具体的には、Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度をメチル化特異的PCRで測定するためのプライマーは、例えば、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)にある塩基配列内に存在するCpG中のシトシンを1以上含む塩基配列を基にして、上記のようにして設計することができる。例えば、配列番号1で示される塩基配列においてCpGが密に存在する領域中に存在するCpG中のシトシン、具体的には、配列番号1で示される塩基配列において塩基番号329、333、337、350、353、360、363、370、379、382、384、409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505等で示されるシトシンを1以上含む塩基配列を基に設計することができる。かかるプライマーの例を以下に示す。
<非メチル化特異的プライマー>
U1:5’−GAGAGAGAGTTAGAGAGTGGTTGAGT−3’(配列番号2)
U2:5’−AACCACAAAACTCACTACACTACA−3’(配列番号3)
<メチル化特異的プライマー>
M1:5’−GAGAGAGAGTTAGAGAGCGGTCGAGC−3’(配列番号4)
M2:5’−GACCACGAAACTCGCTACGCTACG−3’(配列番号5)
【0015】
メチル化特異的PCRにおける反応液としては、例えば、鋳型とするDNAを50ngと、10pmol/μlの各プライマー溶液を各1μlと、2.5mM dNTPを4μlと、10×緩衝液(100mM Tris−HCl pH8.3、500mM KCl、20mM MgCl2)を2.5μlと、耐熱性DNAポリメラーゼ 5U/μlを0.2μlとを混合し、これに滅菌超純水を加えて液量を25μlとした反応液をあげることができる。反応条件としては、例えば、前記のような反応液を、95℃にて10分間保温した後、95℃にて30秒間次いで55〜65℃にて30秒間さらに72℃にて30秒間を1サイクルとする保温を30〜40サイクル行う条件があげられる。
かかるPCRを行った後、得られた増幅産物の量を比較する。例えば、メチル化特異的プライマーを用いたPCRと非メチル化特異的プライマーを用いたPCRで得られた各々の増幅産物の量を比較することができる分析方法(変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動やアガロースゲル電気泳動)である場合には、電気泳動後のゲルをDNA染色して増幅産物のバンドを検出し、検出されたバンドの濃度を比較する。ここでDNA染色の代わりに予め標識されたプライマーを使用してその標識を指標としてバンドの濃度を比較することもできる。
【0016】
このような方法は、一般にメチル化特異的PCRとも呼ばれ、Herman等(Herman et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA, 93, 9821−9826, 1996)等により報告されている方法であって、シトシンと5−メチルシトシンとの化学的性質の違いを利用する方法である。
【0017】
第二の方法として、まず哺乳動物由来の検体から、例えば、市販のDNA抽出用キット等を用いてDNAを抽出する。
因みに、血液を検体として用いる場合には、血液から通常の方法に準じて血漿又は血清を調製し、調製された血漿又は血清を検体としてその中に含まれる遊離DNA(胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAが含まれる)を分析すると、血球由来のDNAを避けて胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAを解析することができ、胃癌細胞等の癌細胞、それを含む組織等を検出する感度を向上させることができる。
次いで、抽出されたDNAを、非メチル化シトシンを修飾する試薬と接触させた後、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列中のシトシンを含むDNAを基にして後述するように設計されるプライマーを用いてポリメラーゼチェイン反応(以下、PCRと記す。)で増幅し、得られる増幅産物の塩基配列を直接的に解析する方法をあげることもできる。
ここで、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列としては、ヒト由来のGamma filamin遺伝子のエクソン1と、その5’上流に位置するプロモーター領域とが含まれるゲノムDNAの塩基配列をあげることができ、より具体的には、配列番号1で示される塩基配列(Genbank Accession No.AC074373に記載される塩基配列の塩基番号63528〜64390で示される塩基配列の相補的配列に相当する。)があげられる。配列番号1で示される塩基配列においては、ヒト由来のGamma filaminタンパク質のアミノ末端のメチオニンをコードするATGコドンが、塩基番号572〜574に示されており、上記エクソン1の塩基配列は、塩基番号463〜863に示されている。配列番号1で示される塩基配列中に存在するCpGで示される塩基配列中のシトシン、とりわけ配列番号1で示される塩基配列においてCpGが密に存在する領域中に存在するCpG中のシトシンは、例えば、胃癌細胞等の癌細胞において高いメチル化頻度(即ち、高メチル化状態(hypermethylation))を示す。さらに具体的には、胃癌細胞においてメチル化頻度が高いシトシンとしては、例えば、配列番号1で示される塩基配列において、塩基番号329、333、337、350、353、360、363、370、379、382、384、409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505等で示される塩基番号であるシトシンをあげることができる。
【0018】
当該PCRに用いられるプライマーは、解析対象とするシトシンの5’上流の塩基配列と3’下流の塩基配列を基にして当該シトシンを含む塩基配列を有するDNAを増幅可能なプライマー対を設計するとよい。プライマー設計のための塩基配列は、解析対象とするCpG中のシトシンを含まないように選定する。そして、プライマー設計のために選定された塩基配列が、シトシンを全く含まない場合には、選定された塩基配列及びかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列をそれぞれそのままプライマーの塩基配列とすることができる。また、プライマー設計のために選定された塩基配列が解析対象以外のシトシンを含むが当該シトシンはCpG中のシトシンでない場合には、これらシトシンがウラシルに変換されることを考慮してプライマーを設計する。即ち、全てのシトシンがウラシルとなった塩基配列とかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列をそれぞれ有する一対のプライマーを設計する。さらに、プライマー設計のために選定された塩基配列が解析対象以外のシトシンを含み当該シトシンはCpG中のシトシンである場合には、メチル化を受けていないシトシンがウラシルに変換され、かつ、メチル化を受けているシトシンはウラシルに変換されないことを考慮してプライマーを設計する。即ち、メチル化されたシトシンが含まれる場合の塩基配列[メチル化される位置のシトシン(CpG中のシトシン)はシトシンのままであり、メチル化されていないシトシン(CpGに含まれないシトシン)はウラシルとなった塩基配列]とかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列からそれぞれ選定された一対のメチル化特異的プライマーと、シトシンがメチル化されていない場合の塩基配列(全てのシトシンがウラシルとなった塩基配列)とかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列をそれぞれ有する一対の非メチル化特異的プライマーとを設計する。この場合、上記のPCRには、メチル化特異的プライマー対と非メチル化特異的プライマー対とを等量ずつ混合して用いる。
【0019】
非メチル化シトシンを修飾する試薬としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等の重亜硫酸塩(bisulfite)等を用いることができる。因みに、原理的には、メチル化シトシンのみを修飾する試薬を用いても良い。
【0020】
非メチル化シトシンを修飾する試薬に抽出されたDNAを接触させるには、例えば、まず当該DNAをアルカリ溶液(pH9〜14)で変性した後、亜硫酸水素ナトリウム等の重亜硫酸塩(bisulfite)(溶液中の濃度:例えば、終濃度3M)等で約10〜16時間(一晩)程度、55℃で処理する。反応を促進するため、95℃での変性と、55℃での反応を10−20回繰り返すことも出来る。この場合、メチル化されていないシトシンはウラシルに変換され、一方、メチル化されているシトシンはウラシルに変換されず、シトシンのままである。
次いで、重亜硫酸塩等で処理されたDNAを鋳型とし、かつ、上述するように設計されるプライマーを用いるPCRを行う。得られた増幅産物の塩基配列を比較し当該比較からメチル化頻度を測定することができる。
【0021】
より具体的には、Gamma filamin遺伝子遺伝子のメチル化頻度を塩基配列の直接的解析で測定するためのプライマーは、例えば、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)にある塩基配列内に存在するCpG中のシトシンを1以上含む塩基配列を基にして、上記のようにして設計することができる。例えば、配列番号1で示される塩基配列においてCpGが密に存在する領域中に存在するCpG中のシトシン、具体的には、配列番号1で示される塩基配列において塩基番号329、333、337、350、353、360、363、370、379、382、384、409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505 等で示されるシトシンを1以上含む塩基配列を基に設計することができる。かかるプライマーの例を以下に示す。
因みに、配列番号1で示される塩基配列において塩基番号409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505で示されるシトシンのメチル化頻度を調べるために、上記のようにして設計されたプライマーを用いると、配列番号1における塩基番号386〜530のbisulfite処理後の塩基配列に相当するDNA(145bp)が増幅される。
<プライマー>
B1:5’−AGAGAAGTTGGAGAGGAGAGTAG−3’(配列番号6)
B2:5’−AACCRCTATTATTCATCATACTAAC−3’ R= G and Aの等量混合物(配列番号7)
【0022】
PCRにおける反応液としては、例えば、鋳型とするDNAを50ngと、20pmol/μlの各プライマー溶液を各1μlと、2mM dNTPを3μlと、10×緩衝液(100mM Tris−HCl pH 8.3、500mM KCl、15mM MgCl2)を2.5μlと、耐熱性DNAポリメラーゼ 5U/μlを0.2μlとを混合し、これに滅菌超純水を加えて液量を25μlとした反応液をあげることができる。反応条件としては、例えば、前記のような反応液を、95℃にて10分間保温した後、95℃にて30秒間次いで55℃にて30秒間さらに72℃にて30秒間を1サイクルとする保温を30〜40サイクル行う条件があげられる。
かかるPCRを行った後、得られた増幅産物の塩基配列を比較し当該比較からメチル化頻度を測定する。
即ち、当該増幅産物の塩基配列を直接的に解析することにより、解析対象とするシトシンに相当する位置の塩基がシトシンであるかチミン(ウラシル)であるかを判定する。得られた増幅産物における塩基を示すピークのチャートにおいて、解析対象とするシトシンに相当する位置に検出されたシトシンを示すピークの面積とチミン(ウラシル)を示すピークの面積とを比較することにより、解析対象となるシトシンのメチル化の頻度を測定することができる。また、塩基配列を直接的に解析する方法として、PCRで得られた増幅産物を一旦大腸菌等を宿主としてクローニングして得られた複数のクローンからそれぞれクローニングされたDNAを調製し、当該DNAの塩基配列を解析してもよい。解析される試料のうちの解析対象とするシトシンに相当する位置に検出された塩基がシトシンである試料の割合を求めることにより、解析対象となるシトシンのメチル化の頻度を測定することもできる。
【0023】
第三の方法として、まず哺乳動物由来の検体から、例えば、市販のDNA抽出用キット等を用いてDNAを抽出する。
因みに、血液を検体として用いる場合には、血液から通常の方法に準じて血漿又は血清を調製し、調製された血漿又は血清を検体としてその中に含まれる遊離DNA(胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAが含まれる)を分析すると、血球由来のDNAを避けて胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAを解析することができ、胃癌細胞等の癌細胞、それを含む組織等を検出する感度を向上させることができる。
次いで、抽出されたDNAを、非メチル化シトシンを修飾する試薬と接触させた後、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列中のシトシンを含むDNAと、解析対象とするシトシンのメチル化の有無を識別可能なプローブとをハイブリダイゼーションさせ、前記DNAと当該プローブとの結合の有無を調べる方法をあげることもできる。
ここで、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列としては、ヒト由来のGamma filamin遺伝子のエクソン1と、その5’上流に位置するプロモーター領域とが含まれるゲノムDNAの塩基配列をあげることができ、より具体的には、、配列番号1で示される塩基配列(Genbank Accession No.AC074373に記載される塩基配列の塩基番号63528〜64390で示される塩基配列の相補的配列に相当する。)があげられる。配列番号1で示される塩基配列においては、ヒト由来のGamma filaminタンパク質のアミノ末端のメチオニンをコードするATGコドンが、塩基番号572〜574に示されており、上記エクソン1の塩基配列は、塩基番号463〜863に示されている。配列番号1で示される塩基配列中に存在するCpGで示される塩基配列中のシトシン、とりわけ配列番号1で示される塩基配列においてCpGが密に存在する領域中に存在するCpG中のシトシンは、例えば、胃癌細胞等の癌細胞において高いメチル化頻度(即ち、高メチル化状態(hypermethylation))を示す。さらに具体的には、胃癌細胞においてメチル化頻度が高いシトシンとしては、例えば、配列番号1で示される塩基配列において、塩基番号329、333、337、350、353、360、363、370、379、382、384、409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505等で示される塩基番号であるシトシンをあげることができる。
【0024】
当該ハイブリダイゼーションに用いられるプローブは、解析対象とするシトシンを含む塩基配列を基にして、メチル化を受けていないシトシンがウラシルに変換され、かつ、メチル化を受けているシトシンはウラシルに変換されないことを考慮して設計するとよい。即ち、メチル化されたシトシンが含まれる場合の塩基配列[メチル化される位置のシトシン(CpG中のシトシン)はシトシンのままであり、メチル化されていないシトシン(CpGに含まれないシトシン)はウラシルとなった塩基配列]又はかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列を有するメチル化特異的プローブと、シトシンがメチル化されていない場合の塩基配列(全てのシトシンがウラシルとなった塩基配列)又はかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する非メチル化特異的プローブを設計する。尚、このようなプローブは、DNAとプローブとの結合の有無についての解析を容易にするために標識してから用いてもよい。またプローブを通常の方法に準じて担体上に固定して用いてもよいが、この場合には、哺乳動物由来の検体から抽出されたDNAを予め標識しておくとよい。
【0025】
非メチル化シトシンを修飾する試薬としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等の重亜硫酸塩(bisulfite)等を用いることができる。因みに、原理的には、メチル化シトシンのみを特異的に修飾する試薬を用いても良い。
【0026】
非メチル化シトシンを修飾する試薬に抽出されたDNAを接触させるには、例えば、まず当該DNAをアルカリ溶液(pH9〜14)で変性した後、亜硫酸水素ナトリウム等の重亜硫酸塩(bisulfite)(溶液中の濃度:例えば、終濃度3M)等で約10〜16時間(一晩)程度、55℃で処理する。反応を促進するため、95℃での変性と、55℃での反応を10−20回繰り返すことも出来る。この場合、メチル化されていないシトシンはウラシルに変換され、一方、メチル化されているシトシンはウラシルに変換されず、シトシンのままである。
必要に応じて、重亜硫酸塩等で処理されたDNAを鋳型として第二の方法と同様にPCRを行うことにより当該DNAを予め増幅させておいてもよい。
次いで、重亜硫酸塩等で処理されたDNA又は前記PCRで予め増幅されたDNAと、解析対象とするシトシンのメチル化の有無を識別可能なプローブとのハイブリダイゼーションを行う。メチル化特異的プローブと結合するDNAの量と、非メチル化特異的プローブと結合するDNAの量とを比較することにより、解析対象となるシトシンのメチル化の頻度を測定することができる。
【0027】
より具体的には、Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度を測定するためのプローブは、例えば、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)にある塩基配列内に存在するCpG中のシトシンを1以上含む塩基配列を基にして、上記のようにして設計することができる。例えば、配列番号1で示される塩基配列においてCpGが密に存在する領域中に存在するCpG中のシトシン、具体的には、配列番号1で示される塩基配列において塩基番号329、333、337、350、353、360、363、370、379、382、384、409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505等で示されるシトシンを1以上含む塩基配列を基に設計することができる。かかるプローブの例を以下に示す。
<セット1>
非メチル化特異的プローブ:5’−GTTTGTTGAGTTTTGTTGAGTTTT−3’(配列番号8)
メチル化特異的プローブ :5’−GTTCGTCGAGTTTCGTCGAGTTTC−3’(配列番号9)
<セット2>
非メチル特異的プローブ:5’−TGTTGTGTAGTGAGTTTTGTGGTT−3’(配列番号10)
メチル化特異的プローブ:5’−CGTAGCGTAGCGAGTTTCGTGGTC−3’(配列番号11)
【0028】
ハイブリダイゼーションは、例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行うことができる。ハイブリダイゼーションは、通常ストリンジェントな条件下に行われる。ここで「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)を含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1−6.3.6)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度は、例えば、2×SSCで50℃の条件(低ストリンジェンシーな条件)から0.2×SSCで50℃までの条件(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェンシーな条件)から65℃(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。また、塩濃度と温度との両方を変えることもできる。
かかるハイブリダイゼーションを行った後、メチル化特異的プローブと結合したDNAの量と、非メチル化特異的プローブと結合したDNAの量とを比較することにより、解析対象となるシトシン(即ち、プローブの設計の基となった塩基配列に含まれるCpG中のシトシン)のメチル化の頻度を測定することができる。
【0029】
第四の方法として、まず哺乳動物由来の検体から、例えば、市販のDNA抽出用キット等を用いてDNAを抽出する。
因みに、血液を検体として用いる場合には、血液から通常の方法に準じて血漿又は血清を調製し、調製された血漿又は血清を検体としてその中に含まれる遊離DNA(胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAが含まれる)を分析すると、血球由来のDNAを避けて胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAを解析することができ、胃癌細胞等の癌細胞、それを含む組織等を検出する感度を向上させることができる。
次いで、抽出されたDNAを、解析対象とするシトシンのメチル化の有無を識別可能な制限酵素に作用させた後、当該制限酵素による消化の有無を調べる方法をあげることもできる。
ここで、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列としては、ヒト由来のGamma filamin遺伝子のエクソン1と、その5’上流に位置するプロモーター領域とが含まれるゲノムDNAの塩基配列をあげることができ、より具体的には、、配列番号1で示される塩基配列(Genbank Accession No.AC074373に記載される塩基配列の塩基番号63528〜64390で示される塩基配列の相補的配列に相当する。)があげられる。配列番号1で示される塩基配列においては、ヒト由来のGamma filaminタンパク質のアミノ末端のメチオニンをコードするATGコドンが、塩基番号572〜574に示されており、上記エクソン1の塩基配列は、塩基番号463〜863に示されている。配列番号1で示される塩基配列中に存在するCpGで示される塩基配列中のシトシン、とりわけ配列番号1で示される塩基配列においてCpGが密に存在する領域中に存在するCpG中のシトシンは、例えば、胃癌細胞等の癌細胞において高いメチル化頻度(即ち、高メチル化状態(hypermethylation))を示す。さらに具体的には、胃癌細胞においてメチル化頻度が高いシトシンとしては、例えば、配列番号1で示される塩基配列において、塩基番号329、333、337、350、353、360、363、370、379、382、384、409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505等で示される塩基番号であるシトシンをあげることができる。
【0030】
当該方法で用いられる「シトシンのメチル化の有無を識別可能な制限酵素」(以下、メチル化感受性制限酵素と記すこともある。)とは、メチル化されたシトシンを含む認識配列を消化せず、メチル化されていないシトシンを含む認識配列を消化することのできる制限酵素を意味する。認識配列に含まれるシトシンがメチル化されているDNAの場合、メチル化感受性制限酵素を作用させても当該DNAは切断されず、一方、認識配列に含まれるシトシンがメチル化されていないDNAの場合、メチル化感受性制限酵素を作用させれば当該DNAは切断される。メチル化感受性酵素の具体的な例としては、例えば、HpaII、BstUI、NarI、SacII等をあげることができる。
【0031】
当該制限酵素による消化の有無を調べる方法としては、例えば、前記DNAを鋳型とし、解析対象とするシトシンを認識配列に含み、当該認識配列以外には前記制限酵素の認識配列を含まないDNAを増幅可能なプライマー対を用いてPCRを行い、DNAの増幅(増幅産物)の有無を調べる方法をあげることができる。解析対象とするシトシンがメチル化されている場合には、増幅産物が得られる。一方、解析対象とするシトシンがメチル化されていない場合には、増幅産物が得られない。このようにして、増幅されたDNAの量とを比較することにより、解析対象となるシトシンのメチル化の頻度を測定することができる。
例えば、配列番号1で示される塩基配列において塩基番号379及び486で示されるシトシンの場合には、当該シトシンはHpaIIの認識配列に含まれており、上記方法により当該シトシンのメチル化頻度を測定することができる。
【0032】
また、当該制限酵素による消化の有無を調べる他の方法としては、例えば、解析対象とするシトシンを認識配列に含むメチル化感受性制限酵素を作用させたDNAに対して、Gamma filamin遺伝子に由来し、かつ、当該制限酵素の認識配列を含まないDNAをプローブとしたサザンハイブリダイゼーションを行い、ハイブリダイズしたDNAの長さを調べる方法をあげることもできる。解析対象とするシトシンがメチル化されている場合には、当該シトシンがメチル化されていない場合よりも長いDNAが検出される。検出された長いDNAの量と短いDNAの量とを比較することにより、解析対象となるシトシンのメチル化の頻度を測定することができる。
【0033】
以上のような各種方法を用いて、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度を測定する。測定されたメチル化頻度と、例えば、胃癌細胞等の癌細胞を持たないと診断され得る健常な哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度(対照)とを比較して、当該比較により得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定する。仮に、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度が対照と比較して高ければ(Gammafilamin遺伝子が対照と比較の上で高メチル化状態であれば)、当該検体の癌化度が対照と比較の上で高いと判定することができる。
ここで「癌化度」とは、一般に当該分野において使用される意味と同様であって、具体的には、例えば、哺乳動物由来の検体が細胞である場合には当該細胞の悪性度を意味し、また、例えば、哺乳動物由来の検体が組織である場合には当該組織における癌細胞の存在量等を意味している。
【0034】
Gamma filamin遺伝子の発現は、健常な哺乳動物由来の細胞や組織等の検体においてよりも胃癌細胞等の癌細胞において低い。これは、胃癌細胞等の癌細胞において当該遺伝子のメチル化頻度が高いために、当該遺伝子が正常に発現できずその結果として当該遺伝子の発現産物の量(より具体的には、転写産物の量や翻訳産物の量)が減少する。このように本発明評価方法等では、メチル化頻度の代わりに、それに相関関係がある指標値(上記の場合には、発現産物の量であって、負の相関関係がある指標値である。)を測定してもよい。
つまり、本発明評価方法では、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値(例えば、発現産物の量)を測定し、測定された前記メチル化頻度に相関関係がある指標値(例えば、発現産物の量)と対照とを比較することにより得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定することができる。
【0035】
本発明評価方法の第一工程において、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値を測定する方法としては、例えば、Gamma filamin遺伝子の転写産物であるmRNAの量を測定する方法をあげることができる。当該測定には、例えば、RT−PCR法、ノザンブロット法〔Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)〕、in situ RT−PCR法〔Nucleic Acids Res.,21,3159−3166(1993)〕、in situハイブリダイゼーション法、NASBA法〔Nucleic acid sequence−based amplification,nature,350,91−92(1991)〕等の公知な方法を用いればよい。
哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子の転写産物であるmRNAを含む試料は、通常の方法に準じて当該検体から抽出、精製等により調製すればよい。
調製された試料中に含まれるmRNAの量を測定するためにノザンブロット法が用いられる場合には、検出用プローブはGamma filamin遺伝子又はその一部(Gammafilamin遺伝子の制限酵素切断、Gamma filamin遺伝子の塩基配列に従い化学合成した約100bp〜約1000bp程度のオリゴヌクレオチド等)を含むものであればよく、前記試料中に含まれるmRNAとのハイブリダイゼーションにおいて用いられる検出条件下に検出可能な特異性を与えるものであれば特に制限はない。
また調製された試料中に含まれるmRNAの量を測定するためにRT−PCR法が用いられる場合には、使用されるプライマーは、Gamma filamin遺伝子のみを特異的に増幅できるものであればよく、その増幅する領域や塩基長等には特に制限はない。かかるプライマーとしては、例えば、以下に示すプライマー(S:sense、A:antisense)等をあげることができる。これらのプライマーを用いて後述の実施例に示すようにしてRT−PCR法による転写産物の量を測定することもできる。
S:5’−AGGAGGAGCCCTCTGAAGTG−3’(配列番号12)
A:5’−TCCTCTGTGGCCCAGTGTGT−3’(配列番号13)
【0036】
また本発明評価方法の第一工程において、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値を測定する他の方法としては、例えば、Gamma filamin遺伝子の翻訳産物であるGamma filaminタンパク質の量を測定する方法をあげることができる。当該測定には、例えば、Gamma filaminタンパク質に対する特異的抗体(モノクロナル抗体、ポリクロナル抗体)を用いた、細胞工学ハンドブック、羊土社、207(1992)等に記載されるイムノブロット法、免疫沈降による分離法、間接競合阻害法(ELISA 法)等の公知な方法を用いればよい。
因みに、Gamma filaminタンパク質に対する特異的抗体は、当該タンパク質を免疫抗原として用いる通常の免疫学的な方法に準じて製造することができる。
【0037】
以上のような各種方法を用いて、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値を測定する。測定されたメチル化頻度に相関関係がある指標値と、例えば、胃癌細胞等の癌細胞を持たないと診断され得る健常な哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値(対照)とを比較して、当該比較により得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定する。仮に、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に正の相関関係がある指標値が対照と比較して高ければ又は負の相関関係がある指標値が対照と比較して低ければ(Gamma filamin遺伝子が対照と比較の上で高メチル化状態であれば)、当該検体の癌化度が対照と比較の上で高いと判定することができる。
【0038】
本発明評価方法における、Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度又はそれに相関関係がある指標値を測定するための各種方法で使用し得るプライマー、プローブ又は特異的抗体は、胃癌細胞等の癌細胞の検出用キットの試薬として有用である。本発明は、これらプライマー、プローブ又は特異的抗体等を試薬として含有する胃癌細胞等の癌細胞の検出用キットや、これらプライマー、プローブ又は特異的抗体等が担体上に固定化されてなる胃癌細胞等の癌細胞の検出用チップも提供しており、本発明評価方法の権利範囲は、当該方法の実質的な原理を利用してなる前記のような検出用キットや検出用チップのような形態での使用ももちろん含むものである。
【0039】
Gamma filamin遺伝子の発現は、健常な哺乳動物由来の細胞や組織等の検体においてよりも胃癌細胞等の癌細胞において低い。一方、後述の実施例でも示すように、Gamma filamin遺伝子に係るDNAメチル化を阻害する物質を胃癌細胞等の癌細胞に作用させることにより、当該遺伝子の発現産物の量を増加させることができる。これは、胃癌細胞等の癌細胞におけるGamma filamin遺伝子の発現レベルの低下又はそれに伴う機能低下を補うことのできる物質−例えば、非メチル化(或いは、癌で認められるようなメチル化異常を起こしていない)Gamma filamin遺伝子[Biochem. Biophys. Res. Commun. 251, 914−919 (1998)]、当該遺伝子の発現産物、当該遺伝子の発現を促進する能力を有する物質(例えば、Gamma filamin遺伝子に係るDNAメチル化を阻害する物質、Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度を低下させる物質)−等は、胃癌等の癌の治療や、胃粘膜層(表層上皮、腺組織、粘膜固有層及び粘膜筋板)、胃粘膜下組織層、(固有)筋層及び漿膜層等の正常組織の癌化抑制に有用であることを意味している。
例えば、Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度を低下させる物質を癌であると診断されうる哺乳動物の体内にある細胞に投与することにより癌化は抑制されるだろう。また例えば、Gamma filamin遺伝子に係るDNAメチル化を阻害する物質を胃癌細胞等の癌細胞に提供することにより、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域又はコーディング領域にある塩基配列中に存在するCpG中のシトシンを正常組織と同様に低メチル化状態(hypomethylation)とし、Gamma filamin遺伝子の転写産物であるmRNAの発現量を増大させ、ひいてはGamma filamin遺伝子の翻訳産物であるGamma filaminタンパク質の発現量を増大させることができるだろう。また例えば、Gamma filamin遺伝子又はGamma filaminタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるcDNAを胃癌細胞等の癌細胞に導入することにより、胃癌細胞等の癌細胞におけるGamma filaminタンパク質の発現量を増大させることができるだろう。
【0040】
つまり、本発明では、(1)有効成分として、Gamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を有する物質を含み、当該有効成分が薬学的に許容される担体中に製剤化されてなることを特徴とする抗癌剤や、(2)有効成分として、Gamma filamin遺伝子のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸を含み、当該有効成分が薬学的に許容される担体中に製剤化されてなることを特徴とする抗癌剤も提供している(以下総じて、本発明抗癌剤と記すこともある。)。
【0041】
本発明抗癌剤の剤型としては通常の製剤であれば特に制限はないが、このような製剤は、薬学的に許容される、例えば、水溶性溶剤、非水溶性溶剤、緩衝剤、溶解補助剤、等張剤、安定剤等の担体に有効成分を配合することにより製造することができる。必要に応じて、防腐剤、懸濁化剤、乳化剤等の補助剤を添加してもよい。また、非経口的に投与する場合(一般的には注射等が好ましい。)には、当該抗癌剤を溶液等の通常の液剤の形態で使用することができる。
本発明抗癌剤は、その有効量を非経口的にヒト等の哺乳動物(例えば、癌であると診断されうる哺乳動物の体内にある細胞)に対し投与することができる。例えば、非経口的に投与する方法としては、例えば、注射(皮下、静脈内、局所)等を挙げることができる。
投与量は、投与される哺乳動物の年令、性別、体重、疾患の程度、本発明抗癌剤の種類、投与形態等によって異なるが、通常は、患者細胞において有効成分が細胞内で有効に働くような濃度レベルと等しい細胞内レベルをもたらす有効成分量を投与すればよい。また、前記の1日の投与量を1回又は数回に分けて投与することができる。
【0042】
ここで、Gamma filamin遺伝子を細胞に導入する方法としては、ウイルスベクターを利用した遺伝子導入方法、非ウイルス性ベクターを利用した遺伝子導入方法(日経サイエンス,1994年4月号,20−45頁、実験医学増刊,12(15)(1994)、実験医学別冊「遺伝子治療の基礎技術」,羊土社(1996))等の方法をあげることができる。
前者の遺伝子導入方法としては、例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス等のDNAウイルス又はRNAウイルスに、TR4又は変異TR4をコードするDNAを組み込んで導入する方法等があげられる。また非ウイルス性ベクターを利用した遺伝子導入方法としては、例えば、発現プラスミドを直接筋肉内に投与する方法(DNAワクチン法)、リポソーム法、リポフェクチン法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等があげられる。
また、Gamma filamin遺伝子のDNAを抗癌剤としての遺伝子治療剤の有効成分として利用する方法としては、当該遺伝子のDNAを直接体内に導入するin vivo法、ヒトから特定な細胞を取り出し体外で当該遺伝子のDNAを当該細胞に導入し、その細胞を体内に戻すex vivo法(日経サイエンス,1994年4月号,20−45頁、月刊薬事,36(1),23−48(1994)、実験医学増刊,12(15)(1994))等をあげることができる。
前者のin vivo法の場合には、前記遺伝子のDNAが疾患、症状等に応じた適当な投与経路により投与され得る。例えば、胃癌細胞、静脈、動脈、皮下、皮内、筋肉内等に注射により投与することができる。
前記抗癌剤としての遺伝子治療剤の剤型としては、注射剤、他には懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤等のリポソーム製剤とすることもできる。このような製剤は、薬学的に許容される、例えば、水溶性溶剤、非水溶性溶剤、緩衝剤、溶解補助剤、等張剤、安定剤等の担体に前記遺伝子(ベクター型若しくはウィルス型、又はプラスミド型の前記遺伝子の形態を含む)を配合することにより製造することができる。必要に応じて、防腐剤、懸濁化剤、乳化剤等の補助剤を添加してもよい。また、非経口的に投与する場合(一般的には注射等が好ましい。)には、当該抗癌剤を溶液等の通常の液剤の形態で使用することができる。
【0043】
本発明探索方法は、Gamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を有する物質の探索方法であって、(1)癌細胞に被験物質を接触させる第一工程、(2)第一工程(1)後に、前記癌細胞に含まれるGamma filamin遺伝子の発現産物量を測定する第二工程、(3)測定された発現産物の量と対照とを比較することにより得られる差異に基づき被験物質が有するGamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を判定する第三工程を有する。
本発明探索方法の第一工程における癌細胞としては、特に制限はなく、哺乳動物由来の癌組織から分離された癌細胞であってもよいし、またセルラインとして確立された哺乳動物由来の癌細胞株であってもよい。前記哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター等をあげることができる。癌の種別としては、胃癌等が好ましくあげられる。具体的には、例えば、MKN28(JCRBから入手可能)、MKN74(JCRBから入手可能)、KATO−III(ATCCから入手可能)、AGS(ATCCから入手可能)、Hs−746T(ATCCから入手可能)、)等の公知なヒト由来の胃癌細胞株をあげることができる。
本発明探索方法の第一工程において癌細胞に被験物質を接触させるための、癌細胞の量としては、通常約104〜108細胞あればよく、約105〜107細胞が好ましい。また被験物質の濃度としては、通常約0.1ng/ml〜約100μg/mlであればよく、約1ng/ml〜約50μg/mlが好ましい。癌細胞に被験物質を接触させる時間は、通常1時間以上5日程度であり、好ましくは数時間から2日程度である。癌細胞に被験物質を接触させる回数は、一回であってもよいし、複数回であってもよい。
癌細胞に被験物質を接触させる環境としては、癌細胞の生命活動を維持させるような環境が好ましく、例えば、当該癌細胞のエネルギー源が共存するような環境をあげることができる。具体的には、培地中で第一工程が行なわれることが好都合である。
本発明探索方法の第二工程において癌細胞に含まれるGamma filamin遺伝子の発現産物量を測定するには、前述にある「本発明評価方法の第一工程において、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値を測定する方法」等に準じて測定すればよい。
本発明探索方法の第二工程において測定された発現産物の量と対照とを比較することにより得られる差異に基づき被験物質が有するGamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を判定するには、前述のように、測定された発現産物量と、例えば、本発明探索方法の第一工程において癌細胞に被験物質を接触させるための被験物質の濃度をゼロとした場合(即ち、癌細胞に被験物質を接触させてない場合)でのGamma filamin遺伝子の発現産物量(対照)とを比較して、当該比較により得られる差異に基づき被験物質が有するGamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を判定する。仮に、被験物質を接触させた癌細胞に含まれるGamma filamin遺伝子の発現産物量が対照(この場合には、被験物質を接触させていない癌細胞に含まれるGamma filamin遺伝子の発現産物量)と比較して高ければ、当該被験物質はGamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を有すると判定することができる。もちろん対照として、癌細胞に他の被験物質を接触させた際のGamma filamin遺伝子の発現産物量を用いてもよく、この場合には、予め当該他の被験物質が有するGamma filamin遺伝子の発現を促進する能力が判っていることが好ましい。
このようにして、Gamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を有する物質を探索することが可能である。尚、バックグランド又はコントロールとして、正常胃細胞株等の正常細胞株や、胃癌細胞等の癌細胞を持たないと診断され得る健常な哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子の発現産物量を、被験物質を接触させた場合及び接触させない場合の両者において測定することが好ましい。
【0044】
【実施例】
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
実施例1 (胃癌細胞株におけるGamma filamin遺伝子のメチル化状態の確認試験(その1))
ヒト由来の胃癌細胞株2種[MKN28(JCRB)及びMKN74(JCRB)]をJCRB(Japan Cancer Research Resources Bank)のカタログに記載された、それぞれの細胞株のための専用培地でコンフルエントになるまで培養した後、各々約1x107細胞を集めた。集められた細胞又はヒト由来の正常胃粘膜上皮組織[患者からインフォームドコンセントを得て入手]に、SEDTAバッファー[10mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM EDTA(pH8.0)、100mM NaCl]を10倍容量加えた後、これをホモジナイズした。得られた混合物に、proteinase K(Sigma)を500μg/ml、ドデシル硫酸ナトリウムを1%(w/v)になるように加えた後、これを55℃で約16時間振とうした。振とう終了後、当該混合物をフェノール[1M Tris−HCl(pH8.0)にて飽和]・クロロホルム抽出処理した。水層を回収し、これにNaClを0.5Nとなるよう加えた後、これをエタノール沈澱することにより沈澱を回収した。回収された沈澱をTEバッファー(10mM Tris、1mM EDTA、pH 8.0)に溶解し、これに40μg/mlになるようにRNase A(Sigma)を加えて37℃で1時間インキュベートした。インキュベートされた混合物をフェノール・クロロホルム抽出処理した。水層を回収し、これにNaClを0.5Nとなるよう加えた後、これをエタノール沈澱することにより沈澱(ゲノムDNA)を回収した。回収された沈澱を70%エタノールでリンスしてゲノムDNAを得た。
得られたゲノムDNAを、制限酵素BamHIにて消化した後、Clark et al., Nucl. Acids. Res., 22, 2990−2997, 1994; Herman et al., Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 9821−9826, 1996に記載される方法に準じて亜硫酸水素ナトリウム処理した。即ち、制限酵素処理後のゲノムDNA(約1μg)を蒸留水に溶解して20μlのゲノムDNA溶液を調製し、これに6M水酸化ナトリウムを約1μl加えた後、当該混合物を室温で15分間放置した。放置された混合物に、120μlの[0.6mMヒドロキノン(Sigma)/3.6N亜硫酸水素ナトリウム(Sigma)]を加えた後、これを95℃にて30秒、50℃にて15分を1サイクルとする保温を15サイクル行った。インキュベートされた液からWizard DNA clean−up system(Promega)を用いてDNAを精製した。精製されたDNAを50μlのTEバッファーに溶解し、これに2.5μlの6M水酸化ナトリウムを加えた後、当該混合物を室温で5分間放置した。次いで、放置された混合物をエタノール沈澱することにより沈澱(DNA)を回収した。回収された沈澱を20μlのTEバッファーに懸濁した。
【0046】
得られたDNAを鋳型とし、配列番号1で示される塩基配列において塩基番号386〜530で示される塩基配列を有するDNA(145bp)のbisulfite処理後のDNA配列をPCRで増幅するために、以下の塩基配列からなるプライマーを合成した。
B1:5’−AGAGAAGTTGGAGAGGAGAGTAG−3’(配列番号6)
B2:5’−AACCRCTATTATTCATCATACTAAC−3’ R= G and Aの等量混合物(配列番号7)
【0047】
PCRの反応液としては、鋳型とするDNAを50ngと、20pmol/μlの上記プライマー溶液各1μlと、each 2mM dNTPを3μlと、10×緩衝液(100mM Tris−HCl pH 8.3、500mM KCl、15mM MgCl2)を2.5μlと、耐熱性DNAポリメラーゼ 5U/μlを0.2μlとを混合し、これに滅菌超純水を加えて液量を25μlとしたものを用いた。当該反応液を、95℃にて10分間保温した後、95℃にて30秒間次いで55℃にて30秒間さらに72℃にて30秒間を1サイクルとする保温を40サイクル行う条件でPCRを行った。PCRを行った後、2%アガロースゲル電気泳動により増幅を確認した。
PCR増産物をDNAをpGEM−T−Easy(Promega)にライゲーションした後、これを大腸菌XL1Blue株に導入した。形質転換された大腸菌のコロニーを、胃癌細胞株1株につき10個ずつピックアップし、それぞれ溶菌させた。得られた大腸菌溶菌液を鋳型とし、上記と同様な条件でPCRを行った。PCRの反応液を上記と同様にアガロースゲル電気泳動に供した後、145bpのDNAを含む部分を切り出し、DNAを抽出した。抽出されたDNAの塩基配列をDNAシークエンサー(ABI310型、PE Biosystems)によって解析した。各コロニーから調製されたDNAのシークエンス結果について、配列番号1で示される塩基配列において塩基番号386〜530で示される領域に存在するCpG中のシトシンがウラシルに置換されているか否かを調べて、試験した10コロニーから調製されたDNAのうち、シトシンがウラシルに置換されていないDNAの頻度、即ち、当該シトシンのメチル化頻度を測定した。
その結果を表1に示した。正常胃粘膜上皮組織(21N)から調製されたDNAの場合には、塩基番号386〜530で示される領域に存在するCpG中のシトシン15個(塩基番号409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505)には、ウラシルに置換されていないDNA(即ち、メチル化されているDNA)がほとんど見出されなかった。一方、胃癌細胞株2種(MKN28及びMKN74)から調製されたDNAの場合には、当該領域に存在するCpG中のシトシンのほとんどがウラシルに置換されていないDNA(即ち、メチル化されているDNA)であることが判った。
【0048】
【表1】
*各シトシンについて、10コロニーから調製されたDNAのうち、当該シトシンがウラシルに置換されていないDNAの数を示す。また解析対象のシトシンは、配列番号1で示される塩基配列における塩基番号で示す。
【0049】
実施例2 (胃癌細胞株におけるGamma filamin遺伝子の発現状態の確認試験と当該遺伝子の発現に対するメチル化阻害剤の効果))
ヒト由来の胃癌細胞株2種(MKN28及びMKN74)を専用培地で70%コンフルエントになるまで培養した後、各々の細胞を集めた。集められた各々の細胞(約100mg湿重量)及びヒト由来の正常胃粘膜上皮組織(21N:約50mg)を1mlのISOGEN溶液(ニッポンジーン)を混合してホモジネートした後、これに0.2mlのクロロホルムを加えて懸濁した。懸濁後、当該混合物を遠心分離(4℃、15000xg、15分間)することにより、上清を回収した。回収された上清に0.5mlのイソプロパノールを加えて懸濁した後、遠心分離(4℃、15000xg、15分間)することにより、沈澱(RNA)を回収した。回収された沈澱を75%エタノールでリンスした後、DEPC(ジエチルピロカーボネート)処理水に溶解した。
また、ヒト由来の胃癌細胞株2種(MKN28及びMKN74)を約3x 105細胞/10cmプレートの密度で接種し、専用培地を用いて培養した。接種後1日目に、メチル化阻害剤である5−aza−2’−deoxycytidine(Sigma製)(以下、5Aza−dCと記す。)を1μMの濃度となるよう培地に添加した。5Aza−dCの添加から24時間後に、5Aza−dCが添加されていない上記の培地に交換し、培養を継続した。次いで、接種後3日目及び5日目に、同様に5Aza−dCを培地に添加した。接種後6日目に細胞を回収し、回収された細胞から上記と同様な方法でRNAを抽出・回収した。
このようにして得られたRNAをDNaseI(Ambion)で処理した後、これを鋳型としSuperscriptII(Invitrogen)を用いて当該酵素に添付されたプロトコールに従いcDNAを合成した。合成されたcDNAを鋳型として、かつ、以下に示したGamma filamin SとGamma filamin Aとをプライマー対として用いたReal Time PCRを行うことにより、Gamma filamin遺伝子のmRNAに由来するDNA(88bp)を増幅した。この際、コントロールとして、上記のcDNAを鋳型として、かつ、以下に示したPCNASとPCNA Aとをプライマー対として用いたPCRを行うことにより、Proliferatingcell nuclear antigen(PCNA)遺伝子のmRNAに由来するDNAを増幅した。
<プライマー(S:sense、A:antisense)>
Gamma filamin S:5’−AGGAGGAGCCCTCTGAAGTG−3’(配列番号12)
Gamma filamin A:5’−TCCTCTGTGGCCCAGTGTGT−3’(配列番号13)
PCNA S: 5’−ATGTCGATAAAGAGGAGGAA−3’(配列番号14)
PCNA A: 5’−AGAGTGGAGTGGCTTTTGTA−3’(配列番号15)
【0050】
PCRの反応液としては、鋳型とするcDNAを50ngと、10pmol/μlの上記プライマー溶液2種を各1μlと、each 2.5mM dNTPを4μlと、5mM dUTPを4μlと、10×SYBR Green PCR Buffer を5μlと、25mM MgCl2を6μlと、耐熱性DNA ポリメラーゼ(AmpliTaq Gold)5 U/μlを0.3μlと、AmpEraseUNGを0.5μlとを混合し、これに滅菌超純水を加えて液量を50μlとしたものを用いた。Real Time PCRは、iCycler Thermal Cycler (Bio−Rad Laboratories)を用いて実施した。Gamma filamin遺伝子のmRNAに由来するDNAを増幅する場合には、当該反応液を、95℃にて10分間保温した後、95℃にて30秒間 62℃にて30秒間、72℃にて30秒間を1サイクルとしてReal Time PCRを行い、PCNA遺伝子のmRNAに由来するDNAを増幅する場合には、当該反応液を、95℃にて10分間保温した後、95℃にて30秒間次いで55℃にて60秒間を1サイクルとしてReal Time PCRを行い、Gamma filamin遺伝子及びPCNA遺伝子を定量した。
その結果を図1に示した。ヒト由来の正常胃粘膜上皮組織(21N)の場合には、Gamma filamin遺伝子のmRNAに由来するDNAが検出されたのに対し、胃癌細胞株2種のいずれの場合においても、当該DNAは検出されなかった。即ち、ヒト由来の正常胃粘膜上皮組織(21N)では、Gamma filamin遺伝子の発現が確認されたのに対し、胃癌細胞株2種のいずれにおいても、Gamma filamin遺伝子の発現が認められなかった。
1μM 5Aza−dCの存在下に培養されたMKN28及びMKN74の場合には、Gamma filamin遺伝子のmRNAに由来するDNAが検出された。尚、PCNA遺伝子のmRNAに由来するDNAは、正常胃粘膜上皮組織(21N)の場合並びに5Aza−dC非存在下に培養された胃癌細胞株MKN28及びMKN74の場合或いは1μM 5Aza−dC存在下に培養されたMKN28及びMKN74の場合のいずれにおいても同様に検出された。即ち、胃癌細胞株MKN28及びMKN74の場合には、メチル化阻害剤の存在下にGamma filamin遺伝子の発現が認められた。
以上の結果から、胃癌細胞株における上記シトシンのメチル化は、メチル化阻害剤により阻害され、かつ、メチル化阻害剤の存在下でGamma filamin遺伝子が発現することが明らかとなった。
【0051】
実施例3 (胃癌細胞株におけるGamma filamin遺伝子のメチル化状態の確認試験(その2)と当該遺伝子の発現に対するメチル化阻害剤の効果)
ヒト由来の胃癌細胞株2種(MKN28及びMKN74)を約3x 105細胞/10cmプレートの密度で接種し、専用培地を用いて培養した。接種後1日目に、メチル化阻害剤である5−aza−2’−deoxycytidine(Sigma製)(以下、5Aza−dCと記す。)を1μMの濃度となるよう培地に添加した。5Aza−dCの添加から24時間後に、5Aza−dCが添加されていない上記の培地に交換し、培養を継続した。次いで、接種後3日目及び5日目に、同様に5Aza−dCを培地に添加した。接種後6日目に細胞を回収し、回収された細胞から実施例1と同様な方法でゲノムDNAを抽出・回収した。
抽出・回収されたゲノムDNAを、実施例1と同様な方法で亜硫酸水素ナトリウム処理した。得られたDNAを鋳型とし、以下に示す非メチル化特異的プライマーU1とU2、又は、メチル化特異的プライマーM1とM2を用いてPCRを行った。非メチル化特異的プライマーU1とU2とを使用した場合、メチル化特異的プライマーM1とM2とを使用した場合共に、配列番号1で示される塩基配列の塩基番号312〜432のbisulfite処理後の塩基配列に相当する121bpのDNAが増幅される。
<非メチル化特異的プライマー>
U1:5’−GAGAGAGAGTTAGAGAGTGGTTGAGT−3’(配列番号2)
U2:5’−AACCACAAAACTCACTACACTACA−3’(配列番号3)
<メチル化特異的プライマー>
M1:5’−GAGAGAGAGTTAGAGAGCGGTCGAGC−3’(配列番号4)
M2:5’−GACCACGAAACTCGCTACGCTACG−3’(配列番号5)
メチル化特異的プライマー及び非メチル化特異的プライマーに、特異性があることを確認するため、まず、正常胃粘膜上皮組織(21N)から通常の方法でゲノムDNAを抽出してDNA(1)を得、さらに得られたDNA(1)の一部をメチル化酵素SssI(NEB社)により処理しゲノムDNAの5’−CG−3’ 全てをメチル化してDNA(2)を得た。得られたDNA(1)及びDNA(2)についても、メチル化特異的PCR及び非メチル化特異的PCRを行った。
【0052】
PCRの反応液としては、鋳型とするDNAを50ngと、20pmol/μlの上記プライマー溶液を各1μlと、each 2mM dNTPを2.5μlと、10×緩衝液(100mM Tris−HCl pH8.3、500mM KCl、20mM MgCl2)を2.5μlと、耐熱性DNAポリメラーゼ 5U/μlを0.2μlとを混合し、これに滅菌超純水を加えて液量を25μlとしたものを用いた。上記の非メチル化特異的プライマーを使用した場合には、当該反応液を、95℃にて10分間保温した後、95℃にて30秒間次いで66℃にて30秒間さらに72℃にて30秒間を1サイクルとする保温を33サイクル行う条件でPCRを行った。また、上記のメチル化特異的プライマーを使用した場合には、当該反応液を、95℃にて10分間保温した後、95℃にて30秒間次いで70℃にて30秒間さらに72℃にて30秒間を1サイクルとする保温を33サイクル行う条件でPCRを行った。いずれの場合も、PCRを行った後、増幅産物を含むPCRの反応液を2% アガロースゲル電気泳動に供した。 その結果を図2に示した。ヒト由来の正常胃粘膜上皮組織(21N)の場合において、非メチル化特異的プライマーを使用した場合(レーンU)には増幅されたDNAのバンドが認められ、メチル化特異的プライマーを使用した場合(レーンM)には増幅されたDNAのバンドが検出されなかった。従って、ヒト由来の正常胃粘膜上皮組織(21N)の場合において、少なくとも、配列番号1で示される塩基配列の塩基番号329、333、337、409、414、419、426及び432でそれぞれ示されるシトシンはメチル化されていないと判断された。また、メチル化阻害剤の非存在下(5Aza−dC 0μM)に培養された胃癌細胞株2種(MKN28、MKN74)の場合において、非メチル化特異的プライマーを使用した場合(レーンU)には増幅されたDNAのバンドが検出されず、メチル化特異的プライマーを使用した場合(レーンM)には増幅されたDNAのバンドが認められた。従って、当該条件においては、配列番号1で示される塩基配列の塩基番号329、333、337、409、414、419、426及び432でそれぞれ示されるシトシンはメチル化されていると判断された。
一方、1μM 5Aza−dCの存在下に培養された胃癌細胞株 MKN28及びMKN74の場合には、非メチル化特異的プライマーを使用した場合(レーンU)には増幅されたDNAのバンドが認められ、メチル化特異的プライマーを使用した場合(レーンM)には弱いバンドが検出されたのみであった。従って、当該条件下においては、多くのゲノムDNAにおいて、配列番号1で示される塩基配列の塩基番号329、333、337、409、414、419、426及び432でそれぞれ示されるシトシンはメチル化されていないと判断された。
以上の結果から、胃癌細胞株における上記のシトシンのメチル化は、メチル化阻害剤により阻害されることが明らかとなった。
【0053】
【発明の効果】
本発明により、哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法等が提供可能となる。
【0054】
[配列表フリーテキスト]
配列番号2
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号3
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号4
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号5
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号6
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号7
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号8
プローブのために設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号9
プローブのために設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号10
プローブのために設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号11
プローブのために設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号12
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号13
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号14
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号15
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
【0055】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】ヒト由来の正常胃粘膜上皮組織(21N)、胃癌細胞株2種(MKN28及びMKN74)、及び、メチル化阻害剤である5Aza−dCを1μMの濃度で添加した胃癌細胞株2種(MKN28及びMKN74)において、Gamma filamin遺伝子のmRNAに由来するDNAをReal Time PCRで増幅して得られたGamma filamin遺伝子量を示した図である。使用した細胞の名前を図の最下部に示した。(−)は、メチル化阻害剤である5Aza−dC非存在下、(+)は、5Aza−dC存在下(1μM)を示す。縦軸は、Gamma filamin遺伝子量をPCNA遺伝子量で除した値を示す。
【図2】ヒト由来の正常胃粘膜上皮組織(21N)及び胃癌細胞株2種(MKN28及びMKN74)から調製され、かつ、亜硫酸水素ナトリウム処理されたゲノムDNAをそれぞれ鋳型としてPCRを行い、PCR後のPCR反応液をアガロースゲル電気泳動で分析した結果を示した図である。使用した細胞の名前を最下部に示した。なお、SssIと記載された図は、21NのゲノムDNAをメチル化酵素SssIで処理して得られたDNAを示す。また、−Azaと記載された図は、当該細胞の培養時に5Aza−dCを1μMの割合で添加処理した細胞を示す。レーンU、非メチル化特異的プライマーを用いたPCRのPCR反応液;レーンM、非メチル化特異的プライマーを用いたPCRのPCR反応液。
【発明の属する技術分野】
本発明は、哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法等に関する。
【0002】
【従来の技術】
癌が遺伝子異常を原因とする疾病であること等が次第に明らかになりつつあるが、癌患者の死亡率は未だ高く、現在利用可能な診断方法や治療方法等の評価が必ずしも十分に満足できるものではないことを示している。その1つの原因として癌組織の種類に基づく多様性、マーカーとなる遺伝子等の低い正確性や低い検出感度等が考えられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、癌を早期に発見するための診断方法や治療方法等の評価に適する、遺伝子異常の検出に基づいた哺乳動物由来の検体の癌化度評価方法の開発が切望されている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、かかる状況の下、鋭意検討した結果、癌細胞株においてGamma filamin遺伝子が、健常者の組織検体と比較して有意に高い頻度でメチル化されていること、そして、この癌細胞株においては、Gamma filamin遺伝子の発現レベルが健常者の組織検体と比較して有意に低いことを見出し、さらに、癌細胞株にDNAメチル化阻害剤を作用させることにより、かかる遺伝子の発現レベルを増加させ得ることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、
1.哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法であって、
(1)哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度又はそれに相関関係がある指標値を測定する第一工程、及び
(2)測定された前記メチル化頻度又はそれに相関関係がある指標値と、対照とを比較することにより得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定する第二工程
を有することを特徴とする評価方法(以下、本発明評価方法と記すこともある。);
2.哺乳動物由来の検体が細胞であることを特徴とする前項1記載の評価方法;
3.哺乳動物由来の検体が組織であることを特徴とする前項1記載の評価方法;
4.哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法であって、
(1)哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度を測定する第一工程、及び
(2)測定された前記メチル化頻度と、対照とを比較することにより得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定する第二工程
を有することを特徴とする評価方法;
5.哺乳動物由来の検体が細胞であって、かつ、当該検体の癌化度が哺乳動物由来の細胞の悪性度であることを特徴とする前項1記載の評価方法;
6.哺乳動物由来の検体が細胞であって、かつ、当該検体の癌化度が哺乳動物由来の細胞の悪性度であることを特徴とする前項4記載の評価方法;
7.哺乳動物由来の検体が組織であって、かつ、当該検体の癌化度が哺乳動物由来の組織における癌細胞の存在量であることを特徴とする前項1記載の評価方法;
8.哺乳動物由来の検体が組織であって、かつ、当該検体の癌化度が哺乳動物由来の組織における癌細胞の存在量であることを特徴とする前項4記載の評価方法;
9.組織が胃粘膜層、胃粘膜下組織層、筋層及び漿膜層であって、かつ、癌が胃癌であることを特徴とする前項8記載の評価方法;
10.遺伝子のメチル化頻度が、当該遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する一つ以上の5’−CG−3’で示される塩基配列中のシトシンのメチル化頻度であることを特徴とする前項1又は4記載の評価方法;
11.組織が胃粘膜層、胃粘膜下組織層、筋層及び漿膜層であって、かつ、癌が胃癌であることを特徴とする前項10記載の評価方法;
12.遺伝子のメチル化頻度が、当該遺伝子の非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する一つ以上の5’−CG−3’で示される塩基配列中のシトシンのメチル化頻度であることを特徴とする前項1又は4記載の評価方法;
13.遺伝子のメチル化頻度が、当該遺伝子の非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する一つ以上の5’−CG−3’で示される塩基配列中のシトシンのメチル化頻度であることを特徴とする前項1又は4記載の評価方法;
14.遺伝子のメチル化頻度が、配列番号1で示される塩基配列内に存在する一つ以上の5’−CG−3’で示される塩基配列中のシトシンのメチル化頻度であることを特徴とする前項1記載の評価方法;
15.組織が胃粘膜層、胃粘膜下組織層、筋層及び漿膜層であって、かつ、癌が胃癌であることを特徴とする前項14記載の評価方法;
16.哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法であって、
(1)哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値を測定する第一工程、及び
(2)測定された前記メチル化頻度に相関関係がある指標値と、対照とを比較することにより得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定する第二工程
を有することを特徴とする評価方法;
17.Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値が、Gamma filamin遺伝子の発現産物の量であることを特徴とする前項16記載の評価方法;
18.Gamma filamin遺伝子の発現産物の量が、当該遺伝子の転写産物の量であることを特徴とする前項17記載の評価方法;
19.Gamma filamin遺伝子の発現産物の量が、当該遺伝子の翻訳産物の量であることを特徴とする前項17記載の評価方法;
20.Gamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を有する物質の探索方法であって、
(1)癌細胞に被験物質を接触させる第一工程、
(2)第一工程(1)後に、前記癌細胞に含まれるGamma filamin遺伝子の発現産物量を測定する第二工程、
(3)測定された発現産物の量と対照とを比較することにより得られる差異に基づき被験物質が有するGamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を判定する第三工程
を有することを特徴とする探索方法(以下、本発明探索方法と記すこともある。);
21.癌細胞が胃癌細胞であることを特徴とする前項20記載の探索方法;
22.有効成分として、前項20の探索方法により見出された能力を有する物質を含み、当該有効成分が薬学的に許容される担体中に製剤化されてなることを特徴とする抗癌剤:
23.有効成分として、Gamma filaminのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸を含み、当該有効成分が薬学的に許容される担体中に製剤化されてなることを特徴とする抗癌剤;
24.癌マーカーとしての、メチル化されたGamma filamin遺伝子の使用;
25.癌マーカーが胃癌マーカーであることを特徴とする前項24記載の使用;
26.癌であると診断されうる哺乳動物の体内にある細胞に、Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度を低下させる物質を投与する工程を有することを特徴とする癌化抑制方法;
27.癌が胃癌であることを特徴とする前項26記載の癌化抑制方法;
【0005】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明は、癌マーカー(例えば、胃癌マーカー等)としての、メチル化されたGamma filamin遺伝子(以下、ABPL又はFLNC遺伝子と記すこともある。)の使用等に関連する発明である。
本発明においてマーカー遺伝子として用いられるGamma filamin遺伝子としては、例えば、ヒト由来のGamma filamin遺伝子のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むコーディング領域とその5’上流に位置するプロモーター領域とを含む遺伝子をあげることができる。具体的には、ヒト由来のGamma filamin遺伝子[Biochem. Biophys. Res. Commun. 251, 914−919 (1998)]のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む非翻訳領域及び翻訳領域(コーディング領域)とその5’上流に位置するプロモーター領域とを含む遺伝子等があげられる。ヒト由来のGamma filamin遺伝子のアミノ酸配列とそれをコードする塩基配列は、例えば、Genbank Accession No.NM_001458等に記載されている。また、ヒト由来のGamma filamin遺伝子のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む非翻訳領域及び翻訳領域(コーディング領域)のうち、最も5’上流側に位置するエクソン(以下、エクソン1と記す。)と、その5’上流に位置するプロモーター領域とが含まれるゲノムDNAの塩基配列は、例えば、Genbank Accession No.AC074373等に記載されている。Genbank Accession No.AC074373に記載される塩基配列63528〜64390の相補的な配列を配列番号1に示しており、その配列番号において、例えば、ヒト由来のGamma filaminタンパク質のアミノ酸配列の末端に位置するメチオニンをコードするATGコドンは、塩基番号572〜574に示されており、上記エクソン1の塩基配列は、塩基番号463〜863に示されている。本発明において利用されるGamma filamin遺伝子には、上記の公知の塩基配列を有する遺伝子のほか、かかる塩基配列に、生物の種差、個体差若しくは器官、組織間の差異等により天然に生じる変異による塩基の欠失、置換若しくは付加が生じた塩基配列を有する遺伝子も含まれる。
【0006】
哺乳動物では、遺伝子(ゲノムDNA)を構成する4種類の塩基のうち、シトシンのみがメチル化されるという現象がある。哺乳動物由来の、例えば、Gamma filamin遺伝子では、当該遺伝子のゲノムDNAの一部のシトシンがメチル化されている。そして、DNAのメチル化修飾は、5’−CG−3’で示される塩基配列(Cはシトシンを表し、Gはグアニンを表す。以下、当該塩基配列をCpGと記すこともある。)中のシトシンに限られる。シトシンにおいてメチル化される部位は、その5位である。細胞分裂に先立つDNA複製に際して、複製直後は鋳型鎖のCpG中のシトシンのみがメチル化された状態となるが、メチル基転移酵素の働きにより即座に新生鎖のCpG中のシトシンもメチル化される。従って、DNAのメチル化の状態は、DNA複製後も、新しい2組のDNAにそのまま引き継がれることになる。
【0007】
本発明評価方法の第一工程において「メチル化頻度」とは、例えば、調査対象となるCpG中のシトシンのメチル化の有無を複数のハプロイドについて調べたときの、当該シトシンがメチル化されているハプロイドの割合で表される。
また本発明評価方法の第一工程において「(メチル化頻度)に相関関係がある指標値」とは、例えば、Gamma filamin遺伝子の発現産物の量(より具体的には、当該遺伝子の転写産物の量や、当該遺伝子の翻訳産物の量)等をあげることができる。このような発現産物の量の場合には、上記メチル化頻度が高くなればそれに伴い減少するような負の相関関係が存在する。
【0008】
本発明評価方法の第一工程における哺乳動物由来の検体としては、例えば、胃癌細胞等の癌細胞若しくはそれを含む組織、及び、胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAが含まれる可能性のある、細胞、それを含む組織(ここでの組織とは、血液、血漿、血清、リンパ液等の体液、リンパ節等を含む広義の意味である。)若しくは体分泌物(尿や乳汁等)等の生体試料をあげることができる。具体的には、例えば、癌が胃癌である場合、被験動物から採取された胃粘膜層(表層上皮、腺組織、粘膜固有層及び粘膜筋板)、胃粘膜下組織層、(固有)筋層及び漿膜層等をあげることができる。
これらの生体試料はそのまま検体として用いてもよく、また、かかる生体試料から分離、分画、固定化等の種々の操作により調製された生体試料を検体として用いてもよい。
哺乳動物由来の検体が血液である場合には、定期健康診断や簡便な検査等での本発明評価方法の利用が期待できる。
【0009】
本発明評価方法の第一工程において、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度又はそれに相関関係がある指標値を測定する方法は、例えば、以下のように行えばよい。
【0010】
第一の方法として、まず哺乳動物由来の検体から、例えば、市販のDNA抽出用キット等を用いてDNAを抽出する。
因みに、血液を検体として用いる場合には、血液から通常の方法に準じて血漿又は血清を調製し、調製された血漿又は血清を検体としてその中に含まれる遊離DNA(胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAが含まれる)を分析すると、血球由来のDNAを避けて胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAを解析することができ、胃癌細胞等の癌細胞、それを含む組織等を検出する感度を向上させることができる。
次いで、抽出されたDNAを、非メチル化シトシンを修飾する試薬と接触させた後、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列中のシトシンを含むDNAを、解析対象とするシトシンのメチル化の有無を識別可能なプライマーを用いてポリメラーゼチェイン反応(以下、PCRと記す。)で増幅し、得られる増幅産物の量を調べる。
ここで、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列としては、ヒト由来のGamma filamin遺伝子のエクソン1と、その5’上流に位置するプロモーター領域とが含まれるゲノムDNAの塩基配列をあげることができ、より具体的には、配列番号1で示される塩基配列(Genbank Accession No.AC074373に記載される塩基配列の塩基番号63528〜64390で示される塩基配列の相補的配列に相当する。)があげられる。配列番号1で示される塩基配列においては、ヒト由来のGamma filaminタンパク質のアミノ末端のメチオニンをコードするATGコドンが、塩基番号572〜574に示されており、上記エクソン1の塩基配列は、塩基番号463〜863に示されている。配列番号1で示される塩基配列中に存在するCpGで示される塩基配列中のシトシン、とりわけ配列番号1で示される塩基配列においてCpGが密に存在する領域中に存在するCpG中のシトシンは、例えば、胃癌細胞等の癌細胞において高いメチル化頻度(即ち、高メチル化状態(hypermethylation))を示す。さらに具体的には、胃癌細胞においてメチル化頻度が高いシトシンとしては、例えば、配列番号1で示される塩基配列において、塩基番号329、333、337、350、353、360、363、370、379、382、384、409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505等で示される塩基番号であるシトシンをあげることができる。
【0011】
非メチル化シトシンを修飾する試薬としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等の重亜硫酸塩(bisulfite)等を用いることができる。因みに、原理的には、メチル化シトシンのみを特異的に修飾する試薬を用いても良い。
【0012】
非メチル化シトシンを修飾する試薬に抽出されたDNAを接触させるには、例えば、まず当該DNAをアルカリ溶液(pH9〜14)で変性した後、亜硫酸水素ナトリウム等の重亜硫酸塩(bisulfite)(溶液中の濃度:例えば、終濃度3M)等で約10〜16時間(一晩)程度、55℃で処理する。反応を促進するため、95℃での変性と、55℃での反応を10−20回繰り返すことも出来る。この場合、メチル化されていないシトシンはウラシルに変換され、一方、メチル化されているシトシンはウラシルに変換されず、シトシンのままである。
次いで、重亜硫酸塩等で処理されたDNAを鋳型とし、かつ、メチル化されたシトシンが含まれる場合の塩基配列[メチル化される位置のシトシン(CpG中のシトシン)はシトシンのままであり、メチル化されていないシトシン(CpGに含まれないシトシン)はウラシルとなった塩基配列]とかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列からそれぞれ選ばれる一対のメチル化特異的プライマーを用いるPCR(以下、メチル化特異的PCRとも記すこともある。)、と、重亜硫酸塩等で処理されたDNAを鋳型とし、かつ、シトシンがメチル化されていない場合の塩基配列(全てのシトシンがウラシルとなった塩基配列)とかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列からそれぞれ選ばれる一対の非メチル化特異的プライマーを用いるPCR(以下、非メチル化特異的PCRとも記すこともある。)とを行う。
上記PCRにおいて、メチル化特異的プライマーを用いるPCRの場合(前者)には、解析対象とするシトシンがメチル化されているDNAが増幅され、一方、非メチル化特異的プライマーを用いるPCRの場合(後者)には、解析対象とするシトシンがメチル化されていないDNAが増幅される。これらの増幅産物の量を比較することにより、対象となるシトシンのメチル化の有無を調べる。このようにしてメチル化頻度を測定することができる。
【0013】
ここで、メチル化特異的プライマーは、メチル化を受けていないシトシンがウラシルに変換され、かつ、メチル化を受けているシトシンはウラシルに変換されないことを考慮して、メチル化を受けているシトシンを含む塩基配列に特異的なPCRプライマー(メチル化特異的プライマー)を設計し、また、メチル化を受けていないシトシンを含む塩基配列に特異的なPCRプライマー(非メチル化特異的プライマー)を設計する。重亜硫酸塩処理により化学的に変換され相補的ではなくなったDNA鎖を基に設計することから、元来二本鎖であったDNAのそれぞれの鎖を基に、それぞれからメチル化特異的プライマーと非メチル化特異的プライマーとを作製することもできる。かかるプライマーは、メチル、非メチルの特異性を高めるために、プライマーの3’末端近傍にCpG中のシトシンを含むように設計することが好ましい。また、解析を容易にするために、プライマーの一方を標識してもよい。
【0014】
より具体的には、Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度をメチル化特異的PCRで測定するためのプライマーは、例えば、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)にある塩基配列内に存在するCpG中のシトシンを1以上含む塩基配列を基にして、上記のようにして設計することができる。例えば、配列番号1で示される塩基配列においてCpGが密に存在する領域中に存在するCpG中のシトシン、具体的には、配列番号1で示される塩基配列において塩基番号329、333、337、350、353、360、363、370、379、382、384、409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505等で示されるシトシンを1以上含む塩基配列を基に設計することができる。かかるプライマーの例を以下に示す。
<非メチル化特異的プライマー>
U1:5’−GAGAGAGAGTTAGAGAGTGGTTGAGT−3’(配列番号2)
U2:5’−AACCACAAAACTCACTACACTACA−3’(配列番号3)
<メチル化特異的プライマー>
M1:5’−GAGAGAGAGTTAGAGAGCGGTCGAGC−3’(配列番号4)
M2:5’−GACCACGAAACTCGCTACGCTACG−3’(配列番号5)
【0015】
メチル化特異的PCRにおける反応液としては、例えば、鋳型とするDNAを50ngと、10pmol/μlの各プライマー溶液を各1μlと、2.5mM dNTPを4μlと、10×緩衝液(100mM Tris−HCl pH8.3、500mM KCl、20mM MgCl2)を2.5μlと、耐熱性DNAポリメラーゼ 5U/μlを0.2μlとを混合し、これに滅菌超純水を加えて液量を25μlとした反応液をあげることができる。反応条件としては、例えば、前記のような反応液を、95℃にて10分間保温した後、95℃にて30秒間次いで55〜65℃にて30秒間さらに72℃にて30秒間を1サイクルとする保温を30〜40サイクル行う条件があげられる。
かかるPCRを行った後、得られた増幅産物の量を比較する。例えば、メチル化特異的プライマーを用いたPCRと非メチル化特異的プライマーを用いたPCRで得られた各々の増幅産物の量を比較することができる分析方法(変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動やアガロースゲル電気泳動)である場合には、電気泳動後のゲルをDNA染色して増幅産物のバンドを検出し、検出されたバンドの濃度を比較する。ここでDNA染色の代わりに予め標識されたプライマーを使用してその標識を指標としてバンドの濃度を比較することもできる。
【0016】
このような方法は、一般にメチル化特異的PCRとも呼ばれ、Herman等(Herman et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA, 93, 9821−9826, 1996)等により報告されている方法であって、シトシンと5−メチルシトシンとの化学的性質の違いを利用する方法である。
【0017】
第二の方法として、まず哺乳動物由来の検体から、例えば、市販のDNA抽出用キット等を用いてDNAを抽出する。
因みに、血液を検体として用いる場合には、血液から通常の方法に準じて血漿又は血清を調製し、調製された血漿又は血清を検体としてその中に含まれる遊離DNA(胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAが含まれる)を分析すると、血球由来のDNAを避けて胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAを解析することができ、胃癌細胞等の癌細胞、それを含む組織等を検出する感度を向上させることができる。
次いで、抽出されたDNAを、非メチル化シトシンを修飾する試薬と接触させた後、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列中のシトシンを含むDNAを基にして後述するように設計されるプライマーを用いてポリメラーゼチェイン反応(以下、PCRと記す。)で増幅し、得られる増幅産物の塩基配列を直接的に解析する方法をあげることもできる。
ここで、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列としては、ヒト由来のGamma filamin遺伝子のエクソン1と、その5’上流に位置するプロモーター領域とが含まれるゲノムDNAの塩基配列をあげることができ、より具体的には、配列番号1で示される塩基配列(Genbank Accession No.AC074373に記載される塩基配列の塩基番号63528〜64390で示される塩基配列の相補的配列に相当する。)があげられる。配列番号1で示される塩基配列においては、ヒト由来のGamma filaminタンパク質のアミノ末端のメチオニンをコードするATGコドンが、塩基番号572〜574に示されており、上記エクソン1の塩基配列は、塩基番号463〜863に示されている。配列番号1で示される塩基配列中に存在するCpGで示される塩基配列中のシトシン、とりわけ配列番号1で示される塩基配列においてCpGが密に存在する領域中に存在するCpG中のシトシンは、例えば、胃癌細胞等の癌細胞において高いメチル化頻度(即ち、高メチル化状態(hypermethylation))を示す。さらに具体的には、胃癌細胞においてメチル化頻度が高いシトシンとしては、例えば、配列番号1で示される塩基配列において、塩基番号329、333、337、350、353、360、363、370、379、382、384、409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505等で示される塩基番号であるシトシンをあげることができる。
【0018】
当該PCRに用いられるプライマーは、解析対象とするシトシンの5’上流の塩基配列と3’下流の塩基配列を基にして当該シトシンを含む塩基配列を有するDNAを増幅可能なプライマー対を設計するとよい。プライマー設計のための塩基配列は、解析対象とするCpG中のシトシンを含まないように選定する。そして、プライマー設計のために選定された塩基配列が、シトシンを全く含まない場合には、選定された塩基配列及びかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列をそれぞれそのままプライマーの塩基配列とすることができる。また、プライマー設計のために選定された塩基配列が解析対象以外のシトシンを含むが当該シトシンはCpG中のシトシンでない場合には、これらシトシンがウラシルに変換されることを考慮してプライマーを設計する。即ち、全てのシトシンがウラシルとなった塩基配列とかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列をそれぞれ有する一対のプライマーを設計する。さらに、プライマー設計のために選定された塩基配列が解析対象以外のシトシンを含み当該シトシンはCpG中のシトシンである場合には、メチル化を受けていないシトシンがウラシルに変換され、かつ、メチル化を受けているシトシンはウラシルに変換されないことを考慮してプライマーを設計する。即ち、メチル化されたシトシンが含まれる場合の塩基配列[メチル化される位置のシトシン(CpG中のシトシン)はシトシンのままであり、メチル化されていないシトシン(CpGに含まれないシトシン)はウラシルとなった塩基配列]とかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列からそれぞれ選定された一対のメチル化特異的プライマーと、シトシンがメチル化されていない場合の塩基配列(全てのシトシンがウラシルとなった塩基配列)とかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列をそれぞれ有する一対の非メチル化特異的プライマーとを設計する。この場合、上記のPCRには、メチル化特異的プライマー対と非メチル化特異的プライマー対とを等量ずつ混合して用いる。
【0019】
非メチル化シトシンを修飾する試薬としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等の重亜硫酸塩(bisulfite)等を用いることができる。因みに、原理的には、メチル化シトシンのみを修飾する試薬を用いても良い。
【0020】
非メチル化シトシンを修飾する試薬に抽出されたDNAを接触させるには、例えば、まず当該DNAをアルカリ溶液(pH9〜14)で変性した後、亜硫酸水素ナトリウム等の重亜硫酸塩(bisulfite)(溶液中の濃度:例えば、終濃度3M)等で約10〜16時間(一晩)程度、55℃で処理する。反応を促進するため、95℃での変性と、55℃での反応を10−20回繰り返すことも出来る。この場合、メチル化されていないシトシンはウラシルに変換され、一方、メチル化されているシトシンはウラシルに変換されず、シトシンのままである。
次いで、重亜硫酸塩等で処理されたDNAを鋳型とし、かつ、上述するように設計されるプライマーを用いるPCRを行う。得られた増幅産物の塩基配列を比較し当該比較からメチル化頻度を測定することができる。
【0021】
より具体的には、Gamma filamin遺伝子遺伝子のメチル化頻度を塩基配列の直接的解析で測定するためのプライマーは、例えば、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)にある塩基配列内に存在するCpG中のシトシンを1以上含む塩基配列を基にして、上記のようにして設計することができる。例えば、配列番号1で示される塩基配列においてCpGが密に存在する領域中に存在するCpG中のシトシン、具体的には、配列番号1で示される塩基配列において塩基番号329、333、337、350、353、360、363、370、379、382、384、409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505 等で示されるシトシンを1以上含む塩基配列を基に設計することができる。かかるプライマーの例を以下に示す。
因みに、配列番号1で示される塩基配列において塩基番号409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505で示されるシトシンのメチル化頻度を調べるために、上記のようにして設計されたプライマーを用いると、配列番号1における塩基番号386〜530のbisulfite処理後の塩基配列に相当するDNA(145bp)が増幅される。
<プライマー>
B1:5’−AGAGAAGTTGGAGAGGAGAGTAG−3’(配列番号6)
B2:5’−AACCRCTATTATTCATCATACTAAC−3’ R= G and Aの等量混合物(配列番号7)
【0022】
PCRにおける反応液としては、例えば、鋳型とするDNAを50ngと、20pmol/μlの各プライマー溶液を各1μlと、2mM dNTPを3μlと、10×緩衝液(100mM Tris−HCl pH 8.3、500mM KCl、15mM MgCl2)を2.5μlと、耐熱性DNAポリメラーゼ 5U/μlを0.2μlとを混合し、これに滅菌超純水を加えて液量を25μlとした反応液をあげることができる。反応条件としては、例えば、前記のような反応液を、95℃にて10分間保温した後、95℃にて30秒間次いで55℃にて30秒間さらに72℃にて30秒間を1サイクルとする保温を30〜40サイクル行う条件があげられる。
かかるPCRを行った後、得られた増幅産物の塩基配列を比較し当該比較からメチル化頻度を測定する。
即ち、当該増幅産物の塩基配列を直接的に解析することにより、解析対象とするシトシンに相当する位置の塩基がシトシンであるかチミン(ウラシル)であるかを判定する。得られた増幅産物における塩基を示すピークのチャートにおいて、解析対象とするシトシンに相当する位置に検出されたシトシンを示すピークの面積とチミン(ウラシル)を示すピークの面積とを比較することにより、解析対象となるシトシンのメチル化の頻度を測定することができる。また、塩基配列を直接的に解析する方法として、PCRで得られた増幅産物を一旦大腸菌等を宿主としてクローニングして得られた複数のクローンからそれぞれクローニングされたDNAを調製し、当該DNAの塩基配列を解析してもよい。解析される試料のうちの解析対象とするシトシンに相当する位置に検出された塩基がシトシンである試料の割合を求めることにより、解析対象となるシトシンのメチル化の頻度を測定することもできる。
【0023】
第三の方法として、まず哺乳動物由来の検体から、例えば、市販のDNA抽出用キット等を用いてDNAを抽出する。
因みに、血液を検体として用いる場合には、血液から通常の方法に準じて血漿又は血清を調製し、調製された血漿又は血清を検体としてその中に含まれる遊離DNA(胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAが含まれる)を分析すると、血球由来のDNAを避けて胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAを解析することができ、胃癌細胞等の癌細胞、それを含む組織等を検出する感度を向上させることができる。
次いで、抽出されたDNAを、非メチル化シトシンを修飾する試薬と接触させた後、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列中のシトシンを含むDNAと、解析対象とするシトシンのメチル化の有無を識別可能なプローブとをハイブリダイゼーションさせ、前記DNAと当該プローブとの結合の有無を調べる方法をあげることもできる。
ここで、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列としては、ヒト由来のGamma filamin遺伝子のエクソン1と、その5’上流に位置するプロモーター領域とが含まれるゲノムDNAの塩基配列をあげることができ、より具体的には、、配列番号1で示される塩基配列(Genbank Accession No.AC074373に記載される塩基配列の塩基番号63528〜64390で示される塩基配列の相補的配列に相当する。)があげられる。配列番号1で示される塩基配列においては、ヒト由来のGamma filaminタンパク質のアミノ末端のメチオニンをコードするATGコドンが、塩基番号572〜574に示されており、上記エクソン1の塩基配列は、塩基番号463〜863に示されている。配列番号1で示される塩基配列中に存在するCpGで示される塩基配列中のシトシン、とりわけ配列番号1で示される塩基配列においてCpGが密に存在する領域中に存在するCpG中のシトシンは、例えば、胃癌細胞等の癌細胞において高いメチル化頻度(即ち、高メチル化状態(hypermethylation))を示す。さらに具体的には、胃癌細胞においてメチル化頻度が高いシトシンとしては、例えば、配列番号1で示される塩基配列において、塩基番号329、333、337、350、353、360、363、370、379、382、384、409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505等で示される塩基番号であるシトシンをあげることができる。
【0024】
当該ハイブリダイゼーションに用いられるプローブは、解析対象とするシトシンを含む塩基配列を基にして、メチル化を受けていないシトシンがウラシルに変換され、かつ、メチル化を受けているシトシンはウラシルに変換されないことを考慮して設計するとよい。即ち、メチル化されたシトシンが含まれる場合の塩基配列[メチル化される位置のシトシン(CpG中のシトシン)はシトシンのままであり、メチル化されていないシトシン(CpGに含まれないシトシン)はウラシルとなった塩基配列]又はかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列を有するメチル化特異的プローブと、シトシンがメチル化されていない場合の塩基配列(全てのシトシンがウラシルとなった塩基配列)又はかかる塩基配列に対して相補的な塩基配列を有する非メチル化特異的プローブを設計する。尚、このようなプローブは、DNAとプローブとの結合の有無についての解析を容易にするために標識してから用いてもよい。またプローブを通常の方法に準じて担体上に固定して用いてもよいが、この場合には、哺乳動物由来の検体から抽出されたDNAを予め標識しておくとよい。
【0025】
非メチル化シトシンを修飾する試薬としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム等の重亜硫酸塩(bisulfite)等を用いることができる。因みに、原理的には、メチル化シトシンのみを特異的に修飾する試薬を用いても良い。
【0026】
非メチル化シトシンを修飾する試薬に抽出されたDNAを接触させるには、例えば、まず当該DNAをアルカリ溶液(pH9〜14)で変性した後、亜硫酸水素ナトリウム等の重亜硫酸塩(bisulfite)(溶液中の濃度:例えば、終濃度3M)等で約10〜16時間(一晩)程度、55℃で処理する。反応を促進するため、95℃での変性と、55℃での反応を10−20回繰り返すことも出来る。この場合、メチル化されていないシトシンはウラシルに変換され、一方、メチル化されているシトシンはウラシルに変換されず、シトシンのままである。
必要に応じて、重亜硫酸塩等で処理されたDNAを鋳型として第二の方法と同様にPCRを行うことにより当該DNAを予め増幅させておいてもよい。
次いで、重亜硫酸塩等で処理されたDNA又は前記PCRで予め増幅されたDNAと、解析対象とするシトシンのメチル化の有無を識別可能なプローブとのハイブリダイゼーションを行う。メチル化特異的プローブと結合するDNAの量と、非メチル化特異的プローブと結合するDNAの量とを比較することにより、解析対象となるシトシンのメチル化の頻度を測定することができる。
【0027】
より具体的には、Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度を測定するためのプローブは、例えば、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)にある塩基配列内に存在するCpG中のシトシンを1以上含む塩基配列を基にして、上記のようにして設計することができる。例えば、配列番号1で示される塩基配列においてCpGが密に存在する領域中に存在するCpG中のシトシン、具体的には、配列番号1で示される塩基配列において塩基番号329、333、337、350、353、360、363、370、379、382、384、409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505等で示されるシトシンを1以上含む塩基配列を基に設計することができる。かかるプローブの例を以下に示す。
<セット1>
非メチル化特異的プローブ:5’−GTTTGTTGAGTTTTGTTGAGTTTT−3’(配列番号8)
メチル化特異的プローブ :5’−GTTCGTCGAGTTTCGTCGAGTTTC−3’(配列番号9)
<セット2>
非メチル特異的プローブ:5’−TGTTGTGTAGTGAGTTTTGTGGTT−3’(配列番号10)
メチル化特異的プローブ:5’−CGTAGCGTAGCGAGTTTCGTGGTC−3’(配列番号11)
【0028】
ハイブリダイゼーションは、例えば、Sambrook J., Frisch E. F., Maniatis T.著、モレキュラークローニング第2版(Molecular Cloning 2nd edition)、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行(Cold Spring Harbor Laboratory press)等に記載される通常の方法に準じて行うことができる。ハイブリダイゼーションは、通常ストリンジェントな条件下に行われる。ここで「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、6×SSC(1.5M NaCl、0.15M クエン酸三ナトリウムを含む溶液を10×SSCとする)を含む溶液中で45℃にてハイブリッドを形成させた後、2×SSCで50℃にて洗浄するような条件(Molecular Biology, John Wiley & Sons, N. Y. (1989), 6.3.1−6.3.6)等を挙げることができる。洗浄ステップにおける塩濃度は、例えば、2×SSCで50℃の条件(低ストリンジェンシーな条件)から0.2×SSCで50℃までの条件(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。洗浄ステップにおける温度は、例えば、室温(低ストリンジェンシーな条件)から65℃(高ストリンジェンシーな条件)から選択することができる。また、塩濃度と温度との両方を変えることもできる。
かかるハイブリダイゼーションを行った後、メチル化特異的プローブと結合したDNAの量と、非メチル化特異的プローブと結合したDNAの量とを比較することにより、解析対象となるシトシン(即ち、プローブの設計の基となった塩基配列に含まれるCpG中のシトシン)のメチル化の頻度を測定することができる。
【0029】
第四の方法として、まず哺乳動物由来の検体から、例えば、市販のDNA抽出用キット等を用いてDNAを抽出する。
因みに、血液を検体として用いる場合には、血液から通常の方法に準じて血漿又は血清を調製し、調製された血漿又は血清を検体としてその中に含まれる遊離DNA(胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAが含まれる)を分析すると、血球由来のDNAを避けて胃癌細胞等の癌細胞由来のDNAを解析することができ、胃癌細胞等の癌細胞、それを含む組織等を検出する感度を向上させることができる。
次いで、抽出されたDNAを、解析対象とするシトシンのメチル化の有無を識別可能な制限酵素に作用させた後、当該制限酵素による消化の有無を調べる方法をあげることもできる。
ここで、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域(コーディング領域)の塩基配列中に存在する一つ以上のCpGで示される塩基配列としては、ヒト由来のGamma filamin遺伝子のエクソン1と、その5’上流に位置するプロモーター領域とが含まれるゲノムDNAの塩基配列をあげることができ、より具体的には、、配列番号1で示される塩基配列(Genbank Accession No.AC074373に記載される塩基配列の塩基番号63528〜64390で示される塩基配列の相補的配列に相当する。)があげられる。配列番号1で示される塩基配列においては、ヒト由来のGamma filaminタンパク質のアミノ末端のメチオニンをコードするATGコドンが、塩基番号572〜574に示されており、上記エクソン1の塩基配列は、塩基番号463〜863に示されている。配列番号1で示される塩基配列中に存在するCpGで示される塩基配列中のシトシン、とりわけ配列番号1で示される塩基配列においてCpGが密に存在する領域中に存在するCpG中のシトシンは、例えば、胃癌細胞等の癌細胞において高いメチル化頻度(即ち、高メチル化状態(hypermethylation))を示す。さらに具体的には、胃癌細胞においてメチル化頻度が高いシトシンとしては、例えば、配列番号1で示される塩基配列において、塩基番号329、333、337、350、353、360、363、370、379、382、384、409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505等で示される塩基番号であるシトシンをあげることができる。
【0030】
当該方法で用いられる「シトシンのメチル化の有無を識別可能な制限酵素」(以下、メチル化感受性制限酵素と記すこともある。)とは、メチル化されたシトシンを含む認識配列を消化せず、メチル化されていないシトシンを含む認識配列を消化することのできる制限酵素を意味する。認識配列に含まれるシトシンがメチル化されているDNAの場合、メチル化感受性制限酵素を作用させても当該DNAは切断されず、一方、認識配列に含まれるシトシンがメチル化されていないDNAの場合、メチル化感受性制限酵素を作用させれば当該DNAは切断される。メチル化感受性酵素の具体的な例としては、例えば、HpaII、BstUI、NarI、SacII等をあげることができる。
【0031】
当該制限酵素による消化の有無を調べる方法としては、例えば、前記DNAを鋳型とし、解析対象とするシトシンを認識配列に含み、当該認識配列以外には前記制限酵素の認識配列を含まないDNAを増幅可能なプライマー対を用いてPCRを行い、DNAの増幅(増幅産物)の有無を調べる方法をあげることができる。解析対象とするシトシンがメチル化されている場合には、増幅産物が得られる。一方、解析対象とするシトシンがメチル化されていない場合には、増幅産物が得られない。このようにして、増幅されたDNAの量とを比較することにより、解析対象となるシトシンのメチル化の頻度を測定することができる。
例えば、配列番号1で示される塩基配列において塩基番号379及び486で示されるシトシンの場合には、当該シトシンはHpaIIの認識配列に含まれており、上記方法により当該シトシンのメチル化頻度を測定することができる。
【0032】
また、当該制限酵素による消化の有無を調べる他の方法としては、例えば、解析対象とするシトシンを認識配列に含むメチル化感受性制限酵素を作用させたDNAに対して、Gamma filamin遺伝子に由来し、かつ、当該制限酵素の認識配列を含まないDNAをプローブとしたサザンハイブリダイゼーションを行い、ハイブリダイズしたDNAの長さを調べる方法をあげることもできる。解析対象とするシトシンがメチル化されている場合には、当該シトシンがメチル化されていない場合よりも長いDNAが検出される。検出された長いDNAの量と短いDNAの量とを比較することにより、解析対象となるシトシンのメチル化の頻度を測定することができる。
【0033】
以上のような各種方法を用いて、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度を測定する。測定されたメチル化頻度と、例えば、胃癌細胞等の癌細胞を持たないと診断され得る健常な哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度(対照)とを比較して、当該比較により得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定する。仮に、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度が対照と比較して高ければ(Gammafilamin遺伝子が対照と比較の上で高メチル化状態であれば)、当該検体の癌化度が対照と比較の上で高いと判定することができる。
ここで「癌化度」とは、一般に当該分野において使用される意味と同様であって、具体的には、例えば、哺乳動物由来の検体が細胞である場合には当該細胞の悪性度を意味し、また、例えば、哺乳動物由来の検体が組織である場合には当該組織における癌細胞の存在量等を意味している。
【0034】
Gamma filamin遺伝子の発現は、健常な哺乳動物由来の細胞や組織等の検体においてよりも胃癌細胞等の癌細胞において低い。これは、胃癌細胞等の癌細胞において当該遺伝子のメチル化頻度が高いために、当該遺伝子が正常に発現できずその結果として当該遺伝子の発現産物の量(より具体的には、転写産物の量や翻訳産物の量)が減少する。このように本発明評価方法等では、メチル化頻度の代わりに、それに相関関係がある指標値(上記の場合には、発現産物の量であって、負の相関関係がある指標値である。)を測定してもよい。
つまり、本発明評価方法では、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値(例えば、発現産物の量)を測定し、測定された前記メチル化頻度に相関関係がある指標値(例えば、発現産物の量)と対照とを比較することにより得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定することができる。
【0035】
本発明評価方法の第一工程において、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値を測定する方法としては、例えば、Gamma filamin遺伝子の転写産物であるmRNAの量を測定する方法をあげることができる。当該測定には、例えば、RT−PCR法、ノザンブロット法〔Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)〕、in situ RT−PCR法〔Nucleic Acids Res.,21,3159−3166(1993)〕、in situハイブリダイゼーション法、NASBA法〔Nucleic acid sequence−based amplification,nature,350,91−92(1991)〕等の公知な方法を用いればよい。
哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子の転写産物であるmRNAを含む試料は、通常の方法に準じて当該検体から抽出、精製等により調製すればよい。
調製された試料中に含まれるmRNAの量を測定するためにノザンブロット法が用いられる場合には、検出用プローブはGamma filamin遺伝子又はその一部(Gammafilamin遺伝子の制限酵素切断、Gamma filamin遺伝子の塩基配列に従い化学合成した約100bp〜約1000bp程度のオリゴヌクレオチド等)を含むものであればよく、前記試料中に含まれるmRNAとのハイブリダイゼーションにおいて用いられる検出条件下に検出可能な特異性を与えるものであれば特に制限はない。
また調製された試料中に含まれるmRNAの量を測定するためにRT−PCR法が用いられる場合には、使用されるプライマーは、Gamma filamin遺伝子のみを特異的に増幅できるものであればよく、その増幅する領域や塩基長等には特に制限はない。かかるプライマーとしては、例えば、以下に示すプライマー(S:sense、A:antisense)等をあげることができる。これらのプライマーを用いて後述の実施例に示すようにしてRT−PCR法による転写産物の量を測定することもできる。
S:5’−AGGAGGAGCCCTCTGAAGTG−3’(配列番号12)
A:5’−TCCTCTGTGGCCCAGTGTGT−3’(配列番号13)
【0036】
また本発明評価方法の第一工程において、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値を測定する他の方法としては、例えば、Gamma filamin遺伝子の翻訳産物であるGamma filaminタンパク質の量を測定する方法をあげることができる。当該測定には、例えば、Gamma filaminタンパク質に対する特異的抗体(モノクロナル抗体、ポリクロナル抗体)を用いた、細胞工学ハンドブック、羊土社、207(1992)等に記載されるイムノブロット法、免疫沈降による分離法、間接競合阻害法(ELISA 法)等の公知な方法を用いればよい。
因みに、Gamma filaminタンパク質に対する特異的抗体は、当該タンパク質を免疫抗原として用いる通常の免疫学的な方法に準じて製造することができる。
【0037】
以上のような各種方法を用いて、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値を測定する。測定されたメチル化頻度に相関関係がある指標値と、例えば、胃癌細胞等の癌細胞を持たないと診断され得る健常な哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値(対照)とを比較して、当該比較により得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定する。仮に、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に正の相関関係がある指標値が対照と比較して高ければ又は負の相関関係がある指標値が対照と比較して低ければ(Gamma filamin遺伝子が対照と比較の上で高メチル化状態であれば)、当該検体の癌化度が対照と比較の上で高いと判定することができる。
【0038】
本発明評価方法における、Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度又はそれに相関関係がある指標値を測定するための各種方法で使用し得るプライマー、プローブ又は特異的抗体は、胃癌細胞等の癌細胞の検出用キットの試薬として有用である。本発明は、これらプライマー、プローブ又は特異的抗体等を試薬として含有する胃癌細胞等の癌細胞の検出用キットや、これらプライマー、プローブ又は特異的抗体等が担体上に固定化されてなる胃癌細胞等の癌細胞の検出用チップも提供しており、本発明評価方法の権利範囲は、当該方法の実質的な原理を利用してなる前記のような検出用キットや検出用チップのような形態での使用ももちろん含むものである。
【0039】
Gamma filamin遺伝子の発現は、健常な哺乳動物由来の細胞や組織等の検体においてよりも胃癌細胞等の癌細胞において低い。一方、後述の実施例でも示すように、Gamma filamin遺伝子に係るDNAメチル化を阻害する物質を胃癌細胞等の癌細胞に作用させることにより、当該遺伝子の発現産物の量を増加させることができる。これは、胃癌細胞等の癌細胞におけるGamma filamin遺伝子の発現レベルの低下又はそれに伴う機能低下を補うことのできる物質−例えば、非メチル化(或いは、癌で認められるようなメチル化異常を起こしていない)Gamma filamin遺伝子[Biochem. Biophys. Res. Commun. 251, 914−919 (1998)]、当該遺伝子の発現産物、当該遺伝子の発現を促進する能力を有する物質(例えば、Gamma filamin遺伝子に係るDNAメチル化を阻害する物質、Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度を低下させる物質)−等は、胃癌等の癌の治療や、胃粘膜層(表層上皮、腺組織、粘膜固有層及び粘膜筋板)、胃粘膜下組織層、(固有)筋層及び漿膜層等の正常組織の癌化抑制に有用であることを意味している。
例えば、Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度を低下させる物質を癌であると診断されうる哺乳動物の体内にある細胞に投与することにより癌化は抑制されるだろう。また例えば、Gamma filamin遺伝子に係るDNAメチル化を阻害する物質を胃癌細胞等の癌細胞に提供することにより、Gamma filamin遺伝子のプロモーター領域又はコーディング領域にある塩基配列中に存在するCpG中のシトシンを正常組織と同様に低メチル化状態(hypomethylation)とし、Gamma filamin遺伝子の転写産物であるmRNAの発現量を増大させ、ひいてはGamma filamin遺伝子の翻訳産物であるGamma filaminタンパク質の発現量を増大させることができるだろう。また例えば、Gamma filamin遺伝子又はGamma filaminタンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるcDNAを胃癌細胞等の癌細胞に導入することにより、胃癌細胞等の癌細胞におけるGamma filaminタンパク質の発現量を増大させることができるだろう。
【0040】
つまり、本発明では、(1)有効成分として、Gamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を有する物質を含み、当該有効成分が薬学的に許容される担体中に製剤化されてなることを特徴とする抗癌剤や、(2)有効成分として、Gamma filamin遺伝子のアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸を含み、当該有効成分が薬学的に許容される担体中に製剤化されてなることを特徴とする抗癌剤も提供している(以下総じて、本発明抗癌剤と記すこともある。)。
【0041】
本発明抗癌剤の剤型としては通常の製剤であれば特に制限はないが、このような製剤は、薬学的に許容される、例えば、水溶性溶剤、非水溶性溶剤、緩衝剤、溶解補助剤、等張剤、安定剤等の担体に有効成分を配合することにより製造することができる。必要に応じて、防腐剤、懸濁化剤、乳化剤等の補助剤を添加してもよい。また、非経口的に投与する場合(一般的には注射等が好ましい。)には、当該抗癌剤を溶液等の通常の液剤の形態で使用することができる。
本発明抗癌剤は、その有効量を非経口的にヒト等の哺乳動物(例えば、癌であると診断されうる哺乳動物の体内にある細胞)に対し投与することができる。例えば、非経口的に投与する方法としては、例えば、注射(皮下、静脈内、局所)等を挙げることができる。
投与量は、投与される哺乳動物の年令、性別、体重、疾患の程度、本発明抗癌剤の種類、投与形態等によって異なるが、通常は、患者細胞において有効成分が細胞内で有効に働くような濃度レベルと等しい細胞内レベルをもたらす有効成分量を投与すればよい。また、前記の1日の投与量を1回又は数回に分けて投与することができる。
【0042】
ここで、Gamma filamin遺伝子を細胞に導入する方法としては、ウイルスベクターを利用した遺伝子導入方法、非ウイルス性ベクターを利用した遺伝子導入方法(日経サイエンス,1994年4月号,20−45頁、実験医学増刊,12(15)(1994)、実験医学別冊「遺伝子治療の基礎技術」,羊土社(1996))等の方法をあげることができる。
前者の遺伝子導入方法としては、例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス等のDNAウイルス又はRNAウイルスに、TR4又は変異TR4をコードするDNAを組み込んで導入する方法等があげられる。また非ウイルス性ベクターを利用した遺伝子導入方法としては、例えば、発現プラスミドを直接筋肉内に投与する方法(DNAワクチン法)、リポソーム法、リポフェクチン法、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法等があげられる。
また、Gamma filamin遺伝子のDNAを抗癌剤としての遺伝子治療剤の有効成分として利用する方法としては、当該遺伝子のDNAを直接体内に導入するin vivo法、ヒトから特定な細胞を取り出し体外で当該遺伝子のDNAを当該細胞に導入し、その細胞を体内に戻すex vivo法(日経サイエンス,1994年4月号,20−45頁、月刊薬事,36(1),23−48(1994)、実験医学増刊,12(15)(1994))等をあげることができる。
前者のin vivo法の場合には、前記遺伝子のDNAが疾患、症状等に応じた適当な投与経路により投与され得る。例えば、胃癌細胞、静脈、動脈、皮下、皮内、筋肉内等に注射により投与することができる。
前記抗癌剤としての遺伝子治療剤の剤型としては、注射剤、他には懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤等のリポソーム製剤とすることもできる。このような製剤は、薬学的に許容される、例えば、水溶性溶剤、非水溶性溶剤、緩衝剤、溶解補助剤、等張剤、安定剤等の担体に前記遺伝子(ベクター型若しくはウィルス型、又はプラスミド型の前記遺伝子の形態を含む)を配合することにより製造することができる。必要に応じて、防腐剤、懸濁化剤、乳化剤等の補助剤を添加してもよい。また、非経口的に投与する場合(一般的には注射等が好ましい。)には、当該抗癌剤を溶液等の通常の液剤の形態で使用することができる。
【0043】
本発明探索方法は、Gamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を有する物質の探索方法であって、(1)癌細胞に被験物質を接触させる第一工程、(2)第一工程(1)後に、前記癌細胞に含まれるGamma filamin遺伝子の発現産物量を測定する第二工程、(3)測定された発現産物の量と対照とを比較することにより得られる差異に基づき被験物質が有するGamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を判定する第三工程を有する。
本発明探索方法の第一工程における癌細胞としては、特に制限はなく、哺乳動物由来の癌組織から分離された癌細胞であってもよいし、またセルラインとして確立された哺乳動物由来の癌細胞株であってもよい。前記哺乳動物としては、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター等をあげることができる。癌の種別としては、胃癌等が好ましくあげられる。具体的には、例えば、MKN28(JCRBから入手可能)、MKN74(JCRBから入手可能)、KATO−III(ATCCから入手可能)、AGS(ATCCから入手可能)、Hs−746T(ATCCから入手可能)、)等の公知なヒト由来の胃癌細胞株をあげることができる。
本発明探索方法の第一工程において癌細胞に被験物質を接触させるための、癌細胞の量としては、通常約104〜108細胞あればよく、約105〜107細胞が好ましい。また被験物質の濃度としては、通常約0.1ng/ml〜約100μg/mlであればよく、約1ng/ml〜約50μg/mlが好ましい。癌細胞に被験物質を接触させる時間は、通常1時間以上5日程度であり、好ましくは数時間から2日程度である。癌細胞に被験物質を接触させる回数は、一回であってもよいし、複数回であってもよい。
癌細胞に被験物質を接触させる環境としては、癌細胞の生命活動を維持させるような環境が好ましく、例えば、当該癌細胞のエネルギー源が共存するような環境をあげることができる。具体的には、培地中で第一工程が行なわれることが好都合である。
本発明探索方法の第二工程において癌細胞に含まれるGamma filamin遺伝子の発現産物量を測定するには、前述にある「本発明評価方法の第一工程において、哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値を測定する方法」等に準じて測定すればよい。
本発明探索方法の第二工程において測定された発現産物の量と対照とを比較することにより得られる差異に基づき被験物質が有するGamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を判定するには、前述のように、測定された発現産物量と、例えば、本発明探索方法の第一工程において癌細胞に被験物質を接触させるための被験物質の濃度をゼロとした場合(即ち、癌細胞に被験物質を接触させてない場合)でのGamma filamin遺伝子の発現産物量(対照)とを比較して、当該比較により得られる差異に基づき被験物質が有するGamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を判定する。仮に、被験物質を接触させた癌細胞に含まれるGamma filamin遺伝子の発現産物量が対照(この場合には、被験物質を接触させていない癌細胞に含まれるGamma filamin遺伝子の発現産物量)と比較して高ければ、当該被験物質はGamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を有すると判定することができる。もちろん対照として、癌細胞に他の被験物質を接触させた際のGamma filamin遺伝子の発現産物量を用いてもよく、この場合には、予め当該他の被験物質が有するGamma filamin遺伝子の発現を促進する能力が判っていることが好ましい。
このようにして、Gamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を有する物質を探索することが可能である。尚、バックグランド又はコントロールとして、正常胃細胞株等の正常細胞株や、胃癌細胞等の癌細胞を持たないと診断され得る健常な哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子の発現産物量を、被験物質を接触させた場合及び接触させない場合の両者において測定することが好ましい。
【0044】
【実施例】
以下に実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0045】
実施例1 (胃癌細胞株におけるGamma filamin遺伝子のメチル化状態の確認試験(その1))
ヒト由来の胃癌細胞株2種[MKN28(JCRB)及びMKN74(JCRB)]をJCRB(Japan Cancer Research Resources Bank)のカタログに記載された、それぞれの細胞株のための専用培地でコンフルエントになるまで培養した後、各々約1x107細胞を集めた。集められた細胞又はヒト由来の正常胃粘膜上皮組織[患者からインフォームドコンセントを得て入手]に、SEDTAバッファー[10mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM EDTA(pH8.0)、100mM NaCl]を10倍容量加えた後、これをホモジナイズした。得られた混合物に、proteinase K(Sigma)を500μg/ml、ドデシル硫酸ナトリウムを1%(w/v)になるように加えた後、これを55℃で約16時間振とうした。振とう終了後、当該混合物をフェノール[1M Tris−HCl(pH8.0)にて飽和]・クロロホルム抽出処理した。水層を回収し、これにNaClを0.5Nとなるよう加えた後、これをエタノール沈澱することにより沈澱を回収した。回収された沈澱をTEバッファー(10mM Tris、1mM EDTA、pH 8.0)に溶解し、これに40μg/mlになるようにRNase A(Sigma)を加えて37℃で1時間インキュベートした。インキュベートされた混合物をフェノール・クロロホルム抽出処理した。水層を回収し、これにNaClを0.5Nとなるよう加えた後、これをエタノール沈澱することにより沈澱(ゲノムDNA)を回収した。回収された沈澱を70%エタノールでリンスしてゲノムDNAを得た。
得られたゲノムDNAを、制限酵素BamHIにて消化した後、Clark et al., Nucl. Acids. Res., 22, 2990−2997, 1994; Herman et al., Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 9821−9826, 1996に記載される方法に準じて亜硫酸水素ナトリウム処理した。即ち、制限酵素処理後のゲノムDNA(約1μg)を蒸留水に溶解して20μlのゲノムDNA溶液を調製し、これに6M水酸化ナトリウムを約1μl加えた後、当該混合物を室温で15分間放置した。放置された混合物に、120μlの[0.6mMヒドロキノン(Sigma)/3.6N亜硫酸水素ナトリウム(Sigma)]を加えた後、これを95℃にて30秒、50℃にて15分を1サイクルとする保温を15サイクル行った。インキュベートされた液からWizard DNA clean−up system(Promega)を用いてDNAを精製した。精製されたDNAを50μlのTEバッファーに溶解し、これに2.5μlの6M水酸化ナトリウムを加えた後、当該混合物を室温で5分間放置した。次いで、放置された混合物をエタノール沈澱することにより沈澱(DNA)を回収した。回収された沈澱を20μlのTEバッファーに懸濁した。
【0046】
得られたDNAを鋳型とし、配列番号1で示される塩基配列において塩基番号386〜530で示される塩基配列を有するDNA(145bp)のbisulfite処理後のDNA配列をPCRで増幅するために、以下の塩基配列からなるプライマーを合成した。
B1:5’−AGAGAAGTTGGAGAGGAGAGTAG−3’(配列番号6)
B2:5’−AACCRCTATTATTCATCATACTAAC−3’ R= G and Aの等量混合物(配列番号7)
【0047】
PCRの反応液としては、鋳型とするDNAを50ngと、20pmol/μlの上記プライマー溶液各1μlと、each 2mM dNTPを3μlと、10×緩衝液(100mM Tris−HCl pH 8.3、500mM KCl、15mM MgCl2)を2.5μlと、耐熱性DNAポリメラーゼ 5U/μlを0.2μlとを混合し、これに滅菌超純水を加えて液量を25μlとしたものを用いた。当該反応液を、95℃にて10分間保温した後、95℃にて30秒間次いで55℃にて30秒間さらに72℃にて30秒間を1サイクルとする保温を40サイクル行う条件でPCRを行った。PCRを行った後、2%アガロースゲル電気泳動により増幅を確認した。
PCR増産物をDNAをpGEM−T−Easy(Promega)にライゲーションした後、これを大腸菌XL1Blue株に導入した。形質転換された大腸菌のコロニーを、胃癌細胞株1株につき10個ずつピックアップし、それぞれ溶菌させた。得られた大腸菌溶菌液を鋳型とし、上記と同様な条件でPCRを行った。PCRの反応液を上記と同様にアガロースゲル電気泳動に供した後、145bpのDNAを含む部分を切り出し、DNAを抽出した。抽出されたDNAの塩基配列をDNAシークエンサー(ABI310型、PE Biosystems)によって解析した。各コロニーから調製されたDNAのシークエンス結果について、配列番号1で示される塩基配列において塩基番号386〜530で示される領域に存在するCpG中のシトシンがウラシルに置換されているか否かを調べて、試験した10コロニーから調製されたDNAのうち、シトシンがウラシルに置換されていないDNAの頻度、即ち、当該シトシンのメチル化頻度を測定した。
その結果を表1に示した。正常胃粘膜上皮組織(21N)から調製されたDNAの場合には、塩基番号386〜530で示される領域に存在するCpG中のシトシン15個(塩基番号409、414、419、426、432、434、445、449、459、472、474、486、490、503、505)には、ウラシルに置換されていないDNA(即ち、メチル化されているDNA)がほとんど見出されなかった。一方、胃癌細胞株2種(MKN28及びMKN74)から調製されたDNAの場合には、当該領域に存在するCpG中のシトシンのほとんどがウラシルに置換されていないDNA(即ち、メチル化されているDNA)であることが判った。
【0048】
【表1】
*各シトシンについて、10コロニーから調製されたDNAのうち、当該シトシンがウラシルに置換されていないDNAの数を示す。また解析対象のシトシンは、配列番号1で示される塩基配列における塩基番号で示す。
【0049】
実施例2 (胃癌細胞株におけるGamma filamin遺伝子の発現状態の確認試験と当該遺伝子の発現に対するメチル化阻害剤の効果))
ヒト由来の胃癌細胞株2種(MKN28及びMKN74)を専用培地で70%コンフルエントになるまで培養した後、各々の細胞を集めた。集められた各々の細胞(約100mg湿重量)及びヒト由来の正常胃粘膜上皮組織(21N:約50mg)を1mlのISOGEN溶液(ニッポンジーン)を混合してホモジネートした後、これに0.2mlのクロロホルムを加えて懸濁した。懸濁後、当該混合物を遠心分離(4℃、15000xg、15分間)することにより、上清を回収した。回収された上清に0.5mlのイソプロパノールを加えて懸濁した後、遠心分離(4℃、15000xg、15分間)することにより、沈澱(RNA)を回収した。回収された沈澱を75%エタノールでリンスした後、DEPC(ジエチルピロカーボネート)処理水に溶解した。
また、ヒト由来の胃癌細胞株2種(MKN28及びMKN74)を約3x 105細胞/10cmプレートの密度で接種し、専用培地を用いて培養した。接種後1日目に、メチル化阻害剤である5−aza−2’−deoxycytidine(Sigma製)(以下、5Aza−dCと記す。)を1μMの濃度となるよう培地に添加した。5Aza−dCの添加から24時間後に、5Aza−dCが添加されていない上記の培地に交換し、培養を継続した。次いで、接種後3日目及び5日目に、同様に5Aza−dCを培地に添加した。接種後6日目に細胞を回収し、回収された細胞から上記と同様な方法でRNAを抽出・回収した。
このようにして得られたRNAをDNaseI(Ambion)で処理した後、これを鋳型としSuperscriptII(Invitrogen)を用いて当該酵素に添付されたプロトコールに従いcDNAを合成した。合成されたcDNAを鋳型として、かつ、以下に示したGamma filamin SとGamma filamin Aとをプライマー対として用いたReal Time PCRを行うことにより、Gamma filamin遺伝子のmRNAに由来するDNA(88bp)を増幅した。この際、コントロールとして、上記のcDNAを鋳型として、かつ、以下に示したPCNASとPCNA Aとをプライマー対として用いたPCRを行うことにより、Proliferatingcell nuclear antigen(PCNA)遺伝子のmRNAに由来するDNAを増幅した。
<プライマー(S:sense、A:antisense)>
Gamma filamin S:5’−AGGAGGAGCCCTCTGAAGTG−3’(配列番号12)
Gamma filamin A:5’−TCCTCTGTGGCCCAGTGTGT−3’(配列番号13)
PCNA S: 5’−ATGTCGATAAAGAGGAGGAA−3’(配列番号14)
PCNA A: 5’−AGAGTGGAGTGGCTTTTGTA−3’(配列番号15)
【0050】
PCRの反応液としては、鋳型とするcDNAを50ngと、10pmol/μlの上記プライマー溶液2種を各1μlと、each 2.5mM dNTPを4μlと、5mM dUTPを4μlと、10×SYBR Green PCR Buffer を5μlと、25mM MgCl2を6μlと、耐熱性DNA ポリメラーゼ(AmpliTaq Gold)5 U/μlを0.3μlと、AmpEraseUNGを0.5μlとを混合し、これに滅菌超純水を加えて液量を50μlとしたものを用いた。Real Time PCRは、iCycler Thermal Cycler (Bio−Rad Laboratories)を用いて実施した。Gamma filamin遺伝子のmRNAに由来するDNAを増幅する場合には、当該反応液を、95℃にて10分間保温した後、95℃にて30秒間 62℃にて30秒間、72℃にて30秒間を1サイクルとしてReal Time PCRを行い、PCNA遺伝子のmRNAに由来するDNAを増幅する場合には、当該反応液を、95℃にて10分間保温した後、95℃にて30秒間次いで55℃にて60秒間を1サイクルとしてReal Time PCRを行い、Gamma filamin遺伝子及びPCNA遺伝子を定量した。
その結果を図1に示した。ヒト由来の正常胃粘膜上皮組織(21N)の場合には、Gamma filamin遺伝子のmRNAに由来するDNAが検出されたのに対し、胃癌細胞株2種のいずれの場合においても、当該DNAは検出されなかった。即ち、ヒト由来の正常胃粘膜上皮組織(21N)では、Gamma filamin遺伝子の発現が確認されたのに対し、胃癌細胞株2種のいずれにおいても、Gamma filamin遺伝子の発現が認められなかった。
1μM 5Aza−dCの存在下に培養されたMKN28及びMKN74の場合には、Gamma filamin遺伝子のmRNAに由来するDNAが検出された。尚、PCNA遺伝子のmRNAに由来するDNAは、正常胃粘膜上皮組織(21N)の場合並びに5Aza−dC非存在下に培養された胃癌細胞株MKN28及びMKN74の場合或いは1μM 5Aza−dC存在下に培養されたMKN28及びMKN74の場合のいずれにおいても同様に検出された。即ち、胃癌細胞株MKN28及びMKN74の場合には、メチル化阻害剤の存在下にGamma filamin遺伝子の発現が認められた。
以上の結果から、胃癌細胞株における上記シトシンのメチル化は、メチル化阻害剤により阻害され、かつ、メチル化阻害剤の存在下でGamma filamin遺伝子が発現することが明らかとなった。
【0051】
実施例3 (胃癌細胞株におけるGamma filamin遺伝子のメチル化状態の確認試験(その2)と当該遺伝子の発現に対するメチル化阻害剤の効果)
ヒト由来の胃癌細胞株2種(MKN28及びMKN74)を約3x 105細胞/10cmプレートの密度で接種し、専用培地を用いて培養した。接種後1日目に、メチル化阻害剤である5−aza−2’−deoxycytidine(Sigma製)(以下、5Aza−dCと記す。)を1μMの濃度となるよう培地に添加した。5Aza−dCの添加から24時間後に、5Aza−dCが添加されていない上記の培地に交換し、培養を継続した。次いで、接種後3日目及び5日目に、同様に5Aza−dCを培地に添加した。接種後6日目に細胞を回収し、回収された細胞から実施例1と同様な方法でゲノムDNAを抽出・回収した。
抽出・回収されたゲノムDNAを、実施例1と同様な方法で亜硫酸水素ナトリウム処理した。得られたDNAを鋳型とし、以下に示す非メチル化特異的プライマーU1とU2、又は、メチル化特異的プライマーM1とM2を用いてPCRを行った。非メチル化特異的プライマーU1とU2とを使用した場合、メチル化特異的プライマーM1とM2とを使用した場合共に、配列番号1で示される塩基配列の塩基番号312〜432のbisulfite処理後の塩基配列に相当する121bpのDNAが増幅される。
<非メチル化特異的プライマー>
U1:5’−GAGAGAGAGTTAGAGAGTGGTTGAGT−3’(配列番号2)
U2:5’−AACCACAAAACTCACTACACTACA−3’(配列番号3)
<メチル化特異的プライマー>
M1:5’−GAGAGAGAGTTAGAGAGCGGTCGAGC−3’(配列番号4)
M2:5’−GACCACGAAACTCGCTACGCTACG−3’(配列番号5)
メチル化特異的プライマー及び非メチル化特異的プライマーに、特異性があることを確認するため、まず、正常胃粘膜上皮組織(21N)から通常の方法でゲノムDNAを抽出してDNA(1)を得、さらに得られたDNA(1)の一部をメチル化酵素SssI(NEB社)により処理しゲノムDNAの5’−CG−3’ 全てをメチル化してDNA(2)を得た。得られたDNA(1)及びDNA(2)についても、メチル化特異的PCR及び非メチル化特異的PCRを行った。
【0052】
PCRの反応液としては、鋳型とするDNAを50ngと、20pmol/μlの上記プライマー溶液を各1μlと、each 2mM dNTPを2.5μlと、10×緩衝液(100mM Tris−HCl pH8.3、500mM KCl、20mM MgCl2)を2.5μlと、耐熱性DNAポリメラーゼ 5U/μlを0.2μlとを混合し、これに滅菌超純水を加えて液量を25μlとしたものを用いた。上記の非メチル化特異的プライマーを使用した場合には、当該反応液を、95℃にて10分間保温した後、95℃にて30秒間次いで66℃にて30秒間さらに72℃にて30秒間を1サイクルとする保温を33サイクル行う条件でPCRを行った。また、上記のメチル化特異的プライマーを使用した場合には、当該反応液を、95℃にて10分間保温した後、95℃にて30秒間次いで70℃にて30秒間さらに72℃にて30秒間を1サイクルとする保温を33サイクル行う条件でPCRを行った。いずれの場合も、PCRを行った後、増幅産物を含むPCRの反応液を2% アガロースゲル電気泳動に供した。 その結果を図2に示した。ヒト由来の正常胃粘膜上皮組織(21N)の場合において、非メチル化特異的プライマーを使用した場合(レーンU)には増幅されたDNAのバンドが認められ、メチル化特異的プライマーを使用した場合(レーンM)には増幅されたDNAのバンドが検出されなかった。従って、ヒト由来の正常胃粘膜上皮組織(21N)の場合において、少なくとも、配列番号1で示される塩基配列の塩基番号329、333、337、409、414、419、426及び432でそれぞれ示されるシトシンはメチル化されていないと判断された。また、メチル化阻害剤の非存在下(5Aza−dC 0μM)に培養された胃癌細胞株2種(MKN28、MKN74)の場合において、非メチル化特異的プライマーを使用した場合(レーンU)には増幅されたDNAのバンドが検出されず、メチル化特異的プライマーを使用した場合(レーンM)には増幅されたDNAのバンドが認められた。従って、当該条件においては、配列番号1で示される塩基配列の塩基番号329、333、337、409、414、419、426及び432でそれぞれ示されるシトシンはメチル化されていると判断された。
一方、1μM 5Aza−dCの存在下に培養された胃癌細胞株 MKN28及びMKN74の場合には、非メチル化特異的プライマーを使用した場合(レーンU)には増幅されたDNAのバンドが認められ、メチル化特異的プライマーを使用した場合(レーンM)には弱いバンドが検出されたのみであった。従って、当該条件下においては、多くのゲノムDNAにおいて、配列番号1で示される塩基配列の塩基番号329、333、337、409、414、419、426及び432でそれぞれ示されるシトシンはメチル化されていないと判断された。
以上の結果から、胃癌細胞株における上記のシトシンのメチル化は、メチル化阻害剤により阻害されることが明らかとなった。
【0053】
【発明の効果】
本発明により、哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法等が提供可能となる。
【0054】
[配列表フリーテキスト]
配列番号2
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号3
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号4
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号5
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号6
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号7
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号8
プローブのために設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号9
プローブのために設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号10
プローブのために設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号11
プローブのために設計されたオリゴヌクレオチド
配列番号12
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号13
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号14
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号15
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
【0055】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】ヒト由来の正常胃粘膜上皮組織(21N)、胃癌細胞株2種(MKN28及びMKN74)、及び、メチル化阻害剤である5Aza−dCを1μMの濃度で添加した胃癌細胞株2種(MKN28及びMKN74)において、Gamma filamin遺伝子のmRNAに由来するDNAをReal Time PCRで増幅して得られたGamma filamin遺伝子量を示した図である。使用した細胞の名前を図の最下部に示した。(−)は、メチル化阻害剤である5Aza−dC非存在下、(+)は、5Aza−dC存在下(1μM)を示す。縦軸は、Gamma filamin遺伝子量をPCNA遺伝子量で除した値を示す。
【図2】ヒト由来の正常胃粘膜上皮組織(21N)及び胃癌細胞株2種(MKN28及びMKN74)から調製され、かつ、亜硫酸水素ナトリウム処理されたゲノムDNAをそれぞれ鋳型としてPCRを行い、PCR後のPCR反応液をアガロースゲル電気泳動で分析した結果を示した図である。使用した細胞の名前を最下部に示した。なお、SssIと記載された図は、21NのゲノムDNAをメチル化酵素SssIで処理して得られたDNAを示す。また、−Azaと記載された図は、当該細胞の培養時に5Aza−dCを1μMの割合で添加処理した細胞を示す。レーンU、非メチル化特異的プライマーを用いたPCRのPCR反応液;レーンM、非メチル化特異的プライマーを用いたPCRのPCR反応液。
Claims (27)
- 哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法であって、
(1)哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin (actin binding protein homologue) 遺伝子のメチル化頻度又はそれに相関関係がある指標値を測定する第一工程、及び
(2)測定された前記メチル化頻度又はそれに相関関係がある指標値と、対照とを比較することにより得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定する第二工程
を有することを特徴とする評価方法。 - 哺乳動物由来の検体が細胞であることを特徴とする請求項1記載の評価方法。
- 哺乳動物由来の検体が組織であることを特徴とする請求項1記載の評価方法。
- 哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法であって、
(1)哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度を測定する第一工程、及び
(2)測定された前記メチル化頻度と、対照とを比較することにより得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定する第二工程
を有することを特徴とする評価方法。 - 哺乳動物由来の検体が細胞であって、かつ、当該検体の癌化度が哺乳動物由来の細胞の悪性度であることを特徴とする請求項1記載の評価方法。
- 哺乳動物由来の検体が細胞であって、かつ、当該検体の癌化度が哺乳動物由来の細胞の悪性度であることを特徴とする請求項4記載の評価方法。
- 哺乳動物由来の検体が組織であって、かつ、当該検体の癌化度が哺乳動物由来の組織における癌細胞の存在量であることを特徴とする請求項1記載の評価方法。
- 哺乳動物由来の検体が組織であって、かつ、当該検体の癌化度が哺乳動物由来の組織における癌細胞の存在量であることを特徴とする請求項4記載の評価方法。
- 組織が胃粘膜層、胃粘膜下組織層、筋層及び漿膜層であって、かつ、癌が胃癌であることを特徴とする請求項8記載の評価方法。
- 遺伝子のメチル化頻度が、当該遺伝子のプロモーター領域、非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する一つ以上の5’−CG−3’で示される塩基配列中のシトシンのメチル化頻度であることを特徴とする請求項1又は4記載の評価方法。
- 組織が胃粘膜層、胃粘膜下組織層、筋層及び漿膜層であって、かつ、癌が胃癌であることを特徴とする請求項10記載の評価方法。
- 遺伝子のメチル化頻度が、当該遺伝子のプロモーター領域にある塩基配列内に存在する一つ以上の5’−CG−3’で示される塩基配列中のシトシンのメチル化頻度であることを特徴とする請求項1又は4記載の評価方法。
- 遺伝子のメチル化頻度が、当該遺伝子の非翻訳領域又は翻訳領域にある塩基配列内に存在する一つ以上の5’−CG−3’で示される塩基配列中のシトシンのメチル化頻度であることを特徴とする請求項1又は4記載の評価方法。
- 遺伝子のメチル化頻度が、配列番号1で示される塩基配列内に存在する一つ以上の5’−CG−3’で示される塩基配列中のシトシンのメチル化頻度であることを特徴とする請求項1記載の評価方法。
- 組織が胃粘膜層、胃粘膜下組織層、筋層及び漿膜層であって、かつ、癌が胃癌であることを特徴とする請求項14記載の評価方法。
- 哺乳動物由来の検体の癌化度を評価する方法であって、
(1)哺乳動物由来の検体に含まれるGamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値を測定する第一工程、及び
(2)測定された前記メチル化頻度に相関関係がある指標値と、対照とを比較することにより得られる差異に基づき前記検体の癌化度を判定する第二工程
を有することを特徴とする評価方法。 - Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度に相関関係がある指標値が、Gamma filamin遺伝子の発現産物の量であることを特徴とする請求項16記載の評価方法。
- Gamma filamin遺伝子の発現産物の量が、当該遺伝子の転写産物の量であることを特徴とする請求項17記載の評価方法。
- Gamma filamin遺伝子の発現産物の量が、当該遺伝子の翻訳産物の量であることを特徴とする請求項17記載の評価方法。
- Gamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を有する物質の探索方法であって、
(1)癌細胞に被験物質を接触させる第一工程、
(2)第一工程(1)後に、前記癌細胞に含まれるGamma filamin遺伝子の発現産物量を測定する第二工程、
(3)測定された発現産物の量と対照とを比較することにより得られる差異に基づき被験物質が有するGamma filamin遺伝子の発現を促進する能力を判定する第三工程
を有することを特徴とする探索方法。 - 癌細胞が胃癌細胞であることを特徴とする請求項20記載の探索方法。
- 有効成分として、請求項20の探索方法により見出された能力を有する物質を含み、当該有効成分が薬学的に許容される担体中に製剤化されてなることを特徴とする抗癌剤。
- 有効成分として、Gamma filaminのアミノ酸配列をコードする塩基配列からなる核酸を含み、当該有効成分が薬学的に許容される担体中に製剤化されてなることを特徴とする抗癌剤。
- 癌マーカーとしての、メチル化されたGamma filamin 遺伝子の使用。
- 癌マーカーが胃癌マーカーであることを特徴とする請求項24記載の使用。
- 癌であると診断されうる哺乳動物の体内にある細胞に、Gamma filamin遺伝子のメチル化頻度を低下させる物質を投与する工程を有することを特徴とする癌化抑制方法。
- 癌が胃癌であることを特徴とする請求項26記載の癌化抑制方法。
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