JP2004083640A - 摺動部材用添剤及びこれを含有した摺動部材用樹脂組成物 - Google Patents
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Abstract
【課題】強度に優れ、摩擦係数が小さく摩擦量の少ない摺動部材を与え得る摺動部材用添剤を提供する。
【解決手段】少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され、多孔質構造を有する粒子からなることを特徴とする摺動部材用添剤である。
【選択図】 図1
【解決手段】少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され、多孔質構造を有する粒子からなることを特徴とする摺動部材用添剤である。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面がリン酸カルシウムにより構成される粒子からなることを特徴とする摺動部材用添剤及び該摺動部材用添剤を潤滑油とともに熱可塑性樹脂に配合してなる、軸受、カム、ギア、すべり板などに好適な摺動部材樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
熱可塑性合成樹脂に潤滑油を混合して、自己潤滑性、耐摩耗性を向上させ、給油することなく長期の使用に耐えるように改質した合成樹脂軸受は、例えば特公昭46−5321 号公報、特公昭46−42217号公報、特公昭47−42615号公報、特公昭47−29374号公報、特開昭49−99740号公報などに記載されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
特公昭46−5321 号公報、特公昭46−42217号公報、特公昭47−42615号公報は、滑油を含有させたポリアセタール(ポリオキシメチレン)、ポリアミド軸受の製造方法に係わるものである。これらによれば、使用する樹脂の摩擦係数を低減させ耐摩耗性を著しく向上させるが、ポリアセタールまたはポリアミドの粉末を過剰の潤滑油の中で、その樹脂の融点以上の温度で混合攪拌した後、冷却して潤滑油を含有した合成樹脂を沈殿させ、これを粉末化した後所望の形状に成形するという方法であり、潤滑油を含有させる方法に技術上の難点があったり、成形機の加熱シリンダー部の温度制御などの改造が必要となる難点があった。
【0004】
また、ポリアセタールに潤滑油を含有させるにあたり、潤滑油に保持体として潤滑油に対して親和性を有するポリエチレンを添加することによって成形時に起こりやすい潤滑油の分離を防止できるが、摺動部材の耐荷重性の低下と機械的強度が低下することが難点として挙げられる。一方、特開平9−136987では多孔質炭酸カルシウムウィスカーが潤滑油の分離を抑えるとともに、機械的強度の低下を抑える方法が提案されているが、この技術では多孔質炭酸カルシウムウィスカーの微細な針状が潤滑油成分を保持するものであるが、熱可塑性樹脂をスクリュウ押出機でコンパウンドを作製する時に針状の多孔質部分が崩壊し、成形方法によっては、潤滑油が分離し、摺動性が低下する問題があった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題を解決するべく鋭意研究の結果、表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子、好ましくは、特定の粒子形状、特定の比表面積、特定の粒子径と分散度を有する表面が花弁状多孔質である摺動部材用添剤を含有させることによって、成形品からの油分離を生じることがなく、スクリュウ押出機に気を使うことがなく、また摺動特性を低下させることなく、機械的強度を向上させることができ、良好な摺動部材用樹脂組成物を得ることができることを見い出した。
【0006】
即ち、本発明の請求項1は、少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され、多孔質構造を有する粒子からなることを特徴とする摺動部材用添剤を内容とする。
【0007】
本発明の請求項2は、少なくとも表面がリン酸カルシウムにより構成される粒子が炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物であり、Ca/Pの原子比が16.7以下で、下記(a)〜(d)式を満たす請求項1記載の摺動部材用添剤を内容とする。
(a)0.2≦dx1≦30(μm)
(b)40≦Sw1≦300(m2 /g)
(c)1≦α≦5 但し、α=d50/dx1
(d)0≦β≦2 但し、β=(d90−d10)/d50
但し、
dx1:電子顕微鏡写真により測定した粒子の平均粒子径(μm)。
Sw1:窒素吸着法によるBET比表面積(m2 /g)。
α :分散係数
d50:マイクロトラックFRAレーザー式粒度分布計により測定した粒子の
50%平均粒子径(μm)。
β :シャープネス
d90:マイクロトラックFRAレーザー式粒度分布計により測定した粒子の
ふるい通過側累計90%粒子径(μm)。
d10:マイクロトラックFRAレーザー式粒度分布計により測定した粒子の
ふるい通過側累計10%粒子径(μm)。
【0008】
本発明の請求項3は、熱可塑性樹脂に請求項1又は2記載の摺動部材用添剤を2〜50重量%及び潤滑油を1〜20重量%配合してなることを特徴とする摺動部材用樹脂組成物を内容とする。
【0009】
本発明の請求項4は、熱可塑性樹脂が、ポリアセタール、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレートから選ばれた少なくとも1種である請求項3記載の摺動部材用樹脂組成物を内容とする。
【0010】
本発明の請求項5は、潤滑油が、鉱油、植物油、合成油から選ばれた少なくとも1種である請求項3又は4記載の摺動部材用樹脂組成物を内容とする。
【0011】
本発明の請求項6は、さらに、炭化水素系ワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸を誘導して得られるワックスから選択される少なくとも1種の潤滑性向上剤を1〜10重量%含有してなる請求項3〜5のいずれか1項に記載の摺動部材用樹脂組成物を内容とする。
【0012】
本発明の請求項7は、さらに、黒鉛、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン樹脂から選択される少なくとも1種の固体潤滑剤を1〜10重量%含有してなる請求項3〜6のいずれか1項に記載の摺動部材用樹脂組成物を内容とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の摺動部材用添剤の重要な特徴は、少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子からなる点にあり、好ましくは、少なくとも表面がリン酸カルシウムにより構成される粒子が、炭酸カルシウムを核材とした花弁状多孔質構造を有する多孔質リン酸カルシウム系化合物で構成されていることにある。
本発明の摺動部材用添剤は、表面が燐酸カルシウムであることによって、樹脂との親和性を向上させるとともに、摺動材と使用した場合に、潤滑油の分離を防止できるので、摩耗係数を低減し、耐摩耗性を向上させることが可能である。
また、本発明の摺動部材用添剤が花弁状多孔質構造からなる場合は、高比表面積であり、摺動部材に配合される潤滑油を、摺動時に効果的に保持することが可能である。
【0014】
本発明の少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子としては特に制限はないが、非晶質リン酸カルシウム(略号ACP、化学式Ca3 (PO4 )2 ・nH2 O)、フッ素アパタイト(略号FAP、化学式Ca10(PO4 )6 F2 )、塩素アパタイト(略号CAP、化学式Ca10(PO4 )6 Cl2 )、ヒドロキシアパタイト(略号HAP、化学式Ca10(PO4 )6 (OH)2 )、リン酸八カルシウム(略号OCP、化学式Ca8 H2 (PO4 )6 ・5H2 O)、リン酸三カルシウム(略号TCP、化学式Ca3 (PO4 )2 )、リン酸水素カルシウム(略号DCP、化学式CaHPO4 )、リン酸水素カルシウム二水和物(略号DCPD、化学式CaHPO4 ・2H2 O)等が例示でき、これらは単独でも2種以上でもよい。これらの中でも組成の安定性が高いという観点から、ヒドロキシアパタイト、リン酸八カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素カルシウムが好ましく、ヒドロキシアパタイトが特に好ましい。また、安定性が最も高いヒドロキシアパタイトの含有率に関して言えば、全リン酸カルシウム系化合物に対して10重量%以上が好ましく、50重量%がより好ましく、90重量%以上が最も好ましい。
【0015】
本発明の少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子に占めるCa/Pの原子比は、16.7以下が好ましく、これにより効率よく潤滑油を担持、耐摩耗性を向上させることができる。高温時の潤滑油の保持の観点から、5.56以下がより好ましく、3.33以下がさらに好ましく、1.85以下が最も好ましい。Ca/Pの原子比の下限は、粒子の安定性を維持するという観点から1.60程度が好ましい。また、核材として用いた炭酸カルシウムがすべてリン酸カルシウム系化合物に変化して核材としての炭酸カルシウムが粒子中に存在せず、粒子重量の100%(Ca/Pの原子比は1〜1.67)が花弁状多孔質リン酸カルシウム系化合物に変化しても何ら問題はない。
【0016】
本発明における少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子の平均粒子径dx1は、0.2≦dx1≦30(μm)が好ましく、より好ましくは0.2≦dx1≦20(μm)、さらに好ましくは0.5≦dx1≦10(μm)である。平均粒子径が小さければ小さいほど樹脂中に占める個数が増えるが、平均粒子径が0.2μm未満の場合、粒子の凝集が著しく、樹脂分散が悪くなることがあるので、耐摩耗性が低下する場合がある。30μmを越えた場合、潤滑油の保持能力はあるが、添加量が多いため組成物の強度が低下し、摺動部材にクラックが発生する場合がある。
【0017】
本発明の少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子の比表面積Sw1は、40≦Sw1≦300(m2 /g)が好ましく、より好ましくは45≦Sw1≦250(m2 /g)、さらに好ましくは50≦Sw1≦200(m2 /g)である。Sw1が40m2 /g未満の場合、耐摩耗性が得られない場合がある。また300m2 /gを越えた場合、摺動部材の強度が低下する場合がある。
【0018】
本発明の少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子の分散性を示す分散係数α及び粒子の均一性を示すシャープネスβは、それぞれ1≦α≦5、0≦β≦2が好ましく、より好ましくは1≦α≦2、0≦β≦1である。αが5を越えた場合、粗大な凝集体の割合が多くなり、強度が低下する場合がある。αが1未満の場合、微細粒子の割合が大きくなり、粒子の凝集性が強まり、耐摩耗性が低下する場合がある。また、βが2を越えた場合、粒子径が不均一なる場合があり、強度が低下する場合がある。
【0019】
本発明の少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子の調製方法については特に制限はないが、例えばWO97/03119で製造することが可能であり、以下に示すように特定の条件で製造したものが、表面の花弁状構造が潤滑油を保持する能力が強く好ましい。即ち、炭酸カルシウムを分散した水系中で、水可溶性リン酸、又は、水可溶性リン酸塩とを徐々に反応させて、核材表面で花弁状多孔質リン酸カルシウム系化合物を生成させることにより調製される。具体的には、特定の核材となる炭酸カルシウムの水懸濁液分散体と燐酸の希釈水溶液及び/又は特定の燐酸2水素カルシウムの水懸濁液分散体及び/又は特定の燐酸水素カルシウム2水塩の水懸濁液分散体を特定の割合で特定の混合条件において混合、特定の熟成条件で熟成後、乾燥する方法が例示される。
【0020】
以下に、本発明における花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物系化合物の内、特に好ましく用いることのできる花弁状多孔質ヒドロキシアパタイトを主成分とする場合の調製方法について、より具体的に説明する。
【0021】
粒度分布測定器(島津製作所製SA−CP3)により測定した平均粒子径が0.1〜5μmである炭酸カルシウムの水懸濁液分散体と燐酸の希釈水溶液及び/又は粒度分布測定器((株)島津製作所製SA−CP3)により測定した平均粒子径が2〜10μmであるリン酸二水素カルシウムの水懸濁液分散体及び/又は粒度分布測定器((株)島津製作所製SA−CP3)により測定した平均粒子径が2〜10μmであるリン酸水素カルシウム二水塩の水懸濁液分散体をCa/Pの原子比が16.7〜1.60となる割合で水中で下記の混合条件で混合後、更に下記の熟成条件で熟成を行い、脱水、水洗を行い、300度以下の乾燥雰囲気下で乾燥し、解砕仕上げを行う。
【0022】
混合条件
炭酸カルシウムの水懸濁液分散体固形分濃度 1〜15重量%
燐酸の希釈水溶液濃度 1〜50重量%
混合攪拌羽根の周速 0.5〜50m/秒
混合時間 0.1〜150時間
混合系水懸濁液温度 0〜80℃
混合系の水懸濁液pH 5〜9
熟成条件
熟成系のCa濃度 0.4〜5重量%
熟成時間 0.1〜100時間
熟成系水懸濁液温度 20〜80℃
熟成系水懸濁液pH 6〜9
攪拌羽根の周速 0.5〜50m/秒
【0023】
本発明の、少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子は、粒子の分散性、安定性等をさらに高めるために、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤等のカップリング剤、有機酸、例えば脂肪酸、樹脂酸、アクリル酸等のα、βモノエチレン性不飽和カルボン酸及び、そのエステル類、シュウ酸、クエン酸等の有機酸、酒石酸、フッ酸等の無機酸、それらの重合物及び共重合物、それらの塩、又はそれらのエステル類等の表面処理剤、界面活性剤やヘキサメタリン酸ソーダ、ピロリン酸、ピロリン酸ソーダ、トリポリリン酸、トリポリリン酸ソーダ、トリメタリン酸、ハイポリリン酸等の縮合リン酸及びその塩等を、常法に従い添加又は表面処理することが好ましい。
特に、脂肪酸・脂環族カルボン酸・芳香族カルボン酸、それらのスルホン酸、樹脂酸ならびにそれらの金属塩・アンモニウム塩・エステルが好ましい。特にこで表面処理することによって、花弁状多孔質リン酸カルシウム系化合物の粒子の分散性を改良するだけではなく、潤滑向上剤の減量や固体潤滑剤の減量が可能となり、摩耗量を低減することが可能である。
【0024】
本発明の摺動部材用添剤は、潤滑油とともに熱可塑性樹脂に配合され摺動部材用樹脂組成物とされる。
【0025】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール(ポリオキシメチレン)樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11などのポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィッド、ポリアルキレンスルフィッド等が挙げられ、これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて使用される。
【0026】
本発明の摺動部材用樹脂組成物に配合される摺動部材用添剤の配合量は2〜50重量%が好ましく、より好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは10〜20重量%である。摺動部材用添剤が2重量%より少ない場合は、耐摩耗性が低下する。また50重量%より多い場合は、強度が低下する場合がある。
【0027】
本発明の摺動部材用樹脂組成物に用いられる潤滑油としては、エンジン油、スピンドル油、タービン油、マシン油、シリンダー油、ギヤー油などの鉱油、ひまし油などの植物油、鯨油などの動物油、シリコンなどの合成油が挙げられ、これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて使用される。これらの潤滑油は、摺動部材用添剤を構成する多孔質粒子に吸着される。
【0028】
本発明の摺動部材用樹脂組成物には、更に油滑性向上剤を配合することができる。このような潤滑性向上剤としては、炭化水素系ワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸を誘導して得られるワックスなどのロウ状を呈する物質を配合することができる。
炭化水素系ワックスとしては、概ね炭素数が24以上のパラフィン系ワックス、概ね炭素数が26以上のオレフィン系ワックス、概ね炭素数が28以上のアルキルベンゼン、このほか結晶質のマイクロクリスタルワックスも有効に使用し得る。高級脂肪酸としては、概ね炭素数が14以上の飽和脂肪酸、例えばミリスチン酸、パルミチン酸、スエアリン酸、アラキン酸、モンタン酸など、そして概ね炭素数が18以上の不飽和脂肪酸、例えばオクタデセン酸、パリナイン酸などである。高級脂肪酸を誘導して得られるワックスとしては、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩などが挙げられ、高級脂肪酸エステルとしては、概ね炭素数が22以上の高級脂肪酸のメチルおよびエチルエステル、例えばベヘン酸エチル、トリコ酸メチル、概ね炭素数が16以上の高級脂肪酸と炭素数が15以上の高級一価アルコールとのエステル、ステアリン酸オクタデシルエステル、そして概ね炭素数が13以上の高級脂肪酸のモノ、ジグリセライドエステル、例えば1・3ジラウリン酸グリセライド、さらに概ね炭素数が14以上の高級脂肪酸トリグセライドなどを挙げることができる。高級脂肪酸アミドとしては、特にパルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミドなどが挙げられる。高級脂肪酸塩としては、アルカリまたはアルカリ土類金属との塩、例えばステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウムなどが挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
【0029】
これらの潤滑性向上剤の配合量は、前記潤滑油の配合量との兼ね合いで決定され、通常1〜10重量%、好ましくは3〜7重量%である。
【0030】
本発明において、上記潤滑性向上剤の代わりに、あるいは潤滑性向上剤と併用して固体潤滑剤を配合することができる。固体潤滑剤としては、黒鉛、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等が挙げられ、これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。その配合量は通常1〜10重量%、好ましくは3〜7重量%である。
【0031】
また、本発明の摺動部材樹脂組成物の製造方法については、少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子と潤滑油と熱可塑性樹脂、あるいは少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子と潤滑油と潤滑性向上剤および/または固体潤滑剤と熱可塑性樹脂を所定量配合して混合機で同時に混合しこれを押出機で混練りしペレット化して成形材料とする方法、あるいは少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子と潤滑油、あるいは潤滑油と潤滑性向上剤および/または固体潤滑剤を予め混合したものに熱可塑性樹脂を混合し、これを押出機で混練しペレット化して成形材料とする方法等が採られる。
【0032】
本発明の摺動部材樹脂組成物には、更に他の添加剤として、必要に応じて、炭酸カルシウム、合成シリカ、珪酸カルシウム、タルク、パーライト、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の無機粒子を目的に応じて1種又は2種以上配合してもさしつかえない。
【0033】
【実施例】
以下に本発明を実施例を挙げてさらに詳しく説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。
【0034】
以下の実施例及び比較例で使用する炭酸カルシウムの水懸濁液分散体a、及びbを下記の方法で調製した。
【0035】
炭酸カルシウムの水懸濁液分散体a
丸尾カルシウム製重質炭酸カルシウム「スーパーSSS」(BET比表面積:1.2m2 /g)に水を添加混合後、TKホモミキサー(5000rpm、15分間)にて撹拌分散させて固形分濃度25重量%の電子顕微鏡写真より測定した平均粒子径3μmで粒度分布測定器((株)島津製作所製SA−CP3)により測定した平均粒子径が3.4μmである炭酸カルシウムの水懸濁液分散体aを調製した。
【0036】
炭酸カルシウムの水懸濁液分散体b
比重1.055で温度が8℃の石灰乳(水酸化カルシウムの水懸濁液)7000リッターに、炭酸ガス濃度27重量%の炉ガスを24m3 の流速で導通しpH9まで炭酸化反応を行い、その後40〜50℃で5時間撹拌熟成を行うことにより粒子間のアルカリを溶出させpH10.8として分散させ、電子顕微鏡写真より測定した平均粒子径0.05μmで粒度分布測定器((株)島津製作所製SA−CP3)により測定した平均粒子径が0.48μmである炭酸カルシウムの水懸濁液分散体bを調製した。
【0037】
実施例1
直径0.6mのタービン羽根1枚の撹拌機付きの0.5m3 ステンレスタンク(邪魔板付き)に、固形分8重量%、温度40℃に調整した炭酸カルシウム水懸濁液aを300kg投入し、撹拌羽根周速6m/sで撹拌しながら、Ca/Pの原子比が3.33になる様調整した5重量%水希釈リン酸水溶液を2.5時間で滴下混合した。反応中の水懸濁液のpHは6.5〜7であった。反応終了後、温度40℃、撹拌羽根周速6m/sで12時間撹拌熟成を行った。熟成終了後、固形分濃度8重量%に調整し、ステアリン酸ナトリウムを熱水で溶解した10重量%溶液を花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウムに対して10重量%表面処理し、脱水、乾燥、解砕を行うことにより炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物からなる摺動部材用添剤D1を得た。実施例1の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0038】
実施例2
Ca/Pの原子比を12.0になる様にリン酸水溶液を調整し、また花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウムに対して3重量%表面処理した以外は、実施例1と同様の処方にて、炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物である多孔質リン酸カルシウムからなる摺動部材用添剤D2を調製した。実施例2の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0039】
実施例3
反応及び熟成時の撹拌羽根周速を1.5m/sにし、また花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウムに対して5重量%表面処理する以外は、実施例1と同様の処方にて、炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物である多孔質リン酸カルシウムからなる摺動部材用添剤D3を調製した。実施例3の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0040】
実施例4
実施例1の条件で合成したリン酸カルシウム水溶液に対し、熟成終了後、表面処理することなく、脱水、乾燥、解砕を行うことにより炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物である多孔質リン酸カルシウムからなる摺動部材用添剤D4を調製した。実施例4の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0041】
実施例5
炭酸カルシウム水懸濁液としてbを使用し、Ca/Pの原子比を1.67になる様リン酸水溶液を調整し、また花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウムに対して20重量%表面処理した以外は、実施例1と同様の処方にて、炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物である多孔質リン酸カルシウムからなる摺動部材用添剤D5を調製した。実施例5の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0042】
実施例6
撹拌羽根周速を1.5m/sにした以外は、実施例5と同様の処方にて、炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物である多孔質リン酸カルシウムからなる摺動部材用添剤D6を調製した。実施例6の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0043】
実施例7
反応及び熟成時の温度を27℃、撹拌羽根の周速を0.3m/sにした以外は、実施例1と同様の処方にて、炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物である多孔質リン酸カルシウムからなる摺動部材用添剤D7を調製した。実施例7の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0044】
実施例8
Ca/Pの原子比を20.0になる様にリン酸水溶液を調整し、また花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウムに対して3 重量%表面処理した以外は、実施例1と同様の処方にて、炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物である多孔質リン酸カルシウムからなる摺動部材用添剤D8を調製した。実施例8の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0045】
比較例1
炭酸カルシウムの水懸濁液分散体b をステアリン酸ナトリウムを熱水で溶解した10重量%溶液を炭酸カルシウムに対して3%重量%表面処理し、脱水、乾燥、解砕を行うことによって、表面処理コロイド炭酸カルシウムからなる摺動部材用添剤F1を得た。
【0046】
比較例2
丸尾カルシウム(株)製重質炭酸カルシウム「スーパーSSS」(BET比表面積:1.2m2 /g)からなる摺動部材用添剤F2を準備した。
【0047】
比較例3
丸尾カルシウム(株)製針状炭酸カルシウム「ウィスカル」からなる摺動部材用添剤F3を準備した。
【0048】
上記実施例1〜8で調製した摺動部材用添剤D1〜D8の粉体物性を表1に示す。
なお、各物性値の測定は、下記に記載する機器及び条件にて行った。
dx1 :電子顕微鏡写真により測定した粒子の平均粒子径(μm)
日立走査電子顕微鏡S−2360N(日立製)
走査型電子顕微鏡を用いて、異なった視野から約300個の単粒子と認めることができる粒子のみを計測した。測定粒子径は定方向径について測定し、このようにして得られた粒子径から求めた個数平均径である。但し、一次粒子が針状・柱状ないし不定形の場合は、一つの一次粒子の最長径と最短径の積の平方根をdx1とする。
【0049】
Sw1: BET比表面積
NOVA2000(ユアサアイオニクス社製)
窒素吸着式1点法にて測定
【0050】
α、β(d50、d90、d10) : 粒度分布
マイクロトラックFRAレーザー粒度分布計(日機装製)
測定条件:
メタノール100g、試料1gを140mlマヨネーズ瓶に投入し、ステンレススプーンにて予備撹拌した後、超音波分散機にて予備分散させたものを試料とし、メタノール系にてFRAレーザー粒度分布計にて測定。超音波分散機は、US−300T(日本精機製作所社製)を用い100μA−60秒間の一定条件にて予備分散させた。
【0051】
【表1】
【0052】
表1より、本発明の摺動部材用添剤は、粒子径、比表面積が自由に調整できるとともに、優れた分散性と粒子径の均一性を有することが確認できる。
摺動部材用添剤D5の電子顕微鏡写真を図1(10,000倍)、図2(1,000倍)に示す。また、摺動部材用添剤F3の電子顕微鏡写真を図3(10,000倍)、図4(1,000倍)に示す。図1、図2より、本発明の摺動部材用添剤は花弁状多孔質構造を有し、摩擦係数を低くし、耐摩耗性を向上させるに十分な量の潤滑油を含有できることが確認できる。一方、摺動部材用添剤F3は、図3、図4より、表面が多孔質でないことが明らかであり、摩擦係数を低くし耐摩耗性を向上できるだけの潤滑油を含有できないと思われる。
【0053】
実施例9〜21、比較例4〜7
熱可塑性樹脂として、ポリアセタール樹脂(ポリプラスチック製「ジュラコンM90フレーク」)を使用し、このポリアセタールに、表2、表3の配合で粒子D1〜D8及びF1〜F3からなる摺動部材用添剤、潤滑油をヘンシェルミキサーで同時に混合し、この混合物をスクリュウ押出機で混練りし、ペレット化したものを成形材料とした。この成形材料をスクリュウインライン射出成形機によって、成形温度180 ℃、射出成形圧90.0MPa/cm2 で成形し、縦横それぞれ30mm、厚さ3mm の板状成型物(摺動部材)を得た。各板状成型物のスラスト試験の結果を表2、表3に示す。
【0054】
スラスト試験:以下に記載の条件下で摩擦係数及び摩耗量を測定した。摩擦係数については、試験開始後定常状態に達した時の値で示し、摩耗量については、試験開始後100 時間後の摺動面の寸法量で示した。
すべり速度 10m/min
荷重 2.0MPa/cm2
試験時間 100 時間
滑剤 無潤滑(滑剤不使用)
相手材 機械構造用炭素鋼(S45C)
【0055】
引張強さ:ASTM−D−638の試験法に準拠して測定した。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
実施例22
熱可塑性樹脂として、ポリアミド(東レ株式会社製「ナイロン6 CM1026])を使用し、ポリアセタールと同様にペレット化し、この成形材料をスクリュウインライン射出成形機によって、成形温度240 ℃、射出成形圧75.0MPa/cm2 で成形し、縦横それぞれ30mm、厚さ3mm の板状成型物(摺動部材)を得た。各板状成型物のスラスト試験の結果を表4に示す。
【0059】
実施例23
熱可塑性樹脂として、ポリブチレンテレフタレート(PBT)(東洋紡績株式会社製「N−1040」)を使用し、ポリアセタールと同様にペレット化し、この成形材料をスクリュウインライン射出成形機によって、成形温度220 ℃、射出成形圧50.0MPa/cm2 で成形し、縦横それぞれ30mm、厚さ3mm の板状成型物(摺動部材)を得た。各板状成型物のスラスト試験の結果を表4に示す。
【0060】
実施例24〜27 比較例8、9
熱可塑性樹脂として、ポリアセタール樹脂(ポリプラスチック製「ジュラコンM90フレーク」)を使用し、このポリアセタールに、表4の配合で摺動部材用添剤D4、潤滑油としてエンジン油、潤滑向上剤としてステアリン酸粉末、及び/または、固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)粉末、または二硫化モリブデン(MoS2)粉末をヘンシェルミキサーで同時に混合し、この混合物をスクリュウ押出機で混練り、ペレット化したものを成形材料とした。この成形材料をスクリュウインライン射出成形機によって、成形温度180 ℃、射出成形圧90.0MPa/cm2 で成形し、縦横それぞれ30mm、厚さ3mm の板状成型物(摺動部材)を得た。各板状成型物のスラスト試験の結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
【発明の効果】
叙上の通り、本発明の摺動部材用添剤は、潤滑油とともに熱可塑性樹脂に配合することによって、強度が優れ、摩擦係数が小さく摩耗量の少ない摺動部材を提供し得る摺動材樹脂組成物を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】摺動部材用添剤(D5)の電子顕微鏡写真(10,000倍)である。
【図2】摺動部材用添剤(D5)の電子顕微鏡写真(1,000倍)である。
【図3】摺動部材用添剤(F3)の電子顕微鏡写真(10,000倍)である。
【図4】摺動部材用添剤(F3)の電子顕微鏡写真(1,000倍)である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面がリン酸カルシウムにより構成される粒子からなることを特徴とする摺動部材用添剤及び該摺動部材用添剤を潤滑油とともに熱可塑性樹脂に配合してなる、軸受、カム、ギア、すべり板などに好適な摺動部材樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
熱可塑性合成樹脂に潤滑油を混合して、自己潤滑性、耐摩耗性を向上させ、給油することなく長期の使用に耐えるように改質した合成樹脂軸受は、例えば特公昭46−5321 号公報、特公昭46−42217号公報、特公昭47−42615号公報、特公昭47−29374号公報、特開昭49−99740号公報などに記載されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
特公昭46−5321 号公報、特公昭46−42217号公報、特公昭47−42615号公報は、滑油を含有させたポリアセタール(ポリオキシメチレン)、ポリアミド軸受の製造方法に係わるものである。これらによれば、使用する樹脂の摩擦係数を低減させ耐摩耗性を著しく向上させるが、ポリアセタールまたはポリアミドの粉末を過剰の潤滑油の中で、その樹脂の融点以上の温度で混合攪拌した後、冷却して潤滑油を含有した合成樹脂を沈殿させ、これを粉末化した後所望の形状に成形するという方法であり、潤滑油を含有させる方法に技術上の難点があったり、成形機の加熱シリンダー部の温度制御などの改造が必要となる難点があった。
【0004】
また、ポリアセタールに潤滑油を含有させるにあたり、潤滑油に保持体として潤滑油に対して親和性を有するポリエチレンを添加することによって成形時に起こりやすい潤滑油の分離を防止できるが、摺動部材の耐荷重性の低下と機械的強度が低下することが難点として挙げられる。一方、特開平9−136987では多孔質炭酸カルシウムウィスカーが潤滑油の分離を抑えるとともに、機械的強度の低下を抑える方法が提案されているが、この技術では多孔質炭酸カルシウムウィスカーの微細な針状が潤滑油成分を保持するものであるが、熱可塑性樹脂をスクリュウ押出機でコンパウンドを作製する時に針状の多孔質部分が崩壊し、成形方法によっては、潤滑油が分離し、摺動性が低下する問題があった。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記問題を解決するべく鋭意研究の結果、表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子、好ましくは、特定の粒子形状、特定の比表面積、特定の粒子径と分散度を有する表面が花弁状多孔質である摺動部材用添剤を含有させることによって、成形品からの油分離を生じることがなく、スクリュウ押出機に気を使うことがなく、また摺動特性を低下させることなく、機械的強度を向上させることができ、良好な摺動部材用樹脂組成物を得ることができることを見い出した。
【0006】
即ち、本発明の請求項1は、少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され、多孔質構造を有する粒子からなることを特徴とする摺動部材用添剤を内容とする。
【0007】
本発明の請求項2は、少なくとも表面がリン酸カルシウムにより構成される粒子が炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物であり、Ca/Pの原子比が16.7以下で、下記(a)〜(d)式を満たす請求項1記載の摺動部材用添剤を内容とする。
(a)0.2≦dx1≦30(μm)
(b)40≦Sw1≦300(m2 /g)
(c)1≦α≦5 但し、α=d50/dx1
(d)0≦β≦2 但し、β=(d90−d10)/d50
但し、
dx1:電子顕微鏡写真により測定した粒子の平均粒子径(μm)。
Sw1:窒素吸着法によるBET比表面積(m2 /g)。
α :分散係数
d50:マイクロトラックFRAレーザー式粒度分布計により測定した粒子の
50%平均粒子径(μm)。
β :シャープネス
d90:マイクロトラックFRAレーザー式粒度分布計により測定した粒子の
ふるい通過側累計90%粒子径(μm)。
d10:マイクロトラックFRAレーザー式粒度分布計により測定した粒子の
ふるい通過側累計10%粒子径(μm)。
【0008】
本発明の請求項3は、熱可塑性樹脂に請求項1又は2記載の摺動部材用添剤を2〜50重量%及び潤滑油を1〜20重量%配合してなることを特徴とする摺動部材用樹脂組成物を内容とする。
【0009】
本発明の請求項4は、熱可塑性樹脂が、ポリアセタール、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレートから選ばれた少なくとも1種である請求項3記載の摺動部材用樹脂組成物を内容とする。
【0010】
本発明の請求項5は、潤滑油が、鉱油、植物油、合成油から選ばれた少なくとも1種である請求項3又は4記載の摺動部材用樹脂組成物を内容とする。
【0011】
本発明の請求項6は、さらに、炭化水素系ワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸を誘導して得られるワックスから選択される少なくとも1種の潤滑性向上剤を1〜10重量%含有してなる請求項3〜5のいずれか1項に記載の摺動部材用樹脂組成物を内容とする。
【0012】
本発明の請求項7は、さらに、黒鉛、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン樹脂から選択される少なくとも1種の固体潤滑剤を1〜10重量%含有してなる請求項3〜6のいずれか1項に記載の摺動部材用樹脂組成物を内容とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の摺動部材用添剤の重要な特徴は、少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子からなる点にあり、好ましくは、少なくとも表面がリン酸カルシウムにより構成される粒子が、炭酸カルシウムを核材とした花弁状多孔質構造を有する多孔質リン酸カルシウム系化合物で構成されていることにある。
本発明の摺動部材用添剤は、表面が燐酸カルシウムであることによって、樹脂との親和性を向上させるとともに、摺動材と使用した場合に、潤滑油の分離を防止できるので、摩耗係数を低減し、耐摩耗性を向上させることが可能である。
また、本発明の摺動部材用添剤が花弁状多孔質構造からなる場合は、高比表面積であり、摺動部材に配合される潤滑油を、摺動時に効果的に保持することが可能である。
【0014】
本発明の少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子としては特に制限はないが、非晶質リン酸カルシウム(略号ACP、化学式Ca3 (PO4 )2 ・nH2 O)、フッ素アパタイト(略号FAP、化学式Ca10(PO4 )6 F2 )、塩素アパタイト(略号CAP、化学式Ca10(PO4 )6 Cl2 )、ヒドロキシアパタイト(略号HAP、化学式Ca10(PO4 )6 (OH)2 )、リン酸八カルシウム(略号OCP、化学式Ca8 H2 (PO4 )6 ・5H2 O)、リン酸三カルシウム(略号TCP、化学式Ca3 (PO4 )2 )、リン酸水素カルシウム(略号DCP、化学式CaHPO4 )、リン酸水素カルシウム二水和物(略号DCPD、化学式CaHPO4 ・2H2 O)等が例示でき、これらは単独でも2種以上でもよい。これらの中でも組成の安定性が高いという観点から、ヒドロキシアパタイト、リン酸八カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸水素カルシウムが好ましく、ヒドロキシアパタイトが特に好ましい。また、安定性が最も高いヒドロキシアパタイトの含有率に関して言えば、全リン酸カルシウム系化合物に対して10重量%以上が好ましく、50重量%がより好ましく、90重量%以上が最も好ましい。
【0015】
本発明の少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子に占めるCa/Pの原子比は、16.7以下が好ましく、これにより効率よく潤滑油を担持、耐摩耗性を向上させることができる。高温時の潤滑油の保持の観点から、5.56以下がより好ましく、3.33以下がさらに好ましく、1.85以下が最も好ましい。Ca/Pの原子比の下限は、粒子の安定性を維持するという観点から1.60程度が好ましい。また、核材として用いた炭酸カルシウムがすべてリン酸カルシウム系化合物に変化して核材としての炭酸カルシウムが粒子中に存在せず、粒子重量の100%(Ca/Pの原子比は1〜1.67)が花弁状多孔質リン酸カルシウム系化合物に変化しても何ら問題はない。
【0016】
本発明における少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子の平均粒子径dx1は、0.2≦dx1≦30(μm)が好ましく、より好ましくは0.2≦dx1≦20(μm)、さらに好ましくは0.5≦dx1≦10(μm)である。平均粒子径が小さければ小さいほど樹脂中に占める個数が増えるが、平均粒子径が0.2μm未満の場合、粒子の凝集が著しく、樹脂分散が悪くなることがあるので、耐摩耗性が低下する場合がある。30μmを越えた場合、潤滑油の保持能力はあるが、添加量が多いため組成物の強度が低下し、摺動部材にクラックが発生する場合がある。
【0017】
本発明の少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子の比表面積Sw1は、40≦Sw1≦300(m2 /g)が好ましく、より好ましくは45≦Sw1≦250(m2 /g)、さらに好ましくは50≦Sw1≦200(m2 /g)である。Sw1が40m2 /g未満の場合、耐摩耗性が得られない場合がある。また300m2 /gを越えた場合、摺動部材の強度が低下する場合がある。
【0018】
本発明の少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子の分散性を示す分散係数α及び粒子の均一性を示すシャープネスβは、それぞれ1≦α≦5、0≦β≦2が好ましく、より好ましくは1≦α≦2、0≦β≦1である。αが5を越えた場合、粗大な凝集体の割合が多くなり、強度が低下する場合がある。αが1未満の場合、微細粒子の割合が大きくなり、粒子の凝集性が強まり、耐摩耗性が低下する場合がある。また、βが2を越えた場合、粒子径が不均一なる場合があり、強度が低下する場合がある。
【0019】
本発明の少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子の調製方法については特に制限はないが、例えばWO97/03119で製造することが可能であり、以下に示すように特定の条件で製造したものが、表面の花弁状構造が潤滑油を保持する能力が強く好ましい。即ち、炭酸カルシウムを分散した水系中で、水可溶性リン酸、又は、水可溶性リン酸塩とを徐々に反応させて、核材表面で花弁状多孔質リン酸カルシウム系化合物を生成させることにより調製される。具体的には、特定の核材となる炭酸カルシウムの水懸濁液分散体と燐酸の希釈水溶液及び/又は特定の燐酸2水素カルシウムの水懸濁液分散体及び/又は特定の燐酸水素カルシウム2水塩の水懸濁液分散体を特定の割合で特定の混合条件において混合、特定の熟成条件で熟成後、乾燥する方法が例示される。
【0020】
以下に、本発明における花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物系化合物の内、特に好ましく用いることのできる花弁状多孔質ヒドロキシアパタイトを主成分とする場合の調製方法について、より具体的に説明する。
【0021】
粒度分布測定器(島津製作所製SA−CP3)により測定した平均粒子径が0.1〜5μmである炭酸カルシウムの水懸濁液分散体と燐酸の希釈水溶液及び/又は粒度分布測定器((株)島津製作所製SA−CP3)により測定した平均粒子径が2〜10μmであるリン酸二水素カルシウムの水懸濁液分散体及び/又は粒度分布測定器((株)島津製作所製SA−CP3)により測定した平均粒子径が2〜10μmであるリン酸水素カルシウム二水塩の水懸濁液分散体をCa/Pの原子比が16.7〜1.60となる割合で水中で下記の混合条件で混合後、更に下記の熟成条件で熟成を行い、脱水、水洗を行い、300度以下の乾燥雰囲気下で乾燥し、解砕仕上げを行う。
【0022】
混合条件
炭酸カルシウムの水懸濁液分散体固形分濃度 1〜15重量%
燐酸の希釈水溶液濃度 1〜50重量%
混合攪拌羽根の周速 0.5〜50m/秒
混合時間 0.1〜150時間
混合系水懸濁液温度 0〜80℃
混合系の水懸濁液pH 5〜9
熟成条件
熟成系のCa濃度 0.4〜5重量%
熟成時間 0.1〜100時間
熟成系水懸濁液温度 20〜80℃
熟成系水懸濁液pH 6〜9
攪拌羽根の周速 0.5〜50m/秒
【0023】
本発明の、少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子は、粒子の分散性、安定性等をさらに高めるために、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤等のカップリング剤、有機酸、例えば脂肪酸、樹脂酸、アクリル酸等のα、βモノエチレン性不飽和カルボン酸及び、そのエステル類、シュウ酸、クエン酸等の有機酸、酒石酸、フッ酸等の無機酸、それらの重合物及び共重合物、それらの塩、又はそれらのエステル類等の表面処理剤、界面活性剤やヘキサメタリン酸ソーダ、ピロリン酸、ピロリン酸ソーダ、トリポリリン酸、トリポリリン酸ソーダ、トリメタリン酸、ハイポリリン酸等の縮合リン酸及びその塩等を、常法に従い添加又は表面処理することが好ましい。
特に、脂肪酸・脂環族カルボン酸・芳香族カルボン酸、それらのスルホン酸、樹脂酸ならびにそれらの金属塩・アンモニウム塩・エステルが好ましい。特にこで表面処理することによって、花弁状多孔質リン酸カルシウム系化合物の粒子の分散性を改良するだけではなく、潤滑向上剤の減量や固体潤滑剤の減量が可能となり、摩耗量を低減することが可能である。
【0024】
本発明の摺動部材用添剤は、潤滑油とともに熱可塑性樹脂に配合され摺動部材用樹脂組成物とされる。
【0025】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール(ポリオキシメチレン)樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11などのポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィッド、ポリアルキレンスルフィッド等が挙げられ、これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて使用される。
【0026】
本発明の摺動部材用樹脂組成物に配合される摺動部材用添剤の配合量は2〜50重量%が好ましく、より好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは10〜20重量%である。摺動部材用添剤が2重量%より少ない場合は、耐摩耗性が低下する。また50重量%より多い場合は、強度が低下する場合がある。
【0027】
本発明の摺動部材用樹脂組成物に用いられる潤滑油としては、エンジン油、スピンドル油、タービン油、マシン油、シリンダー油、ギヤー油などの鉱油、ひまし油などの植物油、鯨油などの動物油、シリコンなどの合成油が挙げられ、これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて使用される。これらの潤滑油は、摺動部材用添剤を構成する多孔質粒子に吸着される。
【0028】
本発明の摺動部材用樹脂組成物には、更に油滑性向上剤を配合することができる。このような潤滑性向上剤としては、炭化水素系ワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸を誘導して得られるワックスなどのロウ状を呈する物質を配合することができる。
炭化水素系ワックスとしては、概ね炭素数が24以上のパラフィン系ワックス、概ね炭素数が26以上のオレフィン系ワックス、概ね炭素数が28以上のアルキルベンゼン、このほか結晶質のマイクロクリスタルワックスも有効に使用し得る。高級脂肪酸としては、概ね炭素数が14以上の飽和脂肪酸、例えばミリスチン酸、パルミチン酸、スエアリン酸、アラキン酸、モンタン酸など、そして概ね炭素数が18以上の不飽和脂肪酸、例えばオクタデセン酸、パリナイン酸などである。高級脂肪酸を誘導して得られるワックスとしては、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩などが挙げられ、高級脂肪酸エステルとしては、概ね炭素数が22以上の高級脂肪酸のメチルおよびエチルエステル、例えばベヘン酸エチル、トリコ酸メチル、概ね炭素数が16以上の高級脂肪酸と炭素数が15以上の高級一価アルコールとのエステル、ステアリン酸オクタデシルエステル、そして概ね炭素数が13以上の高級脂肪酸のモノ、ジグリセライドエステル、例えば1・3ジラウリン酸グリセライド、さらに概ね炭素数が14以上の高級脂肪酸トリグセライドなどを挙げることができる。高級脂肪酸アミドとしては、特にパルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミドなどが挙げられる。高級脂肪酸塩としては、アルカリまたはアルカリ土類金属との塩、例えばステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウムなどが挙げられる。これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。
【0029】
これらの潤滑性向上剤の配合量は、前記潤滑油の配合量との兼ね合いで決定され、通常1〜10重量%、好ましくは3〜7重量%である。
【0030】
本発明において、上記潤滑性向上剤の代わりに、あるいは潤滑性向上剤と併用して固体潤滑剤を配合することができる。固体潤滑剤としては、黒鉛、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等が挙げられ、これらは単独で又は必要に応じ2種以上組み合わせて用いられる。その配合量は通常1〜10重量%、好ましくは3〜7重量%である。
【0031】
また、本発明の摺動部材樹脂組成物の製造方法については、少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子と潤滑油と熱可塑性樹脂、あるいは少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子と潤滑油と潤滑性向上剤および/または固体潤滑剤と熱可塑性樹脂を所定量配合して混合機で同時に混合しこれを押出機で混練りしペレット化して成形材料とする方法、あるいは少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され多孔質構造を有する粒子と潤滑油、あるいは潤滑油と潤滑性向上剤および/または固体潤滑剤を予め混合したものに熱可塑性樹脂を混合し、これを押出機で混練しペレット化して成形材料とする方法等が採られる。
【0032】
本発明の摺動部材樹脂組成物には、更に他の添加剤として、必要に応じて、炭酸カルシウム、合成シリカ、珪酸カルシウム、タルク、パーライト、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の無機粒子を目的に応じて1種又は2種以上配合してもさしつかえない。
【0033】
【実施例】
以下に本発明を実施例を挙げてさらに詳しく説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。
【0034】
以下の実施例及び比較例で使用する炭酸カルシウムの水懸濁液分散体a、及びbを下記の方法で調製した。
【0035】
炭酸カルシウムの水懸濁液分散体a
丸尾カルシウム製重質炭酸カルシウム「スーパーSSS」(BET比表面積:1.2m2 /g)に水を添加混合後、TKホモミキサー(5000rpm、15分間)にて撹拌分散させて固形分濃度25重量%の電子顕微鏡写真より測定した平均粒子径3μmで粒度分布測定器((株)島津製作所製SA−CP3)により測定した平均粒子径が3.4μmである炭酸カルシウムの水懸濁液分散体aを調製した。
【0036】
炭酸カルシウムの水懸濁液分散体b
比重1.055で温度が8℃の石灰乳(水酸化カルシウムの水懸濁液)7000リッターに、炭酸ガス濃度27重量%の炉ガスを24m3 の流速で導通しpH9まで炭酸化反応を行い、その後40〜50℃で5時間撹拌熟成を行うことにより粒子間のアルカリを溶出させpH10.8として分散させ、電子顕微鏡写真より測定した平均粒子径0.05μmで粒度分布測定器((株)島津製作所製SA−CP3)により測定した平均粒子径が0.48μmである炭酸カルシウムの水懸濁液分散体bを調製した。
【0037】
実施例1
直径0.6mのタービン羽根1枚の撹拌機付きの0.5m3 ステンレスタンク(邪魔板付き)に、固形分8重量%、温度40℃に調整した炭酸カルシウム水懸濁液aを300kg投入し、撹拌羽根周速6m/sで撹拌しながら、Ca/Pの原子比が3.33になる様調整した5重量%水希釈リン酸水溶液を2.5時間で滴下混合した。反応中の水懸濁液のpHは6.5〜7であった。反応終了後、温度40℃、撹拌羽根周速6m/sで12時間撹拌熟成を行った。熟成終了後、固形分濃度8重量%に調整し、ステアリン酸ナトリウムを熱水で溶解した10重量%溶液を花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウムに対して10重量%表面処理し、脱水、乾燥、解砕を行うことにより炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物からなる摺動部材用添剤D1を得た。実施例1の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0038】
実施例2
Ca/Pの原子比を12.0になる様にリン酸水溶液を調整し、また花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウムに対して3重量%表面処理した以外は、実施例1と同様の処方にて、炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物である多孔質リン酸カルシウムからなる摺動部材用添剤D2を調製した。実施例2の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0039】
実施例3
反応及び熟成時の撹拌羽根周速を1.5m/sにし、また花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウムに対して5重量%表面処理する以外は、実施例1と同様の処方にて、炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物である多孔質リン酸カルシウムからなる摺動部材用添剤D3を調製した。実施例3の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0040】
実施例4
実施例1の条件で合成したリン酸カルシウム水溶液に対し、熟成終了後、表面処理することなく、脱水、乾燥、解砕を行うことにより炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物である多孔質リン酸カルシウムからなる摺動部材用添剤D4を調製した。実施例4の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0041】
実施例5
炭酸カルシウム水懸濁液としてbを使用し、Ca/Pの原子比を1.67になる様リン酸水溶液を調整し、また花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウムに対して20重量%表面処理した以外は、実施例1と同様の処方にて、炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物である多孔質リン酸カルシウムからなる摺動部材用添剤D5を調製した。実施例5の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0042】
実施例6
撹拌羽根周速を1.5m/sにした以外は、実施例5と同様の処方にて、炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物である多孔質リン酸カルシウムからなる摺動部材用添剤D6を調製した。実施例6の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0043】
実施例7
反応及び熟成時の温度を27℃、撹拌羽根の周速を0.3m/sにした以外は、実施例1と同様の処方にて、炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物である多孔質リン酸カルシウムからなる摺動部材用添剤D7を調製した。実施例7の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0044】
実施例8
Ca/Pの原子比を20.0になる様にリン酸水溶液を調整し、また花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウムに対して3 重量%表面処理した以外は、実施例1と同様の処方にて、炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物である多孔質リン酸カルシウムからなる摺動部材用添剤D8を調製した。実施例8の製造条件及び各物性値を表1に記載する。
【0045】
比較例1
炭酸カルシウムの水懸濁液分散体b をステアリン酸ナトリウムを熱水で溶解した10重量%溶液を炭酸カルシウムに対して3%重量%表面処理し、脱水、乾燥、解砕を行うことによって、表面処理コロイド炭酸カルシウムからなる摺動部材用添剤F1を得た。
【0046】
比較例2
丸尾カルシウム(株)製重質炭酸カルシウム「スーパーSSS」(BET比表面積:1.2m2 /g)からなる摺動部材用添剤F2を準備した。
【0047】
比較例3
丸尾カルシウム(株)製針状炭酸カルシウム「ウィスカル」からなる摺動部材用添剤F3を準備した。
【0048】
上記実施例1〜8で調製した摺動部材用添剤D1〜D8の粉体物性を表1に示す。
なお、各物性値の測定は、下記に記載する機器及び条件にて行った。
dx1 :電子顕微鏡写真により測定した粒子の平均粒子径(μm)
日立走査電子顕微鏡S−2360N(日立製)
走査型電子顕微鏡を用いて、異なった視野から約300個の単粒子と認めることができる粒子のみを計測した。測定粒子径は定方向径について測定し、このようにして得られた粒子径から求めた個数平均径である。但し、一次粒子が針状・柱状ないし不定形の場合は、一つの一次粒子の最長径と最短径の積の平方根をdx1とする。
【0049】
Sw1: BET比表面積
NOVA2000(ユアサアイオニクス社製)
窒素吸着式1点法にて測定
【0050】
α、β(d50、d90、d10) : 粒度分布
マイクロトラックFRAレーザー粒度分布計(日機装製)
測定条件:
メタノール100g、試料1gを140mlマヨネーズ瓶に投入し、ステンレススプーンにて予備撹拌した後、超音波分散機にて予備分散させたものを試料とし、メタノール系にてFRAレーザー粒度分布計にて測定。超音波分散機は、US−300T(日本精機製作所社製)を用い100μA−60秒間の一定条件にて予備分散させた。
【0051】
【表1】
【0052】
表1より、本発明の摺動部材用添剤は、粒子径、比表面積が自由に調整できるとともに、優れた分散性と粒子径の均一性を有することが確認できる。
摺動部材用添剤D5の電子顕微鏡写真を図1(10,000倍)、図2(1,000倍)に示す。また、摺動部材用添剤F3の電子顕微鏡写真を図3(10,000倍)、図4(1,000倍)に示す。図1、図2より、本発明の摺動部材用添剤は花弁状多孔質構造を有し、摩擦係数を低くし、耐摩耗性を向上させるに十分な量の潤滑油を含有できることが確認できる。一方、摺動部材用添剤F3は、図3、図4より、表面が多孔質でないことが明らかであり、摩擦係数を低くし耐摩耗性を向上できるだけの潤滑油を含有できないと思われる。
【0053】
実施例9〜21、比較例4〜7
熱可塑性樹脂として、ポリアセタール樹脂(ポリプラスチック製「ジュラコンM90フレーク」)を使用し、このポリアセタールに、表2、表3の配合で粒子D1〜D8及びF1〜F3からなる摺動部材用添剤、潤滑油をヘンシェルミキサーで同時に混合し、この混合物をスクリュウ押出機で混練りし、ペレット化したものを成形材料とした。この成形材料をスクリュウインライン射出成形機によって、成形温度180 ℃、射出成形圧90.0MPa/cm2 で成形し、縦横それぞれ30mm、厚さ3mm の板状成型物(摺動部材)を得た。各板状成型物のスラスト試験の結果を表2、表3に示す。
【0054】
スラスト試験:以下に記載の条件下で摩擦係数及び摩耗量を測定した。摩擦係数については、試験開始後定常状態に達した時の値で示し、摩耗量については、試験開始後100 時間後の摺動面の寸法量で示した。
すべり速度 10m/min
荷重 2.0MPa/cm2
試験時間 100 時間
滑剤 無潤滑(滑剤不使用)
相手材 機械構造用炭素鋼(S45C)
【0055】
引張強さ:ASTM−D−638の試験法に準拠して測定した。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
実施例22
熱可塑性樹脂として、ポリアミド(東レ株式会社製「ナイロン6 CM1026])を使用し、ポリアセタールと同様にペレット化し、この成形材料をスクリュウインライン射出成形機によって、成形温度240 ℃、射出成形圧75.0MPa/cm2 で成形し、縦横それぞれ30mm、厚さ3mm の板状成型物(摺動部材)を得た。各板状成型物のスラスト試験の結果を表4に示す。
【0059】
実施例23
熱可塑性樹脂として、ポリブチレンテレフタレート(PBT)(東洋紡績株式会社製「N−1040」)を使用し、ポリアセタールと同様にペレット化し、この成形材料をスクリュウインライン射出成形機によって、成形温度220 ℃、射出成形圧50.0MPa/cm2 で成形し、縦横それぞれ30mm、厚さ3mm の板状成型物(摺動部材)を得た。各板状成型物のスラスト試験の結果を表4に示す。
【0060】
実施例24〜27 比較例8、9
熱可塑性樹脂として、ポリアセタール樹脂(ポリプラスチック製「ジュラコンM90フレーク」)を使用し、このポリアセタールに、表4の配合で摺動部材用添剤D4、潤滑油としてエンジン油、潤滑向上剤としてステアリン酸粉末、及び/または、固体潤滑剤としてポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)粉末、または二硫化モリブデン(MoS2)粉末をヘンシェルミキサーで同時に混合し、この混合物をスクリュウ押出機で混練り、ペレット化したものを成形材料とした。この成形材料をスクリュウインライン射出成形機によって、成形温度180 ℃、射出成形圧90.0MPa/cm2 で成形し、縦横それぞれ30mm、厚さ3mm の板状成型物(摺動部材)を得た。各板状成型物のスラスト試験の結果を表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
【発明の効果】
叙上の通り、本発明の摺動部材用添剤は、潤滑油とともに熱可塑性樹脂に配合することによって、強度が優れ、摩擦係数が小さく摩耗量の少ない摺動部材を提供し得る摺動材樹脂組成物を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】摺動部材用添剤(D5)の電子顕微鏡写真(10,000倍)である。
【図2】摺動部材用添剤(D5)の電子顕微鏡写真(1,000倍)である。
【図3】摺動部材用添剤(F3)の電子顕微鏡写真(10,000倍)である。
【図4】摺動部材用添剤(F3)の電子顕微鏡写真(1,000倍)である。
Claims (7)
- 少なくとも表面組成がリン酸カルシウムにより構成され、多孔質構造を有する粒子からなることを特徴とする摺動部材用添剤。
- 少なくとも表面がリン酸カルシウムにより構成される粒子が炭酸カルシウムを核材とする花弁状多孔質構造を有するリン酸カルシウム系化合物であり、Ca/Pの原子比が16.7以下で、下記(a)〜(d)式を満たす請求項1記載の摺動部材用添剤。
(a)0.2≦dx1≦30(μm)
(b)40≦Sw1≦300(m2 /g)
(c)1≦α≦5 但し、α=d50/dx1
(d)0≦β≦2 但し、β=(d90−d10)/d50
但し、
dx1:電子顕微鏡写真により測定した粒子の平均粒子径(μm)。
Sw1:窒素吸着法によるBET比表面積(m2 /g)。
α :分散係数
d50:マイクロトラックFRAレーザー式粒度分布計により測定した粒子の
50%平均粒子径(μm)。
β :シャープネス
d90:マイクロトラックFRAレーザー式粒度分布計により測定した粒子の
ふるい通過側累計90%粒子径(μm)。
d10:マイクロトラックFRAレーザー式粒度分布計により測定した粒子の
ふるい通過側累計10%粒子径(μm)。 - 熱可塑性樹脂に請求項1又は2記載の摺動部材用添剤を2〜50重量%及び潤滑油を1〜20重量%配合してなることを特徴とする摺動部材用樹脂組成物。
- 熱可塑性樹脂が、ポリアセタール、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレートから選ばれた少なくとも1種である請求項3記載の摺動部材用樹脂組成物。
- 潤滑油が、鉱油、植物油、合成油から選ばれた少なくとも1種である請求項3又は4記載の摺動部材用樹脂組成物。
- さらに、炭化水素系ワックス、高級脂肪酸、高級脂肪酸を誘導して得られるワックスから選択される少なくとも1種の潤滑性向上剤を1〜10重量%含有してなる請求項3〜5のいずれか1項に記載の摺動部材用樹脂組成物。
- さらに、黒鉛、二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン樹脂から選択される少なくとも1種の固体潤滑剤を1〜10重量%含有してなる請求項3〜6のいずれか1項に記載の摺動部材用樹脂組成物。
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2002
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