JP2004077294A - 蛍光相関分析装置および蛍光相関分析方法 - Google Patents

蛍光相関分析装置および蛍光相関分析方法 Download PDF

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Abstract

【課題】FCSによる蛍光分子の計測において、蛍光分子を安定に解析するための蛍光相関分析装置および方法を提供すること。
【解決手段】レーザ光源と;前記レーザ光源からの光ビームを試料に集光し共焦点領域を形成する光学系と;前記試料からの蛍光を集光する光学系と;集光した蛍光を検出する光検出器とを有し、前記試料に所定時間光ビームを照射後、前記光検出器により試料からの蛍光を検出し蛍光相関分析をおこなうとともに、同一試料について得られた異なる分析結果と総合して検査を行うことを特徴とする蛍光相関分析装置。
【選択図】  図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、蛍光相関分光法(FCS)による蛍光分子の計測において、蛍光分子を安定に解析することができる蛍光相関分析装置および蛍光相関分析方法に関する。より具体的に、本発明は、解析したい蛍光分子を安定に光らせ、かつノイズを減らすことにより、正確に生体分子の挙動を解析することができる蛍光相関分析装置および蛍光相関分析方法に関する。
本発明の装置および方法は、共焦点光学系を用いる測定、例えば蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy)による解析、蛍光強度分布解析(Fluorescence Intensity Distribution Analysis)、およびこれら解析を同時に行う一分子蛍光分析(Fluorescence Intensity Multiple Distribution Analysis)の際に利用可能である。
【0002】
【従来の技術】
従来、蛋白質機能解析の研究は、蛋白質をコードする遺伝子配列の解析が主な研究対象であったが、近年のヒトゲノム解析の急速な進展により、蛋白質機能解析の研究は、蛋白質が細胞内でどのように動き、機能しているかを解析する方向へと移行しつつある。
【0003】
細胞内では、さまざまな遺伝子発現やシグナル伝達作用によって、特異的な機能を有する様々な分子(酵素、受容体をはじめとする機能蛋白質;細胞構造を保持する蛋白質、脂質、糖鎖蛋白質;イオン等の生物学的活性分子等)が常に変化し、その生命機構を維持している。このような生体機能を観測・解析するためには、細胞を生きたまま観測する必要がある。
【0004】
生きたままの細胞を観察する従来の手法として顕微鏡観察があるが、解像力が不足しており分子レベルでの解析は不可能であった。そこで、光学顕微鏡で不足している解像力を補うために、蛋白質等の生体分子を蛍光物質により標識する方法が発達してきた。しかし、この蛍光標識法は、細胞内へ蛍光物質を取り込むために、細胞膜の透過性を上げるか、細胞内へ蛍光物質を注入しなければならず、細胞に対して毒性や障害を生じさせることが問題となっていた。
【0005】
そのため、生体分子の解析に関して新たな技術が開発されつつあり、特異性や感度の点で進歩しつつある。その一例として、緑色蛍光蛋白質(GFP)を標識マーカーとして目的蛋白質を蛍光標識し観測する技術がある。この技術は、目的蛋白質をコードする遺伝子とGFPをコードする遺伝子とをベクター内に組み込んで細胞内に導入し、その融合蛋白質を発現させることにより、目的蛋白質を標識するものである。この技術は、マーカーとなるGFP自体が、オワンクラゲ由来の生体分子であり細胞に対して毒性がないため、細胞を生かしたまま目的蛋白質の挙動を観察できる点で優れている。
【0006】
上記技術により蛍光標識された細胞内蛋白質は、位相差顕微鏡もしくは微分干渉顕微鏡で観測するのが一般的である。位相差顕微鏡や微分干渉顕微鏡を用いた場合、その解像力は0.数μm程度である。この解像力は、生きた細胞内のミクロな構造を画像として観察するには充分であるが、細胞内の蛋白質分子の相互作用を微細に解析するためには不充分である。
【0007】
細胞内蛋白質分子の相互作用を微細に解析する手法としては、上述の顕微鏡画像を観察する方法以外に、蛋白質分子の数、大きさ等の物理量を計測する蛍光相関分光法(FCS;Fluorescence Correlation Spectroscopy)が、近年開発されている。FCSは、蛍光で標識した標的分子の媒質中におけるゆらぎ運動を測定し、自己相関関数(Autocorrelation function)を用いることにより、個々の標的分子の微小運動を正確に測定する技術である。この方法により、分子の数、大きさ等の物理量を算出することができる。
また、ごく最近では、蛋白質等の分子の相互作用を微細に解析する手法として、蛍光強度分布解析(FIDA;Fluorescence Intensity Distribution Analysis)が開発されている(P Kask, et al, PNAS 23, 96, 13761, 1999;WO98/16814)。FIDAは、レーザ光照射により励起照射されるf(10−15)Lオーダーの微小な共焦点領域(計測領域)において、蛍光で標識した標的分子の媒質中におけるゆらぎ運動を測定し、ポアソン分布関数解析により、一分子あたりの蛍光強度(ブライトネス)、蛍光分子の数を算出する技術である(図1参照)。図1は、微小な共焦点領域に出入りする蛍光分子の蛍光強度のゆらぎをポアソン分布関数解析した例を示す。
更に、FCSによる解析およびFIDAを同時に行うことができる一分子蛍光分析(FIMDA;Fluorescence Intensity Multiple Distribution Analysis)も開発されている(K Palo, Biophysical Journal, 79, 2858−2866, 2000)。FIMDAによれば、蛍光分子の並進拡散時間、分子数、および一分子あたりの蛍光強度(ブライトネス)に関するデータを同時に取得することができる。
これらFCSによる解析、FIDA、およびFIMDAは何れも、共焦点領域内の蛍光分子のゆらぎ運動を計測し、この計測により得られるデータを、それぞれの関数により解析する技術である。
【0008】
これまでこのFCS技術は、主に単純な溶液中に含まれる微量な蛍光分子の計測に用いられている。しかし、FCSによる蛍光分子の的確な測定方法および条件などは吟味・明確化されておらず、蛍光分子が安定に解析されていないのが現状である。なかでも、FCSを用いて生細胞内の蛍光分子の分子運動を計測する手法についての検討はなされていない。
【0009】
そこで本発明者らは、本発明を為すにあたり、蛍光分子がFCSによって安定に解析されない原因を検討し、更に、細胞内の蛍光分子の計測について解析が困難となる原因について検討した。なお、以下に記載の問題点は、蛍光分子の運動を解析するFCSに固有の問題であって、従来の蛍光画像の観測においては問題とならなかったものである。
【0010】
(1)まず、蛍光物質が一般に有している性質であって、FCS計測の際に問題となる点を以下に挙げる。
【0011】
▲1▼ 蛍光物質は、励起光を照射した初期の時間は蛍光量が安定せず、蛍光量の増減を繰り返す。そのため、再現性のあるデータを取得するためには、数回計測した後のデータを解析に採用しなければならず、余計な時間と労力を必要とする。
【0012】
▲2▼ また、FCSのレーザ出力が0.5mWと生体分子に対して高いので、蛍光物質の蛍光量が計測時間内に減少するという計測上の不具合がある。このような蛍光量の減少は、光退色(フォトブリーチング)と称されるものである。このように計測途中で明らかな蛍光の減衰が生じると、自己相関関数は不適切なものとなる。これは、蛋白質のような生体分子に、エネルギー許容量があり、閾値を越えたレーザ照射を受けると、変性、分解等が起こるためであると考えられる。
【0013】
実際に、FCS計測中(60秒間)に蛍光が減衰する様子を図2に示す。これは、1mWのレーザをGFP遺伝子導入ヒト培養細胞(MCF−7)に照射したときのデータである。横軸は計測時間の経過、縦軸は蛍光強度(kHz)を示す。波形は117ミリ秒ごとの蛍光シグナルの変化をプロットしている。図2より、蛍光強度が、約100kHzから60kHzに低下していることが分かる。このデータから自己相関関数を設定した結果を図3に示す。横軸は拡散時間(マイクロ秒)、縦軸は自己相関関数を示す。実線は実測値を示し、自己相関関数による解析前である。破線は、実測値から自己相関関数により解析された後である。図3より、1000ミリ秒以上のシグナルのカーブが不規則な波形を示しており、正しい解析が行われていないことが分かる。このように、計測時間内に顕著な蛍光の減衰が生じると、自己相関関数で正確に分子の挙動を解析できないことになる。
【0014】
(2)また、細胞内の蛍光分子を計測する際には、以下の問題を生じる。
【0015】
▲3▼ サンプルを細胞内分子とした場合、細胞特有の多重散乱がノイズとなり、FCS解析のように蛍光シグナルを計測する際特に問題となる。この多重散乱の原因は、細胞を構成する蛋白質の一部に微弱な蛍光を発する芳香族アミノ酸が存在するためであると考えられる。
【0016】
(3) 更に、FCS計測のサンプルが細胞内蛍光分子であるか、溶液中の蛍光分子であるかにかかわらず、蛍光蛋白質(例えばGFP)を蛍光マーカーとして使用すると、以下の問題を生じる。
【0017】
▲4▼ GFPをFCS計測すると、蛍光シグナルの変動があり、GFP分子の濃度や分子量を正確に計測できない。この蛍光シグナルの変動は、「ブリンキング」という現象に起因するものであり、これにより実際よりも質量が小さい分子としてFCS計測されてしまう。
【0018】
以下に、GFPのブリンキングと、その原因となる立体構造に関する報告について解説する。GFPはオワンクラゲ由来の生体分子であるため、レーザ入射光強度が高いと、蛍光蛋白質の一時的消光、すなわちブリンキングという現象を起こす。このブリンキングの時間は数秒間である(Dickson RM, Cubitt AB, TsienRY, Moerner WE. Related Articles; On/off blinking and switching behaviour of single molecules of green fluorescent protein. Nature. 1997 Jul 24; 388 (6640): 355−8)。また、この現象は、GFPが陽イオン状態、陰イオン状態および両性イオン状態の3つの立体構造を容易に遷移することによって、放射される蛍光に変化が起こるためであると報告されている(Weber W, Helms V, McCammon JA, Langhoff PW. Free in PMC, Related Articles shedding light on the dark and weakly fluorescent states of green fluorescent proteins. Proc Natl Acad Sci USA. 1999 May 25; 96(11): 6177−82)。
【0019】
上記2点の報告から、ブリンキングという現象は、GFPの立体構造の変化がレーザ照射中に起こることに依るものと推察される。FCS計測では、レーザ照射により電磁波や磁界が引き起こされ、これにより、計測領域においてGFPが陽イオン状態、陰イオン状態および両性イオン状態という3つの立体構造を遷移し、計測データが変化してしまうことが推察される。
【0020】
▲5▼ また、GFP分子は、励起光を受けてから安定に蛍光を生じるまで、時間的に遅れる問題がある。従来の蛍光物質の分子量が300〜700ダルトンであるのに対して、GFP分子が約27,000ダルトンと非常に大きいため、励起光を受けてから蛍光を発するまでにより長い時間を要する。FCS計測では、マイクロ秒という短い時間単位で蛍光シグナルを解析しなければならないため、この励起から蛍光に要する時間の長さは無視できず問題となる。
【0021】
【発明が解決しようとする課題】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、FCSによる蛍光分子の計測において、蛍光分子を安定且つ非侵襲で解析するための蛍光相関分析装置および方法を提供することである。特に、解析したい蛍光分子を安定に光らせ、かつノイズを減らすことにより、正確に生体分子の挙動を解析することができる蛍光相関分析装置および方法を提供することである。
【0022】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明は以下に記載の手段を提供する。
【0023】
(1) レーザ光源と、
前記レーザ光源からの光ビームを試料に集光し共焦点領域を形成する光学系と、
前記試料からの蛍光を集光する光学系と、
集光した蛍光を検出する光検出器とを有し、
前記試料に所定時間光ビームを照射後、前記光検出器により試料からの蛍光を検出し蛍光相関分析をおこなうとともに、同一試料について得られた異なる分析結果と総合して検査を行うことを特徴とする蛍光相関分析装置。
【0024】
(2) レーザ光源と、
前記レーザ光源からの光ビームを試料に集光し共焦点領域を形成する光学系と、
前記試料からの蛍光を集光する光学系と、
集光した蛍光を検出する光検出器と、
前記光検出器により検出される蛍光強度の変化を記録する蛍光強度記録手段と、
前記蛍光強度記録手段に記録された初期の蛍光強度と所定時間経過後の蛍光強度の減衰率を検出する蛍光強度減衰率検出手段とを有し、
前記蛍光強度減衰率検出手段により得られる減衰率の値が、(i)予め定められた第1の値未満である場合には蛍光相関分析をおこなうとともに、同一試料について得られた異なる分析結果と総合して検査を行い、(ii)第1の値以上であって予め定められた第2の値未満である場合には、さらに連続して試料に光ビームを照射後、再度蛍光強度の減衰率を検出し、(iii)第2の値以上である場合には光ビームの強度を下げて試料に照射後、再度蛍光強度の減衰率を検出することを特徴とする蛍光相関分析装置。
【0025】
(3) 前記蛍光強度減衰率検出手段により得られる減衰率の値が、予め定められた第1の値未満であり、前記光検出器により検出された蛍光強度が所定の値以上の場合には、試料の計測領域を変更し、蛍光強度の低い部分で蛍光相関分析をおこなうとともに、同一試料について得られた異なる分析結果と総合して検査を行うことを特徴とする(2)に記載の蛍光相関分析装置。
【0026】
(4) 前記蛍光強度減衰率検出手段により得られる減衰率の値が、予め定められた第1の値未満であり、前記光検出器により検出された蛍光強度が所定の値未満の場合には、蛍光相関分析をおこなうとともに、同一試料について得られた異なる分析結果と総合して検査を行い、取得された蛍光シグナルが拡散時間の理論値以上の場合のみ蛍光相関分析のデータを取得することを特徴とする(2)に記載の蛍光相関分析装置。
【0027】
(5) レーザ光源と、
前記レーザ光源からの光ビームを試料に集光し共焦点領域を形成する光学系と、
前記試料からの蛍光を集光する光学系と、
集光した蛍光を検出する光検出器と、
蛍光分子を導入していない細胞に光ビームを集光し、細胞からの蛍光強度が所定値以下となるように光源からの光ビームの強度を調節する光強度調節手段とを有することを特徴とする蛍光相関分析装置。
【0028】
(6) 蛍光分子の蛍光相関分光法(FCS)による検出方法において、
(a)蛍光分子を含む試料に対してレーザ光源からの光ビームを集光し、共焦点領域を形成する工程と、
(b)前記工程(a)を行った後、前記試料に前記レーザ光源からの光ビームを照射し共焦点領域を形成し、共焦点領域内の蛍光分子からの蛍光強度を検出し、蛍光相関分析をおこなうとともに、同一試料について得られた異なる分析結果と総合して検査を行う工程とを有することを特徴とする蛍光相関分析方法。
【0029】
(7) 蛍光分子の蛍光相関分光法(FCS)による検出方法において、
(a)蛍光分子を含む試料に対してレーザ光源からの光ビームを集光し、共焦点領域を形成する工程と、
(b)前記工程(a)で形成された共焦点領域内の蛍光分子からの蛍光強度を検出する工程と、
(c)前記工程(b)で蛍光強度を検出した後所定時間光ビームを照射後に、共焦点領域内の蛍光分子からの蛍光強度を検出する工程と、
(d)前記工程(b)と前記工程(c)でそれぞれ検出された蛍光強度を比較し、蛍光強度の減衰率を検出する工程と、
(e)前記工程(d)で検出された減衰率が、(i)予め定められた第1の値未満である場合には蛍光相関分析をおこなうとともに、同一試料について得られた異なる分析結果と総合して検査を行い、(ii)第1の値以上であって予め定められた第2の値未満である場合には、さらに連続して光ビームを試料に照射後、工程(a)からの工程を再度行い、(iii)第2の値以上である場合には光ビームの強度を下げて試料に照射後、工程(a)からの工程を再度行う工程とを有することを特徴とする蛍光相関分析方法。
【0030】
(8) 前記工程(e)において、前記工程(d)で検出された蛍光強度の減衰率が、予め定められた第1の値未満であり、前記工程(c)で検出された蛍光強度が所定の値以上の場合には、試料の計測領域を変更し、蛍光強度の低い部分で蛍光相関分析をおこなうとともに、同一試料について得られた異なる分析結果と総合して検査を行うことを特徴とする(7)に記載の蛍光相関分析方法。
【0031】
(9) 前記工程(e)において、前記工程(d)で検出された蛍光強度の減衰率が、予め定められた第1の値未満であり、前記工程(c)で検出された蛍光強度が所定の値未満の場合には、蛍光相関分析をおこなうとともに、同一試料について得られた異なる分析結果と総合して検査を行い、取得された蛍光シグナルが拡散時間の理論値以上の場合のみ蛍光相関分析のデータを取得することを特徴とする(7)に記載の蛍光相関分析方法。
【0032】
(10) 蛍光分子の蛍光相関分光法(FCS)による検出方法において、
(a)蛍光分子を含まない細胞を有する試料に対して、レーザ光源からの光ビームを集光し、共焦点領域を形成する工程と、
(b)前記工程(a)で形成された共焦点領域内の細胞からの蛍光強度を検出する工程と、
(c)前記工程(b)で検出された蛍光強度が、所定値以下となるように前記光ビーム強度を調整する工程と、
(d)前記工程(c)で調整された光ビームの強度で、蛍光分子を含む細胞に光ビームを照射し、共焦点領域を形成する工程と、
(e)前記工程(d)で形成された細胞内の共焦点領域内の蛍光分子からの蛍光を検出し、蛍光相関分析をおこなうとともに、同一試料について得られた異なる分析結果と総合して検査を行う工程とを有することを特徴とする蛍光相関分析方法。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の装置および方法を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されず、任意の共焦点光学系を用いる蛍光分析、例えば蛍光相関分光法による解析、蛍光強度分布解析、およびこれら解析を同時に行う一分子蛍光分析に利用可能である。
[蛍光相関分析装置]
以下、本発明の第一の実施形態に係る蛍光相関分析装置について、図1を参照して説明する。
【0034】
図1に示すように、本実施の形態の蛍光相関分析装置は、レーザ光源1と、前記レーザ光源1からの光ビームの強度を減弱する光強度調節手段(NDフィルタ)2と、適切な光強度調節手段2を設定する光減衰選択装置(NDフィルタチェンジャー)3と、前記レーザ光源1からの光ビームを前記試料に集光し共焦点領域を形成する光学系4、5と、蛍光分子を含有する試料を載せたステージ6と、前記試料からの蛍光を集光する光学系7〜11と、集光した蛍光を検出する光検出器12と、蛍光強度の変化を記録する蛍光強度記録手段13と、蛍光強度の減衰率を検出する蛍光強度減衰率検出手段14と、光ビームを前照射する時間を制御するコントローラ15を具備する。このように、蛍光相関分析装置は、共焦点レーザ顕微鏡を利用したものである。なお、蛍光強度記録手段13と蛍光強度減衰率検出手段14は別の装置として設けてもよいが、1台のコンピュータ内に2つの手段の機能をもたせてもよい。
【0035】
図1においてレーザ光源1から放射されるレーザは、アルゴンイオンレーザ、ヘリウム−ネオンレーザ、クリプトン、ヘリウム−カドミウム等何れであってもよい。
【0036】
レーザ光源1からのレーザ照射量を、最適なレーザ出力となるよう減弱するために、図1に示すとおり、光強度調節手段(NDフィルタ)2を備えていることが好ましい。例えば、光強度調節手段2としてレーザ減弱フィルタ(NDフィルタ)を使用することができる。本発明の実施例で後述するとおり、レーザ強度の減弱度が異なる数種類のフィルタを使用することにより、レーザ強度を調節することができる。
【0037】
なお、適切な蛍光強度調節手段(NDフィルタ)2の選択、設定は、光減衰選択装置(NDフィルタチェンジャー)3により行われてもよい。光減衰選択装置(NDフィルタチェンジャー)3は、コンピュータからの制御により、最適なレーザ出力となるような蛍光強度調節手段2を選択、設定する手段である。
【0038】
図1においてレーザ光源からの光ビームを前記試料に集光し共焦点領域を形成する光学系4、5は、具体的にダイクロイックミラー4、および対物レンズ5を意味する。レーザ光源1からの光ビームは、図1中の矢印で示すような経路で、まず蛍光強度調節手段(NDフィルタ)2の減弱度に従ってその強度が減弱され、次いで、ダイクロイックミラー4により入射光に対して90度ステージの方向に屈折し、対物レンズ5を通ってステージ6上の試料に照射される。このようにして光ビームは、微小な1点で前記試料に集光され共焦点領域が形成される。
【0039】
本発明においてステージ6上の試料は、蛍光分子が懸濁された溶液であってもよいし、蛍光分子を細胞膜上もしくは細胞内に含有する培養細胞であってもよい。なお、細胞内に蛍光分子を含有している細胞試料は、公知の遺伝子工学的手法を用いて、蛍光蛋白質と解析したい蛋白質分子との融合蛋白質を細胞内で発現させることにより作成される。
【0040】
本発明の装置においては、試料に対して所定時間光ビームを照射した後、試料から放射される蛍光を検出し、蛍光相関分析を行う。そのため、レーザ光源1は、所定時間光ビームを照射するためのコントローラ15により制御されていてもよい。ここで所定時間とは、解析したい蛍光分子が励起光を受けてから安定に蛍光を発するまでに必要な時間であって、かつFCS計測不能なまでに蛍光が減衰しない時間をいう。例えば、解析したい蛍光分子が、GFPとの融合蛋白質である場合、この所定時間は、好ましくは1〜5分間である。
【0041】
図1において共焦点領域内の蛍光分子から放射された蛍光を集光する光学系7〜11は、具体的にフィルタ7、チューブレンズ8、反射鏡9、ピンホール10、レンズ11を意味する。蛍光分子から放射された蛍光は、図1中の矢印で示すような経路で、まず、ダイクロイックミラー4を光進行方向に透過し、フィルター7、チューブレンズ8を経て、反射鏡9により屈折し、ピンホール10に結像した後、レンズ11を通過して光検出器12に集光される。
【0042】
集光された蛍光を検出する光検出器(アバランシャルフォトダイオード)12は、受容した光信号を電気信号に変換し、蛍光強度記録手段(コンピュータ)13に送信する。
【0043】
蛍光強度の変化を記録する蛍光強度記録手段13は、伝達された蛍光強度データの記録・解析を行う。具体的には、この蛍光強度データの解析により自己相関関数を設定する。蛍光分子の動き(例えば、蛍光分子の2量体化による分子量の増大および分子数の減少、あるいは蛍光分子のDNA特定領域への結合による分子数の減少など)は、自己相関関数の変化により検出することができる。また、得られた蛍光強度データを、FIDAにより解析し、蛍光分子の動き(例えば、蛍光分子の2量体化による、分子あたりの蛍光強度(ブライトネス)の増大および分子数の減少など)を検出することもできる。また、FCSによる解析およびFIDAを同時に行うことができる一分子蛍光分析(FIMDA)によれば、分子量の変化、分子数の変化、および分子あたりの蛍光強度の変化を同時に検出することもできる。
【0044】
本発明の蛍光相関分析装置は、図1に示されるとおり、蛍光強度減衰率検出手段14を更に有していることが好ましい。蛍光強度減衰率検出手段14は、FCSの計測時間(例えば1分間)のうちの初期の蛍光強度と、所定時間経過後(例えば、FCSの計測時間の終了時)の蛍光強度の減衰率を検出するものである。
【0045】
図2に示すとおり、FCS計測中(1分間のあいだ)に蛍光強度は減衰する。上述の蛍光強度減衰率検出手段14は、この減衰率を検出するものである。ここで、初期の蛍光強度には、例えば、計測開始5秒間の蛍光強度の平均値を採用し、所定時間経過後の蛍光強度には、計測終了前5秒間の蛍光強度の平均値を採用する。各平均値を用いて、計測開始5秒間の蛍光強度の平均値を100%としたときの所定時間経過後の蛍光強度の減衰率を得る。
【0046】
従来技術で述べたとおり、計測時間中の減衰率が高い場合は、適切な自己相関関数が得ることができない。従って、この減衰率検出手段を使用することにより、FCS計測中にリアルタイムで蛍光の減衰率をコンピュータ判定することが可能となり、自己相関分析法で解析可能な蛍光シグナルのみを効率よく取得することが可能となる。
本実施の形態の装置は、得られる蛍光データの解析手法を変えることにより、種々の蛍光分析装置として利用可能である。例えば、解析手法として、FCS、FIDA、またはFIMDAを採用することにより、それぞれ、蛍光相関分析装置、蛍光強度分布解析装置、または一分子蛍光分析装置として利用可能である。
【0047】
なお、本実施の形態の蛍光相関分析装置の動作について、詳しくは以下の蛍光相関分析方法の説明を参照されたい。
【0048】
[蛍光相関分析方法]
以下、本発明の蛍光相関分析方法について詳細に説明する。
【0049】
本発明の蛍光相関分析方法は、
蛍光分子を含む試料に対してレーザ光源からの光ビームを集光し、共焦点領域を形成し、前記試料に対して所定時間光ビームを照射する第一の工程と、
前記第一の工程を行った後、前記試料に前記レーザ光源からの光ビームを照射し共焦点領域を形成し、共焦点領域内の蛍光分子からの蛍光強度を検出し、蛍光相関分析を行う工程とを具備することを特徴とする。
【0050】
以下、工程を追って説明する。
【0051】
第一の工程において蛍光分子を含む試料は、蛍光分子を懸濁した溶液であってもよいし、あるいは、蛍光蛋白質(例えばGFP)と解析したい生体分子(例えばエストロゲンレセプター)との融合分子をコードする融合遺伝子を生細胞内で発現させることにより調製された細胞試料であってもよい。この細胞試料の調製は、公知の遺伝子工学的手法を用いて行うことができる。試料は、蛍光相関分析装置のステージ上の基板の上に置かれる。
【0052】
このような任意の試料に対してレーザ光源からの光ビームを集光し、共焦点領域を形成する。共焦点領域は、レーザ光源から照射された光ビームが、対物レンズを介してステージ上の基板に載せられた試料内の微小な1点に集中して照射されることにより形成される。FCS計測において計測領域となるこの共焦点領域は、容積は約0.24fL(約0.25〜1.7μ四方)である。
【0053】
試料に対して共焦点領域を形成した上で、所定時間光ビームを照射する。ここで所定時間とは、蛍光分子が放射する蛍光が安定になるのに必要な時間であって、蛍光物質の分解、変性等が起こらない時間をいう。具体的には、蛍光分子がGFPの場合、1〜5分間の照射時間が好ましい。更に好ましくは、後述するとおり、蛍光分子が発する蛍光強度の減衰率を測定することにより、この光ビームの照射時間は調整される。
【0054】
前記第一の工程により蛍光が安定化した後、共焦点領域内の蛍光分子からの蛍光強度を検出し、蛍光相関分析を行う。
蛍光分析は、共焦点領域内の蛍光分子のゆらぎから得られる蛍光強度データを所望の解析手段で解析することにより行われる。解析手段としては、上述のとおり、FCSによる解析、FIDA、FIMDAを使用するができる。
【0055】
別の態様において、本発明の蛍光相関分析方法は、以下(a)〜(e)の工程を具備する。
【0056】
(a)蛍光分子を含む試料に対してレーザ光源からの光ビームを集光し、共焦点領域を形成する工程と、
(b)前記工程(a)で形成された共焦点領域内の蛍光分子からの蛍光強度を検出する工程と、
(c)前記工程(b)で蛍光強度を検出した後所定時間光ビームを照射後に、共焦点領域内の蛍光分子からの蛍光強度を検出する工程と、
(d)前記工程(b)と前記工程(c)でそれぞれ検出された蛍光強度を比較し、蛍光強度の減衰率を検出する工程と、
(e)前記工程(d)で検出された減衰率が、(i)予め定められた第1の値未満である場合には蛍光相関分析を行い、(ii)第1の値以上であって予め定められた第2の値未満である場合には、さらに連続して光ビームを試料に照射後、工程(a)からの工程を再度行い、(iii)第2の値以上である場合には光ビームの強度を下げて試料に照射後、工程(a)からの工程を再度行う工程とを具備する。
【0057】
以下、工程順に説明する。
【0058】
{工程(a)}
まず工程(a)で、蛍光分子を含む試料に対して共焦点領域を形成する。共焦点領域は、上述のとおり微小な計測領域である。
【0059】
{工程(b)}
次いで、工程(b)で共焦点領域内の蛍光分子からの初期の蛍光強度を検出する。ここで検出される初期の蛍光強度とは、例えば、FCS計測の時間(例えば1分)の初期の時間(例えば5秒間)における蛍光強度の平均値をとることができる。
【0060】
{工程(c)}
工程(c)で所定時間(即ち、FCS計測時間にわたって)光ビームを照射後、再度蛍光分子からの蛍光強度を検出する。工程(c)で検出する蛍光強度は、FCS計測の時間(例えば1分)の最後の時間(例えば最後の5秒間)における蛍光強度の平均値をとることができる。
【0061】
{工程(d)}
工程(d)で、それぞれの蛍光強度の値から蛍光強度の減衰率を検出し、この減衰率の値に応じて、更に光ビームを照射すべきか決定する。減衰率は、初期の蛍光強度を100%としたときの割合(%)で表示することができる。
【0062】
{工程(e)}
減衰率の値が(i)予め定められた第1の値未満である場合、例えば、減衰率20%未満である場合、これ以上光ビームを照射する必要がなく、蛍光相関分析を行うことができる。減衰率の値が(ii)第1の値以上であって予め定められた第2の値未満である場合、例えば、減衰率20%以上であって50%未満である場合、更に連続して光ビームを照射した後、再度工程(a)に戻って減衰率の検出を行う。再度減衰率を検出し、第1の値未満となった場合、蛍光相関分析を行うことができる。ここで更なる光ビームの照射時間は、工程(d)で検出された減衰率の値に応じて適宜設定できるが、1〜5分間が好ましい。減衰率の値が(iii)第2の値以上である場合、例えば減衰率50%以上である場合、光ビームの強度を下げて工程(a)からの工程を再度行う。ここで光ビームの強度は、蛍光強度の大幅な減衰が起こらない程度まで下げられる。再度減衰率を検出し、第1の値未満となった場合、蛍光相関分析を行うことができる。
【0063】
減衰率の検出は、図1に示す蛍光強度減衰率検出手段14により行われる。
【0064】
なお、ここで第1の値は、蛍光強度の減衰率が高いために、図3に示すような不適切な自己相関関数データが得られる場合を除くように設定される。また、第2の値は、照射レーザ強度が高いことが原因で、蛍光強度の大幅な減衰が起こるような場合を除くように設定される。
【0065】
好ましくは、第1の値は、10〜30%、第2の値は、40〜60%であり、より好ましくは、それぞれ20%、50%である。
【0066】
以上述べたように、蛍光相関分析を行う前に光ビームを前照射しておく所定時間は、蛍光強度の減衰率が予め設定された第1の値未満となるまでの時間とすることが望ましい。
【0067】
以下、本発明の蛍光分析方法を、FCSにより蛍光データを解析(蛍光相関分析)する場合を例に説明するが、本発明の蛍光分析方法は、FCSによる解析に限定されないことはいうまでもない。
本発明の蛍光相関分析方法において、蛍光強度の減衰率が予め設定された第1の値未満となった場合に蛍光相関分析を行うことができる。より好ましくは、蛍光強度の減衰率が予め設定された第1の値未満であって、かつ工程(c)で検出された蛍光強度が所定の値(A値)未満である場合に、蛍光相関分析を行う。蛍光強度が所定の値(A値)未満であるとは、蛍光分子の濃度がFCSの検出限界より低いことを意味する。具体的には、蛍光分子あたりの蛍光強度×100倍の蛍光強度(A値)が検出限界である。なおこの場合、蛍光分子あたりの蛍光強度は、予め蛍光相関分析の前に測定しておくことが必要となる。
【0068】
上述したとおり、計測領域における蛍光強度が検出限界より低い場合には、蛍光相関分析を行うことができるが、更に好ましくは、蛍光相関分析により取得された蛍光シグナルが、拡散時間の理論値以上の場合のデータのみを、蛍光相関分析のデータとして取得する。理論値の算出法は、後述の実施例1に示すとおりである。拡散時間が理論値以上の場合は、2量体以上の相互結合をしていること、あるいは他の生体分子(タンパク質等)と結合していることを示す。理論値未満の場合は、所定の蛍光分子が存在しないと予想される。
【0069】
あるいは、蛍光強度の減衰率が予め設定された第1の値未満であって、かつ工程(c)で検出された蛍光強度が所定の値(A値)以上である場合には、試料の計測領域を変更することが好ましい。計測領域を変更して、より蛍光強度の低い部分(計測領域)で蛍光相関分析を行うことが好ましい。ここで蛍光強度の低い部分とは、検出される蛍光強度が所定の値(A値)未満である計測領域をいう。
【0070】
[細胞内蛍光分子の蛍光相関分析方法]
本発明の蛍光相関分析方法を、細胞内蛍光分子に適用する際には、まず、蛍光分子を含まない細胞を有する試料に対して共焦点領域を形成し、前記細胞からの蛍光強度を検出する。次いで、前記蛍光強度が所定の値以下となるように光ビーム強度を調整する。
【0071】
ここで光ビーム強度は、蛍光分子を含まない細胞で蛍光シグナルを捉えず、蛍光蛋白質を発現している細胞で特異的に蛍光シグナルを捉えることができるように、そして細胞特有のノイズが最も少なくなるように設定される。蛍光分子を含まない細胞が発する蛍光強度の上限値(即ち、所定の値)は、例えばMCF−7ヒト乳癌細胞について、好ましくは1.0 kHz以下と設定される。
【0072】
光ビーム強度の調整は、図1に示される光強度調節手段2により行われる。
【0073】
次いで、蛍光分子を含まない細胞の蛍光強度が所定の値以下となるように調整された光ビームの強度を用いて、蛍光分子を含む細胞について蛍光を検出し、蛍光相関分析を行う。これにより、細胞特有の散乱等のノイズを除去することが可能となる。
【0074】
[蛍光相関分析方法のまとめ]
以上、詳述した本発明の蛍光相関分析方法について、その具体的な方法を図4にまとめて示す。図4においても、FCSにより蛍光データを解析(蛍光相関分析)する場合を例に説明するが、本発明の蛍光分析方法は、FCSによる解析に限定されない。なお、図4に示す手段▲1▼〜▲5▼は、従来技術の問題点▲1▼〜▲5▼に対応する解決手段である。
【0075】
FCS解析前の設定として、解析したい蛍光分子あたりの蛍光強度を計測しておく。更に、蛍光分子の分子量、大きさから拡散時間の理論値を計算しておく。なお、拡散時間の理論値の設定の仕方については、後の実施例において説明する。
【0076】
図4に示す蛍光相関分析方法では、まず、蛍光分子を含む試料にレーザ照射し、蛍光量の減衰率を判定する(手段▲1▼)。減衰率が50%以上である場合には、照射しているレーザ強度を下げて蛍光減衰しないようにする(手段▲2▼)。そして再度、蛍光量の減衰率を判定する(手段▲1▼)。蛍光量の減衰率が20%以上50%未満の場合は、そのレーザ強度のまま連続してレーザを照射する(手段▲4▼、▲5▼)。1〜5分間の適切な照射時間の経過後、再度、蛍光量の減衰率を判定する(手段▲1▼)。蛍光量の減衰率が20%未満の場合、その共焦点領域における蛍光強度を判定して、予め計測しておいた蛍光分子あたりの蛍光強度×100倍の蛍光量(A値)以上であれば、蛍光分子の濃度が検出限界以上であるため、別の共焦点領域(計測領域)へ移動する。A値未満の場合、蛍光シグナルから得られる拡散時間を、予め計算しておいた拡散時間の理論値(B値)と比較する(手段▲1▼−2)。蛍光シグナルから得られた拡散時間の値が、理論値と比べて高い場合は、陽性と判断し、自己相関関数のデータを取得する。あるいは、蛍光シグナルから得られた拡散時間の値が、理論値と比べて低い場合は、陰性と判断し、その旨を表示し、自己相関関数のデータを取得しない(手段▲3▼)。陰性の場合、計測する領域の細胞を変え、高い蛍光を示す領域へ移動した後、手段▲1▼へ戻り減衰率を計測する。
【0077】
以上、本発明の蛍光相関分析装置および蛍光相関分析方法により、従来技術に記載されるFCSに固有の問題▲1▼〜▲5▼が解決された。
【0078】
具体的に、蛍光物質が有している問題、▲1▼励起光を照射した初期の蛍光の不安定さについては、蛍光の減衰率を判定することにより、FCS解析に使えないような蛍光シグナルを保存せず、解析可能なシグナルのみを効率よく取得することにより解決された。また、蛍光物質が有している問題、▲2▼計測中に蛍光が減衰することについては、試料に照射する蛍光量が強すぎると蛍光の減衰がより顕著に起こるため、データ取得前に蛍光減衰の起きない程度の低いレーザ強度を決定しておくことにより解決された。
【0079】
細胞特有の多重散乱等のノイズの問題▲3▼については、良好なS/N(シグナル/ノイズ)比を得るために、分解能を損なうことなく、かつノイズが最も少ない適切な光量が得られるレーザ強度を設定することにより解決された。
【0080】
そして、蛍光蛋白質に特有の問題▲4▼および▲5▼については、蛍光蛋白質がレーザによる損傷、変性を受けない程度に、蛍光蛋白質の立体構造が安定化するまであらかじめレーザを照射し、蛍光量を安定化させることにより解決された。
【0081】
【実施例】
1.自己相関関数における拡散時間の理論値の設定
共焦点領域の半径をωとした場合、拡散時間=ω /4Dとなる。このとき、Dは拡散定数で、次に示す式で表せる。
【0082】
D=(k・T)/(6π・η・r)[(kg・K・cm・s・m・1000)/(K・kg・cm・s)] =(k・T)/(6π・η・r)[m/s]
ここで、k=1.38×10−23 J/K、T=絶対温度(293K)、η=粘度、r=分子の半径である。
【0083】
さらに、分子の半径(r)は、次に示す式で表せる。
【0084】
【数1】
Figure 2004077294
【0085】
ここで、NA=アボガドロ数 6.023×1023 mol−1、p=分子密度である。
【0086】
たとえば、GFP分子は、27,000キロダルトンであるから、上記の式にあてはめると、このFCS装置における拡散時間の理論値は、0.14ミリ秒となる。同様に、GFPとエストロゲンホルモン受容体との融合蛋白質では、約90,000キロダルトンになり、拡散時間は0.22ミリ秒と推定できる。
【0087】
2.FCS計測による拡散時間の計測
実際に、GFP分子の溶液を計測した場合のデータを、表1に示す。
【0088】
【表1】
Figure 2004077294
【0089】
GFP分子の溶液について、TE溶液(Tris−EDTA;10mM Tris−Cl,1mM EDTA)を溶媒として、濃度を公比10として6濃度(0.01、0.1、1、100、1000nM)のサンプルを調製し、各20μLについてFCS計測を行った。計測時間は60秒とし、各3回の平均値と標準偏差(SD)を示した。作成した検量線が比例していた濃度は、1〜100nMで、それ以外の低濃度、高濃度においては、濃度依存的にはならなかった。共焦点領域あたりの分子数は、1nM=0.35、10nM=3.44、100nM=48.81であった。FCS計測において、共焦点領域あたりの分子数は、計測上限値が100個であることから、濃度依存的に計測できる分子数は約1〜100程度であり、濃度でいうと数〜数100nM程度であることがわかった。
【0090】
図5に、各濃度ごとの拡散時間をプロットした。検出上限以上の1000nMでは、拡散時間が理論値を下回り正しく解析できなかった。また、0.01nMという低濃度では、拡散時間を求めることができなかった。
【0091】
3.レーザ減弱フィルタ(NDF)
ヒトエストロゲンレセプターERβ遺伝子とGFPの融合遺伝子(配列番号1)を、発現ベクターに組み込まれた形で、ヒト大腸がん細胞株MDAに導入した。この細胞をFCS計測し、レーザの照射回数による蛍光強度の減衰率の違いを調べた
その結果を図6に示す。横軸は、レーザ照射 300μW(NDF1.5)、100μW(NDF2.0)により1分間の計測を行った回数、縦軸は蛍光強度の減衰率を示す。NDF1.5は、減弱度3%のレーザ減弱フィルターであり、NDF2.0は、減弱度1%のレーザ減弱フィルターである。10 mWのレーザがNDF1.5により減弱されると300μWになり、NDF2.0により減弱されると100μWになる。
【0092】
減衰率は、計測開始5秒間の蛍光強度の平均値を100%としたときの、計測終了前5秒間の蛍光強度の平均値を(%)で表した値である。それぞれのデータを基に自己相関関数を設定したところ、照射回数3回目以降で正しい拡散係数を示す自己相関関数が設定された。このことから、減衰率20%未満のデータであれば、正しく解析できることが判った。また、減衰率50%未満であれば、連続してレーザ照射することにより減衰率を20%未満に下げることができ、正しく解析できることが判った。
【0093】
4.レーザ減弱フィルタ(NDF)の最適化によるレーザ強度の設定
細胞内生体分子は、蛍光を受けることによって、蛍光の消光、分解といった現象がみられる。特に、励起するレーザのエネルギーが高い場合、計測中の蛍光の消光、分解といった現象を引き起こしやすいため、最適な減弱フィルタを決めておく必要がある。
【0094】
そこで、蛍光蛋白質(GFPリコンビナント、クロンテック社)を10nMの濃度でTE溶液に懸濁したものをサンプルとし、NDFを変えることによって、FCS計測にとって最適なレーザ強度を設定した。
【0095】
NDFは、0(減弱度0%)、0.3(減弱度50%)、0.5(減弱度30%)、1.0(減弱度10%)、1.5(減弱度3%)、2.0(減弱度1%)、4.0(減弱度0.01%)を使用した。
【0096】
その結果を図7および図8に示す。横軸は、ともにNDFの各フィルタを示す。縦軸は、図7は共焦点領域あたり(0.24fL)の分子数を示し、図8は拡散時間を示す。理論値に近い分子数を示すのは、NDF1.0、1.5、2.0であり、理論値に近い拡散時間を示すのは、NDF2.0であることが判った。
照射したレーザ強度が10 mWであるから、NDF2.0、1.5、1.0を使用した場合、それぞれ減弱されてレーザ強度は0.1、0.3、1mWであった。よって、適切なレーザ強度は、0.1〜1mW、好ましくは0.1mWであることが判った。
【0097】
以上の測定条件を適用した場合の応用例として、安定且つ非侵襲で測定した生体関連物質をそのまま別の目的に使用して同一試料から2以上の異なる測定結果が得られるシステムが挙げられる。すなわち、上述したFCS測定後の試料を所定の容器またはステージ上にマウントした状態で、異なる種類の測定データや画像データを取得することができる。また、試料の一部を適宜の分取手段で移送して別の容器に移し換えるか、或いは容器ないしステージごと適宜の搬送手段(例えば、ベルトコンベア)によって搬出するようにして、他の解析用装置(質量分析装置、臨床検査装置等)に搬入するようなシステムとすることができる。このように、FCSで得た情報と他の解析結果とを総合してハイスループットな検査システムを構築することが可能となる。なお、本発明において使われるFCSとう用語は、蛋白質等の任意の生体関連分子の相互作用を、蛍光等の標識物質で標識試薬の運動力学的な挙動を光学的測定データに置き換えて相関分析する解析手法を広くカバーする用語であり、上述した測定手法に限定されない。また、この新規なシステムにおいては、細胞内に限らず、細胞表面或いは溶液中の各種生体関連物質(抗原、抗体、酵素、ホルモン、アレルゲン、癌マーカー、プリオン、核酸、変異原物質、毒物、神経伝達物質等)の測定に利用可能である。また、上述した他の解析装置としては、同一の測定原理(FCS)で異なる測定項目を測定するための循環式の搬送手段(例えば、回転テーブル)および各種試薬分注部を含んでいる。また、システムの稼動を一元管理するために、制御部によって各種解析装置間の搬送手段の搬送順を変更することによって所望の解析結果が最も早く得られるように効率運転する構成とすることもできる。
【0098】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の蛍光相関分析装置および蛍光相関分析方法によれば、FCSによる蛍光分子の計測において、蛍光の不安定な状態でのデータ取得を回避することができ、蛍光分子を安定かつ非侵襲で解析することができる。即ち、蛍光分子はダメージを受けることなく、蛍光相関分析後においても、蛍光相関分析以外の解析に利用可能な状態を維持することができる。特に、解析したい蛍光分子を安定に光らせ、かつノイズを減らすことにより、正確に生体分子の挙動を解析することができる。これにより、特に細胞内の蛍光分子をFCS計測する場合に煩雑であった操作が効率よいものとなった。
【0099】
【配列表】
Figure 2004077294
Figure 2004077294
Figure 2004077294
Figure 2004077294
Figure 2004077294
Figure 2004077294
Figure 2004077294
Figure 2004077294

【図面の簡単な説明】
【図1】共焦点レーザ顕微鏡を利用したFCS装置による、蛍光分子計測の概略図。
【図2】細胞内の蛍光分子計測中における蛍光強度減退の様子を示す図。
【図3】図2に示すFCS計測データを用いた自己相関関数を示す図。
【図4】本発明の蛍光相関分析方法に関する具体例を示すチャート図。
【図5】緑色蛍光蛋白質の濃度の違いによる、FCS計測される拡散時間の違いを示すグラフ図。
【図6】レーザの照射回数による蛍光強度の減衰率の違いを示すグラフ図。
【図7】レーザ強度の違いによる、FCS計測される蛍光分子の分子数の違いを示すグラフ図。
【図8】レーザ強度の違いによる、FCS計測される蛍光粒子の拡散時間の違いを示すグラフ図。
【符号の説明】
1…レーザ光源、2…光強度調節手段、3…NDフィルタチェンジャー、4…ダイクロイックミラー、5…対物レンズ、6…ステージ、7…フィルター、8…チューブレンズ、9…反射鏡、10…ピンホール、11…レンズ、12…光検出器、13…蛍光強度記録手段、14…蛍光強度減衰率検出手段、15…コントローラ

Claims (2)

  1. レーザ光源と、
    前記レーザ光源からの光ビームを試料に集光し共焦点領域を形成する光学系と、
    前記試料からの蛍光を集光する光学系と、
    集光した蛍光を検出する光検出器とを有し、
    前記試料に所定時間光ビームを照射後、前記光検出器により試料からの蛍光を検出し蛍光相関分析をおこなうとともに、同一試料について得られた異なる分析結果と総合して検査を行うことを特徴とする蛍光相関分析装置。
  2. 蛍光分子の蛍光相関分光法(FCS)による検出方法において、
    (a)蛍光分子を含まない細胞を有する試料に対して、レーザ光源からの光ビームを集光し、共焦点領域を形成する工程と、
    (b)前記工程(a)で形成された共焦点領域内の細胞からの蛍光強度を検出する工程と、
    (c)前記工程(b)で検出された蛍光強度が、所定値以下となるように前記光ビーム強度を調整する工程と、
    (d)前記工程(c)で調整された光ビームの強度で、蛍光分子を含む細胞に光ビームを照射し、共焦点領域を形成する工程と、
    (e)前記工程(d)で形成された細胞内の共焦点領域内の蛍光分子からの蛍光を検出し、蛍光相関分析をおこなうとともに、同一試料について得られた異なる分析結果と総合して検査を行う工程とを有することを特徴とする蛍光相関分析方法。
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