JP2004093620A - 光学薄膜フィルタ - Google Patents

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【課題】透過特性のみならず、反射特性の群遅延偏差を最小に抑える光学薄膜フィルタを実現する。
【解決手段】屈折率の異なる複数の光学薄膜を多層化した反射鏡層とスペーサ層からキャビティ層を形成し、複数のキャビティー層を連絡層を介して多段化した帯域通過型光学薄膜フィルタであって、複素周波数sのフルビッツ多項式における透過特性を表す分母多項式と分子多項式、及び反射特性を表す分母多項式と分子多項式から、求める透過特性及び反射特性に応じて層構成を定めるとともに、上記反射特性を表す分子多項式の零点が、全て複素平面の原点を含み左半面上のみに存在することとする。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は波長多重(WDM)方式の光ファイバー通信網等に用いるフィルタに関し、特に反射される信号に対し直線歪みを軽減した光学薄膜フィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】
波長多重方式(WDM)の光ファイバー通信網では、それぞれの波長の光信号を分離抽出あるいは合波するため光学的な挿入分岐器(ADM:add/drop multiplexer)が用いられ、その機能を実現するために波長分離用光学フィルタが用いられる。
【0003】
従来、その為のフィルタとしては、主に図10に示すFBG(Fiber Bragg Grating)、図11に示すAWG(Arrayed, Waveguide Grating)、図12示す光学薄膜フィルタの3種類の光学フィルタが用いられている。
【0004】
図10に示すFBGにおいては、フィルタ端面14からの入射光はグレイティング部15で波長選択されて反射して反射光としてフィルタ端面14より取り出される。図11に示すAWGにおいては、入射波は分波部16で分波されて移相部17を通り、波長選択部18で波長分離されて取り出される。図12に示す光学薄膜フィルタにおいては、多層の薄膜からなる反射鏡19、スペーサ14、反射鏡20を積層して構成され、各層に垂直に光が入射、透過する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これらのフィルタを使用した場合、透過する光信号の伝送速度が上がった場合、おもに群遅延の偏差により透過信号の波形歪みを受けることが問題にされ始めている。このため、本発明者は透過特性の群遅延の偏差が少ない帯域通過特性の光学薄膜フィルタを提案している(特願2001−53837参照)。
【0006】
従来例の図10、11に示すFBGやAWGでは、透過特性の群遅延の偏差までは考慮されておらず、もっぱら透過の振幅特性のみを考慮するか、あるいは一部のAWGでは透過の振幅特性をあまり考慮せずに、透過位相の単純な傾斜の位相補正に利用するのみであった。また図12に示す光学薄膜フィルタや上記本発明者が提案した光学薄膜フィルタでも反射特性の群遅延までは考慮されていない。
【0007】
一方、最近のD−WDMシステムに用いるADMなどの波長選択部では、ある波長の信号を通過させて取り出し、残りの信号をいったん反射させて保持し、又新たに別の波長の信号を取り出し、この操作を繰り返して全ての波長の信号を分離取り出す操作処理が行われる。この際、反射される信号も反射される際、反射特性の群遅延により波形歪みを受ける。特にD−WDMではあるチャネルの信号に対し、隣接チャネルの信号の周波数、あるいは波長間隔が非常に少ない為、この反射による隣接チャネルの波形歪が大きな問題となる。しかし従来フィルタにおいては、反射特性の群遅延の改善までは考慮されておらず、またその設計法も知られていない。
【0008】
本発明はこれに鑑みなされたものであり、透過特性の群遅延特性の偏差を抑えた光学薄膜フィルタの設計、製造技術に僅かの修正を加えるだけで、反射特性の群遅延特性の偏差も大幅に抑えた光学薄膜フィルタを実現するものである。このフィルタにより、透過信号に対しても、又反射信号に対しても波形歪の少ない波長選択機能を実現し、さらにアドドロップモジュールを実現できる。
【0009】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明は、屈折率の異なる複数の光学薄膜を多層化した反射鏡層とスペーサ層からキャビティ層を形成し、複数のキャビティー層を連絡層を介して多段化した帯域通過型光学薄膜フィルタであって、複素周波数sのフルビッツ多項式における透過特性を表す分母多項式と分子多項式、及び反射特性を表す分母多項式と分子多項式から、求める透過特性及び反射特性に応じて層構成を定めるとともに、上記反射特性を表す分子多項式の零点が、全て複素平面の原点を含み左半面上のみに存在することを特徴とする。
【0010】
【作用】
本発明の光学薄膜フィルタにより、通過帯域内の透過特性の群遅延のみならず、阻止域の反射特性の群遅延偏差を抑えることができ、透過信号に対してもまた隣接チャネルの反射信号に対しても、波形歪をおさえた光学薄膜フィルタとすることができる。この結果、全てのチャネルの信号に対し波形歪みを抑えたADMなどの波長選択機能を実現できる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく以下、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更・改良を施すことは何ら差し支えない。
【0012】
まず、図1に本発明の光学薄膜フィルタの具体例を示す。ガラス基板1上に反射鏡層2、3、4、5、6、7、8とスペーサ層9からなる複数のキャビティ層10、11、12、13を連絡層14を介して多重化してある。上記反射鏡層2、3、4、5、6、7、8、スペーサ層9、連絡層14はそれぞれ屈折率の異なる複数の光学薄膜を多層化して形成したものである。
【0013】
ここで、電気回路のフィルタ理論における複素周波数sのフルビッツ多項式より、求めるフィルターの透過特性及び反射特性が定まるものとすると、このフルビッツ多項式より基準化低域通過型フィルタの素子値が定まり、該基準化低域通過型フィルタを周波数変換、等価変換することにより、図1に示す本発明の多重薄膜光学フィルタの層構成を定めることができる(詳細は特願2001−53837参照)。
【0014】
即ち、光学薄膜フィルタの特性は数1に示されるSパラメータにより表現できる。数2に示すように、透過特性を表すs21の分母多項式のg(s)はフルビッツの多項式を示し、分子多項式のf(s)は数3に示すように、この場合1である。透過特性はこのフルビッツの多項式のみで決まることから、群遅延偏差の少ないフルビッツの多項式を選ぶことで目的の透過特性のフィルタを実現することができる。この段階ではまだ反射特性の群遅延特性までは考慮されていない。
【0015】
【数1】
Figure 2004093620
【0016】
【数2】
Figure 2004093620
【0017】
【数3】
Figure 2004093620
【0018】
光学薄膜フィルタの反射特性は数4のようにs11の分母多項式g(s)と分子多項式h(s)とで定まる。分母多項式g(s)はs21の分母多項式と同じである。一方、分子多項式はユニタリ条件の数5よりg(s)とf(s)が与えられればそれに伴い決められる。
【0019】
【数4】
Figure 2004093620
【0020】
【数5】
Figure 2004093620
【0021】
g(s)が4次の多項式の場合、ユニタリ条件は8次の多項式となり、その零点は図2に示すように、1組の±の実根51、58、原点の重根54、55、2組の共役根52、53、56、57となる。これらの零点から4次の多項式h(s)を得るための零点の組合せは、共役根の1組の選び方で2通り、±の実根の選び方で2通り、原点の選び方は1通りであり、その組合せで全部で4通りある。
【0022】
数1より明らかなように、このいずれの組合せを選んでも透過特性特性s21には違いはなく全く同じ透過特性となる。しかし、同じく数1より明らかなように、反射特性は零点の選び方で特性が異なる。フルビッツの多項式の位相特性は直接s21、数4の位相推移を表す。この例では、透過特性s21はこのフルビッツの多項式のみで決まるので、この位相推移、さらに数6に示す周波数の微分である群遅延特性が決められる。
【0023】
【数6】
Figure 2004093620
【0024】
しかし、反射特性は分子多項式h(s)の位相推移が加算されるので、この位相推移が分母のフルビッツの多項式による位相推移と同じ符号であれば位相がより大きく推移し、同様に数7に示す、その微分である群遅延時間も増加する。反対にh(s)による位相推移が分母多項式のフルビッツの多項式による位相推移と逆の符号であれば全体の位相推移は少なくなり、群遅延時間も減少する。
【0025】
【数7】
Figure 2004093620
【0026】
図3に示すように、フルビッツの多項式g(s)の零点61、62、63、64は複素平面の左半面のみに存在するので、反射特性を表す分子多項式h(s)の零点が左半面にあれば全体の位相推移は打ち消して減少し、群遅延時間も減少する。反対にh(s)の零点が右半面にあれば全体の位相推移は強めあう方向で全体の位相推移は増加し、群遅延時間も増加する。
【0027】
そこで、本発明では、反射特性の位相推移を少なくして、群遅延時間を抑える目的で、反射特性を表す分子多項式h(s)の零点として、複素平面の原点を含む左半面の零点のみ55、56、57、58を採用することを特徴とする。
【0028】
本発明によりh(s)に左半面の零点のみを採用した場合、ポート1から見た反射の位相推移、群遅延時間はは最小になる。しかし、数8より明らかなように、ポート1の反射特性を表す分子多項式の零点を左半面に選ぶことは、ポート2の反射係数の分子多項式の零点を右半面のみに選ぶことになり、ポート2から見た反射係数の位相推移と群遅延時間は最大になる。
【0029】
【数8】
Figure 2004093620
【0030】
以上の説明の条件を満たした数1に示される回路網関数から導かれた等価回路を図9に示す。終端抵抗80、81の間に、キャビティ67、68、69が虚ジャイレータ66を介して接続されている。それぞれのキャビティは共振器76、77、78とその前後に接続された理想トランス70、71、72、73、74、75から成り立つ。図1の実施例の各部と図9の等価回路の各部は連絡層14が虚ジャイレータ66に、反射鏡層2〜8が理想トランス70〜75に、スペーサ層9が共振器76〜78にキャビティ層10〜13がキャビティ67〜69に対応する。
【0031】
図4に本発明による実施例の透過の振幅特性を、図5に反射の振幅特性を示す。この例では従来の本発明者の発明と何ら変わるところはない。図6に本発明による実施例の透過の群遅延特性を示す。図7はh(s)の零点を左半面のみを採用した場合であり、本発明による反射の群遅延特性を示す。図8は従来の反射の群遅延特性の例であり、h(s)の零点を右半面のみ、あるいは右半面と左半面を組み合わせた場合である。透過特性の群遅延特性は従来例と変わるところは無いが、図7と図8を比較すれば明らかに、本発明実施例では、射の群遅延特性の偏差が大幅に少なくなっていることがわかる。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、屈折率の異なる複数の光学薄膜を多層化した反射鏡層とスペーサ層からキャビティ層を形成し、複数のキャビティー層を連絡層を介して多段化した帯域通過型光学薄膜フィルタであって、複素周波数sのフルビッツ多項式における透過特性を表す分母多項式と分子多項式、及び反射特性を表す分母多項式と分子多項式から、求める透過特性及び反射特性に応じて層構成を定めるとともに、上記反射特性を表す分子多項式の零点が、全て複素平面の原点を含み左半面上のみに存在することによって、通過帯域内の透過特性の群遅延のみならず、阻止域の反射特性の群遅延偏差を抑えることができ、透過信号に対してもまた隣接チャネルの反射信号に対しても、波形歪をおさえた光学薄膜フィルタとすることがでる。この結果、全てのチャネルの信号に対し波形歪みを抑えたADMなどの波長選択機能を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光学薄膜フィルタの構成を示す図である。
【図2】本発明の光学薄膜フィルタにおけるh(s)・h(s)の零点を示す複素平面図である。
【図3】本発明の光学薄膜におけるg(s)の零点を示す複素平面図である。
【図4】本発明の光学薄膜フィルタの透過振幅特性を示す図である。
【図5】本発明の光学薄膜フィルタの反射振幅特性を示す図である。
【図6】本発明の光学薄膜フィルタの透過群遅延特性を示す図である。
【図7】本発明の光学薄膜フィルタの反射群遅延特性を示す図である。
【図8】従来の光学薄膜フィルタの反射群遅延特性を示す図である。
【図9】光学薄膜フィルタの等価回路を示す図である。
【図10】従来のFBGを示す図である。
【図11】従来のAWGを示す図である。
【図12】従来の光学薄膜のフィルタを示す図である。
【符号の説明】
1:ガラス基板
2、3、4、5、6、7、8:反射鏡層
9:スペーサ層
10、11、12、13:キャビティ層
14:連絡層
15:グレーティング部
16:分波部
17:移相部
18:波長選択部
51、52、53、54、55、56、57、58: h・hの零点
61、62、63、64:g(s)の零点
66:虚ジャイレータ
67、68、69:キャビティ
70、71、72、73、74、75:理想トランス
76、77、78:共振器
80、81:終端抵抗

Claims (1)

  1. 屈折率の異なる複数の光学薄膜を多層化した反射鏡層とスペーサ層からキャビティ層を形成し、複数のキャビティー層を連絡層を介して多段化した帯域通過型光学薄膜フィルタであって、
    複素周波数sのフルビッツ多項式における透過特性を表す分母多項式と分子多項式、及び反射特性を表す分母多項式と分子多項式から、求める透過特性及び反射特性に応じて層構成を定めるとともに、上記反射特性を表す分子多項式の零点が、全て複素平面の原点を含み左半面上のみに存在することを特徴とする光学薄膜フィルタ。
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