JP2004081837A - 歯列矯正用部材の改質方法および歯科治療用部材 - Google Patents

歯列矯正用部材の改質方法および歯科治療用部材 Download PDF

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Abstract

【課題】これまでのプラスチック製歯列矯正部材は、接着には、必ず、プライマーを用いること。接着力が時間経過とともに低下すること、および環境汚染の可能性のある成分の溶出の問題があった。
【解決手段】高分子材料製歯列矯正部材を、含浸処理する工程、活性化処理する工程、親水性高分子による処理工程、および単量体のグラフト化工程を適宜組み合わせた工程によって改質する。これにより、ポリオレフィン、環状オレフィン重合体または共重合体等の高分子材料を、その実用強度の低下を伴わずに、親水性や接着性等を向上させることができる。その結果、耐汚れ性や歯面との耐久性のある接着性と透明性に優れた高分子材料製歯列矯正部材の製造を可能にする。また、極性基を有する環状オレフィン共重合体を用いることによって、表面処理を行わなくても、接着性が得られる。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、高分子材料製歯科治療用部材の改質方法に関する。高分子材料製歯科治療用部材とは、歯列矯正用部材、義歯、その他の歯科治療に用いられる部材を意味する。特に、高分子材料の強度を低下させずに、接着性や加工性等を向上させる改質方法に関する。また本発明はかかる改質方法により得られた高分子材料製歯科治療用部材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
歯列矯正用部材(歯列矯正用ブラケット)について説明する。不正歯列の矯正は、前歯及び小臼歯に直接接着されたブラケット群と、大臼歯に直接接着するかバンドを介して装着されたバッカルチューブに、アーチワイヤーと呼ばれる弾性線を掛け渡して結紮し、このアーチワイヤーの復元力によって歯並びを矯正する。
【0003】
ブラケットは金属製の物が一般的であるが、口を開くと目立つので、特に成人矯正においては、白色半透明又は透明のセラミックブラケットやプラスチックブラケットを用いる場合が多い。従来のプラスチックブラケットはガラス繊維強化のポリカーボネート樹脂製がほとんどで、これらのブラケットは特開平9−98988及びアメリカ合衆国特許5254002に見ることができる。ポリカーボネート樹脂は透明で比較的高強度であり、また、プラスチックプライマーを併用すれば一般に用いられる歯科矯正用接着剤で接着でき、矯正治療に必要な接着強さを得られる。
【0004】
しかし、ポリカーボネート製ブラケット(以後、PCブラケットという)は、口腔内環境において加水分解等により強度が低下しタイウィングの破折等を生じ、耐久性があるとは認められなかった。一般的な矯正治療は18から24箇月を要し、これに対してPCブラケットは治療の終了を待たずして、新品と交換せざるをえないものもあった。
【0005】
また、PCブラケットは飲食物の色素成分によって黄色または茶色に変色するため、著しく審美性を損なうものであった。このことも、PCブラケットがドクターや患者から評価されない原因となっていた。更に、PCブラケットは近年、上記の加水分解により環境ホルモンの一種であるビスフェノールA(BPA)を溶出するとの報告がある。BPAは内分泌攪乱作用を生じる化学物質のひとつとしてエストロゲン作用を疑われている。日本歯科理工学会はPCブラケットからのBPA溶出量を調査したが、人体に影響を与えるほど多くのBPAを溶出していないと報告した。しかし、リスク対ベネフィットを考えれば、BPAを全く含まないプラスチックブラケットを提供することは緊急の課題である。
【0006】
PCに代わるものとして、一部のメーカーはポリウレタン、アクリル又はポリアセタール製のプラスチックブラケットを上市したが、不透明であり、ある種の成分が溶出すること、接着するが脱落すること等の問題がある。
【0007】
また、これまでのプラスチックブラケットは歯面に接着するために、プラスチックプライマーの併用が必要であり、このことは好まれていない。プラスチックプライマーは、アクリルモノマーやある種の溶剤からなり、プラスチックブラケットのベース面を溶かして、矯正用接着剤との接着力を高める役割があるが、接着力の耐久性に問題がある。さらに、近年は、これまでのブラケット部材に光重合接着剤を利用することや、またプレプライム技術(ブラケットに予め接着剤を盛り付けた状態で供給する技術)の発展によって、便利になり、問題のあるプラスチックブラケットを敢えて使用することが敬遠されつつある。
【0008】
プラスチックプライマーを用いないで、ブラケットを接着する技術は以下の公報に見られる。アメリカ合衆国特許5267855は、メカニカルロックをもつボンディングベースを作る手段として、ベース面に透明のエポキシ、ウレタン又はアクリル塗料を塗り、この層がまだ軟かく湿っている状態で、シリカ又はアルミナの粒をまぶし、固めて層を作ることを提示している。
【0009】
アメリカ合衆国特許5295824は、製造段階でアクリルモノマーとある種の溶剤の混合物をベース面に塗り、溶かした後に乾燥させて、低分子のアクリル層を形成するものである。
アメリカ合衆国特許5558516は、やはり製造の段階で、重合可能な成分とベース面を溶かす溶剤及び光重合開始剤を組み合わせたものを塗り、事前にプライマー層を形成しようとするものである。
【0010】
5267855特許は、確実なメカニカルロック層を作ることができない。5295824特許は、低分子のアクリル層であっても、固化した状態では接着剤となじまない。5558516特許は、経時変化により固化するか、重合するため安定した接着強さを得られない等の理由で、これらの技術は実用化に到らなかった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の従来技術の問題点に鑑み、治療期間を通じて口腔内で劣化せず、変色せず、BPAのような溶出成分を含まず、且つ、プライマーを用いずとも充分な接着強さを実現できるプラスチックブラケットを提供することを目的とする。なお、本発明による処理をした歯列矯正ブラケットについては、プライマーの使用と、歯面のエッチングを併用すれば、さらに接着を促進させることは可能となる。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、書面の走査位置またはその直前(直後)を常に目視可能とするため、書面に垂直な方向に対して傾斜した光路で受光することを最も主要な特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
上記目的のためには、化学的変化のうけにくい高分子材料を用いたブラケットを製造し、それらと歯との接着性を改良することが望ましい。高分子材料の中でも、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンは化学的に安定であり、添加物や環境ホルモンの流出の問題のない材料である。そのため、食品保存用の包装材としてよく用いられている。しかし、これらの材料は接着性がほとんどないうえ、化学的に安定で、表面改質が困難であり、これまで用途に限界があった。本発明者はポリオレフィンや環状オレフィン重合体または共重合体からなるブラケット、およびその他の高分子材料の表面改質を鋭意検討した結果、含浸処理、活性化処理、ビニル単量体のグラフト化および親水性高分子による処理を組み合わせることが有効であることを見いだした。そして、その処理法が高分子材料を含む歯列矯正部材の改質に応用できることを見いだして、本発明を完成するに至った。さらに、環状オレフィン重合体または共重合体からなるブラケットについては、透明性や硬度に優れ、そのブラケットのべース面に、所謂「切り込み」を加えたメカニカルベース構造とすることによって、エッチングした歯面との接着性が高まり、実用強度が得られるため、プラスチック製ブラケットとして有効であることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は、高分子材料を含む歯列矯正部材の表面を、(1)該高分子材料に対して含浸性のある化合物(含浸剤という)に接触させて、表面から深さ100ミクロン以内の含浸量が0.1〜40重量%(対高分子材料)の範囲で含浸させ、材料の形状を実質的に変化させない含浸処理工程、(2)カルボニル基を導入する活性化処理工程、および(3)単量体をグラフト化する工程により、この順に処理することを特徴とする高分子材料を含む歯列矯正部材の改質方法に関するものである。この方法を改質法1とする。
【0015】
または、本発明は、高分子材料を含む歯列矯正部材の表面を、(1)該高分子材料に対して含浸性のある化合物に接触させて、表面から深さ100ミクロン以内の含浸量が0.1〜40重量%(対高分子材料)の範囲で含浸させ、材料の形状を実質的に変化させない含浸処理工程、(2)カルボニル基を導入する活性化処理工程、(3)親水性高分子で処理する工程により、この順に処理することを特徴とする高分子材料を含む歯列矯正部材の改質方法に関するものである。この方法を改質法2とする。
【0016】
または、本発明は、高分子材料を含む歯列矯正部材の表面を、(1)該高分子材料に対して含浸性のある化合物に接触させて、表面から深さ100ミクロン以内の含浸量が0.1〜40重量%(対高分子材料)の範囲で含浸させ、材料の形状を実質的に変化させない含浸処理工程、(2)カルボニル基を導入する活性化処理工程、(3)親水性高分子で処理する工程、および(4)単量体をグラフト化する工程により、この順に処理することを特徴とする高分子材料を含む歯列矯正部材の改質方法に関するものである。この方法を改質法3とする。
【0017】
または、本発明は、高分子材料製歯列矯正用部材の表面を、(1)カルボニル基を導入する活性化処理工程、および(2)単量体をグラフト化する工程により、この順に処理することを特徴とする高分子材料製歯列矯正用部材の改質方法に関するものである。この方法を改質法4とする。
【0018】
例えば、本発明の改質法によって、メタルインサートを埋設して補強したポリオレフィン樹脂製歯列矯正用ブラケット部材の表面を改質して、ブラケット部材と歯との十分な接着強度が得られる。そのうえで、ブラケットのアーチワイヤー挿入スロットに、アーチワイヤーを固定して矯正力を付与することによって、好ましい高分子材料含有歯列矯正用ブラケットが得られる。
【0019】
ポリオレフィンおよび環状オレフィン高分子の化学的改質方法は、それよりも処理しやすいポリアミド(ナイロン)、ポリエステル、ポリスチレン等の樹脂からなる歯列矯正用ブラケットの改質にも容易に適用できる。繊維強化プラスチックに配合する強化繊維に利用できるため、高分子の複合材料からなる歯列矯正用ブラケット用部材と歯の接着性も改善できる。
【0020】
なお、本発明は、歯列矯正部材を接着促進剤(プラスチックプライマー)を用いずに、歯との実用強度を得ることを目的としているが、検討中に、特殊な環状オレフィン共重合体(例えば、分子構造に酸素を含むものは、効果的である)は、特に、表面処理を行わずに、プライマーと接着剤の併用で、実用強度が得られることがわかった。但し、この場合でも、本発明の1から4の処理法を用いると、プライマーなしでも、さらに強力な接着強度が得られる。そこで、この件は請求項とした。
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0021】
(高分子材料)
本発明において用いられる歯列矯正部材用の高分子材料とは、高分子の単独材料、混合材料もしくはこれらの改質物、またはこれらの高分子材料とガラス、金属、炭素材料等との混合または複合により得られた材料に含まれる高分子材料を意味する。合成高分子としては、熱可塑性高分子および熱硬化性高分子のいずれも用いることができる。合成法としては各種方法が例示されるが、本発明の高分子材料には、これらのいずれの方法により得られる合成高分子も含まれる。例えば、(1)付加重合体:オレフィン、オレフィン以外のビニル化合物、ビニリデン化合物およびその他の炭素−炭素二重結合を有する化合物からなる群から選ばれる単量体の単独重合体または共重合体、またはこれらの単独重合体もしくは共重合体の混合物あるいは改質物、ビニリデン化合物とはビニリデン基を含む化合物であり、塩化ビニリデン、ふっ化ビニリデン、イソブチレン等が挙げられる。オレフィン、ビニル化合物、ビニリデン化合物以外の炭素−炭素二重結合を有する化合物としては、無水マレイン酸、無水ピロメリット酸、2−ブテン酸、四ふっ化エチレン、三ふっ化塩化エチレン等および二重結合を2個以上含む化合物、例えばブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げられる。また、環状オレフィン重合体または共重合体も好ましく用いられる。例えば、ノルボルネン誘導体をメタセシス開環重合し、残る二重結合を水素化して得られる環状オレフィン高分子であるゼオノアやゼオネックス(商品名)(日本ゼオン(株)製)、環状オレフィン共重合体であるトパス(商品名)(三井化学(株)製)、脂環式ポリオレフィン構造の高分子であるアートン(商品名)(JSR(株)製)などは、汚れにくく、透明性、硬度に優れ、好ましく用いられる。特に、アートンは側鎖にエステル基を有するために、表面改質処理なしでも、接着性があり、実用強度を得ることが可能である。(2)重縮合体:ポリエステル、ポリアミド(芳香族ポリアミドを含む)など、またはこれらの重合体の混合物あるいは改質物、(3)付加縮合体:フェノール樹脂(カイノール:商品名、日本カイノール(株)製を含む)、尿素樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂など、またはこれらの重合体の混合物あるいは改質物、(4)重付加生成物:ポリウレタン、ポリ尿素など、またはこれらの重合体の混合物あるいは改質物、(5)開環重合体:シクロプロパン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ラクトン、ラクタムなどの単独重合体または共重合体、またはこれらの単独重合体もしくは共重合体の混合物あるいは改質物、(6)環化重合体:ジビニル化合物(例えば:1,4−ペンタジエン)やジイン化合物(例えば:1,6−ヘプタジイン)などの単独重合体または共重合体、またはこれらの単独重合体もしくは共重合体の混合物あるいは改質物、(7)異性化重合体:例えばエチレンとイソブテンの交互共重合体など、(8)電解重合体:ピロール、アニリン、アセチレンなどの単独重合体または共重合体、またはこれらの単独重合体もしくは共重合体の混合物あるいは改質物、(9)アルデヒドやケトンのポリマー、(10)ポリエーテルスルホン、(11)ポリペプチド、などが挙げられる。天然高分子としては、セルロース、タンパク質、多糖類等の単独物またはこれらの改質物等が挙げられる。
【0022】
本発明においては、特に前記の付加重合体が好ましく用いられる。付加重合体を構成する単量体は特に限定されないが、オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチル−ペンテン−1、オクテン−1等の任意のα−オレフィンの単独重合体もしくはこれらの2種以上の共重合体、またはこれらの単独重合体および/または共重合体の混合物を適宜使用することができる。
本発明においてオレフィン以外のビニル化合物とは、ビニル基を有する化合物であり、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸またはメタクリル酸のエステル、酢酸ビニル、ビニルエーテル類、ビニルカルバゾール、アクリロニトリル等が挙げられる。
また、上述の環状オレフィン重合体または共重合体も好ましく用いられる。
オレフィン以外のビニリデン化合物とはビニリデン基を含む化合物であり、ふっ化ビニリデン、イソブチレン等が挙げられる。
オレフィン、ビニル化合物、ビニリデン化合物以外の炭素−炭素二重結合を有する化合物としては、無水マレイン酸、無水ピロメリット酸、2−ブテン酸、四ふっ化エチレン、三ふっ化塩化エチレン等および二重結合を2個以上含む化合物、例えばブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げられる。
【0023】
好ましい付加重合体は、これらの単量体の単独重合体もしくは2種以上の単量体の共重合体またはこれらの重合体の混合物を適宜使用することができる。特に好ましくは、ポリエチレン、エチレンと他のα−オレフィンの共重合体、ポリプロピレン、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体、および上述の環状オレフィン高分子である。オレフィン共重合体としてはランダム共重合体、ブロック共重合体を含む。本発明においては、特に処理の困難といわれるポリオレフィンに親水性や接着性を付与するのに有効である。これらの処理高分子材料は、物理的強度および化学的安定性に優れ、汚れにくいためにポリオレフィンが好ましく用いられる。
【0024】
ポリオレフィン以外の高分子材料としては、オレフィン以外のビニル化合物、ビニリデン化合物およびその他の炭素−炭素二重結合を有する化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の単量体の単独重合体または共重合体、例えば、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル共重合体(アクリル系繊維およびそれらの成形物、ABS樹脂等)、ブタジエンを含む共重合体(合成ゴム)等、およびポリアミド(ナイロンを始めとする脂肪族ポリアミドおよび芳香族ポリアミドを含む)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレートや脂肪族および全芳香族ポリエステルを含む)、ポリウレタン、ポリベンゾエート、ポリエーテルスルホン、ポリアセタール、各種合成ゴムなどが好ましく用いられる。
【0025】
上記以外の高分子化合物としては、例えば、ポリアセタール、ポリフェノール、ポリフェニレンエーテル、ポリアルキルパラオキシベンゾエート、ポリイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリ−p−フェニレンベンゾビスチアゾール、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンズオキサゾール、繊維ではアセテート、再生セルロース繊維、ビニロン、ビニルアルコールと塩化ビニルの共重合体の繊維(ポリクラール、商品名:コーデラン等)、などを例示することができる。さらに、炭素繊維や木綿、麻その他の植物繊維、絹、羊毛等の動物性繊維等の天然繊維も使用できる。また、これらの高分子材料の複数を混合または複合したものも好ましく使用できる。
本発明において用いられる高分子材料は上記したものに限られず、すべての高分子化合物に適用することができる。
【0026】
高分子材料は、酸化防止剤、安定剤、造核剤、難燃剤、充填剤、発泡剤、帯電防止剤、その他の高分子材料に通常添加される各種添加剤を含有しても差し支えない。一般には、酸化防止剤等の安定剤は表面活性化の障害となるので、その存在が好ましくないとされており、無添加材料を用意するか、安定剤を除去する等の対策が望ましいとされている。これに対して、本発明は、高分子材料が安定剤等の添加剤を含有している場合にも効果的な表面改質を達成できるものである。したがって、通常の製法で得られた成形体を、高分子材料としてそのまま使用できる。
【0027】
(洗浄工程)
高分子材料の表面改質を行うに当たり、高分子材料の表面を適当な液体で洗浄して不純物を除去しておくことが好ましい。例えば、ポリオレフィン、ポリエステルなどはアルコールまたはトルエンで洗浄することが好ましく行われる。アセテート、ナイロン、ポリエステル、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタンなどはアルコールまたは水とアルコールの混合物で洗浄してもよい。
【0028】
(含浸処理工程)
含浸処理とは、高分子材料に親和性のある化合物をそのままかまたは溶液もしくは分散液として用い、高分子材料とその軟化点以下の温度で接触させて、該化合物を表面から含浸させる方法である。このとき、高分子材料は実質的に変形しない。この目的で用いられる化合物を含浸剤と呼ぶ。この含浸処理工程は含浸剤が高分子化合物の非結晶領域にしみ込んで、材料内部に隙間をつくる工程と言える。次に施す活性化処理、グラフト化処理等を容易にする作用がある。含浸された含浸剤は、後続の処理工程後の洗浄によって除去される。
【0029】
高分子材料に対する含浸剤の含浸量の好ましい範囲を重量増加率で示すと、高分子材料の厚さが1000ミクロン未満の場合に0.1〜40重量%であり、材料の厚さが1000ミクロン以上の場合、材料の表面から深さ1000ミクロン以内の材料部分について0.1〜40重量%である。厚さや直径が20mm以下程度の高分子材料の場合、簡便的には、含浸量が0.1〜10重量%程度が好ましい。
【0030】
(含浸剤)
含浸剤として使用できる化合物は、高分子材料に親和性のある化合物であれば、有機・無機を問わず、また気体、液体、固体のいずれであっても使用できる。液体含浸剤は、そのままもしくは他の液体との溶液、分散液等の混合物として、固体であれば、その溶液または分散液、乳化液として、あるいは気体の場合にはそのまま使用できる。本発明における含浸剤はいわゆる溶剤を包含するものであるがこれに限定されるものではない。
【0031】
含浸剤は、被処理高分子材料の種類に対応して選択する。合成繊維、特にポリエステル系合成繊維のキャリヤー染色に使用される化合物や市販のキャリヤー染色用助剤は好ましく使用できる。また、それに相当する多種の化合物も使用できる。これらは、ポリエステル以外にもポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアクリル酸樹脂、ポリウレタンなどの広範な高分子材料に適用できる。この例としては、ジフェニル、オルトまたはパラヒドロキシビフェニル、他のジフェニル誘導体、または、サリチル酸ナトリウムまたはその誘導体、ハロゲン化芳香族化合物(例えば、モノ、ジまたはトリクロロベンゼン)等これらについてはヘキサンやメタノールなどを溶媒とした有機液体溶液、水分散液または界面活性剤を用いた乳化液として用いることができる。
【0032】
または、高分子材料に親和性のある有機液体を含浸剤として用いることもできる。この場合の有機液体の選択の目安は、処理すべき高分子材料の溶解度パラメータ(SP値)の近い単一の液体または複数の液体の混合物である。高分子の溶解度パラメーターより、+2または−2程度の差のある溶剤で処理するのが好ましい。これ以内の差の溶剤では低温で短時間に処理すれば使用できる。高分子の表面にしみ込むだけで、溶解させないこと。高温で溶解性のある有機溶剤でも、溶解性を示さない低温で短時間に処理すれば使用できる。
【0033】
液体含浸剤の例として、ポリプロピレンの場合は、トルエン、キシレン、デカリン、テトラリン、シクロヘキサン、ジクロロエタン1容とエタノール4容の混合物等、ポリエチレンには、トルエン、キシレン、α−クロルナフタレン、ジクロロベンゼン1容とメタノール2容の混合物、ポリスチレンには、トルエン1容とメタノール10容、ポリエチレンテレフタレートには、フェノール1容とヘキサン10容の混合物等を使用できる。
【0034】
含浸処理の温度や時間等の条件は、材料の形状によって適宜選択する。例えば、繊維の直径5〜10μm程度のポリオレフィン繊維からなる不織布の場合、室温の含浸剤(例えばトルエン)に2分間浸漬して、遠心脱水機(回転数500〜2000回/分)にかけて含浸剤を振り切り、表面の含浸剤が見掛け上乾燥した状態になったら終了とする。ポリオレフィンのフィルム、板および成型品(厚さが2〜5mm程度)の場合は、室温〜70℃の含浸剤に5〜30分間程度浸漬してから、上述のように脱液する。これらの場合の含浸重量率は1から10重量%程度である。
【0035】
本含浸処理は、フィルムや板のように表面積の大きい成形物、あるいは酸化防止剤その他の添加剤を多く含むような材料には効果的である。
【0036】
(活性化処理工程)
本発明における高分子材料を活性化処理する工程とは、材料表面にカルボニル基を導入するための処理を意味する。カルボニル基以外に、酸素あるいは窒素などを含む官能基または不飽和結合等を導入することも含む。活性化処理の好ましい方法は、プラズマ処理、オゾン処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、高圧放電処理等の各種処理である。本発明の目的には、いずれも公知の設備を用いることができる。活性化処理の程度は、改質の目的に応じて適宜調節するが、本発明においては、カルボニル基の導入が確認できる最小限の活性化処理が好ましい。従来提案されている活性化処理方法では本発明の目的には過剰な処理である場合が多い。判断の目安として、処理した高分子材料の赤外線吸収スペクトルの測定が有効である。例えば、導入されたカルボニル基に基づく吸収の吸光度と未変化の結晶部分の構造に基づく吸収の吸光度の比を、ベースライン法により求めて、酸化の程度を知ることができる。例えば、ポリプロピレンの場合には導入されたカルボニル基に基づく1710cm−1付近の吸光度と未変化の結晶部分メチル基に基づく吸収の973cm−1での吸光度の比が0.2以下程度であることが好ましい。
【0037】
活性化処理条件の設定の好ましい方法は、あらかじめ目的とする高分子材料について処理時間とカルボニル吸収の関係を求めておき、この関係式に基づいて、材料強度の低下を伴わない程度の活性化処理条件を定める。赤外吸収スペクトル法で検知できる最小限のカルボニル基が存在する場合であっても強度低下が生じる場合は、この関係式に基づいて赤外吸収で測定できない吸光度に対応する時間へ内挿して適切な処理時間を求める。このようにすることで、材料強度の低下を伴わずに有効な表面活性化処理が達成できる。
【0038】
(オゾン処理)
オゾン処理は、高分子材料の表面をオゾン分子と接触させて、酸化反応を主とする改質反応を行うことを目的としている。オゾン処理は、高分子材料をオゾンに暴露することによって行われる。暴露方法は、オゾンが存在する雰囲気に所定時間保持する方法、オゾン気流中に所定時間暴露する方法等適宜の方法で行うことができる。オゾンは、空気、酸素ガスまたは酸素添加空気等の酸素含有気体をオゾン発生装置に供給することによって発生させることができる。得られたオゾン含有気体を、材料を保持してある容器、槽等に導入して、オゾン処理を行うことができる。オゾン含有気体中のオゾン濃度、暴露時間、暴露温度の諸条件は、高分子材料の種類、形状および表面改質の目的に応じて適宜定めることができる。通常は、酸素または空気の気流を用い、流量20ml〜10L/分で、10〜200g/mの濃度のオゾンを発生させて、温度10〜80℃、時間1分〜10時間で処理することができる。例えば、ポリプロピレンやポリ塩化ビニル繊維の場合は、オゾン濃度10〜40g/mで、室温下、10〜30分程度の処理が適当である。また、フィルム形状の場合は、オゾン濃度10〜80g/m程度で、室温下、20分〜3時間程度の処理が適当である。空気を用いた場合の発生オゾン濃度は、酸素を用いた場合の約50%程度となる。
【0039】
オゾン処理により高分子材料の表面には酸化を主とする反応によって、ヒドロペルオキシ基(−O−OH)などが導入され、その一部は水酸基やカルボニル基等の官能基に変化すると推定される。
【0040】
(プラズマ処理)
プラズマ処理は、高分子材料をアルゴン、ネオン、ヘリウム、窒素、二酸化窒素、酸素あるいは空気等を含む容器内におき、グロー放電により生ずるプラズマにさらし、材料の表面に酸素、窒素などを含む官能基を導入することを目的とする。アルゴンやネオンなどの不活性ガスが低圧で存在する場合、高分子材料表面は発生したプラズマの攻撃を受け、その表面にラジカルが発生すると考えられる。その後、空気に晒されることにより、ラジカルは酸素と結合して、高分子材料表面には、カルボン酸基やカルボニル基、アミノ基などが導入されると考えられる。なお、微量の窒素、二酸化炭素、酸素または空気中でのプラズマ処理によって、直接、官能基が導入されると考えられる。プラズマ発生の放電形式は、(1)直流放電および低周波放電、(2)ラジオ波放電、(3)マイクロ波放電等に分類される。
【0041】
(紫外線照射処理)
紫外線照射処理は、空気中で高分子材料の表面に紫外線を照射する方法である。紫外線を照射する光源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ等を用いることができる。照射前に紫外線吸収性溶剤で高分子材料の表面を処理してもよい。紫外線の波長は適宜選択できるが、材料の劣化を少なくするためには、360nm付近または以下が好ましい。高分子材料に紫外線が照射されると、成形物の表面領域の二重結合等の化学構造に紫外線が吸収され、吸収されたエネルギーにより化学結合が切断され、生成したラジカルに空気中の酸素が結合し、中間に過酸化物構造を経由するなどして、カルボニル基、カルボキシル基等を生成すると考えられる。
【0042】
(高圧放電処理)
高圧放電処理はトンネル状の処理装置内に処理される高分子材料を移動させるためのベルトコンベアーを設置し、高分子材料を移動させながら、処理装置の内側の壁面に多数付けられた電極間に数十万ボルトの高電圧を加え、空気中で放電させて処理する方法である。放電によって空気中の酸素と被処理物の表面が活性化され、高分子材料の表面に酸素が取り込まれ、極性基が生成すると考えられる。
【0043】
(コロナ放電処理)
コロナ放電処理は、接地された金属ロールとそれに数ミリメートルの間隔で置かれたナイフ状電極との間に数千ボルトの高電圧をかけてコロナ放電を発生させ、この放電中の電極−ロール間を被処理高分子材料を通過させる方法である。この方法はフィルムまたは薄様物の処理に適している。
【0044】
オゾン処理以外の方法は、材料に放射することによって表面を活性化するものであり、放射が当たらない影になる部分については工夫を要する。従って、不織布のような繊維集合体や、材料の形態によって影になる部分が存在する材料の全体を処理するにはオゾン処理が好ましい。また、オゾン処理は設備費等の面からも安価であり好適である。
【0045】
(単量体グラフト化工程)
本発明においてグラフト化する単量体は、グラフト可能なものであれば制限はないが少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を有する化合物、たとえばビニル化合物または類似の化合物が好ましい。単量体のうち、親水性単量体が好ましいが、接着性の向上を目的とした場合は、極性基のある単量体を用いることもできる。
【0046】
親水性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、2−ブテン酸、エチレンスルホン酸、ヒドロキシアルキルアクリレート、ヒドロキシアルキルメタクリレート、アクリルアミド、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、ビニルカルバゾール、無水マレイン酸、無水ピロメリット酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体またはこれらの群から選ばれる少なくとも1種の単量体との混合物が好ましい。
【0047】
本発明において、耐薬品性と吸水性の点からは、アクリル酸またはメタクリル酸の使用が特に好ましい。さらに、親水性の乏しい単量体であるアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等も使用できる。親水性単量体と親水性の乏しい単量体との混合物を用いることができる。
【0048】
単量体のグラフト化は、(1)触媒または開始剤(以下総称して「開始剤」という。)の存在下に行う方法、(2)開始剤の存在下または不存在下に加熱する方法、または(3)触媒または開始剤の存在下または不存在下に紫外線照射を行う方法のいずれも好ましい。開始剤としては、過酸化物(過酸化ベンゾイル、t−ブチルヒドロキシペルオキシド、ジ−t−ブチルヒドロキシペルオキシド等)、硝酸二セリウムアンモニウム(IV)、過硫酸塩(過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなど)、酸化還元系開始剤(酸化剤:過硫酸塩、過酸化水素、ヒドロペルオキシドなどと、無機還元剤:銅塩、鉄塩、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなど、または有機還元剤:アルコール、アミン、シュウ酸などとの組み合わせ、および酸化剤:ヒドロペルオキシドなどと無機還元剤:銅塩、鉄塩、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなど、または有機還元剤:過酸化ジアルキル、過酸化ジアシルなどと還元剤:第三アミン、ナフテン酸塩、メルカプタン、有機金属化合物(トリエチルアルミニウム、トリエチルホウ素など)との組み合わせ)、その他の公知のラジカル重合開始剤などが挙げられる。アクリル酸をモノマーとして用いる場合は、硝酸二セリウムアンモニウム(IV)や過硫酸カリウム等の水溶性の重合開始剤が好ましく用いられるが、過酸化ベンゾイルやN,N‘−アゾビスイソブチロニトリル等の非水溶性開始剤は、メタノールやアセトンに溶解して、水と混合して用いることができる。紫外線照射の場合には、触媒として、これらの重合開始剤の他に、ベンゾフェノンや過酸化水素などの光増感剤を加えても良い。
【0049】
単量体のグラフト化は、一般的なグラフト化方法を使用できる。すなわち、液相、気相、固相の何れの反応でも可能である。
【0050】
水溶性の開始剤の場合は水に必要量を溶解する。水不溶性の開始剤の場合は、アルコールやアセトンなどのような水と混合する有機溶剤(たとえばアセトン、メタノール等)に溶解してから、開始剤が析出しないように水と混合する。開始剤溶液に、活性化処理または後記する親水性高分子処理を施された材料を入れ単量体を加えてグラフト化を行う。処理容器内は必要に応じて窒素置換しておく。加熱グラフトさせる場合は、この反応混合物を適宜の温度で適宜の時間加熱する。または、紫外線照射の下でグラフトさせる場合は、適宜の温度、時間で紫外線照射を照射する。紫外線ランプは特に限定はないが、高圧水銀灯(例えば東芝(株)製、商品名:H400P)を用いることができる。波長は360nm付近の紫外線をフィルターでとり出してもよいが、全波長光を照射してもよい。
【0051】
単量体のグラフト化は、単量体が揮発性化合物である場合、それを蒸気として用いることができる。すなわち、処理物を密閉容器に入れ、揮発性単量体(例、メタクリル酸メチル、スチレン等)を注入し、その容器を減圧することにより、単量体を気化させる。この反応容器に紫外線照射を行って、グラフト化を行う。単量体としてアミド基を有するビニル単量体を使用し、本発明者の特許第3431721号に記載された方法よりアミド基をホフマン転移する方法も好ましく使用できる。
【0052】
(親水性高分子)
本発明において親水性高分子とは、水溶性高分子または易水溶性ではないが親水性を有する高分子を意味する。具体例としては、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ−α−ヒドロキシビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリ−α−ヒドロキシアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール等が挙げられる。またこれらのスルホン化物も使用できる。他に、アルギン酸ナトリウム、デンプン誘導体、絹フィブロイン、絹セリシン、ゼラチン、各種タンパク質、多糖類等が挙げられる。
【0053】
(親水性高分子による処理)
活性化処理された高分子材料に親水性高分子処理をするに際しては、触媒もしくは開始剤の存在下に行うのが好ましい。触媒および開始剤は、単量体によるグラフト化の場合と同様のものを使用できる。
【0054】
親水性高分子による処理工程においては、親水性高分子は溶液状態で使用するのが好ましい。水溶性高分子であれば水溶液として使用できる。水溶性に乏しい場合は適当な溶媒に溶解して使用する。以下に水溶性高分子を使用する場合について説明する。
【0055】
開始剤の非存在下に水溶性高分子による処理を行う場合には、活性化処理を施された高分子材料を親水性高分子の水溶液中に入れ処理を行う。
開始剤の存在下に水溶性高分子による処理を行う場合には、先ず水溶性高分子の水溶液をつくり、水溶性の開始剤の場合は、ここに必要量を溶解する。水不溶性の開始剤の場合は、アルコールやアセトンなどのような水と混合する有機溶剤に溶解してから水溶性高分子の水溶液に加える。開始剤を加えた水溶性高分子の溶液に活性化処理を施した高分子材料を入れて処理を行う。処理容器内は窒素置換しておくことが望ましいが、窒素置換しておかなくても実用可能な処理はできる。
【0056】
水溶性高分子と開始剤による処理の温度は特に制限はなく、通常10〜80℃、好ましくは60〜90℃が適当である。親水性の耐久力を良好にするため高い温度で長時間(例えば2時間程度)処理することも行われる。
【0057】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。用いた材料、試薬類、および試験・評価方法を以下に示す。
(A)歯科治療用材料
(1)歯列矯正用ブラケット:高分子材料(プラスチック、またはプラスチックと強化繊維からなる複合材料など)製の台座(サイズ例:寸法2.23×3.0×3.8mm、重量=約31mg/個)にアルミニウムや金などの金具(スロット)で補強された歯列矯正用器具。歯面と接着させる部分の形状は、平面型またはベース部にアンダーカットを設けた型(いわゆるメカニカルベース構造)のいずれでもよい。(2)歯科治療用義歯およびその他の部材:アクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、環状オレフィン重合体、セラミックス材料等からなる、種々の形状に成型された歯科治療用義歯およびその他の部材。歯科治療用材料を構成する材料は、セラミックス材料、高分子材料:ナイロン、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン(PST)、PPとPEの混合試料(P/E)、環状オレフィン重合体またはその共重合体である、商品名でトパス、アートン、ゼオネックス、ゼオノア等がある。
【0058】
実施例および比較例に用いた試料は、全てROTHタイプ下顎前歯(AN)用ブラケットを用いた。ROTHタイプのブラケットとは、ROTH博士の提唱するトルク(歯に対して前後方向の倒れ角)とアンギュレーション(歯に対して左右方向の倒れ角)をもつブラケットを意味する。実施または比較のために用いたブラケットは以下の通りである。
【0059】
1)ポリプロピレン製ブラケット(チッソ(株)のポリプロピレンK5016)PPブラケットと略称する。接着面は平面である。2)ナイロン12製ブラケット(スイス・エムス社のグリルアミドTR55):NY12ブラケットと略称する。接着面は平面である。3)ナイロン6製ブラケット(東洋紡の透明ナイロンT714E):NY6ブラケットと略称する。接着面は平面である。4)ゼオネックス製ブラケット(接着面は平面または、メカニカルベース)(チッソ(株)製)、環状オレフィン重合体である。5)アートン製ブラケット(接着面は平面または、メカニカルベース)(JSR(株)製、グレードG、F、D、FX)、環状オレフィン共重合体である。6)トパス製ブラケット(接着面は平面または、メカニカルベース)(三井化学(株)製)、環状オレフィン共重合体である。7)ゼオノア製ブラケット(接着面は平面または、メカニカルベース)(チッソ(株)製1020R)、環状オレフィン重合体である。側差に極性基(エステル基)をもつため、接着性を有し、改質も比較的容易である。8)ポリカーボネート製ブラケット(GEプラスチックレキサン):PCブラケットと略称する。接着面は平面である。9)ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート(東洋紡(株)EMC335):GFPETと略称する。6)ガラス繊維強化ポリカーボネート製ブラケット1(ORMCO社製SPIRITブラケット(ガラスフィラー入り):GFPC1ブラケットと略称する。接着面は平面である。10)ガラス繊維強化ポリカーボネート製ブラケット2(三金工業(株)製クリアブラケット):GFPC2と略称する。接着面はメカニカルベースである。
【0060】
(B)試薬類
(1)ポリビニルアルコール(PVA):平均重合度=1,500〜1800、(2)カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC):和光純薬(株)製、品番号039―01335、(3)アクリル酸、(4)メタクリル酸、(5)メタクリル酸メチル(MMA)、(6)過硫酸ナトリウム(SPS)、(7)過硫酸カリウム(KPS)、(8)2,2‘―アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、(9)硝酸二セリウムアンモニウム(IV)(CAN)、(10)ベンゾフェノン、(11)メタノール、(12)トルエン(含浸剤A)、(13)ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS)(界面活性剤として使用)、(14)デカヒドロナフタレン(シス、トランス混合物)(含浸剤B)、(15)サリチル酸ナトリウム(SS)(サリチル酸ナトリウム1gを水200mlに溶解し、10%塩酸0.5mlを混合して得た溶液を用いた水に分散させて用いた(含浸剤C))、(16)キャリヤーTW200(商品名、日華化学(株)製)(ポリエステル・羊毛混紡用系合成繊維染色用キャリヤー、水に分散させて用いた(含浸剤D))。(17)染料:ダイアニックスブルーAC−E(ブルーAC−E)、ダイアニックスイエローAC−E(イエローAC−E)、ダイアニックスレッドAC−E(レッドAC−E)、いずれもダイスタージャパン(株)製、オレンジG(和光純薬(株)製)=カラーインデックス名:C.I.Acid Orange10)。
【00 61】
(C)プラズマ処理
プラズマ処理装置(ヤマトPR500)の反応槽内の電極間に試験片(布、フィルムなど)を置いた。反応槽内の圧力が0.27Paになるまで減圧した後、アルゴンガスと酸素ガスの混合物(体積比1:1)を圧力5.6Paになるまで導入した。供給電力を40Wから100Wの間の値として、発振周波数13.56MHzで、主に30秒から3分間グロー放電した。放電後、ガス導入を中止して、圧力を常圧に戻してから、処理試験片をとりだした。処理の程度は、フィルムに対する水の接触角の低下により判断した。
【0062】
(D)紫外線照射処理
活性化処理の場合は、試料そのものに対して、高圧水銀ランプ(東芝高圧水銀灯H400P)を10cm〜20cmの距離から直接照射した。
グラフト化の場合は、反応混合物をステンレス製のバット形の反応容器に入れて、試料を反応混合物中において、ガラスフタをして、内部を空気または窒素雰囲気下として、ガラス面から、温度10〜70℃にて、400ワットの高圧水銀ランプ(東芝高圧水銀灯H400P)を照射した。光は接着性の改良を要する面(ブラケットのベース面)に向かって照射した。反応混合物とは、開始剤、モノマーおよびそれらの溶剤を含む溶液または、モノマー蒸気を含む空気または窒素などの気体を意味する。
【0063】
(E)オゾン酸化処理
試験片を容積2Lまたは10Lの硬質ガラス製容器(ガスの導入口と出口付き)に入れ、オゾン発生機(三菱電機(株)製OS−1N)より、オゾン発生量1g/h、濃度20g/mのオゾンを含む酸素を800ml/分の流量で1〜40分間吹き込んだ。次に、オゾンを含まない酸素を10分間吹き込んだ。オゾンの濃度はヨウ素滴定により求めた。酸化の程度は処理試験片の表面部材を削り、赤外線吸収スペクトルを測定して、1710cm−1付近の吸収ピーク(カルボニル基の吸収)の吸光度の変化および、この吸光度と973cm−1の吸光度の比より判断した。実施例において、特に示さない場合は、オゾン発生量は1g/hである。
【0064】
(F)接着剥離強度試験
処理または未処理歯列矯正用ブラケットの接着面に接着剤約0.01gをつけ、セラミック製プレート(サイズ20mm×10mm)につけて、ループ状の針金をひっかけて、セラミック製プレートの接着していない部分を引張試験機(島津製作所製、SV55−0−20M)の下部クランプにはさみ固定し、針金を上部クランプに固定して、引張速度110mm/分で引っ張り、接着部分の剥離までに加えた荷重を求める。接着条件を規格化するために、同時に行った未処理の材料の剥離強度を1.0として相対値を求めた。重合性メタクリル樹脂系接着剤(メタクリル酸メチルモノマー、ポリマーおよび重合触媒等を混合して用いる):商品名スーパーボンド(サンメディカル(株)製)を用いた。
【0065】
(G)剪断接着試験
試料のブラケットを40℃で、1時間、水に浸け、水分安定化したものを試料とした。本発明により処理したPPブラケット、NY12ブラケット、NY6ブラケット、GFPETブラケットについて、40℃で、1時間、水に浸け、水分安定化したものを試料とした。また比較のために、PCブラケット、GFPC1ブラケット,GFRPC2ブラケットを試験に供した。
【0066】
歯のモデルとしての被着体は、直径8mm、高さ10mmのアルミナセラミック製の円柱の端面にシランカップリングを施したもの(「セラミック製台座」と称する)を用いた。
【0067】
接着法は、接着剤として、歯科用アクリル系接着剤(ビスフェノールAジメタクリレート主成分)のGACのアキュボンド(ツーペーストタイプ)を用いた。試料ブラケットをセラミック製台座に接着剤を用いて接着した。接着補助剤プラスチックプライマーは使用しなかった。37℃で24時間大気中に保管し、その後に引張試験機(インストロン社(アメリカ合衆国)製インストロンテスターMODEL5567)により、室温下、引張速度10mm/分で、乾式における剪断接着強さを測定した。
また、別に、環状オレフィン重合体および共重合体製のメカニカルベース型ブラケットについて、処理1から4を行わない場合には、接着面をアルコールで洗浄し、接着補助剤プラスチックプライマーを併用して、上記接着剤を用いた。
【0068】
(H)劣化促進試験
接着試料を4℃で、水中に1分間の浸漬をすること、および60℃で、温水中に1分間の浸漬をすることを、2000回繰り返した後に、37℃で24時間大気中に保管し、その後に、試料をセラミック製台座に接着した後、インストロンテスター用いて劣化促進試験後における剪断接着強さを測定した。
【0069】
(I)着色性の評価
オレンジGの5%水溶液100mlに、試料ブラケットを10個入れて、酢酸を加えてpH=5としてから、30分間煮沸し、煮沸をやめて、約2時間放置した。次に、歯列矯正用ブラケットを中性洗剤を加えた水で煮沸洗浄した。乾燥後、着色の程度を比較した。無色、淡色、中色、濃色、の4段階に判断した。ブルーAC−E、イエローAC−E、レッドAC−Eの場合は、酸を加えないで、オレンジGと同様に行った。
【0070】
(実施例1) 改質法1によるPP平面ベースブラケットの接着性改良
PPブラケット部材20個(0.622g)について含浸剤処理として、含浸剤処理として、サリチル酸ナトリウム溶液(含浸剤C)100mlを50℃としてから15分間漬けた。次に、メタノールで濯いでから、遠心分離器(800回転/分)に1分間かけた。試料の重量増加は1%程度であった。活性化処理として、30秒のプラズマ処理をした。材料表面の赤外線吸収スペクトルを測定して、1710cm−1付近の吸収ピーク(カルボニル基の吸収)の吸光度の比は、0.01であった。次に、ステンレス製のバット型容器に、水100ml、CAN20mg、MMA0.6mlを入れて作られた溶液と処理材料を入れ、耐熱性ガラス板でフタをして、ガラス板面に対して、30℃で紫外線照射を40分間行った(ランプと反応管との距離=10cm)。処理後、材料はアセトンにて1分間の洗浄をした後、水洗して、乾燥させた。
【0071】
(実施例2) 改質法1によるPP平面ベースブラケットの接着性改良
PPブラケット部材20個(0.622g)について含浸剤処理として、トルエン(含浸剤A)100mlを50℃としてから15分間漬けた。次に、メタノールで濯いでから、遠心分離器(800回転/分)に1分間かけた。試料の重量増加は4%程度であった。次に、活性化処理として、5分間のオゾン処理をした。材料表面の赤外線吸収スペクトルを測定して、1710cm−1付近の吸収ピーク(カルボニル基の吸収)の吸光度の比は、0.01であった。次に、ステンレス製のバット型容器に、水200ml、CAN20mg、アクリル酸0.6mlを入れて作られた溶液と処理材料を入れ、耐熱性ガラス板でフタをして、ガラス板面に対して、30℃で紫外線照射を20分間行った(ランプと反応管との距離=10cm)。処理後、材料は洗剤水溶液にて10分間の煮沸洗浄をした後、水洗して、乾燥させた。
【0072】
(実施例3) 改質法2によるPP平面ベースブラケットの接着性改良
PPブラケットの20個(0.622g)について、含浸剤処理として、デカヒドロナフタレン(含浸剤B)2.5gと界面活性剤DBSの0.2gを水200mlに混合して得た溶液に、50℃で5分間浸けた。次に、遠心分離器(回転数1000回/分)で脱液した。重量増加1%となったら、活性化処理として20℃で30分間のオゾン処理をした。次に、高分子処理として、処理不織布を反応容器に入れ、水50ml、KPS10mg、PVA0.3g、メタノール6mlの混合物を加えて、85℃で2時間処理した。処理後、水洗し、洗剤洗濯を行った。処理物は重合性メタクリル樹脂系接着剤(商品名スーパーボンド)によるセラミックス歯科材料との接着性が改良され、引張試験によりPPブラケットの材料破壊が起こった。
【0073】
(実施例4) 改質法3によるPP平面ベースブラケットの接着性改良
PPブラケットの20個(0.622g)について、室温で、含浸処理として、キャリヤーTW200(含浸剤D)の10gを水300mlに溶解して得た溶液(含浸剤D)に70℃で10分間浸けた。次に遠心脱水器(回転数1000/分)にかけ、見掛け上、表面が乾いた状態にした。質量増加は1%程度であった。次に、活性化処理として、60分間の紫外線照射をした(紫外線ランプと試料面との距離=10cm)。次に、ブラケット部材を三角フラスコに入れ、メタノール5ml、水100ml、PVA0.5g、KPS0.1gを加え、90℃で2時間処理した。処理後、60℃の水で充分に洗浄した。ブラケット部材を三角フラスコに入れ、水40ml、AIBN10mg、アクリル酸1mlを加えて、窒素雰囲気として、80℃で2時間放置した。ブラケット部材は、処理後、80℃の洗剤液で3回洗浄した(1回、500mlの水を使用)。また親水化処理による試料の重量増加は約1%であった。
【0074】
(実施例5) 改質法1によるナイロン12製平面ベースブラケットの改質:
NY12ブラケットの20個(0.541g)について、含浸処理として、メタノールC10ml,水90mlの混合溶液に室温で15分間浸けてから、紙で拭き取る。次に、1分間のプラズマ処理をした。次に、耐熱性のガラス管に、メタノール20ml、水20ml、KPS20mg、MMA2.0mlを入れて作られた溶液に、処理材料を入れ、90℃で2時間の熱重合を行った。処理後、材料は20℃の酢酸エチル50mlで20分間の洗浄を3回行った後、乾燥させた。
【0075】
(実施例6) 改質法1によるナイロン6製ブラケットの改質
NY6ブラケットの20個を用いて、実施例1と同様に処理した。
【0076】
(実施例7) 改質法3によるガラス繊維強化PET製平面ベースブラケットの改質
GFPETブラケット20個(0.630g)に活性化処理として10分の紫外線照射(紫外線ランプと試料間距離=10cm)、高分子処理はCMCを用い、グラフト化のモノマーとしてメタクリル酸、開始剤にSPSを用いて、実施例4と同様の操作を行った。処理物の接着性が改善された。
【0077】
(実施例8)改質法4によるゼオネックス製平面ベースブラケットの改質
ゼオネックス製平面ベースブラケットの20個について、1分間のオゾン酸化処理をした。次に、耐熱性のガラス管に、メタノール10ml、水15ml、KPS20mg、MMA1.0mlを入れて作られた溶液に、処理材料を入れ、80℃で1時間の熱重合を行った。処理後、材料は20℃の酢酸エチル50mlで20分間の洗浄を3回行った後、乾燥させた。
【0078】
(実施例9)改質法4によるゼオネックス製メカニカルベースブラケットの改質ゼオネックス製メカニカルベースブラケットについて、実施例8と同様の処理を行った。
【0079】
(実施例10)改質法3によるトパス製平面ベースブラケットの改質
トパス製平面ベースブラケットについて、実施例7と同様の処理を行った。
【0080】
(実施例11)改質法3によるトパス製メカニカルベースブラケットの改質
トパス製メカニカルベースブラケットについて、実施例7と同様の処理を行った。
【0081】
(実施例12)改質法4によるゼオノア製平面ベース型歯列矯正ブラケットの改質
平面ベースをもつトパス製ブラケットについて、実施例8と同様の処理を行った。
【0082】
(実施例13)改質法4によるゼオノア製メカニカルベース型歯列矯正ブラケットの改質
メカニカルベースをもつゼオノア製ブラケットについて、実施例8と同様の処理を行った。
【0083】
(実施例14)改質法1によるアートン(JSR(株)製、グレードF)製平面ベース型歯列矯正ブラケットの改質
活性化処理として、1分間のオゾン酸化処理を行った他は、実施例1と同様に行った。
【0084】
(実施例15)改質法4によるアートン(グレードF)製メカニカルベース型歯列矯正ブラケットの改質
メカニカルベースをもつアートン(グレードF)製歯列矯正ブラケットについて、実施例8と同様の処理を行った。
【0085】
(実施例16〜19)ゼオネックス、トパス、ゼオノア、及びアートン製のメカニカルベース型歯列矯正ブラケットと歯科材モデルとの接着
環状オレフィン重合体または共重合体である、未処理のゼオネックス製メカニカルベース型ブラケット、トパス製メカニカルベース型ブラケット、及びアートン(JSR(株)製、グレードF)製メカニカルベース型歯列矯正ブラケットのそれぞれについて、エッチングした歯科材モデルに対して、接着の剪断強度の測定を、接着終了後、および劣化促進試験2000回後に行った。結果を表1に示す。
これらの環状オレフィン高分子からなるブラケットについて、未処理の状態で、歯の表面にエッチング(少量の傷をつけること)をしたうえで、プラスチックプライマーと接着剤を用いて接着した。剪断強度および劣化試験の結果は表1に示す。
これらは、いずれも、プライマーが接着を促進した結果と見られるが、特に、側鎖にエステル基を有するアートン製のブラケットは、接着性に優れ、ほぼ実用強度に達した。
【0086】
(実施例20)歯科治療用義歯の接着性改良
環状オレフィン重合体であるトパス製義歯(内部に孔を形成)、および通常のアクリル樹脂製義歯について、実施例1と同様の処理を行った。その結果、重合製接着剤を用いて、金属補強材を強力に接着することができた。
【0087】
(比較例1)従来の紫外線照射グラフト化方法によるPP製ブラケット改質
PPブラケット20個(0.622g)を、メタノール100ml、ベンゾフェノン20mg、メタクリル酸5mlの溶液に浸け、耐熱性ガラス製反応管に入れ、室温で、窒素雰囲気下で、90分間の紫外線照射をした(紫外線ランプと試料面との距離=10cm)。次に、沸騰水で充分に洗浄した。試料の重量増加率(みかけのグラフト率)は0.2%であった。この試料と歯モデルとの接着性は改善されなかった(以下の表1参照)。
【0088】
(剪断強度の測定)実施例1〜16、および実施例17〜19のブラケット試料、および比較例1〜8のブラケット試料について、セラミック台座との接着の剪断強度の測定を、接着終了後、および劣化促進試験2000回後に行った。結果を表1に示す。
【0089】
(比較例1から7)それぞれ、従来法処理PPブラケット、未処理PPブラケット、NY12ブラケット、NY6ブラケット、PCブラケット、GFPETブラケット、GFPCブラケットについての接着の剪断強度の測定を行った。なお、GFPCブラケット1とGFPCブラケット2に大差はなかった。結果を表1に示す。
【0090】
【表1】
Figure 2004081837
【0091】
(着色試験)
ブルーAC−E、イエローAC−E、レッドAC−E、オレンジGによる着色試験の結果について述べる。実施例1から4の改質PPブラケット、実施例5の改質NY12ブラケット、および実施例7のGFPETブラケット、および実施例8から12のゼオネックス、アートン、トパス、ゼオノア製の各ブラケットは、4種の染料による着色試験で、無色、実施例6の改質NY6ブラケットはブルーAC−E、イエローAC−E、レッドAC−Eで無色、オレンジGで淡色に着色した。未処理のPCブラケット、GFPC1ブラケット、GFPC2ブラケットはブルーAC−E、イエローAC−E、レッドAC−Eで、それぞれ中色、オレンジGで淡色に着色した。
【0092】
【発明の効果】
以上に説明したとおり、本発明の高分子材料の改質方法により得られたポリオレフィン、環状オレフィン重合体または共重合体、ポリエチレンテレフタレートなどからなる高分子材料製歯列矯正用部材は、染料による着色試験によって汚れがつきにくく、プライマーの併用無しで、歯との接着性が大幅に改善され、しかも、接着性の耐久性に優れる。特に、メカニカルベースのブラケットは平面ベースのブラケットより、やや高い接着力を示したが、接着対象である歯面をエッチングすることを考慮して、使用を選択すれば、効果的である。メカニカルベース型の環状オレフィン共重合体製ブラケットは化学的構造を考慮すれば、プライマー使用によって、実用強度が得られる。ナイロン12、ナイロン6は、染料による着色試験では、少し着色が見られたが、接着性は良好であった。本発明によって、望ましい高分子製歯科治療材料を製造できる。

Claims (17)

  1. 高分子材料製歯列矯正用部材の表面を、(1)該高分子材料に対して含浸性のある化合物に接触させて、表面から深さ100ミクロン以内の含浸量が0.1〜40重量%(対高分子材料)の範囲で含浸させ、材料の形状を実質的に変化させない含浸処理工程、(2)カルボニル基を導入する活性化処理工程、および(3)単量体をグラフト化する工程により、この順に処理することを特徴とする高分子材料製歯列矯正用部材の改質方法。
  2. 高分子材料製歯列矯正用部材の表面を、(1)該高分子材料に対して含浸性のある化合物に接触させて、表面から深さ100ミクロン以内の含浸量が0.1〜40重量%(対高分子材料)の範囲で含浸させ、材料の形状を実質的に変化させない含浸処理工程、(2)カルボニル基を導入する活性化処理工程、(3)親水性高分子で処理する工程により、この順に処理することを特徴とする高分子材料製歯列矯正用部材の改質方法。
  3. 高分子材料製歯列矯正用部材の表面を、(1)該高分子材料に対して含浸性のある化合物に接触させて、表面から深さ100ミクロン以内の含浸量が0.1〜40重量%(対高分子材料)の範囲で含浸させ、材料の形状を実質的に変化させない含浸処理工程、(2)カルボニル基を導入する活性化処理工程、(3)親水性高分子で処理する工程、および(4)単量体をグラフト化する工程により、この順に処理することを特徴とする高分子材料製歯列矯正用部材の改質方法。
  4. 高分子材料製歯列矯正用部材の表面を、(1)カルボニル基を導入する活性化処理工程、および(2)単量体をグラフト化する工程により、この順に処理することを特徴とする高分子材料製歯列矯正用部材の改質方法。
  5. 前記高分子材料製歯列矯正用部材中の高分子材料が板、棒、フィルム、繊維、シート、ならびに所定形状に成形した部材もしくは製品からなる群から選ばれる成形体または他の材料との複合材料であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高分子材料製歯列矯正用部材の改質方法。
  6. 前記高分子材料が、酸化防止剤または安定剤の少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の高分子材料製歯列矯正用部材の改質方法は軟化点以下の温度で行われることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高分子材料製歯列矯正用部材の改質方法
  7. 前記含浸処理が高分子材料の融点以下もしくは軟化点以下の温度で行われることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高分子材料製歯列矯正用部材の改質方法。
  8. 前記活性化処理が、プラズマ処理、オゾン処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理および高圧放電処理からなる群から選ばれる少なくとも1種の処理であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の高分子材料製歯列矯正用部材の改質方法。
  9. 前記単量体が炭素−炭素二重結合を有する化合物であることを特徴とする請求項1、3または4のいずれかに記載の高分子材料製歯列矯正用部材の改質方法。
  10. 前記単量体がアクリル酸、メタクリル酸、2−ブテン酸、エチレンスルホン酸、ヒドロキシアルキルアクリレート、ヒドロキシアルキルメタクリレート、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、アクリルアミド、ビニルピロリドン、ビニルカルバゾール、無水マレイン酸、無水ピロメリット酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体またはこれらの群から選ばれる少なくとも1種の単量体と他のビニルモノマーとの混合物であることを特徴とする請求項1、3または4のいずれかに記載の高分子材料製歯列矯正用部材の表面改質方法。
  11. 前記親水性高分子が、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリ−α−ヒドロキシビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレングリコール、デンプン、グルコマンナン、フィブロイン、セリシン、寒天、卵白中のタンパク質およびアルギン酸ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子化合物であることを特徴とする請求項2、3のいずれかに記載の高分子材料製歯列矯正用部材の表面改質方法。
  12. 前記単量体のグラフト化工程の方法が、気相、液相または固相のいずれの反応でもよく、(1)触媒または開始剤の存在下に行う方法、(2)触媒または開始剤の存在下または非存在下で加熱する方法、(3)触媒または開始剤または光増感剤の存在下または非存在下での紫外線を照射する方法の単独または複数の方法によることを特徴とする請求項1、3または4のいずれかに記載の高分子材料製歯列矯正用部材の改質方法。
  13. 前記親水性高分子で処理する工程において、触媒または開始剤の存在下にこれらの工程を実施することを特徴とする請求項2、3のいずれかに記載の高分子材料製歯列矯正用部材の改質方法。
  14. 前記開始剤が、過酸化物、硝酸二セリウムアンモニウム(IV)、過硫酸塩、酸化還元系開始剤およびその他のラジカル重合開始剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1から13のいずれかに記載の高分子材料製歯列矯正用部材の改質方法。
  15. 前記高分子材料製歯列矯正用部材が、ポリオレフィン、環状オレフィン重合体または共重合体、その他の付加重合体、開環重合体、配位重合体、重縮合体、重付加体、付加縮合体からなる群から選ばれる少なくとも1種の高分子化合物を含む材料または複合材料であることを特徴とする請求項1から14のいずれかに記載の高分子材料製歯列矯正用部材の改質方法。
  16. 請求項1から15のいずれかに記載の改質方法により改質して得られた高分子材料製の歯列矯正用部材を含めた歯科治療用部材。
  17. 環状オレフィン重合体または共重合体からなるメカニカルベース構造の歯列矯正用ブラケット。
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